1: 名無しさん 2018/02/22(木) 20:51:32.98 ID:LWyFbTIL0
氷菓が摩耶花ヒロインだったらというSSです。

学園要素多めで推理要素はほぼゼロになっています。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1519300292

引用元: ・【氷菓IF】奉太郎「伊原摩耶花という女」

2: 名無しさん 2018/02/22(木) 20:53:07.42 ID:LWyFbTIL0

世の中には、永遠に不変なんてありえない。どんなものも、時がたっていけば劣化していく。

車も家も金も。人間だってそうだ。顔のしわが増えていけば、肉体や精神は衰えていく。

地方新聞にたまに出る、満面の笑みをうかべた高翌齢者の写真とともに、いくつになっても元気な○○さん。といった見出しが躍るが、あれはただ衰えが緩やかなだけだ。

街並みだって変わる。地方都市に分類される俺の住む神山市だって、昔は農村だったと聞く。

形が変わってしまうのか、壊れてしまうのか。方向性はともかく未来永劫不変のままなんてわけはない。

壊れてしまった場合は、二度と元には戻らない。

俺の隣に立つ、中学から愛用している学生服の色おちを嘆く福部里志にそんな話をした。

3: 名無しさん 2018/02/22(木) 20:56:53.79 ID:LWyFbTIL0
里志は苦笑しながらこう言った。

「フォローしてくれているのかな。ホータローは」

「どういう意味だよ」

俺がそう返すと、人差し指をぴんと立てこちらに向けてくる。

男子にしては小さな背丈で、短髪に切られた髪の毛。大きな瞳。

いわゆる童顔というやつで、中学時代、先輩を中心とする女子からは人気があった。

「一つ気になることがあるんだ」.

あごをしゃくって、言ってみろ、と合図をする。

「どんなものとは、目に見えないものも入るのかな?」

俺は少し間を置く。一際声を大きくしていった。

「もっと具体的に言ってくれ」

「目に見えないものを具体的にだって? そりゃ無茶振りってもんだ」

そんなことを言いながらも、里志の横顔は上を向く。指は口元に置かれた。

その間、俺は周囲を軽く見回してみた。

4: 名無しさん 2018/02/22(木) 20:59:09.44 ID:LWyFbTIL0
その間、俺は周囲を軽く見回してみた。

すぐ隣にいる里志とも大声で話さなければならない程に、周囲は騒がしかった。

朝っぱらからよくそんな元気があるものだと感心する。

入学式前の校舎内ロビーは、新1年生でごったがえしていた。

奥の方には、階段があり、登って行けば一年生の教室がある。

目的はその横、俺たちの遥か前方にある掲示物。

あれを見ないことには、階段は登れない。

手短に済ませたいことなのだが、なかなか列が進まない。

強引に前に進んでやろうともおもったが、不運なことに俺たち二人の周囲にはセーラー服ばかりが集まっていた。

5: 名無しさん 2018/02/22(木) 21:00:27.18 ID:LWyFbTIL0
ポンポンと里志に肩を叩かれる。答えがきまったようだ。

「絆とか、人のつながりとか」

俺はそれを受けつぐ。少し言うのをためらって、

「愛とか? 友情とか?」

 今度は里志が。

「輝かしい青春の思い出! 煌めき! そしてほろ苦い初恋!」

「あるのか?」

俺の平坦な返しに、里志はおどけた。

「願わくば、これからできますように。それができるかどうかは、あれにかかってる」

そういって目を前の方へ向ける。

6: 名無しさん 2018/02/22(木) 21:08:29.09 ID:LWyFbTIL0
今日から高校生活が始まる。今回はその最初のイベント。クラス替えである。

心躍らないといえばうそになるが、こうも長引くと苦痛になってくる。

前方からはまた歓声。喜びの声も、何度も聞いていると耳障りになってくる。

確認したのなら早くどこかへ行ってくれ。

「あんなの大したことじゃないだろう。自分は自分。人は人」

里志に対しても思わずそんな言葉が口をついてしまう。

「夢がないねえ。高校に入っても変わんないよ。ホータローはさ」

俺は、変わらない、という言葉で、うやむやになっていた話題を思い出

7: 名無しさん 2018/02/22(木) 21:09:38.52 ID:LWyFbTIL0
「さっきの話な」
「え?」
「目に見えないものも変わるかって話」
里志は、ああ、とうなずく。
こいつがどう思っているのかは知らないが、俺と里志は特段深い仲というわけでもない。

学校外で遊んだことはないし、お互いの家も知らない。どうして付き合うようになったのかよく思い出せない。けれどこうして、互いの姿がみえれば雑談はする。ある程度のつながりはあるといっていいだろう。

「変わるさ。そりゃ」

言葉は自然に出ただろうか。

「その心は?」

「クラスが違えば、俺とお前は会わなくなる」

これは里志だから言えることだ。俺たちの付き合い方とは大きな矛盾があるのだが

こいつとなら腹を割って話せるのだ。

「ただ疎遠になるだけならいいさ。けど壊れてしまえば元には戻らない」

俺は自分でいいながら、過去を思い出してしまう。俺の不注意で壊してしまった関係。

あれこそ元には戻らないだろう。

8: 名無しさん 2018/02/22(木) 21:11:06.98 ID:LWyFbTIL0
里志のぶっ、という吹き出し笑いが俺を現実へ引き戻してくれる。

「疎遠になるだけで安心だよ。けれど違いないねえ。 
 そしてそれぞれお互いの知らない友人ができると。同じ部活にでも入れば話は変わってくるだろうけど」

「入らないぞ」

「だろうね」

話しているうちに、ある程度人は減っていた。里志は動きだし、人をかき分けて前に進んでいく。

不本意ながら俺も里志の後に続く。

「ねえホータロー。見えるかい」

掲示板が見える位置までたどり着いた。最前列ではないが、視力に問題がなければ見える位置だ。

里志は指をさす。掲示板にはられているのは、新入生の名前が書かれた模造紙。

うえにはA、Bといったアルファベットが書かれている。そう。あれはクラス替えの表だ。

「幸か不幸か。君と僕の関係はまだ続くみたいだねえ」

9: 名無しさん 2018/02/22(木) 21:12:11.25 ID:LWyFbTIL0
三年A組の枠に折木奉太郎、福部里志の名が記されている。

少しうつむく。表情がほくそ笑んでいるのは、うまく隠せているだろうか。

顔を上げると、隣の、さわやかな笑みを浮かべる男子へ手を挙げた。

意図を察したそいつも手同じ仕草をした。

瞬間、周囲の喧騒は収まっていないにも関わらず

掌が軽くぶつかるとほぼ同時、パチンと小気味良い音が響く。

何気なく、もう一度表を見た。確かに書かれている折木奉太郎。

けれどある名前をみつけて視線が寄せられる。試験会場でみかけたから同じ高校だとは知っていたが。

俺は神様だとか運命なんて信じない。信じないから天罰が下ったのか。

こいつとは同じクラスにはならないでくれと、祈っていたのに。

伊原摩耶花という名がすぐ上に記されている。晴れていた心はみるみる曇っていった。

10: 名無しさん 2018/02/22(木) 21:13:07.64 ID:LWyFbTIL0
おわりです