1: 名無しさん 2018/08/24(金) 21:17:15.512 ID:riDn737QD
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。

    ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。

    この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。

    そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。

    いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。

    さて、今日のお客様は……。

    川島巴(26) 女子バレー選手

    【男になりたい女】

    ホーッホッホッホ……。」

引用元: ・喪黒福造「ある道具を使えば、あなたは一時的に男性に変身できますよ」 女子バレー選手「そんな道具、どこにあるんですか!?」

4: 名無しさん 2018/08/24(金) 21:19:24.545 ID:riDn737QD
テロップ「2017年―― フィリピン共和国、ビニャン市」

アロンテ・スポーツアリーナ。競技場の中では、女子バレーの試合が行われている。

コートの上では、日本人の選手たちと、東南アジア系の選手たちが戦っているようだ。

テロップ「バレーボール女子アジア選手権 決勝 日本 ― タイ」

観客席から「ニッポン!ニッポン!」と声援を送る日本代表サポーターたち。

日本代表の選手の中で、ひときわ目立つオーラを放つ女性がいる。ショートヘアで背が高い女性だ。

テロップ「川島巴(25) 女子バレー日本代表」

レシーブをするタイ代表の女性選手。巴はジャンプして、これを見事にブロックする。

実況「試合終了ーーっ!!日本代表、アジア選手権で10年ぶりの優勝を決めました!!」

巴は、周りにいる女性選手たちとハイタッチを交わす。


テロップ「日本、東京――」

あるスポーツバー。店の中で、バレー日本代表の試合を観戦する客たち。

日本優勝が決まるとともに、客たちは歓声を上げる。

5: 名無しさん 2018/08/24(金) 21:21:29.049 ID:riDn737QD
ある居酒屋。この店でも、客たちはバレー日本代表の試合を観戦している。客の中には喪黒福造もいる。

テレビ「日本代表、アジア選手権で10年ぶりの優勝を決めました!!」

客A「よしっ!!今回の決勝、川島巴が決めてくれたな!!」

客B「やっぱり、川島はスターだよ!!昔は『ハイパー女子高生』と呼ばれた天才選手で、現在は日本代表の主力」

客C「おまけにルックスは最高で、ファッション雑誌で特集されたことがあるくらいだ」
   「何しろ、メディアが彼女に付けたニックネームは『妖精』だからなぁ」

喪黒「…………」


テロップ「2018年―― 日本」

とある競技場。女子バレーのプロの試合が行われている。

テロップ「V・プレミアリーグ FEC ― 帝レ」

日本代表の選手でもある川島巴が、この試合にレギュラーとして参加している。

テロップ「川島巴(26) V・プレミアリーグ、FEC所属」

巴の放ったレシーブが相手側のコートに命中する。

6: 名無しさん 2018/08/24(金) 21:23:23.549 ID:riDn737QD
ある日の夕方。街の郊外を私服姿で歩く巴。

野球帽・スカジャン・ジーパンなど、彼女の服装は、どちらかというとボーイッシュな格好だ。

人通りが少ない並木道の中に巴が入った時、スポーツマスコミの関係者が何人か現れる。

記者A「あの、川島さん!私、極東スポーツの者ですが!!」

記者B「川島さん!私は日新スポーツの者です!!」

記者C「川島さん!実は、私は……」

巴「てめえら、いい加減にしろ!!俺にだってプライベートがあるんだよ!!バカヤロウ!!」

巴はドスの利いた口調で、記者たちを怒鳴りつける。

容姿端麗な女性とは思えない荒々しい罵倒を受け、すっかりひるむ記者たち。

記者たち「す、すみません……」

記者たちはそそくさと、巴の前から去っていく。誰もいなくなったかのように見えたその時……。

彼女の後ろからある声がする。

8: 名無しさん 2018/08/24(金) 21:25:33.250 ID:riDn737QD
喪黒「女の人でありながら、ここまで威勢のいい啖呵を切るとは……」
   「いやぁ……、さすがの私もびっくりしましたよ。川島巴さん」

巴が後ろを振り向くと、そこには黒ずくめの服装の中年っぽい男性――喪黒福造がいる。

巴「こらっ!てめえもマスコミ関係者か!」

喪黒「私はマスコミの人間ではありません。実はこういう者です」

喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。

巴「ココロのスキマ、お埋めします?」

喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」

巴「セールスマンだと!?どっちにしろ怪しい奴であるのは変わりねぇじゃん!」
  「あんたと話すことなんか、別にねぇよ!とっとと失せろ!」

喪黒「そんな荒っぽい言葉づかいはよしたらどうです。あなたのような美しいお方には似合いませんよ」

巴「おい、おっさん。てめぇに自分の生き方を指図されるつもりはねぇぜ!俺は俺らしく生きるからよぉ!」

喪黒「ねぇ、川島さん。あなた、本当に自分らしく生きているおつもりなのですか……?」
   「心の中の性別は男性なのに、身体の性別は女性であり……」
   「メディアからも周囲からも女性として扱われている。あなたはそれで、本当に満足なのですかねぇ!?」

巴「そ、それは……」

9: 名無しさん 2018/08/24(金) 21:27:32.427 ID:riDn737QD
喪黒「おやおや、否定しないのですか。どうやら、図星のようですねぇ……」

巴「ううっ!!」

喪黒「どうやら、あなたの心にもスキマがおありのようです。何なら、私が相談に乗りましょうか?」


BAR「魔の巣」。喪黒と巴が席に腰掛けている。さっきまでとは違い、神妙な様子の巴。

喪黒「それにしても……。女子バレー日本代表の川島巴さんが性同一性障害に悩んでいたとは……」

巴「はい……。喪黒さんの見立て通りですよ。俺は小さいころから、自分の性の不一致にうすうす気づいていました」

喪黒「でも……。周囲に気づかれることを恐れて、今までこっそりと隠し通してきたのですね」

巴「そうです。長い間、隠し通してきたにも関わらず……。今日、喪黒さんに一目で見抜かれてしまいました」
  「ここまで人のことを見抜くとは……。本当に恐れ入りましたよ」

喪黒「私はセールスマンですから……。仕事柄、長年、人間の観察を行ってきたおかげなのですよ」

巴「は、はあ……」

喪黒「心は男性なのに、身体は女性……。自分の心と身体の性別が一致しないというのは、さぞかし苦しいでしょう」

10: 名無しさん 2018/08/24(金) 21:30:10.757 ID:riDn737QD
巴「もちろん、苦しいに決まってますよ。ですが……。性の不一致の苦しみというのは、本人でなければ分かりませんから……」

喪黒「女性から男性に性転換したいと思ったこと、ありますよねぇ!?」

巴「昔から今に至るまで、何度もそう思ってきましたよ。とはいえ……。今の俺は、おいそれと性転換するわけにはいきませんから」

喪黒「そりゃあ、そうですよ。なぜなら、川島さんは女子バレーの日本代表選手であり、国民的なスターですから……」
   「あなたが女性であることをやめるというのは、バレーボールのスターの地位を手放すことを意味していますからねぇ」

巴「その通りですよ。俺は男性の心と、女性の身体の持ち主ですが……」
  「小さいころからやってきたおかげで、バレーボールは心底好きですし……」
  「それに、バレーボールの選手としての生活にも満足感を覚えていますからね……」

喪黒「バレーボールをやっている時は、自分の性の不一致を忘れることができるからでしょうなぁ」

巴「たぶん、そうかもしれませんね……。とはいえ、バレーボールをやっていない日常の生活では……」
  「自分は心が男で、身体が女なんだという過酷な現実を突きつけられる……」

喪黒「辛いでしょう、川島さん……」

巴「はい。でも、今の俺にはどうすることもできない……」

喪黒「よろしかったら、私が何とかしましょうか!?」

巴「えっ!?」

11: 名無しさん 2018/08/24(金) 21:32:29.908 ID:riDn737QD
喪黒「ある道具を使えば、あなたは一時的に男性に変身できますよ」

巴「そんな道具、どこにあるんですか!?」

喪黒「ここにあります」

喪黒は鞄から何かを取り出し、机の上に置く。

どうやらそれは、金色のチェーンと、周囲を金属で覆われた赤い宝石のペンダントだ。

巴「これは……」

喪黒「特殊なペンダントですよ。名前は『性転換ペンダント』です」
   「このペンダントをつけて、ある呪文を唱えさえすれば……。性別を転換することができます」
   「女性は男性に性転換し、男性は女性に性転換することが可能なのです」

巴「何を言うかと思えば……。バカバカしい……」

喪黒「いいえ、効果は本物です。何なら、川島さん……。試しに私の前で実演してみてください」
   「このペンダントをつけて、『メタモルフォーゼ』と叫んでみるのです!」

喪黒は巴に無理やり性転換ペンダントを渡す。

巴「わ、分かりましたよ……」

性転換ペンダントを首にはめる巴。彼女は椅子を離れ、席を立つ。

12: 名無しさん 2018/08/24(金) 21:35:04.354 ID:riDn737QD
巴「メタモルフォーーーゼ!!」

巴が呪文を唱えたその時、ペンダントの赤い宝石が輝く。みるみる光に包まれていく巴。

変身を終えた巴。彼女の身体は、さっきまでの丸みを帯びたものとは違い、痩せ形ながらもがっちりしたものとなっている。

さらに、巴の髪形は女性だったころのショートヘアよりも短めになっている。

巴「本当にこんなことで、女から男に……。お、俺の声が低くなっている!!」

両手で自分の身体のあちこちを触る巴。喪黒は巴に小さな鏡を渡す。鏡を見る巴。

巴「!!!」

喪黒「どうです。ペンダントの効き目は本物でしょう?」

巴「し、信じられない……」

喪黒「とはいえ、あなたには女子バレー日本代表としての立場もありますよねぇ」
   「だから、男性から女性に戻る方法も教えておきます」
   「ペンダントをつけて、『ノーマルモード』と叫べば、元の性別に戻れますよ」

巴「分かりました、やってみます。スゥーーー……。ノーマルモーーード!!」

ペンダントの赤い宝石が輝き、光に包まれる巴。彼女の身体の性別は、元の女性のものに戻る。

13: 名無しさん 2018/08/24(金) 21:37:19.303 ID:riDn737QD
巴「これで俺は……。おっ、今度は声が高くなったな……」

喪黒は巴に小さな鏡を渡す。鏡を見る巴。鏡には、女性としてのショートヘアの巴の顔が映っている。

巴「元に戻った……」

巴は席に戻る。

喪黒「このペンダントを使って、あなたはこれからの生活を送るのです」
   「普段はバレーボールの女性選手としての日々を送り、その上で、一時的に男性に変身して街へ出る」
   「まさに、川島さんにとってはこれ以上ないストレス解消のアイテムとなるでしょう」

巴「確かに……」

喪黒「性転換ペンダントは私からあなたへのプレゼントであり、もちろん無料です」
   「ですが……、使用する際は約束をきちんと守ってください」

巴「約束!?」

喪黒「性転換ペンダントを使用するのは1日に6時間が限度です。いいですね、約束ですよ!?」

巴「わ、分かりました。喪黒さん」

14: 名無しさん 2018/08/24(金) 21:39:21.616 ID:riDn737QD
数日後、夜。東京、ある歓楽街。性転換ペンダントで男性となった巴が、街を歩いている。

スーツにノーネクタイで、ホスト風の服装の巴。彼女の首には、喪黒から貰った性転換ペンダントが付いている。

道を行く女性たちが、振り向きざまに巴の方を見る。

女性たち「うわぁ~。この人誰?なかなかのイケメンじゃん」「かっこいい人が歩いてるー」

キャバクラ。店の中で巴はキャバ嬢たちに囲まれて笑っている。


一方、別の日では――。とある地方都市。体育館の中で女子バレーの試合が行われている。

テロップ「V・プレミアリーグ FEC ― 久川製薬」

女性の姿の川島巴がFECの選手として試合に臨んでいる。

観客席では、喪黒福造が双眼鏡を持ってバレーボールの試合を眺めている。

喪黒「…………」

15: 名無しさん 2018/08/24(金) 21:41:42.093 ID:riDn737QD
BAR「魔の巣」。喪黒と巴が席に腰掛けている。

巴「性転換ペンダントを使用するようになってから、俺の人生は変わりました」

喪黒「間違いなく、川島さんのストレス解消のために役に立っているでしょうねぇ」

巴「はい。男性として夜の歓楽街を歩き、店で酒を飲みながら女性と話をする……」
  「それが本当に楽しいんですよ!!今まで、周囲は俺を女性として扱ってきました……」
  「ですが……。例のペンダントを使用している際は、周りの人たちが俺を男性として扱ってくれるんです!」

喪黒「川島さんが男性として時間を楽しんでくださるなら、まさに結構……。ですがね……」
   「あなたはバレーボールの女性選手としての生活もあるのですから……。それを忘れないでください」

巴「もちろん、承知していますよ。俺は、コートの上では女子バレーの選手を演じていますから……」

喪黒「女子バレーの選手を演じる!?いや、あなたはバレーボールの選手こそが本業でしょう」
   「ペンダントを使用した際の男性としての時間は、あくまでも人生の付属物に過ぎませんよ」

巴「そ、そうでしたね……。何しろ……。普段の俺は心が男性で身体が女性だから、つい……」

喪黒「あと、例の約束はしっかり守ってくださいよ」
   「性転換ペンダントを使用するのは1日に6時間が限度。いいですね、約束ですよ」

巴「わ、分かっていますよ……。そりゃあ……」

17: 名無しさん 2018/08/24(金) 21:45:21.573 ID:CqGLKsY4D
とある競技場。女子バレーの試合が行われている。

テロップ「V・プレミアリーグ 茨城製作所 ― FEC」

FECの選手・川島巴がレシーブを放つ。


ある夜。東京のある歓楽街。キャバクラの中で、巴はキャバ嬢たちと酒を飲んでいる。

スーツにノーネクタイで、襟元に性転換ペンダントを付けた男性としての巴。

店を出て、街の中を歩く巴。巴が道の先を見渡すと、女性がガラの悪い男性に絡まれているのを目にする。

女性は水商売風のドレスを着ており、この街のどこかの店で働いている人間のようだ。

女性に絡んでいる男は金髪で、耳にピアスをつけ、ノーネクタイのスーツを身につけている。

男のワイシャツの襟元からは、刺青が見える。彼はカタギの人間ではなく、明らかにヤクザものだ。

ヤクザ「おい、アゲハ!!いいところへ連れて行ってやるからよぉ」

アゲハ「嫌ぁ、放してぇ!!」

巴「やめろよ……」

18: 名無しさん 2018/08/24(金) 21:47:21.961 ID:CqGLKsY4D
ヤクザ「何だてめぇ、やるのか!!どこの組のもんだ!!コラァ!!」

巴「お前ヤクザか!?女性や一般人に手を出すような奴は、人間のクズだ!!」

ヤクザ「言ったな、てめぇ!!」

ヤクザと殴り合いになる巴。しかし、男性として喧嘩慣れしていない巴は、ヤクザに一方的に袋叩きにされていく。

道端に倒れこむ巴。巴を心配そうな目で見つめるアゲハ。

ヤクザ「弱いくせにいい気になってんじゃねぇよ!!」

ヤクザは巴の身体に蹴りを入れ、去っていく。

巴「いてて……」

アゲハ「大丈夫ですか……」

巴「俺に……、構うんじゃねぇよ……」

アゲハ「ま、待ってください!!あなたは私を助けてくれたから……。だから、何かお礼をしないと私の気がすみません!!」

アゲハは巴の腕にしがみつく。

19: 名無しさん 2018/08/24(金) 21:49:21.562 ID:CqGLKsY4D
とあるホテル。巴とアゲハは手をつなぎながら、建物の中に入る。エレベーターの中で会話をする2人。

アゲハ「あなたの身体が欲しい……。今夜は私を抱いて……」

巴「分かったよ……」


真夜中。ある程度の時間が経った後、巴とアゲハがホテルから出てくる。

アゲハ「さっきは、とっても気持ちよかった……。本当にありがとう……」

巴「アゲハ……」

キスを交わす巴とアゲハ。2人は道の正反対の方へ行き、去っていく。


巴「やれやれ……。かなり時間を潰してしまった……。早く女に戻らなくちゃな……」

巴が歓楽街の路地裏を歩いていたその時……。彼女の目の前に喪黒が姿を現す。

喪黒「川島巴さん……。あなた約束を破りましたね」

巴「も、喪黒さん……!!」

喪黒「私はあなたに言ったはずです。性転換ペンダントを使用するのは1日に6時間が限度だ……と」
   「それにも関わらず、あなたは……」

21: 名無しさん 2018/08/24(金) 21:52:45.224 ID:CqGLKsY4D
巴「ま、待ってください!!それには、いろいろわけがあって……」

喪黒「弁解は無用です。限度を超えて性転換ペンダントを使用したというのは、要するにです……」
   「川島さんは女性としての人生よりも、男性としての人生の方を欲したということでもあるのですよ」

巴「そ、そんなことは決して……」

喪黒「もう少し、自分の心に正直になりなさい……。よろしかったら、今からあなたの身体を永遠に男性にしてあげますよ」

喪黒は巴に右手の人差し指を向ける。

喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」

巴「ギャアアアアアアアアア!!!」


とある公園。巴は街灯の下に立つ。

巴「ここなら誰もいない。さあ、俺は女に戻るぞ……。スゥーーー……。ノーマルモーーード!!」

性転換ペンダントの赤い宝石が輝き、巴の身体が光に包まれる。しかし、それとともに爆発音が響く。ボォォォォン!!!

巴「ぐっ……。何が起きたんだ……」

砕け散り、地面へと落ちる性転換ペンダント。ペンダントの赤い宝石は粉々に割れ、チェーンも裂けている。

変身解除の呪文を唱えたにも関わらず、巴の身体は男性のままだ。

22: 名無しさん 2018/08/24(金) 21:55:56.442 ID:CqGLKsY4D
巴「ああっ、ペンダントが壊れてしまった……。それじゃあ、まさか……」
  「あ、そうか!そういえば……、俺の声も低いまま……。だとすると……」

両手で全身を触る巴。巴はようやく異変に気がつく。

巴「俺の身体は男のまま……。それに、ペンダントは砕け散ったまま……」
  「何ということだ……!!俺は、女性の身体に戻ることができなくなった……。……ということは、俺は……」
  「女子バレーの選手としてコートに立つことも……、二度とできなくなるのか……」
  「バレー日本代表としての輝かしい人生が……、永遠に失われてしまうなんて……!!そんなのは嫌だ!!!」

巴は地べたにへなへなと座り込み、泣き崩れる。

巴「ウ……。ウウウ……。ウワアアアアアアアアアアア!!!」


夜の公園の入り口に立つ喪黒。彼の後ろの遠くの方には、男性の姿のまま泣いている巴の姿が見える。

喪黒「男性が男性として振る舞い、女性が女性として振る舞うというのは、ごく当たり前の生物現象のように見えます」
   「しかしながら、世の中には心の性別と身体の性別が一致せず、苦しんでいる人も少なからず存在しているのです」
   「その場合、2つの選択があります。心の性別を隠しながら生きるか、思い切って性転換した上で生きるか……」
   「本人にとって一番いいのは、自分の心に正直に生きることであり、できればそれに越したことはないでしょう」
   「長年、性の不一致に苦しんでいた川島巴さんは、晴れて男性としての身体を永遠に獲得することができました」
   「……とはいえ、彼女が女子バレー日本代表としての栄光を再び手にすることは、もはや不可能でしょうけど……」
   「オーホッホッホッホッホッホッホ……」

                   ―完―