153: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 00:12:06.54 ID:gM5+0Wds0

■Chapter078 『家族』 【SIDE Riko】 





──4番道路、ドッグラン。 

私はここで、自分の過去と決別する。 

そう意気込んでやってきた。 

そして、私が今からやろうとしていること……それは。 


梨子「……最後の手持ちをここで捕まえること」 


ずっと空いている状態だった6匹目の手持ち。 

それをここで手に入れることだ。 

ダリアジムで千歌ちゃんと共闘したときに、触れたイワンコ。 

そして……実は気付いていたのだけれど、パルキアとの戦いの際、落下する私を助けてくれた──トリミアンのしいたけちゃん。 


梨子「私……犬に触れるようになってる」 


もちろん、自分から進んで触りに行くことはまだ躊躇する。 

だけど、パニックを起こしていた昔からは考えられないことだ。 

きっと、自分の中で、あのときのトラウマを乗り越える準備が出来つつあるんだ。 


梨子「とは言っても……」 


ドッグランの辺りを見回すと、相変わらずあちこちを犬ポケモンたちが走り回っている。 

最後の手持ち……適当に決めるのは憚られる。 

割と近くに見えるのは、ガーディやポチエナの群れ。 

遠方ではブルーが集まって日向ぼっこをしているし、その周囲ではラクライたちがマッスグマと競争するように猛スピードで走り回っている。 

私は少し考えたけど……。 

捕まえる捕まえないより前に、やるべきことがあると思った。 





    *    *    * 





──それは、私がここドッグランに訪れて、最初に挫折した場所。 


梨子「……こんにちは、ムーランドさん」 

 「…ヴォッフ」 


ずっしりと構えるムーランド、その周りには相変わらずたくさんのヨーテリーやハーデリアがいる。 

正直、これだけいると今でも少しだけ足が竦む。 

けど、ここでとんぼ返りするようじゃ、本当に何しにきたのかわからない。 


梨子「ムーランド、私のこと覚えてる?」 

 「…ヴォッフ」 


引用元: ・千歌「ポケットモンスターAqours!」 Part2

154: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 00:15:18.14 ID:gM5+0Wds0

ムーランドは私の言葉に対して、首を縦に振る。 

ムーランドは頭が良く、人に良く懐く。 

案外、ここを通る人の顔を覚えているのかもしれない。 

そして、そんなムーランドの元に訪れて、何がしたかったかなんて、言うまでもない。 


梨子「ムーランド……──あのときは助けてくれて、ありがとう」 


私はそう言って頭を下げた。 


 「ヴォッフ…」 

梨子「私……あのときは本当にビックリして、気絶しちゃったけど……。私が他のポケモンに襲われない様に、自分の近くで守ってくれてたんだよね」 


千歌ちゃんに発見されたとき、私はムーランドのすぐ近くでヨーテリーとハーデリアに群がられていたと聞いた。 

だけど、不思議なことに……こんなだだっ広く、絶えず野生のポケモンたちが言ったり来たりしている場所で、 

怪我どころか、服も、リュックも、道具も……それこそ、一番狙われるであろう食料も、全てが気絶する前と何も変わらない状態のままで……。 

それはどう考えても、このムーランドが守ってくれていたお陰だった。 


梨子「あのときは怖がって……悲鳴をあげて……助けてもらったのに、お礼の一つも言えなくて……だから、ここに来たの」 

 「ヴォッフ…」 


私は一歩前に踏み出す。 


 「ヴォッフ」 


一歩ずつ近付く。 

一歩近付くごとに、心臓の鼓動が少しずつ早くなっていく。 

──大丈夫。 

大丈夫。怖くない。 

心の中で、自分に言い聞かせるように。 

近付いて、 


梨子「……ありがとう」 


ムーランドの顔に触れた。 


梨子「…………」 

 「ヴォッフ…」 

梨子「……さわれた」 

 「ヴォッフ」 

梨子「……さわれた……っ……」 


その事実が、なんだか嬉しくて、 


梨子「……よかった……っ……」 


私は安堵の涙を流しながら、ムーランドに抱きつく。 


梨子「お母さん……っ……私、もう大丈夫だよ……っ……」 


幼少のときから、心に抱えていた傷を──やっと乗り越えることが出来た。 

155: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 00:16:37.94 ID:gM5+0Wds0

 「ヴォッフ」 


ムーランドは、一人で勝手に安堵して泣きじゃくる私を咎めることはせず……涙が止まって落ち着くまで、ただ黙ってその場に鎮座してくれていたのだった。 





    *    *    * 





梨子「……ふぅ……なんか、いっぱい泣いたらすっきりしたな」 

 「ヴォッフ…」 


そして……決めた。 


梨子「私はあなたを仲間にしたい」 

 「ヴォッフ」 

梨子「ムーランド、バトルしよう」 


野生のポケモンと戦って、捕まえる。 

トレーナーの基本だ。 


 「ブルル…」 


後方で見守っていた、メブキジカが私の傍に寄って来る。 


 「ヴォッフ…」 


ムーランドが立ち上がり、私たちの前に歩み出る。 


梨子「私が勝ったら、仲間になって」 

 「ヴォッフ」 


ムーランドが鳴くと、周りのヨーテリーやハーデリアたちが、その場から離れていく。 

一対一、正々堂々戦って捕まえる。 


梨子「……行くよ!! メブキジカ!!」 
 「ブルルッ!!!!」 


メブキジカが私の声と共に飛び出す。 


梨子「“ウッドホーン”!!」 
 「ブルルッ!!!」 


前方にツノを突き出して、突撃する。 


 「ヴォッフッ!!!!」 


一方ムーランドは、その場に留まったまま、攻撃を受け止める。 

──攻撃が直撃したが、ムーランドはびくともしない。 


 「ヴォッフッ!!!!」 

梨子「……! でも、“ウッドホーン”は吸収技だよ!!」 
 「ブルルッ!!!!」 

156: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 00:18:03.82 ID:gM5+0Wds0

メブキジカが突き刺したツノからエネルギーを吸収する。 

だが、 


 「ヴォフッ!!!」 


ムーランドは、ツノを突き刺し動けないメブキジカに燃え盛る牙を突き立てる。 

──“ほのおのキバ”だ……!! 


 「ブルルッ!!!!」 


攻撃が直撃し、メブキジカがひるんで後ろに下がる、そこに追撃を掛けるように、 


 「ヴォッフッ!!!!」 


ムーランドの“とっしん”攻撃。 


 「ブルルッ……!!!」 


大きな体躯をぶち当てられて、後方に仰け反るが、どうにか脚を踏ん張って持ちこたえる。 


梨子「メブキジカ!! “エナジーボール”!」 

 「ブルルッ!!!!」 


少し離れた場所から、メブキジカが自然から集めたエネルギーを発射する。 

だけど、ムーランドは臆することなく、 


 「ヴォッフッ!!!!!」 


“エナジーボール”に向かって突っ込み、 


梨子「!?」 


攻撃を耐えて、突っ切りながら、メブキジカに“ずつき”をかましてくる。 


 「ブルルッ!!!!?」 


さっきから、攻撃を避ける気が感じられない。 

群れのボス故、彼にとって攻撃は避けずに受け止めるものなのかもしれない。 

なら……。 


梨子「こっちも真っ向勝負しよう」 

 「ブルルッ!!!!」 


メブキジカが蹄を鳴らし、ツノを前方に突き出しながら、駆け出す── 


梨子「“メガホーン”!!」 
 「ブルルッ!!!!!」 


その“メガホーン”に向かって、ムーランドは一歩も引かずに、 


 「ヴォッフッ!!!!!!」 

157: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 00:19:43.07 ID:gM5+0Wds0

“アイアンヘッド”で対抗してくる。 

メブキジカのツノが──ガインッ!! と鋼鉄の頭に弾かれ、 


 「ヴォッフッ!!!!!」 


そこに向かって今度は“こおりのキバ”で追撃を掛けてくる。 


梨子「“とっしん”!!」 
 「ブルルッ!!!!!」 


迎え撃つ、あくまで真っ向勝負の姿勢でメブキジカが飛び出す。 

メブキジカが体をぶつけ、それをムーランドが踏ん張り、そのままメブキジカの頭部に牙を立てる。 

牙から伝わる冷気が──パキパキと音を立てながら、メブキジカを凍らせていく。 


 「ヴォッフッ」 


ムーランドが鼻を鳴らす。 

……でも、 


 「ブルルッ……!!!!」 


メブキジカはひるまない。 


 「ヴォッフッ!!!!?」 


頭を想いっきり振るって、ムーランドの身体の下に自らのツノを滑り込ませ、掬い上げるように持ち上げる。 

ムーランドの大きな体躯が地面から離れ、 


 「ヴォッフッ……!!!!」 


メブキジカのツノの上でもがく、ムーランドを── 


梨子「そのまま、打ち上げて!! “メガホーン”!!!」 
 「ブルルッ!!!!!!」 


先ほどとは違う方法でツノを下から上に向かって、想いっきり振るう。 


 「ヴォッフッ!!!?」 


空中に打ち上げられ、為す術のなくなったムーランドに向かって。 


梨子「“すてみタックル”!!」 
 「ブルルッ!!!!!」 


落下点にあわせて、メブキジカが駆け出す。 

落下の力と、突進攻撃の力を掛け合わせ── 


 「ヴォッフッ!!!!!!」 


ムーランドを一気に突き飛ばす。 

強力な攻撃が直撃し、弱ったムーランドに向かって、 


梨子「いけ!! モンスターボール!!!」 

158: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 00:20:15.87 ID:gM5+0Wds0

私はボールを投げた。 


 「ヴォフッ──」 


ムーランドはボールに吸い込まれ……一回、二回、三回揺れたのち、大人しくなった。 

私はそのボールを拾い上げて、 


梨子「ムーランド……ゲットだね」 


捕獲したムーランドをすぐにボールから出す。 


 「ヴォッフッ…?」 


ムーランドは少し不思議そうな顔をした。 


梨子「ムーランド、私に付いて来てくれますか?」 


私はそう訊ねた。 

ポケモンにも、トレーナーを選ぶ権利があるから。 


 「……ヴォッフ」 


私の言葉にムーランドは頭を垂れた。 


梨子「……うん、ありがとう。よろしくね、ムーランド」 
 「ヴォフッ」 


こうして、私は最後の手持ち──ムーランドを手に入れて……最後のジムへと向かいます。 





    *    *    * 



159: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 00:22:21.64 ID:gM5+0Wds0


──ウラノホシタウン。 


千歌「ふぁ……いい天気……」 


私は我が家の屋根の上に寝転がって、日向ぼっこをしていた。 

自宅療養期間中、特に問題らしい問題もなく。 

明日にはまた旅立つことになっている。 


美渡「千歌ーーー? どこだーーー?」 


そんな私を呼ぶ声。 


千歌「……美渡姉が呼んでる。行くべきか、行かざるべきか」 


たぶん、旅館の手伝いだと思う。 

せっかく可愛い妹が旅から帰って来てるというのに、人遣いの荒い姉だ。 


千歌「こういうときは無視しよ、無視。私はりょーよーちゅーなんだから」 


我ながら都合の良いときだけ、療養中と言い張っているなと思うけど、こうでもしないとせっかく休もうとしてるのに仕事でくたくたになってしまう。 


美渡「お、しいたけ。千歌がどこいるか、知らない?」 
 「ワフッ」 

美渡「上……? また、屋根の上登ってんのか……オイ、バカチカー!!」 

千歌「って、しいたけ!! 何教えちゃってるのさ!?」 

 「ワフッ」 

千歌「私と一緒に旅の中で築いた絆はなんだったんだ……くそぉ」 

美渡「バカなこと言ってないで、早く降りてくるー!! お母さん待ってるよー!!」 

千歌「へ……? お母さん?」 





    *    *    * 





言われて、部屋に降りてくると、 


千歌「お母さん」 

千歌ママ「千歌、久しぶりねー」 


お母さんが部屋にいた。母は普段は遠方で仕事をしていることが多く、ほとんど旅館の仕事は二人の姉が切り盛りしているんだけど……。 


千歌「どうしたの?」 

千歌ママ「んー、千歌が旅から帰って来てるって聞いたから、顔でも見ておこうかなって」 

千歌「ふーん……」 

千歌ママ「冷たい反応ね……それに、志満がしばらく用事があって旅館を離れることになりそうって言うから、しばらくはこっちにいるつもりなのよ」 

千歌「え? 志満姉が?」 

千歌ママ「コンテスト……出るんだって」 

千歌「そうなんだ……!」 

160: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 00:25:19.93 ID:gM5+0Wds0

志満姉は昔からポケモンコンテストが好きで、実力もある結構強い人らしいんだけど……本人に聞いてもあんまり話してくれないし、ここ最近はあんまり参加もしていなかったみたいだったから、その報せに少しだけ驚く。 


千歌ママ「なんか近々大きな大会があるらしくってね。張り切ってたわ」 

千歌「へー」 

千歌ママ「千歌も負けてられないわね?」 

千歌「ふふーん、もうすでに負けてないもんね! それどころか、私この前世界を救ったんだよ!」 


胸を張って言う。 


千歌ママ「あらそうなの。すごいわね」 

千歌「……えー、それだけ……?」 


自分で言うのはなんだけど、結構すごいことだったんだけどな……。 


千歌ママ「千歌はいっつも気付けば、トラブルに巻き込まれてばっかりだからねー。あんまり危ないことしちゃダメよ?」 

千歌「……むー。ホントに世界救ったんだけど。いろんな人に感謝されたもん!」 

千歌ママ「……それは誇らしいことだけど……お母さんはあなたが五体満足に生きてくれていた方が何倍も嬉しいわ」 

千歌「…………んっと……」 

千歌ママ「……とは言っても、やめろって言ってやめてくれるんだったら、お母さんも苦労してないからね。多少の怪我くらいは目を瞑るけど、先にいなくなったりしないでね。あなたが死んじゃったら、あなたの人生はそこで終わり。どんなにすごいことに挑戦してても、頑張った結果が残るんだとしても、千歌が死んじゃったら、千歌はいなくなっちゃうんだから」 

千歌「う、うん……わかった」 


お母さんはそれだけ言うと、満足したのか、私の部屋を出て行ってしまった。 


千歌「……娘が世界を救うよりも、生きててくれた方が嬉しい……かぁ」 


私は少し考え込んでしまう。 

ふと……聖良さんと理亞ちゃんのことを思い出す。 

命を掛けて、理亞ちゃんの夢を叶えようとした聖良さんと、本当は聖良さんが傍にいてくれるだけでよかったと言う理亞ちゃん。 


千歌「……確かに、お姉ちゃんたちがチカのために何かしてくれたんだとしても、それで死んじゃったら……嫌かな」 


それが例え、かけがえのない何かをくれるようなことだったとしても。 

いなくなっちゃったら……困るよね。 


千歌「ま……志満姉ならともかく、美渡姉がそんなことするなんてありえないけど──」 

美渡「何がありえないって?」 

千歌「……」 


気付けば背後に美渡姉の姿。 


千歌「ウウン、ナンデモナイ」 

美渡「……なんか、わからんが悪口を言われた気がする」 

千歌「キノセイダヨ」 

美渡「そういえば、そろそろお客さんが来るんだけど」 

千歌「チカ、急に客間の片付けしたくなってきたっ!!!」 

美渡「よろしい」 

161: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 00:26:54.63 ID:gM5+0Wds0

どたばたと部屋を飛び出して客間に向かう。 

……やっぱり美渡姉に限って、そんな感じのことはなさそうだな、と改めて思ったのだった。 





    *    *    * 





──夜。 

旅立ち前夜ということもあり、ちょっとだけ豪勢な食事をお母さんが用意してくれた。 

もちろん、手持ちのみんなも一緒にご相伴に預かった。 


千歌「志満姉のご飯もおいしいけど……やっぱり、お母さんのご飯が一番おいしいというかしっくり来るんだよなぁ……なんでだろ」 


やはり子は親のご飯が好きなものなのかもしれない。 

そんなことを考え一人腕を組みながら歩いていると、 


美渡「しいたけ……千歌はどう?」 
 「ワフッ」 

千歌「……ん?」 


今いる通路を曲がったところ、中庭に通じる廊下で美渡姉が月明かりに照らされながら、しいたけのブラッシングをしているところだった。 

困ったな……さっきのことがあるから、今はちょっと対面では顔を合わせづらい……。 


美渡「千歌、無茶してない?」 
 「ワフ」 

美渡「……って、してないわけないよなぁ……千歌だし」 
 「ワフ」 

美渡「何かあったときは……お前が助けてやってな」 
 「ワフ」 

美渡「……ってお前、なんか体が逞しくなったな……これも旅の効果か」 
 「ワフ」 

美渡「私も、旅……してみようかな」 
 「ワォ?」 

美渡「なんてね……今更旅って歳でもないか」 
 「ワフ」 

千歌「……」 


そういえば、お姉ちゃんたちは旅に出たことはないんだ……。 

チカがたまたま機会に恵まれたってだけで。 


美渡「……千歌、強くなったんだなって、お前を見てるだけでわかるよ」 
 「ワフ」 

美渡「つい最近まで、あーんなチビスケだったのに……気付いたら立派に成長しちゃって……」 
 「ワフ」 

美渡「どんどん、千歌が遠くにいっちゃうな……」 
 「ワォ…」 


美渡姉……そんなこと考えてたんだ……。 

162: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 00:28:45.38 ID:gM5+0Wds0

美渡「昔はオニスズメに追い回されて、泣きながら逃げてた千歌が……気付いたら世界の命運を握った戦いしてるんだもんな。笑っちゃうよ。私なんかゴーストポケモン追い払うのに必死だったのに」 
 「ワフ」 

美渡「……きっと、これからもっともっと千歌は強くなって、私が考えられないような場所に行って、いろんな経験するんだろうな」 
 「ワフ」 

美渡「そう考えると……ちょっとだけ寂しいな」 
 「クゥン…」 

美渡「……でも、千歌が望むなら、応援してやりたいよね」 
 「ワフ」 

千歌「……!」 

美渡「……確かに寂しいけど……千歌が頑張ってるなら嬉しいし、それはいいことだから」 
 「ワフ」 

美渡「……なーんて、こんなこと、千歌には言えないけどな」 

千歌「おねーちゃん」 

美渡「っ!? ち、千歌!?」 

千歌「どしたの? そんなにビックリして?」 

美渡「い、今の話聞いてた?」 

千歌「話? しいたけとお話してたの?」 

美渡「い、いや……聞いてないならいい」 

千歌「そう? それよりさ」 

美渡「ん?」 

千歌「明日になったら、また旅に出ちゃうから……たまには一緒にお風呂でも入らない?」 

美渡「……は? お前、なんか変なものでも食ったか?」 

千歌「たぶん、美渡姉と同じもの食べてると思うけど……」 

美渡「拾い食い、好きだろ?」 

千歌「どんなイメージなのそれ……とにかく、お風呂。一緒にはいろ」 

美渡「……まあ、いいけど」 

千歌「せっかくだし、志満姉も誘って姉妹で……いや、せっかく帰って来てるし、お母さんも」 

美渡「え」 

千歌「うぅん、ここまで来たらお父さんも一緒で、家族みんなでお風呂に入ろう!」 

美渡「待て待て!! お父さんは勘弁しろ!!」 

千歌「えー? でもお父さん仲間はずれにされたら絶対スネるよ?」 

美渡「ぐっ……た、確かに……いや、でもダメだ! いい歳した娘が父親と一緒にお風呂はキツいって!!」 

千歌「なんでもいいから、早くはいろーよー……あ、しいたけも洗ってあげるからおいで」 
 「ワフ」 

美渡「はいはい……」 

千歌「うん♪」 

美渡「……なんか、機嫌いいな」 

千歌「そう? 気のせいじゃない?」 

美渡「……まあ、なんでもいいけど……」 


──月明かりに照らされる我が家で、たまには家族との団欒を楽しむのも悪くはないかなって、そんな風に感じた夜だったのでした。 



163: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 00:30:18.42 ID:gM5+0Wds0


    *    *    * 





──翌日、朝。 


千歌「それじゃ、行くね」 
 「ピィ」 

美渡「おう、危ないことすんなよー」 

志満「ふふ、行ってらっしゃい千歌ちゃん」 

千歌ママ「たまには帰って来るのよ」 

千歌「まさかお母さんに言われるとは……お父さんは?」 

志満「お父さん……別れが惜しくて、離れられなくなるからって厨房に篭もっちゃったわ」 

千歌「はは……相変わらずかも」 


私はなんとなく、空を仰ぐ。 


千歌「今日も、いい天気だなぁ……」 


まるで、旅立ちのあの日と同じような、気持ちのいい快晴だ。 


千歌「……よし! ムクホーク! 飛ぶよー!!」 
 「ピィィィ!!!!!」 


ムクホークの背中に飛び乗ると、ゆっくりと視界が上昇していく。 


千歌「美渡姉ー! 志満姉ー! お母さーん! いってきまーす!!」 

美渡「おう!」 

志満「気をつけてねー!」 

お母さん「いってらっしゃい、千歌ー!」 


私は家族たちに見送られながら──新しい旅へと、再び飛び立つのでした。 



164: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 00:31:10.90 ID:gM5+0Wds0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【ウラノホシシティ】【4番道路】 
no title
 主人公 千歌 
 手持ち バクフーン♂ Lv.55  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.48 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.55 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
      ルガルガン♂ Lv.52 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい 
      ルカリオ♂ Lv.59 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
      フローゼル♀ Lv.50 特性:すいすい 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:162匹 捕まえた数:15匹 

 主人公 梨子 
 手持ち メガニウム♀ Lv.56 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.51 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい 
      ピジョット♀ Lv.50 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん 
      ネオラント♀ Lv.45 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
      メブキジカ♂ Lv.55 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん 
      ムーランド♂ Lv.43 特性:きもったま 性格:ゆうかん 個性:しんぼうづよい 
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:142匹 捕まえた数:14匹 


 千歌と 梨子は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 




165: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:28:10.30 ID:gM5+0Wds0

■Chapter079 『水晶湖の輪舞』 【SIDE Chika】 





ウラノホシタウンから飛び立ち、 


千歌「よっと……ありがと、ムクホーク」 
 「ピィ」 


私は一旦ローズタウンに降り立った。 

目的地は更に東のクロユリシティだけど、せっかく近くを通るから、お見舞いがてら病院に寄っておこうと思って、ここで休憩を挟む。 

ムクホークをボールに戻して、そのまま病院へと入っていく──。 





    *    *    * 





──聖良さんの病室。 


千歌「……失礼しまーす」 


面会許可を貰って、静かな室内に足を踏み入れる。 


聖良「…………」 

千歌「こんにちは、聖良さん」 

聖良「…………」 


もちろん、眠っている聖良さんから返事はない。 

腕からは今も点滴の管が伸び、響くのは無機質なバイタルチェックの音だけ。 

ただ、静かに胸があがったりさがったりしてる姿は彼女が確実に生きていることを示している。この光景の中で唯一安心できることだろうか。 

一人ぼんやりと、静かに眠る聖良さんを見つめていると……。 

背後のドアが開く。 


ルビィ「あれ……千歌ちゃん」 

理亞「……千歌?」 


そこに居たのはルビィちゃんと理亞ちゃんだった。 


千歌「二人とも、こんにちは。近くに寄ったからお見舞いに来たんだけど……」 

理亞「そうなんだ……ありがとう」 

千歌「ルビィちゃんと理亞ちゃんは一緒に居たんだね」 

ルビィ「うん、理亞ちゃんとお昼ご飯食べてたんだ」 

理亞「病院食は味気ないし……お昼はよくルビィと一緒に食べてる」 

ルビィ「ルビィたち、食事に気を使う必要があるわけじゃないしね……」 


二人はそう言って苦笑いする。 

確かに私も数日間は病院食を出してもらってたけど……味が薄くて食べた気がしなかった記憶がある。 

それはともかく、外食していたということは……。 

166: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:30:58.43 ID:gM5+0Wds0

千歌「理亞ちゃん、外出出来るようになったんだね」 

理亞「うん。事前の申請と、一人以上監視役の人間が傍に居ないとだめだけど……」 

ルビィ「だから、ご飯のときはルビィが監視役の名目で一緒に食べてるんだよね」 

理亞「うん」 


そう言って親しげに頷きあう二人。どうやら、一緒に過ごす間に随分と仲良くなったようだった。 


理亞「……とりあえず、タオル貰ってきたから、ねえさまの身体拭いてあげたい」 

千歌「あ、うん。私はここでおいとまするね」 

ルビィ「それじゃ、ルビィも……理亞ちゃん、また夜ご飯のときに来るね」 

理亞「起きてたらでいいから。ありがと」 


私は、ルビィちゃんと一緒に病室を後にした。 





    *    *    * 





千歌「──それじゃ、ルビィちゃんもそろそろ退院出来そうなんだね」 

ルビィ「うん。やっぱり何度検査しても身体そのものに異常はないみたいだから……。最近は眠ってる時間も少しずつ短くなってるし。ただ、一度眠ると次が気付いたときに思った以上に時間が経ってるのは未だになれないかも……」 

千歌「そっか。退院したら……また旅に出るの?」 

ルビィ「……うぅん、当分はウチウラシティの方のお家で、お姉ちゃんのお手伝いをしようかなって……。旅してる間に長時間眠っちゃうのも困るし、お姉ちゃんも心配だろうから……」 


確かに、旅の間は自由なときに眠れるわけじゃないし……それがいいのかもしれない。 


ルビィ「あと……家に帰ってやりたいことがあるから」 

千歌「やりたいこと?」 

ルビィ「うん。ルビィね、正式にクロサワの巫女としてのお役目を継ごうと思ってるの」 

千歌「巫女……それって……」 

ルビィ「女王様と人の間に立って、両者の世界の中継ぎになる人……確かに血は濃く受け継いでたけど、正式にお役目を引き受けるかはずっと保留にしてたんだ。だけど、旅を通じて……改めて、これはルビィがやるべきことだと思ったから」 

千歌「ルビィちゃん……」 

ルビィ「だから、ルビィの冒険はここでおしまい。次の目標に向かってがんばルビィしないといけないから」 

千歌「そっか」 


ルビィちゃんはルビィちゃんで、旅の中で自分のやりたいことを見つけることが出来たのかもしれない。 


ルビィ「千歌ちゃん」 

千歌「ん?」 

ルビィ「改めて……一緒に戦ってくれて、ありがとう」 


ルビィちゃんはお礼と共に頭を下げる。 


千歌「うぅん、私こそありがとう。ルビィちゃん、ホントに強くなっててビックリしたよ」 

ルビィ「えへへ……でも、理亞ちゃんに負けないようにもっと強くならなきゃいけないから」 


ルビィちゃんはそう言ってはにかむ。理亞ちゃんと言う良いライバルに出会うことが出来て、良い影響を受けたのかもしれない。旅立つ前の引っ込み思案が嘘みたいに、今は自信に満ち溢れているようだった。 

167: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:32:20.56 ID:gM5+0Wds0

ルビィ「あ、そうだ」 

千歌「?」 


突然何かを思い出したかのようにルビィちゃんが声をあげる。 


ルビィ「善子ちゃんから千歌ちゃんに伝言があったんだ」 

千歌「伝言?」 

ルビィ「『水晶の湖に来い』って言ってた」 

千歌「……それだけ?」 

ルビィ「うん。会ったら伝えておいてって」 

千歌「水晶の湖って……」 

 「クリスタルレイクのことロトー」 

千歌「うわぁっ!? ろ、ロトム!?」 


急にロトムがルビィちゃんの背後から飛び出してくる。 


千歌「あ、あれ……? 善子ちゃんと一緒に行ったんじゃ……」 

ルビィ「大事な用事があるって、言ってたから……ルビィがロトムを一旦預かってるんだよ」 

千歌「そうなんだ……」 


でもロトムを置いていったってことは、捕獲とかじゃないんだよね……なんだろ? 


千歌「……まあ、いいや。クリスタルレイクってここからすぐ近くの丘の上にあるおっきな湖だよね」 

 「そうロトー」 

千歌「行ってみれば、わかるよね。出てきて、ムクホーク」 
 「ピィィ」 

千歌「じゃ、クリスタルレイクに行ってみるね。ありがと、ルビィちゃん」 

ルビィ「うん、またね! 千歌ちゃん!」 


──手を振るルビィちゃんを尻目に、私はムクホークに乗って、クリスタルレイクへと飛び立ったのだった。 





    *    *    * 





──クリスタルレイク。 

気付けば夕日が差し込む時間。 

辺りに夕闇が迫ってくる。 

辿り着いてから既に何時間か、善子ちゃんを探しているんだけど……。 


千歌「善子ちゃん……どこだろう」 


まるで見当たらない。 

そろそろ西から差し込んでいる太陽が、山々の影に隠れようとしていた。 

大きなオレンジ色の炎が、ゆっくりと大地に沈んでいく。 

その光で辺りは燃えるように橙色に色づいていた。 

168: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:33:42.01 ID:gM5+0Wds0

千歌「綺麗……」 


善子ちゃんは見当たらないけど、この景色を見に来たというだけでも、一旦クリスタルレイクに訪れたのはよかったかもしれない。 

そんなことを考えていたら── 

──すんすんと、 


千歌「? ……人の、声?」 


女の人がすすり泣くような声が背後から聞こえてくる。 

辺りを見回していると、今度は、 


 「キィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」 

千歌「!!」 


それは泣き叫ぶ声に変わる。 


千歌「これって……」 


私はこの声に心当たりがあった。 

次の瞬間、突然──髪の毛を何かに引っ張られる。 


千歌「わったた……」 


少し後ろによろけたけど……私は自分の頭の後ろに手を回して、ソレを掴んで、自分の前に持ってくる。 


千歌「──久しぶり、ムウマージ」 

 「ムマァーージ♪」 


そこに居たのはムウマージだった。 

そして、それを見計らったかのように、空から声が降って来る。 


 「──よくぞ見破ったわね!! とうっ!!」 


声と共に、人影が飛び降りてくる。 


 「シュタッ!!」 


もう誰かなんて考えるまでもなかった。 


千歌「善子ちゃん!」 

善子「善子じゃないわよ!! ヨハネだって言ってんでしょ!?」 


善子ちゃんは今日も絶好調のようだ。 


善子「それよりも……よくぞ † 幽寂たる宵闇の魔女 † を察知したわね……さすが、リトルデーモン千歌……」 


……一瞬なんの話かと思ったけど、たぶんムウマージのことだと思う。 


千歌「そういえば、善子ちゃんと初めて出会ったときも、こんな感じの小高いところだったね」 


あのときは見晴らしのいい流星山の頂上から、そして今度はクリスタルレイクのあるこの丘で。 

169: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:35:57.00 ID:gM5+0Wds0

善子「……そうね。思えば、遠くまで来たもんね、お互い」 

千歌「そうだね」 


各地のジムを回って、山を越え、森を抜け、大地を駆けて、海を乗り越え、空を飛び……ここまで来た。 

自分の旅を思い返しながら、 


千歌「それで用事って?」 


訊ねる。 


善子「くっくっく……よくぞ聞いてくれたわ」 


善子ちゃんは、近くを旋回していたドンカラスとムウマージをボールに戻し。 

そのまま、一個のモンスターボールを手に持ったまま、私に突きつけてくる。 


善子「千歌……バトルしましょう」 

千歌「……!」 

善子「流星山では結局、途中でうやむやになっちゃったけど、決着ついてないし。もちろん、断ったりしないわよね?」 

千歌「うん! トレーナー同士、目が逢ったらバトルするのが礼儀だもんね!」 


私も善子ちゃん同様に、ボールを構えた手を前に突き出す。 


善子「……お互い手加減なし。ホンキの勝負をしましょう」 

千歌「うん、望むところだよ」 


お互い突き出したボールがぶつかり──コツンと音が鳴る。 

そしてボールを持ったまま、お互いの腕を曲げて交差させる。 

内向きになったボールのすぐ向こうに善子ちゃんの顔が見える。 

インチキなしのホンキの決闘。この状態からボールを落として、ポケモンが飛び出した瞬間が真剣勝負の開始の合図だ。 


善子「……さぁ、サバトを始めましょう……私と同じように † 叡智の端末を扱いし者 † よ……!」 


二人同時にボールから手を放し──交差させた腕を解いた。 

──バトル……スタート!! 





    *    *    * 



170: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:37:03.60 ID:gM5+0Wds0


──二つのボールが地面に着くと同時に開く。 


善子「行くわよ!! † 激流の水蛙-スイア- † ゲッコウガ!!」 
 「ゲコガァッ!!!!!」 

千歌「バクフーン!!」 
 「バクフーーッ!!!!!!」 


飛び出したのはバクフーンとゲッコウガ。 


善子「千歌なら最初はバクフーンで来ると思ってたわ!! “つじぎり”!!」 
 「ゲコガァッ!!!!!」 


ゲッコウガが水で作ったクナイを振るってくる。 

バクフーンはそこに向かって拳を突き出す。 


千歌「“かみなりパンチ”!!」 
 「バクフーーーッ!!!!!!!」 

 「ゲコガァッ!!!?」 


クナイを通じて、バクフーンの拳から流れ出す電流がゲッコウガを襲う。 

──と、思ったら、 

ゲッコウガは──ボンと音と白煙を立て、気付けばバクフーンが殴ってるのは、可愛らしい人形のようなものに摩り替わっている。 


千歌「っ!? “みがわり”!?」 
 「バクフッ!!!?」 

善子「そんな単調に行くわけないでしょ!! “ハイドロポンプ”!!」 

 「ゲコガァッ!!!!!!」 


上から鳴き声、と同時に“ハイドロポンプ”が降って来る。 

──回避、ダメだ、間に合わない……!! 

咄嗟に真上を指差し、 


千歌「“かえんほうしゃ”!!」 
 「バクフーーーンッ!!!!!!!!」 


“かえんほうしゃ”が“ハイドロポンプ”と真っ向からぶつかり合う。 

……だけど、炎と水。すぐに“ハイドロポンプ”の勢力が上回り、どんどんバクフーンに迫る。 


千歌「フローゼル!!」 
 「ゼルルッ!!!!!」 


フローゼルを繰り出し、バクフーンの足元に。 

フローゼルもバクフーン同様上を向き、 


千歌「“ハイドロポンプ”!!!」 
 「ゼルルッ!!!!!」 


“ハイドロポンプ”で応戦する。 


千歌「バクフーンは戻って!!」 


そして、役割をフローゼルにタッチしたところで、バクフーンは一旦控えに戻す。 


 「ゼルルルルルッ!!!!!!!!」 

171: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:37:54.00 ID:gM5+0Wds0

次第に上から落ちてくる水が、押し上げられていく。 


千歌「よし、押してる!! いけっ!!」 
 「ゼルゥゥゥゥ!!!!!!!!」 


そのまま、フローゼルの攻撃は降って来る水を完全に押しのけ──空を切った。 


 「ゼルッ!!?」 
千歌「!? ま、また消えた……!!」 


またしても、ゲッコウガは身を隠してしまった。……というか── 


千歌「善子ちゃんも消えた……!?」 


慌てて周囲を見回す。 

するとすぐ近くの湖の水面に──ポコポコと泡が立っている。 


千歌「水の中!? フローゼル!!」 
 「ゼルッ!!!!!」 


水の中に逃げ込んだ善子ちゃんを追って、飛び出したフローゼル──その背後から、青白い炎が一閃して、フローゼルを吹き飛ばした。 


 「ゼルゥッ!!!?」 

千歌「……!?」 


水の中の泡はブラフだ。 

すぐさま気付いて、攻撃を仕掛けてきたであろう、シャンデラのいる方に振り返る── 


 「──ムバァァアァァァァァ!!!!!!!」 

千歌「わあぁぁっ!!!?」 


──私のすぐ後ろには気付けば、ムウマージ。 

目の前で“おどろかす”をされて、思わず足が縺れる。 


善子「──ドンカラス!!」 


善子ちゃんの声が──上から聞こえて来た。 


千歌「!!?!?」 

善子「“ふきとばし”!!!」 
 「カァァァーーーー!!!!!!」 


上を見上げると、脚に善子ちゃんをぶら下げたまま、ドンカラスが強風を叩き付けてくる。 

ただでさえ脚が縺れていた私はそのまま、背後の湖へとお尻から飛び込む形で── 


 「──ヒョォォ」 

千歌「……っ!!」 


これまた、聞き覚えのある鳴き声が背後からしてきて、 

私の身体の一部が着水すると同時に、 

──ピシリと、湖底の表面が氷漬けになる。 

172: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:39:16.27 ID:gM5+0Wds0

千歌「ユキメノコ……!!」 

善子「……私の方が読みは上手みたいね!!」 

千歌「フローゼル!!!」 

 「ゼルル!!!!」 


先ほど吹っ飛ばされて、水中に飛び込んでいたフローゼルが、湖に張った氷の下を泳ぎながら、私の方に向かってくる。 


善子「フローゼルのパワーですぐに壊せるかしらね!? ムウマージ!! “シャドーボール”!!」 
 「ムーーマァーーージ!!!!!!!!!」 


迫る“シャドーボール”。 


千歌「壊せるよ!! やるのはフローゼルじゃないけど!!」 
 「ゼルッ!!!」 

善子「……!?」 


凍ってるのは湖の表面10cmくらいだけ、 

なら、下半身のほとんどは水の中だ、 


 「ゼルッ!!!」 


フローゼルが水中で私の腰についているボールの開閉スイッチを押し込む。 


千歌「ルガルガン!! “ドリルライナー”!!」 
 「ワォンッ!!!!!!」 


ルガルガンが回転し、氷を掘削しながら、飛び出す。 

自分の身体をホールドしていた氷が砕け、自由になったと同時に、私は氷の上を転がり、 

そこに出来た穴から頭を出したフローゼルへの指示、 


千歌「“ねっとう”!!」 

 「ゼルルーーー!!!!!!」 


フローゼルが口から噴き出した“ねっとう”が“シャドーボール”と衝突し蒸気が周囲を覆う。 


千歌「……っ」 


すぐに体勢を立て直して、上空の蒸気の先に居る善子ちゃんへと、視線を移す。 


善子「上ばっか見てると、足元すくわれるわよ?」 

 「──ゼルゥッ!!!!?」 

千歌「……!?」 


水上に顔を出していた、フローゼルが急に真上に吹き飛ばされる。 

慌てて、視線を戻すと、波がうねる様にしてフローゼルを追い出していた。 


千歌「“なみのり”!?」 


波を発生させる攻撃──やっぱり、ゲッコウガは水の中に潜ってたんだ……!! 

173: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:40:23.62 ID:gM5+0Wds0

善子「──今度は下ばっか見て、田舎者丸出しね」 

 「ギャゥッ!!!?」 

千歌「……っ!!」 


今度は上から、シャンデラの炎がルガルガンに直撃する。 

──不味い、翻弄されてる……!! 


善子「早くもチェックかしらね……!!」 


……善子ちゃんの言動に惑わされるな。 

相手はこっちを翻弄するために、わざと声を掛けて視線を誘導してる。 

なら……。 


千歌「ルカリオ!!」 
 「グゥォッ!!!!!」 


ルカリオを繰り出し、私は── 


千歌「……すぅ………………────はぁ……」 


一旦、目を閉じて深呼吸。 


善子「……っ!! 敵の目の前で目を瞑るって……舐めてるのっ!?」 


集中しろ、感覚を研ぎ澄ませ、音をよく聴け──。 

──ゴォォ。これは火炎の迫る音だ。 

目を開くと同時に指差す。 


千歌「そこ」 
 「グゥォッ!!!!!!」 


ルカリオが“しんくうは”を発生させて、シャンデラの炎を掻き消す。 


善子「はぁ!?」 


──まだ、気を抜くな。 

全身の神経を集中しろ。 

足元、氷の下から、僅かに振動を感じる。 


千歌「そこの氷の下っ!! ルカリオ、“はっけい”!!」 
 「グゥァッ!!!!!!!」 


ルカリオが近くの氷の床に両手を付いて、水中に向かって衝撃を発生させる。 

──数秒置いて、 

──バキリッ、と音を立てて氷が割れる。 


 「グゥォッ!!!!」 


私はルカリオに抱えられたまま、割れた部分から、逃げるように離脱する。 

そして、その直後、 


 「ゲコ……ガ……」 

174: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:41:16.62 ID:gM5+0Wds0

割れた氷の穴からゲッコウガが戦闘不能になって、浮かんでくる。 


千歌「やった……!!」 


氷の上から貫通する波導攻撃が成功したようだった。 


善子「シャンデラ!! “れんごく”!! ユキメノコ!! “れいとうビーム”」 

 「シャンデラァーーーーッ」 「──ヒョォォォ!!!!!」 

千歌「……!!」 


どうやら、休んでる暇はない。 


千歌「バクフーン!!」 
 「バクフッ!!!!!」 


再びバクフーンを繰り出し、 


千歌「“かえんほうしゃ”!! フローゼル!! “うずしお”!!」 
 「バクフーッ!!!!!」 「ゼルルルッ!!!!!!」 


バクフーンは後方のユキメノコへ、体勢を立て直したフローゼルは先ほどルカリオが割り砕いた穴から水を巻き上げて、“れんごく”に応戦する。 


千歌「大丈夫!! この状況なら、打ち合える!!」 


氷に炎、炎に水。 

最初とは打って変わって有利な打ち合いに持ち込めた……!! 

と思った瞬間── 


 「────–ਊ‡å—å̷̶̷̧̢̛̖̺͈̖̫̗̘̙̤̙̆̊̌̉̊̈͝͡æ̬̬̩͈̜̓̓̅̊͡カ̧̛̩̹̫̺̩̓ͣ̕͡ァ̨̞̼̗̤̽̂̄Œ–ã '」 

千歌「っ゛!!?」 


突然、身の毛もよだつような、歌声が響いてきて、耳を塞ぐ。 


千歌「な、に゛……この、う゛た……っ!?」 


顔をあげると、ムウマージが楽しげに歌っている姿。 


善子「仲良く滅びましょう」 


善子ちゃんも同様に顔を顰めて、耳を塞ぎながら、言葉を投げかけてくる。 

……もしかして、 


千歌「“ほろびのうた”……っ゛……!?」 


場に出ている全てのポケモンを数刻後に戦闘不能にする、道連れ技だ。 


千歌「み、みんな!! 一旦ボールに……!!」 

善子「させるか!! “くろいまなざし”!! “とうせんぼう”!! “ほのおのうず”!!」 
  「────」「──ヒョォォオ!!!!!」 「シャンディィィィ!!!!!!!」 

 「ワォンッ!!!?」 「ゼルッ!!!!」 「バクフーンッ!!!!!!」 

175: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:48:17.91 ID:gM5+0Wds0

それぞれ、上空のドンカラスの“くろいまなざし”がルガルガンに、フローゼルにはユキメノコが抱きつくような形で動きを止める。バクフーンは周囲に炎が渦巻き、動きを制限される。 

──全て交代を封じる技だ。 


千歌「ルカリオだけでも、戻って!!」 
 「グゥォ──」 


不幸中の幸いか、私のすぐ傍に居たルカリオだけは、私自身が敵からの影になって、拘束技を受けずに済んだようだ。 


善子「……っち、一匹逃がしたか」 


善子ちゃんがそう言いながら、私の居る氷の上に飛び降りてくる。恐らくドンカラスが数刻後に戦闘不能になるからだろう。 

その間も不気味な歌は響き続けているし、その行動は即ち、止める気がないということだ。 


千歌「唄を止めればいいんでしょ……!! ムクホーク!!」 
 「ピィィィ!!!!!!!」 


ボールから飛び出したムクホークが、ムウマージに向かって一直線に突っ込む。 


千歌「“ブレイブバード”!!!」 
 「ピィィィィィ!!!!!!!!!!」 


唄に夢中なムウマージは猛進するムクバードの攻撃を避けることは出来ない……!! 


善子「……読み通り」 

千歌「!?」 


善子ちゃんがニヤっと笑った。 

そして、ムウマージを見て、ゾッとする。 

ムウマージは全身に黒い闇のようなものを背負っている状態で、攻撃を待ち構えている。それだけじゃない、ムウマージが── 


千歌「──唄って、ない……!?」 


でも、尚も不気味な唄は響いている。 


 「ピィィィィィ!!!!!!!!!」 


ムクバードの一撃がムウマージを捉える。 

──と同時に、 


 「ムマァ……」 
 「ピッ……ッ!!!!!」 


ムウマージの闇がムクホークを巻き込むようにして拡がり、二匹は同時に地に落ちた。 


千歌「え、あ……え、え……!?」 


倒したのはこっちのはずだった。なのにムクホークもダウンし、しかも唄ってたはずのムウマージを倒しても“ほろびのうた”が止まらない……。 

…………? 


千歌「──あ、ちが……!? “くろいまなざし”、標的!? え、バクフーン!?」 


仕掛けはわかったが、突然のことに頭が追いつかず、完全にてんぱってしまう。 

咄嗟に目線を配ったバクフーンは“ほのおのうず”を食らっている。 

176: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:51:03.03 ID:gM5+0Wds0

千歌「ち、ちがっ──」 

善子「残念、“くろいまなざし”を受けたのは……ルガルガンよ」 

千歌「……ぁ」 

 「ワゥ……」 


ルガルガンが膝を折る。──時間だった。 


善子「なんだかんだで気付いたのはさすが。でも、タッチの差だったわね」 

 「バクフ……」 「ゼルゥ……ッ」 

 「──ヒョォォ……」 「シャンディィ……」 


そして、バクフーン、フローゼル。善子ちゃんのユキメノコ、シャンデラも倒れ。 


 「カァカァ……ッ」 


戦闘不能になったドンカラスも落ちてくる。 

その際、ドンカラスは一瞬、私の方を見て、してやったりという顔をしていた。 


千歌「……“ほろびのうた”を唄ってたのは……ムウマージじゃなかった。あれは……私を欺くための、口パク」 

善子「ふふ、正解。本当に“ほろびのうた”を唄ってたのは、ドンカラスよ」 


“くろいまなざし”も私が勝手に動けるドンカラスが使ったんだと思い込んでた……本当はムウマージが使っていたんだ。 


善子「“くろいまなざし”のキャッチは使ってるポケモンが戦闘不能になったら、効果が切れちゃうから……もっと判断が早ければルガルガンは助かったかもしれないわね」 

千歌「……っ」 

善子「でも、わざわざムウマージをムクホークで狙ってくれたのは僥倖だったわ。“みちずれ”で更にもう一匹戦闘不能に出来た。……って言っても、他のポケモンたちは満足に身動きがとれなかったものね」 

千歌「…………」 


落ち着け……。善子ちゃんは元々トリックプレイを得意としている。 

それはここまで一緒に戦ってきた中でも、ずっと見てきたことだ。 

私を動揺させるために、わざわざ私のプレイミスを解説してるんだ。 

実際、私は完全に善子ちゃんの発言に惑わされて、4匹を相討ちに持ち込まれた。 

真っ向から、戦ってたら、また何を仕掛けられるか……。 


善子「アブソル」 
 「ソル…」 


善子ちゃんは最後の手持ち──アブソルを繰り出す。 


善子「千歌、ルカリオを出しなさい。最後はお互い、エースでぶつかり合いましょう」 

千歌「…………」 


どう考えても、この挑発には乗るべきじゃない。 


千歌「行くよ、しいたけ!」 
 「ワッフッ!!!!」 

善子「……フラレちゃったわね。まあ、いいわ。……アブソル、メガシンカ!!」 
 「ソルッ!!!!」 


善子ちゃんのメガロザリオが光り輝き、呼応するようにアブソルが光に包まれる。 

177: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:52:19.91 ID:gM5+0Wds0

千歌「しいたけ!! “ずつき”!!」 
 「ワフッ!!!!」 


メガシンカの一瞬の隙に倒しきるしかない……!! 

私の指示でしいたけが飛び出して、アブソルに“ずつき”をかます。 


 「ワフッ!!!!」 


頭を前に突き出しての突撃。 

──ガスッ 

鈍い音、 


千歌「ヒットした……!! 畳み掛けて、しいた──」 

善子「“カウンター”!!」 
 「ソォルッ!!!!」 

千歌「!?」 


アブソルは“ずつき”の衝撃の反動を利用して身を捻りながら、尻尾を叩き付けてくる。 

綺麗な“カウンター”だった。 


 「ワォッ!!!!!!?」 


自分の攻撃を倍返しにされて、後ずさる。 


千歌「い、いったん引いて……!!」 

善子「“ダメおし”!!」 
 「ソルッ!!!!」 

千歌「……っ」 


だが、善子ちゃんは逃げることを許さない。アブソルが追撃しに前に出てくる。 

なら……! 


千歌「ガード!! “まもる”!!」 
 「ワフッ!!!」 


しいたけは“ファーコート”で攻撃を受け止める姿勢を取る。 

守りに徹した防御なら、確実にこっちに軍杯が挙がる。 


 「ソォル!!!!」 


アブソルの追撃の“ずつき”が──しいたけのすぐ目の前を空振る。 


千歌「へ……?」 


思わず間抜けな声が出た──が、 

この攻撃はそもそも“ずつき”じゃなかった。 


 「ギャゥッ!!?」 

千歌「……!?」 


アブソルの、頭が空振り──追いついてくるように振りかぶられた頭の刃がしいたけを一閃する。 

──これは“フェイント”だ。 

178: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:53:34.99 ID:gM5+0Wds0

善子「“まもる”対策くらいしてるわよ」 

千歌「っ……!! しいたけ!!」 


やっぱり、前に出るしか……!! 


千歌「“かみつ──」 

善子「“ふいうち”!!」 
 「ソルッ!!!!!」 

 「ワォンッ!!!!」 
千歌「!!」 


“かみつく”より前に決まる先制技、“ふいうち”。 


千歌「ぐ……!! “つぶらなひとみ”!!」 
 「クゥーン…」 


なら、攻撃力を下げる先制補助技……!! 


 「ワ、ワッフッ」 


なのに、何故か逆にしいたけが怯まされる。 


千歌「な!? なんで!?」 

善子「メガアブソルの特性は“マジックミラー”よ。補助技は全て反射される」 

千歌「っ……“コットンガード”!!」 


苦し紛れの防御択。でも、時間稼ぎくらいには── 


 「ワ、ワォ」 


だが技が出ない。 


千歌「!!?」 

善子「“ちょうはつ”よ」 

千歌「ぅ……」 


また読まれてる。変化技を封じられた。 

なら、防ぎようのない技で……!! 


千歌「“ハイパーボ──」 

善子「“さきどり”!!」 
 「ソォォォォォォルッ!!!!!!!!」 

千歌「うわっ!!!?」 
 「ワォッ!!!!!」 


私としいたけは“さきどり”で奪われた、“ハイパーボイス”の音圧で後ろに吹き飛ばされる。 


千歌「くっそ……“とんぼがえり”!!」 
 「ワゥッ!!!!」 


しいたけじゃ、善子ちゃんのアブソルには対抗しきれない。 

ここは一旦戻すしかない……。 

しいたけは飛び掛かりはしたものの、 

179: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:55:08.34 ID:gM5+0Wds0

 「ソルッ!!!!」 


完全にペースを掴まれている今、アブソルには完全に攻撃を見切られていた。 

爪を立てて、飛び掛かるしいたけを、アブソルは頭の刃で弾き返す。 


 「ワフッ」 


その反動でしいたけがボールに戻ってきて、吸い込まれ──ようとしたところに、 


 「…ソル」 

 「ワ、ワゥ…」 


気付けば、アブソルの攻撃が突き刺さっていた。 


千歌「……う、うそ……」 

善子「“おいうち”。ボールに戻る相手を確実にしとめる技よ」 

 「ワゥ……」 


ボールに戻ることも許されずしいたけは崩れ落ちる。 


千歌「っ……」 

善子「さ、ルカリオを出しなさい」 


善子ちゃんの言う通りにしたら、また足元を掬われる……だけど、 


善子「出さないの? 降参?」 

千歌「ル、ルカリオ!!」 
 「──グゥォッ!!!!」 


もう手持ちはルカリオのみ。出すしかない。 


千歌「メガシンカ!!」 
 「グゥォッ!!!!!」 


ボールから出すと共に、私のメガバレッタの光と反応して、ルカリオがメガルカリオへと姿を変える。 

……だけど、 


千歌「……っ」 

善子「……攻撃してこないの?」 


──動けない。 

ことごとく全ての攻撃を読まれて、反撃された経験が刷り込まれてしまっている。 

考えても考えても、アブソルを倒せるビジョンが想像出来ない。 


善子「……勝負あったわね」 

千歌「……なっ」 

善子「ルカリオ、どんどんオーラが小さくなっててるわよ」 

千歌「……!」 


言われてルカリオを見ると、ルカリオの周囲の波導のオーラがどんどん弱くなっていく。 

180: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:56:16.71 ID:gM5+0Wds0

千歌「ル、ルカリオ、しっかりして──」 

善子「──ルカリオは」 


善子ちゃんが口を挟んでくる。 


善子「トレーナーの戦意に呼応して、波導を増すんでしょ?」 

千歌「……っ!!」 


……つまり、 


善子「ルカリオのせいじゃなくて……千歌、あんたが諦めてるだけよ」 

千歌「……ぅ……」 


図星だった。 

いや、これも全て善子ちゃんの術中なのかもしれない。 

どうにか考えろ、何か方法があるはずだ、何か……。 

──でも、何を考えても、倒す術が思いつかない。 


善子「……アブソル」 
 「ソルッ」 


アブソルの周囲に空気の渦が発生する。最大の攻撃の予兆。 

避ける……? 無理だ、何度も見た技だけど、とてもじゃないけど、この距離で避けきれるスピードじゃない。 


千歌「……一点読みきって、相殺するしかない……っ」 
 「グゥォッ!!!!」 


ルカリオが構える。 

已然オーラは弱々しい。 

でもやるしかない。 


善子「……チェックメイトね。──“かまいたち”!!」 
 「ソォォルッ!!!!!!」 


アブソルが頭の刃を振るう。 

巨大な空気の刃が飛んでくる。 

── 一点!! 一点を見極めて──。 


千歌「そ、そこ、いやちが……っ」 


そこで気が付いた。 

もう詰んでたんだと。 

こんな気が動転した状態で、必殺の一撃が打てるような集中力を確保出来るはずもなかった。 


千歌「……っ……ごめん、ルカリオ……っ」 


私はもう……謝るしかなかった──。 

巨大な空刃を真っ向から受けてルカリオは倒れて──。 

181: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:58:26.96 ID:gM5+0Wds0

 「……グゥォッ!!!!!」 

千歌「え……」 

善子「な……」 


──倒れていなかった。 


千歌「…………」 


これは善子ちゃんも予想外だったようだ。 

……いや、私もだった。 


 「グゥォッ!!!!!」 

千歌「!!」 


ルカリオが鳴き声をあげる。 

ルカリオはもうボロボロだった。 

普段はオーラの力で攻撃を受け流し、どんなに強大な攻撃も私と力を合わせて粉砕してきたが……。 

私がオーラを弱めてしまったせいで、いつものような防御も出来ず、鋼鉄の爪も、今の一撃を受けて、折られてしまった。 

……でも、 


善子「なんで立ってるのよ……!!」 


なんで? ……なんでって、 


千歌「……そうだよね」 
 「グゥォ」 

千歌「ずっと一緒に戦ってきて……ルカリオも強くなってきたんだもんね」 
 「グゥォ」 


例え相手が自分より強大であっても、打ち負けないように、逞しく。 


千歌「一緒に戦って、一緒に修行して、一緒に鍛えて、一緒に考えて、一緒に負けて……そして、一緒に勝って来た」 
 「グゥォ!!!」 


そうだ……ただ、それだけのことだったんだ。 


善子「ア、アブソル!! もう一発よ!!」 
 「ソルッ」 

千歌「ずっと一緒に戦って、経験して……強くなったんだ、技も、体も、心も……!!」 
 「グゥォッ!!!!!」 


そうだ。 

いくら、相手に先読みされて、技が潰されようが、 

いくら、相手が強力な技を使ってこようが、 


千歌「私たちが積み上げてきた、経験が……なくなるわけじゃない!!」 
 「グゥォッ!!!!!!!!!!!」 


ルカリオのオーラが一気に膨れ上がる。 


善子「っ!?」 

千歌「相手がどんなに強くても、自分より頭が良くても、私は──私たちは、自分たちが経験して、身に付けた技を、強さを信じて戦うだけなんだ!!! 自信なんて……それだけあれば十分だッ!!!!!」 
 「グゥォッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 

182: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 12:59:11.41 ID:gM5+0Wds0

更にオーラが膨れ上がる。 


千歌「私たちはいつだって……そうしてきたっ!!!!」 
 「グゥォッ!!!!!!!!!!!!!」 


ルカリオが構える。 

私も──構えた。 


善子「っ……!! アブソル!!! “かまいたち”!!!」 
 「ソォォォォォルッ!!!!!!!!!!!!!!!」 


アブソルから、放たれた巨大な空刃が、迫る。 


千歌「負けたら……また勝てるように頑張ればいい。負けたときのことなんて、今考えなくていいよね」 
 「グゥォ」 


ルカリオが頷く。 


千歌「うん」 


私も頷いた。 


千歌「……波導の力を斬撃に──!!!」 


気合いの掛け声と共に、 


千歌「──“いあいぎり”!!!!!」 
 「──グゥゥォッ!!!!!!!!!!!」 


── 一閃した。 



183: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 13:01:17.58 ID:gM5+0Wds0


    *    *    * 





善子「──……月、綺麗ね」 

千歌「……そうだね」 


私たちは湖に浮かんだまま仰向けになって、月を眺めていた。 

湖に張った氷が、真っ二つに割れ、私たちは辺りに氷の破片が浮かぶ湖を漂っていた。 

そして、近くを漂う大人一人が乗れるくらいのやや大きめ氷の上で── 


 「ソル……」 


倒れているアブソルと、 


 「グゥォッ」 


未だ立ったままのルカリオが、居た。 


善子「土壇場で自信取り戻してるんじゃないわよ……」 

千歌「……なんというかさ」 

善子「……なによ」 

千歌「やっぱり、私たちって一人で戦ってるんじゃないんだなって」 

善子「…………」 

千歌「私たちがポケモンの目になって、的確に指示して、ポケモンたちを導くみたいにさ。……私たちが自信をなくしちゃったときは、ポケモンたちが大丈夫だよって、信じてくれって、そういう気持ちを伝えて、支えてくれるんだなって」 

善子「…………あー、やっぱ千歌には勝てないわ」 

千歌「やっと気付いた?」 

善子「調子乗んじゃないわよ……さっきまで自信喪失してたくせに」 

千歌「ふふ……善子ちゃん」 

善子「……なに?」 

千歌「ありがと」 

善子「……なによ、勝者の余裕?」 

千歌「私、ちょっと自信過剰なところあるからさ……このバトルで、なんかちょっと反省出来た気がする」 

善子「……はぁー、もー……勘弁してよ……ここで反省とか、どこまで強くなる気なのよ……」 

千歌「……どこまでも、かな。仲間と一緒に、どこまでも強くなるよ」 

善子「……そっか」 

千歌「うん」 


──ちゃぷ。善子ちゃんの方から水音。 

184: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 13:01:59.76 ID:gM5+0Wds0

善子「……千歌」 


気付けば、善子ちゃんが近くまで泳いできていた。 


千歌「んー……?」 


そして、手を繋いでくる。 

二人して、並んで月を見上げる。 


善子「……一回しか言わないからね」 


善子ちゃんは照れくさそうな声で、 


善子「……私と出会って、旅して、戦ってくれて……ありがと。……本当に楽しかった」 


そう言った。 


善子「なんか負けたのに清々しい気持ちだわ……」 

千歌「えへへ……うん。私も最高に楽しいバトルだったよ」 

善子「そ……」 


私たちは二人でぼんやりと、仰向けに湖に浮かびながら、空を仰ぐ。 

満点の星空と、綺麗な月を眺め、光り輝く湖に浮かびながら。 


千歌「月……綺麗だね」 

善子「……ホントにね」 


ただ、ぼんやり……。戦いの余韻に浸りながら、夜空を、眺めているのだった。 



185: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 13:02:52.91 ID:gM5+0Wds0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【クリスタルレイク】 
no title

 主人公 千歌 
 手持ち バクフーン♂ Lv.56  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.51 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.56 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
      ルガルガン♂ Lv.53 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい 
      ルカリオ♂ Lv.61 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
      フローゼル♀ Lv.52 特性:すいすい 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:164匹 捕まえた数:15匹 

 主人公 善子 
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.53 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい 
      ドンカラス♀ Lv.57 特性:じしんかじょう 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマージ♀ Lv.52 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき 
      シャンデラ♀ Lv.52 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない 
      ユキメノコ♀ Lv.50 特性:ゆきがくれ 性格:おくびょう 個性:こうきしんがつよい
      アブソル♂ Lv.61 特性:せいぎのこころ 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:178匹 捕まえた数:88匹 


 千歌と 善子は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 




186: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/14(火) 23:58:31.77 ID:gM5+0Wds0

■Chapter080 『開催! フソウうつくしさコンテスト!』 【SIDE You】 





ことり「──飛行手段が欲しい?」 


ことりさんは私の言葉に首を傾げる。 


曜「うん。前々から思ってたんだけど……ずっと誰かに相乗りさせてもらうばっかじゃよくないなって思って」 


──グレイブ団事変から、数週間。 

やっと地方内も落ち着きを取り戻してきて、明日からフソウタウンにてうつくしさコンテストが再開する。 

今はそんなフソウタウンに向かうための荷造りをしている真っ最中だ。 


曜「せめて、普段の移動くらい自分で自由に出来た方がいいかなって……」 

ことり「……確かにそれはそうだけど……。曜ちゃんの手持ちってもう6匹居るよね? 誰か控えに回すの?」 

曜「う……確かに……」 


私の手持ちはカメックス、ラプラス、ホエルオー、ダダリン、カイリキー、タマンタで6匹埋まっている。 

誰かを控えに回そうにも、自分の中でこの6匹がしっくり来てるため、今更誰かを控えにと言われると少し困ってしまう。 


曜「7匹持つとかは~……?」 

ことり「……別にダメなわけじゃないけど……ことりはあんまり好きじゃないかなぁ」 

曜「……そもそも、なんで持ち歩くポケモンって6匹なの……?」 


慣習的に6匹を連れ歩くし、フルバトルと言えば6匹。リーグの公式戦でも6匹から3匹を選んだりと、何かと6匹と言うことにこだわりを感じる。 

だけど、何故? と言うことを考えると、なんで6匹なのかはよくわからない。 


ことり「んー……理由はいろいろあるんだけど……トレーナーが一度に把握出来る手持ちが大体6匹くらいだからかな」 

曜「把握できる……?」 

ことり「一度に指示が出来る限界点とか……あとはポケモンのコンディションに回せる気とかね。ボールの中はある程度快適だけど、やっぱり入れたまま連れ歩いてるのに外に出さないままって言うのはポケモンにとってすごいストレスだし……」 

曜「言われてみれば……」 


──外に出さないままなのはストレス。 

そういえば、梨子ちゃんと戦ったときも、それがことりさんが難色を示してた原因の一つだったんだっけ……。 


ことり「あとは、そうだね……やっぱりあんまり多く連れ歩くと、愛情を注ぎきれなくなっちゃうことが大きいと思うかな。ポケモンは道具じゃない。仲間だったり、友達だったり、家族だから……人それぞれではあるけど、利便の為に手持ちを決めるのはあんまり褒められたことじゃないかな」 

曜「……まあ、そうだよね」 


そうなると……やはり、誰かを控えに送るしかない。 


曜「……むむむむ……」 

ことり「……あ、そうだ!」 

曜「?」 


ことりさんは何かを思い出したかのように手を打って、部屋の中の棚を探り出す。 


ことり「……えっと……確かここにあった気が……」 

曜「……?」 

ことり「……あ、あった!」 

187: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:00:12.21 ID:YHpk3Rh50

そう言ってことりさんが取り出したものは── 


曜「……笛?」 


ことりさんが手に持っていたものは、少し不思議な形をした笛だった。 


ことり「うん♪」 





    *    *    * 





──セキレイタウン東。9番道路。 


ことり「それじゃ、教えた通りに吹いてみて」 

曜「う、うん!」 


私はことりさんから貰った笛に口を付けて──吹く。 


──ミャーー。ミャーーー。 


笛の音に似つかわしくない気の抜ける音が鳴る。 

……が、しばらくすると、 


 「ミャーー、ミャーー」「ミャーーー」「ミャーーー」 

曜「……! 来た!」 


キャモメたちの大群がその音を聞きつけて飛んで来る。 


ことり「キャモメさんたち、こんにちは」 

 「ミャーー」「ミャーーー」 


キャモメたちは私たちの頭や肩に次々と留まって来る。 

その際、ポケットから鳥ポケモン用の餌を取り出して、食べさせてあげる。 


 「ミャーー」「ミャーーー」 

曜「ちょっと……お手伝いしてもらってもいいかな?」 
 「ミャーーー」「ミャーーーー」 


キャモメたちが鳴きながら頭を縦に振る。 


曜「それじゃ……ちょっとごめんね」 


私はそういいながら、キャモメたちの脚に丈夫な紐を括り付ける。 

その紐の逆端には、ハンモックのような構造で布で出来た腰をかけるスペースが作られている。 


曜「……よっし。それじゃ……」 

188: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:01:40.24 ID:YHpk3Rh50

私は再び、笛に口を付ける。 

──ミャァーー。ミャァーーー。 

気の抜ける音と共に……。 

キャモメたちが空を飛び──身体が宙に浮き始める。 


曜「わっ! ほ、ホントに飛んでる……!!」 

ことり「えへへ、うまくいったね♪」 

曜「うん!」 


──ことりさんから渡されたものは、鳥笛だった。 

鳥ポケモンの鳴き声を模した音が鳴り、鳥ポケモンとのコミュケーションが出来るというものだ。 

今回ことりさんから貰ったのはキャモメの鳥笛。 

野生のキャモメたちを集めて、餌をあげる。その代わりに運んでもらおうと言う話だった。 


ことり「キャモメなら、地方中だいたいどこにでもいるし……餌はわたしが調合した特製のもの。あとで作り方教えるね」 

曜「うん!」 


あとは鳥笛を吹きながら、うまく指示を出して運んでもらう。 

それなりに高度を増してくると、後ろからことりさんがいつものようにチルタリスと一緒に飛行して追いかけてくる。 


ことり「これなら、手持ちの枠を圧迫せずに“そらをとぶ”が使えるね」 

曜「うん! ことりさん、ありがとう!」 

ことり「ふふ、どういたしまして♪」 


一部地域では、このようにポケモンを呼び出して移動の手助けをしてもらう、ポケモンライドと言う文化があるらしい。 

これはそれに近いことのようだ。 

何はともあれ……これで、私も普段の移動に限り、自分だけで飛行する手段を得ることが出来た。 


曜「よーーっし!! キャモメたち、全速前進!! ヨーソロー!!」 
 「ミャーーー」「ミャーーー」「ミャァー」 


私たちは、空を飛びながら、フソウタウンへ向かいます。 





    *    *    * 





──フソウタウン。 

旅立ちの後、初めて訪れたこの町は、もはやなんだか懐かしいとさえ感じる。 

私のコンテストの始まりの場所だ。 


ことり「わたしが曜ちゃんと出会ったのも、この町だったね」 

曜「うん。……なんかもうすごい前のことみたい」 

189: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:03:44.79 ID:YHpk3Rh50

ことりさんと会話を交わしながら、会場に足を踏み入れる。 

初めて来たとき、このエントランスであんじゅさんと偶然出会って。 

会場の中で志満姉と遭遇して、絵里さんのパフォーマンスに魅了されて。 

そして、ことりさんと出会ったんだ。 

フソウでのビギナー大会から、コメコたくましさ大会、ダリアかしこさ大会、サニーかっこよさ大会、セキレイかわいさ大会を制覇して、 


曜「……いよいよ、最後の部門だ」 


ここ、フソウ会場に帰ってきた。フソウうつくしさ大会。 

そして、今日この場で、私は乗り越えなくちゃいけない。 

始まりのきっかけになった、壁を──。 

受付に向かうと、そこには人だかりが出来ていた。 

その中央に居るのは──金髪で長身の美女。 


ことり「絵里ちゃん」 

絵里「? あら、ことり。久しぶりね」 


コンテストのスターが二人も同時に現われ、オーディエンスたちが少々ざわつく。 


絵里「今日はどうしたの? あなたはもうグランドフェスティバル内定でしょ?」 

ことり「うん。今日は私のお弟子さんの応援だよ」 

絵里「弟子……?」 


絵里さんはそう言って視線を揺らす。 

すぐに、ことりさんの近くに居た私の姿を認めたようで、 


絵里「あなた……もしかして、飛空挺に乗り込んでいた図鑑所有者の子?」 

曜「! は、はい! 曜であります!」 


思わず緊張して、背筋が伸びる。 


絵里「曜さん……。そう、あなたが……。亜里沙から話を聞いたわ。妹がお世話になったみたいね」 

曜「お、お世話なんてそんな……」 

絵里「でも、私は亜里沙のようにはいかないからね」 

曜「!」 


……絵里さんは憧れの人だ。 

だけど、同時に──今日はライバルなんだ。 


絵里「あなた、ここまで4部門をストレートで制覇してきたと聞いてるわ。さすがことりの弟子……と言ったところだけど」 

曜「……私は」 

絵里「?」 

曜「私はグランドフェスティバルに出場します。最後の一枠に入るのは、私です」 


私は何故だか、そう口にしていた。 


ことり「……!」 


そんな私を見て、ことりさんが驚いたように目を見開く。 

190: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:05:58.75 ID:YHpk3Rh50

絵里「……宣戦布告ってことね。まあ、私もこれから5回は連続で優勝しないといけないから──」 

曜「今日勝ちます」 

絵里「……! ……嫌いじゃないわ。そういう姿勢」 


絵里さんはそう言って手を差し出してくる。 


絵里「お互い、良いコンテストライブにしましょう」 

曜「はい!」 


私も答えるように、手を握り握手を交わす。 

氷のように冷たい絵里さんの手だけど、籠められた力から熱意や闘志を感じた。 


絵里「……それじゃ、私は先に楽屋に行ってるから」 


そう言って絵里さんは受付の先に消えていった。 

絵里さんがいなくなった会場内。 

私の宣戦布告に周りの人たちがざわついていたが……。 

しばらく固まったままだった私を見て、徐々にその場を離れて行く。 

一方、私は── 


曜「…………やってしまった……」 


頭を抱えていた。 

つい勢いで宣戦布告してしまった。 

グランドフェスティバルに出場するのは自分だ。今日勝ちますって……。 

失礼にも程があるでしょ……。 


ことり「曜ちゃん」 

曜「ぅ……ことりさん」 

ことり「頭抱えてる場合じゃないよ? ノーマルランクのエントリー済ませて、優勝しないと」 

曜「…………よーそろ」 


ことりさんに言われて、受付でぱぱっとノーマルランクの受付を済ませてしまう。 

まあ、しかし。毎度のことながら、ノーマルランクでてこずるわけにはいかない。 

目的はこのランクの上なわけだし。 

受付を終えて、戻ってきた私に、ことりさんがさっきの続きを話し始める。 


ことり「……ホントは、絵里ちゃんの言う通り、これから数回のうちにどこかで勝ちの目を掴めればいいと思ってたんだけど……」 


確かに、ことりさんのプランでは最初からそういう話だった。 

ここで苦戦するだろうから、ここまでを最短で抜けてきたんだ。 

でも……。 


曜「うぅん……それじゃダメなんだ」 

ことり「……どうして?」 

曜「私、ことりさんとホンキで戦いたい」 


私のことを、一番近くで見て、一番近くで鍛えて、一番近くで育ててくれた、この人と。 

191: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:06:56.31 ID:YHpk3Rh50

曜「そのためには……真っ直ぐことりさんのところに追いつかなくちゃ」 


足踏みしてる場合じゃないんだ。 


ことり「ふふ、そっか」 


ことりさんは笑いながら、私の背中をぽんぽんと叩く。 


ことり「言うようになったね、曜ちゃん」 


全力で駆け上がってきたステージ。 

ことりさんが傍で見守って、鍛えてくれたから、ここまで来れた。 

なら、その恩返しは──きっと、同じステージで戦うことだ。 


ことり「なら……行っておいで。グランドフェスティバルで待ってるから」 

曜「……勝ってくるね……!」 


こうして私は、最後の部門──フソウうつくしさ大会へと臨む……。 





    *    *    * 





──数時間後、ウルトラランク会場内。 


あんじゅ「ことり、来たわね」 

ことり「あんじゅちゃん、久しぶり」 

あんじゅ「……ホントにここまで一直線であがってくるとはね」 


関係者席から、ステージを見つめるあんじゅちゃんはそう言う。 


あんじゅ「ことりのプロデュース力には、脱帽ね……」 

ことり「うぅん、違うよ。これは曜ちゃんの力だよ」 

あんじゅ「……ふーん」 

ことり「ステージを見てればわかるよ」 

あんじゅ「……わたしたちと同じグランドフェスティバルに出場する人間に相応しいか、お手並み拝見といきましょうか」 


徐々に会場が暗転していく……大会の始まりだ。 





    *    *    * 



192: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:07:48.24 ID:YHpk3Rh50


──大会開始直前。 

舞台袖。 

暗転が始まり、コンテストライブのステージが始まろうと言うとき、 


絵里「……ふふ」 


すぐ近くに居た絵里さんから笑い声が漏れる。 


曜「……?」 

絵里「曜さん、貴方可愛いわね」 

曜「……はい?」 


絵里さんは私たちを見ながらクスクス笑う。 


絵里「綺麗に着飾るの……素敵だと思うわ」 

曜「え……あ、ありがとうございます」 


何故か急に褒められる。 


絵里「まあ……でも、それはコンテストライブの結果にはあんまり影響はないと思うけど」 

曜「……」 


お礼を返してから、エントランスでのやり取りに対する仕返しのような皮肉だったと気付く。 

意外と大人げないなとは思ったけど……まあ、失礼なことを先に言ったのは私だし、しょうがないか。 

ただ……。 


曜「そんなことないと思いますよ」 


私はそう言葉を返す。 


絵里「あら、そうかしら?」 

曜「ポケモンを魅力的に見せるのには衣装の力も大事だと思います」 

絵里「貴方、ことりみたいなことを言うのね。……やっぱり師匠の影響なのかしらね」 


この人はあまりポケモンの衣装を重視していない。 

二次審査でのアピールに絶対的な自信があるんだろう。 


曜「それを今日ここで証明します」 

絵里「……楽しみにしてるわ」 


いよいようつくしさ大会の、幕が上がる──。 





    *    *    * 



193: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:09:43.06 ID:YHpk3Rh50


司会『レディース・アーンド・ジェントルメーン!! お待たせしました、コンテストの聖地、ここフソウタウンにて繰り広げられる、最もうつくしいポケモンを決めるコンテスト……フソウうつくしさコンテスト・ウルトラランクのお時間です!!』 


毎度お馴染み眼鏡がトレードマークの司会のお姉さんの口上と共に、大会がスタートする。 


司会『さて、早速出場ポケモンとコーディネーターの紹介です! エントリーNo.1……エーフィ&カズマ! エントリーNo.2……ミロカロス&コハル!』 


今回の対戦相手は、エーフィ使いのエリートトレーナー。ミロカロス使いのおじょうさま。 

ミロカロスが登場すると、早速会場が沸き立つ。 

さすがミロカロス、うつくしさの代名詞とまで言われているポケモンなだけはある。 

だが、その空気はすぐに一変する。 


司会『エントリーNo.3……キュウコン&エリ!!』 


司会の人の声と共に、絵里さんと真っ白なキュウコンにスポットライトが浴びせられると──会場は割れんばかりの声援に包まれる。 

それだけ、ファンが多いのだ。 

だけど── 


司会『エントリーNo.4……ラプラス&ヨウ!!』 


固定ファンの数で負けていても、構わない。 

だって、それも含めて全てを魅了するためにここに来てるんだから……!! 

ラプラスにスポットライトが浴びせられると──。 

会場が逆に静まり返った。 

──その、余りに儚く、うつくしい様相に、だと思う。 

今回の衣装イメージは、ウェディングドレス。 

真っ白なレースをベースとして、全身にあしらわれた生地が、スポットライトを反射して上品に光り輝いている。 

頭にはマリアベール。そしてベールの内側にワンポイントで青い花を添えている。 

首から上だけではなく、ラプラスの背中からも、だらしなくならない程度に生地を作り、ラプラスが僅かに身動ぎするだけで、軽いレース生地がふわふわと舞う。 


司会『……はっ! 失礼しました。うつくしさの権現ことミロカロスが会場を魅了したかと思いきや、大人気コーディネーター・エリさんとキュウコンがその歓声を掻っ攫い、その後に現われた超新星コーディネーター・ヨウさんが気合いの入ったウェディングドレスによって、その歓声を静寂に変えてしまいました……!! かくいう私も見蕩れてしましましたね……』 


好感触──いや、当然だ。 

ことりさんと考えに考え抜いた、ラプラスのためだけに作られた衣装だ。 

一次審査は絶対に貰う。そのつもりで来た。 

もうすでに会場内はアナウンス前だというのに私の色の青があがり始めている。 


絵里「…………」 


一瞬、絵里さんが視界の端に入る。 

腰に手をあてて余裕の表情だった。 

……最初から一次審査には興味がないとでも言いたげだ。 


司会『さあ、一次審査開始です! ミロカロスは赤、エーフィは紫、キュウコンは白、ラプラスは青でお願いします!』 


司会のお姉さんの声と共に、会場は青く染まっていく。 

白もそれなりに多く、次いで赤、紫が続く。 

── 一次審査だけなら、私たちの圧勝だ。 

194: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:11:18.22 ID:YHpk3Rh50

司会『さあ、そろそろ集計を締め切りますよ! 皆さん、投票の色はあげましたか~?』 


一次審査の集計締め切りのための最後の確認。 


司会『それでは、ここで一次審査終了です! このまま二次審査へ進みたいと思います!』 





    *    *    * 





ことり「やった……! 曜ちゃんが一次審査は圧勝……!」 

あんじゅ「そうね……でも、勝負はここから。絵里さんには……アレがある」 





    *    *    * 





──今回の戦いにおいて、私はそもそも一次審査で負けているようじゃダメなんだ。 

絵里さんには……Z技がある。 

全てを魅了する、まさに規格外のアピールが。 


司会『二次審査開始です! アピールはラプラス、キュウコン、ミロカロス、エーフィの順でお願いします』 

曜「いくよ……! ラプラス!」 
 「キュウーーーー」 

曜「“いやしのすず”!!」 
 「キュゥ~~~~~~」 

 《 “いやしのすず” うつくしさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡ ◆ 
   ラプラス◆ +♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


鈴の音が響き渡る。 

今回の大会、絵里さんという優勝常連が居る以上、先手を取るとひたすら狙われやすい。 

アピールを特化したいところではあるけど、攻撃が来るとわかっていて守らないのもそれはそれでおかしいことだ。 

まずは防御技の“いやしのすず”から。 


司会『うつくしい鈴の音が会場を包み込みます! ラプラスはこの鈴の音に守られて、後続のアピールに備えるようですね!』 


絵里「キュウコン、“オーロラベール”!」 
 「コーーーン」 

 《 “オーロラベール” うつくしさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡♡ ◆ 
   キュウコン◆ +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


鈴の音に被せるように会場にオーロラが広がっていく。 

絵里さんも自分が狙われるのは百も承知のようだ。 

最初は手堅く守りの技で来た。 

195: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:14:20.27 ID:YHpk3Rh50

コハル「ミロカロス! “なみのり”!」 
 「ミロォォ」 

 《 “なみのり” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥ 
   ミロカロス +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


ミロカロスの鳴く声と共に周囲に放たれた水のエネルギーが波となって押し寄せる。 

自分より前のアピールを妨害する技だが……。 


 「キュゥ」 

 《 ラプラス◆ 
   Total [ ♡♡ ] 》 


 「コーン」 

 《 キュウコン◆ 
   Total [ ♡♡♡ ] 》 


二匹のポケモンはしっかり守りを固めている。 


カズマ「エーフィ!! “サイコショック”!!」 
 「フィーーー!!!!!!」 

 《 “サイコショック” うつくしさ 〔 自分の 前に アピールした ポケモンを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥♥ 
   エーフィ +♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》 


 「ミロッ!!?」 

 《 ミロカロス -♥♥♥♥ 
   Total [ ♥ ] 》 


逆にそこを付いたエーフィが“サイコショック”でミロカロスを驚かす。 

ミロカロスは減点だ。 


 《 1ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
   ラプラス   ♡♡  [ ♡♡  ] 
   キュウコン  ♡♡♡ [ ♡♡♡ ] 
   ミロカロス  ♥   [ ♥   ] 
   エーフィ    ♡♡  [ ♡♡  ]                     》 


そのままコンテストライブは2ターン目に進む──。 





    *    *    * 





あんじゅ「キュウコン♡3、ラプラス♡2、エーフィ♡2、ミロカロスは♡-1 エキサイトは4」 


あんじゅちゃんはカウントを始める。 


あんじゅ「まあ、初手はこんなものよね」 

ことり「うん」 



196: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:18:13.82 ID:YHpk3Rh50


    *    *    * 





絵里「キュウコン! “あられ”!」 
 「コーーーンッ」 

 《 “あられ” うつくしさ 〔 アピールが 上手くいった ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡♡ ♥ 
   キュウコン +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》 


キュウコンが鳴くと会場内に“あられ”が降り始める。 

本来は妨害技だが、このターン一番手のアピールのキュウコンには関係がない。 


司会『さあ、ポケモンたちのうつくしい技の応酬に盛り上がる会場を更に幻想的な雰囲気へと誘います!!』 


降り注ぐ氷の粒たちはスポットライトを照り返して、キラキラと光る。 

その光景を見て、観客の人たちが息を呑むのがわかる。 

確実に会場の空気が出来上がりつつある中、大技ではなく“あられ”を使ったのは、コンボのためだろう。 

審査員席から注目の視線が飛んできているのがわかる。 

更に高まったエキサイトから繰り出されるのはもちろん── 


絵里「キュウコン! ライブアピール!! “ぐれーす☆ファンタジー”!!」 
 「コォォーーーーンッ」 

 《 “ぐれーす☆ファンタジー” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 フェアリータイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡ 
   キュウコン +♡♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》 


キュウコンがフェアリーのオーラを放つ。 

そのオーラは会場の情景そのものをまるで違うファンタジーへと塗り替え──会場は月夜に包まれる。 

そのまま、キュウコンはさらに大量のオーラを放ちながら、優雅に月夜を歩く。 


司会『まるでその姿は月下美人……!! フェアリータイプ特有の妖艶な雰囲気が会場をうつくしく彩っています!!』 


ライブアピールは大成功、キュウコンは周りにどんどん差をつけていくが──負けていられない。 


曜「ラプラス! “こおりのいぶき”!!」 
 「キュゥゥゥーーーー!!!!!!!」 

 《 “こおりのいぶき” うつくしさ 〔 盛り上がらない アピールだったとき 会場が とても しらけてしまう 〕 ♡♡♡♡ 
   ラプラス +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


ラプラスは辺りを凍て付かせる息吹を口から吹き出す。 


司会『ラプラスは“こおりのいぶき”で対抗です! 吐息が凍りつき、これまたうつくしい光の反射で会場を魅了します!』 


エキサイトに関してはタイミング運もある。 

変に意識せずに自分のアピールを手堅くやらないと。 

197: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:19:59.89 ID:YHpk3Rh50

カズマ「エーフィ! “にほんばれ”だ!」 
 「フィィイイーーー!!!!!」 

 《 “にほんばれ” うつくしさ 〔 会場が 盛り上がっている ほど アピールが 気に入られる 〕 ♡~♡♡♡♡♡♡ 
   エーフィ +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


そんな凍りの風景を掻き消すように日射が降り注ぐ。 


司会『おっと、状況は一変!! エーフィも負けじとコンボのための“にほんばれ”を使います!』 

コハル「ミロカロス、“みずのはどう”」 
 「ミロォォーーー」 

 《 “みずのはどう” うつくしさ 〔 観客の ほかの ポケモンへの 期待を なくすことが できる 〕 ♡♡♡ 
   ミロカロス +♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


そんな中ミロカロスの放った、“みずのはどう”が周囲の陽炎と霰を吹き飛ばした。 

“みずのはどう”はコンボを掻き消す妨害技だ。 


司会『そこにすかさず、コンボは許さないと言わんばかりの“みずのはどう”! 本日のウルトラランクは攻防が入り混じるレベルの高い戦いとなっております!』 


絵里「──…………」 


絵里さんを自由に動かさないのは、他の参加者全員の共通認識だ。 

それでも、絵里さんは圧倒的にアピールが強い。だから、何度もこのランクで優勝している。 

手堅く邪魔をされても、全く動揺を見せないのは、それくらいは絵里さん自身もわかっていると言うところだろう。 


 《 2ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
   キュウコン ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡  ] 
   ラプラス   ♡♡♡♡♡     [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡      ] 
   エーフィ   ♡♡♡       [ ♡♡♡♡♡         ] 
   ミロカロス  ♡♡♡♡     [ ♡♡♡           ]      》 


司会『さあ、3ターン目です! キュウコン、ラプラス、ミロカロス、エーフィの順でお願いします!』 


順番は相変わらずキュウコンが一番手。 

どうにも大きな動きがないまま、進行しているが──。 

前のターンの始めに会場のボルテージは一旦MAXに達し、次の波が来るのはこのまま行けばラプラスの手番になる。 

これが好機だ── 


絵里「……ふふ」 


絵里さんが微かに笑うのが見えた。 


絵里「キュウコン! “スイープビンタ”!」 
 「コォーーンッ!!!!!」 

 《 “スイープビンタ” かわいさ 〔 だすときに よって アピールの 出来具合が いろいろと 変わる 〕 ♡~♡♡♡♡♡♡♡♡ 
   キュウコン +♡♡♡♡♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


曜「!?」 

198: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:21:12.07 ID:YHpk3Rh50

キュウコンが尻尾をかわいらしく振るう。 

うつくしく、じゃない。かわいらしくだ。 


司会『おっとぉ!? ここでキュウコン“かわいさ”アピールですっ! 部門こそ違いますが、技のキレはかなりのものです!』 

曜「……っ やられた……」 


エキサイト操作だ。 

二番手につけている私が強力なアピールをすることを咎めるために、わざと“かわいさ”技を使ったんだ。 

絵里さんはただ自分をアピールするだけでなく、自分のライバルと成り得る相手を素早く見抜いて、攻防を上手に切り替えるお手本のような対応型……。 

……どうする? 


曜「……ラプラス! “あられ”!」 
 「キュゥゥーーー」 

 《 “あられ” うつくしさ 〔 アピールが 上手くいった ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡♡ ♥ 
   ラプラス +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》 


再び、会場内には“あられ”が舞い始める。 

逃してしまったものは仕方ない。 

私は次のターンへの布石を撒きながら、キュウコンのスイープビンタを妨害するように技を選択する。 


 「コン…!!」 

 《 キュウコン -♥♥♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡ ] 》 


司会『さあ、ラプラスも負けていません! “あられ”でキュウコンの妨害をしながら、審査員の注目を集めます!』 


コハル「ミロカロス、“アクアテール”!」 
 「ミロォ」 

 《 “アクアテール” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   ミロカロス +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》 


ミロカロスが優雅に尾ひれを振るうと、そこから水のエネルギーが漏れ出し、会場内に水しぶきが舞う。 

細かい水の粒子は、これまた会場中の光を乱反射して、会場を沸き立たせる。 

──私が逃した、ボルテージが最高潮に高まる瞬間。 


コハル「“グレースブレッシングレイン”よ」 

 《 “グレースブレッシングレイン” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 みずタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡ 
   ミロカロス +♡♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》 


“アクアテール”で会場中に舞った水のエネルギーが、上空まで舞い上がり雨となって会場をうつくしく彩る、ライブアピール。 

上手く技を披露し、会場は大いに盛り上がっている。 

──だが、目立つと言うのはリスクでもある。 


カズマ「エーフィ! “サイコショック”!」 
 「フィーーーッ!!!!」 

199: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:22:07.19 ID:YHpk3Rh50

 《 “サイコショック” うつくしさ 〔 自分の 前に アピールした ポケモンを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥♥ 
   エーフィ +♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


 「ミロッ」 

 《 ミロカロス -♥♥♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡ ] 》 


ミロカロスは再びエーフィの“サイコショック”に怯まされる。 

かなりアピールが上々だったため、減点を食らっても尚、ミロカロスの得点は大きいが……二匹がぶつかり合ってくれる分には助かる。 

大会は後半戦へと突入する──。 





    *    *    * 





 《 3ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
   キュウコン ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ♥♥♥♥   [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡ ] 
   ラプラス   ♡♡♡             [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡      ] 
   ミロカロス  ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡       ] 
   エーフィ    ♡♡              [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡          ] 》 


あんじゅ「キュウコン♡15、ラプラス♡10、ミロカロス♡9、エーフィ♡7……エキサイトは1」 

ことり「曜ちゃん……!」 





    *    *    * 





コハル「ミロカロス、“りゅうのはどう”!」 
 「ミロォーーー」 

 《 “りゅうのはどう” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   ミロカロス +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


ミロカロスが口から吹き出す波動がうねりながら会場の中空を舞う。 

手堅いアピールから── 


絵里「キュウコン! “でんこうせっか”!」 
 「コーーンッ!!!」 

 《 “でんこうせっか” かっこよさ 〔 この次の アピールを はじめの方に だすことが できる 〕 ♡♡♡ ① 
   キュウコン① +♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


キュウコンが身軽な身のこなしをアピールする。 


曜「……っ!! ま、また……!!」 

200: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:24:28.69 ID:YHpk3Rh50

今度は“かっこよさ”技の“でんこうせっか”を使ってくる。 

しかも、この技は次回のアピールが一番先頭になる。 

絵里さんの定石は最後のターンに大技を真っ先に決めて圧倒するために、先手を取れる技を使う。 

しかも、ここでエキサイトの調整を行い、それを磐石なものにする。 


司会『さあ、キュウコン! いつものように、最後のターンは頭に出てきました! また、あの大技で全てを押し切る作戦なんでしょうかっ!』 

曜「……“こなゆき”!!」 
 「キュウウーーー!!!!!」 

 《 “こなゆき” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   ラプラス +♡♡♡♡ CB+♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


“あられ”の舞うステージ上に、“こなゆき”を舞わせる。 


司会『さあ、そんな中ラプラスはコンボを成功させます! “あられ”の中で舞い踊る“こなゆき”が綺麗ですね……!! これは高得点が期待できます!』 


これで、ほぼキュウコンには追いついたはずだ……! 

まだ、ステージは終わったわけじゃない……!! 


カズマ「エーフィ! “マジカルシャイン”!!」 
 「フィーーー!!!!」 

 《 “マジカルシャイン” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   エーフィ +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》 


エーフィが閃光を放ち、これまた手堅いアピールで点を稼ぐ。 

そして、コンテストライブは最終ステージへ──。 





    *    *    * 



201: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:26:04.38 ID:YHpk3Rh50


 《 4ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
   ミロカロス   ♡♡♡♡♡     [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡     ] 
   キュウコン① ♡♡♡       [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 
   ラプラス     ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 
   エーフィ     ♡♡♡♡♡     [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡        ] 》 


あんじゅ「……勝負あった……かしらね」 

ことり「…………」 

あんじゅ「ことり、Z技の評価点って知ってる?」 

ことり「……絵里ちゃんが使うまで前例がなかったから、新しく評定基準が作られたんだよね」 

あんじゅ「そうよ。1回しか使えない大技だけど……アピールポイントは他の超大技以上の♡11ってことになってる。それに加えてエキサイトが次のターンの最初のアピールでMAXに到達する。……♡17」 

ことり「……」 

あんじゅ「確かに強敵相手に健闘したとは思う……だけど、この時点でキュウコン♡18、ラプラス♡18、ミロカロス♡15、エーフィ♡12……ここで同点じゃ、曜に勝ち目はない。それこそZ技を越えるアピールをしないと」 

ことり「うぅん」 

あんじゅ「?」 

ことり「曜ちゃんはきっと負けないよ」 

あんじゅ「……?」 





    *    *    * 





司会『さあ、最終ターンです!! アピール順はキュウコン、ラプラス、エーフィ、ミロカロスの順です!!』 


ついに最終ターン。 


絵里「キュウコン!! 行くわよ!!」 


絵里さんの腕輪が光り輝く。 

掛け声と共に、横に、縦に、素早く、両腕を真っ直ぐ伸ばす。前にも見た鋭利な刃物のようなジェスチャー、 

そして、それと共に腕輪の光は大きくなり、そのオーラがキュウコンに宿る。 


絵里「キュウコン!! 全力のZ技!! “レイジングジオフリーズ”!!!」 
 「コォォォォォオーーーーーンッ!!!!!!!」 

 《 “レイジングジオフリーズ” うつくしさ 〔 1度しか 使えないが すごくアピール できる 〕 ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ 
   キュウコン +♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》 


キュウコンは透き通るような雄叫びと共に、足元から迫りあがる巨大な氷柱と共にステージの高所まで上昇していく。 


 「コォォォォーーーーンッ!!!!!!」 


そして、そこからステージ上に向かって一気に冷気を放ち、 

周囲の空気を一気に凍て付かせ──。 

巨大な氷の結晶を作り上げる。 


絵里「キュウコン、フィニッシュ」 
 「コォーンッ」 

202: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:27:05.38 ID:YHpk3Rh50

キュウコンが氷柱を駆け下りると同時に、氷の大結晶が砕け、大きな結晶が光を乱反射して会場を沸き立たせる。 

そしてそこから、更に── 


絵里「キュウコン、ライブアピール。“アイシクルグレース”……!」 
 「コォーーーンッ」 

 《 “アイシクルグレース” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 こおりタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡ 
   キュウコン +♡♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡♡♡³⁰♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》 


キュウコンが追加で放った冷気が、落ちてくる結晶たちを再び凍て付かせ、 

それが先ほどとは違う形で結晶化し、さきほどとは違う輝きで会場中に光を落とす。 


 「コォーーーンッ!!!!!!」 


そして、次の瞬間、キュウコンの鳴き声と共に、その結晶たちは粉微塵に割れ砕け、その破片がダイヤモンドダストのようなうつくしい光の宝石となって会場中を踊る。 


司会『美しい……本当に美しいです……!! 今回もしっかり決めてきました、Z技・レイジングジオフリーズ!! さらにそこから、“アイシクルグレース”を繋げました!! 素晴らしい……本当に素晴らしいアピールです!!』 

絵里「……ふふ」 


絵里さんが得意気に笑いを漏らす。 

会場はその技の作り出す幻想的な氷の情景に目を奪われ。 

他の参加者も、 


カズマ「……」 

コハル「……」 


言葉を失っている。 

もうこの会場はキュウコンと絵里さんのもの。 

そう言わんばかりの空気の中── 

──……再び巨大な氷柱が迫り出した。 

203: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:28:39.47 ID:YHpk3Rh50

絵里「……!?」 


今度はラプラスの真下に、 


曜「ラプラスッ!!!」 
 「キュゥゥゥーーーー!!!!!」 


見よう見真似の刃物のようなジェスチャー、それに呼応するように光るラプラス。 


絵里「そ、そんな!? まさか、Z技……い、いや違う、あれは……!!?」 


そう、違う。この技はZ技ではない。 

Z技の見よう見真似だ。 


曜「“ものまね”!!」 
 「キュゥゥゥゥゥーーーーー!!!!!!」 

 《 “ものまね” かわいさ 〔 1つ前の ポケモンの アピールと 同じくらい 上手くできる 〕 ♡~ 
   ラプラス +♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡♡♡³⁰♡♡♡♡♡³⁵♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【★★★★★】 》 


ラプラスの冷気が、再び大きな氷の結晶を形作り、 


曜「ラプラス、フィニッシュ!!」 
 「キュウッ」 


ラプラスが氷柱を滑り降りる。 

最初から最後まで見よう見真似で再現された技で。 

──バキリ、 

と音を立てて、再び大結晶が割れ砕け、会場に更なるダイヤモンドの輝きを散らせる。 





    *    *    * 





あんじゅ「……!!!」 


あんじゅちゃんが目を見開いて立ち上がる。 


ことり「絵里ちゃんは自分たちの技を過信してた」 


唯一無二の個性であるZ技の存在。 

だけど── 


あんじゅ「“ものまね”なら直前のポケモンと全く同じアピールが出来る……!!」 

ことり「そして、二次審査で追いついたっていうことは……」 





    *    *    * 



204: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:30:43.26 ID:YHpk3Rh50


 《 5ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
   キュウコン ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡  [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡♡♡³⁰♡♡♡♡♡   ] 
   ラプラス   ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡♡♡³⁰♡♡♡♡♡³⁵♡ ] 
   エーフィ    ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡            [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡                  ] 
   ミロカロス  ♡♡♡♡                 [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡                      ] 》 


司会『──これにて全てのアピールが終了……結果発表へと移りたいと思います!!』 


司会の人の言葉と共にモニターに、得票を表すメーターが現われる。 

二次審査の得票を表す青ゲージ── 一気に伸びる二本のゲージはキュウコンとラプラスのもの。 

それは同時に伸びるのをやめる。 

──だが、 


絵里「……うそ」 


 《   ポケモン    一次審査 | 二次審査 
   【 エーフィ 】 〔 ♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                                   〕 
   【.ミロカロス】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                               〕
   【キュウコン】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡             〕 
  ✿【 ラプラス 】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ 〕 》 


── 一次審査の得票を表す赤いゲージは、ラプラスがぶっちぎりで1位の獲得していた。 


司会『二次審査ではほぼ同率だった、キュウコンとラプラスですが── 一次審査の結果が明暗を分けました!! 今回のフソウうつくしさコンテスト・ウルトラランク優勝は──エントリーNo.4!! ラプラス&ヨウさんです!!!』 


その言葉と共に会場が割れんばかりの歓声に包まれる。 


曜「……っし!!!」 
 「キュゥゥーーーー!!!!!」 

曜「ラプラス……!! やったよ!!」 
 「キュゥゥゥーーーー!!!!!!」 


私たちはラプラスと抱擁を交わし、喜びを分かち合う。 


司会『そして、同時に今回の優勝者であるヨウさんは5部門全てを制覇したため、規定通りウルトラランク全部門制覇による持ち点の倍増が行われます!!』 


私も持ち点は今回この優勝を以って──60pt 

その倍で──120ptだ。 


司会『100ptを超えマスターランクへの昇格──現時点を以って、グランドフェスティバルへの出場権を獲得したことになります!!』 


再びスポットライトが私たちに当たる。 

それにあわせて大きな拍手と、歓声が私たちに浴びせられる。 

ああなんか……こうして喝采を浴びるのはすごく、気分がいい。 


司会『そして、この時点で現コンテストクイーンを含め、グランドフェスティバルへの出場権を得たコーディネーターが4人決定しました!! 2年振りに全てのコーディネーターの頂点を競う大会、グランドフェスティバルの開催が決定致しました!!』 


本当に割れんばかりに拍手喝采が会場を包み込む。 


司会『そんなグランドフェスティバルへの最後の切符を手に入れた曜さん!! 一言いただけますか!!』 


そう言って、司会のお姉さんがマイクを向けてくる。 

そのマイクを握って私は── 

205: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:32:16.65 ID:YHpk3Rh50

曜「──ここまで来たら……グランドフェスティバル!! 優勝します!!」 

司会『おお!? 優勝宣言です!! 曜さん、ここで優勝宣言!! これはグランドフェスティバルが本当に楽しみですね……!! ということで、今回のフソウ大会はこの辺で────』 





    *    *    * 





曜「──やってしまった……」 


あんじゅさんの楽屋に行ったときも、今日の絵里さんとの邂逅のときも、 

どうして私は、こうビッグマウスを叩いてしまうんだろうか。 

今日の大会、どう考えても、現クイーンのあんじゅさんも、前クイーンのことりさんも、見てたのに。 

大会後、戻ってきた楽屋で頭を抱える。 

そんなところに、 


絵里「曜さん、ちょっといい?」 


絵里さんが声を掛けてきた。 


曜「え、あ、はい!」 


だいぶ生意気言ったし……怒ってるのかも。 


絵里「……曜さん」 


絵里さんは、私の名前を呼んでから── 

手を差し出して、 


絵里「私の完敗よ」 

曜「え」 


握手を求めてきていた。 

応じて、絵里さんの手を握る。 


絵里「私……慢心していたわ。自分にしかない特別な技を過信して、コンテストというものを侮っていたみたい」 

曜「い、いや、そんなこと……!」 

絵里「いいえ……確かに私は自分の技には自信があったけど……。それに慢心して、他の部分を磨くことを忘れていたみたいだわ。今は、あなたのお陰で目が覚めた気分よ」 

曜「……!」 

絵里「衣装……そうね、あんまり器用じゃないから、どこまで出来るかわからないけど……。私も次コンテストのステージに立つときは、キュウコンをもっと美しく魅せられるように、あの子の衣装を考えようと思うわ」 


──伝わった。 

私の伝えたかった、魅力が伝わって。 

一人の人の気持ちを変えたんだ。 

それがなんだか、溜まらなく嬉しかった。 


曜「はい……!! 楽しみにしてます……!!」 

206: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:33:16.84 ID:YHpk3Rh50

絵里さんと硬い握手をし、私のうつくしさ大会は幕を閉じたのでした。 





    *    *    * 





──エントランスホールに戻ると、 


ことり「曜ちゃーん!!!」 

曜「わわっ!?」 


ことりさんが突進するように抱きついてくる。 


ことり「信じてたよ! 曜ちゃん!!」 

曜「わ、わー!! ことりさん、苦しいって!?」 


ことりさんに抱きつかれて、ジタバタする私。 


 「ことりちゃん、その辺にしてあげないと、曜ちゃんが困ってるわ」 

曜「……!」 


そして、そんなことりさんの背後から、聞き覚えのある幼馴染の姉の声。 


曜「志満姉!」 

志満「曜ちゃん、久しぶり。見てたわよ、素晴らしいコンテストライブだったわ」 

曜「えへへ……照れちゃうよ」 

ことり「とーぜんですっ!! ことりの自慢の弟子なんだから!」 

あんじゅ「なんで、ことりが胸張るのよ……」 


呆れながら、声を掛けてくるのはあんじゅさん。 


曜「あ、あんじゅさんっ!」 

あんじゅ「久しぶりね、未来のクイーンさん」 

曜「ぅ……」 


やっぱり、私の優勝宣言、聞かれてた。 


曜「あ、あれはそのー……弾みというかー……テンションがあがりすぎてたというかー……」 

あんじゅ「まあ……チャレンジャーはあれくらい元気がよくないと張り合いがないわ」 


そう言って、あんじゅさんは手を差し出す。 


曜「!」 

あんじゅ「ようこそ……マスターランクのステージへ」 

曜「……はい!」 


あんじゅさんと握手を交わす。 

207: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:34:50.45 ID:YHpk3Rh50

志満「それにしても……本当についこの間コンテストを知ったばっかりの曜ちゃんがここまで来るなんて……」 

曜「えへへ……これも全部ことりさんのお陰だよ」 

ことり「うぅん、曜ちゃんと──ポケモンたちが頑張ってきたお陰だよ」 


ことりさんはそう言って私の頭を撫でる。 


あんじゅ「ことり、その辺にしておきなさい? 今度はその子と戦うことになるんだから」 

曜「……そっか」 


そうだ、次のコンテストライブのステージで戦うのは、ここにいるあんじゅさんとことりさんなんだ。 


ことり「ん……そうだね。ライバル同士が戦いの前に必要以上に仲良くしてるのもあんまり良くないもんね」 

曜「ライバル……」 


ことりさんにライバルと言って貰えるくらいのステージまで、私は登ってきたんだと実感が沸いてくる。 


あんじゅ「やっとね」 

志満「……そうね」 

ことり「曜ちゃんともだけど……やっと、二人とも戦える」 

曜「……ん?」 


二人とも……? 

……? 

私は少し頭を捻る。 

前々から気になっていたけど……どうして、志満姉はことりさんやあんじゅさんとこんなに仲が良いのだろうか。 

あんじゅさんの楽屋へも顔パスだったし……。 

──いや、その答えはここまでに出てきた情報を整理すると、自然と導き出された。 


曜「まさか……グランドフェスティバルのもう一人の出場者って……!」 

志満「……ええ、私よ」 

あんじゅ「言ってなかったの?」 

志満「わざわざ言う必要もないかなって……」 

ことり「志満ちゃんは、たくましさ、かっこよさ大会だと上位常連なんだよ~」 

曜「そっか……そうだったんだ……!」 


どうりであんなにコンテストが詳しかったわけだ。 

……というか、私は期せずしてとんでもない人たちに目を掛けて貰って、ここまで来たのかもしれない。 


あんじゅ「出場枠が全て埋まった時点で、近日中にグランドフェスティバルが開催する運びになると思うわ。現クイーンとして、この戦いに臨めることを嬉しく思うわ」 

ことり「うん!」 

志満「グランドフェスティバル……楽しみね」 

曜「よ、よろしくお願いします!」 


かくして──私はついに、グランドフェスティバルへの出場権を手に入れ、この地方のコーディネーターの頂点を決める大会へと挑戦できることになったのでした。 



208: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:35:42.10 ID:YHpk3Rh50


    *    *    * 





──夜。 

髪を拭きながら、ホテルのシャワールームから出てくると、 


曜「あれ? ことりさん、どこかいくの?」 


ことりさんが窓から、出掛けようとしているところだった。 


ことり「あ、うん。ちょっとセキレイに用事があって、一旦戻るんだ」 

曜「セキレイ……? グランドフェスティバルって、フソウの会場でやるんでしょ? しかも、近日中って言ってたし……」 

ことり「まあ、そうなんだけど……ちょっと大事な用事だから。もちろん大会までには戻ってくるよ♪」 

曜「そ、そうなんだ……」 

ことり「この部屋は曜ちゃんが自由に使っていいからね。それじゃ」 


そう言って、ことりさんは飛び出して行ってしまう。 


曜「大事な用事……グランドフェスティバルの準備よりも……? ……なんだろう」 


窓の外で、夜闇の中を飛んでいく、ことりさんの後姿をぼんやりと眺めながら、私はそんなことを呟くのだった。 



209: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:36:09.28 ID:YHpk3Rh50


    *    *    * 





── 
──── 
────── 





    *    *    * 



210: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:36:57.93 ID:YHpk3Rh50


──セキレイシティ。 


梨子「……戻ってきた」 


私はセキレイジムに訪れていた。 

旅の最中、ぶつかった大きな壁。 

今回、オトノキ地方を旅して周って、自分を見直すきっかけになった、大きな壁のある場所に。 


梨子「…………」 


目を閉じる。 

目を閉じて──自分の腰についているボールを順番に撫でる。 


梨子「……ふぅ」 


息を整えながら、 


梨子「……ムーランド、メブキジカ、ネオラント、チェリム、ピジョット、メガニウム──」 


仲間達の名前を確かめるように呼んでから、 


梨子「……よし! 行こう、皆!」 


私は、ジムの中へと踏み出す。 


梨子「た、たのもぉーーーーっ!!!」 


そして、慣れない感じの大きな声で、叫んでみる。 

すると、奥で一人の女性が、待っていた。 

211: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:38:00.75 ID:YHpk3Rh50

ことり「──梨子ちゃん。待ってたよ」 

梨子「……ことりさん、セキレイジムに挑戦しに来ました」 


私はバッジケースを開いて、7つのバッジを見せる。 


ことり「バッジ7つ……確かに。じゃあ、これが最後のジムバトルだね」 

梨子「はい!」 

ことり「わかりました。使用ポケモンは5体。交換は自由。相手の全てのポケモンを戦闘不能にした方が勝利です」 

梨子「ち、ちなみに……また全部モクローとかってことは……?」 

ことり「今回はことりもホンキの手持ちで戦うから、モクローはいないよ」 

梨子「ほ……」 


何故か安心してしまう。 


ことり「ただ……モクローとは比べ物にならないほど強いからね?」 

梨子「……はい! 望むところです!!」 

ことり「ふふ、良いお返事です♪ それじゃ──」 


ことりさんがボールを構える。 


ことり「セキレイジム・ジムリーダー『ゆるふわハミングバード』 ことり。全力で行きますっ!!」 

梨子「よろしくお願いしますっ!!」 


お互いのボールが宙を舞う──私の最後のジム戦の火蓋が、切って落とされたのだった。 



212: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 00:39:12.69 ID:YHpk3Rh50


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【フソウタウン】【セキレイシティ】 
no title

 主人公 曜 
 手持ち カメックス♀ Lv.53 ✿ 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい 
      ラプラス♀ Lv.47 ✿ 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
      ホエルオー♀ Lv.45 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい 
      ダダリン Lv.47 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん 
      カイリキー♂ Lv.44 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん 
      タマンタ♀ Lv.42 ✿ 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい 
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:161匹 捕まえた数:23匹 コンテストポイント:120pt 

 主人公 梨子 
 手持ち メガニウム♀ Lv.56 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.51 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい 
      ピジョット♀ Lv.50 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん 
      ネオラント♀ Lv.45 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
      メブキジカ♂ Lv.55 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん 
      ムーランド♂ Lv.43 特性:きもったま 性格:ゆうかん 個性:しんぼうづよい 
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:135匹 捕まえた数:14匹 


 曜と 梨子は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 




213: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 02:41:57.71 ID:YHpk3Rh50

■Chapter081 『見つけた答え』 【SIDE Riko】 





──二つのボールが宙を舞う。 


梨子「行くよ!! チェリム!!」 
 「チェリー」 

ことり「ケンホロウ! お願い!」 
 「ケーーンッ!!!!!」 


ことりさんの一番手はケンホロウ。 


ことり「“エアスラッシュ”!!」 
 「ケンホッ!!!!!」 

梨子「! “ころがる”!」 
 「チェリー」 


開幕飛んで来る“エアスラッシュ”を全力で転がって回避する。 

こちらは手持ちのタイプ的に相性が不利なのはどうにもならない。 

となれば狙いうちをされないように、出来るだけ動き回る。 


梨子「チェリム! “にほんばれ”!」 
 「チェリー……チェリリーーーッ!!!!!」 


“ころがる”で加速しながら、チェリムが天気を晴らす。 

一番手のチェリムの役割は基本的には場作りだ。 

そして、豊富な補助技による撹乱──。 


梨子「“くさぶえ”!」 
 「チェリーー♬♩♫」 

 「ホ、ホロ……」 


いくら鳥ポケモンが素早いとは言え、室内で音から逃げるのは難しいはず。 

案の定ケンホロウはうとうとと、し始める。 


梨子「“グラスフィールド”!!」 
 「チェリリッ!!!!!」 


辺りに草原が広がる。いい調子で場作りが出来ている。 


梨子「よし、次は──」 


次の指示を送ろうとした瞬間、 


 「チェリッ!!!?」 


転がるチェリムのすぐ横をとてつもない速度で空気が薙ぐ。 


梨子「な、なに!?」 


ケンホロウに視線を戻すと──ケンホロウの周囲に空気が渦巻いて、グラスフィールドを巻き上げている。これは……。 


梨子「“かまいたち”!!?」 

214: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 02:43:28.71 ID:YHpk3Rh50

善子ちゃんのアブソルが使っていたのと同じ技だ。 

でも、ケンホロウは眠っているはず……。 


 「ケンホロ……zzz」 


たしかにケンホロウは、寝息を立てている。 

つまり……。 


梨子「“ねごと”……!!」 

ことり「やっぱり“ねごと”だと技の精度が落ちちゃうね……」 


初見を回避出来たのは不幸中の幸いだった。 

ただ、眠らせても攻撃が出来るとわかった以上、場作りだけに集中している余裕がない。 


梨子「“ウェザーボール”!!」 
 「チェリリッ!!!!!!」 


チェリムから太陽のような、炎の塊が打ち出される。 

“ねごと”が使えると言っても、自由に飛び回ることが出来るわけじゃない。 


 「ホロォ……ッ……zzz」 


攻撃はケンホロウをしっかりと捉え、ダメージを与える。 

“ウェザーボール”だけでは倒すまでには至っていないが……。 

今畳み掛けておくに越したことはない。 


梨子「“はなふぶき”!!」 
 「チェリィィィーーー!!!!!!!」 


チェリムの周囲に花が咲き誇り、それが吹雪のようにケンホロウを襲う。 


 「ホロォ……ッ……zzz」 


再び攻撃がぶつかり、ダメージを与えているが……。 

……何か変だ。 

眠っている状態とは言え、ことりさんが余りに手を出してこなさすぎる。 


梨子「チェリム、一旦ストップ!」 
 「チェリッ」 


攻撃の手を止めて、一旦観察してみる。 

──すると、 

ケンホロウは確かに眠ってはいるが……。無抵抗なまま攻撃の直撃を受けたにも関わらず、あまりに足取りがしっかりしすぎている。 

よく見ると、ケンホロウの鶏冠に当たりが僅かに光っているようにも見えるし……それだけじゃない、飛んで来る花びらはダメージを与えているように見えて── 


梨子「……弾かれてる?」 


ケンホロウにぶつかる──というより、弾かれているように見える。 

弾かれてるのは……翼にぶつかっている花びら……? 

215: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 02:44:51.22 ID:YHpk3Rh50

梨子「……! “はっぱカッター”!」 
 「チェリッ!!!」 


咄嗟に気付き、指差して“はっぱカッター”を飛ばす──ケンホロウの頭部に向かって、 


ことり「ケンホロウ! ガード!」 
 「ホ、ロォ……」 


夢現の中、ケンホロウは翼で顔を庇う。すると──ガキンッと硬い音が鳴り響く。 


梨子「や、やっぱり……!! “はがねのつばさ”で防御をあげてた……!!」 

ことり「バレちゃったか……さすがに、顔は硬くできないからね……」 


眠っているように見せかけて──実はずっと、止まったまま技を使っていた。 

じゃあ、あの鶏冠の輝きは──回復技……? 


梨子「“あさのひざし”か……!!」 

ことり「む、そっちもばれちゃったか」 


私が晴らせた太陽の光を使って回復をしていたようだ。 

どうりでダメージの通りが悪い気がしたわけだ。 

持久戦はダメそうだ。攻撃をしたところで回復されて受けきられてしまう。 


梨子「チェリム! もどって!」 
 「チェリ──」 


なら一旦交代。 


梨子「お願い、ピジョット!!」 
 「ピジョットォォォォ!!!!!!」 


ボールからピジョットが飛び出す。 


 「ホロォ」 

梨子「!」 


交換のタイミングにあわせて飛んできたのは“エアカッター”。 


梨子「ピジョット! “エアスラッシュ”!」 
 「ピジョットォォォォ!!!!!!!」 


それを同じような遠距離のひこう技で相殺する。 

とにかく、一体……! 


梨子「ピジョット! “ブレイブバード”!」 
 「ピジョットォォォォ!!!!!」 


── 一気に加速した、ピジョットの突進攻撃。 


ことり「ケンホロウ!」 
 「ホ、ホロォ……」 


ケンホロウは再び“ねごと”によって、夢現のまま、翼を前に掲げる。 

硬質化した翼で受け止めるつもりらしい。 

216: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 02:45:52.24 ID:YHpk3Rh50

梨子「ピジョット!! メガシンカ!!」 
 「ピジョットォォォォォ!!!!!!!」 


前進するピジョットが私のメガブレスレットの光に呼応するように光り輝き──そのまま突き抜ける……!! 

──ガキンッ!! 

ピジョットの嘴と、ケンホロウの翼が真っ向からぶつかり合い、硬い音を響かせる。 


 「ホ、ホロッ……!!」 


その衝撃でさすがに目を覚ましたのか、ケンホロウが踏ん張りを利かせてくる。 


梨子「ピジョット!! こじあけてっ!!」 

 「ピジョットォォォ!!!!!!」 


ピジョットは無理矢理、嘴を振るい、ケンホロウの片翼を弾く。 

ただ、直線的だった攻撃から無理矢理シフトしたため、“ブレイブバード”の勢いがその時点で死んでしまう。 


ことり「ケンホロウ!! “つじぎり”!!」 
 「ホロッ!!!!」 


その隙にケンホロウは鋭利な足の爪でピジョットを切り裂く。 


 「ピジョォォォォ!!!!!!!」 


だが、ピジョットの特性は“ノーガード”。 

回避をする気なんてさらさらない。 

攻撃を真っ向から受け止めて、至近距離のまま次の攻撃へと移行する。 


梨子「“ぼうふう”!!」 

 「ピジョットォォォォ!!!!!!!!」 

 「ホロッ!!!!!?」 


目の前で大きな翼を羽ばたかせ、それは強風となり、そのまま“ぼうふう”になり、そして“たつまき”になって、ケンホロウを飲み込み巻き上がる。 


ことり「! ケンホロウ!」 

 「ホ、ホロォォォォ」 

梨子「いけぇぇ!!!!!」 


“ぼうふう”はそのまま一気に上空に向かって巻き上がり──ケンホロウを天井に叩き付けた。 


 「ホ、ホロ……」 

ことり「……! 戻って、ケンホロウ!」 


ことりさんが力尽きて、落ちてくるケンホロウをボールに戻す。 


ことり「……やっぱり、メガシンカ相手だとパワーで競り負けちゃうね。なら、出番だよ、チルタリス」 
 「チルゥ!!」 

ことり「メガシンカ!!」 

梨子「!」 

217: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 02:47:11.87 ID:YHpk3Rh50

ことりさんのメガネックレスが光る。 

そして、それと同じ光に包まれたチルタリスが、 


 「チルゥーーー!!!!!」 


メガチルタリスへと姿を変える。 

ことりさんの使ってくるメガシンカがチルタリスだと言うのは聞いていた。 

だから、この早いタイミングでチルタリスを引き摺りだせたのは却って僥倖だろう。 


ことり「“りゅうのはどう”!!」 
 「チィルゥゥゥゥゥーーー!!!!!!!」 

梨子「“オウムがえし”!!」 
 「ピジョットォォォォォ!!!!!!!」 


逆にメガシンカ相手だと、メガシンカしているピジョット以外ではパワー負けするというのはこちらも同じだ。 

そうなると、ピジョットで何がなんでもチルタリスを突破しなくてはいけない。 


 「ピジョォォォォ!!!!!!!」 

 「チィルゥゥゥゥ!!!!!!」 


二匹の“りゅうのはどう”が相殺し合う。 

波動が爆ぜて、フィールド内に青白いエネルギーが舞う中、 


梨子「“ぼうふう”!!」 
 「ピジョットォォォォ!!!!!!!」 


畳み掛けるように、技を繰り出す。 


 「チルッ!!!!!」 


ケンホロウと同様に、チルタリスを飲み込み巻き上げようとした瞬間、 


ことり「“ハイパーボイス”!!!」 
 「チイイィィィィィィィィィルゥッ!!!!!!!!!!!!!!!!」 

梨子「!!」 


チルタリスから発された爆音のエネルギーが、“ぼうふう”を掻き消しながら、ピジョットを襲う。 


 「ピジョォォォォッ!!!!!?」 


そこに向かって畳み掛けるように突っ込んでくるチルタリス。 


ことり「“ドラゴンダイブ”!!」 
 「チルゥゥゥゥゥ!!!!!!!」 


回避──いや、“ノーガード”の体勢からじゃ間に合わない。 


梨子「“フェザーダンス”!!」 
 「ピジョォッ!!!!!」 


体勢を立て直しながら、ピジョットから大量の羽毛が舞う。 

その羽ごと押し潰すように、チルタリスが迫る。 

218: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 02:49:46.08 ID:YHpk3Rh50

 「チィルッ!!!!!!」 

 「ピジョォォォォッ!!!!!!」 


ピジョットはそのままプレスを食らって、チルタリス共々フィールド上の地面に叩き付けられる──が、 


梨子「踏ん張って!!」 
 「ピジョォォォォォ!!!!!!」 


脚を踏ん張り、どうにか“こらえる”。 


梨子「“つばさでうつ”!!」 
 「ピジョォッ!!!!!」 


無理矢理押しのけるように、翼を振るい、 


 「チルッ」 


その攻撃を回避して、後ろに下がったチルタリスに更に追撃、 


梨子「“スピードスター”!!」 
 「ピジョットォォッ!!!!!!」 


ピジョットの振るった翼から、星型のエネルギー弾が飛んでいく。 


ことり「“ムーンフォース”!!」 
 「チルゥゥッ!!!!!」 


それと相殺させるように再び攻撃が放たれる。 

二つのエネルギーが爆ぜ散り、煙が巻き起こる。 

視界は悪い──だからこそ、必中の“ノーガード”。 


 「ピジョォォォォォ──!!!!」 


ピジョットの周囲に光が収束していく。 

煙の先──ピジョットが生来から持っている“するどいめ”でチルタリスを見据えながら、一気にエネルギーを解放……!! 


梨子「“ゴッドバード”!!!」 
 「ピジョォォォォォォォ!!!!!!!!」 


ピジョットが一気に飛び出す。 

煙を突っ切り、 


 「チルッ!!?」 


チルタリスを巻き込んでの最大級の攻撃、 


梨子「いけえええーーーー!!!!!」 

 「ピジョットォォォォォォ!!!!!!!」 


ピジョットの突進をチルタリスに炸裂させながら、再び天井にたたきつけ──。 

──ぼふっ 


梨子「!」 

ことり「……“コットンガード”」 

219: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 02:59:12.11 ID:YHpk3Rh50

綿羽がもこもこと膨らみ、天井に叩き付けられる直前でクッションを作られた。 


梨子「ピ、ピジョット!! 後退──」 

ことり「“はかいこうせん”!!」 
 「チィィィィィィィィィィィルゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!」 


──破壊の閃光が上空からフィールド上に向かって、放たれる。 


梨子「……くっ!!」 


その余波から、トレーナーのスペースまで、強い風が巻き起こり、 

そこから数テンポ遅れて── 

大きな音を立てて、ピジョットが地面に叩き付けられる。 


梨子「ピジョット!!」 
 「ピ、ピジョォォォォォ!!!!!!!」 


どうにか、まだ立っている。 

でも、至近距離から“フェアリースキン”で強化された“はかいこうせん”を食らったのは余りにダメージが大きい。 


梨子「一旦戻って!!」 
 「ピジョッ──」 


ピジョットを戻す。 


梨子「チェリム!!」 
 「チェリリッ!!!!!」 


再びフィールドに顔を出したチェリムが“つよいひざし”を浴びて、花開く。 


梨子「“ソーラービーム”!!」 
 「チェリリッ!!!!!!!」 


そして、ノータイムで光線をお返しする。 


 「チル……!!」 


“はかいこうせん”の反動で動けないチルタリスに最序盤で使った“グラスフィールド”によって強化された“ソーラービーム”が直撃する。 


 「チルゥッ……!!!!!」 


タイプ相性はイマイチだけど、効果は十分……!! よろける、チルタリス。 


梨子「よし、このまま──!!」 

ことり「“だいもんじ”!!」 

梨子「!?」 

 「チルゥゥゥゥ!!!!!!!!」 


上空から、大の字の業炎が降って来た。 

しかも、“にほんばれ”で強化されている。 


梨子「“ウェザーボール”ッ!!」 
 「チェリリィッ!!!!!!!」 

220: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 03:01:07.76 ID:YHpk3Rh50

対抗するように、チェリムから打ち出される火の玉。 

二つの炎技ぶつかり爆ぜる。 

“だいもんじ”にぶつけるにはギリギリの火力──押し切れるかは僅かな差、 

そう思った矢先── 


 「チィィル!!!!!!」 

梨子「!?」 


そんな思考を無視するかのように、チルタリスが炎を突っ切って飛び込んでくる。 


ことり「“ドラゴンダイブ”!!」 

梨子「っく!! “はなふぶき”!!」 
 「チェリリーーー!!!!!」 


チェリムが大量の“はなふぶき”をぶつけるが、チルタリスの勢いは止まらない。 


梨子「……っ!! “フラワーガード”!!」 
 「チェリッ」 


咲き誇る花びらたちが、今度はチェリムを守るために集まってくる。 

それごと押し潰すように、 


 「チルゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!」 


チルタリスがのしかかってくる。 


 「チルゥゥゥゥ!!!!!」 

 「チェ、チェリリーーー!!!!!」 


チルタリスの重量と、花びらによるガードの力比べ。 

だけど、優勢なのはチルタリス。徐々に推されて行く。 


梨子「“やどりぎのタネ”!!」 
 「チェ、チェリリッ!!!!!」 


周囲にエネルギーを吸収する、タネをばら撒く。 

だけど──間に合わない。 


ことり「そのまま、いっけぇえーーーー!!!」 

 「チィィィィルッ!!!!!!!」 


このままじゃ推し負ける、そんなとき、 


 「チェリリッ」 
梨子「……!」 


チェリムが一瞬目配せをしてきた。 


梨子「……うん!! 後は任せて!!」 
 「チェリ──」 


私のその言葉に安心するように、チェリムは崩れ落ちた。 

そして、すぐさま後続のボールを放る。 

221: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 03:02:17.77 ID:YHpk3Rh50

梨子「ピジョット!!」 
 「ピジョォォォォォ!!!!!!!」 


再びフィールドに飛び出すのはピジョット。 


ことり「な……!?」 


強い輝きをその身に纏いながら、万全の体勢で── 


梨子「“ぼうふう”!!」 
 「ピジョットォォォォォォッ!!!!!!!!」 


力の限り羽ばたいて、 


 「チ、チルゥゥゥゥッ!!!!!!!」 


至近距離のチルタリスを再び打ち上げる。 


梨子「“はかいこうせん”!!」 
 「ピジョォォォォォ!!!!!!!!」 


そして、お返しの“はかいこうせん”を一閃。 

中空で攻撃が直撃した、チルタリスは── 


 「チ、チルゥゥゥ……」 


ついに、力尽きて、戦闘不能になった。 


梨子「……よしっ!!」 

ことり「戻って!! チルタリス!!」 

梨子「やった……チルタリスを倒した……!!」 
 「ピジョォォォッ!!!!!」 

ことり「……ピジョット、回復してるね。競り合いに推し負けたように見せて、チェリムが使ってたのは──」 

梨子「はい。“いやしのねがい”です」 


──“いやしのねがい”は自分の残りHP全てを捧げる代わりに、次に出てくるポケモンの体力を完全回復する技だ。 

お陰でピジョットはフルコンディションに戻り、手負いのチルタリスを圧倒することが出来た。 


ことり「……うーん……メガシンカしたポケモンをそのまま残しちゃったのはまずいなぁ」 


ことりさんは困った顔をする。 

どうにか、いいペースを作り出すことが出来ている。 


ことり「……よし、次はこの子!」 


そう言って、ことりさんが次に繰り出したのは── 


 「カバシッ」 
ことり「行くよ! ドデカバシ!!」 


大きなクチバシを持った鳥ポケモン、ドデカバシ。 

 『ドデカバシ おおづつポケモン 高さ:1.1m 重さ:26.0kg 
  体内の ガスを クチバシの 中で 爆発させ 木のタネを 
  発射。 そのパワーは 大岩も 粉々にする。 その際 
  クチバシが 発熱し その温度は 100度を 優に 超える。』 

222: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 03:03:29.52 ID:YHpk3Rh50

ことり「ドデカバシ!」 
 「カバシッ」 


ドデカバシがことりさんの声に反応して、クチバシをガバッと開ける。 


ことり「“ロックブラスト”!!」 
 「カバシィッ!!!!!」 

梨子「!!」 


ドデカバシから、岩のような大きさのタネが飛び出してくる。 


梨子「“ぼうふう”!!」 
 「ピジョットォォォ!!!!!!」 


それを防ぐために、繰り出すのはまたしても“ぼうふう”。 

巨大な“たつまき”となって目の前に旋風を起こすが──。 

猛烈な勢いで飛んで来る、“ロックブラスト”は“ぼうふう”域に入っても全くそのスピードを衰えさせず。 


 「ピ、ピジョォォォーーーーッ!!!!!」 


ピジョットに続け様にヒットする。 

いわ技はピジョットには効果は抜群だ。 


梨子「遠距離で戦うのは不味い……!! “ブレイブバード”!!」 
 「ピジョットォォォーーー!!!!!!!」 


接近戦に持ち込む……!! 

ピジョットが指示と共に一気に飛び出す。 

一方ドデカバシは── 


 「カバシィ……」 


堂々と攻撃を待っている。 

ただ、少しだけ様相が変わっていた。 

──大きなクチバシが真っ赤に赤熱している。 


 「ピジョットォォォォ!!!!!!!」 


ピジョットの攻撃がインパクトした瞬間。 

──ジュウウウウウウ!!! 

と何かが焼け焦げる音。 


 「ピ、ピジョォォォォォッ!!!!!!!」 

梨子「……!?」 


そして、苦しそうに鳴き声をあげながら、反射的に後ろに飛び退くピジョット。 


ことり「加熱したクチバシ……触ると熱いよ!」 

梨子「……っ!」 


先ほど岩を撃ち出した熱によって、加熱されたクチバシ。それに驚き、ピジョットは怯んで後ずさってしまっている。 

ことりさんは、その隙を見逃してはくれない。 

223: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 03:04:47.01 ID:YHpk3Rh50

 「カバシィ」 


再びクチバシを開くドデカバシ。 


ことり「“くちばしキャノン”!!」 
 「カバシッ!!!!!」 


そこからさっきよりも大きく、更に真っ赤に赤熱した岩の弾が撃ち出されて飛んで来る。 

怯んだ隙を突かれたため、回避も防御もままならないまま── 


 「ピジョォォォォォォッ!!!!!!」 


ピジョットに攻撃が直撃し、 

後ろに吹っ飛ばされる。 


梨子「ピ、ピジョット!!」 

 「ピ、ピジョォォォォ……」 


ピジョットは強烈な攻撃を正面から受けて、戦闘不能になってしまった。 


梨子「……戻って、ピジョット」 
 「ピジョ…」 


ピジョットをボールに戻す。 


梨子「ありがとう……ピジョット」 


ボールに戻ったピジョットを労わりながら、腰に戻す。 


梨子「……とにかく、あのクチバシをどうにかしなくちゃ……!!」 


私は次のボールを投げる。 


梨子「ネオラント!!」 
 「ネオォォ~」 


ネオラントは飛び出すと同時に全身を躍動させバネにして、“とびはねる”。 


ことり「! ドデカバシ!」 
 「カバシッ」 


ドデカバシが中空のネオラントに視線を向け、再びクチバシを赤熱させ始める。 

ネオラントは跳ねた勢いで回転しながら、大量の水を口から噴き出した。 


梨子「“みずびたし”!!」 

 「ネォォォォ~~~~」 


その大量の水はドデカバシの全身を降りかかり、 


 「カ、カバシッ」 


──ジュウウウウウウと水が蒸発する音を立てながら、色が戻っていく。 

そして、それと同時に、攻撃が中断される。 


 「ネォォォ」 

224: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 03:07:08.38 ID:YHpk3Rh50

そのまま、ネオラントが空中から突進する。 


 「カ、カバシッ」 


ネオラントの攻撃によって吹き飛ばされながら、ドデカバシはクチバシを開くが──。 

弾は飛び出さない。 


梨子「熱が保てなければ、ガスを引火できない……!! それなら、技は使えない!!」 

ことり「ドデカバシ!! “ふるいたてる”!!」 
 「カバシィッ!!!!!」 


ドデカバシはことりさんの指示で、音を立てながらクチバシを素早く開閉する。 

すると、再びクチバシが赤熱していくが── 


梨子「“みずでっぽう”!!」 

 「ネォォォ~~」 


そのクチバシに水を噴き掛けて、それを許さない。 

そして、追い討ちを掛けるように、 


梨子「“れいとうビーム”!!」 

 「ネォォッ!!!!」 


クチバシ目掛けて“れいとうビーム”を放つ。 


 「カ、カバシッ」 


狙い通りクチバシが凍りついた。 


梨子「これで、当分は何も発射できない!!」 

ことり「……っ でも、発射するだけがクチバシの使い方じゃないよ!!」 
 「カバシィッ」 


目の前を“はねる”ネオラントに向かって、ドデカバシが走ってくる。 

──凍ったままのクチバシを高速で回転させながら、 


ことり「“ドリルくちばし”!!」 

 「カバシィッ!!!!!!」 

 「ネオォォッ!!!!?」 


鋭いクチバシがネオラントを捉える。 


 「ネォォ……」 

梨子「戻って!! ネオラント!!」 


ネオラントは強烈な攻撃を受けて、戦闘不能になってしまったが……十分仕事はした、 


梨子「行くよ!! ムーランド!!」 
 「ヴォッフッ!!!!!」 


そして、飛び出すムーランド。 

そのまま、ドデカバシに向かって一直線で近付き。 

225: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 03:08:37.35 ID:YHpk3Rh50

梨子「“かたきうち”!!!」 

 「ヴォッフッ!!!!!!!」 


仲間のかたきを討つために、強力な体当たりをぶちかます。 


 「カバシィィィッ!!!!!?」 


体重を乗せた、苛烈な攻撃はドデカバシを一気にぶっ飛ばし、 

ドデカバシはジム後方の壁に叩きつけられた後、 


 「カ、カバシ……」 


戦闘不能になった。 


ことり「……戻れ、ドデカバシ」 


さあ、残りの手持ちはお互い2匹。 


ことり「お願い、バルジーナ!」 
 「バルバァルッ」 

梨子「バルジーナ……!」 


 『バルジーナ ほねわしポケモン 高さ:1.2m 重さ:39.5kg 
  骨を 拾い 集めて 巣を 作る。 空から 地上を 観察して 
  弱った 獲物を 脚で つかみ 骨の 巣まで 軽々と 運ぶ。 
  骨で 着飾る 習性を 持つ。 カラカラの 骨を 好む。』 


ことり「バルジーナ! “ボーンラッシュ”!!」 
 「バルジィーー!!!!!」 


バルジーナが羽の中から器用に骨を取り出し向かってくる。 

振り下ろされる、骨を── 


 「ヴォッフッ!!!!」 


ムーランドは噛み付いて受け止める。 


梨子「“かみくだく”!!」 
 「ヴォッフッ!!!!!」 


──バキリッ 

音を立てて武器にしていた骨を“かみくだく”。 

次の攻撃移ろうとした、瞬間、 


梨子「!? い、いない……!?」 


バルジーナが視界からいつの間にか消えていることに気付く。 


 「ヴォッフ」 


辺りを見回しながら、鳴き声をあげるムーランドの頭上に──影が差した。 


梨子「!! 上!!」 

 「ヴォッフッ!!!!」 

226: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 03:11:24.49 ID:YHpk3Rh50

頭上から飛来する影から、脚が伸びてくる、 


ことり「“だましうち”!!」 

 「バァーールバルッ!!!!!」 


バルジーナは鋭い猛禽の脚で上から蹴りつけてくる。 


 「ヴォッフッ…ッ!!!」 


バルジーナはそのまま、すぐに離脱する、ヒットアンドアウェイの姿勢を取ろうとしてくるが、 


梨子「逃がしちゃダメ!! “じゃれつく”!!」 
 「ヴォッフッ!!!!」 


ムーランドは絡め取るように、バルジーナの脚に“じゃれつく”。 


 「バルバァルッ!!!!!」 


バルジーナは振り払うように脚を振るうが、 


 「ヴォフヴォッフ」 


ムーランドは離れない。 


ことり「“どくどく”!!」 

 「バルバァルッ!!!!!」 


咄嗟に離脱は無理と判断して、次の指示を飛ばすことりさん。バルジーナが、そのまま爪を突き刺し、もうどくを注入してくる。 


 「ヴォッフッ!!!!」 

梨子「!」 


ムーランドが苦しげに表情を歪めるが── 


梨子「ムーランド!! “からげんき”!!」 

 「ヴァッフッ!!!!!!」 

 「バルゥッ!!?」 


思いっきり頭を振るって、渾身の“ずつき”でバルジーナを吹っ飛ばす。 

ムーランドは更に畳み掛けるように、口を開き、牙を向いて突撃する。 

パチパチと火花の爆ぜる牙で── 


梨子「“かみなりのキバ”!!」 

 「ヴォッフッ!!!!!!」 

ことり「“そらをとぶ”!!」 

 「バァルジッ!!!!!!」 


だが、すんでの所で飛んで逃げられ、攻撃が空振る。 


 「ヴォッフ……!!」 

227: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 03:13:37.86 ID:YHpk3Rh50

ムーランドは再び苦しそうに顔を歪める。 

もうどくが徐々に回って来ている。 

一方バルジーナは空で旋回している。 

このまま、ムーランドが力尽きるのを待っているようだ。 

──パチ、 


ことり「……?」 


──パチパチ、バチ、 


ことり「な、なんの音……?」 


ただ、もちろんこのまま手をこまねいているつもりはない。 

ムーランドが先ほど、空振りした“かみなりのキバ”が音を立て、大きな火花を立てる── 


梨子「“そらをとぶ”をしている相手にも、当たる技がありますよ!!」 

ことり「……!?」 


全身の毛を逆立て、牙から電荷を大気に放出──そして、それを雷撃として撃ち落す大技。 


梨子「“かみなり”!!」 

 「ヴォッフッ!!!!!!」 

 「バァァァァルゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!?!?」 

ことり「バルジーナ!!!?」 


空中でバルジーナの絶叫があがる。 

突然空中に現われた放電現象に為す術もなく、感電し、 


 「バ、バルゥゥ……」 


黒こげになったバルジーナは、気を失って落下。 


ことり「戻って!!」 


すかさずことりさんはバルジーナをボールに戻す。 


梨子「残り……一匹……!!」 


ついに、ことりさんを追い詰めた。 


ことり「……すごいね、梨子ちゃん。本当に前戦ったときとは別人だね」 

梨子「……ことりさんに気付かせてもらったお陰です。私たちはいつだって、一人で戦ってるわけじゃない」 


ポケモンと一緒に歩んで、ポケモンと一緒に考えて、ポケモンと一緒に戦う。 

そんな当たり前のこと。 


梨子「──みんながいるから……戦える」 

ことり「……うん、そうだね」 


ことりさんは最後のボールを掲げる。 

228: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 03:15:31.62 ID:YHpk3Rh50

ことり「……ことりの最後のポケモン──この子はわたしが旅に出るときに、最初に貰ったポケモン。一番大切なパートナーだよ」 

梨子「……!」 

ことり「行くよ!! ジュナイパー!!」 


ボールが放られる。ボールからポケモンが飛び出した、と思ったら── 


梨子「!?」 


飛び出したポケモンの影が一瞬で掻き消える。 


梨子「上!?」 


先ほどのバルジーナ同様、一気に上昇したのかと思い上を見るが── 

上空には文字通り、敵の影も形もない。 

でも、なんらかの方法で姿を隠してるのは間違いないんだ。 


梨子「“すなかけ”!!」 

 「ヴォッフッ!!!!!」 


フィールドを掘り、作り出した砂を辺りにばら撒く。 

これで少しだけでも視界を奪って、次の攻撃に備える……!! 


ことり「ジュナイパー、落ち着いて、“みやぶる”で狙いを定めて」 


──ユラリ。 

突然、ムーランドの足元の影が揺れた。 


梨子「!? し、下!?」 

ことり「“ゴーストダイブ”!!」 

 「ジュナイッ!!!!!」 

 「ヴォッフッ!!!?」 


足元の影から飛び出してきたジュナイパーは、そのまま“リーフブレード”でムーランドを切り裂いて、そのまま上昇する。 


梨子「……っ!! “10まんボルト”!!」 

 「ヴォッフッ!!!!!」 


まだ空気中に残った電荷を掻き集めて、空へ逃げるジュナイパーに向かって電撃を放つ。 

──だが、攻撃が当たると共にジュナイパーが掻き消える。 


梨子「!?」 


気付けば、空には数体のジュナイパーの姿。 


梨子「今度は“かげぶんしん”……!」 

 「ヴォッフ……!!!」 


ムーランドが膝を折る。 

もうどく状態が長い、そろそろ限界が近い。 

229: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 03:17:16.63 ID:YHpk3Rh50

梨子「狙いを定める……ムーランド! “かぎわける”!」 

 「ヴォフ」 


ムーランドが鼻を鳴らす。 

すぐに、 


 「ヴォッフヴォフッ!!!!」 


宙を舞うジュナイパーのうち一匹を視線で追いかけ始める。 


梨子「あれが本物……!!」 

ことり「……!! 対応が早いね……!! なら、ジュナイパー!!」 

 「ジュナイッ!!!!!」 


ジュナイパーは逃げるのをやめて、元の一匹に戻り、羽から出した矢羽を番える。 


梨子「ムーランド!! 攻撃来るよ!!」 

 「ヴォッフッ」 

ことり「ジュナイパー!! “かげぬい”!!」 

 「ジュナイプッ!!!!!!!」 


空中から矢が撃ち出される。 

一直線に飛んで来る矢羽。 

でも、正体を追いきった状態なら、一直線に飛んで来る矢は回避できる……!! 


梨子「ムーランド!!」 
 「ヴォッフッ!!!!」 


ムーランドがすんでのところで、矢をかわす。 

矢はムーランドの顔のすぐ横を掠めたが、 

攻撃は完璧に回避できた。 


梨子「よし……!!」 


すぐに反撃へと移ろうとした瞬間、 

異変に気付いた。 


 「ヴォッ…フ」 

梨子「……え?」 


ムーランドの動きが固まっていた。 


梨子「ム、ムーランド!? どうしたの!?」 

 「ヴォッフ……」 


ムーランドは苦しげな顔をして、その場に立ち尽くしている。 

もうどくでもう動けない……? いや、そういう感じじゃない。 


梨子「何かされた!?」 

230: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 03:18:10.97 ID:YHpk3Rh50

すぐさま周囲を観察する。 

だけど、異常らしい異常なんて見当たらない。 

地面には先ほど、ムーランドが避けた矢羽くらいしか……。 


梨子「……いや、それだ……!!」 


矢羽は、ムーランドの影に刺さっていた。 

ことりさんの指示した技は──“かげぬい”。 


梨子「影に攻撃して、動きを止める技……!?」 

ことり「正解!! でも、もう遅いよ!!」 

 「ジュナイッ!!!!!!!」 


ジュナイパーがムーランドの頭上から一気に下降してくる。 

加速した上空からの一撃、 


ことり「“ブレイブバード”!!」 

 「ジュナイッ!!!!!!!」 

 「ヴォッフッ!!!!!」 


床に磔にされて、動けないムーランドは為す術もなく、その突進に吹っ飛ばされた。 


梨子「ムーランド!」 
 「ヴォフッ……」 


……ムーランド、戦闘不能だ。 


梨子「……戻って、ムーランド」 
 「ヴォッフ…──」 


私はムーランドをボールに戻し、 

最後のボールを構えた。 


梨子「……行こう!!」 


ボールを放る。 


 「ガニューーー!!!!!!」 
梨子「メガニウム!!」 


メガニウムは飛び出すと同時に“つるのムチ”を伸ばす。 


ことり「! ジュナイパー!! 離脱!!」 

 「ジュナイッ!!!!」 


ジュナイパーがすぐさま上昇、“つるのムチ”はすんでのところでかわされる、が 


梨子「空に逃がしちゃダメ!! “はなふぶき”!!」 
 「ガニューーーー!!!!!」 


逃げるジュナイパーに向かって、範囲攻撃を放つ。 


 「ジュ、ジュナイッ!!!!!!」 

231: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 03:19:29.02 ID:YHpk3Rh50

四方八方から、花びらが襲い掛かってきて、うまく空に飛び立てないジュナイパーに更に追撃、 


梨子「“マジカルリーフ”!!」 
 「ガニューーー!!!!!!!」 


今度は必中の技。 

最序盤で使った“グラスフィールド”による、くさタイプの強化の影響もあり、ジュナイパーをうまく翻弄できている。 


ことり「あくまで逃がさないってことだね……なら、“ブレイブバード”!!」 

 「ジュナイッ!!!!!」 


ジュナイパーは再び“ブレイブバード”で一気に加速し、今度はメガニウムとの距離を一瞬で詰めてくる。 


 「ガニュゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!」 


メガニウムはそれに対して、地面に向かって足を打ち鳴らす。 

任せろ──と言わんばかりに、 


梨子「メガニウム!! 信じてるよ!!」 

 「ガニュウウウウウウ!!!!!!!!!!」 


雄叫びをあげる、メガニウムにジュナイパーの攻撃が突き刺さる。 


 「ガ、ニュゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!」 


激烈な突進、だけど、メガニウムは脚を踏ん張り耐える。 


ことり「ジュナイパー!!」 

 「ジュナイッ!!!!!!!!」 


ジュナイパーは身を捻りながら、推進力を作り出し、押し切ろうとする。 


梨子「“ねをはる”!!」 

 「ガニュゥゥゥッ!!!!!!!!!」 


メガニウムは足の裏から根っこを伸ばし、その場に自身に身体をホールドする。 


ことり「……!!」 


次第にジュナイパーは追加の推進力を得ることが限界に近付き。 


 「ジュ、ジュナイ」 


“ブレイブバード”の前進が止まる。 


 「ガニュウッ!!!!!!」 


すぐさま、メガニウムは再び“つるのムチ”を伸ばし、ジュナイパーを捕まえようとする。 


ことり「ジュナイパー!!」 

 「ジュナイッ!!!!!」 

232: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 03:21:06.29 ID:YHpk3Rh50

だが、ジュナイパーもタダでは捕まらない。 

目の前でサマーソルトキックをするように、丈夫な脚でメガニウムの顎を叩く。 


 「ガニュッ!!!!」 


一瞬、“つるのムチ”の勢いが弱まり、ジュナイパーは背後に向かって跳ぶ。 


梨子「──“じしん”!!!」 

ことり「“じしん”!?」 

 「ガニュゥゥゥゥゥ!!!!!!!!」 


メガニウムが根っこと繋がった地面を大きく揺する。 


 「ジュ、ジュナ!?」 


ことりさんもジュナイパーも動揺している。 

空に逃げようとしている相手に、何故“じしん”……? と言った顔だが、 

私の狙いは“じしん”による攻撃じゃない……!! 

──ボンッ!! 


ことり「!?」 

 「ジュナッ!!!?」 


ジュナイパーの背後で何かが爆ぜる。 

──ボンッ!!! 

今度は前方で──いや、 

──ボンッ!!! ボンッ!!! ボンッ!!!! 

続け様に周囲が突然爆ぜる。 


ことり「な!? こ、これ!?」 

 「ジュ、ジュナッ!!!!?!?」 


大きな音に驚いて怯んだジュナイパーを、今度こそ“つるのムチ”で捕まえる。 


ことり「“タネばくだん”……!? まさか、“いやしのねがい”の直前に使った“やどりぎのタネ”は……!?」 


──そうだ、あれはフェイクだ。 

地面にばら撒かれた“タネばくだん”は、今“じしん”によって打ち上げられた衝撃で破裂し、ジュナイパーの不意をついて怯ませた。 

メガニウムはそのまま、蔓で捕まえたジュナイパーを一気に自分の元へと引き寄せる。 


ことり「っ!! ジュナイパー!! “リーフストーム”!!」 

 「ジュナァァァァィッ!!!!!!!!!!」 


蔓で引き寄せられながらも、ジュナイパーを中心にした草の嵐が吹き荒ぶ。 

だけど、 


 「ガニュゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!」 


メガニウムは放さない。 

233: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 03:22:00.09 ID:YHpk3Rh50

梨子「ここまで、いろんなことを考えながら旅をしてきました……」 

ことり「……!」 

梨子「これが……その中で、仲間たちと向き合って、見つけた答えです!!」 

 「ガニュゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!」 


メガニウムが声をあげる。 

引き寄せられたジュナイパーに向かって、繰り出す──この一撃。 


梨子「──“おんがえし”!!!!!!」 
 「ガッニュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 


──全てを込めた、全力の一撃を、一発の頭突きに込めて、ジュナイパーにぶちかました。 


 「ジュ……ナ……」 


脳天に渾身の一撃を食らったジュナイパーは、白目を剥いて、崩れ落ちた。 


 「ガニュゥゥ……!!!!」 
梨子「……やった……。……やった……!!」 


私はフィールドに走り出す。 


梨子「メガニウム!!!!」 
 「ガニュゥッ!!!!!!」 


私はメガニウムに抱きつく。 


梨子「やった!!!! 私たち、勝ったよ!!!!」 
 「ガニュゥゥッ!!!!!!」 

梨子「みんなの力で……勝てたよ……っ……」 
 「ガニュゥッ」 


なんだか、急に力が抜けて、もたれかかるようになりながら、何故だか涙が溢れてきた。 


梨子「ありがとう……っ……みんな……っ……。……ここまで、わたしと一緒に、たたかってくれて……っ……ありがとう……」 
 「ガニュ」 


そんな私の頬をメガニウムが舐めてくる。 


ことり「……ふふ、“おんがえし”か」 

梨子「! あ、ご、ごめんなさい……!! まだ、決着宣言が……」 


バトルが終わる前に飛び出すなんて、少しマナーが悪かった。 


ことり「うぅん。正真正銘、梨子ちゃんの勝ちだよ」 


ことりさんはジュナイパーをボールに戻しながら、そう言う。 

234: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 03:23:33.55 ID:YHpk3Rh50

ことり「“おんがえし”はポケモンがトレーナーのことを信頼している程に威力を増す技……あれだけの威力を見せられたら、もう疑うことなんて出来ないね」 

梨子「ことりさん……」 

ことり「梨子ちゃんとポケモンたちの絆は……本物だよ」 

梨子「……はい!」 
 「ガニュッ!!」 

ことり「ふふ、メガニウムもとっても幸せそうだね……」 

 「ガニュッ」 

ことり「梨子ちゃん」 


ことりさんが私のことを真っ直ぐ見つめて名前を呼ぶ。 


梨子「は、はい!!」 

ことり「ここまで歩いてきた努力と、ポケモンたちとの揺るぎない信頼関係、そして疑いようのない実力を認め、あなたにこの──“ハミングバッジ”を進呈します」 


ことりさんから差し出される、この地方での最後のバッジ。 


梨子「はい!!」 


私は力強く返事をしながら、そのバッジを受け取ったのだった。 





    *    *    * 





ことり「結局……全部ことりの取り越し苦労だったみたいだね」 


ことりさんは恥ずかしそうに言う。 


梨子「そんなことないです……あのとき、ことりさんに言われなかったら……私本当に大切なものを見落としたまま、この旅を終えていたと思います」 


こんな素敵な景色に、世界に、経験に……そして、何よりも仲間たちにも気付かずに、だ。 


梨子「今は……すごく素直に世界を見つめられてる気がします」 

ことり「……そっか」 

梨子「だから、ことりさん……!」 


私はことりさんに礼を言おうと改めて向き直って── 


ことり「梨子ちゃん」 


──と、思ったらことりさんは私を抱きしめて、 


ことり「ありがとう……」 


そう言う。 

235: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 03:24:08.58 ID:YHpk3Rh50

梨子「こ、ことりさん……? お礼を言うのはこっちの方で……」 

ことり「うぅん……ことり、まだまだ未熟だから……梨子ちゃんにそう言ってもらえて、今すごくホッとしてる……」 

梨子「ことりさん……」 

ことり「ちゃんと答え……見せにきてくれてありがとう……」 

梨子「……こちらこそ、最後まで見てくれて、ありがとうございます」 


私はことりさんの抱擁に答えるように抱き返した。 

こうして、私は……やっとあのときの失敗の答えを出すことが出来た──そんな充足感に包まれながら、この地方の全てのジムを制覇することが出来たのでした。 



236: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 03:25:13.67 ID:YHpk3Rh50


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【セキレイシティ】 
no title

 主人公 梨子 
 手持ち メガニウム♀ Lv.58 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.53 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい 
      ピジョット♀ Lv.55 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん 
      ネオラント♀ Lv.48 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
      メブキジカ♂ Lv.55 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん 
      ムーランド♂ Lv.49 特性:きもったま 性格:ゆうかん 個性:しんぼうづよい 
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:146匹 捕まえた数:14匹 


 梨子は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 




237: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 13:41:56.53 ID:YHpk3Rh50

■Chapter082 『グランドフェスティバルに備えて』 【SIDE You】 





──フソウタウン。ホテルの一室。 


曜「……グランドフェスティバル評定基準一覧分厚い……」 


私は来るグランドフェスティバルに備え、ルールの確認を行っているところだった。 

グランドフェスティバルはここまでの部門ごとのコンテストと違い、かっこよさ、うつくしさ、かわいさ、かしこさ、たくましさの5つのコンディション全てが要求される。 

そのため、基本は同じでも細かいルールがかなり異なるのだ。 

ちなみに、ことりさんもセキレイシティから戻ってきたらしいが、今は別に部屋を取っている。 

あんじゅさんも言っていたが、数日後に対等に戦う相手である以上、直近であまり一緒に行動しているのはお互いのためにもよくないからだ。 


曜「えーっと……『グランドフェスティバルは5部門全てのコンディションがポイント化されます』……ふむふむ。『ただ、1匹のポケモンで全てのコンディションをまかなうことは難しいため、措置としてメインポケモン1匹の他に2匹のサポートポケモンの持ち込みが許可されています』」 


サポートポケモン2体はメインポケモンのアピールの補助をする役割がある。 

そうなると、自然とメインポケモンが弱い部門の補助をすることになると思うけど……。 


曜「……と言っても私の手持ちはコンテスト要員じゃないホエルオー以外は全部部門が違うから、そこはあんまり考えなくてもいいかな……」 


一応現時点ではメインはラプラス。サブにはカメックスとタマンタを置こうとは思っている。 


曜「『一次審査……メインサブ含めた3匹の全てのコンディションを評価対象とし、部門ごとに客席からの投票を行います。』」 


つまり、5部門それぞれの一次審査判定があるということだ。 


曜「『一次審査の後、得票の合計点が発表され、得票率が高い順に二次審査の1ターン目のアピールをすることになります』……この得点は今までのコンテスト違って、可視化されるってことかな」 


私はちょっとずつ内容を頭に入れながらコンテスト概要のページをめくる。 


曜「『二次審査……二次審査は全6ターン。1~5ターンの間はかっこよさ、うつくしさ、かわいさ、かしこさ、たくましさの5部門のターンが順番に周って来ます。ただし、その順番はランダムでターンの開始時に発表されます。参加コーディネーターはターンのはじめにそのターンに使用する技をあらかじめポケモンに指示してください。他の参加者のアピールを見てからアピールする技を変えることは出来ません。』」 


ターンの開始時に要求される部門が決定されるから、その場で素早く判断して、使う技を決めなくてはいけない。これは今まで通りだ。 


曜「『また、全てのターンで全ての技が全ての部門コンディションごとに得票処理を行われます。オーディエンスのエキサイトは部門ごとに審査員が判定し、部門通りのアピールの場合に限り、倍に近いエキサイトが得られているものと判断します。またそのターンの部門に沿わないタイプのアピールをした場合、減少するエキサイトも倍下がるものと考えます。』……えーっと、つまり……」 


常に使った技を全ての部門で計算して、それの合算値を得点として加算するということだ。 

例を出すと、全ての部門エキサイトが1、ターン部門がうつくしさのときに“こなゆき”を使うとする。 

この技は元々うつくしさタイプの♡4の技だ。 

そうすると……。 


かっこよさ:♡4 かっこよさエキサイト変動なし。Ex1のまま。 =♡4 

うつくしさ:♡4 うつくしさエキサイト変動+2。Ex3。更にエキサイトボーナス点♡+2 =♡6 

かわいさ:♡4 かわいさエキサイト変動なし。Ex1のまま。 =♡4 

かしこさ:♡4 かしこさエキサイト1減少。Ex0。エキサイトの減少による減点で♡-1 =♡3 

たくましさ:♡4 たくましさエキサイト1減少。Ex0。エキサイトの減少による減点で♡-1 =♡3 

合計:♡4+6+4+3+3 = ♡20 


ということになる。 

238: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 13:45:37.10 ID:YHpk3Rh50

曜「うー……思ったより複雑だな……」 


常に全ての技が全ての部門ごとの判定を行われるだけでなく、エキサイトも部門ごとに存在するため、考えて操作するとなると、かなり複雑になる。 

ただ、逆にこのルールは今までのコンテストでは生かし辛かった技も使えることになる。 

具体的に言うなら、“うずしお”のような、ターン中のエキサイトを固定する技。 

使ったタイミングでの判定は変わらないけど、それ以降ターン中のエキサイトは全ての部門において、上昇も下降もしなくなる。 


曜「この技のエキサイト操作への影響力は今までのコンテストとは比べ物にならない」 


次に“ふいうち”や“つららおとし”のような使う順番によっては、大きくエキサイトを上昇させる技。 

前者“ふいうち”は1番目のアピール時に、後者“つららおとし”は4番目のアピール時にエキサイト上昇が倍になる技だ。 

ターン部門と一致させれば、倍の倍でエキサイトは一気に4上昇。加えて?4のボーナスも貰える。 


曜「エキサイト0のとき以外は4つ上昇させたら、確実にボルテージMAXまで行くから……かなりの得票が期待出来る……」 


逆に“うそなき”や“こごえるかぜ”のような、部門外だった場合エキサイトを2段階下げてしまう技は複数の部門のエキサイトを無理矢理リセット出来る技にもなる。 

部門ごとアピールについてはまだまだ考えられることはたくさんありそうだけど……ひとまず次に進もうかな。 


曜「『6ターン目は部門が存在しない、フリーアピールとなります。』……ここまで5ターンと違って、特定の部門に偏らない純粋なアピールタイムってことだよね。『また、フリーアピール時のアピール順は技による順番の操作を除き、1~5ターンの総合点の高い順番にアピールをすることになります。』」 


本当に最後の最後にするアピールということだ。 


曜「『二次審査6ターンのうち、2匹のサポートポケモンは2回ずつ……合計4回サポートアピールをすることが出来ます』」 


さて、大きな変更点サポートポケモンに対する説明項目。 


曜「『サポートアピールは基本評定基準自体は前述のものと変わりませんが、合計点は0.5倍(切り上げ)されたものが加算されることになります。またサポートアピールは必ずメインポケモンより前に使用し、一匹のサポートポケモンが1ターンの間に2回アピール機会を消費することは出来ません』」 


サポートポケモンの技はあくまでサポート。メインポケモンに比べてアピール出来る量は少なくなるようだ。 


曜「『メインポケモンとサポートポケモンのアピールは基本的に独立しています。ただし、場全体に掛かる技からコンボ待機~それに続く技による評定は、メインポケモン、サブポケモンで統一した判定を用います』……えーっと、つまり……」 


サポートポケモンのタマンタが“あまごい”を発動した直後に、ラプラスが“かみなり”を使うとこれだけでコンボが成立したことになる、ということだ。 

逆に言うならメインとサポートで統一……ということは、前のターンにラプラスが“あられ”を使って、次のターンのサポートアピールでカメックスが“ふぶき”を使う。みたいなことも出来るけど……。 

ただ、サポートポケモンの得票は半分として扱われるから基本的にはラプラスがコンボを決める方が得点的にはおいしい。 


曜「一匹のサポートポケモンが1ターンの間に2回アピールすることは出来ない……ってことは1ターンの間に2匹両方でサポートアピールすることは出来るってことだよね」 


これも頭に入れておいた方がいいかもしれない。 


曜「『またサポートポケモンの防御技は、広範囲を守れるものなら、メインポケモンも一緒に守ることが出来ます』……つまり、タマンタで“ワイドガード”を使えば、ラプラスも一緒にガードされるっと……」 


サポートの役割として重要な部分になる気がする。 


曜「『サポートポケモンは妨害を受けず、仮に他のポケモンのアピールで驚いたとしても減点の対象にはなりません』……あくまでアピールを邪魔されたときに減点されるのはメインポケモンだけってことだね」 


サポートポケモンは防御を意識しなくてもいい、ということだ。 


曜「『同様にサポートポケモンによる妨害技は全てメインポケモンへ行います。出場者のサポートポケモン同士のアピール妨害は減点の対象とはなりません。同様に他の参加ポケモンの技に依存するアピール技は、全てメインポケモンを前回の行動者として参照します。』」 

239: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 13:48:27.14 ID:YHpk3Rh50

サポートポケモンでサポートポケモンを驚かしても意味ないよ、という話。ただ、低いリスクでメインポケモンのアピール妨害が出来ると言うのは頭に入れておこう。 

ついでに“ものまね”のような他のポケモンの技を真似る技などを使ったときに、真似ることが出来る技はサポートポケモンのアピールを挟んでいても、メインポケモン同士で行われるということだ。 

サポートポケモンで大技を出して、それを“ものまね”で繰り返すみたいな使い方は出来ないようだ。 


曜「『調子をあげる技はメインポケモン、サポートポケモンは独立していて、お互いに作用することはありません』……まあ、そりゃサポートポケモンがビルドアップした能力が他のポケモンのものになるわけじゃないからね」 


ただ、サポートポケモンが調子をあげて、次のサポートアピールに備えるということも出来なくはない。……えーと、次。 


曜「『サポートポケモンのアピールによってもエキサイト評定は基本的に変動するものと考えます。ただし、ターン部門のタイプと一致していても、メインポケモンのように倍付けのエキサイト上下は起こらないと考えます』」 


つまりうつくしさのターンのときに、うつくしさの技を使ってもサポートポケモンの技によって変動するエキサイトは1ということだ。 


曜「『ターン中にエキサイトがMAXになったときに限り、メインポケモンがライブアピールを行うことが出来ます。ライブアピールは会場のボルテージが最も高い状態で行うことの出来る特別なアピールです。サポートポケモンのアピールでエキサイトがMAXになった場合、ライブアピールすることは出来ません。』」 


サポートポケモンのときにエキサイトがMAXになってもライブアピールが出来ない……これは本当に頭に入れておかないといけない。 

サポートポケモンのタイミングでエキサイトゲージを満タンにしたら、ライブアピールが不発して、そのままエキサイトゲージはリセットされてしまうのはかなり痛手になる。 


曜「『ライブアピールは独立した技として判定せず、発動直前に使った部門技の該当部門点だけにボーナス点を追加します。他の部門点への追加ボーナスは発生しません。』」 


ライブアピールは?5点分のアピールに相当する。 

ただ、あくまで発動した部門アピール点が増すだけで、全部門点に5点ずつ追加されるということではないという注意だろう。 


曜「『最終的に一次審査:二次審査=1:2の割合で最終ポイントが決定します。合計点が最も高かった出場者が優勝です。』……ここはだいたい今までのコンテストライブ通りかな」 


大雑把なルールの把握はこんなもんかな……。 

あとは……。 


曜「同じコンテストライブで戦う相手のことか……」 


現クイーンのあんじゅさん。 

前クイーンのことりさん。 

そして、私に最初にコンテストをレクチャーしてくれた志満姉。 

三人とも実際にコンテストをしているところを見たことがないからなんとも言い辛いけど……。 

性格や得意な部門から、ある程度の戦略は推測出来るかもしれない。 


曜「まず志満姉……おっとりしたお姉さんだけど、得意部門はたくましさやかっこよさ……」 


得意部門からすると妨害が強い技が多い。 


曜「そういえば、昔は割とおてんばだったって、あんじゅさんが言ってたような……」 


志満姉からの妨害は警戒した方がいいかもしれない。 


曜「次はことりさん……」 


ことりさんは私を教える間も常にアピール特化を強く教えてくれていたけど……。 

あれは私の考えを尊重してくれていたからであって、ことりさん自体はバトルスタイルを見ていても……。 


曜「ことりさんって基本的にまず相手が動いたのを見てから対応してるよね……。元々器用なオールラウンダーだし、対応型な気がする」 


アピール妨害防御なんでもござれな対応型かな。 

240: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 13:49:35.94 ID:YHpk3Rh50

曜「あんじゅさん……」 


正直あんじゅさんのことはほとんどわからない。 

だけど、自信満々の喋り方が割と印象に残っている。 

そういう人は自分の覇道を往く、アピール特化な気もする。 


曜「イメージの域は出ないけど、三人ともタイプが違う……」 


かくいう私も一応アピール特化だけど……どの方向性でも極めれば頂点の大会まで辿り着く可能性を持っていると言うことだろうか。 

そんなことを考えながら頭を捻っていると、 

──prrrrrr. 

ホテルの室内に備え付けてる電話が鳴る。 


曜「ん? ご飯の時間かな?」 


随分と考え事をしていたため、ディナーの時間を伝えるためのフロントからの内線かもしれない。 

そんなことを考えながら、受話器を取る。 


曜「もしもしー」 

あんじゅ『こんばんは、曜。あんじゅだけど』 

曜「……!?」 


電話の主はなんとあんじゅさんだった。 


曜「あ、あんじゅさん!? ど、どうかしたんですか……?」 

あんじゅ『本番前にごめんなさいね。ただ、ちょっと話しておきたいことがあって……』 

曜「……話しておきたいこと?」 

あんじゅ『直接会って話したいし……渡したいものもあるから、ちょっと出てこれるかしら?』 

曜「……?」 





    *    *    * 





曜「……うわ、オシャレなカフェ……」 


──あんじゅさんに呼び出されたのはフソウタウンの大通りから少し小道に入ったところにある、オシャレなお店だった。 

……というか、カフェというよりここは……。 


バーテンダー「いらっしゃいませ、お客様」 

曜「あ、えっと……」 


入るや否や、バーテンダーさんに声を掛けられる。 

こういう場所には慣れてないから、しどろもどろしていると……。 


あんじゅ「その子、わたしの知り合いなのよ~」 


あんじゅさんが店の奥から歩いてくる。 

241: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 13:51:14.12 ID:YHpk3Rh50

バーテンダー「そうでしたか」 

あんじゅ「カウンターの奥の席、使わせてもらっていい?」 

バーテンダー「ええ、もちろんです」 


バーテンダーさんは恭しく礼をすると、店の奥へと戻っていった。 


あんじゅ「さ、こっちに来てくれる?」 

曜「あ、はい……」 


あんじゅさんに促されて、後ろをトコトコと付いていく。 


曜「あのーあんじゅさん……」 

あんじゅ「なにかしら?」 

曜「ここ……バーですよね?」 


通されたカウンター席の向こうでは、恐らくマスターらしき人がカクテルを作っているところだった。 


あんじゅ「そうよ。行き着けの場所なの。落ち着いてお酒が飲めるから、つい足を運んじゃうのよ」 

曜「……私、まだ未成年なんですけど」 

あんじゅ「わかってるわ。別にお酒を飲ませるために呼んだわけじゃないから。マスター、この子にソフトドリンク貰える?」 


あんじゅさんの言葉を聞くと、マスターと呼ばれた人が手際よく、ジュースを用意してくれる。 


マスター「パイルの実をベースにした、きのみのブレンドジュースです」 

曜「あ、ありがとうございます……」 


一口飲んでみると── 


曜「なにこれ!? おいしい……!!」 


パイルの実の皮が持つ酸っぱい味のあとに、他のきのみの甘い味が口いっぱいに広がる。 

でも、それでいてしつこくなくて、すごく飲みやすい。無限に飲んで居られそうな気がする。 


マスター「ありがとうございます」 

あんじゅ「マスターの作るカクテルやブレンドジュースは絶品なのよ。……っと、それはいいとして」 


あんじゅさんはカバンから、封筒のようなものを取り出す。 


あんじゅ「これを渡しておこうかなと思って」 

曜「……? なんですか?」 


封筒を受け取り、表を見ると、 


曜「……え」 


そこには『コンテスト運営委員会役員推薦状在中』と書かれていた。 

242: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 13:53:16.23 ID:YHpk3Rh50

曜「コンテスト運営委員会役員……?」 

あんじゅ「そ。グランドフェスティバルの直前に渡すのもどうかな……とは思ったんだけど、ここまで来たら勝っても負けても、これを渡すに足ると思ったし」 

曜「どういうことですか?」 

あんじゅ「グランドフェスティバルは知っての通り、この地方のコーディネーターの頂点を決める大会よ。つまり今現在あなたは低く見積もって地方で4番目以上に優秀なコーディネーターってこと。間違いなくトップクラスのコーディネーターよ」 

曜「トップクラスのコーディネーター……」 

あんじゅ「ま、最も役員の中にはすでに永世クイーンになって殿堂入りした人もいるけど……現役コーディネーターの中では間違いなく、上位中の上位よ」 

曜「……それと私が役員の推薦状を貰ってるのと関係が……?」 

あんじゅ「……これはあくまでわたしの考えなんだけど、わたしはコンテストと言うものがもっと多くの人に広がって欲しいと思ってる」 


言われてみれば、あんじゅさんはクイーンでありながら、率先してアクセサリー入れを配ったり、コンテストの布教をしていたことを思い出す。 


あんじゅ「まだまだ、ポケモンと一緒にやることと言えばバトル……と言うのが主流だけど、わたしはポケモンの魅力はそれだけじゃないと思ってる」 

曜「わ、私もそう思います!」 

あんじゅ「ふふ、ありがと。……だからわたしはね、もっといろんな人にコンテストの良さを知ってもらう方法をいつも考えてるの」 

曜「……」 

あんじゅ「でも、一人じゃ知恵が足りない……だから、コンテストに真っ直ぐ向き合って、実力で持って上まで駆け抜けて来た仲間たちと一緒に、もっとよりよいものが作れないかなと思って、本当に優秀なコーディネーターにはこうして声を掛けているの。その人選のラインがグランドフェスティバル出場経験者ってわけ」 

曜「……なるほど」 

あんじゅ「実際、この考えにはことりも同意してくれててね。実はあの子も役員なのよ──……ってさすがに知ってるかしら?」 

曜「……直接ことりさんの口から聞いたことはないですけど、薄々そうなんだろうなとは……」 


ことりさんは出場するわけでもないのに、頻繁にコンテスト会場に足を運んでいたし、運営側に関わっているんだろうなと言うことは、なんとなく気付いていた。 


あんじゅ「そういうわけで……どうかしら?」 

曜「……う、うーんと……」 


私は急に言われて困惑してしまう。 

もちろん、すごく名誉なことだと言うのはわかってはいるけど。 


あんじゅ「……もちろん、すぐに答えて欲しいってわけじゃないわ。グランドフェスティバル本番もあるわけだし」 

曜「……そうですね……。ちょっと、少し考えさせてください」 

あんじゅ「ええ、わかったわ」 


あんじゅさんはカクテルに軽く口を付けてから── 


あんじゅ「曜」 


訊ねて来る。 


曜「なんですか?」 

あんじゅ「コンテストは好き?」 

曜「……はい! 大好きです!」 

あんじゅ「そう……なら、あのときあなたに布教してよかった」 

曜「こちらこそ……ありがとうございます。あんじゅさんのお陰でコンテストに出会えました」 

あんじゅ「ふふ、でもあなたなら遅かれ早かれこの世界に来ていたと思うけどね」 


あんじゅさんはそう言って笑う。 

243: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 13:54:24.48 ID:YHpk3Rh50

あんじゅ「……ことりがね、言っていたの」 

曜「?」 

あんじゅ「まだコンテストライブは過渡期だって」 

曜「過渡期……ですか」 

あんじゅ「まだまだルールを洗練出来るし、もっともっとポケモンたちの魅力を伝えられる場として、もっともっと発展出来る可能性を秘めてる素敵な場所なんだって」 

曜「ことりさんが……」 

あんじゅ「ことりは、もっと多くの人が、ポケモンたちの魅力に気付ける場所にしたい、その機会と出会える場所にしたいって言っていた。それがあの子がコンテストに懸ける信念」 


あんじゅさんは私の目を真っ直ぐ見つめながら、 


あんじゅ「曜、あなたにとってコンテストは……どういう場所であってほしい?」 


問うてくる。 


曜「……私は──」 


少し考える。 

私にとってコンテストって、どんな場所だろう。 

自分が考えた最高の衣装を皆に披露して、それを受け止めてもらって、認めてもらえる場所……。 

……うぅん、ちょっと違うな。 


曜「……笑顔になれる場所、かな」 

あんじゅ「笑顔になれる場所?」 

曜「……私がコンテスト会場に訪れた理由なんですけど……実は野生のポケモンとのバトルですごい怖い思いをして……バトルが怖くなって、この先どうしようか、すごく迷ってたんです」 


スタービーチでのドヒドイデとのバトルで、本当に怖い思いをした。 


曜「そんなときに、先輩トレーナーに薦められて、コンテスト会場を訪れて……そしたら、ポケモンもコーディネーターさんも……それだけじゃない、観客の皆もすごく楽しそうで、キラキラしてて……。気付いたら私もそのキラキラから目が離せなくなってて」 


自分で言ってて、思い出して、気付く。 

244: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 13:55:30.93 ID:YHpk3Rh50

曜「私……コンテストがあったから、また笑顔になれた。……怖い思いしたけど、ポケモンを嫌いにならずに居られた」 

あんじゅ「……そっか」 

曜「だから……皆がキラキラ眩しい笑顔で笑って、ポケモンと一緒に何かを表現するのって、素敵なんだなって、そう思える場所になってくれたら……うぅん、そうあり続けてくれたら……嬉しいです」 

あんじゅ「……ふふ、やっぱり、わたしの目に狂いはなかった……すごく素敵な考えだと思うわ」 


あんじゅさんはわたしの言葉を聞いて優しく微笑んでくれる。 


曜「あ、ありがとうございます」 


なんかちょっぴり恥ずかしい。 


あんじゅ「ますます、一緒にコンテストを作って行く仲間に欲しくなっちゃったけど……それは、グランドフェスティバルが終わってからにするわ」 


そう言ったあと、あんじゅさんは手を差し伸べてきた。 


あんじゅ「……グランドフェスティバル。お互い全力で、訪れた誰もが笑顔になれるような、素敵なコンテストライブにしましょう」 

曜「……はい!」 


私はその手を強く握る。 

このあと二人でゆっくり談笑をしながら過ごす。 

コンテストについて語るたびに、あんじゅさんは嬉しそうに話を聞いてくれて──。 

そんなあんじゅさんたちと戦う最後の決戦のステージが……いよいよ、始まるんだ。 

コーディネーターの頂点を決める大会、グランドフェスティバルが── 

そんなことを考えながら、フソウタウンでの夜は更けていくのでした……。 



245: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/15(水) 13:56:14.61 ID:YHpk3Rh50


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【フソウタウン】 
no title

 主人公 曜 
 手持ち カメックス♀ Lv.53 ✿ 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい 
      ラプラス♀ Lv.47 ✿ 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
      ホエルオー♀ Lv.45 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい 
      ダダリン Lv.47 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん 
      カイリキー♂ Lv.44 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん 
      タマンタ♀ Lv.42 ✿ 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい 
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:161匹 捕まえた数:23匹 コンテストポイント:120pt 


 曜は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued.