1: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 11:21:56.20 ID:zchOKY3yO
 ※注意※

 ・キャラ崩壊あり

 ・一部きわめて理不尽

 ・よいこはまねしないでね

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1451701316

引用元: ・Fateの星

2: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 11:25:46.70 ID:zchOKY3yO
 ――その少年を見たのは、夕焼けに染まったグラウンドだった

 何度やっても失敗する棒高跳び

 まるでとりつかれたかのように繰り返すその少年の姿に、呆れ九割、そして憧れを一割ほど抱いた

 ただ、一つだけ奇妙な点を挙げるとすれば――

3: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 11:27:15.45 ID:zchOKY3yO
 
 ――ギ、ギギ、

 ――ギギギ、

 ――ギーギー。

4: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 11:29:13.33 ID:zchOKY3yO
 ――周囲に響き渡る、何かが軋む音。

 まるで錆び付いたバネが強引に引っ張られてるかのような、不自然な音

5: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 11:31:44.16 ID:zchOKY3yO
 ――衛宮 士郎という少年から発せられる、不自然な鉄の音

6: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 11:37:31.74 ID:zchOKY3yO
 思えば、あの時から、いやもっと以前から気付いていれば、直ぐ様あんな凶行をやめさせていたものを。

 今となっては遅すぎる後悔だが、それでもたまに思い出すのだ



 ――あの努力と根性の塊の、不死鳥のような男を

7: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 11:39:45.76 ID:zchOKY3yO

 

 死ぬときは たとえどぶの中でも 前のめりに死んでいたい

          ――梶原 一騎―― 

9: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 12:15:26.74 ID:zchOKY3yO
???「今日からそれを着けて生活しろ」

士郎「いや、あの、じいさん、これ何?」

???「大魔術使い養成ギプスだ」

士郎「いやそうじゃなくて」

???「士郎よ、お前がどのような道を選ぼうが文句は言わんつもりだった。しかし魔術師を目指すというならば話は別!」

???「回路の少ないお前では魔術師として大成することは至難……。ならばその少ない回路を鋼の如く強靭にするしかあるまい!」

士郎「いや、だからこのみょうちきりんな健康器具擬きが魔術と何の関係があるって言うのさ」

???「話は最後まで聞かんかこのたわけが!」バシーン!

士郎「ぐああっ!」

???「このギプスは装着した者の魔術回路に負担をかける作りになっとる。己がいつまでも魔術を手に余そうものならば容赦なくその特製バネがお前の体を締め上げる!」

???「士郎よ!! お前は僕が果たせなかった正義の味方の夢を継ぐと言ったな、ならば僕も容赦せん!!」

???「あの夜空に輝く正義の星を掴むためにこの切嗣、敢えて心を鬼にしよう!」

いつもはどこか儚げな養父が、このときばかりは鬼に見えた

俺、もしかしてとんでもない道を選んじまったんじゃ……!?




12: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 12:35:49.84 ID:zchOKY3yO
 それからはこの現代社会に似つかわしくない、地獄とも呼べるしごきが始まった。

切嗣「この馬鹿もん! 投影二百回終わらせなければ家にはあがらせんと言った筈だ!罰としてもう百回追加!失敗は数にいれん!」ピシャリ

切嗣「避けるな! 向かってこい! 起源弾の軌道を正確に予測しろ! 当たったら死ぬぞ!」バキュン バキュン

切嗣「何? 同級生に器材の修理を頼まれた? 投影も録にできん半端者にそんな時間があると思ったか!」

切嗣「何? 藤ねぇが泣きながらもうこんな事はやめてくれと頼みに来た? 女が立ち入る話ではない! すぐに追い返せ!」

切嗣「なんだこのまずいメシは! 今すぐ作り直せ!」ガッシャーン

14: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 12:40:56.83 ID:zchOKY3yO
 一部ものすごく納得の行かない仕打ちを受けてる気がするが、あの優しかったじいさんが、俺を一人前にするために全力で取り組んでくれている

 その事実が嬉しかったんだ


18: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 13:08:40.03 ID:zchOKY3yO
 でも、そんな地獄のような生活も長くは続かなかった

切嗣「どうやら僕ももうすぐ終わりの時が近づいてきたらしい……。ふっ、この幻の魔術師殺しと怖れられた衛宮 切嗣もあっけない幕切れよ」

士郎「とうちゃん……!」

切嗣「いいか、士郎よ、よく見るがいい」

もはやいつ倒れてもおかしくない養父が夜空に輝く満天の星々を指差す

切嗣「あの星座がお前の目指す正義の味方だ」
 
切嗣「かつては僕もあの輝かしい星座を掴もうと必死だったが、もはや手の届かぬ彼方に遠ざかってしまった……」

切嗣「士郎! お前は何がなんでもあの星座まで駆け登るのだ! 正義の味方という星座のど真ん中で一際でっかい明星となって光れ。輝け!」

知らない内に涙が出ていた。思い返せばイカれてるとしか思えない凶行の毎日だったが、そんな事などまるで些事に感じる感動があったのだ。

士郎「わかったぜ、とうちゃん! 俺、あの星を目指す! そして立派な正義の味方になってみせる!」

切嗣「士郎……!」ポロポロ

士郎「とうちゃん……!」ポロポロ






電柱の影 

大河「士郎……」グスリ




19: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 14:03:49.22 ID:zchOKY3yO
 衛宮切嗣は静かに息を引き取った

 この広い屋敷に今住んでいるのは俺一人。そして俺を心配して毎朝様子を見に来る藤ねぇだけ。

 だが、この遺された大魔術師養成ギプスには今でも偉大なる義父の魂が宿っている。

 その魂が俺に語りかける。負けるな士郎、挫けるな士郎と。
 
 このギプスに恥じぬ男になるべく、今日も俺は訓練に励む……。

 

 

20: 昭和 ◆zDN94BeO1. 2016/01/02(土) 14:34:03.19 ID:zchOKY3yO
 数年後

 衛宮邸

桜「先輩、おはようございます。今日もお手伝いに来ました」

士郎「ああ、おはよう桜。それじゃあ悪いけど少しの間頼むよ」ギギ

桜「いつもの訓練ですか? 余り無理はしないでくださいね」

士郎「大袈裟だな桜は。別に死ぬまでやるって訳じゃあないんだから」ハハ ギギギ

桜「そういって先輩はいつも無理するじゃないですか。 一昨日なんて藤村先生が顔を真っ青にして『士郎が死んじゃう』なんて取り乱してたんですからね」

士郎「ははは、藤ねぇも心配性だなぁ! ちょっとコンダラをしてただけじゃないか!」ギッギッギ

桜「ほんとうにちょっとだけですか? 藤村先生も最近悲しそうですし、もっと自分の体を大切にしてください!」

士郎「分かってる、無理はしないさ」ギギ

桜「もう! ……先輩、失礼ですが、例のごとくアレを着てるんですか?」

士郎「ああ。なんだ?桜も欲しいのか?」ギギ?

桜「い、いえ、私はちょっと」

桜「……先輩。いつも音がなってるから、みんなから穂群原のサイボーグとか呼ばれてるんですよ」

士郎「サイボーグみたいに疲れ知らずなら便利なんだけどな」ギギギ








 

25: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 19:36:49.01 ID:y2YUHf9IO
 
 
 衛宮邸 中庭
 

士郎「お~も~い~ コーンダーラっ 試練の~み~ち~を~♪」ズルズル ギシギシ ギギギ

士郎「ゆっくが~ おと~この~ ド根性~♪」ズシン 

士郎「うーむ、これもだいぶ軽く感じてきたな」

士郎「このじいさん特製の魔術式コンダラは筋力だけじゃ絶対に動かせない」

士郎「俺の魔術的要素がこの数年間でだいぶこなれてきたってことか」

士郎「最初はまったく動かせなかったのが懐かしいな」

士郎「十センチ動かすまで何回もやらされたっけか」シミジミ

 

27: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 20:05:04.71 ID:y2YUHf9IO
士郎(幼)『じ、じいさん、おれ、なんだってこんなことしなけりゃいけないの……?』ギシッギシッ ギギギ

切嗣「男の子はぐずぐず理屈をこねるなっ!」

切嗣「ただ、これだけは言っておく、このコンダラの重さはお前の夢の重さと思えっ!」

切嗣「理屈で考えるな! 考える前に行動しろ! それが頭でっかちの魔術師と我々の違いだ!」

32: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/02(土) 20:31:24.39 ID:y2YUHf9IO
大河『ねぇ、切嗣さん、士郎のことなんだけど、本当にこのままで大丈夫なの?』

切嗣『あいつなら大丈夫だ。僕は信じている』

大河『でも、あんなに小さいのに、録に遊ぶこともできずに毎日毎日特訓ばかりじゃない! いくらなんでもひどすぎるよ!』

切嗣『僕が手を出さずともいずれあいつは自ら矢面に立つ男になる! 自分の痛みより人の痛みを感じてしまうあいつは誰よりも優しい。だからこそ強くならねばならんのだ!』

大河『そんなの、勝手よ! 士郎は切嗣さんの人形じゃないのよ!』







士郎『じいさん、藤ねぇ……』



34: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/02(土) 20:53:25.61 ID:y2YUHf9IO
士郎「あの頃は危うくじいさん逮捕されそうになったっけ」

士郎「俺の親権をどうにかするために藤ねぇもだいぶ無茶したっていうし」

士郎「俺がじいさんと一緒にいたいって言ったから何も無かったけど」

そういったときの藤ねぇの顔は、今までみたことないくらい悲しい顔してた

士郎「じいさんが亡くなってから、藤ねぇはますます心配性に磨きがかかっちまったし」

シロウーッ オハヨーッ! ゴハンタベニキタヨーッ!

士郎「……基本はぶれてないけど」



衛宮邸

居間



大河「あー! おはよう士郎!」

士郎「おはよ、藤ねぇ。」ギギギ

大河「むー! またあの変なギプスつけてるの? いい加減やめなさーい!」

士郎「これはもう体の一部みたいなもんさ、眼鏡と同じだよ」

大河「そんな物騒な眼鏡なんて聞いたことなーい!」

35: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/02(土) 21:17:01.68 ID:y2YUHf9IO
桜「あの、藤村先生? 朝練があるので早めに食事を始めたいのですが」

大河「あー! そうだった忘れてた! 脳みそまで筋肉の頑固士郎なんてほっといて早くごはんにしよー桜ちゃん!」

士郎「ただメシ食っといてなんて言い種だよ……。」

大河「ねぇ、士郎」

急に声色の変わった藤ねぇ。不意打ちの対応に俺は思わずドキリとした

大河「危ないことやったら、お姉ちゃん許さないよ」

士郎「……できるだけ約束するよ」

じいさんが死んでから、少しだけ藤ねぇが変わった。

なんというか、今みたいにはしゃいでたかと思うと急に落ち着いたり、その逆だったり、

まるで本当の姉のような――

37: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/02(土) 21:49:03.99 ID:y2YUHf9IO
大河「よろしい♪」

いつも通りの快活な笑顔に戻る藤ねぇ。
何年たってもこの変わり身の早さには驚かされる

大河「それじゃ、ごはんにしよっか!」

士郎「おかわりは二杯までな」

大河「むー!士郎のケチーっ!」


穂村原学園

慎二「よぅ、衛宮。 相変わらず朝っぱらからギシギシうるさいやつだな」

ネェ、コノヒトッテ。 レイノ サイボーグ

士郎「慎二か、そっちから話しかけて来るって事は野暮用か?」ギギギ

慎二「感謝しろよ、退部して暇なお前に部室の掃除の仕事を持ってきてやったぜ」

士郎「また一年を甘やかせてんのかよ、そんな調子じゃ今年は予選も危ないんじゃないか?」ギギッ!

慎二「ふふん、あいにく順調に記録を伸ばしてるよ。衛宮に心配される筋合いはないさ」

士郎「ならいいけど、力仕事が余ってるならこっちに寄越せよ! どうせ暇なんだし」

慎二「ふ、ふん! 衛宮にしちゃあ殊勝な心がけじゃあないか。なら遠慮なく使ってやるから覚悟しとくんだな!」ゾロゾロ

ネェ、ヤッパアノヒトヤバイ シッ、コエオオキイ イガイトガッシリ



38: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/02(土) 22:33:40.56 ID:y2YUHf9IO
柳洞「おお、衛宮か、今朝はちゃんと油差したか?」

美綴「衛宮、お前からも慎二にガツンと言っておいて――」

桜「先輩、さっきお弁当渡すの忘れちゃってました」

穏やかでもない、喧騒とした心地よさを感じる毎日。

こんな生活を護る為に俺は日々の訓練を欠かさず行っている。

ただ、ほんの少しだけ――――

今の生活に不満がない訳じゃない

この体を、魂を、完全に燃やし尽くす、

炎のような熱さを、俺は求めていた

40: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/02(土) 23:56:09.90 ID:GpCUlVpEO
 その日の夜

 ビル 屋上

凛「どう? アーチャー、様子は」

アーチャー「……なるほど……。どうやら向こうもお気づきのようだ、すぐにでも襲いかかってくるだろうな」ギギ ギシ

凛「そう、ようやく始まるのね、戦いが」

凛「……ねぇ、アーチャー、前から聞きたいことあったんだけど」

アーチャー「なにかね? マスター」ギギ?

凛「貴方服のインナーに何か仕込んでるの? 凄く五月蝿いんんだけど」

アーチャー「ふっ、気にするなマスター。 これは生前の私の思い出の残り香のようなものだ。 害もなければ利もない」 ギシギシッ

凛「宝具でもなければ霊装でもない? 本当不思議ね貴方って……ってあんた! 記憶戻ったの?」

アーチャー「部分的に、ひとまずはだがな」

アーチャー「まあ、戦闘に支障はない。」

――――誰が相手だろうと、絶対に負けはしない

そうやって少し笑った褐色肌の旧兵

その笑みは始めてあった時からまったく馴れなかった





 数日前

 遠坂邸

凛「よーしっ! 手応えあり! 最強の駒を引いたっ」

自分の出せる最高の召喚だった。

呼び出したサーヴァントは自分に相応しい能力を持っているだろう

そう、期待を胸に秘めてサーヴァントが来たであろう場所に赴き、実際に見たのだ。
       







42: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/02(土) 23:58:48.38 ID:GpCUlVpEO
 




     破         滅

43: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/03(日) 00:06:26.29 ID:z6z6Z7z7O
その赤いサーヴァントを一言で表すのに、真っ先に思い浮かんだ言葉

高い身長や褐色の肌、白一色の髪は解る

問題はその瞳

一体どのような人生を送ればそんな風になるのか不思議になるくらいに沈みきった、暗い、虚無の瞳。

さっきから震えが止まらない

歯の音がカチカチ鳴るのがやけにはっきり聞こえる

――私は、一体、何を召喚したのか?

45: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/03(日) 08:12:25.49 ID:I5SMs3OlO
アーチャー「ふ、ふふふ……。 こんな壊れかけた者を呼ぶとは、なんと運のないマスターか」

凛「あ、貴方、一体」

アーチャー「生憎だが、召喚された時に不備があったようでな……。こう、聞こえたのだよ、"ピシッ"と、な」

アーチャー「と言うわけで記憶に幾つか抜けが生じている」

凛「ごめんなさい、貴方の言ってること全然わからない」

これが根暗アーチャーとの最初の出会いである。

46: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/03(日) 08:26:25.22 ID:I5SMs3OlO
 冬木市

 穂群原学園

ランサー「ふっ! なかなかやるじゃねぇか弓兵! いや、本当に弓兵か怪しいもんだ!」ザザッ

アーチャー「…………」ブォンッ ギシッ

無言で夫婦剣を振り上げ、敵である全身青タイツに襲いかかるアーチャー。

その表情は躍動も何も一切感じていない

ただ、虚ろな目を向け、作業のように事に当たっている

始めのうちは英霊同士の凄まじい一騎討ちに目を見張ったが、すぐにその違和感に気づいてからは全ての見方が変わった

凛「なんなのアイツ…… アレじゃまるで」







――ロボットみたい

48: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/03(日) 08:41:50.10 ID:I5SMs3OlO
ランサー「ちっ、無愛想なやつだな、もっと楽しまなくっちゃあ損だぜ? せっかくの聖杯戦争なんだからよ」

アーチャー「……ふっ」

ランサー「……貴様、何がおかしい」

アーチャー「いや、私も、お前のように何も考えずに戦えたら幸福じゃないかと考えていた所だ。」

そう言い放つアーチャーは右足を前に踏み出し、左手の中華刀を後方に振り上げ構えをとった










――調度、野球の投手が下手投げで投げる時のような、大振りな構え

49: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/03(日) 08:52:00.58 ID:I5SMs3OlO
――嫌な予感が、する

アーチャー「3号」

ボソリ、とアーチャーが呟いた

構えをとったその姿に私は

死神の姿を重ね合わせた

フワッ

まるで綿でも放ったような、芯のない投棄。

ランサー「なんだ? この腑抜けた攻撃は」

心底失望したかのように、青タイツはゆっくりと迫る中華刀に対し無造作に槍を振るう

その瞬間――――

52: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/03(日) 09:04:07.23 ID:I5SMs3OlO

 フワリ

ランサー「?!?!?」

子どもにでも打ち返せそうなアーチャーの投擲が、ランサーの豪打をすり抜けた

すり抜けた剣はそのままランサーの顔面に――

ランサー「う、おおおおおっ!」

間一髪の所で身を翻し避ける

そう、避けたつもりだった









アーチャー「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」

54: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/03(日) 11:08:00.19 ID:I5SMs3OlO
 
 バゴンッ!

鈍い爆発音が辺りに響きわたる。

投擲した剣が爆発するなど、誰が予想できようか

爆発の直撃を食らったランサーが吹き飛ぶのを、アーチャーは冷めた目で見つめていた

アーチャー「つまらん、こんなモノで楽しむなど、よほど暇を持て余しているとみえる」

ランサー「言って……くれるじゃあねぇか」

槍を杖にしてランサーが立ち上がる。流石に英霊だけあって、あの至近距離からぎりぎりで身を護ったらしい。

しかしその息は荒く、頭部から流れる血が頬を伝う

ランサー「今のが取っておきか? 効いたぜ。だが、二度は通じんと思え」

アーチャー「バカか貴様」

ゆっくりと剣を構えるアーチャー

その左手には、爆発し砕け散ったはずの中華刀が

アーチャー「二度も同じ手は必要ない。お前は、ここで、私に倒されるのさ」

ランサーはここである事実に気づく

真剣勝負の場で圧倒的有利に立っているにも拘わらず、目の前の弓兵は殺気も、闘気も放っていない

それどころか、良く見れば生気すら消え失せた死人のような顔をしている

怒りも憎しみも悲しみもない、人形のような顔

ランサー「今理解したぜ。今回の聖杯戦争で一番ヤバいのは貴様だ」

アーチャー「褒めているのか? それは」

ランサー「ほざけ、死人が。墓場に追い返してくれる」





55: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/03(日) 11:20:27.63 ID:I5SMs3OlO
ランサーの持つ紅い槍に魔翌力が収束していく

アーチャーもまた、ランサーのただならぬ気配に身を構える

一触即発

ガンマンの早撃ちにも似た緊張感が漂うのを凛は感じ取った

ランサー「! ……ちっ、どうやらここまでだ」

突然ランサーが緊張を解く

その視線の先は学校の校舎に向けられて――

凛「! いけない! アーチャー!」

目撃者

秘匿

口封じ

様々な単語が脳裏を過った。

59: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/03(日) 21:18:17.77 ID:+pMKerJXO
 校舎

 生徒会室


士郎「ちの~あ~せなが~せ なみ~だ~をふく~な♪」ギシギシ ガチャガチャ

士郎「ゆ~けゆ~け、ふ~んふ~んふふ~ん♪」ナンダッタッケ ガチャガチャ ガギ

士郎「うん?」 ガギ ガギ

士郎「ふん!」 バギャ!

士郎「これでよし。 よーし、そろそろ帰るか――――」

バゴンッ

士郎「なっ!?」ビクリ 

士郎「な、なんだ今の音? 校庭から?」


60: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/03(日) 21:38:04.91 ID:+pMKerJXO
士郎「な、なんだあいつら」

校舎の窓から見える赤と青の二人の男が、それぞれ剣と槍を持って睨みあっている

明らかに日常とはかけ離れた光景だった

士郎「ま、まずい。 何か良くわからんがこれはまずい」

士郎の全感覚が逃げろと警鐘を鳴らす

ふいに、青タイツの男がこちらを見た気がした。

瞬間。士郎の脳裏にかつての記憶が甦る

あれはまだ修行中の頃

小学五年生の冬だった。毎朝10kmのランニングが日課だった。はく息もこおりつき耳も鼻ももげそうな、そんな二月の早朝だった。

道を走り続けていると、ゆくての道が三本にわかれた地点にさしかかった。その真ん中の道がいつものコースだ。

ところが、そこは工事中で、でっかい深い穴がほられ通行止めになっていた。そして、右の道は近道、左の道は遠回りだった・・・

近道の終点にじいさんがいた。ものも言わすに殴られとばされた。鼻血に染まりぶったおれても、なお蹴りまくられた。鬼に見えた・・そのとき鬼は叫んだっ

切嗣「士郎よ!!  きめられたコースが通行止めだったなんぞは言い訳にならん。なぜ、遠回りを選ばん!? つらい苦しい遠回りをえらんでこそ自ずと成長がある! これからの人生においても、行く手に障害があるときは、常に遠回りを選べ!」

切嗣「二度と近道を選んでみろっ そのとき限り、この衛宮切嗣の子ではないと思えっ」

61: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/03(日) 21:48:54.66 ID:+pMKerJXO
殺される

あのときは本気でそう思った

そのときの感覚と、全く同じ



――――逃げろ



バシリと戸を開け、廊下に飛び出す。

月明かりがあるとはいえ、暗い廊下がやけに長く感じる

今なら間に合うと思い、駆け出そうとする

しかし



ランサー「ついてないな、ボウズ」



青い死神が 目の前にいた

62: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/03(日) 22:03:11.06 ID:+pMKerJXO
ランサー「こういうのは性にあわんが」

ランサー「まあ、恨むなら自分の不運を恨むんだな」

ジリジリと迫る青い死神

逃げ道は塞がれた

逃げ場はもはやない



――本当にそうか?


道が塞がっている時は、敢えて遠回りを

遠回りを

遠回り



63: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/03(日) 22:11:33.76 ID:+pMKerJXO
士郎「うおああああああっ!」

グワシャアッ

最近の学校に良くある、ワイヤー入りの強化ガラスでなかったのが不幸中の幸いだった

窓を突き破っての逃走なんて映画じみた真似を、まさか自分が行うとは夢にも思っていなかった

問題は――――

士郎「がふっ」ぐしゃ



三階から飛び出したという事だが

64: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/03(日) 22:20:21.41 ID:+pMKerJXO
士郎「ぐ、ぐ」

士郎「死ぬ、流石に、死ぬかも」

士郎「でも」

指が、ギプスに触れる

士郎「じいさんの しごきにくらべりゃ」


バチンッ!



士郎「まだ ましかな」




義父の魂に包まれていた士郎の肉体が、今解き放たれた

65: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/03(日) 22:36:10.75 ID:+pMKerJXO
士郎「ふぅう……」プシュゥウウウウ

全身の激痛のなかに感じる、確かな解放感

痛む体をむち打ち立ち上がる

ギプスを外した

これだけでなんとかなりそうな気分になる

ランサー「すげぇな、咄嗟にとはいえあんな選択、誰にでもできるもんじゃねぇ」

いつのまにか青い死神が近くにいた

ランサー「それに、なんだその機械は。拘束具か?」

ランサー「まぁどうでもいいか。 んじゃ、さよならだ」

迫る紅い槍










それがどうした




66: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/03(日) 22:47:57.75 ID:+pMKerJXO
士郎「ふうんっ」バッ

両手を地面につき、腕に力を込める

イメージはバネ

全身をバネのようにする

そして溜めに溜めた力を、上空へ

ランサー「んなっ!?」

解放する!



ガキイィン!



ランサー「逆立ちだと!? バカか!?」

67: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/03(日) 22:54:31.64 ID:+pMKerJXO
蹴りあげられた両足によって弾かれる槍

突然の奇行に驚く青い死神

今こそ逃走の好機

士郎「ぬぅあああああ!」

真っ暗な道を、走る

ただ走る

久しぶりにギプス抜きでのランニングは、命がけのものとなった

69: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 05:37:42.07 ID:gA5WZMC3O
凛「今のは……衛宮くん?」

走り去る後ろ姿には見覚えがあった

妹の想い人。

改造人間(サイボーグ)・エミヤと学校でも有名な変た…… 変人の少年

それが何故こんな時間に

アーチャー「大方、用事でも残っていたのだろう。ほら、奴の忘れ物だ」

渡されたギプスには確かな重みがあった。
もう何年も改修を繰り返しただろうそれは所々に傷が目立つが、錆びひとつ無かった。
きっと大切に整備していたのだろう

凛「追うわよ、アーチャー」

アーチャー「奴を助けるのか?」

凛「当然よ、管理者として、一般人を保護するのは」

凛「なにより私が関わってる戦いに巻き込まれて死ぬなんて、目覚めが悪すぎるわ」

助けた後は記憶を操作させてもらう
彼には魔術師同士の争いに関わってほしく無かった
妹と同じく、表の世界を形成する人には変わらないから

凛「それにしても、妙な機械ね。一体何に……!?」

凛「何、これ」

これはただの機械ではない

強制的に魔術回路を押さえつける造りになっている

似たような物は私も知ってるがここまで極端なのは初めて見る

凛「衛宮くんが魔術師……」

凛「いや、でも、こんなものを着けるなんて、常軌を逸して……」

アーチャー「マスター、追わないのか」

凛「わ、分かってるわよ!」

助けるついでに、話を聞く必要ができたようだ


71: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 06:51:04.85 ID:gA5WZMC3O

 衛宮邸

士郎「ぶはっ はっ」

家にたどり着いた安心感でおもわず息を漏らす

学校から家まで全速力のランニング

おそらく新記録だろう

士郎「一体なんだってんだちくしょう」

じいさんの形見も置いてきてしまった

情けない。一体何のために今まで鍛えていたというのか

逃げるだけで精一杯じゃないか

士郎「……!」

背筋の凍る感覚

アイツだ、もう追ってきやがった

士郎「ぶ、武器は、何でもいいから!」

手にしたのは、藤ねぇが学校から持ってきたポスター。
介護関係や看護師を中心とした内容が多い。
警察官、自衛隊、消防士などは無い。

大河『士郎はね! 危ない事よりこんな仕事に就いたほうがいいってお姉ちゃん思うの!』


妙に必死な姉の姿を思い出す


士郎「藤ねぇ、俺、今その危ない目にあってるよ」

丸まったポスターを手に取り、目を瞑って集中する。

強化の魔術は結局、じいさんが生きてるうちは一度も誉めてもらえなかった。

切嗣『なんだこの半端な強化は! ハエも殺せんぞ!』

切嗣『もっと集中しろ! 眼前に敵がいると思って行え! 敵は待っていてはくれんぞ!』チャキ

切嗣『十数えるうちに完成してみせい! でなければこれが火を吹く!』

大丈夫だ、あのときはできた。できても発砲するとは思わなかったが

あの青い男には全く通用しないだろうが、それでも生きるために、俺は戦う!





72: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 07:12:30.46 ID:gA5WZMC3O
士郎「ぬうう……」

――――同調、開始

――――基本骨子、解明

――――構成材質、解明

――――構成材質、補強

――――全工程、完了

閉じた目をカッと開く。
成功したときに感じる、熱を帯びた感覚
瞳に炎が宿ったかのような灼熱感

士郎「来い……!」

勝負!!

73: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 07:54:45.12 ID:gA5WZMC3O
ランサー「ようやく観念したか。ちょっと人間にしては足は速かったな」

士郎「……」

ランサー「ほぅ、いい目だ。まるで炎だ、まだ諦めちゃいねぇな。」

ランサー「惜しいぜ、お前。後数年もありゃいい戦士になれたかもな」

滝のような汗が止まらない

迫る恐怖を迎え撃つ闘志の糧にする

俺の体は、今まさに闘志という名の炎と化していた

ランサー「……」

ヒュンッ!

無言で槍を突き出すランサー。
心臓を狙った風のような一撃は
体を横にずらした士郎にあっさりとかわされる

ランサー「む」

避けられたランサーは数瞬の間思索する

先程の逆立ちのような予想外の行動に出ると思えば、このような冷静な対処もする。
どこまでも不思議な相手だった。

ランサー「なら、これはどうかな」

連続の突き
人間ではこの時点で目視不可能の連続攻撃
予想通りまともに避けることも出来ずに肩、脇腹、頬をえぐってゆく
しかし心臓、頭など、急所は悉くかわされていた

ランサー「やるな、小僧。最初から急所以外は諦めてる、か」

ランサー「でもそれじゃあ俺を倒す事には繋がらないぜ。守ってばっかじゃな」

士郎「……銃弾に比べりゃましだ」

ランサー「何?」

士郎「さっさと『突いて』来いよ」

士郎「蚊みたいなモノじゃ殺せないぜ」

ニヤリと、小僧が笑った






76: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 08:07:43.33 ID:gA5WZMC3O
ランサー「……言ったな、小僧」

ランサーの手に力が込められる

ランサー「仕留める――――」

士郎に分かったのは、ランサーの放ったその一言だけだった
英霊の全身全霊の突きは、正確に士郎の腹を貫通し、背中まで達する

士郎「ごおふっ」

ランサー「突いてやったぞ、お望み通りにな」

完全に仕留めた

そう確信した

もはや用は無いと引き抜こうとするランサーだが、ある違和感を覚える

――槍が、抜けない

ランサー「て、てめぇは!」

紅い槍は、士郎の左手によって握られていた。
その鬼のような力に槍はピクリとも動かない
そしてその右手に持ったポスターで――――

士郎「フンッ」

ゴスッ




77: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 08:43:00.41 ID:gA5WZMC3O
脳天に炸裂する無慈悲なる一撃は、ランサーの意識を数瞬刈り取るには充分過ぎた

士郎「ッラア!」

返すポスターを両手に握りしめ、アームストロング・オズマ真っ青のフルスイングを、ランサーの顔面にぶちかました

ガッキーン!

グワシャアッ!

まともに食らったランサーが障子を突き破りながら吹っ飛ぶ

士郎「は、はは……。 ホームラン」

士郎「ぐ、ぬうああああっ!」

ズルリと腹から槍を引き抜く

押さえられていた血液が周りに噴き出す

その光景を士郎は呆然と見ていた

士郎「う、ぐあ、あ」

死ぬ

間違いなく死ぬ

でも

士郎「ざまーみろ……くくっ」

肉を絶たせた対価が、あの間抜け面だ。

上等ではないか

ふらふらと歩いた先は、思い出の修行場

血と汗と涙が詰まった、古ぼけた土蔵

どうせ、死ぬなら

死ぬと解っているなら

あの思い出の場所で

士郎「前のめりに、死にたい」




78: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 09:20:31.66 ID:gA5WZMC3O
土蔵にたどり着くなりぶっ倒れた

床のひんやりとした感触が、全身の熱と激痛を和らげる

士郎「じい、さん……」

脳裏にかつての父の姿が現れる

正義の味方

俺が目指し、憧れ、尊敬した

俺の全て

俺の父親

士郎「藤ねぇ……」

いつも俺を心配し、支えてくれた最愛の姉

明朗快活な姉が、時に悲しみの涙を流していたのを俺は知っていた。

いつか、いつの日か、楽をさせてあげたいと思っていた

それでも俺は、夢のために、藤ねぇの涙を無視し続けた

ただひとつの夢

正義の味方の星を掴むために




――俺が死んだら、藤ねぇはどうなる?




士郎「ぐ、ぐ、ぐ」

激痛に負けじと立ち上がろうとする

いや、立たなければならない

絶対に立つ!

俺は危うく忘れる所だった

何が死にたいだ、カッコつけるな半端者が

例え泥に塗れても、形振り構わず生きなければならない

俺にはそうする理由があった!

士郎「藤ねぇええええええええ!!!!!!」

生きる

生きて俺は明日を歩く!

80: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 09:49:54.64 ID:gA5WZMC3O
そして、その時は起こった

閃光が辺りに煌めき、光が左拳に収束する

血の猛りと共に刻まれたそれは、魂の具現

令呪

不死鳥の如く立ち上がった士郎の周りを黄金の閃光が包み、土蔵の中を激しく照らす

ランサー「本気か」

いつのまにか後を追ってきたランサーが、驚愕と共にその光景を見つめる

ランサー「七人目の、サーヴァント」

光の中から白刃が煌めき、ランサーの膝頭と左肩を断つ

血をあげると共に不利を悟ったランサーは脱兎の如く土蔵を飛び出した。

光が収まると、そこには一人の少女が

青いドレスのような甲冑に身を包んだ、金色の髪の少女

その少女が感情の無い目を士郎に向けた

セイバー「――問おう、貴方が、私のマスターか」

意思の強そうな澄みきった声だった

何より目を引いたのがその瞳

何か強い意思を秘めた、燃え盛る炎の瞳

――綺麗だ

そんなことを思った

後に、炎の主従

熱血の友情と言われる名コンビの、初めての出会い

82: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 11:13:43.88 ID:gA5WZMC3O
おまけ

死闘! 第四次聖杯戦争

セイバー「き、切嗣、これは一体」ギギギ ギシ

切嗣「大エクスカリバー養成ギプスだ」

セイバー「い、いえ、私が聞きたいのはそんなことでは」ギギギ

切嗣「話は最後まで聞かんかこのたわけが!」バシーン

セイバー「ぐああっ」

切嗣「セイバーよ、ランサーとの一騎討ちの末でのその負傷、名誉の戦傷と見て何も文句は言わん。しかし手負いのままこの戦いを勝ち抜くなど笑止。至難の極みよ」

切嗣「ならばその傷などものともしない強靭な体を作り上げるしかあるまい! 片手でのエクスカリバー、大エクスカリバーを編み出す! この大エクスカリバー養成ギプスがそれを可能とする!」

セイバー「だ、大エクスカリバー」

切嗣「まずは付近の散策も兼ねてのランニング50キロ! ついてこいセイバー!」

セイバー「ま、まて、待て切嗣!? マスター!? 外はもう真っ暗……」ギシィ

セイバー「くくっ 動かん!」ギギギ

この日より、セイバーの地獄とも呼べるしごきの日々が始まった

切嗣「片手での素振り二百本! 当然ギプスは外すな。 できなければメシは抜きだ!」

切嗣「しっかり避けんかぁ! この弾のひとつひとつを英雄王の宝具と思って避けろ! またメシを抜くぞ!」バキュン バキュン

切嗣「何? アイリが泣きながらもうこんな事はやめてくれと頼みにきた? 女の立ち入る話ではない! 追い返せ! それとメシ抜き!」

切嗣「何? イリヤから電話? セイバーに? …………仕方ない。少し休むとしよう」

切嗣「不味い! お前はもうメシを作るな!」ガッシャーン






84: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 11:31:39.52 ID:gA5WZMC3O


まさに鬼だった

無愛想だが、家族想いのマスター。

そんな幻想は木っ端微塵に砕け散った

そんな地獄の日々を耐え抜いて手に入れた、大エクスカリバー。

変質者のストーカーを、消滅させてなお余りある威力をもつ必殺技を手に入れても、切嗣は変わらなかった


最終戦目前


セイバー「き、切嗣、これは何の冗談だ」サカダチ プルプル

切嗣「対英雄王の必勝法だ」

セイバー「これから最後の戦いが始まると言うのに血迷ったか!?」プルプル

切嗣「令呪を用いて命ずる。セイバー、逆立ちで後三時間待機」パァァ

セイバー「やめろおおおおおおおおおおおお!」

86: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 11:55:17.81 ID:gA5WZMC3O
セイバー「」ユラリ

ギル「騎士王よ、全てを捨てて我のモノになれ。これ以上は茶番だ」

セイバー「」フラフラ

ギル「ふん? 精根尽き果てたか? 言っておくが我は腑抜けの貴様など全く」

セイバー「大エクスカリバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

ギル「ちょ、まt」ボシュ

セイバー「切嗣ゥウウウウアアアアア!」

セイバー「ドコダァアアアアアアアア!」

切嗣「」フラフラ

セイバー「切嗣!」

セイバー「死ィイイイイイねェエエエエエ!」

切嗣「令呪を用いて命ずる」

切嗣「セイバー、聖杯を破壊しろ」

87: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 12:02:05.29 ID:gA5WZMC3O
切嗣をこの手で始末すべく、気合いと共に斬りかかったと言うのに、

既に長時間の逆立ちで体はふらふら

途中何度も転げ、剣を杖にして目の前の鬼畜に迫る

後一歩、後一歩でこのど畜生を斬れる

そんな絶妙なタイミングで発せられた、無慈悲なる命令

セイバー「ちくしょおおおおおおあああああああ!」

私の全身全霊の大エクスカリバーは、正確に聖杯と冬木市の大半を吹っ飛ばした

89: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 12:05:25.96 ID:gA5WZMC3O
結局、私が座に持ち帰ったのは

あの鬼との唯一のつながり

大エクスカリバー養成ギプスのみだった



おまけ 第四次聖杯戦争 


97: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 17:38:40.19 ID:GVcGaZEcO
ここから話は第二話になります

セイバー「サーヴァント、セイバー。召喚に従い参上した。マスター、指示を」

士郎「……」

セイバー「マスター?」

士郎「」

セイバー「ま、まさか」

――立ったまま気絶してる

よくみると目の前の少年は所々に傷を、特に腹部は大量の血に濡れていた

セイバー「マスター! 大丈夫ですか!? マスター!」

召喚に応じて早々にマスターに死なれては堪らない

セイバー「応急処置程度なら私にも――――って」

セイバー「傷が塞がってる?」

強力な治癒魔術?

いつの間にそんな真似を

セイバー「これほど強力な治癒を行使するとは。見た目によらずやりますね」

ともかくこんな場所では風邪を引いてしまう

マスターを担ぎ上げ、土蔵を後にするセイバー

セイバー「今度こそ、今度こそ聖杯をこの手に。そして」

セイバー「私を縛るこの呪縛から解放してみせる」ギギ

98: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 17:47:34.76 ID:GVcGaZEcO
暖かい

そんな事を考えつつ俺は目を覚ました

いつのまにか布団で寝ていた

夢だったのだろうか

槍を刺され、死を覚悟して

それでも諦めずに立ち上がって

閃光の中から現れた少女に目を奪われて――――

「――――ッ! !!」

誰かの声が聞こえる

一人じゃない、複数の声が、言い争ってる?

玄関の方から、時々、女の子の声も――――

士郎「マジかよ!」

寝てる場合じゃない!

99: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 17:57:12.77 ID:GVcGaZEcO
セイバー「マスターが気絶している時を狙うとは姑息な」ギギギ

アーチャー「やれやれ、聞く耳持たんな」ギギギ

迂闊だった

まさか衛宮士郎の家の中にサーヴァントが、しかも最優のセイバーがいるなんて

セイバー「それにしても、貴公もなかなかやる。どうやら本気を出す必要があるとみた」スッ

アーチャー「奇遇だな、私もそのつもりだった所だ」スッ

ただ、二人ともどこかおかしかった

だって、あんな

セ ア「「解    放」」


バチン!



変態染みたモノを着てるなんて

100: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 18:02:41.64 ID:GVcGaZEcO
セイバー「ふうぅ……」プシュウウウウウウ

アーチャー「ぬふぅ……」プシュウウウウウウ

何故、歴史に名を連ねる筈の英霊が、

あの衛宮士郎と同じモノを着てるのか

アレか

私が知らないだけで、最近はアレが流行っているのか

私が遅れてるだけなのか

101: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 18:10:14.53 ID:GVcGaZEcO
アーチャー「こうなった以上は手加減出来んぞ」コォォォォ

セイバー「それはこちらとて同じ」コォォォォ

二人を中心に恐るべき闘気がみなぎる

セイバーが不可視の剣を片手に構え

アーチャーがその左手に持つ中華剣を後方に構える

一触即発の空気が高登り、思わず固唾を飲んだ

102: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 18:28:10.62 ID:GVcGaZEcO
沈黙を打ち破ったのは、少年の声だった

士郎「まて、やめろ! 二人とも!」

セイバー「マスター、何のつもりですか」

なおもアーチャーを睨み構えを解かないセイバー

士郎「マスター? 一体何の話だ!? とにかく家で暴れるな!」

目の前の紅い男、そして青ドレスの少女 

コイツらが先程死闘を演じた青タイツの同類だと一目見て分かった

普通じゃない おっそろしく強い

凛「アーチャー、武器を納めて霊体に戻って。 これ以上ややこしくなるのはゴメンよ」

どこかで聞いた声がする

この優雅な声は

士郎「と、遠坂」

凛「はじめまして、かしら? 衛宮くん」

明らかにこの場に不釣り合いな存在がいた

103: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 19:15:04.16 ID:GVcGaZEcO
凛「じゃ、じゃあ、貴方、何も知らないの? 五大元素も、パスも?」

凛「し、素人に、セイバーを取られるなんて」

優雅華麗な遠坂 凛

その正体はものの数分で馬脚を現した

学校では猫を被ってたのだろう

管理者、聖杯戦争、サーヴァント

知らない単語が次々と出てくるが、大体の状況は把握した

この町で大変な事が起こっているということ

凛「とにかく、貴方この戦いから降りなさい。これ以上首を突っ込まれても命を粗末にするだけよ」

セイバー「凛、それは困る。シロウがたとえ素人でも私がフォローすればなんとか戦える!」

凛「貴方、衛宮くんを[ピーーー]つもり? この戦いはそんなに甘いモノじゃない」

セイバー「それは」

士郎「待て、二人とも落ち着け」

士郎「とにかく、俺はどうすべきなのか教えてくれ。遠坂」

凛「……これから貴方を、この戦いの監督者の所に連れていくわ」

凛「どうするかはそいつの話を聞いてからにしなさい」

104: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 19:26:31.33 ID:GVcGaZEcO
凛「ああ、それと忘れ物よ」

士郎「遠坂、これは」

ランサーとの戦いで外してしまったギプス

もう諦めていたのに

士郎「ありがとう、遠坂。これ、親父の形見なんだ」

凛「そう、お父さんの形見なの……」

凛「……一応聞いとくけど、貴方、もしかしてずっとこれを着けて生活してたの?」

士郎「ん? ああ、もう何年もな」

その言葉に私は戦慄した

魔術回路は魔術師にとっての内臓、神経に値する

こんな常軌を逸した代物を着けて生活するなど、胃の中に包丁を入れて生活しているようなものだ

それを何ともなく、平然と、何年もやってのけたこいつは一体

凛「……貴方のお父さんって何者?」

士郎「うん? そうだなぁ」

士郎「ただの頑固親父だよ」

106: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 19:41:41.34 ID:GVcGaZEcO
 新都

 歩道


セイバー「シロウ、何故か貴方には妙な親近感を感じます」ギギギ

士郎「セイバーもギプスを着けてるのか? すごいな! 英霊ってのも納得だ!」ギシギシ

アーチャー「先程は柄にもなく本気を出してしまったが、ああいう感情剥き出しの戦いもたまには悪くないな」ギギ

凛「アーチャー、貴方何勝手に出てきてるのよ」

おかしい、私は何故こんな理解不能のギプスを着けた変人どもと一緒に歩いているのか

士郎の「大魔術師養成ギプス」

セイバーの「大エクスカリバー養成ギプス」

ネーミングもアレだがその内容も極めてアレだった

どれも尋常の魔術師ならば危な過ぎて誰もやらない、いや、考えもしない訓練方法

こんな修行を思いついた者の正気を疑う

因みに、アーチャーのギプスは名前が分からなかった

記憶に混濁があって思い出せないらしい

107: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 19:50:01.55 ID:GVcGaZEcO
ただ、その危険と裏腹の見返りは凄まじいものだった

試しに士郎の魔術回路を計測してみたら、その異常さに目を疑った

確かに数は少ない

これでは録な魔術も使えないだろう

問題はその強度としなやかさ

まるで鋼やダイヤのようで、それでいて鞭のような柔軟さを併せ持っていた

この魔術回路は魔術を「行使する」ためのものではない

魔術を「行使するのに耐える」ものだ

こんな人間がこの世に存在するのか

凛「世界は広いわね……」

108: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 20:22:42.61 ID:GVcGaZEcO
 

 言峰教会

セイバー「シロウ、私はここで待っています。貴方を守るならここまでで充分でしょう」

士郎「ああ、ありがとな、セイバー」

凛「衛宮くん、こっちへ」


 教会内

士郎「教会が異端の魔術を使うなんてなあ」

凛「それだけクセも強いってわけよ」

凛「……あんたも充分異端だけどね」ボソリ

言峰「到着早々に随分な言い回しだな? 凛」

士郎「あんたが……」

言峰「ようこそ、七人目のマスターよ。私がここの神父、言峰 綺礼だ」

濁った目をしていた

今までにあったこともない、泥のような目

109: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 20:33:04.83 ID:GVcGaZEcO
戦争の"ルール"を一通り聞いた

願いを叶える聖杯を巡って

七人七騎の殺し合い。

馬鹿げてると思った

第一、聖杯なんてモノ自体が胡散臭い

素人の俺にだって分かる

何かを成すためには何らかの犠牲が伴うんだってことを

無条件で願いが叶うなんて、等価交換の原則に反してるじゃないか

そんなモノが最後に要求するのは、どうせ録な事じゃないんだ

でも、だからと言って俺は逃げるつもりはなかった

この下らない戦争で誰かが傷つくなんて、堪えられそうになかったからだ

110: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/04(月) 20:44:53.43 ID:GVcGaZEcO
士郎「分かった。俺、聖杯戦争に参加する」

言峰「ほう? 意外と冷静だな。もっと熱くなるかと思ったが」

士郎「あんたは随分楽しそうだな」

言峰「……」

士郎「俺は、とてもそんな顔はできねえよ」

凛「え、衛宮くん?」

士郎「帰ろう、遠坂。これ以上ここには居たくない」

凛「ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ!」

バタン

言峰「……」

言峰「く、くくく……」

言峰「鬼の子、か。存外に勘が鋭い」

言峰「今回も素晴らしくなりそうだな」

不気味に笑う言峰

その瞳は燃え盛っていた

衛宮 士郎とは正反対の、暗く、真っ黒な炎が

114: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 18:44:27.55 ID:CsSE/wy5O
凛「衛宮くん! ちょっと! 何怒ってるの?」

士郎「……」

凛「綺礼がいけ好かないのは分かるけど、こんなことでいちいち怒ってたらキリがないわよ!」

士郎「なぁ、遠坂」

凛「な、なによ」

士郎「あいつと遠坂って、兄弟子の関係なんだろ?」

士郎「もう何年も顔会わせてるわけだ」

凛「そうよ、それがどうかしたの?」

士郎「……遠坂って、ホントにいいやつだな」

士郎「俺じゃあ多分無理だ」

凛「はあ?」

士郎「それだけ。忘れてくれて構わない」

士郎にはある確信があった

あの神父は、人の不幸を肴に酒を飲む外道だと

そう感じたのは父、衛宮切嗣のしごきによって培った類い稀な危機察知能力の賜物である

士郎(アイツ……『衛宮』って聞いた途端に目の色が変わった)

まるで新しい玩具を見つけた子どものように


115: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 19:19:19.27 ID:CsSE/wy5O
 
 冬木大橋付近

凛「私たちはもう少しこの近辺を探るわ。悪いけどここからは一人で帰って」

セイバー「他のマスター探しですね」

凛「そういうこと。新都まで来て手ぶらで帰るつもりはないもの」

士郎「……遠坂は、そこまでして叶えたい願いがあるのか?」

凛「ないわよ、そんなもの」

即答である。

あんまりな返答に士郎は顔を曇らせる

士郎「じゃあ、何で殺し合いなんかするんだ」

凛「私が魔術師で、遠坂 凛だからよ」

士郎「……そっか」

殺し合い、戦い、命を削る

魔術師はその渦中に理性の光を求める

そんな考えは到底理解できないし、したくもない。

ただ、確固たる意思を持って断言した目の前の少女に士郎は少なからずの尊敬と憧れを抱いた

――――じゃあ、じいさんは何のために戦っていたのかな

あの頑固親父にも、何かの為に戦っていた時期があったのだろうか

家族や、恋人や、

――――大切な、何かの為に








「こんばんは、おにいちゃん」

116: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 19:46:40.70 ID:CsSE/wy5O
――――虚をつかれた

士郎「!??」

振り向いた先にいたのは、透き通る白い肌と髪を月光に照らした、幼い少女

そしてその側に控える、大山のごとき巨漢

――――全く気づかなかった

自分も

セイバーも

遠坂やアーチャーも

???「あら、まるで気づかなかったのが信じられないみたいな顔をしてるじゃない」

???「そういうのを自惚れが過ぎるって言うのよ?」

???「ねぇ? おにいちゃん。ううん」

???「衛宮 士郎」

目の前の少女は、何が可笑しいのかニコニコしている

しかし、士郎の全感覚が最大級の警鐘を鳴らす

自分に対する、激しい怒りと憎悪

殺意――――

凛「アレは……力だけなら、セイバーより上ね」

凛「アーチャー、不本意かも知れないけど、セイバーと共闘できるかしら」

アーチャー「了解した。セイバー、前衛を頼む」

セイバー「分かった。シロウ、貴方はさがって」

戦力外通告を受けた士郎だったが、それを気にすることはなかった

そんなことより、目の前の少女が問題だった

あの巨漢の強さは誰にも一目瞭然だろう

だが、それ以上にあの少女は得体が知れない

妙だ、何かとてつもなく嫌な感じがする

???「悪いけど、他の連中には興味ないの」

???「バーサーカー、貴方はまだ出なくていいわ」

そう言った少女が士郎を見据える

???「衛宮士郎、貴方は私が…………」









「この、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン自らが始末する」





117: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 20:14:23.06 ID:CsSE/wy5O
凛「アイツ、正気? サーヴァントを置いて自ら前へ出てくるなんて」

凛が呆れるのも無理はない

本来戦うべきサーヴァントを差し置いてマスターが戦うなど、この聖杯戦争のセオリーを完全に無視した行いだからだ

だが、少なくとも士郎は、あの少女がただの愚か者でないことを見抜いた

士郎「…………皆、たのみがある」

士郎「俺に行かせてくれないか」

アーチャー「……」

セイバー「し、シロウ!?」

突然の要求に驚愕する面々

無理もない。幼いとはいえ、あのアインツベルン相手に正面から挑もうというのだ

いくら戦闘に不向きな家系とはいえ、素人が一流の魔術師相手に勝てる訳がない

凛「貴方ね! わざわざ敵の誘いに乗るなんて馬鹿のすることよ!」

士郎「あの子は何かヤバい。あのバーサーカーって奴よりも」

士郎「まず、俺が出て確かめる。それくらい俺にもできるさ」

凛「な、何を言ってるのよあんたは」

セイバー「シロウ、いくら何でも無謀です。貴方ではとても」

アーチャー「好きにさせたらどうだ?」

皆が反対する中、赤い弓兵だけが士郎を後押しした

セイバー「アーチャー! 余計なことは言わないでください!」

アーチャー「君ほどの戦士が、彼女の言葉が嘘か真かもわからないのか?」

アーチャー「少なくとも騙し討ちするならもっと上手くやるさ」

アーチャー「それに、向こうももう待ちくたびれてるようだ」

118: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 20:22:14.23 ID:CsSE/wy5O
セイバー「だから、シロウでは勝算がないと――――」

アーチャー「自らのマスターの力量も計れないのか」

セイバー「……なんだと」

アーチャー「言っておくが、その小僧はかなり『やる』ぞ」

士郎「セイバー、悪いな。勝手なまねして」

士郎「でも、これだけは約束する」









俺は、絶対に死なない

120: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 20:37:09.74 ID:CsSE/wy5O
イリヤ「やっと出てきたね」

士郎「早く始めようか」

イリヤ「うん……けど、その前に『ソレ』をはずして」

少女が言う『ソレ』とは
まさかギプスを知っているのか

士郎「……これを、知っているのか」ギ、ギギ、ギギギ

イリヤ「もちろんよ、だって、シロウはキリツグの子でしょう?」

イリヤ「キリツグの残したモノ、全部壊さなきゃ気がすまないもの」

士郎「君は……親父を知って……」

士郎「分かった、これは外そう」

士郎「だけど、もし俺が勝ったら、知ってる事を教えてくれ」スッ

士郎「解     放」

バチン!

士郎「ふぅう……」プシュウウウウウ

イリヤ「いいわよ、それくらい」

イリヤ「でも、多分ムリだと思うなあ」

イリヤ「だって」

ヒュンッ!

イリヤ「私、シロウより強いもの」

士郎「!!!!?」


122: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 20:56:31.76 ID:CsSE/wy5O
イリヤスフィールと名乗った少女が突如目の前から姿を掻き消したかと思った瞬間

士郎の後頭部に強烈な衝撃が走った

士郎「ご、あっ」

イリヤ「あれ、もう終わり?」

士郎(み、見えなかった! じいさんのしごきで鍛えられた俺の動体視力を持ってしても、あの子の動きが!)

士郎「ぐ、っくぐ」

前のめりに倒れそうになる体を必死に踏ん張る

一撃で倒されたとあっては父に顔向け出来ない

イリヤ「あ、やっぱりまだ平気か」

イリヤ「じゃあ、これはどう?」

ドムッ ガゴッ ボスッ ズドンッ

士郎「! !? !!!」

あの小さな体の何処にこんなパワーがあるのか

猛烈なボディブローを起点とした、肘打ち、膝蹴り、ハンマー打ち。

――――メシ、食わなくて良かった










凛「なに、あれ」

124: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 21:07:38.28 ID:CsSE/wy5O
イリヤ「ふんっ」

フィニッシュの回し蹴りが士郎の腰に炸裂する

きりもみ回転しながら吹っ飛んだ士郎はごみ捨て場に盛大に衝突した

イリヤ「…………っとまあ、こんな感じでどうかしら」

セイバー「アーチャー」

アーチャー「なんだセイバー」

セイバー「シロウはかなり『やる』のでは?」

アーチャー「彼女が弱いとは一言も言ってないが」

125: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 21:14:19.03 ID:CsSE/wy5O
瞬間

ごみ捨て場が爆発した

凛「!?」

バキィッ

イリヤ「あっ……」

猛スピードで飛び出した士郎が高速回転しながらのキックをイリヤの後頭部にぶち当てたのだ

士郎の十八番 スクリュースピンスライディングである

直撃を受けたイリヤもまた、きりもみ回転しながら近くの植え込みに盛大に突っ込んだ

128: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 21:23:35.72 ID:CsSE/wy5O
士郎「ハーッ、ハーッ」ガクガク

凛「え、衛宮、くん? 大丈夫?」

士郎「お」

凛「?」

士郎「おっそろしい子だ。ランサーよりパワーがあるんじゃないか」

凛「」

イリヤ「スゴいわね、シロウ。今の攻撃を喰らって生きてるなんて、貴方も充分化け物よ」

士郎「くっ……」

いつのまにか目の前に立っているイリヤ

渾身のす

129: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 21:28:49.19 ID:CsSE/wy5O
渾身のスクリュー・スピン・スライディングを喰らってというのにピンピンしている

イリヤ「でもねえ、キリツグの所でぬくぬく育ってきた貴方じゃ、私には永遠に勝てない……」

イリヤ「あの地獄を生き抜いた私にはね」

士郎「じ、地獄だって?」

イリヤ「教えてあげるわ」

イリヤ「アインツベルン家に隠された、恐るべき秘密を」

132: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 21:40:19.84 ID:CsSE/wy5O
イリヤ「教えてあげるわ……」

イリヤ「全部話す前にあなたが生きてればいいけどね!」

ギュオオッ

士郎「ぐううっ」

ドゴォッ

凛「あ、あれは八極拳の裡門頂肘!」

134: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 21:52:53.87 ID:CsSE/wy5O
イリヤ「どうだっ! 衛宮士郎! 私はお前を、正確には衛宮切嗣を抹[ピーーー]るために今まで生きてきたんだっ!」バキィッ

イリヤ「私はアインツベルンの切り札。ただソレだけの為にこの体を弄くり回された!」ゴスッ

イリヤ「普通に生きたくても生きられない! 普通の子どものように遊びたくても遊べない! この世界に私の居場所なんてなかった!」ドスッ ドスッ

イリヤ「だけどね、あったのよ。わたしみたいな化け物に相応しい居場所が」

イリヤ「そう、度重なる失敗から業を煮やしたアインツベルン当主が、今度こそ聖杯を手にいれるべく、わたしそのものを正真正銘の化け物にするため――――」

135: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 21:56:05.21 ID:CsSE/wy5O





「戦闘ホムンクルス養成機関、通称『ホムンクルスの穴』に私を入門させたのよ!」

143: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 22:14:35.83 ID:CsSE/wy5O
アーチャー「ホ、ホムンクルスの穴」

凛「……知ってるの?」

アーチャー「アインツベルンの闇とも言える暗黒機関だ」




――――ホムンクルスの穴!

それは スイス アルプス山脈に本部を構える、アインツベルンに仕える戦闘ホムンクルスを養成する特殊機関

年間数万人のホムンクルスがそこに送り込まれ、この世の地獄とも呼べるしごきを受けると言われる

その苛烈さは空前絶後

最初の五年間で3分の2が死に絶え、残りの五年間を耐え抜けるものは僅か数十人……

猛虎道場と呼ばれる武道場では体操服姿で本物の若虎と死合いをさせられる

旧式スクール水着でコールタールのプールを24時間泳ぎ続ける

さらにはネッシー、イエティ、チュパカブラ等現代を生きる幻想種とのデスマッチ

空手、柔道などポピュラーな格闘技から骨法、カラリパヤットなどのマニアックな格闘術を骨の髄まで叩き込まれる

衛宮切嗣でさえその苛烈さを見習ったほどと言われる西洋の梁山泊

150: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 22:45:46.20 ID:CsSE/wy5O
イリヤ「私は耐えた! ただひたすら耐えた! 全てはお前ら親子をこの世から消し去る為に!」

イリヤ「そのためには友だちさえ見捨てなければならなかった…………」








そう、あれは断崖絶壁のアルプスでの一週間耐久ロッククライミングの日……




ヒュオオオオオオオッ


96号「ひゃ、168号、私はもうダメだ。君だけでも生きてくれ」ガクガク

168号(イリヤ)「しっかりして! 96号!」

96号「時々、夢を見るんだ」ガクガク

96号「168号に優しいおとうさんとおかあさんがいて、優しくてカッコいいおにいちゃんがいて」ガクガク

96号「みんなで、幸せに、笑いあってて」ガクガク

96号「わたしはそれをみて、168号をからかうんだ」ガクガク

96号「ふたりで、いっしょに、がっこうなんかいって」ガクガク

イリヤ「分かった! 分かったから気をしっかりして!」

96号「な、あ。168号」ガクガク

96号「わたし、しぬまえに、なまえがほしい」ガクガク

96号「ばんごう、なんか、いやだ」ガクガク

イリヤ「名前、名前ね!? 分かったわ!」

イリヤ「そうだ! 黙ってたけど、実は私にも本当のなまえがあるの!」

イリヤ「イリヤ! イリヤっていうの!」

イリヤ「素敵でしょ! あなたにもこんな名前を」

ズルッ

イリヤ「えっ」

96号「う、あ」

96号「あああああああぁぁぁぁぁぁぁ……………………」

イリヤ「ク」

イリヤ「クローーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」

152: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 23:15:51.83 ID:CsSE/wy5O
セイバー「なんと惨い……」

イリヤ「セイバー、貴方にだけは同情されたくないわ」キッ

イリヤ「役立たずの無能王。あんたとキリツグが聖杯を手にしていれば、私は」

イリヤ「私は」

イリヤ「……まあ、いいか、そんなこと」

イリヤ「キリツグが死んだって聞いた時は本当に腸が煮えくり返ったけど」

イリヤ「おにいちゃんがキリツグの代わりにサンドバッグになってくれるもの」

士郎「」グッタリ

イリヤ「いつまで寝てるの?」ガスッ

強烈な蹴りが士郎の脇腹に襲いかかる

士郎「がはっ」

イリヤ「私の代わりに、この十年間幸せに暮らしてきたんでしょ?」ドゴッ

イリヤ「わた、しのかわりに」ブルブル

イリヤ「おまえがあああああああああああああ!!!!!」

153: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 23:48:45.56 ID:CsSE/wy5O
イリヤの拳が、脚が、俺の体を破壊していく

既に目の前はグラグラ

時々真っ赤になったり真っ白になったりする

それでも、こんな仕打ちを受けても、俺はこの子を憎むことはできなかった

当たり前だ、こんな凄絶な人生、俺だったらとっくにくたばってる

憎む事なんて不可能だ

地獄

地獄を生き抜いた。そうあの子は言った

俺があの子から幸せを奪い、衛宮 切嗣に愛された

つまり、あの子は親父の、本当の娘なのだろう

親父の、本当の娘

あの親父の

でも、だとしたら

本当に衛宮 切嗣は、あの子を捨てたのか?

親父は、じいさんは、あんな子を見捨てるような薄情ものだったか?

違う

違う!

絶対に違う!!!

155: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/05(火) 23:57:30.86 ID:CsSE/wy5O
衛宮切嗣は、そんな非道は絶対にしない!

そうだ、あの頃、じいさんは

時々、家を留守にして、一週間ほど何処かに出掛けて

そして帰ってくるたびに、大量の酒を煽って酔い潰れてたんだ

そうだ、思い出した

酒を飲むとき、じいさんは

あの、鬼は、

あの、頑固親父は













――――泣いていたんだ

156: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/06(水) 00:02:28.10 ID:6QhcDSKTO
セイバー「シロウ」

凛「嘘……」

アーチャー「……」









士郎「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ






イリヤ「な、何で」

イリヤ「何で、まだ、立ち上がれるの?」




157: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/06(水) 00:17:11.07 ID:6QhcDSKTO
士郎「イリヤ」

イリヤ「……!」

士郎「君は、確かに、地獄を生き抜いたのかもしれない」

士郎「だけど、俺にはどうしても凄いと思えないんだ」

イリヤ「なにが!?」

イリヤ「わたし以上に悲惨な目に遭うニンゲンが何処にいるっていうのよ!」

士郎「それだよ」

士郎「君の、その、不幸をひけらかすその姿勢だ」

イリヤ「」ブンッ

士郎「ごふっ」ゴシャアッ

イリヤ「次バカな事を言ってみなさい」

イリヤ「本当に、殺すから」

士郎「ぐっ、あ、ハァ、ハァ」

士郎「……そうだ、俺が殴られるのはいいんだ」

士郎「君には、その資格がある」

士郎「でも、どうしても許せないことがある」

士郎「それは」

士郎「切嗣だ」

士郎「衛宮切嗣が外道に見られていることだ」

士郎「断言する。親父は、衛宮切嗣は君を捨てるような薄情ものなんかじゃない!」

158: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/06(水) 00:32:35.61 ID:6QhcDSKTO
イリヤ「嘘! 嘘よ!」

イリヤ「だったら、何で迎えに来てくれなかったの!?」

イリヤ「待ってたのに!」

イリヤ「ホムンクルスの穴で、あの地獄で、ずっとずっとずっと!」

士郎「親父はぁ!」

イリヤ「」ビクッ

士郎「君を、助けようと、してた」

士郎「俺は、そう信じている」







士郎「世界中の人間が信じなくても、俺は、信じている」

159: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/06(水) 00:54:53.56 ID:6QhcDSKTO
じりじりと、士郎はイリヤに歩を進める

イリヤは思わず後ずさる

その瞳には炎が宿り

ズタボロの筈の顔は、生気に満ち溢れていた

士郎「最初は君の境遇に気圧されはしたが」

士郎「なんてことはない。俺は、既に知っていたんだ」

士郎「君を助けられなかった無念」

士郎「後悔、絶望、慟哭」

士郎「それら全てを噛み締めて、死の果てまで持っていった男の姿を」

士郎「地獄を希望に変えて、俺を育て上げた偉大な父の姿を」

士郎「俺は、知っていたんだぁああああああああああああああああああ!!!!!」

イリヤ「あ、あ」 ガーン ガーン ガーン

わからない

こいつが理解できない

言ってることは無茶苦茶

衛宮切嗣に対する盲信としか思えない

なのに、なぜ

こんなにも心に響くのだろうか






士郎「そうさ、イリヤ…………。親父は、人前じゃ絶対に弱味を見せない男だったんだ」

士郎「自分に死期が迫ってるのを知っても、顔色一つ変えずに俺をしごきあげたんだ」

士郎「だったら俺も……こんな所で倒れてちゃ……」

士郎「死んだ親父に顔向けが出来ないんだよおおおおおおおおおお!!!!!」


160: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/06(水) 01:04:21.44 ID:6QhcDSKTO
イリヤ「く、くるな! 来ないで!」

イリヤ「いやだ! こんなの違う!」

イリヤ「こんなの聞いてない! 助けて! だれか!」

イリヤ「バーサーカァアアアアアアアアアアアア!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■■■■■■!」

今までずっと待機していたイリヤのサーヴァント

主の慟哭に応え、士郎を粉砕しようとする

その形容しがたい威容をもつ得物が、士郎を直撃しようとしたその瞬間














セイバー「シロウ、あなたの魂の叫び、しかと聞き届けました」

黄金の聖剣を引き抜いた、騎士王の手によって阻まれた

166: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/07(木) 18:40:42.21 ID:zhy+A/CBO
士郎「せい、ばー」

セイバー「シロウ、ズタボロですね、顔も、体も」

セイバー「今まで貴方のような格好の悪い人間は見たことがない」

セイバー「ですが」

セイバー「人に笑われ、格好悪い方が、実は男らしい事もある」

セイバー「今の貴方のように」

セイバー「私は今……猛烈に感動している」

セイバーの魂に火が点いた

愚直な迄に己が父を信じる自らのマスターに、騎士道に通じた何かを感じたのだ

167: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/07(木) 18:48:35.16 ID:zhy+A/CBO
セイバー「一騎討ちの勝負に、水を射したとは思わん」

セイバー「先にサーヴァントを使役したのはそちらだからな」

イリヤ「くっ……」

アーチャー「セイバー、お前も一人でやる気か」

セイバー「当然です。主が男を見せたと言うのに、従者がそれに応えなくて何が騎士か」



セイバー「何が友か」スッ

バチン!





今宵、獅子の王が鎖から解き放たれた

168: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/07(木) 18:52:59.47 ID:zhy+A/CBO
セイバー「ふうぅ……」プシュゥウウウウ

凛「セイバーがギプスを……」

アーチャー「マスター、私の後ろへ」

アーチャー「巻き込まれるぞ」

169: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/07(木) 19:04:26.87 ID:zhy+A/CBO
バーサーカー「■■■■■■■■!!!!!!」

ただならぬ気配を発し始めたセイバーに何かを感じたのか、狂戦士は雄叫びと共に襲いかかる

セイバー「風王結界(インビジブル・エア)など、貴方の前では無意味ですね」

セイバー「ならば」

ブオンッ

不可視の剣が、その威容を現した

凛「セイバー、一体何を」

黄金の聖剣、そして大エクスカリバー養成ギプス

これらのキーワードから彼女がイングランドの大英雄、アーサー王であることは間違いないだろう

アーサー王の持つ聖剣 エクスカリバー

絶対の切れ味を持つその刃を、魔術により不可視にする。

その隙の無さを敢えて捨てる意味とは、果たして

170: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/07(木) 19:10:26.43 ID:zhy+A/CBO
セイバー「シロウ、貴方の闘志を見せてもらった礼がわりです」

士郎「え?」

セイバー「これが大エクスカリバー養成ギプスの成果です」

ビュオッ

セイバーが剣を振った

いや、おそらく振ったのだろう

アーチャー「恐るべし、セイバー」

凛「……もう、何でもアリね」

剣が 消えた

171: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/07(木) 19:18:32.54 ID:zhy+A/CBO
後に残ったのは、額を三寸断ち切られたバーサーカー

誰が見ても絶命しているのが分かる

イリヤ「……なるほどね」

イリヤ「見えないスイング」

セイバー「その通りです」

セイバー「前回の聖杯戦争にて、大エクスカリバーを編み出した際に会得した、神速の一の太刀」




――私のスイングは、人間では見切れない

172: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/07(木) 19:25:11.71 ID:zhy+A/CBO
イリヤ「セイバー、あなたもキリツグのしごきに耐えたのね」

イリヤ「だったらこれくらい出来て当然、か」

セイバー「イリヤスフィール、降参して下さい」

セイバー「サーヴァントは倒した。貴方に勝利の目は無くなった」

イリヤ「寝惚けるのはいい加減にして」

イリヤ「誰が、誰を倒したですって?」

180: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/08(金) 03:51:54.24 ID:H92iAHwaO
バーサーカー「ぐ…」ギラリ

セイバー「ム!?」

額を割られた筈のバーサーカー

立ったまま絶命したかと思われたその巨人の瞳に光が戻る

イリヤ「ギリシャの大英雄、ヘラクレス」

イリヤ「神からの十二の試練という名のしごきに耐え抜いた、努力と根性の化身」

イリヤ「そうやすやすと倒せるとは思わないで」

イリヤはヘラクレスと自分の境遇を重ねていた

自分と同じく、親の愛を録に知らず、辛く苦しい試練を耐え抜いた者同士

その偉大な背中にイリヤは絶大な信頼を寄せていた。

イリヤ「今日は本気でシロウを潰すつもりだったけど」

イリヤ「……少し、気が変わったわ」

シロウを見つめるイリヤ

その瞳は、何処か儚げな何かを秘めていた

イリヤ「またね、シロウ」

イリヤ「わたし以外の人に殺されるなんて、許さないから」

イリヤとバーサーカーの姿が闇に消える

互いに手の内を見せた痛み分け





激動の聖杯戦争初日が、ようやく終わりを迎えた

181: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/08(金) 04:18:00.16 ID:H92iAHwaO
 
 衛宮邸

 居間

凛「士郎、貴方よく死ななかったわね。あそこまでズタボロにされたのに」

士郎「親父のしごきに比べりゃ大抵のケガは平気さ」

凛「呆れた……。どうも魔術師にしてはフィジカル偏重ね、貴方も、あのアインツベルンも」

士郎「あの子は……、あんなに小さいのに、俺を超えるパワーとスピードを持っていた」

士郎「でも、最後に取り乱したり、助けを求めたり、どうにもちぐはぐなんだ」

凛「猛烈なしごきに耐え抜く精神力はあっても、心は幼いまま、ね」

アーチャー「付け入るとしたらそこだな」

士郎「アーチャー」

士郎「その、ありがとな。アーチャーだけが、俺が一人で戦う事を許してくれた」

アーチャー「勘違いするな、小僧」

アーチャー「あのままイリヤスフィールに殺されるのも良しと考えただけだ」

セイバー「アーチャー、貴方はどちらの味方なのですか」

アーチャー「少なくとも敵ではないさ」

アーチャー「イリヤスフィール達を倒すまでの、一時的な同盟」

アーチャー「そうだろう、マスター」

凛「ええ。士郎、貴方たちと同盟を組んで、あのイリヤスフィールたちに対抗する」

凛「それが一番の得策よ」

士郎「俺もそれがいいと思う」

士郎「ただ、あの子は……」

衛宮切嗣の本当の娘

俺の、きょうだい

士郎「あの子とは、できれば仲直りしたい」

182: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/08(金) 04:31:50.89 ID:H92iAHwaO
セイバー「シロウ、貴方の意思に文句を言うつもりはありませんが」

セイバー「それをやり遂げる覚悟はあるのですか」

セイバーが静かに尋ねる。賛成も反対もしない

俺の覚悟を確かめようとしている

士郎「やるさ。きょうだい同士の喧嘩だ。自分でなんとかけりをつける」

――――俺の、命に代えても、必ず


185: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/08(金) 21:26:06.20 ID:Ps0EUVqTO
凛「きょうだい、か。あのアインツベルンと貴方がねえ」

凛「それに貴方のおとうさん、切嗣っていったかしら。前回の聖杯戦争に参加してたとはね」

士郎「それには俺も驚いてる。まさか親父がセイバーのマスターだったなんてな」

セイバー「それは、その、すみません。余り思い出したくないのですが」

士郎「へ? なんでさ」

セイバー「自分でもなぜああまで取り乱したか……。今考えても正気じゃ……」ブツブツ

凛「ま、まあ。それはともかく、イリヤスフィールの父親ということは間違いなく衛宮切嗣はアインツベルン陣営の人間だった」

凛「それが、なぜこの十年間イリヤスフィールと離ればなれだったのか」

凛「私も少し興味が出てきたわ。前回の聖杯戦争はどこか根が深い気がする」

凛(お父様の事も何か新しいことが分かるかもしれない)

187: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/08(金) 21:35:50.56 ID:Ps0EUVqTO
凛「さーて、そうと決まれば明日から行動開始ね……。衛宮くん、部屋、空いてるわよね」

士郎「あ、空いてるけど……まさか、遠坂」

凛「そうよ、折角だから泊まらせて頂くわ」

凛「安心しなさい、朝早く出てくから」

凛「アーチャー、寝る前に周辺の警戒お願いね」

アーチャー「了解した」

セイバー「シロウ、貴方も休んだ方がいい。今日一日で二回も死にかけるなんて異常です」

士郎「正確には三回な……。三階から落っこちただけに」

セイバー「?」

士郎「悪い、忘れてくれ」

188: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/08(金) 21:57:30.92 ID:Ps0EUVqTO
 
 士郎の部屋

士郎「セイバーは寝なくても平気なんだな」

セイバー「サーヴァントとはわかりやすく言えば幽霊ですから」

セイバー「お腹は減りますが」

士郎「はは、変なの」

士郎「……なぁ、セイバー。親父のことなんだけどさ」

士郎「昔の親父って、どういう人だったんだ?」

士郎「ああ、別に、言いたくなければ言わなくてもいいんだ」

セイバー「…………切嗣は、一言で言えば」

セイバー「鬼」

セイバー「これほど似合う言葉はありません」

セイバー「私も、何度殺されかけたことか」

士郎「は、はは、やっぱそうか」

セイバー「ですが」

セイバー「家族と話す時は、驚くほど柔かい顔をしていた」

士郎「…………」

セイバー「本質はきっと優しい人間なのでしょう」

セイバー「だからこそ、私にはわからない……!」

セイバー「なぜ、あと一歩で聖杯を手に入れることができたのに!」

士郎「……親父は、聖杯を掴まなかったのか」

セイバー「私に破壊を命じました」

士郎「……そうか」

士郎(聖杯を破壊……何か……理由が……?)

セイバー「私は今度こそ聖杯を手にする! そのためなら如何なる犠牲も払う!」

セイバー「シロウ、貴方にもどうか私の願いを分かってほしい」

セイバー「貴方とは良き友として……」

セイバー「シロウ?」

士郎「」スヤァ

セイバー「……無理もない、今日は過酷な一日だった」

セイバー「今はゆっくり休んでください」

195: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/09(土) 20:37:39.25 ID:LfVrTcisO

 翌朝


士郎「……ん」ムクリ

士郎「夢じゃ、ないよな」

士郎「……とりあえず、メシ食って、修行か」



 土蔵



士郎「遠坂は、帰ったみたいだな」ギギギ ミシリ

士郎「朝飯くらい食べてきゃいいのに」ギシギシッ ミシ

士郎「フンッ」バキャ!

士郎「これにかぎる」ゼッコウチョウ

196: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/09(土) 20:42:35.14 ID:LfVrTcisO
セイバー「シロウ、おはようございます」

士郎「おう、セイバー。悪いな、昨日は先に寝ちまって」

士郎「お詫びに朝飯多めに作ったから、食べてこいよ」

セイバー「本当ですか。それは楽しみだ」

セイバー「……ところで、先程から何を?」

士郎「日課だ」

セイバー「……なるほど、では後程私も付き合います」

197: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/09(土) 20:48:34.81 ID:LfVrTcisO
士郎「ああ、それと」

士郎「もうすぐ知り合いが来るから、セイバーを紹介したいんだ」

セイバー「知り合いですか」

士郎「まあ、家族みたいなもんさ」

士郎「セイバーの事を黙っておくわけにもいかないし」

士郎「親父の海外の弟子とでも言っとけば通じると思う」

セイバー「わかりました。私はそれで構いません」

士郎「…………あー、それと一つだけ聞いてくれ」










――――藤ねぇだけは、怒らせるな

198: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/09(土) 21:02:08.64 ID:LfVrTcisO
オッハヨー! シロー! ゴハンタベニキタヨー!

フ,フジムラセンセイ コエガオオキイデスヨ

士郎「……きた」

士郎「いいな!? 出来るだけ自然な感じで接してくれ!」

士郎「フツーの女の子って感じで!」

セイバー「わ、わかりました」

この時、セイバーは藤村大河という存在の恐ろしさを知らなかった

幼い頃から切嗣親子の常軌を逸した特訓を見続けてきた大河

特訓の度に死にかける士郎に対する憐れみを含んだ感情は、いつしか増大し

恐るべき怪物へと変貌した

199: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/09(土) 21:09:58.04 ID:LfVrTcisO
大河「士郎、珍しいじゃない! 桜ちゃんが来る前に朝ごはん作ってる、なん、て」

桜「あ、あの、先輩? そちらの方は?」

士郎「ま、まあ、飯を食べながら話を聞いてくれないか」

大河「士郎」

士郎「へあぁっ!?」

藤ねぇの声色が変わった

普段の活発な声が、まるでカームに突っ込んだみたいに静かになる

大河「どういうことか、はなしてくれない?」

200: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/09(土) 21:18:18.06 ID:LfVrTcisO
大河「ふうーん、切嗣さんのお弟子さんねぇ……」

士郎「ああ、親父が死んだのをつい最近知ってイギリスから挨拶に来たんだ」

セイバー「切嗣には随分と世話になりました。彼が亡くなったと聞いて居ても立ってもいられなくなり、こちらに飛んできたと言うわけです」

大河「士郎」

士郎「な、何さ」

大河「ウソつくのはよくないよ」

士郎「」

201: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/09(土) 21:24:32.57 ID:LfVrTcisO
大河「切嗣さんが亡くなった時に、誓ったの」

大河「士郎だけは、絶対に危険な目に会わせないって」

大河「普段の訓練にはしょーがなく目を瞑ってるけどねぇ」

大河「セイバーさん、だったっけ」

大河「あなたからはどうも危ない感じがするんだよねぇ」

桜「」ガタガタ

桜が顔を真っ青にして震えてる

そういえば、桜が初めて家に来たときも、藤ねぇはこんな感じだったな……

207: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 03:20:25.62 ID:9VbTsEJ5O
――――あれ? 間桐さん? 何で士郎の家に来てるの?

――――ふうーん、怪我した士郎の手伝いにねぇ

――――ちょっと、こっちにきてくれるかな

桜「あ……あ…………」ガタガタ

208: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 03:35:54.29 ID:9VbTsEJ5O
セイバー「大河、誤解されてるようだが、私は士郎を守る為にやって来たのです」

セイバー「決して危害を加える為に来たわけではない」

違う、セイバー、そうじゃない

そういうフツーじゃないキーワードは使っちゃいけない!

大河「……ま、いいか」

大河「士郎が信じた人なら、信用できるだろうし」

大河「だけどね、セイバーちゃん」

大河「士郎を危ない目に会わせたら」







――――許さないから

209: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 03:46:39.08 ID:9VbTsEJ5O
セイバー「……!」ゾワ

この絡み付くような感じは、どこかで

そうだ、あの人と同じ

あのモルガンと、あの異父姉と同じ

絡み付くような、生暖かい感覚

アヴァロンに連れていく優しさと、私を幻惑した時の残忍さ

この者にはそれと同じ質を感じる

まさに、姉という名の怪物

210: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 03:56:19.30 ID:9VbTsEJ5O
大河「それよりお姉ちゃんもうお腹すいちゃったよぅ」

大河「士郎~♪ 早くご飯にしよ♪」

士郎の体に大河が大河が後ろからしなだれかかる

あすなろ抱きと言う体勢である

一見姉弟の微笑ましいスキンシップに見える筈のそれが

『絶対に渡さない』という思いの表れにしか見えなかった

211: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 06:46:01.89 ID:9VbTsEJ5O

 通学路

士郎「あ、朝から緊張したなあ」

桜「藤村先生のあの声と顔、ひさしぶりに見ました……」

士郎「そういえば俺も昔を思い出したよ」

士郎「あの頃は桜も髪が短くて、どこか陰があったよな」

士郎「それが今じゃこんなに明るくなっちゃって」

士郎「食欲もあがったよな。練習中にこっそりおにぎり食べてんだろ?」

桜「せ、先輩! 知ってたんですか!?」

士郎「米、一合多く炊いてただろ?」

桜「うう……先輩の意地悪」

桜「……でも、私はなにも変わってないんです」ボソリ










先輩

私は先輩に

嘘をついてるんです

212: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 06:56:59.03 ID:9VbTsEJ5O
士郎「さてと、そろそろ教室に入って……!?」




―――――甘ったるい、不快感




士郎「ぐ……」

桜「先輩?」

士郎「だ、大丈夫だ」

学校の中を、不快感が包んでいる

まさか

魔術師

学校に……!?

士郎「……行こうか、桜」

桜「は、はい」

怪訝に思う桜を他所に、俺は危機の到来を予感した

戦いは、もう始まっている



213: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 14:30:15.30 ID:flV6XZaAO
士郎「み、美綴が行方不明って、どう言うことだよ」

一成「昨日の晩からだそうだ。どうにも最近は物騒だと思っていたが、ついにわが校からも行方不明者が出てしまったか」

士郎「そんな」

一成「衛宮、お前も気をつけろよ。人助け大いに結構だがお前自身が傷ついてしまったら元も子もない」

士郎「わかってるさ……。それより、美綴がいなくなる前に学校で誰か話してた人とかいないか?」

一成「弓道部全般は当然として、比較的仲が良い氷室、そして」

一成「遠坂 凛」

士郎「遠坂、か」

一成「あの女を疑ってるのか?」

士郎「いや……、遠坂は白だ」

少しの間だが、共闘した少女だからこそ分かる

あの高潔な性格の人間がそんな真似をするとは思えない

一成「そういえば……、最近、あいつとの折り合いが悪かったな」

士郎「あいつ?」

一成「間桐 慎二だ」

士郎「慎二が……」

士郎「そういえば、あいつ今日は学校に来てないな……」

214: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 14:41:39.89 ID:flV6XZaAO
結局、夕方までなにも手がかりは掴めなかった

遠坂にも相談しようとしたが、何故か無視された

この校舎を包む異様な雰囲気

早くなんとかしなければ大変な――



凛「衛宮くん」




士郎「……遠坂?」

ふと、見上げた階段の上に、不機嫌そうな顔をした遠坂凛がいた

凛「私はね、貴方にあきれ果ててるの」

凛「昨日あれだけ死にかけたのに、今日はサーヴァントも連れずにこんな時間までほっつき歩いて」

凛「……やっぱり強制的にご退場願って頂くわ」

遠坂の腕の回路が光る

指先に集束するあの、光は

士郎「正気か……!」

――ドギュン!

215: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 14:55:43.65 ID:flV6XZaAO
凛「くっ……この! 動くな! 当たらないじゃない!」

ドギュン!

士郎「無茶言うな」スッ

遠坂の放つ魔弾を上体を反らして避ける

大丈夫だ、最初は驚いたがなんとか避けれる

実弾と違って視認できるし、なにより遅い

伊達に本物の銃弾を撃たれて来た訳じゃない

士郎「遠坂、もっと落ち着け。興奮しすぎて指先が震えてるぞ」

凛「」カチン

凛「よ・け・い・な! お世話だぁあああ!」

ドガガガガガガガガガ!

士郎「いいっ!?」

まるでマシンガンのように暴れ撃ってきた

幾らなんでもあれはキツい

切嗣『逃げるなぁ! 向かってこぉおい!』

ふと、昔のじいさんの怒鳴り声が聞こえた

じいさん、流石にマシンガンは無理だよ

216: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 15:05:51.98 ID:flV6XZaAO
いつの間にか入り込んだ教室で、どうやってこの状況から脱しようかと考えてる最中にも

遠坂の猛攻は止まらない

士郎「と、とにかくこれで!」

机を盾にしてしのぐしかない

士郎「構成材質……ええい面倒!」

士郎「フンッ」

バキャ!

士郎「これにかぎる」ゼッコウチョウ

凛「観念した? 衛宮くん」

凛「そんな机でガンドを防ぎきれるかしら」

士郎「さーて、どうかな」

凛「……何よ、その自信は」

凛「ハッタリならもっと上手にやりなさいっ」

ドガガガガガガガガガ!

217: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 15:28:01.64 ID:flV6XZaAO
ガンドの嵐が机を襲う

始めはなんとか耐えていた強化机だったが、やがて耐えきれず、破砕音をあげ爆散した

凛「やりすぎたかしら」

凛「まあ、これであの馬鹿も少しは反省して――――」

衛宮 士郎が、いない

凛「っち!」

背後に気配を感じ、すぐさま振り返り指を構える

そこには強化した鉄パイプを振り上げた衛宮 士郎の姿が

士郎「やっぱり、陰行は苦手だ。全然通用しない」

凛「……素人にしては上出来よ」

一触即発

互いに緊張感が走る

218: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 15:37:37.05 ID:flV6XZaAO
緊張を破ったのは、甲高い叫び声だった

凛「何!?」

士郎「遠坂、こっちだ!」

凛「あ、ちょっと!」







「」グッタリ

士郎「これは」

凛「生命力を抜き取られてるわね」

士郎「大丈夫なのか?」

凛「このままじゃ危ない……。待ってて、なんとかするから」

士郎「犯人は……向こうのドアから……」

士郎「……」

何かが、光った

士郎「……!!」

ドンッ

ザシュッ

凛「衛宮くん!?」

220: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 16:03:33.03 ID:flV6XZaAO
士郎「くっ……」

咄嗟に庇ったはいいが、腕に深く食い込む痛みに思わず苦悶の声が出る

凛「まさか、サーヴァント」

士郎「そのまさかだ!」

士郎「フンッ!!」

ギシィッ

鎖を右手で掴み、相手を引きずり出そうとするが

まるでびくともしない

それどころかジリジリと引き摺られる。このままでは――――

士郎「遠坂!」

士郎「両肩だ! スイッチがある!」

凛「え、え?」

士郎「早く!」

凛「わ、分かった!」

バチン!

221: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 16:10:31.00 ID:flV6XZaAO
――――緊急解除スイッチ

非常時の際、上半身の服ごとギプスを脱ぎ捨てる

つまり





パァン!!






士郎(上半身裸)「ふぅう……」プシュゥウウウウ

222: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 16:21:53.99 ID:flV6XZaAO
――――鋼

まさにその言葉こそ相応しい、鋼鉄の肉体

普段男の体と言うものを見慣れていない凛でさえ、その異様に息を飲んだ

――――魔術師の体じゃない

――――魔術師殺し

ふと、そんな単語が頭を過った

223: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 16:29:16.46 ID:flV6XZaAO
士郎「ムゥンッ」

ズルッ

左腕の杭を引き抜き、両手で鎖を持ち、

士郎「ずあっ!!!」

全力を持って引きずりぶん投げた

ドアから飛び出たのは、紫の長髪を持つ妖艶な美女

士郎「だぁああっ!」

そのまま背負うように鎖を振り回し、窓に向けて紫髪のサーヴァントを窓に向けて投げ飛ばす

グワシャァアッ

ガラスを突き破ったサーヴァントは、そのまま校舎近くの森林地帯に落下した
















凛「なに、あれ」

225: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 16:51:05.31 ID:flV6XZaAO
士郎「遠坂っ!」

凛「ひゃいっ!?」

士郎「俺はアイツを追いかける! 遠坂はその子の治療に専念してくれ」

上半身裸の変態が何か言ってる

そいつはそのまま割れた窓に身を乗りだし

凛「ってアンタ!? 何する気よ!?」

士郎「大丈夫だ!」

士郎「ここは二階だ! 三階じゃない!」

違う、そういう意味じゃ

士郎「トゥアッ!!!」ババッ

今、理解した

何故アイツがサイボーグ・エミヤと呼ばれているのか

226: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 18:39:47.45 ID:tUSFqW3ZO
衛宮士郎は正しく怒っていた

自分や凛が襲われるのは分かる

魔術師である以上身の危険に晒されるのは覚悟の上だからだ

しかし桜や美綴等、学校の生徒は違う

表の世界を生きる人たちは断じて危険に晒されていいわけがない

あのサーヴァントや、そのマスターが何を考えてるのかは知らないが、こんな凶行を犯す者を野放しにして平気でいられるほど、士郎は冷静ではなかった

士郎「見つけたぞ……!」

「…………」

窓を突き破ったせいか、美しい肌のあちこちにガラス片が刺さり、深紅の血が雫となって落ちる

セイバーやランサーといった英雄らしさよりも、どこか人離れした超然とした雰囲気を放っている

士郎(正面から来ちまったが、果たして俺の力がアイツに通用するのか?)

士郎(隙を見てセイバーを呼べるようにしなきゃ)

227: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 18:56:29.85 ID:tUSFqW3ZO
ジャラッ

鎖がうねり、士郎に襲いかかる

士郎「っ!」ヒュン

ダッキングに似た動きで距離を詰め、下から勢いをつけた掌底をその整った細顎に叩き込む

「ぐ……」

士郎(手応えあり!)




「……あなたは、本当に人間ですか?」

「マスターの言っていた通り、一筋縄ではいかない相手のようですね」

「それにしても……」

(なんて、みごとな体……。オリンポスの神々に比肩するほどの調和がある)

「どうやら、様子見はここまでです」

「またお会いしましょう。脳筋さん」

そう言い捨てたサーヴァントは高く跳躍し、この場を後にした

228: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 19:18:12.20 ID:tUSFqW3ZO
凛「衛宮くん、無事だったのね」

士郎「遠坂、悪い、逃げられちまった」

凛「ホント、貴方ってどこまでも規格外ね」

凛「サーヴァント抜きで戦ったなんて、セイバーが知ったら大目玉よ」

士郎「ゴメン。でも、我慢ならなかったんだ」

士郎「あの子が倒れてて、サーヴァントが現れて、目の前が真っ赤になっちまった」

士郎「今は反省している……。少し、自惚れが過ぎたみたいだ」

229: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 19:45:54.59 ID:tUSFqW3ZO
凛「……」

凛(前から気にはなってた。こいつは、自分が傷つくことを全く恐れない)

凛(誰かが傷つくことに、強迫観念に近い焦りを感じてる)

凛(何がこいつをそこまで)

凛(……それにしてもスゴい体)

まだ少年らしさの抜けきらない顔に似合わぬ、鍛えぬかれた体

凛(引き締まってて、嫌味が無い……)

何故かボウッとして自分をみる遠坂

気のせいか少し顔が赤い気がする

士郎「遠坂? 大丈夫か」

凛「! な、何でもない!」

凛「ホラ、さっさと服を着なさい! 風邪引くわよ!」

230: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 20:11:37.15 ID:tUSFqW3ZO
凛「様子見と言ってた以上、今日はもうアイツも襲って来ないだろうし、さっさと帰るわよ」

士郎「そうするよ。遠坂、また明日な」

凛「アンタね! 一応同盟組んでるとは言え私は敵よ!」

凛「……まぁ、いいわ。どうせ長く顔を会わせる事になるんだから」

士郎「ん? なんのことだ?」

凛「私、貴方の家に厄介になるから」

聞き捨てなら無い言葉が聞こえた

士郎「……はい?」

凛「昨日の空き部屋でいいから」

凛「それじゃあね、し、ろ、う」

士郎と呼ばれた

そういえば昨日も何回か呼ばれたような気が

いや、そんなことより

士郎「藤ねぇに、なんて言えばいいんだ……」

231: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 20:29:26.08 ID:tUSFqW3ZO

 衛宮邸
 
 道場

セイバー「シロウ、私の言いたい事はわかりますね」つ竹刀

士郎「……はい」正座

セイバー「貴方は強い、少なくとも人間の中では」

セイバー「しかし、過ぎた慢心は時として己を滅ぼす」

セイバー「それを知ってながら打ってでるとは、戦士としては余りにも傲慢」

セイバー「その傲慢、私が叩き直します」

士郎「ご指導ご鞭撻お願いします」土下座

このあと、滅茶苦茶しごかれた

233: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 20:46:08.97 ID:tUSFqW3ZO

 翌朝

凛「なにもいきなり厄介になるわけ無いわよ」

凛「今日の晩に、ここに来るわ」

凛「と言うわけで、今日から衛宮くんと一緒に登校することになったから」

桜「え……あ、え?」

士郎(桜……すまん)

234: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 20:52:23.64 ID:tUSFqW3ZO
 
 穂村原学園

桜「先輩っ、今朝の話は、一体どういうことですか」

士郎「桜……これには深い事情があってだな」

桜「私にも……言えない事情ですか」

士郎「……ああ、そうだ」

士郎(桜、わかってくれ、お前まで巻き込む訳には――――)

一成「衛宮ァアアアアアアア! 遠坂と一緒に登校していたとは本当かぁああああああ!」

士郎「ああもう面倒くせぇ!」

237: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 21:04:35.77 ID:tUSFqW3ZO
その日は、遠坂と学校中に設置された結界の破壊を行った

サーヴァントの仕掛けたモノだけあって、完全な破壊は不可能だが、発動を遅らせることは可能らしい

俺の勘がいいのか、かなりの数を壊すことができた

そしてもうひとつ、美綴が見つかった

貧血と中毒症状でぶっ倒れてたらしいが、明らかにサーヴァントの仕業だったと遠坂は言ってた

学校の結界、弓道部、美綴

今日も来ない間桐 慎二

俺の中で、歯車が噛み合い始めた気がした

239: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 21:23:49.85 ID:tUSFqW3ZO

 間桐邸

士郎「それで……今まで学校に来なかったって訳か」

慎二「僕は慎重だからね、お前たちみたいに大胆には動けないのさ」

慎二「ただ、今言った情報は本当だぜ、柳洞寺のマスターとサーヴァント。そっちが潰してくれたら有り難いんだけどな」

士郎「……」

士郎(学校の結界を破壊した直後に協力の申し出、か)

士郎(タイミングが良すぎる……。まさか、慎二が)

慎二「……なぁ、衛宮」

思索にふけっていた士郎に声をかける慎二

その声はいつもの軽薄な感じは無く、どこか真剣だった

慎二「お前は、努力する凡才が天才に勝てると思うか?」

士郎「……なんだよ、いきなり」

慎二「僕は、魔術が使えない」

慎二「一個もだ」

慎二「だけど、勝つつもりさ、遠坂にも」

慎二「そして、お前にも」

慎二「馬鹿がつくくらいの努力家のお前だ、僕の話をどう思う」

士郎「……」

士郎「俺は、見返りがあると分かって修行してるつもりはない」

士郎「もしかしたら、夢が叶えられないかも知れない」

士郎「それでも、俺は、やめるつもりはない」

慎二「お前ならそう言うと思ったよ」

士郎「じゃあな、慎二。明日は学校来いよ」

バタン

慎二「……」

慎二「そうさ、僕は負けない……」

慎二「特に、お前にだけにはな……!」

246: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 22:14:05.50 ID:tUSFqW3ZO
凛「慎二が貴方にコナを吹っ掛けてくるなんてね」

士郎「どう思う?」

凛「嘘と真実を織り混ぜて話してるわね。ホント、小賢しいんだから」

士郎「……俺は、余りそうとは思いたくない」

士郎「あのとき、セイバーを連れずに行動してた。殺そうと思えばいつでも殺せたんだ」

凛(本気で言ってるのかしらこの筋肉馬鹿は)

249: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 22:20:07.42 ID:tUSFqW3ZO
凛「あなたね、いくら友達でも、そこまで信用できる人間じゃあ無いわよ、アイツは」

士郎「俺だって怪しいと思うさ」

士郎「それでも、俺は」

凛「あなたが出来ないなら、私がやるわ」

凛「一般人を巻き込んだアイツを、私は許さない」

凛「それにね、本当に友達のことを考えてるなら」

凛「ぶん殴ってでも更正させるのが、本当の友情ってモノよ」


253: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 22:29:57.50 ID:tUSFqW3ZO
士郎「……はは、遠坂の口から、そんな男前な言葉が出てくるなんてな」

凛「ふん、これくらいどっしり構えてなきゃ遠坂家の当主は名乗れないわ」

士郎は凛の心根の強さに感動を覚えた

衛宮 士郎は確かに強いかも知れない

しかし、友が敵になる可能性が彼の心を苛む

いくら心身を鍛えたとは言え、彼もまた子ども。青春を謳歌しておかしくない年頃なのだ

士郎(慎二が目の前に立ちはだかったら、果たして俺は戦えるのか?)

士郎(俺には遠坂のような確固たる意志が、無いのかもしれない)

254: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 22:40:22.37 ID:tUSFqW3ZO
凛「それより、荷物置くの手伝ってくれるかしら。今日からお世話になるんだからちゃっちゃと済ませたいのよね」

士郎「……ホントにウチで生活する気か」

凛「感謝しなさい、学校中の男子が泣いて悔しがるわよ」

ピンポーン

呼び鈴? こんな時間にだれ、が

士郎「まさか」

大河「シーローウー! ご飯食べに来たよー!」

255: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 23:00:59.00 ID:tUSFqW3ZO
大河「…………」

桜「…………」ガタガタ

凛「…………」

セイバー「…………」

士郎(き、気まずい)

大河「士郎」

士郎「ファアッ!?」

大河「遠坂さんの言い分は分かったよ。お姉ちゃん、信じてあげる」

士郎「え」

大河「遠坂さん、中華が得意なんだっけ? 先生楽しみだなぁ♪」

凛「は、はぁ」

妙に聞き分けがいいな

もっと、何か含む言葉を言うかと思ったけど

本当に聞き分けてくれたのか?

257: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 23:06:11.22 ID:tUSFqW3ZO
凛「それより、間桐さん、貴方は何故ここにいるのかしら」

凛「もう、来なくても大丈夫って言ったと思うのですが」

桜「遠坂さんの言うことを、何で私が聞かなければならないんですか?」キッパリ

凛「………」

桜「………」

士郎「セ、セイバー、なんとかならないか」ボソッ

セイバー「お腹が空きました」しれっ

士郎(つ、つかえねえ……)

260: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 23:20:35.07 ID:tUSFqW3ZO
凛「ああ、それなら早速、台所を借りますね」

桜「……私も手伝います」

士郎(グッジョブ、セイバー)d

大河「美味しいの期待してるよぅ♪」







 台所

凛「へぇ、けっこう揃ってるじゃない。これなら本気を出せそうね」

桜「遠坂さん」

凛「あ、間桐さんは材料切って頂戴。中華は初めてかしら」

桜「……姉さん、何を考えてるんですか」

凛「あなたには関係ないわ」

桜「今度も、私の居場所を取るんですか」

凛「暗いわよ、あなた」

桜「姉さんほど陰湿じゃありません」

ダンッ

スリッパを履いた桜の足が凛の足の甲を踏み抜く

凛「…………!」

桜「…………」

互いの瞳が交差する













――――据わっていた

261: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 23:25:19.23 ID:tUSFqW3ZO
凛「痛いんだけど」

桜「気のせいじゃ無いですか?」

桜「それとも厚かましすぎて痛覚がマヒしてるんじゃ無いですか?」クスクス

凛「…………」

凛、無言で桜のふくらはぎに手をやり

ギュイッ

思いきりつねった

262: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/10(日) 23:36:04.78 ID:tUSFqW3ZO
桜「~~~~!」

痛みに悶えるが、何とか声を出さずにすんだ

凛「間桐さん、足、邪魔なんだけど」

桜「姉さんこそ、手が邪魔です」

士郎(か、顔を出しずれぇ……)ガタガタ

270: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 10:17:47.75 ID:o9iP9ZgmO
凛「あの子……まさかあんなに自己主張が激しいなんてね」

士郎「どう考えても遠坂のせいだろ……」

士郎「それにしても、藤ねぇがあんなにあっさり引き下がるなんてな」

士郎「セイバー、お前の時とは随分違うじゃないか」

セイバー「……」

士郎「セイバー?」

セイバー「いえ、何でもありません」

272: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 10:22:03.43 ID:o9iP9ZgmO
大河『え、セイバーちゃんの時と遠坂さんの時と態度が違う?』

大河『やだなぁ、そんなの当たり前じゃない』

大河『セイバーちゃんと違って、遠坂さんはお子様なの』

大河『桜ちゃんも同じ。取るに足らないよぅ、あんなの』









セイバー(大河……貴方は)

273: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 10:27:51.34 ID:o9iP9ZgmO

 土蔵

凛「これが士郎の工房、か」

凛「なんだか殺風景ねぇ。がらくたばかりじゃない」

凛「………ん?」

魔翌力の残り香を感じる

これは

凛「投影魔術? でも、これは」

士郎「遠坂」

凛「わっ!」

凛「な、何よ。いたのなら何か言いなさいよ」

士郎「遠坂、それには余り触れるな」

凛「え」

士郎「それは親父から禁術扱いされたモノだ」

274: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 10:38:45.84 ID:o9iP9ZgmO
凛「禁術……。そう、そう言うこと」

凛「貴方、やっぱり最初からおかしいのね」

凛「ある種の天才……いえ、突然変異」

凛「そのギプスも、初めからこの投影擬きを行使するのに耐えるためのモノ」

凛「……決めたわ。明日、学校を休むわ」

士郎「調べるのか?」

凛「知り合いが封印指定なんて冗談じゃ無いわよ」

明日は一応、結界には気をつけて

そう言って遠坂は寝室に戻った

俺は、積まれたがらくたに目をやり、昔を思い出した

切嗣『士郎よ、いつか、時が来ればその投影を使う日が来るだろう』

切嗣『だが、それはそんな甘いモノじゃない! 努々使い方を誤るな』

275: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 10:44:39.78 ID:o9iP9ZgmO

 深夜

 柳洞寺

セイバー(士郎、黙って行く私を許してください)

セイバー(しかし、私も目的がある)

セイバー(それを邪魔する者は――――)

セイバー「斬る」






アサシン「ふ……」

276: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 10:56:49.47 ID:o9iP9ZgmO
アサシン「穏やかではないな、このような時に」

セイバー「退かなければ、斬ります」

アサシン「我が主からは誰も通すなと言われている」

アサシン「通りたければ……」チャキ

スラリ

アサシン「力ずくで」コォオオオオオオオ

セイバー「……」コォオオオオオオオ

278: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 19:28:08.25 ID:FLupm1iwO
セイバー(先程から肚に力がはいらない)

セイバー(おそらくはキャスターの結界の作用……ならば)

セイバー(小細工は不用!!)

セイバーの上段からの太刀がアサシンの脳天を断つべく襲いかかる

しかし、まるで柳のように軽やかなアサシンの動きになんなくかわされる

アサシン「戯れはよせ、セイバー」

アサシン「本気を隠したまま勝てるほどこの身は甘くないぞ」

セイバー「……やはり、隠し通せませんか」スッ

セイバー「解    放」

バチン!

279: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 19:34:52.58 ID:FLupm1iwO
セイバー「ふうぅ……」プシュゥウウウウウ

アサシン「……なるほど、これは骨が折れそうだ」

セイバー「フン!」

ビュオッ

アサシン「……」

先程よりも更に速い剣筋を髪一重で見切り、セイバーの首を跳ねんと長剣を構える


――しかし、完全に振り切り、延びきった筈の刀身が、恐るべき速さで「戻ってきた」


アサシン「ほぅ……」

280: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 19:43:17.60 ID:FLupm1iwO
――――ギャリリリリ!


剣同士が空中で交差し、金属の擦れる音が周囲に木霊する

アサシン「愚直なまでの直線軌道。だがそれ故に分かっていても避けられん、か」

セイバー「見事です。恐らく剣の腕前事態は貴方の方が上」

セイバー「だが、技術を上回る速度が私にはある!」グワッ

ビュオッ

見えないスイング

アサシン「……!」

ザンッ

281: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 19:53:02.70 ID:FLupm1iwO
セイバー(浅い……)

アサシン「消える一の太刀か、いいな、実に愉快だ」

袈裟懸けに浅く傷を負ったアサシンが如何にも愉快といった風に笑う

アサシン「その神速の太刀と我が秘剣、どちらが速いか試したくなった」チャキ

スゥウウウウウウウ

アサシンの周囲の空気がみるみるうちに引き締まり、温度を下げる

セイバー(来る、とてつもない技が)

アサシン「翔ぶ燕を、斬る」

アサシン「逃げられんぞ、セイバー」

ズ、ズズ

「秘剣」







「――――燕返し!」

282: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 19:58:19.58 ID:FLupm1iwO



    キュ キュ キュ

       ザn



ビュオオオオオオ!


アサシン「!?」

回避不能の三連斬

それを向かえ撃ったのは、髪一重の瞬間を疾風の如く駆け抜けた、一の太刀

セイバー「燕は斬れても」

セイバー「龍は殺せん」

アサシン「見事」ブシュッ

283: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 20:12:20.86 ID:FLupm1iwO
アサシン「しかし、意地は通させてもらった」スッ

自らの胴を片手で抑え

セイバーに指を向けるアサシン

セイバーの体には避けきれなかった斬撃の痕が血を滲ませている

アサシン「初めてだぞ、我が秘剣に逃げずに真正面から向かって来た者は」

セイバー「……髪一重、です」

セイバー「この勝負、預けます」

アサシン「何故だ? 今なら容易く斬れるぞ」

セイバー「貴方を倒せても、続くキャスターまでは息がつづかないでしょう」

セイバー「ならばここは引く」

アサシン「……行け、どうせここを離れられん。追いはせん」

セイバー「次は斬る」

アサシン(もう斬られたが…)

アサシン「楽しみにしてるぞ」

284: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 20:20:33.67 ID:FLupm1iwO

 帰り道

セイバー「……」

セイバー「髪一重、か」

セイバー「ぐぅっ」フラ

セイバー「ま、まだまだ、修行が、足りませんね」

セイバー「しかし、あの秘剣。攻略の糸口は掴めた」








――次こそは、必ず

285: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 20:31:24.16 ID:FLupm1iwO

 翌朝

セイバー「」ガツガツ

士郎「」モグモグ

大河「」モシャモシャ

凛「よく食べるわねー」




セ士大「「「おかわり!」」」





桜「先輩は、昔からよく食べるんですよ」

桜「とても美味しそうに食べるから、ついつい張り切って作っちゃうんです」

凛「セイバーもスゴい食欲ね」

セイバー「食べれば治りますから」

凛「?」


287: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 20:48:29.10 ID:FLupm1iwO


 通学路


桜「なんだか、二人で登校するのもひさしぶりな気がしますね」

士郎「……」

桜「先輩?」

士郎「ん、ああ、そうだな……」

桜「……」

ーー


凛『いい? 万が一結界が発動したら、その時はすぐにセイバーを呼ぶのよ』

凛『アーチャーを監視に飛ばせてあるから、非常時には彼とも協力すること』

士郎『ああ、分かった』

288: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 20:50:36.83 ID:FLupm1iwO
>>286
ありがとう
しかしたまに忘れちゃうんですよね……

289: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 21:01:02.41 ID:FLupm1iwO
士郎(遠坂に投影の事がバレた時は覚悟を決めたけど)

士郎(まさか、安全のために調べたいなんて言い出すなんてな)

士郎(いいやつだよ、ホントに)

桜「……」

桜「先輩、実は黙ってたんですけど」

士郎「ん?」

桜「実は、家の用事があって明日から暫く先輩の家に行けません」

士郎「用事が? そっか、ならしょうがないな」

士郎「桜のメシ、楽しみにしてたんだけどな」

桜「本当にすみません……」

桜(――――先輩、本当は違うんです)






本当は、私

290: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 21:12:55.23 ID:FLupm1iwO

 昼休み

慎二は学校には来ていなかった

ここまで特には何も起こっていない

暇なときに起点が無いか探して見たが、特に何もなかった


  屋上

士郎「んー」ノビー

士郎「収穫なし、か」

士郎「しっかしのどかだ、戦争中とは思えん」

士郎「……何で、戦ってんだろ、皆」

青空を見ていると、時々自分が、魔術師が何故修行し、何の為に戦ってるのかわからなくなる

空しさを感じるほどに澄みきった青空

星空は好きだが、雲一つない青空は同じくらい好きだった

士郎「さーて、帰るか」

屋上を跡にして教室へ戻ろうとする

――――その時、違和感が

休み中なのに、妙に静かだ

291: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 21:20:08.97 ID:FLupm1iwO
次に感じたのは、視界が焼けるような痛みだった

士郎「あづっ、あ」

士郎「何、な、にが」

士郎「あ、ああ」

透き通るほど青かった空が

真っ赤に燃えていた

――――結界

ついに発動してしまった

士郎「くそ……」

吐き気がする

胸焼けがする

頭が痛い

士郎「……!」

校庭で遊んでいた生徒が、人形のように倒れ伏している

ピクリとも動かない

292: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 21:23:36.89 ID:FLupm1iwO
士郎「く……」

落ち着け、遅かれ早かれ、こうなることは分かっていた筈だ

まずはセイバーを呼んで、アーチャーと協力して――――

「衛宮、やっぱりお前は動けるんだな」

294: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 21:38:12.87 ID:FLupm1iwO
聞きなれた声がした

士郎「しん、じ」

慎二「驚いたかい? 僕の趣向は」

士郎「やっぱり、この結界は」

慎二「だいぶ気づいてたんだろ? それでも確信できなかったのは、お前の甘ささ」

士郎「何で、こんなこと」

慎二「あくまで保険さ。遠坂の手足を封じるためのな。流石に真正面から敵うとは思っちゃいないよ」

慎二「それより、いいのか? 早く結界を止めないとみーんなスープになっちまうぜ」

士郎「慎二っ、やめろ、今すぐ結界を止めろ!」

慎二「衛宮、そうじゃないだろ。人にモノを頼むときは土下座くらいするのが筋ってもんだ」

慎二「藤村といいお前といい、ホントに礼儀知らずの甘ちゃんだよな」





士郎「……今、何て言った」

297: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 21:47:03.35 ID:FLupm1iwO
慎二「ああ、藤村か?」

慎二「アイツもなかなかしぶとくてさ、周りがバタバタ倒れてく中、暫く動いてたんだよ」

慎二「蚊の鳴くような声で『士郎、士郎はどこ』って言っててさ、ホント気持ち悪かったぜ」

慎二「動ける僕を見るなり助けを求めちゃってさ、くく、『士郎を、皆を助けて』だって」

慎二「あんまり煩いから蹴りを一発入れたら動かなくなったけど、真っ先に死んだんじゃないの?」
















――――ブチン

298: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 21:56:39.81 ID:FLupm1iwO
――――――グシャッ

士郎「……」

慎二「ぶ、ごおふっ!」



――――ッッダァアアアアアン!





渾身の右ストレートが慎二の顔面に直撃した

衛宮 士郎が生まれて初めて抱いた

「殺意ある拳」だった

300: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 22:01:10.36 ID:FLupm1iwO
不思議と、自分でも驚くほど冷静だった

ただ、目の前の敵を倒す

それのみに集中したとき、人は何処までも冷酷に、非情に徹する事が出来る

俺はそれを自分の身で思い知った









士郎「慎二」

士郎「マジでぶっ殺すぞ、テメェ」

301: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 22:11:10.53 ID:FLupm1iwO
慎二「――――く、くくくくく」

士郎「……!」

ギプスを着けてるとは言え、全力の右ストレートを食らって気絶していない

壁にめり込んだまま、慎二は不気味に笑う

きりもみ回転し、壁に勢いよく叩きつけられた慎二

壁は大きく陥没し、周囲に破片が散らばっている

慎二「やっとだ、衛宮ァ……」

慎二「やっとお前は、本気で僕を正面から見る気になった……」

ゴソリ

懐から取り出したのは、令呪の証である本

士郎「……」

慎二「ずっとだ……ずっとこの時を待ってたんだァ……!」

303: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 22:23:45.39 ID:FLupm1iwO
慎二「いくぞ衛宮ァアアアアアアア!」

慎二の令呪が光り、リノリウムの廊下に衝撃波が走る

触れれば肉を容易く切り裂くそれが士郎目掛けて突進する

士郎「……」

しかし、避けない

それが何だと言わんがばかりに歩きながら慎二に迫る

ザシュッ

ザンッ

肉が裂かれ、血が舞う

しかし

士郎「……藤ねぇの痛みはこんなモノじゃない」






――――ブオンッ

バキャァアアッッ!

304: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 22:29:04.44 ID:FLupm1iwO
慎二「ホゲェアッッ!」

グワシャァアッ!

ヒューーーーーーー グシャ

またしても右ストレートが顔面に直撃し、今度は窓を突き破って校庭に落下した

肉が潰れる音が聞こえた

俺は一瞬眼を瞑り、かつて親友だった男に黙祷を捧げた

だが




「衛ェエェエエエ宮ァアアアアアアア!!」

305: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 22:38:55.60 ID:FLupm1iwO
士郎「な、に」

思わず校庭に目を向ける

そこには顔どころか身体中をズタボロにしながらも、しっかり大地に立つ慎二の姿があった

慎二「素晴らしいよ衛宮ァ! 本気で、本気で僕を殺そうとしたんだな!」

慎二「だが、まだ殺されてやらないぞ! 着てるんだろ? アレを!!」

慎二「外せ!! ギプスを!!」

慎二「でなければ僕は殺せないぞ!」

308: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 22:44:23.64 ID:FLupm1iwO
あまりの勢いに思わず後ずさった

違う

目の前のあの男は、軽々しくハッタリを抜かす男じゃない




――――アレは死を覚悟した男の目




士郎「…………」スッ

気を抜けば、逆に喰われる

ならばこちらも、全力でやる!



士郎「解    放」




バチン!

310: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 22:52:33.02 ID:FLupm1iwO
士郎「ふぅう……」プシュゥウウウウウ

慎二「ひひ、ひ、ついに、本気を出したな」

士郎「トゥアッ!」ババッ




ダァアアアアアン!




窓から飛び出し、校庭の地面を踏む

慎二と相対し、互いの瞳が交差する

一陣の風が俺達の間を駆け抜けた

士郎「慎二、最後にもう一度言う」

士郎「結界を止めろ」

慎二「ひ、ひひへひゃはははははははは!」











慎二「断る」













バゴンッ!

311: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 22:59:05.95 ID:FLupm1iwO
三度目の正直

手加減抜き

全身全霊のストレート

慎二「~~~~~~!!?」

もはや言葉すらでない

息もできない

慎二「」ガクガク

終わった

完全に終わった

そう思い背を向ける

だが、

またしても















慎二「き、き、き、効いたぜ衛宮ァ……」

慎二「これがお前の全力かァ……!」

312: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 23:04:49.92 ID:FLupm1iwO
士郎「な、何故……!?」

本気の本気だった

立ち上がれる筈がない

何故……!?

慎二「ふ、ふ」

慎二「不思議か? 衛宮ァ……!」

慎二「お前の全力が、何故僕ごときを倒せないのか……」

慎二「僕だって、何もしてない訳じゃないんだぜぇ……!」

313: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 23:09:59.62 ID:FLupm1iwO
慎二「いいか、衛宮」

慎二「僕は、天才だったんだ」

慎二「どんなことでもスマートに、そつなく、何の苦労もなく簡単にこなせる天才だったんだ」

慎二「そんな僕が、唯一挫折したのが魔術だっ!」

慎二「生まれて初めて、本気で取り組もうとしたモノに、落第の焼き印を押されたんだ!」

慎二「そんな失意の中で出会ったのが」

慎二「お前だよ、衛宮」

315: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 23:18:03.78 ID:FLupm1iwO
慎二「始めはただ無意味な努力を続けるバカかと思ったが」

慎二「そのバカはただのバカじゃない」

慎二「目標の為に命を懸けてしまう本物のバカだった」

慎二「惨めだったよ……たった一回け躓いただけで諦めた自分と、お前の差が」

慎二「そして猛烈に感動したのさ」

慎二「すぐに失望に変わったけどな!」

俺は呆然として慎二の話を聞いていた

こんなに、自分の心情を話す慎二は初めて見た

いや、そもそも俺は、慎二の何を知っていたのか?

俺は、アイツのうわべしか見ていなかったんじゃないか?

317: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 23:26:32.06 ID:FLupm1iwO
慎二「魔術師ってのはなぁ、どんなにヘボでも、僕から見りゃ全員天才なんだよ!」

慎二「努力と根性の化身、衛宮 士郎!!」

慎二「そんなお前ですら、その天才の一人だと知った時の僕の気持ちが」

慎二「お前に解るかァアアアアアアア!」

慎二「倒す、だからこそ僕はお前を倒す!」

慎二「間桐の家も遠坂も聖杯戦争も関係無い!」

慎二「間桐 慎二としての存在を確立するため、天才のお前を超える!」

慎二「だからこんなこれ見よがしの努力も行える!」ババッ

士郎「――――! 慎二、その手は!!」

319: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 23:33:38.69 ID:FLupm1iwO
それは、血にまみれた両手

皮はずるむけ、マメは潰れ、真っ赤に染まった痛々しい両手

慎二「柄じゃないと思うだろう!」

慎二「だけどなぁ! 努力ってのは影でやるモノだぜ!」

慎二「これが僕の努力だ衛宮ァアアアアアアア!」

バリッ

何かが破れる音がした

そしてそのあとに聞こえる、この聞きなれた音は

まさか














――――ギ、ギギ、ギギギギギ

321: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 23:38:49.47 ID:FLupm1iwO
慎二「爺ぃに無理を言って施してもらった、消音の魔術を解いた」

慎二「お前はこの音をよ~~~~~く知ってるんじゃないか?」

そうだ

俺は知っている

この音を

この強靭なバネの音を




慎二「見るがいい!」ババッ

323: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/11(月) 23:41:16.89 ID:FLupm1iwO






慎二「この『衛宮士郎打倒ギプス』を着け、地獄の特訓を続けた僕に敗北の文字はない!」ゴゴゴゴゴゴゴ







331: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 00:02:23.80 ID:/ePTdneUO
衛宮士郎は、常に誰かを追う立場だった

尊敬する父を

確固たる意思を持つ遠坂を

英雄としての生きざまを持つセイバーを

しかし、魔術師としてヘボな自分を天才と呼び、追いかけ続けていた男が、目の前にいる

正真正銘の凡人、間桐 慎二

地獄を克服した男

それは、士郎が正しく「追われる側」に回った瞬間だった

334: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 00:20:36.03 ID:/ePTdneUO
慎二「解   放」

バゴンッ!

ギプスが破砕音と共に砕け散る

慎二(上半身裸)「むふぅ……」プシュゥウウウウウ

慎二「もうこんなモノを着ける必要はない」コォオオオオオ

慎二「」ユラリ

慎二「ぬはァあ!」

ギュオッ

士郎「な、何て跳躍力だ!」

335: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 00:23:36.30 ID:/ePTdneUO
慎二「受けてみろ衛宮ァアアアアアアア!」





慎二「スクリュースピンスライディング!!!」

ギュオオオオオ!






士郎「ぐ、ぐあああああっ!」

337: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 00:37:13.34 ID:/ePTdneUO
士郎の持つ数少ない必殺技

それを容易く真似された

いや、あの技はそうそう誰にも出来るモノじゃない

しかし、そうだとしたら――――

慎二「何ぼさっとしてるんだ!」

ガキィッ

士郎「ご、おっ」

慎二のアッパーカットが士郎の顎を容赦なく打ち抜く

イリヤスフィールに殺されかけた時とは違う

まだまだ未熟だが、恐ろしくキレがいい

士郎「ぶ、は」

士郎「ッラァアアアアア!」

歪む視界を振り切り、左の鉄拳を慎二に叩きk

グシャアッッ!

339: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 00:38:37.55 ID:/ePTdneUO
慎二「舐めるなよ、衛宮」

士郎「ご、は」





クロスカウンター










342: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 00:48:19.87 ID:/ePTdneUO
つ、つ

強い!

なんて強さだ!

慎二がこれほど強いなんて

だが、それでも解せない事がある

これほどの強さを持ちながら、何故……

士郎「ぐ、ああああ!」

ズドン!

慎二「ごふっ」

形振り構わぬボディブローがヒットする

士郎「しん、じ……お前の強さと執念、確かに受け取った」

士郎「だが、それほどのパワーがありながら、何故俺だけを狙わない!」

士郎「藤ねぇを、学校全部を巻き込まずに、俺と全力で戦えばいいじゃないか!」

343: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 00:56:05.79 ID:/ePTdneUO
慎二「……」

慎二「衛宮、お前やっぱりわかってないよ」

慎二「僕は本気のお前と戦い、勝ちたかったんだよ」

慎二「こうでもしなきゃお前は本気を出さないだろうが!!!」

慎二「ライダー!」

いつのまにか側に控えていたサーヴァントに声をかける

ライダー「こちらに」

慎二「衛宮が少しでもやる気を殺いだら、学校の人間を殺せ!!」

ライダー「……わかりました」

士郎「し、慎二!?」

慎二「もう後には退けないんだよ!」

慎二「衛宮ァアアアアアアア!」

士郎「慎二ィイイイイイイイ!」

346: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 01:04:19.28 ID:/ePTdneUO
ライダー「……バカな子達」

ライダーは冷めた目で、しかし、目を離さず見ていた

再び血みどろの死闘を始める、脳筋たち

最初にマスターである慎二に出会った時は、なんて卑屈な人間なんだと軽蔑したが、

その軽薄な顔と態度の裏に隠された、おぞましいまでの執念と根性

あの姿勢を見てしまっては、逆に本当のマスターのほうが卑屈に見えてしまうではないか

ライダー「……こんなことを言うのは恥ずかしいですが」

ライダー「シンジ、勝ってください」






「いいや、勝つのはシロウです」

347: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 01:15:09.62 ID:/ePTdneUO
セイバー「私のマスターが、あのシロウが負ける筈がない」ドンッ

 セイバー

 参  上

ライダー「あ、あなたは」

ライダー「何故、令呪も使ってないのに」

セイバー「男たちの熱き血潮に、心が、魂が反応したまでのこと」

セイバー「百万の言葉にまさる、魂の語り合いを」

セイバー「まさか邪魔するわけではあるまいな?」

ライダー「……ふ、それは此方の台詞です」

ライダー「私たちも始めましょうか」

セイバー「それでいい」

セイバー「それでこそ聖杯戦争だ」








女たちの戦いも、始まる

348: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 01:19:57.21 ID:/ePTdneUO
慎二「しぶとい奴だよ! お前はっ!」

士郎「慎二ィイイイイイイイ!」




――――男は 誰もみな

   無口な兵士
    
   笑って 死ねる人生

   それさえ あればいい





349: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 01:23:19.23 ID:/ePTdneUO
士郎「ああああッ!」

バキィッ!

慎二「ぶ、ぬァアアアアアアア!」




 ――――ああ まぶたを開くな

    ああ美しいひとよ

    無理に むける

    この 背中を

    見られたくはないから

350: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 01:25:54.81 ID:/ePTdneUO
――――なぁ、衛宮

僕は、ホントはな

魔術とか努力とか抜きで

お前のことを

尊敬してたんだぜ

351: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 01:27:35.20 ID:/ePTdneUO




  ――――生まれて 初めてつらい

     こんなにも 別れが






352: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 01:36:37.55 ID:/ePTdneUO
ライダー「あなたと私では、実力の差は歴然ですね」

ライダー「しかし、宝具の撃ち合いなら私に利があります」

ザシュッ

セイバー「!」

自ら杭を己の首に打ち込むライダー

鮮血が溢れ、地に落ちた血液はやがて魔方陣を作り上げ――――



ペガサス「……」ゴゴゴゴゴゴゴ




セイバー「それが、あなたの切り札」

353: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 01:42:16.84 ID:/ePTdneUO
ライダー「見たところ、あなたはあの少年からほとんど魔力が供給されてない」

ライダー「魔力を大量に消費する宝具。使えるものなら使ってみなさい」

パシッ

ペガサス「ヒヒィーーーーーーン!」

ペガサスの目に殺気が芽生え、急速に魔力が集中する







セイバー「自惚れるな、ライダー」

354: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 01:47:18.65 ID:/ePTdneUO
セイバー「私の力は、宝具などではない」

セイバーが両手で剣を構える

まるで超一流スラッガーのごときオーラを放つ異様な構え





セイバー「こい」





――――勝負!!

356: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 01:53:29.42 ID:/ePTdneUO
士郎「はーーーーっ、はーーーーっ」ゼェゼェ

慎二「う、ぐぐ」

既に互いに満身創痍

血を流し

汗を流し

それでも最後に勝つのは一人

決着の時は、今まさに着こうとしていた

だが

士郎(慎二の、カウンター。アレをなんとかしなきゃ、こっちがやられる)

慎二「……」

士郎(俺は、勝てるのか。慎二に)

慎二「」ユラリ






ああ

まるで炎だ

慎二が炎に見える

358: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 02:01:40.95 ID:/ePTdneUO
士郎「う、おお」

炎が、なんだ

俺にも、負けられない理由がある

藤ねぇ



大切な人たち

じいさんの想いが

俺を炎に変える


――――本当に友達のことを考えてるなら

   ぶん殴ってでも更正させるのが、本当の友情ってモノよ


遠坂の言葉が頭に浮かぶ

慎二

俺の友達

今、お前の目を――――









士郎「俺が覚ます!!」

359: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 02:07:01.97 ID:/ePTdneUO
士郎「うおあああああああ!!!」

士郎の左のストレート

慎二の右のカウンターが迫り――――

ここだ!

左で右のカウンターをかわす

本命は右の

全身全霊の一撃!!





士郎「慎二!!!」









――――勝った!!!

360: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 02:08:39.82 ID:/ePTdneUO
その時、視界から慎二の姿が消えた

士郎「あ――――」







衝     撃







暗転

361: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 02:13:16.86 ID:/ePTdneUO
慎二の放った最後の左アッパーカットは正確に士郎の顎を打ち抜いた



 トリプル・クロス




――ドサッ

校庭の大地に沈む士郎














慎二「おわった……なにもかも………………」

362: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 02:22:41.43 ID:/ePTdneUO
今日はここまで……

寝る…… 限界……

367: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 20:59:07.26 ID:/ePTdneUO
セイバー「……!」

ライダー(シンジ……あなたは)

ライダー「……行きます」

ライダー「――――騎英の手綱(ベルレフォーン)!!!」

セイバー「……」

セイバーを粉砕すべく、恐るべき速度で迫るペガサス

しかし、セイバーは動かない

バッターボックスにたたずむ異様は英雄に非ず

 


――――引き付けろ、限界まで





奴が勝利を確信した、その一瞬を!









――――打つ!







セイバー「大風王鉄槌(だいストライク・エア)!!!」


368: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 21:00:29.86 ID:/ePTdneUO





――――その異様は、まさに大ホーマー






369: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 21:03:38.45 ID:/ePTdneUO
――――ガッキィイイイイイイイン!





逆転三塁サヨナラホームラン






冬木の空に、獅子の咆哮が駆け巡る






ライダー(シンジ……、サクラ……)



――――あなたたちに会えて、良かった

372: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 21:09:43.80 ID:/ePTdneUO
アーチャー「起きろ、小僧」

士郎「う……」

顔に鈍い痛みを感じながら、俺は目を覚ました

目の前の慎二に対して、渾身の一撃を放ったのは覚えている

それからどうなった――――?

アーチャー「最後の最後でしくじったな、情けない奴だ」

士郎「アーチャー……」

士郎「そうか、おれは」







――――負けたのか

373: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 21:21:30.79 ID:/ePTdneUO
士郎「アーチャー、俺と慎二の戦いを、見ていたのか」

アーチャー「邪魔していい雰囲気ではなかったからな」

士郎「……ありがとう。本当なら、一対一なんて無視しても良かったんだ」

士郎「俺の我が儘に付き合わせちまって、本当にすまない」

アーチャー「……」

士郎「なぜだか分からないけど、アーチャーは俺が無茶するのを――――」

アーチャー「衛宮 士郎」

突然アーチャーが俺の言葉を遮った

その口調は何処までも暗く、感情を感じさせない不気味さがあった

アーチャー「お前の未来は、破滅だ」

士郎「え……」

アーチャー「お前は、何も成し遂げられない」

アーチャー「何も掴めない」

アーチャー「それでも、動く事を止めない」

アーチャー「まるでロボットのように」

アーチャー「そうだ、お前の未来は、ロボット」

アーチャー「血の通わぬ機械だ」


374: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 21:25:49.14 ID:/ePTdneUO
士郎「アーチャー、何を」

アーチャー「決まりきった未来など、変える気すら起きん」

アーチャー「私は、お前を見続け、その滑稽さを嘲笑う」

アーチャー「せいぜい踊れ、正義ロボット」

士郎「お前は、お前は……」




――――一体何だ








アーチャー「私もロボットだ。お前と同じな」

375: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 21:30:12.43 ID:/ePTdneUO
士郎「ロボット……」

ロボット

機械

頭に染み付くその単語

士郎「俺が、ロボット?」

士郎「う……!」

視界が霞む

頭が痛む

意識が、また――――






――――お前の未来は、破滅だ









アーチャーの言葉が、もう一度聞こえた

380: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 21:52:58.45 ID:/ePTdneUO
――――


もう一度目が覚めたときは、布団の中だった

セイバー「気がつきましたか、シロウ」

士郎「セイバー……」

セイバー「ライダーは倒しました。結界は解かれ、皆無事です」

士郎「そうか……。良かった」

士郎「藤ねぇは?」

セイバー「内臓に負担が掛かっているようで、暫くは病院で暮らすそうです」

セイバー「それ以外に外傷はありません」

士郎「……そう、か」

やっぱり、慎二は

藤ねぇを傷つけてなかった

セイバー「シロウ、負けたのですね」

セイバー「でも、悔いはないのでしょう?」

セイバー「今のあなたはとても満足といった顔をしている」

士郎「セイバー……そうさ、その通りだ」

士郎「俺は、初めてアイツの声を聞いたんだ」

士郎「戦いなんて物騒なやり方だったけど」

士郎「百万語のベタついた友情ごっこに勝る、魂と魂の語り合いをやれたんだ」

士郎「俺は、慎二と本当の友達になれたんだ……」

381: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 22:00:05.62 ID:/ePTdneUO
士郎「しんじ……そうだ、慎二は」

俺の親友に

あの偉大な男に

もう一度会いたい

もう一度あって、今度は、話をしたい

慎二、俺は、お前に会えて――――





凛「士郎、話があるわ」

382: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 22:04:49.16 ID:/ePTdneUO
士郎「遠坂……」

士郎「何だよ、話って……」

凛「……」

士郎「遠坂?」

凛「死んだわ」

士郎「え」

凛「慎二が、死んだわ」

387: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 22:11:30.69 ID:/ePTdneUO
原因は、三発目に士郎が放った全力の右ストレート

顔面に直撃したそれが、陥没したと同時に脳座礁を起こし

さらに脳内出血を伴い、二度と目を覚まさなかった

あのとき、既に手遅れの状態で戦い続けていた

慎二が

あの偉大な男が

間桐 慎二が死んだ

390: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 22:14:54.03 ID:/ePTdneUO
凛「士郎、あなたが気を病む必要は無いわ」

凛「慎二も、全て覚悟の上で、皆を巻き込んで貴方と戦った」

凛「彼は……満足だったはず、よ」

士郎「――――」

凛「士郎?」











士郎「う、あ」

391: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 22:16:20.54 ID:/ePTdneUO






士郎「うわぁ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! ! 」










392: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 22:19:23.91 ID:/ePTdneUO
泣いた



じいさんが死んだ時よりも泣いた






男が涙を見せるなと言われても泣いた










俺は、狂ったように泣きつづけた

393: 昭和 ◆/hNrdthYBw 2016/01/12(火) 22:24:48.48 ID:/ePTdneUO





   男が友達の為に涙を流すことは、決して恥ずかしいことではない


              ――松本 零士――






Fateの星(後編)に続く