1: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 16:49:38 ID:x0Qw

~ある雨の日~
ザアアアアアアアアア……

安部菜々「わあああああ」

白菊ほたる「わあああああ」

菜々「わあん突然こんな降ってくるなんてえ」

ほたる「痛い!雨粒が痛いです!!」

菜々「ほたるちゃんダッシュです! もうすぐナナのアパ……じゃなくてウサミ……ええいもうアパートに着きますからね!!」

ほたる「はい! (ビューン)」

菜々「わああ十代の瞬発力についていけなーい!」

ほたる「何言ってるんですか、安部さんだって十代じゃないですか(快速)」

菜々「ひい、ひい、まあそれはそういうことになってるんですけどぉ……あ、ほらほらあれです。あの建物がウサミン星!!」

ほたる「あの築40年ぐらい経ってそうな二階建てアパートですね!?」

菜々「その通りだけどもうちょっとオブラートに包んでください。二階の角です(階段登り中)」

引用元: ・【モバマス】ほたる「ウサミンと」 菜々「スマイル!!」

2: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 16:50:22 ID:x0Qw


ほたる「スチールの階段がちょう滑ります……!(軽快に階段登り中)」

菜々「気をつけてくださいね、ひい、滑るとすごく痛い思いしますから」

ほたる「実感こもってます……あ、ここですね」

菜々(ゼヒューゼヒュー)

ほたる「な、安部さん?」

菜々「ち、ちょっとだけ待ってください……唐突に全力疾走したから息が……」

ほたる「大丈夫ですか安部さん。お背中さすりましょうか安部さん」

菜々「だ、大丈夫です。ほたるちゃんいつまでも雨ざらしにしておけませんから。あと安部さんはやめて。なんだかナナ27歳ぐらいになっちゃった気がします。ナナと。是非ナナって呼んでください!!」

ほたる「は、はい。では菜々さんで」

菜々「ぜひお願いします(ガチャガチャ)……はい、どうぞお入りください」

3: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:01:49 ID:x0Qw

ほたる「おじゃまします……わあ、これが菜々さんのアパート」

菜々「はい。ここがナナの夢の秘密基地ってわけです。あー、お掃除したばっかでよかったあ」

ほたる「不思議。初めて来たのになんだか懐かしい気がします。おばあちゃんに来たような安心感というか」

菜々「あはは、ホッとするって意味だと受け取っておきまーす……はい、とりあえずバスタオルとナナのスウェット。脱いだものはこっちのカゴに入れといてくださいね」

ほたる「お、お構いなく。私の不幸で、こんな雨が」

菜々「何言ってるんですか。ナナが無理言って買い物手伝ってもらったからじゃないですか。ほら脱いで脱いで」

ほたる「わああ自分で、自分できがえますので!」

菜々「はいよろしい。じゃあナナはお風呂と暖かいものの用意をしてきますので、その間に着替えておいてくださいねー(奥にひっこむ)」

ほたる「は、はーい……ああびっくりした(着替えきがえ)わあ、手足はつんつるてんなのに胸がぶかぶか……!」

ほたる「はあ……」

ほたる「これが菜々さんのお部屋……」

4: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:02:05 ID:x0Qw

ほたる(服を着替えて人心地ついて、私は改めて菜々さんのお部屋を見回しました)

ほたる(狭くて古いけどきれいにしてあって。かわいいものと、古いものが一緒においてあって。なんだかどれも大事にされてる感じで……)

ほたる(菜々さんのお部屋は、どこかなじみがあるような、落ち着くような、不思議な雰囲気があったと思います)

ほたる(そう、なんだか菜々さんの人柄を思わせるような……)

ほたる「……あっ」

ほたる(部屋の隅に、大きな姿見がありました。頭から足まで、全部写る、立派なやつです)

ほたる(私はなんとなくその前に立って、自分の姿を眺めました。バスタオルで水気をとったばかりの髪はぺしゃんこで、あちこち跳ねています。私は手櫛で髪を整えて、自分の顔をみました)

ほたる(もともと血色の悪い顔が、冷えてよけい白く、心細げに見えました)

ほたる(私はじっとその顔を見つめます。鏡をみるのは、私の日課。毎朝じっと鏡を見つめてて、一人でこっそり、秘密の笑顔の練習を)

ほたる「にこっ……なんて」

5: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:02:30 ID:x0Qw


ジャージ菜々「(ガラピシャー)お待たせしましたお茶と落花生」

ほたる「あっ」

菜々「はいお茶。暖まりますよ。あと脱いだものはこっちにくださいね。洗って乾燥しちゃいますから」

ほたる「は、はい、お願いします」

菜々「いやあ、洗濯乾燥機ってほんと便利ですよねー。無理して買った甲斐がありました。月賦ですけど! 24回払いですけど!!」

ほたる「あはは」

菜々「で、いつもあんな可愛いことしてるんですか?」

ほたる「うわあん見られてたーっ!?」

6: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:03:49 ID:x0Qw

菜々「鏡に向かってふわっ、ニコッ、て。可愛かったなあ。いいなあ。そういえばプロフィールにも笑顔の練習が趣味だって書いてありましたね」

ほたる「は、はい。まあ一応レッスンと笑顔の練習が趣味ということで(キョドキョド)」

菜々「なんで挙動不審になるんですか。いい趣味じゃないですか」

ほたる「だ、だってその笑顔に自信が無いから練習しているわけで、それを見られるというのはちょっと」

菜々「自信ないんですか。 可愛いと思うんですけど」

ほたる「……見られてしまったから言いますが」

菜々「ナナの姿見でやってたらそりゃ見られもするんじゃないでしょうか」

ほたる「反射的だったんです。思わずだったんです」

菜々(鏡見たら反射的にやるくらい練習してるんですねえ)

ほたる「と、とにかく、とにかくです」

菜々「はい」

7: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:07:39 ID:x0Qw


ほたる「見られてしまったから言いますが、なんというか、自分の笑顔がいまひとつ気に入らないんです」

菜々「はあ」

ほたる「パッとしないというか、ひっそりしてるというか。菜々さんや島村さんみたいにピカーーーって感じにならないんですよね」

菜々「あー。卯月ちゃんの笑顔はまぶしいですよねえ」

ほたる「はい、本当に。まるで夜明けを見るみたい」

菜々「あの笑顔はナナも憧れますね。内側から輝いてるみたいです」

ほたる「菜々さんの笑顔だって、光ってますよ」

菜々「えへへ、どうも」

ほたる「じんわり暖かくなるって言うか。ひなたぼっこしてるような気持ちになる笑顔です」

菜々「やっぱり、笑顔はアイドルの必須科目ですものねえ」

8: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:08:00 ID:x0Qw


ほたる「ところがこう、どう練習してもそうならないって言うか」

菜々「そうでしょうか。可愛いのに」

ほたる「ライブの録画とか確認すると、なんというかこう……凄く『頑張って笑ってる』感じがするんですよね!」

菜々「あー」

ほたる「菜々さんや島村さんみたいに、内側からあふれ出してる感じにならないって言うか。私もアイドルになったわけですから、ステキな笑顔を目指して毎日練習しているわけですが」

菜々「鏡を見ると反射的に練習しちゃうぐらいですものねえ」

ほたる「うわあん! ……とにかく、なんだか、これって笑顔にならないんです」

菜々「……」

ほたる「どうしてかなあ。やっぱりずっと笑わずにいたものがアイドルみたいに笑おうなんて、無理なんでしょうか」

9: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:10:18 ID:x0Qw

菜々「何度も言いますが、ほたるちゃんの笑顔はとってもいいですよ」

ほたる「ありがとうございます。でも」

菜々「ステージでもっと自然な笑顔を出したいんですよね」

ほたる「はい。私だって、アイドルです。ファンの人にいつでも同じ、完璧な笑顔を届けたいです」

菜々「……ええー……」

ほたる「菜々さん?」

菜々「……まあ、いつでも同じように笑う、というのは簡単なんですけどね。どんな笑顔でも簡単です」

ほたる「えっ、そんなバカな」

菜々「簡単ですよホントに。たぶんほら、泰葉ちゃんとかも出来るんじゃないですかね。ナナもできます。というかステージ長い子はみんなできます」

ほたる「えっえっ、そんな技が」

菜々「ありますけどでも」

ほたる「ぜひおしえてください!!」

菜々「喰い気味!!」

10: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:12:51 ID:x0Qw

ほたる「ぜひ、教えてください、是非(ぐいぐい)」

菜々「落ち着いて、落ち着いて! 教えますから。教えますから」

ほたる「わあいナナさん大好きです(ぎゅう)」

菜々「嬉しいけどハグは後に回してください。ではお教えしますね」

ほたる「はい。どんな苦しい訓練も決して」

菜々「大丈夫ですよ。反復あるのみです」

ほたる「反復。でも、私も毎日笑顔を」

菜々「それはちゃんと『笑おうと』してるからですよ」

ほたる「えっ」

菜々「確かほたるちゃん、この間初シングル発売しましたよね」

ほたる「はい。『谷の底で咲く花は』公表発売中です」

菜々「改めておめでとうございます。ナナも買いましたよ!!」

ほたる「えへへ……」

菜々「はいそれじゃショート版のほうのサビ行ってみましょうか」

ほたる「えっ」

11: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:13:11 ID:x0Qw

菜々「はい立って立って。なーにもみえないー」

ほたる「あわわ、まっくらなー谷のそーこから、ときはなたーれるそのひをーゆーめーみーてーねむりにつくー。うーまーれーかーわりー、ひーなーたーでー、さーくのー」

菜々「ラー、ラー、らー、らー(伴奏の真似)」

ほたる(決めポーズ)

菜々「ほら今どんな姿勢になってますか!?」

ほたる「あっ自然に胸に手をやって首を右に傾げています!」

菜々「別にキメる必要なかったでしょう。どうしてちゃんとそうなるんですか」

ほたる「それはもちろん、徹底的に練習してポーズをたたき込んだからで、歌うと自然に……あ」

菜々「はい、つまり、そういうことです。笑顔になろうとするから毎回違ってくるんです」

12: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:13:28 ID:x0Qw


ほたる「でも、笑顔とポーズは」

菜々「同じですよ。笑顔も筋肉ですから」

ほたる「えがおもきんにく」

菜々「はい。結局のところ、筋肉を動かすという点では手も顔も同じです。だから、『ポーズ』の一部として顔を作るんです。そしたら、歌を聞いたら自然に同じポーズがとれるように、反射的に同じ笑顔ができるようになります」

ほたる「……」

菜々「さっきも言ったように、表情も筋肉です。徹底的に身体に覚え込ませればどんな時でもその顔が出来るようになる。スイッチひとつで理想の笑顔、ですよ」

ほたる「……」

菜々「ステージを沢山踏んだ人は、みんなスイッチを持っていると思います。ステージの外では苦しい事も悲しい事もある。身体の調子が悪いときだって。だけど、ステージの上ではアイドルでなくちゃ。だから心のスイッチひとつで笑顔を作れるようになるんです」

ほたる「……でも、それは」

菜々「はい」

13: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:15:42 ID:x0Qw

ほたる「それは、笑顔、なんでしょうか」

菜々「笑顔ですよー、キャハ☆」

ほたる(菜々さんが、笑いました。軽く握った両手を顔の下に持って行って、いつものポーズでいつもの笑顔)

菜々「今のが作ってる笑顔か、心からの笑顔か。わかりますか?」

ほたる「……」

ほたる(わかりませんでした。私には、わかりませんでした。菜々さんの笑顔は、本当にいつもと同じように見えました)

ほたる(もしこれが作った顔なら……これが、長くステージを踏んだ人の技なのでしょうか。どんな時でも笑顔を、完璧な笑顔を作ることができる。どんな気持ちでも、笑うことができる)

ほたる「……わかりません」

ほたる(長く考えた末に、うつむいて、私は白旗を上げました。くやしいけれど、本当に解らなかったんです)

菜々「なら、これでいいんじゃないでしょうか」

ほたる「……これで」

菜々「はい。毎回心から笑顔になろうとしなくても、解らないなら、違わないなら、作り物でもいいんじゃないでしょうか。同じに見えるなら、同じでいいんじゃないでしょうか」

14: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:18:40 ID:x0Qw


ほたる(私は答えに詰まりました。だって、私には、そのときの菜々さんの笑顔が、見分けられなかったから)

ほたる(ステージの上は、過酷なところです。疲れ果てて、へとへとで、それでも笑わなくてはいけないときがあります。苦しい顔をファンの人に見せることは、できないのです。だから私は、せいいっぱい、自分の中から喜びを絞り出すようにして、笑います)

ほたる(だけど、私の笑顔は、いつだってぱっとてしなくって……)

ほたる(それなら、いいのでしょうか。振り付けの一部、手先の表情を作るように、顔を作る。それがファンの人に最高の笑顔に見えるなら、それでいいのでしょうか)

菜々「……」

ほたる(菜々さんはにこにこ笑って、私を見ています。この顔は、本当の笑顔でしょうか。それとも、作られた顔でしょうか。解りません。解りません。だけど)

ほたる「……だけど」

菜々「……」

ほたる「同じじゃないんだって、思いたいです」

菜々「思いたい?」

ほたる「同じじゃないって。振り付けのポーズと同じように笑顔を作るのと、心から笑うのは、違うんだって思いたいです」

菜々「……」

ほたる「私、笑顔を見て、幸せになったんです。その笑顔には心があったって、だから幸せを感じたって、信じたいんです。それがアイドルの笑顔だって、思いたいんです」

菜々「……」

ほたる「菜々さん?」

15: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:19:01 ID:x0Qw

菜々「えへへ、ぎゅー!!」

ほたる「わあっ、急に抱きつかないでくださいい」

菜々「菜々もね、そう思いますよ」

ほたる「えっ」

菜々「幸せを呼ぶ笑顔は、心からの笑顔だって思います。だからナナも全力で笑います。幸せになあれ、って」

ほたる「菜々さん」

菜々「だからね、ほたるちゃん。笑顔は、最高じゃなくていいんです。今の自分の精一杯ならいいんです」

ほたる「……」

菜々「だって、最高しか意味がないなら、その笑顔を写真にとればいいじゃないですか。最高のステージしか意味がないなら、ビデオを流せばいいんです。でも、そうじゃないですよね。ナナたちを見てくれる人は、その日
のナナたちの精一杯を見に来てくれるんです。だからナナたちは、その日の自分にできる精一杯の笑顔と気持ちを届ければいいんです。幸せになあれ、って」

ほたる「菜々さん……」

菜々「あ、でもでも、スイッチで笑顔を作れるのも本当に大事ですからね? 人間どうしたって苦しいときはあるものだし、そこにさらに力を乗せることだってできるんですから」

ほたる「……はい」

16: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:19:17 ID:x0Qw


菜々「毎日成長して、まいにち、幸せそうになっていく。幸せをかみしめて、少しずつ笑顔が花開いていくのを見る。ナナは、アイドルに求められる笑顔は、そういうものだと思います……でも、そういう気持ちって、ずっと持ってるのはなかなか難しいものですから」

ほたる「……」

菜々「だからナナ、そういう笑顔が出来る子は、凄いなと思います。尊敬してるし、参考にしてるんですよ」

ほたる「菜々さんが参考にしてる……それは、誰の笑顔ですか? やっぱり島村さんとか」

菜々「えへへ、秘密です」

ほたる「秘密、ですか」

菜々「そういうものって、真似ても仕方ないものですからね。ほたるちゃんはほたるちゃんで、自分の理想や憧れの笑顔を見つけるべきだと思います」

ほたる「……はい」

菜々「あ、でもですね。ひとつ実践的なアドバイスがあります」

ほたる「えっ」

菜々「ほたるちゃんの笑顔がひっそり咲く花のようにどこか控えめになってしまう理由。それは」

ほたる「そ、それは」

菜々「筋肉です」

ほたる「きんにく!!」

17: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:21:32 ID:x0Qw


菜々「はい、筋肉。先ほどほたるちゃんも言ってたじゃないですか。あまり笑っていなかった、って」

ほたる「はい……」

菜々「心も大事、気持ちも大事。だけどやはり表情を作るのは筋肉なんです。スマイル・イズ・パワー! スマイル・イズ・マッスル!!」

ほたる「マッスルのほうは初めて聞きました!!」

菜々「ノリで言ってますから気にしないでください! 結局あれです。普段笑わない人は笑うための筋肉がぎこちなくて、大きな笑顔になりにくいんです」

ほたる「た、たしかにしばらく笑わないでいると顔がこわばってる気がします」

菜々「すなわち、大輪の笑顔を作るために必要なものはなにか。笑顔を真似ること? マッサージ? それも大事ですが、最高に大事なのは」

ほたる「大事なのは?」

菜々「笑うことですよ。楽しい思いをして、面白いものを見て、おなかも顔も痛くなるくらい笑うことです。それが笑顔マッスルを鍛えます」

ほたる「ええええ」

菜々「ナナは真剣です(スチャッ)」

ほたる「そ、そのDVDは一体!?」

18: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:21:48 ID:x0Qw



菜々「ナナ特選、難波笑美ちゃんも太鼓判!! 大爆笑漫才すぺしゃるでぃーぶいでー!!」

ほたる「ええええ」

菜々「どうせ洗濯物が乾くまでしばらくかかりますもの。お風呂入って暖まったら、二人で見て、いっぱい笑いましょう」

ほたる「で、でもいいんでしょうか」

菜々「はい?」

ほたる「……その、私が、笑っても。何もないのに、面白がっても」

菜々「……」

ほたる「私、その、不幸体質で。いろいろな人を不幸にして、それで」

菜々「……ナナは、笑う角には福来たるとか、そういうの気にしないで、とか言いません。ほたるちゃんが苦しんだのは聞いてますし、体質のことも知っています。それで苦しい思いをしたのは、ほたるちゃんなんですから」

ほたる「……はい」

19: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:23:07 ID:x0Qw

菜々「だけど、苦しんでいる人が、罪悪感を持っている人が、楽しい思いをしちゃいけないなんて、喜んじゃいけないなんて、ナナは思いません。だってそれじゃ不幸な人は一生不幸じゃないですか。アイドルを見て幸せになることは、誰にも許されないじゃないですか」

ほたる「……」

菜々「だから、笑いましょう。どうでもいいことでたくさん笑い転げて、楽しいな、幸せだなって笑いましょう。そしたらきっとほたるちゃんのその笑顔を見て、誰かが幸せになるんですよ」

ほたる「はい!」

菜々「さあ、それじゃあ早速見ましょうか。ナナやっぱりオール阪神巨人師匠が……」

ほたる(そして菜々さんと私は、その日夜遅くまでたっぷり笑い転げました)

ほたる(涙がでるぐらい。おなかが痛くなるぐらい。もう許してって涙目になって私が笑う横で、菜々さんも笑い皺を作って笑っていました)

ほたる(笑えば笑うほど、笑いやすくなるみたいでした。笑顔と笑い顔が、溢れてくるみたいでした)

ほたる(そうして私の笑顔は、ちょっとだけ、少しずつ。柔らかくなって行ったのです……)

20: ◆cgcCmk1QIM 22/05/15(日) 17:23:19 ID:x0Qw


~後日~

P「なるほどそんな事があったのか」

菜々「何で悩んでるかなんて、解らないものですねえ。ナナ、ちゃんと答えられたか心配です」

P「いや、きっとほたるは得るものがあったと思うよ……ところで」

菜々「ミン?」

P「その、ナナが凄いって思う笑顔の子って、誰なんだい」

菜々「それはもちろん、ほたるちゃんですよ」

P「……ああ」

菜々「本当に幸せをかみしめるみたいに、少しずつ花がほころぶように、幸せな笑顔になってゆく。ステキじゃないですか。参考にしたいけど、真似できないじゃないですか。ナナ、ああいう笑顔、大好きです」

P「それ、ほたるに言ってやればよかったのに」

菜々「ふふふ、それは秘密でーす」

P「なんで」

菜々「誰かが尊敬してるとか参考にしてるとか言ったら、ほたるちゃんは意識しちゃいます。そしたらせっかくの笑顔がぎこちなくなっちゃいますよ」

P「確かに」

菜々「それに、ナナが何も言わなくても、ほたるちゃんの笑顔はきっとこれから沢山の人に囲まれてどんどんステキになってゆくんです。ナナもそれに負けないように、がんばらなくちゃ」

P「……ああ」

菜々「ほたるちゃんは、ナナの笑顔がステキだって言ってくれました。いつかとってもステキになったほたるちゃんが、それでもステキだって言ってくれるような笑顔でいること。それがナナのすべきことで、ナナの伝えるべきことだって、ナナは信じているんですよ――」

(おしまい)