1: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:00:24.959 ID:QYO9qcco0
第一話『暗殺者集団』



暗殺者「今日もナイフ舐めるぞぉ~!」ベロベロ

女「……キモッ」

暗殺者「あ? どこがキモイんだよ!」

女「自分の武器を舐める奴なんて気持ち悪いに決まってんでしょ」

暗殺者「んなことねーよ! 誰だってやってるだろ!」

女「やらないわよ」

暗殺者「お前の武器は糸だが、糸で歯の間をシーシーしたりするだろ?」

女「するわけないでしょバカ!」

引用元: ・暗殺者「今日もナイフ舐めるぞぉ~!」女「……キモッ」

4: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:04:22.464 ID:QYO9qcco0
青年「女さんに同感です。武器に口をつけるなんて不潔ですよ」

暗殺者「吹き矢使いのお前に言われたくねーよ!」

毒娘「そんなにナイフっておいしいの? だったらあたしにも舐めさせて~」ペロン

暗殺者「ダメ! 猛毒人間のお前が舐めたら、ナイフがダメになっちまう」

毒娘「ちぇ~」

女「武器を舐めるなんて、三流のやることよ」

暗殺者「三流で結構! 絶対やめないもんね~」ベロベロベロ

首領「静かにしろ、お前たち」

暗殺者(い、いつの間に……!)

6: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:07:18.600 ID:QYO9qcco0
首領「俺がこの世で最も嫌いなことは、部下が騒がしいことだ」

暗殺者「す、すいません」

首領「では今日も始める。お前たちは道具だ」

四人「私たちは道具です!」

首領「王国のために働け」

四人「王国のために働きます!」

首領「俺の命令に絶対服従しろ」

四人「首領の命令に絶対服従します!」

首領「よし、今日の指令を言い渡す」

暗殺者(ふぅー……いつものことながらこの人は怖えーよ……)

12: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:10:15.618 ID:QYO9qcco0
首領「暗殺者と女は暗殺任務。二人で組んで、標的を始末してもらう」

暗殺者「はいっ!」

女「はいっ!」

首領「青年と毒娘は残って事務作業。俺を手伝え。毒娘は手袋をつけてな」

青年「首領と……うう……」ガクッ

毒娘「やったぁ! 首領とお仕事できるなんて幸せ~!」

暗殺者(あーよかった。首領と事務作業なんて、重しつきで海に沈められるより息苦しいわ)

13: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:13:19.809 ID:QYO9qcco0
……

暗殺者「標的は……人さらいの商人か」

暗殺者「表向きは雑貨商だが、密かに子供をさらっては、高値で売り払ってるらしい」

女「……クズね」

暗殺者「それと子供達が捕まってるから救出しろとのことだが、何人ぐらいいるかな」

女「一人や二人じゃないでしょうね。20人くらいはいるんじゃない?」

暗殺者「だったら……」

暗殺者「ちょっと買い物してくる」

女「え?」

14: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:16:14.082 ID:QYO9qcco0
買い物から戻る暗殺者。

暗殺者「お待たせ」

女「ったく、なに買ってたのよ」

暗殺者「ま、いいからいいから」

女「さ、行くわよ。奴は町外れの屋敷にいるわ」

暗殺者「ナイフの声が聞こえる……こいつ、血を求めてやがる」ベロッ

女「私には唾液は求めてないって声が聞こえてくるわ」

17: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:19:43.592 ID:QYO9qcco0
― 商人の屋敷 ―

番兵A「あーあ、見回りなんてかったりー……」

暗殺者「…………」シュバッ

番兵A「がっ……!」ブシュゥゥゥゥ…

ナイフで首を切る。

番兵B「侵入者か!?」

女「こっちよ」グイッ

番兵B「ぐええっ……」ガクッ

糸で首を絞める。

暗殺者「なかなか骨が折れるな。下手な貴族の屋敷よりよっぽど厳重だぞ」

女「儲けてます、悪いことしてますっていってるようなもんね」

18: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:22:25.477 ID:QYO9qcco0
商人「な、なんだお前たちは……!? 警備はどうした!?」

暗殺者「あらかた片付けた。残りはお前だけだ」シャッ

商人「ひっ……殺し屋!?」

商人「ま、待ってくれ……見逃してくれ! 金なら……いくらでもやる!」

暗殺者「ホントか!」

女「え?」

商人「本当だとも! 言い値で払ってやろう!」

暗殺者「じゃあ……」

20: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:25:40.228 ID:QYO9qcco0
暗殺者「任務放棄して失業する俺たちに、一生遊んで暮らせるようそれぞれ1億Gずつ」

暗殺者「それと捕まってる子供達に慰謝料として、これも1億Gずつ」

暗殺者「あとブチ切れた首領をなだめるのに、100億Gはかかるかな」

暗殺者「今すぐよこせ」

商人「そ、そんなに払えるわけが……」

暗殺者「じゃあ見逃しません」ザシュッ!

商人「ぐはっ!」ブシュゥッ

暗殺者「一分で絶命するように切っておいた。一分間、せいぜい今までに売買された子供達に詫びろ」

商人「あっ、あっ、あひゃぁぁぁぁっ!」ブシュゥゥゥゥゥ…

女「ったく、ホントに見逃すのかと思っちゃったわよ」

暗殺者「どんだけ安く見られてるんだよ俺は」

21: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:28:25.867 ID:QYO9qcco0
女「子供達がいたよ!」

ウッウッ… シクシク…

暗殺者「みんな、もう大丈夫だぞ! お父さんお母さんのところに帰れる!」

「ホント……?」

暗殺者「ホントだとも。ほらキャンディだ。みんなで舐めながら帰りな」

「わっ、ありがとう!」

「あま~い!」

「なにも食べてなかったんだ……」

ペロペロ…

女「そっか、さっきはキャンディ買ってたんだ。いいとこあるじゃない!」

暗殺者「…………」

…………

……

22: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:31:11.336 ID:QYO9qcco0
父『キャンディうまいか?』

子『おいしい!』ペロペロ

その光景を見つめる、ボロを着た少年。

少年『…………』

少年『いいなぁ、俺もキャンディ舐めたい』

少年『だけど俺には……このナイフぐらいしか……』

ペロ… ペロ…

23: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:33:50.973 ID:QYO9qcco0
やがて――

首領『お前がここらでチンピラ相手にナイフを振りかざし、金品を巻き上げてるという小僧か』

少年『だったら……なんだってんだよ!』

首領『このままだとお前は遠からず殺される。どうだ、俺のためにそのナイフを振るう気はないか?』

少年『ふざけんな! 俺は誰の下にもつかねえ!』

首領『だったらこうしよう。お前、そのナイフで俺を10回刺してみろ。もし俺が死ななかったら俺につけ』

少年『おもしれえ……!』ペロリ

…………

……

暗殺者(全然刺さらねえでやんの。どうなってんだ、あの人の筋肉は……)

24: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:36:32.322 ID:QYO9qcco0
ワハハハ… オイシー… ペロペロ…



暗殺者「…………」

女(こいつの子供達を見る目……まるで羨ましがってるような……)

女(もしかして、いつもナイフを舐めてるのは、キャンディの代わりにしてたから……?)

女「ねえ」

暗殺者「ん?」

女「ナイフ舐め、やっぱりやってていいんじゃない? 鉄分取れそうだしさ」

暗殺者「なんだよいきなり。気持ち悪い」

女「なによそれ!」

26: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:39:35.811 ID:QYO9qcco0
……

ある日――

― 暗殺部隊本部 ―

女「おっはよー」

暗殺者「おはよう。まだ俺とお前しか来てねえぞ」

女「ねえ、私キャンディ買っちゃったから一緒に舐めない?」

暗殺者「ガキかよ」

女「いいじゃない。私一人で舐めるのも恥ずかしいしさ」

女「たまには優しくしてくれてもいいでしょ。ね?」

暗殺者「……しょうがねえな」

女「はい、どうぞ」

ペロペロ… ペロペロ…

27: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:41:08.723 ID:QYO9qcco0
女「たまにはキャンディってのもいいもんでしょ――」ペロペロ

暗殺者「あのさ……もう一本ない?」

女「舐めるの早っ!」







―おわり―

29: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:46:26.640 ID:QYO9qcco0
第二話『毒に愛された娘』



赤子『びぇぇぇぇぇん……!』

夫『ガキってのがこんなに手間かかるもんだとはな』

妻『毎日うるさくってたまらないわ』

夫『育てるの飽きたし、もう捨てちまおうぜ』

妻『いいけどどこへ? バレたらまずいわよ』

夫『国中の廃棄物が集まるヘドロ川に捨てれば大丈夫だろ。埋もれて誰も気づかねえ』

妻『うん、そうしましょ』

30: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:49:33.076 ID:QYO9qcco0
……

少女『…………』グチャクチャ

首領『お前がこのヘドロ川で、汚染まみれの土や泥を食って生き抜いてきたという少女か』

首領『話を聞いた時は作り話だと思ったが、実在したとはな』

少女『ちか……づかない、で……』

首領『言葉を話せるのか? 廃棄業者から学んだのか、大したものだ』

少女『あたし……ふれると、はなは、かれるし……ひとは、しぬ……から……』

首領『生憎だが、人間というのは“押すな”といわれると押したくなるし、“近づくな”といわれると近づきたくなる生き物なのだ』

首領『俺も暗殺者として毒物への訓練はこなしている。どれ、勝負といこうか』ズイッ

少女『だ……め……』

32: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:52:20.999 ID:QYO9qcco0
ギュッ…

少女を抱き締める首領。

少女『!』

首領『む、なるほど……触れるだけで体を侵食してくる……』ジワジワ…

首領『だが、俺を殺せるほどではないな。俺の勝ちだ』ジワジワ…

少女『うっ……うっ……』

首領『泣いてるのか』

首領『どうだ……俺と一緒にこの川を出ないか?』

少女『う、ん……』

…………

……

33: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:55:27.697 ID:QYO9qcco0
毒娘「…………」

暗殺者「どうした、なにボーっとしてんだ」

毒娘「首領のこと考えてたの~」

暗殺者「首領?」

女「毒娘ちゃんは、首領にベタ惚れだもんね」

毒娘「うん」ポッ…

暗殺者「あんな殺意を具現化したようなガチムチ親父のどこに惚れる要素があるんだか」

青年「ホントですよね。殺しも素手でやるし、正体が鬼や悪魔だっていわれても驚きませんよ」

毒娘「ちょっとぉ、首領をバカにすると許さないよ」ムワァァァ…

暗殺者「や、やめろ! 毒素出すな!」

34: 名無しさん 2020/09/21(月) 16:58:16.644 ID:QYO9qcco0
暗殺者「だけど、首領ってあれで奥さんいるからな」

青年「え、そうなんですか!?」

暗殺者「俺らの訓練や任務で忙しくて、滅多に家には帰ってないけど」

青年「じゃあ、この恋は……」

毒娘「奥さんのことは知ってる。だけどいいの、報われなくて」

毒娘「あたしは毒使い。報われないぐらいでちょうどいいんだもん」

暗殺者「そんなもんかねえ」

35: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:01:44.040 ID:QYO9qcco0
……

首領「今日の任務だ」

首領「標的はある夫婦。違法薬物の売買に手を染めており、消すのが妥当だと判断が下った」

女「夫婦揃って悪党……ってやつね」

青年「よくあるパターンですね」

首領「この夫婦は、毒娘、お前の実の両親だ。これは確かな情報だ」

毒娘「え」

三人「!?」

首領「お前が始末してこい」

毒娘「…………!」

36: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:04:30.281 ID:QYO9qcco0
暗殺者「ちょっと待ってくれ、首領!」

暗殺者「なんでよりによって……他の三人でもいいんじゃ……」

首領「…………」

首領「俺がいつ、道具に意見を求めた?」

暗殺者「あ、いえ……その……」

首領「俺がこの世で最も嫌いなことは、部下に意見されることだ。分かってるはずだな?」

暗殺者「…………!」

暗殺者「だ、だけど……いわせてもらう! 俺らはあんたの命令なら、なんでもやる、けど……」

暗殺者「いくらなんでもこの任務はあんまりだ! 親殺しなんて……!」

首領「お前も少しは使えるようになったと思ってたが……残念だ」

首領が立ち上がる。

37: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:07:06.129 ID:QYO9qcco0
毒娘「やります!」

暗殺者「!」

毒娘「あたし、やりまーす! ほら、二人とも喧嘩はやめてったら」

暗殺者「毒娘……」

首領「よし……ならば、後詰めとして暗殺者も同行しろ」

毒娘「はいはーい、頑張ろうね~」

暗殺者「お、おう……」

38: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:10:06.425 ID:QYO9qcco0
― ヘドロ川 ―

ドロドロ… ブクブク…

暗殺者「いつ来てもくっせえ川だ……」

毒娘「あたしにとっちゃ慣れたもんだけどね」

暗殺者「お前はここに捨てられて……猛毒人間になったんだったな」

毒娘「そう! 我ながらよく生きてたもんだよね!」

暗殺者(訓練の成果もあって、今やこいつは自在に毒を生み出すことができる)

暗殺者(人を眠らせる毒、窒息させる毒、失明させる毒、肌に異常を起こす毒)

暗殺者(もちろん、地獄のような苦しみを味わわせてから殺す毒も……)

39: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:12:22.713 ID:QYO9qcco0
暗殺者「あの家だ……あそこにお前の両親は住んでる」

暗殺者「どうする? なんなら俺がやっても――」

毒娘「へーきへーき。じゃ、行ってくるね~」タタタッ



暗殺者「…………」

暗殺者(俺はどうしようか……)

暗殺者(とりあえずナイフでも舐めてるか、うん)ベロベロベロ

40: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:15:28.012 ID:QYO9qcco0
― 暗殺部隊本部 ―

青年「…………」フッ

プスッ

青年「よし、ど真ん中命中! 今日も吐息が冴えてる!」

女「……首領」

首領「なんだ」

女「どうして……毒娘ちゃんに今回の任務を?」

女「それにいつもの首領でしたら、標的の詳しい素性なんていちいち私たちに教えないはず……」

首領「…………」

首領「どんな親であろうと、親は親だ。どこかで決着はつけねばならんだろう」

41: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:18:42.800 ID:QYO9qcco0
……

暗殺者「…………」ベロベロベロ

毒娘「おーい、終わったよ!」

暗殺者「ハッ!」

毒娘「あんた、フォロー役なの忘れて、完全にナイフ舐めに熱中してたでしょ」

暗殺者「いや! んなことねえって……ハハ」

毒娘「首領にチクっちゃおっかな~」

暗殺者「やめてくれ!」

首領『俺がこの世で最も嫌いなことは、部下が仕事を忘れてナイフ舐めに熱中することだ』

暗殺者「とかいわれて、今度こそ殺される!」

毒娘「アハハ、言いそう~」

42: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:21:53.758 ID:QYO9qcco0
暗殺者「……でさ」

毒娘「ん?」

暗殺者「どうやって……始末したんだ?」

毒娘「…………」

暗殺者「あ、いや悪かった! 変なこと聞いたな……」

毒娘「安楽死してもらったよ」

暗殺者「え?」

毒娘「二人が飲んでた紅茶に毒入れてね。二人とも眠るように死んじゃったよ」

43: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:24:03.570 ID:QYO9qcco0
暗殺者「なんで……苦しめて殺さなかったんだ? 恨んでも恨み切れないだろうに……」

毒娘「えー、だって、あの人たちがあたしを産んでくれなきゃ」

毒娘「それでヘドロ川に捨ててくれなきゃ、首領やみんなには出会えなかったわけじゃん?」

毒娘「あの二人には感謝しかないもの! だから親孝行、ね」

暗殺者「…………」

45: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:27:13.171 ID:QYO9qcco0
暗殺者「お前、いつだったかナイフ舐めたがってたよな? 舐めていいぞ」

毒娘「あれあれ? あんたも優しいとこあるじゃん」

暗殺者「俺はいつも優しいっての」

毒娘「じゃ、お言葉に甘えて」ペロン

暗殺者「どうだ?」

毒娘「ん~、ナイフの味って感じ」

暗殺者「なんだそりゃ」

アハハハハ…

46: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:29:10.270 ID:QYO9qcco0
……

暗殺者「これ、研いでもらいたいんだけど」

研ぎ師「なんだこりゃ!? 毒液でも浴びたのかってぐらい錆びちまってるじゃねえか!」

暗殺者「まあ……毒液というか、毒舌だな」







―おわり―

48: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:33:29.538 ID:QYO9qcco0
第三話『国王を守れ』



暗殺者「お、キャンディだ」ソッ…

バチンッ!

暗殺者「いでええええええ! なんだこりゃ!?」

青年「アッハッハ、引っかかりましたね! イタズラグッズを売ってたんで、仕掛けてみました!」

青年「これが本物の罠だったら、暗殺者さん死んでましたよ」

暗殺者「くう……! 許さん!」チャッ

青年「ひええ、暴力反対!」

女「二人ともやめなさいよ、みっともない」

毒娘「ホントホント」

49: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:36:36.619 ID:QYO9qcco0
……

首領「国王護衛任務の要請が入った」

暗殺者「護衛ですか」

女「これまた珍しい」

首領「一週間後、大広場にて、国王陛下による演説と王冠の新調が行われる」

首領「そこで、陛下の命が狙われるというかなり確度の高い情報が入った」

首領「≪王宮護衛団≫との共同任務になる。心してかかれ」

暗殺者「王宮護衛団……あいつらか」

青年「なんですか、それ?」

暗殺者「王や貴人の護衛を任務とするエリート集団ってとこだ。これまでにも何度もテロを未然に防いでる」

暗殺者「俺たちが裏から国を守ってるとしたら、奴らは表で守ってる。いってみりゃ光と影だな」

毒娘「光トカゲ? すっごい眩しそう!」

暗殺者「新種の爬虫類を作るな」

51: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:39:34.437 ID:QYO9qcco0
首領「ああ、それと毒娘。人混みでの任務になるゆえ、お前はここで待機してもらう」

毒娘「はーい!」

首領「すまんな」

毒娘「いえいえ! 首領のそのお心遣いに、あたしはうっとりでーす!」

暗殺者「バ、バカな……! 首領が……謝った!?」

女「信じられないわ……!」

青年「明日は雪ですかね!? それとも台風……。大地震……。世界の終焉……」

首領「俺がこの世で最も嫌いなことは、ちょっと謝っただけで驚かれることだ」

三人「す、すみませーん!」

53: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:43:27.923 ID:QYO9qcco0
当日――

― 大広場 ―

ワイワイ… ガヤガヤ…

女「人が大勢集まってるねー」

暗殺者「そりゃそうだろ。王様を見られるチャンスなんて、そうあるもんじゃない」

女「暗殺できるチャンスもってことね」

青年「あ、誰か来ますよ」

団長「これはこれは暗殺部隊の諸君、首領殿から話は聞いてる。今日はよろしく頼むよ」

暗殺者「こちらこそ」

団長「それにしても――」

暗殺者「?」

54: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:46:51.668 ID:QYO9qcco0
団長「ナイフ使いに糸使い、それと吹き矢使い。ここにはいないが毒使いもいるらしいな」

団長「暗殺部隊とは名ばかりの、とんだ色物集団じゃないか」

暗殺者「色物集団だとォ……!?」

暗殺者「くっ、返す言葉もない……」

女「うん……私たちのことを的確に表した言葉だわ……」

青年「色物どころかゲテモノだったりして……」

団長「そこは頑張って返して欲しかった」

55: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:48:41.006 ID:QYO9qcco0
団長「まぁいい。我らもプロだ。お前たちについてとやかく言わん。陛下を守れればそれでいい」

団長「手柄を立てようと無茶な真似をして、我らの完璧な警備を邪魔することだけはやめてくれよ」

ザッザッザッ…

暗殺者「ふん、なーにが“完璧な警備”だ!」

女「ネズミ一匹通さないとかいって通しちゃう感じのやつよね」

青年「色物なのは認めますが、負けてられませんよ!」

暗殺者「俺たちも暗殺者としての視点から、敵ならどうやって王を狙うか考えながら警備しよう」

女「そうね」

青年「分かりました!」

56: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:51:34.192 ID:QYO9qcco0
国王の演説が始まった。

国王「親愛なる国民たちよ、君たちの前でこうして話せることを嬉しく思う」

国王「君たちがいるからこそ、こうして王朝は成り立っているのである……」

ワアァァァァァ……!



暗殺者(ついに始まったか……)

暗殺者(だが、いうだけあって護衛団の警備はマジで完璧だ)

暗殺者(要所要所に屈強そうなのが配置してあって、まるっきりスキがねえ)

暗殺者(もし暗殺部隊で国王を狙うとしたら、それこそ強引な方法取るしかないだろうな)

暗殺者(俺がナイフで特攻するとか……)

57: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:54:08.465 ID:QYO9qcco0
暗殺者「どうだ?」

女「出来る限り、糸を張り巡らせてるけど……それらしき気配は感じ取れないわね」ピンッ

青年「僕もです。怪しいのがいたら、すぐ吹き矢を発射するつもりですけど……」

暗殺者「だよなぁ」

暗殺者(警備がキツイから諦めたのか……? いや、とてもそうは思えねえ)

暗殺者「なぁ、あんた」

市民「ん? なんだよ? いいとこなのに……」

59: 名無しさん 2020/09/21(月) 17:57:33.349 ID:QYO9qcco0
暗殺者「今日、王様は何をするんだ?」

市民「今更なにいってんだよ! 演説と王冠の新調だっての!」

暗殺者「王冠の新調ってのは、新しくするってことか」

市民「そうだよ。新しく作られた王冠を、陛下がこの場で被るんだよ! 見てるのに邪魔すんなよ!」

暗殺者「…………」

暗殺者「もしかして、その王冠を手渡す奴が王様を襲ったりして」

女「そんな手が通用するような警備じゃないわよ」

女「それに、手渡すのは同じく壇上に立ってる大臣がやるでしょ?」

青年「大臣が暗殺者だったり、王冠そのものが襲いかかるならともかく……」

暗殺者「だよなぁ」

60: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:00:14.578 ID:QYO9qcco0
暗殺者「いや、ちょっと待てよ。王冠そのものが襲いかかる……?」



『お、キャンディだ』 バチンッ! 『いでええええええ! なんだこりゃ!?』



暗殺者「俺が青年にやられたイタズラ……もしああいう仕掛けが王冠に施されてたとしたら……」

暗殺者「王のために作られた王冠を事前に誰か被るなんてありえないから……ノーチェックだろうし……」

女「あっ」

青年「あっ」

暗殺者「ヤバイ!!!」

61: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:03:30.855 ID:QYO9qcco0
大臣「ではこれより、職人から納入された新しい王冠を陛下にお被り頂く」

大臣「どうぞ」

国王「うむ、デザイン・装飾ともに、素晴らしい出来栄えだ」



ワイワイワイ… ガヤガヤガヤ… オオッ…



暗殺者「もう被っちまう! 一か八か、妨害するしかない!」

女「私の糸じゃ届かないわ!」

暗殺者「俺のナイフも無理だ!」

青年「じゃあ僕しかいないってことですね」

暗殺者(そうか、こいつの吹き矢があった!)

62: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:06:36.068 ID:QYO9qcco0
暗殺者「だけど時間がない! 一発でも外したら終わりだぞ!」

青年「外したら終わり?」

青年「じゃあ――終わらないってことですね」

青年は悠々と筒を口に咥えると――



フヒュッ!

カァーンッ!



一矢で王冠を弾き飛ばした。

63: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:09:41.360 ID:QYO9qcco0
弾き飛ばされた拍子に――

ガシャンッ!

国王「うわっ、なんだこれは……!?」

大臣「王冠から刃が……!」

団長「どうされました!?」タタタッ

大臣「王冠に仕掛けが施されておったのだ! 被ると刃が飛び出るようになっていた!」

団長「なんですって!?」

ザワザワ… ドヨドヨ…



青年「ね?」

暗殺者「…………」

暗殺者「よくやった」ゲシッ!

青年「痛い! なんで蹴るんですか!?」

暗殺者「ごめん、なんか蹴りたくなった」

女「気持ちは分かるわ……」

64: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:16:22.879 ID:QYO9qcco0
無事、式典は終わり――

団長「このたびは陛下の命を救ってくれてありがとう」

団長「どうやら、王を狙う者たちが王冠職人を抱き込んで暗殺を謀ったらしい」

団長「我らだけでは陛下を守れなかった。実力を侮るようなことをいって申し訳ない」

暗殺者「いや、あんたらの警備が万全だったからこそ、他の可能性を考えられたわけだし、お互い様だよ」

去っていく団長。

暗殺者「イヤミでもいってやろうと思ったのに、あてが外れたな」

女「彼らもプロだったってことね」

暗殺者「にしても、相変わらずすごい腕だな、お前の吹き矢は。百発百中だ」

青年「…………」

65: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:18:42.125 ID:QYO9qcco0
……

…………

青年(あいつを殺せば……大金をもらえる! 貧しい暮らしから抜け出せる……!)フヒュッ!

首領『ん?』パシッ

青年『え……!?(キャッチされた……!)』

首領『あそこか』

青年(場所もバレた!)

首領『…………』ドドドドドッ

青年(しかも追いかけてきた! は、速いっ!)タタタッ…

首領『…………』ドドドドドッ

青年『ひいいいいっ……!』

66: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:20:55.877 ID:QYO9qcco0
ガシッ!

青年『ああ……ああああ……!』

首領『いい腕だ。的確に俺の頸動脈を狙っていた』

青年『…………!?』

首領『お前をスカウトしたい』

青年『は……!?』

……

67: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:22:10.662 ID:QYO9qcco0
青年「……百発百中とはいきませんけどね」

暗殺者「そうなのか?」

青年「だけど、もう外しません。僕はもう国を守る暗殺部隊の一員ですから!」







―おわり―

70: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:27:24.514 ID:QYO9qcco0
第四話『糸とナイフ』



青年「僕らって、みんな順風満帆な人生なんて送れてませんよね」

暗殺者「そりゃ、そんな人生送ってたら暗殺なんてやってねえよ。キャンディ屋になってる」

青年「ってわけで不幸自慢対決でもしません?」

暗殺者「いいぜ」

毒娘「じゃああたしからー! あたしは赤ん坊の頃にヘドロまみれの川に捨てられて……」

暗殺者「はい、優勝」

青年「僕もそれなりに貧困を味わったけど、流石に敵わないよ……」

毒娘「イェイ!」

暗殺者「イェイじゃねーだろ」

71: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:30:37.752 ID:QYO9qcco0
青年「女さんはなにかないんですか? 自慢できるような不幸」

女「…………」

青年「教えて下さいよ~」

女「青年君」

青年「はい」

ヒュルルッ

首に糸が巻きつく。

青年「え」

女「君はちょーっとデリカシーが足りないかな?」

青年「すいませんでしたぁ!」

毒娘「アハハ、絞めちゃえ絞めちゃえ」

暗殺者(そういや、あいつの過去はあまりよく知らないんだよな……)

72: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:33:17.567 ID:QYO9qcco0
……

首領「今日の任務は二つ。標的Aは、暗殺者と女の二人で始末してこい」

暗殺者「はい」

女「分かりました」

首領「青年と毒娘は、標的Bだ」

青年「じゃ、毒娘ちゃん、いつものように」

毒娘「あんたの吹き矢の筒に毒を塗ってあげる!」

青年「いやいやいや、筒に塗ったらダメだって! 矢に塗って!」

73: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:35:14.353 ID:QYO9qcco0
ペアで仕事にとりかかる二人。

女「逃がさないわ」ヒュルルルッ

ガシッ!

標的「ぐえっ……!? う、動けない……」

暗殺者「ナーイス」

グサッ!

急所を突き刺す。

標的「ぐおぉっ……!」ガクッ

74: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:38:26.354 ID:QYO9qcco0
暗殺者「始末しました」

首領「ご苦労」

首領「このところ、だいぶ手際がよくなってきたな」

暗殺者「ありがとうございます!」

女「ありがとうございます」

毒娘「ねえねえ、あの二人……」

青年「なに?」

毒娘「このところ、いい感じじゃない?」

青年「確かに……縛ってから刺すコンビネーションも強力だし……」

毒娘「ひょっとして、近々恋仲になるかも……」ムワァァァァ

青年「好奇心で毒素出てる出てる!」

75: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:40:43.114 ID:QYO9qcco0
スタスタ…

暗殺者「…………」

女「…………」

暗殺者「今日はいい仕事ができたな」

女「そうだね」

暗殺者「…………」

女「…………」

暗殺者「この後、ちょっと飲みに行かないか?」

女「いいよ」

76: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:44:42.030 ID:QYO9qcco0
― 酒場 ―

マスター「ご注文は?」

暗殺者「ナイフの味にマッチするやつを頼む」ベロベロベロ

女「ったく、こんなとこで舐めないでよ。ムード台無し」

マスター「では……≪ナイフカットスレッド≫はいかがです?」

暗殺者「なにそれ?」

マスター「“ナイフで糸を切る”という意味のカクテルで、切れ味鋭い味が楽しめますよ」スッ

暗殺者「ふうん」グビッ

女「いただくわ」クイッ

女「うん、辛めでおいしい!」

暗殺者(ホントに鋭いなこれ! キッツイわ! 俺、甘党だし……)ゲホッ

77: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:47:17.255 ID:QYO9qcco0
女「ところで、なにか聞きたいことでもあるんでしょ?」

暗殺者「ん、まぁな……」

暗殺者「昼間のやり取りで、そういや俺、お前の過去あまり知らないな、と思って」

暗殺者「元々は服屋やってたんだろ? なんでこんな道に……」

女「…………」

暗殺者「いや、話したくなきゃもちろん話さなくていいんだけどさ」

女「ううん、話してあげる。こんなおいしいカクテル、飲ませてもらったお礼」

暗殺者(え、これ美味いかな……。正直、この一杯飲みきるのもキツイんだけど)

…………

……

78: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:50:27.411 ID:QYO9qcco0
女は若くして、亡き両親から受け継いだ服屋を営んでいた。

糸を紡ぐのが得意であり、その糸を用いた衣服は丈夫でデザインもよく、なかなかの評判であった。

町娘『こんないいワンピース作ってくれてありがとう!』

女『どういたしまして』

そして、常連客の一人が――

女『いらっしゃいませ!』

紳士『コートのほつれを直してもらいたくてね』

女『はい、承ります!』

女(素敵な人だなぁ……いつかこの人に服を作ってあげよう)

79: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:53:32.086 ID:QYO9qcco0
ある日――

女『できた!』

女(紳士さんにこの服をプレゼントしよう! そして想いを伝えるの!)

ギィィ…

紳士『やぁ』

女『いらっしゃいませ!』ドキドキ

紳士『君はいつ見てもキレイだね』ニコッ

女『そんな……キレイだなんて。お上手なんだから』

紳士『いや、世辞なんかじゃないよ。だって私は……いつも君を襲いたかったんだからねェ!!!』

女『え!?』

81: 名無しさん 2020/09/21(月) 18:56:53.159 ID:QYO9qcco0
バシッ! バキッ!

女『いやっ……! やめで……!』

紳士『いいじゃないか……減るもんじゃなし。それに君だって私に惚れてたんだろォ?』

紳士『紳士、色を好むとでもいうのか……。私はいい女を見ると、ムリヤリこうしたくなるんだよねェ!』

女(こんな人、だったなんて……!)

女『このっ!』シュルルッ

紳士『えっ!?』

女『ぐうっ!』ギュッ

紳士『ぐええっ……がっ……糸で首を……!?』

女『くううっ……!』ギュゥゥゥ…

紳士『あ……が……』ガクッ

女『はぁ、はぁ、はぁ……』

女『殺し……ちゃった……』

82: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:00:17.029 ID:QYO9qcco0
女は糸で自ら首を吊ろうとする。そこへ――

首領『待てい』

女『!』ビクッ

首領『大したものだ』

女『へ……?』

首領『この男は俺の標的だったのだが、先を越されてしまった』

首領『この糸で絞めたのか……俺の力でも容易には切れんな。死なすに惜しい人材だ』

女『あ、あなたは……?』

首領『どうしても死にたいのなら止めんが……お前には死以外に三つの選択肢がある』

首領『一つ、こいつを始末したのは俺ということにし、このまま今まで通り店を続ける』

首領『二つ、自首しありのままを全て打ち明ける。正当防衛になる可能性も高いだろう』

女『いえ……私はもう……』

首領『そして、三つ目は……』

83: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:03:22.253 ID:QYO9qcco0
……

暗殺者「で、スカウトに乗ったわけか」

女「うん……。『国を守るため、お前の力を貸して欲しい』って言葉が効いたの」

女「それに、あの首を絞めた嫌な感触、死にゆく紳士さんの顔、とても忘れられそうになかったから……」

女「いっそ全然ちがう世界に飛び込んでみたくなったの……。たとえ、暗殺業でも……」

暗殺者「そうか……」

女「服を作ってさ、プレゼントしようとした日に襲われるだなんて、とんだ初恋だったよ。アハハ」

暗殺者「…………」

84: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:05:24.709 ID:QYO9qcco0
暗殺者「今でも服は作れるのか?」

女「うん、自分のは自分で作ってるし」

暗殺者「だったら……俺の服を一着作ってくれないか?」

女「!」

暗殺者「ちょうど……新しい服が欲しかったしよ」

女「……いいよ」

暗殺者「ホントか!」

女「ただし、さっきのカクテルをもう一杯おごってね。二人で飲も」

暗殺者(えっ、俺も飲むの……)

85: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:08:23.579 ID:QYO9qcco0
……

― 暗殺部隊本部 ―

首領「俺がこの世で最も嫌いなことは、いい加減な報告書を見せられることだ」

青年「そんなにいい加減ですかね?」

首領「『矢をフッとやったら、敵がバタリと倒れた』……こんな報告書があるか。今日中に書き直せ」

青年「うう……」

毒娘「吹き矢だけじゃなく、文章の訓練もしなきゃダメね~」

暗殺者「さて、俺はそろそろ帰るか」

女「あ、ちょっと待って。渡したいものがあるの」

暗殺者「ん?」

87: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:12:09.163 ID:QYO9qcco0
女「はいこれ」

暗殺者「これは……服?」

女「約束したでしょ?」

暗殺者「あ、ありがとう……! 大切に着るよ……!」

毒娘「あ、いーなぁ。あたしも新しい服欲しいなぁ」

女「オッケー、毒娘ちゃんに似合うの作ってあげる! 毒に強い素材でね!」

毒娘「ありがとー!」

青年「僕も!」

女「あなたはちゃんと報告書書けるようになってからね」

青年「いつになるんだろう……」

アハハハ…

88: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:15:04.580 ID:QYO9qcco0
さっそく服を着る暗殺者。

暗殺者「ジャーン、どうだ?」

毒娘「いいじゃんいいじゃん! 今時の若者って感じぃ!」

青年「いいなぁ……僕もああいうの欲しい……!」

女「う~む、我ながらよくできたわね」

首領「…………」

首領(どうやら女を縛っていた糸を……暗殺者のナイフが切ったようだな)







―おわり―

90: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:20:09.095 ID:QYO9qcco0
第五話『首領』



― 訓練所 ―

首領「…………」

暗殺者「せやっ!」ダッ

ビュンッ! ヒュンッ!

巨体に似合わぬ軽やかな動きでナイフをかわすと――

首領「ぬんっ!」

ドゴォッ!

暗殺者「ぐはっ……!」ガクッ

首領「もっと虚を突け。暗殺者の攻撃が正直では話にならん」

91: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:23:27.884 ID:QYO9qcco0
女(腕を――)ヒュルルッ

糸を巻きつけようとするが、逆に掴まれてしまう。

首領「武器を敵に利用される危険性も考慮しておけ」グンッ

女「きゃっ!」ドサッ

青年「…………!」

青年(あの二人に手こずってるところに矢を当てるってプランが……いきなり破綻してしまったぞ)

青年「くそっ!」フヒュッ! フヒュッ!

首領「ヤケクソの矢が当たると思うな」パシッ パシッ

あっという間に接近され――

ガンッ!

青年「いだだだだだ……! ゲンコツだなんてひどい……!」

首領「俺が敵だったらゲンコツでは済んでないぞ」

92: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:25:38.881 ID:QYO9qcco0
首領「残るは……」チラッ

毒娘「ふ、ふふふ……あたしは三人のようにはいかないよ!」

毒娘「毒素全開!」ムワァァァァァ

毒娘「首領敗れたりィ! この状態のあたしに触ったら、いくら首領でも命の保証はないもんねー!」モワァァァ…

首領「…………」

首領はさっきキャッチした矢を投げた。

ヒュッ

チクッ

毒娘「いだぁぁぁぁい! いだぁぁぁぁい!」

首領「…………」

93: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:29:04.055 ID:QYO9qcco0
首領「今日の訓練はこれまで」

首領「まだまだ未熟だが、ヒヤリとさせられる瞬間もあった。腕は上がっている」

首領「今後も精進しろ」ザッザッ…

立ち去る首領。

暗殺者「いてて……今日こそ負かしてやると思ったけどやっぱつえーわ。化け物だわ」

女「四人がかりでこのザマだもんね」

青年「もうあの人だけでいいんじゃないかな、ってたまに思いますよね」

毒娘「首領はやっぱり強くてステキ……」キラキラ

95: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:32:57.679 ID:QYO9qcco0
青年「なんであの人はあんなに強いんですか?」

暗殺者「そりゃこの暗殺部隊を創設したのは首領だし、強くて当然だろ」

暗殺者「元々は首領ともう一人でやってたらしいが、そのもう一人がいなくなったから」

暗殺者「手が足りなくなって俺らみたいなのをスカウトしたって経緯だし」

女「上司ながら、謎が多い人よねえ」

青年「普段なにしてるのか全然想像つきませんしね」

毒娘「そんなミステリアスな首領もステキ……」キラキラ

暗殺者(このところ、首領も俺らのこと褒めてくれるようになったし、今度ダメ元で……)

96: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:36:40.164 ID:QYO9qcco0
ある日――

― 暗殺部隊本部 ―

暗殺者「あ、あの……首領」

首領「なんだ」

暗殺者「首領はたまーに自分の家に帰られますよね?」

首領「そうだ」

暗殺者「今度の休日も?」

首領「急用が入らなければそうするつもりだ」

暗殺者「首領のご自宅に……俺も一緒に行っちゃダメですかね?」

首領「別にかまわんが」

暗殺者「え、いいの!? いや、いいんですか!?」

97: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:39:14.925 ID:QYO9qcco0
首領「断る理由もない。たまにはかまわんだろう」

暗殺者「よっしゃ!」

女「それじゃ私も!」

青年「僕も!」

毒娘「あたしも行きたーい!」

暗殺者「というわけで、よろしくお願いします!」

首領「大したもてなしは出来んぞ」

暗殺者「アハハ、おかまいなく……」

暗殺者(首領のもてなしなんてむしろ受けたくないっての)

98: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:42:45.959 ID:QYO9qcco0
休日――

首領「こっちだ、ついてこい」

暗殺者「ワクワクするなぁ」

青年「首領の奥さんってどんな人なんでしょうね?」ヒソヒソ

女「さぁ、想像もつかないわ。あの首領の奥さんだし、聖人みたいな人かも……」

青年「あるいは首領の女バージョンみたいな人だったり……」

毒娘「いずれにせよ、あたしにとっては恋のライバルね! 敵情視察しないと!」

99: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:45:10.992 ID:QYO9qcco0
― 首領の家 ―

夫人「いらっしゃいませ」ニコッ

首領「部下たちだ。もてなしてやってくれ」

四人(普通だ!!!)

夫人「主人がいつもお世話になっています」

暗殺者「いえ、こっちこそ……いつも……(恐れてます)」

夫人「さ、リビングへどうぞ」

毒娘「お邪魔しまーす!」

100: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:48:44.478 ID:QYO9qcco0
首領「さて、俺は出かけてくる」

夫人「行ってらっしゃい」

夫人「今料理をお出ししますから」

息子「ごゆっくりどうぞー!」

暗殺者「おお、息子さんもいたんだ」

女「可愛いわね」

青年「首領に似なくてよかったね!」

毒娘「なでなでしちゃいたい……」

暗殺者「絶対しちゃダメ!」

息子「?」

101: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:51:22.442 ID:QYO9qcco0
ソテーにサラダにスープと、手料理が並ぶ。

暗殺者「おおっ、うまそう! いただきま~す!」

パクパク… モグモグ…

暗殺者「うまぁい!」

女「ホント。コツを教えてもらいたいくらい」

夫人「ありがとうございます」

毒娘「うう……悔しいけど料理の腕はあたしの負けね」

青年「他も負けてる気がするけど」

毒娘「うっさい!」

102: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:54:12.758 ID:QYO9qcco0
暗殺者「このナイフ……よく磨かれてて舐めたくなるな……」

女「舐めないでよ」ギロッ

暗殺者「さすがに人んちの食器は舐めねえよ。あ、やべっ……」ポロッ

夫人「どうぞ」サッ

暗殺者「! これはすみません」

暗殺者「首領に奥さんがいるのは知ってたけど、こうしてお会いするのは初めてですね」

夫人「ホントはもっと早く皆さんにお会いしたかったんですけど、主人が仕事には関わるなというので」

暗殺者「まあ、関わらない方がいいですね。仕事内容が内容ですし」

103: 名無しさん 2020/09/21(月) 19:58:01.494 ID:QYO9qcco0
暗殺者「首領はほとんど家には帰らないみたいですけど、家に帰ったらどんな感じなんです?」

夫人「淡々と食事をして休息して、ちょっと子供と遊ぶという感じですよ」

暗殺者「普段もあんな感じなんだなぁ」

女「家にいる時は人が変わる、なんてオチはないみたいね」

暗殺者「お子さんは……首領の仕事のことは?」

夫人「ちゃんと教えてはいませんが、察してるとは思います」

青年「よーし、お兄ちゃんのお腹にパンチを打ってこい! 思い切りね!」

息子「えいっ!」ドズッ

青年「ぐえっ……!? かはっ……」

毒娘「アハハ、だらしなーい!」

暗殺者(才能は受け継いでるみたいだ)

104: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:01:26.589 ID:QYO9qcco0
夫人「どうぞ、デザートのケーキです」

暗殺者「やったぁ~!」

女「この甘党が……」

夫人「主人は……よくあなたたちの話もしますよ」

暗殺者「そうなんですか?」モグモグ

夫人「このところは皆さん腕を上げた、とつぶやいてましたし」

夫人「あなたたちが王様を守った時は、珍しく機嫌がよくなってました」

暗殺者「マジですか」

女「機嫌がいいところを想像できない……」

夫人「それに、あなたがた一人一人について話してくれることもありますよ」

毒娘「え、聞きたい聞きたーい!」

105: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:04:50.981 ID:QYO9qcco0
夫人「暗殺者さんのことは、最近メキメキ腕を上げてきたと評価してましたし」

夫人「女さんも、過去を吹っ切っていい仕事をするようになった、と」

夫人「青年君は、お調子者だけどあの吹き矢の腕は本物だ、と褒めてました」

夫人「毒娘ちゃんのことは、体を心配していました。少しでも毒素を除去できないかって」

暗殺者「首領が……」

無言になってしまう四人。

夫人「それと主人は今どこに行ってると思います?」

暗殺者「いえ……」

夫人「教会です。お祈りするために」

暗殺者「教会!?」

106: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:07:30.698 ID:QYO9qcco0
暗殺者「いったい何を祈ってるんだ……」

女「国家の敵が全滅しますように、とか?」

青年「世界最強になりたい、かも」

毒娘「あたしのことだったりして!」

夫人「あの人は――」



首領『神よ、暗殺という生業について罰を与えるなら、どうか私にだけお与え下さい』

首領『部下に罪はありません。彼らは私にやらされている道具に過ぎないのですから』



夫人「――と祈ってます」

四人「…………ッ!」

110: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:09:20.014 ID:QYO9qcco0
毒娘「ほーらほら、首領はやっぱりそういう人なの! あたしらを道具扱いするのはこのためなの!」

暗殺者「ううむ……信じられない……」

暗殺者「あの、ひょっとして奥さんは幻覚を見たんじゃ?」

青年「あるいは双子の弟さんとか!」

女「二重人格かもしれないわね」

毒娘「コラーッ!」

夫人「主人がどれだけあなたたちに恐れられてるか、よく分かりました」クスッ

首領「ただいま」

夫人「お帰りなさい」

息子「お父さん、お帰りー!」

111: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:12:32.068 ID:QYO9qcco0
暗殺者「すっかりご馳走になりまして。特にケーキは最高でした」

毒娘「お話も聞いちゃいましたー!」

首領「…………」

首領「お前、なにか余計なことは話してないだろうな」

夫人「あら? あなたに私の発言を束縛する権限があるの?」

首領「いや……別にないが」

暗殺者(すげえ!)

女(奥さんが首領をやり込めた!)

青年(同じことを僕がいったらきっと……)ゾクッ

毒娘(悔しいけどお似合いだなぁ、この夫婦……)

112: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:15:23.569 ID:QYO9qcco0
暗殺者「それじゃ俺たちはこの辺で」

首領「もういいのか」

暗殺者「あとは家族水入らずで過ごして下さい」

首領「ふん、いらぬ気遣いを」

夫人「またいつでもいらして下さい」

息子「またねー!」

暗殺者「ええ、また遊びに来ます」

女「ご馳走様でした!」

青年「ご飯、おいしかったです!」

毒娘「さよなら~!」

113: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:19:08.352 ID:QYO9qcco0
ワイワイ…

女「楽しかったね」

毒娘「うん! また来たい!」

青年「あの子は将来有望だった……。まだ殴られたとこが痛いよ……」

暗殺者「…………」

女「どうしたの?」

暗殺者「いや……」

暗殺者(あの時、俺が落としたナイフをキャッチしてくれた時の動き……)

暗殺者(首領と暗殺部隊をやってた“もう一人”ってもしかして――)







―おわり―

116: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:24:30.816 ID:QYO9qcco0
最終話『暗殺部隊出動』



― 暗殺部隊本部 ―

首領「先日の国王襲撃事件、あれの糸を引いていた組織が明らかになった」

暗殺者「ああ、あの王冠に仕掛けがあったやつですか」

青年「僕が大活躍した事件ですね! この僕が! この僕の吹き矢が! 一発で王冠を――」

暗殺者「うるせえ」チャッ

青年「ナイフは危ないですって!」

女「それで……敵の正体は?」

首領「これまでにも何度も国王の命を狙っている武装テロ集団だ」

首領「長らく地下に潜っていたが、この件をきっかけにようやく尻尾を掴むことができた」

毒娘「さっすが首領!」

女「あの時から、ずっと探ってたわけですか」

117: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:27:37.102 ID:QYO9qcco0
首領「武装組織は現在、僻地にアジトを構えている」

首領「だが、軍で派手に攻撃を仕掛けると、事前に察知され雲隠れされる危険もある」

首領「さらに剣や槍だけでなく、爆薬を所持してるおそれもあり、犠牲は避けられん」

首領「そこで今回、武装組織討伐は暗殺部隊が受け持つこととなった」

首領「ついてはお前たち四人全員で臨んでもらいたい」

暗殺者「四人でかかる任務なんて久しぶりですね」

女「ホント。いつぶりだろ」

青年「ちょっとワクワクしますね」

毒娘「あたしらのチームワークの見せどころォ!」

119: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:30:28.147 ID:QYO9qcco0
首領「俺は後詰めとして控えておくが、不安ならお前たちと一緒に突入してもいい」

暗殺者「首領」

暗殺者「俺がこの世で最も嫌いなことは、首領に信じてもらえないことですよ」

暗殺者「ここは俺たち四人に任せて下さい!」

首領「ふん」

女「武装組織ぐらい潰せないと、先が思いやられるしね」

青年「いつまでも首領に頼っていられませんよ!(首領が一緒だとのびのび仕事できないし)」

毒娘「首領はゆーっくりお茶でも飲んでて!」

首領「いいだろう。ただし失敗は許さんぞ」

四人「はいっ!」

120: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:34:57.285 ID:QYO9qcco0
……

― 武装組織アジト ―

ボス「このところ、我らの活動の成果は芳しくない」

ボス「幾度かの国王襲撃は王宮護衛団にことごとく阻止され――」

ボス「王冠職人を買収しての作戦も失敗に終わった」

武装兵A「ええ、資金も底を尽きかけています」

武装兵B「もしこのアジトが発見されれば一巻の終わりです」

ボス「そこでだ」

121: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:37:06.498 ID:QYO9qcco0
ボス「今は他国に移って、力を蓄えることにする」

ボス「幸い、我らの活動を支援してくれるという国と交渉を進めることができてな」

ボス「そこでじっくり戦力を補強し、再びこの国に戻る」

ボス「その時こそ王の最期だ。我らが覇権を握ることとなる」

武装兵A「おおっ……!」

武装兵B「しかし、このアジトはどうしましょう?」

ボス「名残惜しいが、証拠隠滅のためまもなく――」

122: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:40:02.842 ID:QYO9qcco0
アジトの外――

暗殺者「あそこだ」ベロベロ

女「分かりにくい場所に建てたものね。首領もよく見つけたわ」

暗殺者「見張りがいる……。ひい、ふう、みい……7人いるな」

女「出来れば見つかりたくないわね」

青年「さっそく僕の出番ですね!」

毒娘「矢にはあたし特製の毒がたーっぷり塗ってあるよ!」

青年「おっと、自分に刺しそうになった」

暗殺者「いきなり出番が終わるところだったな……」

123: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:42:17.061 ID:QYO9qcco0
青年(首筋を狙って――)

フヒュッ フヒュッ フヒュッ



見張りA「ん? なんかチクっと……」

見張りA「ぐは……!」ドサッ…

見張りB「おい、どうした――ぐおおっ……!」ドサッ

見張りC「敵か!? ――ぐはぁっ!」ドサッ

一矢一殺で倒される見張り。

125: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:45:42.160 ID:QYO9qcco0
青年「全員仕留めました」

暗殺者「よし、突入だ」サッ

ササッ サササッ…

気配を殺し、四人がアジトに侵入する。



武装兵A「このアジトととも、もうすぐお別れか……」

グサッ!

武装兵A「ぐうっ!?」

ドサッ…

暗殺者「アジトじゃなく、この世とお別れだったな」

126: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:47:23.584 ID:QYO9qcco0
武装兵B「お、女!?」

武装兵C「武器は持ってねえ! 切り刻んでやれ!」チャキッ

女「あいにく、もう巻きついてるわよ」グイッ

ギュッ! ギュッ!

武装兵B「ぐえっ!?」

武装兵C「が、あ……」

ドササッ…

127: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:49:45.114 ID:QYO9qcco0
武装兵D「ぐへへ……おじさんといいことしよう……」

毒娘「さ、触らないで……」

武装兵D「たっぷり可愛がってあげるよぉ!」ガシッ

すると――

武装兵D「いぎゃぁぁぁぁぁ! 俺の手ぇぇぇぇぇ!?」グジュグジュグジュ…

毒娘「だから触らないでっていったのに~。バカだね~」

毒娘「んじゃ、トドメの毒液プレゼント!」ポトッ…

武装兵D「ぎえええええええっ……!」

128: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:51:40.071 ID:QYO9qcco0
ドカドカドカ…

「こっちだ!」 「見張りは何やってやがる!」 「ブチ殺せ!」

青年「うわぁ、いっぱい来た!」

青年「僕は肺活量だけは首領にだって負けない!」スゥゥゥゥゥ…

大量に吸い込んだ空気を生かし――

フヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュッ

チクククククククッ

「うぎゃあっ!」 「いでえっ!」 「あぎゃあっ!」

129: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:53:46.881 ID:QYO9qcco0
合流する四人。

暗殺者「ふぅ……ボスをとっとと探さないとな。逃げられたら最悪だ」

女「そうね。こいつらこのアジトは捨てるような発言してたし」

ドカドカドカ…

「いたぞ!」 「王国軍か!?」 「よくも仲間をォ!」

暗殺者「ちっ、まだあんなにいやがるのか」

青年「ここは屋内ですし……僕と毒娘ちゃんに任せて下さい!」

毒娘「あれやろっか!」

暗殺者「あれって?」

130: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:56:54.974 ID:QYO9qcco0
毒娘「一吸いでもしたら痺れちゃう毒ガス出すよ~」ムワァァァァァ

青年(だけど僕なら、長時間“吸わずに”動ける!)

青年「…………」フヒュヒュヒュヒュヒュッ

「うげっ……体が痺れ……」 「矢が目にッ!」 「ぐわぁぁぁっ!」

吸えない毒と吹き出す矢のコンビネーション。



暗殺者「すげえ、暗殺部隊っていうか殺戮部隊じゃん……」

女「いずれ最凶のコンビになるかもしれないわね」

131: 名無しさん 2020/09/21(月) 20:59:22.100 ID:QYO9qcco0
暗殺者「このっ!」ザシュッ

「ぐはっ……!」ドザッ…

ワァァァァ… ウォォォォォ…

女「まだ武装兵はいるみたいね」

暗殺者「ああ、ボスを守ろうとして必死だ」

女「こうなったらあなた、先に行って! ここは私が糸で食い止める!」ビシッ

暗殺者「分かった」

女「あと、これ持っていって! なにかの役に立つかも!」

糸を手渡される。

暗殺者「サンキュー!」タタタッ

暗殺者(あの奥の部屋から……強烈な殺気を感じる!)

132: 名無しさん 2020/09/21(月) 21:02:29.498 ID:QYO9qcco0
ついに――

暗殺者「やっと見つけたぜ」ペロッ

ボス「新天地へ旅立とうという矢先に、襲撃してくるとは……国もなかなか侮れぬといったところか」

暗殺者「ウチの首領は特にな」

ボス「だが、我らは……私はこんなところで終わるわけにはいかん! この国を手に入れるまで!」

暗殺者「終わるんだよ……俺のこのナイフでな」

ボス「ならばそのナイフごと、叩き斬ってくれる」スラッ…

剣を抜き、構えるボス。

暗殺者「…………ッ!」

暗殺者(さすがにかなりの威圧感だ……。“俺ここで死ぬかも感”が強くなってきた)

ボス「ゆくぞォ!!!」

135: 名無しさん 2020/09/21(月) 21:04:51.478 ID:QYO9qcco0
ボス「ぬんっ! むんっ!」

ブオンッ! ブンッ!

豪快な素振りの隙を突くように――

暗殺者(今だッ!)シュバッ

ボス「甘いわァ!」ギュルッ

ザシィッ!

暗殺者「ぐっ……!」

暗殺者(パワフルでいて、繊細さもある……こんな組織率いるだけのことはあるな)

136: 名無しさん 2020/09/21(月) 21:07:21.199 ID:QYO9qcco0
暗殺者(剣の腕はかなりのもんだ……まともにやったら勝てない!)

暗殺者「せやっ! せいっ!」シュババッ

ボス「でやぁっ!」ブオンッ

暗殺者「ちっ……」

ボス「ナイフ如きが通用すると思うか! 間合いに入ることすら不可能だ!」

暗殺者(なんとか……虚を突かなきゃ!)

ボス「正義は我にあり!!!」ブンッ

ガキィンッ! カランカラン…

ナイフが弾き飛ばされる。

暗殺者「やばっ……!」

137: 名無しさん 2020/09/21(月) 21:10:20.750 ID:QYO9qcco0
暗殺者「くそっ!」ダッ

ボス「おっと、拾わせんぞ」サッ

暗殺者「ぐっ……!」

ボス「隠し武器などもなさそうだな」

ボス「仲間が来るまでに始末せねば……両断してくれるッ!」

暗殺者「…………」

すると――

暗殺者「ジャン」サッ

ボス「な……!?(なんでナイフが……!?)」

138: 名無しさん 2020/09/21(月) 21:14:08.037 ID:QYO9qcco0
暗殺者「ナイフに糸を結んでたのさ……で、引っぱって手元に戻した」

ボス(しまっ――)

暗殺者「スキありィ!」

ザシュッ……!

ボス「ぐは……ッ!」

暗殺者(致命傷だ! だが、即死じゃない!)

ボス「まさか……こんなところで……国家転覆の夢がついえる、とは……」ゴフッ

ボス「だが……このままで、終わらん……」

ボス「このアジトは……潰、す……!」

暗殺者「……なに!?」

139: 名無しさん 2020/09/21(月) 21:16:31.528 ID:QYO9qcco0
ボス「お前ら、も、道連れ……だ……!」シュボッ

ボスが柱に火をつけると――



ドゴォォォォォンッ!!!



暗殺者「ぐおおおっ!」ドサッ

暗殺者「自爆しやがった……くそっ! 一撃で殺れてれば……!」

暗殺者(しかも……支柱みたいなもんを爆破したらしい……!)

ゴゴゴゴゴ…

140: 名無しさん 2020/09/21(月) 21:19:21.193 ID:QYO9qcco0
ゴゴゴゴゴ…

女「なにがあったの!?」

暗殺者「組織のボスが自爆して……アジト全体が崩れちまうみたいだ……」

女「アジトが……!」

青年「出入り口はどこも塞がれてますね……」

毒娘「ったく、とんだ欠陥住宅!」プンプン

女「アジトに乗り込まれた時、危険を承知でいつでも崩せるようにしてたみたいね」

暗殺者「すまねえ……俺の詰めが甘かったから……」

女「ううん、よくやったわ」

141: 名無しさん 2020/09/21(月) 21:22:33.327 ID:QYO9qcco0
ゴゴゴゴゴ…

女「あんたがそんな傷負うなんて、相当の手練れだったってことでしょうし」

青年「ええ、この四人で仕留められたのは暗殺者さんだけでしょう」

毒娘「逃がすより、自爆された方がマシ!」

暗殺者「みんな……」

女「それにさ、最期をこの四人で迎えられるのも案外悪くないかなって」

青年「ええ、不思議と怖さはないです」

毒娘「みんなで天国に行くってのもいいかも!」

暗殺者「いや、絶対地獄だろ」

アハハハハ…

142: 名無しさん 2020/09/21(月) 21:25:20.452 ID:QYO9qcco0
ゴゴゴゴゴ…

暗殺者「どうやら、ここも崩れそうだな。最後にひと舐めしとこう」ベロン

女「……キモッ」

暗殺者「キモくねーって!」

女「ふふっ、相変わらずね、あんたは」

青年「暗殺部隊のおかげで、充実した人生を送れました!」

毒娘「首領、じゃあねー! 愛してたよー!」

ゴゴゴゴゴ… ドドドドド…



ズズゥン……!

…………

……

143: 名無しさん 2020/09/21(月) 21:28:19.778 ID:QYO9qcco0
……

……

暗殺者「……ん?」

暗殺者「あれ、生きてる……他のみんなも……」

四人に覆いかぶさるように――

首領「…………」

暗殺者「しゅ、首領……!?」

暗殺者「首領が……瓦礫から俺たちを守ってくれたんですか」

首領「まあな」

146: 名無しさん 2020/09/21(月) 21:32:52.155 ID:QYO9qcco0
暗殺者「どうして……」

首領「お前たちを信じてなかったわけではない。だが、敵もただでは滅びんという予感がしたのでな」

暗殺者「いや、そうじゃなくて! 俺たちはともかく、もし、あなたが死んだら……」

首領「道具が壊れそうなのを黙って見ている持ち主はおるまい」

暗殺者「首領……!」

女「ありがとうございます……!」

青年「助かった~」ヘタ…

毒娘「首領、ありがとー!」ギュッ

首領「……よく頑張ったな」ジワジワ…

首領「任務は終わりだ……帰るぞ」

四人「はいっ!」

148: 名無しさん 2020/09/21(月) 21:35:29.123 ID:QYO9qcco0
帰り道――

青年「あれ?」

暗殺者「どうした?」

青年「糸が二人の指にからまってますよ」

暗殺者「これは……!」

女「私の糸が絡まって……」

毒娘「どこかの国では、指と指が糸で繋がってる二人は、カップルになるって伝説があるんだって」

青年「へぇ~、お二人にうってつけの伝説じゃないですか!」

暗殺者「あんまりからかうなよ」

女「もう……」ポッ

首領「なんでもいいが……」

149: 名無しさん 2020/09/21(月) 21:38:39.122 ID:QYO9qcco0
首領「さっきはだいぶ無茶をした……。早く病院に行かねば……」フラフラ

暗殺者「首領がめっちゃフラフラしてる! 初めて見た!」

青年「首領も人間だったんですね……。僕、てっきり人じゃないのかと……」ジーン

暗殺者「んなこといってる場合か。肩貸しますよ!」

青年「僕も!」

毒娘「あたしもー!」

女「毒娘ちゃんは遠慮しとこうね」

暗殺者「俺たち、もっと訓練して首領が無茶しなくてもいいようになりますから」

首領「ふん……年は取りたくないものだ……」

…………

……

150: 名無しさん 2020/09/21(月) 21:42:04.814 ID:QYO9qcco0
……

― 暗殺部隊本部 ―

暗殺者「今日もナイフ舐めるぞぉ~!」ベロベロ

女「…………」

青年「あれ? 今日は注意しないんですか?」

女「好きになっちゃうと、癖まで好きになっちゃうものね。注意する気も起きないわ」

青年「こりゃまた堂々とのろけちゃって~」

毒娘「いいなー、あたしもいつか彼氏作ってやる!」

暗殺者「お、首領は諦めたのか?」

毒娘「もちろん、本命は首領! だからキープの彼氏を作るの!」

暗殺者「彼氏が気の毒すぎるだろ」

毒娘「だってあたし、毒使いだも~ん」

151: 名無しさん 2020/09/21(月) 21:45:24.446 ID:QYO9qcco0
女「ナイフ貸して」

暗殺者「いいけど」

女「…………」ペロッ

女「やっぱり、別においしいもんではないわね。返すわ」

暗殺者「…………」カァ…

女「って、なんで赤くなってるの!?」

青年「暗殺者さん、間接キスおめでとうございます!」

毒娘「あたしん時は赤くならなかったのに! ひっどーい!」

女「こんなことで心乱さないでよ……暗殺者のくせに」

暗殺者「くうう……!」

153: 名無しさん 2020/09/21(月) 21:48:27.337 ID:QYO9qcco0
首領「俺がこの世で最も嫌いなことは、部下がイチャついてることだ」

暗殺者「うわっ!?(いつの間に……!)」

首領「では今日も始める。お前たちは道具だ」

四人「私たちは道具です!」

首領「王国のために働け」

四人「王国のために働きます!」

首領「俺の命令に絶対服従しろ」

四人「首領の命令に絶対服従します!」

首領「よし、今日の指令を言い渡す」

暗殺者「はいっ!」

暗殺者(俺は今日も、恋人と、上司と仲間たちと、暗殺部隊として国を守り続ける――)








―おわり―

154: 名無しさん 2020/09/21(月) 21:48:54.884 ID:QYO9qcco0
以上で完結です
ありがとうございました