1:2012/03/11(日) 01:07:37.66 ID:
~~~~~~

◇ ◇ ◇
屋敷・中庭
◇ ◇ ◇

早朝

エルフ少女(結婚式を終えて、三日が経った)

エルフ少女(合計八組もの夫婦の中に紛れるようにいた、元メイドさんの真っ白なドレス姿がキレイで、すごく印象に残っている)

エルフ少女(これだけ経った今でも、まだ仕事の合間に思い出せる)

エルフ少女(……人間の結婚式は、賑やかで、派手で……そして、わたし達とは違う美しさがあるものだった)

エルフ少女(それでもやっぱり……わたし個人としては、わたし達の結婚式である、あの静かな感じの方が好きだけれど)

エルフ少女(……でも……あのドレス姿は……同じ女性として、少し惹かれるものがあった……)

エルフ少女(……まぁ、人間と結婚するなんて、考えたくも無いことだけど)

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4: :2012/03/11(日) 01:11:39.97 ID:
エルフ少女(そんなわたし個人の感想はともかくとして……あの人は、結婚式の翌日には街を出て、この屋敷へと戻ってきた) 

エルフ少女(馬車を事前に予約していたおかげで、その日は昼食後少ししたぐらいには帰ってこれた) 

エルフ少女(結婚式当日には既に、元メイドさんに挨拶をしていたのもあるのだろう) 

エルフ少女(すんなりと、ここへと戻ってきた) 

エルフ少女(そしてその日から今日まで……食事も満足に摂らず、入浴なんてもちろんせず、研究に没頭し始めた) 

エルフ少女(もし今日の昼も出てこなければ、ほぼ丸二日、研究室から出てこないことになる) 

エルフ少女(でも……この前みたいに、無理矢理引っ張り出すことは、しない方が良いのだろう) 

エルフ少女(……昨日も今日も、研究室に篭る前から「鍵を開けて入るのは止めて欲しい」って止められちゃったしな……) 

エルフ少女(……今日も食事はいらないのだろうか……) 

エルフ少女「……はぁ……」 

エルフ少女(ホント……いい加減、身体壊しそうなものだけど……) 

エルフ少女「……というか……」 

エルフ少女(わたし達二人も入浴できないのは辛い……) 

エルフ少女(……贅沢って、覚えない方が良いよね……身体を拭けるだけ幾分もマシだっていうのにさ……) 

エルフ少女(それが分かってるのに……そんなこと考える自分がイヤになる……本当に)

6: :2012/03/11(日) 01:14:32.55 ID:
エルフ少女「はっ……!」ヒュッ 

エルフ少女「はぁっ……!!」ヒュヒュヒュッ…! 

エルフ少女「…………すぅ~……」 

エルフ少女「……はぁ~…………」 

エルフ少女(……うん)チャキ 

エルフ少女(告白してからずっと預かったままのナイフも……いい加減、扱いに慣れてきた) 

エルフ少女(……ただ……これも贅沢なんだろうけど、やっぱり長いのが欲しい) 

エルフ少女(お父さんに特別に一度だけ振らせてもらった、身の丈以上長いのはいらないけど……もうちょっとだけ、相手との間合いが取りやすいやつ) 

エルフ少女(後は……わたしとその得物の距離が離れても、わたしが目視しやすいぐらい大きなやつ) 

エルフ少女(これだけ短いとさすがに……) 

エルフ少女「…………」 

エルフ少女(……ま、投げる分には扱いやすいか) 

ヒュッ 

スコン! 

エルフ少女「…………」 

パチパチパチ… 

エルフ少女「っ!」 

男「すごい、命中。上手だね」 

エルフ少女「……旦那様……」

7: :2012/03/11(日) 01:18:33.01 ID:
男「相変わらず流れるみたいでキレイな動きだね……惚れ惚れするよ」 

エルフ少女「ありがとうございます」 

男「でも、メイド服って動きづらくないの? 動きやすい格好に着替えたらいいのに……」 

エルフ少女「いえ。これ、スリットを入れてもらいましたから。十分動きやすいですよ」 

ピラ 

男「ちょっ……!」 

エルフ少女「え?」 

男「そんな恥じらいもなしに……!」 

エルフ少女「そんな……突然下着を見せられた、みたいな反応をされても……」 
エルフ少女「別に足を見せただけですし……そんなに深くも切ってもらいませんでしたから」 

エルフ少女「まぁ個人的にはもっと深く切っても良かったんですけど……元メイドさんに止められまして」 

サッ 

男「はぁ……いや、それ正解だよ」 
男「だってそれ以上深くしちゃったら、下着が見えるんじゃないの?」 

エルフ少女「下着の上からまた何か、見られても大丈夫なものを履けば済む話ですし」 
エルフ少女「何より、やはりいざという時の動きやすさの方が重要かとも思いますし」 

男「イザという時……?」 

エルフ少女「はい。突然襲われた時など」 
エルフ少女「ですからその時にも対応できるよう、メイド服で動く特訓をと」 

男「なるほど」

9
:2012/03/11(日) 01:20:49.87 ID:
エルフ少女「それにしても旦那様、部屋から出てこられたということは、もう研究は終えられたのですか?」

男「いや、まだ」

エルフ少女「……珍しいですね。それなのに出てこられるとは」

男「今日中には完成しそうでね……一段落もついたし」

エルフ少女「でしたら……今日は朝ごはん、食べますか?」

男「うん。いただくよ」

エルフ少女「それなら早く奴隷ちゃんに言いにいかないと。今日も用意しないつもりでしたし」

男「う~ん……それならそれで良いかなぁ……」

エルフ少女「ダメです」

男「うっ」

エルフ少女「せっかく食べる気なのでしたら、食べていただかないと」
エルフ少女「どうせ食べ終えたらまた研究室に篭るのでしょう?」

男「まぁ、ね」

エルフ少女「ならその前に、せめて朝食ぐらいはしっかりと食べてください」
エルフ少女「それと、入浴もちゃんとお願いしますよ」

男「……はい」

10:2012/03/11(日) 01:23:00.30 ID:
テクテクテク…

エルフ少女「それにしても……本当に珍しいんじゃないですか? 一段落したからと部屋から出てきたのは」

男「それは、ボク自身もそう思うよ」

エルフ少女「元メイドさんも、旦那様はずっと研究ばかりだったと話しておられましたしね」

男「ああ~……まぁ彼女の時は、毎日研究室に来てご飯と入浴を強制されてたからね……そのせいでコッチも、色々と意地を張ってたのかも」

エルフ少女「なるほど……わたし達は言われたとおり、研究室を開けませんでしたからね」

男「元々、あまり一人なのも得意じゃない性質だし、構ってくれないならくれないで、気になっちゃうんだよ、ボク」

エルフ少女「子供みたいですね」クスッ

男「ボクもそう思うよ」クスッ

男「だからま、自分から出てきて、こうしてコミュニケーションを取ってもらってるって訳」
男「一人が寂しくて独り言が多くなってきたから二人を雇った、っていうのもあるぐらいだしさ、ボクって」

エルフ少女「それなら、もっと多く出てきてくれたら良いじゃないですか」

男「研究も重要だからね」
男「それに……早く今の研究を終わらせないといけない理由も増えたし」

エルフ少女「…………」

11:2012/03/11(日) 01:25:26.00 ID:
エルフ少女「一つ、気になったんですけど」

男「ん?」

エルフ少女「どうしてわたし達エルフのために、そこまでしてくれるんですか?」

男「…………」

エルフ少女「それに、わたし達にどういう扱いをしても大丈夫だと知っているのに、どうしてそんな普通に接することが出来るんですか?」

男「…………」

エルフ少女「普通の人間なら、それこそわたし達を文字通り飼うようになるはずですし……」

男「ん~……まぁ、そうだなぁ……」

エルフ少女「はい」

男「今の研究と同じで、ただの罪滅ぼし……って、周りには思われるかもしれないけど……」

男「実際はただ、やりたいだけ、なんだよね」

エルフ少女「……? やりたい……? 何をですか?」

男「キミ達を助けること」

エルフ少女「……どうして、そう思ってくれるのですか?」

男「それは……」

男「…………」

男「……ま、全てが終わったらちゃんと話すよ」

エルフ少女「」ガクッ
エルフ少女「……全てが終わってから頑張っていた理由を話されても……」

男「ん~……でも今はほら、いつかこのことを二人に話すために頑張ろう、っていうのが活力になってる部分があるしさ」

男「だからまぁ、待っててよ。話せるようになるまで」

エルフ少女「……仕方ないですね。分かりました」

12:2012/03/11(日) 01:27:26.51 ID:
~~~~~~

深夜

◇ ◇ ◇
エルフ少女の部屋
◇ ◇ ◇

エルフ少女「…………」スゥ…スゥ…

カチャ…

…キィ

?「…………」

タン…タン…タン…

エルフ少女「…………」スゥ…スゥ…スゥ…

タン…タン…タン…

?「…………」

ギシッ

エルフ少女「っ!」

バッ!

ビュッ…!

…シャッ…!

?「っ!!」

エルフ少女「……乙女の部屋に侵入とは……穏やかじゃありませんね」

エルフ少女「……どちら様ですか?」

?「……乙女がいきなり首筋にナイフを突きつけてくるとは思えないんだけど……」

エルフ少女「……ん?」

?「……というか……寝ている間もソレを傍に置いてるとはね……」

エルフ少女「その声……旦那様?」

男「どうも」

13:2012/03/11(日) 01:29:04.13 ID:
エルフ少女「……なんの御用ですか?」

エルフ少女「まさか……○○○、ですか?」

エルフ少女「そういうことが可能だと確信がもてた途端に?」

男「ち、違う違う!! そうじゃない!」

エルフ少女「とてもそうには見えませんけど……?」

男「た、確かに○○○をかけたみたいに見えるけど……! でも違うってっ!!」

エルフ少女「説得力は皆無ですね」

男「ま、まぁ……ボクも女で、逆の立場なら同じことを思うけど……」

エルフ少女「…………」
エルフ少女「……まぁ、奴隷として買われてしまったわたしに、本来ならこうして拒絶することは許されないのでしょうね……」

エルフ少女「ですが……それでも――」

男「だから違うって!」
男「実はさ、研究が完成したから、見てもらいたくて!!」

エルフ少女「完成した……?」

男「うん! 魔力で秘術を扱う魔法!!」

53:2012/03/12(月) 01:02:23.47 ID:
エルフ少女「……何故わたしに?」
エルフ少女「魔法や秘術なら、奴隷ちゃんの方が詳しいでしょう?」

男「彼女も次に起こすつもりだったんだって!」

エルフ少女「……何故この時間なんですか?」
エルフ少女「夜中に起こされる身にもなってください」

男「そ、それは確かに……悪いと思ったけど……」
男「ボクも寸前まで悩んだんだけど……」

男「でも……なんというか、いち早く誰かに見てもらいたくてさ!」

男「なんというかこう、自慢、みたいな?」

エルフ少女「…………」
エルフ少女「……はぁ」

エルフ少女(つい今朝に子供っぽいと思ったけど……これほどとは)

男「どう? 信じてくれた!?」

エルフ少女「……まぁ、そうですね」

エルフ少女「というより、実は、旦那様」

男「ん?」

エルフ少女「別に、わたしは旦那様を押さえつけている訳ではないのですから、ナイフと反対方向に首を動かしながら離れてくれれば、あっさりと離れられるんですよ?」

男「あ……そうだったんだ」
男「そういうの、よく分からないからさ」

スッ…

54:2012/03/12(月) 01:04:10.74 ID:
エルフ少女「……片腕をついて顔を近づけてきていたのは、もしかしてキスでもしようとしてました……?」

男「ま、まさか!」

男「やっぱりしっかりと寝てるなら起こせないなと思って、寝ているかどうか確認を……!」
男「これで寝てたら諦めようとか、そう考えてね……!」

エルフ少女「……そうですか」

男「うんうん!」

エルフ少女(……なんか、そうやって強く否定されると少しだけショックを受けている自分がいる……)
エルフ少女(それが……ちょっとむしゃくしゃする……)

男「や……やっぱり怒ってる……?」

エルフ少女「……いえ」
エルフ少女「まぁ、夜中に起こされたことに関しては、別に怒ってませんよ」

エルフ少女「子供みたいだなぁ、と今朝話したばかりですし」

エルフ少女「ええ。別に。怒ってないですよ」

男「は、ははっ……」

エルフ少女「ともかく、奴隷ちゃんも起こしにいくつもりだったのなら、起こしに行きましょう」

男「う、うん……」

55:2012/03/12(月) 01:05:52.22 ID:
ガチャ

キィ…

男「…………」

トコトコトコ…

エルフ奴隷「……ん? ……ご主人さま……?」ボ~…

男「……エルフの皆は眠りが浅いものなの?」

エルフ奴隷「……はい?」ボ~…

男「いや……なんにも」

エルフ奴隷「もしかして……○○○ですか?」ボ~…

男「ち、違う違う!」
男「というか二人してそう思うって……ボクの印象って、もしかして結構悪かったりする?」

エルフ奴隷「ん~……そんなことはありませんが……」ボ~…
エルフ奴隷「むしろ良かったりしますが……」ボ~…

男「……もしかして、寝ぼけてる?」

エルフ奴隷「いえいえ……そんなことは……」ボ~…

男「…………」

エルフ奴隷「……あ、○○○でしたね。すぐに服を脱ぎま――」ボ~…

男「違うから違うから! ちょっと自慢したかっただけなんですごめんなさい!!」

エルフ奴隷「……自慢……?」ボ~…

56:2012/03/12(月) 01:07:32.97 ID:
~~~~~~

男「本当にごめんね。こんな夜中に屋敷の外になんか出して」

エルフ少女「……そう思うのなら、最初から呼びに来なければ良かったんじゃないですか?」

男「……返す言葉もありません……」

エルフ少女「奴隷ちゃんなんて、寝ぼけているところを無理矢理連れてこられたんですよ?」

男「……本当にごめんなさい」

エルフ奴隷「いえ、そんな……! 私こそ、寝ぼけている見苦しい姿を見せてしまって……すいません」///

エルフ少女「でも奴隷ちゃんが寝ぼけてるって珍しいよね? いつも朝はそんなことないのに……」

エルフ奴隷「実は……その……毎朝、本当はもうちょっと早く起きてるんですよ」///
エルフ奴隷「ただその……ボ~っとしてる時間が長いと言いますか……まぁ……そんなところです」///

エルフ少女「ふ~ん……」

エルフ奴隷「わ、私の話よりも、ご主人さまですよっ」
エルフ奴隷「なんでも、魔法を使う方法で、秘術が使えたとかっ」

57:2012/03/12(月) 01:09:36.93 ID:
男「うん……本当は日が昇るまで待ってから公開しても良かったんだけど……なんかこう、いち早く見てもらいたくてさ」

男「本当……自分勝手な理由だよね……見せびらかされたり、訳の分からない仕組みを説明されるために起こされるなんて……面倒だよね。むしろ辛いよね。……ごめん」

エルフ奴隷「話が巡り続けてますよ、ご主人さま」
エルフ奴隷「私は別に気にしていませんから」

エルフ奴隷「むしろ、自分にその成果をいち早く見せてくれようとしてくれて、嬉しいぐらいですし」

エルフ少女「……まぁ、努力の成果を早く誰かに見てもらいたい気持ちも分かりますからね」
エルフ少女「わたしだって、別にそのことに関して怒ってなんていませんよ」

エルフ少女「ただちょっと旦那様の反応が面白かったので、何度も責めてしまっただけです」

男「反応が面白いって……」
男「……まぁ、良いや」

エルフ少女「それで、早速見せてもらえるんですか?」

男「もちろん。そのために呼んだんだからね」

キュポン

エルフ奴隷「……水……ですか?」

男「うん。ボクの魔法といえば、コレだからね」

58:2012/03/12(月) 01:12:17.92 ID:
エルフ少女「まさか、いつもみたいに撒くんですか? その細い筒のような瓶容器に入った水を」

男「ううん。これを飲む」

エルフ少女「飲む……?」

男「水の中に術式を施してあるのは前までの通り」
男「ただコレを飲むことで、体力を魔力に変換する際、その魔力に特殊な信号が付属されるようになる」

エルフ少女「……あ」

男「そう。この前説明した通りのことをするだけ」
男「変換される魔力全てを、精霊に届くかもしれない信号を発せられるようにする」

男「そうすることで、秘術を使えるようにするって訳」

エルフ奴隷「……届くかもしれないということは、届かないかもしれないということですよね?」

男「そうだけど……ま、研究室で一度実験したときは、ちゃんと秘術っぽいことは出来たよ」

エルフ少女「秘術っぽい?」

男「秘術だ、って自信が持てないだけ」

エルフ奴隷「……それを、私達が確認すればよいのですね?」

男「それもあるかな」

男「というか、それは建前で……本音はさっきから言ってる通り、この完成した研究成果ともいえる魔法の自慢」

男「ボクとしてはちゃんと秘術だと思えた訳だし」

男「自信は無いけどね」

59:2012/03/12(月) 01:14:30.89 ID:
男「というわけで、早速」

ゴクッ

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「……それって、変な味はしないんですか?」

男「もちろん」
男「術式を施してるといっても、単なる水だからね。味としては、裏で汲める井戸水と変わらないよ」

エルフ奴隷「……それで、今はもう秘術が使えるのですか?」

男「うん」
男「ただ、この魔法の効果は短いんだ」

エルフ少女「……それなら、そう悠長に話してる場合じゃないんじゃ……?」

男「今体力を魔力に変換してるところ」
男「変換さえ果たせば、もう魔法の効果が切れても良いからね」

エルフ少女「……魔法って、面倒なんですね」

男「無理をしているようなものだからね」

男「っと、まぁ、魔力の量はこのぐらいで良いか。実験なのにあまり変換しすぎると倒れちゃうし」

エルフ少女「変換中って、そんなに隙だらけなんですか?」

男「まさか。ボクだって体力を魔力に変換しながら、変換されてくる魔力をそのまま魔法術式に充てることだって出来るよ」

男「今はそうやって集中力を分散させる必要も無いからしないだけ」
男「切羽詰る戦いの最中って訳でもないし」

60:2012/03/12(月) 01:15:52.89 ID:
男「さて……で、ここからがこの魔法の見所」

男「本来、秘術は口で紡いで、精霊にしたいことを伝える」

男「でもこの方法で秘術を使うときは、今までの魔法と同じで、中空に光の文字を描いてお願いをする」

男「ただ、人間の文字だと伝わりづらいであろうことは、さっき一人でやった実験で分かった」

男「だから今回は、エルフの文字でやってみようかと思う」

サッサッサ…

男「ん~……実験だし、これぐらいで良いか」

サッサッサ…

エルフ奴隷「……確かに。それが出来れば秘術だと思いますよ」

男「本当? なら、試す価値はあるかな」

エルフ奴隷「そこに書いてある通りのことが出来れば、ですけれど」

男「……ま、そこは試してみるしかないか」

男「じゃあこれで……発動!」

パン



キィィィ…

シュゴドォッ!

61:2012/03/12(月) 01:19:22.14 ID:
エルフ奴隷「……書いたとおりになりましたね」

男「……うん……うん!」

エルフ奴隷「間違いなく、秘術と同じ効果です」

男「ということは……」

エルフ奴隷「間違いなく、成功です」

男「成功……成功……成功した……成功したっ……! 成功したっ!! 成功したっ!!!!」

男「いよっしゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー……!!!」

エルフ少女「うわっ……」

エルフ少女(そんなに大声上げて喜ぶところなんて初めて見た……)
エルフ少女(というか、大声上げてるところ自体初めてかも……)

エルフ奴隷「おめでとうございます」

エルフ少女(……でも――)

エルフ少女「――確かに。書いたとおり“少し離れた所の地面が錐状に突き上がる”って現象は起きたけど……」

エルフ少女「これで、どうして秘術だって確証が持てるの? 魔法については詳しくないけど……これって、魔法でも出来ることなんじゃ……?」

エルフ奴隷「それはですね――」

男「なぁに! 簡単なことだよ!」

エルフ少女(あ、ちょっとウザい……)

男「秘術が魔法とは違って、世界への干渉率が高いからだよ!」

男「つまり! さっきの現象は魔法では行えないってことさ!!」

男「いや、正確には行えるんだけど! だけどね! だけど! やっぱりちょっっっと! 微妙に変化があるというかね――」

エルフ少女「あ、我慢できない」

男「――え?」

エルフ少女「すいません。ちょっとウザいです、旦那様」

男「…………」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

男「…………ごめん…………」

男「…………もうちょっと……落ち着くよ…………」

エルフ少女「お願いします」

85:2012/03/13(火) 01:10:08.68 ID:
エルフ少女「で、落ち着いた上で、説明の続きが聞きたいです」

男「……うん」

男「えっとね……まず魔法っていうのは、体力を魔力に変換して世界に干渉してもらう、っていう方法なのは前から何度も言ってるけど……」
男「それはつまり、その変換した魔力と交換で、世界に色々な現象を起こしてもらってるってことなんだ」

男「だからどうしても魔法だと、その魔法を使った人の近くからしか発動できない」

男「さっきみたいに、指先に魔力を灯して光の文字を描き、世界にしてほしい現象をお願いするでしょ? あれこそが何を隠そう魔法術式ってやつなんだ」

男「術式を施す、っていうのはつまり、“魔力を使ってもらって魔法術式を発動可能状態にしてもらう”ことを指す」

男「結婚式の前日に二人に渡してた魔法水の入った瓶なんかは、事前に水の中にその“術式を発動可能にしたもの”を宿しておいた状態ってこと」

男「魔法道具(マジックアイテム)なんかもそうだね。身に着けるものやその他諸々に術式を施すことで、世界に干渉してもらい、様々な効果を発動させる」

男「もしその効果を発動させ続けたいんなら、それこそ身に着けている人の体力を魔力に変換して、ソレを交換し続けるように術式を編まないといけなくなるってこと」

エルフ少女「…………」
エルフ少女「……まぁ、よく分かりませんでしたけど」

男「」ガクッ

エルフ少女「でもそれってつまり、魔法を使うには魔力が必要ってことですよね?」

男「うん」

エルフ少女「それならどうして旦那様のあの水などは、魔力が入っていないのにソレを瓶の外に出すだけで、魔法が発動されるのですか?」

男「いや、魔力は入ってるよ。だからこそ水を外に出すだけで魔法が発動するんだし」

エルフ奴隷「瓶の口の近くに、瓶の中の術式を発動しないようにする術式を施しているんですよね?」

男「うん。その通り」

86:2012/03/13(火) 01:14:32.81 ID:
エルフ少女「ということは、あの水の中には、魔力と、魔法を発動させる術式、っていうのが一緒に存在しているということですか?」

男「そういうこと」

エルフ少女「なら長時間保存しておくと、あの水はただの水になってしまうということ?」

男「基本的にはね。というよりあの水の中の魔力は、込めてから丸一日しか保たないよ」
男「ボク自身の体力が少なくて、変換して宿せる魔力総量も少ないせいで、込められる量も限られちゃうからね」

男「“術式を施した水”という形だと、魔力が無くてもその形は残る。それこそ魔法道具(マジックアイテム)と一緒」
男「装備するのを止めて魔力の供給が一度なくなっても、時間が経って再び装備して魔力を供給してやれば動くんだから」

男「中には、あの調理場の木箱に施してあるような“時間を遅くする術式”を瓶自体に施してあるのもあるけど……まぁ、数は少ないかな」

男「本当は全部にその術式を施すのが良いんだけどね……アレは術式を発動し続けるための必要魔力自体も遅くして循環させることで、少量で済んで燃費も良くなるし」

エルフ少女「では、何故そうしないのですか?」

男「ん~……まぁ、その術式を施すために必要な魔力が多いっていうのと……」
男「あとは、そうして全部保存しておいて、もし地震でも起きて瓶が全部倒れて割れちゃったら、屋敷がふっとんじゃうからかな」

エルフ少女「あ~……なるほど」

エルフ少女「……ん? でも旦那様、その話を聞く限り、結局瓶の中の魔法を使えるようにするのに、また魔力を込めてるんですよね?」
エルフ少女「ということは、別に瓶にそんな何重にも術式を施さなくても、直接目の前で魔法を使ったほうが手間が省けそうなものなんですけど……」

男「その術式を編むのだって魔力を使うからね」

男「普通の魔力総量があるんなら、確かに目の前で直接使った方が良いんだろうけど……むしろだからこそ、ほとんどの魔法使いがそうしてるんだろうけど……」
男「でも、さっきから何度も言ってるけど、ボク自身は体力が無いからね。少しでも魔力の節約をしたいからこその、ちょっとした足掻きみたいなものなんだ」

男「手間も掛かるし、総合的には魔力も取られちゃってるけど……でも、戦いになった時は少しでも魔力を抑えた戦い方をしないと、保たないからさ」
男「事前準備を念入りにしているってこと」

87:2012/03/13(火) 01:17:55.25 ID:
男「……で」
男「結構話が飛んじゃったけど……それに対して秘術っていうのは、周りにいる精霊にお願いして、世界に現象を引き起こしてもらうこと――」

男「――って、これは二人の方が詳しいから説明は良いか」

男「ただ分かって欲しいのはその性質の違い上、魔法は術者の体力が消耗され、秘術は術者の体力が消耗されない、っていう大きな違いがあるんだ」

エルフ少女「……? でも、それとさっきの“土の錐”と、どう関係があるんですか?」
エルフ少女「とても魔法と秘術の違いが分かる実験のようには見えませんでしたけど……」

男「まぁ、ボクが使ったあの方法は“魔法と同じ方法で秘術を使う”ってやつだからね。その“大きな違い”からじゃあ魔法か秘術かなんて判断はつけられないんだ」

男「つけるための方法は、もう一つ。さっき軽く言ったけど、“魔法は術者の近くでしか発動されない”って部分」

エルフ少女「…………」
エルフ少女「…………あ」

男「気付いたね」

男「“離れた場所の地面に土を錐状にして隆起させる”……これは、魔法では出来ないことなんだ」
男「もし魔法で行いたいんなら、その“錐状に隆起させる”ポイントまで、魔力が走った跡が残るんだ」サササササッ

男「こんな風にね」ドンッ!

ピシピシピシピシ、シュゴドォッ!

エルフ少女「おぉ~……」

男「ほら、踏みしめた足の先から向こうの出てきた土の錐まで、埋まっていた細い糸が掘り起こされたような、小さな線の跡があるでしょ? これが魔力の走った跡」

エルフ少女「なるほど……」

男「で、秘術で使ったほうは、この跡がない」
男「つまりこれで、さっきのは秘術が使えた、っていう証明をしたことになるんだ」

88:2012/03/13(火) 01:19:17.75 ID:
エルフ少女「……でも、結果的に出来たことは同じですよね?」

男「ん~……まぁね」

エルフ少女「確かにこの魔力の跡というののせいで、戦闘が不利になる可能性はありますけど……」
エルフ少女「でも、それこそ別の魔法にすれば良いんじゃないんですか? 手から火の槍でも無数に打てば良いんですし」

男「まぁ、戦闘だとそうなんだけど……ボクが秘術でしたいのはそういうのじゃないから」

エルフ少女「そういうのじゃない……? どういうことですか?」

男「……魔法は、術者の近くでしか発動できないんだよ」

エルフ少女「? それはさっきも聞きましたけど……」

男「つまりね……魔法じゃあ、体内へ何かしらの影響を与えることが出来ない、ってことなんだ」

男「むしろ……他人の魔力を体内に入れられると、どんな副作用があるのか分からなくなる……術式を施し終えたものであれ、なんであれ……ね」

エルフ奴隷「…………」

男「……まぁ、なんというか……」
男「戦争の頃の話になって申し訳ないけど……」

男「当初勝っていた人間にエルフが逆転してこれたのは……この差が一番大きいんだ」


90:2012/03/13(火) 01:22:44.90 ID:
男「人間は、世界から治療してもらうことが出来ない」
男「しかしエルフは、その秘術で、仲間を治療することが出来る」

男「……エルフが秘術で仲間を治療することが出来る、っていうのは、間違いないんだよね?」

エルフ少女「……まぁ、そうですね」

男「それって、どんな傷でもだよね?」

エルフ少女「……呼吸さえしていれば、どんな傷だって治せます」

男「病気だって、だよね?」

エルフ少女「…………はい」

男「……そう……」
男「……そうだよね……」

男「ソレを、ボクは知ったんだ。調べて」

男「だから、秘術を使えるようになろうとした」

エルフ少女「……戦争のためにですか?」

男「違うよ」

男「治したい人たちがいるんだ」

男「魔法じゃあ治せない、医療でも治せない、そんな人たちが……」

エルフ奴隷「…………」

男「だからボクは、縋るように、こうして秘術の研究をしてきたんだ」

91:2012/03/13(火) 01:23:40.14 ID:
男「……本当は、戦いに使うつもりはなかったんだけど……ね」

エルフ少女「……使うつもりなんですか?」

男「ああ。使うよ」
男「キミ達の同胞を救うために」

男「治したい人たちを治した後に、この力を使って……」

エルフ奴隷「…………」

男「……というわけで、明日――というより今日かな? 朝食の後にでもすぐに街に向かうよ。今日の深夜にでも戻ってこれるように」

エルフ少女「え?」

92:2012/03/13(火) 01:26:09.71 ID:
エルフ少女「もしかして、ソレが出来るようになったから、早速その人たちを救いに行くんですか?」

男「まさか」
男「コレはまだ不完全だしね」

男「それに、この”秘術っぽいもの”を使っての術式だって見つけてないし」

男「さっきの水だって量産しないといけない」
男「あの長ったらしい術式を、もう何度か水の中に入れないといけないしね……」

男「アレ、ボクの体力のほとんどを持っていくから、二日で三本しか作れないんだ」

男「最初に出来たその三本だって、もう実験で全部使っちゃったし」

エルフ奴隷「でしたら……何をしにいくんですか?」

男「ちょっと、実験道具の買い付け」
男「本来、二人に渡してる術式を施した瓶だって、投げて使ったほうが安全な代物じゃない?」

男「勿体無いから撒いて使ってもらおうとしてたけど……」

男「でも、キミ達の仲間を救うときは、そうもいかない」
男「沢山投げたり出来るようにしないと、ね」

エルフ少女「……すいません」

男「え? なにが?」

エルフ少女「……結婚式前日のとき、わたし達が襲われていなければ……」

男「いや、あの時はまだ、そういうの考えてなかったし」
男「別の用件実験器具屋に行こうとしてただけ」

男「だからま、その用事もついでに済ませてくる、ってだけだから、気にしないで」

93:2012/03/13(火) 01:27:37.19 ID:
~~~~~~

男「屋敷は誰が来ても開けちゃダメだよ」

男「何かあったら遠慮なく、この魔法術式を施した瓶、使って良いから」

~~~~~~

エルフ少女(そう言い残して彼は、本当に、朝食の後すぐ、屋敷を出て行った)

エルフ少女「……さて……」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女(……入浴できる状態にしてもらったら良かった……とか一瞬考えてしまった……)

エルフ少女「……まぁ、後悔しても仕方が無い」

エルフ少女(帰ってきたらすぐ自分で入ってもらえるよう、掃除ぐらいはしておこうかな)

エルフ奴隷「……そういえば、初めてですね」

エルフ少女「ん?」

エルフ奴隷「ご主人さまがいない屋敷、というのは」

エルフ少女「……あ~……そういえばそうね」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「……さて……」

エルフ少女「……なに……しようか」

113:2012/03/14(水) 01:05:43.76 ID:
エルフ少女「……とりあえず、屋敷の外の草刈りでもしようかな……」

エルフ奴隷「あ、それなら私も手伝います」

エルフ少女「え? そう?」

エルフ奴隷「はい。昼食の準備も、無理に慌ててする必要も無いですし」

エルフ少女「……いや、旦那様がいてもそうじゃなかったっけ?」

エルフ奴隷「ご主人さまがいる時は、下ごしらえなどで結構手間暇をかけましたよ……?」

エルフ少女「あ~……そっか。ま、わたし達二人なら別に良いか、そういうのは」
エルフ少女「それじゃあ、手伝ってもらおうかな」

エルフ奴隷「はい」

エルフ少女「じゃ早速、浴場裏の井戸の近くに道具があったはずだから、取りに行きましょうか」

114:2012/03/14(水) 01:08:56.96 ID:
~~~~~~

ザッ、ザッ、ザッ…

山賊頭「はぁ、はぁ、はぁ……」

手下1「かしらぁ……」

山賊頭「あ? なんだよ」

手下1「どうしてこんな山登ってるんですか?」

山賊頭「仕方ねぇだろ。街道近くを騎士団がうろついてんだからよ」
山賊頭「この山から迂回しねぇと、アジトに戻れねぇんだよ」

手下1「だから止めようって言ったんじゃないっすかぁ~」

山賊頭「あ? なんだてめぇ? オレに逆らうってのか?」

手下1「そうじゃないっすけど……でも結婚式の祭りに紛れて、せっかく城下街に入れたっていうのに……」

山賊頭「入れたっていうのに、なんだよ?」
山賊頭「そもそも入ったのだって、貴族の屋敷に盗みに入るためだろ? それをしないで何をしろって言うんだよ」

手下1「そうっすけど……でも、やっぱあのタイミングは無理だったんですって」

山賊頭「無理じゃなかった。ちょっとヘマしなけりゃ上手くいってたに決まってる」

手下2「ちょっとどころじゃないヘマしたくせに……」ボソ

山賊頭「あん? 何か言ったかてめぇ」

手下2「……気のせいですよ」ボソ

山賊頭「ふんっ、まぁいい」

115:2012/03/14(水) 01:12:15.01 ID:
手下1「良くないんですって! 大人しく山賊として、コツコツと商人の馬車を襲ってればこんな目に遭わずに済んだんっすよっ」

手下2「仲間の殆どが捕まった。……頭のせいで」ボソ

山賊頭「はん! そんな小せぇことばかりやろうとするから、テメェらはいつまで経ってもダメだったんだよ!」
山賊頭「あそこで盗みに成功してりゃ、今頃もっとウハウハな生活だって出来たはずだ!」

山賊頭「もしかしたら、奴隷だって買えたかもしれねぇ!」

手下2「……買えたところで、頭がしたいようなそういうことは、どうせ出来ない……」ボソ

山賊頭「法律なんて知ったことかよ!」
山賊頭「大体ソレを守るってんなら、そもそも山賊なんてしねぇっての!」

手下2「…………」

山賊頭「……ま、やっちまったもんは仕方がねぇ」

山賊頭「アイツ等には悪いが、とりあえずアジトに戻って、残しておいた金品を手にして、別のねぐらを探すぞ」

山賊頭「んで、再び仲間を集めにかかる。なんなら、他の山賊たちに取り入ってから、オレが頂点に立ったって良い」

山賊頭「ともかく、まずはあそこに帰ることからだ」

手下1「……お頭、どうして場所を変える必要があるんで?」

山賊頭「あ? バカかお前」

山賊頭「アイツ等捕まった仲間が、一人もオレ達を裏切らないって保証がどこにあんだよ」

~~~~~~

116:2012/03/14(水) 01:13:06.06 ID:
~~~~~~

お昼過ぎ

◇ ◇ ◇
 城下街
◇ ◇ ◇

男「ありがとうございました。いやホント、助かりましたよ」

行商人「良いってことよ」

男「またいつか、買い物に寄らせてもらいますね」

行商人「おぅ! 頼むぜ!!」

ガラガラガラ…

男(……さて)

男(とりあえず、用事を済ませるだけ済ませて、さっさと帰ろうか……)

男(二人を屋敷に置いたままなのも気になるし)

男(……一人だけ連れてくるよりかは安全なんだろうけど……やっぱり、ね)

男「……とは思っても」

117:2012/03/14(水) 01:13:49.32 ID:
テクテクテク…

男(いきなり実験器具屋に行くのもなぁ……)

男(せっかく街に来たのに、勿体無い気もする)

男「……まぁ、他に行くところも無いんだけど」

男(食料の補充は結婚式の時したし……城には……行くには早いか……)

グゥ~…

男「あ」

男(そうだな……お昼ご飯がまだだったし、食べて帰ろうかな)

男(実験器具を買って、その足でどこか店に入って食事をして、帰る……)

男(うん、そんなところか)

男(まぁ、正直屋敷に帰った方がご飯はおいしいんだけど……ね)

男(ソレを再認識する意味でも、どこかで食べて帰るかな)

118:2012/03/14(水) 01:15:25.66 ID:
~~~~~~

◇ ◇ ◇
  屋敷
◇ ◇ ◇

エルフ少女「ふぅ~……とりあえず、一旦休もうか」

エルフ奴隷「そうですね……陽も、天辺より少し外れてますし」

エルフ少女「あ~……ちょっと熱中しすぎたかも」

エルフ奴隷「確かに……夢中になってしまいましたね」

エルフ少女「というか……放置しすぎなのよ、本当に」

エルフ奴隷「案外、わざと放置していたのでは?」

エルフ少女「どうだろ……あの元メイドさんが、コレだけのものを放置してたとは思えないし……」
エルフ少女「確かにその可能性もあるんだけど……」

エルフ少女「でもやっぱ、この舗装されてる道から生えてる分のは、どう見てもわざとには見えないしね」

エルフ奴隷「確かにそうですね」
エルフ奴隷「両脇の生い茂ってる分はわざとかもしれませんが」

119:2012/03/14(水) 01:18:02.70 ID:
エルフ少女「にしても、汗かいたわね……」

エルフ奴隷「はい……入浴、したいです」

エルフ少女「……水でなら出来るけど?」

エルフ奴隷「……これだけ熱いんなら、それでも良いかもしれませんね……」

エルフ少女「……確かに」

エルフ少女「元々、お湯に入るなんて文化自体、無かったしね」
エルフ少女「お湯で濡らした布で拭く、っていうのはしてたけど」

エルフ奴隷「基本的に浸かるのは、湖ばかりでしたしね」

エルフ少女「一度贅沢を覚えると、どうもダメだなぁ……」

エルフ奴隷「……それは、私も実感したことがあります」

エルフ少女「だよねぇ……」
エルフ少女「……でも、さ」

エルフ奴隷「はい」

エルフ少女「この疲れた身体で、井戸の水をあの浴槽に移すのって、想像するだけでしんどくない?」

エルフ奴隷「……そうですね」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「とりあえず、先に昼食にしましょうか」

エルフ奴隷「ですね」
エルフ奴隷「軽く身体を拭いて、準備しましょう」

エルフ少女「あ、わたしも手伝う。草刈り手伝ってもらったし」

エルフ奴隷「そうですか? ではお願いします」

120:2012/03/14(水) 01:20:06.53 ID:
~~~~~~

ザッ、ザッ、ザッ…

山賊頭「……あん?」

手下1「どうしたんですか? 頭」

手下2「……拾い食いはダメですよ? 頭」ボソ

山賊頭「んなことするか!」
山賊頭「じゃなくて、あの頂上に見えるの、屋敷か何かじゃねぇか?」

手下1「え? あ、本当っすね!!」

ザッザッザッザ…!

手下2「……でも、結構古びてる……」ボソ

手下1「ですね~……もしかして、廃墟か何かじゃないっすか?」

山賊頭「確かにな……これだけ外観が古いとそうかもしれねぇ……」

手下1「なら、そんなの無視して早く戻りましょうよ」
手下1「あとは反対側から下山して、少し歩いて森の中を歩かないといけないんですから」

手下2「全く頭は。子供なんだから」ボソ

山賊頭「…………」
山賊頭「……だが、気にならねぇか?」

手下1「いえ、別に」

手下2「何も」ボソ

山賊頭「…………」

121:2012/03/14(水) 01:21:24.45 ID:
山賊頭「……いや、やっぱり気になる。敷地の中に入るぞ」

手下1「えぇ~? こんな門飛び越えるんっすかぁ~?」

手下2「……正直、面倒」ボソ

山賊頭「オレ達の身長より少し高いだけだろ! ほら、さっさと足をかけて超えるぞっ!」

手下1「へ~い」

手下2「全く……」ボソ

ガッ、ガッ、ガッ…

ダン、ダン、ダン…!

手下1「うわ~……草生え放題じゃないっすか」

手下2「なんでこんなところが気になったのか。お頭の頭の方が気になる」ボソ

山賊頭「なんとなくだよ。オレの山賊としての嗅覚がココには何かあるって告げてやがる」

手下1「何か、ねぇ……」

手下2「嗅覚とか……うける」ボソ

山賊頭「何も面白くねぇよ!?」

ザッ、ザッ、ザッ…

122:2012/03/14(水) 01:22:57.18 ID:
手下1「というより頭、もしこんな古びたところに何かあったとしても、どうせ一銅貨になるかならないかでしょう?」

手下2「それよりも……お腹空いた」ボソ

手下1「そうですよお頭。早くアジトに戻って、金品回収して、別の村か町でメシでも食いましょうぜ」

ザッ、ザッ、ザッ…

山賊頭「…………」
山賊頭「……いや、メシならここで調達できそうだ」

手下1「は?」

手下2「……腐ったものでも食べろと言うの……?」
手下2「それは頭のおかしな頭だと、腐ったものって認識できないから大丈夫かもしれないけど……」ボソ

山賊頭「そうじゃねぇよ」

山賊頭「っていうかさっきから地味に失礼だなお前!」

手下2「ん」コク

山賊頭「なんでそのタイミングで頷いた!?」

123:2012/03/14(水) 01:24:18.29 ID:
山賊頭「……じゃなくて、ここにはちゃんと人が住んでるからだよ」

手下1「……こんな古臭い屋敷にですか?」

手下2「証拠は?」ボソ

山賊頭「匂いがするだろ? 食べ物のよ」

手下1「…………」

手下2「…………」

手下1「……いや、しませんよ?」

手下2「お頭……とうとうお腹が空きすぎて、頭が……!」ボソ

山賊頭「だから違ぇって! なんでオレがおかしいみたいになってんだよ!!」
山賊頭「今までお前達にもおいしい思いさせてきてやったのだってオレだろ!?」

手下1「でも、仲間を沢山見捨てたのも頭ですし」

手下1「貴族の屋敷に忍び込んで、とか、山賊が盗賊の真似事しても失敗することが目に見えてることして案の定失敗したのも、頭ですし」ボソ

山賊頭「一回のミスでオレの株下がりすぎじゃね!?」

手下1「……物事って、そういうもんですって」

手下2「ん」コク

山賊頭「腑におちねぇ!」

124:2012/03/14(水) 01:26:03.83 ID:
山賊頭「つぅか、それ以外にも理由はあんだよ」

手下1「なんですか?」

手下2「何か普通の人には見えないものが見えるんですか?」ボソ

山賊頭「それこそ本当におかしくなったヤツじゃねぇか……」
山賊頭「じゃなくて、ほらこの舗装された方の道、よく見てみろ」

手下1「ん……?」

手下2「……なに?」ボソ

山賊頭「隅の方とか、草が抜かれた跡がある」
山賊頭「それも、周りの土が盛り上がった状態でだ」

山賊頭「これはつまり、つい最近――いや、むしろついさっき、草抜きが行われた証拠でもある」

手下1「なるほど……」

手下2「……よく見つけた」ボソ

山賊頭「だろ? これこそが、お前達を引っ張ってきたお頭の実力よ」

手下1「……でも、これだけだと、中に人がいるかどうかの証拠にはならないっすよね?」

山賊頭「だが、調べる価値が出てきたのは確かだろ?」
山賊頭「金品は無くても……食い物ぐらいならあるかもしれねぇ」

手下2「……確かに」ボソ

125:2012/03/14(水) 01:28:48.87 ID:
手下1「で、どうします?」

山賊頭「そうだな……こんな人気の無い場所に住んでるんだ」
山賊頭「街にあった屋敷みたいに、護衛の兵がいるとも思えねぇ」

山賊頭「万一いたとしても、どうせザコだろうし、数も少ない。オレ達でもやれるさ」

手下1「……ま、そうっすね」

手下2「同感」ボソ

山賊頭「これでも、あの騎士団の追撃から逃れたオレ達だ。こんな辺境の地にいるやつなら余裕だろ」

手下1「じゃ、真正面からいきますか?」

山賊頭「いや、あの扉は頑丈そうだ」

山賊頭「オレ達の装備は……曲刀(シミター)と」

手下1「……二本の短剣」

手下2「徒手空拳」ボソ

山賊頭「……よしっ」

山賊頭「…………」

山賊頭「……ってなんでだよ! 得物はどこにやった!」

手下2「……逃げるときに相手に向けて投げてきた」ボソ

山賊頭「あ~……そうかい」

手下2「大丈夫」ボソ

山賊頭「あん?」

手下2「これでも、自信はある」ボソ

山賊頭「あ~……そうかい。じゃあ期待してるよ」

150:2012/03/15(木) 00:55:54.61 ID:
手下2「同じ反応……つまらない」ボソ

山賊頭「お前の相手が面倒になってきたんだよ……察しろよ……」

山賊頭「……まぁ、ともかく、こんな装備じゃああの扉を破壊できそうにねぇってことで……」

手下1「うっす! 裏口が無いかを見てくるっす」

山賊頭「おうっ。なんなら、窓から中を覗いて来てくれ」

手下1「分かったっす!」

タッタッタッタッ…

山賊頭「…………」

手下2「…………」

山賊頭「……ただ待ってるっていうのも、アレだな」

手下2「……どれ?」ボソ

山賊頭「手持ち無沙汰ってことだよ」
山賊頭「ノックして、出てきたヤツを一撃で殺せば、それで侵入経路は確保出来るじゃねぇか」

手下2「……確かに」ボソ

山賊頭「んじゃ、ノック役頼むわ」スッ

手下2「ん」コク
手下2「……でもそれだと、彼が見に行ったのが無駄足にならない?」ボソ

山賊頭「良いんだよ、別に」
山賊頭「解決できることは、しとくに越したことはねぇ」

山賊頭「それに、遅れて入ってきてもらったおかげで助かった、ってことになるかもしれねぇしな」

手下2「……それを見越して、ってことか」ボソ

山賊頭「はん。良いから、ノック頼むぜ」チャキ

手下2「ん」コク

ドンドン

151:2012/03/15(木) 00:57:55.70 ID:
~~~~~~

ザバァ…

エルフ少女「……くぅ!」

ヨタヨタ…

エルフ少女「……毎日入浴前にやってることとはいえ……やっぱり重い……!」

ザバァ…!

ヨタヨタ…

エルフ奴隷「裏の井戸からそう離れていないとはいえ……やはり、結構辛いですね……!」

ザバァ…!

エルフ少女「ふぅ……ま、でも今日は、こんなもので良いか」

エルフ奴隷「そうですね……浴室の掃除ですから、半分ぐらいで良いかと」

エルフ少女「動きながらなら、水でもそんなに気にせず汗が流せるしね」

エルフ奴隷「はい」

エルフ少女「んじゃ、裏口閉めるよ」

エルフ奴隷「お願いします」

…パタン

カチャン

~~~~~~

…………

…………

タッタッタッタッ…

手下1「……お」

152:2012/03/15(木) 00:59:29.59 ID:
手下1「裏口がここ……井戸もあるっすね……」

手下1「ドアは……ん、持ってるものでも壊せそうなただの木製扉!」

手下1「というよりカギ自体が……このぐらいなら、手下2が開けられそうな感じがするっすね」

手下1「壊す手間がなくなりそうっす」

手下1「というわけで、早速このことを頭に報告するっす」

ダッ!

153:2012/03/15(木) 01:01:32.88 ID:
~~~~~~

エルフ少女「んじゃ、道具も揃えたし、スカートも捲り上げた」
エルフ少女「早速、掃除兼入浴を始めよ――」

ドンドン

エルフ少女「――う……って、ん?」

エルフ奴隷「お客様……ですよね?」

エルフ少女「だと、思う」
エルフ少女「ん~……でも旦那様に、開けるな、って言われてるし……」

エルフ奴隷「……言われた通り、居留守でも使います?」

エルフ少女「……ううん。玄関前まで行こ」

エルフ奴隷「良いんですか? ……いえ、その方が良いですね」

エルフ少女「だよね? もしかしたら相手は盗人で、ソイツが家の中に人がいるかいないかを判断するためにノックしたのかもしれないし」

エルフ奴隷「こんな古びた屋敷に、そんな律儀なことをしてくるとも思えませんが……念のため、戦える準備をして玄関前に移動しておきましょう」

エルフ少女「うん」

154:2012/03/15(木) 01:04:03.77 ID:
エルフ少女「あっ、でも、廊下の窓を割って入ってくる可能性が……」

エルフ奴隷「その場合はご主人さまの魔法が発動するはずです」

エルフ少女「え? そうなの? そんなの聞いてない……」

エルフ奴隷「私も聞いてはいませんが、一階の窓枠になにやら魔力を込めているのを出かける前に見ましたし……」
エルフ奴隷「きっと、外部からの衝撃に対して何かしらの魔法が発動するのでしょう」

エルフ少女「へぇ~……」

エルフ奴隷「私達のことを心配してくれているのでしょう」
エルフ奴隷「まぁ、二階の方まではさすがにしていないようでしたけど」

エルフ少女「ま、ココって二階に飛び移れそうな大きな木なんて無いしね」

エルフ少女「ともかく、窓からの侵入は大丈夫ってことよね?」

エルフ奴隷「おそらく、ですが」

エルフ少女「ま、安心して大丈夫でしょ。玄関前まで移動しよっか」

エルフ奴隷「はい」

タッタッタッタ…

155:2012/03/15(木) 01:06:24.13 ID:
~~~~~~

山賊頭「…………」

手下2「…………」

山賊頭「……反応がねぇな」

手下2「……気付かれた?」ボソ

山賊頭「いや、おそらく居留守だろう」
山賊頭「もしくはオレの推理が間違えていて、本当にこの屋敷には誰もいないかだ」

手下1「頭~」

タッタッタッタ…

山賊頭「おう、どうだった? 裏口は」

手下1「はい。木製のドアで、こちら側のドアよりかは破壊しやすいかと」
手下1「それと、カギもパッと見た感じ、開けやすそうなものでした」

手下1「たぶん、壊すより鍵を開けたほうが早いと思うっす」

山賊頭「なるほどな……よし、ならそっから侵入するぞ」

手下2「そんな面倒なことしなくても……窓を割って入ったら?」ボソ

山賊頭「窓を割るってのは、実はそれなりに面倒なんだよ」
山賊頭「つぅか、テメェが裏口の鍵開けするのが面倒なだけだろ?」

手下2「……そもそも、オレしか出来ないことがおかしい」ボソ
手下2「そのせいでこの前の屋敷侵入だってオレのせいにされて……」ボソ

山賊頭「いや誰もしてねぇし」

手下2「オレが鍵開けの技術を持ってなかったら、そもそも頭だってあんな一発逆転の負けの目が見えてる大勝負をせずに済んだ、って考えてる仲間がきっと捕まった奴等の中には……」ボソ

山賊頭「今この場にいねぇんだから気にすんなよ、んなこと」
山賊頭「ともかく裏口だ。行くぞ」

手下1「うっす」

156:2012/03/15(木) 01:07:52.13 ID:
~~~~~~

タッタッタッタ…

エルフ少女「……っ!」

エルフ少女「奴隷ちゃん、伏せて!」サッ

エルフ奴隷「え?」サッ

ザッザッザッザ…

「~~~~~~」

「~~~~~~~」

「~~~~~~!?」

ザッザッザッザ…

エルフ少女「……危なかった……もう良いよ」

エルフ奴隷「どうしたのですか?」

エルフ少女「窓の外に人影が見えたの……」

エルフ奴隷「え?」

エルフ少女「どうも裏口に行ったみたい……」

エルフ奴隷「……私達のこと、気付かれました?」

エルフ少女「ううん。向こうはコッチを見てなかったし……大丈夫だと思う」

エルフ奴隷「……何人見えました?」

エルフ少女「見えた限りでは三人」
エルフ少女「もしかしたら、もう少し多いかもしれない」

エルフ奴隷「…………」

157:2012/03/15(木) 01:11:39.66 ID:
エルフ少女「どうしよう……もう玄関前に移動しても意味が無いし……戻って迎撃した方が……」

エルフ奴隷「……いえ」

エルフ少女「えっ?」

エルフ奴隷「ここで戻って戦っても、きっと私達は負けてしまいます」
エルフ奴隷「今の私達の実力では、最低人数の人間三人も、きっと満足に相手に出来ないでしょう」

エルフ奴隷「武器と呼べる武器も無く、秘術も使えず、あるのはご主人さまに渡された魔法の瓶のみ……」

エルフ奴隷「相手が弱ければ勝てるかもしれませんが……少しでも相手に実力があれば、大怪我をするか……最悪負ける可能性も……」

エルフ少女「ん~……そうかな? やってみたら案外――」

エルフ奴隷「結婚式前日、土地勘が無かったのが敗因とはいえ、私達は人間二人相手に何も出来ませんでした」

エルフ少女「――…………」

エルフ奴隷「それだけ弱くなっているのです、私たちは」

158:2012/03/15(木) 01:12:59.75 ID:
エルフ少女「じゃあ、ただ指を咥えて隠れてるしかないってこと?」

エルフ奴隷「いえ、そうではありません」
エルフ奴隷「この前の敗因は、土地勘の無さです」

エルフ奴隷「つまり、相手の領分で戦ったことによる不利による敗北、です」

エルフ奴隷「ですが今回は……この場所は、私達の領分です。それを最大限活かさない手はありません」

エルフ奴隷「いえ、むしろ活かすべきです」
エルフ奴隷「でなければ、また負けてしまうでしょう」

エルフ奴隷「野盗にしろ盗人にしろ、武器を持っているのは必至」

エルフ奴隷「なら、この渡された魔法を有効活用し、不意を衝いて、勝つしかありません」

エルフ奴隷「むしろ、不意さえ衝ければ、絶対に勝てるはずです」
エルフ奴隷「無傷で」

エルフ少女「なるほど……確かに、その通りね……」

159:2012/03/15(木) 01:16:52.34 ID:
エルフ少女「それで、旦那様に渡された魔法ってどういうの? トラップとして使えそうなものってある?」

エルフ奴隷「私が渡されたのは――
     撒けば水の刃と化して襲うものが六つ――
     水がかかった場所を凍らせるものが三つ――
     それと水が乾かない限り火が消えないものが四つ――
     の、合計十三です」

エルフ少女「わたしが渡されてるのは――
     霧を噴射させて相手の視界を封じるものが二つ――
     同じく水の刃と化して襲うものが三つ――
     それと水滴一つ一つに大きな質量を持たせて強い衝撃をぶつけることが出来るものが二つ――
     の、合計七つだけ」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「…………」



エルフ奴隷「無理ですね」
エルフ少女「無理だ」



エルフ少女「とてもトラップとしての運用が出来るように思えない……」

エルフ奴隷「このほとんどが攻撃用ですね……」

エルフ少女「こういう状況じゃあなんの役にも立たないんだから……全く」

エルフ奴隷「……まぁ、この魔法の性質上、攻撃魔法ばかりになるのは仕方が無いのかもしれませんが」

エルフ少女「むしろ、魔法っていうのはほとんどが攻撃ばかりなのかも」
エルフ少女「旦那様みたいに様々な効果を発揮させているのが特殊なだけで」

エルフ奴隷「……かもしれませんね」

160:2012/03/15(木) 01:21:24.38 ID:
~~~~~~

山賊頭「ここが裏口か」

手下1「そうっす」

山賊頭「んじゃ、早速鍵、開けてくれよ」

手下2「ん」コク

ピト

手下2「…………」

手下2「……魔法のトラップは無い……じゃ、開けにかかる」ボソ

山賊頭「ああ」

スッ

手下2「…………」カチャカチャ

手下1「……にしても、改めて見ても便利っすね。魔法道具(マジックアイテム)っすよね?」

山賊頭「ああ。襲った商人が持ってたものだが、中々良い腕輪だ」
山賊頭「触れた場所に魔法の術式が残ってるのかが分かる、って代物だったか」

山賊頭「魔法を侵入者退治に使ってる所の数は確かに少ないが、あるところにはあるしな」

手下1「貴族の屋敷とか金持ちの家だと、何があるのか分からないっすからねぇ」

山賊頭「ドアの取っ手に魔法をかけて、そのドアに触れるやつからちょっとずつ魔力を吸収してそのトラップを維持させる、といったものまであるらしいしな」

手下1「へぇ~……頭ってば物知りっすねぇ~」

山賊頭「だろ?」

手下2「物知りなら、集中力がいるこの作業中は黙った方がいいことぐらい分かって欲しい」ボソ

山賊頭「……すまん」

手下1「……ごめんなさいっす」

手下2「…………」フゥ

カチャカチャ…

161:2012/03/15(木) 01:25:33.81 ID:
~~~~~~

カチャカチャ…

エルフ奴隷「裏口の鍵を開け始めてますね……」

エルフ少女「……どうする?」

エルフ奴隷「どうするも何も、この魔法じゃあ事前準備も何も出来ませんし……」

エルフ少女「やっぱり、正面から戦う?」

エルフ奴隷「……しか、ありませんね」
エルフ奴隷「むしろ、これだけの攻撃魔法があるのなら、果敢に攻めてみるべきでしょう」

エルフ少女「それじゃあ早速――」

エルフ奴隷「ですが、何もこんな細い廊下で戦う必要もありません」

エルフ奴隷「向こうの人数は最低三人。もしその三倍だったり、もしくはその中に魔法使いがいたりしてしまえば、一気に不利になってしまいます」
エルフ奴隷「こちらの魔法が無力化された時点で、終わりです」

エルフ少女「――って訳にもいかないと……。……だったら、どうしたら良いの?」

エルフ奴隷「まず必要なのは、相手の人数を把握し、かつ、コチラの人数が把握されない……この状態を作ることを最低条件とし……」
エルフ奴隷「尚且つ、相手に魔法使いがいるかいないか……魔法を防がれるかどうかを知る必要がありますから……」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」
エルフ奴隷「…………うん」

エルフ奴隷「とりあえず、ご主人さまの研究室の鍵、開けてもらえますか?」

エルフ少女「え?」

177:2012/03/16(金) 01:08:59.89 ID:
~~~~~~

カチャン

手下2「……開いた」ボソ

山賊頭「よしっ、それじゃあ慎重に、中へと入るぞ」

手下1「うっす」

山賊頭「相手の人数が分からねぇ以上、油断すんなよ」

手下2「……頭こそ」ボソ

山賊頭「んじゃ……行くぞ……っ!」

キィ…

山賊頭「…………」ソッ

手下1「…………」

手下2「…………」

山賊頭「……誰もいねぇ……みたいだな」

…キィ

178:2012/03/16(金) 01:10:04.30 ID:
山賊頭「……脱衣所か? ここは」

ガラガラガラ…

手下1「みたいっすね。隣に風呂があるっす」

手下2「熱するための岩と浴室……それに、中へと溜められた水……間違いない」ボソ

ガラガラガラ…

山賊頭「中に溜まった水……ってことは、ついさっきまで誰かが風呂に入ろうとしてたってことか」

手下1「本当に、誰か住んでるみたいっすね」

手下2「間違いない」ボソ

山賊頭「やっぱり居留守を使ってやがったか……」

179:2012/03/16(金) 01:13:23.03 ID:
ガチャ

手下2「廊下……」ボソ

山賊頭「さっき外から見えた場所か……窓もあるし」

手下1「にしても、さっき前を通った時も思ったっすけど、なんか結構歪な形をした屋敷っすよね」

山賊頭「確かに……設計者はどういう思考をしてたのか疑うな」
山賊頭「変に井戸を意識して浴場を作ったりするから、こんな部屋も作れない廊下だけの場所が出来ちまうんだ」

手下2「裏口に回ったときに思ったけど、こちら側だけ二階部分がなかった」ボソ

山賊頭「ああ。たぶん、この廊下の上の階も、ちょうど廊下だけの場所なんだろ」
山賊頭「まるで大きな屋敷に見せかけるために表側だけ作ったみたいになってやがる」

手下2「……案外、こういう時のためなのかも」ボソ

山賊頭「ああん?」

手下2「裏口から侵入される可能性が一番高いから、こうしたのかも」ボソ

山賊頭「どういうことだ?」

手下2「こうして部屋も無い細長いだけの廊下となると、向こう側から侵入者を迎え撃つことが出来る」ボソ
手下2「その結果、侵入者は避けることが満足に出来ない攻撃を浴びせられることになる」ボソ

手下1「なるほどっすね……廊下の向こう側から弓矢を乱れ打たれたら、向こう側に辿り着くまで何も出来ないっすしね」

山賊頭「ってことは……この廊下の向こう側に」

手下2「いる可能性がある」ボソ

手下1「この屋敷の主が」

180:2012/03/16(金) 01:15:31.06 ID:
手下2「……どうする?」ボソ

山賊頭「どうするも何も……進むしかねぇだろ」

手下1「それで全滅したらどうするんっすか?」

山賊頭「はんっ、それはねぇよ」

山賊頭「弓矢なら、オレ達は弾き飛ばせる。騎士団からの弓すらも弾いただろ? オレ達は」

手下2「……まぁ」ボソ

手下1「しかし頭、過信しすぎるのは……」

山賊頭「なんでいきなり弱気になってんだよ……さっきは強気だったじゃねぇか」

手下1「……すいませんっす」

山賊頭「……まぁ、なんならオレが全部弾いて、向こう側まで走ってやるよ」

手下2「……でも、魔法がきたら?」ボソ

山賊頭「それはねぇだろ」
山賊頭「もし魔法使いなら、それこそさっきの鍵開け対策に、魔法をかけてたはずだ」

山賊頭「魔法使いがいるってことは、この屋敷がソイツの研究所も兼ねてるってことだろ?」
山賊頭「それなのに、ただ鍵をかけてるだけの無用心なことをしてるはずがねぇ」

山賊頭「アイツ等は、念には念をいれておく臆病なタイプだろうからな」

手下2「……そう思わせての裏をかいた作戦とか……」ボソ

山賊頭「リスクの方が大きいだろ? そもそも、複数で何かを研究するのなんて、宮廷魔法使いぐらいじゃねぇか」
山賊頭「ってことは魔法使いは一人しかいない。なのに、そんな複数で盗人が入ってくるかもしれない状況で、そんな大それたことするかよ」

山賊頭「ま、自信過剰なヤツなら話は別だろうが……そういうヤツならむしろ、余裕だろ」

181:2012/03/16(金) 01:16:49.54 ID:
ソッ

ピタ…

手下2「……まぁ、廊下に罠は仕掛けられていないみたいだけど……」ボソ

手下1「そういうのも分かるんっすね」

手下2「たぶんだけど……絶対に調べられてるっていう確証は無い」ボソ

山賊頭「いや、その情報だけで十分だ」

山賊頭「ま、オレが先行してやって安全なのを確認してやるから、安心しな」

手下1「じゃあ、お願いするっす」

手下2「ん」コク
手下2「人柱役、お願いします」ボソ

山賊頭「不吉なこと言うなよ……ま、任されたよ」
山賊頭「安心しな、オレの手下共」

182:2012/03/16(金) 01:20:06.42 ID:
~~~~~~

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…

山賊頭「…………」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

山賊頭「…………」

山賊頭(半分ほどまできた……ここまでは何もねぇ……)
山賊頭(……すぐに止まれる速度で走って、牽制してみるか……)

山賊頭「……ふっ!」

ダッ!

エルフ奴隷「っ!」

エルフ少女(今っ!)

キュポン

バシャア

山賊頭「っ!」

山賊頭(やっぱり何か仕掛けてきやがったか……!)

シュアアアアアアーーーーーーーーー…!

山賊頭(霧!? くそっ……! 魔法か……! 読みが外れた……っ!!)

エルフ少女(次っ!!)

ダッ!

エルフ少女「っ!」

183:2012/03/16(金) 01:21:17.66 ID:
キュポンキュポン

バシャシャ――

――シュシャシャシャシャシャ…!

山賊頭(小さな刃っ!? 霧の向こう側から……!)

山賊頭「くそ……がっ!」

ビシュ、ピシュ…!

山賊頭「ぐっ……!」

山賊頭(さすがに……この群れの中全部を避けるのは無理か……! 何発か切り落とそうにも……この数じゃあ……!)

シュッ、シャッ…!

パシャ…!

山賊頭(水!?)

パシャン、パシャパシャン…ピッ、ピシッ、ザッ…!

山賊頭(ぐぅ……! 一発深いのが……! このままじゃ……!)

山賊頭(……ちっ……仕方ねぇ!)

184:2012/03/16(金) 01:23:02.37 ID:
エルフ奴隷(早く部屋に!)

エルフ少女(うんっ!)

タッタッタッタ…!

~~~~~~

山賊頭「魔斬曲刀……!」

リイイイィィィィィ――

山賊頭「……解放っ!」ブン!

――ィィィィィイイイン!

……ジュシャア…!

エルフ奴隷(魔法が……!)

エルフ少女(掻き消された……!?)

エルフ奴隷「…………」コク
エルフ少女「…………」コク

パタン

カチャ

~~~~~~

185:2012/03/16(金) 01:24:39.74 ID:
タッタッタッタ…!

手下1「頭! 大丈夫ですかい!?」

山賊頭「ああ……なんとかな」

手下2「でも……腕」ボソ

山賊頭「これぐらいどうってことねぇよ。ちょっと深く切っちまったが、利き腕じゃねぇしな」

手下1「そうっすか……良かったっす」

手下2「にしても……頭の痛々しいネーミングセンスと共にその魔法道具(マジックアイテム)の剣が振られたみたいですけど……」ボソ

山賊頭「痛々しい言うなよ。カッコイイだろ?」

手下1「…………」

手下2「…………」

山賊頭「無言は尚のこと止めろよ!」

手下1「いやでも、頭……」

手下2「盗品で正式名称が分からないからって……名前を呼ばなくても使えるのに……しかもその名前は……正直……」ボソ

山賊頭「だからなんでそう痛々しい子を見る目なんだよっ!」

187:2012/03/16(金) 01:26:04.69 ID:
手下1「まぁ、頭の痛々しさは置いておくとして……」

山賊頭「おい痛々しいってのを訂正しろ」

手下1「にしても……頭の予想に反して、魔法使いがいたっすね」

手下2「全く……油断ばかりするから……頭は」ボソ

山賊頭「無視かよ……」
山賊頭「……っていうか、ここの家主は魔法使いなんかじゃねぇ」

手下1「負け惜しみっすか……」

山賊頭「ちげぇよ。ただ、なんか普通の魔法使いとは違う感じがしたんだよ」

手下2「……負け惜しみ」ボソ

山賊頭「だからちげぇって!」
山賊頭「……まぁ、オレも証拠や根拠があるわけじゃねぇからな……そう言われても仕方がねぇと思う」

手下2「……まぁ、真実はここの屋敷の住人を見つければ済む話」ボソ

手下1「そうっすね。……にしても……相手はどこにいったんっすか?」

山賊頭「逃げたよ」

188:2012/03/16(金) 01:30:45.10 ID:
山賊頭「いや、正確には逃げてた、だな」

手下2「逃げてた?」ボソ

山賊頭「ああ」
山賊頭「もしオレがあのまま圧倒されて、無理矢理抜けた霧の先で追撃するつもりだったんだと思う」

山賊頭「だがオレが魔法を掻き消しちまったもんだから、不利と悟って、そのまま逃げた」

山賊頭「追撃可能な位置に陣取り、無理と悟れば逃げれる場所……そこにいたんだろうさ」
山賊頭「あの魔法の霧の発生時点から考えるに、最初は廊下の突き当たりにいたんだろう。予測どおりにな」

手下1「そこから逃げれる位置に後で移動したって訳っすか……」

山賊頭「ああ」

手下2「で、そのまま逃げて、隠れた……」ボソ

山賊頭「そんなところだろう」
山賊頭「だから、次またどこから襲われるか分かんねぇぞ。気をつけろ」

山賊頭「きっとそうやってかく乱し、オレ達を倒していくつもりなんだろうさ」

手下1「なるほど……」

手下2「……足音とかで、人数の特定は?」ボソ

山賊頭「いや、極力足音を殺して動いていやがった。あの状況でその音を聞くのはさすがのオレでも無理だ」

山賊頭「それに、声も息遣いも消していやがった。足音だけじゃねぇってことは、並みの経験値で出来ることじゃないってこと。つまり、それなりの実力者だってことだ」

手下2「なるほど……」ボソ

山賊頭「まぁ、相手が普通の魔法使いだってんなら、人数は一人じゃねぇだろうな」
山賊頭「霧発生から、次に襲ってきた水の刃までの攻撃速度が、とても一人のものじゃなかった」

山賊頭「もしアレで一人だってんなら……ソイツは、宮廷魔法使いレベルのヤツだってことだ」

189:2012/03/16(金) 01:32:12.37 ID:
~~~~~~

エルフ少女「三人、か……」

エルフ奴隷「聞こえる声からして、そのようですね」

エルフ少女「にしても、ここって外からの声が筒抜けなのね」

エルフ奴隷「これだけ向こう側の声が聞こえるのに、ご主人さまは私達の声に返事をしてくれなかったんですね……」

エルフ少女「どれだけ集中してるんだ、って話よね」
エルフ少女「ま、肩を軽く叩いた程度じゃ気付かないんだし……仕方ないのかもしれないけど」

190:2012/03/16(金) 01:34:49.69 ID:
エルフ少女「にしても、旦那様の研究室に隠れる、ってのは、良い案だったね」

エルフ奴隷「ありがとうございます」

エルフ少女「わたし達はとっくに慣れてるけど、普通、この階段下の物置みたいなドアの向こう側に、こんな普通の部屋が広がってるとも思えないしね」

エルフ奴隷「何より、そもそもこのドアの位置自体が気付きにくいのも大きいです」

エルフ少女「でも……こっからどうしようか?」

エルフ奴隷「どうもしませんよ」

エルフ少女「え?」

エルフ奴隷「このまま向こうがこの部屋に気付きもしなければ、明日までにはご主人さまが帰ってきて下さいます」
エルフ奴隷「そうなれば、負けることも無いでしょう」

エルフ少女「……さすがに、期待しすぎじゃない?」

エルフ少女「見つかる可能性なんて結構高いし、例え見つからなくても、旦那様がいきなりあの三人を相手に勝てるかどうか……」
エルフ奴隷「そもそも旦那様の強さって、事前準備によるものなんでしょ? 不意打ちには弱いんじゃ……」

エルフ奴隷「だと、私も思います」
エルフ奴隷「ですからこの中で、私達も準備しておくのです」

エルフ少女「準備?」

エルフ奴隷「はい」

エルフ奴隷「私達の居場所がバレた場合の対策と……」
エルフ奴隷「ご主人さまが帰ってくるタイミングを見計らい、この場所から飛び出て相手の不意を衝くか、ご主人さまと合流するか……などの、準備です」

エルフ奴隷「……まぁ、どちらもその霧を発生させる魔法が肝となるわけですが……」
エルフ奴隷「どちらにせよ、私達の勝ちは目に見えているのですよ」

211:2012/03/17(土) 00:50:13.62 ID:
エルフ少女「でも、この部屋で準備なんて、何をするの……?」

エルフ奴隷「相手の戦力分析などを話し合うのも、十分な準備になります」

エルフ少女「戦力分析……って言っても、盗人の中に魔法使いがいたことと、人数が三人だって確定したこと以外は特に……」

エルフ奴隷「いえ」

エルフ少女「え?」

エルフ奴隷「あの魔法を消したものはおそらく、魔法ではありません」

エルフ少女「じゃあ……何?」

エルフ奴隷「ご主人さまが話していたじゃないですか。魔法には魔力の走った跡が残ると」
エルフ奴隷「あの霧を掻き消したものが魔法だったのなら、霧が消えるのを見ていた私達の視界に、その走った跡が映らないのはおかしいです」

エルフ少女「でも……アレは秘術って感じでも無かったし……」

エルフ奴隷「もう一つあるじゃないですか」
エルフ奴隷「この首輪と同じものが」

エルフ少女「……魔法道具(マジックアイテム)……!」

エルフ奴隷「おそらくは」

212:2012/03/17(土) 00:55:16.36 ID:
エルフ奴隷「憶測しか立てられませんが、きっとその魔法道具(マジックアイテム)は、世界が干渉してくれた全ての現象を消すことが出来る類なのでしょう」

エルフ奴隷「魔力の走りが見れなかったということは、術式に干渉する類ではなく……担い手の近くに干渉する類のもの」

エルフ奴隷「遠くではなく、近く」

エルフ奴隷「魔力を込めて何かしらのことをすれば発動する……そういった類かと」

エルフ奴隷「正直、ああいうものさえ無ければ、今すぐにでも飛び出して魔法で押し切れると思うのですが……」

エルフ奴隷「これは……臆病になったのが裏目に出ましたね」

エルフ奴隷「最初、霧を発生させた後すぐにその魔法道具(マジックアイテム)を発動させなかったところを見ると……時間がかかるものなのか……相手が油断していたのか、のどちらかです」

エルフ奴隷「その間に一気に攻撃してしまえば相手三人をあっさりと倒せて終われたのですが……」

エルフ奴隷「……まぁ、人数が三人だったり、魔法使いがいなさそう、というのは結果論だったんですし……今更嘆いても始まりませんが……」

エルフ少女「……………………」

エルフ奴隷「……? どうしました?」

エルフ少女「いや……その……奴隷ちゃん、戦いのことになると頭が回るなぁ、って」

エルフ奴隷「そんなことは……ただ、臆病なだけですよ」
エルフ奴隷「その証拠にこの前は、少し脅されただけで何も言えなくなったし、現に何も考えられなくなったじゃありませんか」

213:2012/03/17(土) 00:57:43.68 ID:
エルフ少女「それにしたってスゴイよ。相手が魔法じゃなくて魔法道具(マジックアイテム)を使ったこととか、よくそこまで分かるね」

エルフ奴隷「それは……さっきも言いましたが、ただの憶測ですよ。間違えている可能性だって大いにあります」
エルフ奴隷「私達が見えなかっただけで、魔力が走った跡があったのかもしれませんし」

エルフ少女「でも、魔法じゃないなら何か、ってすぐに思いつくのがすごいよ」

エルフ奴隷「まぁ、人間の魔法使いや魔法道具(マジックアイテム)については、この臆病な性格のせいでよく調べていましたから……」

エルフ少女「そういえば奴隷ちゃん、旦那様が詳しく魔法の説明する前から、割りと魔法のこと知ってたみたいだったね」

エルフ奴隷「……まぁ、そうですね」

エルフ少女「昔、そういうことしてたの? 人間の魔法について調べたりとか」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「あっ、話し辛いんなら、別に……」

エルフ奴隷「いえ、そんなことはないですよ」
エルフ奴隷「……まぁ、話し辛いと言えば、そうなんですけど……」

エルフ少女「んじゃ、良いよ。無理に話してもらわなくて」

エルフ奴隷「無理、ではないんです。ちょっと、情けない自分を出してしまうのが、怖いだけで……」

エルフ少女「情けない?」

エルフ奴隷「ええ」

エルフ奴隷「実は私……昔は、前線治癒術士をやっていたんです」

214:2012/03/17(土) 01:01:25.34 ID:
エルフ少女「前線治癒術士……お父さんから聞いたような……」
エルフ少女「えっと確か……前線に立つ兵を同じ前線から秘術で治療する人……だったっけ」

エルフ奴隷「はい」
エルフ奴隷「前線から一つ退いた場所ではなく、前線で、兵に紛れ、皆を治療する人です」

エルフ奴隷「秘術という性質上、そういうことも可能ですから」

エルフ奴隷「常に相手から逃げることを考え、相手の攻撃を避け、相手の妨害に遭わないようにし……」
エルフ奴隷「傷ついている味方を見つけ、敵から守り、治療し、その場へと留まらせて、戦力の減退を遅らせる……それが、私でした」

エルフ少女「すごい……戦争での前線メンバーだったなんて……! それも治癒術士なんて……わたしに到底出来ないことだし……すごいよっ、奴隷ちゃん!」

エルフ奴隷「いえ、情けないんですよ……負けてしまった今となっては、ね」

エルフ少女「あ……」

エルフ奴隷「それに、当時それだけのことが出来たのに、今となっては人間一人に凄まれただけで、怯えて、何も出来なくなってしまう」
エルフ奴隷「トラウマを植えつけられたから仕方が無い……なんていい訳も出来るでしょうが……それでも、情けないですよ」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「……まぁ、その頃つけた知識こそが、人間の魔法とか、魔法道具(マジックアイテム)のことなんですけどね」
エルフ奴隷「相手を知らないと、相手の攻撃も何も分かりません。そうなれば、一番生き残らなければならない私達がやられてしまいましたし」

215:2012/03/17(土) 01:04:49.44 ID:
エルフ少女「……私は、情けなくなんてないと思うけど」

エルフ奴隷「……そうでしょうか? 前線に立っていた中で、偶然生き残ってしまったのに、人間に怯えるようになってしまった私は――」



エルフ少女「でも、一番生き残らなければいけない人だったんだよね?」
エルフ少女「その役割の中で今でも生き残っているんだから、むしろ最高にカッコイイとわたしは思うんだけど」



エルフ奴隷「――…………」パチクリ

エルフ少女「……あれ? 何か間違えた……かな……?」

エルフ奴隷「いえ……そうではありません」
エルフ奴隷「ただ……そういう考えもあるんだなと、少し驚いたもので……」

エルフ少女「そう?」

エルフ奴隷「はい……」

エルフ奴隷「…………」

エルフ奴隷「……もしかして、こう考えていること自体が情けないこと、だったんでしょうか……?」

エルフ奴隷「自分だけが生き残ったことが情けないと、昔みたいに成れないと諦めてしまって、そう責め立て続けることこそが……一番……」

エルフ少女「ん~……よく分からないけど……」
エルフ少女「でも、今までの自分が情けないって思えたんなら、良いと思うよ」

エルフ少女「だって、それだけ奴隷ちゃんが強くなれるってことだし」

エルフ奴隷「え?」

エルフ少女「今までだった十分だったのに、それで“情けない状態”だったんでしょ?」
エルフ少女「だったら、“情けなくない状態”になれるんなら、もっと強くなれるってことじゃない?」

エルフ奴隷「」パチクリ

エルフ少女「……あれ……?」

エルフ奴隷「……そっか……そうですよね……」

216:2012/03/17(土) 01:06:32.90 ID:
エルフ奴隷(きっと……秘術が使えなかったのは……首輪のせいだけじゃなかった……)

エルフ奴隷(情けない自分じゃあ使えないと……精霊も私の言葉に耳を傾けてくれないと……そう、思っていたせいでもあった……)

エルフ奴隷(人間に汚されたことを言い訳にして……自分自身を、見向きもしなかった……それが、悪かった……)

エルフ奴隷(そういうこと、ですよね……)

エルフ少女「も、もしかして……また何か……間違えた……?」

エルフ奴隷「……いえ」
エルフ奴隷「最高ですよ、少女さんは」

エルフ少女「え……?」

エルフ奴隷「今なら、なんだって出来そうな気さえしてしまいます」
エルフ奴隷「まぁ、錯覚なんでしょうけど」

エルフ少女「はぁ……」

エルフ奴隷「気にしないで下さい」
エルフ奴隷「ちょっとスッキリして、浮かれているだけです」

エルフ少女「……確かに……なんかちょっと、嬉しそうだけど……」

エルフ奴隷「ええ」
エルフ奴隷「今なら、人間への復讐もあっさりと成し遂げられそうですよ」

エルフ奴隷「まぁ、錯覚なんでしょうけど」

エルフ少女(同じことを二回言った……もしかしてボケた? ツッコミ待ち?)

エルフ奴隷「ともかく、ココに入ってこられた場合の対策は思いつきました」

エルフ少女「え? 何がキッカケで?」

エルフ奴隷「良いじゃないですか。思いついたんですから」
エルフ奴隷「ともかく、話しますよ。少女さんの力をアテにした方法ですけれど、ね」

217:2012/03/17(土) 01:08:04.55 ID:
~~~~~~

山賊頭「とりあえずは……だ。人がいることは確実なわけだ」

手下1「魔法で攻撃してきたってことは、そういうことっすよね」

手下2「逃げた方向は……二階か、目の前の通路」ボソ

山賊頭「どっちも可能性が大きいな……霧から抜け出したオレ達侵入者を攻撃するためにはうってつけの場所だ」

手下1「二手に分かれるっすか? オレはイヤっすよ」

手下2「オレも……」ボソ

山賊頭「オレだって嫌だよ。つぅか二手に分かれた場合、確実にオレと組まなかった方がやられるだろ」
山賊頭「この家の仕組みも満足に理解してないし、極力三人で行動するべきだろ」

手下1「さすが頭っす」

手下2「分かってる」ボソ

山賊頭「当然だ」

山賊頭「つぅ訳で、とりあえず、この屋敷を警戒しつつ、片っ端から漁るぞ」
山賊頭「この家にいるだろう住人を探しつつ、食料と金品を探すんだ」

手下1「うっす」

手下2「ん」コク

218:2012/03/17(土) 01:10:14.41 ID:
~~~~~~

 ◇ ◇ ◇
城下街・表通り
 ◇ ◇ ◇

男「思いのほか器具を買うのに時間が掛かったな……」

男「いやでも、コレは案外良い物なのでは……?」

男「やっぱり新品のものは何でもワクワクするよなぁ……」

男「さて……昼食には若干遅いけど、これからどこかに食べに行くかな……」

?「おっ!」

男「ん?」

元メイド「男くんじゃないかぁ~」

男「……キャラ変わってません? メイドさん」

元メイド「元メイドよ」

男「あ、すいません……」

元メイド「いや~……でも、キャラだって変わっちゃうよ、マジで」
元メイド「なんせ結婚したんだし? もう夫人なわけだし? 家だって引っ越したわけだし?」

男「あっ、屋敷を出て行けたんですか? イヤな旦那さん方の兄弟がいるとか話してましたけど……」

元メイド「そうなのよそうなのよ! もうそれが何より嬉しくて……!

元メイド「旦那さんが、夫婦水入らずになりたいから、って屋敷を別で借りてくれて……まぁ執事とかメイドとかは連れて行ったんだけど……」
元メイド「それでも、元々専属としてついていてくれた味方ばかりだからそりゃもう……!」

男「えっと……惚気たいんですか?」

元メイド「惚気たいんです」

219:2012/03/17(土) 01:11:22.84 ID:
男「……ふと思ったんですけど、ボクを見つけたのは本当に偶然ですよね?」

元メイド「もちろん」

男「……なぁんかここ最近、街に来たら絶対に会ってるような気がするんですが……」

元メイド「確かにあたしもそんな気はするけど……まぁ結婚式前々日は意図的として……その前の買い物は偶然だし……今回も偶然……」
元メイド「なんだ、なんだかんだで三分の二じゃない」

男「……割りと多い気がしますが……」

元メイド「まあまあ。でも今日は騎士団に色々と事情聴取みたいなのを取られてね、その帰りってわけ」
元メイド「だからま、表通りで会うのは当たり前とも言えるのよ」

男「事情聴取? 何か悪いことでもしたんですか?」

元メイド「なんでそうなるのよ……というか、あたしが何かしそうに見えるの?」

男「…………」フイ

元メイド「分かった。目を逸らすっていうその行動だけで十分な返事になった」

男「や、まぁ、その辺は良いじゃないですか」

220:2012/03/17(土) 01:12:29.99 ID:
男「それで、なんで騎士団から事情聴取を受けたんですか?」

元メイド「実はね、結婚式当日に、あたしの隣の屋敷に盗人が入ったみたいなの」

男「えっ?」

元メイド「あのお祝いお祭り騒ぎに乗じてね」
元メイド「で、四日ほど経った今更に、あたしにも事情聴取を受けて欲しいって連絡がきたってわけ」

元メイド「最初は旦那さんだけで済んでたんだけど……どうも、男くんのいる屋敷がある山の方に逃げたらしいってことが分かってね」

男「はぁ~……」
男「……って、えっ!?」

元メイド「それで、男くん達と交流があったあたしにも事情聴取を、ってわけ」
元メイド「何人かは捕まえられたんだけど、数人だけ逃がしてしまって……目下騎士団が捜索中なのよ」

男「ちょっ、ちょっと待ってください!」

元メイド「ん?」

男「ぼ、ボクの屋敷にですか!?」

元メイド「屋敷のある山に、よ。実際屋敷に辿りついてるとは限らないけど」

221:2012/03/17(土) 01:15:54.24 ID:
元メイド「というか、あの山に山賊やら盗賊やらのアジトなんて無いでしょ?」
元メイド「住み込んでたあたしに事情聴取にこられたのだって、その有無を問うためだったんだし」

男「た、確かにないですけど……でも、ただ逃げている途中で、その山に入ってしまっただけで……屋敷を見つけて、その中に入ったりなんかしてたら……!」

元メイド「そんな大袈裟な……大体、あの二人には例の魔法の瓶を預けてるんでしょ? だったら大丈夫よ」

男「でも……貴族の屋敷に侵入しようとする輩ですよ……?」
男「魔法によって守られてると言ってもいい、貴族の屋敷に……」

男「魔法に対して何かしらの対策があってこその○行だったんなら……預けた物を無効化されて……二人が……」

元メイド「……まぁ……そう言われると、その可能性もあるような気はしてくるけど……」

男「……屋敷に戻ります」

元メイド「ちょ、ちょっと待って!」

男「なんですか? 悪いですが、急いでいるんですけど……」

元メイド「それは分かるけど、今から馬車を捕まえて戻ったとしても……もう陽は沈んできてるんだから危ないって」

男「どうしてですか?」

元メイド「どうしてって……もしその盗人が屋敷に辿りついてなくて、まだ山にいた場合、危ないのは男くんになるってこと」
元メイド「山を登るのは確実に陽が沈み始めてからになるし……襲われる可能性のほうが大きい。それでも良いの?」

男「構いません」
男「むしろ、その方が安心します」

元メイド「安心って……」

男「それに……山のふもとに夕方頃に辿り着ければ、山の上まである屋敷には、日が沈み切る前に戻れます」

元メイド「その体力でなんでそんな自信が……」

男「忘れたんですか?」

男「ボクは、魔法使いですよ」

男「体力がないせいで街から屋敷まで持続させることが出来ないですけど……ふもとから屋敷までなら、無理をすれば……魔法を使い続けて、戻れますよ」

236:2012/03/18(日) 01:10:18.60 ID:
~~~~~~

◇ ◇ ◇
  屋敷
◇ ◇ ◇

手下1「結局、住んでる人は見つからなかったっすねぇ~」

山賊頭「どっかに隠し部屋でもあるのか……それとも、部屋と部屋とを移動できるルートがあるのか……」

手下2「それに、食料も満足に見つからなかった」ボソ

山賊頭「保存食ぐらいしかなかったからな……食器が水につけてあるところを見ると、向こうも昼食を終えたところみたいだったし」

手下1「ここの住人、どうするつもりなんっすかね? このままずっと隠れているつもりとか?」

山賊頭「もしかしたら、隠れてる場所にも保存食があるのかもしれねぇなぁ……こりゃ、長期戦か?」

手下2「そもそも、捜索して見つかったことが少なすぎる」ボソ

山賊頭「確かに。それは大きいな」

237:2012/03/18(日) 01:12:08.01 ID:
山賊頭「一階は食堂や調理場がある部屋だったが……食材が無さ過ぎる。あっても保存食ばかりだった」

手下2「二階は二階で、部屋が多いのに、使われていそうなのは二部屋だけだった」ボソ

手下1「食材に関しては山の上だから当たり前として……」

山賊頭「部屋もまぁ、別に全部屋使わないとならない理由はねぇ」

手下2「使われてる部屋のクローゼットを確認したところ、いくつかの服があったけど、それぞれの部屋ごとにサイズが同じように見えた」ボソ

山賊頭「ということで、住んでる人数は女二人。一つの部屋に二人が住んでる可能性は限りなくゼロだからな」

手下1「そこまでは確定なんすけど……」

手下2「逆に言うと、それ以外なにも分からない……」ボソ

山賊頭「空腹は干してあるやつでなんとか誤魔化せたが……」

手下2「金品の類が全く無かった」ボソ

山賊頭「山奥の屋敷に住んでる女二人……しかも、金品の類が無い……金持ちの母娘の別荘、って感じでもねぇし……一人の隔離されたお嬢様と使用人、って感じでもねぇ」

手下2「そもそも、部屋の中にあった服的に、二人ともが使用人」ボソ

山賊頭「……全くもって、分からねぇよなぁ」

238:2012/03/18(日) 01:13:51.71 ID:
山賊頭「そもそもオレら、屋敷だからここは大嫌いな貴族の住処だ、って勝手に決め付けて、この屋敷に入っちまったが……」
山賊頭「こうなってくると、その可能性すら怪しくなってきやがった」

手下2「服は結構あったけど……どれもお金持ちが着るものではなかった」ボソ

手下1「そうっすよね……案外、オレ達の嫌いな金持ちじゃ無いのかもしれないっす」

山賊頭「建ってる場所だって山奥だしな……迫害されたか、逃げ出したか……」
山賊頭「そんな二人が手と手を取り合い、逃げて、辛うじて見つけた住める場所……なのかもしれねぇ」

山賊頭「せめてもう一部屋あれば、一人に仕えている使用人二人、って構図になれたんだが……そうじゃねぇ」

山賊頭「となると……ここでの強盗は、オレ達の流儀に反する」

手下2「貴族等本人、もしくは貴族と繋がってる奴等しか狙わない……」ボソ

手下1「義賊に成り上がる程立派なことをするつもりはないが、ただの山賊には成り下がらない……」

手下2「悪逆非道を行っている自覚を持って、肥やす私腹は同じ色に染まったもののみで……」ボソ

手下1「例え誰に責め立てられようとも、必ず、貴族以外からの盗みや賊は行わない」


山賊頭「…………」

山賊頭「……はん。その通りだよ」

山賊頭「やっぱお前等、さすがだよ。オレと最初からいてくれるだけはある」

山賊頭「だからこそ、信用できる」

239:2012/03/18(日) 01:15:21.63 ID:
手下1「なんというか……もう色々と止めて、早々に出て行くのが得策なんじゃないっすか?」

山賊頭「確かにな……相手の情報はねぇし、むしろ貴族じゃねぇ可能性もある」
山賊頭「こうも訳が分からねぇとなると、無理に留まる必要もねぇかもな」

手下2「でも、陽が沈み始めてる。今ココを出ると、夜道の中で山を降りないといけなくなる」ボソ

山賊頭「……案外、その方が良いかもな」

手下1「え?」

山賊頭「騎士団だってオレ等を捜索して、この山を登ってるかもしれねぇ。なら、闇夜に紛れてアジトに戻った方が良いかもってことだ」

手下2「……確かに」ボソ
手下2「そもそも早く戻らないと、捕まった仲間がアジトの場所を騎士団に告げてしまってるかもしれない」ボソ

手下1「そうなると……置いてきた宝の場所に、騎士団が待ち構えている可能性もある、ってことっすね……」
手下1「これは……早く戻った方が良いかもしれないっすね」

山賊頭「ああ。そもそもオレ達、腹ごなしのために入ったようなもんだしな。金品なんて実際、無理に欲することもなかった」
山賊頭「というか、オレ達の嫌いな貴族が住んでるようでもねぇしな……無理に盗むのは違うだろ」

手下1「そうっすね」

手下2「ん」コク

山賊頭「んじゃ、満場一致になったところで……この屋敷、出るぞ」

240:2012/03/18(日) 01:19:34.48 ID:
~~~~~~

エルフ少女「……もうそろそろ陽が沈み始めたかなぁ……奴隷ちゃん」

エルフ奴隷「どうでしょうね……ですが、かなり時間は経っているように思います」ガサガサ

エルフ少女「? なにしてるの?」

エルフ奴隷「いえ、ちょっと部屋の整理を……」
エルフ奴隷「あまりいじくらない方が良いのかもしれませんが、このままというのもなんですし……何より、退屈ですしね」

エルフ少女「あ、じゃあわたしも手伝う」

エルフ奴隷「では、二人でやりましょうか。静かに」

エルフ少女「そうだね」

241:2012/03/18(日) 01:20:35.11 ID:
エルフ少女「にしても……本当、紙が乱雑に隅に寄せられてるだけの部屋だよね」ガサガサ

エルフ奴隷「ですね……てきとうに資料を放り出しすぎですね」ガサガサ

エルフ少女「とりあえず、重ねて同じ場所に置いとけば良いのかな?」ガサガサ

エルフ奴隷「資料室……のような場所は見当たりませんし……きっとそれで良いのでしょう」ガサガサ

エルフ少女「……ねえ」

エルフ奴隷「はい?」

エルフ少女「資料室って、もしかしてコレ」コンコン

エルフ奴隷「? 地面……? って、なにやら手が掴めそうにヘコんでますね……確かに、この下かもしれません」

エルフ少女「ん~……でも、鍵が掛かってる」ガッガッ

エルフ奴隷「……なら、やっぱり同じ場所に置いておくしかなさそうですね」

エルフ少女「む~……なぁんか納得いかないけど……仕方ないか」

エルフ奴隷「ちゃんと片付けられないとスッキリしないのは確かですけど……仕方ないですね」

242:2012/03/18(日) 01:21:56.66 ID:
エルフ奴隷「机の上……も、資料が置かれてますね……」

エルフ少女「ん~……でもそこはあまりイジらない方が良いかも……」

エルフ奴隷「確かに……そうかもしれませ――」

エルフ奴隷「――っ!」

エルフ少女「……? どうしたの? 奴隷ちゃん」

エルフ奴隷「…………いえ……いえ、なんでも、ありませんよ……」

エルフ少女「? 何かあったの? 机の上に」

エルフ奴隷「いえっ、本当に……本当に何もないんです……!」

エルフ少女「ん~? 資料……?」パサ

エルフ奴隷「あ……」

エルフ少女「…………」
エルフ少女「……うん。やっぱり魔法って、何書いてるか分かんないね」

エルフ少女「これ、何が書いてあるの? 書いてある言葉は分かるんだけど……意味が全く分かんないや」

エルフ奴隷「そう……ですか」

エルフ少女「?」

エルフ奴隷「いえ……本当、大したことじゃないんです」

エルフ奴隷「ただちょっと……気になったもので」

エルフ少女「? なにが?」

エルフ奴隷「…………」

243:2012/03/18(日) 01:23:17.26 ID:
エルフ奴隷「……さっきも話しましたけれど、私、前線治癒術士だったじゃないですか」
エルフ奴隷「それでやっぱり、人間の魔法とかでスゴイのを見ると、気になっちゃうんですよ」

エルフ少女「あ~……なるほど……ちょっと分かるかも」

エルフ奴隷「ありがとうございます」

エルフ少女「なら、ちょっと読んどけば?」

エルフ奴隷「え? ……良いんでしょうか……?」

エルフ少女「良いよ、きっと」
エルフ少女「だって旦那様、自分が作った資料は将来お金に困ったときに売るためにある、って言ってたし」

エルフ少女「ちょっと読むぐらいじゃ怒らないって。この部屋から持ち出しさえしなければ」

エルフ奴隷「…………それなら――」

――どこにいるのか分からんが、この屋敷の人間に告げる!!――

エルフ少女「っ!!」

エルフ奴隷「っ!!」

244:2012/03/18(日) 01:24:27.87 ID:
~~~~~~

山賊頭「屋敷を勝手に調べさせてもらった結果、アンタ等はオレ達の大嫌いな貴族じゃねぇって判断が下った!!」

山賊頭「だから、この屋敷から出て行かせてもらう!!」

山賊頭「貴族の屋敷と勝手に思い込んで上がらせてもらったが、どうも勘違いだったみたいだしなっ!!」

手下1「……なんで広間の真ん中でわざわざ大声を上げるんっすかね?」ボソボソ

手下2「それがカッコイイって思ってるんだよ、頭の中では」ボソボソ

山賊頭「あと、食い物を何の許可も無く食っちまった! スマンっ!!」

手下1「……謝るだけなんっすね」ボソボソ

手下2「謝るだけだね……」ボソボソ

山賊頭「腕の治療のために包帯も勝手に使った! これもスマンっ!!」

手下1「ま、今は無一文みたいなもんっすからね。仕方ないっす」ボソボソ

手下2「ん」コク

山賊頭「……さっきから聞こえてんだよ、てめぇらは……!」

手下1「あ」

手下2「そう怒らないで、頭」ボソ

手下1「そうっすよ。信用できる仲間じゃないっすか、オレ達」

山賊頭「都合の良い時だけそういうのを持ってくんじゃねぇよっ!」

245:2012/03/18(日) 01:25:35.41 ID:
手下1「いや、本当スマンっす」

手下2「反省はしているつもり」ボソ

山賊頭「つもりってなんだよつもりって……」

手下1「まあまあ」
手下1「にしても頭。真面目な話……何がしたかったんっすか?」

手下2「こんなことをしても、相手が出てこないのは分かりきってる」ボソ

手下1「そうっすよ。どうせ警戒してるんっすから」

手下2「騙すための嘘を叫んでいると思われて、当然」ボソ

山賊頭「……ま、そうなんだろうけどよ」
山賊頭「それでも一応、ケジメみたいなもんはつけとくべきだろ」

手下1「ケジメっすか……」

手下2「……本当につけたいなら、ご飯代を置いていくべき」ボソ

山賊頭「うっせぇなぁ……じゃあオレの剣でも置いていけば良いか?」

手下1「いや、それをされるともしアジト前に騎士団が張っていた場合、オレ達何も出来なくなるっす」アセアセ

手下2「考え直した方が良い」ボソ

山賊頭「どっちなんだよテメェはよ……」

246:2012/03/18(日) 01:27:05.76 ID:
山賊頭「ま、ともかくコレで、オレが思うケジメはつけられた」

山賊頭「向こうがオレ達を疑って出てこないのは当然だしな。何も、顔を見せてもらうために叫んだわけでもねぇし」

山賊頭「疑うのは勝手だが、とりあえずは、侵入者は出て行きましたよと言っておいた方が良いだろ?」

手下2「……本人が言っても信用はされないだろうけど」ボソ

山賊頭「だろうとオレも思うよ」
山賊頭「ま、言っておかないとずっと引っ掛かりを覚えちまうオレの情けない性分ってやつだ。気にすんな」

手下1「まぁ頭が一人で叫ぶだけだし、オレは構わないっすけどね」

手下2「ん」コク
手下2「強制しないだけで十分」ボソ

山賊頭「お前等はただ叫びたくないだけかよ……」

山賊頭「……まぁ良いや」
山賊頭「んじゃ、さっさと出て行こうぜ。アジトに早く戻る必要もあるしな」

手下1「うっす」

手下2「ん」コク

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…

ガチャ

ギィ…

山賊頭「お、陽が赤くなってやがる」

手下1「……まだ誰も、アジトの場所を告げ口してなけりゃ良いんっすけどね」

手下2「……一応は仲間だったから、信じるしかない」ボソ

山賊頭「だな」

カチャン

山賊頭「っ!」
手下1「っ!」
手下2「っ!」

バッ!

247:2012/03/18(日) 01:28:27.95 ID:
ギィ…

エルフ奴隷「…………」

山賊頭「……あんな、階段の横に部屋が……」

手下1「どうりで……見つからない訳っすね」

手下2「というより……どうして出てきた?」ボソ

ザッ―

エルフ奴隷「戻ってこないで下さい」

山賊頭「っ!?」

エルフ奴隷「その、玄関のドアを開けたままの距離で、話をしませんか?」

山賊頭「あの外見……エルフか?」

手下1「みたいっすね」

ソッ

エルフ少女「…………」

手下2「もう一人……」ボソ

手下1「あの二人が……」

山賊頭「ここに住んでる二人、ってことか……」

…パタン

248:2012/03/18(日) 01:30:00.80 ID:
エルフ少女「……本当に良かったの? 奴隷ちゃん。急にあの人たちの前に出るだなんて……」ボソボソ

エルフ奴隷「確かに……騙すために言った言葉だったかもしれませんが……それでも、少しだけ話をしたかったんです、私は」ボソボソ

エルフ少女(彼の知り合いである元メイドさん相手でも警戒していたのに……盗人なんて怖い存在を相手に話をしたいだなんて……どういう心境の変化?)

山賊頭「……なあ」

エルフ奴隷「はい……」

山賊頭「このままの状態での話は分かった」
山賊頭「だがその前に、一つ聞かせろ」

エルフ奴隷「……はい」

山賊頭「お前達は、貴族に買われて、無理矢理ここにいさせられてるのか?」

エルフ奴隷「……いいえ」

山賊頭「脅されての言葉、じゃねぇな……?」

エルフ奴隷「……はい」

山賊頭「そうか……なら良いんだ」
山賊頭「自分達の意思で、ここにいるんならな」

エルフ奴隷「……ちなみにですが、もし“はい”と答えていたら、どうしました?」

山賊頭「前言撤回してこの屋敷を荒らして、お前達をこの屋敷から逃がしていたところだよ」

エルフ奴隷「そう、ですか……」

249:2012/03/18(日) 01:31:39.93 ID:
手下2「……頭、良かったね?」ボソ

山賊頭「あん?」

手下2「あんなに可愛い子がメイド服なんて着て現れてくれて……」ボソ

山賊頭「なっ……!」///

手下2「頭が奴隷を買ってしたいことって、ああいうヒラヒラの服を可愛い子に着てもらうこ――」

山賊頭「あーーーーーーー! あーーーーーーーーーー!! あああああーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」///

エルフ奴隷「?」
エルフ少女「?」

手下1「あ~……気にしない欲しいっす。それよりも、教えて欲しいっんすよね」
手下1「なんで隠れてる場所から出てきてまで、話をしようと思ったんっすか?」

手下2「確かに……出てきたタイミングがバッチリだった。それって、こちらの声や音は筒抜けだったってことだよね?」ボソ

手下1「つまり、オレ達が出て行った後に、その部屋から出てくることも可能だったってことじゃないっすか」

手下2「それとも、頭の言葉があぶり出すための嘘だという可能性を考慮していなかった……?」ボソ

エルフ奴隷「? え?」

山賊頭「お前の言葉が届いてねぇよ……小せぇんだよ声が」

手下2「むぅ……だが、これ以上は出ない」ボソ

250:2012/03/18(日) 01:32:58.10 ID:
山賊頭「えっとだな……オレ達の声や音が聞こえてたから、このタイミングで声をかけてきたのはなんでだ? ってことだ」

山賊頭「オレ達が屋敷を出て行くのをちゃんと確認して、その後コッソリと出てきて日常生活に戻る事だって出来ただろ?」

山賊頭「何故、それをせず、出てきて話をしに来た?」

山賊頭「オレ達がお前をあぶり出す為の嘘の言葉だったかもしれねぇのによ」

山賊頭「いやむしろ、この状況下でも、一息に間合いを詰めるために駆け寄ってこられて、捕まってやられるかもしれねぇって状況なのによ」

山賊頭「それでどうして、話をしようだなんて思った」

エルフ奴隷「……それは……」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「それは……私にも、分かりません」

251:2012/03/18(日) 01:35:16.23 ID:
エルフ奴隷「ただ、話をしてみたかったのです」
エルフ奴隷「貴族を嫌いと断じた、あなた達と」

エルフ奴隷「……まぁ、それでも、一応の名目はあります」

エルフ奴隷「出て行くフリをして戻ってきて、私達を襲う可能性が確かにありますからね……」
エルフ奴隷「その気がないのかどうかの最終確認をしたいから話しかけた……そんなところです」

エルフ奴隷「……取ってつけたようなものでしかありませんけどね」

山賊頭「……貴族を嫌いと断じた……ね」

手下1「もしかしてっすけど……エルフが人間の奴隷と同じ扱いを受けていない、という噂は、本当なんっすか?」

手下2「エルフの奴隷は○奴隷のような酷いことばかりをされているっていう、あの……」ボソ

エルフ奴隷「本当ですよ」

山賊頭「っ!」

エルフ奴隷「正直、人間と話しをするのが怖いぐらい、私は色々とされましたから」

山賊頭「……じゃあ、オレ等と話すのだって、辛いんじゃねぇのか?」

エルフ奴隷「そうですね……」
エルフ奴隷「……でも、あなた方は貴族を嫌いと言ってくれました。私に酷いことばかりをしてきた一部の、アレを」

エルフ奴隷「だからまだ、大丈夫です」

252:2012/03/18(日) 01:36:22.85 ID:
山賊頭「……また一つ聞きたいことができたんだが、もしかしてお前等、逃げてきてここにいるのか?」

エルフ奴隷「いえ。私達は買われて、ここにいます」

エルフ奴隷「その人はさっきも言ったとおり、酷いことをする貴族とは違います」

エルフ奴隷「私達を、救ってくれた人です」

エルフ奴隷「特に私は……あの人がいなければ、今頃は……」

山賊頭「……そうかい」

手下1「ま、ソレをオレ達に話されたところでどうしろって話なんっすけどね」

手下2「ん」コク

エルフ奴隷「すいません……」

山賊頭「聞いたのはオレだ。アンタが謝ることじゃねぇよ」

253:2012/03/18(日) 01:38:33.96 ID:
山賊頭「ともかく、アンタ等がそういうんなら、オレ達は本当にもうこの屋敷をどうかするつもりはねぇよ」
山賊頭「もちろん、アンタ等自身にもな」

山賊頭「どうだい? これで、安心できたかい?」

手下1「それとも、まだ信用できないっすか?」

手下2「もしくは、話しかけた理由に、何かアテがあった……?」ボソ

エルフ奴隷「…………」
エルフ奴隷「……いえ、もう十分です」

エルフ奴隷「ただ、一つだけ、聞かせてください」

山賊頭「あん?」

エルフ奴隷「人間の社会においての貴族とは、どれぐらいの影響力があるのですか?」

山賊頭「どれぐらい……って言われてもな……」

手下1「少なくとも、国の政治方針には介入してるっすよね」

手下2「騎士団の将軍地位を決めたりとか、国王への予算提案とか、国民の声をまとめたりとか……国のために色々とやってる……という建前になってる」ボソ

山賊頭「だが、それがどうしたんだ?」

エルフ奴隷「いえ……貴族を嫌っている人間なら、詳しいかと思ったのですが……」

山賊頭「いや……オレ達もただ、貴族って理由だけで、ソイツ等の周辺を狙ってるだけの山賊だからな」

手下2「襲ってきた中には、民衆に支持されてる貴族だっていたかもしれない」ボソ

手下1「結局のところ、金を持ってるムカつくヤツを狙う、って基準のために、貴族を狙ってるだけっすからねぇ」

エルフ奴隷「そうですか……ありがとうございました」

254:2012/03/18(日) 01:40:16.66 ID:
山賊頭「なんでそんなことを聞いてきたのか……は、まぁ、聞かないでおくさ」

手下2「これ以上、深入りはしない」ボソ

手下1「互いに、会うのはこれっきりにしたいもんっすね」

山賊頭「だな」

山賊頭「それじゃ……そういうことで」

手下1「山賊も人間も、オレ達みたいな奴等ばかりじゃないから、気をつけるっすよ」

手下2「もっと厳重に、屋敷は守っておいた方が良い」ボソ

ザッザッザッ…

…バタン

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「……良い山賊……って表現も変だけど……そういうのだったのかな……?」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「……旦那様、実は結構なお金持ちだと思うんだけど……まぁ、屋敷を漁ったぐらいじゃ、そんなの分かんないか」

エルフ奴隷「…………」

255:2012/03/18(日) 01:41:25.17 ID:
エルフ少女「……? 奴隷ちゃん……?」

エルフ奴隷「え、あ……どうしました?」

エルフ少女「いや……返事が無かったから、どうしたのかな、って思って」

エルフ奴隷「……すいません。少し、考え事をしてしまいまして」

エルフ少女「考え事?」

エルフ奴隷「はい。……まぁ、取るに足らないこと、ですよ」

エルフ少女「?」

エルフ奴隷「それよりも、屋敷の中、改めて周りましょう」
エルフ奴隷「どれほど漁られたのかも気になりますし……もしかしたら、片付けが必要になるかもしれませんしね」

エルフ少女「あ、うん……そうだね」

エルフ少女(……なんだろう……さっきの表情……)
エルフ少女(すごく……すごく、イヤな予感がする……)

256:2012/03/18(日) 01:42:32.49 ID:
~~~~~~

バタン!!

エルフ少女「っ!」ビクッ!

男「はぁ……はぁ……はぁ……!」

エルフ少女「だ、旦那様……?」

男「だ、大丈夫……!?」

エルフ少女「え、ええ……はい……?」
エルフ少女「その……旦那様こそ、大丈夫ですか? 何やらすごく疲れているようですが……」

男「山賊、とか、来なかった!?」

エルフ少女「山賊……は、来ましたけど……」

男「何も、されなかった!?」

エルフ少女「え、はい……大丈夫、でしたけど……」

エルフ少女「あれ? でも旦那様、いやに早くないですか?」
エルフ少女「早朝に出て、日が沈みきる前に帰ってくるなんて……普通に帰ってきても、深夜より少し前になると思っていたんですけど……」

男「ま、魔法を……!」

エルフ少女「魔法……? えっ? もしかして、魔法を使ってまでこの時間に帰ってきたんですか?」
エルフ少女「どうしてそこまで……」

男「だ、だから……山賊……がっ……ウ」

エルフ少女「う?」

257:2012/03/18(日) 01:43:50.23 ID:
男「うえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーー……!!」ビチャビチャ

エルフ少女「きゃっ!」

男「はぁ……はぁ……はぁ……」

エルフ少女「ちょっ……! 大丈夫なんですか!? いきなり吐いたりして……!」

男「だ、大丈夫……昼食も食べてないし……そんな……には……ウグ」

男「がはああぁぁぁ!!」ビチャ…ビチャ…!

エルフ少女「ちょっ……! 血って……!」

男「はぁ……はぁ……うっ、はぁ……」フラ

エルフ少女「あっ、っと……!」ドス

エルフ少女「ぐっ……! お、重い……!」
エルフ少女「でもここで手を離すと……旦那様の顔がゲロと血に塗れちゃう……!」

エルフ少女「……っ!」

エルフ少女「……りゃぁっ!」

ドッ

エルフ少女「はぁ……はぁ……全く……筋肉が見えないのに、こんなに重いなんて……」
エルフ少女「横にずらして落としちゃったけど……」

男「…………」

エルフ少女「……あれほどの衝撃があって起きないなんて……どれだけ無理して帰ってきたんですか……全く」

258:2012/03/18(日) 01:44:32.86 ID:
エルフ少女「…………」

エルフ少女(でも……山賊がどうのって言ってたけど……もしかして、どっかでその話を聞いて心配したから、こんな無茶してまで戻ってきてくれたってこと……?)

男「…………」

エルフ少女(あ……ヤバイ。ちょっと嬉しい)
エルフ少女(顔がニヤけてきちゃってる……)

エルフ少女「……いや、それよりも……早くこの人を暖かい場所で寝かせないと……」

エルフ少女「奴隷ちゃ~ん! ちょっと手伝って!!」

259:2012/03/18(日) 01:45:42.93 ID:
~~~~~~

男「……っ!」

エルフ少女「あ」

男「……ぁはあ!」

エルフ少女「気がつきました?」

男「はぁ……はぁ……はぁ……」

男「あれ……? ここは……?」

エルフ少女「わたしの部屋です」

男「……部屋?」

エルフ少女「覚えてないんですか?」
エルフ少女「魔法を使って無理してまで、その日の夜になる前に、この屋敷に戻ってきたんですよ?」

男「あ……!」

男「そうだ……! そういえば、山賊が来たって倒れ間際に聞いた気がするけど……大丈夫だったの!?」

エルフ少女「はい。大丈夫でしたよ」
エルフ少女「心配してくれて、ありがとうございます」

男「……はぁあああ~~~~~……良かった~~~~~~~……」

男「でも、どうして無事だったの? もしかして、追い返したとか? それとも殺したの?」

エルフ少女「それは……。……まぁ、そうですね……順を追って説明します」

260:2012/03/18(日) 01:47:44.31 ID:
~~~~~~

エルフ少女「――で、旦那様が戻ってきた、って訳です」

男「なるほど……」

男「……本当、運が良かったね」
男「もし金目のものが一つでもあったら、二人とも襲われてたってことだし」

エルフ少女「はい……」

男「にしても、よくボクを二階のこの部屋に運べたね?」

エルフ少女「奴隷ちゃんに手伝ってもらいましたし」
エルフ少女「彼女、少しだけ秘術が使えるようになってきたんですよ。そのおかげで腕に精霊の力を送れて、持ち運べたんです」

男「へぇ~……でも、あれだけ詳しいのに前まで秘術が使えなかったなんて、よくあることなの? やっぱり珍しい?」

エルフ少女「いえ、前まではそれはもうすごい秘術使いだったんですけど……この首輪のせいで、使えなかったんです」

男「え?」

エルフ少女「まぁ、精霊との会話が阻害されるだけですので、コツさえ掴めば少しだけ使えるようになるんです」

男「ん? でもその首輪って、探知としての魔法が入ってるだけじゃないの?」
男「外したら強制的に誰かにそのことが伝わったりとか、居場所を常に教えてたりとか、そういう魔法があるだけの……」

エルフ少女「? いえ。付けてもらった時に教えてもらったんですが、どうも魔力を阻害する機能もあるようで……」
エルフ少女「その副産物なのか、さっきも言ったとおり、精霊との会話が阻害されるんです」

男「魔力を、阻害……? その副産物で、精霊との会話も……?」ブツブツ

エルフ少女「…………?」

261:2012/03/18(日) 01:49:55.14 ID:
エルフ少女「それよりも旦那様、旦那様はどうして、この屋敷に山賊が来ているのが分かったんですか?」

男「あ、ああ……いや、分かってたわけじゃないんだ」
男「ただ街中で偶然、元メイドさんに会ってね」

男「騎士団に事情聴取を受けに行っていたとか、ボクの屋敷がある山に山賊が向かったとか、そういう話を聞かされて、急いで戻ってきたんだ」

男「……よくよく考えたら、そこまで騎士団がムキになるってことは、貴族関係ばかりを狙ってる山賊だ、ってことでもあったんだね……まぁ、だからって安心できた訳でもないんだけど」

エルフ少女「……だから、そんな倒れるなんて無茶をしてまで、戻ってきてくれたんですか?」

男「そうだけど……でも、あまり意味は無かったかもね」

エルフ少女「え?」

男「今回は山賊が敵じゃなかったから良かったけど……もし敵だったら、こんな疲労困憊で戻ってきたところで、満足に戦えなかっただろうし」

男「あのままだと、すぐにボクも殺されてしまっただけなんだろうしさ」

エルフ少女「……でも、嬉しかったですよ? そこまで無茶して戻ってきてくれたことが」
エルフ少女「気付いてます? 旦那様。あなた、丸半日以上眠っていたんですよ?」

男「え!? そんなに!?」

エルフ少女「はい。旦那様が帰ってきてから一度陽が沈み、今は真上より少し進んだところにあります」

男「そうか……そんなにか……」

エルフ少女「はい。……にしても、魔法でもそういう速度強化とか出来るんですね」

男「水を使って、だけどね」
男「だから正確には“速度強化”というよりも、“移動強化”、って言った方が正しいかもね」

エルフ少女「……よくそれで実験器具が壊れませんでしたね……」
エルフ少女「背負ってきていたカバンの中身、確認させてもらいましたけど、全て無事でしたし……」

男「そういうので割れないのを買ってきたからね」

262:2012/03/18(日) 01:51:01.83 ID:
男「……そういえば、もう一人はどうしてるの?」

エルフ少女「奴隷ちゃんですか? あの子なら、下の階の片づけをしています」

男「下の階?」

エルフ少女「はい。旦那様の研究し――」

男「っ!」

エルフ少女「――え? 何か、驚くようなことでも……」

男「…………ううん、別に」

エルフ少女「?」

男「それで……彼女は、この部屋に来ないのかな……?」

エルフ少女「呼びましょうか?」

男「うん……お願いしようかな」

エルフ奴隷「その必要はありませんよ、ご主人さま」

263:2012/03/18(日) 01:52:10.50 ID:
エルフ少女「あ、奴隷ちゃん」

男「…………」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「どう? 下の階の片付けは終わった?」

エルフ奴隷「……そうですね、終わりました」テクテクテク…

ピタ

エルフ奴隷「旦那様、目が、覚められたようで」

男「……うん。まあね」

エルフ奴隷「そうですか。それは良かったです」

エルフ少女「……奴隷ちゃん?」















エルフ奴隷「おかげで……真実を、問いただせます」チャキ

エルフ少女「っ!!」

264:2012/03/18(日) 01:54:52.90 ID:
エルフ少女「ちょっ……! 奴隷ちゃん! どういうこと……!?」
エルフ少女「いきなり……旦那様の首筋に……ナイフを突きつけるなんて……! そんな……!」

男「…………」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「そ、そんな冗談……笑えないって」
エルフ少女「ほら……旦那様も……黙って見つめ合っていないで……なにか……」
















男「……そっか……見たんだね」

エルフ奴隷「……はい」

エルフ少女「……………………え?」

男「……研究に夢中になって、器具を買いに行くことに意識が向きすぎてて……」
男「足がかりから術式を見つけるのに躍起になってて、片付けるのを忘れてたんだね……あの資料を」

エルフ奴隷「…………はい」

男「キミは聡いからね……そのあたり、注意していたつもりだったんだけど……こんな間抜けなドジでバレるなんて……」

エルフ奴隷「…………」
エルフ奴隷「……答えてください。ご主人さま」

男「ん」

265:2012/03/18(日) 01:56:49.08 ID:
エルフ奴隷「人間が戦争に勝つキッカケとなったアレを作ったのは……あなたなんですか?」

男「……そうだよ」

エルフ奴隷「……ソレを作ったのは……人間の、貴族による、命令でですか……?」

男「……ちが――」

エルフ奴隷「そうですよね?」

男「…………」

エルフ少女「奴隷、ちゃん……?」

エルフ奴隷「そう、ですよね……? そう、です、よね……? そう……です、よね……?」

男「…………ちが――」

エルフ奴隷「そうだって……そうだって言って下さいよっ! じゃないと……じゃないと私……!」







エルフ奴隷「このまま……あなたを……刺さないといけなくなりますっ!!!」







エルフ少女「っ!!」

男「…………」

エルフ奴隷「だから……だから、お願いです……そうだと……そうだと……! 言って、ください……!」
エルフ奴隷「貴族に命令されたから、見つけて……無理矢理、作らされて……研究させられたのだと……そう……!」

266:2012/03/18(日) 01:58:43.74 ID:
男「……言えないよ」

男「だってアレは、ボクの罪、そのものなんだから」

男「だからボクは、キッパリと言う」










男「違うよ。アレは、誰の命令でもなく、ボクの意思で、作ったものだ。」










エルフ奴隷「っ……!! ……ぐうぅっ!!」

エルフ奴隷「ううううううぅぅぅぅぅぅ……!!」ポロポロ

エルフ少女「奴隷、ちゃん……」

エルフ奴隷「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」ポロポロポロ

バッ!

エルフ少女「っ! ダメッ!」

エルフ奴隷「ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」ポロポロポロポロ

ブンッ…

…ザシュッ!

337:2012/03/20(火) 00:39:54.57 ID:
~~~~~~

男「」

エルフ少女「」

エルフ奴隷「」ハァ…ハァ…ハァ…

男「…………」



男「……外しくてれたね、奴隷ちゃん」



エルフ奴隷「っ! ……こんな時に、名前……なんて……!」ポロポロ

男「ごめん……卑怯なのは分かってる」
男「でもボクは……ここで死ねない」

男「ボクが自覚しているボクの罪を償うまでは……死ねないんだ」

男「だから……ありがとう」
男「わざと、外してくれて」

エルフ奴隷「っ! ぐっ!」ダッ

エルフ少女「っ! 奴隷ちゃん!」

男「追いかけて!」

エルフ少女「えっ?」

男「良いから! 絶対……屋敷からは、出さないで!」

エルフ少女「は……はい!」

ダッタッタッタ…

男「…………」

男(……さて……)

男「時間が無くなってきた、か……」

男(早くしないといけない、かな……バレてしまったんだし)

~~~~~~

338:2012/03/20(火) 00:41:09.39 ID:
~~~~~~

エルフ少女(あの後……奴隷ちゃんに追いついて、その手をとった、その後……)

エルフ少女(彼女を落ち着かせ、この屋敷にいてもいいと彼が言っていたことを伝え……泣いてる彼女を部屋へと戻した)

エルフ少女(隙を見て逃げ出してしまうかもしれないけれど……それでもわたしは、彼女が「逃げない」と言ってくれたその言葉を、信じるしかない)

エルフ少女(ずっと傍にいたところで……今はまだ、負担にしかならないだろうから)

エルフ少女「……と、こんなものか」

エルフ少女(そんなわたしはとりあえず、目が覚めたばかりの彼でも飲めるスープを作っていたりする)

エルフ少女(……もうちょっと奴隷ちゃんに気を遣ってあげるべきなのかもしれないけど……)

エルフ少女(かける言葉を持っていないのに傍にいたところで……ね)

エルフ少女(それに……まずは、彼自身からも色々と問いたださないといけない)

エルフ少女(……奴隷ちゃんがどうして彼を襲ったのか……)

エルフ少女(わたしは、あの二人が共通で知っていることを、何も知らない)

エルフ少女(ただ一人の、仲間はずれ)

エルフ少女(だから……)

エルフ少女「……にしても……」

エルフ少女(奴隷ちゃんは本当に料理が上手いんだな……わたしが作ったコレ、あんまりおいしくないや……)

エルフ少女(教えてもらってたはずなのになぁ……何が違うんだろう……)

339:2012/03/20(火) 00:42:07.33 ID:
~~~~~~

コンコン

エルフ少女「失礼します」

エルフ少女(自分の部屋に失礼しますって……なんか変な気分)

エルフ少女「旦那様、スープを作りまし――って」

エルフ少女(いない……)

エルフ少女「一体何処に……って、決まってるか」

テクテクテク…

◇ ◇ ◇
 研究室
◇ ◇ ◇

コンコン

エルフ少女「失礼――」

ガチャガチャ…

エルフ少女「――む」

エルフ少女(一丁前に鍵なんて掛けて……)

ジャラ…

…カチャカチャ…

…カチャン

エルフ少女「失礼します!」

バタン!

男「っ!」ビクッ!

340:2012/03/20(火) 00:46:38.93 ID:
男「え、えっと……どうしたの?」

エルフ少女「どうしたもこうしたもありませんケド」

男「あ~……なんか、怒ってるのは分かったよ」

男(ドアを蹴って開けたみたいだし……)

エルフ少女「そりゃ怒りもしますよ」
エルフ少女「病み上がりの癖に目が覚めたらすぐに研究ですか? どれだけ自分の身体を大切にしないんですか」

男「いやぁ~……どうせ体力が切れただけだからね。今となっては万全だよ」

エルフ少女「何が万全ですか何が」
エルフ少女「ご飯、何も食べてないんじゃないですか?」

男「そういえば……そうだった。街に向かう前の朝食から何も食べてないや」

エルフ少女「丸一日みたいなものじゃないですか……」

男「いやぁ~……割りと普通だし」

エルフ少女「だとしても、一度倒れたんですから、食べてください」

男「ん~……でも、急いで色々と仕上げないと……」

エルフ少女「……はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~……」

男(……すごい呆れられてる……)

エルフ少女「……だったら、わたしに事情を説明してください」

男「事情……?」

341:2012/03/20(火) 00:47:25.34 ID:
エルフ少女「奴隷ちゃんがどうしてあなたを襲ったのか……その理由、分かっているんですよね?」

男「……まぁ、ね……」

エルフ少女「ですから、その事情全てですよ」
エルフ少女「わたしだけ除け者にされてるのは、イヤですから」

男「…………」
男「……そうだね。教えておくべきか……あの子が教えられる状況でもないしな……」

男「うん、分かった。全部話すよ」

エルフ少女「それじゃ、そのついでにスープを飲んで下さい」
エルフ少女「飲みながらでも、話は出来るでしょう?」

男「ははっ……なるほどね」
男「分かったよ。それじゃあ、食堂に移動しようか」

342:2012/03/20(火) 00:48:17.01 ID:
◇ ◇ ◇
  食堂
◇ ◇ ◇

エルフ少女「どうぞ」

コト

男「ありがとう」

エルフ少女「その……奴隷ちゃんが作ったわけじゃないので、あまりおいしくはないですけど……」

男「ん……?」ズズー

男「……いや、十分においしいけど……?」

エルフ少女「そ、そうですか……?」

男「うん」

エルフ少女「それはまぁ……ありがとうございます」

男「いや、お礼を言うのはボクの方だよ。作ってもらったんだからさ」

エルフ少女「あ、でも音を立てて飲んだら行儀が悪いです」

男「あぁ~……いつもみたいに意識してなかったせいか……ごめん」

343:2012/03/20(火) 00:51:11.10 ID:
エルフ少女「それで……事情の方、説明してくださいますか?」

男「ん……そうだな……でも、どこから説明したものか……」

エルフ少女「最初からなんですが……そうですね……とりあえず、どうして奴隷ちゃんは、旦那様に襲い掛かったんですか?」
エルフ少女「旦那様が、人間が戦争に勝つきっかけとなる何か、を作った人らしいというのは分かりましたけど……」

男「ん~……じゃあさ、キミはつい一月半前に終結した、人間とエルフの戦争についてどれぐらい知ってる?」

エルフ少女「どれぐらい……と言われましても……わたしは元々集落の隅っこに住んでましたし……」
エルフ少女「人間が集落を焼きにくるまでは“戦争が起きている”ということぐらいしか分かりませんでした」

エルフ少女「まぁ意図的に、戦力にならない女の子にはそういうのを教えていなかったのかもしれませんが」

男「もしかして、人間が襲った最後の集落に住んでたってことかな……?」

エルフ少女「どうでしょう……ですが、少なくとも最後の方であることは間違いないですね」

エルフ少女(お父さん達と逃げてた期間がどれぐらいか定かじゃないけど……一月は経ってなかったと思うし)

男「……ちなみに、もう一人の方は戦争中はどこにいたのか分かる?」

エルフ少女「つい昨日に聞きましたけど、前線治癒術士です」

男「……なにそれ?」

エルフ少女「そのままです。前線で仲間を治癒する人ですよ」

男「そうか……秘術の特性上、そういうことも出来るのか……」

エルフ少女「でも、それがどうしたんですか?」

男「……ううん、ただどうして、キミはそんなにもボクのことを恨まないのかなぁ、と思ってさ」

エルフ少女「当初は恨んでましたよ。刺すためにナイフを奪ったりしてたじゃないですか」

男「でもそれって、人間全体の中の一部として、だよね? しかも、同胞を救うための最初の手段、として」
男「あくまでも、ボク個人じゃなかったでしょ?」

エルフ少女「まあ……そうですね」

344:2012/03/20(火) 00:52:36.17 ID:
男「ボクが作ったものが使われてたのは、戦争中エルフが押しに押してた時だからね……」
男「前線にいた彼女なら、ボクを恨むのも当然なんだよね」

男「で、後ろにいたキミは、ボクのことをそんなに恨まないのは当然、と……」

エルフ少女「ですから……旦那様は、何を作ったんですか?」

男「…………」
男「……魔法だよ」

エルフ少女「魔法?」

男「そう。エルフが十二年かけて追い詰めた人間を、たった五年で逆転し、勝利に導いた、ただ一つの魔法……」

エルフ少女「……大規模な魔法ですか?」

男「違うよ。むしろ効果は、人間一人にしか及ばない」
男「そもそも大規模戦争用魔法なんて、エルフの秘術使いの前じゃ何の役にも立たなかったからね」

エルフ少女「それじゃあ……その魔法って、なんなんですか?」

男「一言で言うと、失敗作」

エルフ少女「失敗……?」

男「……エルフってさ、秘術で身体能力を向上させられるよね? 日常生活においては人間より非力で足も遅いのに、秘術を用いれば人間の倍ほどには強くなれるってやつ」

エルフ少女「……なんの話ですか? 話、逸らそうとしてません?」

男「ボクが作った失敗作の話だし、本筋に入ろうとしてるよ」

エルフ少女「…………」

345:2012/03/20(火) 00:56:36.87 ID:
エルフ少女「……まぁ、そうですね。わたしはまだ倍ほどには強くなれませんが、精霊を身体に、局地的に集めることで、その身体能力を向上させることが出来ます」

男「でも、魔法ではそれが出来ない。魔力がそもそも、自分の体内にある体力がベースだからね」

男「体力を局地的に集めたところで――例えそれが魔力に変換されたものだったとしても、集めたところで、身体能力なんて上がりっこない」
男「自分のものを自分の中で移動させただけなんだからね」



男「だからボクはこう考えたんだ」



男「ならば、他人の魔力を体内に入れれば、身体能力が上がるのではないか、と」



男「以前、少しだけ言ったことだけど、他人の魔力を身体に入れたらどうなるのかってのは、基本的には分からないんだ」
男「いや、当時は全く分かっていなかった」

男「だからこそ可能だとボクは思った」
男「そのための魔法術式も編んだ」

男「体内に正常に術式を発動させるためにどうすればいいのかを考え、水の中に術式を入れれば良いことも思いついた」

男「それを飲めば、術式が発動し、体内に他人の魔力が溢れ、身体能力が向上する」

男「そういう意図があってのものだった」

男「……けれど、現実はそうもいかなかった」

エルフ少女「…………」

男「もうその時は、人間も戦争に負けそうでね。自分からけしかけて、三年間だけ優位に立ててた驕りもあったんだろうけど……」
男「本当、たった十二年でその全てを奪われ、逆にエルフの二倍はあった土地全てを奪われるなんてね……」

男「まぁ、エルフは長寿だからね……時間間隔が人間とは違って、遅かったんだと思う」
男「本腰を入れた、とは、正にあの時だろうね。人間がエルフを殺せていなかったとはいえ、大量に傷をつけてはいたんだから。三年もの間」

男「……で、まぁそんな訳で、ボクの作ったソレは、すぐさま実戦投入が決定した」
男「時間が無かったのが大きな理由だけど……それ以上にその時は、失敗だったとしても何も起きないだけだろう、と思われていたからね」

346:2012/03/20(火) 00:58:35.65 ID:
男「それでまぁ……結果は、見るも無残」

男「想定していた失敗を遥かに超える失敗だった」

男「もっとも、失敗と思ったのはボクだけで……全ての軍や貴族は大成功だと言ってたけどね……」

エルフ少女「…………」

男「…………」

エルフ少女「……何が、起きたんです?」


男「……暴走したんだよ、人間が」


エルフ少女「暴走……?」

男「人が、じゃない。人間という種族そのものが、だ」

男「身体が盛り上がったりした訳じゃない。人間の姿形はそのままだった」
男「ただ、理性という理性全てが、消し飛んだんだ」

エルフ少女「…………」

男「それの何が怖いのか分からないとは思う。ボクだって、説明を聞いただけじゃ何も怖いとは思わない」

男「アレはただ、見たものだけを恐怖に陥れる存在だった」

347:2012/03/20(火) 01:00:19.50 ID:
男「秘術で強化していたエルフを物ともしない身体能力の高さ」
男「人間の鎧や盾を素手で殴り壊す力」
男「あらゆる方向からの攻撃をあっさりと避けてしまう速度と反応性」

男「魔法も秘術も剣も槍も矢も、その全てを受けても平気が動き回る痛覚の無さ……」

エルフ少女「…………」

男「……実験第一号となった一兵士……彼はその実戦において、味方の――人間の兵士に殺された」

エルフ少女「…………」

男「何人エルフを殺して何人味方を殺したのか……そのデータはさすがにボクも知らないけど……ただ、双方の死体が多く作られていった」
男「なんせその時だけは、エルフと共同でそいつの討伐にあたったぐらいだし」

エルフ少女「えっ……」

男「……人間一人を殺すのに、敵対していた両軍全ての兵が、共同で立ち向かったんだよ?」
男「それも、討伐という名目で。まるで伝承の中にある魔物を相手にしているみたいじゃない?」

男「だからこそ、ソレの異常性がどれほどのものか……」

エルフ少女「…………」ゴク

男「……まぁ、こうして話を聞くより、実際に見た方が早いんだろうけど……もうあんなのは、見たくないな……」

348:2012/03/20(火) 01:02:06.67 ID:
エルフ少女「……旦那様も、その戦いを見ていたのですか?」

男「見ていた、ところじゃないよ。ボクが作ったものだから、ボクも戦いに参加した」
男「生き残れたのが奇跡に近かったよ」

エルフ少女「…………」

男「……まぁ、そんなこんなで……周りは大成功と称えたその実験のその次から、実戦にはその薬を持った兵一人が投入されるようになった」

男「その実験に至るまでにほとんどの兵士が戦争で死んでいたし、何より、その実験が決定打だったからね……実力や実戦経験のある人間の兵士は、もう一握りぐらいしかいなかったんじゃないかな」

エルフ少女「……それじゃあもしかして、人間は……一人を殺すことで一つの戦いに勝ってきた……ってことですか?」

男「全部が、ってわけでもないけどね。さっき言った一握りが戦いに赴くこともあったし」
男「あくまで、エルフの数が多い戦争だけに絞られて、その戦術は使われたんだよ」

男「……戦術なんて、高尚なものでもないけどね……」

エルフ少女「…………」

349:2012/03/20(火) 01:03:39.87 ID:
男「それに……何も、一人を殺してばかりでもなかった」
男「作った責任として……ちゃんと、無力化する魔法は作ったよ」

男「無力化……というより、身体の中に入れた魔力を強制的に封じ込めて、あとはその身体自体の時間を遅らせる、なんて無茶な方法なんだけどね」
男「調理場にある煤がつかないようになる結界も、例の時間が遅くなる木箱も、その時の副産物」

男「……まぁ、それが出来るまでに、十人ほどにはなんの準備がされず使われて、そのまま死んでいってしまったけどね……」

エルフ少女「……それが、旦那様の言う、罪ですか……?」

男「うん」

エルフ少女「……ならもしかして、旦那様が研究しているものとは……」

男「そう……そうして無力化されて、魔法を何重にもかけて、その中で眠らせ続けているその人たちを、元に戻すことだよ」

350:2012/03/20(火) 01:05:11.71 ID:
男「秘術が体内にも干渉できると気付けたのは、戦争が終わる約二年前」
男「その時までは強化でしか用いられないと思っていたけど、捕虜となったエルフからそのことを聞いて……ボクの研究は、スタートした」

男「それまでは、魔法でどうにかしようと躍起になっていたボクにとっては……困難を極めたけど……ここまでこれた」

男「秘術を、擬似的とはいえ使えるようになれた」

男「だから後は、体内に呑み込ませてしまった魔力をどうやって除去するのか、どうやって精霊に頼むのかの解析だけだった」
男「んだけど……そのヒントにと用意していた昔の資料を――」

エルフ少女「出しっぱなしにしてしまっていたから、読まれてしまった……」

男「――……ま、そうだね。ボクの不注意以外の何物でもないよ」

エルフ少女「…………」

男「本当は……知られないうちに、全てを終わらせたかったんだけどね……」

エルフ少女「……その、旦那様」

男「ん?」

エルフ少女「その……こんなこと、わたしが頼むことじゃないのかもしれないのですが……」

男「…………」

エルフ少女「奴隷ちゃんを、責めないであげて下さい」

351:2012/03/20(火) 01:07:45.47 ID:
エルフ少女「その話を聞いて勝手に思ったことなんですが……」

エルフ少女「奴隷ちゃん、きっと動揺しているだけなんです」

エルフ少女「旦那様のことを信用していたから、その信用していた人が、自分達エルフの敗北を作り出した人だってことに、驚いているだけで……」

エルフ少女「別に、ソレを作った旦那様自身を恨んでなんて、いないと思うんです」

エルフ少女「だって、作った人よりも、使った人の方が悪いと思うんです」

エルフ少女「作った人が後悔しているなら……尚更……」

エルフ少女「それに奴隷ちゃんなら、旦那様がソレを作って後悔して、そのために研究を繰り返してきていたことぐらい、気付いているはずなんです」

エルフ少女「いえ、今はまだ気付いていないかもしれませんが……ただ、普段の彼女なら、気付けるはずなんです。ただ本当に、動揺しただけなんです」

エルフ少女「奴隷ちゃん、前線で同胞を治療する役割の人だから……きっと自分のせいで全滅させてしまった、って、責任感じてて……」

エルフ少女「その原因である始まりが旦那様だって知って、同胞の仇も取りたいし、けれども、支えてくれている人だから、殺したくないしで……色々と、こんがらがっちゃって……」

エルフ少女「それで、支えてくれていたものが、崩れるかもしれないからって……あんなことに……」

エルフ少女「支えてくれているままが良いからって、確認したかっただけなのに……色々と、おかしなことになっただけで……」

エルフ少女「だから……お願いします」ペコ

エルフ少女「どうか彼女を、見捨てないであげて下さい」

男「…………」

352:2012/03/20(火) 01:09:29.94 ID:
男「……顔を上げてよ」

男「ボクだって、それぐらい気付いているからさ」

エルフ少女「えっ?」パッ

男「……彼女、秘術が少しだけとはいえ、使えるようになったんだよね?」

エルフ少女「え……はい」

男「それなのに、真っ先にボクを殺さなかった」

男「どれぐらい力が戻っているかは分からないけど、前線で戦ってたあの子なら余裕だろうに……殺さなかった」

男「キミの言う、支えであるところのボクが、支えのままであって欲しかったから」

男「……ボクは、彼女に想われているんだね……」

男「もし心底恨んでいたら、それこそ何の問いかけも躊躇いもなく、あっさりと殺しただろうしね」

エルフ少女「…………」

男「それにまぁ、彼女が聡いことはボクも知ってるしね」

男「今気付いていないのは動揺のせいだってのも、何となく分かるよ」

エルフ少女「それじゃ……」

男「恨むなんてとんでもないよ」

男「むしろ彼女は、ボクのことを大切に想ってくれている」

男「そのことを今回で気付けた」

男「真っ先に殺さないことで、示してくれた」

男「なら、責める理由も見捨てる理由も、どこにもないよ」

353:2012/03/20(火) 01:14:44.75 ID:
男「最近は、精神的に安定しているように見えていたけど……彼女の精神は、いつも不安定だった」

男「いや、安定だった時期なんて、その実無かったのかもしれない」

男「ボクと同胞への仇、あとは人間への復讐心……その三つだけで、安定しているように錯覚していただけで……」

男「それが全部、同時にぐらいついたんだ」

男「そりゃ……ああもなるさ」

エルフ少女「…………」

男「そもそも精神なんて、そういうことを考えていない状態を指して――いくつもの支えの中に大小があるだけになって、ようやく安定しているって言えるのにね……」

男「……まぁでも、ボクが彼女を擬似的にとはいえ安定させている一因になっていたのなら……それはとても、嬉しいことなんだけどね」

367:2012/03/21(水) 00:58:04.21 ID:
男「ま、ともかく……これで疑問は解決したかな?」

エルフ少女「……はい」

男「そっか。それじゃあボクは、自分の部屋に戻るよ」
男「スープ、ごちそうさま」

エルフ少女「あ、いえ。ありがとうございました」

男「お礼を言うのはボクの方だよ。おいしい料理を作ってもらったんだからね」

エルフ少女「でも、お話を聞かせてくれました」

男「ははっ。いやでも、キミを仲間はずれには出来ないから、当然のことだよ」
男「こうならなくても、いずれは話すつもりだったし」

エルフ少女「それでも、ありがとうございます」

男「いや……まぁ、キリ無いな。これじゃ」
男「……ごちそうさま」

テクテクテク…

男「……っと、そうだ」

エルフ少女「はい?」

男「ソレを片付けたら、またボクの部屋に来てくれる?」

エルフ少女「はい?」

男「少し、調べたいことと、やっておきたいことがあるからさ」

エルフ少女「?」

368:2012/03/21(水) 00:58:53.13 ID:
◇ ◇ ◇
 研究室
◇ ◇ ◇

エルフ少女「……それで、試したいことってなんですか?」

男「ちょっと、その首輪を見せてくれない?」

エルフ少女「見せて……と言われましても……外れませんし」

男「いやいや、そうじゃなくて」

エルフ少女「え?」

男「近くで見せてってこと」スッ

エルフ少女「あっ……」///

エルフ少女(ちょっ……顔近い……!)///

男「……ん~……」

エルフ少女「ひぁっ……!」

エルフ少女(い、息が首筋に……!!)///

男「…………」

エルフ少女「っ……!」プルプル…///

エルフ少女「ちょっ……! まだですか……っ!」///

男「ああ……ごめん」スッ

エルフ少女「ほっ……」

369:2012/03/21(水) 00:59:52.38 ID:
男「それじゃあ次は、後ろ向いてくれる?」

エルフ少女「えっ……? ……まぁ、はい……」サッ

男「…………」

エルフ少女(また首元ばかり見てくる……)

男「…………」

エルフ少女「その……そんなに見て、何か分かるんですか……?」

男「…………うん」

男「この辺り……かな」サッサッサッ…

キィィィン…

エルフ少女「っ!? えっ!?」

男「あ~……そんなに驚かなくて良いよ」
男「ちょっと、術式の粗を見つけてね」

エルフ少女「粗……?」

370:2012/03/21(水) 01:02:12.71 ID:
男「中途半端な魔法道具(マジックアイテム)っていうのは、術式がしっかりと入ってなかったりするもんなんだよ。そのしっかりしていない部分こそが“粗”」

男「ボクの水に術式を施す方法だって、実際は粗ばかりだしね」サッサッサッ…

男「完璧な魔法道具(マジックアイテム)っていうのは、この粗がないものを言うんだけどね」ササッサッ…

エルフ少女「はぁ……それで、その粗を見つけてどうするんですか?」

男「ここを起点に術式を解析して……秘術を使えるようにする」…サッ…ササッ…

エルフ少女「え……?」

男「今まで、この首輪が秘術を阻害しているなんて知らなかったけど……ソレを知ったらやっぱり、解析して、使えるようにしておいた方が何かと良いかと思ってね」サササッ…サッサッ…

エルフ少女「でも、そんなことをすれば、相手に色々とバレるんじゃ……」

男「だからバレないように、わざわざ術式の粗を見つけて、その知らせる部分だけをイジくらずに、秘術を使えるように改良しようとしてるんだ……よ……っと……コレかな……」

エルフ少女「え……?」

男「ん~……どうもコレっぽいね……」

エルフ少女「……もう見つけたんですか……?」

男「うん」

エルフ少女「……魔法道具(マジックアイテム)って、そんなにあっさりと解析できるもんなんですか?」

男「あっさりと解析されたら元も子も無いから、基本的に使い捨てのものでもない限りは、かなり厳重に粗を隠していたりするもんなんだよ」
男「現にコレだって結構複雑だったしね……粗を見つけるのにかなり集中しちゃったし」

エルフ少女(かなり集中した、ってだけで見つけられるものなの……? そういうのって……)

371:2012/03/21(水) 01:04:25.91 ID:
男「完璧な魔法道具(マジックアイテム)を作るなら、この解析されるキッカケとも言える粗が見つかっちゃいけない」
男「だから魔法道具(マジックアイテム)に編みこむ術式の構成にはm年単位での時間をかけたりするんだ」

男「でもこれに、その様子は無い」

男「たぶん、エルフの奴隷制度が決まってから急いで作り上げたものなんだと思う」
男「解析されないと踏んでいたか、それとも後に改良するつもりだったのかは知らないけどね」

エルフ少女「はぁ……」

男「にしても……この術式は……」

エルフ少女「……どうかしたんですか? もしかして、解除すれば何か面倒なことに……」

男「いや……それは無いよ」
男「むしろ、魔法を使わせないようにする術式と、居場所を知らせる術式は別個のものになってる」

男「ただ、それらを発動させ続けるための魔力供給方法が……ね……」

エルフ少女「? 何なんですか?」

男「……魔法道具(マジックアイテム)というのは、物に術式を編みこみ、その物に魔力を送ることで術式を発動させる」
男「それは前にも言ったけど……逆に言えば、魔力が無くなれば術式が発動しない、ってことでもある」

エルフ少女「それは……前にも聞きましたけど……」

男「それじゃあ逆に聞くけど、キミって自分で魔力を作り出せる?」

エルフ少女「そんなの無理ですよ。確か魔法は学問だと言ったのも旦那様でしたよね? わたしはそんな方法学んでないから無理に決まって……」
エルフ少女「……………………え?」

男「そう」
男「エルフにこの首輪をつけたところで、最初の魔力が無くなれば、本来はこの二つの術式の効力が無効化されるはずなんだ」

男「だってエルフが魔力を作り出せる方法なんて、知るはずも無いんだから」

372:2012/03/21(水) 01:06:55.30 ID:
男「自動で体力を魔力に変換し続ける術式は確かに存在する」

男「でもそれはあくまで、自分で一度でも体力から魔力を生み出せた人でないと出来ないことなんだ」

男「道が開いていない場所に水を流すことなんて出来ない」

男「まずは自分で道を作らないと川は作れない。ただ水を流すだけじゃ、溢れていくだけで溜まってはいかない。それと一緒だよ」

エルフ少女(……相変わらず説明がよく分からない……)

男「ん?」

エルフ少女「いえ。ただわたしはずっと、精霊との会話を阻害されていましたよ? ということは、この首輪の術式は発動し続けていた、ってことですよね」

男「そうだね」

男「そしてその肝こそが、この編み込まれている魔力供給方法さ」

男「精霊との伝達を阻害されているのも、魔力の供給無しで二つの術式が発動し続けるのもね」

エルフ少女「……?」

男「……本当、驚いたよ」



男「まさかボクよりも先に、精霊との接触に成功している術式があったとはね」



男「しかも、こんな身近に」

男「……きっと、アイツだろうな……優秀だったし」ボソ

エルフ少女「えっ?」

男「いや、なんでも」

373:2012/03/21(水) 01:10:43.80 ID:
男「この魔力供給の術式、精霊を利用したものなんだ」

エルフ少女「精霊を……?」

男「そう」
男「ただ編みこんだ本人は、たぶん秘術の元でもある精霊を用いているとは認識して無いだろうけどね」

男「大雑把に説明すると、この首輪自身に人間でいうところの魔力をずっと一定量供給し続けて欲しい、って精霊に頼み続けている術式なんだ。これって」

男「魔法を使わせないようにする術式は至って単純。魔力が作られてもすぐさま外部へと拡散するように術式が組まれている」
男「こうしたら、例え体力を魔力に変換しても、すぐさまその魔力が無くなるからね。そうなると、魔法を使うことは出来ない」

男「居場所を知らせる術式は……まぁ、説明しなくてもいいか」
男「そういう術式が入っている、って認識で十分だし」

男「ただ、その双方共に、発動し続ける必要がある」
男「そしてそのためには、最低限度の魔力が常に必要なんだ」

男「その最低限必要な魔力というのが……」

エルフ少女「精霊を使った方法……ってこと、ですか……」

男「いつ魔力が作られてもすぐさま拡散できるよう準備しておく魔力と……」
男「外された際すぐさま対象者に知らせがいくために準備しておく魔力……」
男「何より、常に居場所を教え続ける魔力……」

男「それらのために、精霊が使われていたってこと」

男「その魔力のために、常に精霊へと声を送り続けているものが首輪という形で近くにあったせいで……」

エルフ少女「……精霊とわたし達エルフとの伝達が、上手くいかなかった……」

男「そういうこと」

男「言ってしまえば、五月蝿い環境の中でも必死に声を上げ続けてるようなものだからね」

374:2012/03/21(水) 01:12:55.58 ID:
エルフ少女「……でもそれで、どうしてこの術式を作った人が、精霊を利用していないと分かったんですか?」

男「……まぁ、作った人にアテがあるからだよ」
男「彼は、秘術や精霊について調べていたようでもなかったからね」

男「あくまでも、魔法を極めていこうとしていた人だったから」

エルフ少女「…………」

男「……大方、少量とはいえ外部から体力の消耗無しで魔力を得る方法が見つかった、という認識しかしてないと思う」

エルフ少女「それって……旦那様を買ってくれた人……とか?」

男「まさか。ボクを買ってくれた人は、ボクの失敗作での実験で死んじゃったよ」

エルフ少女「あ……」

男「そんな気まずそうな顔しないで。自業自得なんだから」

エルフ少女「……すいません」

男「謝る必要も無いんだけどね……」

男「……ま、話を戻すと、この術式を作ったアテっていうのは、ボクがその失敗作を作り出した後に、ボクと同じ宮廷魔法使いになった子だよ」
男「ボクを慕ってくれた……後輩さ」

エルフ少女「宮廷魔法使い……って、名前からして凄そうですけど……」

男「国のために魔法を作り出すだけの存在だよ」
男「人数に制限はないけれども基本は少数。今は多分、もうその彼しか残っていないと思う」

男「……ま、戦争が始まれば時たま前線にも送り出されるし……戦争用の魔法を研究させられるし……それ以外の時は国民のための魔法を考えさせられるし……色々と、都合のいい存在、みたいなものだよ」

エルフ少女「…………」

男「……ともかく、この術式は色々と参考になりそうだな……」
男「後輩が作ったものを参考にするのも先輩としてどうかと思うけど……ま、この際そんなこと言ってられないか」

375:2012/03/21(水) 01:14:15.70 ID:
男「……それじゃ、このあたりの術式、全て書き換えようか。もう全部覚えたし」

エルフ少女「え? もうですか?」

男「うん。記憶力には自信があるしね。たぶん大丈夫」
男「これでもう少し、精霊との会話をするためのあの魔法を、簡単に作り出せそうだよ」

エルフ少女「はぁ……」

男「あっ、そうだ」サッサッサ…

エルフ少女「はい?」

男「良かったら、コレが終わったらもう一人の子、呼んできてくれない?」サササッ…サッサ…

エルフ少女「え?」

男「彼女にも、同じことをしておきたいからね」サッ……サッ…サッサッ…

エルフ少女「はぁ……」
エルフ少女「……でも、秘術を使えるようにして、どうするつもりなんですか……?」

男「どうするつもりも何も、守ってもらうんだよ」サササッ…

エルフ少女「守る……? 旦那様をですか?」

男「違うよ」

エルフ少女「じゃあ、誰を守れば良いんですか?」

男「あの街にいるエルフと、この屋敷だよ」

エルフ少女「えっ?」

キィィィィ…ピィン!

男「よしっ……完了……っと」

376:2012/03/21(水) 01:16:10.01 ID:
エルフ少女「あ……」

男「どう? 精霊との会話は」

エルフ少女「確かに……昔みたいに、接触できる感覚が……いえむしろ、前よりも良くなってるような……」

男「雑音が無くなったようなものだからね」
男「それとももしかしたら、制御されていた頃より、実際に能力が上がっているのかも」

エルフ少女「なるほど……」

男「それじゃ、彼女、呼んで来てちょうだい」

男「キミは……そうだね……その感覚を取り戻すのに、専念しておいて欲しいかな」

男「時期がくれば、ちゃんと説明するから……それまでの間に、さ」

エルフ少女「でも……」

男「何よりキミ自身、実はいち早く試してみたいでしょ? 自分が元々使えていた秘術を」

エルフ少女「…………」
エルフ少女「……本当に、後で説明してくれるんですよね?」

男「もちろん」

エルフ少女「…………」
エルフ少女「…………分かりました」

エルフ少女「なら、奴隷ちゃんを呼んできますね」

男「お願い」

377:2012/03/21(水) 01:16:59.81 ID:
~~~~~~

コンコン

エルフ奴隷「失礼します」

キィ…

男「どうも、よく来てくれたね」

エルフ奴隷「…………」

男「……ま、気まずいのはよく分かるよ」

男「ただまぁ、ボクのお願いをきいてくれないかな?」

エルフ奴隷「…………」
エルフ奴隷「…………なんでしょうか?」

男「とりあえず、服を脱いでみてくれない?」

エルフ奴隷「…………」

エルフ奴隷「…………え?」

…パタン


394:2012/03/22(木) 00:53:15.17 ID:
エルフ奴隷「えっ……? えっ? ……えっ!?」

男「いやだから、服を脱いでって」

エルフ奴隷「えと……えと……どうして、ですか……?」

男「見たいから」

エルフ奴隷「み、見たいって……!」///

エルフ奴隷「わ、私のを見たって、何も無いですよ……」///

男「いや、そんなことはないよ、本当に」

エルフ奴隷「そ、そんなことが……あるんです……」ギュッ///

男(……? 自分の身体を抱きしめて……どうしたんだろ……)

エルフ奴隷「そ……それに、急にどうしたんですか?」///

エルフ奴隷「い、今までそんなこと……言ってこなかったじゃないですかっ」///

エルフ奴隷「わ、私が……最初にこの屋敷に来た時だって……そうでしたし……」

エルフ奴隷「…………」

エルフ奴隷「……それとも……今までのは、こういうことをするための準備期間なもので……」

エルフ奴隷「それが、全て無駄に終わりそうだから……立場を利用して……無理矢理に……とか……ですか……?」

男「……? 準備期間……?」

エルフ奴隷「…………」
エルフ奴隷「……いえ、良いんです」

エルフ奴隷「分かりました……脱ぎ……ますね……?」

男「うん、お願い」

シュル…

395:2012/03/22(木) 00:56:52.76 ID:
…………

…パサ

エルフ奴隷「…………ぁぅ」///

エルフ奴隷(恥ずかしい……胸も……無いし……)///

エルフ奴隷(昔は平気だったはずなんですけど……今はなんか……とても、熱い……顔も、絶対に赤いし……)///

エルフ奴隷(そう言えば結局、胸は大きくなくても良かったのでしょうか……)///

エルフ奴隷(いえ、大きい方がいいと言われましても、残念ながら、どうすることも……できないんですが……)///

…スッ

男「あ、肌着は良いよ」

エルフ奴隷「え……? えと……はい……」オドオド///

男「…………」ジ~

エルフ奴隷「…………ぅぅ」モジモジ///

エルフ奴隷(見られてます……あまり、見られたくは無いのですが……)///

エルフ奴隷(いえ……でも……ここから先は、これ以上も見られて……)///

エルフ奴隷(さ、触られたりも……して……!)///

男「…………」スッ

エルフ奴隷(あ……こ、こっちに……!)///

エルフ奴隷(つ、ついに……)///

男「…………」ピタ

エルフ奴隷(ち、近い……! め、めの、めの、めの……目の前に……っ!)///

397:2012/03/22(木) 00:59:38.56 ID:
エルフ奴隷(お、おかしいです……! 地下にいる時も、出たばかりの時も、こんなにはならなかったはずですのに……)///

エルフ奴隷(い、いつからこんな……生娘みたいな反応を……私は……!)///

エルフ奴隷(今までだって、沢山の人間に見られて……)///

エルフ奴隷(触れられてこられたはずですのに……!)///

男「…………」

エルフ奴隷(彼の前では……何故か……羞恥心が……!)///

エルフ奴隷(同じ……同じ……おなじ…………)//…

エルフ奴隷(……………………)

エルフ奴隷(…………そう……同じ、敵として打つべき、人間のはずなのに……)

エルフ奴隷(どうして……彼にこうして見られているだけで……)

エルフ奴隷(こんなに……羞恥心と一緒に……もっと見られても良いだなんて……触れて欲しいだなんて……)

エルフ奴隷(はしたない感情まで……抱いて、しまうのでしょう……)

エルフ奴隷(嫌悪感しか抱かなかった……)

エルフ奴隷(あれら人間と……同じ……はずなのに……)

男「……うん」
男「大分、身体の肉付きが良くなってるね」

エルフ奴隷「へ……?」

398:2012/03/22(木) 01:01:07.27 ID:
男「珍しいね、そんな間の抜けた声を上げるなんて」

エルフ奴隷「……っ」カァッ///

男「さっきまで顔色が戻ってたのに、また赤くなっちゃったね」

エルフ奴隷「そ、そんなことよりも……その……肉付き、というのは……?」///
エルフ奴隷「私、そんなに肉付き、良くないですよ……?」ムネペタペタ///

男「いやまぁ、確かにそうだけど」

エルフ奴隷「あう……」

男「……? 痩せすぎてるってのは、エルフにとってマイナスなことなの……?」

エルフ奴隷「そ、そんなことはありませんが……ですがキッパリと……その……」
エルフ奴隷「胸が無いと……」ボソ
エルフ奴隷「そう言われると……さすがに……」

男「? 途中が早口で聞こえなかったけど……」
男「まぁボクが言いたいのは、あの地下にいる頃よりも肉付きが良くなって良かった、ってことだよ」

エルフ奴隷「え……?」

男「あの薄暗いところで見えていたキミの胸部の下とか、骨格が浮き彫りになって見えていたけど……今はそんなに目立たなくなったよね」

エルフ奴隷「……私自身は、よく分かりませんが……」

男「あの時以来見ていなかったボクは分かるよ」
男「本当、健康になってきてくれて良かった」

エルフ奴隷「はぁ……」

399:2012/03/22(木) 01:02:41.45 ID:
男「……それにしても……」スッ

ピタ

エルフ奴隷「ひやっ……!!」バッ///

男「あ、ごめん! 急に触ったりして……」

エルフ奴隷「い、いえ……」///

エルフ奴隷(お腹……指先で撫でられた……。……こそばゆい……)///

男「ただ……あの薄暗い中で初めてキミを見たときには気付かなかったけど……」
男「身体中に、傷があったからさ……」

エルフ奴隷「あ……」
エルフ奴隷「……すいません。見苦しいですよね?」

男「ううん。そうじゃないよ」
男「そうじゃなくて……これ、戦争でついた傷じゃないよね?」

エルフ奴隷「…………」

男「……正直に、答えて欲しい……」

エルフ奴隷「……はい」
エルフ奴隷「私達エルフは、傷口も残らず、治癒することも出来ますから」

エルフ奴隷「だからコレは……あの地下で負わされた……傷……」

エルフ奴隷「……あそこでも、満足に秘術が使えませんでしたから」

男「……ごめん」

エルフ奴隷「……謝らないで下さい」
エルフ奴隷「ご主人さまは、悪くないんですから」

400:2012/03/22(木) 01:04:00.34 ID:
男「でも……」

エルフ奴隷「今朝のは、私の暴走です。ご主人さまは悪くありません」

エルフ奴隷「ですから、謝るのは私なんです」
エルフ奴隷「すいません」

男「それこそ謝らないで」
男「同じ人間としてその傷を負わせたんだか――」

エルフ奴隷「止めて下さい」

男「――え?」

エルフ奴隷「そこで謝られると、こんなことをした奴等と同じだと、ご主人さんが認めてしまうことになります」

エルフ奴隷「私は……出来れば、あんなのとご主人さまが一緒だと、認めたくないんです」

男「…………」

エルフ奴隷「ですから、謝らないで下さい」
エルフ奴隷「これから、ご主人さま自身が、私にこのような傷をつけることをしないと誓ってくれるなら……」

エルフ奴隷「それだけで私は……満足ですから」

男「……………………」
男「……分かった」

エルフ奴隷「ありがとうございます」

401:2012/03/22(木) 01:09:54.25 ID:
男「……もう、大丈夫みたいだね」

エルフ奴隷「……部屋で、一人きりにしてくれましたから」
エルフ奴隷「そうなったら私だって……自分一人が暴走してしまったことぐらい……分かりますよ」

男「……それじゃあもう、落ち着いたの?」

エルフ奴隷「……今のところは、ですよ」
エルフ奴隷「また、何かのキッカケで、同じことをしてしまうかもしれません」

エルフ奴隷「また、ご主人さまを……襲ってしまうかも……しれません……」

男「…………」

エルフ奴隷「ただ……そうなりたくないとは思いますけれど、ね」

男「……ありがとう」

エルフ奴隷「え?」

男「ボクを、想ってくれて……ね」

エルフ奴隷「……襲った私にお礼を言うだなんて、おかしいですよ」

男「キミこそ、沢山の同胞を殺した元凶を許してくれたじゃないか」

エルフ奴隷「ご主人さまは、悔いていてくれてましたから。それに気付けていなかった私が、悪いだけです」

男「ボクだって、ああして踏み止まってくれた事にお礼を言うのは、当然じゃない……?」

エルフ奴隷「…………」

男「…………」

エルフ奴隷「……分かりました。この話は、これで終わりにしましょう」
エルフ奴隷「次は……また、私が暴走したときにでも」

男「なら……一生来ないかもしれないね」

エルフ奴隷「さあ……どうでしょう?」

男「そうあるようにしてくれるんだよね? なら、大丈夫だよ」クス

エルフ奴隷「ふふっ……信じてくれて、ありがとうございます」

402:2012/03/22(木) 01:13:06.79 ID:
男「それじゃあ、もう服着ても良いよ」

エルフ奴隷「えっ……?」

男「ん? どうかした?」

エルフ奴隷「いえ、別に……」

男「そう……?」

エルフ奴隷(何故かちょっと、残念だと思ってしまいました……いえ、それよりも――)

エルフ奴隷「――……ただ、服を脱がせたのは、私の状態を確認するため……だったんですか?」

男「うん。それが大きな理由」

エルフ奴隷「……では、小さな理由というのは……?」

男「今朝の出来事で気まずくなってるのを解消するキッカケ、かな」

エルフ奴隷「キッカケ……ですか」

男「うん」

男「聡いキミなら、もう既に自分の中で色々と結論を出してくれてると思っていたからね」
男「ただ、何かキッカケがないと、こうしてまともに話すことも出来なかったと思うしさ」

403:2012/03/22(木) 01:15:14.49 ID:
エルフ奴隷「…………」

エルフ奴隷(ちょっと……そんな理由でショックを受けている自分がいる……ショックを受ける理由なんて無いはずですのに……)
エルフ奴隷(……本当、どうしたんでしょうか……私は)

男「?」

エルフ奴隷「いえ、そんな首を傾げられましても……そんな理由で女性の裸を見てきた、って理由に、少し不服があるだけですよ」

男「あ~……確かにそうだね。ごめん」
男「やっぱり、大きな理由だけで済ませておくべきだったよね」

エルフ奴隷「そういう問題でも……」
エルフ奴隷「いえ、まぁでも、おかげで私も、欲しいと思っていた謝るキッカケをあっさりと得られたので……別に良いです」

エルフ奴隷(もしキッカケが無ければ……確かに互いに、気まずいままでしたでしょうしね……)

エルフ奴隷(……その方が、何故か辛く感じますし……今の私は)

エルフ奴隷「ですので余剰した分は、あの暴走のバツなんだとでも、思うことにしますよ」

404:2012/03/22(木) 01:16:52.41 ID:
…………

…キュ

エルフ奴隷「……っと」
エルフ奴隷「では、服も着終わりましたので、これで――」

男「ああ、いや。ちょっと待って」

エルフ奴隷「はい?」

男「首輪、後ろを向いて見せてくれる?」

エルフ奴隷「はぁ……」

男「既にもう一人の方には施したんだけどね……」サッサッサッ…

キィィィン…

エルフ奴隷「っ!?」

男「この魔法道具(マジックアイテム)の粗から中に入って、術式を書き換えておくよ」

エルフ奴隷「そ……そんなこと……出来るんですか……?」

男「さっきもう一人の方で試して成功したから、すぐに終わるよ」サササッ…サッサ…

エルフ奴隷「……書き換えると、どうなるんですか?」

男「相手に居場所を教える魔法はそのままに、こちらの秘術は使えるようになる」サッ……サッ…サッサッ…

男「そうすることで、相手に異常を知らせることなく、首輪は正常に作動したままだと錯覚させて、二人の力を元に戻せるからね」サササッ…

キィィィィ…ピィン!

エルフ奴隷「あ……」

男「よし、これで大丈夫かな」

405:2012/03/22(木) 01:18:17.33 ID:
男「どう? 精霊との会話は」

エルフ奴隷「はい……出来ます」
エルフ奴隷「精霊との、意思疎通が」

男「そっか。それは良かった」
男「それじゃあキミも、その力を慣らすことに専念して」

エルフ奴隷「えっ? ですが……」

男「お願い」
男「きたるべき時に、二人の力は重要になるからさ」

男「そしてその時になればまた、詳しく説明するからさ」

男「今は……その前線治癒術士として頑張っていた頃の感覚を、取り戻しておいて欲しい」

エルフ奴隷「……少女さんから聞いたんですか?」

男「うん。そしてだからこそ、キミが同胞の敵討ちに必死になる理由も、分かったんだよ」

男「目の前で、あんな化物に、殺されまくったんだ。そりゃ作ったボクを恨むのも当然――」

エルフ奴隷「…………」ジト~

男「――って、この話は、またキミが暴走するまでは無しだったっけね」

エルフ奴隷「…………次、その話を持ち出したら、怒りますからね」

男「キミが怒る様は見てみたい気もするけど……まぁ、そうならないようにするよ」

エルフ奴隷「お願いしますね」

男「キミもね」

男「これでもボクは二人のこと、アテにしてるんだからさ」

406:2012/03/22(木) 01:20:00.53 ID:
…バタン

男「…………」

男「……………………」

男「…………はぁ~……」

男(ヤバイ……平静を保つのに必死になりすぎた……)

男(変じゃなかったかな……ボク)

男(っていうか……あんなの目の前でキレイな体見せられて、お腹に触れるだけで済めた時点で相当頑張った方だろ……)

男(本当は、お腹に触れる予定すら無かったんだけどさ……)

男(触れてしまった時点で、色々と負けてきてはいたんだろうけどさ……)

男(というより本当……恥じらう姿が可愛い過ぎるだろ……!)

407:2012/03/22(木) 01:23:01.93 ID:
男(にしても……最悪すぎたかな……今回脱がせたのは)

男(……確かに、彼女の状態を確認したいのが主な理由だったけどさ……)

男(気まずさ解消も本音だった)

男(あのままだと……喧嘩したままの子供みたいでイヤだったし)

男(無理矢理にでも羞恥心を煽って、気まずいと思ってる感情を上書きするなんて……やっぱ無理矢理過ぎたか……)

男(もっと他に良い方法があったかもな……)

男(それに……ただそれだけのために脱がせたのかと真正面から真摯に問われれば……嘘と答えることになるし)

男(……本当、純粋に裸を見たかった、なんてのは、最低な理由だよな……)

男(こんな状態を逆に利用して見たい人の裸を見るだなんて……本当、最悪だ……)

男(その下心が少しも無かったんなら、最低でも最悪でも、何でもなかったんだけどさ……)

408:2012/03/22(木) 01:27:15.62 ID:
男(でも……これで、人の準備は整った)

男(ただ単純に秘術が使えないエルフかと思っていたけれど……使えなくされていただけで、それなりに戦える二人だった)

男(だから、ソレを利用する。利用しない手は無い)

男(二人を戦わせてしまうのは気が引けるけど……)

男(でも、そもそもエルフは秘術さえ使えれば、ボク達人間よりも基本的に強い)

男(なら……戦えるのなら……気が引けてしまうのはきっと、失礼に値するのだろう)

男(何より、一人は戦争経験者だ)

男「…………」

男(……ただ、一応はボク一人でもあの街にいるエルフのほとんどを救うことは可能だったことを思うと……この手がベストだと、断言は出来ない)

男(……まぁそうなると、今すぐには無理だったんだけど)

男(数年後の話に……なってしまったんだけど)

男(でも……二人のおかげで……)

男(戦える、二人が協力してくれさえすれば……あと数週間の準備で、万全を整えられる……!)

男(それで、街のエルフのほとんどを……知ることが出来る全てを、救うことが出来る……!)

男(エルフの皆だって……早く、助けてもらいたいはずだ……!)

男(ならばコレで……良かったはずだ……!)


409:2012/03/22(木) 01:28:44.09 ID:
男「……それに」

男(あの二人の首輪にあった、精霊を用いての魔力供給方法……)

男(これのおかげで、ボクの使おうとしていた“魔力からの秘術の使用”の術式を、大幅に短縮することが出来る)

男(なんせ、精霊から直接魔力を得る方法、の術式があったのだから)

男(何より……こんな方法を取らなくても、人間でも、秘術を使えるかもしれない……)

男(その術のヒントまで、この中にはあった)

男(……試してみる価値は、大いにある)

男「…………」

男(この実験さえ成功すれば、救える確率も上がるし……)

男(ボクの罪も、あっさりと償えるかもしれない)

男(……長年の研究が、後輩本人の知らぬところでの共同作業のおかげで果たされることになるかもしれないとはね……)

男(……まぁ、なんだって良いよ)

男(皆を救うのが、早くなるのなら)

男「……だから……」

男(この実験も含めての数週間で……全ての準備を果たす)

男(ボクが今すべきことは……それだけだ)

410:2012/03/22(木) 01:29:54.70 ID:
~~~~~~

深夜

◇ ◇ ◇
エルフ少女の部屋
◇ ◇ ◇

エルフ少女「…………」

エルフ少女「……………………」

エルフ少女「…………え?」

エルフ少女「あれ……? どうして……? なんで……? えっ!?」

エルフ少女「どうして……? 昨夜も……その前も……出来たのに……」

エルフ少女「ずっとずっと、秘術がかかったままで……会話……出来てたはずなのに……」















エルフ少女「どうして……どうして今になって、エルフメイドさんとの会話用秘術が……途切れてしまってるの……?」

438:2012/03/23(金) 13:02:17.41 ID:
~~~~~~

翌朝

◇ ◇ ◇
 研究室
◇ ◇ ◇

コンコン…

エルフ少女「…………」

コンコン…

エルフ少女「…………」

ガタン…

エルフ少女「…………」ジャラ…

カチャカチャ…

…カチャン

キィ…

エルフ少女「失礼します」

男「…………」カリカリカリ…

439:2012/03/23(金) 13:03:55.63 ID:
エルフ少女「旦那様……」

男「…………」ブツブツブツ…

エルフ少女「…………」スゥ~
エルフ少女「だ・ん・な・さ・ま!!!」ダンッ!!

男「っ!」ビクッ!
男「えっ!? なに!? 地震!?」

エルフ少女「いえ、わたしです」

男「え……?」

エルフ少女「どうも」

男「……秘術を使って、地面でも揺らした……とか?」

エルフ少女「足を秘術で強化して、思いっきり地面を踏みつけました」

男(……震脚……ってやつかな……?)

440:2012/03/23(金) 13:08:57.33 ID:
男「えっと……それで、どうしたの?」

エルフ少女「今、時間の方よろしいでしょうか?」

男「ああ、うん。大丈夫だよ。実験とか術式を編む途中とかでもなかったしね」
男「とりあえず、やるべきことを整理するために色々とメモしてたところだから、大丈夫だよ」

エルフ少女「……それ」

男「ん?」

エルフ少女「最初に、奴隷ちゃんに読ませていた書物ですよね……?」

男「うん。ちょっと、新しく試してみたいことがあってね、読み直してるところ」
男「で、それよりもどうしたの?」

エルフ少女「あ、はい」
エルフ少女「……その……昨日、わたしのこの首輪の術式の一部を、書き換えたんですよね?」

男「書き換えた……っていうより、魔力拡散の術式と精霊を用いての魔力供給の術式だけを消した、ってところかな」

男「探知系の魔法と魔力拡散の術式がほとんど別個だったからさ」

男「繋がっていたのは術式そのもの同士というより、精霊を用いて供給された魔力をストックして置く場所、の方だけだったんだし」
男「つまりそのストックして置く場所に、別個の術式がそれぞれラインを繋げて、同じ場所から魔力を得ていたような形になっていたんだ」

エルフ少女「……その……精霊を使っての魔力供給の部分って、消失して、何か変化が起きたりとかってありますか?」

441:2012/03/23(金) 13:13:09.67 ID:
男「変化……?」
男「……まぁ、そうだなぁ……」

男「それこそ昨日も言った、精霊との意思疎通が邪魔されなくなるのと……」
男「後は、残っている探知系魔法が、いずれ発動しなくなるぐらいかな。魔力の供給源となる術式を消した訳だし」

男「ただその探知系の魔法が消えたら色々と厄介だから、このペースだと次の満月までは保つようには、昨日の段階でボクの魔力を込めておいたから……」
男「今のところ、これといった大きな変化はないはずだけど……」

エルフ少女「……………………」

男「……どうかした?」

エルフ少女「えっ?」

男「なにか、悩んでるようだしさ……」
男「何か、あったの?」

エルフ少女「…………」

男「……言い辛いこと……?」

エルフ少女「その……言ったら、旦那様の迷惑になるかもしれないので……」

男「迷惑とか……そういうのを気にするなら、そもそも来なければ良いのに」

エルフ少女「……ごめんなさい……」

442:2012/03/23(金) 13:15:11.79 ID:
男「ああ、いや、責めてる訳じゃないんだ」
男「責めてるみたいな口調になっちゃったけど……ともかく違う」

男「ただ、これまで一緒にいたのに頼ってくれないから、ちょっと口調が荒くなっちゃっただけなんだ」
男「なんか、頼りにされてないみたいでさ……」

エルフ少女「頼りにしてないとか……そういうのじゃないんです……」

エルフ少女「ただ、昨日この首輪の魔法を書き換えられてから……少し、変化があったので……」
エルフ少女「コレが原因なんじゃないかなぁ、っと思ったので、確認にきただけなんです」

男「ふ~ん……」
男「……で、どんな変化があったの?」

エルフ少女「それは……」
エルフ少女「…………」

男「話せばボクに迷惑がかかる、か……」

エルフ少女「…………」

男「……迷惑だって言うのなら、ここで話すのを止められた方が迷惑だよ」

エルフ少女「えっ……?」

男「ボクは、これでも気にし過ぎる性質だからね」

男「キミの体調とかに何か影響があったんじゃないか、ってすごく心配し続けることになる」

男「だからさ、迷惑かけたくないって本当に思ってるんなら、心配をかけないで欲しいんだ」

男「だから……話してもらえない?」

エルフ少女「……………………」

エルフ少女「…………はい」

443:2012/03/23(金) 13:17:06.14 ID:
エルフ少女「その……わたし達を買ってくれた時にいた、メイド服を着たわたし達の同胞、覚えていますか?」

男「あ~……ボクを案内してくれた……」
男「あの人がどうかしたの?」

エルフ少女「実はわたし、その人とずっと、たまにですけれど、会話をしていたんです」

男「会話……? でも、街までは距離があるのに……」

エルフ少女「秘術の中には、距離が離れていても、心の中で会話が出来るようになるものがあるんです」
エルフ少女「わたしはソレを、あの地下に入れられた時に、その人に施してもらっていました」

男「へぇ~……」

エルフ少女「あそこにいる同胞全てを助ける、と声をかけたこともありましたし」

男(元メイドさんの結婚式前日のアレか……)

エルフ少女「それで昨日の夜、秘術が昔のように使えるようになったことを報告しようとしたのですが……」

男「……何故か会話が出来なくなっていた……ってこと?」

エルフ少女「はい」

444:2012/03/23(金) 13:18:09.70 ID:
男「…………」

エルフ少女「…………」

男「……ん~……秘術は精霊を用いてる訳だから、精霊との感度がよくなるあの術式の書き換えを行ったのなら……」
男「むしろ会話はしやすくなるはずなんだけどなぁ……」

エルフ少女「……わたしの中にある、あの人に施してもらった秘術に、何か変化が起きた可能性とかは……」

男「秘術について詳しくは無いけど……たぶん、無いと思う」
男「そもそも昨日イジったのは首輪の魔法道具(マジックアイテム)であって、キミ自身じゃないからね」

エルフ少女「そう……ですよね……」

男「…………」

445:2012/03/23(金) 13:20:43.19 ID:
男「一つ聞きたいんだけど、その秘術の効果時間が切れてしまった、ってことはないの?」

エルフ少女「それは無いはずです」
エルフ少女「そもそもわたしの中にはちゃんと、あの人にかけてもらった秘術の感覚が残っているんです」

エルフ少女「残っているのに、会話が出来ないから、動揺しているだけで……」

男「……向こうが単に応えてくれないだけ、とかは……?」

エルフ少女「だとしても、向こうにこちらの声が届いたような感覚があるはずなんです……」
エルフ少女「現に、届いたけれど応えてくれなかった、といったことは、これまでに何度かありましたし……」

エルフ少女「それすらも無くて……もしかして、わたしの声が発せられないようになってしまったのではと……そう思ったのですが……」

男「…………」

エルフ少女「…………」

男「……その秘術ってさ、向こうも同じようなのを施してるの?」

エルフ少女「たぶん、そうだと思います」
エルフ少女「元々は、その人とだけ会話するためのものではありませんから」

エルフ少女「同じ秘術を施した者同士が、口頭で話したことがあり、尚且つ心の中で互いに同意をすれば、心の中で会話が出来る」

エルフ少女「そういった秘術ですし」

男(なるほど……元々は戦争時の通信用秘術、ってところか……)

446:2012/03/23(金) 13:22:39.41 ID:
男「それなら、他にこの秘術を施されている人に話しかけてみれば?」

エルフ少女「その……わたし、あの人しか、あの地下では話せなかったもので……」

男「じゃあ、もう一人の方はその術式を施してもらってないの?」

エルフ少女「施してもらっていたみたいなんですけど……さっき聞いたら、自分で解除してしまったと……」
エルフ少女「なんでも……同胞みんなの声が聞こえてきて……辛いからと……」

男「……まぁ、そうか……」

男(あの地下でのことはトラウマそのものだしな……たぶん、施してもらってほとんどすぐにでも、自分で解除したんだろう)

男(なんせあそこで彼女は、今みたいに不安定にさせられたんだし。きっとその秘術でも同胞の泣き声とかが聞こえたり――)

男「――……もしかして……」

エルフ少女「え?」

男「いや……でも、それだと……」

エルフ少女「どうしたんですか? 何か、アテでも……?」

男「…………」

エルフ少女「教えてください! もしかして、やはりミスをしていたとか……」

男「…………いや、そうじゃない」
男「そうじゃないんだけど……でも……」

エルフ少女「なんなんですかっ!? もったいぶらずに教えてくださいっ!」

男「……あくまでも、ボクの予測でしかないよ……?」

エルフ少女「……はい」

447:2012/03/23(金) 13:24:50.31 ID:
男「あの地下ってさ、一言で言えば酷いことを沢山される場所だよね?」

エルフ少女「……はい」

男「で、たぶんだけどその秘術ってさ、仲間皆で励ましあおうっていう目的で、施してもらったんだよね?」

エルフ少女「はい。ですのでたぶん、あの地下にいたことがある同胞は皆、この秘術を施してもらったことがあるはずです」
エルフ少女「エルフメイドさんがあそこに来てから、でしょうけれど……」

エルフ少女「でも……それがどうしたんですか?」

男「……あの人がソレを施そうと提案し、そして施していったってことで、間違いないよね?」

エルフ少女「だから……それがどうしたんですか?」
エルフ少女「早く結論を――」

男「ごめん」
男「ただ……ボク自身も違ってて欲しい、って……思っててさ……」

男「有体に言えば、動揺してるんだよ」
男「だから、ちょっと整理してるんだ、今」

エルフ少女「…………」

448:2012/03/23(金) 13:32:23.18 ID:
男「……もう一人の子は、声を聞くと辛いからと、自分からその秘術を消した……」

男「それはつまり、この秘術は、時たま互いの同意がなくても、声が届いてしまうことがあったことを意味する」

男「もしそうじゃないのなら、励ましあうためのこの秘術を、同胞の仇を討つということで安定を得ていた彼女が自ら消すなんてことは、ありえないからね」

男「きっと……感情が高ぶった時とか……その秘術を施された人がピンチになった時とかに……」
男「自動的に、同じ秘術を施してあって会話が出来る人に、助けを求める機能とかあったんじゃないかな」

エルフ少女(……同胞の悲鳴がイヤになっていた奴隷ちゃん……ただ単に、あの地下で響いていた苦痛と涙に濡れた声でイヤになっていたとばかり思ってたけれど……)

エルフ少女(もしかしたら……この秘術のせいでもあったかもしれない……ってこと?)

男「元々、戦争時の通信秘術みたいだったし」

男「エルフって仲間意識が人間より遥かに高いし、そういう機能があっても混乱なんて拡大せず、むしろ全員が意思疎通を図り仲間を助けに行ける」

男「むしろエルフにしてみれば、あって当然なほど便利な機能だったんだと思う。コレに関してはね」

男(もし人間の通信技術でそんな機能がついてしまっていたら、一気に混乱が拡大するだけになるんだろうけれど……)

449:2012/03/23(金) 13:34:10.44 ID:
男「ただ今回のような密室での拷問のような日々においては、無い方が良いと判断する子もいた」

エルフ少女「それでは……あの人も、仲間の苦痛に耳を貸したくないから、自分でその秘術を消したと……?」

男「まさか」
男「自分からその秘術を施していたんだ。仲間で支えあうって意図でさ」

男「そんなに仲間意識が高い人が、自分が折れそうになった程度で、同胞からの声に耳を貸さなくなるはずがない」

男「むしろそうして聞こえてきた声の主を励まし、奮い立たせるなんてことをするぐらい、健気な人なんだろうと思うよ」

エルフ少女「それじゃあ……」

男「……考えられる理由は、二つ」

男「一つは、自分が酷い目に遭う声を、周りに聞かせたくなかった」

男「二つ目は、人間に知られてしまって、同胞を盾に脅され無理矢理解除させられた、とか」

エルフ少女「えっ!?」

450:2012/03/23(金) 13:38:07.58 ID:
男「でも、二つ目の理由で解除したところで、解除したかどうかなんて分からないんだし、やっぱり一つ目が――」

エルフ少女「…………」ガクガク…

男「――え? どうしたの? そんな、急に震えて……」

エルフ少女「……どうしよう……」ブルブル…

男「え?」

エルフ少女「もし……知られてしまっていたんなら……どうしよう……」

男「ちょ、どうしたの? そんなに危ないこと?」
男「ただの通信用秘術を知られるぐらいなら、どうせ活用方法なんて普通の人間に――」

エルフ少女「そうじゃ……そうじゃないんです……」ガタガタ…

男「――えっ?」

エルフ少女「……この秘術は、一緒に、ある秘術も……施してもらっているんです」

エルフ少女「もし……もし、それを解除、させられていたのなら……」
エルフ少女「あの人が……同胞のために頑張ってきた、あの人が……!」ガタガタガタ…!

男「……………………」

男「……それって……一体……」

エルフ少女「……端的に言えば……ですけれど……」













エルフ少女「……妊娠しなくなる、秘術です……」

451:2012/03/23(金) 13:41:58.11 ID:
男「なっ……!」ガタッ

エルフ少女「もし……もし、その秘術が施されているのを……あんなヤツに……知られて……解除、されてしまったのなら……」

男「……今、あの地下にいる、エルフ全員が……危ない」

エルフ少女「…………」ガタガタガタ…!

男「…………」

エルフ少女「ど……どうしよう、旦那様……」

エルフ少女「どうしたら、良いの……? どうしたら、同胞を……同胞を、助けられるの……?」

エルフ少女「あの……わたしに優しくしてくれた……あの人を」
エルフ少女「同胞を、自らを犠牲にしてまで助けていた、あの人を……どうやったら、救えるの……?」

エルフ少女「醜い人間の子を生さなくて、済ませられるの……?」

男「それは……」

エルフ少女「あんな……あんな人間の子供を、孕まなくて済むの……?」

男「……早く……早く、救い出すしか……やっぱり方法は、無いと思う」

エルフ少女「……それって、いつ……?」

男「えっ?」

エルフ少女「いつに、なるの……?」

男「……………………」

男「……数週間、先――」

エルフ少女「そんな……!」

エルフ少女「そんなのって……そんなのって、無いよ……!!」

男「――…………――」

エルフ少女「あれだけ……自分を犠牲にしてまで、同胞を救ってくれていた人が……! どうして……!」

エルフ少女「そんな……そんな酷い目に、あってないといけないの……っ!

エルフ少女「どうしたら……どうしたら……! わたしは一体、どうしたら――」





男「――なんて、悠長なことは言ってられない……か」





エルフ少女「――っ!!!」

452:2012/03/23(金) 13:44:53.76 ID:
男「……予定を大幅に切り上げよう」

男「五日後だ」

男「万全の準備をして、十全の装備で望みたかったけれど……装備はある程度捨ててでも、早くエルフ達を救いに行く」

エルフ少女「あっ……」

男「でなければ、救ったところで、意味が無くなってしまう……」

男「人間の……それも、ただ一方的に○してくるような奴の子供を、作らされては……」

エルフ少女「…………」

男「それに……キミが先走って、あの街に一人で乗り込んでしまうかもしれないしね」

エルフ少女「あっ……」

男「今はそうして動揺してくれていたから思いつかなかったみたいだけど……キミなら、その可能性が大いにある」

男「だから……予定を早める」

男「キミのために」

男「ボクも救いたい、キミの同胞のために」

男「大幅に」

エルフ少女「…………でも……」

男「大丈夫だよ、少女ちゃん」

エルフ少女「あ……名前……」

男「キミはボクに頼って良い」
男「むしろ、ボクを頼って、信じてくれ」





男「装備が十全じゃなかったって、必ず……救ってみせるから」

453:2012/03/23(金) 13:47:54.45 ID:
~~~~~~

…バタン

男(……さて……)

サッ

ゴソゴソ…

男(後で一応、もう一人の方に、彼女が街へと一人で飛び出さないかを見張っておいてもらうよう頼むかな……)

ガチャガチャ…

男(……本当は、この地下にあるものは、全部装備として持って行きたかったんだけど……仕方が無い)

…カチャン

男(状況が状況だ。使える限りを使って、早く準備を果たそう)

ギィィィ…

男(それに、準備の段階で全てを使い切るとも思えない……)

カツ、カツ、カツ…

男(残った分は装備して良いんだから……それで、なんとかするしかない)

……カツン

男「……長年溜め込んだ魔力……使わせてもらうかな……」

454:2012/03/23(金) 13:50:30.56 ID:
男(時間遅延の魔法を生み出してからすぐ……)

男(ボクはこうして、水の中に、自分の魔力“だけ”を染み込ませることが出来る術式を編み出した)

男(これにより、その日一日余った魔力を、水として貯蔵しておくことが出来るようになった)

男(少ない魔力を活用するための術の一つだ)

男(時間遅延の魔法維持のための魔力と、魔力貯蔵の魔法維持のための魔力のため、少しずつ減っていってしまってはいるが……)

男(それでも、何もしないよりかは全然良い)

男(そう思い至って取った、この貯金)

男(いや、貯魔力)

男(……語呂悪いな……)

男(ともかく、この方法)

男(……確かに、魔力じゃ体力は回復できない)

男(この水を飲んだところで、体力なんて少しも回復しない)

男(けれども、魔力は回復する)

男(体力に変換した魔力を溜めておく場所……そこを満たすことは出来る)

男(普通の人ならば、魔力を収められる容量よりも大きな魔力を吸収しても、入りきらなかった分が溢れたりして無駄に終わってしまうのだろうが……)

男(ボクの場合、全体力を魔力に変換しても、魔力を溜めておける容量にまだまだ空きがあったりする)

男(だから少なくとも、無駄になる分を体内に入れることは無い)

男(一日一日、残っている魔力はバラバラで、どれがどれほど回復するのかなんて分かりっこ無いが……)

男(それでも、今こそ……コレを使うべきだ)

男(いくつかに統合して持っていこうかと思っていたが……急いでいるから、そんなことはしない)

男(ならば今から……準備の段階から……ランダムで回復していくコレを、使っていく)

男(それだけの話だ)

455:2012/03/23(金) 13:52:07.30 ID:
男(……にしても、梯子を降りた先にある、この暗い中で水が入っているだけの瓶が置いてある圧巻な状態も、見納めか……)

男(…………)

男(……ボクの数年の全てを注ぎ込んで……やりきる……)

男「…………はっ」

男(……その価値があるのかな、なんてことは……微塵も思わないけどさ)

男(けれど……もし、失敗したら……ボクには何も、残らなくなるな……)

男(溜め込んでいた全ての魔力も……研究も……少女ちゃんも……奴隷ちゃんも……)

男(この屋敷の生活、その全ても……)

男「…………」

男(……でも……そうして全てを投げ打ってまでする価値があると思ったから、二人と約束したんだろう……?)

男(ならば……果たそうじゃないか)

男(投げ打った先にある価値を……存分に、堪能しようじゃないか)

男(人間にとって大罪人になるであろう……この行為を)



男(果たしていこうじゃないか)



…………

…………

――そうして、寝ずに準備を続け……ついに、五日の時を迎えた――

…………

…………

484:2012/03/24(土) 00:48:38.42 ID:
早朝



バサッ

男「それじゃあ、行って来るよ」

エルフ少女「……そんなマント、持っていたんですね」

男「まあね」

エルフ奴隷「マントですのに、今までどうして羽織っていかなかったのですか?」

男「ん……まぁ、これって、色々なサイズの瓶を裏側に収納できるやつだからさ……」

エルフ奴隷「なるほど。戦闘用、というわけですか」

男「うん。だから今まで、別に羽織っていかなかったんだ」

男「……今は裏側に何も収納してないけど……エルフ皆を助けるときには、やっぱり今までみたいに、服の中に隠しておくなんて方法じゃあ、数が足りなくなるしね」

男「だから今回は、羽織っていこうかと思って」

エルフ少女「……本当に、わたし達は連れて行ってくれないのですか?」

男「うん。昨日も説明したけど、二人には、この場所を守っておいて欲しい」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「少女さん……」

男「……連れて行って欲しい気持ちは分かるけど……頼むよ」
男「そうしてもらうこと前提で、色々と準備をしてきちゃったからさ」

エルフ少女「……分かりました……」

男「ん。お願いね」

485:2012/03/24(土) 00:50:23.37 ID:
男「……本当は二人のために、色々と魔法を用意しておきたかったんだけどね……」

エルフ奴隷「構いませんよ。急ぐことになった事情も聞きましたし」
エルフ奴隷「それに、そうしなければ……」

エルフ少女「…………」

男「……実際、今でも危ないかもしれないけどね……」

エルフ少女「っ……」

男「でもだからこそ、これ以上は時間を掛けられない」

エルフ奴隷「……はいっ」

男「というわけで、コレ」

チャラ…

エルフ奴隷「これは……?」

男「ボクの研究室にある方の木箱と、調理場にある方の木箱の鍵。それと、研究室の地下への鍵」
男「木箱の方は両方とも、一度開けてしまうと時間遅延の術式が解除されてしまうから、開けるタイミングは見計らってね。そこはキミ達の判断に任せるよ」

エルフ奴隷「……かしこまりました」

男「ん」
男「あ、でも、研究室の地下には、ボクが出かけた後、真っ先に向かっておいて」

エルフ奴隷「? 何かあるのですか?」

男「行ってからのお楽しみだよ」

486:2012/03/24(土) 00:51:24.53 ID:
男「それじゃあ、玄関先で話し続けるのもなんだし、もう行くね」

エルフ奴隷「はい」

エルフ少女「……旦那様……」

男「ん?」

エルフ少女「同胞達のこと、よろしくお願いします」ペコ

男「……ああ。任されたよ」

ガチャ…

…キィ…

男「それじゃあ……奴隷ちゃん、少女ちゃん……行って来ます」

エルフ奴隷「はい。行ってらっしゃいませ……ご主人さま」

エルフ少女「行ってらっしゃい……旦那様」

…バタン

487:2012/03/24(土) 00:53:01.38 ID:
~~~~~~

◇ ◇ ◇
  山道
◇ ◇ ◇

ザッザッザッザッ…

男「…………」

男(……昨日の段階で準備は果たせた……)

男(ボクがやろうとしていることの全ての説明……)

男(二人にして欲しいことの全ての説明……)

男(それは……果たせた)

ザッザッザッザッ…

男「…………」

男(色々と、戦闘用の魔法を編みこんだ瓶の準備もした……)

男(それらをカバンの中に入れて持っても来た……)

男(……不足は無い……あるとすれば、屋敷に残してきた二人への装備だけだ)

男(……いや、ボクの方も多少、不安ではあるけれど……)

男(攻撃用の魔法の数だって、最初脳内で描いた数より少ないし……)

男(魔力を回復するための、貯蔵してきた魔力だって、準備の段階でその数は大幅に減ってしまったし……)

男(……沢山使ってまで、攻撃用魔法を準備したからな……)

男(それにこの、貯蔵してきた魔力……混ぜ合わせて回復量を一定にするよう、調整もしていない)

488:2012/03/24(土) 00:53:35.66 ID:
男(……だが、それでも、やるしかない)

男(魔力の回復量がまばらであっても、絶対勝利するのに必要な数の魔法を準備できなくても……やるしかない)

男「…………」

ザッザッザッザッ…

男「…………」

男(……ああ……やってやるとも)

男(だがまずは……)

男「優先順位一番の……自分の罪を償うことから、始めないとな……」

489:2012/03/24(土) 00:55:21.96 ID:
~~~~~~

◇ ◇ ◇
  屋敷
◇ ◇ ◇

…バタン

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「……行ってしまいましたね……」

エルフ少女「……大丈夫でしょうか……旦那様」

エルフ奴隷「……大丈夫だと、信じるしかありませんね……」

エルフ少女「でもあの人……昨日の晩御飯までずっと、研究室に閉じ篭っていたし……」

エルフ奴隷「度々、出ては来ていましたよ?」

エルフ少女「えっ? そうなの?」

エルフ奴隷「まぁ、おそらくお手洗いだったのでしょうけれど……少ししたらまた中へと戻っていましたし……」

エルフ少女「でも……水分補給や食事はせずに……」

エルフ奴隷「昨日の晩御飯は食べていたじゃないですか」

エルフ少女「……あれからもまた、何やら準備をしていたようなんだけど……?」

エルフ奴隷「……よく見てますね。ご主人さまのこと……」

エルフ少女「それは……まぁ、わたしのせいで、急かさせることになった訳だし……」

490:2012/03/24(土) 00:56:18.19 ID:
エルフ奴隷「しかし……夕飯の後も準備をなさっていたとなると、体力面は本当に大丈夫なのでしょうか……?」

エルフ奴隷「魔法は、体力を消耗して行うものですし……」
エルフ奴隷「何より、その後も準備していたとなると……おそらくは寝てもいないでしょうし……」

エルフ奴隷「おそらくは、体力はかなり下がっているでしょう」

エルフ少女「……やっぱり、不安だね……」

エルフ奴隷「……まぁ、本日街についていきなり戦闘に、という訳でもないですし……」

エルフ奴隷「それに、不安になってばかりでも仕方が無いです」
エルフ奴隷「とりあえず言われたとおり、ご主人さまの部屋の地下へと、降りてみませんか?」

エルフ少女「……そうだね」

エルフ奴隷「私達は、やってくれと言われたことをやってあげる」
エルフ奴隷「おそらくそれこそが、ご主人さまの安心へと、繋がるのでしょうから」

491:2012/03/24(土) 00:57:30.97 ID:
ガチャガチャ…

…カチャン

ギィィィ…

エルフ少女「……真っ暗」

エルフ奴隷「」ブツブツブツ…

フワ…

エルフ少女「明かり……」

エルフ奴隷「…………」スッ

ヒュッ…!

エルフ奴隷「中に入れました。これで明るいですよ」

エルフ少女「本当……むしろ明るすぎる気も……」

エルフ奴隷「中に入ればちょうど良いですよ。さ、降りましょう」

カツ、カツ、カツ…

エルフ奴隷「…………」

…カツン

エルフ奴隷「次、どうぞ」

エルフ少女「ん」

カツ、カツ、カツ…

エルフ奴隷「……白、ですか」

エルフ少女「え?」

エルフ奴隷「いえ、別に」

…カツン

492:2012/03/24(土) 00:59:13.84 ID:
エルフ奴隷「ただ、そのスカートのスリット、深くないですか?」

エルフ少女「え? そうかな?」
エルフ少女「でもこれぐらいじゃないと、戦闘で支障が出そうだし……」

エルフ奴隷「……まぁそれよりも、ここですけど……」

エルフ少女「? うん」

エルフ奴隷「……何か、空っぽになった棚があるだけですね……」

エルフ少女「だね……どうしてこんな場所に来いって言ったんでしょう、旦那様は」

キョロキョロ…

エルフ少女「割りと狭いし……棚以外には何も……って、あれ?」

エルフ奴隷「どうしました?」

エルフ少女「梯子の裏に……何か……」

ズッ…

エルフ奴隷「…………剣、ですか……?」

エルフ少女「剣、だね」

エルフ奴隷「しかもいやに大きいですね……刃幅が広すぎますし」

エルフ少女「何より抜き身で置いてあるって、どういうこと?」

エルフ奴隷「あ、柄の尾に何か紙がありますよ」

493:2012/03/24(土) 01:01:06.69 ID:
『敵が来たら遠慮なく使って。魔法道具(マジックアイテム)としての効力は失くしてるから、普通に使えるよ』

エルフ少女「……旦那様の字、かな……?」

エルフ奴隷「ですね……」

エルフ少女「……これ、使って良い、ってことだよね?」

エルフ奴隷「おそらくは……」
エルフ奴隷「ですがコレ……使えます? かなりの大きさですが」

エルフ少女「まぁ、秘術を使えば楽勝に振れるけど……にしても、わたしの腕二本よりも広い幅って……」

エルフ奴隷「……柄まで含めれば、あなたの肩まではありますよ?」

エルフ少女「…………まぁ、ナイフで戦わされるよりは全然マシだし」

エルフ少女「多少扱いづらいけど、遠慮なく使わせてもらおうかな」

494:2012/03/24(土) 01:01:43.10 ID:
~~~~~~

昼過ぎ

◇ ◇ ◇
 城下街
◇ ◇ ◇

男「……さて、と」

男(馬車に乗せてもらっていつも通り、街へと辿り着いた……)

男(……まずは……)

男「城に、向かおうかな」

男(王立図書館で借りてたエルフの書物と、結婚式前日に借りてた本を返さないとな……)

テクテクテク…

495:2012/03/24(土) 01:03:55.71 ID:
◇ ◇ ◇
  王宮
◇ ◇ ◇

男「すいません」

受付「どうも。本日はどうされ――って、男さんですか」

男「うん」

受付「また図書室にご用事ですか? それとも、王との面会を?」

男「両方を」

受付「かしこまりました」
受付「それでは、面会の方はもうしばらくお待ちください。執務室から謁見室への移動を終えれば、お呼び致します」

男「ありがとう。その間に、本を返しに行かせてもらっても良い?」

受付「かしこまりました」
受付「本はもうよろしいので?」

男「うん」
男「実はようやく、実験してない物とは言え、完成したからさ」

受付「完成……それって……!」

男「うん。やっと……あの薬で狂化してしまった人たちを、治せるかもしれないんだ」
男「といっても、絶対的に保障されてるわけでもないんだけどね……」

受付「それでも……おめでとうございます……! 長年の苦労が、実りましたね……!」

男「ありがとう……」

受付「これでやっと……あの人たちを、街に返せるんですね……!」

男「うん」
男「やっと……家族の下へと、帰してあげられるんだ……」

496:2012/03/24(土) 01:06:15.88 ID:
◇ ◇ ◇
王立図書館
◇ ◇ ◇

ガラ

男「あ」

後輩「ん? あ! 先輩っ!」

男「後輩……」

後輩「珍しいですね、こんなところで会うなんて!」

男「今まで何度も王宮には足を運んでたんだけどね……どうしてか会わなかったね」

後輩「まぁ、僕が実験室を出てませんでしたから……」
後輩「それよりも、どうしたんですか?」

男「どうしたも、図書室から借り出してた本を返しにね」

後輩「ん~……エルフの里から奪った本と……魔力発生の信号表? どうしてまたこんなものを……?」

男「借りておかないといけない事情があったんだよ」

後輩「こっちのエルフの本に至っては、普通に貸し出し厳禁ものじゃないですか」

男「ちゃんと、王に許可は頂いてたよ」
男「決して盗んだものじゃないから」

後輩「分かってますって」
後輩「さすがに研究バカな先輩でも、王宮の実験室外以外にまでそんな本を無許可で持っていくなんてことしないって……僕、信じてますよ……?」

男「微妙に信じてないな……その反応は」

497:2012/03/24(土) 01:08:44.42 ID:
後輩「でもエルフの書物って、文字通りエルフの言葉が書いてありますよね?」
後輩「よく読めまして、こんなもの」

男「読めないと、ボクの研究が進まなかったからね」

後輩「そういえば……先輩って、あの凶暴化した皆を治療するための研究をしていたんですよね」
後輩「どうです? 成果の方は」

男「とりあえず、試作品は出来たよ」

後輩「え!? 本当ですか!?」

男「うん。ただ、成功している自信は無いんだけどね」

後輩「それでもスゴイです! おめでとうございますっ!」

男「ありがとう」

後輩「これで先輩も、また研究室に戻って来れますねっ」

男「……あ~……」

後輩「? 戻って来ないんですか?」

男「まぁ……たぶん、戻って来れないと思う」

後輩「どうしてです? 確か先輩って、実験と研究に集中したいからと、あんな人里離れた山奥に住んでるんですよね?」

男「あの狂化の水の報酬があの屋敷だったから、あそこに住むようになっただけだよ」

後輩「嘘です。王から聞きました」
後輩「城下街の一角に屋敷を用意しようとしたら、山奥の屋敷が良いと自分から言い出したと」

男(あの王も大概お喋りだな……)

498:2012/03/24(土) 01:09:56.45 ID:
後輩「その時に王へと言った理由が、さっきの集中したいからだってことも聞きました」

男「まぁ……そうだね」

後輩「あんな屋敷じゃ報酬に不十分だからと金貨百枚を追加で用意し、尚且つあそこで住み込みで働けるメイドまで用意したとか」

男「……もはや何でもかんでも喋ってるな……あの人は……」

後輩「でも、事実なんでしょ?」

男「まぁ……全部正解だけれどさ……」

後輩「それなら、もうそうして集中する実験も終えたんですから、宮廷魔法使いとして戻ってきてくれても……」

男「いや~……ボクが戻る必要も無いでしょ」
男「あのエルフの奴隷がつけてる白い首輪の術式、あれって後輩が施したものだよね?」

後輩「えっ? あ、はい。大臣に頼まれて……」
後輩「でも先輩がどうして、奴隷の首輪の術式なんて……」

男「ボクもエルフの奴隷を二人ほど買ったからだよ」

後輩「えっ!?」

男「ま、なんにせよ、あれだけの術式を編めるんだ」
男「外部からの自動魔力生成なんて、よく見つけたね」

男「あんなスゴイ物が作れるんなら、ボクなんていなくても平気だろ」

後輩「そ、そんな……褒められるほどのものでは……」テレテレ///

499:2012/03/24(土) 01:11:41.46 ID:
後輩「あ! いえいえそれよりも! 奴隷です! どうして買うんですかっ!」

後輩「身の回りの世話が必要なら、僕が――」

男「いや、キミ確か、料理が壊滅的に下手だったよね?」

後輩「――うっ……」

男「昔実験器具使って作ってた蒸しケーキ、色をそのまま食べたみたいななんとも表現し辛い味がした記憶があるんだけど」

後輩「そ……そんなはずは……」

男「掃除も出来ないから実験室のキミの一角だけすごい散らかってたし……」

後輩「うぅ……」

男「何度ボクが料理も掃除もしたと思ってるんだ」

後輩「ご、ごめんなさぁい……」

男「……まぁ、ボクよりも才能があるみたいだから、それでも良いんだけど」

後輩「さ、才能なんてそんな! 先輩の方が素晴らしいじゃないですかっ!」

男「体力の無いボクとは違って、キミは桁違いに体力があるじゃないか」

後輩「体力だけですよ、僕の場合はっ」

男「元弓兵隊長で、近接用短弓格闘術を作り出した創始者で、そのくせ魔法にも精通していて、その実力を買われて終戦一年前に宮廷魔法使いに任命される……」

男「こんな経歴を持ってる人が才能無いとなると、ほとんどの人が才能無いってことになるよ」

500:2012/03/24(土) 01:13:47.76 ID:
後輩「ま、まぁ! 僕の話は良いじゃないですか!」

後輩「それよりも! 戻って来れないのは、もしかしてその二人の奴隷のせいだったりします?」

男「……いや、そうじゃないけど……いや、ある意味そうなのかな……?」

後輩「先輩なら奴隷の一人や二人ぐらい、普通に容認してくれますって!」

男「…………まぁ、そうだろうね」

後輩「でしょう!? ですから出来れば、戻ってきて下さいって!」
後輩「一人で研究室にいるのも退屈なんですからぁ~……」

男「いや、助手がいるだろう。助手が」

後輩「……あの子、最近また彼氏が出来たみたいで……惚気てくるんです……」
後輩「恋愛対象では無い子だったんですけど……惚気がすごい、鬱陶しいんです……」

男「あ~……彼氏が出来たらいつも鬱陶しいよね、あの子」

後輩「ですよね!? それを分かってくれますよね!?」
後輩「ですから先輩もほら! 戻ってきて下さいよっ!!」

男「……ま、戻ってきても良いっていうんなら、戻って来ようかな。皆で」

後輩「やった……!」グッ

男「……本当、戻ってきても良いって……言ってもらえたらね……」ボソ

後輩「?」

501:2012/03/24(土) 01:16:09.27 ID:
コンコン

受付「失礼します」

受付「男様、謁見の準備が整いました」
受付「謁見の間にお越しください」

男「あれ? 受付さんが直接……?」

受付「休憩時間での交代のついでですよ」

男「あ、そうなんですか。ありがとうございます」

受付「いえ。これも仕事ですので。では」

パタン

男「じゃあ後輩、そろそろ行くよ」

後輩「あ、はい。分かりました」

男「良かったら本、戻しておいてくれる?」

後輩「良いですよ」

男「ありがとう」

後輩「いえいえ」
後輩「それでは先輩、また」

男「ああ……うん」
男「また……ね」

男(……出来れば彼とは、戦場で、会いたくないものだな……)

男(会ったら……負ける可能性が、かなり高いしさ……)

545:2012/03/29(木) 00:50:42.89 ID:
◇ ◇ ◇
謁見の間
◇ ◇ ◇

ゴゴゴゴゴ…

男「失礼します」

王「ああ」

男「男、参りました」バッ
男「本日は謁見の申し出を受けて頂き、ありがとうございます」

王「ははっ、そうかしこまらなくて良いよ。わざわざ跪かなくて良いから」

男「ありがとうございます」スッ

王「その敬語も別にいらないんだけどね」

男「ここは謁見の間ですので」
男「友人だからと礼を欠いては、示しがつかなくなりますしね」

王「……本当、そういうところは妙に堅苦しいね、キミは」
王「今はオレ達以外誰もいないっていうのにさ」

男「お許し下さい」

546: :2012/03/29(木) 00:53:48.76 ID:
男「そういえば……いつも傍におられる側近の大臣殿は、どうされたので……?」 

王「彼なら、退出してもらっているよ」 
王「もちろん兵も同様だ」 

男「何故、そのような危険なことを……?」 

王「危険? なにが危険だっていうんだ?」 

男「……来客と、二人きりになることですけれど……」 

王「来客、といっても相手はキミだ。危険なものか」 
王「それにもし、今急に他国の暗殺者がオレを狙ってきたとしても、キミは守ってくれるだろう?」 

男「…………」 

王「それに、受付から聞いたよ」 
王「例の薬、完成したんだって?」 

男「はい」 
男「正確を期すならば、薬、ではなく、魔法を宿した水、ですが」 

王「その辺については詳しく知らないから、オレからしてみれば正直どちらでも良い」 

王「ともかくそれならば、誰もこの部屋にはいれておけないなと思ってね」 

男「なるほど……」




548: :2012/03/29(木) 00:56:36.89 ID:
王「では、長話をしていても仕方が無いし、行くとしようか」 

男「はい」 

カシャ 

王「…………」スッ…スッ…スッ… 

…カチャ 

ゴゴゴゴゴゴ… 

男(指を沿わせ開く、王族の者のみが使える、隠し通路への階段……) 
男(イザという時の逃げ道であり、隠れるための場所……) 

王「……あの狂化された人たちは、力も強くなってるからね」 
王「牢屋程度じゃあいつ脱走されるか分かったものじゃない」 

王「もし逃げられては……それこそ、この国が内部から破壊され尽くされてしまうからね」 

男「…………」 

王「別に、キミを責めてる訳じゃないよ」 
王「それに彼等を閉じ込めておく場所としてココを提案したのはオレだ」 

王「この国で最も頑丈な場所……それは間違いなく、ここだろうしね」 

王「それにさ、キミが彼等を眠らせる魔法を作って使ってくれたから、今も封印されているんだろう?」 
王「なら大丈夫さ」 

王「オレは、親友であるキミを、信じている」 

男「……光栄の極みです」

549: :2012/03/29(木) 01:01:04.12 ID:
王「ま、それじゃあ一緒に行こうか」 

男「王はここで待っていた方が……」 

王「見届ける義務があるからね。国民をこんなことにした、王として」 

男「……されたのは、あなたの父上です」 
男「あなたは、父上が亡くなられて即位してから三年後の終戦まで……自分が失敗作と断じたあの魔法の水を、使わずにいてくれました」 

王「即位してからの一年は使わせていたんだよ」 

男「成られたばかりでしたから、仕方の無いことです」 

王「仕方の無いことかもしれないが、それで責任が生まれない訳じゃない」 

男「…………」 

王「ま、使わなくなった理由は、親友がイヤがってるってのが一番なんだけどね」 
王「キミが止めてくれと態度で示してきていたのに、無理に使う必要なんて、どこにもないだろ?」 

男「……ありがとうございます」 

男「ですが、一緒に行くのは同意できません」 

王「危険だから、だなんて言うつもりなら、ずっとココに閉じ込めていた今までだって、ずっと危険だったさ」 

男「それは……そうですが……」 
男「ですが、この新しい魔法は実験もしていないですし……もしかしたら失敗していて、とんでもない影響があるかも――」 

王「キミがさっき言ったじゃないか」 

男「――え?」 

王「ボクを、守ってくれるって」 

男「……………………はい」 

王「なら大丈夫さ」 
王「ほら、一緒に行こう」 

男「……かしこまりました」

550: :2012/03/29(木) 01:02:58.14 ID:
カツ、カツ、カツ… 

王「さて……ここならもう謁見の間じゃない。敬語は無しにしよう」 

男「……分かりましたよ、王」 

王「敬語は無しだって言っただろ?」 

男「畏まらなくなっただけマシだと思ってください」 
男「というより、コレ何度目ですか? 割りと毎回言ってますよ」 

王「直して欲しいから何度だって言うんだよ」 

男「なら、一生直りませんよ」 
男「ボクは、あなたに認めてもらえたおかげで、この地位に入れたんですから」 

王「だが、キミの才能を開花させたのは、キミを買った人だ」 

王「オレはただ、キミの才能と努力を見つけられたに過ぎないよ」 

男「……勿体無い言葉ですよ、本当に。ボクみたいなのに才能があると言ってくれるんですから」 

王「何を言っている」 
王「こんな結果になってはいるが、戦争に勝てたのはお前のおかげだ」 

男「……兵であった国民を人外にしてますけどね」 

王「だが、今日でその汚名も払拭されるのだろう?」 

男「…………」 

王「なら良いじゃないか」 
王「確かにソレを良しとしない奴もいるだろうが……少なくともボクは評価してやる」 

王「自分のミスから逃げずに、立ち向かい、償おうとする意思……」 
王「のみならず、それを達成しようと言うのだからな」

551: :2012/03/29(木) 01:05:06.58 ID:
王「……ま、それにだ」 

男「?」 

王「キミがもしもここで、自分の罪の償いを果たしても、まだ罪が償いきれていないってなるんなら……」 
王「オレだって、同じになってしまうだろう」 

男「……王は別に、罪など○してはいないじゃないですか」 

王「父が、同盟を結んでいたエルフの里に戦争を仕掛けた」 

王「その上、人間を化物にする魔法を、進んで戦争に利用した」 

王「同じ王族として、これは王となったボクが背負わなければいけない罪だ」 

王「それなのに今、キミがそうして罪を償っても、もし償ったことにならないというのなら……」 

王「ボクがこうしてこの国を良くしていこうとしているのだって、罪の償いにならないってことになるじゃないか」 

男「…………」 

王「だからキミの罪は、償われて欲しいんだよ。ボク個人としてもね」 

男「……………………」 
男「……王、一つ訊ねてもよろしいですか?」 

王「どうした?」 

男「王は……エルフの奴隷制度について、どう思いますか?」 

王「どう思うも何も、課題は多いよ」 

王「人間の奴隷と同じ扱いにはしているけれど、やはり奴隷という言葉がよくないみたいだ。エルフの皆が警戒してしまう」 

王「そうなると、逃げ出そうとしてしまう子も多いだろう。その辺りの対策は大臣に一任してしまっているが……」 

王「しかし最終的には、“奴隷”という言葉に替わる言葉を見つけなければな」 

王「このままではいつまでもエルフに理解してもらえないし……何より、父の威厳にしがみ付いているみたいになって……イヤになる」 

男「…………」

552: :2012/03/29(木) 01:05:56.88 ID:
カツン… 

王「さぁ、そうして話している間にも、ついたよ」 

男「…………」 

王「この扉の向こうに、狂人となってしまった兵士達がいる」 

男「……はい」 

王「後は、お願いするよ」 

男「……分かりました」スッ… 

キュポン 

バチャバチャバチャ… 

…スゥ…! 

男(……もし失敗し、何かが起きてしまったら遅いからな……) 

男(いつでも王を守れるように、足元に操作術式を編みこんだ“水”を置いておこう) 

男「…………よしっ」 

ガチャ… 

…キィ 

男「…………」

553: :2012/03/29(木) 01:11:27.56 ID:
男「…………」 

男(上の謁見の間はあろう広さ……けれども、謁見の間よりも頑丈に作られたそこに、無造作に、投げ捨てられたシーツの塊のように……) 
男(人間が数十人、重ねられるように横たわっている) 

男(その、横たわっている人たちの向こう側には、また小さな……けれども頑丈な作りなのが分かる、扉) 
男(おそらくは、王族の脱出口だろう) 

男(……横たわっている人たちの見た目は、ただ寝ている人間と、なんら変わりが無い) 

男(だが……目が覚めればコレが……化物のような強さを発揮する……アレへと変貌する……) 

男「……何かの手違いで、このまま目が覚めたら普通の人間だったら良いのにな……」 

男(まぁきっと――いや必ず、そうじゃないのだろうけれど) 

男「……さて、それじゃあ」キュポン 

男(準備しておいた魔法……いや、秘術) 

男(魔法と同じ方法で固定化した、秘術) 

男(入れられた他人の魔力を全て外へと拡散してもらうよう精霊にお願いして形にしてもらった、秘術) 

男(コレを……この部屋にいる彼等に、浴びせる) 

男「…………」 

男(だがこれは言ってしまえば、魔法を全てキャンセルするようなもの) 

男(そしてきっと、彼等の体内に残っている狂化の魔力固定術式はきっと、今こうしてこの人たちを眠らせてくれている術式よりも、後に解除されてしまう) 

男(身体の中心に残るようにし、尚且つ、本人に無理矢理魔力を作らせ続け、半永久機関になっている、狂化の術式……) 

男(……きっとこの秘術を使えば、この人数の狂人が、襲い掛かってくる) 

男(だから、食い止めなければならない) 
男(その狂化の術式に、この秘術が辿り着く、その時まで……)

554: :2012/03/29(木) 01:12:21.95 ID:
男「…………」 

男(大丈夫)キュポン 

男(ソレを可能にするために、防御に特化したこの魔法も準備してきたんだ) 

男(同じく秘術で作った、“絡め取る水壁”) 

男「…………すぅ~……」 

男「……はぁ~…………」 

男「……よしっ!」 

男(腹は括った……! さぁ……始めようか……!」 















パシャア…!

555: :2012/03/29(木) 01:14:40.70 ID:
~~~~~~ 

ドガァッ! 

男「がっ……はぁっ……!」 

王「男っ!」 

男「王……!」 

王「お前……部屋から……!」 

男「ええ……まぁ、弾き飛ばされました」 

王「怪我は……!?」 

男「分かりきってますよ。しまくりです」 
男「大怪我はしてませんけれどね」 

王「失敗……だったのか……!?」 

男「……その成否が分かるのに、少し時間が掛かるのですよ」 

男「そしてその間、アイツらが暴れるものでね……」 



――ぐあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!―― 

――うおおおおおおおああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!―― 

――があああああ、グ、ギィ、ギャああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!―― 



男「……少し、部屋の中にいるままじゃ、抑えきれませんでした」 

王「ならここも……危ないのか?」 

男「いえ……」 
男「……あの部屋の外なら、大丈夫です」 

男「そのためにわざと殴られて、その勢いで脱出したんですが……やっぱり力、強すぎますよ。彼等」

556: :2012/03/29(木) 01:19:02.45 ID:
王「だが、何故部屋の外なら大丈夫なんだ……?」 

男「弾き出され、吹き飛ばされるときに、少し細工をしてきたんです」 

王「細工……?」 

男「触れればその身を削る刃が絡む、水の壁です」 

男「ですが前方にしか出せないのが弱点ですからね……出入り口に仕掛けるために、こうして出てきたんですよ」 
男「これでなんとか、回りきるまで時間を稼げます」 

王「だが奴等……痛覚が無いんじゃなかったのか……? その仕掛けだって無意味に終わるんじゃ……」 

男「でも、死は理解しています」 

男「その絡む刃は、触れた場所から首に向けて、延びていきます」 

男「その絡んだ相手の身を削ぎながらね」 

男「そうなると、首に絡めば死ぬことを理解して、奴等は離れます」 

男「死なない痛みは平気だけれど、死ぬ痛みはイヤがる」 

王「しかし……そんなに強い魔法だと、奴等自身を殺してしまうのでは……?」 

男「大丈夫でしょう。さすがに、死んでまで突破しようだなんて思える意識すらありませんし」 

王「……その壁が、破られる可能性は……?」 

男「十二分にあります」 
男「ですが、それも大丈夫でしょう」 

男「彼等、中で自分と同じになった、狂化された人たちに攻撃しています」 

男「同じ強さな訳ですし、さすがに共倒れにはならないでしょう」 

王「……本当にスゴイな、キミは」 

男「あなたが認めた人ですよ」 



男「だったら凄くないと、示しがつきません」

557: :2012/03/29(木) 01:20:23.90 ID:
~~~~~~ 


――…………―― 

――…………―― 

――…………―― 



王「……静かになったな」 

男「秘術が回ったのかもしれません」 

男「様子を見てきます」 

ソッ 

男「…………」 



――ぐっ……―― 

――うぅ……―― 

――なんだ……ここは……?―― 

――確か……戦場にいた、はず……―― 

――いや、違う……オレは……確か……―― 

――そうだ……じゃあ、お前等も―― 

――それで、手が付けられなくて……ここに……?―― 



男「……っ」ガクッ… 

王「っ! 男っ!」

558: :2012/03/29(木) 01:22:43.62 ID:
王「どうした!? 失敗したのか!?」 

男「いえいえまさか……その、逆ですよ」 

男「成功です……」 

男「大成功ですよ……!」 

男「安心して、思わず……腰が抜けちゃいました……」 

男「情けないですね……肝心なところで」 



――今の声は……?―― 

――外に誰か……―― 



男「ああ、ちょっと待ってください」 
男「今入り口のもの、解除しますから」スッ 

パシャァ… 

王「…………」 

ザッ、ザッ、ザッ…! 

元狂人A「っ! お前は……!」 

男「どうも」 

元狂人B「男……と、王子……?」 

王「そうか……キミ達の記憶では、そこで止まっているんだね」 

元狂人B「え?」 

王「眠らされ、結構な年月が経っているんだよ……」 



王「まぁ、その辺りの説明は後々するとして……まずは皆――」 



王「――人間に戻れて、よかった。……ありがとう……」