1: 名無しさん 2020/04/05(日) 14:39:16.22 ID:FjCYaVznO
「梓川」
「なんだ、双葉」
「梓川、居る?」
「ああ。居るよ」
「私もどうやら青春ブタ野郎だったらしい」

『青春ブタ野郎』こと高校2年生の梓川咲太を取り巻く環境はまさに思春期真っ盛りであり、彼自身も含めて多くの関係者は『思春期症候群』を患っている。

『思春期症候群』とはその名が示す通り、思春期を迎えた男子女子が発症するとされるいわゆる都市伝説であり、『症候群』に相応しくその諸症状は多岐に渡る奇病である。

非接触性の身体的な外傷。
物理的な存在の希薄化。
局所的な時空の乱れ。
そして、同素体の生成。

当初はそのあまりに非医学的な症状に根拠を持てずにまるで信用していなかった私であるが、その症例の多さと、極めつけに自らも罹患するという大失態によって、この病がただの都市伝説ではないことを思い知らされた。

「私はね、梓川。自分が嫌いなんだよ」
「無理に好きになる必要はないだろう」

思春期とは厄介なもので、どれだけそうなりたくないと意識したところでむしろ逆効果となり、余計に悪化して拗らせる場合が多い。

「私は常に傍観者でありたかった」
「ああ。僕もそうでありたかった」

傍観者であろうと心がけるあまり、木乃伊取りが木乃伊となり、自身が木乃伊ならぬピエロとなる過程を客観的に観察した私はついにドッペルゲンガーを生み出すに至り、その滑稽さはまさに道化じみていたと言えよう。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1586065156

引用元: ・双葉理央「私にも夢を見る権利くらいはある……か」

2: 名無しさん 2020/04/05(日) 14:43:27.13 ID:FjCYaVznO
「梓川はよく毎日学校に来れるね」

血塗れ病院送り事件。
その一件により梓川咲太は校内で孤立した。
にも関わらず毎日ちゃんと学校に通う彼を不可思議に思った私は不躾にそう尋ねると。

「別に、みんなが俺を嫌ってるわけじゃない。そう思うほうが自意識過剰だろう?」

彼の返答は理に適っており、好ましかった。
当事者の癖に傍観者然としたスタイルは自分と通ずるものがあり私は彼と友人になった。

「双葉は佑真が好きなのか?」
「……さて、どうだろうね」

生物である以上、人間にも生殖本能が備わっており、それは私にとっても例外ではない。
第二次性徴と共に思春期を迎えた際にその衝動が高まり、多くの男子女子は恋をする。

「なに照れてんだよ」
「照れてない」

それは断じて恥ずかしいものではないしむしろ当然のことなのだが、常に自ら客観視する私にとっては醜態を見せつけられているようで堪え難く、自分の気持ちを否定し続けた。

「案外、お前もかわいいとこあんのな」
「気持ちが悪いからやめてくれ」

気持ちが悪い。汚い。醜い。怖気が走る。
潔癖を心がけるあまり消毒と洗浄をしすぎた結果、私はきちんと瘡蓋を作ることが出来ずに、軽傷で済む筈の傷口にバイキンが入り、敗血症となってしまったのだろう。

3: 名無しさん 2020/04/05(日) 14:46:05.62 ID:FjCYaVznO
「だから言わんこっちゃない」
「このアカウント……消して」

私が分不相応にも懸想した国見佑真には既に交際相手がいて、日に日に増大する感情を制御しきれなくなった私はネット上で不特定多数に肌を晒すことにより自傷行為を成立させて承認欲求を満たしていたのだが、当然の帰結として身バレが発生して窮地に陥った。

「梓川、怖い。ひとりになりたくない」
「わかった。そばに居るよ」

梓川が機転を利かせてひとまず難を逃れたのはいいが、今更ながら自らが招いたことの重大さが身に染みて、私は恐怖に震えていた。

「梓川、居る?」
「居るよ」
「そう……梓川、居る?」
「居るよ」

梓川はそんな面倒な私に寄り添ってくれた。

「どうしてそこまでしてくれるの?」
「一生友達してもらうつもりだから」

一生友達してもらうつもり。
やはり彼と私は似ているのだろう。
それはまさに、私にとっても望むところだ。

4: 名無しさん 2020/04/05(日) 14:48:29.33 ID:FjCYaVznO
「どうすれば舞さんを救える?」
「彼女の存在を全校生徒に知らしめる」
「どうやって?」
「さてね。愛を叫んでみたらどうだい?」

ある日、私は彼から相談を受けた。
桜島舞の症状は存在の希薄化現象。
かつてCMやドラマに引っ張りだこだった国民的美少女である彼女は芸能活動休止と同時期に『思春期症候群』を患い、人知れずひっそりとこの世界から姿を消そうとしていた。

そんな桜島舞を救うべく孤軍奮闘する梓川咲太に助言をしたところ彼はそれを実行した。

「お前らよく聞けぇい! 僕はぁっ! 舞先輩のことが! 大好きだぁあああああっ!!!!」

実に馬鹿げていると言わざるを得ない。
論理的にはこれで彼女を救えるだろう。
とはいえ、実行に移す馬鹿がいるとは。

彼は私に似ていると思っていたが違った。
愚かで恥ずかしい、青春ブタ野郎だけど。
私よりもずっと、頼りになる男であった。

5: 名無しさん 2020/04/05(日) 14:56:32.98 ID:FjCYaVznO
すみません。
桜島舞と書いていますが、正確には桜島麻衣でした
すぐに4レス目を修正します
確認不足で申し訳ありません

以下、修正後の本文です

6: 名無しさん 2020/04/05(日) 14:59:01.66 ID:FjCYaVznO
「どうすれば麻衣さんを救える?」
「彼女の存在を全校生徒に知らしめる」
「どうやって?」
「さてね。愛を叫んでみたらどうだい?」

ある日、私は彼から相談を受けた。
桜島麻衣の症状は、存在の希薄化。
かつてCMやドラマに引っ張りだこだった国民的美少女である彼女は芸能活動休止と同時期に『思春期症候群』を患い、人知れずひっそりとこの世界から姿を消そうとしていた。

そんな桜島麻衣を救うべく孤軍奮闘する梓川に助言をしたところ、彼はそれを実行した。

「お前らよく聞けぇい! 僕はぁっ! 麻衣先輩のことが! 大好きだぁああああっ!!!!」

実に馬鹿げていると言わざるを得ない。
論理的にはこれで彼女を救えるだろう。
とはいえ、実行に移す馬鹿がいるとは。

彼は私に似ていると思っていたが違った。
愚かで恥ずかしい、青春ブタ野郎だけど。
私よりもずっと、頼りになる男であった。

7: 名無しさん 2020/04/05(日) 15:01:54.17 ID:FjCYaVznO
「梓川。君は素敵だ」

試験中にもかかわらず、校庭の真ん中で校舎に向かって愛を叫ぶ彼は、格好良かった。
客観的に見れば無様で愚かしく映るものの、主観的に見ればそんな彼でも憧れとなる。

「梓川。私は君のようにはなれない」

ずっと、梓川は私と似ていると思っていた。
同じ価値観を持ち、同じスタイルであると。
しかしどうにも彼の真似は出来そうもない。

だってほら、彼はおもむろにズボンを下げ。

「今から、脱糞しまああああすッ!!!!」

ああ、やはり。梓川は『脱糞フハ野郎』だ。

8: 名無しさん 2020/04/05(日) 15:04:34.72 ID:FjCYaVznO
『なあ、双葉』
『なんだ、梓川』
『やっぱり僕は脱糞しかないと思うんだ』
『君にそんな特殊な趣味があったとはね』
『僕は至ってノーマルだ』
『しかし、いくらなんでも食糞とは……』
『食うとは言ってない。全校生徒の前で愛を叫び、そして脱糞する。そうすれば必ず、麻衣さんを救える筈だ。僕はそう信じている』
『ひとまず糞に対する信仰を捨てたまえ』

桜島麻衣に関する記憶を失う前に、私は梓川咲太とそんな会話を交わしてしたらしい。
あの時は冗談とばかり思っていたがよもや。
まあ、梓川ならばあり得る話ではある。
彼は以前から後輩と尻を蹴り合うなど、糞好きを仄めかす話題をたびたび口にしていた。
梓川咲太は糞好きであるのは確定的である。

全校生徒の前で愛を叫び、そして脱糞する。

その妄言はあながち的外れというわけではなく、視覚嗅覚聴覚を刺激する脱糞が全校生徒に与える印象の強烈さにより、ただ告白するよりも格段に成功率は増すのは間違いない。

『僕は最善を尽くしたい』

最善とはよく言ったもので、『善は急げ』という言葉通り、まさに彼は『便は急げ』という結論ならぬ『ケツ論』に至ったのだろう。

「梓川。くずくずするな。早くしたまえ」

早く。早く脱糞しないと、教師に捕まるぞ。

9: 名無しさん 2020/04/05(日) 15:08:19.48 ID:FjCYaVznO
「僕はぁ! 麻衣さん! あなたのためにっ!」
「おい、何をしてるんだ!? やめなさい!」
「離せぇっ! 麻衣さん! 見てください!!」

教師と揉み合いする彼に知れず声援を送る。

「頑張れ、梓川」

別に、他意はない。ないったら、ない。
梓川咲太の脱糞が見たいわけではない。
ただ必死な彼を友人として見守りたい。
そう、あくまでただの友人として君を。

「私は脱糞フハ野郎になんか恋をしない」

この胸の熱さは決して、恋などではない。
これは純粋な恥的好奇心……ではなくて。
ひたすらに、ひたむきに、脱糞が見たい。
ああ、もう。結局、私は下品な女なんだ。

10: 名無しさん 2020/04/05(日) 15:10:46.95 ID:FjCYaVznO
「梓川。私は、君が……君のことが……!」

梓川咲太は私の数少ない友人だ。
かけがえのない、大切な存在だ。
彼も私をそう捉えていると信じている。
だからこそ、私が彼に恋することはない。
その関係を壊したくないから。だから私は。
だからね梓川。私は君が『大好き』だけど。

「脱糞フハ野郎になんか……恋をしない」

知れず、ひと雫の涙が頬を伝う。
悲しいからではなく、嬉しいから。
彼と一生友達してもらう喜びが溢れた。

梓川。そのためなら、私はなんでもしよう。

「こっちは任せろ。やれ、梓川!」

ジリリリリリリリリリリリリリリッ!!!!

「お?」

私は非常ベルを押し、校内が騒然となった。
すると梓川を取り押さえる教師の手が緩む。
同時に、脱糞寸前フハ野郎の尻穴も緩んだ。

11: 名無しさん 2020/04/05(日) 15:12:54.45 ID:FjCYaVznO
ジリリリリリリリリリリリリリリッ!!!!

「麻衣さぁん! 好きだああああっ!!!!」

ぶりゅっ!

「フハッ!」

けたたましいベルの音にかき消されることなくその排泄音と愉悦の波動は空気を伝わり、私の鼓膜を揺らし電気信号となりて脳内の中枢にまで達し、得も言われぬ快感が生じた。

ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ~!

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

ジリリリリリリリリリリリリリリッ!!!!

排泄音。
非常ベル。
そして、哄笑。

「フハッ!」

混沌とした世界に私は佇み、快楽に酔う。
梓川咲太。この男はやはり特異な存在だ。
よもや、この私にまで愉悦を与えるとは。

狂っているのは彼か私か、それとも世界か。

「ああ、あああ、ああああああっ!!!!」

ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ~!

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

どんだけ出すんだ。腹を抱えて嗤い転げた。

12: 名無しさん 2020/04/05(日) 15:17:16.68 ID:FjCYaVznO
「ふぅ……おや?」

ひとしきり嗤い、気づと辺りは静かになっていて、非常ベルと排泄音はもう聞こえない。
てっきり鼓膜がやられてしまったのかとも思ったが、そうではないらしく、よく見ると梓川に駆け寄る桜島麻衣の姿が見て取れた。

「バカ。嘘つき。バカ咲太!」
「麻衣さん……」
「絶対忘れないって言ったのに!」

パァンッ! と、乾いた音が響き渡る。
桜島麻衣が盛大な平手打ちをかました。
無論、梓川咲太の生尻に対して、だ。

「ごめん……麻衣さん」
「ほかに言うことはないの?」
「好きです」
「ほんとに?」
「いえ、大好きです!」

こうして、桜島麻衣は存在を取り戻した。

「気持ちはわかったケド……それで?」
「僕と付き合ってください!」
「ひとまず、保留にしとく」
「ええっ!? な、なんで!?」
「だって、勢いに流されるのは嫌だもの」
「そ、そんな……麻衣さん意外と冷静」

とはいえそれで恋の成就とはならず、梓川が振られたことでこれまで通り友人関係を続けられると密かに私は安堵していたのだけど。

13: 名無しさん 2020/04/05(日) 15:20:23.26 ID:FjCYaVznO
「だから、これからひと月、私を好きだと言って、脱糞しなさい。いい? わかった?」
「へ?」

やれやれ。詰まるところ、脱糞目当て、か。

「わかったら、返事!」
「え? あ、はいっ! もちろんお安い御用です!! 食糞以外なら、尻からポッキーを食うでもなんでもします!! 任せてください!」
「フハッ!」

愉悦を漏らした姿を見て、認識を改める。
桜島麻衣は野生のフハニー・ガールだった。
ロジカル・ウンチの私はほんの僅かであるが、国民的美少女に対して親近感を抱いた。

「私にも夢を見る権利くらいはある……か」

彼女ならば梓川と交際したあとでも良い関係を築けるのではないかなどと、そんな都合の良い未来を夢見る私もまた、客観的に見れば『脱糞フハ野郎』のひとりなのであった。


【脱糞フハ野郎はフハニーガール先輩の糞を食わない】


FIN

14: 名無しさん 2020/04/05(日) 15:23:21.64 ID:FjCYaVznO
最後にこれだけは言わせて下さい

双葉理央がいっちょん好き!

最後までお読みくださりありがとうございました!

15: 名無しさん 2020/04/05(日) 16:20:08.63 ID:FjCYaVznO
すみません
指摘される前に訂正します
博多弁で『いっちょん』とは、全然とか、全くとかネガティブな表現の際に使われるので、完全に誤用でしたごめんなさい
ポジティブな表現をする場合は『ちかっぱ』、もしくは『ちかっぱい』が正しいです
というわけで。

双葉理央のことが『ちかっぱ』好きです!

改めて、読んでくださりありがとうございました!