1: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:01:10.228 ID:USnJoAXN0
ガサガサ… ガサガサ…

男「見えてきたぞ……」

男(あの先に未開部族の集落がある……!)

男(いったいどんな人々が、文化が、私を待ち受けているんだろう……)

男「――え」



原住民A「ソシャゲおもしれ~!」ポチポチ

原住民B「よっしゃ、レアキャラ出た!」

原住民C「この動画ウケるわ~!」

引用元: ・男「ジャングルの奥地で暮らす未開部族の集落にやってきたぞ!」原住民「ソシャゲおもしれ~!」ポチポチ

3: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:04:50.854 ID:USnJoAXN0
男(ここは未開の集落のはずじゃ……!?)

男(街並みはかなり現代的だし、なんだかイメージ崩れるなぁ)

男「ちょっとすいません」

原住民「あれあんた、もしかして外国人?」

男「そうなんです。この集落に取材に来たんですが……」

原住民「取材? だったら族長に会うといいよ!」

男(“族長”……いい響きだ。きっと威厳たっぷりの半裸のお年寄りが出てくるに違いない!)

6: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:08:10.394 ID:USnJoAXN0
族長「ようこそ、我が集落へ。私が族長です」

男「はじめまして」

男(ビシッとしたスーツ姿だ……またしてもイメージ違うなぁ)

男「私、雑誌記者をしておりまして、このたび取材をさせて頂こうと……」サッ

族長「これはどうも。では、こちらからも」サッ

男「頂戴いたします」

男(名刺まであるのか……)

族長「よかったら、私の家でゆっくりお話でもいかがです?」

男「ぜひ!」

男(今度こそ……昔ながらの簡素な家が私を待っているはずだ!)

7: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:11:23.041 ID:USnJoAXN0
族長「狭い家ですが」

男「とんでもない」

男(普通の家だ……私の国の家と大して変わらないよ)キョロキョロ

族長「飲み物はお茶でよろしいですかな?」

男「はい」

男(よし……ものすごい味のお茶が出てくる流れ……!)

9: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:15:35.568 ID:USnJoAXN0
男「……」ゴクッ

男(この集落独特でもなんでもない、普通のお茶だ……)

族長「お味はいかがです?」

男「え、あ、おいしいです」

族長「で、どういった取材を?」

男「私は世界各地の部族の取材をしてまして、今回はこの集落を……」

族長「なるほどなるほど」

男(といっても、今のところ記事になりそうな材料がない……)

男「すみませんが、お手洗いをお借りしてもよろしいですか?」

族長「どうぞどうぞ」

男(よし……これで“ただの穴”みたいなトイレが出てくれば……!)

10: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:18:03.093 ID:USnJoAXN0
男「普通のトイレだ……」

男「ご丁寧にウォシュレットまでついて……我が家にはないのに」

プシュゥゥゥゥゥ…

男「んっ、きもちいいっ!」

11: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:20:01.981 ID:USnJoAXN0
族長「よろしかったら、一緒に夕食でもいかがですかな?」

男「ぜひ!」

男(今度こそ……!)

男(きっと獣の丸焼きとか、ぶつ切りにした大蛇とか、とんでもないのが出てくるに違いない!)

男(うおおおおおお……記者魂が燃えてきたぜ!)

12: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:23:18.763 ID:USnJoAXN0
妻「どうぞ」

男(普通にうまそうなのが出てきた!)

妻「お口に合うかどうか……」

男「いえ、とてもおいしいです」パクパクモグモグ

族長「……」

族長「先ほどから、どうも様子がおかしいですな」

男「え、なにがですか?」

族長「なんというか“期待外れ”と感じておられるような……」

男「いえ! 決してそんなことは……」

族長「隠さなくても結構。おそらくあなたは、もっと原始的な集落を期待していたのでしょう?」

族長「みんな半裸で踊り、電気もガスも使わず、獣の肉を生で食べるような……」

男「は、はい……その通りです」

14: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:27:08.718 ID:USnJoAXN0
族長「昔はそうでした」

族長「日の出と同時に起き、弓や槍で狩りをし、皆で作物を耕し、日が沈んだらすぐ寝る」

族長「時には生贄の儀式など、ずいぶん野蛮なこともやってきました」

族長「ですが……それではもう先がないと気づきましてね」

族長「今ではすっかり都会の文明を受け入れ、近代化してしまったんです」

男「そうだったんですか」

族長「我々も進歩しているということですよ」

17: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:30:25.123 ID:USnJoAXN0
族長「ご期待にそえなかったのは残念ですが……」

男「いえ、とんでもない」

族長「せっかくですし、数日間滞在なさってはいかがです?」

男「そうさせて頂きます」

男(まだ諦めてないぞ……)

男(きっとまだどこかに、この集落独自といえる文化が残ってるはず!)

20: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:33:14.186 ID:USnJoAXN0
男(ハンバーガーショップだ。入ってみよう)

店員「いらっしゃいませー!」

男「ハンバーガー、一つください」

店員「少々お待ち下さい」

男(わけの分からない肉が挟まったハンバーガーが出てくれば、いいネタに……)

店員「お待たせいたしました」

男(あまりにも普通のハンバーガーが出てきた)

23: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:36:30.870 ID:USnJoAXN0
男(集落を歩けば、女の子たちが……)



部族女A「やだー!」

部族女B「超ヤバーイ!」

部族女C「タピオカおいしー!」



男(今時の女の子みたいに喋ってる……)

24: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:38:29.346 ID:USnJoAXN0
男(子供達はというと……)



子供A「ゲームやろうぜ!」

子供B「俺のモンスターのが絶対強いよ!」

子供C「あーあ、塾行くのめんどくせー!」



男(俺の故郷の子供達とほとんど変わらん……)

男(ダメだ……記事になりそうなネタが何もない!)

25: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:42:09.854 ID:USnJoAXN0
三日後――

族長「いかがでしたか?」

男「とても素晴らしい集落でした。皆さん生き生きとしてて……」

族長「本当にそう思ってますか?」ジロリ

男「も、もちろんです」

族長「嘘はいけません。これじゃ記事にならないと顔に書いてありますよ」

男「いや、そんなことは……」

族長「我々としてもせっかく来て頂いたお客を満足させられないのは心苦しい」

族長「そこで、集落をあげて“生贄の儀式”を再現しようと思うのですが、よかったら参加しませんか?」

男「いいんですか?」

族長「はい、ぜひ記事のネタになさって下さい」

男「ありがとうございます!」

26: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:45:15.862 ID:USnJoAXN0
その夜――

ドンドコドン… ドンドコドン… 

男(老若男女、部族独自の衣装に身を包んで……太鼓を叩いて、歌って踊って……)

男「こりゃあ本格的だ」

族長「そうでしょう」

族長「といっても、あくまで昔の儀式の真似ごとに過ぎませんが、今夜は楽しんでいって下さい」

男「はいっ!」

27: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:48:11.696 ID:USnJoAXN0
ドンドコドン… ドンドコドン…

原住民「蛇の出汁がよくきいたスープだ。飲め」

男「いただきます」ゴクッ

男「お~、こりゃすごい!」

男(これだよ……私はこういうのを求めてたんだよ!)

族長「儀式もいよいよ佳境ですな」

男「ところで生贄はどうするんです?」

族長「もちろん人形を使いますが……あ、そうだ」

族長「よろしければ、生贄の役をやってみませんか? いい体験になると思いますよ」

男「面白そうですね、やります!」

族長「では、円陣の中央で縛らせて頂きますね」

30: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:51:23.169 ID:USnJoAXN0
ドンドコドン… ドンドコドン…

族長「皆の者!」

族長「これより、神に生贄を捧げる!」

ウオオオオオッ!

族長「このたびの生贄はこの外国人!」

族長「神聖なる集落を侵したこの下賤な者を、神への供物としようぞ!」

ウオオオオオオオオオオッ!!!

男(すごい……本格的だ……!)

31: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:53:45.949 ID:USnJoAXN0
ドンドコドン… ドンドコドン…

族長「選ばれし勇者よ! この槍を持て!」

若者「オウ!」

ドンドコドン… ドンドコドン…

族長「奴の心臓を貫くのだ!」

若者「オウ!」ギラッ

男(迫力満点だ……!)

男(もちろん、あの槍はレプリカなんだろうけど……)

32: 名無しさん 2019/12/02(月) 22:56:26.779 ID:USnJoAXN0
ドンドコドン… ドンドコドン…

若者「ウオオオオオオオッ!」ブンブンブン

男「……?」

男「ちょっと待って、この槍本物じゃないですか?」

族長「そりゃそうに決まってるでしょう」

男「そこまで再現するんですか……すごいなぁ」

族長「再現? なにをいってるんだ?」

男「え?」

族長「お前は今から本当に生贄になるんだよ」

男「……え!?」

33: 名無しさん 2019/12/02(月) 23:00:03.898 ID:USnJoAXN0
ドンドコドン… ドンドコドン…

族長「我々の集落において、よそ者を生贄にするのは欠かせない行事だった」

族長「しかし、このところ、外部の者は我々を警戒してすっかり来なくなってしまってねえ」

族長「そこで我々は断腸の思いで、外部の文明を受け入れることにしたのだ」

族長「そうすれば、お前のような輩が油断してやってきてくれるとな」

族長「もっとも……お前はこのことを知らなかったようだが」

男「そ、そんな……」

族長「まあ、元々お前はこういうのを望んでたわけだし、悔いはないだろう?」

族長「前にもいったが、我々も進歩しているということだ」

男「ひ、ひいいいっ!」

34: 名無しさん 2019/12/02(月) 23:02:19.511 ID:USnJoAXN0
ドンドコドン… ドンドコドン…

族長「皆の者! 実に何年かぶりの生贄だ。大いに盛り上がろうではないか!」

族長「さあ勇者よ、刺せッ!」

若者「オウッ!」





男「や、やめてくれええええええええ……っ!!!」

36: 名無しさん 2019/12/02(月) 23:05:08.286 ID:USnJoAXN0
族長「……なーんてね」

男「……へ?」

族長「驚かれました?」

男「……?」

族長「おい、縄を外してやれ」

若者「はい」

男「あの……なにがなんだか……」

38: 名無しさん 2019/12/02(月) 23:09:00.495 ID:USnJoAXN0
族長「つまりですね、今のは全部アトラクションだったんですよ」

男「あとらくしょん……」

族長「どうせなら、本気でやって、本気で怖がってもらおうと思いましてね」

族長「我ながら悪趣味でした。本当に申し訳ない」

男「そうだったんですか……」

男「よかったぁ~……」ヘナヘナ…

族長「ああっ、しっかりなさって下さい!」

――――

――

39: 名無しさん 2019/12/02(月) 23:12:06.377 ID:USnJoAXN0
男「お土産をこんなに頂いちゃって……」

族長「久しぶりのお客様でしたから」

男「この数日間、本当に楽しかったです。いい記事を書いてみせますよ!」

族長「期待してます」

男「本当にお世話になりました。ありがとうございました!」

族長「さようなら~!」

「さよならー!」 「また来てねー!」 「じゃあなー!」

41: 名無しさん 2019/12/02(月) 23:14:43.645 ID:USnJoAXN0
若者「……」

若者「これでよろしかったのですか? ……奴を生贄にしなくて」

族長「ああ……これでよいのだ」

族長「奴は雑誌記者といっていた。いなくなれば騒ぎになるかもしれん。それに……」

若者「それに?」

族長「奴はいい撒き餌になる」

42: 名無しさん 2019/12/02(月) 23:16:15.996 ID:USnJoAXN0
族長「あの男はこの集落を、近代化が進み、迫真のアトラクションも楽しめるいい観光地だと記事に書くだろう」

族長「そうすれば、大勢ののんきな観光客がやってくる」

族長「中には一人旅など、いなくなったところで問題なさそうな輩も来るだろう」

族長「我々はそういった輩を密かに捕え、こっそりと生贄にすればいいのだ」

若者「なるほど……!」

族長「我々も進歩しているということだ」







おわり