229: 名無しさん 2014/05/28(水) 22:55:31.90 ID:RsnkkEoCo
―――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――
ガチャ
少年「ふー……ただいま。起きてるか?」
少女「おきてるよ」
少女「おかえり。お兄ちゃん」
引用元: ・勇者「世界崩壊待ったなし」
230: 名無しさん 2014/05/28(水) 22:56:32.77 ID:RsnkkEoCo
少年「今日休みなんだけど、シスターのところ行ってみる?」
少女「いいの? いきたいっ」
少年「今日は風がそんなに冷たくないし、少しなら平気だろ」
少年「お前もずっとこの部屋にいたらつまんないよな?」
少女「そんなことないよ。でも外にでかけるのすき……」
少女「ちゃんとマスクしたよ。いこ……お兄ちゃん」
少年「マフラー忘れてる。……これでよし。行こうか」
少女「あ……草はえてる。草……なんていうしょくぶつ?」
少年「さあ。名前なんてないんじゃないか。偽物だよ」
少女「にせものでもきれいだね……あっ 石がある」
少女「石、もってかえってもいい?」
少年「石なんて持って帰ってどうすんだよ」
少女「かざる……」
少年「ええ? 飾ってもしょうがないだろ。ただの石っころだぞ」
少女「今日のきねん」
少年「なんだそれ……外なんて、病気治せばいつでもこれるよ。
そしたらもっときらきら光る石がある場所に連れてってやる」
少女「でも……この石はこの石できれいだよ」
少年「……ま、お前がいいならいいけどさ」
少女「うん」
231: 名無しさん 2014/05/28(水) 23:03:30.96 ID:RsnkkEoCo
――――――――――――――――
―――――――――――
――――――
少年「シスター、また変なことやってたな」
少女「えくそしすとってなに?」
少年「悪いお化けをやっつける仕事……でも空想上の職業だよ」
少年「また頭のネジが一本抜けおちたな、ありゃ」
少女「でもシスター……やさしいよ」
少年「優しいけど変人だ」
少年「今日は咳でなかったな。よかった」
少年「毎日薬ちゃんと飲んでるからだ。苦いのにえらいぞ」
少女「にがくないよ」
少年「この調子なら、きっともうすぐ完治するな!」
少年「元気になったらまず何がしたい?どっか遊びに行こうか?」
少女「………………げんきになったら……お兄ちゃんといっしょにはたらきたいな」
少年「…………」
少年「……馬鹿、お前はそういうこと気にしなくていいんだ」
少女「でも」
少年「いいんだっ!!」
少年「……いいんだよ」
少年「さっ……帰ろう。もう暗くなるよ」
―――――――――――――――――――
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232: 名無しさん 2014/05/28(水) 23:06:09.09 ID:RsnkkEoCo
* * *
魔王城
ちゅんちゅん……
魔王「…………」
魔王「……」パチ
魔王「…………」ムク
魔王「……」
ガシ
魔王「……?」
勇者「もういいよ」
魔王「……」
勇者「もう魔法はかけなくていい。朝のままでいいよ」
魔王「…………?」
勇者「全部終わったからさ。ゆっくり休めよ」
魔王「……」
魔王「いいの……」
勇者「いいよ」
魔王「…………うん……」
魔王「……」
魔王「ゆ……」
勇者「……ああ。ここにいるから」
勇者「おやすみ」
238: 名無しさん 2014/05/30(金) 20:40:31.96 ID:LLwP8/i3o
パァ……
子ども「朝だ。朝だー!」
母親「ああ……ほんとね」
女主人「夜明け…… この目が痛い感じも久しぶりだわ」
女主人「……やれやれ」
仮面「なんとかやってくれたなぁ あいつら」
仮面「じゃっ俺は帰るかね」ギイ
仮面「うお、眩しいなこりゃ。やっぱ夜の方がいろいろと都合がいいや」
女主人「あんたまだ盗賊業やってんじゃないだろうね」
仮面「やってねーよ!!」
239: 名無しさん 2014/05/30(金) 20:41:49.15 ID:LLwP8/i3o
一週間後
元神官「じゃあ、私は元いた村に戻って教師を続けます」
勇者「いろいろありがとな。また会おうぜ」
戦士「気をつけて帰れよ」
元神官「いろんなことがありましたが、3人で旅をしていたときのことを思い出して
ちょっとだけ楽しかったですよ」
元神官「……でも創世主って結局何者だったのでしょうね。
あんなことをした理由もいまだ謎のままですし……姿も見せませんでしたし」
戦士「さあな。地下のあの扉ももう消えてしまったし、確かめる術はないだろう」
勇者「ちょっと引っかかるけど、まあ終わりよければよしとしよう」
勇者「穴は開いたまんまだけど影はあれから出てこないし」
勇者「もう脅威は去っただろう」
元神官「そうですね。世の中の事象全部が全部明かされるわけではないですよね」
240: 名無しさん 2014/05/30(金) 20:49:08.67 ID:LLwP8/i3o
* * *
騎士「陛下。各地の穴の埋め立て作業も、見たてによれば半年ほどで終了するようです」
国王「予算捻出だけが問題だよ。また今日も会議だ」
国王「まあ誰か落ちたら危ないしね」
国王「……君たちには本当に感謝してるよ。よくぞ世界を守ってくれた」
国王「褒美と感謝の品を今度渡そうと思うんだけど
とりあえず今は私からの男女平等キッスでいいかなぁ」
戦士「死んでも要りません」
騎士「右に同じ」
姫「お兄様?」
国王「冗談です」
国王「……消えた国民は……戻ってこなかったね。
そうであればいいと……心の底では思っていたんだが」
国王「彼らのためにも早く再建しなくては」
241: 名無しさん 2014/05/30(金) 20:50:38.74 ID:LLwP8/i3o
* * *
魔王「……」
魔王「まかせきりになってしまってすまなかった」
魔王「そうか……終わったか」
魔女「あーんやっぱ本物の魔王様が一番」スリスリ
魔王「暑い」
勇者「お前も無事目が覚めてよかったよ」
勇者「……心配したんだからな!!」
魔王「すまなかった。十分寝たから、あと3日は徹夜で起きてられそうだ」
勇者「寝ろ」
魔王「それで結局、鍵はどこにあったのだ」
魔女「え?魔王様が教えてくれたじゃん?」
魔王「え?」
勇者「覚えてないのか? 一瞬だけ起きて、お前が教えてくれたんだぞ」
魔王「え……何だそれは。こわい……」
魔女「魔王城の七不思議だねー」
242: 名無しさん 2014/05/30(金) 20:52:09.14 ID:LLwP8/i3o
魔女「鍵は『おかえり』だったんだよ」
魔王「ふーん……『おかえり』」
魔王「……」
勇者「どうかしたか」
魔王「眠っている間、長い夢を見ていた気がしたんだが……
なんの夢だったか忘れてしまった」
魔王「もやもやする」
勇者「あーそういうのあるある」
魔王「自分でやっていたとは言え、やはり夜より太陽の光の方が心地よいな」
魔王「いい天気だ」
忍「ですね!」スタッ
妖使い「いやあ一件落着で清々しい昼下がりですね」ガタン
勇者「うわっ お前らどっから現れた!」
妖使い「創世主無事倒せてよかったね。全く一時はどうなることかと思ったさ、あっはっは」
妖使い「で?契約する?」
魔王「もう問題は解決したのだから、ここにいる必要もないだろう。
君はいつ帰国するのだ。明日か?今日か?1時間後か?」
妖使い「どんだけ帰ってほしいんだよ、傷つくよ」
妖使い「ま、せっかく遠路はるばるこっちまで来たことだし、
留学生としてしばらく滞在しようかな!君たちの魔法もまだまだ興味あるしね」
魔王「えーっ……帰った方がいいと思うが……」
魔王「……本当は帰りたいのだろう? ん?」
妖使い「ちょっ 催眠魔法かけようとするのやめてえ」
忍「それはいいですね若。私もまだ勇者様に剣で勝ってませんし」チャキ
勇者「ほんとにもう帰れよお前ら!」
243: 名無しさん 2014/05/30(金) 20:55:02.48 ID:LLwP8/i3o
魔女「まあまあまあ、妖使いもなかなかいいところあるんだから
あとちょーっとだけ置いてあげれば?ちょっとだけー」
勇者「なあ魔女……その手にあるのは何だ?」
妖使い「俺の差し入れ。一升瓶」
勇者「お前っ、あっさり買収されてんじゃねえよ」
魔女「今日は魔王様の快気祝いにぱーっと飲み会しようか!!
島の桜も咲いたし!!ね!!」
妖使い「へー こっちにも桜あるんだ。
いいね!いとをかし!花見酒としゃれこむかあ!」
魔女「わーい!ねっいいでしょ魔王様ーーー魔王様も行こうよーーー!!」
魔王「分かったから、魔女、もう少し声を低く……」
244: 名無しさん 2014/05/30(金) 21:05:32.08 ID:LLwP8/i3o
竜人「魔女?中庭にいるんですか? 暇なら洗濯手伝ってくださいよ、もう」
竜人「あとそろそろ部屋片付けてください。虫でますよ……」
竜人「…………魔王様!?!?」
魔王「いや違う。幻覚だ。残像だ。まやかしだ」
竜人「なにを仰っているんですか!?何故外に出ているんです。
まだ横になっていないとだめじゃないですか!!」
竜人「また寝室を勝手に抜けだしてっ!!
それにそんな薄着で外に出て、また具合悪くなったらどうするんですかっ!!」
魔王「でも……もう平気だ。寝室にいてもつまらん。外にいたい」
竜人「だめです。ほら戻りますよ!!今度こそ許しませんからね」
魔女「あー。見つかっちゃったね魔王様。どんまい」
勇者「あはは、竜人に見つかったらもうだめだな。大人しく寝てろ。また今度な」
魔王「でもっ本当にもう平気だって……外に出ていいよって……言ってた……たぶん」
竜人「そんなの一体どこの誰が言ってたんです!!」
魔王「……それは……えっと…………勇者くんが」
勇者「えーー……?」
竜人「おどれか」
勇者「えーー……!?」
勇者「…………」
勇者「……」ダッ
竜人「待て」ダッ
245: 名無しさん 2014/05/30(金) 21:07:34.27 ID:LLwP8/i3o
* * *
勇者(しばらくたって……何事もなかったように俺たちは日常に戻った)
勇者(あの穴は時の女神がいなくなったせいで発生した時空の歪みっつーことだったけど
あれから新しい穴は発見されてない)
勇者(時の神殿はなくなったままだけど……何とかなったのだろうか)
勇者「……考えても仕方ないか……神様の事情なんて分かんないし」
勇者「ん? あそこにいるのは妖使い」
エルフ「違うよやっぱあそこはキマイラ先生が言う通り……」スタスタ
ヴァンパイア「だからそっちが間違いなんだって僕は……」スタスタ
ドン!
妖使い「うお」
エルフ「ぶえっ!いてて……あ!すみません!」
ヴァンパイア「すみません!」
妖使い「ああいいよ別に。それよりこれ落としたよ」
エルフ「やべっ 大事な本なのに。ありがとうございます」
妖使い「魔術書読みながら歩くのもいいけど気をつけて」
ヴァンパイア「はい!」
エルフ「あの人だれだ?見かけない顔だな」
ヴァンパイア「東国から来たって人じゃなかったっけ?」
勇者(……)
勇者(あいつ、俺たちといないときは大分まともなんだな)
勇者(使い魔うんぬん言わないし……)
246: 名無しさん 2014/05/30(金) 21:22:49.89 ID:LLwP8/i3o
サキュバス「ふんふんふーん」スタスタ
サキュバス「……ああっ」グキ
サキュバス「いたぁっ!! うー……やっぱりこの靴だめだったわ……」
妖使い「平気?」
サキュバス「え……」
妖使い「立てるかい」
サキュバス「…………だ…………」
妖使い「へ?」
サキュバス「だれかーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
サキュバス「助けて襲われるケダモノーーーーーーーーーっ!!!」
妖使い「ええっ!?いや別にそんなつもりは毛頭」
サキュバス「ひいっ こっちこないでええっ」
妖使い「いやちょっと待って……あれ!?なにこれ」
シュルシュルシュル
妖使い「ちょっ離して」
魔王「貴様ぁ…………また性懲りもなく。魔族に手を出すなと言ったろうが」スタスタ
妖使い「誤解だって…………いってぇぇ!!!」ビタン
妖使い「ストップストップ話しっゴハ 合えばっイタッ わかるはずっ ブホエ」バチン
妖使い「あのさ一旦しゃべらせて?」
サキュバス「魔王ちゃん……!!」
サキュバス「……魔王ちゃあああん!この男の人がぁ……男の人がっ……
うえーん怖かったよーー」ギュッ
魔王「この下衆……」
妖使い「だから違うんだって、その子が勝手にさーー」
247: 名無しさん 2014/05/30(金) 21:30:10.88 ID:LLwP8/i3o
サキュバス「私の豊満わがままボディに魅惑されてしまったのよ、その男の人は……」
サキュバス「もうサイテー!男なんてみんないやらしくってサイテーだわ……ふええ」
サキュバス「魔王ちゃん……私の繊細なハートは虐げられてボロボロよぉ」
魔王「もう大丈夫だ。奴は私が始末するから」
魔王「で、この地を去るか墓場に埋まるかどちらか好きな方を選べ。妖使い」
妖使い「俺は変質者じゃない濡れ衣だー!裁判を要求する!証人が必ずいるはずだ!」
魔王「黙れ」
妖使い「横暴!」
魔王「ここでは私が法だ」
妖使い「ひどい独裁政治を見たぜ」
サキュバス「そうよやっちゃって。その調子で男を撲滅するのよ。魔王ちゃんのお耳はみはみ」
サキュバス「はあはあ……魔王ちゃん今日のパンツ何色? はあはあ……」
魔王「サキュバスがこんなに動揺するほど追いつめて……貴様に人の心はあるのか?」
妖使い「うわぁ」
妖使い「待て待て、俺を磔にするより君にはまずやることがある」
妖使い「俺より背後の奴の方が危ないよ!身の危険を感じるよ!」
サキュバス「あらっウエストがこの間より3cm細くなったんじゃないの?
だめよダイエットなんてしたら……はあはあ……」
サキュバス「よかったらこの後私の家でお茶しましょ。苺のケーキがあるわよ。
ね?くるでしょ?くるわよね?」
魔王「ケーキ……? じゅる」
妖使い「代わりに大事なもの失っても知らないよ」
248: 名無しさん 2014/05/30(金) 21:58:11.57 ID:LLwP8/i3o
サキュバス「え……!? そんなぁ……私は何も邪な気持ちなんて一切抱いていないのに……」
サキュバス「ひどい……私がグラマラスなナイスバディに見合う万年発情脳内ドピンク淫乱娘だなんて……
なんてひどいこと言うのよぉぉ うわあああん!」
妖使い「この女こわすぎ」
サキュバス「っあうぅ……!!」バターン
魔王「サキュバス!? 一体どうした?大丈夫か!?」
サキュバス「もう私はだめ……あの男の人から受けた精神的ダメージが許容量を超えたわ。
死ぬわ…………」
魔王「妖使い!今すぐサキュバスに謝れ。貴様のせいだぞっ」
妖使い「濡れ衣この上なしだよ」
サキュバス「謝罪じゃ無理だわ……でもひとつだけ私の命を救えるとしたら……うう……」
魔王「なんだ?言ってみろ」
サキュバス「もしかしたら魔王ちゃんがチューしてくれたら大丈夫かも…………」
魔王「分かった」
サキュバス「か……快諾!?予想外……!!」
サキュバス「しかも迅速!うひゃーーー」
サキュバス「…………」
魔王「治ったか!?」
サキュバス(チッ……頬か)
249: 名無しさん 2014/05/30(金) 21:59:18.01 ID:LLwP8/i3o
サキュバス「まだだめ……やっぱり口じゃないとだめみたい」
魔王「え…… でも、そ、それはまだしたことないのだが」
魔王「それは恋人同士でないと、し……してはいけないのだろう」
サキュバス「なるほど魔王ちゃんはまだチュー未体験と。それは朗報……じゃなくて」
サキュバス「魔王ちゃん。もし目の前で川で溺れて呼吸が止まった人がいたらどうするの?
人工呼吸するでしょ?それと同じよ!!!」
妖使い「君普通にしゃべってんじゃねーかよ」
サキュバス「だからノーカンよ、心配しないで?
それとも魔王ちゃんは目の前で死にそうな人がいても見捨てるの……!?」
サキュバス「そんなこと……しないわよね……っ! はあはあ……どきどき!」
魔王「……! ……悪かった。そうだな、人命救助が第一だ。
自分のことを考えていた私が恥ずかしい。許してくれ」
妖使い「おいおいアホばっかりだよ」
魔王「いくぞ」
サキュバス「どきどき! うっかりベロはいっちゃうかもしれないけど事故よね事故
事故だったら仕方ないわよね、ええ全く致し方の無いことだわ」
勇者「うおおお、待て!ちょっと待っ……」
魔女「なーにしてんの?」ズガッ
サキュバス「はぎゅっ」
250: 名無しさん 2014/05/30(金) 22:05:08.17 ID:LLwP8/i3o
魔女「魔王様。こいつの言うことに耳を傾けなくていいって前も言ったじゃん?」
サキュバス「いたた……ああ魔女ちゃん。魔女ちゃんも一緒に私の家に来る?大歓迎」
魔女「行かないよ。いい加減にしろ、この化乳女」
魔女「魔王様に悪戯しないでよね。大体あんたあたしとキャラ被るのよ。どっか行って」
サキュバス「え……?被る……? 私と魔女ちゃんが?」
魔女「胸見比べながら言ってんじゃないわよ!! きーーっ むっかつく!!」
サキュバス「それに悪戯なんてしてないわよう……よよよ、私悲しいわ」
魔王「サキュバスには今すぐ人工呼吸が必要なのだ」
サキュバス「あ、魔女ちゃんでもいいわよ」
魔女「魔王様騙されてる!それ騙されてるよ!」
サキュバス「あーだめだわもうだめ、あと5秒以内にキスしないと私死ぬ!!
5、4、3、2…………」
魔王「さ……サキュバス!!死ぬなっ」グイ
勇者「待て魔王!!それなら俺がする」
魔王「勇者くん……!?」
サキュバス「は? 結構です。ノーセンキュー」
勇者「……」スタスタ
サキュバス「きゃーーーこっちこないでイヤーーーっ」ダッ
勇者「滅茶苦茶元気じゃないかよ」
魔女「全く……」
妖使い「あのさ……俺帰っていいかな」
魔王「貴様はまだ制裁を受けてないではないか」
妖使い「だからそれ濡れ衣っ」
251: 名無しさん 2014/05/30(金) 22:14:29.96 ID:LLwP8/i3o
勇者「ああ……そいつ本当に濡れ衣だぞ。俺向こうで見たんだ。
こいつは足をくじいたサキュバスに手を差し伸べただけ」
妖使い「勇者見てたのか。ならもっと早く助けてほしかったんだけど」
魔王「手を差し伸べただと? それは幻覚ではないのか勇者くん」
魔王「この外道がそんなことをするとは思えないのだが」
妖使い「うーん信用ゼロ!」
勇者「いや本当だって。その前にエルフとヴァンパイアにぶつかった時は
普通に落ちた本拾ってやってたし」
魔王「うそだ。この男は隙あらば魔族を契約させて使い魔にしようとしているのだぞ。
5分に1回は契約を迫ってくるのだから私はそろそろ血管が切れそうだ」
魔王「エルフもヴァンパイアもサキュバスも毒牙にかけようとしていたのだろう」
魔王「今日こそ何らかの制裁措置を取らねば……」
妖使い「俺の命の灯が今まさに消えようとしている!」
勇者「だ、だからちょっとやめろって」スパ
妖使い「おお感謝するよ勇者。じゃあトンズラするかね!
今度来た時には絶対君を使い魔にしてみせる!さらば!」
勇者「お前もいちいちそういうこと言うから誤解されるんだよ!」
魔王「……何をする。逃げられてしまったではないか」
勇者「あいつも素直じゃないだけでそんな悪い奴じゃないんじゃないか?」
勇者「今日の様子を見る限り……さ」
勇者「ま、イライラするのは分かるけど……そうカッカする必要はないんじゃないか」
魔王「…………そうやって油断して、本当にこの国の魔族の誰かがあいつのものになってしまったら取り返しがつかない」
魔王「私は魔族を守らないといけないのだから」
勇者「……気持ちは分かるけど、ちょっと気にし過ぎじゃないのか?」
魔王「……」
魔王「……」
魔王「妖使いの肩を持つのか」
魔王「私は……ただ」
勇者「肩を持つとか、そういうんじゃない。でも、」
魔王「……君は人間だから、そんなことが言えるんだ」
魔王「気持ちは分かるなんて嘘だ……っ」
魔王「人間として育った勇者くんには分かるわけない」
勇者「な……なんだよそれ。なんでそんなこと言うんだよ」
魔王「……」
魔王「ごめん。人の気持ちや考えなど、本当のところ自分以外の誰かに分かるはずないのに。
そんなの当たり前のことだな。私だって君の気持ちを全て理解することなどできない」
魔王「全て分かってくれというのは高望みだな。子どもみたいなことを言ってしまった」
魔王「忘れてくれ」
勇者「違う、俺が言ってんのはそういうことじゃない!俺は……!」
252: 名無しさん 2014/05/30(金) 22:19:50.97 ID:LLwP8/i3o
魔女「まあまあ二人とも落ち着きなよ。そんなカッカしないでさ」
魔女「勇者、今日は魔王城に泊まってくんでしょ?」
忍「あれ?皆さんこんなところでなにしてんです」シュッ
忍「ていうか若、知りません?このへんから声したんですけど」
魔女「さっきまでいたけどどっか行ったよ」
忍「はえ~? また入れ違いっすか、めんどうくさい」
忍「……もしや喧嘩中?」
勇者「ちげーよ」
忍「勇者様」
勇者「なんだよ」
忍「ズボンのお尻の方に穴開いてますよ」
勇者「ああん!?」
忍「ほらここー」
魔女「魔王様、どこ行くの?」
魔王「……今日は王都に泊まるから」
253: 名無しさん 2014/05/30(金) 22:27:19.19 ID:LLwP8/i3o
勇者「魔王!話はまだ終わってない!ちょっと待て」
魔王「君も忍も、城に泊まっていってくれて構わん。好きな部屋を使ってくれ」
忍「ありがとうございます魔王様!
勇者様、いっしょの部屋に泊まりますか?なんちゃって。あはは」
魔王「もちろんそれでも構わない。好きに使ってくれ。では」ヒュン
勇者「あっ……おい!忍も余計な冗談言わんでよろしい!
くそー何がなんでも今日話をつけてやる!転移魔法!」
魔女「勇者今日こっち来るとき転移魔法使っちゃってたっしょ」
勇者「ああっそうだった!!」
忍「なんか私邪魔しちゃいました?すいません。私空気読まないので」
忍「どちらかと言うと読むよりブチ壊しちゃうので」
魔女「ほんとにね」
勇者「なんなんだよあいつ……話すらさせてくれないのかよ」
魔女「んー……まあ……」チラ
忍「はい?」
魔女「いろいろあるんだよ。乙女心は複雑なんだよ。うんうん」
勇者「俺男だからわかんねーよ……」
魔女「……それ以外にももちろんあると思うけどね。あたしと竜人が悪いのかも。
むかし魔王様に魔王の指輪をはめればって言ったのはあたしたちだからさ」
魔女「魔王様が魔王でなかったら、もっと素直になれてたのかもしれないね」
254: 名無しさん 2014/05/30(金) 22:29:28.72 ID:LLwP8/i3o
翌日
勇者「ちょっと王都に行ってくる!!!」
魔女「いってらっしゃーい」
忍「あっ待って下さい!私も王都に戻ります!」ダダッ
勇者「えー!?お前はいっしょに来るとややこしくなりそうだから別途で来い!!」
忍「そんな、私は若や勇者様たちみたいに移動手段ないんですから、
王都に行くまでに何日もかかっちゃいますよ」ダダダッ
勇者「またすぐこっち来てやるからそれまで待ってろ!!じゃあな、転移魔法っ!!」
忍「連れてけっつってんだろ問答無用必殺ラリアット!! っらあああああ!!」
忍「御首頂戴いいいいいいいっっ!!」
シュンッ……
ケットシー「やかましいにゃー」
魔女「ねー」
255: 名無しさん 2014/05/30(金) 22:32:14.42 ID:LLwP8/i3o
王都
魔術学院 資料室
魔王「……」ガサガサ
魔王「ないな。去年の資料はどこの棚で見かけたのだったか」
国王「ああそれなら右端」
魔王「そうだった。ありがとう」
魔王「……」
魔王「……」
魔王「何をしているのだ。護衛もつけずにこんなところで、国王陛下が」
国王「城下の視察行ってきたから、ついでにここも抜き打ち視察チェック入れようかと思ってね」
魔王「国王の仕事ではないと思うが……」
国王「ふむ……窓ガラスの掃除が甘いな。資料室と言えど手を抜いてはいけない。5点減点だ」
魔王「姑か?」
国王「ついでに君の研究室に行ってもいいかい」
魔王「構わないが……そんな暇、君にあるのか?」
国王「あるある」
姫「お兄様! どこ行ったのお兄様は!また消えたの!?」
騎士「すみません!一目離したすきに姿が忽然と消えていて……!」
戦士「すぐ手分けして探します!!」
256: 名無しさん 2014/05/30(金) 22:35:05.69 ID:LLwP8/i3o
コツ……コツ……
国王「ところで、この間の恩賞がまだだったよね。君の魔法のおかげで影の被害も少なかったんだ。
いま何か欲しいものとかないのかい」
魔王「特にないな……恩賞など気にしなくていい。私は私のするべきことをしただけだ」
国王「と言われてもなぁ……そうなると必然的に私からの男女平等キッスになるけどいいかい」
魔王「チョコレートが欲しい」
国王「チョコレート?それだけじゃ君の働きに釣り合わない。
その場合埋め合わせるために、私からの男女平等キッスもセットでついてくるけどいいかい」
魔王「チョコレート1年分が欲しい」
国王「分かった。すぐに城に届けよう」
国王「……」
国王「今日はなんだか元気がないように見えるね」
魔王「……そうか?」
国王「喧嘩でもした?」
魔王「……」
魔王「喧嘩というか……私が一方的にカッとなって
ひどいことを言ってしまったかもしれない……」
魔王「謝らなくてはいけないと分かっているのだが……顔を合わせにくくてな」
国王「本音を話すのはいいことだよ。
言い争うことすらせず、表面だけで仲良くして、いずれ破綻してしまうより全然ましさ」
国王「私と父のようにね」
国王「それが自分の本当の気持ちだったら、謝罪すらする必要はないよ。
納得がいくまで喧嘩をするが良いさ」
国王「喧嘩するほど仲がいいと言うだろう。大丈夫、そうした方が結果的にいい方向に向かうんだ」
魔王「…………本当にそうだろうか」
国王「君はもっと自分をさらけ出してもいいと思うよ。
親しい者の前ですら王である必要はないんだ」
魔王「幻滅されてしまう……」
国王「いいじゃないか。それが本当の君なら。大体、みんなそんなものさ」
257: 名無しさん 2014/05/30(金) 22:41:25.83 ID:LLwP8/i3o
魔術師長「はあ、ねえ召喚師長?10年前の○○氏の実験レポート資料ってどこにあったかしら?」
召喚師長「それなら僕の研究室にある!そんなことよりこっちに召喚獣来なかったか!?
うっかり逃がしちゃって!!ていうか探すの手伝ってくんない!?」
魔術師長「いいえ見てないし探すつもりもないわ。私もあと1分で戻らなくっちゃいけないの」
召喚師長「じゃあその1分捜索に協力してくれ! あ、陛下こんにちは」
魔術師長「いやよ、何故よ。 あ、陛下こんにちは」
国王「やあ」
召喚師長「って陛下…………!?!? 何故魔術学院の廊下に……!?!?」
魔術師長「何か御用事でいらっしゃいますか……!?仰って下されば宮殿まで参りましたものを」
国王「いや、そうじゃない。しかし随分忙しそうだね、二人とも」
国王「先週末までにと頼んでいた例のあの件はもう片付いたのかな」
召喚師長「ええーっと……い、今それには取りかかっているところです」
国王「今日必ず報告書をあげると、先週末の君は言ったよね。
魔術師長も、来年の実験予算案はまだかい。明日までだけど」
魔術師長「は……はい必ず明日までには」
国王「もし万が一、提出期限を守らなかったらどうなるか分かっているね。
男女平等キッスの餌食になってもらうよ」
召喚師長「ひいっ」
魔王「それは褒美なのか罰なのかどっちなんだ」
258: 名無しさん 2014/05/30(金) 22:43:55.09 ID:LLwP8/i3o
魔術師長「くっ……ドロー!私のターン! 召喚師長を生贄に 私の逃走経路を召喚」ダッ
召喚師長「てってめええええ」
国王「話の邪魔が入ったけど、とにかく次会ったらその喧嘩の相手と
もっと本音で話し合ってみればいいと思うよ。頑張って」
魔王「……ん……そうだな。頑張ってみよう」
魔王「……あと、背後から姫がやって来ているが平気か」
国王「ん? やあ妹よ。さっきぶりだね」
姫「お兄様!!また勝手にふらっといなくなって!!!」
バターン!! ドタバタ……
魔王「? なんだ、私の研究室の方から騒音が…… まさか賊か?」
魔王「国王と姫はここから動かないでくれ」
259: 名無しさん 2014/05/30(金) 22:50:57.74 ID:LLwP8/i3o
勇者「ごほっ ごほごほ!お前なにすんだ!!
邪魔するから変なところに転移しちまったじゃねーかよ!」
勇者「ここどこだ? いてて……」
忍「あっ 勇者様どこさわってるんですか!勇者様のドスケベ変態痴漢野郎!!」
勇者「あ!? わ、悪い……ってお前が上に乗ってるからだろーが、どけいっ!!」
ガチャッ
魔王「……!」
勇者「なあ……っ!?」
忍「必殺逆片エビ固め!」
魔王「………………………………………………」
魔王「仲がいいのは結構なことだが、わざわざ王都くんだりまで来て見せつけてくれなくともいい」
勇者「ちがうっ! 俺はお前と話しに……」
忍「わ、部屋がどんどん凍っていきます。きれいですねぇ」
パキパキペキパキ……
国王「なに、君たちはそういう関係だったのかい」
姫「ひゃっ なんて破廉恥な……!しかも魔王さんの部屋でなんて」
魔王「…………」
パキパキペキペキ……バキッ
魔王「私は話すことなんてない。出て行け」
魔王「……出てってよぉ…………っ」
勇者「これは転移魔法に失敗したんだ、そういう関係でもなんでもない!!」
忍「ええっ……違うんですか?」
勇者「お前はもう黙ってろ!」
260: 名無しさん 2014/05/30(金) 22:58:04.83 ID:LLwP8/i3o
魔王「わざわざ私の部屋でせずとも、ほかの場所で好きなだけちちくりあえばいいではないかっ」
勇者「ちちく……お前どこでそんな言葉覚えた!?」
魔王「女の子と男の子一人ずつ儲けて、東国のどこかで家族4人で幸せに暮らせばいいではないかっ!」
魔王「君が出て行かないのなら私が出て行く! 転移魔法っ」
勇者「待て!! くそ、魔王城だろっ行き先は分かってんだ。行ってやる!転移魔法!」
忍「あはは、勇者様いま使ったばっかりじゃないですか」
勇者「んああああああああああああっ」
勇者「絶対誤解されとるなコレ……なんでいつもタイミング悪く目撃されるんだ」
勇者「おい半分はお前のせいだぞ忍、今日だって……あれっあいつどこ行った!!」
勇者「逃げ足だけは奇跡的に速い奴め……!」
姫「勇者……あなたが誰を好こうと私は一向に構いませんが、
わざわざ魔王さんの部屋であのような破廉恥な真似をするのは些か酷ではないかしら?」
勇者「ひ、姫様本当に違うんです。破廉恥は破廉恥でも自発的破廉恥ではなく偶発的破廉恥」
姫「破廉恥破廉恥やかましいです。そんなモラルの低下、国の姫として私見過ごせませんし
魔王さんの友としても個人的に許せませんの」
姫「侍女。口紅とチークを持ってきて」
勇者「……姫様?一体何を……」
姫「メイクアップ……お兄様、旅人モード解禁よ」
国王「オーケーシスター」
勇者「操の危機!!!!」
バリーン!!!
勇者「逃げ切ってみせる!!!勇者の名にかけて!!!」
姫「余談だけど私の兄は100m3秒で走るわ」
国王「逃亡生活で鍛えました」ヒュン
勇者「化けもんかアンタッ!?」
267: 名無しさん 2014/06/05(木) 20:11:38.69 ID:Okf816dvo
魔王城
魔女「はあー……どっかに一生遊んで暮らせるくらいの大金落ちてないかな」
竜人「藪から棒になんです」
魔女「できるだけ楽してお金がほしいよう……」
竜人「堅実が一番ですよ」
竜人「おやもうこんな時間ですか。夕飯の支度しないと。
魔王様は今日も王都に滞在なさるのでしょうかね」
魔女「たぶんそうじゃないかなー」
魔女「…………? なんか……急に寒くない?」
竜人「そう言われてみると…… あっ、天井見てください」
パキパキパキペキパキパキ……
魔女「つらら? 窓にも霜が……いまって冬だっけ」
竜人「冬だとしても室内につららはおかしいでしょう。もしかして……
ああ、やっぱり。廊下はもう既に氷で覆われてます」
竜人「……久しぶりですね……」
魔女「あたしが勝手に魔王様のケーキを食べちゃった時以来だねー」
魔女「行ってくるよ」
竜人「いえ、少し一人にしてあげましょう」
竜人「……季節外れですが、今日は鍋にしますか」
268: 名無しさん 2014/06/05(木) 20:13:42.21 ID:Okf816dvo
* * *
魔王「うえええええええええええええええん」
魔王「嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌いっ」
魔王「きらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいーーーっ」
魔王「だいっっっっっっっっきらい!!!!!」
魔王「ぎーーーーーーーーーーーーーっ」
魔王「はあはあ……はあ……」ムク
ガサガサ……
魔王「……」パラパラ
『こうして世界に平和が訪れました。
魔族と人間は手を取り合って、ずっとこの平和な世界を保っていこうと誓い合いました。
勇者と魔王はと言うと、その年の終わりに式をあげ、二人で末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし』
269: 名無しさん 2014/06/05(木) 20:17:12.59 ID:Okf816dvo
魔王「ばかぁーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
魔王「こんなものっ!!こんなものぉ……うえええええええん」
魔王「大体魔族と人間じゃ結婚できない!!!グリフォンの馬鹿ああああああああっっ」ブンッ
魔王「ばかばかばかばかばかばかばかばか!!」
魔王「わあーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
魔王「…………」
魔王「こんなのずっと大事にとっておいて……」
魔王「最後のページだけ何度も読み返したりして……」
魔王「……はは」
魔王「……馬鹿みたい……」
魔王「……………………ずっと……」
270: 名無しさん 2014/06/05(木) 20:19:16.84 ID:Okf816dvo
――――――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――
ザァァァァァ……
「ああっ はあ、はあ……はあ、はあ……」
ザザッザッ ガササッ
狼「ガウッ」
「ひ……」
??「……!? おいっだれかいるのか?」
「!!」
??「まて!」
「ううっ……う……はあ……はあ、はあ」
「あうっ……!」
ベチャッ
狼「ガルルルルルル……」
狼「グルルル……」
「あっ…… やめて…… やだっこないで……」
「くるな……!!」
271: 名無しさん 2014/06/05(木) 20:22:11.38 ID:Okf816dvo
狼「ガウゥッ!!」
「……!」
??「あぶないっ!」
ガブッ
「…………?」
「えっ……」
??「いってえ!!……このやろっ!」グイ
狼「グエッ」
??「はなせ!!」ブン
??「んでもってどっか行け!!!」
狼「ガルルルル……」
??「……」
狼「…………」
タタッ……
??「大丈夫か」
「う……うでっ 血…………! うでがっ……」
??「ああ、いたいけどオレは平気だ。師匠にやられた方がずっといたいし」
「あっ……」
??「おまえはケガ…… お、おいっ しっかりしろ!!」
272: 名無しさん 2014/06/05(木) 20:24:54.88 ID:Okf816dvo
「……うぅん……うう……」
「……ハッ」
??「ああ、起きたか」
「……!!」ダッ
??「えっ なんでにげようとするんだ。外は大雨だぞ、やめとけ」ガシ
「……」バタバタ
??「視界もわるいし、いま外にでても迷うだけだ。
雨があがったら村までおくってやるよ。しんぱいすんな」
??「このちかくの村の子どもだろ?森でまよったのか?」
「…………」
「ここ……」
??「おまえが気をうしなった後、たまたまみつけたほら穴だ。
ここならケモノも来ないだろうし、雨宿りもできる」
??「まってろ、いま火をつける」
273: 名無しさん 2014/06/05(木) 20:27:56.52 ID:Okf816dvo
??「火炎魔法」
シーン
??「火炎魔法!」
??「か、え、ん、ま、ほ、う」
??「くそっ!つかんかい!火炎魔法~~~っ」
ボッ
「えっ それ……」
??「はあはあ……やっとついた」
??「もっとこっち来いよ、かぜひくぞ」
「……魔族……?」
??「え?オレ?ちがうちがう。むしろぎゃくだよ」
??「オレはいつか魔王をたおすために旅立つんだ。いまはその修業中」
??「でも師匠とはぐれちゃってさ。剣も川にながされちまった。
剣があればこんなケガ負わなかったんだけどな」
「…………けが…… かして」
??「……? あれ……おまえ回復魔法がつかえるのか?」
「……」
??「そんな小さいのにすごい奴だな。オレなんて魔法は全然だ。神官?」
「……うん」
274: 名無しさん 2014/06/05(木) 20:30:08.14 ID:Okf816dvo
「……魔王って言った」
??「え?」
「さっき……」
??「ああ。魔王はわるいやつなんだよ。あいつのせいでみんな苦しんでるんだ。
魔族の王さまだ」
「どこにいるの……?」
??「さあ……オレはまだしらない。大人にきけば分かるかも。
でも、どっかにいることはたしかだぞ」
「……」
??「ま、心配すんなよ。オレがいつか絶対たおしてやる」
「……」
??「……無口な奴だな」
??「なあ、ずっと気になってたんだけど、なんで目に布まいてんの?
目が見えないってわけじゃないんだろ」
「……」
??「ぬれてて気持ちわるいだろ? とって、火でかわかせば」
「……いい」
??「……。そんなのしてたら、歩きづらくねーの?」
「……」
275: 名無しさん 2014/06/05(木) 20:34:01.62 ID:Okf816dvo
??「まあ……いいけどさ」
??「雨、止まないな」
「……」
「……たすけてくれて……」
「……、……」
??「ああ……いいよべつに。ケガなくてよかったよ。
でも、そのまえに声かけたのになんで逃げたんだよ?」
「……」
??「……ま、いっか。 おまえ、名前は?」
??「オレは勇者」
「ゆうしゃ……」
「…………勇者」
ザアァァァァァ……
―――――――――
――――――――――――
――――――――――――――――
276: 名無しさん 2014/06/05(木) 20:37:52.58 ID:Okf816dvo
魔王「…………」
魔王「ぐすっ……うぐ……ひぐ……」
魔王「でもこんな日がくるだろうということはちゃんと分かってたんだ……」
魔王「そうだ」
魔王「もう姿を隠して逃げ回る生活をしなくてもいい。
堂々と自分らしく生きることができる世界」
魔王「魔族と人が種族を理由に戦うことなく、ともに手をとりあって生きていける……
夢見ていた理想郷が実現したんだ。これ以上なにを望む」
魔王「争いのない世界……魔族の人権が認められている世界……」
魔王「それ以上を望むのは傲慢だ」
魔王(そもそもこんな個人的なことに現をぬかしている場合ではない)
魔王(宮殿の中に魔族の台頭に眉をひそめる者がいないとは言えない。
その者たちが声を大にしないようあの国王が抑え込んでくれているのは知っている)
魔王(事前に潰せたのはよかったが、人身売買を生業とする犯罪組織が魔族を狙おうとしていたこともあった……)
魔王(それに……創世主の一件は、あれで本当に終わったのか……?)
魔王(……)
魔王「……そうだ、私にはまだまだやらねばならないことがある。
ふう、だんだん頭も冷えてきた…… ぐすっ……」
魔王「あーっ、勇者くんに好きな人ができてよかったっ!」
魔王「そういうのに疎いから心配していたんだ。これで一安心だな」
魔王「人の……一生は……私たちと違って……短いしなっ」
魔王「……どうせいつか二度と会えなくなる日が来るなら、
今日こうして現実を見ることができてよかったのかもしれない」
魔王「その方が悲しみは少なくてすむ」
魔王「…………うん、そうだ」
277: 名無しさん 2014/06/05(木) 20:39:13.38 ID:Okf816dvo
コンコン
魔女「魔王様~。魔女ちゃんオンザ箒がお迎えにあがりましたよーご飯です」
魔女「廊下もつるっつるだからさ、歩くとこけるよ。さ、後ろにのって」
魔王「…………今日は……いらない……」
魔王「……ん? 廊下がつるつる……?なんだこれは。あ……またやってしまったのか」
魔王「すぐに全部融解させないと……」
魔女「はいはいそんなの明日でもいいですから、いまはご飯だよ。ほらのったのった」
魔女「今日は鍋だよー」
278: 名無しさん 2014/06/05(木) 20:45:04.16 ID:Okf816dvo
魔王「うう……城がひどい有様だな。すまなかった。後で元に戻す」
竜人「最近暑かったのでちょうどいいですよ」
魔女「ていうかかき氷つくれんじゃん。シロップあったっけ」
竜人「イチゴなら」
魔女「じゃあデザートよろしくね竜人」
竜人「そのくらい自分でやりなさい!」
竜人「熱いので火傷気をつけてくださいね」
竜人「魔王様、無理しなくてもいいですけど、少しは召し上がらないとだめですよ」
魔女「あたしがフーフーしたげよっか?」
魔王「……美味しい」
魔王「……」
279: 名無しさん 2014/06/05(木) 20:49:20.10 ID:Okf816dvo
竜人「魔王様、食べながら聞いてほしいのですが」
魔王「……ん?」
竜人「妖使いさんに聞きました。東国には人を魔族に、魔族を人に変える秘法があると」
竜人「まだ方法は詳しく分かっていないようですが、魔王様なら解明できるのではないでしょうかね」
魔女「できるできる。あたしたちも協力するし」
竜人「……もし魔王様が心の底からそれを願っていて、後悔しないと誓うのなら、私たちは止めませんよ」
竜人「人間になっても構いません」
魔王「え……」
魔王「……なにを言っている?」
竜人「そうしたら魔王は私か魔女が継ぎますので、後のことは御心配なさらず」
魔女「ジャンケンで決めるからいいよー」
竜人「ちゃんといろいろ考慮して決めます!」
魔女「人間になったら、いっしょに生きて、いっしょに老いていけるよ」
魔女「結婚もできるしね」
竜人「先代の魔王城の廃墟に行ったあの日から……」
竜人「魔王として、本当によく頑張ってくれたと思います」
竜人「でも、もうそろそろご自分の幸せをお考えください」
竜人「魔王様」
魔王「……しかし……私は、人間……になんて」
竜人「分かってます。今日は我々の気持ちを伝えたかっただけですので。
魔王様もごゆっくりお考えください」
竜人「ところでおかわり召し上がりますか?作りすぎてしまったんですよね……」
魔王「……」
魔王「……うん」
竜人「もし私の力が必要なら、いつでも仰ってくださいね」
魔王「うん……」
竜人「なんなら今から恋敵を暗殺して参りましょうか?」
魔王「それはやめろ」
280: 名無しさん 2014/06/05(木) 20:51:38.12 ID:Okf816dvo
* * *
ダバーーン
男「うっ ヒィィィィイ」
勇者「おらあああ!てめーかここらへんで麻薬ばらまいてるっつー組織の頭はよーー!!
とっとと白状しやがれってんだケツから剣ぶっさして奥歯ガタガタ言わされてーんか アァン!?」
男「何故ここがバレてくそぉ用心棒やっちまってくれえ!」
兵士「勇者様お気を付け下さいその用心棒に我々の仲間が何人もやられ」
勇者「どけゴラァ!!!俺はそっちの奴に用があんだよ」
用心棒「げへぇッ」
勇者「でやってねーのかやったのかやったのかやったのか、どっちなんだ?
3秒以内に答えなければ人として大事な器官を諸々潰す。 3、」
男「やりました」
勇者「よし」
勇者「隊長!ボスを捕まえたぜ。もう暇をもらっていいか!?」
隊長「感謝する勇者!しかしすまん、今度は南の方で連続放火事件が」
隊長「それがすんだら北で貴族の娘が誘拐され」
ドカッ!!
勇者「おい放火魔くそ野郎てめーなにしくさっとんじゃコラ現行犯逮捕牢屋にブチ込むついてこい暴れんな」
男「うわなにするやめ」
バギャーン!!
勇者「ここが誘拐犯が隠れ住んでる家だなオイ無事か貴族の娘ー!!」
娘「無事です犯人はこいつです」
勇者「てめーかくそったれ大人しくお縄につきやがれ余計な手間かけさすんじゃねえよクズが」
男「くく来るなコイツがどうなってもいいのかー!」
勇者「人質のハンデくらいで俺に勝てると思ってんのか片腹痛いわオラァァ!」
281: 名無しさん 2014/06/05(木) 20:56:50.15 ID:Okf816dvo
勇者「隊長おおおっ!!全部捕まえたぜ暇をもらってもいいか!?!?」
隊長「は、はやいな。オーケー全部片付いた、もう……」
勇者「おっしゃ!!!」
兵士「隊長!ちょっと……ひそひそ」
隊長「む?なに?」
勇者「あああっもうオーケーもらっちゃったしその後に何があっても俺はもう転移魔法使っちゃうわけだから関係ないね!」
勇者「じゃっお先失礼しまーす!!」
隊長「待て勇者!」ガシ
勇者「ああああああ勘弁してえええ」
隊長「国王陛下がお呼びだそうだ。すぐに宮殿に向かえ」
勇者「いやだ」
隊長「……」
隊長「いやだじゃない!!さっさと行け!!!」
勇者「うわああああああ!!!ちきしょおおおーーーーーっ!!!」
282: 名無しさん 2014/06/05(木) 20:58:22.76 ID:Okf816dvo
王都
勇者「勇者参りました陛下!!何か御用でございましょうかっ!!」
国王「ああ、来てくれたか。忙しいところすまないね」
勇者「全くです!!」
戦士「これっ 勇者」
騎士「勇者さん目が血走ってますけど大丈夫ですか?」
国王「今日来てもらったのは……ちょっと気になることがあってね」
国王「妖使いがさっき私の元を訪ねてきて……というか本人もいまこの場にいるのだけど」
妖使い「どうも。俺の使い魔の妖孤が未来予知をしたんだよ」
勇者「は?予知?妖孤もできるのか?」
妖孤「ええと……たまにです。たまに」
国王「妖孤の予知を信じるとだね……」
国王「もうまもなく世界が滅亡するらしいよ」
国王「具体的に言うと、あと8日ほどで」
勇者「…………は……?」
283: 名無しさん 2014/06/05(木) 20:59:00.83 ID:Okf816dvo
勇者「滅亡って……でも創世主はあの時確かに倒したぜ」
妖孤「でも見たんです……世界がどんどん闇に呑まれてゆく様を」
妖孤「信じたくはないですけど……」
勇者「……」
勇者「またあの影が出るってのか?」
戦士「今のところ王都周辺では異常はない。ほかの地域でも現在情報収集中だ」
騎士「図書館地下の扉も消えたままです」
妖使い「やっぱさ、創世主は倒せてなかったんじゃないの?
あれはただの暇つぶしのお遊びで、彼が言ってた通りひとつの劇だったりして」
妖使い「もしくは創世主を倒したことによる世界の崩壊とか」
勇者「……後者だったら俺のせいだな」
勇者「しかし、影が出るなら……またあいつに魔法を使ってもらわなきゃいけないのか」
勇者「それで原因を突き止めて……でもあと8日だって?いくらなんでも時間がなさすぎる」
284: 名無しさん 2014/06/05(木) 21:00:08.81 ID:Okf816dvo
国王「宮廷の預言者たちはこのことについて何も視てはいないんだけど
……確か魔王も未来予知の力があったよね」
国王「勇者。魔王にこのことを知らせに行ってくれるかい。もしかしたら彼女も何か感じているかもしれない」
妖使い「うーん……それはどうだろうな」
国王「どういうことだ?」
妖使い「今の魔王に未来予知の力があるかは疑問だよ」
妖孤「たぶん……魔王さんはいま、未来を視ることはないと思います。
未来を怖がっている方に予知の力は宿りませんから」
勇者「…………」
姫「いいえ」
騎士「姫様!?どちらから……」
姫「彼女は未来を怖がってなんかいませんわ。
勇者、私もいっしょに連れて行きなさい。あなた一人ではまたこじれそうよ」
勇者「……分かりました!」
勇者「とにかく魔王にこのことを知らせてくる。その後また戻ります!」
285: 名無しさん 2014/06/05(木) 21:01:37.07 ID:Okf816dvo
* * *
月の町 魔王の家
魔王「んん……」ムク
魔王「朝か……」
魔王「顔を洗いに行かねば」
バシャバシャ
魔王「……」
魔王(なんだか城が騒がしいな……あとで下に降りよう)
魔王「……寝癖を直してから」
魔王「……?」
魔王「…………!?」
286: 名無しさん 2014/06/05(木) 21:05:00.38 ID:Okf816dvo
ヒュン
勇者「おっしやっと来た!!うおおおおおおおあああああああ」
チリンチリンチリン
勇者「俺だ!!10秒以内に応答がなければ勝手に入るぞ!!10中略0おじゃましまーす!
魔王いるかーーっ!!緊急事態だ大事な話がある逃げるなよ!!」
勇者「姫様。ついてきて頂いて大変恐縮なのですが、少しだけ二人で話させてもらってもいいですか」
姫「ええと……今の様子を見る限りとても不安ですが、分かったわ。行ってらっしゃい」
勇者「魔王ーーーっ どこだ!?」
ダッダッダッダッダ……
バターン
勇者「魔王!!!ここにいたのか!!!」
魔王「……!?」
勇者「大変だ。落ち着いてよく聞いてくれ」
勇者「もう間もなく世界が滅亡するかもしれないんだそうだ」
287: 名無しさん 2014/06/05(木) 21:06:46.43 ID:Okf816dvo
魔王「……」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「なあ聞いてるか? なんでタオルで顔隠してるんだよ」
勇者「こっち向……」
魔王「……」パサ
勇者「なっ お前、それ……どうした!?」
魔王「どうやら、この世界に何らかの異変がまた現れたのは間違いないようだ」
魔王「……大変だ。落ち着いてよく聞いてくれ」
魔王「私は人間になってしまった」
勇者「……ええええええーーーーーーーーーっ!!」
288: 名無しさん 2014/06/05(木) 21:08:39.01 ID:Okf816dvo
魔王「うう……どうしよう」ガクッ
勇者「どうしようってお前……どうする」
魔王「私は……私は本当に人になりたいなんて……おも……おも……」
魔王「そうだ妖使いはどこだ? あやつの仕業では?」
勇者「妖使いなら王都にいたが、あの様子だと関係ないと思うぞ」
魔王「聞いてみなければわからん!とにかく王都に行ってくるっ」
魔王「転移魔法……ああっ 人間になってしまったから魔法が使えないっ」
魔王「わあああああああっどうしようどうしよう!魔法が使えない魔王などただの豚ではないかっ」
勇者「お、落ち着け!しかし一体なんだってこんなことに…… ん?待てよ」
勇者「……火炎魔法」
シーン
勇者「……」
勇者「うわああああああああ俺も魔法が使えなくなってる!!!さっき転移はできたのに何故だ!?」
勇者「魔法が使えない勇者なんてただの豚じゃねえか!!!」
魔王「……そういえば先ほど8日で世界滅亡と言ったがそれは本当なのか」
勇者「妖孤が未来予知で視たんだ」
魔王「あと8日で世界滅亡なのか」
勇者「らしいんだ」
魔王(世界滅亡の危機に、魔法が使えなくなった魔王……)
勇者(世界滅亡の危機に、魔法が使えなくなった勇者……)
魔王「まずいのでは?」
勇者「まずいな」
289: 名無しさん 2014/06/05(木) 21:10:48.36 ID:Okf816dvo
魔王「ほかの魔族の様子を見てくるっ」
勇者「俺も行く」
姫「えっちょっと何事……あら?魔王さん……その目と耳は……?」
勇者「姫様もいっしょに来てください!割と一大事です!!」
勇者「竜人と魔女は!?」
魔王「分からない。島の中にはいるはずだが」
勇者「俺は上を見てくる!魔王と姫様は一階と城の外を頼む!」
魔王「はあ……はあ……」
魔王「…………?……」
魚「……」ビチビチ
魔王「…………」
魔王「……まさか……魚人…………?」
魔王「……今日城に来ると行っていたがまさか……」
魔王「よく見ると顔が似ている……ような」
魔王「そんな……」
290: 名無しさん 2014/06/05(木) 21:13:14.49 ID:Okf816dvo
>>289
島の中→町の中
魔王「まさかそんなことあるはずない」
魔王「……そうだ!竜人ならこの時間いつもキッチンにいるはずだ」
魔王「キッチンに行ってみよう」
魔王「竜人!!」
魔王「りゅ…………」
魔王「……ええ……っ」
トカゲ「……」チョロチョロ
魔王「……まさか竜人なのか……?」
魔王「魚人は魚に、竜人はトカゲになってしまったのか……?」
魔王「わああああああああああっ」
島の中→町の中
魔王「まさかそんなことあるはずない」
魔王「……そうだ!竜人ならこの時間いつもキッチンにいるはずだ」
魔王「キッチンに行ってみよう」
魔王「竜人!!」
魔王「りゅ…………」
魔王「……ええ……っ」
トカゲ「……」チョロチョロ
魔王「……まさか竜人なのか……?」
魔王「魚人は魚に、竜人はトカゲになってしまったのか……?」
魔王「わああああああああああっ」
291: 名無しさん 2014/06/05(木) 21:16:59.67 ID:Okf816dvo
姫「魔王さん!?一体なにが!」
勇者「どうした!いまの悲鳴はなんだ!」
魔王「竜人が……竜人がぁ……」
――――――――――――――
―――――――――
――――
勇者「なにい! しかし魚人が魚になるのはまあ分かるとして、
竜人がトカゲはおかしくないか!あいつドラゴンだろ!」
勇者「トカゲだったら竜人じゃなくてリザードマンだろ!」
魔王「でもでもっ……竜はトカゲに似ていなくもないと言える」
魔王「それにキッチンにトカゲが入り込むなんてこと滅多にない。
竜人がいつもこの時間には朝食を用意してくれて……」
トカゲ「……」チョロチョロ
魔王「ああっこんな姿になってしまって……!今の私には元に戻すだけの力がない」
魔王「竜人!口うるさくてたまに剣呑な光を瞳に宿すけれど、
いつも私のためを思って行動してくれていたのにっ」
勇者「過去に絶対人を何人か殺してるだろお前ってくらいの殺気を出すけど、
料理だけはやたらうまい竜人!なんてこった!どうにかできないのか!?」
姫「ま、まさか本当にこのトカゲが竜人さんなんですの……?」
姫「竜人さん!私が分かりますか……!?」
トカゲ「……」チョロチョロ
勇者「あ、逃げる」
魔王「うう……どうしよう……元には戻せないのか……」ペタン
姫「……………………あの……」
姫「一つだけ……思い当る方法があります」
魔王「それはなんだっ?」
292: 名無しさん 2014/06/05(木) 21:21:52.90 ID:Okf816dvo
姫「こういうおとぎ話知りませんか?」
姫「ある日どこぞの国の王子が魔法でロバ変えられてしまうの。
王子を元の姿に戻すことができるのは……たったひとつだけ」
姫「……そのぉ……王子を好いている者からの……愛情あるキスだとか何とか」
魔王「本当に!?そうなのか 姫?」
姫「でも本当はどうかは全然分からないのですけど!!ロバだし!!トカゲではないし!!」
魔王「いや試す価値は大いにある……」
魔王「あっでもだめだ!竜人に恋人はいないのだっ……
キスで、その上愛情あると銘打つからには友情ではだめなのだろう」
魔王「……っ」
魔王「こんなことに……なってしまうなんて……わ、私がしっかりしていなかったからぁ……うっぅ……」
勇者「魔王しっかりしろ!あいつならトカゲでもたくましく生きていくさ 心配いらない」
魔王「そんなのだめだあっ」
魔王「ああ、どこかに竜人のことが好きな者がいないだろうか……
ちょっと私は探してくっ ぶにゃっ」ドテッ
勇者「落ち着け!!大丈夫か!
それなら中身を知っているここの魔族より、外見だけしか知らない奴を探した方がいい!」
勇者「外面だけはいいから!!!!中身はただの元ヤンだから!!!」
姫「……魔王さんも勇者もちょっとお待ちなさい!!」
293: 名無しさん 2014/06/05(木) 21:31:23.80 ID:Okf816dvo
姫「…………わた……私が……条件を満たしていると言える可能性がなきにしもあらず」
魔王「……えっ……そうなのか?」
魔王「でも、友情ではだめなのだぞっ。愛情ではないといけないのだ……っ」
姫「は……はい」
魔王「では姫は竜人を性的な目で見ていると考えていいのか!?」
姫「はえっ……え……まあ言い方を変えれば……そうかもしれません」
魔王「姫は竜人に性的魅力を感じていると考えても!?
彼と接吻やそれ以上も行えると考えていいのか?」
姫「あ……あわわぁ……!?」
勇者「ちょ、ちょっと魔王さん落ち着こう……」
魔王「どうなのだ姫。はっきり答えろ。君の全てを彼に捧げることができると言うのか」
魔王「さらに竜人の身も心も長所も短所も受け入れて生涯添い遂げることができると言うのか!?」
姫「ひええええええ……っ」
勇者「もうそろそろやめて差し上げろ!!」
姫「…………っっ 破廉恥なことはまだ考えたことはないですがっ
この気持ちは偽りなどではありません!本物です!」
姫「私が彼を元に戻せるというのなら、キキキキスでもなんでもするわ!」
勇者「姫様……じゃっお願いします。はいこれどうぞ」
魔王「ありがとう。では頼んでもよいか!」
姫「は、はい……で、で、ではいきますよ……っ」
姫「……ふ……っ」
294: 名無しさん 2014/06/05(木) 21:36:43.61 ID:Okf816dvo
――バタンッ!!
魚人「てーーへんでい、てーへんでい!!オレっちなんと魚成分まるっと抜けて人間になっちまったよ魔王様!!」
竜人「魔王様!こちらにいらっしゃいましたか……探しましたよ!」
竜人「非常事態です、私含め全ての魔族が人間になって魔法が使えなくなりました」
魔女「空飛べないよーーーっ どうしよう魔王様ーーっ 箒がただの清掃グッズになり果てちゃったよー」
魚人「あれっ勇者に姫様も来てたんかい!!キッチンに座りこんでなにしてんだあ?」
魔女「あ、やっぱ魔王様も人間になっちゃってるっぽいね」
竜人「これは一体なにがどうしてこうなってしまったのでしょう」
竜人「……? どうしました? というか本当になにをしていたんですか」
魔王「……」
勇者「……」
バリーーーーンッ!!!
勇者「姫様あああああああああああああぁぁぁっ!!!一国の姫がガラスぶち破っちゃだめです!!」
ダッ!!
勇者「姫様どちらに行かれるのですかーーーーーーーーーーっ!!!」
魔王「姫! すまなかった、戻ってきてくれっ!」
勇者「今しがたのことは俺も魔王も記憶から消しますからっ!!
くっ さすがあの国王の妹、足が尋常じゃなく速いっ!!追ってくる!!」
魔女「うわ、トカゲ入ってきてるし。だれよ窓開けっぱなしにしたの」
竜人「あなたしかいないでしょう」
303: 名無しさん 2014/06/09(月) 22:34:50.91 ID:+KF7K+uvo
* * *
勇者「全ての魔族を人間に変わった……で俺も魔法が使えなくなったと」
勇者「で、この町に滞在していた神官や魔術師も例外なく魔術が使えなくなっていた」
勇者「つまりこの世界で魔法を使える者はだれ一人としていなくなってしまったわけだ」
姫「そんなことができるのはやはり神しかいないのでしょうね」
魔女「じゃああいつ倒せてなかったの? だっる」
竜人「となると妖孤さんが視た、間もなく世界滅亡というのも信憑性がありますね」
勇者「……すぐ王都に知らせに行きたいが、転移魔法も使えなくなってるんだよな。
ここからじゃ馬を走らせても最低3日はかかる」
魔王「なんとかしてまた創世主に会えないのだろうか。
王都の地下深くに扉はあったのだろう?」
魔王「……時間はかかるかもしれないが、王都に行くべきだと思う。
扉が王都の図書室地下にあったのは、偶然ではないと思うのだ」
魔王「可能性があるとしたらそこだろう」
魔女「そだねー。こっちのことはグリフォンとか魚人が色々やってくれるみたいだし
あたしたちは王都に行こっか」
勇者「ああ。行こう!」
竜人「では馬を用意してきます」
竜人「あの、姫様?」
姫「はいっ!?」
竜人「私は何かあなたに無礼なことをしてしまったのでしょうか?」
姫「いえ!!そんなことはありませんわ!!私はいたっていつも通りです!!」
姫「さあ早く王都に参りましょう!!!」
勇者「気にするな竜人。俺たちが悪いんだ……」
魔王「……すまんな」
304: 名無しさん 2014/06/09(月) 22:36:31.02 ID:+KF7K+uvo
パカラッ パカラッ パカラッ……
魔女「ひー 馬なんて乗るのいつぶりだろ。箒の方がいい~」
勇者「人間になったって言うが、あんまり外見的には変化はないな。
どんな感じなんだ?何か不都合はないのか?」
竜人「不都合ありまくりですよ!耳も全然聞こえが悪いし、視力もこんなに衰えるなんて」
竜人「おまけに素手でテーブル握りつぶすこともできなくなってしまいましたし」
姫「できてたの!?」
勇者「背筋がいま凍ったぜ」
魔女「なんかもどかしい感じだよ。今まで普通にできてたことができないってさ」
魔女「でもこれが人間なんだねー 君たちっていつもこんな感じなんだ」
魔女「人間って超不便だね!君たちいままでよくこんなんで生きてこれたね!すごい!」
姫「そこはかとなく貶されてる気分よ」
魔王「…………」
勇者「魔王の目の色が赤じゃなくなると、なんか変な感じだな」
魔王「……ああ」
305: 名無しさん 2014/06/09(月) 22:38:30.08 ID:+KF7K+uvo
勇者「……あのさ、こんなときに何なんだけど、この間の王都でのことは……」
魔女「おわーっ!? なにあれ!?」
魔王「……! あれは……王都の方向ではないのか?」
姫「ええ、そうよっ 上空に黒い雲がどんどん広がっていくわ……!」
姫「王都に何かあったんじゃ……!」
勇者「まじでやばい香りがするな!!」
竜人「急ぎましょう」
魔女「おわーっ!? なにあれ!?」
勇者「今度は何だ!?」
魔女「見てよ向こうの森がどんどん黒くなって溶けてくよ」
魔女「空もさあ……だんだん全部灰色になってくし……」
魔女「やーんこわーい!」
竜人「誰相手にぶりっこしてんですか?意味ないですよ」
魔女「うざ」
勇者「……。……なあ、なんか聞こえないか?」
姫「え?いえ何も」
ゴゴゴ……ゴゴ……ゴゴゴゴ……
勇者「いややっぱり何か聞こえますって!!それに地震がっ!!」
馬「ヒヒーン」
姫「きゃっ しかもかなり大きいわ!皆さん気をつけて!」
魔王「それどころが地面が割れていっている」
ビキビキビキッ!
魔王「い、急げ。裂け目がどんどん大きくなっていっている。
このままでは馬でも先に進めなくなるぞ」
勇者「なんだこの世紀末な風景は!駆け抜けるぞ!!」
魔女「いえっさー! しゃーー行くぞーーーー!!」
306: 名無しさん 2014/06/09(月) 22:39:43.14 ID:+KF7K+uvo
ズゴゴゴゴッ……!! バキッ!!
魔王「……!?」
馬「ヒヒーン!」
魔王「くっ!」
勇者「魔王が地裂に馬ごと呑まれたーーーーーーーーっ!!」
魔王「いや案ずるな、馬はこの際救出困難だが、私は飛べる」
魔王「服が破けるが仕方ない……!」
竜人「魔王様いまあなた人間でしょう!飛べませんよ!!」
魔王「え? ああそうだったな」
魔王「……落ちるーーーーーーーーっ」
勇者「魔王!!」ガシッ
魔王「ぜえはあ……」
魔女「二人とも大丈夫?」
勇者「ああ無事だ。しかし困った」
勇者「さっき地面に走った亀裂が大きすぎて、これじゃ俺も魔王もそっちにすすめない」
竜人「二分されてしまいましたね。別の道を探されては?」
魔王「! 竜人後ろ!何か来るぞ!」
魔女「げっ! 山の上から黒い何かがうじゃうじゃ来てるけど、なにあれきもい」
魔女「あれが……影?」
307: 名無しさん 2014/06/09(月) 22:41:04.61 ID:+KF7K+uvo
姫「なんて数……。あの山の向こうには王都があるのに……
あちらからやってきたということは、王都はもう……!?」
姫「お兄様……」
勇者「くそっ やっぱり出やがったか!気をつけろ、あいつらに触れると消されるぞ」
勇者「おまけに斬っても斬ってもすぐくっつく。さらにあの数……
俺たちが以前戦ったときより何倍も多い……」
魔女「不利すぎて笑える」
勇者(前は魔王があの魔法を使ったおかげで難を逃れたが……いまは……)
勇者(もしかして皆が魔法を使えなくなったのはそのためか……?)
竜人「……王都に行くためには、どのみちこの方面を進まなければなりません」
魔王「しかし、あんなのを相手取るのは無茶だ!逃げ…… あっ」
魔女「あたしたちは後退できないんだよねー」
魔王「でも……」
竜人「こうなっては仕方ありませんね。
勇者様。魔王様を連れて引き返してください」
勇者「えっ!?」
魔女「あの島の魔王城に行ってみたらいいんじゃない?
昔切り離した魔力があるでしょ。試してみればー?」
魔王「何を言っている。私も戦うぞっ」
魔王「弓を持ってきたのだ。これならこちらからでも援護射撃ができる」
魔女「じゃ、試しにそこの木に向けて放ってみて」
魔王「他愛無い」バシュッ
竜人「はい。全然違う方向にいる私の額に飛んできましたね」パシ
勇者「だめじゃねーか!!」
308: 名無しさん 2014/06/09(月) 22:43:46.48 ID:+KF7K+uvo
竜人「魔王様……こんなことを申し上げるのは大変心苦しいのですが」
竜人「今のあなたは戦力外です。むしろマイナス要因です。足手まといです」
魔王「な……な……っ」
魔女「援護射撃って言うけど、それじゃ敵にとっての援護になっちゃってるよ。
普通の人間の戦闘力を10としたら、魔力なしの魔王様は-5000だよ」
魔王「ふ、二人して……そんな風に思っていたのかっ」
竜人「ですから、ここは私たちにまかせてください。さあ早く勇者様、魔王様を連れてってください」
魔女「おとなしく勇者に守られててくださいねー」
魔王「いやだ。私も戦う!」
魔女「でもいまキングオブ無力じゃん」
魔王「ち、ちがうもん。 というかさっきから魔女は私に対して失礼すぎるぞっ」
魔女「てへ」
勇者「だが竜人と……まあ、魔女はともかく、姫様は!?」
魔女「あれ?あれあれ?あたしはいいんだ?」
姫「私は何としてでも王都に戻ります! 大丈夫、心配しないで。
魔王さん、その弓を私にしばらく貸していただけます?」
魔王「……う……分かった。勇者くん、これを向こうに投げてくれないか」
309: 名無しさん 2014/06/09(月) 22:45:02.40 ID:+KF7K+uvo
姫「ありがとう。大切に使うわ」
姫「さあ早く行って!影はもうすぐそこまで来ています。
そんな顔をなさらないで。私も竜人さんも魔女さんも、こんなところで消えたりなんかしませんわ」
竜人「必ずまた会いましょう」チャキ
魔女「またね、魔王様、勇者」
勇者「……絶対その言葉忘れるなよ!信じてるからな!!」
魔王「竜人っ……魔女……姫……」
勇者「……のれ、魔王。行くぞ!」
パカラッ パカラッ パカラッ……
姫「行きましたね」
影「……」
影「……」
竜人「……これが創世主のつくりだした影ですか」
魔女「はー、斧持ってきといてよかったー」ドカッ
姫「斧て」
竜人「昔から、もしいるのなら神とやらを一度思いっきりぶった斬ってみたかったんです」
魔女「ちょうどいいじゃん、こんなにいるし。ダイエットになりそう」
魔女「最近体重がちょっと増えて困ってたんだよ ねっ!!」
ゴシャッ!!
310: 名無しさん 2014/06/09(月) 22:45:54.18 ID:+KF7K+uvo
――――――――――――――――
――――――――――――
―――――――
姫「はあ……はあ……はあ……」
姫「聞いていたとおり、全然攻撃が通用しないのね。いやになるわ」
竜人「全くですね」
魔女「はーっ……絶対これ3キロ痩せた」
魔女「……けど……意味ないね……」
魔女「追い詰められちゃった……」
竜人「……」
姫「ですね……」
魔女「王都に行くのは……ちょっと無理そうかな」
姫「……お兄様に会えないのは残念ですが、
きっと勇者と魔王さんがこの世界を救ってくれると……私、信じています」
竜人「そうですね……」
竜人「残った彼らがいつか幸せになってくれれば、私たちも報われるというものです」
魔女「あたし……魔王様にも竜人にも姫様にも勇者にも……みんなに会えて楽しかったよ……っ」
魔女「ずっとふざけてばっかだったけどさ……いままでありがとね」
姫「……魔女さんっ 後ろ!!」
竜人「魔女……!!」
魔女「もう……悔いないよ」
魔女「……先いってる」
ポツ……ポツポツ
ザァァァァァ……
311: 名無しさん 2014/06/09(月) 22:47:24.08 ID:+KF7K+uvo
ザアァァァァ……
勇者「チッ 雨か。ついてない……」
勇者「魔王城に行けばって魔女が言っていたが、あれは?」
魔王「……魔王城には、昔私から切り離した魔力が保管してある。
勇者くんが王都で処刑されそうになった時に、島の結界を維持するために切り離したあれだ」
勇者「ああ……そういえばあったな」
魔王「魔法が使えなくなったことについて……移動中色々と考えてみたのだが」
魔王「私が人間になったことで、魔力を魔法に変換させて放出することが
不可能になったのかと思ったが、どうも違うようだ」
魔王「魔力そのものが私の体からなくなっている」
勇者「えーと……? つまり!?」
魔王「つまり蛇口がなくなったのではなく、水そのものがなくなった」
勇者「なるほど!」
魔王「本来、量や強さは異なれど、魔族だけでなく人間も魔力は保有しているのだ。
だから人間の中でも神官や魔術師のように魔法を使う者は存在する……」
魔王「魔族も人も、体内の魔力が枯渇すれば死んでしまうはずだから……
私も魔力がないことに気づいたときは驚いたが」
魔王「世界の仕組みそのものも、彼は変えてしまったらしいな」
魔王「……」
勇者「もし魔王城に切り離した魔力が残っていたら、魔法がまた使えるようになるってことか」
勇者「じゃあとにかく魔王城に向かおう。そしたら…… ん? どうした?」
魔王「……」
魔王「もしかしたら最初からなかったのかもしれないな」
魔王「魔法も何もかも……」
312: 名無しさん 2014/06/09(月) 22:50:28.45 ID:+KF7K+uvo
迷いの森
魔王「森が……」
勇者「ボロボロだな。まるで木が蝋みたいになってる」
魔王「あんなにきれいな森だったのに」
勇者「食人植物や毒キノコが蔓延ってなけりゃな」
魔王「それは昔、人の侵入を阻むために魔女の趣味で植えたものだ。
和平を迎えてからは駆除しただろう」
勇者「やっぱり魔女かよ!この森でそれらにどれだけ苦しめられたことか!」
勇者「まあいい!!もうすぐ森を抜ける、そしたら海だ!魔王城はもうすぐだぞ!!」
勇者「……雨も上がったし、これで船をこぐのも楽になるな」
勇者「ほらもう海が見えて……」
勇者「……ん?」
勇者「あぁ……!? なんじゃこりゃ……」
ガサ……サ……ガサ……
勇者「ここは……海のはずだったよな。ここからは城がある孤島が見えていたはずだ」
勇者「昔、確かにここに立ってその風景を見たはずなんだ」
魔王「砂漠……?」
魔王「白い砂漠……」
313: 名無しさん 2014/06/09(月) 22:54:02.78 ID:+KF7K+uvo
勇者「……いや砂じゃないぞ。なんだこれは……?」
勇者「紙片……? 紙片が積もってるのか……?」
勇者「……こっちに立て札があるぞ」
《ワールドエンド 侵入禁止》
魔王「…………」
魔王「エンドって……この先には魔族がいる島があるのに」
魔王「みんなが暮らしてる島があるのに……っ」
魔王「誰が……私の許可なくこんなものをここに置いたんだ!」
勇者「……」
魔王「まもれなかった……」
魔王「私が絶対まもらなくてはいけなかったのに……」
魔王「みんな……みんなごめん……」
314: 名無しさん 2014/06/09(月) 22:58:41.55 ID:+KF7K+uvo
勇者「……」
ズズズ……
勇者「!! まさか……また影か!もうこんなところまで」
勇者「魔王!馬に乗れ、ここを離れるぞ!!」
魔王「……」
勇者「行くぞ!」グイ
魔王「……でも、もう行くところなんてない……」
魔王「もう逃げられないんだ……」
魔王「消えるしか……な……い……」
勇者「しっかりしろっ!お前らしくないぞ。立て、ほら!」
魔王「……」
勇者「……っじゃあお前を抱えてでも逃げるからな!」ヒョイ
勇者「竜人や魔女や姫様はいまもあそこで戦ってるはずだ!
俺たちがあきらめちゃだめだろ!」
勇者「絶対……何とかなるはずだ。何かあるはず」
勇者「お前魔法が使えなくなっても魔王だろ。
俺も魔法が使えなくなったが勇者だ」
魔王「……うん」
勇者「数年前、もう絶対だめだって思ったことが何度もあったが俺もお前もこうして生きてる。
今回だって何とかなるはずだ。魔王もそう思うだろ?」
魔王「……ん……」
勇者「じゃあ行くぞ!馬!出発だ!!」
315: 名無しさん 2014/06/09(月) 23:02:00.28 ID:+KF7K+uvo
勇者「大体島にいた魔族みたいな、あんな一癖も二癖もある奴らがそう簡単に消されたりしない!」
勇者「竜人も魔女も姫様も強い!だからきっとまたいつか会える!」
勇者「それに王都もな、あそこにはあの戦士と騎士がいる!絶対みんなを守ってくれてるはずだ」
勇者「しかもあの国王だぞ。あいつだぞ!?あんな色々超越してる王がいる国がそんな簡単に滅ぶか!!」
勇者「だから泣くな!」
魔王「…………泣いてないっ」
勇者「俺のマントで涙をふけ!!」
魔王「だから泣いてない!!……私を誰だと思っているっ」
魔王「私は魔王だ! 魔王がそんな簡単に泣くかっ。泣いてるように見えると言うのなら……」
魔王「君の目が節穴なんだっ!!」
勇者「……ああそうだな!俺の目が節穴だ」
勇者「……まだ追ってくるな、あいつら。この剣を持っておけ。俺の二本目の剣だ」
魔王「剣? なるほどこれで快刀乱麻の面目躍如を見せて汚名返上しろと言うのだな。了解だ」
勇者「いや……まあ、お前に持たせても自滅の予感が薄らするが……一応な」
316: 名無しさん 2014/06/09(月) 23:05:41.96 ID:+KF7K+uvo
ゴゴゴゴゴ……!
勇者「まだ地震か!」
ガッ
勇者「馬!!」
勇者「うおっ……ちょっ待て……持ちこたえろ馬!!」
勇者「どわあっ!!!」
魔王「うわっ!」
ドサッ
魔王「うっ…… いたた…… 勇者くんっ」
魔王「大変だ、勇者くんが馬から投げ出されて崖から落ちてしまった」
魔王「勇者くん!!待ってろ、いま助けに行くぞ!」
魔王「馬…… あ……」
影「……」
影「……」
魔王「……来たか」
魔王「……馬も消したのか」
317: 名無しさん 2014/06/09(月) 23:07:13.79 ID:+KF7K+uvo
魔王「魔法が使えればお前らなんてすぐ……」
魔王「……いや、魔法が使えなくても負けはしない」
魔王「かかってこい……っ」チャキ
魔王「イメージトレーニングだけならこの国の誰よりもしてきた自負がある!」
魔王「好き勝手やってくれているじゃないか。落とし前、つけてくれるのだろうな……!」
魔王「来ないのなら、こちらから行くぞっ!」ダンッ
ビシミシミシミシ……ビシッ!
魔王「……ん?」
魔王「なんだ……地面が」
ズボッ
魔王「ふわっ」
魔王「わーーーーーーーーーっ!?」
318: 名無しさん 2014/06/09(月) 23:08:34.06 ID:+KF7K+uvo
バキボキバキッ ドサッ
勇者「ぐえっ!!」
勇者「ぐあぁぁ いってええ……痛みを通り越して痒いっ!」
勇者「ここは? ……魔王?魔王ーーーーーーっ!」
勇者「いないっ!!どこ行った!? あと馬は!?」
勇者「はぐれた……」
勇者「! お前らどこにでも湧いてくるな……」
影「……」ノソッ
勇者「おっと。次から次へと全く……!消されてたまるか!」
勇者「魔王ーーーーーーっ!どこにいるんだ!?返事しろーーーーーー!」
勇者「お前ら邪魔だ、どけ!どかんかいコンチクショウ!!」ズバッ
勇者(……?)
勇者(この匂い……どっかで)
ブン
勇者「うわっ 人が考えてる時にやめろ」
ワーーーーー……
勇者(!! 魔王の声だ)
勇者「あっちか!!」
319: 名無しさん 2014/06/09(月) 23:10:37.71 ID:+KF7K+uvo
ザッ
勇者「確かこの辺から…… 魔王!どこ行った!?」
勇者「……ここにも影が。……まさか……!?」
勇者「おーーい魔王!! 返事しろーーーーっ」ザシュ
「こっちだ、勇者くん……下だ!!」
勇者「下!? 下って…… なんだあの穴」
勇者「そこにいるのか!?分かったいま行くオラァてめーらどきやがれ!!!」
ドサッ
勇者「いてっ……。……こりゃ暗くてよく見えないが階段か?」
魔王「早く奥に来るんだ!彼らは光のあるところでしか動けないみたいだから」
勇者「あ、そっか。そうだったな!」
320: 名無しさん 2014/06/09(月) 23:12:52.82 ID:+KF7K+uvo
勇者「全然目が見えない……どこにいる?」
魔王「ここだ!もっとあそこから離れた方がいい、こっちへ」
勇者「無事だったか。怪我ないか?」
魔王「ああない」
勇者「なあ。そう言う割に、いま腕掴んだ時に濡れてる感触あったんだけどこれなに?」
魔王「血だ。全てかすり傷だから平気だ。自分の剣でつけてしまったものだから大事ない」
勇者「やっぱ剣貸すのやめときゃよかった」
魔王「君こそ崖から落ちたが平気なのか」
勇者「ああ平気だ」
魔王「さすがだな勇者くん……タフさが人外じみている」
勇者「あの穴と階段は何だったんだ?」
魔王「あまり詳しく調べられなかったが、どうやら隠し階段のようだ」
勇者「隠し通路……この地下の空間と地上をつなぐものか。
ここは随分広いみたいだが一体……地割れでできたものじゃないよな」
魔王「暗くてよく見えないのだ。以前なら夜目もきいたし聴覚で大体の広さも分かったのだが」
魔王「でももしかしたら、地下遺跡かもしれない。
この国の地下には村ひとつ軽々入るくらいの遺跡がいくつか存在するらしいのだ」
魔王「戦争で消えてしまったのもあるらしいが」
勇者「これが遺跡ねぇ。確かにうっすら建物の輪郭が見えるな」
勇者「遺跡って古代の?」
魔王「そう伝えられているが……もっと昔のものかもしれないな」
321: 名無しさん 2014/06/09(月) 23:16:36.35 ID:+KF7K+uvo
魔王「しかし不思議なのは地上からの隠し階段があったことだ。
もしかしたらこの遺跡は以前誰かに使われていたのかもしれない」
魔王「隠し階段のあったところに植物が普通に生えていたことから、
それは多分とても昔のことだと思うが」
勇者「遺跡なんて何に使うんだ?」
魔王「さあ……ツアーとか」
勇者「ツアーだったら隠し通路使わずに堂々と入るだろ。
そもそも遺跡を発見したら普通に発掘すればいいのにな」
魔王「誰かが隠れ住んでいたのかもな」
勇者「地下なんて住みづらそうだ」
勇者「ずいぶん進んだな……なんて広い遺跡だよ」
勇者「ここにならみんなを安全に避難させることができるんだけどな。
知らせる術がないな……地上には影がうようよしてるし」
魔王「……あ、あそこに何かあるぞ」
魔王「これは……」ペタペタ
魔王「階段だ。ここからも地上に上がれる」
勇者「ずっとここにいるわけにもいかないしな、行くか」
魔王「問題はどこにつながっているかだが」
勇者「行ってみりゃ分かるさ」
ガコッ
322: 名無しさん 2014/06/09(月) 23:18:33.47 ID:+KF7K+uvo
勇者「ぐ、まぶし…… ここはどこだ?」
魔王「……あ、ここは」
勇者「分かるか?」
魔王「……ここは恐らくこの国の最端……向こうを横切る大河が見えるだろう」
魔王「あの大河を渡ると、魔王城がある……」
勇者「魔王城?でも、城は……」
魔王「私たちの城ではない。先代の魔王が住んでいた城だ」
魔王「竜人と魔女と、一度だけ行ったことがある。もう廃墟同然になっていたが」
勇者「……」
勇者「何かあるかもしれない。行ってみるか」
勇者「……どのみち、進むしかないみたいだ。ほら、後ろ見てみろよ」
影「……」
影「……」
魔王「そうだな」
魔王「行こう」
323: 名無しさん 2014/06/09(月) 23:22:50.03 ID:+KF7K+uvo
ダッダッダッダ……
影「……」ヒュン
勇者「……な、なんかあいつら、さっきの奴らと違って足はやくねーか!?」
魔王「はあ、はあ……!」
勇者「もう少し速く走れないか魔王!?追いつかれる!」
魔王「分かった」
勇者「悪いが全然速度あがってないぞ!ええい、もう担ぐ!!じっとしてろ!!」
魔王「えっ?」
魔王「うわあぁっ!」
大河
勇者「よしついた!飛び込むぞ!」
バチャーン
魔王「えっ!? ……え?泳いで行くつもりなのか?」
勇者「当たり前だろ。早くお前も来い!」
魔王「橋か船を探した方がいい。きっとそのへんにあるはずだ」
勇者「そんな時間ないって!もうすぐそこまで影が迫ってきてるんだぞ!
また追いつかれる!早くしろっ」
魔王「……でも……私は無理だ!」
魔王「そうだ、ではこうしよう。勇者くんは先に行っていてくれ。
私は船か橋を探してから行く。必ず追いつくから心配しないでくれ」
勇者「そんなことできるわけないだろ!?船も橋も見る限り近くにない!!
絶対おぼれさせないから早くしろ!!」グイ
魔王「ひっ引っ張るな! わ……私は、お、およ、泳げないっ!」
魔王「頼むから……やめてくれっ」
勇者「大丈夫だって!必ず向こう岸に渡すから!!ほらお水は友だち!!」
魔王「いやだぁっ」
影「……」ダッ
勇者「!? ま、魔王!!」グイッ
魔王「いっ……!!?」
324: 名無しさん 2014/06/09(月) 23:26:07.85 ID:+KF7K+uvo
魔王(……)
魔王(……)
魔王(……)
魔王(あ)
魔王(死んだ)
バッチャーン……
ブクブクブクブク……
ゴボゴボ……
ゴボ……
魔王(くらい……)
魔王(みずうみのそこ……)
325: 名無しさん 2014/06/09(月) 23:28:08.09 ID:+KF7K+uvo
――――――――――――――――――
―――――――――――――――
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魔王「…………」
魔王「…………」
魔王「……うん……」
魔王「ここは……?」
魔王「私は……?何故ここにいるのだっけ」
魔王「夜の花畑……一体ここは……」
タッタッタ……
「冥府です」
魔王「冥府……?」
魔王「君は」
鍵守「鍵守といいます。ここ冥府の番人です……」
魔王「冥府って……ということは私は死んだのか?」
鍵守「はい……がっつりしんでます……」
魔王「がっつり死んでしまったのか……」
鍵守「あなたが――ちゃん……魔王だね」
魔王「なぜ……?」
鍵守「ずっと前からボクはあなたのこと、しってたんだよ」
鍵守「はなしたいことがあります」
333: 名無しさん 2014/06/19(木) 22:53:41.84 ID:ZhIBJlv5o
鍵守「創世主の彼によって、このままではセカイはめつぼーの いっとをたどります」
鍵守「たすけてほしいんだ」
鍵守「このセカイと……彼を」
魔王「世界の崩壊を阻止する方法が何かあるのなら、教えてくれ」
魔王「……と言っても私はすでに死んでいるのだが、それでも力になれるのなら」
鍵守「うん……トビラの先にいってほしいんです」
鍵守「カギはボクがもっているから……」
魔王「扉なら勇者くんたちがもう開けたぞ」
鍵守「そのトビラじゃないよ」
鍵守「あのトビラは彼が用意したダミー……」
鍵守「ほんものは、ここ冥府にあります。だから彼もそうたくさん干渉できません」
鍵守「ここだけはボクのセカイだから」
鍵守「……トビラをあけてほしい。でもいまのあなたではできません。
いまはいちじてきに、こころだけここにきて、ボクと話しているだけだから」
鍵守「だから、ちゃんと全部ここに来てほしいんです」
魔王「……どういうことだ?」
鍵守「じつは、あなたが死んでいるというのは、うそです」
魔王「えー……?」
334: 名無しさん 2014/06/19(木) 22:56:55.52 ID:ZhIBJlv5o
鍵守「自分が死んだとこころが勘違いしてしまったせいで、あなたはここに来たんです……」
鍵守「でも、そのおかげでボクはあなたに話すことができた」
魔王「体が透けていく……が」
鍵守「あなたが気づいたおかげで、もうまもなくあちらにもどれるとおもいます」
鍵守「でもどうかわすれないで。ボクが言ったこと、おぼえててください……」
鍵守「かならずまたここにくるって……やくそくしてくれますか?」
鍵守「……ちなみにおすすめの方法は どく」
鍵守「からだはちゃんとのこしておいた方が、いちおう……いいですよ」
335: 名無しさん 2014/06/19(木) 22:58:47.81 ID:ZhIBJlv5o
* * *
ビチャッ
勇者「ぜはあっ……はあはぁ……魔王!!!おいしっかりしろどうした!!」
勇者「そんな……入水しただけで気絶するほどカナヅチなのかお前!!」
勇者「生きてるか!?……息はしてるな……ふう」
魔王「……」
勇者(……)チラ
勇者(影……追ってこないな)
勇者(対岸でうろうろしてる。水には入れないのか?なんにせよ、助かった……)
勇者「とりあえず……進むか」
勇者(先代魔王の領地……そういや俺も昔、魔王城探しの旅で、神官と戦士と来たことがあったな)
勇者(あいつら……いまどうしてるかな。……生きてるよな)
勇者(いま改めて見るとなんだか寂しい土地だ。生き物の気配が全然なくて、植物だけ鬱蒼と生えてて)
勇者(でも、やっぱり昔はもっと賑やかだったんだろう)
勇者(……ここにあった魔族の村は、全部先代の勇者が討ち滅ぼしたんだったよなぁ)
勇者(ずいぶん強かったんだろうな……魔法が得意だったそうだが、羨ましい限りだ)
勇者(……だけど)
魔王「……」
勇者(もし戦争に勝ったのが勇者じゃなくて魔王だったなら、こいつも、魔女や竜人も、ほかの魔族も)
勇者(辛い目に合わずに生きてこれたんだろうな)
勇者(いや……こんな勝手な同情、失礼か。こいつらにも、先代たちにも)
336: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:00:30.83 ID:ZhIBJlv5o
勇者「ぐううう、まだか先代の魔王城は? えらい遠いな……」
勇者「あ」
ポッ ポッポツ……
ザアァァァァァァ……
勇者「げっ……まじか。また雨」
ザアアアァァァァァ!!!
勇者「……じゃなくて嵐? いたたっ ……さらに雹!?」
勇者「……魔王も目を覚まさないし、どっかで雨宿りしないと……」
337: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:04:04.00 ID:ZhIBJlv5o
――――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――
ザアァァァァァァァァ……
魔王「…………」
魔王「…………」
魔王「……とびら……」
魔王「……」パチ
魔王「ここは……?」
勇者「はあ、はあ、 ……魔王!起きたか!!」
勇者「今な……火を起こそうとしてるんだが、どうもうまくいかなくて」
勇者「確か石を二つこう……なんか打ち合わせて、息を吹きかけるみたいな感じだったと思うんだが」
魔王「……私はいま生きてるか?」
勇者「ええっ怖いこと言うなよ。生きてるよ」
魔王「……冥府にいってきたんだが、そこで鍵守と名乗る子どもと話をしたんだ。
もう一度来てほしいと言われた……」
魔王「毒がおすすめだって……」
勇者「……熱ある?」
魔王「ない……」
338: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:08:02.14 ID:ZhIBJlv5o
魔王「夢だったのか……?」
勇者「……よしんば本当だったとして末恐ろしい子どもだな。
要するにそれ、死ねってことだろ」
勇者「まあ冥府にいる奴なんだから、死神みたいなもんだと思うが」
魔王「うーん……」
勇者「おい、やめろよ?死ぬなんてやめてくれよな。
そんなの夢に決まってるだろ。早まるな」
魔王「……そうだな」
魔王「ところで、ここは……?洞窟?」
勇者「ああ、無事大河を渡れたよ。ここは元魔族領だ。
だが魔王城に辿りつく前にひどい雨が降ってきて」
勇者「偶然見つけた洞窟に急きょ避難したってわけだ」
魔王「……」
魔王「勇者くん腕は?腕を見せてくれないか」
勇者「? なんでだよ。別になんともない」
魔王「何ともないなら見せられるだろう。
……あっ 怪我をしているじゃないかっ」
魔王「大丈夫か!? 痛くないか……? いや怪我だし痛いか……。
やっぱり崖から落ちたときに怪我をしていたんじゃないか!なんで黙っていたんだ」
勇者「いや、ただちょっと捻挫かなんかで痣になってるだけだ、こんなん。すぐ治るよ」
魔王「いま治癒魔法……。……は使えないのだった。はあ……」
魔王「薬草をとってくる。すり潰せば捻挫に効く植物を知っているのだ。
あと木の実とか果物キノコなど何か食べれるものもついでに獲ってくる」
勇者「待て待て!この大雨の中行く気か?俺は本当に平気だから」
勇者「お前こそ休んどけよ。さっきまで気絶してたんだぞ。
食べ物は雨が止んだら一緒に獲りに行こう」
魔王「でも……これじゃ私は……」
勇者「あーーー、火つかねえ!なんだこれアホか!!石でほんとに火つくのかよ!」
339: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:10:32.20 ID:ZhIBJlv5o
勇者「……悪かったな、無理やり引っ張って」
勇者「泳げなかったのか」
魔王「……そうだ。笑ってもいいぞ。この年で泳げないなんて。
でも私は水の中でなく陸上で生きる生物なのだから別に水泳なんてできなくとも構わんのだ」
魔王「私は陸上で生きる生物だからな別にいいのだ水泳能力などなくても生きていける」
勇者「言いたくないなら言わなくていいけど、」
勇者「……もしかして……それって、昔なにかあったのか」
魔王「……ん?」
魔王「ん……どうだろう…… わからん」
勇者「……」
勇者「ごたごたしててちゃんと謝ってなかったな。ごめん」
魔王「え」
勇者「魔族みんないい奴で明るいから、つい忘れそうになっちゃうけど
魔王があの島で村をつくるまで、みんないろいろあったんだよな」
勇者「……お前も」
勇者「そういうの全然考えないで、あのときは軽率なことを言って悪かった」
勇者「確かに俺みたいなやつに、お前の気持ちが全部分かるなんて言われたら腹立つだろうな」
340: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:12:22.11 ID:ZhIBJlv5o
魔王「えっ……」
魔王「あ……ああ、あれか。いや、謝るのは私の方だ……」
魔王「私も意地を張って悪かった。
……人間と魔族の共存を願って、その隔てをなくしたいと思っておいて」
魔王「そのくせ一番種族の違いを気にしているのは私だったのかもしれない」
魔王「勇者くんは正しいことを忠告してくれたのに、あんなことを言ってごめんなさい……」
魔王「……それに、魔力をなくして人間になってはじめて分かったのだが、
魔法が使えないというのはとても怖いな」
魔王「敵がいても太刀打ちできない、どうにもならない。
魔法が使えないと、人とは、こんなにも無力なのだな」
魔王「そんな人間のそばに……魔法を使える者がいたら……
外見も、みんなと違う異形の者がいたら」
魔王「怖がって自分たちから遠ざけるのも、分かる」
魔王「もし私が生まれたときから人間で……それで近くに魔王の私が住んでいたら
やっぱり怖がっただろうな」
魔王「……分かるよ」
341: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:15:33.34 ID:ZhIBJlv5o
勇者「……そんなの全員が全員怖がるわけじゃないだろ」
勇者「お前がむやみやたらにわざと魔法を使いまくって被害を出す奴だったら、
まあ……怖いかもしれないが、魔王はそういう奴じゃないだろ」
勇者「むしろいつも誰かのことを考えて魔法を使ってるじゃないか。
つーか攻撃呪文自体それほど好きじゃないみたいだし……」
勇者「なんかわけ分からん魔法の研究してたし」
勇者「……まあ俺も!初対面でいきなり剣突きつけた俺が言えたことじゃないかもしれないけど!」
勇者「でもやっぱり、お前は何も悪くないと思うぞ……うん」
魔王「……」
勇者「もっと早く会いたかったよ。そしたら、友だちになってさ
お前がもし困ってたら助けてやるし、誰かにひどいことされてたら俺がそいつ殴ってやったのに」
勇者「……魔王が言うように俺はお前の気持ち全部理解することはできないかもしれないけど」
勇者「やっぱ理解したいよ。知りたいって思ってるんだ」
魔王「…………」
魔王「……私も……」
魔王「私にとって、君は一番大事な友人だ」
勇者「へっ!? ……あうんそうだな。俺もお前のこと大事な、友人だって思ってるよ」
342: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:17:49.28 ID:ZhIBJlv5o
魔王「君ももう察しがついていると思うが、私が泳げないのは昔、水審判にかけられたから」
魔王「まだ魔力もうまく操れなかった頃のことで、色々迷惑をかけながら生きていた。
誰も教えてくれなかったから、呪文も分からなくって……」
魔王「感情が高ぶると魔力が勝手に魔法に変わってしまって
畑を凍らせてしまったり、空き家を燃やしてしまったこともある」
魔王「……というかそれは今でも極稀にある」
勇者「あんのかよ……」
魔王「だから……ひと所にずっといるところはあまりなかったな」
魔王「だがこんな私でも、姿を隠して人のフリをしていれば、
行き倒れているところを助けてくれた親切な人はいたのだ」
魔王「あるときそんな風にして老夫婦に拾われた。二人ともすごく優しくて
そこでしばらく畑の手伝いをしたり家事を手伝ったりして過ごした」
魔王「でもやっぱり少し様子が変だったのだろうな」
魔王「ある日目が覚めたら、ベッドで寝ていたはずなのに外にいて、
足に枷がついてて、その先には大きな石がくくりつけられてて」
魔王「村のはずれにあったきれいな青い湖が目の前に広がっていた」
343: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:21:48.18 ID:ZhIBJlv5o
魔王「君が賢者の家で読んでいた本にあったように、
水審判とは悪魔かどうか疑わしい者を水に沈めて審問するものだ」
魔王「石をつけて浮きあがってきたら悪魔、沈んだら人間」
勇者「ひどいな……」
魔王「神官の姿は見当たらなかったから村人が独断で行ったのだろう。
私を湖に突き落としたのは、私を拾ってくれた老夫婦の妻の方だった」
勇者「……それでどうしたんだ」
魔王「湖の中で何とか枷を外そうとしたのだがうまくいかなくて
それでもがんばっていたら最後に石の方が壊れた……」
魔王「……死に物狂いだったので許してほしいのだが、石どころか湖ごと大破したようだ……」
魔王「……これは申し訳なく思っている」
魔王「その騒ぎを聞きつけて、近くにいた竜人と魔女が私を助けてくれた。
私は石にヒビが入るのを見た時に既に意識を失っていたから覚えてないのだが」
魔王「それから二人と行動するようになったのだ」
魔王「今でも水に入ると、突き落とされたときの肩の感触とか
光も音もない水底で、一人で、どんどん息苦しくなっていったこととか思い出して」
魔王「だから泳ぐのはどうしてもできない」
勇者「……そうか」
勇者「…………ほんっと無理やり引っ張って悪かったな……」
勇者「…………俺を殴ってくれ!」
魔王「い、いい。別にそういうつもりで話したのではない」
344: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:23:36.84 ID:ZhIBJlv5o
魔王「それに……あのときあのまま橋や船を探していたら、影に追いつかれていただろう」
魔王「腕を怪我しているのに、気を失った私をここまで運んでくれてありがとう……」
魔王「……たすけてくれて……」
魔王「……ありがとう……。勇者くん」
魔王「やっと言えた」
勇者「……? 別にいいよ。気にすんな」
勇者「話してくれてありがとな」
魔王「この話を誰かにしたのは初めてなのだ。
竜人や魔女にも、誰にも話したことはなかった」
勇者「……そんなひどい目にあって……よく人間に対して友好的になれるな。
俺だったら、どうなるか分からん」
魔王「たすけてくれた人がいたからな」
魔王「だから……人のことも好きになれた」
魔王「人のことが好きになった」
魔王「いつもたすけてくれる人のこと……」
345: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:27:05.02 ID:ZhIBJlv5o
魔王「君は私の一番大切な友人だ」
魔王「だから、幸せになってほしいな……」
勇者「なんだよ……急に」
魔王「ずっと君の幸せを願っている」
魔王「勇者くんがずっと笑っていられるよう祈ってる」
魔王「祈ることは魔力がなくてもできるから」
魔王「雨があがったな」
魔王「進もう。城へ」
魔王「私が案内する」
346: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:28:43.82 ID:ZhIBJlv5o
魔王城 廃墟
勇者「ここか……」
魔王「君も来たことがあるのではないか?」
勇者「魔王の居場所を探す旅の途中でな。誰もいなかったけど」
勇者「あのときよりもすごい有様になってるな。木が生い茂って、ツタが壁を這って……
まあ、魔王城っぽいと言えば魔王城っぽい」
ガタ……コツ……コツ……
勇者「中もひどいな。荒れ果ててなきゃそれなりに立派な城だったんだろーが。蜘蛛の巣だらけだ」
魔王「うん゛……早く進もう」
勇者「……」
魔王「何だその目は。魔王が虫など怖がるわけあるか。だんご虫なら平気だ」
勇者「そっかぁ……」
ガコッ
魔王「この階段の下に隠し通路があるのだ」
勇者「おお……けっこうでかいな」
魔王「行ってみよう」
勇者「一度、竜人と魔女とここに来たことがあるって言ってたよな。何しに来たんだ?」
魔王「魔王を探しに」
勇者「は? ああ、自分探しの旅とかそういう意味か?」
魔王「違う。文字通り魔王を探しに来た。ここが一番可能性が高かったから」
魔王「ある者から、魔王が存在することを聞いて……彼を探しに来たのだ」
347: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:30:38.60 ID:ZhIBJlv5o
* * *
「ほんとか?」
「ほんとにそう言ってたのー?」
「いってた……」
「魔王がいるって……でもどこに?」
「わかんない……」
「戦争で殺された魔王が復活したってことか……?」
「じゃ、探しにいこーよ!魔王がいるならあたしたちを守ってくれるっしょ。
これで暮らしもちょっとは楽になるし」
「強い魔王がいたら人間たちもギャフンと言わせてやれるって!」
「探しに行くか。でも、その魔王がいるっていうのは、だれから聞いたんだ?人間か?」
「……人間」
「まあ、定石どおりにいくならまず魔王城に行ってみるか」
「人間どもが邪魔してくるかもしれないからしっかり準備しとかないとな」
348: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:33:46.99 ID:ZhIBJlv5o
「チッ……やっぱ手間取ったな。くそ邪魔しやがって人間全員死ね今すぐ死ね殺すぶっ殺す」
「うーわ、ここが魔王城かー。ボロッ」
「ひゃーん蜘蛛の巣いっぱいあってこわいよぉ」
「だれに対してやってんだそれ?見苦しいからやめろ」
「死ね」
「あ。 ――、腕になんかのぼってるよ」
「……!? とってとってとってとってとってぇ」
「イモリだ。薬の材料に使えるからビンに入れて持ってかえろーっと」ワシッ
「なにが蜘蛛の巣こわいだ、イモリ鷲掴みじゃねーかよ」
「両生類と昆虫はちがうんですぅー なによイモリの同類のくせして」
「竜とイモリをいっしょにするんじゃねえ」
「ねえもうかえろうよぉ……ここ、こわいよ……」
「魔王を見つけたらな……」
「手つないであげる。ほらおいで」
349: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:36:53.84 ID:ZhIBJlv5o
「なんかこの階段の下、怪しくないか。よく調べると魔法の痕跡がある」
「向こうにお宝があったり?」
「なんとかここ壊せないだろうか」チャキ
ギイン!
「……だめだな。どうやら普通に壊そうとしてもできないらしい。魔法がかけられてるんだろう」
「あんたの馬鹿力でもだめかー」
「火炎魔法…… だめだ。氷魔法、風魔法…… チッ」
「この魔法、この城に住んでた魔族が昔かけたものなんだろーけど、ずいぶん魔法が上手だったみたいね」
「……そうだ、――。この間教えた魔法ちょっとやってみるか?」
「――ならあたしたちより魔力強いみたいだしいけるかも」
「ていうか強すぎることが心配だけどね。この城崩れたらどうしよ」
「落ち着いて、集中するんだ。いいか? 別に魔法は怖いものじゃないから」
ガコッ……
「えっ……詠唱なし!? ひええ、すっごいじゃん!才能あるよ!」
「まだなにもやってない……」
「手を触れただけで魔法が解除された?俺たちがあんなにやってもびくともしなかったのに」
「……うーん……もしかして」
「……まあとにかく先に進むか。この先に魔王がいるかもしれない」
「魔王ってかっこいいかな?イケメンかな?」
「100年前に死んだ魔王が復活したってことなら、年くってんじゃねーのか」
「オジサマも素敵」
「言ってろ」
350: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:38:13.72 ID:ZhIBJlv5o
* * *
勇者「この部屋は?」
魔王「さあ……実は私にもよく分からんのだ」
勇者「なんだ、あの時計。変わってる……」
勇者「……ん、凝った装飾の台があるな。でも何ものってない」
魔王「ここに、今私がはめている指輪があったのだ」
勇者「へえ?そうだったんだ」
魔王「妙な隠し部屋だから、何か創世主を倒す道具でもないかなと思ったが、全然ないな」
魔王「残念」
351: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:41:43.46 ID:ZhIBJlv5o
* * *
カチ……コチ……カチ……コチ……
「部屋か?しかも随分広い」
「ほこりくさっ。 げっほけほ」
「この時計……動いてるのか。まさか、100年前からずっと?」
「……変だな。針が3本ある」
「一番外側の数字が0~100まで、真ん中が0~12、内側が0~365か」
「時間じゃなくて日をカウントしているんだな」
「逆……」
「逆?ああ、本当だな。針が反時計回りにまわってるのか」
「これじゃカウントダウンだな……なあ、見ろ。もうすぐどの針も0に……」
「ねえそんな時計よりこっちの指輪見てよ!ちょうきれいだよ!すっごい高そう!!」
「聞けよ」
「指輪ぁ?宝じゃなくて魔王を探しに来たんだろうが」
「でも、ほら。きらきら光ってる。なんか尋常じゃないって感じ。絶対重要アイテムだってこれ」
「内側に文字も彫ってあるよ。よく読めないけど」
「文字……。……王」
「oh?」
「魔族の言葉で『王』って彫ってある」
352: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:45:41.91 ID:ZhIBJlv5o
「……それって魔王の指輪ってことじゃん!?」
「ということはこの気持ち悪い時計は、魔王が復活するまでのカウントダウンか?」
「え?なにこの時計、なんか変じゃない?数字多い」
「だから、それさっき俺がやったくだりだ。聞いてろよ」
「3つの針全てが0になるのは、……明日だ」
「明日魔王が、この指輪を指にはめにここに来るはずだ」
「うひゃーまじで?やった、タイムリーじゃん。今日ここに来てよかったねー」
「やったな。もし魔王が復活すれば、人間どもに奪われた土地も国も全て取り返せる」
「俺たちの国が甦るんだ。誰も俺たちのことを疎まない、魔族の国に住める」
「明日かあ……楽しみだなー!!おばあちゃん、あたしやったよ~ 見てるかな、いえーい」
「今日はここに泊まろう。寝どこあるかな……」
「えーっ……クモの巣いっぱいあるからちょっとやだ……ねえもうかえろうよ」
「ねむいよぉ……だっこ……」グス
「ぐずるなって。疲れたのか?」ヒョイ
「ここ、こわい。かえろうよ……」
「魔王に会いたくないのか? ――を湖に沈めた奴らにも、いじめてきた奴らにも、仕返しできるんだぞ」
「そうだよー」
「…………んん……」
353: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:48:21.82 ID:ZhIBJlv5o
* * *
カチ……コチ……カチ……
「……」
「……」
「来ないな」
「もう、日付け変わっちゃいそうだけど」
「……いや、必ず来るはずだ。待とう」
「それにしても……この指輪の宝石さ……これなんだろね。
ルビー?ガーネットかな? きれいな赤色」
「売ったらいくらになるかな」
「売るなよ。王の指輪だ」
「……。しかし……これ、 ――の目の色そっくりだな」
「あー 赤だもんね」
「……もしかして……」
「……ええ?……いやー……まさか先祖? まさかぁ」
「……」
354: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:49:15.74 ID:ZhIBJlv5o
カチ……コチ……カチ……
「あと……10分」
「あと5分」
「あと3分」
「あーーーーーーーもう早く来てよ魔王様なにやってんの!?寝坊!?寝てんの!?」
「遅いな……」
「ああっ! ちょっと指輪見て!!透け始めてる!!!」
「なに?」
「……時計のカウントが0になると同時に指輪が消滅する仕組みなのか」
「……あと1分」
「……どうする?」
「でもさ……絶対来るはずだよ!来なきゃおかしいじゃん。
やっとあたしたち……やっと……取り戻せるって思ったのに」
「期待させておいて来ないなんて、ひどいよ…… 訴訟レベル」
「あと30秒……」
「29……」
「28……」
「27……」
355: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:50:51.50 ID:ZhIBJlv5o
「……だめだ。たぶん魔王は復活しないんだ」
「じゃあどうすんの?」
「……きっと100年前の魔王が復活するんじゃなくて、新しい魔王が誕生するまでのカウントダウンだったんだ」
「いまここにいる俺たち3人の中の誰かが……魔王になるんだ」
「えーっ!?急展開!」
「誰が……なるか?」
「魔王いないの……?」
「ああ、いないんだ。俺か、魔女か、――がなるしかない」
「あと24秒」
「どうするジャンケンする!?」
「……隠し通路の魔法解除……それから指輪の宝石……」
「…………俺は……、――があの指輪をはめるべきだと思うんだが」
356: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:56:56.35 ID:ZhIBJlv5o
「私……? なんで……?」
「魔女はどう思う」
「……あー、そうだね。……この中で一番あの指輪の宝石が似合うのは、やっぱ――かな」
「魔力も一番強いし」
「……でもっ竜人と魔女の方が強いし、大きいし、お兄ちゃんとお姉ちゃんだし……」
「お……お兄ちゃん!?今のもう一回…………いや時間があと15秒!ふざけてる場合じゃなかった」
「ほんとにな。――、大丈夫。あたしたちがちゃんとずっとそばにいてサポートするからね。二天王になってあげるから」
「……嫌なら今言うんだ。俺か魔女がなる。どうする?」
「……」
「……」
カチ……コチ……カチ……コチ……
カチ
「わかった」
「私がこの指輪をはめる」
魔王「私が王になる」
魔王「みんなを私がまもる」
カチ、コチ……カチッ。
357: 名無しさん 2014/06/19(木) 23:59:21.76 ID:ZhIBJlv5o
* * *
魔王「別のところに行こうか。ここには何もないようだ」
魔王「私は地下の書庫に行ってみようかと思う。魔族の言葉の本しかないから、
勇者くんは別のところを探してみてくれ」
勇者「書庫?そんなものあるのか?でも、ここって戦争終結後……」
魔王「全て人に持ってかれたが、書庫は魔族でないと入れない封印がされていた。
ほかにもそのような封印がされている部屋がいくつかあったんだ」
魔王「いまは、もう、封印自体なくなったかもしれん。世界から魔法が消えてしまったから」
勇者「じゃあ俺でも入……れッ!?」ズボッ
ゴシャッ バキバキ
勇者「うおおっ あぶねえ!床が抜けた!!」
魔王「気をつけるんだ、かなり老朽化が進んでいる」
勇者「ああ、全くどこもかしこもボロボロだ。先代の魔王城なのに、やっぱ時の流れには勝てないんだな」
魔王「……そうだな」
魔王「……そういえば私の先祖は、先代魔王の妹らしいのだ」
勇者「ふーん…… …………えっ!?」
魔王「頑固なところがよく似ているらしい……あと先代魔王も赤目だった」
勇者「……誰に聞いたんだ?」
魔王「先代魔王の亡霊」
勇者「先代魔王としゃべったんだ?」
358: 名無しさん 2014/06/20(金) 00:02:03.97 ID:mqDbHPu0o
魔王「あまり亡霊の部分には驚かないのだな」
勇者「まあ俺も……幽霊には会ったことあるからな。話すことはできなかったけど。
言葉の代わりにアイアンクローかけられたけど……」
魔王「そちらの方が驚きだな」
勇者「そういやあの幽霊、成仏したかな。いつの間にか消えてたが」
勇者「ん?待てよ、先代魔王の妹が先祖ってことは……お前も王族だったのか!」
勇者「じゃあこの城は……」
魔王「うん……実家?」
魔王「もうこんなに荒れ果ててしまって……何も残ってない」
勇者「……魔王」
魔王「でも、ここは私の家ではない。私の帰るところはちゃんとあるんだ」
魔王「だから早く創世主を止めなければ」
勇者「ああ、そうだ!お前の家はあの島の城だ!早く取り返そう!」
魔王「うむ、そうだなっ。私はさっそく書庫に行ってくる、後で合流し……」ズボ
魔王「ふぎゃーーーーーーー」
勇者「まっ、魔王ぉーーーーーーーー!!」
366: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:09:42.58 ID:m9/jnbfBo
* * *
ガサガサッ
勇者(……なかなかないな……そんな簡単に行くわけないとは思っていたが)
勇者「もうすっかり日も沈んじまったから目も見えづらいし。
せめて火がないと何をするにも不便だ」
勇者(夜になったから……影はもう地上から消えているだろう。
また明日の朝には出てくるんだろうが……王都やみんなはどうしてるだろうか)
勇者「そういや、この城の付近には影がまだ出てないな」
スタスタ
勇者「……ああ、魔王。なんだその書の山は」
魔王「書庫だと暗くて読めぬから、窓のそばまで運んでいたのだ……。
あと2往復くらいしてくる」
勇者「俺も行くよ。重いだろ」
勇者「…………………………ん!?」ピク
魔王「それは助かる。なかなか重くて……。勇者くん?」
勇者(この匂い……どこかで……)
勇者(どこかで……。もう少しで思いだせそうなんだが……)
勇者(多分……けっこう大事なこと……思い出さなければいけないことだ)
367: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:11:10.43 ID:m9/jnbfBo
勇者(うう……なんだっけ……なんだっけ!?)
勇者「はあ……はあ……!」
ジリ……ジリ……
魔王「ど、どうしたのだ……具合が悪くなったのか?」
勇者「お前……その匂い……どこに行ってたんだ……?」
魔王「だから、書庫だと……さっき……」
勇者「頼む。もう少しで……大事なことが……お……思い出せそうなんだ」
ジリ……ジリ……
魔王「勇者くん、急にどうした」
勇者「頼むから匂いをかがせてくれ……!」
魔王「本当にどうしたんだっ!?」
魔王「匂いって……書庫行ったから埃臭い……」
勇者「かまわん……!!」
魔王「私がかまう」
368: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:16:08.44 ID:m9/jnbfBo
ジリッ ジリッ
勇者「おい……逃げるな!!!」
魔王「勇者くんがこっち来るから……!」
勇者「暴れるな……じっとしとけ!!」
魔王「分かった、分かったから一旦落ち着いてくれ。
月明かりに照らされて軽くホラーだぞ勇者くん」
勇者「大人しくしてりゃすぐ済む……逃げるな……!!」
魔王「そんな犯罪者みたいなことを勇者が言っていいと思っているのか……っ」
ガシッ!!
魔王「ひっ ひぃっ」
勇者「はーっ……はぁー……うう」
魔王「こわすぎるっ」
魔王「ややややめろなにをする」
勇者「じゃかあしい……!!じっとしとけぇ……!!!」
魔王「こわい!! 離せ 頼むから離してくれっ」
369: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:18:47.21 ID:m9/jnbfBo
魔王「ひわーーーーーーーーーーーーーーー」
勇者「ふがふが」
勇者(あっそうだこの匂いだ。詰め所の机とか書類の山積みとか思い出す)
勇者(どこで嗅いだんだっけ、最近なんだよな……どこだっけ?確か外……
なんでこんなところでっていう場面だったような)
勇者「うーーーーん……」
魔王「ひえーーーーーーーーーーーーーーー」
魔王「馬鹿者、こういうことしてあの子に失礼だと思わんのかっ」
魔王「こういうことは友人にやっちゃいけないのだぞっ!」
魔王「勇者くんってば!聞いてるのか」
魔王「……やだっ……」
勇者「ハッ! ご……ごめん」
勇者「でも思いだしたぞ!!そうだ、あのときだ!」
魔王「……何が?」
「あーーーーーーーーっ いたーーーーーーっ!!!」
370: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:20:32.50 ID:m9/jnbfBo
魔王「えっ? この声……! まさか」
魔女「魔王様あーーーーーーーっ!!勇者も!!」
魔女「よかったぁ、無事だったんだね!久しぶりーーーーーーー!」
魔女「大丈夫?怪我してない?元気?あたしは超元気ーーーーーーーー!!!」
勇者「見て分かるぜ……!魔女、無事だったのか!」
魔王「ま……魔女っ よ、よかった……」
竜人「魔王様!勇者様! ご無事で何よりです」
魔王「竜人……! 二人とも大丈夫だったか?怪我は……」
魔女「全然どこも怪我なーい!」
魔王「よかった」ギュッ
竜人「勇者様……」
竜人「魔力がなく、致命的に運動能力が低い、ほぼ荷物と言っていい今の魔王様をお守り頂いて、どうもありがとうございました」グッ
勇者「お前けっこうズケズケ言うなぁ……。いや、そんな礼を言われるようなことじゃないって」
竜人「いえ……本当に感謝しているのです。さすがは勇者様、この国の英雄ですね」
勇者「だから別にいいって、二人も無事でよかった」
勇者「……で、何故押す?ちょっとあの……竜人」
コツ……コツ……コツ……コツ
魔女「ここの魔王城なつかしいね。相変わらずボロボロだ」
魔王「魔女、ここかすり傷があるじゃないか。大丈夫か?」
魔女「うん、全然平気だよー。 あれ、竜人と勇者どこ行くんだろ」
371: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:23:31.48 ID:m9/jnbfBo
勇者「手を離して頂きたいなって……その……ね」
竜人「そんな。まだまだ勇者様にお礼が言い足りません」ググッ
コツコツコツコツ
カッカッカッカッ……!
勇者「もう礼はいい!!いいよ!!お前の気持ちは十分伝わった安心しろ!!離せ!!」
竜人「いいえ、御謙遜はよしてください。ここで私どもが魔王様と再会できたのも、ひとえに勇者様のおかげなのです」
竜人「でもそれとこれとは話が別ですので」
カッカッカッカッ――ダンッ!!!
勇者「ひいいい落ち着け竜人!!瞳孔が開いてるぞ!!」
竜人「こんな暗闇に包まれる城の廃墟の廊下で、一体勇者様は何をなさっていらっしゃったのですかねぇ……KILL YOU」
勇者「待て……待つんだ、話せばわかる……」
竜人「分かりました。そうですよね……まさか勇者様が、あんなこと……私の目の錯覚に決まっていますよね」
竜人「私や魔女がいない間に、こんな暗がりで、嫌がる魔王様の動きを封じて
息を荒げて無理やり迫るなどと言った男の風上にも置けないような所業……」
竜人「まさか勇者様がなさるわけないですよね! 弁解があると言うのなら今どうぞ」
勇者「……あれはっ、…………………いや………」
勇者「……」
勇者「……た……」
竜人「あ゛ぁ!?聞こえねぇんだよ!!!!」
勇者「しました……!!!」
竜人「右と左どっちがいい?」
勇者「右でお願いします……」
372: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:29:47.97 ID:m9/jnbfBo
魔女「おーい、こっちこっち。いたよーー」
姫「魔王さん!よかった、無事で」
騎士「お久しぶりです! 魔王さんも魔女さんもお元気そうでよかった。あれ、勇者さんは?」
忍「竜人さんが奥に連れてっちゃいましたが」
妖使い「やあ、俺もいるよ。なにやらえらいこっちゃだね」
勇者「おー、みんな生きててほんとに安心した」
姫「勇者……あなた右頬どうなさったの」
竜人「転んだそうです。この城は床が抜けやすくなっていますので、皆さまもお気を付け下さい」
魔王「よくここに私たちがいるのが分かったな。
それに妖使いや忍、騎士がいるということは王都に行けたのか?」
姫「行けたことには行けたのだけど、あまり長くはいられなかったわ」
姫「あのあとのこと、順を追って説明します。
魔王さんと勇者が去ったあと、私たちも健闘しましたが、影に囲まれてしまって」
姫「もう終わりだと思ったのですけど、急に周りの影が全て消えたの」
魔女「雨がね、降り出したんだよ。そしたら溶けるみたいに影が全部ざーって」
勇者「雨で……消えた?」
竜人「ええ。その間に私たちは王都に辿りつきました。ひどい様子でした……」
妖使い「じゃ、王都の様子は俺から説明しよう!」
妖使い「勇者と姫が魔王の元へ行ったあと、すぐに異変が起こった。
なんと俺は妖術が使えなくなり、妖孤をはじめとする使い魔たちを呼びだすことができなくなった」
妖使い「俺だけじゃなく魔術師たちや神官たちも魔法が使えなくなったーつって大騒ぎしてたね」
騎士「それから国王様は大臣たちを集めて緊急会議をなさっていました。
しばらくして、王都の上空に黒い雲が現れて、住民を避難させようとした矢先に……」
妖使い「城壁の向こうから影たちがわんさかやってきて、次々に王都の住民を消していたよ」
妖使い「まあ、勝ち目なんてなかったね。触れられた人から一瞬で消されちゃうんだから」
373: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:33:26.11 ID:m9/jnbfBo
妖使い「でもそこで雨が降って、姫が言う通り影が消えたのさ」
魔王「地下の扉は……?変化はあったか?」
騎士「いえ、一応見てみましたがやはり扉は消えたままでした」
魔王「……そうか」
姫「王都に辿りついて、お兄様に会いました」
騎士「あの人、止めたのに、剣持って前線に立とうとするんですよ。
ほんっと……もう……しかも強いし……」
姫「私、王都に留まるつもりだったのですけど、もうここは危険だからってお兄様が……」
騎士「それで僕が護衛について、魔王さんと勇者さんに合流するために魔王城へ向かったわけです」
魔女「でも、迷いの森、消えてたね。白い砂漠になっちゃってた。
せっかくあたしが素敵な森に仕立て上げたのに……」
勇者「素敵か? いやっそれより、森が消えていたのか?
俺たちが行った時には森はまだあったのに」
竜人「どうやらこれが創世主の本気みたいですね。私たちは今まで遊ばれていたに過ぎないと」
忍「お腹すきましたね。ご飯ないんですか?」
374: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:35:27.59 ID:m9/jnbfBo
竜人「魔王城があった城が消えてしまって……それでまた影がでて、
追われるようにして大河を渡りました」
妖使い「ちょうど船があって助かった。俺カナヅチでさ!」
魔女「でここに辿りついたってわけ」
勇者「あの影……雨が降ると消えたり、大河を渡ってこれなかったり……」
勇者「水が弱点なんだな」
勇者「あと暗いところ……地下では、または夜には行動できない」
魔王「勇者くん。さっき何を思い出したというのだ?」
勇者「ああ。あの書とインクの匂い、どっか別の場所で嗅いだ記憶があって」
勇者「どこだったんだっけなってずっと考えてたんだが」
勇者「……影を斬った時だ」
騎士「そんな匂い、しました?」
勇者「俺は特別あの書とインクの匂いに敏感なんだ。
机に積み重なった書類の山を思い出して、頭を抱えたくなるね!!」
忍「あぁ。勇者様って見るからにバカっぽそうですもんね!」
勇者「まあな!」
勇者「……でさ、創世主が劇だ脚本だなんだと言ってただろう」
勇者「……ちょっと思ったことが、あるんだけどさ。笑わないで聞いてくれるか」
魔王「何だ?」
375: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:36:06.52 ID:m9/jnbfBo
勇者「影は……黒インクなんじゃないかって」
勇者「だから雨で消えるし、川は渡れないんじゃないか」
勇者「……で、影に食われると俺たちは消える……」
勇者「あと、あいつが『主役』とか『悪役』とかとか言ってた」
勇者「ってことはだ」
パラパラ……
勇者「ここに、魔王が書庫から持ってきた本が山積みになってるわけだが」
勇者「俺たちはこれといっしょなんじゃないか……?」
姫「どういうことです?」
勇者「……この世界は、一冊の本なんじゃないか」
勇者「創世主は、その作者……」
376: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:37:44.71 ID:m9/jnbfBo
勇者「……っていうのを、ちょっと思ったんだけどさ」
勇者「はは……さすがにあり得ないよな」
魔女「…………きゃはははははは!なにそれおもしろーい!
勇者って想像力あるんだねー、それ結構うけるよー」
竜人「すみません……強く殴りすぎてしまいましたかね、脳震盪か何かでしょうか……大丈夫ですか?」
騎士(やっぱ竜人さんがやったのかアレ)ゾッ
勇者「そうだよな、流石に妄想じみてるよな!ははは、忘れてくれ!」
魔王「いや……それほど荒唐無稽でもないかもしれない」
魔王「『創世記』によると空や海、太陽も星も雪も月も……命も死も、全て黒い水からつくられたらしい」
魔王「0日目に白い大地と黒い水を用意して、それから3日間で世界を創造したのだ」
魔王「白い大地というのが本のページだとして、黒い水がインクだとしたら、
万物黒い水から生み出されたというのも納得がいく」
魔王「それから、ワールドエンドとふざけた立て札があったあの白い砂漠……
あれは砂ではなく白い紙片で構成されていたのだ」
魔王「消された世界は白紙に戻される……インクで書かれる前の白紙に」
377: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:39:09.83 ID:m9/jnbfBo
魔王「間違えてしまった箇所は、インクで塗りつぶす」
魔王「そうしたら本に何が書いてあったとしても、
それがたとえ『山』という文字でも『人』という文字でも」
魔王「何が書いてあったかはもう読めなくなる……存在が消されてしまうのでは?」
魔王「だから本当に影がインクだとしたら、影に呑まれると消えるという不可解な現象も分かる気がする」
魔女「なるほどね。確かに、分かる気がするなー。説得力があるよ」
竜人「ええ、信憑性がありますね。さすが魔王様、私はその説を信じますよ」
勇者「お前らほんっとブレないね」
騎士「……確かにそう言われるとこれまでの謎に説明がつくような気がしますが。
しかし自分たちが本の中の存在というのは、実感がないというか」
姫「いきなり言われてもそう簡単に理解はできないけれど……」
姫「でもそう仮定して対策を考えた方がよさそうね。でないと先に進めないわ」
378: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:40:58.82 ID:m9/jnbfBo
忍「おなかすいたなぁ……」
妖使い「あははは!いやあ、おもしろいこと考えるな!」
妖使い「いいね、むしろそういうストーリーの本書いて売ればいいんじゃないのかい?あんまり売れなさそうだけど」
妖使い「俺もそういう馬鹿みたいな話好きだよ。信じることにする」
妖使い「……でもさ」パラパラ
妖使い「そうだとして、どうやって創世主を倒すんだい?」
妖使い「この本の登場人物も、そっちの本の登場人物も、普通本から出てきて作者を倒しに来たりしないだろ」
妖使い「そんなことになったら大混乱だ」
姫「……その手段を見つけなければいけないのね。
あまり時間は残されていないわ。急がないと」
姫「……ふう」
騎士「急がなければいけないのは承知ですが、少し休憩しませんか?
僕たちはずっと昨日から動きっぱなしで……」
魔女「そうだよ~ もう疲れちゃった。雨も降ったからまだ服濡れてるし。かわかしたいな」
竜人「一旦休憩した方が効率よさそうですね」
勇者「じゃ休憩ということで」
379: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:42:21.66 ID:m9/jnbfBo
忍「私もお腹すきました……あっ!?こんなところにおいしそうなハムがぁ」ガブ
勇者「いてえーっ!! 馬鹿そりゃ俺の腕だ!!離せ!」
忍「うへえ、このハム固い……若ー、何か切るもの持ってきてください」
妖使い「あいよ。刀」
勇者「おめーも渡してんじゃねえよ!護衛どうにかしろ!!」
魔王「妖使い。ちょっと話がある。こちらに来い」
妖使い「ん?いいけど」
魔王「……魔族が人間になってしまったのは、本当に君のせいではないのだろうな」
妖使い「あぁ、妖が人になってしまったら俺の商売あがったりだよ」
妖使い「君もあんなに強い魔力を持っていたのに、人になってしまって残念だ。チッ」
妖使い「俺じゃないよ。自分の首を絞めるような真似、するわけないじゃん」
魔王「そうか。妖を人にする秘術がどうのこうのと言っていたから、君が何かやったのかと思った。
疑って悪かったな」
妖使い「やろうと思ってもできないって」
妖使い「大陸の魔族が何人いると思ってる?それを全部人に変えるなんて、俺には絶対無理だよ」
妖使い「俺はむしろ魔王がやったのかと思ったけどね」
魔王「なに?」
妖使い「だって、人間になりたいと少なからず思ってたのは君じゃ?」
魔王「わ……私がそんなことするわけないだろう。大体方法も知らん」
380: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:43:07.09 ID:m9/jnbfBo
妖使い「無意識で魔法を使ったことは?」
妖使い「気づいたら周りが自分の魔法で大変なことになっていたことは?」
魔王「それは…………滅多にないが」
妖使い「じゃあ稀にあるってことだろう」
妖使い「君の心の底に隠していた願いが、無意識に魔法となって暴走したんじゃないのかなぁ」
妖使い「君だけじゃなくほかの魔族や人間も巻き込んで」
妖使い「魔王ほどの魔力があれば不可能でもないんじゃないの」
魔王「まさか……そんなはずは」
妖使い「ないって言いきれるか?」
妖使い「もし魔法がこの世界から消えなかったら、もっと被害は少なかっただろうね」
妖使い「……」
妖使い「君がやったんじゃないのか? 魔王」
魔王「……」
魔王「……わ……私が?」
381: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:43:51.94 ID:m9/jnbfBo
忍「若ーーーっ どこ行ったんですか?ご飯ですよ!!」
妖使い「あ、呼ばれてる。じゃ、俺は先に戻るから」
魔王「……」
魔王(私が?)
魔王(……人になりたいと……少しは思ったけど、本当に一瞬だけで、そんな……)
魔王(……)チラ
魔王(鏡……)
魔王(耳が人と同じ形。八重歯も尖ってない。翼も生えない)
魔王(目の色が赤ではない。よくある普通の色……人と同じ色)
魔王(人間……。同じ……)
382: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:44:37.77 ID:m9/jnbfBo
魔王「……」
勇者「あれ、魔王は?魔王どこに行った?」
忍「さっき若といっしょにいましたよね?探しに行きましょうか?」
魔王(……そうだな、私は人になりたいと確かに思ったことがある)
魔王(でももう彼と彼女の幸せを見まもると決めた)
魔王「…………こんなことになってしまったのが私のせいなら
私がリスクを冒してでも解決しなければ」
魔王(冥府に行かないと)
魔王(扉を開けに)
383: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:45:34.27 ID:m9/jnbfBo
ガサガサ……
魔王(魔女の荷物……確かここにさっき置いていた)
魔王(あった……)
魔王「…………」
魔王「魔女は薬でさえ不味くつくるのだから、毒は相当な不味さなのだろうな」
魔王「……背に腹は代えられん……いくか……」
魔王「………………っ」グイッ
ゴクッ ゴクッ ゴク
魔王「くっ……ぐ……この世のものとは思えないほどの不味さ……!」
魔王「う……うでをあげたな、まじょ……」
384: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:46:34.85 ID:m9/jnbfBo
* * *
魔女「ね、魔王様ほんとどこ行っちゃったの?ご飯だから呼んできて」
勇者「探しに行ってくるよ」
妖使い「さっきあっちの部屋で俺と話してたから、その部屋にいるんじゃない?」
勇者「魔王?」
勇者「あれおっかしいな。いない……あいつどこ行った?」
勇者「魔王!」
ガタッ
勇者「? 今の音……あっちか?」
勇者「……」ギィ
勇者「……!? おい!!どうした!?」
魔王「う……」
385: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:47:27.79 ID:m9/jnbfBo
勇者「しっかりしろ!大丈夫か……!?何が……」
カラン
勇者「! この瓶……魔女の?へったクソなドクロマークついてるから間違いない」
勇者「ま……まさか、あの洞窟で言ってた冥府がどうのこうのってやつを?」
勇者「馬鹿なにやってんだよ!!あんなの信じる奴があるかっ!!」
勇者「薬……!」
魔王「勇者くん……案ずるな。私は必ずもどってくる……」
魔王「必ず私が……なんとかしてみせる……!!」
魔王「だから……君はここで……っ ここで……」
魔王「……まってて………… ぅ……ぐ」
魔王「……」
勇者「魔王!!おい……うそだろ。目開けろよ」
勇者「脈が…………止まった」
勇者「………………………………っ」
386: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:48:19.77 ID:m9/jnbfBo
勇者「分かった」
勇者「もう冥府でもどこでも行ってやるよっ!!」
勇者「勝手に一人で決めやがって!!」
勇者「毒薬……!くそ、全部飲み干されてるか」
勇者「……っ」
勇者「許せっ」
387: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:49:13.37 ID:m9/jnbfBo
* * *
魔女「……勇者も遅いなあ」
忍「ミイラ取りがミイラ?」
騎士「何かあったのでしょうか。僕も探しに行ってきます」
姫「もうこの際皆で行きません? なんだか……一人ずつ姿を消すみたいで怖いわ」
魔女「そして誰もいなくなった」
姫「やめて?」
魔女「やーっと服乾いた。これだから雨ってきらい」
竜人「でもそのおかげで私たちは間一髪で助かったんですよ」
姫「……そのことなのですが、私はちょっと不思議です」
姫「創世主は言わば最上位の神でしょう」
姫「なら、雨なんて降らさなければいいのに。それくらい簡単にできそうなものです。そう思いません?」
竜人「確かに不自然なところは多々ありますね。
そもそも、影などまどろっこしい手段とらずに、一瞬で世界など消せそうなものですが」
忍「……神様にもできないことはあるんじゃないですか?」
妖使い「ま、そのおかげで今俺たち助かってるわけだけど。神が万能じゃなくて助かったね」
妖使い「そんなんだったらすぐ終わってしまうよ」
388: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:50:06.07 ID:m9/jnbfBo
騎士「そうですよね。本当九死に一生を得たって感じ……」ギィ
騎士「でぇーーーーーーーー!? 勇者さん!!魔王さん!!どうしたんですかーーー!?」
竜人「なっ!? これは……!? 魔王様!勇者様!しっかりしてください!!」
忍「し、死んでます。心臓が動いてませんよ」
姫「どうして……?影が来たというの? ……ん?これは?」
魔女「…………!?」
魔女「あ……あ……あたしのつくった極悪ゲロニガ毒薬…………」
魔女「ひとつだけまだ荷物の中に残ってて……ちゃんとしまったはずなのに、なんで魔王様の手にあるの?」
騎士「毒薬……空ですね」
魔女「……まさか、二人は……毒を飲んで?」
竜人「魔王様も勇者様も、外傷は見られません。十中八九そうでしょうね……」
389: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:51:02.30 ID:m9/jnbfBo
姫「一体何があったというの?これは……まさか二人が自ら命を断つなど」
妖使い「……」
妖使い「そんなメンタル弱い二人には見えなかったけど、いろいろ参っちゃったのかな」
妖使い「自殺か……悲しいな」
忍「まじっすか……若、どうしましょう」
妖使い「どうするもこうするもないよ。どうしようもない」
390: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:52:05.21 ID:m9/jnbfBo
* * *
冥府
魔王「……うーーー……。 ハッ」
魔王「ここはこの間来た……そうだ、冥府だ」
魔王「ゲホゲホ……まだ口の中に毒のあの味が残ってて、不愉快極まりない」
魔王「……よし、まずはあの鍵守という子どもを探して、扉を開けないと」
魔王「頑張ろう」
ザカザカザカ
魔王「! 向こうから人影が」
魔王「鍵守かな」タッ
魔王「……」
魔王「……?背が高いな。あの子どもではないのか……?」
魔王「!?」
魔王「勇者くん……!?」
勇者「てめぇぇぇ……」ザカザカ
魔王(しかもすごく怒っている)ギク
魔王(こ、こわい)ダッ
勇者「逃げるな」ダッ
391: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:53:16.06 ID:m9/jnbfBo
勇者「お前ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
勇者「なにしてんだよっ!!!!!なに毒飲んで自殺計ってんだよ!!!!」
勇者「なんでお前が死ぬところ二度も見にゃならんのだ!!!!」
魔王「何故勇者くんまでここに……」
勇者「冥府に来るって決めたなら俺に一言断ってからにしろよ!!!!俺も行くわ!!!」
勇者「どこでもいっしょに行ってやるよ!!!!!勝手に一人で行くんじゃねえよ!!!!」
魔王「……」
魔王「……一人でできる!ちゃんと覚悟はしてきた。私一人で解決して見せる」
魔王「……何故ここに来たのだ!この大馬鹿者!全くもう!」
魔王「…………もし創世主を何とかして、世界滅亡を止められたとしても」
魔王「冥府に一度来てしまった以上、もうあちらの世界には戻れないかもしれない……」
魔王「……ばかか……君は。 どうするんだ……」
392: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:56:14.13 ID:m9/jnbfBo
勇者「お前こそ馬鹿か!!!ほんっと馬鹿!!!」
勇者「もう一度あんな真似してみろ、次は絶対許さないからな!!!!」
勇者「ふざけんな!!!!!ここに来たら戻れないかもしれないのはお前も一緒だろ!!!」
勇者「大体、今の魔王に何ができるんだよ。戦闘力-5000だろ!!!!
なのになんでそんな自信満々なんだよ馬鹿かよ一人で何ができんだよ!!!」
魔王「できるもん!! 私に全部まかせてくれれば大丈夫なのにっ!ばかっ」
勇者「まかせられるかっ!!!だからっ意地張らないで頼れって言ってんだよ!!!!」
勇者「このやろーーーーーーーーーっ!!!!心臓止まるかと思ったわ!!!今もう止まってるけど」
勇者「俺の気持ちも ちったぁ考えろ この底なしアホ魔王ーーーーーーーーーっ!!!!!」
魔王「ぃ痛いっ 頬のびるっ」
魔王「……うう……。 ……ん? ……勇者くん……泣いてるのか」
勇者「は????????? 泣いてちゃ悪いか?????」
勇者「泣いちゃ悪いってのかよ!!!!!誰のせいだと思ってんだよ」
勇者「お前だよ!!!!!!!!」
勇者「何か言うことは?」
魔王「…………すまなかった」
勇者「何か言うことはっ!?」
魔王「えっ。 ご……ごめんなさい」
勇者「ちげーーだろ!!!もうしませんだろ!!!」
魔王「もうしませんっ」
393: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:58:47.23 ID:m9/jnbfBo
勇者「勘弁しろよ……ハァ」
魔王「……しかし、どうやって冥府に?」
勇者「どうやってって…… け、剣だよ」
勇者「剣でこう腹をぐさっとな。ハラキリだ。ハラキリ……痛かったぜ」
スタスタ
鍵守「えっ……剣でしんじゃったの?」
鍵守「どくの方が、いろいろよかったんだけどな……」
勇者「だれだ?」
鍵守「冥府の番人だよ……。あなたが勇者」
鍵守「もし世界崩壊を止めることができたら、ボクがせきにんもってふたりを元のところにかえします」
鍵守「そのとき、毒の方がつごうよかったんだけど……」
魔王「それは困ったな。どうしよう……勇者くんが剣で死亡してしまったのだが」
勇者「えっと、いや……剣という名の毒死かもしれない」
魔王「剣で死んだ場合、どうなる……?生き返ることは無理なのか?どうしよう……」
勇者「あのさ、もしかして剣じゃなくて毒だったかも……」
魔王「でも毒は私が飲みほしたのだ。それはあり得ないではないか」
鍵守「剣などの外傷でしんだばあい、いきかえったさいに
のたうちまわるほどの痛みをともないます」
394: 名無しさん 2014/06/23(月) 20:59:48.19 ID:m9/jnbfBo
鍵守「いきじごくといっていい痛みを経験することになります……
もういっそころしてくれと言いたくなるような いたみが」
魔王「…………」
勇者「そ、そんな青ざめなくても、俺は大丈夫だ。
いや、剣でやればよかったなと今思うが、あのときは咄嗟に……」
勇者「まあそんなことは創世主をどうにかしてから考えようぜ!!
で鍵守、俺たちは何をすればいい?早く話してくれ!!」
鍵守「月へ」
鍵守「月にのぼって」
魔王「月?」
鍵守「あそこにみえるでしょう」
鍵守「ここには、いつも月がありません……それは月がセカイをつなぐトビラだから」
鍵守「いつかくるかもしれなかった日のための……今日のためのトビラ」
鍵守「ほんものの、トビラです……」
鍵守「彼に会いにいってね」
395: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:00:36.68 ID:m9/jnbfBo
鍵守「カギは、これ」
鍵守「このセカイでボクだけがもっている、あちらのセカイのもの」
勇者「……これ、おもちゃの鍵じゃないのか?」
鍵守「そうでしゅ……かんだ。そうですよ」
鍵守「……このセカイをすくってください……さあトビラをあけて」
鍵守「勇者。魔王」
カチャ……。
バタン。
396: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:01:06.26 ID:m9/jnbfBo
お兄ちゃんなんかだいきらい。
397: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:01:36.57 ID:m9/jnbfBo
『創世記』
今日は雨が降っていた。
空がどんよりと曇っているのはいつもだけど、雨が降るのは久しぶりだ。
家に帰ると汚れた窓に妹が張り付いて、外の雨を見ていた。
体が冷えるから窓から離れろと言ったのに聞かない。
結露して曇ったガラスに指で書いた自分の名前を得意げに見せてきたが
綴りが2か所も間違っている。
固いパンを二人で食べた後は、いつも通り妹に読み書きを教える。
僕も学校に行ったことはないからそんなにうまい方ではない。
街の外れにあるボロい教会のイカレシスターに教えてもらったんだ。
だけど病気で滅多に外に出れない妹は、歩いてほんの少しの教会にだって気軽に行くことはできない。
だから僕が教えてやる。
398: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:02:17.59 ID:m9/jnbfBo
もうすぐ妹の誕生日だ。
かと言ってケーキやおもちゃを買ってやれるわけではない。
そんな風に余分に使える金などないに等しい。
でもできれば妹の欲しいものをあげたい。
家から出られず、ポンコツの体をもって生まれてしまった妹の願いを叶えてやりたい。
訊くと本がほしいと言った。教会にあるような本。
僕が仕事に行っている間に、それで読み書きの練習をしたいってさ。
本なら教会にたくさんあった。
みんなが「不必要なもの」と考える本だ。
みんなは経済の本とか、数字の本とか、そういうのが「必要な本」で、
それ以外の「不必要なもの」や「ゴミ」をあのシスターは教会に集めている。
でも教会にあるのは、ページが抜けおちていたり、汚いシミがあるようなのばっかりだったから
できればきれいな新品の本をあげたい。
明日仕事帰りに本屋に行ってみよう。
399: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:03:06.41 ID:m9/jnbfBo
― ― ― ― ―
本はどれも高価だった。
一番値段が安いのでも、買ったら今月の薬に使う金がなくなってしまう。
仕方なくノートとインクを買った。
白いノートと黒いインク。二つあわせても本の半分の半分の値段。
帰り道、ゴミ置き場に、誰かが捨てたオモチャの箱があった。
まだそんなに汚れてもいないし、壊れてもいない。
小さな鍵も中に入っていた。
僕はそれも持ち帰ることにした。
妹の、7歳の誕生日。
オモチャの箱も鍵も、一生懸命掃除をするとなかなかきれいになった。
でもこんなものしかあげられなくて悲しくなる。
そんなことをしている間に妹が目を覚ました。
おめでとうと言うと、ありがとうと笑った。
本が高くて買えなかったと言うと、謝られた。
「べつにいいよ。ごめんね」
代わりにいっしょに物語をつくって、それを僕が本にすると言うと
そっちの方がおもしろそうだと言ってくれた。
400: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:04:15.53 ID:m9/jnbfBo
― ― ― ― ―
どんな世界がいいだろうか。
きれいな空があるといい。
この街は僕たちが生まれるずっと前から灰色の雲に覆われている。
でも本当は、雲の向こうには青い空があるそうだ。
雲がなければ、夜には宇宙の色がそのまま見えるそうだ。
空気がもっときれいなら、雲も消えるだろうし、妹ももっと楽に息をできるはずなんだけどな。
それから海。
この惑星の半分以上を覆っていた塩水。
写真でしか、見たことない。
「いつか行ってみたいな。きっと街の外の砂漠を抜ければ、海があるのかもしれない」
「いきたいね……」
「そこにおかあさんとおとうさんもいるかもね」
青い空の下、青い海の中、家族4人でいる様子を思い浮かべた。
幸せな光景だった。
401: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:11:35.41 ID:m9/jnbfBo
― ― ― ― ―
それから太陽と星と雪をつくったよ。
全部見たことないから想像。
太陽がでてれば今よりずっと暖かくなるそうだ。
そしたら上着もマフラーも必要ないな。
妹も風邪をたくさんひかなくなるかも。
星は宇宙にある別の惑星らしい。
あんまり遠く離れてるから小さく見えるんだって。
昔の人は星座なんてものもつくってたって聞く。
夜空に穴を開けたみたいにきれいなんだろう。
雪もいつか見てみたい。
たまに降る濁ったネズミ色のべちゃっとした霙じゃなくて
真っ白な雪が積もるところを見てみたい。
妹ははしゃぐだろうな。
太陽の国と、星の国と、雪の国を今日は考えた。
僕たちの理想の国。海に浮かぶ小さな大陸。
街にある偽物の植物なんかじゃなくて、本物の花や木や草があるところ。
車も走ってないから排気ガスもない。灰色の雲に覆われてない世界。
たぶんいまは、惑星のどこを探したって存在しない、夢の大陸。
402: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:13:53.17 ID:m9/jnbfBo
― ― ― ― ―
それから月もその世界にはあることにしたよ。
暗い夜が怖いって妹が言うから。
さて本だから主人公がいなくちゃいけない。
やっぱり正義の味方が悪い奴をやっつけるのがいいと思った。
主人公、勇者。
悪役、魔王。
勇者が悪い魔王を倒しに行く本にしよう。
立ちふさがる悪の手下たちをバッタバッタをなぎ倒し、勇者は進む――。
「3日間にわたるたたかいの末、勇者はついに悪い魔女を倒したよ。
魔女はつくった毒薬で村の人々を苦しめていたんだ」
「魔女の次は竜の谷へ勇者は向かった。
そこに住んでるドラゴンに、王国の姫がさらわれてしまったんだ」
「勇者は聖なる山のてっぺんにあるドラゴンスレイヤーを引き抜いて、
それを引っ提げて竜の谷へ……」
403: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:14:53.99 ID:m9/jnbfBo
「ねえ、お兄ちゃん。シスターさんのところにある本って」
「どうしていつも魔女と竜はわるものなの?」
「どうしていつも魔王は勇者のてきなの?」
「どうしてって……悪い奴がいないと盛り上がらないだろ」
「でも、やだな。みんななかよしがいいな……」
「お兄ちゃん。せっかくきれいな空と海があるセカイなんだから、みんななかよくしようよ」
「……それも、そうか」
妹の誕生日プレゼントだし、妹がすきそうな話にしたかった。
勇者は剣を持ってるけどあんまり使わない。ちょっと抜けてて、でも明るい。よくしゃべる。
魔王は角が生えてて青色の肌をした怖いおじさんじゃなくて、妹と同じ年くらいの女の子にした。
めったに外にでれないから、妹には同じ年の友だちがいない。
僕くらいしか喋る相手がいない。
だからせめてあっちのセカイに妹の友だちをつくってやりたかったんだ。
404: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:16:13.32 ID:m9/jnbfBo
それから夜寝る前に僕は思いつくまま妹に勇者と魔王の話をして
空いた時間にそれをノートに書いてった。
どこかで聞いた物語のストーリーや展開のつぎはぎ。
ご都合主義だらけの変な話。
それでもそれを話すと、妹が楽しそうだったから
まあ、いっかって。
こんなの読むよりもっと役に立つ実用書を読むべきだってみんな言ってる。
現実にはハッピーエンドなんて存在しないから。
夢を見てる暇があるなら、金を稼いだり、そのための勉強をするべきだって。
僕もそう思う。
金がないと何もできない。金はあればあるだけいい。
金があれば、妹の病気も治せるし、毎日お腹いっぱい食べれる。
金があったらお母さんとお父さんも出て行かなかっただろう。
でも妹が嬉しそうに僕が書いたノートをめくっているときだけ……
ちょっとだけ、本当にそうなのかなって思うよ。
405: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:16:54.12 ID:m9/jnbfBo
― ― ― ― ―
最近、少しだけ妹の咳が多くなっている気がする。
夜ずっと咳が止まらず明け方まで続くこともある。
やっぱりこの薬だけではだめなんだろうか。
もっと効き目のある薬も売ってるけど……高い。
入院させたいけど、保険に入ってないし、そもそもそんな金もない。
でも明日には……明後日には、遅くても来週までには
きっと妹も以前のような体調に戻るはずだ。今、ちょっと調子が悪いだけ。
きっとそうだ。
406: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:17:44.58 ID:m9/jnbfBo
― ― ― ― ―
妹が熱をだした。38度を超える高熱だった。
ずっとそばにいてやりたかったけど、仕事は休めなかった。
仕事を終えて、工場長の怒鳴り声を無視して走って帰った。
妹は眠ってただけだったけど、一瞬死んじゃってるように見えて
足に力が入らなくなって膝をついてしまった。
「ゆめみてたよ……。森があって……きれいな空で」
「太陽がきらきらしててあったかかった……お兄ちゃんが丘にいて」
「勇者と魔王もそこにいて、お父さんとお母さんもいて、みんなであそんだよ」
熱は数日後下がった。けれど咳をする頻度は減らなかった。
重たい咳が増えた。夜通し咳をするようになった。
苦しそうだった。
何もできなかった。
407: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:18:48.30 ID:m9/jnbfBo
― ― ― ― ―
シスターみたいに神様を信じたことはなかったけれど
いつも気づけば手を握りしめて神様に祈っていた。
どうか妹が死んでしまわないようにって。
せっかくノートに書いたのに、夜寝る前に決まって
妹は僕に話をしてくれと頼んできた。
一応、僕がいない間にノートは見てるみたいで
ちょっとは読み書きも上手になっていた。
たまに字の書き間違いがあるけれど。
いつかちゃんと学校に行かせてやりたいな。
僕の分もいっぱい勉強して、いろんなことを知ってほしい。
でも、そんな日は本当に来るのかな。
枕をしきりに隠すので見てみると赤黒いシミがあった。
咳をしていて血を吐いたらしい。
次の日、仕事中にうっかり泣くと工場長に怒鳴られた。
妹じゃなくてこいつが死ねばいいのに。
なんで僕の妹なんだ?
408: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:19:25.01 ID:m9/jnbfBo
― ― ― ― ―
仕事から帰ると妹が、あの誕生日にあげたオモチャの鍵をもてあそんでいた。
箱に何かをいれて、鍵をかけたらしい。
何をしまったのかと聞くと、秘密だと言って教えてくれなかった。
気になったけど追及はしなかった。
最近、ふと気付くと妹が遠くを見つめていることが多い気がする。
その瞳がぞっとするほど澄んでいて
僕は妹がどこか遠いところに行ってしまうんじゃないかと怖かった。
声をかけるといつもみたいにちょっと笑った。
食欲が落ちて、腕が枯れ木みたいに細くなってしまった僕の妹。
まだ手も足も小さくて、これから大きくなるはずなのに。
409: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:20:10.90 ID:m9/jnbfBo
― ― ― ― ―
神様に祈ることより、別のものに祈ることが多くなった。
今日は僕の誕生日だった。
食堂の○○がこっそり高いパンや食べ物をくれた。嬉しかった。
でも帰り道、奪われてしまった。
殴られた頬がぱんぱんに腫れて、蹴られた腹はドス黒い痣になった。
口の中は鉄の味でいっぱいになった。鼻血を出したのなんて久しぶりだった。
――もし勇者がここにいたらやり返してくれただろう。
奪われたパンも取り返してくれただろう。
妹はどんどん顔色が悪くなった。
咳も止まらなくなった。
もういつも買っていた薬はあんまり効き目がないみたいだった。
パンひとつすら全部食べられなくなった。
元から小さい体が、どんどん小さくなっていく。
――もし魔王がいたら、魔法で妹の病気なんてすぐ治るに違いないのに。
魔法があったら、こんな苦しい思いさせずに済むだろう。
魔法があったら
妹は死なないのに。
410: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:20:48.55 ID:m9/jnbfBo
― ― ― ― ―
僕はずっと頑張っていた。
たくさん金を稼ぎたかったから仕事を頑張った。
いつか戦争で使うための武器をつくる工場で
怒鳴られながら、踏みつけられながら、ずっと頑張っていた。
妹を死なせないように必死に頑張っていた。
貧困区の隅の小さなアパート。
隙間風の通る灰色の部屋で、妹といっしょに夢を見ることだけが幸せだった。
「ただいま」と言って扉を開けると
「おかえり」と言って迎えてくれることだけが嬉しかった。
僕はいつか報われるはずだってずっと思っていた。
411: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:22:15.12 ID:m9/jnbfBo
― ― ― ― ―
妹がしんた゛
8さいのたんし゛ょうひ゛
412: 名無しさん 2014/06/23(月) 21:23:03.71 ID:m9/jnbfBo
『終末記』
頑張ったって報われることなどない。
魔法なんてものはない。奇跡もない。
「勇者」も、「魔王」も、僕たちを救ってくれるものは何もないんだった。
そんなことは分かっていたはずなのに。
ノートの最後のページの「ハッピーエンド」をインクで塗りつぶした。
全部ぐちゃぐちゃにした。
こんなもの、なんにもならなかった。
もういらない。見たくもない。
あいつが大事にしていたオモチャの箱にそれを入れて鍵をかける。
鍵は、墓にいっしょにいれた。
ずっと大切そうに首からぶらさげていたから、そのまま。
生きる意味はなくなった。
それからずっと、亡霊みたいに暮らしてる。
多分これから一生。
418: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:08:29.01 ID:UmxEe4WZo
シスター「アブラカタブラ、アバダケダブラ、チチンプイプイ」
シスター「さあ悪魔よ、我が呼び声に応え今こそ来られたし!!」
シスター「チッ……こねーな」
シスター「やっぱ本物の血じゃないとだめなのか?さすがにさわりたくねーなぁ」
シスター「とりあえずこの魔法陣は消すか……」
シスター「雑巾雑巾……」
ドサッ
「ぐぁっ」
シスター「あぁん?」クル
勇者「いてて……ここは? あんた誰だ?」
シスター「…………」
シスター「……た……」
勇者「え?」
シスター「……ほんとにきた……」
シスター「……悪魔はいたのか……」
勇者「は?」
419: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:09:45.28 ID:UmxEe4WZo
―――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
勇者「だから!何度も言うが俺は悪魔じゃなくて人間だ」
シスター「いやいや、じゃどっからお前現れたわけ?さっきまでこの部屋には私しかいなかったのに
振り向いたら悪魔召喚の魔法陣の上にお前が立ってたんだぜ」
シスター「悪魔しかいねーだろ」
勇者「えっあれ魔法陣だったのか?ぐちゃぐちゃだったからただの落書きかと」
シスター「失礼な悪魔だな」
勇者「だから違うっつの。俺の姿かたちを見ろよ。どこに悪魔要素がある」
シスター「でも変な格好してる。とても一般人には見えんな。
そんな馬鹿でかい剣なんて腰にぶらさげてんのは、役者か悪魔くらいのもんだろ」
勇者「変な格好……?普通だろ。俺は役者でも悪魔でもないよ。
悪魔と似たような知り合いはいるが、俺は勇者だ」
シスター「で悪魔に頼みがあるんだけど」
勇者「人の話きけよ」
シスター「命と引き換えに何でも願い叶えてくれんだろ?」
シスター「ある会社を潰してほしいんだよね」
勇者「カイシャ? なんだそれ……?」
シスター「んー……。お金を稼ぐために存在してる組織。営利団体。かな?
まあ見せた方が早いか。外いこーぜ」
420: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:10:36.93 ID:UmxEe4WZo
ブロロロロロ ……
パッパー ゴトンゴトン……
勇者「……………………………………」
勇者「な……なんだここ……?」
勇者「……変な馬が走ってる……すげえ速い……」
シスター「あれ車っていうんだよ。悪魔にはカルチャーショックでかいんかな」
勇者「なんでみんな変な格好してんだ」
シスター「私的にはお前の方が変な格好だけど」
勇者「ごちゃごちゃしててうるさいな……それに、空気が……なんか臭い。ゲホッ」
シスター「もう慣れちまったから何も感じないよ。
気になる奴はマスクしてるけどあんなもんじゃどうにもならねーな」
勇者「あとなんであんなにたくさん立て札が?見てて目が痛くなる」
シスター「ありゃ広告と看板だよ。そろそろ質問責めやめてくれる?自分で考えな」
勇者「うう……なんだここ。俺は確か魔王と扉を抜けて」
勇者「確か鍵守は彼に会えって言ってたな」
勇者「ここは俺たちの世界とはまた別の世界……なんだろうな。
創世主が住んでる世界、なのか」
勇者「……ここにいるのか、あいつが」
勇者「……つーか魔王は?どこいった」
勇者「なあ、俺といっしょに女の子がいたはずなんだが知らないか?」
シスター「ふうん?しらね―けど。 魔法陣の上に立ってたのはお前一人だけだった」
421: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:11:40.86 ID:UmxEe4WZo
シスター「お、ここ止まって。これ見ろ悪魔。この会社を潰せ」
勇者「箱……? なんだこれ!?中にどんだけ小さい人間が入ってんだよ!?」
勇者「魔法か?」
シスター「魔法じゃあない。詳しい仕組みは私にも分からん。テレビっつーんだよ」
シスター「いま映ってる大企業潰してくれ。てっぺんに飾ってある緑色のえらそうな旗を焼いてくれ」
シスター「むかつくんだよ、ここのボス。きたね―商売しやがって」
勇者「これが魔法じゃないだと? じゃあ何だって言うんだよ……すげえ動いてるけど……」
勇者「頭痛くなってきた……もうわけわからん」
シスター「おい聞いてるか?この会社だぞ、間違えんなよ」
シスター「この会社はな、この街の外、砂漠を越えた先の都市にある」
勇者「はあ……そっすか。じゃあここはどこなんだ?」
シスター「ここは街の一番隅っこにある貧困区。ゴミ捨て場みたいなもんだ」
シスター「あっちにある大きな橋の向こうが一般区。豊かな連中が住んでるよ」
シスター「一般区が中央区をぐるっと囲んでるから、一般区を超えると中央区。
私が想像もつかないくらい豪華な暮らしをしてる連中がいる」
シスター「都市に行くには中央区の駅へ行って列車に乗るしかないんだけど、
この切符代が馬鹿だかい。貧困区の連中にゃとても買えない」
シスター「だからお前に頼んでる。あの会社を潰してこい」
422: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:12:11.10 ID:UmxEe4WZo
* * *
工場長「またヘマしたのか!!なんでお前はそう覚えが悪いんだ!?」
少年「すみません」
工場長「謝りゃいいと思ってんじゃねえだろうな!クビにするぞ!」
少年「すみません」
工場長「1時間で全部仕上げろと俺が言ったら何があろうと仕上げるんだよ!!」
少年「すみません」
工場長「てめーのせいで工場全体が不利益を被るんだ、わかってんだろうな」
少年「すみません」
工場長「今月の給料は減らす。文句はねーだろうなクソガキ」
少年「すみません」
423: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:13:05.39 ID:UmxEe4WZo
○○「……よっ。今日はなに食べる」
「おう坊主。こっち来いよ」
「俺も今日あのジジイに怒られちまったぜ、やんなるよな」
少年「……ああ」
少年「うん。別に」
少年「どうでもいいよ」
○○「……」
○○「妹さん亡くなって、もう1年……か?」
少年「そんな経ったっけ」
○○「まあ、なんだ、その……元気だせよ。 な?」
少年「元気だよ」
○○「……そうか? ならいいんだけどよ」
「なあおい聞いたか今のラジオ?」
「あの連続殺人犯が南に護送中に逃げたってよぉ。せっかく捕まったのにな」
「それ結構前の話じゃねーか? こええなぁ。物騒な世の中だぜ」
「ま、殺人犯がいてもいなくっても、クソみたいな街ってことは変わんないけどな」
○○「殺人犯ねぇ……。こええな」
少年「……ごちそうさま」
○○「もう行くのか? ああ、じゃあな……」
424: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:13:55.70 ID:UmxEe4WZo
スタスタ
少年「……」
少年「……」
キキーッ!!
警官「ちっ! おいあぶねーぞ坊主!!ふらふら歩いてっと引かれちまう!!」
後輩「や、先輩の運転も荒すぎますから」
警官「バッキャロー荒くもなるっつーの!!ちくしょう!なんで俺がこんな貧困区のパトロールなんかせにゃならんのだ!!」
後輩「先輩が、ずっと追っていてやっと捕まえた護送中の連続殺人犯を南で取り逃がしたからです」
後輩「そのヘマのせいで殺人課の刑事やめさせられて、ここの交番に配属されたからです」
後輩「中央区勤務でエリートだったのにも関わらず貧困区に配属になって、奥さんや子供に逃げられたのもそのせいです」
警官「うるせーっ!!いちいち冷静に返すんじゃねーよ!!!」
後輩「先輩が訊いたんじゃないですか」
警官「うるせーっ!!この童貞!!殴るぞテメーッ!!」
後輩「童貞じゃありません。警官がそんな言葉づかいやめてください。だから奥さんと子どもに逃げられるんですよ」
警官「そのことはもう言うな馬鹿野郎!!絶対復縁してやるクソが!!」
425: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:15:22.65 ID:UmxEe4WZo
警官「あいつは俺が絶対捕まえてやる。あいつは俺にしか捕まえられねーんだ」
後輩「一度都落ちした先輩にそんなことできるんですかね」
警官「できるに決まってんだろドチキショウ!!」
警官「おらおらどけガキども!!!車道に飛び出すんじゃねー邪魔だオラァ!あぶねーぞ!!」
426: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:15:57.65 ID:UmxEe4WZo
少年「……」
少年「……」
「はい、これ」
少年「……?」
花屋の女「あげるよ。間違って切っちゃったんです」
少年「……別にいらないよ」
女「偽物の花でも、誰かにプレゼントされると嬉しいって、人間は思うものでしょ?」
女「そう思うはず」
女「なんだか君が暗い顔をしていたし、私も間違って切っちゃったことばれたら怒られるから、ちょうどいいじゃない」
女「受け取って」
少年「……じゃあ」
少年「……どうも」
女「いえいえ」
427: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:16:39.25 ID:UmxEe4WZo
アパート
少年「こんなのもらっても……な」
少年「飾ってもしょうがないし」
少年「捨てるか」
ドンドンドン!!
男「おい。いるのは分かってる。出て来い」
少年「……!」
少年「……帰れ!何度言われても僕はどこにも行かない」
男「立ち退いてもらわないと困るんですよ。こっちも遊びでやってるんじゃないんでね」
少年「急に現れて家から出て行けなんて勝手なことを言っておいて……」
少年「ここは僕の家だ。……僕たちの家だ」
男「もうここら一帯のほとんどの連中が立ち退いたんだぜ。あとはお前さんと少しだけだ。もう諦めろよ」
男「工事ももうすぐはじまる予定だ。そろそろ本格的に立ち退いてくれねーと困るよ」
男「はぁ。ここらへんで言うこと聞かないと、俺より怖い奴らが来るぜ。俺はまだ優しい方だ。
うちのボスはそりゃあ金のためなら何でもやるからな。ガキでも容赦しねえぜ」
男「……また次は誰かが来る。そんときまでにどっか行っとけ」
少年「……」
少年「ここを出たっていくところなんかない……」
少年「この家だけは……」
428: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:18:22.05 ID:UmxEe4WZo
* * *
魔王「…………」
魔王「…………」
魔王「……ふう……いったん落ち着こう」
魔王(見慣れぬものばかりだ。どう考えても別世界……ここに創世主がいるのか)
魔王(人が多いな。どうやら魔族はこの世界に存在しないようだ。もしくはここが人だけの街なのか……)
がやがや がやがや
魔王(言葉は分かる。意志疎通は問題なさそうだ)
魔王(だが服装……かなり私はここで浮いているな。仕方ない)
ジロジロ……
魔王(視線をものすごく感じる。立ち止まっているより歩き続けていた方がよさそうだ)スタスタ
魔王(勇者くん……どこにいるのだろう)
魔王「わっ……?」
ビュン
魔王「なんだ、あの箱は? 馬車ではない。人が中にいた」
魔王「それに、こ、この中から人の声がする小さな箱は……?」
「ちょっと!うちの店のラジオに勝手に触んないでおいとくれ!」
魔王「らじお?」
魔王(魔族はいないのに魔法はあるのか……。しかし一体どんな呪文の魔法なのだろう)
魔王(見たところこの街には魔法が溢れかえっているようだが、どれも全然仕組みが分からないものばかり。
この世界はかなり魔法が発展しているようだ)
魔王(すごい……。落ち着いたら色々ここで魔法を学びたいな。こんな街があったなんて……)
429: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:18:56.54 ID:UmxEe4WZo
魔王(……でも)
魔王(魔法が発展している割には……街の様子がどうも変だな。
皆貧しい身なりをしているし、道のいたるところにゴミが落ちているし)
男「……へへ」
女「ひそひそ……」
魔王(なんだか嫌な感じだ)
魔王(治安はよくないようだな。これほど魔法が発展しているのならもっと治安が良くてもよさそうなものだが)
ドゴッ
「おい……持ってんだろ?出せよ、金」
「持ってない……」
魔王「……ん?」
430: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:24:34.75 ID:UmxEe4WZo
男A「ウソつくのはやめろよ。今持ってる金全部わたしゃいいんだよ。
お前、あっちの工場で働いてるんだろ」
少年「……金が欲しけりゃ自分で働けよ。盗みばっかしてないで」
男B「お前だってここらにいるって時点で、俺らと同じようなもんだろ!はは!」
少年「僕はお前らとは違う……」
男A「あんだと?生意気言うじゃねーか。スラム街の小僧が」
少年「それに本当に今は金がない。殴りたきゃ殴れよ」
男B「……ふん。じゃあお望み通り」
魔王「待て。何をしているのだ」スタスタ
魔王「大の男が子どもに寄ってたかって、恥を知れ」
男A「あぁ?誰だてめえ。邪魔すんじゃねぇよ」
少年「……?」
魔王「……君……どこかで私を会ったことがないか?」
少年「はあ……? ねえよ」
少年「誰だよアンタ。どっか行けよ」
男B「お前、そのガキの知り合いか?だったらそのガキの代わりに金出せよ」
少年「いや、知り合いじゃない。誰だよほんと」
魔王「……これを持って行け」ジャリッ
少年「おい!?」
431: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:27:04.49 ID:UmxEe4WZo
少年「なに余計なことしてんだよ!」
男A「ん?なんじゃこりゃ。おいこれどこの国の金だよ?こんなんじゃ使えねーな」
魔王「……あ、そうか。では私も金などない」
魔王「貴様らと同じ一文なしだ。この少年も金を持っていないと言っている。
私たちからは金を巻き上げることはできんぞ。大人しくどこぞへ行け」
魔王「こんな真似をしていないできちんとした方法で金を稼ぐことだ」
男A「金がないくせにやたらと偉そうだぞ、この女……」
男B「俺らと同類のくせして……」
少年「おい、変なこと言ってないでどっか行けよ」
少年「こいつらは殴ってれば気がすむんだよ。余計なこと言うな」
魔王「彼らは気がすむかもしれないが、君は気がすまないだろう。殴られれば痛いはずだ。何故許容する」
少年「別に……死にはしない。ずっと我慢してればこいつらも飽きてどっか行くんだ。
だから早くどっか行けよ。余計な世話だ」
少年「僕を助けたつもりなのかもしれないけど、僕はどうだっていいんだ こんなの」
少年「どうでもいい」
432: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:28:29.86 ID:UmxEe4WZo
魔王「どうでもよくない」
魔王「どうでもいいことなんて何一つないだろう」
少年「……アンタに何ができるんだよ。早く行かないとアンタが」
男A「ん?そういえばお前、高そうな服着てるな……中央区のお嬢様か?
なんでそんな奴がここにいるのか知らないが、金持ってないってのはうそだろ」
魔王「先ほど渡したもので全てだ。一文なしだ。路頭に迷う予定だ」
魔王「悪いか?」
男A「だからなんでそんな自信満々に……!?」
男B「おい、こいつの服を売ればそれなりに儲けそうじゃあないか」
男A「確かにな」
少年「ほら、だから言っただろ。さっさとどっか行けよ、頭いってんのかアンタ」
魔王「ふざけたことを。後悔するのはそちらの方だぞ」
魔王「そこから一歩でも動いてみろ。泣いて許しを乞いたくなっても知らんぞ」
男A「なに……!?」
少年「え……?」
少年(まさか……銃とか?それとも武術?)
少年(全然強そうに見えなかったけど、何か奥の手があるのか……?こいつ何者だ?)
男B「ふん……ハッタリだろ!」
魔王「早合点はよくないぞ。後で自分の首を絞めることになる」
男A「こいつのこの様子……何かあるみたいだぜ……慎重にいかねえとな」
433: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:29:20.17 ID:UmxEe4WZo
魔王(……あ、杖を持っていなかったな)
魔王(まあいい。多少手加減ができなくなるだけだ。彼らに少々灸を据えねばな)
魔王(…………あれ?)
魔王(……あ。いま魔法が使えないのだった)
少年(何がはじまるんだ……?)
魔王「少年」
少年「えっ……?」
魔王「逃げるぞ」
少年「………………………………は?」
男A「おい逃げたぞあいつら!!!」
男B「やっぱりハッタリだったんじゃねえか!!コケにしやがって!!」
男A「捕まえたらタダじゃおかねえ!!ガキの方もぶっ殺してやる!!」
434: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:31:00.93 ID:UmxEe4WZo
ダッダッダッダ……
少年「……なんなの?お前馬鹿なの?」
少年「……結局煽るだけ煽っただけかよ?何もできないなら余計なことほんとにすんなよ。
殴られるだけならまだしも、あいつらに捕まったら僕ぶっ殺されるそうなんだけど?」
少年「完全に状況が悪化してるんだけど?」
魔王「すまない。でも本当は何かできるはずだったのだ。
今は魔力がなくて魔法が使えないだけで」
少年「……はぁ?魔法?」
少年(まずい…… 本当の本当に頭がいかれてる奴だった……妙な奴に絡まれた……)
魔王「それに、君が捕まることはないから安心してくれ」
魔王「君はそこを右に曲がれ。私は左に行く」
少年(よかった、これでこいつと離れられる)
少年「分かった」
少年「はあ、はあ……!」
少年「ってこっちに来たらどうするんだよ……!」
ドガシャーン!
男A「左だ!!追うぞ!!」
男B「分かってる!!」
少年「……!?」
少年「……あいつ……わざとやったのか?」
少年「……別に僕には関係ないことだ」
少年「……僕はあのとき、どっか行けって言ったのに、あいつが首つっこんできたから」
少年(自業自得だろ)
少年(変なこと言う奴だし、あんまり関わり合いたくない)
少年(……明日も仕事だ。早く帰ろう)
435: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:32:59.65 ID:UmxEe4WZo
* * *
魔王「……」
男A「っへへ追い詰めたぜ。行き止まりだ。おいあのガキはどこ行った?」
魔王「さあな」
男B「まあいい。お前の服もらうぜ。そうすりゃ一月は不自由しないで暮らせそうだ」
魔王「いまここで裸になれと言うのか?この私に、痴女になれと?」
魔王「私に、こんな屋外で猥褻物を陳列しろと? ふざけるのも大概にしろ」
魔王「私の服を売る前に、自分の服を売ればよいではないか?それとも自分が服を着ていることに気付いていないのか?
下を見てみろ、シャツをズボンとブーツがある。それを売れ」
男A「こ、こいつ馬鹿にしやがって……中央区の連中はこれだから腹立つぜ」
男B「俺たちのこといつもそうやって見下しやがる。思い知らせてやるよ、世間知らずのお嬢さんによぉ!!」
魔王「いいだろう、かかってこいっ! こちらとて今まで伊達に生き伸びてきていない。
みくびったこと必ず後悔させてやる!」
ザバァァァァン!!
男A「ぶっ!?」
男B「なんだっ!?」
魔王「? 水? 空から……」
少年「逃げろ!」
魔王「さっきの少年。何故……」
少年「早くしろよっ! 横の建物に入れ」
436: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:35:01.48 ID:UmxEe4WZo
男A「あっくそ!女が逃げたぞ!」
男B「ビルの屋上から水ぶっかけやがったのはさっきのガキか……!あいつらもうただじゃおかねえ!
俺はガキをとっちめてくる、お前は女を追え」
男A「ああ!」
魔王(横の建物、横の建物……これか!変な建造物だな……レンガでも石でもない)ガチャ
男A「どこ行った、うおおおおおお!」
魔王「通り過ぎたか。馬鹿で助かった。後もう一人……」
少年「一人こっち来たか……」
男B「へっ 馬鹿め。屋上なんてこの階段しか逃げ場がねえんだ。もう逃がさないぜ」カンカン
男B「大人しくまってやがれ……!」カンカン
少年「そろそろか」
シュルッ シュルルルル
男B「なっ パイプを伝って下りるだと!?てめえ、そんなアクション映画みたいなことしてんじゃねえよ!」
少年「ひぃぃっ 怖っ……!! くそもう二度とこんなことしないっ」スタッ
タッタッタ……
魔王「そのまま直進しろ。そこ1.5mほどジャンプして」
少年「なっ!!お前なにまだここにいるんだよ馬鹿かよ」
魔王「いいから」サッ
437: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:36:25.36 ID:UmxEe4WZo
男B「待てクソガキ!!!」ダダダ
魔王「……」クイ
ピン
男B「のわっ!? なっ、な、……」
男B「な!?」
バキッ ドンガラガッシャーン
ギャァァァァ……
少年「はあっ はあ…… え? あの男は? なにこの穴」
魔王「さあ。開いていたのだ。そこの建物にあった薄い板を上にかぶせて落とし穴にした」
少年「ああ、確かここ工事中だったな」
魔王「助かった。ありがとう」
少年「……いや……まあ……」
少年「……今回は無事に済んだけど、もうああいうのやめた方がいいと思うよ。じゃ、ここで」
魔王「待ってくれ」
魔王「君に妹はいないか?」
少年「…………!」
少年「なんで……」
魔王「私も何故だか分からないのだが、君のことをどこかで見た気がするのだ」
少年「……いないよ」
少年「いない。人違いだろ」
438: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:37:47.02 ID:UmxEe4WZo
魔王「……そうか」
少年「じゃあ、さよなら」
魔王「あっ 待ってくれないか。ここに来たのは初めてで、連れともはぐれてしまって……
できればここのことを教えてほしいのだが」
少年「え……いやだよ」
少年「どうせアンタ中央区からきたいいとこのお嬢様なんだろ……こんなとこにいないでさっさと家に帰れば」
魔王「中央区?いや違う。その……記憶喪失で。どこから来たのか分からない」
少年「記憶喪失なのに連れがいたことは覚えてるのか?」
魔王「部分的記憶喪失なのだ」
少年(怪しい……)
魔王「頼む。この街である人物を探さないと、私の……街が危ないような気がする。だからこの街の知識がほしい」
少年(…………)
少年「まあ、少しの間だけ……なら」
少年「……名前は? アンタの名前」
魔王「私は魔王だ」
少年「は?」
魔王「魔王だ」
少年(……………うわ………………………)
少年「やっぱさっきのなしということで……じゃあ、ここで解散」
魔王「待ってくれっ、嘘ではない。本当のことなのだ」
少年「ついてくんな……」
439: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:39:14.78 ID:UmxEe4WZo
* * *
少年「ついてくんなって言ってんだろ!!」
魔王「ここが君の住んでいるところなのか?建物はたくさんあるが、人気が全くないな……。まるでゴーストタウンだ」
少年「聞けよ! 家までついてくるつもりかよ。絶対家には上げないからな」
魔王「家族がいるのか?」
少年「……いねーよ。わりーかよ。どうせお前には待ってる家族がいるんだろ、早く帰れよ。どっか行け」
魔王「いや、こちらでやらねばならんことがある。それに私も血の繋がっている家族はもういない」
少年「え?」
魔王「ところで、この街は夜でもとても明るい。火ではないな、何故あんなにも明るいのだ」
少年「あれは……電気だけど。火なんて街灯に使うのは何百年も前のことだよ」
魔王「でんき……」
少年(電気もしらねーのかよ……まじでこいつなんなんだ……早く縁を切りたい……)
魔王「でも、君の住んでるこの地区は全然灯りがないな」
少年「……もうほとんど誰も住んでないから」
少年「……!! 家の前に……あいつ……」
440: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:44:54.17 ID:UmxEe4WZo
黒服「やっとお帰りですか」
少年「……また来たのかよ。帰れよ!僕は立ち退かないぞ!!」
黒服「そんなに強情を張られると、こちらも強硬手段にでるしかなくなりますが」
少年「何をされようとこの家を渡すつもりはない。ほかのみんなが立ち退いたって僕は……」
少年「っ……!早く帰れ!!」ガチャ
黒服「社長のご命令ですので。早くこの書類にサインを頂きたいのです。
家に上がらせてもらいますよ」ガッ
少年「なっ やめろ!勝手に入るな、この野郎!出て行け!!」
黒服「汚い家ですね。 で、お父様とお母様は?会わせて頂くまでここに居座り続けますよ」
少年「お父さんもお母さんもいねーよ!この家には僕一人だけだ……
だから、この家だけが家族の思い出なんだよっ!壊されてたまるか!」
黒服「じゃお前がこれにサインすれば全部終わるわけだ。どうする、死ぬかサインするか?」チャッ
少年「……け……拳銃?」ゴク
黒服「……」
魔王「けんじゅう、とはなんだ?」
少年「……んなっ…… なんでお前まで入ってきてんだよ!!!っも帰れよ、お前ら帰れ!!」
黒服「ん……?家族はいないってさっき言わなかったか?誰だ」
少年「僕が訊きてえよ。誰だよこいつ」
黒服「部外者ならとっとと出てくんだな。拳銃っていうのは、引き金引いただけで人を殺せる便利な道具だよ」
魔王「では何故その危険な道具を少年に向ける?やめろ」
黒服「フン。……ん?よく見ればなかなかかわいい面してるお嬢さんじゃないか。こりゃいい拾いもん……」
魔王「さわるな。薄汚い豚め」
黒服「ぶ……豚!?」ゾクッ
441: 名無しさん 2014/06/27(金) 21:47:59.84 ID:UmxEe4WZo
黒服「この鍛え上げた体脂肪4%の肉体を持つ俺に……言うに事欠いて豚だと?」
魔王「貴様の内面が贅肉だらけの気色悪い豚だと言ったのだ。武器を子どもに向けるな」
魔王「こちらへ来い。4足歩行でな。首輪も必要か?しつけのなってない駄犬だ」
黒服「く、首輪!? だ……駄犬!?!?」ゾクゾク
黒服「な……なんたる屈辱……この俺に」スタスタ
魔王「犬は2足歩行しないだろう。私の話を聞いていたのか。とっとと屈め」
黒服「な、なんだとぉ……!?」ペタン
魔王「そうだ、いい子だ。さあそのまま外の手すりまで来い。……遅い。駆け足」
黒服「く、くそう……こんな娘に……」ゾクゾク
魔王「手すりから身を乗り出せ。もっとだ。もっと」
黒服「落ちてしまうじゃないか!」
魔王「犬ってどうやってなくんだっけ」
黒服「ワン!ワン! ワ……」
魔王「よくできたな」ドン
アーーーーーーーーー…
少年「馬鹿で助かった……」
魔王「馬鹿で助かったな」
446: 名無しさん 2014/07/02(水) 20:59:40.28 ID:hfpVOjiho
魔王「彼は?知り合いではなさそうだな」
少年「当たり前だろ。……あいつは……どっかの会社から派遣されてきた奴だよ。この間は違う奴がきてた」
少年「……このあたりは貧困区でも一番貧しいところなんだ。
さっき僕たちがいたところは、その中で最も治安が悪いところ」
少年「お偉いさんたちは、掃きためを壊してここら一帯に楽しい楽しいテーマパークをつくるんだってさ」
少年「治安が悪くて、貧乏人ばっかり住んでる汚らしいところを壊して有効活用しようってわけだ」
魔王「てえまぱあく……?」
少年「……遊園地」
魔王「ゆうえんち……?」
少年「疲れる……とにかく、客がいっぱい来て金儲けできるところだよっ」
少年「もうこのあたりに人が住んでないの見たろ。あいつらが脅してここの住人を追いやったんだ」
少年「……」
魔王「そうか……。それはひどいな。家を奪うなんて。 では取引をしないか?」
魔王「またあのような者が来たら私が追い払う。そのかわり、私にこの世界のことを教えてくれ」
少年「……ハァ?次来る奴もさっきみたいな変態ドマゾ野郎とは限らないだろ」
魔王「大丈夫だ。自信がある」
少年「……なんの?」
447: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:00:41.11 ID:hfpVOjiho
魔王「だから明日も来ていいだろうか?頼む。君しか今頼れる人がいない」
少年「……いやだ。首つっこんでくんな。それに僕は明日仕事だから」
魔王「仕事をしているのか?君はいまいくつだ」
少年「……11。……」
魔王「……そうなのか。えらいな君は。よしよし」
少年「なんだよっ!やめろ。……お前みたいな金持ちにこんなことされたくない」
魔王「金持ちではないのだが、気に障ったのならすまん。でも明日また会いにきてもいいだろうか」
少年「……………………じゃ明日だけ……」
魔王「ありがとう。恩に着る。ではまた明日」ガチャ
少年「……どっか泊まるアテあるんだろうな」
魔王「ないが、別に外で寝ることには慣れている。昔はよくそうしたものだ」
少年「ないって……ここらへん特に夜は治安悪いって言っただろ。……どうするんだよ」
魔王「何とかなるはずだ。君は明日の仕事のため早く寝た方がいい」スタスタ
少年「……~~身ぐるみ剥がされるぞ!………………分かったよ、あがれよ!」
少年「黒服追っ払ってくれた礼だ。ただし今日だけだぞ。今日だけだからな」
魔王「いいのか?ありがとう。悪いな」
少年「ただこのベッドには触るな。戸棚も開けるな。クローゼットも開けるな」
魔王「分かった」
448: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:04:10.71 ID:hfpVOjiho
* * *
教会
勇者「そのカイシャ?っていうのを潰せって言われたって、どうすりゃいいんだよ」
シスター「文字通り悪魔のすごい力で物理的にぶっ潰してくれ」
勇者「いや、でも俺にはほかにやることがあって……そんな暇はない。都市って遠いんだろ?」
シスター「列車で数百キロ走るからまあ遠い。さらにこっから中央区の駅まで行かないといけないからもっとかかる」
勇者「れっしゃ?えき? はあ……」
勇者「とにかく無理だ。俺は今日街を歩いてくる。魔王と創世主探さないといけないんだ」
スタスタ
シスター「魔王……?創世主? そっちの方が強そうだな……」
449: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:07:09.88 ID:hfpVOjiho
勇者「妙な世界に来ちまった……」
勇者「どうするか。ま、適当に歩くか。しっかし治安の悪いところだなぁ。魔王大丈夫かな……」
キキーーーーッ!!
勇者「!?」
警官「おう兄ちゃん。なんだお前、変な格好してんな。旅行者か?こんな貧乏地区に」
警官「その腰にぶら下げてるもん見しちゃくれねえか?」
勇者「剣か?いいよ。はい」
警官「ほほう。本物か……かなりよく斬れそうだねい」
勇者「まあな、けっこう名のある剣なんだ」
警官「そうかそうか。で、両手を上げてくれるか?そう。揃えてな」
勇者「?」
警官「はい逮捕」ガチャ
勇者「あーーーーーーーーーーーーっ!?」
勇者「て、手枷!?おいなにするんだよ!!俺が罪人だって言うのか!?」
警官「バリバリ罪人だろうが!!こんな大型刃物、ぶらぶらぶら下げて歩きやがって!!銃刀法違反だバカヤロー!!
おらパトカーに乗れ!!署に来い!!てめーみたいな不良犯罪者を捕まえて俺は地道に点数稼ぎしてんだよ!!」
後輩「こすいですね先輩」
勇者「剣持ってて何が悪い!?普通だろ!」
警官「あー?開き直んのか?さっさと乗れドアホ!!」
勇者「どわっ」ヒョイ
勇者「剣返せ!!」サッ
警官「あっ オイ待て犯罪者!!! くそ逃げやがった。追え後輩。車を出せ!!」
後輩「へいへい」
ギャリリリリリリリリ
勇者「うわーっ 何だアレはえーっ!!国王より速い!!」
450: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:10:32.09 ID:hfpVOjiho
警官「チッ! 逃げ足の速い野郎だ。次見たらタダじゃおかねえ」
後輩「そういえば先輩。聞きました?このあたりでまた行方不明者が出たって」
警官「あ?どうせ家出かなんか喧嘩に自分から首突っ込んだんだろ。ここじゃそんなんしょっちゅうだ」
後輩「さあ……どうですかね。でも最近いつもより数が多いんですよ」
警官「じゃ元から悪かった治安がもっと悪くなったってこった」
後輩「先輩鈍いですね。もしかしたら連続殺人犯、先輩がずっと追って、さらに捕まえたと思ったら逃がしたあいつが
このあたりに潜伏してるかもしれないってことですよ。チャンスじゃないですか」
警官「へっ。んなわけあっかよ。そんな出来すぎた話そうそうないだろ」
451: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:12:03.14 ID:hfpVOjiho
教会
シスター「なんだ。もう帰ってきたんだ?」
勇者「はあはあ……なあ、これ外してくれ」
シスター「は?手錠なんて外せるわけねーだろ。なめてんのか」
勇者「くそっ! 邪魔だ!!」ガチャンガチャン
シスター「ああ、そりゃ剣とか銃は大っぴらに見せて歩いちゃだめだ。法律違反。ま、隠し持ってる奴も多いけど」
勇者「……剣持ってることが違反!?どうなってんだこの国は……」
勇者「……この国のこと、もっと教えてくれないか」
シスター「ここは国が持ってるいくつかある街のひとつ。ぐるっと囲んでる街壁の外には砂漠が広がってて、
滅多なことじゃ外に行く奴も外から来る奴もいないよ」
シスター「金持ちと金なしがいる街。中央区はこの世の天国みたいに整っててきれいだが、ここら一帯は掃きためみたいなもん」
シスター「人が暦を数えだしてから1927年。
惑星全域を巻き込んで勃発した第5次世界大戦後、いまは休戦中」
シスター「でもいつかはじまるWW6のためにどこの国も兵器を大量生産中だ」
シスター「なんか質問ある?」
452: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:13:46.46 ID:hfpVOjiho
勇者「世界大戦?戦争、だよな……」
勇者「この世界に魔族はいるのか?」
シスター「魔族はいない。私がお前を召喚したようにやらない限りね。
まさかいるとは私も思ってなかったけど、世の中なにがあるかわかんねーな」
勇者「魔族がいない……人間だけの世界なのに、どうして戦争なんか?理由は?」
シスター「いや、普通に資源の取り合い合戦」
シスター「みんなが豊かな暮らしをするためにゃ高エネルギー物質が必要不可欠。
まあそれも戦争でほぼ使っちゃって、この惑星からはそういうのどんどん干からびてってる」
シスター「資源を得るための戦争で資源を失っちゃうんだ、馬鹿だろ」
シスター「あと環境問題も深刻だね」
シスター「この間、お前森はないのかって聞いたけど、森なんてもう惑星どこ探してもないんじゃない。
植物はかろうじて残ってるかもしれないけど中央区くらいかな、あるの」
シスター「めちゃくちゃ高いらしいよ。私は本物の花とか木見たことないね。大昔にもう全部枯れちゃったんだ」
勇者「え。でもそこらへんにあるじゃないか」
シスター「ありゃ偽物。外観用」
シスター「最初にこっち来たとき、空気がくさいって言ったな。大気汚染も進んでるよ。
中央区や一般区は大気洗浄機できれいな酸素つくってるけど」
シスター「あっちもいつまで続くかね……いつかまかなえなくなっちまうだろーよ。植物も森もないんだから」
シスター「この街はいつも灰色だよ。ずっと何十年も前からあの灰色の雲が空を覆ってて、
私は青い空や黒い夜を見たことがない。ずっと曇りの灰色だ」
シスター「太陽もね」
シスター「ここは少しずつ死んでいってる世界なんだ。近いうちに多分全部終わっちまうよ。もうほとんどなにも残ってない」
シスター「でも、みんなそのことに気付いてない。あんまり気にしてないみたいね」
シスター「私が大切じゃないのかなって思うものと、みんなが思うものはちがうみたい」
453: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:16:48.39 ID:hfpVOjiho
勇者「……正直難しくてよく分かんないんだが」
シスター「おいおい頑張って説明した私の身にもなれよ」
シスター「あとお前が魔法だって思ってるのは全部科学技術だから。魔法とか使える奴いねーから」
勇者「カガク……だと?また分からん単語が……意味分からん……」
勇者「じゃああといっこ聞いてきいか。あんたはシスターで、ここって教会なんだよな」
シスター「そだけど」
勇者「……ここに来てる人間、俺しかいなくねえか。本当に教会なのか……。シスターこんなだし」
シスター「教会だっつの。人が来ないのは仕方ない。もう今の時代、誰も神や信仰になんて時間をかけないんだよ」
シスター「近代化して、真っ先に切り捨てられたのが信仰だよ。今はみんな目に見えるものしか信じない。
全員 物質主義者になっちまったのさ」
シスター「見返りのあるものにだけ時間をかける。まあ、合理的だ。無駄のない賢い生き方だよ」
勇者「……。もっと5歳児くらいにでも理解できるように話してくれないか」
シスター「お前それ自分で言ってて悲しくなんないの」
勇者「誰もこないのに、みんな信じてないのに、じゃあなんであんたはシスターになったんだ」
シスター「私はあまのじゃくだからさ。みんなが信じてないものを信じてみたくなったのさ」
勇者「……つーか今思うとシスターが悪魔召喚とかしていいのか?俺悪魔じゃないけど」
シスター「神様なんていないって言うから、じゃあ悪魔ならいるのかなって思って」
シスター「結果、神様はいないけど悪魔はいるらしいね」
シスター「いい世の中だ」
454: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:19:29.32 ID:hfpVOjiho
* * *
パラパラ……
勇者「なあ、なんで教会に本棚がある。礼拝堂におくか普通」
シスター「別にいいだろ誰もこねーんだから。読んでもいいけど」
シスター「読み終わったらそろそろ中央区の会社ぶっ潰しに行けよ。ちんたらしてんなよ」
勇者「だから俺は……大体あんなへたくそな魔法陣で召喚に成功するわけないだろ……」
シスター「あん?私が一生懸命書いた陣を馬鹿にするんだ?」ゴリ
勇者「お前ほんとシスターの鑑だよ。いてーよ」
勇者「えーなになに。英雄譚、冒険記、年代記……ふーん、神話なんてのもあるんだ」
シスター「この教会の宗教とは別のも混じってるよ」
勇者「それ、いいのか?異教って言うんじゃ」
シスター「別にいいんだ。どうせどの神様も信じられてない。だからここに置いといてやるの」
勇者「……」パラパラ
勇者「ふうん。全然俺たちの世界と違うな、やっぱ」
勇者「…………ん?」
455: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:20:18.34 ID:hfpVOjiho
シスター「いまは誰もほんとに来ないけどさ、前はちょくちょく来てた子どもがいたんだ」
シスター「兄と、たまに妹。妹の方は体が弱くて、あんまり来れなかったんだけどね」
シスター「兄の方は、今お前がいる席でよくそのボロッちい本たちを読んでたよ。
暗記して家で妹に聞かせてやってたんだってよ」
シスター「貸してやるって言ったんだけど、全部持ち帰ると重いからって、ほとんど暗記してた。
学校に行ってたら結構成績よかったんだろーな」
勇者「……俺と、この世界にいっしょに来た連れの名前がある」
シスター「ん? それは遠い昔の異国の神話だよ。どれ?」
勇者「これと、これ」
シスター「お前の名は太陽の神様、連れの名は月の女神様だね」
シスター「なにお前、悪魔じゃねーの。詐欺かオイ」
勇者「それは最初から言ってる。だけど人間だからな」
勇者「よく来てたっていうその子どもに会いたいんだけど、会えるかな」
シスター「1年前くらいからパッタリ来なくなったよ……
まあ、家は知ってるから、案内してやることはできる」
勇者「案内してくれ」
勇者「多分そいつが俺の探してた奴だ」
456: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:22:07.76 ID:hfpVOjiho
* * *
騎士「ま、魔女さん。泣きやんでください」
魔女「無理だよぉ…… うううぅぅっ なんで黙って自殺なんかするの!なんなのも~~~……
死んじゃったらもう二度と会えないんだよ……ひぐ」
姫「……」
竜人「……」
騎士「…………泣きやんでください魔女さん!」
騎士「僕はあの二人が、こんな時に何の理由もなく毒を飲んで死んだりしないと思います!!」
騎士「絶対何か理由があったんだって思います。そうしなければならなかった理由が!」
騎士「毒薬はまだつくれますか!?」
魔女「えっ…… うん……材料を集めれば……二晩もあればできるけど」
騎士「じゃあお願いします!僕が毒を飲んで、二人を連れ戻してきます!」
魔女「へっ……!? な、なに言ってんの!?」
魔女「死ぬっていうの……?」
騎士「……はい。でも、何とかなりそうな気がするんです。勇者さんと魔王さんがなんで毒を飲んだのか分からないけど
……でももし二人が死の先にある何かを探しに行ったなら、僕も手伝ってきます」
騎士「あの二人に比べたら非力な僕かもしれませんが、必ず二人を連れ戻してきます。
だから、泣かないでください!大丈夫です!!」
魔女「……、……」
騎士「僕の名前は騎士です!」
魔女「騎士……本気?」
457: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:23:21.07 ID:hfpVOjiho
竜人「……私も毒を飲みます。そうですね、騎士さんの仰る通りです。
これには何か理由があるはず。お二人を手助けせねば」
姫「私も……飲みますわ」
騎士「え゛っ……姫様は、さすがに……。やめた方が……」
姫「いいえ。私も勇者と魔王さんを信じます」
魔女「……だったらあたしだって信じるよ。ずっと信じてきたもん。 あたしも飲む」
忍「集団自殺か何かですか?」
妖使い「おもしろそうだね。俺らも飲むよ。できれば美味しい毒薬がいいんだけど」
忍「えっ、ちょっと勝手に」
竜人「魔女の薬である限り、その望みは捨てた方がよいでしょう」
魔女「うるさいな。美味しい毒なんてつくれるわけないじゃん!
ま、いいや。今日からつくるから、みんな材料とるの手伝ってくれる?」
458: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:24:14.02 ID:hfpVOjiho
姫「……ふー……」
騎士「うわあ、すごい色……。あっいえとっても美味しそうですね魔女さん!」
魔女「でしょ? じゃあみんな……かんぱい」
竜人「……では一気に」
ゴク
妖使い「おえーっ まずっ!!!うわあこれはひどい」バタッ
魔女「でも効果は抜群でしょ?ほら、妖使いすぐ死んだ」バタッ
竜人「死ぬ間際までふざけてあなたたちは全く! うぐっ」バタッ
姫「そんな皆さんコントみたいに死ななくても…… ああ」バタッ
騎士「吐きそう……」バタッ
忍「ちょっと皆さん早いですよ、待ってくださいよーっ!!」
459: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:30:10.61 ID:hfpVOjiho
冥府
鍵守「……あれ」
鍵守「また」
竜人「ハッ!ここは!? 魔王様は!?」
魔女「……うう~ここはどこあたしはだれ」
姫「あんなコロッと死ぬなんて……風情も何もなかったわね」
鍵守「ええと……おおいな。ちょっとみなさんここにあつまって……」
鍵守「というわけで、勇者と魔王は月にあるトビラを開けて、あっちのセカイにいきました」
騎士「よかった!やっぱりあの二人がああしたことには意味があったんだ」
鍵守「あと4人なら、ボクもトビラの向こうにおくれます……さあ、いそいで。カギはあいています」
鍵守「彼に……会いに」
魔女「え?4人じゃないよー。あと二人いるんだよ。妖使いと忍はどこいったんだろ?」
姫「そう言えば……」
鍵守「えっ?あと2人……?」
「……なるほど!」
妖使い「トビラは冥府の月にあったのか。どうりで見つからないはずだ!」
忍「前、彼が来たときには月が出てませんでしたもんね」
妖使い「そうか、君が隠し持ってたのか。ぬかったなぁ、ハッハッハ」
忍「ぬかりましたねー若。ははは」
460: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:31:28.62 ID:hfpVOjiho
騎士「……?なに言ってるんですか?」
鍵守「え…… え?あなたたちは…… ふわっ!」
忍「あなたはちょっと邪魔なので、とりあえずおとなしくしててくださいね!」
忍「こんなことなら、冥府から先に取りかかればよかったですね」
妖使い「全くだ。勇者と魔王が一緒に行動するのはできるだけ避けたかったんだけどな」
妖使い「そのために色々してきたってのに……つまらないな」
妖使い「おまけに扉を開けられてしまった」
妖使い「どうせ、無駄だと思うけどね。万が一ということもある……」
妖使い「ま、とにかく、過ぎてしまったことを嘆くより今できることをしよう。
君たちは扉の向こうに渡さないよ」
忍「いずれこの冥府ももう少しで消えます。ここでその崩壊を待ってもらいますから!」
竜人「どういうことか、説明して頂けるんでしょうね」
魔女「君たち何者?」
461: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:34:25.70 ID:hfpVOjiho
妖使い「俺たちは道化役だ」
忍「もしくは観客?」
妖使い「邪魔者で」
忍「傍観者」
妖使い「トリックスター」
忍「悪役かも」
妖使い「あるいは、創世主の記憶を受け継ぐ写し身」
忍「彼がこの世界に覚醒したと同時につくられた、役割を持たない無干渉者です」
姫「創世主!?あなたたちは人間ではないの?」
騎士「東国からやってきたっていうのは、嘘だったんですか!?
ずっと、僕たちを騙していたんですか」
妖使い「東国なんてこの世界には存在しない……
いや、君たちにとっては在るものなのかな?」
妖使い「在ってもなくても、この世界の東国なんて俺は知らないね」
魔女「……敵なんだね。邪魔するつもりなら、押し通るよ」
竜人「そこをどいてください。私たちは扉の先に行きます」
忍「だから無理ですって。行かせないって言ってるじゃないですか?」
騎士「……どかねば斬ります」
妖使い「どうぞ」
騎士「……っ! はああああっ!」
ズバッ
騎士「!? なに!?」
妖使い「俺たち自身に君たちを消す力はない。消すのは影の専売特許だ」
妖使い「でも君たちの攻撃が俺たちを傷つけることは絶対あり得ない。そういう設定だからさ、ごめんよ」
妖使い「よいしょっと!」パッ
騎士「ぐ……っ!?」
ズダンッ!!
姫「騎士!」
騎士「ぐは……!」
462: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:37:48.52 ID:hfpVOjiho
魔女「騎士が死んだ!仇をとるからね!妖使いめ、この野郎!」
騎士「じんでないでず魔女ざん……!!」
竜人「魔女と姫様は下がっててください! このっ……!」
ザシュッ ザク
竜人「くっ 何故だ……あたってはいるのにすり抜ける」
忍「だから、無駄ですって。勝てません。
大人しくここで待っててくれれば、冥府に来てまで痛い思いしなくて済むんですよ」ゴキッ
竜人「っが……! くそっ!」
忍「消す力はありませんが、再起不能にまで痛めつけるくらいの力はありますテヘヘ」ググッ
竜人「!! ぐあぁぁ…………っ」
姫「やめなさい!! 待って……訊きたいことがあるわ」
姫「……どうして東国からの使者だなんて嘘をついてまで、私たちと共にいたの?
そんなに強い力を持っていながら、何故」
妖使い「勇者と魔王が結託して彼に歯向かうようなことは……少し避けたかった。
崩壊は止められないとは思うけど、彼には僅かに不安があった」
妖使い「俺たちはあの二人の絆を壊すためにつくられた」
忍「二人は人と魔族であることをちょっと教えてあげれば、すぐ崩れてましたね」
姫「でも、そんなにあの二人を危惧していたなら、どうしてまず最初にあの二人を物理的にどうにかしなかったの?」
姫「心理的に二人を引き離すのは確実な方法とは言えないわ」
忍「……確かに。なんででしょうね? 若」
妖使い「その方法があったか。しくじったな!」
姫「……え。気づいてなかっただけですか」
魔女「とぼけないでよ。君たち二人ともさ、ほんとは……もしかして」
魔女「!! ぅ……」ドサ
騎士「き、貴様!」
妖使い「君たちは誤解してるよ」
463: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:40:47.51 ID:hfpVOjiho
妖使い「彼が大昔を起点に世界をつくったと思ってるかもしれないけど違う。
世界の起点は今から数年前」
妖使い「あの和平の日がまずあって、そこから過去がつくられた」
妖使い「あの日まで、過去から未来がつくられたんじゃない、未来から過去がつくられていたんだよ」
妖使い「はぁ……それにしても、君たちに彼の気持ちが分かるかな」
妖使い「あの子のためにつくった戦いのない美しい世界だったのに
蓋を開けてみれば……何だ?あの凄惨な百年前の戦争は?」
妖使い「彼はあんなことまでつくってなかった。あんなの望んじゃいなかったよ」
妖使い「たった一言「戦争が100年前にあった」ってことを書いただけで、あんな風になっちゃうなんて思いもしなかったさ」
妖使い「世界はとっくに創世主の手を離れてたんだ」
鍵守「でも……ボクは……」
妖使い「君は黙っててくれよ」
妖使い「そこの子どもがあの子の死をきっかけにこっちの世界で目が覚めたように」
妖使い「彼もあることをきっかけにこっちの世界で目が覚めたんだ」
竜人「さっきから彼と言いますが……彼って誰ですか。創世主?」
忍「ほんとの創世主は扉の向こうにいますよ」
忍「彼は、創世主の『この世界を拒絶する感情』」
妖使い「だから、ほんとのほんとにこの世界はもう捨てられたんだ。君たちの役目はもう終わった。
劇はもう閉幕だ。役者はもう帰ってくれ。さっさと消えてくれよ」
姫「創世主が拒絶したって関係ないわ!私たちは私たちのために生きてるんだもの、そんな……」
忍「はいはい。もういいです」トン
姫「うっ……!」
464: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:43:13.12 ID:hfpVOjiho
忍「もう喋るの疲れちゃいましたよ」
魔女「うう 魔法が使えたら……」
忍「魔法なんて最初からなかった。みんな夢を見ていただけです」
妖使い「ドラゴンなんていない。魔女なんていない。姫なんていない。騎士なんていない」
妖使い「空なんてない。海なんてない。太陽なんてない。星なんてない。雪なんてない。森なんてない。月なんてない」
妖使い「勇者なんていない。魔王なんていない」
妖使い「剣なんてない。魔法なんてない」
妖使い「ハッピーエンドなんてない」
妖使い「全部、さいしょからなかった。こんなもの、なんにもならなかったよ」
鍵守「そんなことない……!!」
バリッ……
忍「……? あれ」
妖使い「体が……。へえ、何したんだ? 偽物のくせに……」
鍵守「ボクは確かに偽物だけど……でも、こんなのあの子がのぞんでないってことだけはわかる」
鍵守「みんなたって!はやく……月のトビラへ……」
鍵守「ボクも……ながくはこのふたりを、とめてられない……」
騎士「……! は、はい。魔女さん、姫様!しっかりしてください!」
竜人「鍵守さん……あなたは一体?」
鍵守「……はやくいって……」
465: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:44:09.55 ID:hfpVOjiho
ギィィ…… バタン
鍵守「はあ……はあ……」
忍「うげげ、どうしよう若。みんな行っちゃいましたけど」
妖使い「行っちゃったね……やべーよ」
妖使い「でも驚いたな。君がわずかな時間だけでも俺たちの動きを止められたなんて」
鍵守「トビラのカギはもうかけたよ。もう、彼らのじゃまはさせない」
鍵守「もうやめようよ……こんなのだれものぞんでないよ……」
鍵守「かなしいよ……」
妖使い「でもそれが俺たちの存在意義だから」
忍「鍵ですか。ふーん。時間をかければ解錠できそうですね」
妖使い「すぐ取りかかろう」
妖使い「全く厄介なことしてくれるなぁ。妖孤、ちょっと出て来い」
妖孤「はい?」
妖使い「お前、ちょっと鍵穴に突っ込まれろ」
妖孤「久々にかける言葉がそれですか!?無理言わないでくださいよ~~~」
466: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:46:03.33 ID:hfpVOjiho
* * *
少年「暇なら、その服どうにかしなよ。それ着てるだけでここらへんじゃ目立つ」
少年「それ売って、適当に服屋で買えば。じゃ僕は仕事に行くから……」
魔王(と言われて来てみたが……困った……)
魔王「頼む、私の服を返してくれ」
服屋「もうこの服は買い取ったんだ、返せないわ。
銀のボタンがついた服なんて初めて見た。こりゃいい品だ」
服屋「金は渡したし、あなたが選んだ服はもう着てるじゃない。似合ってるけど?」
魔王「選んでない。君が勝手に押しつけて着せたんじゃないか……」
魔王「上はいいとして、なんだこれは。こんなものを着て外を歩けるか。これは服ではない。下着というものだ」
服屋「下着じゃないよ。ショートパンツっていうものだよ」
魔王「パンツじゃないか!」
服屋「ああもう面倒くさい。帰ってくれ。あざーした」
ペイッ
少年「ふう……やっと仕事が終わった……」スタスタ
少年「あれ?偶然だな。 ……ああ、服。そっちの方がやっぱ目立たなくていいよ」
魔王「よくない……」
少年「?」
少年「……で、あとこの街の何が聞きたいわけ。もうほとんど昨晩話したと思うけど」
魔王「そうだな…… む、このチラシは?」
467: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:51:41.68 ID:hfpVOjiho
魔王「そういえばここらへんでたくさん見かける」
少年「ああ、これは最近噂になってる連続殺人犯の指名手配書。
中央区で何人も残虐な方法で殺した殺人犯だ」
少年「警察に一度捕まったのに、護送中に逃げたんだって」
魔王「ここでは、警察というものが秩序維持組織なのだったな」
少年「そ。 にしても警察知らないって…… まあいいや」
少年「いろいろ教えるのも今日までだからな。終わったらどっか行けよ」
魔王「分かった」
少年「とりあえず、家に……」
ガシ
少年「……え?」
魔王「!」
男A「よォ~~~~お二人さん。この間はどうも」
男B「やぁっと見つけたぜ……」
少年「……おっ……お前ら」
男A「お前たちのおかげでえらい目にあったぜ……今日はその借り、返そうと思ってさ」
男B「ちょっと来いよ」グイ
魔王「離せ」
少年「やめろよ、離せよ」
468: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:53:24.25 ID:hfpVOjiho
男A「なめた真似しやがって。今日はそうはいかねえぞ」
魔王「痛いぞ。離せ」
男A「そう言われて離す奴がいるかよ」
少年「……ん?」
少年「……お、おい。なんか、車が」
男B「ハッ、もうハッタリには騙されないぜ。パトカーが来たって注意を引くつもりなんだろ?
ばーか、んな子ども騙しにひっかかハギュッ」
―――ドンッ!!!
男A「」
男B「」
少年「……!? だ、だれだ……?」
女「こんにちは」
少年「……ほんとにだれだ!?」
女「ああ、あなたはこの間店の前を通った子じゃない。私はあっちで花屋の売り子やってる者よ」
女「なんか……今轢いた? まあいいや。乗る?」
男A「ぐ、ぐぐ……て、てめえ……なにしやがる!」
女「どっちでもいいけど。大変そうなら乗せてあげてもいいよ」
469: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:54:54.62 ID:hfpVOjiho
* * *
女「ここが私の家」
少年「随分店から離れてるんだな……」
女「うん、まあね。ここらへん、隣の家とも数キロ離れてるから寂しいよ。じゃ入れば」
魔王「広いな」
女「お茶いれるよ。ええっと、カップあるかな」
女「……見つからないや。グラスしかないみたい。水でいい?」
魔王「……?」
少年「別に、いいです。……その、すぐ帰ります」
女「さっきも言ったけど、またあの男二人組はあなたたちのこと狙うと思うよ。
この家、広いし。しばらくここにいた方が賢明じゃない」
少年「でも僕は明日も仕事だし、帰らないと……」
女「命と仕事なら、命の方が大事なんじゃないのかな。分からないけど」
女「とにかくしばらく泊まっていけば? 私は構わないから」
470: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:56:45.11 ID:hfpVOjiho
翌日
女「じゃ、私は出かけるから」
少年「ちょっと待ってってば……花屋に行くんだろ?僕も連れてってくれ。
仕事に行かないと……クビになったらまずい……」
女「だめだよ。危ないでしょ。じゃあね」
ブロロロロ……
少年「なんて強引な人なんだ……」
魔王「でも、一日くらいなら仕事は休んでも平気なのではないか?」
少年「平気なわけないだろ……あのハゲジジイがなんて言うか……。
僕みたいな子どもが働ける場所なんてそうそうないのに」
少年「クビになったらどうしよう……」
魔王「……この街では、君のような子どもが多いのか?」
少年「そりゃいるだろうさ。こんな街なんだから」
少年「あーもう……それに、家のことも心配だ。僕がいない間にまたあいつらが来たら」
魔王「確かにそうだな。私もずっとここにいるわけにもいかない。
彼女が帰ってきたらもう一度頼みこんでみよう」
471: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:58:10.29 ID:hfpVOjiho
バシャバシャ
少年「はーっ……もう、なんなんだよ」
少年「このごろ変な奴ばっかり会うな……」
少年「あの男二人組にも目つけられたし……最悪だ……」
少年「ん?」
少年(これ……シェービングクリーム?あの女の人だけで住んでるんじゃなかったのか)
魔王「少年、これは一体なんだろう。鳴き声がするし、ぶるぶる震えているが、生き物なのか?」
少年「ハァ? そりゃ冷蔵庫だよ。生き物なわけないだろ……機械だ」
魔王「れいぞうこ? 象の仲間か?それにしては小さいが」
少年「だから生き物じゃないって。電気で中の物を冷やしてるんだ」
魔王「電気……雷で冷気をつくりだしているのか?それは一体どういう仕組みなのだ。
こういったものは全て魔法ではなくカガクギジュツだと君は言ったが」
魔王「魔法なしでどうやってそんなことを実現させている?よく調べたいな……」
少年「だめだよ、あの人が冷蔵庫は開けるなって言ってただろ。
それに人の家の冷蔵庫勝手に開けるのは失礼だ」
少年「あの人がテーブルの上に食べ物置いてってくれたから、食事はそれで済むし」
魔王「……でも開けたいな……」
少年「でもじゃねえよ。だめだってば」
472: 名無しさん 2014/07/02(水) 21:59:50.47 ID:hfpVOjiho
夜
少年(……こんな具の入ったスープなんて初めて飲むな)
少年(うまい……じゃなくて)
少年「なあ、明日こそあっちに車で送ってってくれよ。帰りたいんだ」
女「うん。いいですよ」
女「あなたたちは姉弟? あんまり似てないのね」
魔王「君はここに一人で住んでいるのか?」
女「そうだよ」
少年(……?あれ? じゃあ昼見たあれは別れた恋人のとかかな)
魔王「昼に庭を見させてもらったのだが、かなり凝っているのだな。
花屋で働いていると聞いたし、植物が好きなのか?」
女「別に好きじゃないよ。たまたまね」
女「スープおかわりする?まだあるよ。少年くん、いる?」
少年「あ……はい、じゃあ」
女「よそってくるね」
473: 名無しさん 2014/07/02(水) 22:00:54.02 ID:hfpVOjiho
キッチン
女「……?何、どうしたの?」
魔王「その……頼みがあるのだが」スタスタ
魔王「れいぞうこを見させてもらってもよいだろうか」
女「冷蔵庫?そんなもの見てどうするの?」
魔王「仕組みが気になる。中を見てみたいのだ」
女「仕組み……? うーん、よくわかんないけれど、中ごちゃごちゃしてるから
見られるの恥ずかしいと思うの。だからだめ」
魔王「だ、だめか……どうしても?」
女「どうしてもよ」
魔王「………………どうしても?」
女「こんなに冷蔵庫に興味示す子初めてだな」
女「でも、だぁめ。絶対だよ。分かった?」
魔王「……ああ」シュン
474: 名無しさん 2014/07/02(水) 22:05:39.17 ID:hfpVOjiho
―――――――――――――
――――――――――
――――――
夜
少年「……」スースー
魔王(……)パチ
魔王「ふ、ふわぁ……お手洗いはどこだっただろうか」
魔王「慣れない家だから迷ってしまった。うっかりキッチンに来てしまった」
ブゥゥゥゥン……
魔王「あっ……れいぞうこがまた鳴いてる。触ると暖かいし、本当にこれは生き物ではないのか?」
魔王「寝ぼけてて、自分が何をしているのか、わ、わからないな」
魔王「しまった。寝ぼけてれいぞうこを開けてしまった。でも寝ぼけてるから仕方ない……」
魔王(本当に冷たいだと……?どうなっている。食材が色々入っているな。……どこから冷気が?
雷を冷気に変換しているのは一体どこなのだ?どんな方法で?魔法なしでどうやって?)
魔王(もっと奥を見たら何か分かるかな?)ゴソ
魔王(………………………………ん?)
魔王(え? これ……え?)
魔王(……ひとの…………うで……?)
女「なにをしているの?」
魔王「!!」ビク
475: 名無しさん 2014/07/02(水) 22:08:25.76 ID:hfpVOjiho
女「そんなに冷蔵庫が気になるの?変わった子ね」
魔王「す、すまない。寝ぼけて……どうやらトイレの扉と冷蔵庫の扉を間違えてしまったようだ」
女「どんな寝ぼけ方なの」
魔王「悪かった。もう寝ることにする、おやすみ」
女「ねえ」
女「なにか見た?」
魔王「寝ぼけていたので何も見えなかった。私は寝ぼけると一切何も見えなくなることで巷で有名なのだ」
女「そう。すごいね」
スタスタ
……バタン
女「………………」
479: 名無しさん 2014/07/12(土) 19:35:22.87 ID:D37hExuxo
魔王「少年少年少年少年少年っ 起きろ、起きろ起きろ」
少年「ん~~…… なんだよぉ……」
魔王「起きろ、今すぐここから逃げるぞ!」
少年「はぁ~~? 意味わかんねえよ……まだ夜だろ……」
魔王「いいから早くしろ!」
タッタッタッタ……
魔王「彼女は人殺しだ」
少年「お前、まぁた変なこと言って…… うぅっ寒い。夜は冷える……
なあ戻ろうよ。こっから僕の住んでる家までどれだけあると思ってるんだよ」
少年「徒歩じゃ数時間かかるって……」
魔王「だめだ。とにかく、人のいるところまで行かないと」
少年「だから、それも遠いって。来る時見ただろ?ここらへんは店も家も何もない」
魔王「建物はあるではないか」
少年「でも人はいないよ。テーマパークの建設予定地だからさ……
もうみんなどっか行った後。もうすぐ取り壊される予定の空き家だけしかない……」
少年「……寝ぼけて夢でも見たんだろ……どうせ」
魔王「夢ではない、確かに見た。れいぞうこの中に人の腕があったっ!
男性の腕だった。多分、ほかの部位も奥に入っていたと思う。見れなかったが……」
少年「男性……? そういえば、あの人、一人で住んでるって言ってたけど、
洗面台に髭剃り用のクリームが置いてあったんだ」
少年「何か事情があるのかなって思ったんだけど、もしかして……その男性があの家に元々住んでた?
で、あの女の人が彼を殺して、成り変わったのか?」
少年「……でもなんで……そんなことを?」
魔王「少年、ひとつ聞きたい」
480: 名無しさん 2014/07/12(土) 19:36:13.62 ID:D37hExuxo
魔王「花屋であの女性が働き出したのは、いつなんだ」
少年「……え……いつって、はっきりわかんないけど……」
少年「……さ、最近だよ、たぶん。その前は……男の人が店員だった。
すごい毛深くて、背が高い人……」
魔王「…………」
魔王「私が冷蔵庫で見た腕も、とても毛深かったな」
魔王「……彼女が逃亡したという連続殺人犯だろう。あそこに隠れ住んでいたのだ。
しかし、手配書と顔が違うが、それは一体……?」
少年「……整形……とか?」
魔王「んん? それはつまり変身術みたいなものか?」
タッタッタッタ……
魔王「とにかく、警察に行こう。警察に……ハァ……ハア」
魔王「あとどれくらいだ……? 随分……走ったが」
少年「まだ半分くらいだ。でも、多分朝まで僕たちがいないことには気づかないんじゃないか」
少年「夜明けまで時間はまだまだある。余裕で警察署に……」
ブロロロロロ……
少年「けいさつ、しょに……いけるかなっておもったんだけど」
少年「車の音が後ろから聞こえるのは気のせいかな……気のせいだといいんだけど」
魔王「……残念ながら空耳ではない」
キキッ バタン
女「別れのあいさつもなく、ひどいじゃない」
女「そういうの、悲しいと思うよ。わかんないけど」
ゴトン
少年「な、なんだよそれ?」
481: 名無しさん 2014/07/12(土) 19:42:06.72 ID:D37hExuxo
女「……これ? チェーンソーって言う機械よ」
女「昔、木を切るのに使われてたの。でも、それ以外にも用途はあるのよ」
少年「……だ、誰にも言わないから……頼む」
女「死ぬのが怖いの? 生きてるのが楽しいの?」
女「いいね、感情があるって。私、分からないの。そういうの」
魔王「……人殺しなんて……何故そんなことをする?君が連続殺人犯か?」
女「そうでしょうね」
魔王「こんなことをして楽しいか」
女「楽しいわけないでしょ」
女「でも人を殺すときだけ私は人として何か感じられるんだ。
ずっと静かだった水面に、その時だけ波紋が広がるの」
女「なんだろうね。罪悪感かな」
女「人をひどい方法で殺せば殺すほど、感じられるのも大きくなる」
女「だから、まず人の腕一本これで切るわ。そうすればほとんどの人は抵抗をやめるの。
それからもう一本の腕は薄く輪切りにスライスしていきます」
女「足は桂剥きよ。皮膚はこっちのナイフで薄く切り取っていくの。筋肉は筋が切りづらいから専用のはさみで。
そうやって肉全部切り落としたら骨はトンカチで砕くわ」
女「胴体は腹を開けて中をぐちゃぐちゃに混ぜてしまうわね。頭は……」
魔王「やめろ!! そういうことを言うのは本当にやめろ」ペタン
少年「な、なに座りこんでるんだよ……!逃げないと……っ」
魔王「体に力が入らないだと? 状態異常の魔法か?」
少年「お前の腰が抜けただけだろ!!」
カチッ ギャリリリリリリリ
女「チェーンソーって、四肢を切断できるのもいいけど、この大きさと喧しさがいいと思うわ。
見た人全員、いまのあなたたちのような顔をするんだから」
魔王「…………上等だ。貴様ごときに私が殺せると思っているのか?めでたい頭だな。
返り討ちにしてくれる。かかってこい!!」
少年「だからなんでお前はそういうこと言っちゃうの馬鹿なの?勝算ゼロだよ、絶望的だよ」
魔王「……こういうのは……どんなに勝ち目がなくても心意気で負けてはいかんのだ!」
魔王「少年。逃げろ。走れ。ここで私があいつを引きとめる」
少年「はあ!?無理に決まってんだろ、うすうす気づいてたけどお前全然運動能力ないし……」
魔王「う、うるさい!逃げろと言っているのが聞こえないのか、さっさとしろ」
少年「でも……」
魔王「早くしろ!!私にまかせろと言っている!!イエスかはいで返事しろ!!」
少年「うっ……は……はい……っ」タッ
482: 名無しさん 2014/07/12(土) 19:44:14.90 ID:D37hExuxo
女「逃げたわ。まあ、どっちでもいいのよ」
女「じゃあ殺されてね。これが私の生きがいだから仕方ないの」
女「できるだけ悪く思って。憎んで悲しんで。それが大きければ大きいほど……私も辛いわ」
女「辛い、苦しいっていう感情をその時だけ持てるの。自分が無機物じゃない、人だって実感できるんだ」
スタスタ
魔王「……狂ってる」
魔王「貴様の感情のために差しだせる命など、一つたりとも持ち合わせていない!」
* * *
シスター「……ん?おかしいな。この時間、少年は仕事を終えて帰宅しているはずなんだがな」
勇者「ここがその少年の家? でかいな」
シスター「全部が全部そうじゃない。この扉がその少年の家。アパートっつーんだ」
シスター「どこかに出かけてるのかもしれねー。また明日来よう」
勇者「仕方ないか」
シスター「ここらへんには、近いうちに遊園地ができるそうだ」
シスター「お前に潰すよう頼んだ会社の社長がそれを企画した」
勇者「家を壊して遊園地? ……俺にはあんまりこの街の考え方は理解できないな」
シスター「あの少年の家もそのうち壊されてしまう」
シスター「……一度ね……たまたま会ったときに、教会に来ればって彼に言ったんだけど断られたんだ」
シスター「……彼には妹がいた。病気だった。
その女の子のために彼は必死に働いて薬を買ってたんだけど」
シスター「その子は……薬で治る病気じゃなかったよ」
シスター「私は昔からそういうの分かるんだ」
483: 名無しさん 2014/07/12(土) 19:45:08.66 ID:D37hExuxo
シスター「兄の方にも妹の方にも言えなかった……」
シスター「言えなかったよ」
シスター「全くさぁ……。ところでお前は少年の知り合いか?探してる人物が少年だって言ってたけど」
勇者「まぁ、知り合いというかそうじゃないと言うか……」
勇者「とにかく会いたいんだ」
シスター「ふうん。まあいいけど」
勇者「それにしてもこっちの服は動きづらいな。なんかギシギシする」
シスター「与えてやったんだから四の五の言わない。つーか動きづらいのは手錠のせいじゃねーのか」
勇者「一理ある。くそっ!いつまでこれつけてりゃいいんだよ!!」
ファンファンファンファン
勇者「はっ……!?」
警官「見つけたぞ!!この間の銃刀法違反野郎!!今日は逃がさねえからな!!!」
シスター「まずいな。私はサツに見つかると色々いやだ。逃げさせてもらう」
シスター「囮になれ」ドン
勇者「おいっ!!!」
484: 名無しさん 2014/07/12(土) 19:49:26.81 ID:D37hExuxo
強盗団A「おい……見たか今の?あのボロアパートから去ってった男」
強盗団B「見た見た。すっごい宝石埋め込まれた剣持ってた」
A「ありゃ相当な値打ちものだ。服装は金持ちにゃ見えないが、
何らかの事情があって身を隠してるんだろうさ」
B「あそこがあの男の家なのかな?行ってみようよ。いいのが見つかるかも」
A「鍵かかってるが、開けられそうか?」
B「こんなの、ちょろいちょろい」ガチャ
A「んん……?中もボロいな。ベッドとテーブルと……必要最低限のもんしかない」
B「お宝は隠されてるものだよ。戸棚とかクローゼットとか開けよう」
A「……うーん。しばらく探してみたが、僅かばかりの金しかないぞ」
B「大金は自分で持ち歩いてるのかもね。 あれ?この箱なんだろ。オモチャの箱」
A「なんじゃこりゃ、俺のピッキングスキルをもってしても開かねえぞ」
B「も、もしかして、オモチャの箱に入れることでカモフラージュしてるのかな。
中に入ってる宝石とか宝石とか宝石とかを……!?」
A「おう、その可能性は大いにあるな!この箱だけ持ってこうぜ、アジトの専門の器具使えば開けられるだろ。
こんなはした金は置いてっちまおう。とったって仕方ねーや」
B「FOOOOO 宝石宝石!お頭もびっくらどんだ!驚くぞー!」
485: 名無しさん 2014/07/12(土) 19:50:44.66 ID:D37hExuxo
強盗団アジト
A「あ? なんだこの女?アジトの前に倒れてるが何者だ?」
B「気絶してるみたい……とにかくお頭に伝えてこよう」
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姫「うぅ~~ん…… ん?どこかしら、ここ?」
姫「確か妖使いさんと忍さんが創世主側で……でもなんとか扉を抜けたのよね」
がやがや がやがや がはははは
姫(……お店?私が横になっていたのはソファだわ。知り合いは……誰もいないわね)
頭領「ああ、目が覚めたか?」
姫「あ、あなた誰ですか?」
頭領「それはこっちが聞きたいね。でも先に聞かれたからにゃ答えよう。
俺はこの強盗団のリーダーだ」
姫「ご……ご、強盗団!?」
頭領「ここは俺たちがアジトにしてる地下の店だ。あんたは店の入り口に倒れてた。
随分いい身なりをしているようだが何者だ?」
頭領「答えようによっちゃあ、ここからあんたをお家に帰してやることもできなくなってしまうわけだが」
姫「わ、私は何も知らないわ。店の入り口で倒れていたというのも偶然よ」
頭領「ふーん……。お家は中央区か?」
姫「?? どこ?それ。知らないわ」
頭領「しらばっくれるか。そんな高そうなドレス着れる奴が中央区以外にいるかよ」
頭領「まあいいさ。あんたにはこの強盗団の一員になってもらうぜ。
アジトの場所も、俺たちの正体も知られちまったからな」
姫「な……なんですって!?嫌よ!!私に犯罪の片棒をかつげというの!?ふざけないでちょうだい。
アジトの場所も、正体も、あなたがベラベラ勝手にしゃべったんじゃないの!!」
頭領「あんたが聞いたんだろ?」
姫「聞かれたからって正直に答える犯罪者がどこにいるの!ごまかしなさいよ!
とにかく私は絶対に強盗だなんて卑劣な真似はしないわ!!出て行きます」
頭領「待て待て」チャ
姫「何です?それは。 随分堅そうなチョコレートね」
頭領「銃をチョコだなんて言うなんて、肝の据わったお嬢ちゃんだ。
気の強い女は嫌いじゃない」
487: 名無しさん 2014/07/12(土) 19:56:19.32 ID:D37hExuxo
頭領「一歩でも動けば頭に風穴が開いちまうかもしれないな」
姫「……!? 武器?」
頭領「銃も見たことないのか。こりゃ筋金箱入り娘だ。とにかく俺たちの仲間になれ」
頭領「むさい男が多くてな、前々から俺はもっと女を仲間に入れたかった。歓迎するぜ。
とくにあんたみたいないい体してる女をな」
姫「じろじろ見ないで。気色悪いわ」
頭領「やっぱり女は出るとこ出てないと魅力半減だな。あんたはその点目の保養になる。
この間、あんたみたいに仲間になった女がいるが、俺からするとあんなまな板……」
ガシ
頭領「ん?」
ドゴッ!!!!!!
魔女「まな板?あの調理道具がどうしたの?何の話?」
魔女「ところで話は変わるけどさー、女の子の魅力を胸とかで判断する男ってさー、
じゃあてめえの股についてるもんはどんだけ立派なのか見せてみろって感じだよね」
魔女「ていうか最低だし、万死に値するし、私刑に処せられても文句言える立場じゃないよねー」
姫「あ、ええ!? 魔女さん!?どうしてここに!?」
魔女「姫様久しぶり!強盗団のリーダーの魔女ちゃんだよ!」
頭領「お前、躊躇なく俺の頭をテーブルに叩きつけた上に、ちゃっかりリーダーの座を奪うんじゃないよ」
魔女「お頭の頭をテーブルに……ってちょっと洒落みたいでおもしろいね」
頭領「この俺の血まみれの頭部を見ても、おもしろいって思えんのか? 悪魔か お前は」
488: 名無しさん 2014/07/12(土) 20:03:00.61 ID:D37hExuxo
A「ひえ~ お頭大丈夫か?魔女ちゃん相変わらず過激だな」
B「お頭の頭部なんてどうでもいいから、早くこの箱の鍵開けましょ。よそ見しないで」
頭領「オイ。てめーらも聞かない奴だな」ゴッ
A「いたーっ!!」
頭領「そりゃ貧困区のボロアパートから盗んできたって言ったよな。ふざけんな。返してこい。
俺たちが盗るのは金持ちからだけだ。忘れたのか?死ぬか? ええ?」
B「違うんだってお頭!絶対あそこに住んでるあの男、金持ちだもん!訳ありであそこにいるだけ!」
B「しっかし、あれからずっと頑張ってるのに全然開かないわね、これ。
オモチャだから簡単な仕組みのはずなのに変だなぁ」
姫「魔女さん、あなたどうして強盗団のメンバーになってしまったの!?」
魔女「だって姫様と同じようにメンバーになるよう脅されたんだもん。
それになんか……楽しそうじゃん!」
姫「た、楽しそうって……ああ私あなたみたいに一度生きてみたいわ」
魔女「大丈夫、強盗って言ってもこの人たちそんなに悪い奴らじゃないよ。
この街はどうやら私たちのいた世界と全然違うみたいなんだ」
魔女「下手に動くよりこっちの方が都合よくない?寄らば大樹の陰ってね」
魔女「強盗にいいも悪いもないです!犯罪よ!」
魔女「お金持ちからだけ盗むと言ったわね…… 義賊のつもりなのかしら?」
頭領「違うね。俺たちは貧乏人のためにやってるのでも、金のためにやってるのでもない」
頭領「ロマンのためだ」
姫「……」
魔女「ね?ほら、楽しそうでしょ?馬鹿みたいで」
姫「ええ、そうね……馬鹿みたいだわ」
強盗団「お頭ー、馬鹿みたいって言われてますよ ハハハ」
頭領「言われてるな。ハハハ」カチ
――ダァン!!
489: 名無しさん 2014/07/12(土) 20:04:34.24 ID:D37hExuxo
姫「……? ええっ? か、壁に穴が……!!一体なんなのそのジュウシマツとか言うのは?」
頭領「ジュウシマツはかわいいよな。俺も飼いたいとは思ってる。
でもやっぱまずはオカメインコからかなって……」
強盗団「お頭、話ずれてます。ジュウシマツじゃなくて、銃だぜ。お嬢ちゃん」
頭領「そう、これが銃。あんたにも扱いを覚えてもらうよ」
頭領「馬鹿みたいって言うが、馬鹿でいいんだ。俺たちは馬鹿やりたいだけなんだ」
頭領「この世界には夢がない。ロマンがない。
なあ知ってるか、昔はどこぞの大陸に黄金が埋まってるとか、だれだれが残した財宝があるとか」
頭領「そんな情報ひとつで大勢の人間が身一つで動いたんだ。
今はない海を渡って遠く離れた地へ、全てを捨てて、あるかどうかも分からん宝を求めてな」
頭領「昔は科学技術なんてなくて、医療も全然発達してなくて、それに比べりゃ今の世の中は天国なのかもしれない。
でも、昔はそのかわり夢があった」
頭領「ないかもしれない宝を追い求められる、馬鹿やれるパワーがあった」
頭領「俺たちはそれをやりたいだけだ。
目死んだまま手近にある金のために働いて生きるなら、夢追ってどこかでぽっくり死にたいね」
姫「……」
頭領「で、どうだいお嬢ちゃん。あんたはどうする。今だけ出口の扉を開いてやろう」
頭領「出て行きたいなら今しかない。俺たちに加わるってんなら、名乗りな」
姫「…………」
姫「……私は犯罪を肯定するわけではないわ」
姫「姫よ」
頭領「歓迎しよう」


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