1: 名無しさん 19/09/19(木)16:18:03 ID:wRv
腹ペコシスターシリーズの続編です。
前スレ、甘煮なんていいじゃないかと言ってくださった方がいるので、それで書いてみました。
もうバッチリ趣味全開です。よろしければ、ぜひ。
よろしくお願いします。

引用元: ・【モバマスss】腹ペコシスターの今日の一品;さつまいもの甘煮

2: 名無しさん 19/09/19(木)16:18:43 ID:wRv
【オードブル:萌芽】



「せんせー!さようならー!明日から三連休だー!」
「あ、薫、待つでごぜーますー!あ、今日もありがとーごぜーました!」

「ああ。お疲れ様。」

柄じゃない。今でもそう思う。事務所には未成年、それどころか小学生のアイドルも多数存在する。そのほとんどを担当しているのが俺なわけだが、なぜ俺に白羽の矢が立ったのかは定かではない。

3: 名無しさん 19/09/19(木)16:19:33 ID:wRv
最初は一時的なものだと思っていた。
仁奈はスカウト組だ。詳細は知らないが、天性の嗅覚を持つ後輩が連れてきたということもあって、事務所では誰が担当なのかという話で少し盛り上がったのを覚えている。
俺は後輩がそのまま担当するものとばかり思っていたが、大人組の担当でもある彼は海外にまで出張ることもあり、よりきめ細やかな配慮が必要な年少組の担当は難しいとのことだった。

とはいっても他にも同期──こいつは男の俺から見ても呆れ果てるくらいいい男だ──がいたし、まさか俺が担当を任されるなんてことは夢にも思わなかった。
あれよあれよと言う間に次々と薫、桃華の担当を任されると、最終的には L.M.B.G. ──俺が統括を任された、数十人規模となる、会社肝いりのプロジェクトのことであるが──とにかく、そんな大人数の担当を任されるにまで至った。

4: 名無しさん 19/09/19(木)16:21:02 ID:wRv
そこでもう一度同じことを述べよう。柄じゃないと。
鏡を見ればそんなことは容易にわかりそうなものだ。
必要以上にでかい身長。眉間に寄ったシワは笑った時すら消える気配がない。
スーツを着て歩いていると、何もしていないはずなのに職務質問をされる。
いや、何かしたら逮捕されるんだからその言い方はおかしいんだけど、なんだって俺ばかり標的にされるんだ。怖いからか、そうか。

換言すると俺は意図せず人を威圧してしまうのだ。
そんな人間に、繊細な年頃の少女のプロデュースを任すなんて、部長あたりは本当にどうかしているんじゃないだろうか。
今回の担当替えでお役御免かとも思ったが、やはりこれも理解し難いことに変更はなく。

────いや。正確にいえば、変わったことは一つだけある。
というより、唯一担当が替わったレアな事象の当事者なのだ。

5: 名無しさん 19/09/19(木)16:21:58 ID:wRv
机の上の時計を見ると、短針は6の文字から20度ほどずれた位置にある。
だからあと20分ほどで、彼女が俺のところに姿を見せるはずだ────あの腹ペコシスターが。

この行動だって柄じゃないんだろうけど。あのほくほくの笑顔で、「今日は何を食べさせてくれるんですか」などと聞かれたら、少しでも美味しいものを食べさせてやりたくなるのはこの世の道理だろう。
最近はほぼ毎日料理をしている。響子にそのことを話すと泣いて喜んでいたのでどうしたものかと思ったら、廊下の向こうで柳さんもハンカチで目元をぬぐっていた。
その光景を見たときは流石に自らの不摂生を反省したものだ。てかどんだけ心配されてたんだ俺は……

6: 名無しさん 19/09/19(木)16:22:49 ID:wRv
仕事は山積みだ。だが、俺は一切の業務を一旦中止し、給湯室に向かう。冷蔵庫に入っている食材は、最近ますますと充実してきている。料理教室はたいそう盛況なようで、結構である。

さて、じゃあ先日響子から習った料理でも作るか。自分一人で作るのは初めてだが、レシピは頭の中に叩き込んである。たぶん大丈夫だろう。そうすると、響子のアドバイスも自然と思い出される。
響子、いいか。
そういうのはお前や葵みたいに可憐で優しい少女たちにのみ適用されるアドバイスなのだ。俺みたいなむさ苦しい男は淡々と料理をこしらえるのが吉である。
それは過去の歴史が嫌というほど証明している。世のお父さん達の男飯に込められた思いよ、君は少々重いのだ。


「プロデューサーさん……? 」

おや。
今日はお早いお着きだ。くだらないダジャレを思いついて満足している場合ではない。

7: 名無しさん 19/09/19(木)16:23:23 ID:wRv
「お帰りなさい、クラリスさん。今日のお仕事はいかがでしたか?」
「……はい……! とても、とても上手く歌うことができました……! ご一緒した望月さんの歌声には目を見張るものがあり、お互いに切磋琢磨できたことが、尚良かったと思います。」
「ああ、そりゃあいい。クリスマス近くになったら、お二人はあちらこちらで引っ張りだこかもしれませんね。」
「それは……もしそうなったら、とても喜ばしいことです。」
「ええ。そうなるように、レッスンと、お仕事。頑張っていきましょうね。」
「はい……! そして、プロデューサーさん……あの……その。」

僅かに桃色に色づいた?。左手は軽く握って口元に持っていき、右手は所在なさげに胸あたりの高さでぷらぷらと。──いつもの仕草だ。

「はい。どうしました?」

わかりきっているのだけど、少し意地悪をしたくなる。まったく、血も涙もない男だ、俺は。

「あ、あの……その……ですね……わ、私…………!」

8: 名無しさん 19/09/19(木)16:23:52 ID:wRv

グゥ~~~…………

9: 名無しさん 19/09/19(木)16:24:07 ID:wRv

目は口ほどに物を言う。腹の虫は、目よりも何よりも、その感情をストレートに表現する。

「……ぁぅぅ……」

桃色の?はみるみる赤く染まる。このやり取りをするのは、何度目になるんだろうか。まったく、今更こんなことで恥ずかしがることもないだろうに。でも、その度に初々しい反応を返すこの担当アイドルの姿が、最近は頭から離れない。────俺も workaholic の気があるのだろうか。

でも今は、ペコペコのお腹を美味しいもので満たしてあげられるように、注力しよう。

「待っててください。すぐ、できますからね。」

10: 名無しさん 19/09/19(木)16:24:27 ID:wRv
【今日の一品:さつまいもの甘煮】



秋口だからまだ旬には少し早いかもしれないが、季節の先取りということでご容赦いただこう。
彼女は少し甘めの味付けが好きだから、自分一人で作るときは少し調味料の分量を変えねばなるまいが。一緒に食べる分には、この味付けの方が喜ばれるかな。

11: 名無しさん 19/09/19(木)16:24:51 ID:wRv
────さつまいも二本をよく洗い、7mmから1cm程度の輪切りにし、水にさらす。
余談になるが、昔はあく抜きの重要性がよくわからず、なんだか面倒くさくてやらなかったのだが、葵が「水につけとくだけでも違うんよ!」というので試してみたら、少し感動したものだ。


────さつまいもの水をよく切り、鍋に入れる。その後、さつまいもが全て浸るまで水を入れる。
今回は 500ml 程だ。これはさつまいものサイズ依存性があるので、適宜判断してほしい。


────水を投入したら、火にかける。水が温まってきたところで、甘煮たる味付けに入る。砂糖大さじ4と小さじ1、みりん大さじ2を入れ、鍋に蓋をする。
この砂糖の量だとだいぶ甘くなる(響子達には大さじ3と小さじ1と報告している。糖分を控えるように言われているので、彼女達には秘密にしておいてくれ────)。しかも今回は、隠し味でさらに『アレ』を投入するので、さらにだ。個人の好みに合わせ、調整は必要だろう。


────その後、沸騰するまで煮る。硬めの食感が好きなら、沸騰して数秒したらごく弱火に。やわ目の食感が好きなら、弱火に火の強さを調節しよう。
今回は、箸でさつまいもを崩せるくらいの柔らかさになるまでゆっくりと煮る。


────さつまいもが柔らかくなったら、醤油小さじ1と半分。塩を小さじ半分、投入する。これらの塩気は甘さを引き立てるための舞台装置だから、そこまで量を多くしない方がいい。減塩、大事。



────最後の味付けが終わったら火を止めて、余熱を利用して味を中まで染み込ませる。そして、ここが今回の隠し味。はちみつを、小さじ1ほど入れる。はちみつは入れすぎると口当たりが重くなってしまうので、入れすぎには注意してくれ。


────よし、出来上がりだ。大皿にあけてもいいし、一人分を小皿に分けてもいい。彼女はきっとたくさん食べるから、今日は大皿にあけることにする。

12: 名無しさん 19/09/19(木)16:25:32 ID:wRv
「さぁ、クラリスさん。出来ましたよ。」
「ほくほくのお芋の匂いが、こちらまで漂ってきます……!ああ、私、待ちきれませんわ……!待ちきれませんわ!!」

に、二回言うほどですか……。でも、そうでしょう、そうでしょう。いい匂いでしょう。だいたいの腹ペコは、これにやられるんですよ。ただ、匂いだけじゃなく、口に入れた時の多幸感こそが、この料理の本質ですから。
あなたに喜んで欲しいと思って、作ったんですよ────む。しまった。悔しいので、響子には報告しないことにしておこう。

どうぞ、たくさん食べてくださいね。さ。じゃあ、手を合わせて。


────いただきます。

13: 名無しさん 19/09/19(木)16:26:14 ID:wRv
【デザート:秋風が吹く頃に】



「せんせー!おはよーございまー!」
「あ、仁奈も仁奈も!おはようごぜーます!」

「薫!? 仁奈!? 今日は土曜日だぞ? お仕事も入ってなかったと思うが……」

「うん!だからね、事務所に遊びにきたの!」
「美優おねーさんが一緒についてきてくれたですよー! 今日は事務所の中を探検するのでごぜーます!」

ドアの方に目を向けると、後輩の担当する三船さんが入ってくるところだった。目が合うと彼女は少し微笑み、「おはようございます。仁奈ちゃんが、今日は1人なんだって言っていたので、連れてきてしまったんですけど……」と過不足ない、必要十分の説明をしてくれる。

でも、今日は私が午後からお仕事なんです、と三船さんが助け舟を求めてくる。わかりましたと返答し、スケジュール帳で今日事務所に来ることが可能で彼女達と遊んでくれそうなアイドルを探してみるも、心当たりは1人しかいない。とりあえず彼女にメールを打つ。

14: 名無しさん 19/09/19(木)16:26:47 ID:wRv
「……ああ、いけない。俺が挨拶を返していなかったね。……二人とも、おはよう。元気に挨拶ができて偉いな。」

柄じゃない。今でもそう思う。
こんな小さな子たちを楽しませることが、この俺に可能なのだろうか。事故や事件を起こさず、かつ薫と仁奈を飽きさせないで、どうやって1日を過ごそうか。午前中は三船さんがいてくれるけど、午後は……まぁ、その頃には彼女がつくだろうし、任せてしまおうか。

などと考えていると、思いもしない提案がなされる。

「せんせー!昨日、甘いお芋作ったって聞いたんだけど……」
「仁奈たちも食べてーのでごぜーますが……」

「……え。それを、どこで……」

「仁奈が昨日、お部屋でクラリスおねーさんに聞いたのでごぜーます!とっても美味しかった、とっても美味しかったって言ってたのですよ!」

……あのシスター。いろんなとこで喋ってやがるな、こりゃあ。

15: 名無しさん 19/09/19(木)16:27:14 ID:wRv
「ええと……ああ、作るのは問題ないよ。まだ材料は余っていたはずだしね。」
「あ、あの……良ければ、わたしにも、作り方を教えていただけませんか……!? ……あの人に今度、作ってあげたいので……」

ちくしょー、あの幸せ者め。今度の飲み会の時に根掘り葉掘り聞いてやっからな。

「ええ、構いませんよ。じゃあ、ご飯を食べる部屋に向かおうか。」

薫と仁奈はやったー!なんてバンザイしながら喜んで、走って給湯室へ向かう。何がどうして、俺なんかが作る料理を食べたいんだろうか。隣を見ると、三船さんがふふっと小さく息をもらして笑う。

「……本当に、あの子達に慕われているんですね。」
「……そう、なんですかねぇ。仮にそうだとして、俺にはさっぱり理由がわからんのですが。」
「あら……そうなんですか? ……でも、自分のことは自分が一番わかる、なんてことはありませんから、気づいてないのかもしれませんね。」
「……? 何がですか? 」

「ふふっ。いえ、だって。」


──あなたは、心ではみんなのことが大好きなんだって、私たちにはわかりますから。

16: 名無しさん 19/09/19(木)16:28:29 ID:wRv
ぼっと、顔が熱くなる。そんなことはない、俺たちは仕事上のパートナーではあるが……と反論しようとするが、最初の音から息を吸い込みすぎてむせてしまう。
……どうやら俺は嘘をつくのが下手なようだ。

ガチャリ。
事務所のドアが開くと、先ほど応援を頼んだ彼女が息を切らして佇んでいた。金色の髪が汗で貼り付いている。ずいぶん早くきてくれたんだな────いや。
急いできてくれたのか。心の半分はその事実に感謝し、もう半分は、あまり言いふらさないでくださいね、と釘を刺したい心に支配されていた。

彼女の息が整い、顔を上げる。ふわりと秋の風が吹いた気がしたが、それは流石に気のせいだろうか。
読書の秋。スポーツの秋。近年はそうではないことも多いが、多くの出来事の旬たるこの季節は緩やかに始まり、緩やかに終わっていく。
涼やかな風を引き連れて。……そして、彼女が笑う。

────それに梳かれた心は、誰のものだろうか。

「また、甘いお芋、作って下さるんですか……!?」

もとい。食欲の秋だけは、歩いてやってくるようだ。

17: 名無しさん 19/09/19(木)16:31:39 ID:wRv

以上です。
皆さんのオススメの料理がありましたら教えていただけると嬉しいです(私が)。
料理は好きですが、素人ですので、練習していきたいです。ちなみにこのレシピはマジで甘いので注意。

他には最近こんなものを書いていました(最近の3つです)。
これらも含め、過去作もよろしければぜひ。
よろしくお願いします。

【モバマスss】君住む街へ

【モバマスss】腹ペコシスターの今日の一品;マヨチキ

【モバマスSS】前川被害者事件簿 その3

20: 名無しさん 19/09/19(木)22:47:19 ID:wRv
そんなのもあるんですか……!今度私もイタリアンコロッケ作ってみます!
クリームコロッケみたいで美味しそう!
次は……肉じゃがいいですね。次の次あたりで挑戦してみます(次はもう決めてしまった)
ありがとうございます!