1: SSまとめマン 2011/10/31(月) 23:31:58.91 ID:7O9BH8gi0
「ぷぁ……!」
私は、我那覇さんの胸元を手の平でとんと押した。
離れる瞬間、私と我那覇さんの間に透明なねばつく橋が出来あがって、地面に垂れた。

「ありがとう、そして、ごめんなさい、我那覇さん」

暗闇の中、手探りで、ブラインドを引き上げた。
薄暗い部屋に、眩い光が拡がって、思わず目を細めた。

……好きでもない同性相手に、キスをされるとこんな気分になるのね。

「我那覇さん、怖かった?」

私が、そう聞くと、我那覇さんはひとつ、力が抜けたようにこくんと頷いて。
それから「……少し」と消え入りそうな声で呟いた。

引用元: ・千早「我那覇さん……我那覇さん……」クチュクチュ

6: SSまとめマン 2011/10/31(月) 23:33:31.51 ID:7O9BH8gi0
これで落ちたらすっぱり諦める
遅くてごめん

8: SSまとめマン 2011/10/31(月) 23:35:16.92 ID:7O9BH8gi0
それから、私は次のライブのためのレッスンを軽くした。
やっぱり、上手くいかない。

……私と、春香のライブはもうすぐなのに。
春香は、このライブをとても楽しみにしていた。

会うたびに、何枚ものパンフレットを私の目の前に広げて、楽しそうに言った。
「千早ちゃん!ドームですよ!ドーム!」

……あの頃の日々がもうはるか遠くにある気がするわ。

せめて、春香と会話できる仲にはならなくちゃいけない。
このままじゃ、絶対にライブは失敗する。

プロとして、アイドルとして、それだけは許されることじゃないわ。

鏡と時計しか無いレッスンルームから出ると、外はもう真っ暗だった。
扉を開けると、凍えるような冷たい風が、私の肌を突きさす。
春香の靴は無かった。もう、帰っているのね。

……。

私が出口で、マフラーを巻いていると、背中から震える声がした。
「千早……」
振り向くと、我那覇さんが霜焼けしたような、真っ赤な顔で立っている。
……本当に、今日は寒い日のようね。
「我那覇さん、まだ帰っていなかったの?」

9: SSまとめマン 2011/10/31(月) 23:37:43.49 ID:7O9BH8gi0
我那覇さんは、手を擦り合せながら言った。吐く息が白くなっている。
「自分、千早のこと待ってたんだ」
「えっ……」

驚いて私は、腕時計に目を落とす。
ダンスの自主トレーニングは2時間ほどした。
もう照明は落ちているし、暖房もとっくに切れている。

……その間、我那覇さんはずっとここで待ってたの?

「どうして」
「う……それは……」
言うなり、我那覇さんは、ただでさえ小さな体を、更に小さく縮こませた。

……。

「我那覇さん、叩いてしまって本当にごめんなさい」
「えっ……」
我那覇さんの頬には未だに、目立つ真っ白な湿布が貼られていた。
それなのに、私に対して、何も言及されなかったのは……。
他の皆には、黙っていてくれたのね。

もう一度、深く、深くお辞儀をした。
「……本当に、ごめんなさい」
「う、うわわ。い、いいんだ!きっと千早は深い悲しみに包まれたんだろうし……」

私は、こんな、友達思いで、綺麗な心を持った人に何てことをしてしまったのかしら。

10: SSまとめマン 2011/10/31(月) 23:40:40.02 ID:7O9BH8gi0
「それに、さっきヒドイことも……」
「う……お、お願い、頭あげてよ!」
我那覇さんの震えた声が、私の頭の上で聞こえた。

ゆっくりと、頭をあげると、やっぱり泣きそうな顔の我那覇さんがいた。
「自分、千早にこのままずーっと嫌われちゃったらどうしようかと思ってたんだ」
「……」

やっぱり春香の顔が浮かんでしまう。
それと、一緒にプロデューサーの顔も。

プロデューサーが春香に何か冗談を言ったみたい。
春香が手で口元で抑えるように、無邪気な笑顔を向ける。

……どうして、春香、私じゃダメなの?

私は、誰よりも春香を理解して、傍にずっといた。
休日はカラオケによく行った。
私たち、普段あれだけレッスンで歌っているのに、不思議なものね。
時々、ちょっと拗ねるのも可愛いと思った。

だけど、それとよく似た弟は私の前からいなくなった。
「……!」
綺麗事はいらない。ただ貴方だけいれば……。

「ち、千早……?」
あ……。
「ご、ごめんなさい?我那覇さん」
我那覇さんが目の前にいるのに、私は春香のことばかりを考えていた。

12: SSまとめマン 2011/10/31(月) 23:44:35.18 ID:7O9BH8gi0
このままじゃ、ダメね。しっかりしましょう。
気づかれない程度に、頭を微かに左右に振った。

笑顔を作って、不安そうに見つめている我那覇さんに言う。
「それじゃ、もう遅いし一緒に帰りましょう?」
「あ、う、うん……」

我那覇さんは、口を一度ぽっかり開いて、また急いでつぐんで顔を背けてしまった。
……いかにも、何か言いたげのよう。

「あ、あのあの千早っ」
「はい?」
「千早は、その本気で人を好きになったこと、ある……のか?」
「……」

──あなたは、本当に、人を好きになったことがある?

答えるしか、無いようね。
私は、吸いこまれそうな、淡い海色の瞳を見据えて、言った。
「……あるわ」
「そ、そっか」
「えぇ……」
「ど、どんな気分になるんだ?」
「……身が燃えるような、気分かしら」
「……」

我那覇さんは、胸に手を当てて黙ってしまった。
……やっぱり顔が凄く赤い。風邪をひいてなければいいのだけれど。

それから、我那覇さんと帰り道に取り留めの無い会話をして駅で別れた。

16: SSまとめマン 2011/10/31(月) 23:48:10.54 ID:7O9BH8gi0
アパートのドアを開けると、誰もいない真っ暗な部屋。
灯りをつけて、携帯食料とミネラルウォーターが入ったビニール袋を無造作に置いた。

「……」
湯船にお湯を溜めて、服を脱いで、肩まで浸かる。
こういう日のお風呂はあまり、好きじゃないわ。

「ふぅ……」
それから、簡素な無地の白いシャツと青いハーフパンツに着替えた。
タオルで髪を拭きながら、積まれているCDの1枚を適当に手に取る。

「……」
濡れたままの髪で、ヘッドホンをかけて音楽に聴き入る。
私が、唯一安心できる時間。

「……」
少し眠くなったから、ベッドに入ってぼんやりと天井を眺めた。
そのまま片手を伸ばす。手の平が月明かりに透ける。

「……」
そして、暫くして私はその手をシーツへと押しこむ。
下へ下へとズラしていく。

「んぁ……」
冷たい指が、下半身に触れた。

23: SSまとめマン 2011/11/01(火) 00:10:19.66 ID:O6hjxQrv0
慎重にゆっくりと、秘裂に指を這わせる。生地が柔らかいから、指先が易々と肌に埋もれた。

「ん……ふぅ……」
ゾクゾクとする刺激に、思わず短い吐息が、唇の隙間からもれる。

そういえば最近、毎日のように自慰行為をしている気がする。
前は、これほどじゃなかったのに……。

段々と、全身が、思考がトロトロにとろけていく気分に合わせて指の動きを速める。
「ふっ……ふっ……ふぅっ」
呼吸が激しくなってきた。
やがて、じんわりと秘部に温かくなる。少しだけ湿る。
私は、愛液を掻きだすように、爪先で弄くる。
「はぁ……!」

背筋に寒気にも似た快感が走る。
シーツの中に隠れるように、体を丸めて、両手で秘部をひたすらこする。

「あ……はぁ……!」

やっぱり……すごく気持ちいいわ……。

「はるかっ……」
途端に、焼けるように秘部が熱くなった。そして愛液が洪水のように溢れた。
下着とハーフパンツにも滲み出そうになった。
シーツにまで染み込みそうになって、慌てて手ですくう。

今日は、軽くするハズだったのに……。

28: SSまとめマン 2011/11/01(火) 00:25:57.84 ID:O6hjxQrv0
そのまま、うつ伏せになって、新品の携帯電話を開く。

「……」
まだ、操作がよくわからない。
春香に一度教えてもらったけれど、どこを押せばどこが光るのか……。
まるでダメね……。

慣れない手つきで、ボタンを数回押すと、春香が映っている写真が開いた。
こちらに向かって、満面の笑みでピースサインをしている。

「……」
真っ暗な布団の中でぼんやりと液晶画面が、淡い光を灯している。
「はるか……」
もう、何も考えられない。

……。

「んあー!」
気づいたら、私はベットの中で、大きな喘ぎ声を出して絶頂していた。
段々と霧のかかったような視界が晴れてくる。
ハーフパンツは足元に引っかかっていて、ショーツは膝の辺りまでずり落ちていた。

「……」
また天井を眺めると、煙のように春香の笑顔が浮かんで消えた。

……。


そして、朝、音無さんから、春香が道ばたで倒れて救急車で運ばれたという連絡を聞いた。

33: SSまとめマン 2011/11/01(火) 00:37:52.69 ID:O6hjxQrv0
「はぁ……はぁ……」
昨夜の行為で、乱れた髪のまま、私は病院へと走った。

春香は、私の丁度レッスンが終わって帰る時間に、倒れた。
あそこは、深夜だと薄暗くて、人通りが少ない道だった。

よく知っている。
……だって、私がいつも通る道だったから。


だけどあの日は、我那覇さんと帰ったから別の道を通った。


「はぁ……はぁ……!」
息が苦しい。凍りつくような冷気が喉を痛めつける。

春香は、そこで、何時間も助けを求めた、と聞かされた。
あんな下手すれば凍死するような夜に、春香は独り……。

「……はぁっ!」
思わず、目の端が潤む。私は……私は……

……。

「春香っ!」
病院のドアを開けると、春香がベッドで、表情もなくただそこに眠っていた。
「……!」
私は、そんな時になんてことを……。

38: SSまとめマン 2011/11/01(火) 00:54:59.71 ID:O6hjxQrv0
春香の額や頬には、痛々しく包帯が巻かれている。
そこから微かに、濃い紫色の肌が見える。

春香の症状は、風邪。それと、極寒で放置されたことによる低体温症に、重度の凍傷。
命に別状は無いけれど……。

──もう、コンサートには間に合わない。
……。

「あなたおーわすれないー」
「春香、大分上手くなったけれど、まだ音程がズレているわ……」
「うーん、千早ちゃんスパルタだねぇ」
「それは、春香だからよ」

また、二人のレッスンの日常を思い出した。
あれだけ、『蒼い鳥』を二人で歌うことを楽しみにしていたのに……。

「……」
ベッドで眠っている春香に顔を近づけて、じっと見つめる。

「春香、本当に、ごめんなさい……」
返事は当然、返ってはこなかった。
……何十分、いえ何時間そうしていたのでしょう。

不意に私の背後からドアノブが回される音が聞こえた。

42: SSまとめマン 2011/11/01(火) 01:10:23.52 ID:O6hjxQrv0
「如月千早……」
この呼び方をするのは、一人だけね。
「……」
背中から穏やかな声が響く。
「己を責めては、いけませんよ」
「……心配していただき、ありがとうございます」

あなたの、言ってくれたことが正しかったのかも知れません。

「あなたは、少し真面目すぎるのではないでしょうか」
「……」
「歌についても、初恋についても」
「……くっ」
「少しは、周囲に頼ってもよいのですよ」
「はい、アドバイス……ありがとうございます。すいません、少しだけ一人にしてください」
私は振り向いて、深く頭を下げた。

……。

46: SSまとめマン 2011/11/01(火) 01:21:21.97 ID:O6hjxQrv0
「はるか……」
そして、病室が水を打ったように静かになった。
春香の痛々しい姿を見ている間は、ずっと胸がズキズキと締め付けられる。

つい昨日までは、あれだけ元気だったのに……。
そこで思い立って、携帯電話をポケットから取り出した。

……春香の元気な笑顔が見たい。

慣れない手つきで、ボタンをいじる。
「……?」
ふと、画面の右下に見慣れない電話のアイコンが点滅しているのに気づいた。

48: SSまとめマン 2011/11/01(火) 01:24:34.61 ID:O6hjxQrv0
えっと……どうするのかしら……。
機械の種類が代わると、よく分からないわ……。

適当に、ボタンをぽちぽちと押す。
電話帳に飛んだり、電源が切れたり……。

そして、ようやくそのアイコンを意味するものへ辿り着いた。

「……!」
それと同時に、私の視界が、ぐるりと反転した。

『着信履歴アリ 天海春香』

春香は、昨晩、私に助けを求めくれていた。
自慰行為をしていて、私はそれに気付かなかった。
「……」

……もうなにもかもダメね。

54: SSまとめマン 2011/11/01(火) 01:41:33.69 ID:O6hjxQrv0
階段を上がって、重たい扉をゆっくりと開けた。
「おはようございます」

765プロの事務所の中は、暖房が聞いていて暖かい。

ソファには誰もいない。

奥ではプロデューサーが頭を抱えている。
私に気付いて、大声を出す。

「おい千早、大丈夫か!?」
「はい、早速レッスンに入りますから」

病院のラジオでは、都市部では近々大雪が降ると告げた。
電車の遅延情報は、特に無し。

いつも通りね。

56: SSまとめマン 2011/11/01(火) 01:42:30.95 ID:O6hjxQrv0
……。

「あおいいいとりひいいい」
「……」
「ふぅ……どうですか?」
「千早ちゃん、少しお休みしたほうがいいんじゃない」
コーチが頬に手を当てて、憐れむような声で言う。

「いえ、私はまだまだ歌えます、やらせてください」
そう言って、レッスンを再開しようとしたけれど無理やり中断された。
仕方なく、こっそりと、誰もいない個室で自主トレーニングを始めた。

「泣くことーならーたやすいけれどー」
やっぱり、以前よりも格段に表現力が落ちている気がする。

「あおいいいとりひいいい……」
気づいた頃には、喉が枯れて声がもう出なかった。
仕方なく、そこで私は自主トレーニングを中断して、ミネラルウォーターを口に含んだ。

62: SSまとめマン 2011/11/01(火) 02:00:55.20 ID:O6hjxQrv0
それから、プロデューサーに早く帰るように言われて、適当に相槌をうって、
事務所にいる皆に慰められて、またレッスンルームで自主トレーニングをして……

「あ……」
気づくと、夜だった。夜空には綺麗な月が光っている。
また、こんな時間まで残ってしまったのね……。

「早く、帰らないと……」
少し汗を吸ったトレーニングウェアを、ロッカーに閉って、普段着に着替える。

「……あら?」

そこで、ふと居間から物音がすることに気付いた。
何かを探すようなドタバタした足音と、壁に体をブツける音。

ゆっくりと、扉を開けると……。

ポニーテールが揺れていた。気配を感じたのか、私の方を振り返る。
「千早ぁ!探したぞー!」
そう言って、こちらへと転びそうになりながら走り寄ってくる。

心臓がキュッと締め付けられて、体が強張る。
ドアノブを、後ろに引きたくなった。
だってあえて、考えないようにしていたもの。

……我那覇さんのことは。

正直な気持ちを言ってしまうと、会いたくなかった。

66: SSまとめマン 2011/11/01(火) 02:13:11.74 ID:O6hjxQrv0
「携帯電話繋がらなかったから、自分どうしようかと思ったさー!」
「……」
「ずっとずっと心配してたんだぞ!千早」
「……」

私は……。

目を瞑って、自分の心に耳を傾けている。

そうね、取り繕うのはやめましょう。

──私は、我那覇さんのことが、憎い。
今、自分自身を責めているのと、同じくらい我那覇さんを責めたい。

我那覇さんが止めなかったら、春香をきっと助けられた。
私のアパートに連れていって、看病できた。

あくまで、推測ですけれど。
だけど、その可能性があったかも知れない。

──千早ちゃん、寒い……助けて……。助けてよ……。
昨日、春香の夢を見た。
街灯の無い道ばたで、春香は呻くように這いずり回っている。


「我那覇さん……」
我那覇さんを叩いた時と、同じ声が出た。

70: SSまとめマン 2011/11/01(火) 02:25:34.19 ID:O6hjxQrv0
……でも、この気持ちは押し殺すしかない。

皆は、親友が入院したのに、事務所で黙々とトレーニングをする
私を非情だと感じたかも知れない。

きっと、我那覇さんもそう思ってる。
それでも、別に構わない。

そう……。

「……誰の助けも今はいらないから」
無意識に声が出ていた。相変わらず、私じゃない声。

我那覇さんの声は、聞こえてこない。
怯えるような小さな悲鳴も、逃げるような足音も。

ゆっくりと瞼を開けると……。
潤んだ目で、こちらを睨みつける我那覇さんがいた。

「我那──」
「バカ!千早のバカバカバカ!」
「ひっ……」
大声が、二人っきりの事務所にこだました。
思わず、耳を塞いでしまった。

「何でそんなこと言うんさー!自分、千早が落ち込んでるの、もう見てられないんだ!」
拳を握って、叫ぶ。
「元気出してよ!自分のこと殴っていいから!」
そう言って、我那覇さんは私の肩を揺さぶった。

72: SSまとめマン 2011/11/01(火) 02:34:54.96 ID:O6hjxQrv0
相変わらず、頭の中にあるのは、春香の顔だった。
けれど……けれど……。

「どうして……?」

我那覇さんの体は汗ばんでいて、かすり傷が所々できている。
きっと、私を探してずっと、この時間まで探し回ってくれたのね。

「どうして、私にここまでするの?」
「……」
「私、我那覇さんのこと、叩いたし、無理やりキスもしたのに……」
「それは……自分たち、仲間だもんげ……」

私の、春香への想いを知っているのは、春香と、四条さんと……一応、我那覇さんも入るのかしら。

──少しは、周囲に頼ってもよいのですよ

四条さん、私甘えを見せていいんでしょうか、我那覇さんに……。

「それと……」
「えっ……」
「自分、千早に、その、キスされてから……胸がドキドキするんだ」
「我那覇さん……」
「体が熱いぞ……。これが、人を好きになるってこと、なのか?千早」

我那覇さんは、頬を赤らめて、見上げて、呟いた。

「デートしてくれますか……?」

四条さん、私は、やっぱりとんでもないことをしてしまったのかも知れません。

73: SSまとめマン 2011/11/01(火) 02:37:23.51 ID:O6hjxQrv0
今日はここまで……
オヤスミー(^o^)ノ

支援してくれた人ありがとう

154: SSまとめマン 2011/11/01(火) 17:40:48.70 ID:O6hjxQrv0
私は、どこを見回しても人しかいないスクランブル交差点で、待ち合わせをしている。
繁華街はあまり好きじゃないのだけれど……。

時計を確認しながら、独り言を漏らした。
「さすがに、休日だから人が多いわね」
暫く待っていても待ち人は来ない。

「まだかしら……」
時間を浪費するのがもったいないので、ハンドバッグから
MP3プレイヤー?を取り出してイヤホンを耳にあてる。

『好きなものだからー好きでいーたいー』

喧騒が消えて、心地よい音楽が聞こえてくる。
私は壁に寄り掛かって、それに聞き入る。

すると……

「──はやぁ!」
隣から、大声で私の呼ぶ声が聞こえた。
イヤホンを耳から外す。

「いやーごめんさー!ハム蔵がちょっと大変な事になっちゃってたんだ」
そこには、息を切らした我那覇さんがいた。

157: SSまとめマン 2011/11/01(火) 17:52:49.20 ID:O6hjxQrv0
我那覇さんは、頭を下げながら、両手を合わせて言った。
「遅刻してごめん、千早!なんくるなくないさー……」
「いえ、私も今来たところだし……」

それから、突然地団太を踏みだした。周りの通行人の視線が集まる。
「もー!ハム蔵がまた脱走しちゃったんだ!」
「またエサを食べてしまったの?」

後頭部に手を回して、曇りない笑顔を私に向けた。まるで、今日の空のようね。
「いやー、でも見つかって良かったさー!」

そして、私の格好を見るなりまた怒りだす。

……面白いわ。

「って、あー!何でいつもの服なんさー!」
「だ、ダメかしら……」
タートルネックのインナーに、ブラウンの細身のパンツ。これが一番楽な格好なのだけれど……。
よく見ると、我那覇さんの雰囲気が違う。メイクをしているのね。

160: SSまとめマン 2011/11/01(火) 18:02:54.14 ID:O6hjxQrv0
「ん……」
「……?」

我那覇さんが、不意に私の前に手を差し出した。
私は首をかしげて言った。
「なにかしら」
「もー千早のドンカン!……今日はデートなんだからね」
「あ……」

……そういえば、そうだったわ。

私は、ひんやりと冷たい我那覇さんの手を握る。
適度に引きしまっているけれど、女性らしい丸みも持っていて、ずっと触っていたくなる。

「えへへ、やっぱりなんだか照れちゃうな」
我那覇さんは、満足そうな笑みを浮かべる。

「……」
私は、周りに気づかれないように、帽子を深く被って顔を隠した。

……私は、我那覇さんと付き合うことになった。結局、我那覇さんに甘えてしまった。
でも多分、それが私にとっても、春香にとっても、
プロデューサーにとっても、我那覇さんにとっても、悪くないことだと思った。

165: SSまとめマン 2011/11/01(火) 18:18:03.00 ID:O6hjxQrv0
「ねぇねぇ千早、あそこ行ってもいいか?」
我那覇さんが指さした場所はペットショップだった。
「えぇ」
そう言うなり、思い切り私の手が引っ張られる。
そのまま、あれよこれよとお店の中に連れ込まれてしまった。

「うわ~!可愛いなぁ~!」
「……」
店内は、独特の匂いがしている。
我那覇さんの匂いに少しだけ似ているわ……。
まぁ、口には出さないですけれど。

「お、お前イヌ美に似ているな~」
我那覇さんは、満足そうな笑顔で、犬と戯れている。
「本当に動物が好きなのね」
「あぁ!自分、学校の休み時間とかはずーっと動物達と遊んでるんだ!」

我那覇さんを動物に例えると……小さくてすばしっこくて、愛嬌があって……
そうね、やっぱりハムスターなのかしら。

「ふふ……」
くすくすと私は笑う。我那覇さんといると、飽きないわ。

170: SSまとめマン 2011/11/01(火) 18:39:23.89 ID:O6hjxQrv0
……。

「今度は、千早が行きたい場所に行ってもいいぞ」
我那覇さんは、ひとしきり動物と、戯れた後、私にとびきりの笑顔を向けてそう言った。
私は、少し我那覇さんの顔を見つめながら考える。
デート……どこへ行けばいいのかしら。

そして、私は、我那覇さんの服についた毛玉を取ってあげながら、言った。
「そうね、それじゃあ……」

……。

「すごい!凄いわ!我那覇さん!今の『蒼い鳥』!」
「そ、そうか、えへへ。千早に言われると嬉しいな~」
我那覇さんとカラオケに行くのは初めてだった。
いえ、むしろ新人の我那覇さんの歌をまともに聴くのもあまりなかったから……。

「こんな歌い方もあったのね!」
「じ、自分完璧だからな~」
凄く繊細かつ大胆!快活な我那覇さんに私の歌はイメージが合わないと思ったけれどそんなこと無かった!
我那覇さんのパッションを残しつつ、悲壮感もどこか漂わせて歌いあげているわ!

「もっともっと歌ってみせて!我那覇さん!今度は『眠り姫』を……」
「ち、千早、目が怖いぞ……」
「今度、私と付き合って!」
「えっえぇぇ!そんな急に……って自分たちもう付き合ってるぞ」
「違うわ!レッスンを!」

我那覇さんはダンスも上手だから、きっと良いパートナーになる。
もっと高みを目指していけるかも知れない。興奮している自分を感じる。

174: SSまとめマン 2011/11/01(火) 18:57:13.26 ID:O6hjxQrv0
「我那覇さん、券、何枚買う?」
「9枚でいい!」

……。

「それじゃ、今日はありがとう我那覇さん」
それから一緒にイタリアンを食べて、買い物して、取り留めの無い話をして、気づくともうすっかり日は暮れていた。
終電が近くなってきていて、人通りは疎らだった。

目の前の我那覇さんが不安そうな声で、私を見上げる。
「千早、その、今日、自分といて楽しかったか?」
「……えぇ、とても楽しかったわ」

……きっとそれは嘘じゃない。

私は、小さく胸の前で手を振る。
「それじゃ、我那覇さん気をつけて」
「……うぅ」
「我那覇さん……?」
「その、自分たち、いちおー恋人だよね」
「……そうね」
「お別れの、キスとかしないのか?」
「えっ……」

我那覇さんは、唇をつぐむ。
そこから真っ白な吐息が、煙突から出る煙のように吹き出ている。
「我那覇さん……」 「……」

我那覇さんの掴んでいる、買い物袋が握りしめられて、ぐしゃりと、音が鳴る。私は……。

176: SSまとめマン 2011/11/01(火) 19:05:08.39 ID:O6hjxQrv0
別に不自然な事じゃない。だって、私と我那覇さんはもうすでに一度しているのだから。
だけど、何故か私はとても恥ずかしくなった。顔が火照って赤くなっているのがわかる。

……そうよね。だって、私と我那覇さんは、恋人なのだから。
私は、我那覇さんの事が好きなのだから……。私は、我那覇さんのことが……好き……。

私は、小さな声で言った。
「……焦る必要は無いわ」
「えっ……」
「私たちまだ始まったばかりでしょう」
「……」

我那覇さんは、一度凍てつく地面に、顔をがくんと落とした。
それから、急に頭をあげて、真っ白な歯を見せて言った。

「いやーあはは!な、なんくるないさー!それじゃ、またね、千早!」
そう言って、我那覇さんは、慌てるように大きく手を振りながら、駅の改札を抜けていった。

「……」
私は、それから帰って、何も考えず、ただ自慰行為をして寝た。

180: SSまとめマン 2011/11/01(火) 19:19:54.02 ID:O6hjxQrv0
「おはようございま……」
事務所のドアを開けた途端、大声が聞こえた。
思わず驚いて肩をすくめる。

「千早ー!はいさい!」
言うなり、我那覇さんは私の胸へと飛び込んでくる。
そして、そのまま頬ずりをしてくる。

イヤな気分ではないのだけれど……
「我那覇さん、人に見られたら……」
「あ、そっか。……ふふーん、千早恥ずかしいんだな」
意地悪な笑みを浮かべて、私から離れる。

……そういう我那覇さんの顔が赤くなってるわ。

……。

そして、私を呼ぶ声が、またした。プロデューサーの声だった。
「……千早、ちょっとこっち来てくれないか」
「はい」
私は、人のいない個室に案内されて、向かい合う形で椅子に座らされた。
「用件は何でしょうか。レッスンを早くしたいので、早く言ってください」
「その前に聞くけど……千早、最近なんか俺に対して厳しくないか……」
「気のせいかと思いますが」

205: SSまとめマン 2011/11/01(火) 21:02:50.50 ID:O6hjxQrv0
プロデューサーは机の上に用意していたコーヒーを一つ、私に差し出した。
「飲むか?」
「……結構です」
「そうか」
そう言って、戻す。机には湯気の立ったカップが2つ並んでいる。

しん……と沈黙が流れる。
私は、目を瞑って言葉を待つ。

やがて、プロデューサーはその重い口を開いた。
「例の話なんだけどな……中止になった」
「……そうですか」
不思議と、私は落ちついていた。
例の話、それは私の海外でのソロ活動の件だった。
最近の自分を省みれば、当然のこと。

我那覇さんの歌を聞いて思った。
私にはまだまだ至らない点が多すぎるわ。

まずは、コンサートが失敗してしまったツケを、なんとか取り戻さないといけない。
「それと、もうひとつ」
「まだあるんですか、私はもう……」
「千早、お前と春香とのデュオは解散することになった」

えっ……

211: SSまとめマン 2011/11/01(火) 21:15:54.64 ID:O6hjxQrv0
私と春香のデュオが解散……。

一気に、冷めていた頭に血が昇ってくる感覚がした。
椅子から立ち上がる。机のカップが倒れそうになって、コーヒーの水面が波たつ。
「ど、どうしてですか!」
「まぁ最大の問題は、コンサートがお蔵入りになったことだな……」
「そ、それは!」
「765プロきっての一大イベントだった。スポンサーにこってり絞られたよ……はは」
そう言って、プロデューサーはへらへらと笑いながら頭を掻く。
よく見ると、目元には浅黒いくまがうっすらと浮かんでいる。

「……!」
私の、拳を握る力が思わず強くなる。歯をキツく食いしばる。
そんな私を見て、フォローするかのようにプロデューサーは穏やかな口調で言った。

「よく聞いてくれ。春香には春香の、千早には千早のステップの進め方があると思うんだ」
「……」
「春香は、もっとゆっくりとヴォーカルの特訓をだな……」
「それは、つまり春香が足手まとい、そう言いたいんですか」
「そうは言ってない。ただ、人には向き不向きが……」
そう言って、プロデューサーは目を逸らし、カップを口へと運んで、液体を啜る。


218: SSまとめマン 2011/11/01(火) 21:29:05.45 ID:O6hjxQrv0
765プロに入社して、まず命じられたのが、春香とデュオを組むことだった。
孤立する私を見かねての、社長の判断だったと後で聞かされた。
明るい春香と一緒だったら、きっと皆と打ち解けられるだろう、と。

……。

「すごい、千早ちゃんて歌上手いんだねー」
「そんなこと無いわ。私は、まだまだ……」
「私も千早ちゃんに追いつけるように頑張るよ、えへへ」

また春香と私のレッスンの日々を思い出す。これで何度目かしら。
私は、春香がいくらドジしても、構わなかった。
むしろ転んでも立ち上がる春香を見て、私の方が多くのことを学んだくらい。

「納得できません」
「残念だけど、決まったことなんだ」
「……!」
喉の奥が熱くなる。目に力が入ってしまう。
「そんなこと……!春香だって……っ!」
言いかけて、背筋に強烈な寒気が走った。悪い予感が、頭をよぎった。
震える声で私は言った。
「……もしかして春香は、納得したんですか?」


プロデューサーは、無言で、ひとつ、コクリと頷いた。

222: SSまとめマン 2011/11/01(火) 21:44:40.50 ID:O6hjxQrv0
「……」
変わらなく流れていた日常が、少しずつ変わり始めている。
私の想いを置き去りにして。

「ん……」
秘裂の表面をそっと撫でると、思わず声が漏れる。
しばらくそうしていると、指にねばっこい液がついて、糸を引く。

「は……ふぅ……」
半分だけ開いた口からは、唾液が滴る。
薄暗い私の部屋が、霞んで歪む。

「ん……ぁ」
乳首をくりくりと、指の腹で転がすと、足の指がピンと張る。
そのまま激しく擦ると、やがて先端が膨らんで固くなる。

「あっ……あっ……」
愛液が、塊となってどろりとシーツを濡らす。
手のひらで掬い取って、指を開くと間に薄い透明の膜が出来た。
その手で、乳首を撫でると、潤滑油となって、ピリピリとした刺激を与え続ける。
「んぁぁ……!」

227: SSまとめマン 2011/11/01(火) 21:57:39.73 ID:O6hjxQrv0
「ふっ……ふっ……!」
うつ伏せになって、腰だけ持ち上げて、両手で秘部を掻き混ぜる。
ぐちゅぐちゅと淫らな水温だけが、部屋に聞こえる。

枕に埋めた顔を横に向けると、ガラスに私の顔が映っていた。
頬はピンク色に染まって、目はとろんと半開きになっている。
「はぁ……はぁ……」

……私、今すごくイヤらしい顔してる。

「はっ……あ゛っ……!あ゛っ」
掻き混ぜる手を更に早く、更に奥へと動かすと、体が激しくよじれる。
いつもより、限界が近い。

あの感覚が波のように押し寄せてくる。もう……イク……!
口から、喘ぎ声以外の言葉が飛び出た。

「はるっ……!」

その時、携帯電話のバイブが鳴った。興奮していた感情が、段々と冷めていく。
携帯を確認すると……

『千早はいさい!千早と話したくて、メールしてみた!照れちゃうな~、返事よろしくね』
「……」

私はそのまま、意識が途切れたように、眠った。

233: SSまとめマン 2011/11/01(火) 22:17:18.28 ID:O6hjxQrv0
「えぇ、我那覇さん、今日の夜ね……」
朝、思い直した私は、我那覇さんに連絡することにした。
早朝なのに、とても気持ちのいい声が電話越しに聞こえた。
「はぁ……」
電源を切ったら、大きなため息がもれた。
「……」
私はいつまでこうしているつもりかしら。

……。

私は、春香の大好物のお菓子を持って病院へと向かった。

私は、これからの春香を応援しなければいけない。
私も、このままじゃ我那覇さんに示しがつかない。

春香との会話を、何パターンも頭の中で考えた。
そのどれもが、私にとって都合のいいことだった。

……春香は、私と会ってどんな反応をするんだろう。

病院の白い扉の前に立つと、手のひらが汗で湿った。
少し、ドキドキする……。

強張る指先で、ノックを2回する。すぐに部屋の中から返事が聞こえた。
「はーい」
「……春香、私よ、千早よ」
「……」

もう、ハッキリさせましょう、春香。

239: SSまとめマン 2011/11/01(火) 22:32:47.24 ID:O6hjxQrv0
「……」
物音がピタリと止んだ。
私は、その場でただ立ち尽くす。
「どうぞ……」
やがて、聴き取れないくらいの小さな声がした。

……このまま門前払いかとも思ったけれど、ありがとう春香。

ドアを開けると、ベッドから上半身だけ起こした、
真っ白な病院服を着た春香が窓の外を眺めていた。
かすかに見える頬からは、綺麗な包帯が巻かれている。

「春香、体調はどう?」
「うんダイジョブありがとう千早ちゃん」
「春香、こっち向いて?」
「んー今ちょっと窓の外で遊んでる子見てるからごめんね千早ちゃん」
「……」

それきり、沈黙が流れる。部屋を見渡して、次の言葉を探す。

春香といて、気まずいと感じてしまうのはこれが初めて……。

245: SSまとめマン 2011/11/01(火) 22:47:18.58 ID:O6hjxQrv0
「春香、ごめんなさい」
そう言って、私は頭を下げる。
……結局、謝ることしかできないのね。

「やめてよ、千早ちゃん」
春香は相変わらず、窓枠に肘をついて、投げ捨てるように言った。

……春香に、嫌われたくない。

「私、もうあんなことしないから。許して」
「あんなことって?」
「……!」

グッと言葉を飲み込む。
腹部から、ドス黒いドロドロとした何かがせりあがる。
「あんなことって……その……」
視線が、忙しなく泳ぐ。
その間も、ひたすら静かな病室に、その雰囲気に押しつぶされそうになる。

「春香で、その、したこと……」
「……」

また静かになる。
春香の次の言葉を聞くのが怖い。

249: SSまとめマン 2011/11/01(火) 22:56:22.59 ID:O6hjxQrv0
だけど、私の口から聞こえたのは、思いがけない言葉だった。
「んーん、そのことはもういいんだよ」
「……」
春香の表情は、相変わらずわからない。
袖口から覗く手にも、包帯がぐるぐる巻きにされていた。

「あの時は、私もちょっとビックリしちゃってたから、ひどい事いってごめんね」
「……」
少しだけ心が軽くなる気分がした。
春香は、すでに私を受け入れてくれていた。
だけど……。

とりあえず、また沈黙が怖くて言葉を繋ぎたかった。

「ありが……」
「何で、電話出てくれなかったの?私何回も何回もしたよ」
「……っ」
「ね、お願いだから何処かに忘れてきた、って言って。嘘でもいいから」

思わず、数歩、足が後ろへ下がる。
やっぱり、そこなのね。春香が許せないところは……。

「いつも、私たちあの時間はお喋りしてたよね」
「……」
「毎日毎日、欠かさず電話とかメールしたよね、千早ちゃん」

254: SSまとめマン 2011/11/01(火) 23:06:10.06 ID:O6hjxQrv0
「ねぇ、どうして?」
「それは……」
春香で、自慰行為をしていて気付かなかったから……。
そんな事言えるわけない。

「……」
何も言えず、ただ白いタイルと睨めっこした。

春香の、頬を支える腕が微かに震えていた。
「私が、ひどいこと言ったからかな?」
「違うわ……」
「そうだよね、私のせいだよね。気持ち悪いとか言っちゃったから……」
「違う……」
そうじゃない、そうじゃないの春香。私が、そんなことするハズ無い。
だって……私は、春香を……。


愛しているのだから。


また携帯電話のバイブが振動した。多分、我那覇さんからのメールだった。

256: SSまとめマン 2011/11/01(火) 23:17:17.20 ID:O6hjxQrv0
私は、携帯電話を無視するかのように、絞り出すように言った。
うまく、声が出なかった。
「違うわ……!」
「……」

「そうって言ってよ!千早ちゃん!」
「……っ!」
春香の大声が病院に響いた。
あまりに突然の出来事に、言葉を失う。

「そうじゃないと、私千早ちゃんを許せなくなっちゃうよ……」
「えっ……」
どういうこと……?

その時、春香が、振り向いた。
左目には包帯が巻かれているけれど、右目は……瞳が潤んで、その中に明らかな敵意が見えた。
「私が、プロデューサーさんのこと好きって言ったから!それで意地悪したの?!千早ちゃん!」
「っ……」
「もういいよ、言い訳なんて聞きたくないよ……」

春香の瞳から、大粒の涙がひとつこぼれた。
それから、まるで堰を切ったように涙が溢れて、病院のシーツをぐっしょりと濡らした。

262: SSまとめマン 2011/11/01(火) 23:34:17.19 ID:O6hjxQrv0
その時、久しぶりに目と目が合った。そこで気づいた。
その瞳が、棘のように突き刺さり、始まりはもう無いと告げた。

……もう私と春香は、戻れない。

私は、目を伏せて泣きじゃくる春香を尻目に、携帯電話を取り出して、メールを確認した。
『千早!はいさい!今日の夜、とっておきのゴーヤチャンプルー作るから、楽しみにしててね!』
「……」
携帯電話をそっと、しまいこむ。
我那覇さん、ありがとう。今まで本当に、ごめんなさい。謝ってばかりだけど、これで最後だから。

ここで、勘違いと言ってしまえば、とりあえずこの場は収まる。
けれど、その先はどうなるの?
我那覇さんと、春香と、プロデューサーと……。

もう、きのうにはかえれないのね。


「……そうよ、私はあなたに、プロデューサーに嫉妬したの、春香」

275: SSまとめマン 2011/11/02(水) 00:04:50.64 ID:ZdO83ShW0
春香は顔に覆っていた、手の平をすっと下げて、私を見据えた。
口を何か言いたげにパクパクと動かしている。そして、言った。
「うそ……」
「……」
まったく……あなたが言ったんでしょう、春香。

「本当よ。あなたを困らせたかったの」
「千早ちゃ……」
「でも、こんな結果になってしまうなんて……」

……。

「私にとって、気分が良かったわ、春香」
「……」

私は目を瞑る。暗闇から同時に二つの、春香の声が聞こえた。

──千早ちゃん、私たちずっと親友だよ

「ひどい……ひどいよ……千早ちゃん……」

ごめんなさい……
あなたを、傷つけるのは、これで最後だから。
あなたなら耐えられる。
だけどとっても心配なのは、もうひとつのこと。


どうか、身勝手な私を、決して許さないで、春香。

279: SSまとめマン 2011/11/02(水) 00:12:29.18 ID:dVoxifTO0
それから春香からのメールが1件だけあった。
『千早ちゃん大嫌い。絶交だよ』
……私は、そっと春香のメールアドレスを着信拒否に設定した。

「……」
もう少し、こんなことになる前に、気づけば良かった。

──諦めなさい。如月千早

四条さんの言葉を思い出した。あの人は、一体何者なのかしら……。
「だけど……」

後悔しちゃ、いけないのね。
だって……

285: SSまとめマン 2011/11/02(水) 00:22:30.09 ID:dVoxifTO0
そして予報通り、大雪が降った。
体が芯から冷え切って、震える。

「あ……」
アパートの階段を上ると、一つ小さな声がした。
「千早!」
泣きそうな声で、こっちへ駆け寄ってくる。

だって……私には、我那覇さんがいてくれるのだから。

私はそれを、手の広げて、抱きとめる。

……暖かい。

いつも、私の隣にいてくれるのが我那覇さんだった。
私が辛い時に、励ましてくれて、一緒に悲しんでくれる。
「ねぇ我那覇さん、私のこと好き?」
「うん、自分千早のこと大好きだ!」

元々、人に言えるような恋の始まりじゃないけれど……
私は、せめて精一杯、我那覇さんをこれから好きになろう。

294: SSまとめマン 2011/11/02(水) 00:37:26.35 ID:dVoxifTO0
暖房を効かせた部屋で、我那覇さんは薄着になる。
私のキッチンを見るなり、携帯食料の空箱を指さして言った。
「千早ぁこんなモノばっか食べてちゃダメさー」
「そ、そうかしら」
「栄養ちゃんと取らないとダメだぞ」
「料理とか、苦手で……」
「ふふん、じゃ、これから自分が毎日美味しいゴーヤチャンプルー作ってあげるぞ」

……。

キッチンから美味しそうな匂いと音が聞こえてきた。
「千早って、好きな食べ物とかあるのか?」
「そうね、特には……」
そこで、私はティン!と思いついた。……意地悪してみよう。

私は我那覇さんの背後に回って、優しく包むように抱きついた。
「わわっ、ち、千早危ないぞ」
「好きなものは、我那覇さんかしら」
「じ、自分食べ物じゃないぞ……」
首筋に、顔を埋める。我那覇さんの匂いを嗅ぐと安心する。

299: SSまとめマン 2011/11/02(水) 00:51:38.47 ID:dVoxifTO0
……。

「おいしいわ……」
「ふふーん!自分、完璧だからな!」
思わず、単純な感想が口からこぼれ出た。
塩加減も、焼き加減も、丁度良い……。
なんて、なんくるないゴーヤチャンプルーなの……。

……。

食べ終わった後は、たまたまやっていた映画を見た。
「あはは!ヴィッペルって映画面白いなー!」
「えぇ、最後にヴィッペルが、宇宙ステーションに突撃しながら散っていく様は感動的ね」

……。
我那覇さんはそれから、大きな欠伸を一つした。
「自分、もう眠くなってきたぞ……」
「……」
「千早……?」

我那覇さんの瞳を、じっと見つめる。そのまま、座ったまま、距離を近づけていく。
「ちは……」
「……んん」
そのまま、顔を近づけて、我那覇さんの唇を塞いだ。

302: SSまとめマン 2011/11/02(水) 01:04:17.38 ID:dVoxifTO0
我那覇さんとの、二度目のキスの味は苦かった。

……。

「うぁ!千早っ!」
「はぁ……我那覇さんっ……」
我那覇さんの肢体は、月明かりに照らされて、汗がぬらぬら光っている。
弾力があって、ゴムマリのように私の食い込ませた指を押し返す。

我那覇さんは、まるで経験が無かった。
まぁ、思った通りね……。

私より10センチも背が低いのに、たしかな膨らみを持った胸を撫でる。
「うぁ……なんか変な気分だ……」
「んん……」
背中を舌先で舐めると、汗で少ししょっぱい。
体を激しくくねらせる。
「う、うぎゃああくすぐったいぞ!」

「ぷぁ……我那覇さん、力を抜いて」
「い、いだいいだい!」
散々愛撫したのに、まだ私の指を受け入れない。
苦痛に顔を歪める。

「千早ぁ、なんか大変なんだな。これって……」
「……えぇ、そうね」
私は、裸のまま頭を抱えた。なんだか、格好がつかない……。
ムードも何もあったものじゃないわね……。

303: SSまとめマン 2011/11/02(水) 01:13:35.88 ID:dVoxifTO0
我那覇さんの、私よりもはるかに生茂った陰毛をそっと撫でる。
そして、そのまま表面を優しく撫でる。
「んん~……」
「ど、どうかしら……」

人を悦ばせるって大変なのね……。
またひとつ学ばせてもらったわ。

うつ伏せになっている我那覇さんの口から、吐息がもれた。
「はぁ……」
「……じっとして」

そのまま、ゆっくりと撫でる。
そして、我那覇さんは言った。
「なんか、気持ちよくなってきた……」
「……っ!」

その瞬間、私の頭の中で声がフラッシュバックした。

──あぁ気持ちいいよ!千早ちゃん!

「……」
「ひゃ、な、なんか冷たいのが!」

私は……最低ね……。

「ううぅぅ……うぁ……」
「ち、千早何で泣いてるんだ……?」

305: SSまとめマン 2011/11/02(水) 01:20:28.68 ID:dVoxifTO0
「千早、どうしたんだ?」

──ち、千早ちゃん、どうしたの?

「えぐっ……うぅ……」
私は、まだ春香を忘れられない。
それどころか、今、我那覇さんを抱いているのに……。

「えぇ、大丈夫、大丈夫だから……」
そう言って、涙を落としながら我那覇さんの胸を優しく揉む。
「ん……ちょっと痛いぞ……」

──ちょっと痛いよ……。

「うぅ……もうやめて……」
「千早、い、いきなりどうしたんさー……」

──どうしたの?!お腹痛いのっ?!

307: SSまとめマン 2011/11/02(水) 01:28:51.15 ID:dVoxifTO0
「うぅ……我那覇さん、お願いがあるの……」
「えっ……」
「千早ちゃんって……言って……」

私は、ひどい人間だと思う。

「ち、千早ちゃん……」

──千早ちゃん。

「千早ちゃん、好きって言って……」

我那覇さんは、ゆっくり頷いた。
「千早ちゃん、好き……」

──千早ちゃん、好き。

「ありがとう、我那覇さん……」
「……」

311: SSまとめマン 2011/11/02(水) 01:37:23.88 ID:dVoxifTO0
それから……

またレッスンをして、オーディションを受ける毎日が始まる。
朝のニュースでは、桜の満開を告げた。通勤電車は時間通りにホームに到着する。
そう、何ら変わらない日常ね。
「おはようございます」
事務所に入り、頭を下げて挨拶する。

「おっ、来たか」
「プロデューサー、今日のお仕事は……」

プロデューサーと春香は、結局付き合うことになった。
熱愛報道は、随分と記事で報道された。

春香とは、未だにあまり喋らない。
だけど、自慰行為はもうしなくなった。

私は、早速トレーニングウェアに着替えようとする。

その時、外から慌ただしい足音が聞こえた。

314: SSまとめマン 2011/11/02(水) 01:45:33.25 ID:dVoxifTO0
ドアが勢いよく開かれて、汗だくの我那覇さんがいた。
「いやー遅れちゃったさー!」
「おはよう、我那覇さん、遅刻よ」
「あ、千早はいさい!いやーハム蔵が……」

あの夜、我那覇さんは私をぶった。
「千早!そんなウジウジしてちゃダメさー!」
「自分、春香の代わりでもいい!」
「だから、ずーっと自分が千早の傍にいるぞ!」
たしか、泣きながらそんな事を言っていた気がする。
お互い裸でひたすら泣く私たちが、段々おかしくなってきて……。
最後は裸のまま、笑い合った。

それから私と我那覇さんは、結局、数か月間そのまま付き合っていたけれど、
映画か音楽か、なにか些細なことで口論になってその拍子に別れてしまった。

318: SSまとめマン 2011/11/02(水) 01:58:51.59 ID:dVoxifTO0
「それじゃ、今日も頑張るぞー」 「えぇ」

それから私は我那覇さんと新しいデュオを組んだ。
我那覇さんとの仲は元通りになって、人気もそれなりに出てきた。

「それじゃ、千早!」
「えぇ頑張りましょう、我那覇さん」
傍から見れば、きっと以前カップルだった、なんてきっと思われないでしょうね。

今日のコンサートが成功したら、久々に春香にメールでも送りましょう。
春香からの返信は、大体、月に3件。これでも増えてきた方。

なんだか、随分と、遠回りしてしまったわ。
だけど、ようやくわかった気がする。
私にはやっぱり歌しか無いことと、恋愛は向いていないということ。

「何がダメで、何が得意かって、本当は自分が一番知ってるんだよね」
「うん、そうね。そうかも知れないわね」

でも、それを気づかせてくれたのは、我那覇さん、あなたのおかげよ。
ありがとう、私の大切な、友達……。

319: SSまとめマン 2011/11/02(水) 02:00:21.30 ID:dVoxifTO0
千早が我那覇さんでオナニーするだけの話 おわり

GOOD END?

324: SSまとめマン 2011/11/02(水) 02:07:03.07 ID:dVoxifTO0
>>320
千早「春香……春香……」クチュクチュ 初代
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1319036268/

春香√

千早「春香……春香……!」クチュクチュ
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1319297610/

千早「春香……春香……!!」クチュクチュ
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1319456577/

千早「春香……春香……!!!」クチュクチュ
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1319546970/

ルート分岐 響√

千早「我那覇さん……我那覇さん……」クチュクチュ
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1320071518/ (このスレ)

327: SSまとめマン 2011/11/02(水) 02:11:22.02 ID:dVoxifTO0
前回あまりに響が不憫すぎるって声があったからおまけで書いたよ!
まただらだら長くなったよ!
クオリティ低いのは毎度のことなので勘弁

支援してくれた人ありがとうございました
オヤスミー(^o^)ノ