~~~~~~ 

◇ ◇ ◇ 
謁見の間 
◇ ◇ ◇ 

元狂人A「これまでの間にそんなことが……」 

王「ああ」 

元狂人B「それまで、僕達は……」 

男「……悪かった」 

元狂人C「……いや、お前は何も悪くはねぇよ」 

元狂人A「そうだな。結局のところ、飲むのに同意したのはオレ達だ」 

元狂人D「むしろ、こうして戻れることなんて想像していなかった。殺されるとさえ思っていたからな」 

元狂人B「それでもこうして、今は喋れるし、家族のことも思い出せる」 

元狂人C「お前はよく、やってくれたよ」 

男「……そう言ってもらえると、助かるよ」 

王「さて……積もる話も確かにあるが……お前達も医務室へと向かってくれ。兵を呼び案内させよう」 

王「なんせ今まで、眠ったままの状態だったんだ。怪我は少なくとも、一応は診てもらうべきだろう」 

王「それに、元に戻って怪我をしていた他の者たちもそこにいるんだ」 

王「その者たちにも、この話を聞かせてやって欲しい」

                      引用元: ・男「エルフの書物は読めた…後は……」 
573:2012/03/30(金) 00:56:40.01 ID:
~~~~~~

王「終わったな……」

男「ええ……」

王「ははっ。謁見の間では敬語を貫くんじゃなかったのか?」

男「……そういえば、そうでしたね……」

王「……気でも抜けたか……?」

男「なんでしょう……罪を償えた実感が、あまり無いと言うか……ただただ、安心したというか……」
男「なんだか、フワついた気分なんですよ」

王「今までの長年の苦労が実ったからね。実感を得るのにも、時間が掛かるんだよ」

男「…………」

王「さて……それじゃあボクも仕事に戻るよ。キミのおかげで、今まで溜まっていた仕事に、手を付けられそうだからね」

男「え?」

王「彼等の家族への連絡やら、色々とね」

王「今まで戦死していたことにしていたが、こうして元に戻ってくれたんだ……」
王「その辺りの事情説明にも、オレ自身が赴かないといけないからな」

男「……ボクが成功すると信じてくれていたから、ずっと、いつ始められても大丈夫なように、準備していてくれたんですか?」

王「……そういうことは、思っても口に出すべきじゃないぞ」
王「なんか……恥ずかしくなる」

男「…………」

王「確かに、オレとお前に上下の関係はあるだろうが、オレはお前のことを親友だと思っている」

王「元々奴隷だなんて関係ない。宮廷魔法使いになったキミは、当時王子だったオレと仲良くしてくれていた」

男「……あの頃は、あなたがそのような身分の方だと知らなかったんですよ」

王「それで良いんだよ。示しがあるから今はそうもいかないが……」

王「だがあの日々は間違いなく、オレがキミを親友だと思えるにふさわしい日々だったんだよ」

男「……勿体無い、お言葉です」

574:2012/03/30(金) 00:58:57.18 ID:
~~~~~~

◇ ◇ ◇
  廊下
◇ ◇ ◇

男「…………」

男(長年の苦労が実ったから、実感が沸かないだけ……か)

男(……本当に、そうなのだろうか……?)

男(何か……ボクは何かを、忘れて……)

大臣「おぉ、男殿」

男「……?」

大臣「お久しぶりでございます」

男「ああ……大臣」

大臣「はい」
大臣「なんでも、あの凶暴化する魔法の水を解除できる魔法を、作り上げたとか」

男「……はい」

男(……ああ、そうか……)

大臣「それは良かった」

男(本当にまだ、この件が終わってないことに気付いていたから……ボクはまだ、実感を得られていないんだ)

大臣「これで、エルフの里とは反対側の、同じ人間の国へと戦争を仕掛ける時も、かなり優位になりますな」

男(こういう人がいる限り……あの魔法を利用したいと思っている人がいる限り、まだ、終われないんだ)

大臣「では……その解除の魔法、こちらの研究機関への報告の程、お願いしますよ」

575:2012/03/30(金) 01:02:27.01 ID:
男「……残念ですが、お断りします」

大臣「おや? 良いのですか?」

男「良いも何も……アレは戦争報酬でもらった資金で、ボク個人が研究したものです」
男「この国への提出義務はありませんよ」

男(なにより、秘術を使える魔法、に関する資料を、ボクは何一つ作っていない)
男(あのやたらと長くなった術式のものだって、ただ術式をややこしくしただけにしか見えないし……)

男(無理矢理奪われたところで利用される心配も無いって訳だ)

大臣「確かにその通りですが……でも、あの凶暴化の水を兵に使った場合、元に戻せなくなるのですよ?」

男「アレはもう、作られていないでしょう?」
男「ボクだってもう二度と作らないです。王宮魔法使いでは無くなったのですから」

大臣「では、キミの後輩に頼んで、作らせましょうかね」

男(サンプルも何もない癖に……無理に決まっている)

男(あの魔法術式に関する資料はこの世に存在するが……ボクの屋敷にある)

男(もし個人でゼロから作るとなると……方針は決まっていても半年はかかる)

男(そんなことも分からないとは……)

男(それに、それだけの期間があれば、王が勘付いて、止めてくれるはず)

男(……大丈夫だ)

男「……まぁ、そうして作られてしまえば、確かにボクにはどうすることも出来ませんしね」

男(本当、つくづく資料を持ち出しておいて良かった)

576:2012/03/30(金) 01:05:45.32 ID:
男「それはそうと大臣、あなた、エルフの奴隷について一任されているんですよね?」

大臣「それが何か?」

男「いえ……ただ、エルフの奴隷制度について、どう考えているのかと思いましてね」

大臣「どうも何も、やはり奴隷という言葉がいけない。彼女達が警戒してしまいます」
大臣「こちらとしても、そのようなことをさせるつもりは一切ありませんのに……」

大臣「向こうでの奴隷とは、本当に人権が無いものを指す言葉だったのでしょう」
大臣「嘆かわしい限りです」

男「……………………」
男「……では、あの首輪は?」

大臣「首輪? ああ……あなたの後輩に作らせた、アレ」

大臣「便利でしょう? 魔法を封じれば、エルフの力も無くなる」
大臣「そうなれば抵抗されずにすむ」

大臣「そしてその結果、こちらの奴隷が、向こうの奴隷とは違うということに気付く」
大臣「言葉は同じでも中身が違うということを知ってくれる」

大臣「けれどもソレに気付かぬ内は逃げ出してしまうかもしれないからと、探知系の魔法もお願いしたのです」

大臣「本当、良い物を作ってくれましたよ、彼は」

男(そうか……魔法使いでも騎士でも無い大臣は、エルフの秘術が人間の魔法とは違うものだということを知らないのか……)

男(エルフの文字が読めない後輩もきっと、秘術の仕組みや精霊のことやらは知らないだろうし……そうなると大臣が知らないのは当然とも言える)

男(……本当、あの首輪によってエルフの秘術が封じられたのは、偶然以外の何ものでもないんだな……)

大臣「それが、どうさせれたのですか?」

男「いえ……ただ、少し気になっただけですよ。お気になさらない下さい」

577:2012/03/30(金) 01:07:17.44 ID:
~~~~~~



◇ ◇ ◇
  宿屋
◇ ◇ ◇

男(いまだ、実感は沸かないけれど……)

男(それでも、狂化の魔法水で変化した人たちを、助けることが出来た)

男(このままではいずれ、新たに犠牲者が生まれてしまうかもしれないが……それでも)

男(とりあえずの、目標にしていたことは達成できた)

男(だから……次だ)

男(エルフの皆を、助ける)

男(その後にでもまた、狂化の魔法水については考えれば良い)

男(まずは当初の予定通り、計画通りに狙い通りに、エルフ達を助け出す)

男(……こうなってしまった元凶が、王か大臣か、はたまたそれよりも下で奴隷商の独断なのか……それはまだ、分からない)

男(……いや、奴隷商の独断は無いか……)

男(もしそうなら、昨日少女ちゃんと奴隷ちゃんと話したときに言っていた「必死に逃げ出し訴えた同胞もいたけれど無駄に終わってしまった」という言葉に矛盾する)

男(たかだが奴隷商に、王宮の訴えを抑え込む力があるとは思えない……)

男(大量の裏金を払って、誰かを買収していれば話は別だが……)

男(しかしそうなると、奴隷商かその裏金を貰った者……どちらが最初に、見逃すことを提案したのかが重要になるが……)

578:2012/03/30(金) 01:09:10.54 ID:
男(……いや、今はそのことは良い)

男(考える時間は、明日、十二分にある)

男(まずは……今日しようと決めていたことを、確実に果たすだけだ)

男(術式を込めてきた水……これに魔力を込め……)

男(足りない分は、持ってきた“貯蔵されてきた魔力水”で魔力を補充してでも――)

男(――いや、今日使おうと思っている分に関しては、貯蔵分を使うまでも無いか……)

男(少しでも、魔力回復の手段は温存しておくに限る)

男(だから今日は、明日に差し支えない程度に……尚且つ、今日は負けない程度に……)

男(そう、調整をした魔法の量を準備して……)

男(そして、突入する)

男(ボクが、彼女たち二人と出会った……あの場所に)

男(今から行うことの始まりでもある……地下にエルフ達が売られている、あの奴隷市場に)

579:2012/03/30(金) 01:11:16.96 ID:
~~~~~~

深夜

◇ ◇ ◇
奴隷市場前
◇ ◇ ◇

男「…………」キュポン…!

バチャバチャバチャ…

…スゥ…

男(撒いた水を術者を中心に、円形状に固定。次に、探知型自動防御機能展開……防御力を下げても、自動発動を優先するように設定……)スッスッスッ…

男(……とりあえずはこれで十分か……)

男(…………)

男「…………すぅ~……」

男「……はぁ~…………」

男(……よしっ)

トントントン

……

トントン

……………………

ガチャ

奴隷商「このような夜分にようこそ」
奴隷商「おや、あなたは……」

580:2012/03/30(金) 01:12:29.05 ID:
男「あれ? ボクのこと、覚えていてくれましたか?」

奴隷商「それはもちろん。印象に残っておりますのでね」

奴隷商(エルフの奴隷に関する裏のルールを知らなかったのですからね……)

奴隷商「それで、こんな深夜に訪れるとは……もしかして……」

奴隷商(あのエルフ……ちゃんと狙い通りに、エルフの奴隷の真実を教えてくれたのか……)
奴隷商(コイツがリピーターになるとは思ってなかったが……まぁ、新しいエルフが売れるんなら良しと――)





男「はい。ちょっとココ、壊させてもらいますね」スッ、スッ





奴隷商「――……え?」

581:2012/03/30(金) 01:13:36.68 ID:
ドガシャァッ!

奴隷商「ぐっ……! はぁっ……!!」

奴隷商(な、何が……!?)

男「まぁ正確には、この中にいるエルフ達を助けさせてもらうんですけどね」

ザッ…!

奴隷商(足元に……水!?)

奴隷商「お前……魔法使い……!?」

男「正解」スッ

ヒュッ…!

ドガ…ッ!

奴隷商「がっ……!」

奴隷商(水に……掴まれ……!)

男「この水、魔法使いらしく、強度とか色々とイジれるんですよ」
男「普通の水のようにすることも出来ますし、こうして相手を壁に押さえつけて拘束することも出来ます」

奴隷商「てめぇ……なんでこんなことしやがる……!」

男「……ふむ……」キョロキョロ
男「ボクを案内してくれたエルフのメイドさんがいませんね。どうしました?」

奴隷商「あぁ?」

582:2012/03/30(金) 01:16:35.44 ID:
奴隷商「いきなりなんだてめぇは……! 目的も言わねぇで……!」

男「」スッ

ギチッ!

奴隷商「ぐ……あ……!」

男「口応えできる立場でないことぐらい、理解したらどうです?」

男「それで、あの人はどこにいるんですか?」

奴隷商「ち……地下だよっ! あの牢の中だよっ!」

男「どうしてそこに? 彼女は売り物ではなく、あなたの世話をするためにいたんじゃなかったんですか?」

奴隷商「あの女……今まで俺を騙していやがったからな……! その罰だ!」

男「罰……?」

奴隷商「ああ。俺はてっきり、エルフじゃ人間の子供は孕めねぇのかと思ってた」
奴隷商「だが、それがどうだ? 実際はあの女が孕まないように裏で手を回してたって話じゃないか」

奴隷商「首輪を付けて魔法が使えないようになってるはずなのに、あの女だけは……ソレを使って今まで、エルフ達を孕めないようにしてきた」

奴隷商「俺に隠れてコッソリとな!」

男「…………」

奴隷商「新しく入ってきた奴隷を下に連れて行ってもらって、ちょっと伝え忘れてることを思い出して後を追いかけたら、その現場を見つけたんだよ……!」

奴隷商「なんだそれは、って、アイツ等の仲間を盾に脅したら、今までそんなことをしてたって白状しやがって……!」

奴隷商「それが、許せなかったんだよ……! だから、罰を与えたっ!」

男「…………」

583:2012/03/30(金) 01:18:02.32 ID:
男「……それで?」

奴隷商「それで? ああ、何をしてやってたのかってことか?」

奴隷商「簡単だよ。その手を回して細工してきたものを、解除させて、○し続けてやったのよ! この俺がっ!!」

奴隷商「他のエルフを惨たらしく殺してやるって脅したら、あっさりと解除しやがった!!」

奴隷商「知ってるか? あの女、今までもそうやって、自分で○されてきたんだよっ!」

奴隷商「仲間のための自己犠牲ってやつだ。本当、エルフってのはバカばかりだ!」

奴隷商「少し同じエルフを殺してやると脅せば、身内でなくてもホイホイ言うことをききやがるっ!!」

奴隷商「逃げれば捕まえてお前の目の前で捕まってる同胞を殺してやると脅せばもう逃げやしない!」

奴隷商「ちょっと考えればこっちが損するからそんなことするはずもないって分かるはずなのにな? バカなのか、それとも本当にされたら怖いから言うことを聞いてたのかは分からねぇが……!」

奴隷商「どちらにせよこの地下には、そんな気味の悪い仲間意識を持った奴等が集まってんだよ!」

男「…………」

奴隷商「だがそれも当然だよな? どうせ○されたって、俺たち人間の子供は作られないって安心してたんだから」

奴隷商「ちょっと演技してやれば、俺たちは満足してどっかにいく。それで仲間が救われる」

奴隷商「それなら、それぐらいしても当然だよな」

奴隷商「アイツ等の目にはさぞかし、俺たち人間が滑稽に映ってたことだろうよっ!」

584:2012/03/30(金) 01:19:31.05 ID:
奴隷商「だが、それがどうだ? 例の妊娠しない細工を解除してやった途端、あの女が怯えやがったんだ」

奴隷商「膣内に出してやる、って言った途端、止めてって言いやがったんだ!」

奴隷商「たまんなかったぜ……あの時の怯えた表情っ!」

奴隷商「今でも思い出して興奮してくるっ!」

奴隷商「いつも澄まして、感じたフリをして、あっさりと果てる俺を内面からバカにしてきたあの女が! そん時ばかりは恐怖に顔を歪めたんだ!」

奴隷商「言ったところで無駄だって分かってるくせに、思わず言っちまったみたいな感じもしてよ……あん時はマジで良かったっ!」

奴隷商「最高だったよ!」

奴隷商「そのくせ、抵抗したら仲間を殺すって言ってやれば、唇を閉めて必死に我慢して……マジでたまんねぇよなぁ!」

奴隷商「出されても大きな声で泣かないで、仲間に心配かけまいと必死になって、涙だけ流して……これ以上ないほどに興奮したぜっ!」

男「…………」

奴隷商「そうだお前……! 取引しようじゃないかっ!」

奴隷商「どうせお前も、エルフの奴隷が欲しいんだろ? 何をしても良いって理解できたから、他にも欲しくなったんだろ?」

奴隷商「けどこの前大金を払っちまったせいで金がないから、こうして無理矢理奪いにきたんだろ?」

奴隷商「だが今俺を見逃せば、その妊娠しない細工を解除した状態で、奴隷を一人やるよ」

男「……………………」

奴隷商「今回のコレだって見逃してやるよ! だから――」















男「黙れよ、外道が」スッ

グチュッ…!

586:2012/03/30(金) 01:21:06.53 ID:
奴隷商「が……!」

奴隷商(は……腹が……っ!)

男「何もかも喋ってくれて助かった……が、ボクに取引を持ちかけるほど五月蝿くさえずってくれとは頼んでない」

奴隷商(斬られて……血が……っ!)

男「だから、黙ってろ」

奴隷商(痛くねぇ……斬られてるはずなのに、水の中に血が滲んでるのに、なんでか痛くねぇ……!)
奴隷商(それが逆に……気持ちわりぃ……怖ぇ……!)

男「それに、お前は一つ勘違いをしている」

男「人間の子供は作られないから安心している? だから演技してやって、満足させて、仲間を救わせている?」
男「それぐらいして当然?」





男「そんな訳あるか」





男「もしそうなら、ボクが買ったあの子の、あの怯えた表情はどう説明するんだ?」

男「子を孕まないから仲間のために身体を差し出しても平気だって言いたいのか?」

男「バカかお前。誰だって怖いんだよ」

男「子供を作らずに済むのは確かに安心だろうが、そんなものは不幸中の幸いにすぎない」

男「そもそも、○されること自体が怖いんだよ」

男「脅され、痛みもあって、怖いはずが無い」

男「地下に閉じ込められ、次々と体内に侵入されて、子供は出来ないから安心だと、割り切れるはずがない」

男「それぐらい分かれよ、その足りない脳ミソでよ」

シュッ…!

奴隷商「っ!」

587:2012/03/30(金) 01:22:10.91 ID:
ザバッ!

ギンッ!!

…カラン、カラン

男「…………」スッ

ジュバッ!

シュゴォッ!

男「……外したか……」
男「……ま、ナイフが飛んできた方向にいつまでもいたら、暗殺者としては失格だもんな」

奴隷商「なっ……!」

男「ようやく姿を現してくれたか……国お抱えの暗殺者さんよ」

…………

男「……と言っても姿は見えないし、気配も感じないか」
男「この薄暗い部屋の中じゃあ、お前の姿を見つけるのは、ボク程度じゃ不可能に近いだろうしね」

シュッ!

ザバッ!

ギンッ!!

男「無駄だよ。自動で水が防御してくれる」
男「この足元にある水を全て失くすか……または、この防御を貫通する攻撃をしないとね」

588:2012/03/30(金) 01:23:46.35 ID:
男「さて暗殺者……お前はどうせ、この外道をずっと見張っていたんだろう?」
男「コイツが、エルフの奴隷についての本来の用途――何をしても許される奴隷だと説明したその瞬間に、殺すためにさ」

奴隷商「なっ……!」

男「コイツを餌にすれば引っかかってくれるかもしれないと思ったけど……どんぴしゃとはね」

…………

男「……で、アンタの雇い主は誰?」
男「って言っても、答えてくれるとは思ってないけど」

男「一本目のナイフ、どう考えてもアンタに指示を出した奴が誰なのか口を滑らせそうな、この奴隷商を狙ったものだったしさ」

…………

男「……まぁ良いさ。返答なんて期待していない」
男「ボクとしては、いるだろうアンタみたいな暗殺者を殺せれば、それで良い」

男「やっぱり、道は安全にしておいた方が良いだろうからね」

…………

男「ボクがお前を殺せないと思ってるんだよね? だから、そちらの位置がバレる魔法も使ってこない」

男「魔法のために魔力で文字を描いたその瞬間、そこが狙われる」
男「だが逆に位置さえバレなければ狙われることは無く、自分は殺されない」

男「大方、そんなところかな」

…………

男「でも、そう思っているんなら――」スッスッスッ…















男「――改める前に、死んじゃうことになるね」

589:2012/03/30(金) 01:25:16.58 ID:
ギャギチ…!

男「…………」

男(全方位、全角度への水での圧殺……)

男(この部屋からは出られないことを見ると……これで、終わりだ)スッ

スゥゥ…

…ドサ

男「……ふむ」

男(天井と壁の間に挟まるようにして隠れてたのか……なるほど、上というのは盲点だった)スッ

ズシャッ…!

男「……これで良し」スッ、スッ

ヒュッ!

ブンッ…

…ドシャッ!

男「こうして投げ捨てて……ま、これで止めはさせただろ」

スゥ…

男「さて……」

奴隷商「ひぃっ……!」

590:2012/03/30(金) 01:27:32.07 ID:
男「餌の役目も終えたことだし……お前ももう、用済みかな」

奴隷商「な……なんなんだよお前……! なんで、こんな……!」

男「なんで? 簡単なことですよ」
男「来た時も言ったじゃないですか。ただ、エルフ達皆を助けたいだけ」

男「どうしてそう思うようになったのかは……まぁ、お前に話すことでもないかな……」

男「人の話も聞かず、買いに来た奴だと勝手に思い込み、そんなことが出来る立場でもないくせに図々しくも交渉しようとした奴の耳に、入れる話でもないし」

奴隷商「ま、待てよ! だが俺を殺すと、俺が誰からエルフの奴隷制度について指示されたのか分からなくなるぜ」

男「別に良いよ、そんなの」

奴隷商「なっ……!」

男「知ったところで嘘を吐かれたかもしれないと疑うことになるんなら、別に聞かなくても良いよ」

奴隷商「そ、そんな……!」

男「それじゃあ、そういうことで……」スッ―

奴隷商「ま、待てよ……! 本当に待ってくれよっ! なぁ助けてくれよっ! 頼むからなぁっ!!」

男「……お前は、その声を何度も発してきたエルフを、○○してきたのだろう?」



男「それなのに、お前だけが助かるなんて……虫の良い話だと思わない?」―スッ



奴隷商「そ、それは――」ザシュッ!

奴隷商「――っ! ――」グリュッ!

奴隷商「――っ! っ! っっっ!!」…ビチャ…!

ビシャァッ!



男「拘束していた水を操作しての心臓への一突き……」


男「……感謝して欲しいぐらいだね」


男「お前がエルフにしてきたみたいな生き地獄を味合わせず……一撃で、殺してあげたんだから」

625:2012/03/31(土) 00:56:52.22 ID:
~~~~~~

 ◇ ◇ ◇
奴隷市場・階段
 ◇ ◇ ◇

カツ、カツ、カツ…

男「…………」

男(やっぱり、国お抱えの暗殺者はいた……)

男(なんでも出来るエルフの奴隷、という制度が隠されたものならば……公式見解という形で露見してしまってはいけない)

男(だから露見しそうになった場合……もしくはしてしまった場合……殺すための人間が必要だった)

男(あくまでも、相手が勝手にそうなんだと勘違いしてやってきていた、という体裁を保つ必要があったのだろう)

男(そのために、公式見解という形でこのエルフの奴隷制度について教えられていた者のみを、国が暗殺部隊を使ってまで監視していた……)

男(そしてそれを使役できるのは……王と、大臣の二人のみ)

男(ならば必然、この二人のどちらか……もしくは両方が、絡んでいることになる)

男(となるとこの件に絡んでいる方は……ボクがエルフの奴隷を買ったということは、報告として上がって知っているはず……)

男(……ボクがエルフの奴隷を買った、ということを知っていないと出来ない発言をしていてくれれば、すぐに特定も出来たんだけど……)

男(そう上手くはいかないか……)

カツ、カツ、カツ…

男(……もし王がその首謀者なら……ボクは親友と敵対することになるのか……)

男(……王ではないと信じたいが……だが、その感情が正常な判断を鈍らせてしまうかもしれないし……)

男(しかし、孤児を助けるための人間の奴隷制度を、王子の頃に立案した彼が、エルフに対して酷いことをするとも思えない……)

男(……いやでも、その判断自体が、親友の贔屓目ってことでもあるんだし……)

男(でも彼のおかげでボクは、こうして魔法使いとして研究できるだけのものを得ているんだし……)

626:2012/03/31(土) 00:59:11.46 ID:
カツ、カツ、カツ…

男「…………はぁ……」

男(……難しいことは、やっぱりバカなボクじゃ分からない、か……)

男(だったらまぁ、信じるのが一番だ)

男(判断が間違えているかもしれないけれど、それでもまぁ、親友を疑い続けるよりかは……)

男(信じて、騙された方が良いだろう)

男(その方が、親友として縁を切るのも……容易くなるだろうし……)

男(それになにより、自分の感情に素直に生きた方が良いとも思うし)

男(大臣よりかは、親友の王のほうが、何百倍も信用できるんだし)

男「…………」

男(……あとはまぁ結局のところ……今現在、どちらが黒幕だと知れたところで、やるべきことは変わらないんだ)

男(ならば、後に差し付かえない、安心できる場所に気持ちを置いたほうが、何百倍も良い)

男(……なんて、小難しいことを考えてしまうのは、ボクの悪い性分だ)



男(結局のところボクは……親友を信じたいだけだってのにさ)



男(今までボクを助けてくれた彼を、信じたいだけ……)

男(それだけなのに……本当、複雑に考えすぎだよな……)

627:2012/03/31(土) 01:03:44.76 ID:
~~~~~~

カツン…

男(さて……あの人は……)キョロキョロ

コツ、コツ、コツ…

男「…………」キョロキョロ…

――ビクッ!――

――ブルブル…――

男(……相変わらず、怯えたような気配が牢の中からするな……)

男(……まぁ、当然か……)

男(始めて来たときはまだ、この子達の扱いが人間の奴隷と同じだと思っていた時だったから、考えもしなかったけれど……)

男(……今みたいに“王を信じたい”なんて立ち位置じゃなく、“王を信じてる”って立ち位置だった時は……気にも留めなかったけれど……)

男(……今の立ち位置に立って思うのは……彼女達が怯えているのは、当然だということばかりだ)

男(なんせ相手に見定められてしまえば、○されてしまうのだから……)

男「…………」

男(……あの頃聞かされた“味見”という言葉は、この場で○す、という意味だったんだろう)

男(だからこそこうも怯えている。人間の男に○されるかもしれないという恐怖があるのだから)

男(……だからといってあの時から、そういう意味だと分かっていたところで……きっと何も出来なかったのだろう、ボクは)

男(事前に知ってしまっていればきっとボクは、“面倒事はゴメンだ”と思い、自分がすべき罪滅ぼしを優先し、そもそも奴隷市場に足を向けることも無かった)

男(今よりも苦労して、時間をかけて自力で秘術を編み出して、今現在より効率の悪いソレをなんとか使って……)

男(狂化された皆を治して、きっと後輩の頼みを聞いて……宮廷魔法使いに復帰していて……そこで終わっていた)

男(罪を償い、法を○すことなく、生きていくことになっていた)

男(……究極のところ、あの頃何も知らなかったからこそこうして、この子達を助けようという行動に移れているんだろう)

男(ボクという人間は)

628:2012/03/31(土) 01:05:49.82 ID:
コツン…

男(一番奥まできてようやく……いた)

スッ…

エルフメイド「……また、○すつもりですか? ついさっき終えられたばかりのように、私は思うのですけれど……」
エルフメイド「口答えは許してもらえないかもしれませんが……私もさすがに、辛いですよ……今までよりも多い頻度となると」

男「……………………」
男「……あの人なら、死にましたよ」

エルフメイド「えっ……?」バッ

男「ボクが、殺しました」

エルフメイド「あなたは……」

男「覚えてくれていますか?」

エルフメイド「ええ……」
エルフメイド「こんなところに来る人として、相応しくない人でしたから……」

エルフメイド「それになにより、あの子から何度も聞かされていましたし……」
エルフメイド「さすがに、実物を見たのは、本当に久しぶりですけれど」

男「でしょうね。ボクだって、あなたを見たのは久しぶりです」スッ

スパン…!

男「ふっ!」ガッ!

ガラン、カランカラン…!

エルフメイド「蹴りあけるなんて……意外と強引なんですね」

629:2012/03/31(土) 01:08:05.83 ID:
エルフメイド「ああ、ですが、せっかく開けてもらえましたが、あまり近づかないで下さい」

男「え?」

エルフメイド「今、服を何も着ていないので」
エルフメイド「さすがに、あなたにまで裸を見られるのは、私でも恥ずかしいですから」

男「……服を、着ていない……?」

エルフメイド「ええ。皆に着せられているようなものもありません」

エルフメイド「本当に……一糸も纏っていないのです」
エルフメイド「罰……だからと」

エルフメイド「魔法を使えば風邪だってひかないんだろうって、決め付けられまして……」
エルフメイド「今の私には、そんな微調整された熱を発することすら出来ませんけれど……ね」

男「……分かりました。では、ここで」

エルフメイド「はい……」
エルフメイド「それで……どうして、この場所に……?」

男「どうしても何もありませんよ」
男「あなたと秘術を使って会話をしていたあの子が心配していたから、様子を見に来たんですよ」

男「あなたと突然会話が出来なくなった、って、すごく心配してましたよ」

エルフメイド「そう、ですか……」

630:2012/03/31(土) 01:09:31.11 ID:
男「……まぁ、かけていた秘術を解除した、というのは聞きましたよ。上でね」
男「だから秘術の効力が消え、会話が出来なくなったのでしょう?」

エルフメイド「はい……。……もしかして、その秘術を消した理由も……?」

男「……はい。聞きました」

エルフメイド「そうですか……」

男「それはもしかして……この場所にいるエルフ全員が……?」

エルフメイド「いえ……今は私だけです」

エルフメイド「嘘を吐いていた私が信用できぬからと、本当に妊娠するかどうかの実験だと称して、私ばかりを……」

男「…………」

エルフメイド「そうして、本当に妊娠するようになるのを確認した後、既に売られたエルフの元へと行き、秘術を解除して妊娠できるようにするからと提案して、お金を稼ぐつもりだったようです」

男「……………………」

エルフメイド「それよりも一つ、私も訊いて良いですか?」

男「……なんです?」

631:2012/03/31(土) 01:11:06.12 ID:
エルフメイド「上にいたあの人を殺したと言いましたけれど……どうしてですか?」

エルフメイド「私の様子を見に来ただけなのなら、買いに来たとすれば済む話です」

エルフメイド「私を救ってくれるというのなら、その時にその力で脅せばすむ話です」

エルフメイド「わざわざあなたが、人を殺すだなんて重い罪を背負ってまで……することじゃないはずです」

エルフメイド「それなのに……どうしてですか?」

男「ん~……でもボクはそもそも、アレを殺したことを罪だとは思っていませんし、人殺しがダメだとか唱える非戦争時代に生まれた訳でもないですからねぇ~……」

男「まぁ、この国の法律的には確かに罪になるんでしょうけれど……罪と思っていないボクにとっては、些細なものです」

男「それに、殺したのにはちゃんとした理由がありますよ」
男「あなたと……ココにいるエルフ皆を、逃がすためです」

エルフメイド「え……?」

男「そのためには上にいたアレは邪魔ですし、アレを見張っているヤツも邪魔でした」
男「だから、殺したんですよ」

632:2012/03/31(土) 01:12:25.81 ID:
エルフメイド「……人間のあなたが、私達エルフを、助けるのですか……?」

男「はい」

エルフメイド「……何か、裏でも……?」

男「ありませんよ。純粋な好意です」
男「ボクが買ったあの子に頼まれたから、ですよ」

エルフメイド「そうですか……」
エルフメイド「……そうでしょうね……」

男「え?」

エルフメイド「あの子からあなたの話を聞かされていた時から、そういう人なんじゃないかと、そう思っていました」
エルフメイド「ただ本当にそうされると、動揺はしてしまいますが……」

男「…………」

エルフメイド「……私達は、本当にあなたを信じても良いのですか?」

男「信じて欲しい、とは思いますね」

男「ですが、あなたがボクを疑う気持ちも分かるんですよ」

男「今までのは全て、こうなることを見越して行ってきたのではと……突拍子が無いけれど考えてしまうのは当然ですし」

男「何よりあっさりと、あなた方でいうところの“同胞”を殺す人間です」

男「何を企んでいるのか、いつ裏切られるのか、言う通りにした先に罠があるのか……そういうのが分からない」

男「だから疑う」

男「それは当然だと、ボクも思う」

633:2012/03/31(土) 01:14:08.35 ID:
男「でもボクは、その疑いを払拭する術を持ち合わせていない」

男「言葉を重ねても信じられない存在である人間のボクが、どれだけ言葉を重ねても無駄だということは、分かっています」

男「ですから、こう考えてはくれませんか?」

男「このままココにいても、別の奴隷市場に移動されるだけかもしれない」

男「それならば、同胞二人に頼まれたからと言ってやってきた人間を、試しに信じてみても良いんじゃないかと」

男「少し分の悪い賭けをする……そんな気持ちで、逃げ出してみませんか?」

エルフメイド「…………」

男「ただボク個人の言葉としては……ボクに、救わせて欲しいです」

男「もう……こんな場所にいさせるのは、イヤですから」

エルフメイド「……逃げた先のことは、考えているのですか?」

男「それなりに考えはありますよ。ただ今のところ、実現できるとも思っていませんけれど」

エルフメイド「……………………」

エルフメイド「……分かりました」

エルフメイド「では私達はどうやって逃げれば良いのか」

エルフメイド「それを、教えてください」

エルフメイド「出来うる限り、私はあなたに協力しましょう」

エルフメイド「仲間への話だって、通しましょう」

エルフメイド「だから私たちを……助けてください」

男「……ありがとうございます。分の悪い賭けに乗ってくれて」

エルフメイド「違いますよ」

男「?」

エルフメイド「分の悪い賭けじゃありません」

エルフメイド「同胞が信じたあなたを信じることが、分の悪い賭けのはず、ないじゃないですか」

634:2012/03/31(土) 01:15:19.21 ID:
エルフメイド「同胞があなたに頼み、あなたが助けに来てくれた……それも、同胞が付き添うことなく……」

エルフメイド「それは同胞が、あなたを信用していることの、何よりの証」

エルフメイド「ですから、分の悪い賭けなんかじゃありません」

エルフメイド「信じるに値する、協力すれば成功率の高い、そんな一種の、作戦のようなものなのです」

男「……本当、エルフの仲間意識は素晴らしいな……」

男「仲間が信じた人だから信じられるなんて……人間では考えられませんよ」

エルフメイド「もちろん私たちだって、多少の疑いは持ちますよ」
エルフメイド「ですが同時に、多大に信用もします」

男「……それが人間には出来ないんですけどね……」

男(それが出来ればボクだって……王のことを、あっさりと信じられたのか……)

男「……いや、考えても意味の無いことか……」ボソ

エルフメイド「?」

男「いえ。少し、勝手なことを考えただけですよ」
男「それよりも、お話します」



男「ボクのしたいことを。あなた達エルフに、して欲しいことを」

635:2012/03/31(土) 01:17:31.93 ID:
~~~~~~

男「…………」

エルフメイド「…………」

男「……どうでしょう?」

エルフメイド「……つまり、私たちエルフに囮になってほしいと……そういうことですか?」

男「はい」
男「その首輪の探知魔法、それを利用しない手はありません」

男「それでわざと探知させて、騎士団を少しでもボクの屋敷に向かわせるんです」

エルフメイド「……私たちを、あなたの屋敷に向かわせることで……」

男「はい。場所はこの地図の通りです」

エルフメイド「……それは、安全なの?」

男「今の時間帯から歩き続ければ、エルフの足でも昼を少し過ぎた時間には着くと思います」
男「食料や水は、この市場に貯蔵されている分から持っていってください」

男「それに、屋敷に着けば部屋もあります。ちゃんとした場所で眠ってもらうよう、屋敷に残してきた二人に頼んでいますし」

エルフメイド「でも……言ってしまえば、山登りですよね……? この落ちた体力でそれは……」

男「体力が低いボクでも無理をすれば上り下りが出来るんです。女性のエルフ方とはいえ、不可能ではありません。多少の時間の前後はあるでしょうが」

エルフメイド「…………」

男「それと安全面の話になるのですが、おそらく騎士団がその屋敷に着くのは夕方を少し過ぎた頃になるかと思います」

エルフメイド「その根拠は……?」

男「ボクの屋敷に逃げているのなら、つい本日、城へと向かったボクを疑うのは当然」

男「それも、ボクがエルフを買っていた、という情報だって、向こうにいっているはずなんです」

636:2012/03/31(土) 01:19:03.46 ID:
エルフメイド「それなら逆に、あなたの屋敷に向かう兵の数が多くなるだけでは……?」

男「違うんですよ」
男「ボクはこれでも、自分で言うのもアレなんですけれど、それなりに名が通っていましてね……」

男「そのボクが――エルフを奴隷として買っていたボクが、城を訪れたその深夜に、エルフの大脱走が起きれば……」

エルフメイド「……あなたがやっていたと疑われる……」

男「その通り」
男「そしてそうなると、ボクがこの街を出ていないかもしれないという話になる」

男「もちろん、エルフ達を引き連れて一緒に屋敷へと戻っている可能性も考慮されるでしょうが……それでも、街にいる可能性がゼロじゃないとなる」

男「……ここからは、人間の愚かな部分になるのですが……」

男「もしボクがこの街を出ていなければ、他のエルフの奴隷市場……もしくは、エルフを買った貴族達の元へとやってくるかもしれないということになります」

男「さてこの場合、優先すべきはどちらなのか?」

男「逃げて屋敷へと戻ってしまっているかもしれない可能性なのか? 街に残っているかもしれない可能性なのか?」

637:2012/03/31(土) 01:20:36.60 ID:
男「後者なんですよ。圧倒的に」

男「何故なら、貴族達が狙われるかもしれないんですから」

エルフメイド「…………」

男「……彼等は政治にも介入してきています」
男「なら彼等が保身に走るのは明白」

男「となれば、街には強い兵士を残すもの」

男「必然、屋敷には新米の兵ばかりが向かうことになる」

男「そうなれば、軍馬を貸し与えても乗りこなせない兵ばかりになる」

男「歩いて向かうことになり、さらには集団での移動となるので……疲弊しているエルフ達でも逃げ切れる速度になる」

男「だから、逃げ切れます」

エルフメイド「……あなたは、それで大丈夫なのですか?」

男「大丈夫ですよ。ボクが弱いのは数です」
男「質量で押されなければ、不意を衝いて倒せます」

男「ボクの魔法は、そういうのに向いてますから」

638:2012/03/31(土) 01:22:16.94 ID:
エルフメイド「……沢山の兵を……人間を、殺すのですか?」

男「さすがに、兵までは殺しませんよ」

男「兵達は任務のために貴族を守っているのに……それまで殺せば、それこそ法ではなく罪を○したことになる」

男「それは……ボクの望むところではありません」

エルフメイド「……もしかしてあなたは……屋敷にいる二人に、このことを……?」

男「話しましたよ。もちろん」
男「人数が多くなるだろうから、逃げてくるエルフ達を守ってあげて欲しいとね」

エルフメイド「違います。そうじゃありません」

男「?」

エルフメイド「あなたが戦う相手が強い兵ばかりになる可能性があると、そう話したのですか?」

男「…………」

エルフメイド「……話していないんですね……」

男「……まぁ、そうですね……気を遣わせるのもアレですし」

エルフメイド「私たちからしてみれば、保身に走って強い兵を残す感覚が分かりませんから……向こうも想像なんてしないでしょうしね……」

男「…………」

エルフメイド「……エルフを助けて、あなたに利益はないはずです」
エルフメイド「それなのにどうして、そこまで辛い目に遭えるのですか?」

男「ボクにしてみれば、歴戦の相手でも不意さえ衝ければ弱いですから……別に辛くもなんともないんですが……」

男「まぁ、そうですね……強いてあげれば、罪滅ぼし、でしょうか」

639:2012/03/31(土) 01:23:32.24 ID:
男「ボクの作った狂化の魔法水のせいで、エルフ達が負けた」

男「そのせいでエルフ達が、辛い目に遭っている」

男「だから、その罪を償いたい」

男「そんなところです」

エルフメイド「…………」

男「…………」

エルフメイド「……はぁ……本音を語っては、くれないのですね」
エルフメイド「いえ、十分に本音なのでしょうけれど……それが大部分を占める理由ではないのでしょう?」

男「……どうしてそう思うんですか?」

エルフメイド「分かりますよ。これでも私は、沢山の人間を見てきました」
エルフメイド「欲望に塗れた人間ばかりですけれど……それでも、見てきたんです」

エルフメイド「だから分かります」

エルフメイド「あなたがそんな、罪の意識を大部分にしての理由で、ここまでのことをしていないことぐらい」

男「…………」

エルフメイド「……まぁ、私がそう感じれるということは、あなたが頑張る理由というのはきっと、少しばかりやましい、欲望があるものなのでしょうけれど……」

エルフメイド「それでもまぁ……私たちを助けることが、あなたの欲望を満たすことになるのなら……」

エルフメイド「それはそれで、ある意味さらに信用できることなのでしょう」
エルフメイド「少なくとも、ここから出られるという意味では」

640:2012/03/31(土) 01:25:55.03 ID:
エルフメイド「では、この方法を取りましょう。この場所でのこの会話は聞こえているはずですから、皆も出せば、協力してくれるはずです」

エルフメイド「ですが一つ、その方法で出来ないことがあります。そこだけは修正して欲しいのですが」

男「どこですか?」

エルフメイド「私と一人だけが別行動を取る、といった部分です」

エルフメイド「だって私は、ここを離れるつもりがありませんから」

男「……えっ?」

エルフメイド「そんな意外そうな顔をされても……」

男「もしかして……あなただけは、ボクを信用していないのですか?」

エルフメイド「違いますよ。もしそうなら、ここにいる同胞だけを、あなたの方法に従わせるはずないじゃないですか」

男「なら……どうして?」

エルフメイド「…………」

男「あなたと会話をしていたあの子は、あなたに会いたがっていました」
男「今まで自分と会話をしてくれていた、あなたに……」

男「だから、行きたくないというのなら、その理由は知っておきたい」

エルフメイド「……………………」

男「……どうしてですか……?」

男「もしかして……ここを、離れたくないとか……?」
男「ボクが殺した上の奴が、忘れられないとか……?」

エルフメイド「そんなはずないですよ。無理矢理○されていたのに好意を抱くなんてこと、あり得ませんよ」

男「では……どうしてです?」

エルフメイド「………………………………」





エルフメイド「……私が、秘術を解除して、あの人に抱かれてしまったからです」




男「……………………え?」

641:2012/03/31(土) 01:26:55.87 ID:
エルフメイド「エルフというのは、一度子供が作れる時期に入ると、結構長いんです」

エルフメイド「あくまで人間の時間で考えれば、ですけれど」

エルフメイド「逆に言えば、子供が作れない時期に入れば、それもまた結構長いんですけれどね」

エルフメイド「……あなたに買われた二人目が、私の秘術を施す前から○されていても子供が出来なかったのは、偶然にも、子供が作れない時期だったからなんです」

エルフメイド「ですが……私は生憎にも、子供が作れる時期だったんです……」



男「…………まさか……」



エルフメイド「……はい……」





エルフメイド「私の胎内には、あの醜い人間の子供が、宿っているんです」





エルフメイド「それが、分かってしまうんです」

642:2012/03/31(土) 01:30:17.60 ID:
男「まさか……残って産むつもり……ですか?」

エルフメイド「そんな訳ないですよ。……気持ちの悪い」



エルフメイド「ただ私は、死にたいだけです」



男「なっ……!」


エルフメイド「……救われたいんです」



エルフメイド「こんな子供は産みたくない。だから死んで、救われたいんです」



エルフメイド「……出来た時からずっと……そう思い続けていました」


エルフメイド「私が死ねば、同胞へとかけていた秘術も、首輪の封じを超えない限りは、解かれなくなりますし……」


エルフメイド「死んでしまえば、妊娠防止の秘術も、そのままになって……全てが、上手くいく」


エルフメイド「そう考えていて……だからこそ、ずっとずっと、死んでしまいたかった……」



エルフメイド「でも……今まで死ねなかった……」



エルフメイド「でも……今は死ねる」

スッ

男「っ!」



エルフメイド「あなたが破壊してくれたこの牢の鉄片……これさえあれば……」



エルフメイド「道具さえあれば……私は、死ぬことが出来る」



エルフメイド「ですから私は……ここで、死にます」

643:2012/03/31(土) 01:31:28.32 ID:
男「……だから、一緒に逃げられないと?」

エルフメイド「はい。……もう、良いでしょう?」

男「子供を堕ろすというのは……?」

エルフメイド「……秘術というのは、精霊に認められている必要があるのです」
エルフメイド「そして精霊に認められるとは……自らが作った生命を殺さぬこと……」


エルフメイド「つまり、自分の子供を殺しては、いけないのです」



エルフメイド「もし子供だけを殺せても……秘術が使えない」


エルフメイド「だったら……そんなもの……死ぬのと同じじゃないですか」


エルフメイド「人間よりも弱いエルフが……秘術がなければ人間にも勝てないエルフが……ソレを失くした先に……」





エルフメイド「何が、あると言うんですか……?」

644:2012/03/31(土) 01:33:05.66 ID:
男「…………」



エルフメイド「それに……本音を漏らしますとね……もう、限界なの……です……」

エルフメイド「同胞のために○されて……でも、同胞のためだからと我慢して……」

エルフメイド「でも、自分で選んだはずなのに、どうして私だけがこんな目に、なんて考えてしまって……」

エルフメイド「そんな自分が、大嫌いになって……」

エルフメイド「それでも、頑張って頑張って、押し殺して押し殺して、同胞のために無茶を続けて、同胞も辛いのだからと言い聞かせて保たせてきて……」





エルフメイド「でも、そうして……そうして頑張ってきた果てが……! 醜い、人間の子を、孕むことだなんて……っ!」





エルフメイド「もう……イヤなの……!」

エルフメイド「生きているのが……辛いの……!」

エルフメイド「だから……お願い」

エルフメイド「もう無理はしたくない……」

エルフメイド「だから……殺させて」

エルフメイド「私を」

エルフメイド「私を……救わせて……」

エルフメイド「救って」





男「…………」

645:2012/03/31(土) 01:34:31.19 ID:
男「…………分かりました」

男「それなら、三つほど条件があります」

エルフメイド「私が死ぬのに、あなたの条件を呑む必要があるのですか……?」

男「ボクの方法を作戦と称したのはあなたです」
男「なら、その作戦を狂わせるのなら、少しばかりボクの我侭に付き合ってくれても良いじゃないですか」

エルフメイド「…………」

男「まぁ、条件だけでも聞いてください」

男「一つ、その鉄片を刺すのはお腹にすること」
男「正確には、その中にいる子供を狙って欲しいのです」

男「それだけイヤな子供なら、せめてあなたの手で、殺したいでしょう?」

エルフメイド「…………」

男「でもそうなると、おそらくは死ぬことが出来ないかもしれない」

男「ですから、二つ目です」



男「ボクが、終わりを務めます」



男「それで、確実に終われるでしょう」

エルフメイド「……あなたはまた、辛い役目を買って出るんですね」

男「確かに、今度ばかりは辛いですけれど……」

男「それでも……あなたに子供が出来たのは、ボクのせいでもありますから」

男「ボクが悠長に、五日も期限を作ったから……」

男「もし少女ちゃんから事情を聞いて、すぐにでも飛び出していれば……もしかしたら……」

646:2012/03/31(土) 01:35:54.05 ID:
男「……いえ、言っても仕方の無いこと、ですね……」

エルフメイド「…………」

男「ともかく三つ目は、簡単です」
男「秘術が使えなくなる前に、ボクにも他のエルフにかけている秘術をかけて欲しいのです」

エルフメイド「通信秘術ですか?」

男「はい」
男「あれをかけて会話をすれば、心の中でも会話が出来るようになるんですよね?」

男「それはつまり、あなたにその秘術をかけてもらえるほど信用してもらえた、という何よりの証になります」

男「それだけで、他の屋敷に買われていったエルフとの交渉が、スムーズにいきますしね」

エルフメイド「…………」

男「どうでしょうか?」

エルフメイド「……分かりました」





エルフメイド「その条件、呑みます」





男「……ありがとうございます」





エルフメイド「いえ。これも、私を殺して、救ってもらえるのなら……」

エルフメイド「何より、憎いこの子を、自らの手で殺させてくれることなのなら……」





エルフメイド「喜んで、それぐらいの条件を、呑みましょう」

647:2012/03/31(土) 01:36:37.85 ID:
~~~~~~

男(……バカだ、ボクは)

男(悠長に構えていたせいで……こんなことになってしまった)

男(確かに、優先順位としては、狂化された兵士を救うことが、一番だった)

男(でもそれよりも早く、この子達を救うべきだったんだ)

男(自分勝手に、自分本位の方法を取ろうとするから、こんな……犠牲者が、出てしまった……)

男(あの時……少女ちゃんが飛び出ようとするのを止めず、一緒に行っていれば……)

男(……救えたかもしれない……)

男(ボクの罪は、償えなくなっただろうけれど……彼女を……)

男(いや……そうじゃない。そうじゃないだろう、ボク)

男(失敗したのは、そうじゃなくて……順番だ)

男(兵達を救うのは、もう少し後でも、可能になったかもしれなかったんだ)

男(それなのに、彼等をいち早く救いたいからと……自分を優先して……)

男(いや……ソレも違う。そうなると今度は、彼等をまた、時代に取り残してしまって……)

男(……………………)

男(ああ……なんだ……そういうことか)

648:2012/03/31(土) 01:38:36.93 ID:
男(結局コレは、二つのうち一つしか取れない……そういうこと、だったんだ……)

男(ボクが自分の罪を償うために兵を取ったから……少女ちゃんが会いたがっていた彼女を、傷つける結果にしてしまった)

男(逆を選べばきっと……今度は兵を救うのが、さらに後になったか……もしくは、救えなくなっていた……)

男(…………正解なんて、どこにも無かった…………)

男(そういうこと……だったんだ……)

男(結局、どちらを選んでもボクは……)



男(新たな罪を、背負うことになっていたんだ……)



男(自分の罪の償いを放置し、救うべき他人よりも、己の願望を優先した罪か……)

男(大切な人との約束を破って、その大切な人が救って欲しいと願った人を、己を優先したが故に傷つけた罪か……)

男(その、どちらかの新たな罪を……結局は……)



男(こうして、背負ってしまうことは、決まっていたんだ……)



~~~~~~



男「…………」

男「……それでは、約束どおり……」

男「……あなたを、救います」

エルフメイド「……お願いします」













ズシュッ…!

675:2012/04/01(日) 01:05:19.87 ID:
~~~~~~

翌朝

◇ ◇ ◇
  王宮
◇ ◇ ◇

大臣「エルフが逃げ出したか……」

兵士「はい。報告によれば、街からはすでに脱出していると」

大臣「なぜ街を出るまで気付かなかった? 見張りの兵は何をしていたのだ」

兵士「それが……ことごとくが眠らされていまして……」

大臣「眠らされて……? ……魔法か……逃げ出したエルフが……?」

兵士「そこまでは……」

大臣「ふん……一兵士にそこまでは期待しておらんさ」

大臣(しかし……首輪で魔法は封じられているはず……)

大臣(なら……手引きした人間がいるのか……?)

大臣(……いや……それだとエルフが言うことを聞くはずが無い)

大臣(アレらは私達人間のことを毛嫌いなんてレベルじゃないほど拒絶している……)

大臣(それなら助けに来た人間の言うことを聞くはずは……)

大臣(……まさか……我々が捕まえていないエルフが、街に侵入して……?)

676:2012/04/01(日) 01:06:58.76 ID:
兵士「どうされますか?」

大臣「……エルフは守るべき存在だ。奴隷として扱っているが、それはつまり、養ってくれる人を見つけ、保護すること以外の何物でもない」

大臣「万一向こうが私達人間を警戒して逃げ出したのならそのままでも良いのだが……」

大臣「逃げ出した……にしては、出来すぎている」

大臣「私たちが捕まえていないエルフが脱出を手引きした可能性もあるが……」

大臣「それよりも、人間の手によって誘拐された可能性も大いにある」

大臣「よって我々としては、彼女たちエルフを救うという義務がある」

大臣「それこそが、彼女たちを保護した、我々の責任だ」

大臣「……宮廷魔法使いの後輩をココに呼べ」

大臣「相手が誘拐○であれエルフであれ、魔法を使えることに変わりは無い」

大臣「ならば彼を呼び、すぐさま対策を話し合うぞ」

677:2012/04/01(日) 01:09:52.76 ID:
~~~~~~

◇ ◇ ◇
  屋敷
◇ ◇ ◇

エルフ少女「……大丈夫かな……旦那様は……」

エルフ奴隷「……はぁ……」

エルフ少女「えっ?」

エルフ奴隷「昨日から数えて通算三桁の大台に突入した心配ですよ……さすがに私だって、ため息が漏れます」

エルフ少女「むぅ……じゃあ奴隷ちゃんは心配じゃないの?」

エルフ奴隷「心配ですよ。ただ、あなたが心配しすぎなだけです」
エルフ奴隷「一人がパニックになると妙に冷静になったりするじゃないですか? あれですよ」

エルフ少女「……そんなに冷静だから、わざわざわたしが心配した数を数える余裕もあったってこと?」

エルフ奴隷「……私も心配しているから、動揺して、落ち着くために、何度もその数を数えてしまっているのですよ」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「さぁ……この話はもう終わりです。朝食も終えましたし、私たちも準備をしましょう」

エルフ少女「……そうだね」
エルフ少女「なんせ昼を過ぎてからは……同胞がここに、やってくるんだしね」

678:2012/04/01(日) 01:12:47.63 ID:
~~~~~~

◇ ◇ ◇
奴隷市場
◇ ◇ ◇

男(まさか、食料保管場所が、こうした隠し部屋にあるとは……)

男(まぁ、アレだけ長い階段なんだ。途中にこうした部屋があってもおかしくは無いんだけど……今まで気付きもしなかった)

男(食料や水を確保するためにエルフメイドさんに聞いておいて正解だったな……こんな場所、普通に見つけられなかった)

男(そうなれば皆に無装備であの山を登らせることになるところだった……)

男(……まぁ、何にしても……この、バレないであろう隠し部屋で、魔法の準備をしないとな……)

男(本当なら秘術もストックして準備したいところなんだけど……)

男(……まぁ、魔法の方を優先か……)

男(秘術は時間が掛かるしな……作って持ってきたこの三つで、どうにかするしかない……)

男(本当はもう一つ、あと一つしかないコレを作っておきたかったんだが……)

男(……しかし、魔法の方を優先だ。なんせ魔法の方は当初、全ての数を準備をしておくつもりだったんだからな……)

男(…………せめて、数ぐらいは届かせないと……後々に差し支える)

ザラ…

男(魔力を何度も何度も回復して……エルフの首輪を解除する魔法を、出来る限り作り上げる)

男(そして、攻撃用の魔法を数種類と……足元に撒く用の魔法もいくつか、魔力を込めておいて……)

男(それで……あの奴隷市場から買われていったエルフ達を皆を、助ける)

男(他の奴隷市場で買われたことは情報が無いから助けられないのが悲しいが……)

男(それは……いずれ、王に直接訴えるしかない、か……)

679:2012/04/01(日) 01:15:19.75 ID:
~~~~~~

◇ ◇ ◇
大臣の部屋
◇ ◇ ◇

兵士「例の奴隷市場の異常に気がついたのは、見張りからの報告がこなかったからです」

後輩「見張りからの報告?」

兵士「はい。奴隷市場各所に配置されている見張りは、朝一番に一度城へと戻って、異常か無いかどうかの報告義務をしないといけないことになっているのです」

大臣「今は、エルフの奴隷達ばかりですからね……何か異常があればすぐに気付けるようにと、王が」

後輩「では、今回の異常を、王はもう知っているのですか?」

大臣「いえ、私のほうから止めさせていただきました」

大臣「王にこれ以上の仕事を任せるのは酷ですからね」
大臣「男殿のおかげで、狂化されていた兵士が戻った。その後始末だって新たに増えましたし」

後輩「……そうか……そうですね。だから僕たちだけで解決しようと?」

大臣「そういうことです」

大臣「私の権限があれば騎士団だって動かせますし、暗部だって動かせます」

大臣「まぁ、さすがに王直属護衛騎士団までは動かせませんけれど……」

大臣「ですが、私が動かせる部分だけでも、○人を捕まえることは出来るでしょう」

大臣「なにより、あなたがいるのですからね」

後輩「…………」

大臣「これは、王のためなのです。あなたの尊敬する、あなたを救ってくれた、あなたが助けたいと思う王」

大臣「あなたが心底信頼する王のために、どうかその力を……お貸しください」

後輩「……………………」
後輩「……分かりました。必ず○人を、捕まえましょう」

大臣「……ありがとうございます」









大臣(……ふっ、ちょろい)

680:2012/04/01(日) 01:17:17.68 ID:
大臣(男は自分の行動を罪と責め、償うためにココを離れた)

大臣(あれだけ国のためになるものを作っておきながら、罪悪感に押しつぶされた)

大臣(そのせいで、「王のためだ」と私が言ってもあの魔法の水を作らなくなり……あまつさえ解除するための魔法の研究を始めた)

大臣(その姿を見た王が使うべきではないと言ってしまったが故に、戦争の終わりには使わなくなってしまった)

大臣(あのまま使い続けていれば、あと一年は早く終わらせられたものを……)

大臣(……まぁ、結局は勝てたし、解除するための研究も上手くいったようだから良いのだが……)

大臣(しかし次は……騙していた私のことを信用しなくなり、その研究の成果を渡さないと言ってきた)

大臣(もう使うつもりが無い王が、その研究の成果を渡せといっているなんて言っても信用しないだろうしな……)

大臣(だがもし、それさえあれば、王を説得せずとも、あの狂化される魔法水を作らせ、戦争で使って、その場で解除して、王にバレぬように勝っていくことだって出来る……)

大臣(本当、勿体無い)

大臣(もっともっと、わが国の領土を広げられるというのに)

大臣(本当に、臆病な奴だった)

大臣(だが……この男は……まだそうはなっていない)

大臣(これだけの才能を、「王のため」の一言で、自由に扱うことが出来る)

大臣(心酔しきってくれていて、本当に良い……)

大臣(本当に、扱いやすい……)

681:2012/04/01(日) 01:17:56.71 ID:
大臣(コイツは私が定めた、エルフの裏協定も知らないからな……)











682:2012/04/01(日) 01:20:35.29 ID:
兵士「奴隷市場で殺されたのは、奴隷商とその見張りの各一名ずつ。双方共に戦闘能力は無し」

大臣(正確には見張りは国の暗部である暗殺者だったからな……一人の戦闘能力は高かった)
大臣(だがそれでも……殺された)

兵士「時間は夜中。その二名を殺した後にエルフを逃がし、それら全員を引き連れてか……もしくは、エルフのみでその場から脱走」
兵士「その際街を巡回している兵がその集団を見つけるよりも早く、眠らせています」

後輩「この段階で魔法使い、もしくはエルフのどちらかがいるのは確定していますね」

大臣「そしてその後、街の外へと逃げている……」

後輩「…………」
後輩「……エルフには僕がつけた首輪がありますよね? それでどこに向かっているのか分かりませんか?」

兵士「あ、すいません。すぐに調べるよう――」

後輩「ああ、いや、良いよ」スッ、スッ、スッ…

スゥ…

後輩「……ふむ……場所は……この街から少し離れた……山に向けてですね……」

大臣「山……? 方角は分かりますか?」

後輩「地図を」

兵士「はっ」

684:2012/04/01(日) 01:22:21.15 ID:
パサッ

後輩「ちょうどこちらの方向です」

大臣「この山は……」

後輩「どうしました?」

大臣「……元宮廷魔法使いの男殿が住んでいる屋敷がありますね」

後輩「な……!」

大臣「なら○人は……彼?」

後輩「そんな……! 先輩がそんなことを……っ! 彼だって王に救われ、王を尊敬している人です!」

大臣「ですが……エルフ達がこちら側に逃げているとなると……」

後輩「っ……!」
後輩「……いや、確か先輩は、エルフの奴隷を買ったと言っていました!」

後輩「もしかしたら、その子達が……!」

大臣「なるほど……○人はエルフの可能性もありますし……その可能性も……」

大臣(男がエルフを買ったという情報は隠しておいたほうが色々と有利になると思っていたが……後輩であるコイツには話しているのか……)

後輩「エルフが可哀想だからと、僕の首輪の魔法を、探知の術式だけ残して解除したのかもしれません」

後輩「いえもしかしたら、エルフに騙されて……そのようなことを……」
後輩「首輪の術式も知っていたようですし……」

685:2012/04/01(日) 01:24:23.14 ID:
大臣「では他の手がかりで、男かそのエルフか……もしくは全く関係の無い、賊の可能性も考慮して、どれかに絞れませんか?」

後輩「……奴隷商とその見張りは、どうやって殺されたか分かる?」

兵士「はっ。見張りの兵は投げられたかのように骨が粉々に、奴隷商は心臓を一突きされて、それぞれ絶命しております」

後輩「刃物の類は?」

兵士「落ちておりません」

大臣「ふむ……普通に考えれば、やはり魔法でしょうね……どちらのものかは分かりませんが」

後輩「…………エルフたちはどうやって逃げたか分かります?」

兵士「えっ?」

後輩「牢の鍵が開いて逃げたのか、それとも壊されてなのか……どっちかな、と」

兵士「あ、えっと……牢の鍵が開けられて、ですね」

大臣「まあ、奴隷商が持っていた鍵を使ったのでしょうな」

兵士「ですが……」

後輩「ん?」

兵士「一番奥の牢だけ、破壊されておりました」

後輩「一番奥だけ……?」

兵士「はい。それもそこだけ……なぜか、血の跡がありました」

686:2012/04/01(日) 01:26:42.77 ID:
後輩「……………………」
後輩「……これは……賊の可能性は無くなりましたね……」

大臣「ほう……その理由は」

後輩「見張りを置いている理由というのは確か、今地下の牢にはエルフしかいなくて何が起きてもすぐに対処できるように、という王の判断ですよね?」

大臣「はい」

後輩「なら、牢の一番奥にも、エルフがいたのでしょう」

後輩「そしてきっと、そこだけ鍵が無かったか……もしくは、この場所に来た人物が、殺した奴隷商が鍵を持っているということをこの段階で気付いていなかったか……」

後輩「まぁ、今はそのどちらでも良いのですが……どちらにしても、そこまでしてここのエルフを助けたかったいうことです」

後輩「もしただの賊だったのなら、わざわざ一人のエルフのためにここまでするのかという話です」

後輩「気まぐれでする可能性も確かにありますが……どちらかというと、意地でも救いたかったという印象があります」

大臣「何故……?」

後輩「血痕です。血の跡しかなかったということはきっと、怪我をしていたにも関わらず、共に行動しているということ」

後輩「つまり、そこまでして救いたかったということです」

後輩「もし賊なら、むしろ傷のついたエルフを放置していきそうですし。逃げる際の足手まといになる可能性を大いに孕んでしまいますからね」

大臣「では……」

後輩「はい……僕からしてみれば残念なことですが……」

後輩「先輩本人かその奴隷のエルフかは分かりませんが……どちらにしても、彼のところに行ってみるのが一番……真相に近づけると思います」

687:2012/04/01(日) 01:29:34.01 ID:
大臣「では、早速兵を向けましょう。元宮廷魔法使いの可能性があるのなら、それなりの精鋭を――」
大臣「――…………」

後輩「? どうされました?」

大臣「……いえ、精鋭を向けるべきではないのかもしれないと、そう思いまして……」

後輩「どうしてです? もし……いえ、確実に無いことですが……万一にも、先輩がこの件に絡んでいた場合……」

後輩「精鋭でなければ、負けてしまいますよ?」

後輩「いえ、この件に先輩が絡んでいなくても……相手はエルフ」

後輩「むしろ僕自身も、そちらへと向かわなければ……返り討ちにあってしまいます」

大臣「ですが……これで、終わるのですか……?」

後輩「え?」

大臣「賊の仕業じゃないと分かった今……この○人の目的は、エルフを救うこと、この一点に集約されます」
大臣「それなのに、この奴隷市場だけを狙って、あっさりと終わるのでしょうか?」

後輩「あ……」

大臣「もし、先ほど申した牢の奥の、意地でも助け出したかったエルフ……これが今、山へと逃げているエルフのリーダーになれるからという理由で助け出したのだとしたら……」

後輩「まだ○人は、この街にいる……」

大臣「はい。助けた本人が率いる必要性がなくなりますからね」
大臣「それにそもそも、相手が複数○の可能性もあります」

大臣「男殿と、その買われたエルフの……もしくは、男殿が絡んでいなくても、そのエルフの仲間……とか、色々なね」

後輩「…………」

688:2012/04/01(日) 01:31:21.03 ID:
後輩「では……精鋭を先輩の屋敷に向かわせるべきではないと?」

大臣「そういうことです」

後輩「なら誰を……」

大臣「……新兵の訓練にはちょうど良いかもしれませんな……」

後輩「なっ……! そんなもので……!」

大臣「いえ、ちゃんと精鋭の人間を隊長には据えますよ」

大臣「しかしですね、もし相手の目的がエルフを救うためとなると……狙われるのは、エルフを養うために買ってくれた、貴族様達になるのです」

大臣「もしここで彼等を守らなければ、せっかく国のためにエルフを奴隷として買ってくれた彼等への恩を、仇で返すことになってしまいます」

大臣「それはなんとしても……避けなければなりません」

大臣「王とて、そのような悲しいこと……望んでいるはずもありません」

後輩「くっ……!」

689:2012/04/01(日) 01:32:44.54 ID:
後輩「……ではせめて、そのエルフを追いかける追撃隊には、騎士長殿をつけてください」

大臣「なるほど……狂化の水を使うようになって尚、前線で活躍し続けたあの人を……」

後輩「はい。なんせあの人は、エルフとの戦争を最初から最後まで、前線で活躍していたお方です」
後輩「あの方を隊につけていってくれるのなら……僕は、この街に残って、貴族達の護衛を果たしましょう」

大臣「ふむ……そういえば彼は、キミが弓兵隊長として活躍していた時の戦友でしたね」

後輩「はい……」

大臣「親子ほども歳が離れているのに、かなり息の合った戦いが出来たとか……」

後輩「……年齢を感じさせないほど体力があったあの人だからこそ、ですよ」
後輩「むしろあの時は、僕がついていくのが精一杯でしたからね」

大臣「……なるほど……分かりました」
大臣「では彼を隊長として、エルフの追撃隊を編成しましょう」

後輩「はい」
後輩「よろしくお願いします」

690:2012/04/01(日) 01:33:44.34 ID:
~~~~~~

大臣(さて……さり気なく、男の屋敷へと向かわせる隊の編成を、こちらに一任させることに成功したぞ)

大臣「おい」

側近「はっ」

大臣「息子を呼べ」

側近「はっ、ただちに」

大臣(街の警護などの面倒ごとは上手くあの宮廷魔法使いに押し付けることも出来たし……)

大臣(これで、追撃隊の隊長を騎士長にしなくても、バレることはないだろう……)

大臣(これで、やるべきことをやってもバレない。集中できる。だから、やる)

大臣(この国のために……な)

691:2012/04/01(日) 01:34:56.32 ID:
~~~~~~

コンコン

――息子です――

大臣「入れ」

ガチャ

息子「失礼します」

大臣「ああ」

パタン

息子「で、用事って何? 父さん」

大臣「昨日深夜、エルフがいる奴隷市場が襲われた」

息子「へ~」

大臣「それで、その時に逃がされたエルフ達が、ある場所に向かっている」
大臣「お前にはその追撃隊の隊長をやって欲しい」

息子「え!? 隊長なんてやらしてくれんの!? らっき~♪」

大臣「ああ。コレで評価を得れば、お前の騎士としての立場はさらに強くなる」

息子「父さんったら、分かってるねぇ」

大臣「息子のためだ。父として当然だろう」

693:2012/04/01(日) 01:36:49.83 ID:
息子「で、場所は? つーか、率いる部隊は?」

大臣「新兵を基本とした魔法使いを含む混在部隊だ」

息子「え~? んなので大丈夫かよ。もしかして俺が戦ったりするハメになるんじゃねぇの?」

大臣「そうならないように指揮する練習だとでも思えば良い」
大臣「それに、追いかける相手はエルフだと言っただろう?」

大臣「魔法も使えない奴等ばかりだ。お前好みだろ?」

息子「マジかよ……最高じゃねぇか父さん!」

息子「他の貴族たちはあんな多種族を○して喜んでる気持ち悪い奴等ばっかりだが……アレを! 公的に! 殺しても良いってことだよなっ!?」

大臣「一応は、保護という形を取っている」

大臣「……が、まぁ、抵抗したということにすれば、殺しても良いさ」
大臣「どうせアイツ等の意思で逃げ出したんだ。王への誤魔化しもきくさ」

息子「やっり~♪」

大臣「ああ……だが、連れて行く兵の中に一人、騎士長を連れて行く約束になっていてな」

息子「え~? あの老害を?」
息子「アイツ、俺にキツい訓練ばっかさせて、自分は休憩ばっかしてるから嫌いなんだよねぇ~」

息子「俺は頭脳派だって言ってんのに、他の兵と同じようにキツい訓練ばっかさせやがってよ……」

大臣「まぁそういうな」
大臣「もし強い奴が出たらそいつに任せれば良い。息子のお前を守るための保険として必要だったんだよ」

息子「ん~……ま、父さんがそういうなら、仕方ないか」

大臣「ああ。我慢してくれ。お前はソレが出来る子だろ?」

息子「ああ! 当然だっ!」

694:2012/04/01(日) 01:38:24.28 ID:
息子「で、それを言うために俺を呼んだの?」

大臣「いや。実はお前にしか頼めない任務があってな……それを頼もうと思って」

息子「なになに?」

大臣「今回逃げ出したエルフ達が向かっている場所というのが、前までいた宮廷魔法使いが今住んでいる屋敷なんだ」

息子「ふ~ん……俺が会った事ある?」

大臣「いや、ないだろう」
大臣「まぁ、肝心なのはソイツ本人じゃないから気にするな」

大臣「肝心なのは……ソイツが研究していた魔法の資料なんだ」

息子「資料?」

大臣「ああ」

ガラ

大臣「これだ」

コト

息子「ん? なんだ、この瓶?」

大臣「戦争を勝ちに導いた、文字通り奇跡の魔法の水……狂化の水だよ」

695:2012/04/01(日) 01:40:12.83 ID:
大臣「コレを浴びせれば文字通り、その人間そのものとして狂う」
大臣「仕組みはよく分からないが、狂った人間は、人間の枠組みを超えて強くなる」

息子「なんか……危ないものだな……」

大臣「ああ。危ないものだ」
大臣「だからもう作られていない」

息子「じゃあ、なんで父さんは持ってるんだよ」

大臣「戦争中に、二つほど拝借していたのだ。こういう時のためにな」

息子「ふ~ん……で、コレと同じものを、その屋敷から見つけてこれば良いのか?」

大臣「いや、コレの資料を、その屋敷から見つけてきて欲しい」

息子「え~? 俺そんなの分かんねぇよ」

大臣「私だって分からないんだ。分からなくて当然だ」

息子「……じゃあどうやって見つけりゃ良いんだよ」

大臣「大部隊を連れて行くだろ? だから、その屋敷にある魔法の資料っぽいものを全て、その新兵達に持ち帰らせて欲しい」

息子「ああ……なるほど」

大臣「そうして持って帰ってきた中で、ここにいる宮廷魔法使いにでも見つけさせるさ」

息子「さっすが父さん!」

大臣(その中に、この魔法を解除するための魔法もあるだろうしな……)
大臣(これで今度は、隣の国へと戦争を仕掛けることが出来る……!)

696:2012/04/01(日) 01:45:20.01 ID:
息子「んじゃ、コレ自体はいらないってことか」

大臣「いや、持って行け」

息子「えぇっ? 間違って零したらどうすんだよ……それに、二つしかないんだろ? 危ない上に、んな貴重なもの預けられても困るって」

大臣「確かに一つはサンプルとして、イザという時後輩に研究させたいから使えないが……」
大臣「……逆に言えば、この一つは使っても良い分ってことだ」

息子「でも……」

大臣「そう不安がるな。これも持って行けば大丈夫なんだから」コト

息子「? なんだその、別の細長い瓶は」

大臣「これはな、この魔法で狂化された人間を、強制的に眠らせるものだ」

息子「は~……」

大臣「つまり、相手と苦戦するようなら、お前が買った子供の奴隷にでも、この狂化の水を持たせて、戦場の近くで自分に振りかけろ、とでも指示を出せば良い」

大臣「そしてお前が勝てそうになったその瞬間、今度は新兵にこの眠らせる水を絶対に浴びせて来いと命令すれば良い」

大臣「それで無傷で、お前はこの戦いに勝利することが出来る」

息子「なるほど……だがどうして狂化するのが奴隷の子供なんだ? 狂化するのも新兵で構わないだろ?」

大臣「新兵のような大人を狂化したら、今度はこの眠らせる水をかける前に殺されるかもしれないだろ?」

息子「でも子供を狂化したところで力になんのかよ……」

大臣「なるさ」
大臣「むしろ、子供でも十分に強いだろう」

大臣「おそらくは、お前の嫌いな騎士長ですら、勝てないほどにな」

息子「はぁ~……ま、父さんが言うならそうなんだろ」
息子「分かった。持っていくよ」

大臣「ああ」


息子「へへっ、それじゃあ、任務了解だ。バッチリ成功させてみせるぜっ。期待してろよ、父さん」


大臣「ああ。期待してるさ。自慢の息子よ」

785:2012/04/03(火) 00:58:31.99 ID:
~~~~~~

  ◇ ◇ ◇
王宮・後輩の部屋
  ◇ ◇ ◇

後輩「…………」

チャ…

後輩(……矢の準備も、弓の手入れも済んだ……)

後輩(もしかしたら今日の夜……先輩と、戦うことになるかもしれない)

後輩(……戦えるのか? 僕が)

後輩(この腕で、指で、矢を引けるのか……?)

後輩(……いや、引くしかない)

後輩(王のためにも……)

後輩「…………」

後輩(……あんなに、僕と同じで王を信頼していたのに……どうして先輩は……)

後輩(もしかして……罪滅ぼし、なのか……?)

後輩(あの魔法水の犠牲になったエルフを救うための……)

後輩(……いや、でも、今でも十分にエルフは救われている……)

後輩(人間の奴隷と同じ扱いなら……十分に、生きていけているはず……)

後輩(なら……どうして、こんなことを……?)

後輩(分からない……分からないけれど……)

後輩(もしコレが、狂化の魔法を解除したアレと同じ、罪滅ぼしのつもりだったのだとしたら……)





後輩(僕が、止めないといけない)




後輩(皆が迷惑しているだけだと、気付かせるためにも……)

後輩(先輩の、ためにも……)

786:2012/04/03(火) 01:00:41.35 ID:
~~~~~~

   ◇ ◇ ◇
奴隷市場・隠し食料部屋
   ◇ ◇ ◇

男「…………」

カラン…

男「ふぅ……」

男(とりあえず、首輪にある術式を解除する魔法のストックは、これで十分だろう)

男(次は攻撃用だけど……)

…カチャ…

男(魔力を回復させるための水が、一年分ほどしかないか……)

男「…………」

男(貴族に買われていったエルフ達の位置は、エルフメイドさんから教えてもらって、頭に叩き込んだ)

男(彼女に秘術もかけてもらえたし……後は直接、一度でも会話をし、相手に心の中で話しかけるようにして相手が応えてくれれば、会話が出来る……)

男(これで、この秘術をかけたのがエルフメイドさんだと知れ……信頼されやすくなるだろう)

男(後は探知魔法から逃れるために、この作った解除の魔法水を使うんだけど……)

男(……そうして助け出すまでにも、結構魔力を使うだろうしな……足元の水を使って足音を消したりとか、地味に魔力を使われていくし……)

男(となると……魔力回復用の水は多めに見積もっておいて……攻撃用の魔法のストックは……二桁も作れない、か……)

男(足元に操作できる水を作る魔法も、かなり作っておく必要があるだろうし)

男(……本当は、もう少し攻撃用の魔法を作っておいて置きたいんだけど……)

男(……後輩と戦うことになったことも想定すると、回復用のストックは大いに越したことは無いはずだ)

男「…………」

男(きっと後輩は、今、エルフに行われている、本当の奴隷制度を知らない……)

男(だからきっと、彼からしてみれば、ボクは王を裏切った人間ということになるのだろう)

男(……ボクが言ったところで、信じてもらえるとも思えない……)

男(ならばやっぱり……戦うしか、無いのだろう……)

男(…………ああ~……勝てる気がしないなぁ……本当)

男(出来れば彼が、屋敷のほうへと向かってくれていれば良いんだけど……)

男(そう……上手い話は、転がっていないだろうな……)

男(……腹を括るしかない、か……)

787:2012/04/03(火) 01:03:12.69 ID:
~~~~~~

お昼過ぎ

  ◇ ◇ ◇
山へと向かう途中の道
  ◇ ◇ ◇

伝令兵「隊長!」

息子「なんだ?」パッカパッカ

伝令兵「はっ、同行した魔法兵による報告です」
伝令兵「どうも山を登っているエルフ達が、途中でいくつにも分断したとの報告が……」

息子「分断?」パッカパッカ

伝令兵「一箇所に固まっていたエルフ達が二手に、二手が四手に、四手が八手に……と、段々と……」

息子「ふ~ん……なんでだ?」パッカパッカ

伝令兵「そこまでは……」

騎士長「……探知魔法の存在に気付いているようだな」

息子「は?」パッカパッカ

騎士長「目くらまし……のようなものだろう。探知されているから何手にも分かれることで、目的地を悟られないようにしている……」
騎士長「状況を知られているというのを逆手に取った方法だ」

息子「はんっ、それぐらい俺だって気付いていたさ。ただちょっと兵を試しただけだよ」パッカパッカ

息子(小五月蝿いジジイだな……誰もテメェの意見なんて聞いてねぇんだよ)

788:2012/04/03(火) 01:04:42.27 ID:
伝令兵「それで、どうされますか?」

息子「どうするも何も、俺たちは気にせず屋敷に向かえば良い」パッカパッカ

伝令兵「は……? ですが、あの屋敷に向かっているという確証は……」

息子「隊長の命令だ。聞けないのか?」パッカパッカ

伝令兵「は、はっ! 申し訳ありませんでした!!」

タッタッタッタ…

息子「ふんっ……伝令は伝令の仕事だけしてれば良いんだよ……」パッカパッカ

騎士長「だが、本当に良かったのか?」

息子「は?」パッカパッカ

騎士長「もしかしたら作戦を立てた時の推理が間違えていてあの屋敷には向かっておらず、別のところへと逃げるかもしれないんだぞ?」

息子「なら、全部を追いかけられるように兵を分断しろっての? この新兵ばかりの部隊をさ」パッカパッカ

騎士長「そうは言いわん。が、屋敷に向かうルートから一番離れている奴ぐらい、何人かに追いかけさせるべきだろう」
騎士長「それこそ、唯一軍馬に乗っているお前とかがな」

息子「……そうやって、この部隊の指揮を奪おうっての?」
息子「はんっ、案外ズルい考えするんだね、俺をしごくことしか出来ない奴は、横取りの方法もエゲつない」

騎士長「……そうやって手柄を奪い続けようという考えが、失策を招くのだ……」

息子「お前にだけは言われたくないな」

789:2012/04/03(火) 01:05:23.24 ID:
息子(ま、それに元々、エルフなんてオマケみたいなもんだ)

息子(個人的に楽しみたい相手ではあるが……ま、今回は多めに見てやろう)

息子(父さんのあの口ぶりから、多少エルフを逃しても、男とかいう奴の屋敷から研究資料を持って帰るだけで許してもらえる)

息子(だったら部隊を分断させず、この大部隊でそこを一点突破する方がかしこい)

息子(万が一にもその男とやらが主○格と関わりを持っていなかったとしても……ま、反乱分子の兆候があっただとか言っておけば、それで終わるだろう)

息子(それなのにちょっとのエルフが別のルートにいったからって……グチグチと五月蝿いんだよ。これだから老害は……)

790:2012/04/03(火) 01:06:09.86 ID:
~~~~~~

夕方

◇ ◇ ◇
  屋敷
◇ ◇ ◇

エルフ奴隷「……同胞達が来ました」

エルフ少女「えっ?」

エルフ奴隷「出迎えましょう」

エルフ少女「ちょっ……どうして?」

エルフ奴隷「秘術で回りを警戒していましたから」
エルフ奴隷「とは言っても、私の実力では山の中までは広げられませんので、さすがにすぐ近くの屋敷周辺のみになりますけれど」

エルフ奴隷「ともかく、ご主人さまの予定よりも大幅に遅れていますが……人間の兵達がくるのも遅れているようですので、大丈夫でしょう」

エルフ奴隷「そろそろ、戦いの準備をしておかないといけませんよ」

791:2012/04/03(火) 01:08:17.92 ID:
◇ ◇ ◇
 屋敷前
◇ ◇ ◇

エルフ奴隷「皆さん、よく逃げてきて下さいました」

エルフ少女「さあさあ、中に入って入って」

エルフ奴隷「少女さんが案内いたしますので、食堂の方へと移動して下さい。スープの方、用意させてもらっていますので」

エルフA「……本当に、ありがとう」

エルフ少女「ううん。同胞として当然のことだよ。だから、気にしないで」

エルフ奴隷「それに、お礼を言うのなら、この屋敷の持ち主であるご主人さまです」

エルフA「人間の……」

エルフ奴隷「はい。私も、あまり人間は信用しておりませんが……彼だけは、信用できると思っています」
エルフ奴隷「とは言え、皆様に無理に信用しろとは言いませんけれど」

エルフ少女「ただ、わたし達は同胞相手に当然と思ってやってるけど、彼に関しては、自分の意思で、多種族であるわたし達に手を貸してくれている」

エルフ奴隷「私たちが人間に手を貸すようなことを、進んでしてくれているのです」

エルフ少女「だからまぁ、次に会ったらお礼ぐらい、言ってあげて」
エルフ少女「たぶんあの人は、それだけでも喜んでくれると思うから」

エルフA「……わかりました」
エルフA「二人が利用されているわけでも、二人が人間を利用しているわけでもないことが、わかりました……」

エルフA「だから、今度会ったら……牢を開けてもらった時みたいに警戒してないで、心から、お礼を言うことにするよ」

792:2012/04/03(火) 01:09:28.36 ID:
エルフ奴隷「」ピク

エルフ少女「? どうしたの?」

エルフ奴隷「他にも同胞の気配が……」

エルフA「あ、そうでした」

エルフ少女「?」

エルフA「私たち、途中で何人かに分かれて、山を登るようにしたんです」

エルフ奴隷「? どうしてそのようなことを?」

エルフA「首輪に探知魔法があるのなら、バラけて行動した方が相手をかく乱できるかと思いまして」

エルフ少女「なるほど……」

エルフA「目指すのがこの山の頂上だと知っていたので、皆バラバラに」

エルフ奴隷「ふむ……ということは、エルフメイドさんはその中のどれかにいるのですね?」

エルフA「あ……」

エルフ少女「? どうしたの?」

エルフA「……そのことで、お二人に、話しておかないことがあるんです……」

エルフ少女「?」
エルフ奴隷「?」

793:2012/04/03(火) 01:10:53.96 ID:
~~~~~~

エルフ少女「……………………」

エルフ奴隷「……そう、ですか……」

エルフA「はい……残念ですが……」

エルフ少女「……………………」

エルフ奴隷「少女さん……」

エルフ少女「……ううん。大丈夫。分かってるから」





エルフ少女「あの時飛び出しておけば良かったとは思うけれど……それを一番後悔しているのは旦那様だって、分かってるから」





エルフ少女「だから、大丈夫」

エルフ少女「悪いのは、旦那様じゃなくて……飛び出さなかった、わたしでもなくて……こんなことをした、人間だってことぐらい……分かってる」グッ…!

エルフ奴隷「……そんなに力みすぎては、手が怪我をしてしまいます」

エルフ少女「……ごめん……」
エルフ少女「……でもさ……どうしようも出来なかったんだろうけどさ……悔しくて……!」

エルフ奴隷「…………そう、ですね……」
エルフ奴隷「結局、助けることが、出来ませんでしたから……」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「でも……その悔いを、我慢する必要は、あるのですか?」

エルフ少女「え……?」

エルフ奴隷「……敵はまだ来ていません」
エルフ奴隷「今のうちに、落ち着くために、発散しておいた方が良いのではないのですか?」

794:2012/04/03(火) 01:11:44.92 ID:
エルフ少女「でも……」

エルフ奴隷「その人は、あなたがココにきて、ずっと話し相手になってくれた人なのでしょう?」
エルフ奴隷「売られてからも親切にしてくれた、親身になってくれた人なのでしょう?」

エルフ奴隷「遠く離れた姉と連絡を取り合っていたような……そんな感じだったのでしょう?」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「なら……今、発散してあげるのが……その人のためではないのですか……?」

エルフ少女「……………………」

エルフ奴隷「……こちらは大丈夫です」
エルフ奴隷「人間の兵の気配が近づけば、知らせに行きます」

エルフ奴隷「ですので……部屋に、戻っておいてください」

エルフ少女「…………ありがとう……奴隷ちゃん」

エルフ奴隷「いえ……その代わり、戦いになったら、万全をお願いします……少女さん」

エルフ少女「……当然……!」

795:2012/04/03(火) 01:12:52.70 ID:
~~~~~~



息子「あそこが言っていた屋敷だな……」

伝令兵「どうされますか?」

息子「どうするも何も、魔法使いに指示だ」

伝令兵「は?」

息子「あの屋敷を炎で燃やし尽くせとな」

騎士長「何を言っている!」

息子「は? 聞こえなかったの? っていうか、アンタには関係ないだろ」

騎士長「大アリだ!」

息子「じゃあ聞くけど、逃げたエルフが軒並みあの屋敷の中へと入って行ってるのが確かなこの現状で、どうしてこの方法がダメなの?」

騎士長「道徳に反するからに決まっているだろ……!」

息子「道徳? はっ、エルフを飼っている分際で、道徳も何もないって」

騎士長「奴隷制度は確かなものだ! 飼っているのではなく保護だっ!」

息子「あ~……そういえばお前も、ちゃんとした方は知らない人か……」

騎士長「なんだと!?」

息子「いや別に。しかし、なら他の方法を提示してくれないか? それで考えてみてやるよ」
息子「ただ、コレは戦いなんだ。先手を取るために建物に火を放とうとする手段よりも良い、戦いにおいての最善手を提示してくれよ」

796:2012/04/03(火) 01:14:01.11 ID:
騎士長「まずはあの屋敷を訪れ、誰か○人かを決めるべきだ」

息子「そんなのは別にいらないって」

騎士長「中には元宮廷魔法使いがいるかもしれないのだろう!?」

息子「それは確かに人間だけど、でもこんだけ屋敷の中にエルフを招き入れておいて、無関係なはずないだろ」

騎士長「エルフに捕まっているのかもしれん!」

息子「だとしたら宮廷魔法使いの面汚しってことで、ここで死んだって良いんじゃない?」

騎士長「お前という奴は……!」

息子「なに? あれだけシゴいていたから簡単に引き下がるとでも思った?」

息子「確かにあなたは俺に剣を教えてくれている、良い先生だと思うよ?」

息子「でもさ、それとこれとは違う」

息子「そもそも頭脳戦向きの俺にアレだけ無茶をさせていた時点で、俺がお前を認めるはずが無いんだよ」

息子「認めて欲しかったら、その人その人に合った訓練法をみつけないといけないだろ?」

騎士長「お前見たいなヒヨッ子が……! 分かりきったような口を……っ!」

息子「確かに俺は何もわかってないし、あなたと戦えば数分も保たずして負けるだろう」
息子「だがそれとは別に、戦力や立場を利用すれば、あなたは俺に攻撃すら出来なくなる」

騎士長「ぐっ……!」

息子「そうなったらもう、あなたは満足に力も振るえない」

息子「大臣の息子を殺したなんてなれば、どんな処罰が下るのか……」
息子「こうして脅してやるだけであなたもまた、一兵士と変わらなくなる」

息子「悲しいけど、コレも力だし、頭脳戦の一つなんだよ。権力とか、そういうもののね」

797:2012/04/03(火) 01:15:50.54 ID:
息子「他人の力でも親の力でも、俺のために振るってくれるのなら、それは間違いなく俺の力なんだよ」

騎士長「だが……我等の受けた任務は、エルフの保護だ」
騎士長「それなのに、そんな一方的に、なんの警告も無しに魔法を撃っては……」

息子「ふむ……まぁ、その意見には一理あるかな……」

息子「これだけの部隊だ。保護を目的としていたはずなのに警告をしていなかった、と誰が口を漏らすか分からないからな……」

息子「さすがの父さんでも、大きくなった声を片っ端から封じ込めることも出来ないだろうし……」

息子「……………………」

息子「……よし、ならもう少し月が昇るまで待機だ。その間に俺があの屋敷に赴いて警告してこよう」

息子「その返答までの待ち時間が真上に月が昇る時――深夜だ」

息子「だから、それまで向こうから何の返答も無ければ、俺の指示で魔法使い部隊に火を放ってもらう。その準備をしていてもらうよう、指示を出しておいてくれ」

伝令兵「はっ」

息子「……これで満足だろ? あなたも」

騎士長「……ああ」





息子(……ま、実際あの屋敷には行かないんだけどね)

息子(そんな「これから不意打ちしますよ」と警告した不意打ちの、どこか不意打ちだ)

息子(むしろ相手に準備する時間を与えてしまうだけだ)

息子(だからま、俺がすることは……これから少しだけあの屋敷を一周してきて、帰ってきて、時間になったら指示を送るだけ)

息子(声をかけてきたと、兵士達に思い込ませることだけ)

息子(それだけだ)





息子「相手へと降伏勧告をしにいくんだ。迂闊に警戒されすぎても、後の作戦に差し支える」
息子「ここは部隊長らしく俺だけで行くから、兵達はそのまま待機しておけ」

798:2012/04/03(火) 01:16:47.60 ID:
~~~~~~

◇ ◇ ◇
 城下街
◇ ◇ ◇

スッ

男(さて……まだ人気はあるが、そろそろ準備を果たさなければな……)

ジョボジョボジョボジョボ…

男(水路にこの魔法水を流し込み……あとは、貴族達がいる屋敷の近くで待機)

男(屋敷を回る順番を脳内で描いて、シュミレーションをしておかないとな……)

男(ようやく準備用の魔法を作り終えた訳だし……これから大急ぎで、行動することを頭に叩き込まないとな)

799:2012/04/03(火) 01:18:30.70 ID:
~~~~~~

深夜

◇ ◇ ◇
 屋敷前
◇ ◇ ◇

息子「さて……時間だ」

息子「結局、返答は無し……か……」

息子「まぁ、相手にしてみれば、憎い人間の群れがいるんだ。恐怖でやってこれないのかもしれないな」

息子「なんせまた、あの地下牢に戻されるのだし」

騎士長「…………」

息子(まぁそもそも俺はあの屋敷に行ってないんだから、返事がくるはずもないんだけど)

息子「それじゃあ作戦通り、魔法使い部隊、火炎魔法の準備だ」

伝令兵「もう整っているとのことです」

息子「さすがだ。話が早い」

息子「それじゃあ目標をあの屋敷に向けろ」

息子「まだ使える魔法の種類が少なく、威力が未熟だろうと、魔法は魔法だ」

息子「百人近い人間からの火の魔法でなら……すぐさま燃え移ることだろうさ」

息子「それで炙り出されてきたエルフを、歩兵が仕留める」

息子「保護できそうなエルフが出てきたり、または出来た場合は、保護を優先しろ」

兵士達「「「「「はっ!」」」」」

息子「さて……それじゃあ、戦いを始めようか」

息子「勝ちが見えている戦いをさ」





息子「魔法、撃てっ!!」




――――――――

800:2012/04/03(火) 01:21:46.83 ID:
息子「…………? どうした、早く魔法を撃てっ!」

伝令兵「そ、それが……」

息子「なんだ? 早く報告しろ!」

伝令兵「は、はっ!」
伝令兵「実は……放たれた魔法のその全てが……屋敷に到達する前に、突如消えてしまったとのことで……!」

息子「なっ……! どういうことだ……!?」

伝令兵「分かりません……ただ、まるで火が急に消えるように、シュッ、と消えてしまったようで……」





エルフ少女「全くさぁ……いきなり魔法撃ってくるなんてどういうことよ……?」

エルフ奴隷「これが人間の戦い方ですよ。……まぁ正直、私が探知していなければ危なかったですけれど……」



ザッ!



息子「な……! アレは……!?」



エルフ少女「ま、奴隷ちゃんのおかげ、ってことだね」

エルフ奴隷「探知さえできれば、封じるのなんて容易ですから」



騎士長「…………」

息子「エルフの……メイド……!?」

826:2012/04/04(水) 00:45:42.22 ID:
~~~~~~

少し戻り、夜

エルフ奴隷「……外に人間の気配がしますね」

エルフ少女「やっと来たって訳ね……」
エルフ少女「どうする? こちらから打って出る?」

エルフ奴隷「…………いえ、向こうの出方を見るべきでしょう」

エルフ少女「でもそんなことを言ってる間に、屋敷が包囲されちゃうんじゃないの?」

エルフ奴隷「そうですね……現にもう、包囲が始まっています」

エルフ奴隷「戦術的には、包囲しているのは……魔法使いの部隊と、その護衛のための少量の歩兵でしょう……」

エルフ奴隷「こちらがこの存在に気付いていないと思っているでしょうから……おそらくは、包囲状態から一斉に魔法を放つつもりでしょう」

エルフ奴隷「それも、私達を炙り出せる、屋敷を燃やすためのもの……」

エルフ奴隷「もしくはそれが可能だからと、脅してくるか……」

エルフ少女「そこまで予測できるんなら、早く止めるために手を打たないと……!」

エルフ奴隷「いえ……ここはあえて待機です」
エルフ奴隷「この屋敷内で戦えるのは私達だけですし……相手の居場所が固定化されるソレは、むしろ歓迎するべきです」

エルフ少女「どうして? 逃げてきた皆は? 戦えないの?」

エルフ奴隷「前までの私達と同様で、首輪のせいで秘術が使えませんよ」

エルフ少女「旦那様が解除してくれてるんじゃ?」

エルフ奴隷「そんな体力も時間も、逃がす段階では無かったはずです」

エルフ奴隷「それにそもそも、ご主人さまもその余裕はないと事前に言っていたじゃないですか」

エルフ奴隷「戦いが近づいて緊張しているのか……それとも、エルフメイドさんの件でそうなっているのかは分かりませんが……焦らなくて大丈夫ですよ」

エルフ奴隷「落ち着きましょう」

827:2012/04/04(水) 00:48:29.45 ID:
エルフ少女「…………ごめん」

エルフ奴隷「いえ、気にしてませんよ。気持ちは痛いほど分かりますから」

エルフ少女「……でも首輪に関しては、奴隷ちゃんが解除することもできるんじゃないの……?」

エルフ奴隷「……あの首輪は周囲の精霊に影響を与えていますし……少なくとも秘術での破壊や解除は難しいですね……」

エルフ奴隷「少女さんが物理的に破壊するという手は無いのですか?」

エルフ少女「あんな首にピッタリとついてる首輪、器用にソレだけを壊すなんて無理だって」
エルフ少女「材質が布とかだったら引きちぎれるのに……」

エルフ奴隷「それだと拘束の意味が無いですよ……」

エルフ少女「分かってるって」
エルフ少女「ってことはやっぱり、戦えるのはわたし達だけってことか……」

エルフ少女「じゃあ、包囲が完了した段階で攻める……?」

エルフ奴隷「……いえ、そうして不意を衝くのは止めましょう」

エルフ少女「え?」

エルフ奴隷「そんなことをして相手がパニックになり、むやみやたらに攻めて来られた方が、今の私達には不利になります」
エルフ奴隷「むしろ逆に、明確な敵として認識させ、こちらに意識を向けさせたほうが良いでしょう」

エルフ奴隷「例えば……敵の初撃をあっさりと防いでみせる、とか」

エルフ少女「でも……もし失敗したら、この屋敷と同胞達が……」

エルフ奴隷「何を言ってるんですか」

エルフ少女「え?」



エルフ奴隷「私がそんな失敗、するはずないじゃないですか」

828:2012/04/04(水) 00:50:21.13 ID:
エルフ奴隷「相手が放つ魔法だって、こちらを混乱させるために火炎系だとあっさりと分かることが出来ている今」

エルフ奴隷「撃つと同時に無力化させることなんて容易いです」

エルフ奴隷「そのための時間だって相手に準備してもらえる訳ですし、場所も寸分違わない自信があります」

エルフ奴隷「そうして相手の魔法を封じて、どうして封じているはずなのに秘術を……、と思わせ、正常な判断を奪う」

エルフ奴隷「もしかしたら中に逃げたエルフも同じようなことを、と思わせる」

エルフ奴隷「そうして警戒させれば……最初の不意打ちなんて帳消しなほど、有利になれますよ」



~~~~~~



再び、深夜

息子「ど、どういうことだ……? あの二人のエルフが、この包囲された状況からの魔法を、防いだって言うのか……?」

騎士長「防いだ、というよりかは、封じられた、といった感じか……」

息子「は?」

騎士長「エルフはそういったことも出来る。おそらくは、お前がこうして包囲網を完成させてきていたことに気がついたのだろう」

息子「だったらなんで、包囲網が完成する前に攻めて来なかったんだよ」

騎士長「あえて封じて見せることで動揺を誘ったのだろう」
騎士長「今のお前のようにな」

息子「っ……!」

息子(くそっ……! バカにしやがって……!)

829:2012/04/04(水) 00:51:29.06 ID:
息子「魔法使いっ! 何をしている! 体力が尽きるまで魔法を撃ち続けろっ!」
息子「歩兵隊も何してる! さっさと屋敷に突入しろっ!」

息子「あの二人のエルフを殺せっ!!」





エルフ少女「さて……歩兵も攻めてきたし……」

エルフ奴隷「門の外壁を囲っている魔法使い達も、再び魔法を唱え始めました……」

エルフ少女「それじゃあわたし達も、行きますか」ジャキ…

エルフ奴隷「そうですね……」スッ


エルフ少女「…………」コク
エルフ奴隷「…………」コク


ダッ!

830:2012/04/04(水) 00:52:50.64 ID:
エルフ奴隷「…………」ブツブツ

エルフ奴隷(戦術は至って単純)

エルフ奴隷(同胞を招くときにわざと開けたままにしておいた門から、直接流れ込むように突撃してくる歩兵の相手を、少女さんが)

エルフ奴隷(そして外壁にいる魔法使いやその護衛の歩兵や伝令を、私が)

エルフ奴隷(それぞれ相手をする)

エルフ奴隷(私のほうのやり方は簡単)

エルフ奴隷(見えずとも、秘術で場所は指定できる)

エルフ奴隷(そうして見えぬところから攻撃し、敵を続々と減らしていくだけ)

エルフ奴隷(もちろん相手からも、屋敷を狙っての魔法の攻撃はくる……)

エルフ奴隷(その属性が分からない以上、バリアを張るしかない)

エルフ奴隷(既に張ってあるコレが破れれば再び張るのに時間はかかる……)

エルフ奴隷(それまでにどれだけ相手の数を減らせるか……)

エルフ奴隷(……まぁ、破られている間の防衛手段として――)

ガチャ…

エルフ奴隷(――旦那様に用意してもらっておいた魔法があるから、一応は大丈夫)

エルフ奴隷「……『光の槍よ』」

ズシュシュシュシュ…!

――がああああーーーーーーーー……!!――

――な、なんだ……! 何も無いところから、光が……! ――

――あ、熱い……! 痛いし、熱い……! ――

――お、おい! ……そんな……一撃かよ……っ!! ――

831:2012/04/04(水) 00:54:56.37 ID:
エルフ奴隷(でも、問題は少女さんの方だ)

エルフ奴隷(私は慣れていた感覚に身を任せ、感じられる周囲の気配を察知し、攻撃し、防御が破られないかを確認して戦うだけ……)

エルフ奴隷(前線治癒術士として培ったこの感覚は、まさにこの囲まれた状況や攻撃が無数にやってくる状況に適している)

エルフ奴隷(けれども、実戦経験の少ない彼女が、どこまで相手と戦えるのか……)

エルフ少女「はぁっ!」ブンッ!

歩兵A「なっ……!」

歩兵A(武器であるあのデカイ剣を……投げた……!?)

エルフ少女「…………」ブツブツ…

ダッ!

歩兵A「避けろっ!」

歩兵B「えっ?」

ザシュッ!

歩兵B「がっ……!」

歩兵A「ぐっ……! だがコレで武器は……!」

エルフ少女「……『握り、振るえ』」

シュパァッ!

歩兵C「……えっ?」

ザシャァッ!

エルフ奴隷(剣を秘術で操作して……なるほど)

832:2012/04/04(水) 00:56:30.45 ID:
歩兵D(なんていう魔法だ……見たことが無い)

歩兵E(でももう武器はない……これで)バッ!

歩兵E「……あれ?」

歩兵E(姿が……無い……?)





エルフ少女「どこ見てるの?」





歩兵E「なっ……!」

歩兵D(いつの間に……投げた剣を拾って……!)

エルフ少女「ふっ!」ザシュッ!

歩兵D「か……はっ……!」

歩兵E「くそっ……! よくもっ!!」

エルフ少女「『加速』」

サッ!

歩兵E(後ろっ!?)

エルフ少女「せいっ!」ザシュッ!

歩兵E「ぐはっ……!」

833:2012/04/04(水) 00:57:15.36 ID:
エルフ奴隷(あの大きな剣を片手で巧みに操り……)

エルフ奴隷(敵の中央にいながら、背後から全く攻撃されないように立ち回る……)

エルフ奴隷(……中々どうして、上手く戦えているじゃありませんか)

エルフ奴隷(全身体能力を秘術を用いて強化。状況に応じて強化する部分の比率を変え、柔軟に対応している……)

エルフ奴隷(ただ、やっぱりまだまだ未熟ですね……)

エルフ奴隷(完全に殺せている人間と、殺せていない人間がいます)

エルフ奴隷(手加減をしている……のではなく、殺せていない)

エルフ奴隷(全力で振るっている力にムラがある証拠……)

エルフ奴隷(……まぁ)

エルフ奴隷「『雷落弾』」

ドォォォォ…ン…!

エルフ奴隷(私のように手加減無く、人間を殺せているのも問題なのかもしれませんが……)

834:2012/04/04(水) 00:59:49.76 ID:
息子「くそっ……なんだなんだなんなんだよっ! あの二人のエルフはっ!」

息子「アイツ等だって首輪をつけてる! なんで魔法が使えるんだよっ!」

息子「おいっ! 首輪はちゃんと作動してるんだろうなっ!?」

伝令兵「は……はい! ちゃんとあの二人の位置は特定できています」

息子「じゃあなんで魔法が使えてるんだよ!」

息子「先手を打つ為の火炎魔法だって止められるし……今も魔法使いが次々と相手の魔法でやられていってるし……」
息子「歩兵だって! アレだけの人数がいて、囲むようにしてるってのに! たった一人も仕留められず次々とやられてる……!」

息子「なんなんだ! 一体っ!!」

騎士長「……エルフを舐めるからこうなる」

息子「あぁっ!?」

騎士長「エルフはああいう存在だ。個人個人の力量が、人間のソレを遥かに超えている」
騎士長「魔法のおかげではあるのだろうが……その魔法が、人間のソレとは大きく違い、大きな力を与えている」

騎士長「だから我々は当初、エルフに負けていたのだ」

息子「今はそんな話をしていないだろ……!」

騎士長「……なら、今話すべきことは何か、分かっているのだろう?」

息子「あ?」

騎士長「はぁ……良いか? 今話すべきことは、あの二人がどうして魔法を使えるのかではなく、魔法を使えるという真実を受け入れ、どうするべきかということだ」

騎士長「そのことも分からず動揺し、一人に対して歩兵を押し付ける……数の暴力では、全力のエルフには勝てないというのに」

息子「なんだよその頭脳派が聞いて呆れるみたいな物言いは……!」

騎士長「そこまでは言っておらんよ」

騎士長「ただ、初撃の魔法を防がれた時に焦らず、一人に対して歩兵全てをぶつけずに、あの奥にいるエルフも同時に狙っていればもしや、と思ってな……」

835:2012/04/04(水) 01:01:24.05 ID:
騎士長「今、この部隊の魔法使いを倒しているのは、彼女一人だ」

息子「……どこにそんな証拠がある」

息子「あいつ等、首輪の効果を物ともせず、魔法を撃ってくるのかもしれないだろ」

息子「だったら、逃げ出した全てのエルフだって可能性も……」

騎士長「もしそうなら、こんなチマチマとした戦いにはならん」
騎士長「あの逃げ出したエルフ全てが魔法を使えれば、今頃はもう、全員やられている」

息子「…………」

騎士長「……まぁ、過去にエルフと戦い、知っておきながら何も言わなかった俺が、言うべきことでもないがな」ズルッ

ガシャン…

騎士長「よって、その責任を果たそう。我が剣を以って」

息子「……待てよ」

騎士長「どうした?」

息子「お前が行けば、誰が俺を守るんだよ」

騎士長「今お前の周りにいるものが守るだろう」

騎士長「それに、お前の近くで戦うことになるよりかは、良いだろう?」

息子「……ちっ」

騎士長「それに、お前は俺がシゴいてきたんだ」
騎士長「そうそうやられる奴じゃないことぐらい、理解しているつもりだ」

836:2012/04/04(水) 01:03:40.86 ID:
エルフ少女「ふっ! はっ! はぁっ!!」ザシュザシュズシュ

歩兵G「げはっ……!」

歩兵H「ぐふっ……!」

歩兵I「づ……あっ……!」

…バタン

歩兵J(なんなんだよ……このエルフは……!)

歩兵K(こんなバカでかい剣を、なんでこんなちっこい体で、片手だけで難なく操れんだよ……!)





騎士長「どけいっ!!」





歩兵達「「「「「っ!!!」」」」」

エルフ少女「んっ……?」

ダダダダダ…!

騎士長「ここからは俺がソイツの相手を致そう!!」

歩兵L「騎士長殿!!」

歩兵N「騎士長殿だっ!!」

歩兵M「英雄だ……! 英雄が来てくれたぞっ……!」

エルフ少女(大きな身長……と同じぐらい大きな長剣を振りかぶったオジサンが、こちらに向けて駆けてくる……)

エルフ少女(……分かる。相当な実力者だ)

エルフ少女(ここは一度避けて、その走っている勢いを無しにしてやりたい……けれど、後ろにいる奴隷ちゃんが狙われては意味が無い)

エルフ少女(ならば……迎え撃つ……!)チャキ…!

837:2012/04/04(水) 01:05:11.43 ID:
騎士長「ほぅ……! 迎え撃つか小娘っ!!」

ダダダダダダ…!

エルフ少女(大きな剣……けれど両手で持っている時点で、わたしより小回りを利かせては使いこなせないはず……! ならばまだ勝機が……!)

ザッ…!

エルフ少女(なっ……構えを……刺突に……!!)

騎士長「はんっ!」

エルフ少女(それでも……!)グッ…!

騎士長「ほぉりゃぁっ!」ブンッ!

エルフ少女(迅い……! けど――)

エルフ少女「――斬り上げて、弾くっ……!」

ギギギギギギギギギ…!

エルフ少女「ぐっ……!」

エルフ少女(重い……! でも……全力を出せば……っ!!)グッ!

エルフ少女「っ……! ……はあぁぁっ!!」

ギシャァァァ…ン…!

エルフ少女(やった……! これで体勢が崩れ――)

















騎士長「…………」サッ、サッ…





エルフ少女(――え……!? まほう――)

シュバァ…!

838:2012/04/04(水) 01:06:43.32 ID:
エルフ少女「――ぐっ……!」ザッ!

ゴロゴロゴロ…

エルフ少女(避けられた……でも、炎の矢が無数に、奴隷ちゃんに……!)

エルフ奴隷「っ!」スッ

キュポン

バシャアァ…!

シュアアアァァァァァァァ……!!

エルフ奴隷(ストックしておいたご主人さまの魔法を一つ使ってしまった……でも使わなければ、やられていたのも事実……)

エルフ少女(なんて強さ……構えを変えてからこちらに来るまでの間に、魔法の準備なんて……)

騎士長「はぁっ!」ブンッ!

エルフ少女「っ!」

エルフ少女(くっ……! いつの間に……!)ブンッ!

キィィン!

騎士長「ふっ……上から押さえつけられると、さすがのエルフでも辛いかな……?」

エルフ少女「……オジサン、エルフと戦ったことでもあるの?」


ギチギチギチ…


騎士長「あるともさ。これでも、戦争で生き残った、数少ない前線メンバーだ」

エルフ少女「そう……なるほど。だからそんなに厄介なことしてくるんだね」

騎士長「お褒めに預かり光栄だ」


ギチギチギチギチ…

839:2012/04/04(水) 01:09:21.56 ID:
歩兵達「…………」ジリジリ…

エルフ少女(くっ……! さすがに、この人を相手にザコの相手は……!)

騎士長「お前達! 狙うのはこの小娘じゃないっ!」

ビクッ!

騎士長「よく状況を見ろっ!」

騎士長「まず狙うべきは、あの屋敷の前にいるあっちのエルフだっ!」

騎士長「アイツが魔法使いの魔法を止め、次々と殺していっている!」

騎士長「アイツさえやれば、こっちが有利に運ぶ! まずはアイツを狙えっ!!」

歩兵達「「「「「りょ、了解しましたっ!!」」」」」

エルフ少女(ちぃ……っ!)

騎士長「こうされると、困るだろ……?」

エルフ少女「ええ……とってもね……」

エルフ少女「でもま……正々堂々と戦ってくれるのは、感謝するけど……!」

騎士長「ああいう細々とした味方がいると、どうしても守ってやりたくなってしまう性分でな……戦いに集中できないと困るのだよ。こちらとしてもな」

エルフ少女「ああ、そう。ならこれで、互いに全力で戦えるわけね」

騎士長「互いに? お前はあの子が気になるだろ? それで全力が出せるのか?」

エルフ少女「何言ってんのよ。あの人は、わたしよりも全然強いのよ」





エルフ少女「だから全く、気にならないっ!」グッ!

840:2012/04/04(水) 01:11:19.57 ID:
エルフ奴隷(まさか……あれだけの実力を持った人間がまだいるとは思いませんでした……)

エルフ奴隷(さすがの私でも、複数の秘術を発動していては、勝てるかどうか……)

エルフ奴隷(……ま、私の元へと来るのは、その人ではないので大丈夫ですが……)

エルフ奴隷(……少女さん、負けないで下さいよ……)

エルフ奴隷(私も少しだけ、本気を出しますので)スッ

エルフ奴隷「…………」ブンッ!

カシャンカシャンカシャン…

エルフ奴隷(折り畳み式の棍棒……逃げてきてくれた同胞が貸してくれて良かったです)

エルフ奴隷(棒術はあまり得意ではありませんが……まぁ、杖術に近い感覚ですし、剣よりかはマシですしね)

ブンブンブンブン…!

エルフ奴隷(ただ、集中力を阻害している、周辺警戒の秘術は解除して……身体強化に回して……)

エルフ奴隷(周りへの攻撃の手を少し緩めて、目の前の敵にも少しだけ与えるようにして……)

エルフ奴隷(防御に関しては今まで通りの意識レベルで固定して……)

エルフ奴隷(……よし、大丈夫)

エルフ奴隷(後は避けるのに専念しつつ……隙を見つければ秘術で狩る)

エルフ奴隷(棒は得意ではないので、あくまでも牽制で留める意識で……さて……)





エルフ奴隷「前線治癒術士としての本領……ほんの少しだけ、お見せしましょうか」バッ!

841:2012/04/04(水) 01:13:04.51 ID:
~~~~~~

同じく、深夜

   ◇ ◇ ◇
城下街・ある貴族の館
   ◇ ◇ ◇

ドガァ!

貴族A「ぐあぁっ!」

ジャシュン…!

貴族A「ひぃ……!」

男「さて貴族様……買ったエルフがいる場所を、教えてもらえませんか?」

貴族A「なっ……な、なっ……!」

男「護衛の兵も、見回りの兵も、全て気絶させています。助けなんて来ませんよ」

貴族A「ち、地下だ……!」

男「地下? 確か、そんな場所は見当たらなかったように思うんだけど……」

貴族A「か、隠し通路が……!」

男「ああ……なるほど」サッ

ズシュッ!

貴族A「が……! な、なんで……!」

男「教えてくれたら助けるなんて言ってないし……そもそも、エルフを傷つけてきた貴族を助けるつもりが、ボクにはないよ」サッ

ズリュッ!

貴族A「ぐっ……!」

ドサ…

男「……まぁ、奴隷商みたいに殺すつもりもないんだけど」

男「体内に水を入れて、ちょっと掻き乱しただけ」

男「騎士達にもやってきたことだから、大丈夫。死にはしないよ」

男「……ま、聞こえてないだろうけどさ」

842:2012/04/04(水) 01:15:32.22 ID:
◇ ◇ ◇
城下街・作戦本部
  ◇ ◇ ◇

助手「報告です! 貴族A殿の邸宅にあったエルフの反応、一斉に消えました!」

後輩「なに!?」

助手「また、その異常の近くにいた兵たちとも、連絡が取れなくなりました!」

後輩「ちっ……! 各貴族の屋敷に兵を分断しているとは言え、それなりの手練れだぞ……! それなのにこうも簡単に……っ!」

後輩(戦争の影響のせいで、そもそもこの国には兵の数自体が少ない……が、それにしたって、数はそれなりに用意した……)

後輩(……それに、首輪の魔法が解かれたというのも気になる)

後輩(敵が昨日、奴隷市場を襲った人間と同じだというのなら……どうして昨日はそうやって首輪の魔法を解かなかった……?)

後輩(……まさか……! 戦力を分断させるためか……っ!)

後輩(山へと向かわせる方と、こちらに残る方と……!)

後輩(相手は二人組み――いや、市場の奥にいたエルフが、そこにいたエルフ全てを率いることが出来る器なのだと知って助けたのだとしたら……一人でも可能……)

後輩(……やはり、先輩が……)

後輩(いや……まだ断定は出来ないか……)

後輩「ともかく、次はこちらとこちらの屋敷に兵を集中しろ。今、異常があった屋敷に行っても無意味だ」
後輩「相手のルートは特定できないが、この周囲を警戒するに越したことは無い」

後輩「そう指示を送ってくれ」

助手「はいっ」

後輩「……いや、ちょっと待て」
後輩「あと、ここにも兵を」

助手「え? ですがそこは、狙われた場所よりも少し離れてますけど……」

後輩「良いから。ちょっとした確認だ」

助手「わ、分かりましたっ!」

843:2012/04/04(水) 01:17:40.39 ID:
~~~~~~

◇ ◇ ◇
 屋敷前
◇ ◇ ◇

エルフ少女「ふぅっ!」ブンッ!

騎士長「はぁっ!」ブンッ!

ギィィンッ!

エルフ少女「っ……!」

ギチギチギチ…!!

騎士長「中々やるな……エルフの娘よっ!」

エルフ少女「そりゃ、どうも……!」

ギャギィィン!

ザッ…!

エルフ少女(……強い……)

エルフ少女(抑え込まれそうになった時はなんとか、剣を浮かせてその隙に秘術を使って逃げ出せたけれど……)

エルフ少女(今同じことをされて、そうさせてくれる隙をくれるかどうか……)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(それに……最初の刺突。無理矢理斬り上げて逸らしたあの攻撃……相手が魔法を準備していたということは……あの威力で、片手持ちだったということ……)

エルフ少女(コッチは全力を出して辛うじてだったのに、相手は片手……)

エルフ少女(今は互いに片手持ち……それで戦えているということは……相手は手加減をしてくれている……)

エルフ少女(この仕切り直しを見ても、それは明らかだ)

エルフ少女(これは……本格的に……)

騎士長「それにしてもお前の言うとおり、あの子はかなり強いな」

844:2012/04/04(水) 01:19:09.55 ID:
騎士長「外壁にいる魔法部隊を魔法で攻撃しつつ、その相手からの魔法を防ぎ、周りを囲うようにいる歩兵の攻撃を捌き、さらには攻撃までしている……」

エルフ少女「……わたしとは大違い、とでも言いたい?」
エルフ少女「さっきから手加減してくれてるもんね」

騎士長「ほぅ……さすがに気付くか」

エルフ少女「気付くって。魔法も使ってこないし」

騎士長「魔法は使うタイミングを作らせてくれないからだろう」
騎士長「ま、力の入れ方に関しては間違いなく手加減だがな」

エルフ少女「……どうしてそんなことをするの?」

騎士長「……久しぶり、だからだ」

エルフ少女「久しぶり?」

騎士長「ああ。まともに戦うのが、久しぶりだからだ」

845:2012/04/04(水) 01:20:30.01 ID:
騎士長「今の立場に文句がある訳ではないが、いつもいつも、新人の教官ばかりではどうもな……」

騎士長「戦おうにも相手は萎縮するし、昔共に戦った仲間も、いまやほとんど現役を退いている」

騎士長「その状況下で、お前のような、まともに戦ってくれる相手がいるんだ」

騎士長「思わず長引かせてしまうのも、仕方が無いだろう……?」

エルフ少女「……あなたの周りにいる仲間は、次々と死んでいっているのに?」

騎士長「仲間、というよりも部下だが……確かに、それはイヤなことではある」
騎士長「しかし、自分のことを久しぶりに優先したいんだよ、俺は」

エルフ少女「…………」

騎士長「全力で無くてもいい。それよりも俺は、戦っておきたいんだ。もっと」
騎士長「今この場にいる俺以外の人間よりは確実に強い、お前と……」

エルフ少女「……戦闘狂、ってやつ……?」

騎士長「……長い間――お前達にしてみれば短いかもしれんが……それでも、お前達エルフと戦争をし続けていて、おかしくなったのかもしれんな……」

エルフ少女「…………」

騎士長「確かに俺はお前の言うとおり、俺は戦闘狂なのかもしれん……」

846:2012/04/04(水) 01:21:58.79 ID:
騎士長「だが、恥じるつもりは当然無い」

騎士長「それに何も、戦いが無いからといって自分で起こそうとしている訳でもないからな……この戦いに関しても、もっと楽しい敵がくるかもしれんし……」

エルフ少女「……そんな人が、わたしが相手で満足なの? どれ――あの子の相手をしたいんじゃないの?」

騎士長「はっ……そうでもない」
騎士長「お前達エルフの強みは、昔から戦っていて分かっていたが、一対多にある」

騎士長「あの子は今、ああして一人で大勢と戦っているから強く見える」

騎士長「まぁあの子の場合、一対一でも強そうだが……それでもまぁ、俺が勝てるだろう」

騎士長「お前だってそうだ」

騎士長「俺と一対一で戦おうと、アイツ等と束になった俺と戦おうと、きっと現状は変わらなかった」

騎士長「そもそもお前の戦い方や身のこなし自体が、一対一で戦うことを想定していないように見える」

エルフ少女「……そうでもないと、わたし自身は思うんだけどね……」

847:2012/04/04(水) 01:23:22.47 ID:
エルフ少女「でもまぁ、そこまで褒めてくれるんなら……」

ジャキ…!

エルフ少女「両手で持って、頑張ってみようかな……!」

騎士長「はっ……! なるほど……ようやくかっ!」
騎士長「これでもう少し……楽しめそうだっ!」



~~~~~~



息子「……ちっ……調子に乗りやがって……」

息子「相手のエルフ二人も、エルフの相手をしているあのジジイも……本当、鬱陶しい」

息子「今まで俺をシゴいていたくせに……あの程度にも早々に勝てないとか……なんなんだ、アイツは……」

息子「おかげで魔法使いは次々とやられていくし……このままだと……」

息子「……………………」

息子「……おい」

伝令「はっ」

息子「連れてきた奴隷を呼べ」

伝令「は……?」

息子「いいから。大人しく言うこと聞いてりゃ良いんだよ」

伝令「か、かしこまりました……」

息子(この状況を打破するためには……あの力を使うしかない)

848:2012/04/04(水) 01:24:32.70 ID:
息子「それと、兵達に撤退命令」

息子「魔法でもなんでも良い。伝えろ」

伝令「はっ!」

息子(味方が巻き込まれるのは避けた方が良い。ただでさえこの国の兵数自体が少ないのだからな……)

伝令「屋敷へと攻めようとしていた歩兵、また屋敷の周囲にいた魔法兵は撤退を開始しました」

伝令「ですが、騎士長殿が……」

息子「撤退しないならしないで構わん」

息子「きっと撤退しようとしている俺たちのしんがりを務めてくれるつもりなんだろう」

息子「その好意に、甘えさせてもらおうじゃないか」

849:2012/04/04(水) 01:25:52.95 ID:
~~~~~~

エルフ奴隷「…………」ブツブツブツ…

ガッ! ド、ダッ!

歩兵O「ぐへっ!」

歩兵P「ぐはっ!」

ドサッ

歩兵Q「なんだよこのエルフ……なんでこれだけの人数がいるのに、一撃も与えられねぇんだ……!」

エルフ奴隷(それは……あなた達が素人で、大人数ということに安心しているせいでもあるんですけれど……)

エルフ奴隷「……『群れる風の刃よ』」

ビシャァァ…!

――ぎゃああああ――

歩兵Q「ぐあ……!」

エルフ奴隷(……まだまだ全力じゃないですが……そろそろ終わりそうな――)

ドクン!

エルフ奴隷(――え? この……気配は……! ……まさかっ!)

850:2012/04/04(水) 01:27:23.41 ID:
~~~~~~

エルフ少女「せぇやっ!」

騎士長「ほぉりゃっ!」

ギィィン!

騎士長「ふふっ……両手対片手なら、こちらも全力を出せるということか……」

エルフ少女「これでようやく対等とか……勝てる気がしないんだけど……!」


ギチギチギチ…!


騎士長「ふん……! なら、両手で握って手加減してやろうか……?」

エルフ少女「それはもっとごめん……! ねっ!」

ギシィィン!

ザッ…

エルフ少女「っ!」

トコトコトコ…

エルフ少女(人間の、子供……? どうしてこんなところに?)

騎士長「ん? おい、なんでガキがここにいるっ!」

エルフ少女「知らないわよ! っていうか人間の子なんだから、アンタ等の方でしょ!」

騎士長「軍がこんな子供を連れてくるかっ!」

エルフ少女「こっちだって、人間の子供なんか捕まえておかないって! そもそもそれなら屋敷側から出てこないとおかしいでしょっ!」

キュポン

エルフ少女「っ!?」

851:2012/04/04(水) 01:28:44.04 ID:
バシャバシャバシャ…

エルフ少女(水を……自分に……?)

エルフ少女(いえ……その前に……あの瓶は……!)

エルフ少女(旦那様が持っていた……!)

エルフ少女(それも、自分に振り掛ける魔法となると……強化……?)

エルフ少女(いや、魔法で強化は出来ない……まさか、狂化の……!)

エルフ少女「ダメッ!」

騎士長「?」

奴隷少年「ぐっ……あっ……!」

騎士長「っ! お、おい……お前! まさか……それは……!!」

エルフ少女(まだ狂化されていない……!? それなら……!)ダッ

ザッ!

エルフ少女「今のうちに……!」ブンッ!

ドォン!

エルフ少女(なっ……避け……!)

奴隷少年「……フ~……」

エルフ少女(横っ!)ザッ

奴隷少年「ガァッ!」ブンッ!

エルフ少女(剣で受け止めれば……!)

ギッ――

――ギャシャアァァン…!

エルフ少女(うそっ……! 剣ごと、弾き飛ばされるなんて……! 子供に……っ!)

エルフ少女「あ……っ!」

ダンッ!

852:2012/04/04(水) 01:29:53.10 ID:
――フゥ~……―― ダッダッダッダッ!!

エルフ少女(やばい! 体勢を……整えるよりも、速い……!)

――がああああああ……!!! ――ブンッ!

騎士長「ふおぉぉりゃあぁぁっ!」ブン!

――っ! ――ザッ

ドオォォォン!

騎士長「ちっ……外したか……!」

エルフ少女「オジサン……どうして……!?」

騎士長「……………………」
騎士長「……こちらの兵は、撤退を始めた」

エルフ少女「なっ……!」

騎士長「俺にも撤退命令は出たが……しかし、ただの撤退ではないことぐらい、アイツの性格を考えれば容易に想像がつく」

騎士長「戦いに手間取り、兵が少なくなれば、焦り、こうして狂化の人間を出してくれるとな」

エルフ少女「っ……! まさか、あなたは……!」

騎士長「ああ……お前の言うとおり、俺は根っからの戦闘狂でな」

騎士長「お前とああして時間をかけて戦っていた本当の目的が、これだ」

騎士長「そう……戦争中は別の配置になるからと、相手をすることも出来なかった……」

ジャキ

騎士長「狂化された人間と戦うためのな……!」

853:2012/04/04(水) 01:31:12.08 ID:
エルフ少女「そのためだけに、これまでのことを……!」

騎士長「ああ」

エルフ少女「同じ種族の、子供までを犠牲にして……!」

騎士長「俺だって子供に使うとまでは思わなかったさ」

騎士長「きっと新兵に使うものとばかり思っていた」

騎士長「これでは全力で戦えるかどうかが不安だが……まあ良い」

騎士長「やっと……やっと、戦えるんだ……!」





騎士長「今の俺になってから夢見ていた、狂化された人間と……!」





騎士長「ようやく……!」グッ!



――ぐおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……――



エルフ少女「……なっ……!」

エルフ少女(速い……!)

ブンッ…!

…ギンッ!

騎士長「ヌルいっ!!」

ギャンッ!

騎士長「ふっ!」

ブンッ!

ザッ!

騎士長「はっ……! 殺される攻撃は避けるというのは本当か……!」

騎士長「ますます……面白いっ!!」

854:2012/04/04(水) 01:32:16.92 ID:
――がぁっ! ――

騎士長「はっはぁ!」

ギンッ!

騎士長「攻撃は確かに速いが単調だなっ!」

騎士長「これでは俺の本気も引き出せんぞっ!!」

ギィンッ!

エルフ少女「……すごい……」

エルフ少女(あの狂化された子供の迅さ……わたしでもおそらく、視力や反射神経に精霊を集中させて、ようやく反応できるほど速いのに――守りに入るのがやっとなのに……)

エルフ少女(あのオジサンはそれに反応して、反撃している……)

騎士長「はっ! 期待していたのにこの程度かっ!?」
騎士長「これは、早々に本気を出して、終わらせるかなぁっ!?」グッ!

エルフ少女(っ! あの長剣を両手で……! ただでさえ力と速度で多少負けていただけなのに……これで力も、剣の安定性も増せば……!)

















エルフ奴隷「……負けますよ、あの人」



エルフ少女「……えっ?」

855:2012/04/04(水) 01:34:49.96 ID:
エルフ少女「奴隷ちゃん……戦っていた兵士達は……?」

エルフ奴隷「数人を残し、撤退していきました。その数人も、先ほど倒し終えましたよ」
エルフ奴隷「……おそらくその撤退命令の意図は、あの化け物を放つためでしょう」

エルフ少女「そう……。……それで、どうして負けるの? あの人」

エルフ奴隷「あの化け物が相手だからですよ」

エルフ少女「でも、今は結構押してるように見えるんだけど……」

エルフ奴隷「……相手が化け物ですから、私もなんとか、秘術で手助けしようとしているのですが……上手く立ち回られて、巻き込んでしまうので撃てないのです」

エルフ奴隷「別に巻き込んでも良いんですけれど……もしあの人しか殺せなければ、こちら側が不利になりますし……」

エルフ少女「……もしかしてあの男の子、まだ全力じゃない……?」

エルフ奴隷「はい……私達を警戒しているせいで、全力ではないのでしょう……」

エルフ奴隷「私達とあの男が敵同士だとは認識できていませんが……私達が敵であることは認識できています」

エルフ奴隷「むしろ、自分以外は敵だと認識しているのでしょう」

エルフ奴隷「それに……アレは本能での学習能力が高いです。そろそろ行動パターンを把握されて――」



騎士長「もらったっ!」

ザシュッ!

エルフ少女「っ! 腕をっ!」

騎士長「へっ……!」

エルフ少女「やった――」




















エルフ奴隷「避けてくださいっ!」





ズシュッ!

856:2012/04/04(水) 01:36:09.33 ID:
騎士長「……………………えっ?」

エルフ少女(心臓をっ……! 一撃っ!?)

エルフ少女「この……!」ダッ!

ズリュッ!

騎士長「が……! ぐっ……!」

エルフ奴隷(あの化物を倒すだけなら、貴重な戦力でしたのに……)ブツブツ…

エルフ少女「はぁっ!」ブンッ!

ガッ!

エルフ少女(っ!? 足で……!?)

ブンッ!

ガシャァァンッ!

エルフ少女「っ!」

ザッ…!

エルフ少女「…………」

エルフ少女(距離を置くための踏み台にされただけで……剣が、折れた……!?)

857:2012/04/04(水) 01:37:50.85 ID:
――ぐおおおおおおおおおおおお……! ――

エルフ少女「っ!」

ブンッ!

ギンッ!

エルフ少女「っ!」

エルフ少女(折れたって言っても剣の柄なのに……投げられたソレを残った腕で弾く……!?)

エルフ少女(こうなったら……ごめん。オジサンの剣、使わせてもらうよっ)

ガシッ!

エルフ少女「ふっ!」ブンッ!

―ーガアアァァァッッ!! ――

ギイィィィンッ!

エルフ少女「っ! 重いっ!?」

エルフ少女(飛び掛ってきての攻撃だから当然……っていっても……こんなに……!?)

エルフ少女(全力なのに……支えるのがやっと……!? このままだと……!)

エルフ奴隷「『奔れ水の刃』」

シュバアアァァァ…!

ザッ!

エルフ奴隷「速くっ!」

エルフ少女「う、うん!」

858:2012/04/04(水) 01:41:13.35 ID:
~~~~~~

バタン!

エルフ少女「はぁ……はぁ……はぁ……」

エルフ奴隷「『結界と強固なる力の壁を』」

キィン!

エルフ奴隷「屋敷全体を覆いました。これでしばらく、時間は稼げるはずです……」

エルフ少女「でも……どうして逃げたの? 逃げながら秘術を使うなんてことしないで、真正面から戦っても……」

エルフ奴隷「それで負けたのが、前回の戦争です。彼等は自分が死なないための行動ならなんだってするんですから」

エルフ少女「そっか……だから右手を斬り落としてまで……あの人を……」

エルフ奴隷「はい。そうでもしないと勝てないと、本能的に判断したのでしょう」
エルフ奴隷「判断できたからといってあっさりと出来てしまうこと自体が、人間とは違う部分なのでしょうが」

エルフ少女「でも腕一本がなくなるなんて、失血死するんじゃないの?」

エルフ奴隷「いずれはそうでしょう。ですが、この結果が破られるまでは、おそらく保ってしまうかと」

エルフ奴隷「元々人間には、魔法で傷を治すことは出来ずとも、傷口を無理矢理塞ぐ術はありましたからね……きっと、それを発動させて、止血しているのでしょう」

エルフ奴隷「昔、片腕片足を無くしてもこちらに襲い掛かってきた狂化人間がいたこともありましたしね」

エルフ奴隷「その魔法が切れた時は確かに勝手に死んでしまいましたが……その瞬間を見て、無様に生き残った私が、こうしている訳ですし……」

エルフ少女「……そういえば今聞くことじゃないんだろうけど、奴隷ちゃんって、人間に捕まってすぐに奴隷になったの?」

エルフ奴隷「まさか。捕虜として拘留されている期間もありましたよ」
エルフ奴隷「その時の方が、奴隷になる前より待遇が良かったように思えるのが、少しおかしいと思えるところですよね……」

エルフ少女(……そういえば旦那様、エルフの捕虜と話して、秘術について知ったって言ってたけど……もしかして……)

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女(……まぁ、今は訊ねることもでないか……)

エルフ少女「それよりも、これからどうするか、だよね」

エルフ奴隷「……………………」

エルフ少女「奴隷ちゃん?」

エルフ奴隷「……私に一つ、考えがあります」

エルフ奴隷「昔試したくて試せなかった……ある方法が」

エルフ奴隷「成功するかどうかの自信はありませんが……協力、してもらえますか?」

896:2012/04/07(土) 00:07:58.55 ID:
~~~~~~

少しだけ時間を戻した、同じ深夜の時間帯

  ◇ ◇ ◇
城下街・作戦本部
  ◇ ◇ ◇

助手「これで襲われたのは、十三件目です」

後輩「…………」

助手「……どうしますか? 後輩さん」

後輩(こうも裏を読まれるとは……これは間違いなく、先輩の仕業だ……)

後輩(きっとこの街には、彼が敵地に侵入するときに使っていた、あの魔法が使われているのだろう)

後輩(どこに術式を広げたのか、自分でも分からぬよう……きっと水路とかに染み込ませ、時限的に発動するよう設定した、例の魔法……)

後輩(空気中にある水分から自らの近くにいる敵を察知。また、その水分を同時に音を吸収するものへと変換させ、大きな音を立てても静かにする、例の厄介な魔法……)

後輩(でなければこうも、毎回手薄になっている場所が狙われるはずもないし……門扉が破壊されても周囲に気付かれない、なんてことが、起こるはずも無い……)

後輩(……最初から先輩だと思い込んでいれば、もう少し被害を少なくできたものを……っ!)

後輩(僕の甘い考えのせいで……こんなっ……!)

助手「……後輩さん?」

後輩「……ああ、ごめん。少し、考え事をしてしまっていた……」

897:2012/04/07(土) 00:09:59.53 ID:
後輩「そうだな……敵が狙っている屋敷の共通点は、把握できているか?」

助手「はいっ。どうも、昨日事件が起きた奴隷市場で買われたエルフ達が、逃がされているようです」

後輩「そうか……ということは、同一人物なのは間違いない、か……」
後輩「で、次狙われるのはどこだ?」

助手「おそらく、こちらかと……」スッ

後輩「その根拠は?」

助手「ここが最後だからです」

後輩「……なんともまぁ、単純な理由だね……」
後輩「でもそうか……最後か……」

後輩「……………………」

後輩「……なら、僕自身が出向く、か」

助手「え?」

後輩「助手。騎士達に伝令魔法」
後輩「ただちに、今まで襲われてきた貴族の屋敷に赴き、生きている兵を回収し、撤退しろと」

助手「……後輩さんはどうするのですか?」

後輩「最後の場所で待ち構える。僕なら、相手のこの魔法に探知されぬよう動く術を知っている」
後輩「というか、僕にしかこの術式は使えない。例の自動魔力生成方の応用だからな」

後輩「だから相手にバレぬよう、射撃ポイントにつくために、僕一人で向かう」

後輩「少しでも警戒されては意味が無いからな……」

後輩「兵にはこの、最後に敵が来るであろう場所に近づかぬよう、徹底しろ」

助手「……かしこまりました」

助手「ご武運を」

後輩「……ああ」

後輩(助手には最後まで、先輩が○人かもしれないとは教えなかったが……良かっただろうか……?)

後輩(……いや、良いだろう。いらない気を遣わせるぐらいなら……教えない方が……)

後輩(……さあ、先輩。……皆に迷惑をかけているという自覚……持ってもらいますよ)チャキ…!

898:2012/04/07(土) 00:11:01.80 ID:
~~~~~~

 ◇ ◇ ◇
ある貴族の屋敷
 ◇ ◇ ◇

ドガアァァン!

男「ふぅ……なんか、最後が一番呆気なかったな……」

男(まぁこっちも、ほとんどの回復魔力はなくなってきていたし、攻撃用の魔法ももう数えるほどしかストックがなかったからちょうど良かったけれど)

?「ぐっ……うぅ……」

男「……ごめん。手荒な真似をして……」スッ

ガラガラガラ…

男「瓦礫はどかしていくけど……治療できる場所には、連れて行けない。
男「後で来るかもしれない騎士達に、助けてもらって欲しい」

?「い、痛い……っす」

男「本当……ごめん」

タッタッタッタ…

899:2012/04/07(土) 00:13:47.29 ID:
ドオォンッ!

エルフE「っ!」ビクッ!

男「いた、か……」

エルフE「……なんですか、あなたは?」

男「キミ達を助けに来た……といって、信じてもらえないかな?」

エルフE「……上の爆発音は、あなたですか?」

男「ああ、ボクだね」

エルフE「……あなたは自分の同胞を裏切っている……それなのに、信じろと?」

男「うん、信じてもらいたい」

男(「こうして心の中で声を届かせられるってことがどういうことか、分かって欲しい」)

エルフE「っ!」

エルフE(「どういう……こと?」)

男(「キミにこの秘術を施したエルフメイドさんに、ボクも同じ秘術を施してもらった」)
男(「だからこうして、会話が出来ている」)

エルフE「…………」

男「言っておくけど、脅した訳じゃないよ」
男「人間に脅された程度で、同胞を危機的状況に追いやる人じゃない……そのことを一番分かっているのは、キミ達自身じゃないかな……?」

エルフE「……悔しいですけれど……その通りです」

男「ま、話を聞く余地が出来てくれたのなら、全員助けるよ」

901:2012/04/07(土) 00:15:50.11 ID:
エルフE「それで……どうして助けてくれたのですか?」

男「ごめん。詳しい話をしている時間はなくてね」キュポン

エルフE「? なんですか、その細長い瓶は」

男「この中に、その首輪の魔法を解く術式が編み込まれている。コレを全員の首輪にかけてもらいたい」

エルフE「…………」

男「信じてもらえないのなら、他の貴族に連れて行かれたエルフに訊ねれば良い。とっくにボクが助けている子が、中にはいるはずだからね」

エルフE「……………………」

男「…………どうかな?」

エルフE「……どうやら、本当のようですね」
エルフE「それで首輪の術式を解いてもらって、ある山の上にある屋敷に向かってもらうとか……」

男「そう。そこにキミ達の同胞がいる」
男「とりあえずは、そこに逃げて欲しい」

エルフE「……分かりました」

男「これを使って秘術が使えるようになれば、なんとかして人間に見つからないように逃げ切れるだろ?」
男「そこからは、お願いするよ」

902:2012/04/07(土) 00:19:54.29 ID:
エルフF「ああ……ああぁ……」

男「?」

エルフF「ああ……ご主人さま……旦那様……ああ……」

男「……その子は……」

エルフE「あ……えと、その……」

エルフF「ああ! お願いします……! もっと……もっと気持ちの良いことを……あなたにもあるそれで……私を……めちゃくちゃにしてください……!」

男「……そうか……ここにもいた、か……」

エルフE「…………」

エルフF「きもちいいのぉ……入ってくるのが、出ていくのが……その大きなので……お願いぃ……疼くのぉ……」

男「……他の場所にもいたけど……さ」サッ、サッ、サッ…

エルフF「熱い……あつい、あつい……もっともっとあつくして……私の火照りを……沈め……て……」ガクン

エルフE「っ!?」

男「大丈夫、眠らせただけだよ」

エルフE「そ、そうですか……」

男「……ごめんね……」

エルフE「え?」

男「ボク達人間のせいで、こうして壊れないと、生きていけないような子まで……作ってしまって……」

エルフE「…………」
エルフE「……ここにも、といいましたけれど、もしかして……」

男「うん。……さっきから、何度も見てきてる……」

男「他にも、ただただ怯えて悲鳴を上げる子も……喋れなくなってしまった子も……」
男「身体が震え続けて、意識が朦朧としている子も……怪我が酷くて、満足に立てない子も……沢山、いた」

エルフE「…………」

男「……ここから出るまでは当然だけど……できれば出てからも、皆と一緒になって……こうなってしまった子達を、助けてあげて欲しい」
男「こうしてしまった人間と同じ人間のボクが言うのも、筋違いなんだろうけれど……お願い」

エルフE「……言われるまでもありません」
エルフE「彼女も、私たちの同胞ですから」

男「……本当、エルフの仲間意識は、素晴らしいね……」

男「…………ありがとう……」

903:2012/04/07(土) 00:21:25.00 ID:
~~~~~~

◇ ◇ ◇
貴族の屋敷前
◇ ◇ ◇

男(姿を見えなくする秘術……か)

男(……本当、秘術というのは便利だな……そりゃ、魔法しか使えない人間では、エルフに勝てないのは当然だ……)

男「…………」

男(まぁ、なんにしても……今救える子は、ここで全部か……)

男(他の奴隷市場の場所は知らないし、だからといって、片っ端から貴族の屋敷を襲えば良いという訳でもない……)

男(……この、無駄に広いだけの、味気ない広場で終わりというのも……中々に良いものかもしれな――)

…ヒュンッ!

ジャバァッ!

ギシィ―

―ジャバァッ!

男(っ!? 自動防御を、貫通……!?)

ザシュッ!

男「がああぁぁぁ……! ぐぅっ!」

男(足に……! くそっ……! 何が……!)

男(……矢……! まさか……っ!)バッ!

男「…………」キョロキョロ…

男(見当たらない……だが、短弓用の短い矢が、この開けた広場を持つ屋敷で、視界に収まらない場所から撃たれた……となると……!)

男(間違いなく……後輩だっ!)

男「……ぐああぁぁぁりゃあぁっ!」

ズリュッ!

ポイ

904:2012/04/07(土) 00:23:29.73 ID:
男(魔法で強化した矢か……いや、鏃を魔法道具(マジックアイテム)と化して用いた矢、か……)

男(どちらにしても、ここに留まるのは得策ではない……!)

男(だがまさか……脚を狙われるとは……っ!)

…ヒュンッ!

男「……ちっ!」

男(避ける……!)ザッ!

トスッ!

男(あっちかっ!)サッ、サッ

ザバァッ!

男(……手ごたえがない……! やはり移動したか……)

男(……いや、矢自体の方向を変えて撃っているという可能性も……!)

男(いやそもそも、この足元の水で届く範囲にアイツはいるのか……?)

男(くそっ……! 本当に厄介なやつだ……! アイツだけは……っ!)

男(でもとりあえずは……!)サッ、サッ、サッ、サッ…

パァンッ!

男(水の自動防御で防げないのなら、探知できるように水を分散させるだけ……!)

…ヒュンッ!

男(これでなんとか避け続けて……! 場所を特定してみせるっ!)

905:2012/04/07(土) 00:26:49.56 ID:
ザッ!

トスッ

…ヒュンッ!

男「…………」ザッ!

トス

…ヒュンヒュン!

男「…………」バッ!

トストス

…ヒュヒュヒュン!

男「ちっ……!」ゴロゴロゴロ…

トストストス

男「……っ」ピク

男(水滴に引っ掛かった……あそこか)スッ…

キュポン

ゴクッ…

男(水滴に引っ掛からないための魔法――それも、首輪にあった自動魔力生成を応用したようなものを発動していたようだけど……)サッ

ザバァ…

男(さすがにその程度じゃあ、空気中の水分探知からしか逃れられない)サッ、サッ、サッ、サッ…

男(足元に撒いたこの水を使っての探知は、とてもじゃないが無理だ……!)トンッ…!

ザシャンッ!

後輩「っ!」ビクッ!

後輩(なっ……急に、間合いを……!? というか、居場所がどうしてバレ――)

男「ふっ!」サッ

ザバァッ!

後輩「くっ……!」

サッ…!

…ヒュンッ!

ギシィ―

男(この自動防御程度じゃあ貫通するだろうが……矢は一旦止まる……! これならたやすく避けられる……っ!)

―ジャバァッ!

サッ…!

906:2012/04/07(土) 00:28:00.72 ID:
男「…………」サッ、サッ

ザシュゥ、シュピィ…!

後輩「…………」サッ、サッ

ゴォッ!

男(炎の壁……弓も使えて魔法も使えるってのはここまで厄介か……!)

ヒュン、ヒュン…!

ジャバァッ!

キン、キン…!

後輩「ちっ……」

後輩(魔力を込めていない矢だと、さすがに先輩の自動防御に弾かれるか……!)

男「…………」サッ、サッ

ザバァッ!

ザッ!

男(っ! 距離は開けさせないっ!)

ザッ!

後輩(魔力を込めて……!)

シュピィィィ…!

男(自動じゃない、魔力を操作しての防御なら――)

サッ、サッ

男(――例え魔力を込められて魔法道具(マジックアイテム)と化していても、防げるっ!)

ギンッ!

907:2012/04/07(土) 00:29:02.60 ID:
男(しかし……このままだとジリ貧か……)

男(そうなると、体力が無いボクが不利になる……)

男(……仕方が無い)

男「…………」サッ、サッ

スッ…

後輩(っ!? 瓶っ!? 先輩の魔法……!)

ブンッ!

後輩(そんな単調な攻撃でっ!)ヒュッ!

バシッ!

男(蹴り……! 割っても発動することを理解してる……さすが……)

男(……でも……!)

ジュシャァ!

後輩(水での魔法と瓶との同時攻撃……程度でっ!)サッ、サッ!

ゴオッ!

…コロン

後輩(っ!? 水の中に……瓶を……!?)

…シュバァッ!

後輩「くっ……!」

ザッ!

後輩(くそっ……避けきれないっ……!)

ゴバァッ!

908:2012/04/07(土) 00:30:11.41 ID:
男「…………」

後輩「…………ちっ」

男「おいおい……二つも使って、その弓を破壊するのが精一杯なのかよ……」

後輩「……それよりも、先輩?」

男「ん?」

後輩「確かに足を矢で貫いたと思ったんですけど……どうしてそんなに普通に歩けるんですか?」

男「どうしても何も、治療したからだよ」

後輩「魔法での治療は傷口を塞ぐのが精一杯じゃないですか。それなのにあなたは普通に立っているし、歩いているし、走っている。何故ですか?」

男「今キミ自身が言った通りだよ」

後輩「?」

男「魔法では治療できないから、秘術で治療しただけの話」

後輩「秘術……?」

男「エルフが使う魔法みたいなものを秘術と、向こうでは呼んでいるんだよ」

男「それを使えば傷口を塞ぐだけじゃなく、ちゃんとした治療も出来る」

男「キミだって覚えているだろ? エルフは呼吸さえしていれば、万全の状態に治すことが出来るってのを」

男「それを再現しただけさ」

909:2012/04/07(土) 00:31:26.46 ID:
後輩「エルフの使う魔法を……? いえ、秘術でしたっけ……」

後輩「なるほど……図書館でエルフの書物を返しに来たときに、悟るべきでしたね……」

男「キミも似たようなことをしてるんだけどね」

後輩「え?」

男「エルフの奴隷につけている首輪、アレの自動魔力生成は、秘術に必要な精霊を使っているんだよ」

男「その術式のおかげで、ボクはある仮説を立てられて……そのおかげで、ボクが作っていたものよりも簡単に、秘術を使えるようになったからね」

男「そしてそのおかげで、狂化された兵達を救う時間を、短縮できた」

男「本当ならもう数日かかっていたかもしれないからね……ありがとう」

後輩「……ですがそれは逆に、そのせいで今日、あなたがこんなことをしてしまったということですよね……」

男「…………」

後輩「……どうして、こんなことをしているのですか?」
後輩「王を裏切ってまで……どうして……」

男「……後輩はさ、エルフの奴隷制度についてどう思う?」

後輩「え?」

男「…………」

後輩「そ、それは……人間の奴隷と同じで、戦争孤児となった子達を助けられる、保護としては最高のものと……」

男「もしそれが……ちゃんとしていなかったとしたら?」

後輩「えっ……?」

910:2012/04/07(土) 00:33:22.17 ID:
男「人間の奴隷制度とは違い、買った人がなんでもできる、文字通りの奴隷として扱われていたとしたら?」
男「精神がやられてしまうぐらい○され続けられてしまう状況に、陥られてしまうとしたら?」

後輩「そんなこと……あるはずは……」

男「そう。ボクもそう思っていた」
男「でも、そうじゃなかった」

後輩「……どうして、そう思ったんですか?」

男「思いたかったからだよ。彼女達のほうを、信じたくなったから。それだけ」

後輩「王よりも?」

男「王よりも」

後輩「……あなたを、今の立ち位置に導いてくれた――その奴隷制度を作ってくれた恩人なのに、ですか……?」

男「……ああ」

後輩「あなたは……王がこんなことを黙認していると、そう思っているということですか?」

男「思ってはいないさ。……疑ってはいるけどね」

後輩「…………」

男「……嬉しいことに後輩、キミはボクを慕ってくれている」
男「でも、それでも、王はそんなことをしていないと――ボクの言葉よりも王からの恩義を、信用するんだよね?」

後輩「……はい」

男「その逆だよ」
男「ボクは王への恩義よりも、彼女達を信じた。それだけだよ」

911:2012/04/07(土) 00:34:52.69 ID:
後輩「……エルフ達に騙されているだけではないのですか?」

男「今日、こんなことをする前だったら、ボクもその言葉で心が揺れたかもしれない」

男「でも、見ちゃったんだ。ボクは」

男「数人のエルフ達の心が、病んでしまっているのをさ」

男「そんなのを見てしまったら……もう、言葉を信じているだけ、では済まないよ」

男「その全てを信じてしまうに、決まってるじゃないか」

後輩「…………」

男「……まぁ、後輩が信じる必要は無いよ」

男「王を信頼している以上、そんなことはあり得ないと、そんなことがあれば対策をしてくれているはずだと、だからあり得ないんだと……」
男「そう考えてしまうのは、当然だからね」

912:2012/04/07(土) 00:42:14.92 ID:
後輩「…………そうですか……」

男「うん……」

後輩「それでは結局……僕達は、自分の信じるもの同士のために、戦うしかないんですね」

男「……キミとは、あまり戦いたくは無いんだけどね」

後輩「僕もですよ。先輩とは、戦いたくありません」

後輩「ですが……もう、信念同士のぶつかりだと言うのなら……」





後輩「……手加減は、しません」サッ





ギンッ!

男「っ!」

男(なっ……! 後ろ、から……!?)

後輩「僕は王を信じている。僕をこうして認めてくれた王を」

後輩「その王が、そんなことをやっているはずがないのに、やっていると言って……王を困らせるようなことを、あなたがするのなら……」サッ

ザシュシュシュシュ…!

後輩「先輩……いえ、男。僕はあなたと、戦います」

913:2012/04/07(土) 00:44:21.29 ID:
…パシャァ…!

フッ…

トストストストストストストス…

男「ぐ……っ!」

ポタ…ポタ…

男(自動防御で間に合わないぐらい、全方位から矢が飛んできた……)

男(深い傷はないけど……こんなに体力を削られたら……。……そろそろ、足元の水の維持が難しくなるか……)

男「……地面に刺さっていたはずの矢が……どうして……?」

後輩「どうして……? 簡単ですよ」

後輩「自動で魔力を得られる術式を使っただけです」

後輩「アレを篦に施しておいて、魔力を供給し続ける……」
後輩「そして僕の指示で目標へと飛来する術式を、羽根へと施しておく……」

後輩「そうすることで先輩……あなたの足元に広げている水のようなことが、術者と接点を必要とせずに、行うことが出来るんですよ」

男「ははっ……なるほどね」
男「自動魔力供給の術式を見つけた段階で、その可能性を考慮すべきだったな……」

男「……迂闊だよ……本当」

915:2012/04/07(土) 00:45:57.09 ID:
男「…………」スッ…

後輩「っ!」サッ

ヒュン…ッ!

パリィィン…!

後輩「魔力の回復なんて、させませんよ」
後輩「あなたの戦い方も、魔力の保存も、知っているんですから」

男「……ははっ、魔力回復だと決め付けて直接撃ち貫いたか……当たりだけど」

男「ま……そうだよね」

男「ボクがキミの戦い方を知っているように、キミもボクの戦い方を知ってるよね……」

男「互いに、色々と教えすぎてたかな……」

後輩「……………………一つ、腑に落ちません」

男「なにがだい?」

後輩「エルフ達の言葉を信じているのは分かります。僕は王を信じているので信じていませんが、本当に酷い扱いを受けていた実物を見たというのも、本当なのかもしれません」

後輩「でも……その行動に移る前に、どうして王よりもその子達を、信じられたんですか……?」

後輩「あれだけ王を信頼し、王のためにと行動していたあなたが……」

後輩「王がそんなことをするはずがないと否定せず、とりあえず行動に移ろうと……どうしてそう、思えたのですか……?」

男「……………………」

917:2012/04/07(土) 00:48:08.18 ID:
男「……確かにボクは、王のために行動していた」

男「でも、自分のための行動の方が多かったと自負している」

男「結局は、キミとは違うんだよ」

男「キミのように、王のため“だけ”の行動には、移れていなかった」

男「そこには結局、自分がしたいこととか、自分のためとか、そういうのがあったんだ」

男「……なんだかんだで自分本位だからね、ボクは」

男「だからまぁ、今回のコレのように……ボクのしたいことが誰かの反感を買うことなんて、あって当然なんだ」

後輩「……あなたの、したいこと……?」

男「ああ」

男「ボクは結局、この感情だけで、動いてきたんだ」

男「罪の償いに目処が立ってからずっと……ね」

後輩「それは……一体……」

男「……後輩はボクと同じ男だからね」

男「だから教えてあげるよ」





男「初めて口にする言葉だけど……」





男「ボクはね、彼女達のことが好きになったんだ」





男「奴隷として買った……二人のエルフにさ」





男「恋を、してしまったんだよ」

918:2012/04/07(土) 00:50:32.68 ID:
後輩「好き、って……相手は……エルフですよ!?」

後輩「それも確か、あなたの話では……つい最近買って、知り合ったばかりの……」

後輩「それなのに……それだけの短い時間で、好きになって……長い時間慕っていた王を、裏切るのですか……!?」

後輩「そんな……そんな、こと……」

男「女の子とまともに付き合ったことのないボクだからね。普通に話してくれるだけで、恋心を抱いたりしてしまうんだよ」

男「昔、うちの屋敷にいたメイドのことを好きになっていたこともあったぐらいだよ」

男「もっとも、彼女は他の誰かと結婚してしまったけど……思えばアレが、人生二度目の失恋だったかな」

男「一度目は、今もキミのところにいる助手だったりするしさ」

男「……本当、嘘みたいで冗談っぽいけどさ……情けないことに、本当のことなんだ」

男「ボクはとてつもなく、惚れっぽい男なんだよ」

後輩「…………」

男「そしてまぁ後は、惚れた弱みだよ」

男「好きになった子のために、色々とやってやりたい」

男「笑顔のために頑張ってやりたい」

男「喜ぶ声のために願いを叶えてやりたい」

男「……それだけが、今のボクを動かしている……この行動を起こそうという気にさせてくれた、感情さ」

男「……本当はこういう話をもっと、後輩と、こんな殺伐としていない空気の中でしたかったんだけどね……」

男「どういうところが好きとか、どうして好きになったのだとか、そういう、男の子っぽい会話をさ……」

男「ボクはキミのことも、数少ない友人だと思っていたしね」

男「……本当、ボクは惚れっぽい」

男「普通にこうして話してくれるだけで、今も敵となったキミのことを、いまだに慕ってしまってるんだからさ」

男「……まぁ、ただの寂しがりやなだけなのかもしれないけど……ね」

920:2012/04/07(土) 00:52:37.77 ID:
~~~~~~

◇ ◇ ◇
  屋敷
◇ ◇ ◇

ドンッ! ドンッ! ガシャァッ!

エルフ少女「……姿が見えなくなったって言うのに、なんでこうまだ屋敷を攻撃してくるのか……」

エルフ奴隷「新しく敵を見つけるまでは、私達のことを脅威だと認識してくれているのでしょう」

エルフ奴隷「あの化け物へと変えた人間も離れているようですし……どうも、アレでこの屋敷をメチャクチャにした後にでも、突入してくるつもりでしょう」

エルフ奴隷「きっとご主人さまが作ったことがあると言っていた、例の無力化するための魔法水も用意しているのでしょうしね」

エルフ少女「……それを聞くと、私達が頑張るのが間違えているような気さえしてくるなぁ……」
エルフ少女「アイツ等に自己責任として無力化してもらったほうが良いんじゃない?」

エルフ奴隷「その方法があればそれでも良いのですが……屋敷全体を結界で包んでしまった以上、裏口から出るというだけで結界が壊れてしまいますからね……」

エルフ奴隷「もっと上等な結界秘術を使えれば良かったのでしょうが……私の場合、内側から出ないことを条件とした強固な結界しかありませんでしたので……」

エルフ少女「それで謝られたら、通信秘術と身体強化と物体操作という簡単な秘術しか使えないわたしの方が問題になるって……」

エルフ少女「それに……これからやることなんて、奴隷ちゃんのすごい秘術があってこそ出来ることなんだし」

エルフ奴隷「ですが要は、少女さんの体術ですよ。今はあなただけが頼りなんですからね」

エルフ少女「……まぁ、奴隷ちゃんが集中しないと使えない秘術みたいだからね……仕方ない、か……」
エルフ少女「本当はわたし以外の人がした方が安心するんだろうけどね……」

エルフ奴隷「そんなことはありませんよ。私はあなたの実力を先程見て、大丈夫だと、確信しておりますので」

エルフ少女「それは……まぁ、ありがとう。未熟なわたしを評価してくれて」

エルフ奴隷「いえ。当然の評価ですよ」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「……それじゃあまぁ……」

エルフ奴隷「はい……始めましょうか」





エルフ奴隷「結界を、解除します」

921:2012/04/07(土) 00:53:39.43 ID:
バギャァンッ!

―ーグオオオオオオオオオアアァァァッッ!! ――

ダッ!

エルフ少女(まずはこの剣を……脚に――外側から狙って投げるっ!)ブンッ!

ザッ!

エルフ少女(当然そちら側へと避けるだろうから――)

エルフ少女「『握り、振るえ』」

ブンッ!

ザシュッ!

――ギュオオオオオォォォォォォォッッッ!

エルフ少女(よしっ、これで狙い通り片足は斬れた……! どうせ跳んだりして距離を詰められるだろうけど、速度は多少落ちるはず……!)

エルフ少女(その速度が落ちた隙に……!)

エルフ奴隷「『武装使用結界・鎖四肢個体対象型・中心点作成――展開』」ブンッ!

922:2012/04/07(土) 00:54:34.48 ID:
ドッ!

…ブンッ…

…ガシャガシャガシャ…!

エルフ奴隷(拘束完了……っ!)

エルフ奴隷(戦場ではこの拘束を試す間もなく、誰かに伝えようとも試してもらえたかどうかも分からないままでしたしね……)

エルフ少女(後はこの首を刎ねれば……!)

ダッ!

エルフ少女「『戻ってきて』」ヒュッ…

パシッ!

エルフ少女(これで……!)ヒュッ!

ピシッ!

エルフ奴隷「っ!」

エルフ少女(……終わりっ!)ブンッ!

エルフ奴隷「っ! 避け――」

ガシャァンッ!

エルフ少女「なっ……!」

パシィッ!

923:2012/04/07(土) 00:55:42.54 ID:
エルフ少女(くっ……掴まれ……! 離れないっ……!)グッ! グッ!

エルフ少女(っ! 違う、わたしが離さないと――)

ヒュンッ!

エルフ少女「っ!」グンッ!

エルフ少女(しまった……引っ張られ……!)

フッ…

ドグシャァッ!

エルフ少女「が……っ! はあぁっ!」ベキベキベキ…!

ブォン…!

エルフ奴隷「少女さ――」

…ドォンッ!

エルフ少女「ぐ……あ……っ!」ベゴォァッ!

タッタッタ…

エルフ奴隷「少女さんっ!?」

エルフ少女「あ……あ……はぁっ! はぐっ……! ひゅー……」

エルフ奴隷(くっ……このままだと、少女さんが……!)

エルフ奴隷(でも……――)

――ウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……ッッ!! ――

ピシィッ! ピシィッ!

エルフ奴隷(――……先に少女さんを治療していては……あの化け物の拘束が……!)

924:2012/04/07(土) 00:56:30.92 ID:
エルフ奴隷(でも拘束を先にしては……少女さんが無事でいてくれるかどうか……)

エルフ奴隷(……少女さん……)

エルフ奴隷(……私の、見通しの甘さのせいで……こんなことに……)

エルフ少女「ふー……ふー……ひゅー……」

エルフ奴隷(よくよく考えれば、こんな方法でコレを倒せていたのなら……今頃戦争でも、負けていなかった)

エルフ奴隷(それに、他の同胞が思いついていて、当然のことでもあった……)

エルフ奴隷(そのことに気付きもせず……こんな作戦を、提案してしまって……)

エルフ奴隷(少女さんに、大怪我をさせてしまって……)

エルフ奴隷(……化け物を目の前にしての恐怖で思考が止まっていたとしても……これは……)

エルフ奴隷「…………」

エルフ奴隷(少女さん……私は……)

エルフ奴隷「…………」ブツブツ…

925:2012/04/07(土) 00:57:45.54 ID:
エルフ少女「……ん」

エルフ奴隷「あ……良かった……です」

エルフ少女「奴隷……ちゃん……? わたしは……確か……」

エルフ奴隷「はい……すいません。私のバカみたいな作戦のせいで……こんな大怪我を……」

エルフ少女「……ううん。今奴隷ちゃんが治療してくれてるから、良いよ」
エルフ少女「でも……あの化け物は?」

エルフ奴隷「……そろそろ、拘束が解けそうです」

エルフ少女「そう、か……」
エルフ少女「……不謹慎なんだろうけどさ……嬉しかった」

エルフ奴隷「えっ……?」

エルフ少女「本当はダメなんだろうけど……あの化け物を止めることよりも、わたしを優先してくれて……嬉しかった」

エルフ奴隷「……当然じゃないですか」

エルフ奴隷「罪悪感を抜きにしても……あなたはもう、私の傍にいて欲しい人の、一人なんですから」

926:2012/04/07(土) 00:59:16.44 ID:
エルフ少女「……うん、もう大丈夫。ありがとう」スッ

エルフ奴隷「いえ……」

エルフ少女「さて、と……片腕が自由になってからもあの結界、結構もってるけど……」

エルフ奴隷「個人に対して発動する、媒介ありの結界ですからね……」
エルフ奴隷「おそらく片腕でも自由になったのは、あの化け物の防衛本能による底力のようなものだったのでしょう」

エルフ奴隷「それも想像できず――」

エルフ少女「それはもう良いって」

エルフ奴隷「――はい」

ブツブツ…

エルフ少女「『戻ってきて』」フッ

パシッ!

エルフ少女「でもまぁ、アレは結構惜しかったし……もう一回その方法でいきましょうか」

エルフ奴隷「ですがそれだと……!」

エルフ少女「また死にそうな怪我したら、また治してくれたら良いから」
エルフ少女「苦しかったけど、治してもらえるのが分かってるなら……大丈夫だから」

エルフ奴隷「……分かりました」

バギャアァァン!

―ーグオオオオオオオオオアアァァァッッ!! ――

エルフ少女「さぁ……行くよっ!」

エルフ奴隷「……はいっ」

ダッ!

















?「そこまでですっ!」

バシャァ!

927:2012/04/07(土) 01:00:54.58 ID:
?「拘束秘術! 簡易なもので良いので急いでっ!」

エルフG「はいっ!」ブツブツ…

―ーグオオアアアアアアアアアアァァァッッ!! ――

エルフG「『四肢拘束』」

ジャラ…

――ウゴアァッ! ――

ガシャァン!

?「何度もお願い! 次第に力を失ってくるはずだからっ!」

エルフG「『四肢拘束』」

ジャラジャラ…

――オオオオァッ! ――

ガシャァン!

エルフG「『四肢拘束』」

ジャラジャラジャラ…ギチ

――アアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァッ! ――

ガシャァン!

エルフG「『四肢拘束』」

ジャラジャラジャラ…ギシッ…

――ウゴ、ウオッ、アァッ! ――

ガチ! ギチッ…!

エルフ少女「動きを……」

エルフ奴隷「止め……た……」

?「間に合って良かったです」

エルフ少女「……あ」

?「お二人とも……よく、耐えてくれました」

エルフ奴隷「……それを言ったら……よく、間に合ってくれました」





エルフ奴隷「……エルフメイドさん」

928:2012/04/07(土) 01:02:48.32 ID:
エルフ少女「メイドさんっ!」ガシッ!

エルフメイド「あ、っと……」
エルフメイド「……こうして会ってお話するのは、久しぶりですね……」

エルフ奴隷「ありがとうございました。お二人が来て下さらなければ……今頃は」

エルフメイド「私は何も……拘束してくれたのは、こちらの同胞です」

エルフG「どうも」

エルフ奴隷「ですが……拘束前に何かをかけていましたけれど……あれは?」

エルフメイド「あなた方を買った人から預かっていた、秘術を魔法で封した瓶ですよ」
エルフメイド「万に一もあり得ないだろうけれどあっても損はしないだろうから、と渡してくれたものです」

エルフ奴隷「秘術を、魔法で……?」

エルフメイド「はい。あの狂化された存在を、元に戻すもの……だそうです」

奴隷少年「…………」

エルフ奴隷「……本当、あの人には敵いませんね……その万に一つが、本当にあったんですから……」
エルフ奴隷「でも本当……おかげで、助かりました」

エルフメイド「本当ですね」

エルフ奴隷「あなたにも助けられたんですよ」

エルフ奴隷「秘術が使えなくなって怖いはずですのに、裏口から入って、こうして……あの化け物に、ソレをかけてくれたのですから」

エルフメイド「……当たり前じゃないですか」
エルフメイド「だって私は……そうして欲しいと、救ってくれなかった人に、頼まれてしまったのですから」

929:2012/04/07(土) 01:03:27.92 ID:
~~~~~~

時は戻って昨日・深夜

◇ ◇ ◇
奴隷市場
◇ ◇ ◇

ズシュッ…!

エルフメイド「ぐっ……はぁっ!」ズリュッ…!

ザシュッ…!

エルフメイド「がっ……ふぅっ!」ザリュッ…!

エルフメイド「うっ……」カラン…

ドサ…

男「…………」

エルフメイド「…………」ピク、ピク…

男「……………………」
男「……ごめん。エルフメイドさん」キュポン

男「ボクはあなたを……救えそうにないよ……」

カツ、カツ、カツ、カツ…

…ビチャビチャビチャビチャ…

930:2012/04/07(土) 01:04:25.08 ID:
エルフメイド「……はっ」

エルフメイド「…………」

男「……………………」

エルフメイド「……どうして……?」

エルフメイド「どうして私……生きているんですか……?」

男「……結局ボクが、あなたを救えなかったからですよ……」

エルフメイド「どう、いう……」

男「……お腹に開いた傷口を、塞いでしまいました……」

エルフメイド「なっ……! そんな、約束と……!」

男「ええ……約束と違います」
男「ボクはあなたに秘術を施してもらっておきながら、あなたを殺しませんでした」

エルフメイド「なんで――」

男「殺せなかったからですよ、あなたを」

エルフメイド「――っ」

男「……すいません。ボクの身勝手です」
男「身勝手で、あなたを生かしてしまいました」

男「救われない、秘術も使えないこの世界を生きてくれと、絶望に染まったこの世界で生きてくれと……そんな、酷なことを、お願いしました」

931:2012/04/07(土) 01:05:33.05 ID:
エルフメイド「……どうやってですか? 人間は確か、傷を塞ぐことしか出来ないはずでしたよね……?」

男「……エルフの秘術ですよ。ボクはそれを使えるよう、必死に研究していましたので」

エルフメイド「なるほど……あなたがエルフを買いに来たのは、そういった理由でしたか……」

男「はい。……あなたの傷を塞げたのも、そうして身に着けた秘術のおかげです」
男「秘術を、水の中に魔法で固定化する方法――魔術とでも呼ぶべき、その方法のせいで……」

男「あなたは、死ねなかった」

エルフメイド「…………」

男「ですが……あくまで出来るのは、秘術と同じことです」
男「呼吸をしなくなった者を治すことは出来ません……」

男「……ので、お腹の子は、おそらく……」

エルフメイド「そう……。……不幸中の幸い、とは、このことですね……」
エルフメイド「でもまさかあなたが……約束を違えるとは……」

男「…………」

エルフメイド「……今度は、私自身が、私を殺さないと……」

男「……なんとか、生きてはもらえませんか?」

エルフメイド「イヤですよ」

エルフメイド「もう、こんな世界を……生きていくのは」

男「……ボクはあなたに、生きていてもらいたい」

エルフメイド「あなたが買ったあの子の為に、ですか?」

男「ボクが生きて欲しいと思ったから、ですよ」

933:2012/04/07(土) 01:07:41.08 ID:
エルフメイド「そんな身勝手な理由で……私に、この辛い世の中を生きていけと……?」

エルフメイド「秘術も使えなくなって……人間とも戦えなくなって……何をされるか分からない……この世を……?」

男「……秘術が使えなくても、あなたの同胞があなたを、守ってくれるはずです」

エルフメイド「そんな迷惑になるようなことをしてしまうのなら……いっそ……!」

男「今まで他の子を助けてきた君を助けることが迷惑だなんて思う子はいないと思いますけど……」
男「まぁ、本人がソレを気にしてしまうのなら、いくら言っても無駄か……」

エルフメイド「…………」

男「それなら……ボクのところに来てくれませんか?」

エルフメイド「は……?」

男「ボクがキミを救わなかった責任として、キミを守っていきます」

男「キミに生きて欲しいと願ったボクの責任として、キミの前に、立ち続けます」

男「あらゆる人間から」

男「この世界の辛さから」

男「あなたを……無様に晒し続けてしまわないために」

男「だから、お願いします」

男「どうか……死なないで下さい」

男「絶望の中を、生きてください」

男「辛い世の中を、苦しみながら……どうか……生きて……生き続けて……」

男「そんな中を歩ませることをしてしまった罪を……」

男「あなたに秘術を使えなくしてしまった罪を……どうか、償わせてください」

934:2012/04/07(土) 01:10:11.07 ID:
~~~~~~

戻って・深夜

◇ ◇ ◇
  屋敷
◇ ◇ ◇

エルフメイド(そうして生かされて……この魔法の水を託されて……)

エルフメイド「それで山の中で皆と別れ、同胞を一人だけ引き連れて、こうして裏口から入るようなルートを取ったのです」

エルフメイド「私があの人間に託された魔法の水は、さっき狂人に降りかけた念のためにという水と、首輪にかけられた魔法を消すためのもの……」

エルフメイド「私を助けた段階ではその首輪解除の魔法は二つしか持っていなかったそうでしたけれど、それを二つとも、渡してくれました」

エルフ奴隷「なるほど……皆と固まって行動している間に、コッソリとその水を使って首輪の魔法を解除した……」

エルフメイド「はい。探知の魔法がどういったものかは分かりませんが、これだけ集まっている中で二つだけ首輪の探知が消えたところで、バレるとは思えませんでしたから」

エルフ奴隷「で、それから別れることで、相手に二人を察知される心配も無かった……」

エルフメイド「そういうことです」

エルフ奴隷「ご主人さまの作戦上なら、裏口の安全を確保するための役割だったそうですが……」
エルフ奴隷「まさかこうしたタイミングで来て下さるとは……正直、助かりました」

エルフメイド「でもまさか、包囲網の抜け道どころか、その包囲網すら無いとは思いもしませんでしたよ」

エルフG「さすがの私達でも、これだけ何も無く屋敷に近づけたことに違和感を覚えましたからね」

エルフ奴隷「あの狂化された人間を投入するために、一応の撤退をしているのでしょう」

奴隷少年「…………」

エルフ少女「んじゃ、それを完璧な撤退に持ち込むためにも……」

エルフ奴隷「はい……この少年を連れて、表へと出ましょう」

935:2012/04/07(土) 01:12:15.73 ID:
エルフ奴隷「戦いになるかもしれませんが……英雄と呼ばれていた男と、この狂人を倒した今……」

エルフ少女「負けるはずは無いってね」

エルフ奴隷「はい。私達の、勝利です」





~~~~~~





◇ ◇ ◇
貴族の屋敷前
◇ ◇ ◇

男「ともかく、そろそろ決着といこうじゃないか」スッ…

後輩「っ! だから、させませんっ!」サッ

シュパァッ!

…パリン

後輩(会話で混乱させ、その隙に瓶を取り出し飲もうって魂胆なんだろうけど……そうは――)

男(……とか、考えていそうだけど――)



シュゴォォ!



後輩(――なっ……! 普通の、魔法……!?)

男(――はずれだっ……!)

後輩「ぐっ……!」

後輩(無数の蛇が襲い掛かってくるみたいに、火が……!)
後輩(だが手元でこんなものを発動させたら……!)

男(そう……ボクの手は大火傷。瓶を持っていた右半身だって少し焦げたような匂いがする)
男(こうなるからこそ今まで、取り出す瓶は全て魔力の回復だろうと決め付けていたのだろう)

男(……もう彼の不意を衝けるのは、この方法しかなかった)

男(確かに痛い……熱さを通り越した痛みが走ってくる)
男(だけど、こうまでしてまでやれる価値は……あるっ……!)スッ…

後輩(っ! 新しい瓶……! でも、今はこの蛇を避けるので精一杯……! 魔力の回復をされる
……!)

男(いや……魔力の回復じゃないんだ……これは)キュポン





男(これは……残っている僅か二つのうちの一つ……秘術だよ)ゴクッ…

936:2012/04/07(土) 01:13:20.36 ID:
後輩「ちっ……!」

後輩(距離をとってなんとか火の蛇は避けられたけど……魔力を回復した状態のあの人と、弓を壊された状態で勝てるかどうか……)

男「…………」ブツブツブツ…

後輩「……?」

男「『落雷』」

ドォン…!

後輩(なっ……! 僕が仕掛けておいた矢が……全部っ!?)

後輩(いや……それよりも……魔力が走った跡が見れなかった……)

後輩(あれはまさしく……)

男「気付いてくれた?」

後輩「っ! ……はい……」
後輩「……それって、エルフが使う魔法、そのものですよね……?」

男「そう。秘術を使えるようにする魔法……それを飲んだんだ」

後輩「……そんな、狂化の水のようなものを……また……」

男「確かに危ないものかもしれないけれど……それでもまぁ、これが安全なものだっていうのは、実証されてるからさ」

男「エルフ達本人によってね」

937:2012/04/07(土) 01:13:58.36 ID:
「キミが編み上げた外部からの魔力供給術式……アレをみてピンときたんだ」

男「もしかして秘術にも、魔法でいう魔力のようなものが必要なんじゃないか――体内に何かがないと秘術が使えないんじゃないか、ってね」

男「……ううん、そんな格好の良いものでもないか」

男「最初は、精霊を体内に取り込めば、一定時間無限に魔力を、体内に生み出し続けることが出来るんじゃないか、っていう考えだった」

男「で、そっからエルフの書物を、また読み込んでいったらさ……エルフ自身の体内で精霊の循環を果たしている、みたいな記述があったんだよ」

男「最初は“精霊に語りかけるということは、精霊を体内に取り込んで、その体内で精霊が、体内に取り込んだ人が『世界に具現化したい』と願っていることを受け取って、外へと出ることで世界に影響を与えている”と思っていたんだけど……」

男「本当は“エルフの体内には常に精霊が存在し、空気を入れ替えるかのように外にいる精霊と入れ替わったりしている”ってことだったんだ」

男「つまりは、“身体自身と自分自身を世界の一部だ”と世界に誤認させているということだったんだ」

男「そのおかげでエルフ達は、ただ声を上げるだけで、世界に干渉を果たしてもらっているんだよ」

男「人間みたいに、魔力を作り上げて、無理矢理世界に干渉を果たしてるんじゃなくてさ」

男「きっとエルフが使える秘術にムラがあるのは、体内の精霊の数が多いか少ないかの違いのせいなんだよ」

938:2012/04/07(土) 01:15:25.38 ID:
後輩「…………」

男「……まぁ、そんなことをいきなり今説明されても、困るだろうけどさ……」

後輩「……つまりあなたは今、エルフと同じことが出来ると……?」

男「そういうことになるね」

男「精霊を体内に取り込んで循環させる……いくつも秘術を魔法で固定化する魔術を使ってきたボクだからこそ、コツも掴み終えているしね」

後輩「……はぁ……。……だったら、僕の負けですよ。降参です」

後輩「遠隔操作できる矢を壊され、遠距離攻撃ができる弓を壊され、魔法しか使えなくなった今……勝てるはずもありません」

後輩「ここで……終わりです」

男「……………………」
男「……そうか……」

男「良かった……」
男「本当……後輩、キミを殺さずに済んで、良かったよ」ザッ

後輩「…………」

ザッ、ザッ、ザッ…

939:2012/04/07(土) 01:16:19.91 ID:
…ピタ

男「ああ……そうだ」

後輩「はい?」

男「良かったら、王に直々に会ってみると良い」

後輩「え?」

男「キミはいつも、大臣の言葉を聞いていたんじゃないのか? 王の言葉だと言われて」

後輩「……まぁ、そうですね……今回のコレも、王のためと彼に言われて行ったことですし……」

男「だったらやっぱり、一度王に会って、そのことを問いただして見た方が良い」
男「……いや、違う」

男「問いただして欲しい」

男「先輩からの、最後のお願いだ」

後輩「…………」

男「きっと今回の騒ぎで、大臣で止まっていたこの一件、王の耳に入ると思う」

男「その時にでも、エルフの奴隷の件も含めて全部を――キミが信じている部分だけでも、言ってやって欲しい」

男「反逆者になってしまったボクでは言えないだろうからさ……頼むよ」

後輩「……はい……っ!」

940:2012/04/07(土) 01:17:21.02 ID:
◇ ◇ ◇
 街外れ
◇ ◇ ◇

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…

男(さて……これだけやればもう、十分か……)

男(実は回復するための魔力ももう無いし……あるのは、精霊を体内に取り込む方じゃない魔術が、一つだけ)

男(攻撃用の魔法も何もかもが、失われた)

男(今まで貯め込んでもの全てを使って……エルフ達を助けて……)

男(これから先は……どうしようか……?)

男(……まぁ、色々と、考えてはいるんだけど……)

男(実行に移せるかどうか……か)

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…

パシャァ!

男「つめたっ!」

男(水……? ……っ……!)

男『この足元に置いておく水の弱点はね――』

タッタッタッタッ…!

男『――普通の水をかけられてしまうと、術式が無くなってしまう事なんだ――』

男「くっ……!」バッ

男『――だから、雨の日とかボク……じつは、何にも出来なかったりするんだよね』

ダッ!

男「っ!」

















ザシュッ!

941:2012/04/07(土) 01:18:19.31 ID:
男「……ぐぅっ……!」

ズリュッ…ズリュッ…!

男「あ……ぐぅ……がはっ……!」ゴハァッ!

ビチャビチャビチャ…

?「…………」

男「……うぅっ! ぐっ……そんな……捻り込まなくても……大丈夫だよ……」

?「…………」

男「ただまぁ……刺すんなら、お腹じゃなくて、心臓にして、欲しかったな……」
男「おかげで……すごい、痛い……」

?「……………………」

男「……ボクが昔、キミに喋った……キミにしか喋ってない、ボクの弱点……よく、覚えていてくれたね……」

?「……………………」

男「ただ……どうして、こんなことをしたのか……教えて欲しいな……」




















男「……メイド、さん」





元メイド「……あたしは、元メイド、ですよ」

942:2012/04/07(土) 01:20:46.40 ID:
ザリュッ!

男「うぅっ!」

ポタ、ポタ…

元メイド「…………」

男「……これでも結構、仲良くしてきたつもりだったんだけど……」
男「……ボクの勘違い……だったかな……?」

元メイド「……あなたが……あなたが、○人なのでしょう……?」

男「……?」

元メイド「……あたしの旦那様を殺した……瓦礫の下敷きにした……○人なんでしょう……?」

男(瓦礫……? ……ああ、そうか……)

男「……エルフを助けて回っただけだよ」
男「でもまさか……キミの旦那さんが、エルフを買っていたなん――」

元メイド「旦那様は買ってない!」

男「――っ」

元メイド「奴隷なんて、人間のものを含めてっ! 買ってないのっ!」

元メイド「それなのに……それなのに……!」

元メイド「ただ、あの人の兄弟が……! その屋敷に呼び出されたその日に……あなたが……襲ってきて……! それで、壊されて……! 下敷きに……なって……! 死んで……っ!!」

男(ああ……くそっ……なんて巡り合わせだ……)

男(なんて……なんて不幸な、巡り合わせだ……)

男(誰も殺さないようにしてきたけれど、やはり何人かは、殺してしまっていた……)

男(そしてその少ない数の中に、元メイドさんの旦那さんが、含まれていた……)

男(それも本来なら、怪我すらせず……こんなボクの身勝手に巻き込まれることも無いような人が……)

男(運悪く、巻き込まれてしまった……)

943:2012/04/07(土) 01:22:18.39 ID:
元メイド「だからっ……!」ブンッ!

男(……そうか……そうだよね……)

男(そりゃ……ボクを全力で、刺しにもくるか……)

男(本当に殺す気で……ただ、怒りに任せた行動じゃなかったから……自動防御の術式を崩壊させられる方法を、取ってきた……)

男(……良いさ。怒りはしない)

男(怒る理由も無い)

男(こういうことになって命を狙われてしまうことぐらい、予測できたことだ)

男(あって当然の、ことだ……)

男(ボクの、罪だったんだから……)

男「……ごめんね。みんな……」





ザシュッ!





…バタン…

945:2012/04/07(土) 01:24:05.04 ID:
第四部はここで終わり

…なんだけど、本当はここにちょいちょいと書き足して終わる予定だったんだけど…

昨日、投下前にちょっとご都合主義なエピローグが思いついてしまって…

というわけでソレを投下します



こっから先は本当に、今まで以上にご都合主義だからご注意を

948:2012/04/07(土) 01:25:26.30 ID:
――エピローグ――

◇ ◇ ◇
  王城
◇ ◇ ◇

王「そうか……それが後輩の語る、この事件の全てか……」

後輩「はい……」

王「……大臣」

大臣「……はっ」

王「何か、言うことは……?」

大臣「……あの男という人間は、反逆者です」
大臣「貴族を数人も殺し、エルフが酷い扱いを受けていたと虚言を吐き、自由となっていたエルフを逃がした……」

大臣「きっと、精神がおかしくなっていたのでしょう」

後輩「っ……!」

王「そうか……ならお前は、先ほどオレに言ったとおり、エルフ達の脱走を手引きしたのが男で、男がエルフの奴隷制度について虚言を吐いていたに過ぎず……」
王「そのエルフをも騙し、自分の財産にしようとしていたと……そう、言いたいのだな?」

大臣「はっ」

王「……王として、親友だからと、男の肩は持てない……」
王「公正な立場で、物事を判断しなければならない……」

















王「だがな……大臣。それを抜きにしてもオレは、お前を信用できない」

951:2012/04/07(土) 01:26:37.13 ID:
大臣「なっ……!」

王「二人のエルフの奴隷を買い、時間をかけて信用させ、その二人を起点にエルフを騙してきた……」
王「だから今も男の屋敷に全員がいたままになっている。エルフは仲間意識が強い故に、その少人数を騙せたが故に、そうなった……」

王「ああ、なるほど。確かにその通りかもしれない」

王「後輩自身も、エルフが本当に○されていたかどうか、人間の奴隷制度よりも酷いことをされていたのかどうか、といった証拠も見つけられていないのだしな」

王「結局あのエルフ達がいる男の屋敷に男自身が戻っていない今、あのエルフ達も騙されたかどうかの判断が出来ないのかもしれない」

後輩「…………」

王「しかし、だ。だがそうなると何故男は、最初からソレをしなかったんだ?」

大臣「……?」

王「今回の貴族の屋敷襲撃事件、その全てを男一人で成し遂げたそうじゃないか」

王「それだけのことをするのに準備が必要で、その準備にエルフが必要だったのだとしても……わざわざ奴隷市場を襲ってから一日を待つ必要性が感じられない」

王「兵の数を分断させるためだと後輩は言っているが……奴隷市場を襲ったその日に成し遂げようと行動していれば、そもそも兵のほとんどが投入されてしまう心配なんてする必要が無い」

王「まして、闇夜に紛れて行動し、相手の位置を把握できる魔法まで展開できる、あの男が相手だ……その日でも良かっただろう」

王「だが、何故そうしなかったと思う?」

952:2012/04/07(土) 01:27:38.40 ID:
大臣「それは……その一日で、準備をしたからかと……」

王「だろうね。オレもそう思う」

王「だが男がどうして、そんなことをする?」

大臣「……おしゃってる意味が、分かりませんが……」

王「彼ほどの人が、どうして“一日でカタをつけられるよう予め準備して来なかったのか”って訊いている」

大臣「それは……私には、分かりかねます……」

王「そうか……まぁ、分からないものは仕方が無いか」

王「しかし……王としてじゃないオレは――アイツの親友であるオレは、実は分かっている」

大臣「え……?」

王「簡単なことだ」

王「“そうして少しでも一日を短縮してこちらを混乱させなければいけないほど切羽詰っていた”ということだろう」

王「準備を自分の屋敷で行っている場合じゃないと思えるほどの何かがあったと……そういうことだ」

大臣「…………」

王「では、それが何か?」

王「さすがにここまでくるとオレでも分からない」

王「だがヒントはある」

王「なぁ、後輩?」

後輩「え……?」

953:2012/04/07(土) 01:28:37.83 ID:
王「男がお前に明かしてくれたことだよ。もしかしたらソレは本当かもしれない、ということだ」

後輩「あ……」

王「というわけで後輩、宮廷魔法使いのお前に頼むことではないのだろうが、その調査、お願いしても良いだろうか?」

大臣「ちょ、ちょっと待ってください、王」

王「どうした?」

大臣「エルフの奴隷制度については私に一任してくださっていたはず……! それなのにどうして私に頼んで下さらないのですか……っ!」

王「言っただろう? 男の親友であるのを抜きにしても、お前を信用できないと」

大臣「なっ……!」

王「父の代からずっとお前を大臣として置いてきていて信用もしていたが……さすがに今回の一件、お前は一切関わるな」

大臣「ど、どうして……!」

王「……一任しているお前に、その疑いがかけられたからだよ」

大臣「っ!」

王「それでお前に調査させたところで意味が無い」

王「それならば、他の人間に任せるのがスジだろう?」

王「後輩なら、大臣に何を言われても、オレの言うとおり公平に調査してくれそうだからな」

王「頼むぞ、後輩」

後輩「っ! ……はいっ!」

954:2012/04/07(土) 01:29:45.12 ID:
~~~~~~

後輩(そうして調査の結果……先輩の言っていた通りだということが判明した)

後輩(どこの奴隷市場でも同じで、どこで買われたエルフも同じ……)

後輩(奴隷商は口を揃えて言っていた)

後輩(大臣がその裏協定を結んできたと)

後輩(途中で国の暗部から、僕の命が狙われたこともあり……確定的となった)

後輩(その後、大臣は国外追放。息子もそれに付き添う形となった)

後輩(また、エルフを買い、エルフ達自身が酷いことをしてきたと証言した貴族達は、その役人としての立場を追われ、国への政治に口出しが出来なくなった)

後輩(たくさんのエルフを傷つけておきながら、それら沢山の人全てが死刑でないのは、ぬるいのかもしれないが……)

後輩(……エルフ達がそう提示してきたので、王としても、その言葉に従った)

955:2012/04/07(土) 01:30:45.61 ID:
後輩(そう……エルフ達が、だ)

後輩(彼女達は大臣の罪が決まり、奴隷という立場から解放を約束されてからすぐ、元々エルフの里があった場所への移動が決まった)

後輩(元の広さの領地は無いけれど……エルフの国と、再び分別された訳でもないけれど……)

後輩(沢山の人間が里の近くに住み、その同行を役人や貴族達が監視し、また人間の法律の下で生活することになってしまうけれど……)

後輩(数人の人間がエルフの里で暮らし続ける……そんな、本当に近くで監視されてしまうような生活に、なってしまうけれど……)

後輩(それでも、人間達の元、色々とされてしまうよりかは幾分もマシな状況に、落ち着いた)

後輩(だがこれは、現在の王が生きている間のみである)

後輩(エルフのような長寿にしてみれば、本当に短い時間の話)

後輩(それ以降は、人間のやり方に納得がいかなければ……反論を許されるようになった)

後輩(ただただ黙って従う期間は、今の王が王である間のみ)

後輩(そういう、約束となった)

後輩(それ以降の世代は、エルフとの話し合いの場を設けることとなった)

後輩(これは結局……戦争前までのような、全く接点を持たず、形だけの同盟だけが続いていたことも考えれば、ある意味進歩した関係になったとも言える)

後輩(そう言って王は、悲しいことも沢山あったが、少しでもプラスが生まれて良かったと、そう語ってくれた)

956:2012/04/07(土) 01:31:25.87 ID:
後輩(そうして……それらの取り決めや実行に移す期間などで……三つ、月が上り下りを繰り返した……ある日)

後輩(エルフの里付近に貴族や役人が住むための、小さな町も出来……そこに移住も始まり……)

後輩(ついに……エルフの里へと住む、数人の人間が……街を、出て行った)

後輩(一人の女性と一人の男性……そして、一人の大罪人を乗せて……馬車は出て行った)

957:2012/04/07(土) 01:32:40.41 ID:
~~~~~~

◇ ◇ ◇
エルフの里
◇ ◇ ◇

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「奴隷ちゃん……」

エルフ奴隷「……ん?」

エルフ少女「また、人間の街がある方を見てる……」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「そんなに……旦那様のことを……」

エルフ奴隷「……まぁ、あの人の近くにずっといたかったのは、事実ですね……」

エルフ少女「……わたし達がこうして、ここに戻ってこれるようにしてくれた、旦那様……」

エルフ奴隷「……約束どおり、皆を救ってくれた……ご主人さま……」
エルフ奴隷「……嬉しいことは確かなんです……」

エルフ奴隷「でも……でも、ですね……」

エルフ奴隷「こんなこと言うと、エルフとして……裏切り者になるのかもしれませんが……私……!」





エルフ奴隷「同胞よりも、あの人が戻ってきて欲しかった……!」





エルフ少女「……うん」

エルフ奴隷「あの人と一緒に……ずっと居たかった……!」

エルフ少女「…………うん」

エルフ奴隷「同胞よりも……あの人のほうが……私は……大切……でした……!」

エルフ少女「……………………うん」

エルフ奴隷「そのことに……今更……! 私は……っ!」

958:2012/04/07(土) 01:33:39.37 ID:
ギュッ…

エルフ奴隷「っ!」

エルフ少女「ごめんね……奴隷ちゃん……」
エルフ少女「でも……これ以上は……周りに聞かれたら、色々と……言われちゃうから、さ……」

エルフ少女「だから……誰にも聞こえないように……ここで……」

エルフ奴隷「……ん……すいません……」

エルフ少女「あそこにいる頃は、わたしも沢山支えてもらったからね」

エルフ奴隷「……私のほうが、支えられてばかりです……」

エルフ少女「そうでもないよ」

エルフ奴隷「そうでしたよ。……本当、情けないです……」

ギュッ

エルフ奴隷「しばらく……このままで、いさせてください……」

エルフ少女「………………………………うん」

959:2012/04/07(土) 01:34:43.76 ID:
~~~~~~

エルフ奴隷「……ありがとうございました」スッ

エルフ少女「ううん。落ち着いたんなら、それで良いよ」

エルフ奴隷「……情けないですね、私は」
エルフ奴隷「まだ、引きずっているだなんて……」

エルフ少女「それだけ、大事だったってことでしょ? 旦那様のことが」
エルフ少女「だったら、何も情けなくないよ」

エルフ奴隷「そう、でしょうか……」

エルフ少女「そうだって」
エルフ少女「まぁ、今日あたりから、この里にも人間が住むことになってるから、それでついつい、思いが込みあがってきちゃったのかもしれないけどさ」

エルフ奴隷「そうですね……もう、言われていた、あの日ですか……」

エルフ少女「うん」
エルフ少女「あ、それでエルフメイドさんに呼ばれてたんだ」

エルフ奴隷「今はもう、この里の長ですよ?」

エルフ少女「え? でも本人は前の呼び方のままで良いって……」

エルフ奴隷「それでもやっぱり、里長と呼ぶべきでは……?」

エルフ少女「う~ん……まぁ、呼びやすい方で良いんじゃない?」

エルフ奴隷「……まぁ、そうですね」





カツン…カツン…

960:2012/04/07(土) 01:36:53.49 ID:
~~~~~~

エルフ里長「よく来てくださいました」

大使女「いえ、こちらもこれから一緒に住む訳ですしね」

少年執事「どうもっす」

大使女「もっとも、あたし達は人質としての価値は無いわけですけれど」

エルフ里長「人質だなんてそんな……」
エルフ里長「……まぁ、隠す必要もありませんね」

大使女「そういうことですよ」

大使女「これから同じ場所で一緒に住む訳ですしね」

大使女「隠し事は無しにしましょう……とまでは言いませんし、仲良くしましょうとも言いませんが……」

大使女「腹の探りあいばかりの毎日を過ごさないようにはしましょう」

エルフ里長「……分かりました」
エルフ里長「では人質の人間お二人様、我が里で住むことを、歓迎いたします」

エルフ里長「逆恨みしているエルフに殺されぬように、私共も協力は惜しみませんが……ご注意くださいませ」

少年執事「……清々しいっすね」

大使女「これぐらいでちょうど良いって」

961:2012/04/07(土) 01:37:46.09 ID:
大使女「あ、でも、あたし達二人だけじゃないの。この里に来たのは」

エルフ里長「はい?」

大使女「あと一人、あたし達人間の国で大罪人になった人が、この里に来てる」

エルフ里長「……やはり人間達は、私達を苦しめたいのですね……」

大使女「まさかですよ」
大使女「まぁ、彼をつれてきたのは王の頼みではあるのですが……」

大使女「でも、苦しめたい訳じゃありません」

大使女「ただ、色々とやらかしすぎましてね……あたし達の国では生き辛くなっちゃったのよ」

エルフ里長「厄介者を押し付けようってことですか……?」

大使女「いやいや、だからそうじゃないんですって」

大使女「この里だと、彼を進んで守ってくれそうだし……なによりこれが、彼を守れる、王の唯一取れる手段だったんですよ」

大使女「王という立場上、コッソリと……正式な手続きも踏まずあの国から彼を出せる手段が、コレしか無かったものですから」

エルフ里長「……誰なんですか? それは」

大使女「あたし達二人よりも、大きく人質の価値がある人ですよ」

962:2012/04/07(土) 01:38:39.33 ID:
~~~~~~

時は戻って――

 ◇ ◇ ◇
城内・謁見の間
 ◇ ◇ ◇

王「……本当に良いのかい?」

元メイド「はい」

王「エルフ達は皆、人間を恨んでいるだろう。それこそ性別なんて関係なくね」

王「そんな場所に住んで、どんな迫害がくるのか……」

元メイド「……男くんを刺した、償いですよ」

王「確かに……この国の人間を傷つけたというのは、この国の法律に抵触はするが……」

王「だからといって、あなたが無理に行く必要は無いでしょう」

元メイド「……王は、あたしに行って欲しくないのですか?」

王「そうではない」
王「心配しているのだよ」

王「誰を行かせようか議論が絶えなくなるだろうこの案件……進んで行ってくれるのは確かに嬉しいが……」

王「だが議論が絶えなくなるだろうと思えるのは、相手の要求が、まさに人質請求そのものだからに他ならない」

王「監視役として数人だけ、里に住んで欲しいだなんて……」

王「裏を返せば、イザ戦争となればその人たちを殺すということに他ならない」

元メイド「あなたは、またエルフに戦争を仕掛けるのですか?」

王「仕掛けないが……」

元メイド「なら、大丈夫ですよ」

963:2012/04/07(土) 01:39:22.84 ID:
元メイド「戦争が起きないのなら、大丈夫です」

王「だが、相手の要求は人質としての人間だけではない」

王「言ってしまえば、不満の捌け口を欲しいということでもある」

王「だからこそ、迫害が起きるだろうと考えられて危ないと……」

元メイド「だとしても、あたしは行きたいです」

元メイド「男くんのためにも……」

王「…………」

元メイド「…………」

王「……はぁ……参ったよ、キミには」
王「まぁ、皆進んで行きたがらないだろうから、少しゴリ押せばキミでも大丈夫だろう」

元メイド「ありがとうございます」

王「全く……山奥にあった男の屋敷へ勤めてくれと頼んだときは、すごく面倒くさそうにしていたくせにね……」

元メイド「あの時と今とでは、色々と違うでしょう?」

王「ま、そうなんだろうけどさ……」

964:2012/04/07(土) 01:40:14.04 ID:
王「しかし……そうか……キミがいくのか……」

元メイド「?」

王「なら、一人頼まれてくれないか?」

王「? どういうことですか?」

王「この国に置いていては、どんな極刑を科せられるか分からないからな……ソイツを、エルフの里へと連れて行って欲しい」

元メイド「……○罪者を、ってことですか?」

王「この国では――というより、人間の場所では○罪者になってしまうからね」
王「エルフ達にしてみれば、英雄を招きいれるようなものになるはずだから、歓迎してくれるだろうさ」

元メイド「え……? それって、どういう……?」

王「貴族達を数人殺し、その当時は財産となっていたエルフを奪い去った……」

王「殺人と強盗、二つの容疑で今も牢屋に閉じ込めざるを得なくなっている、片足が不自由になってしまった、オレの親友……」

王「是非とも、こんな場所で一生を終えて欲しくないからね」

王「エルフの里へと向かうキミに逃がされた、という体で、連れて行って欲しい」

















王「男をさ」

965:2012/04/07(土) 01:40:42.14 ID:
~~~~~~

――疑ったことは、謝ることじゃない――

――親友でも、疑うのは仕方の無いことだろう――

――ましてオレたちはエルフではなく人間だ――

――彼等のように、ただただ信じるだけということは出来ない種族だ――

――だから大事なのは、ただ信じようとすることではなく、疑っていることを正直に打ち明けることだ――

――打ち明けても大丈夫だと信頼することだ――

――そして相手も、疑われていても怒らず、逆に心配することが大切なんだ――

――親友である自分を疑うほど、相手が追い詰められていることを理解してあげないといけない――

――それらのことが出来て、本当の意味で信頼しあえる中なんだ――

――自分たちがまだその段階にはいってないことが分かった――

――だからいずれそうなれるよう、互いに頑張ろう――

~~~~~~

王(牢で会って、謝ってきたお前に、そういったばかりだったけどさ……)

王(距離が離れてもオレのこと……親友だと、思い続けて欲しい)

王(それだけは……疑うことの無いものであって欲しいものだな……)

966:2012/04/07(土) 01:41:56.60 ID:
~~~~~~

時は再び戻り――

◇ ◇ ◇
エルフの里
◇ ◇ ◇

カツン…カツン…

エルフ少女「……ん?」

エルフ奴隷「……あれって……」

エルフ少女「……もし、かして……」

エルフ奴隷「そんな……でも……!」


~~~~~~


エルフ里長「今こうしてあるのは、あの人のおかげです」

大使女(元メイド)「でしょうね」
大使女(元メイド)「でもそのせいで、あたしの旦那さんは、あの人に殺された……」

エルフ里長「……ならあなたは、私たちエルフを、恨んでいるのでは……?」

大使女「恨んでないって。殺したのは男くんで、あたしは男くんを“一度殺した”」

大使女「例え偶然にも、男くんが生きていたとしても……あたしはずっと、ココに来るのを頼まれるまで、彼が死んだものだと思っていた」

大使女「そうして生きてきて……それでも、ココに来たいと思った」

大使女「男くんならそうするかもしれないって思いがあって……その彼を復讐心で殺したのなら、その代わりぐらい果たさないと、って思ってね」

967:2012/04/07(土) 01:44:06.54 ID:
エルフ里長「でも結果的に、あの人は生きていたのでしょう? それならあなたが来る必要は……」

大使女「そうなると、男くんをココには連れて来れなかった」

大使女「あくまでもあたしだからこそ――脱走の手引きをしただろうけれど、そんなことをする理由があるのだろうかと悩まされる、男くんに一度復讐した人だからこそ、叶ったこと」

大使女「あたし以外なら今頃彼は、牢の中で、役人の権限を奪われた貴族達が裏から手を回してきて、何をされたか分からないことになるって」

エルフ里長「……でも何故、一度復讐を果たし、復讐が果たされていなかったのに、そうして彼に協力できたのですか……?」

大使女「協力してるつもりもないけどね……あたしとしては」

大使女「ただ、さ……旦那様を亡くして、その癖、亡くす原因となっている旦那さんの兄弟姉妹だけ生き残っているのを見ると……もう、あそこにはいたくなくなっただけ」

大使女「そっから色々と理由をこじつけて、こうしてこの場にいるだけですからね……」

大使女「結局、さっき言ったとおり一度復讐を果たしていたあたしの心は、生きていたと分かっても、再び復讐しようという気持ちがわかなかったんです」

大使女「だからと……昔みたいに慕うことも、出来ないんですけどね」

エルフ里長「……あなたは、不器用に生きていますね」

大使女「自分でもそう思うよ」

大使女「本当、好きになった人に最初っから告白してれば、こんなことにはならなかったのかもな……って思う」

少年執事「…………」

エルフ里長「……エルフ皆は、あなたを迫害するかもしれませんが……」

大使女「……?」

エルフ里長「私も正直、人質としては歓迎していましたけれど、これから住む仲間としては歓迎していませんでしたけれど……」

エルフ里長「……その話を聞いて、変わりました」





エルフ里長「私個人としては……あなたがここに来てくれたことを、歓迎します」





エルフ里長「人の世界に戻りたくない、人間様」

エルフ里長「どうかここで、共に暮らしましょう」

大使女「……ありがとう。そう言ってもらえると、嬉しい」

968:2012/04/07(土) 01:44:57.45 ID:
~~~~~~

カツン…カツン…

エルフ奴隷「あ……あぁ……」

エルフ少女「……っ……っ!」

…カツン

男「……………………」

男「……やあ」

男「久しぶり、二人とも」

エルフ奴隷「っ!」
エルフ少女「っ!」

男「……ただいま」

ダッ!

969:2012/04/07(土) 01:45:42.79 ID:
男(元メイドさんに刺された時……その衝撃で偶然にも、最後の一つとしてとっておいた、傷を治療する秘術が、外へと出た)

(男そして割れて、その水溜りの中に、ボクは倒れた)

男(そのおかげでボクは、死ななかった)

男(ただやっぱり、秘術は人間の身体に負担があったようで……)

男(骨が折れたわけでも、神経が切れたわけでもないのに、左足に力が、入らなくなった)

男(副作用がないと思われていたソレは……やはり、副作用があった)

男(だが……片足一つで、命が助かったことを思えば……とても、運に恵まれていたのだろう)

男(だって――)





エルフ少女「旦那様っ!!」
エルフ奴隷「ご主人さまっ!!」

ダキッ!!





男(――こうして、好きな人二人の元へと、来れたんだから)

男「うわ……と」

ドサッ

970:2012/04/07(土) 01:46:51.78 ID:
男(大切だった人の、大切な人を殺しておいて……無様にも生き残ったボク)

男(幸せになることに抵抗はあるが……幸せになれと、その大切だった人に、言われてしまった)

男(互いに気まずい馬車の中で……その一言だけ、もらえた)

男(だから、ボクは……)

エルフ少女「旦那様っ! 旦那様っ! 旦那様っ! 旦那様っ! 旦那様っ!!」ギュウゥゥ~!!

エルフ奴隷「ご主人さまっ! ご主人さまっ! ご主人さまっ! ご主人さまっ! ご主人さまっ!!」ギュウゥゥ~!!

男「ははっ……ありがとう、二人とも」ポン、ポン





男(せめて、言いそびれていたことを言うことぐらいは、しよう……)





男「ねぇ……少女ちゃん。昔聞かれて、全てを終えてから話すって言ったことがあるよね?」

男「ボクがね……こんなになるまで……自分の今までと全てと、これからを投げ打ってまで頑張ってこれた理由」

男「それはね――」





男(それが今の、ボクの最大限の――)





男(――幸せに、なれることだ……)

















終わり