1: 名無しさん 2015/11/10(火)14:38:25 ID:Aoz
「兄さん、いい加減目を覚ましてよ。クラムボンは殺されたんだよ」
薄暗い病室の中で、僕は必死に兄に何度目かの説得を繰り返す。
しかし、兄のぎょろついた目には僕の声は届いていなかった。

引用元: ・兄「クラムボンは笑ったよ」弟「そんなわけないだろ」

2: 名無しさん 2015/11/10(火)14:41:23 ID:Aoz
「お前こそ何を言っているんだ。いくら俺より背が低くたって
僻むんじゃないよ」
「兄さん……」
かつての頼れる兄はすっかり痩せてしまった。
背だってそれは昔の話で、今は僕よりも一回りは小さく、自分が動くことだって
満足にできないくせに過去に逃げ込んで喜ぶ兄はひどく哀れだった。

3: 名無しさん 2015/11/10(火)14:44:41 ID:Aoz
クラムボンとは、僕達の姉の名前だ。
無邪気で、明るい人だった。
いつもかぷかぷと笑顔を絶やさず、口下手な父と僕達を繋いでくれた。
早くに母を亡くした僕達にとってまるで母のような存在だった。
多少貧乏ではあったが、満たされた生活だった。
その生活が、一変した。

4: 名無しさん 2015/11/10(火)14:50:21 ID:Aoz
きっかけは、父のリストラだった。
父の勤めている会社が大幅な人員移動を行ったのだ。
口下手な父は、あれやあれやと退職リストに名を連ね、瞬く間に解雇された。
その数日後、父は退職金をもって姿を消した。

5: 名無しさん 2015/11/10(火)14:53:08 ID:Aoz
ある日、家に帰ってみると、辺りが鮮血に染まっていた。
父は白い粉を撒き散らしながら倒れていた。
クラムボンは赤い血を撒き散らしながら倒れていた。
兄は虚ろな目をしていた。
父の粉の袋には、YAMANASI512と書かれていた。

6: 名無しさん 2015/11/10(火)14:56:45 ID:Aoz
後から聞いたところによると、父は薬物中毒に陥っていたらしい。
父は金を探しに戻ってきたところをクラムボンに見つかり、薬のせいで
苛立っていたところもあり、ついカッとなって殺してしまったそうだ。
兄はあまりのショックに精神病棟へ入院した。

7: 名無しさん 2015/11/10(火)14:59:13 ID:Aoz
父は当然だが逮捕され、今は懲役中だ。
それから、もう一年あまり経つ。
面会へ行くと、まだ兄はクラムボン達が生きていると信じているらしい。
僕はその姿を見ながら、意味がないとわかっているやり取りを繰り返す。

8: 名無しさん 2015/11/10(火)15:01:27 ID:Aoz
「クラムボンは 笑ったよ。」

「クラムボンは 死んだよ。」

「クラムボンは かぷかぷ笑ったよ。」

「クラムボンは 殺されたよ。」

「クラムボンは 笑っていたよ。」

「それなら、 なぜ クラムボンは 笑ったの。」

「知らない。」

終わり