1: 名無しさん 2020/07/01(水) 17:57:22.041 ID:zVJMEYPH0
某大学――

受験生(いよいよ大学入試だ)

受験生(世の中の大人どもはいう。いい大学に入るためには勉強しろ、と)

受験生(世の中の子供たちはこう思ってる。いい大学に受かるには勉強しなきゃ、と)

受験生(そうじゃないんだな)

受験生(たとえ俺が100点中10点しか取れなくても、他がみんな0点なら俺は合格できる)

受験生(それが大学受験だッ!)

受験生(つまり――)

引用元: ・受験生「ククク……問題を早く解くフリをして周囲の奴らを焦らせてやるぜ……」

2: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:00:30.949 ID:zVJMEYPH0
受験生「よっ!」

生徒「!? ……や、やぁ」

受験生「席隣同士になったけど、お互い頑張ろうな!」

生徒「う、うん」

受験生(初対面の奴にも慣れ慣れしく声をかけ、余裕ぶりをアピールし、プレッシャーをかける……)

受験生(これぞ受験テクの一つ“雄弁は黄金(エンジョイトーキング)”!)

生徒(なんて余裕なんだ……きっとものすごく頭がいいに違いない……!)

6: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:03:26.223 ID:zVJMEYPH0
受験生「さて、と……」

生徒「!」

受験生「念のため、赤本をチェックしとくかな」バサッ

生徒(な……!)

生徒(なんだあの赤本……! ボロボロじゃないか……! 一体どれだけ勉強を……)

受験生(この日のために、この大学の赤本を購入し、徹底的に日に晒し、巧妙に汚し)

受験生(一日6時間ひたすらめくりまくることによって、この赤本を作り上げた!)

受験生(この赤本を見た奴は戦意喪失すること間違いなしだ!)

受験生(これぞ“使い古された赤本(ブラッディブック)”!)

10: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:06:30.131 ID:zVJMEYPH0
試験官「では、これより問題用紙と解答用紙の配布を開始します」

試験官「スマートフォンなどは電源を切り、カバンの中にしまって下さい」



生徒(いよいよだぁ……緊張してきたぁ……)

受験生「フンフ~ン……♪ フフフ~ン……♪」

生徒(ええっ! この局面で鼻歌を……!)

受験生(“決戦前夜の鼻歌(ノーズソング)”でさらなるプレッシャーをかける!)

14: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:09:33.769 ID:zVJMEYPH0
試験官「試験開始まで、問題冊子は開かないように」



生徒(いったいどんな問題が出るんだろう……)ドキドキ

受験生「……」

受験生「うっすらと見える文字で……だいたい問題の傾向が分かった。これなら楽勝だな」

生徒(ええっ!? 文字なんか見えないんだけど!)

受験生(試験前に既に優位であると装う。“試験場の名探偵(シャーロック・ホームルーム)”!)

17: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:12:47.256 ID:zVJMEYPH0
試験官「始めっ!」



バサッ…

生徒(うわっ、いきなり苦手な問題が……)

受験生(俺の受験術……ここからが本番ッ!)

受験生(試験中、受験生ってのはとかく他人の解くペースを気にするもの……)

受験生(自分がまだ解いてないのに、誰かが解答した音をキャッチすると、焦り、冷静さを失い、自滅する!)

受験生(だから俺は……)

19: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:15:17.428 ID:zVJMEYPH0
受験生(問題を早く解くフリをして、周囲の奴らを焦らせてやるぜ!)

シャッ

生徒(えっ、もう一問目を解いたの!?)

受験生(まだまだァ!)

シャッ シャシャッ バサッ

生徒(1ページ目が終わった!? 僕はまだ一問目なのに――)

シャシャシャッ バサササッ カリカリッ シャッ カリッ シャシャシャッ バサッ シャシャシャッ バサッ カリカリッ

カリカリカリッ バササッ バサッ シャシャシャシャッ カリカリッ バササッ バサササッ カリカリカリカリッ

バサバサバサッ ババババッ シャシャシャッ ガリガリガリッ バサバサバサバサバサバサバサッ

受験生(“俺の偏差値80km/h(スピーディーアンサー)”で自滅しろ、ボンクラどもォ!)

生徒(早いッ! 早すぎるゥ!)

25: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:19:26.179 ID:zVJMEYPH0
受験生(トドメは……)

パタンッ

生徒(問題を閉じた!? もう終わったのか……!)

受験生「……」

生徒(見直す素振りすらない……! いったいどれだけ自分の解答に自信があるんだッ!)

受験生(“見直し無用(クローズドブック)”)

受験生(あまりの早解きに、あまりの自信に、俺以外の連中は精神崩壊を起こすッ!)

27: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:22:16.201 ID:zVJMEYPH0
最初の教科終了――

生徒(さて、次の教科の準備をしないと……)

受験生「ん~」

生徒「?」

受験生「何度自己採点しても100点だわ~、95点ぐらいを狙ってたのに……こりゃ参ったな」

生徒(えええええ!?)

受験生(“偽りの満点(ワンハンドレッド)”に恐れおののくがよいわ!)

受験生「ま、しょせんは滑り止めだしな」

生徒(ううう……僕はここが第一志望なのに……)

受験生(“お前の本命滑り止め(ブレーキオイル)”も忘れない)

31: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:25:24.192 ID:zVJMEYPH0
試験官「始めっ!」



バサッ…

受験生「……」

生徒(またものすごい早さで解くのかな?)

受験生「すいません、トイレに行かせて下さい」

試験官「えっ! 分かりました……案内しますのでついてきて下さい」

生徒(休み時間に行けたはずなのに……わざわざ試験が始まってからトイレ!?)

生徒(トイレに行っても余裕で解けるってことか……)

受験生(“戦場での小休止(トイレタイム)”……俺はトイレで休みつつ、お前らに精神的ダメージを与える!)

33: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:27:15.336 ID:zVJMEYPH0
10分経過……

20分経過……

30分経過……



生徒(全然戻ってこない……)

生徒(もしかしたら、体調不良……!? 大丈夫なのか……!?)

スタスタ…

生徒「!」

38: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:30:16.376 ID:zVJMEYPH0
受験生「ふぅ~、スッキリした」

受験生「さて、ちゃっちゃと解いちゃいますか」

生徒(やっと戻ってきた! 30分もロスしたのに、全然うろたえてない!)



シャシャシャッ ガリガリッ バサバサバサバサバサッ カリカリッ シャシャッ カリカリッ



生徒(さっきよりも早い! トイレに行けるわけだ!)

39: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:33:28.248 ID:zVJMEYPH0
――

生徒「……」

生徒(今のところ……手応えはなんともいえないな)

受験生「大学入ったら、何しよっかなー」

受験生「とりあえず、一年の間はサークルとバイトに精を出して……」

受験生「就職先は……大手メーカーかマスコミ系……。公務員も悪くない」

受験生「卒論のテーマ、どうしよっかなー」

生徒(もう受かるって確信してるのか……!)

受験生(“四月からの皮算用(ハンティングラクーンドッグ)”で、追い打ちだ!)

42: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:36:37.881 ID:zVJMEYPH0
受験生(さて、次の時間は――)

受験生(もっと直接的なやり方で、他の連中を妨害するッ!)

受験生(歯ぎしり!)ギリギリ

受験生(あくび!)ファァ…

受験生(貧乏ゆすり!)ガタガタ…

受験生(舌打ち!)チッ

受験生(独り言!)ボソッ

受験生(試験官にギリギリ聞こえない程度の音量で、周囲の集中力を削ぎまくるッ!)

受験生(“騒音公害(ヘルサウンド)”で不合格という地獄に落ちなッ!)

生徒(あわわわ……集中しないと!)

43: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:38:18.361 ID:zVJMEYPH0
――

生徒(さっきの時間はうるさかった……)

受験生「よう」

生徒「! あっ……」

受験生「もしかして、うるさかったか? ごめんな」

生徒「いや、大丈夫だよ……」

受験生「そっか」

47: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:42:12.380 ID:zVJMEYPH0
受験生「四月からは俺たち、同じ大学に通う仲になるけど……」

生徒「え」

受験生「そしたら、友達になろうな!」

生徒「う、うん」

受験生「約束だ!」

生徒(君は受かるだろうけど、僕は……)

受験生(“予約された友情(フューチャーフレンド)”で、勝手に約束をして、精神的苦痛を与える!)

49: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:45:18.073 ID:zVJMEYPH0
生徒(いよいよ、泣いても笑っても最後の教科だ……)

生徒(彼は……?)チラッ

生徒「!?」

受験生「ふんふ~ん」サッサッ

生徒(持ってきた鉛筆で、お城を組み立ててる! すごい上手いし!)

受験生(究極奥義“鉛筆城(ペンシルキャッスル)”――完成!)

受験生(この城を見た他の受験生たちはもはや、己の矮小さをただ嘆くのみ!)

受験生(ついでに消しゴムで砦も作っておこう)

54: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:48:19.938 ID:zVJMEYPH0
試験官「では、これにて試験は終了です」

試験官「皆さん、お疲れ様でした。気をつけてお帰り下さい」



ワイワイ…

受験生「じゃな、また会おうぜ!」

生徒「う、うん」

受験生(あいにくもう会うことはないだろう……)

受験生(なぜなら、合格者と不合格者が再会することはありえないからな!)





そして、時は流れ……

56: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:51:17.068 ID:zVJMEYPH0
……

……

司会「新入生を代表して、挨拶をお願いします」

学生「は、はいっ!」

学生(僕は晴れて、この大学に入学できた)

学生(これというのも、隣に座っていた彼のおかげだ)

学生(僕はいつも、試験では緊張してしまって、実力を出せなかった)

学生(模試では絶望的な結果ばかり出し、塾の先生や親からも呆れられ、諦められてた)

学生(だけど――)

57: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:54:16.928 ID:zVJMEYPH0
学生(あの日、彼が気さくに話しかけてくれたおかげで、僕はリラックスできた)

学生(彼が圧倒的学力を見せつけてくれたおかげで、僕は気楽に試験に臨めた)

学生(彼が試験中うるさかったことで、かえって試験に集中できた)

学生(それどころか、僕の入試の成績はトップだったらしく、こうして代表挨拶もすることになった)

学生(だけど……入学式に彼の姿はなかった……)

学生(それはそうだ。きっと彼は……もっと上の大学に入ったに違いないのだから)

学生(ありがとう、友よ。僕は生涯君のことを忘れない)

60: 名無しさん 2020/07/01(水) 18:56:07.859 ID:zVJMEYPH0
一方、その頃――

受験生「すいませーん」

受付女「はい、なんでしょう」

受験生「浪人するんで、こちらの予備校に入学したいんですが……」







END