1: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 20:26:59.37 ID:08LtSTFx0
前作は
叢雲「私たち、何のために・・・」 提督「・・・それが俺たちさ」
となります。
前作を読まなくても読める物になるよう気をつけるつもりではありますが、関連する言葉など出てくるため前作を読んでいただけると助かります。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1415878009

引用元: ・叢雲「拒否…ですって?」 提督「拒否…だと?」 大和「はい、拒否です」

2: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 20:29:25.47 ID:08LtSTFx0
深海凄艦に対抗できる艦娘という戦力がありながら、艦娘が市民団体の妨害により出撃できずに海上自衛隊と民間船に多大な被害が出た「北大東島沖事件」から、三ヶ月が経った。
事件の中心となった小規模鎮守府である那覇鎮守府は呉鎮守府との統合か、増強かで意見がわかれた。
当初、県民感情に配慮すべきと言う意見が多数だったが、神出鬼没な深海凄艦への対抗拠点は多い方が良いと言う意見も出始めた事。
現在交渉中の東南アジア各国との対深海凄艦協定を締結したさいの拠点としては最適な位置だったこともあり、議論は完全に宙に浮いていた。

「引き上げるならさっさと引き上げる。増強するならさっさと増強する。早く決めてもらいたいもんだな」

「ま、上の議論なんてそんなもんですよ。全員の納得する意見を出そうと議論する。でもそんなものは出ないからいつか強攻策に出る。そして不満が爆発する…国の政治なんてどこもそんなもんです」

「そう言うもんなのかねぇ?」

沖縄守備隊から出向しているスタッフと世間話をする。
そうだ、呉鎮守府へ引き上げるとなれば、彼らともお別れな訳だ。
俺は30にも満たない、特進と言う餌に惹かれただけの無能な提督。呉鎮守府の年上の部下には常に助けられてばかりだった。
彼らに禄に報いもせず置いていく…というのは少し気が引けた。



3: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 20:34:03.43 ID:08LtSTFx0



一機の彩雲がゆらゆらとこっちに近づいてくるのが見えた。
私は手を伸ばし、その彩雲をやさしく抱き止める。
私の艤装に飛行甲板があればもう少し楽をさせてあげれるのにな…こんど提督に改装できないか、お願いしようかな?

「お帰りなさい、どうだった?」

彩雲機長の妖精さんの話を聞く。

「周囲四百キロ、敵影無し…うん、異常は無し、今日の哨戒はこれで終了。」

仲間に振り返り報告する。

4: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 20:36:59.51 ID:08LtSTFx0
「よっし、今日の任務もこれで終了か…とっとと帰って飯にするか!」

「アンタね…また潜水艦にやられても知らないわよ?」

早く帰ろうとする摩耶に叢雲が釘をさす。
この二人に私、瑞鳳を加えた三人がこの那覇鎮守府のメンバー。これはずっと変わってなかった。

「うっせぇなぁ…どっち道潜水艦が出たらアタシに出来る事は無いんだ、しっかり警戒してくれよ、叢雲」

「ハイハイ、全く…せめてもう一隻駆逐艦が来て欲しいわ、私一人で全方位を警戒するには限界があるもの…」

叢雲を先頭に、次が私、最後尾が摩耶という単縦陣で鎮守府に向かう。私は99艦爆を三機、発艦させて対潜警戒に当たらせた。



5: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 20:40:06.98 ID:08LtSTFx0
「第一艦隊帰投しました!」「梯子下ろせー!」

「しっかし…これだけはなんとかなんねぇかなぁ…」

海岸で梯子の用意をする海自隊員を見てアタシは呟いた。
この鎮守府は貧乏だ。他の鎮守府なら水路でドッグと直結してたり、海岸に直接ドッグを併設していたりするがここはそうは行かない。
海岸から少し離れたところに宿舎や艦娘用ドッグが建設されたため、出撃時は擬装を背負って歩いて海に飛び込み、帰投時は梯子を昇って陸に上がる。
無事なときは良いが損傷しているときは一苦労だろう。

「無理ね、このいつ消えるかわからない貧乏鎮守府にそんなお金、あるわけ無いじゃない…先に上がるわ、よっと」

6: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 20:42:47.97 ID:08LtSTFx0
叢雲が梯子を登りながら言う。まぁ、他の鎮守府…ここと似たような小規模鎮守府の中にはクレーンで吊ってぶら下げて運ぶような所もあると聞く。それに比べたらまだマシなのかも…

「お疲れ様です、瑞鳳さん…よっと、ファイトォー!!」

「い、いっぱぁ~つ…」

途中まで梯子を昇った瑞鳳に手を差し伸べた隊員が瑞鳳を引っ張りあげた。こいつはなぜかファイトの後の一発を言わないと拗ねてしまう、変な奴だった。
しかし、あたしらは良いが重い艤装を持った戦艦クラスの艦娘がここに来たら…
「そんときゃ綱引きだな」と真顔で言った提督は今思い出してもぶん殴りたくなる。



7: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 20:45:13.54 ID:08LtSTFx0
「作戦完了、第一艦隊帰投したわ、報告書よ」

「はい、はい…了解しました。少し不安もありますが…良いでしょう。あの子たちにも良い経験になると思います。」

執務室に入ると提督が電話をしていた。ノックの返事を待たずに入ってしまう辺り、この鎮守府は結構フランクだと思う。小規模ゆえだからだろうか?
提督は私を一瞬見た後、指で「ここに置け」と机の隅をさす。

「了解です、明日にでも必要書類を持って行きますよ。えぇ、えぇ、はい・・・」

電話で話しながら報告書を軽く見た後、親指と人差し指で円を作る。OKのサインだ。
報告書を提出したら後は自由だが、私はじっと、メモを取りながら電話をしている提督を眺めていた。

8: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 20:56:17.63 ID:08LtSTFx0
「はい、ではそういう事で。」

『安心したまえ、君が居ない間は私が直々に鎮守府に赴き、可愛い艦娘達と楽しい時をすごすことにしよう』

「アナタの居場所はここではないでしょうに…それに奥さんもいるでしょうが…」

『たしかに、妻と35年幸せに過ごしてきた。しかし艦娘があまりに魅力的過ぎて…』

「しゃれにならない冗談は辞めろ!!」

『私は常に本気だよ、冗談をいう時もな…では、また明日』

やれやれ、あのおっさんにも困ったもんだ。
受話器を電話に置きながら深い溜め息をついた。

9: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 21:00:34.86 ID:08LtSTFx0
「一佐と電話?」

「あぁ、まったくあの野郎…今までの方法で俺が動じなくなったと思ったら更にもう一手撃ってきやがった…」

「あの人にも困ったものね?」

やれやれと、叢雲が首を横に振った。
今の電話の相手はこの横須賀鎮守府の上位組織である沖縄基地隊の隊長だ。階級は一佐。
背の低い定年直前のおっちゃんだが、ときたま真顔で冗談を言い出す。食えないおっさんだ。

「それで、叢雲?俺に何か用か?」

「なにも?でもそろそろ夕食だからまた呼びに来るより一緒に行こうかと思って」

「それはすまなかったな。では、行こうか。」

俺は席を立ち、叢雲はと共に食堂へ向かった。



10: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 21:02:24.37 ID:08LtSTFx0
「今日はビーフカレーか、旨そうだな」

沖縄基地隊から出向している主計科隊員からお盆を受け取り席に向かう。
テレビでは今日のニュースをやっていた。

『超有名アイドルにスキャンダル?アイドルを射止めた男性とは?取材班が、突撃取材を行いました。』

一番目に報道されたニュースは有名なアイドルが実は彼氏がいた…という類のものだった。
俺より先に食事をしていた海自のスタッフが興味深そうに見ている。正直、アイドルにはあまり興味は無い。いや、全くないと言っても良いぐらいだ。
結婚しようが、子供を産もうが、死のうが、気にはしない。

11: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 21:05:59.31 ID:08LtSTFx0
「アイドルも大変だなぁ、仕事以外で人と話すだけでここまでニュースになるなんて」

摩耶がスプーンを片手に呟いた。全く同感だ。自分の一挙一動が全国ニュースになる。こう言う仕事は本当に辛いだろう。

「アイドルってのは夢を売るのが仕事だからな、その夢が壊れるとなりゃ、騒ぐ人も多いのさ」

牛乳を飲み込んでから答える。いや全く、沖縄でも北海道産の牛乳が飲めるというのはすばらしい。

『次のニュースです。与党が成立をもくろむ「艦娘の扱いと有する権利にかかわる法律」いわゆる艦娘人権法ですが、今日も国会は荒れに荒れ、議論は殆ど進みませんでした。』

「すまん、リモコンくれ」

次のニュースが読み上げられる。
艦娘絡みとは言え、国の法律関係のニュースが二番目って、どうなんだろうな?
しかしこのニュースは艦娘を抱える提督としては注目しなければならない。食事中の妖精さんの一人にリモコンを渡してもらい、テレビの音量を少し上げた。

12: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 21:09:11.13 ID:08LtSTFx0
『えー、艦娘は我々、人間と同等の知能・理性・人格を兼ね備えております。艦娘がかかわるトラブルも艦娘の建造と共に増えてくる事が予想される以上。艦娘を一人の人間として扱い人間と同様に保護・あるいは罰する事の出来る法案作りは急務と言えるのです。』

『そもそも、人権、特に日本における人権、いわゆる基本的人権は日本国憲法により、全ての国民に与えられる権利で有ります。日本国民とは国籍法により定義されており、父母のいずれかが日本国民である人間、父母が不明だが日本国内で生まれた人間と定義されております』
『また、外国人が法務大臣の許可を得る事で、日本国民となる事が出来、これを帰化と言います。しかし帰化する場合は元の国籍を捨てる必要があります。』
『しかし艦娘は父母が不明なのではなく、父母と言う概念が存在しません。また、外国の国籍があるわけでもない。父母が存在しないと言う事と父母の不明を同義と考えるとしましても、艦娘は生物学的にホモ・サピエンス。つまり人と認められていません。』
『つまり、艦娘は日本国民となるだけの用件を全く満たしておらず、その艦娘に人権あるいはそれに順ずる権利を与える事は、日本国憲法に違反する事となります』

『国会では与党は艦娘に意思がある故に人権を与えるべきだ、と主張し、野党は人で無い以上人権は与えられない。と両者主張を譲りませんでした。』

テレビでは与党と野党の議員が議論を交わしているようすが議論されていた。

13: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 21:12:25.25 ID:08LtSTFx0
艦娘に人権は無い。というのは「北大東島沖事件」以降、ちょっとした社会問題になっていた。
この事件の際、艦娘に負傷を負わせた人物が海上保安庁に拘束されたのだが、艦娘には人権が無い=艦娘を傷つけても障害罪は適用されないとして、釈放されたのだ。
現在、この人物は海上保安長に対し無実の人物を不当逮捕したとして、損害賠償を請求。現在でも裁判が続いている。

「艦娘に人権は無いから何をしても良い」そう考える輩もいるようで、ニュースになる事はまれだが、艦娘へのちょっとした障害や艦娘の私物の盗難などはこの事件以降、少しずつ発生件数が増えていた。

「艦娘に人権は無いから何をされても狸寝入りするしかない」そう考える人もいるようで、艦娘を怖がり鎮守府の移転や艦娘の解体を訴える活動も徐々にではあるが、増えている。

どちらもテレビで報道されることはまれで、俺がたまに会議で聞くぐらいだ。

14: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 21:16:08.14 ID:08LtSTFx0
確かに、艦娘は人と認められていない。だから人権は与えられない。その理論はわからなくは無い。
じゃあ人間と認められれば良いのか?というとそれはまた微妙だ。艦娘を人と認めるには生物学者が解剖などの実験を行い、論文を発表し、それが学会に認められる必要がある。単純に考えても10年は掛かるだろうし、艦娘の解剖実験など出来ないだろう。
もし、宇宙人がやってきたり、ホモ・サピエンスではない人・・・ホモ・ハイデルベルゲンシスとかがいたら、それらにも人権は与えられない。とでもいうのか。
そうだというのなら、その考え方はその人の自由だろう。

艦娘達は食べるのを止めてテレビに見入っている。
当の艦娘達にとっては酷な話しだ。でも俺は艦娘達には自分たちの置かれた状況をしっかりと知ってほしい。
だから俺はテレビの音量を上げたのだ。

15: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 21:21:36.99 ID:08LtSTFx0
『艦娘の人権について、議論がされる中、艦娘の利用を条件付で認める交通会社やレジャー施設が増えています。今日は艦娘の利用を認めた航空会社に取材を行いました。』

艦娘に戸籍は無い。年齢や住所欄に何を書けば良いのかもわからない。そんな理由で、艦娘の民間交通・民間施設利用は認められない。というのが普通だった。
路線バス程度なら艦娘が乗っても誰も気づかないだろうし、問題も無いだろうが、飛行機やホテルではそうも行かない。
艦娘の利用を認めると言う事は、裏を返せば艦娘だと主張すれば住所や国籍などの情報を一切持たず、これらが利用可能になってしまう事を意味する。
そのリスクを考えれば、この措置自体は妥当とも言えた。

しかし、艦娘の存在が社会的に注目されてきてからはその考えも少し変わってきたようだ。
艦娘はちょっとした金持ちだ。国から自由に使える金が至急されるし、ずっと鎮守府で仕事をしているから金を使う機会も少ない。艦娘を新たな顧客と考え、サービスの拡大を図る。そんなビジネスモデルが顔を出し始めていた。

16: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 21:24:56.63 ID:08LtSTFx0
『わが社では丁度二ヶ月前から艦娘の皆様へのサービスを条件付きではありますが、開始しました。』

Q.なぜ、艦娘へのサービスを始めたのですか?

『わが社の目的はお客様に快適な空の旅を提供することです。艦娘の皆さんは日々の激務でお疲れになることでしょうし、たまには日々の生活を忘れてのんびり羽を伸ばしたい。そう思う方も多いと聞きます』
『わが社は、そんな艦娘の皆様に快適な空の旅、わが社と提携しているホテルでの優雅な一時、観光等を通じてリフレッシュしていただきたいと思っています』

Q.艦娘がサービスを利用するための条件とは?

『わが社では航空機の利用の際、お客様の身元をしっかりと確認させていただいています。これは安全な運行上、どうしても必要なことです。なので、我が社では、艦娘の所属部隊の責任者である人間の方の同伴、または、その責任者の方の証明書と人間の方が同伴する事を条件にサービスを提供させていただいております。』

Q.艦娘へのサービスを始めて問題は?

『我が社では、サービス開始後から今日に至るまで、利用者の方々にアンケートを実施してきました。おおむね好評で、大きな問題も起きておりません。』
『艦娘の皆様には長期休暇を取得できたさい、是非とも我が社のご案内で日々の激務の疲れを癒していただきたい。と思います。』



営業熱心なおっさんだな。そう思った。

17: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 21:32:41.01 ID:08LtSTFx0
「飛行機か…いいなぁ、一度乗って見たいぜ」

摩耶が目を閉じながらうらやましそうに呟いた。きっと感情豊かな摩耶のことだ、今頃心の中では空の上にいるに違いない。

「私も、飛行機はいっぱい見てるけど、自分自身が飛んでみたいって思うのよね…自分でやる宙返りとかきっと気持ち良いんだろうなぁ…」

瑞鳳も摩耶に続いた。瑞鳳、旅客機は自分では操縦できないぞ?

「あれ、けっこうつらいんだよね」「あしとかがくがくしちゃうよね」

瑞鳳航空隊の意見は耳に入ってないみたいだ。

「見るだけならそこらの人に負けない回数見てきたけど、実際に乗ったらまた違うんでしょうね・・・」

叢雲も珍しく妄想にふけっている。
「また私の魅力が増すのね・・・」
どんな想像してるんだこいつ。

18: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 21:35:23.36 ID:08LtSTFx0
「いいよなぁ、提督は。月曜から出張で横須賀、当然飛行機に乗るんだろ?」

摩耶がぶーぶーと文句を言ってきた。
言いたい事は分かる。みんながここに赴任して来た時は公共交通機関には乗れなかったし、艤装も重いから飛行機も効率が悪い。と、海自の艦船に乗ってきたのだ。
船旅自体は悪い物ではなかったと言っているが、バカンスには程遠いだろう。

「あぁ、その出張だが、横須賀からは艦娘の参加も要請された。実際に現場で働く艦娘の意見を聞きたいんだそうだ。」

実際はそれだけじゃない。艦娘に対する鎮守府近辺以外の民間人の感触なども調べたい。良くも悪くも、上にはこう言う思惑があるらしい。

19: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 21:41:54.59 ID:08LtSTFx0
時間が止まる。ワンテンポたってから艦娘達が俺に詰め寄ってきた

「飛行機、乗れるの?」「旅行なの!?」「たしか横須賀サマーフェスタと日付被ってたよな・・・やったな!!」
「あぁ、一人だけ、連れて来いと言われた」
「そんな・・・」「屈辱…!」「くそがぁぁぁっ!!」

最近この三人、近所の中学生にノリが似てきた気がする。
三人に詰め寄られながら俺は首を叢雲の方に曲げた

20: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 21:51:49.30 ID:08LtSTFx0
「と言うわけで、叢雲。準備をしてくれ。」

「えっ、私?」

「なんで叢雲なの?いや、ダメとは言わないけど…」

「んだよ、これから誰が行くか話し合うと言うわけじゃないのかよ…」

どうどう、と三人をなだめながら席に着かせる。
みんな牛乳でも飲んで落ち着こうぜ。

22: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 21:57:43.24 ID:08LtSTFx0
「二人には申し訳ないが、これは決定事項だ。叢雲がこの任に一番適していると判断した」

「まぁ、提督がそういうなら仕方ないけど…」

「でも、何で叢雲なんだ?」

「そうね、理由ぐらいは知りたいわ」

説明しても良いものか?いや、不満を抱えたまま。というのはよくないだろう。

23: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 22:00:08.02 ID:08LtSTFx0
>>21
ゴメンナサイ、配慮が足りませんでした。ご指摘ありがとうございます。
前作は以下になります

叢雲「私たち、何のために・・・」 提督「・・・それが俺たちさ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1414836562/

24: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 22:04:51.91 ID:08LtSTFx0
「それはな、自衛隊全体で節約に励んでおり、叢雲なら子供料金で交通機関・ホテルが使えるんだ」

「そうか、それなら仕方ないよな・・・」

「わ、私だって子供料金で…」

「瑞鳳、アンタそれで良いの?」

「瑞鳳は鎮守府唯一の航空戦力だからな、三日間とはいえ鎮守府を開けさせたくなかったんだ」

「叢雲、今から航空母艦にならない?」

「なれるわけないでしょ?」

「もうすこし空母としてのプライドを持てよ…」

瑞鳳、君はそんなに飛行機にのりたかったのか…
もう少し余裕が持てるように、会議の際戦力増強を訴えても良いかもな。

25: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 22:06:51.98 ID:08LtSTFx0
勿論、こんなふざけた理由で叢雲にしたわけじゃない。
無駄遣いするなと言いながらも流石に出張費を子供料金にしろなんて言うはずが無いし、艦隊としての格付け、みたいな物も気にすればほとんどの鎮守府は巡洋艦以上の艦を秘書艦として連れて行くはずだ。
うちの艦隊でも少数ゆえ厳密に指揮系統を決めているわけではないが訓練や任務時の艦隊指揮は摩耶がやる事が多い。
旗艦として艦娘の状況を知るものと言う意味では会議に参加するのは摩耶が最適だ。

部下がいる。と言う意味では航空隊を持つ瑞鳳も適しているといえる。簡単に熱くならないと言う意味では摩耶以上に適任だろう。
マトモに考えればこういう時に連れて行くなら摩耶か瑞鳳だ。叢雲が適している理由なんて殆ど無いと行っても良い。
しかし、摩耶と瑞鳳には連れていけない理由はあった。
二人とも民間に顔が知られ過ぎているのだ。

26: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 22:10:19.39 ID:08LtSTFx0
摩耶は民間人を暴行した事がある。
無実の男性を窃盗犯と勘違いしてしまい、拘束しようとした際に抵抗されたため、顔面を殴ってしまったのだ。北大東島沖事件の原因とも言える事件である。
さいわい、摩耶の勘違いである事がすぐわかった事と、男性の好意もあり摩耶が処分されるような事は無かった。
摩耶が男性の治療費を出すことで示談となり、男性も騒ぎを大きくしない事を約束してくれた。
今でも摩耶と男性は手紙のやり取りをたまに行っている。
しかし、このときの光景は他の民間人に撮影され、市民に襲い掛かる艦娘の映像はネット上に流出。ニュースに何度も取り上げられた。

瑞鳳はもっとまずい。民間人に武器を向けたのだ。
北大東島沖事件のさい、せめて航空機だけは発進させようと武器を構えた所を市民団体に撮影され、「民間人に武器を向ける殺人兵器」と全国ニュースで報道されてしまったのだ。
あくまで通常の発艦作業であったこと、このときはこうするしかなかった事なども報道されてきたが、それでも瑞鳳に対する民間の印象は良く無いと断言できる。
ここ数ヶ月続いている鎮守府周辺へのビラ撒きやビニールテープの中には瑞鳳を名指しで非難するものも多いのだ。



27: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 22:16:08.94 ID:08LtSTFx0
対して、叢雲は驚くほど顔が知られていない。
ここ沖縄でも、艦娘である事は分かっても誰だっけ?ぐらいの知名度だ。
叢雲は北大東島沖事件の際、民間人に負傷させられた艦娘でもあるが、叢雲は報道される事が殆ど無かった。せいぜい瑞鳳の撮影された動画や写真の隅っこに移っている誰か、ぐらいの報道のされ方だったのだ。
「摩耶」や「瑞鳳」という、世間に名の知られてしまった艦娘より、叢雲の方が「艦娘」に対する世間の反応を見るには適任だ。と判断したのだ。

「叢雲は日曜の訓練、哨戒は出ないで良い。その代わり出張の準備を行ってくれ。」

「了解したわ」

「叢雲…いいなぁ…」「提督、土産ぐらいは買って来てくれよ?」

うちの鎮守府の艦娘は皆、聞き分けの良い子ばかりで助かる。




28: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 22:20:13.73 ID:08LtSTFx0



日曜日、私は街のショッピングセンターに来ていた。
提督に出張に必要な物を買い揃えるよう言われたのだ。
と言っても、たった三日間の話しだし、サバイバルに行くわけでも無い。
でも仕事とは言え道中を制服ですごすわけにも行かない。
と言うわけで必要な物と言えば私服や下着ぐらいのものだ。

「といっても…どこに行けば良いのかしらね…」

服屋に来たは良いが、どこに向かえば必要な物があるのか悩む。
店員に聞けば良いのかもしれないが、艦娘用の服ありますか?とは聞けない。
あの婦人服と書いて有る看板だろうか?でも婦人と言えば大人の女性のことだ、私に合う服は無いような気もする。
ならあっちの子供服か?しかし少し見たが、幼稚園児の着るような服ばかりだ。私は確かに人間の子供の体格だけど…あぁいうのは着たく無い。
提督にでもついてきてもらった方が良かったか、しかし下着も選ぶのだ、流石にそれはちょっと…鎮守府に出向している海自隊員の中に女性がいればよかったのに。
途方にくれていると、救いの手が差し伸べられた。

「あら、叢雲ちゃんじゃないかい?服を買いに来たのかい?あぁ、飴あるけど居るかい?」
「やほー」

おばあさんと、その孫が私に声を掛けてくれた。



29: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 22:25:11.05 ID:08LtSTFx0
このおばあさんは私達が始めて接触した民間人の一人だ。
昔、鎮守府が総力を上げて広報任務をしていた事がある。少しでも艦娘の事を知ってもらおうと言う目論見があったからだ。
最初の広報任務は近所のボランティア団体と共同での公園のゴミ拾い。その時に出会ったのがこのおばあさんだった。
その後も何度か会う機会があり、そのたびに飴やお菓子をくれ、孫のように可愛がってくれた。提督に止められたが、私たちにお小遣いを渡そうとした事もある。
その後、艦娘への感情は悪化の一途をたどるが、このおばあさんはずっと変わらずに私たちに接してくれた。だから私たちは頑張れた。

でも、それも終わりを向かえた、おばあさんがテレビのインタビューに答え「艦娘は怖い」「居なくなれば良いと思う」と発言しているところを見てしまったのだ。
このおばあさんすらも、私達を忌み嫌っていたのか?私たちに優しくしてくれたのは怖いからこそだったのか?
私たちは知らずにこのおばあさんに依存していたところがあるかも知れない。絶望の底に叩きつけられた気がしたし、瑞鳳にいたってはテレビの前で泣き崩れてしまった。

そして北大東島沖事件の時、帰投する私たちは梯子の上でおばあさんが待っているのを見つけた。民間人は立ち入り禁止のはずの場所で、だ。
今更何しに来たのか?怪我をした私を笑いに来たのか?民間船を守れなかった私を貶しに来たのか?

30: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 22:30:09.57 ID:08LtSTFx0
「あぁ…叢雲ちゃん!無事でよかった、本当に無事でよかったよぉ…!」

侮辱の言葉でもかけられるのかと思い、顔を背けながら梯子を昇った私に、おばあさんは涙を流しながら私に抱きついてきた。

「こんな怪我までして、アンタが何をしたって言うんだい…可愛そうに可愛そうに…」

おいおいと泣くおばあさんに抱きしめられ、何度も顔の包帯を撫でられる。嗚咽で何を言っているのか聞き取れない私に、孫が変わりに説明してくれた。

あのインタビュー、おばあさんは真逆の事。艦娘は最初怖かったが、今では可愛いと思っている事。艦娘も武器を持たずに暮らせれば良いのにと発言をしたのが、編集で逆の意味に変わってしまったらしい。
テレビ局に抗議の電話をしたが、放送時間の問題と取り合ってくれず、せめて一言謝りたかった。そこに艦娘が負傷したと言うニュース。
もし私たちに何かがあれば全部自分のせいだと、提督に許可を取りずっと梯子の傍で待っていたのだと言う・・

この日以来、このおばあさんは何度も鎮守府まで会いに来てくれている。多分沖縄で一番艦娘を知る民間人だ。



31: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 22:34:21.10 ID:08LtSTFx0
「それが…近々旅行に行こうと思って服を買いに来たのは良いけど、どこに行けば良いのかわからないのよ」

「そうかいそうかい、なら私が選ぶのを手伝ってあげるよ」

「ばーちゃんが選んだ服なんて昔のセンスでしょ?私にまかせなよ」

「そんな事は無いと思うけど…ま、ここは若いもんに譲ってやるとしますか?」

「そーしなそーしな」

この孫は結構きつい言葉を言う。それでも、祖母と孫の仲は良好そうだ。


32: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 22:39:49.68 ID:08LtSTFx0
おばあさんと孫に服や下着を色々選んでもらう。結局、白いワンピースと下着を数着、買うことにした。

「似合ってるよ叢雲ちゃん、私が選んだんだから、問題は無い!」

「あぁ、やっぱりこの子に任せて正解だったわ、私じゃこんないまどきな服、目もくれないからねぇ」

「その…ありがとう。」

ふふ、これで私の魅力も…

「50パーセント増し!保障するよ!」

「そうかい?私は80パーセントは増してると思うけどねぇ?」

やはり、この二人は血が繋がっている。というか艦娘の心を読むのはやめてほしい。



33: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 22:42:50.56 ID:08LtSTFx0
「では、先に裏口で待ってる。準備が出来たらすぐ来るように」

私服の提督が先に荷物を持って裏口へ向かう。

「大丈夫?財布は持った?携帯は持った?着替えはちゃんと持ってる?迷子になったらおまわりさんに言うんだよ?水偵一機持ってく?」

瑞鳳が何度も私のカバンの中身を確認しだす。なぜか今日の瑞鳳はすごい心配症だった。

「大丈夫だろ?そこらの子供じゃ無いんだし、な?」

摩耶がバシンと私の腰を叩いた、痛い。

「ちゃんとお土産買って来いよな…さも無いとぶっ[ピーーー]から」

摩耶がぼそりと、でもはっきりと耳元でささやいてきた。
出張に行けない事をかなり根に持っているみたいだった。


34: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 22:48:14.12 ID:08LtSTFx0

「待たせたわね」

「ん、では行こうか」

裏口に向かうと提督が待っていた。
この鎮守府、裏口が非常にわかりにくい場所にある。おかげで私たちは正門を使わないで済む。

『艦娘の存在が深海凄艦を呼び寄せる』
『NO!艦娘。STOP!艦娘』

そんなのぼりを複数立てた市民団体が正門前にたむろしていた。
北大東島沖事件以来、過激な反対運動に対する批判も強くなったからか、常にメガホンで怒鳴るような事は無くなったが、それでも艦娘は裏口を使用していた。



35: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 22:53:38.39 ID:08LtSTFx0

「ここからバスに乗ってバスターミナル。そこから高速バスで空港まで向かう。」

「わかってるわ、昨日聞いたもの」

「確認だ。ちゃんと乗車時に券を取れよ?さも無いと差額の50円、余計に支払う事になる」

…もし、入り口近くの席に座り、ドアが開くたびに整理券を取って行ったら、最初のバス停から乗って最安値で終点で降りることも可能なのだろうか?


「ここから終点まで乗っていく。」

整理券を取り、バスに乗る。
流石にこの時間帯に混んでいると言う事は無く、叢雲と並んで席に座る。
他の客も数人居たが、叢雲に二度、三度視線を向けた後視線を元に戻した。
沖縄は艦娘をはじめ反対運動が過激だが、過敏に反応するのはごく一部。というのは本当らしい。
そりゃそうか、もし沖縄県民みんながあんな勢いで反対してたら、沖縄基地隊はとっくに解散しているもんな。


36: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 22:56:20.54 ID:08LtSTFx0
「ねぇ、高速バスと路線バスは違うの?」

バスターミナルで高速バスを待っていると叢雲が話しかけてきた。

「どういう意味で違うか…と言う話しになると難しい話しになるな。まずバスというのは自動車目四輪科客車類に属する車両の総称で…」

「それは動物の分類法でしょ?」

叢雲に冗談は聞かなかった。

「両方ともバスであるという点では変わらんよ。人員の輸送を目的とした細長い車両だからな。ただ路線バスは一つの市内をグルグル回るのに対して高速バスは都市と都市の間を走る。だから高速バスは立って乗ること前提のつり革とかは無いし、ドイレがあるバスも多いな。あとサイズの割りに乗客数が少ない。」



37: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 22:59:30.22 ID:08LtSTFx0


「ねぇ、整理券が無いわ」

「高速バスでは不要だ」

なるほど、確かに高速バスと路線バスはバスである事に変わりはないが、結構違う。立って乗る事を前提としてい無いし、席も広い。
テレビまであった。音は聞こえないが、バラエティ番組を放送していた。

「ねぇ、アンタ…」

隣に座っている提督に話しかける。どれぐらい乗って居れば良いのか聞こうとしたが、提督は既に寝ていた。
寝ている。と言う事は結構長い時間走るのだろう。放送で終点空港と言っているから、降り忘れる事も無いはずだ。
私も少し寝ようか。

39: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 23:11:23.70 ID:08LtSTFx0


「叢雲、起きろ、降りるぞ」

寝つけたか寝付けなかったかと言うタイミングで提督に肩を叩かれて目を覚ます。
はっきり行って、中途半端な時間に起こされてかなり眠かった。

でも提督はいつもと変わらない。
この人はいつも眠いのだろうか、それとも、少しでも寝なければいけないほどの激務なのか。


「人が…いっぱい居るのね…」

空港に到着して叢雲が最初に呟いた

「こんなんで圧倒されたら先が続かんぞ、羽田はこの5倍は人が居る。」

「そんなに?テレビとかでは見たけど、直接見るとやっぱり圧倒されるわ」

「さて、旅客機の客室には一人一つ、ハンドバッグ程度の物しか荷物を持ち込めない、残りは空港に預けて、到着先の空港で受け取る事になる。今のうちに機内で必要そうなものとかは小さいカバンに移して置くんだ」

さて、搭乗手続きは…こっちだな。

41: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 23:14:21.86 ID:08LtSTFx0
「搭乗手続きをお願いしたい、大人一人、子供一人、羽田行きだ」

「チケットはお持ちでしょうか?」

「ああ、これだ」

カウンターに居た従業員に話しかける。
30位の男と10代半ばの少女というのは少し怪しいのか、何度か顔をチラ見されたが、手続きを始める。
「申し訳ありませんお客様、お客様の方は結構ですが、お連れ様の方は搭乗できません」

「えっ、私?」
なんだと?
ミスは無かったはずだが…

「すみません、何処かミスが?」

「住所が空白になって居ますし、年齢も記入されていません、これでは搭乗をさせるわけには行きません」

「まってくれ、事前にそちらの会社に連絡してこれで艦娘の搭乗には問題ないと言われているが…」

俺が艦娘という単語を口に出した瞬間、全身に視線を感じる。多分殆どは叢雲に注がれているものだろう。

43: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 23:21:29.77 ID:08LtSTFx0
「ママー、かんむすだってー、かんむすー」

「そうね、きっと艦娘さんもお出かけなのよ」

そんな親子の会話が聞こえ、感じていた視線は無くなる。
多少覚悟していたとは言え…すこし堪えるな。

「艦娘の方であればなおさらご搭乗はお断りさせていただいております、当社の規定では艦娘の搭乗は禁止されていまして」

こいつ、わざとじゃないのか?この会社が艦娘の搭乗を許可していることはホームページにも乗っているし、もう2ヶ月も前のことだ。
昨日今日であればまだ全従業員に周知されて居ないと言う事もありえるが…

47: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 23:30:28.12 ID:08LtSTFx0
無意識のうちに俺はこいつを睨みつけていたらしい、そいつはにっこりと笑い、言った

「申し訳ありませんが、そちらの方はお引き取りください」

「拒否…だというのですか…!」

「ちょっと、君!何をしているんだ!」

カウンターの奥から上司らしき人物が出てきて、従業員をどかしてパソコンの操作を始める。

「はい、はい!大丈夫です!お二人とも確認が取れました、ご搭乗できます!」

搭乗開始の三十分前には来ていたが、既に出発まで五分を切っていた。

「やっぱり、私たちって嫌われ者なのかしらね?」

「…すまんな、嫌な思いをさせて」

「いいわ、アンタのせいじゃ無いって事は知ってるもの」

違うんだ叢雲、俺のせいなんだ。こうなる事を見越してお前を連れてきたのは俺なんだから。



50: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 23:34:07.70 ID:08LtSTFx0



空港の事務室、先ほどお客様に失礼な対応をした従業員に注意する

「艦娘の搭乗は二ヶ月前に認められているし、マニュアルも配っただろ?忘れたのかい?」

「いえ、忘れていません、私は私の良心で艦娘の搭乗を拒否しました」

「…君が平和活動を行っている事は知っているよ。そういった君のプライベートでの思想信条をどうこうするつもりは無い。しかし業務に政治的な思想を持ち込むのはやめてくれないか、お客様にも影響があるし、君を別の部署へ移動しなければならない」

「個人の良心を踏みにじるというのですか?もし強行なさるのなら労働組合に報告しなければいけません」

平和活動、それ自体は良い。しかし、その思想を仕事に持ち出して客を差別するのは止めろ。こっちの主張はそれだけだ。
しかしこの従業員はなぜか労働組合と深いつながりがある。過去に一度、私の部下になる前の話しだが、当時の上司がこの従業員に似たような事で注意をしたらストになりかけた事があった。
労働組合やストライキの意味自体は私も認めるところではあるが、このような理由で行われては…
私は何度か、この従業員の異動を検討しているが、何度も上司に止められてうまく行っていない。




51: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 23:36:42.17 ID:08LtSTFx0

「すごいわ!あんた見て見なさい!こんなに早い乗り物が有るなんて!」

離陸直前の飛行機は新幹線より遅いぞ。

「どんどん街が小さくなって…今私、空の上に居るのね…」

飛行機だからな、当然だ
しかし、ここまではしゃぐ叢雲を見たのは始めてかもしれない。
いつもはクールな彼女も、やはり見た目相応なんだなぁ…


53: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 23:39:27.42 ID:08LtSTFx0


「お飲み物はいかがなさいますか?」

客室乗務員が声を掛けてきた。

「俺は冷たいお茶を、おい、叢雲…」

「…」

「この子はオレンジジュースを」

叢雲はずっと窓から外を見ていた。
高度も上がり、雲か海しか見えないのに、何が楽しいのか?
飛行機に乗りなれてしまった俺には理解しがたい光景だった。


54: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 23:43:10.06 ID:08LtSTFx0

飛行機に乗ると足が鈍って行かん。飛行機から降り、到着ロビーで大きく伸びをする

「ねえ、ここほんとに東京なの?まだ2時間ちょっとしかたって無いけど…まだ辺戸岬辺りとかじゃ無いわよね?」

「まさか、ほら、見てみろ」

スマホのGPSアプリで現在地を見せてやる

「本当に東京に来てるのね…飛行機というのは恐ろしい乗り物だわ…」

まあ、気持ちは判る。
俺も始めて北海道から東京に来た時、札幌から旭川に移動しただけの様な感覚がした。

55: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 23:46:11.11 ID:08LtSTFx0

「さて、これから電車で品川に向かい、そこで乗り換えて横須賀まで行く。今日はそこでホテルで一泊だが…品川駅では俺と手をつなげ、これは命令だ」

「え?なんでよ」

手を繋ぐって、恥ずかしいし私はそんな子供じゃない。

「品川は怖いんだよ…俺はいまだに東京は苦手でな」



「ちょっと・・・なんでこんなに人がいっぱい居るのよ!」
「ここが東京だからだ」
「もうすこしで迷うところだったじゃない!」
「お前が手を繋がないからだ」

大量の人の流れに分断され、もうすこしで迷子になる所だった。
艦娘が迷子とか、それこそ冗談じゃない。
同じ日本とは言え、こんなに違うものなのか、すこしカルチャーショックを受けた気分だ。


56: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 23:48:55.89 ID:08LtSTFx0


品川から電車に乗ってからは比較的静かだった。
東京の街並みも叢雲に見せ、ビルの海で圧倒させてやろうと思ったが…それはまたの機会にしよう。

「しかし…ここは人がすごい多いけど私には誰も興味を向けないのね」

「人が多いからこそ、だろうな。外国人が多い事に気づいたか?沖縄ではアメリカ人は見ても他の国の人はあまり見ないからな。どんな人が居ても気にしない。都会ゆえの長所でもあり、短所でもある。」
沖縄や飛行機内では色々な視線を向けられたが、ここではそんな事は無かった。
東京の人間が艦娘に慣れていると言う事は考えにくい。そういう人間は横須賀に居るはずだ。
良い意味でも悪い意味でも
他人に無関心なだけなんだろうな。


57: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 23:51:14.21 ID:08LtSTFx0


「予約していたものだが…」

「はい、確認できました。シングルが二部屋ですね。こちらが鍵になります」

「ありがとう」

提督がホテルのカウンターでスタッフから鍵を貰う、飛行機の時とは違ってスムーズに手続きが済んだ。

「叢雲、鍵だ。部屋は俺の部屋の隣、オートロックで部屋から一歩でも外に出たら鍵を使わないと入れん。鍵を部屋に置いたまま出るなよ。1800になったら飯を食いに行く。それまでは自由にして構わん。あと冷蔵庫の中に入っている飲み物は飲むな、追加料金取られるからな」

提督から鍵を受け取り部屋に入る。
「安いビジネスホテルだから期待すんなよ」と言われたが、鎮守府の宿舎に比べたら何倍も豪華だった。
特に、他人がシーツを敷いたベッドというのが良い。こういうのはプロの人がやるんだろうか、毎日やっているとはいえ、わたし達がやったのに比べると綺麗で、ぐっすり眠れそうだった。


58: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 23:55:59.17 ID:08LtSTFx0


「提督、入るわよ」

「あぁ、鍵は開いている」

提督の部屋に入る。左右対称な以外は私の部屋と全くおんなじだった。
まあ、当然よね。

「それで、どこで食事するの?」

「近所の居酒屋だ、プライベートの旅行ならもっと良い所に行くんだがな」

「お酒、飲んでも良いけど、飲み過ぎないでよ、明日仕事なんだから」

「…節度はわきまえているつもりだ」

まぁ、明日の仕事は夕方の会議、それまでは横須賀のイベントを見て回るだけだから、すこしぐらい飲んでも多めに見てあげるわ。
鎮守府じゃなかなか飲めないものね。


59: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/13(木) 23:59:39.08 ID:08LtSTFx0




私は、失敗した。

「ううぅぅぅ…叢雲、ごめんよぉ、こんな無能な提督で…」

「あーはいはい、私は気にして無いから、ね?」

「叢雲はやさしいからそう言ってくれてるんだ、でも本当は心の中で「私の顔に傷つけさせるなんて、お前が事前に湾の様子を調べないからだこの糞提督!」とか思ってるんだ!瑞鳳と摩耶にもなんと謝れば良いのか…あぁぁぁぁ…」

提督は泣き上戸なのかもしれない。普段と量はそんなに変わらないはずなんだけど…
実際、北大東島沖事件は私たちだけでなく、提督にも大きな影響を与えたらしい。
戦闘終了の報告を受けた提督は人払いをした後執務室に篭ったが、部屋からは怒鳴り声と激しい物音が聞こえたと、海自のスタッフが教えてくれた事がある。

それでも私達が帰還するころには平静を保って普段どうりに振舞っていたと言うから、なかなかのものだ。

「うぅ…ごめんよ叢雲…ごめんよぉ…」

「あんたが悪いわけじゃ無いんだからもう良いわよ…ほら、ホテルに戻るわ、あんたの財布からかってにお金出しとくからね」

「ごめんよ叢雲…ごめんよぉ…」

60: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/14(金) 00:02:38.38 ID:GGbK01VP0


提督を抱えたままホテルまでたどり着き、ベッドに寝かせる。
途中で警官に声を掛けられたが、艦娘だと言うと笑顔で気をつけてと言われた。
もしかしたらここでは似たような光景が何度も繰り広げられているのかも

「ほら、ホテルついたわよ、水でも持ってくる?」

「あ゛あ…たのむ・・・俺もそろそろ…寝るから、むらくももそろそろねような…」

アンタが水飲んだの見たら寝る事にするわ。なんとか落ち着いたみたいでよかった。



提督が水を飲んだのを見てから、部屋に戻る。
提督があそこまでうろたえるのはだいぶ久しぶりだ。始めて会った時以来だろうか?
元々提督は成績は優秀じゃない。防衛大学卒業直前は同期に万年三尉とからかわれていたらしい。
そんな提督が艦娘の提督なんて職をいきなりやってもうまく行くわけが無く…那覇鎮守府に着任する前はずっと呉で私と講義ばっかりだった。
そのころは良く失敗してうろたえてたっけ。


61: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/14(金) 00:06:41.07 ID:GGbK01VP0


部屋に戻り、シャワーを浴びようと服を脱ぐ、その前に鎮守府に連絡ぐらいはしようか。
ベッドに寝転び、スマホを取り出した。


『もしもし、瑞鳳です。叢雲?どうしたの?』

「いちおう無事に現地に着いたから連絡しようと思ってね。そっちは何かあった?」

『夕方の哨戒中に彩雲が駆逐イ級を発見、進路が沖ノ鳥島方面だったから、一佐指示で海自P-1Cに監視を引き継いで帰投。あと補給を要請していた航空機が到着したよ。それぐらい、かな?』

「そう、大事無い様で何よりだわ。」

『それよりも聞いてよ!やっと零戦52型に彗星に天山がそろったのよ!新人の妖精さんもいるし、明日から機種転換訓練しなきゃ!』

「あー、うち、偵察機以外は旧型機ばっかりだったものね…」

うちの鎮守府は何度も言うように貧乏だ。装備も旧型の物や、横須賀・呉で使わなくなったものを渡される。彩雲だけは提督が「日本最南端の鎮守府として、これだけは譲れん」とか叫んでなんとか勝ち取ってきたものだった。
でも、うちに52型や天山が回されているって事は最近開発に成功したと言う流星はもう横須賀辺りには配備されているんだろうな…
言ったら瑞鳳がうるさそうだし、航空機談義が始まりそうだったので早めに電話を切りあげた。



下着も脱いで浴室に入る。なぜかトイレとお風呂が一緒になって居る。スペースの節約なんだろうか?正直違和感がぬぐえない。
ホテルの中には複数人で泊まる部屋もあるみたいだけど、一人がお風呂に入っている間にもう一人がトイレに行きたくなったらどうするのかしら?


62: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/14(金) 00:08:16.84 ID:GGbK01VP0



「提督、起きてる?入るわよ」

ガチャっと鍵が開き、提督が眠そうな顔を出した。
浴衣を着ている提督というのは私服の提督以上に新鮮だった。

「叢雲、悪いな、さっき起きたばかりなんだ…15分で支度するからまた来てくれ、そしたら飯にしよう」

目の前でドアを閉められた。しかた無いとは言え、すこし失礼じゃない?


63: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/14(金) 00:14:17.07 ID:GGbK01VP0

「朝はホテルで食う。普通のホテルなら朝と夜食事が出るんだが、ビジネスホテルは夜は出ないか別料金が多くてなぁ…」

エレベーターの中で提督があくびをしながら答えた。

「夜もホテルで出れば夕飯代浮くんだが…」

「仕方ないわね」

「朝はバイキング形式だ。好きな物を好きなだけ食って良い。でもマナーの問題もあるから、食べきれ無い量を皿に盛ったりしたら駄目だぞ」

「私がそんなみっともない真似をすると思うの?」

「始めてバイキングをする奴は高確率でその失敗をする。ここに経験者が居る。」

そう言えば、提督の小さいころや、家族というのはどういう人たちなんだろう?
みんな提督みたいな感じなのか、提督とは正反対の人たちなのか。
提督の実家から沖縄は遠い事もあってか、提督は家族や家の話をあまりしない。

64: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/14(金) 00:17:11.99 ID:GGbK01VP0


「サマーフェスタへおこしの方はこちらにならんでくださーい!」
「4列にならんでお待ちくださーい!」

「関係者だ、那覇鎮守府から来たんだが…」

「身分証をお願いします…はい、確認しました、こっちへどうぞ」

提督が列の整理をしている自衛官に話を通し、長蛇の列を横目に先へ進む。
それにしてもすごい人の数だ、沖縄で沖縄基地隊のイベントに参加した事があったが、こんなに混むなんて事は無かった。

「約2万人の人が来る。隣の米軍基地でやっているヨコスカフレンドシップデーは4万人だったかな、この日だけでよこすかには6万人が押し寄せているわけだ」

「米軍の方が多いのね。」

「米軍の方は単純なお祭りで出店やミュージシャンのコンサートも充実してるからな。あっちの方が人を選ばないんだ。最近は艦娘を一目見ようとこちらに来る人も増えているがな」

「あーっ、艦娘さんがいるー!」

艦娘が居る、と聞いて一瞬ドキッとする。声のする方を見ると列の整理を手伝っている艦娘が子供に手を振っていた。
これが、海軍の街横須賀か、沖縄とはだいぶ違う。

65: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/14(金) 00:20:35.21 ID:GGbK01VP0



会議が始まるのは夕方だ、それまでは私たちは関係者としてここに来ながら、やることは無い。
そんなわけで叢雲と一緒に基地内をあるいて回った。

「ボウチン!ボウチンじゃないか!」

嫌な呼ばれ方をする。いまだにそんな呼び方をする奴は一人しか居ない。
艦娘を連れた男が此方に歩いて来た。

66: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/14(金) 00:22:32.95 ID:GGbK01VP0
「久しぶりだなボウチン、ここに来る途中あまりの人の多さに迷子にならなかったか?金は足りたのか?」

「そういうアナタはセッチンでしょうが二佐、セッチンは雪隠らしくトイレに篭っていて欲しいですな」

「提督、この人は知り合い?それに雪隠ボウチンって、何よ?」

「「こいつのあだ名だよ」」

二人で叢雲の方を向いて答える、本当に忌々しい男だ

「稚内鎮守府の提督だ、北の端っこの鎮守府で雪で有名な北海道だから雪隠、トイレ男さ」

「こいつの事さ、忘れ去られた鎮守府、忘鎮って事だ、忘れ去られるぐらいならトイレの方が百倍マシだね」

「チッ」

こいつは防大の同期、最下位の俺に対し、こいつはトップだったから、いつも俺を馬鹿にして来る嫌な奴だ。
俺に忘鎮等と言う轟沈ににたあだ名をつけてきたので仕返しに雪隠にしてやった。なお、本当の稚内はそんなに雪は降らない。振る事は降るが、もっと振るところが北海道には沢山ある。
俺と同期では有るが、初期にシベリア付近の深海凄艦討伐にロシア海軍と共同で参加した事で、俺より一つ、階級が上だった。
しかし、今では那覇鎮守府は不本意ながらも呉・横須賀に次ぐ知名度を持っている。
そして稚内鎮守府は釧路・函館鎮守府と共にロシア海軍と今日同建設中の単冠湾に纏めて移転する事が決定している。
忘れられたのは貴様のほうだ。こんどあだ名をつける機会があったら「忘れられた北トイレ」としてやる。

67: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/14(金) 00:25:47.04 ID:GGbK01VP0
「提督、その二人、知り合いなら俺にも紹介してくれよ」

いままで口を閉じていた艦娘が話しかけてきた

「ああ悪いね木曽、この子は軽巡木曽、我が鎮守府のエースだ。こいつが那覇鎮守府の提督だよ、せっかく艦娘を連れた会議に駆逐艦を出席させなければならないほどの貧乏な鎮守府さ、巡洋艦と空母はどうした?市民団体に攻撃されて欝病にでもなったか?」

「このっ…」

叢雲が前に出ようとするのを制する。流石にここで喧嘩はまずい。しかしこいつ…一度調子に乗ったらとことん調子に乗ることには変わりは無いようだ。

「ほう…お前が那覇の…確かに、提督の言うように無能そうな顔立ちだな!」

木曽が豪快に笑い出す。確かに顔はよくない、だがこの野郎…裏でそんな事を言ってたのか。

68: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/14(金) 00:29:08.86 ID:GGbK01VP0
「アンタっ…うちの提督のどこが無能っ…」

いけない、叢雲がキレた。しかし、叢雲が飛び出す前に別の人が会話に割り込んできた。

「ほう、君は他の提督を侮辱するような事を艦娘に吹き込んでいるのかね…」

「はっ…?海将!」

慌てて後ろを振り向くと海将…全鎮守府の上位組織となる艦娘艦隊の司令官がいた。
現在の海上自衛隊で、護衛艦隊司令官と並ぶ、海自艦船部隊のツートップと言えるだろう。
俺と叢雲は慌てて敬礼した。

69: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/14(金) 00:33:23.37 ID:GGbK01VP0
「我々提督は…」
「年齢階級は違えど、同じ釜の飯を食い、同じ日に就任した兄弟であり、皆心を一つにして職務に励むべし!」

海将の言葉に続いてその次の台詞を言う。
この人が就任直後に発言した言葉で、年齢や階級の差があっても全員が同じ日に提督となった以上、そこに上下関係は無い。という意味らしい。
すこし言葉が変な気もするが、嫌いな言葉ではなかった。

「個人的な言い争いは有ってもそれに艦娘まで巻き込むのは関心せん、きなさい、こっちですこし話し合おうでは無いか。君たちはこのイベント、楽しむが良い。」

海将が雪隠を連れて行ってしまう。

70: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/14(金) 00:34:01.16 ID:GGbK01VP0
「あーあ、あのおっさん、説教なげぇんだよな…他人の悪口とか陰口が大嫌いでな…」

提督が海将に引っ張られていく雪隠提督に良い笑顔でサムズアップする。

唖然として見送っていると、木曽が私に声を掛けてきた

「すまないな、お前とお前の提督を出汁にしてしまって…あいつ、悪い奴じゃ無いんだが、身内以外はこき下ろす癖があるんだ、だから海将を見かけてすこし灸をすえてやろうと思った」

「なによ、そんな事で提督を馬鹿にしたっていうの?」

「さっきは無能なんて行ってすまなかったな。お前の提督、結構良い奴じゃないか。お前が爆発しないように抑えてるの俺には見えてたぜ?」

「木曽、君はどうする?」

私と木曽の会話に気づいて居ない提督が声を掛けてきた

「俺は提督を待ちます。あれでも我が艦隊の司令官なので」

「そうか…大変だな、アレが提督だと」

「どんな奴でも、最高の勝利をくれてやる、それが軽巡木曽でね」

「…そうか、頼むよ」

「じゃあな、お前も頑張れよ、駆逐艦!」

木曽がにっこりと笑ってからマントのような外套をひらめかせ雪隠提督を追って走って行く。

「かっこいいな、あの軽巡」

同感だ。あの笑顔に一瞬ドキッとしてしまったのはないしょだ。

「でもあの格好。ここじゃ暑く無いのかな?」

「…私に聞かないでよ」

提督の突っ込みで胸のときめきは綺麗に消し飛んだ。

77: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 01:25:19.25 ID:qdyYqd2G0
「Hey!そこの提督!私のcurry、食べて見ませんカー?」

何か食べる物を買おうと出店を探していると艦娘に呼び止められた。焼き鳥ややきそばの出店があったはずだが…そう言えばカレーフェスタも行われていたな。

「私のカレーは、南の島の美味しいココナツ入りです…食べたら病み付きになりますよ?フフフ…」

「早霜ー、その言い方だとなんか怪しいものが入っている気がしマース…」

確かに、駆逐艦の艦娘の言い方はなにか怪しい雰囲気がする。
しかし他の艦娘のカレーか、確かに食べて見るのも面白そうだが・・・

78: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 01:27:50.78 ID:qdyYqd2G0
「待ちたまえ!そこの提督!」「君は提督だろう!毎日艦娘のカレーでもう飽き飽きしているのではないかな!?」「久しぶりに男のカレーとか、どうだい!?」「「護衛艦きりしまカレー!今なら250円だ!!」」

三人の上半身裸の男が様々なポーズをとりながらこっちに迫ってきている。
それに、だ

「ねぇ、後ろで仲間がパンクしそうだから手伝ってあげたら?」

「そうだな、関係者が長蛇の列を無視してカレーを貰うというのも気がひけるし…」

「ねーちゃん!金剛、榛名、早霜カレーそれぞれ一つずつ!」「私は早霜カレーを一つ!」
「は、はい!カレー三つで750円になります!お釣りは250円です!はい!そちらは250円…丁度頂きました!お姉さま!早霜!榛名はそろそろ大丈夫ではありません!助けてくださいぃ~」

「おいそこのマッチョ三人!早く戻ってきて手伝え!」

残された艦娘や海自隊員が少数で大人数の相手をしていた。

79: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 01:32:43.64 ID:qdyYqd2G0
「oh! sory榛名!今行くネー!」

「むっ!何処かで困る人の声を感じる!」「ではさらばだ!!」「たまには自衛官のカレーも艦娘のカレーに負けないほど美味である事を思い出したまえ!!」

知ってるよ、俺たちだって普段は海自の主計科が作った飯食ってんだから

「なんだったのよ・・・あれ・・・」

見たところ、艦娘カレーの方が人気のようだ。それに対抗して海自隊員は良く判らない宣伝法で対抗を試みているらしい。
海自隊員は持ち場に戻る途中でも若いカップルを囲んで筋肉宣伝を繰り返していた。

80: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 01:35:34.85 ID:qdyYqd2G0
『まもなく護衛艦ちびしま前で、特別大規模訓練展示が行われます。皆様是非、見に来てください』

「特別…大規模訓練?実弾演習でもやるのかしら?」

叢雲がアナウンスを聞いて怪訝そうな顔をする。
しかし特別?大規模訓練?サマーフェスタでは救助訓練の展示ぐらいだった気がするが・・・

「まさか…それにちびしまって事は…見に行くか?」

「そうね、特別と言うくらいだから、一目見て見たいわ」



81: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 01:37:58.31 ID:qdyYqd2G0


叢雲はなにか、空砲ドンパチなものを想像しているようだが、実際行われた訓練は学芸会だった。
もう一度言う。あれは学芸会だった

『大変です!客船が深海凄艦に襲われて居ます!』

「あ~れ~たすけて~、であります!」

「ふふふ、重巡洋艦からは逃れられないわ!」

黒い服を纏った艦娘四人が、一人の艦娘を囲んで変な踊りをしていた。
囲まれている艦娘はたしかあきつ丸、陸自の開発した艦娘だ。

海自が艦娘の開発に成功する前、ニューギニアの一部が深海凄艦に制圧された事を受け深海凄艦の上陸に対してどのように対抗するか検討された事がある。
結論としては既存の陸上戦力でも十分対抗可能。というものだった。陸に上がった深海凄艦は戦闘力が低下するし、海上戦闘と異なり陸戦はレーダーにそこまで依存し無い事と、戦車は装甲と火力の殴りあいが主軸とあまり深海凄艦と変わっていないからだ。
深海凄艦の襲撃に対して下手に海上で撃滅するより、過疎地に誘導して上陸したところを特科と機甲科の攻撃で撃滅する。という方法が検討された事もある。
結局空母・戦艦級の深海凄艦が現れた事で計画は見直し、海自が艦娘の開発に成功した事を受け、陸自でも独自に艦娘に抵抗できる戦力の開発に乗り出した。
当初は艦娘の戦車版。を考えていたようだが、出来たのはあきつ丸だった。と言うわけだ。
今では陸自の担当官と共に横須賀鎮守府に出向、艦娘と共同で任務に当たっている。

82: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 01:40:22.38 ID:qdyYqd2G0
『客船からの救援要請を受け、付近を哨戒中の第六駆逐隊が救援に現れました!』

「まちなさい、そこのしんかいせーかん!」「それ以上の狼藉は許さないよ」「その艦を早く離して、なのです!」

「あ、ありがとうございます。であります!このお礼は…」

「おれいなんて、いらないわ!もっとたよってもいいのよ!」「君は早く離脱するんだ」

四隻の駆逐艦に駆け寄り、跪きながら例を述べるあきつ丸。
駆逐艦は台詞が棒読みだ。きっと練習する暇も無かったのだろう。とっても学芸会だった。

83: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 01:43:44.88 ID:qdyYqd2G0
『客船の離脱を確認した第六駆逐隊は深海凄艦との砲雷撃戦を開始しました!みなさん応援してあげてください!』

ぱんぱん!と音がしてお互いの砲口からクラッカーが鳴らされる。わざわざこのために艤装に手を加えたのか…ご苦労なことである。

「重巡洋艦に挑むなんて、命知らずね!」「Zzz・・・」「わがはいにかてるとおもっているのか?いくぞちくま!」「はい、利根姉さん!」

『重巡洋艦四隻に対し、精鋭と言えども第六駆逐隊の苦戦は免れません!』

「きゃー」「いなずま、しっかりして」「わたしは、だいじょうぶよ!」「よくもお姉ちゃんを、なのです!」

苦戦する駆逐艦達。あまりの学芸会っぽさからまわりから「ガンバレー」と声も聞こえる。
その時、スピーカーから

84: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 01:46:33.77 ID:qdyYqd2G0
その時、スピーカーから男の声が入った

『こちらヴァイパー01、救援要請を受け出撃した、これより攻撃を開始する』

洋上迷彩のF-2戦闘機…を模したミニバイクが二台、会場に侵入して来て重巡の周りを旋回し始める。

「やだ、何…敵の航空機?」

「おのれ、こうくーきふぜいが、このとねにかなうとおもっているのか!」

ミニバイク、いや、F-2が会場を旋回し、ミサイルをぼとっと落とす。落とされたミサイルは煙を吹きながら重巡に向かっていく。
よくみると会場の隅でリモコンを持っている航空自衛官が見えた。まさかこのためだけに空自まで呼んだのか?
ミサイルに重巡がわざとらしく足を引っ掛けると花火でも仕込んでいたのか火花が散った。

85: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 01:49:50.83 ID:qdyYqd2G0
「きゃあー、やられちゃったー」
「ぐわぁーわがはいはもうだめじゃー」

「いまよ、うちまくれー」

駆逐艦のクラッカーが乱射される。重巡達は紙テープまみれだ。

「すこしむちゃをしたわね…撤退よ!」

「ちくまー!」

「帰りますよ、姉さん」

「Zzz…ふぇ、もう終わり?って、待って古鷹、スカート引っ張らないでよぉ!」

『航空自衛隊の協力もあり、見事第六駆逐隊は深海凄艦の撃退に成功しました!皆さん拍手を送ってあげてください!!』

突っ込みどころの多過ぎる特別大規模訓練展示と言う名の学芸会は終わりを向かえた。

86: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 01:51:47.87 ID:qdyYqd2G0


「なぁ、叢雲、俺たちも今度…」

「絶対やらないわよ」



夜。横須賀基地内の会議室に通される。
俺達を案内してくれたのは昼にあきつ丸を襲っていた巡洋艦の一人だった。

「あまり、そういう言い方しないでくれますか?」

「いや済まん、面白かったので」

「特別って言うから何かと思ったら…あんなもの見せられるとは思わなかったわ」

「こう見えてもみんな練習頑張ったんです!それに重巡洋艦の良い所、わかってもらえたでしょ?」

「…まあ、な」

正直アレだけ見たら…いや、何も言うまい。

87: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 01:52:20.39 ID:qdyYqd2G0
「那覇鎮守府の方はこちらです。では。」

そういうと古鷹は俺たちにお辞儀して会議室を出て行った。

94: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 18:35:23.26 ID:qdyYqd2G0
「皆、集まったようだな。では会議を始めようか。呉鎮守府から今回の艦娘を連れた公共交通機関の移動で気になった点があれば教えてくれたまえ」

「はい、呉鎮守府です。移動には航空機を使用。今回の艦娘の移動では特に問題点は無かったと思います。大和はどう思った?」

「呉鎮守府、大和です。移動中視線を感じる事はありましたが…特に問題は無かったかと。」

「舞鶴鎮守府は移動に新幹線を使用しました。車内で複数の民間人に話しかけられた以外は特には。川内?」

「んー、気になった事は特に無かったかな?民間人も出張お疲れ様、とかそういうのが多かったし…でも話しかけてきた人以外からはすこし嫌な視線は感じたかも」

「函館鎮守府です。移動には航空機を使いました。空港での搭乗手続きにすこし時間が掛かりましたが…なぁ、阿賀野?」

「それは…私がチケットを忘れたからです。ごめんなさい…」

95: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 18:41:54.51 ID:qdyYqd2G0
おおむね、不審な目はあっても艦娘には好意的。と行った所か。
他の鎮守府も変な視線があったという話しはあっても直接暴言を吐かれた、妨害されたと言う話は無かった。

「那覇鎮守府です。移動には航空機を使用。民間人の反応ですが…空港で一度、搭乗を拒否されました。」

俺の発言の後、提督達がすこしざわつく。

「またあそこかよ…」

「手続きにミスがあった、とかでは無いのかね?」

「ありえないと思います。事前に航空会社に確認しており、問題ないと言われていました。実際対応した従業員と別の従業員は問題ないとスムーズに手続きを進めてくれました。」

「やはり、沖縄の県民感情は他と比べるとかなり悪いようだな…」

「と言うより、一部極端に感情が悪い人が沖縄に集中している…という印象を受けたわ。」

沖縄にだって、艦娘に好意的な人は少なく無い。そうで無いと、あそこで頑張っていけない。

96: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 18:45:32.87 ID:qdyYqd2G0
「やはり、沖縄の鎮守府は撤収した方が良いのでは?自衛隊や在日米軍への妨害行為もありましたが、ここまでの物は近年無いでしょう?」
「しかし、南方の対深海凄艦戦も考えると…」
「でもこう反対運動が続くと…」

「那覇鎮守府は最低限、沖ノ鳥島奪還作戦が終了するまでは維持し続けなくてはならん。沖ノ鳥島から敵が出撃した際対応できない事もありえる。それに、那覇鎮守府には万一の際の退避場所としての機能も期待している。」
「那覇鎮守府をどうするかについては沖ノ鳥島作戦が終了するまでは現状維持だ。どのようにするかはその後決める」

また棚上げ、か。棚上げと言う事は、いつ撤収するかもわからない。設備や戦力の増強も出来ない。と言う事になってしまう。
結局この議題は「艦娘への悪感情は存在するが、急遽対策するほどでも無い。各地で少数ながら起こっている艦娘関係のトラブルも艦娘人権法成立と共に減少するだろう」という結論に達した。
しかし、全国的にはそうでも、沖縄はどうなんだろうか?北大東沖事件以降、過激な反対活動は鳴りを潜めているが…



97: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 18:48:22.00 ID:qdyYqd2G0



「現在政府は海自・第七艦隊合同で沖ノ鳥島攻略作戦の日程調整を進めている。まだ確定していないが、おそらく一ヶ月以内には発令されるだろう。艦娘艦隊としての基本計画を立ちあげろ、という通達が出た」

会議の議題が変わる。むしろこっちの方が本命だろう。
しかし三隻しか艦娘の居ないうちの鎮守府は沖ノ鳥島に一番近いと言ってもやることは変わらない。

「作戦の主軸は横須賀・呉両鎮守府の艦隊となる。自衛隊・第七艦隊は周辺の策敵警戒および沖ノ鳥島から撤退する敵艦艇の掃討。那覇鎮守府には損傷した艦娘の退避先と退路確保をお願いしたい」

「了解しました。しかし現状の戦力では平時の策敵ですら余裕の無い状況です。空母一隻と駆逐艦一隻の増強を要請。また、それに伴う宿舎、ドック整備の予算をお願いしたい。」

「それは私からもお願いするわ、駆逐艦が私一人だと対潜警戒にも不安が残るしドックに行くのにいちいち梯子を昇らなければいけない状況は結構みんなの負担になってるの」

唯でさえ、十分な対潜警戒、艦娘にまとまった休みを取らせることもできない状態なのだ。要請だけならタダだ。

98: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 18:55:24.20 ID:qdyYqd2G0
「戦力増強は他の鎮守府に余力があれば可能だが、施設の増築は許可できん、那覇鎮守府は撤収する可能性も残っているのだ…空母と駆逐艦はどうかね?」

「新潟鎮守府です。我々は日本海の守りの主力として配備されていますが、今まで強力な深海凄艦隊には遭遇していません。空母二隻のうち、瑞鶴と睦月型駆逐艦を一隻であれば那覇鎮守府に転属させることは可能です。どうだ千歳?」

「そうですね、現状新潟の戦力はやや過剰なところがあると思います。瑞鶴も反対はしないと思いますよ?」

「待ってくれ、主力足りえる空母こそ後方部隊ではなく主力になる横須賀か呉に・・・」
「うちも軽空母二隻でなんとか回しているところが有る。現有戦力を貸し出すとなると…」
「ごめんなさい、ボクが改修すればすこしは余裕が出来るんだけど…」

「ダメみたいね、まあ戦力をよこせと言っても無理、か」
「そうだな…わかりました、現時点での要請は撤回します。ですが新規に建造できた空母・軽巡・駆逐艦を我が鎮守府に回せるようご一考いただきたい」

「それについては了解した」

摩耶と瑞鳳が旅行できるのはずいぶん後の事になりそうだ。


99: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 18:58:33.75 ID:qdyYqd2G0
会議が終わったとき時計は午後の八時を回っていた。
横須賀鎮守府で食事をしてからホテルに戻る。
明日は飛行機で帰るだけ。お酒を飲んでも良いと言ったら昨日の事を覚えていたのか真っ赤になりながら「いや、いい」とだけ言って顔を背けた。
いつも冷静(で居ようとしている)提督の変わった姿をもう一度見てみたかったけど…昨日はまだ歩けたから良いけど、流石に潰れられたら運ぶだけでも面倒だから飲まない方が良いのかも。

ホテルに戻り、叢雲に鍵を渡す。

「明日はすこしゆっくり出来る。0900ぐらいに飯にしよう。それまでゆっくり休んでくれ」

「わかったわ、お休み、提督」

最初飲んでも良いと言われたときはすこし心が揺らいだが、二日連続で醜態を晒したく無い。それにそんな事になれば帰った後摩耶辺りにさんざんからかわれるだろう。
それに、もう一つ。やらねばならぬ事があった。

100: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 19:01:44.09 ID:qdyYqd2G0
俺が宿泊先にこのホテルはいくつか有る。
安い、近い。それは大事だ。でも一番大事なのは、このホテルは有料放送がカード式。つまりエレベータホール前でカードを買えばチェックアウト時に不振がられずに有料放送を楽しめるのだ。
鎮守府の提督と聞いて、防大の同期や古い友人からは羨ましがられる事もあるが、辛い事も多い。
艦娘の命を預かる提督として恥ずべき事だが、艦娘相手に欲情してしまう事がある。残念ながら俺は男なのだ。
でも宿舎は部屋やトイレ・風呂こそ違えど建物自体は共有で、非常事態が起これば電話より先に部屋に艦娘やスタッフが直接来る事もある。
鎮守府に居ては禄に性欲処理もままなら無いのだ。

なので、俺がこういった出張とかの機会にすっきりしてしまおうと考える事も決して不思議な事では無いのだ。



101: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 19:07:52.22 ID:qdyYqd2G0
提督とわかれて部屋に戻る。ベッドのシーツは昨日始めて来た時同様綺麗になっていた。なるほど、安いホテルでこれなら高級なホテルに行けばどんなに快適に過ごせるだろうか?
前見たテレビで「是非疲れを癒して」と言ったあの社長の言葉はあながち嘘では無いのだろう。
そういえば昨日は部屋のあちこちを見てから寝てしまった。関東のテレビを見るのも良いだろう。

「さすが関東、いろんなチャンネルがあるのね…」

沖縄で見れるテレビはせいぜい4、5チャンネルぐらい、でも関東では10チャンネル以上も見れる。BSというチャンネルはスポーツ中継や映画がメインみたいだ。
何か面白そうな番組はやって無いかとチャンネルを回していると変な文字を見つける。

103: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/15(土) 19:10:01.67 ID:qdyYqd2G0


「この番組は有料です、視聴される場合はカードを購入ください…?」

有料のテレビ番組、とはなんなのだろうか?
でもお金を払って見るというからにはさぞ面白い番組がやってるはず…
どれだけのお金が掛かるのか、場合によっては私のお金から出しても良いだろう。でも一応提督に確認しておこう。
たまにニュースでやる詐欺みたいに何万円も請求されたら困る。
私は部屋の鍵を持って提督の部屋に向かった。この時間ならまだ起きているはずだ。

107: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 13:08:50.99 ID:IMRvpr1n0


「提督、入るわよ」

提督の部屋をノックしてドアを開けようとする。
鎮守府の時の悪い癖だ、いつも執務室に入るときは返事を待たずドアを開けてしまう。
しかし部屋のドアはガチャガチャと音を立てるが開かなかった。

「そういえば…オートロックだったわね、これ…」

どうしようか、部屋に戻って電話をかけるか?
そんな事を考えていたら提督の部屋の中から激しい物音がした。
たとえるなら人が争うような、そんな激しい物音だった。

「っ、どうしたのアンタ!大丈夫?何があったの!?」

何度もドアを立てる。
何があったの?何物かに襲われた?お酒を飲み過ぎて倒れた?そんな嫌な予想ばっかり頭をよぎる。

108: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 13:11:49.17 ID:IMRvpr1n0
「ドアを開けなさい!開けないとドアごとぶち破るわよ!!」

「待て!叢雲!後30秒…俺は大丈夫だから!」

ドアの向こうから提督の声が聞こえ、十秒ほどたってドアが開く。

「ど、どうした叢雲、何かあったのか?」

提督の様子は明らかに異常だった。
服は乱れて息も荒い。顔が赤いがお酒を飲んだわけでもなさそう。テレビがついてたので、スポーツ観戦でもしてた?摩耶がスポーツ中継でテンションが上がる事があったけど…
でも、ドアの隙間から見えるテレビでやっているのは公共放送の外国語講座だった。この番組でここまで興奮する事は無いだろう。

109: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 13:12:33.49 ID:IMRvpr1n0
「アンタこそ…どうしたの?まるで暴漢と取っ組み合いしていたような格好だけど…」

「い、いや、なに、ちょっと運動をな、激しい運動をしていた…どうしたんだ、何かあったから来たんだろ?」

「えぇ、テレビのチャンネルにお金が掛かるって放送が」

「何でも無い、俺は見て居ない。」

提督が真顔で言い切った。真顔なのに顔が赤くて息も荒い。はっきり言って嘘だろう。

「そう、アンタが見てるとかはどうでも良いのよ、私も見て見たいんだけど、何円ぐらいかかるのか聞きたくて…」

「千円、平均的な…何でも無い、今日はもう寝なさい」

110: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 13:19:40.92 ID:IMRvpr1n0
墓穴を掘ったわね。
提督としてはすこしは成長したけど初めて会ったときと何も変わらないじゃない。
この男、冷静な人間であろうとしているけど、一旦慌て始めると感情的になるし嘘をつこうとしてボロが出る。
書類のミスを私にバレないよう誤魔化そうとしている時とやってる事が同じだった。

「…そう、じゃあ戻って寝るわ」

「それがいい、そうするべきだ」

提督がドアから手を放し、背を向ける。普通ならドアが閉まり、オートロックで提督にしか開けられない。
でも、落ち着きが無いのね。なんだか昔に戻った気分だわ。
しまる寸前のドアを掴み、ロックが掛からないようにする。この私に見せたく無いほど面白い番組、見てやろうじゃない。

そのままドアを開けて中に入ろうとしたが、それは出来なかった。

111: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 13:26:13.41 ID:IMRvpr1n0
「まったく叢雲め…これから良いところだというのに…」

そんな事を呟きながら提督が、服の下を脱いだのだ

「っ!?」

悲鳴を上げそうになるが、何とかこらえる。世の中には部屋では下着だけと言う人も居るし、全裸で過ごす人が居ても不思議じゃない、でも下半身だけ、なんて人は居るのか?
それに、大事なところは見えて無い。

提督がテレビのリモコンを弄るとチャンネルが移り変わる。そこに写っていたのは私が期待した面白い番組ではなかった。

112: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 13:28:52.58 ID:IMRvpr1n0
『ねぇ、早く来てよぉ…///』

『乳首もこんなに硬くして、ここもグチョグチョだね、そんなにしたいのかい?エッチだなぁ』

『やぁん///』

全裸の女性が胸を揉まれながら色っぽい声をあげて居た、そして
提督はベッドに腰かけると股間の、大きいそれを一心不乱に上下に動かしていた。

「!!?!?!??」

これは見てはいけない、慌ててドアから離れると支えを失ったドアが閉まる。
この変態!クソ提督!と怒鳴り込んでやろうと思ったが、辞めた。提督はプライベートな空間でプライベートな行為をしていただけ、本来怒られるべきなのはそれを覗いた私の方なのだ。
そういえば意識した事は無かった。提督も男性で成人だ、そりゃあ女の人に興味を抱くし、その…エッチな事だってしても当然だし…
それにもし私に見られたと知ったら、提督はどうなるだろう。他人に下着を見られただけで死ぬほど恥ずかしいのだ。
なら私がやることは、有料放送も提督のあれも、完全に忘れるべきだ。
私は急ぎ足で部屋に戻った。

113: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 13:35:59.45 ID:IMRvpr1n0



まったく、叢雲が部屋に来るとは、想定外だった。いくら艦娘とは言え私の大事な一時を邪魔しないで貰いたい。
ドアを叩かれたとき驚いてベッドから転がり落ちてしまった。まだ腰が痛い。

「まったく叢雲め…これから良いところだというのに…」

急いで下を脱ぎ、テレビのチャンネルを変える。
よかった、まだ始まってなかった…このときばかりはAVに良く有る無駄に長い前戯タイムがありがたく思えた。

114: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 13:50:56.92 ID:IMRvpr1n0
『ねぇ、早く来てよぉ…///』

『乳首もこんなに硬くして、ここもグチョグチョだね、そんなにしたいのかい?エッチだなぁ』

『やぁん///』

やはり、巨乳は良い。
いや、貧乳も同じぐらい好きだが、鷲掴みにされて様々に形を変える。これは巨乳にしかない、一つの特権とも言える。
ものを取り出し、動かし始めたところでドアの方から音が聞こえた気がした、驚き、硬直したまま顔だけドアの方に向ける。

「だれもいない…当然か、オートロックだもんな」

俺は気を取り直していつもの作業に戻った。

115: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 13:58:50.16 ID:IMRvpr1n0



「…寝れない」

部屋に戻ってすぐベッドにもぐりこむ。でも全然寝れない。
いつもなら寝るのはもうすこし後。眠気は無いし、前見たものが頭から放れない。

「…あーもう…シャワーでも浴びよ…」

こう言うときはすっきりするに限る。冷たいシャワーでも浴びてさっぱりしよう。

服を全部脱ぎ浴室に入る。タオル等も全部新品に変わったのかふかふかの物に変わっていた。
偶然鏡の中の自分が目に入る。何の変哲も無い身体のはず…人間の身体は見た事は無いが、講義を信じるなら少なくとも外見は人間の女性と変わらないはずだ。
そのまま自分の胸を見る。さっき提督が見ていた映像の女性とは正反対の殆ど平らな胸だ、瑞鳳は私は胸があって羨ましい等とぼやいていたから、彼女よりは膨らんでいるみたいだが、
それでも瑞鳳の方が魅力的な身体をしているように思える。私は痩せ過ぎだ、ガリガリと言っても良いかもしれない。アバラが浮出ている肌を見てそう思った。
提督は私を女の子としては見て無いのかもって、何を考えてるの私!?

「あーもーあーもー!」

さっぱりしたいのになんであいつの事を考えているんだ私は!
壁を何回か拳で叩いて水のシャワーを浴びた。

119: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 21:56:00.09 ID:IMRvpr1n0



結局殆ど眠れたのか眠れなかったのか、良く判らなかった。
気がつくと窓の外は明るく、スマホを見ると0600。提督が食事にしようと言うまでだいぶ時間がある。二度寝しようとも思ったが、二度寝したら寝過ぎるかもしれない。
そう思った私は起きてテレビでも見ようと思った。
テレビの電源を入れようとテレビに近づくとテレビの裏に何かがあるのが見える。手にとって見ると有料番組のパンフレットだった。

「なんでこんなわかりにくい所にあるのよ…」

くそっ、ネットか何かで匿名の抗議を送ってやる。



120: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 21:59:20.44 ID:IMRvpr1n0


「やあ、おはよう叢雲!」

時間になり、提督の部屋に行く。提督は今まで見た事の無いようなさわやかな笑顔で出迎えてくれた。

「どうした叢雲、顔色が優れないが…風邪か?」

「何でも無いわ…すこし寝つけなかっただけよ」

「そうか、ま、そんな日もたまには有るな」

はははと笑い出す。
誰のせいだと思っている!あ、私が悪いのか…

この後、昨日と全く代わり映えの無い朝食を食べた後私と提督は帰路についた。



121: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 22:06:24.41 ID:IMRvpr1n0

「忘れ物は無いな?お土産は買ったな?よし、行くか」

空港に着き、提督と荷物の確認をする。うん、大丈夫。

「すみません、搭乗手続きを、大人一人子供一人」

「はい、少々お待ちください…確認できました、機内にお預けのお荷物の準備は出来てますか?」

搭乗手続きはあっさりと終わった。



―都内某所

「総理、第七艦隊司令官と防衛大臣から作戦計画が届きました。命令があり次第沖ノ鳥島奪還作戦が開始出来ます。後は総理とアメリカ大統領の判断を待つだけです。」

「本当に奪還できるのかね?沖ノ鳥島はわが国の領土であり、日本沿岸に出没する深海凄艦の基地になっている。これを撃滅できれば日本の安全度は高まり、ミッドウェーやニューギニアへの救援も行えるようになる。それはわかる。」
「だが、その作戦のために自衛隊や米軍に大損害が出れば意味は無いぞ?」

「ご安心ください、このときのために日米共に訓練を重ねてきました。艦娘の建造、配備も整っております」

「艦娘、か。あのようなものに頼らなければならないとは、辛いものだな…ホワイトハウスとのホットラインを」



122: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 22:12:47.45 ID:IMRvpr1n0


鎮守府に戻るといつもの面面が俺を迎えてくれた。
大丈夫だったかと聞いてくる瑞鳳。真っ先にお土産をせびる摩耶。

「安心しろ、お土産は買ってきた。東京銘菓ひよ子だ」

実は福岡発祥である事は内緒だ。
最近福岡発祥である事に危機感を覚え、福岡である事に宣伝力を注いでいるとも聞くが…
「東京銘菓 ひよ子」と今まで散々宣伝しておいて今更何を考えてるんだろうな?

「あー、居ますね、関東行ったらとりあえずひよ子をお土産にする奴」
「一佐が散々買ってきたからすこし飽き飽きしてるんすよ」

「うっせ、何買うか迷った結果これにしたんだよ、和菓子は嫌いじゃ無いだろ?」

「うっす、頂きます」

海自隊員もひよ子を手に取る。
しかし今度出張に行ったら何をお土産に買おうか?
横須賀だったら…海軍カレーは芸が無いよな、家族や友人には好評だが。

123: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 22:13:27.13 ID:IMRvpr1n0
「わぁっ、可愛い!」

瑞鳳が食いつく。彼女はこういったかわいい物が好きだ、一番女の子らしいといえるだろう。

「へぇ…テレビで見た事あるけどこれがそのひよ子か…うん、旨い、サンキュー提督、叢雲!」

摩耶は速攻でかじりついた。多分一番男らしい。

「ねぇ…これ、食べないとダメ?」

「けっこうすぐ腐るらしいから開封したら早めに食べないとダメみたいよ」

124: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 22:19:14.08 ID:IMRvpr1n0
俺も一つ頂こう。お土産を持ってきた奴が食べてはいけない。何て法はないし…
手元にあるひよ子を掴むとクシャット潰れた。

「!?」

「あ、そのひよこのなかみはわたしがいただきました」

瑞鳳航空隊が餡子の塊を皆で分けていた。
俺の手元には中身を抜き取られたひよこの死骸が転がっていた。

「さて、みんながひよ子を踊り食いしているところ悪いが、会議の際決まった事を伝えなくてはならん。三十分後に作戦会議を行う」


125: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 22:24:59.44 ID:IMRvpr1n0
時間が来て会議室に集まる。既にみんな席についており、机の上にはお茶とひよ子が置かれていた。
正直、作戦会議っぽく無いがいいか、こう言うのも小規模な部隊ならではだ。

「みんな集まったな?先日の横須賀会議で、沖ノ鳥島奪還作戦を行う事が決定された。正式な命令、報道はもうすこし後になるだろうが、現在自衛隊・在日米軍は現在作戦に向けて準備を行っている。」
「那覇鎮守府は直接戦闘には参加しないが、那覇鎮守府は損傷した艦娘の退避先に指定された。その退避路の確保、損傷艦娘の護衛が我々の主な任務となる」
「自力で母港まで退避できない艦娘が現れた場合、戦闘終了後であれば海自・米海軍艦艇が収容し横須賀まで移送する手はずになっているが、戦闘中ではそうもいかん。その場合最短距離である那覇鎮守府に移動してもらう」

「任務自体はわかったけど、多数の損傷艦娘が出た場合はどうするんだ?あたしら三人じゃ護衛しきれる自信は無いし、何隻もこられたらうちの鎮守府では抱えきれ無いだろ?」

「そうですね、宿舎や補修用ドック、整備設備にも限界があります。」

摩耶とドック担当の海自隊員が発言する。
確かに宿舎はギリギリ、ドックもせいぜい二人分の整備が精一杯だ。

126: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 22:29:19.11 ID:IMRvpr1n0

「護衛については退避時に1~2隻の艦娘をつける手はずになっているから、その艦娘らと協力して行ってくれ。設備については…増強を要請したが、断られた。」
「艦娘が無事に帰れれば言いと言う考えなんだろう、艤装の修理については間に合わなければ海自の艦艇で後日移送、その先で修理する。宿舎については…場合によっては…海自隊員はマンスリーマンションでも取るしか無いな、鎮守府最寄のところなら大丈夫だと思うが。」

「受け入れ態勢の出来ないところに受け入れろとは酷な話しね、忘鎮にはふさわしい扱いかもしれないけど」

叢雲が突っ込んできた。さてはお前、そのあだ名気にいったか?

「それはともかく、こちらも作戦の用意を始める。退避する艦娘を追撃するとしたらおそらくは航空機、潜水艦、次点で高速艦艇だろう。」

「そうでしょうね、戦闘中となれば敵も戦艦クラスで追撃をかける事は困難なはずです」

「摩耶は魚雷発射管を減らして砲撃・対空戦闘の備えを万全にしてくれ、零式通常弾・三式弾を通常より多めに用意する事」
「叢雲は対潜訓練を集中的に行ってくれ、三日間ブランクがあるから、再度ソナー・爆雷の確認を」
「瑞鳳、航空隊の機種転換訓練は?」

「おおむね完了しています。まだ一部訓練に取りかかれていない子も居るけど、三日もあれば全搭乗員が機種転換可能です。」

「了解した。航空隊にはフルで働いてもらう事になるかもしれん、期待している」

127: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/16(日) 22:37:32.07 ID:IMRvpr1n0


この会議の数日後、正式に政府から沖ノ鳥島奪還作戦が発令され、同時にマスコミに説明が行われた。
通常の戦闘では戦闘開始より前にマスコミに作戦内容を報道するなど考えられない事ではあるが、自衛隊への目は厳しい。
深海凄艦が国際的な脅威である事、艦娘や自衛隊の動きを警戒する周辺諸国への説明もかねて大規模な作戦は実際に部隊が動く前日には作戦目的と海域だけは報道されるのが慣例となっていた。
怪獣映画とかで作戦がいちいち発表されるのと同じようなものだ。



Q・政府により沖ノ鳥島奪還作戦が発令されましたがどう思いますか?

A・仮にも日本の領土だし、いつかはやんなきゃいけないんじゃ無いの?

A・そもそも今のままでも深海凄艦の攻撃ってたまにしか起きなかったでしょ?急いでやる必要も無いと思うけど…

A・なんだか心配だわ、余計に深海凄艦の攻撃が激しくなりそうだし、何もしなきゃいいのよ

A・そもそも深海凄艦を攻撃するというのが間違ってるんですよ、沖ノ鳥島なんて何も無いタダの岩なんだからくれてやればいいんです。向こうが欲しい物をくれてやればそうすれば向こうもこちらを攻撃する理由も無くなるでしょう。

131: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/17(月) 06:43:02.77 ID:d5WcAQwQ0



「なあ、テレビのニュース、聞いたか?」
「あぁ、艦娘の部隊が自衛隊と一緒に沖ノ鳥島に向かうって奴?」
「俺、このニュース聞くまで沖ノ鳥島の存在知らなかったよ」
「勉強不足だよな、俺たち」

休み時間、中の良い友達と一箇所に集まって話し始める。
俺たちは沖縄の中学校に通う学生だ。過去に那覇鎮守府の提督さんと艦娘が授業を行った事で問題になった事がある。
それ以前にも市役所の職員さんや商工会議所の人が沖縄の政治や経済状況について教えてくれる授業があった。
その中の一つとして近年話題になっている深海凄艦と艦娘についての授業として、提督さんと艦娘が艦娘や深海凄艦についての説明を行ったのだ。

授業自体はとても面白かった。ニュースを禄に見ない俺たちにとって、話題には上がりながらも良く判らない艦娘と深海凄艦についていくら狩りかいを深める事が出来たし、朝のニュースぐらいは見ようとも思えるようになった。
でも世間はそうは見なかったらしい。
―学生に自衛隊の宣伝をするのはどうなのか
―兵器を使った授業などおかしい
こんな批判が学校に殺到したとニュースで見た。

結局、この授業は俺たちの一回しか行われて居ないが、その後も何度か艦娘とは会う機会がある。

132: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/17(月) 06:45:41.85 ID:d5WcAQwQ0
「摩耶様達も出撃するのかな?」
「そりゃ沖ノ鳥島に一番近い鎮守府は那覇だから…何もしないって事は無いんじゃ?」
「でも横須賀や呉には何十人も艦娘が居るって言うけど、那覇は三人だけだぜ?」

「づほちゃんも戦うのかな…」

俺たちと違うところで話しあっていた女子が呟く。
こいつは瑞鳳さんを妹にしたいと企み、会うたびにうちの妹にならないかと誘う変態だ。
俺たち?俺たちは摩耶様に踏んで罵って欲しいだけだから変態じゃない。だろ?

「はーい皆さん、席についてください」

チャイムがなって国語教師が入ってきた。
あれ?次の授業は担任の社会だった気が…げっ

「せんせー!教科書忘れました!!」

こういうのはすこしでも早く宣言するのが吉だ、時が経てば経つほど相手の態度は冷たい物になっていく。
忘れ物の多い俺がずっと覚えてる数少ないことだ。

133: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/17(月) 06:55:36.49 ID:d5WcAQwQ0
「まったく…またあなたですか。どうして忘れたんです?」

「たぶん…明日の時間割と間違ってしまって…」

クラス中が笑いに包まれる。

「まぁ、良いでしょう。今日は教科書は使いませんから…さて皆さん、昨日のニュースは見ましたか?何か気になった事はありました?」

クラス中がざわめく。この手の質問は担任が良くする事でこの先生がする事は少なかった気がするが…

134: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/17(月) 06:56:04.83 ID:d5WcAQwQ0
「えーと、アイドルの彼氏と思われた人が実はタダの弟だったとか?」
「あれは先生もビックリしました。でも他にもあるはずです。」
「北海道で熊が出た?」
「そんな事はどうでもよろしい。ここ沖縄に関係がある事です」
「えーと…殺人事件?」
「そのニュースに関心を持つ事は良い事ですが、先生が興味を持って欲しいニュースは他にあります。」

多分、クラスみんなが意図的に話題を避けている。
その手の話題が出るとこの先生は面倒くさいのだ。なんで社会教師にならなかったんだろう?

「沖ノ鳥島奪還作戦、ですか?」

遂に他の話題が無くなり、一人が呟いた。

「そうです。それです。先生は国が間違った事をしており、その間違った行為が正されない事をとても悲しく思っています。」

先生が笑顔になった。よっぽど嬉しかったのだろう。

135: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/17(月) 06:59:15.64 ID:d5WcAQwQ0
「戦争はいけない。それは皆さんも良くご存知のはずです。ですが、ここ最近の日本は戦争への道をつき進んで居ます」
「イラクへの派兵を始め、ジブチへの基地建設、集団的自衛権などです…集団的自衛権は最近の話ですから、皆さんもご存知だとは思います。」
「そして今度の沖ノ鳥島への侵略です。このまま日本が戦争をどんどん行って行ったらどうなるか、しまいには徴兵制が敷かれ、戦前の日本へ後戻りです。私は皆さんが戦場へ行く事を望んで居ません。」

「先生は沖ノ鳥島奪還は間違いだと?」
「間違って居ます、武力で物事は解決しません」
「でも、沖ノ鳥島は日本の領土で深海凄艦に奪われてるんですよね?それを取り返すことも間違いなんですか?」
「奪われたからと行って、奪い返す事が正しいとは思えません。そんな事をしたらまた奪われてしまう。戦争になってしまいます。そもそも沖ノ鳥島は誰も住んでいません。誰の物でも無いんです。先に住みついた深海凄艦にこそ沖ノ鳥島を持つ権利があると思います」


いや、それはおかしく無いか?とは思ったが、口には出さなかった。
先生の言う事も間違って居ない気がしたのだ。殴られたから殴り返す。それでは永遠に殴り会いをするだけだ。
でも、殴られても何もしない。それじゃあ取り返しのつかない事になるんじゃ?

136: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/17(月) 07:03:23.21 ID:d5WcAQwQ0



授業が終わり職員室に戻る。生徒に私の考えが通じたかはすこし疑問だ。殆どの生徒は考え込むような顔をしていた。
しかし、今はわからなくても良いだろう。大人になる前にしっかりと自分で考えて正しい結論を出して欲しい。
今の日本は明らかに異常だ、どんどん野蛮な話が出てきて、艦娘やオスプレイ、沖縄の軍事拠点化が進んでいる。
このままでは沖縄戦の二の舞だ。日本で唯一の地上戦。そんな悲劇を二度と繰り返したく無い。
今はまだ深海凄艦との戦いは小競り合いで済んでいるが、今度の作戦は本格的な侵攻作戦らしい。もし成功すれば深海凄艦は反撃に出るだろうし、真っ先に襲われるのは沖縄。戦争だ。
それだけはなんとしても避けたいものだ。

「お疲れ様です、先生」

社会科の教師が声を掛けてきた。正直言ってこの男は私は嫌いだ。
この男が校長に進言して自衛官の授業なんてやったものだからあのクラスだけ生徒の反応が悪い。生徒に間違った情報を教えて悩ませるのは辞めてほしいものだ、社会科教師なら尚の事。だ。

137: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/17(月) 07:08:37.98 ID:d5WcAQwQ0
「いやぁ、先生のクラスは真剣に授業を聞いてくれる生徒が多くて助かってますよ、授業もスムーズに進みました。」

「それは良かった、担任としてそう言って頂けると光栄ですよ」

嫌いな男とは言え、同僚だ。当たり障りの無い会話をする。
嘘は言って無い。生徒は皆真剣に悩んでくれていた、それだけあのクラスの生徒が真面目な子である証なのだ。
授業中に寝たり携帯を弄ったりするうちのクラスの生徒にも見習わせたいものだが…それだけにこの男が生徒を惑わせている事が許せ無い。

「おや、論文ですか?」

社会科教師が私の机の上の書きかけの論文を覗いてきた。

138: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/17(月) 07:16:48.47 ID:d5WcAQwQ0
「やだなぁ、見ないで下さいよ、まだ書きかけの文章なんですから」
「これは失礼しました、でも珍しいですね、アナタが論文なんて」

「私も教育者の端くれですから、生徒達の教育について思うことは多々ありますよ、アナタも書いて見たらどうです?」

「そうですね…私も色々考えてる事が有りますが…まずは論文の書き方を勉強しないと…教師になっても勉強する事が多くて困りますよ」

「ははは…でも言うじゃ無いですか、ペンは剣よりも強しって。教育を変えたいなら、こう言うのは効果がありますよ」

その時、チャイムがなった。

「おや、もう休み時間は終了ですか…では私はこれで、次の授業がありますから」

「そうだ、私も次の授業があったんだ」

139: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/17(月) 07:46:16.77 ID:d5WcAQwQ0



国語教師が席を立ち、職員室を出て行く。私も次の授業の準備をしないと。
でも先生。ペンは銃よりも強し。格言です。この格言を知らない人は居ないでしょう。
でも、この後こう続く格言もあります「~と行った人が居るが、彼は自動火器を見た事がなかったのであろう」
はじめからペンを使うことを放棄している相手にペンだけでは太刀打ちできないんです。
そうなった時、そうなら無いように、生徒達に何を教えるべきか、あなたは考えて居ますか?

155: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/18(火) 07:24:58.16 ID:vYyD1eG70

『本日朝、ここ横須賀基地と呉基地から護衛艦および艦娘が沖ノ鳥島に向け、出港しました。』

夜。食堂で飯を食っているとテレビからニュースが流れた。

『総理大臣は出港の直前に自衛官及びに艦娘に対し「沖ノ鳥島の深海凄艦は現在わが国、国民の大きな脅威となりつつある。厳しい任務になるだろうが、諸君らが米軍と協力し、無事に任務を達成できることを願う。」と、自衛官らを激励しました。』
『基地には見送りの家族が集まったほか、深海凄艦への大規模攻撃は余計な被害を増やすだけだという市民団体が集まり、抗議の声をあげました。』

Q.自衛官の出港をどう思いますか?

A.どうも思いません、無事に帰ってくることを願うのみです。

A.お父さんにしばらく会えなくなるのは悲しいけど、いつもの事だから大丈夫

A.無事に帰ってきて欲しいですね、でも自衛隊が米軍の一部隊となっているみたいですこし不安です。

『他にも舞鶴から艦娘の出港が確認されており、那覇鎮守府も明日の朝には出撃するものと思われます。以上、横須賀基地でした。』

156: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/18(火) 07:25:39.72 ID:vYyD1eG70



「ふぁぁ~おはよー、ていとく~」

テレビを見ながら食後のお茶をすすっていると食堂のドアが開き、艦娘達が入ってきた。

「ああ、こんばんは瑞鳳、大丈夫か?」

「海の上にでりゃ数日は不眠不休だろ、へーきへーき…おっちゃん、飯くれー、あと冷たい飲み物もなー」

「あいよ摩耶さん、少なめで良いかい?」

「食事が終わったら出港準備に入るわ。みんなには徹夜を強いるけど…よろしく頼むわ」

「「おう!!」」

157: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/18(火) 07:27:46.23 ID:vYyD1eG70
テレビでは距離と移動速度から俺達が明日の昼に出撃するものと予想してたが…俺たちの出港は午前三時だ。
俺たちの目的は大破した艦娘の護衛と退路の確保。本体より先に到着して他色が使えるか確認しないといけないからな。
そこらへんは海自やジョージ・ワシントンの哨戒機もやってくれる手はずになっているが、現地に多数の偵察機を持っていける空母艦娘は心強いし、
ジョージ・ワシントンも沖ノ鳥島への攻撃、偵察に手いっぱいで俺たちの退路にまでは手が回らないだろう。

「じゃあ提督、言ってくるわね。瑞鳳艦隊、行きます!」
「対空・対潜警戒を厳に…出撃するわ!」
「提督!帰ってきたらなんかうまいもん食わせてくれよな!」

「ああ、良い日本酒を用意しよう」

「酒かよ…アタシも瑞鳳もあんま飲まねぇじゃねぇか…まあいい、抜錨だ!」

艦娘達がドックのドアから闇へ消えて行く。しばらくしてポチャンと言う音が3回、聞こえた。
やはり、これだけは何とかしてやりたいよなぁ…



日が昇り始めたころ、ふと窓から外を見ると車のヘッドライトのような光が集まっているのが見えた。
君たちには申し訳無いが…既にうちの艦隊は出港した後なんだ、申し訳無い。

158: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/18(火) 07:30:29.92 ID:vYyD1eG70



事前の打ち合わせどうり、有志が集まる。みんな用意していたのぼりや旗を立てはじめる。
最近の沖縄はきな臭い。元から米軍基地や欠陥機オスプレイの配備など、だいぶきな臭かったが、艦娘が来てからきな臭さが増した。
兵器による授業なんて戦前そのままだし、いまだに罪無き民間人を暴行した艦娘、罪無き民間人を武器で威嚇した艦娘が処分されたとも聞かない。
「沖縄を守るため」と政府も自衛隊も言うが、実際に今、沖縄は殺し合いのための前線基地となりつつある。命どぅ宝。この島を命を奪うための拠点になどさせるわけには行かない。

そういえば、知り合いが以前艦娘に暴行を受けた人に接触、協力を要請したが、断られたらしい。
平和主義者なら暴行を受けて黙っていられるはずは無いと思うのだが、示談で解決積みだから、と取材すらさせてくれなかったようだ。
おそらく、示談と言う名の圧力が彼にかかっているのだろう。国と言うものはやる事が汚い。
沖縄の独立。これも十分実現させる意味のある事なのかも知れ無い。

159: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/18(火) 07:31:45.86 ID:vYyD1eG70



昼。私たちは一日半かけて沖ノ鳥島に向かって足を進めていた。
私たち呉鎮守府は横須賀同様、対深海凄艦の主力として編成されているが、今回ほど大規模な敵との戦いは初めてだ。
私を中心に矢矧が先頭、両脇を妙高と那智が固め、更にその周囲を駆逐艦の子達が囲んでくれているいわゆる輪形陣だ。
しかし、私は正直この陣形は好きでは無い。良い思い出も無いし、駆逐艦達の子に守られるというのも、必要で効率が良いとはわかっているけど…もやもやした物を感じた


「大和さん、あれ!」

私の右前方にいた初霜が私の後方を指差した。
既に電探に写っていたとは言え、やはり自分の目で見てみたいのだろう。
彼女の指差した方を見ると一機の彩雲を先頭に少数の烈風、そして紫電改・彗星・流星の編隊が私たちの真上を超えて行こうとしていた。
飛龍・蒼龍の航空隊だ。
更にその上を遥かに速く、遥かに大きな轟音を立て4機のF/A-18が追い越していく。アメリカ空母の艦上機だ。

まず、彼らがミサイルで一撃を加え、直後に艦娘の航空隊が強襲。その後私たち水上部隊が攻撃をしかける。
「…頼みます」
私は無意識に一言呟いていた。

167: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/18(火) 23:24:35.27 ID:vYyD1eG70



「…ダイアモンド・バックスより、ジョージ・ワシントンへ…敵艦隊への攻撃は成功するも戦艦・空母を中心とする多数の艦艇が残存、友軍部隊の検討を祈る…」

鎮守府から持ってきた握り飯を食べていると叢雲が呟く。アタシや瑞鳳も同様の通信を聞いていた。

「始まったみたいね、みんな無事だと良いけど…」

「瑞鳳、偵察隊からは何か情報は?」

「今の所何も…30分前に呉鎮守府の空母を見つけただけね」

周辺に敵は無い、あたし達は後衛部隊の更に後方にいる…よし

「瑞鳳、追加の偵察機を出してくれ、東方を中心に…あたし達はもうすこし前進する」

思ったより前衛部隊は進出しているようだ。何かあったときにすぐ状況を把握出来ないとまずい、アタシは艦隊に前進を指示した。

168: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/18(火) 23:27:25.44 ID:vYyD1eG70


『ちゃくだん!』『ざひょうしゅうせい、みぎへ3、きたへ2』

「よし…斉射!」

轟音、しばらくして観測機から報告が届く

『てきじゅんようかん、ちんもく!』『ふきんにてきえい、なし!』

「よし、皆ご苦労だった…損傷を受けたものは居ないか?」

回りの随伴艦を見回す。よし、特に被害を受けた奴は居ないようだ。
作戦は順調だった。米空母・空母艦娘の航空攻撃が効果を上げたようで、我々横須賀第一水上打撃部隊は損傷した残敵掃討を行い、これまでに多数の敵艦を撃破した。
先ほども沖ノ鳥島に向け後退する一隊を補足。逃げる重巡リ級を庇うように突撃して来た駆逐イ級を粉砕し、リ級も観測射撃で撃沈した。
快勝、完勝だが…こうも一方的というのはすこし引っ掛かる物を感じる。

169: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/18(火) 23:29:50.08 ID:vYyD1eG70
「姉さん、いい?すこし気になってたんだけど…」

「すいません長門さん、私も…」

陸奥と古鷹が話しかけてくる。
二人ともすこし不安げな表情だった。

「どうした?」

「変だと思わない?私たちは深海凄艦の拠点の一つである沖ノ鳥島を攻撃している。その割には敵の抵抗が弱過ぎると思わない?」

「普通なら…防御にしても放棄にしてももうすこし抵抗らしい抵抗をしてくるはずです…」

確かにそうだ。あの重巡リ級だって、私たちに遭遇してから発揮した速度を米海軍の空襲の時から発揮していれば私たちに遭遇する前に離脱できたはずだ。
まさか、わざと撃沈された?
そういえば私たちは予定海域より僅かに北上していて…まさか

170: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/18(火) 23:31:43.00 ID:vYyD1eG70

「金剛、金剛!?応答しろ!!」

『こちら横須賀第二水上打撃部隊の金剛デース!長門?どうしましたカー?』

「金剛、今どこだ?敵とは交戦したか?」

いけない、熱くなってしまって、声を荒くしてしまっている。しかし私の考えが正しければ金剛も…

『敵の小型艦と遭遇したけど撃破したネ?追撃戦ですこし北に移動しちゃったけど、問題nothing!』

「大問題だ!利根に水偵を出させろ!私たちは南下する!陸奥は提督に連絡!古鷹!呉水上打撃部隊に連絡を…」

矢継ぎ早に指示を出す、しかし直後に通信が入る。

171: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/18(火) 23:34:08.59 ID:vYyD1eG70

『こちらイーグルス、ヤマトが敵の集中攻撃を受けている!こちらは弾切れで攻撃できない!ダムバスターズ、支援は可能か?』
『ダムバスターズ、無理だ、現在補給中…』
『ブルー・リッジよりはたかぜ、ヤマトが多数の航空機の攻撃を受けている…アカギの航空隊が支援に向かったが、到着にやや時間がかかる。君達が一番近い、ヤマトの支援に向かえるか?』
『はたかぜ了解、呉水上打撃部隊の救援に向かう』

私たちはまんまと罠に嵌められてしまったらしい。

「何で大和が…?いえ、何で大和だけ?今まで深海凄艦がここまで戦略的な行動をする事なんて…」

「陸奥!考えるのは後だ!我々も南下する!敵が足止めをしてくる可能性がある、警戒を厳に!」



172: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/18(火) 23:36:59.20 ID:vYyD1eG70



「蒼龍航空隊より連絡です!敵攻撃機編隊を視認・攻撃をしかけるも撃退ならず、こちらに向かって居るようです!」

妙高が叫ぶ、同時に対空電探に敵の反応。
予定では航空隊が攻撃と同時に制空権を確保する予定だったが…敵機は戦闘機の攻撃を無視してこちらに向かってきて居るらしい。

「全艦対空戦闘用意!妙高、友軍への支援要請を頼みます!」

「大和さん!来ました!」

「主砲、三式弾装填…撃て!」

空中で砲弾が何発も炸裂する。何機かはそれで撃墜したが、残りが爆煙の中を突っ切ってこちらに向かってくる。

173: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/18(火) 23:39:01.16 ID:vYyD1eG70
矢矧が、続いて駆逐艦達が砲を空に向けて撃ち始める。

「敵機、雷撃進路を取りました!」
「そっちに行きました!」

矢矧達の上空を通過した敵機が高度を落とし雷撃進路を取り始める。

「私が引き受ける!ここは通さん!」

那智が私と敵機の間に割って入り、狂ったように高角砲を撃ち始める。が、三機が那智の傍をすり抜けるように通過してしまう。

「私を無視した!?大和!敵の狙いは貴様だ!」

「くっ…回避します!」

弾幕を張りながら大きく左に舵を取る。まだだ、そう簡単にやられるものか。
一機を撃墜、しかし残りの二機が魚雷を落とす。大丈夫、かわせる筈!
二本の魚雷が私のすぐ後ろを通過する、危なかった…

「大和さん!左前方!!」

174: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/18(火) 23:42:49.27 ID:vYyD1eG70
雪風が叫ぶ声が聞こえる、しまった、反応が遅れた!?

「くぅっ…!」

全身を衝撃が貫く、被雷した…でも大丈夫だ、

「こんな事で大和は沈みません!」

航空機からは逃げる事しか出来ない、でももうすこし粘れば赤城の航空隊が援護に駆けつけてくれるはず…

「大和!右後方、雷撃機三!」
「大和さん!左前方に雷跡!気をつけて!」
「貴女だけが狙われてる!逃げて!」
「大和さん!左舷上方!急降下です!!」

一度に四人の声が聞こえる。不思議と全て聞き取れた。
しかし、全方向から迫る魚雷・爆弾。回避しなければ。しかし、どちらに逃げても被弾は免れなかった。



175: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/18(火) 23:46:20.47 ID:vYyD1eG70



『大和…炎上中…』
『赤城航空隊、交戦開始…』
『こんごう、シースパロー発射…数が多過ぎる!レーダーで捉えきれない!CIWS迎撃開始!』
『大和がまた被弾したぞ!』

耳に入ってくる通信を聞く限り、戦況は悪そうだ

『摩耶、聞こえるか?呉鎮守府から要請が来た、我々は大和の救援、那覇まで護衛を行う』

「わかってる!既に移動中だ、瑞鳳も艦戦を発艦している!」

『急いでくれ、他の艦・部隊への被害は少ないが大和はもう戦闘不能寸前らしい』

「了解!瑞鳳!アタシと叢雲は先行する!」

「わかったわ!」

「まさか真っ先に離脱するのがあの大和なんてね、新鋭過ぎて錬度が足りなかった?」

叢雲がぼやく

「さぁな…でも敵は他の艦や艦娘には一切構わず大和だけを攻撃しているらしい、大和が何よりも厄介と考えたのかもしれないな」

「まさか…深海凄艦がそこまで具体的に意思を持って行動した事があったの?」

「アタシは知らん、基本的に近くの艦を狙うのが深海凄艦のはずだ…さあ、急ぐぞ!」


176: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/18(火) 23:49:10.39 ID:vYyD1eG70



『大和…大和!聞こえているか!損傷を報告しろ!』

頭ががんがんする、艤装が燃えている、思うように機関出力が上がらない。
そんな状況でも提督の声だけははっきり聞こえた。

「対空電探を…損傷、主砲射撃盤破損…一番、二番砲塔が使用不能です…」

『…わかった、雪風、浜風は大和を護衛して那覇鎮守府に退避しろ』

「待ってください!まだ私は…」

「提督の命令だ、貴様も艦娘なら従え、大和」

「そうです、今は赤城の戦闘機とこんごう、あきづきが空を抑えてくれてますが…いつ敵がこないかわかりません」

提督に意見しようとした私を那智と妙高が制する。
惨めだった。最近建造された私は就役と同時に呉鎮守府の旗艦となり、何度か出撃が空振りして初めての実戦だったというのに、敵艦に一発も撃つことなく戦線離脱だなんて、
しかし、彼女たちの言う事も事実だ、このまま艦隊と行動を共にしていたら足手まといになってしまう。海自の艦に収容してもらうのもその間仲間を危険にさらしてしまう。

177: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/18(火) 23:53:05.21 ID:vYyD1eG70
「…わかりました、矢矧、貴女に旗艦を譲ります」

「了解、これより呉水上打撃部隊の指揮を取ります」

「雪風、浜風、沖縄まで護衛をお願いします…」

「雪風がお守りします!」

「任せてください、大和」

そんな私に、回りの皆は笑顔を向けてくれた

182: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/19(水) 22:31:38.83 ID:Y8RdhpM10
「浜風、雪風は後尾に着きます、大和さんをお願いします!」

浜風に大和さんを任して最後尾に着く。この戦闘、大和さんが集中的に狙われたが、おかげで他の部隊は殆どダメージが無いらしい。
流石は大和さんです。
何度か後ろ、元々私達がいた海域の方に双眼鏡を向けると敵は大和さん集中狙いを諦めたのか他の艦を攻撃するところが見えた。
これで大和さんは安全だが、他のみんなにも無事で居てほしい。

「電探に感!」

浜風が警報を発する、慌てて双眼鏡を浜風の言う方向に向けると零戦52型の編隊が見えた。
那覇鎮守府瑞鳳航空隊。思ったより早く合流できた。向こうは予定の会合地点よりすこし前進して待機していたらしい。

183: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/19(水) 22:34:17.89 ID:Y8RdhpM10



『政府は先ほど、自衛隊・米軍合同で行われた沖ノ鳥島奪還作戦は所定の戦果を上げつつ成功したと発表しました。』
『沖ノ鳥島周辺に展開する深海凄艦の多数を撃破、奪還した沖ノ鳥島には観測機器を設置し、周囲の深海凄艦の活動状況を収集する方針との事です。』
『政府はこの作戦成功により、西太平洋、日本近海に置ける深海凄艦の脅威は低下した物と考えられると発表しました。』
『なお、この戦闘では海自・米海軍も多数の艦が損傷、死傷者も出ているとの事です。では次のニュース…』


184: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/19(水) 22:36:13.62 ID:Y8RdhpM10


「艦娘が戻ってきたぞー!」「梯子下ろせー!!」

沖縄では海自隊員が海岸に並んで私達を待っていた。
影の噂で聞く程度だったが、小規模は鎮守府は自分で陸に上がる必要があるというのは本当だったらしい。

「じゃあ先に上がるわ」

叢雲が先に梯子を登り、大和に手を差し伸べた。

「すみません」

「いいわ…って、あんたすこし重いわね…」

「すっ、すみません、擬装が重いのと機関の出力が…」

186: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/19(水) 22:40:08.55 ID:Y8RdhpM10

「大和、ケツ押すぞ」

大和を引っ張りあげようと叢雲が思案していると摩耶が大和を下から押し始めた。
慌てて私と雪風もそれに続く。

「ロープだ!ロープを持って来い!」

「くっ…この程度、大和の苦しみに比べたら…」

「雪風は沈みましぇん…」

「浜風!?いま私をからかいませんでした!?」

「ファイトォー!」「イッパァーツ!!」

187: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/19(水) 22:42:10.25 ID:Y8RdhpM10



「な…なんとか上がれました…摩耶、ここではいつもこうなの?」

なんとか梯子を登りきり地面に手を着く。最後は殆ど運動会の綱引きだった。

「あー、うちの提督が無能でな…」

「呉では水路が引かれているので…これは予想外でした…」

苦笑いしながら答える摩耶に、ぜぇぜぇと息を荒くする浜風。
私にはごめんなさいと言う事しか出来なかった。



188: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/19(水) 22:45:04.40 ID:Y8RdhpM10


「呉鎮守府、大和以下駆逐艦二隻、今回は救援、感謝いたします!」

摩耶に執務室を案内してもらい、室内に入る。
三人でここの提督に向かって敬礼、今日の礼を述べる。

「あぁ、礼は良い。君たちの事は呉の鎮守府から聞いている。詳しい報告は後で良いからとっとと入渠でもしてきなさい」

提督は手にした本から目を放すことなく、私たちに向かってしっしと手を振った。
呉の提督は「クールに見えてすぐ熱くなるガキ」等と言っていたが、この人が熱くなる所なんて想像できなかった。それだけ彼の言葉は冷たく感じられた。
出て行けと言われて出て行くわけにも行かない、もしかして私たちは嫌われているのか?
当然かもしれない。最新鋭戦艦と言われながら真っ先に大破撤退すると言う失態を演じ、その尻拭いをする破目になったのだから。

「失礼致します!」

執務室を後にする。摩耶が外で待っていてドックに案内してくれた。


189: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/19(水) 22:47:19.17 ID:Y8RdhpM10



いかん、やばかった…アレが大破した艦娘と言うものか…
なんと言うか、色々やばい、つーか、エロイ。
服はぼろぼろだし、太ももとか鎖骨とか見えてるし…つーか大和さん、アンタ紐パンですか?
正直、艦娘にここまで興奮したのは初めてだった。
この鎮守府の艦娘達は皆可愛い。しかしそれも娘や妹のような感覚であって、大和のような美しいお姉さんとかもう、ね…
一度目を合わせたらガン見してしまいそうだったから、出来るだけ視界に入れないようにしたが…まずかったか?
俺は電話を取り、呉の番号を押した。

『呉鎮守府だ、あぁ、忘鎮君か、今回はすまなかったね』

「あなたまでそんな名前で俺を呼ばないで下さい…」

『悪い悪い、覚えやすくてな』

今度はアンタに変なあだ名つけてやろうか…

『それで、どうだい?うちの艦娘は?』

「雪風、浜風は小破、艤装はうちで修理すれば2日で完全修理できます。大和の艤装は…うちで修理すると1ヶ月はかかります。早急に海自に依頼して船を回してもらいましょう。」

『いや、大和の艤装もそちらで修理してもらいたい』

「なぜです?」

電話の向こうから、ふーっ。という音が聞こえた、このやろう、タバコ吸いながら電話してるな?

190: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/19(水) 22:50:38.31 ID:Y8RdhpM10
『妙高から聞いたが、大和は今回の件でずいぶん傷ついているようでな、すこし休ませてやりたいんだ、それに大和に沖縄を見てもらいたいと思ってね』

そう言われると返す言葉が無かった。

「いいでしょう、その代わり…」

『雪風と浜風は大和の修理が終わるまでそちらで使ってくれ、修理に必要な資材についてはこちらからも都合がつくようにしよう』

その時、受話器から電子音が響いた、他の着信が来たのだ。

「すいません、他に電話が…また連絡します」

『ああ、頼むよ。では』

電話機のボタンを操作して、次の電話に出る。

191: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/19(水) 22:52:44.20 ID:Y8RdhpM10
電話機からは海自のスタッフの声が聞こえた。

『提督、横須賀基地隊からお電話です』

「あのおっさんか、繋いでくれ」

受話器からガチャっと音がする、その直後、俺は叫んだ

「やあ!呉鎮守府の妖精さんだよ!くれっちーって呼んで欲しいな!!」

『やあ!沖縄鎮守府の守り神キングシーサーだよ!!オッキーって呼んでくれたまえ!!』

「…ごめんなさい」

『まだまだ甘いな、君も』

俺の渾身のギャグは0.5秒で返された。やはりこの一佐は苦手だ。
つーかなんだよキングシーサーって、二番まで歌歌ってないんだから出てくるなよ。



192: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/19(水) 22:55:31.16 ID:Y8RdhpM10
更衣室で服を脱いでいると呉の艦娘達と摩耶が入ってきた。

「どうだった?提督はなんて?」

「あの…しれぇはなにも、ただ入渠してこいとだけ…」

「私たち、嫌われてるのでしょうか…」

雪風と浜風が暗い表情を見せる、あの男の悪い癖ね、これは。

「大丈夫、あの人、クールであろうとして失敗するから、冷静な降りをしていただけよ?」

「だといいのですが…」

「あ、あと提督は「提督」という呼ばれ方に拘ってるから、気をつけてあげてね?」

瑞鳳が服を脱ぎながら私の言いたい事を全部言ってくれた。

193: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/19(水) 22:58:52.81 ID:Y8RdhpM10
しかし…
流石は戦艦、立派なものを持っている。失礼だとは思ったが、私の目は大和の一点に釘付けだった。
ここの鎮守府は私叢雲に、瑞鳳と摩耶。摩耶はスタイルは良いと思うが、大人と言う感じはしない、だが大和は立派な大和撫子だった。
提督はどう言う女性が好みなんだろう?ふと頭の中で想像して見る。
私や瑞鳳は対象外だろう、摩耶も…良い奴だとは思うけど、女性としては?な部分が多い。
もし提督の好みが雪風だったら?私は提督を罵倒する自身がある。

改めてみんなを見渡すと皆、魅力的な人に見える。雪風だって幼児体型だけど、ガリガリな私に比べればずっと可愛い。
大和がタオルで身体を隠してドックへ入って行った。

「これ…砲弾?なんで…」

大和の服の入った籠に目が向いてしまう。なぜか砲弾が二個、置いてあった。

「叢雲…?入らないのですか?」

そして浜風、アンタはなんなの?
なんで提督の見てた番組の女性より胸が大きいのよ!
そして私は何を考えてるの!?



194: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/19(水) 23:00:37.88 ID:Y8RdhpM10

風呂から上がり食堂に行くと提督が隊員を集めて椅子の上に立っていた。
呉の艦娘は目を丸くしている。まあ、他の提督はこんな真似しないだろう。

「みんな!今日は良くやってくれた!海自隊員諸君!徹夜での出撃準備、ご苦労だった!」
「那覇鎮守府の艦娘諸君!良く無事に任務を果たしてくれた!呉鎮守府の艦娘諸君!最前線で良く頑張ってくれた!特に大和!君が敵の航空機をひき付けたおかげで他の艦には殆ど被害は出なかったそうだ!!」
「いーから椅子から降りてください!」「どうせアンタの次の台詞みんな知ってるんですから!」
「がっ…きょ、今日は褒美がある!親父に大量に送ってこさせた!」

一瞬ひるんだ顔をした提督が椅子から降りて厨房の奥へ走っていく。
だいたいどうなるか、海自隊員が言ったとおり、みんな知っているんだけど…今日は呉の艦娘もいるから、私だけは突っ込まないで置こう。

195: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/19(水) 23:02:39.04 ID:Y8RdhpM10

「酒だ!男山!笹おりだ!」
「また日本酒かよ!」「良い加減地元びいき止めろ!」「焼酎は!?ビールは!?」
「うっせー!俺は焼酎は苦手なんだよ!欲しかったら近所のスーパーで買ってこいやぁ!あ、それと、お酒を飲まれない皆様に置かれましては真に申し訳無いのですが」
「わかっとります。電話対応とかは自分らでしますよ」

「叢雲、なんなんですか、あの人は…」

浜風が私の方を見てる。
聞かないで欲しい。この人のテンション上下の激しさは私も判り切っていないところがあるのだ。
でも、この提督の振る舞い、実は最初年上の部下に対して自信の持てなかった提督が部下に着いてきてもらおうと、精一杯の強がりではじめた事だというのは私しか知らない。
(あのときよりは良い笑顔するようになったじゃない?)
最初に組んだパートナーとしては提督の成長は素直に嬉しかった。

200: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/20(木) 07:07:33.06 ID:lG1gfJuT0



やれやれ、あの提督にも困ったものだ…
そんな事を思いながら皆を眺めていると電話が鳴り響く

「もしもし、こちら那覇鎮守府」

『沖縄基地隊だが…彼は居るかね?』

「一佐ですか、お疲れ様です。提督は…すいません、今は」

『そうか、まぁ、今日くらいはよかろう…君の方から後で彼に伝えておいてくれるかね?』

「了解です。」

201: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/20(木) 07:10:42.22 ID:lG1gfJuT0


―週刊誌。「緊急取材!国民を騙す政府と艦娘!艦娘の笑顔の下の腹黒さ!」
―先日行われた沖ノ鳥島奪還作戦だが、那覇鎮守府も出撃していた事が昨日、沖縄基地隊への取材でわかった。
那覇鎮守府から出港し、沖ノ鳥島に向かう他鎮守府の戦力と合流するのであれば12時頃に出港すれば十分間に合う計算になるが、
沖縄基地隊への取材によると実際に出港したのは9時間も前の午前三時だった。
出撃を反対する市民団体は当日朝7時から1000人(団体発表)で出撃反対デモを行ったが、既に艦娘は出港しており、市民団体は肩透かしを食らった形だ。
沖縄基地隊隊長は「機密保持の関係もあり、具体的な出撃日時等は事前に明かす事が出来ない。マスコミ各社の想定より早く出港したのは作戦上、他艦隊より先に現地に着く必要があったためである」
と説明しました。
また、寄港時に艦娘の数が増えていたと言う民間漁船からの通報に対しては「損傷した艦娘の一部が那覇鎮守府に退避して来た。彼女たちは装備の修理、休養が終わりしだい、元の所属に帰る予定だ」
と説明しました。

―平和団体代表のお話
全く、騙された。という気分でいっぱいです。
部隊の出動と言う国民の生命に直接かかわる行動を国民に何の説明も無く、邪魔されなければ良いやと国民の総意を無視した軽い考えで深夜に強行するなど、決して許されるものでは有りません。
このような暴挙を許していては「邪魔されなければいいや」と、他国へ侵攻する、軍拡する、核兵器を作る…戦前の盧溝橋事件などと同じ事になってしまいます。

―沖縄基地隊では作戦上あの時間に出撃する必要があると言っていたが
全くのでたらめです。戦うなら数は多い方が良い。これは子供にもわかる簡単なことです。
たった三人の艦娘を先行させても何も出来ません。こんな子供だましに引っ掛かるわけには行きません。

―艦娘が増えた。と言う事に着いてどう思うか
はらわたの煮えくり返る思いです。ただでさえ那覇には殺人未遂や恐喝を行った艦娘が所属しており、私たちは近隣住民の安全と平和のために艦娘の即時撤退。それが無理でも該当する艦娘の移籍か処分を要望しましたが、自衛隊がそれを聞くことはありませんでした。
そんな状況で艦娘を増強しようなどと、正気の沙汰とは思えません。
損傷したから那覇に来たと言いますが、それも嘘でしょう。沖ノ鳥島から沖縄まで来れたのに呉や横須賀に行け無い理由がありません。
これは艦娘増強をもくろむ政府が、修理のためと言い張れば我々を騙せると言う考えで行った事に他なりません。
更にその内の一隻はあの戦艦大和だと聞きます。大和のような強力な兵器が常駐すれば沖縄が脅威に晒されます。沖縄を戦争に巻き込まないために、大和をはじめ艦娘の即時処分を訴えなければいけません。

―特別コラム「沖縄への差別の象徴大和」
まず、明治以降日本政府による沖縄、琉球への差別の伝統文化や言語の廃絶強制など多岐にわたるが、そのいきつくところとして、太平洋戦争における皇土防衛の為の捨石とされた事もあるが、もっともあくどい仕打ちは、戦艦大和の沖縄海上特攻作戦だったのではないかと私は思う。
さて、そこへ大和が攻め込んできて、世界最大最強といわれたその主砲四十六㌢砲塔九門が一斉に火を吹くと沖縄はどうなっただろうか。想像しただけで瞑目するばかりである。おそらく、大和は偵察機による誘導もないので、沖縄中南部の平地に巨大な砲弾をところかまわずに打ち込んだであろう。
その弾は日米軍ばかりではなく、住民をも打ち砕いたであろう。 住民の犠牲者は、更に多数に上り、三十万人(当時の人口の半分)にも達したのではないかと、恐れる。
だが、大和は、米空母群から発艦したヘルダイバー急降下爆撃機による空からの攻撃と潜水艦による魚雷攻撃で、沖縄本島には一発の砲弾も放つことなく、四月七日に、三千人の乗組員とともに撃沈された。
あっ、よかった。戦艦大和が、沖縄のはるか北方の海に沈められてよかった。そう言えば、日本国民の多くは激怒するだろうし、やはり琉球人は日本人ではないと、その従来の差別感の正当性を再認識するに違いない。
沖縄人が、戦艦大和によりさらに多数を殺され、島の集落のことごとくが破壊されたであろうことを思えば、それはまさに明治以来の差別のいきつくところであった。

さて、その大和が艦娘となって遂に沖縄に到着したと聞き、私は今恐怖している。
大和が沖縄に存在すれば当然沖縄は敵の攻撃目標となり、大和もその主砲を日を吹くだろう。いったい140万人はいる沖縄県民のうち何人が犠牲になると言うのか。
こんな危険な艦娘。大和を沖縄に配備すると言う事自体、今現在の日本において明治以来の差別が続いている事に他ならない。
やっぱり、戦う前にもう一度沈んでくれないだろうか、事故で他の艦娘と衝突して沈んでくれれば…と、沖縄県民として願うばかりだ。

219: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/20(木) 23:07:47.88 ID:lG1gfJuT0



「んん…むぅ…」

変な音で目を覚ます。

「なんだ…いまのは…ゴキブリの羽の音か…」

「いまのは…あいつの寝息です…」

「くそ…頭が痛い…何が起こってるんだ…」

頭を起こして辺りを見渡す。辺りは散々な状況だった。
摩耶は一升瓶を抱えたまま眠りこけていて、雪風は複雑に折り重なった椅子の中で丸くなっている。
瑞鳳は浜風の胸に顔を埋めたまま寝ていて、その浜風は胸元を瑞鳳の涎でべっとり濡らしながらうんうん唸っていた。悪夢でも見たのだろうか?
俺の隣で眠りこけていた隊員が声だけで俺と会話を始める。

220: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/20(木) 23:08:53.16 ID:lG1gfJuT0
「たしか…俺、唇だけで壁を登ってやると宣言した辺りは覚えてるんだが…」

「なんで覚えてるんすか…」

「その後嫌がる雪風にどっかのバカが酒飲ませたら椅子で巣を作り出して…」

「瑞鳳さんが酒飲んだら浜風さんに絡みだしたんすね…提督、浜風さん、いいっすね…おれ、浜風さん呉に帰ると同時に転属願いだしますから…」

「おまえ瑞鳳の飯食うためにここで飯炊きしてるんじゃなかったのかよ…」

「それはそれ、これはこれ…で、提督、それどうするんですか?」

俺と話してた海自隊員が首だけ動かして俺の腹を見る。
俺の腹には叢雲がしがみついていてすやすやと寝息を立てていた。

221: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/20(木) 23:11:34.00 ID:lG1gfJuT0

「…あまり起こしたくは無いが…」

叢雲の頭を撫でると「うぅん…」と唸ったが、まだ起きる気配は無かった。
あぁ、これが妹とか彼女だったらよかったのに。だが残念、彼女は艦娘で俺は提督、上司部下の関係だ。

「提督、おはようございます、いま朝食を作っていますから皆さんを起こしてあげてください。」

厨房から大和が出てきた。大和の声で、周囲に食欲をそそる匂いが漂っている事に気づいた。
そして、窓から入る朝日を浴びるエプロン姿の大和はとても美しかった。



その後、最後まで寝ていた叢雲は隊員数名にカメラを持って囲まれたまま目覚める事になる。
おそらく彼女にとってかつて無いほどの屈辱的な瞬間になっただろう。



222: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/20(木) 23:14:15.52 ID:lG1gfJuT0
―午後


「よしっと…大体ここの近くの説明はこんなもんかな…」

「だいぶ呉とは違いますね、当然ですが…」

「はい!雪風、覚えました!」

浜風と雪風を連れて鎮守府の周りを案内する。
装備の修理や整備で今日の出撃は無し、哨戒は全て海自に肩代わりする事になった。
あたし達は強制的にオフ、大和の艤装の修理が終わるまで一時的に那覇で働いてもらう事になる。周辺の地理もある程度把握してもらわないとな。
途中で乗ったバスで面白い光景を見かけた。二人は気づいていないようだが…

「悪魔の兵器?大戦の亡霊?艦娘について徹底研究!」
「深海凄艦から日本を守る!横須賀鎮守府の艦娘に密着取材!」

艦娘を嫌う記事を一面にした週刊誌の広告と、艦娘を応援する記事を一面にした週刊誌の広告が並んでバスの窓にはってあった。
沖ノ鳥島奪還作戦以降、艦娘のメディアの露出はかなり増えた気がする。
前にあたしが騒ぎを起こしたときなんかはネガティブな広告一面だったが…どうもメディアの流行の移り変わりというのは激しいものらしい。良く良く見れば艦娘を応援する週刊誌は前にアタシを解体しろと言う記事を書いていた。

「ほらあの子たち、艦娘よ?」「怖いわよね、普通にバスに乗ってるなんて」「でも可愛そうよね、頑張ってるのに色々言われて」

艦娘の記事の広告を睨む艦娘の図は結構おかしかったらしい。途中何度か視線を感じた。
でも気にするもんか。過激な反対派もいるが、最近はあたしらに行為的に接してくれる人も増えてきた。それで十分だ。


223: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/20(木) 23:17:03.93 ID:lG1gfJuT0


「すこし腹減ったな…なんか食べるか?すこしなら奢るぞ?」

「でも、摩耶さんに悪…」「まやさん!ありがとうございます!」

雪風は素直な奴だ。対して浜風はすこし引込み気味かな?明日からは叢雲も含めて艦隊運動の訓練だ、大和の護衛をしていた呉のときより厳しくしてやるから覚悟しろよ?
二人を連れてハンバーガーショップに入る。前に中学生に教えてもらってから遠出するときはここで軽く食べるのが習慣になっていた。

「摩耶様だ!」「摩耶様!踏んでください!」

「クソが…」

あまり会いたく無い連中にあっちまった。
最近外出すると良くこいつらに出会う。まさかストーカーなんてして無いよな?

224: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/20(木) 23:18:18.56 ID:lG1gfJuT0



「悪いね、大和さん、手伝ってもらって」

「いえ、こちらこそすいません。私たちのために引越しまでしてもらうなんて…」

「なに、どうせ近いうちに引っ越す予定でしたから」

大和と並んで市役所に向かって車を走らす。
鎮守府の宿舎の空きが一部屋しかなかったため、私が追い出される形で近くのマンションに引っ越す事になったのだ。
とはいえ、自衛隊生活では引越しはいつもの事。元々私も定年が近いし、生まれは沖縄。近いうちに宿舎を出るつもりだったから予定が数ヶ月早まっただけだ。

「それに提督も言ってたしね、宿舎に空きがあった方が増員要請が通りやすいって」

225: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/20(木) 23:19:04.39 ID:lG1gfJuT0

本当は一人で引っ越す予定だったが、擬装も仕事も無いと言う大和が手伝ってくれると言ってくれたのだ。
そこまでデカイ荷物が無かったと言っても、宿舎とマンションを数往復するつもりだったのが二往復で済んだのは彼女の手伝いに寄るところが大きい。
まあ、おかげで速攻で荷造りしてAVの入ったダンボールを厳重に封印するは目になった…
しかし、女性と並んで歩くと言うものはいくつになっても良いものだ。私も離婚しなければ妻と…いや、大和の年齢からすると娘の方が近いか?並んで歩いてたかもしれない。

「じゃあ後は転居届を出せば終わりだ、待っててくれ」

「はい、わかりました。」



市役所に向かう隊員の背中を見送り、私は駐車場で待つ。
彼は数分で終わると言っていたが…なぜか10分たっても彼は帰ってこなかった。

226: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/20(木) 23:19:33.24 ID:lG1gfJuT0

何かあったのか…?艦娘が市役所に行くというのもおかしな話だが、すこし気になって私は車を降り、ドアをロックして市役所に向かった。

市役所の自動ドアの前で隊員と会った。なぜか回りの人に声を掛けられて照れているのか頭をかいている。

「自衛隊さん、頑張ってね」「ワシらは応援しとるぞ」「役所の連中なんぞに負けちゃいかんよ?」

「どうしたんですか?」

慌てて駆け寄り声を掛ける、なぜか隊員より先に回りの人が答えた。

「役所の受付がこの人の転入届を拒否したんだよ」「この人が困ってたからみんなで助け舟を出したんだ」

「いやぁ、まさかミスの無い書類で役所に拒否されるとは思わなかったねー」

隊員と回りの人々がなぜか笑い出す。しかしそれは大問題では?

「勿論問題だよ、隊員さんからは言い難いだろうが、ワシらが抗議してやる」

「最近の市長は自衛隊に文句言えばどうとでもなると思ってる節がある。そりゃ色々迷惑をこうむったが…まさか沖縄出身の隊員にまでちょっかいだすとは思わなかったよ」

「は、はぁ…」

沖縄の市政に着いては私は全くわからない。空返事をするばかりだ。


「それじゃ、隊員さんも艦娘さんも、頑張ってな」

なぜか世間話から市政の批判が始まり、一通り話が終わり解散する。

「いやぁ、老人の話しに付き合うのも大変だなぁ?」

そう言う隊員の顔は楽しそうだった。

227: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/20(木) 23:22:12.62 ID:lG1gfJuT0



摩耶を「摩耶様」と慕う中学生とわかれ、バスに乗る。
事ある毎に摩耶に踏んでくれ踏んでくれと言ってたのはこの地方の方言?なわけないわよね。
でも…みんな可愛いと言ってくれてすこし嬉しかった。呉でも広報任務はやったけど、私はずっと艦隊任務だったから、民間人と触れ合う機会はあまり無い。
その中でも私達を一人の人間として扱ってくれる人に出会えて、いろいろな話が出来たのは面白かった。
あれ…バスは混んではいるけど、なぜこの人はこんなに寄ってくるの?

「っ…!?」

私のお尻に何かが触れてビックリして反応してしまう、偶然だろうか?

232: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/22(土) 11:26:02.31 ID:1VWBcIqp0


今日はむしゃくしゃしていた。夜勤明けで帰ろうとした時に上司に追加で仕事を言い渡され、夕方にまで帰る時間がずれ込んでしまったのだ。
正直、俺は過重労働と睡眠不足で判断力が鈍っていた。
帰りのバスに乗る。イスが開いていれば寝ようとも思ったが…椅子は満員で立っている人は殆どいない、座れないことに一番いらだつ状態だった。
もう少し空いていれば普通に座れたし、もう少し混んでいれば座れない事に諦めも着くのに…イライラしながらバスの後ろの方に向かう。
女の子が三人、バスの後部に居た。二人は座って、一人は立っている。が、女の子と思ったそれは艦娘だった。

艦娘も、バスとか乗るんだな…
そんな事を思いながら俺はつり革を掴み、他に見るものも無いので艦娘を見る。こうしてみると普通の女の子だ。変わった服装とニュースで難なく見た映像がなければ気づかなかっただろう。
…しかし、この艦娘…可愛い上に胸も大きい。一番普通の服装なのに、それでも大きい事がわかるというのはすごい事だ。
見たところ中学生ぐらいの子供だが、ジュニアアイドルでもここまで大きい子は居ないんじゃぁ無いか?

233: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/22(土) 11:28:35.30 ID:1VWBcIqp0
その時、すこし前にネットで見た噂を思い出す。
「艦娘には人権は無いから何をしても罪に問われる事は無い。たとえ殺害でも」
「厳密には現在の法解釈では親告罪である器物損害でしか罪に問えないが、艦娘人権法の成立を進める海自が親告罪で訴える事は無い」
「もし逮捕されても弁護士をつけて法解釈の隙間を突けば、損害賠償を請求できる」

そういえば、過去に艦娘を傷つけた男は障害の現行犯として逮捕。その後公務執行妨害に罪状を切り変えたが、最初に障害で逮捕したのは違法だと訴え、公務執行妨害も法解釈が云々で裁判…と聞いている。
そしてこの艦娘が公務中とは思えない。
周囲を見渡す。俺は最後尾。最後尾で座っている人は寝ている。ここで俺が何をしても、気づくのはこの艦娘だけだ。
つまり、ここで俺が何をしようと捕まる事は無い。仮に捕まっても弁護士さえ雇えば無罪は確定したようなものだ。たとえ明日艦娘人権方が成立したとしても、未来の法律で過去の犯罪を裁く事はできないと聞く。

234: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/22(土) 11:29:46.11 ID:1VWBcIqp0
君が悪いんだ。子供の身体にそんな不釣合いな身体をしてるから。これで興奮しない男は居ない。
君が悪いんだ、法律に守られない艦娘が悪いんだから。

俺はほぼ無意識に、艦娘の身体に手を這わした。

235: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/22(土) 11:31:41.60 ID:1VWBcIqp0

「っ…!?」

私のお尻に何かが触れてビックリして反応してしまう、偶然だろうか?
バスは空いているとは言え、揺れもする。偶然何かが触れてしまう事もあるあろう。
そう思いながら、後ろにいる人影の事を考える。空いているんだから、もうすこし離れてくれても良いのに…
そのとき、またお尻に触れた。今度は人の手の平だとはっきりわかった。

「ぇ…?」

まさか、この人…わざと?今度は撫でてきた。感覚が気持ち悪くて一歩前に出て離れようとするが、離れない。
雪風と摩耶の方を見る。だめだ、二人ともぐっすりと眠っている、気づいてくれそうにない?
後ろの相手に平手打ちでもかましてやろうと思ったが…それはまずい。艦娘がそんな事をして騒ぎを起こしたら?それを考えると自分から行動を起こそうとは思えなかった。
私が抵抗しない事に調子に乗ったのか、手の動きはどんどん大胆になってきてる。撫でるような動きから、今度はお尻を鷲掴みにして…左手が腰に回されて昇ってくるのが見えた。
これ以上は絶対に嫌だ、でも騒ぎになって那覇鎮守府の立場が悪くなったら?でも、でも…

236: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/22(土) 11:34:56.08 ID:1VWBcIqp0
「やあ、佳奈、奇遇だな、こんなところで出会うなんて」

いきなり声がして、同時に手が一瞬で引っ込む。声のした方を向くと見た事の無い中年男性が私に笑顔で微笑んでいた。

「偶然かな、映画、楽しかったかい?父さんと一緒に帰ろうか?」

いえ、人違いです。そう言おうとしたが、言葉が出なかった。

「それで…あなたは見た事が無いが、娘の友達ですか?」

「い、いえ…なんでもない…です…」

中年男性は私に触れていた男性を睨みつける。男性は「聞いてねぇよ…」等と呟きながら、こそこそと隠れるようにバスの前部に移動して次の停留所ですぐ降りてしまった。

237: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/22(土) 11:36:47.53 ID:1VWBcIqp0

「ごめんね、かってに娘扱いして、こんなおっさんが父親なんて嫌だったろうに、悪い事をしたね」
「ホントは警察に突き出してやろうかと思ったが…君たちの立場だと話しは大きく無い方が良いと思ったんだ、気づくのが遅くて本当に申し訳なかった…」

中年男性はバスから降りる男性を睨みつけながら話し始めた。

『次は~鎮守府前、お降りの方はボタンを押して…』

いけない、次で降りないと。私は礼もそこそこに雪風と摩耶を起こした。

「ゆきかぜは…しずみましぇん…Zzz」
「ん~もう朝…って、おりねぇと!」



238: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/22(土) 11:39:05.26 ID:1VWBcIqp0



「本当は提督さんに渡そうと思ったけど…偶然会ったんだ、摩耶ちゃん、今月の治療費の領収書だよ」

「ごめんおっちゃん、今週中には振り込むから…怪我の調子は?」

「殆ど完治したから今は経過観察中、って感じだよ。摩耶ちゃんの世話になるのも来月辺りが最後になるかな?」

男性が摩耶に話しかけ、摩耶が何度も頭を下げながら会話しているところを眺める。多分彼は摩耶に暴行されたと言う人なのだろう。
事件の被害者と加害者と言う形では有るが、腰の低い摩耶に対して男性は終始笑顔だった。

「あの…おっちゃん、やっぱアタシの事、恨んでるか?」

「何度も同じ事聞くね摩耶ちゃんは、そりゃ鼻を折られたんだ、恨みがないと言えば嘘だよ、でもあの場合では仕方なかったし、今は摩耶ちゃんもちゃんと治療費を払ってくれてるしね、私が摩耶ちゃんの立場だったら似た事をしただろうし…」

「その…本当にゴメン!」

「だから謝らなくて良いって、もう十分謝ってもらったんだから…これ以上謝ったらおじさん、謝られ過ぎて精神的苦痛を感じたって事で摩耶ちゃん訴えちゃうぞ?」

「ちょっ、待ってくれよ!」

239: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/22(土) 11:40:25.77 ID:1VWBcIqp0



「摩耶さんには、幸運の女神がついている気がします」

「…どういうこと?雪風?」

雪風が呟いた。

「雪風も摩耶さんの事件は知ってますが、解体されてもおかしくなかったとしれぇに聞きました、でも、今その関係者とああやって笑いえる。きっと摩耶さんには幸運の女神様がついてるんです」

雪風が言っている事が判るようでわからない。陽炎型姉妹の仲でも一番子供っぽい子なのに、この子はときたま鋭い事を突いて来る。
子供っぽいと言っても雪風は八番艦、私は13番艦。雪風の方が大人で当然なのかもしれない。
私たちは男性とわかれて宿舎に戻った。



あの男性は艦娘とであった事で運命を狂わされた人とも言えるだろう。彼はこの後もう一度、運命を狂わされる羽目になった。

252: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/22(土) 20:07:03.44 ID:1VWBcIqp0



「拒否…されたのか?」

「はい、拒否です。」

大和から報告を聞いて頭を抱える。
大和は今日休みを取った隊員の引越しを私的に手伝っていたが、報告したい事があると言うから聞いたらこれだ。
過去にも自衛官の住民登録を拒否する事件があったが…そんなあからさまな職権乱用は昭和中ごろの話し、俺が生まれるより前だと思っていた。
しかも、郵送した物を市長が直接拒否した前例と違って一所員がやってくれたというのが余計立ちが悪いかもしれない。
先日の航空機搭乗の時もそうだ、市長や社長一人が悪いなら、その一人相手に抗議なりなんなりすれば良いが…民間企業なんかは大手ほど正社員は守ったりするし、トップを交代してハイ終わりとも言い切れないだけ性質が悪い気がする。

沖縄での問題は一部の過激で行動的な人が沖縄に集まっているだけで、他の住民感情に問題は少ないと思っていた。
だが、その一部が市役所や公共交通機関などに居るというのは…かなり厄介な問題だと思っていたが、それ以上に厄介な話しなのかもしれない。

253: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/22(土) 20:12:36.57 ID:1VWBcIqp0
「わかった、自衛隊としてどう対応するかは後で沖縄基地隊と協議する。それと大和は明日から私の秘書艦として事務仕事を手伝ってもらう事になった。よろしく頼むよ」

「はい、お任せください!」

そのとき、ドアを叩く音が聞こえた。元からここにいる奴なら返事の前に入ってくるから…雪風か浜風だ。

「入れ」

「失礼します!提督!…大和もご一緒でしたか」

「なんの用だ?」

「あの…その、お話が…」

浜風に顔を向けるが、浜風はチラッと大和の方を見て言葉を濁す。
おそらく大和には聞かれたくないのだろう。

254: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/22(土) 20:14:39.58 ID:1VWBcIqp0
「あー、大和、すまんが外してくれないか?そろそろ飯の時間だ、そのまま食事でもしてくると良い、今日の飯は瑞鳳が作ってくれる。大和とどっちが料理がうまいかはわからんが…味は保障するよ」

「あっ…はい、では提督、失礼致します」

大和も俺の言葉で察したのか頭を下げて執務室を出て行く。

「さて、浜風、どうした?」

この手の話しは大抵相場が決まっている。超個人的な話か、あるいは失敗してしまった話か。
雪風・浜風が実際に任務につくのは明日の予定だ、と言う事は後者は無い。
すこし嫌な予感はしたが、ほんのすこしだけ「実は提督に一目ぼれしました」とか言ってくれたら嬉しいけどな、と思った五分前の俺をぶん殴りたい。

「その…提督に言うべきかどうか、迷いましたが…報告だけはしようと…」



255: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/22(土) 20:16:07.56 ID:1VWBcIqp0



浜風の話を聞いて俺は五分前の自分をぶん殴りたくなった。
首から上は冷静を装っていたつもりだが、気がつくとタバコの箱を中身ごと握りつぶしていた。
なぜ浜風がこんな目にあったのかはわからない。誰でも良くて、浜風が魅力的だったからなのか、艦娘である事を知って居て、罪にとわれないからと言う卑劣な考えがあったのか…
どうするべきだったのだろう。あの男性の言うように、海自としての立場も考えて騒ぎを大きくしない事が正解のような気もする。しかし…

「辛かったろうに、良く言ってくれたな…もう戻って良いぞ」

俺は優柔不断なダメな提督だ、守るべき艦娘が傷つけられたというのに、どうするべきか、どんな言葉をかけるべきかも考え付かない。
こんなとき一佐なら?海将なら?呉の提督なら?いや、あの雪隠だって俺よりずっと気の利いた言葉をかけれるだろう。
俺は三ヶ月前と全く成長していないのだ。



256: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/22(土) 20:16:53.19 ID:1VWBcIqp0



提督に下がって良いと言われる。
警察に通報して犯人を捕まえて。何て事を望んだわけでは無いが…すこし淡白過ぎないか?
艦娘として提督を疑ってはいけないというのはわかっているけど…
普段どおり敬礼して、執務室を後にする。その瞬間、部屋の内側から鍵をかける音が聞こえた。
やはり私は嫌われているのだろうか、下らんことをいちいち報告するな、と思われているのか?たしかにそうだ、大事になれば海自全体にかかわる。
ならば私だけが我慢して提督の耳にも入れない方がきっと正解なんだ。
そのまましばらく、ドアの前で考え込んでしまう。私だけでも呉に帰った方が良いのか?

『くそっ!畜生!!』

そのとき、執務室の中から激しい怒鳴り声と大きな物音が聞こえた。突然の事に驚き、硬直してしまう。
部屋の中から泣き声が聞こえた気がしたが、提督に何があったのか聞く勇気はなかった。

この日、提督は夜は執務室で食べると言って、叢雲に食事を持ってこさせた。摩耶が言うには提督が瑞鳳の料理を食堂で食べないのは珍しいことらしい。
しばらくして叢雲が食堂に帰ってきたが、落ち込んだ彼女の顔を見て何があったのか聞く人は一人も居なかった。


257: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/22(土) 20:17:53.72 ID:1VWBcIqp0



―都内某所

「カメラ、マイク、OK?」
「カメラOKッス!」

リポーターが俺たちに声を掛ける。いつものことだが、今回は特にミスは許されない。ミスの無いようにもう一度手にしたマイクのチェックを行う。

「マイクちょっと待ってください…OK!」

「よし、時間だ…でははじめよう、3,2,1…キュー!」

「えー、今日、ここでは先の沖ノ鳥島奪還作戦で殉職した自衛隊員の合同葬が行われました、遺族の方々にお話を聞いて見ます…」

俺はマイク持ちの下っ端ではあるが、この仕事に誇りを持っているつもりだ。ドラマやバラエティーを作って人々を楽しませる。政治家に取材し、人々に政治に興味を持ってもらう。
今回も、多数の人が興味を持ちながら実際に見る事は殆ど出来無い。そんな皆が興味を持っている事を知らせるという、大事な仕事だ。

258: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/22(土) 20:19:31.25 ID:1VWBcIqp0
「亡くなったのはご主人ですか?」

「はい…」

「一体どのように…」

「乗っている船に爆弾が命中して…丁度そこに…」


「亡くなったのは…」

「親友です、すみません、これ以上は答えられません」

「あっ、待ってください…!」


「しんかいせーかんのひこうきがてっぽうをうってきて、お父さんはともだちをかばったんだって…」

「お父さんが死んじゃって悲しい?」

「お父さん、いっつもおれは仮面ライダーみたいなヒーローなんだって、だからお父さんが居なくなったらぼくがおかあさんを守るヒーローになるから泣いちゃダメだって…」

「でも、もうお父さんには会えないんだよ?大丈夫なの?」

「うぅ…えっ…えぐっ…」


「亡くなられたのはご主人ですか?」

「うう…すみません、何も聞かないで下さい…」

「すいません、娘は亭主を亡くしているんです、そっとしてやってください…」

「そこをなんとか…」

259: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/22(土) 20:20:38.79 ID:1VWBcIqp0
自衛官が一度に、大量に殉職したのは多分初めての事だろう。それだけに、この映像はショッキングな物になるし、マイク持ちとはいえ俺の評価もすこしは上がるだろう。
でも、父が死んだのに気丈に振舞おうとする子供にまで取材するというのはどうなのか?ふと、疑問に思った。
いや、考えちゃダメだ、俺だってメディアの片割れ、どんな事だって真実を報道する力になるって決めたじゃないか。
ふと横を見るとカメラマンの手が震えているのが見えた。バカ、それじゃあ映像が没になっちまうじゃないか。

でも、もしかしたらこのまま没になった方が良いのかもしれない。そんな事をすこし、考えてしまった。


260: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/22(土) 20:23:49.94 ID:1VWBcIqp0



「課長!すいません、先ほどもお話したのですが…」

「あぁ、聞いてるよ、奥さんの話しだろ、行って来なさい」

「毎日すいません…お先に失礼します!」

「おう、毎日お熱い事だね!」「子供生まれたら写真ぐらい見せろよな!」「名付け親は私だ」

定時のチャイムがなると同時に部下が事務所を出て行く。まったく、妻想いで良いことだ。他の部下たちも笑顔で彼を見送ってくれたし、私が入院したときも見舞いに来てくれた。
ほんと、良い部下を持ったな、うん。

「あの…課長…雑誌社の方が…」

さっき、妻の見舞いに行くと出て行った部下が帰ってきた、また取材か?最近大人しくなったと思うのに…
なにより、取材なら私や部下を待ち構えずに受付を通して欲しい。

「前も言ったろう、受付を通せ、解決してるから取材を受ける気は無いっていって追い返してくれ…」

「それが…あの、課長…とても言い難いのですが…買春とか、してないですよね…?」

「私が?」

事務所全員の視線が突き刺さる。
勘弁してくれ、退院した時も同じ目にあってるんだこっちは。

270: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/23(日) 14:18:37.82 ID:2aM6yrXV0



「提督、お茶が入りました」

「あぁ、ありがとう」

大和がお茶を入れて机に置いてくれる。
それを一口飲んだ、うん、うまい。秘書艦なんて使ったこと無いし、飲み物も自分で食堂まで取りに言ってたから…いいなぁ、こう言うの、提督になったって感じだ。
今日から雪風・浜風も任務に着く事になった。今頃海の上で哨戒活動中だ。

「あの…提督…」

お茶を飲んで一息ついていると大和が話し掛けてきた。そうだ、せっかく秘書艦として大和がいてくれるんだから何か仕事を振らないと…
あ、振れる仕事ねぇや。

元々ここは艦娘三人、海自スタッフ30人程度の小規模鎮守府。秘書艦が居なくても俺一人で仕事は回るのだ。
かといって何もするな。というのも酷い話しの気がする。大和にそういうのもあれだしな…

271: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/23(日) 14:19:11.74 ID:2aM6yrXV0

「そうだ大和、事務室に行って俺宛の郵便物を取ってきてくれないか?」

「はい、了解です」

執務室を出て行く大和を目で追う。流石は戦艦大和、歩く姿もドアを開け閉めする動作一つ一つが美しい。まるで茶道や華道の先生みたいだ。
そういえば日本には香道なんて物もあるらしい、線香を焚いてその香りを楽しむ。という、アロマテラピーみたいなものだ。
そういや実家のストーブで切った爪をあぶって変な匂い発生させてたっけ…そう考えれば豪雪地帯の男子はみな香道経験者でもあるのだ…

「提督、もって来ました」

「あぁ、ありがとう…機密と書いている物と×が書いているものについては封を開けず渡してくれ、普と通は大和が中を確認して大事そうなものを俺に渡してくれ」

272: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/23(日) 14:20:22.37 ID:2aM6yrXV0

「わかりました…あの、提督、通と機密はわかるのですが…通と×は何か聞いても良いでしょうか?」

「普は普通の略だ、付き合いの有る業者の挨拶とか、結婚のお知らせとか、そういうのが入ってる。本当はもっとわかりやすい略称にしたかったんだが、いつの間にかそうなっててな…」
「×は…まあ、大和なら良いか、鎮守府への批判やそういった手紙が入ってたり、過激な思想の雑誌の切抜きとかだ。あまり艦娘には見せたく無い内容も多いから艦娘には見せず、自衛隊員と俺が確認するようにしている」

「私も呉で秘書官をした経験はありますが…やはりこう言う区分があるというのは沖縄の住民感情は悪いのでしょうか?」

うーん、なんというか…俺もそこは図りかねている部分がある。
過激な批判も多いが、好意的な人も勿論多いのだ。

叢雲は老人に好かれるのか、過去に接触のあったボランティア団体の高翌齢者に好かれていると聞く。
摩耶は男勝りな性格とスタイルの良さが妙に受けが良いのか、男子中学生・高校生に好かれている。と言うより、変な奴に好かれていて良く踏んでくださいと言われるとか。人によっては精神を病みそうなアプローチのされ方だが、摩耶はそれをうまくいなして居るらしい
瑞鳳は北大東島の一件以降批判も増えたが、可愛らしい容姿と背の低さが受けたのか女子中学生に好かれている。たまに「づほちゃんを妹にしたいのですが」という怪文書が×分類で届く事があるが…
あれ?叢雲以外変な奴にだけ好かれてね?

273: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/23(日) 14:21:23.28 ID:2aM6yrXV0
「なんとも言えないな…これは俺の個人的意見でしか無いと言う事を念頭に置いてほしいんだが…声の大きい連中に否定的意見を持つ奴が多くて、それに引っ張られる人が多い。という印象だ」

×分類の束の中から出来るだけマイルドな表現を引っ張り出す。地方紙の切りぬきと全国紙の切りぬき。これなら良いだろう。

「これを見てみろ、沖縄の地方紙と全国紙の沖縄版…米軍基地に関する記事だが…地方紙の方が2~3割ほど反対派が増えている」
「本来こういった世論調査は偏りが出やすいものだ、何百万人全員に調査する事は現実的じゃ無いから、数千人、多くても一万人弱に絞って調査する。しかしその数千人のうち、更に実際に答えるのは1000人に満たない事が多い」

「どうしてですか?世論調査ぐらい答えても良い物と思うのですが…」

「理由は色々有る。政治的な話題をたとえ調査でも口にし無い方が良いという考えの人も居るし、新聞社が個人情報を守ると言っても不安に思う人も居る。個人的にその新聞社が嫌いと言う人が居たら世論調査だけでも協力したくは無いだろうな」
「後は実際に調査出来ないと言う人も多い。新聞社も仕事で電話をかけるわけだが…平日昼間に電話をかけても仕事だなんだで実際に電話を受けて答えれる人は大多数が専業主婦か定年した高翌齢者だ、20代~60代男性で自宅自営業の人でもなければ平日昼間に自宅にかかってきた電話には出れないだろう?」

「つまり、この記事では性別、年代に偏りが出ないように調査した…とありますが…」

「実際に答えた人の性別・年齢は大きく偏っている。と言うわけだ。そして新聞社も無駄な事はしたく無いから、答えてくれなかった人は次の世論調査のリストからは外す。」
「結果少しずつ調査に回答して行く人の考え方は固定されやすい。と言うわけだ。同じ話題で何度も世論調査をするとこういう事になりやすい」
「実際に答えた人の年齢・性別なんかも詳細に発表してくれれば良いんだが…スペースの問題も有るし、個人情報の関係もある。そこまで発表している調査は稀だ」

274: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/23(日) 14:22:43.53 ID:2aM6yrXV0

大和がうーん、と首をひねって考え出す。いかん、すこし熱く語り過ぎたか?
俺の悪い癖、かもしれない、相手が知らない事を自慢げに話してしまう。

「つまりこの手の世論調査はそもそも信用できる数値では無い、と?」

「少なくとも一部の人の意見しか反映されていないって事だよ、たとえば俺が世論調査をして…95パーセントが大和の那覇鎮守府転属に賛成と言う結果を出したとする、大和はどう思う?」

「歓迎してくれるのは嬉しいのですが…私の所属は呉ですし…でも呉も私を歓迎していない?」

「だが、俺が世論調査として話を聞きにいけるのは那覇鎮守府と沖縄基地隊の人間だけだ、呉まで行くのは骨だからな。すこし雑にしたが、こう言う事さ、一部の人だけの意見を聞いてもハッキリしない、そして全員の意見を聞く事も出来ない」
「でも、そんな世論調査の結果を見た多数の人は?今の大和見たいに、それが全員の認識だと思うのさ」

「提督の言う、声の大きい連中に反対派が多いというのは…積極的に意見を言う人だけが反対派であると?」

「あくまで俺の認識だぞ?多数の人間はこう言う難しい問題とは関係なく生きて行きたいと思ってるだろうしな…すこし喋り過ぎて喉が渇いたな。すまない、お茶をもう一杯持ってきてくれないか?」

「はい、お任せください」

275: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/23(日) 14:23:30.11 ID:2aM6yrXV0



さて、大和とくだらない話をしていたら時間を食ってしまった、仕事に戻るか…機密と×は優先して片付けないと。
機密は…二件だけか。
沖ノ鳥島奪還作戦では後衛の空母部隊が艦上機で先制攻撃を仕掛けつつ発艦したてき航空機を制圧して制空権を確保、その後前衛の水上打撃部隊が攻撃をかけると言うという戦法だったが、敵機が母艦を守る事を放棄してまで大和に向かってきたため、大和一人で数百機の攻撃に晒される羽目になった。
艦娘艦隊司令部では前衛部隊の防空に力を入れる事を決定したらしい。
深海凄艦は現代艦艇にとって厄介な相手だが、その航空機は更に厄介とも言える相手だ。
防空と言えばイージス艦だが、やはりイージス艦も深海凄艦の航空機相手には苦戦を強いられている。
艦娘より更に小さな深海凄艦航空機はよりレーダーに映らない。レーダーで捕らえたときには至近距離。
いくらイージス艦と言えども一隻に対空ミサイルの搭載数は100発も無いし、一度に迎撃できるのは約10機、その後は周囲を囲まれてしまう。
大和を救援したこんごうとあきづきはこんごうのスタンダードミサイルの最短射程内に入った敵機の撃墜をあきづきのシースパローにまかせ、それでも進入して来た敵機を主砲とCIWSで迎撃、最終的にはお互い交互にCIWSの再装填を繰り返しながら迎撃すると言う地獄のような戦いをした。
やはり、現代艦艇と深海凄艦は相性が悪いのだ。

そのため、艦娘司令部としても防空能力に優れる護衛用駆逐艦、水上打撃部隊に随伴可能な防御力を持つ装甲空母の建造を計画していると言う。
また、米海軍はE-2C、E-2Dをベースに敵機を振りきれる速度と新型レーダーを搭載、対空ミサイルをデータリンクで誘導する事で遥かに遠距離から敵機の撃墜が可能になるシステムの研究を計画していると言う。



276: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/23(日) 14:25:11.60 ID:2aM6yrXV0

×は…結構あるな。

「これは…あの人、遂に取材を受けたのか」

最初に手に取った週刊誌の切りぬきは摩耶に暴行されたと言う男性が取材を受けている記事だった。
元々、摩耶が謝罪し男性の治療費を自分で払うと言う事を条件に大きな騒ぎにはし無いと言う約束だった。そういう意味では約束を破られた形になるが…
記事の内容もあくまで、あれは不幸な事故で解決済み。というスタンスだし、目くじらを立てる事では無いだろう。

次に手を取ったもの。それはその男性が艦娘と性的な関係になる事で自衛隊を訴えないことを約束したと言う、ゴシップ誌の記事だった。



285: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 00:18:31.76 ID:4Dkp6Tr40



―政府と裏取引?両手に艦娘?
4ヶ月前に、艦娘が民間人を暴行した事件を覚えて居るだろうか?
世間的にも有名になった事件で、艦娘の扱いについて現在も政府内で議論を巻き起こしている要因となっている事件なので、読者の方々にも覚えている方は少なく無いだろう。
ところがこの事件、不可解な謎が一つある。被害者男性は顔面を殴られ、全治3ヶ月もの大怪我を負ったにもかかわらず、慰謝料請求などを行わず裁判にもなって居ないのだ。
この件は専門家の間で様々な憶測を呼んだが、本社はその謎の解決に繋がる一枚の写真を入手した。以下がその写真である。
―写真「バスから降りる男性と三人の艦娘」
―写真「男性から封筒を渡され頭を下げる艦娘とそれを見て微笑む艦娘」
この写真から推測されることは一つ、自衛隊は艦娘をこの男性に売る事で、自衛隊としての責任問題を回避した。
前々から噂されていた事ではあるが、この写真がその噂の信憑性を高めている。
この男性は当社の調べでは未婚、独身。「艦娘と好きなだけ援助交際しても良いから訴えないでくれ」この提案は彼にとって非常に魅力的に移った事は容易に想像できる。
写真の艦娘の笑顔が「これで我々は安泰だ」という、邪悪な笑顔に見えるのは私だけでは無いだろう。


―艦娘と何度も寝たと言うAさん(仮名)のインタビュー
-海自が艦娘を援助交際に使うと言う事はありえるのか
十分ありえる話、と言うより事実です。実際私も艦娘と援助交際をしました。援助交際の相場は約2万円と言われており、若ければ若いほど、スタイルが良ければ良いほど高くなる傾向にあります。
艦娘の場合はその相場の3倍辺りが相場になりますし、戦艦や空母…仲間内ではレア艦、と呼んでいますが、中には10万を超えたり、一日中セックスし続ける場合などは100万を軽く超える場合も有ります。
この男性は事件の被害者という側面がありますから、相場よりかなり安く取引していることでしょう。うらやましいばかりです。

-なぜ自衛隊が艦娘の援助交際を認めるのか
艦娘も所詮女、それも女ばかりの職場で溜まってるって奴です。それに人じゃ無い艦娘はいくら働いてもお給料はでない、艦娘にとっては性欲解消と小遣い稼ぎ、両方を満たせるんです。
海自としても欲求不満の艦娘に暴れられては困りますからね。認めると言うよりは黙認して居たんです。自分の懐は痛みませんしね。
おそらく自衛隊は艦娘への処分と男性への口封じ、その全てを兼ねる名案として安値での援助交際をするよう命令したのでしょう。

-艦娘の援助交際に需要はあるのか
実際何度もヤッた私がここに居ます。それに艦娘は美女ぞろいですし、年齢も人権もないから幼稚園児ともヤレるって訳です。人間相手にヤッたらお他がいが合意してても13歳未満だと犯罪ですからね…
金はかかりますが人間相手の風俗や援助交際で不細工にあたるより何倍もマシと居えるでしょう。
ほら、この写真の…この幼稚園児みたいな子や、ロリ巨乳な子(写真の拡大)ともヤレるって訳です。特にこの二人は援助交際の相場は8~10万を超えるでしょう。いやぁ、うらやましい。

(編集長注・もっと刺激的な文章が欲しい)

-艦娘とのセックスはどんな感じだったか
個人名は控えますが…私が寝たのは主に巡洋艦と呼ばれる艦娘達です。
どの艦娘も美人でしたし、巨乳も居ればロリも居る。みんな風俗嬢みたいなグロマンとかではなく、きれいなピンク色で処女を犯しているような興奮がありました。
一度だけ空母と呼ばれる艦娘と寝ましたが、見た目に反してすごい締め付けでしたよ。もっともそれから給料日までは極貧生活でしたがね。
なによりみんなしっかり感じてくれるんです。これは風俗や援交なれした人間の女には無いセックスのメリットと言えるでしょう。

やはり、被害者男性が格安で艦娘とセックスする権利を得る変わりに訴えないことを受け入れたのは事実のようだ。

286: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 00:20:51.18 ID:4Dkp6Tr40



―直接取材・なぜあなたは艦娘を訴えなかったのか、謎に迫る。事件被害者本人に直接インタビュー!
4ヶ月前に起きた艦娘民間人暴行事件。この事件の被害者が、長い沈黙を打ち破り遂に本誌にその胸中を語った。

-そもそも、あの事件はなぜ起こったのですか?
一言で言うなら勘違いです。私と別の女性がトラブルになり、それを私が女性に乱暴していると勘違いした艦娘が私を取り押さえようとしました。
実はこのとき、私も抵抗して艦娘を殴っているんです。それで艦娘が私を取り押さえるために殴った。というのが事件の全貌です。

-なぜあなたは海自・艦娘を訴えなかったのか?
事件直後に艦娘とその責任者の方から丁寧な謝罪を受けました。またそもそもこの事件の原因は私とトラブルになった女性にあると考えていたため、艦娘を訴える意味は無い、と考えたんです。
また、実は私と艦娘の間には艦娘が治療費を自分の給料から支払う、と言う事で示談が成立したんです。相手が直接悪いわけでも無いし、誠意ある謝罪も有るし、治療費も払ってくれる。そこを更に…とは私には出来ませんでした。
まあ、示談についてはどこのマスコミも報道しなかったようですが…(編集長注・本誌の責任も追求される恐れ有り、この行は削除する事)

-なぜ、今になって本誌の取材を受けてくれたのか
あの事件は解決したため、解決した事件で世間様を騒がせるのもよくない。と考えました。
ですが話を聞くと、どうも私や艦娘についてあらぬ疑いがかかっているとも聞きました。丁度そこに御社が取材の申し込みをしてきたので、事実を広めるべきかなと考えて取材をお受けする事にしました。

-事件の加害艦娘とのその後の関係は?
基本的には責任者の方に治療費を請求し、その数日後に艦娘が私の口座に振り込む。という形を取っているため、直接あった事は数度しかありません。
しかし何度か艦娘からは謝罪の手紙を受け取ったり、直接会ったときには世間話をする事もあります。関係は良好と居えるでしょう。

-事件前後で艦娘への印象は変わったか、また現在はどのような印象を持っているか
事件前は特に艦娘に対してはこれと言った印象は持って居ませんでした。私は仕事一筋で政治とかにあまり興味を持たなかったもので…ははは…
事件後は艦娘や海自責任者とのやり取りで、自衛隊や艦娘の存在意義を知るきっかけにもなりましたし、艦娘も一人の人間なんだと思います。
沖縄は昔から色々自衛隊や米軍とのトラブルの耐えない土地だとは思いますが…県民と政府、うまく譲り合って共存の道を歩んで欲しいですね。

(編集部注・原文は艦娘の艦名、編集部判断で艦名を伏せ、艦娘表記にした事をご了承ください)

287: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 00:25:44.62 ID:4Dkp6Tr40



二つの記事を見比べる。前者はゴシップ記事で有名な小規模出版社、後者はそれなりに有名な出版社か…
日付を見ると前者の方が二日早い。おそらく前者の記事を見た後者が男性に確認のため取材を申し込み、男性も前者の記事を見て取材を受ける決心をしたのだろう。
彼をまた面倒くさい事件に巻き込んでしまったかもしれない。

「提督?難しい顔をされてどうしました?」

大和に声を掛けられてはっとする。顔を上げると大和が俺の顔を覗きこんでいた。
流石にこんな記事は見せられないよな。

「あぁ、いや、読め無い漢字があってさ…アハハ…」

「漢字、ですか?大和が教えて差し上げますよ?こう見えても難しい電文とか頻繁に打ってますから」

「あ、あぁ、これ、ここの漢字なんだが…」

慌てて記事を隠し、適当な物を大和に見せる

「…提督?これ、電探ですよ?『で・ん・た・ん』です、電波探信儀、レーダーの事ですが…」

大和が怪訝な顔をして俺を見つめる。
うんごめん大和、知ってる。



288: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 00:27:38.59 ID:4Dkp6Tr40



「これより戦闘に入る!全艦単縦陣!行くぜ!」

「「了解!」」

摩耶を戦闘に叢雲・雪風・浜風がそれに続く。標的は私、瑞鳳だ。
私の真上を通過した天山が失速ギリギリまで速度と高度を落として摩耶達に向かう。

「右舷雷跡!」

「回避しろ!陣形を崩すな!」

「了解!」

直進する天山が浜風と雪風の間を通過する。甘いわね、一回だけじゃないのよ!

289: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 00:30:54.65 ID:4Dkp6Tr40

「右舷後方!雷跡三!」

今度は三機の彗星だ。

「全艦面舵!敵に反行戦をしかけるぞ!」

「は、はい!」

「浜風!遅れてるぞ!陣形を乱すな!」

摩耶を戦闘に大きく舵を切り私に向かってくる。しかしさっきの天山を回避した浜風が反応が遅れて遅れてしまう。
天山と彗星が五機編隊を組んで扇状に広がりながら浜風に向かい、一機が真上を通過した。魚雷命中、撃沈判定。

290: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 00:31:38.63 ID:4Dkp6Tr40

「これでっ!」「終わりです!」

その直後、叢雲と雪風が私に主砲をつき付ける。すこしはなれたところで摩耶も私に主砲を向けていた。法撃命中、撃沈判定。

「よし、状況終了!」

「浜風、大丈夫?」

「すいません、急な転舵に着いていけなくて…はぁ…」

今回は水雷戦の訓練だった、私たちの任務は基本哨戒だけど、私一人で哨戒できる範囲と時間はごく僅か、大多数は海自の哨戒機に頼っている状況だ。
それに偵察機を出したら帰ってくるまで何もやることは無い。その間こうやって訓練を繰り返しているのが日課になっていた。
実弾も訓練弾も、空砲すら使わない訓練だけど…「そこら変は貧乏ゆえ致し方なし」って提督も言ってたっけ?

291: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 00:33:02.12 ID:4Dkp6Tr40

「浜風、後半遅れてたぞ」

「はい、わかってます…水雷戦隊の機動がこんなに激しいものだったとは…」

「まあ、今までずっと護衛ばっかりだったんでしょ?護衛だったらそこまで急に進路は変わらないし、攻撃を受けても多少陣形を崩しても戻しやすいかもね…」

「でもここでは水雷戦が中心です!一緒に頑張りましょう!」

「えぇ、そうね」

訓練を終えてみんなで反省点などを話しあっていると彩雲から無電が入る

「彩雲から通信が来たわ、周囲に敵影無し、収容次第帰投しましょ」

「よっし、今日の任務もこれで終了か…とっとと帰って飯にするか!」

「でも油断は禁物、です。」

「道中の対潜警戒はお任せください!」

292: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 00:33:45.28 ID:4Dkp6Tr40

あれ、このやり取り、前も見た事があったような…
その時、叢雲が小声で話し掛けてきた。

「ねぇ瑞鳳、アンタ途中から浜風だけ集中狙いしてなかった?」

「あ、気づいた?ちょっと敵の戦法を真似して見て…」

「どうせそんな事だろうと思ったけど…」

じつは、ちょっとした嫉妬もある。
何であの子はあんなに大きいんだろう、私なんて空母なのに無いも当然だし…私以外の空母はみんな大きいのに…
私も一回ぐらい、肩がこりやすくて~って、やって見たいなぁ…
あ、別に浜風を嫌っているわけじゃないのよ、あの子は良い子よ、うん!

305: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 14:50:41.76 ID:4Dkp6Tr40

摩耶から通信が入る。今回も索敵の結果敵影無し、これより帰還する…か。
さて、あの二つの記事、どう対応しようか…むしろ、何か対応できるのか?
不安に思いながら俺は電話を取り、沖縄基地隊のボタンを押した。

『やあ、きみか、そろそろ電話が来るんじゃ無いかなと思ってたよ』

「えぇ、例の週刊誌についてです。」

電話に出た少佐の声も落ち込んでいた。今日は変な冗談を聞く機会はなさそうだが…今は無性にどうしようもない冗談を聞いてみたかった。

306: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 14:51:32.73 ID:4Dkp6Tr40

『私も横須賀から連絡を受けたよ、一応確認するが、君は艦娘に売春などさせて無いだろうね?』

「まさか、私がそのような事を指示した事は一度もありませんし、艦娘がそのような事をしているという懸念も兆候も掴んでいません」

『なら、自衛隊としては否定するだけだが…艦娘の方は大丈夫かね?彼女達が見るにはあの記事はあまりにも酷過ぎる』

「…なんとも言えません、あの雑誌は発行部数も少ないゴシップ誌、との事なのであの記事そのものが艦娘の目に付く可能性は極めて低いと考えますが…」

『しかし今はネットと言うものも有る、完全に隠しとおすのは難しいだろうなぁ…』

そうだ、今では個人がブログで書いた話も内容次第では一週間もしないで広がる。

307: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 14:52:36.27 ID:4Dkp6Tr40

「…呉や横須賀は?どう対応するとか言う話し、聞いていませんか?」

『どうも向こうでも対応に難儀しているようだ、現在の対策としては戦艦や空母クラスの艦娘に事前に事情を話し、艦娘に露見した場合駆逐艦達のフォローを頼む。以外に有効な手は考えられていないらしい』

「今はうちには大和がいます。彼女に頼む事になるのでしょうか?」

全く、事務仕事を頼むと言う名目ですぐ終わる仕事を任せてしっかり休んでもらおう。と思った俺の計画はパーだ。
俺としてはこの記事が完全にただのゴシップ誌で埋もれてしまう事を願うばかりだった。



308: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 14:53:40.19 ID:4Dkp6Tr40



「艦長、そろそろ浮上しても良いのでは?」

「そうだな、潜望鏡深度まで浮上しよう、可能な限り、ゆっくりとだ、ソナー、周囲に反応は?」

「いえ…特にありません、ん?これは…鯨かな?」

ソナー員が言うには特に危険な相手は居ないようだ。これで乗員に新鮮な空気を吸わせてやれる。
まったく、日本軍め…どうせ攻撃するつもりが無いんだからほっといてくれれば良い物を。
僅かに船体が振動し、浮上を始める。

「艦長、潜望鏡深度です」

「潜望鏡上げろ」

「艦長、妙な音が聞こえます…」

「船か?」

「波の音だと思いますが…すこし変です、僅かに波の中に雑音のようなものが…かなりの遠距離だとは思いますが…」

309: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 14:54:30.55 ID:4Dkp6Tr40

ソナー員の発言に疑問を覚えるが、音も小さいと言う。きっと遠くで鯨でも居るか、岩礁に当たった波の音を聞いたのだろう。そう思って潜望鏡を覗く。
潜望鏡には、黒い黒点が猛スピードでこちらに向かって突っ込んでくる姿が映った

「急速潜行!ダウントリム40!深度200まで潜る!」

「海面に着水音多数!」「くそっ!日本人め、気でも狂ったか!?」

「違う!深海凄艦だ!早く潜れ!!」

直後、艦の上方で鈍い音が何度か響く。危なかった、もうすこし遅れていたら沈められていたかもしれない。そんなのはごめんだ。

310: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 14:55:37.00 ID:4Dkp6Tr40

「深度280まで潜って機関停止、奴が諦めるまでまとう」

「艦長、国際条約で深海凄艦を発見した場合は周辺諸国に通報する義務がありますが…いかがなさいますか?」

「我々が赤尾嶼付近にいる事を世界中に公表するか?そもそも浮上しない事には通信もできんだろう…ソナー、例の雑音は?」

「僅かですが…まだ聞こえます。どうも付近を周回しているようです」

ここから先は我慢比べだ。こちらが音を上げるより先に帰ってくれればありがたいが…



311: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 14:57:30.68 ID:4Dkp6Tr40
眠たい眼を擦りながら食堂に入る。食堂では早起きの連中や夜勤の連中が既に飯を食っていた。
テレビでは政治家献金問題に関するニュースを流していた。

「おはよう」「おはようございます」

「おはよ、提督…」

「しれ…てーとく!おはようございます!」

俺よりすこし遅れて艦娘達が入ってくる。皆それぞれ食事を受け取り、席に座った。

312: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 14:57:59.53 ID:4Dkp6Tr40

『次のニュースです、ある雑誌社が衝撃の記事を掲載しました、艦娘が援助』

その瞬間、事務をしている自衛官がチャンネルを変える。

『おーはー!!みんな今日も元気かな!?』

次の瞬間、テレビには子供向けバラエティ番組が映っていた。

「あっ!」「ニュース見てたのに!」「何よ、この変な番組…」

「いやぁ、なつかしいっすね、この番組もう十年以上続いてるんすよ…」

「あの…提督、チャンネルを変えませんか?」

「懐かしいな…なんか、でもこの番組見ると元気出てくるよな!」「提督もわかりますか?」

艦娘や他の自衛官の抗議をガン無視して二人で子供の時の朝の日課だった番組について語り合う。
その間リモコンはずっと事務が握り締めていた。
すまん、君には艦娘が訓練に出るまでの間茶番に付き合ってもらう。

321: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 23:37:18.62 ID:4Dkp6Tr40

「本日の予定は那覇市西方100kmの地点に進出後彩雲で周辺の哨戒、哨戒中アタシらは対戦警戒訓練を行う」

ドックに置かれた机の上で摩耶が地図を指差して今日の哨戒の説明を行う。正直、昨日とやることは全くおなじだった。
その時、机に置かれた電話が鳴り始める。

「スマン、叢雲、出てくれ」

「はいはい…もしもし、こちら整備ドック、艦娘待機室…あぁアンタね、どうしたの?」

電話の相手は提督だった。提督は慌てているのか、すこし息が荒かった。

322: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 23:38:18.46 ID:4Dkp6Tr40
『叢雲か?まだ出港して無いな、よかった…すまんが予定変更、遠出になるが久場島に向かってくれ』

「久場島?尖閣諸島じゃない、何があったの?」

『石垣海上保安部から連絡があって海上で何度か爆発音のようなものを聞いた漁船が居るらしい。周辺諸国に問い合わせたところ北朝鮮以外からは現地で活動している艦船は無し、北からはまだ回答は来て居ない』
『現地では日本・台湾の複数の漁船が現在漁業を行っており海保・水産庁としては何よりこの海域の安全確認としたいらしい』
『それと、現地は現在日中の防空識別圏が被っている。彩雲を出すときは注意するよう瑞鳳に伝えてくれ、後で詳細を伝えに行く』

「了解、みんなに伝えるわ」

323: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 23:39:01.54 ID:4Dkp6Tr40

「叢雲、提督は何て?」

「任務は変更、私たちは尖閣諸島で哨戒を担当する事…あと飛行機を出すときは注意する事…後で提督が来るらしいわ」

「尖閣かぁ…一週間ぐらい帰ってこれないな…瑞鳳、食堂に弁当の追加を依頼してくれ」

「了解」

「でも…尖閣諸島ね…沖ノ鳥島は制圧したんだし、深海凄艦じゃないなら私たちの出番にはならないんじゃ無い?」

そうだ、深海凄艦の拠点だった沖ノ鳥島は先日制圧、現在確認できている深海凄艦の拠点になるとニューギニアやミッドウェイ、アリューシャン辺り。
そこから尖閣諸島に深海凄艦が現れるなんて、ありえるのかしら?



324: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 23:39:54.44 ID:4Dkp6Tr40

「うわあぁぁぁん!」

「大丈夫だよ、落ち着いて…」「そうだよ、私たちのづほちゃんは綺麗なままだから、ね?」

「うぅ…ずほちゃんが…わたしのづほちゃんが…汚い男共に股を開く淫乱艦娘だったなんてー!!」

「ちょ…あんた声大き過ぎ…」

俺が教室に入ると女子が一人、大泣きしていた。

「なんなんだよ、あれ…」

「あぁ、今朝のニュースさ…お前見なかったか?」

「あれ?あんなの信じてんの?」

何を馬鹿な。仮にも自衛隊は公務員、艦娘だって公務員かどうかはハッキリして無いと聞くけど…組織を上げて援助交際とか、しないだろ?

325: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 23:40:34.26 ID:4Dkp6Tr40

「でも今朝もニュースでやってたしなぁ…」

「うーん、そう言われるとなぁ…」

はたして、国の機関である自衛隊がそんな事をするのだろうか?
もししようものならバレレば大問題になるし、普通はやらないんじゃ…
でも、そういう所だからこそ厳重に秘密にして…と言われるとそれは違うよ、とは言えない。
すこし考えて見る。俺達が摩耶様にあった時は基本的に「踏んでください」→「お前らウザイ」から会話が始まる。摩耶様自身がどう思ってるかはわからないけど…たぶん、様式美って奴だ。
それが「踏んでください」→「しょうがねぇ、一踏み五千円な、プラス500円でグリグリ、プラス1500円で股間踏んでやる」になるのか?

それはすこし魅力的かもしれない、今まで貯めたお年玉全てを投げ打っても良いかもしれない…

326: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 23:41:34.88 ID:4Dkp6Tr40

そんな事を考えていると担任が入ってきた。

「よーし、お前ら席につけー…ん、どうした?」

「先生!私のづほち」「あー何でも無いです!」「この子の好きなキャラが昨日死んじゃって…」

「そうか…その気持ちは先生も良く判る。VSデストロイアでゴジラが死んだときは映画館で大泣きしたなぁ…」

先生、その時アンタ高校生ぐらいじゃないですか?それはすこし気持ち悪いです。


327: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 23:43:05.91 ID:4Dkp6Tr40


「提督、失礼します。今日の郵便です」

「あぁ、大和、ありがとう」

大和が郵便物の入った箱を持ってきて執務室に入る。
大和には秘書艦をしてもらうと言ってもじっさいやってもらうことはお茶汲みと郵便物の手渡しぐらいだ。
いっそ完全に休みにしてやった方が良い気もするが…

「はい提督、機密と×区分の郵便物です」

大和から郵便物を受け取る。
機密区分は…中国潜水艦が領海進入した可能性がある。という内容だった。また、深海凄艦と交戦した可能性がある…
まさか尖閣で漁船が聞いた音というのはこれだろうか?だとしたら今日中にでも艦娘達に知らせた方が良いだろう。

328: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/24(月) 23:43:42.97 ID:4Dkp6Tr40

×区分は…昨日より多い。昨日の援交絡みの記事、やはりチェックしていた人も多い用で、それを話題にしたメディアの記事や、鎮守府への抗議の文章が多数だった。
こりゃ近いうちに記者会見する羽目になるだろうか?そんな中で、艦娘への取材を求める出版社があった。摩耶を名指しで、だ。
一考する価値はあるかもしれない。どっち道しばらくは居ないから保留だな。

「あっ、いつも食品を納品してくれる業者さん…結婚した方がいらっしゃるそうです、祝電を出すよう事務に伝えておきますね」

「あー、スマン大和、その前に話さなくちゃいけない事がある。重要な事だ」

俺は机の引き出しからあの週刊誌を取り出す。
正直、大和に言って良いかは憚られた。大和は本来呉所属だし、俺から頼んで良い事では無いかもしれない。
でもいまここに居る人物の中でこんな事を相談できそうなのは大和ぐらいしか思いつかなかった。

338: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/26(水) 00:57:34.94 ID:Oh/3vLW10



提督が私に雑誌を渡してきた。表紙を見ると水着姿の女性がポーズを取った写真と「芸能界のセックス事情!」等と言う見出しが出ている。
ハッキリ言って私は見ない、と言うより、嫌っているタイプの雑誌だった。
何のつもり?まさかこれが俗に言うセクハラとだというの?

「そんなに睨むな、その雑誌の21ページを読んで見てくれ」

「…わかりました」

ほんとにエッチな雑誌だったら警務隊呼びますからね?と付け加えて言われたページを捲る。
右側はパワーストーンでお金持ちになったと言う記事、そして左が

「あれ?摩耶…?」

この手の雑誌に似つかわしく無い、艦娘が映った写真が載っていた。



339: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/26(水) 00:58:20.32 ID:Oh/3vLW10



「…」

記事を読み勧める大和の顔がどんどん険しくなって行く。当然だ、俺だって必要じゃなかったらあんな記事何度も見たく無い。

「なんなんですか、これ…なんなんですか!これは!」

大和が俺に詰め寄り机を叩く、コップが転がり、床に落ちて割れた。

「なんなんですか、これは…それは私たちは役に立てなかったかもしれない!私達がやった事は日本を不幸にしただけだったかもしれない!」
「ミッドウェイでも、マリアナでも、レイテでも、坊の岬でも私たちは役に立てなかった!沖ノ鳥島でも私は何も出来なかった!国民に嫌われても当然かもしれない!」
「でも…それでも私たちは帝国…日本国の艦娘として誇りを持ってるんです!それがなんで…なんでこんな扱いをされなくちゃいけないんですか!」

「…世の中にはいろんな人が居る、それだけだ」

340: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/26(水) 00:59:10.93 ID:Oh/3vLW10

「私にこんな物を見せて、どうしろと言うんですか…」

「他の艦娘がこの記事の内容を知ったら、ショックを受けるだろう、その時その子たちの相談相手になって欲しい」

「私にその役目を押し付けるんですか、あなたはここの提督なのに…」

「俺が女だったらって、たまに思うよ、でも男の俺がこういった相談には、なかなか乗れ無いんだ」

「あなたは酷い人です…艦娘の提督なのに、こんな記事を見せて、更に他の艦娘の力になれだなんて…」

「恨んでくれても、構わんよ」

そうだ、むしろ恨まれて当然だ。上司が責任を全部放棄して、部下にデリケートな問題を任せようと言うんだから。

341: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/26(水) 01:01:37.64 ID:Oh/3vLW10

「恨みはしません…でも、わたしは…こんな事を書く連中を守って良いものか、疑問に思います…」

「そういう人たちだけじゃない、それを忘れるな、いいね」

涙目の大和と向かい合う。
国のために戦い身を滅ぼし、更にもう一度国のために戦おうとしているときにその国にこんな扱いを受けたら…
大和、お前の疑問ももっともだ。俺も今現在、お前と同じ疑問を持ってる。
でも、それでも国のために戦うのが俺達なんだ。そう思わないと、やっていけない。



342: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/26(水) 01:02:08.99 ID:Oh/3vLW10



尖閣諸島。日本、中国、台湾で領有権を争うこの地域はしかし日本-台湾間の合意で日台の漁船が行き交う格好の漁場でもある。

「漁船から通報のあった地点というのはどこになるんですか?」

途中で合流した海保職員に瑞鳳が質問する。

「通報した漁船が居たのはここから30kmほど北、更にそこから北西の方角からドーン、と言う音が何回か聞こえたそうです。通報を受けてから我々も捜索をしましたが…時間が経っているからか特に何も見つけられませんでした」

「深海凄艦…かしら?こんなところに?」

「まさか…と言いたいですが、沖ノ鳥島から脱出した駆逐艦や潜水艦が居るかもしれません、警戒するに越した事は無いのでは?」

「そうだなぁ…瑞鳳、その地点に彩雲を、後艦攻と艦戦も何機か出してくれ」

浜風の言葉で摩耶も警戒するべきと思ったのか瑞鳳に偵察を指示する。

343: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/26(水) 01:03:24.59 ID:Oh/3vLW10

「摩耶、戦闘機も出すの?」

「訓練だよ訓練…そういやここは中国の防空識別圏でもあるんだよな、大丈夫かな?」

「一応外務省を通じて皆さんが深海凄艦哨戒をする事は伝えているはずです、大丈夫だと思います」

「そうね、じゃあ…艦上機を出すわ、みんなちょっと離れてね?」

海保職員が言うならめんどくさい事にはならないだろう、瑞鳳が弓を手に取った。

「後は周囲の漁船の皆さんにも警戒するように伝えましょう、すみません、何名か手伝ってくれますか?」

「よし、叢雲、雪風、浜風、頼んだ」

まったく、一応の旗艦だからって人使い荒いわね、あんたは何をするのよ。




344: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/26(水) 01:04:41.78 ID:Oh/3vLW10




「おい、女の子が海の上を歩いてるぞ?」
「ありゃあ艦娘だよ、なんでこんなところに?」

「すみません!周囲に深海凄艦が居る可能性があります!」

「深海凄艦って、危ないんじゃないか?」

「まだ決まったわけではありませんが、注意だけはしてください、私たちか海保の方の警告があればすぐ避難出来る様に準備をお願いします」



345: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/26(水) 01:06:11.60 ID:Oh/3vLW10



「ちょっと!今時間良いかしら!?」

浜風が話しているところからすこし離れた所に別の漁船の一団を発見する、それに近づき声を掛けるが…

「军舰的女孩?」
「日本船的女儿,为什么在这样的地方吗?」

話しかけたのは台湾の漁船だったらしい、帰ってきたのは中国語だった、いけない、英語はまだしも中国語は苦手だ…

「叢雲さん、雪風にお任せください」

いつの間にか雪風が私の傍に来ていた。

「すいません!私、艦娘の雪風って言います!深海凄艦が付近に居る可能性があると…」

「雪風?」「聞いた事あるな…」「丹陽だよ!軍艦丹陽!」
「丹陽だ!」「丹陽が来てくれた!」

「えっと、その…私の話をきいてくださー!?」

いつの間にか私と雪風は漁船に包囲されてしまった。

352: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/26(水) 07:05:16.67 ID:Oh/3vLW10



「あの、ですからね?深海凄艦、わかりますよね?それが近くにいるんで、私たちはそれを探して居ます。それがきたら、わたしたちつたえるんで、皆さんは逃げる準備をしてください」

雪風をたんやんたんやんと呼び盛り上がっている台湾漁船に雪風がジト目で中国語で何かを話している。
何を言っているかはなんとなくしか判らなかったが、台湾船団と意思の疎通は出来たのか船団はまた漁に戻った。

「ねぇ雪風、丹陽って…」

「中華民国の時の私の名前です」

「あんた、今度休暇取れたら台湾に旅行行ったら?きっと国賓待遇で歓迎されるわよ?」

「かもしれません、でも今の私は雪風なので」

「そうね…じゃあ雪風…ん、なに…?」

次に行こう、そう言おうとしたところで通信が入る、緊急電だ。


353: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/26(水) 07:05:43.81 ID:Oh/3vLW10



「緊急伝…?彩雲からだ…我、敵機ノ追撃ヲ受ケツツアリ、位置…敵機ですって!?敵は?こっちに戻ってこれる?…深海凄艦?まって、なんで!?私は南東よ!」

偵察機からの無電を受け瑞鳳が無線機に叫んでいた、偵察機からの通信は私にも聞こえる。しかし、敵機が居るとは、まさか…
ブツッという耳障りな音を残して偵察機からの通信が途絶える。

「すまん!偵察機が深海凄艦に遭遇した!付近にいる!漁船群の退避を!」

「了解しました!」

『みなさん!こちらは日本国海上保安庁です!深海凄艦が…』

海保職員に叫ぶと巡視船がスピーカーで叫びながら漁船に向かっていく。
しかし敵機が居るとなると、必然的に―



354: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/26(水) 07:06:29.03 ID:Oh/3vLW10



「きちょう!みぎからきます!くる!くる!くる!!」

最後尾の機銃員の叫びと同時に7.7mm機銃の音が聞こえる、後ろを振り向くと二機の敵機がこちらに火を吹いていた

「くそっ!」

操縦桿を右に倒し、右足を踏み込む、左主翼のすぐ傍を何発もの曳光弾が霞めて行く。

「瑞鳳さんにだでん!『我、敵機ノ追撃ヲ受ケツツアリ、位置、魚釣島北50キロ、敵機ハ深海凄艦艦上機』」

「だでんします!」

機体の後ろを通り過ぎた敵が反転、今度は左からだ、操縦桿を左に倒し、左足を踏み込む。

355: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/26(水) 07:07:36.64 ID:Oh/3vLW10

「ひだんしました!しゅよくからねんりょうをふいています!」

「ひがつかなければだいじょうぶ!まだとべる!!」

『こっちに戻ってこれる!?』

瑞鳳さんの声が聞こえる。戻れるかと聞かれれば戻れるだろう、でも、何度も回避運動をしている間に高度も下がり、進路もだいぶずれてしまった。
それに、今瑞鳳さんの所に戻ったら?敵機が居ると言う事は、近くに空母がいると言う事だ。その空母の位置がわからないのに、敵にみすみす母艦の位置を教えるのか?
それに今すぐ戻ったら周囲の漁船も危険にさらす。となれば

「瑞鳳さんにだでん!『我、コレヨリ南西方向ニ退避スル!』」

『南西…なんで!?私は南東よ!戻ってきて!おねが…』

ガンガン、バキバキと嫌な音と振動、機体中央部に被弾した。

356: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/26(水) 07:08:25.36 ID:Oh/3vLW10

「みんな、だいじょうぶ!?」

「だいじょうぶです!」「きじゅうもわたしもぴんぴんしてます!」「ですがむせんきこしょう!」

エンジンも損傷した、回転数が不安定になり、黒煙を噴き始めている。
どちらにしろ無線機が壊れたのは幸運だ、これで瑞鳳さんの声を聞かずに済む。
私は一気に操縦桿を押し込み、高度を下げ加速した。
さあ、ついて来い、すこしでも引き剥がしてやる。

そういえば…途中で一瞬だけ見た人間の飛行機、あの機体は無事に逃げきれただろうか?



357: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/26(水) 07:08:55.34 ID:Oh/3vLW10



「そんな…」

「艦隊集合!敵艦が近くに居るぞ!瑞鳳!他の機体を現地に集合させろ!」

「くっ…了解!」

海保職員の説得が効いたのか周囲の漁船が南下を始める。石垣島に退避するつもりだろう。
あたし達は北上する。こっからは賭けだ、アタシらが敵を見つけるのが早いか、敵が見つけるのが早いか、だ。
どちらにしろ、敵は最低でも空母一隻。沖ノ鳥島の生き残りなら単艦だと良いが…

「艦隊を組んでるとしたら厄介だな、クソがっ…」

自分でも気づかないうちに口から言葉が漏れた。

他の彩雲から通信が入る。

『敵艦隊見ゆ、正規空母1、戦艦1、軽巡あるいは駆逐艦4』



367: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/27(木) 02:01:57.78 ID:26jOVsfz0



「…提督、艦隊から無電が…艦隊は敵艦隊と遭遇したようです!」

書類を整理していた大和が手を止めて報告する。秘書官が居ると秘書艦自身が無線機になってくれる。便利だ。

「そうか、規模は?」

沖ノ鳥島から離れた場所だ、どうせ駆逐艦が1~2隻、摩耶達の敵では

「敵は戦艦1!空母1!駆逐艦…提督!?」

俺は大和をおいて作戦室へ走り出した。



368: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/27(木) 02:02:23.99 ID:26jOVsfz0



敵艦隊との距離は100km、彩雲によると更に接近中らしい。何でこんな近くに?
敵は戦艦、空母含めて6隻、こちらは重巡1、軽空母1、駆逐艦3。質でも数でも圧倒的に不利だ。マトモなら撤退を考えるところだが…

「瑞鳳!航空隊を発艦させろ!アタシらは敵の足止めをする!漁船が退避するまでの時間を稼ぐ!」

まだ漁具をしまって無い漁船も居る、彼らが退避するまでは私達が後退する訳には行かない。

「叢雲、雪風、浜風!単縦陣を組む!いくぞ!」

「いいわ、やってやる!」

対空電探には既に70機を超える敵機が映っていた。迎え撃つのは瑞鳳の零戦52型18機、天山と彗星が計20機。



369: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/27(木) 02:03:04.91 ID:26jOVsfz0


「きちょう!すいへいびよくがあなだらけです!」

「わかってる!」

操縦桿の感覚がおかしい、ワイヤーが切れ掛かっているのか動かしても殆ど機体が反応しない。

「てっき、きます!」

機銃員が機銃を敵機に向けて引き金を引く。が、ニ、三発発砲しただけで沈黙してしまった。弾切れだ。
私たちはどれだけ距離を離せただろうか?
敵機が迫ってくる。こちらは殆ど身動きがとれ無い。もうだめだ、そう思ったとき、機体より遥かに巨大な白い槍が敵機を押しつぶし爆発した。

「きちょう!左下です!」

「ぐんかん…?どこの…?」



370: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/27(木) 02:03:42.58 ID:26jOVsfz0



「摩耶!叢雲!状況を報告しろ!」

作戦室で無線機に向かって怒鳴る。
無線機からは艦娘達の声は聞こえるが誰も俺に答えない。

『浜風です!現在対空、対艦戦闘中…うわっ!?』

「浜風!大丈夫か!?」

応援は出せないのか?応援は!?

艦娘、海自艦艇は期待出来ない、どこに問い合わせても近くに居る艦は0、呉からでは到着は数日後。
那覇の空自と嘉手納の米軍にスクランブルを要請、先ほど発進したとの報告が来たが、到着は30分後、そして機体は両方ともF-15、スクランブル用の対空装備。
ハッキリ言って戦力にはならない。F-2にいたってはどの基地も作戦行動半径外だ。

371: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/27(木) 02:04:15.26 ID:26jOVsfz0

「横須賀、艦娘艦隊司令部からです!外務省を通じ中国・韓国に支援を要請するよう伝えましたが…外務省が渋っていると!」

しかし、なぜだ?
深海凄艦の日本最寄の拠点である沖ノ鳥島を奪還したのに、あの規模の艦隊が?
まさか…

「横須賀に連絡!各鎮守府に警戒態勢を上げるよう意見具申!」

「提督?」

俺たちは深海凄艦にも整備や補給が必要だと考え、そのために島が、泊地が、沖ノ鳥島が必要だと考えていた。
しかしもし、深海凄艦にそれらが不要で、沖ノ鳥島はただの集合地点でしかなかったとしたら?
日本は、いや、太平洋に面した全ての国はいつ深海凄艦の大艦隊に襲われても不思議では無い。



372: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/27(木) 02:04:48.54 ID:26jOVsfz0

「くっそ!ふざけるなよ!クソが!!」

「浜風です!現在対空、対艦戦闘中…うわっ!?」

浜風の付近に数発の砲弾が着弾する。
漁船は離脱を確認、海保の巡視船が護衛に回っている。後は私達が逃げるだけ。しかし

「叢雲!敵機だ!」

「くっ!」

上空から急降下してきた敵機が爆弾を落とす。なんとか回避するが海中に落ちた爆弾の爆発でからだが浮き上がるような衝撃を受けた。
敵艦隊から離脱しようにも敵機の空襲を回避しなければならない。距離は詰められる。
天山が敵駆逐艦に突撃し、駆逐艦は回避する。が、魚雷は落とさない。既に投弾してしまった後なのだ。瑞鳳にも敵機が群がり収容も出来ない。対して敵空母は交代で艦上機を次々発艦させてくる。
八方塞がりだ。
その時、微弱な電波で通信が入る

『日本軍艦娘艦隊…増援が来ている、南西に向かえ』

373: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/27(木) 02:05:31.71 ID:26jOVsfz0

「南西?日本から離れてしまう…くっ…」

浜風が駆逐艦の攻撃を受け、雪風がその駆逐艦を追い払う。その直後雪風に群がる敵機を零戦が追い払う。

「摩耶!南西に進路を!」

「わかった…どうにでもなれってんだ!!」

私たちは冷静ではなかった。死に物狂いだった。
だから藁にもすがる思いで、名乗りもしない通信を信じるしかなかった。

384: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/28(金) 01:34:07.08 ID:uIF9GKlA0



戦闘開始から20分経過
戦果
駆逐イ級―瑞鳳航空隊により撃沈
駆逐イ級―雪風により撃沈

味方の損害
瑞鳳―小破
摩耶―小破
叢雲―中破、砲塔損傷
浜風―中破、機関損傷
雪風―健在




385: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/28(金) 01:35:03.37 ID:uIF9GKlA0




「浜風が遅れ始めてる!摩耶、速度を落として!」

「私は大丈夫、先に行って!」

「無茶言うな!雪風!最後尾に!」

「ハイ!お任せください!!」

浜風が機関を損傷し、速度が落ちる。このままでは袋叩きにされてしまう。
雪風が最後尾に着き、煙幕を張り、艦隊は速度を浜風にあわせて速度を落とした。

386: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/28(金) 01:36:04.42 ID:uIF9GKlA0

「はわわっ、至近弾です!!」

雪風を水柱が包み、一瞬姿が見えなくなる。遂に戦艦ル級の射程に入ってしまったらしい。

「このままじゃみんなもやられます!離脱して…」

「馬鹿言うんじゃないわよ!これ以上行ったら私がアンタを雷撃処分するわよ!」

浜風を生贄にすれば残りは助かるんじゃ無いか?全員考えてるはずだ。でも、そうする事は出来なかった。

「浜風!敵機に狙われてるわ!」

浜風に敵の攻撃機が向かう。まずい、今の浜風は直進するだけで精一杯だ、その時、敵機の背後に瑞鳳の零戦がぴたりとくっつく。
今よ、撃て!撃ちなさい!!…なんで撃たないの!?
零戦はそのまま敵機に近づき、敵機をプロペラで引き裂き敵機もろとももつれ合ったまま海面に衝突する。

387: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/28(金) 01:36:56.22 ID:uIF9GKlA0

もう戦闘機隊は弾を使い切ってしまったのだ。見れば彗星すら敵機と空中戦を始めている。

「くっ…うう…!」

浜風の頬に涙が見えたが、一度顔をぬぐった後はいつもの顔に戻っていた。
最後尾で囮になっている雪風もいつまで持つかわからない。戦艦の砲撃に晒され、航空機に襲われ、二隻の駆逐艦相手に砲撃戦を展開している。
助けに行きたい、でも、主砲の使えない私が行っても足手まといなだけだ。

「電探に感!前方50km!艦艇二!」

先頭を走る瑞鳳が叫ぶ。
艦艇?駆逐艦か、しかしこんなところに自衛隊が?

388: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/28(金) 01:37:58.63 ID:uIF9GKlA0
「更に感!前方20km!高度5、高速で…」

私の電探でも捉えた。そしてその直後、私の頭を霞めた物体が二隻のイ級に突き刺さり吹き飛ばす。

「ハープーン・ミサイル?」

『こちら中華民国海軍、基隆。貴隊の援軍に来た』

『成功、スタンダード発射初め!』

数発のミサイルが私たちの頭上を飛び越え敵機を撃墜する。
助かった…と言いたいが、まだ敵には戦艦と空母が残っている。
敵機は後退を始めた。おそらく補給を済ませて全力攻撃をしてくるはず、そうなれば防ぎきれ無いだろう

389: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/28(金) 01:38:54.52 ID:uIF9GKlA0

「基隆さん、成功さん!そこからミサイルで敵艦を撃てますか!?」

『こちら基隆、無理だ、レーダーで捉えられない』
『成功、レーダー反応が弱過ぎる、攻撃は困難』

「どうします!?戦艦と空母はまだ健在です!」

「このままじゃ敵航空機にやられる…瑞鳳!まだ発進できないの!?」

「だめ…どの機体もすぐ発進出来る状態に無い…機体さえあれば戦えるのに!」

390: ◆Vqasq6HLXg 2014/11/28(金) 01:39:39.04 ID:uIF9GKlA0

「…アタシが、やる。お前らは台湾海軍と合流しろ!」

摩耶が百八十度反転し、敵艦に向かい始めた。

「摩耶さん!無茶です!止めて下さい!!」

「アタシに一つ、良い考えがある!」

摩耶に敵艦の砲撃が集中する。摩耶はあっという間に水柱と煙に包まれ見えなくなった。