672: :2018/12/16(日) 19:18:48.40 ID:
~~~~ 


隊長「...抜けたか」 


魔女「ここが...城下町の郊外ってとこかしらね」 


密林を抜け、ようやくたどり着いたのは城下町。 

はるか遠くには微かに魔王城らしきものが見える。 

列車から離脱はしたが、彼らは着々と前に進んでいた。 


魔女「薄暗いわね...日はもう落ちたのかしら」 


隊長「みたいだな、完全に暗くなる前に魔王子たちと合流しなければ」 


魔女「その前に、この門を通らないといけないわね」 


そこには分厚い塀と巨大な門、そして数人の門番がいた。 

塀の都の比ではない、手榴弾で穴をあけるようなことは不可能。 

大きく開いている門を潜るしかなかった。 


隊長「素直に通してもらえそうにはないな」 


魔女「...強行突破ね」 


隊長「...まずいな」 


強行突破をしようものなら、確実に騒ぎになる。 

騒ぎになれば、侵入を防ごうと兵士が続々と投入されることは確実。 

しかし、ここを潜らなければ魔王城へと向かうことはできない。 


隊長「...何分走れる?」 


魔女「魔力も戻ったおかげで魔界の空気が身体に馴染んでいる今...数十分は全力で走れそうよ」 


魔女「問題はあなたね...」 


隊長「ただの人間であることが悩ましいな...」 


魔女「...こうしましょう」 


策を練る魔女、そしてその策に乗る隊長。 

強行突破は避けられない、どのタイミングで始めるか。 

お互いに納得できたあと、密林の茂みに隠れて機会を待つ。 


魔女「...」 


隊長「...」 


2人がかりで門番を注視する。 

数分はたっただろうか、ついに動きがあった。 

門番は一瞬だけ後ろを向いた、誰かに話しかけられたのだろう。 

673: :2018/12/16(日) 19:21:22.13 ID:
魔女「────"風魔法"」 


────ぶわぁっ! 

その風は大きな音を立てて門に向けられた。 

殺すことが目的ではない、どれほど時間を稼げるか。 

風力は膨大ではあるが、あまりにも鈍い風が門番を襲った。 


魔女「怯んだっ! 今よっ!」ダッ 


隊長「よしッッ!!」ダッ 


あまりに出来事に目を白黒させている門番。 

その間に2人は門を潜り抜けた。 

超強行突破、鈍い風が大幅に時間を稼いでいた。 


兵士1「──て、敵襲ッ!」 


大声で叫ぶ、すると様々な魔物が現れた。 

窓を開き野次馬をする一般市民と分類される魔物 

休憩中だったのだろうか、急いで鎧を装着してこちらに向かおうとする魔物。 


魔女「案外普通ねっ!」 


隊長「魔界といってもなッ!」 


魔界の城下町、その外観は意外にも普通であり塀の都と遜色はなかった。 

家が連なり一般市民が存在し、その民たちを守ろうと警備する兵士が居る。 


魔女「"風魔法"っ!」ヒュン 


隊長「──うおッ!?」 


走りながら城下町を観察している間に魔女が追加の魔法を唱えた。 

今度は怯ませるためではなく、自分たちに向けている。 

隊長と魔女の背中を優しく押す風が、彼らの速度を上昇させた。 


兵士1「逃がすなッ! 魔王城へ行くつもりだッ!」 


魔女「ただ闇雲に大通りを走ってるだけなんだけどっ!」 


隊長「好都合だッ! このまま直進が魔王城らしいぞッ!」 


兵士2「捕らえろッ! 魔王様に合わせる顔がないぞッ!」 


兵士1「──"氷魔法"ッ!」 


──パキパキパキィッ...! 

追ってきている兵士の1人が仕掛けてきた。 

じわりじわりと氷は隊長たちの足を凍らせようと迫ってくる。 

氷が通った地面は凍りついている、かなりの精錬された魔法。 
674: :2018/12/16(日) 19:23:11.20 ID:
魔女「追いつかれるわよっ!」 


隊長「──ッ」スッ 


────からんからんっ! 

走りながら取り出したモノからピンを抜く。 

後方確認もせずに後ろに向かってソレを投げた。 

すると後方から聞こえたのは、強烈な爆発音であった。 


兵士2「爆弾かッ!? 気をつけろッ!」 


兵士1「クソッ! 氷が砕かれたぞッ!」 


手榴弾による足止めは成功、氷の進行を一時的に止めた。 

氷魔法の効力はまだ残っているが、もう隊長たちには追いつけないだろう。 


隊長「撒いたかッ!?」 


魔女「──前にいるわっ!」 


兵士3「連絡にあった侵入者を発見...捕縛する...」 


目の前に現れた新たな兵士、その数は1人。 

しかしその佇まい、かなりの実力を保有している風に見えた。 

足を止めるわけにはいかない、走りながらも応戦することに。 


兵士3「..."雷魔法"」 


────バチィッ...! 

線の細い雷が走った。 

そのあまりの速度を視認できなかった隊長はモロに魔法を浴びてしまう。 

威力はかなり抑えられている、だが身体に雷を浴びる事自体が失敗だった。 


隊長「────AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!?」 


魔女「──ごめんっ! "雷魔法"っ!!」スッ 


──バチッッ! 

魔女がすぐに対処を行った。 

足をとめ、隊長の背中に手を当てて魔法を唱えた。 

これもまた、かなり威力を抑えたモノだった。 


隊長「──OHッッ!?」 


再び体に稲妻が走った。 

今度は身体に痺れが周るような感覚ではなく、身体から出ていくような感覚。 

魔女は自分の雷で、兵士の雷を誘導し体外へと放り出した。 
675: :2018/12/16(日) 19:24:43.89 ID:
兵士3「...やるな、これは手厳しそうだ」 


隊長「ゲホッ...テーザー役か...すまん、助かった」 


魔女「いいの、でも後ろから...」 


兵士2「いたぞッ!」 


気づけば囲まれていた。 

先程氷魔法と共に追ってきていた兵士、そして新たな者も。 

四面楚歌であり逃走は不可避でいて闘争が不可欠、彼は背負っていたアサルトライフルを握る。 


隊長「...まずいな」 


魔女「やるしかないわよ」 


隊長「あぁ...」 


いくらこの武器が優秀だからといっても、この状況ではあまり期待ができない。 

このアサルトライフルという武器は複数相手への射撃はできない。 

よって1度に戦える相手の数は限られる、このような囲まれている状況が既に不利であった。 


隊長「俺は援護をする、すまないが魔女が主力だ」 


魔女「──えぇ、わかったわ」 


兵士1「主力はあの女のようだがあの男は爆弾を持っている、気をつけろッ!」 


兵士4「尋問が待っている、殺すなよ?」 


兵士3「...」 


じりじりと兵士たちが迫ってきている。 

強行突破は失敗に終わる、だがこれをしなければどうやって城下町へと入れただろうか。 

魔女が攻撃行動に移ろうとしたその時だった。 


兵士2「な、なんだ...?」 


──ズシッ...ズシッ... 

なにか巨大なものが迫ってきているような、そのような音が聞こえる。 

兵士の1人が後方を確認する、隊長も横目でそれを目視しようとした。 

迫ってきていたモノの全貌が明らかとなった。 
676: :2018/12/16(日) 19:27:09.78 ID:
兵士3「..."巨狼"か? なぜここに」 


魔女「...え?」 


巨狼「...」 


先程、雷魔法を放った兵士が冷静に分析をする。 

その一方で魔女と隊長がその光景に呆然とする。 

この大きな狼ではなく、その背中に乗っている者たちを見て、呆然とする。 


???「──つかまってぇっ!」 


白い毛並みの狼がこちらに向かって走ってきている。 

それと同時に、どこか懐かしい雰囲気のするゆるい声が響いた。 

その声を聞いてようやく2人は行動に移った。 


隊長「────突っ込めッッ!!」ダッ 


魔女「──えぇっ!!」ダッ 


気づけば狼はその巨体を駆使して囲んでいた兵士を蹴散らしていた。 

そして隊長たちは突っ込んだ、狼にではなくその上に乗っていた水に。 


隊長(この濡れた感触がしない水...懐かしいな) 


水が2人を取り込むと、狼は颯爽と大通りを駆けて行った。 

その光景に兵士は愚か、野次馬も固まってしまっていた。 


兵士3「...魔王城へ連絡をいれろ」 


~~~~ 


~~~~ 


女勇者「...平和の念」 


ユニコーンの魔剣を強く握りしめる。 

今にも炎帝に焼き殺されそうだというのに余所見をする。 

一方で炎帝も身体を燃やし尽くすのを止めていた、彼が戻ってきたからだ。 


炎帝「もう戻ってきてしまったか...」 


魔王子「俺の趣味は散歩だ、この辺の近道なら知っている」 


炎帝「...参ったね、まさか2人とも無事にここにくるとは」 


女騎士「...女勇者、大丈夫か?」 


女騎士が問う、しかし返事は帰ってこなかった。 

2人の仲はいいはずだというのに、無視はあり得なかった。 

彼女は夢中になっていた、握りしめている魔剣に。 
677: :2018/12/16(日) 19:29:05.13 ID:
女勇者「...」 


この魔剣の前の所有者、その者の平和の念。 

ようやく気づいたその暖かな光、彼女もまたユニコーンについて熟知していた。 

同じ光属性の魔力を持つモノ同士、教えられなくても自然とその感覚が伝わった。 


女勇者「この魔剣...魔王子くんの前は誰が持ってたの?」 


魔王子「...キャプテンという男が、誰かに託されたと聞いた」 


魔王子「それ以上は聞いていない...わからない」 


女勇者「...そっか」 


炎帝「...さて、どうしたものか」 


頭を悩ます、このままでは女勇者の拉致など不可能。 

杖らしきものをついている女騎士と、その横に涼しい顔で佇んでいる魔王子。 

この3人を同時に相手をしながら、女勇者を殺さずに連れ去るなどいくら炎帝でも無理であった。 


炎帝(...仕方ない、戻るか) 


転地魔法を唱え、魔王城へ戻ろうとしたその時だった。 

女勇者の身体から光が消える、その僅かな出来事を見逃す男ではなかった。 


炎帝「──貰った」 


魔王子「──気を抜きすぎだッ!」 


女勇者「────へっ?」 


魔剣に夢中になりすぎて気づけなかった。 

属性付与の効力が切れ、身体を守っていた光が去っていたことに。 

それも当然、この属性付与はかなりの時間の間保っていた、故の自然消滅であった。 


炎帝「"炎魔法"」 


灼熱の火炎放射が放たれた。 

その尋常じゃない発射速度に、新たに魔法を唱えられる者はいない。 

魔王子も女騎士も、庇いに行けるほどの距離にいない。 


女騎士「──女勇者ぁああああああああああああっっ!!」 


炎帝「持ち帰れないのなら、今のうちに殺しておいたほうがいい...側近様には申し訳ないけどね」 


魔王子「──クソッッ!!」 


────バサァッ...! 

誰もが焼かれたと思った、その時だった。 

突風が炎よりも早く女勇者を攫い、敷いていた布を女騎士の方角へ吹き飛ばした。 

魔法によるものではない、なにか巨大な翼が通ったような風だった。 
678: :2018/12/16(日) 19:31:08.38 ID:
女勇者「...へ?」 


??1「...まさか裸で棒立ちしているとは思わなかったぞ」 


??2「言ってやんなァ、俺様が初めて見たときは裸で試験管にブチ込まれてたんだぞ?」 


??1「まぁいい...戦力を確保できたのだからな」 


女勇者が力強く抱きかかえられている。 

その者の手には、よくわからない武器があった。 

そしてこの者が乗っているのは竜であった、その光景に魔王子は瞳を輝かせる。 


魔王子「...魔闘士、魔剣士」 


魔剣士「よォ、"翼"はもがれたままだと思っただろォ?」 


魔闘士「...魔剣に翼を貰っておいて、何を言うか」 


魔剣士「るせェ...こうしなきゃ間に合わなかっただろうが」 


その竜の翼はあまりにも醜かった。 

まるで、彼の持っている魔剣がそのまま翼になったかのように。 


炎帝「...君たちか、久しぶりだね」 


魔闘士「まさか、炎帝が先陣をきっているとは思わなかったな...」 


魔剣士「...一旦降りるか」 


そう言うと、下降をはじめ地面へと降り立つ。 

すぐさまに翼は魔剣へと変化を始め、翼のない竜の姿をしていた魔剣士は元通りになる。 


女騎士「2人とも無事だったかっ!」 


魔闘士「当然だ、所詮雑魚が群がっていただけだ」 


魔剣士「何いってやがる、俺様が駆けつけてなかったらヤラれてただろうが」 


魔闘士「...黙れ」 


女騎士「...ははっ」 
679: :2018/12/16(日) 19:32:21.78 ID:
女勇者「えっと...あの...」 


魔王子「どうやってあの姿に...?」 


魔剣士「簡単だァ、魔剣との一体化に応用をきかせたんだァ」 


魔剣士「時間と神経を使うが、一体化させた腕から背中にかけて魔剣を移動させてよォ」 


魔剣士「そっから"竜化"しただけだ、簡単だろ?」 


魔闘士「...そのようなことが出来るのは後にも先にもお前だけだろうな」 


魔闘士「竜へと姿を変えれる"竜人"と言う種族が、一体化できる魔剣を持っていること自体が稀すぎる」 


魔闘士「ましては翼をもがれた竜人などそうそうにいないだろう」 


魔剣士「うるせェなァ...あの頃の魔王子に負けちまったんだから仕方ねェだろうが」 


魔王子「...また2人の漫談が始まったか」 


魔王子もまた、いつもの2人の会話に頭の抱える。 

ついに見かねた裸の女が話を遮った、会話に参加できずにいた彼女が。 


女勇者「えっと...助けてくれてありがとうっ!」 


魔剣士「あァ、人間を助けるだなんてこれが3回目だな」 


魔闘士「俺たちもまた、変わってしまったな」 


魔剣士「...悪い事じゃねェよなァ?」 


魔闘士「...当然だ、久々に心躍る好敵手と出会えたのだからな」 


魔剣士「...で、その当の本人がいねェみてェだが」 


女騎士「キャプテンのことはあとで説明する...それよりも」 


5人が上を見上げると、そこにはまだ炎が鎮座していた。 

徐々にその炎は人の身体へと変化を始める。 

属性同化を一旦解除したのだろう。 


炎帝「悪いけど、引かせてもらうよ」 


魔剣士「あァ、その方がいい...お前の本気はここで拝みたくねェ」 


炎帝「私としては、ここでヤッてもいいんだけど...色々と支障がでるからね」 


炎帝「続きは私の部屋でやろうね..."転地魔法"」 


そういうと美少年は消え去った。 

彼の本気が拝めるのは魔王城の彼の部屋だけだろう。 

そうでなければいけない、彼の部屋は魔法によって特別に強化されている。 
680: :2018/12/16(日) 19:33:52.08 ID:
魔剣士「...どっちにしろ、ブチのめさなければいけねェんだけどな」 


魔闘士「ここでやられたらたまったものじゃない」 


魔王子「...そうだな」 


女騎士「そんなに凄いのか、炎帝は」 


魔闘士「奴は1人で戦場並の激戦区を作り出すと言われている」 


魔闘士「特に厄介なのは爆魔法だ...ありとあらゆるものが爆発によってはじけ飛ぶ」 


魔闘士「それらを対処しながら奴と戦わなければならないわけだ」 


女騎士「...なるほどな」 


女騎士「だが...なぜ引いたんだ?」 


魔闘士「...奴自身、自分の魔法の脅威を知っているからだ」 


魔闘士「ここで派手にやれば、我々の戦力を確実に削れるだろう...」 


魔闘士「だがここは城下町の中心だ、当然民たちも生活している」 


魔闘士「...あんな冷たい顔つきをしているが、奴は敵意のない者には危害を加えようとしない」 


女騎士「...そうか」 


魔闘士「...それよりも、状況を確認させてくれ」 


魔剣士「そォだ、まずキャプテンはどこだ?」 


女騎士「...すまない、死神によって列車が襲撃され、その際に分断されてしまったんだ」 


女騎士「魔女とキャプテンは湖に向かって落下して...そのまま消息がわかっていない」 


魔闘士「...そうか」 


魔剣士「チッ...俺様がこっちに向かっているときにも死神共に襲われたが...やっぱりそっちもか」 


魔剣士「今からでも探しにいくかァ?」 


魔王子「それはできない...時間が限られている」 


再び魔剣を翼にしようとしたが、それを遮った。 

時間が限られている、それはどういう意味なのか。 
681: :2018/12/16(日) 19:35:17.52 ID:
魔王子「俺の魔力は残りわずかだ、有るうちにヤらねば親父とまともに戦えん」 


魔王子「風帝はすでに殺した...残るは炎帝、水帝、地帝、そして魔王だ」 


魔王子「四帝を抑えてもらい、その間に俺が魔王を殺す...それしか手が残っていないはずだ」 


無茶苦茶な要求、ここにいるのは5人であり魔王子を除けば4人。 

その人数で四帝を押さえ込めという話、とてもじゃないが不可能だ。 


魔剣士「らしくないなァ...いつもの寡黙な魔王子はどこいったんだァ?」 


魔闘士「だが...魔王を相手にまともに戦える者など、魔王子しかいないのもまた事実だ」 


女騎士「やるしかないのか...」 


魔王子「...頼む」 


その意外な言葉に、一部を除く者たちは仰天する。 

魔剣士と魔闘士、魔王子に連れ添ってから初めて聞いたその言葉。 

思わず目を大きく見開いてしまった。 


魔剣士「...頼まれちった」 


魔闘士「変わったのは...魔王子もか...意外だ」 


魔剣士「俺様は魔王子の意見には賛成だが...1つ訂正箇所がある」 


そういうと、魔剣士はゴソゴソと魔闘士の背中を弄くりだした。 

大きなかばんのようなものを背負っている、そして取り出したものは小瓶であった。 


魔剣士「時間はある、この小瓶で作れるぞォ」 


女騎士「...なんだそれは?」 


魔剣士「これはだなァ──」ピクッ 


意気揚々と語ろうとしたその時だった。 

いままで話についていけず沈黙していた女勇者が遮った。 


女勇者「あっ、そうだ魔王子くん」 


魔剣士「...話を遮るか普通?」 


女勇者「ご、ごめんね...でも先にやっとかなくちゃいけないことがあって」 


女勇者「魔王子くんと女騎士にかけた属性付与を解除しなくちゃ」 


女勇者「特に、魔王子くんは身体の調子が悪くなるでしょ?」 


魔闘士「...俺は身体に入った例の魔力が、遂に魔王子の全身に巡っていたのかと思ったぞ」 


魔剣士「お前がかけてたのかよ...そりゃ魔王子が眩しいわけだァ」 
682: :2018/12/16(日) 19:36:50.42 ID:
女騎士「...そういえば、付与されていたな」 


魔王子「俺はこれのお陰で久々に骨を折った」 


女勇者「えぇっ!? "治癒魔法"っ!」 


──ぽわぁっ...! 

優しい光が魔王子を包み込んだ。 

それだけではない、その洗練された魔法は5人全員を癒やしていた。 


魔剣士「...流石、女勇者ってだけはあるなァ」 


魔王子「とっとと解除しろ...」 


女騎士「頼むぞ」 


女勇者の手が魔王子と女騎士の手に触れる。 

解除をするために身体に付与された光を自分の身体に戻そうとする。 

属性付与の解除方法、それは時間経過か付与させた魔力を自分の身体に取り込むかのどちらかでしかできない。 


女勇者「...」 


前者は後始末をしなくて楽だが、効力切れの時間は不規則で連戦時には先程のような危険性がある。 

ならば今のうちに、手間がかかるが後者の方法でやったほうが安心である。 

賢者の修行を終えた魔女ですら、その行為には数分の時間がかかるだろう。 


女勇者「...はいっ! おしまいっ!」 


魔王子「────ッ!?」ピクッ 


驚愕した、そのあまりの速度に。 

魔剣士や魔闘士ですらその解除速度に感心する。 

しかし、当の本人はそれどころではなかった。 


魔王子「──離れろッッ!!」 


──■■■■■ッッッ!!! 

人間には捉えられない速度の闇が魔王子の身体から開放されていく。 

見えているのは魔物の2人だけ、魔剣士は女騎士を、魔闘士は女勇者を即座にこの場から離れさせた。 


魔剣士「──暴発かァッ!?」 


魔王子「わからんッ! だが闇が溢れてくるッ!」 


魔闘士「どうなっている...?」 


闇の開放が止まらない、明らかにその量は先程までの魔力量を超えている。 

彼の身体には女勇者の魔力が蝕んでいたというのに。 

まるでその魔力がどこかに消え去ったかのような感覚が彼を襲った。 
683: :2018/12/16(日) 19:39:11.00 ID:
魔王子「──ッッ! いい加減にしろッ!」 


自分自身の身体に活を入れる。 

咳を我慢するような行為、意識のすべてを頭に集中させる。 

これ以上暴発しないように、頭の中で自分を恐喝した。 


女勇者「"光魔法"」 


──□□□□□... 

再び、光が魔王子の身体を包み込む。 

正確には放出されている闇だけを器用に包み込んだ。 

これにより、ようやく暴発が止まる。 


女勇者「大丈夫...? 僕のせいかな...」 


魔王子「...ッ!?」 


謝罪をしている彼女を尻目に、身体の違和感を確認する。 

違和感がないことに強い違和感を感じる。 

確信することができた、そしてその言葉を口にする。 


魔王子「光が消えた...?」 


魔剣士「...は?」 


魔闘士「本当かッ!?」 


女騎士「──っ! 本当だ!?」 


先程の出来事にあっけにとられていた女騎士。 

言われてみてようやく気づいた、身体の違和感がないことに。 


魔剣士「...まさか」 


魔闘士「いや...確かなようだ...2人から光の魔力を一切感じない」 


魔剣士「ってことは...さっきの属性付与の解除が原因かァ?」 


女勇者「な、なにがどうなっているのさ...」 


先程まで自分を除く4人が、女勇者の魔力に悩まされたことすら知らない。 

話についてけるわけがなかった、だが4人の会話はどんどんとヒートアップをしていった。 


魔剣士「属性付与の解除...属性付与の光とともに蝕んでいた光も一緒に取り込んだってことかァ?」 


魔闘士「その可能性は大いにありえる...まさかこんな抜け道があったとは」 


女騎士「油汚れは油で落とすとよく耳にするが...それと同じようなことか?」 


魔王子「もう少し早く気づくべきだったか...いや、今気づけただけでも幸いか...」 
684: :2018/12/16(日) 19:41:20.18 ID:
女騎士「...待て」 


よく見てみれば魔剣士と魔闘士、2人とも顔に疲労感が見えない。 

先程の研究所ではかなり疲労困憊した風に見えていたのに。 

魔力への知識が若干乏しい女騎士でも、仲間の魔力の分別ぐらいはできる。 


女騎士「...お前らからも女勇者の魔力を感じないぞ?」 


魔剣士「それは...説明しようとした時にあの女が遮ったからなァ」 


魔闘士「...いまからでも説明するか、もう遅いがな」 


先程の小瓶を再度取り出した。 

今度こそ説明が起こる、遮らないように女勇者は自分の口を抑えていた。 

微笑ましい光景だが、4人はその知識への探究心へと夢中になっていたので無視されていた。 


魔闘士「雑魚どもは全滅させた、そのあと研究所をある程度探索させてもらった」 


魔闘士「そして見つけたのがこの小瓶と...これだ」 


パンパンに膨らんでいたかばんから、金属音とともに取り出した。 

小さめの鎧、そして剣と盾、誰のものか明白であった。 


女勇者「あ、僕の装備だ」 


魔剣士「...槍は見つからなかった、悪いな」 


女騎士「いや、大丈夫だ...今はキャプテンの武器がある」 


魔闘士「さっさと装備しろ、いい加減裸でいると体調を崩すぞ」 


女勇者「はぁい、ありがとうねっ!」 


魔剣士「...本当に女なのかァ? コイツ」 


女勇者「うん? そうだよ?」 


魔剣士「そういうことを聞いてるんじゃねェんだよ」 


女騎士「...今後、私が指導しよう」 


裸であることに抵抗感のない女勇者。 

それを治すべく女騎士が名乗りを上げる、しかし彼女も同族である。 

過去に隊長を混浴に誘う女が、裸族の女を指導できるのだろうか。 
685: :2018/12/16(日) 19:43:11.56 ID:
魔闘士「...話を戻すぞ」 


魔闘士「俺は例の魔力を作った男と対峙したんだが...」 


魔闘士「どうも、奴は完璧主義者のように思えた」 


魔闘士「ならば...有事のときに備えて、特効薬を作成していると考えた」 


魔剣士「そしたら、見事に的中したわけだァ」 


女騎士「...それを飲んで、お前らは魔力を復活させたってことか」 


魔剣士「そォだ」 


半ば投げやりな雰囲気で話を進めている。 

なぜなら、すでにこの小瓶の役目は終わっていたからであった。 

必死こいて探した薬の存在意義はどこにあるのか。 


魔剣士「...もういらねェか」 


女騎士「いや...キャプテンは大丈夫だとは思うが、魔女が心配だ...とっといてくれないか?」 


魔剣士「おォ、そうだったなァ」 


魔闘士「...ではどうするか」 


魔剣士「魔力を失うことがない今、急いで魔王城へ突入する意味はねェ」 


魔剣士「俺様としては、デカい戦力になるキャプテンと、強い治癒魔法を使える嬢ちゃんを探してェ」 


魔闘士「...魔力が戻ったが、俺には遠距離攻撃ができない」 


魔闘士「だが今は"この武器"がある...この武器に不可欠な弾薬とやらを作れる魔女が必要だ」 


魔闘士「もちろん、キャプテンもな...人間にしては頼れる」 


女騎士「私も、捜索の案に賛成だ...戦力云々の前に安否が気になる」 


魔王子「...急ぐ必要はないな」 


満場一致、隊長たちを探しに行く案が可決される空気だった。 

だが、また空気の読めない女が水をさしてしまう。 
686: :2018/12/16(日) 19:44:25.47 ID:
女勇者「そのきゃぷてん? って、人は誰なんだい?」 


魔闘士「...」 


魔王子「...」 


女騎士「...そうだった、まだ説明していなかったな」 


魔剣士「...女勇者ってェのは、こんな奴なのかァ?」 


女勇者「え...?」 


女騎士「これが女勇者の良い所だ、わかってくれ」 


魔剣士「...まァ、芯が強いって解釈にしてやる」 


女騎士「じゃあ説明するか...まずキャプテンって男はな」 


説明しようとすると、4人の口が一斉に動く。 

それほどまでに彼は特徴的であった。 


女騎士「頼れる男だ」 


魔剣士「魔闘士より頼もしいィ」 


魔闘士「魔剣士よりかは信用できる」 


魔王子「...強い男だ」 


女勇者「...」 


女騎士を除く3人、魔物である3人がなかなかの高評価を与えている。 

はじめは人間だと思っていたが、どうやら違っていたようだった。 

女勇者は確信するために思ったことを口に出した。 


女勇者「え? 魔物?」 


女騎士「いや、人間だ」 


魔剣士「異世界から来たっていってたなァ」 


魔闘士「神にも会ったとかいっていたな」 


魔王子「...そうなのか?」 


女勇者「う、うーん?」 


余計にこんがらがってしまう。 

さり気なく、魔王子も軽くこんがらがっている。 

ともかく魔剣士が行動に移る。 
687: :2018/12/16(日) 19:46:04.48 ID:
魔剣士「じゃあ、ちょっくら探してくるぜェ?」 


女勇者「うん、直接あって聞いてみることにするよ」 


女騎士「任せたぞ」 


魔王子「...」 


魔闘士「...待て」 


翼になりかけた魔剣を止め、魔闘士の方を振り返った。 

その顔つきは非常に険しいものであった、思わず魔剣士は真剣な口調で返答した。 


魔剣士「...どうした?」 


魔剣士「魔王子の調子が戻った今、比較的安全にここで待機できると思うがよォ...」 


魔闘士「そのことではない...キャプテンのことについてだ」 


なんのことか、さっぱりわからない。 

だが、魔闘士だけが知っている事実があった。 

研究所で起きたこと、彼が何者に取り憑かれていることを。 


魔闘士「...奴はドッペルゲンガーに憑かれている」 


魔剣士「...はァッ!?」 


魔王子「...真か?」 


魔闘士「あぁ...この目でしっかりと見た...奴が闇を纏っていたのを」 


魔剣士「冗談だろ...なんて希少なモノにとり憑かれてるんだよ」 


魔闘士「わからん...とにかくそういうことだ」 


魔闘士「研究所では俺が気絶をさせた...仮にキャプテンが見つかったとしても油断するな」 


魔闘士「奴に敵意はないのは重々承知だが...ドッペルゲンガーは敵意むき出しで襲いかかるだろう」 


魔剣士「...参ったなァ、とんでもねェ地雷背負ってるなキャプテン」 


魔闘士「暴走したらまた、気絶させなければならない」 


魔剣士「...わかった、とにかく探してくるわァ」 


魔闘士「気をつけろよ...」 


魔剣士「あァ...闇魔法は魔王子だけで勘弁だってのォ」 


魔王子「──ッ!」ピクッ 


飛び立とうとしたその時、魔王子が剣を鞘から抜いた。 

折れた刀身、そのことについて猛烈に疑問を感じたが魔闘士もその気配に気づいた。 
688: :2018/12/16(日) 19:49:34.45 ID:
魔闘士「...敵か?」 


魔王子「複数...そのうち1つは巨大生物だな」 


魔闘士「猛獣使いの可能性が高いな」 


女騎士「早速敵襲か、久々に本調子で戦えるな」 


魔剣士「けッ、ブチのめしてから行くかァ」 


女勇者「えっ! まだ着替えてないのにっ!」 


ガチャガチャと金属音を鳴らしながら、鎧を着込む。 

その間にも、大きな足音は近づいてきている。 

音から察するに、四足歩行。 


女騎士「──くるっ!」スチャ 


それぞれが武器を構える。 

そして目の前に現れたのは白い獣。 

橋の下、城下町から巨大な狼が飛び跳ねて現れた。 


巨狼「────うわっ!?」 


そのはずだった、5人が目視した大きな狼はなぜか急に視界から消えた。 

動体視力が優れている魔闘士には唯一、縮こまった風に見えていた。 

そして、狼に乗っていたと思われる者が聞いたこともない言語を発する。 


??1「────WOW WOW WAITッ!」 


??2「えっ!? なにが起きたのっ!?」 


??3「...恐らく、効力切れかと」 


??4「ひやあああああああああああああっ!?」 


巨狼「くぅーん...」 


魔剣士「...はァ?」 


そのトンチンカンな出来事に思わず竜は固まってしまう。 

それは彼だけではなく初めからいた5人全員もそうであった。 

1秒も経っていない出来事、まるで時が止まったかのような沈黙が訪れていた。 


??2「────痛っ!?」 


──ドサドサドサッッッ!! 

宙に浮いていた5人は乱雑に橋の地面に叩きつけられた。 

そして、ようやく動けていたのは女騎士だけであった。 
689: :2018/12/16(日) 19:51:19.44 ID:
女騎士「──魔女っ!」ダキッ 


魔女「...女騎士っ!」ギュッ 


尻から着地した魔女、痛みをこらえながらも女騎士の抱擁に応ずる。 

まだ出会って日数も立っていないというのに、旧知の友人のように。 


魔王子「...生きていたか、キャプテン」 


隊長「魔王子...あぁ、この通りな」 


腰から着地した隊長、仰向けの状態からすぐに立ち上がる。 

この世界での名前を呼ばれたことに少しばかり驚いた。 

だが、それについて突っ込むことなく受け入れていた。 


魔闘士「...無事か?」 


隊長「...すまない、迷惑かけたな」 


柄にもなく、心配をされていた。 

初めて対峙した時は敵同士であったのに。 

記憶を思い返し、出たのは謝罪の言葉であった。 


魔闘士「気をつけろ、あれは一時的に止めたに過ぎない」 


魔闘士「また、暴走するかもしれない...あまり感情を激しくさせるな」 


魔闘士「ドッペルゲンガーとは感情を揺さぶる魔物なのだからな」 


隊長「あぁ...わかっている」 


魔剣士「...よォ」 


隊長「魔剣士...まだ何日かしか経っていないのに久々な感じがするな」 


魔剣士「あァ、ここ数日間は濃密すぎるからよォ」 


魔剣士「...また、お前に会えて嬉しいぜェ?」 


隊長「...魔闘士と違い、魔剣士は思ったことを素直に口にしてくれるから助かる」 


魔闘士「どういう意味だ...まるで俺が口に出していないだけと言いたいのか?」 


魔剣士「...違ェねェなァ!」 


魔闘士「黙れ魔剣士...ここで決着をつけるか?」 


魔剣士「やるかァ!? 魔王をブチのめす前に景気良くなァッ!」 


魔王子「...」 


その光景をみて魔王子は失笑するしかなかった。 

同じくその光景を横目で見ながら女騎士があることに気づいた。 

690: :2018/12/16(日) 19:52:47.23 ID:
女騎士「...もしかして、女賢者か?」 


女賢者「え...どうしてわかったんですか?」 


魔女「知り合い?」 


女騎士「いや、女勇者の仲間候補に名前が上がってたんだ」 


女騎士「結局断られたらしいが...似顔絵と似てたんで聞いてみた」 


女賢者「...あー、断った覚えがあります」 


魔女「そうなのね...やっぱり、強いのねあんた」 


女賢者「これでも賢者の修行を終えた身なので...」 


少し照れたような口調で、堅苦しく言葉を交わす。 

魔女とはあまり会話をしたことがない、女騎士とは初対面。 

3人のガールズトークを尻目に、漫談を終えた隊長が2人の魔物娘に近寄った。 


隊長「...スライム、ウルフ、大丈夫か?」 


スライム「ふわあああ...ちょっとまだ身体が崩れてるけど...だいじょうぶだよ」 


ウルフ「...ご主人、もうちょっとねかせて」 


隊長「...ここまで運んでくれてありがとう、ウルフ」 


ウルフ「...えへへ」 


横たわっているウルフの頭を撫でてあげた。 

犬を飼っていたことがある、どこを撫でれば喜ぶかは把握していた。 

募る話もあるが今は休息を取りたい、そのような微妙な表情をしていたウルフの顔がゆるくなっていた。 


女勇者「...」 


話についていけない女。 

これから魔王を討つ、この者は最重要戦力であるはずだ。 

それなのに部外者感が醸し出されていた。 


魔王子「...」 


そしてその近くで微かに震えている男、剣を鞘に納めて手のひらで顔を抑えていた。 

そんな中ガールズトークを抜け出した女賢者が隊長たちの方に寄ってきた。 
691: :2018/12/16(日) 19:53:52.05 ID:
女賢者「...ようやく落ち着いて話せませすね」 


隊長「あぁ...さっきまではしがみつくのに必死で話している余裕がなかったからな」 


隊長「...助かった、ウルフたちが来なければ失敗に終わってた」 


女賢者「全くです...あそこまで強引に走ってるとは思いませんでした」 


女賢者「ウルフちゃんの嗅覚に感謝です、それを頼りに追いつきましたから...」 


隊長「...ウルフやスライムは疲れているみたいだからお前に聞く」 


隊長「まず...あのウルフの姿はなんだったんだ?」 


真っ先に聞きたかったこと、それはウルフの姿。 

先程魔闘士が目視できた現象は正しかった。 

なぜあの巨大な狼の姿へと変化していたのか。 


女賢者「大賢者様の"魔力薬"です」 


隊長「...それって」 


女騎士「ふむ...聞いたことあるな、確か魔力を大幅増幅させる薬だったか?」 


女賢者「まぁ、概ねあってますね」 


魔女「大賢者様の膨大な魔力をウルフが得て、狼化ってことね」 


魔剣士「なるほどなァ...確かに凄まじい魔力を感じたなァ」 


魔闘士「湖で逸れ、密林を抜け城下町を経て合流か...なかなかの速さだな、この犬」 


ウルフ「...えっへん」 


スライム「すごかったね、ウルフちゃん」 


2人で会話していたはずが、わらわらと集まってきていた。 

人間も魔物も知識への欲は凄まじい、続いて隊長が2つ目の質問を投げる。 


隊長「...なぜ、来たんだ?」 


女賢者「...帽子さんの願いを、手伝うためでした」 


魔女「...っ!」ピクッ 


隊長「...見たんだな?」 


女賢者「えぇ、スライムちゃんとウルフちゃんが花を手向けてましたから」 


女賢者「...ひと目でわかりました」 
692: :2018/12/16(日) 19:54:54.49 ID:
魔剣士「...あの時の、剣士か」 


女賢者「...はい」 


魔剣士(死因は聞くまでもねェな...話の雰囲気からするに他殺か) 


女賢者「...彼はもういません、ですが彼の願いを叶えようとしている人がまだいます」 


女賢者「だから、その人に追いつこうと私は足を進めました」 


女賢者「...その時、スライムちゃんたちが付いてきてくれました」 


女賢者「私がここに、私たちがここに来た理由はソレです」 


隊長「...そうか」 


自然と、再び手のひらをウルフの頭に置く。 

そして優しく、とても優しくそれを動かした。 


魔王子「...1ついいか?」 


遠巻きにいた、魔王子がこちらに近寄り質問を投げかけた。 

ついに女勇者は完全に孤立をしてしまった、1人残った女を置いて会話が始まった。 


女賢者「魔王子...さん、ですか?」 


女賢者(魔闘士に魔剣士、それに魔王子も...ここまでうまくいっているとは...) 


魔王子「あぁ、それで質問だが...」 


魔王子「なぜ、俺たちの場所がわかった?」 


女賢者「それは...なんでですか?」 


自分にはわからない、隊長に聞いてみる。 

気づけばウルフはここに向かって走っていた。 

魔王城を目印にしてもここは手前の橋、見逃していた可能性が高い。 


隊長「...俺は指示を出していないぞ」 


ウルフ「あっ! それはね──」 
693: :2018/12/16(日) 19:55:23.12 ID:
「────帽子の匂いがしたからだよ」 









694: :2018/12/16(日) 19:56:47.12 ID:
匂い、いまこの世に彼はいない。 

どこからそれは香るのか、原因は1つ。 

孤立していた女勇者、そしてその握っている魔剣が注目された。 


女勇者「...そっか、そんなに大事な剣なんだね」 


隊長「...」 


女勇者「...」 


その剣に秘められた運命が、光を通して悟らせてくれていた。 

自分には荷が重すぎる、彼女はその剣を返却しに隊長の元へと近寄る。 


隊長「...女...勇者、だよな?」 


女勇者「...は」 


勇気ある者、ようやく言葉を絞り出した。 

それはいまから魔王城に向かう者にしてはありえない言葉であった。 


女勇者「は、はじめましてぇ...」 


自分の背丈を遥かに超える男と話すのは初めて、そして彼の強さを聞かされている。 

さらにはこの大事なユニコーンの魔剣を勝手に使っていたという事実。 

その3つの要素の緊張が相まって、声のトーンが高くなってしまっていた。 


???「...フッ、ハハハハ」 


思わず誰かが吹き出してしまっていた。 

その声は男、笑い声の方向から察するに隊長ではない。 

魔剣士のように訛はない、魔闘士のとも違う、では誰か。 


魔王子「...これから魔王を討つというのに、初対面の挨拶か」 


魔王子「愚かだ...全くもって愚かな集まりだ」 


魔剣士「...魔王子が笑ってらァ」 


魔闘士「......これは、なんというか、これは...」 


その笑い声、長年一緒にいた彼らですら聞いたことのないモノであった。 

意外な人物に笑われ、女勇者の顔は徐々に紅く染まっていった。 


女勇者「も、もう...っ! しょうがないじゃないかっ!」 


女勇者「こんな大事な剣を勝手に使ってるんだ...緊張するにきまってるじゃないかっ!」 


魔女「...ふ、あはは」 


女騎士「...かつて、魔王の息子と笑い合ってる勇者がいただろうか」 


女賢者「そんな設定の物語を書いたら、現実味がないと批判を食らいそうですね」 
695: :2018/12/16(日) 19:58:16.67 ID:
魔剣士「つーかよォ、女騎士と魔王子以外初対面じゃねェの?」 


魔闘士「そうだな、直接合うのは初めてだ」 


魔剣士「俺様も、ある意味初めてだァ」 


魔女「私も」 


隊長「俺もだ」 


女賢者「...私もです」 


スライム「わたしも」 


ウルフ「はじめましてだねっ!」 


女勇者「あ、あはは...はじめまして」 


魔王子「まさか要である勇者が、部外者側とはな」 


女騎士「...こんな集まりになるとはな」 


女勇者「...魔王子くんも女騎士も笑いすぎっ!」 


絆でここに集まっているわけではない。 

簡潔にいえば、利害の一致で集まっている。 

そのような重くない関係だからこそ、決戦前の緊張など呼び寄せなかった。 


女勇者「はいっ! お返ししますっっ!」スッ 


隊長「あ、あぁ...だが、それは魔王子に渡してくれ」 


隊長「...俺はアイツに、その剣を託したからな」 


魔王子「...そういえば」スッ 


剣を鞘から引き抜く。 

何度取り出しても、刀身は折れたまま。 

ゆとりができた今、魔物の男2人はついに疑問をぶつけた。 


魔剣士「...折れたのかァ」 


魔王子「あぁ」 


魔闘士「誰にやられたんだ? まさか風帝か?」 


先程魔王子は、風帝を殺したと述べていた。 

殺したということは、少なくとも戦いがあったということ。 

風帝程の男と戦えばヒビの入った魔剣が折れる可能性が見いだせる、魔闘士はそう推理した。 
696: :2018/12/16(日) 19:59:23.04 ID:
魔王子「...聞きたいか?」 


魔闘士「あ、あぁ...聞きたいと言われれば聞きたい」 


魔王子「...実はだな」 


──ゴクリッ! 

歴代最強の魔王が魔剣化したモノ、それが折れたとなると相当激しい戦いがあったはずだ。 

どのような戦闘を繰り広げたのか純粋に気になっていた、魔物の男2人は思わず生唾を飲み込んだ。 


魔王子「...そこの橋から俺ごと落ちた時に、折れた」 


魔剣士「...」 


魔闘士「...」 


女騎士「ん、折れてたのか...気が付かなかったぞ」 


彼女の脳天気な反応。 

2人がなぜ静かにしているのか理解していない。 

歴代最強と言われた魔王の最後が、このザマ。 


女勇者「魔王子くんの剣、折れちゃったんだ」 


魔王子「...あぁ」 


女勇者「...この魔剣、返すね」スッ 


魔王子「あぁ」 


自身の剣と盾や鎧が手に入った今、ユニコーンの魔剣を持つ意味はない。 

それならばこの剣を託された魔王子に返すべきだ。 

隊長に託されたときたのなら、なおさらであった。 


女騎士「...そうだ」 


女勇者「どうかしたの?」 


女騎士「ちょっといいことを思いついた...魔王子、折れた刀身をくれないか?」 


魔王子「...何をする気だ?」 


女騎士「それは見てからのお楽しみだ」 


もう使う価値の無い魔王の剣、ならば必要としているものに与える。 

これほどまでに軽々しくこの剣が手渡されたのは初めてだろう。 

ソレを受け取った女騎士は、先程まで女勇者を包んでいた布を紐状に細工する。 

そして出来上がった紐を刀身とともにショットガンに強く巻きつけた。 
697: :2018/12/16(日) 20:00:27.44 ID:
隊長「...なるほど、ベイオネットか」 


女騎士「べいおねっと?」 


隊長「そうだ、俺の世界だとその形状の武器をそう呼ぶ」 


女騎士「妙案だとおもったが...先人がいたか」 


隊長「...だが、刺すように使わないとすぐに折れるぞ」 


女騎士「私は槍使いだ、そのように扱えば大丈夫だろうか?」 


隊長「なんとも言えんな...もう少しキツく締めておこう」ギュッ 


女騎士「あぁ、頼んだ」 


最強の魔王が、人間の手によって好き勝手にされる。 

その光景をみた2人はどうすることもできない。 

ただ、固まってその光景をみているだけであった。 


魔剣士「...これは不味いだろ」 


魔闘士「4代目魔王を崇拝する者がみたら、暴動が起きるだろうな」 


魔剣士「...確か地帝も、風帝寄りだったろ」 


魔闘士「あの無口か...そういえばそうだったな」 


魔剣士「女騎士が地帝と遭遇しなければいいがァ...」 


魔闘士「...四帝の中で最も大人しい奴だ、大事にはならないだろう」 


魔剣士「そうだといいけどよォ...ッて、そうだァ」 


魔剣士「おォい、魔女の嬢ちゃん」 


ちょいちょいと、手招きをする。 

それが伝わったのか、彼女がこちらに近寄ってきた。 

それを見越して再び例の小瓶を取り出した。 


魔女「どうしたの?」 


魔剣士「あァ、これを飲め」 


魔闘士「...おい」 
698: :2018/12/16(日) 20:01:51.62 ID:
魔剣士「あァ? どうし──」ピクッ 


嫌な予感がよぎった。 

彼女から溢れる、雷のような魔力を。 

この小瓶の存在意義、それはもうない。 


魔剣士「──どうして魔力が漲ってやがるゥッ!」ブン 


その大きな声は、疑問によるものではない。 

柄にもなく必死こいて、友のために探した特効薬。 

それを彼女に向かって投げつける、幸いにも魔女は上手にキャッチした。 


魔女「えっ!? ご、ごめん...?」 


魔闘士「...困惑しているぞ、少し落ち着け」 


魔剣士「なんなんだよォ...どいつもこいつもよォ...」 


魔剣士「結構探すの大変だったんだぜェ...?」 


魔闘士「...どうやって、魔力を取り戻したんだ?」 


魔女「うーん...ちょっと言えないかなぁ」 


隊長「...みんな、いいか?」 


そんな彼らを横目に、締め終えた隊長が声を張る。 

その言葉には少しばかり緊張感のある雰囲気が感じられた。 

各々が彼に注目する、深い緑色のマフラーが風にたなびく。 


隊長「...これから、魔王城へ突入する」 


隊長「目的がどうであれ、種族が違くても、俺たちは共に闘わねばならない」 


隊長「俺個人としての目的がある、魔王が使えるという転世魔法とやらだ」 


魔王子「...転世魔法」 


隊長「あぁ、大賢者が言うには世界を跨ぐことのできる魔法だ」 


隊長「...それを利用して、俺は元の世界に戻りたい」 


魔剣士「なるほどなァ...ってことはやっぱり、ブチのめす前に一度交渉しねェとなァ」 


隊長「...尋問なら慣れている、任せてくれ」 


魔闘士「魔王を尋問するつもりなのか...」 


魔剣士「そんぐらいの意気込みがねェとこの先やってられねェぜ」 
699: :2018/12/16(日) 20:03:41.60 ID:
隊長「...そしてもう1つ目的がある」 


隊長「先程言った、俺の友であった帽子の願いを叶えるためだ」 


隊長「ソイツは魔王を倒し、人間でありながら新たな魔王に就任する」 


隊長「そして人間と魔物が平和に過ごせるような政策をする...そう言っていた」 


隊長「俺はこの世界に詳しくはない、この世界で過ごしてきたお前らには冗談に聞こえるかもしれない」 


隊長「だが帽子は本気だった、アイツの目を見てそう思った」 


女勇者(...帽子さん、か) 


隊長「しかし...夢半ばに帽子は殺されてしまった...あろうことか、魔物ではなく人間たちによってな」 


魔女「...」 


スライム「...」 


ウルフ「...」 


女賢者「...」 


女騎士「...辛かっただろうな」 


隊長「あぁ、仲間の死には慣れているつもりだったが...」 


隊長「...湿っぽい話はここまでにしよう」 


隊長「俺は以前、魔王子が魔王を倒す目的を聞いた」 


魔王子「...そこからは、俺が喋ろう」 


魔王子「俺の目的、それは今の腐りきった政策を正すこと」 


魔王子「人間界へと侵略するために、今は魔界中の腕利きのならず者共をここに集めている」 


魔王子「...そして元々ここに住んでいる、戦いを好まない者たちが脅かされている」 


魔王子「しかし親父...魔王はその民たちのことを気にかけずに侵略を進めようとしている」 


魔王子「以前の魔王なら、そんなことは絶対にせずに民を救うだろう」 


魔剣士「...確かになァ、最近になって痴呆にでもなったってかァ?」 


魔闘士「ここ数年で、急激に攻撃的になったな」 


魔王子「...俺の中にある理想であった魔王の像は崩れた」 


魔王子「もうそのような父親に用はない...殺してでも魔王の座を奪い取る」 


魔王子「そして新たな魔王として君臨し、魔界に平穏を訪れさせる」 


魔王子「...それが俺の目的だ」 
700: :2018/12/16(日) 20:07:49.22 ID:
隊長「...俺はその目的に、便乗させてもらう」 


隊長「聞こえが悪いかもしれない...だが新たな魔王の適任者など、俺は帽子や魔王子以外に知らない」 


隊長「そしてその目的の理念...微かに帽子と近いモノを感じた」 


隊長「...魔王子の剣にヒビを入れたのは俺だ、その申し訳無さも要因の1つだが」 


隊長「その目的の理念に故に、俺は帽子の魔剣を託した」 


魔王子「...利害の一致か、大いに結構」 


隊長「よろしく頼む、魔王子」 


魔王子「あぁ」 


握手などしない、行動する理由がはっきりしているからだ。 

強い眼差しがお互いの目を合わせている。 

これほどまでに合理的な関係で信用を得ている者たちなどいないだろう。 


女勇者「...僕たちも便乗させてもらうよ」 


女勇者「僕たちの目的は魔王を倒して、人間界に蔓延る悪さをする魔物の士気を下げること」 


女勇者「そう王様に命令されたからここまできたんだよ」 


女勇者「2人の目的のような、重みを背負っていないけど...」 


女勇者「...」 


言葉が詰まっていた、魔王を討てば人間界は平和になるだろうと楽観視していた。 

隊長と魔王子、彼らがどれだけの宿命を背負っていたのか。 

自分のものと比べると、とても薄っぺらく思えていた。 


女騎士「...女勇者」 


女勇者「...なに?」 


女騎士「...光魔法の属性を持つ人間は希少だ」 


女騎士「神によって与えられると比喩されるほどに希少だ...そう書物で読んだことがある」 


女騎士「...そして、お前はソレをたまたま生まれ持っていた」 


女騎士「ソレを持っていたがために、勇者として選抜されてしまった」 


女騎士「ただの田舎娘として過ごしていたのに...数年前に急に王国へと招集されて勇者になった」 


女騎士「そしてお前は文句持たれずに王の命令を聞き、ここに来た...違うか?」 


女勇者「...そうだよ」 


魔闘士(...ただの田舎娘で、あの魔力量か) 
701: :2018/12/16(日) 20:09:16.72 ID:
女騎士「お前と旅をして、数年が経った」 


女騎士「...一度も弱音を聞いたことが無い」 


女騎士「ただの娘だった者が、愚痴ももらさずにここまで来たんだ...私はそれだけで十分誇りに思える」 


女勇者「...」 


誰かがやらなければいけない、誰かが魔王を討たなければ、誰かが魔物から被害を受ける。 

どんなことがあっても作戦を全うしなければならない、そのような重いモノを小さな背中の娘が背負っていた。 

女が背負うには重すぎる、しかしなにも背負っていないからこそ背負えていた。 


女騎士「...薄っぺらくないさ」 


女勇者「...ありがとう」 


彼女の強い眼差しが、隊長と魔王子に向けられる。 

3つの思想が3人の頭の中へと入り込む。 

目的は違う、だが目的は一緒の思想。 


隊長「...俺は帽子のために」 


魔王子「俺は魔界のために」 


女勇者「僕は人間界のために」 


魔王子派の魔剣士と魔闘士、女勇者派の女騎士。 

隊長派の魔女、スライム、ウルフ、女賢者、3つの思想が彼らの瞳に魂を宿らせている。 

決起集会が終わる、これほどまでに静かなモノはないだろう。 

冷静で合理的な彼らだからこそ、この程度のモノで士気を高めることが可能だった。 

雄叫びなど必要ない、必要なのは信用、感情によるものではなく客観的な信用だ。 

10人が歩み出す、ついに魔王城への進攻が始まった。 


~~~~ 
702: :2018/12/16(日) 20:10:37.34 ID:
~~~~ 


──カツカツカツ... 

大きな広間に足音が響いていた。 

その音の主は先程の、燃える男。 


炎帝「...」 


??1「足早に出ていったと思ったら、もう帰ってきたのね」 


??2「...」 


その男に、ねっとりとした口調で話しかける女。 

そしてその横には言葉を発しない女児が1人。 


炎帝「...水帝よ、地帝を見習ったらどうだい?」 


水帝「お断りね、それよりも早く行くわよ」 


地帝「...魔王様、待ってる」 


炎帝「...風帝は?」 


水帝「さぁ? もうすでにいるんじゃなぁい?」 


──ガチャンッッ!! 

大きな音とともに、大きな扉を開く。 

雑談を交えながら歩いていた彼らの顔つきは険しいものになっていた。 

その部屋の主を確認すると、3人は跪いた。 


炎帝「...ただいま参りました、魔王様」 


炎帝(本来なら、こういう第一声は風帝がやってくれるんだけどねぇ) 


水帝「...」 


地帝「...」 


???「...よくぞ参った、炎帝たちよ」 


その広間にある大きな椅子に君臨する者。 

この世の魔物を統べる王、その横にはその妃と思わしき女性。 

魔王だ、圧倒的な闇を誇る魔王がそこに存在していた。 


魔王「早速だが、残念な知らせがある」 


炎帝「...と、言うと?」 
703: :2018/12/16(日) 20:12:09.54 ID:
魔王「妻によると...風帝の魔力が途絶えた様だ」 


その言葉にどのような意味があるのか。 

風帝の魔力がなくなったということは、もうこの世にいない。 

思わず水帝は魔王に向かって口を開いた。 


水帝「流石の感知能力...恐れ入ります」 


魔王「世辞はいい、それよりも同胞を弔え」 


水帝「...はい」 


地底「...」 


炎帝「...魔王子様でしょうか」 


魔王「そうだ、奴は仲間を連れ魔王城へと向かっている」 


魔王「...もうじき進攻してくるだろう」 


魔王「今の魔王城には我と妻、そして側近を含めずにいるとお前たちしか残していない」 


魔王「...わかるな?」 


炎帝「はい...食い止めろと」 


魔王「その通りだ...生死は問わず、全力でやれ」 


魔王「...今日この日、この世界における重要な日になるというのだからな」 


含みのある言い方であった。 

なにか大義を果たそうとしている風に聞こえた。 

その一方、炎帝は少し疑問を抱いていた。 


炎帝「...まだ、私たちにお教えくださりませんかね」 


魔王「...それはできない」 


魔王「たとえ息子に反逆されても...まだ言うわけにはいかない」 


炎帝「...いえ、私たちは忠実に全うするだけです」 


炎帝「魔王様の...部下なのですから」 


水帝「...」 


地帝「...」 


──ガチャンッ! 

やや不穏な空気が開閉音にかき消された。 

誰かが扉を開いた、そこに居たのは例の人物であった。 
704: :2018/12/16(日) 20:13:52.42 ID:
???「遅くなりました」 


魔王「側近か...調子はどうだ?」 


側近「えぇ、予定通り本日から実践することが可能でしょう」 


側近「それともう1つの実験体も...いえ、こちらは私信なので言い留めておきます」 


魔王「そうか...ならば、急ごう」スッ 


魔王が椅子から立ち上がった。 

そしてその横にいた女性に耳打ちをする。 


魔王「...いよいよだな、妻よ」 


魔王妃「えぇ...とても待ちました」 


~~~~ 


~~~~ 


隊長「...」 


アサルトライフルの先から煙、火薬の香りが微かに漂っていた。 

周りには先程炎帝により退避させられていた魔物が横たわっていた。 

その者たちは撃たれただけではなく、切り傷や打撃跡が残っている。 


魔剣士「...今のが雑兵かァ」 


魔闘士「なかなか腕のある奴らだった...もう少し数がいたら負傷者がいただろうな」 


魔王子「気をつけろ、この屑共は腕を買われてここにいる」 


女騎士「...なるほどな」 


隊長たちは既に魔王城に通ずる大橋を渡っていた。 

その際に横たわっている者たちを打ち倒していた。 

いまここに敵影はない、少なくとも前方には。 


女賢者「...後ろからきてますね」 


彼女が感知した魔力は、いま渡った橋の後方から。 

今になって出撃命令が出されたのであろう。 

先程の雑兵たちが迫ってきていた。 


女勇者「...どうしようか、炎帝とかと闘っているときに横槍いれられたら嫌だよ?」 


女騎士「また、人海戦術か...」 
705: :2018/12/16(日) 20:15:33.54 ID:
隊長「先を急ごう、追いつかれてはたまったものじゃない」 


的確な判断、多くのものが隊長の意見に納得をした。 

各々が足を動かし、いよいよをもって魔王城へ突入しようとしていた。 

しかし、異議を唱えるものが1人いた。 


魔剣士「──待ちなァ」スッ 


──ズドンッッ!!! 

彼の重すぎる大剣が地面に突き刺さった。 

まるでそれは障害物のように、それが揺らぐことなどあり得ない。 


魔剣士「俺様たちは今から、魔王軍最大戦力である四帝と闘わねェといけねェ」 


魔剣士「だが、その勝負を雑魚の大群に邪魔されてみろォ」 


魔剣士「女勇者の言うとおり、必ず此方が不利になる」 


魔剣士「今度ばかりは、炎帝たちは本気を出してくる...敵味方関係なく攻撃してくる可能性が高い」 


先程炎帝は部外者に被害がでないように1対1の場を設けていた。 

しかし今は部外者など存在しない魔王城の中、四帝たちは当然全力を出してくる。 

誰が巻き込まれようと、もう関係ないだろう。 


魔剣士「...ここは俺に任せろォ」 


魔剣士「この竜人...魔剣士様が鼠一匹でも入り込ませねェッ!」 


橋に刺さった大剣が完全に障害物となった。 

我々ではなく、こちらに迫ろうとしている雑兵たちに向けて。 

だが、冷静な言葉が彼の意気込みに水をさした。 


女騎士「...無茶だ」 


女騎士「魔剣士、お前の実力はわかっている...そしてこの状況だ」 


女騎士「その言葉に頼りたい気持ちも十分にある...だが」 


女騎士「...数が多すぎる」 


魔剣士「...舐めんなよ、女騎士」 


魔剣士「たとえ千の数、万の数がいようと雑魚は雑魚だァ」 


魔剣士「..."竜"は"雑魚"なんかに負けねェ、そう相場が決まってらァ」 


橋の向こう側を向いてこちらを見ずに啖呵を決める、彼はすでに覚悟を完了している。 

少なく見ても万の数がいる雑兵に向けて、漲る闘志を高まらせている。 
706: :2018/12/16(日) 20:17:01.79 ID:
女騎士「...だけど──」 


────グイッ! 

再び彼女が彼を引こうとしたその時だった。 

力強い手が、勇ましい声とともに彼女の腕を引っ張った。 


魔闘士「どうやら、魔剣士だけでは不安のようだな」 


女騎士「...魔闘士っ!?」 


魔闘士「俺もここに残る...さっさといけ、女騎士」 


早速戦力が2つも削られた、だがここで食い止められなければ。 

それほどに人海戦術というものは恐ろしい。 

雑魚を相手にしながら四帝を相手にすることなど魔王子にも困難だろう。 


女勇者「任せたよっ! 魔闘士くん! 魔剣士くん!」 


女騎士「──っ! 死ぬなよっ!」 


隊長「任せたぞッ!」 


魔女「魔闘士っ! さっきいっぱい弾薬を作ったんだから、派手にぶっ放しなさいね!」 


スライム「あなたたちは強そうだからきっとだいじょうぶだよっ!」 


ウルフ「がんばってねっ!」 


女賢者「よろしくお願いしますっ...」 


魔王子「...お前たちには、俺の魔王のとしての姿を見てもらいたい」 


魔王子「必ず...生き残れ」 


魔剣士「へーへー、言われなくてもわかってるよォ」 


魔闘士「この俺たちが、あんな雑魚共に負けると思っているのか?」 


魔王子「...思っていないさ」 


どこか、優しげな言葉とともに彼は颯爽とした。 

この場に残った魔物の男2人、その目の先には万の武装集団。 


魔闘士「さっさと全滅させて、キャプテンたちに合流するぞ」 


魔剣士「あァ、わかってらァ』 


身体が、魔剣と一体化する。 

強烈な爆発音とともに魔王城周辺が戦場と化す。 

闘いの火蓋が切って落とされた。 


~~~~ 
707: :2018/12/16(日) 20:19:58.99 ID:
~~~~ 


隊長「...始まったか」 


耳をすませば、遠くから爆発音が聞こえる。 

しかしそれでも彼らの足は止まらなかった。 

魔王の城だけあって、やたらと広い城内に走る足音が響く。 


魔王子「俺についてこい...このまま5階の大広間に向かう」 


魔王子「そこに、魔王がいるはずだ」 


女騎士「いよいよだな...」 


女勇者「どの場面で、四帝が現れるかだね」 


女賢者「そうですね...できれば個別に現れてもらいたいものですが...」 


そう言っている間に、階段が現れる。 

その第一段に足をかけたその時であった。 

違和感に気づいたのは、女賢者と魔女だけであった。 


魔女「──まってっ!」 


女賢者「──階段の一部が魔法の欠片ですっ!」 


魔王子、女勇者、女騎士、ウルフは既に足を階段に乗せていた。 

隊長は魔女に引っ張られ足を階段に載せていない、スライムは最後尾なので無関係。 

魔王子ともあろう者が気づけない程に、巧妙に細工されていた。 


魔王子「──転地魔法かッ!?」シュンッ 


最後に聞こえたのは、ハメられた男の怒声であった。 

気づけば、4人はどこかへと連れて行かれた。 

早くも分断されてしまっていた。 


隊長「──GODDAMNッッ!!」 


魔女「ウルフっ!? 女騎士っ!?」 


女賢者「...抜かりました、まさかこんな初歩的な罠が」 


スライム「みんなどこにっ!?」 


女賢者「まってください...少し魔力を"感知"してみます」 


大賢者の元で長年修行した彼女ならできる行為であった。 

少し離れた程度ならその人の魔力を感じ取ることができる。 

彼女の言う感知とはソナーのような行為であった、しかし弊害も存在していた。 
708: :2018/12/16(日) 20:21:17.41 ID:
女賢者「────っっ!?」ビクッ 


この魔王城、おそらく魔王や四帝が君臨している。 

それらの強大な魔力をモロに感じ取ってしまう。 

大きな大きなプレッシャーが襲いかかる中、微かに感じるモノがあった。 


女賢者「──いました、この魔王城の中にいます」 


隊長「本当かッ!?」 


女賢者「えぇ...間違いないです...」 


魔女「よかった...どこか遠くに飛ばされたかと思ったわよ」 


スライム「...ウルフちゃん」 


女賢者「...早く合流しましょう」 


やけに催促を促す、この状況なら戦力は1つにまとめたほうがいい。 

だがそれだけではなかった、先程感知をしたからこそ彼女は焦っていた。 


???「...侵入者ね?」 


どこか、ねっとりとした瑞々しい声で問いかけられた。 

相手は1人、その佇まいからして雑兵ではない。 


隊長「──誰だ?」スチャ 


容赦なく、アサルトライフルを彼女に向けた。 

それに続き魔女も身体に稲妻が走っていた。 

2人とも、すでに臨戦状態であった。 


女賢者「遅かった...やっぱりこちらに向かってきてましたね」 


女賢者「...この魔王城、極端に魔力の分布が少ないです」 


女賢者「恐らく、この城には魔王と四帝を含めた数人しかいません」 


魔女「...ってことは、この人は」 


???「あらぁ...感知能力持ちだったのね...」 


水帝「その予想通り...私は四帝の1人、水帝よ」 


水帝「悪いけど...この城に入ったからには死んでもらうわね」 


魔女「...そうはいかないわよっ!」 
709: :2018/12/16(日) 20:23:48.15 ID:
水帝「──"水魔法"」 


──バシャッ!! 

先に仕掛けてきたのは、水帝と名乗る魔物の女。 

その早すぎる詠唱に防御策は愚か、驚嘆の声すら出せなかった。 

4人が激流に飲み込まれたかと思われた。 


水帝「...あらぁ?」 


隊長「...これはッ!?」 


辺り一面が形状を保った水に覆われている。 

はじめは野良魔物だった彼女が彼らを守っていた。 

いつのまにか体積を広げたスライムが、水の身体で激流を飲み込んでいた。 


スライム「──ここはまかせてっ!」 


隊長「──スライムッ!?」 


スライム「はやくっ! ウルフちゃんを探してあげてっ!」 


女賢者「──スライムちゃんが時間を稼いでくれますっ!」 


女賢者「今のうちにウルフちゃんたちの安否を確認しにいきましょうっ!」 


直感的に、スライムが水帝を相手に時間を稼げると悟った。 

ならばウルフを見つけ、魔王子たちと合流してからこの場に戻り水帝を倒す。 

水帝に追われながら人を探すなど困難、それが最善の答えであった。 


隊長「──必ず、生きて待ってろよ?」 


魔女「──あんたを死なせたら、帽子に合わせる顔がないんだからね」 


スライム「...うんっ!」 


3人が階段の一段目を飛ばし2階へ駆け抜けようとした。 

しかし、そこまで水帝という者は甘くはなかった。 


水帝「...逃さないわよ、"水魔法"」 


────バシャバシャッ...! 

再び魔法によって、激流が現れた。 

それを再度、スライム自らの身体で受け止めようとした。 


スライム「──えっ?」 


まるで鞭のようなしなりを見せてスライムを避けた。 

予想した軌道とは遥かに違う、不覚にも階段へと通してしまった。 
710: :2018/12/16(日) 20:25:32.66 ID:
女賢者「──っ!」 


──どんっ! 

階段を登っている2人の背中を強く押した。 

それが彼女にできる、唯一の抵抗であり手段でもあった。 


隊長「──女賢者ッ!?」 


女賢者「4階ですっ! 4階あたりにいるはずですっ!」 


鞭のような激流は、女賢者しか捉えることができなかった。 

水でありながら彼女の足首を掴み、向こうへと引っ張られる。 

その力に抵抗できず、隊長と魔女の視界から女賢者が消え去った。 


女賢者「──うわっ!」 


スライム「あぶないっ!」 


──バシャンッ...! 

水に引っ張られ、もとの階層に戻された。 

そのまま地面へと叩きつけられそうだったのをスライムが受け止めた。 


女賢者「...ありがとうございます、スライムちゃん」 


スライム「ごめんなさい...魔法をとおしちゃって...」 


女賢者「いいんです、肝心の2人を逃がすことができたのですから」 


スライム「...うん」 


女賢者「それよりも...」 


水帝「...まさか、スライム族がこの激戦区となる場所にいるとはね」 


スライム「...ふんだ」 


女賢者「スライム族を舐めてもらっては困りますよ」 


水帝「舐めているつもりはないわぁ...その恐ろしさは熟知してるつもりよ」 


水帝「どこにでも生息しているスライム...単純でいて驚異的な特性を持っている」 


水帝「...けど、この私も舐めてもらっては困るのよ?」 


女賢者「...それはこちらも承知です」 


氷のような、冷たい威圧感が辺りを包み込んだ。 

じわりじわりと、その恐怖が足元に迫っていた。 


~~~~ 
711: :2018/12/16(日) 20:26:37.60 ID:
~~~~ 


魔王子「...ここは?」 


気づけば、4人が見知らぬ部屋にいた。 

いとも簡単に原始的な罠に引っかかったのを覚えている。 

やけに熱いこの部屋、仕掛けたのが誰なのかすぐにわかった。 


炎帝「...やぁ」 


女勇者「炎帝...っ!」 


女騎士「...先程はよくもやってくれたな」 


ウルフ「うぅ...あつい」 


魔王子「お前にしては、らしくない事をしたな」 


炎帝「...よく知らないが、今日は魔王様にとって大事な日らしいんだ」 


炎帝「本当なら10人全員焼き殺す予定だったんだけど...頓挫してしまったよ」 


炎帝「まぁ、罠のかかり具合を確認しにいった水帝が残りを殺してくれると思うよ」 


魔王子「...小癪な」 


炎帝「...じゃあやるとするかな」 


女騎士「...っ!」ピクッ 


女騎士は直感的に理解する、炎帝が今から繰り出すのは本気の魔法。 

先程、本気を出していないというのに女勇者を圧倒させた者に立ち向かえるだろうか。 

その思考を見越されてたかのように彼は彼女に囁いた。 


魔王子「...俺を置いてキャプテンたちと合流しろ」 


女騎士「...ふざけるな、置いていけるか」 


魔王子「向こうは本気だ...だが、俺も本気でヤる」 


魔王子「...本気でヤれば、俺の闇があたりを容赦なく覆うだろう」 


要するに、彼女たちに闇が降りかからないように。 

退避を命じていたのであった、彼なりの不器用な優しさ。 


女騎士「...倒せるんだな?」 


魔王子「俺を誰だと思っている...」 


女騎士「...わかった、飲もう」
712: :2018/12/16(日) 20:27:44.15 ID:
魔王子「いいか、俺が隙を作ったらこの部屋から脱出し、階段をみつけ1階へと向かえ」 


魔王子「そして水帝と闘っているであろうキャプテンと合流し、各個撃破しろ」 


魔王子「それが最善だ」 


女騎士「あぁ、了解した」 


女騎士「わかったか? 女勇者、そしてウルフ...だっけか?」 


ウルフ「うん」 


女勇者「...わかったよ」 


女騎士「じゃあ頼んだぞ、魔王子」 


魔王子「あぁ」 


炎帝「...内緒話はもういいかな?」 


律儀に待ってくれていた。 

それと同時に部屋の温度が上がったようなきがした。 

彼が、魔法を唱えようとしたその瞬間を早くも見逃さなかった。 


魔王子「────そこだ■■■■」 


──■■■ッッ! 

ユニコーンの魔剣が抜刀された。 

光の剣が闇の剣風に包まれ、それが発射された。 


炎帝「──"転移魔法"」シュンッ 


思わず、詠唱を切り替え素早く別のモノを唱えた。 

回避せざる負えない、それほどまでに高威力の闇だと瞬時に理解していた。 

その顔は、やや驚いたような顔つきであった。 


女騎士「──今だっ!」ダッ 


ウルフ「わんっ!」ダッ 


──ピタッ...! 

その隙を見逃さずに、部屋の出口へと走り出した。 

しかし強烈な違和感が女騎士の足を止めてしまった。 

足音が2つしかない、3人目がついてきていない。 


女騎士「...女勇者?」 


女勇者「ごめん、先にいって」 


女勇者「ここで行ったら、とても嫌な予感がするんだ」 


魔王子「──足を止めるなッ! 行けッ!」 
713: :2018/12/16(日) 20:28:59.49 ID:
炎帝「逃がす訳にはいかないよ、"炎魔法"」 


──ゴオオォォォォォッッッ!! 

強烈な炎がこちらに迫ってきている。 

人の足ではもう逃れることができない。 


女騎士「しまっ────」 


──グイッ! 

自分の首元を、強く捕まれ引っ張られる感覚がした。 

そして気づけば、炎は女騎士から遠ざかってきた。 

違う、女騎士が炎から遠ざかっていた。 


ウルフ「──だいじょうぶっ!?」 


獣特有の身のこなしで、獣特有の迅速さで女騎士を救助した。 

そのまま部屋の脱出に成功する、魔王子の視界から女騎士とウルフが消え去った。 


魔王子「...何故残った?」 


女勇者「ごめんね、でもとても心配だったから」 


魔王子「危うく、燃やされるところだったぞ...」 


女勇者「...軽率だったね」 


魔王子「...留まったからには、光に期待しているぞ」 


炎帝「しまったなぁ...まさか見逃してしまうとは...」 


炎帝「...ハハハ」 


魔王子「...何がおかしい」 


炎帝「いや、どうやら本気を出せるみたいだね、さっきと違って...」 


炎帝「本気の魔王子と本気の女勇者と闘うのか...私は...」 


炎帝「...燃えてきたよ」 


ただならぬプレッシャーが部屋を覆う。 

魔王軍最強と呼ばれた男が唯一本気を出せる特殊なこの部屋。 

魔王子の頬に一筋の冷や汗が垂れる。 


~~~~ 
714: :2018/12/16(日) 20:30:27.51 ID:
~~~~ 


女騎士「...さっきは助かった、ありがとう」 


ウルフ「ぶじでよかったねっ!」 


話しながら、急いで階段を探す。 

無駄に広い魔王城、なかなか厳しい探索かと思われた。 


ウルフ「...こっちからご主人の匂いがする!」 


犬特有の嗅覚に助けられていた。 

あっという間に下へと向かう階段を発見する。 


女騎士「...凄いな」 


ウルフ「えっへん!」 


女騎士「キャプテンの仲間なだけはあるな」スッ 


ウルフ「...えへへ」 


気づけば、頭をなでていた。 

彼女もまた犬を飼っていた経験があった。 

どこを撫でれば喜ぶか完全に把握している。 


女騎士「...急ごう」 


ウルフ「うんっ!」 


階段を下り、下の階層へと到着する。 

この階段は1つ下にしか通じていない。 

新たな階段を探すために、ウルフが鼻を聞かせた時だった。 


ウルフ「...だれ?」 


女騎士「...敵か」スチャ 


どう考えても敵であった、背負っていたショットガンを構えた。 

その構え方は射撃をするためのモノではない、トリガーを指にかけるまでは同じ。 

だが持ち方が違う、彼女はグリップとストックの付け根を握っていた、まるで槍のように。 
715: :2018/12/16(日) 20:33:08.95 ID:
???「...侵入者」 


か細い声、とても静かでいて威圧感のある声が広間に響いた。 

ウルフの髪の毛は逆立ち、女騎士は鳥肌を立てていた。 


地帝「この地帝が排除します」 


女騎士「地帝か...まぁ、そうだろうな」 


ウルフ「...がるる」 


地帝「..."属性同化"、"地"」 


そうつぶやくと、彼女の身体が大地に包まれる。 

自身の身体を大地と同化させる、恐らくかなりの防御を誇っているだろう。 

彼女の名は地帝、見た目はただの女児しかしそれでいて恐ろしいほどの実力を持っている。 


女騎士(...階段を探している余裕はないな) 


女騎士「聞いたことのない魔法だ...それに素直に通してくれなさそうだな」 


地帝「...」 


女騎士「...力を貸してくれ、キャプテン、魔王子」 


女騎士「そして...ウルフもな」 


ウルフ「...もちろんっ!」 


四帝と直に対面してわかるその実力差、ただの人間がどこまでできるのか。 

彼女の支えは彼の武器、そして彼の刀身、そして横にいる可愛らしい獣であった。 


~~~~ 
716: :2018/12/16(日) 20:34:04.40 ID:
今日はここまでにします、近日また投稿します。 
下記はTwitterIDです、投稿をお知らせする手動BOTです。 

@fqorsbym
717: :2018/12/17(月) 22:00:48.13 ID:
~~~~ 


隊長「...」 


──...... 

物音を立てずに歩いている。 

先程まで、急いで階段を駆け上っていたというのに。 


隊長「...敵影なし」 


魔女「なら、急ぐわよ」 


いかに速く魔王子たちと合流できるかが鍵。 

それでいて不意打ちを受けないようにクリアリングを欠かさない。 

この焦燥感に駆られる状況でもお互いに冷静でいられる、魔王子や女勇者とは違った強さが目立つ。 


隊長「...スライムは大丈夫だろうか」 


どんなに頼もしく思えても、彼女の第一印象が不安を煽る。 

あののろまでゆるそうなスライムが水帝を抑えている、心配で仕方なかった。 


魔女「...大丈夫よ、スライムが一番成長したんだから」 


魔女「女賢者もいる...耐えてくれるわよ」 


隊長「...あぁ、そうだな」 


魔女「それにしても、上に続く階段はどこかしら...」 


隊長「...仕方ない、手分けをしよう」 


隊長「危険かもしれんが...女賢者が言うには、魔王城内にはあまり敵がいないそうだ」 


魔女「...そうね、その方が早く見つけられるわね」 


隊長「いいか? 敵や階段を見つけたら音をたてろ」 


魔女「わかった、見つけたら雷でも落とすわね」 


そう言うと魔女はどこかに行ってしまった。 

雑兵がいればこの階層は激しい戦場と化していただろう、それほどに広い。 

魔女が別方角へ行ったのを確認して、自らの足を進める。 


隊長「...Clear」スチャ 


決して油断せずに、前に進む。 

いつ敵が現れてもいいように指にトリガーをかける。 

緊張状態で探索しながら、数分が経過した時だった。 
718: :2018/12/17(月) 22:05:09.13 ID:
隊長「...部屋か?」 


前方に、小部屋と思しき扉を発見する。 

今は階段を見つけるのが最優先だ、通り過ぎようとしたはずだった。 


隊長「...」 


──ピタッ...! 

彼に襲いかかったのは好奇心であった。 

この部屋の中が気になる、そんな具体的なモノではない。 

誰もが感じることがある無意識の好奇心、ただ、この扉を開けようと思ってしまっていた。 


隊長「...」 


──ガチャ... 

気づけば、アサルトライフルを背負いハンドガンに持ち替えていた。 

そうでなければ、扉を開けることなど困難だろう。 


隊長「...ここは」 


小部屋に入ると、あたりは植物で彩られていた。 

鼻孔に感じるのは爽やかな匂いや、少しばかり刺激のあるモノ。 

まるでフラワーショップに入店したかのように思えた。 


隊長(手がかりなしか...) 


無意識の好奇心の中には淡い期待が混じっていた。 

あわよくばこの小部屋に階段があれば。 

あわよくばこの小部屋に地図が記されていれば、しかし結果は残らなかった。 


隊長(...階段探しに戻るか) 


???「...うぅーん」 


隊長「──ッ!」ピクッ 


部屋から出ようとした瞬間、何者かの声が聞こえた。 

敵か、それともそうではない誰かなのだろうか。 

少なくとも味方ではない、ハンドガンを構え再び部屋を探索し始める。 


隊長(...どこだ) 


この小部屋、花や植物によって視界を確保するのが難しい。 

まるでジャングルの中を歩いているような歩行の仕方をしている。 

垂れ下がった蔓や花を、暖簾に腕押しの如くどかしている。 


隊長「...」 


先を急いでいるはずなのに、なぜ声の主を探しているのか。 

無意識というものに理を求めてはいけない。 
719: :2018/12/17(月) 22:08:49.14 ID:
隊長(...マフラーが) 


──ガサッ! グイッ... 

深い緑のマフラーが、隊長の横にある花に引っかかってしまった。 

それを外そうとした瞬間、花を動かした際に死角であった部分が露わになる、そこにあったのはベッド。 


隊長「──ッ!」サッ 


音を立てずに、なおかつ迅速に、そして確実に。 

彼の完璧と言える接近、そしてハンドガンの照準がベッドに横たわっている者を捉えていた。 


隊長(...女児か?) 


髪色は白、女勇者と同じだがツヤがない、老化によって変色した様だ。 

見た目は20代にも満たない子どものような体型をしているというのに。 

そしてその子の付近には大量の本が乱雑に置かれていた、まるで見舞い人が持ってきたような。 


隊長「...」 


???「...誰ですか?」 


ガラガラの声だった、どうやら気づいていたらしい。 

それでいて敵意を感じられない、眉間を狙っていた照準は下げていた。 

ベッドに横になりながら、瞳を開かずに女の子は話しかけてきていた。 


隊長(...盲目か) 


返答を行わず、冷静に考察をしていた。 

へたに返事をして刺激を与えるよりかは堅実であった。 


???「...誰もいないんですか?」 


隊長「...」 


このまま去ればやり過ごせそうだ。 

不必要な戦闘は避けるべき、階段探しに戻ろうとした。 

その時だった、女児が伸びた前髪をうざったらしくかき分けた。 


隊長「────ッ!?」ピクッ 


一瞬だけ、あらわになったその顔。 

髪の色も声も変わり果てて気がつかなかった。 

その懐かしくもあり見覚えのある顔。 


隊長「────"少女"、なのか?」 


もし、他人の空似だったら。 

もし、この投げかけでこの子が臨戦状態になったら。 

あらゆる危険性があったであろう質問、冷静さが彼の特徴だというのに。 
720: :2018/12/17(月) 22:10:43.93 ID:
???「──きゃぷてんさん?」 


そして、向こうも気がついていなかった。 

視力は失われている、頼れるのは聴力だけだというのに。 

隊長は意地悪にもなにも喋ってくれなかった、気づかなくて当然だった。 


隊長「...間違いないんだな?」 


???「...きゃぷてんさん、なんですね?」 


気づけば勝手に歩み寄っていた。 

それと同時に少女の見えない目が開かれていた。 

瞳には光が失せているのに、隊長の顔を見ようと精一杯に目を見開く。 


少女「────ぎゃぶでんざんっっ!!」ダキッ 


隊長「少女...生きててよかった...」ギュッ 


熱い抱擁は先程魔女と行った、だがこの意味合いは家族愛に近いモノであった。 

少女を抱き寄せて、胸を貸し、頭を撫でている、彼女からボロボロと流れる熱い涙を受け止めていた。 


少女「もう...だめかと思いました...ひぐっ」 


少女「お父さんも...お母さんも...死んじゃいました...」 


隊長「...」 


少女「私も...目が見えなくなって...どこかに連れてこられて...ぐすっ」 


少女「よくわからないこと...たくさんされて...」 


隊長「...辛かったな...一緒にいてやれればよかったな」 


少女「う、ひっぐ...」 


隊長「...ここは危険だ、安全なところに行こう」 


少女「は、はいぃぃ...」 


隊長(...拉致されて実験体にされていたのか) 


隊長(あのクソ野郎と同じことをされたのか...腸煮えくり返る...) 
721: :2018/12/17(月) 22:12:26.23 ID:
隊長(...それよりも、どう行動するか) 


異様に軽い少女を片手で支えながら抱きかかえ、もう片手でハンドガンを握りしめる。 

本当なら一度退避をして少女を安全な場所に隔離しておきたい。 

だが今は仲間であるスライムと女賢者が水帝と接触している。 


隊長「...」 


いち早く階段を見つけ、上の階層に居ると思われる魔王子たちと合流。 

そしてそのまま階段を下り、魔王子と共に水帝戦の加勢をしなければならない。 

難しいと思われる問に彼は早くも決断した、やるべきことは変わらない。 


隊長「...少女、ここは魔王城なんだ」 


少女「...そ、そうなんですか?」 


隊長「あぁ、いま俺の仲間が闘っている」 


隊長「だが...分断されてしまった、いち早く合流を行いたいんだ」 


少女「...」 


隊長「激しい戦闘になる...恐い思いをさせてしまうだろう」 


隊長「でも、急がないと仲間が殺されてしまうかもしれん」 


隊長「...本当なら安全な場所に少女を預けておきたいんだが」 


隊長「もう少しだけ俺と一緒にいてくれ...絶対に守る」 


少女「...だいじょうぶです、むしろきゃぷてんさんと一緒にいたいです」 


隊長「...そうか、ありがとう」 


了承を得た、早速行動に移る。 

歩行に邪魔な花や蔓をどかしながら小部屋を脱出した。 

少女を抱え込みながら、再び階段探しを行う。 


隊長「...階段はどこだろうか」 


少女「...訛り、なくなってますね」 


隊長「あぁ、そうだな...自分でもびっくりだ」 


少女「それにこれ...私が編んだやつですよね」スッ 


隊長「そうだ、大切につけているぞ」 
722: :2018/12/17(月) 22:13:53.84 ID:
少女「...えへへ、辛いことだらけでしたけど、今はちょっぴり幸せです」 


隊長「...そうか」 


──バチバチバチバチッッ!! 

どこからか、稲妻の音が響いた。 

これは何かを発見した合図、彼女と約束したモノだ。 


隊長「──見つけたかッ!」ダッ 


少女「うわっ!」 


階段かもしれない、敵かもしれない。 

どちらにしても音のなった方に全力疾走で向かう。 

少し乱暴な動きで少女をビックリさせてしまったが仕方がない。 


魔女「──キャプテン! 階段あったわよ!」 


少女(────っ!?)ピクッ 


隊長「でかしたぞッ!」 


魔女「早速登る...って、その子は?」 


隊長「あぁ、麓の村の──」 


隊長が、少女のことについて語る。 

しかしその間にも彼女の精神は歪み始めていた。 

今、彼女の耳にはなにも聞こえていない。 


少女(この声...知ってる...) 


少女("魔女"だ...一度だけ麓に降りてきたときに聞いた声...) 


少女(どうして...) 


────ぐにゃぁ... 

そのような擬音とともに、頭が揺さぶられているような感覚。 

耳に残った、父たちを一時的に奪った恨みの相手の声。 

人は憎い者の声を忘れることはできない。 


少女(なんで...きゃぷてんさんと...) 


少女(...きゃぷてんさんも奪うつもりなの?) 


徐々に思考がズレていく。 

それも当然、あの隊長でさえ恨みの相手の前では冷静になれない。 

目を失った彼女が、このような状態の少女が果たしてまともな精神を保てるだろうか。 
723: :2018/12/17(月) 22:14:59.22 ID:
魔女「──大変だったのね、この子...」 


隊長「あぁ...」 


少女「..."魔女"、ですよね?」 


魔女「え...?」 


隊長「...少女?」 


少女「私のお父さんを連れ去った人ですよね?」 


隊長「...少女、聞こえていなかったのか?」 


魔女「違うわよ...?」 


どうやら、少女が思考に囚われている間に弁解をしていたようだ。 

凍らせた張本人は氷竜という奴で、魔女は無実だ。 

だがそのようなことは少女の耳には入っていなかった。 


少女「あなたさえいなければ...」 


少女「あなたさえいなければ...」 


少女「あなたさえ...」 


魔女「...様子がおかしいわ」 


隊長「...実験体にされていたらしい、身体や精神が疲労しているはずだ」 


魔女「...魔法をかけるわね」 


魔女が治癒魔法をかけようとした時。 

抱えている隊長が違和感を覚えた。 

少女の身体から、まるでなにかが生えたような感覚。 


隊長「...少女?」 


少女「あなたさえ...」 
724: :2018/12/17(月) 22:15:37.59 ID:
「あなたさえいなければ、お父さんたちは死ななかった...」 









725: :2018/12/17(月) 22:16:53.78 ID:
────メキメキメキメキメキッッ!! 

少女の身体の内から、大量の触手が皮膚を破り現れる。 

それはまるで植物の蔓のような形であった、蔓は隊長の身体にまとわりつく。 


隊長「──ッッ!?」 


魔女「な、なにが起きてるのっ!?」 


少女「あなたさえいなければ、お母さんは死ななかったっっ!!!」 


完全にズレた思考はすべての責任を魔女にぶつけている。 

父は偵察者に洗脳されていた、魔女のせいではない。 

母は洗脳された父に巻き添えにされた、魔女のせいではない。 


少女「あなたはきゃぷてんさんまで奪おうとしているっっ!!」 


少女「...許せない許せない許せない許せない許せない」 


魔女「──キャプテンっ!」 


隊長「これは...ッッ!?」 


身体についた蔓はそれほど強くまとわりついていない。 

力づくで剥がそうとすれば簡単にそうできる。 

しかし蔓は無限に生え何度もまとわりつく、隊長は拘束から脱出ができない。 


魔女「──ごめんっ! "雷魔法"っ!」 


──バチバチバチバチッッ!! 

的確な雷が、拘束しているすべての蔓を一掃した。 

隊長は拘束からようやく脱出ができた、そして魔女の元へと身を寄せた。 


隊長「──なにが起きているんだッッ!?」 


魔女「...もしかしてこれってっ!?」 


植物まみれの少女、この光景どこがで。 

あの時、魔女の村でこれに近い現象が起きている。 

そしてその仮説を遮る怒号が響く、彼女は彼に近寄りすぎた、その光景を見てしまった。 
726: :2018/12/17(月) 22:17:31.41 ID:
「奪うなぁああああああああああああああああああああああっっ!!」 









727: :2018/12/17(月) 22:19:39.53 ID:
隊長「...」 


魔女「キャプテン、しっかりして...」 


隊長「...あぁ、わかっている」 


彼もまた、なんとなく察してしまった。 

もしあの時密林で魔女に支えられていなければ。 

今頃きっと、精神的ショックで呆然としていただろう。 


魔女「これって、暗躍者とかが魔力薬を飲んだ時に似てるわね...?」 


隊長「あぁ...そうだな」 


冷静に、呆然としようとする自分を殺しながら考察する。 

暗躍者たちが飲んだ、側近とやらの魔力薬を飲んだ時の症状と似ている。 

ただ、そんなことよりもはっきりした事実が彼の口から発せられる。 


隊長「..."敵"になってしまったのか...少女」 


魔女「...そうね」 


隊長「俺はまたこの手で、仲間を...命の恩人を殺すのか」 


魔女「...そうね、そうしなければ仲間が死ぬわ」 


心を鬼にして彼女は返答をしていた。 

隊長の黒い過去、それを認識しているからこその返答。 

ここで少女を殺し、魔王子と合流しなければスライムたちは死ぬ。 


隊長「...」スチャ 


彼ができることはただ1つであり、2つの意味が込められている。 

少女を殺すしかない、1つ目の意味は仲間を助けるため。 

もう1つの意味は、早く楽にしてやることだった。 


少女「──きゃぷてんさん?」 


隊長「...」 


──カチッ! 

今までで生きてきた中で、一番重いトリガー。 

向けられるのはこの世界で一番最初に出会った者。 

あの時誰にも気づかれていなければ、野垂れ死んでいたかもしれない。 


隊長「────ッ」 


──ババババババババッッ!! 

そんな命の恩人に向けて発射された弾幕。 

光も込められていない、殺すことしか能のない攻撃が放たれた。 
728: :2018/12/17(月) 22:21:35.45 ID:
少女「────っっっっ!?」 


しかしその弾幕は防がれてしまった。 

まるで少女とは別の意識を持ったような。 

そのような動きで、蔓が身を挺して銃弾から少女を守った。 


少女「...どうして攻撃したの?」 


隊長「頼む、わかってくれ...」 


少女「ひどい...きゃぷてんさん...」 


魔女「...この場にひどい人なんて誰もいないわよ」 


魔女「こうするしかないの...っ!」 


少女「...そっか、きっときゃぷてんさんはこの人に洗脳されたんだ」 


少女「だから、私に攻撃したんだ...っ!」 


少女「う、うふふふふ...」 


少女「今度は私が護ってあげるからね...きゃぷてんさん...」 


隊長「...ダメだ、正気じゃない」 


魔女「あの子があの子であるうちに...」 


隊長「I know what I'm doing...」 


いかに強靭な精神を支えられているといっても。 

いかに強すぎる正義をかざしているといっても、トリガーは重いままであった。 

先程のように、強い踏ん切りがなければ少女に向けての射撃は難しい。 


少女「きゃぷてんさん...かわいそう...」 


少女「本当は私を攻撃したくないんですよね...?」 


隊長「...あぁ、そうだ」 


少女「...この人に洗脳されて、辛いですよね?」 


少女「今、助けてあげますから...」 


隊長「...ッ!?」ピクッ 


はらり、はらり、そう音をたてて少女の身体から落ちる。 

白い花びらのようなものが、落ちるたびにその量は増していく。 

質量保存の法則がこの世界にもあるというなら、それを完全に無視をしている。 
729: :2018/12/17(月) 22:25:51.26 ID:
少女「...まっててくださいね」 


間もなく少女の身体は完全に花びらに包まれ、彼女は次のステージへと変化する。 

隊長たちは見逃したわけではない、あまりの急速な出来事に対応できていないだけ。 


魔女「──まずいわよっ!」 


隊長「────ッッ!!」 


──ババババババババババッッッ!! 

重すぎるトリガーを強引に引いた。 

大量の花びらに向かって放たれたその攻撃は、今度こそ直撃した。 


???「...」 


──ガキィンッ! カキィンッ! 

まるで鉄に弾かれたような、そんな音が響いた。 

直撃したはずだというのになぜこのような音が聞こえたのか。 


隊長「な...ッ!?」 


魔女「...弾かれたっ!?」 


銃弾は弾かれた、いまのいままでこのような出来事に遭遇してこなかった。 

何に弾かれたのか、花びらはその時を待っていたかの如く急激に風化する。 

その全貌が明らかになる、そこにあったのは1つの物体。 


魔女「これは...蕾...?」 


蕾「...」 


それ自体よりも、別のことに疑問が浮かび上がっていた。 

絶対にあると思っていた、あるものがない。 

それは彼女にしか気づくことができない。 


魔女「ま...魔力を一切感じないわ...」 


隊長「...なに?」 


魔女「あの蕾から魔力を感じないのよっ...!?」 


ただ単純にあそこまでの硬度を誇っていたというわけだった。 

あの蕾は魔力によって強化されていない、つまりはどういうことか。 


隊長「銃も..."光"も通用しないのか」 


魔女「えぇ...そうなるわ」 


ありとあらゆるものを無力化させる、だがそれは魔力に限った話。 

光を纏った銃弾は過去に魔闘士等の強靭な身体を貫いた。 

だがそれは魔力によって強化された身体だからこそ貫けたのであった。 

730: :2018/12/17(月) 22:28:00.80 ID:
隊長「銃は愚か、光まで使い物にならないのか...ッ!?」 


魔女「──まって、動くみたいよっ!」 


隊長の攻撃手段はすべて、通用しない。 

そんなことに嘆いている間に、ついに少女が動く。 

正確には蕾から生えている触手じみた蔓がこちらを見定めていた。 


魔女「...どうするの!?」 


隊長「待ってくれ...少し、時間をくれ...」 


隊長に課せられたタスクは3つ。 

魔王子と合流すること、合流後にスライムを援護すること。 

そして敵になってしまった少女を殺すこと、しかし最後の3つ目が焦燥感を煽る。 


隊長(...俺の武器が通用しない今、この戦闘は確実に時間がかかる) 


隊長(1秒でも早く合流をしなければならないというのに...ッ!) 


隊長(だが、ここから離脱するわけにもいかない...少女を放っておけるものか...ッ!) 


隊長(──せめて俺が...楽にしてやるぞ...) 


魔女「────来るわっっ!!」 


長考に気を取られていると、少女の蕾は動き始める。 

蕾は不動、周りの蔓が不規則な動きでこちらを狙う。 

いくつも伸びている蔓があらゆる方向へ攻撃を始める。 


隊長「──屈めッッ!!」 


魔女「────っっ!」スッ 


極限にまで速度を高めた蔓の一突きが地面に突き刺さった。 

魔女は魔界の空気によって身体が強化されている。 

その際に上昇した動体視力がなければ屈むことなどできなかったであろう。 


魔女「キャプテンっ! 後ろっっ!」 


隊長「──ッッ!」ダッ 


今度は、キャプテンに巻き付こうとした蔓が迫っていた。 

横に緊急的な飛び込みを行うことで回避に成功する。 

しかし、一向に状況を打破できない。 
731: :2018/12/17(月) 22:29:46.51 ID:
隊長「クソッ! どうすればッ!」 


魔女「落ち着いてっ! あなたならできるわっ!」 


蕾「...」 


徐々に消耗され始めた2人に対して、蕾は無言で仕掛けている。 

その対比があまりにも恐ろしい光景を生み出している。 

蔓はさらに増殖を始めていた。 


魔女「..."雷魔法"っ!」 


──バチバチバチッッッ! 

サッカーボール程度の大きさの雷球が繰り広げられる。 

1回の詠唱でこれほどまでの弾幕を張ることのできる者は少ないだろう。 


魔女「...やっぱり、効果なしね」 


魔法は蕾に当たりはしたが、今ひとつ。 

それも当然、隊長の銃ですら傷をつけることは不可能。 

初めからわかりきっていたような落胆の声を漏らしてしまう。 


隊長「...ッ!」スチャ 


──ババッ! ババッ! バババッ! 

蕾に効果がないなら蔓に照準をあわせる。 

見事な指切りを活用し、精密射撃を行う。 

命中した蔓は地面に横たわった、しかし続々と蔓は増殖を続ける。 


隊長「効いたか、だが...」 


魔女「だめ、蔓を潰したところでまた生えてくるみたいね...」 


隊長「やはり、あの蕾を狙わなければならないか」 


魔女「その武器もだめ、私の魔法もだめ...どうすれば...」 


隊長「...」 


状況を分析しながらも、蔓による攻撃を回避し続ける。 

攻撃の動きは単調で避けやすい、だが時間が立てば当然消耗する。 

ならばこうするしかない。 
732: :2018/12/17(月) 22:31:34.19 ID:
隊長「...俺が囮になる」 


魔女「え...?」 


隊長「蕾自体は動けない、攻撃手段は蔓だけのようだ」 


隊長「そして蔓は潰すことができる...ならば時間稼ぎはできるはずだ」 


隊長「...俺が蔓を相手にしている間に魔女は魔王子たちを連れてきてくれ」 


彼の出した決断は他人任せであった、今ここにいる者たちで最も破壊力を保持している者。 

それは魔王子であることは間違いない、彼の闇ならこの蕾を破壊することなど容易。 

彼の諦めと切り替えの速さ、これがあったからこそ危険な今までを生き残れてきた。 


魔女「...いいのね?」 


隊長「現状を打破できない今、こうするしかない」 


隊長「...悔しいが、俺たちには無理なんだ」 


魔女「...わかったわ、合図をお願い」 


もし時間に追われていなければもっと粘れたかもしれない。 

悔しい、それは2つ意味が込められた言葉。 

1つ目は少女が敵になってしまったこと、そしてもう1つは。 


隊長(せめて...せめて"女"の時のように、この手で終わらせたかった...) 


隊長「────いけッ!」 


魔女「──っ!」ダッ 


──バババッ! ババッ! 

彼女は階段に向けて疾走する。 

その一方で彼は蔓を正確に射撃する、このままなら分断が可能だろう。 


隊長(──Reload...) 


──カチャカチャッ! スチャッ! 

──ババッッ! バババッッ!! 

超効率的な動きでリロード、そして再び蔓の猛攻を防ぐ。 

広く展開しようとしている蔓を次々に撃ち落としていく。 

魔女は階段の一段目を踏もうとしたその時だった。 
733: :2018/12/17(月) 22:34:36.31 ID:
隊長(...待て)ピタッ 


思考が巡る、まるで時が止まったかのように。 

今になってある説が彼を刺激している。 

焦燥感に駆られてしまい、重要なことを見落としていた。 


隊長(あの時...少女はどうやって攻撃を防いだ...?) 


隊長(今は視力を失っている...どうやって無理なはずだ) 


隊長(今だって、蕾に包まれてこちらを確認することはできないはずだ) 


隊長(まるで別の意識が動かしているような...いや、それにしては攻撃が単調で広範囲すぎる) 


隊長「...まさかッ!?」 


隊長(ただ、増殖しているだけなのかッ!? だとしたら蔓だけじゃない...ッ!?) 


いま少女が行っているのは、蔓でこちらを攻撃していること。 

だが、もしこれが攻撃ではないとしたら。 

意識無意識それ以前の話、植物としての本能、もしこの蔓がそうだとしたら。 


隊長「──魔女ッッ! 戻れッッ!」 


魔女「────え?」 


──メキメキメキメキメキッッッ!! 

魔女が階段を登ろうとした時だった。 

気づけるはずがない、なぜなら今になって目視できたのだから。 

いままで潜っていた根のようなモノに耐えきれず、石材でできた階段が崩れる。 


魔女「しまっ────」 


隊長「──蔓だけじゃないッ! 気づかない間に根も成長していたんだッ!」 


隊長「...ここは既にもう、少女に侵食されているッ!」 


先程銃から少女を守った蔓、それは生物の皆がもっている防衛本能。 

攻撃のように見えた蔓の増殖、その本質は体積を増やすための植物としての本能だった。 


魔女「──うごけないっっ!?」グググ 


隊長「クソッ! 魔女ッ!!」グググ 


魔王城の2階、その光景が徐々に変化を始める。 

床や壁が侵食に耐えきれず、埋まっていた根をむき出しにするほどに。 

そしてその根が2人の足にまとわりつき拘束した。 
734: :2018/12/17(月) 22:37:37.40 ID:
魔女「くっ..."雷魔法"っ!」 


──バチバチバチッッ! 

魔女の足元に雷が落ちる。 

狙いも完璧であり、自らに被害が出ない程度に威力を抑えている。 

完璧な対応、だがそれでは不十分だった。 


魔女「だめ...びくともしないっ...!」 


隊長「待ってろッ! そのまま動く────」 


隊長「────ッ!?」 


────ミシミシミシミシッ...! 

急速成長した根がまとわりつく。 

アサルトライフルを支えている両腕までに。 

根が与える圧力、それに耐えるための腕力で照準は大いにブレている。 


隊長「クッ...撃てない...ッ!?」グググ 


魔女「────これはっ!?」ピクッ 


今度は2人の目で確認できた、根の一部が変化している。 

それでいても、植物にしては遥かに早い速度で成長している。 

魔女の目の前に現れたのは食虫植物のようなモノだった。 


魔女「...まずいっ!!」グググ 


隊長「魔女...ッ!」グググ 


──くぱぁ... 

明らかに魔女を捕食しようしている動きであった。 

2人はなんとか拘束から脱出しようと力を振り絞る。 

しかしそれは徒労に終わる、拘束から脱出できない。 


魔女「──"属性付与"、"雷"」 


抵抗を諦めた彼女が叫んだのは魔法。 

何を思ったのか雷を自らにまとわせた。 

下位属性の属性付与、身体に付与させれば当然痛みが彼女に走る。 


魔女「────"雷魔法"っっ!!」 


────バチバチバチバチバチバチバチッッッ!! 

先程とは違う、出力を抑えることを考慮されていない音が聞こえる。 

そのあまりの威力に食虫植物やあたりの根は愚か、魔王城の床の一部すら破壊する。 

しかし故に、狙いは決して鋭くなく、当人である魔女ですらその餌食となっていた。 
735: :2018/12/17(月) 22:39:42.02 ID:
魔女「────ぐぅぅぅぅぅううううう...」フラッ 


彼女が行ったのは、以前隊長にやったモノの応用。 

身体に付与された雷が自身を貫かないように、雷魔法をある程度誘導していた。 

それにより魔女の安全性は確保されていたはずだった。 


魔女「だめね、出力を上げすぎたわ...」 


痺れ、痛み、倦怠感、朦朧とした意識、そのすべてを堪えて足をすすめる。 

身体に付与した雷をゆっくりと解除しながら、階段ではなく隊長の方へ。 


隊長「魔...ッ、女...」グググ 


ギチギチと音を立て、蔓と根が彼を縛り上げていた。 

両腕は愚か首にすら巻き付いている、言葉を発することすら難しい状態であった。 


魔女「絶対に...動かないでよね...」 


詠唱を始める、今度はある程度時間に余裕がある。 

どのくらいの出力なら拘束を緩めてくれるか、先程ので検討がついていた。 

ならばやることは1つ、いかに正確に雷を放てるか。 


魔女「"雷魔法"...っ」 


──バチバチバチバチッッ! 

絶縁体もなにも持っていない隊長に当たれば即死だろう。 

洗練された魔法の挙動、身体を拘束するモノだけを的確に狙った。 


隊長「──ッ...! 助かったッ!」 


魔女「お礼はいいわ...それよりも...」 


隊長「あぁ...わかっている」 


隊長「...俺を含めてここを離脱だ、魔女と共に魔王子と合流する」グッ 


魔女「...助かるわ」グイッ 


彼女の肩を支え、すぐさまに歩行を始める。 

作戦が二転三転するがこれも次善の選択だろう。 

軽く意識が朦朧としている魔女、単独行動は許されない。 

それにこの階層はすでに少女に有利な環境だ、引かざる得ない。 
736: :2018/12/17(月) 22:41:52.27 ID:
魔女「...ごめん」 


隊長「お前がいなければ、今頃俺は絞め殺されていただろう」 


隊長「...謝られると言葉に困る」 


魔女「...あなたが無事でよかった」 


隊長「あぁ...」 


魔女の身体が隊長に寄り添い、逞しい彼の腕が彼女の肩を支える。 

先程の雷の影響か、蔓や根の成長はかなり鈍くなっていた。 

歩行速度は小走り程度だが、これでも余裕をもって退避ができる。 


隊長「...少女、もうどうにもならないのか」 


魔女「...あれは魔力薬...じゃないわ」 


魔女「身体が完全に植物になって...戻れないと思う...」 


隊長「...魔女がそう言うのなら、そうなんだろうな」 


彼は魔力には精通していない、餅は餅屋に聞くしかない。 

素直に彼女の言うことに頷くしかなかった。 

とても冷たい様に見えるが、そうするしかない。 


隊長「もうじき階段だ、足は上げれるか?」 


魔女「まって、余裕ができたから...治癒魔法を唱えるね...」 


隊長「あぁ...一応見張ってるぞ」 


意識が朦朧としている、詠唱するのに時間がかかると思い後回しにしていた。 

だが実際は違う、蕾と化した少女に動きがない。 

余裕があるなら今のうちに身体の痺れを取るべきだ。 


隊長「...」スチャ 


魔女「”治癒魔法”」ポワッ 


────ドクンッ... 

治癒の明かりとともに、聞き慣れている音。 

まるで心臓の鼓動のような音、それが自分ではない方向から聞こえた。 

少しの違和感でも、彼は警戒を怠らなかった。 


隊長「...聞こえたか?」 


魔女「...幻聴であってほしかったわ」 


隊長「少女が動くようだ...このまま退避するか応戦するか...」 

737: :2018/12/17(月) 22:43:50.62 ID:
魔女「...蕾の状態なら、動かないから放置して退避できたかもしれないけど」 


魔女「今あの蕾は変化しようとしてるわ...もし移動が可能になって下の階へ行かれたら...」 


隊長「...応戦だ、拘束されたらすぐに救助できるよう、お互いに近くにいろ」 


魔女「...わかったわ」 


──ドクンッ...ドクンッ... 

応戦、囮、退避、そして再び応戦。 

彼がここまで作戦内容を変更したのは、初めてだろう。 

急いでいるとき程に、運に弄ばれる。 


魔女「...私も、少し離れている程度なら魔力を感知できるわ」 


魔女「ウルフたちは遠くてわからない...けど、スライムたちの魔力はまだ感じるわ」 


隊長「...まだ生きている、それが確認できただけ十分だ」 


魔女「...そうね」 


──ドクンッ...ドクンッドクンッ! 

蕾が徐々に膨張し始める。 

まるで何かが生まれようとしている。 

彼らはただその様子を、遠目に眺めることしかできない。 


魔女「策はあるの?」 


隊長「...ないさ、やるしかない」 


魔女「...私にはあるわよ」 


隊長「本当か?」 


魔女「えぇ、ずる賢さなら大賢者様より上よ、上」 


隊長「...フッ」 


魔女「なによ」 


隊長「いや、なんでもない...それで策は?」 


魔女「それはやってみてからのお楽しみよ」 


隊長「なんだそれは」 


魔女「...すぐに分かるわ」 


──かぱぁ... 

蕾が開いた、そして中から現れたのは。 

顔以外原型をとどめていない、植物人間。 

身体と思しき場所のいたるところに草花が咲き乱れている。 
738: :2018/12/17(月) 22:44:44.35 ID:
「あはは...きゃぷてんさぁん...」 









739: :2018/12/17(月) 22:45:15.95 ID:
今日はここまでにします、近日また投稿します。 
下記はTwitterIDです、投稿をお知らせする手動BOTです。 

@fqorsbym
741: :2018/12/18(火) 20:57:14.72 ID:
隊長「...もう、少女じゃないんだな」 


魔女「...」 


隊長「どんな手段を使ってでも...両親の元に逝かせてやるからな...」 


少女「あははははは...あはは...」 


魔女「...あの見た目、形は違うけれど蕾と同じ質感ね」 


隊長「...相変わらず攻撃が通りそうにもないな」 


少女「あははは...あは...」 


──ずる、ずる、ずる... 

彼女の足と思われる部位は根と繋がっており、歩行は不可能だった。 

よってこの擬音と共に、体積を伸ばしながら這いずりを行っている。 

しかし少女は盲目であるためか移動方向はメチャクチャであった、そんな鈍行で魔女が確信を掴む。 


魔女「...じゃあやるわよ、さがってて」 


隊長「あぁ...頼んだぞ」 


魔女「──"雷魔法"っっ!」 


────バチッ! 

少しばかり淡い稲妻が地面を這う。 

魔女の狙いはこの2階に蔓延っている根。 

しかし出力を誤ったか、根の破壊は失敗におわる。 


少女「────あは?」ピクッ 


少女の動きが止まる、まるで身体に異変を感じたかのような素振りを見せた。 

彼女の皮膚は蕾と同じような質感をしている、攻撃が通るわけないと思われていたのに。 


魔女「...反応あり、成功ね」 


隊長「...なにをしたんだ?」 


魔女「あの子の皮膚、あの蕾と同じ見た目をしてるわよね?」 


隊長「あぁ...そうだな」 


魔女「だから外からの攻撃はすべて無意味、そうよね?」 


隊長「...だから根を利用したのか」 


魔女「もう気づいたのね...」 


魔女が行ったのは伝導であった、外からの攻撃がだめなら中から攻撃すればいい。 

おおよそ体内に繋がっていると思われる根を媒体とし雷を伝導させる。 

そうすれば、あのとてつもなく硬い皮膚を無視することができる。 
742: :2018/12/18(火) 20:59:12.85 ID:
魔女「じゃあ、出力を上げるわね」 


隊長「あぁ、わかった」 


魔女「..."雷魔法"っ!!」 


────バチバチバチバチバチッッ!! 

根がギリギリ形を保てる程度の威力。 

凄まじい稲妻が少女の体内へと駆け巡る。 


少女「────あああああッッッッ!?!?」 


隊長「──怯んだぞッ!」 


魔女「このまま雷を流し続けるわよっ!」 


少女は雷に囚われ、動きをかなり鈍くしている。 

このまま沈黙へと持っていけるかと思われた。 


隊長「...なッ!?」 


──かぱぁっ...! 

少女の首と思われる箇所が開かれた。 

そしてそこからこちらを覗く者がそこにあった。 

大きな目玉がこちらを捉えていた。 


魔女「──変異したっ!?」 


隊長「この短時間に何度変異を繰り返すつもりだ...ッ!」 


魔女「まずいわ...あれが本当に目として成り立つのなら...」 


先程まで、当てずっぽうで攻撃していた様なもの。 

盲目の彼女に視力が戻ってしまったというなら。 

これから始まる攻撃は、先程の比ではないだろう。 


少女「────あああああああああああああああああっっっ!!!」 


──シュババババババッッ!! 

植物には動物的な視力などない、だがあの生物を動物や植物にカテゴリできるだろうか。 

動物的な変異を遂げた植物が、蔓をこちらに向かわせる。 

猛烈な風切り音とともに多数の蔓が彼らを貫こうとした。 
743: :2018/12/18(火) 21:01:01.96 ID:
魔女「──っ!?」 


魔女(ダメ、ここで雷を途切れさせたら...) 


魔女(視力を戻したあの子が、なにをしてくるかわからない...) 


魔女(それに...もし雷に抵抗を得た変異をされてしまったら...) 


走馬灯のように考察を重ねる、回避行動は絶望的。 

そもそも、根を破壊しない程度ギリギリの威力を保っている。 

その超精密作業中に行動できるわけがなかった。 


魔女「ごめんっ! 動けないっっ!!」 


──ババッッ バババッ バババババッッ! 

いままで、眺めることしかできなかった彼が動く。 

長年鍛え上げられた、誤射を防ぐために極められた射撃能力。 


隊長「──まかせろ」 


硝煙の匂いと共に、撃ち抜かれた蔓は力無く果てていく。 

彼にできるのは、ひたすら魔女を防衛すること。 


魔女「──ありがとうっ! 助かるわっ!」 


隊長「そのまま安定させていてくれッ!!」 


──バチバチバチバチバチッッ!! 

絶えず、供給をやめずに流し続ける。 

そして彼も銃声をけたたましく鳴らし続け、蔓を退けている。 

少女も苦しんでいるように見える、このままいけば勝てる。 


隊長「──下だッ!」 


──メキメキメキメキメキッッ!! 

先程まで動きのなかった根が、活動を再開する。 

蔓の猛攻は止まらず、対応を追われている隊長にはどうすることもできない。 


魔女「うっ..."雷魔法"っっ!!」 


──バチバチッ!! 

新たな雷が、2人の足元だけを強く保護する。 

同時に2つの魔法を維持したためか、身体に負荷がかかる。 


魔女「ぐぅぅぅ...絶っっ対にそこから動かないでっっ!!」 


隊長「──わかっているッッ!」 


下手に動かせば、感電してしまうだろう。 

足元の周りに雷を展開したおかげか、根はこれ以上迫ることができずにいた。 
744: :2018/12/18(火) 21:03:11.82 ID:
少女「あああああああああああああああああああッッッッ!」 


魔女「くっ...まだ元気そうね...」 


人のモノとは思えない叫び声、銃声、雷音、植物の轟音。 

ありとあらゆる要素が彼女の集中を邪魔する。 


魔女「はぁっ...はぁっ...!」 


少しでも気を緩めば、雷は途絶えるだろう。 

途絶えてしまえば、少女は活発に動くかもしれない。 

途絶えてしまえば、足元の根はたちまちに拘束してくるかもしれない。 

そして気を緩めれば、足元の雷がこちらに牙を向くかもしれない。 


魔女(...大丈夫、私ならできる) 


魔女(だから...早く倒れてっ...!) 


──くぱぁっ...! 

魔女の願いを砕く、最悪の擬音とともに現れる。 

先程も見た根から伸びるあの植物、それも大量に。 


魔女「──こんな時にっ!」 


隊長「...クソッ! また食虫植物かッッ!!」 


魔女「任せられるっっ!?」 


隊長「...やるしかないッッ! そっちは安定を維持してくれッ!」 


魔女「お願い...っ!」 


蔓、そして食虫植物の相手をまかされた。 

彼は右手と肩でアサルトライフルをバイオリンのように安定させる。 

そして左手で、新たな武器を握りしめる。 


隊長(アキンボか...精度は落ちるがやるしかない...)スチャ 


──ダンッ ババッ ダンダンッ バババッ!! 

両手に銃、アキンボスタイルで植物を相手にする。 

右手の照準は食虫植物、左手の照準は上から襲いかかる蔓。 


隊長「──グッ...!」 


左はともかく、右の負担が大きすぎる。 

先程のような正確な射撃は不可能、かなり大雑把に敵を蹴散らしていた。 
745: :2018/12/18(火) 21:05:23.56 ID:
隊長「...持っても数分だッ! それ以上は無理だッ!」 


魔女「わかったわっ! 限界が来たら離脱するわよっ!」 


少女「あああああああああああああああああああっっっ!!」 


隊長「──ッ!」 


──ダンッ ダダンッ ババッ バババッ ダンッ!! 

────カチカチッ! 

2つの種類の銃声が植物を撃ち落とす、そして続いたのは弾切れの音。 


隊長(Reload...)カチャカチャ 


片膝立ちさせ、ふくらはぎと腿でアサルトライフルを挟む。 

そして上向きになったマガジンを右手のみで取り外し装填する。 

普段なら3秒以内に終わるリロード動作、片手時は5秒以上もかかってしまう。 


隊長(まずい...今のだけでも集中力が切れそうで辛かったぞ...) 


それも当然、片手リロード中は無防備。 

それをカバーするべく、左のハンドガンで蔓と食虫植物を相手にしていた。 

利き腕ではないのにエイムを派手に動かせば、集中することなど難しい。 

そんなことを思いながらも、ハンドガンの片手リロードを卒なくとこなしていた。 


隊長「魔女ぉ...まだかぁ...ッ!?」 


魔女「もうちょっとだから...頑張ってっ!」 


隊長「クッ...」 


魔女「お願い...お願いだから早く倒れて...っ!」 


少女「ああああああああああああああああああああ────」 


──バチバチバチバチッッッ! 

──ダンダンッ ババッ ダダンッ!! 

2種類の攻撃音、そして2人の思い、それがようやく通じる瞬間。 


少女「────っっっ!!」 


隊長「──ッ!?」ピタッ 


いち早く気がついたのは、隊長だった。 

こちらを喰らおうとばかりの食虫植物。 

そして貫こうとしていた蔓の動きが止まっていた。 


隊長「──やったかッ!?」 
746: :2018/12/18(火) 21:07:01.92 ID:
魔女「...っ!」 


少女「────」 


下を向いてひたすら雷を供給し続けていた魔女も気がついた。 

根が静まり、少女の鈍い叫び声が止まっていた。 


隊長「...終わったのか」 


魔女「あぁぁぁぁ...」ペタリ 


お互いに集中力が途切れ、魔女は座り込んでしまう。 

足元に展開していた雷は失せ、両手の銃の銃口は下を向いている。 


隊長「...少女」 


アキンボスタイルの影響か、右手に強い違和感。 

ハンドガンを収納しアサルトライフルを背負い、沈黙する少女を見つめる。 


魔女「...行きましょ」 


隊長「あぁ...わかっている」 


魔女「本当に、残念だったわね...」 


隊長「...この手で終わらせただけ、十分だ」 


隊長「今度は怒りに囚われずに...少女をこんな目に合わせた奴を討つ」 


魔女「...そうね」 


隊長「...立てるか?」 


魔女「ごめん、手を貸してもらえる?」スッ 


隊長「あぁ」グイッ 


魔女「わっ...ありがと」 


隊長「どういたしましてだ」 


魔女「じゃあ...急ぎましょ」 


隊長「...あぁ」チラッ 


少女「────」 


ここを出発する前に、もう一度少女を見つめる。 

見えないはずの少女の瞳が開いている、それを見かねた魔女が言葉を発する。 
747: :2018/12/18(火) 21:09:07.88 ID:
魔女「...閉じてきてあげて」 


隊長「そうだな...」 


朽ち果てた少女に接近する。 

そして開かれっぱなしであった瞳をそっと閉じる。 

最後に少しばかり頬をなでた、とても人のモノとは思えない硬度に隊長は複雑な思いをする。 


隊長「...行くぞ」 


魔女「...えぇ」 


足早にこの広間から離脱する。 

階段を登る前にもう一度振り返りそうになった。 

しかしその気持を押し殺し、上へと向かう。 


隊長「────ッ!」ピクッ 


魔女「どうしたの?」 


隊長「...勘弁してくれ」 


魔女「...っ!」 


────パキッ...! 

不審に思った魔女が思わず振り返る。 

なにか殻が破けたような音を立てながら、アレが変異を始めている。 

地獄はまだ続く、弱音を漏らすほどに隊長の精神が削れていく。 


魔女「早くトドメをさすわよっっ!!」 


隊長「...クソッタレッッ!!」ダッ 


再び根を利用して内部から攻撃をしなければならない。 

そうしなければ、少女にまともなダメージを与えることなど不可能。 

来た道を急いで戻る、しかしすでに遅かった。 
748: :2018/12/18(火) 21:09:51.85 ID:
「あはは...あは...あはははは...」 









749: :2018/12/18(火) 21:11:20.26 ID:
──パキパキパキパキパキッッッ!! 

まるで蛹の羽化のような光景だった。 

朽ち果てていた身体が崩れ、新たな身体が芽生えていた。 

新たな少女がここに生まれる。 


少女「あはは...」 


隊長「...ッ!」 


魔女「...まずいわ」 


二足歩行でこちらに向かって歩いてくる。 

身体のいたるところに蔓が生えていなければ。 

身体の色が緑じゃなければ人と遜色はないだろう。 


魔女「...身体と根が分離してるわ、もうさっきの戦法は無理よ」 


隊長「わかっている...」 


魔女「それにあの蕾のような皮膚、健在ね」 


隊長「わかっている...ッ!」 


いままでしてきたことの全てが無駄だった。 

初めからすぐに魔王子と合流し、対処してもらえばよかった。 

お互いにそう思った、だが決して言葉にしなかった。 


魔女「...こうなったら、あの子が下に行かないようにしないと」 


魔女「こっちに誘導しつつ、上に向かって魔王子と合流するわよ...」 


隊長「...あぁ」 


魔女「相手は二足歩行よ...それにどんな速度で走るかわからないわ」 


隊長「...絶対に油断などするか」 


魔女「...行くわよ」 


少女「あははは...あは...」 


じりじりとこちらに詰め寄ってくる。 

幸いにも、今現在は下に向かうつもりはないらしい。 

追跡されながら人探し、困難極まりない行動を開始する。 
750: :2018/12/18(火) 21:13:48.46 ID:
魔女「──え?」 


────グサッ...! 

少女を注視しつつ、後退りで階段へ向かおうとした時だった。 

油断、そのようなモノは一度もしていない。 


隊長「────ゴフッ...!?」 


魔女「なんで...!?」 


隊長の背部から蔓が飛び出していた。 

一体なぜ、しっかり少女を見張っていたというのに。 

その答えは1つしかなかった。 


隊長「はや...すぎる...」 


魔女「──っ! "雷魔法"っっ!!」 


──バチバチバチッッッ!! 

高威力の雷が、器用に隊長だけを避けて蔓に命中する。 

これで彼を貫いているモノは朽ちるはずだった。 


魔女「──効いていないっっ!?」 


隊長「ガァ...ゲホッ...」 


魔女「ま、まさか...」 


隊長「駄目だぁ...逃げろ...」 


魔女「──そんなことできるわけないじゃないっっ!!」 


少女「...あは」 


蔓を目視する、その質感はなんども見た例の蕾のそれに酷似するモノ。 

少女は愚か、そこから生える蔓にすら攻撃が通用しなくなってしまった。 

隊長の出した命令は魔女1人での離脱、しかしそれを拒否、そんなことをしているうちに少女は仕掛ける。 


魔女「──ぐえっ!?」グイッ 


速すぎる蔓が、魔女の首に巻き付いていた。 

女性らしからぬうめき声と共に、彼女の身体は宙に持っていかれる。 


魔女「がはっ...ぐぅぅぅぅ...」グググ 


──ぎゅううううううううっっ!! 

とてつもない締め付けが魔女の意識を徐々に奪っていく。 

首に強烈な痛みが走る、それだけではなく酸素すらうまく吸引できない。 
751: :2018/12/18(火) 21:18:14.75 ID:
隊長「ま、魔女ぉ...ッッ!?」スチャ 


身体を貫かれた衝撃でアサルトライフルはどこかに吹き飛んでしまっていた。 

腹部に残る激痛をこらえ、ハンドガンで蔓への射撃を試みる。 


少女「...あは」 


──ダンッ! ガギィィィンッッ! 

射撃は命中、しかしまるで金属に当たったかのような音を立てて弾かれる。 

その様子を見てなのか、少女は不敵な笑みを見せびらかす。 


魔女(もうだめ...意識が────) 


魔女「────」ピクッ 


隊長「──魔女...ッッ!?」 


少女「あは」 


──ブンッッッ!!! 

風切り音に続いたのは、衝撃音だった。 

魔女は力強く投げ飛ばされ、少女が眠っていた小部屋に激突した。 

ホコリが舞い上がり煙になる、遠いのも相まって様子を確認することは不可能。 


隊長「────ッッッッ!!!」 


隊長の口から血が流れる。 

腹部を貫かれているからか、それとも口の中を切ったのか。 

どちらにしろ、強い感情が彼の中で芽生えていた。 


隊長「FUCK FUCK FUCKッッ!!!」 


少女「...あはははは」 


隊長「──AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!」 


──ブチブチブチブチッッ!! 

身体を貫いている蔓を、無理やり引っこ抜く。 

自分の肉が裂ける音など気にしていられない。 

深く呼吸をすることで痛みを誤魔化す、蔓は抜いた反撃するなら今。 


隊長「フッー...! フッー...!」スチャ 


──ダンッ ダンッッ! ガギィィィィィンッッ!! 

トリガーは軽かった、しかし効果を得ることはできなかった。 

腹には穴が空いている、蔓で拘束されなくとも、もう隊長は満足に動けない。 


少女「あはははははははははははははは」 


隊長「クソッ! 一体どうすれば────」 
752: :2018/12/18(火) 21:19:24.91 ID:
「...俺がいるじゃないか」 









753: :2018/12/18(火) 21:21:16.79 ID:
チリチリチリ、と頭の中でそう音が聞こえた。 

誰かが話しかけてきた時、脳みそが焼けるような感覚がした。 

まるで、周りの時が止まったような錯覚に陥る。 


隊長「────黙ってろ...ドッペルゲンガー...ッ!」 


ドッペル「ひどいじゃないか...こうして助けに来てやったというのに」 


隊長「失せろ...ッ!」 


ドッペル「...じゃあ言うが、これからどうするつもりだ?」 


隊長「...ッ!」 


ドッペル「もうわかっているんじゃないか?」 


隊長「...黙れ」 


ドッペル「魔王子に頼ろうとしたのは、どうしてだ?」 


隊長「黙れと言ってる...ッ!」 


ドッペル「...俺を受け入れろ、そしたら貸してやる」 


それはどういう意味なのか。 

あの強靭な少女を貫くには、なにかが必要。 

魔王子が持っている、あの黒いモノ。 


ドッペル「...なにを唱えればいいか、わかっているな?」 


隊長「...」 


その言葉を飲み込んだら、周りが動きはじめた。 

薄々と渇望していた手段を手に入れてしまった、どうしても唱えなければならない。 


少女「...あははははははははは」 


隊長「...畜生...ッ!」 


強制的に刷り込まれたあの言葉。 

もう唱えるしかない、少女を倒すには。 

鳥肌が立ち寒気が彼を襲う、彼は初めて魔法を唱えてしまう。 


隊長「────"属性付与"、"闇"」 


──■■■■■■... 

凄まじい嫌悪感と吐き気を催す。 

身体のあちこちが締め付けられるような痛みを覚える。 
754: :2018/12/18(火) 21:23:16.55 ID:
隊長「──があああああああああぁぁぁぁぁぁッ!?」 


ドッペル「そうだ...そのまま委ねろ」 


ドッペル「そして身体を寄越せ...そうすれば痛みが引くだろう」 


隊長「だ、黙れ...ッ! このままでいい...ッ!」 


ドッペル「...愚かだ、ただの人間に闇を纏えるわけないだろう」 


隊長「力だけ寄越せばいい...ッ! そのまま失せろッ!」 


ドッペル「...まぁいい、そのうちお前から懇願するだろうからな」 


ドッペル「精々足掻いてみせろ」 


身体につきまとう、もう1人の自分が黒と同化する。 

残ったのは痛みと闇、そして対峙するのは少女だった者。 

右手に握るハンドガンに力を注ぎ込む。 


少女「...あははははは」 


──ダン■ッッ!! 

闇の一撃が少女の腹部に的中する。 

弾かれた音はない、響いたのは別の音だった。 


少女「──ああああああああああああああああああああっっ!?!?」 


隊長「苦しいだろうな、俺も今とても苦しい...」 


少女「ああああああああああああああああああああっっっっ!!!!」 


隊長「...すぐに楽にしてやる」 


お互いの身体が闇に飲み込まれかけている。 

長くは持たない、超短期決戦が見込まれる。 

先に動いたのは少女だった。 


隊長「──...ッ!」ピクッ 


──ぎゅうううううううううううううううぅぅぅぅぅぅ 

とてつもない速度、とても目で追えないソレが迫った。 

隊長の身体を蔓がキツく締め上げた、しかしそれは無意味だった。 


少女「あああああああああああああああっっっ!?」 


──■■■... 

闇の擬音、属性付与により身体に付着した蔓が無に帰る。 

あらゆるものを破壊する性質の闇属性、絶対的硬度など役に立たない。 
755: :2018/12/18(火) 21:25:19.00 ID:
隊長「がはッ...ぐゥ...ッッ!!」 


だがそれは彼も同じであった。 

徐々に身体のあちこちに擦り傷のような物が浮かび上がる。 

何もしていないのに闇の影響で骨が数本折れている、呼吸も厳しい、内蔵もヤラれている。 


隊長「────くるしい」 


ドッペル「...苦しいだろう? 俺が闇を調節していなければ既に身体は滅んでいるぞ」 


しかしそれだけではなく、内面的な傷も負っていた。 

もう1人の彼によって精神が弄ばれている。 

まるで脳を素手で掴まれているような感覚が襲っていた。 


少女「ああああああああああああああああああああああっっっ!!」 


隊長「...ッ!!」スチャッ 


──ダンダン■■■ッッ!! 

射撃音と共に発せられる闇の音。 

徐々に状況を打破していく、それほどに恐ろしい威力を誇っていた。 

あの鉄壁を誇っていた少女の肌には、複数の銃痕が残っていた。 


少女「あ...あああああ...ああぁ...」 


隊長「...少女」 


少女「────ああああああああああああっっっ!!」ダッ 


──ヒュンッッッ!! 

風のように靭やかな、それでいて常軌を逸した速度で飛びかかってきた。 

しかしその行動は目で追える速度であった、彼が取り出したのは、ナイフ。 


隊長「──さよならだ...」スッ 


少女「あ...あ...ああぁぁぁぁ...」 


──グサ■ッッッ!! 

闇を纏ったナイフが彼女の柔肌を貫いていた、そのまま少女を優しく抱き寄せる。 

深緑のマフラーの一部が深紅に染まる、どれほど見た目が変わろうとも血の色は不変であった。 
756: :2018/12/18(火) 21:26:34.12 ID:
隊長「さよ...ならだ」 


少女「きゃぷ...て...さん...」 


少女は力をなくし、そのまま隊長にもたれかかった。 

最後の言葉、理性を取り戻したかのような口調。 

彼はゆっくりと腰をおろした。 


隊長「...」 


少女「────」 


ドッペル「...まさか、事を終えるまで闇を纏っていたとはな」 


ドッペル「次はないと思え...次は調節などしないからな」 


隊長「...」 


ドッペル「...抜け殻か」 


そう言うと、ドッペルゲンガーは闇と共にどこかへと消え去った。 

ここに残ったのは放心状態の隊長、死亡した少女、そして安否のわからない魔女。 

今すぐにでも動かなければならないというのに。 


隊長「...」 


動かないのではなく、動けなかった。 

腹には蔓が貫通した痕、骨折、軽い多臓器不全。 

動けるわけがなかった。 


隊長「────」 


──トサッ... 

そう音を立てて彼は倒れ込んだ。 

仰向けの身体に、少女の遺体を乗せて。 


???「..."治癒魔法"」 


~~~~ 


758
: :2018/12/19(水) 20:09:12.00 ID:
~~~~ 


地帝「..."属性同化"、"地"」 


闘いの火蓋が切って落とされる。 

大地と同化するのは、地帝。 

それと対峙するのは、女騎士とウルフであった。 


女騎士「聞いたことのない魔法だ...それに素直に通してくれなさそうだな」 


地帝「...」 


女騎士「...力を貸してくれ、キャプテン、魔王子」 


女騎士「そして...ウルフもな」 


ウルフ「...もちろんっ!」 


女騎士「それにしても...動きそうもないな」 


地帝「...」 


動かずの地帝、ならばこちらから動くしかない。 

最も速く動いたのはウルフであった、文字通り、最も速く。 


ウルフ「────がうっ!」シュンッ 


地帝「...!」 


気づけば、ウルフは間合いを詰めていた。 

全身が岩や砂などに同化している地帝は動けずにいた。 


女騎士「──速いっ!?」 


女騎士(あの速さで、私を炎から助けてくれたのか...っ!) 


ウルフ「────うりゃあああっっ!!」スッ 


──ダダダダダダダッッッ!! 

片足で重心をとり、もう片足で連続の蹴りをお見舞いする。 

剣気のようなその脚気は岩をも砕く威力。 


地帝「...」 


ウルフ「──っ!?」ビクッ 


──ピリピリッ...! 

彼女が感じ取ったのは、野生の勘。 

自らの本能が身体の動きを強制的に止めていた。 

それを感じるとそしてすぐさまに、距離を取った。 
759: :2018/12/19(水) 20:11:05.89 ID:
女騎士「...どうした?」 


ウルフ「な、なんかこわかった...!」 


地帝「...」 


女騎士「...殺気というやつか」 


女騎士が解析しているうちに崩れた岩が再度地帝と同化する。 

先程ウルフが果敢に行った攻撃は、無意味となってしまった。 


女騎士「次は私だ」スチャ 


──ダァァァァァァンッッッ!! 

槍のように持っていたショットガンをしっかりと持ち直す。 

肩でストックを抑え反動に備える、そうして発せられたのは強烈な炸裂音。 


地帝「...!」 


初めて見る武器に少しばかり動揺する。 

しかし力強い発砲音は虚しくも、成果を残せずにいた。 

地帝の岩を破壊することはできなかった。 


女騎士「...だめか」ジャコンッ 


ウルフ「どうする?」 


女騎士「...」 


この厳しい状況下、仮定も交えながら戦略を練る。 

現状効果が見られたのはウルフの蹴りのみ。 

答えは1つしか思い浮かばなかった。 


女騎士「...もう一度、肉薄してもらえないか?」 


ウルフ「わかったっ!」 


女騎士(即答か...無茶な要望だというのに...) 


先程、なにか怖い気配を感じ取ったから一度身を引いたというのに。 

やや絶望的な状況、ウルフの微笑ましさに不安が少し和らいだ。 


女騎士(...さて、あの属性同化とやら) 


女騎士(私の仮説が当たれば、なんとかなるかもしれない...) 
760: :2018/12/19(水) 20:12:11.68 ID:
女騎士「...いいか?」 


ウルフ「うん?」 


女騎士「とにかくあの岩をたくさん砕いてくれ」 


ウルフ「わかったよっ!」 


地帝「...」 


耳打ちは終了、早速ウルフが行動に移る。 

地帝はただこちらの様子を見ているだけのようだった。 


地帝「...!」 


ウルフ「──うりゃりゃりゃりゃりゃりゃっっっ!!」スッ 


──ダダダダダダダダダダダダダッッッ!! 

再び間合いを詰めたウルフが繰り出したのは拳。 

片足の足技と違い両手を使っている分、先程より遥かに攻撃回数が多い。 

威力のある拳気が、凄まじい勢いで岩を崩す。 


女騎士(私の読みが合っているのなら、包まれた岩の中に地帝がいるはずだ) 


女騎士(...奴が見えたら私も肉薄して射撃だ) 


その時に備えて、いつでも走り出せるように構える。 

ウルフの攻撃は順調、岩の破壊とともに砂埃が舞い上がる。 


地帝「...」 


ウルフ「──これでっ! どうだっ!!」グッ 


フィニッシュブローに移行する。 

右腕を思い切り引き下げ、力を蓄える。 

そしてそれを思い切り前に突き出す。 


ウルフ「────ふんっっ!!!」 


──バキイイィィィィィィィッッッ!! 

その絶大な威力を誇る拳気に、岩は砕かれるしかなかった。 

大地に囲まれていた地帝が顕になった。 


女騎士「──居ないっ!?」 


そのはずだった、しかし岩の中には誰もいない。 

急いで攻撃しようと近寄ってきた女騎士の読みが外れる。 
761: :2018/12/19(水) 20:13:37.45 ID:
地帝「...」 


属性同化という魔法はその属性自体になるということ。 

炎なら炎に、水なら水に、風なら風に、地なら地に。 

肉体という概念など存在しない、はなからこの戦略など意味がなかった。 

あの時、魔王子が属性同化について軽く説明してくれていればよかったというのに。 


女騎士「──ウルフっ! 戻ってこいっ!」 


ウルフ「...っ!」 


地帝「...もう遅い」 


──さぁぁぁぁぁ... 

岩と化した地帝から、大量の砂が出現する。 

そしてソレはウルフを包み込む、優しさの欠片もなく。 


ウルフ「──けほっ! な、なにっ!?」 


地帝「...」 


──ザリザリザリザリッッッ!! 

まるで刃物のような鋭利な音だった。 

大量の砂がウルフの肌を赤く染め上げる。 


ウルフ「──っっっ!! いたいよっっ!!」 


女騎士「──ウルフっっ!!」ダッ 


急いで駆け寄る、砂に襲われているウルフの腕を強引に掴む。 

鎧をしているお陰か、女騎士は砂の被害を大幅に軽減していた。 


女騎士(鎧に助けられたか...いや、隙間から入られたら敵わん...) 


自らも砂に突入したあとは、冷静にウルフを連れて離脱する。 

顔には少し擦り傷が、そして気づけば鎧が傷だらけであった。 


女騎士「...これを生身で受けたのか」 


ウルフ「うぅ...いたたたた...」 


女騎士「大丈夫か? すまない、私のせいだ...」 


ウルフ「うん、大丈夫...気にしないでね...?」 


付着した砂を、犬のように身体を震わせて落とす。 

ダメージは負ったが、まだ戦闘続行できる様子であった。 
762: :2018/12/19(水) 20:15:04.77 ID:
地帝「...抵抗しなければなにもしない」 


女騎士「それはつまり、ここで指を加えてろってことか?」 


地帝「...」 


女騎士「...まだ、抵抗させてもらうぞ」 


ウルフ「...がうっ!」 


女騎士(...と、意気込んだモノもどうするか) 


今の地帝に実態がないことがわかった。 

つまりは物理的な攻撃は無意味。 


女騎士(...魔法ならどうだ) 


女騎士「風属性が恋しいな..."属性付与"、"衝"」 


即実践に移る、彼女が得意とする衝属性の魔法。 

ショットガンの銃身からミシミシと音が立つ。 


女騎士「...壊れないよな?」 


ウルフ「うーん、わかんないけど...ご主人はらんぼうにつかってたよ?」 


女騎士「そうか、なら大丈夫だな」スチャ 


──ダァァァァァァァンンッッッ!! 

再び岩に命中し、散弾の着弾ともに強い衝撃が発動する。 

今度は岩の破壊に成功する、しかし地帝は動こうとしない。 


地帝「...無駄」 


魔法を使ったとしても、結局は物理的な攻撃になっている。 

実態の無いものに対して全く効果は得られない。 

しかし女騎士は別の効果に気づいた。 


女騎士「...なるほどな」ジャコンッ 


ウルフ「うん?」 


女騎士「いや、なんとかなるかもしれないぞ」 


ウルフ「ほんとっ!?」 


女騎士「あぁ...また頼み事があるぞ」 


地帝「...」 


こそこそと密談、お互いがこれからやるべき行動を確認する。 

そのささやきあっている様子を地帝は黙ってみている。 
763: :2018/12/19(水) 20:19:30.56 ID:
ウルフ「────がるるっっ!!」シュンッ 


地帝「──っ!」 


再度不意を疲れてしまった。 

さきほどまでささやきあっていたというのに。 

地帝ほどの者が気づけない速さであったが、彼女は直様に対応する。 


地帝「...また、砂の餌食に──」 


──さぁぁぁぁ... 

砂がウルフを囲もうとしたその時、地帝はあることに気づけた。 

すでにウルフが退避をしていること、そしてもう1つ。 


地帝「...もう1人はどこ」 


女騎士を見失っていたことだった。 

ウルフの迅速な肉薄、そして退避に気を取られていた。 

だが見失ったもう1人はすぐさまに発見することができた。 


女騎士「悪いが、ここは引かせてもらう」ダッ 


地帝「──!」 


下の階へと続く進路を妨害している地帝。 

その真横を女騎士が全力疾走で通り過ぎていった。 

ウルフの行動は陽動、完全に踊らされてしまっていた。 


地帝「──させない...」 


──さぁぁぁぁぁ... 

ウルフへと向かおうとしていた砂は、女騎士を追い始める。 

やや距離を離されて入るが、人間の走行程度なら追いつけるだろう。 


ウルフ「──がうっ!」グイッ 


女騎士「──作戦通りだっ!」 


先程まで退避していたウルフが女騎士の背中を押しつつ並走をしていた。 

その桁違いの走行速度だからできる芸当であった。 

砂など追いつけるわけがなかった。 
764: :2018/12/19(水) 20:20:35.64 ID:
地帝「──くそ」 


女騎士(読みどおりだ...やはり鈍足か) 


女騎士「ウルフっ! そのまま作戦通りにやるぞっ!」 


ウルフ「うんっ!」 


ウルフの助力もあってか、かなりの速度を出している。 

すべてのバランスを背中を押しているウルフの手に託す。 

女騎士の足の回転数はとてつもないことになっていた。 


地帝「..."転移魔法"」シュンッ 


鈍足という弱点を補うための魔法を使わないわけがなかった。 

その詠唱速度は、ウルフたちの走行速度より早かった。 

魔王軍最大戦力のうちの1人なだけはある。 


ウルフ「──うわっ!?」 


地帝「ここは通さない...」 


女騎士「...っ!」 


──さぁぁぁぁぁぁぁ... 

もう少しで、階段に辿り着こうとした時だった。 

岩とかした身体を瞬間移動させ、そして砂を展開させた。 

再び地底は立ちはだかった。 


女騎士「...ふっ」 


地帝「...?」 


女騎士「読みどおりだ」スチャッ 


──ダァァァァァァァンッッ!! 

笑みを浮かべた女騎士が、砂に向かって発射する。 

なんも効果も得られない行為に思われた。 


地帝「...なぜ」 


女騎士「属性付与のおかげで、前方のすべてが攻撃範囲と化した」 


女騎士「私の衝撃は、たとえ砂ほどに小さい物でも弾き飛ばすぞ」 


──ジャコンッッ!! 

力強くポンプアクションを行いながらそう宣言する。 

そして射撃された方向の砂は全てどこかへ吹き飛ばされていた。 

先程女騎士が気づいたのはこのことだった。 
765: :2018/12/19(水) 20:22:04.56 ID:
女騎士(この武器は前方を全面的に攻撃するモノ...だが攻撃範囲に不規則性がある) 


女騎士(それを付与した衝撃で範囲を補い、文字通りに前方を全面的に攻撃することが可能になった) 


女騎士(適当に使った魔法が、奇しくもこのような効果を生むとはな...) 


まるで漁網のような攻撃範囲を得たショットガン。 

砂のように小さな物でも、射線にある限り攻撃が当たることになるだろう。 


ウルフ「──がおおおおおおっっ!!」 


女騎士「ウルフっ! 砂は私ができる限り抑えておく!」 


女騎士(あとは話したとおり、地帝の岩をできるだけ砕くんだ) 


女騎士(そして一度攻撃をやめ、岩を再生しようとした隙を狙って階段に向かうぞ) 


──ダダダダダダダダダダダダダッッッ!! 

──ダァァァァァンッッ! ジャコンッ! ダァァァァンッッ!! 

複数の攻撃音が大地を砕く。 

おそらくこれでも地帝にまともなダメージは与えられていない。 

だが時間が稼げればいい、ここで無理して勝利を掴むことはない。 


地帝「...」 


女騎士「...?」 


しかし、ことがうまく行き過ぎているような。 

そして地帝が無反応すぎる気がしている。 

このような劣勢な状況でも、このような性格を貫いているのだろうか。 


ウルフ「──おりゃあああああっっ!!」 


──バキッッッ!!! 

そんなことをしている間にウルフがほとんどの岩を砕きおわった。 

あとは砂だけであった、当然ながらすべての砂を対処することは不可能。 

ある程度の被弾は覚悟をしていた、ならば今しかなかった。 


女騎士(──今だ)チラッ 


ウルフ「──っ!」ピクッ 


目配せをする、一度攻撃をやめる時の合図だった。 

岩が再生している間に階段に向かおうとしたその時。 
766: :2018/12/19(水) 20:23:14.46 ID:
女騎士(...再生しないだと?) 


地帝「...」 


女騎士(...想定外だが、このまま行かせてもらおう) 


女騎士「ウルフ、行くぞ」 


ウルフ「う、うん...」 


女騎士「...ウルフ?」 


どこか、ビクついているような。 

どちらにしろ地帝は動く気のない様子だ。 

黙している彼女の横を通ろうとした。 


地帝「...気が変わった」 


──ピリピリピリッッ...! 

真横でとてつもない殺気を感じ取る。 

女騎士は鳥肌を立て、ウルフの毛は逆だっている。 


ウルフ「ひっ...!?」ビクッ 


女騎士「どういう...ことだ?」 


地帝「魔法が突破されようが、抵抗されようが激昂するつもりはなかった」 


地帝「だが後悔しろ...人間の分際で"その剣"を持っていることを...」 


岩のなかから、元の地帝が生まれる。 

その形相は無表情の乙女のモノではなかった、そしてその手には1つの剣が。 


女騎士「──ウルフっ! 戻るぞっっ!!」 


ウルフ「──う、うんっっ!」 


地帝「"属性同化"、"衝"────」 


剣に魔法がかけられていく。 

その見た目はまるで、ビームセイバーのようなモノに。 


地帝「──"地魔法"」 


──メキメキメキメキメキッッ!! 

地帝によって展開した大地は下へと続く階段と上へと続く階段を封鎖した。 

完全に退路を塞がれてしまった、もう彼女から逃れられない。 
767: :2018/12/19(水) 20:24:35.99 ID:
女騎士「...本気でみたいだな」 


ウルフ「こ、こわい...」 


女騎士「よくわからないが...この魔王子の剣が逆鱗か...」 


地帝「あの世で朽ち果てろ...」ダッ 


女騎士「──来るぞっ!」 


地帝「──オラァッッ!!」 


──ガギィィィィィィイインッッッ!! 

鈍足だった地帝が迫り来る、その速度は決して速くはなかった。 

それでいて遅くもなかった、衝撃と衝撃がぶつかり合う。 

方や剣、方や銃身が鍔迫り合う。 


女騎士「──うわあああああああああっっっ!?」 


──ビリビリビリッッッ! 

まるで電撃が走ったかのような衝撃が女騎士を襲った。 

その衝撃に人間は耐えられるわけもなく、身体ごと弾かれてしまった。 


女騎士「くっ...参ったなぁ、武闘派だったのか...」 


地帝「...立て」 


ウルフ「女騎士ちゃんっ...!」 


女騎士「ウルフっ! 逃げてろっ!」 


ウルフ「で、でもぉ!」 


地帝「...死にたくなければさっさと消えて、殺すのはこの人間だけ」 


ウルフ「...っ!」 


どうしたらいいのかわからない。 

この激戦というなか、思わず立ち尽くしてしまう。 

それほどに、動物に近い彼女は地帝の殺気に煽られてしまっていた。 


女騎士「くっ...かかってこいっ!」 


地帝「...」 


それを見かねて、女騎士は自らを誘発する。 

とにかく狙いをこちらに、動けないウルフに標的がいかないように。 
768: :2018/12/19(水) 20:25:50.23 ID:
地帝「"属性同化"、"衝"」 


そして再び、同じ魔法を唱えた。 

今度は身体全体ではなく、左手だけ。 

彼女の右腕には衝撃の剣、左手は衝撃の拳が出来上がっていた。 


地帝「"転移魔法"」シュン 


女騎士「──目の前かっ!?」スチャ 


地帝「...はあああああああああああああっっっっ!!!!!」スッ 


──バキバキバキバキッッ! 

まるで何かが砕けた音が響いた。 

目の前に現れた地帝、女騎士は不幸にも剣での攻撃に備えていた。 

しかし彼女が突き出したのは左手であった。 


女騎士「────がはっ...!?」 


女騎士(よ、鎧が...) 


地帝「...鎧は砕いた」 


地帝の掌底により露わとなった女騎士の腹部。 

女性特有の柔らかでいて、引き締められた筋肉、そこに衝撃の剣が向けらた。 


女騎士「────っっっ!!」 


──サクッ... 

掌底のあまりの威力に朦朧としていたせいか、すんなりと刃を許してしまっていた。 

しかし身体に妙な違和感を覚える、刺された箇所が熱くならない。 


女騎士「...これは?」 


地帝「実体のない剣、血はでない」 


地帝「地獄をみるのはこれから...」 


女騎士「...?」 


──ドクンッ!! 

身体の中から、なにかが沸騰したような感覚が走る。 

腹部から侵入した衝撃が彼女の全身に駆け巡る。 


女騎士「──ぐああああああああああああああああああああああああああああっっっ!?!?!?」 


ウルフ「女騎士ちゃんっ!?」 


女騎士「ああああああああああああああああああああっっっ!?!?」 


思わず、力強く握っていたショットガンを落としてしまう。 

内蔵が全てぶちまけてしまいそうな、今まで感じたことのない痛みが彼女を叫ばしていた。 
769: :2018/12/19(水) 20:26:48.18 ID:
地帝「...このまま本当に破裂させる」 


地帝「歴代最強と言われる魔王様の魔剣...人間如きが所持したことを後悔しろ...」 


女騎士「あああああああああああああああああっっっ!?!?」 


ウルフ「や、やめてよっっ!!」 


地帝「...」 


──ピリピリピリッ...! 

ただの殺気が、再びウルフを襲う。 

自分の中に眠る、野生の本能が叫んでいる。 

絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。 


ウルフ「────っっ!!」ビクッ 


地帝「...そのまま死ね」 


女騎士「ああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」 


絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。 

絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。 

絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。 

絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。 

絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。 

絶対に────。 


ウルフ「...くぴっ」ゴクッ 


地帝「...!」 


──ブチッッ... 

何かが、切れる音が聞こえた。 

そして感じるのは、殺しを求めたケモノのような殺気。 


地帝「...それは」 


ただの野良魔物だった彼女に、膨大な量の魔力が集まる。 

彼女の手には空き瓶が握られていた、その目つきは先程までの柔らかなものではなかった。 


地帝「...魔力薬」 


ウルフ「...」 


女騎士の悲鳴がまだ響いているというのに。 

まるで地帝とウルフしかいないような場の雰囲気と化している。 

それほどに地帝は警戒をしている、そしてついにウルフは牙を剥く。 
770: :2018/12/19(水) 20:28:38.95 ID:
ウルフ「────ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!」シュンッ 


地帝「──っ!」 


──グチャッッッッ!!! 

まるで、転移魔法のようにみえた。 

気づけば地帝の肩の肉は噛みちぎられていた。 


地帝「..."治癒魔法"」ポワッ 


ウルフ「グルルルルルルルルルルルルル...」 


地帝「..."属性同化"、"地"」 


大地が地帝の肌を護る。 

たとえ狼であろうと、牙で岩を砕くことは不可能。 

再び守りの型に移行しようとした。 


ウルフ「────ッッッ!!」シュンッ 


──ガコンッッッ!! 

属性と同化しようとした最中だった。 

まだ変化をしていない頭に強烈な裏拳が入った。 

予備動作なしでのこの速度、完全に油断した一撃。 


地帝「...っっ!!」グラッ 


地帝「ここまで...速いか...」 


身体がよろけつつも、完全に大地へと同化し終えた。 

これによりウルフの物理的な攻撃はすべて無力化できる、再び優位に立つ。 


地帝「...」 


ウルフ「グルルルルルルルルルル...」 


地帝「暴走に近いのか...さぁどうする、獣」 


ウルフ「...グルルルルルルルル」 


ウルフはまるで檻の前に佇む獅子のような立ち回りを見せている。 

簡潔に言うと様子見に近い行動だった、そしてそれは地帝も同じであった。 


地帝「...」 


地帝が物静かに、考察を練る。 

あの魔力薬は誰のものかのか、どのようにして得たのか。 

悠々として時間を掛ける、それほどまでに属性同化の防御力を信頼している。 
771: :2018/12/19(水) 20:30:47.01 ID:
地帝「...」 


ウルフ「グルルルルルルル...」 


当然だった、この防御力の前にして通用する攻撃などない。 

近接攻撃はもちろん、下位属性の魔法など相性が悪くなければ簡単に受けることができる。 

しかし、彼女は忘れていた。 


ウルフ「──ガアアアアアアアアアアアァァァァァッッッ!!」ダッ 


地帝「...くるか、獣」 


今度は見える速度で迫ってきた。 

どうやら、連続してあの見えざる速度を出すことができないらしい。 

万が一に備え地帝もウルフに注視した、してしまったのであった。 


地帝「────っ!?」 


────■■■... 

まるで岩が、紙のような音を立てて砕かれる。 

そして続くのは爆発したような音、最後に響くのは衝撃の音。 


女騎士「...私がいることを忘れるな」スチャ 


────ダァァァァァァァァァンッッッ!! 

彼女は地帝に突き刺した、闇をまとうベイオネットを。 

そしてそこから射撃するのは衝撃のショットガン、とてつもない威力であった。 

腹部を嬲られていたというのに、彼女は立ち上がりウルフを援護する。 


地帝「...その状態になっても、闇を纏えるだなんて」 


地帝「歴代最強の魔王様...とてつもないお方です...」 


女騎士「──ウルフっっ! 頼んだぞっっ!!」ポイッ 


ウルフ「────ッッ!」スチャ 


地帝「──理性があるのか」 


獣と化していたウルフ、半ば暴走に近いものと勝手に地帝は認識していた。 

しかしその水面下ではしっかりとした理性が残っていた。 

それがどれだけ恐ろしいことなのか。 


地帝「──がぁっ...ぐっ...!?」 


──サク■ッ! サクサク■■ッッ!! 

銃剣によるでたらめな刺突、そしてでたらめな速度の攻撃。 

ウルフに手渡されたショットガン、その先に装着した魔王子の剣が大地を砕く。 
772: :2018/12/19(水) 20:32:28.14 ID:
ウルフ「────ッッ!?」ゾクッ 


女騎士「──それ以上持つなっっ!! こっちに投げろっ!」 


ウルフ「...ッ!」ポイッ 


女騎士「──ぐっ...!」ゾクッ 


投げつけられたショットガンを受け止める。 

すると身体に様々な反応が起きる、ショットガンの先からでる闇が少しばかり身体に付着すると。 


女騎士「...クソ、ものすごく不快だ」 


女騎士「魔法使いに嬲られていた時のほうがマシだな...」 


女騎士(だが正解だった...魔剣士の使い方を真似たが、やはり魔力を剣に注ぎ込めば属性を放ってくれるみたいだ) 


地帝「...闇の魔力を持たない者に、耐えられるわけがない」 


地帝「尤も...人のことをいえない...がな...」 


女騎士「...!」 


地帝「身体が痛む...まさか折れてもなお、威力を保っているとは...」 


地帝「いや...折れてようやく、この威力に抑えられたと言うべきか」 


地帝「傷口から闇が身体に侵入した...もう治癒魔法など効かないだろう」 


女騎士「...無口がよく喋るな?」 


地帝「...こうして口を動かしていないと、気が飛んでしまいそう」 


地帝「その一方で、その獣は逆みたい...」 


そう見透かされて、女騎士は横目でウルフを確認する。 

その様子はまるで毒を盛られ、身体が悶ているかのようなモノだった。 


女騎士「...ウルフ、大丈夫か?」 


ウルフ「話しかけないで...ッッ!」 


女騎士(魔力薬の影響か...女賢者が言っていたアレだな) 


女騎士(この様子だ、少しでも気を緩めれば巨狼化してしまうのだろうか) 


女騎士(...しかしそうなってしまえばこの戦いは不利になる) 


巨狼化してしまえば、どうなってしまうのか。 

戦闘力が上昇するかもしれない、なのになぜ抑えているのか。 
773: :2018/12/19(水) 20:34:04.64 ID:
女騎士(...人の形でなければ、先程の奇策もできなかった) 


女騎士(そして...あの予備動作なしでの俊足も、出せないのだろうな) 


女騎士(...さらに、身体が大きくなるということがどれほど不利なことか) 


人としての手がなければ、ショットガンを受け取ることはできなかった。 

人としての足がなければ、予備動作なしでの俊足で不意をつけることができなかった。 

人としての大きさがなければ、地帝の魔法の格好の的になる。 

飲まなければよかったかもしれない、だがそうしなければ地帝の殺気で動けなかっただろう。 


女騎士(...戦闘と言うものをよくわかっている) 


女騎士(キャプテンが影響しているのか、それとも直感でわかっているのか) 


女騎士(どちらにしろ、溢れ出る魔力を無理やり抑えているんだ...下手に刺激させるのは絶対に駄目だ) 


女騎士「...わかった、返事はしなくていい」 


ウルフ「フーッ...フーッ...」 


地帝「...フっ」 


地帝が笑う、ボロボロの岩の見た目をしているというのに。 

しかし次の瞬間、その岩から元の地帝が現れた、属性同化を解除した様子だ。 


女騎士「...何がおかしい?」 


地帝「...久しぶり」 


女騎士「...?」 


地帝「燃えてきた...」 


────ゾクッッッッ!!! 

背筋が凍る、まるで氷魔法を受けたかのような錯覚。 

しかし地帝が放ったのはただの言葉、それだけであった。 


女騎士「────っっっっ!?!?!?」ビクッ 


女騎士(なんだ今の殺気は...いや...違うっ!?) 


地帝「地の属性同化を使えば鈍足になる...陳腐な攻撃も避けることができない」 


地帝「しかし、避けばければその闇の剣が身体を簡単に砕く...」 


地帝「だからと言って使わなければ、その獣による攻撃の格好の的...」 


地帝「衝の属性同化を身体に使おうと思ったが...それはもういい」 


地帝「火照った身体が、昔の戦い方を思い出させる...」 


地帝「...やはり最後に頼れるのは」 
774: :2018/12/19(水) 20:34:33.49 ID:
「我が身のみ」 









775: :2018/12/19(水) 20:36:03.03 ID:
その言葉と共に、静寂が訪れた。 

地帝が衣を破り捨てる、その見た目は肌着だけをきている女児。 

とてつもない雰囲気を醸し出している、それを見て先程感じ取ったモノを女騎士は理解する。 


女騎士「..."闘志"か」 


地帝「..."転移魔法"」 


自身ではなく、目先にある物に魔法をかけた。 

先程まで女騎士を苦しめていた衝撃の剣を両手で握りしめた。 

まるで持ち主の感情に煽られたのか、剣が地帝の身体よりも大きくなる。 


ウルフ「フッー...フーッ...」 


女騎士「...剣術か」 


地帝「...」 


どのような剣術でくるかわからない。 

女勇者のように堅実なものなのか、魔剣士のように派手な動きなのか。 

千差万別、どのような型の剣術がきてもいいように身構える、だがそれが仇となる。 


地帝「"拘束魔法"」 


女騎士「──なっ!?!?」 


地帝「先に獣からやらせてもらう...」 


女騎士「──クソっ! しまったっ!!」 


まさか、この場面でこのような魔法がくるとは思わなかった。 

魔法陣が女騎士の身体を強く縛り上げる、彼女はもう自由に動けない。 


ウルフ「────ッッッ!!!」 


地帝「行くぞ...」シュンッ 


先程とは比べ物にならない、鈍足の彼女はもういない。 

両手で持った衝撃の剣で、地面を削りながら肉薄してきた。 

彼女の通った道はボロボロに。 


ウルフ「ガアァァァァァァァァァッッッ!!」ブンッ 


地帝「──っっ!」ブンッ 


────ッッッッッッッ!! 

音にならない衝撃音が響く。 

毛で覆われた拳と、衝撃の剣が鍔迫り合う。 

互角と思われる力比べ、しかし当然ながら地帝に分があった。 
776: :2018/12/19(水) 20:37:50.90 ID:
ウルフ「──っ!?」 


地帝「貰った...」 


──ブゥンッ...! 

刀身は常に原型を保っておらず、動きに生じて剣の形は変化する。 

その不安定な動きにウルフは対応できず、地帝の新たな動きを許してしまった。 


女騎士「──斬り上げかっっ!?」 


同じ剣術を嗜んだものですらようやく気づけた。 

鍔迫り合いをしていた地帝の構えが、いつのまにかゴルフのスイングのような構えに変化していた。 


ウルフ「──ウッッ...!?」 


────ビリビリビリビリッッ...! 

雷とは違った身体の痺れがウルフを襲う。 

斬り上げ攻撃の衝撃に、ウルフの身体が宙に持ち上がる。 


地帝「まだ続けるぞ...」ダッ 


斬り上げから、次の攻撃へと移行する。 

フルスイングを終えた地帝はそのまま跳ねる。 

そして行なったのは前宙に近い行動だった。 


ウルフ「────ッッッ...!」 


──ブゥンブゥンブゥンッ...! 

剣の動きが前宙により変化する。 

まるで風車のような軌道を帯びたソレ。 

容赦のない連続攻撃がモロに身体を痛めつける。 


地帝「まだだ...」スッ 


前宙を終え、再び動きを変化させる。 

宙に浮く自らの身体を安定させ、両手を上に構える。 

この無重力じみた地帝の行動、超高速の剣術移行速度がソレを可能にしていた。 


女騎士「────兜割りだっっ!! 腕で頭を守れ、ウルフっっ!!」 


ウルフ「──ッッッ!!!」スッ 


地帝「────オラァッッッッ!!!」 


────メキメキメキメキメキメキッッッッ!! 

2つの要素が重なり、このような音を立てる。 

1つは兜割りによってウルフを叩きつけられた地面が砕ける音。 

そしてもう1つは、それを受けたウルフの両手の骨が悲鳴を上げる音。 
777: :2018/12/19(水) 20:39:15.25 ID:
ウルフ「──ガ...ハァ...ッ!」ドサッ 


地帝「...直撃は防いだとはいえ、まだ息があるか」 


女騎士「──ウルフっっ!!」グググ 


拘束魔法により、なにもすることができない。 

気づくとその悔しさにより口の中が鉄分の香りに包まれていた。 

血を飛ばしながらウルフの無事を問いかける。 


ウルフ「う...ゲホッ...」フラッ 


地帝「立ち上がるか...」 


女騎士「──もういいっ! 立ち上がるなっっ!!」 


地帝「...獣、生まれは?」 


ウルフ「......」 


地帝「...答えないか、それとも無意識で立ち上がったのか」 


女騎士「おいっ! ウルフはもうなにもできないだろっ!」 


女騎士「私が相手だ、かかってこいっっ!!」 


地帝「黙れ...数十年も倦怠はしたがこれでも剣士だ...」 


地帝「立ち上がる敵は切り伏せる...これが礼儀だ...」 


ウルフ「......」 


──シュウシュウシュウッ...! 

衝撃の剣に、力が蓄えられる音だった。 

立ち往生するウルフ、その眼差しは鋭いまま。 


女騎士(────受ける気か) 


女騎士(ならば...これしかないな...) 


女騎士「...ウルフ、いまからひどいことをするぞ」 


女騎士「私も過去に試したことがある...身体への負荷は凄まじかった」 


女騎士「...許してくれ」 


ウルフのみなぎる闘志が、女騎士を非情にさせる。 

身体は封じられ、もう手段はこれしかなかった。 

彼女が得意なあの魔法、それがウルフの拳に付与される。 
778: :2018/12/19(水) 20:40:17.64 ID:
女騎士「────"属性付与"、"衝"」 


ウルフ「────...ッ!」ピクッ 


────メキッ...! 

ウルフの両手に激しい痺れが伴う。 

下位属性の魔法が行ってはいけない禁忌。 


地帝「馬鹿な...なにをしているかわかっているのか?」 


ウルフ「...ッ」 


地帝「下位属性を身体に付与させると、自らの身体も傷つける」 


地帝「それを避けるために近年、属性同化という魔法が極秘に研究された」 


女騎士「...どおりで聞いたことがなかったのか」 


地帝「これでは手を下す前に、獣の身体は滅ぶぞ...」 


女騎士「さぁ、どうだかな...」 


ウルフ「......」 


地帝「──っ!」 


女騎士に向かって、地帝は怒声に近い言葉を発していた。 

しかしふと、ウルフの方を見てみるとその表情は変わらずにいた。 

不滅の闘志が彼女の眼をギラつかせる。 


地帝「...その目を止めずに、受けてみろ」 


──ブゥンッッッッッ...! 

まるでムチをしならせるか如く、衝撃の剣を振るう。 

魔剣士が使う剣気、女騎士が真似ることができる衝撃。 

それらを遥かに超える衝撃がウルフに向かい襲いかかる。 


ウルフ「......ッッ!」シュンッ 


地帝「──やはり避けるか」 


放たれた衝撃など、お互いに無視をしていた。 

肉薄してきたウルフに対抗するべく、すぐさまに剣を構える。 
779: :2018/12/19(水) 20:41:52.95 ID:
ウルフ「──ウラウラウラウラウラウラッッッッ!!」 


地帝「──...っ!」 


──ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッッッッ!! 

──ブゥンブゥンブゥンブゥンブゥン...ッ! 

ウルフから連続で繰り出される、衝撃の拳。 

相殺するように連続で振り回される、衝撃の剣。 

常人には見えることのできない、超速度の出来事だった。 


地帝(...属性付与自体の威力は大したことはないが) 


地帝(拳を剣で受けるときの衝撃が手元を狂わせ始めている...) 


──ドゴォッッッ...!! 

そんなことを思った矢先、手元が狂う。 

ウルフの連続パンチの1つが、地帝の懐に直撃する。 


地帝「──ゲホっっ...!?」 


ウルフ「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラッッッ!!」 


地帝「くそっ...」 


血を吐きながらも、併行して相殺を続けていた。 

パンチを食らった感想すら言わせてくれない。 

しかし、それはウルフも同じだった。 


地帝(こちらも1回は攻撃を受けた...あまりの威力に腕が止まりそうだった) 


地帝(だが...あの獣...もう何度も攻撃を受けているというのに) 


実はウルフも地帝がパンチを食らったのと同じく、何度も返し刃を食らっていた。 

普通ならなんらかしらの反応があってもいい威力、それも1度だけではなく数回も。 

しかしこの獣は無反応で攻撃を続けていた。 


地帝(残っているのは、野生か) 


地帝(それもそうか、痛みを感じる暇があるなら拳に付与された衝撃でのたうち回るはずだ) 


地帝(魔力薬で強化されたといえ、この地帝をここまで追い詰めるとはな...) 


地帝「...燃えてくる」 


ウルフ「──...ッ!」 


────ブゥンブゥンブゥンブゥンブゥンブゥンッッッ!! 

相殺の速度が上昇した。 

種も仕掛けもない、単なる意地にも似た闘志が地帝を強くする。 

そして、被弾も覚悟で剣の構えを変える。 
780: :2018/12/19(水) 20:43:49.48 ID:
地帝「...そこだ」 


──ドゴォッ...! 

身体に軋む音が、1度だけではなく何発も響いた。 

そしてその音に続くのは地帝側のモノ。 


地帝「────オラァッ!!」 


──ブゥンッ...! 

横に一線、衝撃の剣がウルフの拳を避け腹部に斬りつける。 

下がるのではなく前進しなければ、斬り下がりと言える剣術だった。 


ウルフ「──ガハッ...!」 


地帝「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ...」 


さすがのウルフも、地帝も痛みに悶える。 

地帝によって斬り吹き飛ばされたウルフはそのまま倒れ込む、完全に勢いを殺された。 


ウルフ「グッ...ゲホッ...」ピクピク 


地帝「...痛みを思い出せたか」 


ウルフ「う、うぅ...痛いよぉ...」 


地帝「...どうやら、魔力薬の効果も限界らしい」 


ウルフ「うぅぅぅぅぅぅぅぅ...」 


地帝「よくやった...この闘いは忘れない...」 


地帝「だから...もうくたばれ──」 


────ブゥンッ...! 

先程のような剣気じみた衝撃が放たれる音。 

それが聞こえるはずだった、しかし実際は違う音だった。 


地帝「────な...っ!?」 


──■■■■■■■■■■... 

闇が忍び寄る音、熱き闘いに夢中になりすぎていた。 

その音とともに身体は悲鳴を上げる。 


地帝「投槍か...随分と不意をついたな」 


女騎士「...ここは戦場だ、死ぬ者が悪い」 


地帝「それも...そ、うか...」 
781: :2018/12/19(水) 20:45:49.00 ID:
女騎士「しかし...闇というのは...凄まじ...い、威力だな...」 


地帝「...最強の魔王様が宿っているからな」 


女騎士「...なる、ほど」 


地帝「魔剣にありったけの魔力をつぎ込んだか...」 


女騎士「そう...だ...」 


魔力を得た魔剣が闇を溢れ出していた。 

女騎士の魔力だけあって、かなり純度が低い。 

しかしそれでいても、地帝の身体に致命傷を与えるのには十分であった。 


地帝「なんて威力だ...折れていても...粗悪な魔力を餌にしても...」ポタポタ 


地帝「血が止まらない...身体が闇に破壊されていくのがわかる...」 


地帝「だが...朽ち果てる前にお前は滅ぼす...」スッ 


女騎士「ここ...までか...」ドサッ 


闇のショットガンが地帝の背中に刺さっている。 

槍のようなそれを抜いて投げ捨て、彼女は衝撃の剣を構えた。 

どうしても、女騎士だけは殺したくてたまらなかった。 


ウルフ「────ッ!」 


その様子を見て、ウルフは確信した。 

ここしかない、ここでアレをやるしかない。 

自らが抑え込んでいた野生をここで開放する。 


ウルフ「────アォォォォォォォォォォオオオオオンッッッ!!」シュンッ 


──グチャッッッ!! 

魔力薬の効力も切れかけの影響か、その姿は人でもなく狼でもない。 

非常に不安定な見た目をした獣人が、背後から尋常じゃない速度で地帝の首元に齧り付く。 


地帝「────っ」 


──ボキッ...! 

有無を言わさずに、首の骨を砕く。 

歴然の狩人である狼が、隙を与えるわけがなかった。 

不意打ちに不意打ちを重ねられ、地帝はついに沈黙する。 
782: :2018/12/19(水) 20:51:48.18 ID:
地帝「────」 


ウルフ「グルルルルルルルルルルルルル...」 


──グチャッ...グチャグチャ...! 

まるで死肉を喰らう狼、その口元は紅黒く染め上がる。 

その光景にはとても恐ろしい野生が込められていた。 


女騎士「...ウルフ、もういいんだ」 


ウルフ「...ッ!」ピタッ 


女騎士「そいつはもう...死んださ...」 


ウルフ「...女騎士ちゃん」 


逆だっていた毛、不安定な見た目、そして理性のない言葉。 

それらが消え失せた、ウルフの飲んだ魔力薬はついに効果が無くなった。 

そこに残ったのはムゴい死体と横たわった騎士、そして腕をぶら下げた獣。 


女騎士「私も...だめみたいだ...」 


女騎士「魔剣に魔力を注ぎ、大量の闇を溢れさせ...拘束魔法を壊した...」 


女騎士「しかし...その際に私に付着した闇が想定外の威力を誇っていた...」 


女騎士「身体が...もう動かない...」 


ウルフ「そんな...」 


女騎士「...ウルフ、すまない」 


女騎士「お前にやった、属性付与...痛かっただろ?」 


ウルフ「...うん」 


女騎士「やっぱりか...私も昔試したことがあったが...」 


女騎士「あのときは痛みのあまり、一日中寝込んだな...」 
783: :2018/12/19(水) 20:56:48.49 ID:
女騎士「...今、それを解除してやる...こっちにおいで」 


ウルフ「...うん」 


──ふわりっ... 

その擬音には2つの意味が込められていた。 

1つはウルフが女騎士に寄り添った音、そしてもう1つは香り。 

血に染まった嫌な匂い、その中にウルフのお日様みたいな匂いが残っていた。 


女騎士「...これで、どう...だ?」 


ウルフ「だいじょうぶ...もう、いたくないよ...」 


女騎士「...よかった」 


ウルフ「...えへへ」 


いつものウルフがそこにいた。 

口元はドス黒い紅に染まっているが、この子は間違いなくウルフだ。 

そんな癒やしの笑顔を見れた女騎士は、この忠犬に言葉を告げた。 


女騎士「...私のことは置いて、先に行ってくれ」 


ウルフ「わか...た...よ」 


女騎士「...ウルフ?」 


ウルフ「ごめ...だ...め...」 


──ばたんっ...! 

当然だった、いくら魔力薬を得たとしてもただの野良魔物だったウルフ。 

今まで身体の危険信号を無視していたツケがここにきてしまった。 

微かに息はある、しかし動くことはできない。 


女騎士「...頑張ったな」 


女騎士「魔王子...すまない...キャプテンと合流...できなさ...そう...だ」 


そして彼女も、ゆっくりと瞳を閉じる。 

彼女もまた微かに息がある、まるで寝ているようだった。 

激戦を終えた2人がここに休息する。 


???「..."治癒魔法"」 


~~~~ 
784: :2018/12/19(水) 20:58:04.07 ID:
今日はここまでにします、近日また投稿します。 
下記はTwitterIDです、投稿をお知らせする手動BOTです。 

@fqorsbym
785: :2018/12/20(木) 22:32:53.00 ID:
~~~~ 


水帝「...けど、この私も舐めてもらっては困るのよ?」 


妖艶でいて、ただならぬ威圧感を醸し出す。 

その声の主は魔王軍最大戦力の1人、水帝である。 


女賢者「...それはこちらも承知です」 


スライム「...」 


水帝「じゃあ...行くわよ?」 


女賢者(まずは様子見をするしかありません...) 


女賢者「..."防御魔法"っ!」 


女賢者とスライムの肌を優しく包む。 

どのような魔法がきてもいいようにまずは守りを固めた。 

これは戦術の基本である、悪手ではない。 


水帝「..."属性付与"、"水"」 


──ざぱぁっ... 

どこからか、波が立つような音が響く。 

この魔法をどこに付与させるのか、そう考えた女賢者は少し侮っていた。 


女賢者「...とてつもないですね」 


スライム「あわわ...」 


水帝「水は私の、得意な場所ですからねぇ」 


女賢者「...まさか、床一面に属性付与をするとは」 


気づけば皆の足元は水浸しどころか、太もも付近まで水に満ちている。 

魔王城の1階が大洪水に、それだけでかなりの魔力量が伺える。 

自分の得意な場を作る、それが水帝の戦術であった。 


女賢者(ここまでの規模とは...属性付与の範囲を見誤ったのが悔やまれます) 


女賢者(しかし...ここからどう動くつもりなんでしょうか) 


スライム「うぅ...足元がふらつくよ」 


水帝「..."水魔法"」 


水帝の足元の水が大きな激流が如くに荒れる。 

そしてそれが、そのままこちらに向かってきた。 
786: :2018/12/20(木) 22:34:49.62 ID:
女賢者「...っ!」 


スライム「──下がっててっ!」サッ 


女賢者「頼みますよ、スライムちゃん!」 


スライムが前に出ることによって女賢者の身を守る。 

しかし水帝の狙いは別のものだった、彼女が新たに唱える魔法が女賢者には見えた。 


女賢者(あの詠唱は...) 


女賢者「...」ブツブツ 


口の動きだけで、なんの魔法を唱えているのかがわかった。 

読心術めいたその賢者としての能力、水帝の魔法に備えこちらも詠唱を行う。 


水帝「..."雷魔法"」 


────バチバチッッッ... 

彼女自身の属性ではないためが、魔女の雷よりはるかに劣る。 

しかしそれでいて、風属性が弱点であるスライム族を葬るには十分な威力だった。 

水魔法は急激に勢いがなくなる、完全にフェイクであった。 


スライム「──う、うわっ!?」 


女賢者「...させません、"衝魔法"」 


──ゴォォォォォォオオオッ... 

女賢者が得意とする地属性の衝魔法。 

下位属性の相性、その優劣は後出しが有利である。 

かなり威力のある衝に雷は打ち消され、水帝の魔法は無に帰る。 


水帝「...ふぅん?」 


女賢者「スライムちゃんの弱点である風属性を...そう簡単に通すわけにはいきません」 


スライム「あ、ありがとう女賢者ちゃん...!」 


水帝「下位属性の相性を持ち出してくるのね...お利口さんねぇ」 


水帝「頭を使う闘いは好きよ...炎帝も風帝も地帝も脳筋さんだからつまらないわぁ」 


水帝「あの人たち...他の属性も使えるのに、威力や使いやすさを求めて得意な属性しか使わないから...」 


女賢者(私も地属性以外はからっきしだとは言えませんね...) 


女賢者「...褒め言葉として受け取ります」 
787: :2018/12/20(木) 22:36:19.28 ID:
水帝「でも...炎と水属性に対して無敵を誇るスライム族」 


水帝「そしてスライム族の弱点である風属性に抵抗できる貴方」 


水帝「...一筋縄じゃいかないわねぇ」 


女賢者「...」 


スライム「...」 


口数が減る、全神経を水帝に向かわせなければいけない。 

まだ底をしれない、四帝である彼女に油断だけはしてはならない。 

しかしすでに遅かった。 


水帝「やっぱり私も、得意な魔法が一番かもねぇ...?」 


女賢者「──っ!?」 


──こぽこぽっ... 

女賢者の足元、太ももまで浸かっている水が反応を見せる。 

肝心なことを忘れていた、それは先程水帝が行った魔法。 

水魔法を囮としたスライム特攻の雷魔法、もしその雷魔法ですら囮であったのなら。 


水帝「──はい、つかまえたぁ」 


────ざぱぁっっっっっっ!! 

まるで荒波が打ち寄せたかのような激しい音。 

それとともに現れたのは、まるで意思を持ったかのような水。 

気づけば女賢者の全身はその水に囚われていた。 


女賢者(しまった...本命は水魔法でしたか...)ゴポゴポ 


スライム「お、女賢者ちゃんっっ!?」 


水帝「...防御魔法に助けられたわね」 


過去に海の底を防御魔法を駆使して歩いた過去がある。 

それと同じ光景がこの魔王城でも起こっていた。 

防御魔法が周りの空気を固定しており、女賢者は窒息をせずに済んでいた。 


女賢者(ひとまずは無事を確保できていますが...これでは...) 


女賢者(当然ながら周りの音が聞こえない...視力だけで状況を確認しなければ...) 


女賢者(本当なら...泳いで脱出したいのですが...) 


──ミシミシッ...! 

なにかが軋む音が女賢者にだけ聞こえている。 

防御魔法の膜が、水の圧力に抗っている音だった。 


女賢者(とてつもない圧力です...動けません...) 
788: :2018/12/20(木) 22:38:00.65 ID:
水帝「...さて、いくわよ?」 


スライム「...っ!」 


女賢者(あれは...雷魔法の詠唱...っ!) 


水帝「..."雷魔──」 


スライム「────っ!」 


────ばしゃんっ! 

水帝が詠唱を終え、魔法を放とうとした時だった。 

そのときのスライムの表情はいつもと違って鋭かった。 

まるで何か策があるような顔をして、身体を足元の水に預けた。 


水帝「──"水化"かぁ...厄介だわ」 


女賢者(...スライムちゃんがついに、動きましたか) 


女賢者(大賢者様から詳細はじっくりと聞いています...任せましたよ?) 


水と同化し完全に姿を隠したスライム。 

水帝はある方法を駆使して対処しようとしたその時。 

思わず彼女の思考が止まった、ある魔法によって阻害された。 


水帝「...やられたわぁ、あの防御魔法の仕業ね」 


水帝「少し...油断したかしらぁ...」チラッ 


動きを封じられている女賢者を軽く睨む。 

水帝戦の一番始め、防御魔法にある仕組みがあった。 

すこしばかり辺りを見渡す水帝を見て、女賢者は察する。 


女賢者(...もしかして、水帝は魔力を感知することができないのでは?) 


女賢者(感知ができればスライムちゃんが水化した所で、すぐに発見できるはずです) 


女賢者(...いや、違う...魔王軍最大戦力である彼女が感知能力を持っていないはずがありません) 


女賢者(まさか...防御魔法...?) 


始めの悪手ではない魔法が、図らずとも最善手となっていた。 

防御魔法に包まれたスライム、その魔法は女賢者によるもの。 

魔法は魔力に満ちている物、それが意味するのは1つ。 
789: :2018/12/20(木) 22:39:35.40 ID:
女賢者(...なるほど、そういうことですか) 


女賢者(ならば、私ができることはこれしかありません) 


女賢者「..."水魔法"」 


唱えられた魔法が湧き水のように垂れ流される。 

水の中で水を出したところでなにも変わらない、ただ流されるだけであった。 

動きを見せた女賢者に水帝は感づいてしまう。 


水帝「...気づかれたわね、私が感知ができない理由を」 


水帝「鬱陶しいわぁ...この水の中、あの人間の子の魔力が点々としているじゃない」 


水帝が魔力の感知をしない理由が明白になる。 

スライム自身の魔力が、女賢者の魔力によって包まれていた。 

女賢者の魔力によって作られた防御魔法、それが隠れ蓑と化していた。 


女賢者(こちらを睨んでますね...どうやら読みが当たりました) 


女賢者(おそらく先程雷魔法を衝魔法で打ち消した時にも、私の魔力が辺りに散らばったと思われます) 


女賢者(さぁ...水の中で水を探すことはできますでしょうか) 


彼女自身、防御魔法、衝魔法、そして水魔法。 

様々な要素で散りばめられた魔力が感知を困難にしていた。 

足元の水が波のように動く、それに伴い魔力も流れている。 

どの魔力がスライムを包んでいるモノか、判断などつくはずがなかった。 


水帝「...面倒くさいわぁ、一度解除しましょう」 


風呂の栓を抜いたかのように水が消え始める。 

水の中で水を探すのは不可能、当然の判断であった。 

足元の水が消え失せて辺りは元の光景へと戻る、水に拘束され続ける女賢者を除いて。 


水帝「さてと...どこに打ち上げられたかしらぁ」 


水がなくなった今、感知なんかせずに目視でスライムを見つけることができる。 

しかし辺りを見渡しても彼女はいなかった、困惑するを前に水帝の口は動いていた。 


水帝「..."氷魔法"」 


────パシュッッ...! 

殺人的な威力を誇る速度でつららが発射された。 

その先にはあの水があった、女賢者を拘束するあの水。 


女賢者「────っ!」 


──ぽよんっ 

そのような可愛らしい音が響く。 

つららは水を貫いていたが、途中で勢いを殺された。 
790: :2018/12/20(木) 22:41:50.06 ID:
水帝「...遅かったわね」 


スライム「...へへんだ」 


水帝「...もういいわ、一度魔法を解除してあげる」 


──バシャンッ! 

拘束していた水が消え失せた。 

そこには弾力のある水が女賢者を完全に包んでいた。 

女賢者が合図をすると、その水は彼女から分離した。 


女賢者「...助かりました、すでに防御魔法は破られてて...あのまま水圧で潰されるかと思いましたよ」 


スライム「どういたしまして! 女賢者ちゃんもありがとうね!」 


女賢者「お互い様ですね、次は不意をつかれないようにします」 


水帝「...既に私の水魔法に突入しているだなんて、入れ替わっていることに気づけなかったわ」 


女賢者「それは私もです...私が水魔法を唱えた直後にスライムちゃんが気づいて来てくれましたから」 


スライム「えへへ...」 


水帝「認識を改めなければね...決して馬鹿にしているわけじゃないけれど...」 


水帝「スライム族は基本的に知識に乏しい...戦術理解度や状況判断能力なんて皆無だと思っていたわぁ」 


女賢者「...スライムちゃんは、一番成長しましたから」 


女賢者「強くならなければいけない理由が、この子にはありましたからね...」 


スライム「...うん」 


女賢者(...戦況は振り出しに戻った、依然として水帝が圧倒的に優位のはず) 


女賢者(ですが、これでいいのです...時間さえ稼げれば...!) 


女賢者(時間さえ稼げれば...キャプテンさんが魔王子さんを連れて戻ってくるはずです...) 


水帝「その子はいい子ね...でも、殺さなければならないの」 


水帝「今日は...魔王様によって大事な日みたいらしいから...」 


女賢者「...大事な日?」 


水帝「だから...大人気なくいくわよぉ?」 


水帝「..."属性付与"、"水"」 


再び、あたりが水に満ちる。 

太ももに冷たい感覚を覚えながらも、攻撃に備える。 
791: :2018/12/20(木) 22:43:51.55 ID:
スライム「うわわっ」 


女賢者「...今度は、不意を食らいませんよ」 


女賢者(当然ながら、先程の私の魔力は完全に水に流されて無くなってますね) 


女賢者(それにしても...あたりに水を展開するのは確かに水帝にも有利ですが...) 


女賢者(それ以上にスライムちゃんが有利になるはずです...) 


女賢者「...なにが狙いですか?」 


水帝「...」 


──ゾクッ...! 

殺意のこもった威圧感、それに気圧されたわけではなかった。 

その水帝の口の動き、まったくもって未知な詠唱に驚愕する。 


水帝「────"属性同化"、"水"」 


女賢者「──え...?」 


──ぱしゃ、ぱしゃ...! 

水たまりに足を入れたような小さな音が響いた。 

気づけば水帝を見失っていた、しかし彼女はそれどころではなかった。 


女賢者「知らない魔法...っ!?」 


スライム「女賢者ちゃん...?」 


女賢者「...っ! すみません、動揺してしまいました...」 


彼女にだって唱えられない魔法は幾つもある。 

しかしそれでいて、彼女は大賢者によって育て上げられている。 

この世のすべての魔法、詠唱の仕方を熟知しているはずだった。 


女賢者(まずい...知らない魔法があるなんて思わなかった...) 


女賢者(属性同化...まさか──) 


水帝「──水化できるのは、スライム族の特権ではなくなったのよ?」 


知らない魔法であっても、その名称で大体察することができる。 

見失った水帝の声が聞こえたときにはすでに遅かった。 
792: :2018/12/20(木) 22:46:02.77 ID:
スライム「────っ!?!?」 


女賢者「──なっっ!?」 


まるで海流が可視化されたような光景が2人を驚愕させた。 

渦潮が竜巻のように君臨し、蛇のような水流が足元の水よりも高い位置で存在している。 

天変地異の一言としか言い表せない。 


水帝「まずは...悪いけどそのスライムを隔離させてもらうわぁ」 


──ざぱぁっ...! 

大きく波打つ音が聞こえた。 

その波はまるで、巨大な手のような形を成していた。 


スライム「────へっ?」 


女賢者「──スライムちゃんっっ!?」 


水帝「...捕まえた、逃さないわよ」 


巨大な水の手に握りしめられたスライム。 

そのあとに続く魔法もまた、女賢者の知らないモノであった。 


水帝「..."属性同化"、"氷"」 


────ぱきっ...ぱきぱきぱきっ! 

空気が冷える音が身を凍えさせた。 

スライムを握る手の温度が急速に下がり始める。 

そして出来上がるのは、氷の牢獄。 


女賢者「──スライムちゃん! 脱出してっっ!」 


スライム「う、うんっ!」 


水帝「もう遅いわよぉ...少し早口過ぎて意地悪だったわねぇ」 


姿を見せずに声だけを発する。 

すでに隔離は終了していた、その早すぎる詠唱が故に。 

凄まじく速い出来事であった、これに対応できるものはそう居ないだろう。 


スライム「で、出れないよぉ!」 


女賢者「しまった...どうすれば...っ!」 


水帝「あの子の周りは全て囲んだわぁ...水化しても氷が邪魔して通り抜けないでしょうね」 


水帝「さっきみたいなことはさせないわよぉ」 


女賢者「...っ!」 
793: :2018/12/20(木) 22:47:43.10 ID:
水帝「じゃあ...まずは人間の子からやさせてもらうわね?」 


女賢者(まずい...スライムちゃんが動けない今、先程の変幻自在の水を対処できる気がしない) 


女賢者(やはり、水帝が本気になれば私たちなんて一捻りでやられてしまう...) 


女賢者(キャプテンさん、早く来てください...なぜなら...っ!) 


女賢者「...長くは持ちませんからね」サッ 


懐から取り出したのは、小さな瓶。 

大賢者から預かった大切なもの、これをウルフやスライムたちに渡すため。 

彼女がここまできた理由の1つでもあった。 


水帝「──!」ピクッ 


女賢者「くぴっ...まずい...」ゴクッ 


水帝「──魔力薬っ...!?」 


女賢者「げほっ...げほっ...」 


水帝「...」 


──ざぱぁっっ...! 

無言で攻撃を仕掛ける。 

今度は右手だろうか、再び水の手が女賢者に襲いかかる。 


女賢者「..."防御魔法"」 


彼女の最も得意な魔法といっても過言ではない。 

何百回、何千回も唱えた賜物、その詠唱速度は水帝のモノに迫る。 

その堅牢さはもはや鉄といっても差し支えないものであった。 


女賢者「...今のは先程の拘束していた水魔法の水圧なんかと比にならない威力でしたね」 


水帝「ちょっと本気を出してみたんだけどねぇ」 


女賢者「所詮は他人の力を借りてる身ですが、こちらも本気でいきますよ」 


水帝「...少し、ムカつくわねぇ」 


女賢者「...」 


水帝に苛つかれながらも、静かに感知を行う。 

魔力の感知、それはどこに魔力があるのかが感覚的にわかるということ。 

そして、相手の魔力量も知ることができる。 
794: :2018/12/20(木) 22:49:04.37 ID:
女賢者(...これでも倒すことは出来ないでしょう、魔力薬を飲んでも水帝の魔力量の方が上です) 


女賢者(ならば...時間を稼ぐしかありません、徹底的に粘らせてもらいます) 


女賢者(それにしても、水帝がどこにいるかわかりません...) 


女賢者(感知しようにも、足元の水は水帝の魔法によって生まれています) 


女賢者(当然ながら、全範囲に魔力を感じます...これでは探せません) 


女賢者「...姿は見せてくれないんですね」 


水帝「あらぁ、もうとっくに見せているわよぉ?」 


薄々と感づいていた、水帝は既に姿を見せている。 

先程聞こえた、属性同化という言葉が説得力を持っていた。 


女賢者「やはり...属性同化とやらは...属性そのものになるというわけですね」 


女賢者「つまりあなたはこの足元の水と同化し、水化している...合っていますか?」 


水帝「そういうことよぉ」 


女賢者(この天変地異じみた光景も、水帝の身体一部というわけですか...) 


女賢者(ここのどこかに、水帝の身体の中心があるはずです...) 


スライムを拘束しているその手のような氷。 

水帝の身体の一部だという具体性がそこにあった。 


女賢者「...勉強不足でした、知らない魔法があるだなんて」 


水帝「そう落ち込まないで、この魔法が生まれたのはつい数年前なんだから」 


水帝「それも極秘...魔王様と四帝ぐらいしか知らないし、使えないわよ」 


女賢者「...そういうことですか」 


水帝「さて...時間稼ぎもここまでにしてもらおうかしら?」 


女賢者「──っ!」 


彼女の冷たい目線が女賢者を貫く。 

背中に氷の粒を入れられたかのような不快感。 

四帝の本気が向かってくる。 


女賢者(この防御魔法でどこまで耐えられますかね────) 


水帝「────ふっっっ!!」 


────ミシミシミシミッッッ!! 

掛け声とともに、巨大な水の手が襲いかかる。 

それと同時に蛇のような水流が、こちらを貫こうと向かってきた。 
795: :2018/12/20(木) 22:50:26.44 ID:
女賢者「うっ...!?」 


女賢者(防御魔法越しでも...ここまで圧が来るとは...) 


女賢者(そう長くは持ちませんね...なにか策を練らないと...っ!) 


水帝「水だけじゃないわよぉ?」 


水帝「..."氷魔法"」 


────サァァァァァァァァ...! 

おそらく、水帝の本体がいる箇所の頭上に冷気が展開する。 

扇状に展開したソレから、つららが生まれ始める。 


女賢者「────これは、連続攻撃っ!?」 


水帝「正解...っ♪」 


──ドガガガガガガガガガガガガガッッッ!! 

ここに隊長がいれば、聞き間違えていただろう。 

ミニガンのような発射音と共につららが射撃される。 


女賢者「くっ...まずい...」 


──パキッ...! 

見間違えでなければ、ヒビが入った。 

防御の壁が脆くなる、つまりは生命線が切れかけている。 

水帝の猛攻は、大賢者の魔力を用いた防御魔法でも簡単に砕く。 


女賢者(どうする...また防御魔法を展開したところですぐに破壊されてしまうでしょう...) 


女賢者(衝魔法であの氷が着弾する前に砕く...いえ、恐らくあのつららの速度に対応できないでしょうね) 


女賢者(...だめだ、いくら強化されたからと言って、私の使える魔法じゃどうすることもできない) 


女賢者(せめて生身の水帝に、衝魔法を当てることができたのなら...) 


女賢者「...」 


氷魔法の影響か、身体が冷えていた。 

冷えの影響なのか身体が震えていた、本当に冷えのせいなのか。 


水帝「...次で終わりにしてあげるわぁ」 


女賢者「...っ!」ビクッ 


女賢者(...恐い) 


残酷なまでに冷たい空気が、彼女を凍えさせる。 

身体も、思考も、すべてが萎縮させられている。 

実感する実力差が女賢者を飲み込んでいた。 
796: :2018/12/20(木) 22:51:34.12 ID:
女賢者(...大賢者様) 


女賢者(大賢者様なら...どうやってここを切り抜けますでしょうか...) 


女賢者(...お得意のあの魔法で颯爽と解決しそうで────)ピクッ 


自分が使える魔法ではどうすることもできない。 

なかば自棄的に思い出を振り返ると、ある魔法を思い出した。 


女賢者(私が今まで一度も使えることがなかったあの魔法...) 


女賢者(今ならきっと...油断を誘うしかないですね) 


女賢者「...もう、だめみたいですね」 


水帝「...うん?」 


女賢者「私の負けです...」 


水帝「あらぁ、諦めがいいのね」 


女賢者「...死ぬ前に、属性同化という魔法をもう一度教えてくれませんか?」 


水帝「...」 


先程まで戦闘を続行しようとしていた者が突如として諦めを告げる。 

水帝は警戒をしていた、なにか策があるのではないかと。 


女賢者「...」 


水帝「...いいわぁ、教えてあげる」 


水帝「けど、こうさせてもらうわね?」 


──ざぱぁっ...! 

巨大な水の手が、無抵抗な女賢者の首から下を握り持ち上げる。 

顔だけ出されている、これなら会話が可能。 

そして、どのような行動をされてもすぐに圧殺することができる。 


女賢者「...!」 


水帝「悪いけど、嘘つかれて魔法の情報だけ奪われるのは嫌だからねぇ...」 


水帝「聞きたいことを言ったら、すぐに潰してあげるわぁ」 


女賢者「...そこまで警戒しなくても」 


水帝「私の魔力よりも格下だからと言っても、魔力薬を飲んだ相手に油断なんて禁物よぉ」 
797: :2018/12/20(木) 22:52:42.63 ID:
女賢者「そうですか...それで、属性同化という魔法とは?」 


水帝「...簡単に言えば、属性付与の上位互換かしら...完全ではないけれど」 


水帝「下位属性による属性付与、身体に付与すれば何らかの支障がでるのは知っているわよね?」 


女賢者「...そうですね、炎の属性付与を身体に纏えば、身体中に大やけどでしょうしね」 


水帝「その欠点を補うために開発されたのが、属性同化よ」 


女賢者「なるほど、身体自体を炎にしてしまえばやけどする心配はない...ってことですか?」 


水帝「まぁ、そんなところねぇ」 


女賢者「...一体どんな人が創ったんですかね」 


水帝「...側近様に教えられて、使えるようになったけれども」 


水帝「どうやら、側近様だけが創ったわけではなさそうなのよねぇ...詳しいことは聞かなかったけど」 


水帝「風帝はズカズカと側近様に詰め寄り、聞き出したらしいけど」 


女賢者「...なるほど」 


水帝「...さぁ、おしゃべりはお仕舞いよ」 


────ミシッ...! 

おそらく、もう数秒も持たない。 

ヒビの入った防御魔法が最後の抵抗をする。 


水帝「なかなかの、防御力ね...地帝を思い出すわぁ」 


女賢者「...」 


水帝「...あのスライムの子は殺さずに野に返すことにするわぁ」 


水帝「あの子は...同胞ですからねぇ、それに随分と...」 


水帝「...終わりよ」 


女賢者「...」 


────パキッ...! 

ガラスが割れたような音。 

最後の抵抗も虚しく、圧殺される直前まできた。 

しかし、女賢者は声を荒げることもなくボソボソとつぶやくだけだった。 
798: :2018/12/20(木) 22:54:01.72 ID:
水帝「...詠唱?」 


水帝(この期に及んで、やっぱりなにか仕掛けてきたわねぇ) 


水帝(けど...もうこの手からは脱出できないはずよぉ) 


水帝(それが可能な魔法なんて、光か闇魔法ぐらいしかないはずだわぁ) 


水帝(...ソレをこの子が使えるとは思えない) 


水帝「...悪あがきかしらぁ、けど普通の魔法じゃ無意味よぉ」 


水帝の水化はスライムのモノとは似ているようで違う。 

スライムが炎、水属性や物理攻撃に強い代わりに風属性に弱い。 

その一方で水の属性同化は風属性には弱くない代わりに炎属性に弱い。 


水帝(おそらく、唱えているのは炎属性の魔法ね...) 


水帝(これだから下位属性は...後出しされたら問答無用で相性が悪いんだから嫌いよ) 


水帝(あの子が魔法を出したらこちらも水魔法を...いえ、真似したほうが手っ取り早いわねぇ) 


水帝「..."防御魔法"」 


今の女賢者の防御魔法と遜色ない硬度を誇る。 

水の身体、足元の水の一部が光り魔法が展開された。 

これで、炎属性の魔法など寄せ付けない。 


水帝「...やらせてもらうわね?」 


女賢者「...」 


握りしめている女賢者を、圧縮しようとした時だった。 

ふと、彼女の目が水帝の目とあったような感覚がした。 

今の水帝は水、目などないはずだというのに。 


女賢者「...そこですね」 


水帝「...使う魔法の選択を間違えたかしら」 


水帝「でも...今更位置がわかったところでどうするつもり?」 


今の水帝の周りには防御魔法という異物が展開している。 

感知ができる女賢者は愚か、その様子は肉眼でも確認できる。 

足元の水の一部が強く屈折しているような。 


女賢者「...こうするんですよ」 


水帝(...くるわね、その前に握りつぶしてあげる) 
799: :2018/12/20(木) 22:55:21.19 ID:
水帝「くたばりなさ────」 


──ゴキッ...! 

女賢者のどこかの骨が折れる音。 

水の影響かその音を聞くことができたのは当人のみであった。 

そして彼女は、痛みをこらえながらもあの魔法を放つ。 


女賢者「────"解除魔法"」 


水帝「──なっ...!?」 


──ぱしゃぱしゃぱしゃっ...! 

女賢者を握っていた水の手が垂れ流れる。 

手だけではなかった、屈折させていた防御魔法、それどころか水の身体が。 


水帝「──解除魔法ですって...っ!?」 


女賢者「ぐっ...なんて魔力の消費量ですか...」 


女賢者(それに詠唱も長いですし、こんな魔法をポンポンと出していたのですか...大賢者様は...) 


持ち上げられていた身体は地面へと落ちる。 

足元の水が緩衝材となったのか、やや危なかしく着地する。 


女賢者(今しかない...今しかまともに通用しないはず...っ!) 


水帝「──はっ、しまった...っ!?」 


女賢者「もう遅いですっ! "衝魔法"っっ!!」 


──ズシッ...! 

重い一撃が、水帝の身体に直撃する。 

生身の身体に響くその魔法は、過去を思い出す威力であった。 


水帝「──地帝の並に重いわね...」 


魔法の威力によって身体が吹き飛ばされた。 

水帝はそのまま、大きな音をたてて水へと倒れ込んだ。 


女賢者「はぁっ...はぁっ...」 


女賢者(両腕の骨、折れてますね...) 


女賢者(それに...解除魔法で今ある魔力の8割が持ってかれました...) 


女賢者(...お手上げです、上げれる手はないんですが) 


冷静に考えてはいるが、身体は正直だった。 

あまりの痛み、そして身体の冷えに負け身体を震わせ得ている。 

歯はガチガチと音を鳴らしている。 
800: :2018/12/20(木) 22:55:54.61 ID:
「..."氷魔法"」 









801: :2018/12/20(木) 22:57:06.55 ID:
──パキッ...! 

鋭い一撃が、女賢者の肩を貫いた。 

その残酷なまでに冷たい声の音、彼女の仕業であった。 


女賢者「がぁっ...うぅ...」 


水帝「やってくれたわねぇ...」 


女賢者(どうやら魔法は通用したみたいですね...それで怒りを買ったみたいですが...) 


女賢者「はぁっ...はぁっ...全力の魔法だったんですが...復帰が早いです、ね...」 


水帝「...水帝ですからねぇ」 


水帝「そんなことよりも...どうして、光魔法に類似すると言われる解除魔法を...?」 


水帝「アレは魔王様は愚か、魔法に長けた魔王妃様ですら使えない超高等でいて化石みたいな魔法よ」 


女賢者「はぁっ...それは、知りませ、んでしたね...」 


女賢者「私は...大賢者様の...真似をしただけ、です...」 


女賢者(まずい...もう意識が飛びそうです...治癒魔法すら唱える余裕がない...) 


女賢者(もう少し...もう少しだけ時間を稼げれば...キャプテンさんが...きっと...) 


水帝「大賢者...そういうことね...」 


女賢者「ぶっつけ本番ですが、うまく...きました...ね」ピクッ 


なにか、足元が引っ張られるような感覚がした。 

彼女はそれを察し、気付かれないように懐から瓶を取り出した。 

そしてソレを、落とした。 


水帝「...その魔力薬もおおよそ、大賢者のモノね」 


水帝「大賢者の魔力を借りたと言っても、実際に使うことができたなんてね...」 


水帝「...やるわね」 


女賢者「どう...い、たしまして...」 


水帝「じゃあ...さよなら、"水魔法"」 


怒りが込められた魔法が出現する。 

付与も、同化もする必要のない、ただの水魔法。 

局地的な津波、ソレが女賢者に向かった。 
802: :2018/12/20(木) 22:59:13.75 ID:
女賢者「...」 


────ゴシャアァァァァァァァァッ...! 

激流がぶつかる音が響いた。 

人間が喰らえば、四肢なんて簡単にバラバラになる威力だった。 

しかしソレを喰らったのは、人間ではなかった。 


スライム「...」 


女賢者「やっぱり...水魔法にはスライムちゃん...で、すね」 


水帝「な...っ!?」 


まともに受けた衝魔法が思考を鈍らせたのか。 

頭に登った血によって判断が緩んだのか。 

解除魔法を受けたならば、あらゆる魔法は阻害される。 


水帝「...そうね、左手は氷の属性同化でその子を拘束していたんだったわねぇ」 


水帝「解除魔法を受けた後は、現れる機会を伺っていたのね...お利口さんね」 


スライム「...うるさいよ」 


水帝「...え?」 


思わず、聞きかえしてしまった。 

まさかスライム族という下等な魔物に暴言を吐かれるとは思ってもいなかった。 

しかし、聞き返しの言葉はそれだけの意味ではなかった。 


水帝(...おかしい、あの子...先程よりも遥かに魔力が──) 


水帝「──まさか、その子も魔力薬を...何時っ!?」 


女賢者「ふふ...もしかし、たら私は...手品師の才能があるのかも、しれません」 


水帝「...この性悪女...っ!!」 


女賢者(あとは任せました...おそらく後天的に魔力を得た私よりも...) 


女賢者(先天的に魔力を得た魔物...スライムちゃんのほうが効き目があると思われますから...) 


スライム「ゆるさないから...わたしの友達を傷つける人は...」 


水帝「────"属性同化"、"水"」 


スライム「──消えちゃえ」 


お互いが水と同化し、お互いが足元の水を利用する。 

2人の背丈は原型をとどめていなく、もはや怪獣の粋。 

流れるような水持つ者と軽い粘度を持つ者が、津波を、激流をぶつけ合う。 
803: :2018/12/20(木) 23:00:45.00 ID:
女賢者「うっ...す、すごい...光景ですね...」 


女賢者(これが...水帝の本気というわけですか...) 


女賢者(とてもじゃないが私は参戦できませんね...少し引かせてもらいます) 


女賢者「スライムちゃん...頑張って...っ!」 


動かせない両腕を慎重に扱い、後退りをする。 

闘ってくれる仲間がいるおかげか、少しばかり魔力にも理性にも余裕がでてきた。 

もう少しもすれば、治癒魔法で身体を癒やすことができるだろう。 


水帝「──なんて力なの...っ!?」 


スライム「うるさいっ! 許さないんだからぁぁっっ!!」 


スライムが身体から高速の津波を生み出す。 

それを対処するために、水帝も身体から津波を生み出し相殺する。 

もはや天変地異などという枠に収まらない、この世の終わりのような光景だった。 


水帝「くっ...これじゃ埒が明かないわぁ...まさか、ここまで対応してくるだなんてぇ...」 


スライム「うるさいうるさいっ! よくも女賢者ちゃんをぉっっ!!」 


水帝「魔力薬の影響ね...感情が昂ぶりすぎているわ...」 


水帝(こうなるなら...事前に治癒魔法を使えばよかった...) 


怒りに身を任せ、治癒よりも先に女賢者を攻撃したのが間違えであった。 

未だに身体に鈍い痛みが走る、そしてこの激戦中に身体を癒やす余裕などない。 


水帝(くっ...この水帝が、ここまで押されるだなんて...) 


水帝(──え? 今...なんて思った?) 


水帝(そんなことは...あってはならないのよぉ...?) 


思ったとおりのことを、つい考えてしまう。 

その実力上に、帝の名を魔王からもらったというのに。 

水帝は身体が沸騰するような感覚に襲われた。 


水帝「...」 


スライム「────っっ! ──っっっ!!」 


────ブチッ...! 

なにか、頭の中の紐が切れたような音がした。 

それ以外はなにも聞こえない、それでいて無意識に近い感覚でスライムの激流を相殺している。 

いち早く異変に気づいたのは水帝でもなく、スライムでもなく、彼女だった。 
804: :2018/12/20(木) 23:02:09.59 ID:
女賢者「...?」 


女賢者(なにか...物凄く気温が下がったような...) 


余裕ができたのか、いつの間にか治癒魔法で身体を癒やしていた。 

両腕の調子を確かめながらも、違和感を感じた方向に注目してみる。 

また氷魔法でも唱えたか可能性があった、予想は的中、水帝の周りには先程の冷気が展開していた。 


女賢者(氷魔法ですか...スライムちゃんにとっては驚異ではないですね...) 


女賢者(...狙いは私でしょうか、もう少し距離をとったほうがいいですね) 


足元の水に阻まれながらも、撤退を行う。 

完全に足手まといな今、スライムの邪魔をするべきではない。 

正しい反応であった、しかし水帝の狙いは彼女ではなかった。 


水帝「......」 


スライム「このっ! よくも────」ピタッ 


津波や瀑布、海原での大嵐のような激しい闘いを繰り広げていた。 

魔力薬の影響か、感情を熱くしていたスライムが思わず手を止めてしまった。 

それほどに冷酷な寒さが理性を呼び覚ましていた、しかし一方で水帝は逆であった。 


水帝「...ねぇ」 


スライム「...なに?」 


水帝「生まれは?」 


スライム「...わからない」 


水帝「そう...そうよねぇ、野良のスライムですものねぇ」 


水帝「..."ただの"、スライムですものねぇ」 


──ブチッ...! 

今度ばかりは、この場にいた者全員に聞こえた。 

水と化しているため表情を読み取ることはできない。 

だがその声色で察することができた。 


スライム「────女賢者ちゃんこっち来てっ!」 


女賢者「──わかってますっっっ!!!」 


なにが起こるのか、理解できた。 

理解してしまっていた、これから始まる地獄の厳冬が。 

水帝の周りに展開していた冷気が冬を呼ぶ。 

805: :2018/12/20(木) 23:03:39.80 ID:
水帝「......」 


────ヒョオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォンッッッッッ! 

とてつもない暴風雪が周りを凍てつかせていった。 

足元の水はいとも簡単に凍り始める、表面だけではなく、水の底まで。 


女賢者「──ひどい...先程の戦闘よりも遥かにまずいですよこれ...っ!」 


スライム「わたしの真後ろにかくれててっっっ!!」 


女賢者「は、はいっ...!」 


スライムを盾に、女賢者が冷気から身を護る。 

急速に体温が低下していくのが実感できる。 

身体のあちこちはパンパンに腫れ上がり、呼吸も難しくなっていた。 


女賢者「まずいまずいまずい..."炎魔法"」ガチガチ 


スライム「うっ...わたしも凍りはじめてる...っ!?」 


女賢者「だ、大丈夫です...凍りはしますが負傷することはないはずです...っ」ガチガチ 


スライムの一部が氷へと変化していた。 

一見重症そうなのはスライムだが、それは違う。 

盾を手にしても、淡い炎で暖をとろうが隙間風が女賢者を襲う、重症なのは彼女だった。 


女賢者「だめ...死にそ...う...」ガチガチ 


スライム「──しっかりして! 起きてっっ!」 


女賢者「うっ...スライ、ム...ちゃん...」 


スライム「おねがい...耐えて...っ!」 


どうすることもできない、もう気力で耐えるしかなった。 

氷点下を大きく下回る気温に意識が奪われていく。 

このあと数分、永遠の眠気との闘いに喘ぐ中ついに吹雪は止まった。 


水帝「──...っ!?」ピクッ 


水帝「あらぁ...? なにが起きてたのかしらぁ...」 


数分に及ぶ、大厳冬を呼び起こした本人がようやく怒りから開放された。 

無意識下で唱えていた、氷魔法があたりの状況を一変させていた。 

眼の前には、ほぼ全身が凍りついたスライム。 

そして、ロウソクみたいな虚弱さを誇る炎魔法で暖をとる女賢者がいた。 
806: :2018/12/20(木) 23:05:11.14 ID:
スライム「はぁっ...はぁっ...女、賢者ちゃん...っ!」 


女賢者「...」 


──ガチガチガチガチ... 

目は虚ろ、足元の水が全て凍った影響で下半身は氷漬け。 

彼女はただ、歯を鳴らすだけの抜け殻とかしていた。 

意識はまだある、だが身体は耐えることができなかった。 


水帝「...そう、また癇癪を起こしてしまったのねぇ」 


水帝「もう何年前かしらぁ...あの時は炎帝が仲裁してくれたから誰も死ななかったけど」 


スライム「女賢者ちゃん...しっかりしてっ...!」 


女賢者「...」ガチガチ 


水帝「...もう、手をくださなくても大丈夫ね」 


スライム「...っ! よくもっ...!」 


水帝「ごめんなさいねぇ、でも...負けるわけにはいかなかったの」 


水帝「...その子も生きてる、見逃してあげるわぁ」 


スライム「ふざけないで...っ!」 


スライム「帽子さんの望みを...叶えなきゃいけないんだから...っ!」 


身体が凍りついて動けない。 

しかし、自らの闘志はまだ燃え上がっていた。 

絶対に妥協してはいけない、帽子の野望のために。 


水帝「...そう」 


水帝「なら...死んでもらうわよ...?」 


スライム「っ...!」ビクッ 


水帝「..."雷魔法"」 


────パチンッ...! 

魔法がスライムの身体に命中する。 

その威力はあまりにも高く、凍りついた身体は砕ける程。 

勝利を確信し、魔法を放つと同時に属性同化を解除する。 
807: :2018/12/20(木) 23:06:54.78 ID:
スライム「────っ!」 


──パキンッ 

殺意のこもった細い雷。 

そして響くのは、割れた音だった。 


スライム「──...っ!?」 


水帝「────...なっ」 


受けた当の本人も驚愕をしていた。 

砕けたのは身体の表面の氷だけ、動かせずにいた身体は元通りに、なぜ。 


水帝「──ここにきて、始めの防御魔法が活きたですってぇ...っ!?!?」 


スライム「────っっっ!」 


まるで滝壺へと落ちる水のような速度で水帝に接近する。 

なにか策がある、絶好の機会を逃すわけにはいかなかった。 

だがそれは水帝も同じ、その機会を潰さなければならない。 


水帝「何をする気かわからないけど、近寄らせないわよぉっ!」 


水帝「..."転移────」 


──パキッ...ボトンッ...! 

魔法を唱えようとした瞬間、右腕に違和感を感じた。 

いや、違和感を感じないことに違和感を感じていた。 


水帝「...あ、ああぁぁぁぁぁぁ」 


愚かにも、気づいていなかった。 

気づけなかった、自らが氷と同化する感覚を覚えてしまっていたら、気づけるわけがない。 

水帝の身体のあちこちが凍りついていた、同化しているわけではなく。 


水帝「──腕が...」 


魔力で強化された身体、決して寒さで死亡することはないと豪語できるほど。 

それが不幸にも仇となってしまっていた、水帝は自分の放った氷魔法の威力を甘く見てしまった。 


水帝「...っ!」 


──ズキンッ...! 

今になって、激烈な痛みが身を硬直させる。 

彼女の放ったあの大厳冬は、自らの身体を壊してしまうほどに。 

女賢者のように暖をとっていたら、スライムのように防御魔法を纏っていれば。 
808: :2018/12/20(木) 23:08:02.68 ID:
スライム「────つかまえたぁっ!」 


水帝「────...はっ!?」 


水の帝ともあろう者が、スライム族に出し抜かれてしまってた。 

あまりの出来事に硬直していた隙に、既に身体の大体がスライムに取り込まれていた。 

女賢者を拘束したあの水魔法のように、スライムは体内で水帝を拘束しようとしていた。 


水帝「ぐっ...治癒...いえ、"転移──」 


スライム「──させないよっっ!!」 


──ミシッ...ミシミシッ...! 

スライムがお腹に力を入れる。 

当然ながら、そうすれば圧力が加わるのは確かだった。 

スライムの身体に、赤い液体が混じる。 


水帝「ぐっ...ごぼぼぼぼぼぼぼっ...!」 


水帝(まずい...身体が全部あの子の中に...詠唱するために口を開こうとすると水が塞ぎにくる...) 


水帝(ここまで自由に水を操れるのね...スライム族は...っ!?) 


水の帝が、水に溺れる。 

自らが得意とする氷に身体は破壊され、水に身を悶えさせている。 

片手を失っている今、泳ぐこともできず完全に動きを封じられてしまっていた。 


スライム「..."治癒魔法"」ポワッ 


女賢者「...うぅっ」 


スライム「女賢者ちゃん、起きて」 


女賢者「あ...う...こ、これは...?」 


スライム「ごめん、わたしの治癒魔法じゃ治りが悪いみたいだね...」 


女賢者「...あ」 


朦朧とする意識を覚醒させる。 

次第に頭が冴えてくると、魔法を駆使して体調を整えようとする。 

まずは、氷に埋まっている足元を正す。 


女賢者「..."炎魔法"」ゴゥ 


乏しい炎が再び発火される。 

それでいて足元の氷は徐々に溶け始めていく。 

これほどまでに、下位属性の相性とは簡単なものであった。 
809: :2018/12/20(木) 23:09:23.57 ID:
女賢者「..."治癒魔法"」ポワッ 


そしてまばゆい光が女賢者を包み込む。 

凍死寸前の身体、皮膚や臓器がまだ不調を訴えている。 

しかし、それを無視してまでもやらなくてはいけないことがあった。 


女賢者「...これはどういう状況ですか?」 


スライム「うんと、女賢者ちゃんがやられたあの水魔法みたいなことをしてるよ」 


女賢者「いえ...それは見ればわかるんですが...」 


女賢者「...驚きました、まさか水帝を完全に拘束するとは」 


スライム「...えへへ」 


水帝「...」 


スライムの身体に封じ込められた水帝。 

その様子を、まるで水槽の中の熱帯魚を観賞するような。 

そのような感覚が女賢者に余裕をもたせていた。 


女賢者「...これで、時間を稼ぐことができますね」 


スライム「...そういえば、キャプテンさんはまだ...かな?」 


女賢者「...少し、感知をしてみますね」 


近場にいる者を探すのとはわけが違う。 

目に見えない箇所にいる者たちを探すために深く集中をする。 

凍えた時の後遺症がまだ残っているのか、鋭い頭痛を我慢して感知を行った。 


女賢者「────...え?」 


その現実味のなかった結果に、言葉を失っていた。 

この感知が確かなら口にしたくない減少が起きている、捉えられた魔力は3つ。 


女賢者「な...なんで...?」 


1つ、死にかけの風属性の魔力 

2つ、死にかけの地属性の魔力 

3つ、死にかけの獣の魔力。 


女賢者「ど、どういうことですか...っ!?」 


スライム「ど、どうしたの...?」 


女賢者「...みんな死亡寸前です」 


スライム「...え?」 
810: :2018/12/20(木) 23:10:21.12 ID:
女賢者「たぶんこれは...魔王子さんと女勇者さん、キャプテンさん以外の魔力を感知できました」 


女賢者「つまりは...女騎士さん、魔女さん、そして...ウルフちゃん」 


女賢者「みんな...死にかけてます...本当に微かにしか魔力を感じ取れません...」 


スライム「......え?」 


冷える。 

身体ではなく、背筋が、肝が。 

なぜ、このような状況になっているのかまったくもってわからない。 


女賢者「どうしたんですか...キャプテンさん...っ!!」 


女賢者「あの人は魔力を持ってない...だから安否すらわからない...っ!!」 


スライム「...」 


明らかに憔悴しきっている表情だった。 

それほどに、彼女の感知は鋭いものだった。 

友人がこのままだと死ぬという事実を突きつけられて焦らない人はいない。 


スライム「...行って」 


女賢者「...え?」 


スライム「...わたしはここで、水帝を抑えておくから」 


スライム「女賢者ちゃんは、先に進んで...っ!」 


女賢者「...わ、わかりました...けど、大丈夫なんですか?」 


スライム「......大丈夫だよ」 


どこか、いつもと違う表情だった。 

しかしその投げかけの言葉には一理がある。 

今ここで女賢者が上へと向かい、治癒魔法を唱えたとしたら。 


女賢者「じゃあ、行ってきますよっ...!」 


スライム「...うん」 


いざ、階段へと向かおうとしたその時だった。 

再びスライムが声をかけてきた、その声色はとても表現できない。 


スライム「...女賢者ちゃん」 


女賢者「はい?」 


スライム「...みんなによろしくね」 
811: :2018/12/20(木) 23:11:52.33 ID:
女賢者「え...? は、はい」 


随分と突拍子のない言葉であった。 

戸惑いながらもソレを受け止め、階段を駆け上がる。 

残されたスライムの視界から彼女は消え去った。 


水帝「...」 


そして、残ったのはもう1人いた。 

拘束され、腕を失くし、水に阻害され口を開き詠唱することさえも封じられた。 

しかしまだ彼女は生きていた、彼女は魔王軍の最大戦力であるから故に。 


水帝(もう少し、もう少しすれば) 


水帝(...この子の魔力薬の効き目が切れるはず) 


水帝(そうなったら...簡単に脱出できるわね) 


並々ならぬ生命力、人魚のように水中での詠唱は無理、エラ呼吸も無理。 

しかしそれでいて彼女も水系の魔物、窒息の気配はしらばくは見えない。 

そしてずぶとい彼女はスライムの弱体化を狙っていた、負傷していたとしてもただの魔物に負ける要素などない。 


水帝(...これを脱出したらこの子には死んでもらうわ) 


水帝(そして階段を登っていった子を追い、抹殺...) 


水帝(...片腕を奪った代償は高くつくわよ) 


水帝(けど...人間の子とスライム族の子にここまでやられてしまうだなんて...) 


水帝(油断...それもあったけれど...未熟だったわぁ) 


スライム「...さてと」 


スライム「もうすぐ...魔力薬が切れそうだね...」 


スライム「怖いけど...やるしかないよね...」 


スライム「...」ブツブツ 


恐る恐る、ある魔法の詠唱をつぶやいた。 

質を上げるために、長く、丁寧に。 

そしてありったけの魔力をそこにつぎ込む。 


スライム「女賢者ちゃん...嘘ついてごめんなさい...」 


スライム「魔女ちゃん...キャプテンさんと仲良くね...」 


スライム「ウルフちゃん...ごめんね、そしてありがとうね...」 


スライム「キャプテンさん...帽子さんの夢...おねがいね」 


スライム「帽子さん...今からいくね...待っててね...」 
812: :2018/12/20(木) 23:12:25.56 ID:
「...また、会えるよね?」 









813: :2018/12/20(木) 23:13:54.97 ID:
身体にが小刻みに震える。 

そして空に言葉を託す、仲良しだった彼らに。 

そして最後に開かれた言葉が。 


スライム「────"自爆魔法"」 


覚悟の言葉はあまりにも悲しいモノ、スライムの身体は内部から破裂する。 

その階層にあるものはその威力故に、跡形もなく朽ち果てる。 

誰も生き残ることはできない、たとえ水の帝であっても。 


~~~~ 


~~~~ 


女賢者「────っ」 


なにかを感知した。 

別に感知しなくてもわかる、自分が登ってきた階段。 

その後ろから、猛烈な爆風が届いていた。 


女賢者「────どうして気づかなかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」 


なぜ、スライムの覚悟に気づけなかったのか。 

あの寒さで思考が麻痺していたからか、それとも自分の鈍感さなのか。 

原因を追求しても、どちらにしろ過去には戻れない。 


女賢者「なんでぇぇ...スライムちゃぁん...」 


女賢者「どうしてぇ...ひどいよぉぉ...」 


だが、ああしなければきっと水帝は近い内にスライムの拘束から脱出していた。 

そしてスライムを殺害した後はこちらに追ってきていた可能性があった。 

そうなってしまえば、瀕死の隊長らを庇いながら闘うことになる、そんなことは絶対に無理だった。 


女賢者「ぐすっ...ひぐっ...」 


覚悟の自爆魔法、先程はその思いを気づくことができなかった。 

しかし爆風を肌で感じた今なら、あの魔物の想いを知ることができた。 

身を滅ぼしてまでも、やり遂げてもらいたいという意志が。 


女賢者「うぅ...い、いかなくては...絶対にやり遂げないといけません...っ」 


口の中が熱い、極度の出来事で乾燥している上に、歯を食いしばりすぎていた。 

しょっぱい味、鉄の味、奇妙な組み合わぜが味覚を刺激する。 

そしてようやく階段を登り切る、その光景は1階の比ではなかった。 


~~~~ 
814: :2018/12/20(木) 23:14:49.95 ID:
~~~~ 


女賢者「これは...植物...?」 


女賢者(...2階部分のほぼ全てが、謎の植物の根や蔓だらけです) 


女賢者(やはり...激しい戦闘があったんでしょう...早く彼らを見つけなくては...) 


微かに感じる魔力を頼りに、まずは魔女を探そうとする。 

幸いにも簡単に見つけることはできた。 

しかし問題なのは見つけてからだった。 


魔女「────」 


女賢者「...ひどい」 


女賢者(本当に生きているんでしょうか...そのぐらいの状態です) 


女賢者「..."治癒魔法"」ポワッ 


優しい光が魔女を包み込む。 

その癒やしは、曲がってはいけない方へと向いている関節すら治す。 

次第に彼女の呼吸が深くなる、もうすぐであった。 


魔女「────っ! げほっ、げほっ...!」ピクッ 


女賢者「動かないでください、まだ全て治してないですから」 


魔女「こ...ここは...?」 


女賢者「わかりません...私はこの小部屋らしき所で魔女さんが倒れてたのを発見したんです」 


女賢者「...状況説明は後でいいです、それよりも怪我を治さないといけません」 


魔女「...ありがとう」 


女賢者「......いえ」 


外部の痛み、内部の痛みが晴れていく。 

全快とはいかないところで、魔女が遮る。 


魔女「...もう大丈夫、あとは自分の魔法で治すわ」 


魔女「それよりも、ここにキャプテンがいるはずだから...そっちを優先してあげて」 


女賢者「...わかりました、では早速探してきますね?」 


魔女「...まって」 


まるで、言いたくないことを言わなければいけない。 

そんな神妙な面持ちであった、数秒感の沈黙の末に彼女は口を開いた。 
815: :2018/12/20(木) 23:16:17.42 ID:
魔女「...私は途中でここに投げ飛ばされ、意識を失っていたの」 


魔女「だから...ここで起きた戦闘の勝敗がわからないの」 


女賢者「...なるほど」 


魔女「...いまは辺りが静かでしょ、決着はついたみたいだけど」 


魔女「......どっちが勝ったか、わからないの」 


女賢者「...」 


魔女「私が最後に見た光景では...」 


一番言いたくない部分がついに来てしまう。 

しかし、可能性としてはこれが一番ありえる話であった。 


魔女「...キャプテンは劣勢だった」 


女賢者「なるほど...けど、先程感知したときはそれらしき魔力は感じませんでした」 


女賢者「敵側が勝利したとしても、もうこの場にはいないのでは?」 


魔女「...ないの」 


女賢者「え...?」 


魔女「私たちが戦ってた相手は...魔力がなかったの」 


女賢者「...つまり、キャプテンさんのあの武器が単純に通用しなかったということですか?」 


魔女「そうなるわ...詳しく話すと長くなるわ」 


女賢者「...なるほど」 


思わず、会話が止まってしまうほどに重苦しい空気であった。 

女賢者は直感した、この2階で起きたであろう闘い。 

それは1階の水帝戦並みの激戦であったと。 


女賢者「...ともかく、私は辺りを探索し始めます」 


女賢者「キャプテンさんが負けたとしても、まだ息があるかもしれまん」 


女賢者「...もし、彼よりも先に敵とやらを発見したら、ここに戻ってくるか大きな音を出しますね?」 


魔女「...それがいいわ、敵は植物みたいな見た目をしているわ」 


魔女「私も...もうすぐしたら歩けるぐらいまで回復しそうだし、跡を追うわ」 


女賢者「わかりました、ではまた」 


足早に離れていく、すぐに魔女の視界から彼女は消えた。 

闘いの勝敗はどうであれ、隊長が負傷していることは間違いない。 

1秒でも早く見つけることが、怪我人の為になるからである。 
816: :2018/12/20(木) 23:17:46.44 ID:
魔女「...大丈夫よね、キャプテン」 


魔女「そろそろ...立てそうね...よっ」スクッ 


魔女「いたた...なにか杖になるものなんてないかしら...」 


女賢者が去って数分後、治癒魔法を続けたおかげかようやく立つことができた。 

なにか支えになる物がないか、ゆっくりと足を引きずりながら小部屋を探す。 


魔女「それにしても...ここはあの子とは別の植物でいっぱいね...」 


魔女「...ん、これは...茎かしら」 


魔女「硬いわね...木の棒ぐらいの強度はありそう...」 


魔女「使わせてもらうわね...って?」 


──ぱさぁっ...! 

先程、魔女がこの小部屋に激突した衝撃でいろんなものが散乱している。 

木の棒じみた茎を拾うために持ち上げたら、なにかが引っかかって落ちた。 

それがたまたま、彼女の目にとまった。 


魔女「...本?」ピラッ 


無意識の興味本位、それが作用していた。 

好奇心に負け、痛みを我慢しながらも本をめくる。 

そこにはあることが書かれていた。 


魔女「これは...ゆっくり読みたいわね、借りるわよ」 


魔女「今は...女賢者に追いつかなきゃ...」 


先程首を締められたあの場所へと、足を進めていく。 

大きな音は未だに鳴っていない、そのことが魔女の精神を安らがせる。 

そして見えたのは、座り込んだ女賢者と彼らだった。 


少女「────」 


隊長「────」 


魔女「...これは」 


女賢者「...どうやら、勝利したようですね」 


女賢者「私が発見したときは、この植物みたいな女の子がキャプテンさんの上で息絶えてました」 


女賢者「そしてこの握られた刃物...傷口からみてこれでトドメをさした模様ですね」 


魔女「そんな...ありえない...っ!?」 
817: :2018/12/20(木) 23:18:54.01 ID:
女賢者「...魔女さん? どうかしましたか?」 


魔女「だって...この子の肌は極めて堅牢だったのよ...っ!?」 


魔女「どうして攻撃が通用したのか...わからないわ...」 


女賢者「...でも事実としてこの子は死亡していて、キャプテンさんにはわずかに息があります」 


女賢者「どのように勝利したかは...目を覚ました本人から聞きましょう」 


魔女「...そうね、そうだったわね...私も手伝うわ..."治癒魔法"」ポワッ 


隊長の上で眠る少女をどかして、先に治癒魔法を唱えていた女賢者。 

それに続き魔女も魔法を唱える、彼の傷が癒えていくのが見てわかる。 

薄かった隊長の呼吸は徐々に大きくなっていった。 


隊長「────ッ、がぁああ...っ!」 


女賢者「まだ動かないでください...お腹の穴は塞がっても、まだ腕や足の骨は折れたままなんですから」 


隊長「お、女賢者...ッ!? 魔女も...ッ!?」 


魔女「...おはよ、ゆっくりでいいから何があったのか教えて」 


隊長「...そうか、なんとか生きてたのか...俺も、魔女も」 


魔女「そうよ...この子は...だめだったけどね」 


隊長「...あぁ」チラッ 


少女「────」 


横たわりながら、顔を少女の方向へと向けた。 

自分が殺した命の恩人を見るその表情はとても表現できないものだった。 

ソレをみた魔女もまた、表現できない表情をしていた。 


魔女「...まず、どうやってこの子を?」 


隊長「...魔法を使った」 


女賢者「...え?」 


魔女「それって...どういうこと?」 


女賢者「まさか、魔力に目覚めたんですかっ!?」 


隊長「...いや、表現が悪かったな」 


隊長「魔法を...借りたんだ...」 


魔女「────っ! ま、まさか...っ!?」ピクッ 


ある1つの説が魔女の頭をよぎった、もう答えは1つしかなった。 

あの超硬度を誇る少女の肌、どのような魔法を使ってそれを破ったのか。 
818: :2018/12/20(木) 23:20:19.55 ID:
隊長「...闇の属性付与を、ドッペルゲンガーから借りた」 


女賢者「...はいっ?」 


魔女「...やっぱり、通りであなたの傷がえげつないのね」 


女賢者「すみません、話が全く見えません...順に説明してもらってもいいですか?」 


隊長「あぁ...女賢者はあの時のユニコーンを覚えているか?」 


女賢者「は、はい...」 


隊長「あの時、あのユニコーンはドッペルゲンガーに取り憑かれていたらしいんだ」 


隊長「ソレが魔剣となり、帽子の手に渡り...そこからさらに俺の手に渡った」 


隊長「そして...ドッペルゲンガーは新たな宿主として俺を選び...俺に取り憑いた」 


女賢者「...そんなことが起きてたんですか」 


魔女「...私もそれは初耳ね、というか聞く暇がなかったし」 


隊長「俺も言う暇がなくてな...詳細を言ったのはこれが初めてだ」 


女賢者「...それで、ドッペルゲンガーから魔法を借りたとは?」 


隊長「言葉の通りだ、魔女がやられ俺の武器が通用しない状況...」 


隊長「あらゆる感情が爆発しそうな時だった...奴はその弱みにつけ込んできた」 


隊長「魔法を貸してやる...とな」 


女賢者「...なるほど、それで闇の魔法を」 


魔女「傷だらけになるはずね...」 


隊長「本当なら俺の身体を乗っ取るつもりだったらしい...そうすれば傷つかずに闇を扱えただろう」 


隊長「だが俺はそれを拒否し、本当に闇だけを借りた」 


隊長「...結果としては少女を...沈黙、させることに成功したが...あと数分でも長引いていたら...」 


女賢者「怪我の具合からみて、死亡もしくは重い後遺症が残ってましたでしょうね...」 


隊長「だな...今も内蔵に違和感がある...もとの世界に戻ったら人間ドックにいかなければな」 


女賢者「え? 人間どっく?」 


隊長「あー...聞かなかったことにしてくれ...それよりも────」 


なにか、聞きたいことを聞こうとした。 

しかしその言葉は遮られるが、2人は同じことを質問しようとしていた。 

魔女の言葉が、隊長の質問と一致する。 
819: :2018/12/20(木) 23:21:22.02 ID:
魔女「──スライムは、どうしたの?」 


隊長「...その通りだ、スライムはどこだ?」 


女賢者「...」 


──ピクッ...! 

前髪に隠れた女賢者の眉毛が少しだけ上がった。 

病み上がりの彼でも、その些細な出来事を見逃していなかった。 


隊長「...なにかあったのか?」 


女賢者「...今は、水帝を取り込んで、拘束しています」 


魔女「え...? そんなことできるの?」 


女賢者「...はい、これを使ってですね」 


そう言いながら取り出したのは、小さな瓶。 

その内に秘められた、とてつもない魔力量を感じ取る。 

言われずともわかった、魔力薬だ。 


魔女「そういうことね...」 


女賢者「...私は魔女さんたちの瀕死を感知することができました」 


女賢者「そしたら、スライムちゃんが...先に行ってあなたたちを癒やしてきて、と言いました」 


魔女「...ありがとう、助かったわ」 


隊長「...」 


女賢者「これが、最後の1瓶です...私とスライムちゃんで2つ、ウルフちゃんに2つ持たせました」 


女賢者「...これは魔女さんが、いざという時に飲んでください」スッ 


魔女「え...私でいいの?」 


女賢者「基本的に、身体にいいものではないらしいので...人間が飲める量は1瓶が限界みたいです」 


女賢者「私はもう飲んでしまいましたから...どうぞ」 


魔女「あ、ありがとう...大切にとっとくわね」 


服の収納に瓶を入れたとき、なにかにぶつかった。 

小瓶が小瓶に当たる、特徴的な高い音が魔女にだけ聞こえた。 


魔女(あれ...この瓶って...) 

820: :2018/12/20(木) 23:23:08.75 ID:
隊長「...女賢者」 


女賢者「なんでしょうか」 


隊長「...」 


なぜか、非常に重苦しい空気を醸し出す。 

まるで情報を吐かない犯罪者に尋問しているときのように。 

その威圧感に思わず、小さな汗が女賢者の背中をたれていった。 


隊長「...いや、なんでもない」 


女賢者「...そうですか」 


魔女「とりあえず、状況がわかったわ」 


女賢者「では...3階に向かいましょうか、感知できたのは魔女さんたちだけではありませんから」 


隊長「...つまり、ウルフたちも瀕死ってことか?」 


女賢者「おそらく...3階で感じるのはウルフちゃんと女騎士さんの魔力です」 


女賢者「どちらも...本当に薄い魔力しか感じません」 


魔女「...急ぎましょう、話は歩きながらにしましょう」 


隊長「あぁ...だが、先にいってくれ」 


女賢者「...どうかしましたか? スライムちゃんの所に行くつもりですか?」 


隊長「......いや、少女と別れたいんだ」 


魔女「...先に行ってるわね」 


隊長「あぁ...すぐに追いかける」 


2人の女性が彼の視界から去っていく。 

残されたのは大柄な男と無残な姿の少女。 

物思いにふけながらも、隊長は少女の顔を撫でる。 


隊長「...」 


少女「────」 


投げかけれる言葉なんてモノはなかった、ただじっと見つめることしかできない。 

頭の中は真っ白、なにも考えることのできない無であった。 

隊長は開きっぱなしの瞳を、乱れた前髪を、だらりとした身体を整えてあげていた。 


少女「────」 


その姿はまるで棺桶の中に入れられた安らかな格好をさせていた。 

目は閉じさせ、手を組ませてお腹の上に置かせ、足を伸ばさせてあげた。 

そして少女が散らせた花びらを、ある程度身体の上に乗せてあげていた。 
821: :2018/12/20(木) 23:24:57.08 ID:
隊長「...」 


少女「────」 


隊長「...Good bye」 


立ち去ろうとしたとき、あるものが目に入る。 

それは拳より少し小さい程度のなにかであった。 

誰の落とし物なのかはすぐにわかった。 


隊長「...種、か」 


隊長「......」 


どれだけ危険なものなのかは、わかっているはずだった。 

しかしそれでいて、彼はその種子を収納にしまいこんでしまっていた。 

少女に別れの言葉を伝えると、駆け足で彼女たちの元へと急いだ。 


隊長「...」 


無言で階段を駆け上がり、上へと辿り着こうとした時だった。 

まるで落盤かの如く、3階への入り口が一部を覗いて岩で塞がれていた。 

少しばかりバチバチと音がなっている、おそらく中へと入るために魔女が破壊したのだろう。 


隊長「...これは」 


ウルフ「────」 


女騎士「────」 


魔女「...っ! キャプテン、おかえり」 


隊長「あぁ...やはり、ここも激戦だったようだな」 


女賢者「えぇ...女騎士さんはもう少しすれば治癒魔法が効いて目が覚めるとは思いますが...」 


魔女「...まずいのはウルフね、本当に瀬戸際だわ、"治癒魔法"」ポワッ 


横たわる彼女らを見つめることしかできなかった。 

彼はただ、回復を祈ることしかできない。 

魔女がウルフを癒やしている間に、女賢者が癒やしていた彼女が目覚める。 


女騎士「────っ! うっ...!?」 


女賢者「動かないでください、どうやら内蔵がかなりやられてますね...」 


女騎士「わ、私のことはいい...ウルフを...」 


女賢者「大丈夫です、魔女さんが先に治癒魔法を唱えてますから...」 


女騎士「そ、そうか...なら...よかった...」 
822: :2018/12/20(木) 23:26:31.27 ID:
隊長「...ゆっくりでいい、状況説明を頼む」 


女騎士「キャプテン...魔女、無事でよかった...」 


隊長「あぁ...とはいっても、俺たちも危険な状態だったみたいだ」 


隊長「俺と魔女が瀕死なところを、女賢者が癒やしてくれたんだ」 


女騎士「なるほどな...それで、状況説明だが...」 


女騎士「まず、お前たちと分断されたあとは、炎帝と対峙したんだ...」 


女騎士「そしたら...魔王子と女勇者が残り、私たちはキャプテンと合流するように言われたんだ」 


隊長「...なるほどな」 


女騎士「それで...下の階であるここに降りたら...私とウルフは地帝と対峙した」 


女賢者「...地帝、ですか」チラッ 


地帝「────」 


隊長「...この様子だと、闘いには勝利したみたいだな」 


女騎士「あぁ...ウルフが主力で私は補助に過ぎなかったがな...」 


女賢者「...」ピクッ 


ウルフが主力、この言葉の意味がすぐにわかった。 

彼女は2本目のあれを飲んだ、なぜあそこまで死にかけている理由をなんとなく察する。 


女騎士「ウルフが魔力薬を飲み...地帝をある程度圧倒させた」 


女騎士「そしてその隙を狙って、私は魔王子の折れた刀身を使い...地帝に致命傷を追わせた」 


女騎士「幸いにも、この折れた魔剣が闇をまとってくれた...これがなければ負けていた」 


女賢者「...そうですか、あなたも闇を使ったんですね」 


女騎士「..."も"?」 


女賢者「えぇ...話せば長くなります」 


女騎士「...悪いが、今は治療に専念させてもらう...あとでたっぷり聞こう」 


隊長「あぁ、いまは休め...もう少ししたら移動する」 


女騎士「...きっと今頃、女勇者たちは炎帝を泣かせているところだろうな」 


隊長「そうだな...そうだといいな」 


少しばかりの冗談、身体に余裕ができた証拠であった。 

小さなものであったが空気が軽くなる。 

それに相まってか、一番重症だった彼女の口が開いた。 
823: :2018/12/20(木) 23:27:54.71 ID:
ウルフ「────げほっ!? げほっ!?」 


魔女「ウルフ、大丈夫?」 


ウルフ「ま、じょ...ちゃん...?」 


魔女「ゆっくりでいいわよ...状況も女騎士から聞いた...よく頑張ったわね」 


隊長「大丈夫だ、みんなここにいる...な?」 


ウルフ「う、うぅぅぅぅぅぅ...ご主人...」 


女騎士「ウルフ...」モゾッ 


女賢者「まだ動かないでください、気持ちはわかりますが、あなたも重症なんですから」 


しばらく、治癒魔法を受け続けること数十分。 

ようやく2人は立つことが可能になるまで回復する。 

状況説明も行った、次に必要なのは指示説明であった。 


隊長「...いまここにいる5人、いずれもある程度健康な状態だ」 


隊長「俺としては先を急ぐよりも、1階へと戻り水帝を抑えているスライムに加勢したい」 


魔女「...賛成ね、スライムが心配でしかたないわ」 


隊長「...そうだな、魔王子や女勇者がやられるとは思えない...なら優先度は低いはずだ」 


ウルフ「...スライムちゃんの方へ、いこうっ!」 


女騎士「それがいい、水帝を各個撃破したほうが明確だ」 


盛り上がる4人、一同は下へと降りる気で満々であった。 

しかし1人だけは違っていた、唯一事実を知っている彼女が沈黙していた。 


女賢者「......待ってください」 


女賢者「大事な...話があるんです...」 


その重すぎる口調、皆が注目する、そしてゆっくりとその唇を動かす。 

あの時は嘘をついた、どうしてもウルフも一緒にいる時に言わなければならなかった。 
824: :2018/12/20(木) 23:29:25.93 ID:
女賢者「...スライムちゃんは...もう亡くなりました」 


ウルフ「...え?」 


隊長「...ッ!」 


魔女「...は?」 


女騎士「...たちの悪い冗談だな」 


女賢者「...事実です、キャプテンさん、魔女さん...嘘をついて申し訳ございませんでした」 


隊長「...やはり...か」 


魔女「────嘘っ!? 感知しても本当にスライムの魔力を感じないっ...!?」 


ウルフ「──...」 


女騎士を除く、3人の目が憔悴しきっていた。 

なんとなく察してしまっていた隊長、事実を確認してしまった魔女。 

そして無言を貫くウルフ、それぞれ表情は違うが完全に目は見開いていた。 


女騎士「...ウルフ、大丈夫か?」 


ウルフ「...」 


隊長「...落ち着け...頼む...落ち着いてくれ」 


隊長「まずは...みんな座れ...」 


魔女「...うん」 


女騎士「...わかった」 


女賢者「...すみません」 


5人が座る、その面持ちは各々違う。 

冷静そうに見えて指を震わせている隊長、動揺を隠せない魔女。 

申し訳無さがある女賢者、そして虚空を見つめるウルフ、それを心配する女騎士。 


隊長「まず...なにがあったのか...今度は嘘をつかずに教えてくれ...」 


女賢者「...スライムちゃんが水帝を取り込み、拘束させた」 


女賢者「その後、私がキャプテンさんたちを癒やしに先行したのは事実です」 


女賢者「問題は...私が階段で2階へと上がろうとした時でした...」 


女賢者「...ごめんなさい、少し時間を...ください...」 


やや過呼吸気味になる。 

つらいのは彼女も同じであった。 

ここにいる5人は、スライムの死を直に見ていないのだから。 
825: :2018/12/20(木) 23:30:49.16 ID:
女賢者「...私がぁ、2階っ...へと上がろうとした時...」 


女賢者「ひぐっ...後ろから爆風が...と、とどきましたぁ...っ」 


魔女「...っ! それってまさか...っ!?」 


女賢者「間違いあり...ません、あれは...自爆魔法です...っ!」 


女騎士「────っ!!」 


麓の村で、直に味わったことのある魔法。 

なぜここに女賢者がいてスライムがいないのか、その理由がはっきりした。 


女騎士「...ウルフ」 


ウルフ「...」 


冷たいかもしれないが女騎士はスライムとの面識があまりない。 

この場にいる皆の中で、例外的に精神的ショックを受けずにいた。 

だからこそ、彼女にしかできないことがあった。 


女騎士「...」 


────ぎゅっ...! 

虚ろな目をしているウルフの手を優しく。 

それでいて力強く握りしめる、言葉を失うウルフ、一番キテいるのはこの獣であった。 

地帝戦で芽生えた友情のようなモノが彼女の手を握りしめた。 


隊長「......なる、ほど」 


そして口を開く、その口調からは余裕など一切感じない。 

指を震わせながら、頭を抱えるしかなかった。 

最大の友が愛したあの魔物の子。 


魔女「そんな...あの子も守れなかったのっ...?」 


魔女「これじゃ...帽子に会わせる顔がないわよっ...!」 


隊長「...ッ!」 


女賢者「ごめんなさいぃぃ...私が気づかずに先行しなければこんなことにはぁ...っ」 


ウルフ「...」 


先程までの、明るい顔立ちをしていた彼らなどいない。 

士気はだだ下がり、とてもじゃないが戦闘などできない。 

このままでは身を滅ぼしてしまう者もでてしまうだろう、だが彼女だけは違っていた。 
826: :2018/12/20(木) 23:32:06.86 ID:
女騎士「...落ち着け」 


女騎士「いいか? 私は今から都合のいい解釈をさせてもらうぞ」 


女騎士「話が気に入らなければぶん殴ってでも止めろ」 


唯一、鋭い目元を保てた女騎士が言葉をつなげる。 

スライムとの友情を持たずにいた彼女にしかできないことだった。 


女騎士「まず...女賢者、お前が先行していなければ...」 


女騎士「私やウルフ、キャプテンや魔女は死んでいたかもしれないんだぞ?」 


女騎士「瀕死状態とは時間との勝負だ...私は、お前が悪いとは思わなかった、話を聞いている限り」 


女賢者「...」 


女騎士「...次だ、スライムが自爆魔法を唱えなければどうなっていたか」 


女騎士「詳しい話はわからない...だが、その時はスライムは魔力薬を飲んでいたんだろう?」 


女賢者「は、い...」 


女騎士「なら、なおさらだ...おそらく効力が切れた隙を狙われ、拘束から脱出された可能性があったはずだ」 


女騎士「そうしたらどうだ? スライムは水帝を足止めできずに殺されていただろうな」 


女騎士「そうなってしまったのなら...無念でしかない」 


女騎士「...違うか?」 


魔女「...違わない...わ」 


女騎士「...だが、今は違うじゃないか...スライムは足止めをすることができた」 


女騎士「それどころか...水帝を滅ぼすことに成功した...喜ばしいことじゃないか」 


女騎士「...私はスライムという子にあまり面識はない...だが」 


女騎士「お前たちは違う...その子の友達...大事な仲間だったんだろ?」 


隊長「...あぁ、その通りだ」 


女騎士「...お前らは...その大事な子に守られたんだ」 


女騎士「立場を変えて考えてみろ...ウルフ、お前がスライムの立場なら...」 


女騎士「...たとえ死んでも、水帝を足止めするに違いないだろ?」 


ウルフ「......うん」 


少しずつ、活気が戻っていくような。 

失った者の影響は確かに大きかった。 

しかし、受け取った意志を蔑ろにできるわけがない。