405: ◆GoPzFNH1CI 2015/07/12(日) 00:53:07.56 ID:jtsPayZ/0


◇ 


提督「わたしのーみみもー、かいのからー♪」 

提督「あなたのーこえが――ききたいーけれど――」 

提督「あなたは、ほしより――とーおー」 

五月雨「提督!! ただ今戻りました!!」バァン!! 

提督「いさみだれええええ!!!?? な、なんだ、どうした!?」 

五月雨「? どうしたって、遠征から帰ってきたんですよ。第4艦隊、無事帰還です、提督!」 

提督「あ、そ、そうか……お疲れ様」 

五月雨「はい! これ、報告書です」 

提督「う、うん。――それで、聞いた?」 

五月雨「え、何をです?」 

提督「いやなんでもない。とにかく、報告は確かに受け取ったよ」 

五月雨「はい、今日も皆で帰ってこれましたね!」 

提督「ああ。よかったよかった」 


引用元: ・鳳翔「あゝ栄光の、空母機動部隊!」 【お題募集】

406: ◆GoPzFNH1CI 2015/07/12(日) 00:54:19.65 ID:jtsPayZ/0

五月雨「…………」 

提督「……? どうした、五月雨。疲れたろう、補給を済ませたらもう休んでいいよ」 

五月雨「あのー、提督」 

提督「どうした、そんな神妙な顔して」 

五月雨「私、初期艦ですよね?」 

提督「ああ、そりゃそうだ。どうしたんだ、いきなり」 

五月雨「大体毎日、顔を合わせてますよね」 

提督「遠征の出発前は、出来る限り見送るようにしてるからな。多分、顔合わせない日の方が少ないだろ?」 

五月雨「何故でしょうか。こうして提督と話すのが、ものすごく久々な気がします」 

提督「……そうだったかなぁ」 

407: ◆GoPzFNH1CI 2015/07/12(日) 00:56:01.66 ID:jtsPayZ/0

五月雨「そうですよ! 遠征以外にも、お洗濯の手伝いとかも頑張ってるのに」 

提督「ああ、長門に聞いたよ。綾波と一緒に転んで泥だらけにして……」 

五月雨「そこだけ思い出さないで下さい!!」 


五月雨「この間のパーティの時は、空母の皆さんとばっかり喋ってるし」 

提督「乾杯の後は皆のテーブル回って、1人ずつお疲れ様とねぎらったと思うんだけど」 

五月雨「そうですけど、それだけじゃないですかぁ。ビンゴはいくつか数字揃っただけで、特に何もなく終わっちゃいましたし」 

五月雨「恐ろしいですよね。私の活躍の場を削る、悪魔的な何かが働いてるとしか思えません」 

提督「考え過ぎだろ、そう力まない方がいいぞ」 

408: ◆GoPzFNH1CI 2015/07/12(日) 00:57:33.50 ID:jtsPayZ/0

五月雨「提督はもうちょっとまんべんなく皆をねぎらうべきだと思いますー」プクー 

提督「そんなに露骨だったか?」 

五月雨「どーせ私個人の感想ですー」 

提督「はは、拗ねないでくれ。これから気を付けるから」 

五月雨「それじゃ大成功のご褒美として、間宮さんチケットを所望します!」 

提督「そんなしょっちゅうあげられるもんじゃないの。 ……まあしばらく食べられなくなるし、近いうちに味わっておかないとな」 

五月雨「皆でですよ、みんなで!」 

提督「相変わらず優しい子だな。わかってるよ」 

409: ◆GoPzFNH1CI 2015/07/12(日) 00:58:43.72 ID:jtsPayZ/0

提督「そうだ、ちょうど良かった。明日から鎮守府は夏休みに入るんだが」 

五月雨「入るんだが、ってそんなこと月次日程にありましたっけ?」 

提督「ない。だから、遠征の予定を組み直さないとならないんだ。手伝ってくれ」 

五月雨「……ふー。鎮守府の業務が滞らない程度に、遠征の予定を減らせばいいんですよね」 

提督「そうそう。流石わかってるな」 

五月雨「なら思い切って、遠征は取りやめて近海の哨戒だけにしましょう。 
第2から第4艦隊でローテーションすれば負担が減ります。空母の皆さんにも偵察機を出してもらいましょう」 

提督「そう、だな。遠征資源も、今すぐ必要なほど不足してないし…… 
何より、休みがずれるのは仲良しの子たちに申し訳ないと思ってたところなんだ」 

410: ◆GoPzFNH1CI 2015/07/12(日) 01:00:16.89 ID:jtsPayZ/0

五月雨「えっ、こんな簡単に決めちゃっていいんですか?」 

提督「いいんだよ。――それに、最近の駆逐艦たちを見てると、ちょっと不安になることがあるんだ」 

五月雨「不安ですか」 

提督「そう。特に君と、吹雪だ」 

五月雨「えっ、私?」 

提督「出撃した時はもちろん、母港にいる時も改装の時も……」 

提督「果ては補給するときも、頑張ります頑張ります、と」 

提督「いつ息を抜いているのか、見ていて不安になるんだよまったく」 

五月雨「あー、あれは多分吹雪ちゃんも、無意識に喋っているというか……」 

提督「息を抜くときは抜かないと、いつかパンクしてしまうぞ。だから夏休みなんだ」 

411: ◆GoPzFNH1CI 2015/07/12(日) 01:02:50.63 ID:jtsPayZ/0

五月雨「……なーんかいい感じに丸めこまれたような」 

提督「君も最初に反対しなかったじゃないか」 

五月雨「だってもう提督が決めちゃったんですから。 
正しいことなら、なんとかそれを実行できるようにするのが、艦娘の務めだと思います」 

五月雨「私たちを思って休みを作って下さったんですからね」 

提督「……そう言われると……その、照れるな」 

五月雨「私はてっきり、鳳翔さんを海に連れ出して水着デートでもするのかと思いましたが」 

提督「それはあくまで副産物であって……いやなんでもない」 

412: ◆GoPzFNH1CI 2015/07/12(日) 01:05:31.50 ID:jtsPayZ/0

五月雨「それじゃ、私は補給に向かいます」 

提督「うん、ありがとう。後で全員に知らせておくから」 

五月雨「私も会った人には伝えます。では――」 

五月雨「――ああ、それと提督?」 

提督「うん?」 

五月雨「いくらご機嫌だったとはいえ、提督のような歳の男性が、ドラ○もんの歌を大声で歌うのはどうかと」 

提督「」 

五月雨「それでは失礼します」 


提督「…………」 

提督「……恐るべきは鳳翔の魅力かな」 

413: ◆GoPzFNH1CI 2015/07/12(日) 01:07:08.31 ID:jtsPayZ/0


◇ 


鳳翔「えーと、女性ものの水着……」 

鳳翔「大まかにビキニ、ワンピース、セパレート、スクール、競技用……があり……」 

鳳翔「プールや海水浴用の、ビキニには……」 

鳳翔「三角、ホルターネック、チューブトップ……パンツタイプにモノキニ、マイクロなど……が、あり」 

鳳翔「最近は……キャミソール、タイプ? や、パンツなどの形を組み合わせた、タンキニが人気……」 


鳳翔「……ふむふむ、なるほど」 

鳳翔「さっぱりわかりませんね」 

414: ◆GoPzFNH1CI 2015/07/12(日) 01:09:50.59 ID:jtsPayZ/0

鳳翔「元々、よそ行き用の服を持っていなかった私が、1人で選ぶのは土台無理だったのかもしれませんね……」 

鳳翔「あの人なら、何を着ても似合ってると言ってくれそうですけど」 

鳳翔「……出来ることならあの人の好みの格好をしたいですね」 

鳳翔「確か、露出がひかえめな格好が好きだと言っていたような……カタログカタログ、っと」 

鳳翔「…………」 

鳳翔「タンキニは露出が抑えめみたいですね」 

415: ◆GoPzFNH1CI 2015/07/12(日) 01:11:03.55 ID:jtsPayZ/0

鳳翔「……上はタンクトップ、またはキャミソール、ブラジャー? ……タイプのものと重ね着されることもあり……」 

鳳翔「下は……ビキニの下、ショートパンツ、ホットパンツ、スパッツ、スカート……」 

鳳翔「さらにパレオが巻かれることもあり……一概に定義はなく……」 


鳳翔「…………???」 

鳳翔「種類が多すぎるのも考えものですね……」 

鳳翔「迷ってても仕方がありませんね。店員さんに協力して貰いましょう」 

416: ◆GoPzFNH1CI 2015/07/12(日) 01:12:10.91 ID:jtsPayZ/0


鳳翔「よしっ、それじゃ出掛けますか。なるべく見られないように……」 

雪風「あ、鳳翔さん!! お出掛けですか!!」 

鳳翔「きゃあああああ!!!!」 

時雨「雪風、声が大きいんだよ……」 

叢雲「でも珍しいわね、1人で買い物?」 

鳳翔「え、ええ。そうなんです」 

―― ドドドドド 

提督「――なんだ今の悲鳴は!! 大丈夫か、鳳翔!!」 

時雨(……ここから執務室まで結構遠いんだけどな) 

417: ◆GoPzFNH1CI 2015/07/12(日) 01:13:15.72 ID:jtsPayZ/0

鳳翔「だ、大丈夫です、なんでもありませんよ、あなた」 

提督「これから出掛けるのか、本当に1人で大丈夫か?」 

鳳翔「大丈夫ですってば、心配し過ぎですよ、あなた!」 

提督「心配するに決まってる。前にも言ったが、私は君にずっと傍に居て欲しいんだ」 


提督「あんまり言い過ぎるのも重くなると思って今まで抑えてたけど……これからは遠慮しないぞ、決めたからな」 

提督「今回だって君に止められなければ、ついて行きたかったんだぞ? 仕方なくだ」 

提督「君が目の届かない所に行くのが、心配で仕方ない……わかってくれ、鳳翔」ギュッ 

鳳翔「あなた!」ギュッ 

418: ◆GoPzFNH1CI 2015/07/12(日) 01:14:19.95 ID:jtsPayZ/0


叢雲「…………」 

叢雲(たかが買い物に何言ってんのかしらコイツは) 

雪風「おおー」キラキラ 

時雨「相変わらず熱いんだね、2人とも」ニコニコ 

「「……はっ!」」バッ 

提督「と、とにかく! 気を付けてな!!」 

鳳翔「は、はい! 行ってきます!!」 


鳳翔「……って別に、こそこそする必要まったく無かったじゃないですか」 

鳳翔「ああ恥ずかしい恥ずかしい……」 

443: ◆GoPzFNH1CI 2015/09/30(水) 22:59:15.41 ID:rSNMETbt0


◇ 


提督「――通告通り今日から休暇とする」 

提督「ただし、普段と違って行動は制限することになった。緊急時に備えて、すぐ鎮守府に戻って来られる範囲で過ごすように」 

愛宕「ずいぶんテキトーなのね~」 

敷波「すぐ戻れるって、どれくらいなのさ」 

提督「えー……それは、諸君の常識に任せる」 

満潮「やっぱり考えてないのね」 

提督「おっと勘違いするな。信頼してるからこそだと思ってくれ」 

吹雪「でも決まってはいないんですね……」 

叢雲「ま、カッチリ決められるのもそれはそれで、ね」 

444: ◆GoPzFNH1CI 2015/09/30(水) 23:01:39.81 ID:rSNMETbt0

綾波「司令官、哨戒任務は?」 

時雨「全員休みにしたら、流石に索敵の穴が……」 

提督「ああ。妖精さんには申し訳ないけど、空母航空隊を地上配備にして哨戒してもらう」 

春雨「遊弋中の潜水艦は大丈夫なんですか?」 

五月雨「だから昨日は、遠征部隊の皆さんに潜水艦狩りを念入りにしてもらったんです」 

川内「あー、帰りに何回も航路変更したのはその為か」 

提督「うん、護衛ルートに再び潜水艦が配備されるまでは暫くかかると判断した。備えはしてもらうけどね」 

445: ◆GoPzFNH1CI 2015/09/30(水) 23:07:39.16 ID:rSNMETbt0

提督「では解散。節度は保てよ」 

「「「はーい」」」 


蒼龍「提督提督、早速泳ぎに行きましょう!」 

飛龍「暑いでしょ、暑いよね!? もうここで脱いじゃいなよ!」 

提督「脱がんわ!! わかったから、腕を挟むな!!」 


翔鶴「……ねえ瑞鶴、今日暑いかしら」 

瑞鶴「何言ってるの翔鶴姉、これから海水浴だよ? 夏真っ盛りで暑いに決まってるじゃない」 

翔鶴「え、あ、ええ。そうよね」 

446: ◆GoPzFNH1CI 2015/09/30(水) 23:08:20.94 ID:rSNMETbt0

赤城「あら、お母さんは?」 

加賀「皆のお弁当を作ると仰ってました」 

赤城「ああ、それじゃお手伝いに行かないと」 

加賀「私もそう言ったのですが。1人で大丈夫だと固辞されてしまいました、随分強めに」 

赤城「そうですか? いつもは喜んでくれるのに、珍しいですね」 

加賀「ええ。まあ、楽しみにしておきます」 

447: ◆GoPzFNH1CI 2015/09/30(水) 23:17:09.77 ID:rSNMETbt0


瑞鶴「よぉおし、機動部隊!! 第1種戦闘態勢!!」 

飛龍「浮き輪! ビーチボール! ビニールのイルカとシャチ!!」 

蒼龍「スイカと竹刀! ビーチバレーのネット! パラソルとビニールシートとビーチチェア!!」 

翔鶴「ついでに日焼け止めと、長袖Tシャツ!!」 

赤城「そして、釣り竿とモリと網!! バーベキューも準備よし!!」 

「「「とつげーき!!!!」」」 


提督「海で使うもの大体持ってったな……楽しそうだからいいけど」 

加賀「…………」 

448: ◆GoPzFNH1CI 2015/09/30(水) 23:17:51.63 ID:rSNMETbt0

提督「どうした加賀、突撃しないのか」 

加賀「提督こそ」 

提督「私は鳳翔を待つよ」 

加賀「では私も」 

提督「付き合わなくてもいいぞ? あの5人も呼んでるし」 

加賀「別に、付き合っているわけではありません」 

瑞鶴「――あれー、加賀さんどしたの? 泳ごうよー」 

加賀「いえ。私は、入らないわ」 

449: ◆GoPzFNH1CI 2015/09/30(水) 23:21:04.87 ID:rSNMETbt0

瑞鶴「え? でも、服の下に水着着てるわよね」 

加賀「これは、貴女たちに合わせただけで……」 

瑞鶴「えー、せっかく着替えたんだしさ。ほらほらー、暑くなってきたよ?」 

加賀「いいって言ってるでしょ。皆と泳いできなさい」 

瑞鶴「…………」 


瑞鶴「もしかして加賀さん泳げn」 

加賀「それ以上言うと、貴女の呼び方を五航戦に戻すわ」 

瑞鶴「すいません勘弁してください」 


加賀「ほら行きなさい。クラゲに気を付けるのよ」 

瑞鶴「あ、あいさー!」 

450: ◆GoPzFNH1CI 2015/09/30(水) 23:21:43.60 ID:rSNMETbt0

提督「…………」 

加賀「……聞かないんですか、提督」 

提督「何を?」 

加賀「何故、こうまで頑なに泳ごうとしないのか」 

提督「本人が言いたくなさそうなら、聞かないだろ。普通は」 

加賀「そうですね。瑞鶴にも見習ってほしいものです」 

提督「一緒に遊びたいだけだと思うぞ?」 

加賀「まあ、わかっておりますが」 

451: ◆GoPzFNH1CI 2015/09/30(水) 23:22:37.81 ID:rSNMETbt0

加賀「……ふむ。いい機会かもしれないわね」 

加賀「提督、ちょっとお時間よろしいですか。場所を変えて」 

提督「構わないけど……ここじゃ駄目なのか?」 

加賀「駄目です。特に空母の子たちから見えないところで」 

提督「そうか。別にどこでもいいよ」 

加賀「ではあちらの、思わせぶりにひと気のなさそうな岩陰へ」 

提督「なんだその言い方……」 

452: ◆GoPzFNH1CI 2015/09/30(水) 23:24:48.07 ID:rSNMETbt0

加賀「どきっとしましたか?」 

提督「今日の君はキャラが違うな」 

加賀「さらに、腕も組んでしまいます」 

提督「本当に違うな……いいんだけどさ」 

加賀「行きましょう。そんなに長くはかかりませんから」 



鳳翔「――あなたー? お待たせしました。出来ましたよ、お弁当」 

鳳翔「あら……? 何処に行ったのかしら」 

453: ◆GoPzFNH1CI 2015/09/30(水) 23:30:49.20 ID:rSNMETbt0


飛龍「加賀さん、なんだって?」 

瑞鶴「断られちゃいました、取りつく島もなく」 

飛龍「ほうほう。気になるね、夏休み自体に乗り気じゃ無かったっぽいし」 

瑞鶴「翔鶴姉、何か知ってる――って、あれ?」 


赤城「加賀さんがっ!!」 

蒼龍「提督とっ!!」 

翔鶴「腕組んで歩いてますっ!!」 

454: ◆GoPzFNH1CI 2015/09/30(水) 23:32:31.95 ID:rSNMETbt0

飛龍「えっ、ウソ……あの加賀さんが提督LOVE勢に?」 

瑞鶴「いやいや、何も兆候なかったじゃない」 

飛龍「あはは、そうよね! 冗談冗談」 

赤城「笑えない冗談はよしてくださいよ!」 

飛龍「笑えない? なんで?」 

赤城「ナンデンもカンデンもありません! あれを見なさい!」 

翔鶴「あの2人の行先! あっちにはいい感じに、人目につかない岩場があるんです!!」 

蒼龍「特に満月で満潮の時なんか、みなもに月が映っていい雰囲気なんだよ!!」 

455: ◆GoPzFNH1CI 2015/09/30(水) 23:33:57.40 ID:rSNMETbt0

瑞鶴「ははあ。時々3人で盛り上がってたあれですか」 

飛龍「別にいいんじゃない、提督も気に入るだろうし」 

翔鶴「何言ってるんですか飛龍先輩!! 提督にあの場所がばれちゃったら、いつもよりお酒に酔った時の勢いとかで、 
提督をあそこの岩場に連れ出して、『今日は月が綺麗だね』とか言ってもらったりして、 
それでこっちが『もう死んでもいいです』って返して、『冗談でも死ぬとか言うんじゃない』って言ってくれて、 
それでその後の勢いで色々ごにょごにょする秘密の作戦が台無しじゃないですか!!」 

飛龍「お、おう」 

瑞鶴「ただの拉致じゃん」 

456: ◆GoPzFNH1CI 2015/09/30(水) 23:39:31.67 ID:rSNMETbt0

赤城「飛龍、瑞鶴!! そこ通しなさい、見に行かないと!!」 

飛龍「おーっと、そうはいかないよ!! 加賀さんが誘うなんて滅多にないし」 

蒼龍「ちょっと、あの2人が何やってるか気にならないの!?」 

翔鶴「瑞鶴、お姉ちゃんの言うこと聞きなさい!!」 

瑞鶴「終わってから加賀さんか提督さんに聞けばいいじゃん!!」 

―― コクハクシテタラ ドースンノ!!  バシャバシャ 

―― アンタラ セイコウホウデ セメルキハナイノカ!!  バシャバシャ 


鳳翔「……? あの子たち」 

鳳翔「海の中で向かい合って反復横飛び……何をしてるのかしら」 

457: ◆GoPzFNH1CI 2015/09/30(水) 23:48:30.39 ID:rSNMETbt0

提督「近くに、こんなところがあったんだな」 

加賀「良いところでしょう、赤城さんに教えてもらいました」 

提督「そうだね。水が綺麗で、静かで」 

加賀「日が暮れて、月が出るともっと良いらしいですよ」 

提督「確かに良さそうだな」 

加賀「お母さんを連れて来たくなりましたか?」 

提督「うん、なったなった」 

加賀「即答ですか。素直なのはいいことですね」 


加賀「……あら」 

加賀(この場所、提督には内緒にしておくよう言われてたんだったわ) 

458: ◆GoPzFNH1CI 2015/09/30(水) 23:49:36.69 ID:rSNMETbt0

提督「ところで、場所変えて何を……」 

加賀「提督、私と2人きりなのですよ。いきなり本題に入るのは野暮ではなくて?」 

提督「な、何だって?」 

加賀「いくつか気の利いた事を言ってくれてもいいのよ」 

提督「どうしたっていうんだ、普段の加賀らしくもない」 

加賀「ああ、別にこんな場所に連れてきたからと言って、いきなり貴方を誘惑するようなことにはならないのでご安心を」 

提督「それを聞いてどう反応すりゃいいんだ……」 

加賀「冗談です。笑ってください」 

提督「少しは冗談っぽい表情をしてくれよ」 

466: ◆GoPzFNH1CI 2015/10/10(土) 18:55:02.92 ID:QVVxd3Pz0


鳳翔「どこに行ったんでしょうね……出来立てが美味しいのに」 

鳳翔「そういえば加賀ちゃんもいないわね」 

鳳翔「卵焼きも唐揚げも、温かいうちに――あら?」 

―― シュゥウウウウ…… 


鳳翔「あの煙は……火事? いや、違うわね」 

鳳翔「色が白いから、湯気かしら? 何か見覚えがあるような」 

鳳翔「……そうだ。あれは、加賀ちゃんの排気煙が混ざった色だわ」 

鳳翔「でもどうして? あれは艤装を外して、服を脱がないと出ないはずなのに」 

鳳翔「――ハッ、まさかっ!!」 

467: ◆GoPzFNH1CI 2015/10/10(土) 18:55:42.38 ID:QVVxd3Pz0

提督『いいじゃないか、加賀』 

加賀『だ、駄目です提督。こんなところで……』 

提督『誰も見てやしないさ。だから連れて来たんだろう?』 

加賀『ち、違います……』 

提督『ほら、脱いで。その綺麗な肌を、もっとよく見せてくれ』 

加賀『提督……それじゃ、もっとこっちに……』 

468: ◆GoPzFNH1CI 2015/10/10(土) 18:56:24.74 ID:QVVxd3Pz0

鳳翔「いやぁああ!!」 

赤城「えっ!? お、お母さん?」 

鳳翔「いけません駄目です不埒です破廉恥ですーーー!!」 

飛龍「うわっ、お母さん足早っ」 

蒼龍「砂浜でよく走れるなぁ……」 

瑞鶴「40ノットは出てるね」 

翔鶴「そ、それ私!! 私だから!!」 

469: ◆GoPzFNH1CI 2015/10/10(土) 18:57:24.34 ID:QVVxd3Pz0

加賀「……ふぅ、どうです?」 

提督「どうしたんだ、いきなり水着姿になって」 

加賀「……無反応というのも、中々自信を無くすわね」 

提督「ん、何か言ったか」 

加賀「いいえ別に。ある程度予想してましたから」 

提督「そうか?」 

加賀「これから海に浸かりますから、ちょっと見ていてください」 

提督「ああ……!?」 

470: ◆GoPzFNH1CI 2015/10/10(土) 18:57:59.18 ID:QVVxd3Pz0

―― バシュゥウウウウウ…… 

提督「な、なんだ!?」 

加賀「これが、あの子たちの前で泳ぎたくなかった理由です」 

提督「すごい湯気だ、大丈夫か加賀!!」 

加賀「体はなんともないのでご心配なく……しかし」 

提督「普段はこんなの見たことないぞ。どうなってるんだ?」 

加賀「艤装を何もつけていない状態だと、排熱が上手く出来なくなるのです。入渠の時は問題ないのですが」 

471: ◆GoPzFNH1CI 2015/10/10(土) 19:13:48.62 ID:QVVxd3Pz0

提督「そうだったのか。無理に海に連れ出して悪かったね」 

加賀「元々は瑞鶴たちのわがままでしょう。ばれなければいいですよ」 

提督「そんなに、隠すほどのことでもないんじゃないか?」 

加賀「提督、艦としての欠陥が未だに残っているのですよ。これが恥でなくて何だというんです」 

提督「恥でもなんでもないと思うんだけど」 

加賀「他の人には理解しがたいかもしれませんが。何せ一度は克服したことですからね」 

提督「いや、簡単に気にするなとは言えないけどさ」 

472: ◆GoPzFNH1CI 2015/10/10(土) 19:14:15.09 ID:QVVxd3Pz0

提督「生活には問題ないわけだし、別にあの子たちに話しても、個性として……」 

加賀「…………」 

加賀「ううっ……勇気を出して告白したのに」 

提督「えっ」 

加賀「知ってるのはお母さんと提督だけなのに……ぐすっ」 

提督「ご、ごめん、悪かったよ! 泣くなって」 

加賀「……ふふ。なんて、冗談で」 

473: ◆GoPzFNH1CI 2015/10/10(土) 19:14:48.82 ID:QVVxd3Pz0

鳳翔「あなた!!」 

加賀「!!」 

提督「うわぁっ!!」 

鳳翔「いつの間にか!! いなくなったと!! 思ったらっ!! 加賀ちゃんをっ!! 泣かせてるなんて!!」 

提督「ち、違う!! いや違わないけど、いじめたわけじゃないって!!」 

加賀「おかあさーん」ダキツキ 

鳳翔「ああ、よしよし。もう大丈夫ですからね」 

提督(抑揚が全然無いぞ!!) 

474: ◆GoPzFNH1CI 2015/10/10(土) 19:15:14.42 ID:QVVxd3Pz0

鳳翔「この人にはちゃんと言っておきますからね。ほら、あの子たちと遊んでらっしゃい」 

加賀「はい、それでは……提督」 

提督「う、うん?」 

加賀「後はごゆっくり。あの子たちは足止めしておきます」 

提督「加賀……」 

鳳翔「あなた、ほら!! ちょっとここに座りなさい!!」 

提督「は、はい」 

加賀「ふふ……では、また後で」 

481: ◆GoPzFNH1CI 2015/10/11(日) 19:16:38.80 ID:8EmMf4kL0

蒼龍「――あ、戻ってきた!」 

翔鶴「加賀先輩!! 提督と何話してたんですか!!」 

加賀「別に、ちょっと相談に乗ってもらっただけよ」 

赤城「相談!? 今後の身の振り方とかですか!?」 

瑞鶴「飛躍しすぎだよ、どうしてそうなるんですか」 

赤城「加賀さんが!! 提督と!! 2人っきりで!!」 

487: ◆GoPzFNH1CI 2015/10/11(日) 19:27:30.93 ID:8EmMf4kL0
加賀「落ち着いてください、すぐ戻ってきたじゃないですか」 

飛龍「お母さんもダッシュで行ったしね」 

加賀「お弁当、食べていいそうなので。先に腹ごしらえしましょう」 

赤城「むっ……では頂きましょう」 

飛龍「あ、やっぱりそっち優先なんだ」 

翔鶴「しょうがないですね。後で提督に問い詰めてみます」 

482: ◆GoPzFNH1CI 2015/10/11(日) 19:17:30.61 ID:8EmMf4kL0

加賀「嘘じゃないわよ? それに貴女だって、頼めば2人で話ぐらいしてくれると思うわ」 

翔鶴「そんな簡単にいったら苦労しませんよ……」 

飛龍「そういえば、提督とデートしたのって蒼龍だけだよね」 

蒼龍「あ、そっか。これは一歩リードかな!」 

瑞鶴「お母さんは百歩先にいますけどね」 

蒼龍「orz」 

飛龍「ちょ、先輩は労わろうよ」 

483: ◆GoPzFNH1CI 2015/10/11(日) 19:18:19.14 ID:8EmMf4kL0

鳳翔「また最近は、2人の時間が取れませんでしたね」 

提督「忙しくて、出掛ける暇もないもんな」 

鳳翔「そろそろ大規模作戦の時期ですし」 

提督「うん。この休暇で皆ゆっくりできればいいんだけど」 

鳳翔「あの子たちは、ずっとはしゃいでますけどね」 

提督「出撃がない時くらい、好きに過ごしてほしいからね」 

鳳翔「それで新しい水着を買ったり……あ」 

484: ◆GoPzFNH1CI 2015/10/11(日) 19:19:05.06 ID:8EmMf4kL0

提督「あ、そうだよ鳳翔、水着!! 水着は!?」 

鳳翔「ちょ、ちょっと! そんな寄らないで下さいよ」 

提督「それを!! 楽しみに!! 昨日頑張って仕事片づけたのに!!」 

鳳翔「いつもとキャラ違いますよ!?」 

提督「いいんだよ、誰も見てないから」 

鳳翔「まったくもう……ちゃんと着てますよ。私が選んだやつで、似合ってるかわかりませんけど」 

提督「前も言ったけど、もうちょっと自信持っていいと思うよ。何着ても似合うんだから」 

鳳翔「あ、ありがとうございます……」 

485: ◆GoPzFNH1CI 2015/10/11(日) 19:20:57.22 ID:8EmMf4kL0

提督「でも、今着てるって? いつもの和服じゃないか」 

鳳翔「ふふ、この下に着てます。お弁当を作った後に着替えてきました」 

提督「そうなのか。そのまま出てきても良かったのに」 

鳳翔「あ、あの子たちに見られるの恥ずかしいですし」 

鳳翔「それに、その……最初はあなたに、見てもらいたくて」 


提督「……鳳翔……今日の君、本当に可愛い」 

鳳翔「は、恥ずかしい、ですね……」 

提督「じゃあ……見てもいいかな、鳳翔」 

鳳翔「――はい! よく見てて下さいね、あなた!」 



第3話 終 


513: ◆GoPzFNH1CI 2015/11/16(月) 01:47:59.76 ID:V+9RS8no0


幕間8 ~たまには静かな朝~ 


提督「――いかんいかん、寝過ごした」 

提督「鳳翔はもう執務か……悪いことしたな」 


提督「鳳翔?」 

鳳翔「はい! おはようございます」 

提督「おはよう。ごめん、遅くなった」 

鳳翔「いえ、遅れてませんよ? そろそろ起こしに行こうかと思いましたが」 

提督「あ、そうか……いつも余裕持ってたんだった」 

鳳翔「すみません、起こさなくて。昨日は遅かったようですから」 

514: ◆GoPzFNH1CI 2015/11/16(月) 01:48:46.24 ID:V+9RS8no0

提督「ああ、確かにそうだね」 

鳳翔「遅くまで出かけてましたが、どちらへ?」 

提督「ちょっと注文してたものを……うん。忘れないうちに渡しておこうかな」 

提督「はい、これ。誕生日おめでとう、鳳翔」 

鳳翔「えっ、私に?」 

提督「11月13日、進水で……あってるよね」 

鳳翔「は、はい。――覚えててくれたんですね」 

515: ◆GoPzFNH1CI 2015/11/16(月) 01:49:32.77 ID:V+9RS8no0

提督「そして起工日、竣工日が来月と。こっちも忘れないようにしないと」 

鳳翔「そっちもですか!?」 

提督「いいんじゃないか、お祝いごとは多いほうが」 

鳳翔「そういうものでしょうか……?」 

提督「司令官によって違うらしいよ、お祝いは起工日や竣工日のところも。 
   鎮守府に来た日が誕生日なんてとこもあるらしい」 

鳳翔「へえ、自由なんですね」 

516: ◆GoPzFNH1CI 2015/11/16(月) 01:53:50.78 ID:V+9RS8no0

提督「なら別に、全部祝ってもいいかな、っと」 

鳳翔「それはちょっと自由過ぎ、でしょうか」 

提督「おっと、君は特別だぞ。ケッコン1周年のお祝いは楽しみにしててくれ!」 

鳳翔「ふぇ!? は、はい!! 期待してます!!」 

提督「うん。――とりあえず、今はそれを」 

鳳翔「はい……あ、綺麗なストール」 

提督「温かそうだろ。結構探し回ったよ」 

517: ◆GoPzFNH1CI 2015/11/16(月) 01:54:24.71 ID:V+9RS8no0

提督「最近、急に冷えてきたからね」 

鳳翔「ありがとうございます、大事に使いますね!」 

提督「うん、楽しみにしてるよ」 

鳳翔「楽しみ、ですか?」 

提督「そう、それ着てデートに行こう。きっと似合うと思うよ」 

鳳翔「――はい!」 

518: ◆GoPzFNH1CI 2015/11/16(月) 01:57:19.80 ID:V+9RS8no0

提督「――じゃあ、今日も書類整理から頑張ろうか」 

鳳翔「あ、あの、それなんですけど……」 

提督「どうした?」 

鳳翔「まだ、大淀さんから書類が届かないんですよ」 

提督「え、まだ? おかしいな、司令部からは遅れとか聞いてないぞ」 

鳳翔「あなたが来る前までには、と思ってたんですが」 

提督「そうか、変だな……ちょっと行ってみようか」 

鳳翔「はい」 

519: ◆GoPzFNH1CI 2015/11/16(月) 01:57:49.46 ID:V+9RS8no0

提督「大淀」 

鳳翔「おはようございます、大淀さん」 

大淀「おはようございます……すみません、書類ですよね」 

提督「うん、何かあったのかと思って」 

大淀「えー、ちょっと遅れてるみたいで……司令部の方に問い合わせ中です」 

鳳翔「そうですか、珍しいですね」 

大淀「届き次第お持ちしますので、執務室の方でお待ちいただけますか」 

520: ◆GoPzFNH1CI 2015/11/16(月) 01:59:07.73 ID:V+9RS8no0

提督「わかった、よろしく頼むよ。それじゃあ」 

鳳翔「お願いしますね」 

―― バタン 


大淀「……行かれましたよ」 

赤城「ふふふ、じーじぇいです、大淀さん」 

大淀「あの……本当にいいんですか、こんなことして」 

飛龍「いいんだよー。提督も自分がいない間の執務、覚えてほしいって言ってたし」 

521: ◆GoPzFNH1CI 2015/11/16(月) 01:59:43.27 ID:V+9RS8no0

赤城「提督の決裁が必要なもの以外は、私たちで片付きますしね」 

大淀「それで、提督と鳳翔さんの2人の時間を作ってあげる……と」 

飛龍「まあ全部は無理だから、後で提督にチェックしてもらうけど」 

赤城「戦闘だけじゃなく事務もできるようになって、提督とお母さんに褒めてもらいます!」 

大淀「それは構わないんですが……」 

大淀「はあ……久々の出番が、嘘の片棒を担ぐことだなんて」シクシク 

飛龍「人助けだよ、気にしない気にしない」 

522: ◆GoPzFNH1CI 2015/11/16(月) 02:01:16.92 ID:V+9RS8no0


提督「…………」 

鳳翔「…………」 

提督「時間、空いちゃったな……気が抜ける」 

鳳翔「普段は仕事の時間ですからね」 

提督「どういうわけか、今日は静かだな」 

鳳翔「ああ、そういえば。みんな、お布団から出たくないんでしょうか」 

提督「そろそろ、蒼龍や瑞鶴あたりが飛び込んでくると思ったけど」 

鳳翔「確かに……疲れてるんでしょうかね」 

523: ◆GoPzFNH1CI 2015/11/16(月) 02:02:30.62 ID:V+9RS8no0

提督「鳳翔、お茶淹れてくれないか」 

鳳翔「そうですね、休憩しますか……って、まだ何もしてませんけど。ふふ」 

提督「何かしてないと、まぶたが落ちそうなんだ……」 

鳳翔「あら、それじゃあ膝、貸しましょうか?」 

提督「んー。いや、やめとく」 

鳳翔「そうですか? ……ちょっと傷つきますねぇ」 

524: ◆GoPzFNH1CI 2015/11/16(月) 02:04:01.80 ID:V+9RS8no0

提督「ああ、いやね。せっかく時間できたから、寝ちゃうのはもったいないと思って」 

鳳翔「もったいないですか」 

提督「君に膝枕されたら、多分1分もたないから」 

鳳翔「そ、そうでしょうか……」 

提督「じゃあ今夜、やってもらおうかな……しかし眠い」 

鳳翔「いっそ少し眠ったほうがいいですよ。実は私も……ふぁ」 

提督「そうか? じゃあこっちの長椅子で」 

鳳翔「せっかくなのでプレゼントも使って――」 

525: ◆GoPzFNH1CI 2015/11/16(月) 02:04:37.05 ID:V+9RS8no0


赤城「――提督ー? ちょっと見てほしいんですけど……って、あら」 

「「Zzz……」」 

飛龍「寝ちゃったんだね。かわいー、2人でストールにくるまってる」 

赤城「むむ。本当に可愛いですね」 

飛龍「昼休みまではそっとしといてあげようよ、赤城さん」 

赤城「そうですね……褒めてもらうのは、また後でにします」 


赤城「今度、あいだに挟んで寝てもらいましょう」フンスッ 

飛龍「意外と甘えん坊だよね赤城さん……いや、人のこと言えないけどさ」 


555: ◆GoPzFNH1CI 2015/12/25(金) 16:20:55.47 ID:tZDGZIZ50


幕間9 ~きよしこの夜~ 


那珂「――それじゃ、いってきまーす」 

提督「うん。気をつけてな」 

川内「相変わらず過保護だなー、ちょっとは信頼してよ」 

提督「引率は慣れてるとはいえ、駆逐を全員連れてくのは初めてだろ」 

神通「大丈夫ですよ、そんなに遠くまで行かないですから」 


鳳翔「いいですか、あんまり遅くならないように。あと、ひとりでどこか行っちゃだめですよ? 軽巡の皆さんに心配かけないようにね」 

「「「はーい」」」 

那珂(完全にお母さんなんだよなあ) 

556: ◆GoPzFNH1CI 2015/12/25(金) 16:21:52.12 ID:tZDGZIZ50

提督「……ふう。駆逐と軽巡はイルミネーションを見に行く、と」 

鳳翔「クリスマスとはいえ、全員で行って大丈夫でしょうか」 

提督「まあ泊りじゃないし、すぐ帰れば大丈夫……だと思う」 

鳳翔「全員といえば、今日はほとんどの方が休暇を取りたいと言ったとか?」 

提督「うん。戦艦組と重巡組は映画を見るって」 

鳳翔「映画?」 

提督「長門が、今日じゃないとダメなんだと言ってね。ずーっと楽しみにしてたみたいだから」 

鳳翔「赤城ちゃんたち6人はカラオケ、明石さんと大淀さんはディナー。今日は本当に、私たち2人ですね」 

提督(もしかして気を遣われたのかな) 

557: ◆GoPzFNH1CI 2015/12/25(金) 16:23:20.92 ID:tZDGZIZ50

提督「まあ、今日はゆっくりしようよ」 

鳳翔「なんだか最近、ゆっくりしてばかりのような……まあ、いいんですけど」 

提督「さて、乾杯で酔っぱらう前に――これ、クリスマスプレゼント」 

鳳翔「え? 先月にも、もらったばかりですのに」 

提督「それはそれ。12月はプレゼントの機会が多くてうれしいんだよ」 

鳳翔「――あ、バッグですね。ありがとうございます」 

提督「しかも鳳翔を飾って、デートで眺めることもできるわけだ」 

鳳翔「そ、そんな面と向かって」 

558: ◆GoPzFNH1CI 2015/12/25(金) 16:24:29.94 ID:tZDGZIZ50

提督「それでこっちが、起工日のプレゼントね。12月16日」 

鳳翔「えっ? ネックレス……」 

提督「続いてこれが、竣工日のプレゼント。12月27日」 

鳳翔「こ、香水?」 

提督「で、これは1年間の、仕事と家事へのお礼」 

鳳翔「ブーツ……」 

提督「最後にこれが、特に理由はないけど、鳳翔に似合うと思って買った服だ」 

559: ◆GoPzFNH1CI 2015/12/25(金) 16:25:17.73 ID:tZDGZIZ50

鳳翔「お、多すぎますよ! こんなにいっぺんにお金を使っちゃダメで……」 

鳳翔「…………」 

鳳翔「なんで服と靴のサイズ知ってるんですか!?」 

提督「それは言えない。提供者からは口止めされてる」 

鳳翔「密告者がいるんですか!?」 

提督「気にするな。流石にスリーサイズまでは聞いてないから」 

鳳翔「そんなことまでバレてるんですか……」 

560: ◆GoPzFNH1CI 2015/12/25(金) 16:26:09.70 ID:tZDGZIZ50

提督「さあ着替えて。ディナーにしようじゃないか」 

鳳翔「え、これに着替えるんですか?」 

提督「せっかく選んだんだから、はじめに見るのは私だけがいい」 

鳳翔「えっ……」 

提督「外に行けなくて申し訳ないけど。今日だけは、2人で過ごしたいじゃないか」 

鳳翔「も、もう。しょうがないですね」 


鳳翔「……ありがとうございます、あなた」 

561: ◆GoPzFNH1CI 2015/12/25(金) 16:34:57.20 ID:tZDGZIZ50


飛龍「さてさて。提督はうまくやってるかな?」 

瑞鶴「鎮守府に2人っきりか。色々危ないわね、安全とかの意味で」 

飛龍「まあ、全力で走れば5分くらいで戻れるけど。妖精さんは残してきてるし」 


飛龍「大丈夫でしょ。お母さんが友永隊を指揮すれば鬼に金棒よ」 

瑞鶴「割と冗談じゃないのが怖いわね」 



蒼龍「――生き残りたい がけっぷちでいい 君を愛してる――」 

翔鶴「――目覚めたい いのちがいま、惹かれ合った――」 

瑞鶴「ノリノリだなぁ2人とも」 

飛龍「振り付けも完璧だしね、いつ練習したんだろ」 

562: ◆GoPzFNH1CI 2015/12/25(金) 16:36:02.71 ID:tZDGZIZ50

赤城「――もしもし、注文お願いします。メニューのお料理全部、3個ずつ」 

赤城「――え? はい、3個ずつです。あと、このスペシャルケーキは持ち帰りで――」 

加賀「あと、お酒を。ピッチャーでお願いします」 

赤城「カード使えますよね? では領収書を――舞鶴鎮守府司令官で」 

飛龍「ああー。提督ご愁傷さま」 

瑞鶴「理不尽な……提督さんはなんにも食べてないのに」 

563: ◆GoPzFNH1CI 2015/12/25(金) 16:36:49.85 ID:tZDGZIZ50

蒼龍「――ふう、決まった。完璧だね」 

翔鶴「格納庫で練習してきたかいがありましたね……」 

飛龍「練習って、何のためになのよ。忘年会くらいしか使えないんじゃないの」 

翔鶴「――ええー!!?? 78点!?」 

蒼龍「なにこれ、壊れてんじゃないの!?」 

加賀「ちょっと貸しなさい、こういうのはもっと音程を正確に――」 

赤城「ああっ、次は私の曲ですよ!」 

瑞鶴「……うちの鎮守府はどうしてこう、歌好きが集まるのかな」 

564: ◆GoPzFNH1CI 2015/12/25(金) 16:40:05.52 ID:tZDGZIZ50


長門「――おーい、摩耶!! メモリアルパンフは確保したか!?」 

摩耶「おう、全員ぶんバッチリあるぜ」 

長門「那智、物販の方はどうだ!?」 

那智「ものすごい人混みだ、いま姉さんと最上が並んでるが……すぐ合流は無理そうだぞ」 

長門「うむ、とりあえずはよし」 


長門「――陸奥、どうした座り込んで。気分でも悪いのか」 

陸奥「6時間も並んでりゃ、悪くもなるわよ……」 

565: ◆GoPzFNH1CI 2015/12/25(金) 16:41:18.03 ID:tZDGZIZ50

長門「む、だが初回上映を見逃すわけにはいかん」 

長門「海外では2週間前から映画館の前で待ったり、そのまま結婚式を挙げたりするファンもいる。負けてられんぞ」 

陸奥「私は……別にそこまで見たくない……」 

長門「まあ、無理はするな。なんせ明日と明後日もあるのだからな」 

陸奥「……一応聞くけど、なんで3回見るわけ?」 

長門「日付け入りのパンフレットだ。このために予約したようなものだからな」 

陸奥「私はもう来ないからね!」 

長門「1人1枚チケットを持つ必要があるのだ。もう人数分買ってしまったからもったいないだろう」 

陸奥「せめて事前に言ってよ!! いや言っても嫌だけど!!」 

566: ◆GoPzFNH1CI 2015/12/25(金) 16:42:14.29 ID:tZDGZIZ50


最上「全員ぶんのライトセーバー、確保したよ!」 

妙高「グッズも、とりあえず買えるだけ買いこみました」 

鳥海「スタンプラリーから戻りました! これ、景品のステッカーです」 

長門「よし、よくやってくれた。飲み物とポップコーンは私が並んでおいたから、あとは待つだけだな」 


鳥海「あれ? 摩耶、姉さんたちは?」 

摩耶「ああ、高雄姉ならあっちで――」 

高雄「」 

摩耶「ぶっ倒れてる。戦艦組につき合わされてずっと並んでたからな」 

567: ◆GoPzFNH1CI 2015/12/25(金) 16:43:25.46 ID:tZDGZIZ50

鳥海「愛宕姉さんは?」 

摩耶「さっき手洗いに行ったが……逃げたかもしれないな」 

長門「なに!? もうすぐ入場だぞ、すぐ探しに行かねば!」 

摩耶「大丈夫だって、すぐ戻ってくるから。なにせ――」 

愛宕「……摩耶ちゃあん」 

摩耶「愛宕姉、財布を私に預けて忘れていったからな」 

愛宕「返して~、もう帰りたいぃ……」 

鳥海「……姉さん、みんなで映画なんてすごく久しぶりなんですよ? そんなに嫌ですか」 

愛宕「うぐ。わ、わかったわ、ちゃんと見るから……」 

568: ◆GoPzFNH1CI 2015/12/25(金) 16:44:32.56 ID:tZDGZIZ50

山城「――ふん。長門、熱くなっちゃって子どもっぽいったら……ねー、姉さま」 

扶桑「え? そ、そうね……」 

扶桑(私も、長門さんに連れてこられたみたいな顔してるけど) 

扶桑(言えない。私自身もチケット予約してたなんて、山城には……) 

妙高「あ、扶桑さん。頼まれてたTシャツ、買えましたよ」 

扶桑「わあ! ありがとうございます妙高さ――ハッ」 

山城「…………」 

扶桑「…………」 


扶桑「山城!! これ柄違いなの、一緒に着ましょう!!」 

山城「は、はあ。素直にペアルックを喜ぶべきか……」 

569: ◆GoPzFNH1CI 2015/12/25(金) 16:45:21.73 ID:tZDGZIZ50



提督「……静かだな」 

鳳翔「そうですね、私は好きですけど」 

提督「何だかんだ言って、最近は結構2人の時間作れてるよね」 

鳳翔「そういえば……鎮守府の皆さんも、仕事を手伝ってくれてますからね」 

提督「うん。でも、まだまだ君がいないと回らないな」 


提督「――本当に今年1年、ありがとう」 

鳳翔「どういたしまして。あなたも、本当におつかれさまでした」 

提督「これからもよろしく、お願いします」 

鳳翔「はい。みんなで仲良く、頑張りましょうね!」 

576: ◆GoPzFNH1CI 2016/01/11(月) 01:45:47.71 ID:YuTh0OAb0


第4話 ~ホープフル・ニューフェイス~ 


「――ふぅ、ようやく着いたか。ヨコスカからは遠すぎるな」 

「ここが、マイヅルか。綺麗なところだ……伝統的な家屋も多いな、日本に来た実感がわく」 

「こんな時勢でなければ、ゆっくり観光したかったところだが。そうもいかないな」 

「日本最強の機動部隊がここに……さて、どんなものか楽しみだ」 


「――しかし、なんだろうなこの天気は。今にも雨が降りそうな、そんな暗さだが」 

「それだけではない、この胸のざわめきはなんだ」 

「私としたことが、新天地への期待と不安で、動揺しているのか……」 

577: ◆GoPzFNH1CI 2016/01/11(月) 01:50:01.20 ID:YuTh0OAb0

「――あの、こんにちは。Graf Zeppelinさん?」 

Graf Zeppelin「ん? ああ、そうだが」 

蒼龍「よかった、すぐ見つかって。私、航空母艦の蒼龍です」 

Graf Zeppelin「ソウリュウ……はじめまして、これから世話になる」 

蒼龍「こちらこそ。それじゃ、鎮守府まで案内するね」 


蒼龍(お肌、白くてきれいな子だなぁ。海外の艦娘はみんなそうなのかな) 

Graf Zeppelin(この、きれいな肌の日焼け具合。歴戦の空母のようだ) 

578: ◆GoPzFNH1CI 2016/01/11(月) 01:56:02.35 ID:YuTh0OAb0

蒼龍「あのー、呼び方なんだけど」 

Graf「うん?」 

蒼龍「グラーフさんでいいかな。伯爵って、ちょっと呼ばれ慣れてないと思うけど」 

Graf「かまわない、呼びやすさが一番だ。ゴウにいっては何とやらだからな」 

蒼龍「おー、よく知ってるね」 

Graf「ふふ、勉強は頑張ってしたぞ」 

579: ◆GoPzFNH1CI 2016/01/11(月) 02:03:41.72 ID:YuTh0OAb0

蒼龍「グラーフさん、今までは横須賀にいたんだよね」 

Graf「ああ。とはいえ、ほとんど日本語の勉強と、戦術の座学で終わってしまったが」 

蒼龍「配属も、まだ決まってないんだって?」 

Graf「そうなんだ。BismarckやPrinz Eugenが先に来ているから、同じ艦隊になるかと思っていたんだが」 

蒼龍「あー、海外の子はどこの鎮守府にいたっけかなぁ」 

Graf「提督との相性と適性を見て、配属が決まるそうだよ」 

蒼龍「そっかぁ。新しい空母の子が来るなんて久しぶりだからなあ」 

580: ◆GoPzFNH1CI 2016/01/11(月) 02:04:13.63 ID:YuTh0OAb0

Graf「そうなのか? 確かに正規空母は多いと聞いたが」 

蒼龍「あはは、うちは戦力過多って言われてるから……」 

Graf「なんにせよ、艦娘としての経験を積むには、最精鋭の空母が集っているここでジッチ、ケン……」 

蒼龍「実地研修だね。いやあ、最精鋭なんて照れるなー」 

Graf「本当のことだ。なにせ私は――」 

蒼龍「え?」 

Graf「……いや。後で話すよ」 

581: ◆GoPzFNH1CI 2016/01/11(月) 02:05:29.93 ID:YuTh0OAb0

蒼龍「さて、まずは提督のところだね。こっちだよ」 

Graf「ああ、頼む。だが蒼龍」 

蒼龍「うん?」 

Graf「マイヅルには、戦艦が4隻に航空母艦が6隻、その他の軍艦も多数いると聞いていた」 

Graf「その割にはずいぶん静かだな。さほど広くは見えないが」 

蒼龍「あー、これね。今日は出撃とか遠征なんかで、みんなほとんどいないのよ」 

Graf「そうだったのか、忙しい時期にすまないな」 

582: ◆GoPzFNH1CI 2016/01/11(月) 02:06:59.61 ID:YuTh0OAb0

蒼龍「それから、大規模改装中で外部の工廠に行ってる子もいるね。あとで紹介するけど」 

Graf「ほう。空母なのか?」 

蒼龍「そうそう、私の後輩だよ。仲良くしてあげてね」 

Graf「私が教わる身だからな。こちらからお願いするよ」 


蒼龍「――ああ、それから」 

蒼龍「ここにいる空母は6隻じゃなくて、7隻だよ。貴女を入れたら8隻だね」 

Graf「うん? そうだったか」 

蒼龍「まあ、すこーし特別だけどね」 

583: ◆GoPzFNH1CI 2016/01/11(月) 02:08:03.85 ID:YuTh0OAb0


提督「第2艦隊、状況報告」 

飛龍『――飛龍です。先ほど目的地に到着、脱落した船はなし』 

飛龍『予定通り、物資の揚陸を開始しました。見届けたら帰投します』 

飛龍『母港への到着予定時刻、本日一八○○――送れ』 

提督「了解。次の定時連絡まで、少しでも異常があれば通信せよ――以上」 


提督「第3艦隊、ボーキサイト輸送船団の護衛。第4艦隊、合同演習」 

提督「久々のフル稼働だな。鳳翔、そっちは問題ないか」 

鳳翔「はい。それぞれ連絡を受け取っていますが、順調ですね」 

584: ◆GoPzFNH1CI 2016/01/11(月) 02:09:01.42 ID:YuTh0OAb0

蒼龍「提督、お連れしました」 

Graf「Guten Morgen! 航空母艦、Graf Zeppelinだ」 

Graf「貴方がこの艦隊を預かる提督なのだな。そうか……よろしく頼むぞ」 

提督「こちらこそよろしく。舞鶴へようこそ、歓迎するよ」 

鳳翔「秘書艦の、鳳翔と申します。よろしくお願いしますね」 


提督「出迎えなくてすまない。ちょっと、今日は予定が立て込んでいてね」 

Graf「気にしないでくれ、敵は待ってくれないからな」 

585: ◆GoPzFNH1CI 2016/01/11(月) 02:10:29.24 ID:YuTh0OAb0

提督「早速みんなに紹介したいところなんだけど……」 

提督「あいにく、ほとんど出払っててね。今夜の歓迎会までには揃う予定だから」 

Graf「私の歓迎会か? 気恥ずかしいが……」 


提督「長旅で疲れただろう。鳳翔、部屋に案内してあげてくれ」 

鳳翔「はい。ついでに、鎮守府の施設も紹介しますね」 

蒼龍「それじゃあ、秘書艦は私が代わるよ」 

鳳翔「よろしくね。ではグラーフさん、こちらへ」 

Graf「ああ、お願いする。――Admiral、また改めて、な」 

提督「うん、ゆっくり休んでくれ」 

586: ◆GoPzFNH1CI 2016/01/11(月) 02:11:13.75 ID:YuTh0OAb0


Graf「――ええと、貴女は」 

鳳翔「鳳翔、です。ほうしょう」 

Graf「不勉強ですまない。名前を知っているのはアカギだけなんだ」 

鳳翔「気にしないでください、まだ慣れていないでしょうから」 

Graf「ある程度、勉強はしてきたのだが。どうも名前が独特で……」 


鳳翔「焦らないでください。みんないい子たちばかりですから、すぐに仲良くなれますよ」 

Graf「あ、ああ。しかし、航空戦力として経験を積むのが目的だから、早く覚えねば」 

鳳翔「……ふむ」 

587: ◆GoPzFNH1CI 2016/01/11(月) 02:13:33.67 ID:YuTh0OAb0

鳳翔「もしかして、焦っているのは……」 

鳳翔「自分には実戦経験がないから、でしょうか」 

Graf「な……」 

鳳翔「ごめんなさい、ちょっと調べさせてもらいました。私は配属艦の艦歴を把握することにしていますので」 

Graf「……そうか」 


Graf「その通りだ。私には経験がない……あの戦争においても、この体になったあとも」 

Graf「空母なのに、艦載機を扱ったことがないんだ。不安になるのも当然だろう?」 

鳳翔「……わかります」 

Graf「まあ、だからこそ、一番航空戦力の充実した艦隊へ来たわけだが」 

588: ◆GoPzFNH1CI 2016/01/11(月) 02:14:44.27 ID:YuTh0OAb0

鳳翔「会ったばかりなのに、差し出がましいことを言うようですが」 

Graf「うん?」 

鳳翔「あの人……提督は、きっと良い采配をしてくれます。私が保証します」 

Graf「信頼しているのだな」 

鳳翔「ええ、長い付き合いですからね。あの人の下でずっと戦ってきた子は、みんなそうだと思いますよ」 

Graf「…………」 

鳳翔「それに、先ほども言いましたが。鎮守府の他の子にも頼ってみるといいですよ」 

鳳翔「空母の子たちだけじゃなく、色んな子と話してみてください。きっといい経験になりますから」 

589: ◆GoPzFNH1CI 2016/01/11(月) 02:17:36.34 ID:YuTh0OAb0

鳳翔「私にも、困ったことはなんでも相談してくださいね。なんでもいいですよ」 

鳳翔「お国の料理が食べたいとか、そういうのでも。こう見えてもお料理は得意だと思ってますので」 

Graf「……ああ。ありがとう」 



Graf(――なぜ初対面で、ここまで弱みを話してしまったんだ) 

Graf(自分の過去を見透かされて、動揺してしまったのか……) 

Graf(だが、まったく不快さを感じない) 

Graf(それどころか、私を気づかう、あたたかな感情が伝わってくる――) 

Graf(私より小さな体が、大きく見える) 


Graf(……いったい、このひとは何者なのだろう) 


602: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/24(水) 23:45:10.17 ID:v9LQex5P0


◇ 


―― コンニチハー 

Graf「――ああ、どうぞ?」 

五月雨「失礼します、駆逐艦五月雨と――」 

綾波「綾波です。スーツケースをお持ちしました」 

Graf「ああ、ありがとう。わざわざすまないな」 

綾波「ここに置いておきますね。――あ」 

五月雨「あっ」 

「「…………」」ジー 

603: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/24(水) 23:46:12.12 ID:v9LQex5P0

Graf「……ん? 私の顔が、なにか?」 

五月雨「どうしてそんなに!!」 

綾波「お肌が白いんですか!?」 

Graf「な、なに?」 


綾波「私たち、出撃の前には日焼け対策をしてるんですけど」 

五月雨「いくらやっても、ある程度は焼けちゃうんですよね」 

Graf「そうだろうな。海面からの反射も強いだろうし」 

605: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/24(水) 23:47:15.89 ID:v9LQex5P0

綾波「でも、グラーフさんみたいな真っ白な艦娘、初めて見ました!」 

五月雨「どんな日焼け止め使ってるんですか!?」 

Graf「い、いや違う。これは多分、日本生まれではないから」 

綾波「ええっ、外国なら焼けないんですか!?」 

Graf「そうではなくて、艦体のつくり自体が違うだろうから――」 

五月雨「それじゃ、私も外国で改装してもらったらいいわけですね!?」 

Graf「いや……うん。したいなら止めないが」 

606: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/24(水) 23:48:34.46 ID:v9LQex5P0

綾波「艦娘のパスポートってあったっけ」 

五月雨「ヨーロッパまでどうやって行こう」 

「「うーん……」」 

Graf(……日本の駆逐艦は変わっているんだな) 


五月雨「――あ、そうでした。荷物を広げたら、執務室まで来ていただきたいそうです」 

綾波「よかったらお手伝いしましょうか?」 

Graf「いいのか? ありがとう」 

607: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/24(水) 23:50:19.88 ID:v9LQex5P0


◇ 


提督「――さて、改めて」 

提督「航空母艦Graf Zeppelin。本日付けをもって、舞鶴鎮守府への着任を命ず」 

Graf「Ja!」 

提督「研修期間は2か月。その後の配属は、君の希望と各地の戦力、戦況を考慮して決定する」 

提督「もちろんここでも構わない。早く馴染んでくれるように努力するよ」 

Graf「感謝する、Admiral」 

608: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:03:54.55 ID:ZazPqgGp0

提督「研修の目的は、艦隊で問題なく動けるようになることと、艦上機の習熟だ」 

提督「ここの方針、というより、どこでも基本だと思うけど――」 

提督「練度がある程度上がるまでは、演習と遠征が主になる。出撃する場合も、鎮守府周辺海域がメインだ」 

提督「出撃や遠征では、主に船団の護衛や航路の啓開。これはほぼ毎日だね」 

提督「最初は、これらの任務に当たってもらいたい。異存ないかな」 

Graf「ありません。――で、私の役目はいつから?」 

609: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:04:38.22 ID:ZazPqgGp0

提督「そうだなぁ、急ぐこともないと思うんだけど……」 

Graf「鳳翔にもそう言われたが、期間も限られているからな」 

鳳翔「それじゃあ、これから鎮守府近海まで出てみますか?」 

Graf「おお。出撃か?」 

鳳翔「他の皆さんが出撃や遠征、演習から帰ってくるときの、航路を警備するんです」 

Graf「航路の警備?」 

610: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:06:13.09 ID:ZazPqgGp0

鳳翔「鎮守府の周辺には艦隊だけでなく、はぐれ艦と呼ばれる敵艦もいるのですが」 

Graf「はぐれ艦か、知っている。ヨコスカにもかなりの数がいたな」 

鳳翔「ええ。危険性はそれほどでもないのですが……」 


鳳翔「弾薬が少なくなった時や、演習用の装備の時に見つかると大変ですからね」 

鳳翔「はぐれ艦はほとんどが駆逐艦や潜水艦1隻ですが、そのぶん行動も読みにくいのです」 

Graf「なるほど。この鎮守府は慎重なのだな、Admiral」 

提督「無事に帰る確率を上げるためだよ。作戦成功して帰り道にやられました、じゃ意味がないから」 

611: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:07:59.65 ID:ZazPqgGp0

鳳翔「それほど遠くへは出ませんし、海域を覚えるにはいい機会じゃないでしょうか」 

Graf「鳳翔が出てくれるなら心強い、私からもお願いする」 

提督「――よし、わかった。今日の指導は鳳翔に任せよう」 

鳳翔「お任せください! それじゃグラーフさん、工廠で艤装を着けてみましょう」 

Graf「ああ、よろしく頼むよ鳳翔」 


蒼龍「――もう仲良くなっちゃって。お母さん、なんだかうれしそう」 

提督「はは、新しい子は久々だもんなぁ。いろいろ教えてあげたいんだろ」 

612: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:11:02.45 ID:ZazPqgGp0

蒼龍「――ん? 天気がまた……」 

蒼龍「……なんだか、変な色の雲が出てきたね」 

提督「本当だな、いきなりどうしたんだろう」 


蒼龍「ねえ提督。さっき外に出たときに思ったんだけどさ」 

提督「ん、どうした。何かあったのか」 

蒼龍「はっきりとはわからないけど……今日の空はちょっと変だよね」 

提督「確かに妙な空模様だな。雲の流れも速いし、ひと雨来るのかな」 

613: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:11:35.48 ID:ZazPqgGp0

蒼龍「気象台から報告は? 海が荒れそうだとか」 

提督「私も気になって問い合わせたんだけど、特に強風も波浪も心配ないそうだよ」 

提督「少し霧がかかるらしいが、これはよくあることだし」 

蒼龍「そっか……うーん」 


蒼龍「でも、なーんか気になるな。嫌な予感がする」 

提督「……そうか」 

614: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:12:51.96 ID:ZazPqgGp0

提督「それじゃ、艤装の用意だ。ボイラーに火を」 

提督「非番の子にも声をかけて、それから航空隊も地上配備しておくか」 

蒼龍「え、いいの? 根拠ないよ」 

提督「念のため、ね。今は自由に出せる戦力が少ないし、民間から要請が来た時に出せる戦力は必要だから」 


提督「――それにどういうわけか、うちの悪い予感はよく当たる。私も含めてね」 

蒼龍「そ、そうかなー? あはは……じゃあ、非番の子には私が言っとくから」 

提督「うん、頼んだよ」 

615: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:14:00.92 ID:ZazPqgGp0

鳳翔「では、行ってまいりますね」 

提督「うん。くれぐれも……」 

叢雲「気をつけて、でしょ。――ったく、いつまでも言うこと変わらないんだから」 

満潮「言われなくても気をつけるわよ。何回も言うと、言葉の価値が下がるわ」 

五月雨「2人とも、今日はいつもとちょっと違うんですよ! 油断しちゃダメです!」 

Graf「世話になる。なるべく荷物にならないよう付いていくよ」 

綾波「あ、大丈夫ですよ。そんなに肩に力入れないでください」 

616: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:15:19.29 ID:ZazPqgGp0

鳳翔「あの、それから……」 

提督「うん?」 

鳳翔「い、いえ、あの」 


鳳翔「帰ってきたら、渡したいものがありますので……楽しみにしていてくださいね」 

提督「渡すもの? ――うん、わかったよ」 

鳳翔「そ、それでは、出撃いたします!」 


提督「――帰ってきたら、か。楽しみだな」 

提督「何か立った気もするけど……」 

617: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:24:13.59 ID:ZazPqgGp0


◇ 


蒼龍「――おかしいよ提督。本格的に霧が出てきた」 

提督「そろそろ艦隊が帰投するのに、参ったな。いきなりどうしたんだ……」 

蒼龍「第1艦隊も大丈夫かな。視界が悪いと、潜水艦だけじゃなくて水上艦も怖いね」 

提督「そうだな。だから、綾波と叢雲には砲戦装備を積んだんだ」 

蒼龍「いつもは対潜装備多めだもんね。――まあ、お母さんなら心配ないか」 

提督「これ以上濃くならないうちに誘導灯の確認と、それから気象情報をもう一回見てみるか」 

618: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:29:52.27 ID:ZazPqgGp0

――バタァン! 


大淀「て、提督、大変です!」 

提督「どうしたんだ、慌てて」 

大淀「帰還中の第2、第3、第4艦隊からの通信が途絶えました!」 

「「!!」」 


大淀「定時連絡も、こちらからの通信への応答もありません!」 

提督「何だって!? 3艦隊分、全員からか!!」 

蒼龍「ということは、故障じゃないよね。これはやっぱり――」 

619: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:30:45.57 ID:ZazPqgGp0

――バァン!! 


明石「――て、提督!!」 

提督「今度は明石か。どうした?」 

明石「この霧です! 帯電した霧が、通信を阻害しています!!」 

蒼龍「ああ……嫌な予感、当たってほしくなかったのに」 


大淀「ど、どうしましょう。艦隊がお留守の時に……」 

明石「すぐに動ける子は少ないです。それに、出しても通信できなくては――」 

620: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:32:42.21 ID:ZazPqgGp0

提督「――落ち着け。飛龍の第2艦隊、赤城の第3艦隊は近くまで戻っているはずだ」 


提督「蒼龍! 航空隊に電文を持たせて、直接届けてやってくれ」 

提督「この霧のことと、航行速度を上げて早く戻るように、と」 

蒼龍「わかった。――翔鶴と瑞鶴にはどうする?」 

提督「第4艦隊は離れたところだからな。あまり航空隊をそれぞれに振り分けすぎると、遭遇できないかもしれない」 

提督「まず確実に第2、第3と連絡をとって、その後全力で第4艦隊と接触する」 


提督「――速さが肝心だ、頼むぞ蒼龍」 

蒼龍「了解。任せてね!!」 

621: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:33:43.97 ID:ZazPqgGp0

提督「明石。横須賀の司令部と、各鎮守府に連絡を取ってくれ」 

提督「有線は繋がるよな? とにかく情報を集めるぞ、通信もあらゆる周波数を試してみるんだ」 

提督「大淀は全ての艦娘を作戦室へ集めてくれ。後で状況を説明する」 

「「了解!!」」 



提督「……鳳翔」 

提督「すぐ、気付いてくれていればいいんだが」 

622: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:42:57.30 ID:ZazPqgGp0


◇ 


鳳翔「――いかがですか、調子は?」 

Graf「問題ない。波が高いのには驚いたが」 

鳳翔「艦上機もいい動きです。特に心配もいりませんでしたか」 

Graf「ああ――それにしても、この爆撃機は素晴らしいな!」 

Graf「急降下の速度も、機動性も申し分ない。この国の技術には、まったく感服するよ」 

鳳翔「ふふ、ありがとうございます。私もうれしいです」 

鳳翔「国というより、この国の妖精さんの技術力ですけどね」 

623: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:44:31.29 ID:ZazPqgGp0

Graf「この艦上機は、何と呼ぶのだったかな?」 

鳳翔「彗星一二型甲、我が艦隊の主力爆撃機ですね」 

Graf「そうか、Komet……スイセイの上位機か。この性能で、主力機として揃えられているとは驚いたぞ」 

鳳翔「いえいえ。グラーフさんは初めて扱うでしょうに、お見事な腕です」 

Graf「それだけ、こちらの搭乗員が優秀なのだろう」 


Graf「――私が連れてきたスツーカ隊も、まだまだ成長できそうだな」 

鳳翔「そうですよ。じっくりと練度を上げていってください」 

624: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:45:45.19 ID:ZazPqgGp0

鳳翔「ただ、少々霧が深くなってきましたね。せっかく調子が出てきたところで申し訳ありませんが……」 

鳳翔「今日のところは、早めに切り上げたほうがいいでしょうか」 


綾波「――あ、あれ」 

五月雨「どうしたの?」 

綾波「いきなり電探から雑音が……故障かな」 

叢雲「こっちも同じよ。33号が同時になんて……鳳翔さん!」 

鳳翔「――ええ、故障ではありませんね。異常事態のようです」 

625: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:46:32.08 ID:ZazPqgGp0

鳳翔「お2人とも、ソナーの動作は?」 

五月雨「問題ありません、正常に動いてます」 

満潮「私も大丈夫。聞き取りにくいこともないわね」 

鳳翔「ということは、通信に問題が……これは、早く帰投した方がよさそうですね」 

鳳翔「今回はここまでにしましょう。艦隊は進路を――」 


―― ズゥウウン…… 


「「「!?」」」 

626: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:47:19.54 ID:ZazPqgGp0

Graf「い、今の音は!?」 

綾波「戦艦の砲撃音です!! 霧の向こうで、発砲炎がかすかに!!」 

鳳翔「早く散開を――グラーフさん!!」 

Graf「!!」 

鳳翔「が、っ……」 

Graf「ほ、鳳翔!?」 

鳳翔「……だ、大丈夫ですから……早く……」 

Graf「私が曳航する! 誰か先導を!!」 

627: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:51:51.19 ID:ZazPqgGp0


◇ 

飛龍「お? おーい赤城さん、加賀さん」 

赤城「飛龍、戻ってましたか」 

飛龍「ついさっきね。――妙な騒ぎになったわね」 

加賀「これでは歓迎会も、微妙な雰囲気になりそうね」 

赤城「そんなことありませんよ、お母さんの料理を食べれば!」 


提督「――戻ったか。おつかれさま」 

飛龍「おつかれさまです……どうしたの、暗い顔して」 

提督「……それが、な」 

628: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:52:26.71 ID:ZazPqgGp0


赤城「――お母さんが、大破!?」 

提督「いつも通り、近海警備に出たんだ。そうしたら普段は見ない深海棲艦と遭遇したらしい」 

加賀「見ないとは?」 

提督「五月雨が言うには、戦艦級の砲撃だと。改修が済んだ鳳翔を大破させる威力だ」 

飛龍「もしかして、この霧のせい?」 

提督「詳しいことはまだわからない。帰ってきて早々すまないが、補給はしておいてくれ」 

赤城「……了解しました」 

629: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:54:15.59 ID:ZazPqgGp0

赤城「……加賀さん、飛龍」 

飛龍「あー、何考えてるか大体わかるよ」 

加賀「私も同じです――このままお母さんをやられたままで、黙っていられませんね」 

赤城「よし、ではすぐ補給を」 


赤城「――そうだ、蒼龍は……」 

蒼龍「――ここにいるよ。お帰り、みんな無事でよかった」 

飛龍「そっちも1人で大変だったでしょ。おつかれさま」 

蒼龍「うん。お母さんはもう入渠したから、心配しないで」 

赤城「そうですか……よかった」 

630: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:55:14.09 ID:ZazPqgGp0

蒼龍「それで、するんでしょ? かたき討ち」 

飛龍「蒼龍、いっしょに行こうよ!」 

蒼龍「気持ちはみんなと同じだけどさ……」 


蒼龍「鎮守府に誰か1人、空母はいないと。私まで出たら、基地航空隊を指揮できなくなっちゃうでしょ」 

蒼龍「五航戦の2人も、誘導してあげないとね。ひと段落したら、私も追いかける」 

加賀「わかったわ。提督にはうまく言っておいてね」 

蒼龍「しょうがないなあ、もう――気をつけるんだよ、3人とも!」 

631: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:57:47.42 ID:ZazPqgGp0


提督「――なに、鳳翔に高速修復材を?」 

提督「だめだ、だめ! すぐ直ったら、すぐ出撃したがるに決まってる」 

提督「大変なときに寝てられないとか言ってな。修復材はだめだ」 

提督「修理はどれくらいかかる? ――およそ11時間? わかった、それまで寝かせてやってくれ」 


蒼龍「提督ー」 

提督「おお、蒼龍。赤城たちはどうした」 

蒼龍「え、えっと……」 

632: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:58:26.59 ID:ZazPqgGp0

蒼龍「――ご、ごめん。またすぐ出ていっちゃった」 

提督「出ていった?」 

蒼龍「お母さんのかたき討ちに、3人で」 

提督「……3人でか」 


蒼龍「えっと、あのですね。私たちの気持ちも酌んでほしいなっていうか――」 

提督「まったくもう……すぐ護衛を出さないと」 

蒼龍「あ、あれ? 怒らないの?」 

633: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 00:59:16.91 ID:ZazPqgGp0

提督「少しは予想できてたし、それに」 

提督「自分が赤城たちの立場だったら、同じことをしてたかもしれん」 

提督「好き放題やられて、怒ってないわけじゃないんだ」 

蒼龍「おお。久々に怒りをあらわに」 


提督「とはいえ、ちゃんと飛行機で連絡は取りあっておいてくれよ」 

蒼龍「それは大丈夫。よく言っておいたから」 

提督「第4艦隊も帰ってくるし、すぐ後詰の艦隊を編成しよう。作戦室へ行くぞ、蒼龍」 

蒼龍「うん!」 


提督「……と、その前にグラーフを探さないと」 

634: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:00:16.20 ID:ZazPqgGp0


鳳翔「すぅ……すぅ」 

Graf「…………」 


提督「入るぞ――やっぱりドックだったか」 

Graf「……Admiralか」 

提督「五月雨たちから、大体の事情は聞いたよ。最初の出撃から災難だったね」 

Graf「…………」 

635: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:00:53.11 ID:ZazPqgGp0

提督「わかりやすく落ち込んでるな」 

Graf「……当然だろう。鳳翔は私をかばって被弾したんだぞ」 

提督「初めに言っておくが、君に落ち度はないぞ」 

Graf「なに?」 


提督「電探が使えず、航空隊も電信を打てず」 

提督「それに、戦艦級がこの海域まで出ることは想定外だった。艦隊の誰も予測できないことが起きたんだ」 

提督「最終的に、出撃の許可を出したのは私だ。艦隊の損害は、すべて私の責任と言えるな」 

636: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:03:44.82 ID:ZazPqgGp0

Graf「……貴方たちの信頼の深さは、今日会ったばかりの私にも伝わるほどだ」 

Graf「ならば今回の敗北と損害は、一番練度の低い者のせいだとは思わないか」 

提督「――あのな。今回は負けだと思ってるかもしれないが、それは違うんだぞ」 

Graf「なんだと? 大破して撤退すれば、それは……」 

提督「ああ、そうじゃなくて。私たちの敗北の考え方は違うんだ」 

Graf「……どういう意味だ?」 

637: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:04:23.27 ID:ZazPqgGp0

提督「あー、これは私が尊敬してる人の考え方でもあるんだけど」 

提督「大破だろうが撤退しようが、大事なのは沈まないこと……生きていることなんだ」 

Graf「…………」 


提督「出撃した全員が、沈まずに帰還する」 

提督「それだけで大勝利なんだよ、グラーフ。もう少し経験を積めば、君もわかるはずだ」 

Graf「……鳳翔も、そう思っているか?」 

提督「言葉を交わしたわけじゃないけど、きっと」 

638: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:05:19.71 ID:ZazPqgGp0

Graf「――Admiralが言いたいことは、わかる気がする」 

提督「うん。そうか」 

Graf「しかし、私にはまだ、それを心するだけの経験がない」 

Graf「言葉だけわかっていても意味がないからな。経験と実践が、自分の実力となる」 

提督「そうだな、そう思うよ」 


Graf「……聞いていた通り、ここは素晴らしい艦娘が揃っているようだ」 

提督「そうとも。自慢の子たちだよ」 

639: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:06:28.25 ID:ZazPqgGp0

Graf「というわけで……ここにいる間、Admiralと鳳翔から、できる限りのことを学ばせてもらう」 

Graf「――これからよろしく頼むぞ、Admiral」 

提督「うん。こちらこそ」 

Graf「鳳翔も、よろしく頼む」 

鳳翔「……ん」 


Graf「早く元気になってくれ……!」 

提督「い、いや、病気なわけじゃないから。普通に修理だから、大丈夫だよ」 

640: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:10:39.55 ID:ZazPqgGp0

すみません、20分弱休憩します 
まだ40レスちょっと続きます、リアルで読んでくださってる方は無理せずにどうぞ……

642: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:33:50.30 ID:ZazPqgGp0


◇ 


赤城「――さて、偵察ですが」 

加賀「妖精さんたちも、この視界では困難だと言っていますね」 

飛龍「彩雲隊はさすがに目が良いね。こっちは出せそうだよ」 

加賀「……でも無線が使えないのでは、見つけても打電できないわ」 


飛龍「あんまり使ってなかったけど、妖精さんと視界をリンクしてみよう」 

赤城「大丈夫ですか? 負担もかかるし、今は視界も悪いですが」 

飛龍「しんどいからねぇ。艦隊の発見までは妖精さんに任せるわ」 

643: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:35:12.66 ID:ZazPqgGp0

赤城「――電探と無線はやはりダメですか?」 

加賀「そうですね、ノイズばかりで使えません」 

赤城「誘導灯を見失わないように。はぐれたら、冗談じゃなく遭難してしまいますよ」 

加賀「まあ、こんな状況で空母だけが航行しているのもおかしな話ですが」 

飛龍「駆逐艦も連れずに飛び出しました、なんてお母さんが知ったらなんて言うだろ……」 

赤城「……冷静に考えたら、恐ろしくなってきましたね」 

644: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:37:25.35 ID:ZazPqgGp0

加賀「ところで……戦艦の砲撃を受けたとのことでしたが、敵艦隊が1つとは限りませんね」 

赤城「ええ。かたき討ちとはいえ、無茶はできません。帰ったら提督にもお母さんにも怒られますし」 


飛龍「――むっ、彩雲が敵艦隊に触接! 空母ヲ級、3隻を含む」 

加賀「こんなところに機動部隊が……やはり今日はおかしいわね」 

赤城「ヲ級が3隻ですか、相手にとって不足なし。全攻撃隊――」 


飛龍「――いや、待ってください! 白旗が見えます」 

赤城「白旗……? まさか、今までそんな意思表示など……」 

645: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:39:11.44 ID:ZazPqgGp0

赤城「……攻撃隊は出すべきです。ただし上空待機で」 

加賀「同感ですね。了解」 

飛龍「了解――でも、相手は航空機、出してないみたい……」 


―― ヒリュウー!! 


飛龍「……ん?」 

ヲ級Y「ヒリュウー!! ワタシだー!!!! ケッコンしてクレーーーー!!!!」 

飛龍「」 


加賀「……飛龍、貴女まさか」 

飛龍「やめてそんな目で見ないで」 

646: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:40:50.38 ID:ZazPqgGp0

赤城「……なんか1隻、まっすぐ向かってきますが」 

加賀「こちらの位置がばれていたこと、ヲ級のあの態度からして……」 

加賀「――正直に吐きなさい。怒らないから」 

飛龍「やめてぇええ!! スパイでも百合でもないから!!」 

加賀「冗談よ」 


赤城「……どこかで見たと思ったら、あの3隻は」 

飛龍「MI島で何回も戦ったヲ級じゃん! なんでこんなとこにいるのよ!!」 

647: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:42:51.29 ID:ZazPqgGp0

ヲ級Y「覚えててクレタノ!? ワタシ感謝感激雨アラレ!!」 

飛龍「うわ、もう来た! 貴女、何度も何度も私に向かってきた――」 

ヲ級Y「そうッ! あの時、アナタにボコられたヨーキィだよォ!!」 

飛龍「それ名前!? 言われてもわかんないって!!」 

ヲ級Y「ズーット大好キだったんだァ! 私のアイを受け止めてェ!!」 

飛龍「今まで話したことすらないでしょ! そもそも貴女しゃべれたの!?」 

ヲ級Y「ヒリュウとオハナシがしたくてサ、一生懸命日本語をベンキョウ――」 

648: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:43:38.31 ID:ZazPqgGp0

赤城「――そこまで。止まりなさい」 

ヲ級Y「!!」 


赤城「面識があろうが白旗を掲げようが、警戒を解いていい理由にはなりません」 

赤城「私たちの宿縁はそれほど浅くないはずです」 

ヲ級Y「わ、わかったよォ。こんな近くで弓向けないでェ……」 

加賀「……ここまで殺気を感じない深海棲艦は初めてね」 

649: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:45:21.74 ID:ZazPqgGp0

ヲ級H「――はー、やっと追いついた」 

ヲ級E「…………」 

赤城「……また増えましたね」 

加賀「落ち着いて。いつでも攻撃できます」 


ヲ級H「姉さん、1人で行かないでって言ったでしょ!」 

ヲ級Y「ゴメンゴメン、姿が見えたら抑えられなくなってさァ」 

赤城「――貴女はたしか、機動部隊H群の旗艦……」 

650: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:47:16.73 ID:ZazPqgGp0

ヲ級H「H群? ああ、あの時アンタたちが勝手につけたコードね」 

ヲ級H「そうよー、名前はスティンガー。お久しぶりね、赤城」 

赤城「MI作戦の暗号を読んでいたのですか!?」 

ヲ級H「あー、安心して。まともに読もうとしてたのなんて、私と姫サマだけだし」 

ヲ級H「断片的にしかわからなくて、アンタたちの作戦が終わるまでには役に立たなかったわ」 


ヲ級H「――信じるかは自由だけどね」 

赤城「…………」 

ヲ級H「まさか2年前と同じ暗号使ってないと思うけど、私たちをそこまで見くびらないほうがいいわよ」 

651: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:48:41.21 ID:ZazPqgGp0


ヲ級E「…………」 

加賀「……?」 

ヲ級E「ご無沙汰しておりマス、加賀。2年近く振りでスネ」 

加賀「ああ、これはどうもご丁寧に」 

ヲ級E「あの時は航空戦だけでしたガ、ウチの子たちを揉んでくださっテありがとうございまシタ」 


ヲ級E「機会があれバ、またお手合わせヲお願いしマス」 

加賀「……こちらは遠慮したいわね、何度も挑みかかってくるヲ級など」 

ヲ級E「それは残念デス。――アア、ラッキーとお呼びくだサイ」 

加賀「しぶとそうな名前ね」 

652: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:50:00.48 ID:ZazPqgGp0


赤城「……なぜ、こんな悠長に話し合いなど……」 

赤城「私たちは敵同士なんです。MI作戦で、こちらが受けた損害を考えれば」 

赤城「ここで見逃せば、他にどんな被害が出るかわかりません」 


ヲ級Y「ンー? その言い方はチョット、勝手すぎるんじゃないかなァ」 

赤城「なんですって?」 


ヲ級H「突然、攻めてきたのはそっちでしょ。せっかく作った滑走路、壊してくれちゃってさー」 

ヲ級E「私たちハ、自身と姫サマを守るために、戦っていただけデス」 

653: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:51:00.57 ID:ZazPqgGp0

ヲ級Y「アカギ、アナタが戦う理由は知らないケド」 

ヲ級Y「こっちにだってちゃんとした理由があるのさァ、押し付けてもらっちゃ困るよォ」 


加賀「一理ある……と、言いたいところだけど」 

加賀「そんな話をするためだけに、ここへ来たわけではないでしょうね」 

飛龍「そうよ。太平洋にいた貴女たちが、どうして日本海にいるの」 

ヲ級E「そっちの理由はちゃんとありマス。――アナタたちの、後ろ、デス」 

654: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:51:57.77 ID:ZazPqgGp0

赤城「後ろ? ――!!」 


飛行場姫「――あら、懐かしい顔がそろってるわね」 

北方棲姫「こーわん! ゼロトレップウ、イッパイトンデル!」 

港湾棲姫「そうね。でも、まだ手を出しちゃだめよ」 


加賀「なっ……姫が、3体!?」 

飛龍「そ、そんなまさか! いつの間に後ろに!?」 


飛行場姫「限界まで気配を押さえれば、レーダーやソナーをかいくぐれるのよ。貴女たちが鬼、姫と呼んでいる子だけだけどね」 

飛行場姫「ま、この状態になるとすぐ戦闘できなくなるんだけど」 

655: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:52:47.35 ID:ZazPqgGp0

加賀「……確かに、殺気は感じませんが。はいそうですかと信じるわけにもいきません」 

飛龍「こっちも航空隊は飛ばしてあるからね。痛み分けくらいには持ち込めるよ」 

赤城「その通りです。目の前の敵を素通りさせるなど――」 

北方棲姫「ネーネー」クイクイ 

赤城「きゃあっ!! な、なんですか!?」 


北方棲姫「オカーサンハ? イナイノカ」 

赤城「え、ええ。今は鎮守府ですけど……」 

656: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:53:52.99 ID:ZazPqgGp0

北方棲姫「ソウナノカ……」 

港湾棲姫「今度会いに行きまショウ。ネ?」 

北方棲姫「ウン!」 


飛龍「え、ちょっと。会いに行くって鎮守府へ?」 

加賀「そもそも、なぜお母さんに会いたいのかしら」 

港湾棲姫「少し前にデスネ、地上へ買い物に行ったときニ――」 


―― ガヤガヤ…… 

657: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:54:50.01 ID:ZazPqgGp0

赤城「だからなんで仲良く……まったく」 

飛行場姫「――えーと、いいかしら?」 

赤城「あ、はい」 


飛行場姫「私も、タダで通ろうとは思わないわよ。そちらに仁義は通そうじゃないの」 

赤城「……? 何をするつもりです」 

飛行場姫「妖精さん、回線を開いてね。相手は――」 

658: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:55:45.33 ID:ZazPqgGp0


大淀「――て、て、て、提督!!」 

提督「どうした大淀。メガネずれてるぞ」 

大淀「し、司令部施設に通信が入りました……」 

提督「通信? 霧がかかってるのにそんなバカな――誰からだ」 

大淀「それが……とにかく来てください、通信室です」 

提督「あ、ああ」 

659: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:56:24.16 ID:ZazPqgGp0

―― ザザザ…… 


飛行場姫『――あーあー、マイクテス、マイクテス』 

北方棲姫『――ホッポガ!! ホッポガヤル!!』 

港湾棲姫『――コラ! 大事なお話なの、邪魔しちゃダメ!』 


飛行場姫『ハローCQ。こちらリコリス・ヘンダーソン』 

飛行場姫『――なんちゃってー』 


提督「…………」 

提督「は?」 

660: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 01:59:18.81 ID:ZazPqgGp0

提督「ちょっと待て、ちょっと待ってくれ」 

飛行場姫『忘れちゃった? 結構いろんなところで会ってるでしょ、アイアンボトムサウンドとか』 

提督「忘れるものか。そして二度と会いたくなかった」 

飛行場姫『つれないわねぇ。まあいいけど』 


飛行場姫『改めてこんにちは、私はリコリス。ひさしぶりね、最強の機動部隊の司令官さん』 

飛行場姫『よくもまあ、いろんな所に出張って、妹たちをボコボコにしてくれたわね』 

提督「必死なのはお互いさまだ」 

661: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:03:10.72 ID:ZazPqgGp0

提督「なぜこの霧の中で通信できる?」 

飛行場姫『私の装備をなめないでいただきたいわね。単純に、この程度の帯電は問題にならない性能ってだけよ」 

飛行場姫『むしろそっちが、その程度の通信設備しか持ってないとはびっくりよ』 

飛行場姫『――艦娘も苦労してるわねぇ。うふふ』 

提督「敵に心配される筋合いはないわ!」 


提督「ふう……通信してきた理由は? いや、そもそもなんで日本海にいるんだ」 

飛行場姫『それを今から話そうと思って、貴方につないだのよ』 

飛行場姫『目の前の空母たちに話すついでに、貴方に聞いてもらえば話が早いと思ってね』 

662: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:04:34.54 ID:ZazPqgGp0

提督「赤城たちが目の前にいるのか!?」 

飛行場姫『お互いに手は出し合ってないし、こっちはそのつもりもないから安心して』 

提督「話し合ったこともない相手を信用しろと?」 

飛行場姫『最後まで聞いてから判断すればいいわよ。話はこっちの身内と、貴方の空母に聞こえてるからそのつもりでね』 


提督「……どういう状況かわからないが、とにかく聞くしかないようだな」 

飛行場姫『話が早くて助かるわ。――わかってると思うけど、この霧のおかげで傍受される心配はないわよ』 

提督「深海棲艦の姫と話したなんて、誰も信じちゃくれないよ」 

663: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:06:22.51 ID:ZazPqgGp0

飛行場姫『目的は、ここを通って南方海域まで逃げることよ』 

提督「逃げる? どういう意味だ」 


飛行場姫『――私たちは特性として、根拠地になる陸地と滑走路が必要なんだけど』 

提督「ああ、陸上型か」 

飛行場姫『去年の夏の攻撃で、私の島が使い物にならなくなってね。北方海域にある、妹の島に厄介になってたんだけど』 

飛行場姫『最近、海域を追われた子たちが私たちの島に逃げ込んでくるようになったのよ』 


飛行場姫『奪われた海域を攻めてくれって、うるさく言うようになった。それが嫌になって、別の島を探しに行こうとしてるわけ』 

664: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:07:29.91 ID:ZazPqgGp0

提督「太平洋を南下せずに、日本海を通っているのは……」 

飛行場姫『単純に、迂回すればその子たちに見つかりにくいかと思っただけよ』 


提督「深海棲艦にも、戦いを嫌う者がいたとはな」 

飛行場姫『私たちは積極的に戦いたいわけじゃないわよ? 貴方たちが攻めてくるだけで』 

飛行場姫『来るな来るなって言う子もいたでしょ。まあそれでも来るんだから、身を守るために戦うしかないわね』 

提督「…………」 


飛行場姫『要するに、いま北方海域は戦力が集中してるわ。この情報をどう使うかは貴方の自由』 

665: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:08:39.46 ID:ZazPqgGp0

提督「そんなことを私に教えて、そちらにどんなメリットがあるんだ」 

飛行場姫『ないわよ? 私たちはただ、ここを通って行きたいだけ』 


飛行場姫『――だから戦おうとしないで、通してくれるとうれしいわ』 

提督「事を構えたくないのはこちらも同じ。姫を3体も相手など、できれば避けたい」 


飛行場姫『あら、戦意がないのは伝わった?』 

提督「赤城が話を聞こうと思ったのは、そういうことなんだろう」 

飛行場姫『信頼されてるのね、うらやましい』 

666: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:12:09.57 ID:ZazPqgGp0

提督「――こっちからいくつか聞きたい」 

飛行場姫『どーぞ。私たちが困らないことは答えてあげる』 


提督「自然現象でないことは確認してるが、この霧は君たちの仕業か?」 

飛行場姫『いいえ。私たちや練度の高い子なら、海域の天気を変えたりはできるけど、今回はしていない』 


提督「この霧は、移動に都合がいいかと思ったんだが」 

飛行場姫『おバカさん。天気を変えるのは戦うときだけよ』 

飛行場姫『今はこっそり行きたいのに、電波障害起こしながら移動したら、近くに来てますって言いふらしてるようなもんじゃないの』 

提督「……む……」 

667: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:13:41.72 ID:ZazPqgGp0

飛行場姫『霧を出した子は他にいるってことね』 

提督「そうだ、多分それに関連してると思うんだが」 


提督「少し前に、艦隊と戦って空母を大破させなかったか? 舞鶴の艦隊なんだが」 

飛行場姫『いいえ。あの子たちにも聞かれたけど、大破させたのは戦艦でしょ? 私の仲間は空母しかいないわよ』 


提督「そうか。その戦艦級が、この海域にいる理由を知らないか」 

飛行場姫『さっき言った、追われて逃げてきた連中だと思うわ』 

飛行場姫『かなり遠くまで暴れたがってる、血気にはやった子もいたからね』 

668: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:15:23.14 ID:ZazPqgGp0

飛行場姫『もしかしたら、その中に霧を出せるくらいの力を持った子もいたかもしれない』 

提督「鳳翔を大破させる実力か……納得できるな」 


飛行場姫『ああ、それから。この霧はもうすぐ晴れるわよ』 

提督「そうなのか?」 

飛行場姫『ええ。霧を見れば、実力の程度は大体わかる』 

飛行場姫『1日ももたない霧なんて、私にくらべれば未熟もいいとこよ。うふふ』 

669: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:17:57.14 ID:ZazPqgGp0

提督「……なるほど。知りたいことは大体わかった」 

飛行場姫『あら、もういいの? こんなサービス滅多にしないんだけど』 

提督「まあ、貴重な経験には間違いないな。わざわざ敵の情報を、敵の姫が流してくれるとは」 


飛行場姫『私がウソをついていない保証はないわよ?』 

提督「残念ながら、私はそれを証明できない」 

提督「だから、ここを素通りしたいという、こっちに都合のいいことを信じさせてもらう」 


飛行場姫『……ふーん』 

飛行場姫『ま、話が通じないよりはマシね』 

提督「ほめ言葉として受け取っておく」 

670: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:19:37.64 ID:ZazPqgGp0

提督「――霧が出てるうちに、もう行ったらどうだ」 

提督「他の鎮守府の艦隊に見つかっても、私はかばったりはしないぞ」 

飛行場姫『言われなくても。――じゃあ、もう行くから』 

提督「ああ」 


飛行場姫『次は、もうちょっとゆっくりお話ししたいわ……なんてね』 

提督「会いたくないと言っただろ。――以上だ」 

飛行場姫『ハイハイ、じゃあねー』 

671: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:20:40.40 ID:ZazPqgGp0

ヲ級Y「ヒリュウー! 次会ったらケッコンしてねェーー! 今度タキシード贈るからァーー!!」 

飛龍「私がお婿さんかよ!! 嫌だよそんなの!!」 


ヲ級H「じゃあね、次は戦場以外で会えるといいわね」 

北方棲姫「マタネー」 

ヲ級E「失礼いたしマス」 


加賀「……また会う、ね。願っていいのかしらね」 

飛龍「いいわけないでしょ! もー、頭がクラクラしてきた……」 

672: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:21:51.04 ID:ZazPqgGp0

港湾棲姫「赤城サン」 

赤城「はい?」 

港湾棲姫「アノ、コレ。鳳翔サンに、渡していただけますカ?」 

赤城「お母さんに? どういうことです」 

港湾棲姫「お礼デス。以前ウチノほっぽが、お世話になりまシテ」 

赤城「なんですって? お世話どころか、戦ったことしかないでしょう」 

港湾棲姫「イエ、あるのデス――私も変装していまシタから、おそらく覚えていないでしょうガ」 

赤城「……?」 

673: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:22:39.25 ID:ZazPqgGp0

港湾棲姫「都合が悪ければ、私のことは隠して構いまセン。皆さんで召し上がってくだサイ」 

赤城「た、食べ物ですか? 私たちとは食べられるものが違うんじゃ」 

港湾棲姫「ただのスパイスですカラ。カレーにでも入れてくだサイ」 

赤城「なぜスパイスなのですか?」 

港湾棲姫「カレーが美味しいのはいいことデス」 

赤城「……よくわかりませんが、それは同意します」 

674: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:25:02.24 ID:ZazPqgGp0

飛行場姫「――ああ、最後にこれあげる。持ってくといいわ」 

赤城「……? なんですか、これは」 

飛行場姫「この付近まで迷い込んでる、水上打撃部隊の航路情報」 

飛行場姫「さっき、私の飛行隊が見つけたの。戦艦が3隻くらい混ざってたわよ」 

赤城「…………」 


飛行場姫「ふふっ。貴女の考えてること、わかるわよ。なぜ仲間の情報を渡すのかって?」 

飛行場姫「でもね、今の私の仲間は、こうして付いてきてくれるこの子たちだけ。裏切り者と言われても構わない」 

飛行場姫「それだけの覚悟が、私にはある。そう思ってもらいたいわね」 

675: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:27:08.45 ID:ZazPqgGp0

赤城「……そうですか。それについては、何も言いません」 

飛行場姫「あら?」 

赤城「貴女の目。仲間を想う気持ちに、嘘は見えませんから」 

飛行場姫「そう……ウフフフ」 

飛行場姫「もう少し、貴女みたいな子が増えてくれればねぇ」 



飛行場姫「――では、ごきげんよう。忌々しき栄光の機動部隊の皆さん」 

飛行場姫「次は、静かな海で会いましょう」 

676: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:38:34.94 ID:ZazPqgGp0


赤城「…………」 

加賀「行きましたか。狐につままれたような出来事でした」 

飛龍「いっそ、本当に幻ならよかったのに。このままおとなしく忘れてくれないかな……」 


赤城「――私たちも行きましょうか。この座標に向かってみましょう」 

加賀「それが、お母さんをやった艦隊でしょうか」 

飛龍「霧も薄くなってきたし、航空隊も出せるね」 

赤城「ここから、もう見えるはずですが……あら、エンジンの音が」 

677: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:39:18.59 ID:ZazPqgGp0

蒼龍「――改二改装の初陣だ、やっちゃいなさい2人とも!!」 

翔鶴「了解! 五航戦の実力、その身に刻んであげます!」 

瑞鶴「改装された本格正規空母の力、存分に魅せるわ! 翔鶴姉、やろう!」 


―― ギャアアアア!! 


瑞鶴「装甲空母になって、最初の獲物がflagshipル級とは気が利いてるじゃないの!」 

翔鶴「瑞鶴、はしゃぎすぎないでね……ちゃんと止めてくださいね、蒼龍先輩!」 

蒼龍「翔鶴もいつもよりテンション高いよ――しっかし、いい大物食いだね。うらやましい」 

678: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:39:50.30 ID:ZazPqgGp0

赤城「翔鶴、瑞鶴……改装が終わりましたか」 

飛龍「もう壊滅させちゃってる。なかなかやるじゃないの、うんうん!」 


瑞鶴「――あ、おーい加賀さーん!!」 

蒼龍「これで全員そろったね。よかったよかった」 

翔鶴「無事に戻りました、先輩方」 

瑞鶴「見て見て、これが全装甲甲板だよ。見るからに強固そうでしょ!?」 

加賀「ええ、本当に。私の甲板よりも数倍は堅そうね」 

679: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:40:36.97 ID:ZazPqgGp0

翔鶴「ある程度の爆撃なら、弾き返しちゃうそうですよ! これで潜水艦に気をつければ、まさに理想の――」 

加賀「それは頼もしいわね。でも、カタログスペックを過信してはいけないわね」 


加賀「――私の航空隊の急降下爆撃、何発耐えられるか試してあげてもよくてよ」 

「「ひぃぃ」」 

加賀「ふふっ」 

蒼龍「あーあ。素直におめでとうでいいのに、もう」 

680: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:41:30.81 ID:ZazPqgGp0

長門「――いたぞ、あそこだ!!」 

飛龍「あれ、長門さんたち?」 

蒼龍「提督が出した後詰の艦隊だよ。迎えにきてくれたの」 


陸奥「もうっ、護衛つけずに出るなんて! 心配かけないでよ!」 

扶桑「帰ったら提督に叱っていただきますからね!」 

加賀「……一応、連絡機は飛ばしていましたが」 

飛龍「まあ仕方ない。掃除当番くらいは覚悟しとこっと……」 

681: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:42:09.81 ID:ZazPqgGp0

赤城「…………」 

赤城「今回も皆、無事だった」 


赤城「……装備は充実、後輩もよく育ってくれた」 

赤城「何より、6人揃っている。あの戦争のときとは、違う」 

赤城「けれど、今まで宿敵だった者たちとの、深海棲艦との意思疎通……」 


赤城「私たちを取り巻く状況が、敵が、世界が」 

赤城「色々なことが、変わる時期になってきたのか」 

682: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:43:01.63 ID:ZazPqgGp0


赤城「……1人で考え込んではいけませんね。お母さんに教えられたことでした」 


赤城「私には頼れるひとたちがいる」 

赤城「共有することで、悩みは半減する。喜びは倍増していく」 

赤城「――それが戦友であり、家族なのだから」 



赤城「さあ皆さん、提督とお母さん、グラーフさんが待っていますよ」 

赤城「――早く帰って、歓迎会の準備をしましょう!」 

683: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:43:59.42 ID:ZazPqgGp0


◇ 


鳳翔「う、ん……ん?」 

提督「お? 目が覚めたか、鳳翔」 

鳳翔「あの、どうしてまだドックに? 修復材は……」 

提督「私が止めたんだよ。君を出撃させないために」 


鳳翔「むう……そういった特別扱いは……」 

提督「いいからゆっくり寝なさい。歓迎会は明日やるから」 

鳳翔「そ、そうですよ。お料理の準備は?」 

提督「みんなでやってるから心配ないよ」 


提督「――なぜかグラーフも、自分の歓迎会の準備を手伝ってるけど」 

鳳翔「あらあら。うふふ」 

684: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:45:05.09 ID:ZazPqgGp0

提督「ところで、渡したいものっていうのは?」 

鳳翔「ああ、そうですね。本当は手渡ししたかったのですが……」 


鳳翔「冷蔵庫に、チョコレートを冷やしています。バレンタインのプレゼントです」 

提督「冷やして……手作りか! ありがとうな」 

鳳翔「きな粉と和三盆で、和風に。あとで感想を聞かせてください」 

提督「あとで? いーや我慢できない」 

鳳翔「えっ?」 


提督「ここに持ってきて、すぐ食べる。ちょっと待っててくれ!」 

鳳翔「あ……」 


鳳翔「――ふふっ、可愛いひと」 

685: ◆GoPzFNH1CI 2016/02/25(木) 02:47:42.30 ID:ZazPqgGp0


鳳翔「……大破、してしまいましたか」 

鳳翔「こんなに長く入渠していたのは、どれくらいぶりでしょうか……」 


鳳翔「娘たちが頼もしくなると、つい忘れがちですが」 

鳳翔「艦娘として、軍人として、命の危険と隣り合わせ。これはいつまでも変わらないのですよね」 


鳳翔「…………」 


鳳翔「少し……そう、少しくらい」 

鳳翔「わがままを聞いてもらっても、いいですよね」 

鳳翔「お願いします――あなた」 



第4話 終 


696: ◆GoPzFNH1CI 2016/03/31(木) 17:08:33.13 ID:JK9PiUL20


幕間10 ~異文化交流~ 


Graf「長門、借りていた映画を返す。Danke schön」 

長門「Bitte schön. どうだった?」 

Graf「良かったよ。Japanの文化は実に興味深いな」 

長門「映画なら理解しやすいだろうな。日本語は大丈夫だったか?」 

Graf「実は、蒼龍と飛龍に解説してもらいながら見たんだ」 

Graf「『勝ったのは我々ではなく、農民たちだ』の意味とか」 

長門「うむ、名場面だな」 

Graf「それから、我々にも共通する戦の作法など」 

長門「作法?」 

Graf「――日本の艦娘は、戦場では語尾に『ござ候』と付けなければならないのだろう?」 

長門「全力で訂正しておくぞ……全く、からかいおって」 

697: ◆GoPzFNH1CI 2016/03/31(木) 17:11:37.64 ID:JK9PiUL20

Graf「甘えついでに、お願いがあるんだ」 

Graf「――私に、日本食の特訓をしてくれないか?」 

長門「特訓とは?」 

Graf「決まりごとや箸の使い方などだ。横須賀ではパンが多くてね」 

長門「なるほど、外国とは違うだろうな。私でよければ」 

Graf「よろしく頼むよ」 


長門「だが、どうして急に特訓を? 焦ることはないと思うが」 

Graf「……これを見てくれ。鳳翔が買ってくれた私の箸だ」 

長門「……子供用の矯正箸か」 

Graf「早く卒業したいんだよ!」 

長門「よ、よくわかった」 

698: ◆GoPzFNH1CI 2016/03/31(木) 17:19:56.14 ID:JK9PiUL20

長門「まずは朝ご飯からいこう。定番といえば白飯に味噌汁、焼き魚――」 

長門「それと納豆」 

Graf「さらばだ」 

長門「待て待て、なぜ逃げる」 

Graf「放せ長門! 私に日本食は無理とわかった!!」 

長門「納豆の何がダメなんだ?」 

Graf「全てだ!!」 

長門「それは困ったな。日本食は発酵の文化だぞ」 

Graf「いきなりハードルが高すぎるだろう」 

長門「発酵はお前の国にもあるんだぞ、キャベツのなんとか……」 

Graf「ザワークラウトは糸を引いたりなどせぬ!!」 

699: ◆GoPzFNH1CI 2016/03/31(木) 17:21:14.42 ID:JK9PiUL20

Graf「今まではご飯といっしょに、なんとか食べていたのだが」 

長門「納豆が食べられないという者は少なくない。無理をする必要はないぞ」 

Graf「残さず食べるのが日本の美と聞いた」 

長門「確かにそうかもしれないがな」 


Graf「このままでは、空母寮でみんなと楽しく食事ができぬ」 

長門「正直に食べられないと言ったらどうかな?」 

Graf「鳳翔が笑顔で勧めてくるのだ、断れるわけなかろう!!」 

長門「……うむ。気持ちはわかる」 

700: ◆GoPzFNH1CI 2016/03/31(木) 17:24:17.50 ID:JK9PiUL20

Graf「どこかに、ネバネバと糸を引かず、独特のにおいがせず、なんとも言えない味がしない納豆はないか」 

長門「それはすでに納豆ではない何かだ」 

Graf「理解しがたい。あんな手間をかけてまで豆を腐らせるとは」 

長門「元は大豆を解毒するために加熱して、わらに巻いておいたら偶然できたとも言われているな」 

Graf「まったく神秘の国だ。なんだかわからないものを食べるのだからな!」 

長門「多かれ少なかれ、どこの国にもあると思うぞ」 


Graf「このままではこの国で暮らしてゆけぬ。なんとかしてくれ」 

長門「そこまで重く考えるなよ……」 

702: ◆GoPzFNH1CI 2016/03/31(木) 17:29:01.82 ID:JK9PiUL20

長門「いや、待て。目的は納豆を食べることじゃなく、作法を身につけることだろう」 

Graf「む……そうだったな」 

長門「納豆についてはいろいろ食べ方があるから、赤城にでも聞いてみてくれ。しらすとか生卵とか……」 

Graf「ナマタマゴ!? Japanは卵を生で食べるのか!?」 

長門「……異文化交流は難しいな」 


長門「ほら落ち着け。箸の持ち方からいくぞ、まず1本目を鉛筆のようにだな」 

Graf「エンピーツとはなんぞや」 

長門「……なら、あれだ。クーゲルシュライバーのように――」 

703: ◆GoPzFNH1CI 2016/03/31(木) 17:31:23.19 ID:JK9PiUL20



Graf「な、な、長門、ナガト!!」 

長門「どうした、そんなに慌てて」 

Graf「大変だ、鳳翔がおかしくなった!!」 

長門「なんだと?」 

Graf「昨日、日本の魚料理をリクエストしたら――」 


鳳翔『はい! 今日とれたてのお魚で作った、お刺身盛り合わせですよー』 

Graf『』 


Graf「――生のサカナの切り身を料理と言って出してきたのだ!!」 

長門「……刺身は日本の文化なのだなあ」 


712: ◆GoPzFNH1CI 2016/04/23(土) 03:18:45.60 ID:LmxDFPS10


幕間11 ~Let's Sing Together~ 


瑞鶴「今日はみんなでカラオケよ。提督さん、忘れてないわよね」 

提督「大丈夫大丈夫。ちゃんと予約してある」 


翔鶴「――あら。提督、お電話ですよ」 

提督「おう、ありがとう……はい、もしもし」 

提督「――おー、佐世保か。久しぶりだな」 

提督「珍しいじゃないか、そっちからかけてくるなんて」 


瑞鶴「佐世保の提督さん? なかなか会わないわよね」 

翔鶴「提督と呉さんの同期の方ね、お忙しくて会う機会もないみたいだけど……」 

713: ◆GoPzFNH1CI 2016/04/23(土) 03:19:52.17 ID:LmxDFPS10

提督「どうしたんだ、何か事件でもあったか」 

提督「――なにぃ、一式陸攻ができた!?」 

提督「待て、もう少し詳しく……そっちの工廠で!?」 

提督「偶然なのか? レシピを知りたい、いや――」 

提督「み、見たい!! わかったすぐ行く!!」 


翔鶴「えっ」 

瑞鶴「えっ」 

714: ◆GoPzFNH1CI 2016/04/23(土) 03:22:21.35 ID:LmxDFPS10

提督「すまん、ちょっと長崎まで行ってくる」 

翔鶴「と、突然どうしたんですか!?」 

提督「航空戦力の新兵器ときたら、見ないわけにはいかん!」 

瑞鶴「今から!? 向こう着いたら真夜中だよ!!」 

提督「艦隊の強化のためだ。少しでも君たちが楽になるなら、こんなもの苦でもない」 

翔鶴「提督ー!!」 

瑞鶴「こんな時にかっこいいこと言ってる場合!?」 

提督「鳳翔によろしく言っといてくれ。頼んだぞ!!」 

―― バタァン!! 


瑞鶴「――そもそも陸上機じゃない!! 空母じゃ飛ばせないわよ!!」 

翔鶴「いや、私たちのカタパルトならあるいは……ムリかしら」 

715: ◆GoPzFNH1CI 2016/04/23(土) 03:24:21.64 ID:LmxDFPS10

蒼龍「はーい、お待たせー。……あれ、提督は?」 

瑞鶴「長崎旅行よ」 

飛龍「どういうこっちゃ」 

翔鶴「新しい航空機が開発されたそうで。お母さんによろしくと言付かってます」 

鳳翔「おひとりで、ですか? 残念ですね……」 

赤城「ぶー。せっかくみんなで行こうと楽しみでしたのに」 

716: ◆GoPzFNH1CI 2016/04/23(土) 03:25:33.29 ID:LmxDFPS10

加賀「ならお土産を頼みましょう。レモンステーキに佐世保バーガー、ちゃんぽん、角煮まんじゅう」 

瑞鶴「できたてがおいしいのばっかりじゃん」 

赤城「なら、海軍ビーフシチューに佐世保豆乳、クールソフトも」 

翔鶴「そんなのよくご存じですね……」 

赤城「あっ、もちろんお母さんのシチューが一番好きですよ!」 

鳳翔「あら、ありがとう。うふふ」 

717: ◆GoPzFNH1CI 2016/04/23(土) 03:26:18.47 ID:LmxDFPS10

翔鶴「じゃあ、さっそく出発しましょう」 

瑞鶴「翔鶴姉、提督さんにくっついて行けばデートだったんじゃ……」 

翔鶴「…………」 

翔鶴「あー!! 提督のセリフに感激して棒立ちしてたわ!!」 

瑞鶴「まあ、さすがに2人で泊りがけは止めるけどね」 

翔鶴「どっちの味方なの瑞鶴……」 


蒼龍「そういえばグラーフさんは?」 

赤城「長門さんといっしょに映画館だそうです。共通の趣味が見つかったようで」 

加賀「歓迎会以来、あまり話せていませんね。今度は正規空母の会で映画上映でもやりましょうか」 

718: ◆GoPzFNH1CI 2016/04/23(土) 03:30:06.62 ID:LmxDFPS10

飛龍「さー、着いた着いたっと」 

赤城「さっそく注文しましょう、3時間しかありませんからね」 

加賀「これはドリンクバーね。食べ放題メニューはどれかしら」 

翔鶴「いや、カラオケで食べ放題はさすがにないかと……」 


鳳翔「……ここが、からおけぼっくすですね」 

瑞鶴「お母さん、最近はあんまり来たことないわよね」 

蒼龍「あ、そっか。ちょっとわかりづらいよね」 

鳳翔「ふふふ、それはどうでしょうか」 

719: ◆GoPzFNH1CI 2016/04/23(土) 03:30:45.75 ID:LmxDFPS10

鳳翔「1曲につき100円入れたりとか、あの分厚い本を探したりとか、そういう反応を期待してたなら残念でしたね」 

瑞鶴「おおっ、ということは?」 

鳳翔「ちゃんと予習してきました。使うのは、このパネルの機械!」 

蒼龍「お母さんすごいっ! じゃあ、さっそく曲を探そう」 

鳳翔「まかせておきなさい――ええと」ピッピッ 

鳳翔「…………」ピッピッピッピッ 


鳳翔「動かないわ、故障ですね」 

瑞鶴「いや……あのテレビの下の機械に向けて、スタートを押すのよ」 

720: ◆GoPzFNH1CI 2016/04/23(土) 03:31:11.62 ID:LmxDFPS10

飛龍「1曲目誰から行くー?」 

翔鶴「せっかくですから、お母さんからどうですか?」 

鳳翔「ええっ、私? でも」 

蒼龍「いいじゃない、ひさしぶりに聞きたいなぁ」 

鳳翔「そ、そうですか? それじゃ……」 


鳳翔「―― こんなこといいな できたらいいな あんなゆめこんなゆめ ――」 


「「「かーわーいーいー!!」」」 

721: ◆GoPzFNH1CI 2016/04/23(土) 03:32:44.97 ID:LmxDFPS10


翔鶴「―― あの日僕の心は 音もなく崩れ去った ――」 

瑞鶴「―― 壊れて叫んでも 消し去れない記憶と ――」 

加賀「機械では一度に注文できないのね……赤城さん、電話を」 

赤城「もしもーし。ええと、ピザ20枚にたこ焼き30人前、スパゲッティを10皿と――」 

飛龍「ええいこのテンプレの権化どもめ!!」 

蒼龍「食う前に歌え!! ほら没収!!」 

「「ああー」」 

蒼龍「まったくもう。いくら提督の支払いだからって、見境なしはダメだよ」 

飛龍「あ、それは前回と変わらないのね……」 



提督「――はっ、くしゅ!」 

提督「な、なんだ? 急にふところが寒くなってきた……」 

722: ◆GoPzFNH1CI 2016/04/23(土) 03:33:42.89 ID:LmxDFPS10

翔鶴「――やったー!! 97点よ!!」 

瑞鶴「ふふーん。これで五航戦にオファー殺到、間違いなしね!」 

赤城「…………」 

加賀「…………」 


赤城「―― お揃いね私達 これでお揃いね あぁ幸せ ――」(翔鶴ガン見) 

加賀「―― 貴方の白い衣装も 今は鮮やかな深紅 ――」(瑞鶴ガン見) 


翔鶴「」ガタガタ 

瑞鶴「」ガタガタ 

鳳翔「こら、点数ぐらいで威圧なんてしちゃダメよ」 

蒼龍「ここだけ見ると、ただの大人げない先輩だよね……」 

飛龍「しかも、満点取っちゃうあたりが特にね。さすが一航戦は格が違った」 

723: ◆GoPzFNH1CI 2016/04/23(土) 03:34:36.59 ID:LmxDFPS10

鳳翔「――実は私、最近のらぶそんぐを覚えてきたんです」 

飛龍「おおっ! 提督うらやましがるだろうなー、聞かせて聞かせて」 

鳳翔「そ、それじゃあ。ちょっと恥ずかしいですけど……」 


鳳翔「―― 恋しくて愛しくて止まらない せめてこの心は 君のもとへ ――」 


飛龍「…………」 

飛龍(失恋ソングだこれー!?) 


鳳翔「どうかしら。あの人喜んでくれるかしら?」 

飛龍「い、いや、うん。とりあえず可愛いのは間違いない、かな……」 

732: ◆GoPzFNH1CI 2016/06/06(月) 01:38:52.89 ID:ihB5mKIT0


幕間12 


よく、同じ夢を見ていた。 

あの人のおかげで、遠くなっていた記憶。 


皆で笑って、泣いて、競い合って、精進を重ねてきたあの子たちが。 

生まれたときから、私が成長を見守ってきたあの子たちが。 


失われてゆく。 

目の前で苦しむ愛しい子たちに、しかし私は何もできない。 

733: 【厳重注意:LOSTセリフを一部使っています】  ◆GoPzFNH1CI 2016/06/06(月) 01:41:49.76 ID:ihB5mKIT0

冷たい水。 

―― 無事ならいいの……先に逝って……待って―― 


燃え盛る炎。 

―― 飛行甲板の火――ないね……ごめん―― 


動かぬ躰。 

―― ごめんなさい――処分……して―― 


最後の、写真。 

―― 沈むの――月を肴に一杯―― 



「――――あぁああああっ!!」 

734: ◆GoPzFNH1CI 2016/06/06(月) 01:42:51.77 ID:ihB5mKIT0

鳳翔「!!」 

鳳翔「――はっ、はっ……」 

鳳翔「ふぅ……また、同じ夢」 

鳳翔(この夢は久しぶりね。最近は見なくなっていたのに) 

鳳翔(最後に見たのは……ちょうど1年前、あたりだったかしら) 

鳳翔(そうだった。夢を見て、あの人が助けてくれたのよね) 

735: ◆GoPzFNH1CI 2016/06/06(月) 01:43:27.28 ID:ihB5mKIT0

鳳翔(――そうだ。あの人を起こしちゃったかも) 

鳳翔「ご、ごめんなさい。大きい声をだして……あら」 

鳳翔「……あなた?」 

鳳翔「あなたっ!! どこですか!?」 

提督「――鳳翔」 

鳳翔「!!」 

提督「ごめんよ、1人にして……大丈夫だ、ちゃんといるよ」 

鳳翔「あなた……」 

736: ◆GoPzFNH1CI 2016/06/06(月) 01:43:59.36 ID:ihB5mKIT0

鳳翔「ど、こへ行かれていたのですか?」 

提督「汗をかいてたようだから、手ぬぐいと水差しを持ってきた。ほら」 

鳳翔「あ、ありがとうございます……んっ」 

鳳翔「――ふぅ。安心しました、目が覚めたら隣にいないから」 

提督「ごめんごめん」 


提督(安心したのはこっちだよ。また目が覚めなくなるんじゃないかと……) 

737: ◆GoPzFNH1CI 2016/06/06(月) 01:45:24.08 ID:ihB5mKIT0

鳳翔「それにしても、水差しまで持ってきてくださったんですね。用意がいいというか」 

提督「……少し、心配だったから」 

提督「夏が近づくこの時期は、不安定になる子もいるし」 

提督「特に今日は70年前の、あの作戦の日だからね。注意するのは当たり前だろ」 

鳳翔「ご、ごめんなさい。ご迷惑を」 

提督「そんなもの気にするな。支えていくと決めたんだから」 

鳳翔「ありがとう、ございます」 

738: ◆GoPzFNH1CI 2016/06/06(月) 01:46:05.23 ID:ihB5mKIT0

提督「……よければどんな夢か、話してもらえるかな」 

提督「吐き出して、楽になることもあるだろうし」 

提督「私も、できる限りのことをしてあげたいし……もちろん、辛ければ話さなくていいんだけど」 

鳳翔「いえ、大丈夫ですよ。こちらからお願いしたいです」 

提督「無理、してないか?」 

鳳翔「いいえ。私も、あなたに聞いておいてほしい」 


鳳翔「――ただ、手を握っていてもらえますか?」 

提督「もちろん」 

739: ◆GoPzFNH1CI 2016/06/06(月) 01:48:06.61 ID:ihB5mKIT0

鳳翔「お察しのとおり、MI作戦の夢を見ていたんです」 

鳳翔「あの戦争での記憶と、この躰を与えられてからの記憶が混ざった、不可思議な夢なのですが」 


鳳翔「それでも、結果はいつも同じ」 

鳳翔「私は、先を進むあの子たちを必死で追いかけて――そして、追いつけない」 

鳳翔「次々と、躰が燃えていく。傾いでいく……沈んでいく」 


鳳翔「あの子たちに、私は必死で手を伸ばすのですが」 

鳳翔「でも、届かない。すぐそこにいるのに、助けられない」 


鳳翔「――そして、私だけがひとり残される」 

740: ◆GoPzFNH1CI 2016/06/06(月) 01:49:00.00 ID:ihB5mKIT0

鳳翔「私は、海の底を知りませんからね」 

鳳翔「夢の中の、想像の恐怖というものが……あの子たちに比べて大きいのかもしれません」 


鳳翔「――勝手ですよね、私。まだ、決戦は終わっていないのに」 

鳳翔「残った子たちや、護るべき人たち……もしかしたら、軍艦としての使命も」 

鳳翔「それよりも自分の気持ちを優先して、あの子たちのところへ行こうとしていたんです」 

鳳翔「他のことを、全部投げ捨てて……」 

741: ◆GoPzFNH1CI 2016/06/06(月) 01:49:57.81 ID:ihB5mKIT0

提督「――勝手なものか」 

鳳翔「え?」 

提督「親が、自分の子を愛しいと思って何が悪い」 

提督「少なくとも、今ここにいる君が、その気持ちを否定することなんてないよ」 

鳳翔「あなた……」 

提督「誰が何と言おうと、私はそう思うから。もっと頼ってくれていいんだからね」 


鳳翔「……ふふ」 

鳳翔「ありがとうございます。楽になりました」 

提督「ならよかった――さあ、もう布団に戻ろう」 

鳳翔「はい」 

742: ◆GoPzFNH1CI 2016/06/06(月) 01:51:11.93 ID:ihB5mKIT0

鳳翔(――ああ、やっぱり。あなたは本当に優しい) 

鳳翔(ずっと苦しんできた記憶から解放してくれるのは、きっとあなたなのでしょうね) 


鳳翔(――でも、だからこそ。すこし、わがままを聞いてほしいんです) 

鳳翔(わたしと、あの子たちを、守ってくれるという約束) 

鳳翔(……それをずっと続けたいという、私のわがまま……) 


鳳翔(やはり、例の計画を急がなくては) 

鳳翔(――喜んでくれると、いいのですが) 

750: ◆GoPzFNH1CI 2016/08/01(月) 01:42:22.83 ID:doOtmwzp0


第5話 ~落花流水~ 


赤城「呉の提督さんがお越しに?」 

提督「うん。またE海域の時期だし、お互いの確認にね。ここに1泊する」 

瑞鶴「1泊? 短い出張ね」 

提督「あいつの報告は、簡潔なうえに的確でな……時間がかからないんだ」 

赤城「提督と同い年の方でしたよね。学校の同期で」 

提督「うん、そう。結局、最後まで成績は勝てなかったよ」 

瑞鶴「へー。すごいのね、呉さんって」 

提督「……航空論で負けたことはないけどな」 

赤城(ちょっとムキになっちゃう提督もかわいい) 

751: ◆GoPzFNH1CI 2016/08/01(月) 01:46:11.83 ID:doOtmwzp0

瑞鶴「――ところで赤城さん、今日はみんなでご飯行くんでしょ」 

赤城「グラーフさんも入ったことですし、久しぶりに正規空母の会を……と、思ったんですが」 

提督「ああ、全然かまわないよ。向こうも秘書艦だけだし」 

赤城「よろしいんですか? 空母がいなくなっちゃいますが」 

提督「鳳翔がいるし、話す内容は決まってるから。みんなには改めて周知するよ」 

瑞鶴「お母さんに任せちゃって大丈夫か。早めに帰ればいいわね」 

提督「いいんだ、ゆっくり楽しんでおいで。費用は持ってあげるから」 

752: ◆GoPzFNH1CI 2016/08/01(月) 01:48:42.22 ID:doOtmwzp0

赤城「ほ、本当ですか!?」 

提督「グラーフもここに来てくれることになったんだし、お祝いも兼ねて」 

赤城「いや、うーん……しかし……」 

瑞鶴「あのー、大丈夫なの提督さん? 給料日前でしょ」 

提督「大丈夫だよ、さすがに居酒屋の会計ぐらい」 

赤城「あのお店、お酒の料金は別なんです」 

提督「飲み放題じゃないのか?」 

瑞鶴「それだと質が悪くなるからって、加賀さんと蒼龍さんがわざわざお店を探してくれたのよ」 

赤城「お料理はコースですが、お酒は別料金なぶん全国の銘酒が飲めるんだそうです」 

753: ◆GoPzFNH1CI 2016/08/01(月) 01:49:30.10 ID:doOtmwzp0

提督「へぇ。この時世で、しっかりした経営してる店だな」 

瑞鶴「まー、無理しないでよ提督さん。これまでもパーティとか景品とか、私たちのカラオケとかで出費してたでしょ」 

赤城「あう。さすがにカラオケで頼んだ料理は、今度払いますから……」 

提督「――いや」 

提督「やっぱり私が持つよ。お金気にしたら、気持ちよく飲めないだろうしな」 

瑞鶴「え、本気なの? 正規空母はウワバミぞろいだよ」 

提督「いいんだ。上げて落とすのも嫌だから」 

754: ◆GoPzFNH1CI 2016/08/01(月) 01:50:19.94 ID:doOtmwzp0

赤城「そんなの気にしませんのに」 

提督「他の子が遠慮するかもしれないから、私が持つことは内緒な。――はい、これ」 

赤城「お財布、お預かりします」 

提督「足りなかったら私の身分証を使ってね」 

瑞鶴「そこまでするとは、覚悟してるわね」 

提督「いざとなれば店を買い取ればよし」 

瑞鶴「いやどこまで覚悟しちゃうのよ」 

759: ◆GoPzFNH1CI 2016/08/09(火) 00:53:41.20 ID:GzlUWDB1O

赤城「――と、いうわけで。本日一八〇〇から始めますので、遅れないよう集合してくださいね」 

瑞鶴「代金はとりあえず赤城さんに払ってもらって、後日集めることになったわ」 

翔鶴「赤城先輩が全員ぶんを? 7人で割るのが早いんじゃないでしょうか」 

加賀「割り勘になったら、おそらく貴女が一番損をするわよ」 

瑞鶴「翔鶴姉、そんなにお酒強くないもんね」 

翔鶴「う……では、お言葉に甘えます」 

加賀「赤城さん、給料日前では?」 

赤城「大丈夫! 鎮守府のお姉さんとして、それくらいのたくわえはあります」エヘンプイ! 

赤城(払ってくれるのは提督ですけど!) 

760: ◆GoPzFNH1CI 2016/08/09(火) 00:54:31.72 ID:GzlUWDB1O

蒼龍「グラーフが参加するのは初めてだよね」 

Graf「ああ。この鎮守府の、空母の強さの秘密を学ばせてもらおう」 

Graf「クウボノカイ、楽しみだな!」 

蒼龍(……ほとんど、ただの飲み会だってことは黙っててあげよ) 


飛龍「あー、私ちょっと遅れていっていいかな? 工廠に、艤装の整備お願いしててさ」 

赤城「そうですか、場所はわかりますよね?」 

飛龍「大丈夫大丈夫。なるはやで行くから、ごめんねー」 

761: ◆GoPzFNH1CI 2016/08/09(火) 00:55:16.34 ID:GzlUWDB1O


◇ 


呉「――おう。来てやったぞ」 

榛名「て、提督! あいさつでそんな態度は」 

提督「……相変わらずだな、お前は」 

鳳翔「ようこそいらっしゃいました。呉さん、榛名さん」 

呉「出張とはいえ、ひさびさの京都旅行なんだ。しっかりホストしろや」 

提督「なら少しはゲストらしい態度をとれよ!」 

鳳翔「宿舎へご案内いたします。こちらへどうぞ」 

榛名「お世話になります、鳳翔さん」 


鳳翔「――あの、呉さん。例のものは」 

呉「ああ、持ってきてるよ。夕方でいいだろ」 

鳳翔「はい!」 

762: ◆GoPzFNH1CI 2016/08/09(火) 00:58:53.74 ID:GzlUWDB1O

提督「長旅だったろう。会議は明日にするか?」 

呉「いや、むしろ今日やっつけたい。そんなにかからないからな」 

提督「お前が良いならいいんだが」 

呉「そもそも、わざわざ出張するほどの内容でもねえんだよ。作戦書を送れば済む」 

提督「それでも口頭で聞きたいよ。お前の報告文は簡潔すぎるからな……」 

呉「うちの艦隊はそれで結果を出してくれる。細を穿っても柔軟性がなくなるだけだ」 

提督「大雑把すぎも問題だろう、次のE海域は――」 

呉「わかったわかった。だからちゃんと来てやっただろうが」 

提督「本当にわかってるのか」 

呉「さっさと終わらせるぞ。明日は榛名と観光だからな」 

提督「本当にわかってるのか!?」 

763: ◆GoPzFNH1CI 2016/08/09(火) 01:01:06.45 ID:GzlUWDB1O

鳳翔「こちらです。お部屋はおひとつということで――」 

榛名「ええっ!? ひとつなんですか!?」 

鳳翔「あ、あら? 呉さんのご連絡では、お部屋はいっしょだと」 

呉「普通だろうよ、夫婦なんだから。お前もいい加減慣れろよ」 

榛名「で、でも、ここは鎮守府なんですよ? 他の艦娘に見られたら……」 

呉「別にやましいことなんかねえだろ」 

榛名「えっ」 

榛名(それはそれで、ちょっと……) 

鳳翔(榛名さんの気持ちわかりますねぇ) 

764: ◆GoPzFNH1CI 2016/08/09(火) 01:08:43.54 ID:GzlUWDB1O

呉「――以上から、次のE海域攻略は中規模の作戦が予想される」 

呉「また横須賀に集結して、連合艦隊を組む場合も想定すべきだろうな」 

提督「了解。いつも通りわかりやすい説明だった」 

呉「それから、お前の報告にあった電波障害だが。やはりここ以外の海域では確認されてないな」 

提督「そうか。まあ予想通りだな」 

呉「深海棲艦の姫と話したってのはマジなのか?」 

提督「ああ。信じてくれなくてもいいんだが」 

765: ◆GoPzFNH1CI 2016/08/09(火) 01:10:33.20 ID:GzlUWDB1O

呉「直接、鎮守府に交信してくるとは。どんなやつか会ってみたい気もするな」 

提督「積極的に戦いたい連中ばかりじゃない、と言ってたけど……鵜呑みにするわけにもいかないし」 

呉「今さらな話だが、敵さんもやっかいな成長をするもんだな。天候も変えられるのか」 

提督「うん。その姫の話じゃ、かなりの実力がないと無理とか言ってたが」 


呉「いずれにせよ、同じような場面に出くわしてパニクるのは避けたい」 

呉「対策になるかわからんが、霧島が22号電探を改良したものを持ってきた」 

呉「明石に渡しておいたから、前回の電波障害のデータと合わせて確認してくれ」 

提督「わざわざすまないな。よろしく言っておいてくれ」 

766: ◆GoPzFNH1CI 2016/08/09(火) 01:11:40.95 ID:GzlUWDB1O

呉「まあ、こっちからはこんな所か」 

提督「ありがとう。私たちからは――鳳翔」 

鳳翔「はい。陸上攻撃機、および局地戦闘機の当鎮守府運用データです」 

呉「おー、助かるわ。今回も使うことになるだろうからな」 

榛名「ありがとうございます! これでもっと効率的に配備できますね」 

提督「横須賀と佐世保にも送っておいたから、作戦前にもう一度確認しておこう」 

呉「相変わらず、開発はできないのが難点だな。もう少し余裕持たせたいところだが」 

767: ◆GoPzFNH1CI 2016/08/09(火) 01:12:40.96 ID:GzlUWDB1O

呉「――さて、っと。もう話しておくことはないな?」 

提督「ないけど……相変わらず早いな、1時間ちょっとで終わるとは」 

呉「会議が無駄に長引くのは無能の証だ」 

提督「そういや、学校時代からそんなこと言ってたな」 


榛名「鳳翔さん、よろしければお茶をお淹れしますので、場所を教えて――」 

鳳翔「ああ、そんな! お客さまにやらせるわけには――」 

―― ハルナガ ヤリマスカラ! イエ、ワタシガ…… 


呉「余裕がないと、こうして和むこともできねぇしな」 

提督「まったくだ」 

呉「かわいいだろ?(榛名が)」 

提督「ああ、かわいいな(鳳翔が)」 

768: ◆GoPzFNH1CI 2016/08/09(火) 01:13:41.33 ID:GzlUWDB1O

呉「――おーい、榛名。いったん部屋に戻るぞ」 

榛名「あ、はい……でも、お茶は?」 

呉「部屋にティーセットがあっただろ。そっちで淹れてくれ」 

榛名「は、はい! お任せください!」 

提督「よし。それじゃ解散にするか」 

鳳翔「何か必要なものがあれば、すぐおっしゃってくださいね」 

榛名「はい! おつかれさまでした!」 

769: ◆GoPzFNH1CI 2016/08/09(火) 01:14:35.92 ID:GzlUWDB1O


◇ 


提督「なあ、鳳翔。来客もあることだし、今日の夕飯は外で――」 

鳳翔「あ、ごめんなさい。今日は別の方とお約束があるのです」 

提督「――え?」 

鳳翔「それじゃ、失礼しますね。うふふ」 


榛名「あ、あの、提督。舞鶴さんから聞いたんですけど、この近くに美味しいレストランが――」 

呉「あー、すまん。今日は先約があるんだ、明日にしてくれるか」 

榛名「――え?」 

呉「おっと、もう時間だ。また夜にな」 



提督「どういうことだ!?」 

榛名「どういうことなの!?」 

781: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/14(金) 13:03:07.82 ID:c5vgNDYAO


◇ 


鳳翔とケッコンカッコカリして、およそ1年半。 

お互いに話し合って、カッコカリを外すのは戦後と決めているのだが。 


最近は艦隊のみんなの練度も上がって、装備も整って。 

ある程度は出撃も落ち着いてきたと感じている。 

ここらでひとつ、新たな関係を始めてみるのもいいんじゃないか―― 


提督「――と、思うんだけど。どうだろう」 

「…………」 

「……うん。あのさ、決意は伝わってくるけどさ」 



飛龍「ゼッタイ相手間違ってるよね」 

提督「そんなことはないぞ」 

783: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 12:40:52.84 ID:lErojPIVO

飛龍「いきなり連れ出されて、何言われるかと思ったら……」 

提督「すまないね、飲み会の前なのに」 

飛龍「それで、新たな関係って? 具体的に考えてるの?」 

提督「家を買う」 

飛龍「」 

提督「そして私と鳳翔と君たち6人、1つ屋根の下で暮らすんだ」 

飛龍「ファッ!?」 

784: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 12:44:03.59 ID:lErojPIVO

飛龍「ななな、なんで!?」 

提督「冷静に考えてみると、鳳翔の夢であるお店を出すというのはいつになるかわからない」 

提督「敵もどんどん新しい奴が出てきているし、解放すべき海域も増え続けてる」 

飛龍「……そうだね」 

提督「どんなに準備を重ねても、命の危険が付きまとう状況は変わらない」 

提督「現役でいる限り、そんな状況が続くことがわかっているのなら、鳳翔の夢――」 

提督「――お店を出すことと、君たちと共に暮らすことくらいは、叶えてあげたいと思った」 

飛龍「…………」 

提督「それから、なるべく多く君たちと過ごしたいという私の希望かな」 

飛龍「う、うーん」 

飛龍(あれ……これって私、狂喜乱舞するところかも) 

785: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 12:46:25.95 ID:lErojPIVO

飛龍「いやぁ……どう考えても、最初に言う相手はお母さんじゃない」 

提督「まずは飛龍に言うべきかな、と思ったんだが」 

飛龍「いやいやいやいや、なんでよ」 

提督「蒼龍から聞いたぞ? 鳳翔や他の5人といっしょに暮らしたかったんだろ」 

飛龍「蒼龍~~!! 秘密って言ったのにぃ!!」 

提督「物件はもう目星をつけてある。ここにチラシがあるんだが」 

飛龍「あるんかい! 私必要ないじゃん」 

786: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 12:48:09.23 ID:lErojPIVO

提督「今日、鳳翔と物件を下見に行こうと思ってたのに、断られてしまってな……」 

飛龍「え、そうなの? 断るなんて珍しい」 

提督「まあ、いいさ。内緒にして驚かせてやろう」 


「……す……」 


提督「ん?」 

榛名「素敵です!! 榛名、感激です!!」 

飛龍「は、榛名さん。いたんだ」 

提督「呉のやつと一緒じゃなかったのか?」 

榛名「先約があるって断られて……ひとりでこのレストランに来たんです」 

提督「先約? 舞鶴に知り合いなんかいたのかな、あいつ」 

787: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 12:49:28.37 ID:lErojPIVO

榛名「それにしてもいいなあ、鳳翔さん。私も提督に……い、いえ! なんでもないです!」 

提督「榛名さんは、あいつと寝室が別だったりするのか?」 

榛名「榛名でいいですよ。いえ、今は執務室の隣で一緒です」 

飛龍「なんだ、それならいいじゃない」 

榛名「それが、その、遅くまで2人で仕事してると……お姉さまが」 

提督「金剛か」 

飛龍「『イチャつきながら仕事するくらいならサッサと寝るデース!!』って感じ?」 

榛名「す、すごい! どうしてわかったんですか!?」 

飛龍「横須賀にいた頃の金剛さん見れば、そりゃねえ」 

788: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 12:50:27.20 ID:lErojPIVO

榛名「最近は大規模作戦の準備で、提督もお疲れですし……」 

榛名「お姉さまの言葉通りに、ベッドに入ると早くお休みになられますし」 

榛名「い、いいえ、邪魔とかそんな感情は全然ないんですよ! お姉さまも私に気を使ってくれてますし!」 

榛名「ただ、その、少しくらいは、2人きりで過ごせる時間も……」 

榛名「もっと、提督には、いろいろして差し上げたいのに……」 


榛名「――って、きゃあああ! 私ったら出張先で何を!!」 

飛龍「かわいいじゃないの、気に入った! これから正規空母の会、名誉会員に迎えちゃうよ!」 

榛名「空母じゃないのに!?」 

飛龍「いい酒の肴になりそう!!」 

榛名「何を話させるつもりなんですか!!」 

789: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 12:51:38.36 ID:lErojPIVO

榛名「はぁ、はぁ……」 

飛龍「提督、とりあえず赤城さんたちと合流したいんだけど――」 


「「「キャアアアアアア!!!!」」」 

飛龍「って、その声は!」 

赤城「1次会が終わってカラオケ行こうと通りかかったら!!」 

飛龍「またカラオケですか。好きだなー」 

翔鶴「飛龍先輩が、2人っきりで提督とお食事デート!!」 

蒼龍「ずるいずるい!! 抜け駆けなんて許せない、私も誘ってよ飛龍!!」 

飛龍「見事な説明セリフをどうも。あとデートじゃないから」 

790: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 12:57:11.89 ID:lErojPIVO

提督「あれ、もう飲み会は終わったのか?」 

Graf「お店のサケを飲み尽くしそうな勢いだったから、無理やり連れだしたのだ」 

提督「飲み尽くす!? カ、カードは?」 

Graf「……上限かもしれぬ。許してくれ、Tut mir Leid」 

提督「」 


Graf「ヒリュウの分を1本買ってきた。鎮守府で飲んでくれ」 

飛龍「おー、ありがとう! 気が利くね――あれ、加賀さんと瑞鶴は?」 

Graf「カラオケに持ち込むサケとサカナを買いに行った」 

提督「まだ飲むのか……」 

Graf「この店にいることは知らないだろうから、私が迎えに行ってこよう」 

飛龍「1人で大丈夫? 酔ってない?」 

Graf「問題ない、bierを少し飲んだだけだからな。行ってくる」 

飛龍「気を付けてねー」 

791: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 12:59:04.10 ID:lErojPIVO

Graf「――ふう。サケは甘すぎてまだ慣れないが、Japanのbierは中々だったな」 

Graf「今度は、祖国のものも仕入れてもらうよう頼んでみよう……」 

Graf「――おや?」 


Graf(あの車に、男と乗っているのは……) 

Graf「……ホウショウ?」 


Graf「…………」 

Graf「……う、ウワキだ、フリンだ。マツボックリでヒマツリだ」 


Graf「Mein Got」 

792: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 12:59:50.14 ID:lErojPIVO

瑞鶴「これだけ買えば大丈夫かな?」 

加賀「そうね。――結局、いつもの安酒がメインになってしまうけれど」 

瑞鶴「あのお店、評判なだけあってお酒はおいしかったもんねー」 

加賀「誤算だったわ。次からはお店の在庫も調べてから行きましょう」 

瑞鶴「3分に1本のペースで一升瓶空けてたら、そりゃ店主さんも青くなるわ……」 


―― Mein Gooooooot! 

793: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 13:00:28.49 ID:lErojPIVO

加賀「なに、あの叫び声……あら、グラーフ?」 

瑞鶴「あ、ほんとだ。おーい」 

Graf「――カ、カガ! ズイカク!」 

瑞鶴「どしたの、カラオケ向かってたんじゃ――」 

Graf「Es ist Unmoral!! Ich habe auf den illegalen Punkt geschaut!!」 

瑞鶴「お、おう」 

加賀「まるで翻訳サイトにかけたようなドイツ語ね。ちょっと落ち着きなさい」 

794: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 13:01:34.99 ID:lErojPIVO

お昼休み終わりなので続きは夜に。 

>>782 
すまぬ……すまぬ……

795: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 21:34:23.84 ID:lErojPIVO

瑞鶴「――えぇ? お母さんが浮気ぃ?」 

Graf「付き合いは短くとも、あの笑顔は見間違えようがない!! あれは鳳翔だった!!」 

加賀「そうだとしても、それがどうして浮気になるのかしら」 

Graf「笑顔だったからだ。あんな笑顔は、Admiralの隣にいる時しか見たことがない」 

瑞鶴「……お母さんが一緒の車に乗るほど親しい男性って、提督さん以外にいたかな?」 

加賀「少なくとも、舞鶴鎮守府の人ではなさそうね」 

796: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 21:36:34.00 ID:lErojPIVO

瑞鶴「あ、そういえば。今日は呉の提督さんが来てるんだったわ」 

加賀「呉の? お母さん、そこまで親しかったかしら」 

Graf「そうだ、あっちの店にハルナが来ているのだ。クレのAdmiralのことも聞いてみよう」 

加賀「……グラーフ、お母さんはどちらへ向かってた?」 

Graf「ええと、あっちは――鎮守府の方向だ」 

瑞鶴「ということは、どこかへ行った帰りってことかな」 

加賀「いずれにせよ、本人に聞けばわかることね。――みんなと合流して、いったん戻りましょう」 


加賀「……それにしても」 

瑞鶴「あのお母さんが、浮気……」 


「「ありえないわ」」 

797: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 23:31:26.36 ID:lErojPIVO


◇ 


鳳翔「――明石さん、ただいま戻りました」 

明石「お帰りなさい! いかがでしたか、例のものは」 

鳳翔「完璧でした。あの防犯設備なら安心です」 

呉「あれじゃ猫の子どころか、アリ1匹入れないだろうぜ。どんだけ金かけたんだ……」 

明石「鳳翔さんのご希望ですからね。私の持てる技術をすべてつぎ込んでます」 

鳳翔「今日はありがとうございました、呉さん。最近の機械には詳しくないので、とても助かりました」 

798: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 23:32:14.26 ID:lErojPIVO

鳳翔「あの人も、きっと喜んでくれると思います」 

呉「なに、気にすんなって――で、その旦那はどこ行ったんだ?」 

明石「少し前に、飛龍さんを引っ張って出て行きましたが……」 

鳳翔「飛龍ちゃんを? みんなと合流したのかしら」 

呉「そういや榛名もいねぇな。これが終わったら軽く酒でもと思ったんだが」 

明石「――ああ、噂をすれば。みんな戻ってきましたよ」 

799: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 23:33:11.15 ID:lErojPIVO

Graf「――こ、この男だ!!」 

呉「なに?」 

Graf「こいつだ、ホウショウをたぶらかしたのは!!」 

蒼龍「ほう」 

飛龍「ほう」 

赤城「ちょーっと、お話を伺いたいんですが?」 

呉「何なんだお前ら……」 

800: ◆GoPzFNH1CI 2016/10/17(月) 23:34:12.54 ID:lErojPIVO

呉「おいおい、冗談じゃないぜ。こんなとこ榛名に見られたら――」 

榛名「あのー、もう見てるんですが」 

呉「」 

呉「は、榛名、落ち着け。愛してるから落ち着け」 

榛名「私も愛してます。で、これはどういうことですか」 

呉「これはだな、やむにやまれぬ事情があって――」 

提督「待て。先に私だ」 

呉「……目が据わってるぞ」 

提督「お前には聞きたいことが山ほどある! ちょっとこっちに来い!!」 

呉「お、おい! 引っ張んなって!!」 

810: ◆GoPzFNH1CI 2017/02/08(水) 11:51:32.51 ID:yICCBaGfO


◇ 


提督「――鳳翔と、どこ行ってたんだ?」 

呉「言えん」 

提督「…………」 

呉「睨むんじゃねぇよ! 鳳翔に口止めされてるんだ、本人に聞けよ」 

提督「……本当だろうな」 

呉「俺は榛名に囚われているからな。正直、他の女には余計な感情が湧かない」 

提督「こんな状況で惚気やがって」 

呉「別に惚気じゃない。本気ってだけだ」 

812: ◆GoPzFNH1CI 2017/02/08(水) 11:57:37.29 ID:yICCBaGfO

呉「榛名や鳳翔の手前、あんな態度を取ったが――お前も察しはしてるんだろ」 

提督「うん?」 

呉「他の男に軽く付いていくような女じゃない」 

呉「それなりの事情があると、わからないほど浅い付き合いじゃないはずだ」 

提督「……まあね」 


提督「鳳翔を助手席に乗せて走りやがってとか、夕食の時間に行かなくてもいいだろうとか、まだいくつかあるが――」 

呉「俺が誘ったわけじゃないけどな」 

提督「――まあ、言いたかったのはそれだけじゃない」 


提督「1度、改めて礼を言いたいと思ってたんだ」 

呉「礼? 何の話だ」 

提督「もう1年以上も前だが、鳳翔が目を覚まさないと騒いだ時があっただろう」 

呉「ああ、血相変えて電信飛ばしまくってたあれか。まあ当然だが」 

813: ◆GoPzFNH1CI 2017/02/08(水) 12:00:01.32 ID:yICCBaGfO

また夜に来ます、申し訳ない 

ちょっと待ってください貴方何者ですか>>811 
sageで2か月ぶりですよ? 

815: ◆GoPzFNH1CI 2017/02/08(水) 21:36:59.27 ID:yICCBaGfO

提督「こんな言い方で本当に失礼だけど……お前と榛名さんの前例のおかげで対処できたんだ」 

提督「鳳翔の分も、合わせて感謝したい。ありがとう」 

呉「やめろやめろ。男にそんなセリフ吐かれてもぞっとしねえ」 


呉「……まあ、あんな状況ではお互い様だろ」 

提督「そうだね」 

呉「他の鎮守府の連中にも喚起できたし、それに――」 

呉「あの報告書にはさんざん笑わせてもらったしな」 

提督「ぐっ」 

呉「全国規模で惚気てんのはどっちだったかなー」 

提督「く……言うんじゃなかった……」 

816: ◆GoPzFNH1CI 2017/02/08(水) 21:42:41.56 ID:yICCBaGfO

呉「よその夫婦に首突っ込むのは、これで最後にしたいが――」 

呉「悪い話じゃないと思うぜ。お前にとっても、鳳翔にとっても」 

提督「そうだ、鳳翔の口止めとは……」 

呉「おっと、俺が言えるのはここまでだ。――まあ、あとは本人に聞くんだな」 

提督「え? ……あ」 


鳳翔「あっ」 

榛名「あっ」 

呉「邪魔者は消えるから、ゆっくり話せ。俺も、榛名の機嫌を取らなきゃならん」 

825: ◆GoPzFNH1CI 2017/05/01(月) 00:30:42.43 ID:fOj+2GTH0


◇ 


榛名「むー」 

呉「ほら、そろそろ機嫌直せって」 

榛名「ほかの女性とドライブ行ってた人が言いますかー」 

呉「だーかーら、事情があったって言ってんだろ」 

榛名「なら、その事情を話してくださいよぉ。内容を聞いて、許すか判断しますぅ」 

呉「今はダメなんだって。明日あたりには解決してるだろうから……」 

榛名「じゃあ許しませんっ」 

呉「……おい、そっぽ向くなよ。せっかく埋め合わせに2人で飲みに来てんだろうが」 

榛名「知りませんっ。つーん」 

呉「つーんてお前。もう酔ってんのかよ」 

826: ◆GoPzFNH1CI 2017/05/01(月) 00:32:03.69 ID:fOj+2GTH0

呉「…………」 

呉「美人は横顔も映えるよな」 

(ぴくっ) 

呉「お前に似合いそうなブラウスを見つけたから、明日買いに行かないか?」 

(ぴくぴくっ) 

榛名「ぷ、ぷ、プレゼントなんかで、この大戦艦が心を動かされると――」 

呉「そうか、そうだろうな。我ながら卑劣だった、悪かったな」 

榛名「…………」プルプル 

827: ◆GoPzFNH1CI 2017/05/01(月) 00:35:01.83 ID:fOj+2GTH0

呉「じゃあ、うん……電探の改造の礼もあるし、霧島のみやげにでも」 

榛名「だ、ダメーーーー!! 私、私じゃないとダメですっ!!」 

呉「おう」 

榛名「私に似合うって思ってくれたんですよね!? だから――」 

呉「だから、買いに行こうって言ってるだろ」 

榛名「行こう、って――ハッ!? 提督、私を嵌めましたね!!」 

呉「そうだよ?」 

榛名「むがー!!」ドカドカ 

呉「ハハハッ、俺を騙そうなんて10年早い――って、ちょっ、痛ェ!! 本当に戦艦の馬力で殴るな、肩が外れる!!」 

828: ◆GoPzFNH1CI 2017/05/01(月) 00:37:39.02 ID:fOj+2GTH0

呉「……気ィ済んだか」 

榛名「はぁ、はぁ……とりあえず落ち着きました……」 

呉「まさか本気でほかの女と、って……そう思ってるわけじゃないだろうよ」 

榛名「……そうですね、本当はわかっていますし、信じてます。でも」 

榛名「公務以外で2人っきりは、あの遊園地以来でしたし……ちょっとはしゃいでしまいました」 

呉「おいおい、楽しみにしてたのはお前だけだと思ってんのか?」 

榛名「え?」 

呉「1日で終わる出張を、わざわざ泊まりにして時間作ったんだぞ」 

榛名「……あ」 

呉「今日はもう帰るぞ。明日はいろいろ、連れまわしてやるから覚悟しとけ」 

榛名「――はいっ、提督!」 


呉(……さて、向こうは上手くやったかな) 

833: ◆GoPzFNH1CI 2017/06/27(火) 00:37:06.55 ID:XwdhUPZl0


◇ 


鳳翔「…………」 

提督「…………」 

提督(呉のやつと戻ってきてから、鳳翔もそわそわして落ち着かないようだが) 

提督(飛龍には話したんだ……先延ばしにはできない) 

提督(いい機会と覚悟を決めて、言うんだ。今日、いま!) 


鳳翔「あの、今日はすみません。せっかくお誘いいただいたのに、断ってしまいまして」 

提督「え、あ、ああ! いいんだ、全然気にしてないから」 

鳳翔「お話ししたいことがあるので、ちょっと歩きませんか」 

提督「うん。私も、君に話があったんだ」 

837: ◆GoPzFNH1CI 2017/07/31(月) 00:57:24.67 ID:5FPA1pmt0


提督「…………」 

鳳翔「…………」 


「「あの」」 

鳳翔「あっ」 

提督「……ごめん。わ、私から、いいか?」 

鳳翔「は、はい。すみません」 

提督「すぅー……ふぅ。よし」 


提督「鳳翔。いっしょに、暮らさないか!」 

鳳翔「えっ……」 

提督「空母の子たち6人と、私たち2人で。新しい、家族に――」 

提督「家族に、なりたいんだ」 

840: ◆GoPzFNH1CI 2017/08/10(木) 02:12:41.44 ID:L+qER+590

提督「気が早いけど、家も探したんだ。ここからそんなに離れていない、この物件なんだけど」 

鳳翔「こ、これは……」 

提督「ほかの提督の伝手で、このあたりの不動産をいくつか紹介してもらってね」 

提督「少し築年数は経ってるけど、リフォームがてらあの子たちの部屋も作れる広さだし」 

提督「それに、1階の壁を抜けばスペースもとれるし、この辺りは水も綺麗だから」 

提督「――小さなお店を開くことも、できると思う」 

鳳翔「…………」 

841: ◆GoPzFNH1CI 2017/08/10(木) 02:13:26.34 ID:L+qER+590

提督「気が早いけど、家も探したんだ。ここからそんなに離れていない、この物件なんだけど」 

鳳翔「こ、これは……」 

提督「ほかの提督の伝手で、このあたりの不動産をいくつか紹介してもらってね」 

提督「少し築年数は経ってるけど、リフォームがてらあの子たちの部屋も作れる広さだし」 

提督「それに、1階の壁を抜けばスペースもとれるし、この辺りは水も綺麗だから」 

提督「――小さなお店を開くことも、できると思う」 

鳳翔「…………」 

843: ◆GoPzFNH1CI 2017/08/10(木) 02:37:35.85 ID:L+qER+59o

提督「君が何度も悪夢を見ていることは知っている。あの戦争と、あの子たちの記憶で苦しんでいることも」 

提督「それをいっしょに支えるとか、軽々しく言うつもりはない。それは君たちにも失礼だと思う」 

提督「けど、これだけは言える」 

提督「私は君が望むかぎり、君の隣にいるよ。たとえどんな困難が立ちはだかっていても」 

提督「そこから決して逃げたり、目を背けたりせず――」 

提督「君の隣に立って、未来に進んでいくと、君に誓おう」 

844: ◆GoPzFNH1CI 2017/08/10(木) 02:44:05.76 ID:L+qER+59o

提督「前に、間宮の店で話したことを覚えてるかな」 

鳳翔「……蒼龍ちゃんと、少し真面目な話をしたという?」 

提督「そう、それ。大事な話だから改めて話そうと思っていたんだけど、遅くなってすまなかった」 

提督「長い間、この鎮守府で長を務めてきて。何度も大変な目に遭ったけど、その度に君に支えてもらった」 

提督「改めて大切だと思ったんだ。君に出会ったこと、君たちに出会ったこと」 

提督「君を母と慕う、あの子たちの姿を。そして、あの子たちを心から愛して、慈しむ君の姿を」 


提督「私は――いや、俺は」 

提督「もっと近くで、ずっと、見守っていたいんだ」 

提督「……どう、だろうか。鳳翔」 

848: ◆GoPzFNH1CI 2017/09/20(水) 01:26:40.31 ID:0Lbo6+gAo

鳳翔「――ふふっ」 

提督「?」 


鳳翔「あははは……ご、ごめんなさい、あなた」 

提督「!! ……だ、ダメか……?」 

鳳翔「いいえ! ごめんなさいって、そういう意味じゃありませんよ」 

鳳翔「ただ、おかしくって。ふふふっ」 

提督「勿体ぶらないで教えてくれよ」 

850: ◆GoPzFNH1CI 2017/09/20(水) 01:39:45.14 ID:vBtenC6tO

鳳翔「ふふ、これを見てください。不動産のチラシなんですけど」 

鳳翔「今日行っていたのは、ここなんです」 

提督「ここ、って、同じ物件じゃないか!」 

鳳翔「はい。実はもう、私が契約してしまいまして」 

提督「そうだったのか。今日、呉と出かけたのは?」 

鳳翔「呉さんには物件の斡旋と、明石さんがつけてくれた防犯設備の確認をお願いしていました。私は現代の機械には詳しくないので」 

提督「それで、今日じゃないと駄目だったわけだね」 

鳳翔「それに、ほかの子に頼むとあなたが不審がるかも、と思ったんですよ」 

提督「不審?」 

鳳翔「内緒にして、びっくりさせたかったんです。でも、今日は私のほうがびっくりでしたけどね。ふふっ」 

851: ◆GoPzFNH1CI 2017/09/20(水) 01:57:18.26 ID:vBtenC6tO

提督「そ、それじゃあ」 

鳳翔「――はい。ふつつか者ですが、こちらこそ、よろしくお願いいたします」 

提督「鳳翔……ありがとう」 

鳳翔「お礼は私から言いたいです。本当に、ありがとうございます」 

提督「…………」 

鳳翔「…………」 


「「ふふっ」」 

提督「じゃあ、お互いに感謝だな」 

鳳翔「そうですね、あなた」 

852: ◆GoPzFNH1CI 2017/09/20(水) 01:58:19.81 ID:vBtenC6tO

提督「これから忙しくなりそうだな」 

鳳翔「ええ。いくら近いとはいえ、仕事が終わったら鎮守府を出ることになりますから」 

提督「夜の間のまとめ役と、緊急時のホットラインの整備と……」 

鳳翔「それに引っ越しの準備も。私たちの分と、娘たちにも伝えないと」 

提督「やることは多いが、1つづつ片付けていかないとな」 

鳳翔「それでは、ひとまず戻りましょうか」 

提督「そうだね。いつ緊急な呼び出しがあるかわからないし、今日のところは――」 

853: ◆GoPzFNH1CI 2017/09/20(水) 02:04:23.24 ID:vBtenC6tO

―― ピピピピ…… 

提督「おっと、噂をすれば……もしもし?」 

翔鶴「提督! お休みのところ申し訳ありませんが、すぐ鎮守府へお戻りください!」 

提督「何があった?」 

翔鶴「地中海方面軍から連絡です。新しい正規空母を舞鶴で受け入れてほしいと!」 

提督「それは構わないけど、まだ何も聞いてないぞ……いつ到着する?」 

翔鶴「今週中には到着だそうです。上層部は承認済みだと」 

提督「連絡が急すぎる! わかった、すぐ戻るよ」 

854: ◆GoPzFNH1CI 2017/09/20(水) 02:08:36.37 ID:vBtenC6tO

―― ピピピピ…… 

提督「おっと、また――もしもし?」 

瑞鶴「提督さん! 単冠の北方方面艦隊から連絡よ!」 

提督「どうした、そんな遠くから」 

瑞鶴「千島列島の沖で、新型の軽空母が見つかったから面倒見てくれないかってさ」 

提督「軽空母? なんでわざわざ舞鶴まで?」 

瑞鶴「特設航空母艦は今までにない艦種だから、お母さんの意見が聞きたいんだって」 

提督「また新しい空母が……わかった、今から戻るよ」 


瑞鶴「それから、新しい――えー、噴式? エンジンを積んだ試作機を送るから、テストしてほしいって言われてるわ」 

提督「そりゃまたなんでウチに?」 

瑞鶴「えへへ、改装が終わった私と翔鶴姉しか扱えないんだって。なんか専用機みたいでカッコイイわよね!」 

提督「扱いが難しそうだな……とりあえずすぐ戻るから」 

855: ◆GoPzFNH1CI 2017/09/20(水) 02:27:17.96 ID:vBtenC6tO

―― ピピピピ…… 

提督「もしもし」 

加賀「おつかれさまです、加賀です」 

提督「今度はどうしたんだ」 

加賀「米太平洋方面軍から緊急信。正規空母艦娘がひとり、東京駅から関西方面の電車に飛び乗って行方不明だと」 

提督「なんだって? どういう状況だ、そりゃ」 

加賀「なんでも、新しく保護されたばかりの艦娘だそうで。ちょっと目を離した隙に逃げたそうです」 

提督「アメリカの艦娘だろ? 1人で乗ってれば目立つんじゃないか」 

加賀「駅員さんや車掌さんも探しているようですが、どうやら変装しているようですね」 

提督「そりゃ放っておけないな。手空きの子をできる限り集めてくれるか」 

加賀「了解です。指示をいただければ、すぐに出れるように準備しておきますので」 

提督「頼む」 

856: ◆GoPzFNH1CI 2017/09/20(水) 02:31:45.79 ID:vBtenC6tO

―― ピピピピ…… 

提督「も、もしもし」 

蒼龍「あー、もしもし? 蒼龍だよー」 

提督「今度は蒼龍か。電話来る気がしてたけど」 

蒼龍「お母さん宛てなんだけど、東京の三囲神社で巫女さんやらないかって」 

提督「今までで一番わからないのが来たな」 

蒼龍「返事はいつでもいいって言ってたけど?」 

提督「わかった、とりあえず今から戻るから」 

蒼龍「よろしくー。待ってるね」 


提督「――それから、蒼龍!」 

蒼龍「はいはい、なんですか?」 

提督「ありがとうな。 君のおかげで一歩踏み出せたよ」 

蒼龍「へ? 私なんか言ったっけ」 

提督「言ってくれたさ。――2年半近く前だが」 

蒼龍「ええー?」 

857: ◆GoPzFNH1CI 2017/09/20(水) 02:42:17.69 ID:vBtenC6tO


◇ 


飛龍「――間違い、ないんだね?」 

大淀「はい。我が国だけでなく、各国の衛星からの情報もあります」 


赤城「――遅れました、飛龍!」 

飛龍「飲み会の後で呼び出してごめんね。……これを見て」 

赤城「これは?」 

飛龍「3日前の偵察写真。ついさっき、各地の艦隊に通知されたわ」 


飛龍「新たな、複数の姫が――中部海域に出現」 

赤城「…………」 

858: ◆GoPzFNH1CI 2017/09/20(水) 02:44:30.85 ID:vBtenC6tO

赤城「必死の思いで攻略したMI周辺海域が、また敵に……」 

大淀「すでに海域は封鎖されています。民間の太平洋航路も、大幅な変更を余儀なくされていますね」 

赤城「海上護衛も見直す必要があるでしょうし……ほかの艦隊の動きはどうですか?」 

大淀「今のところ、海域外に侵攻する兆しはないということで。各艦隊は警戒しつつ、静観の構えです」 


飛龍「とにかく、提督に伝えてくるよ」 

赤城「あ、私も行きます。大淀さんは他の皆さんに周知を」 

大淀「了解しました」 


赤城(――侵攻する兆しがない? 今までの姫級は、もっと積極的に動いていたはず) 

赤城(また、前に出会った飛行場姫のような異質な敵でしょうか) 

859: ◆GoPzFNH1CI 2017/09/20(水) 02:48:45.63 ID:vBtenC6tO

飛龍「どうしたの? じっと写真見つめて」 

赤城「この写真の空母棲姫……ずいぶんと憂いを帯びた表情のような……」 

飛龍「衛星写真ってのはすごいね。敵の表情まで写せる解像度なんてさ」 


赤城「飛龍、どう思います? 前回の霧の時と同じような敵だと思いますか?」 

飛龍「わからないけど……まあ、会って聞いてみればいいよ」 

赤城「あら? 慎重な飛龍にしては、積極的な考えですね」 


飛龍「――提督とお母さんが、やっとゆっくり暮らせるきっかけを掴んだんだもの」 

赤城「飛龍?」 

飛龍「私たちの幸せは、誰にも邪魔させはしない」 


飛龍「私が守るわ。提督も、お母さんも、みんなもね」 

赤城「…………」 

860: ◆GoPzFNH1CI 2017/09/20(水) 02:56:40.06 ID:vBtenC6tO

赤城「飛龍~」ワシワシ 

飛龍「きゃあっ! な、なに!?」 

赤城「肩に力が入りすぎてますよ。貴女らしくもない」 

飛龍「え、そうかなぁ?」 

赤城「まさか1人で勝てる相手でもなし。慢心はダメ、ゼッタイ。でしょう?」 

飛龍「そう、だけど……もとはといえば私の希望だし」 


赤城「貴女曰く、家族なんでしょう? お姉ちゃんにも頼りなさい。ね?」 

飛龍「お、おね――」 

赤城「ほらほら」 


飛龍「……ふふっ、そうだったね、赤城さん」 

赤城「飛龍! 竣工順でいえば私が長女、飛龍が四女で……」 

飛龍「それはまた今度ね」 

赤城「んもう」 



飛龍「――赤城さん」 

赤城「はい?」 

飛龍「これからも、よろしくね」 

赤城「ええ、こちらこそ」 

861: ◆GoPzFNH1CI 2017/09/20(水) 02:57:57.41 ID:vBtenC6tO


◇ 


『…………』 



『…………』 






『……オカアサン……』 

862: ◆GoPzFNH1CI 2017/09/20(水) 03:00:08.08 ID:vBtenC6tO


◇ 


鳳翔「……?」 

提督「鳳翔、どうした」 

鳳翔「いえ、誰か私を呼んだような……かすかな声が」 

提督「周りは誰もいないが?」 

鳳翔「そうですよね……気のせいでしょうか」 

提督「さあ、いったん帰ろう。報告が大量に来てるみたいだから」 

鳳翔「はい!」 

863: ◆GoPzFNH1CI 2017/09/20(水) 03:02:40.94 ID:vBtenC6tO

鳳翔「あなた、新しい子が来るのですね?」 

提督「ああ、沢山な。しかも海外からの艦娘がかなり入ってる」 

鳳翔「いいことではないですか。各国から信頼されている証ですよ」 

提督「だが、引っ越しと合わせたらとんでもない忙しさになりそうだ」 

鳳翔「新しい家のほうはいつでも大丈夫ですから。その子たちが早くなじめるようにしてあげないといけませんね」 

提督「そうだね……君にもまた苦労をかける」 

鳳翔「いえ、好きでやっていることですし――それに」 


鳳翔「仕事が早く片付けば、あ、あなたとの時間も、増えますし……ね?」 

提督「……ははっ」 


提督(まったく――かなわないなあ) 

864: ◆GoPzFNH1CI 2017/09/20(水) 03:06:24.22 ID:vBtenC6tO


提督「鳳翔」 

鳳翔「はい?」 

提督「ありがとう。……愛しているよ」 

鳳翔「――はい!」 



鳳翔(もうひとつの夢……平和な海で、いつかふたりで、のんびりと船旅でも――) 

鳳翔(その時を楽しみに。ふたりで支えあって) 


鳳翔「共に未来へ進みましょう――あなた!」 




終