1: 名無しさん 2013/05/30(木) 22:01:28.02 ID:XMMZm2AR0
ネタバレあり、ユミクリ、百合、くそ短い、ねつ造

―――雪山で三人とも下山できた日の夜のこと―――



自分以外のやつのことを、私は今まであまり考えなかった。


だって、そうだろう。隣の家が巨人に踏まれたって助けになんていかない。生きる意味も死ぬ意味もそいつの責任で運命。
そもそも、自分以外の枠をせっせと設けている間に、生き残る確率が減ってしまう。

死んだ奴は可愛そうだなとか、そのくらいは思うさ。情け程度にはさ。まあ、悪いのは巨人とかじゃなくて、そいつの運だったってわけ。
中には、自分の操縦席を「はいどうぞ」と明け渡し、自分の人生を誰かが消費するのを待っている、そんな気持ちの悪いやつがいるけれど。


そうさ―――、一度目の人生は舞台にすら立っちゃいなかった。


二度目は違った―――、運命は変えられる。自分も他人も世界も。だから、そいつを見ると妙に気持ちが落ち着かないんだ。






「ユミル……ダズ、なんとか大丈夫そうだって」


気が付くと、クリスタが扉の傍にいた。私は登山用の靴を脱ぎながら、軽く視線を向ける。


「そう、良かったじゃん」


「うん……本当に良かった……ユミルの、ユミルのおかげだわ」


「私じゃなくて、あいつのパンくずみたいな生命力を褒めてやんなよ」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1369918887

引用元: ・ユミル「雪山訓練の後」クリスタ「ちょっと仲を深めました」

2: 名無しさん 2013/05/30(木) 22:04:46.93 ID:XMMZm2AR0
そう茶化すとクリスタは困ったように笑って見えた。


「で、何か用?」


「あの、どうやって、降りたの……?」


「いつか教えてやるって。質問はそれだけ? 明日早いんだから、もう寝かせてくれる?」


私はベッドにどさりと転がった。今日はさすがに疲れた。あれをやると、消耗が激しすぎる。
目をつむろうとして、クリスタの動く気配が感じられないことに気が付いた。


「どうした、眠れないのか?」


「……私、嬉しくて」


「はあ?」


「誰かに探してもらえたことが、すごく、嬉しくて……ッ」


背中越しに、クリスタが泣いているのが分かった。だからと言って、振り向くわけではないが。


「おまえさあ、これが嘘で、ホントは殺しにきた刺客でしたって言ったらどうする?」


「ええ?!」


「まあ、嘘なんだけど」


「お、驚かさないで」


「お子様の夜更かしに付き合ってやってるんだよ……」


私は笑うのを堪えながら、ワザと眠そうに言った。


「そんなに……歳は変わらないでしょ」

3: 名無しさん 2013/05/30(木) 22:07:26.79 ID:XMMZm2AR0
「はいはい。で、ホントは何?」


「ね、眠れない……です」


ぽつりとクリスタが小声で言ったのが聞こえた。


「……まあ、雪山訓練でずっと緊張状態だったからな。やったじゃないか、寒さと眠さに耐える訓練の成果が出てるってことじゃん?」


「どうしたら、寝れるかな……」


「……おまえ、一緒に寝たいの?」


「え? ち、違うよ」

ふと、クリスタの方を振り向く。少女はぎくりとして、視線を逸らしていた。

「一人じゃ眠れないなら、ダズの隣で寝りゃいいじゃん? ダズも大歓迎、クリスタも寝れて私も寝れて、はい解決。はい、行ってらっしゃい」


私は手のひらを泳がせた。クリスタは少しだけ頬を膨らませていた。少し可笑しい。


「何笑ってるの……」


「おっと。……おまえ、案外素直じゃないのな」


「う……それはユミルもでしょ」


「私はいつも言いたいことは言うべき時に言っているけど? ああ、クリスタちょっとこっち来い」


ちょいちょいと、手招きする。


「?」


訝しげにクリスタが近寄ってくる。私は、少女の頭に手を置きながら、

5: 名無しさん 2013/05/30(木) 22:11:06.96 ID:XMMZm2AR0
「よしよし、いい子だからお寝んねしてくださーい」


クリスタは数秒きょとんとしていたが、すぐに手を払いのける。


「ユミル、もう!」


払いのけられた手を、今度は腰に回す。バカみたいに細い。


「ひゃッ」


「……お前、細いなあ。よくこれで兵士になれたよなあ」


「これでも、筋肉ついた方だよ……」


少女は低い声で言った。


「落ち込むなって、まあ、この方が嫁に行くとき有利だろ」


そんな時が来るのかわからないが。クリスタは私の腕の中で、さらに肩を落としていた。


「結婚なんてできないよ。……する気もないし、そもそも教会が許してくれないから……」


「お前、教会の奴に見張られてんの?」


「そういうことはないけど」


こいつはきっと、教会で様々な制約を誓わされたのだろう。それこそ、人のために[ピーーー]るくらいには。幸いなことに、まだ死んじゃいないが。


「じゃあ、私がもらってやろう」


「え?」


「クリスタが働いて、私は家であんたの帰りを待つ。家には、子犬が一匹。庭にはお花がいっぱい。ほら、幸せな家庭を築けそうだろ? くくッ……」

7: 名無しさん 2013/05/30(木) 22:14:26.29 ID:XMMZm2AR0
「ホント? 冗談でも、嬉しい……かも」


「はあ?」


何を言ってるんだこいつは。凍傷で脳の回路がふやけてるんじゃないのか。今のセリフは怒る所だろ。


「なしなし。今の話は根本的にないから」


「……そうだね。でも、もしユミルが男の人だったらいいなって、今思ったよ」


「悪かったな。女で」


「怒った?」


「違う、呆れた」


「ごめんね」


クリスタは、そっと私の頬に触れた。細くて白い指が吸い付くようだった。細い手首は今にも折れそうだ。そのまま、彼女の動きは止まる。私が、その手を掴んだからだ。


「試してみる?」


私は問いかけた。クリスタは、少し驚いた顔をしてみせた。細い手に私のをからませると、じっとりと湿っていた。


「何を……?」


その声音は疑問というより、確認に近いようにも思えた。それから、期待と恐怖の入り混じった眼。たぶん、たぶんだが、彼女はこうやって守ってくれると本能で感じた者に対して、愛情を注ぐようにできてるんじゃないだろうか。自己防衛手段として。


それも、その人のためになら死ねるから―――なのかもしれないが。

8: 名無しさん 2013/05/30(木) 22:20:40.11 ID:XMMZm2AR0
そんなことを考えながら、私は彼女の震える唇に自身のそれを近寄せた。クリスタが目を瞑る。
まつ毛さえも震えている。私は、少し顔を逸らした。


「クリスタ……私はおまえのなんだ」


耳元で言ったためか、クリスタは肩を震わせた。


「わからない……」


「私にも、私にとっておまえがなんなのかわからん……だから、あんたに出会えて良かったって思えるまで、この続きはとっておく」


顔を離すと、クリスタは薄く作り笑いをしていた。


「……」


「そう、困ったような目で見るな。まあ、一時の寂しさでバカなことするなよ」


一時などではないことは分かっていたが。


「……私、バカだよね」


「ああ、バカな上に筋肉もない」


「ひどいよ……ユミルのバカ」


「バカでけっこう……、もういいから力抜けよ。バカ」


私は彼女を抱き寄せる。クリスタが顔を押し付けてくる。彼女は漸くそこで、自分の涙を拭った。


「あー、まずはお友達ごっこからな」


「よろしくね……」




―――私たちは、



認めて欲しいのだ。生きいていいのだと、お前がいて良かったと。
何かに駆り立てられるように、生まれた意味を感じようとしている。



――――巨人に食われるその瞬間まで。







おわり

9: 名無しさん 2013/05/30(木) 22:21:47.88 ID:XMMZm2AR0
読んでくれてありがとう。

12: 名無しさん 2013/05/30(木) 23:18:00.54 ID:XMMZm2AR0
やっぱりまだ、ちょっと続けます。書き溜めなしです。


※クリスタはユミルと一緒のベッドに寝てます




「おまえ、もし巨人がいなかったらって考えたことある?」


「ないけど……」


「いなければいいとかは?」


「いなければとは違うけど……生き残るためには倒さなくちゃいけないよね……」


「そうか……」


クリスタがもぞもぞとこちらを振り向く。


「でも、いなかったらこうやってユミルに会うこともなかったって考えたら……」


「巨人に感謝しなくちゃって?」


「そういうつもりはないんだけど……ユミル、どうしてそんなこと聞くの?」


「ちょっとな」


クリスタはまだ何か聞きたそうにしていたが、私は目を閉じた。急激に眠気が襲ってきた。同時に、左手が温もりに包まれる。


「ユミル、手、冷たいね」


お子様はまだ寝る気配はない。


「んー……」


返事も億劫になってきた。


「誰かにお説教されたのも初めてだったの……」


「そ………」


何を言ったのだろうか。もう限界だ。


「こんなに優しくされて……好きにならない方がおかしいよ……ユミルの鈍感」




次からクリスタ視点になります。

14: 名無しさん 2013/05/30(木) 23:52:12.49 ID:XMMZm2AR0
彼女の手は冷たかった。


「ユミル? 寝ちゃったの?」


顔は反対側を向いている。


「ただ話に聞いてたってだけでここまでするかな普通……勘違いしちゃうでしょ……」


ユミルの雑な呼吸が聞こえる。


「寝てるよね?」


私は握っていた左手をそっと離す。それから、ゆっくりと背中に手を這わせた。小さく上下に動いている。


(温かい)


そのまま、耳を押し当ててみる。先ほど涙を拭った際、分かったことがある。彼女は彼女なりに緊張して、鼓動が早くなっていたのだ。今は―――、


(寝ちゃった……)


「素直じゃないよ、私……でも、あなたの前でくらい自分らしくありたい」


反応無し。私は胸中で溜息を吐いた。


「あなたになら……話そうって思えたよ……自分のこと」


怖くて潰れそうだけれど、あなたが待ってくれるなら――――同じ場所に辿り着きたい。






今度こそ終わり