1: :2014/01/01(水) 22:41:17 ID:

これは東方の二次創作です。

オリジナルキャラクターが出てきますのでご注意ください。

このSSは

男「幻想郷で就職活動」

男「今日から紅魔館で働くことになった男です」

レミリア「もしもこんな紅魔館」

男「ここが妖怪の山か」文「あやや?」

てゐ「月の兎?」男「はい」

こいし「おねーちゃん、人間ひろった!!」さとり「えっ!?」

映姫「しばらくニートでいいわ」小町「いやいやいや」

の設定をついでおります。

よろしければそちらを先によろしくおねがいします。 

2:2014/01/01(水) 22:52:57 ID:

目を開ける。

しかし目を閉じた記憶はない。それどころか自分がさっきまで何をしていたのかの記憶すらぼんやりとしていて分からない。

どうやら記憶喪失とは言えないまでも記憶が不安定みたいだ。

見上げた空からは雪が降っており、俺の体温を緩やかに奪っていく。

このまま寝転がっていては体温が奪われるだけだ。凍死するかどうかは分からないが体によくないことは確かだ。

男「どこだよ、ここ」

自分がいたのはどうやら花畑らしい。一面のひまわりが咲き乱れている。

しかし雪が降っていることから今が冬だということがわかる。

だからひまわりが咲いているわけがない。ビニールハウスでもないただの花畑なのだ。

雪をかぶったひまわり、それは幻想的で不気味。

そんな中、一人の緑色の髪をした少女が一人たたずんでいた。

髪を染めているようだから不良なのだろうか? いや、それでも話かけなければ今の現状をつかめない。

白いひまわりの海をかきわけ少女に近づく。

幽香「誰!?」

緑の髪に赤い目をした美しい少女だった。

3:2014/01/01(水) 23:03:09 ID:
少しタイプかもしれない。そう一瞬思ったときには俺の体は地面を離れ宙に浮いていた。

そんなに重くないとはいえ、軽々と持ち上げられる重さではない。それが少女ならとくにだ。

しかし今俺の体は自分よりも身長が小さい少女に持ち上げられていた。

片手で。

男「ちょ、な、なんなんだ、よ」

幽香「誰。いつの間にここに………貴方。外の人間なのね」

少女はそういうと、ゆっくりと俺を地面に降ろした。

向けられた敵意と脅威に無様にしりもちをついた俺はただただ少女を見上げることしかできなかった。

外の世界。何のことだ。田舎の人がいうよそ者みたいな感じか。

男「え、えっといきなりすみません。ここはどこ、なのでしょうか」

思わず敬語になる俺。しかし少女は俺の言葉に反応せず白い息をはいた。

幽香「面倒だから始末してもいいんだけど」

男「ひっ」

少女から出た始末という言葉。流れ的に始末される対象は俺で、さっきのことから彼女がその言葉に嘘を含んでいないことが分かる。

逃げよう。そう思い後ずさりをし、逃げ出した瞬間、襟首を捕まれ、地面に投げ飛ばされた。

4:2014/01/01(水) 23:10:26 ID:
幽香「冗談よ」

そう俺を見下ろす………いや見下している少女はそういたずらじみた笑みで笑った。

男「へ………へ?」

思わず口が半開きになる。そんな無様な俺にしゃがんで少女が目線をあわせて、にやりと口角を上げる。

幽香「ここは幻想郷。貴方たちが忘れたものが集う場所。そしてあなたはここに紛れ込んできた」

幻想郷? 忘れられたもの? 日本語だが意味が分からない。

幽香「普通だったらすぐに外の世界に戻してはいさよならなんだけど」

少女が遠くの空を見つめる。

そこでは白い煙が上がっていた。なんだ。火事か?

幽香「ねぇ、貴方死にたい? 生きたい? 私としては迷惑をかけない前者がオススメなんだけど」

男「いきた、生きたいです!!」

幽香「そう、残念。仕方ないわね。安全な場所に連れて行ってあげるから立ちなさい」

男「はい!!」

俺が急いで立ち上がったときには少女は歩き出していた。

5:2014/01/01(水) 23:24:02 ID:
幽香「私の名前は風見 幽香。妖怪よ。別に覚えなくても結構だけど」

出会った少女の名は、風見 幽香というらしい。自称妖怪らしいが、見た目は完全に人間の少女。髪が緑色で目が赤いこと、怪力をのぞけば、ただの少女だ。

冗談? 場を和ますためのジョーク?

幽香「………まぁ、妖怪とかいきなり言われても信じないと思うけど。そうね、貴方をスプラッター生け花にすれば信じてもらえるかしら」

男「信じます!!」

スプラッター生け花ってなんなんだ。とりあえず恐ろしいことには変わりない。

とりあえず少女が妖怪にしろ、中二病にしろ、触らぬ神に祟りなし。流したほうがいいみたいだ。

幽香「今はまさに戦争時代。人間対妖怪の素敵な戦いよ。だから人間である貴方は人間側にーと言いたいところだけど妖怪である私はそっちにいけないから妖怪側の人間に渡すわ。大丈夫妖怪よりも妖怪らしいけど人間よ。たぶん」

男「多分!?」

幽香「あら」

ガサガサ

草むらから音。猪とかの野生動物?

いくら風見が中二病で男顔負けの怪力だといって野生動物は分が悪い。逃げるか。

思わず風見の手を握り駆け出そうとする。

が、幽香は駆け出そうともせず立ち止まった。

6:2014/01/01(水) 23:32:28 ID:
ガサガサ

男「ひぃ!!」

幽香「しっかりしなさい。男でしょ、あなた」

風見がため息をついて音がした草むらのほうを見る。

ガサッ!!

音が近づき、草むらから出てきたのは

男「―――え」

人間だった………武装した。

人間「げっ!風見 幽香!!」

人間2「いや、倒せる、いくぞ」

人間3「承知!!」

三人組は右から剣、斧、銃。たとえすべてが偽者だったとしてもあんなもので殴りかかられればただではすまない。

幽香「逃げるわよ」

やっと逃げる気になったのか。さすがに武器を持った大人には勝てないらしい。

幽香はつないだ手をさらに強く握り、なぜか持っていた傘を人間に向けた。

7:2014/01/01(水) 23:36:48 ID:
幽香「ミニスパーク」

閃光 爆音 悲鳴

そしていきなり襲う浮遊感。

光にやられた目が元に戻ってきたときには回りは薄暗い灰色の空。

わぁい。飛んでいる。空が………

男「空が!!」

幽香「暴れたら落とすわよ」

男「はい!!」

なぜか浮いている少女に必死にしがみつく。抱きついている位置が腰でさっきから何度も蹴られていることは無視してしがみつく。落ちたら確実的に死ぬから。

男「い、いったいお前はなんなんだ!?」

幽香「妖怪。さっき言ったでしょ」

そう、俺を引き剥がそうとしながら不機嫌に言った。

8:2014/01/02(木) 18:35:46 ID:
キタ━━━━━━━(∀゚)━━━━━━━!!

10:2014/01/05(日) 17:33:15 ID:
さっき襲い掛かってきたのはおそらく人間。なら、さっき幽香が言っていたことは本当なのだろう。

妖怪退治なんて本や漫画でしか見たことない。歴史に出てきてたとしても四天王がなんとかとか悪路王がなんとかだ。現在日本に妖怪なんていない。

はずなんだけどなぁ。空を飛んで光を放つ人間なんて普通に考えて存在しないし、それならまだ妖怪と考えたほうが自然………なのかなぁ。

そんな考えを幽香の腰にしがみつきながらする。はたからみたら実に変態的だ。

幽香「ねぇ。ちょっと」

男「なんだ?」

幽香「手貸して。落としたりしないから」

それが本当なのかどうか。悩んだ結果、信じることにした。

手を幽香に預けぶら下がる。腰よりは安定しないがそれでも落ちたりはしないようだ。

それにしてもこのやわらかい手のどこにあんな力がこめられているのか。

幽香「じゃ、行くわよ」

男「へ?」

上を見上げると幽香の背中から生える紫と緑の二対四枚の羽。

うわぁすげぇと思ったころには俺の意識はとんでいた。

11:2014/01/05(日) 18:01:18 ID:
ブロロロロと先月買ったばかりのバイクがうなりをあげる。

大学でレポートを書いて提出したときにはもう曇り空で今にも雨が降り出しそうだった。

男「って、降り出したし」

ヘルメットにぽつりと水滴がつく。

冬だから雨にはぬれたくない。さっさと帰ろう。そう判断して山道へ向かう。舗装されてないがこっちを通ったほうが15分ほど早いからだ。

山道に入ったころにはゴロゴロと雷がなっていた。そして雨も強くなり道もぬかるんでいる。

失敗だったか。どうせこんなにぬれるのなら関係ない。

山道はガードレールもなく、下は谷だ。危ないから引き返すべきだろうか。いや、それは面倒だ。

絶対こけるわけでもないし、注意して走ればいいだけだ。

ずるっ

おいおい冗談じゃねぇよ。フリじゃないから神様、そんな芸人体質の神様いらないから。

話に聞いたとおり死ぬ間際ってスローモーションになるんだなぁ。と冷静に考える自分と死にたくないと叫ぶ自分がいる。

その二人の自分を今日の夕飯なんだろうかと考える俺が見ている。

いきなりすぎて死なんて考えられなかった。

そのままバイクは谷へとまっさかさまに――――

12:2014/01/05(日) 19:29:27 ID:
男「思い出したぁ!!」

意識を失った状態から一気に目を覚まし叫ぶ。

というか俺は意識を失っていたのか。思い出せば意識が消える前に景色が後ろに吹っ飛んでいったからなぁ。あれマッハなんぼだよ。

いやそうじゃない。それは別に重要なことじゃない。

さっきすべて思い出した。俺が外の世界でどんな人間だったのか。

そしてこっちで目覚める前になにがあったのか。

男「なぁ、幽香」

霊夢「幽香なら今いないわよ」

後ろから聞こえた声は幽香のものではない。

振り向くと紅白の巫女服………巫女服なのかあれ。ずいぶん奇抜なんだが。しかも巫女服の上にコートってどういう着こなしだよ。寒いなら脱げよ。

とりあえず巫女服の少女がいた。黒髪で身長は幽香よりも小さい。140くらいだろうか。ずいぶんと小さいがこれも妖怪とかそんなオチじゃないよな。

霊夢「というか死んでなかったのね」

男「死んでたまるか!! って、え、俺生きてんの?」

霊夢「何。死にたいの? 自殺なら私がいないところでやってよね」

生きてるのか? いや、ここが死後の世界という可能性も………

13:2014/01/05(日) 23:23:36 ID:
生きているのか死んでいるのか悩んで、そこでやっとここが神社だということに気づいた。

幽香はどうやら俺を神社に連れてきたらしい。

幽香の話によるとここが妖怪の陣営みたいだが、妖怪の拠点が神社ねぇ。見た目だけ神社で実は違うという可能性もあるか?

男「ここ、神社なのか?」

霊夢「鳥居があって社がある一般家庭があったら見てみたいわね」

くっ。可愛くないなぁ。

紫「あなた死んでないわよ。私が仕掛けたスキマに引っかかったみたいね」

男「うおっ」

神社の中から二人の女性が出てきた、金髪で紫色の服を着た女性と金髪のふさふさの尻尾をいくつも持った女性。尻尾の女性は妖怪と分かりやすいが、紫の服の人も妖怪なのだろうか。

霊夢「あぁ。あのネズミ捕りね。」

紫「ネズミ捕りじゃないわよ。妖怪の餌用に張ってるスキマよ。大体人が死ぬようなところに仕掛けてたけど、この人それに引っかかったみたい」

男「どういうことだ?」

紫「説明してあげるから中に入りなさいな。ここにいる限り襲われないから」

そう良い紫の服の女性が神社内へと戻っていく。尻尾の女性はそれについていった。

どうやら現在のこの状況を詳しく教えてくれるみたいだ。幽香の説明じゃよく分からなかったからありがたい。

14:2014/01/05(日) 23:42:17 ID:
案内された部屋は和風の一室。

中には紫の服の女性(名前は八雲 紫というらしい)と尻尾の女性(八雲 藍というらしい)と緑色の髪の少女がいた。

映姫「………きましたね」

紫「座りなさい。説明するから」

促され紫さんの目の前に座る。隣には藍さん。斜め前には緑髪の少女。

紫「普通外の人が迷い込んできたら外に帰すのだけど」

男「じゃあ帰してくれよ」

紫「人の話は最後まで聞きなさい。途中の反論は野次と変わらないわ。今はここと外を仕切る結界―――博麗大結界っていうのだけど、それに干渉することが出来ないから申し訳ないのだけど貴方にはここにいてもらわないといけないわ。だから貴方が外に出ることが出来るのはこの戦いが終わってから。貴方はここから出るために私たちに協力してもいいし、しなくてもいい。ただその場合」

くそ、つまり手伝えと。手伝わなかったら外に出さないということか。

映姫「安心してください。妖怪の餌ということにはなりません。外にも出します。しかしそれは私たちが勝利したこと前提です。少しでも確立を高めたいのなら私たちに協力していただけないでしょうか」

そういい頭を机につけ下げる少女。

ただの人間の俺になにが出来るというんだ。

空手をやっていたといっても初段だし柔道だってかじっただけだ。囲まれたら負ける自身はある。

そんな俺の不安を読み取ったのか紫さんが笑って一丁の回転式の銃を机の上においた。

紫「これを使いなさい」

15:2014/01/06(月) 00:10:15 ID:
男「なんだ、これで撃てばいいのか? 俺、人殺しになりたくないんだけど。まじで」

紫「違うわ。もうどうしようもないと思ったとき自分のこめかみを撃ちぬきなさい」

………自害用かよ。シャレにならんぞ。

藍「紫様。それでは説明が足りないかと」

紫「分かってるわよ。そこの神妙な顔して悩んでる貴方。その銃はただの銃じゃないわ」

男「え?」

紫「その銃はね。自害すると数時間、時を戻せるわ。戻せる時間は長くても半日。弾数は8。使うときは考えて使いなさい」

………ばんなそかな。

って言ってもファンタジーの世界だしなんでもありか。

それでもこめかみを撃ちぬくのはいやだな。

時間を戻せるらしいが………

まぁ、とりあえずもらっておこう。脅しやけん制には使えるだろうから。

16:2014/01/06(月) 17:03:58 ID:
紫「いきなり戦ってくれとは言わないけど、のちのちサポートに回ってもらうことになるから覚悟しておいて」

サポートか。それならまだ。いや、それでも間接的に人を殺すのか。

………そもそも正義はどっちなのか?

俺はこの戦いについて無知すぎる。もしかしたらこっちが悪で、俺は約束を守られず、今までごくろうだったなバーンで殺されるという可能性も。いやなりゆきとは言え俺が生きてるのは紫さんのおかげだしなぁ。

映姫「いきなりでわけが分からないでしょうから私が色々と世話しますのでしばらく私についてきてください」

男「分かった」

映姫「ではついてきてください」

紫「ねぇ、男」

男「なんだ?」

紫「巻き込んでごめんなさい」

男「………はい」

女の人の悲しい顔は苦手だ。

17:2014/01/06(月) 21:21:44 ID:
外に出ると巫女の姿は消えていた。

男「そういえばお前の名前は?」

映姫「四季 映姫です。こないだまで閻魔をしていました」

男「今までの無礼お許しください」

思わず土下座をする。妖怪ならともかく神様に弱いのは人間の性だ。

映姫「頭を上げてください。元閻魔ですから。今はただのしがない神ですよ」

ただのしがない神ってなんですか。

男「あの、それで今からどこに行くのですか?」

映姫「ふふっ。あの紫にもため口だった人間が私には敬語を使いますか」

男「紫さんって凄いのですか?」

映姫「幻想郷の最強の妖怪の一人ですよ。ちなみに貴方を連れてきた幽香も最強の妖怪の一人です」

………今度から敬語を使おう。

18:2014/01/06(月) 21:43:39 ID:
小町「あれ、誰です? その人間」

魔理沙「そんなことはどうでもいいぜ………早く休みたい」

映姫「小町!!」

顔を上げて声がしたほうを向く。

そこには鎌を持った巨乳の女性と金髪の魔法使いみたいな少女がいた。

二人とも傷だらけで、服に血がにじんでいる。大怪我ではないがたいしたことないとはいえない。

映姫「小町!!」

四季さんが二人に、いや胸の大きいほうの女性にかけよる。魔女っぽい少女は私は無視かよとつぶやいて縁側に座り込んだ。黒白であっただろう衣装が乾いた血で黒くなっていて痛々しい。

男「だ、大丈夫か?」

魔理沙「大丈夫に見えるか? 残念ながら私は人間なんだよ」

人間だったのか。外見じゃ人間かそうでないかの区別がつきにくい。

魔理沙「なぁ、あんた。ちょっと悪いが霊夢を呼んできてくれないか?」

男「霊夢?」

魔理沙「巫女服着てるのだよ。私は休んでるからよろしく頼む」

そう言ってそのまま横たわる。もしや息絶えたのではないかと思ったが胸は上下しているからどうやらただ休んでいるだけみたいだ。

19:2014/01/06(月) 21:49:42 ID:
どこにいるのだろうか。分からないがとりあえず神社内を走り回ってみる。

神社は離れとつながっていて見た目よりもずっと広い。障子を開けてみるもののどこにもいない。

男「どこだよ」

廊下の端にあったひとつだけ木製の扉。

これだけ特別だしもしかしたらここかもしれない。そう思い扉を開ける。

霊夢「………え」

霊夢がいた。

それはいい。

だが残念なのが、ここが

霊夢「閉めなさい!!」

トイレだということだ。

20:2014/01/06(月) 21:51:17 ID:
出てきた霊夢に数発ひっぱたかれる。見た目よりずっと痛かった。

叩かれつつ少女のことを伝えるとみぞおちに蹴りを入れてそのまま走り去っていった。

いくら俺が悪いとはいえ少しやりすぎではないだろうか。

廊下に倒れこみながらそう思った。

21:2014/01/06(月) 22:02:39 ID:
映姫「あの、大丈夫ですか?」

男「いえ、俺が悪いので」

真っ赤にはれた俺の顔を見て四季さんが心配をしてくれた。この人、やはり神か。

トイレを覗いたことに関してはこめかみを撃ちぬきたくなったが銃弾がもったいないのであきらめる。これからあの霊夢にあうたび変態扱いされるであろう事は用意に想像できる。

ここから出られないのなら何回も顔を合わせることになるのだろう。

前途多難な出発にため息がでた。

映姫「あの、それでついてきてほしいところがあるのですが」

男「分かりました」

映姫「こっちです。小町がいる今しかいけないので」

男「?」

映姫さんが胸が大きな女性、会話からさっするに彼女が小町だろう。小町に近づく。

小町のほうはさっきの少女より傷は少ない。しかし疲れてはいるようで石の上に座り込んでいた。

22:2014/01/06(月) 22:03:12 ID:
小町「なんですか四季様」

映姫「あそこに行きたいのですが。彼と一緒に」

小町「え。あぁ。分かりましたこっちへどうぞ」

映姫さんが手まねきをする。靴を履いて庭に出て映姫さんの隣に立つと小町が目を閉じて鎌で地面に一文字に線を入れた。

映姫「一歩踏み出してください」

男「はい」

一歩踏み出す。

ぐわんっ

景色が水のように流れていく。その情報量は脳を激しく揺さぶった。

景色の流れが止まり、いつの間にか場所が神社ではなくなっていた。

森の中。そして目の前にある大きな扉。扉は岩壁に張りついていて、どうやら洞窟を建物として利用したみたいだ。

男「ここは?」

映姫「すみません。最初に手伝ってもらいたいことが」

23:2014/01/06(月) 22:13:41 ID:
四季さんが扉を開ける。

中を見ると明かりが灯っていてあまり暗くはないようだ。

そして中から聞こえる声。どうやら誰かがいるらしい。

しかもその声はひとつではなくいくつも聞こえる。

映姫「中に。しかし入り口で待っていてください。中の人たちは人間の味方というわけではないので」

四季さんが洞窟の奥へ進んでいく。俺は入り口でただ一人待っているが、四季さんのさっきの言葉。人間の味方ではない。

となると中にいるのは妖怪なのだろう。しかし俺が妖怪に出来ることとはなんだろうか。

餌になれ?

想像した嫌なことが頭の中に張り付いて離れなくなる。

大丈夫だ。四季さんがそんなことをするわけがない。一応神様だし。

でも神様が人間の味方というわけでは………

いやな想像というのは一度するととまらなくなり、最悪の状況を描いてしまう。

映姫「お待たせいたしました」

四季さんが戻ってきた。さっきの想像のせいでおもわず後ろに下がってしまった。

それを見て四季さんは「大丈夫です。伝えてありますから」と俺の頭の中を読んだかのようにそう言った。

24:2014/01/06(月) 22:26:35 ID:
四季さんに続いて奥へ進む。大丈夫といわれたとは言え、へたれ気味な俺はおっかなびっくりついて行った。

細い道を抜けると大きな広間があった。そこには

男「これは」

小さな子供たちがいた。しかし羽がはえていたり、犬のような耳が生えていたりと、人間の子供ではなく妖怪の子供だが。

子供だけでなく、大人の妖怪もいるようだがそれでも子供の数が圧倒的に多数だ。

四季「戦争にできない子供妖怪です。巻き込まれてはいけないので、ここに軟禁しています」

男「………………」

軟禁。

見た目は違うとは言え子供だ。俺の知る限り子供は閉じ込められるものではなく外で遊ぶものだったはずだ。

なのにここでは日の光にあたらず、灯火だけで過ごしている子供ばかりだ。

傷をみても、幽香さんと俺が襲われたのを見てもあまり戦争を実感しなかったのにここで初めて実感した。つくづく平和ボケしているな。

男「面倒をみればいいのですか?」

映姫「えぇ。お願いします」

弟妹はいたが年が近く小さな子供の面倒のしかたはよく分からない。それでもなにかしよう。

男「分かりました」

25:2014/01/06(月) 22:33:52 ID:
映姫「すみません」

子供達に近づく。おそらくこの子たちでもただの人間である俺は軽く殺すことが出来るのだろう。しかしおびえているわけにはいかない。一回ぎゅっとこぶしを握りしめて気持ちを固める。

しゃがみ目線をあわせる。子供達の瞳は怯えていた。説明していたとはいえ敵は敵か。

男「えっと、そこの君」

犬耳娘「!」ビクッ

俺の少しうわずった声で犬耳の少女がびくりと震える。

前途多難だ。こんなとき漫画の主人公なら、サッカーなどの遊びでなんとかすると思うのだけど。

俺に何ができる。空手? いやいやここで空手をしても余計怯えさせるだけだ。

男「えっと、一緒に遊ぼうな」

その提案に答える声はない。それどころかどんどん後ろに下がっていっている。

映姫「大丈夫ですよ。この人間は外の人間です。敵ではありませんよ」

後ろから四季さんが助け舟をくれる。その言葉に何人かの子供は反応したが、それでもやはり大多数は怯えたままだ。

しかしそれでもさっきよりはマシだ。

26:2014/01/06(月) 22:42:38 ID:
羽少年「なぁ、外の世界の人間なのか?」

男「あぁ」

一人の少年がゆっくり近づいてきた。瞳に宿す感情は恐れと興味。どうやらこの少年は外の世界に憧れを抱いているようだ。

羽少年「えっと、外だと籠が一人で走ったりするとか遠くを写す箱があるって本当か?」

車とテレビだろうか。なんとなく現代にタイムスリップした侍みたいだなぁと思い軽く笑う。

男「あぁ、あるよ」

羽少年「本当か!?」

男「見せれればいいんだけど」

服をあさっても携帯どころか財布もない。落ちていくときになくしたらしい。

この子達に携帯を見せたらどうなるだろうか。通話やメールは出来ないだろうがそれでも中にはゲームが入っている。

羽少年「じゃあじゃあ」

どうやら聞きたいことはあるらしいが多すぎてなかなか口に出来ないらしい。

男「他の子はなにか聞きたいことあるか?」

犬耳娘「あ、あの」

さっきの少女がおどおどとしながら近づいてきた。気づけば子供達との距離が近づいていた

27:2014/01/08(水) 10:55:24 ID:
犬耳娘「外には海っていうのがあるって聞いたのですが………」

男「海か。ここにはないのか」

羽少年「海ってなんだ?」

男「海って言うのは水がしょっぱい湖の凄い広い版だ。ちなみに魚がうようよいる」

犬耳娘「!!」パァ

犬耳娘の顔が輝く。どうやらこの娘も外の世界にあこがれているようだ。戦争が終わって外の世界にどうにか連れ出せないものか。ただの人間である俺にはやはり無理なのだろうか。

男「質問タイムもなんだし、みんなで遊ぶか?」

さっきから楽しそうなのはこの二人とそれを見ている数人でやはり他の子供は静かに怯えている。

といっても遊びというのが何ができるのかはわからない。鬼ごっこやかくれんぼはする場所がないし、道具を使う遊びは道具がない。となると動かない遊びということになるが。みんなでできる動かない遊びというものはあっただろうか。

映姫「………男さんが昔話をしてくれるそうですよ」

四季さんから二度目の助け舟が届く。そうか、昔話か。細かい部分は覚えてないが大体の話の流れなら覚えている。金太郎、浦島太郎、シンデレラ。昔話は凄い数があるがその中でも鉄板といえば桃太郎だろう。

映姫「桃太郎は駄目です。ここには実際に鬼もいるので」

小さい声で四季さんから警告が入る。危ないところだった。相変わらず人の心を読んでいるかのようなタイミングで助言を入れてくるがそれがとてもありがたい。

28:2014/01/08(水) 10:57:52 ID:
よしじゃあ桃太郎が駄目なら一休さんだ。話は終始明るくコミカルに話すことができる。しかもなかなか関心ができる話だ。子供達にはぴったりかもしれない。

男「じゃあ一休さんで」

ちらりと後ろをみると四季さんは微笑んでいた。どうやらOKみたいだ。

犬耳娘「一休さん?」

男「あぁ、一休さんっていう偉いお坊さん。あ、これ地位じゃなくて頭の回転の良さな。まぁそういうお坊さんがいたわけだ。そのお坊さんは頓知で有名でな。あるときお城の殿様が一休さんを試してやろうと一休さんを呼んだわけだ」

男「そして一休さんがお城へ向かうとお城へかかる橋の横に、このはしわたるべからず、と書いてあったんだ」

羽少年「呼び出しておいて渡るなってずいぶん勝手な殿様だな」

男「まぁ、そうだな。そして一休さんは橋を渡った。なんでだと思う?」

羽少年「勝手な殿様の言うことなんか聞く必要ないから」

犬耳娘「と、飛んだ?」

男「そこの羽生えた少年や。さっきからなんとなく答えが厳しいぞ。物語だから意地悪なキャラクターはよく出るって」

犬耳娘「シンデレラ!」

男「そうだな、シンデレラを知っているのか」

犬耳娘「あこがれ///」

29:2014/01/08(水) 10:58:30 ID:
男「あと一休さんは人間だから飛べません。あと立て札にも従います。で答えなんだが一休さんは端じゃなくて真ん中を渡ったわけだ」

羽少年「屁理屈じゃん」

男「否定はできんが、一応理屈は通ってるからな。そしてお城にたどり着いた一休さんにお殿様はこう言いました。夜な夜なこの屏風から虎が出てきてうろつきまわるんだ。おっかないから捕まえてくれ。ってな」

羽少年「殿様なら自分で捕まえろよな。家来に頼んで」

男「そのとおりだな。まぁ一休さんもそう思ったのだろうけどそこはさすが一休さん、頓知で返した。わかりました捕まえましょう。ではお殿様、屏風から虎を出して下さい、ってな」

羽少年「うまいこというなぁ」

しみじみとうなずく羽が生えた少年。さっきからずいぶん言ってることが子供っぽくないけどどうしたんだこいつ。

犬耳娘「おもしろかったっ」

それにしてもこの犬耳の生えた少女。純粋な子で可愛いな。思わずよしよしとしたら顔を真っ赤にさせてうつむいていた。愛いやつ愛いやつ。まさに犬を思わせる。

周りを見渡すとほとんど怯えの色は消えていた。恐るべき一休さん。

角娘「次の話は?」

男「あぁ、それじゃあ次の話に行くぜ。次の話は―――」

映姫(良かった。彼に任せて正解でしたね)

30:2014/01/08(水) 15:05:12 ID:
子供達と遊び、外に出ると空はいつの間にか茜色に染まっていた。

羽妖怪「あの、今日はありがとうございました。あの子たちはずっと閉じ込められていたので遊んだりできなかったんです」

男「いえ、また来ますよ」

羽妖怪「ありがとうございます」

羽が生えた妖怪から頭を下げられ、少し照れる。途中からなんだか俺も楽しくなってきて一緒に遊んでしまっていたからそこまで礼を言われるようなことはしていない。

映姫「早く帰りましょう。私はともかくあなたは人間ですので」

そういえばそうだった。ここの妖怪はともかく俺の事情を知らない妖怪に襲われてはひとたまりもない。

男「そういえば帰りはどうするんですか?」

小町「あたいが迎えに来るんだよ。さっさと帰ろう。ここら辺は危ない」

小町がいつの間にか目の前に立っていた。おそらくあの能力を使ってここまでやってきたのだろう。となると帰りはやはりあの移動。頭が痛くなるからあまりしたくはないんだが、命には代えられない。

小町が引いた線を越え、元の神社に戻る。

境内では霊夢が掃除をしていた。

31:2014/01/08(水) 15:06:14 ID:
霊夢「………変態」

男「事故だろ、あれ」

いきなり蔑んだ目で見られる。年下から変態を見るような目をされて興奮するほど俺は紳士ではない。かといって年上から蔑まれても興奮しない。

自分が悪いとは言え、あの少女を助けるためという事情があったのになぜあそこまでされなければいけないのか。右頬の痛みを思い出しなでる。

霊夢「それでも変態は変態よ」

小町「なんだい霊夢。何かされたのかい?」

霊夢「トイレ覗かれた」

小町と四季さんがごみを見るような目で見てきた。撤回しなければ今にも危険地域に飛ばされそうだ。

事情を説明すると四季さんは

映姫「しかたありませんね」

といって許してくれた。小町は大爆笑して霊夢に蹴り飛ばされていた。

32:2014/01/08(水) 15:06:59 ID:
男「だってこんな胸のないちんちくりん、あ、四季さんは魅力的ですごばぁっ!!」

霊夢がなんか札のようなものを飛ばしてきてそれが当たった瞬間吹き飛ばされた。

なんでだ、俺が危なくないって事を説明していただけなのに。

女心って複雑だなぁと数秒間の滞空時間で実感した。

萃香「なんだい。こいつ」ガシッ

さぁて、いつまで空飛ぶのかなぁ、あははとか思っていたらいきなり捕まれ、地面にぽいっと放り投げられる。

ごろごろと地面を霊夢のほうに向かって転がり、足蹴にされてとまる。

霊夢「不審者よ。やってよし」

萃香「結界内に敵? まぁ、解ったよ」

初めて見えた俺を捕まえた主は霊夢よりも小さいが、頭に生えた角。手首についた鎖、あの怪力からしておそらく鬼。そしてその鬼が霊夢の命を受け俺の命を奪おうと

33:2014/01/08(水) 15:07:42 ID:
男「ままま、待った!!」

萃香「って言ってるけど」

霊夢「無視してよし」

萃香「あいよ」

男「ストップストップスタァアアアップ!! 敵じゃない敵じゃない!! ノーエネミー!!」

霊夢に足蹴にされながら命乞いをするというきわめて無様な醜態をさらしていると、四季さんが鬼に事情を説明して収めてくれた。さすが四季さんありがたい。美少女なだけある。

萃香「なんだい。こんな人間が戦力になるのかねぇ」

男「雑用には使えますからどうかお許しを」

萃香「なんかこう凄い下手に出られるといらだつを通り越して笑えてくるんだけどさ」

小町「萃香は弱者とか悪者嫌いだからあんまりへりくだらないほうがいいよ」

指先ひとつでダウンどころかキルしてくる相手にへりくだらないはとても難しいのだが、へりくだらないとぼっこぼこにされる。なんだこれ無理だろ。

男「そ、それはすまなかった俺の名前は男。見てのとおり人間だ。空手柔道は初段。特技は早食いです!!」

萃香「へぇ。そうかい」

心底興味なさそうにうなずき、あくびをしながら神社の中へと去っていった。

34:2014/01/08(水) 15:12:32 ID:
どうやら俺の命は助かったらしい。ほっと息を吐いてさっきから気になっていたことを霊夢に伝える。

男「なぁ霊夢」

霊夢「何よ」ギュム

男「見えてる。下着。白の」

それは霊夢の巫女服の袴というよりスカートに近いその中には純粋無垢で飾り気のない白い下着。やはり巫女というのは純潔でなければいk

霊夢「!!」

ボギュッ

へぇ、人体ってこんな音なるんだなぁ。不思議だなぁ。

っていうか痛くないって逆に駄目なんじゃないだろうか。というかなんかむしろきもちい―――

小町「男? 男? おーい、聞こえてますかー。………だめだこりゃ、気絶してる」

35:2014/01/08(水) 16:28:29 ID:
ここのブログいい感じの画像がいっぱいです♪
特にりりとまおって子の日記がなかなか・・・w
http://esutemania.doorblog.jp/

36:2014/01/08(水) 23:19:49 ID:
一日に何度も気絶する経験なんてそうそうあるものではない。そう考えれば今の俺は不幸というよりも幸運に恵まれて―――

男「いるわけないよなぁ」

霊夢のスタンピングによって気絶したらしい俺はいつのまにか布団のなかにいた。どうやら気絶した後誰かが運んできたらしい。四季さんだろうか。

体を起こすと踏まれたところがやたら痛むが我慢して布団から出る。

外は茜色ではなく完全なる黒。人工的な明かりは一切存在せず、星と月だけが夜を照らす。

ぐぅと腹がエネルギー補給の訴えを出してくる。そういえば俺は今日何も食べていない。いろいろなことがありすぎたせいで食べるという本能自体を忘れていたからだ。

このままでは倒れてしまう―――なんて事はないが空腹のままだと心地が悪い。誰かに頼んで食べ物を貰おう。

くれそうな人といえば四季さんだが、四季さんの部屋がわからない。聞いておけばよかったと後悔しながら廊下をぶらぶらと歩いてみる。

霊夢以外ならそう印象が悪いわけでもないし食べ物をもらえるだろう。

霊夢 男「あ」

神様はなぜかとても俺に厳しかった。

38:2014/01/10(金) 09:58:16 ID:
霊夢は着ていた巫女服ではなく、普通の着物を着ていて、おいしそうな料理を載せたお盆を持っていたt。頼めばわけてくれるだろうか。いや、おそらく変態にやる飯はねぇ!と一蹴されてしまうだけの気がする。

霊夢「………何見てんのよ」

男「いや、別に」

霊夢「そう。はいこれ」

霊夢がお盆を差し出してくる。これはめんどうくさいから運べどいうことだろうか。

男「誰のところまで運べばいいんだ?」

霊夢「は?」

霊夢の視線がこいつ気絶しすぎて頭がぱっぱらぱーになったんじゃないの?と物語っている。

というとこれはもしかして。

男「俺に?」

霊夢「あんたが99%悪いけどそれでも気絶させちゃったのは私だし、餓死されても寝覚め悪いし一応持ってきてあげたわ」

男「なるほど。霊夢はツンデレなのか」

霊夢「はぁ!? 誰が!」ゲシッ

男「ははは遅いわ!」クネクネ

霊夢「!?」

39:2014/01/10(金) 10:06:35 ID:
寝ていた部屋(どうやらここが俺の部屋になるらしい)に戻りちゃぶ台のうえに持ってきた料理を並べる。

両手を開けていただきますをした瞬間、がらっと障子が開いた。

橙「こんばんわ!」

小さな女の子が入ってきた。生えている二本の尻尾が妖怪であると伝えてくる。おそらく猫又がサイヤ人のどちらかだろう。当たり前だが前者だ。

男「えっと、誰?」

橙「橙は橙といいますっ。紫しゃまからの伝言をお伝えにきました!」

男「ありがとうございますと男は男はそう言います」

橙「それでは失礼します!」

しかしその言葉とは裏腹に橙は微動だにせず動かなかった。視線をたどると俺の夕食。焼き魚だろうか。

念のため焼き魚を一口食べてみるとその視線は箸を追った。

やはり猫は焼き魚が好きなのだろうか。

尻尾を箸でつまみゆらゆらさせてみる。橙の視線は右へ左へゆらゆらゆれる。

男「あなたはだんだん眠くなる~ あなたはだんだん眠くなる~ なんてな」

橙「すやすや」

男「えぇ!?」

40:2014/01/10(金) 11:01:25 ID:
紫「だからうちの子を背負って来てるのね」

男「本当に申しわけない」

ぐっすり眠っている橙を背負って紫さんの部屋までいき、橙が寝ている説明をすると、紫はため息をついて笑った。

紫「まぁいいわ。座りなさい」

手で示された座布団にすわり、寝ている橙をそっとたたみへとおろす。

男「話って?」

紫「申しわけないのだけれど明日から実戦部隊のほうへ行ってもらうことになるわ」

男「!?」

いくらなんでも早すぎる、実戦なんてそんな。

しかし紫さんの目が冗談ではないことを証明している。つまりなんらかの事情があって非戦闘員である俺が出なければならなくなったのだろう。

人間であるとは言え、この中では男は俺一人のようだ。倒すことはできなくても撃退あるいは逃走はできるはず。

覚悟が決まったといえば嘘になる。しかしここでやらないとはっきり口に出すほどの勇気もない。

俺が行かなければまた誰かが傷つくことになる。

つくづく自分の偽善がいやになるなと、小さくため息をついた。

41:2014/01/10(金) 11:08:12 ID:
紫「大丈夫よ。あなた一人じゃないし」

亡霊男「俺がいる」スッ

男「!?」

畳から突如男が出てきた。しかもうっすらと透けている。

男「幽霊!?」

亡霊男「亡霊だい」

男「しゃ、しゃべったぁあああぁあ!?」

亡霊男「なんだ。亡霊はしゃべっちゃいけないとか亡霊差別だぜ?」

紫「落ち着きなさい。悪い霊じゃないから」

亡霊男「どうも亡霊男です。この紫の夫です。よろしくなっ!」

男「夫だぁあああぁあああぁああ」

亡霊男「なぁ。なんでこんなに驚いてるんだ?」

紫「外じゃあ幽霊亡霊あんまりいないから」

亡霊男「そうか………」

42:2014/01/10(金) 11:34:49 ID:
数分後落ち着きを取り戻した俺は亡霊男について紫から説明を受けた。

ようするに亡霊男は偵察部隊で物理的な技はその気になればすべて無効化できるらしい。

しかし亡霊になってから日が浅く、もともとただの人間だったため戦闘はできない。

亡霊男「それで藍さんと俺とお前でなあの裏山にある結界の調査をしに行く」

紫「直接の戦闘部隊というわけじゃないけど、見つかったら戦うことになるわ。藍がいるから大丈夫だと思うけど」

裏山の結界とは裏山にある魔界と幻想郷をつなぐ場所にある結界のことで、何度か調査に行ったらしいのだが、なかなかに守備が硬く大きな成果をだしていないそうだ。

紫「明日になったら陽動部隊がそこの防衛をしてる部隊をひきつけるわ。その隙に調査をお願い」

男「わかりました」

紫「今日は早く寝て頂戴ね」

男「はい。わかりました」

43:2014/01/10(金) 11:38:40 ID:
自分の部屋に戻る前にみた結界は金色の光を放っていた。

初めての任務はあれの偵察。

無事に済めばいいが………。

44:2014/01/10(金) 11:51:57 ID:
がさがさと草が音を鳴らし時折皮膚に傷をつける。

山登りなんて小学校のころ以来やったことない。妖狐の藍さんに、物理的影響なんていっさい関係ない亡霊男。あきらかに迷惑をかけている俺はやはり来なかったほうがよかったのではないのだろうか。銃をどっちかに渡して帰ったほうがよかったのではないだろうか。

亡霊男「まぁ、人間だししゃあないわなぁ。まだ時間はあるしゆっくり行こうか藍さん」

藍「かまないが、私が運んだほうがいいんじゃ?」

男「だ、大丈夫です」ゼハー

目的地まであと数キロ。藍さんにお願いすれば楽かもしれないが、そんなことをしてしまっては目立つ。人間ならばせめて人間の利点を生かして偵察をしなければならない。

亡霊男「じゃあ休みがてらどうでもいい話をしよう」

男「どうでもいい話?」

亡霊男「紫な、あいつの勝負パンツは紫のレースなんだが、お気に入りは綿のくまさんパンツだ。そのほかにもプリントパンツをいくつか持っている。家のたんすの二番目の右の引き出しにな」

男 藍「まじで!?」

亡霊男「まじまじ。本人には秘密な。ばれてないと思ってるから」

そうか、そうだったのか。あのやけに大人っぽい紫さんにそんな秘密が。

45:2014/01/10(金) 12:04:12 ID:
亡霊男としゃべりながら歩いているといつの間にか近くについていた。

ここからは静かに移動をしなければいけない。

藍「あと数分で陽動部隊が動き出す」

亡霊男と藍は草むらに隠れ、俺は木の後ろで、結界が見える位置でつく。

結界の前には人間が10数人。それに頭にウサギの耳が生えた男が一人。

なぜ妖怪が? と思ったが、そういえば妖怪の中で人間に協力するやつもいるのだったと思い出す。

人間は刀や銃などの武装をしていて、俺一人ではどうしようもなさそうだ。その周りには簡単な小屋まで立てられていてどうやらここが重要な場所であるということがうかがえる。

ドンッ

派手な音と木が倒れる音がした。

どうやら陽動部隊が動き出したらしい。人間の半分ちょっとと妖怪が音がしたほうに行く。残ったのは4人。刀が二人と銃が一人と札みたいなものを持ったのが一人だった。

結界の近くにいるのでどうにかこっそりということはできない。戦闘は避けられないようだ。

草むらに隠れている藍さんに合図を出すと藍さんはものすごい速さで刀を持った男に飛び掛った。

46:2014/01/10(金) 12:11:46 ID:
刀を持った男は抵抗したらしいが、藍さんはすばやく手を横に薙いで頚動脈あたりを切る。鮮やかな血しぶきがつく前に次の刀を持った人間に飛び掛っていた。

銃を持った男は同士討ちを恐れて手が出せないらしい。二人目の男もあっさりと地面に倒れ、赤いねっとりとした液体が地面に流れていった。

殺したのだろうか。初めて目の前で見る光景に、まるで映画のようだという感想を抱く。それまでにあっさりと簡単に二人の命を藍さんは奪った。

銃男「うあぁああ!!」パンッ

銃を持った男が藍さんに向けて引き金を引く。それを藍さんは地面に倒れている男をすばやく持ち上げ盾にした。

銃弾よりも早いその動きに驚いた札を持った男が札を投げつける。その札はまるで生きてるかのように藍さんの八方に移動し金色の光を放ち輪になる。その輪は藍さんの体を縛り付けた。

藍「結界か………」

ぶちっ

藍「得意分野だよ」

藍さんが結界を掴み引きちぎる。そこからはさらに戦いは一方的になった。

腕の一振りだけで二人の命を奪った藍さんは振り向いて安全だということを合図して教えてくれた。

47:2014/01/10(金) 12:19:11 ID:
倒れた男たちに近づく。流れて行く生が地面に吸い込まれどんどん消えて行く。

助ける理由はないが、それでも同属が死んでいる光景はなかなかにショックだった。

亡霊男は大丈夫か? と聞いてきたが俺はそれに答えず近くにあった小屋にしゃがみこんだ。

疲労が一気にきた。

俺は偽善で動いているだけであって、強い信念なんてものはないのだ。

おそらく襲われても使えるはずの空手や柔道を使わないだろうし、銃で脅すこともできない。

藍「調べてくる。後は偵察を頼んだ」

藍さんが金色に輝く結界に近づいて触れる。さっきの芸当を思い出し、藍さんならば敗れるのではないだろうかと思ったが、なんどか結界の表面を撫で、首を横に振った。

藍「帰ろう。これはどうにもならない」

空中でふよふよと浮いていた亡霊男が降りてくる。近くに敵はおらず、遠くで陽動部隊が注意を引いてくれているおかげで逃げるのは簡単らしい。

男「帰ろう」

亡霊男「あぁ」

亡霊男はそれ以上何も言わなかった。

48:2014/01/10(金) 12:41:13 ID:
神社に戻ってくる。ついたと同時に俺は近くにあった石の上に座り込んだ。

紫「お疲れ様」

気がつくと目の前に紫さんが立っていた。

男「俺、行く必要あったんですか?」

紫「慣れてもらいたかったのよ」

………人が死ぬことにか。

慣れれるのだろうか、俺は。

さっきの光景を思い出し、いまさらになって胃液がこみ上げてくる。

紫「辛いでしょうが慣れないといけないの」

男「おぉぅ、おぉうぇええぇええ」

吐きはしなかったが吐き気が絶え間なく襲い掛かってくる。

地面に膝をついて苦しむ俺の背中を紫さんが優しく撫でた。

紫「私の事情で巻き込んでしまってごめんなさい」

49:2014/01/10(金) 12:51:48 ID:
藍「結界を破ることは私では無理です。霊夢と輝夜の力を借りてやっとです」

紫「どうなっていたのかしら?」

藍「あの結界の力は月人の生命力、それも4人分を使っています。しかもその力を純潔の月兎を媒体としているので結界を破るにはこの月兎の命を奪わなければいけません」

紫「その月兎って」

藍「永遠亭にいた月兎の少女です。ちなみに永遠亭にいた月兎の青年は人間の味方のようです。永遠亭は独立を貫いているので、永遠亭が手を出したというわけではなさそうですが、それでもこの二人を殺害した場合、永遠亭がなんらかの行動を起こす確立は高いでしょう」

紫「………そう。お疲れ様藍。今日はもう休んでいいわよ」

藍「はい。ありがとうございます」スゥ

タンッ

紫「………厄介なことになったわね」

50:2014/01/10(金) 13:02:20 ID:
少し休み、気分が少しは収まったとき藍さんが廊下を歩いているのが見えた。

近づいてあの結界について聞いてみる。

藍「あの結界は魔界と幻想郷をつなぐのだが、結界を張られたことにより魔界へと行っていたサリエル、魅魔、夢美、夢月、幻月。そして魔界の住民がこっちにこられなくなってしまったのだ」

男「つまり強い人がのきなみ閉じ込められたってことですか?」

藍「残念ながらな。そうでなければもっと楽だっただろう」

藍さんはそれに、地底にも結界が張られているからな。とため息とともに吐き出した。

51:2014/01/10(金) 13:23:00 ID:
~少年サイド~

少年(どうしましょう、さとりさん)

地底に結界が張ってはや一ヶ月近く。食料に困りはしないですがいつここが攻められるかもわかりません。

しかし結界は燐さんによると並大抵な妖怪じゃ壊せないそうで、どこかに逃げるということもできず、ただただ毎日おびえています。

さとり「どうしようもないわ。私は心を読むだけ。結界なんて専門外よ」

地底に専門家なんているだろうか。そう考えてみたが一人も結界に詳しそうな人はいなかった。

それでも発明家は三人いる。ちゆりさんと理香子さんと白衣男さんだ。

三人の力を借りればなんとかなるかもしれない。

そう考えたとき、さとりさんが

さとり「だめよ」

といった。

男(なぜですか?)

そう聞くとさとりさんは少し俯いて

さとり「外に出れたとして危ないわ。私はもう誰も失いたくないの」

と小さな声でそう言った。

52:2014/01/10(金) 13:33:49 ID:
ミス 男ではなく少年でした。

少年(わかりましたさとりさん)

さとりさんにそう言われたら僕はもうなんとも言えません。僕はさとりさんに近づいてそっと手を握りました。

さとり「ありがとう、おと」

さとりさんがそう言いかけてとめました。そして握った手を解くと僕から離れていきました。

何かしたのでしょうか。そう思ったとき部屋の扉をたたく音が聞こえました。

どうやら誰かが来たようです。僕は気にしないのですがさとりさんはまだ二人で手をつないだりしているところを見られるのは抵抗があるそうです。

さとり「入っていいわよ」

お燐「失礼します。さとり様」

お燐さんでした。お燐さんは頭の上の耳をぱたぱたと動かしながら部屋の中に入ってきました。その手には何か紙を持っていました。

お燐「結界を調べてた人からもらってきたんですが、どうやら勇儀なら結界を壊す、まではいかないですけどこじ開けることができるそうです」

さっきまで悩んでいたことの解決策がこんなにも早くできるなんて、驚きましたがさっきのさとりさんが言ったことで僕はもう外に出るなんてことは言えません。

僕に力があればいいのに。そう悲しくなったとき、さとりさんが優しく頭を撫でてくれました。

53:2014/01/10(金) 13:38:19 ID:
お燐「あと、勇儀さんが早速こじ開けて情報収集に射命丸を向かわせたみたいです。この結界は外から中へは普通に入れますから情報を集めた射命丸は戻ってきしだい、情報をまとめてくれるそうですよ」

さとり「射命丸以外は向かわせてないのかしら?」

お燐「えっと、勇儀さんの力を使っても大人一人通れる隙間を数秒間持たせることしかできないらしくて、しかも一度やると数日はこじ開けることができないらしいです」

さとり「そう」

となると、今日はもう誰も出ることができません。

ならばあとは射命丸さんを待つことしかできないようです。

僕はじっとしているのもなんなので、射命丸さんの旦那さんである白衣男さんのところへ向かうことにしました。

54:2014/01/10(金) 13:49:39 ID:
地霊殿から歩いて十数分のところにある酒屋。そこに白衣男さんはいます。白衣男さんは数ヶ月前に射命丸さん、にとりさん、みとりさん、雛さんと共に地底へ引っ越してきました。

のれんをくぐり、奥に向かって音を鳴らすと白衣男さんではなくにとりさんが出てきました。

にとり「ん? どうしたんだい?」

男『こんにちわにとりさん。白衣男さんいますか?』

にとり「あ、白衣男ならさっき出かけたんだけど、少しすれば戻ると思うからここで待つかい?」

男『はい』

にとり「じゃあジュース持ってくるから」

そういってにとりさんは奥へ戻っていきました。お気遣いなくと書こうとしたころには姿は完全になく、文字を消して近くにあったいすに座りました。

あたりを見回すと難しい漢字はあまりよくわからないのですが、いろいろな種類のお酒がありました。

ここでは酒屋と同時に居酒屋もやっているのでキッチンやテーブルなんかもあります。今は営業していないのですが、お空さんや勇儀さんと一緒によく訪れていました。

今後、またあの日常が戻ってくることはできるのだろうか、そうしんみりしているとにとりさんがオレンジジュースを持って戻ってきました。

オレンジジュースを受け取り、一口飲むと、甘酸っぱさが口いっぱいに広がりました。思わず笑顔になってしまい、恥ずかしくて赤面しました。

そんな僕をみてにとりさんは笑って、ありがとうね、と言いました。

何がありがとうなのかはわからなかったのですが、僕はとりあえず頭を下げておきました。

55:2014/01/10(金) 13:59:49 ID:
またミス男ではなく少年です。

にとり「最近暇でね、発明しかすることがないんだよねぇ」

そうでした、そういえばにとりさんも発明家でした。いつも発明を見せてくれるのは白衣男さんだったのですっかり忘れていたのです。

僕は何か身を守れる発明はないでしょうか、と聞きました。

さとりさんがさっき大丈夫て言ってくれましたが僕も男です。守られるよりは守りたい。そう思うのです。大切な人はとくに。

にとり「身を守る道具? あるにはあるけど」

にとりさんが苦い顔をしました。どうやら何か事情があるらしいのでしょう。おそらくさとりさんがにとりさんに何か言っていたのでしょうが、ここで僕は折れるわけにはいきません。

もう一度強くにとりさんにお願いしました。

にとりさんは困ったなぁと頬をかきながら苦笑いをしました。

もうちょっとで貸してもらえるだろうか。そう思ったとき白衣男さんが戻ってきました。

白衣男「ん? どうしたんだ?」

白衣男さんにもなにか身を守れる道具はないか、と聞いたところやれやれとつぶやいて何か小さな丸にわっかのついたものをくれました。

白衣男「そのわっかを引っ張ると煙が勢いよくでるからそのうちに逃げるといい」

たしかに身は守ることができるでしょうが、誰かを守ることはできません。

再度、誰かを守るためというのを付け加えて白衣男さんに聞きました。

56:2014/01/10(金) 14:08:35 ID:
白衣男「守りたいんだろうが、守るってことは危険なことだ。俺だって文が襲われているなら命を捨ててでも助けようとするだろう。でもな、俺が文を逃がせたとしよう、それでも文を襲えるようなやつから俺は逃げられないんだ。命を捨ててでも守るぐらいなら、卑怯な手でもいいから一緒に逃げろ。悲しむのはさとりだぞ」

そう諭すように言いました。

白衣男「幼馴染ならなんとかなるかも知れないだろうが、あの装備をつけれるのはよっぽど体力あるやつじゃないといけないからな。お前には無理だ。俺でもつけて動けるのが10分が限度、しかも数日間は筋肉痛だ」

そうか、体を鍛えれば………なんて、いまさら体を鍛えても間に合いません。

どうやら僕にはさとりさんを守ることはできないようです。

白衣男「勇気は認めよう。だけど勇気と無謀は違うからな。覚えておけよ」

にとり「白衣男も結構無謀だったけどねぇ、天魔様に直談判しにいくだなんて」

白衣男「ぐっ。それはそれこれはこれだ。話の腰を折るんじゃない」

少年『わかりました。僕はさとりさんが危なくなったら一緒に逃げます』

白衣男「よく言った。これは俺からの選別だ」

そういって白衣男さんはポケットから何個ものさっきくれたわっかつきの球をくれました。

57:2014/01/10(金) 22:43:13 ID:
白衣男さんにお礼を言って外にでると雪が降っていました。太陽は見えないし、雲もないのになぜか雪は降ります。

傘は持ってきていないので早歩きで帰ることにしましょう。厚着をしているとはいえ、寒いものは寒く、雪が肌に触れることで表面の体温を奪っていきます。

寒さに震えながら帰っていると向こうから黒く長い髪と胸のついた赤く大きな目が特徴的な僕の家族。霊烏路空さん。通称お空さんが歩いてきました。

お空「うにゅ? どうしたの男」

少年『白衣男さんのところへ行ってきました。お空さんはどこにいくのですか?』

そう聞くとお空さんは、えっとねと言い、そのあと数十秒悩んで、あれ? と言いました。

忘れたのでしょう。お空さんは今思い出すからといってうろうろと歩き回り始めました

薄く積もっていく雪に足跡をつけながら悩むお空さんの右手になにか紙が握られていることに気づきました。

少年『右手のそれはなんですか?』

お空「あ! そうだった、勇儀に会わないといけないんだった!」

お空さんはそのまま走り去って行きました。結局なんだったのでしょうか。

僕は少し考え、くしゃみが出たので急いで家に帰りました。

58:2014/01/10(金) 22:56:19 ID:
~男サイド~

四季さんと子供たちのところを訪れ、子供たちと遊んで帰る。その間俺は朝のことがぐるぐる頭の中を回っていた。

霊夢も人を殺しているのだろうか。本人に聞いて、それが何?と返されたら軽くショックを受けてしまうので四季様に聞いてみた。

映姫「霊夢は殺してませんよ。私たちの中で人間を殺したことがあるのは、八雲 藍と伊吹 萃香ぐらいですよ」

それを聞いて安心する。安心するなんておかしいがそれでもあの少女たちが手を汚していないということが今の俺にとってはとてもありがたかったのだ。

いざとなったら殺さないといけない場面もあるかもしれない。

それでもそんな場面に会いたくないと思うのが俺だけじゃないのだ。

映姫「………悩んでるのなら私に相談してください。相談相手ぐらいならなれますから」

男「ありがとうございます。でも大丈夫です」

映姫「そうですか、あまり思い詰めないでくださいね。巻き込んでしまったのは私のせいなのですから」

そういって四季さんは申し訳なさそうに目をふせた。別に四季さんのせいではないと思います。そう伝えると彼女はごめんなさいと小さく謝った。

やはり四季さんは優しいんだなぁと思い、こんな彼女を守る(守るなんておかしいかもしれないが)と誓う。

命は奪えなくても戦ってみせる。

それが恩返しってものだと思うから。

59:2014/01/10(金) 23:08:26 ID:
神社に帰ると、白黒の少女。たしか名前は魔理沙。魔理沙が再び傷だらけで座り込んでいた。前の傷が消えてない上から新しい傷がつき、再び服を汚している。

男「大丈夫か?」

魔理沙「ん? あぁ、平気平気。霊夢みたいに私は強くないから、やられちまったのさ」

話を聞くと魔理沙は陽動部隊だったらしい、ならば彼女が怪我したのは俺の責任、そう考えたとき魔理沙は「私がもっと強かったらな」とつぶやいた。

人間と戦えるのなら十分強いと思うのだが、霊夢はもっと強いのだろうか。

魔理沙「霊夢はな。私よりずっと強いんだよ。今まではスペルカードなんてものがあったから戦ってこれたけど、それがなくなったら」

―――私は誰よりも弱い。

魔理沙が泣きそうな声で、震えた声で、何度も何度も悔しそうに強くなりたいと言った。

きつく握られた手が震え、徐々に言葉に嗚咽が混じる。

触れなければよかったのだろうか。いや、吐き出さなければいつかこの少女は折れてしまう。

であって少しの間だが、おそらくこの少女は平気な顔して人の何倍も努力をして、それでも上がいることに悩んでいる、そう感じた。

守りたいと思った。

だけど、守るほどの力は俺にはなかった。今目の前で泣いている少女よりもずっと俺は弱い。

60:2014/01/10(金) 23:14:42 ID:
それでも俺は

男「俺、明日から実戦部隊入るわ。守ってやるよ」

虚勢を張って嘘をついた。

後悔なら後ですればいい、未来のことなら明日悩めばいい。

魔理沙は今悲しんでいるんだ、だから明日の俺恨んでくれるなよ。

魔理沙「無理、だろ」

魔理沙がそう泣き笑いで言う。そんな彼女の頭を帽子ごと強めになで胸を張った。

男「黙ってみてろ。柔道空手初段の実力見せてやるぜ」

魔理沙「なんだそれ、微妙じゃんか」

男「うぐ、痛いことをおっしゃる」

魔理沙「まぁでも」

魔理沙は乱れた帽子を直し、期待してるよと笑った。

61:2014/01/10(金) 23:22:44 ID:
男「というわけで実戦部隊にいれてください」

紫さんに土下座をして頼んでみる。

部屋に入ってきていきなり土下座をした俺に紫さんは目を丸くしていたが、少し悩んで、わかったわ、と許可してくれた。

紫「でも、霊夢と一緒にね」

………え

男「魔理沙と一緒がいいのですが」

紫「駄目、霊夢なら安全だから」

駄目だ、それじゃあ魔理沙を助けれない。何かあったら駄目なんだ。明日には傷だらけじゃなくて血だらけで帰ってくるかもしれない、そもそも帰ってこないかもしれないのだ。

男「どうにかならないのですか?」

紫「駄目」

なぜだ。俺は時間を戻せる拳銃を持っているとはいえ、ただの人間。そこまでの価値はないはずだ。

なのに紫さんはやたら過保護に俺を守ってくる。俺の意思だと思っても実は紫さんの手のひらの上。そんな気がしてならない。

62:2014/01/10(金) 23:33:26 ID:
なんども頼んでみたものの帰ってきた答えは駄目の二文字のみ。

なら魔理沙と霊夢を同じ部隊に、という提案も同じく駄目の二文字で返された。

どうすればいいのだろうか。守ってやると言っておきながら、守ることができずに霊夢に守られる。

俺は滑稽だ。四季さんを守ると誓い、魔理沙を守ると誓い。その約束を果たす事ができずただ守られるだけだなんて。

男「どうすりゃいいんだよ」

萃香「どうにもこうにも自分を変えろとしかいいようがないね」

いつの間にか萃香が立っていた。酒を飲み干しながらあきれたように俺を見る。

萃香「できない約束は嘘と同じだよ。私は嘘が大嫌いでね」

男「でも」

萃香「話は最後まで聞きな。それでもできない約束はできる約束にかえれるんだよ。庭にでな。稽古つけてあげるよ」

男「………本当か?」

萃香「嘘は嫌いっていっただろう。神や仏なんかに誓わないが私は一度言ったことは果たす。さっさと表でな」

男「ありがとう、ありがとうな」

萃香「ただの私が嫌いなものを見るのがいやだったからそれをどうにかしようとしただけだ。礼を言われることじゃない」」

63:2014/01/10(金) 23:41:56 ID:
空中に浮いて、急激に地面にたたきつけられる。

肺の中の酸素が搾り出されからっぽになった肺は、空気を求め痙攣を起こす。

庭で萃香がやったことは本気の組み手。萃香は手加減してるのだろうがそれでも手も足もでない。

掴もうとした瞬間には空へ浮き地面にたたき付けられ、突こうとしたときにはその腕をとられ投げられる。

怪力だけではない。確かな強さを萃香は持っていた。

男「まだまだっ」

萃香「粋はいいが、そんなもんどうだっていい」

萃香が懐に入って腹に掌底をいれる。ただの掌底なのに車がぶつかったような衝撃を受け、後ろに吹っ飛び地面を転がった。

男「ぐ、根性根性!!」

起き上がりがむしゃらにどこかつかめればと突進をする。

萃香「体は熱く、心は冷たく」

その勢いを利用され地面に叩きつけられる。

立ち上がろうとしたとき寸止めで顔の掌底を入れられた。

萃香「いったん終了だよ」

66:2014/01/11(土) 21:48:52 ID:
>>65 ありがとうございます。

萃香「今のままじゃまず勝てない。素手ならともかくほとんどの人間は武器もち能力もちだからね。勝とうとすれば奇襲とかしなきゃ無理」

息を整えるために少し休憩して、萃香に俺の実力はどうかと聞いてみると予想通りの言葉が返ってきた。

そりゃそうだ、俺は萃香に何をやっても当てることすらできなかったのだから。

男「やっぱり駄目か」

萃香「駄目だね。さて、と。すこーし本気だしてやるよ。十秒間私から攻めるから、耐え切ったらそっちの勝ち。気絶したら負け。いくよ」

返事もできないまま萃香が歩いてくる。萃香がこっちに到着するまで5秒ほど。ということは俺はあと5秒耐えればいい。全力で逃げればなんとかなるかもしれないが萃香は逃げるなんて卑怯なことを許してくれるのだろうか。

悩んでいる間に萃香がすぐそこまで近づいていた、あと一歩で拳が届く。ぜんぜん力を使ってない状態であれだったのだから少し本気を出した萃香に当てれるわけがない。なら防御をしてでも時間を稼がなければ。そう思い痛みに備えて構える。

萃香「不正解」

そういって萃香は大きく振りかぶった。軌道がわかりやすいテレフォンパンチ。両手で当たるであろう場所を守る。

パンッ

破裂音が聞こえた。それと同時に衝撃。

防御なんて関係なかった。衝撃が体を振動させ内臓、脳を揺らす。

顎を殴られ脳が揺れるなんてそんな生易しいものではない。衝撃で直に脳を揺らされた。

あ、落ちる。そう思ったときには重力に従い倒れていた。

67:2014/01/11(土) 22:28:46 ID:
魔理沙「まったく無茶するよな。お前もさ」

目を覚ましたら一番最初に見えたのは魔理沙の笑った顔。頭の下に何かやわらかいものがある。上に見える顔。下の柔らかい感触。となると今俺は膝枕というものをされているのだろうか。伝説で聞いていたのだが本当に実在するとは。

男「あれ、何なんだよ」

破裂音と共に全身に伝わった衝撃。殴りや蹴りなんかじゃない。

魔理沙「空気を思いっきり集めてそれを破裂させたんだよ。風船爆弾みたいな」

さすが鬼。予想外の攻撃をしてきたな。

少し本気を出してあれなら100%中の100%ならどうなるのだろうか。おそらくあたり一帯が吹き飛ぶ。

男「体も痛いけど、なにより内臓が痛い」

魔理沙「おうおう休め安め」

そういって魔理沙が乱暴に撫でてくる。さっきの仕返しだろうか。

体が痛いので動けずなすがままにされる。ひとしきり髪をぐちゃぐちゃにした後、にかっとさらに笑った。

魔理沙「紫から聞いたよ。霊夢と一緒に行動するんだって?」

男「すまん、魔理沙と一緒になれなかった」

魔理沙「いいって、私の代わりに霊夢、守ってやってくれよ。女の子なんだからさ」

男「………必要なさそうだけどなぁ」

68:2014/01/11(土) 22:49:22 ID:
魔理沙「いいや、いるさ。霊夢だって年相応の女の子なんだから、さびしいときだってあるんだよ、多分」

男「多分って………」

魔理沙「頼んだよ霊夢を。私の唯一の親友なんだ」

男「魔理沙、顔赤いぞ」

魔理沙「うるさいなぁ………慣れてないんだよ、こんなこと言うの」

魔理沙がかぶっていた帽子で顔を隠す。きれいな金色の髪が月の光を反射して輝いた。

男「うまくできるかわからないけど任せとけ。駄目だったらすまん」

魔理沙「そこは嘘でも絶対大丈夫だから任せとけぐらい言えよな。まぁ、でもありがとうな。男」

魔理沙の少し見えてる耳が赤く染まる。今この帽子をどけるとどれだけ魔理沙は顔を赤くしてるのだろうか。なんてことを考えると少しおかしくて笑えて来た。

魔理沙「わ、笑うなよ。男とか香霖ぐらいしか慣れてるやついないんだよ。しかもあってすぐのやつにこんな話するのって、なんか凄い………照れるし恥ずかしい」

しゃべり方や立ち振る舞いは男っぽいけどやっぱり魔理沙は女の子なのだなぁと思った。

そういえば香霖って誰なんだろうか。もしかして魔理沙の彼氏かなにかだろうか。

………ロリコン?

69:2014/01/11(土) 23:12:19 ID:
魔理沙「くそう、恥ずかしいから私このことを見直せさせてやる」

男「別になめたり見くびったりはしてないけどな」

魔理沙が帽子をかぶりなおしポケットをあさって瓶を取り出した。魔理沙の顔はまだ赤く、それが可愛らしかったので再び笑ってしまった。

魔理沙「笑うなって、行くぞ、みてろよ?」

魔理沙が瓶の中身、薄暗くてよく見えかったがそれはどうやら金平糖らしい。色とりどりの星のようなそれを数個ほど取り出すとそれを空に向かって投げた。

小さな星のような金平糖は光を放ち次第に形が星になる。それは光の帯を放ちながら空へ向かって飛んでいった。

逆流星とでも言えばいいのだろうか、光はどんどん上っていく、そしてひときわ大きな光を放って消えた。

男「おぉ、すげぇ」

関心して思わず拍手をする。俺はてっきりドヤ顔でもしてるのかと思っていたが、魔理沙は少し引きつった顔をしていた。

男「どうした」

魔理沙「やばい、結界あること忘れて結界にぶつけちまった。霊夢が怒る。凄く」

どたどたと走る音が聞こえてきた。

70:2014/01/11(土) 23:19:03 ID:
男「じゃあな魔理沙!!」

膝枕が惜しかったが霊夢は怖い。すばやく立ち上がろうとすると魔理沙が押さえつけて膝に俺の頭を戻した。

魔理沙「おい! 私のこと守るって言っただろ!!」

男「無理!」

魔理沙「逃がさん!」

魔理沙を振りほどこうと力をこめてみるものの、それよりも強い力で抑え込まれる。この細い腕のどこにそんな力が。もしかしてこれが火事場の馬鹿力ってやつだろうか。

霊夢「あんたたち!!」

魔理沙 男「ひぃ!!」

霊夢が怒鳴りながら走ってきた。気のせいか後ろに龍やら虎やら鬼が見える気がする。

男「逃げるぞ魔理沙!」

魔理沙「おう!」

起き上がって魔理沙の手を掴み走り出す。

でも一緒に住んでるんだから逃げ切ってもいずれ怒られるよなぁと気づいたのは瞬間移動してきた霊夢に二人仲良く取り押さえられてからだった。

71:2014/01/12(日) 09:30:40 ID:
霊夢にたっぷり絞られて意気消沈して部屋から出るとすでに時間は完全に夜。

そういや夕飯はどこで食べればいいのかを魔理沙に聞いてみるとどうやら大きな部屋があってそこに集まり食べるらしい。

せっかくなので魔理沙、霊夢とそこへ向かう。

霊夢は道中もキレていたが、それを右から左へ聞き流し今日の夕飯はなんだろなーと思い馳せる。

博麗神社の大部屋へは離れの中央。そういえばなぜ霊夢だけしか住んでいないはずなのになぜこんなに離れは大きいのだろうかと聞いたところ、萃香が立て直したらしい。恐るべき鬼の力。

大部屋の障子を開けると中には小町と四季さんがいた。食べているメニューは焼き魚。そういえば幻想郷には海がないから川魚しか存在しないのだったか。

肉を食べたいとは思うが現在買うことはできないので自分で獲ってくるしかないのか。それに獲ったとしてもさばくことができないしな。

魔理沙「はぁ、おなかすいたぜ。ぺこぺこだ」

霊夢「私も誰かさんのせいでおなかがすいてるのよ」

魔理沙「いいじゃないか、食事前の良い運動できて」

霊夢「ていや」

霊夢が魔理沙のほっぺたを掴みぐにょぐにょと引っ張る。驚くほどに伸びるというか痛そうだ。魔理沙は「いひゃいひゃい」と言って抵抗したが、思いっきり伸ばされ涙目になって解放された。

男「魔理沙。ほっぺた伸びてるぞ」

魔理沙「伸びてねぇよう」

72:2014/01/12(日) 09:47:43 ID:
小町「そんなところで面白いことしてないでさっさと入ってしめてくれよ。寒い」

男「すまん」

障子を閉めて用意してあった料理の前に座る。この料理はだれがつくったのだろうか。焼き魚に味噌汁にご飯。量はあまり多くはないがしかたない。そういう時だ。

「いただきます」

手を合わせ箸を取り魚をおかずにご飯を食べる。

ぱりぱりになった皮に塩気のきいた身がおいしい。味噌汁も大根と油揚げがおいしい。本当誰が作ったのだろうか。

しかし川魚なので小さくすぐに食べ終えてしまった。ちょっと物足りなさを感じるが寝てしまえばなんてことない。

早く風呂に入ろう。

73:2014/01/12(日) 10:01:11 ID:
博麗神社には温泉が沸いている。珍しいことこの上ないが、広い温泉にひとりっきりというのはなかなかの贅沢で良い。

男「ふへぇ、ごくらくごくらく。温泉を独占びばのんのん」

ガラッ

男「へ?」

誰かが入ってきた。もしかして俺が入っていることに気づいてないのか。やばい、このままでは鉢合わせしてしまう!!

亡霊男「かわいい女の子かと思ったか!? 残念だな!!! 亡霊男さ!!」

男「畜生期待なんてしてなかったんだからね!!」

亡霊男だった。こいつ亡霊なのに風呂に入る必要性あるのか?

亡霊男は手にお猪口二個と日本酒をなぜか瓶で持ってきていた。

亡霊男「男なら飲め」

お猪口に日本酒を注ぎ渡してくる。二十歳は超えているから何の問題もない。一口で飲んでみる。辛口だった、つまみがほしい。

亡霊男のほうを見るとすでに三杯飲んでいた。わんこそばかよ。

亡霊男「なんだ? 亡霊は幽霊と違ってもの食べたりできるんだぞ?」

初めて知った。亡霊と幽霊は同じようなものかと思っていたが本人によるとちくわとちくわぶぐらい違うらしい。この例だとよくわからないがとにかく違うらしい。

74:2014/01/12(日) 10:20:06 ID:
男「それでどうしたんだ?」

亡霊男「男同士親睦を深めようと思ってきただけだが?」

男「え、もしかしてそっち系の方ですか?」

亡霊男「祟るぞ」

祟られるのは嫌なので素直に謝っておく。

亡霊男「まぁ、あれだ。人生の卒業者として人生在校生に深良い話をしてやろうと思ってな」

男「間違ってはないけど人生の卒業者って言い方なんか嫌だな」

亡霊男「心して聞くように。まず俺が言いたいことはだな。絶対死ぬな」

男「お、おう」

そりゃ死にたくない。死んだらもとの世界に戻れないし。

亡霊男「そんな死ぬわけねぇとか思ってると思うが、好きな女できたら変わるぞ。死んでもいいとおもってしまうぞ。そして実際に死んだ大ばか者が目の前にいるぞ」

男「………」

思い出せば恋なんてしたことがない。かわいいなとは思ったりするが告白するわけでもなく、告白されるわけでもなく。色恋に関しては何もない道を歩んできた。

亡霊男の目は真剣だ。

俺は、誰かを自分の命を捨ててまで愛したいと思うのだろうか。

75:2014/01/12(日) 10:31:29 ID:
男「ってことは亡霊男は紫のために死んだのか?」

亡霊男「まぁっていうか自分のためかあれは。人間と妖怪だと絶望的なまでに寿命が違うだろ。だから亡霊になった」

男「すげーなおい」

にやりと笑ってドヤ顔をする亡霊男。別にほめたわけではないのだが。

それにしても結局外に出るためなんだから誰かを愛したりはしないと思う。

もしかしたら四季さんかなぁと思ったりしたがおそらく感謝であって恋ではない。

亡霊男「まぁ、飲め飲め。飲んで飲まれてまた飲んで~ってな」

男「そこまで飲まん」

亡霊男「つれねぇの」

それからはたわいのないボーイズトークをしてのぼせるまで酒を飲みながら温泉につかった。

76:2014/01/13(月) 00:53:20 ID:
次の日、俺は日が出る前に目が覚めた。薄い布団だから寒さを耐えられなかったのではない。恐怖からだ。昨日あれだけ見栄を張ったというのに悪夢を見て目を覚ます。俺が死に、魔理沙が死に、皆死ぬ。情けなさ過ぎてため息が出た。できる事ならこれ自体が悪夢だったらよかったのに。そう思い自分を殴りつけるが痛みが現実を嫌というほどに伝えてくる。震えもとまらない。

違う俺はバカだ。これが夢だなんて思ってはいけない。そんなことで魔理沙や四季さんを守るだなんて思ってはいけない。駄目なんだ。

立つことを拒絶する足を引きずって無様に畳の上を這う。

襖を開けると薄暗い闇。肌を切るような冷たい空気。音が消えたかのような静寂だけがここにあった。

誰かが来る前に震えをとめなければ俺は笑われるだろう。少女以下の女々しい野郎だと。間違いじゃない。命をかけてまで戦おうとする少女以上の価値があるだなんて俺にはとても言えない。

縁側に座り考える。この銃があれば誰かは救える。ただし8回だけ。その間に俺は死んではいけない。

そうだ、別に戦わなくても良い。ちゃんとしたタイミングでこの銃を使えば良いんだ。

そう自分に言い聞かせ震えを少しおさめる。

男「そうだよ。戦うだけじゃないんだ」

銃と共にもらったホルスターから鈍い白の回転式拳銃を抜く。装弾数8。時に逆らう弾丸は8つ。すべての薬室に弾丸が詰まっている。

銃弾を確認しホルスターにしまい少し頭を出した日を眺めた。

77:2014/01/13(月) 00:54:18 ID:
魔理沙「おう、早いな。じーさんみたいだ」

ひたすら考え事をして時間をつぶしていると隣の部屋から魔理沙が出てきた。気付かなかったがとなりの部屋には魔理沙がいたらしい。

男「うるせーな。魔理沙ばあさんや」

嘘だ。寝れたのは酒のおかげだ。素面だとおそらく寝れなかったと思う。

もちろん弱音は口に出さない。口端をあげ笑いの表情を作る。

男「今日も行くんだよな。体は大丈夫なのか?」

魔理沙「魔法使い舐めんなって、あれぐらいすぐ治る」

嘘だということは気付いている。袖から見える傷口はまだ痛々しい。

彼女も俺と同じように偽って笑っているのだろう。

ならば俺がすることは共に笑うこと。

普通の人間である俺には、そうすることしかできない。

78:2014/01/13(月) 00:54:54 ID:
魔理沙「なあなあ。外の世界ってどんなんなんだ?」

男「皆それ聞くな。そんなに興味あるのか?」

魔理沙「あぁ。産まれて死ぬまで私はここにいるからな。話に聞いた海の向こうだなんて知らないし、海も見たことない。知らないものをあこがれるのは当たり前だろ?」

男「………」

魔理沙「おいおい。そんな顔するなよ。別にいいんだよ私はここで一生を過ごして。霊夢がいて、アリスがいて、皆がいる。それ以上は私には過ぎる。あんまり大きなもんだと手の上に乗らないだろ?」

ひらひらと小さな手を振る。

男「えっとな。外の世界は―――」

俺が知ってる凄いこと面白いことを片っ端から伝える。魔理沙はそれにうなずいたり、歓声を上げたり、相槌を打ったりした。

まるで御伽噺を聞く子供のような反応が面白く、つい誇張して話してしまう。

キラキラと輝く星のような瞳が俺を見つめる。

そういえばあそこの子供たちも同じ目をしていた。

なぁ、魔理沙。別に手の上に乗らないものでも背負えばなんとかなるだろう?

79:2014/01/13(月) 00:55:29 ID:
魔理沙「なぁなぁ男」

魔理沙がぶらりと背中にしがみついてくる。まるで妹ができたみたいだ。

男「なんだ?」

魔理沙「もし外に戻ったらさ。紫に取りに行かせるから何かくれないか?」

男「そうだな。面白いもん用意しとくよ」

魔理沙「へへ、やった」

ぶら下がられたままだとなかなか首が苦しいので背負いなおし、おんぶをする。

魔理沙は小さいので軽い。ちゃんと食べているのだろうかと心配になる。

魔理沙「よーし、朝ごはんを食べに行くぞ男号!」

男「はいはい、了解ですよっと」

廊下を走り大部屋へと向かう。

朝ごはんは元気の源。腹がすいては戦ができないしもりもり食べよう。

働かざるもの食うべからずだが、今日から働くのでその前借りぐらいいいだろう。

話によると魔理沙が取ってきたキノコが朝ごはんになっているらしい。

それは楽しみだとうきうき気分で大部屋の障子を開ける。

80:2014/01/13(月) 00:58:21 ID:
亡霊男「おっす、早いな」

すると亡霊男が食事を並べていた。エプロン装備からみるに、どうやら食事を作っていたのは亡霊男らしい。そういえば当たり前に考えて一番暇なのが亡霊男か橙だからな。橙は見た目で判断して悪いが料理作れそうに見えないし。

亡霊男「なんだ、男に遊んでもらってるのか?」

魔理沙「いや、私が男で遊んでやってるんだ」

失敬な。少女に遊んでもらうほどおちぶれてないやい。ロリコンじゃねぇし。

魔理沙が俺の背中から飛び降り朝食へ向かう。メニューはキノコご飯に焼きキノコ、ナメコの味噌汁。申し訳程度の漬物以外キノコで統一されていた。

これはいくらなんでもやりすぎだろう。そう思うが、満面の笑みの魔理沙がいるので口には出せずそのまま飲み込んだ。

紫「ふわぁ。グッモーニング。良い朝ね。おもわず二度寝したくなっちゃったわ」

紫があくびをしながら入ってきた、いつもの紫の服ではなく寝巻き。しかもナイトキャップまでかぶっていた。

亡霊男「現在気温十度ないぞ」

紫「どうりでやたら寒いわけね。藍と寝なきゃ凍死してたかも」

亡霊男「え、なにそれ俺も寝たい、浮気とかそういうんじゃないけど藍の尻尾は凄い魅力的だからな。もふもふ的な意味で」

藍さん、というとあの背中のふさふさ尻尾か。たしかに気持ちよさそうではあるが本人の許可なく触る勇気は今の俺にはない。

うっぷ、いやなもん思い出しちまった。忘れよう忘れよう、ご飯食べれなくなるから。

81:2014/01/13(月) 21:53:46 ID:
~俯瞰視点~

人にして神、神にして人、されどそのどちらでもない少女、東風谷早苗はどこから聞こえた聞きなれた声によって目が覚めた。

少し開いた襖の向こうには自分が仕えている二柱の神が何か話して―――言い争っているのに早苗は気付いた。

言い争っているのは日常的なこと。早苗は布団から出ると寒いのですがとボヤキながら暖かい布団の中から出る。

やれやれとため息をつきながら障子に手をかけ、そこで動きが止まった。

聞こえてくる内容。それは自分のことに関してだった。

争っている理由が自分のことで早苗は胸がどうしようもなく痛んだ。自分なんかいなければなんて思いが胸を刺す。

神奈子「相手にはあの霊夢や萃香もいるんだ! 早苗があいつらと戦えると思うのか! 優しい子なんだぞ!!」

普段無口であまり感情を表に出さない神奈子が声を荒げ叫ぶ。

諏訪子「だからって守るというのか。神は神のためでなく人のためにあるべきだろう。あの子だってそれを知ってるはずだし、それに優しい早苗が人を見捨てて一人おけるとでも? 自分の代わりに誰かが死んでそれをなんてことなしに思えるような子か? いや違う。無理やり私たちが守ったとしてその事実は早苗の心に刺さる棘となるだろう。それはいずれ早苗の心を腐らせる」

対する諏訪子はいつもの無邪気な姿ではなく、神奈子にただ淡々と反論を述べていた。その目に灯る意思は強くかつて自分を、自分の国を滅ぼした神奈子に相対しても揺らぐことは微塵となかった。

優しさと優しさ。ぶつかるこの間に早苗が入れるものだろうか。いや、入れない。どちらの味方もできず敵にもなれない早苗はただひたすらにどんどん深くなる自らの胸の痛みに耐えることしかできなかった。

82:2014/01/13(月) 22:12:32 ID:
月兎の青年というとみすちーの旦那のことか
みすちーはどうなったんだろ

83:2014/01/13(月) 22:16:58 ID:
―――やめてください

その言葉が言えるのならどれだけ楽なことだろう。今早苗の口から出るものはあもいも変わらず全てかすれた吐息になる。

心の中では何度も彼女は叫んだ。それでも現実は喘息じみた荒い呼吸が出るだけだ。

神奈子「守ってやるさ私が!! 全て!!」

諏訪子「全て私から奪ったお前が私の子を守るだと!? お前は次は早苗から全てを奪おうとするのか!」

今まで淡々としていた諏訪子が目を見開き吼える。

諏訪子は許せなかった。神奈子の語る理想が。神奈子が理想を語るということが。

―――自分はかつて王として君臨し、王として滅びた。ゆえに私は理想という甘い劇薬の味を知っている。だから許せない。唯一無二の友が大切なわが子に毒を盛ろうとしている事が許せない。

神奈子「じゃあ親なら守って見せろ!!」

諏訪子「――――――っ」

諏訪子の目がさらに見開かれ、そして閉じ下を向いた。

84:2014/01/13(月) 22:21:52 ID:
今自分たちがここにいるということは、早苗を守れなかった事実の証明。

自分たちのせいで早苗は友を、思い出を、家族を、生まれて培ってきた人間としての東風谷早苗を失ったのだ。

一度殺してしまった早苗をもう一度死なせることになるということはわかっている。だとしても神奈子の言っていることが正しいとは思わない。神となったならせめて神としての道を歩ませたい。それが正しいことかは諏訪子はわからない。されどもう人として歩めないのは確かなことだ。

諏訪子「私たちはもう早苗を救えなかっただろう? それに神は、早苗は守られちゃいけないのさ………」

悲痛な思い。王として滅びた国を思った自分。母として早苗を殺してしまった自分。そんな思いが意思とは関係なく諏訪子の口から零れ落ちた。

神奈子「っ!!」

―――パンッ

諏訪子の頬が赤く染められる。

しかし痛そうな顔をしていたのは神奈子の方だった。

神奈子「私、私は………」

神奈子はそう呟き、震え、そして障子を開け外へ飛び出していった。

85:2014/01/13(月) 22:34:56 ID:
早苗は思わず障子を開け、神奈子の名を叫んだ。しかし神奈子を捕まえるには自分の腕は絶望的なまでに短く、走り去る神奈子を捕まえることはできない。

―――ズキンッ

胸がさらに痛む。

その痛みがとても辛く立てなくなり早苗の目に涙が滲んだ。

諏訪子「早苗………」

悲しげに自分の名を呼ぶ敬愛する神の姿がぼやけて見えない。袖で拭けども拭けども涙は自分の意思とは無関係にあふれ出る。それが情けなくてさらに涙がでた。

神は泣かない。そんなことを諏訪子が昔言っていたことを思い出す。ならば今こうして泣いてしまっている自分はなんなのだろうか。

―――人と神のどちらでもない道を歩むから神奈子様と諏訪子様が喧嘩する。

自分のせいじゃないか。自分が悪いのではないか。そう思うたび先ほどから胸をえぐる痛みは深くなっていく。

―――ならば私は神として生きよう。涙を流すのはこれが最後だ。

早苗「………諏訪子様」

涙を流しながら立ち上がる。

神ならば奇跡を

愛しき人間に奇跡を

勝利という奇跡を!!

86:2014/01/13(月) 22:51:13 ID:
流れ出る涙は消え、胸の痛みも消える。

少女は変わる、完全なる神に。

―――自分のためではなく人と敬愛する二柱に我が身を捧げよう。

理想という毒を飲み干し、自分に残る人間を消し去る。

諏訪子「すまないね、早苗」

早苗「いいえ。私のせいですから。神奈子様を迎えに言って来ますね」

神奈子が去った障子のその先へ足を伸ばす。

踏むは地ではなく風。

渦巻く風が早苗の体を持ち上げ運んで行く。完全なる風の支配。以前の早苗ならば奇跡を使わなければできなかっただろう。

しかし早苗は今当たり前のように風に乗り飛んでいる。

呼吸をするのと同様に、いやそれ以上に当たり前として早苗は認識していた。

―――諏訪子様が地、神奈子様が天というならば、自分は地を走り、天を飛ぶ風になろう。

そう少女は心にきめ、霧を掻き分け空を飛ぶ。

少女が見た幻想郷の原風景は晴れ渡っていた。

87:2014/01/14(火) 11:53:34 ID:
諏訪子が大人だ………

89:2014/01/19(日) 10:06:49 ID:
妖精はあまり賢くないが、何も考えてないかと聞かれれば答えはいいえ。

いっそ悩まないくらいバカだったらよかったのに。そう大妖精は思った。

いつからだろうかまた明日という約束が果たせなくなってきたのは。

人里が騒がしくなって、妖怪たちが騒がしくなって、それからだろうか。

知ってのとおり妖精はやられても復活する。

ゆえに死という概念がわからなかった。

いなくなってもまた明日会える。

そんな軽さをもって毎日を生きていたはずだった。

なのに

大妖精「なんで………?」

昨日遊んだはずの友達がこない。やられたわけじゃないはずだ。

こんなことが昨日も昨日も、そのまた昨日、両手両足の指を使っても足りないくらいの昨日からそんなことが起きていた。

そして明日の明日のそのまた明日、両手両足の指を使っても足りないくらいの明日にも同じことが起きるのだろう。

自分たちが何かしただろうか。いたずらはする。しかしそれでも他愛もないいたずらだけのはずだ。三月精なんかの力を持った妖精ならば人間を危機に陥れたこともあるだろう。しかしそれが原因とするならば私たちが巻き込まれる理由がない。

それになぜ戻ってこないのか。妖精の中では賢いほうだと思っているが、悩み続けても一向に答えは出ない。

90:2014/01/19(日) 10:30:11 ID:
捕まったのだろうかとも考えた、捕まえたところで得はないし、いなくなって戻ってくる妖精もいるはずだからそれはない。

思考がぐるぐる回って頭が痛くなって、考えるのをやめようとしたが、そのたび頬を軽く叩いて気合を入れなおす。

大「あ、そうだ。チルノちゃん」

自分の大親友であるチルノを思い出す。妖精の中でもひときわ力を持った彼女ならなんとかしてくれるかもしれない。それに季節は冬。なおのこと良い。

紅魔館の前にある湖へと向かう。ワープを使ってもいいが、行きたい場所と違うところにでるときがあるのであまり使いたくはない。

ぱたぱたと羽を動かし飛んでいると大妖精はあることに気付いた。

枯れた木が多い。

冬だから枯れていることは当たり前だろうが、自然そのものである妖精がみれば木が生きてるか死んでいるかの区別は一目でわかる。枯れた木というのは死んだ木の事。そういった意味での枯れた木がやけに目立つ。

大「………」

この枯れた木から産まれた妖精はもういない。

これが死なのだろうか。

初めて直面した永遠の別れというものに戸惑う。

初めて胸を襲う辛くて辛くて涙も枯れ果てそうな悲しみ。胸がなくなったのかと思うほどのぽっかりと空いた空虚、されどずきずきとした痛みだけはある。

泣いていた。泣き叫んでいた。

いくら泣き叫んでも戻ってこないと知りながら、両目から流れる悲しみは止めることができない。

91:2014/01/19(日) 10:36:50 ID:
泣いて泣いて、体にある水分が全てなくなったのではないかと思うほど涙を流しても空虚から沸いてくる痛みと悲しみはなくならない。

なぜなのだろうか。

なぜいなくなったのだろうか。

泣きながらごっちゃになった頭で考えても何もでない。

もし自分が凄い賢ければなにかできたのかもしれない。

凄い賢いわけでもない。凄い強いわけでもない。

そんな自分が悔しくて悔しくて、うずくまって泣く。

森の中にひどく悲しみをはらんだ声が響いて

そして消えていった。

92:2014/01/19(日) 10:59:51 ID:
涙が枯れ果てた。

涙を流そうとしても嗚咽しかでてこない。

そのうち喉もつぶれて声が出なくなった。

大妖精は立ち上がりチルノのところへふらふらと羽を動かし飛んだ。

何も考えなかった。

これ以上考えると自分は壊れてしまう。

枯れた木も見たくない。

自分の弱さに逃げることの何がいけないのか。

弱いものは何も起こすことができないのだ。

そうあきらめに近い感情が大妖精を支配する。

村人1「――――」

村人2「――――」

人間がいた。おもわず隠れる。

何をしているのだろうかと木の上まで行き、様子を見る

93:2014/01/20(月) 11:09:51 ID:
ぼそぼそとしか会話が聞こえない。

大妖精は耳を澄まし、人間が何を話しているかを聞き取ろうとする。

意識を集中し、人間達の音を聞き取ると、断片的な単語が聞こえてきた。

村人1「妖精―――狩る―――」

村人2「―――魔力―――電池――だから」

妖精、狩る、魔力、電池。何をしゃべっているかは分からないが、妖精狩りであることは間違いなさそうだ。

そう判断し、大妖精は音を立てないように近くにあった常緑樹の葉の中へと隠れる。

なぜ捕まった妖精が消えることになるかは分からない。分からないからこそ怖い。

もし自分がここで人間を退治しておけば妖精を助けることが出来るというのはわかっている。

それでも足が、羽が、体中が震えて動くことが出来ない。

大妖精は必死に妖精が見つかりませんようにと祈る。

妖精「ふんふんふーん、あははー」パタパタ

しかしその祈りは叶わなかった。

94:2014/01/20(月) 11:22:58 ID:
あの妖精は見たことがある。友人とまではいかないが、何度か話したことがある。

どうしよう。

いや、どうしようもない。

村人1「―――見つけた」

村人2「――捕まえる」

人間が妖精に近づいていく。駄目と叫びそうになった口に手で覆う。

近づいていく人間に妖精は気付かない。

妖精に人間がいるから逃げろと言えば、妖精は逃げれるのかもしれない。

だけど

大妖精「………う………うぅ」

それでも我が身が惜しい。

他人を見殺しに出来るほど冷酷ではないが、助けに行けるほどの勇気もない。

ごめんなさいと心の中で何度言ったことだろうか。時間は流れてゆき。人間は近づいていく。

卑怯者と罵られるだろうか。自分はそれを否定できはしない。

95:2014/01/20(月) 11:47:52 ID:
―――助けて。チルノちゃん。

そう、心の中で大親友の名前を呼ぶくせに、自分は何も出来ないのだから、否定なんて出来るわけない。

村人1「―――」

村人2「―――」

人間が懐から瓶を取り出し、口を妖精に向けた。

そしてぼそぼそと何かつぶやく。

妖精「ふぇ?」

それは一瞬だった。まるで紅ひさごのように妖精の体を吸い込んでいった。

大妖精は驚いて体を動かしてしまい、その衝撃でぺきっという音を立て枝が折れた。

村人1「―――!」

人間が大妖精が隠れている木を見る。

大妖精は思わずそこから飛び出し賢明に羽ばたく。

後ろを振り向くと人間が瓶の口を向けている。

―――危ないっ

世界がスローになって、またたいて消えた。

96:2014/01/20(月) 14:36:41 ID:
大妖精「はぁ………はぁ………」

人間が呪文を唱えた瞬間、大妖精は瞬間移動を使った。

成功し、今は湖の近くにいる。

荒くなった息を落ち着けるために何度か深呼吸をする。

大妖精「………そうだ、チルノちゃん」

チルノのところへ行けば人間から守ってくれるかもしれない。

そう思い大妖精は今だ震える体を引きずって湖まで向かった。

97:2014/01/20(月) 15:15:22 ID:
チルノ「おぉ、大ちゃんか」

冬になり、チルノは大きくなった。具体的には身長が150ほどになり、髪の長さが腰ぐらいまである。

そんな大人びた外見でも、いつものように無邪気な笑顔をしている彼女が大妖精は好きだった。

現在チルノは夏のときより比べ物にならないぐらいの力を持っている。チルノの持つ自然は、氷、冷気、温度を奪っていくもの。現在季節は冬。巨大な冷気を幻想郷に振りまくそんな季節がチルノに力を与えていた。

チルノ「どうしたんだ大ちゃん。顔色が悪いぞ。もしかして風邪か? 風邪なら良い薬草が、って今は咲いてなかったなぁ。残念」

そう気遣ってくれるチルノを大妖精はうれしく思う。

それと同時に、こんな彼女に守ってもらおうとしている浅ましい自分が嫌になる。

チルノ「ど、どうしたんだ、大ちゃん! な、なにか悪かったのか!?」

大妖精「う、ううん。違うよ」

冷気を振り撒くのに、暖かい言葉をかけてくるチルノに大妖精は思わず涙した。

涙は枯れ果てたと思った。しかし胸にあいた穴にチルノのやさしさが流れ込んで、そのせいで枯れた涙がまた出てくる。

思わず大妖精は自分より頭二つ分ほど差があるチルノに抱きついた。

チルノ「わっ」

いきなり抱きついてきた大妖精にチルノは驚いたが、すぐに笑って大妖精の頭を撫でた。

98:2014/01/20(月) 15:33:52 ID:
大妖精「ありがとう、チルノちゃん」

チルノ「大丈夫か? 冷たかっただろう?」

大妖精「ううん」

―――暖かかった。幸せな気持ちになれた。ありがとうチルノちゃん。

そう言うとチルノは頬をかきながら

チルノ「凍死寸前なんじゃ」

と、言った。

その言葉に思わず笑いながらぽかぽかとチルノを叩く。

チルノが痛い痛いと笑いながら頭を撫でてくるので大妖精はにへらと春の陽気にさそわれ昼寝をしているような顔をして微笑む。

チルノ「でも、本当にどうしたんだ?」

大妖精「あ、えっと」

大妖精はチルノにさっき起きたことを話した。

99:2014/01/20(月) 15:43:10 ID:
妖精が人間に狩られているということをチルノは知らないらしく、憤って、あたりに冷気を撒き散らした。

チルノ「なんでだ!! なんであたいたちを!!」

大妖精「ち、チルノちゃん」

大妖精は冷たいよ、と言おうとしたが、チルノからは見えないところに人間の姿を捉え、固まる。

チルノ「どうした、大ちゃん」

チルノは今だ冷気を出しながらもそう聞く。大妖精は人間がいるほうを指差して

大妖精「あ、あ、あれ」

つっかえながら人間の存在をチルノへ伝えた。

チルノ「あれだな!!」

チルノは指を指した方向へ向き、人間を見つけ、倒すべく冷気を飛ばした。

100:2014/01/20(月) 15:50:37 ID:
―――これで、大丈夫だね。

そう思ったが不思議と不安がなくならない。

さっき妖精を吸い込んだ光景。

あれがチルノを吸い込まないとも限らない。

チルノの冷気が人間を凍らそうと襲い掛かるがそれでも一瞬で動きをすべて奪えるようなものでもない。

そして凍らせなければあれにチルノが吸い込まれるかもしれない。そのことにチルノは気付いておらず怒りに任せて冷気を飛ばしている。

どうすればいいのだろうか。

大妖精は悩み悩んで、そして運に任せようと思った。

きっと大丈夫。そんな楽観的な結論に至る。現実的な考えよりもそんな考えのほうが誘惑は強く、絶望的なほど、それは抗えないほどに強くなる。

がんばれチルノちゃん。そう応援する。

人間が懐から瓶を取り出し蓋を開ける。

ぼそぼそ、何かをつぶやく。

大妖精「―――っ」

101:2014/01/20(月) 16:03:01 ID:
それは反射的だった。

瓶の前まで瞬間移動をして、大きく手を広げる。

人間が驚いた顔をするが呪文はすでにとまらない。

大妖精の体が強く引き寄せられる。

―――私、ばかだなぁ。なんでこんなことしちゃったんだろう。

答えは出ている。妖精が吸い込まれるときに顔を大妖精は見てしまったからだ。驚き、絶望、恐怖。一切の正の感情を含まない表情を大妖精は直視してしまっていたからだ。

そして大好きなチルノにそんな顔をさせたくない。

そんな無意識下の思いが大妖精を動かした。

不思議な力によって大妖精の体が水のように吸い込まれていく。

振り向いて見たチルノの顔は驚きと怒りで満ちていた。

―――本当は笑っていてほしいけど、私のために怒ってくれるのならうれしいなぁ。

体のほとんどが吸い込まれ、残すは頭だけとなる。

大妖精「チルノちゃん!! またね!!」

そんな約束をして大妖精は瓶の中へ吸い込まれていった。

102:2014/01/20(月) 16:34:22 ID:
~男視点~

男「な、なんだ!?」

現在俺は霊夢について紅魔館という場所へ向かっていた。

あぁ、魔理沙についていきたかったなぁと心の中で不満を漏らしつつ空飛ぶ霊夢に必死でついていき、パキンッと何かが割れるような音がしたので、音がしたほうを向くと巨大な氷が聳え立っているのが見えた。

一瞬であんなものが出来たのか。現在森の中にいる俺から見えるということはかなりでかい。そしてあんなのを一瞬で作れるやつに出会ってしまったら霊夢でもどうなることやら。

そう心配………というか怯えたのだが、霊夢は我関せずといった表情でふわふわと空を飛んでいる。凡人なので地面を必死に這っている俺を考慮してもらいたいものなのだが、俺が襲われるたび、振り向きもせず追い払ってくれるのでなんともいえない。霊夢からすればとんだお荷物を背負ったようなものなのだろう。

気付いたが霊夢が向かってる先にあのでかい氷がある。

もしかしてあれに会いに行くのだろうか。あれが仲間だというのなら霊夢が平気な顔をしているのにも説明がつくし、俺も安心できる。

まぁ、そうであればの話なのだが。霊夢が俺を事故を装って消そうとしている可能性も否定できないし。

なんて霊夢に対して失礼なことを考えるが、俺は霊夢が苦手なのだ。話しかけるたびに罵られるか無視をされ、肩に触れた瞬間蹴り飛ばされる。いくらトイレを覗いてしまったからといってあれは不慮な事故だ。なのにこの対応。あァァァんまりだァァアァと思わず泣き叫びたくなる。

そしてへとへとになったころにやっと話に聞いていた湖………今は巨大な氷の塊が見えた。

霊夢「わぁお」

霊夢が少し目を見開いたのが見えた。ということは霊夢はこのことには関係していない。ならば相手は敵なのだろうか。

そう思った瞬間霊夢が数枚の御札を投げつけてきた。

思わず目を閉じるが衝撃はなく、目を開けると地面に御札が張り付いて透明の壁を俺の周辺に作り出していた。

103:2014/01/20(月) 16:58:16 ID:
それと同時に辺りが凍りつく。霊夢は目の前に結界の壁を受け防いだようだが、俺と霊夢以外のすべてが凍り付いていく。

霊夢「何よあんた」

チルノ「………」

一匹の少女が飛んできた。氷のような透明な羽をしていて、青いワンピースをきた少女だ。

霊夢「ちょっと無視するわけ?」

チルノ「人間………」

霊夢「はぁ?」

チルノ「人間が………」

ペキパキと音が鳴る。

それと同時に空中に無数のツララが現れた。

霊夢「最初のはたまたまってことで許してあげるけど、二回目は許さないわよ」

霊夢が御札を構え、二つの陰陽球を展開させた。それと同時にツララが襲い掛かってきた。

104:2014/01/20(月) 17:24:53 ID:
霊夢「ちっ」

霊夢が御札を放ってツララを迎撃するが無数に出てくるツララと有限の御札では分が悪いと思ったのか霊夢が高く飛び上がり陰陽球を放った。

ツララを砕いていき青い少女に向かって飛んでいく。

男「………やったか?」

砕けた氷が煙になってどうなったかがよく見えない。

チルノ「………」

霊夢「嘘でしょ………」

陰陽球が凍り付いていた。そのまま陰陽球は落下し凍った湖を割って沈んでいく。

チルノ「………」

ごぉおおおおと少女が手を向けた瞬間吹雪が起きる。それもただの吹雪ではない触れたものを凍らせる吹雪だった。

霊夢が御札を放つがすべて凍って落ちていく。

霊夢「あぁもう危ないわね」

霊夢は結界を張って吹雪を防ぐが手を出せないらしく防戦一方だった。

105:2014/01/20(月) 17:28:01 ID:
霊夢「面倒ね」

残った陰陽球を握って霊夢が言う。

何をするのだろうか、そう思ったとき霊夢が陰陽球を振りかぶって投げた。

これではまた凍らされるだけなのでは?

そしてその通りで、陰陽球はどんどん凍り付いてスピードを失っていく。

霊夢「眠っときなさい」

陰陽球が輝いて辺りに光を撒き散らした。

氷が砕け、吹雪を散らしていく。

しかしそれだけで少女には傷一つついていなかった。駄目か。そう思ったとき霊夢の姿が消えた。

どこだ!? と思ったときには終わっていた。霊夢が少女の上に現れ、そのまま踵落としをしたのだ。

少女の体が落ちていき、凍った湖の上で跳ねる。

そして何度かバウンドしたあとそのまま動かなくなった。

霊夢怖い。

106:2014/01/20(月) 17:40:26 ID:
男「おーい、大丈夫か~」

霊夢に結界を解いてもらったあと湖の上で倒れっぱなしの少女に近寄る。あんな光景をみて近寄る俺も俺だが不思議と悪い奴には見えなかった。泣いているように見えたし、いや実際は泣いてなかったけど。

つんつんと突くも反応がない。しかしこんなとこで寝かしておくのもなんなので持ち上げ、地面の上まで運ぼうとする。

男「つめたっ」

少女の体は氷のように冷たかった。死体とかの比喩じゃなくて本当に冷たい。

やべえと思いながら走って凍ってない地面があるとこまで運ぶ。

霊夢「物好きね」

男「うるせいやい。というか知り合いなのか? さっき話してたけど」

霊夢「知り合いよ。チルノ。氷の妖精。妖精の中では強いわよ。冬は特に」

男「へぇ、魔理沙よりちょっと大きいのに妖精なのか」

妖精ってなんかティンカーベルみたいに小さなイメージあったんだけど。

地面にチルノを寝かして近くに座る。

霊夢「何? 行くわよ」

男「いや、寝てるときに襲われたら大変だろ?」

霊夢「………はぁ。物好きね、本当」

107:2014/01/20(月) 17:47:58 ID:
そういいながらも霊夢は近くに座った。

男「なるほどツンデレか」

霊夢「くたばりなさい」

ごんっと音がして後ろから陰陽球がぶつかってきた。どうやら湖に落ちていった陰陽球を回収したらしい。

距離が離れていても操れるものなんだなぁと関心しつつ、普段霊夢にやられる痛みの二倍ぐらいの痛みに涙目になる。しかしコートの中では泣かないもん。いや、コートどこだよって突っ込まれても返せないんだが。

男「っていうかよく勝てたな」

吹雪とか瞬間凍結とか常識に外れたことをやっていたのに。いや空中飛んだり陰陽球を宙に浮かせたりする時点で俺の常識からは遥か遠くにあるんだけどさ。

霊夢「当たり前でしょ。私を誰だと思っているのよ」

言葉より先に蹴りが飛んでくる暴力的な女の子ですとは口が裂けてもいえない」

霊夢「あん?」

口に出してしまっていた。陰陽球がまた飛んでくる。いてぇ

俺、守ってもらってるんだよね?

チルノ「う、うぅん………」

少女、チルノが目を覚ました。

108:2014/01/20(月) 17:53:39 ID:
男「お、目を覚ましたか、お願いだから凍らせないでくださいお願いします」

霊夢「どんどんヘタレていったわね」

だって怖いんだもの。

チルノ「えっと、なんで」

男「霊夢が気絶させた」

霊夢「私が気絶させた」

チルノはぽかんとしてしばらく頭をひねっていたが思い出したらしく、起き上がって霊夢にすがりついた。

チルノ「大ちゃんが!!」

チルノが湖の大きな氷を指差す。

目を凝らすと小さい点が二つ見えた。

もしかしてあれが大ちゃんだろうか。

立ち上がって氷へと近づく。

109:2014/01/20(月) 18:03:08 ID:
氷の大きさは半径40メートルはあるであろう巨大な氷柱でその端に点はあった。近づいてみるとその二つの点は人間だった。

これが大ちゃんだろうかと考えてみたが自分で凍らしてるんだから違うよなぁ。

チルノ「大ちゃんを助けてくれ!!」

霊夢「せめて事情を話しなさい。私の目の前には凍った人間二人と凍って欲しい人間しか見えないわ」

男「ひでぇ」

チルノ「えっと大ちゃんが」

チルノが語った内容は人間が妖精狩りをしていてどんどん自然が死んでいるということと、大妖精がその妖怪狩りにあったということだった。

どうやら大妖精という名前のチルノの友人は、チルノをかばって捕まったらしい。そして大妖精を捕まえた人間がここで凍っていると。

霊夢「はぁ、仕方ないわね。チルノ。この人間の手足以外を解凍しなさい」

そう霊夢はチルノに命令して氷を解かせる。

霊夢は二人の人間の頬をいい音をさせて数発ほどしばき、起きなかったので陰陽球でがんがんと殴っていた。永眠するぞおい。

村人1「う、うぅん」

村人2「はっ」

霊夢「おはよう」

そういいながら霊夢が平手で叩いた。痛そうな鈍い音がなる。

110:2014/01/20(月) 18:12:15 ID:
霊夢「瓶はどこ?」

村人1「こ、答えるかよっ!!」

パシンッ

霊夢の平手が入る。

霊夢「どこ?」

村人1「こたえ―――」

パシンッ

そう人間が反抗して霊夢が叩く。それを繰り返して右頬を真っ赤に腫れ上げた村人がやっと瓶の場所をはいた。

霊夢「着物の中だって」

男「え、なんで俺見て言うの?」

霊夢「だって男の着物の中に手を突っ込むとか汚いじゃないの」

俺だってやだよ、とは言えずおとなしく人間着物の中をあさる。

すると6つの中に何か光のようなものが渦巻いている瓶と4つの何も入ってない瓶が現れた。

111:2014/01/20(月) 18:19:51 ID:
霊夢「これね」

霊夢がそれを受け取り、なにかぼそぼそと唱え封を開けた。

すると中から光が飛び出して、それが人の形を取る。

そして少女の姿へと変わった。羽が生えているので彼女達が狩られた妖精だろう。

そして残った瓶を踏み潰す。

霊夢「さて、と」

霊夢が陰陽球を構えた。

霊夢「なんで妖精狩りをしてたのか話しなさい。話さないとさっきとは比べ物にならないことするわよ」

村人ズ「ひぃ!!」

そう脅すと、村人はぽつりぽつりと怯えながら話始めた。

村人「妖精の魔力を使って、魔法を使ってた。妖精は自然の化身だから魔力の塊みたいなもんだから、その魔力を使ってるんだ。だから妖精を捕まえて魔法とか道術使ってる連中に渡してた。でも魔力切れたら妖精いなくなるから、補充にきた」

112:2014/01/20(月) 18:22:55 ID:
男「………なぁ、魔力を失った妖精はどうなるんだ?」

霊夢「普通そんなことにならないから推測だけど、おそらく死ぬわ」

男「そうか」

ゴッ

動けない人間をいたぶるのは趣味じゃない。だけど許せなかった。

二人の顔面、体どこだっていい。型なんてそんなもん気にしちゃいない。全力の力をもってぶん殴る。

本気で殴ったので拳が痛んだが、それでも殴ることをやめられなかった。

自分と同じ人間なのにとは思えなかった。思いたくなかった。

だから殴り続ける。

霊夢「男。気絶してるわ」

霊夢が止める。

そこでやっと握り締めた拳を解いた。

男「なぁ霊夢。こんなのってありかよ」

霊夢「………知らないわよ。そんなの」

霊夢が顔を背け、そう小さく言った。

113:2014/01/20(月) 22:33:03 ID:
男「チルノ、凍らしとけ、こいつ」」

チルノ「え、あぁ」

村人ズ「ちょっと待て」

チルノ「やだ」カキンッ

周りを見ると、なんだか妖精が俺に引いてる気がする。

それもそうか。出てきたらいきなり人間に殴りかかる人間がいたんだからな、気持ち悪いよなぁ。

男「霊夢、行くか」

霊夢「いいの?」

男「早く行こう」

これ以上いても出来ることないし、紅魔館にさっさと行かなければならない。

男「じゃあなチルノ、えっと大妖精たちも」

チルノ「あ、名前はなんていうんだ?」

名前………か。

男「名乗るようなことはしてないよ。じゃあな」

実際すべて解決したのは霊夢だからな。名乗るようなことはしてない。

114:2014/01/20(月) 22:48:25 ID:
男「じゃあな」

チルノ「またな!!」

チルノが大きく手を振ってきた。

なので俺も手を振りかえし紅魔館へと向かった。



チルノ「………」

大妖精「チルノちゃん?」

チルノ「か、かっこいい!!」

大妖精「えぇ!?」

大妖精(チルノちゃんの目の中にハートマークが!!………ある気がする。そうか!! 今のチルノちゃんは大きくなっていて普段はあまり表に出ないおてんば恋娘成分が出てきているんだ!! そんなチルノちゃんが自分を助けた、わけでもないけど自分のために怒ってくれたあの人間にほれないわけがない!! これは事件!! 大変!!)

チルノ「大ちゃん、あたい行って来る!!」

大妖精「妖精が狩られるかもしれないんだよ!!」

チルノ「あたいだけじゃすべての妖精には対応できないから妖精を出来るだけ助けれないか霊夢に相談してくるよ」

大妖精「あ、えっと。そうなんだ」

大妖精(正論は卑怯だよう、チルノちゃん)

115:2014/01/20(月) 22:57:06 ID:
今日はここまでで、寝ます。

おやすみなさい。

116:2014/01/21(火) 07:05:18 ID:
頭のいいチルノか・・・

117:2014/01/21(火) 16:56:31 ID:
紅魔館。それは見た瞬間自分の目を疑いたくなるような屋敷だった。

壁がすべて赤く、屋根も赤い。いったいどのような芸術センスがあればこんな家を建てれるのかは知らないがとにかく強烈な印象をもっていた。

チルノ「おーい」

チルノの声が後ろから聞こえた。なんだろうと思い振り返るとチルノがぱたぱたと飛んできていた。

男「どうした?」

チルノ「あたいもついていく」

霊夢「こいつほどじゃないけど、邪魔」

男「もうちょっと歯に衣着せようぜ」

チルノ「あたいは師匠についていくことに決めたんだ!!」

男「し、師匠?」

霊夢「美鈴に習いなさいよ」

チルノ「美鈴はなー。教えてくれない」

美鈴が誰だかは知らないが、とにかく俺よりも強い拳法家らしい。というか俺より強い拳法家なんて悲しいことにごろごろいるわけでそんな俺に弟子入りされても教えられることなんて一切ない。

霊夢「まぁ、でしょうね」

118:2014/01/21(火) 18:32:22 ID:
霊夢「………あんたもしかして男に惚れたとか?」

チルノ「惚れた………ってなんだ?」

霊夢「まぁ、そうよねー。あんたみたいなバカが恋なんてするわけないし」

チルノ「バカっていうなー!!」

男「なぁ、チルノ。俺でいいのか?」

チルノ「師匠しかいない!」

男「えっと、そうか。よろしく」

………一緒に萃香に稽古つけてもらうか。

俺が使えるの柔道空手、あと合気道が少しだし。

まともに組み手しても俺が負けるの分かってるし。

あーあ。貧乏くじ引いたなぁ。

119:2014/01/21(火) 18:42:40 ID:
霊夢「美鈴」

美鈴「こんにちわ、霊夢さん」

屋敷に近づくと、門番が立っていた。中国風の服に、星の飾りに龍と書かれてある帽子。そんな女性が門番をしていた。この人がさっき話題に出てきた美鈴さんだろう。見た目的に拳法使えそうな格好してるし。

霊夢「あら、旦那は今日はいないのね」

美鈴「狼男さんなら今日は今泉さんと一緒に竹林の妖怪を守りにいってますよ。一応あそこが故郷ですからね」

霊夢「浮気?」

美鈴「浮気じゃないですよ、もう」

軽く頬を膨らませておどけたように怒る美鈴さんは俺に気づいたらしく

美鈴「こちらの人、妖怪、まぁいいや、は誰なんですか?」

と聞いてきた。

人間と見た目が変わらない妖怪も多くいるから見た目で分からないのは分かる。幽香とかほぼ人だしな。

120:2014/01/21(火) 18:48:21 ID:
男「どうも男です。今霊夢と一緒に戦ってます。いや霊夢しか戦ってないんだけど」

美鈴「………」

美鈴さんが俺に近づいてくる。えっと何かしただろうか。

美鈴「なんだか懐かしいにおいがしますね」

そう言って俺の首あたりに顔を寄せ俺のにおいをかぐ。ドキドキするがいったいなぜ。

霊夢「浮気?」

美鈴「浮気じゃないです。私は狼男さん一筋ですから。えっと、なんだかこの人のにおいどこかで嗅いだことのあるにおいで」

チルノ「くんくん………なにも匂わないぞ?」

チルノが後ろから抱き着いてにおいをかいでくる。重い。

美鈴「なんでですかね。まぁいいや。ようこそ紅魔館へ」

美鈴さんはおよそ三メートルほどある大きな鉄でできた門を片手で軽くあけた。やっぱり妖怪ってすごい。そう思った。

121:2014/01/21(火) 19:06:10 ID:
中に入ると庭一面に咲き乱れる薔薇。現在季節は冬。いったい何が起きているのだろうか。

赤や白、はてには青まである薔薇に見とれていると霊夢が急げと小突いた。

中の館は扉まで赤い。こんなんじゃ中はどんなスプラッタなのかと恐れたが、中は案外普通の部屋だった。

まぁ

咲夜「誰?」

ミニスカメイドさんが俺の首にナイフを当ててなければな。

わーい、いきなり絶対絶命ですよこれ、霊夢助けて。

男「た、助けて。俺悪い人間じゃない」

霊夢「人間生まれもってみな悪よ。だからこそ努力するのよ」

霊夢がそう茶々を入れながら中へ入ってくる。メイドは霊夢の姿を認めるとナイフを仕舞い一礼した。

咲夜「霊夢の知り合いだったのね。失礼したは。でもこっちにも館を守るという仕事があるのよ、わかってほしいわ」

男「い、いや、まぁ何もなかったんだしいいけど」

チルノ「師匠大丈夫か?」

おぉ、心配してくれるのチルノだけだよ。すまんなさっき貧乏くじとか思って。

122:2014/01/21(火) 20:20:42 ID:
咲夜「ところで何の用かしら?」

霊夢「レミリアに会いにきたわ」

咲夜「お嬢様に?」

レミリア、お嬢様ということはこの屋敷の住民なのだろう。こんな家に住んでる奴ってどんな奴なんだろうか。

咲夜「お嬢様は今自室にいらっしゃるわ。案内するけど、そっちの男とチルノは駄目」

霊夢「そ、じゃあ図書館にでも行ってなさい」

霊夢が手でしっしっと俺達を追い払う。そもそも図書館がどこか分からないんだけども。

咲夜「そんな勝手に………まぁ、パチュリー様なら大丈夫だと思うけど。じゃあ行くわよ」

おぉ、また新しい人が出てきたぞ。だれだパチュリーって。それもこの屋敷の住人なのだろうか。それにしても大きいなとは思ったけど図書館まであるとは

って、そんなことより

男「図書館って………いねぇし」

歩くのはえぇよ………

123:2014/01/21(火) 21:46:56 ID:
男「なぁ、図書館ってどこにあるんだ?」

チルノ「あっち」

男「あっちか」

知っているということはチルノはこの屋敷に訪れたことがあるみたいだな。でも人間が歩いていていいものか。いきなり襲われたりしないよな。

チルノ「こっちこっち」

チルノのがぱたぱたと飛びながら俺を招く。

チルノについていきながらやけに長い廊下をあるく。

歩きながら思ったのだが明らかに外見よりも廊下が長い。

魔法的な何かなのかなぁと思いながら廊下を歩いていると、一人の小さな女の子に出会った。

フラン「ん?」

少女は少女なのだが、人間ではない。なんか背中に宝石みたいな羽が生えてるし。

フラン「んーえっと、貴方、食べていい人間?」

男「ひぃ!!」

124:2014/01/21(火) 21:53:23 ID:
チルノ「師匠を食べちゃ駄目だぞ!!」

チルノが俺の前で仁王立ちをする。

男「いや、チルノ、俺が囮になるから逃げろ!!」

反射的に出てしまった言葉に後悔しつつチルノの前に出る。俺はいい加減反射的に行動するのをやめたほうがいいかもしれない。

チルノ「し、師匠!」

フラン「? 食べていいの?」

男「いや、食べられてくないけどさぁ!!」

チルノ「駄目なんだからな!! フラン!!」

………え、知り合い?

かわいく首をかしげているフランと呼ばれた妖怪のことをチルノに聞いてみる。

チルノ「えっと、友達だけど」

男「心配して損したぁ!!」

125:2014/01/21(火) 22:07:59 ID:
話を聞いたところによるとフランは吸血鬼で、霊夢が会いに行ったレミリアの妹だそうだ。

常識知らずなところがあるが、今はギリギリおとなしいので大丈夫らしい。

ただ、暴れだしたら絶対近づかないでと本人の口から注意された。

わざわざ注意するということは本当にあぶないのだろう。

フラン「それで、なんでここにいるの?」

男「霊夢についてきたんだけどレミリアの部屋に入れてもらえず図書館にいけって言われたんだ」

フラン「ふーん。じゃあ案内してあげるよ」

男「え」

ギリギリ大丈夫なのなら一刻も早く離れたいんだけど。

フラン「こっちだよ」

フランにチルノがついていく。

ついていこうか迷ったが一人になったらもっと危ないと判断してついていく。

126:2014/01/21(火) 22:28:57 ID:
いつまでも続く赤い絨毯に並ぶ部屋。自分は進んでいるのだろうかと不安になりつつフランたちについていくとやっと廊下の突き当たりについた。

扉が他のと違い大きい。ここが図書館なのだろうかと思っているとフランがドアを蹴り飛ばしながら開けた………というか壊した。

男こあ「ひぃ!?」

中からも悲鳴が聞こえた。飛んでいった扉が本棚にぶつかってとまる。

男「あ、あの。フランさん? 怒ってらっしゃいますか?」

フラン「ううん。イライラはしてるけどね」

ピンチかもしれない。霊夢がいない今俺を守ってくれるものはチルノぐらいだ。

フランは扉を壊したことは何も気にせずそのまま中に入っていく。

男「なぁチルノ。大丈夫なのか?」

チルノ「………今のあたいなら30秒耐えれるかなぁ」

つまりやばいってことか。

怯えながら中に入ると、へたり込んでいる女性がいた。

こあ「ひ、ひぃ~」

スーツのような格好をしていて頭と背中にこうもりの翼のようなものが生えている。

人間ではないようだが涙目で驚いている彼女に親近感を覚え、近づいて手を差し伸べる。

127:2014/01/21(火) 22:38:55 ID:
こあ「へ? あなたはいったい」

男「男っていうんだ。人間だけど敵じゃない。霊夢と一緒に来た」

こあ「あ、どうも」

女性が手をつかんで立ち上がる。

ぽんぽんと服についたほこりを払うと微笑む。

こあ「ようこそ魔法図書館へ」

男「あ、そういえばフランは大丈夫なのか?」

こあ「はい。フラン様が来たのはおそらく少女マンガ読みにきただけですから」

読むのか、少女マンガ。っていうのかあるのかマンガ。

チルノ「あたいも何か見たい」

こあ「あちらにマンガコーナーがありますよ」

チルノ「行ってくる」

あ、俺も行きたい。けど

パチェ「………」

あそこで黙々と本読んでる人に一応挨拶したほうがいいよなぁ。

131:2014/01/30(木) 16:34:31 ID:
しぇぇぇぇぇぇぇぇん!

132:2014/01/31(金) 10:47:44 ID:
あんなことがおきたのに驚きもせず、本を読み続けるなんてどんな集中力なのだろうか。それともあんなことが良く起きるのだろうか。

とりあえず近くまで行って見るものの邪魔をしていいものかどうか迷い、立ち尽くす。

ページをめくる以外微動だにしないその姿がまるでページをめくるからくり人形のように見えた。

青白いしわのない肌に感情を含まない眼、そして静の雰囲気がそれに拍車をかける。

パチェ「………誰?」

少女が本から目を離さずそう聞いてくる。

男「俺は男。霊夢からここに行けって言われたから来たんだけど………居てもいいか?」

パチェ「パチュリー・ノーレッジよ。好きにしなさい。読書の邪魔をしないのなら歓迎はしないけど拒みはしないわ」

そうだろう。喋りながらも本を読み続け、俺の存在は気にしていない。

まぁ、気を使われても困るだけだし、遠慮せず本を読ませてもらおう。

近くにあった本棚を見ると幻想郷縁起という本があった。名前からこの世界に関する本だろうと判断し、本棚から抜き取る。ぱらぱらと眺めてみるとどうやら幻想郷の妖怪などについて書かれてあるらしい。

近くの長机につき、本を広げる。妖怪の欄は多いが、人間のほうは少ない。載っていたのは霊夢、魔理沙、さっきいたメイドの人(名前は咲夜というらしい)そして

男「………東風谷 早苗か」

書かれてある絵は少女のように見える。霊夢や魔理沙よりは大きいみたいだがそれでも高校生か、中学生程度だろう。実際に会ったわけではないから間違っているかもしれないが。

133:2014/01/31(金) 11:03:00 ID:
この本は役に立ちそうだ。絵があるので有名な妖怪なら見ればわかるようになるだろう。

そう思い、この本を借りれないかとパチュリーに聞いてみる。

パチェ「いいわよ。別に」

あっさりとした返事が返ってきた。

ならばお言葉に甘えて借りることにしよう。

パチェ「でもそれ結構嘘っぱち書いてあるから信用するのは能力と名前と危険度、友好度くらいにしておきなさい」

そうなのか。まぁ、それでも能力がわかるならそれにこしたことはない。

ためしにパチュリーの欄を開いてみると火水木金土日月を操る能力。なるほどわからん。どうやら一概に便利といえるわけでもなさそうだ。結局は自分であって判断するしかないのか。

パチェ「………良かったら、幻想郷について教えてあげましょうか?」

パチュリーが本を閉じてこっちを見る。

男「お願いする。ありがとうな」

パチェ「別に、読み終わったからよ」

134:2014/01/31(金) 14:04:50 ID:
パチェ「この世界のことはどこまで知ってるの?」

男「ここが外の世界から忘れられたもの達がたどり着く場所で、現在人間と妖怪が戦争してるってことぐらい」

パチェ「そう、正確には冴月 麟率いる里の人間と、天魔率いる幻想郷の妖怪。そしてそのどちらでもない異変解決するべく動いている霊夢たちね。あとは妖怪を守るために動いている命蓮寺、中立の永遠亭、幽香などの傍観者」

妖怪を守ってくれる妙蓮寺か。

それならあの子達を守ってくれるのだろうか。

パチェ「ちなみにこの紅魔館は異変解決に協力してるけど基本的に独立して動いているわ。来るものには容赦しないけど、積極的に異変解決しようとしないわ。食料が足りなくなったら強奪をしにいくぐらい」

男「強奪って………」

パチェ「人外と取引する人間が少なくなったのよ。仕方ないじゃない」

パチェ「この世界は忘れていき消えさる妖怪や神を助けるために龍神と八雲 紫が作り出した。そして幻想郷と外を別ける結界、『博麗大結界』は代々博麗の巫女が管理している。大体は龍神、八雲紫、博麗の巫女でこの世界は成り立っているわ」

パチェ「なぜ人間がいるかというと結局妖怪も神も人間がいないと存在できないから。だから一箇所にまとめて生かしている。言い方は悪いけど妖怪がその気になれば人間なんてすぐにいなくなってしまうのよ。そうだったのだけど」

男「今回の異変か」

パチェ「そう。人間がいきなり強くなった。それだけじゃなく幻想郷の実力者も人間についてしまった。妖怪の山にいたはずの守矢、人間のためといい立ち上がった豊聡耳神子、人里の守護者上白沢 慧音、藤原 妹紅なんかがね。それに地底も魔界も封印され現状は両戦力拮抗している」

パチェ「まぁ、今のことはさておき、いままでの歴史を教えましょう。私が知る限りの今までの幻想郷を―――」

135:2014/01/31(金) 14:16:13 ID:
パチェ「まぁ、こんな感じよ」

パチュリーが話し終わり一息つく。パチュリーの話は今までにどんな異変が起きたのかと幻想郷の主要人物の簡単な説明だった。

俺がさっき借りた本の説明なんかもしてくれてとても助かった。

パチェ「小悪魔を呼んできてちょうだい。水が飲みたいわ」

そういって机の上に倒れこむパチュリー。どうやら体力がないようだ。

それもそうだろう。この日の入らない図書館で一日中本を読んでるみたいだからな。

小悪魔さんを呼びに行こうと思ったとき、外から誰かが走ってくる音が聞こえた。一人ではなく大勢の足音が。

男「誰だ?」

そう俺が誰に問いかけるでもなく呟いたと同時にそれらは図書館に入ってきた。

人間「いたぞ!! パチュリー・ノーレッジだ!!」

武装した人間だった。パチュリーのほうへ向かってくる。

これは危ない。霊夢は何をしてるんだ。この状況をどうやって切り抜けるべきだろうか。パチュリーがいくら魔女だといっても多人数の相手に体力が持つとは限らない。

そう考えているとぱぁんっという水風船を割るような音がした。

男「………うえっ」

人間が破裂して、中身を撒き散らしていた。

136:2014/01/31(金) 14:38:57 ID:
フラン「ぎゅっとしてどっかーん、ね♪」

フランが無邪気な笑みで歩いてくる。さっきのやつはフランがやったのだろう。

チルノ「師匠無事か!?」

ついでチルノが現れる。手に氷の大きな大剣を持っていた。

パチェ「危ないわよ。離れてなさい」

パチュリーがかすれた声でそう言う。気がつくと立ち上がって………いや数センチほど浮いていた。

魔法使い1「接近戦ができるものはフランドールとチルノをとめろ! 我々はパチュリーをやる!」

人間「おう!」

人間が素早く二つに分かれる。パチュリーのむかってきたのは5人の男。ほかの人間は全てフランのほうへ向かっていった。

あっちを見るのはスプラッタ映画も真っ青なのでおとなしくパチュリーの後ろに隠れてよう。情けないことこの上ないが。

パチェ「美鈴はなにをやってるのかしらまったく」

137:2014/01/31(金) 22:00:05 ID:
向かってきた5人の男はそれぞれ赤、青、黄、白、黒という戦隊物みたいな色で分かれていた。

赤魔術師「火を極めし魔法使い、マジシャンズ・レッド!」

青魔術師「木を極めし魔法使い。マジシャンズ・ブルー!」

黄魔術師「土を極めし魔法使い。マジシャンズ・イエロー!」

白魔術師「金を極めし魔法使い。マジシャンズ・ホワイト!」

黒魔術師「水を極めし魔法使い。マジシャンズ・ブラック!」

魔術師達「五行を極めし我らに、七曜が使えるだけの貴様が勝てるかな!?」

そう名乗りを上げた魔法使い達にパチュリーがわずらわしげにまゆをひそめる。

魔術師達「さぁ!! 行くぞ!!」

そう魔法使いが叫ぶと、ぼそぼそと何かを呟き始めた。

それぞれの体が光をおび、そして

魔術師達「覇ぁっ!!」

水の龍、鉄の龍、火の龍、木の龍、土の龍が現れ、どこに声帯があるのかはわからないが吼えた。空気が振るえ、思わず耳をふさぐ。

そんな五体の化け物を相手にしてもパチュリーはいまだ、興味なさげに見ていた。

138:2014/01/31(金) 22:24:49 ID:
魔術師達「さぁ! いくがいいっ!!」

龍が再度吼え。パチュリーに向かって飛び掛る。

両者の距離はほんの20メートルほど、一瞬で五体の龍はパチュリーを噛み砕くだろう。

パチェ「――――」ボソボソ

パチュリーが何語かわからない言葉を唱える。

ごぉおおぉおおお!!

龍が吼えた。

パチュリーを噛み砕いたからではない。

自身が噛み砕かれたことに吼えた。

炎の龍を黒き亀が、水の龍を黄色き獣が、土の龍を青き龍が、鉄の龍を赤き鳥が、木の龍を白き虎が。

噛み砕く。

一瞬で喰らいつくし、無に返した。

そして

魔術師「がっ………は……」

そのまま魔法使い達を喰らう。

139:2014/01/31(金) 22:36:57 ID:
パチュリーによって生み出された5体の化け物は一瞬で五人を葬り去る。

そんな、5つの同時詠唱なんて。その言葉を誰が言ったかはわからない。それが彼らの最後の言葉だった。

パチェ「一つしか極めてないのに私に勝てるわけないでしょ、けほっけほっ」

パチュリーが咳こみ膝をつく。走りよって背中を撫でると、しだいに落ち着き、ゆっくりと立ち上がった。

フラン「あははっ! 残機は残ってるのかな!? ねぇ? ねぇ!? ほらほら、もう一回遊ぼうよ!。どこにコインをいれればいいのかなぁ!? 教えて!! きゃははっ!」

………こえぇ

フランの歓声と断末魔が響く。見たくない。今頃トマト祭りみたいな感じになってるだろうから。

チルノ「師匠、無事か!?」

男「おぉ、その声はチルノ。あっちはいいのか?」

チルノ「巻き込まれるかもしれなかったから」

恐るべきバーサーカー。そういえば小悪魔は無事逃げたのだろうか。

パチェ「………ふぅ、ここはフランに任せてレミィたちのところへ行くわよ」

パチュリーがふわりと浮いて外へ向かう。チルノと俺がそれを追う形でついていく。

外に出るとき、後ろの惨劇の嫌なにおいを吸い込んでしまい、吐きそうになる。

慣れたくはないが、慣れておいたほうがいいのだろうな。

140:2014/01/31(金) 22:58:11 ID:
レミリアの部屋へ向かうまでにいくつもの屍があり、その全てにナイフが刺さっていた。門の前には倒れた人間の山。

どうやらここには100人以上の人間がやってきたらしい。

霊夢やレミリアたちが負けるとは思わないがやはり死体は見ていて気持ちのよいものではない。

時折、生きている人間が襲い掛かってくるが、パチュリーやチルノに一瞬で倒される。

そうして無事にレミリアの部屋へ着き、すでに壊されている扉から霊夢の名を呼ぶ。

霊夢「なによ」

あっけらかんとした霊夢の声が聞こえた。

レミ「あぁ、あいつが例の人間か」

そして偉そうな少女の声も。

中を覗くと、霊夢とこうもりのような羽を生やした幼い少女、幻想郷縁起でみた姿と同じ、レミリア・スカーレットがいた。そして

ウィル「………」

金髪で赤い眼のこうもりのような翼を生やした少女がレミリアに寄り添っている。

誰だろうか。幻想郷縁起には載っていない。

141:2014/01/31(金) 23:37:00 ID:
レミ「ウィル。挨拶をしなさい」

ウィル「うん。ウィルヘルミナ・スカーレットだ。よろしく」

ウィルヘルミナと名乗った少女がスカートをつまみ、優雅に一礼する。

スカーレット………ということはレミリアの家族らしい。妹だろうか。背丈はウィルヘルミナのほうがあるので妹には到底見えないが。

男「どうも、男です」

チルノ「ん、誰だ?」

レミ「幾多の運命の中から生まれた私とフランの娘よ」

男チル「………へ?」

いやいや、どうみてもレミリアは子供が産めるように見えない。そもそもレミリアとフランじゃ娘は産まれないはずだ。吸血鬼が雌雄同体とかいう話は聞いたことないし。

パチェ「説明不足よレミィ」

後ろからパチェがレミリアに声をかける。

どうも説明してどうこうなる問題じゃないと思うのだが。

142:2014/02/01(土) 11:34:16 ID:
レミ「数多の可能性のなかに存在した我が娘を呼び出したのよ。私が運命を変え、この子が運命を破壊すればできないことなんてあんまりない」

霊夢「要するに、平行世界に存在した娘を呼び出したらしいのよ」

霊夢が簡単に説明する。それでも理解できないが、まぁそういうものなのだろうと納得しておく。

霊夢「理由は、紅魔館の住民じゃ動けないやつが多すぎるから、よね?」

レミ「ナイトウォーカーは太陽が大嫌いでね、でも私は早寝早起きだ。夜更かしは好きじゃない」

そう、肩をすくめてレミリアが笑う。要するに、動かせる手駒がほしいということか。

ウィル「お母様のため、がんばる」

ウィルヘルミナが小さくガッツポーズをする。その様子は確かに子供のようだ。

霊夢「あら、いったいどこにあんたの遺伝子があるのやら。素直で可愛いし、それにスタイルもいいとは言えないけどあんたよりはある」

レミ「しるか。こっちが教えて貰いたいね」

パチェ「派手に動いたらまた狙われるんじゃないの?」

レミ「太陽に中指立てた身だ。殺し合い上等じゃないか」

男「なぁ、暴れなくても霊夢達が解決するんだからおとなしくしとけば」

レミ「私は漫画の新刊が読みたいんだよ人間」

143:2014/02/01(土) 11:44:09 ID:
そんな理由でか。と内心呆れる。

皆もそう思ったらしく霊夢とパチュリーはため息をついていた。

霊夢「さて、帰るわよ男」

レミ「もう帰るの? 紅茶で飲んでいきなさいよ」

霊夢「汚い部屋で飲みたくないわ」

レミ「素敵な部屋だろ。赤くて素敵」

霊夢「悪趣味」

ウィル「………うん」

チルノ「悪趣味だな」

パチェ「病原菌が繁殖しそうね」

レミ「ぜ、全否定しなくてもいいじゃないの!」

144:2014/02/01(土) 12:26:19 ID:
紅魔館から帰り、博麗神社の結界をくぐる。

部外者が入るには結界を操作しなければならないらしく霊夢が文句を言いながらチルノを結界内へ入れた。

魔理沙「お、お帰り、男と霊夢。あと………チルノ?」

チルノ「あたいだよ!」

境内に入ると魔理沙が、的に向かって魔法を撃っていた。現れたチルノに驚いていたが、すぐに魔法の練習に戻る。

霊夢「妖精の相談なら紫と映姫にして頂戴。私は寝るわ」

男「あ、俺、四季さんに用事あるから」

チルノ「じゃあ紫のとこへいってくるなー」

チルノを見送りどこかで寝ているであろう小町を探す。

映姫「小町ならさっき起こしましたよ」

男「四季さん」

映姫「行くのでしょう? 子供たちに会いに」

男「えぇ」

145:2014/02/01(土) 13:02:33 ID:
羽少年「あ! にーちゃん!!」

中に入るといつもどおり子供たちがお出迎えをしてくれた。

四季さんは離れてにこにこ眺めている。

羽少年「なぁなぁ、にーちゃん。今日は何して遊ぶんだ?」

河童娘「お、おままごと」

羽少年「また、おままごとかよ」

男「でもあんまりできることがないからなぁ」

男だから家の中でできる遊びなんかゲームぐらいしか思いつかない。

羽少年「なぁ、にーちゃんって空手できるんだろ?」

絵でも描くかなぁと悩んでいると羽少年がキラキラした目でそう言った。

空手か。できるが、演舞とかしても受け悪いだろうなぁ。

146:2014/02/01(土) 13:23:50 ID:
羽少年「教えてくれよ。強くなりたいんだ。俺」

角娘「ぼ、ぼくも教えてもらいたい」

犬耳娘「わたしも」

皆が集まってくる。

こんな環境だ、強くなるたいって気持ちはわかるが、強くなったと思って無茶をしだすのは怖い。

男「準備いるからまた明日な」

羽少年「ん、約束だからな」

男「あぁ、約束だ」

そう誤魔化して、指きりをする。

まぁ、明日になったらそのときもどうか誤魔化そう。

男「じゃあ絵でも描くか」

犬耳娘「うんっ」

147:2014/02/01(土) 13:46:01 ID:
羽少年「なぁなぁにーちゃん。なんでにーちゃん妖怪の味方してんの?」

犬耳娘に頼まれた外の風景を描いていると羽少年がそう俺に質問してくる。

確かに不思議だろうな。いくら外の人間だからといって妖怪側………というわけでもないけど、人間の敵にまわるのは。

理由は外に帰りたいって理由だったけど、今は守りたいっていう理由もあるんだよなぁ。

四季さんや、魔理沙や、こいつらを。

でも、お前を守るためだ、キリッ。とかいうのも恥ずかしいしなぁ。

男「………ヒーローに。ヒーローになりたかったからかな」

そう誤魔化してみるものの、この理由も大概恥ずかしい。うわぁ、やっちまったなぁと思いつつ照れを表に出さないために続ける。

男「ヒーローって間違ってるやつをやっつけるんだよ。だから俺は間違ってると思う人間を倒す。そして世界を守るんだよ」

犬耳娘「お兄ちゃんヒーローになるの?」

男「修行中だ。伊吹萃香ってやつに稽古つけて貰ってる」

羽少年「え!? 伊吹様に!? すげぇ!!」

ざわざわと子供たちが騒ぎ出す。

萃香は妖怪の山のトップだったってのは聞いてたけどまさかここまで驚かれるとは。

148:2014/02/01(土) 16:53:49 ID:
映姫「男。もう帰る時間ですよ」

男「もうそんな時間なんですか」

時計なんて便利なものがないから時間の流れは良くわからない。

とりあえずここでは早く流れているのだろうな。遅く流れればいいのに。

羽少年「絶対明日教えてくれよな! 約束!!」

犬耳娘「約束!!」

角娘「ま、また明日っ」

男「おうおう、また明日な」

やたらと約束を強調してくる子供たちに苦笑しながら手を振り、外へでる。

外は夕焼け。数時間はここにいたようだ。

小町「来ましたよ四季様」

映姫「はい。帰りましょうか」

いつもどおり迎えにきてくれた小町の能力を使い博麗神社へと戻る。

さて、明日はどんな遊びをしようかな。

149:2014/02/01(土) 17:05:57 ID:
男「ぐえふっ」

夕食後、さっそく萃香に投げ飛ばされている。

魔理沙「おいおい、がんばれよ正義のヒーロー」

縁側に座っている魔理沙がニヤニヤと応援をしてくる。というか

男「お前どこでそれ知った!?」

魔理沙「映姫が言ってたよ」

ひどいよ、四季さん。

萃香「立ち上がらないのなら、行くよ?」

男「立ち上がる立ち上がる! 立ち上がります!!」

座ったままで、あれが相手できるわけがない。

男「よしっ、いくぞチルノ!!」

チルノ「合点承知!!」

150:2014/02/01(土) 17:09:09 ID:
萃香へと突っ込み、そのまま殴ると見せかけ砂を蹴り上げて萃香の顔にぶつける。そしてすぐさましゃがむ。

チルノ「アイス剣スラァッシュッ!!」

チルノが作った氷剣で萃香を斬りつけた。

萃香「連携が甘いっ!!」

がしかし斬りつけた氷剣は傷を負わせることはなく、むしろ砕けた。そして一喝と共に俺に蹴りが、チルノに拳が打ち込まれる。

二人してごろごろと転がっていった。

151:2014/02/01(土) 17:49:32 ID:
魔理沙「おうおう、情けねぇの」

魔理沙がにひひと笑って縁側から降りる。そのまま寝転がっている俺の近くまで来る。スカートが長いから見えない。

男「だろー」

痛む体を引きずって起き上がる。どうやっているのかは知らないが、萃香に殴り飛ばされても怪我はしない。痛いだけで少しすれば痛みも消える。

萃香「魔理沙もするかい?」

魔理沙「冗談。私は守って貰うのさ。こいつにね」

萃香「魔理沙を守れるようになるのに何年かかるか」

魔理沙「頑張るんだろ。男の子だからな」

男「あぁ、頑張ってやるよ。男の子だからなっ」

地を蹴って、萃香へと駆ける。肘を構え、勢いに乗せて体当たりをする。

チルノ「師匠っ!!」

チルノが萃香の足を凍らせ動きを止める。

狙うは萃香の顔。大人気ねぇとか女の子になんてことをとか言われるかもしれないが相手が萃香ならこれでもしなきゃ、いや、これでも足りない。

萃香「真正面からこられても、ねぇ」

萃香が左手を振って肘鉄の体制を崩す、そのまま勢いを利用して投げられた。

152:2014/02/01(土) 18:07:17 ID:
男「なんのっ!! チルノォッ!!」

チルノ「あいさっ!!」

萃香の真後ろに作り出した氷柱に投げ飛ばされた俺はぶつかる。

萃香が作り出した投げた体勢という隙。それを狙う。

落下に乗せて拳を振り下ろすという不恰好な攻撃。

それでも萃香が体を戻すよりは早い。

萃香「よし、じゃあレベルアップだ」

そう呟くと萃香はいつの間にかこっちに向かって拳を引いていた。

速すぎる。隙なんてなかった。

男「それって、クロックアッ」

衝撃。氷柱をへし折って転がる。

やばい、また意識飛ぶ。

153:2014/02/01(土) 18:37:40 ID:
額の上にある冷たいものによって意識を取り戻すと頭の下にやわらかい感触。

また膝枕をされているのだろう。魔理沙かなと思って目を開けると案の定魔理沙だった。

違うのはチルノが横で俺の額に手を当てていること。冷たくて気持ちがいい。

チルノ「あ、師匠」

男「やっぱり駄目か」

魔理沙「小細工とか全て蹴散らすのが萃香だからな。手を抜いているとは言ってもそうそう当たってくれないって」

だったな、一瞬で体勢変えたり、氷柱をへし折るほどの一撃を俺に当てたのにもうすでに痛みは消えている。

格の違いがやっぱり凄いなぁ。あんな萃香でもそうそう簡単に異変を解決することが出来ないってこの幻想郷にどれだけ強いやつがいるのか。

おら、わくわく………しないな。

魔理沙や霊夢を守れるようになるのかなぁ、俺。不安しかない。

霊夢「いちゃついてるとこ悪いけど」

ふわりと屋根の上から霊夢が降りてくる。なぜ屋根の上にという疑問はさておき

男「いちゃついてねぇよ」

否定しておく。

霊夢はそんなこと心底どうでもいいらしく、「明日、妖怪の山行くから魔理沙の後ろに乗っけてもらって」とだけ言って再び屋根の上に戻っていった。

154:2014/02/01(土) 18:53:31 ID:
魔理沙「妖怪の山か。できれば行きたくはないなぁ」

男「どうしてだ?」

魔理沙「やりにくいやつがいるんだよ」

そういって魔理沙が苦虫を噛み潰したような顔をする。

強いではなくやりにくいという事は、策略が凄いとかそんな感じのやつだろうか。

俺にとってはどっちもかなわないからどっちでもいいのだけれど。

チルノ「あたいも行きたい」

魔理沙「家で修行してろ。多人数でいくようなところじゃないから」

チルノ「うん……わかった」

魔理沙の言葉にチルノがうなずく。

男「さて、じゃあ風呂入ってくる」

チルノ「あたいも入る」

魔理沙「溶けるからやめとけ」

155:2014/02/01(土) 23:55:54 ID:
~屋根の上~

紫「おかえり、霊夢」

霊夢「で、いきなりなんで私と魔理沙とあいつが妖怪の山に行かないといけないのよ。まだ理由聞いてないわよ」

紫「守矢の二柱が消えた後の妖怪の山の信仰がどうなってるか調べてほしいのよ。行き場をなくした信仰エネルギーを秋の神らへんが手に入れてるんじゃないかしらと思って」

霊夢「秋の神はもういないわ。今頃外の世界でしょ」

紫「外に逃げたのね。まぁ、ここにとどまる理由はないから当たり前だけれど。じゃあ信仰エネルギーはどこに?」

霊夢「知らないわよ。消えたんじゃないの?」

紫「信仰がそうぱっと消えるとは思わないから多分元守矢神社にあるかしら。もし見つけたら持ってきて頂戴。あの白黒に注ぎ込むわ」

霊夢「待って。信仰って目に見えるものなの?」

紫「見えはしないわね。感じるといえばいいかしら? 霊夢は信仰心を得たことがないからわからないでしょうけど神にとってはそれが存在理由であり力でありパワーよ」

霊夢「力とパワーって………で、その信仰心ってどうすれば映姫にぶち込めるのよ。信仰心ってその神を信じることによって生まれるんでしょ? 守矢に向けられてた信仰心が行き場を失って漂ってるからって映姫に入れれるものなの? あとやり方なんかしらないわよ。生まれてこのかた信仰心なんて持ったことないから」

紫「人も妖怪も自分から離れた意思は自分ではそうそう制御できないわ。生霊なんて修行でもしないと操れないでしょ? 神を失った信仰心は新しい神を探そうとするわ。だってじゃないと信仰心じゃなくなるから。だから回収は簡単。そこに四季映姫を連れて行けばいい」

霊夢「映姫も連れて行くの?」

紫「えぇ、あなた、魔理沙、男、四季映姫で行ってもらうことになるわ」

156:2014/02/02(日) 00:06:54 ID:
霊夢「あんな危険なところにいくのに男なんてやっぱり連れて行けないわよ。へたしたら死ぬわよ?」

紫「そのへたをさせないためにあなたも魔理沙もいるんでしょ?」

霊夢「たかが人間一人になんでそこまでかまわなきゃいけないのよ」

紫「あの人間は保険。あれが死なない限りなんどかは生き返れるわ。だから死んでもいいからがんばりなさい」

霊夢「死ぬなんて冗談。保険なんかなくても解決できるわよ」

紫「そうね、霊夢が修行をちゃんとしてたらそのわがままを通すこともできたんだけど」

霊夢「………はぁ。いいわよわかったわよ。守ればいいんでしょ守れば」

紫「一手一手確実に詰めないと気付いたらこっちが王手に、なんてこともあるかもしれないから気をつけて」

霊夢「その王手が得意なやつがいるところに突っ込ませるのにそれ言う?」

紫「だから注意してるんじゃない、我らが王」

霊夢「王を敵陣に突っ込ませる攻め方なんてあったかしら?」

紫「あなた王は王でも奔王だから」

霊夢「そりゃどうも」

157:2014/02/02(日) 00:15:48 ID:
霊夢「じゃあ我が軍師さんに聞くけど、どう攻めればいいの?」

紫「対局したら負け」

霊夢「隠れて進めってこと? 無理よ無理無理」

紫「なら対局した瞬間に相手の顔面に叩き込んで1ラウンドKOってとこかしら」

霊夢「素敵な戦法どうもありがとう。っていっても確かにそれが一番有効手ってのも否定できないのよね」

紫「さぁて身重な私には夜風は辛いから部屋に戻らせてもらうわね。明日に備えて夜更かしは駄目よ? それにお肌の天敵。おやすみなさい」

霊夢「夜更かししたぐらいで肌が荒れるほど年とってないわ。おやすみ」

霊夢(あぁ。今すぐ異変起こしたやつぶん殴って解決ってことにならないかしらねぇ。ならないわよねぇ)

霊夢(………早苗。何してるのかしら)

158:2014/02/02(日) 19:21:44 ID:
黒き亀が玄武、黄色き獣が麒麟、
青き龍が青龍、赤き鳥が朱雀、白き虎が白虎か...
中国の伝説の霊獣を魔法使いのパチュリーがつかうのは
なんか違うような...

159:2014/02/02(日) 22:33:05 ID:
男「良い天気だ寒いっ!!」

空中を速度を出して飛ぶ魔理沙の後ろに今俺はいる。

ただでさえ寒い冬の空を飛んでいるので魔理沙に抱きついていないところ以外から急速に熱が奪われていっている。

これで厚着をしていなかったら俺は凍死していたんじゃないだろうかと思うぐらいの寒さの中、他の三人はなんてことない顔で飛ぶ。

箒に乗っている魔理沙はともかく、こんな速度で何も使わずに飛ぶ霊夢と四季さんはいったいどうなっているのだろうか。

霊夢「………魔理沙、様子見るわよ。戦ってる」

霊夢が急に止まって二時の方向を見る。急に止まった魔理沙の反動を受け、思わず振り落とされそうになっておもわず魔理沙にしがみつく。

魔理沙「げふっ。少し力弱めてくれよ。痛い」

男「す、すまん」

魔理沙「おぉ、本当だ。戦ってるな」

男「あれか」

霊夢や魔理沙が見ている方向を見ると火花が散ったり、木がへし折れたりしていた。どうやら戦いが起きているようだ。

空を飛んでいる妖怪には翼が生えている。おそらく天狗だろう。

映姫「迂回していきましょうか」

魔理沙「だな。あれだけの天狗から逃げ切れるとは思わない」

160:2014/02/02(日) 22:47:06 ID:
霊夢「覚えて起きなさい男。あれが私達が相手にしたくない相手の一人よ」

男「みえねぇよ」

いくら戦いが見えるといっても一人一人がちゃんと見えるわけではない。なんか翼の生えたやつが飛んでいるな、程度だ。

映姫「目を貸してください」

四季さんが近づいて俺の目に手を当てる。

男「!」

いきなり眼球が熱を持った。熱は数秒で消えたが何か違和感が残る。

四季さんが手を外し「どうですか?」と聞いてきたので、何がだろうと首をかしげると

男「あ」

遠くまではっきり見える。見えないはずの遠くの木の木の葉まではっきりと見える。

映姫「これくらいしかできませんけどね」

そう四季さんは悲しそうに笑うが、それでも十分凄い。

もう一度戦いを見る。白い髪の天狗、大きな翼の天狗色々いるがその中でも目を引くのが一人の白い少女。戦っている天狗の中、一人だけ何かまわりに叫んでいる。

どうやら彼女が指揮官らしい。

161:2014/02/02(日) 23:06:57 ID:
霊夢「縦横150メートルの結界を張り、65人の天狗に命令をして敵を駆逐する天才指揮官。千里眼を使った65人同時完璧管理戦闘」

魔理沙「個人の力は弱いから不意打ちで倒すのが一番いいが、周りに他の天狗がいる今、無理だろうな」

霊夢「戦闘中だからこっちは見えてないと思うけど、進む?」

魔理沙「進むしかないだろ、あれ以外戦いたくない相手なんて………まぁ、そこそこいるな」

霊夢「小町連れてくれば良かった。仕方ないから最大速で突破するわよ」

男「ちょっと待て」

霊夢「待たない」

霊夢の姿が消え、いつの間にか数百メートルほど遠くにいる。

いくらなんでもその速度は死ぬぞ。マジで。

映姫「………っ。これが私の全力の加護です。死にはしませんが、がんばってください」

四季さんが俺の体に触れて、先ほどのように力を使う。どうやら俺の体が四季さんの加護を受けたようだがでも違う。そういうことじゃない。いや死なないのはとてもありがたいんだけども。

男「あぁ、もう。腹はくくった。行ってくれ魔理沙」

魔理沙「おう。舌?まないように食いしばってろよ」

その言葉と同時に加速。眼や内臓が死にそうなほどに痛むがそれでも加護のおかげで痛いだけ。でも加護のせいか意識も飛ばない。

いつもなら意識飛んで終わりなのに、意識が飛ばないから生き地獄のような責め苦。なんで魔理沙たち無事なんだろうかと必死で他の事を考えようとするも痛いという感情に上書きされ失敗に終わる。

162:2014/02/02(日) 23:52:53 ID:
遠ざかるというか気付いたら後ろにある景色を数分、体感的には数十分眺めようやく目的地へと着く。

ズキズキと痛む体を動かし見ると、赤い鳥居が見えた。

どうやらあれが元守矢神社らしい。広さも建物の大きさも博麗神社よりも立派だ。おそらく立派な神が祭られていたのであろう。

たしか二柱いて、その二柱が今人間の味方をしてるとかなんとか。

境内へ着地する。当たり前だがまわりに人はいない。

霊夢と四季さんが拝殿の中へ入ろうとしている。魔理沙と俺は専門外なのでそれを眺め待つ。

霊夢「どう?」

映姫「おかしいですね。信仰なんてどこにも―――」

霊夢と四季さんと魔理沙が同時に振り返る。

いきなりのことでよくわからなかった俺は一瞬送れて振り返った。

早苗「こんにちわ。皆さん」

一人の少女。さっき見回した限り誰もいなかったはずなのに。

その少女は霊夢とは違うが巫女服を着ていた。となると彼女がこの神社の巫女だろうか。

人間の味方となり人里にいると聞いていたがなぜここに。

163:2014/02/03(月) 00:08:34 ID:
霊夢「早苗、あんた………神になったの?」

霊夢の言葉に早苗が嬉しそうに笑う。それはテストで満点を取ったことを友人に自慢するかのような優越感と自信が混じった笑みだった。

早苗「はい、神の子が人では格好がつかないと思ったので」

霊夢「バカね。神になんかなって」

吐き捨てるように言った霊夢の言葉に少女が傷ついたような表情になる。しかしすぐに少女は微笑んだ。

早苗「私は嬉しいんです。これでやっと胸を張って神奈子様や諏訪子様にお仕えすることが出来る。今まで力不足で救えなかった人たちを救うことが出来る」

霊夢「今まで信じてくれた妖怪を裏切って?」

早苗「私が頑張って人間の勝利に導けば犠牲も少なくてすみます。そしたら妖怪と人間が手を取り合って―――」

魔理沙「無理だろ」

今まで黙っていた魔理沙が口を出す。鋭く短い一言。その言葉に再び少女の微笑みが崩れる。

魔理沙「神奈子や諏訪子のためってのは分かるが妖怪と人間のために神になるほどお前は出来た人間、いや聖人だったか? なんか気持ち悪いぞ。お前」

そう、さきほどからの少女の言うことは誰かのためという理由。自分のための理由は一切ない。

他者のために動くものは数多くいる。されど自己を犠牲にしてまで他者に尽くすのは聖人か狂信者ぐらいだ。

この少女はどちらだ。聖人か、狂信者か。透き通った瞳は愛ゆえか狂気ゆえか。

164:2014/02/03(月) 00:27:45 ID:
早苗「意地悪、ですね」

早苗の顔から微笑みが消えにがにがしい表情になる。

早苗「霊夢さん。魔理沙さん。私達のほうへ来ませんか?」

魔理沙 霊夢「断る」


早苗の提案にすぐ二人は答える。その返答を聞いて早苗がさらに苦々しい表情になる。

霊夢「なんであんたらは今まで自分を信じてた妖怪たちを裏切ったの?」

早苗「当たり前じゃないですか」

あっけらかんと早苗が答える。裏切ったということに背徳感などは一切ないらしい。

早苗「信仰は儚き人間のためですからね」

魔理沙「………………」

霊夢「もう良いわ。私達は帰るから邪魔しないでよね。こんなところでドンパチ始めたらすぐに妖怪がやってきて大騒ぎよ」

早苗「そうですね。今日は止めておきましょう」

早苗の体がふわりと空中へ浮かぶ。足元の雪が舞っているところを見るにどうやら風を操っているようだ。

早苗「それでは」

雪を吹き飛ばす風を起こし、少女は遠くの彼方へと飛んでいった。

165:2014/02/03(月) 00:44:03 ID:
魔理沙「畜生がっ」

魔理沙が近くの柱を蹴る。衝撃で屋根の上から雪がどさりと落ちた。

映姫「………仕方ないことです。神は結局は人のためですから」

人は神がいなければ生きられないほど儚いです。そんな人間を一度でも愛してしまえば誰のための神様になろうと忘れられないのですよ。と四季さんが切なげに呟いた。

男「………帰ろうか。人間と妖怪が戦ってて危ないし」

魔理沙「そういや、なんで人間がこんな奥地までせめて来たんだ? 普段ここまで危険を冒さないだろ」

霊夢「本気を出したってことじゃないの?」

映姫「気になるので帰って調べてみましょうか」

男「なんにしろ帰るか」

またあの速度で移動するのは気が乗らないが仕方ない。ここにいるよりかはずっと良い。

魔理沙「あぁ、帰ろう」

皆の表情は暗い。

無理もない、友人との決定的な決別だ。

もしかしたらこっちの味方になってくれるんじゃないだろうかという希望が消えたのだから。

166:2014/02/03(月) 00:50:21 ID:
流れ行く景色の中。森が燃えているのが見えた。どうやら戦いは激しいらしい。

帰りも敵に会うことはなく無事に帰ることが出来た。

境内に戻ると霊夢は「寝る」といって消え、魔理沙もどこかへ消えた。

映姫「こんな気分のときは子供たちに会いに行くのが一番です。小町を探しましょうか」

無理やりに笑った四季さんの顔が痛々しくて思わず泣いてしまいそうになった。

こらえてうなずき小町を探す。

しかし結界内のどこを探してもいない。どうやらまだ帰ってきてないようだ。

男「お茶でも飲みましょうか」

映姫「そうですね」

帰ってくるまでは何も出来ないのでお茶をすることにした。

俺も四季さんも乗り気ではないことは知っている。それでも何かしてなければ重い雰囲気に押しつぶされてしまいそうだった。

167:2014/02/03(月) 00:58:53 ID:
亡霊男の入れてくれたお茶を二つ受け取り四季さんが待つ部屋へと向かう。

茶菓子はこんなご時勢だ。あるわけがない。

男「四季さん。男です」

映姫「待っててください。今開けます」

がらりと四季さんが襖を開ける。この部屋は四季さんの部屋で中にはいくつか荷物がおいてある。

たんすや鏡などの生活用品はあるがそれ以外はまったく置いていない。生活を感じさせないホテルのような部屋だった。

中心にあるちゃぶ台にお茶を置く。

映姫「座ってください」

四季さんから座布団を受け取り座る。

切り出す話題が特になかったのでお茶を一口飲み、部屋を見渡す。

映姫「女性の部屋をあまりじろじろ見るものではありませんよ」

男「す、すみません」

四季さんに怒られるというかたしなめられる。言い訳をさせてもらうなら生まれてこの方女性の部屋に入ったことなんて数えるほどしかないのだ。仕方ない。

168:2014/02/03(月) 01:06:36 ID:
映姫「あまりものがないでしょう?」

見透かされたようで驚くがよくよく考えればそれもそうだ、この部屋を見渡して浮かぶ感想なんてそれぐらいしかない。

下手に取り繕うのもなんなので「そうですね」とうなずいておく。

映姫「数ヶ月前まで仕事ばっかりでしたので趣味なんて持っていないのです。しいてあげるとすればお菓子を食べることですが、今はそんなことできませんしね」

男「早く終わるといいですね」

映姫「えぇ、本当」

会話が終わり、部屋の中にはお茶をすする音以外なくなる。

居心地が悪いので必死に話題を探す。やはり女性経験の少ない俺には気の利いた話題なんて思い浮かびそうにない。

男「四季さんはご家族はいないんですか?」

なんて不躾な質問まで飛び出す始末。

しかし四季さんは微笑んで

映姫「えぇ、仕事ばかりでしたからやはり恋愛なんてしたことはありません」

と返してくれた。

やはりこの人は天使かもしれない。

172:2014/02/03(月) 23:34:36 ID:
まあ、確かに四季様は閻魔様だし女神でもあるな
でもとりあえず表現はどうあれ、
四季様が素晴らしいと言うことは変わらない!

173:2014/02/04(火) 03:47:04 ID:
最終的には俺の嫁だがな

174:2014/02/04(火) 18:41:55 ID:
嫁もいいがこまえーきも捨てがたい

175:2014/02/04(火) 18:55:18 ID:
主人公時はあんなに残念な神になってたのになwww

176:2014/02/05(水) 14:41:10 ID:
はて、記憶にありませんね…

177:2014/02/05(水) 20:12:55 ID:
映姫「男のご家族は?」

男「えっと、俺の家族は」

………母さん、父さん、妹に弟。特に目立った家族構成でもない。思い出話も得にないし。

ずいぶん平坦な人生を歩んできたものだ。その分が今になってきたのだろうか。

簡単に家族の話をすると四季さんはニコニコと話を聞いてくれた。

そんなに面白いものでもないのにニコニコと笑ってくれる四季さんはやはり女神か。

映姫「男は家族が好きですか?」

男「嫌いではないですけど、とくに好きというわけではないですね。四季さんや魔理沙なんかの方が家族って気がしますね」

特に語れる思い出もない家族よりかはよっぽど家族っぽい生活をしている。魔理沙が妹で、四季さんは母さんかなぁ。見た目俺より若いけども。

洞窟の子供たち皆まとめて妹弟みたいなもんだし。

そう考えるとこっちの生活もなかなか充実している。外に戻りたくないわけではないがそう感じた。

映姫「それでも家族は家族ですよ。代わりなんていない大切な人です。なんて家族がいない私が言うのもおこがましいかもしれませんが」

なら俺が家族に!―――なんていえるわけもなく、うなずいて感謝の言葉を述べる。

男「いえ、ありがとうございます。戻ったら親孝行とかしてみてみます」

映姫「善行を積んでください。それが今あなたが取れる最善の手段なのですから」

178:2014/02/05(水) 20:24:15 ID:
男「小町。遅いですね」

映姫「いつもならもう帰っているころなのですが」

そう話しているとうわさを聞けばなんとやら。外から「疲れた~」とのんきな声が聞こえてきた。

四季さんと共に外にでると小町が土の上だというのに座り込んでいた。

男「おかえり」

小町「ん。ただいま。今日は大変だったよ」

映姫「なにかあったのですか?」

小町「今日は鬼と組んでたんですが、人里に近づいて偵察をしているとばれましてね。鬼とあたい対人間の戦いですよ。人間が地味に強くて、それで鬼が乗り気になって逃げようと思っても鬼が逃がしてくれなくて。あれですね、獅子身中の虫ってやつですね。もし鬼じゃなくて魔理沙とかだったら武術の最高奥義、逃走をしていたというのに。というか百人ぐらいいる相手に真正面からぶつかっていくってどんな脳筋ですか、他にもっと楽なやり方あるでしょうに、おかげであたいも肉体労働させられますし。これ絶対明日筋肉痛ですよ。いやなりませんけど、これで筋肉痛になるようなやわな死神じゃないですからあたい。まぁ、あれですよ結局勝ちましたけど、命まではそんなに奪いませんでしたけどそれでも結構な戦力削れたと思いますよ。褒めていいですよ四季様」

疲れてるようだが、口は動く動く。この様子なら大丈夫だろうと判断し、小町に洞窟まで連れて行ってくれとお願いする。

小町は「え~」と言いながらも立ち上がって手招きした。

四季さんと一緒に靴を履いて小町の近くまで行く。

小町は地面に鎌で一本の線を引く。これがここと洞窟とをつないだ目印になる。

さて今日は何をしてやろうかと四季さんよりも早く一歩踏み出した。

男「………………え」

目の前が真っ赤に染まっていた。

179:2014/02/05(水) 20:51:36 ID:
熱い。周りをつつむ炎がじりじりと皮膚を焼く。

森が燃えていた。赤く、赤く燃えていた。

映姫「これは………子供たちは無事でしょうか」

そうだ。子供たちは大丈夫だろうか。この火事だ、さすがに逃げ出しているとは思うがそれでも心配だ。

男「あつっ」

鉄の扉は熱によって熱くなっていた。扉を開けようとして掴んだ手が火傷している。

映姫「どいてください。開けます」

四季さんが右手を構えると、右手が光輝いて白色の光線を打ち出した。光線は扉に当たるが歪むだけでなかなか壊れることはない。

映姫「やはり、弱くなってますね」

四季さんが苦々しげに呟く。扉はぎしぎしというばかりで砕けない。おそらく熱で歪んでいるのだろう。

映姫「小町を呼んできてください。今ならまだつながっているはずですっ」

そう四季さんに言われ、はっとなって走り出す。四季さんの後ろらへんの空間のはずだ。数秒でその地点に着き、そのまま走り抜ける。

180:2014/02/05(水) 20:56:19 ID:
空間がぐにゃりと歪んで

小町「きゃんっ」

神社へ出る。勢いあまって小町にぶつかった。

二人とも転倒して地面の上を転がる。

地面で頬の肉が削れ血が滲んだようだが気になんてしていられない。立ち上がって小町の腕を掴んで立たせる。

小町「な、なに?」

男「来てくれ、はやくっ」

腕を引っ張って線を越える。

映姫「小町、あの鉄門をどうにかしてください」

小町「はい」

小町はすぐに状況を理解して、鉄門に向かって駆け鎌を振るった。

小町の鎌はがきんっと火花を立て鉄門を吹き飛ばした。

すぐさま中へ駆け寄ろうとするが小町が鎌を使って俺を止める。

小町「見ちゃ駄目だ」

小町が強く言う。中になにがあるのか。最悪の事態を頭のなかから外してそう考える。

181:2014/02/05(水) 21:03:02 ID:
小町「あとはあたいがなんとかするからさ」

なんとかする。なかではなんとかしなければならないような状況になっているのか。

映姫「男、小町の言うとおりです。後は私達が」

男「あいつらと約束してるんです」

鎌をくぐって洞窟内へと入る。小町は止めなかった。

中も火事の熱を受けとても熱くなっている。

しかしその火事の熱は外からではなく中からだった。

たいまつなんていらない。燃え盛る炎が洞窟の奥を照らしていた。

そんなことがあるわけがない。

必死にそう思った。

しかし奥からにおうこのにおいは、髪をやいたようなにおい。それ以外にも肉が焼けるにおい。

理性が否定するも、本能が肯定している。

小町が俺を止めた理由が危ないからではないことを理解してしまっている。

しかし、無数の零が並んだ可能性だとしても確かめなければ零ではない。

そんな無謀な希望を捨てきれない。

182:2014/02/05(水) 21:09:33 ID:
だから歩みを止められない。細い通路を抜けていつも遊んでいる場所へと向かう。

近づくごとに肌を焼く熱は増す。今すぐ引き返したほうが身のためだということは文字通り痛いほど分かっている。

一歩、一歩、一歩、一歩、一歩、一歩、一歩踏み出し、広間へとついた。

赤い、燃えている

人型が。

男「おい、おい」

目の前で燃えている。

人型が。

翼の生えた人型。

角の生えた人型。

とても小さい人型。

大人の身長の人型

一体二体三体四体五体六体七体八体九体十体十一体十二体十三体十四体十五体十六体十七体十八体十九体二十体二十一体二十二体二十三体二十四体二十五体二十六体二十七体

燃えている。

183:2014/02/05(水) 21:18:56 ID:
数が一緒だった。ここにいた妖怪たちの数と一緒だった。

信じたくなかった。

だけど足元で燃えているのは翼が生えていて、活発なあの子じゃないか。

右で燃えているのはぴこぴこと動く耳で感情が分かりやすい、素直なあの子じゃないか。

右奥で燃えているのは角が生えていて、引っ込み思案なあの子じゃないか。

奥で壁に背をつけ炭化しているのは発明が好きでいつも俺を驚かせてくれたあの子じゃないか。

真ん中で倒れて燃えているのは無口だったけど気がつけばいつもそばにいるあの子じゃないか。

右手が取れているのは男勝りで喧嘩っ早いがそれでも花が好きという乙女らしさをもったあの子じゃないか。

重なって燃えているのは中の良い双子でいつも俺にいたずらをしかけてきたあの子達じゃないか。

いくつもの矢を受けて燃えているのは本ばかり読んでいてあまり俺と遊ばなかったあの子じゃないか。

うずくまるような体勢で燃えているのはいつも四季さんと一緒ににこにこと俺達を見つめていたあの人じゃないか。

その人に覆いかぶさられて燃えているのは子供たちの中で一番幼かったあの子じゃないか。

皆、皆燃えている。赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤くきれいに燃えている。

184:2014/02/05(水) 21:27:21 ID:
男「はは、あは、は」

映姫「男、また後で弔いましょう。今は危険です、早く」

四季さんが手を引っ張る。でも俺はこの場から動けなかった。

男「四季さん、明日っていつなんですか」

映姫「男………?」

男「明日教えてやるって、空手とか柔道とか。教えてやるって約束したんですよ」

男「約束やぶっちゃいけないって俺、こいつらに教えてたはずなんですけど。忘れちゃったんですかね。それとも反抗期ですかね。あはは」

映姫「男、はやく出ましょう」

男「あれ、もしかしてまだ明日じゃないんですかね。そうですよね。明日になれば皆俺と遊んでくれますよね。いつもみたいに笑ってますよね。俺、危ないから教えないつもりだったんですけどやっぱり約束は守らないといけませんよね。はじめは危ないから受身からですけど、それでも立派に柔道ですし」

映姫「男、駄目です」

男「俺、約束したんですよ!! 明日、教えてやるって!!」

映姫「駄目です!!」

四季さんが強く手をひっぱる。そのまま通路を引きづられるように引っ張られていく。子供たちが遠ざかっていく。

男「四季さん、やめてください。あいつらと、あいつらと遊んでやらなきゃ」

映姫「彼らは死んだのです。生きてはいないのです」

185:2014/02/05(水) 22:34:42 ID:
>>175
いいじゃない、二次創作なんだから
あと>>1さん、今日も乙です

186:2014/02/06(木) 19:49:27 ID:
ここで魔法の弾丸使って子供達の死亡フラグ豪快に叩き折ったら超男前やな!

187:2014/02/06(木) 20:18:34 ID:
まぁなんか面白チート裏設定あるんだろうな男にも
この修羅場な状況でそんな便利なチートアイテムをたまたま現れたなんでもない人間に渡すとか無駄使いもいいところだし

188:2014/02/06(木) 20:19:34 ID:
>>186
男だけにww
いや、過去に戻らずペルソナを召還だ

189:2014/02/06(木) 20:47:13 ID:
お前ら、そうやってネタ潰しすんなよ

190:2014/02/06(木) 22:51:47 ID:
小町「四季様。男は」

映姫「………」フルフル

男「皆………皆………」

小町「………戻りましょうか」

映姫「はい」



四季さんに連れられて神社まで戻る。

俺はさっきまでの光景が忘れられず、地面にへたりこんでしまった。

魔理沙「!? おい、男どうしたっ!?」

小町「そっとしてあげな」

魔理沙の声が聞こえた。でもそっちを見る気力すらわかなかった。

このまま何も考えず、何もしない岩になりたかった。

そうすればこの胸を裂くような悲しみを受けなくていいから。

いや、それは駄目だ。俺は逃げちゃ駄目だ。

あの子たちは逃げれなかったんだから。

191:2014/02/06(木) 23:01:23 ID:
いくら悲しんでも皆が戻ってこないことは知っている。

………あれ、、何か忘れてるような。

男「そうだ、銃がある」

しまっていた銀色の銃を忘れていた。

惨劇を回避するためにある銃。

これを使えばあいつらを救えるんじゃないだろうか。

今日の朝に戻って霊夢達に頼み込めばあいつらを助けてくれるんじゃないだろうか。

そう思ったときには自然と銃を握り締めていた。

こめかみに押し付けるとあんなに熱い場所にあったのに当てた銃口は冷たかった。

もしこれが本当の銃で引き金を引いたら頭を吹っ飛ばすのかもしれない。

でも、本当に時間を巻き戻せる銃ならばあいつらを救うことが出来る。

男「なら、決まってるよな」

魔理沙「男、何してんだ。お前………おいっ!!」

魔理沙が叫んでいた。そうか、あいつはこの銃のことを知らないのか。説明する暇はない。今すぐ俺は戻らないといけないんだ。

引き金を引く。

192:2014/02/06(木) 23:06:27 ID:
カチリ

弾倉が回転する。

男「………あ、れ?」

しかし弾が出てこない。

全て薬室に弾が入っていたはずだよなと思い、もう一回引き金を引く。

カチリ

カチリ

カチリ

カチリ

カチリ

カチリ

カチリ

弾が出てこない。弾が入っているのに。

何度も引き金を引いたのに弾がでてこない。

男「なんでだ、なんでだよっ」

193:2014/02/06(木) 23:19:15 ID:
魔理沙「いきなり何してんだよっ」

男「あっ………」

銃を魔理沙に取り上げられる。そしてそのままポケットの中にしまった。

魔理沙「死ぬ気か!? 弾が出なかったから良かったけど死んでたんだぞ!?」

男「返してくれよ」

魔理沙「返さない」

男「返してくれよ………なぁ」

魔理沙の足にしがみ付く。魔理沙は一瞬面食らったがポケットを両手で守った。

紫「それ、使っても意味はないわ」

紫の声がした。声がしたほうを見るといつの間にか紫が近くに立っていた。

扇子で口元を隠しながら悲しげな目で俺を見下ろす。

紫「意味、ないのよ」

二度、念を押すように言った。

どういうことだ。意味がないって、これは偽者なのか?

194:2014/02/06(木) 23:31:19 ID:
男「どういう、ことだよ。これ、偽物なのか? 嘘だったのか? なぁ、おいっ」

ふらふらと立ち上がって紫の元へ向かう。

紫「偽物じゃないわ。本物よ」

男「なら、なんで」

紫「時間を戻す意味がないから」

意味。意味ならあいつらを助ける立派な意味がある。

紫「有象無象の妖怪が死んだからって時間を戻す必要なんてないわ。その銃が使えるのは時を戻さなければ異変解決に支障が出るとき。たとえば魔理沙が死んだときとか、私が死んだとき。そして霊夢が死んだとき。今ではない」

男「そんなのって、そんなのってっ!!」

そんなのってない。せっかく時を戻せるというのに、俺は救えないんじゃないか。救えなかったじゃないか。

なんだよ、俺は引き金を引けばいいんだとか。そんなことなかったじゃないか。

紫「今は休みなさい。明日も動いてもらわないといけないのだから」

そう静かに言って紫が離れへと戻っていく。

何も言えなかった。追って問い詰めることも出来なかった。

一度生まれた希望が壊れてしまった。

自分の無力感に苛まれその場に座り込む。

195:2014/02/06(木) 23:40:04 ID:
映姫「男。もう休みましょう」

男「………嫌です」

明日が来るのが嫌だった。

明日になっても、その明日になっても約束が果たせないから。

皆が迎えることのなかった明日を迎えるのが嫌だったから。

映姫「………自分のことも考えてください」

四季さんが手を引く。するといつのまにか自分の部屋に立っていた。

小町が能力を使ったのだろう。寝たくないのに、体を思うように動かすことが出来ず四季さんに無理やり敷き布団の上に寝かされ、掛け布団をかけられる。

映姫「………嫌だったら………すみませんが」

布団の中に四季さんが入ってきた。

一人用の布団なので二人入ると密着してしまう。

映姫「………すみません」

後ろから四季さんが手をまわして抱きしめてきた。俺はそれに抵抗せず抱きしめられる。

柔らかな温かい感触が伝わってくる。

それはこの残酷な世界で唯一の救いに感じられた。

196:2014/02/07(金) 00:58:47 ID:
幼女に抱き締められて慰められるなんて…えっと幻想郷への行き方は…と

197:2014/02/07(金) 01:37:57 ID:
この四季様は有難いお話(お説教)は
あんまりしないのかなぁ
「そう、あなたは…」を一度くらいは言ってほしい

198:2014/02/07(金) 08:02:35 ID:
今度は男の股間の銃が火を吹きそうやな!

199:2014/02/07(金) 13:07:32 ID:
全く、実にけしからんな・・・フヒッ

200:2014/02/07(金) 14:28:21 ID:
今は閻魔じゃないからね、仕方ないね

201:2014/02/07(金) 16:29:58 ID:
男「………四季さん………俺、どうすればいいんですかね」

俺のいる意味は霊夢や魔理沙の保証でその中に俺の意思は許されていない。

理由は分かる。それでも納得できるかは別だ。

映姫「………ごめんなさい、私は今はただの神もどき、人を導くことなんてできないのです」

後ろから聞こえる声は悲しげで消え入りそうなほど小さかった。

映姫「お役に立てず、すみません」

男「いえ………」

四季さんの声が、存在が、温かさが今はとてもありがたい。

一人ではこの悲しみに耐えられそうになかったから。

突発的にあの子たちを追おうとしたかもしれないから。

俺はとても弱いから、体も心も。

守ろうとした皆の足元にも及ばないくらい弱い。

男「………う………あぁ………」

今更涙が流れ出す。後ろにいる四季さんにばれたくなかったから嗚咽が漏れないように口を押さえる。

それでも止まらなかった。過呼吸のような呼吸を繰り返す。まるで子供のように。

202:2014/02/07(金) 17:16:05 ID:
映姫「こっちを向いてください」

男「………いや、です」

泣き顔を見られたくなかった。鼻水や涙でぐちょぐちょで情けないから。

こんな情けない自分が嫌だったから。

映姫「じゃあすみません」

四季さんがもぞもぞと動いて俺の体を超える。そして俺の目の前に来てそのまま俺の頭を抱きしめた。

四季さんの心音が聞こえる。とくん、とくんと人間と同じような速度だった。

男「………四季さんはなんでこんなに、俺に優しくしてくれるんですか」

映姫「それは………あなたが私を信じてくれるからです」

男「そう、ですか」

映姫「私はずっとあなたと一緒にいますよ。あなたが救われるまで」

男「………ありがとう、ございます」

四季さんがあやす様に頭を撫でる。

抱きしめてもらっているから映姫さんの胸元が涙なんかで濡れて乱れている。申し訳ない。

心音の一定のリズムと頭を撫でる手にしだいに落ち着いてきた。

203:2014/02/07(金) 19:33:57 ID:
信仰次第で力だけじゃなく性格も変わるのか?
もし立場に影響されやすい
性格なのなら主人公時の変貌ぶりは
説明がつくな

204:2014/02/07(金) 19:58:03 ID:
状況じゃないの?
このシリアスの中で空気よんでんだよ

いや、男相手に緊張…

205:2014/02/07(金) 20:11:53 ID:
男「………」

急速に眠気がやってきた。

どんよりと体を襲う睡魔に抵抗はできない。

目を閉じ、体を四季さんに体を預ける。

睡魔に四季さんの温かさ、匂いもあいまってすぐに俺は眠っていた。



映姫「………守りますよ。あなたがいなくなるまで」

映姫「それが私の役目ですから」

映姫「眠っているうちで卑怯ですが、せめないでくださいね。私も本当は弱いのです。あなたがおもうように強くはないのです」

映姫「ごめんなさい。男」

206:2014/02/07(金) 20:39:21 ID:
>>204
小町が「あたいが尊敬していた四季様はどこに」
って言ってたし閻魔じゃなくなって気が緩んで
あぁじゃなかったんじゃないか?
それで今度は信仰失い力と共に性格や思考も
ダウンってこと。
ってなんで俺は馬鹿みたいにこんな考察を披露してるんだ...

207:2014/02/07(金) 20:41:57 ID:
目を覚ますと、明日が来ていた。

どんなことがあろうと明日はやってくる。そんな当たり前のことがひどく悲しく感じる。

明日になって明日になってそのまた明日になっていっぱい明日を繰り返し、あいつらのことなんて置き去りにして世界は回っていく。

自己中心的な考えかもしれないが、それがとても悲しかった。

目蓋を開けると、小さな体が俺の腕のなかに収まっていた。

あぁ、そうか。俺は昨日四季さんと寝たのか。いや、別にいやらしい意味ではないが。

抱きしめられて寝ていたと思ったのだが、いつの間にか俺が抱いていたみたいだ。

すやすやと小さな寝息を立てて眠る四季さんは神様でもなんでもないただの幼い少女に見えた。

映姫「んっ………うん………」

さて、起きたはいいものの、このままでは布団から出ることができない。

どうすればいいか悩み、仕方ないのでもう一眠りすることにした。

208:2014/02/07(金) 20:52:27 ID:
映姫「おはようございます」

眠っているのか起きているのかの中間らへんでうつらうつらしていると目が覚めたらしい四季さんに揺さぶられ起こされる。

あぁ、起きたんだなと思いつつあくびをすると四季さんがにっこりと笑ってもう一度おはようございますと言った。

男「おはようございます」

映姫「気分はどうですか?」

四季さんが心配そうに見てくる。あまりいい気分ではないがそれでも昨日よりかはまだマシになった。

紫に対する怒りも少しは収まった。間違っても紫に殴りかかるようなことはしないだろう。

男「大丈夫ですよ」

そういった意味を含めてそう答える。

四季さんはほっと息をついて俺の頭を優しく撫でた。

映姫「あ、そういえば着替えてませんでしたね」

服は昨日のまま。袖がこげたりしているのでもうこれは着ることができない。この服は幻想郷では珍しい洋服なので少しへこむ。といっても俺が着てきた服ではなく紫が用意してくれたものだから俺自体に損はないのだが。

映姫「着替えてきます。それではまた朝食で」

男「はい」

209:2014/02/07(金) 21:42:02 ID:
朝食を食べ終わり、境内で何をすることはなしにただぼーっと立っていると後ろかた強い衝撃を受けて前のめりに倒れる。いきなりのことでうまく反応できなかった俺は見事に地面に顔面を滑らせた。

チルノ「師匠!! 大丈夫だったか!?」

背中にあるひんやりとした感触。チルノが背中にタックルをしてきたらしい。

男「すまん、どいてくれ」

チルノ「あっ。師匠、ごめんっ」

素直なのはいいことなんだけどもうちょっと考えてほしかった。それだけ思われてるのは嬉しい限りだが。

痛む頬を撫でながら立ち上がるとチルノが泣きそうな顔をして見上げてきた。

チルノ「師匠が、師匠が昨日大変だったって、魔理沙から聞いて」

魔理沙も心配してくれていたのか。後でお礼を言いに行こう。

チルノの頭を少し乱暴に撫でて髪をぐしゃぐしゃにする。チルノは魔理沙と同じぐらいの身長なので大変撫でやすい。

チルノ「わっ、や、やめろ師匠っ」

笑いながら抵抗するチルノがほほえましくて、わしゃわしゃと無理やり撫でる。

チルノ「あははやめて師匠。あ、あれ師匠、なんで泣いてるんだ?」

男「なんでもない。転んだとき顔ぶつけただけだ」

駄目だ。思い出してしまった。チルノが皆と重なって思わず涙がでてきた。

210:2014/02/07(金) 21:50:32 ID:
チルノ「えっと、冷やすか?」

チルノが手を頬に当ててくる。ひんやりとしたやわらかい感触が頬を包む。

男「ありがとな………ありがとな、チルノ」

早く立ち直らなければいけないのは知っている。でも今はまだ泣かせてくれ。

本当ありがとう。チルノ、四季さん。

211:2014/02/07(金) 22:02:11 ID:
昨日と今日でずいぶん泣き虫になってしまった。

かっこをつける必要はないと思うがそれでも泣いているところはあまり見てほしいものではない。

男「………さて、今日はなにやるんだろうな」

目の周りが腫れているだろうから顔を洗いながらそう考える。

昨日紫は俺に明日も動いてもらわないといけないといっていた。ならやはり俺に何か用があるのだろう。

人間相手なら復讐はできないが、痛い目にあってほしいからいくらでも手伝おう。

そんな暗い感情が半分ほどある。

紫「復讐、したい?」

いきなり耳元で声がした。驚いて振り向くと紫が立っていた。

男「いきなりなんだ」

ばくばくと動く心臓の音を悟られないようになんでもないようなふりをしてそう返す。

紫「復讐、したいかしら。萃香が人間を倒しに、いえ。殺しにいくんだけど」

倒すではなく殺す。そう言い直したからには萃香が人の命を奪いにいくんだろう。それについていっても言いと紫は言っている。

212:2014/02/07(金) 22:11:32 ID:
男「霊夢は、いくのか?」

霊夢が人を進んで殺すようには見えない。出会って数日だがただただ効率を求める霊夢がわざわざ人の数を減らして戦力を削ぐなんてことをするとは思えない。霊夢ならば人間は無視して邪魔なやつだけを倒していくだろう。

紫「いかないわ。霊夢は他のところに用事があるから」

今日は霊夢と俺は別行動らしい。あれだけ頼んだのに霊夢と一緒に行動をさせてきた紫がなぜ霊夢と違う行動をすることを進めるのか。

おそらくは俺の不満を解消させようとしているのだろう。そうやってまた使いやすい状態にする。

男「………分かった、行く」

出来ないと思っていた復讐が出来る状況を与えられ、暗い感情が黒い感情となり心を覆う。

そう俺が答えると紫が表面上は純粋に思える笑みを浮かべた。

紫「そう、じゃあ支度をしてきなさい。萃香は鳥居のところにいるわ」

男「あぁ」

紫と別れ鳥居に向かう。支度なんてするようなものはない。腰のホルスターに収めた銃だけで十分だ。

紫の掌でいくらでも踊ろう。今は外とかそんなことはどうでもいい。

何もしてないのに命を奪われたあいつらと同じ目にあわせてやりたい。

それ以外はいらない。

213:2014/02/07(金) 22:55:58 ID:
うわぁ踊らされてるっぽーい
しかし何故男をここまで利用しようとするのかねぇ

214:2014/02/07(金) 23:26:05 ID:
男に妖怪化フラグ立ったな

215:2014/02/08(土) 01:05:58 ID:
千匹の妖怪の血を浴びた人間は妖怪に成れるそうですよ~?


キャラの顔は分かるが作品が思い出せん

216:2014/02/08(土) 10:20:18 ID:
>>215 多分最遊記ですね。

217:2014/02/08(土) 10:31:48 ID:
萃香「………」

鳥居へと向かうと萃香が俺の顔をじろじろと見てきた。

何かついているのかと思って顔を撫でるが何もついていなかった。

男「どうかしたか?」

萃香「………別に」

いらだたしそうに萃香が吐き捨てる。

何か怒らせるようなことをしただろうかと記憶を探ってみるが特に理由は見当たらない。

萃香は無言で外に向かって歩き出した。

隣に並んで歩くのもなんなので少し後ろに下がってついていく。

萃香「………」

萃香の無言にプレッシャーがびしばしと飛んでくる。

今日はただ単に不機嫌なだけなのだろうか。

218:2014/02/08(土) 10:51:37 ID:
森の中を無言でしばらく歩いていると、遠くから声がした。

どうやら人間がいるようだ。

萃香はその声に向かってまっすぐ歩いているので、その人間達を殺すらしい。

里の外にいるということはあいつらが子供たちを殺したやつらかもしれない。

俺は何も出来ないので虎の威を借る狐みたいで格好悪いが萃香にやってもらうしかない。

問題は俺は自分の身を守れるかということだが、まぁあんなに強い萃香のことだ心配いらないだろう。

枝を踏んで音を立てたり木の葉を気にせずに進んでいるのでどうやら真正面から挑むらしい。卑怯なことが嫌いな萃香らしい。

萃香「ここで待ってな」

萃香が手を横に出して制止する。見るとある程度遠くに人間の姿が二、三十人ほどいた。

あれか。立ち止まって萃香に頷くと萃香はいつもどおりとてとてと酒を飲みながら歩いていった。

219:2014/02/08(土) 14:55:41 ID:
あらすじ
四季映姫もとい断罪美少女、映姫ちゃんは判決ミスにより閻魔をクビにされてしまう。しかし浄玻璃の鏡は真実しか写さない。その判決の真相を確かめるべく捜査に乗り出す!浄玻璃の鏡の破壊など、妨害を受けながらも少しずつ黒幕に近づいていく閻魔探偵、そして異変の主犯者と思われる仮面の男、崇徳天皇。金髪巫女、冴月 麟。行方が知れなかったさとりの姉、古明地ことりの存在が浮かび上がった。彼女等の目的は妖怪を操り人間を襲撃させ、ことりのテロ宣言によって妖怪と人間を衝突させる事。ことりについて調べる為、さとりのところに向かう映姫だったが冴月 麟による足止め受け、敗北してしまう。更に、魔界と地底を封印され状況は悪化、麟らが目論んだ結果になってしまった

220:2014/02/08(土) 15:04:53 ID:
萃香「ちょいと待ちな」

萃香が人の集団に向かってそう声をかける。人間たちは萃香を見るといきなり武器を抜いた。どうやら萃香の名前は有名らしい。

萃香「昨日、妖怪の山に火をつけたのは誰だ」

その萃香の問いに人間たちは黙っていたが、奥から一人の少女。黒髪に前髪一房赤い髪、ところどころに白い髪、そして小さな角が生えているそんな少女が現れた。

人間ではなく妖怪なのはみればわかる。人間に味方をする妖怪か。同族殺し………いや、俺も似たようなものか。

正邪「呼んだか?」

にやりと邪悪な笑みを浮かべる妖怪。

その返事をするということは

男「っ!!」

萃香から止められたことを忘れて駆け出す。

こいつが殺したのか、子供たちを。

憎いという気持ちが頭を支配し、原動力となる。

ちゃんと声にならない叫び声をあげ、妖怪に殴りかかろうとする。

萃香「やめなっ!!」

萃香のいつもよりだいぶ強いこぶしを受けて吹き飛び、地面に一度もつかず木にぶつかった。

221:2014/02/08(土) 15:48:13 ID:
続き
そんな時幻想郷に幻想入りした男、彼は外の世界に戻る為、霊夢達に協力することになった。妖怪の子供達や魔理沙と触れ合う内、異変解決の為戦う決意は固くなっていったがある日、妖怪の子供達が火事に巻き込まれて焼死してしまう。渡されていた「時間を巻き戻せる銃」で惨劇を回避しようとするが、その効果はあくまで異変解決を妨げる出来事が起こった時発揮される道具だった。「復讐、したい?」その後人間に恨みを抱く男に紫はそう声をかける...
自己満足でやりましたスマソ

222:2014/02/08(土) 21:08:13 ID:
>>221 ありがとうございます

223:2014/02/09(日) 09:20:15 ID:
何をするんだよと叫びたかったが、肺の中の空気が衝撃で押し出されて声を出すことが出来ない。

地面うつぶせになって落ち、その衝撃で意識が飛びそうになる。そして空気を失った肺が空気を求めて不恰好な呼吸を繰り返した。

立とうと思ったが体がうまく動かない。なんとか頑張って木に体を預けるようにして座る。

息を整えて妖怪に届くように大声で問いかける。

男「なぜ殺した!!」

その言葉を聞いて妖怪は両手で顔をおさえた。

正邪「わ、わたしだって殺したくなかったっ。でも私は弱いから小さいときからずっと他の強い妖怪に迫害されて生きてきた。あいつらの親に………子供たちが関係ないのは分かってる、それでも憎しみが止まらなかったんだっ!。私は誰にも守られなかったのにあいつらは守られている。なぁ、弱いということはそれだけで救いがたいほど悪なのか? なぜそれだけの理由でさげすまれなければならないのだ? 強くなれない我々弱者はなにかしたのか? 強者はなんで当たり前のように弱者を虐げるのだ? おかしいじゃないか。自分の生を憎めとでもいうのか? 違うだろう。我々は悪くない。悪いのは強者じゃないか。強さを自分勝手に振舞う強者じゃないかっ!!」

震える声で妖怪が語る。悲しみと怒りを含んだ声が森の中に響き渡る。

正邪「こいつらだって妖怪という強者に家族や友人を奪われた! 何もしてないのにだ!! 私は妖怪を憎む。我々は妖怪を狂おしいほどに憎む!! なぁ、教えてくれよ外から来た人間。いつも奪われる我等が奪い返すのは罪なのか!? それを罪だというのなら強者のほうがよっぽど罪じゃないか!! 反吐がでるような悪じゃないか!! 下克上の何が悪い!! うらまれるようなことをしたのはあっちじゃないか!! 自業自得だろ!? 違うのか、なぁ人間!!」

胸を衝く慟哭。

両手を握り締めて妖怪が泣きながら叫ぶ。

俺の中の憎しみは消えない。

だけど俺は

どうすれば………

224:2014/02/09(日) 09:34:29 ID:
正邪「………って言ったら許してくれるのかい?」

―――妖怪の顔が泣き顔からいきなりにやにやとしたいやらしい笑みへと変わる。

再び我を忘れて、痛みで動かない体を無理やり起こして殴りかかる。

許せない。

男「なんで殺したんだよぉおおおおぉおお!!」

萃香「やめろっ!!」

萃香が腕を掴んでとめる。力を振り絞って進もうとするもぴくりとも動かない。

妖怪との距離は数メートル。その数メートルがどうしても詰められない。

正邪「なんでかって!? 教えてやろうじゃないかっ!! あいつらな、助けてくれって言ったんだよ。やめてって。大人の妖怪なんか、私はいいから子供たちは助けてあげてだってさ。いやぁ泣ける泣ける美しい美しい。だから殺して火をつけた!。じゃんじゃじゃーん、衝撃の事実! びっくりびっくり あっはっはは。なぁなぁ、今どんな気持ちだ? 殺したいほど憎むやつに拳が届かないって。悲しい? 悲しい? あははははっ」

男「うあぁあああ!! 萃香離せ!! 離してくれぇっ!!」

正邪「ほらほらどうした? 殴りたいんだろう? 動かないでいてやるよ。ほら、ここ殴れよ人間。どうした殴らないのか!?」

萃香「男、私が殺す」

萃香がそういって俺の体を後ろの放り投げる。

二十メートルほどとんで地面に落ちた。

225:2014/02/09(日) 09:49:00 ID:
萃香「お前が同じ鬼と信じたくないな。反吐が出る」

正邪「お褒めいただきどうもありがとう」

萃香「………こんなにイラついたのは久しぶりさね。とりあえず男に土下座して心から謝ったらいたぶって殺してやる。謝らなかったら後悔しても殺してやらない」

正邪「断るね! さぁ、お前達目の前の鬼、傍若無人に振舞う鬼を殺したいか?」

「殺したいっ!!」

今まで黙っていた人間達がそう叫ぶ。

人間達が妖怪に怨みを持っていることはどうやら嘘ではないらしい。

正邪「よろしい。じゃあ思う存分殺しあえ。修羅『インドラリバース』」

妖怪がカードを取り出して砕く。カードは砕けると無数の光となって消えていった。

正邪「伊吹 萃香。お前と戦っても勝てないことは百も承知だ。だから私は逃げさせてもらうよ。ではごきげんよう」

妖怪がけらけらと笑いながら集団の向こうへと消えていく。萃香は当然それを追おうとしたが

萃香「―――っ」

人間二人に捕まれて動きを止められてしまった。

すぐに萃香は人間を投げ飛ばしたが、あの人間。少しの間だとしても鬼の萃香の動きを止めるなんて。

いったいどういうことだ。

226:2014/02/09(日) 10:10:35 ID:
萃香「あぁ、そういうことかクソ野郎」

萃香が苛立たしげに吐き捨て近くにいた人間を殴り飛ばす。

殴り飛ばされた人間は木にぶつかって、そして普通に立ち上がった。

おかしい。いくらなんでも強すぎる。

おそらく本気ではないとはいえ鬼の一撃を受けて平然と立ち上がれるなんて。

日ごろ萃香に殴り飛ばされている俺ですらさっきの萃香の一撃を受けて痛みでうまく動けないというのに。

萃香に殴り飛ばされ、それでも向かってくる人間達。しかも動きが早い。

萃香はなんとか受け流したりしているがそれでも相手の攻撃が当たりそうになる場面がなんどかある。負けるとは思わないがそれでも多勢に無勢。あの妖怪を追うことはもうできないだろう。

一撃で倒すことが出来ず、普通の人間よりも強いだなんてまるでゾンビだ。

戦いは数分、十数分と長引き、これは大丈夫なのだろうかと不安を抱く。

もしかしてこのまま戦いが続いて、こっちが逃げるようになるんじゃないかと思ってしまったその時だった。

村人「う、が………ぁ」

どさりと人間が倒れる。一人ではなく、何人もが倒れていく。

やっと倒したのだろうか。そう思ったが倒れた人間が一人の例外もなくのた打ち回ってることからそうではないことに気付いた。

萃香がやったのなら動けなくなってるはずだ。生きてるしろ生きてないにしろ。のた打ち回るような半端な攻撃はしていない。

227:2014/02/09(日) 11:03:02 ID:
萃香「男、ちょっとこっち来な」

萃香に呼ばれて、痛む体を引きずりながら近くまで行く。

萃香「見な。こいつらを」

萃香が地面でもがき苦しむ人間を指差す。

萃香「さっき正邪がやったことは普段人間が使ってる力と、抑圧されている力の逆転。普段使えないような力を使って、しかも酷使した結果がこれだ。自分の体は耐えきれず死にいたる」

萃香「復讐なんてこんなもんだ。結果的に自分が犠牲になる。それでもいいとか言える大馬鹿者になっちゃいけないんだよ」

萃香がまっすぐ目を見る。

説教までとはいかないが静かに諭してくる。

萃香「私がやってやるからさ、男はこんなことにならないでくれないかね。お願いだよ」

萃香が悲しそうな顔をしてそう言う。

俺は心の整理がつかなかったがあの萃香が悲しそうな顔をしている。それを理由に小さく頷いた。

228:2014/02/09(日) 13:06:09 ID:
そりゃ復讐に失敗すりゃ無残になるに決まってるだろ、何事も失敗すればろくでもないことになるし
成功すれば爽快感しか残らないけど

229:2014/02/10(月) 01:48:57 ID:
そんなことより何で兎男が人間側についたのかが気になるな…

230:2014/02/10(月) 05:22:21 ID:
>>229
「他の妖怪は人間を滅ぼせと言うが私はそう思いません、酒や美味しい食べ物を作るので少しは残してもいいと思ってます」
とか?でもこれじゃ悪役だな…つか誰の台詞だっけ

231:2014/02/11(火) 17:16:23 ID:
ギャグかと思ったけど違った
非常に続きが気になる。支援

232:2014/02/12(水) 10:16:21 ID:
萃香「………」

村人「う………」

萃香が、もだえ苦しんでいる村人の首を折っていく。

そこまでしてやる必要があるのだろうか。結局自業自得じゃないかとまだ憎しみがくすぶっている俺はそう思ってしまう。

萃香「………こいつらは、自分の命を捨ててまで私に立ち向かってきたんだ」

萃香が首の骨を折りつつそう呟く。どうやら俺の考えは表情にでていたらしい。

萃香「もちろん男にはこんな生き方をしてほしくない。でもだからってこいつらのこと否定できるわけないじゃないか」

ぽきりぽきりと首を折っていく萃香を眺める。

あの子達を殺したくせに今萃香に楽に逝かせてもらっている。

それが許せなくて、でも怒ることができなくてどうしようもないこの気持ちをどこにぶつければいいのかわからず拳を強く握り締める。

萃香「………終わったよ」

萃香が最後の人間の首の骨を折った。

233:2014/02/12(水) 10:25:53 ID:
地面に横たわる人間はもうもがき苦しむことも息をすることもない。

萃香「屍をさらしっぱなしじゃ可哀想だ。葬ってやってもいいかね」

萃香が振り向いて俺に確認を取ってくる。それに俺は全てはあの角の生えた妖怪のせいと必死に思い頷く。

萃香は小さく頷いて死体に向き直った。

何をするわけでもない。地面に穴を開けるわけでも、火をつけるわけでもない。

萃香は死体をただ見ているだけだった。

さぁぁと死体が砂のように崩れていく。

初めて見た萃香の能力。

密と疎を操る程度の能力。

それを使い萃香は人間を葬った。

この幻想郷に。

全ての死体が崩れ落ち、風に乗って幻想郷に散っていくのを見送った萃香はしばらくそこに佇んでいた。

234:2014/02/13(木) 09:02:42 ID:
もう二人とも行動力が尽き、どちらからともなく帰ろうという雰囲気になったので神社に向けての道をただひたすら無言で歩いていた。

帰ったら紫に会って話して見よう。おそらく紫は俺に、何か俺のことを隠している。

それがなんなのかは分からないが、ただの一人間である俺にそこまでさせる理由が見当たらない。

もしかしたらこの銃を使える条件があって、その条件に合うのが俺だったとかそういう理由かもしれないが確定していない今、不信感が募る。

萃香「なぁ、男」

萃香が話しかけてくる。その声色はいつもよりは少し落ち込んでいた。

萃香「思えば全部私が蒔いた種だったのかもしれない」

男「………なにがだ?」

萃香「あの角の生えた妖怪。鬼人 正邪っていうんだが、あいつは私と同じ鬼、っていっても天邪鬼なんだが私は昔から弱くて嘘つきなあいつが大嫌いで会うたびいつもなにかしらの暴言や暴力をあいつにしていた」

萃香が立ち止まって少し下を向く。

萃香「だからかもしれない、いやきっとそうなんだろう。あいつが強いやつを憎むようになったのは。もし私が弱いものを助け強きを挫くだったらあいつの性格はここまで歪むことはなかっただろう。でも私は強きを倒し、弱きを罵っていた。自分以外は全て見下し、自分の強さに、戦いに酔っていた。強いやつに勝てば自分はこんなにも強いのだと酒以上に酔うことができる。でも弱いやつに勝っても何も得るものはない。だから私は弱いやつを見下していた。いや、見下している。強きものを恐れ、怯えて接してくるその目が気に食わない」

萃香「どこまで言っても自分中心に考えているんだよ私は。弱さは罪だなんて誰が決めたことでもないのにそう思い込んで。それならよっぽど強さの方が罪じゃないかといったあいつの気持ちも良く分かる。いや、よく分かるなんていって欲しくはないのかもしれない。私がわかった気になってるだけなんだろうから」

萃香「強さ、圧倒的な格の違い。そこまで言っておきながら私は自分が蒔いた種が芽生え他人に迷惑をかけることを許してしまった。あいつがいう強者様のくせにだ」

いつもの豪放な性格は消え、今は弱々しく嘆いていた。

弱さを嫌っていた少女が今、弱さを俺に見せていた。

235:2014/02/13(木) 09:13:58 ID:
気の利いた返事が出来るほど俺は人生経験を積んではいない。

だから萃香の頭を撫でることにした。それぐらいしか出来なかった。

撫でられるのが嫌で怒るのでは、と撫でたときに思ったが、萃香は黙って撫でられていた。

さらさらとした少女の髪を梳くように撫でる。

弱みを見せてくれたのならそれを否定せず受け入れる。

弱さを人に見せることができるのもまた強さなのではないかと生まれて二十年の男が分かったように思う。

萃香を憎みなんてしない。だって正邪は嘘をついていたかもしれない。なら萃香が後悔しなくてもこれは起きたかもしれないじゃないか。そんな思いを萃香に伝えると萃香は

萃香「ありがとう。男」

と小さく笑って

トスッ

何度かそんな衝撃が俺を襲い地面に倒れ伏す。激痛はその後に来た。

男「う、がぁ、は」

背中に何かが刺さっている。刺さった何かは内臓を傷つけたらしく、口から血をはきだした。

236:2014/02/13(木) 09:23:21 ID:
正邪『鬼と寄り添えるただの人間。そんな不穏分子を生かしておいたら何が起きるか分からないだろう?』

正邪『守れなかったなぁ。やっぱり弱さは罪だな。なぁ、伊吹 萃香』

どこからか正邪の声が聞こえる。どこから聞こえているのかは森に反響してよく分からなかった。

痛みという熱が背中を焼く。

流れていく血をどうすることもできずただただ生を流し続ける。

カチッカチッ

萃香「男――い―こ」

萃香が叫んで俺の体を抱きかかえる。そのままものすごい速さで駆けていく。

萃香の顔も服も俺の血で汚れてしまってる。そんなことをぼやけた目で見た。

カチッカチッ

眠いけど、寝ちゃいけないんだろうな。

カチッカチッ

さっきからなんだこれ、うるさ

237:2014/02/13(木) 12:36:38 ID:
~少年サイド~

数日後、射命丸さんは地底に戻ってきました。帰ってきた射命丸さんの顔はあまり明るいものではなく、どうやら外の状況がひどいのだろうということを教えてくれました。

帰ってきた翌日、射命丸さんは地霊殿に呼び出され、さとりさん、勇儀さん、パルスィさんに外の話をしています。

僕はその中に入ることは出来ず、お燐さんと外で話しが終わるのを待っていました。

お燐「外、面倒なことになってるみたいだね」

少年『はい、外へ皆逃げ出すこともできませんし』

お燐「チェックメイトってやつかな。そういえば最近こいし様を見たかい?」

僕はそれに対し首を横に振ります。

最近こいしさんの姿を見かけません。僕はなぜかこいしさんの姿を普通に見ることができるのですが、僕が見えないということはおそらくこの地底のどこかへ出かけているのでしょう。

お燐「まさか外………ってのはないと思うけど」

それでももしかしたらと思ってしまうのがこいしさんの凄いところです。

仕方ないとはいえ、いつも突拍子もない行動をするのがこいしさんですから。

238:2014/02/13(木) 12:59:43 ID:
文「それでは失礼します」

どうやら話し合いが終わったらしく射命丸さんが中から出てきました。

文「あや、どうもこんにちは、少年さん、お燐さん」

笑ってそう挨拶をしてきますが、その笑顔にどこか疲れを感じました。

少年『射命丸さん。お茶でもいかがですか?』

文「いえ、すみませんが遠慮させていただきます。少し休みたいので」

お燐「そんなに外はひどいことになってるのかい?」

文「えぇ、今までの異変とは比べ物になりませんね。異変であれだけの人数の命が奪われるなんて初めてですから」

文「一応椛に会いに行ってみたのですが門前払いされましたね。今彼女は指揮官をしているみたいです。ずいぶん出世したみたいで嬉しいやら悲しいやら」

椛、という人物が誰なのかは分かりませんが、おそらく射命丸さんの旧知の人物なのでしょう

お燐「それで、これからどうするんだい?」

文「後はさとりさんに話を聞いてください。私は死ぬほど疲れてるので。それでは」

射命丸さんが屋敷内なのに凄い勢いで廊下を飛び玄関まで飛んでいきました。

お燐「まったく、迷惑な」

そう風によって埃が舞い上げられた廊下を見ながらお燐さんがため息をつきました。

239:2014/02/13(木) 13:51:33 ID:
お燐「外に行く!?」

お燐さんがさとりさんの言葉に驚きます。そういう僕もさとりさんの外に行くという言葉に驚きました。

さとり「えぇ、このまま後手にまわると取り返しのつかないことになります。いくら勇儀やお空がいるとは言えあちらの戦力はこちら以上。ならば先に私が行って工作をしておいたほうがいいでしょう」

お燐「確かにさとり様が最適ですけど」

さとり「心配してくれるのはありがたいですが、私は地底の管理人。皆を守る義務があるのです」

普段とは違うさとりさんのまっすぐな目を見て僕とお燐さんは何も言えなくなりました。

さとり「では私はすぐに出かけるので、お燐、少年。後のことは任せましたよ」

240:2014/02/13(木) 14:05:07 ID:
さとりさんは自分の部屋に戻ってしたくをしているようです。

僕は出来ることならついていきたいと思って荷物を今最小限に詰め込んでいます。

もともと持っているものは少ないですから小さなかばん一つに納まりましたが、僕がついていくことは出来るのでしょうか。

不安で堪らないのでさとりさんが出る前に先に結界がある入り口へ向かおうと思います。

小さなかばんを一つ持ち家を出ます。

途中お燐さんに出会ってしまい、散歩とごまかしましたが小さなため息をついていたのでおそらく僕の考えはばれてしまっているのでしょう。

でも、お燐さんならさとりさんに言わないと信じてそのまま家を出ました。

外では雪がところどころに残り歩行を妨げます。

小さい僕が息切れしながら歩いていると白いコートを羽織り、手袋とブーツを履いたちゆりさんに出会いました。

ちゆり「お出かけか? 少年」

少年『はい。ちゆりさんはどうしましたか?』

ちゆり「これを少年に渡しに来たんだぜ」

そう言ってコートのポケットから小さな拳銃を取り出しました。

241:2014/02/13(木) 14:20:01 ID:
男「?」

ちゆり「さっき勇儀から頼まれてね。自分の身を守れるものを持っていたほうがいいって。だからはいこれ。小さくても必殺の武器だ。扱いには気をつけろよ」

そういいながら拳銃を投げて渡してきます。僕はおっかなびっくりそれを受け取り、扱いには気をつけないといけないんじゃと思いました。

でもなんで勇儀さんが僕にこんなものを渡してくるのでしょうか。僕が考えていたことがバレていた、のでしょうか。

ちゆり「まぁ、元気でな。少年」

………ばれているようです。

僕の頭を撫でながらそういうちゆりさんの表情を見て核心しました。

242:2014/02/13(木) 20:56:44 ID:
あれから色々な人に見送られながら僕は結界がある地底の入り口まで向かいました。

入り口には勇儀さんとパルスィさんがいました。

勇儀「よっ」

少年『やっぱりわかってたんですね』

パル「しばらく一緒に暮らしていたもの。さとりまでとは言わないけどあなたのことは理解してるつもりよ」

勇儀「まぁ、さとりがこのこと知ってるかはわからないけどな。あいつ変なところで鈍いから」

パル「さて、と、少年本当に外へ行くの? 外は危険って知ってるでしょ。今は戦争中なんだから」

その言葉に僕は悩まずこう答えました。

少年『今まで皆さんにはお世話になりました。だから恩返しがしたいんです』

勇儀「恩返しって馬鹿だな。そんなこと子供が考えなくていいんだよ」

勇儀さんが僕の頭をわしゃわしゃと撫でます。

なんだか今日は撫でられてばかりですが、皆さんに大切にされているということはとても嬉しく思わず顔がほころんでしまいます。

243:2014/02/13(木) 21:14:24 ID:
少年『それに、さとりさんを守りたいのです』

守れるなんて思わないけど、そばにいれば何か出来るかもしれない。ただ僕がさとりさんと離れたくないという理由もあるがそれでも僕だって男です。好きな人を守りたいのです。

パル「………あいつが少年みたいに一途だったら私も救われたかしら」

勇儀「おーい。子供がいる前でそんなこと言うなよ」

パル「ごめん。まぁ、そのおかげで私は今が楽しいからプラスマイナス0、いやプラスなんだけど」

勇儀「最近お前素直になったよな」

パル「子供がいる前で本性出せるわけないでしょ」

二人の会話を聞いているとまるで夫婦のようです。

いえ、勇儀さんは女性なのですが。

パルスィさんの本性。一度見たことはありますがそれはもうできれば経験したくないですね。

さとり「勇儀……って少年」

パル「ほら少年。愛しのさとりが来たわよ」

さとり「愛しのって///」

パル「くっそ妬ましい………」パルパル

勇儀「さっき子供がいるから本性は出さないっていったばっかりなのにな」

244:2014/02/13(木) 21:57:36 ID:
さとり「えっと、なんで少年は―――駄目っ!!」

さとりさんが僕の心を読んだらしく叫びました。

さとり「少年に何かあったら私………」

少年(………さとりさん)

勇儀「まぁ、信じてやりなよ。いくら辛くてもやらなきゃいけないときがあるんだよな。男の子には」

パル「気持ちは分かるけど本当に危ないと思ったらこっちに戻ってこれるんだからまずはおためし………ってまぁそんなに軽く決められないわよね」

さとり「もし、もし少年が危ない目にあったら」

少年『大丈夫です。自分の身は自分で守ります』

そう書いて僕はさっきもらった小さな拳銃を取り出します。

さとり「………あなた、人撃てないじゃない」

少年「………」

少年(さとりさんを守るためなら)

さとり「///」

勇儀「パルスィ、堪えろ」

パル「うぐぐぐぐ」

245:2014/02/13(木) 22:01:38 ID:
さとり「分かったわ。私は少年が危ない目にあわないように常に周りに気を配る」

勇儀「まぁ、さとりの読心さえあれば奇襲は無理だろうからな」

パル「じゃあ二人一緒にってことでいいかしら」

さとり「えぇ」

少年『新婚旅行が危ないものになっちゃいますね』

さとり「///」

勇儀「じゃあ、開けるぞ」

勇儀さんが薄く金色に光る結界を両手で掴みゆっくりゆっくりこじ開けます。

勇儀「早く、通ってくれ」

あの勇儀さんの腕がぷるぷると震えているところを見るとどうやらこの結界をこじ開けるのはとても大変なことのようです。

さとり「行くわよ、少年」

少年『はい』

246:2014/02/13(木) 22:12:10 ID:
勇儀さんが開けてくれた人一人がやっと通れるくらいの隙間を抜け、久しぶりに外の世界に出ました。

勇儀「がんばれよ! 二人共!!」

さとりさんが出たと同時に結界が閉まります。閉じた結界の向こうで勇儀さんたちが何か喋っているようですがどうやらこの結界は声も通さないようです。

思えば自分の力で外を歩くのは初めてかもしれません。いつもはこいしさんに担がれて外の世界を移動していましたから。

冷たい六畳間から温かい地底へ、そして今僕は太陽が大地を照らす地上に立っています。

ここ半年でどれだけのことを体験したでしょうか。それは今までの僕の人生を取り戻すかのように濃い時間でした。

そして今から僕は大好きな人と、大好きな人たちを守るために命を懸けて頑張ろうと思います。

少年『頑張りましょう。さとりさん!!』

さとり「こんなときはこうするのだったかしら」

さとりさんはくすりと微笑み片手の拳を固めてガッツポーズのような形で構えます。

さとり「えいっえいっ」

男(おー!!)

さとり「おーっ」

こいし「おーっ!!」

さとり「………え?」

247:2014/02/13(木) 22:25:18 ID:
~男視点~

暗闇の中だった。ただひたすら暗い闇の中に立っていた。

いや立っているという表現は正しくない。地面を踏みしめる感触がなかった。

俺は浮いている。落ちていることに気がついていないだけかもしれない。

なぜこんなところにいるのだろうか。

足を動かして前に進むも景色は黒以外ないので進んでいる気がしない。

そこで初めて不思議なことに気付いた。

俺の体だけは見える暗闇の中だというのに俺の体だけは日の下にいるときと同様に見える。

それがどういうことかは分からないがとにかくここはただの暗闇ではないらしい。

ところで皆は一体どこにいるのだろうか。暗闇よりそっちのほうが不安だ。

手を振り回して手探りに進むも人おろか壁にすら触れることはない。しゃがんで地面に触るも地面もない。

さてどうしたものかとこの不思議な空間にいるというのにやけに冷静な頭で考える。

そして出た結論はどうしようもないということだった。

248:2014/02/13(木) 22:34:17 ID:
やることもなくただひたすらに前へと進みながら秒数を数え続ける。

1、2、3、4、5

そうやって秒数を数えていくうちに意識せずに口は秒数を数え、足は前へと進んでいた。

そして口が数える数が2万を超えたあたりころ、暗闇の中に光が見えた。

その光に向かって走っていくとそれが光ではなく、人の形をしていることに気付いた。

もしかしたら何かこの状況について知っているかもしれない。

男「あの、すみません」

???「はじめまして」

男「っ!」

その人の顔を見る。

それは女性だった。しかし皮膚が見える場所には全てうろこがびっしりと生えている。まるで漫画で出てくる二足歩行の龍のようだ。

男「あの、ここは」

萃香なんかと違って本当に妖怪じみたその女性にびっくりしつつもそう聞くと女性は笑ってこう答えた。

???「幻想郷ですよ」

249:2014/02/13(木) 22:41:35 ID:
いやいやそんなことは分かっている。聞きたいことはここが幻想郷のどこなのかということだ。質問を幻想郷のどこかに変えて再度質問する。

???「幻想郷です」

………言葉は通じているのだが、彼女は壊れたCD、もしくはゲームの住民のように同じことしか話さない。

俺は諦めて彼女について聞くことにした。

男「あなたは一体誰なんですか?」

???「あなたのお母さんです」

男「………」

???「なんと嘘です。うふふ。騙されましたね」

男「分かってます」

びっしりうろこが生えていているのに表情はとてもおだやかに笑う。そのせいか怖いという感情よりも安堵を感じた。

???「いずれ分かります」

そんなこといわれると逆に気になってしまうのだが。

なので無理を承知で問いただそうとすると腕を誰かに引っ張られた。

振り向くとそこには見覚えのある小さな少年達がいた。

250:2014/02/13(木) 22:46:38 ID:
羽少年「よっ。にーちゃん」

男「おぉ、どうしたこんなところで」

わしわしと頭を撫でてやると羽少年は嬉しそうに笑った。

犬耳娘「おにいちゃんはなんでここにいるの?」

男「分からん」

こっちが聞きたいくらいだ。こいつらに聞けば教えてくれるだろうか。口ぶりからして知っているみたいだし。

男「どこなんだここ」

犬耳娘「幻想郷だよ」

またそれか。で、結局幻想郷のどこだっていうんだよ。

角娘「も、もしかしてお兄さんも行くの?」

???「いえ、行きませんよ」

角娘「よ、よかった」

どこに行くんだよ。教えてくれよ。

251:2014/02/13(木) 22:52:45 ID:
羽少年「絶対にーちゃんはこっちくんなよ! 絶対だからな!!」

犬耳娘「駄目!」

角娘「こ、こないでっ」

凄い拒否のされようだが俺は何かしただろうか。結構傷つく。

そんな傷心気味の俺に追い討ちをかけるように羽少年が無理やり手を取って指きりをはじめた。

羽少年「指きり拳万嘘ついたら針千本のーます!! 指切った!! 約束だからな!!」

おいおい。そこまでしなくてもいいじゃないか。言われたことはさすがに聞くよ?

苦笑いしながら頷く。

羽少年「じゃあなにーちゃん! また会えたらその時は空手教えてくれよな!!」

犬耳娘「今度会ったらお嫁さんになってあげるっ」

角娘「ぼ、ぼくも」

? 嫌われたと思ったらそうでもないようだ。

いったい何がなにやら。

そんな人生初めてのモテ期を体感しながら首をかしげる。

252:2014/02/13(木) 22:59:54 ID:
男「あぁ、約束な」

羽少年「約束なんていらねーよ!」

犬耳娘「うん」

えー、どういうことだよ。変な反抗期ですか?

鬼娘「さ、さようなら」

犬耳娘「ばいばい」

羽少年「じゃあな!」

男「またな」

かけて行く少年たちを見送って手を振る。少年達は暗闇の中へ消えていった。

???「それではあなたはもうそろそろ時間ですよ」

男「へ?」

鱗の女性がいきなりそんなことを言う。

わけが分からずに口を開けて呆けているとしだいに俺の体が薄くなっていった。

男「え!? ちょっ!?」

253:2014/02/13(木) 23:05:09 ID:
あわてるも何も出来ず鱗の女性にすがろうとした

が、手は通り抜ける。

???「頑張ってください」

微笑む鱗の女性は俺に向かって手を振るだけで今俺に何が起きているのか教えてはくれない。

そして俺の体が下から消えてゆき、腰、胸、首、口、鼻。そして耳が消える直前

???「―――を守ってあげて」

と言っていたのだが耳が消えていっているせいでよく聞こえなかった。

そして目が消えて、頭も消えて

254:2014/02/13(木) 23:10:08 ID:
目を覚ます。

夢を見ていたような気がするが、どんな夢を見ていたのかまでは覚えていない。

それよりここはどこだろうか。見渡すと知らない妖怪ばかり………いや

魔理沙「すやすや」

なぜか魔理沙が隣で寝ていた。

男「えぇー………」

意味が分からない。とりあえず寝ていたベッドから降り

男「ん? あれ?」

来ている服がいつもと違う。こんな服を持っていただろうか。まるで病院で着る―――

思い出した。俺後ろから矢でうたれて

男「あれ、でも痛くないな」

背中を触ると傷口がふさがっている。すげぇ、幻想郷の病院。河童の塗り薬でも使っているのだろうか。

256:2014/02/19(水) 16:07:28 ID:
支援です!
更新まだかー?

257:2014/02/19(水) 16:28:39 ID:
続きたのしみにしてます♪

259:2014/02/20(木) 16:08:49 ID:
鈴仙「あ、起きたんですね」

仕切りのカーテンの少し開けて兎の耳の生えた少女が顔をだす。

着ている服はブレザーだが、おそらく看護師なのだろう。

鈴仙「じゃあ傷の様子を見させてもらいますね」

そういって兎の少女が俺の背中をめくる。

鈴仙「あれ、もう治ってますね」

驚いたような声を上げたが、この看護師は自分のとこがどんな治療をしているのか把握してなかったのだろうか。

男「ここはどこなんだ?」

鈴仙「ここは永遠亭の妖怪側の病棟ですよ。あなたは人間ですけど特別扱いですね」

ぺたぺたと俺の背中を触りながら兎の少女がむーと唸ったりする。少しくすぐったくて身をよじる。

鈴仙「ちょっと師匠呼んで来ますね」

兎の少女がぱたぱたと小走りで病室から出て行った。

260:2014/02/20(木) 16:20:52 ID:
魔理沙「んぅ。むにゃむにゃ」

男「起きろ」

ベッドで気持ちよさそうに寝ている魔理沙の鼻にでこピンをする。

魔理沙「ふぎゃっ!」

男「なんで俺のベッドで寝てるんだよ」

魔理沙「お見舞いに来て眠かったから寝た」

男「簡潔な説明ありがとう。とにかく起きろ」

魔理沙「へいへい。んでもう起きて大丈夫なのか?」

男「あぁ、治ったからな」

魔理沙「治ったって………お前どんな体してんだよ」

いたって普通の体である。ためしに魔理沙を抱えてみるがが一般人並みの力しかでていない。

魔理沙「お、おいっ。降ろせっ!! 恥ずかしいだろっ」

男「罰じゃ」

永琳「邪魔して悪いようだけど、検診いいかしら?」

261:2014/02/20(木) 16:38:37 ID:
カーテンを開く音がして、そっちを見ると銀髪の女性とさっきの兎の耳の少女が立っていた。

永琳「本当に傷治ったの?」

男「? ここの治療で治ったんじゃないのか?」

永琳「そういう薬作ろうと思えば作れるけど、体に悪いから処方はしない、だから基本的に自然治癒を助ける薬しか使わないわ」

男「?」

永琳「あなた、人間?」

人間………そう改めて聞かれるとどう答えればいいかわからないが自分では人間と思っている。

だって今まで普通に暮らしてきたんだから人間以外の何者になるというんだよ。

映姫「すみません。それは私が原因なのです」

銀髪の女性のさらに後ろから四季さんが顔をだす。

治ったのが四季さんのおかげ?

262:2014/02/20(木) 16:59:37 ID:
映姫「私がここの薬を使わせてもらいました。知り合いが死ぬと悲しいのでつい動転してしまったのです」

永琳「あなたが?」

映姫「えぇ。申し訳ありません」

永琳「………………そう、少し話がしたいわ。こっちに来てもらえるかしら四季映姫」

映姫「えぇ」

男「俺のためにしてくれたんだから責任は俺にしてくれ」

永琳「別に、責任なんてそんな話はしないわ、ちょっとね」

………四季さんに迷惑がかからなければいいが。

そう部屋から出て行く四季さんたちを見送りながらそう願った。

263:2014/02/20(木) 22:14:36 ID:
魔理沙「あー。まぁ、なんだ回復したならなによりだ」

鈴仙「ですね。ところで今日中に退院はできると思いますがどうします?」

男「退院する」

魔理沙「なぁ、別にこのまま何日か治ってないふりして休んでもいいんだぜ? あんなことがあったんだし」

魔理沙が心配してくれたらしく、上目遣いで尋ねてくる。

その気持ちはうれしいが俺には休んでる暇なんてない。俺はみんなを守らなければいけないんだ。銃の効果範囲は半日。誰かが死んで半日経ってしまうと取り返しがつかなくなる。

それに、なんだかものすごく誰かを守らないといけないって気がするし。

男「いや、いいよ。ありがとうな」

魔理沙「本当自分のことは大切にしてくれよ? 死んだら元も子もないんだからな」

男「萃香にも似たようなこと言われた」

鈴仙「じゃあ退院ということでいいですね。手続きに時間がかかるんでできたらまた呼びにきますのでここでゆっくり待っててくださいね」

男「あぁ。よろしく頼む」

再びぱたぱたと部屋を出て行く兎の少女を魔理沙の頭をなでながら見送った。

魔理沙「恥ずかしいからやめてくれ」

264:2014/02/20(木) 22:31:14 ID:
手続きの時間とはなかなかかかるらしくもうすでに一時間以上経っているような気がする。実際は時計がないのでどれだけ時間が過ぎたのかはわからない。

このままベッドの上で魔理沙と話し続けるのもなんなので出歩いてみることにする。魔理沙と一緒ならば他の妖怪にちょっかいをだされる心配はないだろう。

仕切りのカーテンを開いて病室内を見てみる。どうやらこの部屋にはベッドが12個あるらしくそこには明らかに妖怪らしき妖怪や、一見人間に見える妖怪がいた。

カーテンの向こうから出てきた人間の俺を見て数人は驚いた顔をしていたが魔理沙が近くにいるので納得したらしくそれ以上は何もリアクションを起こさなかった。

さて、と立ち上がったはいいが特にすることもない。適当に出歩いてみよう。妖怪がいたとしてもここは中立だ。そうそう争いごとを起こすやつはいないだろう。

そう判断して廊下にでようとする。

羽男「………お前が男か?」

しかし出る前に部屋の中に入ってきた羽の生えた男に呼び止められた。

男「あ、あぁそうだが」

羽男「そうか、お前がか………」

男の声は疲れきっていた。顔を見ると目の下に隈があり顔色の悪いように見える。

魔理沙が警戒して俺と男の間に入ってくるが男は魔理沙の存在なんて気にせずもう一度「お前がか」と俺の顔をじっと見て繰り返した

265:2014/02/21(金) 20:51:30 ID:
いったい何なんだと思ったがこの男の顔をどこかで見たような気がする。

いや見たというか誰かを思い出す。

『にーちゃんっ!』

男「あ………もしかして羽少年の」

羽男「父だ」

男は羽少年が順調に年を取ったらこういう風になるんだろうなというほど似ている。

男「その、俺は」

責められるのだろうか。俺が生きていてあいつらが死んでいるから。

理不尽だとは思うが子を思う親の気持ちが理解できないわけでもない。俺だってこんなに悲しいのだ。子供を失った親がどれだけ悲しいことか。

想像できるとはいえないが俺の胸の痛みの数十倍は痛いはずだろう。もしかしたら数百倍かもしれない。

羽男「あいつは………どうだったか? 楽しそうだったか?」

男「楽しそうだった。いつも笑顔で」

笑ってはしゃいで、毎日を楽しそうに生きていたんだ。子供らしく一生懸命に楽しんでいたんだ。

羽男「あの子の話をしてもらっていいか?」

男「あぁ」

266:2014/02/21(金) 21:37:14 ID:
通路にあった長椅子に座る。魔理沙はついてきたが聞いていいものかと迷ったらしく少し離れた場所に立っていた。

椅子に座った男はうなだれ実際よりも酷く小さく見えた。

男「一番最初に俺に懐いてくれて。数日だけだったけど本当楽しそうで。こんなところにいないといけないけど、にーちゃんと四季さんがいるからそれでも楽しいって、言ってくれて」

羽男「………そうか」

男はぽつりと小さく呟いて目元を拭った。

羽男「あいつは家でもやんちゃでな。いたずら好きで、反抗期で………でも」

男「優しくて、明るく、みんなに好かれる」

そんなあいつに俺はどれだけ救われたことか。どんなに気持ちが沈んでもあそこに行けば気分が晴れた。もし最初にあいつがいなければ俺はあの空間に溶け込めなかったかもしれない。

人間の俺に勇気をだして話しかけてくれたあいつがいたから俺はこの辛い世界を挫けることなく生きてこれたんだ。

羽男「………ありがとう。外の世界の人間。私からとあの子からの感謝だ」

男「………こんな俺で、よかったのなら」

羽男「十分だ」

男がこっちを見て涙を流しながら微笑んだ。

267:2014/02/21(金) 21:38:29 ID:
通路にあった長椅子に座る。魔理沙はついてきたが聞いていいものかと迷ったらしく少し離れた場所に立っていた。

椅子に座った男はうなだれ実際よりも酷く小さく見えた。

男「一番最初に俺に懐いてくれて。数日だけだったけど本当楽しそうで。こんなところにいないといけないけど、にーちゃんと四季さんがいるからそれでも楽しいって、言ってくれて」

羽男「………そうか」

男はぽつりと小さく呟いて目元を拭った。

羽男「あいつは家でもやんちゃでな。いたずら好きで、反抗期で………でも」

男「優しくて、明るく、みんなに好かれる」

そんなあいつに俺はどれだけ救われたことか。どんなに気持ちが沈んでもあそこに行けば気分が晴れた。もし最初にあいつがいなければ俺はあの空間に溶け込めなかったかもしれない。

人間の俺に勇気をだして話しかけてくれたあいつがいたから俺はこの辛い世界を挫けることなく生きてこれたんだ。

羽男「………ありがとう。外の世界の人間。私からとあの子からの感謝だ」

男「………こんな俺で、よかったのなら」

羽男「十分だ」

男がこっちを見て涙を流しながら微笑んだ。

268:2014/02/21(金) 21:52:41 ID:
羽男「最後に子供たちを殺した相手を知ってるか?」

男「………」

知っている。

だがそれを教えていいものか。こいつがもし強かったのしても相手は正邪だ。またあの術で強い人間を作り出すのだろう。

勝ち目は薄い。死ににいくようなものだ。

でも俺がそれを言ってなにか意味があるのだろうか。俺の復讐は萃香に止められた。だけどこいつの復讐を止めることは俺にはできない。百や千の言葉を使っても俺ではこいつを止めることはできないんだ。

男「正邪っていう天邪鬼だ」

悩んで俺は正邪のことを教える。萃香が倒してくれるといっていたことを付け加えて。

もしかしたら萃香の名前をだせばおとなしく復讐をやめてくれるかもしれない、というそんな卑怯な保険。

羽男「そうか。ありがとう」

男が立ち上がって頭を下げて歩いていった。

あの男は死ぬのを覚悟しているのだろう。最後にみた表情は何かを決心したような表情だった。

269:2014/02/21(金) 22:03:30 ID:
魔理沙「ハンカチ………」

羽男の姿が完全に見えなくなったころ魔理沙が近寄って白いレースの女の子らしいハンカチを差し出した。

男「ん、ありがと」

魔理沙からハンカチをもらって流れる涙を拭く。

羽少年の話をして、もうあいつがいないことを再認識して涙が流れた。

数日で吹っ切れるほど俺は強くない。

魔理沙「………私がいるから、なんてそういうことは言わないけどさ。頼りたかったら頼ってくれ。そうしたらこの魔理沙さんはどこまでも力になってやるからさ」

男「うん、ありがとうな、魔理沙。頼っていいか」

魔理沙「おう」

男「しばらく一緒にいてくれないか」

魔理沙「まかせろ」

魔理沙の袖を掴んで今まで以上にあふれ出る涙を抑えきれずにハンカチで顔を覆う。

ただ魔理沙は優しくずっとそこに立っていてくれた。

270:2014/02/21(金) 22:15:00 ID:
魔理沙「案外さ、お前のこと頼りにしてるんだぜ?」

男「………なんでだ?」

泣き終えしまおうとしたハンカチを魔理沙にむりやり回収されたりしながら廊下で二人っきりで過ごしていると魔理沙がいきなり照れくさそうな顔でそういった。

魔理沙「守ってくれるんだろ? 萃香に鍛えてもらってまで」

男「そのつもり。あんまり自信ないけど」

魔理沙「十分だよ。男にそんなこと言ってもらうの初めてで嬉しかった。女の子はそれだけでまた戦えるんだぜ?」

男「男もだよ。守りたい人を守るためなら何度でも立ち上がってみせる」

そんなくさい台詞をはいてしまいすごく恥ずかしくなったが魔理沙は顔を赤くして笑った。そんな二人の様子がおかしくて顔を見合わせて俺はわははと魔理沙はえへへと笑った。

魔理沙「身近にいた男なんてさ親父と朴念仁ぐらいだからさ。なんか男は初めてのお兄ちゃんというかなんというか。まあそんな感じなんだ。だから大好きだ」

男「俺もだ。妹みたいだもんな」

魔理沙「えへへ。ありがとうな」

男「こちらこそ」

271:2014/02/21(金) 22:46:39 ID:
鈴仙「手続き終わりましたよー。もう退院して大丈夫です」

兎の少女が小走りしながらそう教えてくれる。

時間はおそらく数時間経っているだろう。外の太陽を見て推測する。

とくに持って帰る荷物もないので魔理沙が箒を取ってくるのを待つ。

鈴仙「なんか体がおかしいなーなんてことがあったらもう一度来てくださいね」

男「わかった。なぁ、ひとつ聞きたいんだがなんでここ中立なんだ?」

鈴仙「静かに暮らしたいからですよ。だからどっちの味方もしませんし敵にもなりません。ただ治すだけです」

男「そうか」

魔理沙「お待たせ。帰るか」

男「おう。さっきのお医者さんにありがとうって言っといてくれな」

鈴仙「わかりました。それではお気をつけて」

272:2014/02/22(土) 00:26:48 ID:
魔理沙の箒の後ろに乗せてもらい飛ぶ。

今いたところは永遠亭、迷いの竹林。そこから東に向かって飛ぶ。高度が戦闘を避けるために高いうえ人間の里を避けているので結構な長距離だが魔理沙の箒のスピードは速くぐんぐんと移動していく。

この前はスピードに耐えれなかったが今回は魔理沙が俺に防御魔法をかけてくれているのでなかなか快適だ。

それでも落ちたらさすがに今度は死ぬという恐怖心はある。

が、まぁ魔理沙だからそれはない。たとえるならジェットコースターのような安心が約束された怖さだ。

魔理沙「? あそこ変じゃね?」

突然魔理沙が地面のほうを指差す。その方向を見ると冬だというのに一面に花が咲き乱れていた。

魔理沙「幽香かな。あそこは魔法の森の近くなんだが、何しに? 気になるから降りてみるか」

男「大丈夫なのか?」

魔理沙「大丈夫だ。森の中を低飛行で突っ切ればいいし。アリスもいるし」

アリスという人物が誰なのかはわからないがどうやら魔理沙の知り合いでなかなか信頼されている人物のようだ。

魔理沙「んじゃ、行くか」

そういうやいなや魔理沙が急激に高度を落とす。地面に対して直角近くまで箒が傾いているのでおもわず魔理沙にしがみつく。

わずか十数秒で地面から十数メートルまでの高さになる。そこで急ブレーキをかけたが魔法のおかげで衝撃が来ることはなかった。

見た限り魔法の森は光もあまり射さない木々が鬱蒼と茂った森みたいだ。そんな森に花が咲き乱れているのは不自然を通り越して不気味だ。

273:2014/02/22(土) 00:44:36 ID:
そういえばなぜ幽香はこんな自分の居場所を知らせるようなことをしているのだろうか。

戦いたいからか、自分の存在をアピールして他者が近づかないようにしているか。

幽香らしいのは前者だがただの偏見なので確信はない。

魔理沙「さて、と。最初に言っておくが事故ったらすまん」

そんな不安なことを宣言して魔理沙が魔法の森の中へと飛んでいく。

森の中は外から見たのと同じ、いやそれ以上に暗い。

魔理沙「花は全体的に咲いてるのか。道みたいになってればよかったんだがこれじゃあ居場所の特定はできそうにないな。とりあえず適当に飛ぶか」

魔理沙は木々の隙間を綺麗に縫いながら飛んでいく。どうやらさっきの言葉で心配する必要はなさそうだ。

魔理沙「っ!」

魔理沙が急に止まる。なんだと思った瞬間魔理沙の一メートルほど前に鉄製の槍を持った50センチほどの人形が六体並んでいた。

274:2014/02/22(土) 00:52:03 ID:
魔理沙「アリスの半自動防衛人形か。そういやここらへんはアリスの領域だったな」

魔理沙がそう言っている間にも人形は近づいてきていた。人形からは透明な光る糸が出ておりどうやら誰かが操っているようだ。魔理沙の言葉から察するにアリスが操っているのだろう。

魔理沙「男、気をつけろよ。今から無理やり突破するから」

俺の返事を聞かずに魔理沙が加速する。人形はその速度に対応して追いかけてくるが魔理沙はそれを縦や横に移動して避ける。防御魔法が張られているから速度による被害はないが揺さぶられるため酔ってしまいそうだ。

どうやら魔理沙は逃げているのではなく一定の方向に進んでいるらしい。そしてその方向に行くにつれてどんどん花の密度が上がっている。

木々を避け、人形を避け、それを繰り返しているうちに大きく開けた場所にでた。

そこには小さな白い洋館が建っており一面にスノードロップの花が咲いていた。まるで雪が積もっているように見える。

そして玄関の扉の前で驚いた顔でこっちを見る碧眼金髪の少女。

魔理沙「なぁアリス。あれ止めてくれよ」

その言葉と同時に森の中からさっきの人形が飛び出して魔理沙と俺に襲い掛かってくる思わず魔理沙を抱きしめる。

が、痛みはやってこなかった。振り返ると人形は直立して槍を構えずにそこに綺麗に並んでいた。

アリス「こんな時だものセキュリティーを厳しくしておくのは当たり前よね。だから謝らないわよ?」

アリスと呼ばれた少女はそう言って優しく微笑んだ。

275:2014/02/22(土) 10:40:21 ID:
魔理沙「別に怒ったりはしないけど中に入っていいか?」

アリス「えぇ。かまわないわよ。でもそこに咲いてる花踏んじゃうと幽香が怒るわよ?」

魔理沙「おっと危ない。降りて普通に歩こうかと思っていたぜ」

魔理沙がスレスレをすべる様に飛ぶ。玄関について俺を下ろして箒を壁に立てかけた。

アリス「そっちは?」

アリスがいまさらながら俺を怪訝な目で見る。

それもそうだ。俺は人間だからな。念のため怪しくないよとホールドアップしておく。

魔理沙「余計怪しいぜそれ。普通にしてろって。こいつは男。今うちで預かってる人間。敵ではないから安心しろ」

アリス「そう」

そういいながらも俺を見る目はそんなに変わらない。まぁ男というだけである程度の不安材料かもしれないからな。

しかし俺が万一襲い掛かったところで一瞬でネギトロめいた物体にされるだけだと思うのだが。

魔理沙「んじゃ、邪魔するぜ」

中に入る魔理沙に続く。アリスは外を見回して人形達を森の中に移動させてドアを閉めた。カチャリと鍵を閉める音が響く。

アリス「リビングに幽香がいるわ」

廊下を突き当たった先にあるすりガラス付きの扉を開け中に入る。リビングの中は人形がたくさん置いてあること以外よくテレビで見るような洋風の部屋だった。

276:2014/02/22(土) 11:53:16 ID:
幽香「あら」

部屋の中央に位置する机とソファーで幽香が優雅に紅茶を飲んでいた。

かすかに香る甘い花のような香りは幽香の匂いだろうか。

幽香「魔理沙に男じゃない。どうしたのよこんなところで」

アリス「人の家をこんなところとはひどいじゃない?」

魔理沙「空から見て凄い花が咲いてたからな」

幽香「人避けよ。と言ってもたまに人を導いてしまうけども。この私に戦いを挑む馬鹿がいるのよね」

幽香がやれやれとため息をつく。どうやら幽香は自分の強さに絶対的な自信を持っているようだ。

男「それでなぜ幽香はここに?」

幽香「アリスに呼ばれたのよ」

魔理沙「アリスに?」

アリス「ちょっと相談したいことがあってね。魔理沙は私のグリモワールについて知ってるわよね」

魔理沙「あぁ、あの開かない本だろ?」

アリス「そう、その本を使ってしたいことがあったのよ。だから手伝って頂戴」

277:2014/02/22(土) 12:13:08 ID:
アリスが魔理沙を連れて他の部屋へと消える。残されたのはソファーに向き合って座る俺と幽香。

幽香は静かに紅茶を飲んでいるが威圧感が凄くこの部屋を思わず出て行きたくなる。

幽香「ねぇ」

よし出て行こう。外の空気を吸いに行こうと立ち上がろうとしたとき幽香が話しかけてくる。少し浮かせた腰を下ろして少しうわずった声で返事する。

幽香「何よ。私ってそんなに怖いかしら?」

そりゃあ初対面があれだったから。もちろん口にはださない。

男「いや、幽香強いからさ」

幽香「取って食ったりしないわよ。暇だから話をしたいだけ」

男「それなら、まぁ」

いいかと思って深くソファーに座る。話だけならまた投げ飛ばされたりすることはないだろう。

上海「シャンハイ」

この部屋に二人以外の声がした。その声がしたほうを向くと可愛らしい人形がティーカップを持って空中に浮いていた。

いないのにこんなに精密の動くのかとかいつのまにとか可愛い人形だなとか喋るのかよとかいろいろ思ってしまって結局ありがとうとしか言えず紅茶を受け取った。

その言葉に人形はシャンハーイと喋って、いや鳴いて? 笑ってどこかへ消えていった。

まるで生きているようだ。

278:2014/02/22(土) 12:30:49 ID:
幽香「生きてないわよ」

俺の思考を読んだかのような言葉を幽香が言う。

幽香「どこまでいっても人形は人形。完全自立なんて夢のまた夢。まぁ、あの子はその夢を信じてるみたいだけど」

そう言って幽香が扉のほうを見る。

あの子とはアリスのことだろう。アリスはどうやら自動で動く人形を作ろうとしているのだろう。

しかし完全自立とはそれを人形と呼べるのだろうか。ロボットだって誰かに操ってもらわなければ動けない。操り手のいない人形を人形と呼ぶのだろうか。

幽香「ねぇ、外の世界って楽しいのかしら」

男「お前もか」

なんだかやたらと外の話を聞かれる。ここではそんなに外のことが珍しいのだろうか。

幽香「知らないことを知りたいのは知性をもつ生物としての基本的欲求。知らないほうが良い情報も知りたいと思うほどその欲求は強いもの。違うかしら」

男「そのとおりだが」

当たり前のことを話そうとするのはどうしても難しい。魔理沙や子供たちに話したように少し誇大して話すのならまだし幽香はそんなことを求めてはないないだろう。

だが俺の持っている幽香の望む外の情報。それをまとめて吐き出せるほど俺はトーク力を持っていない。

幽香「難しかったかしら。じゃあお題をつけましょうか。あなたの人生………どうかしら」

279:2014/02/22(土) 12:46:59 ID:
程度の能力ってどういう過程で得るんだろうか?
男も能力持ちになるかなー?

280:2014/02/22(土) 12:47:17 ID:
男「俺の人生なんて聞いててそう楽しいもんじゃないぜ?」

幽香「面白いかなんて期待してないわ。ただあなたを知りたいだけよ」

………少しタイプだったからそんな言葉を言われると少し照れる。そういう意味じゃないとしてもだ。

男「えっとな」

俺の平坦でつまらない人生を話す脚色も加えてないので面白くもなんともない。

大きな不幸も大きな幸福もないエンターテイメント性にかけた俺の人生。それを幽香は黙って紅茶を飲みながら聞いていた。

相槌すらも打たずこの部屋には俺の声と紅茶をすする音しかない。

そして特に山場もないのであっさりと話し終えてしまった俺の話を聞いて幽香は

幽香「つまらないのね」

と言い捨てた。

幽香「本当何もなさ過ぎて逆に珍しい人生ね。人は誰でも挫折や苦悩を味わうものだと思ってたけど」

幽香は紅茶を飲み干しティーカップを机の上のソーサーに置いた。そして

幽香「ずいぶん薄っぺらい人生送ってるのね」

なんて辛辣な言葉を俺に投げつけてきた。

281:2014/02/22(土) 13:37:49 ID:
面白くない、中身がないというのは重々承知だがそれを言われるとまた辛いものがある。

しかも期待してないとまで言われてるのにこの言葉だ。

一気に疲れてソファーに沈みこむ。

幽香「別に気分を害そうとして言ったわけじゃないわ。本当珍しすぎるくらい普通なのよ」

男「わかってるけどさ。キングオブ普通だって。それでも漫画みたいな人生にあこがれてる一般的な男としては現実を突きつけられると辛いものがあるんだよ」

幽香「劇的な人生なら今現在送ってるじゃないの」

男「まぁ、そういえばそうなんだが」

妖怪や魔法使いに囲まれて生活するのはたしかに漫画らしいがとても胸が躍るような楽しいものとはいえない。魔理沙や四季さんに出会えたことは嬉しいことだが。

幽香「嘆いても時は戻らないし、進み続ける。悲劇も喜劇もひっくるめて全てしかたないとあきらめなさい」

男「………無理だろ」

そんなことができるはずない。20年ほどしか生きてない俺には。

幽香「そうね。そんな生き方できるのは仙人くらいよ」

ならいうなよ。

なんだかずっと幽香のペースでどんどん疲れが溜まってくる。

早く魔理沙戻ってこないかなぁ。

282:2014/02/22(土) 16:26:42 ID:
その願いむなしく魔理沙が帰ってくるのは数時間後だった。

それから幽香にいろいろからかわれたりしながら時間は流れていく。俺の疲労比例しながら。

結局の話この妖怪は俺のことをおもちゃにして時間をつぶそうとしたらしい。怒る前にそう笑いながら告げられ怒る気もうせた。どうせ怒ったところで何もできないのだ。

魔理沙「おっすおっすすまん時間がかかったってなんだ幽香。男をいじめてたのか?」

ぐったりしてる俺を見て魔理沙が察する。その問いに幽香は笑いながら肯定した。

幽香「なかなか面白いおもちゃじゃない。これ」

ついには人扱いまでされなくなっている。

魔理沙「相変わらずドSだな」

魔理沙がため息をつきながら帽子を整える。

魔理沙「帰るか、男」

男「………よろこんでー」

幽香「あらあら。嫌われたかしら」

男「嫌うというか………天敵、かな」

こうして俺の数多くの天敵の中に風見 幽香の名が刻まれた。

283:2014/02/22(土) 16:34:52 ID:
アリス「今日はありがとう。これ中にケーキが入ってるから食べてね。男も幽香が迷惑かけたみたいだから食べて頂戴」

人形が箱に入ったケーキを手渡してくる。なんと優しいことか。未だ結構他人行儀な態度だがそれでもありがたい。

アリス「また来なさい。紅茶ぐらいなら出せるから」

魔理沙「おぅ」

男「世話になった」

アリスに別れを告げ箒をまたぐ魔理沙の後ろに座る。ケーキを崩さないように水平に保って。

手を振る人形達に見送られながら魔理沙が空へと駆け上がっていく。

ケーキのことを忘れて。急角度で上昇していっているからおそらくケーキはぐしゃぐしゃになっているだろう。

男「じゃあ帰るか」

魔理沙「って言っても一日しか経過してないんだけどな」

夕焼けの空を博麗神社に向かって飛ぶ。

いつもどおりの魔理沙のスピードでぐんぐん魔法の森は遠くなり。ぐんぐん博麗神社が近くなった。

284:2014/02/22(土) 16:49:37 ID:
チルノ「ししょぉおおぉおおっ!!」

境内に下りた瞬間チルノが猛スピードで頭からタックルをかましてきた。俺は直撃して吹っ飛び、魔理沙も巻き込まれて吹っ飛ぶ。

チルノ「師匠師匠師匠っ!!」

チルノが胸にしがみついて半泣きで師匠と連呼する。

地面は硬いわ胸の中が冷たくてやわらかいわで混乱してると起き上がった魔理沙がチルノを引っぺがした。

魔理沙「お前もうでかいんだから気をつけろよ」

現在チルノの身長は150程度である。それが走りながら体当たりをしてくると結構な衝撃がある。

魔理沙「感動の対面はいいんだけどな」

チルノ「ごめん」

とりあえず立ち上がって服についた土を払う。どこも怪我をしてないようでなによりだ。

男「魔理沙。大丈夫か?」

魔理沙「怪我はないけどな」

それは良かった。とりあえず罰としてチルノの頭を乱暴に撫でる。チルノはあうあうと鳴きながら抵抗をしていたがしばらくしておとなしく撫でられていた。

285:2014/02/22(土) 17:20:42 ID:
萃香「男っ!?」

外の騒動に釣られて出てきた萃香が俺の顔を見て驚いたらしくはだしで駆け寄ってくる。

萃香「なんでもう治ってるんだい?」

男「なんか四季さんが良く効く薬を使ってくれたとかなんとか」

萃香「そうかい」

萃香はほっと安心したようなため息をはいた。どうやら萃香も俺のことを心配してくれていたらしい。

平坦な人生だったけどこれだけの人から心配されて案外俺はいい人生を歩んでるのかもな。

男「ただいま、萃香。チルノ」

萃香「おかえり」

チルノ「おかえりなさいっ!」

286:2014/02/22(土) 23:39:22 ID:
紫「怪我が治って良かったわ。心配してたのよ。それで悪いんだけど明日からまた霊夢と一緒に行動してもらうことになるから」

夕食を食べ終わると橙によって紫の部屋に呼ばれた。

中に入ると紫は俺にそう言う。そのほかには何も言わない。

ただ鋭い眼光だけが俺を射抜く。

その目が伝えてくることは、異論反論は一切許さないということだ。

現在の紫は妊娠中で能力を失い激しい運動もできない。もしかしたら俺でも勝てるのかもしれない。

それでも勝てるという可能性を1%たりとも感じない。どうやっても次の瞬間には俺は地面に這いつくばっている。そう感じてしまうのだ。

これが格の違いだろうか。俺はただ了解の意思だけを告げ逃げるように廊下へと出る。

冬だというのに汗をかいていた。

なぜ紫がここまで俺にさせるのかの理由は分からない。

戦力の問題ではないと思うのだが、その理由を聞く勇気は俺にはないし聞いても教えてくれないだろう。

不安をかかえ自分の部屋に向かって廊下を歩く。歩いていると神社のほうの屋根の上に誰かの影が見えた。

287:2014/02/23(日) 00:19:46 ID:
誰だろうか。そう思って靴を履いて屋根の下まで向かう。

霊夢「………」

霊夢がいた。屋根の上でお猪口を片手に月を見上げている。

声をかけていいのだろうか。月を見上げる少女は美しく絵画のようで声をかけるのをためらう。

結局近くでその光景を見続けていると霊夢が俺に気づいてふわりと地面に降りてきた。

霊夢「覗き見? 趣味が悪いわね」

男「ぐっ」

否定ができない。ここで綺麗だったから思わずなんていったらどんな目に合うだろうか。

霊夢「まぁいいけど」

霊夢がお猪口に一升瓶で酒を注ぎそのまま飲み干す。

ほぅとついた息が妙に色っぽく見えて思わず目をそらした。

霊夢「………何よ」

男「べ、別になんでもない」

霊夢「外の世界ではお酒を飲めれる年齢が決まってるらしいけどここは幻想郷だから問題ないの」

霊夢が勘違いしてくれて助かった。とにかく早くここを去りたいので霊夢に別れを告げ自室へと戻る。自室に戻って気がついたらいつの間にか紫と対面したときの恐怖は消えていた。

288:2014/02/23(日) 00:34:45 ID:
男「あー温い」

風呂に入りほっと一息つく。なかなか広い風呂を今日は独り占めだ。

タオルを額に乗せて月を眺める。

そういえば霊夢も月を眺めていたな。輝く月は透明な人間にとっては無害で無益な光を地上にばら撒く。その光を浴びていったい霊夢は何を考えていたのだろうか。

風呂に反射する月をすくって見てもそれが分かることはない。

男「まぁ、霊夢も年頃の女の子だからな」

そんな意味不明な言葉でとりあえず納得しておく。

がらがら。

誰かが入ってきた。亡霊男だろうかと一瞬考えたが亡霊男なら音もなく入ってくるだろう。

脱衣場の服に気がつかなかった、と呆れながら湯気の向こうの誰かに向かって声をかける。

男「入ってるぞー」

しかしその誰かは俺の言葉に反応することはなくどんどん俺のほうへ近づいてくる。

水面をかきわけこっちへ向かってくるということは意図的にか?

とりあえず目を手で覆って事故を起こさないようにする。

相手からしてきたとしてもこっちが悪くなるのが男の辛いところだ。

289:2014/02/23(日) 00:45:29 ID:
魔理沙「いい湯だな」

魔理沙の声が聞こえた。そして近くで水音。どうやら俺の近くで湯に浸かっているらしい。

男「あぁ、そうだな。すぐ出るから」

そういって立ち上がろうとすると肩を押さえられて強制的に座らされる。

魔理沙「あの、なんだ。立つと見えるからやめてくれ」

明かりが月の光しかないとはいえ立ってしまったら完全に見える。そこは盲点だったがだが俺にどうしろと?

こうやってずっと目をつぶっているのもなかなか辛いものだ。

魔理沙「別に目を開けてもいいぜ」

なんて誘惑を魔理沙がしてくる。別に俺はロリコンではない。そのはずなのだ。

必死に自分を押さえ込む。

男「………」チラッ

が俺も男だ。誘惑に負けて指の隙間から見てしまった。

魔理沙「ふぅ………」

………魔理沙はバスタオルを巻いていた。

よく考えれば当たり前のことだが凄くがっかりする。

290:2014/02/23(日) 03:19:50 ID:
楽しみにしてます
更新がんばってください!(^-^)

291:2014/02/23(日) 03:20:34 ID:
更新がんばってください

292:2014/02/23(日) 04:14:08 ID:
男が実はあの銃を使う為だけに作られた紫の式で外界での記憶も偽りのものとかだったら切ないな

293:2014/02/23(日) 15:04:02 ID:
>>292
そうだな

295:2014/02/23(日) 18:40:37 ID:
魔理沙「どうした、まさかドキドキしてたのか?」

魔理沙が悪戯っぽい笑みを浮かべる。

男「馬鹿。あと5年したら言え」

嘘です。ドキドキしてました。

でもそれを正直に言ってしまえば少女趣味の変態野郎の烙印が押されてしまう。年齢はともかく見た目は少女が多いここではその烙印を押されるともれなく村八分コースだろう。

それはいやなのでごまかしておく。

魔理沙「ってことは5年たてばドキドキしてくれるんだよな。まさか男は私のことが好きなのか?」

男「それはない」

魔理沙「ちぇー。魔理沙さんの素敵な魅力で悩殺してやろうと思ったのに」

男「というか5年後って俺いないだろ」

魔理沙「あー、そっか。残念だ。なんか男がずっといるって気がして」

男「………」

それも良いかもしれない。平和になったここでずっと皆と過ごすのも。

なんて、そんなことはできない。俺は外の人間だからいつかは帰らないといけない。

………帰らないといけないんだ。

296:2014/02/23(日) 18:43:39 ID:
魔理沙「背中流してくれよ」

そういいながら魔理沙が立ち上がる。

その瞬間タオルが取れて湯船に落ちる。

思わず俺は手で目を覆い隠して隙間から見る。

魔理沙「大丈夫だぜ。水着着てるから」

魔理沙は水着を着ていた。

男「なら良かった。別に背中流すぐらいいいけどさ」

魔理沙「ドキドキイベント発生だな」

男「なんでお前はそうやってドキドキをおすんだ」

魔理沙「恋する魔法使いだからだぜ☆」

意味が分からん。

297:2014/02/23(日) 18:53:34 ID:
魔理沙「おー、いい気持ちだ」

魔理沙の小さな背中をタオルで洗う。俺よりもずっと小さな背中なのですぐに洗い終わり流す。

魔理沙「なんか男って兄貴みたいだよな」

男「魔理沙も妹みたいだな」

魔理沙「んー。だったらよかったんだけどなー」

魔理沙が俺からタオルを受け取って前を洗う。俺は手持ち無沙汰なので自分の髪を洗うことにした。

魔理沙「なぁ男。やっぱり帰るのか?」

男「まぁ、家族が待ってるし」

魔理沙「私じゃ………だめか? 私は一人暮らしだから住むとこならあるぜ?」

男「………」

いきなりの魔理沙の言葉。

魔理沙はこの歳で一人暮らしをしているのか? まだ小さいのに。

家族はどうしたなんて話を聞くことはできない。

魔理沙「男なら皆受け入れるから大丈夫だって。霊夢も映姫も。だから………」

299:2014/02/23(日) 19:16:40 ID:
男「………」

俺だって家族はいる。楽しい思い出だって………………

魔理沙「………」

桶で頭を流すと魔理沙がじっとこっちを見ていた。

嘘や冗談じゃなく、悪戯でもない。

真剣な目だった。

男「いいよ」

なぜか俺は生まれてからずっといた家族よりも数日間過ごしたこの傷だらけの少女を選んでいた。

今までの人生を捨ててまで、気がつけば俺は霧雨 魔理沙という少女を選んでいた。

無意識から出た答えならばそれは俺の本心なのだろうか。

それはまだ分からない。

魔理沙「………!」

でも、泣きながら笑う魔理沙を見て今はまだいいかと思った。

300:2014/02/23(日) 19:25:26 ID:
魔理沙「えへへ」

体を洗って再びお湯に浸かる。なぜか魔理沙は俺の両足の間にすっぽりと収まっていた。

なのでぬれた金色の髪を撫でる。

すると俺にもたれかかって来て足をばたばたさせていた。

なんと可愛い妹か。

あー。俺もうシスコンでいいかもって気持ちになる。

魔理沙「なぁなぁ、兄貴ー」

男「いや違う魔理沙。おにーちゃんだ」

魔理沙「? おにーちゃん?」

男「はうあっ!!」

ズキュンときた。

302:2014/02/23(日) 19:56:40 ID:
魔理沙可愛いいな

304:2014/02/23(日) 21:25:15 ID:
まだかなー

305:2014/02/24(月) 00:53:28 ID:
魔理沙「いい湯だったー」

男「だなー」

霊夢「………」

二人して温泉から出ると寝巻きを持って霊夢がごみを見るような目で俺を見ていた。面倒だけど明日は燃えるゴミの日なのねって感じの冷たい目だっ!

霊夢「………ちょっと紫に告げ口してくるわ」

男「ちょ、ちょっと待て。待つんだいい子だから」

魔理沙「おいおい霊夢。兄貴をいじめんなよ」

魔理沙のその言葉を聞いて霊夢が俺を見る目がさらに冷たくなった。完全にゴミ以下を見る目だ。

霊夢「………死ぬ?」

男「ごめんなさい事情があるんです殺さないでください」

躊躇なく殺される気がしたので思わず寝巻きだというのに土下座をする。

年下の女の子に余裕で負ける俺。一応霊夢だから仕方ないと言い訳をしておく。

306:2014/02/24(月) 01:04:42 ID:
さっきあったことを簡単に説明してみる。霊夢はそれを黙って聞いていたが俺を見る冷たい目は変わらない。

霊夢「で、言いたいことは妹が欲しいから魔理沙を妹にしました。そうです僕は変態ですってこと?」

男「OK。どこかで決定的に意思伝達の齟齬が発生しているようだ。使用している言葉は日本語で大丈夫か?」

霊夢「は?」

霊夢が威圧的にそう言い放つ。怖い。

魔理沙「えっと私がお願いして男に家族になってもらったんだ」

霊夢は魔理沙の言葉を聞いてやっと納得はできないものの理解はしたらしく小さく頷いて、俺のすねを思いっきり蹴ってそのまま風呂へ向かった。

弁慶ですら大号泣するといわれる場所を少女らしからぬ一撃で蹴られた俺は再び地面に倒れ伏して痛みにしくしくと泣いた。

嫌われてるのは分かってるけど一緒に行動するんだからもう少し態度和らげてくれてもいいのに。

308:2014/02/24(月) 21:06:10 ID:
次の日、時間は6時くらいだろう。日はまだ昇っておらず外は暗い。なのに

魔理沙「朝だぞー」

布団にまたがって揺らしてくる魔理沙がいた。

男「………あと五分、いや十分寝かせてくれ」

魔理沙「駄目だぜ。早起きは三文の得だ」

男「三文って大体60円くらいだ。寝てたほうがマシだな」

魔理沙「そんな屁理屈を」

魔理沙が今までよりも強く揺らしてくる。

今までの問答とゆれのおかげで睡魔は残念ながら去ってしまいやれやれとあくびをしながら体を起こす。

魔理沙「わっ」

その過程でまたがった魔理沙が畳に頭をぶつけていたがまぁ俺には関係のないことだ。

309:2014/02/24(月) 21:53:22 ID:
魔理沙「可愛い妹になんてことを」

男「可愛い妹なら兄のお願いを聞いてくれ」

睡魔が去ったとは言えまだ完全に覚醒をしたわけではない。ぼんやりとした頭をすっきりさせるために顔を洗いに行かなければ。

魔理沙「だってどうせ今日も霊夢と行くんだろ? 私は別のところだから………」

男「そこは、まぁ仕方ないな」

紫にもう一度頼んでも帰ってくる答えは一切変わらないだろう。長い時間をともにすごしたいという魔理沙の気持ちは分かる、というか俺もわりと同じ気持ちだったりするがそれでも紫に断固講義なんてできるわけがない。

障子を開いて外へ出る。冬の朝の斬られるような寒さが襲ってきて思わず布団に再びもぐりこみたくなるがぐっとこらえ一番近い台所へと向かう。

男「あー。さむさむ」

魔理沙「だらしないぜ」

なんていってる魔理沙の懐に八卦炉が入っているのを俺は知っている。が、得意げな顔で言ってくる魔理沙が可愛いので黙っておこう。

台所ではすでにいい香りと包丁の音が響いていた。

どうやらすでに亡霊男は起きているらしい。

亡霊は寝るのだろうか。まぁ、それはどうでもいい。魔理沙とともに台所へ入る。

310:2014/02/25(火) 10:41:38 ID:
亡霊男「おはようさん。どうした二人仲良く」

魔理沙「えへへ。なんと男は私の兄貴になったんだぜ」

男「魔理沙が妹になった」

その言葉に亡霊男はぽかーんとして、はぁ、と生返事をした。

まぁ、それもそうだろう。いきなり他人同士が兄妹になりましたとか言われてどこの桃園の誓いですかだもんな。

亡霊男「なんだかよく分からんがおめでとう」

魔理沙「へへへっ」

ぐらぐら

男「味噌汁沸騰してるぞ」

亡霊男「しまったっ」

311:2014/02/25(火) 11:01:37 ID:
霊夢「………」

起きてきた霊夢ににらみつけられる。ありがとうございます。

男「おはよう霊夢」

霊夢「………」

案の定無視をされる。もし初対面があれじゃなければ俺は霊夢ともう少しましな関係を築けていたのだろうか。

魔理沙「なぁ霊夢。なんでそんなに兄貴のこと嫌いなんだ?」

霊夢「変態だから」

言い訳をさせてもらうなら事故です。不運な事故なんです。

魔理沙「そうか?」

霊夢「トイレ覗き。チルノに抱きつかれる。魔理沙と一緒に風呂に入る。これが普通の男だっていうなら霖之助さんはもしかすると女かも知れないわよ」

魔理沙「あいつ朱鷺子と同棲してるだろ」

霊夢「あーそういえばそうね。男性って変態が普通なのかしら」

変態じゃないやいとは言いたいがシスコンなので強くはあんまり否定できない。

そういえば話に出てきた霖之助とはいったい誰だろうか。珍しく男のようだが。

312:2014/02/25(火) 11:20:45 ID:
男「霖之助って誰だ?」

魔理沙「私と霊夢の昔なじみの知り合い。人間と妖怪のハーフだから私たちとはだいぶ歳が離れてるけどな」

人間と妖怪のハーフ。そんなのがいるのか。まぁ外見自体は人間に近いのいるしなぁ。

そういえば紫の今度生まれる子供もたしか人間と妖怪のハーフか。

興味はあるがだからといって会いにいけるような場所ではないな。俺飛べないし。

魔理沙「なんなら会いに行くか? たぶん今日は午前中私たちで午後が他のやつらだろうから。兄貴も午後は暇だろ?」

俺の考えを魔理沙に読まれる。俺はそんなに顔に出やすいのだろうか。

霊夢「魔理沙」

魔理沙「ん、あぁ。ごめん」

男「気を使われるほうが悲しくなるからやめてくれ」

たしかに午後は暇だ。暇になったから。

暇になってしまったから。

313:2014/02/25(火) 11:34:38 ID:
朝食を食べ終わり、霊夢と共に今日はどこへ行くかを聞く。

紫は藍さんに頼んで地図を持ってきてもらいそれを机の上に広げた。

地図には広い幻想郷の大体の場所が書いてある。といっても場所なんて数えるほどしかない。名前がついてない場所のほうが圧倒的に多いからだ。

紫「ここでひとつお知らせがあるわ」

霊夢「何?」

紫「レミリアが紅魔館を捨てたわ。現在いる場所は」

紫が地図上の一点を指す。そこにあるのは人間の基地。

紫「レミリア達は紅魔館を捨て人間の基地を襲いそのままそこを拠点とした。それは真昼間に行われた。なぜそれができたのか」

霊夢「レミリアもフランもいないのに………そういえば」

紫「心あたりがあるみたいね」

霊夢「吸血鬼が一人増えたわ。たしか名前はウィルヘルミナ」

そうだ。紅魔館にはもう一人吸血鬼がいた。親よりも大きなウィルヘルミナが。

しかしウィルヘルミナが吸血鬼だとしてなぜ昼間に動けるのか。

紫「とりあえずレミリア達に会って話を聞いてきて頂戴」

霊夢「分かったわ」

314:2014/02/25(火) 11:54:28 ID:
太陽は出ているとはいえ今日も冬はがんばって幻想郷に寒さを届けている。少し休めといいたいが何語で語りかければいいのやら。

男「はぁっ………はぁっ………」

しかしその寒さが絶賛マラソン中の俺にはありがたかったりする。

霊夢は今日も容赦なく。いや前日以上に容赦なく空を飛ぶ。対して俺は凡人らしく地面の上を木などの障害物を避け進む。なぜ霊夢は道の上を飛んで行ってはくれないのだろうか。

霊夢「遅いわよ」

霊夢からありがたい応援のお言葉が飛ぶ。もう少し速度を落としてくれてもいいのに。

肺が酸素を求め、体が急速を求め、口から鉄の味がする。さすがにフルマラソンとは行かないまでも10キロを普通に超えるマラソンは特に運動部に所属していたわけでもない俺にとっては拷問に近い。

なのでふらふらしている俺は横から飛んできた光の玉を避けることができなかった。

男「うべろっ」

わき腹に強い衝撃。右に向かって倒れ、木で頭を打つ。出欠はしていないがそれでも即座に再行動できるほどの軽い痛みではない。

痛みに思わず閉じた目を開くと飛んでくる二発目の光の玉。

男(よけれねー)

意識をやってくる痛みを耐えることに集中させる。

が、光の玉は俺の目の前ではじけて消えた。

315:2014/02/25(火) 12:15:31 ID:
霊夢「なんであんたがここにいるのよ」

結界を張って霊夢が防いでくれていた。ここでようやく光の玉を撃ってきた主が分かる。

霊夢よりも小さな少女。しかし人間じゃないということは体から出た管につながっているぎょろぎょろと動く眼が教えてくれる。

さとり「その男はあなたの知り合いですか?」

霊夢「残念なことにね」

さとり「そうですか。それはすみませんでした。今のは身を守るための攻撃です。こんなご時勢ですから」

妖怪が無表情無感情でそういう。つまりどうやら俺は敵と判断されて殺されようとしていたみたいだ。

命の危険を今更に感じて背筋が冷える。どうやらもう敵ではないようだが。

霊夢「で、もう一回聞くけどなんであんたがここに?」

さとり「ただの情報収集ですよ。地底の主として皆を守る義務があるので」

霊夢「情報収集なら人里にこいしを行かせればいいんじゃないの?」

さとり「そうですが、こいしが現在どこかへ消えてしまってそれを探しているのです」

霊夢「そ、手伝いはしないわよ」

さとり「期待ははじめからしていません」

316:2014/02/26(水) 15:02:32 ID:
こうして会話を終え眼の妖怪の少女は無感情に無表情に森の中へ消えていった。

ひとりの小さな少年を引き連れて。

男「あれは………人間?」

霊夢「人間よ。たしかさとりと暮らしてる人間じゃなかったかしら」

男「さとり?」

霊夢「さっきの妖怪よ」

男「妖怪と一緒にいる人間もいるもんなんだな」

霊夢「基本的に例外よ。人間と一緒にいる妖怪なら結構いるみたいだけど」

そういえば霊夢も人間なんだよな。人間っぽくないから忘れてたけど。

そう思い霊夢をじっと見てたらスピードを上げて飛んでいった。

まだ痛む体を急いで起こしてそれについていく。

おそらくまだ距離は大分ある。俺はついていけるのだろうか。

317:2014/02/26(水) 15:27:45 ID:
男「うえぉろろろ」

霊夢「情けないわね」

なんとか無事にたどり着いた。紅魔館の人たちがいるのは元人間の基地。といっても今はすでに改造されて基地というよりは砦や小さな城といったほうがいいような外見になっている。しかもなぜか赤い。

霊夢「じゃあ情報収集と行かなきゃならないけど」

そう言って俺は霊夢に置いていかれた。まだ体力が回復しそうにないので地面にへたり込んで大きく深呼吸をなんども繰り返す。

美鈴「こんにちは。お水をどうぞ」

赤い髪をした女性、たしか美鈴さんだったかな。美鈴さんが俺に水を差し出す。

男「ありがとうございます」

それを一気飲みしてやっと一息つけるぐらいに回復した。とりあえず立ち上がって美鈴さんに話を聞く」

美鈴「さぁ、私はただお嬢様の命令に従ってるだけですからね」

情報収集失敗。

美鈴「んー、やっぱりどこかで嗅いだ事のある匂いなんですよね」

そういいながら美鈴さんが俺の首あたりでくんくんと匂いをかぐ。くんくんと嗅いでいる美鈴さんには見えないだろうが後ろで犬のような耳のはえた男がこっちを見ている。

狼男「………」ニコニコ

凄く見ている。

320:2014/02/26(水) 22:38:53 ID:
狼男「美鈴」

美鈴「ひゃぉうっ!」

犬耳の男が美鈴さんに声をかけると美鈴さんがものすごい勢いで振り返った。それに巻き込まれて顎を強打する。

美鈴「こ、これは違いますよ!? 浮気じゃないですよ!? 私は狼男さん一筋ですよ!? 愛してます!!」

狼男「別に私はそんな心配はしてませんよ」ニコニコ

もの凄い狼男と呼ばれた男がニコニコしている。それが逆に怖い。

狼男「怒ってませんよ本当に。えぇ、本当に」

美鈴「せめて理由を聞いてくださいっ!」

狼男「………仕方ありません。浮気でないのなら良いのですが浮気だったばあい実家に帰らせていただきます」

美鈴「実家ってどこですか!?」

狼男「影狼さんの家ですね」

美鈴「!?」

321:2014/02/26(水) 22:47:38 ID:
狼男「なるほど。この男性の方の匂いをどこかで嗅いだことがあるが思い出せないのですね」

男「信じられないかもしれないが本当だ。というか美鈴さんにあったのはこれで二回目だ。一回目は紅魔館に行ったとき挨拶したぐらいだ」

狼男「………嘘臭くはありませんね。では失礼します」

狼男が近づいてきてさっきの美鈴さんのように匂いをかぐ。なんだか狼男って優しそうな犬みたいな感じだよな。やだイケメンっ。

狼男「………これは」

狼男が驚いたように何度も匂いをかぐ。

なんだろうか。もしかして俺は妖怪にとっては良い匂いがする存在なのだろうか。やったね、妖怪にモテモテだー。なんてそんなわけないか。

狼男「美鈴と似た匂いがしますね」

美鈴「へ?」

男「さっきの美鈴さんの匂いがついただけなんじゃ?」

狼男「嗅ぎ分けることぐらいできますよ。でもなぜかあなたからは美鈴さんに凄い良く似た匂いがします」

………それがどういうことなのかは分からない。

だが不思議なこともあったものだ。

322:2014/02/26(水) 23:05:05 ID:
男「そういえばフランやレミリアはどこにいるんだ?」

狼男「お嬢様と妹様は日に当たらないように建物の中にいます」

まぁ、やっぱり吸血鬼なだけあって太陽には弱いのか。パチュリーもだろう。

今のところ外に見えるのは多くのメイド妖精とウィルヘルミナ。普通に太陽の下にいるがなぜ無事なのか。

気になったので狼男に聞いてみる。

狼男「ウィル様に普通は通用しませんから」

男「?」

普通じゃないってことか? いやわざわざ普通は通用しないってことはいろいろ規格外のイレギュラーなのか?

悩んでいると美鈴さんが教えてくれた。

どうやらウィルヘルミナは運命を破壊する程度の能力。ああすればこうなるの因果を無視したりできるそうだ。なるほどわからん。

323:2014/02/26(水) 23:40:13 ID:
狼男「よろしかったらウィル様とお話されてみますか?」

男「ん。それは助かるがいいのか?」

レミリアとフランの娘らしいが。

狼男「はい。ウィル様は退屈そうでしたので」

ようするに話し相手になってやれと。ありがたい。

狼男に連れられ中央の広場にいるウィルヘルミナへ会いに行く。ウィルヘルミナはぽつんと立って忙しそうに作業をするメイド妖精を眺めていた。

狼男「ウィル様。よろしいでしょうか」

ウィルヘルミナが視線をメイド妖精から狼男へと移す。

ウィル「構わない」

狼男「この男様がウィル様とお話をしたいようなのですが」

ウィル「分かった」

ウィルの口調は見た目とは裏腹にあまり子供らしいしゃべり方ではない。しかし大人っぽいわけでもない。たとえるなら言葉遣いをしつけられた子供のような違和感のある言葉遣いだ。

狼男「ではこちらへどうぞ」

狼男が近くにある木でできた建物の中へ俺とウィルヘルミナを招く。

中はシンプルな居住スペースのようでいくつかのベッドと机椅子。あとはタンスぐらいしか置いていなかった。

324:2014/02/26(水) 23:56:41 ID:
吸血鬼「あれ? ウィル様どうかしましたか?」

そしてメイド服を着たこうもりの翼を持つ少女。

………どう見ても吸血鬼だよな。なのにメイド服ってどういうことだ。

とにかくそれがせっせと掃除をしていた。

狼男「吸血鬼さん。この部屋はウィル様とお客人が使われるので後はよろしくお願いします」

吸血鬼「わかったよ」

そう言って狼男は出て行った。

建物の中に残った三人。とりあえず椅子に座ってウィルヘルミナに話を聞いてみよう」

男「ウィルヘルミナは」

ウィル「ウィルで良い」

男「ウィルがここを攻めたのか?」

その質問にウィルはこくりと頷いて少し得意げな顔をした。

まぁ、弱点がない吸血鬼だからそれぐらいはやってのけるのだろう。

なぜ紅魔館を捨てたのかの情報を集めるのは霊夢に任せて俺はウィルや他の人たちについて情報を集めるとしよう。

325:2014/02/27(木) 14:48:58 ID:
男「そういえばウィルは違う世界から来たんだよな」

ウィル「あぁ。違う運命から。でもこっちのお母様も優しくしてくれる」

未だにレミリアとフランがウィルの親ということに慣れないがしっかり親をやっているようだ。

男「良かったら紅魔館の皆について教えてくれないか?」

ウィル「分かった。レミリアお母様はたまに子供っぽいところもあるけど優しくて強い」

男「優しいのか」

であったときが血まみれの部屋だからな。そんな感じ一切しなかったわ

ウィル「フランお母様はレミリアお母様よりも子供っぽい、というか子供」

あんまりいらない情報だな。フランの性格は見たとおりだし。

ウィルはなかなか嬉しそうに二人のことを話す。プリンを作ってくれたとかそんなたわいもない親子の話を。

関係はないが楽しそうだからいいか。

326:2014/02/27(木) 15:22:36 ID:
男「他の皆はどうなんだ?」

ウィル「あ………えっと咲夜は仕事をきっちりこなすけどたまに抜けてるところがある」

ウィル「美鈴は優しいけど結構仕事をサボってる。そのたび狼男か咲夜に怒られてる。でもお母さんが美鈴は強いって言ってた」

美鈴さんって仕事サボるのか。それにしても吸血鬼に強いって言わせるとはどれくらい強いのだろうか。萃香ぐらい? まさかな。

ウィル「パチュリーは………本ばっかり読んでて時々お母様と一緒になにかやってる」

ウィル「小悪魔は………えっと狼男は美鈴と結婚してて紅魔館ではホフゴブリン以外の唯一の男。優しいけどなんか咲夜が匂いフェチだとかなんとか。意味は分からない」

流された小悪魔も可哀想だけど匂いフェチって言われてる狼男も可哀想だな。そして誰だホフゴブリン。

ウィル「ホフゴブリンはお手伝い、見た目は怖いけど良い人」

見た目が怖い………できれば会いたくない。いやいや見た目で判断するのもな、良い人って言われてるし。

つくづく幻想郷では見た目は関係ないと思い知らされるからな。萃香に投げられ霊夢にしばかれチルノに体当たりされるたびにそう思う。

328:2014/02/27(木) 15:35:52 ID:
吸血鬼「お茶をどうぞ。しゃべってるとのどが渇きますからね」

男「そういえば吸血鬼っぽいけどなんでメイドを?」

吸血鬼「………」ガタガタガタガタ

いきなり青くなって吸血鬼が震えだす。

ウィル「吸血鬼はお母様にトラウマがあるみたい」

吸血鬼「そ、それ以上すると再生できなくなるから、駄目、やめて」ブルブル

うん、トラウマを再体験中のようだ。そっとしておいてあげよう。

ウィル「大丈夫。もうあなたも紅魔館の一員だから」

ウィルが吸血鬼を優しく抱きしめる。眼福。

吸血鬼「ウィル、お嬢様」

ウィル「よしよし」

そうやってウィルと吸血鬼が感動のシーンをしていると外から何か大きな音が聞こえた。

何か爆発したような。

329:2014/02/27(木) 15:41:36 ID:
ウィル「!」

ウィルが素早く外へと飛び出す。俺も遅れて外へ出ると美鈴さんがいたあたり、門ら辺から黒い煙が上がっていた。

まさか人間が? あまり戦力にならないことを理解しながらも走ってそっちに向かう。

吸血鬼「人間っ!!」

後ろから吸血鬼の声が聞こえたので走りながら振り向く。

吸血鬼「ウィル様が危なくなったら身代わりになって助けろっ。必ずだぞ!!」

吸血鬼が建物から出ないように注意しつつこっちに向かってそう叫ぶ。

なんて無茶振りを。

とりあえずサムズアップだけしておいて走った。

330:2014/02/27(木) 16:05:37 ID:
ウィル「………」

門ではウィルと美鈴さんが人間と対峙していた。

人間はそう数が多くないが手には銃などで武装している。おそらく爆弾も持っているのだろう。

ウィル「なぜ私たちを狙う」

美鈴「駄目ですよお嬢様。あちらさん聞く耳なんて持ってませんから」

ウィル「戦わなければいけない………のか」

美鈴「えぇ、まことに残念ながら」

美鈴さんが首を横に振りながら門へ、つまり砦の中へ向かって歩き出す。

門番なのに守らないのか。それともウィルが強いのか。

美鈴「ここは危ないです。中へ行きましょう」

男「約束してしまって俺はウィルが危なかったら助けないといけないんだ」

美鈴「ウィルお嬢様が危ない………なんてことは起こらないと思いますが、まぁいいですよなら私が守ってあげます」

美鈴が俺の前に立って構える。流れ弾がこっちに来たらはたき落とすのだろう。人間では到底無理なことでも妖怪ならばできるのだろう。

331:2014/02/27(木) 16:21:38 ID:
美鈴「面倒なことに相手は儀礼済みの弾丸を使用してましてね。これが妖怪、特に西洋妖怪にとっての弱点なんですよ」

だからもし守れなかったらすいませんね、と不吉なことを美鈴さんが言う。

今更だがもう中に入ってしまおうか。そんな臆病風に吹かれるがウィルが戦うのだからとここでいざというときに守ることを決意する。

パンッ

そんな音がいくつもなって

ウィル「………っ」

ウィルの体から血が噴出す。

男「お、おい!?」

美鈴「大丈夫です。あれくらいじゃ傷にはなりませんから」

美鈴さんの言うとおりで噴出した血はすでに止まっている。そしてからんからんと体内から地面へと落ちていく銃弾。

男「弱点なんじゃないのか?」

美鈴「ウィルお嬢様に常識は通用しませんよ」

332:2014/02/27(木) 16:46:14 ID:
ウィル「無駄だとは知っているがこれで正当防衛だ」

その言葉を言い終わるとウィルが地面を蹴り駆け出し………いや、飛んでいた。

強すぎる脚力による踏み込みは重力の影響を無視できるほどにウィルの体を加速させていた。

速ければ速いほど威力が強くなるのは当たり前だ。ならば弾丸のごとき速度で駆けるウィルの一撃は?

ウィル「!!!!」

ウィルの行動が見えたわけじゃない。おそらく今とっているポーズから殴ったのだろうと判断する。

殴られた死体が破裂している。なんというスプラッター。

今更吐いたりはしないがそれでも見るのはあまり好きではない。

そんな惨劇に人間達が一斉に銃をウィルに向けて撃った。ウィルは今人間達の真ん中にいる。そんな状況で撃てば仲間に当たるのは当たり前で、ウィルが何もしてなくても何人かは倒れていった。

そして肝心のウィルは。

ウィル「………痛いな、やはり」

そういいながらも事も無げに立っている。

服が赤く染まってぼろぼろになっているというのに血が噴出しているのに、それでもウィルはまるでそれが水鉄砲であるかのように平然としていた。

333:2014/02/27(木) 18:55:20 ID:
ウィル「もしかしてただの人間が私を倒そうだなんて思ってたのかも知れないが、そんな運命どこにもないぞ?」

そういいながらウィルが人間達を文字通り千切って行く。ただウィルが手を振る。それだけで人間なんて真っ二つになる。

ウィル「さよなら、だ」

最後の一人を首を刎ねてウィルが血に塗れた手を下ろす。

男「俺の出番とかひつような―――」

ドンッ

重く響く音がした。爆炎と衝撃。

爆弾が起爆したらしい。それもそうだ。相手は始め以外爆弾を使ってないのだから。その理由について考えておくべきだった。

最初から死ぬつもりだったのか。

このやり方はあいつを思い出させる。もしかして近くにいるのだろうか。

男「鬼人………正邪っ」

334:2014/02/27(木) 19:09:45 ID:
美鈴「ウィルお嬢様!!」

そうだ、今は正邪のことを考えてる場合じゃない。

ウィルは大丈夫なのだろうか。

近くでも煙で見えない。衝撃からしてかなり強力な爆弾だろう。

煙の中へぐにょりとしたものを踏みながら手探りでウィルを探す。

男「ウィルか!?」

手に触れた何かを掴み引き寄せる。

それはがさがさとしていて

男「―――っ!!」

煙がはれた。そこにいたのは

ウィル「………………」

肌が黒く炭化し、ところどころの肉がなくなっているウィルだった。

335:2014/02/27(木) 19:15:32 ID:
また、また俺は守れなかったのか。

男「なんでだ、なんでなんだよぉおおおおぉおおお!!」

そのぼろぼろになった体を抱きしめる。

顔に生ぬるい血がつく。抱きしめた体は当たり前だがまだ暖かかった。

特にウィルに思い入れがあるわけではない。だが助けると約束したのに守れなかった。

この身を盾にすら出来なかった!!

ウィル「………………痛いぞ」

男「………え?」

ウィルが喋る。てっきり即死かと思ってたが。

ウィル「離してくれると助かる」

男「あ、あぁ」

ウィル「死ぬかと思った」

そういいながらウィルが歩いて砦へ向かっていく。

足の肉とかなくなって骨見えているのに大丈夫なのか?

336:2014/02/27(木) 19:17:46 ID:
美鈴「………これはさすがに驚きました。あそこまで常識が通用しないんですか。レミリア様でも今のはさすがに即入院コースですよ?」

ウィルを呆然と見送ったあと美鈴さんがそう言った。

ウィルは炭化してところどころ肉がなくなっているという超スプラッタな外見で砦の中へ入っていった。

メイド妖精の叫びが響く。

ウィル「あ、追わなきゃ」

美鈴「そ、そうですね」

いくら普通に動いているとはいっても怪我は怪我だ。治療をしなければ」

337:2014/02/27(木) 21:37:59 ID:
ウィルをつれてさっきいた建物へと入ると吸血鬼がウィルを見た瞬間に悲鳴を上げて俺に殴りかかってきた。

男「ぐべろっ!?」

吸血鬼のパンチは凄く痛かった。地面をごろごろといつもより多く転がりながらそう思った。

男「………しぬぅ」

立ち上がって服についた砂やらを叩いておとす。殴られた顔がやばいぐらい痛い。

骨折れてないよなぁと特に痛む鼻を押さえながら戻ると吸血鬼が甲斐甲斐しくウィルの手当てをしていた。

黒く炭化した場所に軟膏を塗っていく吸血鬼を見ていて思ったのだが力で屈服させられたのにその娘をずいぶん大切にしているな。

ウィル「いたい………」グスッ

吸血鬼「あぁ! 申し訳ありません!」

本当、なんでだろうな。

338:2014/02/27(木) 22:43:20 ID:
ウィル「ん………治ってきた」

男「早いな、マジで」

見ると炭化した皮膚が剥げ下から新しい皮膚が除いている。肉も目に見える速度、といってもナメクジの歩行速度みたいなもんだがどんどん再生していっている。

吸血鬼「ウィル様にこれだけのダメージと再生の阻害を与えるなんていったいどんな神が儀礼を施したのだ?」

吸血鬼がウィルの傷口を見ながらそうつぶやく。意味は分からないがとにかく相手側に凄いのがいるのだろう。

吸血鬼は治ってきている傷を見て微笑むと念のためにと包帯を巻いた。両腕や顔にも巻いているのでミイラにしか見えない。

ウィル「いらないのだが………」

吸血鬼「駄目です」

ウィル「動きづらい………」

339:2014/02/27(木) 22:48:38 ID:
レミ「ウィル!!」

治療が終わりウィルを一応安静にさせているとレミリアが扉を思いっきり開け中に入ってきた。

レミリアは持っていた傘を投げ捨てウィルに駆け寄る。

レミ「大丈夫? 痛くない? なにかして欲しいことはある?」

矢継ぎ早に繰り出される質問にウィルは嬉しそうに笑って大丈夫と答えた。

レミ「………ごめんなさい。戦わせてしまって」

ウィル「お母様守りたいから」

レミ「ありがとう。ウィル」

男「………」

この空間に部外者がいるのもなんなので俺はクールにこの場から去ろうと思う。

男(とりあえず大事がなくて本当良かったな)

340:2014/02/27(木) 22:54:52 ID:
霊夢「そう。大変だったわね」

霊夢に今までのことを伝えると霊夢は言ってふわりと空中に浮いた。

霊夢「もう帰るわよ。ここにいてもすることがないから」

男「………それもそうか」

ウィルの様子を見ておきたかったが部外者が深くかかわるのも迷惑だろう。

男「げ、またマラソンかよ」

霊夢「………はぁ。仕方ないわねスピード落として飛んであげるわよ」

霊夢はもう一度長いため息をはいて俺の軽めに走る速さぐらいで飛んだ。

これなら時間はかかるが死ぬほど疲れるようなことはないだろう。

そういえば初めて霊夢が俺に優しくしてくれたような。

まぁ、気まぐれだろうがなんだろうがいいや。楽が出来る。

341:2014/02/27(木) 23:16:03 ID:
霊夢「ウィルヘルミナの能力はね」

博麗神社まであと半分ぐらいのところで霊夢がいきなりそう話し始めた。

霊夢「運命を破壊する程度の能力。レミリアの運命を破壊する程度の能力もわけがわからないけど」

走っていて息が切れているので相槌は打てないが霊夢の話は真剣に聞いておいたほうがいいみたいだ。

霊夢「レミリアの能力が台本を読んで書き換える能力だとしたらウィルの能力はその台本を無視して行動を起こすことが出来る。アドリブで行動できるのよ。誰かが死ぬ運命ならばそれを変えるために行動が起こせる。といっても不治の病を治したりはできないわ。あくまで出来るのは自分主体。自分のことならば熱湯をかぶってもやけどをしないなんて因果を無視したことができるけど他人ならば自分が行動を起こさなければそのまま。起こせば確定したことを変えることが出来る。まぁ確実ってわけじゃないけれど」

………分かりやすく話してくれているみたいだけどあんまり良く分からん。つまりナイフを持ってやつに刺される人がいるとしてウィルはそれに割り込むことが出来るってことか? ナイフを持ったやつを倒せばその人は刺されないで済むけど倒せなければその人は刺される。こんな感じだろうか。

霊夢「それでも強力な能力ってことには変わりないわ。運命を切り開けるんだから」

男「でも、ウィル、怪我した、ぞ」

霊夢「儀礼してあるからよ。ウィルヘルミナは能力である程度は神の力を消せるみたいだけど強力な力を加えられると能力が追いつかないみたいね。因果を無視しようとする前に結果を確定させられる。銃弾と爆弾じゃこめられてる力の強さが違ったのよ」

ということは神の力をどうにかしないとまた同じことがおきるかもしれないってことか。

神となると、あの妖怪の山で出会った少女を思い出す。

相手にはいったいどんな神がついているのだろうか。

342:2014/02/27(木) 23:23:06 ID:
男「や、やっとついた」

行きよりはだいぶましだがそれでも足が震える程度には疲れている。正直もうすでに休みたいが魔理沙と出かけなければならないのか。

仕方ない可愛い妹のためならなんのそのだ。

霊夢「それじゃ」

霊夢は飛んでどこかへ消えていった。何をするのかは知らないが今は魔理沙を探すことにしよう。

見た感じ境内にはいないようだが。

男「いったいどこに、いたぁっ!?」

背中に衝撃。しかもなぜかその衝撃は斜め上から来た。首に回された手と視界の端に見えた金色の髪で魔理沙だと判断する。

魔理沙「おかえりっ」

男「ただいま。重い」

魔理沙「乙女にそんなこと言っちゃ駄目だぜ」

乙女が空中からフライングアタックをかましてくるかよ。

男「で、もう行くのか?」

魔理沙「あぁ。兄貴がいいなら今すぐにでも」

343:2014/02/27(木) 23:29:44 ID:
なるほどわからん

儀礼ってあるとどうなるんだろ

345:2014/02/27(木) 23:40:04 ID:
レミリアが確率操作でウィルが確率無視?

霊夢のいった通りだとレミリア最強だよなぁ

346:2014/02/27(木) 23:57:46 ID:
>>345
やっぱり分かりにくいですよね、今見直して思いました。

補足をいれますと

レミリアは確率操作でウィルは因果無視です。

レミリアの能力が台本を書き換えたように見えるだけで実際は起こる可能性のある事象を引き起こしてるだけです。

ウィルはこうなったらこうなるという因果を無視出来ます。