1: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:06:54.07 ID:4WPndzrf0
薄暗く水で満たされた世界……

生後間もなく、俺の最初の修羅場は訪れた。



オタマジャクシ「な、なんだおまえ?」

メダカ「ククク……オレはメダカってもんだ」

メダカ「卵からかえったばかりのオタマジャクシは、うめえんだよなァ!!!」グワッ

オタマジャクシ「!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1528715213

引用元: ・カエル「俺は……井の中の蛙だ」

2: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:08:56.82 ID:4WPndzrf0
ザシュッ!

オタマジャクシ「ぐっ!」

メダカ「ヒャハハ、よくぞダイヤモンドをも噛み砕くオレの牙をかわしたァ!」

メダカ「だが次はねぇ!」グワッ

オタマジャクシ「えーいっ!」

バチンッ!

メダカ「げぶっ!」



尾での一撃でノックアウト。

これが俺の初陣だった。

3: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:10:22.44 ID:4WPndzrf0
少し大きくなった俺は活動範囲を広げ、水面近くを泳いでいた。すると、



アメンボ「消えろ」ギュンッ

ドゴォッ!

オタマジャクシ「ぐはぁっ!」

オタマジャクシ「な、なにするんだ!」

アメンボ「水上は俺の縄張り(テリトリー)だ……侵入するなら、子供といえど始末する」

オタマジャクシ「そういわれると帰る気がなくなるんだよな、カエルの子なのに!」

4: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:12:15.38 ID:4WPndzrf0
ギュンッ ギュンッ ギュンッ



オタマジャクシ「は、速い……!」

アメンボ「水上での俺の速度は音速と同等……」

アメンボ「未熟な貴様では……見切れん」



ギュンッ

ズガァッ!



オタマジャクシ「ぐあっ……!」

5: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:14:09.28 ID:4WPndzrf0
アメンボ「――トドメだ!」



スカッ



アメンボ「む!? かわされた!?」

オタマジャクシ「悪いけどあんたの“リズム”はもう見切った……」

アメンボ「な!?」

オタマジャクシ「僕はリズムをつかむのが得意なんだ!」

アメンボ「リズムを……!? そんなことで俺のスピードを破れるか!」ギュオオオオッ



ドゴォンッ!

6: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:14:38.22 ID:4WPndzrf0
アメンボ「がふっ……!」

アメンボ「ふふっ、やはり、速さだけで天下は取れんか……」

アメンボ「お前ならば、ザリガニにも勝てるかも……」

オタマジャクシ「ザリガニ……」

オタマジャクシ「そいつを倒せば、僕がこの世界のボスになれるんだな!」

アメンボ「そういうことだ……」

7: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:17:15.54 ID:4WPndzrf0
さっそく俺は世界の覇者になるべく、ザリガニに勝負を挑んだ。



ザリガニ「ガッハッハ、俺に挑もうというのはお前か!」ジョキジョキ

オタマジャクシ「ああ……ボスの座はいただく!」

オタマジャクシ「行くぞっ!」スイスイッ

ガツンッ!

ザリガニ「ガッハッハ……ぬるい体当たりだ」

オタマジャクシ「なんて頑丈な装甲だ!」

8: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:18:34.54 ID:4WPndzrf0
ザリガニ「ちょん切ってやる!」

ジャキンッ!

オタマジャクシ「あ、危ない……」

オタマジャクシ「あのハサミに切られたら、ひとたまりもないぞ……」

オタマジャクシ「ハサミには絶対近づかないように、タックルするしかない!」

ザリガニ「……」ニヤッ

9: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:19:43.03 ID:4WPndzrf0
ガツンッ! ガツンッ! ――ガツンッ!



オタマジャクシ「いくらやってもビクともしない……」

オタマジャクシ(攻撃してるのはこっちなのに、消耗してるのもこっちだ!)

ザリガニ「ここまでだな、ちょん切ってくれる!」グアアッ

オタマジャクシ「そうか、分かったぞ!」



ドガァッ!

11: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:22:30.23 ID:4WPndzrf0
ザリガニ「ぐああっ!」ピシピシッ…

オタマジャクシ「やっぱりな……」

オタマジャクシ「強大な武器として振りかざしてたハサミは、弱点でもあったんだ!」

オタマジャクシ「いや、弱点だからこそ、あえて武器として誇示してたという方が正しい!」

ザリガニ「ぐっ……!」

オタマジャクシ「どうする? もう一撃加えれば、体ごと砕け散るぞ?」

ザリガニ「ま、参った!」



こうしてザリガニを屈服させた俺だが、ザリガニは世界の一地方のボスに過ぎなかった。

しかし、俺はまだまだ自分は未熟と考え、この地にて力を蓄えることに専念した。

12: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:28:31.53 ID:4WPndzrf0
数年後……

尻尾が消え手足が生え“カエル”となった俺は、世界の覇者となるため動き出す。

その大きな障壁となったのは――サメだ。



カエル「勝負を申し込みたい」

サメ「おもしれえ……!」

14: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:31:47.75 ID:4WPndzrf0
サメ「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアク!!!」グワァァァッ

ガブッ!

カエル(アメンボ以上の速度と、ザリガニ以上の攻撃力!)

カエル「ぬんっ!」バッ

ガキンッ!

サメ「俺の鮫肌に、そんなタックルは通用しねえぜ!」

カエル(防御力も、あのザリガニ以上!)



カエル(これだ! こうでなくては面白くない!)ゾクゾクッ

15: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:34:00.37 ID:4WPndzrf0
カエル「ならば、この足についた水かきを存分に生かした――」

カエル「カエル張り手!」ブオンッ

バチィンッ!

サメ「ぐおおっ……!?」

サメ「やるじゃねえか……! こんな気合の入った攻撃は久しぶりだぜ!」

カエル「そちらこそな……。勝敗の見えない戦いというのはゾクゾクする」

16: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:36:16.16 ID:4WPndzrf0
カエル(この勝負――至ってシンプル!)

カエル(俺の張り手とサメの牙、どちらが上かの勝負!)

カエル「げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

サメ「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアック!!!」



ズガァンッ!!!



カエル「勝った……!」

サメ「クジラさん以外で、俺に勝てる奴がいる、なんてな……」

17: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:38:57.05 ID:4WPndzrf0
サメを倒した俺は、クジラへと挑戦状を叩きつけた。



クジラ「ぬふふふふ……」ズゥゥゥゥン

カエル(でかい……)

カエル(いったい、何百メートルあるんだ!?)

クジラ「チミかね? 私に挑みたいという小さき者は」

カエル「そうだ。お前を倒し、世界の覇者となる」

クジラ「ぬふふ、私は争いは好まない。出来れば穏便に帰ってもらいたいのだが……」

カエル「帰らん!」

18: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:42:11.99 ID:4WPndzrf0
クジラ「嬉しいよ。ならば心おきなく叩き潰せる」

クジラ「私はねえ、穏やかなイメージがあるが本性は好戦的なのだよ」グオッ



ズシンッ!!!



カエル「ぐええっ……!」

カエル(なんて重量だ! ただ上に乗られただけで、これほどのダメージを……!)

19: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:43:32.72 ID:4WPndzrf0
クジラ「ぬふふ、たまにはカエルを食べるのもよかろう」

クジラ「いただきます」グバァァァァァ…



ズゴォォォォォ……!



カエル「吸い込まれる……!」

カエル「うおああああああああっ……!」

20: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:46:27.85 ID:4WPndzrf0
カエル(食われてしまった……!)

カエル(体内にいるだけで、どんどん体が消化されていく……!)

カエル(だが、俺は諦めん!)

カエル(体内からこのクジラを攻撃し、なんとしても外に帰る!)

カエル「げろおおおおおおっ! 張り手っ! 張り手っ! 張り手ぇぇぇぇぇっ!!!」



ドカンッ! ドカンッ! ドカァンッ!



クジラ「ぐううううううううう……!!?」

21: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:48:11.92 ID:4WPndzrf0
クジラ「ぐごおおおおおっ!!!」オエッ

カエル「よし、吐き出された!」

カエル「トドメだ! 俺の跳躍力を、キックにして叩き込む!」



ズドォッ!!!



クジラ「ぐぬぅぅぅぅぅ……!」ズズゥゥン…

22: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:50:26.64 ID:4WPndzrf0
カエル「これで、俺がこの世界の頂点……」

クジラ「ではない……」

カエル「!」

クジラ「この世界の王は、偉大なる竜≪ウォータードラゴン≫だ……」

クジラ「あの方こそ王の中の王、絶対なる君臨者なのだ……」

カエル「まだ上がいたというのか……!」

クジラ「だが、小さき者よ……。チミならば、あの方に勝てる、かも……」

カエル「教えてくれてありがとう。礼をいう」

クジラ(ぬふふ……もしかすると、王者交代の瞬間を見られるかもしれんねぇ……)

24: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:53:10.09 ID:4WPndzrf0
俺は世界の覇者ドラゴンと対峙した。



ドラゴン「クジラは我の存在を知る、数少ない強者だった」

ドラゴン「そのクジラを倒したのが、まさか蛙だとはな」

ドラゴン(だが、この者……気迫は凄まじいものがある。過小評価はすまい)

ドラゴン(我と対等に戦う資格あり!)

ドラゴン「来るがいい」

カエル「げぇろおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」ピョーンッ

25: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:55:36.79 ID:4WPndzrf0
ドラゴンは全てが規格外だった。今までの強敵とは比較にならなかった。

だが俺とて、無数の修羅場をくぐり抜け、その規格外に通用する戦力を得ていた。



ドラゴン「ウォーターブレス!!!」ズゴォォォォォォッ

カエル「カエル張り手!!!」バチィンッ

ドラゴン「ドラゴンテイル!!!」ブオオオンッ

カエル「カエルキック!!!」ドガァッ



必殺技の応酬が続き、ついに……!

27: 名無しさん 2018/06/11(月) 20:57:10.63 ID:4WPndzrf0
ドラゴン「グオオッ……!」ドズゥゥゥゥン…

カエル「ハッ、ハッ、ハッ……や、やった!」

ドラゴン「見事だ……我の完敗だ」

カエル「いや……ギリギリの勝利だったよ」

ドラゴン「新たな時代の幕開けのようだ……」

ドラゴン「ならばついに、この世界の真実を話す時が来たようだな……」

カエル「世界の……真実!?」

ドラゴン「こちらへ来るがいい」ザブ…



俺はいわれるがまま、ドラゴンについていった。

28: 名無しさん 2018/06/11(月) 21:00:23.32 ID:4WPndzrf0
俺は≪世界の果て≫を目撃した。



カエル「これは……壁!?」

ドラゴン「そうだ、この世界は閉ざされた世界≪井戸≫に過ぎん」

カエル「井戸……!」

ドラゴン「上空にある、あの小さな光……あれを越えると外には無限の世界が広がっているという」

カエル「あの上に世界があるだなんて……」

ドラゴン「あの光にたどり着くことは、この我でも出来なかった」

ドラゴン「だが、貴公の跳躍力なら……越えられるかもしれん。外に出られるかもしれん」

ドラゴン「行くか?」

カエル「無論! 行くに決まっている!」

29: 名無しさん 2018/06/11(月) 21:02:46.26 ID:4WPndzrf0
メダカ「ヒャハハッ、頑張ってこいよ!」

アメンボ「井戸に住まう者たちの意地を見せてきてくれ」

ザリガニ「まさか、あのオタマジャクシが、ここまででかくなるなんてな……」

サメ「負けて帰ってきたら承知しねえぞ!」

クジラ「ぬふふふ、チミならばやれる!」

ドラゴン「存分に暴れてくるがいい」



カエル「みんな、ありがとう……! 世界の覇者になるまで俺は帰らん!」

カエル「げろおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

ピョーンッ!



俺は≪井戸≫の外に飛び出した……。

30: 名無しさん 2018/06/11(月) 21:06:18.13 ID:4WPndzrf0
記者「こうして、カエルさんは井戸から旅立ち――」

記者「外の世界で、破竹の勢いで強者を倒しまくり、このたびついに≪世界最強の生き物≫を倒し」

記者「“真の世界一”となられたわけですね!」

カエル「……」

記者「今のお気持ちをどうぞ!」

31: 名無しさん 2018/06/11(月) 21:07:54.57 ID:4WPndzrf0
カエル「さっき倒した≪世界最強の生き物≫とやら……」

カエル「奴の強さははっきりいって、俺が生まれて初めて倒したメダカ以下だった」

カエル「こんな軟弱な世界には、もうなんの用もない……俺は帰る。井戸こそが俺の居場所だったんだ」

カエル「俺は……井の中の蛙だ」