1: SSまとめマン 2018/11/08(木) 21:44:55.768 ID:ryPhDPdID
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。

    ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。

    この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。

    そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。

    いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。

    さて、今日のお客様は……。

    馬渡速雄(42) ベンチャー起業家

    【競馬の王道】

    ホーッホッホッホ……。」

引用元: ・喪黒福造「社長、例の牧場で超良血馬が手に入りますよ」 ベンチャー起業家「もしも、その馬が手に入れば……」

2: SSまとめマン 2018/11/08(木) 21:48:17.725 ID:ryPhDPdID
菱沼GFJ銀行・虎ノ門支店。とあるベンチャー起業家が、応接室で支店長と会話をしている。

その起業家は、スーツ姿だがノーネクタイで、日焼けした浅黒い顔をしている。

テロップ「馬渡速雄(42) ソニックフュージョン社長」

支店長「馬渡社長、ありがとうございます。今回も、返済をしっかり果たしてくださって――」

馬渡「いえいえ。こちらこそ、支店長には本当に感謝していますよ。毎回、融資の頼みを引き受けてくださって――」

支店長「馬渡社長とは、これからも末長くお付き合いしていきたいですね」

馬渡「私の方も、望むところですよ」


菱沼GFJ銀行・虎ノ門支店。執務室で、机に向かう支店長。

支店長(馬渡速雄、ソニックフュージョン社長。広告やイベントの総合プロデュース業……か)
     (アイドルブームの波に乗ったおかげで、ヒルズ族の一人にまでなるとはな……)

4: SSまとめマン 2018/11/08(木) 21:50:27.063 ID:ryPhDPdID
道路。運転手つきの車の後部座席に乗る馬渡。

馬渡「はい、馬渡です。今、会場に向かっているところですよ」


東京、渋谷区。代々木公園。アイドルグループが、野外ステージで熱唱している。

アイドルグループに声援を送るファンたち。ファンたちがサイリウムを振り回す。

ステージの後ろのパネルには、スポンサー企業の名前がいくつも記されている。「ソニックフュージョン」もその一つだ。

グループのライブを見守る関係者たち。関係者たちの中には、馬渡の姿もある。

馬渡(よし、今日のイベントはうまくいったな……)


夜。東京、銀座。高級クラブで酒を飲む馬渡。馬渡の側には、友人の実業家やホステスがいる。

馬渡「この間のレース、駒田さんの馬が重賞で勝利したそうですね」

5: SSまとめマン 2018/11/08(木) 21:52:18.214 ID:ryPhDPdID
駒田「馬主になって12年、待望の初勝利ですよ」

テロップ「駒田直人(47) IT企業社長」

ホステス「駒田社長、おめでとうございます」

駒田「ありがとう。重賞の勝利で、競馬の魅力をますます実感しましたよ」

馬渡「何と言っても、馬主になると馬への思い入れが増しますからね」

ホステス「ところで、馬渡社長も確か馬主でしたよね?」

馬渡「ええ。私の馬主歴は3年ですよ。私の馬は、何度もG1レースに出場してはいるんですけど……」

店内で、別のホステスとともに酒を飲む喪黒福造。喪黒は、店の遠くの方にいる馬渡たちの姿を目にする。

喪黒「…………」

どうやら、喪黒はまたしても何かの企みを思いついたようだ。

6: SSまとめマン 2018/11/08(木) 21:54:18.268 ID:ryPhDPdID
銀座のクラブを出て、夜の街を歩く馬渡。馬渡の側に喪黒が近寄る。

喪黒「こんばんは、馬渡社長」

馬渡「あなたは一体……」

喪黒「私ですか?実はさっき、お店であなたを見たんですよ。実は私、こういう者なんです……」

喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。

馬渡「……ココロのスキマ、お埋めします?」

喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」

馬渡「セールスマン?この私に何を売りつける気なんですか?」

喪黒「あなたにいい話があるんですよ。競馬のことで、役に立つかもしれない話が……」

馬渡「競馬……。クラブの中で、私の会話を聞いていたのですね」

喪黒「はい。いい店を知っていますから、そこでゆっくり話でもしましょう」

7: SSまとめマン 2018/11/08(木) 21:56:20.498 ID:ryPhDPdID
BAR「魔の巣」。喪黒と馬渡が席に腰掛けている。

喪黒「馬渡社長は、自身の競走馬を所有しているそうですよね?」

馬渡「はい。馬主になることは、社会的なステータスと言っても過言ではありませんよ」

喪黒「まあ、馬主になる有名人は多いですよねぇ」
   「競馬は日本ではギャンブルのイメージが強いですが、ヨーロッパでは高級なスポーツとされているのですから……」

馬渡「そうです。競馬は本当に面白いスポーツですよ」
   「単なる馬と馬との競争ではなく、ドラマであり、ロマンでもありますから……」

喪黒「ええ。競走馬は、多くの人たちの想いを乗せて走っているのです」
   「調教師や厩舎スタッフ、馬主や騎手、そして馬を応援するファンたち……」
   「これらの人々の想いを乗せて、馬は走っていますからねぇ」

馬渡「おっしゃる通りです。ですが、それだけではありません。競馬の魅力とは、代々受け継がれる血統の魅力にもあります」
   「全ての馬に血統書が存在していますし、配合するのはサラブレッド同士だけです」
   「だから、血統が織りなすドラマを感じながら応援することができるのです」

8: SSまとめマン 2018/11/08(木) 21:58:25.129 ID:ryPhDPdID
喪黒「だから、奥が深いスポーツなんですよ。競馬というものは……」

馬渡「ええ。馬好きが高じて、私は3年前に馬主にまでなりました。ですが、まだG1レースで1勝もできていないんですよ……」

喪黒「馬主として成功をするというのは、非常に難しいですからねぇ」

馬渡「そうなんですよ。有名人が馬主になった場合は、レースで結果を残せずに撤退した例が多いんです」
   「ある大物の演歌歌手なんかは、馬主歴47年でようやくG1レースを初制覇したらしいですから……」

喪黒「社長も、馬主としてG1レースを制覇したいですよね?」

馬渡「もちろんですよ。馬主になるのは経費がかかりますけど、賞金の大半を手にする権利も得ることができます」

喪黒「レースで勝つことができれば、莫大な資金を手にすることだって夢ではありませんからねぇ」

馬渡「ええ。一獲千金の夢……。これは、起業家としての魂にも通じますからねぇ」

喪黒「私が何とかしましょう」

馬渡「えっ!?」

9: SSまとめマン 2018/11/08(木) 22:00:19.264 ID:ryPhDPdID
喪黒「実はですねぇ、私はある牧場と知り合いなんですけど……。そこには、優秀なサラブレッドの馬がたくさんいるんです」

馬渡「……ということは、まさか」

喪黒「そう、『まさか』ですよ。社長、例の牧場で超良血馬が手に入りますよ」

馬渡「もしも、その馬が手に入れば……」

喪黒「G1レースの初制覇だって夢ではありません。どうです、私の話に乗りませんか?」

馬渡「いいでしょう!あなたの話に乗ってみますよ!」

喪黒「そうです!その調子!」


ある牧場。スタッフに案内され、厩舎の中を歩く喪黒と馬渡。

馬渡「ここにいるのが、良血馬の集まりですか……」

厩舎スタッフ「はい。活きのいいサラブレッドが、あちこちにいますよ」

10: SSまとめマン 2018/11/08(木) 22:02:18.831 ID:ryPhDPdID
喪黒「この馬なんかどうです?これは特別な血統なんですよ。実は……」

とある馬を指差し、血統について話す喪黒。

馬渡「そうなんですか?それほど優秀な血統なら、将来大きく化ける可能性がありますよ!」

喪黒「馬渡社長。よろしかったら、この馬をただでプレゼントしてもいいですよ」

馬渡「えっ、いいんですか!?こんな値打ちものを、ただで貰い受けるなんて……」

喪黒「構いませんよ。社長が馬主として成功することを願う、私からの気持ちですから……」
   「その代わり、あなたには約束していただきたいことがあります」

馬渡「約束!?」

喪黒「そうです。良血馬の馬主となったからには、正々堂々とした勝負を心がけてください」
   「不正な手段を使って、自分の馬を勝たせるような真似は絶対にしてはいけません。いいですね!?」

馬渡「わ、分かりました……。喪黒さん」

11: SSまとめマン 2018/11/08(木) 22:04:16.288 ID:ryPhDPdID
とある競馬場。馬主席にいる大勢の観客たち。観客の中には、喪黒と馬渡もいる。

馬渡「緊張しますよ。この間、貰った馬の初出走なのですから……」

喪黒「大丈夫です。必ずいい成績を収めてくれるでしょう」

馬渡「そうであって欲しいですよ……。今は祈るのみです」

競馬のレースが始まる。競走馬たちを見つめる喪黒と馬渡。とある騎手が操縦する馬が、先頭を走る。

馬渡(おおっ!俺の馬がトップにいるぞ!さすがは、超良血馬なだけのことはあるな……)

一貫して先頭を走り続ける馬渡の馬。自分の馬をじっと見つめる馬渡。

馬渡(よしっ、いいぞ……!このまま逃げ切ってくれ……!)

馬渡の馬がゴールに差し掛かろうとしていた時――。先頭にいたその馬は、別の馬に追い越されていく。

馬渡(ああっ!!)

レース終了の直前に起きた一瞬の出来事を見て、愕然とする馬渡。

12: SSまとめマン 2018/11/08(木) 22:06:18.296 ID:ryPhDPdID
食堂。喪黒と馬渡が日替わり定食を食べている。

馬渡「いやぁ、さっきのレースは本当に惜しかったですよ。全く、悔しくてたまらないです」

喪黒「まあまあ……。それでも、初レースで2着でしょう?華麗なデビューを果たしたと言えますよ」

馬渡「それは、そうなんですが……」

喪黒「例の馬が超良血馬だったことは、今回のレースで証明済みなのです」
   「だから、これからじっくりあの馬の成長を見守りましょうよ」

馬渡「はい。そうするつもりですよ」

喪黒「社長。あなたも馬のオーナーならお分かりでしょう?」
   「馬主になれば、馬に対して愛情や親近感を持つことができますから。もちろん、あの馬に対しても……」

馬渡「そりゃあ、もう……。どの馬にも個性がありますし、牧場で間近に馬を見ると可愛いと感じますからね」

喪黒「馬が可愛いならば、成長が楽しみになりますし……。レースで勝った時の感慨は、何とも言えないでしょう」

馬渡「ええ。当然ながら、馬の成長やレースの初勝利を望んでいますよ」

13: SSまとめマン 2018/11/08(木) 22:08:21.335 ID:ryPhDPdID
喪黒「それならば……。やはり、正々堂々とした手段でレースに勝利してこそ、本物のうれしさを感じるはずです」
   「インチキな手でレースに勝利をしても、心の奥底では後ろめたさを隠せませんから……」

馬渡「もちろん、そのことは承知していますよ……」

喪黒「そうですか……。馬渡社長。私との約束、覚えていますよね?」

馬渡「はい。例の馬の馬主になったなら、正々堂々とした勝負を心がけろ……ってことですよね」

喪黒「その通りです。約束はちゃーんと守ってくださいよ」

馬渡「ええ……」


とあるビル。ソシャゲ会社関係者と商談を行う馬渡。

ソシャゲ会社関係者「なるほど……、馬の擬人化ですか」

馬渡「これは絶対ヒットしますよ。ゲームだけでなく、アニメ化もしてメディア展開をしてみたらどうですか?」

ソシャゲ会社関係者「面白そうですね。やってみましょう」

14: SSまとめマン 2018/11/08(木) 22:10:28.779 ID:ryPhDPdID
ネット広告に表示させる、馬の擬人化ゲーム『ダービースターズ』。スマホを操作し、『ダービースターズ』を楽しむオタクの青年。

ある日の深夜。スーパー銭湯。サウナ室にあるテレビが、『ダービースターズ』のアニメ版を放送している。テレビを見つめる客たち。


六本木ヒルズ。ソニックフュージョン本社。

馬渡(ゲームもアニメも順調にヒットしている。馬の擬人化ものの企画は、成功だったようだ。だが……)

馬渡の頭の中に、これまでの競馬レースの光景が思い浮かぶ。競馬場の馬主席で、自ら持ち馬を見守る馬渡。

彼の馬は、どのレースでもゴール直前で別の馬に抜かれていく。

馬渡(俺の馬は、いつもいつもあと一歩というところで1着を逃している……)


夜。とある料亭。和室の中で、関係者たちと酒を酌み交わす馬渡。

馬渡「今度のレースでは、私が所有する馬を1着にしてくださいよ」

関係者A「いいでしょう、馬渡社長。ところで、例のものは持ってきましたか?」

15: SSまとめマン 2018/11/08(木) 22:12:23.312 ID:ryPhDPdID
馬渡「もちろんです」

部屋の隅にあるトランクを開ける馬渡。トランクの中には、札束が詰まっている。

関係者B「さすがは馬渡社長。ヒルズ族の一人と呼ばれているだけのことはありますね」

馬渡「私の馬が1着になれば、競馬界にとってはいい宣伝になりますよ」
   「何しろ……。私の会社は、『ダービースターズ』のアニメ版のスポンサーの一つですから……」

関係者C「分かりました。馬渡社長が所有する馬を、必ず1着にして見せますよ」

料亭の和室で会話をする一同。机の下には、盗聴器が仕組まれている。

一方、建物の外では、藪の中に喪黒がいる。ヘッドホンを装着し、一同の会話を盗聴する喪黒。


とある競馬場。コースを走る競走馬たち。先頭を走り続ける馬渡の馬。

声援を送る一般客たち。馬主席でも、金持ちの観客たちがレースの行方を見守る。1着のまま、ゴールインする馬渡の馬。

歓声を上げる入場者たち。調教師、オーナーの馬渡、騎手が手を取り合って万歳をする。

16: SSまとめマン 2018/11/08(木) 22:14:29.492 ID:ryPhDPdID
ある牧場。厩舎の中で、スタッフと握手をする馬渡。彼の側には喪黒がいる。

厩舎スタッフ「馬渡社長、G1初制覇おめでとうございます」

馬渡「ありがとうございます。これも、みんなが私の馬に関わってくださったおかげですよ」
   「なによりも、喪黒さんがここを紹介してくれたおかげでもあります」

厩舎の外に出る喪黒と馬渡。

喪黒「馬渡社長。これについては、どう思いますかねぇ」

バッグの中から、ICレコーダーを取り出す喪黒。ICレコーダーから、録音された音声が流れる。

そう、料亭の中での馬渡たちの会話が――。

馬渡「ああっ!!」

喪黒「馬渡社長……。あなた約束を破りましたね」

馬渡「も、喪黒さん……!!」

17: SSまとめマン 2018/11/08(木) 22:16:30.534 ID:ryPhDPdID
喪黒「私は社長に言ったはずですよ。良血馬の馬主となったならば、正々堂々とした勝負を心がけろ……と」
   「にも関わらず……。あなたは不正な手段を使って、自分の馬を勝たせましたねぇ」

馬渡「すみません……!!どうしても、G1レースで勝ちたかったもので……!!だから、つい……」

喪黒「言い訳はよしてください。約束を破った以上、あなたには罰を受けて貰うしかありません!!」

喪黒は馬渡に右手の人差し指を向ける。

喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」

馬渡「ギャアアアアアアアアア!!!」


喪黒のドーンを受け、うつ伏せに倒れる馬渡。馬渡の衣服が破れ、彼の身体はみるみる姿を変えていく。

肥大化し、黒色の身体になった馬渡。そう……。彼は人間ではなく、馬そのものになっている。

喪黒の側にやって来る厩舎スタッフ。喪黒と厩舎スタッフは、笑みを浮かべながら黒い馬――馬渡を見つめる。

異変に気付き始め、脅えた表情をする黒い馬こと馬渡。

18: SSまとめマン 2018/11/08(木) 22:19:42.345 ID:ryPhDPdID
とある競馬場。馬主席で、双眼鏡を持ちながらレースを眺める喪黒。

レースでは、ある騎手が操縦する黒い馬が、先頭を走っている。黒い馬は両目に涙を浮かべており、泣いているように見える。

なぜならば、黒い馬の正体は馬渡速雄なのだから――。

馬渡(競走馬になるなんて嫌だ!!俺を人間に戻してくれーーーっ!!)

泣きながら、トップを走り続ける黒い馬こと馬渡。


レースを終えた競馬場。たった1人の状態で馬主席にいる喪黒。

喪黒「競馬は、賭け事のイメージがつきものですが……。よく調べてみると、奥が深いスポーツであることに気づかされます」
   「なぜなら……。近代競馬は長い歴史の中に、数え切れないほどのドラマやロマンが詰まったスポーツでもあるからです」
   「競走馬の人生は、多くの人たちとの関わりがあってのものですし……。その血統は、今後も受け継がれていくでしょう」
   「従って、競走馬は、多くの人たちの想いを乗せて走っているわけですから……。正々堂々と勝負をして欲しいものです」
   「ところで、馬渡さん。あなたは馬好きなだけあって、優秀な競走馬になれたようですねぇ。馬主の私も、実に誇らしいですよ」
   「オーホッホッホッホッホッホッホ……」

                   ―完―