1: 名無しさん 2019/11/07(木) 19:08:05.068 ID:wDb80BE00
司会「皆さま、大変長らくお待たせいたしました!」

司会「只今より、新郎による新婦入刀を行います!」

ワァァァ……

司会「まず、最初に入刀に挑戦する新郎候補はこの方です!」

司会「数々の戦や賊討伐で華々しい戦果を上げてきた、剣士殿です!」

ワアァァァァァ……



剣士「必ず入刀してみせる!」

引用元: ・司会「只今より、新郎による新婦入刀を行います!」

3: 名無しさん 2019/11/07(木) 19:12:09.767 ID:wDb80BE00
司会「剣士殿の愛剣は名剣『ルレーキクヨ』という名前でして」

司会「なんと岩をも軽々切断する切れ味を誇ります!」

司会「それに加え、剣士殿の剣の腕があれば、新婦入刀も決して夢ではありません!」

司会「さあ、剣士殿がルレーキクヨを構えた!」

剣士「…………」

新婦「…………」

剣士「いざッ!!!」ビュオッ

司会「いったァ! 剣士殿が新婦の肩に斬りかかったッ!」

4: 名無しさん 2019/11/07(木) 19:15:09.687 ID:wDb80BE00
パキィンッ!

剣士「な……ッ!」



司会「あーっと、ルレーキクヨが砕けたァァァァァッ!」

司会「あまりにもあっけなく砕け散ってしまったァァァァァッ!」

司会「一方の新婦、傷一つついておりません!」



新婦「……次ッ!!!」

5: 名無しさん 2019/11/07(木) 19:18:23.673 ID:wDb80BE00
司会「さあここで、改めてこの式の趣旨をご説明いたしましょう」

司会「ウェディングドレス姿の新婦様は国内有数の名家の出身で、なおかつこの肉体美……美貌の持ち主!」

司会「大勢の男性が求婚を申し込むのも当然のお嬢様でいらっしゃいます!」

司会「しかし、新婦様は結婚相手に一つの条件をつけました。それは――」

司会「“我が体を斬り、血を流させた者の妻となる”!」

司会「すでに10回以上、この式は開催されておりますが、未だに達成者はおりません!」

司会「果たして今宵、新婦入刀に成功し、見事新郎となる男性は現れるのでしょうか!?」

7: 名無しさん 2019/11/07(木) 19:22:21.874 ID:wDb80BE00
司会「続いての新郎候補はこちら! ナイフ使い殿!」

ワアァァァァァ……

ナイフ使い「クックック……」

司会「新婦は剣でも斬れませんが、勝算はあるのでしょうか?」

ナイフ使い「もちろんある」

ナイフ使い「今時のナイフは剣より切れ味が鋭いのも多いし、それに――」

司会「それに?」

ナイフ使い「それはまあ、新婦入刀に成功してからネタばらしするよ」

司会「なにやら秘策がある模様! これは期待できます!」

9: 名無しさん 2019/11/07(木) 19:25:34.134 ID:wDb80BE00
ナイフ使い(わざわざ筋肉のある肩を狙うなんてバカのやることだ)

ナイフ使い(俺の狙いは……胸! 女の胸は柔らかいから、確実に傷をつけられるはず!)ダッ

司会「走ったッ!」

ナイフ使い「もらったァ!」

ベキンッ!

ナイフ使い(え……!?)

司会「なんとォ! ナイフ使い殿のナイフもあっけなく折れてしまったァ!」

ナイフ使い(なんだ今の感触……まるで鋼鉄で出来た城ッ!)

新婦「……次ッ!!!」

11: 名無しさん 2019/11/07(木) 19:29:28.182 ID:wDb80BE00
司会「次の新郎候補はなんと遠い異国からの挑戦者!」

司会「サムライ殿ォッ!」

ワアァァァァァ……

サムライ「ご紹介かたじけない」

司会「やはり異国の剣というのは……我々の知ってる物とはずいぶん違いますなぁ」

サムライ「名刀『斬念』……拙者の愛刀でござる」

司会「えー、皆さまも異国の剣には馴染みがない方がほとんどだと思いますので」

司会「今回、サムライ殿が試し斬りをご披露下さることになっています!」

オオッ……

13: 名無しさん 2019/11/07(木) 19:32:47.943 ID:wDb80BE00
司会「さあ、ぶ厚い鉄板を五枚重ねたものを用意しました」

司会「こんなものを本当に斬れるんでしょうか……?」

サムライ「…………」チャキッ

司会「刀を鞘に納めました……」

サムライ「むんっ!!!」

ズバンッ!

オオォ~……!

司会「素晴らしい! 鉄板をパンでも切るかのように斬り捨ててしまいましたァ!」

司会「これは新婦入刀にかなり期待が持てますッ!」

15: 名無しさん 2019/11/07(木) 19:35:24.828 ID:wDb80BE00
司会「さあ、いよいよ新婦入刀です!」

サムライ「…………」チャキッ

新婦「…………」

サムライ「むぅんっ!!!」

ガキィンッ!

サムライ「……ぬ!?」

司会「あーっと、残念! 名刀『斬念』も新婦を傷つけること敵わず、刃こぼれしてしまったァ!」

サムライ「あああ……」ガクッ

新婦「次ッ!!!」

17: 名無しさん 2019/11/07(木) 19:40:39.110 ID:wDb80BE00
司会「次の新郎候補はシーフ殿ッ!」

司会「盗賊業でならした剣の腕、新婦の肉体に通用するのでしょうか!?」

司会「使う剣は……盗賊らしく短剣のようです!」

シーフ「フフフ、入刀した後、やはり盗賊なんかと結婚できないってことはないだろうね?」

新婦「あり得ぬ。たとえ誰であろうと結婚する」

シーフ「それを聞いて安心したよ。じゃあ、まずはこいつだ!」パッパッ

新婦「…………!」ムズッ

新婦「は、は、は……」

シーフ(大きく口を開けた! 今だッ!)

18: 名無しさん 2019/11/07(木) 19:43:19.634 ID:wDb80BE00
司会「これはコショウだ! シーフ殿、新婦にコショウをぶっかけた!」

新婦「はっ、はっ、はっ……」

シーフ「さすがに口の中までは硬くないだろう!?」ヒュオッ

ガキンッ!

シーフ「ウソォ!?」

新婦「はぁっ、はぁっ……クシャミ、出る……」

新婦「ヘェアアアックシュンッ!!!!!」

シーフ「ぐひゃああああああああああああああっ!!!」

司会「シーフ殿、ふっ飛ばされたーっ!!!」

新婦「あ……すまん」

19: 名無しさん 2019/11/07(木) 19:46:43.331 ID:wDb80BE00
司会「続いての新郎候補は“竜殺し”殿!」

ワアァァァァァ……

司会「最強生物である竜を百頭退治したことで、この異名を欲しいままにした大剣豪であります!」

司会「さて、今回の自信のほどは?」

竜殺し「ガッハッハ、人一人、しかも女子(おなご)を斬るなど竜を斬るのに比べれば造作もないこと!」

司会「頼もしいお言葉!」

司会「では竜殺し殿、新婦入刀をお願いします!」

20: 名無しさん 2019/11/07(木) 19:49:38.190 ID:wDb80BE00
竜殺し「ヌガァァァッ!!!」

バキャァンッ!

司会「百頭の竜を葬った剣も、新婦には歯が立たなかった~~~~~!!!」

竜殺し「なにこの硬さ……」ビリビリ…

司会「新婦様、今のご感想をお聞かせ下さい」

新婦「やはり、私を入刀し、私に手料理を作らせてくれる殿方などこの世に存在しないのか……」

司会「新婦も落胆の色を隠せておりません!」

司会「さあいよいよ、今回ラストの新郎候補の登場です!」

21: 名無しさん 2019/11/07(木) 19:53:25.261 ID:wDb80BE00
司会「まさかこの方が来てくれるとはッ! 伝説的剣士である英雄(えいゆう)殿だァッ!!!」

英雄「はじめまして」

ワアァァァァァ……!!!



剣士「雲の上の人じゃないか!」

ナイフ使い「マジかよ……!」

サムライ「拙者の国にも武名は届いている……」

シーフ「思わずひれ伏したくなっちゃうよ……」

竜殺し「まさか、こんな間近でお目にかかることができるなんて……!」

22: 名無しさん 2019/11/07(木) 19:55:21.845 ID:wDb80BE00
司会「改めて、英雄殿の輝かしい功績をご紹介します!」

司会「三歳の頃より剣を振り始め、わずか七歳である国の騎士団長に勝利」

司会「その後は各地を転々とし、そのいずこでも伝説的な戦歴を残し」

司会「ついには魔界王、地獄伯爵、宇宙大魔神の三大巨悪を打ち破りました!」

司会「まさに生ける伝説! 世界の救世主! 神にも等しい剣士といっても過言ではありません!」

ワアァァァァァ……!!!

23: 名無しさん 2019/11/07(木) 19:58:35.607 ID:wDb80BE00
司会「挑む前に、今のお気持ちをお聞かせ下さい!」

英雄「三大巨悪との戦いは……この日のためのウォームアップに過ぎません」

司会「へ?」

英雄「私はこの日のために、これまで修行を重ねてきたのです」

司会「ど、どういうことでしょう?」

英雄「十年前――私はまだ当時少女だった新婦と立ち合いました」

司会「え!?」

英雄「私が何十回斬っても彼女は傷一つ負わず、彼女のビンタ一発で私は失神しました」

ザワッ……

英雄「しかし、今の私ならば、新婦の伴侶に相応しいと確信しています」

24: 名無しさん 2019/11/07(木) 20:01:39.902 ID:wDb80BE00
司会「まさか、英雄殿と新婦様にこんな因縁があったとは……」

司会「新婦様、覚えておられますか?」

新婦「…………」

新婦「…………」

新婦「…………」

新婦「……多分、あのことかと」

司会「ちゃんと覚えておられましたァ!!!」

ワアァァァァァ……

27: 名無しさん 2019/11/07(木) 20:05:57.395 ID:wDb80BE00
司会「では新婦入刀です!」

英雄「ハアァァァァァ……!」ゴゴゴゴゴ…



剣士「す、すごい闘気だ!」

ナイフ使い「この気にもし悪意があったら、この場にいる全員オダブツだぜ!」

サムライ「むうう……拙者など遠く及ばぬ」

シーフ「ひいいいい……!」

竜殺し「英雄様の技を見られるなんて……今日は来てよかった……!」

28: 名無しさん 2019/11/07(木) 20:08:18.234 ID:wDb80BE00
英雄「参るッ!」

新婦「来い」

英雄「ハアアアアアアーッ!!!」

英雄「天・冥・両・断・次元斬――――ッ!!!」

ブオオオオッ!!!



司会「宇宙大魔神をも真っ二つにしたとされる超奥義が、新婦の体に炸裂したァッ!」

30: 名無しさん 2019/11/07(木) 20:11:49.943 ID:wDb80BE00
ガキィンッ!

英雄「ぐ……ッ!」

新婦「…………」



司会「いや……通ってない! 刃は一ミリも食い込んでおりません!」



英雄「ぐ、ぐ、ぐ……!」

英雄(見せてやるのだ! 新婦に! この十年の成果をッ!)

英雄(私はあの時新婦に惚れ込み、今日のために技を鍛えてきたのだッ!!!)

英雄「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」

31: 名無しさん 2019/11/07(木) 20:15:16.352 ID:wDb80BE00
シュゥゥゥゥ…

英雄「…………」

新婦「…………」

新婦「見事だ」

司会「! こ、これは……! 新婦の体にうっすらと……3ミリほどの傷がついています!」

新婦「わずかに血がにじんでいる……この血痕こそ、私とあなたが結婚できるという証」

新婦「結婚しましょう」

英雄「……はい!」

司会「新婦入刀、ついに成功者が出ましたァ~~~~~~~~~~!!!」

ワアァァァァァ……!!!

34: 名無しさん 2019/11/07(木) 20:18:39.953 ID:wDb80BE00
司会「今の一撃、もう一度出せといわれたらできますか?」

英雄「いや、おそらく無理でしょうね。今までの人生全てをぶつけるつもりで放ちましたから」

司会「新婦様、入刀された感想をお聞かせ下さい!」

新婦「もう二度と……私の体が傷つくような事態が訪れることはないかもしれん」

新婦「だからこそ、この一度目の感触を一生大切な思い出としたい」

司会「素晴らしいノロケです! 皆さま、もう一度盛大な拍手をお願いします!」

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……



――――

――

36: 名無しさん 2019/11/07(木) 20:22:31.177 ID:wDb80BE00
英雄「新婚旅行も終わって、いよいよ本格的に結婚生活スタートだね」

新婦「うむ」

新婦「ではさっそく、あなたのために手料理を振る舞いたいと思う」

英雄「おおっ!」

新婦「料理はほとんどやったことがないので、本を見ながら作るし、味はイマイチかもしれないが」

英雄「私は冒険でさまざまな料理を食べてきた。どんな料理だろうと、おいしく味わってみせるよ」

新婦「不味かったら残してくれてかまわないのでな」

新婦「では調理開始だ!」

37: 名無しさん 2019/11/07(木) 20:24:23.385 ID:wDb80BE00
英雄「なかなか手際いいじゃないか」

新婦「次は野菜を切るとしよう」

トントントントントン

新婦「痛ッ!」

新婦「しまった……誤って己の指を切ってしまった」タラー…

英雄(二度目はあまりにも早く、そしてあまりにもあっけなく訪れた)







― 完 ―