1: 名無しさん 2019/07/01(月) 21:39:49.84 ID:LeKpDSJgO
「ねぇ、知ってる?最近この辺りに出るっていう、[亡霊]のこと」




梨子(Aqoursの練習が終わって。何故だか訂正の線が自然に思えてしまう、『スクールアイドル部』のプレートが掲げられた部屋の中で)

梨子(皆が帰りの支度をしている最中のことだった)

梨子(メンバーの一人……一年生の津島善子ちゃんが、唐突にそんなことを言いだした)


果南「ぼ、ぼうれい?」

善子「そう、亡霊。……果南ってばもしかして 言葉の意味わかってない?」

果南「いやそうじゃないよ!そうじゃなくて、本当なの?……その、オバケが出るって話」

善子「オバケじゃなくて亡霊だってば!」

果南「どっちでもいいよそれは!そんなことより本当に幽霊が出るっていうの!?」

善子「だから幽霊じゃなくて亡霊だってばー!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1561984789

引用元: ・梨子「未来のあなたが知ってるね」

2: 名無しさん 2019/07/01(月) 21:46:38.97 ID:LeKpDSJgO


梨子(練習が終わった後だっていうのに、二人とも元気だなぁ……)

梨子(まあ、いつものことなんだけど)

梨子(私以外のメンバーも、特に気にしていない様子だったり「また始まった……」というような呆れ顔を浮かべたりしていた)

梨子(それにしても皆話半分に聞いているものだと思ったんだけど、果南ちゃんが食いつくのは珍しいわね)

梨子(普段は善子ちゃんだけじゃなく、結構色んな人の話を聞き流している印象があるんだけど……)

梨子(霊という言葉に過剰に反応しているところを見ると、意外に怖がりなのかな?)

梨子(いい意味でマイペースでサバサバした頼りがいのあるお姉さん、って感じの果南ちゃんだけど……結構可愛いところがあるのかも)


ルビィ「ぼうれい、かぁ……」

花丸「ルビィちゃん、どうかしたずら?」

ルビィ「あ、ううん。ちょっと気になっちゃって」

花丸「気になったって、善子ちゃんのいつもの与太話のこと?」

ルビィ「あ、うん。……亡霊って、幽霊とどう違うのかなって思って」

3: 名無しさん 2019/07/01(月) 21:48:05.06 ID:LeKpDSJgO

梨子(ルビィちゃんの言葉を聞いて不覚にもはっとして、少し考え込んでしまった)

梨子(亡霊……確かに普通に生きていればあまり聞きなれない言葉だと思う)

梨子(こういう場合だと、それこそ果南ちゃんのようにお化けとか幽霊とか、そういう言葉で表現するんじゃないかな)

梨子(もちろん善子ちゃん特有のちょっと変わった言葉選びなんだと思うけど……でも、実際に言葉が違うってことは意味も少し違ってくるのかもしれない)

梨子(花丸ちゃんだったら読書家だし、色んな知識を持ってるから……もしかして違いを知ってるかな)


曜「あ、私もそれちょっと気になるかも。花丸ちゃん、知ってる?」


梨子(曜ちゃんが二人の話に割って入っていって率直に疑問をぶつけた)

梨子(……曜ちゃんも気になったんだろう)


花丸「ああ、そういうことずらか。……言葉の意味ってことだと……」

花丸「えっと、おらが知る限りなんだけど……」


梨子(流石というかなんというか、花丸ちゃんは知ってるみたいね)

梨子(……ふと皆の方を見てみると、視線が花丸ちゃんの方に集中しているのがチラリと目に入った)

梨子(……どうやら同じことを考えていたのは私と曜ちゃんだけじゃなかったみたい)

梨子(皆、ルビィちゃんの疑問に興味を持った様子だ)

4: 名無しさん 2019/07/01(月) 21:48:52.96 ID:LeKpDSJgO

善子「……」

果南「……」

梨子(……さっきまで騒がしくしていた善子ちゃんと果南ちゃんまでもがいつの間にか言い合うのをやめて花丸ちゃんの方を向いていた)

梨子(花丸ちゃんは、そんな皆の様子を知ってか知らでか、滔々と話し始めた)


花丸「亡霊って大きく分けて三つの意味があるずら」

花丸「一つは死者の魂のこと。これは幽霊とも同じずら」

花丸「もう一つは滅びたはずのもののことを比喩的に表現したもの」

花丸「そして最後に、いないはずの霊のことずら」

梨子「……それって、結局幽霊とどう違うの?」


梨子(……なんか気になってつい口走っちゃったけど)

梨子(やっぱり皆も同じように気になってたみたいで、花丸ちゃんの続きの言葉を待っていた)


花丸「言葉の意味の上だと、幽霊って今現実にはないはずのものがあるって意味で使うんだよね」

花丸「たとえば幽霊部員とかがわかりやすい例ずら」

花丸「いるはずなんだけど、いない。いない方が常識なのに、いるという証は残っている……ってことなんだけど」

梨子「実際には部活に所属してないも同然だけど……名簿上はいるって扱いになるってこと?」

花丸「そうそう。それに対して、亡霊はむしろないはずなのにあった、とか復活した存在……みたいな意味で使うずら」


5: 名無しさん 2019/07/01(月) 21:50:31.99 ID:LeKpDSJgO
梨子(……まだちょっとわからないわね)


ルビィ「?まだちょっとわかんないや」


梨子(ルビィちゃんもそう思ったか……)


花丸「キーは″時間″ずら。今いないはずなのにあるって意味で使うのが幽霊で」

ルビィ「……昔なくなったはずなのに今なぜかあるっていう意味が強いのが亡霊って、こと?」

花丸「そうそう。その通りだよ、ルビィちゃん」


梨子(?ってことは……)


梨子「それって結局、今に注目するか過去に注目するかのニュアンスの違いで、指してるもの自体は同じってこと?」

花丸「まぁ、言葉が指すものっていう意味ではそうなるのかな……」

曜「理由は何であれ、今いないはずなのにいるのが幽霊で、昔”なくなった”からいないってハッキリしてるのに何故か今いる方が亡霊ってこと?」

花丸「そういうことだね。でも結局、どっちも同じものを指していることには違いないずら」

善子「えっそうだったの?」

花丸「善子ちゃん知らなかったのに使ってたずらか?」ニヨ~

善子「そ、そんなわけないでしょ!ただ……」

花丸「ただ、なんずらか?」

善子「……ただ、なんか違うっていうか」

曜「幽霊と亡霊じゃなんとなく違う気がするってこと?」

花丸「それって何も考えずに言葉の響きだけで使っただけってことじゃないの~?」

善子「ち、違うわよ!」

梨子「……」

善子「ちょ、ちょっとリリーからも何か言ってよ!」

梨子「え、わ、私?」

花丸「そうやってすぐ梨子ちゃんに頼ろうとするのは善子ちゃんの悪い癖ずら」

善子「うっさい!あと私はヨハネ!」


6: 名無しさん 2019/07/01(月) 21:51:15.16 ID:LeKpDSJgO

善子「そ、それそれ!イメージの上ではやっぱちょっと違うんじゃないの?って言いたかったわけ!」

花丸「善子ちゃん……本当に?」

善子「何で嘘だと思うのよ!後ヨハネ!」

曜「ま、まぁまぁ落ち着いて……」

梨子「……花丸ちゃんっていろんな本を読んでるわよね。その中に、亡霊とか出てきたりしない?」

花丸「そうだね。善子ちゃんからかうのも飽きたからそろそろちゃんと話すずら」

善子「ずら丸あんたね……」


梨子(善子ちゃん……本当にいじられキャラよね)


花丸「物語なんかだと、心残りがある方を幽霊と呼んだりすることが多いずら」

曜「じゃあ亡霊は心残りがないほう?」

花丸「そうだね。だから幽霊は生前やり残したことをやろうとするけど、亡霊はそうじゃないんだよ」

ルビィ「う~ん、具体的にはどういうことなのかな」

ダイヤ「……例えば、生前に恨みを持っていた相手に復讐するために蘇ったものを幽霊で。目的を果たしても現世に留まって無差別に人を襲い続けるのが亡霊……と、そういうことになるのでしょうか?」


梨子(ダイヤさんも食い付いた……)

7: 名無しさん 2019/07/01(月) 21:54:07.33 ID:LeKpDSJgO
>>5


梨子(……善子ちゃんをかばうわけじゃないけど)

梨子(私も正直、二つの言葉から受けるイメージは、ちょっと違う気がするんだよね)


ルビィ「花丸ちゃん、さっき言葉が指すものではって言ってたよね?じゃあ、それ以外だったらどうなのかな?」

花丸「それ以外?例えば、イメージの上では……ってこど?」

善子「そ、それそれ!イメージの上ではやっぱちょっと違うんじゃないの?って言いたかったわけ!」

花丸「善子ちゃん……本当に?」

善子「何で嘘だと思うのよ!後ヨハネ!」

曜「ま、まぁまぁ落ち着いて……」

梨子「……花丸ちゃんっていろんな本を読んでるわよね。その中に、亡霊とか出てきたりしない?」

花丸「そうだね。善子ちゃんからかうのも飽きたからそろそろちゃんと話すずら」

善子「ずら丸あんたね……」


梨子(善子ちゃん……本当にいじられキャラよね)


花丸「物語なんかだと、心残りがある方を幽霊と呼んだりすることが多いずら」

曜「じゃあ亡霊は心残りがないほう?」

花丸「そうだね。だから幽霊は生前やり残したことをやろうとするけど、亡霊はそうじゃないんだよ」

ルビィ「う~ん、具体的にはどういうことなのかな」

ダイヤ「……例えば、生前に恨みを持っていた相手に復讐するために蘇ったものを幽霊で。目的を果たしても現世に留まって無差別に人を襲い続けるのが亡霊……と、そういうことになるのでしょうか?」


梨子(ダイヤさんも食い付いた……)


8: 名無しさん 2019/07/01(月) 21:55:06.07 ID:LeKpDSJgO

花丸「ん~概ねその通りずら」

善子「ってことは、リングとか呪怨とかに出てくるのは亡霊ってわけ?」

花丸「りんぐ?じゅおん?」

善子「ほら。前に一緒に観たじゃない。……ルビィが観たいからってことで」

花丸「ああ、あの映画のことずらね。……善子ちゃんが、ビビってたやつ」

善子「うっさいわ!」

果南「……よくあんなもの観れるね。というかよく観たいと思うね、ルビィ」

ルビィ「え?……あはは」

鞠莉「ショージキ私も、流石に好んでは観ないわ……」

曜「……それで。結局、善子ちゃんの言ってる通りなの?」

花丸「うん。そうだと思う。……自分を生んだ理由。言い換えれば目的を果たした後も存在して、何らかの行動を起こし続けるって意味では、亡霊という言葉が当てはまってるずら」

梨子「……[過去]にいたはずなのに、今いるっていう言葉。……確かに[亡霊]は、過去で、既に目的を果たして、未練も消して……」

梨子「そして、存在までも消えたはずなのに。でも、残って行動し続けるって意味では、[過去]に注目していると言えるわけね……」

ルビィ「幽霊は……目的を果たしていないから、それを果たすまではいるけど……」

曜「目的を果たしたら、成仏しちゃうってことだよね」

花丸「う~ん。一概にそうとも言えないずら」

9: 名無しさん 2019/07/01(月) 21:56:39.80 ID:LeKpDSJgO
ダイヤ「と、いうのは……?」

花丸「復讐を果たしても、そのまま無差別に人を襲うようになったりすることもあるから」

曜「ああ……そっか」

ダイヤ「幽霊から亡霊になることも、あり得ると。……そう考えると、あまり厳格な区別ではないのかもしれませんね」

梨子「それでも、やっぱり違い自体はあったのね……」

善子「……ほら見なさい。私の言った通りでしょ」


果南「うん、そうだったね。じゃあこの話は終わりってことで!」

善子「そうね!……ってちょっと待ちなさーい!そんなことはどうでもいいの!話はこっからなんだから!」

曜「……そういえば、この辺に[亡霊]が出るっていうのが最初の話だったね……」

梨子「……。花丸ちゃんの話を聞くのに集中してすっかり忘れてたよ……」

果南「……忘れてると思ったのに」

善子「忘れるわけないでしょ!本題を話してないんだから!」

花丸「でも忘れかけてたずら」

善子「うるっさい!」

10: 名無しさん 2019/07/01(月) 21:57:20.39 ID:LeKpDSJgO
鞠莉「まぁまぁ、善子。……それで、どんな話なの?その、ゴーストの話って」

善子「……ま。鞠莉ぃ……!」

ルビィ「善子ちゃん……カンゲキしてるね」

ダイヤ「……鞠莉さん?また悪ノリしてません?」

鞠莉「違うって。……この学校の理事長としてはさ。不審者の可能性もあるから、注意を払った方がいいって思ったってことよ」

ダイヤ「あ……」

鞠莉「……もーしかして気付かなかったの?……ダイヤってば、ホーント頭がベリーハードねぇ!」

ダイヤ「あ。あたまが、べりーはーど……!?」

曜「どういうこと?」

梨子「……多分、頭が『カッチカチにカタイ』って言いたいんだろうね」

果南「まあ。ダイヤって普段、『ガッチガチのカタブツ』だからね。鞠莉の言いたいことはわかるよ」

曜「ああ……。なるほど」

ダイヤ「……失礼な……!」


ルビィ「それで。結局どういうことなの、善子ちゃん?」

花丸「ああ、そういえば善子ちゃんの話だったね。皆、ダイヤさんで遊ぶからすっかり忘れてたずら」

善子「……。釈然としないけど、これ以上ツッコんだら話が進まないし……まあ、いいわよ」


11: 名無しさん 2019/07/01(月) 21:58:46.44 ID:LeKpDSJgO
善子「……ここ最近。内浦を含めて、沼津の各地に、ここら辺じゃ見たことのない若い女性が出没しているってウワサなのよ」

果南「……ゴクリ」

ダイヤ「……見たことのない、若い女性ですか……?」

曜「内浦は観光地だし、沼津だって結構おっきいよ。見たことのない人の一人や二人、普通だと思うんだけど」

善子「それが、普通じゃ考えられないことが起きているのよ。その女性が現れるところには、ね」

梨子「……!普通じゃ考えられないこと……?」

善子「そうよ。例えば、あるトラック運転手の話だと……」

善子「ある日の深夜、山道を走っていたところ。疲労がたたったのか、一瞬意識が飛んでしまったらしいの」

ダイヤ「……なんて、危険な」

善子「そこで、次に気がついた瞬間には、目の前に若い女性の後ろ姿があったらしいのよ」

ルビィ「え……!」


12: 名無しさん 2019/07/01(月) 21:59:30.40 ID:LeKpDSJgO
善子「運転手は咄嗟にブレーキを踏んだそうよ。でも、車と女性の距離は、大体十数メートル程度しか離れてなかった。……追突は、ほぼ確実だった」

果南「………」

善子「……でもね。実際には、誰も、轢かなかったらしいのよ」

曜「……突然姿を消したってこと?」

善子「そうみたい。……運転手は、幻影を見るほど自分は疲れていたんだなと反省して、とにかく休める場所までは運転していこうって思ったみたい」

善子「それで、車を再び動かそうとした時。逆だったことに、初めて気がついたの」

善子「女性が助かったんじゃなくて、逆に自分が助かったんだってことに、ね」

梨子「自分が助かった……?」

善子「そう。……改めてよく見ると。……目の前は、崖だったんだって」

果南「え……。え!?」

善子「……もし、急ブレーキするのが、後少しでも遅ければ。……そのまま、崖の下に真っ逆さまだったそうよ」


13: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:00:17.03 ID:LeKpDSJgO
花丸「……若い女性を見なければ。もしかしたら、その運転手さんは……死んでいた、ってこと?」

善子「……そういうことよ」

果南「ひっ。……こ、怖いこと、言わないでよ……」

曜「……でも、そういうことなら。仮に本当に[亡霊]だとしても、悪霊ではなさそうだね」

花丸「……それはわからないずら。単なる気まぐれの可能性もあるし……」

花丸「そもそも、助けようとしてやったかどうかすら、判断できない」

梨子「……花丸ちゃんが言うと、説得力があるわね……」

善子「ところが。……そもそものそもそもなんだけど。それが本当に霊なのかすら、よくわからないらしいのよ」

ルビィ「……どういうこと?」

善子「その運転手の言っていた、女性を見たっていう場所。……そこから、発見されたのよ」

善子「……靴の跡が、ね」


14: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:01:18.02 ID:LeKpDSJgO
ダイヤ「……く。くつの、あと……」

鞠莉「……マジ?」

善子「大マジよ。……どうも、直前に雨が降っていたらしくて。といっても、小雨程度だったみたいだけど」

善子「しかも、その道って、普段はちょっと砂ぼこりっていうか、砂利というか。……まあ砂がちょうどイイ感じにあんのよ」

花丸「その説明じゃよくわかんないずら」

曜「善子ちゃん……。説明スキルさんが足りてないよ……」

善子「いいでしょそこは!とにかく重要なのは、当時足跡が残る状況だったってこと!」

ダイヤ「……深夜にここ周辺の山道を歩くなど、普通の状況では到底考えられません。……もしその話が正しいとしたら、足跡をつけられる人間は、ほぼ確実にその女性だけ……ということになる」

善子「もっと不思議なことに、避けた後の痕跡は全く残ってないらしいの。あったのは、運転手が急ブレーキをする前に誰かがいたっていうことを示す足跡だけだった」

善子「……まるで。車が迫ってくる、その瞬間。空でも飛んで消えていったかのように、女性が目撃される前と後の足跡が、途切れていたらしいのよ」

梨子「……そ。そんなことが……」

曜「なんか。普通に霊がいたって言われるより、不気味だね……」

果南「…………。…。。……」

花丸「果南ちゃんの顔が、内浦の海よりも深い青色になっちゃったずら」


15: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:04:08.39 ID:LeKpDSJgO
ルビィ「……善子ちゃん。”最近この辺りに出る”っていう言い方をしてたってことは……それだけじゃ、ないんだよね?」

鞠莉「……」

善子「……。その通り。他にも、色んな不思議なことが起きているところで、若い女性が目撃されている」

善子「例えば、沼津の方ではそれこそ色んなことが起きているけど……。一番は、やっぱり『県自』の事故ね」

曜「!……『県自』の事故にも、その女の人が……?」

ダイヤ「……『県自』。静岡県で広く知られている、自動車学校の略で……県外からも、多くの方が免許を取りに来る場所ですね」

鞠莉「沼津は、広くて全部の教習が出来るから。わざわざ飛行機を使ってまで、免許を取りに来る人がいるって聞いているわ」

梨子「……合宿免許とか、そういうのもやってるんだよね」

ルビィ「……わおわお」ボソッ


善子「……うん、まあ、そんな場所のことね。そこの事故、皆知ってるでしょ?」

曜「うん。つい最近、事故があったんだよね……」



16: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:08:04.90 ID:LeKpDSJgO
果南「……私も、知ってる。……私のクラスメートが目の前で見たって言ってた」

果南「その子も、免許をとりに行ってたんだって。それで、教習の順番待ちをしてた時……」

果南「………目の前に。教習者が、突っ込んでくるのを見ていたって……」

ダイヤ「……」

鞠莉「……」

善子「……。ある教習車が、テンパったのかなんなのか、わからないけど……ブレーキを踏むべきところで、アクセルを踏んでしまった」

善子「そういう時ってフツウ、教官がブレーキを踏んで安全を確保するのよね?……でも、何故か。ブレーキが壊れていた」

善子「何でなのかは誰もわからない。ただ少なくとも、事故が起こる前の点検では、異常は見つからなかったって言われてる」

鞠莉「でも……事故は、起こった」

ダイヤ「……車は、次の教習の順番を待っている人たちのもとへと迫った。……その時……」

果南「急に。……”止まった”」

果南「……ブレーキが効いたとかじゃなくて。……本当に、急に。ピタリと、止まった……」

曜「……一時期、私たち2年の間でも、話題になってたよ」

梨子「そうだったね……」

善子「そこにも、山道で目撃された若い女性がいたっていうわけ」

果南「……」

17: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:08:51.12 ID:LeKpDSJgO
鞠莉「でもねえ。教習所って色んな人がいるし。若い女性ってだけでは、だから何って話じゃない?」

善子「それはそうね。……ただ、この前起きた事件」

善子「……船が壊されたことが、あったでしょ?」

果南「!」

曜「!」


梨子(……)


梨子(『船が壊された』……ついこの間起きた、内浦の漁師さんの船が何者かに壊されていた事件だ)

梨子(私は船に詳しくないからよくわからないけど……果南ちゃんから聞いた話だと、単なるイタズラの範疇に収まらない、ハデな壊され方をしていたそうだ)

梨子(ただ、現場にはかなり不可解なことが起きていたらしい)




ダイヤ「……重機でも用いないと出来ないような壊れ方をしていたのに。現場には、そのような痕跡が全く残っていなかった」

花丸「あったのは……壊された部分の、残骸だけだったんだよね」

果南「この田舎で、誰にも気付かれずに船を壊せるレベルの機械を動かすなんてこと、あり得ない」

鞠莉「田舎だからこそ、そういうのには敏感だから。……誰も目撃していないのは、不自然ってわけね」

ルビィ「皆、大騒ぎしてたよね。……何が何だかわからないって」

ルビィ「……その事件があった日に起きた、もう一つの事件があったから、余計に……」

梨子「……(もう一つの事件、か)」


18: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:09:46.56 ID:LeKpDSJgO
梨子(……船が壊されていた事件とは別に起きた、もう一つの事件)

梨子(これを、事件と呼んでいいのかどうかはわからないけど。……少なくとも、ある意味で大事件だったのは間違いない)


果南「その日。……全くそんな予兆はなかったっていうのに、急な天気の乱れで、海が荒れに荒れた」

ダイヤ「船が壊されていることがわかった、正にその日の午後。天候が急激に変動したのでしたね……」

ダイヤ「……あれは大変でした」

ルビィ「ルビィ達、学校に閉じ込められちゃったもんね……」

梨子「朝、あんなに晴れてたのに……気がついたら、辺り一面が雲に覆われていたのよね」

曜「私も直前まで気づかなかったよ。……体感天気予報、特技なのに」

花丸「……一番不思議だったのは。それだけ急で、大規模な気候変動なのに、犠牲者が一人も出ていなかったこと」

鞠莉「……アンビリーバボーとはこのことよね。その日、果南の家を含めて……なぜか、誰も船を出す予定がなかった」

鞠莉「……唯一。船を壊された人達を除いて」

果南「……」

曜「……」


ダイヤ「不幸中の幸いとでも言うのでしょうか……船が壊れて海に出られなかったことによって、結果的に命が助かったと言えます」

梨子「……奇跡。皆そう言って、船が壊されたこともうやむやになっちゃったんだよね……」

梨子「まるで、嵐が来るのをわかっていたかのようなタイミングで、船は壊され、その船に乗る予定だった人たちは助かった……」

花丸「まさか……」


19: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:10:43.73 ID:LeKpDSJgO

善子「そのまさか。……最近になって、船が壊される前夜、若い女性が目撃されていたことがわかったのよ」

ダイヤ「何ですって……!」

花丸「……船着き場に現れた、若い女性の[亡霊]……」

曜「……船が壊れたところにいるのが見られていて。……その後、不思議なことが起きて……」

花丸「最終的には、人の命が助かっている……。今善子ちゃんから聞いたばかりの話と、沿ってるずら」

果南「そ。そんなことが……」


善子「そう。[亡霊]現るところに、事件あり。つまり……」



善子「[亡霊]こそが事件を引き起こしている張本人なのよ!」





20: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:11:29.46 ID:LeKpDSJgO
梨子「……」

ダイヤ「……」

鞠莉「……」


善子「……あ、あれ?皆、なんか言わないの?」

梨子「そんなこと……あり得るの?」

曜「わからないけど……なんか、説得力あるかも」

善子「いや、そんな真面目に取られても……えっと……」

ルビィ「……でもさ。逆に、今まで何でわからなかったのかな」

善子「え?」


21: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:12:18.55 ID:LeKpDSJgO
ルビィ「あの時、かなり大きな騒ぎになってたんだよ。船が壊れたって」

ルビィ「そんな状況なのに、その時に目撃者の話をしないのは、不自然な気がするんだけど……」

鞠莉「……それは私も思ったけど。でも、何しろ直後に嵐が起きたじゃない?」

鞠莉「そっちに気を取られて、すっかり忘れていたってことはあり得るんじゃないかしら」

ルビィ「うぅん……」

善子「ま、まあ。今の鞠莉の話は、正しいわ。少なくとも、目撃したって人は同じことを言っている」

曜「でも……じゃあ何でこのタイミングになってそんな話が出てきたのかな?」

善子「……[亡霊]の目撃談が増えるにつれて、思い出したってことみたい」

善子「『そういえば、前の日に同じような人を見た覚えがある』って」

曜「……なるほど」

果南「同じような人ってことは……なんかその、ぼ、[亡霊]には共通点があったってこと……?」

ダイヤ「共通点というのは、若い女性であるという以外にですか?」

果南「……うん」

22: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:13:03.19 ID:LeKpDSJgO
花丸「……この手の話で、そういうのはアテにならないというか、誇張されたり味付けされたりしていくものだけど」

鞠莉「でも、それって都市伝説とかの場合でしょ?ローカルなルールが加わっていって、最初の話の原形がなくなっていくっていうのは、地域を跨いだケースにはあると思うよ。でも……」

ルビィ「[亡霊]の場合は、沼津の中だけの話なんだよね……」

曜「じゃあ、ちゃんと信用できる共通点があるかもしれないってことか……」

梨子「どうなの、善子ちゃん?」

善子「……正直、若い女性以外の情報で共通している点はないみたい。そもそもの情報が不足してるってことね」

ダイヤ「ふむ……」

善子「ただ、一つだけ。……髪の長さに関しては一致しているようなの」

梨子「髪……」

ルビィ「どれくらいの長さなの?」

善子「それが……短くもなく、長くもなく、でも女性ぐらいの長さって感じの……」

ダイヤ「……なんというか、至極アイマイですね……」

梨子「善子ちゃん……しっかり説明してよね」

善子「わかってるわよ!えっと……その……そう!」


23: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:14:02.75 ID:LeKpDSJgO
善子「そうよ!ちょうど千歌ぐらいの長さよ!」

果南「!」

曜「!」

善子「……たぶん」


千歌「・・・」


梨子「ち。ちかちゃんぐらい……」



千歌「・・・・・・」



鞠莉「……えっと、千歌?聞いてた?」

花丸「千歌ちゃん?自称堕天使に名前をよばれたよ?」

善子「……自称ゆーな」


千歌「・・・・・・ってえ?わ、わたし?」


24: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:15:01.42 ID:LeKpDSJgO
善子「他に誰がいるっていうのよ。千歌よ千歌」

千歌「え、あ、ゴメンゴメン。チカのことか~……。で、何の話だったっけ?」

善子「……あんたね……」

梨子「……千歌ちゃん(……話に夢中で、すっかり忘れていた)」


梨子(そういえば千歌ちゃんは、この話が始まってから、一言も発していなかった……)

梨子(……珍しい。確かに千歌ちゃんは、ぼーっとしてることもあるし、善子ちゃんのこの手の話は聞き流すことも多いけど)

梨子(皆が話しているところに、入ってこないなんて)

梨子(それも……内浦であった大事件の話をしてるっていうのに……)



曜「千歌ちゃん。どうかしたの?」

千歌「え?……何が?」

曜「いや、何か……考え事でもしてたのかなって思ったから」

千歌「ああ、うん……ちょっとね」


25: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:15:46.39 ID:LeKpDSJgO
善子「ちょっと。何考えてたの?」

千歌「あ、うん。……もしかして、その女の人。うちの旅館に来たことないのかなって」

梨子「……え?」

千歌「だって、善子ちゃんの言う人って、少なくともここら辺では見ない人なわけでしょ?……だったら、どこかに泊ってるかもしれないって、思って……」

梨子「……あ」

ダイヤ「……確かに」

花丸「もし、地元にいない、知らない人だったら。……どこかに泊っているはず、だもんね」


千歌「もしチカの旅館に泊ってる人なら、わかるかもって思って……。でも、若い女の人、いなかったなぁって、そう思って……」

梨子「千歌ちゃんぐらいの髪の長さの若い人、じゃなくて、そもそも若い女の人が泊ったってことはなかったってこと?」

千歌「う~ん……少なくとも、ここ数か月はそうだね」

花丸「[亡霊]が出たのって、つい最近の話なんだよね?」

善子「……確かに。話題になったのは、ここ数週間のことね」

ルビィ「……ま、鞠莉ちゃんのところには、いなかったの……?」

鞠莉「いたのかもしれないけど。……流石に、わからない」

果南「……でかい家に住むから、そうなるんだよ」

鞠莉「……はぁ?」


26: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:16:54.08 ID:LeKpDSJgO
曜「ま、まあ2人とも。……とにかく、内浦のどこかに泊っているってことはないってことなんだよね?」

千歌「う~ん。旅館組合の人全員から聞いたわけじゃないからわかんないけど、多分そうだと思う」

ダイヤ「……となると。少なくとも、[亡霊]と思われる方は内浦には泊っていない、ということになりますね」

ダイヤ「ですが、だからといって[亡霊]が人間ではない、ということにはなりません。……でも」

ダイヤ「人間には不可能なことが、その若い女性が現れるところでは起きている……ということを信じると。確かに、なんというか……」

果南「……」

鞠莉「マジに。……そういうこと……?」

花丸「……この内浦に、[亡霊]が、現れている。ってことになるずらね」

ルビィ「……うぅ。怖いよ……」

梨子「……で。でも。……悪いことをしてるわけじゃないし、気にする必要はないんじゃないかな?」

曜「……そ、そうだよね。人の命が助かるようなことをしているんだもんね?」

花丸「そうだね。……少なくとも、今のところは」

曜「……不安になること、付け足さないでよ」


27: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:17:53.70 ID:LeKpDSJgO
善子「……あ、あのさ。……そんなに深刻にならないでよ。アクマでウワサなんだし」

ダイヤ「……ウワサで片づけるには少々内容が悪魔じみすぎてます」

ルビィ「流石に最近あった事件の話までされると、ちょっと怖いって……」

善子「う。ご…ごめんなさい」

鞠莉「ま、まあ。……面白いといえば面白かったわよ、善子の話」

果南「……。……」

鞠莉「……面白さのあまりウケすぎて、果南は言葉を失っちゃったみたいだけど」

花丸「……ひっどい幼馴染ずら」


28: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:18:23.68 ID:LeKpDSJgO
ダイヤ「……とにかく。気を付けるにこしたことはなさそうですね」

千歌「そうだね。チカも、ちょっと旅館の人に聞いて色々調べてみるよ」

梨子「……」

ダイヤ「さて、もういい時間です。……支度して、とっとと帰りますわよ」

曜「……とっととって……」

ルビィ「口汚いよお姉ちゃん」

ダイヤ「やかましい!いいから帰りますわよ!」

「は~い……」


梨子(……それからは黙々と支度をして)

梨子(……今日も、何故か斜線を入れられている、〝スクールアイドル部〟の文字を目にしてから、私は部室から出た)



29: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:30:20.63 ID:LeKpDSJgO
ルビィ「……でね。善子ちゃんにアイドルの勉強のために借りた本が、凄く面白くってね」

果南「へぇ。善子、何の本貸したの?」

ダイヤ「アイドルの勉強になるような本……わたくしも興味がありますね」

善子「……ダイヤには合わないと思うわよ」

ダイヤ「は。は?」

果南「どういう意味なの、それ?」

善子「いや……ダイヤってお堅いし。嫌いかなって」

果南「だから。その嫌いかなってもののことをちゃんと言ってよ」

善子「……ラノベよ」

果南「ラノベ?……ああ……」

ダイヤ「……」

ルビィ「途端に顔が厳しくなっちゃった」

善子「だーもう!だから言いたくなかったのにぃ!ルビィ!あんたのせいよ!」

ルビィ「ええ……」

果南「そもそもなんでルビィがアイドルに役立つって思ったのかが謎なんだけど……」


鞠莉「……いや~。平和ねぇ」

花丸「平和ずら」

曜「なんか眠くなっちゃうね」

鞠莉「あーわかる。なんにも考えずにぷかぷかお風呂に浮かびながら寝ちゃいたい。疲れがお湯ん中にじわじわ溶けていくのをぼんやり感じながら、消え入りたい」

花丸「あ~いいねぇ。極楽だろうね」

曜「……それは違う意味で極楽に行きそうだね……いや、合ってると言えば合ってるんだけど……なんだろうこのモヤモヤ」



30: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:31:22.47 ID:LeKpDSJgO
梨子(学校から出て、気付いたら流れで松月に寄ろうってなって。皆が思い思いに話をして、歩を進める中……私は、部室での話を思い出していた)


梨子「……人間には不可能なことを起こす、[亡霊]か……」

千歌「梨子ちゃん。気になるの?」

梨子「……え?あ、うん。えっと……気になるって?」

千歌「今、うんって言っちゃったよ梨子ちゃん。……それより、さっきの善子ちゃんの話。まだ、気になってるの?」

梨子「ああ……うん」

千歌「やっぱり。……で?どんなことが気になってるの」

梨子「どんなことっていうか……」

千歌「……?」

梨子「……」


31: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:31:54.74 ID:LeKpDSJgO

梨子「ねえ、千歌ちゃん」

千歌「ん、なあに?」

梨子「……千歌ちゃんって。……その」

梨子「生き別れの姉妹とか、いたりしない……?」

千歌「・・・・・・私に?何で?」

梨子「実は……」


32: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:32:45.62 ID:LeKpDSJgO

梨子(……実は。私は、もしかしたら[亡霊]に会ったことがあるのかもしれないと、思っていた)

梨子(善子ちゃんの話を聞いていて、ふと、思い出したことがあった)

梨子(私が、内浦に来た、あの日。……千歌ちゃんと出会ったあの運命の日の、一日前)

梨子(……私は。ある不思議な女の人に会っていたのだ)


33: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:33:29.01 ID:LeKpDSJgO
梨子(あれは、私が内浦の家に着いて、私の大事なピアノが届いた日だった)

梨子(……ピアノが弾けない。でも、ピアノはここに来て、ここにあって。……でも、それを引くための心が、私が、ここにいなくて)

梨子(言い表しようのない気持ちが広がって……でもどうにかすることもなくて。ただ、家の前に広がる海を、見に行って……)

梨子「海はキラキラしてるのに。キラキラしてるはずなのに。視界には、太陽の光を反射した煌めきが、いくつも目に入ってるはずなのに」

梨子(私の視界は、ぼやけていて。その煌めきのどれも。その粒たちの、どれも。ちゃんと、見ていなかった)

梨子(……そうして、ただぼーっとしていた時。ふと、近くに女の人が立っていることに気づいた)

梨子(なんで気づけたのかは、上手く言葉にできない。でも、何となく……ヘンな雰囲気を感じたからだと思う)

梨子(とにかく、私は女の人の方に視線を向けてみた)

梨子(雰囲気は、私よりも年上の感じで。大人の佇まいだったけど。でも、なんだか親しみがあるような……)

梨子(不思議な感じのする人だった)

梨子(でも、全体から感じる雰囲気は、ただそれだけだった。……ヘンな雰囲気がする感じでは、なかった)

梨子(だから、その人の表情を見た。何でヘンな感じがしたのか、確かめるために)


34: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:33:59.14 ID:LeKpDSJgO
梨子(……そこには、確かに、ヘンな雰囲気がした原因があった)

梨子(……その人は。首から下げたペンダントを握りしめ)

梨子(……物凄く驚いたような……あるいは、呆然としたような表情を、していた)


『え。……え?……なんで、〈あなた〉が……』


梨子(……私には聴き取れなかったけど。何か言葉を漏らした、その後)

梨子(女の人は、急に、ふらっと……姿勢を崩して)


梨子『え。え?ええええぇぇぇぇ!?』


梨子(……思わず飛び出した私の腕の中に。収まっていた)



35: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:35:32.34 ID:LeKpDSJgO

梨子「……。あの。……落ち着きましたか?」

「うん。・・・・・・ありがとね。わざわざお家まで運んでくれて、休ませてくれて」

梨子「い、いえ……。本当なら、救急車を呼ぶべきだったかもしれないですけど……」

「そこまでじゃなかったから、大丈夫だよ。ごめんね、迷惑かけちゃったね」

梨子「いや、そんなことないですよ」

「・・・・・・ふふっ。いい娘だね、あなたは」

梨子「……」

「そういえば、お家の人は?私、ご挨拶したいんだけど」

梨子「あ、その。まだ、引っ越しの諸々が終わってなくて、色々してるというか……」

「・・・・・・ああ、なるほど。どうりでここら辺じゃ見ない顔だと思ったよ」

梨子「……地元の方、なんですか?」

「・・・・・・。・・・・・・正解と言えば正解だけど、ちょっと違うかな」

「私はここで生まれたはずなんだけど。実際には、違うところで育ったんだ」

梨子「……な。なるほど」


梨子(……触れちゃいけないこと、だったのかな)


36: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:36:21.21 ID:LeKpDSJgO
「そんな気を遣わなくて大丈夫だよ。よく覚えてないし」

「ま、でも自分の生まれた場所だしってことで。せっかくだから、時間を取って観光してたんだよ」

梨子「……そう、ですか」

「そう。・・・・・・。ところで、あなたの名前は?」

梨子「え。……あ、すみません申し遅れました!私の名前は……」


「・・・・・・」



梨子「……桜内、梨子です。……東京から来て、明後日から浦の星女学院という学校に編入する予定の、女子高生……です」




「・・・・・・・・・」





37: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:37:15.13 ID:LeKpDSJgO

「・・・女子高生ってところまでは言わなくても大丈夫だったけどね。そっか、梨子ちゃん、か・・・・・・」

「梨子ちゃん。ありがとね?・・・・・・」


「・・・・・・私を助けてくれて、ありがとう」


梨子「い、いえ。当然のことですから……」

「・・・・・・」

梨子「……あの。私も、あなたのお名前をお聞きしてもよろしいですか?」

「・・・・・・私の名前?」

梨子「は、はい。せっかく、出会えたんですし……」

「・・・そうだね。どうしっよかな」

梨子「……あ。あの……」

「・・・・・・なんて。冗談だよ、冗談。・・・・・・私は」



38: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:38:19.96 ID:LeKpDSJgO

「・・・・・・私の名前は、”ハオ”。文字は、言葉の葉と、数字の百を組み合わせて、”葉百”って書いて”ハオ”って読むんだ」

梨子「……ハオ……」

「・・・・・・ちなみに、苗字は言わないけど、少なくともアサクラじゃないからね?」

梨子「……あ。は、はい!わかりました!は、はお……さん?」

「・・・・・・ふふっ。珍しいよね、私の名前」

梨子「あ……ええと……」

「あはは。困らせちゃったね、ごめん。・・・・・・でも、普通じゃあんまり聞かないような名前でしょ?」

梨子「……まぁ、そうかもしれませんね」

「そうなんだよ。・・・百って字を”お”って発音するの、それこそヤオヨロズとか、そういう言葉でしか見たこともないだろうし聞いたこともないだろうしね」

梨子「……そう、ですね」


梨子(……八百万の言葉。言霊って言葉もあるように、言葉を聖なるものだと考えると)

梨子(まるで、神様みたいな名前だって……そんな感じもするかも……)


「・・・・・・」


39: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:40:22.08 ID:LeKpDSJgO
梨子「その。……葉百さん、私を見て驚かれていたと思うんですけど」

「ああ。そうだね・・・・・・」

梨子「私。何か、おかしかったですか?」

「え?」

梨子「その……凄くヘンな顔、してたとか……」

「・・・・・・あっはは!ないない!」

「そんなことないよ。ちょっとまともすぎるぐらい、まともなかおだよ!」

梨子「……そ、そうですか……」

「・・・・・・。ちょっとね。昔のことを、思い出しちゃったんだ」

梨子「昔のこと……ですか……」

「うん。・・・・・・ピアニストの友達のことを、ね」

梨子「……!」

「・・・・・・。そういえば。梨子ちゃんも、ピアノ、弾くんだよね?」

梨子「え。……な、なんでわかるんですか……」

「だって、そこに置いてあるし。ピアノ」

梨子「……あ」


40: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:41:20.29 ID:LeKpDSJgO

「・・・・・・。梨子ちゃん。助けてくれたお礼に、ちょっと占いしてあげるよ」

梨子「……え。え?」

「なんかあるでしょ?今の梨子ちゃん」

梨子「……それは……」

「だから、せめてものお礼ってことで。占って、梨子ちゃんの道を教えてあげるよ!」

梨子「……ええっと。でも、その……」

「大丈夫、任せて!・・・・・・こう見えて、ウチは占いが得意なのだ!」

梨子「あの、えっと」

「・・・・・・う~ん。見えてきた」

梨子「いや、あの。……別に、私は頼んでな、」

「わかった!」

梨子「はい!?」

「・・・・・・梨子ちゃん。なんだか悩んでるね?それも、ピアノについて」

梨子「……え。な、なんでわかるんですか……?」

「カードがウチに告げたんやっ。梨子ちゃんの悩みは、そこだーって!」

梨子「……カード、持ってないじゃないですか」

「まあ、ほら、そこはさ。心のカードっていうかさ」

梨子「……」

「とにかくっ。・・・・・・ピアノで悩んでる梨子ちゃん。それは、なんでなのかな?」

梨子「……それは」


41: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:44:51.34 ID:LeKpDSJgO

梨子「……実は。自分でも、よくわかってないんです」

「・・・・・・」

梨子「ただ、上手く弾けないんです。……とにかく、上手く弾ける気がしなくて」

「・・・・・・自分で、納得できない?」

梨子「……はい」

「そっか。・・・・・・ねえ、梨子ちゃん?」

梨子「……はい?」

「ちょっと。弾かせてくれるかな?」

梨子「……え?」

「ピアノ。・・・・・・私に、弾かせてもらってもいい?」

梨子「え、あ。……はい」


梨子(何故だろう……大切なピアノを、見ず知らずの、さっき会ったばかりの人に触らせるなんて)

梨子(普段の私なら、しないはずなんだけど……)

梨子(でも。なんでか、自然と私は、葉百さんにピアノを弾いてもらっていた……)



42: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:45:50.66 ID:LeKpDSJgO

梨子「……す。すごい……」


梨子(本当にすごかった。物凄く精確な、音。……人間にこんな演奏が出来るのかってぐらい。到底想像出来ないぐらい、美しい音)

梨子(あまりの凄さに、もう一度私から弾いてもらうように頼み込んでしまった)

梨子(……二度目も凄かった。こっそり、スマホで録音してしまったけど、それだけ凄かった)


梨子「す、すごい……こんな完璧な演奏……」

「ふふっ、ありがとう。でも、キラキラしてなかったでしょ?」

梨子「え、あ、それは……」

「気を使ってくれなくてもいいんだよ。……この演奏は、技術だけで、心が籠ってない」

「まるで機械のような演奏だったでしょ?」

梨子「……」



43: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:46:57.07 ID:LeKpDSJgO

「ねえ。・・・・・・梨子ちゃんが目指しているのは、こんな音色?」

梨子「……そ。それは……で、でも!……」

「違うんだよね。・・・・・・だったら、梨子ちゃんが悩んでるのは技術の問題じゃない」

「・・・・・・何をするべきか。何が、自分の目指すものなのか」

梨子「……!」

「・・・・・・。〈あなた〉はそれを求めている。・・・・・・違う?」


梨子「……そう、かもしれません」


「・・・・・・そう。・・・・・・だったら、もう一つだけ占いしてあげる」


梨子「……え?」

「・・・・・・。きっと。すぐに、会うことになる」

「あなたの求めているものを、一緒に探してくれる、人に」ギュッ

梨子「……」


44: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:48:11.95 ID:LeKpDSJgO

梨子(……その人は。首から下げたペンダントを握りしめ。私の目を、真っすぐ見て)

梨子(そう、言った)

梨子(……そして、葉百さんと別れて。海の音を聴きたいって思った時に)

梨子(……運命の出会いをした)

梨子(千歌ちゃんと。出会ったんだ……)



45: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:49:03.81 ID:LeKpDSJgO


千歌「……へえ。そんなことがあったんだ」

梨子「うん」

千歌「でも、なんでそこから生き別れの姉妹って発想が出てくるの?」

梨子「それは……」




梨子(その人は……今考えれば)

梨子(……千歌ちゃんに、よく似ていたから……)


46: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:49:30.03 ID:LeKpDSJgO

梨子「……」

千歌「……。ま、いっか」

千歌「一応言っとくけど、チカにはいないよ?志満ねぇと、美渡ねぇと、あとしいたけ!姉妹は全部でそんだけだよ」

梨子「……そう、よね」


梨子(……そうだよね。単なる、私の思い違いだよね……)


47: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:49:58.67 ID:LeKpDSJgO
千歌「……あっ。そういえば!」

梨子「え?」

千歌「善子ちゃんに借りてた漫画、返すの忘れてた!今返さなきゃ!」

梨子「……えぇ?今それ?というか、今なの?」

千歌「忘れないうちにだよ!善子は急げ~ってね!」

梨子「……善は急げでしょ、それを言うなら」

千歌「そうともいう!……お~い、よしこちゃーん!」

梨子「……はぁ」


48: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:50:34.29 ID:LeKpDSJgO

梨子(……最近、善子ちゃんは、自分の趣味が受け入れられないことを遺憾に思ったらしく、こっちがちょっと興味がありそうな素振りを見せると、爛々とした目と共に自分の好きなものを貸し出すようになった)

梨子(千歌ちゃんも、ルビィちゃんも、その魔の手にかかって。……見事に、善子ちゃんの趣味を理解しつつあるようだった)

梨子(……かく言う私も。リリーとか呼ばれるようになった後は、真っ先に標的にされて、アニメを半ば無理やり貸されている)

梨子(……まあ、正直面白いんだけど。今も早く家に帰って続きを観たいと思ってる自分がいるし)

梨子(もっと早く知っていれば……!アキバの近くに住んでいたあの頃、すぐに聖地巡礼出来たのに……!)

梨子(ドクペ好きじゃなかったけど、あの作品を観た後だと無性に飲んでみたくなるのに……!お母さん買ってくれないし……!)


49: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:54:07.00 ID:LeKpDSJgO

曜「……梨子ちゃん。凄い顔してるよ」

梨子「え、え!?あれ、曜ちゃん……?」

曜「気づいてなかったの?」

梨子「あ、ご、ごめん」

果南「けっこー梨子ってそういうとこあるよね。なんか自分の世界に入り込んだら一直線っていうか」

梨子「果南ちゃんまで……」


50: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:55:28.38 ID:LeKpDSJgO
梨子「……二人とも、さっきまで善子ちゃんとか花丸ちゃんとかと話してたけど、どうしたの?」

果南「どうしたって言われても……。千歌が善子のとこに来てからちょっと話についていけなくなったからさ。なんか漫画の話なんだけど、ぎたいがーとかあんじゅぇがーとか、ふ、ふらてっろ?とかさ」

梨子「ふらてっろ?」

果南「兄妹、って意味らしいけど。よくわかんない」

梨子「……その話に、ルビィちゃんはついていけてるの?」

果南「そうみたい。で、ダイヤもそういう漫画なら読んでみたいとか言って大騒ぎだしさ」

梨子「果南ちゃんは読んでみたくないの?」

果南「読みたいっちゃ読みたいけど。……なんか話を聞くに、ちょっと重たそうな内容でさ」

果南「それに人間の体を改造するって話は、ちょっと性に合わないっていうか……」

梨子「……そ、そう。……曜ちゃんは?」


51: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:56:29.80 ID:LeKpDSJgO
曜「……なんか、鞠莉ちゃんと花丸ちゃんで、天国と極楽のどっちが強いのかって話になって、全然ついていけないから逃げてきた」

梨子「ええ……」


曜「鞠莉ちゃんがさ。天国へは階段でいけるしドアもあるし、天国の中の涙ってことも考えられるから、天国って人間らしさが残る場所なんだって言って」

曜「じゃあ、人間らしくいられる天国の方が人間にとってはある意味最高の場所なんじゃないかって言ってね」

曜「花丸ちゃんは、でも人間らしさを残しちゃえるような場所なのに天国的な平和があったら、退屈で地獄に行きたくなるようになるはずだって言ってさ」

曜「そもそも死んじゃった後に人間らしさが残るのってどうなんだろうね?……って聞いてみたら。二人が白熱しちゃって……より人間の幸せを実現できる場所はどっちなんだろうって、強さ議論しちゃってね」

梨子「……壮大な話ね(……それって火種は曜ちゃんが蒔いたんじゃないの……?)」


52: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:58:05.82 ID:LeKpDSJgO
果南「……ところでさ。最近、ヘンだと思わない?」

梨子「……え?何が?」

果南「いや、だからさ。最近、ヘンな感じ、しない?」

梨子「……[亡霊]とかのウワサが出る、沼津のこと?」

果南「いや!そうじゃなくて!……というかその話しないでよ!せっかく忘れてたのに!」

梨子「……ご、ごめんなさい……(理不尽に怒られた……)」

曜「……果南ちゃんが言いたいのはね。千歌ちゃんのことなんだよ」

梨子「……!千歌、ちゃん……?」

果南「そう。……曜とも話してたんだ」


果南『……なんか最近の千歌、妙な気がするなー』

曜『果南ちゃんもそう思う?私もそうなんだけど……でも様子はそんなに変わらないし……』


果南「ってさ」

梨子「……」

53: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:58:48.11 ID:LeKpDSJgO
曜「なんでなんだろうねって二人で話してて。やっぱ、大技に挑戦するからっていうところもあるのかなって感じになったんだけど」

梨子「……前、三年生がケガしたっていう、あのフォーメーションのことだよね」

果南「そ。……でも、改めて思うと、それだけじゃない気がするんだよなーって」

梨子「……それだけじゃない?」

果南「うん。……なんか、千歌が自分のこと話す時に、ちょっと違和感がある時があるとでもいうか……」

梨子「……」

曜「私もそんな感じ。……なんか、千歌ちゃんは千歌ちゃんなのに、千歌ちゃんじゃない感じがするっていうか」

梨子「……二人とも。何が何だかよく解らなくなってるよ」

果南「……そうなんだけど」

曜「でも……」



54: 名無しさん 2019/07/01(月) 22:59:55.22 ID:LeKpDSJgO
梨子「……実を言うと。私も、ちょっと気になってはいたんだけど」

果南「!」

曜「!」

梨子「でも。それでも、千歌ちゃんは千歌ちゃんだし……」

果南「……そうなんだけどさ」

曜「……結局。梨子ちゃんも何が何だかよく解らなくなってるよ」

梨子「……それもそうなんだけどさ」


梨子(はぁ……なんてそろってため息をつきつつ、千歌ちゃんの方を見た)

梨子(千歌ちゃん……。確かにここ最近、なんだか本調子じゃないのか、ヘンな感じがちょっとだけすることがある)

梨子(……何でなのかは、わからないけど。……千歌ちゃんの様子がおかしい時は、皆気付くし、私たちだけが違和感を感じているっていうのが、一番ヘンな感じがする)


55: 名無しさん 2019/07/01(月) 23:02:20.68 ID:LeKpDSJgO

梨子(……千歌ちゃん。楽しそうだな……)

梨子(善子ちゃんも千歌ちゃんと話が合って嬉しそうで。急に堤防に乗って腕をブンブン振ってるし)

梨子(危ないな……と思ったらダイヤさんが注意し始めた。流石ダイヤさん)

梨子(……そんなの気にせず千歌ちゃんも堤防に乗ってるけど……。いや、あれは善子ちゃんを止めるためかな)


「むーかーしー むーかーしー♪あーるーとーこーろーにー?」

「パースーターのくーにーがーあーりーまーしたー♪」


梨子(……違った。二人ではしゃぐためだ)

梨子(二人してなんか歌い出して……)


ルビィ「……二人ともはしたない」

ダイヤ「ですね……」


梨子(……。ルビィちゃんの辛辣な言葉を受けても気にせず歌ってるのは流石ね……)


花丸「はぁ……今日も平和ずら」

鞠莉「……そうね。やっぱ、今日も平和ね」


梨子(……気づいたら花丸ちゃんと鞠莉ちゃんが疲れてるし)


梨子「はぁ……なんか私も疲れちゃったな」


56: 名無しさん 2019/07/01(月) 23:03:42.20 ID:LeKpDSJgO
梨子(……そんな風に、独りごちてた時。急に、善子ちゃんが叫んだ)


善子「わーっ!私のカバンー!!」


梨子(……手に持っていたカバンを、ブラブラ揺らしてる内に。不意に、すっぽ抜けてしまったらしい)

梨子(カバンは、善子ちゃんの頭上に舞い上がった後。……善子ちゃんからちょっとズレて、海の方に堕ちていった)


善子「っ!まだ掴めるっ……!って、え?」


梨子(善子ちゃんは、必死に手を伸ばして、カバンの紐を掴んだ)

梨子(でも……無理な姿勢で手を伸ばしたためか、そのままバランスを崩して……)


花丸「危ないっ!!」

ダイヤ「っ!落ちてしまいます!」

曜「!!」

善子「い。いやあああ!!」


梨子(……海に、落ちそうになっていた)


ルビィ「っ!!」

果南「この角度じゃ……!」


梨子(善子ちゃんは、頭から落っこちそうになっていた)

梨子(その先は……水じゃない。……テトラポッド……たくさんの、岩……!)

梨子(このままじゃ……!)


鞠莉「善子が……!」

梨子「善子ちゃん!!」

千歌「・・・ッ!!」


57: 名無しさん 2019/07/01(月) 23:05:24.42 ID:LeKpDSJgO

梨子(……皆。固唾をのんだ、その時)

梨子(千歌ちゃんが。善子ちゃんに向かって飛び出した)

梨子(……不安定な姿勢で、手を伸ばした千歌ちゃん。……下手をすれば、二人とも真っ逆さまに、落ちていってしまうような、状態なのに)

梨子(まるで。当然のように、善子ちゃんは千歌ちゃんに、片腕で受け止められていた)

梨子(……片足立ちのプロでも、そんな安定した姿勢はとれないんじゃないかって思うぐらい、キレイに片足だけ立てて)

梨子(善子ちゃんを左腕に抱いて。まるで時が止まったかのような、一瞬が過ぎた)



58: 名無しさん 2019/07/01(月) 23:06:16.46 ID:LeKpDSJgO


善子「……あ。あれ……?」

千歌「・・・・・・。大丈夫、善子ちゃん?」

善子「……う。うん……」

千歌「・・・・・・ダメだよ。心配かけちゃ」

善子「……うん……」

千歌「よかった。・・・・・・善子ちゃん」ギュッ

善子「ぁ……。ごめんな、さい。……ありがとう」ギュッ



鞠莉「……よ。よかった……」

梨子「……ホントに。二人とも、ケガしなくてホントによかった」

千歌「……よかったよー!善子ちゃんが無事でよかったよー!」ギュゥゥ

善子「え、あ、ちょっ!力強いー!放してっててばー!!」ギュゥッ

曜「……」

果南「……ハグしてるね~」

花丸「離れる気ないじゃん善子ちゃん」

梨子「……」


梨子(……何事もなかったかのように、いつもの空気になった)

梨子(それはいいんだけど……絶対ダイヤさんに怒られるよ)

ダイヤ「……」

ルビィ「……」


梨子(……あれ。怒らない……というか、何か考え込んでる……?)


59: 名無しさん 2019/07/01(月) 23:07:29.33 ID:LeKpDSJgO
梨子「あの。ダイヤさん?」

ダイヤ「えっ?……え、はい?」

梨子「どうかしたんですか?」

ダイヤ「あ、いえ……。ただ……」

ダイヤ「今の、動き……。まるで、達人のようでした」

梨子「た、達人?」


ダイヤ「ええ。……善子さんを支えつつ、片足ながらも自身も体勢を崩さない、その絶妙なところで、ピタリと止まった……」

ダイヤ「非常に難しいバランスを、一瞬のうちですが千歌さんはとれていた。……一歩間違えれば、二人とも海に落ちていたでしょう」

ダイヤ「考えられないことですが、善子さんを助けた今の動き。千歌さんの体運びは、武術を極めた達人のごとく洗練されたものだったように見えましたね」

ダイヤ「それこそ、〝奇跡〟なのでしょうけど、ね」フフッ

梨子「……!」

60: 名無しさん 2019/07/01(月) 23:08:38.19 ID:LeKpDSJgO

梨子(……〝奇跡〟を、千歌ちゃんが起こした)

梨子(……ダイヤさんは、お家の方針で、武術もたしなんでいるって、前に聞いたことがある)

梨子(そのダイヤさんが言うことだ。……本当に、千歌ちゃんは〝奇跡〟を起こした、ってことなんだろう……)



ルビィ「……善子ちゃん、顔真っ赤だね。そんなに千歌ちゃんに抱きしめられて嬉しいの?」

曜「え?」

千歌「えっ」

善子「え!?……あ。ち、違う!これは夕日のせいでこうなってるだけよ!サンシャインのせいよ!!」


61: 名無しさん 2019/07/01(月) 23:09:11.69 ID:LeKpDSJgO

鞠莉「……今日は土曜の午前練習の日よ。日が暮れるどころか、日が昇ったばかりの時間なのよ?」

果南「夕日なんて出ようがないね」

善子「あ。……ぅう……」

千歌「……よしこちゃ~ん?」

善子「ひぇっ」

千歌「かわいいところあるなーこのこの!」

善子「や、やめてよー!後私はヨハネだってばー!!」


梨子(……なんか。ウヤムヤになっちゃったけど)

梨子(……これで、いいのかな。平和だし……)


曜「……」


梨子(……内浦は今日も平和。……沼津のことは、知らない)

梨子(……[亡霊]のことも。きっと……本当に、単なるウワサなんだよね……)

梨子(松月で何食べよっかな~……)


62: 名無しさん 2019/07/02(火) 06:33:37.81 ID:nMYKt+U7O
「ねぇ、知ってる?最近流行りの、AIのこと」





梨子(……Aqoursの練習が始まる前。何故だか訂正の線が自然に思えてしまう、『スクールアイドル部』のプレートが掲げられた部屋の中で)

梨子(遅れて入ってきた、三年生の鞠莉ちゃん……この学校の理事長までしている、スーパー高校生が。不意にそんなことを言い出した)


ルビィ「……えっとぉ~えっと。……あっ、ここだ!」

ダイヤ「残念。……そこだと、こうすると……王手!」

ルビィ「あ!ま、まった!」

ダイヤ「……ふふっ。待ったは、ナシですよ?」

ルビィ「ええ~……」


梨子(……最近、部室の奥に、埃をかぶった将棋板を見つけてから。何故か黒澤姉妹は、その遊びにドハマりして)

梨子(しょっちゅう、姉妹で対局するようになった)

梨子(……今のところ、ルビィちゃんはダイヤさんには遠く及ばないようだけど……)

梨子(それでも、やるたびに成長していくルビィちゃんに、驚かされながら、自分もその場で色々考えられて、成長出来て嬉しいって……ダイヤさん言ってたな)


63: 名無しさん 2019/07/02(火) 06:36:35.45 ID:nMYKt+U7O
鞠莉「……ちょっとそこの鉱物姉妹話聞きなさいよ」

花丸「えーあい?未来ずら?」

鞠莉「うん、未来じゃなくて今なんだけどね。でも、ある意味未来の話かもね。……花丸はちゃんと人の話聞けて、えらい!」ギュッ

花丸「わあ。……鞠莉ちゃん、急に抱き着かないでよぉ」

果南「もう。マルってば何でも未来って言うんだから。……ま、私もえーあいって何のことかわかんないけどね」

ダイヤ「……AI。アーティフィシャル・インテリジェンス……人工知能の略ですね。お二人とも、ちゃんとニュース見てますか?」

果南「お、復活したね。……ニュースなら見てるよ。天気予報とか、連続テレビ小説とか」

ダイヤ「……」

64: 名無しさん 2019/07/02(火) 06:37:11.43 ID:nMYKt+U7O
花丸「おらの家、ご飯の時はテレビ見ないから。……いいなあ果南ちゃん。おらは土曜日の一週間分の放送しか見てないずら」

果南「あ~マジか。何気にクラスメイトとの話についていけなくなるやつだよね、それ」

花丸「そうなんだよ。水曜ぐらいから、だんだん話がわからなくなってきて……でもネタバレはされるし」

果南「つらいな~それ。しかもAqours始めてからは、土曜も練習だもんね?」

花丸「そうなんだよ~。結局日曜に録画してたのを見てるんだよね」

果南「そうなんだ。じゃあ、マルの前じゃネタバレしないように、今朝見た話はしないようにするよ」

花丸「ありがと~果南ちゃん!」ギュッ

ダイヤ「……」


65: 名無しさん 2019/07/02(火) 06:37:57.44 ID:nMYKt+U7O

鞠莉「あのさ。……話、してもいい?」

曜「……AZALEAは無視してもいいんじゃないかな、この際」

鞠莉「……そうする」

梨子「あ、あはは」

ルビィ「……そういえば、鞠莉ちゃん、最近学校に来てなかったよね?なんか、けいえいしゃのなんとか~ってのに出てて」

鞠莉「そうなの!よく聞いてくれたわね、ルビィ!……将来の経営者たるもの、最新技術の何たるかを知らねばならない~ってパパとママが言うもんだからさ!」

鞠莉「しょーがないから行ってきてたのよ、技術交流会とかいうやつ!すっごいけどすごくない、すごい面白いけどすごく興味持てない会に私ずっと行ってたの~!!」

ルビィ「……そ。そう」


梨子(……鞠莉ちゃんは、ホテルオハラの跡継ぎで。物凄いお嬢様で、信じられないくらい色んなことをやってきた人だ)

梨子(それなのに、とってもフランクで、たまに泣き虫なところがあって。……すごく人間味を感じて、引け目を感じることなく接することの出来る、大好きな先輩だ)

梨子(その鞠莉ちゃんが行ってきたっていう、技術交流会。……どんな内容だったのかな?)



66: 名無しさん 2019/07/02(火) 06:39:48.52 ID:nMYKt+U7O
善子「AI……。ダイヤじゃないけど、最近ニュースでよく聞く話題ね。それが、どうかしたの?」

鞠莉「善子もよくぞ聞いてくれたわ!……オハラとしても開発の支援を行ってきて、技術の発展を促している分野なんだけどね!いや~、今まで、AIって、言葉だけが一人歩きして、いつかロボットが人間に代わるとかなんとか言われて、でも実際にはAIを人型のものになんてしてなくて、単なる統計の計算を人間よりもずっと速くやるもんだから、そのための道具に使ったりだとか、あと色々な場面には使えるけどそのいろんな場面を規定するのは結局人間だから、汎用知能としてのAIなんてものが出来るかって話があったりだとか……」

善子「長い。要するに?」

鞠莉「……いけず」

善子「和の心全開な言葉で罵倒するな!本当に話したいことってそうじゃないでしょって言ってるのよ!」

鞠莉「わかったわよ。ジョークよジョーク。……要するに、案外早く、ロボットが人間に取って代わる日が来るかもって話よ」

花丸「……人間が」

果南「ロボットに……?」

鞠莉「……食い付いたわね。……そ。今までは、体と頭で分けてたけど、そうじゃなくて、全体が連動しているロボット……AIが、単純な頭脳じゃなくて、神経にもなって、動けるものっていうのが、開発され始めているの」

ルビィ「……ぜんたい?」

鞠莉「そう。元々、AIってそれ一つだけ取ってみれば、既に人間っぽいことが出来るようになってはいたのよ」


67: 名無しさん 2019/07/02(火) 06:41:27.80 ID:nMYKt+U7O
曜「……ちょっと、よくわかんないな」

鞠莉「そうねぇ。……チューリングテストって、皆は聞いたことある?」

梨子「ちゅーりんぐ……」

曜「てすと……?」

千歌「……テストの話は、好きじゃないなぁ」

ダイヤ「……ある数学者が提案した、機械に知能が存在するかどうかを判定する為のテストですね」

ダイヤ「具体的には相手は機械なのか人間なのかわからない状況下において、質問者が機械の返した回答の内容から相手が機械であると判別する事ができなければ、その機械は知能を持つとする、というもののことでしたか」

梨子「お、おぉ……」

曜「流石ダイヤさん……」

ダイヤ「……というか、千歌さん。ちゃんとテスト勉強はするように」

千歌「……はぁ~い」

68: 名無しさん 2019/07/02(火) 06:42:25.67 ID:nMYKt+U7O
善子「へぇ。……で、結局、チューリングテストって?」

ダイヤ「……何のためにわたくしが話したと思っているんです……!」

善子「だってわかんなかったんだもん!」

鞠莉「まあまあ。……要するに、AI……コンピューターと、人間を並べて。別の人間にその二つ……二人?と、会話させて、こっちの方が人間っぽい!って思った方に投票して当てさせるゲームみたいなものよ」

花丸「……なるほど。コンピューターと人間と、どっちが人間っぽいか当てるってことずらね?」

鞠莉「流石花丸、よくわかってるわね」

ルビィ「え、でも。……今、花丸ちゃんは人間かどうかじゃなくて、人間っぽいかって言ったよ……?」

花丸「……え?」

ダイヤ「……ルビィ?」

ルビィ「……人間かどうかを当てるのと、人間っぽいかどうかを当てるのって。……その、何か違う気がするんだけど……」

花丸「あ……」

鞠莉「……そうね。でも、それで合ってるのよ。人間かどうかを判断するのには、人間っぽさを人間が判断するしか、方法がないんだから」


69: 名無しさん 2019/07/02(火) 06:43:16.54 ID:nMYKt+U7O

ルビィ「……それって。もし、機械が人間にとって、本当の人間と話してる時より、機械の方が人間と話してる気がするなって思ったら、機械が人間になっちゃうってこと?」

梨子「!」

善子「!」


鞠莉「……話が早くて助かるわ。……ルビィの言う通り。実を言うと、AIは人間よりも人間らしく振舞うことが出来る可能性を持ち始めている」

果南「人間よりも、人間らしく……」

鞠莉「機械だったら、不要なことは言わないっていうのかな?そういう先入観を逆手にとってる部分もあるんだけど」

鞠莉「機械だったら、言わない。あり得ないようなことも、計算して、たとえ不自然でも、自然に振舞えるように作ることは出来る」

鞠莉「そうやって、不自然さすら自然に見せる……そういうことを、AIに出来るようにさせることは、出来るのよ」

曜「……不自然さも、計算出来る、か」

鞠莉「……皮肉なものでね。チューリングテストを受けて、ちゃんとAIと人間の違いを見破って、どっちが本当の人間か、当てることが出来た人には、こんな称号が与えられるそうよ」

鞠莉「……『最も人間らしい人間』って……」

梨子「……」

果南「……」

千歌「・・・・・・」

ダイヤ「機械と比べることで、初めて人間らしさがわかる……そういう、考え方があるということでしょうか」

鞠莉「ま、そういうこと」

花丸「……それで。そんなAIが、ロボットに……つまり、姿形も、人間に近づけて。いや、近づくどころか、人間よりも人間らしく振舞えるようになり始めたってことなの?」

鞠莉「……流石花丸ね。正にその通りなのよ」

花丸「……未来ずら」


70: 名無しさん 2019/07/02(火) 06:47:51.23 ID:nMYKt+U7O

ルビィ「……人間らしく振舞える、機械……」

曜「……なんかさ。そこまでいくと、なんでも真似出来ちゃう気がするね」

梨子「……なんでも?」

曜「だって、何でも計算出来て、その通りに自分を変えられるんなら……何にだって、なれちゃうと思うんだけど」

梨子「……」

花丸「……そうかもしれないずら」

ダイヤ「確かに。……しかし、そもそもどうしてそのようなことが出来るのでしょうか?」

果南「そもそもって言うと?」

ダイヤ「姿形に限った話ではなく。……そもそも、自分と別な、何かになるというのは……どうすれば出来るのか、と思ったと言いますか……」

果南「どうしたら入れ替われるかってこと?」

鞠莉「ああ、そういうことなら、割と簡単な考え方よ。要するにパラメーター……変数を、あらゆるものに設定して、ある時に行う行動を関数化するの」

鞠莉「そして、あらゆる場面でそんなことが出来るとすれば、どんなものでも再現自体は出来るってことだから」


71: 名無しさん 2019/07/02(火) 06:48:44.88 ID:nMYKt+U7O
千歌「……へんすう?」

果南「……かんすう?」

鞠莉「……。お勉強しなさい、二人とも」

千歌「ええ……」

果南「こんなところで怒られるとは……」

善子「……流石、理事長……」

鞠莉「善子もね」

善子「えっ!?」

鞠莉「善子、要領の良さで色々乗り切ってきたみたいだけど。ちゃんと努力もしないとダメよ?」

善子「は。……はい……」

曜「ま、まあ今はそれは置いといて。……もっと要するに、何でもかんでも数値っていうか、数で表せれば、その数を知ることで、色んなもの……同じものを作り出せる、ってことなのかな?」

鞠莉「……曜は要領が良過ぎるところがあるって報告を受けたことがあるわね」

曜「えっ」

鞠莉「……でも優しいから。苦労するわね、色々と」

曜「あ。あははっ。……え?」


72: 名無しさん 2019/07/02(火) 06:50:14.72 ID:nMYKt+U7O
鞠莉「まあ、今はそれは置いといて。……曜の言う通り。あらゆるものを、数で表せるのだとしたら。……それがどんな数で、どういった値があるのかさえ知れれば。それを再現するのは、容易いってことなのよ」

善子「……ゲーム的に考えれば。このキャラはこういう成長して、今こんな攻撃力だから、ってのがわかれば、チート使えれば……同じキャラを作るのはカンタンってことね」

花丸「……ゲーム脳」

善子「う。う。うるさい!この……。この、小説脳!」

花丸「いいもん。小説読むと、色んな……色んな、人間のことを、現実に会えなくても知れるもん。人の心をちゃんとわかるようになれる脳なら、ゲーム脳よりマシずら」

善子「……ぐぅぅ!」

鞠莉「……残念ながら、善子の言ったことは物凄く本質をついているわ」

善子「……はぃ?」

花丸「ええ?」

千歌「・・・・・・」


73: 名無しさん 2019/07/02(火) 06:51:57.12 ID:nMYKt+U7O
鞠莉「花丸、人間の心を知れるから、小説はゲームより上って言ったわよね?」

花丸「あ、うん。……あ、はい」

鞠莉「でも、もし心の……気持ちとか、行動とかも、数値化できるなら。……そういった、心の物語も、創り出せちゃうって思わない?」

花丸「え。………あっ」

鞠莉「……そういうこと。出来るかどうかは、別として。……もし、何もかもが数値で表せるのだとしたら」

鞠莉「……何もかも、変えられる。唯一ってことは、なくなる。……曜が言った通りになるって、ことなのよ」

鞠莉「誰もが。……何にでもなれる、世界が。それも、簡単になれてしまう世界が……いずれ、来る。……それは、誰にも否定出来なくなるの」

曜「……」

花丸「……」

74: 名無しさん 2019/07/02(火) 06:52:40.72 ID:nMYKt+U7O
ダイヤ「し、しかし。……あらゆるものの、数値を計算するなどと……そんなこと、出来るのですか?」

鞠莉「そこがAIの凄いところなのよ。……考えられない計算スピードで、あらゆるものを計算して、その通りに振舞えてしまう」

鞠莉「だからこそ、入れ替わりが起き得るの」

鞠莉「AI……知能だなんて言葉がつけられてるけど、やってることは統計だったり確率だったりの計算なの。……ただただ、計算が信じられないくらい速いってだけ」

ダイヤ「……しかし。その、”だけ”に……計算に、わたくしたちも巻き込まれてしまうのですね……」

ダイヤ「わたくしたちの、知能。……それは、計算の速さ、精確さ、そしてそれらを用いて、統計的に最も望ましい結果に近づくという手順さえ踏めば。容易に再現できてしまう」

鞠莉「……そうね」

ダイヤ「……」

鞠莉「まぁ、そんなにシンプルなことじゃないんだけどね。あくまで原理的に、そうなり得るって話で……ようやく、そんなことになり始めたってことだけど、簡単にいくとは思えないしね」

曜「……ロボットが、人間に近づき始めた……」

鞠莉「そう。まあ、もし本当にロボットが人間と見分けがつかないものになったといたら、そんな存在はもう、ロボットなんて名前じゃなくなるかもしれないわね」

梨子「ロボットではない、か」

花丸「……創作の世界だと、人間を改造したものをサイボーグと呼んで、人間型のロボットをアンドロイドって呼ぶこともあるずら」

鞠莉「……そういうことなら。アンドロイドっていう言葉が、正確になるのかな」

梨子「……人間そっくりな、機械。……それが、アンドロイド……」

ダイヤ「……途方もない話ですわね……」


75: 名無しさん 2019/07/02(火) 06:56:35.83 ID:nMYKt+U7O



善子「ねえ。じゃあ、もしかしたら。……私たちの中に、入れ替わってる人もいるかもしれないってこと?」



花丸「……ぁ?」

ルビィ「え?……」

ダイヤ「……はいぃ?」

千歌「……ほえぇ」

梨子「……どういうこと?」


76: 名無しさん 2019/07/02(火) 06:59:03.05 ID:nMYKt+U7O

善子「え?……あ、やっぱり!?……って、条件、あるの……?」

ダイヤ「”いつの間にか”、ですか?……それは、どういう意味で?」

鞠莉「カンタンよ。”いつの間にか”入れ替われれば入れ替わりは出来る」

鞠莉「逆に言えば、”いつの間にか”が成り立たなかったら入れ替わりは成立しない。だって、入れ替わる瞬間を見られたら、無理でしょ?」

ダイヤ「……ま、まぁそれは確かに」

曜「身も蓋もない話だけど、それはその通りだね」

ルビィ「……でも。物語とかだと、もし見られたとしても……記憶を消せちゃったら、気付かれずにすむよね?」

曜「あ……」

鞠莉「……いい着眼点だけど。それが、物語のゆえんってわけなのよ」

ルビィ「物語のゆえん……?」

善子「ど、どういうこと?」


77: 名無しさん 2019/07/02(火) 07:01:25.80 ID:nMYKt+U7O
鞠莉「人間の記憶……確かに、記憶喪失のように、ある特定の記憶だけが消えることはあり得る。だから、特定の記憶を消すことも出来るかもしれない」

鞠莉「……でもね。それこそアンドロイドならともかく、人間の記憶はそう単純じゃない。狙った記憶だけ消えたとしても、その記憶はネットワークになっている」

花丸「ねっとわーく……ぱそこんずらか?」

鞠莉「パソコンに限った話じゃないんだけどね。……とにかく、記憶はある特定の場所に一対一で対応してるわけじゃないのよ」

鞠莉「どこかとどこか。何かと何か。それら全てが繋がって出来ている。……だから、たとえ一ヶ所を消せたとしても、どこかで綻びが出る」

曜「……繋がっているからこそ、一つ消しただけじゃ。別のところと、消えたものの間で……辻褄があわなくなるというか、おかしなことが起きて、そのおかしなことが何かあったってことを示しちゃう……ってこと?」

曜「アンドロイドならともかくっていうのは、きっと記憶もパラメータで持ってるから……もしかしたらおかしなことを起こさずに済むかもしれないってことかな?」

鞠莉「……理解が早いのね、いつも」

曜「え……あはは」

ダイヤ「……まだよくわからないです」

果南「例えば、ダイヤから”アイスが好き”って記憶を消したとして。ルビィが、ダイヤのアイスを勝手に食べちゃっても、でも『別にアイス好きじゃないからいいですわ』ってなったとして」

果南「それでも、何故かダイヤは腹が立って。……アイスも好きじゃないし、ルビィが喜ぶのも好きだから、それでいいってなるはずなのに……ってなったら、何かがおかしいってなるってこと?」

ダイヤ「……例が局所的過ぎます!」

ルビィ「果南ちゃん……」

梨子「でも、言いたいことはわかったよ。要するに、記憶を消される前に当然だったことが、当然じゃなくなると、何かヘンな感じになるはずで」

梨子「逆に言えば、当然だとさえ思えれば何も不都合がないんだけど、でも記憶はそうはならないってことだよね?」

鞠莉「そうね。その通りよ」



78: 名無しさん 2019/07/02(火) 07:03:06.04 ID:nMYKt+U7O
花丸「……記憶だけじゃなくって、記録も加味すると、更に記憶を消すって難しそうずら」

梨子「……記録?」

花丸「うん。……当人だけのものじゃない、他の人も知ってるものとしての、記録」

花丸「例えば、果南ちゃんの例を使わせてもらうなら。……誰かが、ダイヤさんは昔アイス好きだったはずなのに、なんで急に好きじゃなくなったの?って言ったとしたら」

花丸「あるいは、いつかルビィちゃんと一緒に歩いた街並みの中で。……一緒にアイスを食べて、その時までは妹なんて、泣き虫で手もかかるし」

花丸「自分から両親を奪ったと思って、どうでもいいと思ってた。……ううん。嫌ってすら、いた」

花丸「でも、ある時ある場所で。……しょうがなく、一緒に食べたアイスがおいしくて。……アイスと一緒に、ルビィちゃんのことも、いつの間にか好きになっていて」

花丸「だから、アイスを勝手に食べられるのがイヤになっていて。だって、アイスは一緒に食べるものだって、ダイヤさんは思っていて」

花丸「本当は、ルビィちゃんに勝手にアイスを食べられることに怒ってるんじゃなくて。……一緒に、食べられないことにダイヤさんは怒ってて……」

花丸「そんなことを、町は、記録は、教えてくれたとしたら。……記憶を消すなんて、出来なくなっちゃう気がする」


79: 名無しさん 2019/07/02(火) 07:10:48.02 ID:nMYKt+U7O

梨子「……っ」

善子「……そんなぁ」

鞠莉「酷い。……そんなこと、絶対させない!」


ダイヤ「……あの。勝手に人の話を捏造して、勝手に感動しないでくださいません?」


梨子「え?」

善子「え?」

鞠莉「What?」


ダイヤ「……そんな事実。全くありませんから。……第一、わたくしはルビィが生まれた時から、ルビィのことは大好きです」

ルビィ「……おねえちゃん」

花丸「……ま。まぁ。……あくまで、たとえ話だから……」

ダイヤ「……でも、怒る理由は。……ルビィにアイスを間違えて食べられて、怒ってしまう理由は、その。……そういう部分も、なきにしもあらずというか……」

ルビィ「お姉ちゃん……!」


80: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:33:09.13 ID:yi/lREP/O

鞠莉「……オホン。まあ、とにかく」

鞠莉「いつの間にかさえどうにか出来れば」

鞠莉「いつの間にか、誰かが”誰か”になっていて。……だ~れも気づいていないけど、誰かが”誰か”になっていって」

鞠莉「その、”誰か”が。……自分と近い人だったって、気づきも出来なく。……そして、最後に」

鞠莉「自分が、”誰か”になる時に、初めて気づいちゃう。……そんなことが、ないとは、言い切れないわねぇ」

果南「ちょ、ちょっと鞠莉!……そういうこと言うの、ダメだって!」

鞠莉「え~?そういうことって~??」

果南「……こいつ!ダメだコイツ!!」


花丸「……果南ちゃんって、ホラーだけじゃないの?SFもダメなの?」ボソッ

ダイヤ「……奇怪な現象全般が苦手みたいです。普段はそんなことないのに、ちょっと匂わせたことを言うと、てんで使い物にならなくなります」コソッ

花丸「なるほど……」コショッ

ダイヤ「いやん。……な、何するんですか!」

花丸「ちょっとくすぐっただけずら」

ダイヤ「だから!何でこのタイミングで!!いやこのタイミングだけじゃなく!!そもそもなんでそんなことするんですか!!!」

花丸「なんか、したくなっちゃったから」

ダイヤ「なんかでやっちゃダメでしょ!ちゃんとした理由を持ってやりなさい!!」

花丸「理由があればやってもいいの?」

ダイヤ「そうです!……いや、ダメです!!」

花丸「えぇ~」


81: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:34:20.61 ID:yi/lREP/O
果南「……だ。だいや……」

ダイヤ「はい!?……どうしたんですの、そんなに顔を真っ青にして」

鞠莉「ディープブルーね、果南」

善子「てぃーふぶらう?何それ?」

鞠莉「……合ってるけど違うわよ、善子。それドイツ語。ディープなブルーよ、深い青よ」

善子「なるほど。で、てぃーふぶらうって?」

鞠莉「……深い青よ」

善子「?」

果南「そんなことはどうでもいいよ!……そ、そんなことより……聞いた、今の!?」

ダイヤ「き。聞いたって?」

花丸「どれのことずら?」

果南「『いやん』だよ、決まってるでしょ!『いやん』なんだよ!!」

ダイヤ「は。はあぁ?」

82: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:35:06.36 ID:yi/lREP/O
ルビィ「……あ、あぁ」

梨子「……あぁ。うん」

曜「果南ちゃんがいやんいやん言うの、なんか……」

梨子「うん。……うん、うん。うんうん」

千歌「……やらしいよ、梨子ちゃん」

梨子「何も言ってないでしょ!?」

千歌「いや……頷きがもう、ね」

梨子「はぁ!?」

果南「おい!うるさいよ!そんなことどうでもいいんだって!テンパってんだよこっちは!!」

曜「……そんなこと堂々と言われても」

千歌「……そもそも、何にテンパってんの?果南ちゃんは?」

果南「だって!……だって。ダイヤが、あのダイヤが、『いやん』だよ『いやん』!」

ダイヤ「ぁ……」カァァ


83: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:35:36.11 ID:yi/lREP/O
曜「……たしかに、なんかちょっと。……えっちだね、こりゃ」

梨子「……わかる?」

曜「……わかる」

梨子「……わかっちゃった?」

曜「……わかっちゃった」

梨子「わかったの?」

曜「だからわかっちゃったんだよ!」

梨子「……解り手ね、曜ちゃん」

曜「そっちこそ。……流石だね、梨子ちゃん」

千歌「・・・・・・よーちゃん」

曜「え?……ぁ……」カァァ

曜「ち。ち。ちがっ!ちかっ……ちがうんだよ、ちがちゃ、ちかっ、ちゃっ!」

千歌「・・・・・・はぁ」

曜「……うぅ」


84: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:36:21.25 ID:yi/lREP/O
果南「もうほんっとうるさい!そうじゃないんだって!!あのダイヤが、ダイヤが『いやん』って!……『いやん』って!」

ダイヤ「……な、何度も言わないで!」

果南「でも!……ダイヤが、『いやん』だなんて……ダイヤが、ダイヤじゃなくなってる!!」

ダイヤ「な。……な!?何を言ってるんですか貴女は!!?」

果南「言わないよ、ダイヤは!……言うはずがないんだよ、ダイヤは!?」

ダイヤ「えええ!?」

果南「なんか、マルが話してからのダイヤも、素直でダイヤっぽくないし。……も、もしかして」

果南「……もしかして。ダイヤ、その……」

果南「い。入れ替わってるんじゃないかと思って……!!」

ダイヤ「え?……はいぃ?」


85: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:36:56.36 ID:yi/lREP/O
花丸「……果南ちゃんにダイヤさんの何がわかるずら?」

鞠莉「……少なくとも。今、なんにもわかんなくなってるのは間違いないわね」

ルビィ「……鞠莉ちゃんのせいでしょ」

鞠莉「……てへっ」

ルビィ「はぁ。……こうなったら、めんどくさいのに」

鞠莉「……ごめんなさい……」

梨子「……(理事長が、1年生に怒られてる……)」

曜「凄い学校だね、ここは」


86: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:37:53.34 ID:yi/lREP/O
果南「ダイヤ!答えて!……私とダイヤが会ったのは、いつ!?」

ダイヤ「小学校の頃からでしょう!?」

果南「なんで!こんなに狭い田舎でこんなに近いところで生まれたのに、小学校で初めて会ったの!!?」

ダイヤ「お家の方針です!小学校まではお家で育てられるんです!!」

果南「窮屈だね!生きづらくないのそんなんで!!」

ダイヤ「うるさい!わたくしたちは生まれる場所も時間も選べない、ただ与えられるだけなの!だったら、置かれた場所で自分の出来ることを全力で突き詰めるだけ!!そうじゃないんですか!?」

果南「ダイヤの言いそうなことだね!でも、ダイヤっぽくないよ!!」

ダイヤ「何故です!?」

果南「だってダイヤ、夢見てたじゃん!『そうはいっても、わたくしもぷりきゅあになりたいですわ~』って!!」


ダイヤ「!!」


87: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:38:33.70 ID:yi/lREP/O
曜「え?」

鞠莉「そうなの?」

ルビィ「……そうだよ。なんで鞠莉ちゃんは知らないの?」

鞠莉「私が会った時、もうダイヤは高学年だったし……」

ルビィ「……そういえば、表にはあんまり出さなくなってたかも」

曜「表にはってことは……そういうところ、あったにはあったんだ」

ルビィ「ま。まぁ……」

千歌「・・・・・・かわいいね、ダイヤちゃん」

梨子「…うん……」

ダイヤ「……か、か、果南のバカァッ!もう、知らない!!」

果南「あ。ダイヤ。だいやぁ!?ゴメンって!!悪かったよ!ダイヤはちゃんとダイヤだったよ!!」

ダイヤ「うるさい!……知らないって、言ってるんですからね!!」タッタッタ

果南「あ、まって!……待ってってば、ダイヤァ~!」タッタッタ



88: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:39:13.39 ID:yi/lREP/O
善子「……」

花丸「……」

ルビィ「……」

鞠莉「……。ごめんなさい」

ルビィ「あとでアイスちょーだいね」

鞠莉「……はい」

曜「……」

梨子「……」

花丸「……善子ちゃん。この場を締めるために、なにか言ってみて?」

善子「え?……あ、はい!」

善子「あの~そのですね。……つまり!」

曜「……」

善子「……よ、曜!ちょっと手伝って!」

曜「……え。えぇ!?」


89: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:40:00.95 ID:yi/lREP/O

曜「……ほぇ~すごいんだねぇ、えーあいって」

善子「何でも再現できちゃうんだものね?」

曜「でもさ、もし本当に自由に姿や性格を変えられるんだったらもうそれって見分けがつかないよね」

善子「そうよ!知らず知らずの内に人間は入れ替わっているのよ!」

曜「こわいな~」

善子「果南の気持ちもわかるわよね~」

曜「そうだね~」

善子「そうよね~」

じもあいコンビ「あはははっ!」


90: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:40:56.24 ID:yi/lREP/O

鞠莉「……ごめんね」

曜「……」

善子「……」

花丸「本当にごめんなさい。私が悪かったです……」

千歌「……。練習、しよっか。・・・・・・今日、この後雨だし」

善子「は~い……」

ルビィ「それがいいね」

花丸「それがいいずら。……うん」

梨子「……そうね……」


曜「……ぇ?」


梨子「……?」


鞠莉「……ごめんなさい、なんか……」

ルビィ「いいってば。ジョークだよ、鞠莉ちゃん」

鞠莉「うん……」

千歌「……ほら!早く行こうよ!」

3年と1年「は~い……」ゾロゾロ


91: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:41:27.71 ID:yi/lREP/O

曜「……」

梨子「……どうかした、曜ちゃん?」

曜「あ。えっと。……なんでも、ないよ?」

梨子「……そう?……でも、なんか気にしてたよね?」

曜「あ。うん。……えっと……」

曜「……いつから、体感天気予報が出来るようになったのかなって」

梨子「……え?」

曜「梨子ちゃん。……今朝、天気予報見た?」

梨子「……あ、うん。見たけど……」

曜「……雨ふるって、言ってた?」

梨子「……え。あ……!」

曜「……今、天気いいし。……お天気お姉さんも、言ってたよね」

曜「……今日は、お洗濯もの日和だって」

梨子「……でも。違うの?この後は」

曜「……うん。……そうなると、思う……」


92: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:42:33.07 ID:yi/lREP/O
梨子「……曜ちゃん、傘持ってきた?」

曜「ないよ。……持ってきて、ない……」

梨子「……じゃあ……」

曜「でも、さっき千歌ちゃんが雨だって言ったから。……研ぎ澄ましてみたの。自分の、感覚を」

曜「そしたら……雨、降りそうだなって、感じて……」

梨子「……朝は、違ったの?」

曜「違った。……今日は、ずっと晴れだなって思った」

梨子「……」


曜「……千歌ちゃんさ。普段、カバンに折り畳み傘とか入れないのにさ」

曜「……入ってたよね、傘。……今日、千歌ちゃんのカバンの中に」


梨子「……」

曜「……」


梨子「……千歌ちゃん、そういうところあるし。……たまたま、じゃないかな」

曜「……そう、だよね」

梨子「うん。そうよ!」

曜「そうだよね、うん!」

梨子「練習行きましょ!」

曜「うん!行こう!」


93: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:43:17.96 ID:yi/lREP/O

梨子(……結局、今日の練習は7人で行った)

梨子(果南ちゃんとダイヤさんが戻ってきた時にはもう……雨が降り始めていたからだ)

梨子(……傘を持っていたのは、千歌ちゃんだけで。……皆、その中に入れてもらおうと、必死だった)

梨子(……千歌ちゃんは。曜ちゃんよりも、正確に。……体感天気予報をしてしまったってことが、証明された)


梨子(そんなことがあったからかな。……帰りのバスで、鞠莉ちゃんの言った話を、思い出してしまった)

梨子(……機械と、人間が、入れ替わるという話)

梨子(……鞠莉ちゃんの話が全て正しいとしたら。機械は、入れ替われるだけじゃない)

梨子(……あらゆることを、出来るようにもなるはずだ……)

梨子(何かを行うこと、それも数値で表せて……その数値を、自在に変えられるのだとしたら)

梨子(……人間に出来ないこと。……それも、出来てしまう)


94: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:45:11.46 ID:yi/lREP/O
花丸「じんこうちのうも未来だけど。……おら、それも未来だと思うずら」

ルビィ「え、これ?……確かに、ネットにもつなげられるし、写真も撮れるし。タッチパネルだし、そうかもしれないけど……」

花丸「たっちぱねる?」

ルビィ「あ、花丸ちゃんはちゃんと見たことなかったもんね。……ほら、こうやって、画面に指を置いて、滑らせれば……」

花丸「ほわっ!?文字が、文字が出来てるずら!!」

善子「……アンタ、ホント機械オンチというか、未来オンチね……」

花丸「ボタンが無いのに、そのすまほっていうのはどうやって操作してるの?」

ルビィ「これはね、フリック入力って言って、文字に触れながら上とか下に指を動かすと色んな文字が打てるようになってるの!」

善子「まぁ、基本的には9つしか使わないけどね。わをんなんてそうそう使わないでしょ?」

花丸「……そんなことないと思うけど」

善子「えっ?」

花丸「だって、それじゃあ、う”ん”とか、”わ”かったとか、どうするの?」

善子「え。……えぇ~っとぉ」

ルビィ「善子ちゃん、そういうの全部スタンプで済ませてるから。文字のよさがわかってないんだよ」

花丸「……すたんぷっていうのはおら、よくわからないけど。……たまには、過去から学んだ方がいいずら」

善子「……ぅ、う、う。うるさぁ~い!!」


梨子(バスの中で。……1年生が、盛り上がってる)

梨子(……)

梨子(やめよう。……うん、やめよう)

梨子(……果南ちゃんみたいに。思い込んで暴走しちゃってるだけだよね)

梨子(……そんなことより、善子ちゃんに借りたアニメ、早く観ちゃお)

梨子(……フェイリスさん、どうなっちゃうんだろう……?)



95: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:46:29.59 ID:yi/lREP/O
「こわかったよ……もう会えないって思って……!」

「3人とも、大丈夫だったんだね……!」

「よかった……!」




梨子(……ある日の、教室。……私達二年生のいる、クラスで)

梨子(かなりの騒ぎが、起きていた……)


千歌「……ほんとうに、よかったぁ。……三人が無事で……」

曜「うん……うん。……むっちゃんたち、何事もなくてよかったよ……!」

梨子「……すごく、しんぱいしたよぉ……」


梨子(……私たちの、大切な友達で。いつも応援して、手助けしてくれる、3人)

梨子(よしみちゃん、いつきちゃん、むつちゃんが、ある事故に巻き込まれそうになったけど……何事もなく、済んで、学校に来ていて)

梨子(……前日の話を聞いていた私達、クラスメイトの皆は、気が気じゃなかったんだけど、無事な3人を見て……心からほっとしていた)

梨子(……ある事故というのは。……突如起こった、地震のことだ)


96: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:50:22.51 ID:yi/lREP/O

梨子(ここ数日、雨の日が続いていた。……とにかく、雨が長引いて)

梨子(昨日、ようやく晴れて。……久しぶりに、私達Aqoursは屋上で練習を行った)

梨子(ルビィちゃんは特に張り切っていて。…‥張り切り過ぎたらしく、ちょっとめまいを起こしちゃったけど)

梨子(……事前に、千歌ちゃんが、ルビィちゃんは今日、そんな調子よくなさそうだからほどほどにするんだよって言ってるのを聞いて)

梨子(……でも、ルビィちゃん自身も、姉のダイヤさんもそんな感じじゃないはずだって言ったんだけど。……結局練習が終わった時に千歌ちゃんの言葉が正しかったって気付いた……)

梨子(ルビィちゃんは、練習を半分も終えない内にふらふらし始めて。……結局、千歌ちゃんに促されて、先に帰っていった)

梨子(ダイヤさん曰く、心配はないけど……少し、張り切り過ぎていたみたい)

梨子(……ダイヤさんは。なんで千歌ちゃんが、姉である自分より)

梨子(そして何よりも、ルビィちゃん自身よりも、正確に……ルビィちゃんのこと言い当てられてのかを、疑問に思ってたみたいだけど……)

梨子(……そんな、ちょっとした事件があった帰り。……大きな、地震が起きたんだ)


97: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:57:12.22 ID:yi/lREP/O

鞠莉『わっ!……キャアァァ!!』

花丸『わ。凄い揺れ。……先に帰ったルビィちゃん、大丈夫かな……?』

ダイヤ『わ、我が家は耐震リフォームをしてますから。そこは大丈夫だと思います……!しかし……』

果南『雨だよね、ダイヤ?』

ダイヤ『はい。……ここ最近雨が降っていたところに、地震まで来て……。土砂崩れが、もし大きなものになってしまったとしたら……!』

梨子『……な。なんで、そんなに冷静なの!?』

曜『こういう時こそ、しゃんとしなきゃいけないのを、何度もやって知ってるからだよ。……千歌ちゃんは!?』

善子『ち、千歌は。……ルビィの付き添いでバス停までついてったきり、いないわよ!?』

花丸『だ、大丈夫ずらか……!?』

果南『いや、千歌なら大丈夫!今連絡来たよ!』

曜『私も確認した!……とにかく、私達は避難経路を確保しなきゃ!』

善子『……わ。私も海の近くの沼津住みだけど。……こんな、たくましくなれるものなの……!?』

鞠莉『EARTH SHAKER。……それにもめげない仲間がいる以上、私も……全力を尽くさなきゃ!』

梨子『……。違うよ、鞠莉ちゃん……!EARTH SHAKERは日本のロックバンド……些細だけど違うって……!』

鞠莉『わ、わぁっつ!?』

曜『些細どころか全然違うけどね。……とにかく、安全な場所に着いたらすぐに連絡できるようにしておいて!』

果南『皆!こっちだよ!!』


98: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:59:04.53 ID:yi/lREP/O

梨子(……そんなこんなで。頼りになる仲間のお陰で、私達は危なげもなく、地震を乗り切ることが出来た)

梨子(……大騒ぎした割には。結局のところ、内浦への被害は、ほとんどなかった……)

梨子(ただ一つ。……浦の星も、バスの行く先も越えた……山間部を、除いては……)


梨子(……内浦の山道。その奥に進むにつれて、次々に奇妙な看板が立てられているのは、結構有名だ)

梨子(……”コーヒードーデスカ”……そんなセリフを言っている……ワンちゃんなのか、女の子なのか、よくわからない看板が、ずっと続いていった先に)

梨子(仮面ライダーの俳優さんの名前が付いたコーヒーとか。みかんのお汁粉とかを出してくれる……)

梨子(お店自体がDIYというか、店長さんが木材を使って、自前で作っていて。ちょっと蜘蛛の巣が見えたりして、自然と共生しているような気になれる……木の暖かさと店長さんの優しさで出来ている、ちょっと風変わりな喫茶店)

梨子(私も内浦に来たばっかりの時。……興味を持ったお母さんと一緒に行って、海の向こうに見える富士山を見て、感動して……。コーヒーが出るまでの間、子供のころに見たような、知育玩具みたいなおもちゃが目の前にあったから、それで遊んじゃったんだよね……)

梨子(建物が木材で手作りな分、自然災害には弱くて……。大きな台風なんかが来ると、たちまちお店と店長さんの住むところが壊れちゃうみたいなんだけど)

梨子(それでも、ちゃんとした造りをしているのか、壊れても気がついたら直って、お客さんを癒し続けている……)

梨子(……そのお店が。雨の影響と、地震で。……その前には風も強かったみたいだけど、とにかく地震が来たらもう流石に倒壊するんじゃないかって段階にまで来ていたところに、今回のことだった)

梨子(……家屋の崩れ。……下手をすれば、生き埋めになる可能性もなくはない)

梨子(……そこに。たまたま、地元の子が……。よしみちゃん、いつきちゃん、むつちゃんが、行っていたらしい)

梨子(……焦った。心配した。……千歌ちゃんも、私達と一緒にはいなかったから……余計、だった)

梨子(……でも、私が家で心配している時。いつの間にか、千歌ちゃんは戻ってきていたみたいで)

梨子(ちょっとだけ安心したんだけど。……でも、3人の行方は、千歌ちゃんも知らなくて……)

梨子(……眠れなかった。……顔を、見たかった)

梨子(その3人が。……いま、無事でここにいる……)

99: 名無しさん 2019/07/02(火) 19:59:52.89 ID:yi/lREP/O

千歌「それにしても……皆、よく無事だったね」

梨子「そうね……正直、建物が崩れて無事でいるとは思ってなかった……」

いつき「……え?」

梨子「え?……どうしたの?」

いつき「いや、えっと……」

よしみ「……あのお店。壊れてなんかないんだよ」

梨子「そ、そうなの!?」

曜「あんな大きな地震があったら、あのお店は大変なことになるんじゃ……」

いつき「……正直、あんまりよく覚えてないんだ。……地震が起きた時のこと」

いつき「で、でも。……私達も、お店も……無事だったのは間違いないよ」

よしみ「わたしも覚えてない。……なんか、気がついたら外にいて、店長さんも外にいて、なんだか命が助かってた、っていうか……」

100: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:00:52.67 ID:yi/lREP/O

梨子「……気がついたら、”命が助かってた”……」

曜「……しかも、それだけじゃなくて。お店も無事だった……」

よしみ「まあ、より正確には……ところどころ壊れちゃってはいたけど、倒れることはなかったって感じかな」

千歌「……〝奇跡〟だね」

梨子「……」


むつ「……そういえば。あのお姉さん、どうしたんだろう」

梨子「!……あの、お姉さん?」

むつ「うん。お店にはもう1人お客さんがいたんだけど、私達が外に出た時にはいつの間にかいなくなってたんだ」

曜「え……!」

よしみ「……そうだ。話してたら段々思い出してきた」

いつき「私たちだけじゃなくて、もう1人お客さんがいたんだよね……」

梨子「気がついたらいなくなっていた、女性のお客さん……」

よしみ「何で忘れてたんだろう。……大きな揺れだったし、お店にいた人皆が無事かどうかは、確認しないとって、思ってたはずなのに……」

むつ「店長さんも、探してなかったし。……気が動転してたとしても、そんなことってあるのかな……?」


101: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:01:41.54 ID:yi/lREP/O

梨子(……最近、聞いたばかりの話。あのウワサが、否が応にも頭によぎる)

梨子(……[亡霊]。この沼津、そして内浦で、何か重大な事故が起こりそうになる度に現れる、若い女性)

梨子(なぜ、命が助かったのかわからないような現象がある時。その女性が、必ず目撃されているという)

梨子(でも、その姿は、誰も知らない。それどころか、姿を思い出すことが遅れることもあるらしい)

梨子(……思えば、善子ちゃんの話に対してルビィちゃんが疑問を挟んでいたように。……なぜか、その女性の姿を忘れてしまうことも多いみたいだ)

梨子(思い出せたとしても、はっきりとは思い出せたという話を聞かない。……そう)

梨子(ちょうど、今のむっちゃん達のように……!)


102: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:02:09.73 ID:yi/lREP/O

よしみ「……まあ、私たちの勘違いかもしれないんだけどね。結構記憶がアイマイになっちゃってるから……」

むつ「そうだね。……もしかしたら女神さまが、助けてくれたのかな?なんて思っちゃった」

梨子「……女神、さま……」

千歌「・・・・・・もぅ。なんで、神様じゃなくて、女神様なのぉ」

むつ「え、そ、そこ!?」

いつき「そんなところに拘られるなんて……」

曜「……もう。千歌ちゃんってばぁ」

千歌「え。あ。……すみません」

よしみ「……ぷっ」


103: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:03:21.88 ID:yi/lREP/O

梨子(『あははははは』なんて、笑ってる皆を横目に。私は、考え込んでいた)

梨子(……女神が、助けてくれた)

梨子(その理由は……そう思った理由は……。あの店に、女性がいたような気がしたから……)

梨子(……[亡霊]の話が。……善子ちゃんのあの話が、私の考えを埋め尽くして……)

梨子(同時に。とても荒唐無稽な想像をしてしまった)



梨子(……もしかしたら……)


梨子(……その、女性の正体は。……[亡霊]の、正体は……)


梨子(……私が、あの運命の日に出会った、あの人……)


梨子(……。”ハオ”さん……なんじゃ)




104: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:06:02.46 ID:yi/lREP/O


梨子(……いつの間にか。放課後になっていた)

梨子(心ここにあらずとは正しく今日の私のことそのままのことだったと思う)

梨子(……その後。今日も、何故か斜線を入れられている、〝スクールアイドル部〟の文字を目にしてから、私は部室に入った)

梨子(〝スクールアイドル部〟の文字。……なぜかわからないけど、[部]のところに、斜線が引かれている)

梨子(でも、斜線が引かれていることこそ、あるべき姿だって、安心して。私は部室の扉を開くんだよね)

梨子(扉を開いたところで、ようやく私の心がここに戻ってきたように、ハッとした)

梨子(……。れんしゅう、しなくちゃ)

梨子(きっと、思い込みだから。……きっと、ばかなことだから)

梨子(ある意味で、ちゃんと練習を再開できるのは今日からだし。……ルビィちゃん、しっかり身体を休めて、練習できるようになったって、言ってたし)

梨子(とにかく。ラブライブ!だよね、今は!!)



105: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:06:36.56 ID:yi/lREP/O


ルビィ「……つかれたぁ」

善子「……大丈夫、ルビィ?……病み上がり、なんでしょ?」

ルビィ「うん、大丈夫。……ううん。病み上がりっていうのは、違うよ」

善子「そ。そう……?」

ルビィ「うん。……ちょっと、雨が続いて、でも曜ちゃんの紹介してくれたところもたまたま使えなくて、だから、感覚を忘れないように家で練習し過ぎたってだけだから」

善子「……」

ルビィ「でも、やっぱり。ちゃんと見てくれる人がいるところで練習したほうがいいね」

梨子「……」

ルビィ「自分で練習してて、全然上手くいかないなって思ってたことも、鞠莉ちゃんのアドバイスのお陰ですぐ出来るようになったもん!……やっぱり、皆で練習したほうがいいね」

善子「……今後は、あんまり無理しちゃダメだからね」

善子「いつか……私たちが。その、見てくれる人になるんだから」

ルビィ「……ぅん。……そう、だね……」

梨子「……あんまり気にしすぎもよくないよ」

ルビィ「だいじょうぶ。だってルビィ、スクールアイドルだもん」

善子「……」

梨子「……たくましくなったわね、ルビィちゃん」


106: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:09:05.08 ID:yi/lREP/O

梨子(……むっちゃんたちの不思議な話を聞いた後。……私たちは、いつも通り練習をした)

梨子(前日、無理がたたって、疲れが出ちゃったルビィちゃんも、ちゃんと回復して、練習に参加して)

梨子(昨日は疲れがあって充分に発揮できなかったんだろうけど、自主練習の成果はしっかりあって。見間違えるほどすごく上手くなっていて)

梨子(私達も、気合が入って。すごく、頑張ったと思う……)


梨子(……Aqoursを物凄い力で支えてくれている。ルビィちゃんのお陰で、Aqoursは、頑張れているんだよって)


梨子(皆が思ってることなんだけど。……きっと。まだ、それは伝えられない)


梨子(……いつか。だれか。ルビィちゃんに、伝えられたらいいのにな)


107: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:09:54.09 ID:yi/lREP/O

善子「……そ、そういえばルビィ。……アレ、ちゃんと読んだ?」

ルビィ「え?……あ、アレ?読んだよ。面白かった!」

善子「そ。そうでしょ?……中々凝ってるお話で、読み応えあったでしょ!」

ルビィ「うん!おもしろかった!……流石善子ちゃんだよね!」

善子「……あーっはっは!もっと私を褒め称えなさいルビィ!あとヨハネ!」

ルビィ「うん!さすがよはねさまぁ~」

梨子「……もぅ。善子ちゃん、バスの中だよ?」

善子「あ””!……ご、ごめんなさい……」

ルビィ「……ふふっ。ありがと、善子ちゃん」

善子「……ヨハネだってば」


108: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:10:26.09 ID:yi/lREP/O

梨子(……善子ちゃん。ルビィちゃんに気遣いさせないように、無理したんだろうな……)

梨子(そのお陰で、私たちの場も明るくなって。……ルビィちゃんの強張った笑顔も、自然な、ルビィちゃんの可愛い笑顔になっていた)

梨子(……たまたま、沼津に用事があって。私とルビィちゃん、沼津住みの善子ちゃんとで一緒のバスに乗ってて)

梨子(正直、ちょっと珍しいメンツだから……私も、少し緊張しちゃってたんだけど)

梨子(善子ちゃんは、流石というか……私に出来ないこと、出来るんだなって、思っちゃった)


善子「……あ~あ。地震があったせいで、果南と曜は千歌にべったりだし」

善子「鞠莉とダイヤはクソ真面目に学校の用事。……ずら丸は何か月かぶりにお婆ちゃんがご飯作ってくれるから一緒に食べたいなんて理由で、こっち来てくれないし」

善子「……せっかくなら。ルビィも元気になったし、皆でこっちに来たかったのに」ボソッ

ルビィ「……善子ちゃん」

善子「……ん、なに?」

ルビィ「善子ちゃんって。すっごくイイ声してるよね」


109: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:14:03.79 ID:yi/lREP/O

善子「な。なに?……急に……」

ルビィ「善子ちゃん、イイ声してるから。……小さい声でも、響いちゃうんだよ?」

善子「……は、ええ!?……あ、……あ?」

梨子「……全部。丸聞こえだったよ、善子ちゃん?」

善子「……!ぅ……!」

善子「き。聞くなぁ!」


110: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:19:17.00 ID:yi/lREP/O
ルビィ「善子ちゃん。皆と、一緒にいたいんだね?」

善子「……ぅく」

梨子「……かわいいとこ、あるじゃない。……ヨハネちゃん?」

善子「これみよがしにヨハネに乗っかるなぁ!……そ、そもそも!梨子は何の用事があって沼津に行こうとしてるの!?」

梨子「……え。わ、私……!?」

善子「そうよ!何の目的もなくこっちにこないでしょ、梨子は!!」

梨子「……ま、まあ、そうだけど……」

ルビィ「梨子ちゃん。ルビィも、気になるな」

梨子「る。ルビィちゃんまで……」

善子「ねえっ!どうして、こっちに来てるの?」

梨子「……それは……」

梨子「……あの、その。……しいたけちゃんの、ことで……」ボソッ

111: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:19:58.66 ID:yi/lREP/O
ルビィ「……しいたけ?」

善子「……きのこ?なす?」

梨子「違うわよ!……千歌ちゃんちにいる、あの、しいたけちゃんのこと!!」

ルビィ「……ああ。ワンちゃんかぁ……」

梨子「そ。そう……。その、しいたけちゃんに、ちょっと、お詫びをしたくって……」

善子「……おわび?」

ルビィ「……あの、最近千歌ちゃんち行く度に、善子ちゃんが『よしよ~し!かわいい……かわいいよー!もふもふぅ!まけんけるべろすぅ~!』とか言って猫可愛がりして、顔をうずめて、でも本人というか本犬はちょっと嫌がって顔をそむけてる、あのしいたけちゃんに?」

善子「……そんなショッキングなこと、かわいい声でいうなぁ~!!あと猫じゃなくて犬よ!!」


112: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:20:45.02 ID:yi/lREP/O

梨子「……と、とにかく。……あんまりにも、あんまりな対応というか……。勝手に避けちゃってただけだなって思って、せっかくだから仲直りというか、仲良くなりたいなって思って……」

ルビィ「……プレゼント、したいってこと?」

梨子「……な、なんでそこまで……!?」

ルビィ「なんか、そんな感じがしたから。……梨子ちゃん、プレゼントを探すために、沼津来たんだね」

梨子「……ぅ。うん……」

善子「……カワイイとこあるじゃない、リリー?」

梨子「ぅ。……うぅ……」


梨子(い、1年生2人に何か悟られたかのような言われ方をされてしまった……!)


113: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:27:15.47 ID:yi/lREP/O
ルビィ「それで、何をプレゼントするつもりなの?」

梨子「……実は、あまりちゃんと決めてなくて。……どうしよっかって悩んでたんだけど……」

善子「……まあ、食べ物なんかは楽だと思うけど、勝手にあげるのはご法度だしね」

梨子「……そうなの。だから、アクセサリーとかどうかなって思ってたんだけど……」

ルビィ「アクセサリーかぁ。それって、しいたけちゃんの首輪についてるアレみたいなのだよね?」

梨子「まさしくそれよ。最近、どうも古くなってくなってきたっていうか……スレてきてるし」

善子「……それ、ちゃんと確認したの?」

梨子「……ま、まだ間近では見てないけど。……でも、ちょっとキズがありそうだなとは、思ってたから……」

ルビィ「そっか……」

善子「……でも、いくら沼津でもあるの?……犬用の、それも首輪用のアクセサリーみたいなの」

ルビィ「う~ん……注意してみたことがないから何とも言えないけど、売ってるイメージはないかも……」

梨子「……そ、そうかもしれないというか、そうだと思うけど!……な、なにかあるかなぁ~って思って……」

善子「……そういう探し方じゃ、見つかんないと思うわよ」

梨子「うぐっ」

ルビィ「ドッグタグならともかく、しいたけの形をしたアクセサリーだと……そもそもお店で売ってるものかどうかもわからないし」

梨子「……そうよね……」



114: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:28:19.13 ID:yi/lREP/O
善子「……いっそのこと、自分で作っちゃうってのは?」

梨子「え……?」

ルビィ「それいいかも!自分で作っちゃえば、デザインだって自分の通りに作れるし、何より梨子ちゃんの気持ちが伝わるよ!」

梨子「で、でも。私、アクセサリーなんて作ったことなくて……」

ルビィ「じゃあルビィが作るよ!それならいいでしょ?」

梨子「え、ええ!?」

善子「となると、問題はやっぱりデザインよね。……何か決めてることとかある?」

梨子「え、あ、いや。……何か意味のあるものにしたいなとは思ってるけど」

ルビィ「ん~だとしたら、特別な形にするとか?でも、千歌ちゃんはしいたけのアクセサリーにこだわりを持ってそうだしなぁ」

善子「……基本しいたけのままで、そこに意味を持たせるとなると……文字を入れるとか?」

梨子「も、文字?……たとえば?」

善子「梨子としいたけだから……RS!魔眼、りーでぃんぐしゅたいなーみたいでかっこい……」

梨子「却下よ」

善子「ええー!梨子だって私の貸したアニメ観たでしょ~!」

梨子「ええ、観たわ。面白かった。……でも、それとこれとは別!」

ルビィ「でも、ローマ字で感謝の気持ちを伝えるのは悪くないと思う」

ルビィ「ちょっとその方向で考えてみるね。梨子ちゃんが、しいたけちゃんに送るっていう意味で、デザインしてみる!」

梨子「……そ、そう……。ありがとうルビィちゃん」


梨子(そんなこんなで。……いつの間にかルビィちゃんが張り切って、しいたけちゃんに贈るプレゼントを、作ってもらうことになってしまった)

梨子(……ホントにいいのかなぁ……)

115: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:33:11.46 ID:yi/lREP/O



「・・・・・・何か悩んでる?」

梨子「……えっ。……そ、そう見えました……?」

「うん。……だって、せっかくまた会えたのに、ずっと黙ってるから」

梨子「……す。すみません……」

「ふふっ。いいんだよ。・・・・・・それにしても、久しぶりだね?」

梨子「……そう、ですね……」

「・・・・・・まさか、もう一度会えるなんてね。・・・・・・それも、スクールアイドルをしている、あなたに・・・・・・」

梨子「あ、はは……」


116: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:34:14.49 ID:yi/lREP/O

梨子(……土曜日の昼下がり。雨でもないのに、珍しく、皆の予定が重なって練習がお休みになった、ある日)

梨子(地区大会を突破したばかりだということもあって、たまには何も考えず休憩しようってなって……)

梨子(私も、久しぶりに沼津でお買い物しようかなって思っていた、その時)

梨子(……しいたけちゃんとのこともあって、忘れかけていた。あの、不思議な人と、再開した)


「・・・ねえ。私のこと、覚えてる?」

梨子「お、覚えてますっ!……忘れるわけが、ありません」

梨子「……ハオさん、ですよね」

「・・・・・・ふふっ。正解だよ」


117: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:34:48.93 ID:yi/lREP/O

梨子(……葉百と書いて、ハオと読む。……不思議な、女の人)

梨子(千歌ちゃんと出会う前日に会った、女の人。……私を占って、ピアノを弾いて、消えていった、あの人)

梨子(……その人が。……この人、だ)


梨子「……あの。……どうして、またこの町に?」

「・・・」

梨子「あ。あの……」

「・・・・・・」

梨子「……し。失礼しました!!」

「・・・・・・ぷっ。あははっ!」

梨子「……え」

「ごめんごめん、意味深な間なんて作って。・・・・・・たまたまだよ、たまたま」

梨子「た、たまたま……」

「そ、たまたま。・・・・・・ちょっと用事が出来てね。こっちまで、出てきたっていうわけ」

梨子「……そうですか」


「・・・・・・しっかし偶然だよねー。・・・・・・まさか、こんなところで梨子ちゃんともう一度会えるなんて!」

梨子「あ。……私の名前、覚えていてくださって、ありがとうございます」

「な~に言ってるの!忘れるわけないって!」

梨子「……あ、ありがとうございます……」


118: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:35:19.84 ID:yi/lREP/O

梨子(……不思議な人。……この言葉が似合う人は、この人しかいないってくらい、不思議な人)

梨子(……なんでだか。一緒にいると、とっても落ち着く……すごく、落ち着く、キレイな人……)


梨子「……あの。スクールアイドル、知ってるんですか?」

「え?・・・まぁね」

梨子「……私たちがスクールアイドルやってること。知ってるんですね……」

「・・・・・・まあね」

梨子「……どうして。数あるスクールアイドルの中で、私達を知ってるんですか?」

「・・・・・・キラキラしてたから」

梨子「……え?」

「・・・・・・。キラキラしてた。・・・・・・それじゃ。ダメ・・・・・・?」ギュッ

梨子「あ、いえ。……とても、嬉しいです」

「・・・・・・」


119: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:36:18.01 ID:yi/lREP/O

梨子「スクールアイドル。好き……なんですか?」

「・・・そうだね。・・・・・・大好き、かな?」

梨子「……そう、なんですね……」

「うん。だから、梨子ちゃん達だけじゃなく。・・・・・・Saint Snowも注目しててね」

梨子「……え?」


「カッコイイと思うからさ、あの二人」


梨子「それは……私も思いますけど……」

「あ、ちょっと不機嫌になった?」

梨子「い、いえ!そんなことは!」


「ふふっ。ごめんごめん。・・・Aqoursのライバルでもあるもんね?」


梨子「……はい」


「そうだよね。・・・・・・でも何だか、こうやって大人になって思うと。すごくμ'sっぽいなって思ってね」


梨子「……!」

「あの二人、A-RISEに憧れてスクールアイドルになったって聞いてたけど。・・・・・・やってることは、とってもμ'sっぽい」

「よく考えれば、当然かもしれないんだけどね。だって、μ'sもA-RISEに憧れてスクールアイドルを始めてたらしいから」

梨子「……憧れ……」



「・・・・・・」



120: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:36:59.04 ID:yi/lREP/O


梨子「……もしかして。……その」


梨子「葉百さんも、スクールアイドル、やってたんですか……?」




「・・・・・・どうだと思う?」



梨子「えっ。……あの……」

「・・・・・・ふふっ。ごめんね、イジワルばっかで」ギュッ

梨子「……」



121: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:42:02.27 ID:yi/lREP/O

梨子(……この人は、いつも……。いつも、胸元のペンダントを握っている)

梨子(……どうして、なんだろう)


梨子「あの。……その、ペンダント」

「え?」ギュッ

梨子「……大切な、ものなんですか?」

「・・・・・・ぇ」

梨子「前、会った時も。……大切そうに、していたので……」

「・・・・・・。うん。大切だよ」ギュッ

梨子「……そう、ですか……」

「これはね、とても大事なものなの」

「とってもとっても大事な……思い出がいっぱい詰まってる、とても大事なペンダントなの」

梨子「確かに……。すごく、意味がありそうですよね」

「・・・・・・意味?」

梨子「え。えぇ。……あの、表面の、星……とか。」

梨子「その、9つの星……何か意味があるんですか?」

「え?・・・・・・そう見える?」

梨子「ちょ、ちょっとだけ……」

「あはは。・・・・・・そうか。・・・うん、そうなんだぁ」

「・・・けど、これはそんなに大した意味はないの。多分今の人なら受け入れられる程度の意味だよ」

梨子「……受け入れられる程度の、意味……」

「・・・・・・」


122: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:42:41.44 ID:yi/lREP/O


「・・・ねえ梨子ちゃん。それより、梨子ちゃんのお話が聞きたいな」

梨子「えっ。……私の、話……?」

「うん。梨子ちゃんのこと、もっと知りたいからさ」

梨子「……私のことを……」

「ねえ、梨子ちゃんって今気になってる子とかいないの?」

梨子「え?」

「だからさ、好きな子とか、今いないの?」

梨子「……い、いやいやいや!いませんって!」

「えぇ~ホントに~?」

梨子「いないです!大体、私が通ってるのは女子高ですし……!」

「いやいや。愛の前に性別は関係ないよ」

梨子「そうかもしれませんけどっ!私にはわからないです!」

「あははっ。そんなに必死になって否定しなくてもいいのに」

梨子「……葉百さんがヘンなこと言うからですよ!」

「ゴメンゴメン。じゃあ、最近気になってることとか、聴かせてくれる?」

梨子「……最初からそっちで良かったと思うんですけど……」


123: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:48:04.27 ID:yi/lREP/O

梨子(そうして、葉百さんのペースに乗せられながら、私は自身の近況を葉百さんに話した)

梨子(葉百さんは、笑顔で、興味深そうに、そしてとても楽しそうに私の話を聞いてくれた)

梨子(そんな風に聞いてもらえるものだからか、私は、自分でも驚くくらい色々な話をした)

梨子(スクールアイドルのことはもちろん、学校のこと、友達のこと、他愛の無い話も……)

梨子(葉百さんは、私たちのことをよく知っていたから、メンバーのことも話した)

梨子(……鞠莉ちゃんがこんな話をした、とか。最近の千歌ちゃんが、どことなく妙な感じがするとか。……ルビィちゃん達には助けられてるって話も)

梨子(……そして)

梨子(…………善子ちゃんがあの時部室で話した、あのウワサ話も)


124: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:55:03.34 ID:yi/lREP/O
梨子「……あの。知ってますか」




梨子「……最近この辺りに出るっていう、[亡霊]のこと」

「・・・・・・」

梨子「……っ。どう、なんですか……」

「・・・。知ってるよ。・・・何でも、若い女の人が、あちこちに現れているみたいだね?」

「そして、現れるたびに、不思議なことが起きる。・・・人間の仕業とは思えないようなこと。あるいは、人間に出来る範疇であったとしても、普通の人間には出来ないようなことだったり」

「でも、その人のことを誰もちゃんと覚えてない。思い出せるのは、アイマイな記憶だけ・・・」

梨子「……よく、ご存じですね。地元の人でもないのに……」

「・・・私のように、あちこちに出向いてる方が、地元の人よりそういうウワサ話を聞く機会が多いんだと思うけどね」

梨子「……そう、ですか」

「そうだよ」

125: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:55:41.45 ID:yi/lREP/O
梨子「……その女の人。少なくとも、ここら辺では見かけない顔の人らしいんです」


「・・・」


梨子「……もしかして……」


「・・・・・・」


梨子「……っ!」


「・・・・・・一つだけ、言っておくね。・・・私のことをハッキリ覚えていてくれる人がいる以上、私は当てはまらないよ」


梨子「え……」



「[亡霊]のこと。・・・[亡霊]は、記憶から、完全に消えはしないけど、ちゃんと覚えられもしない存在なんだよね」


「だったら、その条件に私は当てはまってない。・・・梨子ちゃん自身が証明してくれてることだよ」


梨子「ぁ……」



梨子(……私は、その言葉を聞いて。もう、何も言えなくなってしまった)


126: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:56:18.45 ID:yi/lREP/O

「さぁ。じゃあ、もういかなきゃ」

梨子「……え……?」

「梨子ちゃんには悪いんだけど。・・・用事があるのだ」

梨子「……そう、ですか……」

「・・・・・・」

「・・・・・・もし。真実を、追求したいなら」

梨子「……ぇ?」

「会えるかもね。・・・・・・また、近い内に、ね」

梨子「……」


梨子(そう言って。……葉百さんは、去っていった……)

梨子(お金だけ、残して。……でも)

梨子(9円だけ足りないところを見ると。……ちょっと、ドジなのかもしれない)

梨子(……聞きたいこと、いっぱいあったはずなのに。……私だけが話してしまって、いつの間にか、聴けずにいた……)

梨子(いつか、また。……会えるのかな……)


127: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:59:09.05 ID:yi/lREP/O




千歌「……ぅ~ん。う~ん」

梨子「……千歌ちゃん。イイの、出来ない?」

千歌「ぅん。……うぅ~ん……」

梨子「……そうやって、唸りちらして、もう数時間たったんだけど?」

千歌「……はい。すみません」

梨子「……もぅ。そろそろ、休憩する?」

千歌「あ、うん!」


梨子(……そう言って、嬉しそうにおやつを取りにいった千歌ちゃんに、ちょっと呆れつつも、笑顔をもらった)

梨子(……久し振りに1人になった気がする。……せっかくだから、色々なことを整理しよっかな)

128: 名無しさん 2019/07/02(火) 20:59:49.73 ID:yi/lREP/O


梨子(スクールアイドル部。……ちょっと、部のところはヘンだけど……そこに入ってから、私は本当にいろんなことを経験した)

梨子(ただここ最近は、その中でも一際不思議な経験をしていると思う)

梨子(……特に。[亡霊]という言葉が、私の中に残っている)

梨子(そして、入れ替わりという話も……私の中で、妙な焦りを持つ言葉として、残っている……)

梨子(……千歌ちゃん)

梨子(そして、千歌ちゃんに似た……あの人)

梨子(……千歌ちゃんには。何故か、時々違和感を感じる時があった)

梨子(……あの人は。……存在そのものが、不思議な人だ)

梨子(……[亡霊]のウワサは。あくまでウワサ。……でも、そのウワサに出てくる人は……千歌ちゃんと同じくらいの髪の長さだったそうだ)

梨子(…………)

梨子(やめよう。……曲作り、進まなくなるし)

梨子(……千歌ちゃんの足音がするし。……おやつ、またみかんかな……?)


129: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:02:39.45 ID:yi/lREP/O
>>126




千歌「……ぅ~ん。う~ん」

曜「……千歌ちゃん。イイの、出来ない?」

千歌「ぅん。……うぅ~ん……」

梨子「……そうやって、唸りちらして、もう数時間たったんだけど?」

千歌「うーん!だってわかんないだってばー!!」

曜「うわっ。千歌ちゃんが、開き直った!」

千歌「……なんでよーちゃんばっかり進んでるの~!こうしてやる~!」

曜「うわわっ。……あ、あっはは!やめてよちかちゃん!ダメだってそんなことしちゃ!……きゃははっ!!」

梨子「……くすぐるの、やめなさい!!」

130: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:03:22.95 ID:yi/lREP/O


梨子(……私たちは今。……『そうさくがっしゅく』をしている)

梨子(葉百さんと再会をして、数週間が経って。……皆で新曲のことを考え始めて)

梨子(ある程度方向性は固まったんだけど……)

梨子(千歌ちゃんが、いつまで経っても詞をくれないから。……曲担当の私と、衣装担当の曜ちゃんが、中々進まなくて。……結局、進まない二年生は缶詰めですわって言われて……)

梨子(こうやって。……皆で、それぞれ頑張っちゃってるんだけど……)


曜「ふふふっ。あはははは!……だ、ダメだってちかちゃん……」

千歌「ええ~。でも、嬉しそうだったじゃん、わたなべぇ~」

曜「も、もう。……千歌ちゃん、わっる~い」

千歌「えへへ。悪女チカ!……どう?よくない?」

曜「だから悪いって!……悪い千歌ちゃんは、こうだぞ!!」

千歌「え?……キャッハハハ!ダメよーちゃんもうだめ!!」

梨子「……くすぐるの、やめなさいってば!!」


梨子(……前途多難ね)


131: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:04:19.82 ID:yi/lREP/O
曜「ふぅ、ふぅ。……ところで、なんで千歌ちゃんは新しい歌詞が思い浮かばないの?」

千歌「ひぃ、ひぃ。……なんか、新しさを求め過ぎちゃったせいか、何が新しいのか、わかんなくなっちゃって」

梨子「……いっそのこと。古いものから作っちゃえば?」

ふたり「それだ!!」


梨子「……え、ええぇ!?」




千歌「……あ。見てぇ。この前三人で撮ったやつだよ!」

曜「あ、ホントだ!……旅館の前で皆で撮った、梨子ちゃんがしいたけにビビってるやつ!」

梨子「……そ、それはベツにいいじゃない」

曜「あっ!これ!……しいたけが来た時のやつ!?」

千歌「あっ!そうだよぉ~なつかしい!」

梨子「……小さい二人と一匹で、満面の笑みで写ってるわね……」

132: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:05:43.27 ID:yi/lREP/O
曜「あははっ。その時の写真、しいたけと家族になったばっかりの時の写真なんだ!」

千歌「……あの時、曜ちゃんスネてたよね?」

曜「え。ええ?」

千歌「ず~っとしいたけのこと話してたらさ。なんかきゅーに曜ちゃん不機嫌になって、怒られたの、覚えてるもん」

曜「……も。もう。それは昔の話だよ」

千歌「初めてケンカしたよね?……よーちゃんがしいたけに冷たくするから、私が曜ちゃんをぶっちゃったんだよね」

曜「……アレ。本当に痛かったよ」

千歌「ご。ごめん~!……あの後、志満ねぇにすっごい怒られて、私泣いちゃったんだよね」

曜「そうだね。……で、ワケも分からず私も泣いてるところに……。ちっちゃいしいたけが来て、私の涙を舐めて」

曜「その後、怒られてる千歌ちゃんのとこにも行って。……泣いてる千歌ちゃんの顔を、舐めてたっけ」

千歌「それからだよね。よーちゃんがしいたけと仲良くなったのは」

曜「そうだったかなぁ?」

千歌「そうだったよ」

曜「……そうかも!」キャッキャッ


133: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:06:49.18 ID:yi/lREP/O

梨子(……羨ましいな。ちょっと、嫉妬しちゃう)

梨子(……幼馴染。私には、それがどういったものなのか、わからないけど……)

梨子(きっと。二人にしかわからない、とっても大切な関係が、あるんだろうな……)


梨子(……それにしても……私の一言がキッカケで、急に千歌ちゃんのアルバムを見ることになってしまったけど)

梨子(……千歌ちゃん、一人で写ってる写真がすくないというか。……ほとんど、ない……?)

梨子(隠し撮りみたいなのじゃない限り。いつも、誰かと一緒に写ってるな……)

梨子(……これは、美渡さんの卒業式の写真?……小さい千歌ちゃんが、美渡さんに抱きついて、浦の星の制服を着た美渡さんが困ってる)

梨子(……でも。一ページめくると、美渡さんが千歌ちゃんを抱きかかえている写真があって)

梨子(志満さんが、美渡さんを……抱きしめて。千歌ちゃんは、二人のお姉さんに抱きしめられて、苦しそうな写真があって)

梨子(……それだけじゃない)

梨子(千歌ちゃんのアルバムには。千歌ちゃんの周りに、たくさんの人がいる写真ばかりがあった)

梨子(……どうして、だろう……?)


134: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:07:30.04 ID:yi/lREP/O


千歌「それはね」


梨子「え?……わ、わぁ!……ビックリした……!」



梨子(千歌ちゃん……!心臓に、悪いわよ……!!)



千歌「それはね。……写真を撮る時、チカは絶対誰かと一緒になりたいからなんだ」

梨子「……い、いっしょ?」

千歌「うん、そうだよ。・・・・・・私、その時一緒にいた人のこと、忘れたくないから。……絶対、写真を撮る時は、誰かに混ざってもらうか、逆に誰かが写真を撮る時は、混ぜてもらうようにしてるんだ」

千歌「思い出って皆との思い出だからさ。私、出来るだけ写真を撮る時は皆で一緒に写りたいと思ってるんだ!」

梨子「……そう」


梨子(……だから。千歌ちゃんの周りに、笑顔の人がいっぱい、出来るのね……)



135: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:15:36.37 ID:yi/lREP/O
曜「……おかげで私の持ってる千歌ちゃんの写真って、ツーショットばっかりになるんだけどね」

梨子「……よ、曜ちゃん」

曜「……たまにはさ。千歌ちゃんだけをメインにした写真も。……撮らせてほしいのに」

梨子「……曜ちゃん。今のはちょっと、危険よ」

曜「え、え!?」

梨子「……ちょっと怖いから。……千歌ちゃんでナニかしそうな感じというか」

曜「な、ナニもしないよ失礼だな!……た。たぶん」

梨子「……」

曜「……」


梨子(『あーこっちは果南ちゃんと会った時の写真だ!なつかしぃ~』だなんて言っている千歌ちゃんを横目に)

梨子(私達は……お風呂を頂くことにした)

梨子(……後から千歌ちゃんも追いかけてきて。三人で十千万自慢の温泉につかったんだけど)

梨子(……千歌ちゃんが駆けつける前の湯船で。曜ちゃんと、皆にはナイショな、ヒミツの内緒話をした)

梨子(……この娘とは、仲良くなれる。いや、仲良くなりたい!今以上に……もっと!)

梨子(そんな気持ちを抱けた、時間だった)


136: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:17:19.22 ID:yi/lREP/O

梨子(……その後。結局、曜ちゃんだけが、千歌ちゃんの少ない言葉から衣装を完成させて。……それに合わせる、歌詞と曲は出来上がらなかった)

梨子(……私と千歌ちゃんの二人で。創作合宿の続きをすることが決まったところで、就寝の時間になってしまった)

梨子(……寝る前。……私は、今日ここに来た時の。しいたけちゃんと、触れ合えたことを思い出していた)


しいたけ『わふん?』

梨子『よしよし、しいたけちゃん。……ふふっ。私も、もうしいたけちゃんから逃げたりしないからねっ』

しいたけ『……わふぅ』

梨子『……ぁ』

梨子『(やっぱり、しいたけちゃんの首輪のアクセサリー。……結構、古びちゃってるな)』

梨子『……思い出のモノだとは思うけど。……もし、私が新しいものをプレゼントしたら、喜んでくれる?』

しいたけ『……わん!』

梨子『ふふっ!……ありがと、しいたけちゃん!』

しいたけ『……わぅん!』

梨子『ありがとね!……ルビィちゃんに、文字の構成決まったよって、話さなくちゃ……』

曜『お~い、梨子ちゃん。……どうしたの?……あっ。梨子ちゃん、しいたけといつの間にかなかよくなれたんだね?』

梨子『……えっ。あっ、曜ちゃん!……うん、ちょっと、色々あって……』

梨子『……いぬ、好きになれたかも……』

曜『・・・・・・ホント!?うわぁ~千歌ちゃん喜ぶよ!』

曜『……モチロン私も!梨子ちゃん、しいたけ好きになれてよかったよ!!』

梨子『……うん、私もよかった!』


梨子(……そんなやり取りをしたことを、思い浮かべつつ。……私は布団に入った)

梨子(……明日は。私と千歌ちゃん二人でまた合宿の続きか……)

137: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:18:01.33 ID:yi/lREP/O



千歌「……ぅ~ん。う~ん」

梨子「……千歌ちゃん。イイの、出来ない?」

千歌「ぅん。……うぅ~ん……」

梨子「……そうやって、唸りちらして、もう数時間たったんだけど?」

千歌「……はい。すみません」

梨子「……もぅ。そろそろ、休憩する?」

千歌「あ、うん!」


梨子(……そう言って、嬉しそうにおやつを取りにいった千歌ちゃんに、ちょっと呆れつつも、笑顔をもらった)

梨子(……久し振りに1人になった気がする。……せっかくだから、色々なことを整理しよっかな)


138: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:19:16.93 ID:yi/lREP/O

梨子(スクールアイドル部。……ちょっと、部のところはヘンだけど……そこに入ってから、私は本当にいろんなことを経験した)


梨子(ただここ最近は、その中でも一際不思議な経験をしていると思う)


梨子(……特に。[亡霊]という言葉が、私の中に残っている)


梨子(そして、入れ替わりという話も……私の中で、妙な焦りを持つ言葉として、残っている……)


梨子(……千歌ちゃん)


梨子(そして、千歌ちゃんに似た……あの人)


梨子(……千歌ちゃんには。何故か、時々違和感を感じる時があった)


梨子(……あの人は。……存在そのものが、不思議な人だ)


梨子(……[亡霊]のウワサは。あくまでウワサ。……でも、そのウワサに出てくる人は……千歌ちゃんと同じくらいの髪の長さだったそうだ)


梨子(…………)



梨子(やめよう。……曲作り、進まなくなるし)

梨子(……千歌ちゃんの足音がするし。……おやつ、またみかんかな……?)


139: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:19:42.20 ID:yi/lREP/O


千歌「おまたせ~梨子ちゃん!今日のおやつはみかんどら焼き!」

梨子「……合ってるけど違った」

千歌「……?」

梨子「な、なんでもない。……おいしいよね、コレ!」


梨子(毎日食べたら太りそうだけど……)


千歌「うん。おいしいよねぇ。……前、毎日食べてた美渡ねぇが太ったのを見てから、たま~にしか食べなくなっちゃったけど」

梨子「……そ。そう」


梨子(……美渡さんが千歌ちゃんに厳しいのって……もしかして自分の過ちを妹に繰り返させないためだったりして……)


140: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:20:50.47 ID:yi/lREP/O

千歌「……ん~おいひぃ。……あ、しいたけも来た!」

梨子「えっ?……あっ。ホントだ、しいたけちゃん」

しいたけ「……」

梨子「お邪魔してるよ……昨日ぶりだね?」

しいたけ「……わぅん」

千歌「・・・・・・嬉しいな。しいたけと、梨子ちゃんが仲良くなってくれて」

梨子「え?……うん。もう仲良しだよ。ね?」

しいたけ「わん!」


141: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:21:35.95 ID:yi/lREP/O
千歌「ふふっ。そっかぁ。……ね。しいたけも食べる~?」

しいたけ「わん?」

梨子「ちょ、千歌ちゃん。人間の食べ物をあげていいの?」

千歌「いいのいいの!だって昔っからしいたけと一緒におやつ食べてたもん!ねー?」

しいたけ「……ばぅっ!」

千歌「もちろん犬にとってダメなやつは絶対あげなかったよ。……でも、そんなことしなくてもしいたけはかしこいから、自分で自分で自分にダメなこと、好きなこと、好きなものを選んでたもんね!ねー?」

しいたけ「ばぅっ!」

千歌「みかんどら焼き、好きだもんねー?」

しいたけ「ばぅわぅっ!」

梨子「……イッツマイライフとでも言いそうな喜び方ね」

千歌「へ?ジョン・ボビー?」

梨子「ボン・ジョヴィよ!」


142: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:22:12.45 ID:yi/lREP/O
しいたけ「ばぅっ!」

梨子「きゃっ。……あ、ちょっと……!」

千歌「しいたけが、凄い勢いでこっちに来る……!」


梨子(こ。このままじゃ……)


梨子「ぶ、ぶつかる~!?」

千歌「あ、あぶないっ!」ギュッ

梨子「え?わぁ!!」



143: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:26:40.18 ID:yi/lREP/O

梨子(ドテーンという音がして。……私は、千歌ちゃんに押し倒される形になっていた)

梨子(千歌ちゃんと私は、一直線に座ってたから。……一直線に迫ってきた、しいたけちゃんを避けるには、二人とも倒れるしかなかった)

梨子(……勢い余ったせいかな?……千歌ちゃんが、頭に手をまわしてくれたおかげで、私は頭を打たないで済んだんだけど……)

梨子(いつもなら。……ちょっと、トキメいちゃうんだけど)

梨子(私の、手に。……何か、ものが落ちて)

梨子(何だろうって、握りしめて。……ちょっと視線をそちらに向けた時)



梨子(……私は。夢から覚めたかのように、ビリビリと何かが体を走ったのを、感じた……)



144: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:27:35.24 ID:yi/lREP/O

梨子「……こ。これって」


梨子「これって……!?」


梨子(……私は、これを見たことがある)


梨子(あの。……不思議な人が。私を占った、あの人が……!)


梨子(私が、覚えている、あの人が)


梨子(ハオさんが持っていた……アレが!)


梨子(……世界に一つだけしかないはずの、ペンダントが……!!)


梨子(……どうして。私の、手に……?)


梨子(どうして、千歌ちゃんの制服から、あのペンダントが……?)



145: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:28:22.27 ID:yi/lREP/O

千歌「いてて……大丈夫梨子ちゃん?ケガはない?」


梨子(っ!)


梨子「だ、大丈夫……平気よ」

千歌「そっか、よかったぁ~」


梨子(……思わず、隠してしまったけど)

梨子(どうして?何で、千歌ちゃんが、特注だって言っていたペンダントを持ってるの?)


千歌「もぉ~しいたけ!急に飛び出してきちゃだめだよ!」

しいたけ「……ゎん?」

梨子「ま、まぁまぁ。ケガもなかったし……大丈夫だよ」

千歌「ありがとぉ~飼い主のチカ共々そそっかしくてごめんね……」

梨子「そ、そうね。もう少し落ち着きをもって欲しいところね」

千歌「えぇ~私が自分で言ったこととはいえそこはフォローするところでしょ!」


146: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:29:06.39 ID:yi/lREP/O

梨子(……もし、あの話が本当なら、これは千歌ちゃんのものじゃない。だとすると……)


千歌「ねー梨子ちゃん聞いてるー?」





梨子(あの人の正体は……千歌ちゃん?でも……容姿が違うし……)



曜『でもさ、もし本当に自由に姿や性格を変えられるんだったらもうそれって見分けがつかないよね』


善子『そうよ!知らず知らずの内に人間は入れ替わっているのよ!』




147: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:32:14.69 ID:yi/lREP/O


梨子(……私は、一体何を考えているの)



ダイヤ『今の、動き……。まるで、達人のようでした』



梨子『た、達人?』



ダイヤ『ええ。……善子さんを支えつつ、片足ながらも自身も体勢を崩さない、その絶妙なところで、ピタリと止まった……』


ダイヤ『非常に難しいバランスを、一瞬のうちですが千歌さんはとれていた。……一歩間違えれば、二人とも海に落ちていたでしょう』


ダイヤ『考えられないことですが、善子さんを助けた今の動き。千歌さんの体運びは、武術を極めた達人のごとく洗練されたものだったように見えましたね』


ダイヤ『それこそ、〝奇跡〟なのでしょうけど、ね』フフッ





148: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:33:00.75 ID:yi/lREP/O

梨子(まさかそんなはずはない……)



梨子『す、すごい……こんな完璧な演奏……』


『ふふっ、ありがとう。でも、キラキラしてなかったでしょ?』


梨子『え、あ、それは……』


『気を使ってくれなくてもいいんだよ。……この演奏は、技術だけで、心が籠ってない』


『まるで機械のような演奏だったでしょ?』






梨子(……善子ちゃんじゃあるまいし……こんなこと誰も信じない)




梨子(……けど……)


149: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:34:09.53 ID:yi/lREP/O
千歌「梨子ちゃんっ!」

梨子「きゃっ。な、何?」

千歌「さっきから呼んでたよ。どうしたのボーっとして」

梨子「ご、ごめん。……ちょっと考え事してて……」

千歌「……大丈夫?やっぱりどこか打ったとかない?」

梨子「ううん、それは本当にないから大丈夫」

千歌「そう?それならいいんだけど」

梨子「ごめんね、心配かけて……」

千歌「いいって。……それよりさ、私のペンダント知らない?」



梨子(…………!!)



150: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:35:15.18 ID:yi/lREP/O


梨子「……ペンダントって。……これの、こと……?」



千歌「・・・ああ、やっぱり梨子ちゃんの方に行ってたか。よかった~見つかって!」



梨子(あっさりと自分のものだと認めた……)


梨子(もしこれが本当に世界に一つだけのものなら、こんな反応するかな)


梨子(むしろ、あの人しか持っていないものを何で千歌ちゃんが持っているのか?って疑われちゃうものね……)


梨子(そもそも世界に一つだけっていうのも本当かどうかわからないし……)


梨子(やっぱり私の思い過ごしよね、きっと)


梨子(明らかな証拠もないのに仲間を疑って……疲れてるのかな)


梨子(それも千歌ちゃんを疑うなんて……ちょっとあの堕天使の影響を受け過ぎたかも)



151: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:35:47.51 ID:yi/lREP/O

千歌「あの~梨子ちゃん、そろそろそれ渡してくれるかな?」

梨子「あ、ごめん……わかったよ」


梨子(あれ?でも、そういえば)


梨子「それにしても、このペンダント、大切なものなの?」

千歌「うん?どうして?」

梨子「いや、だってわざわざ首にかけず制服のポケットの中に入れてるってことはよほど大切なのかなって」

梨子「今日は練習せずに直帰して作業だったから一日中制服だった。だから、少なくとも丸一日ポケットに入れっぱなしだったわけだし」

千歌「あ、あぁ……そりゃ、学校じゃあそういうのつけれないからね」

梨子「それって学校に持って行くぐらい大切ってこと?」

千歌「え……?」

梨子「首にかけることが出来ないにも関わらず、ペンダントをずっと持ち歩いてるってことになるよね」

千歌「まあそうなるのかな?」


梨子「……っ」


152: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:36:29.28 ID:yi/lREP/O

梨子(……千歌ちゃん)


梨子(嘘でしょ……千歌ちゃん)


梨子(それは……墓穴を掘ったって自分から言ったようなものだよ)



梨子「……どうして、そんなに大切なの?」

千歌「……え?」

梨子「わざわざ着けることも出来ないアクセサリーをずっと肌身離さず持ち歩いていただなんて、普通じゃ考えられない」

梨子「何か……すごく大切なものでなければそんなことはしないと思うんだけど」

千歌「ま、まあ、すごいおねだりして買ってもらったものだからね。少しでも身につけておきたくて!」




梨子(……千歌ちゃんは、ペンダントが大切なものであること自体は認めている)


梨子(でも、『おねだりして買ってもらったもの』だからわざわざ持ち歩いていたんだとしたら、おかしな点が出てくる)


梨子(……どうして?どうして、千歌ちゃんは嘘をついているの?)



153: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:37:13.78 ID:yi/lREP/O
梨子「……だとしたら、なんで私服で集まった時いつもそれを付けてないの?」


千歌「……コーディネートによっては、合わないこともあるし、さ」


梨子「学校にまで持ってくるほど大切なものなのに、そんな理由で着けないってことがあるかな?」


千歌「……そうかな。そもそも、偶然今日だけ間違えてポケットの中に入っちゃっただけかもしれないし」


梨子「……それは、無いわ」


千歌「どうして?」


154: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:37:55.48 ID:yi/lREP/O
梨子「さっき千歌ちゃんは大切なものであることは否定しなかった。意図的に入れるならともかく偶然入ってしまったとは考えにくい」


梨子「それにもし意図的に入れようと思ってもそんな時間はなかったはず」


梨子「昨日は私と千歌ちゃんと曜ちゃんの三人で、千歌ちゃんの家に泊まり込んで作業をしていた」


梨子「寝るまでの間、私たちはずっと制服だったし着替えの時も三人だった」



梨子「……その間。千歌ちゃんが制服に何か入れてた様子はなかったよ」



155: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:38:33.11 ID:yi/lREP/O

千歌「・・・梨子ちゃんがトイレに行ってる時とか、皆が寝た後とかいくらでも時間はあったと思うけど」

梨子「私がいない時間でも曜ちゃんは千歌ちゃんと一緒だったよね。何だったら曜ちゃんに聞いてみる?」

梨子「それに、それこそ寝た後でそんなことをするなんて何かあるって言ってるのと同じだよ」

千歌「ね、寝ぼけてたとか!」

梨子「寝ぼけてそんな器用なことが出来る人なんて聞いたことないわね」

千歌「曜ちゃんが見落としたとか、何でもないフツーのペンダントだったから忘れてたとか」


梨子「……考えられないよ、そんなこと」


千歌「どうして……?」



156: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:39:14.78 ID:yi/lREP/O

梨子「……Aqoursの衣装担当が、千歌ちゃんのことを大好きな曜ちゃんが、そんな見落としをすると思う?」


千歌「・・・・・・」


梨子「千歌ちゃんが新しいアクセサリーを持っていたとしたら、きっとすぐに反応するはず」

千歌「昔買ったものだから特に反応しなかったってこともありえるよ」

梨子「そうね。だからそれは曜ちゃんに確認すればいいことだよ」


千歌「・・・・・・」


梨子「否定しないのね。……話を続けるね」



157: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:39:50.59 ID:yi/lREP/O
梨子「もし、昔のものだっとしてもやっぱりヘンなの。それだけ昔のもので、今も大切に持っているものについて曜ちゃんが何も話さないなんて考えられない」

梨子「知られてはまずいことだからって千歌ちゃんが口止めしていた可能性もあると思う。でも……」

千歌「……でも?」


梨子「私は、千歌ちゃんが仲間にそんなことをするとは思えない」


梨子「私は千歌ちゃんを信じてるから……」


千歌「・・・・・・っ」




158: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:40:31.80 ID:yi/lREP/O
梨子「それにね、私はそのペンダントをつい数週間前に見てるの」


梨子「……それも、ある人が身に着けていたのをね」


千歌「ある人……?誰のこと……?」


梨子「……不思議な女の人。……千歌ちゃんに似た、だけど違う。だけど……その人が現れると、周りにはきっと〝奇跡〟が起こる」


梨子「……そういう人のことを。……善子ちゃん風に言うと」






梨子「……[亡霊]さんが、ね」






159: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:41:37.09 ID:yi/lREP/O


千歌「・・・梨子ちゃんは、私がその[亡霊]だって言うの?」


梨子「……それ、は」


千歌「たまたま同じのを買ったのかもしれないのに?」


梨子「でも……その人は特注品だって言ってたよ」


梨子「世界に一つだけだって」


千歌「けど、世界に一つだけだからといってデザインが似ないってことはないよね?」

梨子「それはそうだと思う。だから、問題は千歌ちゃんがそれをいつ手に入れたかだと思う」


千歌「・・・いつ?」


梨子「……曜ちゃんがもしこのペンダントの存在を知らないとしたら、これは千歌ちゃんがずっと隠し持っていたことになる」

梨子「だけど現実的に考えてずっとバレないなんてことは考えられない」

梨子「それに、そもそもそんなことをする理由が千歌ちゃんにあるとは思えない」


梨子「……だったら。可能性が、あるとしたら……」



160: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:42:22.95 ID:yi/lREP/O

梨子(……可能性があるとしたら。どんな選択肢があるんだろう)


梨子(代々伝わる家宝で、何か一族の秘密があったとか?)

梨子(いや、このペンダントのデザイン自体は現代風のようだしそれは違うと思う)


梨子(逆に、曜ちゃんや他のメンバーとか友達から口止めされてるとか?)

梨子(ありえなくはないけど……)


梨子(仲間を信頼している千歌ちゃんがそうまでして何かを隠し通そうとする理由としては弱い……)

梨子(私の知っている千歌ちゃんを信じるなら、どうしても千歌ちゃん自身には、これを徹底して隠そうとする理由があるとは思えない)

梨子(だとしたら、やっぱり)





梨子「千歌ちゃん以外の人に、理由がある。そう、考えられる……」



千歌「・・・・・・」




161: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:43:51.56 ID:yi/lREP/O

梨子(でも……だったらどうして?どうしてそのことを話してくれないの?)


梨子(隠し事が得意とは言えない千歌ちゃんが、その素振りすら見せないだなんて考えられない)


梨子(だとしたら……やっぱり今目の前にいる千歌ちゃんは)


梨子(私の知っている千歌ちゃんじゃ、ないかもしれない……?)





梨子「……千歌ちゃんは、本当に……。[亡霊]なの……?」








千歌「……酷いな、梨子ちゃん。〝チカ〟は千歌だよ?・・・・・・〝私〟は。正真正銘の、高海千歌だよ」






162: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:44:41.96 ID:yi/lREP/O


梨子(……!)


梨子(そうだ、この違和感)


梨子(ずっと感じてた、この違和感の正体)


梨子(千歌ちゃんは自分のことを、〝私〟と言う時もあれば、〝チカ〟と言う時もある)


梨子(でも……それがなぜなのかはわからないけど。……どうしてか、気にかかっていた)


梨子(ほんの少しの違和感だったけど……この違和感がきっかけで私は今、千歌ちゃんを疑っている……)




163: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:45:43.71 ID:yi/lREP/O


千歌「〝私〟のこと、疑ってるの?……〝チカ〟のこと、信じてるって言っておきながら」




梨子(……。そうだ。確かにその通りだ)


梨子(私の態度は矛盾してる)


梨子(でも……だからこそ……)




梨子「私は千歌ちゃんのこと、信じぬきたい!」


梨子「少しでも疑いを持ったまま、千歌ちゃんと一緒にいたくない!」


梨子「だから、そのために……たとえ思い付きであっても、追いかけたいの」


梨子「それがちっぽけな可能性でも……」





千歌「・・・・・・梨子ちゃん」





164: 名無しさん 2019/07/02(火) 21:46:58.35 ID:yi/lREP/O

梨子「ねえ、聞かせて?千歌ちゃんはどうして、そのペンダントを持っているの?」


千歌「・・・・・・《教えて》、じゃなくて、《聞かせて》、か」


梨子「え……?」


千歌「わかった。梨子ちゃんがそこまで言うんなら話してあげる」

梨子「ほ、本当に!?」


千歌「でも私は《教え》はしないよ」

梨子「ど……どういうこと?」


千歌「私は、《話す》だけ。・・・・・・もし梨子ちゃんが、本当に『可能性』を追いかけるっていうのなら」

千歌「私の話の中から、その『可能性』を手繰り寄せてみせて」



梨子(……試されてるってこと?でもどうして?)


梨子(そんなことして何になるんだろう?)


梨子(……今は、考えていても仕方がない)


梨子(ハッキリさせるんだ!目の前の〝千歌ちゃん〟が、一体誰なのかを!)




165: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:35:45.86 ID:yi/lREP/O



千歌「こうやって砂浜で話すの、久しぶりだね」

梨子「……そうね」

千歌「なんか重要なことはいつもこの砂浜で、梨子ちゃんと話してる気がするな」

梨子「……そうかもね」



千歌「・・・・・・さ、それじゃ場所も変えたことだし。何でも梨子ちゃんの聞きたいことを聞いていいよ」



梨子「ええ……」



千歌「何だっけ?ペンダントのことと、私がちまたでウワサの[亡霊]に関係してるんじゃないかってことだっけ?」

梨子「そうね。……いつこのペンダントを手に入れたのか。そして、あなたは[亡霊]と関係しているんだとしたら、どんな関係なのか」

千歌「梨子ちゃんとしては、私が[亡霊]なんじゃないかって疑ってるんだよね」ニコッ

梨子「そ、そんなこと、ないけど……。ただ、ハッキリさせておきたいとは、思ってる」

千歌「う~ん、そっかぁ……」



166: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:37:26.20 ID:yi/lREP/O


梨子(……ねぇ、千歌ちゃん)



梨子(自分が荒唐無稽なことで疑われてるっていうのに、どうして笑顔でいられるの?)ギュッ



千歌「その根拠は私がこのペンダントを持っていたから、だよね?」

梨子「そう、ね」

千歌「う~ん、だよね……」

千歌「……やっぱりチカってドジだな~」


梨子(……!ということは)


梨子「認めるってこと?自分が……[亡霊]である可能性を」

千歌「いやいや、違うよ。そもそもチカと容姿が違うでしょ」


梨子「そ、それは……(そうよね……普通ありえないわよね)」


千歌「でも、[亡霊]の存在と、私との関係は認めることになるかな」

梨子「……?どういうこと?」


167: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:38:22.58 ID:yi/lREP/O
千歌「前にさ、生き別れの姉妹がどうとかって聞いてきたことがあったよね」

梨子「え、ええ……(まさか……)」


千歌「……いたんだ。本当に」


梨子「ど、どういうこと……!?」



千歌「だから、いたんだよ。チカに生き別れのお姉さんが」



梨子「……え、えぇえ!!?(う、嘘でしょ!?)」



168: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:39:20.82 ID:yi/lREP/O
梨子「そ、そのこと美渡さんたちは!?」

千歌「ううん、知らないよ。知ってるのはお母さんと生き別れのお姉さんだけ」

梨子「だとすると……そのペンダントは……」

千歌「そう。お姉さんがくれたんだ」


梨子「お姉さんは……千歌ちゃんのこと知ってたんだよね」

千歌「そうだね。でも、会うつもりはなかったんだって」

千歌「自分のことが知られると色々とマズイことになるからって」

千歌「でも、チカたちがスクールアイドルとして活躍するようになって、それを目にしてくれたみたいで」

千歌「浦の星が廃校を決定したことも知ったみたいで、それでもスクールアイドルを続けている姿を見て」

千歌「どうしても会って直接応援したかった、だから来たんだって言ってくれたんだ」


千歌「・・・このペンダントは、その時に貰ったもの。《あってはならない》かもしれないけど・・・・・・家族の形見にしてほしいって」



梨子「……」



169: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:40:07.15 ID:yi/lREP/O

梨子(ま、まさか本当にそうなの……?)

梨子(あの葉百さんが千歌ちゃんの生き別れのお姉さんで……ペンダントはその形見?)


千歌「私がずっとこのペンダントを持っていて、隠してたのはこういうことだったんだ」

千歌「もしこのペンダントの存在がバレたら、ややこしいことになるかもしれないから」ギュッ


梨子「で、でも……それぐらい、いくらでも誤魔化しようがあったんじゃない?」


千歌「……そうなんだけどさ、ほら、チカって隠し事下手でしょ?」

千歌「現に今も梨子ちゃんにバレちゃったもんね」

梨子「……!それは……」


千歌「だから、ヘンに気を遣わせて皆に迷惑かけたくなかったんだ」

千歌「今は大事な時期だし、ね」



170: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:40:49.72 ID:yi/lREP/O

梨子(……確かに、筋は通ってるように思える)

梨子(というより、本当にこの話の通りであってほしいと思う)


梨子(でも……でもやっぱり納得がいかない)


梨子(どうして千歌ちゃんは、そんな秘密を隠しながらこんな様子でいられるの?)


梨子(……確かに千歌ちゃんには違和感を感じていた)

梨子(けど、それはほんの小さな違和感であって……)

梨子(こんな重大事を隠していたっていうような違和感じゃなかった)



171: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:41:47.69 ID:yi/lREP/O

梨子(そう。違和感が小さいこと自体が、違和感なんだ)

梨子(千歌ちゃんが何か隠している時、Aqoursの皆は大なり小なり何かを感じてきた)


果南『……なんか最近の千歌、妙な気がするなー』

曜『果南ちゃんもそう思う?私もそうなんだけど……でも様子はそんなに変わらないし……』


梨子(それなのに、今回は。昔から特に一緒にいた、曜ちゃんと果南ちゃんぐらいしか気付いていない……)ギュッ


梨子(なぜなのかは分からないけど、千歌ちゃんを信じぬくためには……今は追求するしかない)



千歌「さ、何でも聞いてね」


梨子「……ええ。のぞむところよ」


梨子(まずはっきりさせておかなければならないのはいつペンダントを手に入れたのか、ね……)

梨子(私は既に二度、内浦に越してきた時や数週間前に『お姉さん』に会っている)

梨子(だとすれば……)



172: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:44:09.41 ID:yi/lREP/O
梨子「千歌ちゃん。千歌ちゃんがそのお姉さんにペンダントを貰ったのはいつなんだっけ?」

千歌「実際に会った時だから……数週間前かな。梨子ちゃんも会ったんだよね?」

梨子「うん。曜ちゃんと3人でいた時に、少しだけ話したけど」

梨子「……沼津でちょっと、ね」

千歌「すごい偶然だよね~!まさに奇跡!」

梨子「……うん、そうだね(本当に偶然ならね……)」

梨子「お姉さんに会ったのはその日が初めて?」

千歌「うん。……あ、そういえば梨子ちゃん春にも会ったって言ってたっけ?」

梨子「そうね。まさかあの日に会っていたのが、こんな形に繋がっていただなんてね」

千歌「う~ん、なんか運命的なものを感じるね」


梨子(……運命。そうなのかな……)


173: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:45:16.90 ID:yi/lREP/O
梨子「……じゃあ、春にはお姉さんと会ってないってことで間違いないんだよね?」

千歌「うん。……どうも、近くには来たけど、会おうとは思わなかったんだって」

梨子「それは……やっぱり千歌ちゃんのことを思って?」

千歌「……。混乱させちゃうかもしれないからだって。でも……」

千歌「でも、スクールアイドルとして頑張ってる姿を見て、どうしても会って話がしたいって……」

千歌「電話番号、お母さんから聞いたみたい。……お母さんからも連絡が来たよ」

梨子「……そっか(……そこまでの事態なのに私たちが察せなかったのはやっぱりどこか引っ掛かるな)」



梨子(会ったのは数週間前が初めてだった……生き別れで事情があるんなら当たり前か)

梨子(美渡さんたちも知らなかったってことらしいし……)



174: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:50:49.64 ID:yi/lREP/O
梨子「……ペンダントが《あってはならない》っていうのはどういうことかな?」

千歌「……これって要するに、お母さんが、その……」

梨子「あ、ご、ごめんなさい!気を遣わせちゃって……」

千歌「ううん。大丈夫だよ。……お母さんが、不倫をしてた証拠になるかもしれないからさ」

梨子「……」

千歌「しかも、志満姉ぇ達も知らなかった事実だから……きっと、持っていたら大騒動になるかもしれない」

梨子「さっきも言ったけど、友達に貰ったとかそういう言い訳で誤魔化そうとは思わなかったの?」

千歌「う~ん、ちょっと無理だよ。高校生が買えるほど安くなさそうだし」


梨子(確かに……パッと見だけでもしっかりした造りになってるってわかるものね……)



175: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:51:58.49 ID:yi/lREP/O
梨子「けど、持ってることがバレたら困るのに、持ち歩いていた……」

千歌「うん。……形見にしてって言われたし、それに……」

梨子「それに?」

千歌「それに、離れていても、間近で応援できなくっても、お姉さんはお姉さんなんだよって」

千歌「いつまでも千歌の家族で、千歌のことを応援し続けてるよって」

千歌「そう言って、渡してくれたものだから……」


梨子「・・・・・・うぅっ(胸が痛い……)」

梨子(でも、ここは心を悪魔……いや、堕天使。……もとい、鬼にしてもっと踏み込まなきゃ!)


176: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:52:53.24 ID:yi/lREP/O
梨子「持ち歩いている理由はわかったけど……バレないような対策は考えなかったの?どこかに隠そうとかは思わなかったの?」

千歌「ん?どうしてー?」

梨子「ど、どうしてって……」

千歌「え、だって下手にどこかに隠すより私が自分で持ち歩いてた方がバレにくいじゃん」

梨子「……(マジで言ってるのこの自称普通怪獣は)」

千歌「ほら、咄嗟のことならスクールアイドルの衣装とか言えるし、拾って届ける途中だとか言えるし」

梨子「……い、いやそれは……(穴が多すぎるでしょ……)」

千歌「要するに家族とか友達にまじまじと見られなきゃ誤魔化せるかなって!」

千歌「……梨子ちゃんには、咄嗟でも隠せなかったけどね」

梨子「……私は前にそれを見たことがあったからね(あれ、でも……)」

梨子「なんでその時『拾った』って言わなかったの?」

千歌「梨子ちゃんも言ってたでしょ。大切だって言って、一日一緒にいたのに届けるそぶりも見せずに拾ったは通じないよ」

梨子「そっか……じゃあもし昨日三人で泊まってなくて、今日も作業をしてなかったら……」

千歌「うん。誤魔化してたと思うよ」

梨子「……(千歌ちゃん自身が大切だと認めていなかったら、話は始まりもしなかったかもしれないのね)」


177: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:53:43.85 ID:yi/lREP/O

梨子(……おかしなところは、ない)


梨子(それはそうだよ。だって世界に一つだけの物がなぜか千歌ちゃんのところにあるってことが疑問だったんだもん)

梨子(千歌ちゃんがこれを大事にする理由がない、だから別の人が大事にする理由を持ってる。……その前提から出発したけど)

梨子(その理由が説明できるのだとしたら、千歌ちゃんを疑う根拠は何もない)


梨子(……私がやっていることは、不当に仲間を疑って、言いがかりをして、事態をかき回しているだけだ)


梨子(……けど、どうしても引っ掛かる)

梨子(どうして、千歌ちゃんはこんなに深刻な話を隠して、しかも皆に気付かれなかったんだろう……?)

梨子(確かに、違和感はあった。でも、それを感じたのは……)

梨子(私と曜ちゃん、そして果南ちゃんだけ……)


梨子(発想を変えれば、私だけが千歌ちゃんに違和感を感じていたわけじゃない)

梨子(私だけが違和感を感じていたのならそれは単なる勘違いでしかない可能性もある。けど……)

梨子(仲間もまた、同じ違和感を感じていたのだとするなら……)

梨子(そして、私は仲間を信じている。なら……)

梨子(ここで、やめることは出来ない。まだ疑う余地があるのなら!)


178: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:54:25.36 ID:yi/lREP/O

千歌「……どうかな?梨子ちゃんの聞きたかったこと、全部聞けたかな?」


梨子「……残念だけど、それはまだみたい」


千歌「そっか。……それで?」

梨子「……え?」

千歌「それで、梨子ちゃんはどこに納得していないっていうのかな?」


梨子「……(ここは最初のポイントだ)」


梨子(今までの話を整理して考えてみよう……)



179: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:56:11.25 ID:yi/lREP/O

梨子(確かに、〝千歌ちゃん〟がこのペンダントを学校にまで持って行くほど大切にしていて、それを隠していた理由は説明されたと思う)

梨子(けど、きっと……〝千歌ちゃん〟がそんなことをしていたなら、皆が何か気付くはず)

梨子(〝千歌ちゃん〟がそんな、隠し通せたことが不自然だとずっと考えてきた。なら……)



梨子(……もし、目の前にいる〝千歌ちゃん〟が、私の知っている〝千歌ちゃん〟じゃないとしたら?)


梨子(そう。〝千歌ちゃん〟が隠し続けられないんだとしたら、別の人なら出来たと考えるしかない)

梨子(そしてその人には、ペンダントを持ち続けなければならない理由があった)

梨子(見方を変えれば、このペンダントをとても大事にしていた……それこそ、誰かにバレるリスクを持ってまでも、肌身離さず持ち歩いていたほどに)


梨子(……だとしたら、それほど大事にしていた理由が、このペンダントにはあるはず)


梨子(……全部私のオクソクにすぎない。けど、このオクソクを進めた上で考えるしかない)

梨子(まだ聞く必要のある事。調べる必要があること)

梨子(もう一度皆の……そして私の〝記憶〟を思い出してみなきゃ)



梨子(何か……ヒントになりそうなことは……)


梨子(……!そういえば!)



180: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:56:53.01 ID:yi/lREP/O

千歌「……どうかな。まだ梨子ちゃんが納得いってないことって何かな?」

梨子「うん。……うん、失礼な頼みなんだけど」

千歌「なぁに?」


梨子「……その、形見だって言ってたペンダント。それを、もっと詳しく見せて欲しい」


千歌「・・・この、ペンダント?」


梨子「うん」


千歌「・・・梨子ちゃんなら、別にいいけど。ヘンなことしないでね?私にとってすごく大切なものだから・・・・・・」


梨子「もちろんわかってる。念入りに、扱わせてもらうから……」



181: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:57:27.86 ID:yi/lREP/O

梨子(そう、念入りにね……)


梨子(……私は思い出した。私自身の〈記憶〉を)


梨子(あの人は、葉百さんは、言っていた)



『これはね、とても大事なものなの』


『とってもとっても大事な……思い出がいっぱい詰まってる、とても大事なペンダントなの』


梨子『確かに……。すごく、意味がありそうですよね』




梨子(……もし、この『思い出が詰まってる』という言葉が比喩じゃなく、文字通りのことだとしたら?)

梨子(このペンダントの中に、何かその思い出を示す……そんな[記録]が残っていたとしたら?)


梨子(……試してみる価値は、あると思う)


182: 名無しさん 2019/07/02(火) 22:58:05.33 ID:yi/lREP/O
千歌「それならいいけど。……ハイ、これ」

梨子「ありがとう……」


梨子(さて……千歌ちゃんからペンダントを渡してもらったわけだけど)

梨子(パッと見、何かあるようには見えない)


梨子(……けど、何かあるはず。例えば、ずっと気になってたこの9つの小さい星型の突起)



梨子『その、星……何か意味があるんですか?』


『え?……そう見える?』


梨子『ちょ、ちょっとだけ……』


『あはは。……そうか。……うん、そうなんだぁ』


『……けど、これはそんなに大した意味はないの。多分今の人なら受け入れられる程度の意味だよ』



183: 名無しさん 2019/07/02(火) 23:00:00.28 ID:yi/lREP/O

梨子(……あの人はそう、否定したけど)

梨子(それは、“大した意味”は無いということに対しての言葉だった。……逆に言えば)


梨子(意味自体は、あるはず)


梨子(手掛かりになるのは……『今の人なら受け入れられる』という言葉だと思う)

梨子(これって、昔だったら受け入れられなかったかもしれないけど、今の人なら理解できるってことにならないかな?)

梨子(だとすると、今でこそ皆が知っているけど、それが普及するまでにある程度時間がかかった……そういうものを指している可能性がある)


梨子(そしてその可能性があるとしたら……字、とか?)


梨子(単なる模様じゃなくて、字になっていると考えれば、もしかしたら辻褄が合うかもしれない)

梨子(模様を字に見立てるのって、たまにある話だし……)

梨子(でも、このペンダントの星は全て大きさが均等だ。……ということは………)



184: 名無しさん 2019/07/02(火) 23:01:03.70 ID:yi/lREP/O

梨子(……あの人はそう、否定したけど)

梨子(それは、“大した意味”は無いということに対しての言葉だった。……逆に言えば)


梨子(意味自体は、あるはず)


梨子(手掛かりになるのは……『今の人なら受け入れられる』という言葉だと思う)

梨子(これって、昔だったら受け入れられなかったかもしれないけど、今の人なら理解できるってことにならないかな?)

梨子(だとすると、今でこそ皆が知っているけど、それが普及するまでにある程度時間がかかった……そういうものを指している可能性がある)


梨子(そしてその可能性があるとしたら……字、とか?)


梨子(単なる模様じゃなくて、字になっていると考えれば、もしかしたら辻褄が合うかもしれない)

梨子(模様を字に見立てるのって、たまにある話だし……)

梨子(でも、このペンダントの星は全て大きさが均等だ。……ということは………)



185: 名無しさん 2019/07/02(火) 23:02:53.12 ID:yi/lREP/O

梨子(模様として表現とした字じゃない。じゃあ、それでも字だっていうオクソクを進めるなら……)


梨子(手で触った感覚から、考えたら?)


梨子(……このペンダントを触った時から感じていた。この星の“手触り”を……)

梨子(まるで、点字のように。この9つの突起はペンダントを掴む人にその存在を主張してくる……)

梨子(なら、これは点字なのかな?……いや、でも………)

梨子(点字であるなら、9つも点は必要ない。もし一文字一文字分割されていたとしても、それが意味のある文字列になるとは考えにくい……)

梨子(……何か、9つの点についての手掛かりはないかな)



花丸『ボタンが無いのに、そのすまほっていうのはどうやって操作してるの?』


ルビィ『これはね、フリック入力って言って、文字に触れながら上とか下に指を動かすと色んな文字が打てるようになってるの!』


善子『まぁ、基本的には9つしか使わないけどね。わをんなんてそうそう使わないでしょ?』


梨子(……!もしかして……)


梨子(善子ちゃんが言ったような意味で、この9つの突起がついてるんだとしたら……)



梨子「フリック入力に、この9つの点は対応している……?」




千歌「・・・・・・」



186: 名無しさん 2019/07/02(火) 23:05:10.06 ID:yi/lREP/O

梨子(……だとしたら、この星形の点は単なる装飾ではなく、セキュリティの一つである可能性がある)

梨子(私たちがスマホにそうするように、パスコードとして使われている……その可能性もあるかもしれない)


梨子(このオクソクが正しいとしたら。……スマホのフリック入力と同じように、この9つの点をスライドさせたら)

梨子(何か、わかるかもしれない!)

梨子(……やるだけやってみよう。まずは「チカ」、「chika」と、もう一つ考えて「tika」になるように指を動かしてみよう)






梨子(……ダメだ。何の反応も示さない)


千歌「……まだ?」

梨子「も、もう少し待ってくれる?」


187: 名無しさん 2019/07/02(火) 23:06:09.18 ID:yi/lREP/O

梨子(……くっ。流石に長い時間誤魔化すことは出来ないわね)

梨子(……葉百さんのことを考えて、今度は《hao》、《はお》 と打ってみよう)

梨子(・・・ダメみたい。所詮、仮説は仮説に過ぎない。……そういうことなのかな)











梨子(その後、高海……《タカミ》とか、《トチマン》だとか……それをローマ字にしても結局何も起こらなかった)


千歌「……ねえ、まだなの?」

梨子「ほ、本当にもう少しだけだから!」


梨子(この9つの点に結びつく可能性のある言葉。……実を言うと、一番最初に思い付いた言葉があった)


梨子(《9つ》……Aqoursも9人……)


梨子(……でも、もし『Aqours』で、このペンダントが開いたとしたら。……それが持つ意味を、どう考えていいかわからなくなる……)




梨子(……だから、真っ先に候補から外した……。だけど)




188: 名無しさん 2019/07/02(火) 23:07:21.69 ID:yi/lREP/O

千歌「・・・梨子ちゃん。もうそろそろいいかな」

梨子「・・・・・・うん。これで本当に最後だから」


梨子(だけど、もうそんなことも言ってられない)


梨子(可能性がある限り……試さないわけにはいかない)


梨子(普段スマホにそうするように、星形の点の上に指を滑らせる)


梨子(『Aqours』という文字列……もう何度も、それこそ数えきれないくらい打ち込んだ、私たちのグループ名)


梨子(体に馴染みきった指の動きで、私はペンダントに……その名前を書き込んだ)








梨子「……!」







189: 名無しさん 2019/07/02(火) 23:08:01.55 ID:yi/lREP/O

梨子「ひ、開いた……!」



千歌「・・・・・・」



梨子(け、けど、どういうこと!?)


梨子(この中に入っていたのは写真だった)

梨子(それ自体はおかしいことじゃない。実はロケットになっているペンダントはそう珍しくないし)


梨子(問題は写っているものの方。……ここに写っている、これは……!?)



190: 名無しさん 2019/07/03(水) 07:44:09.33 ID:lKQw1jLYO

梨子「……千歌ちゃん、これは、どういうことなの?」


千歌「ん?その、ペンダントのこと?」

梨子「……このペンダント。開いたんだけど……」

千歌「え、梨子ちゃん凄い!そのペンダントって実はロケットになっていて、写真が入れられるって聞いてたんだけどさ」

梨子「……聞いてた?ということは、実際に開けたことはないってこと?」

千歌「そうなんだよ。開け方だけは教えてくれなかったんだ。いつか自力で開けてみてって言われてさ」


梨子「……どうしてそんなことを?」


千歌「記念の写真を入れたんだけど、それはいつか見てのお楽しみだって。結構イジワルだよね」

梨子「ま、まぁもしかしたらリスク管理も兼ねてるかもしれないからね……」

千歌「そうだけどさ。それじゃ開けた後の使い方を教えてもらっても全部無駄じゃん」

梨子「……開けた後の使い方?(そういえば開け方「だけ」は教えてくれなかったって言ったわね……)」


千歌「ああ、それね。実はそれって機械で、普通の写真を入れてるわけじゃなくて、画像のデータを映してるんだって。他にも色々出来るって、そっちは教えてくれたんだけどね」

梨子「へぇ、そうなの……結構ハイテクなのね……」


191: 名無しさん 2019/07/03(水) 19:32:40.36 ID:2ASeLL45O

梨子(よくわからないけど、それって結構凄くない?いや、最先端の科学技術からするとそうでもないのかな……?)


千歌「うん、そうなんだよ!凄いでしょ?」


梨子(やっぱり凄いことなのかな……?コレがあったら色々な画像をコンパクトに持ち運べるし)

梨子(パッと見ペンダントだからスマホと違ってふとした隙に他人に見られるリスクも低めだし……いやそもそも勝手に人のスマホ見るなって話なんだけど)

梨子(まあとにかく、ちょっとヨコシマな画像を隠すのにはもってこいね……)


梨子「うん。これは凄いね。特に隠密性がいいと思う」

千歌「そうでしょ?梨子ちゃんみたいに人に言えない趣味を持ってる人には特にオススメなんだよ」

梨子「ちょ、何言ってるの!?私みたいにってどういうこと!?」

千歌「あ~ごめんごめん。ついね」

梨子「もう、千歌ちゃんってば……って違う!!」

千歌「ほぇ!?」

梨子「私が聞きたいのはそういうことじゃなくって!この中身に写ってるもののことよ!」

千歌「中身……?」

192: 名無しさん 2019/07/03(水) 19:36:45.46 ID:2ASeLL45O
梨子「そう。この中身にはおかしな点があるのよ」

千歌「え?どういうこと?」

梨子「……自分で確かめてみて。返すから」

千歌「あ、うんありがと。……へぇ、結構イイ感じの写りで良かったな」

梨子「……写りのよさとかじゃなくて、写ってるものの方に目を向けてみて」

千歌「写ってるもの?……う~ん、別にヘンなものは写ってないと思うんだけど」


梨子「……この画像には確かに十千万をバックにして、葉百さんが写ってる」


千歌「うん。それなら何も問題はないと思うんだけど」


梨子「それと、しいたけちゃんも一緒にね」


千歌「……?それも、別に不思議じゃないよね」


梨子「……っ(まだ、本当のことを言ってくれないの?)」


193: 名無しさん 2019/07/03(水) 19:39:52.68 ID:2ASeLL45O

梨子「……千歌ちゃん。さっき千歌ちゃんは、これは《家族の形見》だって言ってたよね?」


千歌「うん。離れていてもずっと家族だっていう証として貰ったんだよ」


梨子「……だとしたら、やっぱりヘンなの」


千歌「……?チカが気付いてないだけでヘンなものでも写ってる?」

梨子「ううん、その逆よ」

千歌「逆?」


梨子「そう。この写真には写っていなければならないものが写っていない」

千歌「……写っていなければならないもの?」

梨子「そう。……もしこのペンダントが千歌ちゃんの言う通り、葉百さんとの《家族の形見》だって言うんなら」



梨子「どうしてここに千歌ちゃん自身が写っていないの!?」



千歌「・・・・・・!」




194: 名無しさん 2019/07/03(水) 19:42:03.42 ID:2ASeLL45O

梨子「答えて!千歌ちゃん!」


千歌「……そんなこと言ったってさ、チカだってこの写真の中身までは知らなかったよ?答えようがないって」


梨子「確かに千歌ちゃんは開け方を知らなかったって言った。でも、中身については予め知ってなきゃおかしいの」

梨子「それに写りを気にしたってことは、写真の出来映えだけを知らなかったということ。内容自体は知っていないといけないはずよ」


千歌「……そうだけどさ、そんなにおかしいことじゃないでしょ?形見の写真って、一緒に写ってなきゃいけないものでもないし」


梨子「そうね。葉百さんだけ写ってる写真ならそうも言えたかもしれない」

梨子「写真を撮っている間の時間で志満さんたちにバレたら困るから、自分が写ったペンダントを渡すだけ渡してすぐに去ったって考えられるからね」

梨子「けど、一緒にしいたけちゃんも、それも十千万をバックに写っているとしたら話は別」


千歌「・・・どういうこと?」


195: 名無しさん 2019/07/03(水) 19:43:45.17 ID:2ASeLL45O

梨子「……自分のことがバレたくない状況で写真を撮るっていうのは結構なリスクだと思うの」

梨子「旅館の前ってことは、旅館にいる人に目撃される可能性が高いよね」

梨子「構図を整えて写真を撮るのって、それなりに準備とか、時間がかかるものだし」


千歌「・・・そうかな?写真って別にそこまで時間はかからないと思うよ?」

千歌「それに、志満ねぇ達がいないタイミングを見計らって撮ったならヘンでもないでしょ?」


梨子「……確かにそういうタイミングがあった可能性は捨てきれない」

梨子「だけど、そんなタイミングがそうそうあるとも思えない。……少なくとも、そんなに長い間旅館にいる人たちが目を離しているとは考えられない」

梨子「だとすれば、もし写真を撮るのだとしたらそう悠長にもしていられない。……複数の写真を撮っている余裕はないはず」

千歌「それはそうかもしれないけど……」


梨子「なら、その時に撮った一枚の写真が、この写真っていうことになる」

梨子「けどね、もしそんな状況で撮る写真に、しいたけちゃんと葉百さんだけしか写っていないのはやっぱりおかしいの」

梨子「《家族の形見》となる写真に、千歌ちゃんじゃなくてしいたけちゃんが写っているのはヘンよ」


千歌「・・・・・・そう?酷いな・・・・・・。しいたけだって私の家族だし、お姉さんとしいたけの写真が欲しいって思っただけかもしれないのに」

梨子「そうね。でも、それなら自分も入ってしまえばいいだけのことじゃない?」

梨子「しいたけちゃんと葉百さんと一緒に写ることが出来たのに、それをしなかった」


千歌「……たまたまそうしなかっただけだよ。それに、いくつか撮った気がするし、お姉さんが冗談でこの写真を入れたんじゃないかな?」



196: 名無しさん 2019/07/03(水) 19:46:26.41 ID:2ASeLL45O

梨子「……千歌ちゃん、さっきから自分のことなのに「かも」とか「気がする」って表現が多いわね?」


千歌「・・・・・・」


梨子「それに、そういう可能性はかなり低い。いつもの〝千歌ちゃん〟だったなら!」


千歌「いつものチカだったら……?」

梨子「昨日千歌ちゃん自身が話したことだよ。もう忘れた?」



千歌『思い出って皆との思い出だからさ。私、出来るだけ写真を撮る時は皆で一緒に写りたいと思ってるんだ!』



千歌「……っ!」


梨子「アルバムに載ってる写真でわかるように。千歌ちゃんは思い出を残す時、誰かが一緒ならその誰かと《一緒に》写りたがる」

梨子「それに、志満さんたちがいない時間が長引く可能性があったとしても、それはあくまで可能性の話。……いつまでいないかは不明確な状況だったとしたら」

梨子「そこで写真を撮るのなら千歌ちゃんは真っ先に葉百さんと一緒の写真を撮ったはずよ!」


千歌「……」


197: 名無しさん 2019/07/03(水) 19:49:29.27 ID:2ASeLL45O

梨子「けど、ここに表示されている画像はそうじゃない。それどころか、十千万が見えるような位置で写真を撮ってることがわかる」

梨子「それに、葉百さんは腕を伸ばしている様子もない。つまり、この写真は自撮りで撮られたものでもない」

梨子「もし千歌ちゃんが言った通りだとすれば、これを撮ったカメラマンは千歌ちゃん自身だってことになる」


梨子「……やっぱり、辻褄が合わないの。しいたけちゃんまで呼んで、この写真を撮るっていうのは身元が割れるのを恐れる人間としては悠長過ぎるって嫌がるはず」


梨子「もし本当に自分の正体を隠したい人であれば、こんなことに付き合ってくれるとは思えない!」


千歌「・・・梨子ちゃん。梨子ちゃんの言ってることは穴だらけだよ?」


千歌「そりゃあチカは皆と一緒に写りたいって思ってるよ?でもいつもそう思って、皆と写真を撮れるわけじゃないよ」

千歌「それに、無理してお願いすればそういうことも出来たと思わない?せっかくの形見の写真になるんだから、しいたけと写って欲しいって言ったら、要望を通してくれるかもしれないし」


梨子「……その写真が形見だというのなら、相手にとっても形見になるような写真を撮るとは思わない?」


千歌「え?」


198: 名無しさん 2019/07/03(水) 19:52:09.57 ID:2ASeLL45O

梨子「葉百さんが千歌ちゃんにとって生き別れのお姉さんなら、相手にとっても生き別れの妹よ。その形見の写真、二人で写りたいと思う気持ちが強くても不思議じゃない」

梨子「やっぱり不自然なのよ。わざわざ姉妹の思い出を封じ込めた写真だっていうのなら、この写真である必要がない」

千歌「たまたま表示されたのがこの画像ってだけじゃない?画像のデータを表示してるだけなんだから、他のデータも入ってるかもしれないじゃん」

梨子「それは私も考えた。……けど、このペンダントはうんともすんともいわなかったよ?」


千歌「・・・」


梨子「それとも、千歌ちゃんが教わった中には他の画像を表示させる機能もあるの?」


千歌「それは……」


199: 名無しさん 2019/07/03(水) 19:57:08.27 ID:2ASeLL45O

梨子「……もしかしたら他に隠された機能があるのかもしれない。でも、少なくともこのペンダントの画面には葉百さんとしいたけちゃんの写真が一番に表示されている」

梨子「これって要するに、このペンダントの持ち主は葉百さんとしいたけちゃんが写っているところを、一番大事にしているってことにならない?」


千歌「・・・梨子ちゃんは、何が言いたいのかな」


梨子「……簡単なことだよ。このペンダントは、やっぱり千歌ちゃんにとって大事なものなんかじゃない!」


梨子「葉百さんにとって大事なものだった!」


梨子「つまり……これを千歌ちゃんが持っているのは矛盾しているの!」



梨子「説明して千歌ちゃん!このペンダントを持っている本当の理由を!!」



200: 名無しさん 2019/07/03(水) 19:58:05.83 ID:2ASeLL45O

千歌「・・・」


梨子「……」



千歌「・・・・・・」



梨子「…………ちょ、ちょっと千歌ちゃん!」


千歌「え?なに?」


梨子「なに?じゃない!何とかいったらどうなの!?」


千歌「あ、うん。……それで?」


梨子「そ、それで?って……!」


梨子「葉百さんが大事にする理由のあるものを……」
千歌「私が持ってるのがおかしい、って?」


梨子「っ!・・・・・・そうだよ」



201: 名無しさん 2019/07/03(水) 19:59:42.97 ID:2ASeLL45O

梨子「……もし本当に千歌ちゃんが生き別れのお姉さんと形見として写真を撮るんだとしたら、こんな写真にならないはず」


千歌「大事な人とは一緒に写りたがるから?」


梨子「……そうね。それに時間の問題がある」


千歌「しいたけと写真を撮っていられるほど、悠長に出来たはずないってことだっけ?」


梨子「うん……」


千歌「でも、実際には私がこのペンダントを持っている。私にとって大事な理由がないのに。それがヘンだってことだよね」


梨子「……そういうことね」


千歌「そっか。でもさ、もし梨子ちゃんの言う通りだとすると変わってくることがあるよね?」

梨子「え、えぇ?変わってくること?」


千歌「……もしかしてわかんないまま言ってたの?あれだけ酷いことを?」

梨子「い、いやその……そういうわけじゃなくて!ちょっと面くらっちゃっただけだから!」

千歌「本当に……?」

梨子「……ごめんなさい。ちょっとわかってなかったです」

千歌「はぁ、しょうがないなぁ梨子ちゃんは」


梨子「……うぅ。すいません……(何か千歌ちゃんにこんな風に言われるのってすごいショックだぁ)」



202: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:00:58.73 ID:2ASeLL45O

千歌「……いいかな?チカにとってこのペンダントが大切なのには理由があったよね?」


梨子「……生き別れの《家族の形見》だから……」


千歌「そう。で、もし梨子ちゃんが言うことが正しいとすると、チカがこのペンダントを大切にする理由がないことになるよね?」

梨子「そ、そうなるわね」

千歌「うん。ってことは、これは生き別れの《家族の形見》じゃないってことになる」


梨子「……確かに、生き別れっていうところが大切にする理由だとしたら……その生き別れって関係はなくなってしまうのかな」


千歌「そうなんだよ。じゃあさ、この写真に写ってる人はうちとどんな関係があるの?」


梨子「え?……あ!」


千歌「そうなんだよ。もし生き別れの姉妹でもないとするなら、ここには赤の他人としいたけとが一緒に写っていることになるの」


千歌「もちろんしいたけの写真を撮らせてくださいって言ってくれるお客さんもいるよ?だけど一緒に撮って欲しいって言ってくる人はほとんどいないんだよ」

千歌「だから、そういう人がいたら誰かが覚えているはずなんだよ。特にこの写真みたいに、印象的な人を撮る時は」


千歌「だけど誰もその話をしないよね?何でだろう?」


梨子「……ぐっ!(た、確かに……)」



203: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:02:03.10 ID:2ASeLL45O

梨子(葉百さんは、千歌ちゃんによく似ている……そんな人が写真撮影を求めてきたら、記憶に残らないとは考えにくい……)


梨子「た、たまたま人がいない時に撮影したのよ!」

千歌「それって無断で撮ったことになるよ?そんなことあるかな?」

梨子「そ、それくらいマナーの悪いお客さんだったのかもしれないじゃない!」

千歌「梨子ちゃんは酷いこと言うなぁ……うちのお客さんにそんな人いないよ。……それに」


千歌「それにそもそも、そんなことは出来ないしね」

梨子「え、どうして?」


千歌「うちだって客商売だからね。しいたけがお客さんに粗相をするようなことがあっちゃいけないから、外に目が行き届かないような時は必ず家の中に入れてるの」


梨子「じゃ、じゃあしいたけちゃんと外で一緒に撮影するには……」


千歌「うん。最低でもうちの人が一人はいないとダメだね」

梨子「……うぅぅ。そんなぁ~……(そういうことは先に言ってよぉ~……)」


千歌「ね。そう考えると、お姉さん……梨子ちゃんは疑ってるみたいだから葉百さんって呼ぶけど、私と葉百さんが赤の他人とは言い切れないよね」

梨子「・・・・・・そう、ね」


梨子(それに関しては私も気になっていた)

梨子(少なくとも葉百さんと千歌ちゃんが全くの無関係だということは考えられない)

梨子(でも、それが一体どんな関係なのか……見当が付かないのよね)

梨子(たとえ姉妹じゃない可能性を考慮したとしても……そこだけはよくわからない)



204: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:03:06.73 ID:2ASeLL45O

千歌「……考え事してるところ悪いんだけど、話、続けてもいい?」

梨子「あ。ごめん千歌ちゃん!……いいよ、続けて」

千歌「ん。じゃあ、そうさせてもらうね。……梨子ちゃんの考えのもう一つは、葉百さんがこのペンダントを大切にする理由があるってことだったよね」


梨子「……うん」


千歌「だけど、その理由は具体的にはわからないよね?」

梨子「……そ、それはそうかもしれない……ケド」


千歌「もう一つ問題があるよ。梨子ちゃんの主張は、もしチカが生き別れのお姉さんと会って写真を撮ったのなら、二人のツーショットが入ってなきゃいけないってことだったでしょ?」


梨子「う、うん」

千歌「でもこの写真はそうなっていない。だとしたら、この写真はチカが葉百さんと一緒にいた時に撮られたわけじゃないことになる」

梨子「……た、確かにそうなるね(……あれ?だとすると)」


梨子「千歌ちゃんは葉百さんと直接会っていなかったことになる……」

千歌「そうだね。梨子ちゃんの今までの考えからするとそうなるだろうね」


千歌「……けど、それが大問題なんだよ」


205: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:04:44.95 ID:2ASeLL45O
梨子「え、そうかな……?直接会って渡さなくても、間接的に渡す方法だってあると思うんだけど……」


千歌「問題はそこじゃないんだよ。もし間接的に渡したんだとしたら、今度は《いつ》この写真を撮ったのかが問題になる」


梨子「……!(確かにそうだ……)」



千歌「ねえ梨子ちゃん。《いつ》、《誰》がこの写真を撮れたっていうのかな?そもそも、この写真を葉百さんが大事にしていた理由は何なのかな?」


千歌「……少なくとも一つは。答えてほしいな」



梨子「ぐ……ぅぅ!」



206: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:07:51.20 ID:2ASeLL45O

梨子(《いつ》この写真が撮られたかだなんて……わからないからこうやって聞いてるんだってば!)

梨子(大事にしていた理由だなんてそれこそそんなのこっちが聞きたいわよ!)


梨子(け、けど……理由の方は考えようがある!)


梨子「だ、大事にしていた理由は、やっぱり葉百さんにとって思い出の品だから……」

千歌「でも、その思い出っていうのは梨子ちゃんが教えてくれたように、中の写真のことを指していたんだよね?だとすると、どうしてこの写真が思い出なのかな?」

梨子「そ、それは……そう!そのペンダントって画像のデータを表示するんでしょ?だったら元は違う画像でそれが大事な思い出だったんだよ!」


千歌「…………だったらやっぱり、この写真はチカが葉百さんに会った時にしか撮れないことになるよね?」


梨子「え、え?どういうこと?」


千歌「元が違う画像だとしたら、どこかのタイミングでこの画像に変わっているってことになるよね」

梨子「……そ、そうね」


千歌「それで?そのタイミングって《いつ》なんだろう?」


梨子「……!」


千歌「さっき、チカ言ったよね」


千歌「《いつ》、《誰》がこの写真を撮ったと言えるのか?」



千歌「……チカ以外にいないんだよ。あの時以外にないんだよ」



梨子「ちょ、ちょっと待って!」

梨子「どうしてそう言い切れるの!?別の可能性もあるかもしれないじゃない!」


千歌「……じゃあ、梨子ちゃんは、示してくれる?」


千歌「その別の可能性を」


梨子「……くっ!」



207: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:10:25.56 ID:2ASeLL45O

梨子(私のオクソクには前提がある……)


梨子(それは、葉百さんがもし生き別れの姉なら、事情を知らない人にはバレてはならないということ)


梨子(だとしたら、必然的にこの写真を撮れたのは、事情を知っている人ってことになる)


梨子(事情を知っていて、なおかつ千歌ちゃんにこのペンダントを渡せた人物、ということは……)



梨子「千歌ちゃんの、お母さんなら……この写真を撮ることは出来たはず」


梨子「生き別れだというのなら……事情を知っているのは千歌ちゃんのお母さんだけ」


梨子「千歌ちゃん以外が撮ったっていう可能性は、まだ残る」


208: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:11:28.77 ID:2ASeLL45O

千歌「……確かに、それなら《誰か》の部分はクリアできるね」


千歌「けど、《いつ》の部分には答えたことにならない」

梨子「それは、そうだけど。でもそんなことそんなに大きな問題じゃないんじゃない?」


千歌「……それが大きな問題なんだよ。もし、お母さんが帰ってきてるのだとしたら」


千歌「その痕跡は絶対に残るはずだから」


梨子「・・・・・・?」


梨子「あの、もう少しわかりやすく言ってもらえると、助かるんだけど……」


千歌「……梨子ちゃんは、知らないかもしれないけど」

千歌「うちって、老舗の旅館で……結構地元じゃ注目されてるんだ」

梨子「え?……うん、それはまぁ何となくわかるけど」


千歌「それでね、お母さんは色々あって普段は東京にいるんだけど」

千歌「内浦に帰ってくる時はみ~んなその話をするんだよ」


千歌「十千万の女将が帰ってきたって」

千歌「……こんな田舎だと、そういう話はあっという間に広がるんだ」



209: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:13:16.14 ID:2ASeLL45O

梨子「……つまり、千歌ちゃんはこう言いたいってこと?」


梨子「千歌ちゃんのお母さんはこの辺りでは有名人で、もし帰ってきてたら皆気付く」

梨子「だとしたら、皆に目撃されるから、千歌ちゃんのお母さんと誰かもわからない人が一緒にいたら噂になるはずだって」


千歌「・・・そうだよ」


梨子「でも、それって確証出来ないんじゃないかな?」

梨子「だって誰にも知らせず変装でもして帰ってくれば、そんな事態に巻き込まれるはずないんだから!」

梨子「それなら、やっぱり千歌ちゃんのお母さんにも撮影の機会があったと考えるべきよ!」


千歌「・・・・・・ねぇ、梨子ちゃん?」


梨子「……な、何?」


千歌「そんな可能性、あると思う?」


梨子「そ、それは……でもゼロじゃないでしょ!?」



210: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:15:05.88 ID:2ASeLL45O

千歌「・・・・・・梨子ちゃん、さっき私にこう言ったよね。いつもの〝千歌ちゃん〟ならこんなことしないって。可能性が低いって」


梨子「ぅ……それは……」


千歌「だとしたらさ……逆に思うべきだよね……」


千歌「可能性が低いことなんて信用できないってさ!」



梨子「……ううう。で、でも」


千歌「それにね」


梨子「そ、それに……?(まだ何かあるの……?)」


千歌「さっき梨子ちゃんは私がこの写真に《写っていなきゃいけない》って言ったけどさ」


千歌「梨子ちゃんの憶測が正しかったとしたら、この写真には逆に《写ってはいけない》ものがあることになるよね?」


梨子「う、《写ってはいけない》もの?……あ。あ、あ。ま、まさか……」

千歌「そう」


千歌「……もし、この時お母さんが変装していたのだとしたら」


千歌「しいたけがここに写るはずがないんだよ!!」


梨子「………。き。」






梨子「キ、キャアアアァァァァァァ!!!?」





211: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:17:05.77 ID:2ASeLL45O

梨子(た、確かに……)


梨子(いくら生き別れの娘とはいえ千歌ちゃんのお母さんがそこまでして写真を撮ったとは思えない……リスクが大きすぎる)


梨子(いや、本当に生き別れの娘の写真だけを撮るならまだ少しは可能性が残るかもしれない)


梨子(けど、しいたけちゃんも一緒に写っていることでそんな可能性もなくなってしまう)


梨子(千歌ちゃんは旅館の関係者がいるところでなければしいたけちゃんは外に出さないと言っていた)


梨子(……旅館の人に気付かれないように変装していたとしたらしいたけちゃんを写り込ませることは出来ない)


212: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:17:53.02 ID:2ASeLL45O

梨子(千歌ちゃんのお母さんと葉百さん両方が変装して、旅館の人に撮影を頼んだという線もない……)


梨子(そうだとしたらこの写真の葉百さんが変装していないことがおかしくなる。変装せずに写真を撮ったのなら旅館の人に見られているはず)


梨子(その痕跡がない以上、この写真は誰にも気付かれない状況で撮られたと考えるしかない)


梨子(犬の嗅覚を考えれば、千歌ちゃんのお母さんを判別することは出来ると思うけど……)


梨子(もしそれでしいたけちゃんが外に出ていったとしたら、誰かが気付くはず)


梨子(……この写真を撮った《誰か》が千歌ちゃんのお母さんだとすると、《いつ》撮ったのかに答えられなくなる)


梨子(でももし千歌ちゃんがその《誰か》だとすれば、その問題は解決する)


梨子(しいたけちゃんが外に出ている以上、《旅館の関係者》が最低一人は外を見渡せる状況じゃないといけなかった)


梨子(そして葉百さんが、身元がバレたらまずい事情だったとしたなら、バレても大丈夫な人がこの写真を撮影しないといけないことになる)




梨子(……この条件に当てはまるのは千歌ちゃんしかいない)





213: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:19:12.01 ID:2ASeLL45O

梨子(葉百さんが赤の他人だと考えることもできない)


梨子(しいたけちゃんとの撮影を望むお客さんは少ない上に、千歌ちゃんと似ている人なんて嫌でも記憶に残るはず……)


梨子(……いくら千歌ちゃんと葉百さんが会ったという証拠がなくても、条件に当てはまるのが千歌ちゃんしかいない限り)


梨子(この写真は、千歌ちゃんが数週間前に葉百さんと会ったその時に、撮影されたと考えるしかない!)



千歌「……わかってくれたかな?チカしかこの写真を撮影できた人はいないって」


千歌「梨子ちゃんが言ってるような、私がペンダントを持っている《本当の理由》なんてない。……最初に説明したのが全てだよ」


梨子「・・・・・・ぅ」



千歌「それとも、まだ梨子ちゃんは疑うの?……私の、ことを」


梨子「……ッ」




214: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:22:29.12 ID:2ASeLL45O

梨子(……。なんてこと……)



梨子(最初は、千歌ちゃんが写ってなきゃダメだってところから、千歌ちゃんがこのペンダントを持っていることはおかしいって考えていたはずなのに)


梨子(いつの間にか、しいたけちゃんが写っていたらダメだっていうことで、その考えが間違っていることが示されてしまった)


梨子(千歌ちゃんじゃなくってしいたけちゃんが写っていることがヘンだって私は思って……)


梨子(そもそもしいたけちゃんが写っているのならその考えがヘンだって千歌ちゃんは考えた……)



梨子(しかも、正しいのは明らかに千歌ちゃんの言い分だ……)



梨子(私がヘンだって言っている根拠は千歌ちゃんの性格や考え方にしかない。……単なる可能性の話)


梨子(けど、千歌ちゃんの方は違う。千歌ちゃん以外に不可能だったから、たとえ普段とは違った行動をとったとしても……千歌ちゃんがこの写真を撮ったと考えるしかないということが根拠だった)


梨子(可能性っていうのはどこまでいっても偶然の範疇を超えない。偶然、起こり得たかもしれないっていうだけ)

 
梨子(それに対して、不可能性というのは必然に行き着く……。それ以外不可能だったということは、それが必ず起こったということ)



梨子(……結論は。はっきりしている……)



215: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:24:54.20 ID:2ASeLL45O

梨子「千歌ちゃんが……正しい」



千歌「……よかった。これで、ようやく信頼してもらえるな」


梨子「……」





梨子(そうするしか、ない)


梨子(確かに腑に落ちていない部分はある)


梨子(けど、そうは言っても〝千歌ちゃん〟がこのペンダントを持ってちゃいけない理由は何もない)


梨子(千歌ちゃんに隠し続けることが無理だって最初の確信も違和感も、勘違いだっただけ)


梨子(……信じぬくために疑う。それ自体は間違っていないと思う)


梨子(でももう疑う余地がないのなら、これ以上食い下がっても不和を生むだけだ)


梨子(・・・・・・普通に考えて、おかしいのは私の方。だから、もう・・・・・・)








『やめる?』






216: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:25:50.20 ID:2ASeLL45O

梨子「……!」


梨子(不意に、頭に鳴り響いた声)


梨子(千歌ちゃんの覚悟を試す時に、曜ちゃんが言う言葉だ)





『やめるの?』






『梨子ちゃんは、それでいいの?それで本当に納得してる?』








梨子(……そんなことない!)ギュッ


梨子(やっぱり、まだ納得しきれていない。本当に、心の底から千歌ちゃんを信じ切れていない)


梨子(他ならない曜ちゃんも感じた違和感の正体……まだ完璧には掴めていない)



梨子(だったら、まだ確かめなくちゃいけないことがある!)




217: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:28:31.73 ID:2ASeLL45O

梨子「……千歌ちゃん」


千歌「うん?なあに?」


梨子「ごめん、千歌ちゃん。これが本当に最後」



梨子「……あなたに聞くのは、最後」



梨子「今度こそ自分の中の疑いを完璧に消すために、最後に確認したいことがあるの」



千歌「・・・ねぇ、梨子ちゃん。自分が何を言おうとしてるのか、何をしようとしているのか、わかってるの?」



梨子「……」



218: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:29:29.80 ID:2ASeLL45O

千歌「梨子ちゃんは、さっきから頻繁に制服のポケットの中に手を入れるよね。・・・たった今も、そうやってた」



梨子「!……」



千歌「不自然だよね。梨子ちゃんは普段、そういうことをしないのに」


梨子「……」


千歌「何か気になるものでも入っているのかな。ポケットに手を入れてる時の梨子ちゃん、とっても力が入ってる」


千歌「しかもね。まるで、その中にあるものを握って自分を奮い立たせてるみたいにしてるんだよ」



梨子「……気付いていたの?私が何をしているのか」



219: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:30:53.43 ID:2ASeLL45O

千歌「確証はなかったけどね。でも、今のではっきりしたよ」


千歌「・・・梨子ちゃん。悪いことは言わないよ。・・・・・・これ以上はもう、さ」


千歌「私はいいよ。でも、これ以上やるのは梨子ちゃんにとっていいことじゃないと思う」


梨子「……私のことを心配してくれてるの?」

千歌「それはそうだよ。こんなことで仲間の和を壊しちゃいたくない」

梨子「そっか。……ありがとう、千歌ちゃん」

千歌「わかってくれたの?」


梨子「……ごめん。それでも、私は」


梨子「私は、納得したい。自分自身の違和感の正体に答えを出したい」



千歌「・・・・・・。わかった。梨子ちゃんがそこまで言うなら、私も付き合うよ」



梨子「……ありがとう。千歌ちゃん」


千歌「でも、何もなかったら何も言えないよ?」


梨子「……」


千歌「私は梨子ちゃんのオクソクにちゃんと答えてきた。これ以上、新しい疑問がないのに同じことを聞くのなら、私はもう何も言えないし、言わない」

梨子「……わかってる。ちゃんと、新しい疑問を出すつもりよ」



220: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:32:20.20 ID:2ASeLL45O

梨子(……これ以降は迂闊なことは言えないということね)



梨子(・・・もしも千歌ちゃんの言った通りだったとしたら、このペンダントを千歌ちゃんが隠し持っていたことは説明されることになる)


梨子(けど、それは目の前の〝千歌ちゃん〟が本当に私の知っている高海千歌だった場合だ)


梨子(そもそもの疑念に立ち戻ると、私は目の前の〝千歌ちゃん〟が本物の千歌ちゃんじゃないと疑うところから出発したんだった)


梨子(私の違和感を完全に消すためには、この、馬鹿げているけど無視できない可能性を、否定しなきゃいけない)


梨子(この可能性を否定するためにはっきりさせなきゃいけないことがある)


梨子(鍵はやっぱりペンダントなんだけど……)



221: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:33:21.55 ID:2ASeLL45O


千歌「・・・・・・」



梨子(……同じ疑問の繰り返しは許されていない)


梨子(このペンダントが重要なものであった理由。多分今、それに答えることは出来ない)


梨子(だったら、問いの方向性を変える必要がある)


梨子(……もしこの〝千歌ちゃん〟が別の人物だったとしたら……その人は一体なぜこのペンダントを隠さなくてはならなかったのか?)


梨子(万一本当に〝千歌ちゃん〟が別人だとしたら、このペンダントにはその人にとって隠さなければならない不都合な事実があったはず)


梨子(もちろん、そんな事実が見つからなければそれでいい。今度こそ疑問の余地なしだ)


梨子(……このペンダントは〝千歌ちゃん〟にとって《あってはならない》ものだったのか。それとも、[亡霊]にとって《あってはならない》ものだったのか)


梨子(検討する余地は……まだ、ある!)



梨子(最初から証拠になり得るはこのペンダントだけ……だったらそれを徹底的に調べないでどうするっていうの!)



222: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:35:30.66 ID:2ASeLL45O
千歌「それで。梨子ちゃんは何がまだ腑に落ちないっていうの?」


梨子「それは当然……ペンダントの写真よ」


千歌「・・・私が《写っていなく》て、しいたけが《写っている》ことがおかしいってやつ?でも、それはもう済んだ話だよね?」


梨子「……そうだね」


千歌「じゃあもういいでしょ?これ以上、チカが話すことはないよ」


千歌「・・・言ったでしょ?同じことを繰り返し聞くようなら、もうこの話はおしまいだって」


千歌「梨子ちゃんもわかってくれるよね?もう、いいよね?」

梨子「もちろん。……もしその話をそのままするならね」



千歌「・・・・・・。どういうことかな」



223: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:36:52.89 ID:2ASeLL45O

梨子「千歌ちゃん。葉百さんは、このペンダントを《あってはならない》ものだって言ったんだよね?」


千歌「……そうだよ」


梨子「そして、それはなぜなのか……ここが、私の一番の疑問だった」


梨子「その疑問の理由は、《写っていない》もの、《写るはず》のものがこの写真になかったと思ったからだった」


梨子「このことについては確かに、説明がついたと思う。でも……」


梨子「でも、その逆の話についてはまだされていない」


千歌「逆・・・?」


梨子「千歌ちゃんも言ってたでしょ。私の主張とは逆に、《写ってはいけない》ものが写っていたって」


千歌「!」



梨子「もしこのペンダントが千歌ちゃん以外の人にとって《あってはならない》ものであった場合、この写真にはその人にとって写ってほしくないものが写り込んでいる可能性があるの」




224: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:38:08.66 ID:2ASeLL45O


千歌「・・・つまり梨子ちゃんはその残された可能性を否定するために、この写真に何もおかしなところはないって確認したいんだね」



梨子「……うん」


梨子「千歌ちゃんにとってだけ《あってはならない》理由があるんだって確信が持てれば……」


千歌「私を信じ切れるってこと、かな」

梨子「ええ」


千歌「わかった。それじゃあ、調べてもいいよ。・・・ヘンなものは、何も写っていないと思うけど」


梨子「ありがとう……(とりあえず、調べさせてくれるようには持って行けたわね……)」



梨子(とはいえ、パッと見じゃ千歌ちゃんの言う通り、ヘンなものは写り込んでいないように見える)


梨子(葉百さんの方は……しいたけちゃんの頭に右手を乗せてるってことぐらいしかわからないな)


梨子(特殊なアクセサリーを付けている様子はない。……この写真を撮る時はペンダントを外していたってことなのかな)


梨子(不自然といえば不自然だけど……これは後からいくらでも説明がついちゃいそうな気がする。決定的じゃない、か)



225: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:39:30.61 ID:2ASeLL45O

梨子(他には、強いて言えばしいたけちゃんがちょっと元気なさげに見えるような……気がするんだけど)

梨子(それはこの写真だけじゃわからないし、もっと決定的なものがあるかもしれない)


梨子(……しいたけちゃんといえば、この首輪のアクセサリー。やっぱり、大分ボロボロになってるな)

梨子(色もちょっとくすんでるし……ひっかき傷みたいなのもある)


梨子(……?《ひっかきキズ》……?そんなの、昨日見た時にあったっけ?)

梨子(それに、このキズ……キズにしては、ちゃんとした形をしているような……)


梨子(そう、まるで文字のように見える。これはもしかすると……)


梨子(……このままのサイズだとよく判別できないな)



梨子「千歌ちゃん。この画像って、拡大とか出来ないかな?」


千歌「!・・・・・・拡、大?」

梨子「?う、うん。ちょっと、気になるところがあって……そういう機能あったりしない?」



226: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:40:35.96 ID:2ASeLL45O

千歌「あるにはあるけど……ちょっとコツがあって、モード切替?ってのが必要らしいんだよね。貸してみて」

梨子「え、ええ(……どうしたんだろう)」



梨子(今、心なしか千歌ちゃんが今まで見たことないような眼をしたような……)


梨子(「むぅ~!」と言いながらペンダントに悪戦苦闘してる姿を見てる限りは、普段の千歌ちゃん通りに見えるけど……)



千歌「……はい、出来たよ。これで、スマホみたいに画像をおっきくしたり小さく出来るよ」

梨子「ありがとう……(この大きさだとちょっとやりづらそうだなぁ)」


梨子(さて、それじゃ首輪のアクセサリーを拡大してみよう)



227: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:41:56.02 ID:2ASeLL45O

梨子「……これ、拡大しても画質が荒くならないのね……大きさに合わせて画質を修正してくれるみたい」

千歌「そうなんだよ。すっごいでしょ?」

梨子「う、うん。これは本当に凄いね……(さっきから私ペンダントのこと凄いとしか言ってないわね……)」


梨子(う~ん、でもますます色々隠しておくのに便利ね……私も欲しい)

梨子(……なんてて横道に逸れてる場合じゃない。ちゃんと画像を確認しないと)


梨子(ちょっとずつちょっとずつ。画像を拡大していって……)


梨子(アクセサリーを充分拡大して、画面全体に写るようにした)


梨子(後は画質が修正されるのを待つだけ……)



千歌「・・・・・・」




228: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:42:54.86 ID:2ASeLL45O

梨子(…………拡大が、終わった)



梨子(そこに、写っていたのは……っ!)



梨子「……千歌ちゃん」


千歌「・・・・・・どうしたの?」


梨子「どうやら……千歌ちゃんの言う通りだったみたいだよ」


千歌「私の、言う通り?」


梨子「ええ。……この画像には」


梨子「《写ってはいけない》ものが写っていた!」

梨子「それも本当に千歌ちゃんの言う通りの場所にね!」


千歌「私の言う通りの、場所……?」


梨子「さっき千歌ちゃんは言ったよね?……私のオクソクの通りだとしたら《写ってはいけない》ものが写るって」


梨子「それがね、その通りだった。……私のオクソクが間違っていても、ね」



229: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:45:25.21 ID:2ASeLL45O

千歌「……!………酷い。まさか、しいたけを………」


梨子「いいえ。正確には違うわ」


千歌「!どういう、こと?」


梨子「私が指摘しているのは、しいたけちゃん自身じゃない。しいたけちゃんが身に着けているもののことよ!」

梨子「この拡大した画像を見て!」


千歌「……。しいたけの、首輪だね。大分、汚くなっちゃったな~」


梨子「そうね。確かに大分ボロボロね。……でも、今重要なのはそこじゃないの」


千歌「………え?」


梨子「しいたけちゃんの首輪が問題なのは事実よ。……でも」



梨子「一番の問題は、しいたけちゃんの首輪に写っているもの自体なの!!」





230: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:46:17.45 ID:2ASeLL45O
千歌「・・・つまり、どういうことなの?説明してくれるかな?」


梨子「……このアクセサリー。……沢山の、《ひっかきキズ》があるよね」


千歌「確かに、そうだね」


梨子「けどね、その一つ一つをよく見ていくと……その《深さ》と、《大きさ》が違うことがわかる!」


千歌「……《深さ》と、《大きさ》……?」


梨子「ええ。……このキズ。ほとんどはちょっとこすれた程度で、《浅くて》《小さい》ものばかりに見えるけど」

梨子「ある四つのキズだけは違う。……まるで、このアクセサリーに最初から彫られていた、そんな意匠があったんじゃないかって、思うぐらいに」


千歌「・・・・・・」


梨子「大部分は《浅い》キズに覆われていて、ちゃんとは判読できないのも確かなんだけどね……」


千歌「・・・仮に、《ひっかきキズ》の《深さ》が違ったとして。・・・それが、四つの字みたいなものだったとして。それが、何の意味を持つの?」

千歌「単に、キズの《深さ》がまばらだっただけだったとも考えられるでしょ?」


梨子「千歌ちゃん。……焦らないで」



千歌「・・・!」




231: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:48:32.21 ID:2ASeLL45O

梨子「確かに、浅いキズのせいで深いキズまでも覆い隠されているのは事実よ。でも……」

梨子「覆い隠されていないキズ……それを繋げると……文字のように見えるのも事実なの」



千歌「・・・・・・」



梨子「……そして、そのキズは、こんな形をしている」


梨子「『5Piqj』。……正直所々破線になってるし、ちょっと解釈が無理やりな感じは否めないけど」

梨子「でも、とにかく!これは凄く不自然なもので……貴女への疑いを強める[証拠]よ!」



千歌「・・・・・・どこが、不自然だっていうの?私にはそんなにおかしくは思えないけどなぁ」



千歌「そんなのただのキズで、たまたまついただけで、たまたまそんな形をしていただけかもしれないじゃん」


梨子「いいえ。……それはあり得ないの。……少なくとも。〝今〟は、ね」


千歌「〝今〟は?……なんのこと?」


梨子「〝今〟……。この時点で、こんなものがしいたけちゃんのアクセサリーについていることはあり得ない。……そういうことよ」




232: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:49:32.86 ID:2ASeLL45O

千歌「・・・。なんで、そう言い切れるの?」


梨子「だって、私はこの目で直接、見たのよ」


千歌「!・・・見たって、まさか・・・・・・!」


梨子「もちろんしいたけちゃんの首輪をよ。・・・・・・それもつい、昨日にね!」


千歌「!!り、梨子ちゃんが……本当に……?」


梨子「……ええ。……私の、ある種理不尽な、犬嫌いが。……どこかの誰かさんによって……」

梨子「もとい。どこかの堕天使様によって克服できたおかげで、ね」



千歌「・・・善子ちゃんの・・・・・・」



梨子「そういう、ことよ」





千歌「・・・・・・。なるほど、ね。……そういうこと、なんだね………」




233: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:50:49.83 ID:2ASeLL45O


千歌「それにしても・・・仲良くなったって聞いたけど。もう、そんなに近くに行って接することが出来るほど、ヘーキになってたんだね・・・・・・ちょっとそれは、ビックリだよ」


梨子「…………それで。それで、しいたけちゃんに今までのお詫びをしたかったから。……今まで、一方的に避けちゃってごめんねって」

梨子「私はずっと考えてた。どうやったらお詫びが出来るのかな、って」

梨子「……そう思い続けて、ある日私はしいたけちゃんのアクセサリーがボロボロだったことに気付いた。だから……」

梨子「私は、新しいアクセサリーをプレゼントしようと考えていたの。(……出来れば、メッセージを込めようとして、というのは……。〝今〟、関係はないんだけど)」


千歌「・・・・・・」


梨子「とはいっても、急にそんなものを押し付けられても、飼い主である家族は。……高海家の皆はちょっと、困っちゃうかもしれない。……そう思って、アクセサリーの具合を確認したの」


梨子「すぐ贈るべきか……もうちょっと待つべきか……調べるためにね」


梨子「……それも。昨日のうちに、ね」


234: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:51:48.55 ID:2ASeLL45O

千歌「……そんなこと、してたんだね………」


梨子「……ええ。千歌ちゃんが先に部屋に行ってる時に、ちょっとね」

梨子「悪いとは思ったけど……」


千歌「・・・・・・」


梨子「それでね、それを実際に見て考えたの。もうこのアクセサリーはボロボロだし、新しいアクセサリーをプレゼントしてもいいのかなって」


千歌「・・・確かに、梨子ちゃんはしいたけと仲良くなってくれたよね。・・・・・・〝今〟、私・・・・・・心の底から実感し直したよ」


千歌「・・・けどさ、それが何なの?チカには梨子ちゃんの言いたいことが見えてこないよ」


梨子「確かに、ちょっと余談が過ぎたわね。……でも、そこは本質じゃない」

梨子「私が、しいたけちゃんにさわれるようになった結果。……しいたけちゃんをよく見ることが出来るようになった結果」

梨子「私が確信をもって、言えるようになったことがあるの!」


千歌「・・・」


235: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:52:36.74 ID:2ASeLL45O

梨子「……千歌ちゃん。ごまかしは、もうやめて・・・・・・!」


千歌「・・・・・・」


梨子「……千歌ちゃんも、気付いているでしょ。……私がしいたけちゃんの首輪を昨日見たと言った時点で……」

梨子「わかってるはずだよ。……私がイチバン言いたかったことが。つまり!」


梨子「私は昨日、このアクセサリーに刻まれた《文字》を見なかったっていうことを!」



千歌「・・・・・・」



梨子「……私は、昨日。……自分の目で、見たの」


梨子「しいたけちゃんのアクセサリーを……そのボロボロっぷりを……!」

梨子「確かに、ボロボロだった。・・・・・・だけど・・・」


梨子「こんなキズはなかった!……こんな《文字》に見えるキズは、なかった!」



236: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:53:35.34 ID:2ASeLL45O

千歌「・・・・・・そんなの、梨子ちゃんの見間違いかもしれないじゃん」


千歌「・・・それに。梨子ちゃんがいなかった時の写真だって言えば説明になるよね?」


梨子「(……!)私が、いなかった時……?」


千歌「そうだよ。……梨子ちゃんが、転校してくる前の写真だって言えば、辻褄も合う」


梨子「……ええ。確かにそれは、その通りよ」


千歌「ほら。……ヤッパリ、梨子ちゃんのオクソクにはアナがあったみたいだね?」

千歌「ウチの庭にもある、アリジゴクが作ったのとおんなじよーなアナが!」



梨子(……それはそれで、なんで気付いていて駆除しないのかは、気になるけど。……しかも客商売の旅館なのに。……でも……)


梨子(でも、そのアナ以上に。もっと大きなアナがあったことに、千歌ちゃんは気付いていない!)


梨子(そう。自分自身が掘ったはずの《落としアナ》に!)




237: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:54:22.29 ID:2ASeLL45O

梨子「……千歌ちゃん」


千歌「なにかな」


梨子「……もしそんなアナを主張するのだとしたら。……千歌ちゃんの主張はアナだらけになってしまうのよ」


梨子「……アリジゴクどころか、ハチの巣ぐらいにね!」


千歌「チカの主張がハチの巣……?梨子ちゃん!」

梨子「!な、なに?」


千歌「それだと、まるでチカがたくさんの《モードク》を持っているみたいじゃん!」

梨子「え。………ゴメン。話の本筋はそこじゃないんだけど……」


千歌「……なんだ。それならそうと言ってよ」

梨子「……ゴ、ゴメン。(余計な例えのせいで余分な時間を取ってしまった)」



238: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:58:06.15 ID:2ASeLL45O

梨子「オホンッ!…………いい?その反論を受け入れるのだとすれば」


梨子「《いつ》《誰が》このペンダントの写真を撮ったのかわからなくなるのよ!!」


千歌「・・・・・・!」


梨子「どうやら千歌ちゃんも気付いたみたいね……」


梨子「千歌ちゃん自身が説明してくれたことだもんね。千歌ちゃんしかこの写真は撮れなかったと」

千歌「なるほど、ね。……チカは自分の掘った、《落としアナ》に……梨子ちゃんを落とそうとして」

梨子「ええ。……自分で落ちちゃったのよ」


梨子「……“墓穴”という名の、“生きた人間”の足元を致命的に掬う、アナにね!」



239: 名無しさん 2019/07/03(水) 20:59:21.17 ID:2ASeLL45O

千歌「……梨子ちゃん」


梨子「何?」


千歌「……どうでもいいんだけどさ。流石にさっきから例えが多すぎじゃない?」

梨子「……最初に始めたのは千歌ちゃんでしょ!」


千歌「・・・まあ、そうなんだけどさ」


梨子「それはともかくとして!」

梨子「千歌ちゃんも気付いた通り、この写真が私の転校前のものだとすると、数週間前撮ったという千歌ちゃんのさっきの主張と矛盾するのよ!」


千歌「……まぁ、確かにそうだね。でも、見間違いって線はまだ消えてないよ?」


梨子「だったら!そのことを美渡さんに聞いてみればこの話は解決するはずよ!!」


千歌「……美渡ねぇ」


梨子「私だけが言っているのなら確かに、単なる言いがかりだと思う」

梨子「けど、千歌ちゃんの家族も言うのなら話はベツ。……それも、毎日しいたけちゃんのことを気にかけている美渡さんなら……」

梨子「ベツどころかカクベツよ!」


千歌「・・・・・・」


梨子「そして、その美渡さんが何も言わなかったとしたら。……この《キズ》……いや、この《文字》は!」

梨子「今までに一度も彫られたことがないものっていうことになる!」


梨子「美渡さんほど、しいたけちゃんをお世話している人はいない。……そんな人が、首輪が入れ替わっていた時期があったことを”見落とす”はずはない」



240: 名無しさん 2019/07/03(水) 21:00:26.00 ID:2ASeLL45O

梨子「……どう、千歌ちゃん?今すぐ美渡さんに確認してみようか?」


千歌「……その必要はないよ。梨子ちゃん」


梨子「……ということは、認めるっていうこと?」

梨子「この首輪の文字は……《あってはならない》ものであったと!」


千歌「……梨子ちゃん。……梨子ちゃんこそ。焦っちゃダメ、だよ?」


梨子「……!」


千歌「梨子ちゃんの言うようにこのキズが《あってはならない》のだとしたら、このキズはどんな意味で《あってはならない》のかが問題になる」

千歌「そこを説明してからじゃないかな?その先の話をするには……」

梨子「ちょっと待って!それは《キズ》じゃない!《文字》よ!」


241: 名無しさん 2019/07/03(水) 21:01:20.66 ID:2ASeLL45O


千歌「ふふ。梨子ちゃん、だから焦らないで?」



梨子「……な………!」



千歌「・・・だから、その《キズ》がそんなにトクベツな《文字》だったとしたら、何が問題なのか?・・・・・・そういう話だよ」


梨子「……ぐっ(何なの。この、強烈な焦燥感は……)」



梨子(こっちが問い詰めているはずなのに、いつの間にか立場が逆になっているかのような感覚)


梨子(……さっきの〝千歌ちゃん〟は私の知っている千歌ちゃんと変わらない受け答えの仕方だった。少なくともそんなに印象は変わらなかった)

梨子(だけど……今の〝千歌ちゃん〟は違う。問い詰められたことに動じないどころか、むしろ更に問いを進めさせようとしているかのような……そんな印象すら受ける)


梨子(まるでカンペキに〝千歌ちゃん〟であることによって、〝千歌ちゃん〟なら作ってしまうアナを見付けさせて……)


梨子(それを基に、私に何かを促しているかのような……そんな感じすら受ける)



242: 名無しさん 2019/07/03(水) 21:02:26.15 ID:2ASeLL45O

千歌「どうしたの?答えられないの、梨子ちゃん?」


梨子(……なんにせよ、今はこの流れに乗るしかない)


梨子「……少なくとも。この文字は《いつ》この写真が撮られたかについて、疑問を挟むことになるわ」


梨子「千歌ちゃんはこの写真が数週間前に撮られたものだと言った。でも、そうだとすると……」

千歌「この写真に写っている文字みたいな《キズ》の説明がつかない」


梨子「………そういうことよ」


千歌「でもさ、実際に写っている以上、この写真が撮られた時、首輪にこのアクセサリーがついていたことは間違いないよね?」

梨子「ええ。だからこそおかしいのよ」


梨子「もし数週間前に撮影された時の首輪が写っているんだとしたら、その時かなり不自然な入れ替えが起きたことになる」


千歌「……さっきも入れ替えってことは言ってたけど、よくわからないんだよね。説明してくれる?」



243: 名無しさん 2019/07/03(水) 21:03:26.99 ID:2ASeLL45O

梨子「・・・もちろん、そのつもりよ。……数週間前から今日にいたるまで、こんな文字は見たことがなかった。だとすれば、この文字はその間に付いたものではなかったことになる」


千歌「……もしそうだったとしても、それ以前の期間に付いていた可能性はやっぱりあるよね?梨子ちゃん、しいたけのこと苦手だったから、気付かなかっただけかもしれないわけだし」


梨子「……今になって自分の主張を変えるつもり?」

千歌「変えてはないよ。あくまで、数週間前から今までの間はともかく、それ以前は違った可能性もあったんじゃないかってこと」


千歌「さっきのチカの主張は、梨子ちゃんのいなかった時に撮られた写真ならってことを言っただけ」

千歌「そうじゃなくて。梨子ちゃんがいなかった時に付いた《キズ》で、それが数週間前撮影されたとしたら、辻褄が合うでしょ?」

千歌「それに。数週間の間で、キズがキズを覆い隠したって可能性も考えられるんじゃない?」


梨子「……(なるほどね。一見、間違ったことは言ってないようだけど)」


梨子(ここで、あの写真の存在がその説明を揺り動かすことになる)


244: 名無しさん 2019/07/03(水) 21:05:42.53 ID:2ASeLL45O

梨子「……確かにそうかもしれないわね。……だけど、少なくとも浦の星が夏服になる前までは、そんなキズなかったみたいよ?」

梨子「少なくとも昨日皆でアルバムを見た時はそうだったよね」

千歌「何を言って……?あ。もしかして……」

梨子「そう。私と千歌ちゃんと曜ちゃんと、そしてしいたけちゃんと一緒に旅館前で撮ったあの写真」


梨子「……あれには、はっきりとわかるようなキズはなかった」

梨子「さて。じゃあその写真を撮った後、アクセサリーを変えたことはあったのかな?」


梨子「……これも、美渡さんに聞けばわかることだよね」


千歌「…………」


梨子「あの早い段階で撮った写真にキズはなかった。それから数か月の間にこれほどのキズが付くとは考えにくい」

千歌「でも実際、昨日見たしいたけのアクセサリーはキズだらけだったでしょ?」

梨子「もちろん。……ただし。《浅い》キズで、ね」


245: 名無しさん 2019/07/03(水) 21:07:28.72 ID:2ASeLL45O

千歌「……流石。梨子ちゃんにはもっと《深い》ツッコミじゃなきゃ意味がないか」


梨子「……。とすると、《深い》キズが付くチャンスはあの写真を撮る前」


梨子「そして、千歌ちゃんの主張は数週間前にこの写真を撮影したということだった。……なら」


梨子「千歌ちゃんは、私が転校する前にあったボロボロの首輪をわざわざ取っておいて、この撮影の時だけ首輪を入れ替えたことになる!」


梨子「これはあまりにも不自然よ!!」



千歌「………確かに、普通はそうかもね。けど、これは《形見の写真》。ちょっとトクベツなものを、不自然だと思い込んでるだけじゃないのかな?」


梨子「美渡さんにも気付かれずに入れ替えを行ったことが、不自然じゃないとでもいうの?」

千歌「美渡ねぇ、意外と忘れっぽいし、私や志満ねぇがやってることには普段そんなに興味ないみたいだからそれもあり得るんじゃないかな?」

梨子「……強引にも過ぎるでしょ、そんな理屈」

千歌「強引でもしょうがないじゃん。あくまで偶然、普段とは違うものが写った。……そう考えられる限りはね」


246: 名無しさん 2019/07/03(水) 21:09:17.36 ID:2ASeLL45O

梨子「いいえ。それは、ないわ」


千歌「そっか。……じやあ、それはどうしてかな」


梨子「確かに不自然な点が一つだけだったらそうだったかもしれない。だけど……」


梨子「二つ以上あったら……それは、偶然という言葉で完全に片づけられなくなるとは思わない?」


千歌「二つ……」


梨子「ええ。さっきも言った通り、写真を撮る時は基本的に一緒に写りたがる千歌ちゃんがここには写っていない」


千歌「・・・・・・」


梨子「そしてこの首輪の文字。……これもかなり不自然なものよ。……だったら……」

梨子「この写真の不自然な点は、単なる偶然で残ったとはとても考えにくいの」

梨子「もしこれを偶然だと言い張るなら、少なくとも二つの前提の内一つは説明できないといけない」


梨子「つまり……この写真は本当に千歌ちゃんが撮ったものだったのか?もしくは、本当に数週間前に撮ったものなのか?」


梨子「もっと踏み込んで言えば、《いつ》《誰》がこの写真を撮ったのか?」


梨子「……さっき千歌ちゃんが私に聞いたこと。これ千歌ちゃんに聞かないことには、話は進まないの!」


千歌「・・・逆、か。なるほどね……」


梨子「千歌ちゃん。これは……どういうことなの?」


千歌「・・・・・・」


梨子「千歌ちゃん!」



247: 名無しさん 2019/07/03(水) 21:10:06.14 ID:2ASeLL45O



千歌「・・・どうもこうもない。それが、私の答えだよ」



梨子「…………!」


千歌「確かに梨子ちゃんの言う通り、この写真は不自然で……偶然撮られたもののようには思えないかもね」

梨子「だ、だったら……」

千歌「だったら。・・・どうして、そんな不自然なものが残ったのか?・・・・・・それを説明してほしいった話なんだろうけどさ」

千歌「つまり、もし梨子ちゃんの考えが正しいとしたら、この写真に写っているものは偶然じゃなくって、必然的に写ったものなんだって考えなきゃいけないわけだよね?」


梨子「……そうなるね」


千歌「偶然写ったんじゃないとしたら、そこには何か理由があるはず。そういうことだよね?梨子ちゃん?」

梨子「……!そうだよ。だから、はぐらかさないでそれを説明して……」



248: 名無しさん 2019/07/03(水) 21:11:04.11 ID:2ASeLL45O


千歌「無駄、じゃないかな。・・・そんなこと、頼んでも」


梨子「な。なんで……?」


千歌「だって・・・理由なんて、答えようがないからね」


梨子「こ、答えようがない……?」


千歌「いい、梨子ちゃん?・・・ここに写っている以上、この写真は首輪の入れ替えか、文字に見えるキズがあったと考えるしかない。・・・ここまでは、完全には否定しきれないね」


千歌「そして、だったらなんでそんなものを、写真を撮る時だけ入れ替えたのか?……それも、問題になるんだよね?」


梨子「そう、ね」


千歌「じゃあ、その理由は?・・・・・・答えから言うと、そこに理由は必要ない」

千歌「[過去]は必然だよ。変えることは、出来ない」


梨子「……千歌ちゃん。何を言ってるの……」


千歌「いくら不自然であっても、この写真が撮られたタイミングはやっぱり数週間前しかない。・・・それは、さっき説明した通りだよ」


梨子「……そ、それは」


千歌「そして、撮影が出来たのはチカしかいない。……じゃあ、ヤッパリ偶然は偶然でしかない」



249: 名無しさん 2019/07/03(水) 21:12:18.75 ID:2ASeLL45O


梨子「……必然って言ったばかりだけど?」


千歌「だから、偶然写ったとしか考えられないって意味で、必然なんだよ。偶然が必然だったとでもいうのかなぁ?」


梨子「……(頭が痛くなってきた)」


梨子「で、でも。この《文字》は……!?」

千歌「もちろん、キズの深さの問題はあるかもしれない。だけど、撮影が行えたのがチカだけな以上……この《キズ》は撮影の時付いていたとしか考えられない」

梨子「けどそんな特徴的な《キズ》は今までになかったものでしょ?」


千歌「うん。だからさ、梨子ちゃんは入れ替えがあったって思ってるみたいだけど」

千歌「このキズは単に文字と錯覚してしまうだけのキズに過ぎない。……そして数週間の間に、文字っぽい《キズ》をベツのキズが覆い隠したと考えることもできるよ?」

梨子「で、でも!そんなのは不自然だって、三人としいたけちゃんで撮ったあの写真が明らかにしてるでしょ!?」

千歌「でも、それから結構経ってるでしょ?……それに」


千歌「キズの《深さ》が、この写真だけでわかるとはいえないよ。……パッと見キズの深さが違ったように見えても、それがキズじゃなくて単なる影でしかない可能性は、あるからね」


梨子「……くぅっ!」



250: 名無しさん 2019/07/03(水) 21:13:29.21 ID:2ASeLL45O

千歌「・・・流石の梨子ちゃんでも、くぅのオトしか出ないのかな?」

梨子「……うぅぅ。そ、それを言うなら、『ぐぅのネも出ないのかな?』でしょ!」


千歌「・・・・・・。ま、ポイントはそこじゃないんだけどね。・・・一番の問題は、さ」


千歌「梨子ちゃんの主張だと、この写真は偶然撮られたものではなくなる。偶然にしては、あまりにも不自然過ぎるから」

千歌「だとすると、この写真には私……チカが主張したように、何かこの構図になるための理由があったことになる」

千歌「チカはそれを《家族の形見》だからだって説明したはずなんだけど……梨子ちゃんはそれじゃ納得がいかないんだよね」


千歌「けど、それ以外の理由があるはずがないんだよ。だって……」

千歌「写真は覆しようがない。このペンダントに写っていて、条件的にチカしかこの写真を撮れなかった以上」

千歌「これは、チカが撮ったとしか言えないし、そこにこれ以上の理由はないんだよ」


千歌「要するにさ。もし、チカが写っていないことがおかしいなら……どうして写っていなかったのか、その理由が必要になる」


千歌「それに、偶然首輪を入れ替えたんじゃなかったとしたら……わざわざ首輪を入れ替えた理由もまた、必要になる」


梨子「首輪を入れ替えた、理由……」



251: 名無しさん 2019/07/03(水) 21:14:22.78 ID:2ASeLL45O

千歌「・・・・・・梨子ちゃんの言うように、この《キズ》が特別な意味を持つ《文字》だったとしたら」


千歌「本当にそうだったとしたら・・・私に首輪の入れ替えをする理由があったってことになるね。でも、だからこそ」


千歌「首輪を入れ替えたのが偶然じゃないってなったら、チカが数週間前にこの写真を撮ったことが、間違いなかったと証明されるだけだよ!」


千歌「だって、この写真を撮れる機会は数週間前しかなくて、しかもそれをこの構図で撮る強い動機もあった……首輪を入れ替えてまで撮りたかった写真だって……そうなるだけだからね!」



梨子「……!」



千歌「結局、問題は変わってないんだよ。私はもう、説明をしてる」


千歌「どうして……チカが。……数週間前にこの写真を撮影したと言えるのか?そういう、説明をね」


梨子「………ぐ。ぐぅぅ……ぅ!」



千歌「・・・もう、ぐぅのネが出た?」



252: 名無しさん 2019/07/03(水) 21:16:09.39 ID:2ASeLL45O

梨子(こ、これ見よがしに……!)


梨子「い、今のはお腹の音よ!」


千歌「え、う、うん……そっか。……じゃあもうこの話はやめにして、お家かえろっか?」


梨子「……こ、ここまで食い下がっちゃったら、そうもいかないでしょ!」

千歌「食べるのは晩御飯だけにしといた方がいいと思うけどなぁ。……でも、どっちにしろこれまでだよ」


千歌「・・・梨子ちゃんは不自然な事実を指摘したつもりだったみたいだけど」


千歌「むしろ、梨子ちゃんの言う通りだとすれば、私の説明にヘンなところはなくなるよ?」


梨子「千歌ちゃんが、不自然な行動をとった“理由”……それが説明されることになる、から……」”


千歌「……そういうことだよ」


梨子「だ、だからその理由を教えてよ!」


千歌「……梨子ちゃん。私はあくまで梨子ちゃんが言った通りだったとしたら。つまり、入れ替えがあったとしたらの話をしたんだよ?」

千歌「それでもし梨子ちゃんが正しかったとしても、結論は変わらないってことを言ったってだけ」


梨子「……ということは、入れ替え自体は認めないってことなの?」


千歌「そりゃそうだよ。それこそ、不自然過ぎるもん」

千歌「なんでわざわざその時だけ首輪を、それもヘンなものが写っているものに入れ替えるっていうの?」

千歌「それだけの理由があったとかならともかくさ」



253: 名無しさん 2019/07/03(水) 21:17:46.73 ID:2ASeLL45O

梨子「……だからさっき、理由なんてないって言ったわけね……」


千歌「そ。こんな《文字》に見えるようなものが写ってるとは思わなかったけど……それだけだよ」


梨子「……《キズ》の深さが、単なる錯覚だなんて……本気で言ってるの?」

千歌「首輪の入れ替えがあったって本気で言うよりはマシだと思ってね」


梨子「……記録に残っているものに錯覚なんてあり得ないわよ?」

千歌「記録自体はそうだとしても、それを見る人が錯覚することはあり得るよね?」


梨子「……私が錯覚してるってこと?」

千歌「否定はできないよねってだけだよ。それとも、これが《キズ》じゃなくて《文字》だって言える根拠が他にあったりするの?」



梨子「そ、それは……」




255: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:06:11.46 ID:jKKfMeypO


千歌「・・・・・・ない、ってことなんだよね。もしあったら話してるはずだもんね」



梨子「……それは。そう、だけど……」


千歌「・・・。梨子ちゃんも認めてくれたことだし、じゃあやっぱりこの《キズ》は偶然、そう見えたってだけだね」


梨子「……でも、美渡さんはじゃあ、どうなの?そんな《キズ》見たことないんじゃないの?」

千歌「う~ん……このセンでいくと見たこと自体はあるんじゃないかなぁ?」

梨子「で、でもだったら……違和感ぐらい、持つんじゃ……」


千歌「だからこそだよ。それが、《キズ》であることの何よりの証拠なんだよ」


梨子「ど。どういうこと?」


256: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:13:38.00 ID:jKKfMeypO
千歌「美渡ねぇが違和感を持ったことがないってことは、結局、その《キズ》は《文字》なんかじゃなかったってことでしょ?」

千歌「もし、元から《文字》みたいな形だったとしたら流石に気付くはずだし。ってことは、本当に偶然、そんな形に見える《キズ》が付いてたってことの証明になるよね?」


梨子「……うぐっ!(は、反論できない……!)」


千歌「きっと美渡ねぇに『これ文字に見えない?』って聞いても『あぁ、そんな風にも見えるっちゃ見えるな』って返されておしまいだと思うよ」


梨子「……(た、確かに。さっきは強引な理屈だって反論したけど言われてみれば美渡さんなら言いそうだ……!)」


千歌「……今、美渡ねぇなら確かに言いそうだって思ったでしょ」

梨子「ど、ど、どうしてわかったの千歌ちゃん!」

千歌「いや、そんな顔してたから……」

梨子「そ、そう。千歌ちゃんには私のこと、全てお見通しって訳ね……」


千歌「……誰だってわかると思うけどね。梨子ちゃん顔に出やすいから」


梨子「・・・・・・ぬぅぅ!(ポーカーフェイスにはそれなりに自信があったのに……!)」



257: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:14:44.26 ID:jKKfMeypO

千歌「さて、と。……じゃあそろそろ帰ってご飯食べよっか?」


梨子「……え。ど、どうして……?」

千歌「だってもう全部話したし。それに、梨子ちゃんお腹空いてるんでしょ?」


梨子「そ、それは……(お腹じゃなくて頭が空っぽになって言葉が出なかったのよ!)」


千歌「このままだと夕飯残り物になっちゃうしさ。嫌でしょそんなの」

梨子「……残り物には福があるっていう言葉もあるけど」

千歌「いやいや。夕飯の残り物には福なんてないってば」

梨子「夕飯の残り物には……?」


千歌「……梨子ちゃんは一人っ子だからわかんないのかな。姉妹がいたら残り物なんて本当に残念なものしかないんだからね!ボヤボヤしてるといいのは全部食べられちゃうんだから!」


258: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:15:40.36 ID:jKKfMeypO
梨子「そ、そう……?」

千歌「そう!姉妹の争いっていうのはね、もうやるかやられるかなんだよ!」


梨子(姉妹全部がそういうわけじゃないんじゃないと思うんだけど……それにそもそも高海家でそんな争いをするのって千歌ちゃんと美渡さんだけなんじゃ)


千歌「……今さ、そんなことするのチカと美渡ねぇだけだって思ったでしょ」

梨子「え、えっ!?」


千歌「梨子ちゃんはさ、やるかやられるかの世界を甘く見てるんだよ。志満ねぇだって、いや、志満ねぇこそやる時はやるんだよ」

梨子「し、志満さんが……?(全然そんな風には見えないけど……)」


千歌「『人は時に、やるかやられるかやるかやらないかの二者択一に迫られる。その時にどちらを選ぶかでその人間の価値が決まる』……これ、志満ねぇが本気を出す時に必ず言う言葉だよ」


梨子「そ、その本気を出す時って……?」


千歌「モチロン、残り物争奪戦の時だよ。志満ねぇはさ、普段優しいけどたまにホントに怖いんだからね!妹相手でも全然容赦ないっていうか、手段選ばないんだもん!」

梨子「あ、あの志満さんが……」


千歌「でもま、割と普通のことじゃない?どんなところでも似たようなことしてると思うよ?」


梨子(流石にそんなに武闘派なのは高海家だけでしょ!)



259: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:16:23.99 ID:jKKfMeypO
千歌「梨子ちゃん。なんか納得いかなさそうだね?」

梨子「……そりゃあ、ね。少なくとも、私はそんな経験したことないし……」


千歌「・・・・・・どうかな。少なくとも今は、違うんじゃないかな」


梨子「……え?今は違う、って……?」


千歌「だってさ。梨子ちゃんってばさっきから、ずっとそうじゃない?……不自然なのかそうじゃないのか。もしそうだったとしたら、何か”理由”があるはずだって」

梨子「!」


千歌「志満ねぇの言葉ってどっちかしかないっていうことを言ってるわけだけどさ。でもそれって、今の梨子ちゃんも同じような感じじゃないかな?」


梨子「それは……」


千歌「・・・それに、ずっと思ってたんだけどさ。なんでそこまで、追求しようとするの?」


梨子「……!」


千歌「私のことを不自然だって言うけど、そこまで追求しようとする梨子ちゃんこそ不自然な気がするよ」


梨子「………」



260: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:17:37.66 ID:jKKfMeypO
千歌「あ、ごめんごめん!気を悪くさせるつもりじゃなくって、えっと、梨子ちゃんがおかしいとか、そういうことが言いたいんじゃなんだよ」

千歌「ただ、たまに自分でも何でそんなに焦ってるのかわからないけど、何かがどうしようもなく気になっちゃうときってあるよね」

千歌「梨子ちゃんもね、今そういう風になっちゃってるんじゃないかな?」


梨子「私が、焦ってる……」


千歌「うん。私にも経験があるよ。後になってどーしてこんなことで悩んでたんだろぉって思ったりね」

千歌「でもそういう風に何かに悩んでる時って、たいていたっぷりご飯食べてゆっくりお風呂に浸かって、ぐっすり眠ったら次の日にはキレイさっぱり忘れてるんだよね」


梨子「忘れて……」


千歌「そ。だからさ、梨子ちゃんもたまにはご飯食べてゆっくり休んだらどうかな。きっと次の日には、なんであんなに気になってたんだろーって思えるよ」









梨子(……『もう、いい加減にした方がいい』『千歌ちゃんの言う通りかもしれない』……そんな言葉が、頭の中に響いている)ギュッ


梨子(確かにその通りにした方がいいと思う。でも、こんなに大事なことを話されて、そんなに簡単に忘れられるかな?)


梨子(それに……千歌ちゃんの言うことに納得しかけていること自体が、違和感でもある)


梨子(本当に、このまま今日を終えて、明日目を覚ましたら、綺麗サッパリ忘れてしまえるかのような……そんな予感が、ある)


梨子(……ううん、予感なんてものじゃない。確信してるんだ……私は)


梨子(私は、私の違和感が明日には消えてしまうことを確信している……!)


梨子(でも、だからこそこの違和感を無視できない。……だとしたら)


梨子(私がとる道は、やっぱりこれだ)ギュッ



261: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:18:53.22 ID:jKKfMeypO

梨子「……千歌ちゃん。残念だけど、まだ私はご飯を食べに帰るつもりはないよ」

千歌「どうして?……もうなんにも残ってないでしょ?」

梨子「あいにくだけど、私は違和感を残したままご飯なんて食べられないの」

千歌「違和感……。でもさ、もう疑問の残り物なんてないでしょ?やっぱり気のせいなんじゃないかな?」


梨子「……千歌ちゃん。こういう言葉を知ってるかしら」


千歌「え、なになに?どうしたの突然」



梨子「『人は時に、やるかやられるかやるかやらないかの二者択一に迫られる。その時にどちらを選ぶかでその人間の価値が決まる』」



千歌「……それ、さっきチカが話した、志満ねぇの言葉じゃん」


梨子「……私は、今がその時だと思う。私がやるべき時は、今この時」


梨子「この〝今〟こそ、私がやるべき時なんだと思うの」



千歌「・・・」



262: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:19:52.56 ID:jKKfMeypO

梨子「ところで。……この言葉は時に、誤解を生むこともあると思うの」


梨子「そう……今の千歌ちゃんと同じようにね!」


千歌「……!今のチカと、同じように……?」



梨子「・・・ええ。『二者択一』は必ずしも正しいとは限らない」


梨子「その前提自体が間違っていたとしたら……どっちを選んでも、間違っていることに変わりはないの!」


千歌「前提を間違えてる?……なんの話?」



梨子「……今まで私は、ずっとある前提のもとで考えていた」


梨子「千歌ちゃんの言う通り、私は不自然な事実が生まれるのだとしたら、必ず理由があってそうなると思ってた」


梨子「それで、今までその理由が何なのか、探していたわけだけど……」




263: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:20:44.49 ID:jKKfMeypO
千歌「そんなのなかった。だって、事実が事実としてある以上、たとえ不自然であっても理由がないことはあり得るから。……そんなところかな?」


梨子「……確かに理由のない不自然はあり得ると思う。偶然という言葉で説明はつくからね」

千歌「だったら……」


梨子「でもね、偶然は偶然。そう何でも説明の出来るものじゃない」


千歌「……梨子ちゃんはさっきから、説明がつくかどうかばっか気にしてるよね。どうして説明できないこともあるって考えないのかな?」


梨子「……今回に限ってはそうはいかないからよ。千歌ちゃん……」


梨子「少なくとも不自然な状況だったり、信じられないことが“何度も“起こったとしたら……それは偶然という言葉だけで全て説明できるものじゃない。それはさっき話した通りよ」


千歌「・・・じゃあ、梨子ちゃんはどう考えるの?」


千歌「今までの梨子ちゃんの考えの通りだとしたら、不自然なことって理由があって起こったのか偶然そうなったかのどっちかになるはずだよね」

千歌「でも、今までの話はそのどっちでもないんだよ」

千歌「だとしたら……」



梨子「……だとしたら、そのどっちでもないことが起こったと考えるしかない。……そうじゃないかな」




264: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:21:53.86 ID:jKKfMeypO

千歌「・・・!どっちでもないって……。何を言ってるのか、わかってるの?」


梨子「ええ。……モチロン、わかってるよ。つまり……」



梨子「つまり、”首輪は入れ替わっていたし、その理由もあった。だけど、それは不自然な入れ替わりだった”!」



梨子「私はそう考える!」



千歌「・・・・・・。・・・本気でそんな風に考えるつもり?」

千歌「そんなの、ありえないよ。……だって、そんなの……」

梨子「……そんなのは。矛盾、してるから?」


千歌「・・・。……そうだよ。……そんなの、ヘンだよ」


千歌「だって、不自然かどうか……。そのどっちかしかないのに、そのどっちでもないだなんて」



梨子「……だったら、その『どっちかしかない』という前提こそ間違っていた。それこそ、私が陥っていた間違いだった」


梨子「そう考えてもいいよね」



265: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:23:28.20 ID:jKKfMeypO

千歌「どっちかしかないという、前提……?」


梨子「ええ。……矛盾っていう発想は、『どちらか片方に決まって、どちらかだけが本当のこと』……って。そういう考えから生まれるものだと思う」


梨子「そう……『二者択一』の発想から、ね」



千歌「・・・・・・」



梨子「でもね。そもそも、『どちらか一方だけ』だと考えるのは、矛盾が出てきた時だけ」

梨子「そして、矛盾っていうのは……ある出来事と、その出来事じゃないことが同時に成り立つことは、あり得ないということ」

梨子「つまり、ある出来事は、それを否定する出来事と同時に成立することは出来ない。当たり前といえば当たり前だけどね」


千歌「なるほど……ムジュンの意味はわかったよ。けどさ、それだとやっぱり梨子ちゃんの考えは。今、梨子ちゃん先生が教えてくれたムジュンの意味まんまだよ?」


梨子「……確かに、不自然かどうかだけ見れば、そのどちらでもないって考えは明らかに矛盾する。それは、その通りよ」


梨子「でも、言ったでしょ?『”その前提”こそが間違っていた』って」


梨子「つまり……『不自然さ』そのものの前提こそが、間違っていたのよ」



266: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:25:29.32 ID:jKKfMeypO

千歌「……『不自然さ』そのものの前提……」


梨子「……そうよ。私は千歌ちゃんの言う通り、こう考えていた」



『不自然なことって理由があって起こったのか偶然そうなったかのどっちかになるはず』



梨子「この考え、もっとちゃんと考えると……」


梨子「不自然さは理由があれば説明できる……理由があれば、不自然なことは不自然じゃなくなる……」

梨子「逆に言えば理由がなかったら不自然なものは不自然なまま。……そういう考えになる」

梨子「つまり、理由があるかどうかが不自然さの前提になっていることになる」


千歌「……その前提が、間違っていた、ってこと?」


梨子「ええ。……不自然であるかどうかと、理由があるかどうかは違う」

梨子「それにそもそも私は、説明できるかどうか?そっちこそを追求していた……」

梨子「そして、理由があっても説明できない不自然さはあり得る」



267: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:26:36.17 ID:jKKfMeypO


千歌「ふぅん……なるほどね。理由があっても説明できない不自然さ……か」



千歌「・・・そうなると、問題は何がその説明できない不自然さを」

千歌「……ってなんかわかりづらいから説明できなさでいっか。……問題は、その説明できなさをどうやって示すのかって話になるよね」


千歌「その写真に写っているものはそこに写っていなきゃいけない理由があった。でも、そこに写っちゃダメだった。・・・・・・じゃあ結局、何が梨子ちゃんの考えを示すっていうの?」


梨子「……簡単なことよ。この写真の《文字》を見ればいいだけなんだから」


千歌「・・・・・・本当に、こだわるね」


梨子「……千歌ちゃん先生がさっき教えてくれた通り。もしこの首輪に刻まれたものが《文字》だったとしたら……、そしてその《文字》が特別な意味を持つとしたら。当然、この首輪をつけて写真を撮る理由があることになる」


梨子「だけど、同時にその《文字》の持つ意味によっては……『首輪は入れ替わっていたし、その理由もあった。だけど、その入れ替わりは不自然な入れ替わりだった』……この考えも、成り立つ」


梨子「……千歌ちゃんの言葉を使わせてもらうなら『その入れ替わりは説明できない入れ替わりだった』とするべきかな」



268: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:27:19.65 ID:jKKfMeypO

千歌「……そこら辺はどっちでもいいよ。問題はまず、しいたけの首輪に写っているものが本当に文字なのかってところ……」


梨子「そして、もし本当に《文字》だったとしたらそれがどんな意味を持つのか。……というところ、ね……」




梨子(……あれ?そういえば……)


梨子(この話……さっきもしたような……)


梨子(それも、千歌ちゃんがしていたような……っ!?)




千歌『梨子ちゃんの言うようにこのキズが《あってはならない》のだとしたら、このキズはどんな意味で《あってはならない》のかが問題になる』


千歌『……だから、その《キズ》がそんなにトクベツな《文字》だったとしたら、何が問題なのか?……そういう話だよ』








千歌「・・・・・・そうだね。それこそが、本当の問題だよね」





269: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:28:59.97 ID:jKKfMeypO

梨子(……千歌ちゃんの表情が、さっきと同じになった)


梨子(私が、強烈な焦りを覚えた……あの表情に)



梨子(……ま、まさか……)



梨子「……まさか、今までの反論は本当にわざとだったっていうの?」

千歌「ん?……わざと、って?」


梨子「……写真を拡大してからのやり取りはほとんど堂々巡りに近いものだった……質問はこれで最後だなんて言ったはずなのに、一言では終わらなかった……」



千歌「・・・」



梨子「でも、千歌ちゃんは付き合ってくれているよね。……それこそ、徹底的に」


梨子「徹底的に、私の考えを全て潰しにかかることで。核心の部分……《文字》という[証拠]が一体どんな意味を持っているか……それだけに目を向けさせてくれた……」


梨子「たとえ堂々巡りでも、この過程を踏まなかったら……。どうして、この”文字”がここまで問題だと言えるのか」


梨子「どれほど、重要な意味を持つのか。……その視点に立つこと自体、出来なかったかもしれない……!」


梨子(この”文字”こそが全ての疑問に繋がる手掛かりだっていう視点に……!)



270: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:31:26.28 ID:jKKfMeypO

千歌「・・・・・・ねぇ梨子ちゃん。梨子ちゃんがそう考えるのは自由だけど・・・普通、《逆》だと思わない?」


梨子「(……!)ぎゃ、《逆》?」



千歌「・・・・・・。梨子ちゃんはその《文字》が重要なもので、それこそが全ての謎を握ってるって、そう考えてるみたいだけど」


千歌「普通わかんないよ?文字に込められた意味なんてさ」



千歌「それこそ・・・・・・自分に関係するものでもない限り」



梨子「……それは……」


千歌「チカがここまで梨子ちゃんに付き合ったのは、それを知ってもらうため」


千歌「どう考えても答えが出ないものもある。・・・・・・それを、梨子ちゃん自身に納得してもらうためだって、思わないかな?」


梨子「私に、納得してもうため……?」


千歌「だって〝今〟の梨子ちゃんは、そうでしょ?」


千歌「自分で納得するまでは、追及をあきらめない。・・・そんな風に見えるよ」

千歌「だからさ、自分で納得してもらうしかないなって。・・・もう説明しようがないって、ね」


梨子「……確かに、普通に考えたら見たこともない、聞いたこともない《文字》に込められた意味なんて、知りようがない。でも……」


梨子「でも、推測することは、出来るはず」

梨子「それすらもしないで、納得なんて私にはできない」ギュッ





千歌「・・・・・・そっか」






271: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:33:18.90 ID:jKKfMeypO






千歌「・・・・・・〈あなた〉は。あくまで、追及するつもりなんだ・・・」ボソッ






梨子「……え?千歌ちゃん今、何か言った?」



千歌「・・・何でもないよ。それじゃあ、聞いてみようかな」

千歌「この《文字》に。一体、どんな意味があるのか?……それに対する、梨子ちゃんの推測を、ね」


梨子「……ええ。いいわ……」



梨子(この《文字》に、一体どんな意味が込められているのか……)

梨子(それを考えるためにはまず、文字の形を把握しないといけない)


梨子(《文字》に意味があると考える以上……それがどんな文字であるかわからないと推測すら出来ないからね……)


梨子(もう一度、《文字》の部分を確認してみよう)



272: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:34:37.17 ID:jKKfMeypO

梨子(……『5Piqj』。なんとか読めたのが、この組み合わせだったわね……)


梨子(このままじゃよくわからないけど……)


梨子(おそらく、この《文字》はアルファベットがメインになっている……それは明らかだと思う)


梨子(それともう一つ。これはあくまで、そう読めそうなものをそのまま読んだ結果でしかない。よく見ると、文字のデザインも位置もバラバラだ)


梨子(……素直に考えて、意図してそういうデザインにすることはあまりない気がする。だとすれば……)

梨子(やっぱり、元のデザインは違っていたと考えるべきだよね)


梨子(なら、本当の形はどんなものだったのか明らかにすること……そこが出発点だ)


梨子(アルファベットで書かれている。……それを前提にして……)

梨子(文字に消えてる部分がないか。逆に、付け足されている部分がないか……検討してみよう!)


273: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:36:21.53 ID:jKKfMeypO

梨子(……一番目につくのは、『j』の部分ね)

梨子(これだけ、異様に形が小さいし……)


梨子(『j』に見えるのも、ただ曲がった部分と直線の部分が残ってるように見えるからだし。元は全然違った文字だった可能性が高い)

梨子(ただ、その分推測は難しい。この形一つから元の文字を突き止めるのはちょっと無理がある)

梨子(だったら……他の文字から、法則性を考えていった方がいい)


梨子(最もちゃんと形が残っているのは……『P』と『q』、ね)


梨子(『P』の方は……ちょっとななめ右に線の後みたいな、途切れた点線がある)

梨子(逆に、『q』の右の直線は、とってつけたかのように見える……)

梨子(とすれば、『P』はもともと『R』で、『q』は『o』だったんじゃないかな?)


梨子(そうだとすると……どうなるんだろう?)


梨子(『5Rioj』……まだ、これだけだと何もわからないままだ)


梨子(……『i』は、どうだろう)

梨子(これも、妙な途切れ方をしていると言える。点になっている部分がもしかしたら直線だったのかもしれない)

梨子(でも……そうだとして、直線の形を考えたら……候補は『1』か『l』か『I』……)

梨子(どれにせよ、意味は分からない……)


梨子(それに、そもそもアルファベットの大文字というセンは考えられない)

梨子(『R』と違って、明らかに元の文字の大きさが違う)


梨子(右端の『j』の部分は、キズが多すぎて原形が分からないんだけど……『i』はそんなにキズはついていない)

梨子(ただ単に、元の文字の部分が削れてこうなっただけ……そんな感じだ)


梨子(そうなら、小文字で『i』に近い形をしていて『o』に続く可能性があるもの……)

梨子(単語という観点を加えて考えた時、これに当てはまるのは)



274: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:37:39.82 ID:jKKfMeypO

梨子(『t』、だ)


梨子(私が知っている限りで『o』と一緒になって意味が通じる二文字の単語……それは『to』)

梨子(つまり、この考えを押し進めれば……『i』の元の形は、『t』しか考えられない)


梨子(……これで、残るは『5』と『j』だけ……)


梨子(『to』という解釈が本当に正しいとすれば……。この文字は、誰かから誰かへ送ったものということになると思う)


梨子(……誰から誰に、送ったのか……)

梨子(そこを突き詰めれば……残りの文字もわかるかもしれない……)


梨子(……今わかってるのは、『R』から誰かに送られているということのみ)

梨子(『R』に、当てはまるのは……)


梨子(……例えばAqoursだと。私か、ルビィちゃんになる)

梨子(それだけだったら、確証には至らない。でも……)



梨子(送った相手は……明らかだ)



梨子(……しいたけちゃん。この写真に写ってる通り、このアクセサリーはしいたけちゃんに送った、と考えるしかない)


梨子(・・・・・・だ、だとすると。この《文字》は・・・)


梨子(本当に、《あってはならないもの》……!?)



275: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:39:36.56 ID:jKKfMeypO

梨子(・・・ね、念のため、他の文字の形を考えてみよう……)


梨子(『j』はおそらく、『S』だったもの……『しいたけ』の頭文字をとって、『S』……そう考えられるから)


梨子(……それにしても。この『j』が、『S』、か……)


梨子(……『j』が『S』だったとしたら、ちょっとクセのある書き方だよね……)

梨子(だって、『S』は本来、”曲線”だけの文字。……それが『j』のような、”直線”が入ってる文字に見えるなんて……)


梨子(……もし。この書き方がクセだったり、デザインの統一を意図したもので、他の文字も同じように書かれているとしたら……)


梨子(『S』が、直線的な書き方になっているとしたら……)

梨子(……『S』と似ていて、『S』との違いは”直線”である文字……)


梨子(……この文字だ。私が『5』だと思った、この文字。つまり……)


梨子(……『5』は、……本当は『S』だった。……そう、考えられる)



梨子(……で、でも。……この考えが正しいとして)


梨子(文字の形を整形したら……!)






『SRtoS』







梨子(……『SRからSへ』……つまり、『SR』から、『しいたけへ』、という意味になる……!)



梨子(……そ、そして。こんな、”文字”のアクセサリーを送る動機を持った、人は……)






梨子(しいたけちゃんに何かを送ろうとしていた、人は……!)






276: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:41:27.98 ID:jKKfMeypO


梨子『…………それで。それで、しいたけちゃんに今までのお詫びをしたかったから。……今まで、一方的に避けちゃってごめんねって』


梨子『私はずっと考えてた。どうやったらお詫びが出来るのかな、って』


梨子『……そう思い続けて、ある日私はしいたけちゃんのアクセサリーがボロボロだったことに気付いた。だから……』


梨子『私は、新しいアクセサリーをプレゼントしようと考えていたの。(……出来れば、メッセージを込めようとして、というのは……。〝今〟、関係はないんだけど)』




梨子(……文字が、全てアルファベットなのも……)




ルビィ『でも、ローマ字で感謝の気持ちを伝えるのは悪くないと思う』


ルビィ『ちょっとその方向で考えてみるね。梨子ちゃんが、しいたけちゃんに送るっていう意味で、デザインしてみる!』






梨子(……そして、『SR』はイニシャルを指しているんだとすれば……その意味は……)







『S(桜内)R(梨子)』







梨子(……『桜内梨子』しか。……つまり、私しか)


梨子(私しか、いない……!?)



277: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:42:39.87 ID:jKKfMeypO


梨子「……あ。あぁ。あぁぁぁあぁ……」



千歌「・・・どうしたの、梨子ちゃん?[亡霊]でも、写ってた?」




梨子(ぼう、れい……)


梨子(亡霊って、[過去]に囚われた霊のことだった……)



梨子(でも、そんなの、あり得ない。……だって、これは)




梨子(だって、これは。……この、”文字”は……)






梨子「逆、だから……」ギュッ





千歌「・・・・・・逆?」




梨子「……これは、[過去]の、ものなんかじゃない……」


梨子「……こ、これは……」



梨子「まだ、存在しないものだから……!」




梨子「これを、送れるのは……」





梨子「<未来の私>しか、あり得ないから・・・!」






278: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:43:46.73 ID:jKKfMeypO


梨子(……私が必死で声を振り絞り、その言葉を口にした瞬間。私のものでもなく、千歌ちゃんのものでもない、たくさんの驚愕の声が辺りに響き渡った)


梨子(それを聞いた私は、震える手でさっきまで握りしめていたスマホのグループ通話を切り、以前鞠莉ちゃんからもらった超小型イヤホンを耳から外した)


梨子(……千歌ちゃんはそんな私の一挙手一投足を見届けた後……ゆっくりと、声の聞こえてきた方向……私の背後に、目線を移した)



千歌「・・・・・・」ニコッ



梨子(……その笑みからは。まるで、長らく待ちわびていた人たちにようやく再会できた喜びを、噛みしめているかのような……)


梨子(そんな印象を、受けた)



梨子(……問題は、最初から変わっていない)




梨子(目の前の〝千歌ちゃん〟は誰なのか)


梨子(そして、このペンダントは、《いつ》手に入れることが出来たのか)


梨子(だけど……その様相は、最初から大きく。……あまりにも大きく、変わってしまった)


梨子(この、ペンダントの写真によって……)


梨子(……いったい、この写真が写している真実とは何なのか)


梨子(……私には、私だけでは、知る由もない)


梨子(ふと、視線を〝千歌ちゃん〟と同じ方向に向けた)





梨子(私も、〝千歌ちゃん〟の見つめているもの。……Aqoursの皆に、……仲間たちに、目を向けるために)




279: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:47:27.91 ID:jKKfMeypO

千歌「・・・・・・やっぱり。皆に、電話を繋いでたんだね」


梨子「ええ。……まさか、全員がすぐに集まってくれるとまでは思ってなかったけどね……」

千歌「・・・・・・ふふ。そういう人の集まりだからね、Aqoursの皆は。・・・それにしても」

千歌「いつの間に、そんなイヤホン貰ってたの?」

梨子「……前に、鞠莉ちゃんが交流会でもらってきたものを、私にくれたの。……作曲担当だし、せっかくだからって……」

千歌「へえ・・・知らなかったな」


果南「……2人で話をするのもいいけどね。……そろそろさ、私達も仲間に入れてよ」


梨子「果南ちゃん……」


280: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:48:21.98 ID:jKKfMeypO

曜「……その、本当なの?千歌ちゃんの持ってるペンダントが、<未来>のものだって……」


梨子「……ええ。その可能性は、高いと思う……」


果南「事情はある程度聞いたけど。しいたけにアクセサリーを送ろうとしてたんだって?」


梨子「うん。そうだよ」


花丸「そして、そのアクセサリーに彫られた《文字》が……梨子ちゃんを示していた」


梨子「……うん」


ダイヤ「しかし梨子さん。今貴女は、「可能性」に、「思う」、と言いましたね。……では、確実にそうだとは言い切れないと、そうも考えられるのですね?」


梨子「それは……そう、かな」


善子「ちょ、ちょっと待ってよ!それじゃ結局、単なる思い込みの可能性だって考えられるじゃない!」

ルビィ「だ、だけど、梨子ちゃんしか《文字》の意味に当てはまる人がいないんだよね?だったら……」

花丸「……それだって、思い込みのセンは残ってると思う。むしろ、そんなものを送ろうとしていたからこそ、その”文字”の形を誤解することも考えられるし……」

ルビィ「それは……」


281: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:49:49.60 ID:jKKfMeypO

鞠莉「……私たちは、あなた達の会話を電話越しに聞いただけ。このままじゃ判断は下せないわ」


鞠莉「だから、その材料となるevidence。……証拠写真ってヤツを、見せてもらえるかしら?」


梨子「……千歌ちゃん、いいの?」



千歌「・・・・・・。いいよ。皆になら、・・・ね」



梨子「千歌、ちゃん……」


鞠莉「……じゃあ、ちかっち。お言葉に甘えて失礼するわね」

千歌「うん。どうぞ、鞠莉ちゃん」

鞠莉「ありがとう。……!こ、これは……」



282: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:50:36.09 ID:jKKfMeypO
善子「ど、どう?どうなってんの?」

花丸「お、おらにも見せて欲しいずら!」

ルビィ「ル、ルビィが最初に見たい!」

鞠莉「あ、ちょ、3人とも腕を引っ張らないでよちゃんと順番に回すからってイタタタタタタタ!ちょっと放してってば渡すものも渡せないってこんなんじゃ!」



果南「……流石の鞠莉も、1年生のフレッシュなパワーの前にはカタナシってところだね」


梨子「……果南ちゃんは鞠莉ちゃんがフレッシュじゃないとでも思ってるの……?」ヒソッ

曜「どうもそうっぽいね。……学年が違うだけで同じ女子高生なのにね……」ヒソッ

梨子「1年生と3年生だと言っても2歳くらいしか歳は違わないのにね」ヒソヒソ

曜「フレッシュさって2歳違うだけで変わるもんじゃないよね……」ヒソヒソ


283: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:51:30.42 ID:jKKfMeypO
ダイヤ「はいはい皆さん!このままじゃ収拾がつきません!1人ずつ見ていくように!」

鞠莉「そ、そうよ!だから3人ともこの手を放して!」


善子「……は~い」

花丸「わかりました……ずら」


ルビィ「………」グイッ


花丸「……ルビィちゃん?どうして鞠莉ちゃんの手を放さないの?」


鞠莉「そ、そうよ。どうしたのルビィ?2人は放してくれたし、ルビィも放してくれると助かるんだけど……」


ルビィ「……ダメ。ルビィが一番に見なきゃいけないから」


ダイヤ「ルビィ?今はワガママを言う時ではないですよ」


ルビィ「ワガママじゃないもん。だってルビィが、ルビィが見ないといけないんだから」

ダイヤ「ルビィ……!」


284: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:52:12.67 ID:jKKfMeypO

梨子「……すみませんダイヤさん。私からもお願いします」


ダイヤ「梨子さん……?」


梨子「私も、最初はルビィちゃんに見てもらうべきだと思います」


ダイヤ「……どうしてですか?」


梨子「それが、私の考えが正しいかどうかの決め手になるんです」


ダイヤ「……先程の感じからすると、あなたにはペンダントが<未来>のものであるとは、証明出来ないようでしたが」



梨子「……確かに私自身はまだ直接見たわけじゃない。でも、1人だけこのペンダントのデザインを知っている人がいる」


善子「そ、その人って、つまり……」




ルビィ「……ルビィ、だよね」




285: 名無しさん 2019/07/04(木) 20:53:53.69 ID:jKKfMeypO


梨子「……。ええ。その通りよ」


花丸「なんでルビィちゃんが?」


梨子「……私はしいたけちゃんにアクセサリーを送ろうとしていたわけだけど。……それを作ってくれるのは、ルビィちゃんだからよ」


ダイヤ「……ルビィが、アクセサリーを?」


ルビィ「……そうだよお姉ちゃん。ルビィから、梨子ちゃんに言ったんだ」

ルビィ「よかったら、ルビィが作ろうかって……」


梨子「そうなの。……それで、私はお言葉に甘えることにして……」

曜「そっか。確かにルビィちゃんはデザインするのが得意だし、小物作りだって上手い」

鞠莉「梨子がルビィに頼むのも、自然な流れではあったということ、ね」


鞠莉「……なるほどね。だからルビィは最初に見ることにこだわったのね」




果南「……ねえ。つまり、こういうこと?……もしルビィがそのペンダントのデザインを知っていて」


ダイヤ「……ルビィが、そのペンダントを完成させていなかったら。それが作られた時は今だにない。……あるとしたら、過去でも今でもない時点。……すなわち……」



花丸「……未来、ずらか……」



286: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:02:03.65 ID:jKKfMeypO

梨子「……そう、なると思います」



ルビィ「…………」


ダイヤ「……ルビィ!」

ルビィ「ピギィ!?」


ダイヤ「……貴女には、この写真が本当に<未来>のものなのかどうか……。その、成否を判定する役目が課されているようですね」


ルビィ「……うん。そうだよ」


ダイヤ「………。わかりました。先程は、ワガママを言ったと決めつけて、ごめんなさい」


ルビィ「………。ううん。大丈夫だよお姉ちゃん」



鞠莉「……そういうことなら、これはルビィに渡すべきよね」


ルビィ「ありがとう、鞠莉ちゃん。・・・・・・千歌ちゃん?」


千歌「……うん?何かな、ルビィちゃん?」


ルビィ「……コレ、見せてもらうね」


千歌「……うん。どうぞ」



287: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:03:37.75 ID:jKKfMeypO

梨子(……そうして、ペンダントはルビィちゃんの手に渡された)



ルビィ「…………」





梨子(……長い沈黙が続く。私たちは、固唾をのんでルビィちゃんの第一声を待った)






梨子(そして……)








ルビィ「………し、信じられない……ホントに、これは……」






ルビィ「これは、ルビィが考えていたデザインそのものです……!」






288: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:04:33.13 ID:jKKfMeypO


鞠莉「……なんてこと」



善子「ほ、ホント、なの……?ホントに、本当……?」


ルビィ「本当だよ、善子ちゃん……。だって、考えていただけじゃなくって、今作りかけなのも、コレなんだから……」


曜「だとしたら、これが。……未来の……」


果南「じゃ、じゃあ千歌は?ここにいる千歌は……?」




果南「ペンダントが未来のものだったとしたら、それを持ってる千歌は……」



千歌「・・・」




果南「ねぇ。何とか言ってよ、千歌……」



千歌「・・・・・・」






曜「千歌ちゃん……」





289: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:05:32.84 ID:jKKfMeypO



ダイヤ「………これは、大変なことになりましたね・・・・・・」


ルビィ「まさか、千歌ちゃんが……未来から来た人、だなんて……」


ダイヤ「いえ、ルビィ。そうとは言い切れません」


ルビィ「え?」



ダイヤ「たとえ未来のものを持っているからといって、未来から来たとは限りません」

ダイヤ「更に……極論を言ってしまえば。未来から来た人や物が実在したとしても、そのこと自体は問題にはならないのです」


花丸「で、でも……未来からわざわざタイムスリップしてるのに、それが問題にならないなんて……」

ダイヤ「……そうです。真の問題は、そこにあります」


花丸「え、え?」



290: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:06:11.63 ID:jKKfMeypO


ダイヤ「もし本当に未来から来るなんてことが出来たとして、なぜ、『わざわざ』未来から来たのか。なんの目的があって未来から来るなんてことをしたのか」


ダイヤ「……その目的こそが、問題となるのです」



果南「……目的」


梨子「……」


鞠莉「……ねぇ梨子。そもそもどうしてあなたは、千歌を問い詰めるようなことをしたのかしら」


梨子「……鞠莉ちゃん?」


鞠莉「あなただって、驚いていたでしょう?千歌が未来と関わりを持つという結論に達した時は」

鞠莉「だとすれば、あなたは千歌が未来から来たということを疑っていたわけじゃないことになる。じゃあ、最初にあなたが疑った可能性ってなんだったの?」


梨子「……それは……」





千歌「・・・それは、私も興味あるな」





291: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:07:29.09 ID:jKKfMeypO

梨子「ち、千歌ちゃん?」


鞠莉「千歌……?」



千歌「梨子ちゃんはずっと、私に対して違和感を持っているみたいだったよね」


千歌「それをなんとかしたいからって、疑問を追求してきた」


千歌「でも、どうしてそこまで追求するのか。・・・・・・そこは、ちゃんとは教えてくれなかった」



千歌「・・・なんでかな。私も理由が知りたいんだよね」



梨子「……」



千歌「・・・きっと言いたくなかったんだと思うけどさ。・・・・・・〝今〟なら、言えるかもしれないよね?」


梨子「〝今〟、なら……?」


千歌「うん。だから、鞠莉ちゃんも聞いたんだよね?」


鞠莉「ち、千歌……」



千歌「きっと鞠莉ちゃんも、皆も……。薄々気付いてるんだと思うけど、でも、ハッキリと聞きたかった。梨子ちゃんの口から」

千歌「なんで、チカを……私を、疑っているのか。その理由を。・・・・・・違うかな、鞠莉ちゃん」



鞠莉「……違わない。その、通りよ」


千歌「そっか。よかったよ」


鞠莉「……千歌、あなた……」



292: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:08:28.99 ID:jKKfMeypO


ダイヤ「……梨子さん。説明をお願いできますか」


ダイヤ「貴女が千歌さんを問い詰めた、理由について」


ダイヤ「……貴女は仲間を信じるため、疑いを晴らすために、あえて千歌さんを問い詰めました。ではその疑いとは何なのか」


ダイヤ「言い換えれば貴女がそうまでして否定したかった可能性とは何なのか。……そろそろ、答えを聞いてもいい時でしょう」



梨子「……わかりました」




梨子(私が疑った、可能性。絶対にあり得ない、荒唐無稽な話)


梨子(ここ最近空想の話を皆としていたからこそ、持ってしまったもの。……でも)



梨子(〝千歌ちゃん〟が言ったように……〝今〟その疑惑は無視の出来ないものになってしまった)




293: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:09:16.31 ID:jKKfMeypO

梨子「私は……っ(……うぅ)」



梨子(……口に出したくない。でも、言わなきゃ)




曜「梨子ちゃん……」


梨子「わ、わたしは……!千歌ちゃんが……」




梨子「………千歌ちゃんが……。誰かと、入れ替わっているかもしれない。そう、疑っています」




ダイヤ「……!」

ルビィ「い、入れ替わり……?」

曜「千歌ちゃん、が……」






千歌「・・・・・・」





鞠莉「……そう。やっぱり、そう、なのね」


梨子「……」





294: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:10:34.18 ID:jKKfMeypO




善子「……何言ってるの。バカげてるでしょ」


花丸「……善子ちゃん?」


善子「入れ替わりだなんてあるわけない。だって、人一人が、別の人になってるのよ?」


善子「たとえ双子でも、ソックリさんでも……そんなことが出来るわけがない」


善子「そんな可能性、この世にあるわけがない。したとしても、誰も何も気付かないなんてことあるはずがない」




295: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:11:15.21 ID:jKKfMeypO

梨子「……私もそう思うよ。でも、〝今〟は違う」


梨子「ルビィちゃんがまだ作っていなかったアクセサリーが写っている以上、可能性がないとは言い切れなくなった……」

梨子「未来からタイムスリップが出来るのだとしたら……私たちの常識は、通用しない」



善子「う……」



梨子「それに、少しだけど、違和感を持っていた人がいるからこそ、ここに皆いる」


曜「……うん」

果南「……そうだね」



善子「う、うぅ……」




ダイヤ「……改めて確認しますが。では、貴女は、〝千歌さん〟が私たちの知る千歌さんではないと、主張するつもりなんですね?」


梨子「……はい」


ダイヤ「わかりました。……そうなると、先程私が話した問題……未来から来た目的が、入れ替わりにあると、そういうことになるわけですね」


鞠莉「……そうなると、問題は次のstepに進むわね」


曜「それって、〝千歌ちゃん〟が。……千歌ちゃんと、入れ替わっているとしたら、どうしてそんなことをしているのか……ってこと?」

鞠莉「ええ」

花丸「未来から来て、入れ替わる目的……ずらか」




千歌「・・・」






296: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:12:58.94 ID:jKKfMeypO



善子「……待ってよ。こんなの、こんなのってないでしょ!」


梨子「よ、善子ちゃん……」


善子「いくら何でもこんなのおかしすぎるでしょ!ち、千歌が、千歌じゃなくて……未来の人で、入れ替わっていただなんて……!」


善子「こんな訳の分からない理屈で、なんでみんな疑うの!?なんでこんなことで千歌を疑えるの!?」


ダイヤ「……」




善子「そんな、そんなの、千歌、が……。千歌が、千歌が……!」





曜「わかってるよ!!」





善子「っ!」




曜「そんなこと言われなくてもわかってる!私だって納得なんてしてないよ……!」




曜「でも、でも……だって……」


善子「……っ」




297: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:13:50.83 ID:jKKfMeypO




千歌「・・・大丈夫だよ。善子ちゃん、曜ちゃん。本当はおんなじことだってわかってるから」





善子「ぇ……?」

曜「千歌ちゃん……?おんなじって……」



千歌「善子ちゃんも曜ちゃんも、私を信じようとしてくれてることには変わらない」


千歌「ちょっと考え方は違うかもしれないけど、心はおんなじでいてくれてる。……違うかな?」




曜「それは……そう、だよ……」


善子「で、でも……。だったら、皆が皆、千歌のことを疑わなくっても……」




298: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:15:51.81 ID:jKKfMeypO



鞠莉「……ねぇ、善子?あなたは、どこまでを否定したいの?」



善子「え?」


ダイヤ「鞠莉さん?」


鞠莉「千歌にかけられている入れ替わりという疑い。これは、確かに普通あり得ないわ」


梨子「……」


鞠莉「でも、もし未来から来たとすると、そういうことも出来るかもしれない。だから千歌に疑いの余地が出来てしまうのだけど……」

鞠莉「逆に言えば、千歌の疑いを完璧に否定するためには、入れ替わりも、未来から来るということも不可能だということを、〝納得〟出来なくちゃいけないの」



善子「……なっ、とく……」



ダイヤ「……千歌さんが、梨子さんとの会話の中でも言っていましたね」

花丸「疑いを否定するためには、自分で納得してもらうしかない……」


鞠莉「そうよ。私たちは皆、納得したいの」


鞠莉「千歌への疑いが、とんだ見当違いだったって……そう思えるように」



善子「……」



梨子「……」




299: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:18:48.71 ID:jKKfMeypO

鞠莉「だけど、それって今の状況に限って言えばかなり難しいことよ?」


曜「どうして……?」


鞠莉「だって、確実な証明なんてこの場の誰にも出来ないのよ?未来から来るとか、入れ替わりだとか、それがあり得るかどうかを証明する[証拠]なんて、誰も出せない」



梨子(!……ま、鞠莉ちゃん……)



善子「え……?」


ルビィ「ちょっ、ちょっと待って!それはさっき、ルビィが……」



鞠莉「……それを証明する[証拠]、今出せる?」



ルビィ「な……!」


鞠莉「ルビィが本当に写真のアクセサリーを作っていたのか。……作りかけのアクセサリーの現物でも、作っている最中の日付が残った何かでも、何でもいいわ。……そういったものが、今ここにあるの?」


ルビィ「そ、それは……ないけど……」


鞠莉「そ。……だったら、今ここで、皆が確認できない以上。……ルビィの言っていることは、正しくない可能性があるわ」



300: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:19:53.79 ID:jKKfMeypO


善子「!」



梨子「な……!?」



ダイヤ「ま、鞠莉さん!?」



ルビィ「で、でも!ルビィはこの手で、作っていたんだよ!?自分の手で作っていたんだよ!?それを、間違えるだなんて……」


鞠莉「……ルビィ。あなた、デザインの知識はかなりのものよね?」

ルビィ「え、え?……急に、どうしたの……?」


鞠莉「……前、ユニットごとに色々やった時があったけど、CYaRonの旗をデザインしたのもルビィだったわよね?」

ルビィ「う、うん」

鞠莉「すごくちゃんとしてるよね?いつもすごいなって思ってたのよ」

ルビィ「そ、そんなことないよ」


鞠莉「……曜?あなたはよくルビィと一緒に衣装を作っているわよね?」

曜「え、え?そう、だけど……」



301: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:20:42.31 ID:jKKfMeypO

梨子(……鞠莉ちゃん、どういうつもりなの?)


梨子(鞠莉ちゃんの意図が、読めない)


梨子(どうして今、急に衣装の話なんて始めたの……?)




鞠莉「実際どうなの?曜から見て、ルビィは?」


曜「……えっと、すごいなって思うよ。センスも確かにあるんだけど、ちゃんと知識に裏打ちされているというか……」

鞠莉「しっかり勉強していると感じるのね?」

曜「う~ん、そうだね。色んな物を見て、勉強した上で一番ズバっと来るアイテムを提案してくれるなって私は思ってて、いつも凄く助かってるよ」

ルビィ「よ、曜ちゃん……。ちょっと、照れくさいよ」


鞠莉「そう……。流石ルビィ、とっても頑張っているのね」

ルビィ「そ、それ程でもぉ……」


302: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:21:53.55 ID:jKKfMeypO

鞠莉「ところで、ちょっと気になってたんだけど。デザインって、完全にオリジナルのものを作ることって出来るものなのかしら?」


ルビィ「え?どういうこと?」


鞠莉「私も曲を作ってたことがあるけど、その時は自分でオリジナルだー!って思って作ったものが、後から昔聴いた曲のフレーズそのままだったってこと、たまにあったから」


梨子「……(それ、似たようなことは私もあるな)」


鞠莉「梨子はどう?とてもそんな風には見えないけど、似たようなことはあったりするんじゃない?」


梨子「……え?私?」


鞠莉「うん」


梨子「まぁ……ないことは、ないけど……」

鞠莉「あ、やっぱりそうようね?」

梨子「う、うん……そうね(今度は、何なの?)」



梨子(……なんか、鞠莉ちゃんの口ぶりだと「私でもミスするときはしますけどね」みたいな風になっちゃったじゃない!)


梨子(って、そうじゃないそうじゃない。そんなことよりも、……それも大事だけど、そんなことよりも!)


梨子(気が付いたら鞠莉ちゃんのペースに乗せられて、つい場に飲まれているけど)


梨子(どんどん、話が逸れていっているというか……鞠莉ちゃんは、何を言おうとしてこんなことを……?)



303: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:24:02.91 ID:jKKfMeypO
ルビィ「気になったことって、そこ?」

鞠莉「そ。作詞の方でもある?」


梨子「……(確かにちょっと興味はある)」



梨子(どんな分野でも、何かを作っている時に。気付いたら参考程度にしていたものをそのまま使ってしまうことがあるのかどうか)


梨子(でも……。ここで話を広げる意味が、あるの……?)



花丸「作詞は……ないようにしてるけど、おらも気付かずにやったことがあるかも」

鞠莉「マルはたくさん本を読んでるし、インプットが多い分その可能性はありえそうよね?」

花丸「どうかな……。自分ではよくわからないけど、そうかもしれないずら」

鞠莉「否定は出来ないって感じかしら?」

花丸「う~ん……うん。……そういえば、千歌ちゃんはあった?」


千歌「ん?私?」


花丸「うん」

千歌「聞かれるまでもないっていうか……。しょっちゅうだよしょっちゅう。いっつもそうなんだもん」



304: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:24:58.88 ID:jKKfMeypO

ダイヤ「……流石に、いつもはどうかと思いますが」

鞠莉「でも、何かを作るって、どうしてもそういうことあるわよね?衣装とかデザインでもそういうのってあるのかなって」


梨子「……(鞠莉ちゃんもやっぱり、そこが疑問だったのかな?)」



ルビィ「う~ん……花丸ちゃんと同じで、気を付けるようにはしてるけど、もしかしたら……」



梨子(……でも、なんで?ここでそれを聞く、意味は……)



鞠莉「可能性自体は、あるかもしれない?」

ルビィ「う、うん」


鞠莉「オーケー。……よくわかったわ」


ルビィ「……う、うん……?」



305: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:25:39.48 ID:jKKfMeypO
果南「あれ、曜には聞かないの?曜こそデザインに関しては色々な経験をしてるはずだけど」

鞠莉「ええ。……その必要はなくなったもの」



梨子(……!ま、まさか……!)



曜「え、え?なんで?」


鞠莉「言ったでしょう?よく、わかったって」


ダイヤ「……一体、鞠莉さんは何をわかったというのですか?」


鞠莉「簡単な話。……ルビィを完全には信じることは出来ないってことよ」


ルビィ「え……!」

花丸「な……!」



善子「……なるほど、ね」



梨子「……っ!(コレが狙いだったのね……!)」




306: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:26:25.51 ID:jKKfMeypO

梨子(鞠莉ちゃんは、単なる称賛や疑問をルビィちゃんに言っていたわけじゃなかった……)


梨子(もちろんそれは本心だと思う。けど、それ以上の狙いがあった……!)


梨子(そのために。わざと皆に話を聞いたんだ……!)




ダイヤ「……どういうことですの、鞠莉さん。もしやとは思いますが……難癖をつける気だとしたとしたらわたくしも黙っていませんわよ」


鞠莉「……それは」




善子「それは、違うわ」


ダイヤ「!」



307: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:27:27.56 ID:jKKfMeypO

梨子「……よ、善子、ちゃん?」


鞠莉「……善子。貴女、気付いたのね」


善子「ええ。……お陰様で、ね」



ダイヤ「何を……何を、気付いたというのですか?」

ダイヤ「この際、善子さんでもヨハネさんでも構いません。ちゃんとわかるように説明してください!」


善子「……なんかその言い方は不服だけど。この際、不問にしてあげる」




善子「いい?そもそも鞠莉は、写真のアクセサリーは本当にルビィの作ったものと言えるかどうか問題にした」


善子「そこで鞠莉はこんなことを聞いた。……ルビィは、多くのデザインに触れているんじゃないのかって」



308: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:28:42.27 ID:jKKfMeypO

果南「……曜は。ルビィに知識があることを、認めていた……」


善子「言い換えれば……。ルビィにはデザインの”引き出し”が多くあったことになる」


花丸「!……鞠莉ちゃんが曜ちゃんに話を聞いたのは、そのため……?曜ちゃんに、ルビィちゃんはたくさん勉強していると証言させるために……?」


鞠莉「……」


善子「……そして、何かを作る時、私達はつい過ちを犯してしまうことがある。皆も認めていたように」


ダイヤ「あ……!」

ルビィ「それって。まさか……」


善子「そう。……無意識に全く同じものを、そのまま使ってしまうという過ち」


善子「ルビィもこの過ちを犯した可能性は否定できない。ルビィの考えたデザインは、既に存在している可能性がある。……つまり」



善子「ルビィが〝今〟アクセサリーを作っているからといって、それが<未来>のものであるという考えは、成り立たないということよ!」






ルビィ「……ピ」

ダイヤ「……ピ」







ルビィ&ダイヤ「ピギィャアァァァ!!」

309: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:29:20.21 ID:jKKfMeypO

梨子「……(やられた……)」



果南「で、でも。気付かない内に真似しちゃうもしれないからといって、このアクセサリーがその真似したものだってことにはならないでしょ?」


果南「……このアクセサリーの”文字”は、明らかに、梨子がしいたけにあげようっていう意味があるんだよ?……それが、既成のものと被るなんて普通考えられないよ」


鞠莉「……よくわかってるじゃないの。果南?」

果南「え……」


鞠莉「果南の言う通り。そんなの、普通は考えられないわ。……だけど、可能性自体はある」


ダイヤ「し、しかし……可能性の話をし始めてしまえば、キリはない」


310: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:30:18.07 ID:jKKfMeypO

花丸「……[証拠]さえあれば、すぐに決着は着くけど……」


鞠莉「無理でしょ?そもそもそんな[証拠]があり得るのかどうかすらわからないんだから」

鞠莉「だから、問題はどっちが説得力があるのか。ルビィが、既存のデザインを無意識に真似てアクセサリーを作ったという説明と……」


曜「……ルビィちゃんが、まだこの世にないものを作っているってこと……。どっちがまだ、納得できるかってことだね」


ダイヤ「……どちらも、まるで考えられないことです。しかし……」


善子「……今までルビィが触れてきたものは、絞り込みが出来る。つまり、探すことが可能よ。これに対して……」


花丸「未来である[証拠]なんて、どうやって探せばいいか、わからないずら……」

善子「そういうことね」


鞠莉「わかった?まだ、未来のアクセサリーなんて考えより、既成のアクセサリーがあった……。そして、それがたまたまこの写真に写り込んだと考える方が、よっぽどあり得そうだってことに」


果南「言われると、その通りかも……」



ルビィ「……う。うぅ」



梨子「……(ま、まずい)」





311: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:31:28.87 ID:jKKfMeypO


梨子(このままだと、皆が納得してしまう。でも……)


梨子(でも、反論は出来ない。だって……)




曜「……ねぇ。ルビィちゃんが無意識のうちに見たアクセサリー全てを追っていったとして……逆に行き着く可能性があると思うんだけど」

果南「逆に行き着く?」

曜「うん。参考にしたアクセサリーがこの世にない可能性だよ」


花丸「あ……」


ダイヤ「……確かに。捜索が可能であるということは、あるかないかに関しては検証が出来ます」


曜「そうだよね。それに、さっき鞠莉ちゃんが言ってたよね?あり得そうかどうかが問題だって」


鞠莉「……。そうね」


曜「だったらさ、この場合も同じだと思うんだ。ルビィちゃんに心当たりがない以上、少なくともあったという結論よりは、なかったってほうがあり得そうじゃないかな?」

ルビィ「よ、曜ちゃん……」



曜「……私は、なかったって[証拠]がない限り。……信じられないよ……」



梨子「・……でも、曜ちゃん。それは……」



312: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:32:37.71 ID:jKKfMeypO


善子「……それは。『アクマの証明』をしろっていうのと同じよ」



曜「ぇ……」

梨子「……!」

花丸「よ、善子ちゃん……」



善子「無いって言い切れない。それは、単にありそうにないってことに過ぎないわ」


善子「でも、それを受け入れた結果、千歌が入れ替わってるだとかいう結論に行ってしまうのだとしたら」


善子「……そんなのは<あり得ない>だけじゃ済まない。信じられないし、納得できないの!」



曜「あぅ……!」



鞠莉「その点……既存の商品がある可能性、そしてそれをルビィが無意識に真似したという考えは、信じられ、納得できる余地がある」


鞠莉「……心苦しいけど、ね」


果南「確かに……そっちの方が、まだマシっていうか……」


花丸「……ルビィちゃんのこと、疑いたいわけじゃないけど……」




曜「で、でも!ルビィちゃんがデザインでそんなミスするなんて考えられない!」

ルビィ「よ、曜ちゃん……」




313: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:33:18.31 ID:jKKfMeypO


善子「……何か勘違いしているようだけど。私は一言も、ルビィを信じないなんて言ってない。……むしろ”逆”よ」


梨子「……く」


曜「え……」


鞠莉「……」



梨子(……そう)



果南「一体どういうこと?」


ダイヤ「……善子さん?」


善子「ポイントは。ルビィ自身が可能性を認めたという点よ」



曜「……!」



梨子(ルビィちゃんが認めてしまっている以上……どんな反論も、力を失う……)





314: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:34:07.34 ID:jKKfMeypO

善子「何かを作ってる人なら皆同じ過ちを犯すなんてこと、現実には言い切れない。ただそういう傾向があるってだけで、例外はあり得る」

善子「だから、ルビィが気付いたら真似しているなんてことあり得ないって、断言したなら。……モチロン、私は信じる」


善子「鞠莉だって同じでしょ?」

鞠莉「ええ。当然ね」



ルビィ「……っ」



善子「けど、ルビィは認めた。可能性はあるって」

善子「それを信じるなら。……やっぱり、どうしても疑わざるを得なくなる」


善子「天秤にかけられている……あり得なさを考えたら、ね」



果南「……未来にあるものなのかどうか、か」



315: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:34:47.57 ID:jKKfMeypO

鞠莉「……実際のところ。ルビィとしては、どうなの?」



梨子「……!」


ルビィ「え……?」


ダイヤ「鞠莉さん……?」



鞠莉「私も極端なやり方をしたから。……話の流れで、ルビィが認めただけかもしれない」


鞠莉「ただ、わかってほしかったの。……[証拠]がないということが、どれだけ大変なことなのか……」



鞠莉「……納得するということが。[証拠]なしでは、どれほど難しいことなのか……」



ルビィ「……!」





千歌「・・・・・・」





316: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:35:47.97 ID:jKKfMeypO

鞠莉「だからこそ、改めて聞くわ。……ルビィ。自分のデザインが、絶対にオリジナルだって、言える?」



ルビィ「……う。うぅ……!」



ダイヤ「ル。ルビィ……」


曜「そんなこと……ないよね?ルビィちゃん、凄く……。すごく、頑張ってるんだから」


花丸「……」


梨子「……っ」



ルビィ「……」



ダイヤ「ルビィ……?」


鞠莉「……ごめんね、ルビィ。でも、聞きたいの。……あなたの、口から……」


果南「……」


善子「……」





ルビィ「…。ル、ルビィ……」





317: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:36:52.97 ID:jKKfMeypO


ルビィ「わ、私。……わからない、です……」




ダイヤ「……!」


曜「ルビィ、ちゃん……」


梨子「……っ」



ルビィ「ごめんなさい。お姉ちゃん、曜ちゃん。……でも、自分の言葉には、責任を持ちたいから」



ルビィ「私。もしかしたら……」


梨子「そ。そんな……」





千歌「・・・・・・」





318: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:37:56.73 ID:jKKfMeypO

果南「……ようやく、わかったよ。鞠莉の言いたかったこと」



鞠莉「……果南?」


果南「……[証拠]という、誰もが納得出来るものがない以上。私達は、一人一人の〝記憶〟、一人一人の言葉を信じた上で納得できるものを選ぶ」

果南「だから、最初に鞠莉は言ったんだね。[証拠]がないってことは、どんな可能性だって考えられるし、それに対してどんな反論だって出来てしまう」


鞠莉「……ええ。言い換えれば、どこまでを信じ、どこまでを否定すべきか、ちゃんと考えなきゃいけないの」



花丸「……つまり、こういうことずらか」


花丸「心の中の〝記憶や考え〟はあくまで、個人の主観的なもの。その人にとっては絶対の真実かもしれないけど、それを皆が認められるかってなると別の話になる」


花丸「皆が真実だと認められるのは、[記録]になり得るもの……客観的な、[証拠]だけ。……でも、ここではそれがない……」



鞠莉「……そうよ。流石、花丸ね」


花丸「……ここで褒めてもらっても。嬉しく、ないずら……」



319: 名無しさん 2019/07/04(木) 21:44:19.18 ID:jKKfMeypO

ダイヤ「しかし。……ならば、今この時に結論を出す必要は、ないのでは……?」


花丸「え……?」


ダイヤ「ここは、一端保留にして、[証拠]が出揃うのを、待つべきなんじゃないか。そうも、言えますよね……?」


梨子「そ。それは……!」


ダイヤ「鞠莉さんもそうですし。……先程までの梨子さんと千歌さんとのやり取りからもわかるように……。どれほど言葉を交わしても、[証拠]による裏付けがないことの困難さは、ただならないものがあります」


梨子「……!」


花丸「……梨子ちゃんの話を聞いていると千歌ちゃんが疑わしくなったけど……」

ルビィ「気が付いたら全てひっくり返っていたもんね……」


ダイヤ「であれば……少しでも[証拠]が出そろうまで、話は止めておこう……と、考えるべきではないでしょうか」



梨子「……それは」



果南「……」


鞠莉「……確かにね。とても、合理的な意見だと思う。でも……」








千歌「・・・でも、納得出来ないよね」





320: 名無しさん 2019/07/05(金) 06:50:33.92 ID:Gvk7vrQiO


鞠莉「……!」


果南「……!」


梨子「千歌ちゃん……!?」


ダイヤ「……ちか、さん……?どういうこと、ですの」



千歌「・・・・・・だって、皆の顔が、そうなんだもん」


千歌「なんかね。ここを逃すと、もう<終わり>だって。……そんな感じだよ、皆」



曜「……!」


善子「……!」



梨子「……千歌ちゃん」




千歌「・・・・・・。梨子ちゃんが追求しているのと同じように。皆も、納得をしたいんだよね」



ルビィ「……!」




321: 名無しさん 2019/07/05(金) 06:52:03.29 ID:Gvk7vrQiO

花丸「……で。でも。現状じゃ……」


千歌「そうだね。・・・花丸ちゃんの言った通り。ただ心の中の記憶や考えだけじゃ、誰もが、いつでも納得できる真実を示すことは出来ないと思う。でも」




千歌「・・・・・・でも、私たちに必要なのはそうじゃない。私たちは、私たちが納得できる道筋が欲しいだけ」


千歌「・・・・・・。それなら。いつもと、同じでしょ?これは裁判でもなんでもない。ただ、全力で目の前の問題に立ち向かっているだけ」


千歌「だったら。・・・自分たちなりに、言葉を尽くせば、いいんじゃないのかな」




千歌「・・・ま。その問題が私にあるのに、こんなこと言うのもヘンだけど」



曜「……」


果南「……千歌」


322: 名無しさん 2019/07/05(金) 06:53:23.91 ID:Gvk7vrQiO

千歌「・・・・・・善子ちゃん」


善子「えっ!は、はい……?」



千歌「・・・鞠莉ちゃんに代わって聴くね。・・・善子ちゃんは、どこまで否定するつもりなの?」



鞠莉「!」


善子「……!」


千歌「私。確かにヘンなもの持ってるし、ヘンなことしてるよね。それこそ、疑われても仕方ないくらい」


善子「そんなこと……!」



千歌「だからこそ」



善子「!」


千歌「だからこそ、聴くね?……チカの。・・・・・・私への、疑い。どこまで否定するつもりなの?」



善子「……」


梨子「……千歌、ちゃん」




千歌「正直、信じられないと思うんだ。不自然なのは確かだし、私、黙っちゃってるから」


千歌「でも、それはちゃんと聴かれたことを話したいと思うからで。・・・真剣に話したいからで・・・それでね・・・」






善子「……全部よ」





323: 名無しさん 2019/07/05(金) 19:52:08.73 ID:UAEVXW1PO



千歌「え・・・」




善子「決まってるじゃない。……全部、否定する」


善子「千歌を疑うもの。その全てを、私が否定してやる……!」



鞠莉「……善子」


曜「善子、ちゃん……」



梨子「……」



善子「梨子の考えや、気持ちだってわかる」


善子「……でも、どうしても。……信じるためだったとしても、あなたを疑いたくない」



善子「……あなたをずっと信じていたい!……だから……!」



果南「善子……」


梨子「……善子ちゃん」



324: 名無しさん 2019/07/05(金) 19:54:14.03 ID:UAEVXW1PO




千歌「・・・・・・ありがとう」




善子「……!」



千歌「ありがとう。・・・善子、ちゃん」



千歌「うれしい。・・・・・・ホントに・・・・・・」



善子「……ふ、ふん。トーゼン、でしょ?」


千歌「・・・へ?」


善子「あなただって、私のリトルデーモンなのよ!だったら、このヨハネが救ってあげるのが世の定めってものよ!」


千歌「・・・・・・ふふっ」


善子「な、なによその不敵な笑みは!?」


千歌「んーん。何でもないよ」


善子「何でもなくない感じだったでしょー!」


千歌「そりゃそうだよ。だって、私善子ちゃんのリトルデーモンになるの、ヤだって言ったもん」


善子「んな……っ!?」










梨子「……(な。なんなの……このフンイキ)」


梨子(すごくいい空気のはずなのに……冷汗が、止まらない!)



曜「……」



梨子(……だ、誰か。……たすけてぇ……!)




325: 名無しさん 2019/07/05(金) 19:55:40.56 ID:UAEVXW1PO



鞠莉「……お二人とも、仲睦まじいのは結構ですけれど。ワタクシも、仲間に入れて欲しいですワァ!」


千歌「!」


梨子「!」



善子「な。何?鞠莉……。そんな、ダイヤみたいな謎の言語を喋って……」



ダイヤ「……だ。誰が!謎の言語を話す、怪しい人ですってぇ!」


花丸「……誰も怪しいとまでは言ってないすら」

ルビィ「……その発想自体が謎だよね。どこから出てきたの?」


ダイヤ「な……!」


果南「……ダイヤは静かにしてていいよ。……それよりも、どういう……」


ルビィ「どういうこと?鞠莉ちゃん?」


326: 名無しさん 2019/07/05(金) 19:57:54.58 ID:UAEVXW1PO

果南「……そう。どういうこと、鞠莉?」




鞠莉「……元はと言えば。梨子が千歌を疑ったのは……私と善子のせいだったと思う」


梨子「……!」


善子「……」



鞠莉「部室での、私と、善子の話。……それがキッカケで、梨子は疑いというゴーストに憑りつかれたんだと思う」


梨子「そ。それは……」


花丸「……あの、[亡霊]の話と……」


果南「人間とロボットの、”入れ替わり”の話か……」



鞠莉「ええ。……こんなことを引き起こしたのは、そんな会話をしてしまった、私たちの責任でもあると思うの」


善子「……そう、ね」


梨子「……っ」


鞠莉「だから、私は。小原家の人間としても、浦の星女学院の理事長としても。……何より、Aqoursとしても。……責任は、とらなきゃいけない」



鞠莉「……それに。責任なんてものを抜きにしても。私は千歌を疑いたくない」


鞠莉「千歌は。Aqoursを蘇らせてくれた、恩人だもの」



梨子「ぅ……」


ダイヤ「……鞠莉、さん」

果南「鞠莉……」





千歌「・・・・・・鞠莉ちゃん」





327: 名無しさん 2019/07/05(金) 19:58:59.50 ID:UAEVXW1PO


鞠莉「……皆は、どうなの?どういう立場に立つつもり?」



花丸「ど。どういう、立場って……」


鞠莉「……梨子のように。信じるために、疑いの余地があれば、あえて最後まで追求するのか」


鞠莉「……それとも、私達のように。疑うこと自体を認めないのか。……言い換えれば、千歌への疑いを徹底して否定するのか」


鞠莉「……皆は。どっちを選ぶのって、こと」



果南「……!」


曜「……」





梨子「……(う。うぅ……)」




328: 名無しさん 2019/07/05(金) 19:59:54.31 ID:UAEVXW1PO


梨子(こ。こんな流れじゃ……!)


梨子(絶対、私のやり方なんて。……認めてもらえない!)


梨子(信じるため……そうは言っても、疑いであることに変わりはない……)


梨子(わかってる……わかってた、けど)



梨子(……誰も、味方してくれない中で。千歌ちゃんを追求するなんて……)




曜「……私は」


梨子「……!(あぁ……死刑宣告だ……)」




梨子(曜ちゃんが、千歌ちゃんに不利な立場に立つなんて、絶対に考えられない。……少なくとも、疑うのか信じるのかって聞き方をされたら……)




曜「私は!」




梨子(疑いの方向に……進むわけが……)





329: 名無しさん 2019/07/05(金) 20:01:41.59 ID:UAEVXW1PO




曜「……梨子ちゃんと、一緒だよ」


梨子「……?(……え?)」




果南「は?」


ダイヤ「……えぇ?」





梨子「え。……えぇぇ?」




梨子「え。え、え。えぇ……?」





梨子「えええええぇぇぇぇ!?」






330: 名無しさん 2019/07/05(金) 20:02:44.93 ID:UAEVXW1PO


ダイヤ「こ。これは……。どういう……」



果南「……曜。自分が何を言ってるのか、わかってるの?」




曜「……。うん。わかってるよ」


果南「……曜!」



曜「私……」




千歌「・・・曜ちゃん」


曜「ごめん、千歌ちゃん。……私だって……!」

曜「私だって、千歌ちゃんを信じてる!でも……!」



曜「……でも。だからこそ……」




曜「千歌ちゃんに、はねのけて欲しい。……私の、ちっぽけな疑いを……」



曜「千歌ちゃんを、心の底から信じるために……!」



梨子「……!」



331: 名無しさん 2019/07/05(金) 20:03:42.18 ID:UAEVXW1PO


曜「……私、大好きだよ。千歌ちゃんのこと……」




千歌「・・・・・・」




曜「だからね!……だからこそ!……だからこそ、梨子ちゃんと同じ立場を選ぶ」


曜「私、梨子ちゃんのことも。大好き、だから……」



梨子「……!よう、ちゃん……!」



曜「……大好きな二人を信じたいから。梨子ちゃんが千歌ちゃんを信じるために、あえて疑うのなら」


曜「……私だって。その先を、見て。……千歌ちゃんを信じたい」




善子「……」


鞠莉「曜……」




332: 名無しさん 2019/07/05(金) 20:04:29.15 ID:UAEVXW1PO


花丸「……こんなの。こんなの、おかしいずら……」


果南「……花丸?」



花丸「疑って、信じる?信じるからこそ、疑う?わかるよ……わかるけど!でも……」


花丸「わけが、わからないよ……」



鞠莉「……」


曜「……」



花丸「おら。……おら、どっちの立場にも立てない」


ダイヤ「……あえて言うならば。中立を選ぶ、ということですね」


花丸「……うん」


善子「花丸……」


鞠莉「……それも、立派な選択だと思うわよ」



花丸「……ルビィちゃんは……どう?」


ルビィ「……私は」



333: 名無しさん 2019/07/05(金) 20:05:08.02 ID:UAEVXW1PO


ルビィ「私は、私も梨子ちゃんと同じ。……さっきはああも言ったけど。……自分のデザインに自信を持たなきゃって思うし……」



ルビィ「……千歌ちゃんに疑いの余地がある以上。……追求しなきゃいけないと思う」


ダイヤ「……!」


梨子「……!」




善子「……そう」


花丸「ルビィちゃん……」




ダイヤ「……ルビィ」




果南「ダイヤ。どう……?」



334: 名無しさん 2019/07/05(金) 20:06:14.41 ID:UAEVXW1PO

果南「これで、立場を決めてないのは私らだけになったわけだけど。……ダイヤは?どうするの?」


ダイヤ「……わたくしは……」



ダイヤ「……。わたくしは、中立に立ちます」


花丸「ダ。ダイヤさん……!」


ルビィ「お姉ちゃん。……なんで?」



ダイヤ「……正直なところ。わたくしには信じられません。未来からのタイムスリップがあり得るだとか、入れ替わりが行われているだとか……そういった、非現実的な可能性を。しかし……」


ダイヤ「ルビィがデザインの勉強をしていること、色々なものを作っていること。その頑張りを、わたくしは知っています」


ダイヤ「そのルビィが、未来の可能性を示した。……ならば、検討の余地は、あるように思うのです」


ルビィ「お姉ちゃん……」



ダイヤ「それに。鞠莉さん、善子さんが指摘したように……可能性の議論は、慎重に行わなくてはならない」


鞠莉「ダイヤ……」


ダイヤ「二つの立場を成り立たせるためには、どちらかに偏ることのない人間が必要です」




ダイヤ「……ほら。生徒会長でスクールアイドルである、クールなわたくし。……この、判断力が必要でしょう?」




ダイヤ「その責任を果たせるのが……わたくしだというだけです」



335: 名無しさん 2019/07/05(金) 20:07:06.50 ID:UAEVXW1PO


ルビィ「……おねぇちゃん」


善子「……そりゃ、生徒会長かもしれないケド。クールなんて、言えるの……?」


鞠莉「『かも』じゃなくて、ちゃんとダイヤは生徒会長よ。……クールかどうかは、ベツだけど……」


ダイヤ「うるさい!そういうことは黙っておくのがスジってものです!」


果南「ダイヤ……」

ルビィ「おねぇちゃん……」


ダイヤ「……ゴホンッ!……そういうわけですから。後は、果南さんですわね」



果南「……」


曜「果南ちゃん……。果南ちゃんは、どうするの?」




梨子(……果南ちゃんは、千歌ちゃんとの付き合いは、一番長い)


梨子(実際、果南ちゃんは千歌ちゃんの微細な違和感にも気付いていた……)


梨子(だったら……)




果南「……」


果南「……っ」