1: 名無しさん 2017/02/22(水) 13:57:44.59 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…
ザザーン…


ーーさても静かなる宵の更け。


風はとうに眠りにつき、こだますはただ遠くでさざ波が寝返りをうつのみ。


我が現前に広がりたるは、うたかたの如くおのづを主張しては消ゆる数多の星々。


さては更けるに連れ、我が心をわづらはしく惑はす煌々たる月。


いとをかし。


されど、げにうるわしき面影とは裏腹に、我が心は荒波にもまれ嘆しきうつつに涙するのみ。


かくして水面に浮かびたる我が身はいづれ、『あの妖』の生贄とならむ。


すべも無くただ死を待つのみ…



さても静かなる宵の更け…



※前作のリンク貼っときます
お時間ありましたら是非こちらもご覧ください

ダイヤ「狐の嫁入り」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1484553298/


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1487739464

引用元: ・ダイヤ「心にも あらでうき世に 水面夢」

2: 名無しさん 2017/02/22(水) 13:59:03.24 ID:H71/+Fhm0


ーー黒澤家 元旦



花丸「……」ドキドキ


ダイヤ「……」ゴクリ




曜「わが袖は~~~」




花丸 ダイヤ「「はいっ!!!」」



パシーン!!



ダイヤ 曜「あ」



花丸「ずらぁ…泣」ヒリヒリ

3: 名無しさん 2017/02/22(水) 13:59:38.38 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「も、申し訳ありませんわ花丸さん…」


曜「えっと…ダイヤさんが花丸ちゃんの手…じゃなかった。花丸ちゃんの陣の札を取ったことで、ダイヤさんの陣の最後の一枚を花丸ちゃんの陣へ送り札に!」



曜「よってこの対局、ダイヤさんの勝ち!!」


ダイヤ「やりましたわ!!」グッ


花丸「完敗ずら…」ガクッ…


ルビィ「お、お姉ちゃんすごい…花丸ちゃん、中学の時の百人一首競技かるた大会三連覇だったのに…」


果南「はえー…流石だねダイヤ」


鞠莉「ダイヤ!!曜がまだ詠んでる途中でしょう!?人の話は最後まで聞いてから取らないとダメよ!!」


ダイヤ「そんな悠長にしてたら負けてしまいますわ!これは速さを競うんですのよ!?」


梨子「花丸ちゃん大丈夫?目にも留まらぬ速さでひっぱたかれてたけど…」


花丸「おかげで目が覚めたずら」チラッ



千歌 善子「くかー…」スヤスヤ


ダイヤ「なっ…!?」

4: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:00:22.56 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「千歌さん!善子さん!私の栄えある大勝利を見逃すなんてどういうことですの!?ほら!起きなさい!!」ユサユサ


千歌「うーん…眠いよぉ…」ゴシゴシ


善子「しょうがないでしょ?初日の出見る為に五時に起きたんだから…」ノソノソ


花丸「マルは三時半起きずら」


千歌 善子「えぇぇ!?」


花丸「朝からじいちゃんにお寺の挨拶回りに付き合わされてもうくったくただよ…」


千歌「凄い…」


善子「悪魔…悪魔だったのね…日ノ本に新たな光が差し込む前の宵闇に動き出し魂を刈り取ろうとしていたんだわ!」


ルビィ「み、みんな凄い…ルビィすぐに寝ちゃったから…」


梨子(私はオールなんだけどな)


曜(年明けの興奮冷めやまぬうちに朝を迎えたなんて言えない…)


果南(ここは花丸ちゃんの威厳を保つ為に黙っておこう)


鞠莉(早起きはサーモンのお得ってやつね…三人ともアグレシッブ!!)


鞠莉(あれ?)

5: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:00:52.83 ID:H71/+Fhm0


花丸「まあ、おかげでお菓子とかお餅とかたくさんもらったけどね」ドッサリ


曜「うわ…難しそうな本とかお経まで…」


梨子「これ木魚だよね?なんで全部風呂敷に詰めようとするの?」ポクポク


果南「あははは…」


ダイヤ「この小倉百人一首かるたも花丸さんの提供ですわ」


ダイヤ「これは年始の学校行事の競技かるた大会でAqours全員が勝ち進む為の特訓ですわ!気を抜かないでビシバシ行きますわよ!」ビシッ


千歌「えー複雑で分かんないよー…」


善子「くっ…ズラ丸の粗品にかるたさえ無ければダイヤさんが思い出すことなく楽しい誕生日会が続いていたのに…」


花丸「まあまあ、マル達も分かりやすく説明してあげるから」


梨子「カードゲームだと思って…ね?」


千歌 善子「はーい…」シブシブ

6: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:01:35.54 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「…コホン。まずこの小倉百人一首を用いて行う競技かるたですが、単に百枚を全部並べて読まれた札を早く取る…という遊びではありませんの」


千歌「そうなの!?」


ダイヤ「百枚中五十枚は使わないのでシャッフルした後適当に置いときますわ」ポイポイ


善子「ふーん、五十枚でゲームをするのね」


ダイヤ「残った五十枚を、更に半分の二十五枚に分けて自分と相手の陣に引いてから始めるんですの」カチャカチャ


果南「真ん中より千歌側が千歌ゾーン、善子側が善子ゾーンね。最初はそれぞれに二十五枚ね。この二十五枚のことを自分の《持ち札》って言うよ」


ダイヤ「まずは互いに礼!」


千歌 善子「よろしくお願いします」ペコリ


ダイヤ「そうしましたら読み手の私が、序歌と呼ばれる試合開始の和歌を詠みますわ」


花丸「まあ、よくスポーツの開会式で歌う君が代みたいなお約束だと思えばいいずら」



花丸「…去年まで違う和歌だったんだけど何故か今年…つまり今日から新しい和歌に変わるんだよね。公式さんも新年早々忙しいずら」



ダイヤ「コホン…」





ダイヤ
「~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面知るらむ 三津のおもひで~」

7: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:02:05.72 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「試合開始ですわ。次から私が《上の句(かみのく)》…つまり五七五にあたる札を詠みますから、それに該当する《下の句(しものく)》…七七にあたる札を相手より速く取ってください。ちなみに、さっき抜いた五十枚の中からも詠みますから当然、お手つきもありますわよ」


曜「まあ、大体50%の確率でここに置いてない空札(からふだ)が詠まれるね」


ダイヤ
「~田子の浦に うち出でてみれば 白妙の…」


善子「!!」


善子「これ知ってる!はい!!」パチーン!


千歌「ああ!!!」


ダイヤ「お見事ですわ」


果南「取った札はゲームから除外ね」


ルビィ「えっと…今善子ちゃんは千歌ちゃんゾーンから札を取ったから、善子ちゃんゾーンの好きな札を一枚千歌ちゃんゾーンに送ってね。これを送り札って言うよ」


善子「こう?」ススッ


ダイヤ「ええ。そうすると

持ち札

善子 24
千歌 25

になりますわ。
ちなみに自分のゾーンの札を取った時は送り札はありませんの。こうして先に自分のゾーンの持ち札が0になった方の勝ちですわ」


ダイヤ「どうです?分かりましたか?」


善子 千歌「うーん…」


梨子「要はお互いの陣地に呪いの悪魔がそれぞれ二十五体いるから自分の悪魔を狩ったり、相手の悪魔を狩ったフリして自分の悪魔を敵陣に転生する禁断の必殺技《オクリフダ》を発動するの。そうした神々の大戦を行い、先に呪縛から解放されし地に幸福と安寧が訪れ栄光の勝利を手にするってことね」


善子 千歌「おおおおおお!!!!」ピコーン



ダイヤ「!?」

8: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:02:53.23 ID:H71/+Fhm0


千歌「すっごく面白いよ競技かるた!!」


善子「よーく分かったわ!よし、堕天王の玉座を目指すわよ!!」


ダイヤ「ま、まあ関心を持ってくれたのならそれで良いのですが…」


曜(梨子ちゃん手懐け方分かってるなー)


果南「あはは…」


鞠莉「ふむふむ…勉強になります…」メモメモ


花丸「かなり古いやつだから大切に扱うずら」


梨子「でも珍しいね。縁や裏側が緑色や紺色じゃなくて真っ黒のかるたなんて…」


果南「普通は畳のボーダーラインみたいな色してるよね」


曜「畳のボーダーラインって…」


善子「そう…その本性は漆黒に澱んだーー」



ダイヤ「さてと、私はそろそろ行きますわ」スッ


ルビィ「あ、待っててね上着取ってきてあげる」タッタッタッ


善子「…って!聞きなさいよ!!」


花丸「ずら?」


果南「あれ?ダイヤどこかに行くの?」


鞠莉「ショッピング?」


ダイヤ「京都ですわ」


曜「ふーん」


曜「え?」



七人「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」

9: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:03:26.44 ID:H71/+Fhm0


善子「どっ…どど…どういうこと!?」


曜「あの京都に!?」


千歌「まさか、こっそりスクールアイドルのコンテストに応募して一人で出るんじゃ…」


花丸「もしかして舞妓さんになりに…」


ダイヤ「ち、違いますわよ!内裏歌合(だいりうたあわせ)に呼ばれているんですの」


千歌「へ?」


梨子「だいり…?」


善子「うたあわせ?」


ダイヤ「京都で毎年正月の時期に四日程、全国の名家が集い和歌を詠み合ったりお食事をするお付き合いがあるんですの。遠い家系ではありますが一応血の繋がった親戚の集いですわ。私も本日をもって十八歳になりましたので今年からそちらへ参加させていただくことになったんですのよ」


曜「こ、これが上層階級…」


花丸「貴族の嗜み…」


ダイヤ「ちなみにここですわ!」ガイドブックバサッ!


曜 千歌「おおおおおおおおおお!!!」


曜「凄い…」


千歌「十千万の三倍くらい大きい…」


ダイヤ「ふふん。この《時雨亭》は平安時代から存在する大先輩ですのよ?歴史は十倍ですわ!!!」フンス


千歌「十倍!?!?」


ダイヤ「そして…」ペラッ


ダイヤ「この庭園にある大きな池に映る月は幻想的で国宝級の美しさ…内浦から眺める月の百倍ですわ!!!!!!!!」ドドン



千歌「ひゃ…百倍!?!?!?」ガーン

10: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:04:03.16 ID:H71/+Fhm0


果南「もう、大袈裟だよダイヤ!」


梨子「そうですよ!内浦からの月も素敵ですよ?」


ダイヤ「かつて屋敷に住まう者は、夜が更けると簾を上げて倚子に腰掛け、その煌々たる月…そして水面に映るもう一つの月を眺め和歌を詠んでいたそうですの…ああ、なんと羨ましい…」ホレボレ


曜「正直ちょっと羨ましいなぁ。私もそんな絶景なら見てみたいかも」


善子「宵闇の支配者ルナよ…汝が選ぶはこの堕天使ヨハネの支配地、魔都内浦では無かったというのか…」


花丸「善子ちゃんの頭にはいつも真っ暗なお月様がくっついてるずら」


善子「これはおだんご!!シニヨンって言うの!!!」


鞠莉「お月見だんごデース!!」


善子「ちがーう!!!」



ルビィ「はい、お姉ちゃん。上着と荷物だよ」スッ


ダイヤ「ありがとうございますわルビィ。黒澤家の名の下に、恥をかくことの無いよう努めて参りますわ」


千歌「なんかかっこいい…時代劇みたい…」


善子「じゃあ駅まで送っていった方が…」



プップー…


「ダイヤ様、車の手配を致しました」



ダイヤ「恐れ入ります。すぐ行きますわ」


千歌 曜 善子「セレブだ!!!」


果南「頑張ってねダイヤ」


ダイヤ「ええ」


ダイヤ「あ、そうですわ」ニヤッ



ダイヤ「みなさんに宿題を出しますわ!」ビシッ

11: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:04:30.65 ID:H71/+Fhm0


八人「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


ダイヤ「私が内浦に帰ってくるまでに、各々に和歌を一首、作っていただきますの」


善子「百人一首と和歌作り…あ、頭が…」フラッ


千歌「む、無理だよダイヤさん!」


果南「ド素人の私達に出来るわけ…」


ダイヤ「これも!年始の学校行事の競技かるた大会でAqours全員が勝ち進む為の特訓ですわ!」ビシッ


ダイヤ「それにどうです?和の心を学ぶことで私達Aqoursの目指す大和撫子日ノ本アイドルとしての道が拓かれますのよ?」


曜「いや、目指してないですし」


梨子(完全にその気になっちゃってるなぁ)


鞠莉「英語で作ってもーー」


ダイヤ「却下」ビシッ


花丸「何かテーマはあるの?」


ダイヤ「そうですね。テーマは《月》でどうでしょう?月を見て感じたことを五七五七七にして各々の感性のままに表現してください」


梨子「まさかダイヤさん…」


ダイヤ「そうですわ!皆さんの詠う内浦の月vs私の詠う国宝級の月で勝負するんですの!!!」


梨子(やっぱり)

12: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:05:38.15 ID:H71/+Fhm0


果南「もうダイヤったら…」


ダイヤ「それでは私はこれで…」スッ


ルビィ「あっ…」



ギュッ!


ルビィ「!!」


ダイヤ「しばらくお姉ちゃんはいないから寂しいかもしれないけど、大丈夫。皆さんがいますわ。帰ってくるまで我慢できますわね?」


ルビィ「うゆ…いってらっしゃい…」ギュッ



ブゥゥゥゥゥゥン…


ルビィ「……」


果南「行っちゃったね」


ルビィ「うん…」


果南「大丈夫だよルビィ。ダイヤなら」ポン


ルビィ「果南さん…」


ルビィ「うん、そうだよね…!」



千歌「よーし!遊ぼう!!」


梨子「千歌ちゃん!?」

13: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:06:21.96 ID:H71/+Fhm0


善子「そうよ!まだまだ冬休みは残ってるんだしなんとかなるわ!正月くらいぱーっと遊びましょ!」


梨子「もう…ダイヤさんがいなくなった途端に…」


曜「賛成!ねえねえ、釣竿持ってきたんだけど鯛でも釣りに行かない!?」


鞠莉「イエス!おめで『たい』ってやつね!」


曜「ヨーソロー!鞠莉さん分かってるねぇ!」


花丸「あ、その前に…小倉百人一首のこと話してたら小倉まんじゅうが食べたくなっちゃたずら」


千歌「二人ともダジャレ!!!」


梨子「ふふっ…まあ、そうね。休憩してから行こうか」


曜「はーい」


ルビィ「あ、お母さんがもう少しでお雑煮できるって」


千歌「おおおお!!!」


善子「もうお腹ぺこぺこよ」


果南「じゃあいただいてからにしよっか」


曜「いえーい!」ドタドタ


千歌「お~もち♪お~もち♪」バタバタ



花丸「さて…かるたを片付けて…」



花丸「ずら?」


花丸(これ…さっきダイヤさんが最後に取った札だ)スッ


花丸(何だろうこの赤いシミ…最初は無かったのに…)


果南「花丸ー!先に食べてるよー!」


花丸「あ!うん!!」タッタッタッタッ

14: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:06:48.43 ID:H71/+Fhm0


…………
……


曜「ふーっ…いいお湯だった」ホカホカ


花丸「ルビィちゃんちのお風呂、すっごく広いからつい長風呂になっちゃうずら」ドサッ


善子「……zzz」


ルビィ「善子ちゃん寝ちゃった…」


鞠莉「日本のお風呂!最高だったわ!!」バサッ


鞠莉「…でも、壁に富士山が描いてあるってわけじゃないのね」フキフキ


梨子「それは銭湯ですね」ホカホカ


鞠莉「それにもっと狭くてバスタブをかけたデスマッチが起きるかと思ったわ」


梨子「それは戦闘ですね」ホカホカ


鞠莉「つまり一番最初に入った人の勝ちってこと!!」


梨子「それは先頭ですね」ホカホカ


千歌「う~疲れた眠い~…」



果南「のぼせてパンツ置き忘れる誰かさんもいるみたいだね」ヒラヒラ


千歌「ああああああああああ!!!!」


果南「ほ~らこっちだよ♪」ヒラヒラ

15: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:07:16.74 ID:H71/+Fhm0


カエシテー!
ドタバタ!


梨子「あーあ…新年早々始まったよ」


曜「ふふっ。いいんじゃない?こうやってずっと変わらず仲良くできたら」


ルビィ「いつも通り!って感じだね」


鞠莉「ダイヤにもいて欲しかったのに…残念ね」ゴロン


ルビィ「うん…」


花丸「誕生日だし尚更ずら。でも、ダイヤさんやルビィちゃん…それに、この家にとってもすっごく大事なことだし…しょうがないずら」


果南「うん。また帰ってきたらいつでも会えるんだし」


千歌「とうっ!」バッ


果南「あ!!」


千歌「明日からは頑張って百人一首覚えるよ!ダイヤさんが戻ってきた時『ぎゃふんですわ!』って言わせてみせる!」グッ


曜「ほんとに~?」


梨子「さっき、明日《堕天使型凧揚げ》をするだのどうのって善子ちゃんと話してたよね?」チラッ


善子「……」ピクッ


花丸「……」ジーッ


花丸「つーんつん」プニプニ


善子「きゃははははは!!やめなさいよズラ丸!!」ジタバタ


善子「あ」ピタッ


鞠莉「ジャパニーズ狸寝入り。いけない子ね」


ルビィ「あちゃー」


梨子「善子ちゃん?千歌ちゃん?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

16: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:07:49.88 ID:H71/+Fhm0


千歌 善子「ひいっ」


果南「明日は家で大人しくして…練習ね?」


千歌 善子「はい…」ガクッ


曜「じゃあ今日は寝るか。今夜は全国で曇りみたいだし月が出ることはないと思うから」


梨子「あれ?」


曜「どうしたの梨子ちゃん?」



梨子「だ、ダイヤさんが帰ってくるまで静岡県はずっと曇りだけど…」ポチポチ


曜「え」



七人「ええええええええ!!!!!」


善子「何よそれ!月の和歌なんて作りようがないじゃない!!」


花丸「鬼ずらぁ…」


千歌「酷い!出来ない宿題を押し付けるなんて!!」


ルビィ「お、お姉ちゃん…」


鞠莉「月に代わってお仕置きされるわ…」


千歌「全員で怒られるのかな…」


曜「全員で怒るべきだよね」


梨子「100倍だか国宝級だか知らないけどこっちは土俵にすら立てないわね…」


果南「ま、まあまあ。ダイヤもおっちょこちょいだから多分本当に知らなかったんだと思うよ?帰って来たら事情を説明すれば分かってもらえるって!」

17: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:08:16.64 ID:H71/+Fhm0


曜「そ、そうだよね…」


千歌「よし!宿題が無くなった!」


善子「ばんざーい!!」


梨子「無くなってはないでしょ?」ニコッ


千歌 善子「はい…」ガクッ


曜「じゃ、じゃあ今度こそ寝よう」


梨子「そうだね」モゾッ



ルビィ「…zzz」


梨子「早」

18: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:08:46.18 ID:H71/+Fhm0


曜「電気消しまーす」


千歌「みかん電球で」


曜「オレンジ電球ね」パチッ


鞠莉「ノー。ブラックじゃないとダメなの」


曜「コーヒーみたいな言い方だね」パチッ


千歌「怖い寝れない初夢見れない」


曜「はいはい」パチッ


鞠莉「ノンシュガープリーズ」


曜「シュガーって言っちゃったし」パチッ


千歌「イエスみかんプリーズ」


曜「千歌ちゃん普段コーヒー飲まないでしょ」パチッ


鞠莉「理事長命令よ」


曜「うわ権力濫用」パチッ


千歌「曜ちゃん大好き」


曜「おやすみなさい」パチッ


鞠莉「オーゥ!!シット!!!!!」ガバッ

19: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:09:15.39 ID:H71/+Fhm0


梨子「もう…さっきから目がチカチカする…」モゾモゾ


善子「……」モゾッ


梨子「!!」


善子「えへへ……」ギュッ


梨子「何善子ちゃん」


善子「…zzz」


梨子「……」


梨子「果南さーん」


善子「くっ……」ゴロゴロ


梨子「よろしい」



果南「……zzz」


善子「……zzz」


鞠莉「……zzz」


曜「……zzz」


梨子「……zzz」


千歌「……zzz」


花丸「やっと眠れる…」



花丸「……zzz」



ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…
ゴーン…ゴーン…ゴーン…

20: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:09:58.55 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…
ザザーン…


ーーずら?


ここはどこだろう?


海の上?


…ってことは夢だよね?


…こんな夜中に海に仰向けで浮かんでるなんてあり得ないもんね


寝相が悪すぎて海まで転がって来ちゃったなんてことも無いだろうし…



!!!!!!



ずらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


お月様がすっごく綺麗ずら!!


こんなに大きなお月様写真でしか見たことないよ!!


なんだかおまんじゅうみたいでお腹空いてきちゃった…


それに満点の星空…金平糖みたいずら!今までにこんなにいっぱい、くっきり見えたことあったっけ?


そうだ!せっかくだしこの絶景で和歌を作るずら!!これならダイヤさんもビックリの傑作ができるよ!


…コホン。



~お月様 お空に浮かぶ おまんじゅう
ちとせ経るかな 新月の宵~

21: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:10:52.14 ID:H71/+Fhm0


ダイヤさんごめんなさい


センスが無さ過ぎたずら…


これで許してくれるかな?


…そうだよ。いくら中学の百人一首大会で一番になったところで即興で和歌作れる程この世界はあまく無いずら


いや、言葉にできない美しさを言葉にしようなんてのがそもそもの間違いだよ!


五感で感じたものは五感の記憶に閉じ込めておく…それが一番美しいずら


…それにしても、こうやって周りに何も遮るものがない広ーい水面に浮かんで空を眺めると…素敵な素敵な世界に出会えるんだね…
趣深いずら


…実際にこんなことしたら太平洋の真ん中まで流されちゃうけどね。これは夢だけの、夢だからこそ味わえる景色…


やけに水の感覚が生々しい気もするけど



…はっ!!


も、もしかしてマル…おねしょしちゃったずら…!?


ど、どうしよう…確かルビィちゃんのお家に泊まってたのに…お布団汚しちゃったのかな…


花も恥じらう女子高生にもなってそんなこと…ましてやマルはスクールアイドルの身!!


…これはマズいずら!
早く起きて証拠隠滅しないとーー

22: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:11:27.64 ID:H71/+Fhm0


ーーーー
ーー


花丸「ずらっ!」ガバッ!


ゴーン…ゴーン…
ゴーン…ゴーン…


花丸「……」


花丸「……」ゴソゴソ


花丸「……」


花丸「ほっ…」



果南「うーん、花丸早いね…」ゴシゴシ


花丸「か、果南さん!?」


果南「…ダイヤの家の柱時計って12時だけじゃなくて6時にも鳴るんだね…頭ガンガンだよ」ノソノソ


果南「…ていうか、どうしたの?自分のパンツあさったりして」


花丸「な、なんでもないよ…」


果南「ふーん…」


果南「…あれ?私の携帯知らない?」


花丸「ずら?マルのも無い…」


果南「はあ…きっと寝相悪くて誰かが蹴っ飛ばしたんでしょ。まあいいや後で探そ」


果南「ねえ、みんなまだ寝てるし朝のお散歩行かない?もう完全に目が覚めちゃったからさ」


花丸「うん!マルも二度寝はできない体質ずら」スッ


花丸「みんな、いってきまーす。どうかマル達を探さないでね…」コソコソ


果南「駆け落ちと勘違いしてない?」コソコソ



ガラガラガラ…



果南 花丸「!!!!!!!!!!!!」

23: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:12:09.70 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…


花丸「なっ…」


果南「なにこれ…」


花丸「霧…」


果南「周りがほとんど見えないよ…」


花丸「内浦でこんなに霧が出たこと今まで無かったよね…」


果南「待って、そもそもここ…内浦なの?」


花丸「ん…?」


花丸「!!!」


果南「他の家が全くない…」


花丸「ルビィちゃんのお家だけぽっつり…」


ザッザッ…



花丸「ずらっ!?」ビクッ

24: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:12:35.98 ID:H71/+Fhm0


花丸「砂…!?」ザッザッ


果南「足元…いや、周りが全部砂だよ…この家、砂浜の上にあるんだ…」ザッザッ


花丸「…ほんとだ」ザッザッ


花丸「あ!あそこ!」


果南「あんな岩壁見たことない…」


花丸「…って、あれ?ルビィちゃんちの裏側ってこんなにたくさん木が生えていたっけ?」


果南「確かに山にはなってるけど…生えてる植物も全然違う。それに、今は真冬だよ?こんなに生い茂ってるわけがないし…」


果南「そもそも寒くない」


花丸 果南「ここは…どこ?」




うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!


果南 花丸「!?!?」


果南「ルビィの声だ!!」ダッ


花丸「ルビィちゃん!!」ダッ

25: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:13:04.24 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「うぅ…ぐずっ……」ボロボロ


花丸「ルビィちゃん!」


果南「どうしたの!?」


善子「うーん…朝から騒々しいわねぇ…」モゾモゾ


鞠莉「今日もサーモンのお得デスか?」ノソノソ


曜「ルビィちゃん?大丈夫?」バッ


千歌「むにゃむにゃ…」


曜「千歌ちゃん起きて」ユサユサ


梨子「…」


曜「梨子ちゃんも」ユサユサ


ルビィ「うぅ…ええっ…ぐずっ……」ボロボロ


果南「ルビィ…ダイヤがいなくて寂しいの?」


ルビィ「うぅ…」ブンブンブン


花丸「違う…って」


千歌「どうしたの?」


ルビィ「怖い……」グズッ


花丸「え?」


千歌「怖い…何かあったの!?」


鞠莉「誰かイタズラしたんじゃないの?」チラッ


善子「な…なんでこっち見るのよ!?」


果南「きっと怖い夢でも見たんだね…」ナデナデ


ルビィ「夢……」


果南「でも、もう大丈夫だから」


花丸「あ…みんな聞いて。なんだか外の様子がーー」




曜「梨子ちゃん!!!!!!!!!!」

26: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:13:33.72 ID:H71/+Fhm0


六人「!?!?!?」


千歌「どうしたの曜ちゃん!?」


曜「梨子ちゃんが…梨子ちゃんが全然起きない…」


曜「それに…息をしてない……」


果南「何それ…どういうこと!」


善子「冗談…よね?」


曜「だって…本当に…」


鞠莉「もう!いつまでおねんねしてるの?早く起きーー」スッ



鞠莉「!?!?」


花丸「鞠莉さん…」


鞠莉「……」



鞠莉「冷たい……」

27: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:15:04.15 ID:H71/+Fhm0


善子「そんな…」


鞠莉「梨子……」


千歌「嘘でしょ…」


千歌「嘘だよね…梨子ちゃん?」


梨子「…」


千歌「嘘だって言ってよ!!!ねえ!!!!!!梨子ぢゃん!!!!」ボロボロ


梨子「…」


曜「くっ…」ポロッ


果南「そんな…なんで…」


鞠莉「梨子…」


ルビィ「ぐずっ…ヒック…うぇぇ……」ボロボロ


千歌「梨子ぢゃん!!!!!!」


千歌「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!」


善子「なんでぇ…」ポタポタ



善子「うっ…」タッタッタッタッ

28: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:15:33.67 ID:H71/+Fhm0


……


善子「おぇぇぇぇぇぇぇ…」ボタタ


善子「ゲホッゲホッ…」


善子「なんで…なんで梨子さんが…」ジワッ


善子「!!!!」


善子「霧…」


善子「それに何よここ…」



善子「どこなのよ…何がどうなってるのよ!!」



【桜内梨子 死亡】

29: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:16:32.35 ID:H71/+Fhm0


…………
……



千歌「……」グズッ


花丸「千歌さん…」


千歌「うっ…うう…」ギュッ


花丸「……」チラッ


ルビィ「……」ガクガク


曜「……」ボーッ


花丸「曜さん…ルビィちゃん…」




果南「花丸」コソッ


花丸「…ずら?」


果南「ちょっといい?」

30: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:17:12.34 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…


果南「……」ピチョン


果南「……」


善子「どう?」


果南「冷たいっちゃ冷たい。でも真冬の海とは言い難いね」


鞠莉「泳いで行ったら陸に着くかしら?」


果南「向こうが霧で見えないし危ないよ…それに、ここがどこなのかも分からない…ひょっとしたら凄く危険な生き物がいるかも…」


花丸「……」


果南「花丸はこれ、夢だと思う?」


花丸「思いたいけど…思えないずら」


善子「そうよね…夢にしては意識がはっきりし過ぎ、それにこんなに会話が上手く成り立つのも変…」


鞠莉「でもありえないわこんなの…」


果南「そう思いたいけどね…」


善子「……」


花丸「もし集団で悪夢を見ているならどうにかして目を覚ます方法を探さないと…」

31: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:17:42.64 ID:H71/+Fhm0


鞠莉「そうね…」


善子「……」


善子「なんで梨子さんが…」


果南「分からない…」


果南「でもみんなで悲しんでたら何も始まらない…少しでも現状を理解して前に進まなきゃ」グッ


花丸「うん…」


果南「とりあえず島を一周してみよう」


鞠莉「私はあっちの森の方に行ってみるわ」


花丸「一人で大丈夫?」


鞠莉「ふふっ。大丈夫よ。日本に来る前はパパとよく森に入ってハンターしてたから!」


善子「私はごめん。梨子さんの側にいてあげたいの…」


果南「うん、分かった。でも一応外傷とか無いか確認してもらっていい?」


善子「分かったわ…」


花丸「じゃあマルは…」


果南「私と砂浜周辺の探索ね」


花丸「うん!」


果南「鞠莉、霧で視界が悪いから気を付けてね」


鞠莉「お互い様。海に落っこっちゃわないでよ?」

32: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:18:09.95 ID:H71/+Fhm0



………
……



ザザーン…


花丸「はぁ…」ザッザッ


果南「周りは岩壁に囲まれてる…か。ここの砂浜から他の場所には鞠莉の行った森の方からでしかアクセスできないみたいだね」ザッザッ


花丸「この島に悪夢の謎があるのかな…」



鞠莉「どうもそれは違うみたい」スッ


果南 花丸「!!」


果南「鞠莉!」


鞠莉「クレイジーなのあの森。入ってどう進んでもここの砂浜に戻って来ちゃうの。アニマル一匹いなかったし気になる物も無かったわ。竹ばっかり!」


花丸「服にいっぱい付いてるそれは…」


鞠莉「くっつき虫よくっつき虫!森中に生えてて…足も切り傷だらけになるしホント嫌になっちゃう!」バッサバッサ


花丸「あ、あとで手当てするずら…」


果南「…これで、島は探索できないってことが分かったね」


鞠莉「ダメだったの?」


花丸「砂浜も両側が岩壁に覆われてて…」


鞠莉「そう…」


果南「とりあえず戻ろうか」

33: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:18:54.23 ID:H71/+Fhm0


…………
……



善子「……」


花丸「ただいま」スッ


善子「ズラ丸…!」


鞠莉「どう?」


善子「傷とか汚れとか…全く無かったわよ。綺麗な梨子さんのままだった…」


果南「そっか…」


花丸「お疲れ様善子ちゃん…」


善子「……」


果南「じゃあ分かったのはこれくらいかな……」カキカキ


ーーーーーーーーーーーーーーーーー
・全員が起きたらここにいた
・梨子は起きたら死んでいて、原因は不明
・家の中の物はそのままだが、携帯電話だけが無い。電気水道ガスも通ってない
・他に人もいないし家も無い
・その島の浜辺にこの家だけがワープ(?)している
・ここは内浦じゃない
・淡島でも無い。それよりも小さめの島(岩壁が多め)
・裏手の森は入っても戻ってきてしまう
・周辺や空は濃霧で先が全く見通せない。昼も夜も分からない。他の島も探せない
ーーーーーーーーーーーーーーーーー

34: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:20:43.16 ID:H71/+Fhm0


善子「じゃあこの家は森と岩壁と海に四方を囲まれた砂浜の上にあるってこと?」


鞠莉「四面楚歌ってやつ?」


果南「探索は無理そうだね」



千歌「無駄だよそんなメモ」


四人「!!」


千歌「だってさ。おかしいじゃんどう見ても。私たちがこんなとこにいるわけないし…梨子ちゃんだって死んじゃうわけがない」


千歌「これは夢だよ。初夢とかでみんな一緒の夢を見ているんだよ」


ルビィ「……」


曜「……」ボーッ


花丸「確かに。普通に考えたらおかしいよねこんなの…」


鞠莉「ナイトメアなら早く覚めてほしい。私もそう思う」


花丸(あれ?そういえばマル、さっき海に浮かんでお月様と星を眺めた夢を見たような…)


千歌「また眠れば目が覚める。梨子ちゃんも元に戻る。だから悲しいのは一日だけ」


果南「だと良いけど…」



千歌「にしてもさ?」チラッ


果南「!!」

35: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:21:32.09 ID:H71/+Fhm0


千歌「夢とは言え梨子ちゃんが死んじゃったってのによく呑気にブラブラできるよね?」


花丸「なっ…」


千歌「普通は大切な人が死んじゃったら悲しいでしょ。なのに果南ちゃんも花丸ちゃんも鞠莉さんもすぐに島の様子がー霧がー…って外に出てっちゃった」


果南「それは…」


鞠莉「ノー千歌っち。確かに梨子がああなったのは悲しいわ。すっごく。…でも、みんなで泣いててもどうしようもないでしょ?こんな夢、早く覚める方法がないかって果南もマルも…それに善子もなんとかしようって頑張ってたのよ」


千歌「ふーん…じゃあ本当にAqoursの誰かが殺されても側にいてあげないで犯人がー…とか証拠がー…とか言って周りをウロウロするんだね」


花丸「むちゃくちゃだよ…」


果南「それに…何殺されたって…」




千歌「誰かが殺したんでしょ!梨子ちゃんを!私の知ってるみんなはこんな薄情じゃないもん!!夢だからって好き勝手してさ!!」


36: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:22:15.98 ID:H71/+Fhm0


果南「千歌!あんた言って良いことと悪いことがーー」バッ


善子「もうやめて!!!しょうがないでしょ言い争っても!大人しく覚めるのを待とうよ…夢だとしてもこんなAqours見たくない!」


千歌「……」


果南「…そうだね。夢のヘタレ千歌なんかとかかわりたくないし」スッ


千歌「……」ピクッ


花丸「果南さん…」


善子「やめて…これ以上は」


千歌「うん。私も殺人犯とかかわりたくないし。話さないで穏便に目が覚めるのを待とうかな」ゴロン


果南「……」


善子「もう…いや……」ポロッ


花丸「ま、マルお茶入れてくるずら!」タッタッタッタッタッ



鞠莉「……」

37: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:22:53.85 ID:H71/+Fhm0


ジョボボボボボボ…


花丸「……」コトッ


花丸「はぁ…」



鞠莉「マル」ヌッ


花丸「ずらっ!?」ビクッ


鞠莉「ふふっ驚かせてごめんなさいね」


花丸「も、もう少し待つずら。今お茶を持ってーー」


鞠莉「気にしないで」


花丸「!!」


鞠莉「千歌っちも果南もああやってぶつかっちゃってるけど…心の底では思ってることは同じ。梨子のために悲しむか。梨子のために何かをするか。そこんところがちょっと食い違っちゃっただけ」


花丸「うん…分かってるよ…」


鞠莉「ふふっ。夢でもみんな優しいってこと!まあ、起きたらみーんな忘れてるわよ!」ポンポン


花丸「だといいずら…」


鞠莉「じゃ、戻ってるね♪」スッ


花丸「あの…」


鞠莉「?」


花丸「ありがとう…ずら」


鞠莉「ふふっ♪」

38: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:23:24.56 ID:H71/+Fhm0


花丸「……」


花丸「みんな朝から何も食べてないし…お菓子も持って行ってあげよう」ゴソゴソ


花丸「夢でもお腹くらい空くずら」グゥゥ…



ドサドサバラバラ…


花丸「ずら!?」


花丸「百人一首かるたここに置いといたの忘れてた…死角になってて気付かーー」



花丸「!!!!!!!!」


花丸「この札…」スッ


花丸「昨日片付けた時と同じ…赤いシミが…」


花丸「しかも昨日より大きくなってる…」



花丸「なんで……」

39: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:24:10.74 ID:H71/+Fhm0


ーーーー
ーー


コチッ…コチッ…コチッ…



千歌「……zzz」


果南「……zzz」


曜「……zzz」


善子「……zzz」


鞠莉「……zzz」


ルビィ「……zzz」


花丸(みんなもう寝たのかな?)


花丸(なんか…バタバタしたまま一日が終わっちゃったな…)


花丸(明日になったら元に戻ってる…よね?)



花丸「……zzz」



ゴーンゴーンゴーン…
ゴーンゴーンゴーン…

40: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:24:49.50 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…
ザザーン…


ーーん?


えっと……


ああ、夢か…


…そうだった。あの後ずっとピリピリしてて…結局何もしないうちに気疲れして寝ちゃったんだった。


なんか変だね。夢の中で眠ってまた夢を見てるなんて…



!!!!!!!!!!!!


うわっ…!


月…それに星が綺麗…!


さっきみたいに霧で昼も夜も分かんないところとは違う…


淡島からもこんなにくっきり見えないよね。すごいクリア…空気が透き通ってるんだろうね…


そもそもこうやって海に仰向けで浮かんで眺めたことなんてないんだけどさ


えっと…あれがはくちょう座?いや、あれがオリオン座かな…


あはは…星が多すぎて分かんないや…

41: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:25:38.74 ID:H71/+Fhm0


…そういえば、氷点下40℃だか50℃の凄く寒い地域だと星のささやきが聞こえるとかってテレビで見たな


ふふっ。その音の正体って、吐いた息が瞬時に凍った時パキパキって小さく鳴る現象なんだけど…なんだかロマンチックだね


でも、こんなにたくさんの星が一斉にお喋りしたら月も静めるの大変そう…



…さて、ダイヤに言われてた和歌…今なら作れそうだし、考えてみようかな



…コホン



~満ちたれど 満ちてはならぬ 散りぬれば
かたは十六夜 ただいたづらに~



…これでいいかな?もっと星要素入れたかったけど月じゃないとダイヤに怒られちゃうからね


それに…夢とはいえかなりショックだったしこれでいい…


……


…結局あの後、千歌に謝れなかったな


小さい時から喧嘩は何回もしてきたけどさ
そりゃあ人殺し!なんて言われたら流石の私も許せないよ…


…でも、まあいいかな


これは夢なんだし!


起きたら千歌の頭小突いてやろっと♪
私の夢のことなんて知らない千歌はどんな反応するかな?きっとワケ分からなくて怒っちゃうかもね


そしたら謝ってあげる。おあいこってこと!



ザザーン…
ザザーン…

42: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:26:12.36 ID:H71/+Fhm0


ーーーー
ーー


ゴーンゴーンゴーン…
ゴーンゴーンゴーン…





ルビィ「うっ…ぐずっ……」ボロボロ


曜「ルビィちゃん…」


善子「くっ…」


花丸「……」ギュッ


千歌「なんで…なんでぇ……」ボロボロ




果南「鞠莉!!!!!返事してよ!!!!!鞠莉!!!!!!!!」


鞠莉「…」



果南「なんで…なんで目が覚めないの…夢じゃなかったの…」ボロボロ


千歌「うぅ…」ボロボロ


鞠莉「…」



果南「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」ボロボロ



【小原鞠莉 死亡】

43: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:26:41.45 ID:H71/+Fhm0


ーー元旦夜


華やかな京の都。

歴史的建造物、四季折々…そして、人の心の諸行無常と共に約千二百年を歩み、各地にその情緒を閉じ込めた悠久の歴史を誇る趣深い町…

正月ということも相まって、より一層静寂と情趣に磨きのかかっていますこと。

今回私がお世話になる場所は、町の中心から少し外れた小倉山の麓の山荘、《時雨亭(しぐれてい)》ですの。


それにしても…



ダイヤ「ぎゃふんですわ」ドドン


ダイヤ「まさかこんなに大きいなんて思いませんでしたわ。まさに千歌さんの老舗旅館をそのまま三つ程繋ぎ合わせたかのような…」


ダイヤ「流石ですわね。京都…」


ダイヤ「これからお世話になる身…失礼のないようにしないと…」

44: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:27:09.80 ID:H71/+Fhm0


「あけましておめでとうございます。ようこそお越しくださいました」スッ


ダイヤ「あけましておめでとうございますわ。静岡県沼津市内浦から、この度十八を迎え母の代わりに歌合に出席させていただくこととなりました。黒澤家長女、ダイヤと申します。本日からお世話になりますわ」ペコリ


「よろしくお願い致します。例年は1日に催す行事は無いのですが…本日はこの後、21:30より広間にて会合があります」


ダイヤ(早速ですわ…)


「そちらを曲がりましたところにお着替えの用意がございますので、召された後お集まりください」


ダイヤ「承知しました」


「あ、それから。当山荘では玄関口にて携帯電話をお預かりすることとなっております。これも今年の例外なのですが…どうかご了承ください」


ダイヤ「は、はあ…」


45: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:28:05.45 ID:H71/+Fhm0


ギシギシギシ…


ダイヤ「迷子になってしまいそうな程広いお屋敷…」


ダイヤ「中の造りもそのほとんどが当時のまま…客用に寝殿造りを模した多少の改築は行われてはいますが…」


ダイヤ「不思議ですわね。先程まで車に乗り整備された県道や賑わう街中を走っていたのに…気が付いたら現代から約千年もの時を越え、平安の世界に迷い込んでしまったようですわ」



ダイヤ「……」


ダイヤ「…携帯電話を預かるとは一体どういうことですの?しかも今年の特例…電波が何かに悪影響を及ぼすのでしょうか?それともこのような伝統と格式あるお屋敷にそぐわぬ現代的な物の使用を禁止するよう取り決めたのでしょうか?」



ダイヤ「!!!」

46: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:29:00.12 ID:H71/+Fhm0


コチッ…コチッ…コチッ…


ダイヤ「行き止まり…」


ダイヤ「早速迷いましたわ…」ガクッ



コチッ…コチッ…コチッ…


ダイヤ「……」


ダイヤ「…それにしても大きくて立派な柱時計ですわね。私の家にあるものと同じタイプのものでしょうか?」


ダイヤ「鐘の音がかなり大きくて相当やかましいと思うのですが…流行っているんですの?」


ダイヤ「…いえ、少し違いますわ。このように台座に四つの窪みはありません。それに決定的なのは鐘の部分…私の家の柱時計にはこのような綺麗な石は嵌め込まれていませんもの」


ダイヤ「恐らく百倍…いえ、それ以上値段に差があるのでは…」ワナワナ


ダイヤ「時計に限らずドレスやチョコレートなんかも、付属の宝石等のせいで値段が桁を超越したりしますから…本来の目的とは関係ない部分で儲けようという算段なんですわ。全く小汚くてよ?」ブツブツ


ダイヤ「しかし如何なる理由でこんな廊下の隅に…」

47: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:29:29.94 ID:H71/+Fhm0


ーー広間


ザワザワ…


ダイヤ「なんとか間に合いましたわ」ドタバタ


ダイヤ「……」


ダイヤ(全国の名だたる名家の方々が一箇所に…物凄い緊張感ですわ)


ダイヤ(果たして私に母の代わりなど務まるのでしょうか…)


ダイヤ(ん?)



「……」ギシギシ



ダイヤ(あの方が幹事でしょうか?まだ全員いらしてないのに始めるつもりですわ)


ダイヤ(…それにしても、白い狐のお面なんてしてどういうおつもりですの?如何なる理由で素顔を隠されるのでしょうか?あの容姿からしておそらく若い女性だとは思いますが…)



白狐「……」スッ


白狐「まだいらしてない方々も何名かおりますがそれは他の者に伝えさせます。特例として催される会合であるが故うまく伝達が行き渡りませんでした。しかし我々も少々急ぎの用事でして…集まられた方々だけで開始したいと思います」

48: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:29:55.59 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ(外部に漏れる可能性を気宇したのでしょうか…?)


ダイヤ(母はこんなこと言っていませんでしたわ。一体何の話なのでしょう…)


白狐「コホン。挨拶と自己紹介は省略させていただきます。例年まで幹事を務められていた方が体調不良のため、急遽私が代理を務めさせていただくことになりました」



「まあお気の毒に…」ヒソヒソ


「あのお方、もう九十過ぎてますし…」ヒソヒソ



ダイヤ(……)


ダイヤ(怪しい…)


ダイヤ(ただこの声どこかで…)



「……」スッ


白狐「そしてこちら、私の補佐です。…同じく自己紹介は省かせていただきます」


ダイヤ(今度は黒い狐のお面…)


黒狐「……」ペコリ


白狐「さて、今からお話することは他言無用…電子機器はお預かりしましたが決して録音録画…メモなどしないようご了承ください」


ダイヤ「……」ゴクリ


黒狐「……」




白狐「…八人の神隠し。百年ごとに我々の家系を襲う災厄についてです」

49: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:30:44.68 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ(神隠し!?)


ザワザワ…


黒狐「静粛に!」


白狐「…コホン。知っての通り私達はそれぞれ全国各地に名家として住を成し、名を馳せていますが、元を辿れば一つの家系。その先代達は元旦の夜に忽然と姿を消し5日の昼に、消息を絶たれたはずの部屋にてその亡骸を並べておられる…といった不可解な事件が起きているのです」


白狐「死因は不明。ただ分かっているのは、その忌まわしき災厄が百年ごとに起きていること…そして」


白狐「今年、2015年がその神隠しの起こる年であること。つまり元旦である今宵、また八人の行方不明者…そして4日後に犠牲者が出ます」


ダイヤ(なっ…!?)ゾクッ


白狐「この『八人の神隠し』が何百年前から続いているのかは分かりません。最も古い記述は1315年のもので、それ以前のものは書物が傷んで解読不能でした。無論、より以前にこの神隠しが起きていた可能性も視野に入れていますが…」


白狐「…そして、我々が調査を行なっていく過程で何点か判明したことがあります」


白狐「まず、一時的に行方を眩ましていた八名が揃って遺体として発見されたと同時に、もう一名の首が無くなった遺体…つまり九人目の死者が出るということ」


ダイヤ(九人…と聞くと何か不吉な予感がしますわね)


白狐「そして…その九人目の死体には決まって同じ箇所にこのような紋章が刻まれているのです」ヒラッ


ダイヤ(何でしょう…円卓の中に複雑な文字と…更に小さな八つの円。その円の中に赤い文字が刻まれていますわ)


白狐「そして…」


白狐「黒」


黒狐「……」スッ


ダイヤ「?」

50: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:35:44.33 ID:H71/+Fhm0


白狐「これは過去にこの内裏歌合を行った際の名簿です。この地に招かれるは決まって四十五家…となっているのですが…」ペラペラ


白狐「何故か『八人の神隠し』の起きる年だけ四十六家…謎の家系が紛れ込んでいるんですよ…」チラッ


ダイヤ「!!」


ダイヤ(なっ…何故こっちを見るんですの!?)


白狐「無論、十八を迎えたことで初めてここへ赴いた方々もおられるでしょう。それが家系数の変動に影響を与えるわけではありません」


白狐「…奇妙なのは何故かその四十六家目を割り出すことができないのです。名簿を一つ一つ確かめてもおかしな家系は無いのに、全体を見ると四十六の名前がある。これは誰に調べさせても同じです。そして、その死体が見つかると同時にその家系が名簿から消え四十五になる。しかし、それでもその紛れた謎の家系がどこだったのかを割り出すことができない。その事実は過去の資料から判明しました。ここにある、過去の神隠しのあった年の名簿も既に四十六家目が消えていたため」


白狐「以上から、その謎の四十六家目が事件の犯人…及び九人目の死者と断定しました。その家系の者は何らかの理由で百年ごとに『八人の神隠し』を起こさなければならない。八人を殺害し体に紋章を刻んだ後、四日後に隠していた死体を晒したと同時に役目を終えた自らも自害…」

51: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:36:34.66 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ(成る程…読めてきましたわ。要はこの内裏歌合に出席されている家系のいずれかにその犯人がいるということですのね?)


ダイヤ(今年が特例…とは、それを割り出すために内裏歌合という建前で犯人探しを行お うということだったんですわ)


ダイヤ(余りにもファンタジー色の強い内容ですが、あながち荒唐無稽というわけでも無さそうですわね。どの道面倒ごとに巻き込まれたってことに変わりは無いのですが…)


ダイヤ(…しかし、何故その九人目の死体の人物の家系が神隠しの主犯だと割り出せないのでしょうか?)


ダイヤ(首が無く、当時は現代と違いDNA鑑定が無かった故、人物が特定できなかったのでしょうか?)



ダイヤ(いえ、そもそも同じ歌合の出席者がその人物を見ているはずですわ…それに後から点呼をすればすぐにいないのが誰だか分かると思いますが…)

52: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:37:12.24 ID:H71/+Fhm0


白狐「この行動に何の意味があるのか分かりません。しかし、それを突き止めるのも今回の内裏歌合…」


白狐「はっきり申し上げます。これから四日間、あなた方は私たちに監禁されていただきます」


ダイヤ(やはり…)


ザワザワ…


黒狐「静粛に!」


白狐「先程申しましたように、四十六家目を突き止めることができれば長年続いたこの悪夢の連鎖は止まります。今しばらく我々にご協力ください」ペコリ


「そんな急に言われてもなぁ…」


「ウチらも芸事が控えとるさかい、辛気臭い推理ショーには付き合ってられへんわ」


「大体そのお面はどういうおつもりですの?あんた方の方がよっぽど怪しくてよ?」


ザワザワ…


白狐「……」


黒狐「……」




ダイヤ「あの!!」

53: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:37:58.28 ID:H71/+Fhm0


全員「!!」


ダイヤ「私、本日十八を迎え母に代わり静岡県内浦よりこの内裏歌合に参加させていただくことになりました。黒澤ダイヤと申しますわ」


「黒澤家の娘はんやて」ヒソヒソ


「大きゅうなられたなぁ」ヒソヒソ


ダイヤ「……」


ダイヤ「お言葉ですが…そちらのお面の主催者代理の方の話を聞くに、私もにわかに信じがたいと思いました」


ダイヤ「しかし、このような場で嘘をつかれるとは到底思えません」


ダイヤ「それに、自分の大切な家族を死の危険から守っていただけるなんて…良い話だと思いますわ」


ダイヤ「納得できない点も多くあると思いますが…ここは従った方が己のため、家族のためだと思いますの」


「……」


「……」


白狐「……」


黒狐「……」


ダイヤ「……」ゴクリ




「確かに一理あるわなぁ…」

54: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:38:25.46 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「!!!」


「まあ…黒澤の娘はんがそう言うなら仕方ないわ…」


「でも、とっととその犯人捕まえてな?本来の和歌の披露会楽しみにしとったんやから…」


白狐「ご理解とご協力ありがとうございます」ペコリ


黒狐「……」ペコリ


ダイヤ(ほっ…)


白狐「各部屋の前に二名ずつ見張りを設けます。無論、何か不審な動きがない限り襖を開ける等プライベートを阻害するような行為は致しません。何としてでも犯人を捕まえてみせます。よろしくお願いします。会合は以上です」


黒狐「……」スッ



ダイヤ(…でもこのお面の方々を完全に信じているわけではありませんわ)


ダイヤ(十分に警戒しましょう)

55: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:39:05.42 ID:H71/+Fhm0


ーーーー
ーー


ダイヤ「ふぅ…いいお湯でしたわ」ホカホカ


ダイヤ「……」


ダイヤ「御簾(みす)に御帳台(みちょうだい)に屏風(びょうぶ)に…正に貴族の寝殿を模したような部屋ですわ。落ち着きませんわね。本当に平安時代にタイムスリップでもしたかのようですわ…」


ダイヤ「そして、窓辺には簾(すだれ)と腰掛けるための倚子(いし)が…」


ダイヤ「……」ゴクリ


ダイヤ「ふふっ。さあ…ついに待望の水面月とご対面ですわ!」スッ


ダイヤ「いにしえに刻まれし数多の物語…それを今日まで欠かす事なく閉じ込めてきた庭園の池のソレ…」


ダイヤ「さあそのご尊顔…」



ダイヤ「拝してもよろしてくてよ!!」バサッ!


ダイヤ「!!!」



ダイヤ「く…曇り……」ガクッ


ダイヤ「そ、そうでしたわ…確かに今夜は全国各地で曇りだという予報…黒澤ダイヤ、不覚……また明日以降ですわね」ガクッ



ギシギシギシ


ダイヤ「!!!」


ダイヤ(例の見張りが来ましたわ)


ダイヤ(四日間拘束するとは言っていましたが、明日にでもその犯人が見つかればいい事…今夜を乗り切ればあとは今まで通りの歌合になるでしょう)


ダイヤ(その分明日、どこかの家系の八人が不幸に見舞われるのでしょうか…)


ダイヤ(色々気にはなりますが…)



?「黒澤ダイヤさん」


ダイヤ「!!」

56: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:39:39.15 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ(この声は…白い狐のお面の…)


ダイヤ「は、はい!」


白狐「襖越しですみません。あなたの見張りは私達ですので」


黒狐「……」


ダイヤ(よりによってこの二人…)


白狐「先程は勇気ある発言で助けていただきありがとうございました」


ダイヤ「いえ、とんでもありませんわ。あなた方が嘘をついているように思えなかったんですの。色々不審な点はありますが…」


黒狐「……」


白狐「それは承知の上です。全てはこの悪夢を食い止め我が家系にこれ以上の犠牲者を出さないためです。多少強引で納得できない点もあると思いますが…」


白狐「……」


ダイヤ「分かっていますわ。それ以上のことは言えないのでしょう?」


白狐「……」


ダイヤ「……」


ダイヤ「わ、私はもう寝ますわ!」ガバッ!


白狐「かしこまりました。私達のことはどうかお気になさらないで…」


ダイヤ「む、むしろ頼もしいですわ。よろしくお願いします…」


ダイヤ(はあ…本当に大丈夫なのでしょうか…)


ダイヤ(何も起きなければいいのですが)

57: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:40:05.43 ID:H71/+Fhm0


ーーーー
ーー


ダイヤ「ぐっ…ううっ……苦じい……」ググッ


……


?「……月…空………宵」


……


……



ダイヤ「………」


ダイヤ「ん……」チラッ


ダイヤ「5時……まだ真っ暗ですわ」モゾモゾ


ダイヤ「酷くうなされた気がしましたが…あれは夢だったのでしょうか」


ダイヤ「それに、あの後の…」



「……だ……った…」


「黒………消……」



ダイヤ「?」


ダイヤ「廊下が騒がしいですわね。まだこんなに早いのに」


ダイヤ「何かあったのでしょうか?」スッ



「間違いないのですか?」



「ええ。黒澤家に泊まっていた、娘ルビィを含む八人の消息が不明です」



ダイヤ「!?!?!?!?!?」

58: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:40:52.98 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ(ル…ルル…ルビィ達が…行方不明…!?)


「部屋の痕跡からして、八人の神隠しで間違いありません。それと、携帯電話だけが部屋に残されていたそうです」


「内輪に留めているだろうな?」


「無論。黒澤家当主様もその事は固く存じあげております。もっとも、現在はこちらの者に身柄を確保させましたが」


「しかし何故?黒澤ルビィはともかく他の七名は血縁関係にない。異例ということか?」


「分かりません…もしくは家族と言って差し支えのない程身近な存在だったのではないでしょうか?その七人も」


「…と言うと?」


「消えたのはAqoursという名でスクールアイドルの活動をしている方々だそうで」


「成る程、今年はその仲間を皆殺しにするというのか…残酷だ」


ダイヤ(一体どういうことですの…)


ダイヤ(それに、まさか疑われているのは…)

59: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:41:18.14 ID:H71/+Fhm0


「彼女はずっと部屋にいました。にも関わらず犯行に移ることが出来たということは…やはり人間ではない妖の類なのでしょう。過去の事件も…」


「しかしこの禍々しい悪夢の連鎖も今日で終わり。捕らえて焼き払ってしまいましょう」


ダイヤ(ひっ…)


ギシギシ…


ダイヤ(来る…)


ダイヤ(こうなったら…)


スススススッ…


白狐「黒澤ダイーー」


ダンッ!


白狐「!!」


黒澤ダイヤ「くっ…!」タッタッタッタッタ


白狐「聞かれていましたか」

60: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:41:57.71 ID:H71/+Fhm0


白狐「黒澤ダイヤ…いや、長年我ら一族を苦しめた妖が逃走しました。直ちに奴を追ってください。絶対に逃さないでください!」



バッ…バッ…バッ…



黒澤ダイヤ「くっ…」ダッダッダッダッ


ダイヤ「何が…何がどうなっているんですの」ダッダッダッダッ


ダイヤ「私が…犯人……」ダッダッダッダッ


ダイヤ「それにルビィ…皆さん…」ダッダッダッダッ


ダイヤ「どうして!!!」ダッダッダッダッ



ダイヤ「!!!」


ダイヤ「行き止まり…」



「曲がったぞ!」


「追い詰めろ!!」



ダイヤ「そんな…」ガクッ




?「こっちです」グイッ

61: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:42:26.02 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「!?!?」


ピシャッ!


ダイヤ「あなたは…」


?「押入れへ!早く!」


ダイヤ「は、はい!」ササッ


ピシャッ…


ダイヤ「……」ドキドキ


「消えたぞ!」


「近くにいるはずだ。絶対に見つけ出せ」


ダイヤ「……」ゴクリ



ススッ…


白狐「おはようございます。朝から騒々しくして申し訳ありません」

62: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:42:54.08 ID:H71/+Fhm0


?「おはようございます。どうかされたのですか?」


白狐「こちらに黒澤家の方が参りませんでしたか?」


?「黒澤家?いえ、見ていませんが…」


白狐「そうですか…」


?「あの、まさか神隠しの犯人って…」


白狐「詳しいことは後程の会合で。また何か分かりましたらご報告の方お願い致します」


?「承知しました。我が家系に根付く邪念、必ず断ち切りましょう」


白狐「ええ。では、失礼致しました」ススッ


ピシャッ…


ダイヤ「……」


?「もう出てきても大丈夫ですよ」


ダイヤ「…ありがとうございますわ」ススッ


?「まさかこんな形でお会いすることになるとは…」


ダイヤ「ええ…」




ダイヤ「お久しぶりですわ。Saint Snowの鹿角聖良さん」


聖良「ふふっ」

63: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:43:42.86 ID:H71/+Fhm0


ーーーー
ーー


コチッコチッコチッ…


千歌「今から質問するからそれだって思う方に手を上げてね」


果南「……」


曜「……」


善子「……」


花丸「……」


ルビィ「……」



千歌「梨子ちゃんと鞠莉さんを殺したのはこの中にいると思う人」バッ


五人「!!!!」


曜「ちょっと千歌ちゃん!!!」


果南「まだそんなこと…」


善子「何よその質問!!殺されたこと前提でしかも…しかもこの中に犯人がーー」


千歌「私は!!!!!」バッ



千歌「花丸ちゃんが犯人だって思うよ」

64: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:44:13.79 ID:H71/+Fhm0


花丸「!!!!!」


ルビィ「な、何言ってるの…千歌ちゃん…」


果南「千歌」


千歌「梨子ちゃんも、鞠莉さんも…傷とかが全然無かった。ってことはさ、毒か何かで死んだんだよ。ならそこのお菓子だったり昨日のお茶だったりに仕組まれてたんだよ。それが出来るのは花丸ちゃんしかいないよね」


花丸「うぅっ…そんな……マルはそんなこと」ポロッ


ルビィ「花丸ちゃん…」ギュッ


善子「あ、あなた自分が何言ってるか分かってるの!?」


曜「千歌ちゃん。謝って」


千歌「ねえ花丸ちゃん?ここはどこなの?何で殺したの?何の恨みがあったの?Aqoursはどうなっちゃうの?それ全部吐いてから二人みたいにーー」


花丸「違う!!!マルは本当に!!!!」



バッ!


五人「!!!!!!!」


曜「か……」



果南「……」グググッ



千歌「果南…ちゃん?」

65: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:45:05.85 ID:H71/+Fhm0


果南「……」ググッ


千歌「あはは…何してるの…?」



果南「今から私は千歌を本気で殴る」ググッ


千歌「!!!」


曜「ダメ!!」


果南「それで目が覚めたらみんなに謝って。目が覚めないんなら…いいよ。こうやって暴力を振るう私が殺人犯ってことで。そうしたら私が死ぬ。消える。霧の向こうの…どこに繋がってるか分からない向こうへ泳いでく。でも、花丸や…他のみんなをそんな風に言うのはやめて」ボロボロ


曜「果南ちゃん…」


善子「バカよ!バカ!!いい加減にして!!」


ルビィ「うっ…うう…」ボロボロ


千歌「果南ちゃん…」



果南「千歌!!!!!!」ブンッ!



ガッ!!


五人「!!!!!!」



果南「なっ…」



花丸「いたた…」ヨロッ

66: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:45:45.33 ID:H71/+Fhm0


善子「ズ…ズラ丸……」


ルビィ「花丸ちゃん…どうして…」ボロボロ


曜「血が…口のとこ切れてる…」


花丸「…ううん。大丈夫ずら」ゴシゴシ


果南「は…花丸……私…」


千歌「どうして…」


花丸「鞠莉さんがね、言ってたずら」


ーー
ーーーー



鞠莉『千歌っちも果南もああやってぶつかっちゃってるけど…心の底では思ってることは同じ。梨子のために悲しむか。梨子のために何かをするか。そこんところがちょっと食い違っちゃっただけ』



ーーーー
ーー



千歌 果南「!!!!」


花丸「…だからぶつかるのはしょうがないと思う。でもね、それは例え道が違っても同じものを見ているからこそ起きてしまうことずら。それすら違っちゃったらそれはぶつかってるんじゃない。二人は敵同士」




花丸「ただの殺し合いずら」

67: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:46:23.94 ID:H71/+Fhm0


果南 千歌「……」


花丸「一つになろう。鞠莉さん…それに梨子さんだって、最後まで信じてたんだから…」


千歌「……」


千歌「ごめん…ちょっと頭冷やしてくる…」フラッ



ルビィ「あっ…」


善子「今はそっとしときましょ…」


ルビィ「うん…」


果南「みんな…ごめん」


善子「謝んないでよ。みんな辛いのは一緒なんだから」


曜「そうだよ。千歌ちゃんが戻ってきてさ、落ち着いたらゆっくり考えよう」


果南「うん…」


ルビィ「花丸ちゃん…ちょっと待っててね。傷の手当てするから」スッ


果南「あ、それなら私が」


花丸「ううん。大丈夫だよ」


果南「そういうわけにはいかないよ…せめて手当てくらいさせて」スッ


花丸「…分かったずら」

68: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:46:57.79 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「……」


善子「……」


花丸「……」



曜「なんか…ごめん」


善子「だから謝らなくても…」


曜「ううん。本当はこういう時、私たち上級生が一年生の三人を守ってあげなきゃなのに…逆に宥めてもらってさ。情けないなって」


善子「はぁ…何言ってるのよ」


曜「え?」


善子「高々一年二年の年の差でしょ?こんな状況なんだし…建前の上下関係なんて亀裂が悪化するだけよ。ここではそういうの無し。コミニタスってやつよ」


曜「善子ちゃん…」


善子「ヨハネよ」


ルビィ「そ、そうだよ!梨子さんも鞠莉さんも…それにお姉ちゃんもいなくて…そりゃルビィ達も辛いけど、曜さんや千歌さん…果南さんはもっと辛いと思う…だから無理しないで」


曜「ルビィちゃん…」


花丸「ただでさえおかしい事だらけだから…逆に、ふとした事で元の世界に戻れるかもしれないずら。それに、梨子さんや鞠莉さんだって生き返るかもしれない…大丈夫。信じていれば…」グゥゥゥ…



花丸「!!」

69: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:47:31.89 ID:H71/+Fhm0


曜「花丸ちゃん?」


花丸「な、なんだかお腹空いたずら…こっちに来てからちゃんとしたもの食べてなかったし…」


善子「はぁ…もう。ズラ丸ったら」


ルビィ「は、花丸ちゃん…」


花丸「えへへ…」


曜(ふふっ…そうだよね。こういう不安で辛い時こそ笑顔でいなきゃ…)


花丸「まだ小倉まんじゅうが残ってたからそれでも食べようかな」ゴソゴソ


善子「またそれ?よく飽きないわね」


ルビィ「花丸ちゃんと言ったら小倉まんじゅう、小倉まんじゅうと言ったら花丸ちゃんだよ!」


花丸「な、何それずら!?」


曜(そのためには…やっぱ仲間って大切なんだね)

70: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:48:54.02 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「あ、そういえば…」


三人「?」


ルビィ「この『小倉』…ってあんこのことだよね?なんで『小倉』って言うんだろう…お姉ちゃんが行った場所も小倉山って言うんだけど…何か関係あるのかな?」


花丸「そうだよ!むかーしむかし、空海様が中国でいただいてきた小豆を今の京都の小倉山周辺で育てたからそう言う名前がついたとか、昔小倉山にたくさん住んでた鹿さんの斑点模様が小豆みたいだったからそれが由来になったとか…説は色々あるけど小倉山が小倉あんの元になったのは間違いないずら」


善子「へぇ…知らなかったわ。やば珈琲でよく小倉トースト食べてるけどそんなこと全然気にしなかったわ」


ルビィ「意外だね。善子ちゃんがそんな和風なもの食べるなんて」


善子「な、何よ!悪い!?」


花丸「もっとベリーやクリームでギトギトのデザート食べてそうだから」


曜「ギトギトって…」


曜「じ、じゃあ『小倉百人一首』も小倉山発祥ってことなのかな?」


花丸「あ、それはーー」



果南「おまたせ花丸。血止まった?」ゴトッ

71: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:49:46.29 ID:H71/+Fhm0


花丸「あ…ありがとう…」


花丸「ん?」


花丸「小倉百人一首…血…」



花丸「!!!!!」


果南「?」


花丸「ちょっと待っててずら!」タッタッタッタッ


果南「あ…」


善子「ちょっとズラ丸!」


曜「どうしたんだろう…」


果南「何かに気付いたみたいだけど…」


ルビィ「…そういえば果南さん、なんで救急箱の場所分かったの?」


果南「ふふっ。昨日ね、鞠莉が森に入った時に木の枝で足とか切っちゃったみたいで…その時にーー」


果南「……」


ルビィ「?」


果南「森…」


善子「へ?」


曜「森がどうかしたの?」


果南「まさか…あの森に入るとその日の夜に死んじゃうんじゃ…」

72: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:50:12.19 ID:H71/+Fhm0


三人「!!!」


果南「そうだ…昨日、私と花丸が砂浜の探索で鞠莉が…鞠莉だけが森に入ったんだ…だから…」


曜「…ってことは、梨子ちゃんも森に入ったってこと?」


善子「それはないわよ」


果南「え?」


善子「だって、あの森ってくっつき虫がたくさん生えてるんでしょ?もしあそこに入っていったのなら鞠莉さんみたいに服にたくさん付くはずだわ…でも、梨子さんの服にはそれが無かった…」


善子「それにその日の夜私、眠る直前に梨子さんの布団に入ってちょっかい出したの。その後怒られてシブシブ抜けたんだけど…朝起きて梨子さんを見たら私が抜けた時の布団の跡がそのままだったから…」


曜「え?それっておかしくない?そんな跡、少し寝返り打っただけですぐ消えちゃうよ」


果南「寝返りを全く打たないってのも変…だよね?」


ルビィ「えっと…つまり……」



花丸「梨子さんはみんなが寝てからすぐに亡くなった…」


四人「!!」


ルビィ「花丸ちゃん!」


善子「どこ行ってたのよ」


花丸「これ見て…」


曜「!!!」

73: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:50:55.97 ID:H71/+Fhm0


ジワッ…


ルビィ「ひっ!?」


果南「何この赤いシミ…」


善子「ち…血なの?」


花丸「分からない…ダイヤさんと百人一首をして片付けてた時に気付いたずら。最初は豆粒みたいに小さかったんだけど、昨日見た時に少し大きくなってて今見たら…」


善子「100円玉くらいはあるわよ…」


ルビィ「な、並べたらすぐに分かっちゃうね…」


曜「何か意味があるのかな…?」


果南「他の札には無かったの?」


花丸「多分…」


果南「何か一連の出来事に関係してるのかな…」




善子 曜「「あ…」」

74: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:51:22.70 ID:H71/+Fhm0


三人「?」


善子「ごめん。先に言って」


曜「ううん。善子ちゃん先良いよ」


善子「そう…」


善子「いや、全然関係ないんだけどさ?ふと思いついて」


花丸「どうしたの?」


善子「鞠莉さん達、部屋を移さない?ここより奥の部屋の方が湿気も少ないし…その、腐りにくいっていうか…」


曜「ああ…」


ルビィ「善子ちゃん…」


果南「そうだね。移そう。ありがとう善子」


善子「ううん。別に…」


曜「じゃあ運ぼうか。まず鞠莉さんから…布団の四隅を持って」


果南「鞠莉…ちょっと動くけど我慢してね…」ギュッ


鞠莉「…」

75: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:52:06.72 ID:H71/+Fhm0


花丸「……」ギュッ


善子「……」ギュッ


ルビィ「お、重い…」プルプル


曜「平気?ルビーー」


ルビィ「ピギィ!!!」ドサッ!


花丸「わっ!?」グラッ


善子「ちょっとルビィ大丈夫?」


ルビィ「うん…」


果南「曜、代わってあげて」


ルビィ「ごめんなさい…」


曜「いいよいいよ。力仕事は任せて」


曜「…と、とりあえず鞠莉さんを布団に戻そう」


善子「そうね。足の方お願いするわ」


曜「うん」


曜 善子「せーの」


曜「よいしょっと…」ギュッ



曜「!?!?!?!?」

76: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:53:02.88 ID:H71/+Fhm0


果南「どうしたの!?」


善子「何!?」


曜「……」


花丸「曜…さん?」


曜「固い…」


ルビィ「え?」


善子「そ、そりゃあ…死んでるんだからそうよ…」


曜「今、何時?」


果南「何時って…」チラッ


果南「7時半前だけど…」


善子「それがどう関係あるのよ?」


曜「死後硬直…」


花丸「へ?」


曜「昔おじいちゃんが亡くなってさ、親戚と遺体を動かした時すごく冷たくて重くて…そのことをお坊さんに聞いたんだけど、死後硬直って顎の方から始まって上から下に進んでって全身の筋肉に至るのに12時間以上はかかるんだよ…って」

77: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:53:32.64 ID:H71/+Fhm0


曜「でも今鞠莉さんの足は鉛のように重くて…とても7時間とかの硬直じゃないっていうか…」


善子「何言ってるのよ。硬直がどうとか…素人の私達にそんなこと分かるわけないでしょ?昨日私が梨子さんの死体を調べた時も全身ガチガチだったわ。それとも、あの時計が間違ってるとでも言いたいの?」


曜「別にそういうわけじゃ…」


曜「でも…」


果南「まあ確かに変わった柱時計だなって思ったよ?毎時間…とか、12時だけ…とかじゃなくて12時と6時に鐘が鳴るなんてーー」


ルビィ「え?」


果南「ん?どうしたの?」




ルビィ「あの時計、6時に鐘が鳴るなんてありえないよ…鳴るのは12時だけだよ」

78: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:54:05.15 ID:H71/+Fhm0


四人「!?!?!?」


曜「どういうこと!?」


果南「だって…私、初日だって6時の鐘の音で目が覚めて…」


花丸「うん!それで外に出ようってなったし…」


善子「それに今日も!さっき6時に鳴ってたじゃない!!」ダッ


ルビィ「そんなはずないよ!ルビィが生まれてからずっと、あの時計は一度も6時に鳴ったことない…それはお姉ちゃんも同じだと思う!」


果南「どうなってるのあの柱時計…やっぱ壊れてるんじゃ…」スッ


コチッ…コチッ…コチッ…


果南「……」



曜「どう…?」


ルビィ「ちゃんと…動いてるよね?」


果南「……」


花丸「果南さん?」


果南「みんな」


四人「!!」


善子「何か分かったの!?」



果南「ちょっと聞きたいんだけどさ…」



果南「こっちに来てから、この時計の針が12時から6時までの間の時間を指しているのを見たことある人…いる?」

79: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:54:37.22 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「……」


花丸「……」


曜「……」


善子「嘘でしょ…」


果南「ちなみに私も無い」


果南「昨日、朝起きて梨子が死んでるのを見た時も鐘が鳴った6時過ぎ、その後私達は外で調査したりでバタバタしてて…寝るまで全く時計を見なかった…」


善子「そうね…」


曜「私は塞ぎ込んで部屋にいたけど…時間なんて全く気にしてなかった…」


ルビィ「ルビィも…」


果南「じゃあ曜、ルビィ。私達が外にいる時時計は鳴った?」


曜 ルビィ「!!!!」



曜「鳴ってなかった…」


善子 花丸「!!」


ルビィ「うん…」

80: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:55:13.59 ID:H71/+Fhm0


果南「もし時計が12時を指した時と6時を指した時に鳴るのなら…6時、12時、18時、0時…って、一日で計四回鳴るはず。なのに私達が確認できているのは二回…ううん、起床する時の一回だけ」


善子「何がどうなってるのよ…」


果南「…鐘の音や針の指す時間に認識できるものとできないものがあるのは何故か。鞠莉の死体の死後硬直があんなに進んでるのは何故か。それは死ぬ時間との関係、梨子が森に入ってないってことの証明にも繋がるかも」


ルビィ「時計に何かあるの!?」


果南「…見てこの時計の秒針」


コチッ…コチッ…コチッ…


曜「古いけど精密に作られてるね」


善子「あれ?この鐘のくぼみは?」


ルビィ「それは元々あったと思うけど…」


花丸「じーっ…」


善子「やっぱちゃんと動いてるような……動いてないような……」


ルビィ「でもあれ?なんかちょっと遅いような…」



四人「!!!!!!」


善子「あ…あれ!?」


果南「そう。一秒で半分…0.5秒ぶんしか進んでない」

81: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:55:56.54 ID:H71/+Fhm0


果南「つまりこの柱時計は、秒針が一周するのに二分。長針が一周するのに二時間。短針が一周するのに二十四時間…普通より倍の時間がかかる…ってこと」


善子「やっぱり壊れてるじゃない!」


果南「ううん。壊れてないよ」


曜「…どういうこと?」


果南「この時計のシステムを頭に入れて説明を聞いてね。順を追って説明するから」


果南「まず昨日、私達が目が覚めたのは鐘の鳴った朝の6時過ぎ…でもこの掛け時計は本来十二時間ごとにしか鳴らない。」


果南「つまり、私達が目覚めた本当の時間は昼の12時。正午ってこと」


善子「そうか!実際に十二時間経ってるから鐘は鳴った!でも本来時計が示すはずの半分だけしか針が進まないから針は6時を指してたってことね!」


曜「そんなに長く寝てたなんて…」


果南「で、その後私達が探索に行って戻って寝るまでの間…善子が言ったように時計は本来動くはずの半分だけしか動かない。だから例えば五時間六時間経っても時計は6時から二時間半、三時間ぶんしか進まないから針は8時半とか9時しか示さない」


果南「で、色々あったけど時計が0時を指す前にみんなは寝た。だから0時の鐘も聞けなくて、私達が認識した鐘は起床時…つまり昼の12時の一回だけだったんだよ。そしてさっき、昨日と同じくその昼の12時(時計で言う6時)に起きたら鞠莉が死んでた」


果南「さっき曜がこの死後硬直の進行具合は七時間半程度じゃないって言ったのもその通りで…実際は倍の十五時間経ってるから」


果南「つまり今現在の時刻…時計は7時半を指してるけど本当は15時ってこと」

82: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:56:28.03 ID:H71/+Fhm0


曜「……」


果南「鞠莉も…恐らく梨子も0時の鐘と同時に死んだんだよ。それなら梨子も森に入れない…つまり森に入ることが死に繋がるわけじゃない」


ルビィ「そんな…」


善子「じゃあどうして二人は…」


果南「それは分からない…」


果南「…それから、みんなおかしいなって思ってることが他にもあると思うけど…」


花丸「なんでマル達は十二時間しか起きていられないのか…ずら」


果南「そう。時計の指す6時から12時までの十二時間は起きているのに、12時から6時までの十二時間は眠ってしまう」


果南「考えたく無いけど…それこそがここでのルールなんじゃないかな?」


四人「!?」


果南「半日眠って誰かが死んで、半日起きてまた半日眠って誰かが死んで…それを繰り返して最後は皆死ぬ…」


ルビィ「ま、まだ終わらないってこと…?また誰か死ぬの…?」


果南「分からない…あくまで憶測だから…」


花丸「もう嫌だよ…」ギュッ


果南「……」



善子「ねえ、やっぱり時計が壊れてないって理由にはなってないんじゃない?」

83: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:56:56.53 ID:H71/+Fhm0


果南「そうだったね。ごめん。本来の半分だけしか進まないからややこしくなってるだけだね…異世界に来て狂っちゃったのかな…頭も時計も」


花丸「どの道AMの時間は眠っちゃっててPMの時間しか起きてられないってことずら」


善子「半分しか進まないなら、逆に今の時間を求めたければ時計の指してる時間に×2すればいいんじゃない?6時なら12時、7時半なら15時、9時なら18時、11時15分なら22時半って」


ルビィ「時計の数字が 1~12じゃなくて0から2個飛ばし…
(眠)0.2.4.6.8.10.12
(起)12.14.16.18.20.22.0
になったって考えれば覚えやすいかもね」


善子「あ…そうだ」


曜「ん?」


善子「さっき途中で言いかけたこと何?私が遮っちゃった…」


曜「ああ…ほら、百人一首の赤いシミの話だったじゃん?それでさ、上の句の札の方にもシミがあるんじゃないかなって…」


花丸「あ、そっちは見てなかったずら」


花丸「えっと…」ゴソゴソ



花丸「!!!!!!!!!」



善子「どうしたのズラ丸そんな驚ーー」



善子「!!!!!」

84: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:57:37.69 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「こ、これ…シミの札の上の句だよね…」


曜「嘘…私が読んだ時はこんなの書いてなかった…」


果南「この文字…真っ赤。血で書いてあるの…?」



【四人の王に陽は昇らずただ月が浮かぶのみ】



曜「どういうこと?」


ルビィ「四人の王様って何だろう…」


果南「陽は昇らず…ってことは朝は来ない…つまり死ぬのは四人ってこと?」


善子「まだあと二人…誰かが死ぬっていうの?」


曜「まさか……」


花丸「月が浮かぶのみ…」



花丸「そういえばマル、昨日すごく素敵な夢を見たずら」


善子「こんな時に何よ…」


花丸「夜、広~い海に浮かんでお空いっぱいのお星様とお月様を眺めてたずら。あまりにも綺麗だったからダイヤさんに言われてた和歌を作っちゃったんだよ。えーと確か…」




果南「その夢、私も見た」

85: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:58:06.72 ID:H71/+Fhm0


花丸「え?」


果南「私が見たのは今日なんだけどね?大きい満月と、内浦でも見れないような空一面の星空を海に浮かんで眺めてたの。ダイヤが言う時雨亭の国宝級の月ってのにも負けてないような。あまりにも綺麗で…でもちょっと寂しくてその時一句詠んでみたり…」


曜「珍しいね。一日遅れで同じ夢を見るなんて…」


曜「あ、私は水の中で泳いだ夢を見たよ。青くて透き通った海中に陽の光が差しててさ。それで海の底に綺麗な石が落ちてたの。それを拾おうとしてそこまで潜って手に取る直前に目が覚めちゃったんだよね」


果南「それ、私が昨日見た夢だ」


曜「え?」


果南「私は拾おうとはしなかったけど、他は全部一緒…」


曜「じゃあ果南ちゃんと一日遅れで同じ夢を見た…ってこと?」


果南「あまりにも偶然過ぎない?」


善子「何よそれ。私も、水に浮かんでる夢だったわ。でも、散々だったわよ。夜の水面に豪雨が降り注いで…雷でも落ちて天に召されるんじゃ無いかと思ってヒヤヒヤしたわ」ガクガク


善子「あ、昨日の夢は雨こそ降らなかったけど新月で真っ暗な水面に浮かんでたわ。何より水が冷たくて死ぬかと思ったわよ!なんで私ばっかり悪夢を…」




花丸「それ!マルが今日見た夢ずら!!」


善子「え!?」

86: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:58:32.98 ID:H71/+Fhm0


花丸「昨日の夢の景色が素敵過ぎて今日はすっごく酷く感じたずら。空は微妙だし水は冷たいし…」


曜「これは偶然では無さそうだね」


果南「うん。みんなが同じような夢…いや、一日違いで全く同じ夢を見てる人もいる。これは…」


ルビィ「……」


曜「…そう言えばルビィちゃん。昨日の朝、泣いてたけどさ」


曜「もしかして、夢と関係ある?」


ルビィ「……」ビクッ


善子「そうなのルビィ!?」


ルビィ「うん……」


花丸「ルビィちゃん…」


曜「話してくれるかな?」


ルビィ「……」


果南「大丈夫だよ。自分のペースで」


ルビィ「……」




ルビィ「血の海だった…」

87: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:59:02.54 ID:H71/+Fhm0


善子「血の海!?」


曜「どういうこと!?」


ルビィ「ルビィ…水の中にいたんだけど突然上から絵の具でも落としたように周りの水が真っ赤というかドス黒い赤に染まって…それが怖くて怖くて…」


花丸「そうだったんだ…だから…」


ルビィ「うん…」


果南「それを見たって人、他にいる?」


曜「……」


花丸「……」


善子「……」


果南「そう…じゃあ今日は?」


ルビィ「今日は血じゃなかったけど…生暖かい水の中は酷く濁ってて分かりにくかった…」


果南「それを見たのは…」




千歌「私」

88: 名無しさん 2017/02/22(水) 14:59:32.43 ID:H71/+Fhm0


五人「!!!!」


曜「千歌ちゃん!!」


千歌「ごめんね。もう大丈夫だから…」


果南「そう…」


花丸「……」


善子「で、ルビィが見た夢…見たの?」


千歌「うん。昨日ね…なんだかよく分からなかったけどルビィちゃんの見た夢で間違い無いと思う。生暖かくて濁った分かりにくい水の中を泳いでた」


花丸「今日は?」


千歌「今日は何もない冷たーい水の中を彷徨ってただけだよ」


曜「それ私!今日見た!!」


ルビィ「また被ったね…」



果南「……」


花丸「果南さん?」



果南「今、みんなが口にした夢は何種類?」

89: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:00:02.44 ID:H71/+Fhm0


曜「えっと…

・綺麗な月明かりと星空の水面
・水底に何かある青く透き通った美しい水中
・雨に晒される水面
・新月の冷たい水面
・赤くドス黒い血のような水中
・生暖かくて濁った水中
・真っ暗で冷たい水中

…の七種類だよね?」


果南「この中で例えば曜が一日目夜に見た夢は千歌が二日目夜に見てて、曜が二日目夜に見た夢は私が一日目夜に見たりしてる」


果南「つまり、この夢は順番になってるんじゃないかな?」


千歌「順番…」


果南「そうすればルビィの血の夢を他の誰も見てないのにも納得がいく。あれが最初の夢だったから。で、今日見たのは二番目の濁った水の夢なんだよね?」


ルビィ「うん…」

90: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:00:48.81 ID:H71/+Fhm0


千歌「つまり私は二番目の生暖かくて濁った水の夢から始まったんだね。で、今日見たのは三番目の何もない冷たい水中の夢」


曜「私はその三番目の冷たい水中の夢から始まって、今日見たのは四番目の綺麗な水中の夢。水底に石を見つけた」


果南「私はその四番目の綺麗な水中の夢から始まって、今日見たのは五番目の綺麗な月と星空の水面の夢」


花丸「マルはその五番目の月と星空の水面の夢から始まったずら。今日見たのは六番目の冷たい水面の夢」


果南「つまり…

一…血染めの水中…【ルビィ】
二…生暖かくて濁った水中【千歌】
三…真っ暗で冷たい水中【曜】
四…水底に何かある美しい水中【果南】
五…綺麗な月明かりと星空の水面【花丸】
六…新月の冷たい水面【善子】
七…雨に晒される水面

…で始まって一日経つごとに下に一つずつずれた夢を見ていくことになるね」


果南「そして七番目の雨に晒される水面の夢…これを他に見た人はいない。いるとしたら…」



果南「死んだ梨子か鞠莉だけ」


千歌「!!!」


果南「つまり、この夢は死の順番を表しているんだよ。恐らく梨子は初日に八番目…つまり死の夢を見てしまった。そして、その日鞠莉は七番目だった。だから一日経って鞠莉は八番目の夢を見ることになっちゃってそれで…」

91: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:01:21.77 ID:H71/+Fhm0


曜「待って…ということは…」


果南「うん…多分今夜死ぬのは七番目の夢を見ちゃった…」


千歌「……」


曜「……」


花丸「……」


ルビィ「……」



善子「いや…」



果南「善子の番かも…」


善子「い…いや……いやよ…」ポロッ




善子「いやああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!

92: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:02:06.08 ID:H71/+Fhm0


ーーーー
ーー



ダイヤ「まさか聖良さんもこちらにいらしていたとは…」


聖良「ええ。母に変わり名家、鹿角家の長女として今年から歌合へ参加させていただくことになったんです。昨晩は雪の影響で遅れてしまい夜の会合には間に合いませんでしたが…」


ダイヤ「成る程それで…」


ダイヤ「……」


ダイヤ「という事は…」


聖良「私たちは親戚…ということですね。遠い遠い…」


ダイヤ「ええ…」


聖良「さて、事情を説明してもらえますか?」


聖良「こういう時は遠い親戚より近くの他人というやつですよ。お力になれるよう努めますから。ふふっ、まあ私の場合どちらにも該当するんですけどね」


ダイヤ「他人だなんてとんでもありませんわ。今こうして頼れるのは、スクールアイドルとして親睦の深まった聖良さん、あなたしかいないんですの」


聖良「恐縮です」


ダイヤ「『八人の神隠し』についての説明は受けられましたか?」

93: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:02:32.19 ID:H71/+Fhm0


聖良「ええ。到着してここに案内されるなり私の部屋の前に明らかに怪しい人物が二人も佇んでいるものですから訝しいなと問い詰めてみたんです。そうしたら白と黒の狐のお面の方が慌てて走って来て説明してくださりました」


ダイヤ「そ、それなら話が早いですわ」


ダイヤ「今朝起きたら部屋の外でこの家の方々が話されてるのを耳にしまして…どうやら例の神隠しの被害にあったのがルビィ達だと…」


聖良「達…と言う事はつまり、Aqoursの他の七人もということですか?」


ダイヤ「はい。昨日、皆さんは私の誕生日会を開いてくださるということで全員が家に集まったのですわ。まあ途中から百人一首大会になってましたけど…」


ダイヤ「私はこの内裏歌合のため途中で抜けてきましたが皆さんはそのまま泊まったんですの。恐らくそのまま神隠しの餌食に…」


聖良「なんと…」



聖良「ん?」


ダイヤ「どうされました?」


聖良「ダイヤさん、少し上を向いていただいてもよろしいですか?」


ダイヤ「こう…ですか?」グイッ


聖良「!!!!」


ダイヤ「聖良…さん?」


聖良「…鏡です」スッ


ダイヤ「……」バッ



ダイヤ「!?!?!?!?!?」

94: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:03:32.93 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「こ、これは…何ですの!?」


聖良「マジック等では無さそうですね。肌に刻み込まれています…」


聖良「円卓の中に複雑な文字と更に小さな円が八つ…内一つは中に赤い奇妙な文字が刻まれています…」


聖良「間違いありません。説明に聞いた九人目の死体に刻まれている紋章です」


ダイヤ「そんな…」


ダイヤ「昨日は無かったのに…何故…」


聖良「ダイヤさんが神隠しに関係しているのは…どうやら間違いないようですね」


ダイヤ「……」


ダイヤ「やはり私が皆さんを…」


聖良「……」


ダイヤ「正直、こうなってしまった以上私が疑われるのも無理は無いと思っていますの。ただ、本当に分からないんです…何故ルビィ達がこんな目に遭ってしまったのかも…」


ダイヤ「過去の神隠しに則ればこのままでは5日の昼には皆死んでしまう…それに、おそらく九人目の死者となるのは私でしょう…」


ダイヤ「いえ…もし私が生まれつきそのような妖の力を持ち関係ない皆さんを巻き込んでしまったのなら…私は死んで償うべき。この世に生きている意味などありませんわ…」


ダイヤ「で、でも本当に私は故意に皆さんを殺めようとしたのではーー」



ギュッ


ダイヤ「!!!」

95: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:04:08.46 ID:H71/+Fhm0


聖良「落ち着いてください。大切な皆さんがいなくなって取り乱す気持ちも分かります。ですが残されたあなたがそれでは前に進めません」


聖良「私も、あなたが関係しているとは思っていますが…神隠しの犯人だなんて微塵も疑っていません。どうか気を確かに。私がダイヤさんを匿いますから」


ダイヤ「申し訳ございません…私…」ポロポロ



聖良「あなたはあの狐の言葉を鵜呑みにし過ぎです」


ダイヤ「え…?」


聖良「白狐の話を聞いておかしいと思う点、何かありませんでしたか?」


ダイヤ「おかしな点…た、確かにいくつもありましたけど…」


聖良「白狐の言うことを真に受けてはいけません。彼女…いえ、今回の内裏歌合は怪しい点が多過ぎる…」


ダイヤ「……」


聖良「まず、九人目の死体の件ですが…その死体は首の無くなった状態で見つかるのですよね?」


ダイヤ「え、ええ…」



聖良「ですがダイヤさん。あなたの紋章は首にある」


ダイヤ「!!」

96: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:04:44.32 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「そ、そうですわ…確か白狐はこの紋章は過去の死体全てに決まって同じ場所に刻まれていると言っていましたわ」


聖良「ええ。だとしたら無くなった首に刻まれている紋章など見つけようがないのです。それに、自害も不可能。自らの首を切り落としてそれを誰にも見つからない場所に隠すなんて…どうしてできましょうか?」


ダイヤ「あの方は嘘をついた?」


聖良「そうなりますね…」


聖良「それに、そもそも何故あの方々は顔を隠す必要があるのでしょうか…?」


ダイヤ「そ、そうですわよね。私達の家系の者ならわざわざ顔を隠す必要などありませんわ。あの二人以外この屋敷の他の方は誰も狐のお面をしていませんでしたから…」


聖良「身バレするのを恐れている…ということでしょうか?」


ダイヤ「確かこちらのお屋敷の幹事様が体調を崩されたことであの二人がその代役を買って出たそうですが…」


聖良「ん?あの二人は四十五の名家に含まれているわけではなく、こちらのお屋敷に住まわれているのですよね?」


ダイヤ「恐らくですが…昨日も『我々の家系』と言っていましたし、でなければあのように仕切ることなど不可能でしょう」


聖良「一応名簿を見て確認を…」


ダイヤ 聖良「!!!」


ダイヤ「名簿…そうですわ。確か四十六の名前が記されていると…」


聖良「その紛れた家系に気付くことができれば恐らくーー」



ドサドサドサドサ…

97: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:05:15.45 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ 聖良「!!!」


ダイヤ「な、何でしょうか…やけに廊下が騒がしいですが…」


聖良「すみません。そろそろ朝の会合の時間です」


ダイヤ「ああ、そうですか…」


聖良「内容は想像が付きます。間違いなくダイヤさんの事でしょう」


ダイヤ「……」


聖良「安心してください。こちらもあの狐…いえ、こちらの家の者達が何を隠しているか…少しずつ調査してみます。何か参考になりそうなものがあったらここへ持ってきますので…ダイヤさんは見つからないよう押入れに隠れていてください」


ダイヤ「分かりました…」


聖良「では…」スッ


ダイヤ「あの…!」


聖良「?」


ダイヤ「よろしくお願いしますわ」


聖良「ふふっ。任せてください」

98: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:06:02.29 ID:H71/+Fhm0


ーーーー
ーー


シーン…


ダイヤ「……」


ダイヤ「……」


ダイヤ「…あれからどのくらい時間が経ったのでしょうか?6時間…いえ、30分も経っていないかもしれませんわ」


ダイヤ「暗闇だと時間の感覚というのは分からなくなるものですわね」


ダイヤ「…恐らく皆さんもこうした暗闇の中で身を寄せ合い迫り来る命の終わりに怯えているのではないでしょうか…」


ダイヤ「現在は2日の…昼前くらいでしょうか?タイムリミットはあと3日…あまりにも短すぎる。それまでに皆さんを助けなければ…」


ダイヤ「……」


ダイヤ「首の無くなった九人目の死体…それからその死体であろう四十六家目を認識できないということ…」


ダイヤ「どうも引っかかりますわね」



ジュッ…



ダイヤ「!?!?!?」

99: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:06:40.66 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「あぐっ!?」ドサッ


ダイヤ「首が…首が熱い…!?」ググッ


ダイヤ「ぐっ……」ググッ



聖良「ダイヤさん。遅くなって申し訳ありません。ただいま戻りーー」ススッ


聖良「!!」


ダイヤ「はぁ…はぁ…ぐっ…」


聖良「ダイヤさん…!?」


ダイヤ「ううっ……」


聖良「大丈夫ですか!?」バッ


ダイヤ「だ…大丈夫です……」ハア…ハア…


聖良「ちょっと失礼します」スッ


聖良「!!!!」


ダイヤ「せ…聖良さん?」


聖良「紋章が変化しています」


ダイヤ「!!!」


聖良「ここ、先程は八つある円のうち一つだけに文字が刻まれていました。しかし今は一つ増えています…」


ダイヤ「文字が二つ…」


聖良「何を意味しているのでしょうか…」


ダイヤ「!!」


ダイヤ「聖良さん、今は何時ですか?」

100: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:07:25.12 ID:H71/+Fhm0


聖良「え?えっと…12時02分ですが…」


ダイヤ「実は昨晩…眠りについてすぐ、恐らく0時頃にも同じような苦しみに襲われたんですの…」


聖良「!!!」


聖良「と言うことはその時にその紋章と一つ目の文字が刻まれたということですね…」


ダイヤ「はい…」


聖良「つまりその紋章は12時間ごとに文字が増えていくことになりますよね?」


ダイヤ「え、ええ。確かに…午前0時、そして先程の12時ちょうどの痛み…」


聖良「そうすると全ての円に文字が刻まれるのは


2日夜…一文字目
2日昼…二文字目…
ーーー現在ーーー
3日夜…三文字目
3日昼…四文字目
4日夜…五文字目
4日昼…六文字目
5日夜…七文字目
5日昼…八文字目


…行方不明の八人ともう一人の死体が見つかる日時です」


ダイヤ「まさか…」


聖良「恐らく12時間ごとにどこかでAqoursの誰かが一人死んでいる…その度に紋章が更新され、5日の昼、全ての円に文字が刻まれると同時に向こうにいる皆さん、そしてダイヤさんも…」


聖良「全員が亡くなったと同時に異世界にいた皆さんが死体となってこちら側に戻ってくる。それがこの《八人の神隠し》…そしてその後の死体の状況の真理なのでしょう」


ダイヤ「では…既に二人が死んでいるということでしょうか…」プルプル



聖良「…逆に言えば六人は生きています。急げば犠牲は少なーー」



ダイヤ「ダメですわ!!!!!!」バンッ!

101: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:07:59.91 ID:H71/+Fhm0


聖良「!!」


ダイヤ「ダメなんです…」


聖良「ダイヤ…さん?」


ダイヤ「Aqoursは九人ですの…九人でAqoursですの…誰か一人でも欠けてしまったらもう…」


聖良「……」


ダイヤ「くっ…」ポロッ


聖良「…ダイヤさん。申し訳ありません。失言でした。ただ、まだ時間はあります。異世界の彼女達を救う事ができれば既に死んだ方も生き返るかもしれない」


ダイヤ「聖良さん…」


聖良「もちろん確証はありません…限りなく低いかもしれない。ただ、諦めてしまったら僅かにあったかもしれない可能性は0になります。恐らく向こうでも残された皆さんは必死に抗っているはず。だからダイヤさんも…」


聖良「見せてください。0を1にする力。あなた達Aqoursの力を」


ダイヤ「……」


ダイヤ「…分かりましたわ。時間がありません。なんとしてでも皆さんを救い出しましょう」


聖良「ええ!」


ダイヤ「聖良さん。先程の会合の様子を聞かせてください」


聖良「…はい。やはり内容はダイヤさんのことでした。黒澤家が長年私達を苦しめた呪いの家系だと。そのダイヤさんは逃げ回っていて今もこの屋敷の中にいるだろうから十分警戒をしてくれとのことでした」


聖良「その後、一応一人一人細かな取り調べを行うということで時間がかかり昼になってしまいました。勿論私は黙っていましたし、他の方も無実だと分かったのですが…」


聖良「私たちはダイヤさんが見つかるまで外出を禁止…この屋敷に閉じ込められたままです」


ダイヤ「……」

102: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:08:40.41 ID:H71/+Fhm0


聖良「この屋敷にいるすべての人間に伝わってしまった以上、もう部屋の外を出歩くことはできないと思います。皆がダイヤさんを血眼になって探していますから…」


ダイヤ「そうですか…」


聖良「それから…ダイヤさんの親御さんの身柄を拘束しているようで…三日後、九人の死体が見つかると同時に処刑するそうです」


ダイヤ「なっ…!?」


聖良「こうなってしまった以上、三日後のタイムリミットを迎えるまでに身の潔白を証明しなければいけません」


ダイヤ「くっ…分かっていますわ…」


聖良「そして、例の名簿についてです。取り調べの時、あの白狐に見せて欲しいと頼んだのですが…」


聖良「頑なに断られました」


ダイヤ「なっ…何故ですの!?」


聖良「他にも何人か聞いてきた人はいたそうですが…これは参加者の個人情報が載っているからと拒むばかりで…」


ダイヤ「怪しいですわ…やはり何か隠しているに違いありません…」


聖良「見せてもらえないなら奪うのみです。私はこの後、午後の歌合が控えていますのでそちらに参加して更なる情報を集め…隙あらば…」

103: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:09:44.36 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「大丈夫…ですか?」


聖良「任せてください。もし私が捕まるようなことがあってもダイヤさんのことは決して漏らしませんから」


ダイヤ「聖良さん…」


ダイヤ「本当に何とお礼を申したら良いのか…無力な自分が腹立たしくて仕方ありません」


聖良「無力だなんてとんでもありません。協力して真実を暴きましょう。困った時はお互い様ですよ」


聖良「それでは、引き続き押入れに隠れていてください」スッ


ピシャ…


ダイヤ「……」


ダイヤ「私も私にできることを…」




「…出て行きましたね」


「ああ。調べるとしようか」



ダイヤ「!?!?」

104: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:10:11.10 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「この声は…白狐と黒狐…」


ダイヤ「マズい…早く押入れに」ササッ


ピシャ…


ダイヤ「……」ドキドキ


ススッ…


白狐「誰もいませんね」


黒狐「鹿角聖良。取り調べでも少々疑り深く頭のキレる人間だと感じた。黒澤ダイヤを匿っているとは思えないが…既に我らの意図に気付き尻尾を掴まれているかもしれない」


ダイヤ(警戒されていますわ…)


ダイヤ(黒狐…無口だとは思っていましたが常に参加者を監視していたのですわ…)


白狐「一応この部屋も探ってみましょう」



白狐「例えばそこの押入れとか」


ダイヤ「!?!?!?!?」


黒狐「御意」


ダイヤ(くっ…!)


黒狐「開けるぞ」


白狐「はい」


ダイヤ(そんな…)


ダイヤ(ここまでだなんて…)




聖良「残念ながらここにお揚げさんは置いてありませんよ。怪しい狐さん方」

105: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:10:43.28 ID:H71/+Fhm0


白狐 黒狐「!!!!」


ダイヤ(聖良さん!?)


聖良「ふふっ。昨日のプライバシー云々の約束が早速破られてしまいましたね」


白狐「……」


聖良「どういうおつもりですか?」


白狐「もうすぐ午後の歌合が始まりますのでお呼びにーー」


聖良「部屋の外で隠れて見ていましたよね?私が広間に向かうのを。苦しいですよ」


白狐「……」


聖良「…やはりあなた方はどうも信頼できない。いえ、私たち参加者を信頼させようとする気がない。疑雲猜霧のこの状況で呑気に歌合だなんて何を考えているのやら。ふふっ…さぞかし楽しい和歌の読み合いになるんでしょうねぇ…」


聖良「隠していること洗いざらい皆さーー」


黒狐「鹿角聖良」ヌッ


聖良「!!」


黒狐「これ以上の深追いはよせ。身のためだ。今は黒澤ダイヤを見つけることさえ叶えばそれでいい」ズズッ


聖良(こいつ…)ゴクリ

106: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:11:15.11 ID:H71/+Fhm0


白狐「そういうわけですので…歌合に遅れないようよろしくお願いします。それでは」スッ


黒狐「……」スッ


聖良「……」


ダイヤ「……」


聖良「ふう…」ドサッ


ダイヤ「だ、大丈夫ですか聖良さん?」ススッ


聖良「…ええ。釘を刺しておきましたから、もうここに来ることはないと思いますよ。恐らく…」


ダイヤ「ありがとうございますわ」


ダイヤ「ただ、これではっきりしましたわね」


聖良「ええ。彼女たちは間違いなく何かを隠している。そしてそれが漏れるのを酷く恐れている」


聖良「ふふっ…腕がなりますね」


ダイヤ「くれぐれも気をつけてください。聖良さんのこと、物凄く警戒していましたから」


ダイヤ「特にあの黒狐…」


聖良「分かっています…」



ドクン…


~満ちたれど 満ちてはならぬ 散りぬれば
かたは十六夜 ただいたづらに~



ダイヤ「!?!?!?!?!?」

107: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:11:43.12 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「だ、誰ですの!?」バッ


シーン…


ダイヤ「……」


ダイヤ「今の声は…」


聖良「だ…ダイヤさん?」


ダイヤ「今、和歌が聞こえませんでしたか?」


聖良「いえ、何も…」


ダイヤ「いや…声というより頭の中に直接文字が流れてきたかのようですわ」


ダイヤ「どうして…それにこの和歌は一体…」


ダイヤ「確か夜眠っている時にもーー」


聖良「だ、大丈夫ですか?」


ダイヤ「ええ…」


ダイヤ「……」

108: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:12:28.41 ID:H71/+Fhm0


コチッ…コチッ…コチッ…


花丸「23時50分…あと20分…」


曜「実際にはもう少し前に眠りに入っちゃうよね…」


善子「やだ…私死にたくない死にたくない…」ボロボロ


果南「落ち着いて善子。作戦通りいくよ」


ルビィ「そ、そうだよ!起きてさえいれば夢も見ない…だから死ぬこともないよ!」


千歌「……」


果南「こうして立って肩を組んでいれば大丈夫。私たちは一つだから…ね?善子」


善子「ヨハネよ…グズッ…」ボロボロ


曜「それが言える余裕があれば大丈夫だよ」ギュッ


果南「……」ギュッ


花丸「……」ギュッ


ルビィ「……」ギュッ


千歌「……」ギュッ


善子「……」ギュッ

109: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:13:05.85 ID:H71/+Fhm0








ダイヤ「……」スヤスヤ


聖良「ダイヤさん」スッ


ダイヤ「……」スヤスヤ


聖良「ダイヤさん!」


ダイヤ「はっ!?」バッ



ゴチン!!


ダイヤ「ぴぎゃっ!?」


聖良「だ、大丈夫ですか…?」


ダイヤ「あたたたた…ど、どうってことありませんわ!」


ダイヤ「…すみません。どうやら眠ってしまったようですわ…」ノソノソ


聖良「いえ、構いませんよ…」


聖良「こちら、お召し上がりください。夕食の残り物のお餅ですが…朝から何も口にされてないでしょう?」コトッ


ダイヤ「…ありがとうございます」


ダイヤ「ただ…今は喉を通りそうにありませんの。申し訳ありません」


聖良「ああ、そうですね。すみません。紋章が全て刻まれる前に喉に餅を詰まらせて死ぬなんてたまったものではありませんね」


ダイヤ「……」


聖良「すみません。冗談で言ったのですが…」


ダイヤ「いえ、こちらこそ…ご厚意を無駄にしてしまって申し訳ありません」


ダイヤ(私は何をやっていたのでしょうか…何かしなければいけないのに…結局押入れの中で無駄な一日を過ごしただけでしたわ…)


ダイヤ(こうしている間にも皆さんは…)



聖良「ダイヤさん?」


ダイヤ「!!」

110: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:13:46.36 ID:H71/+Fhm0


聖良「大丈夫ですか?」


ダイヤ「え、ええ…」


ダイヤ「歌合はどうでしたか?」


聖良「残念ながら…狐が目を光らせていたため名簿を奪うどころか自由に動くこともままなりませんでした」


ダイヤ「そうでしたか…」


聖良「しかし書庫で神隠しの参考になりそうな書物をいくつか借りてきました」ドサドサ…


ダイヤ「こんなにたくさん…」


聖良「同じジャンルばかり借りると怪しまれると思ったのでほとんどがダミーです。実際はその三分の一もありません…」


聖良「今は押入れに隠しておきましょう」ゴソゴソ


聖良「あと、一緒に懐中電灯もくすねてきたので…目に悪いとは思いますが、どうか中でお調べください」スッ


ダイヤ「何故そこまで…」



聖良「前に言ったじゃないですか」


ダイヤ「?」

111: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:14:20.15 ID:H71/+Fhm0


聖良「私と理亞はA-RISEに憧れてスクールアイドルを始めようと思った。あなた達はμ'sに憧れてスクールアイドルを目指した…」


聖良「決勝でアキバドームに立ち、頂点からその景色を見る。感じる。どちらかがそれが叶うまで、私達はライバルである必要がある。こんなところでくたばってもらっちゃ困りますよ」


ダイヤ「聖良さん…」


聖良「ライバルとは共に戦うだけでなく共に戦う仲なんです」


ダイヤ「……」


聖良「ふふっ、分かりにくかったですか?」


ダイヤ「…いえ、よく分かりましたわ」


ダイヤ「私も…いえ、私達もSaint Snowのお二人と頂点を目指したい…」


聖良「その行く手を阻もうとする障壁は協力して打ち破って行きましょう」


ダイヤ「ええ…」



聖良「…もうすぐ0時になります」


ダイヤ「……」


聖良「例の法則に則れば、もうすぐ紋章に新たな文字が刻まれます…」


聖良「つまり、三人目の死者が…」


ダイヤ「……」


ダイヤ「皆さん…」


コチッ…コチッ…

112: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:14:50.73 ID:H71/+Fhm0


善子「私ね…Aqoursに入って本当によかったって思ってる」


曜「!!」


ルビィ「善子ちゃん!」


善子「言わせて!」


ルビィ「!!」


善子「言わせて…今だからこそ言っておきたいの」


ルビィ「でも…」


果南「ルビィ」


ルビィ「うん…」




善子「…私ね、昔はずっと、自分はいつか天使になるんだ。みんなとは違う特別な存在なんだって信じて疑わなかったの。頭に輪っかが浮かんで羽が生えて空を飛んで…みんなが憧れる存在になるんだ!って…」

113: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:15:48.12 ID:H71/+Fhm0


善子「でもね?小学生になって色んなことが少しずつ分かっていくうちに気付いちゃったの。この世に天使は存在しない…空想の産物なんだって。理想に裏切られて目にすることになった現実は…と言うと残酷で、普通だった…とっても。でも、クラスのちょっとした人気者がチヤホヤされていたり、私と同い年の子がアイドルになってテレビに出ていたりすると…ああ、これだったんだ。これが私のなりたかった特別ってやつ。天使の姿なんだって思った」


善子「そう思うと余計胸が苦しかった。天使は実在した。したからこそ、それになれない自分が腹立たしくて仕方なかった。だから私は堕ちたの。願っていた特別にはなれない。ただ普通ではいたくない。そうした葛藤が生み出した答えは両者でもない第三の存在…堕天使。その特別とは対極を成しながらも表裏一体の存在。堕天使…神が私の美しさに嫉妬して人間界に落としたなんてのは嘘。本当は私が天使に嫉妬して勝手にやさぐれただけなの。分かってる」


花丸「善子ちゃん…」


善子「私は自分が特別視され脚光を浴びてるっていう錯覚に酔うのが日常になって堕天使がやめられなくなった」


善子「…でも嫌いじゃなかったの。どんなに道は逸れても、なんとか普通じゃない自分を見つけるため邁進しようとするその意思だけは守りたかった。それをやめてしまったら津島善子は津島善子じゃなくなっちゃう。いつしか私が私でいられるために堕天使は不可欠な存在になっていたの」


善子「ただ…やっぱりそこに落ち着けなかった。なぜなら周りの目があったから。特別でも脚光を浴びるとはまた違う、逆の意味の視線を感じてて…そういった存在で中学を終えてしまった。だからその人達のいない遠くのここ、浦の星女学院を逃げるように選んだの」


善子「選択を迫られたわ。堕天使を続けて私なりの特別であろうとするか、普通に戻るべきか…前者を選んだ私は、結局初っ端から中学と同じ失敗を繰り返して…やっぱ堕天使はもうダメ。このままじゃいつまで経っても誰とも上手くやれない。だから卒業しようって決めた」




善子「そこで私を捨てようとしていた私を救ってくれたのがみんな…Aqoursという存在だったの」

114: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:16:59.54 ID:H71/+Fhm0


千歌「!!」


善子「周りに自分がどう思われるか…ううん、周りに自分をどう思わせるか。自分の好きを受け入れて一番輝いた姿を見てもらう。そこはかつて私の憧れた天界…天使達の姿。葛藤して宙に浮いたままだった堕天使の私がスッと身体に舞い戻ってきた」


善子「Aqoursの白い翼。そして私自身の黒い翼。私が飛び立つためにはどちらも欠けてはならないの!だからこれからも、ありのままの私でみんなと笑って泣いて歌って踊って過ごしていきたい!」


善子「ズラ丸」


花丸「ずら!」ギュッ


善子「ルビィ」


ルビィ「うん…」ボロボロ


善子「ふふっ」ギュッ


善子「果南さん」


果南「うん!」ギュッ


善子「曜さん」


曜「ヨーソロー!」ギュッ


善子「梨子さん…鞠莉さん…」


梨子「…」


鞠莉「…」


善子「千歌さん」


千歌「うん」ギュッ

115: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:17:28.36 ID:H71/+Fhm0


善子「これ…預かってて」スッ


千歌「黒い羽…」


善子「ええ。明日の朝、私が目覚めた時に返してくれればいいから。それまで…」スッ


千歌「目覚めたって…私達は寝なーー」


善子「お願い」



千歌「!!!!」


善子「託されて…」


千歌「……」


千歌「…分かった。約束だよ?」ギュッ


善子「契約に背くことは許されないわ。絶対よ」


千歌「うん…!」



善子「…みんな、今まで本当にありがとう!」


善子「そして、こんな私だけどこれからもよろしくね!」ニコッ












ゴーンゴーンゴーン…
ゴーンゴーン…

116: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:17:57.40 ID:H71/+Fhm0


コチッ…コチッ…コチッ…


ダイヤ「……」


聖良「……」



ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…



聖良「時間です」


ダイヤ「ええ…」

117: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:18:36.26 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…
ザザーン…



……大きな満月と綺麗な星空


……


間違いないや。例の夢だ。順番通り…


本当だね。花丸ちゃんと果南ちゃんが言ってたように凄く素敵な景色だよ


いつもなら月に向かってヨーソロー!なんて言って…千歌ちゃんや梨子ちゃんと追っかけようとしてたかもね…


それくらいに美しい…


ずっとこのまま時が止まってしまえばいいのに…


でも星が瞬くのも、波が立つのも、風が吹くのも…みんな時間が刻まれている証拠なんだよね…


後戻り…できないんだね…


……


嘘だ…


嘘だよこんなの…


なんで?なんで眠っちゃったの?


みんなで起きてようって決めたのに、肩組んで誓ったのに…


善子ちゃんと…また九人で飛び立とうねって誓ったのに…


…善子ちゃんは分かってたのかな…最後、私が起きた時に羽を返してなんて言ってたけど…


死ぬって分かってて…それなのにあんなに笑顔で…


酷い…残酷過ぎるよ…



あそこに大きく丸く光ってるのは…希望の光じゃなかったの?


……



スゥッ…


118: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:19:31.10 ID:H71/+Fhm0


ジュッ…


ダイヤ「熱っ…!?」


聖良「!!」


聖良「また紋章が変化しています…」


ダイヤ「はぁ…はぁ…三人目の犠牲者ですか……」ググッ


聖良「恐らく…」


ダイヤ「みなさん…」


ダイヤ「くっ…」ダンッ!


聖良「あと五人…」


ダイヤ「二日半ですか…」


聖良「はい…」


ダイヤ「そんな…」



ドクン…


~あくがれて 翔ける先には 朧月
さるはゆかしき 及ばぬ羽かな~



ダイヤ「!!!!」


ダイヤ「やはり和歌が聞こえましたわ!」


聖良「本当ですか!?」


ダイヤ「ええ。はっきりと」


聖良「私には全く…」


ダイヤ「この和歌は決まって紋章の更新の後に聞こえてくるんですの」


聖良「直後ですか?」


ダイヤ「いえ…今はそうでしたが昼はもう少し遅かったですし、初日は痛みにうなされてから二時間くらいはあったと思います…」


聖良「そうですか…」


聖良「和歌…紋章と関係があるのは間違いないと思いますが…」


ダイヤ「……」

119: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:20:08.03 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…
ザザーン…


…なんて詠っても、月は答えてくれないんだよね…


…じゃあこの怒りと悲しみの矛先はどこに向けたらいいの?


私達の幸せを奪ったのは誰?何?
自分の無力さ?それが悪い?
自分を矛で抉ればいい?


それでいい?それで気が済む?
でも傷付くよ?痛いよ?


だったら私ーー



ドクン…


~心にも あらで浮世に 水面夢
うつよ乱れど 心でいづこ~



!?!?!?


何…今のは?


頭の中に流れ込んできた…


果南ちゃんも花丸ちゃんもこんなこと言ってなかった…


何……


!!!


まさか…善子ちゃん!!!!


そ、そうだ…
私だけが寝ちゃったんだ


だからみんな起きてる…
違いない…


はは…助かったんだ…
これ以上みんなが死ななくて済むんだ…


早く起きて謝らないと…!



……


……

120: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:20:35.51 ID:H71/+Fhm0


ゴーンゴーンゴーン…
ゴーンゴーンゴーン…



曜「そんな……」ガクッ



果南「ごめん……」グッ


花丸「……」ギュッ


ルビィ「うぅっ…ぐずっ……」ボロボロ


千歌「善子ちゃん」


善子「…」


千歌「善子ちゃん。朝だよ起きて」


善子「…」


千歌「羽返さないとさ。契約は絶対なんでしょ?」


善子「…」


千歌「ねえ、約束したでしょ?一緒に凧揚げしようって。梨子ちゃんの目盗んで学校まで走ってさ」


果南「千歌」


善子「…」


千歌「…そっか。善子ちゃん、根は真面目さんだからちゃんとダイヤさんに言われた事守るんだね。偉いなぁ…そうだよね。面倒だけど和歌と百人一首のお勉強しなきゃだよね」


果南「ねえ千歌」


善子「…」


千歌「ほら、でもお正月だからって遅くまで寝てると太っちゃうよ善子ちゃん。早くやることやって一緒にーー」


果南「千歌!!!!!!」



千歌「約束したじゃん!!!!!」

121: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:21:03.39 ID:H71/+Fhm0


果南「!!!」


千歌「自分であろうと、自分のために、自分だけのものを求めて、ずっと自分と闘ってきた善子ちゃんと!!!これからもずっとずっと一緒に頑張ろうって!!!Aqoursで頑張ろうって!!!」ボロボロ


果南「……」


千歌「ねえ翼はどうしちゃったの!?飛ぶんじゃなかったの!!?自分の大好きをみんなに見てもらうんじゃなかったの!!?!?善子ちゃん!!!!!!!!!」ボロボロ


果南「千歌…」ギュッ


千歌「ううっ…ぐずっ……」ボロボロ


果南「善子の顔…見て」


果南「笑ってる」


千歌「!!」


果南「それからお腹の上の手…」パサッ


果南「見て」


千歌「あ……ああ…」ボロボロ



果南「九になってる。ほら、善子ったらこんなに親指を強く曲げて…」


果南「善子はね…善子は、最後に見せたかったんだよ。私たちに…」



果南「自分の大好きを!!!」ポロポロ


千歌「ああ……」ボロボロ


果南「だから責めないで…分かってあげて…」ギュッ


ルビィ「うええっ…ぐずっ…ヒック…」ボロボロ


花丸「善子ちゃん…ううっ…」ポタポタ


曜「くっ……」ポタポタ



千歌「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……



【津島善子 死亡】


ーー残り5人

122: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:21:32.10 ID:H71/+Fhm0


ーー3日未明


ダイヤ「……」


聖良「…zzz」スヤスヤ


ダイヤ「……」


ダイヤ「もう眠ってしまいましたか…」


ダイヤ「狐に警戒されながらもなんとか手掛かりを掴もうと必死に動いてくださっていたのですから…無理もありませんわ」


ダイヤ「……」


ダイヤ「私が内浦を離れてから一日半…その僅かな間に皆さんが消え、私がその謎の神隠しとやらの犯人として追われ、既にメンバーの三人も死んでしまっていることが分かりましたわ」


ダイヤ「これは本当に現実なのでしょうか…今まで決して平坦な道で無くとも、千歌さんを筆頭に九人肩を寄せ合い同じ方向を見つめて共に歩んできましたわ」


ダイヤ「しかしこれは余りにも突然で残酷過ぎる…」


ダイヤ「こんなわけのわからない呪いのせいで大切なAqoursが散り散りになって消えてしまうなんて…」ギュッ


ダイヤ「皆さんはもっと辛いはず。死の恐怖、仲間を失う悲しみ…その悲痛な叫びこそがこの紋章の痛みなのでしょう…」


ダイヤ「これで皆さんと痛みを分かち合えるのなら…」



ダイヤ「ん…?」スッ


ダイヤ「窓から刺すあの光は…」ノソノソ


スススッ…
ガラガラガラ……



ダイヤ「!!!!!!!」

123: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:22:20.87 ID:H71/+Fhm0


ヒュォォォォォォ…


ダイヤ「まあなんと…」


ダイヤ「昨夜は曇っていたのでその姿を捉える事叶いませんでしたが…」



ダイヤ「これが時雨亭の水面月…」


ダイヤ「庭園の大きな池に反射していて…まるで空と地の月の双子。なんて幻想的で風光明媚な様でしょう…」


ダイヤ「国宝級の絶景…それはただ単に美しいからでは無いのですわね。その姿ありのままに、正直に光輝く空の月…それに対して揺れる水面に浮かぶ月はまるで心を透かしたように切なく、悲しみを物語っているかのよう…」


ダイヤ「美しい月を見て綺麗だと思う心…同時にそれを己に照らし合わせて悲しいと思う心…その対比は多くの人のもの。それは歴史が重なるごとに深みを増し…約千年もの時を経てここに鎮座するその面影はずっと変わらなくて…でも変わっていて…」


ダイヤ「ふふっ。できれば皆さんと眺めたかった…いくら美しい月でも一人寂しく眺めたところで虚しいだけですわ…」


ダイヤ「……」チラッ


聖良「……zzz」


ダイヤ「聖良さんはああ言ってくださいましたが…やはり私は無力ですわ。大切な仲間のピンチを分かっていながらも何も出来ない…ただ死を待つのみ…」スヤスヤ


ダイヤ「できれば皆さんを助けたい…しかし、もしそれが叶わぬと言うのなら皆さんと共に死を迎えるのも本望ですわ」




ダイヤ「この想い…届いて…」



ヒュォォォォ…

ザザーン…



ダイヤ「……」スッ



ダイヤ
「~心にも あらで浮世に 水面夢
うつよ乱れど 心で何処~」

124: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:23:05.95 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「ほっ…」


ダイヤ「本来なら皆さんも、内浦からこの月を眺めて頭を捻らせながら和歌を詠んでいたのでしょうね…」


ダイヤ「……」


ダイヤ「月の和歌…」



ダイヤ「!!!!!!!!」


ダイヤ「まさか流れてくるあの和歌は!!」



ギシギシギシ…


ダイヤ「!!」

125: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:23:42.04 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「誰か来ますわ!!」


ガラガラガラ…ピシャッ


ダイヤ「早く押入れに隠れないと」ササッ


ススッ…ピシャッ


ダイヤ「……」


ダイヤ(聖良さんがくすねて来た懐中電灯を…)


ダイヤ「……」パチッ


ダイヤ(眩しっ……)


ダイヤ「……」ドキドキ



白狐「本当に良いのですか?」


黒狐「構わない。入るぞ」

126: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:24:28.23 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ(また来ましたわね白黒狐…)


黒狐「昼に大量の書物を借りて行った。ダミーを持ち運ぶのはさぞ重たかろうに…」


黒狐「奴は何かに気付いている…もしくは何かを隠している。我々の目をごまかすため無作為に選んだ風に見せかけたつもりだろうが…」


ダイヤ(バレている…)


ダイヤ「!!!」


ーー
ーーーー



白狐『一応この部屋も探ってみましょう』


白狐『例えばそこの押入れとか』



ーーーー
ーー



ダイヤ(マズいですわ…ここも探される…)


ダイヤ(入って来る前に窓から逃げーー)スッ



ゴチン!


ダイヤ「ぴぎゃっ!?」

127: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:25:01.01 ID:H71/+Fhm0


白黒狐「!?」


黒狐「音がしたぞ」


白狐「ええ。入りましょう」


ダイヤ(しまった…また同じ過ちを…)



ガコッ



ダイヤ(ん?)スッ


ダイヤ「!!!!!」


ダイヤ(天井裏の板が!!)


ダイヤ(さっきは下の段に隠れていたため気付きませんでしたが…)


ダイヤ(書物を下の段に隠したことでスペース上、咄嗟に上の段に逃げ込んだのが功を成しましたわ!)


ダイヤ(恩に着ますわ聖良さん…!)グイッ

128: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:25:56.50 ID:H71/+Fhm0


白黒狐「……」ススッ


ダイヤ(部屋に入ってきましたわ…!)グイグイ


ダイヤ(急がないと…)グイグイ



聖良「……」スヤスヤ


白狐「寝ていますね」


黒狐「書物が無い。押入れだ」


白狐「了解です」



ダイヤ(くっ…もう少し!)グイッ


ダイヤ(よし!)


ガコッ…



黒狐「……」スススススッ



シーン……



黒狐「……」

129: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:26:35.81 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ(か…間一髪でしたわ…)ドキドキ


白狐「見てください。下の段に積んでありますよ」


黒狐「そうか…」



黒狐「ん?」


白狐「どうしました?」


黒狐「この餅はなんだ?」


ダイヤ(!!!!!!!!)


白狐「これは…昨晩の夕食に出されたものですよね?」


黒狐「何故こんなところに…」




ダイヤ(しまった……)

130: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:27:14.76 ID:H71/+Fhm0


黒狐「ここに誰かを匿っていて飯を与えるために置いた」


白狐「でも、ここに人の入るスペースはありません」


黒狐「元々は下に隠れていたんだろう。だが同時に運ばれてきた書物を下に隠したことで上に移動せざるを得なくなった」


白狐「……」


黒狐「しかし上にもいないということは…」


白狐「天井裏…ということですか?」


黒狐「まあな。そもそも立ち入ることができるのか分からないが板を触ればすぐ分かる」


ダイヤ(なんなんですのあの黒狐…!!)ドキドキ


黒狐「窓は閉まっているのに簾は上がったまま…我々の足音を聞いてとっさに隠れたのだろうな」


黒狐「さて…」ググッ


ダイヤ(くっ…)



聖良「ううん…」モゾモゾ

131: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:27:41.27 ID:H71/+Fhm0


白黒狐「!!!」


ダイヤ(!?!?)


聖良「……」スヤスヤ


黒狐「……」


白狐「…お言葉ですが、確固たる証拠もないのに少々突き詰め過ぎでは?」


黒狐「そうだな…」


白狐「私達も調査に戻りましょう。今は亡き幹事様が残してくれた暗号をなんとしても解き明かすのです」


黒狐「ああ」


ススッ…


ギシギシ…



ダイヤ「……」


ダイヤ「ほっ…」


ダイヤ「聖良さん…本当に感謝しても感謝しきれませんわ」


ダイヤ「……」


ダイヤ「幹事が亡くなった…どういうことですの?体調不良が原因であの方々に代わった
のではないのですか?」


ダイヤ「それに暗号って…」


ダイヤ「……」



ダイヤ「この天井裏を伝って狐を追いかけてみましょう」


ダイヤ「何か分かるかもしれませんわ」パチッ

132: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:28:11.80 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…
ザザーン…



果南「……」ザッザッ


果南「!!」


曜「……」ヒュッ…


チャポン…


曜「……」


果南「曜、何してるの?」


曜「あ、果南ちゃん」


曜「みんな、ろくに食べてないしさ…何か釣って元気を出してもらおうと思って…」


曜「もちろんこんなところで何か釣れるなんて思ってないけど…私にはこのくらいしかできないし…」


果南「そっか…」


曜「……」



果南「竿、もう一本ある?」


曜「え?」

133: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:28:51.28 ID:H71/+Fhm0


…………
……



チャポン…


果南「……」


曜「……」


果南「寝る前にどんなことしてても、どんなに頑張って起きようとしても眠らされて…朝起きたらちゃんと布団の中なんだね」


曜「この夢には逆らえないってことだね…」


果南「…どうだった?」


曜「やっぱり、果南ちゃん達が見た綺麗な星空と月だったよ…」


曜「ダイヤさんに言われてた月の和歌、思わず作りたくなっちゃうくらい…悲しいくらいに綺麗な…」


果南「そっか…私もやっぱり順番通り六番目の夢。新月の冷たい水面に浮かんでた夢だった」

134: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:29:42.63 ID:H71/+Fhm0


曜「…和歌に出てくる月って、悲しいものが多いよね。待つ人が来なかったり、恋叶わぬ想い人に訴えたり、今を嘆いて昔の自分を懐かしんだり…」


果南「今と違って、人と簡単に連絡が取れるわけでもないし、身分の差でどうしても近づくことのできない男女もいた。そういうところの融通が利かない世の中だったからさ…夜孤独に苛まれる時に、心に反して綺麗に輝く月っていうのはその対比を表現するのににうってつけだったんじゃないかな?」


曜「……」


果南「でも、あなたと同じ月を眺めているって表現とかも多いけど…結構素敵だと思うな」


果南「それは遠く離れていたり、生きている時代が違ったり、はたまた違う次元を生きていたとしても…人間の諸行無常を尻目にずっと変わらぬまま同じ空に浮かんでいる月っていうのは、唯一心を繋げることのできる希望の光なんだよ…きっと」


曜「そっか…悲しみの中にもそういった希望が垣間見えるから和歌を聞いた時趣を感じられるのかな」


果南「だから『おもむき』って言うのかもね。思わず顔を向けたくなっちゃうような心惹かれる何かがあるから…」


曜「それか走って取りに行きたくなっちゃう程心惹かれるから『趣』って漢字になったのかも」


果南「ふふっ…そうかもね」


曜「……」



曜「今頃ダイヤさん、どうしてるかな?」

135: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:30:53.38 ID:H71/+Fhm0


果南「……」


曜「私達がいなくなったって知って凄く困ってるんじゃないかな?それか忘れちゃってるのかもしれない…私達のこと…」


果南「ううん。そんなことないよ」


果南「もしかしたら、ダイヤに届いているかもしれないよ?私達のピンチ」


曜「え?」


果南「ダイヤも寂しがりだから…遠く離れた私達と繋がっていたくて和歌を作れだなんて言ってきたんだよ…きっと」


果南「月っていうのはそういうものだからさ」


曜「うん…」



曜「!!!!」


果南「曜?」



曜「返ってきた」


果南「え?」


曜「今日私はその五番目の夢を見たんだけど…月を見て和歌を詠んだ後に返ってきたの!」


曜「別の和歌が!!」


果南「どういうこと!?」


曜「果南ちゃん時は無かったんだよね?」


果南「う、うん。確か花丸も…」


曜「もしかして…」



果南「とにかくみんなのところへ行こう!」

136: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:31:30.28 ID:H71/+Fhm0


コチッ…コチッ…コチッ…


花丸「梨子さんが死んで、鞠莉さんが死んで…今日、善子ちゃんも死んじゃった」


花丸「今日、水面で豪雨に晒される七番目の夢を見た…」


花丸「順番だと…」



花丸「今夜死ぬのはマルずら」


花丸「ただ、もしあの暗号

【四人の王に陽は昇らずただ月が浮かぶのみ】

の四人の王が死者のことなら、最後の犠牲者はマルのことずら」


花丸「死ぬのなんて…怖くない。人はいい行いをして命尽きれば必ず報われるずら」


花丸「だから今のマルにできることを精一杯やって、残りの四人に託そう!」



花丸「とりあえず、あらためてこの世界のことをまとめるずら」カキカキ

137: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:32:12.24 ID:H71/+Fhm0


ーーーーーーーーーーーーー

・1月2日の朝(正確には正午)、目が覚めると霧に包まれた探索不能のこの島の砂浜にルビィちゃんの家と、ダイヤさんを除く八人のAqoursがワープしていた。

・霧で昼と夜の区別がつかないが、時間は元々の世界と同じ二十四時間。ただしAMにあたる十二時間は強制的に眠ってしまい、PMにあたる十二時間しか起きていられない。唯一この家にあった柱時計はこっちに来てから何故か二十四時間で十二時間ぶん…つまり一日で一周ぶんしか動かない。

・毎晩誰か一人が死ぬ。その法則は夢によって決まっていて、梨子さん、鞠莉さん、善子ちゃん…そしてマルの順番。

ーーーーーーーーーーーーー


花丸「それから…その夢がこの順番」カキカキ


ーーーーーーーーーーーーー

一…血染めの水中…
二…生暖かくて濁った水中
三…真っ暗で冷たい水中
四…水底に何かある美しい水中
五…綺麗な月明かりと星空の水面
六…新月の冷たい水面
七…雨に晒される水面
八…死

ーーーーーーーーーーーーー

138: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:33:31.95 ID:H71/+Fhm0


花丸「そして、他に気になるのは…」スッ


ジワッ…


花丸「日に日に赤いシミが大きくなるこの下の句の札…」スッ


花丸「四人の王の暗号も、この上の句の札の裏に書かれている…」


花丸「つまり、この百人一首の和歌に何か謎が隠されているに違いないずら」



~わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の
人こそ知らね 乾く間もなし~



花丸「この小倉百人一首の和歌の一つは二条院讃岐(にじょういんさぬき)っていう女の人が詠んだものずら」


花丸「自分の袖は引き潮の時でさえも、深い海に沈んだ石のように誰にも知られることなくずっと濡れたまま…」


花丸「つまりこれは、叶わぬ恋で一人流した涙を袖で拭い続けている様を、乾くことのない沖の石に例えているずら」


花丸「この歌がきっかけで『沖の石の讃岐』だなんて呼ばれるようになったけど…」



花丸「本当にそうなのかな?」

139: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:34:01.93 ID:H71/+Fhm0


花丸「マル達と同じ状況に当てはめてみれば、誰も見つけられない…捜索の行き届かない異世界で水の中にいたり、水面に浮かんだりでずっとビショビショって意味と、そういう死のカウントダウンとも言うべき夢を見せられて涙する…って意味にも取れるけど…」


花丸「じゃあ沖の石って……」


花丸「!!!!」


ーー
ーーーー



曜『あ、私は水の中で泳いだ夢を見たよ。青くて透き通った海中に陽の光が差しててさ。それで海の底に綺麗な石が落ちてたの。それを拾おうとしてそこまで潜って手に取る直前に目が覚めちゃったんだよね』


果南『それ、私が昨日見た夢だ』


曜『え?』


果南『私は拾おうとはしなかったけど、他は全部一緒…』



ーーーー
ーー


花丸「そうずら!四番目の夢は綺麗な海の中を泳ぐ夢で…その底には石が落ちてる!」


花丸「だとしたら…今日その夢を見たのは…」ダッ

140: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:34:35.12 ID:H71/+Fhm0


ーー時雨亭 天井裏


シーン…


ダイヤ「……」ノソノソ


ダイヤ(まさか天井裏がこんな迷路のようになっているなんて…)ノソノソ


ダイヤ(それに全く手入れされていません故、埃が多い…咳き込んだら気付かれて一発アウトですわね)ノソノソ


ダイヤ(所々木も腐っていますし慎重に進まないと…)ノソノソ


「……」


「……」


ダイヤ(一体どこまで歩くんですの?)ノソノソ


「どうも……」


「ご苦労……」


ダイヤ(また…)ノソノソ


ダイヤ(さっきから定期的に誰かと話していますわ…)ノソノソ


ダイヤ(こんな遅いというのにそんなに出歩く方が多いのでしょうか?)ノソノソ


「……」


「……」


ダイヤ(……)ノソノソ

141: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:35:21.89 ID:H71/+Fhm0


「和歌が……で……」


「………もう一つ…どこか…」



ダイヤ(和歌?もう一つ?)ノソノソ


ダイヤ(上手く聞き取れませんわ)ノソノソ


ダイヤ(……)ノソノソ



ダイヤ「!!!!!!!」


ダイヤ(行き止まり…)


ダイヤ(おかしい…何故この先だけ出っ張って…)



パサパサッ…


ダイヤ「ん?」

142: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:35:54.43 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ(この紙……)パッ


ダイヤ(随分汚れて見にくいですが…)



ダイヤ(これは柱時計の図)


ダイヤ(昔とは時間の数え方が違いますが…)パラパラ


ダイヤ(成る程、数字の部分は昔の様式ですが、柱時計の形自体は当時からずっと同じなのですね…)パラパラ


ダイヤ(しかし、この形どこかで…)



ダイヤ(…そしてこの文は…)パサッ


ーーーーーーーーーーーーー

文暦二年 七月二日
権中納言定家

……柱時計…………………
…………送りて………も…
……………二台目目………
…通ひの意思………………
………………………で………
…………見つくることかな
はず……………………………

時雨亭 依 伊豆国君沢郡……寺

ーーーーーーーーーーーーーー

143: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:36:39.86 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ(ほとんど解読ができませんが…読み解ける部分を一つずつ整理して行きましょう)


ダイヤ(まず文暦二年…)


ダイヤ(つまり1235年…七月ということは百人一首が制作された直後ですわ)


ダイヤ(確かに…この《時雨亭》は1235年に藤原定家氏が百人一首を定めた邸宅として代々その子孫により保護され続け今日に至るわけですが…)


ダイヤ(柱時計の制作にも関わっていたんですの?)


ダイヤ(これは歴史的大発見なのでは…)


ダイヤ(……)


ダイヤ(で、本文はその時計が二台あるということを言っていると思うのですが…)



ダイヤ(!!!!!!!!)

144: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:37:12.10 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ(思い出しましたわ!!この時計の形はこのお屋敷の一階…廊下の隅にあったあれで間違いありませんわ!!!)


ダイヤ(そして送り先であろうこの伊豆国君沢郡【いずのくにきみさわぐん】とは…)


ダイヤ(当時の内浦のこと!!)


ダイヤ(寺の名前までは分かりませんが…間違いありません)


ダイヤ(この『通ひの意思』とはなんでしょうか?)


ダイヤ(二台目の時計…内浦…見つけることができなかった…)


ダイヤ(……)




ダイヤ(もしかしてこの二台目の時計とは私の家にある柱時計のことを言っているのではないでしょうか?)

145: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:37:41.47 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ(廊下の物と形が同じでしたし…当時それを伊豆のとある寺へ送り…今日までに先代がお寺から譲って頂き、数字の部分だけ現代のものに替えられていたのだとすれば…)


ダイヤ(それに、見つけることができなかったとは…現在私の家にあるあの柱時計が不完全なままということ…こちらの柱時計にあって私の家の柱時計に無いもの…)



ダイヤ(嵌め込まれた石…!!!!)


ダイヤ(石…意思……)


ダイヤ(漢字を間違えたんですの?)


ダイヤ(それでは通ひ…とは?)



パチッパチッ…


ダイヤ(!!!)

146: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:38:09.81 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ(懐中電灯が切れそうですわ…戻りましょう…)ノソノソ



ダイヤ(……)ノソノソ


ダイヤ(そう言えば競技かるたの序歌の変更依頼が出たのもこのお屋敷からでしたわよね?)


~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面知るらむ 三津のおもひで~


ダイヤ(この和歌にも内浦を示している《三津》という文字が入っていましたわ)


ダイヤ(……)


ダイヤ(何故藤原定家氏はこの時雨亭で小倉百人一首を選定した直後に柱時計を二台制作し、片方を内浦へ送ったのか?)


ダイヤ(何故今年、この時雨亭から小倉百人一首競技かるたの序歌の変更依頼が出ていたのか?)


ダイヤ(何故その序歌には三津の文字があったのか)


ダイヤ(何故その変更依頼を出したであろうこの屋敷の幹事が亡くなったのか)


ダイヤ(その代わりの白黒狐は何者なのか)


ダイヤ(彼女達は何を隠しているのか?)



ダイヤ(時雨亭と内浦…そして神隠しとの因果関係とは?)

147: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:40:38.80 ID:H71/+Fhm0







千歌「ルビィちゃん、そっちもう少し左」


ルビィ「う、うん…」ズズッ


千歌「善子ちゃん。ありがとう…梨子ちゃんと鞠莉さんと待っててね。必ず助けるから」


善子「…」


ルビィ「……」


千歌「私、バカだった」


ルビィ「!!」


千歌「みんなが必死になってるのに、私はAqoursの誰かが殺したとか言ってみんなを傷つけて…本当はリーダーの私が一番しっかりしなきゃいけなかったのに…」


ルビィ「千歌ちゃん…」


千歌「今夜、花丸ちゃんが死んじゃう」


千歌「花丸ちゃんが犯人だって言っちゃったこと、早く謝らないと…」



花丸「千歌さん!!!」ドタバタ

148: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:41:14.80 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「!!」


千歌「は、花丸ちゃん!?」


ルビィ「どうしたのそんなに急いで?」


花丸「千歌さん!今日、四番目の夢を見たずら?」


千歌「…うん。青く透き通った海の中を泳いでたよ。泳いでた…っていうか、善子ちゃんのために起きていられなかったことが悔しくて悔しくて…ただ浮かびながら泣いてただけだけどね…」


ルビィ「ちなみにルビィも…真っ暗で冷たい水中を泳いでたよ」


花丸「そうずらか…やっぱ順番通り…」


花丸「千歌さん。水の底に石はあった?」


千歌「石…?」


千歌「あ!あった!!」


花丸「取った?」


千歌「ううん。取ってない…」


花丸「そうずらか…」


花丸「まあいいや!二人ともとにかく来て!」ダッ


千歌「え、ちょっと?」


ルビィ「花丸ちゃん!?」



果南「おーい!!」ドタバタ


曜「みんな!」ドタバタ


花丸「ずら!?」


千歌「果南ちゃん!曜ちゃん!」


ルビィ「み、みんなどうしたの?」

149: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:41:42.90 ID:H71/+Fhm0


ーーーー
ーー


曜「成る程…」


果南「沖の石が四番目の水面夢に出てくるあの光る石のこと…か」


花丸「この二条院讃岐(※以下サヌキ)って人の和歌がもしこの夢のことを言っているんだとしたら間違いないずら」


ルビィ「また赤いシミが大きくなってる…」


千歌「関係してるのは間違いないかもしれないね」


曜「でも、そうなるとこの異世界の呪いってのは…平安時代ぐらいから存在してた呪いってことになるよ?」


果南「このサヌキって人も私達と同じ呪いにかかったってこと?その和歌がこうして小倉百人一首として残ってるってことは、なんとか助かったってことかな?」


ルビィ「助かったのならなんでわざわざ和歌にして残したんだろう…」


花丸「小倉百人一首…」


花丸「そうずら!!」

150: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:42:13.64 ID:H71/+Fhm0


曜「花丸ちゃん?」


ルビィ「どうしたの?」


花丸「ルビィちゃん、昨日マルに小倉百人一首の『小倉』の由来を聞いてきたよね?」


ルビィ「あ、うん…結局それって…」


花丸「小倉あんと同じ、小倉山の小倉ずら」


花丸「昔、小倉山の山荘の襖に用いる色紙に百の和歌を選ぶことになって、その時に藤原定家が決めた百歌が小倉百人一首の成り立ちずら」


果南「え!?その小倉山の山荘って…」


花丸「ダイヤさんが内裏歌合で訪れている《時雨亭》ずら」


曜「そんな偶然…」


果南「そういえば去年、その時雨亭から全日本かるた協会に依頼があったんだよね?」

151: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:42:56.41 ID:H71/+Fhm0


花丸「あ、うん。今年から序歌を替えてくれって…」


千歌「序歌って、ダイヤさんが最初に詠んでた歌?」


ルビィ「うん、そうだよ。元々はちゃんと定められていなくて1954年に、日本は花が咲き誇るように盛んな文化国家になってほしいって思いを込めて


~難波津に 咲くやこの花 冬籠り
今を春辺と 咲くやこの花~


…って歌にしましょうってことで全国統一になったんだけど、何故か今年から


~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面知るらむ 三津のおもひで~


になったんだよ。お父さんの知り合いに協会の人がいて…どうやら替えてくれって頼んできた山荘の人はかなり焦っていたみたい…」


果南「なんでそんな急に新しい和歌を…」


果南「ん?この三津って…」




曜「和歌…」


曜「あ!そうだ!花丸ちゃん!!」


花丸「ずら?」

152: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:43:31.27 ID:H71/+Fhm0


~心にも あらで浮世に 水面夢
うつよ乱れど 心でいづこ~


花丸「これは…」


曜「今日私は五番目の夢を見た。そうして、あの綺麗な月を見て和歌を詠ったよ。それでしばらくしたらこの和歌が頭の中に流れて来たの」


花丸「マルの時には何も返って来なかったずら」


果南「私も」



ルビィ「返歌…」


曜「え?」


千歌「へんか?」


ルビィ「昔、和歌は誰か大切な人に向けて詠むとその人がまた和歌で返すっていう習慣があったんだよ」


ルビィ「今も内裏歌合では一つの和歌に如何に趣のある和歌で返せるかを競うってやり方もあるみたい」


曜「つまりこの和歌は、私の詠んだ和歌を聞いてそれに対して返答しているってこと?」


果南「どういう意味だろう…全然分からない…」



花丸「さっき曜さんが詠んだって言った和歌

~あくがれて 翔ける先には 朧月
さるはゆかしき 及ばぬ羽かな~

の返答としてはちょっと合わないって思うずら」



果南「花丸…返って来た和歌が訳せるの!?」

153: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:44:19.56 ID:H71/+Fhm0


花丸「恐らくだけど…

~心にも あらで浮世に 水面夢
うつよ乱れど 心でいづこ~

【早く死んでしまいたい…そんな辛い今を生きている時目にしたのは、水面に反射した現実であって現実ではないもう一つの月夜。その水面は風で波打ち乱れているけれど、その様は私の心のようであり、どこだか分からないけれど行きたいと願うもう一つの世界でもあるのです】」


四人「!!!!!」


花丸「更にこの和歌には掛詞(かけことば)が散りばめられてるよ」



花丸「まず水面夢(みなもゆめ)の《水面》は《皆も夢》…つまり上の句を

【早く死んでしまいたい…そんな辛い今を生きることになった所以…それは皆が現実では無いどこかへ行ってしまったからだ】

とも訳せるずら」

154: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:44:55.93 ID:H71/+Fhm0


花丸「それから詠み人は《うつよ》を【波が打ち寄している】って表したと思うんだけど、それより《現世(うつよ)》、《鬱夜》の方が意味合いが強いかもしれないずら」



花丸「つまり、《うつよ乱れど》は

【こちらの世界では今、起こったことに混乱しているけれど】
【一人悲しく虚しい夜に泣き喚いているけれど…】

という意味にもなるずら」



果南「三重掛詞…」


千歌「一つの和歌にここまで意味をこめられるなんて…」


曜「やっぱりこの和歌は…」




花丸「ダイヤさんの和歌で間違いないと思う」

155: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:45:24.18 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「お姉ちゃんが…!」


花丸「つまりこっちの世界の五番目の夢を見た人とダイヤさんは、何かしらの理由で月を通じて和歌の掛け合いでコンタクトを取ることができるずら」


果南「月…」


曜「じゃあ現実世界では私達がいなくなったことで騒ぎになってて、ダイヤさんが物凄く悲しんでいる…ってことだよね」


ルビィ「そうなの?お姉ちゃん…」


千歌「ダイヤさん…」


花丸「…ちょうどいいずら。とりあえずマル達の夢のことは《水面夢(みなもゆめ)》って呼ぶことにしよう」


果南「うん、そうしよう」



果南(すごいな花丸…和歌だけでダイヤの想いをちゃんと理解できてる)

156: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:45:52.43 ID:H71/+Fhm0


花丸「それから他にも分かることがあるよ」


花丸「さっきこの和歌は曜さんが水面夢で詠んだ和歌の返答としては脈絡性が無いって言ったずら」


曜「うん。こうやって意味を聞くと尚更ね」


花丸「ダイヤさんは、曜さんの和歌を曜さんが詠ったものだって気付いていないずら」


曜「!!!」


花丸「だからこの和歌は曜さんに対して返答したわけじゃないと思う」


ルビィ「じゃあお姉ちゃんはたまたま月を見てあの和歌を詠ったってこと?」


花丸「そうずら」


千歌「花丸ちゃんや果南ちゃんの和歌もダイヤさんに届いてるのかな?」


花丸「それもなんとも言えないよ。こっちで詠った和歌がダイヤさんに一方的に届くのか、ダイヤさんサイドも月を見ていないとダメなのかは分からない…」


ルビィ「ねえ花丸ちゃん」


花丸「ずら?どうしたのルビィちゃん?」

157: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:46:24.92 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「今、こっちでは二日経って三日目に突入してるけど…お姉ちゃん達も同じだとしたら向こうは1月4日のお昼ってことになるよ?お姉ちゃんは2日の朝にルビィ達が行方不明って聞かされてもうとっくに内浦に帰って来てるはずだよね?」


花丸「うん、恐らくね」


ルビィ「でも内浦は本来お姉ちゃんが帰ってくる5日まで曇りだよ?」


花丸「!!!!」


曜「そっか!だから月を見ることなんてできない!私に歌を返すなんてできない!!」


千歌「どういうことだろう…」





花丸「……」グゥゥゥゥゥ


曜「え?」


花丸「///」


ルビィ「花丸ちゃんお腹が」グゥゥゥゥゥゥゥゥ


ルビィ「」

158: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:47:21.83 ID:H71/+Fhm0


千歌「お腹空いたね…」グゥゥゥゥゥゥゥゥ


果南「こっちに来てからほとんど食べてないからね…」グゥゥゥ…


曜「ごめん…さっきも釣りしてたんだけどボウズだったからさ…」グゥゥゥゥ


ルビィ「何か食べ物あったかな…」スッ


果南「一旦休憩だね…」ドサッ


曜「ふう」ドサッ


コチッ…コチッ…コチッ…


曜(時計は8時を指してる…えーっと、時計の6時が午後12時って意味だから…今は1月4日の16時ってことかな?)


曜(ああそうか…時計が指してる時間に×2すればいいんだった)


曜(そもそもなんで半分しか動かないの?午後の十二時間しか起きていられないとは言え一日が二十四時間あるってことに変わりはないんだから普通の時計みたいに動いてくれればいいのに…ややこしいったらありゃしないよ)


曜(針は壊れてるのに鐘だけしっかりしてるのも変だし…)


千歌「曜ちゃ~ん」


曜「うーん…」



千歌「曜ちゃん!」

159: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:47:54.62 ID:H71/+Fhm0


曜「わっ!?」ビクッ


果南「どうしたの時計見てボーッとして?」


曜「いや、不思議だなーってね?」


花丸「不思議?」


曜「この時計、二十四時間で半分の十二時間ぶんしか進まないでしょ?だから私達は、針は二時間で一時間分進むって認識にあらためた」


曜「で、私達が起きていられるのは午後12時~午前0時前…この時計が指す数字の6~12の十二時間ぶん。ここまではいいよね?」


果南「そうだね。ちょっとややこしいけど…」


曜「だから実際に十二時間経ったとしても、針は六時間ぶんしか動かないでしょ?」


曜「…にもかかわらず、この時計の鐘はその針を尻目にきっかり十二時間ごとに鳴る。おかしくない?」

160: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:49:07.62 ID:H71/+Fhm0


花丸「うん。昨日ルビィちゃんも言ってたけど中のカラクリ上、針が12時と0時の時にしか鳴らないはずなのに6時を指した時も鳴る…ってのはおかしいずら」


果南「まるで鐘が意思を持っているようだね…半分しか動かない針に騙されずに正確に十二時間を計れるように…」


千歌「今こっちの世界に来てから二日と十六時間…だから六十四時間経ったことになってるけど、時計の針自体は半分の三十二時間ぶんしか動いてないんだよね?」


花丸「ずら。だから実際に時計が動いたのは三十二時間イコール一日と八時間ぶんだけだね」



ルビィ「ごめんね。お餅が少し残ってるだけだった…」スッ


果南「ありがとうルビィ」


千歌「いただきます!」


花丸「さあ曜さんも…」


曜「……」


花丸「曜さん?」


曜「ねえ…」


花丸「ずら?」


曜「この鐘のところの窪み…」


ルビィ「あ、それは元々…」




曜「違う!私が夢で取ろうとした…沖の石と形が全く一緒なんだよ!!!」

161: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:49:59.43 ID:H71/+Fhm0


四人「!?!?!?」


千歌「曜ちゃんほんと!?」


曜「近くで見たから間違いないよ…」


果南「嘘…あの沖の石はこの柱時計に嵌め込むことができるってこと…?」


ルビィ「じ、じゃあ…サヌキって人とこの柱時計に何か関係があるっていうことだよね?」


果南「……」ガチャガチャ


曜「どう?」


果南「木が物凄く古いな…」



果南「!!!!!!」

162: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:50:32.40 ID:H71/+Fhm0


千歌「どうしたの!?」


果南「この時計の右側…見て」


千歌「あ!!!」


【文暦二……七月……
時…亭……伊豆…君沢………寺】


花丸「これは…」


果南「文字が掠れてるけど…元々この時計は文暦二年…1235年、京都の時雨亭から伊豆国君沢郡…つまり今の内浦のどこかのお寺に送られたものだったんだよ」


花丸「1235年…って、百人一首が藤原定家によって選定された年と同じずら…」


ルビィ「全然気付かなかった…ルビィが生まれた時からあったのに…」


果南「この時計、数字の部分だけ取り外せるようになってる。この時計はサヌキの生きていた約八百年前に時雨亭で作られた。そして内浦のどこかのお寺に送られ、歴史の中で時間の数え方が変わる度に数字の部分だけ取り替えられて大切にされてきた時計…そしてルビィちゃんが生まれる前に先代の方が頂いてきたってことだよ」


曜「つまりこの柱時計には水面夢の呪いの謎を解く鍵が隠されているんだ。サヌキはその鍵である沖の石をこの四番目の水面夢の水の底に沈めたんだ…それを歌ったのがあの百人一首のサヌキの和歌ってことだね」


千歌「そもそもなんでサヌキさんの時計がルビィちゃんの家…内浦に送られたんだろう?」


果南「そこだよね…何か歴史的な関係があるのかな?」


ルビィ「分かんない…お姉ちゃんなら知ってるかな?」




花丸「そのダイヤさんだけど…もしかしたら何か手掛かりを掴んでいるかもしれないずら」

163: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:51:07.82 ID:H71/+Fhm0


四人「え!?」


果南「どういうこと!?」


花丸「まずこの時計だけど…こっちに来てからなんで針と鐘がバラバラな動きをしてしまうのか…」


花丸「それは針と鐘がそれぞれ独立しているからだと思う」


花丸「鐘に沖の石の窪みがあるってことは、今この鐘は異世界標準…こっちの十二時間ごとに鐘が鳴るように自動的に合わさってるずら。サヌキの石に反応しているんだよ」


果南「異世界標準って…」


花丸「そう。でも針の部分はさっき千歌さんが言ったように三十二時間…つまり一日と八時間ぶんしか動いていない」


花丸「それは現実世界側の時間を表しているんだよ」



花丸「つまり現実世界とこっちの世界では時間の流れが違うずら」

164: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:51:54.08 ID:H71/+Fhm0


果南「なっ…!?」


花丸「秒針が0.5秒ずつしか進まないのは針が現実世界側の時間に合わせようとしていたからだよ」


ルビィ「じゃあ今、お姉ちゃんの世界はまだ1月3日の朝8時ってこと!?」


花丸「そうなるずら」


花丸「これでダイヤさんが曜さんに和歌を返したであろう時間は1月3日の未明ってことになるよ」


曜「でも内浦は曇り…」


花丸「うん。だから、ダイヤさんはまだ京都の時雨亭にいることになるずら。そこで水面に映ってる例の国宝級の月を見てあの和歌を詠ったんだよ」


花丸「その時雨亭は小倉百人一首が定められた場所でもあり、時計の記載を見るにその直後にサヌキの時計を送ってきた場所でもあるずら」


花丸「そして今年、その小倉百人一首は序歌が変わったずら。その歌の中には…」



~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面知るらむ 三津のおもひで~



四人「三津!!!!」


果南「やっぱり…」



花丸「まとめて仮説を立てるとこうずら」

165: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:52:36.11 ID:H71/+Fhm0


花丸「時雨亭の人は昔、サヌキ達に起きたこの神隠しのことを知っていて代々その調査に当たっていた。そして去年の終わりくらいにその調査に進展があった。それはこの和歌を発見したこと。でもそんな中今度はマル達が神隠しに遭ってしまった。時雨亭の人はこの和歌の三津という文字…それからマル達との関係を知って当然、今年初めて内裏歌合に訪れたダイヤさんを疑うはず」


花丸「そのダイヤさんは既に囚われているか、屋敷を上手く逃げ回ってマル達を助けようと動いているか…」


花丸「どの道ダイヤさんは3日未明の時点で時雨亭にいるよ。あの和歌はダイヤさんが国宝級って言ってた庭園の水面に映った月を見て、時雨亭が混乱の渦に巻かれていること、マル達がいなくなって悲しんでいることを詠ったもの。そして、もう一つの世界…っていうのを強調しているから多分マル達が異世界のような場所にいるってことも掴んで既に知っている。つまりさっきの疑問は後者の可能性が高いずら」


花丸「…そしてこの柱時計は横の記述を見るに1235年7月…藤原定家が小倉百人一首を制定した直後、同じ時雨亭で制作されたもの。サヌキの沖の石のカラクリの事も考えると、この時計を作ったのも神隠しのことを知っていた定家。なんで窪みだけで石自体が水の底にあったのか…そして何故こんな回りくどいことをしたのかは分からないけど二つ、言えることがあるずら」



花丸「…まず、マル達の見ている水面夢はサヌキの生きていた約八百年前の平安末期~鎌倉初期の時代である可能性が高いこと」


花丸「そして、神隠しを元に選定されたであろう小倉百人一首にはまだ隠された謎がある…っていうことずら」

166: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:53:13.39 ID:H71/+Fhm0


……


……


ダイヤ「はっ…!?」ビクッ


ダイヤ「……」


ダイヤ「……」ススッ


シーン…


ダイヤ「昼前…」


ダイヤ「聖良さんはもういないですわね」ノソノソ


ダイヤ「ん?」


ダイヤ「手紙…」パサッ


ーーーーーーーー
拝啓 ダイヤさん

どうか白黒狐に見つかる前に貴方がこれを読んでいることを願っています。
…と言っても、今日は一日中歌合があり私が常に白黒狐と顔を合わせているという不快な状況なので大丈夫だとは思いますが…

さて、どうやら今日の歌合は広間から出られないようです。参加者、屋敷の人間全て広間に集められるようで…手洗等の出入りは屋敷の者の監視がつくそうです。何を考えているのかあの変態狐は…

…逆に言えばダイヤさん。貴方が部屋を抜け出すチャンスでもあります。なんとか見つからないよう奴らの部屋を探し出し、例の名簿に辿り着いてみてください。
ついでに正体まで暴けたら御の字です!
いい収穫、部屋でお待ちしておりますよ♪

P.S.正午に流れてくるであろう和歌、しっかり記憶しておいてくださいね!


敬具 鹿角 聖良

ーーーーーーーー


ダイヤ「……」


ダイヤ「もうしばらくで答えが出ますわ」

167: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:54:37.32 ID:H71/+Fhm0


コチッ…コチッ…コチッ…


果南「……」


曜「……」


ルビィ「ううっ…ぐずっ…」ボロボロ


花丸「四番目の水面夢を見て沖の石を取るチャンスは今夜が最後…ルビィちゃん。頼んだずら」モゾッ


ルビィ「うん……絶対に…絶対に取るよ」ボロボロ


花丸「ありがとうルビィちゃん」ニコッ


千歌「……」グッ


花丸「千歌さんはさっき決めた和歌を五番目の水面夢で月を見ながら詠んでね?ダイヤさんに伝えなきゃいけない大切なことだから。向こうは1月3日の昼だからダイヤさんは月を見れない。つまり千歌さんに歌は返ってこないと思うけど、次、ルビィちゃんが五番目の夢を見る時はダイヤさんも夜。その時必ずダイヤさんは月を見て歌を返してくれるから…」ギュッ


千歌「うん……」



花丸「それじゃあ…もう大丈夫ずら」

168: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:55:04.07 ID:H71/+Fhm0


千歌「花丸ちゃん…」ポロポロ


花丸「……」


花丸「千歌さん」ゴソゴソ


花丸「はい」スッ


千歌「これは……」ポロポロ


花丸「本の栞ずら。マルがずっと使ってきたやつ。もうボロボロだけど、千歌さんにあげるずら」


千歌「なんで…なんでそんな大切なもの私なんなに…」ボロボロ


花丸「……」スッ




花丸「…むかしむかしあるところに、小さくて地味で目立たない女の子がいました」


千歌「!!」

169: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:55:50.21 ID:H71/+Fhm0


花丸「いつも隅っこで一人ぼっちの女の子は、やがて旅に出ました」


花丸「こんなはずじゃない。一体自分の世界はどこにあるんだろう。それはあてもない自分探しの旅…」


花丸「すると、とある部屋に行き着きました」


花丸「…恐る恐る入って見るとびっくり!そこはあっちもこっちも…360°が物語で埋め尽くされている夢のような部屋でした!驚く女の子に部屋は言います。

『この中からお前の望む世界を探して見せなさい。そして答えが見つかったのならこれを挟みなさい。その世界へお前を誘ってやろう』

そうして女の子にきれいな栞を渡しました」


花丸「女の子は嬉しくて嬉しくて色んな世界を旅しました。素敵なドレスに身を包んだお姫様になれる世界、ごちそうがいっぱい食べられる世界、宇宙を旅する大スケールの世界…そこは夢のような空間でつい時間を忘れて世界を旅してしまいました」


花丸「でも、女の子が栞を挟もうとすると決まって部屋は語りかけます。

『本当にその世界でいいのかい?』

女の子もちょっと悩んだ後、決まって首を横に振って言います」



花丸『ここは私の世界じゃない』

170: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:56:18.36 ID:H71/+Fhm0


花丸「女の子は旅を続けます。一人の素敵な伴侶と出会い幸せな人生を添い遂げる世界、最愛の人を亡くし涙に包まれる悲しい世界、波乱万丈を生き最後は処刑されてしまう何ともいたたまれない世界…」


花丸「女の子は部屋に語りかけます。

『ここはこうだったらいいのにな。私だったらこうしてたよ』

でも部屋は決まって…

『本当にその世界でいいのかい?』

ちょっとふてくされた女の子。だけどやっぱり首を横に振ってこう言います」




花丸『ここも私の世界じゃない』

171: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:57:04.97 ID:H71/+Fhm0


花丸「女の子は栞片手に旅を続けます。でも、ある日気付いてしまったのです」


花丸「たくさんの世界が溢れていると思っていたこの部屋。でもここに私の世界はあるの?どの世界にも先客がいる。主人公という名の先客が。それは例えハッピーエンドでも、そうじゃなくても…私の世界じゃないんです」


花丸「すると、女の子は初めてその部屋に自分以外の人間がいることに気付きました。赤い髪の可愛い女の子。今まで色んな世界に夢中だった女の子は気付かなかったのです」


ルビィ「!!!!!」


花丸「その赤髪の女の子もまた、その部屋の世界に虜になったのだと思いました。悪いと思いながらも嬉しそうに見ているその世界がどんなものなのか気になって気になって…ついには覗きこんでしまいました」


花丸「…でも、その世界には何も書かれていなかったのです!一面真っ白な世界…女の子は驚いて聞いてみます」


花丸『本当にこの世界でいいの?』


花丸「その赤髪の女の子は振り向くと笑顔でこう言いました」



花丸『うん!よかったら一緒に旅をしない?』

172: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:57:31.85 ID:H71/+Fhm0


花丸「部屋は何も言いません」


花丸「二人で旅を始めた新たな世界。そこは進めど進めど真っ白です。でも、今までと違って妙にリアル。嬉しさや悲しさ…言葉で表せないような気持ちが胸を揺さぶります。そんな味わったこともない感覚に思わず栞を挟んだりもしてしまいました。でも、部屋は何も言ってきません」


花丸「それを知った女の子は毎日栞を挟むようになりました。その思い出を染み込ませるかのように…」


花丸「女の子は、いつしか赤髪の女の子との旅が大好きになってしまいました。優しくて思いやりがあって……旅のどこかでその胸の奥に眠っている輝きを解き放ってあげたい。そう思うようになりました」


花丸「そしてその日が、この旅の…この物語の終わりなんだと思っていました」


花丸「…ある日、私達の前に三つの光が現れました。小さいけれど、まるでお星様のようにキラキラと輝こうとする眩しい光でした」


曜 千歌「!!!!」


花丸「なんと、その光は赤髪の女の子の胸の扉を開いてあげたのです!すると、赤髪の女の子も光になりました。それはそれは眩しい光に…予てからの願いが叶った。その喜びでいっぱいでした。でも、それもここでおしまい。ここの世界はハッピーエンド。女の子はいつものように本を閉じようとしました」


花丸「あれ?閉じられない。なんでだろう?

『おーいお部屋さん!やっぱり栞は使わない!ここも私の世界じゃないんだよ!早く出しておくれ!』

…それでも部屋は答えてくれません」



花丸「…気が付くと目の前に四つの光がありました。それはまるで女の子を待っているかのような…」


花丸「はっ!!!」


花丸「女の子は気付きます。なんと、自分の胸の中に輝きが宿っているではありませんか!それは赤い髪の女の子と全く同じもの。今にでも溢れんばかりの輝き。四つの光は手を差し伸べてくれました。そして女の子は…」




花丸「…マルは光になりました」

173: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:57:59.57 ID:H71/+Fhm0


花丸「そこで初めて気付いたずら。後ろを振り返ると真っ白だったはずのページは二色で描かれた素敵な世界に染まっていたことに。目の前に裏表紙は無く、まだまだページが続いていることに…」


花丸「持っていた栞がその未来に疼いていることに」


花丸「五つの光はやがて六つ、七つ、八つ…と増えていった。ページが捲られるたびにその世界は彩りを増して…そして、九色になった時には今まで見たどんな世界よりも素晴らしかった。そして、そこは間違いなくマルの世界だった」


果南「……」ギュッ


花丸「そして今、一つ…また一つって光が消えていく。そしてついにマルも、この本の裏表紙が見えてしまったずら」



ルビィ「うええっ…ぐずっ…ヒック……」ボロボロ



花丸「ようやく部屋はマルの心に語りかけてきた。

『本当にその世界でいいのかい?』

…ううん。マルは首を横に振ってこう言ったずら」




花丸『本当にこの世界がいい』

174: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:58:31.80 ID:H71/+Fhm0


千歌「ううっ……」ボロボロ


花丸「でも、まだ終わらせたくない。ここはマルだけの世界じゃないから。たくさんのページに挟んできたこの栞は…未来ある光の先駆者に託したい。またいつか、マルがお話に戻って来れる日が来るのなら…」


千歌「ごめんね花丸ちゃん…私、花丸ちゃんのこと犯人だなんて…すっごく酷いこと言った…リーダーなのに…花丸ちゃんがそうやって思ってくれていたのに私…私……」ボロボロ


花丸「ううん。気にしてないよ。あの時は千歌さんなりの暗中模索だったんだよね?」


千歌「どうして…あんなに傷つけたのに……あんなに……」ボロボロ


花丸「ありがとう…」ニコッ


千歌「なんで…」ボロボロ


花丸「…千歌さん、もう時間が無いずら。どうかページが途切れ無いように…マルのことを忘れないように…この栞を大切に持っていてほしいずら」


千歌「!!」



千歌「忘れるわけない!!!!ずっとずっと!!!!花丸ちゃんの想いは私の心の中にあるから!!!!!!!」ボロボロ

175: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:59:01.17 ID:H71/+Fhm0


花丸「ふふっ…」


花丸「曜さん」


曜「……」ピクッ


花丸「マルを導いてくれてありがとう。マルの苦手なランニングやダンスも、曜さんがいてくれたから楽しめたし上達できたんだよ」


曜「花丸ちゃん…」ポロポロ


花丸「千歌さん達を支えてあげて。未来に向かってヨーソロー!…ずら」ニコッ


曜「うん分かった…ヨーソロー!」ポロポロ


花丸「果南さん…」


果南「……」ピクッ


果南「なぁに花丸?」ニコッ


花丸「これからは四人で辛いと思うけど…優しくて、温かくて…聡明なみんなのお姉さん、果南さんがみんなを先導していってね?」


果南「!!!!」


果南「…分かった。任せて」ギュッ


花丸「ありがとう…」ニコッ


果南「こちらこそ…」ジワッ


ルビィ「うええっ…ぐずっ…ヒック……」ボロボロ


花丸「ルビィちゃん」


ルビィ「ううっ…花丸ちゃん…ぐずっ…」ボロボロ


花丸「マルを素敵な世界に導いてくれてありがとう。マルの心を開いてくれてありがとう。今日まで一緒に旅をしてくれてありがとう。今まで読んだどんな一冊よりも素敵な素敵な物語だった。大好きなルビィちゃんと出逢えて本当に良かった」



花丸「ありがとう……ルビィちゃん」ポロッ

176: 名無しさん 2017/02/22(水) 15:59:54.67 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!」ギュッ!


千歌「うぅっ…うえっ…ひぐっ…」ボロボロ


曜「花丸ちゃん……ありがとう」ボロボロ


果南「花丸…楽しかったよ…」ボロボロ



花丸「ありがとう。さようなら…」


……


……




どこかで聞いたことがある。


あなたが生まれた時、あなたは泣いて周りが笑った。だからあなたが死ぬ時、あなたは笑って周りが泣く…そんな人生を送りなさい…って。



…よかった。マルは最期まで幸せでした。




めでたしめでたし…



ゴーンゴーン…
ゴーンゴーン…

177: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:00:28.49 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…
ザザーン…


……


ああ…


綺麗な月…綺麗な星…


本当はみんなで見たかった景色。


私と善子ちゃんが頭捻らせて和歌を考えて、みんなが一生懸命教えてくれて…そんな時花丸ちゃんのお腹が鳴って…みんなが笑って…


本当にみんなで見たかった景色。


……


五番目の水面夢か…


そっか…ダメだったんだね…



今頃苦しんでるのかな?


やっぱり死にたくない…


死にたくないよ…って


花丸ちゃんは最後まで、自分にできることを精一杯やってくれた。


和歌を訳して、時計や時間のことを解明して、難しい歴史の知識も使ってダイヤさんのこともある程度把握してくれた…


そして私に栞を託してくれた
ううん…それだけじゃない。今までも花丸ちゃんは数え切れない程色んなことをしてくれたよ。


花丸ちゃんは大切な大切なAqoursのメンバーで、一人の主人公。


…でもまだ終わってない。私にはあの和歌をダイヤさんに届ける役目がある。


お願いダイヤさん…


花丸ちゃんの…私の…みんなのこと…




ちゃんと届いてね…



……スゥッ

178: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:01:10.20 ID:H71/+Fhm0


ジュッ…


ダイヤ「くっ……」



ダイヤ「また誰かが…」



ダイヤ「でももう少しで……」



ドクン…


~水面すく 蜘蛛手惑ひし をりもえたり
時雨は知らに 去ぬ期の調べ~



ダイヤ「……」



ダイヤ「……」



ダイヤ「そういうことでしたのね」



ダイヤ「……」



ダイヤ「聖良さん」




ダイヤ「やはり私はもうここには戻ってこれないと思いますわ」スッ

179: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:02:17.26 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…
ザザーン…


…と。


…花丸ちゃん。やり遂げたよ。


…私はね、花丸ちゃん…それに梨子ちゃん、鞠莉さん、善子ちゃんがいないまま…Aqoursが欠けたまま描かれていっちゃうページなんて、正直破り捨てたいって思ってた。


…でもね、裏表紙が見えない限りページは続く。終わらない。逆に言えば、…終わらないんだったらまだ物語は変えることができる。


また九色で彩った世界にしてみせるからね…


いつかこの月や星のように、輝いてみんなを照らせる存在になろうね…


待ってて…みんな。



ポコポコ…


!?!?!?!?


こ、この泡は…?


下からだよね?


何だろう…

180: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:03:01.60 ID:H71/+Fhm0


ゴーンゴーン…
ゴーンゴーン…


曜「はっ!!」ガバッ


果南「おはよう…曜」


千歌「…zzz」


ルビィ「…zzz」


曜「花丸ちゃん!?」ダッ


花丸「…」


曜「花丸…ちゃん……」


果南「……」


果南「…布団動かそう。善子たちの所に」


曜「うん…」



ルビィ「うゆ…」


果南 曜「!!!」


果南「そうだ…!沖の石!!」


曜「取れたのかな…そもそも夢にあるものをこっちの世界に…」



曜「!!!!!」


ルビィ「……zzz」ギュッ


果南「これ…ルビィが握ってる石…」


曜「うん……」


曜「間違いない…沖の石だよ」


果南「こんなに泣き腫らして…よく頑張ったねルビィ」ギュッ



ルビィ「ふふっ…花丸ちゃん……」スヤスヤ



【国木田花丸 死亡】

ーー残り4人

181: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:03:39.78 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…
ザザーン…


曜 果南「……」ヒュッ


チャポン…


曜「……」


曜「ルビィちゃん大丈夫かな…」


果南「花丸と一番付き合いが長くて、固い絆で結ばれてたのはルビィだから…ショックは大きいと思うし無理ないよ。もちろん私達もそうだけどさ…」


果南「今は千歌が側にいてあげてるから…落ち着くまでは…ね?」


曜「分かった…」


果南「……」

182: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:04:19.02 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…

果南「水面夢は?」


曜「間違いなく進んでるよ…今日は冷たい水面に浮かんでて…空は新月だった。六番目の夢」


果南「そっか…」


果南「…四人の王の暗号のことだけどさ?」


曜「うん」


果南「もしあれがさ、四人が死ぬってことだとしたらそれは昨日、四人目である花丸で終わって…私達は朝、現実世界に戻ってるんじゃないかって…あんま良い言い方じゃないけど、少し期待してた」


曜「それは私も…」


果南「でも私達はここにいる。夢も更新された…ってことはやっぱり暗号の意味は他にあって…」


曜「まだ死の連鎖は続くってことだね」



果南「そして今夜は私の番」


曜「……」


果南「でも、よかったとも思ってる」


果南「もし現実に戻っちゃったらもう本当にみんなを救えないと思う。中途半端なまま戻るくらいなら僅かな可能性にかけてでも、みんなのためにこの呪いに抗いたい。せっかく花丸が考えたあの和歌も無駄になっちゃうからさ…」


曜「…そうだよね。ダイヤさんはダイヤさんで必死に駆け回ってくれてる。そこで私達が戻っちゃったら合わせる顔が無い」


果南「戦おう。最後まで」


曜「うん!」


果南「よ~し、今日こそは大漁目指すぞ~!!」


曜「ふふっ…」


果南「なんちゃって♪」



チャポン!!

183: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:04:55.08 ID:H71/+Fhm0


曜 果南「!!!!!!!」


曜「かかった!!!」グイグイ


果南「魚がいる…私達以外にも生き物が!?」



曜「あっ!!」



シーン…



曜「逃げられた…」


果南「……」


果南「ここはどこなんだろう」


果南「花丸の考察なら沖の石の落ちていた水面夢はサヌキの生きていた平安末期から鎌倉初期だけど…」



果南「じゃあこの濃霧に囲まれた島は?」

184: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:05:34.37 ID:H71/+Fhm0


コチッ…コチッ…コチッ…


ジワッ…


千歌「…また大きくなってる。サヌキの和歌の赤いシミ…」


千歌「やっぱり百人一首には何か隠されてるんだよね…?」


千歌「よーし…」ガサゴソ



千歌
「~あ、あまのはら…ふりかけみれば…」ガサゴソ


千歌「ふりかけ?ふりさけ?」モヤモヤ


千歌「……」


千歌「はぁ…」ドサッ


千歌「こんなことなら百人一首…ちゃんと勉強しておけばよかったな…古典はいつも赤点ギリギリだったし…」


千歌「この百首の中から…そもそも隠されてるのが何についての手がかりなのかも分からないのに本当に見つけられるのかな?」


千歌「…ううん。ダメだよね諦めちゃ。命ある限り、精一杯運命に立ち向かわないと…」





ルビィ「千歌ちゃん」


千歌「!!」


千歌「ルビィちゃん!!!」


ルビィ「もう平気だから…。果南さん達を呼ぼう」

185: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:06:13.94 ID:H71/+Fhm0


コチッ…コチッ…コチッ…


ルビィ「……」


千歌「……」


曜「……」


果南「まずルビィ。沖の石を取ってきてくれてありがとう。花丸も喜んでるよ…」


ルビィ「うん…」


果南「とりあえず、状況と謎をまとめてみよう」カキカキ


果南「まずは時系列。
左がダイヤのいる現実世界、
真ん中が私たちのいる異世界、
そして右が死者…」


ーーーーーーーーーーーーーー

2日0時 0日目夜 1人目 梨子
ーーー異世界へーーーーーー
2日12時 1日目夜 2人目 鞠莉
3日0時 2日目夜 3人目 善子
3日12時 3日目夜 4人目 花丸
ーーーー現在ーーーーーーー
4日0時 4日目夜 5人目 (果南)
4日12時 5日目夜 6人目 (曜)
5日0時 6日目夜 7人目 (千歌)
5日12時 7日目夜 8人目 (ルビィ)

ーーーーーーーーーーーーーー

186: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:06:58.37 ID:H71/+Fhm0


果南「あと一応水面夢のおさらいもしとこっか」カキカキ


ーーーーーーーーーーーーー
※異世界標準4日目現在

一…血染めの水中
二…生暖かくて濁った水中
三…真っ暗で冷たい水中
四…水底に沖の石がある明るい水中【ルビィ】
五…綺麗な月明かりと星空の水面(和歌の掛け合いでダイヤとコンタクト可)【千歌】
六…新月の冷たい水面【曜】
七…雨に晒される水面【果南】
八…???(死ぬ)【花丸】

ーーーーーーーーーーーーー


果南「そして、調べなければいけないのは…」カキカキ


ーーーーーーーーーーーーーー
・時計と沖の石のカラクリ
・サヌキと内浦の関係
・序歌&百人一首に隠された謎
・サヌキの上の句の裏に書かれた暗号の
【四人の王に陽は昇らずただ月が浮かぶのみ】について
・この場所のこと
・水面夢のこと
ーーーーーーーーーーーーーー

187: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:07:35.65 ID:H71/+Fhm0


果南「…もちろん、調べるのに限界があるものもいくつかある。逆に一つ分かればドミノ式に全てが繋がるのかもしれないけど…」


果南「…あとはダイヤが和歌を送ってくれると信じよう」


曜「そうだね。あと四日…起きていられるのは半日だから合計四十八時間、全力で頑張ろう」


果南「それじゃあ、早速この石を嵌めてーー」



千歌「待って!!!」


曜 果南「!!!」


曜「千歌ちゃん?」


ルビィ「……」


果南「ルビィも…どうしたの?」


千歌「先に話さなきゃいけいけないことがある」


曜「話さなきゃいけないこと?」


千歌「今日見た水面夢なんだけど…」




千歌「私、夢の中でルビィちゃんと会ったの」


曜 果南「!?!?!?!?!?」


ルビィ「私も千歌ちゃんと…」


果南「どういうこと!?」

188: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:08:26.07 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…
ザザーン…


ポコポコ…


千歌『!?!?!?!?』


千歌『こ、この泡は…?』


千歌『下からだよね?』


千歌『何だろう…』


千歌『とにかく潜ってみよう!』ザパッ



ブクブク…


千歌(眩し…)


千歌『!!!!!』


千歌(青く透き通った水…陽の光が射してて…)ポコポコ


千歌(間違いない!昨日私が見た四番目の水面夢だ!!)ポコポコ


千歌(でもなんで水中と水面でこんなに時間帯が違うんだろう?)




スイスイスイ…


千歌(!!!)


千歌(潜れる…潜れるよ…!)ポコポコ


千歌(もしかしたら底には…!!)ポコポコ

189: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:08:55.09 ID:H71/+Fhm0


ブクブク…


ルビィ(くっ…)ポコポコ…


ルビィ(もう少し…もう少し…)ポコポコ


ルビィ(もう少しで底まで…沖の石に手が届く…)ポコポコ…


ルビィ(なのに…)ポコポコ…


ルビィ(ダメだ目が覚めちゃう…)ボコボコ…



パシッ!


ルビィ(!!!!!!!!!!!)



千歌(やっぱり…やっぱりいた!)ボコボコ


ルビィ(千歌ちゃん!?!?)ボコボコ


千歌(ルビィちゃんなら大丈夫!)グッ


ルビィ(千歌ちゃん…)ボコボコ


千歌(花丸ちゃんが信じてくれた!私達は前に進もう!!)ボコボコ


ルビィ(うん!!!)ボコボコ


ルビィ(…よし)ボコボコ



スイスイスイ…



ルビィ(お願い!!届いて!!!!)ボコボコ



ルビィ(届いて!!!!!!!!)グッ




パシィッ!


……


……

190: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:09:27.45 ID:H71/+Fhm0


……


ルビィ「それで目が覚めたら沖の石が手の中にあって…」


果南「つまり…」


果南「水面夢は水面と水中で繋がっている」


曜「二人が同じことを言うならその可能性が高いね」


千歌「でも、水中には太陽の光が射してたのに水面は夜空だった…」


曜「昼と夜…どうして…」



果南「暗号!!!!!!!!」


三人「あ!!!」


【四人の王に陽は昇らずただ月が浮かぶのみ】

191: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:10:05.79 ID:H71/+Fhm0


果南「水面夢…さっきのメモをもう一回見てよう」パサッ


ーーーーーーーーーーーーー

一…血染めの水中
二…生暖かくて濁った水中
三…真っ暗で冷たい水中
四…水底に沖の石がある明るい水中【ルビィ】
五…綺麗な月明かりと星空の水面(和歌の掛け合いでダイヤとコンタクト可)【千歌】
六…新月の冷たい水面【曜】
七…雨に晒される水面【果南】
八…???(死ぬ)【花丸】

ーーーーーーーーーーーーー


果南「この夢、一から四は水中の夢で五から七は水面の夢なんだよ」


曜「ほんとだ!!」


果南「暗号の【四人の王】は五から八番目の夢を見ている人。みんな夜の水面に浮かんでいるから【陽は昇らず】なんだよ」


果南「つまり八…すなわち死の夢も夜の水面の可能性が高い」


ルビィ「でも、七の夢って豪雨なんだよね?」


果南「え?うん。今日見たけど…確かに凄い豪雨だった…昨日までとは違う荒々しい夢で…」


ルビィ「だったら【月が浮かぶ】って表現に合わないと思うんだけど…」

192: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:10:55.14 ID:H71/+Fhm0


果南「!!」


曜「あっ、確かに…雲で月が隠れちゃうよね?」


ルビィ「それに六の夢も新月だから…」


果南「そっか…」


ルビィ「別の何かなのかな…」


果南「……」



千歌「果南ちゃん」


果南「!!」


千歌「焦らないで…できることから一つずつやろう?」


果南「……」


果南「うん…そうだね」


果南「ありがとう」ニコッ


千歌「まずは沖の石を嵌め込んでみよう」


曜「そうだね。どうなるか分からないけど…」

193: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:11:56.66 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「千歌ちゃん。お願い」スッ


千歌「分かった!」パシッ



コチッ…コチッ…コチッ…



千歌「うーんと…」カチャカチャ


パカッ!


千歌「開いた!!」



曜「……」ドキドキ


ルビィ「……」ソワソワ


果南「……」ゴクリ



千歌「嵌めるよ?」


ルビィ「うん…」


果南「お願い…」


曜「いいよ…」


千歌「……」コクッ




千歌「せーの!!」



カチリッ!

194: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:12:34.06 ID:H71/+Fhm0


ギシギシギシ…


ギギィィィィィィィ…



……



白狐「ふう…」ドサッ


黒狐「…すまない。終始目を光らせてはいたが奇怪な行動を取る者を見つけるに至らなかった…」


白狐「あなたが謝ることではありません。過去に習えば人為的に見付け出す事はほぼ不可能ですから…無理もありません」


黒狐「しかし…」


白狐「彼女を捕らえることさえ叶えば…」





?「私ならここにいますわ」

195: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:13:11.88 ID:H71/+Fhm0


白黒狐「!?!?!?!?!?!?!?」クルッ



白狐「黒澤ダイヤ!!!!」


ダイヤ「どうされましたの?垂涎の的が自ら足を運んで来たというのに…少々喜びが足りなくてよ?」


白狐「いつの間に部屋に…」


黒狐「ほう…どうしてこの場所が分かった?」


ダイヤ「昨晩、聖良さんの部屋を後にしたあなた達を天井裏から追ったんですの。そうしましたら途中で行き止まりになっており追跡不能となっていたので怪しいと思い昼に調べてみたら…」


ダイヤ「まさかあの柱時計の裏側に隠し部屋があるなんて思いもしませんでしたわ」


白狐「それでこの部屋で私達が戻ってくるのを待ち伏せしていたということですか」


黒狐「やはり鹿角聖良だったのだな。貴様を匿っていたのは。ふん…今日の歌合で見張りが手薄になるのも伝えられていたわけか」




ダイヤ「見張り」

196: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:13:43.13 ID:H71/+Fhm0


黒狐「?」


ダイヤ「昨晩天井裏からあなた達を追った時、あなた達は幾度も誰かと会話している様子でしたわ」


ダイヤ「あれは初日から各部屋の前にそれぞれ配置されている二人の見張りの方でしょう」


ダイヤ「聖良さんには…恐らくあなた達二人が新たな見張りとして付いていたんですわね」


白狐「ええそうです。あなたがいなくなりましたからね」




ダイヤ「おかしくありませんか?」


白狐「?」

197: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:14:13.78 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「2日の朝、ルビィたちが姿を消したことであなた達は私が九人目の死者…つまり八人の神隠しの犯人だと決めつけ追っていました」


ダイヤ「…にもかかわらず夜、参加者の部屋の前に見張りを設けるのを止めなかった。更に歌合の参加者を外出禁止にし、今日の歌合でも何やら部屋に閉じ込めて観察をしていたそうですわね?」


黒狐「……」


ダイヤ「…白狐さん。あなたは1日の夜の会合で八人の神隠しについてこう語っていましたわ」


ーー
ーーーー



白狐『まず、一時的に行方を眩ましていた八名が揃って遺体として発見されたと同時に、もう一名の首が無くなった遺体…つまり九人目の死者が出るということ』


白狐『そして…その死体には決まって同じ箇所にこのような紋章が刻まれているのです』



ーーーー
ーー




ダイヤ「その紋章とは円卓の中に複雑な文字と…更に小さな八つの円。その円の中に赤い文字が刻まれているものですわよね?」


白狐「ええ」




ダイヤ「例えばこんな感じの?」スッ


白黒狐「!!!!!!!」

198: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:15:01.99 ID:H71/+Fhm0


白狐「その紋章は!!!!」


ダイヤ「あなたの言う九人目の死体に刻まれていた紋章ですわ」


ダイヤ「でも、おかしいですわよね?」


ダイヤ「私の紋章は首にありますわ。だとすると過去の九人目の犠牲者も皆同じ首に紋章が刻まれていたはずですが…首の無い死体からどうやってその紋章を見つけることができましょう?」


白狐「……」


ダイヤ「更にあなたはこうも言っていましたわ」


ーー
ーーーー



白狐『…奇妙なのは何故かその四十六家目を割り出すことができないのです。名簿を一つ一つ確かめてもおかしな家系は無いのに、全体を見ると四十六の名前がある。これは誰に調べさせても同じです。そして、その死体が見つかると同時にその家系が名簿から消え四十五になる。しかし、それでもその紛れた謎の家系がどこだったのかを割り出すことができない。百年前…そしてそれ以前の記述にもこう記されております』


白狐『以上から、その謎の四十六家目が事件の犯人…及び九人目の死者と断定しました。その家系の者は何らかの理由で百年ごとに『八人の神隠し』を起こさなければならない。八人を殺害し体に紋章を刻んだ後、四日後に隠していた死体を晒したと同時に役目を終えた自らも自害…』



ーーーー
ーー

199: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:15:54.16 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「神隠しの起きた年に名簿に四十六家の家系が記されており、死体発見後に四十五に戻る。それを何故か見つけられない…過去の名簿はともかく、今年の名簿はあなた達が肌身離さず持ち歩いているので調べようがありませんが…これについては取り敢えず信じましょう」


黒狐「……」


ダイヤ「問題は四十六家目の犯人=九人目の死体であり、自害したという考察ですわ」


ダイヤ「先程申しましたように、死体には首が無い。自害した後に首をどこかに運ぶなんて不可能」


ダイヤ「そして四十六家目が犯人だとして、そうして死体が残ってしまっているのならすぐに身元…家系も割れてしまいますわ」


ダイヤ「なのに今日までそれが分かっていない…ということは、死体は犯人では無い…」


白狐「……」




ダイヤ「私の仮説はこうですわ」

200: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:16:22.64 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「まず、過去に九人目の死者となった人物に決まって首が無いのは、当時密かに神隠しの調査を行なっていたあなた達の先代が研究のために死体の紋章を首ごと切り落としていたから。これが死体に首が無いのに紋章についての記録が存在し、あなた達が知っている理由」


ダイヤ「…そして時は流れあなた達の代。神隠しが迫っていた去年の末、この時雨亭で調査に進展があった。それは現在新たな序歌として定められているあの和歌を発見したこと」


ダイヤ「それを見つけたのは体調不良という体で歌合を欠席している、既に亡くなられたここの幹事様」



白黒狐「……」

201: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:16:49.56 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「幹事様も九十を過ぎたご老体。亡くなられたのは老衰が原因で、本当に偶然時期が重なってしまったんですわ」


ダイヤ「しかし亡くなられたことは伏せなければならなかった。それは神隠しの犯人に怪しまれ、あなた達が密かに調査をしていたことを探られるのを防ぐため。幹事様はこの小倉百人一首が制定された時雨亭で新たな和歌を発見され、それが百人一首…そして神隠しと何らかの関係があることを突き止めていた。それを思わず日本かるた協会に提出したのでしょう。ただでさえ怪しいのにその幹事様が亡くなられたと知ったら犯人は何かしらの因果関係を疑うに間違いありませんわ。この時雨亭で間違いなく自分に近づくための進展があったのだと。今回の歌合でひっそり犯人探しをするつもりだったあなた達は犯人を刺激しない必要があったのですわ」


ダイヤ「…しかしこの屋敷から大きな動きがあった以上何も話さないのも不自然。だからあなた達は体調不良の幹事様代理と名乗った上、参加者の前でわざとバカを装う必要がありましたの。序歌のことには触れず、既にある情報を小出ししてそれをデタラメな推理にすることで犯人の警戒を解くために…」


ダイヤ「2日の朝にはどこかの家系の八人が消えますから、その時点で紋章が刻まれているであろう者を犯人として捕らえ見せしめるフリをするつもりでいたのでしょう。そうして真の犯人の油断を誘い正体を影で探る算段なのでしょう。これなら未だに参加者を拘束する理由とも説明がつきますわ」


ダイヤ「その神隠しの被害者となったのは私と…それからルビィと、何故か血縁のない皆さんの七人…」

202: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:18:04.31 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「百年ごとに四十六家目として歌合に紛れこんだ妖の類であろうその犯人は、自身の存在を恰も家系の者だと惑わせるような何かしらの力を持っているのですわ。この家の者が騙されて名簿にその名を記したのも、それを見つけることができないのも奴の力…そして今年、ルビィ達を標的に選び今も参加者に紛れのうのうと過ごしている…」


ダイヤ「もうここまで話せば分かると思いますが、あなた達は端から私を疑ってなどいなかった。捕らえた後は他の参加者にバレない…恐らくこの部屋で保護し、紋章を頼りに調査にあたるつもりだったんですわ。私も、最初から素直に捕まっていればよかったのでしょうかね…」


白黒狐「……」


ダイヤ「ですが、やはりその狐のお面のせいでどうしても信頼に至りませんわ!何故正体を隠すんですの!?あなた達は何者なんですの!?」バッ


黒狐「……」


白狐「…ここまで知られていたのなら仕方ありませんね」


ダイヤ「……」ゴクリ


黒狐「…ああ。その明目張胆な行動と鋭い論理展開には舌を巻かざるを得ない」



白狐「しかし…」スチャ


黒狐「驚いた…」スチャ



ダイヤ「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」










海未「まさか次の被害者がスクールアイドルに勤しんでいる方々だとは…しかも私達μ'sと同じ九人…」


英玲奈「μ'sは伝説のスクールアイドル様だからな。もっとリスペクトされていることを自覚するんだな」

203: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:20:07.12 ID:H71/+Fhm0


海未「伝説だなんて…お言葉ですがそもそも私達の始まりも穂乃果がA-RISEの皆さんを…」


ダイヤ「そ…そんな……み、みみ…μ'sの園田海未さん……そ、それにA-RISEの統堂英玲奈さん……」ガクガク


ダイヤ「そのお二方が……私の…私の遠い親戚!?!?!?!??」



海未「初めまして、Aqoursの黒澤ダイヤさん。あなた達のこと、深く存じ上げております」


英玲奈「驚くのも分かるが今は我々に協力して欲しい。あなたの力が必要だ」

204: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:20:33.87 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「まず、先程までの無礼で非常識な態度と言葉遣い…訂正すると共に謝罪致しますわ。誠に申し訳ありませんでした」ゴツン!


海未「か、顔を上げてください!そんな土下座だなんて困ります…ダイヤさんは何も悪くありません!」


ダイヤ「ですが…」


英玲奈「我々も不審に思わせてしまったこと、悪く思っている。そこはおあいこだ」


英玲奈「今は時間が無い。早速本題に入ろう」


ダイヤ「…はい。承知しましたわ」


海未「まず、私達が把握しているのはおおよそダイヤさんが話してくださったことで間違いありません」


ダイヤ「は…はい……」


英玲奈「ただ一つ勘違いしているな。我々はこの屋敷と血縁はない」


ダイヤ「なっ!?」


海未「だからダイヤさんとも親戚ではありません」


英玲奈「残念だったか?期待させてしまったのなら申し訳ない」


ダイヤ「い、いえ…」ガクッ

205: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:21:00.80 ID:H71/+Fhm0


海未「私の家は世間で日舞(日本舞踊)園田流の家元として名を馳せていますが、実は武術も含め元々は平安時代に幹事様のご先祖様が創案し広められたものなのです。そしてそれに肖った私の祖先が唯一、今日まで伝承してきたのです」


ダイヤ「そうでしたのね…園田家についてはよく存じていたつもりでしたが…それは初耳ですわ」


海未「故に、血縁に無いとは言え幹事様の家系からは代々多大なご支援をいただいており、数え切れない程の恩がありました。今日も道場の建設や催しの開催費、備品まで頂いておりました」


海未「更に私が音ノ木坂に通いスクールアイドルμ'sとして活動していると知ると、その宣伝や会場の設営等にも多大な寄付をしてくださっていました。それは私が卒業してもなお、スクールアイドル運営と提携して様々な支援を継続してくださっていたのです」


海未「今日、日本にスクールアイドル文化が定着したのも幹事様の支援による土台があってのことなのです」


ダイヤ「そこまで深い関係が…」


海未「音ノ木坂を卒業した後は園田道場の跡取りとして古武術、及び日舞の継承に携わっていましたが、去年幹事様が亡くなられたという一報を小耳に挟み、こちらへ駆けつけました。その道中でA-RISEの英玲奈さんと鉢合わせたのです」


英玲奈「私は大きなライブが終わり事務所から休暇を戴いていた。ツバサにもあんじゅにも内緒でのんびり京都旅行…ということで一人電車に揺られていたのだが、そこで出会った園田海未から一連の経緯を聞いた。私の家系と時雨亭には彼女のような関係は無いが、今日もA-RISEがプロとして何不自由無く活動できているその根底には、UTXだけで無く幹事様の多大な御支援があったのだと知ってな。線香の一つでもあげるのが礼儀だろうと立ち寄ることに決めたのだ」


海未「そうしてこの時雨亭を訪れたわけですが…」


英玲奈「何やら様子がおかしかった」

206: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:21:31.48 ID:H71/+Fhm0


海未「幹事様の死は時雨亭の者とごく一部の関係者を除いて内密にされていたのです。私達は屋敷の一人を捕まえ問いただし、例の神隠しのことを知ることになりました」


海未「百年ごとに幹事様の家系を襲う八人の神隠し。決まってそれは1月2日午前0時~1月5日の正午に起きます」


英玲奈「この内裏歌合はその神隠しの時期に合わせて催されるようになった。今では毎年の恒例行事となっており、世には百人一首発祥の地故の伝統と格式ある歌合…と称されているがな」


海未「一連の事情の説明を受け、最初はにわかに信じがたいと思いましたが……」


英玲奈「ああ…」


ダイヤ「??」


英玲奈「去年、この屋敷から例の和歌が見つかった。それは間違いない」


英玲奈「だが、それはどこから見つかったと思う?」


ダイヤ「いえ…さっぱり」




英玲奈「あの柱時計の中だ」


ダイヤ「!?!?!?」

207: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:21:58.97 ID:H71/+Fhm0


コチッ…コチッ…コチッ…


千歌「せーの!!!」


カチリッ!


パカッ


四人「!!!!」


パサッ…



千歌「板が開いたよ!!」


曜「何か紙が落ちてきたけど…」


果南「これは…」パサッ



~比ぶれど うちつけなりや 巴ぐさ
気なつかし夜は いろはのごとく~



ルビィ「和歌…?」



ガタガタガタガタガタ…

208: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:22:29.46 ID:H71/+Fhm0


四人「!?!?!?!?」



曜「な、なに…!?」


千歌「わかんない…!」


ルビィ「中で何か動いてるよ…!」


果南「カラクリだ…中のカラクリが動いてる!」


曜「カラクリって…」



ズズズズズズ…



四人「!!!!!!」


果南「台座の表面に長方形の窪みが…」


ルビィ「一、二、三……全部で四つだ」


千歌「右上…右下…左上…左下…全部真ん中を向いてるね」


曜「また何かを嵌め込むみたいだけど…」

209: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:22:58.87 ID:H71/+Fhm0


海未「去年、幹事様が亡くなられる直前です。幹事様は庭園を散歩されていたのですが池の真ん中に光る石を見つけられました。その石の形にはどこか見覚えがあり、それがあの柱時計の鐘にあった窪みだと気付かれました」


英玲奈「恐る恐る石を嵌め込んでみると板が開きあの和歌が出てきた。更に幹事様は裏にこの部屋、《夜半の間(よわのま)》へと通じる道を見つけられた」


ダイヤ「この夜半の間はずっと柱時計に隠されていたというのですか!?」


英玲奈「ああ。幹事様が見つけられるに至るまで約八百年間眠りについていたわけだ」


海未「屋敷の者が調べると朽ちかけた当時の書物がいくつも出てきたのですが、この夜半の間はかつて例の藤原定家が百人一首を選定した部屋ということが分かったそうです」


英玲奈「私達は幹事様の無念を晴らすべく、その恩返しという形で今回の内裏歌合で行われる神隠しの調査に加わることとなった」


海未「…ですがあくまで私達はこの屋敷とは血縁の無い部外者。今回の内裏歌合の『参加者』として名簿に名を刻む必要がありました。私達が神隠しの主犯でないのだというケジメの意味も込めて」


ダイヤ「……」


英玲奈「これが名簿だ」パサッ

210: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:23:27.52 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「成る程…今年の名簿は例年の四十五家に加え謎の四十六家…更に海未さんと英玲奈さんの名の計四十八家が記されているため参加者に公開することができなかったのですわね」


英玲奈「…ああ。我々は世間にそこそこ名を轟かせてしまっているからな。仮面もそう。怪しまれることは覚悟の上だった。しかしそれでも付ける必要があった。素顔だと一目で部外者だと判別され、犯人ないし参加者まで混乱させてしまう」


ダイヤ「そういうことだったのですか…」


海未「そしてこちらが、幹事様がこの夜半の間で見つけられた暗号です」パサッ


【四人の王に日は昇らずただ月が浮かぶのみ】


ダイヤ「これは一体…」


英玲奈「…まだ解読には至っていない。これが何を示しているのか皆目見当もつかない状況で手を焼いているところだ」


ダイヤ「そうですか…」


海未「暗号…柱時計…そしてその鐘に嵌めることのできる石…これが神隠しに関係しているのは間違いありません」


ダイヤ「!!!!」



ダイヤ「柱時計のことで…私も天井裏でこのような資料を見つけましたわ!」パサッ

211: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:24:01.38 ID:H71/+Fhm0


海未 英玲奈「!?!?!?」


ーーーーーーーーーーーーー

文暦二年 七月二日
権中納言定家

……柱時計…………………
…………送りて………も…
……………二台目目………
…通ひの意思………………
………………………で………
………見つくることかな…
はず……………………………

時雨亭 依 伊豆国君沢郡……寺

ーーーーーーーーーーーーーー


パサッ


英玲奈「なんということだ…天井裏にこんな貴重な資料が…」


海未「定家氏は二台の時計を製作していたのですね…それはこの時雨亭と伊豆国君沢郡…つまりダイヤさんの住む内浦のどこかのお寺ということですか!?」


ダイヤ「その時計は今、私の家に置いてあるんですの」


英玲奈「なっ!?」


海未「それは誠ですか!?!?!?」


ダイヤ「ええ。間違いありませんわ…」


英玲奈「2日の朝、この家の者が黒澤家を調査したがこの時計のことについては何も報告が無かった。気付かないはずがない。去年のこともあるが故、同じ形の時計を見たら腰を抜かすはず」


海未「つまり…」


ダイヤ「その時計はルビィ達と共に消えたということですわ」

212: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:24:31.74 ID:H71/+Fhm0


英玲奈「恐らくその柱時計にも全く同じ仕掛けがあるはずだ。とある石を嵌め込むことでもう一つ、つがいになる和歌…終歌(ついか)が見つかる!」


ダイヤ「終歌!?」


海未「この夜半の間で見つかった資料には、定家氏が小倉百人一首に、始まりの歌である序歌と終わりの歌である終歌を定めたという記述がありました」


英玲奈「今世に出回っている百人一首に終歌は無い。確かに、ここに来る前からおかしいと思ってはいたのだ。何故始まりの歌だけがあって終わりの歌がないのか」


海未「序歌は競技かるたの開始合図であり、一首目のリズムを取るための前置きでもあります。ですが確かに終歌が存在しなかったのは奇妙ですね」


ダイヤ「定家氏は最初から二つの歌を定めていたんですわね。長年見つからず違う序歌だけが使われていましたが今年、定家氏が庭園の池にずっと隠してあった石を見つけたことで彼の定めた本物の序歌の方が見つかったと…」


ダイヤ「しかし私の家の柱時計に石はありませんでしたわ。ここにも『見つくることかなわず』とありますから恐らく未完成のまま送ることになってしまったのではないでしょうか?」


英玲奈「カラクリは出来ているクセにそれを解く肝心の石が見つからなかったとは妙だな。どうやって製作したのだ?」


海未「なんとかしてその時計のことを神隠しに遭っている皆さんに聞き出せればいいのですが…」



ダイヤ「それについてですが…できるかもしれませんわ」

213: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:25:07.11 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「四つの窪み…なんだろう…」


果南「分からない…」


曜「まずはこの和歌から解いていこう」


千歌「うん。分かることから一つずつ!」


~比ぶれど うちつけなりや 巴ぐさ
気なつかし夜は いろはのごとく~


曜「これは…」


千歌「ど、どういう意味?」


果南「この巴草(ともえぐさ)ってのもあんまり聞かないよね」


ルビィ「本来は巴草(ともえそう)って読むと思うけど…」


ルビィ「あ、前に花丸ちゃんが言ってたよ!この花は一日だけしか花びらが開かない恥ずかしがり屋さんなんだって」



果南「一日花って種類の花か…成る程ね。だったら…

~比ぶれど うちつけなりや 巴ぐさ
気なつかし夜は いろはのごとく~

【こうして仲睦まじくできた時間も、一日でその花弁を閉じてしまう巴草の如くあっという間でしたね。どこか懐かしい夜は生まれてすぐの赤ん坊だった頃のようでした】

…って意味だと思う」

214: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:26:04.86 ID:H71/+Fhm0


曜「そっか。いろはにほへとの《いろは》は最初って意味だから流れでそう訳すのが自然だね」


ルビィ「短かったけど、なんだな懐かしくて幸せな時間を過ごせたってことかな?」


千歌「でも、じゃあこの和歌は誰か大切な人との別れを表してるんじゃない?」


果南「仕掛けからしてこれはサヌキの和歌で間違いないと思う。百人一首の沖の石の歌も含めて神隠し中に二首も詠んでたんだね…」


曜「サヌキの別れの歌…」


曜「これはもしかして辞世の句(死ぬ前に遺言として詠む歌)なんじゃないかな?」


果南「あり得るね。自分が神隠しで死ぬ直前に歌ったんだよきっと…」


ルビィ「でも、一日だけ誰か凄く親密な人と話せたってことは…」


千歌「五番目の夢…」


曜「そしてその五番目の夢は月を見て和歌を詠むことでで現実と繋がる。つまりサヌキさんも、私達でいうダイヤさん的なポジションの人がいたんだよ!」


果南「この和歌を隠してあった時計は時雨亭から内浦へ送られてきたもの。つまりこう考えるのはどうかな?」

215: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:26:42.39 ID:H71/+Fhm0


果南「この柱時計と同じものがもう一つ時雨亭にある。それにも同じようなカラクリがあって、その柱時計にはこっちとは逆に、内浦で生まれたサヌキの大切な人の和歌が隠されているんだよ。水面夢で二人が掛け合ったもう一つの和歌が…」


果南「時系列に沿ってまとめると…
サヌキは神隠しにあった。そして、自分が死ぬことを知っていたサヌキは五番目の水面夢で大切な人と和歌の掛け合いをして、その時この辞世の句を送った。そして現実世界にいるサヌキの大切な人は、掛け合った二つの和歌を時雨亭に残した。
後に百人一首を定めるためその時雨亭を訪れた定家がその和歌を見つけ、弔いの柱時計を作って和歌をその中に隠し片方を京都の時雨亭、そしてもう片方を内浦のどこかの寺に置いたってことか」


千歌「待って!確か新しく序歌になったやつ!!」


~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面知るらむ 三津のおもひで~


果南「訳すと

【多くの人、最愛の人がこの京の都で血に染まった悲しみに涙するが如く散りゆく夜桜よ。
あなたが浮かんでいる水面には私が幼き頃に過ごした三津の様子が映し出されている(水面は全てお見通しなの)でしょうね】

になるね」


ルビィ「悲しい歌だね…」

216: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:27:38.91 ID:H71/+Fhm0


千歌「昨日花丸ちゃんが言ってたこの三津…!」


曜「その思い出って…!!」


果南「間違いない。この序歌は内浦で生まれた誰かが歌ったものだよ。サヌキの大切な誰かが…」


果南「つまり時雨亭にある柱時計の沖の石にあたり、カラクリを解くことができる石…サヌキの大切な人の残したもう一つの石が去年時雨亭から見つかったんだよ!それで柱時計に嵌め込んだことでサヌキの大切な人の和歌が出てきた!急遽序歌がこれに変わったってことは日本のどこかで眠っているはずの、つがいになるこの歌を探しているってことを知らせたかったんだよ!!」


曜「そういうことだったんだ…」


千歌「でもこの和歌を見つける鍵は水面夢の水底…そりゃ見つかりっこないよ…」


ルビィ「じゃあお姉ちゃんもこの和歌を探してる可能性が高いよね?」



曜「だとしたらそれを伝えるチャンスは次が最後。ルビィちゃんの五番目の水面夢にかかってるね」

217: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:29:17.61 ID:H71/+Fhm0


……


英玲奈「できるかもしれないって…」


海未「どういうことですか!?」


ダイヤ「私の首の紋章には十二時間ごとに字が刻まれていきますの。全部で八つ…これは皆さんが十二時間ごとに一人ずつ死んでいて今現在、既に四人が死んでいるということになりますわ…」


英玲奈「この紋章にそんな意味が…」


海未「成る程…九人の死体が発見されるのはちょうど八つ目の字が刻まれるであろう5日の正午。内裏歌合がこの日時で終わるのはそういう意味だったのですね」


英玲奈「つまりまだ生きている人間が四人いるわけか…」


英玲奈「…で、そのどこにいるのかも分からない四人とどうコンタクトを取るんだ?」


ダイヤ「この紋章が刻まれた後、私の頭の中に和歌が流れてくるんですの」


海未「和歌?」

218: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:29:51.29 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「現在までに流れてきたのは四首」


~お月様 お空に浮かぶ おまんじゅう
ちとせ経るかな 新月の宵~


~満ちたれど 満ちてはならぬ 散りぬれば
かたは十六夜 ただいたづらに~


~あくがれて 翔ける先には 朧月
さるはゆかしき 及ばぬ羽かな~


~水面すく 蜘蛛手惑ひし をりもえたり
時雨は知らに 去ぬ期の調べ~



ダイヤ「これらは全てAqoursの皆さんが詠んでいるに間違いありませんわ」


海未「どうしてですか?」


ダイヤ「これらの和歌は全て…いえ、四首目は少し特殊ですので置いておいて、少なくとも最初の三首は月がテーマになっていますの」


英玲奈「何故月がテーマだとAqoursのメンバーが詠んだ和歌になるんだ?」

219: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:30:21.53 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「1日は皆さんが私の誕生日会を開いてくださるということで私の家に集まっていたんですの。その時皆さんに、私が内裏歌合から帰ってくるまでに月をテーマにした和歌を一首ずつ作っておくようにとお願いしたんですの。学校の百人一首大会を勝ち進む為、和歌に触れる機会を設けようという試みですわ」


英玲奈「成る程」


ダイヤ「そしてもう一つ…」



ダイヤ「十二時間ごとに月の和歌が流れてくる…ということは向こうとこちらの世界では時間の流れが違うのではないかと思いました」


ダイヤ「こちらの十二時間はあちらの二十四時間。神隠しは2日の午前0時に始まり。最初の死者が出てから三日半…つまり5日の正午で終わりますわ。ならばあちらでは倍の七日間。そうすれば当然夜を迎え、月を見る回数はこちらの世界の倍になりますわ。

左からこの世界の時間、異世界の時間、死者として…


2日0時 0日目夜 1人目
ーーーーーーーーーーー
2日12時 1日目夜 2人目
3日0時 2日目夜 3人目
3日12時 3日目夜 4人目
ーーーー現在ーーーーー
4日0時 4日目夜 5人目
4日12時 5日目夜 6人目
5日0時 6日目夜 7人目
5日12時 7日目夜 8人目+私=9人


八人の神隠しのタイムリミットとも一致しますわ」

220: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:30:51.80 ID:H71/+Fhm0


英玲奈「時系列についてはよく分かった。では流れてくる和歌は、その時に死ぬ者の辞世の句ということか?」


ダイヤ「それは違うと思いますわ」


英玲奈「何故?」


ダイヤ「和歌が聞こえるのは紋章が刻まれた後。死んだ後に和歌を詠むことなどできません。つまり和歌を詠んだ人物はその日に死んでいないことが裏付けられますの」


英玲奈「成る程な」


ダイヤ「順番に見ていきましょう」


~お月様 お空に浮かぶ おまんじゅう
ちとせ経るかな 新月の宵~


ダイヤ「このユニークな和歌は間違いなく花丸さんが詠んだものですわ」


ダイヤ「……」



海未「どうされました?」


ダイヤ「この和歌は、2日の0時に花丸さん以外の誰かが死んだ後に詠まれた和歌…」



ダイヤ「つまり、花丸さんはまだ一人目の死者が出たことに気付いていませんわ!」

221: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:31:22.53 ID:H71/+Fhm0


海未「確かに!もし死者諸々を知っていたらこんなほのぼのとした和歌になりませんね!」


ダイヤ「はっ…!」



ダイヤ「確か1日の夜から2日の朝にかけては曇っていました。だから月を見ることなどできませんわ…」


ダイヤ「それにこの和歌はおまんじゅう…つまり満月のことを言っていますわ。たとえ曇っていなかったとしても1日の夜に見えたのは満月にはまだ遠い上弦の月…満月の和歌を詠むには違和感がありますわ」


英玲奈「満月の夢…」


ダイヤ「!!!」


英玲奈「神隠しに遭っている者はその日に死ぬ者以外の誰かしらが毎晩眠っている時に満月の夢を見ている…」


ダイヤ「…そう考えるのが妥当ですわね。その月を見て詠った和歌が何故か私に届いているのですわ」


海未「月とはそういうものです。生きる時代や世界が違う人間と繋がるための架け橋として昔から和歌や古事記でそう語られてきましたから」

222: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:31:55.24 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「皆さん…」



ダイヤ「…コホン。話を戻しましょう。花丸さんの和歌ですが…」



~お月様 お空に浮かぶ おまんじゅう
ちとせ経るかな 新月の宵~

【もし、空に浮かんでいるあの満月が全てまんじゅうでできているとしたら、全部食べ終えて新月にしてしまうまで千年はかかるだろうなぁ…】



ダイヤ「…という意味だと思いますわ」


英玲奈「……」


英玲奈「まあ、まだ異世界云々を把握する前だからな…自分の正直な感性が全面に表れている良い歌だと思うぞ」


海未「英玲奈さん…」

223: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:33:33.20 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「つ、次に昨日の昼に流れて来た二つ目の和歌ですわ」



~満ちたれど 満ちてはならぬ 散りぬれば
かたは十六夜 ただいたづらに~

【満ちてはいるけれど満ちてはいけない。花が散ってしまったのならそれは不完全な十六夜の月、ただ虚しく浮かんでいるだけだ】



ダイヤ「訳すとこのような意味になりますわ」


海未「つまりどういう意味ですか?」


ダイヤ「『散る』という表現は和歌で桜の花びらが舞う様子を表すのによく使われますわ」


ダイヤ「『桜が散った』は『梨子さんが死んだ』『不完全な十六夜』とは…『Aqoursが八人になって十六の目で眺める世界』という意味ですわ」


英玲奈「成る程…十五夜の月から少し欠けた十六夜の月と、十六の目…つまりAqours全員が揃わなくなってしまった…欠けてしまったということを掛けているのか」



ダイヤ「そして三つ目の和歌…」

224: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:34:01.49 ID:H71/+Fhm0


~あくがれて 翔ける先には 朧月
さるはゆかしき 及ばぬ羽かな~

【思い焦がれて、何が待っているのか分からない朧月のような微かな光に希望を持ってその翼を羽ばたかせたというのに…なのに月よ。あなたが見たかったのはそんな健気な姿ではなく、願い叶わず地に落ちていく哀れな姿だったというのか】



ダイヤ「これも誰が詠んだかは分かりません」


ダイヤ「羽という表現から見るに、これは善子さんの死を意味していますわ…もしかするとこの頃から次に誰が死ぬのか分かっていたのもしれません。善子さんは最後に自分の本音を打ち明け…Aqoursと共に空へ羽ばたきたいと強く願ったのでしょう。最後の最後まで…」


英玲奈「悲しい歌だな…」


海未「逃れられない大切な人との別れ…それを受け入れなければならないなんて…きっと皆さんの痛みは計り知れないものでしょう…」


ダイヤ「……」



英玲奈「では特殊と言っていた四つ目の和歌とは?」

225: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:35:00.23 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「…ええ。実は先程の三番目の和歌が流れてきた後…つまり昨晩の深夜に私、このお屋敷の庭園にある大きな池に映る月を眺めてこう読みましたの」


~心にも あらで浮世に 水面夢
うつよ乱れど 心でいづこ~


海未「成る程…水面に映った世界をAqoursの皆さんが囚われている異世界に例え、悲しみのあまりそこに行ってしまいたいという意味ですね」


ダイヤ「…大体おっしゃる通りですわ」


ダイヤ「そして、今日の昼に流れてきた四つ目の和歌ですが…」


~水面すく 蜘蛛手惑ひし をりもえたり
時雨は知らに 去ぬ期の調べ~


【水面を透かして見てみると、そこにはあなたが私達のために四方八方を駆け巡っている時が映りそれを知ることができました。時雨のように溢れ出る涙はそんなことを知るはずもなく水面を激しく打ちつけ、残された時間が去っていく悲しい戦慄を刻んでいます】

226: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:35:32.02 ID:H71/+Fhm0


海未「返歌…」


ダイヤ「そうですわ。先程の私の歌に対して答えるような歌になっていますの」



ダイヤ「しかしこの和歌に込められた意味は一つや二つじゃありませんわ」


ダイヤ「《水面すく》 は《皆も過ぐ》…つまり【皆さんも死んでしまう】ということ。つまり、上に当てはめれば【あなたが私達が死んでしまうことを阻止するため推理に奮闘している状況を把握していますよ】ということ」


ダイヤ「そして、四方八方という意味を持つ《蜘蛛手》、混乱している、迷っているという意味を持つ《惑ひし》」


海未「ここにも何か隠されているのですか?」


ダイヤ「ええ。《惑ひ》の《ひ》は《い》と読むのを考慮にいれると…」


ダイヤ「《蜘蛛手惑いし》は《雲出窓倚子》になります」


英玲奈「なんだなんだ…?随分詰め込んでいるみたいだが…」

227: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:36:41.06 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「確かにこの漢字を見ただけでは意味が分かりにくいと思いますが、これは私と皆さんの関係だからこそ意味を持ちますの」


ダイヤ「まず…倚子(いし)は平安の貴族の使っていた椅子のことですの。この時雨亭の部屋にも置いてありますわ」


英玲奈「ああ。確かに全部屋の窓辺の簾の前に置いてあるな」


ダイヤ「《水面透く 雲出窓倚子 をりもえたり》は、

【私達の内浦では雲が出て月が見えないので当然水面を透かしてもそれを見ることができない。どうせ貴方はそれを知っていながら時雨亭のさぞ豪華な椅子に腰掛け、窓からさぞ綺麗な国宝級と謳われる水面に浮かぶ月を眺めているのでしょうね。そんなことだろうと思いました】

という皮肉が込められているんですわ。ふふっ…本当に知らなかったんですわ…」


ダイヤ「しかし私が内浦の天気を把握していなかったのに無理な課題を出したことを怒られた…と言うよりも、その会話をした私達にしか知り得ない情報を込めること自体に意味があったのだと思いますわ。この和歌が皆さんから私への送り歌であるという証拠になりますから…」


ーー
ーーーー

果南『もう、大袈裟だよダイヤ!』


梨子『そうですよ!内浦からの月も素敵ですよ?』


ダイヤ『かつて屋敷に住まう者は、夜が更けると簾を上げて倚子に腰掛け、その煌々たる月…そして水面に映るもう一つの月を眺め和歌を詠んでいたそうですの…ああ、なんと羨ましい…』ホレボレ


曜『正直ちょっと羨ましいなぁ。私もそんな絶景なら見てみたいかも』


ーーーー
ーー

228: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:37:07.71 ID:H71/+Fhm0


海未「すごい…」


ダイヤ「更に上の句の最後、《し をりもえたり》は《栞燃えたり》。つまり本に対して造詣の深い花丸さんが死んでしまったことを表していますわ」


英玲奈「上の句だけでここまで…」


ダイヤ「しかしここまでの和歌を作れるのは花丸さんくらい…花丸さんが考え、それを誰かが代弁したのですわ」


英玲奈「練りに練ったのだろうな。即興だとまんじゅうの歌になるのだから…」


海未「Aqoursの残された皆さんはダイヤさんの状況をある程度把握しています。つまり、私達と同じように神隠しについて推理ができる比較的安全な環境に置かれていますね」


英玲奈「少なくとも地獄の業火に身を焼かれていると言ったことはないようだな。安心した」


ダイヤ「あちらでは午前0時を迎えると強制的に眠らされ死ぬ者、そして月の夢を見る者がいる。それ以外の時間は普通に起きて推理に励んでいるのですわ」


ダイヤ「…そして私が月を眺めて詠ったあの和歌は皆さんのいる異世界へ届いた。皆さんはそれが私の和歌だと気付き、花丸さんはその返歌に出来るだけ情報を詰め込もうと最後まで奮闘したんですわ」


ダイヤ「問題はこの下の句にどんな意味が込められているかですが…」

229: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:37:50.94 ID:H71/+Fhm0


英玲奈「上の句にあれだけ詰め込んだんだ。下の句にも何かあるはず…」



~時雨は知らに 去ぬ期の調べ~



海未「この《時雨》とは、涙という意味の他にここ、時雨亭を表しているのではないでしょうか?」


英玲奈「成る程な。つまり下の句はここに関することだな」


ダイヤ「時雨亭のことを何か知り得たんでの?」


英玲奈「…ところで、この《去ぬ》の読みは(いぬ)、(さぬ)どちらだ?」


ダイヤ「古典文法上なら(いぬ)ですが…(さぬ)と読ませて何かを掛けている可能性もありますわね」




海未「讃岐の調べ」

230: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:38:44.61 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ 英玲奈「!!!!」


海未「百人一首には二条院讃岐という方の歌があります。《サヌキの調べ》は二条院讃岐さんの和歌のことではないでしょうか?」


英玲奈「…だとしたら残った《は知らに》は《柱に》!!!」


ダイヤ「柱が例の柱時計だとしたら…」


~時雨柱にサヌキの調べ~



三人「時雨亭の柱時計にサヌキの和歌!!!!」


海未「確かダイヤさんの家にはここ、時雨亭で作られた柱時計があるんですよね!?」


ダイヤ「はい!!」


英玲奈「!!!!!」


英玲奈「百人一首の讃岐の和歌!!」


~わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の
人こそ知らね 乾く間もなし~


海未「この沖の石というのはまさか!?」


ダイヤ「鐘に嵌めるための石!!」


英玲奈「もう一つの石が…二条院讃岐の沖の石…」


海未「何故サヌキさんの歌に…」


海未「まさか彼女も過去に神隠しに!?」


英玲奈「間違いない。サヌキは異世界に囚われている時、この神隠しの手掛かりである石を残したんだ。Aqoursはそれを見つけたんだろう。そして柱時計はAqoursの八人と共に異世界へ消えた…」


英玲奈「…だとしたら」



ダイヤ「ええ。皆さんは時計に石を嵌め込み終歌を手に入れたんですわ。午前0時、次に私の頭に流れてくる和歌は皆さんの見つけた終歌で間違いありませんわ」

231: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:48:10.85 ID:H71/+Fhm0


コチッコチッコチッ……


果南「昨日千歌がダイヤの和歌に返歌したけど、もしそれがちゃんと届いているならダイヤはまたそれに対して和歌を返してくるはず」


千歌「ダイヤさんは何を伝えてくるんだろう…」


曜「順番だとこっちが先に和歌を送らなきゃいけないよね?」


果南「ああそうか。曜の時もそうだったからね」


ルビィ「……」


果南「どうしたのルビィ?」


曜「ルビィちゃん?」


千歌「…悲しいんだよ」


曜「え?」


千歌「…次にルビィちゃんが送らなきゃいけないのはダイヤさんが欲しがってるもう一つの和歌。でも、多分次がダイヤさんと繋がる最後のチャンス…」



千歌「伝えたいこと…いっぱいあるんでしょ?」


ルビィ「うん…」ポロポロ

232: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:48:38.94 ID:H71/+Fhm0


果南「そっか…」


曜「……」


曜「だったらさ、この和歌に隠された暗号を見つけてその答えとルビィちゃんの気持ちを掛詞にできないかな?」


千歌「そうだね。やってみよう!」


ルビィ「うん…ありがとう……」ポロポロ



果南「ちょっとトイレ行ってくるね」スッ


曜「あ、うん!」

233: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:49:12.92 ID:H71/+Fhm0


~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面知るらむ 三津のおもひで~


~比ぶれど うちつけなりや 巴ぐさ
気なつかし夜は いろはのごとく~




千歌「ごめん…私古典全然わかんない…」


曜「私も学校で習ってるだけの素人だし…ましてやここから何かを見つけようなんて…結構難易度高いかもね」


ルビィ「あ…ねえ……」ゴシゴシ


千歌「どうしたの?」


ルビィ「…この下の和歌はサヌキさんが詠ったんだよね?」


曜「そうだよ」



ルビィ「じゃあ上は誰なんだろう?」

234: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:49:46.23 ID:H71/+Fhm0


千歌「サヌキさんの大切な人…だよね?」


ルビィ「しかも内浦出身なんでしょ?」


千歌「内浦出身で有名な偉人…」


千歌「うう…歴史も苦手だ…」


千歌「あ!そういえば花丸ちゃん、元旦の朝早くからお寺の挨拶回りに行って色々もらってきてたけど…その中に本もいっぱいあったから何か分かるかも…」


ルビィ「確かあの時計も元々はどこかのお寺に送られたんだよね?それがどこなのか分かるかもね!」


千歌「…曜ちゃん、本をーー」


曜「……」


千歌「曜ちゃん?」


曜「あれ…」


千歌「え?」


曜「あれ…見て…」


ルビィ「??」


千歌「あれ…って時計でしょ?」クルッ



コチッコチッコチッ…



千歌「え」



11時56分

235: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:50:24.55 ID:H71/+Fhm0


千歌「嘘…」


ルビィ「あと八分…」


曜「いつの間にこんな時間に…考察に夢中で全然気にしてなかった…」



千歌「!!!!!!」


千歌「果南ちゃん!!!!!」


曜「このタイミングでいなくなるなんておかしい!!きっと分かってたんだ…」


ルビィ「なんで……なんで黙って消えちゃうの…」


千歌「早く…早く探さないと……」



ザバザバザバ…



千歌「!!!!!!!!」


千歌「水の音!海の方だ!!」ダッ


曜「千歌ちゃん!!」ダッ


ルビィ「待って!!」ダッ

236: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:50:57.33 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…


ザザーン…



果南「……」ザバザバ



千歌「果南ちゃん!!!!!!!」


果南「来ないで!」


千歌「!!!!」


千歌「どこに行くの……なんで黙って行っちゃうの…?」



果南「…おととい、私は千歌を殴りかかったよね」


千歌「!!!」



曜「はぁ…はぁ…待って!果南ちゃん!」


ルビィ「はぁ…はぁ…果南さん!!」



果南「……」


果南「自分でも恥ずかしいくらい感情のコントロールができなくて…」


千歌「違う!!!あれは私がみんなを人殺しなんて言ったから!!!!!!!!」



果南「でも千歌は最初からそんなこと思ってなかったよね」


千歌「……!」

237: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:51:24.39 ID:H71/+Fhm0


果南「梨子が死んで…鞠莉が死んで…私も千歌も精神的にかなり参ってた。どこだか分からないこの場所で何が起きているのかも分からない。でも、鞠莉が言ってたように見ている場所、進もうとしている場所は同じだった…それはみんなを助けるってこと」


果南「…やっぱ一番年上の私がみんなを支えなきゃいけなかったんだよ。みんながAqoursのお姉さんって呼んでくれてるように、その期待に応えるべきだったのに…あの時の私はその姿から一番遠かった。なのに私は取り乱してみんなを混乱させてそして…」


果南「花丸を傷付けた」


千歌「違う……」ポロポロ


曜「果南ちゃんが救急箱取りに行ってる時、善子ちゃん…言ってたよ。年とか関係ない。みんな一緒だって…」


果南「…聞こえてたよ。でもその善子はさ、死ぬ直前に自分の胸の内を語ってくれた。自分とは何か…自分のあるべき姿とは何か…それを輝かせることができるのがAqoursという存在だ…って。その本音を全て聞いた時全くその通りだと思ったよ。やっぱり自分にしか無い、自分にしか持てない役割…こうやって命ある限りそれを生かしてみんなを助けたいって…そう思った」


果南「…なら私には何があるか。ううん、なんにもない。みんなより年上ってだけ。だったらその分、今度こそみんなを引っ張って行かなきゃいけないと思った」

238: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:51:51.89 ID:H71/+Fhm0


果南「…でも、それは私なんかよりよっぽど頭のキレる花丸の役割だったんだよ。神隠しの謎を解いてみんなを助けたい。引っ張りたいって気持ちは誰よりもあったのに…それを行動で示せない私に存在意義なんてあるのかなって」


果南「だけど昨日…花丸はそんな私に言ってくれたの」



ーー
ーーーー


花丸『これからは四人で辛いと思うけど…優しくて、温かくて…聡明なみんなのお姉さん、果南さんがみんなを先導していってね?』


ーーーー
ーー


果南「こんなに頼りなくてダメな私を…殴った私を…それでもお姉さんだって言ってくれたの。信じられなかった…」

239: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:52:35.69 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「そうだよ!!!果南ちゃんもすっごく頭が良くて!!!時系列のことも水面夢のこともサヌキの和歌のことも!!!果南ちゃんが引っ張ってくれたおかげでここまで謎が解けたんだよ!!!!」


曜「うん!果南ちゃんがいてくれたからこんな不安な場所でも安心していられた!!」


ーー
ーーーー


果南『よーし、今日こそは大漁目指すぞ~!!』


曜『ふふっ…』


果南『なんちゃって♪』


ーーーー
ーー


曜「凄く頼りになって心強かった!!!」


ーー
ーーーー


果南『間違いない。この序歌は内浦で生まれた誰かが歌ったものだよ。サヌキの大切な誰かが…』


果南「つまり時雨亭にある柱時計の沖の石にあたり、カラクリを解くことができる石…サヌキの大切な人の残したもう一つの石が去年時雨亭から見つかったんだよ!それで柱時計に嵌め込んだことでサヌキの大切な人の和歌が出てきた!急遽序歌がこれに変わったってことは日本のどこかで眠っているはずの、つがいになるこの歌を探しているってことを知らせたかったんだよ!!」


曜『そういうことだったんだ…』


ーーーー
ーー


果南「ルビィ…曜…」


ルビィ「だから行かないで…」


曜「果南ちゃん…」


果南「……」


果南「…そっか。そう思ってくれてたなら嬉しい」



果南「…でもいいの。行かせて」ザブザブ…

240: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:53:04.56 ID:H71/+Fhm0


曜「どうして!!!!」


果南「それでも自分が許せない!!!」


曜「!!!」


果南「…私はやっぱみんなのところにはいられない!私が生きているうちに、託された想いに応えるべきだった!成し遂げるべきだった!!それが叶わず情けなく事切れてみんなの隣に並べられるなんて絶対嫌だ!!!」


曜「そんな……」


ルビィ「ううっ……」ポロポロ


果南「…それに善子や花丸みたいに美しく死ぬにはスカスカな人生だったから。梨子だって鞠莉だって…死ぬって分かってたら色んなこと話してくれたと思うけど…私はいい。何も言うことはないから」


果南「だからこうして、大好きだった海で一人ーー」



千歌「やああああああああああああ!!!」バチャバチャ



ドガッ!!!!



曜 ルビィ「!?!?」



果南「きゃっ!?」バシャーン!

241: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:53:30.32 ID:H71/+Fhm0


千歌「……」


果南「千歌…何すーー」



千歌「ふざけないで!!!!!」バシャッ


果南「!!!!!」


千歌「美しく死ぬって何?死ぬのは悲しいことなんだよ!!芸術じゃないんだよ!!!涙を飲んで死を受け入れた善子ちゃん花丸ちゃん…それに何も伝えることができなかった梨子ちゃんや鞠莉さんにも!そんなこと言うなんて失礼だよ!!!!!」


果南「……」


果南「ごめん…」


曜「千歌ちゃん…」


千歌「それになんで…なんでそんなに自分の在り方に囚われるの?なんでそんなに無理するの?」


果南「だから私の役割はみんなのーー」


千歌「そういうことじゃない!!!」

242: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:54:22.68 ID:H71/+Fhm0


果南「え…」


千歌「…果南ちゃんは一人じゃないじゃん!!曜ちゃんだってルビィちゃんだって…私だっている。果南ちゃんはAqoursの果南ちゃんなんだよ!!」


千歌「私はリーダーなのに、バカで古典も赤点ギリギリで頼りなくて…だからこっちに来てからも全然引っ張っていけてない。それどころか取り乱してつい人殺しなんて言っちゃった…」


千歌「でも誰もそのことで私を責めなかった。その後も普通に接してくれた。本当ならリーダー失格だよね?なのに善子ちゃんは自分の分身である黒い羽を託してくれた。花丸ちゃんはずっと使ってた大切な栞を託してくれた。それで私気付いた」


千歌「ずっと繋がってた…ううん。これからもそう。ずっとずっと繋がってるんだよ。京都にいても…異世界にいても…例え死んじゃってもどこにいても。Aqoursはずーっと繋がってて一つなんだよ」


千歌「自分で言うのもなんだけどさ、リーダーだから全部やんなきゃとかリーダーだから全責任負わなきゃとかじゃなかったんだよね。みんなと一つならお互い足りない部分を補強し合っていけばいい。私は足りない部分だらけでたくさん助けてもらったけど、みんなに信じてもらえる存在でいることができた」


果南「千歌…」

243: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:55:01.68 ID:H71/+Fhm0


千歌「果南ちゃん。果南ちゃんは確かに優しくて温かくて頭もいい。まるでお姉ちゃんみたい。ずっと昔から一緒だからさ、そんな果南ちゃんのことはよーく知ってる」


千歌「…でも、本当は繊細で傷付きやすくて、みんなの為についつい一人で抱え込んじゃう。そんな果南ちゃんのこともよーく知ってる」


果南「……」


千歌「…果南ちゃんが頼りにされてるのは確かだよ。でもさ、それを果南ちゃん自身がプレッシャーに感じる必要も、自分を出そう自分を出そうって一人焦る必要も無いんだよ」


曜「果南ちゃん…」


ルビィ「うぅ……」ボロボロ


千歌「最後まで…ううん。ずっと一緒にいて…どこにも行かないで…果南ちゃん…私たちが頑張るから……」


果南「……」




果南「覚えてる?あの日のこと」

244: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:56:01.18 ID:H71/+Fhm0


ーー幼少期


ザザーン…


果南『怖くないって千歌!ここで飛び込むのやめたら後悔するよ!』プカプカ


千歌『うう……』ブルブル


果南『絶対できるから!』


千歌『ううぅ……』ブルブル


果南『さあ!!』


千歌『うん…』


千歌『……』グッ



千歌『たぁぁっ!!!』バッ



バシャーン!!!

245: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:56:28.74 ID:H71/+Fhm0


果南『わっ!?』ザバァッ


ブクブク…


果南『ち、千歌!?大丈夫!?』



ザバァッ!!


果南『!?』


千歌『ばあっ!!』ギュッ


果南『千歌!!!』


千歌『飛べたよ!私、飛べたよ果南ちゃん!!!』スリスリ


果南『もう!驚かさないでよ!』


果南『でも…ふふっ。よく頑張ったね♪』



千歌『うん!!!』

246: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:57:22.16 ID:H71/+Fhm0


ーーーー
ーー



千歌「うん。本当はすっごくすっごく怖かったんだけどね…」


果南「……」


果南「…ルビィは私がダイヤと遊ぶために家におじゃました時、いつも柱の影からこっそり見てたよね。ダイヤがこっちに来て一緒に遊びましょうって言っても恥ずかしがって隠れちゃってた」


ルビィ「えへへ…うん…」


果南「…曜は市営プールの帰りによく千歌と淡島に寄ってくれたよね」


果南「ふふっ。覚えてる?私がさ、魚がいないプールで泳いでもつまんないって言った時、曜ったらすっごく怒ってさ。一ヶ月後に勝負だ!って言って練習凄い増やしてたんだけど…結局私に勝てなくてわんわん泣いて…」


曜「…ふふっ。覚えてるよ。あれは海にばっか潜ってた果南ちゃんにプールの良さを知ってほしくてムキになって…」


果南「…三人とも、小さい時からずっと知ってた。外へ出る時ダイヤにトコトコ付いて来て次第に一緒に遊ぶようになったルビィ。ダイバーショップにいると『果南ちゃーん!』って嬉しそうに走ってくる千歌と曜。それは桜が咲き誇っても、蝉がやかましくても、夏服から冬服になっても、水溜りに氷が張っても、また春を迎えて桜が咲いても…季節が巡り巡っても変わらない光景をずっとずっと見てきた」


果南「それはAqoursになってからもそう。でもそれはいつしか当たり前の風景で永遠に続くものだと思っていた。ここに来るまでは…」

247: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:58:08.50 ID:H71/+Fhm0


果南「…驚いたよ。みんなは私が思っている以上に強かった。強くなっていた。どんなに辛くても悲しくても…霧で前が見えなくても必死に答えに辿りつこうと?いていた」


果南「そこで気付いた。恥ずかしがりだったルビィは今やスクールアイドルになってみんなの前で歌って踊ってる。負けず嫌いの曜は今や私なんかよりうんと速く泳げる。臆病だった千歌は私と違って物怖じせず五人を東京の大舞台へ導きライブをやってのけた」


果南「あの当たり前の風景の中でもみんなは確実に成長してたんだね。嬉しかった。嬉しかったけど…ちょっぴり寂しかった。妹みたいに可愛いかったみんなが遠くへ行っちゃって私だけが取り残されたみたいで…」


三人「……」


果南「私は今までの景色だけじゃなくてみんなが変わっちゃったって認めたくなくて…なんとかみんなのお姉ちゃん松浦果南でいたくて…それで……」ポロポロ




千歌「……」ギュッ


果南「!!」

248: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:58:35.99 ID:H71/+Fhm0


千歌「果南ちゃんはずっとずっと見守ってくれてたんだね…ほら。やっぱりお姉ちゃんだ…美渡姉や志満姉にも劣らない三人目の…」ボロボロ


果南「千歌…」ポロポロ


ルビィ「お姉ちゃんがいなくてすっごく寂しくて心細かったけど…果南さんがいたからルビィは折れちゃわなかった…優しく包んでくれる果南さんの温もりのおかげで安心できた。すっごく嬉しかったんだよ?」


果南「ルビィ…」ボロボロ


曜「私が成長できたのは果南ちゃんを目指してたから!ずっとずっと、果南ちゃんみたいなかっこよくて水も滴るいい女に向かってヨーソローしてたであります!」ビシッ


果南「曜…」ボロボロ


曜「……」


果南「おいで」ニコッ


曜「うん…」ポロポロ


ルビィ「……」


果南「ルビィも」


ルビィ「!!!」


ルビィ「うん…」ポロポロ



ザブザブ…



果南「……」ギュッ


千歌「……」ギュッ


曜「……」ギュッ


ルビィ「……」ギュッ


果南「最後に一つ、みんなにお願いがあります…」


曜「えへへ…何さ?かしこまっちゃって…」


千歌「らしくないよ果南ちゃん?」


ルビィ「なんでも言って」



果南「みんなに甘えたい…」

249: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:59:03.93 ID:H71/+Fhm0


曜「……」


千歌「……」


ルビィ「……」


果南「え?みんなどうして黙…」



曜「ぷはははははは!!」


千歌「あはははははは!!」


ルビィ「ふふふっ…」


果南「ちょっと!?なんで笑うの!?」


曜「あはは。ごめんごめん。普段は聞かないからさそんなセリフ」


果南「い、いいでしょ!?だって…」


果南「だって……」ボロボロ


千歌「うん……」


ルビィ「ううっ……」ボロボロ


曜「いいよ……」ボロボロ

250: 名無しさん 2017/02/22(水) 16:59:30.43 ID:H71/+Fhm0


果南「一つだよ…ずっとずっと…」ボロボロ


曜「分かってるよ…果南お姉ちゃん…」ボロボロ


ルビィ「ありがとう…果南お姉ちゃん…」ボロボロ


千歌「これからもずっとずっと見守っててね…」


千歌「約束だよ。果南お姉ちゃん…」ボロボロ


果南「うぅ……」ボロボロ




果南「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん……


……


……




こうして目を閉じると、波の音や千歌達の声が胸に響く…


懐かしいなこの感覚…


内浦での毎日が走馬灯のように頭を駆け巡る…


…情けないこんな私を慕ってくれてありがとう


最後まで私は…ちゃんとみんなのお姉ちゃんだったんだね


ううん。私たちは一つだから。これからもみんなの中で見守っているよ



ずっとずっと…




ゴーンゴーンゴーン…

251: 名無しさん 2017/02/22(水) 17:00:19.37 ID:H71/+Fhm0


……


……



ダイヤ「どういうことですの!!」バンッ!


英玲奈「曇り…こんな時に限って…」


海未「これでは向こうから和歌が送られて来てもこちらから返すことはできません…」


ダイヤ「くっ…」



英玲奈「…いや、まだだ!」


海未 ダイヤ「!!!」


海未「何か方法があるのですか!?」


英玲奈「ああ」


ダイヤ「一体どうすればいいんですの!?」


英玲奈「こう考えるのはどうだろう?先程言ったサヌキが異世界で神隠しにあっていたのなら、彼女の残した終歌とは対極の序歌の読み手は黒澤ダイヤ、過去に貴方と同じ紋章を刻まれし九人目の可能性が高い」


ダイヤ「!!」

252: 名無しさん 2017/02/22(水) 17:00:45.15 ID:H71/+Fhm0


海未「二人はダイヤさん達と同じく和歌のやり取りをしていました!その誰かとサヌキさんの和歌の掛け合いが今の序歌と終歌です!」


英玲奈「この部屋の入り口の時計に嵌め込まれている石。この後0時のタイミングでそれに触れれば何か起きるかもしれない」


英玲奈「可能性は保証できないが…貴方と同じ立場の人間が残した石だからな」


ダイヤ「やってみますわ。もうそれしかありませんもの!!」ダッ


英玲奈「頼んだぞ…」


海未「どうかご無事で…」



ダイヤ「お願いです…」タッタッタッタッ



コチッコチッコチッ…



ダイヤ「どうか!!!」タッタッタッタッ



コチッコチッコチッ…





ダイヤ「届いて!!!!!」





バッ!!!




ゴーンゴーン…
ゴーンゴーン…

253: 名無しさん 2017/02/22(水) 17:01:22.99 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…
ザザーン…



…ん?


ここは…


海の上?


どうやら水面に浮かんでいますわね…


…これは夢ですの?


先程、柱時計の石に触れたところまでは覚えていますが…


いつもと違う…


紋章は既に刻まれたのでしょうか?


でも和歌は聞こえてきませんわ…



!!!!!!!


まあ…


なんと綺麗な月と星空でしょう…


時雨亭より拝することのできる静かで上品でどこか物憂げな月とは違い、煌びやかで猛々しい立派な月ですわ


周囲の星々も…どれが一等星でどの星座なのか分からぬ程煌めいていて…滅多にお目にかかれませんわね。こんな絶景…


…そして、月明かりで微かではありますが…少し遠くに島が見えますわ


…ただ淡島とは違う。少し小さくて岩壁のそびえる島ですわ


…ここはどこなんですの?


一体どうなっているんですの?





!!!!!!


もしかしてこの月は…

254: 名無しさん 2017/02/22(水) 17:02:12.76 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…
ザザーン…



ずっと水の中にいたルビィ…


やっと水面に上がって来れた…


やっと見ることができた…


これがみんなの見ていた世界…



月が綺麗…


星も綺麗…


すっごく…


…でもなんでそんなに煌めいてるの?


嬉しいの?悲しいの?怒ってるの?


あなたはみんなに思いを託されてきたんだよ?


誰かが死んで、自分もまた死に近づいて…その悲しみや苦しみを歌にして…


…ちゃんと聞いてた?味わった?だからそんなに眩しいの?だからそんなに激しいの?


…そう。辛かったね。でも、もう一晩だけ我慢してね?ルビィで最後だから。ちゃんと聞いててね?壊れてしまわないで…

255: 名無しさん 2017/02/22(水) 17:02:54.01 ID:H71/+Fhm0


…怖い夢を見て泣いた


梨子さんが死んだって知ってまた泣いた


朝起きたら鞠莉さんが死んでいて泣いた


元の世界に戻れてなくて泣いた


善子ちゃんの言葉に泣いた


やっぱり戻れてなくて泣いた


花丸ちゃんの言葉に泣いた
多分人生で一番…


でも翌朝は泣かなかった


そして果南さんの言葉に泣いた


星の数ほど流した涙は、この海のように大量の涙は、月のように激しく高ぶって流した涙は…


枯れなかった


だってずっと大切だから…


ずっと繋がっているから


その繋がりをルビィは守りたいから…


お月様…


もしあなたが繋がりの守護者なのなら…



…どうか、ルビィのお願いを聞いてください

256: 名無しさん 2017/02/22(水) 17:03:26.24 ID:H71/+Fhm0


…もしかしてここは、皆さんが囚われている異世界の月の夢!?


そしてこの月こそが…皆さんがはち切れそうな想いを和歌に乗せ託した月だったのですわ


…だとしたら今宵、今こうして私と同じ月を眺めている誰かがいるはずですわ!


梨子さん…善子さん…花丸さん…不明な一名と今宵の死者を除くと、残りはあと三人…



!!!!!!!!

257: 名無しさん 2017/02/22(水) 17:03:56.29 ID:H71/+Fhm0


…仮にルビィが死んでしまっているのなら、今までの和歌にそれを仄めかす掛詞があったはず。妹故皆さんは真っ先にそれを伝えようと考えるはずですわ…


そしてルビィが和歌を詠んだのなら…私へのメッセージがあったはず…


いずれもまだ無いということは…


ルビィは死んでおらずまだ月の夢も見ていない


ならば……


…夜半の月よ


…もしあなたに心があるのなら



……


お月様…お願いです


……



ルビィに一目…



……



お姉ちゃんに…



……



「「会わせて……!!!」」




ゴツン…

258: 名無しさん 2017/02/22(水) 17:04:27.57 ID:H71/+Fhm0


「「ぴぎゃっ!?」」


「いたたた…なんですの?」


「うゆ…頭に何かぶつかった……」クラクラ



「もう…なんですの!?」ザバァッ!



「お月様のバチが当たったんだ…」



「ご、ごめんなさーー」ザバァッ!




ザザーン…



ダイヤ「あ………ああ………」



ルビィ「おねえ……ちゃん……?」

259: 名無しさん 2017/02/22(水) 17:04:59.05 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「ルビィ……」



ルビィ「おねえちゃん…」



ダイヤ「ルビィ!!!!!!」ザバァッ!



ルビィ「お姉ちゃん!!!!!!」ザバァッ!



ギュッ



ダイヤ「ルビィ……」ボロボロ


ルビィ「お姉ちゃん…うっ…ううっ…」ボロボロ


ルビィ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!お姉ちゃん!!!お姉ちゃん!!!!!」ボロボロ


ダイヤ「ごめんなさい…辛かったわね…苦しかったわね…」ボロボロ


ルビィ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!怖かったよぉぉ死にたくなかったよお姉ちゃああん!!!!!!」ボロボロ


ダイヤ「本当にごめんなさい…まさかこんなことに……」ボロボロ


ダイヤ「でもずっと…ずっとずっと、ルビィのことを忘れはしませんでしたわ…」ボロボロ


ルビィ「うぅ……ルビィだって…ぐずっ…ルビィだって!!!!ずっとずっとお姉ちゃんのこと考えてた!!!!!」ボロボロ


ダイヤ「繋がっていた…」ボロボロ


ルビィ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!」ボロボロ




今はずっとこうしていましょう……



月の許す限り……