506: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:25:49.41 ID:deNu3EAO
#13

軽音部 部室


律「んじゃ、明日の練習は休みってことで」

唯「やったー!休みだー!」

唯「はっ!?でもそれじゃムギちゃんのお茶が飲めない!!」

紬「残念ねぇ」

澪「一日ぐらい良いだろ」

梓「……」

唯「あずにゃ~んっ!明日休みだよ~どうする~?」ダキッ

梓「はぇ?なんですか?」



引用元: ・純「ジャズけん!」

507: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:27:32.10 ID:deNu3EAO
唯「あれっ…あずにゃんなんかボーっとしてる」

梓「してませんよ」

唯「え~?してたよね、りっちゃん」

律「あぁ、まるで病におかされて病室でただジーっとしている時に空を飛んでる鳥を見て」

律「『あっ、いいなぁ。私もいつかあんな風に飛べたらなぁ』」

律「って想うか弱い少女みたいにボーッとしてた」

澪「どんな例えだ!!」

唯「うっ…うぅ…かわいそうだよぉ」

紬「早く病気が良くなるといいわねぇ…」

澪「なんでホントの話みたいになってるんだ!?」

梓「……はぁ」

律「実はその病におかされた少女は澪だったのだ!」

澪「なんで私なんだよ!」ボカッ

梓(あんなライブの後だっていうのに…先輩たちは相変わらずだなぁ…)

508: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:28:32.54 ID:deNu3EAO
翌日

キーンコーンカーンコーン


梓「……」

梓「……」

梓「……」

梓「……」

梓「……はぁ」





純「梓…どうしたの?」

憂「さぁ…?」

509: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:29:16.50 ID:deNu3EAO
梓「……」

憂「梓ちゃんっ!」

梓「憂…」

純「なにボケっとしてんの?」

梓「え?なにが?」

純「いや、ずっとボーッとしてるじゃん」

梓「あぁ…うん…」

梓「……」

梓「え?なに?」

純「ダメだこりゃ」

憂「あはは…」

510: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:30:13.82 ID:deNu3EAO
憂「なに考えてたの?」

梓「…この前のライブのこと」

梓「なんかあれが終わったあとずっと何も考えられなくて」

純「燃えつきちゃったんだ」

梓「あー…そうなのかなぁ」

純「ほら、元気出して」

梓「……」

純「梓?」

梓「え?なに?」

純「重症だ…」

511: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:31:07.74 ID:deNu3EAO
放課後


純「梓は?」

憂「あそこに…」

梓「……」

純「また黄昏てる…」

憂「梓ちゃん!!」

梓「ふにゃっ!?」

純「さっさと目覚ましなよ」

梓「さ、覚めてるよ」

憂「梓ちゃん、部活は行かないの?」

梓「あっ…今行くとこだったの!」

純「ホントに?忘れてたんじゃ…」

梓「わ、忘れてない!!」

512: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:32:08.96 ID:deNu3EAO
梓「さぁ今日も部活だ、がんばろがんばろ」

梓「ファイトー!」

純「なんか無理してる感がすごい…」

憂「大丈夫かな」

梓「あっ、澪先輩!」

純「!」

澪「あぁ、梓じゃないか」

純(わっ…生澪先輩だ!!)

梓「これから部室に行くんですか?」

513: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:33:34.38 ID:deNu3EAO
澪「うん?なんで?」

梓「えっ…だって今日も部活あるんじゃ…」

澪「なに言ってるんだよ、今日は休みだろ?」

澪「昨日そう伝えたじゃないか」

梓「……うっかりしてました」

澪「ライブも終わったばかりだし、ゆっくり休むんだぞ」

梓「は、はい!」

澪「じゃあ私は職員室に行かないといけないから…」

梓「おつか…」

純「お疲れ様です!!」

梓(なんで純が!?)

514: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:35:03.93 ID:deNu3EAO
純「か~…っこいいね!澪先輩!!」

梓「とうぜん」フフン

純「私もいつかウチの先輩や澪先輩みたいな、かっこいいベーシストになりたいなー」

憂「なれるよ、純ちゃんなら」

純「えへへ、そう?」

梓「そういえばジャズ研は?」

純「え?私は休み」

純「今日練習があるのは大会のメンバーだけだよ」

梓「なんか本格的だ…」

515: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:36:15.97 ID:deNu3EAO
純「それじゃあこれからどうしよっか?」

純「久しぶりに三人で遊ぶ?」

梓「いいよ」

憂「あっ、ごめんね。今日は早く帰らなきゃいけないの」

純「そうなんだ…それじゃあしょうがないね」

憂「本当にごめんね。また今度」

純「うん、バイバイ」

梓「バイバイ、憂」

516: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:38:34.64 ID:deNu3EAO
純「なんだろ…唯先輩のお世話かな?」

梓「あはは、そうかも」

純「さてと、私たちも行こっか?」

梓「うん……で、どこに?」

純「…そういえば考えてなかった」

梓「もう…誘ったんだから考えてるかと思ったのに」

純「今考える…」

純「……」

純(ん?……そういえば梓と二人っきりで遊ぶのって初めてかも)

517: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:39:52.16 ID:deNu3EAO
純「……」

梓「……」

純(どこ行こう…)

純「……」ジーッ

梓「……なに?」

純「ん?なんでも」

純(梓ってなにするのが好きなのかな…)

純「う~ん…」

梓「純?」

純「わかんないや、梓にパス」

518: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:41:20.57 ID:deNu3EAO
梓「へ?」

純「梓の好きなところでいいよ」

梓「私の好きなとこって言われても…」

梓「……」

梓「純にパス」

純「えーっ…梓にパス」

梓「いや、だから純にパス」

純「パス」

梓「パス」

純「決まんないよ」

梓「決めてよ」

519: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:42:53.79 ID:deNu3EAO
純「もう、梓ワガママだなぁ」

梓「ワガママって…」

純「んじゃー…適当にぶらぶらしよっか」

純「高校生らしく」

梓「なにそれ?」

純「なんか学校帰りにぶらつくのって高校生っぽいじゃん」

梓「高校生だけどね、私たち」

純「それに最近部活や学祭で忙しかったし…こういうのもいいでしょ?」

梓「まぁ…いいけど」

純「じゃ決定!行こ行こ!!」

520: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:43:41.08 ID:deNu3EAO
繁華街


純「ここは相変わらずにぎやかだね」

梓「そうだね…」

梓「……」

純「またボーッとしてる」

梓「し、してないよ」

純「あっ、かわいいバッグ発見…」

純「って高っ!!」

梓「私たちの買うものじゃないね」

純「じゃあ誰が買うんだろう…」

梓「大人とかでしょ」

純「私も大人だもーん」

梓「それはどうだろう…」

純「えー…」

521: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:45:24.02 ID:deNu3EAO
純「うーん…目新しいものとかないなー」

純「どこ行く?」

梓「そうだ、楽器店行こうよ!」

純「楽器?」

梓「うんっ!」

純「…好きだねぇ、梓」

梓「いいじゃん、別に」

純「まぁ他に行くとこもないし…」

純「うん、行こう」

522: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:46:23.76 ID:deNu3EAO
楽器店


梓「ここに来るとなんか落ち着くよね」

純「そう?」

梓「あっ、見てみてこのモデル!かっこいいよねっ!?」

純「うん…よく分かんないけどかっこいいのは分かる」

梓「こっちはベースの限定モデルがあるよ。見ないの?」

純「…いい。自分のベース以外興味ないから」

梓「へぇ…一途なんだ」

純(本当は高いベース見るとなんか悔しいから見たくないだけなんだけどね…)

523: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:48:05.93 ID:deNu3EAO
純「ふーん…」キョロキョロ

梓「なにか欲しいものあった?」

純「ん?特には…」

純「梓はなんか買わないの?」

梓「私もいいや。ネットで買った方が安いものもあるし」

純「へぇ~、梓ってネットで買い物したりするんだ」

純「私そういうのめんどそうだから使わないんだよね」

梓「簡単だよ。今度なにか買ってみれば?」

純「んー、考えておく」

純「でも別に買うものない…」

純「……あっ」

524: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:49:10.47 ID:deNu3EAO
梓「なにか見つけた?」

純「これ欲しいかも」

梓「…ベースの教本?」

純「しかもDVDつきだよ!これならすぐに上達できるかも」

梓「やめときなって…絶対に続かないから」

純「そんなのやってみなきゃ分かんないじゃん!」

純「すいませーん、これくださーい」

梓(絶対無理だろうなぁ…)

純「ねぇ梓、お腹すいたし何か食べていかない?」

525: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:50:26.15 ID:deNu3EAO
マックスバーガー


純「あー、いい買い物した」

梓「うまくなりたいならジャズ研の先輩に教えてもらえばいいじゃん」

純「そうなんだけど~…先輩たち最近忙しそうだからなかなか声かけられないんだよね」

純「それに今回の大会はジャズ研にとって重要なものだし…気合い入ってんだよ」

純「だから私は自主練でがんばるしかないのっ」

梓「……」

純「…梓?」

梓「いいな~、そっちは真面目に部活やってて」

梓「純も音楽だけには真剣になれるみたいだし…環境が良いんだろうなぁ」

純「それじゃまるで音楽以外は真剣じゃないみたいだね…私」

526: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:51:23.31 ID:deNu3EAO
純「でも軽音部は学祭ライブ成功させたじゃん。みんなすごいって言ってたよ」

梓「そうだけど…その後がね」

純「あと?」

梓「なんかいつもみたいにダラダラっていうか、いまいち締まりがないっていうか…」

梓「ライブ終わった後なのにこんなんで良いのかなって」

梓「もっとモチベーション上げてバリバリ練習してもいいはずなのに…」

純「軽音部らしいじゃん」

梓「だから、それがイヤなのっ」

527: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:53:36.60 ID:deNu3EAO
純「ふーん……」モグモグ

梓「はぁ…このままダラダラ過ごしてていいのかな」

梓「せっかくの高校生活なのに…私までダメになりそう」

純「……」モグモグ

梓「私はもっと目標高く過ごしたいの」

梓「だから毎日をしっかりと…」

純「……」ゴクゴク

梓「…って、聞いてる?」

528: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:55:24.24 ID:deNu3EAO
純「聞いてる聞いてる」モグモグ

梓「…本当に?」

純「ていうかさ、梓もけっこう腑抜けてたんだから練習なんてできないでしょ」

梓「!!」

梓「ふ、腑抜けてないっ!!」

純「どうだかなー」

梓「……」

梓「とにかく私は…目標にまっすぐとした学校生活を送りたいの」

純「ふーん…大変そうだね」

梓「大変そうって…」

純「まぁ…だったら今の梓のままでもいいと思うけどね、私は」

529: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:56:40.77 ID:deNu3EAO
梓「えー…?」

梓「それじゃあ何も変わらない気が…」

純「食べ終わったしそろそろ出よっか」

梓「あ…うん」

純「…私、今日思ったんだけどさ」

梓「なに?」

純「梓って以外と…」

梓「?」

純「…やめた。やっぱなんでもない」

梓「な、なにそれ?気になる」

純「別に大したことじゃないよっ」

梓「こら純!教えろー!」

530: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:57:40.86 ID:deNu3EAO
純「さてと、もう帰…」

純「あっ!ゲーセン寄っていかない?」

梓「え?」

純「なんかクレーンゲームやりたくなってきちゃった」

梓「いいけど…」

純「よーし、いっぱい取るぞー!」

531: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:58:52.46 ID:deNu3EAO
ゲームセンター


チャリン

ウィーンウィーン

純「よし…そこだ!!」

ウィーン…ポロッ

純「あっ!?」

梓「落ちちゃった」

純「このぬいぐるみはダメだね、絶対取れないよ」

梓「諦め早っ!?」

純「じゃあ梓やってみなよ。無理だから」

梓「むっ」

梓「そう言われて引き下がるわけにはいかない…」

チャリン

532: 名無しさん 2010/09/29(水) 16:59:53.30 ID:deNu3EAO
ウィーンウィーン

ウィーン…ポロッ

梓「!?」

純「ね?難しいでしょ」

梓「も、もう一回」

チャリン

純「チャレンジャーだねー、梓は」

ウィーンウィーン

ウィーン…ポロッ

梓「!!」

533: 名無しさん 2010/09/29(水) 17:01:40.11 ID:deNu3EAO
純「あはは、だから無理だって」

純「ほら、他のゲームやりにいこうよ」

梓「もう一回…」

純「まだやるの?じゃあ私は適当にゲームやってくるね」

梓「うん」

チャリン

ウィーンウィーン

ウィーン…ポロッ

梓「にゃっ!?」

純(これは厳しい戦いになりそうだ…)

534: 名無しさん 2010/09/29(水) 17:03:03.75 ID:deNu3EAO
数十分後


純「お金ちょっと使いすぎちゃったかな…」

純「まぁいっか」

純「そういえば梓の方はどうだろう?」





ウィーン…ポロッ

梓「あっ」

純(まだやってる!?)

535: 名無しさん 2010/09/29(水) 17:04:54.78 ID:deNu3EAO
梓「うぅ…あとちょっとだったのに…」

純「もう諦めなって」

梓「……まだ」

純「え?」

梓「財布の中のお金はもうこれだけ…これがラスト!」

梓「最後の挑戦!!」

純「あーはいはい、私は止めたからね」

梓「やってやるんだから!!」

チャリン

ウィーンウィーン

536: 名無しさん 2010/09/29(水) 17:06:00.37 ID:deNu3EAO
純「おっ…いい感じじゃん」

梓「ここからだよ…ここからが勝負」

梓「ここで失敗したら全てが水の泡…!!」

純(なんか気合い入ってる…)

ウィーン…

梓「!」

梓「い、いけっ!!そこっ!!」

純「あっ、あとちょっと!」

ウィーン…ストンッ

梓「!」

純「や、やった…」

梓「取ったどー!!」

537: 名無しさん 2010/09/29(水) 17:06:51.00 ID:deNu3EAO
純「やるじゃん梓!まさか本当に取っちゃうなんて!」

梓「えへへっ」

純「たいしたもんだよ」

梓「何回もやればコツつかむ…」

梓「……」

純「ん?梓?」

梓「なんかさ…冷静に考えたら」

梓「お金使いすぎた。財布の中カラっぽ…」

純「…ドンマイ」

538: 名無しさん 2010/09/29(水) 17:08:10.86 ID:deNu3EAO
梓「はぁ~ぁ、なにやってんだろ私」

梓「こんなくだらないことに真剣になっちゃって…バカみたい」

純「別にいいじゃん、それで」

純「ほら、梓が言ってた…」

純「目標にまっすぐな高校生らしくて」

純「それでぬいぐるみも取れたんだし」

梓「そういう意味で言ったんじゃないんだけどなぁ…」

純「まぁ一つのことに夢中になってさ」

純「財布もカラっぽになったけど、頭もカラっぽになってスッキリしたんじゃない?」

梓「…なんだか嬉しくないような」


純「細かいことは気にしない気にしない」

梓「はぁ…」

539: 名無しさん 2010/09/29(水) 17:10:57.54 ID:deNu3EAO
純「あっ、私こっちだからここでお別れだね」

梓「うん、バイバイ」

純「梓、明日からはボーッとするんじゃないよ」

梓「わかってるよ」

純「じゃーね!」

梓「じゃーね」

梓「…ふぅ」

梓「……」

梓「頭もスッキリか…」

梓(シャキッとしなきゃ、私!)

梓「……」

梓「このぬいぐるみどうしよう…」

540: 名無しさん 2010/09/29(水) 17:11:57.19 ID:deNu3EAO
鈴木家


~♪

純「このフレーズが難しいなぁ…」

純「いたたっ、手が疲れてきちゃった」

純「うーん…」

純「……」

純「そうだ!気晴らしにネットしよう」

純「確か梓が買い物安くできるって言ってたし、ちょっと覗いてみようかな」

541: 名無しさん 2010/09/29(水) 17:13:10.39 ID:deNu3EAO
カチカチッ

純「どれどれ…」

純「へー、いっぱいあるんだね」

純「あっ、ギターやベースも売ってる…」

純「……」

純「私が中古で買ったベースはどれくらいの値段なんだろう」

カチカチッ

純「!?」

純「な…安っ!?」

純「私のときより安っ!!」

542: 名無しさん 2010/09/29(水) 17:13:57.73 ID:deNu3EAO
純「なにそれー!これじゃあ私損しちゃったみたいじゃん!!」

純「……」

純「……はぁ」

純「……」

純「いや、後悔はしてない」

純「このベースを買ってよかったんだ。私が自分の目で直接見て決めたんだもん」

純「……」

純「でもやっぱりショック」ハァ

純「あっ…今日買ったDVD…」

純「…まぁいいや、明日からで。なんかやる気出ないし」

543: 名無しさん 2010/09/29(水) 17:15:23.52 ID:deNu3EAO
翌日

軽音部 部室


律「さーて、今日は――」

梓「練習頑張りましょう!!」

律「お茶飲もっと」

唯「わーい」

梓「結局そうなるんですか…」

紬「はいどうぞ、梓ちゃん」

梓「あっ、ありがとうございます」

唯「あ!あずにゃんそのぬいぐるみどうしたの?」

唯「かわいいね~っ!」

544: 名無しさん 2010/09/29(水) 17:16:26.12 ID:deNu3EAO
梓「これは昨日ゲーセンで取って…唯先輩が好きそうだなと思って持ってきたんです」

唯「えっ!私にくれるの!?」

梓「はい、いいですよ」

唯「わ~い!ありがとあずにゃーんっ!!」

梓「……」

梓「やっぱダメです」

唯「えぇ!?」

梓「ちゃんと練習したらあげます」


唯「そんな~!!」

545: 名無しさん 2010/09/29(水) 17:17:34.95 ID:deNu3EAO
梓「欲しかったら真面目にやってください」

唯「う~…ぬいぐるみは欲しい…」

唯「でもお茶は飲みたい~…!」

唯「どうしようどうしよう~…」

梓「どんだけ悩んでるんですか…」

紬「うふふっ」

律「まったく唯はしょうがないな~」

澪「お前も部長なんだからしっかりしろ」

梓「…クスッ」

546: 名無しさん 2010/09/29(水) 17:18:51.01 ID:deNu3EAO
ジャズ研 部室


先輩「さ、今日も張り切って練習よ!」

先輩B「は~い」

純「……」

先輩B「どうした純?なんか元気ないね」

純「いや…昨日ちょっとショックなことがありまして」

純「私はこのベース選んでよかったのかな~って…」

先輩B「?」

先輩B「なんかよく分かんないけど…そういう時は楽器の声を聞けばいいんだよ~」

純「が、楽器の声…?」

547: 名無しさん 2010/09/29(水) 17:20:32.37 ID:deNu3EAO
先輩B「こうやって自分の楽器を抱き締めれば、声が聞こえるはずだよ~」

純「えぇ~??」

純(そんなこと…)

先輩B「ほら、やってみなよ~」

純「……」

純「…じゃあ」

純「……」ギュッ

先輩「…純、なんでベース抱き締めてるの?」

純「えっ!?あ、これはベースの声を…」

先輩B「聞こえるわけないじゃんそんなの」

純「えぇっ!?」

先輩「バカなことやってないで早く練習するわよ」

先輩B「面白いな~純は」

純「も、もうなにも信用しませんからね!!」



#13 おわり

555: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:15:24.39 ID:STo11EAO
#14

――ジャズ研
  部室


純「なんかさー、プレゼントでもしようよ」

同級生「え?私に?」

純「いやあんたじゃなくて。ジャズ研の先輩たちにプレゼント」

純「コンテスト終わったら引退でしょ?それまでに何かお礼しようよってこと」

同級生「いいけど…なにプレゼントするの?」

純「それはまだ考えてない」

556: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:18:03.55 ID:STo11EAO
純「うーん…何にしよう」

同級生「花とかは?」

純「えー、花って枯れたらそれまでじゃん」

純「食べ物系にしようよ!」

同級生「食べ物だって食べたらそれまでじゃん」

純「じゃあ~…」

同級生「…それにしても寒いね~。今年はいつもより早く冬が来たって感じ」

純「え?あぁ、うん。そろそろ暖房がついても――」

純「!!」

557: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:19:21.06 ID:STo11EAO
純「そうだっ!」

同級生「なに?」

純「マフラーとかはどう?これからの季節使うだろうし」

同級生「お、ナイスアイディア!」

純「でしょー」

同級生「どこで買う?」

純「あ…今お金ないんだった」

同級生「じゃあどうすんの?」

純「……手作りとか」

同級生「作れるの?」

純「……」

558: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:20:32.09 ID:STo11EAO
――翌日


純「お願い!マフラーの編み方を教えて!」

憂「ど、どうしたの急に?」

純「実は…ジャズ研のセンパイたちに何かプレゼントを贈りたいと思っていまして」

純「それでマフラーに決まったんだけど~…」

憂「編み方が分からない?」

純「はい、そうです」

559: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:21:24.98 ID:STo11EAO
憂「そういうことだったら私は構わないよ」

純「本当!?ありがとう憂ー!」

憂「さっそく今日から作ろっか」

純「うん!」

梓「なんの話してるの?」

憂「あっ、梓ちゃん」

純「今日憂にマフラーの編み方教えてもらおうと思ってるんだけど…」

純「梓も来る?」

560: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:22:09.47 ID:STo11EAO
梓「マフラー?」

純「うん、引退するジャズ研の先輩に贈ろうと思って」

梓「ふーん…」

梓「私はいいや、今日部活だし」

純「そう?」

梓「うん、マフラーできるといいね」

純「任せて!なんたって憂がいるんだから!」

梓「まさか全部憂まかせじゃ…」

純「う、憂には教えてもらうだけだって!!」

憂「えへへ」

561: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:22:57.63 ID:STo11EAO
――放課後
ジャズ研 部室


先輩「……」

先輩B「はぁ~寒い寒い。こんな日に練習なんてな~」

先輩2「文句があるならこんな日に練習を入れた部長に言いなさい」

先輩B「こら部長、寒いぞコノヤロウ!」

先輩2「寒いのは部長のせいじゃないでしょ!」

先輩2「てかアンタ、センパイに対してよくそんな風に言えるわね…」

先輩B「それぐらい親しいってことですよ。ね~?」

先輩「……」

先輩B「無視された~!!」

562: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:23:36.52 ID:STo11EAO
先輩「あ、ごめん…なに?」

先輩2「なにボケッとしてんのよ」

先輩「別に…」

先輩2「はぁ…コンテスト前にレギュラーだけで練習しようって言ったのはアンタでしょ?しっかりしなさい」

先輩「してるわよ…」

先輩「……」

先輩B「……これじゃあコンテストもダメかナ」

先輩「!!」

先輩「アンタねぇ!!好き勝手言わせておけば――」

先輩B「だって本当のことじゃん。部長がそんなモチベーションでどうすんですか?」

先輩「っ……」

563: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:24:45.97 ID:STo11EAO
先輩2「こら二人とも、やめなさい」

先輩「……」

先輩B「……すいません、言い過ぎました」

先輩「別にいいわよ…」

ガラッ
ゾロゾロ
「こんにちはー」
「今日も練習ですよね?」

先輩「……えぇ」

先輩「みんな、コンテストまで時間がないから集中して練習するわよ」

「「「はい!」」

先輩B「……」

564: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:25:26.31 ID:STo11EAO
――平沢家


純「むずかし~…」

憂「ここはもうちょっとこうして…」

純「あぁ!なるほど」

純「…それにしても、マフラー編むのって大変だね」

憂「けど、一生懸命作ればきっと喜んでくれるよ」

純「うん…だといいな」

565: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:26:33.72 ID:STo11EAO
憂「そろそろ休憩しよっか?」

純「えー?まだ編みたいよ」

純「せめて3分の1くらいは終わらせてから…」

憂「ふふっ、じゃあちょっとだけね」

憂「でもゆっくりやってもいいと思うよ?」

純「うーん…一回休むとサボっちゃいそうだから」

純「なるべくできるとこまではやっておきたいかな」

憂「純ちゃんすてきー!」

純「えへへー」

566: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:27:27.65 ID:STo11EAO
純「……」

憂「……」

純「……」

憂「純ちゃん」

純「んー?」

憂「ジャズ研って楽しい?」

純「なに突然」

憂「聞いてみたくなっただけ」

純「…そうだねぇ」

567: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:28:04.57 ID:STo11EAO
純「楽しいよ」

純「練習は厳しいけど…それなのに充実してるし」

憂「そっかぁ」

純「でも…最近はちょっと厳しすぎるかな」

純「コンテストが近いのもあるけど」

憂「大変だね」

憂「でもなんだか青春って感じがする」

純「あはは、普通の部活だよ」

568: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:29:04.01 ID:STo11EAO
・・・・・


純「よしっ!結構できた」

憂「このペースなら間に合いそう」

純「うんっ!」

純「あ…もう遅くなるしそろそろ帰るよ」

憂「気をつけてね」

純「はいはーい」

純「憂、今日はありがと。あとは一人でがんばってみる」

憂「大丈夫?」

純「平気平気、なんとかしてみせるって」

憂「じゃあ…がんばってね」

憂「きっと純ちゃんの想いは伝わるよ」

純「そんなたいそうな想いでもない気がするけど…そうだといいな」

純「じゃ、私はこれで」

憂「うん、バイバイ」

569: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:29:50.19 ID:STo11EAO
純「寒いな~。もうすぐ冬か…」

純「……」

純「つい最近高校入ったばかりだと思ってたのに…もう二年生になっちゃうよ」

純「なんか年を重ねるごとに時の流れが早くなってる気がする…」

純「……ん?」





梓「……」

570: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:30:25.56 ID:STo11EAO
純「梓!」

梓「あっ…純」

純「なにやってんの?部活帰り?」

梓「うん…途中で買い物してて」

純「へぇ、なに買ったの?」

梓「マフラー。もうすぐ冬だし」

純「あっ…」

梓「なに?」

純「…ううん、なんでもない」

純「ちょっと見せて」

梓「え?いいけど…」

梓「はい」

純「……」

純(やっぱり売り物はちゃんとしてるなぁ…)

571: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:31:11.81 ID:STo11EAO
梓「どうしたの?」

純「別に…見せてくれてありがと」

梓「うん…」

梓「?」

純「それにしても寒いね…」

梓「だって冬だし」

純「まだ冬前じゃん」

梓「もうほとんど冬だよ」

純「梓は気が早いなー」

純「ただでさえ高校生活なんてあっという間なんだから、もう少しゆったりしなよ」

梓「…よく分かんないよ」

純「そうですか」

572: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:32:07.37 ID:STo11EAO
純「うちなんてもうすぐ先輩が引退しちゃうんだよ」

梓「学校でも言ってたね」

純「そう!だから寂しくなってきてさ」

純「このままずっと一年生のままでもいいかなーって思ったり」

梓「…私は早く二年生に上がりたいな」

梓「後輩とか…欲しいし」

純「入ってきた新入部員より梓の方が後輩に見えたりしてね」

梓「!!」ガーン

573: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:32:46.12 ID:STo11EAO
純「冗談冗談、梓もそのうち大人っぽくなるって」

梓「……別にそんなの気にしてないし」

純「ふーん」ニヤニヤ

梓「本当だって!」

梓「私はただ、新入部員が入ってくれれば先輩たちもやる気出すんじゃないかって思ってるだけ」

純「そっちはそっちで大変なんだね」

梓「まったくだよ!相変わらずダラダラして…」

574: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:33:28.38 ID:STo11EAO
――ジャズ研
  部室

先輩B「ホントに大変ですよね~、こんな遅くまで練習なんて」

「お疲れさまでしたー」

先輩2「はい、お疲れ」

先輩B「私は疲れて動けない~」

先輩2「なに言ってんのアンタ」

先輩「……」

先輩B「…あんだけ練習したのに物足りなさそうな顔してる人がいる」

先輩「…なによ」

先輩B「なんでもないですよ~」

先輩「……」

先輩B「そうだ、お腹すいたしどっかで何か食べに行きません?」

575: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:34:11.57 ID:STo11EAO
――ファミレス


先輩B「考えてみれば私、センパイたちに奢ってもらうの初めてかも」

先輩2「誰も奢るなんて言って……まぁいいけど」

先輩「……」

先輩B「あっ!マロンパフェなくなってる!?」

先輩B「私あれ好きだったのに~…」

先輩2「ちょっと、高いのはやめてよね」

先輩「……」

先輩B「暗い顔だな~、なんか食べるときぐらい明るくいきましょうよ」

先輩「あんたには関係ないでしょ…」

先輩B「さいですか」

576: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:36:05.96 ID:STo11EAO
先輩「……」

先輩2「…今日の練習は良かっと思うわよ。みんな少しずつだけどスキルアップしてるし」

先輩「そうね…」

先輩B「先輩も私が入学した時より格段に上手くなってると思いますよ」

先輩2「何様なのよ、あんたは」

先輩「……」

先輩B「一応ほめたつもりなんですけど」

先輩「……むしろへたくそになってるわよ」

先輩B「は?」

先輩「練習すれば練習するほど…自分のベースが分からなくなっていく」

577: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:36:41.55 ID:STo11EAO
先輩B「なに言ってるんですか急に」

先輩「もう限界にきてるのよ、私」

先輩「がむしゃらに練習すれば前に進めると思ってたけど…大きな壁にぶつかって」

先輩「それを壊して進もうとしたけど、私じゃ壊せなくて…」

先輩「そしたらいつの間にか誰かがその壁を簡単に壊して、先に進んじゃうんだもん」

先輩B「……」

先輩「そんな光景見ちゃったら…なんだか自分のやってることがバカらしく思える」

先輩「もう…先に進める気がしないのよ」

先輩B「…あー、私も似たような経験ありますよ」

578: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:37:17.40 ID:STo11EAO
先輩B「私が小学生のころの話なんですけどね~」

先輩B「バレンタインに好きな男の子に手作りチョコを渡そうとしたんですよ」

先輩B「でも同じクラスメイトにもその子が好きな女の子がいて~」

先輩B「しかもその子のチョコはなんか知らない高級なやつだったんですね」

先輩B「こりゃちゃんとしたやつ作らないと負けるかな~と思って、私は持てる限りの力でチョコを作ったんですけど…」

先輩B「これが全然ダメで~、やっぱり高級なやつには勝てないな~って」

先輩B「で、仕方ないから私は…」

先輩B「バレンタインの当日にこっそりと自分のチョコと高級なチョコをすげ替えたんです」

先輩2「最低じゃない!?」

先輩B「だって悔しかったんだもん」

579: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:38:21.03 ID:STo11EAO
先輩B「それで私は高級チョコ、向こうは私が作ったダメチョコを渡したんですよ」

先輩B「私はこの勝負もらったな、と思ってたんですけどぉ…」

先輩B「なんとその男の子は私が作ったダメチョコを選んだんです!つまりライバルの女の子を選んだの」

先輩B「なんか~、手作りの方が愛情こもってるとか言って~」

先輩B「私がこめた愛情だったのに~~っ」

先輩2「…あんたが悪いことするからでしょ」

先輩B「そうですね、その日以来私は悪事を働かないことにしました」

先輩B「だから先輩も悪いことしちゃダメですよ?」

先輩「……」

先輩2「なんか…話ズレてない?」

580: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:39:01.05 ID:STo11EAO
先輩「…そんなくだらない話と一緒にしないでよ」

先輩B「くだらない!?私の甘苦い思い出が!?」

先輩「私は真面目に話してるの!!」

先輩2「ちょっと、お店なんだから静かにしてよ」

先輩B「…だいたいさ~、さっき自分のやってることがバカらしく思えるとか言ったけど~」

先輩B「だったら一緒にやってる私たちはなんなのさ」

先輩「…っ」

581: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:39:38.13 ID:STo11EAO
先輩B「私たちもバカ扱いするんですか?」

先輩「……そんなつもりじゃない」

先輩B「ふーん…」

先輩「……」

先輩B「……」

先輩2「……」

先輩B「……先輩って結構人の目を気にしますよね」

先輩B「みんなに評価されたいとか、気持ちは分かりますけど~…」

先輩「……」

先輩B「でも~、私は思うんですよ」

先輩B「先輩は、自分が思ってるよりごくわずかの人にしか見られていませんよ」

582: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:40:33.27 ID:STo11EAO
先輩「――っ!」

先輩B「だってプロを目指してるわけでも、ましてやプロでもないんですよ?」

先輩B「たかが学校の部活…めっちゃ閉鎖的」

先輩B「先輩はそんなごくわずかの人たちに高い評価をもらうためだけにベース弾いてるんですか?」

先輩B「そんな肩に力入れなくても…」

先輩「……」

先輩B「女子高生が楽器持ってドンチャカやってること自体にジャズ研も軽音部も大差ないんだから、もっと気楽にやりましょうよ」

店員「あの…すいません、ご注文よろしいでしょうか…?」

先輩2「あっ、ごめんなさい」

583: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:43:18.50 ID:STo11EAO
先輩2「ほら二人とも、さっさとメニュー選んで…」

先輩「あんたに――」

先輩B「はい?」

先輩「あんたに何が分かるのよこの生意気バカ!!」

先輩B「生意気バカ!?」

先輩「人の気持ちも知らないで好き勝手言ってなんなの!!」

先輩B「私はいつも自分に正直でいたいから先輩にも率直に意見しただけですよバーカ!!」

先輩「バカ!?センパイに向かってなんてこと!!」

先輩B「だいたい先輩は考えすぎなんですよ!なにが壁にぶつかっただ、アホくさい!!」

先輩B「どっかのアーチスト気取りですか!!」

先輩「私はただ部長として責任を――」

店員「あの…」

先輩2「すいません、今すぐ出ていきますんで!」

先輩2「本当にすいません!!」

584: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:44:42.61 ID:STo11EAO
・・・・・

先輩B「あ~ぁ、結局なにも食べれなかった」

先輩「……」

先輩2「あんたたちが騒ぐからでしょ!恥ずかしかったんだから!!」

先輩B「ごめんなさ~い」

先輩「……」

先輩2「はぁ…ほら、アイス買ってきたからこれでも食べて二人とも頭冷やしなさい」

先輩B「もうすぐ冬だってのにアイスって……お腹しか冷えませんよ」

先輩2「冬にアイス食べてなにがいけないのよ。だったら食べなくていい」

先輩B「嘘ですごめんなさい。私あずきのやつで」

585: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:47:01.71 ID:STo11EAO
先輩2「――で、これからどうするの?」

先輩「……」

先輩B「……」

先輩2「こんな険悪な雰囲気のままコンテストに出たくないわよ?」

先輩B「だってバカって言ってきたのは向こうからだし」

先輩「煽ってきたのはあんたでしょ」

先輩2「はぁ……」

Prrr、Prrr

先輩2「あっ…ちょっと電話」ピッ

先輩「……」

先輩B「……」

586: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:47:57.47 ID:STo11EAO
先輩2「もしもし恵?」

先輩2「あぁ…うん……」

先輩2「…ふふ、わざわざありがとう」

先輩2「うん、じゃあね――」ピッ

先輩「……」

先輩2「…今の電話、なんだと思う?」

先輩B「愛の告白?」

先輩2「そんなわけないでしょ」

先輩2「もうすぐコンテストだからって、友達がわざわざ励ましの電話してくれたの」

先輩2「極わずかでもちゃんと見てる人は見てるのよ」

先輩「……」

587: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:48:43.52 ID:STo11EAO
先輩B「そっか~…よかった」

先輩B「だったらその人のためにも頑張らないといけませんね~」

先輩B「学祭のライブはあんまり良くなかったし、汚名返上しないと」

先輩「……」

先輩B「…私ね、ジャズ研で一番良かった演奏って新歓ライブの時だと思うんですよ」

先輩2「え?」

先輩B「私が入学した年の新歓ライブ…あれが一番よかったな~」

先輩B「演奏してるのはセンパイたち二人だけで、あんまり上手くなかったけど…」

先輩B「楽しそうだったし」

先輩B「私もここに入れば楽しくやれそうだな~って思って入部したんです」

先輩「……」

588: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:49:30.28 ID:STo11EAO
先輩B「そもそも私がギター始めた理由は親が楽しそうにやってたからなんですよ。それで私も楽しくなりたくて始めて」

先輩B「たぶん…大多数がそうだと思うんですけどね」

先輩「……」

先輩B「でも音楽にしろ何にしろ、続けていくと人の目に止まっちゃうんですよね」

先輩B「最初は自分が楽しみたいからやってたけど……段々と人の目が気になり始めて」

先輩B「そのうち他人にどうやったらウケるのか、どうやったら良い評価がもらえるかなんて考えはじめて…」

先輩B「いつの間にか自分のやりたいこともできなくなっちゃったり~」

先輩「……」

先輩B「…それじゃあダメなんです」

589: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:50:09.61 ID:STo11EAO
先輩B「楽しむ気持ちを忘れたらそれで終わり」

先輩B「苦しいときはいったん初心に帰ってみな」

先輩B「自分の楽しい気持ちや一生懸命な気持ちを、聴いてる人に上手く伝えることができて…」

先輩B「はじめて良い演奏になるんだ」

先輩B「楽しく演奏する道具だから“楽器”ってね」

先輩「……」

先輩B「――って、ギターの先生に教わりました」

590: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:50:59.13 ID:STo11EAO
先輩2「なんだ…ギターの先生の話だったの」

先輩B「でも私はこの言葉を指標に生きてるんですよ~」

先輩「……」

先輩B「…私たちも初心に帰った方がいいんじゃないですかね~?」

先輩「……帰る」

先輩B「初心に?」

先輩「家に」

先輩B「あ、そう」

591: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:52:02.17 ID:STo11EAO
先輩2「そうね、もう遅いし帰りましょう」

先輩「…はぁ、あんたの長話聞いてたら疲れちゃった」

先輩B「えぇ~!深いイイ話したのにぃ~!!」

先輩「あんたが言うと浅く聞こえるのよ」

先輩B「なんだそれ!!」

先輩2「ふふ…」

先輩「ま…ちょっとした気分転換にはなったかな」

先輩B「…先輩」

先輩「なに?」

先輩B「先輩は一人で弾いてるんじゃないんですから、一緒に楽しくやりましょうよ」

先輩B「たぶんそうすれば…聴いてくれる人はどんどん増えると思いますよ」

先輩「……」

592: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:52:39.01 ID:STo11EAO
――鈴木家


純「あー……疲れた~」

純「一応それっぽい感じにできてるけど…」

純「完璧にはまだまだ程遠いな~」

純「はぁ…眠い」

純「……」

純「でも先輩たちだって頑張ってるんだし…私も頑張るか」

純「よしっ!」

593: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:54:36.30 ID:STo11EAO
――数日後


憂「純ちゃん、マフラーできた?」

純「うん、二つも作ったんだよ」

憂「うそ!?すごーい!」

純「おかげで寝不足だけどね」

純「それに…最初の一つは失敗しちゃったし」

憂「見せてっ」

純「ほら…こっちは雑でしょ?長さも短いし」

純「でもこっちは完璧…だと思う」

憂「二つとも良いと思うよ?」

純「そう?」

憂「うん、一生懸命作ったってのが伝わってくる」

純「えへへ、ほめられると照れるね」

594: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:55:23.84 ID:STo11EAO
純「でもなんとか間に合ってよかった~。渡すのいよいよ明日だよ」

憂「きっと喜んでくれるよ」

純「うん…」

梓「あっ、マフラーできたんだ」

純「へへー、すごいでしょ?」

梓「へぇ~……」

梓「なんでこっちこんな短いの?」

純「別にいいじゃん!梓が使うんじゃないんだから」

595: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:55:56.09 ID:STo11EAO
――翌日
コンテスト会場


純「うわー…人いっぱいいるね」

同級生「結構ハイレベルな大会だからね~」

純「それより、プレゼントは持ってきた?」

同級生「もちろん。お母さんに手伝ってもらったんだ~」

純「私も、友達にアドバイスもらった」

純(勢いで二つ持って来ちゃったけど)

「なに?プレゼントって」

純「コンテストが終わったら先輩たちに贈ろうと思って」

「あっ、いいな~それ」

「先輩たち来たよ!」

596: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:57:04.06 ID:STo11EAO
「「「お疲れさまです」」」

先輩B「まだ疲れてないよ~」

先輩2「こら、揚げ足とらない」

先輩「みんな…そろってるの?」

純「はい、みんないますよ」

先輩「そう…ありがとう、聴きに来てくれて」

純「?」

597: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:57:33.07 ID:STo11EAO
先輩「じゃあ私たちはそろそろ行きましょうか」

先輩B「は~い」

純「あの…先輩!」

先輩「なに?」

純「私…先輩のベース大好きです!」

先輩「!」

純「だから…上手く言えないんですけど…」

純「頑張ってください!」

先輩「えぇ…精一杯がんばるわ」

598: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:58:11.52 ID:STo11EAO
――控え室


先輩B「あっ、ギター忘れた」

先輩「はあっ!?」

先輩B「冗談ですよ。ずっと背負ってるじゃないですか」

先輩「ちょっと…そういうのやめてよ」

先輩B「余裕ないな~……純にがんばるとか言ったくせに」

先輩「うるさい」

先輩2「ちょっと、いつまでじゃれてるの?」

先輩「だってこの子が…」

先輩B「へへー」

599: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:58:52.65 ID:STo11EAO
先輩「さてと…みんな集まって」

「「「はい!」」」

先輩「もうすぐ…本番が始まります」

先輩「このコンテストは…私たちジャズ研が部に昇格できるかどうかに関わる大事なもの…」

先輩「って、みんなも分かってるわよね」

「「「……」」」

先輩「けど、ジャズ研だどうこう言う前に…」

先輩「こういう場で演奏を発表できることは、とても貴重な経験になると思うの」

先輩「だから…みんなには悔いを残してほしくない」

600: 名無しさん 2010/10/05(火) 14:59:30.32 ID:STo11EAO
先輩「別に良い結果じゃなくても、誰も怒ったり失望したりしないわ」

先輩「私たちは…自分のやってきたことを信じて、あとは楽しみましょう!」

先輩「自分にとって、一番の演奏になるように」

「「「はい!」」」

先輩「さ…じゃあそろそろ行きましょうか」

先輩B「死ぬなよ」

先輩「私は戦場にでも行くのか!」

601: 名無しさん 2010/10/05(火) 15:00:20.85 ID:STo11EAO
――会場内


純「どこも上手いとこばっかだね」

同級生「あ~…うちの学校大丈夫かな」

純「……」

アナウンス『――続いて、桜ヶ丘高校ジャズ研究会の演奏発表です』

純「始まった!」

602: 名無しさん 2010/10/05(火) 15:01:01.74 ID:STo11EAO
先輩「……」

―――だいじょうぶ。

私の高校三年間は無駄じゃない。

みんなとここまで来れたんだから。

先輩「……」

みんなとならできる……みんなとじゃなきゃできない。

私一人じゃできない。

楽しい時間。

最後に気づいてよかった。

先輩(…よしっ!)

短い間だけど……

――――――♪



――――
――


603: 名無しさん 2010/10/05(火) 15:03:20.37 ID:STo11EAO
パチパチパチパチ!!

          パチパチパチ!!

     パチパチパチ!!

パチパチパチ!!


純「わぁ……」

同級生「すっ…すごくない!?今の演奏!!」

純「う、うん…」

同級生「すごいな~!本当にすごいな~!!」

純「……」

純(これ…ジャズ研の演奏なんだよね)

純(初めて聴いたかも…うちのこんな演奏…)

604: 名無しさん 2010/10/05(火) 15:04:28.01 ID:STo11EAO
――控え室


先輩B「あ゛~…じぬ゛~~」

先輩2「……ふぅ」

先輩「……」

先輩2「…終わっちゃったね」

先輩「……」

先輩2「聞いてるの?」

先輩「聞いてるー…」

先輩2「うそつけ」

先輩「……」

アナウンス『まもなく、結果発表の時間です』

先輩「……」

先輩2「だってさ。ほら、行こう」

先輩「…うん」

――――
――


605: 名無しさん 2010/10/05(火) 15:05:06.21 ID:STo11EAO
――会場外


純「あっ、先輩!」

先輩「みんな…」

「「「お疲れ様です!」」」

先輩B「ホントに疲れた~」

先輩2「寄りかからないで、しっかり歩きなさい」

純「あ、あの…おめでとうございます!」

先輩「ふふ、ありがとう」

先輩B「ほらほら部長、みんなに見せましょうよ」

先輩「あっ、そうね…」ゴソゴソ

先輩「あれ…あれっ!?」

先輩2「どうしたの?」

先輩「ない…なくなってる!!」

先輩2「えぇ!?」

先輩B「じゃーん、準グランプリトロフィー、と賞状」

先輩「なんであんたが持ってるの!!」

先輩B「さっきこっそりと」

606: 名無しさん 2010/10/05(火) 15:05:51.70 ID:STo11EAO
先輩「も~…」

先輩B「はい先輩、おめでとうございます」

先輩「…あんたに渡されても嬉しさ半減よ」

同級生「でもすごいですね、準グランプリって!」

先輩2「まぁこれだけ結果を残せば…来年からジャズ研究“部”として活動できるわね」

先輩B「こうしてジャズ研に安息の日々がおとずれたのであった」

先輩「気を緩めないの。あんたのせいで来年廃部になるかもしれないんだから」

先輩B「私どんだけ信用ないんですか~」

先輩「ふふっ」

同級生「ねぇ純」

純「うん、分かってる」

607: 名無しさん 2010/10/05(火) 15:06:21.54 ID:STo11EAO
純「あの――」

純「先輩!」

先輩「ん?」

純「これ、私たちからです」

同級生「どうぞ」

先輩2「これは…?」

純「マフラー…です。手作りですけどよかったら」

先輩「私たちに?」

純「はい、先輩たちになにかお礼したくて…」

同級生「二人はジャズ研の創始者ですから」

「せー…の!」

「「「三年間お疲れ様でした!!」」」

608: 名無しさん 2010/10/05(火) 15:06:56.07 ID:STo11EAO
先輩2「み、みんな…」

先輩「…ありがとう」

純「えへへ」

先輩B「そうだ!これからみんなでなんか食べに行きましょうよ!!」

先輩B「センパイたち二人のおごりで」

先輩2「何人いると思ってるの!?」

「二年のおごりでいいんじゃない?」

「そうそう、私たちが来年上に立つんだし」

先輩B「えー…しょーがないな~」

先輩「そうよ、それぐらい寛大な心を持ちなさい、新部長」

先輩B「…え?私が?」

609: 名無しさん 2010/10/05(火) 15:07:33.40 ID:STo11EAO
・・・・・

純「あー、美味しかった」

先輩B「……そう言ってもらえると軽くなった財布も喜ぶよ」

先輩「ならもっと喜ばせてあげよっか?」

先輩B「なんだよ~引退したからってつけあがって~~」

先輩2「さて…もう暗いし帰るわよ」

先輩「みんな、帰り道は気をつけてね」

「「「はーい」」」

先輩2「…私たちも行こっか」

先輩「うん」

611: 名無しさん 2010/10/05(火) 15:08:46.45 ID:STo11EAO
先輩「……」

先輩2「……」

先輩「……」

先輩2「……」

先輩「――う゛っ…うぅ…」ポロポロ

先輩2「あぁもう、みんながいないとこれなんだから」

先輩「だっでぇ~~~っ」

先輩「プレゼントとかもらえるなんて聞いてなかったんだも~~んっ」

先輩2「はいはい」

先輩2「手のかかる子ね」

612: 名無しさん 2010/10/05(火) 15:09:24.73 ID:STo11EAO
先輩「うあ~~~んっ!!」ポロポロ

先輩2「ちょ、ちょっと!?人が見てるわよ!!」

先輩「あ~~~~んっ!!」

先輩2「……はぁ。まぁいっか」

先輩「私ジャズ研作ってよ゛がっだ~~~っ!!」

先輩2「そうね」

先輩「みんなと演奏できてよがっだ~~~っ!!」

先輩2「……そうね」

613: 名無しさん 2010/10/05(火) 15:11:12.13 ID:STo11EAO
純「……」

純「……」

純「……」

純(よかったな…先輩たちの演奏…)

純(私もいつか…あんな風にできるかな…)

純「………あ」

梓「あっ」

614: 名無しさん 2010/10/05(火) 15:15:18.21 ID:STo11EAO
純「…こんなところでなにしてんの?」

梓「別に…ただ用事があったからその帰り道」

純「ふーん…」

梓「純は?」

純「私はジャズ研のコンテストの帰り」

梓「今日だったんだ」

純「そうだよ、すごかったんだから!」

純「最高の演奏だった!」

梓「そうなんだ…」

純「そうだ、途中まで一緒に帰ろっか?」

梓「うん、いいよ」

615: 名無しさん 2010/10/05(火) 15:18:53.47 ID:STo11EAO
純「……」

梓「……」

純「……」

梓「…寒いね」

純「あれ、そういえばマフラーは?」

純「買ったんでしょ?」

梓「……忘れた」

純「…やれやれ、手のかかる子だね~」

純「じゃあこれ貸してあげる」

梓「なにこれ?」

純「余った手作りマフラー」

616: 名無しさん 2010/10/05(火) 15:23:32.51 ID:STo11EAO
純「ほら、二つ作ったでしょ?」

純「片方は先輩にあげちゃったから、もう片方は梓に」

梓「これ…短いやつじゃん」

純「文句あるならべつにいいけど」

梓「…やっぱ借りる」

純「どうぞどうぞ。私も持て余してたし」

梓「なんかいらない物の処分に利用された気がする…」

617: 名無しさん 2010/10/05(火) 15:28:14.00 ID:STo11EAO
純「……」

梓「……」

純「マフラーどう?」

梓「まぁまぁあったかい」

純「そっか、よかった」

純「……」

梓「……」

純「あ、じゃあ私こっちだから」

梓「うん…バイバイ」

純「じゃあね、梓!」

梓「……」

梓「……」

梓「やっぱ短いなぁ…これ」



#14 おわり