1: 名無しさん 2011/09/27(火) 18:00:37.23 ID:5DG9HLQ+0
萩原雪歩19歳です。男の人が、大好きです!
……あっ、ま、間違えました!今のはお茶と男の人を言い間違えて……ひぃ~ん!
本当は私、男の人と喋るのって今でも苦手で、いつも誰かに頼ってばっかりで……。
それになにやってもドジでダメダメでひんそーでちんちくりんなんですぅ……。

だけどそんな私でもアイドルをやっていた時期があって、その時は友達と一緒に楽しくやれたんです……。
でも頼れるプロデューサーが過労死しちゃってから私さらに自信無くしちゃって……。

あぅぅ、思いだしたらまたジメジメした気持ちになってきましたぁ~!穴掘って埋まって──

「ちょっと、何さっきから独り言言ってるのよ」
「へっ?あ、律子さん……」
「今日は私の奢り!牛丼パーティーよ!」

そうでした、私はいま、元765プロの皆と牛丼屋に来てるのでした。



引用元: ・雪歩「765プロが倒産してもう二年半ですぅ……」


                   引用元: ・雪歩「765プロが倒産してもう二年半ですぅ……」
5: 名無しさん 2011/09/27(火) 18:10:10.47 ID:5DG9HLQ+0
「店長!胡麻和えくださーい!」
隣のカウンター席に座っている真ちゃんが身を乗り出して手あげました。

「やよい、今度はお腹いっぱい食べていいんだぞ!律子の奢りだから!」
「はい!ありがとうございますー!紅ショウガ盛り盛りですー!」
私と向い側に座ってる響ちゃんとやよいちゃんが紅ショウガが入ってる入れ物を空っぽにしました。

「あー!亜美、真美の生卵に勝手に醤油かけたー!」
「んっふっふ→ スキを見せるとは甘いのう」
遠くのテーブルに座っている亜美ちゃんと真美ちゃんがお互いの小皿に醤油をさしあっています。

「店長殿、追加で牛丼の特盛りを……」
「あらあら~。すごいわね~」
さらにその隣のテーブルで四条さんが4杯目のどんぶりを重ねて、口をナプキンで丁寧に拭いています。
その隣で、あずささんは持ち前のスローペースで牛丼を口に運んでいました。

私は、店の中をぐるりと回すように手持ちサイズのカメラで撮影をしています。
律子さんに頼まれて、私は撮影係になりました。半年間ずっと撮り続けています。

9: 名無しさん 2011/09/27(火) 18:18:38.33 ID:5DG9HLQ+0
お店の中が、私たちを見てざわ……ざわ……と騒がしくなってきました。
「なにあの美人集団……」
「何かの撮影?」
な、なんだか牛丼屋って男の人ばっかりで怖いですぅ……。
小さく縮こまりつつも、カメラを回します。男の人と目が会ったらどうしよう……。

病院でバラバラになっていた皆と再開して、もう半年が経ちました。
その間に私たちも、世の中も色々なことがあったみたいです。


亜美ちゃんと真美ちゃんは両親が離婚した後も定期的に会っているようです……。
今では昔と変わらない笑顔を見せてくれます。
伊織ちゃんは渋々ながらも家に帰りました。随分と叱られたみたいです……。納得いかないわ!と会うたびに大声で凄まれます。
わ、私に言われても困りますぅ~。
小鳥さんはひとまず牛丼屋でバイトしながら就職先を決める日々……。
彼氏は未だにできないみたいです。

11: 名無しさん 2011/09/27(火) 18:19:34.68 ID:5DG9HLQ+0
>>7
うん

>>8
今回も書き溜めしてないよ!どうぞ

18: 名無しさん 2011/09/27(火) 18:27:23.51 ID:5DG9HLQ+0
真ちゃんの隣に座っている伊織ちゃんが頬に手をつきながら箸で牛丼をつついています。
真ちゃんはお箸でかきこみながら、それを不思議そうな顔で見ています。
「はぁ、和牛ステーキが食べたいわ。何でこの伊織ちゃんが牛丼なんて……」
「まぁまぁ、家出してたときはパンの耳とか食べてたんだろ?」
「それとこれとは別モノよ……」

響ちゃんは真ちゃんに返すお金をまた集めるためにやよいちゃんと一緒にアルバイトに励んでいるそうです……。
真ちゃんは返す必要は無いと言っているのですが、響ちゃんは聞く耳持たず、みたいで……。

やよいちゃんは借金を完済して、無事お母さんの治療費を払えたようで近々退院しまた働けるようになるようです。
これで、高槻家も、しばらくは安泰みたいです。よかった……。うぅ、また涙が出てきましたぁ……。

律子さんは店舗からコンビニ本部の社員としての引き抜きの話が出ています。
毎日仕事に追われる日々でとっても大変そうですが、律子さんは「やりがいがある仕事で燃えるわ」といつも笑顔を向けてくれます。

23: 名無しさん 2011/09/27(火) 18:35:27.57 ID:5DG9HLQ+0
四条さんは、突然煙のようにいなくなったかと思えば、またふらっと骨無しフライドチキンを両手に抱えて現れます。
質問すると「人には誰にでも、秘密の一つや百個はあるものですから」とはぐらかされてしまいます。一体何をしてるんでしょう……。

765プロ倒産直後に黒井社長が辞めた後のワンマン方針だった961プロは、四条さんが抜けた後、急速に勢いが衰えていきました。
ジュピターの皆さんの復帰も囁かれていたのですが、リーダーの天ヶ瀬冬馬さんという方が「男に二言は無ぇ」と断ったそうです。

それと、何故かこの話題を出すと響ちゃんが「うぅ~鳥肌が立ってきたぞ~」と肩を震わせてしまいます。
な、何かあったのかな……。
他にもいっぱいいっぱい色々なことがあって、何度も私は穴掘って埋まってましたが──。

「な、なんだよ!伊織!その言い方はあんまりじゃないか!」
「あら、私は間違った事は言ってないわよ。牛丼屋なんて、ドンカンな真にはお似合いよ」
「そもそも伊織はいつも……!」
「なによ、真だって……!」
私の隣で、また真ちゃんと伊織ちゃんの喧嘩が始まりました。うぅ……と、止めないと……。

「あ、あのね、二人とも落ちついて……」
「雪歩は黙ってて!!」

また、私たちに束の間の日常が戻ってきました。

27: 名無しさん 2011/09/27(火) 18:44:41.41 ID:5DG9HLQ+0
「いやー!菊地クン久しぶりだねー」
「店長!すいません、あの時は突然やめちゃって……」
「いいんだよ。元気そうで良かった」
真ちゃんが、牛丼屋の店長に挨拶をしています。
後頭部を掻きながら、申し訳なさそうに小さなお辞儀を何度もしていました。

「店長殿、騒がしくして申し訳ありません」
四条さんは真ちゃんとは対照的に、膝に手をついて深く一つお辞儀をしました。

「四条ちゃんも久しぶり!1日限りだけどちゃーんと覚えてるよ。俺は美人は忘れないからね」
「ふふ……」
四条さんは、口元に手を当てて、小さく笑いかけました。

「いやぁ皆が知り合いだとは思わなかったよ。この大人しそうな子以外は全員見たことあるから」
「ひっ……」
突然、私へと話題が変わりました。
思わず、椅子を3メートル後ろに下げます。

「は、萩原雪歩ですぅ……」
うぅ……やっぱり、牛丼屋って苦手です……。

34: 名無しさん 2011/09/27(火) 18:52:44.06 ID:5DG9HLQ+0
「変わった子だなぁ。ところで君、君」
「は、はい……」
間合いをしっかりと、確保しました。こ、これで突然襲われてもだ、大丈夫!

「春香ちゃんと、如月さんは元気にしてるの?」
「えっ……」
私は、ずっと下を向いていたのですが思いがけない質問に、不意に顔が自然と持ちあがりました。
「……。」
どうしよう……。なんて答えたらいいんだろ……。

モジモジしている私を見て、店長さんが不審そうな顔を浮かべていました。
すると、私の頭に手の平が優しくぽん、と置かれました。
見上げると、律子さんの手でした。

ニッと不敵に微笑んで、律子さんは言います。
「はい、春香も千早も元気ですよ。心配しないでください」

律子さん……。うぅ、私二年半の間にちょっとは強くなれたかなって思ったけどやっぱりダメダメなままみたいです……。

39: 名無しさん 2011/09/27(火) 19:01:46.97 ID:5DG9HLQ+0
「それじゃ、そろそろ行きましょうか」
頭に載せた手が、くしゃくしゃと私の頭を撫でまわして、そっと離れます。

「いやーお腹いっぱいさー」
お腹をポンポンと叩いて、響ちゃんがお店の外へと出て行きます。
それに伴って、ぞろぞろとアヒルの行列のように私と律子さん以外の皆が自動ドアを抜けて行きました。
……私たち以外の男の人も何故か一斉に出ていって、店の中はガラガラになります。

「ま、待ってぇ~」
私も、ビデオカメラの電源を切って、後を追うように立ちあがります。

「あはは……それじゃ、お話した通り、これお店の前に貼らせてくださいね」
律子さんは、ガラス張りの店の入口に、数枚のポスターを止めました。
お店を出ていった男の人たちが、それに一瞬で群がります。
そこに書いてある内容は──



この人を探しています・星井美希 行方不明 口癖「あふぅ」「なの」



──プロデューサー、765プロが倒産してもう二年半ですぅ……。

49: 名無しさん 2011/09/27(火) 19:20:27.78 ID:5DG9HLQ+0
「すいませぇーん!この女の子を知りませんかぁ~!」
私は駅の大きく開けたロータリーで、ポスターを両手に掲げてめいっぱい大きな声を出しました。

「スゲー美人……」
「この金髪の子が行方不明なんだ。随分目立ちそうなのにな」
「というか、この子どっかで見たことあるような……」
物珍しがった通行人の人たちが、私の周りに孤を描きます。

「あ、あの、美希ちゃんを知っている人がいたら、何でもいいので情報をください……」
私は、集まる視線に震えながらも、一人一人に尋ねます。

でも返ってくる答えは、大体「知らない」か「あのアイドルの子だ」という二つだけ……。

美希ちゃんは引退して二年半が経っても未だに覚えてる人がいるみたいです。
うん、そうだよね。だって、765プロの半分は、美希ちゃんのソロ活動で持っていたみたいなものだから……。

美希ちゃんが鬼気迫る迫力で歌った3rdシングル『Rerations』は大ヒットしました。
プロデューサーが亡くなった後も、暫く経営が続けられたのはこのヒットのおかげ、といってもいいのかも知れません。

57: 名無しさん 2011/09/27(火) 19:29:31.94 ID:5DG9HLQ+0
あまり思い出したくはありませんが……。
プロデューサーが亡くなった時を、目をギュッと瞑って回想してみます。


お葬式の日、安らかな顔を浮かべているプロデューサーに美希ちゃんの大粒の涙が降りかかりました。
「いやぁぁ!プロデューサーさん!!お願い!起きて!イヤだよ!!!」
「美希、やめなさい!」
「美希ちゃん!もうやめて!」
プロデューサーの肩を必死に揺らす美希ちゃんを、全員で取り押さえます。

「……うぅ、ハニー……嘘だよね……死んじゃったなんて……きっと嘘なの……」
美希ちゃんの光を失った瞳から、涙が落ちて、畳をグッショリと濡れていました。

それが、最後に私が見た美希ちゃんです。
あの日以来、美希ちゃんは一度も事務所に現れることはありませんでした。

一体、どこに消えちゃったんだろ、美希ちゃん……。
私は、目をゆっくりと開けて、唇を強く噛みしめました。

63: 名無しさん 2011/09/27(火) 19:40:40.60 ID:5DG9HLQ+0
「今日も、何も手掛かり無かったなぁ……」
私は肩を落として、白い壁と廊下が続く道のりを一人トボトボと歩きました。

美希ちゃんは、数か月前にご両親の前から何も告げずに突然、消えてしまったみたいです。

唯一の手掛かりを知っていたあずささんも
「う~ん。そういえば、最近お墓でも見ないわね~」
と首をかしげてしまいます。

そもそもあずささんも、お墓でばったりと鉢合わせすることはあっても
会話したことは無い、とのことです……。
「美希ちゃんに話しかけようとするとね~逃げちゃうのよ~」

白い扉の前で、立ち止まります。
「ふぅ……」
息を吐いて、ゆっくりとドアノブに手をかけて、開きました。

「ただいま、千早ちゃん」
「……」

千早ちゃんは、目を覚ましました。
真っすぐな瞳で、私を見つめて、口角をかすかに上げて笑いかけます。

76: 名無しさん 2011/09/27(火) 19:55:24.17 ID:5DG9HLQ+0
「あら!雪歩ちゃん、おかえりなさい!寂しかったわ~!」
お留守番をしていた小鳥さんが、私にキラキラの瞳を向けました。
その手には、『30代でも大丈夫!就職必勝マニュアル』……のカバーに巻かれて
少女漫画のページが開かれています。

うぅ、小鳥さん……お仕事してください……。

「はい、牛丼弁当ですぅ……」
「ありがとう、雪歩ちゃん!私もうお腹ぺこぺこよ~」
ビニール袋に入ったお弁当を小鳥さんに手渡します。


「……」
ベッドから上半身を起こしている千早ちゃんは、牛丼に喜ぶ小鳥さんが面白かったのか、にっこりと笑いました。
手術は無事成功しましたが、声を出すのは極力控えるように言われています。
大声を出すのは絶対禁止、みたいで……。

『早くボイストレーニングをしたいわ』とテーブルに載っているメモ帳に、細くて綺麗な字が書かれています。

82: 名無しさん 2011/09/27(火) 20:04:03.39 ID:5DG9HLQ+0
「私だけ、早く着き過ぎちゃったかな……」
「……」
千早ちゃんのベッドの隣の丸いパイプ椅子に座ります。
足の部分がちょっとだけ曲がっているのは、私が真ちゃんに……。

……うん、思いだすのは、やめよう。

「千早ちゃん、今日もビデオ撮ってきたよ。見る?」
「……」
千早ちゃんはこくんと一つ頷きました。
バッグからビデオカメラを撮りだして、千早ちゃんに見えるように、隣に並びます。

「……」
「えっ」
千早ちゃんの細い指が、私の腕をゆっくり掴みました。
私の顔をじっと見て、ペンを握って、メモ帳にさらさらと走り書きをしました。

『今までのことを全部、もう一度だけ見たいわ』
千早ちゃん……。

「うん、わかった」
私は、チャプター1に合わせて、ちょっとだけ力を込めて再生ボタンを押しました。

89: 名無しさん 2011/09/27(火) 20:13:44.19 ID:5DG9HLQ+0
──今いる場所と同じ風景がちょっと荒い画質で、映し出されました。半年前の、この部屋だ……。

「千早ちゃんが!千早ちゃんが目を覚ましました!」
画面に映ってない私の声が響きました。
「ナースコールを!」

「千早!千早!」
真ちゃんが、画面に映り込みました。
ベッドのシーツを目いっぱい握って、真ちゃんは叫びます。

「……!」
千早ちゃんは、自分の両肩を抱いて、ガクガクと震えだしました。
「大丈夫!大丈夫だよ!千早、もう心配ないんだ!」
「ハ……!」
「えっ」
「ハル……カ……ニハ……」
「千早……!」

ビデオカメラの画面をのぞいている千早ちゃんが、苦しそうに目をそらしました。
……チャプターを飛ばします。

96: 名無しさん 2011/09/27(火) 20:21:47.61 ID:5DG9HLQ+0
──場面が変わって、春香ちゃんの家の前が映し出されました。

響ちゃんと律子さんがドアの前にたっています。
「それじゃ、私が先に行ってくるわね」
「うん……」
響ちゃんは、俯きながら律子さんに頷きました。

「ほ~ら、そんな顔しないの。大丈夫よ、私がなんとかします!」
律子さんは片手を腰に手を当てて、拳を強く握りました。
そして、春香ちゃん家のドアを開けて、入っていきます。

「春香ちゃん大丈夫かな……」
「はるか……」
私と響ちゃんは、家の前で律子さんが戻ってくるのを待っていました。

それから数十分たって……
「ふ、二人とも!き、来ちゃダメよ!」
律子さんが、肩を抑えて飛び出てきました。
そのまま膝からがくりと崩れ落ちて……

「う……うぅ……!」
律子さんのメガネと涙が、焼けたアスファルトに落ちました。それから、ぽつりと呟きました。
「春香は……もうダメかもしれない……」

……さらに飛ばします


104: 名無しさん 2011/09/27(火) 20:30:39.22 ID:5DG9HLQ+0
──ここからは、全て902号室で起こったことです。

「貴音ぇ!友達じゃないなんて言わないで欲しいさー!」
「一体何を言っておられるのですか?響」
「へっ?」

……飛ばします。

「これ頭が高い!我らが救世主、雪歩嬢と小鳥嬢のお通りでございますぞ!」
「控えおろう→控えおろう→」
「えっ、えっ。一体なんのこと……?」

……飛ばします

「やよい!会いたかったわ!」
「うっうっー!伊織ちゃーん!」
「うぅ、全然変わってないのね、安心したわ……」
「……伊織ちゃん、何だかうちの畳の匂いがするよ?」

……飛ばします

「ち、千早ちゃん久しぶり……」
「……」
「あら、何を書いているの?」
『ブログの件、ありがとうございます。音無さん』

111: 名無しさん 2011/09/27(火) 20:44:19.20 ID:5DG9HLQ+0
そっと、ビデオカメラをしまいました。
この半年間、こんなちっちゃなテープの中だけじゃ収まりきらないくらいのことがあったから……。
だ、だから、ここからは前へ、ノンストップでいこう!

「が、頑張ろう!おー!」
私は、両手を胸の前で握った後、グーを振り上げました。
「……」
千早ちゃんは、また頷きました。今度は、さっきよりも少しだけ勢いよく。

「はぁ~……水瀬財閥が協力してるのに見つからないってどういうことよ……」
「あっ、おかえりなさい……」
扉がゆっくりと開くと、伊織ちゃんがいました。厚手のファーコートを腕にかけながら、髪を手の甲で掻き上げます。

外は凍えるような寒さでした。窓には、結露した氷がビッシリと張りついています。
美希ちゃん、家に帰ってなくて大丈夫なのかな……。心配だなぁ……。

集合時間になって、全員が病室に集まりました。
最後に、律子さんが入ってきました。
「……皆集まっているのね」
けれど、その顔つきはいつもと違っていて……どこか真剣なような……。

123: 名無しさん 2011/09/27(火) 20:52:58.23 ID:5DG9HLQ+0
一人だけ立ちあがっている律子さんが、ゆっくり口を開きます。
「みんな、一つ確認しておくわ」

みんな、固唾をのんで、律子さんの言葉を待っています。
「春香を救えるのは千早しかいない。その千早は声が出せるようになるまでにもう少しかかる」
「……」
千早ちゃんは目を伏せてシーツを握りました。そのまま律子さんは続けます。

「仮に、千早が迎えに行ったとしても、春香はまた依存生活に逆戻りする可能性のほうが高い」
うん……。

「だから、その間に美希を見つけて、765プロの全員で迎えに行く。それが現段階でのプランよね」
一斉に、頷きます。
「それじゃ、聞いてちょうだい」
一度、力がふと抜けたように、律子さんの頭がぐらんと床を向き、そしてゆっくりと正面を見据えました。


「美希の情報を掴んだわ」

130: 名無しさん 2011/09/27(火) 20:57:58.96 ID:5DG9HLQ+0
「ほ、本当に?!」
真ちゃんが椅子から立ち上がります。

「あら、よかったわぁ~」
あずささんが、ホッと胸を撫で下ろしています。

「これで、全員でもやし祭りができますねー!」
やよいちゃんが、天井に頭をぶつけちゃうんじゃないかってくらいに飛び上がりました。

……よかった。本当によかった。
これでみんな揃うんだね。

「……どおりで見つからないわけだ」
……あれ?
律子さんは、苦虫を噛み潰しちゃったかのような微笑な表情を浮かべていました。
どうして、そんな顔をしてるんだろ。




「美希はね、もういないのよ」
えっ……。

143: 名無しさん 2011/09/27(火) 21:03:20.69 ID:5DG9HLQ+0
ど、どういうこと……?
さっきの明るいムードとは一転して、皆の顔には戸惑いの色が浮かんでいました。

「いないって……」
「もしかして……」
亜美ちゃんと真美ちゃんが、顔を見合わせて呟きました。

「美希が……嘘だよね?!」
響ちゃんが、律子さんに掴みかかりました。

「せっかく……全員揃えると思ったのに……」
美希ちゃんが……死んじゃうなんて……。



「話は最後まで聞きなさいよ。」
「えっ」

「はぁ、誰も死んだなんて言ってないでしょ」
そう言った律子さんは、人差し指を天井へ向けました。上……?
皆が一斉に天井を見上げます。白い壁が見えました。


「美希はね、今アメリカにいるみたいよ」
「は……?」
「ハリウッド」
「ハリウッドォォォ?!」

157: 名無しさん 2011/09/27(火) 21:09:24.88 ID:5DG9HLQ+0
「デ、デジタルハリウッドじゃなくてですか?」
混乱した私は、意味不明な質問をしてしまいました。
「……」
さすがの千早ちゃんも、驚きを隠せないようです。目を見開いて固まっています。

ハリウッド……。

プロデューサーが憧れてた場所だ……。しきりにハリウッドの空港が載っている雑誌を眺めてたっけ……。
アイドルアカデミー大賞にノミネートされたプロデューサーは1年間の研修を受ける。
765プロでは唯一美希ちゃんがノミネートされてたけれど、その途中でプロデューサーは……。

でも、どうして美希ちゃんがアメリカなんかへ……?

「情報はそれだけ。美希はハリウッドにいる。それだけは確かみたいよ」
律子さんは、深いため息をついて、頭を抱えました。
「ほんっとーに、世話が焼けるわねぇ……あの子ったら……」

「はりうっどとは……何ですか?」
四条さんは一人だけ全く状況を把握できていないようです。

「で、どうする?」
「へっ」
「行く?」

169: 名無しさん 2011/09/27(火) 21:17:37.73 ID:5DG9HLQ+0
しん……と沈黙が流れました。
余りに突拍子が無い状況に、みんな言葉を失ってしまいました。

「あの……はりうっどとは……」
四条さんだけ全く状況を把握できていないようです。

「……!」
千早ちゃんが真っ先に手をあげました。口を一文字に結んで、律子さんを見つめます。
それを見た律子さんは、持っていたクリップボードで、こつんと千早ちゃんの頭を叩きました。
「あんたはダメ。入院中でしょ」

「外国のイケメンに会えるかも!はいはい!行きます!」
小鳥さんが、二番目に手をあげました。うぅ……言わないですけど、動機がちょっとおかしい気がします……。

「小鳥さんは、これ」
小鳥さんの目の前のテーブルにビデオテープを置きました。
「へっ?」
目を白黒させて、小鳥さんはそれを眺めています。

「ダビングしたビデオテープの編集と、千早ちゃんの看病、それと就職活動をお願いします」
「わ、私またお留守番ですか~?」
小鳥さんの目から滝のような涙が溢れました……。

184: 名無しさん 2011/09/27(火) 21:25:24.74 ID:5DG9HLQ+0
「他のみんなはどうする?」

「ボクは、行くよ」
立ちあがっている真ちゃんが、意志を持った声で言いました。
「亜美も行くよ→!ハリウッドってメチャたのしそ→じゃん!」
「真美も→」
亜美ちゃんと真美ちゃんが、ワクワクといった擬音が今にも聞こえてきそうな笑顔で言います。

「自分も!」
「私も行きます~」
続々と、前の人につられて呼応します。気づくと、私とやよいちゃん以外のみんなの手が挙がっていました。

どうしよう……。海外って怖い所だからお父さんに行くなって言われてるし……。
それに、私なんて行っても役に立たないよね。
……だけど

「わ、私も行きます!」
「雪歩……」
真ちゃんが、私の方をまじまじと見て、それからフッと微笑を浮かべました。

190: 名無しさん 2011/09/27(火) 21:34:23.28 ID:5DG9HLQ+0
「はりうっど、どうやらそれほどまでに魅力的な場所のようですね。もしかしたら私の探し求めるらぁめんも……」
四条さんだけ何か勘違いしているみたいです。

「オーケー、やよいはどうする?」
律子さんが、やよいちゃんに話しかけました。
やよいちゃんは、もじもじと手を組んでいます。
「……私、お金がないから行けません」
「あ……」
「みんな、頑張ってきてくださいね。日本で、応援してますー!」
やよいちゃんは、私たちに精一杯の笑顔を見せて、手を小さく振りました。

その時、ふと伊織ちゃんの目がキラリと光って、口元がニヤリと歪んだ……ように見えました。
「そう、それじゃ出発は一週間後、全員ファーストクラスで行くわ。やよい、あんたも一緒よ」

ま、まさか……

「水瀬財閥専用のジェット機に決まってるじゃない。にひひっ」

まさかアメリカに行くなんて想像もしてませんでしたぁ~……。

211: 名無しさん 2011/09/27(火) 21:53:34.74 ID:5DG9HLQ+0
出発まで一週間……それまでに私は出来る限り日本の風景を収めようとビデオカメラを回し続けます。


病院の薄暗い待合室に、ジーというカメラの起動音だけが反響します。
ここの病院も、もうお別れかぁ……。

廊下を歩いていると、ぼんやりと誰かの背中が見えました。
何か、携帯電話で話しているみたいです。

「はい、一週間後そちらへ向かうわ。ややこしい手続きやらなんやらは、全部すっ飛ばして……」
どうやら伊織ちゃんみたいです。
「はい、お兄様。手配はお父様が……」
お兄さんと話しているみたいです。壁に頭をつけて、足でとんとんとリズムを刻みながら、会話を続けています。

……って何私盗み聞きしてるんだろ?!いけないよね!ビデオカメラも止めないと……!
「……今何て言ったの?お兄様」
えっ……。
ふと、伊織ちゃんの雰囲気が突然変わりました。背中がわなわなと震えています。

「ずーっとお金と睨めっこしてるお兄様なんかに!私の気持ちなんて一生わからないわ!」
伊織ちゃんは、壁を握った拳で思いっきり叩きました。大きな音が鳴り響きます。
私はその音に驚いて、「ひっ……!」と短い悲鳴を漏らしてしまいました。

221: 名無しさん 2011/09/27(火) 22:05:30.71 ID:5DG9HLQ+0
伊織ちゃんは私に気付いたみたいです。私の方を振り向いて、少しだけ驚いた顔をして。
「……」
携帯電話を切りました。

「盗み聞きなんて趣味が悪いんじゃないの」
また、顔を反対側に向けました。表情はうかがい知れません。

「ごめんね……」
私は、踵をかえしてその場を離れようとします。

「……落ちこぼれですって」
「えっ」
「お前は、水瀬財閥の落ちこぼれだ。どうしてお前なんかをお父様が可愛がっているのかわからない、だそうよ」
「……」

伊織ちゃんのお兄さんのことは少しだけ聞いたことがあります。
何でも、「水瀬一族の最高傑作」と言われている人で……そんな伊織ちゃんはお兄さんにコンプレックスを感じていて……。
そんな伊織ちゃんにとって、さっきの言葉は相当、応えたに違いありません……。

「ふざけんじゃないわよ……。また、いつか私はアイドルっていってお兄さまの度肝を抜かせてやるんだから……!」
伊織ちゃんは私に一切顔を見せずに、病院の暗闇の中へ消えて行きました。

224: 名無しさん 2011/09/27(火) 22:06:46.81 ID:5DG9HLQ+0
さすがに全員の導入入れるとなげーwww
大分カットするかなぁ
ちょっと風呂

239: 名無しさん 2011/09/27(火) 22:22:23.44 ID:5DG9HLQ+0
その日の帰りがけに、近所の公園を横切りました。
切れかかった街灯が遊び場をかすかに照らしています。

あっ……。

「はぁ……はぁ……」
響ちゃんだ。
響ちゃんは、夜の薄暗い公園で、一人ダンスレッスンをしていました。
──春香にダンスレッスンを教えてやるんだ。
765プロ時代に、そう言ってた言葉を思い出します。

私は、頑張っている響ちゃんの姿を収めようと、こっそりとビデオカメラを回しました。
こんなに夜遅くまで、響ちゃんはレッスンしてるんだ。敵わないや……。

「あぐ……!」
不意に、響ちゃんの体がぐらりと傾きました。
苦痛に歪んだ顔で、ふくらはぎの部分を強く抑えています。

「響ちゃん!」
「雪歩……」
私はビデオカメラを放り投げて、響ちゃんに駆け寄りました。

250: 名無しさん 2011/09/27(火) 22:30:31.83 ID:5DG9HLQ+0
「はは……こんなんじゃ真にダンスで負けちゃうな……」
「……」
響ちゃんと私は、公園のベンチに座りました。響ちゃんは照れ隠しするかのように、頬をかきます。

響ちゃんの前髪が風で舞い上がって、オデコに、ケガの縫い目が走っています。
……。

「きっと、春香にヒドいことしたから、バチがあたったんだな」
「響ちゃん……」
響ちゃんは、足をブラブラとさせて呟きました。
そのまま続けます。
「皆には、内緒にしといてね」
「……う、うん」
きっと、私が逆に立場でも、そう言うと思うから……。

「さすが、石地蔵のお雪だな!」
懐かしいあだ名で呼ばれました。高校生のときに、私の口が固いことからついたあだ名です……。
「で、でも、ほんとにいいの?」
「うん!傷つくコトを避けたらダメだぞ!」
響ちゃんは曇りない顔で、私の前にピースサインを突き出しました。
やっぱり、響ちゃんは頑張り屋です。

257: 名無しさん 2011/09/27(火) 22:44:18.95 ID:5DG9HLQ+0
「こ、壊れてないかな……」

ビデオカメラの電源をおそるおそるつけました……。
すると、いつも通り、軽快な起動音が鳴りました。
よかった……。
も、もしこれで壊れてたら、律子さんの雷が落ちるところでした……。

レンズ越しに覗いてみます。うん、大丈夫……。
と、その時突然、私の狭くなっている視界に手がにゅっと伸びてきました。

「ひゃあ!」私はまたビデオカメラを落としそうになります。

「あっはっは。ビックリした?ゆきぴょん」
「亜美ちゃん、真美ちゃん……」

亜美ちゃんと真美ちゃんは私にイタズラっこの笑みを向けています。
両親が離婚して別々のところに住んでいる二人は、週に1~2回くらいのペースで会っているみたいです。

きっと、ほんとは寂しいよね……。けれど、765プロでいつも一緒だった二人は、私たちの前ではいつも一緒で、笑ってくれます。

265: 名無しさん 2011/09/27(火) 22:57:25.41 ID:5DG9HLQ+0
「こっちから帰ってきたらさ。ママとパパにもう1回お熱いチューをしてくれないか相談してみるよ
 ま、悩んでも仕方ないよね!」
「そうそう、そんな時もあるさ!株価は上がるさ!」

そういって、二人は手を振って、走って病院から出て行きました。
みんな、すごいなぁ。辛いこと、悲しいこといっぱいあったはずのに……。
私なんて……。ダメダメだよ……。うぅ……。

「なーに暗くなってるのよ」
「ひゃっ!」
突然、ほっぺたに熱いモノが触れました。
振り返ると……律子さんが缶コーヒーをつまむように持っていました。


「も~雪歩はすぐ泣くんだから。ホンット変わってないわね」
「うぅ……ごめんなさい……」
缶コーヒーを膝で挟んで、私はすんすんと涙を流します。
あの時の、半年前のことが自分でも信じられません……。

278: 名無しさん 2011/09/27(火) 23:13:20.95 ID:5DG9HLQ+0
「落ちついた……?ってまだか。」
缶コーヒーを啜りながら、律子さんは壁にもたれかかりました。

「律子さん、なんだか私自信無くなってきました……」
「……」
「皆だけ、成長してるみたいで、私、おいてけぼりになっちゃってるみたいで……」
みんなと半年過ごして……今まで出来なかったことや、言えなかったことが皆出来るようになってて……。
私はすごく、焦るんだけどどうにもできなくて……。
律子さんは、私の泣きごとを黙って聞いていました。

「う~~ん……」
コーヒーを一息に飲み干して、律子さんは唸りました。
「やっぱ、雪歩はこういうタイプよねぇ……」
「……うぅ」
「大~丈夫よ。私は、今はからあげくんを揚げてる身だけど、元プロデューサーとして、アンタのことはしっかり見てるつもりだから」
律子さんは、私の背中を2~3回叩いて、私から離れて行きました。

「ねぇ、雪歩。もし美希に会えたら私ね。もう一度……」
「えっ」
「何でも無い。ま、アンタたちがもう一度、私に魔法をかけてみせてよ」
そう言って、手をひらひらとさせて、律子さんは休憩室から出ていきました。

285: 名無しさん 2011/09/27(火) 23:24:57.46 ID:5DG9HLQ+0
病室へ行くと、千早ちゃんがすやすやと眠っていました。
……私は胸がきゅうっと締め付けられる思いがしました。

もう安心なんだ、目が覚めるって、わかっていても怖いよ……。
もし、千早ちゃんがまた起きなくなったら……。

また、あの日がまた戻ってくるとしたら……。
真ちゃんのあの目を、私の意思とは関係なくフラッシュバックしてしまいます。

──雪歩!謝れよ!
そう言って、真ちゃんはお腹、肩、背中を目いっぱいの力で殴りつけます。

「う……うぅ……」
怖い……怖い……。

「あら、雪歩ちゃん。どうして泣いているの?」
安らぎを与えてくれる穏やかな声が、後ろから聞こえました。
あずささんの声だ……。

291: 名無しさん 2011/09/27(火) 23:35:45.48 ID:5DG9HLQ+0
「雪歩ちゃん~私、雪歩ちゃんが泣いていると悲しいわ~」
あずささんは、私の丸まっている背中を何度も優しく撫で上げました。
私は、シーツに顔を伏せて、面をあげることがどうしても出来ません。

この大変な状況で、自分だけ人に甘えるのはいけないことなのはわかっています。
けれど、どうしても涙が止まらなくて……。
一番年上のあずささんに、ついつい弱さを見せてしまって……。

「私アメリカ行くのやっぱりやめます……」
あずささんの背中をさする手がピタリと止まりました。
「きっと、行っても足手まといになっちゃうから……」
「……」
あずささんは黙ってしまいました。今、あずささんがどんな顔をしているのかわかりません。
怒ってるのかな。困ってるのかな。呆れてるのかな。


だけど、ちょっとして……
「大丈夫、雪歩ちゃんは、とっても強い子だから」
「えっ……」
思いがけない慰めでした。
強いっていうのは、千早ちゃんや四条さんみたいな……。

「そうねぇ、確かにその二人もと~っても強い子だけど、雪歩ちゃんの強さとはちょっと違うわね~」

293: 名無しさん 2011/09/27(火) 23:45:08.76 ID:5DG9HLQ+0
「自分では、ちょっとわからないです……」
「大丈夫。いつか、わかる日が来るわ~」

……。
結局あずささんに甘えてしまいました。
だけどそのおかげで、少し落ちつきました。
ゆっくりと、呼吸を整えて、涙を拭って。
私、変わらないとダメだよね……。うぅ……。

変わったといえば……。
「あずささん、どうして髪を伸ばしたんですか?」
あずささんは私と再開してから、ショートカットだった髪を、また以前の綺麗なロングヘアに戻しました。
「そうねぇ~。ちょっとした心境の変化かしら~?」
そう言って、頬に手を当てて首をかしげました。あずささんの癖です。

「あら、今日は土曜日ね」
少しお話した後に、あずささんは携帯電話で日付を確認して言いました。不意に立ちあがります。

「早く帰って、お夕食を作らないといけないわ~」
そういって、私に別れの挨拶を済ませて、扉を出ていこうとします。
その間際に
「……プロデューサーさんは嘘つきね~。嘘をつく人は、私、キライですよ~」
そう微かに呟いて、あずささんは扉をゆっくりと閉めました。

297: 名無しさん 2011/09/27(火) 23:59:57.97 ID:5DG9HLQ+0
少し、風に当たろうと病院の屋上へ足を踏み入れました。
夜空には、満月がキレイに輝いていました。
ビデオカメラで、その月を撮影します。

「あ……」
カメラを正面を向けると……先客の方がいたみたいです。
手すりにもたれかかって、風で銀髪が揺らいでいました。

「雪歩殿も、月を眺めようと思ったのですか」
「はい……」

そのまま、隣に凭れかかって、ぼんやりと月を眺めます。
「……私は、プロデューサー殿を殺めてしまいました」
「……」
四条さんに前に、詳しい話は全て聞きました。
961プロに脅されて、無理やり入らされて、ひどいことを強要されたこと。
それでも、四条さんは私に弱みは全く見せません。
人前で涙を流すことは今まで一度も無い、四条さんはやっぱり強い人でした。
私は、そんな四条さんに憧れていました……。


1: 名無しさん 2011/09/28(水) 18:12:36.02 ID:vydOyO3j0
あのあと、お互いに言葉は何一つありませんでした。 
ただ、満月を眺める四条さんの顔はどこか、悲しげだったのは気のせいだったのでしょうか……。 


一人、ボーっとビデオカメラを覗きながら、廊下を一歩一歩進みます。 
すると、長イスに座ったやよいちゃんが「べろちょろ」からハミガキやお財布を取り出していました。 

「う~んと、これの他に必要なものは~もやしと~……」 
……やよいちゃんモヤシは賞味期限が持たないと思いますぅ。 

「あっ雪歩さん!」 
私に気付いたやよいちゃんは、イスから飛び上がり、両手を後ろに跳ねあげてお辞儀をしました。

10: 名無しさん 2011/09/28(水) 18:21:29.72 ID:vydOyO3j0
私は鼻歌まじりでご機嫌なやよいちゃんの隣に座って、話しかけます。 
「あ、あのね、やよいちゃん、お家のことは大丈夫なの?」 
「はい!最近、長介がしっかりしてきてくれたので、な~んにも心配いりませんよ!」 

やよいちゃんは満面の笑みを向けてくれました……。 
その言葉は、ウソじゃないみたいです。 

「お金が無いから、お土産は買っていけませんけど」 
相変わらず、ニコニコ顔でやよいちゃんは続けます 
私はそれにつられて、ついつい口元が緩んじゃいます……。 
「でもでも、あっちでの思い出話をい~っぱい持ってかえろうと思います~!」 

やよいちゃんは、倒産してから一人で家事や、お刺身のタンポポを作るアルバイトや 
病気で倒れたお母さんの看病をしていた、と響ちゃんから聞きました。 
すごい……すごいなぁ……。私はとにかく、『すごい』という言葉しか浮かびませんでした。 

「きっと!それはお金じゃ買えないほど大事です!」 
やよいちゃんは、私より3つも年下なのに、もうなにか大切なものをすでに見つけたみたいです。

14: 名無しさん 2011/09/28(水) 18:26:15.48 ID:vydOyO3j0
それから、起こさないようにそっと静かにドアを開けると、千早ちゃんが目を覚ましていました。 
「……!」 
千早ちゃんは、ベッドから身を起していました。 
その目はギュッと閉じられていて、歯をきつく食いしばっていて……。 

「わかるよ、千早ちゃん。春香ちゃんのことだよね」 
「……!」 
私の声にピクッと肩を震わせて、驚いた顔を向けました。 

私と真ちゃんもずっとデュオを組んでいたから……。 
千早ちゃんが今どれだけ辛いかは、こんなダメダメで負の胞子を撒き散らしちゃう私でもわかってあげられるつもりです。 

「本当は、今すぐ会いに行きたいんだよね」 
「……」 

千早ちゃんは、一切言葉を発しません。 
それに、千早ちゃんはあまり気持ちを表に出すような人じゃないので、他人から誤解されやすいみたいです。 
私も、出会ってすぐのときは犬>男の人>千早ちゃんの順に怖かったですぅ……。

17: 名無しさん 2011/09/28(水) 18:36:12.91 ID:vydOyO3j0
二人っきりになりました。 
私と千早ちゃんは、アイドル時代そんなに話をするほうではなかったです。 

「……えっと」 
「……」 

ひぃ~ん!何話せば元気が出るんだろ……。 
昨日私がUFOを見つけた話かな……でも千早ちゃんってオカルトとか嫌いそうだし…… 
それとも私がドジっちゃった話……ダメダメ千早ちゃんってツッコミがなんだか怖いし…… 

「……」 
千早ちゃんの顔がまた曇り始めました。 
「あ、あのね!千早ちゃん、私たち絶対に帰ってくるから!」 
「……!」 
「だから、だから心配しないで!千早ちゃんも今とっても辛いと思うけど……」 

必死に捲し立てる私の手に、そっと千早ちゃんの手のひらが重なりました。 
「大……丈……夫……」 
千早ちゃんは、私たちじゃないときっと無表情の時と区別がつかないほどの、ギリギリの微笑をして言いました。 

「誰の……助けも……今は……いらない……から」 
……あずささん、やっぱり千早ちゃんは私なんかよりとっても強い人です。

22: 名無しさん 2011/09/28(水) 18:44:34.63 ID:vydOyO3j0
いよいよ、出発が明日に迫りました。 
それまでに、いっぱいいっぱいビデオカメラに風景は残しておきました。 

だけど、最後にどうしてもハッキリしておきたいことがあって……。 
グッと拳を握って、休憩室のドアを開けました。 
そこには…… 

「真ちゃん、二人で会うのは久しぶりだね」 
「あ、雪歩……」 

真ちゃんと私は、表面上では元通りになりました。 
皆と会うときは、いつもの感じで話せます 
けれども、二人っきりになるのをどこかお互い避けていて……。 

「やぁ……」 
真ちゃんは、私を見て顔を背けました。 

真ちゃん、誰にも言わないし、元気にふるまっているけど私、知ってるよ。 
週に1回、精神病院に通ってオクスリ貰ってること……。 
未だに、あの日のことに悩まされていること……。

29: 名無しさん 2011/09/28(水) 18:53:45.59 ID:vydOyO3j0
「真ちゃん、私ホントに気にしてないから」 
「ごめん……」 

会うたびに、ごめんと言われます。 
謝るのはホントは私の方なのに。 
私も、765プロ倒産直後は、真ちゃんにいっぱい迷惑かけちゃったから。 

「美希ったらさ……ホントいつもボクを困らせるんだ、真クン真クン言って……まったく」 
真ちゃんはポツポツと言葉を紡ぎます。 
「でも、美希はボクの言うことだけはいつも聞いてくれるんだ。今回も大丈夫だよ」 
「……」 

真ちゃんは、相変わらず声は落ち込んでいます。 

「雪歩、ボクたちまた元の関係に戻れるのかなぁ? 
 アイドルに戻って、また仲良くなれるのかな」 
「……」 

「最近、そんなことばかり考えるんだ。もし、美希も春香も元気になってももう全部遅かったんじゃないかって」 
「……」 
多分、それはみんな考えてることだと思います。でも、私たちはそれを信じるしかないから……。 
何か、言葉を出そうとしても喉の手前で引っ込んでしまいます。

31: 名無しさん 2011/09/28(水) 19:00:39.67 ID:vydOyO3j0
「……けどね、解ったよ」 
「えっ」 

真ちゃんの声に力が篭りました。 
「後悔するのは、全力で、精一杯、ジャンジャンバリバリ頑張ってから。それからしてやる」 
「……」 

真ちゃんが、立ちあがって肩を震わせました。 
「あー!なんだかボクらしくないよね!ウジウジ悩んじゃってさ」 
「……うん!」 
やっぱり、真ちゃんは真ちゃんみたいです。 
くるりと、私の方に振り向いて言いました。 

「ひとつ、約束して。雪歩」 
「えっ」 
「もしこれから先、ボクにまた何かあってしても、雪歩には辛くても前を見ていて欲しいんだ」 
……私は、真ちゃんの目をじっと見て強く頷きました。 
それから、手をグーにして真ちゃんに向けます。真ちゃんも、手を握って…… 

「ダーン」 

……いよいよ私たちは明日、アメリカへと向かいますぅ……!

43: 名無しさん 2011/09/28(水) 19:13:32.73 ID:vydOyO3j0
「ユ→エスエ→!!!」 
「イエーイ!」 
小さなヤシの木の立ち並んだアメリカの空港の出口で亜美ちゃんと真美ちゃんが飛び上がりました。 
遠くには、スモッグの先に、映画やテレビでよく見る「HOLLYWOOD」の大きな看板が見えました。 

……ピンクのウサギがプリントされてジェット機チャーター。 
ホントに来ちゃいました。アメリカ……。 

「ここに来るのも久しぶりね~」 
サングラスをズラして、隣の伊織ちゃんが言いました。 
「はいはい、皆集合~!」 
スーツを着た律子さんが、パンパンと手を叩きます。 

「ここからは、グループを分けて美希を探すわ」 
バッグから何か黒い電子機器を取り出して、それを一人ずつ手渡します。 
伊織ちゃんの説明曰く…… 

水瀬財閥作!GPSで24時間リアルタイムで超小型ICタグで全員の位置を補足! 
衛星地図も表示されて誤差ほぼゼロミリ!さらに通話機能搭載! 


あはは……伊織ちゃんが味方になってくれると頼もしすぎですね……。 

48: 名無しさん 2011/09/28(水) 19:21:47.34 ID:vydOyO3j0
──ただし、衝撃には非常に弱いから注意してね 
最後に一言付け加えました。 

「では、チーム分けを発表するわ!」 
律子さんが声を張り上げました。 

「まず、真、やよいチーム!」 
「はいはーい!」 
真ちゃんとやよいちゃんが元気よく返事をします。 
この組は、街中での捜索を中心に行うみたいです。 

「次、雪歩、伊織、亜美真美チーム!」 
わ、私の名前が呼ばれました……。 
伊織ちゃんの海外旅行でのノウハウを生かして動くみたいです。 

「3組目!響、貴音チーム!」 
「自分、がんばっちゃうぞー!」 
勘の鋭い二人が、奇跡を起こすかも……みたいです。 

「最後に私とあずささんチームね……」 
……なんとなく納得しました。

54: 名無しさん 2011/09/28(水) 19:31:39.96 ID:vydOyO3j0
「それじゃみんな!舞台はハリウッド!元765プロ最後の一人、美希に会いにいくわ! 
律子さんの瞳に炎が宿りました。 
「作戦名は……そう、オーバーマスター作戦よ!」 

「な、なんか律っちゃん燃えてんね……」 
「ほら……りっちゃんってゲーム好きだから……」 
亜美ちゃんと真美ちゃんの内緒話が、漏れてきました。 

「では、スタート!健闘を祈るわ!」 

そう言って、私たちはバラバラの方向へとそれぞれ向かいました。 

それから、地図を見ていた私に伊織ちゃんが言いました。 
「はぁ~……ようやく私たちが報われる、最期の週末が来るのね」 
「う、うん……」 
水瀬財閥の用意した外国車に乗り込み、市街地へと向かいます。 

勘、っていうのかな。 
どうしてだろう。美希ちゃんに会えるハズなのに……。 
なんだかイヤな胸騒ぎが収まりません……。

60: 名無しさん 2011/09/28(水) 19:41:45.17 ID:vydOyO3j0
カラフルな建物と、観光客が溢れかえるメインストリートに到着しました。 
地面のタイルには、有名な俳優の名前と星がいっぱい書かれています。 

ふと目を離すと亜美ちゃんと真美ちゃんがお土産屋で品物を見ていました。 
「うわ→見て見て真美!ののワさん人形だよ!」 
「ホントだ→!ここ押すと『ヴぁい!』って鳴くんだね!」 

「ちょっとアンタたち、観光に来たんじゃないのよ!」 
伊織ちゃんが真っ赤な顔で怒鳴りました。 
うぅ……お願いだからはぐれないで……。 

『あらあら~なんだか不思議な匂いがするわね~』 
『あずささん!そっちの通りは危ないですから!』 
GPSからあずささんと律子さんの声が聞こえてきました。 

『は、はわいゆ~?あ、あいむたかね……』 
『貴音!知らない人に話しかけちゃダメさー!』 

……なんだかあちらはあちらで大変みたいです。

70: 名無しさん 2011/09/28(水) 19:53:36.16 ID:vydOyO3j0
「ま、そんな簡単に見つかるワケないわよね」 
「うん……」 

私はそれからいっぱい歩き回って、ヘトヘトになっちゃいました……。 
伊織ちゃんと一緒に、カフェに立ち寄りました。 
亜美ちゃんと真美ちゃんは、まだまだ元気いっぱいみたいです。 
うぅ……体力無いなぁ……私……ダメだな……。 
また、ネガティブな思考が始まってしまいました。 

大きなオレンジジュースを啜りながら、伊織ちゃんが言います。 
「ねぇ、雪歩、聞くとこによると、ずっと千早と真の看病してたらしいじゃない」 
「ふぇ……?!う、うん……」 
なんだか、本当に私のことだとは思えないけれど……。 
「ふ~ん。あんたにしてはよくやったじゃない」 
そう言って、感心感心といった具合に両頬に手をついて私を見ました。 
……あのときの力の出し方がもうわかりません。 

その時…… 
『見つけた!』 
真ちゃんの声がGPSから鳴り響きました。

79: 名無しさん 2011/09/28(水) 20:02:41.85 ID:vydOyO3j0
「ホントに?!」 
伊織ちゃんがテーブルに両手をついて立ちあがりました。 
オレンジジュースが倒れて、床に染みを作ります。 

ついに……ついに美希ちゃんに……3年ぶりに会えるんだ……。 

『う、うん。だけどちょっと美希の様子がおかしいんだ……』 
「えっ……」 
真ちゃんが続けます。 
『と、とにかくこっちへ来て』 

そう言って、通話が途切れました。 
真ちゃんの場所をGPSで確認します。 
……多分、私たちが最初につく。 

私は、美希ちゃんがいるであろう方向へと走ってむかいました。 
なんだか、寒気がしてきました。足取りも、重たい……。 
まるで、行くことを私自信が拒否してるかのような……。

91: 名無しさん 2011/09/28(水) 20:12:44.33 ID:vydOyO3j0
「はぁ……はぁ……」 
地図を確認すると、どうやらショッピングモールの中にいるみたいです。 
自動ドアが開いて、エレベーターを駆け上って…… 
ここは…… 

CDショップだ……。 
ガラス張りのドアを開けて、奥へいくと輸入CDのコーナーに 
真ちゃんの後ろ姿と…… 

キレイな金髪に、ゆるいウェーブの後ろ姿が見えました。 

「美希!一体どうしたんだよ?!」 
真ちゃんが背後から肩を揺らしますが、まるで反応の無い人形のように体が揺れました。 
手に持ってるのは……美希ちゃんの『Rerations』のCDだ……。 

「……ふ~ん」 
確かに、美希ちゃんの声が聞こえました。ゆらっと、私の方を振り向きます……。 
「ひっ……!」思わず、悲鳴が漏れて、尻もちをついてしまいました。 

美希ちゃんの目の下には、まるで痣のように、黒い『くま』が出来ていました……。 
「眠れない……ずっと眠れないの……」

97: 名無しさん 2011/09/28(水) 20:20:35.46 ID:vydOyO3j0
「あの日から眠れないの……眠ると思い出すの……」 
ブツブツとうわ言のように、美希ちゃんは繰り返します。 
「お願いだから眠らせてほしいの……」 
掠れた声でそう呟く美希ちゃんのCDを持つ手が、小刻みに震えています。 
私と全く視線が合いません。 
一瞬、白目をむいて、またCDをじっと見詰め始めました 


私は、立ちあがって、真ちゃんの背中に隠れます。 
「真ちゃん……」 
「う、うん。さっきからずっとこの調子なんだ……」 

「……うぅん」 
美希ちゃんは、CDを置いて、ふらふらと頭を揺らしながら私たちから離れていきます。 

「ま、待てよ美希!」 
真ちゃんが呼びとめます。 
美希ちゃんの足がピタリ、と止まりました。

108: 名無しさん 2011/09/28(水) 20:29:08.02 ID:vydOyO3j0
「なんなの……」 
美希ちゃんがまるで幽霊のように頭をぐらんとこちらへ回します。 

「……!」 
真ちゃんは一歩、後ずさりしました。 
無理やり、笑顔を作って美希ちゃんに優しく語りかけます。 

「ほら、僕だよ。真だよ。三年も会ってないから忘れちゃった?」 
「……」 
美希ちゃんの表情は変わりません。目はうつろで虚空を仰いでいました。 

「ホラ、今度は怒らないから、真ク~ンって抱きついてきなよ」 
「……」 

美希ちゃんの口が、パカリと開きました。 
まるで機械みたいに、感情のこもってない声で言いました。 

「……キミ、ダレ?」 
「えっ……」 

不意に頭にある思いがよぎりました。 
私たちは、765プロが倒産してから、ただその思い出だけでここまで頑張ってこれました。 
だけど、だけどもし、それがスッポリと抜け落ちてしまっていたとするなら……。どうなっちゃうんだろう……。

118: 名無しさん 2011/09/28(水) 20:37:07.65 ID:vydOyO3j0
「誰ってやだなぁ……。冗談キツいよ……」 
真ちゃんはなるべく平静を装うように、美希ちゃんに話しかけようとします。 
ちょっとだけ、声が震えていました。 

「ホラ、一緒にステージで歌っただろ?結婚式の撮影でボクがタキシード着て美希がドレス着て……」 
「……知らないの」 

美希ちゃんのクマに覆われた瞳は、完全に輝きを失っていました。 

私は、真ちゃんの背中に隠れたまま、やっと美希ちゃんに話しかけました。 
「あ、あの。美希ちゃん私のことは覚えてる?」 
「……覚えてないの」 

「ど、どういうこと……?」 
私は、無意識に言葉が漏れました。 

「全生活史健忘、いわゆる記憶喪失だよ」 
「えっ……」 
突然、後ろから日本語が聞こえました。 
振り返ると、黒いスーツを着た、ちょっと怖そうな男の人が立っていました。 
美希ちゃんを知ってるこの人、一体だれだろ……?

122: 名無しさん 2011/09/28(水) 20:42:12.33 ID:vydOyO3j0
「あ……!」 
美希ちゃんの声に急に感情が篭りました。 

「待ってたの~!」 
さっきとは打って変わって、明るい美希ちゃんに変わりました。 
そのスーツの男の人の腕に抱きつきました。 

「あぁ、元々極度のストレスによる解離の兆候があったんだが、あまりに眠れないってんで強めの睡眠薬をやったんだよ 
それでちょっとバカになっちまったらしい」 

……! 
「ひ、ひど……」 
そう言いかけた私の背後から、明るい大声が聞こえました。私はビクッと肩を震わせます。 

「いや~!全力でぶっ飛ばしてやっとついた……」 
響ちゃんでした。その人を顔を見るなり、急に険しくなります。 
「お、お前は……!」 
「よぉ」 
響ちゃんに向かって、気だるそうに片手をあげます。

127: 名無しさん 2011/09/28(水) 20:48:09.56 ID:vydOyO3j0
「ま、待ってください……響……」 
遅れて、息を切らして四条さんがお店へ入ってきました。 
はぁはぁと目を瞑り膝に手をついて、息を整えます。 

「……久しぶりだな貴音」 
「……!」 

四条さんが怯えたように顔をあげます。 
そして、その人を見て、唇を血が出るくらい噛みしめて、拳を強く握りました。 

四条さんが、こんなに感情をあらわにするなんて……。 

ひとつ、深く息を吸って、また四条さんは無表情に戻り、深くお辞儀をしました。 

「お久しぶりです、プロデューサー」 
えっ…… 
この人が……961プロの四条さんの元プロデューサー……。 
四条さんを脅して961に無理やりスカウトして……。 
そして、私たちのプロデューサーへの嫌がらせを提案した……人だ……。

140: 名無しさん 2011/09/28(水) 20:59:40.61 ID:vydOyO3j0
私たちが全員集まった後に、ショッピングモールのハンバーガーショップの奥の席へと座りました。 

向かい側に961プロデューサーと美希ちゃんが座っています。 
「貴音、お前が突然引退したせいでこっちは大変だったよ」 
プカプカと煙草の煙を浮かべて、美希ちゃんの肩に腕を乗せて、天井を見上げました。 

「まぁお前はかなり無理を通したせいでゴシップ記事まみれだったからな。そろそろ使えなくなる頃かと思ってんだ。」 
そう言って、四条さんの方を見ようともせずに、口から煙を吐きました。 
四条さんは、無表情を保っていますが、テーブルの下から覗く手は、スカートをきつく握っています。 

「今回、美希には同じ轍を踏まないように心がけたよ」 
「……他のものには手を出さないと約束をしたハズですが」 
「お前が辞めた後だから、俺が誰をスカウトしようが勝手だろう」 

「ねぇ、この人たちダレ?」 
美希ちゃんは961のプロデューサーに問いかけます。 
「こいつらな、俺をイジメる悪いヤツらなんだよ」 

美希ちゃんが、こちらをキッと睨みつけます。 
「ふ~ん、ワルモノさんなんだね」 

……本当に、全部忘れちゃったんだ。美希ちゃん。

149: 名無しさん 2011/09/28(水) 21:12:58.73 ID:vydOyO3j0
響ちゃんは、小さな唸り声をあげています。 
「お前……ウソつくし……動物捨てるし……悪いヤツさー!」 

響ちゃんの方を一瞥して、言いました。 
「才能が無いヤツは苦労するよなぁ。引退した後、違法ペットショップで臭い思いしなきゃならんなんてな」 
「……!」 
響ちゃんがギリッと歯を食いしばりました。今にも、その人に殴りかかそうな顔でした。 

「俺は星井美希の才能に目をつけた。 
だけど、日本はダメだ。日本では961に随分と悪評がついて回った。 
そこで俺はアメリカに渡ろうと思ったんだよ。こっちなら日本の噂なんて届かないからな」 

そう言って、美希ちゃんの頭をわしわしと撫でました。 
「ねぇねぇ、アレちょーだい」 
「あぁ」 
961プロデューサーは、銀のステンレスの入れ物から葉巻を一本とりだしました。 
美希ちゃんは、鼻歌を歌いながらそれに火を点けます。煙が、こちらへ漂ってきました。 

「この匂い。あんたまさか……!」 
律子さんは、しかめっ面をして鼻を押さえました。 

「あー大丈夫だよ。葉っぱならそれほど依存性は無いし、こっちじゃそれほど珍しいことじゃない」

158: 名無しさん 2011/09/28(水) 21:20:27.79 ID:vydOyO3j0
「これね、よくわかんないけどすっごく気分が楽しくなってくるの」 
そう言う美希ちゃんの瞳が、とろんと溶けてきました。 

「あんた、それ、何だかわかってて吸ってるの?」 
律子さんのきつく握った拳から、血がつつ……と伝いました。 

「え?」 
美希ちゃんはきょとんとした目で、律子さんを見ました。 
……知らないんだ。美希ちゃんの世間知らずっぽさが、ここで響いてしまいました。 

私は、また涙が零れてきました。 
やっぱり、私、何もできないですぅ……。ただ泣くことしかできないです……。 

「元プロデューサーとして、ひとつあなたに尋ねたいことがあります」 
律子さんの拳から、流れた血が、オレンジのタイルに落ちました。 

「あなたは、アイドルを何だと思ってるんですか?」 

961のプロデューサーは、口の端を歪ませて、吐き捨てました。 
「企業である以上、商品に決まってるだろ」

166: 名無しさん 2011/09/28(水) 21:28:09.85 ID:vydOyO3j0
「ふざ……!」 
真ちゃんが物凄い剣幕で、身を乗り出しました。 
それを、律子さんが片手で制します。 

「何だよ、止めるなよ!律子!」 
「真、落ち着きなさい。殴ってはこの人の思うつぼよ」 
「律子は悔しくないのか!こんなに美希をメチャクチャにされて!」 

それを眺めている961プロデューサーは、ニヤリと笑みをこぼして 
「なんだ。元765プロの中にもどっかのプロデューサーとは違ってマシなヤツもいたみたいだな」 

……! 
私は顔が熱くなりました。 
……プロデューサーを、私たちのプロデューサーを馬鹿にされることだけは、許せません。 
私は、出来る限りの大声で叫ぼうとしました。 
「お、おお願いします!バ、バカにしないで──!」 

「美希ちゃん、どうして、アメリカに来たのかしら?どうしてこの人について行こうと思ったの?」 
その場の喧騒に似合わない不釣り合いな、穏やかなあずささんの声が背中から聞こえました。 
「……」

169: 名無しさん 2011/09/28(水) 21:29:59.50 ID:vydOyO3j0
ちょっと休憩しておにぎり食べます

199: 名無しさん 2011/09/28(水) 22:00:20.46 ID:vydOyO3j0
「……ワルモノさんとはお話しないよ」 
美希ちゃんは口を結んで、押し黙りました。 
それを聞いた961のプロデューサーは、手を叩いて笑いだしました。 
そして…… 
「いいよ、教えてやれよ」 
美希ちゃんの肩を抱きながら、そう言いました。 
私は、その光景を見ただけで胸が苦しくなります……。 

「……」 
「大丈夫、ゆっくりでいいのよ~」 
あずささんは、変わらないペースで美希ちゃんに話しかけます。 

「……るの……」 
「えっ」 
美希ちゃんがボソボソと、俯きながら何か喋りました。 
やがて、声が段々と大きくなってきて……これは、歌だ……。 

「よーるのー駐車場でー、あなたはーなにもー……」 
幼さを帯びた声。久々に、三年ぶりに聞きました。 
この歌……Rerationsだ……。 

「この歌だけは覚えてるよ。だってこれ、ミキのほんとの話だもん。」

203: 名無しさん 2011/09/28(水) 22:05:58.68 ID:vydOyO3j0
「美希ね、名前も顔ももう全然覚えてないんだけど……むむ~…… 
 だけど大切な人がいたっていうのはずっと覚えてる。お墓参りも毎日行ってた。」 
美希ちゃんの、強張った表情が段々と揺らいできました。 
まるで、アルバムをめくっているかのような……。そんな顔で……。 

「その人のことミキ、すっごく好きだったっていうのだけは覚えてるの」 

美希ちゃん……。美希ちゃんは、こんなになってもまだプロデューサーへの思いだけは残っていました。 
もし、美希ちゃんを取り戻す糸口があるとしたら、これしか……無いんじゃ……。 

「でもね、その人ね。ミキじゃなくて、他に好きな人がいたんだよ」 
「えっ……」 
みんな、一斉に驚きの声をあげました。

215: 名無しさん 2011/09/28(水) 22:13:05.99 ID:vydOyO3j0
「前にね、夜のお仕事帰りの車の中で聞いたよ。「その人のこと好きなの?」って。 
そしたらその人ね。「別に」って言ってたけど、目が泳いでた。 
「俺は全員を平等に扱わなきゃいけないんだ。一人だけえこひいきなんて出来ない。」だって。 
優しいよね。その人。でもミキ、誰が好きでも関係無かったよ。 
ミキがいつか絶対に振り向かせてあげるのって思ってた。勝負だねって。 
でもミキの大切な人、死んじゃったんだよね。これじゃもう一生その人に勝てないよね」 

美希ちゃんは一息にそう云い切りました。 
「それで、プロデューサーさんに会ったの。ミキの大切な人の知り合いだって。一緒にいれば教えてくれるって 
ミキ的にはまぁいっかなって。日本にいると名前も顔も知らないその人に会っちゃいそうで。」 

それって…… 

「さぁ、誰、誰だろうな。これは大変だなぁ。知ってるよ。お前らあの冴えないヤツのこと全員好いてたんだろ? 
 こん中の誰かが好きだったんだと。十四角関係なんて笑えないよな」 

私たちの中に……いるんだ……。 
全員に動揺が、走りました。隣の人の顔をお互いに、見合せます。 
今まで一つだった私たちに、少しだけ亀裂が入った。そんな風に思ってしまいました。

236: 名無しさん 2011/09/28(水) 22:22:16.01 ID:vydOyO3j0
「瞼の裏に二人の笑顔が焼き付いて離れないの。だから眠れないの。」 

そっか……美希ちゃんだけが、それに気付いてたんだ。 
確かに、美希ちゃんはいつもはのんびりしてるけど、時々怖いくらいに鋭いことを言うときがあります。 
きっと美希ちゃんは、私たちの誰よりも楽しいことも辛いことも見続けてきたんだ……。 

もし──もし── 
「もし、私だったら」 
口を開いたのは、961プロデューサーでした。 
みんな、目を見開きました。 

「お前ら、みんなそう思ってるだろ」 
タバコを口に加えると、美希ちゃんがすかさずライターで火をつけました。 
……私たちのプロデューサーが亡くなった原因はこの人なのに。 
都合の悪いことは、何も言ってないんだ……。 

「いいのか。お前ら美希に関わると、イヤでも知ることになるぞ。」 
……! 

「だからな、やめとけ。仲間割れする前に、美しい思いでのままにしといて日本に帰れよ」 
……悔しい……悔しいよ。プロデューサー……。 

257: 名無しさん 2011/09/28(水) 22:35:06.78 ID:vydOyO3j0
……私たち、このまま日本に帰ったほうが幸せなのかな。そんな思いがよぎりました。 
もう、真ちゃんと喧嘩したくない。みんなと離れたくない……! 
私たちなんだか失ってばかりで……。 
結局また、何も手に入れられないのかな……。 


「それが……」 
「えっ……」 
その声は四条さんでした。 

「それが、どうしましたか?」 
真っすぐな声でした。 
「貴音ェ……、知ってるよ。お前もアイツのこと好いてたんだ。 
 でもお前は「密会」をしてしまった。汚れた身だよな」 
「……」 

四条さんは、眉ひとつ動かしません、平静な顔をしています。 

「えっ……」 
場が、かすかにどよめきました。 
「もう一度申します。それが、どうしましたか」 
依然、無表情のままでした。だけど、一筋、頬に涙が伝いました。 
四条さんが泣いてるところ、初めて見ました……。

271: 名無しさん 2011/09/28(水) 22:43:09.38 ID:vydOyO3j0
「わたくしは、この者たちと一緒ならばもう何も怖くありません」 
その涙には、四条さんの決意、みたいなものが込められているような気がしました。 

響ちゃんは、それを不安そうに眺めていました。 
けれど、やがて八重歯を見せて笑って 

「なんくるないさー!!!」 
響ちゃんが思いっきり叫びました。 
周りの外国の人たちが、一斉に振り向きます。 


美希ちゃんが眉をひそめました。 
不思議そうな顔で、961プロデューサーに問いかけました。 

「ねぇ、プロデューサーさんホントにこの人たちワルモノさんなの?」 
「……」

291: 名無しさん 2011/09/28(水) 22:53:54.46 ID:vydOyO3j0
四条さんは、伝った涙を拭わずに、斜め後ろへと顔を傾けます。 
そこにいたのは…… 
「伊織が……教えてくれました」 
「えっ……」 
「生きてさえいれば、なんとかなるのです」 
「あんた……」 

伊織ちゃんは、くっと喉を鳴らして、それから笑っていいました。 
「そうよ!この水瀬伊織ちゃんがいれば、なーんも心配いらないわ!にひひっ」 

それを見た美希ちゃんの顔が、段々雪除けのように解れていきます。 
「なんだか、楽しそうな人たちだね。ワルモノさんには思えないよ……」 

「ちっ……」 
微かに961プロデューサーの顔に焦りが見えてきました。 
不機嫌そうに、机をトントンと叩きます。 

301: 名無しさん 2011/09/28(水) 22:59:14.10 ID:vydOyO3j0
煙草の吸い殻を、思い切り灰皿に押しつけて不機嫌そうに言います。 
「美希、まさかお前は半年一緒にいた俺たちよりも、コイツらについていこうっていうのか?」 
「そ、そんなこと思ってないよ」 

そう言う美希ちゃんが、オロオロとうろたえます。 
「プロデューサーさんはー楽しくなれるオクスリくれるしーだーいスキなの」 
そう言って、腕に手を巻きつけました。 

それで機嫌をよくした961プロデューサーは、もう一本ステンレスから 
葉巻を取り出して美希ちゃんに手渡します。 

「ミキね、もう頑張るのイヤなの。 
頑張ったら、ミキの大切な人みたいになっちゃうんだよね」 

美希ちゃんがそう言って葉巻に火を点けます。 
かすかに、指元が震えていました。

334: 名無しさん 2011/09/28(水) 23:12:52.77 ID:vydOyO3j0
「はは……お前ら765プロが手に入れたものなんて何も無いだろ」 
961プロデューサーは、深く椅子に腰かけて、長く息を吐きます。 

「所詮お前らお友達ごっこだよ。 
現状を見てみろ、961プロはアイドルアカデミー賞の常連、片やお前ら765プロは倒産した」 
ニヤニヤと、勝ち誇った笑みを私たちに向けました。 
一人一人に、差し向けるように。 
「結局、失ってばかりじゃないか。無駄なあがきだよ」 

「……ふふ」 
律子さんのメガネが、光に反射しました。 
そして、拳を顔の前で握りました。 
「765プロダクションのプロデューサーとして、先輩のあなたに申し上げることがあります」 
あ……この律子さんの不敵な笑み……。 

「あなたがたでは決して手に入れられないものを、私たちは持っています」 
オーディションのとき、ライブの時律子さんが、成功を確信した時に見せる笑みだ。 

「美希、忘れたんなら思い出させてあげるわ」律子さんが、携帯を開いて、画面を美希ちゃんに突き出しました。 

「「春香!おめでとうー!」」 
携帯電話から、荒い音質でみんなの声が鳴り響きました。

348: 名無しさん 2011/09/28(水) 23:19:44.94 ID:vydOyO3j0
小鳥さんが保存していた、春香ちゃんの雑誌掲載記念パーティーの動画……。 

美希ちゃんが身を乗り出して、画面を凝視しました。 
「うわぁ……」 
「これが、昔のあなたよ。」 
「え……そう……なんだ……」 

「え、えへへ。みんなありがとう」 
小さな画面に、春香ちゃんが照れ笑いを浮かべています。 

「ねぇねぇ、この子ダレ?」 
美希ちゃんはつんつんと画面をつつきます。 
「……天海春香、日本であなたのことを待っているわ」 

「そう……なんだ。なんだか明るそうな人だね ミキと仲良くなれるかも」

363: 名無しさん 2011/09/28(水) 23:26:27.71 ID:vydOyO3j0
『千早ちゃん、パートナーとして祝辞を一言お願いします!』 
画面に映らない小鳥さんの、明るい声。 

『はい。この調子でいけば、私の歌が認められる日も遠くないかと……』 
「ねぇねぇ、この人は?」 
美希ちゃんは目に焼き付けるようにじぃっと携帯電話の画面を見つめています。 

「如月千早、あなたがとても尊敬していた人よ」 
「ふ~ん。怖そうな人だね。ミキ、苦手かも」 

くすくすと笑い声があちこちから漏れました。 
「みんな、最初はそう言うわ」 
律子さんが、やれやれと言った顔でため息を漏らしました。 

『いおりんのMAマジさいこう!』 

動画はどんどん進んでいきます。 
「みんな、楽しそうだね」 

「……」 
961プロデューサーは、不機嫌そうに足を踏みならしてそれを眺めていました。

383: 名無しさん 2011/09/28(水) 23:36:53.85 ID:vydOyO3j0
動画が一旦途切れて、壁にもたれかかって、クリームを口の端につけている 
3年前の美希ちゃんが写りました。 

『ねぇねぇ、そこの人~』 
「あ……ミキだ……」 
画面を見ている美希ちゃんがぽっかりと口をあけました。 

『そこの人~!ミキ、もう眠いの~』 
美希ちゃんが、画面の外へ向かって声をかけています。 

……そして。 

「あ……」 
画面に、生きていた頃のプロデューサーが、ケーキを持って嬉しそうに現れました。 
『おいおい、美希。もうちょっとで終わるから』 
『あふぅ』 

「この人が……美希の、大切な人……!」 
美希ちゃんの瞳から、涙が一つ落ちて、画面を濡らしました。 
水滴に浮かびあがって、プロデューサーと美希ちゃんの笑顔が浮かびあがっていました

401: 名無しさん 2011/09/28(水) 23:46:03.31 ID:vydOyO3j0
……結局、プロデューサーさんに頼っちゃった気がします。 

皆の、10人分の視線が美希ちゃんに集まります。 
──私たち二年半前だったら、泣きごと言って終わりだったと思う。 
だけど、このあいだに色々なことがあって、みんなもう美希ちゃんに負けないくらい強くなって……。 

ぽつり、と美希ちゃんが呟きました。 
「美希ね、戻りたい」 
「えっ」 

「今、何て言った?」 
961プロデューサーの声が、低くなりました。 

「よくわからない。昔のことは今でもよくわからないの。だけど……美希、また頑張ってもいいのかな…… 
ミキね!この人たちについていけばドキドキワクワクできそうなの!」 

美希ちゃん……!

429: 名無しさん 2011/09/28(水) 23:54:11.05 ID:vydOyO3j0
「決まりね」 
携帯電話を閉じて、律子さんはそう一言。 

「な!そんな勝手なこと許すわけが!」 
961プロデューサーは、机を思い切り叩いて、立ちあがりました。 
「ふざけるなよ!こんな口約束無効だ!」 

「残念、今までの会話は全部、撮影、録音させてもらったわ」 
「あ……」 

律子さんがそっと一点を指さします。 
振り向くと…… 
近くのテーブルで、やよいちゃんが、紙袋に入れてビデオカメラを回していました。 
「これで、いっけんらくちゃくですねー!」 

最後に、律子さんはふんと鼻を鳴らして、言いました。 
「ここはアメリカよ。なんなら訴訟でもしてみせる? 
 あなたの悪事やその他諸々もバレちゃうけれどね」 

456: 名無しさん 2011/09/29(木) 00:01:51.89 ID:zWLLXH3v0
「今までの事情やら手続きやら何やら必要だから、ツイて来てもらうわよ」 
「クソ……金が……またお前らのせいだ……俺の金が……」 
961プロデューサーが、水瀬財閥のリムジンに揺られて、ブツブツと呟いています。 

私の隣には…… 
「やっと安心して眠れるね……」 
美希ちゃんは子猫のように体を丸めて、やすらかな寝顔を浮かべていました。 
失くした記憶は、もう取り戻せないかもしれないけれど……。 
これからまた作っていけばいいよね……。 

「大丈夫、私たちなら出来るよ、うん!」 
思わず、無意識に声が漏れました。 
「はぁ、ほんっとーに、疲れたわ……」 
伊織ちゃんが、ズルズルと後部座席にもたれかかります。 

私も、だんだんと眠くなってきて……。 
意識が段々と、途切れて……。

482: 名無しさん 2011/09/29(木) 00:16:34.36 ID:zWLLXH3v0
「雪歩、ついたわよ」 
「……ふぇ」 
律子さんに体を揺らされて、意識が戻りました。 

目を擦って、車の窓から、外を覗くと…… 
金の装飾がなされた豪華なホテルでした。 

水瀬財閥御用達のホテル……みたいです。 
伊織ちゃんもハリウッドに来るときは、ここに泊るみたいで……ふぇぇ……。 

伊織ちゃんは髪をかきあがて、仁王立ちして言いました。 
「最後は思いっきり祝うわよ。にひひっ」 

491: 名無しさん 2011/09/29(木) 00:20:49.06 ID:zWLLXH3v0
「あふぅ……よく寝たの~」 
大きな欠伸をして、美希ちゃんが車から出てきました。 
クマはすっかり消えていました。 
「わぁ、すごいの~」 
美希ちゃんの目が大きなホテルを見てキラメキラリと輝きました。 

「ミキミキ、隙あり!」 
亜美ちゃんが、携帯電話のカメラを美希ちゃんに向けました。 
フラッシュが一度焚かれて、眩しそうに目を瞑ります。 

「んっふっふ→ホラ、見て、こーんな顔で笑えてるよ」 
画面には、美希ちゃんの笑顔が、しっかりと映っていました。 

「ミキね、みんなとははじめましてってカンジなんだけどなんだかとっても懐かしいの……」 


……美希ちゃんの記憶は、きっとこれからゆっくりと思い出されていくでしょう。

506: 名無しさん 2011/09/29(木) 00:27:46.33 ID:zWLLXH3v0
パーティ会場で、真っ白なドレスに着替えました。 
シャンデリアが吊るされた天井の下に、丸いテーブルがいくつもおかれていて 
その上には色とりどりの食べ物が置かれていて……。 

「こ、これは……わたくしの求めていたらぁめんでは……!」 
四条さんは、世界各国の料理が並ぶ中、特別オーダーでラーメンを啜っていました。 

「だ、だから何でボクだけタキシードなんだよ!」 
真ちゃんは、赤い絨毯の上で、地団太を踏んでいます。 

「あらあら~胸元がキツいわ~」 
あずささんのドレスに収まりきらないバストがどたぷ~んと揺れています。す……すごいですぅ…… 

「んっふっふ……これをこうして……」 
亜美ちゃんと真美ちゃんは、またイタズラをたくらんでいるみたいです。 

「あはは」 
美希ちゃんは、そんなみんなを見て、楽しそうに笑っています。 
765プロの時の、あの時の笑顔でした。

515: 名無しさん 2011/09/29(木) 00:31:09.60 ID:zWLLXH3v0
ねぇ美希ちゃん、私たちが765プロが倒産してからの2年間半、どれだけ辛くても進んでゆけたのは 
みんな同じひとつの、大切な夢があったからなんだよ……? 

「み、美希ちゃん……」 
「なーに?」 

「真、ちゃん」 
「どうしたんだい。雪歩」 

「四条さん」 
「どうかいたしましたか。雪歩殿」 

「響ちゃん!あずささん!律子さん!……みんな!」 

みんなが私に向かって柔らかい微笑みを投げかけてくれます。 
あぁ、私たちはもう離れ離れじゃないんですね、プロデューサー。 
すごくあったかい……。胸の奥がポカポカして充たされていく……。この気持ちは、この感情はなんていうだろう……。 
あぁ、そうだ。これが、絆っていうんですね。心の中でそう、強く思いました。

531: 名無しさん 2011/09/29(木) 00:35:30.67 ID:zWLLXH3v0
「……ふぇ」 
「あら~目が覚めたのね~」 

また、意識を失っていたみたいです。 
目をあけると、あずささんの笑顔が見えました。 

オデコがひんやりと冷たくて、手を添えると濡れたタオルが載っていました。 

「ここは……」 
「雪歩ちゃん、亜美ちゃんにイタズラされてジュースとお酒を入れ替えられたのよ~」 

……。 

小さな個室には、私とあずささんだけでした。 
「あ、あの。みんなは、どこに行ったんですか?」 
「もうパーティは終わって、帰国の手続きと、961プロデューサーから話を聞いてるところよ」 
「そうなんですか……」

542: 名無しさん 2011/09/29(木) 00:41:52.43 ID:zWLLXH3v0
顔がポカポカして、視界がくるくるとします。 
「フヒッ……わたし、酔っ払っちゃってますかぁ~?」 
「あらあら~大変ね~」 

あずささんの顔が、二つに見えますぅ……。 
なんだかいい気持ちですぅ……。 

そうだ……。 

「かめらで、撮影しますよ~」 
私は自分のバッグをを探そうとキョロキョロと回りを見渡します。 

「ビデオカメラは、今ミキちゃんが使っているわ~」 
……。 
「これまでの皆を知りたいみたいよ~」 
「そうなんですかぁ……」 
…… 
……えっ、 
……あのビデオカメラには 
……たしか 
「ダメ……」 
「えっ?」 


「ダ、ダメですぅぅぅ!!!!」 
アルコールが、一気に冷めて、血の気が引いてきました。

565: 名無しさん 2011/09/29(木) 00:47:44.30 ID:zWLLXH3v0
「待って!どこ行くの?!雪歩ちゃん!」 

あずささんの制止も聞かずに私は、急いで美希ちゃんのいる部屋へと走りました。 
途中、何度もぶつかって、花瓶や、置物を壊してしまいました 


……ダメだよ 
どうして、どうして。 

──もし、私がビデオの編集をちゃんとしていたら。 

──もし、真美ちゃんと亜美ちゃんがイタズラしてなかったら。 

──もし、私が余計にビデオカメラを回さなかったら…… 


『……私は、プロデューサー殿を殺めてしまいました』 
あの、病室の屋上で月を一緒に見ていた時に撮った、四条さんが写ってる……! 


部屋の一室から、叫び声が聞こえてきました。真ちゃんだ……! 
「やめろ!やめるんだ!美希!」

583: 名無しさん 2011/09/29(木) 00:57:12.19 ID:zWLLXH3v0
「ま、待って!!!」 
ドアを思い切り、こじ開けました。 

「ひぃ……!」 
目の前には、信じられない光景がひろがっていました。 

「落ちつきなさい!銃をおろして!」 
律子さんが、声を張り上げています。 

「撃て!撃つんだよ!こいつがお前の最愛の男を殺したんだ!」 
961プロデューサーが、美希ちゃんの肩を揺らしています。 

美希ちゃんは、ガタガタと震えながら、両手で銃を握って、四条さんに向けて引き金に手をかけていました……。 
「この人が……この人が……ミキの……」 
「そうだよ!そうだ……コイツが、お前のとこのプロデューサーが好きだったヤツだよ」 

「デタラメよ!信じないで!」 
律子さんが、部屋の壁に背中をつけて、必死に説得をしています。 
や……やめて……。 

「憎いだろ、撃てよ!」 
「ミキ……ゼッタイ許せないよ……」 

……やめて!

611: 名無しさん 2011/09/29(木) 01:08:13.88 ID:zWLLXH3v0
「……」 
四条さんは、相変わらず無表情……ではなかったです。 
カチカチと、歯のなる音が聞こえてきました。 

「ミキ……その人が好きだって事以外はぜーんぶ忘れてて……」 
美希ちゃんの声が、震えていました。 
「それだけが、思い出だったの!」 

美希ちゃんは、歯を食いしばりました。 

「あ、あの目だ……」 
響ちゃんは、尻もちをついて両肩を抱いて、そう呟きました。 

961プロデューサーの口から甲高い笑い声が途切れ切れに漏れだしています。 

「待ちなさい!誤解よ!ちゃんと話せば……」 
伊織ちゃんのその言葉を、美希ちゃんが遮りました。 


「──言い訳なんか聞きたくないの」 
美希ちゃんの、人差し指に、力が入りました。 


「や、やめてぇぇぇ!!!!」 
私は、喉が千切れそうなほどに、叫びました。

637: 名無しさん 2011/09/29(木) 01:21:33.11 ID:zWLLXH3v0
……。 

──銃声は、起こりませんでした。 
床に落とした視線を、恐る恐る美希ちゃんへと、向けます。 


「でも……でもね……」 
美希ちゃんの声は、憑き物が落ちたように穏やかなものでした。 

「ダメなの。やっぱり、撃てないよ」 
美希ちゃんの、二度目の涙が落ちました。今度は、一粒だけじゃなく、何度も何度も。 
「……どうしてだ」 
961プロデューサーの美希ちゃんの肩を握る手に、力が篭りました。 

「頭の中でね、さっき見た人が『ダメ!』って言うの……。なんでだろ、ミキこの人のことすっごく憎いハズなのに……」 

「この、役立たずめ」 
肩を掴んだ手が、ゆっくりと美希ちゃんの引き金を引く指に重なりました。 

「だったら教えてやる。こうやって撃つんだよ」 
「あ……」 




──ドン、という大きな銃声が部屋にこだましました

659: 名無しさん 2011/09/29(木) 01:33:42.27 ID:zWLLXH3v0
雪歩「765プロが倒産してもう二年半ですぅ……」 中編終わり 
後編へ続く 

ほんとごめんなさい明日夕方以降再開します 
書けるコンディションじゃない 
俺のトイレのほうが修羅場にんじゃってる