396: SSまとめマン 2010/03/31(水) 01:53:07.96 ID:wLtBbi20

―――
イギリスの事件から三日後。

ロンドン、聖ジョージ大聖堂。
元々は『必要悪の教会』の本部であったが、『必要悪の教会』に権力が集中した事により
現在は実質的なイギリス清教全体の心臓部となっている。

神裂は手にある報告書を見ながら、その聖ジョージ大聖堂の廊下を歩いていた。
すれ違う修道女達が立ち止まり頭を下げる。
それに神裂はお疲れ様と言い軽く頭を下げる。

神裂は日頃から 無視してもいいですよ と言っているのだが、部下達はさすがにそれは無理らしい。
最高指揮官という肩書き、そして人間でありながら天使でもあるのなら当然だろうが。

神裂の腰には包帯のような物が巻かれた七天七刀。
包帯状の羊皮紙に、七天七刀の力を抑えこむ術式を書き、それを巻いているのである。

理由は分からないが、七天七刀は何らかの要因でスパーダの一族の力を浴び、
莫大な力を持つ魔具と化した。

さすがにダンテの持つような悪魔が姿を変えた魔具みたいには喋らないが、確かに意思を感じる。
今のところ神裂は『主』として気に入られているようだった。

この七天七刀の解析もしなければならないのだが、今はそれよりも優先しなければならない事がある。
先日の事件の黒幕を突き止める事だ。

イギリス清教は総力をあげて調査をしているが、いまだその黒幕の手がかりは掴めない。

まだ三日。これから。 と神裂は自分に言い聞かせる。

だが心のどこかでは、結局わからずじまいで再び相手が先に動くのではないかとの思いもあった。

397: SSまとめマン 2010/03/31(水) 01:53:59.66 ID:wLtBbi20
報告書に目を通していく。
仕事は山積みだ。

調査と共に、引き続き全土の悪魔討伐の仕事もある。
それにシェリーは先日の戦いで力を使い過ぎ、今も寝込んでいる。

そしてステイルはバッキンガム宮殿の守備に就いている。
(例の事件で上層部の老人達が怯え、無理やりステイルに命令したのだ。ちなみに騎士団長も同じく命令が下った)

現在は神裂一人で、今までの倍はあろうかという業務をこなしていたのだ。


文字通り、神裂一人がイギリス清教・騎士団の全軍指揮権を持っていた。
そして対悪魔戦に動員する表の正規軍の指揮権も暗に委ねられていた。

そんな事もあって、ここ三日間の彼女の睡眠時間の合計は7時間に達していない。

神裂「ふぁ……む!むむむ!!」

欠伸が出そうになったが、今は仕事中! と心の中で自分を叱咤する。 
ちょっと気を抜くと歩きながら寝てしまいそうだ。

398: SSまとめマン 2010/03/31(水) 01:55:21.85 ID:wLtBbi20
その時、一人の長身の修道女が前から歩いてきた。
当然の如く、その修道女も立ち止まり頭を下げる。
長身なのでそれでも神裂よりも頭の位置は高かったが。

神裂はいつも通り軽く頭を下げる。

そしてすれ違った―――ところで神裂はふと足を止めた。

神裂「―――」

そして振り返り、先ほどの長身の修道女の背へ声をかける。


神裂「ちょっといいでしょうか」

修道女がゆっくりと振り向いた。

改めてみると背が高い。
それに質素な修道服の上からでもわかる程の、神裂以上のスタイルの持ち主だ。

顔もかなり端正だ。

蝶のような装飾がついている黒縁のメガネをかけている。


そして―――口元のほくろ。

399: SSまとめマン 2010/03/31(水) 01:57:16.69 ID:wLtBbi20
「あら、やっぱりバレちゃった?」
その修道女が口を開いた。
まるで誘っているかのような妖艶な声色。

神裂「……」
何者かはわからないが、『悪魔的』な力を神裂は感じたのだ。
これ程の距離にまで近付かないと分からないほどの小さな反応だが、明らかに何か異質だ。
悪魔とも人間とも、天使とも違う。
だがそれでいてそれぞれの『力』の匂いが混ざっている。

神裂「あなたを拘束します。理由はわかりますよね?」

「いいわよ。『できたら』ね」

その侵入者は余裕を崩さない。
相手を神裂と知っていての余裕だろうか。
もしそうだとしたら少々厄介な事になるかもしれない。

「へぇ…面白いわね。本当に綺麗に混ざってるわね」

神裂「…」
神裂の顔を見ながら言い放ったその言葉。
どうやら厄介な事になる可能性があるようだ。

「お邪魔したわね。ちょっと見に来ただけなの。あなたを。」

神裂「…目的は私ですか?」


「下見よ。『おいしく頂ける』かどうか ね?」

400: SSまとめマン 2010/03/31(水) 01:59:02.92 ID:wLtBbi20
その言葉で充分だった。この侵入者の目的は神裂。
当然、どう考えても平和的なものではないがわかる。

神裂「そうですか。では」

「Huh. Bring it」
妖艶な笑みを浮かべ手招きする。

神裂の右手が報告書の束を離す。
と同時に床を蹴り一瞬で距離を詰め、そして相手を取り押さえようと手を伸ばし―――

―――たが、その指が掴んだのは修道服のみだった。

肝心の本体がいない。

神裂「―――!」
その瞬間強烈な悪寒が体中を走った。
先とは比べ物にならない『力』が津波のように押し寄せてきた。
そして背後に気配。

神裂「(これは―――!!!!)」
瞬時に振り向きながら鞘に入ったままの七天七刀を振るう。

すると。

「―――Ya!!!!!!」

掛け声と同時に凄まじい衝撃がその七天七刀に襲い掛かった。

神裂「―――ッ!!!」

そのあまりの衝撃に神裂の体が弾かれ、廊下の壁を突き破ってその向こうの広いホールに叩き込まれた。
並んでいた長椅子がバラバラになって飛び散る。
聖堂全体が大きく揺れた。

401: SSまとめマン 2010/03/31(水) 02:00:30.40 ID:wLtBbi20
神裂「―――くっ!!!」
壊れた長椅子の間で神裂が立ち上がる。

そして正面、神裂の体がぶち抜いた壁の穴を見る。
そこには。

黒いピチピチのボディスーツ、高く結った長いポニーテール。
黒縁のメガネに口元のほくろ。両手には巨大な拳銃。
そして更にヒールと一体化してるかのように両足に取り付けられている巨大な拳銃。
計四丁の銃を装備した、とてつもなくセクシーで妖艶な女が立っていた。

「いい動きするじゃない。んん、火照ってきちゃったわ」
左手の銃をメガネの淵にコンコンと当てながら、これまた魅惑的な声を放つ。

神裂「…なっ!?」

「あなた―――結構おいしそうね」
首を傾けながら、とろけるような目で神裂を見る。

そしてその女は再び動いた。

今度は正面から来る。
だがあまりに早すぎて神裂でさえ良く見えなかった。
黒い影が凄まじい速度で向かってきた。

神裂は右手を七天七刀の柄に添える。
そして。

神裂「―――シッ!!!!」

―――唯閃

今度は抜刀した。

淡く青く光る刃が解き放たれる。

403: SSまとめマン 2010/03/31(水) 02:01:22.02 ID:wLtBbi20
だがその刃は止まった。

衝撃も無くピタリと。

神裂「―――!!!?」
七天七刀を持つ右手、そして彼女の全身を黒い糸のような、『髪の毛』のような物が固く縛っていた。
その大量の繊維は目の前に立っている女の黒いボディスーツから伸びていた。

神裂「(くっ!!!がぁ!!!!)」
体が全く動かない。

「これ…」

女が神裂の青く光る七天七刀をまじまじと見つめる。

神裂「(こうなったら…天使化して抜け出すしか…!)」
真の力を解き放つにはそれ相応の王室との手続きが必要だ。
しかし今はそんな事をしてる場合ではない。

だが。

「今日はこの辺にしとくわ」
軽く鼻で笑いながら女はあっさりと休戦を宣言した。

神裂「……え?」

404: SSまとめマン 2010/03/31(水) 02:03:57.78 ID:wLtBbi20
「じゃあね」
踵を返し、まるでモデルのような歩き方で神裂からスタスタと離れていく。

神裂「ま、待て!!!」

女は振り返り銃を持つ手をひらひらと振りながら、
不気味な程にセクシーな笑みを浮かべた。


「『また』 ね」


神裂「ま―――!?」

その瞬間、女の姿が一瞬で消えた。
そして同時に神裂の体を縛っていた黒い繊維も消えた。

神裂「な、な、なあ?!」

壊れたホールの真ん中に神裂は呆然と立ち尽くしていた。

聖堂の奥から、ホールに向ってくる警備の者達の足音が響いていた。


―――



今日はここまでです

417: SSまとめマン 2010/03/31(水) 20:40:43.54 ID:wLtBbi20
―――

神裂が襲撃される数時間前。

ロンドン、バッキンガム宮殿の地下の大ホール。
時刻は午後11時を回ったところだ。

この大ホールで、200人以上の騎士と魔術師達が宴を開いていた。
三日前の件で戦死した仲間を称え、そして実際に戦闘に参加した者達の鬱憤晴らしの為に
女王が特別に計らって開いた宴だ。

当初は亡き者となった仲間の喪失感からか厳かな雰囲気だったが、
時間が経ち酒が回るにつれまるで荒れた議会のように大騒ぎになっていた。

そしてその中でも特に目立っていた者。

上半身が裸になっている銀髪の青年。
そしてその周りにも上半身が裸になっている屈強な騎士達。

ネロ「Yeaaaaaaaaaaaaaaaaaahhhh!!!! Haaaaaaaaaah!!!!!」

一人の大柄な騎士が大きくぶん投げられ、近くのテーブルの上に落ちる。

最初は腕っ節比べの腕相撲大会だったが、いつしかネロ対その他大勢の乱闘大会になっていた。

418: SSまとめマン 2010/03/31(水) 20:41:51.10 ID:wLtBbi20
ネロ「HoooooOOOOOHH!!!!!!!」

ネロが左手のワインボトルをラッパ飲みし、胸を右手で叩き挑発する。
周りの輪の騎士達がワインやウイスキーのボトルを片手にやんややんやと声を挙げる。

今度は俺が相手だ と、複数の騎士達が雄叫びをあげて突進する。

ネロ「Ha-Ha-Ha!!!!!! C'mon!!!! Bitch!!!!!!」

一般の騎士達にとってネロは指揮系統で天の上の存在だったが、今はそんな事はおかまいなしだ。
ベロンベロンに酔ってはっちゃけた戦士達はその溜まりに溜まった鬱憤を野蛮で派手な形で放出していた。

突進した騎士達はあっけなく吹っ飛ばされる。

ネロは一人の騎士へ右手でヘッドロックをかけ、その頭に左手のワインをぶっ掛ける。

ネロ「汗臭えな!洗髪してやるぜ!!!お痒いところはありませんかぁコラァ!!!?」
続けてワインでずぶ濡れになった髪をぐしゃぐしゃとかき回す。

そして拘束を解き後ろに回り。

ネロ「ご来店どーもぉお!!!また来いやクソヤロー!!!」
ケツを蹴り、輪の外へ叩きだした。

周りの騎士達から熱く図太い歓声が、まるで地響きのように上がった。

419: SSまとめマン 2010/03/31(水) 20:44:28.04 ID:wLtBbi20
ネロ「NEXT!!!!!!!!」

ステイル「今度は僕が相手だ」

輪の中から上半身裸の赤毛の男が現れた。
周りからいっそう大きな歓声が上がる。

体つきは決していいとは言えない。むしろガリガリだ。
だがいまや悪魔となっている彼は人間離れした怪力の持ち主だ。

ネロ「いい度胸だぜモヤシ野郎!!!!」

ステイル「はは!!!上等さ!!童顔野郎!!!」
見た目だけで言えばステイルの方が僅かに年上に見える。

ネロ「クソガキが!!!教育してやるぜ!!!!!」
左手のワインボトルをラッパ飲みする。
そして口を拭いながら空になったボトルを乱暴に横にぶん投げた。

更に盛り上がった野蛮なアホ共の輪の中央でゴングが鳴った。

ネロ「来いや!!」

ネロが手を広げ、左手で自分の逞しく割れた腹を軽く叩く。
ここにパンチしてみろと挑発しているのだ。

ステイルが突進する。
だがその手はネロの腹には行かなかった。
両手でネロの頭を挟むように固定し、強烈な頭突きを顔面にぶち込んだ。
人間なら頭がトマトのように叩き潰される程の威力だ。

ネロ「ぉ…!!!」
鼻血を流しながらネロが数歩下がる。

ステイル「ははは!覚えとくんだな!!これがイギリス式ってやつだ!!」

420: SSまとめマン 2010/03/31(水) 20:46:56.80 ID:wLtBbi20
ネロ「効くゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!はっは~!!!良いねえ!!!たまんねえな!!!」
ネロが鼻血を乱暴に拭いながら笑う。

今度はステイルが両手を広げ挑発する。

ネロ「OK~!!!こっちの番だぜ!!!」

今度はネロが突進する。

そして足を大きく振り―――

―――ステイルの股間へジャストミート。

鐘が鳴るような効果音が聞こえてきそうなくらい綺麗に決まる。

周りの輪から「Oh......」と笑いを含んだ声。

ステイル「おぉおおおおっ…うぉおおお…うぐう…あが…」
ステイルが力なくうつ伏せに倒れた。

男として耐え難い苦痛に襲われているはずなのだが、
酒のせいかその顔には君が悪い笑みが浮かんでいた。

ネロ「覚えときな!!! これがフォルトゥナ式だぜ!!!」

422: SSまとめマン 2010/03/31(水) 20:50:05.77 ID:wLtBbi20
ネロは新たに渡されたワインをステイルにぶっかける。

ネロ「種無しは黙ってオネンネしてな!!」

普通なら種無しになる程の強烈な蹴りを受けたステイルはその後、
完全に潰されたイチモツが完全に機能を再生するまで三日を要した。

ネロ「俺は休憩するぜクソ共」

ネロはステイルに背を向け、ワインボトルをラッパ飲みしながら輪から外れた。
今度は別な者同士が試合を始めたらしく、背後の輪から大きな歓声が聞こえた。

ネロはふらつく足取りでテーブルが並ぶ大宴会場と化したホールを歩いていく。

その時、聞きなれた声が耳に入った。
口調はいつもと全く違うが。

「だ~から!!!上条さんは!!!こんな私なんかうぐあああああ!!!」

ネロ「五和かぁ」

423: SSまとめマン 2010/03/31(水) 20:53:50.65 ID:wLtBbi20
ネロ「どうしたってよ?あぁ?」

ふらふらしながら、焼酎を一気飲みしてる五和の隣に椅子を置き座る。

アニェーゼ「くっだらねえ痴話話ですよ」
同席していたアニェーゼが答える。彼女は酒を飲んでいないようだ。

五和「くだねえだとぉ!?」

建宮「五和…少し休憩するのよな」
どんどん焼酎の瓶を空にしていく五和を促す。
実は五和が飲んでいる焼酎は全て建宮の私物だ。

五和「うるへぇ!!!」
口に焼酎を含みながら建宮へ言い返す。

ネロ「あ~まだあのガキにアタックしてねえのか。根性ねえな!」

ネロ「バッと襲っちまえよバッてよ。あんぐれぇのガキはイチコロだぜ。間違いねえ」

五和「それができたら楽なんだっつーの!!!」

424: SSまとめマン 2010/03/31(水) 20:55:31.73 ID:wLtBbi20
ネロ「ははぁ~お前まだ処女だろ?分かるぜ。青臭え匂いがプンプンしてやがる」

五和「んぐ!!!」

ネロ「OK、こう思え。これは戦争だ。戦いだ」

ネロ「勝った方が正義だ。既成事実を作れば勝ちだ」

五和「戦い…?」

ネロ「BATTLEだ。WARだWAR」

五和「そう…これは戦争!!!」

ネロ「いつものように前に出やがれ!『戦い』だぜ!!武器を使え!!!」

ネロ「女の武器をな!!お前はその胸に二つ核兵器ぶらさげてるじゃねえか!!使え!!!」

五和「は、はい!!!使う!!!使います!!!」

建宮「…」

アニェーゼ「(酔っ払い共が)」

425: SSまとめマン 2010/03/31(水) 20:57:44.15 ID:wLtBbi20
ネロ「わかってきたみてぇだな!!!OK、次は具体的な戦術だ!!良く聞け!!」

五和「Sir!!!!!」

ネロ「一気に押し倒せ!!んでその胸にぶら下がってる二つの『核』を押し付けろ!!!」

五和「攻勢ですね!!!」

ネロ「だがそこで待て。一旦退け。そして泣きそうな目でこう言え」

ネロ「『ごめんなさい…私なんかじゃダメですよね』  ってなぁあああああああ!!!!」

五和「おおおおおおおおお!!!!」

ネロ「これであのガキは陥落だぜ!!!!男の欲望と良心への同時攻撃だ!!!」

ネロ「Huuuuuhhooooooo!!!!!!」

建宮「…」

アニェーゼ「…」



トリッシュ「…」

426: SSまとめマン 2010/03/31(水) 21:00:23.39 ID:wLtBbi20
ネロ「…あぁ?」
ネロがその金髪の女性に気付いて振り返る。

トリッシュ「…」

ネロ「…今大事なとこなんだ。何か用か?」

トリッシュ「あなたこんな所にまだいたの?」

ネロ「いちゃ悪いか?」

トリッシュ「ええ。確か仕事があったと思うけど」

ネロ「あ~」
酒でぼんやりしている頭の中を確認する。そういえば何かあったような気がする。

トリッシュ「学園都市」

ネロ「おお!そうそう!!」
学園都市へ行き、イギリスの事件と同時刻に起こった騒動が関係しているのかどうか
インデックス達と確認する手はずになっている。

出発する予定の時刻はちょうど今だ。

ネロ「わぁったわぁった」

ネロ「アンタはもう帰っていいぜ。ダンテとにゃんにゃんしてろ」
ネロは再びトリッシュに背を向け五和と話し込む体勢に戻った。


次の瞬間、ネロの頭部を電撃の槍が貫いた。

―――

434: SSまとめマン 2010/04/02(金) 23:51:09.28 ID:628VBO.0
―――

バッキンガム宮殿の地下ホール。
ここは相変わらず大騒ぎであった。

トリッシュ「―――て感じで、私が来る前のダンテもかなり苦労したみたいよ」
ワインの入ったグラスを右手に持ったトリッシュ。
その誰しもが見とれてしまうほどの美しい顔がほんのりと赤くなっていた。

ネロをこんがり焼いてから一時間が経過していた。

周りの者達がそれぞれ相槌を打つ。
皆スパーダの一族と、そのまわりの話には興味心身だ。

アニェーゼ「(悪魔にもアルコール効くんですね…これは武器になるかもしれねぇです)」

五和「はぇ~そう~なんですかぁ」
飲みすぎて半ば意識を失いかけている五和が何とか相槌を打つ。

ステイル「一つ聞いても?バージルもダンテと似たような人なのか?」
今は種無しになっているステイルが聞く。
まだ痛むのか、その顔は少し引きつっている。

トリッシュ「全然」

ステイル「?」

トリッシュ「無言、真面目、合理主義、完璧主義」

ステイル「正反対じゃないか」

トリッシュ「まぁ、そんな所かしら。だから今でも時々思うの。『アイツ』が本当にバージルの息子なのか?って」
そう言いながら、上半身裸で馬鹿みたいに騒いでいる男集団に目を向ける。

その輪の中心で銀髪の青年、ネロが相変わらずハッスルしていた。

435: SSまとめマン 2010/04/02(金) 23:54:56.68 ID:628VBO.0
当初ネロは飛行機で学園都市に向かう予定だったが、トリッシュが送れば一瞬ということで、
彼女はもうしばらくここでネロを遊ばせる事にした。

トリッシュ「『アレ』、ダンテの息子って言ったほうが納得するわよね」
そのトリッシュの言葉に一同が同意する。

トリッシュ「だんだんとダンテに似てきてるような気がするし。まあ最初からあんな感じだったんだけどね」

ステイル「そんなに父親に似ていないのか…」

トリッシュ「でも似てるところもあるわよ。頑固なところとか勤勉なところとか」
トリッシュ「ネロ、仕事は真面目にこなすし」

アニェーゼ「確かにですね」

トリッシュ「まあバージルとダンテの性格がバランス良く溶け合わさっている感じかしら。父も叔父も両極端だし」

五和「ひとついいでふか?」
呂律の回っていない五和が声をあげた。

トリッシュ「何?」

五和「ネロはんから聞いたんでふが、トリッシュはんとダンテはんって恋人なんでふよね?」

トリッシュ「………あんのクソガキ」

436: SSまとめマン 2010/04/02(金) 23:56:43.30 ID:628VBO.0
トリッシュ「違うわよ」
にっこりと不気味な笑みを五和に向ける。

トリッシュ「同居してるけど、そういう関係じゃないの。寝たことも無いわよ」

五和「ね、寝た…」
一部のワードだけを拾って五和が何やらブツブツ呟き始める。

トリッシュ「相棒ってところかしら。パートナーよ」

ステイル「ちょっといいか?悪魔も…その…なんだ…あ~…」

トリッシュ「SEXしたいのかって?」
そのトリッシュのストレートな言い方に周りが一瞬固まる。

ステイル「お、おお」

トリッシュ「さぁ。それぞれじゃない?『淫魔』はそういうの大好きらしいけど」

トリッシュ「私は別に興味ないわよ。したこともないし」
その意外な答えに周りが再び固まる。

トリッシュ「なによ、ちょっとアンタ達勘違いしてない?私のこの姿は仮のものよ」

トリッシュ「人間で例えれば 自動車同士でSEXしようぜ って言ってるようなもんよ」

トリッシュ「それに生粋の悪魔全員に人間と同じくXXXやXXXがついてるなんて大間違いよ」

トリッシュ「人間と同じやり方で繁殖する訳ないでしょ。全く違う存在なんだし」

ステイル「だ、だが…確かダンテ達の父親は…」

トリッシュ「まぁ、やろうと思えばできるらしいけど」

437: SSまとめマン 2010/04/02(金) 23:59:58.20 ID:628VBO.0
トリッシュ「いい?悪魔には基本的に寿命が無いの。だから『子孫を残す』というのは本能に組み込まれていないの」

トリッシュ「『永遠の寿命を途絶えさせない為に力を求める』。それが悪魔の本能よ」
トリッシュの講義を聞き、まわりから関心した声があがる。

ステイル「じゃぁ…ダンテとかもそうなのか?バージルは息子を残したが…」

トリッシュ「さすが思春期。興味津々なのね」

ステイル「い、いや、これは悪魔の事を知る重要な…」

トリッシュ「いいわ、答えてあげる。ダンテ、十代の頃はかなり遊んだみたい」
トリッシュ「半人半魔だからね。悪魔の姿も人間の姿もどっちも本物」

トリッシュ「だからXXXも人間と同じく普通に勃つらしいし、欲情もするみたい」
トリッシュ「でも別に無くても良いらしいわよ。やっぱり『戦い』の方が快感だって」

トリッシュ「彼の中での優先順位は『戦い』、『ピザ』、『ストロベリーサンデー』、『ワイン』、その次が『SEX』ね」

ステイル「…ピザのほうが上なのか…」

トリッシュ「バージルなんかはもっとハッキリしてるわよ。『戦い』以外には興味が無いんだから」

ステイル「だがバージルは息子を…」

トリッシュ「そこが私も不思議なのよね。ちょっとした気まぐれだったのか、」
トリッシュ「それとも彼の中に僅かに残っていた人間の部分がある女性を本当に愛してしまったのか」

ステイル「…なるほど…興味深いな」

438: SSまとめマン 2010/04/03(土) 00:02:06.30 ID:0sq3MnM0
トリッシュ「っていうか、今この場所に良い標本があるじゃない」

ステイル「?」

トリッシュ「何すっとぼけてんの。アナタも悪魔でしょ」

ステイル「そ、そうだが、僕は元々人間で…!」

トリッシュ「転生した時点で完全に精神構造も変わるわよ。それでも想い人は変わってないでしょ?」

ステイル「……むむ」

トリッシュ「ほら、人を愛する悪魔じゃないの」

ステイル「…まぁ…」

トリッシュ「禁書目録の事好きなんでしょ?」

ステイル「お、お、そこは言わなくても…!」
五和を省くまわりの者達がニヤニヤする。五和は既にテーブルに突っ伏して寝ていた。

トリッシュ「禁書目録とSEXしたいんでしょ?」

ステイル「まてぇええええええええ!!!!」

トリッシュ「夜な夜な禁書目録を思い浮かべて一人でオn」

ステイル「やめろおおおおおおおお!!!!!」


ネロ「ハハァ!!!!面白そうな話してんじゃねぇか!!!俺も混ぜr」

突如ベロンベロンに酔ったネロが割り込んできたが、
言葉の途中で彼の顔面を電撃の槍が再び貫いた。

439: SSまとめマン 2010/04/03(土) 00:06:48.89 ID:0sq3MnM0
ゴルフボール大の穴が額に開き、ネロはそのまま仰向けに倒れた。

ネロ「へへへへへははぁ!!………って痛ぇなおぃ…」
ぎこちなく起き上がる。額の穴はみるみる塞がっていった。

ネロ「クソ!!何しやがるババア!!!?」

トリッシュ「アンタ、五和ちゃんに吹き込んだでしょ。私とダンテがどうのこうのって」

ゆっくりと椅子から立ち上がり、ネロの前へ向かう。



周りが空気を読んで、二人から離れる。


ネロ「…あ~…そんな事もあったような無えような」
ネロの目が泳ぐ。

トリッシュ「そろそろ出発の時間だし」

トリッシュ「一回その酒でふやけた体全部丸ごと吹っ飛ばした方良いわね」

トリッシュ「そうすれば一発でアルコール抜けるわよ。良くダンテにやってあげてるの」

ネロ「…そいつは…遠慮させて貰うぜ」

441: SSまとめマン 2010/04/03(土) 00:10:45.86 ID:0sq3MnM0
トリッシュ「全く…本当にダンテに似てきたわね」

ネロ「へっへ、つーことはアンタが俺のお袋ってか?はは、そいつは願い下げだぜッハッハー!!」
ベロンベロンのネロがゲラゲラと下品に笑う。

トリッシュ「…」
トリッシュは無表情。

ネロ「はははははっ!!!!……………悪ぃ…冗談だ」

ネロ「…そう怖い顔すんな。皺が増えちまうぜ。トリッシュお姉さん」

トリッシュ「あら心配してくれてるの?いい子ね。お姉さん気分良くなっちゃった」
トリッシュが背筋が凍るような笑みを浮かべる。
その目が赤く光っていた。

トリッシュ「ご褒美あげちゃう」


ネロ「……あ~あれだ、若気の至りって事で見逃s」

トリッシュ「死ね」


次の瞬間、雷鳴が轟きネロの全身が消し飛ばされた。

アルコールは完全に抜けた。

―――

442: SSまとめマン 2010/04/03(土) 00:16:06.66 ID:0sq3MnM0
―――

バッキンガム宮殿の地下ホールでネロがトリッシュに全消しされる半日前。
学園都市、深夜。

とあるマンション、「グループ」のアジトの一室に一方通行はいた。
ソファーに座りビールを飲んでいた。目の前のテーブルには大量の空き缶。

そしてピザとこれまた大量のワインボトル。

テーブルを挟んで向かいのソファーにその『客人』がだらしなく座っていた。
赤いコートに銀髪の大男。

ダンテ。

なぜこの最強の男がこんな所にいるのか。

ダンテがこのアジトに現れたのは一時間ほど前だ。
巨大なギターケースを背負い、左手にワインボトルを持って『颯爽』と突入してきた。

そしてこう言い放った。
よう、屋根かせや と。

当然、一方通行は反発した。
だがしばらくして気付くと、こうしてダンテと飲んでいた。
完全に相手の空気に飲まれてしまったのだ。

一方通行は これは自然災害のようなもンだ と諦めた。

444: SSまとめマン 2010/04/03(土) 00:19:31.54 ID:0sq3MnM0
話を聞くと、どうやら探し物があってそれが見つかるまで学園都市に滞在するとの事だ。

無一文かよ と一方通行は聞いたが、今は違う とダンテは返した。
このアジトに来る前に、ダンテは再びアレイスターの所へ行ったのだ。

少し金を貸してくれと。

アレイスターは黒のクレジットカードと連絡用の携帯電話、
そして最高レベルのセキュリティパスをダンテに発行した。

なぜセキュリティパスも発行したかというと、余計な破壊や治安部隊との衝突を防ぐ為だ。

壁に穴を開けたりゲートを破壊したり警備員をぶっ飛ばしたりさせないように。

じゃあなぜこのアジトに来たのか。
ダンテは なんとなくだ と答えた。

それはダンテの本心ではない。

ちゃんとした理由があった。
「強い奴」の周りは争いが起こりやすいからである。
ましてやこの一方通行の影のある雰囲気。明らかに闇の世界の殺し合いで荒んでいる。

ダンテは こいつの近くにいれば何か楽しい事があるかもしれねえ と思ったのである。

445: SSまとめマン 2010/04/03(土) 00:22:26.50 ID:0sq3MnM0
一方通行は煙たがりながらも、まァ良いかも知れねェ とも思っていた。
聞きたい事が山ほどある。

一方通行「…で、テメェと瓜二つのあの日本刀の男はなンなンだ?バージルッつッてたか?」

ダンテ「俺の兄貴だ」
ダンテがピザを食べながらそっけなく答える。
半ば寝そべりながら座っている為、パン生地のカスがボロボロと落ちている。

一方通行「…じゃァあのもう一人の青いコートの野郎は弟か?」

ダンテ「俺の甥だ」

一方通行「ハッ、全く随分と恐ろしい一家だなおィ」

ダンテ「まぁな。そういう『血』だ」

一方通行「つー事は…その強さも生まれつきかァ?」

ダンテ「みたいなもんだ」

一方通行「…」
そこにも興味がある。

一方通行の力は生まれつきでは無く能力開発によるものだが、その発現はかなり幼い頃だった。
突如覚醒したとんでもない力。

そこから地獄が始まったのだ。

その時から彼は血の世界を生きる事になった。

446: SSまとめマン 2010/04/03(土) 00:26:45.41 ID:0sq3MnM0
一方通行「どンな感じだったンだ?」

ダンテ「何が?」

一方通行「その力、嬉しかったか?」
一方通行から見れば、ダンテ達の力は今まで彼が求めていた『絶対の力』だ。
その強大な力を生まれながらにして持つ宿命を背負わされた者が、
どのような人生を送ってきたのかが気になる。

ダンテはさらりと一言。

ダンテ「クソだ」

一方通行「…」

ダンテは一方通行には言わなかったが、彼の若き頃は悲惨だった。
テメンニグルの塔で兄と再会するまでの彼は『何』も持っていなかったのだ。

父が失踪し、母が殺され、そして兄が消えただ一人。

己の力を持て余し、目的も無くただただ暴れた。
闇の世界に身を投じ、暴虐と殺戮の限りを尽くす。

悪魔からも人間からも『穢れた血』と蔑まれた。
ダンテは己を嘲笑する者達を片っ端から皆殺しにしていった。

向けようの無い鬱憤をはらすべく刺激を求める。

その行為はエスカレートし、
まるで死に場所を求めているかのような馬鹿げた行動を取るようになった。

447: SSまとめマン 2010/04/03(土) 00:29:28.99 ID:0sq3MnM0
心の奥底では本当に死に場所を求めていたのかもしれない。
確かな『何か』が欲しくて。
それが『終わり』でも良かったのだ。

しかし彼の力が、死ぬ事を許さなかった。

ある時は自分で頭を撃ち抜いた。
またある時は自分で頭を切り落とした。

だが何をしても死ねなかった。

そして時々見る悪夢。

母の死の情景。

これ程の力を持っていながら何もできなかったという事実。
それが若きダンテの精神を削り落としていった。

中身が空っぽの、周りの世界を嘲笑しながら莫大な力を振り回すタダの怪物だったのだ。


一方通行「…そゥか」
ダンテが返した一言。それだけで一方通行も充分理解した。。
彼もまた、自分と同じく地獄を見てきた と。
そしてその地獄の深さは自分以上かもしれない と。

448: SSまとめマン 2010/04/03(土) 00:31:33.31 ID:0sq3MnM0
ダンテ「だがまぁ、『今』は別に良いと思ってる」

ダンテ「それで『仕事』ができるんだしな」

一方通行「…」

ダンテ「お前も良いんじゃねえのか?その力のおかげで守れるもん守ってんだろ?」

一方通行「ハッ…守れてるかどゥかは微妙だがなァ」

ダンテ「生きてんだろ?ならいいじゃねえか」

一方通行「…」

ダンテ「つーかお前も中々だぜ」

ダンテ「バージルに魔人化までさせて生き残っている奴なんざ片手で数えるぐれぇしかいねえよ」

一方通行「あれは…運が良かッただけだ」
あの時の状況を思い出すと今でも背筋に冷たいものを感じる。

あのまま最後まで戦っていれば間違いなく自分は死んでいたのがわかる。

一方通行「それに…あン時の俺は反則紛いの方法で強化されてたンだ」

一方通行「実力じゃねェよ」
今でもあの黒い翼を出そうと思えば出せる。
だがそれは今までのと同じ雑でざらついた無様な物だ。

あの時のような洗練された滑らかな翼には到底及ばない。

449: SSまとめマン 2010/04/03(土) 00:33:29.46 ID:0sq3MnM0
ダンテ「でよ…話変わるけどよ」

一方通行「…なンだ?」

ダンテ「お前が守りてぇ奴って…」

ダンテ「女だろ?」
ダンテがニヤリと笑う。

一方通行「……ハァ?」

ダンテ「ハッハ~わかるぜ!お熱いねぇ!」

一方通行「アァ?!テ、テメェ何を?!!」

ダンテ「写真とかねぇのか?何かあるだろ。見せろや」
ダンテがいかにもという感じでニヤける。

一方通行「ねェよ!!」

ダンテ「嘘いうな。今の携帯って写真取れるんだろ?あるんだろその愛しのカワイコちゃんのがよ」

一方通行「うるせェ!!誰がテメェなんかに…!!」

ダンテ「見せろ」
ダンテが急に真顔になり、目が赤く光る。

一方通行「―――な、……」

権力乱用も甚だしい。
この男に凄まれればさすがの一方通行も折れざるを得ない。

こンな事でマジになりやがって… と思いつつ携帯を操作し、
一枚だけあった打ち止めの写真を表示する。

450: SSまとめマン 2010/04/03(土) 00:36:09.51 ID:0sq3MnM0
一方通行「…先に言ッておくけどよ…テメェが考えてるような関係じゃねえェからな」

ダンテ「うるせえ、いいからさっさと見せろ」

一方通行は携帯をしぶしぶダンテに手渡す。

ダンテ「ハッ!どれだけのベッピンさんか拝ませてもらおうじゃ……」

ダンテはその画面を見た瞬間固まった。


ダンテ「Oh.......」


一方通行「…」


ダンテ「…」

一方通行「…何か言ェよ」

ダンテ「…こいつ何歳だ?」

一方通行「…ぜ、0歳だ」

ダンテ「............What?」

一方通行「0歳」


ダンテ「.....Holy sit.....」

451: SSまとめマン 2010/04/03(土) 00:40:56.76 ID:0sq3MnM0
ダンテ「あ~………」

一方通行「ンだよ」

ダンテが残念そうな表情で一方通行の顔を見る。

ダンテ「お前…こういう趣m…いや何でもねえ」

一方通行「アァアア!!?だからそーィうのじゃねェッッてんだろが!!!」

ダンテ「まぁ…人それぞれだしな」

一方通行「聞けや!!」

ダンテ「とやかくは言わねぇがよ……絶対にハメを外すなよ」

ダンテ「少なくともあと五年ぐれえは待て」

一方通行「オァアアアアア!!!!」

ダンテ「あと15年すればかなりイイ女になるぜ…」

ダンテ「…って言ってもお前には良さはわかんねぇか」

一方通行「うるせェエエエエエエエエエエ!!!!」

453: SSまとめマン 2010/04/03(土) 00:43:39.36 ID:0sq3MnM0
ダンテ「…ま、誰かの為に戦うなんてイイ話じゃねえか」

一方通行「テメェが言うと馬鹿にされてるよゥに聞こえるな」

ダンテ「待て…このおチビちゃん、レールガンちゃんの妹かなんかか?そっくりだな」

一方通行「…まァな」

ダンテ「へぇ。訳ありか」
その僅かな含みを見逃さなかった。
携帯を一方通行に軽く放り投げて返す。


一方通行「……あァ」

ダンテ「あ~ウジウジすんじゃねえよ。女々しい野郎だぜ」

ダンテ「ウサちゃんかよお前は」

一方通行「…るせェ」
持っていたビールを口に運び、一気に飲み干す。


ダンテ「ま、せいぜい気張れや。ボーヤ」


一方通行「…言われなくてもなァ」


その後、二人は夜通し仲良く(?)飲んだ。
朝になり、酔いつぶれた一方通行が目を覚ました時は既にダンテの姿は消えていた。


―――

458: SSまとめマン 2010/04/03(土) 23:28:47.16 ID:0sq3MnM0
―――

漆黒の空。
延々と続く浅い血の海。

上条はそこに一人立っていた。
足首から下がその浅い血の海に浸かっている。

上条「……あれ?」

見覚えがある。魔界の深淵だ。
上条自身は行った事が無いものの、以前『記憶の中』で来たことがある。

上条「……何でここに…?」

いつどうやって、何で来たのか思い出せない。

上条「ん?」

その時、背後に気配を感じ振り向いた。
そこには。

上条「―――」

5m程の場所に黒い人影。
細部が良く見えない。まるで切り絵のような漆黒のシルエット。

その形は上条が良く知っているものだった。

背丈は彼と同じ程。体格も同じ。そしてツンツン頭。
そう、自分自身のシルエット。目の位置が赤く光っていた。

その影を見た瞬間、胸の内部の心臓がある辺りが一瞬痛んだ。

459: SSまとめマン 2010/04/03(土) 23:31:43.12 ID:0sq3MnM0
上条「―――なっ?」

『怖いんだろ?』

腐るほど聞きなれた声がその影から発せられる。
紛れもない自分自身の声。

だが完全に同一というわけではなかった。
妙なエコーがかかっている。

『失うのが』

上条「―――」

『憎いんだろ?』

その「影」が言葉を続ける。

『自分の弱さが』

上条「……」
どう考えても奇妙な状況なのに、なぜか冷静に聞き入ってしまう。

妙な感覚だ。

喋っているのは自分では無いのに、まるで自分が喋っているような感覚。

460: SSまとめマン 2010/04/03(土) 23:41:07.56 ID:0sq3MnM0
『二ヶ月前に―――』

『最高に良いもん手に入れたじゃねえか』

上条「へ…?」

『もう人間の小さな「器」とはオサラバだぜ』

『「アレ」も使い放題だ』

上条「……何の事だよ一体…?」

『…お前その右手何だと思ってた?』

上条「何って…異能を打ち消す『幻想殺し』だよな」

『「打ち消す」のは副作用だ。それに厳密に言うと「相殺」だ』

上条「…………はぃ?」

461: SSまとめマン 2010/04/03(土) 23:45:08.69 ID:0sq3MnM0
『その右手は「触覚」みてえなもんだ』

『覚えてるか?色んな「力」に触れてきただろ?』

上条「おい…何言ってんだ?」

『今まではしょっぺえのしか無かったがこの二ヶ月間はすごかったな』

上条「それが…なんだってんだ?」

『お前馬鹿だろ?「自分に」言うのもあれだがよ…。例えば、「創造の力」を触ったよな?』

上条「…魔帝か?」


『ああ。あんなとんでもない代物を直で触っといて何も無いと思うか?』


上条「さ、さぁ……無いんじゃないか?」


『本当にアホだな………やっぱまだ知るには早いか』

影が上条の方へ向けて動いてくる。

462: SSまとめマン 2010/04/03(土) 23:47:30.41 ID:0sq3MnM0
上条「お、おわ…!!!!!」
反射的に後ろに下がろうとしたが体が動かない。
凍りそうなほど冷たい黒い影が上条の手足に巻き胸に伸びていく。

そして胸の皮膚を破り上条の中へ。

上条「が!!!あああああああ!!!」

黒い影が、栓が抜かれた湯船のようにどんどん上条の胸へなだれ込んでいく。
胸が軋み、この世の物とは思えないほどの激痛。

上条の中に激痛と共にどす黒い感情が猛烈な勢いで噴き上げてきた。
心の中を全て黒く塗りつぶしていく。

『待ってるぜ 「俺」』


上条「ぁあああああああああああああああ!!!!!」


―――ま


上条「ぁあああああ―――!!!」


―――うま!!


上条「―――…ッ………クス?」


―――とうま!!!!

463: SSまとめマン 2010/04/03(土) 23:48:39.12 ID:0sq3MnM0
上条「…んぁあああッ!!!!」

勢い良く起き上がった。

上条「…あれ…?」

見慣れた光景が広がっていた。
そこは毎晩上条が寝ている風呂場。

禁書「とうま!!!とうま!!!!」

インデックスが彼を呼ぶ声と、彼女が風呂場のドアを激しく叩く音が響いていた。

上条「…おお!!」
状況が把握できないが、とりあえず返事をしながら立ち上がり、
風呂場のドアの鍵を外して開ける。

そこには今にも泣きそうな顔をしたインデックスが立っていた。

禁書「とうまぁあああ!!!!」

上条「っどうしたんだよ?!」

464: SSまとめマン 2010/04/03(土) 23:51:46.97 ID:0sq3MnM0
カーテンの隙間から明るい光が差し込んでいた。
時計を見ると午前7時を回ったところだった。

インデックスを落ち着かせて話を聞く。
どうやら上条が突如まるで激痛に襲われたかのような大声を発したらしい。

禁書「ど、どうしたの?とうま…」

上条「……ああ、ちょっと悪い夢見ただけさ」

夢。

その夢の内容がなぜか全く思い出せない。
何かすごく重要な気がする。
だが全く浮かんでこなかった。

上条「(なんだってんだ……ん?)」

ふと、自分が大量の汗をかいてたのに気付いた。

上条「うっわ……びちゃびちゃだな」

禁書「とうま、本当に大丈夫?」

上条「はは、上条さんに心配はいりませんよ」

上条「ちょっとパッとシャワー浴びるわ」

465: SSまとめマン 2010/04/03(土) 23:53:35.01 ID:0sq3MnM0
禁書「そ、そう……じゃあその間に私が朝ごはん作るんだよ!!」

上条「ぷ…ははは!何言ってるんだよインデックス!」
上条「お前作れないだろ?良いって俺が作るから。その気持ちだけ受け取っておくよ」

わしゃわしゃと、寝癖が跳ねている小さな頭を撫でる。

禁書「…う、うん!」

上条「よし、じゃあ待ってろ。すぐ上がってメシ作ってやっから」

上条「…っと、ネロさん何時に着くって行ってたっけ?」

禁書「10時なんだよ」

上条「そうか。ならゆっくりできるな」

あのイギリスの事件から三日経っている。

この学園都市の事件も例の件に関係あるのか。
それを調べるために今日、ネロが来る予定になっている。

ネロとインデックスが崩落した第23学区を見に行くのだ。

上条も付き添う予定だ。

―――

466: SSまとめマン 2010/04/03(土) 23:58:21.58 ID:0sq3MnM0
―――

とある喫茶店。

この店の窓側の席で黒子、初春、佐天がテーブルを囲んでいた。

黒子「う~ぁ~…」
頬杖をつきながら気の抜けた声を発する。
初春と佐天はそんな黒子にお構い無しにペチャクチャ他愛も無い会話をしていた。

黒子は疲れていたのである。
三日前の疲労がまだ抜けていない。相変わらず冷えた腹も下し気味だ。
あの後、突如黒服の男達が寮にやってきて黒子と御坂を理事長命令で連れ出した。

二人は驚いたが、「やっぱりね…」と納得もした。
二ヶ月前も同じような事があったのだ。

今回も前回と同じく灰色の味気ないビルの一室に連れて行かれ、
事件について一切口外しないという内容の誓約書にサインさせられた。

この二ヶ月間で一生分の精力を使い果たしてしまったような気がする。

黒子「(どれもこれも…あのふざけた男が現れてからですの!!!全く!!!)」
そう、あの男。
ダンテが現れたその瞬間から奇妙な世界に引き込まれてしまった気がする。

黒子「はぁ…」

初春「大丈夫ですか?白井さん」

佐天「風邪治ってないんじゃないの?無理しちゃダメですよ」
二人には風邪をひいたと言ってある。

黒子「大丈夫ですの。黒子はこれしきではへこたれませんの」

467: SSまとめマン 2010/04/04(日) 00:04:41.94 ID:xHBONHo0
佐天「そういえばさ、あの三日前の事件ってさ、やっぱりおかしいよね」

佐天「どう見ても実験機の爆発事故じゃないでしょ」
学園都市はそう報道したのだ。

初春「ですよね~。あの光の柱はなんなんだろう」

光の柱。ダンテのパンドラのものである。

佐天「ねーねー初春。ちゃちゃっと調べられないの?いつもみたくさ」

初春「だ、ダメですよう!!!セキュリティは破れますけど、ばれたら逮捕されちゃいます!!!」

初春「最高度のセキュリティレベルでしたし!!見つかったら15年くらい牢屋に閉じ込められちゃいます!!」

佐天「あー、一応試したのか」

黒子「(…目の前に真実を知っている者がいますの。教える気はさらさらありませんが。うふふふ)」
黒子は内心少し優越感に浸っていた。

よくよく考えれば知らないほうが幸せなのだが。

468: SSまとめマン 2010/04/04(日) 00:11:09.30 ID:xHBONHo0
ふと黒子はウィンドウ越しに外をみた。

その瞬間。

黒子「―――げぁ!!!」
その先のものを見た拍子に大きな声を上げてしまった。

初春「わぁ!!!」

佐天「ちょ!!!な、何!!?」

黒子は見てしまったのだ。

道路の向こうをだらしなく歩く、銀髪で赤いコートを羽織り巨大なギターケースを担いでいる男を。

黒子「(なぜ!!!こんなところに!!!あの男がぁあああ!!!)」

銀髪の男は気だるそうに大きな欠伸をし、右手で頭を掻く。
良く見ると左手にワインボトルを持っていた。

黒子「(朝っぱらから路上で酒とは!!!!なんて!!!なんて男ですの!!!)」

初春「ふぁ~」

佐天「わぁー!」
二人もそのやけに目立つ男に気付き目を向ける。

初春「…何て言えばいいのかな…凄い存在感ですね」

佐天「(何あのメチャイケメンなオッサン!!!ハリウッド俳優みたい!!!)」

469: SSまとめマン 2010/04/04(日) 00:14:36.26 ID:xHBONHo0
初春「って、知り合いですか?」
キョドっている黒子へ話しかける。

黒子「し、知りませんの!!!あんな『馬鹿馬鹿しい』殿方など!!!」

佐天「あ~知ってるんだぁ」

黒子「知りませんの!!!の!!!」

初春「でも…ほら」
初春が指を差す。

するとその向こうの男がニヤけながら、黒子達に軽く手を振っていた。

黒子「むギィィィィィィ!!!」

初春「やっぱり知り合いじゃないですかぁ~」

黒子にとって幸いな事に、その男はそのままスタスタと通りを進んでいった。

初春「なんか凄いオーラの人でしたね…」

佐天「で、で、白井さん!!あの人誰ですか!?」

黒子「…(どこか…遠くに行きたいですの…『アレ』に会わないくらい遠くに…)」


―――

472: SSまとめマン 2010/04/04(日) 00:27:50.89 ID:xHBONHo0
―――

上条とインデックス、そしてネロは第23学区の崩落した地下駐機場の上にいた。
目的は調査。

この学園都市の件とイギリスの件は関係あるのか。

答えはYESだった。

インデックスの解析によると、この場で使われた召喚式もイギリスで使われた物と構造が一致したらしい。
同一犯、もしくは同組織による犯行だ。

だがその犯人の身元は依然わからなかった。
手がかりが一切無い。

イギリス清教とフォルトゥナは共同で過去の情報を洗い、
これほどの技術を持ち得そうな者を探した。

そして一人の名が最初に挙がった。「アーカム」という男だ。

この男は悪魔に転生し、そしてスパーダの力を手に入れようとしたがダンテとバージルによって10年以上前に打ち倒された。

悪魔になったということで復活した可能性もあったが、
アーカムの力を知っているレディに完全に否定された。

力の「匂い」がアーカムではなく全く別人の物だったのだ。

他に名が挙がった者も数人いたが、既に死亡が確認されていたり数百年前の者だったりだ。

473: SSまとめマン 2010/04/04(日) 00:37:11.37 ID:xHBONHo0
ネロ「OK」
ネロが軽く手を叩く。

ネロ「今日はこのくらいにしとこうぜ。また明日だ」

上条「もういいのか?」

ネロ「ああ。しっかり休めよ禁書目録」

禁書「うん!」

上条「ところで…ネロさんはどうすんだ?」

ネロ「何が?」

上条「泊まるところとか」

ネロ「学園都市側が用意してくれてるらしい」

上条「そうか…あのよ…その、飯でもどうだ?奢るぜ?」
この二ヶ月、何度ネロに命を救われたか。
さすがにこのまま何も礼をしないのは上条の良心が許さなかった。

禁書「うん!ネロも一緒に食べるんだよ!」

ネロ「あ~、ありがてえが、これから用事があるんだ」

ネロ「そんかわり明日よろしく頼むわ」

上条「そっか…おう!」

474: SSまとめマン 2010/04/04(日) 00:42:06.01 ID:xHBONHo0
ネロはタクシーに乗る二人を見送った。

ネロ「っ…」
アルコールは完全に抜けたものの、
トリッシュの力の残留によって未だに体の節々が痺れるように痛む。

ネロ「(…ったく…マジになりやがって…少しは加減しろよ…非常識な女だぜ)」

ネロ「さて…」
用事。それは奔放すぎる叔父に会う事。

一応トリッシュにダンテから連絡が来たらしいが心配なのだろう。
彼女に仕事のついでにダンテの様子を見て来いと言われた。

そのトリッシュを見てニヤニヤしていたら再び電撃を飛ばされ頭にゴルフボール大の穴が開いたが。
そしてさっさと行けとケツを蹴られた。

宴会の件もあって彼女は非常に不機嫌だった。

その時の様子を思い出して小さく笑う。

ネロ「(自分でダンテに会い行けばいいものを。すぐじゃねえか。まわりくどいねぇ)」

淡く輝いている右手を見る。
ここから5キロ程離れた場所だろうか、ダンテの力を感じる。

ネロ「…」
暫く眺めた後、捲くっていたコートの袖を下ろし、光を通さない厚手の革手袋をはめる。
異形の右手は完全に隠れた。

475: SSまとめマン 2010/04/04(日) 00:46:18.89 ID:xHBONHo0
ネロ「(これで…いいか)」
光が漏れないか確認する。

フォルトゥナの事件以来、故郷ではこの右手を隠すのはやめたが、
さすがに外の「一般の世界」で出したままにするのは気が引ける。

かなり目立ってしまうだろう。


それ以前に容姿と服装でかなり目立っているのだが。

ネロ自信は自覚していないが、長身で青いコートに銀の金属製の巨大なケースを背負い、
銀髪にかなり整った顔となると一目見ただけで誰の記憶にでも残る。

ネロ「(さて…行くとしますか)」
ネロはそのダンテの反応の方へゆっくりと歩き始めた。

ちょっと本気を出せば数分でたどり着けるが、それだとつまらない。

今回は少し観光気分でまったり行こうとネロは決めていた。

476: SSまとめマン 2010/04/04(日) 00:51:29.29 ID:xHBONHo0
実はネロ、フォルトゥナの外の「平時」の明るい街を歩くのはほぼ初めてだ。

フォルトゥナの件以来、外の世界にも行くようになったが大抵は寂れた治安の悪いスラム街や、
悪魔襲撃によって阿鼻叫喚になった村、歴史がある素朴な町等だ。

イギリスでの仕事だって、大抵は城や宮殿・騎士や魔術師達の施設での業務だった。

この学園都市にも二ヶ月前に来たが、その時は地獄と化していた。

ネロ「(へっへっへ…)」
ワクワクする。外の「普通」の明るい街。

音楽やファッションなど、小さい頃から外の文化に興味があった。
周りはそんな俗っぽいネロを敬遠していたが。

俗世から離れた素朴なフォルトゥナでは、
メジャーなロックのCD一枚手に入れるだけで一苦労だったのだ。

477: SSまとめマン 2010/04/04(日) 00:52:54.40 ID:xHBONHo0
ネロの営むデビルメイクライ2号店は、1号店とは違い繁盛していた。

共に住んでいるキリエの「人助けが第一」精神の影響もあってか、
ネロじゃなくてもいいような依頼でも彼は引き受けていたのだ。

それに生まれ変わった騎士団の再興や、
昔から魔界と「近い」フォルトゥナの守護の仕事もあった。

最近ではネロを騎士長に推す者達も増えてきたが、
彼はこれ以上仕事が増えるのはさすがに厳しい為断っている。

そういう事で今までなんやかんやで仕事が忙しかった為、
こうやって外の世界をゆっくり見て周る機会は無かったのだ。

ネロ「(はっは~♪)」

ネロは軽い足取りで学園都市の道を進んで行った。


―――

478: SSまとめマン 2010/04/04(日) 01:05:50.40 ID:xHBONHo0
今日はここまでです。
再開は夜10時あたりから。

>>471
元々の大まかな構想は本編含めてここらへんで六割くらいだったけど、

本編の投下中に大幅にストーリーを変えたり、
良さげなイベントの多くを本編に移動させちゃったから今後どうなるかはわかりません。

489: SSまとめマン 2010/04/04(日) 22:10:37.38 ID:xHBONHo0
>>485
いいねえ。DMCを語れば夜が明けちまうぜ。

スパーダは多分高確率で死んでる。ダンテも確実な事は知らないけど薄々気付いている。
でも心のどこかでは まだ生きてるかも とも思ってるらしい。

>>486
すんません。そこはノリでなんとなくです。

490: SSまとめマン 2010/04/04(日) 22:12:10.79 ID:xHBONHo0
―――

聖ジョージ大聖堂。
そこの大きなホールに、神裂とトリッシュは立っていた。
壁には大きな穴が開き、ホールに並んでいた長椅子はバラバラに砕けていた。

神裂「一体何者でしょうか…」
神裂の感覚によると、悪魔でも天使でも人間でもない。
それでいて逆にその全ての特徴も備えていた。

トリッシュ「…」

トリッシュには一つ心当たりがある。

『魔女』。

今の魔術師達とは全く系統が違う連中だ。
その力の根源は魔界。

フォルトゥナの魔剣騎士団と系統が似ているだろうか。

五百年前に全滅したといわれる者達だ。
だがつい数年前に数人の魔女の生存が確認された。

そして聞くところによるとその魔女達が、封印から目覚めた大神「ジュベレウス」を打ち倒したとの事だった。
ちょうどダンテとネロがフォルトゥナで「神」と戦っていた時期だ。

ジュベレウスはかの魔帝やスパーダと同等以上の存在だ。
つまりそれを打ち倒した魔女もかなりの実力者だ。

敵か味方か。

今のところは何ともいえない。

魔女は魔界の悪魔と契約し力を行使することもある。
聞くところによると、その魔女と契約関係にあった悪魔の数体をダンテはぶち殺してしまったらしい。
大事な力の根源の障害となるのであれば、敵にまわってもおかしくないのだ。

491: SSまとめマン 2010/04/04(日) 22:15:55.52 ID:xHBONHo0
トリッシュはその魔女に会った事は無い。

だが幸か不幸か、以外にもかなり近い人物らしい。
トリッシュとダンテの『知人の知人』なのだ。

トリッシュ「(エンツォかロダンに聞くしかないわね)」

神裂「…あの…」

トリッシュ「あらゴメンなさいね。ちょっと考えてたの」

トリッシュ「…とりあえずこの件は私に任せて」

神裂「?」

トリッシュ「こっちで調べておくから。心配しないで。王室には私の方から話をつけとくから」

神裂「…わかりました」


その時、トリッシュの脳内に通信魔術の声が響いた。

トリッシュ「…どうしたの?あなたから直で来るなんて嫌な予感しかしないけど。レディ」

レディ『今ダンテ学園都市にいるんでしょ?』

492: SSまとめマン 2010/04/04(日) 22:20:04.48 ID:xHBONHo0
トリッシュ「ネロもいるけど」

レディ『そう、それは良いわね』

トリッシュ「何?まさか世間話する為に繋げたの?」

レディ『違うわよ。依頼があってね。ちょうど場所は学園都市なの』

トリッシュ「何関係?迷子探しとかなら怒るわよ」

レディ『悪魔関係』

トリッシュ「内容は?」


レディ『魔具「ゲヘナの鏡」の回収もしくは破壊』


トリッシュ「…そんな代物が本当に学園都市にあるの?そんなに都合良く」

レディ『忠実な僕が「主」の最期の死に場所に向かう事もあるでしょ』

レディ『とにかく、学園都市にあるのは確かだから』

レディ『私は別件でいけないから。よろしくね』
そこで通信は一方的に切断された。

493: SSまとめマン 2010/04/04(日) 22:25:33.80 ID:xHBONHo0
神裂「…何かあったんですか?」

トリッシュ「緊急の依頼よ。ダンテかネロにやらせるけど」

神裂「そうですか」

トリッシュ「…」


ゲヘナの鏡。悪魔としての名はシェオル。
かつて魔帝仕えていた悪魔の一人だ。

かつてダンテが戦ったドッペルゲンガーの眷属だ。

シェオル自身の戦闘能力はほとんど無い。

だがその力は非常に特殊だ。

「魔鏡」としてのコピー能力はドッペルゲンガーには及ばないものの、
(ドッペルゲンガーはダンテそのものすらコピーする程であった)
別にもう一つの強大な力がある。

対称を「鏡の世界」へ閉じ込めることができるのだ。

表の世界と同じ広さをもつその空間。
一度入った者は、シェオルの意思以外では絶対に抜け出せない。

内側の世界は鏡に映った物、表の世界が壊れない限り鏡の中の世界も壊れない。
つまりどれ程強い力を持っていても内側からは破壊できないのだ。

魔帝でさえ閉じ込められたら抜け出せないと言われている、
その特殊かつ絶対的な力は魔帝によって『牢獄』として使われていた。

494: SSまとめマン 2010/04/04(日) 22:30:34.64 ID:xHBONHo0
トリッシュは何度かシェオルにあった事がある。
印象は「得体の知れない奴」。

他の脳みそまで筋肉でできてそうな大悪魔達と違って、どちらかというと頭脳で勝負するタイプだ。

機会を慎重に伺い、罠を張り巡らせ相手を陥れて「鏡の世界」に閉じ込めてしまうのだ。

トリッシュ「(面倒臭そうな相手ね)」

レディの話から推測すると、
二ヶ月前に魔帝が完全に打ち倒された事によって独自に動き出したらしい。

主の死に場所である学園都市に向かったと。
泣ける忠誠心だ。

トリッシュ「(…)」

そして学園都市にはダンテとネロがいる。

悲しいまでの忠誠心を持つシェオルの主を倒した憎き者達だ。

「ゲヘナの鏡」、シェオルがその事を知ったらどうするか。
確実に何か行動を起こすだろう。

トリッシュ「(ともかく…探す手間は省けそうね)」

ダンテが 面白そうじゃねえか と飄々と自らその鏡の世界に飛び込んでいく映像が一瞬浮かんだ。

トリッシュ「(………まあなんとかなるでしょ」)


―――

495: SSまとめマン 2010/04/04(日) 22:39:20.66 ID:xHBONHo0
―――

相変わらず三人の少女は喫茶店で暇を潰していた。

佐天「そういえばさ、今日は二人ともジャッジメントの仕事じゃなかったっけ?」

黒子「ええもちろん。もう少ししたら行きますの」

佐天「…そういえば御坂さんは??」
今日は土曜日だ。

黒子「お姉さまはゲコ太の限定枕カバー買いに朝一で出て行きましたの」
黒子よりも激しく戦ったのに、御坂は翌日にはケロッとしていた。
レベル5の精神の図太さを垣間見た気がした。

佐天「あ~相変わらずだね」

初春「…ふあ?」
初春が、ウィンドウ越しに外を見ながら素っ頓狂な声を挙げた。

二人も気付き外を見る。

外の道路を挟んだ所で銀髪に青いコートの男が、
何やら不機嫌そうに公共の電子端末を弄っていた。

英語のスラングがガラス越しに小さく聞こえてくる。
かなり目立っていた。

496: SSまとめマン 2010/04/04(日) 22:42:58.85 ID:xHBONHo0
初春「…なんか…すごく目立つ人ですね」

黒子「あ」

佐天「(わわっ…めっちゃイケメンの外人さんだ…)」

黒子「あの殿方は…」
知らないはずが無い。二ヶ月前に合っている。
詳しい事どころか名前も知らないがあのダンテの家族らしい。
ダンテと同じく凄まじく強いという事は聞いている。

あの時に何度か話したことがある。
口は悪かったが、ダンテとは違って幾分かはまともで良い人のようだった。


初春「さっきの人と雰囲気似てますね。知ってるんですか白井さん?」

黒子「まあ…知り合いですの」

佐天「うっそ!本当?!」

初春「何か困ってるみたいですよ~」

黒子「…ったく。しょうがありませんの」
次の瞬間黒子の姿が喫茶店から消えた。


―――

497: SSまとめマン 2010/04/04(日) 22:48:36.29 ID:xHBONHo0
―――


ネロは近代的なコンクリートジャングルを当てもなく気の向くまま突き進んだ。

すれ違う者達が振り返ったり二度見する。
ネロは自分のカッコにおかしい所でもあるのかと、何度か立ち止まり確認したが特に無いように思えた。

右手の光も漏れていないし、腰に差している銃もコートの影で見えない。
ネロは首を傾けながらもそのまま進んでいった。

注目を集めているのはその容姿と服装なのだが、ネロは全く気付いていなかった。

ある程度歩いたところで、どこか見所のある場所でも無いかと通りすがりの者に聞いたところ、
公共の電子端末で地図を見れば良いと言われた。

そこでこの端末を見つけた。

そこまでは順調だった。

だがネロはダンテ程とは言わないが結構な機械音痴だ。
CDプレーヤーぐらいならフォルトゥナでも使っていたが、PCなんて触ったことも無い。
ましてやタッチパネルなど。

当然行き詰った。

ネロ「......Fuck....」

498: SSまとめマン 2010/04/04(日) 22:53:34.98 ID:xHBONHo0
ネロ「(何だよコレ…どこで操作すんだよ…クソ…)」

イライラがつのる。

ネロ「Damn it....」

道行く者も彼が何か困ってるというのは悟ったが、
不機嫌なネロの異様な威圧感で誰も近づけないでいた。


その時、背後から覚えのある声が聞こえた。

「何かお困りですの?」

ネロ「あ゛ぁ゛?」

少し喧嘩腰に、不機嫌なままその声に振り向く。
そこにはツインテールの少女が立っていた。

ネロ「あんた…あの時の…」

黒子「お久しぶりですの」

499: SSまとめマン 2010/04/04(日) 22:59:05.30 ID:xHBONHo0
ネロ「お~元気にしてたか?」
知った顔を見てネロの機嫌が晴れ、表情がいくらか優しくなった。

黒子「おかげさまで」
少し皮肉を込めて言葉を返した。
その言葉を聞いてネロは苦笑が混じった子供っぽい笑みを浮かべる。

黒子「で、何か困っていらっしゃったのでは?」

ネロ「ああ、コレな」
ネロは簡単に説明する。

少し観光しようとしてて、地図を見ようとしたが上手くいかないと。

黒子「なるほど」
黒子が手際よく端末を操作して一帯の地図を表示させた。

ネロ「へぇ。すげえな。画面触れば動くのか」

黒子「とりあえず…良かったですの」

ネロ「?」

黒子「いえ、また何か厄介事でもあるのかと」

ネロ「はっは~心配すんな。今はオフだ」
そうこうしているうちに、通りを挟んだ喫茶店から初春と佐天がやってきた。

500: SSまとめマン 2010/04/04(日) 23:04:22.99 ID:xHBONHo0
ネロ「友達か?」

黒子「ええ。こっちのお花畑が初春、そっちが佐天さんですの」

初春「は、始めまして!」

佐天「よ、よろしくです!(ち、近くで見ると…本当にすっごい…!)」

黒子「それとわたくしが白井黒子でございますの」

ネロ「そういえばまだアンタにも名前教えてなかったな。ネロだ。よろしく」

初春「え~と…え~と…が、学園都市にようこそ!」

ネロ「おう、お邪魔するぜ。まあ二回目なんだが」

初春「?初めてじゃないんですか?」

ネロ「ああ、二ヶ月m」
そこで黒子の鋭い視線に気付く。

ネロ「…いや…半年前かな、とにかく前にも一回来たことあるぜ」

ネロ「ま、そん時はゆっくり見て回れなかったからな」

佐天「は~」

501: SSまとめマン 2010/04/04(日) 23:09:59.09 ID:xHBONHo0
その時、黒子の携帯がなった。

黒子「?」
着信を見るとジャッジメントの同僚からだった。

黒子「(そういえば…時間ですの)」

黒子「初春。行きますの」

初春「は、はい」

ネロ「用事か?」

黒子「はいですの。ではごゆっくり。くれぐれも問題は起こさないで下さいまし」

黒子「『くれぐれも』 ですの」
鋭く睨み念を押す。

ネロ「あ~、わぁったよ」
ネロが罰を悪そうに頭を掻き、苦笑しながら返事をする。

黒子「では」
そして黒子は初春を連れて、テレポートしてその場から離れた。

ネロ「…」


佐天「…」

502: SSまとめマン 2010/04/04(日) 23:18:04.14 ID:xHBONHo0
佐天「(うっそマジ!?ちょ、ちょっと!!ふ、二人っきり!?)」

ネロ「じゃ、あんたも行っていいぜ」
そう言い、ネロは電子端末の方へ向いた。

佐天「…へ?(…あ、あれ?)」
少し残念に感じた。

別に恋心がある訳では無いが、これ程の美男子と一緒にいるのは悪くない。
一生に一度見かけるか見かけないかのレベルだ。
ましてや知り合いになって一緒にいるなど。

「それ」をここで「はいさようなら」するのも凄くもったいない気がする。

佐天「(涙子!!!じ、人生は一度だよ!!)」

ネロ「…クソ…どう見るんだよこの地図…あっちが北で…」
ネロは慣れない画面と睨めっこしながら何やら呟いている。

その背中に向けて佐天は恐る恐る声をかける。

佐天「あの~…」

ネロ「あ?まだいたのか?」

佐天「(うがっ!)」
喋った本人は別になんとも思っていないだろうが、そのそっけない言葉が突き刺さる。

503: SSまとめマン 2010/04/04(日) 23:23:21.37 ID:xHBONHo0
佐天「い、いや、特に用事も無いしさ!」

ネロ「へぇ。そうか」
ネロは特に興味無さそうに再び電子端末に目を戻した。

佐天「(っっっ!!!気合入れろ涙子!!!根性!!!よし!!よし!!!)」

佐天「も、もし良かったら、案内してあげよっか?」

ネロ「おお!?」
ネロが勢い良く振り向く。

佐天「!」

ネロ「良いのか!?」
まるで子供のような笑みで佐天を見つめる。

佐天「…う、うん。いいよ。ひ、暇だしねっ」
その透き通るような瞳に見つめられ、少し動揺するもなんとか返事をする。

ネロ「はっは~OK!助かったぜ!頼むぜ!」

佐天「ははは…で、どこに行きたいの?」

ネロ「…」

ネロ「面白え所」

佐天「へ?」

504: SSまとめマン 2010/04/04(日) 23:27:24.40 ID:xHBONHo0
佐天「え~…と、もうちょっとこう…具体的に…」

ネロ「…あ~」
ネロは思考を巡らして考える。
今回の観光は時間に余裕ができたからはじめた突発的な物だ。
特に予定も何も立てていなかった。

その時、ふと思い出した。
昔フォルトゥナでなんとか手に入れた雑誌に書いてあった事。


ネロ「げーむせんたー」


佐天「ゲームセンター?」

ネロ「あるか?」

佐天「あ、あるけど…」

ネロ「OK!連れてってくれ!!」

佐天「う、うん!」

観光でゲームセンターを見に行きたいとは何かおかしい気がしたが、
その勢いと子供のような笑顔に押されてとりあえず連れて行ってあげる事にした。


―――

505: SSまとめマン 2010/04/04(日) 23:32:52.44 ID:xHBONHo0
―――

ダンテは街をぶらついていた。
暇で暇で仕方なく自分で歩いて『騒ぎ』を探す事にしたのである。

そうやって当ても無くふらついていたら、携帯にトリッシュから電話がかかってきた。

「ゲヘナの鏡」、シェオルという悪魔が学園都市に潜伏しているらしい。
暇つぶしができるぜ! と一瞬思ったが、その悪魔の性質を聞くにつれ段々とイヤになってきた。

どうやらシェオルはダンテが最も気が乗らないタイプだ。
派手に楽しめない、セコくてつまんねえ奴 とダンテは評価した。

大体にしてダンテは「鏡」自体が好きじゃない。
鏡に映った『自分』が敵として襲いかかってきた事が何度かある。

そしてその中の一つは魔帝によって傀儡化されていたバージルだった。
良い思い出ではない。

ダンテ「…面倒くせぇな」

だがレディの依頼とあれば断る事はできない。
後々酷い目に会う。

それにそんな危険な代物をこの人口密集地帯にほおって置くわけにもいかない。

口ではブツブツいいながらも、ダンテの心は当然決まっていた。

ダンテ「…(ま、仕事の前にメシ食っとくか)」

―――

506: SSまとめマン 2010/04/04(日) 23:37:48.68 ID:xHBONHo0
―――


上条とインデックスはとあるファミレスで遅めの昼食を取っていた。
時刻は午後三時になろうとしていた。

二人の前のテーブルには大量の皿と料理が乗っていた。

上条「お?もういいのか?」

禁書「このぐらいでいいんだよ」

上条「遠慮すんなって。つーか、全部食べきらないとお店に悪いぜ」

禁書「むむ!それだったら全部食べるんだよ!!」

上条「ははは~その調子ですよ」
インデックスの気持ちの良い食いっぷりを見ながら、上条はドリンクを飲む。
その時、ファミレスのドアが開き一人の客が入ってきた。

上条はコップを口に当てながら何気なく入り口の方へ目をやった。

そしてその客を見た。

上条「―――ゴブッ!!!!!」
その姿を見た途端盛大にドリンクを噴き出しテーブルの上にぶちまけた。

赤いコートに銀髪の男がファミレスに入ってきたのだ。

いつかの日とデジャヴを感じた。

507: SSまとめマン 2010/04/04(日) 23:41:54.50 ID:xHBONHo0
禁書「とおぉぉぉぉぉぉぉまああああああああ!!!!!!」
料理にドリンクをぶっかけられたインデックスが憤怒を露にし、
テーブルを飛び越えて上条に飛び掛り噛み付く。

上条「ま、まてぇええ!!!いでででででで!!!なんか久しぶり…じゃなくてストップストップ!!!」

ダンテ「ハッハ~相変わらず仲いいねえお前ら」

ダンテの姿を見てインデックスも噛み付くのをやめる。

禁書「ダ、ダンテ!?」

上条「うおおお!?何でまたここに!?」

ダンテはそのまま上条達の隣のテーブルへついた。
巨大なギターケースを乱暴に床に置く。

ダンテ「決まってんだろ。メシ食いにだ」

上条「そ、そうじゃなくてだな!何で学園都市に!?」

ダンテ「あ~、『落し物』だ」

508: SSまとめマン 2010/04/04(日) 23:45:42.27 ID:xHBONHo0
上条とインデックスはダンテから簡単「すぎる」説明を聞いた。

上条「つーことは…別に何かの事件とかで来た訳じゃないんだな?」

ダンテ「んぐ」
ダンテは先ほどきたピザを口に含めながら返事をする。

シェオルの件については言わなかった。
余計な心配事を増やすのもいただけない。

上条「そっか…ははは、上条さんは安心しましたよ!」

上条「で、まだ見つからないのか?」

ダンテ「らしいな」

上条「そうか…」
よく大人しく待ってられるな と上条は思った。
記憶の中で融合したことがあるのでダンテの気質は知っている。

その上条の心の中を察したのかダンテが口を開く。

ダンテ「ヒマだ」

509: SSまとめマン 2010/04/04(日) 23:53:41.70 ID:xHBONHo0
ダンテ「何かねえか?聞くところによるとお前の周りで騒動が起きるって話じゃねえか」

上条「いやいやいやいやいや」
上条は思いっきり頭を横に振って全面否定する。
確かにその事は否めないが、ダンテが関るともっと大変な事になりそうな気がするのだ。

ダンテ「へえ。まあいいか」

ピザをあっという間に食べきり、今度はストロベリーサンデーを処理し始める。

ダンテ「(ここは…まあまあだな)」

上条「む…ちょっと小便いってくる」

禁書「と、とうま!ご飯の最中のれでぃの前でその言い方は無いんだよ!!」

上条「おおうっ悪い悪い。じゃちょっと失礼(うっ…これ…大もくるか…?)」
上条が席を立ちそそくさとトイレに向かった。

禁書「…」
インデックスは手を止め、神妙な面持ちでダンテの方を見る。
ダンテは気付いているのか気付いていないのか、相変わらず黙々とストロベリーサンデーを食し続けている。

禁書「あのね…一ついいかな…」

ダンテ「ああ、イマジンブレイカーの坊やか?」

510: SSまとめマン 2010/04/04(日) 23:58:17.55 ID:xHBONHo0
禁書「…」
やはりダンテもわかっていた。

ダンテ「プンプンしてるぜ。悪魔の匂いがな」

禁書「二ヶ月前からもその感じはしてたんだけど…三日前から急に強くなったんだよ」

ダンテ「へえ」
まるで興味が無いかのようにそっけなく相槌を打つ。

禁書「何回かちゃんと解析しようと思ったんだけど…多分右手が邪魔してるんだと思う」
禁書「上手く見えないんだよ」

ダンテ「そいつぁ厄介だな」

禁書「…何が起こってるのかな…とうまの中で…」

ダンテ「さあな」

禁書「…」

ダンテが手を止める。

ダンテ「まあ一つ言える事は」

そしてインデックスを真っ直ぐと見据えた。

ダンテ「『それ』に誘惑される『理由』が傍にあるのは確かだ」

511: SSまとめマン 2010/04/05(月) 00:05:25.52 ID:lUsc6ko0
禁書「…」

ダンテ「…離れる気か?やめとけ」

禁書「…うぅ」

ダンテ「今はだ。不安定な時に変な刺激は与えんな」

ダンテ「離れたってあいつの中の『モノ』は消えねえだろ」
再び目の前のストロベリーサンデーに目を戻し、食べ始める。

禁書「…うぅ…」

ダンテ「それに。『心臓』だけじゃねえ」

禁書「え?」

ダンテ「別にもう一つ、でけぇのが入ってる。良くわかんねえけどな」
ダンテ「今までは眠ってたみてえだが、『心臓』が『器』になって目を覚ましかけてるみてぇだ」

禁書「!?」

ダンテ「今は様子を見たほうが良いかもな」

512: SSまとめマン 2010/04/05(月) 00:10:04.41 ID:lUsc6ko0
禁書「あの…ね…いいかな…」

禁書「その…『何か』あった時は…」


ダンテ「それは正式な依頼か?」

ダンテが手を止め、再びインデックスの顔を見据える。
その顔からはふざけた笑みが消えていた。

禁書「…うん」


ダンテ「俺の仕事は悪魔『狩り』だ」


悪魔狩り。悪魔を処分する事。

つまり。

殺すことがメイン。

禁書「…うぅ…」

513: SSまとめマン 2010/04/05(月) 00:13:41.17 ID:lUsc6ko0
ダンテ「俺に依頼する『覚悟』はあるのか?」

禁書「うぅん…違う…違うの…」


ダンテ「…あぁ?」


禁書「とうまを…」


禁書「…助けてあげて」


禁書「私も手伝えるなら何だってするから…」
今にも消えそうな小さな声。

ダンテ「あの坊やの為なら死んでもいいってか?」

禁書「…うん」

ダンテ「…へぇ」
その僅かに震えている小さな顔を見つめる。
瞳には絶対に揺るがない覚悟が宿っていた。

この少女は何が何でも、自分の命を捨ててでもあの少年を救おうとするだろう。

514: SSまとめマン 2010/04/05(月) 00:19:15.98 ID:lUsc6ko0
ダンテは真顔でインデックスを見つめる。

ダンテ「…」

禁書「…」



ダンテ「OK、契約成立だ」



その言葉を聞いてインデックスの顔に光が戻る。

禁書「う、ぅうううう!!!!」

ダンテ「じゃあこの話は終わりだ」

禁書「あ、あの…」

ダンテ「黙って食え」

禁書「う、うん!!」
インデックスは食事に戻る。
ダンテも再びストロベリーサンデーを食し始めた。

516: SSまとめマン 2010/04/05(月) 00:29:08.81 ID:lUsc6ko0
ダンテ「(……どいつもこいつも…厄介事ばっか押し付けやがって)」

今はまだ上条は『人間』だ。
だが悪魔の掟に魂が縛られつつある。

より強い『力』を―――。

あの心臓を手に入れた時点で既に人間界の理から外れている。
そして魔界の理に飲み込まれている。

どう転んでも無傷のままでは終わらないだろう。
全て元通りにはならない。

ダンテ「(Ha....)」

インデックスは『助けて』と言った。
だが『どのように』とは言ってない。

ダンテ「…」

この件が最終的にたどり着く結果は二通り。

生きている『人間』の上条当麻を『救う』のか。

『悪魔』となり、堕ちた上条当麻の魂を『死』を持って解き放つのか。

517: SSまとめマン 2010/04/05(月) 00:32:24.80 ID:lUsc6ko0
ダンテ「…」
どちらになるだろうか。

その時の状況にならなければわからない。

生かしたまま救えるのならそれにこした事は無い。

だがそれが手遅れだったのなら。

結果はもう一つ方、BADENDになる。

この少女が望まない結末だ。

ダンテ「(…まぁそっちの方も面白そうかも知れねえが…)」


ダンテ「(生憎、女を泣かせる趣味は無いんでな)」


ダンテ「(んな終わり方は―――)」



ダンテ「(―――ご親切にNOだ)」



―――

519: SSまとめマン 2010/04/05(月) 00:41:12.19 ID:lUsc6ko0
―――

とあるゲーセン

ネロ「Hahahahaha!! Yeah-ha-ha!!!」

佐天「(すごく…はしゃいでる…)」

ネロは初めてのゲームセンターに興奮していた。

ネロ「お~!こいつは何だ?」
ネロは一台のゲームの前で足を止めた。
ゾンビを撃つガンシューティングのゲームだ。

学園都市の技術により、画面には実写と見紛うほどの恐ろしいゾンビの映像が映っていた。

佐天「え~と…これで撃つの」
佐天はその銃を手に取り、簡単に説明する。

ネロ「へぇ…面白そうじゃねえか!これ金かかるのか?」

佐天「へ?ま、まあ当然」

ネロ「OK」
ネロはコートのポケットを漁り、一枚の黒いクレジットカードを取り出した。
イギリス清教から学園都市滞在の諸費用の為に渡されたのだ。

佐天「(げっ!!!あれって幻のブラックカードだよね!!!?もしかしてめっちゃ金持ち!!?)」

ネロ「あ~…このカードどうやって使うんだ?」

佐天「へ?」

521: SSまとめマン 2010/04/05(月) 00:46:58.36 ID:lUsc6ko0
ネロ「どっかに差し込むのか?」

佐天「あ…あ~っつと、ここ」

ネロ「おおう」
カードを差し込む。するとおどろおどろしいBGMが流れ始める。

ネロ「ハッハ~♪」
ネロはニヤつきながら、台から二本の銃を手に取る。

佐天「へ?」

二本の銃。つまり1Pと2Pだ。それをネロは両手に持ったのだ。

佐天が突っ込もうか迷っている間にゲームがスタートした。

ネロ「OK!!! Do it!!!! Baby!!!!」

ゾンビが押し寄せてくる―――と思いきや、画面に表示された瞬間になぎ倒されていく。
哀れなゾンビ達は3歩も進む前に派手なエフェクトで倒されていく。

ネロは尋常じゃない反射速度で正確に両手の銃口を向け引き金を引く。

佐天「(本当に初めてかよっ?!!!)」

ネロ「Hahaha!!! C'mon!! Mother fucker!!!」

522: SSまとめマン 2010/04/05(月) 00:48:55.00 ID:lUsc6ko0
そして数十分後。

ノーダメージであっという間に全面クリアした。

ネロ「Huh...」
画面にランキングが表示される。一番上が激しく点滅していた。ネロは最高点を更新したのだ。
両手の銃を手馴れた手つきでクルクル回し、そのまま台の差込口にストンと戻した。

佐天「(…何か…妙に手馴れてる気が…)」

ネロ「(……やっぱ本物の方が良いな)」
最初は楽しかったものの、やっている間に段々飽きてきた。
刺激が足らなすぎるのだ。最後の方なんか流していた。
実戦ですらたまに退屈してしまう程のネロの脳が、この程度の物でアドレナリンを放出するわけも無い。

ネロ「…(飽きたぜ)」

佐天「あれ?どうしたの?」

ネロ「おい。出るぞ」
頭を軽く出口の方に振り、佐天を促す。

ネロ「来いよ」

佐天「は、はい!(ほひょぉお!!!『来いよ』って!!なんか恋人みたいじゃない?!!!)」

524: SSまとめマン 2010/04/05(月) 00:57:15.88 ID:lUsc6ko0
>>523 すまん 大人になっていくらか優しくなったという事にしといて下さい

~~~~~~~~

二人は路上をゆっくりと歩く。
ネロの手には先ほど自販機で買ったワサビソーダの缶。

複雑な顔をして、これが『和』ってやつか… とネロは思った。それは大きな勘違いだったが。
今すぐにもぶん投げたい気分だったが、
『和』を日本人の前で捨てるのもさすがに気がひけるのでぎこちない作り笑いを浮かべながら飲んでいた。

ネロ「…で、あんたはどういう力もってんだ?」

佐天「……何も無いよ」

ネロ「?」

佐天「無能力者ってやつ」

ネロ「へぇ…そうか…普通のやつもいるんだな」

佐天「ははは、学園都市っていっても半分は無能力者だよ」
明るく振舞うも、その笑顔に少し影が差しているのをネロは感じ取った。

ネロ「…」

佐天「ネロさんは…って外の人ですもんね」

ネロ「まあな。超能力は持ってねえわ」

佐天「ははは、おそろいおそろい!」

というか人間じゃねぇんだがな とネロは思ったがそこまで言う筋合いも無いだろう。

525: SSまとめマン 2010/04/05(月) 01:03:38.82 ID:lUsc6ko0
ネロ「つーことは能力って最初から持ってるわけじゃねえんだな」

佐天「うん。稀に最初から持ってる人もいるみたいだけどね」

佐天「いろいろやって、運が良かったら発現するって感じ」

ネロ「ギャンブルか」

佐天「ま~…ね。あたしはそれに外れちゃったの」
佐天は小さく笑みを作った。

ネロ「そうか」

佐天「そゆこと」

ネロ「…」

佐天「…」

佐天「…じ、じゃ、次はどこ行きたい?」

ネロ「…服とかみてぇな」
特に買う気は無いが、一度見てみたい。

佐天「おっし任せて!」

526: SSまとめマン 2010/04/05(月) 01:08:05.71 ID:lUsc6ko0
佐天「ってさ、今更だけどネロさんって何歳?」

ネロ「…あ~」

佐天「自分の歳わかんないの?」

ネロ「…22だ。多分…いや23かもしれねえ」

佐天「へ~」

ネロ「あ?」

佐天「いや、結構歳いってるなって」
実際、幼さの残っているネロは見方によっては10代にも見える。

ネロ「アンタは?」

佐天「ぴちぴちの13で~す」

ネロ「(…ガキ)」


―――

529: SSまとめマン 2010/04/05(月) 01:13:54.27 ID:lUsc6ko0
―――

上条とインデックスはファミレスにいた。
ダンテは上条が大を済ませたしばらく後にぶらりと出て行った。

上条「…」

禁書「足らないんだよ!!」
インデックスはあれからずっと食べ続けていた。
ペースが上条がトイレに行く前よりも速くなっていた。

上条「上条さんは確かに食べきれと言いましたが…店の料理を全部食べきれとは言ってませんよ…」

禁書「え~お腹がすいたんだよ!」
上条は知る由は無いが、あのダンテとの話し合いで彼女はかなり体力を使ったのだ。

上条「ぁあ……あれ?」
ふとウィンドウ越しに外を見た。

見慣れた人物が黒髪の女の子と歩いていた。

上条「ネロ…さん?」

禁書「ネロ?」

上条「用事って…へっへ~そういう用事かよ」

禁書「…」

上条「…」
しばらく二人は見つめ合い、そしてニヤリと笑った。

530: SSまとめマン 2010/04/05(月) 01:17:58.31 ID:lUsc6ko0
別にネロが誰といようととやかく言うつもりは無いが、
スパーダの一族が女の子とデート(思春期の上条達の目にはそう見えた)してるのは興味ある。

それに聞くところによるとネロは故郷に恋人がいるはずだ。

じゃあ『アレ』は一体。

上条「…」

禁書「…」

上条「インデックス隊員。これは正義だ。闇を暴くぞ」

禁書「了解なんだよ!とうま隊長!」

二人はそそくさと立ち、レジを済ませると外へ出た。

上条「いたぞ!見つからないようにな!」

禁書「らじゃーなんだよ!!」

そして二人は少し距離を置いてネロ達の後を尾行し始めた。


当然ネロは気付く。
そしてしばらく後にあっさりと撒かれる。


―――

531: SSまとめマン 2010/04/05(月) 01:22:16.51 ID:lUsc6ko0
―――

とある大きなデパート。
東棟と西棟の二つの大きなビル。

その西棟の四階にネロと佐天はいた。一通り男物の店を見て回った。
ネロは物珍しそうにキョロキョロしたり、服を手に取っていたりしたが、
試着はせずもちろん購入もしていなかった。

興味はあったものの、服が欲しいと言う訳では無い。
そもそも今の服装を変える気も無い。

ダンテもそうだが、それがスパーダ一族共通のこだわりなのか彼らはいつも同じ服装をする。

ダンテが服装をチェンジするのは数年に一回だ。
ネロもここ数年は同じカッコだ。

変えたとしても、配色や全体の印象はほとんど変わらない。

ネロ「あ~ちょっといいか?」

佐天「?」

ネロ「女物の指輪かブレスレット一つ買いたいんだがよ、一緒に見てくれねえか?」

佐天「いいですけど…もしかして彼女さんへのお土産とかですかぁ??」
佐天がニヤリと笑う。

ネロ「まぁ…そんな所だ」

佐天「なるほど…(まあこんだけカッコよかったら普通いるよねぇ~…)」

532: SSまとめマン 2010/04/05(月) 01:26:06.14 ID:lUsc6ko0
佐天「彼女さん、いくつなんですか?(キレイなんだろうなぁ~)」

ネロ「俺と同じくらいだ」

佐天「付き合ってどれくらい?」

ネロ「四年…いや五年か」
そこまで聞くかよと思いながらも答える。

佐天「はぁー長いですねえ!うらやましいわぁ~!!(この人と付き合える彼女がね!)」

佐天「じゃぁとびきり良いの選んであげる!!」

ネロ「頼んだぜ。質素でシンプルなのが良い」

佐天「りょーかい!!(なんか凄く悔しい…)」


―――

533: SSまとめマン 2010/04/05(月) 01:27:15.95 ID:lUsc6ko0
―――


シェオルは『見て』いた。

スパーダの孫を。

憎い。
憎くてたまらない。

だが正面から当たれば到底勝ち目は無いだろう。
この男が少し本気になれば簡単に一蹴されてしまう。

しかし勝つ方法はある。
どうにかして「鏡の世界」に閉じ込めてしまえばそれで勝ちだ。

彼が許可しない限り永遠に外に出れない。

ではどうやって誘い込むか。

スパーダの一方の息子と孫は『人間を守る』事に命をかけていると聞く。
ならばそこを利用すれば良い。

幸いな事に、近くに使えそうな『駒』が幾つかある。

シェオルは潜み、その機会をうかがう。


―――

534: SSまとめマン 2010/04/05(月) 01:33:16.50 ID:lUsc6ko0
―――

ネロは銀色のシンプルなブレスレットを買った。
すぐに決まり、すんなりと買い物を済ませた。

ネロ「と、こんなところか…あ?」

ネロがふと顔をあげ、周囲を見回す。

佐天「?どうしたの?」

ネロ「…いや、なんでもねぇ」
誰かに見られている気がする。
ネロの悪魔の感覚が何者かの視線を感じ取ったのだ。

後ろからこっそりついて来ていたバカ二人は先ほど撒いた。

今のコレは別の者からだ。
敵意と悪意が篭っている視線。

それも『複数』。

佐天「あ」
その時、佐天は昨日から思っていたことを思い出した。

佐天「(そうだ…下着買おうと思ってたんだ)」

佐天「あ、あの~ちょっといいかな?」
さすがにネロを連れて行くのは気がひける。
佐天も気まずいし、ネロにとってそれ以上に拷問かもしれない。

535: SSまとめマン 2010/04/05(月) 01:36:14.43 ID:lUsc6ko0
ネロ「あ?」

佐天「ちょっと買うものが…」

ネロ「…わかった。じゃあここらでお開きにすっか」

その佐天の言いにくそうな様子を見てネロも薄々感じ取る。
男の前では買いにくいもんか と。
それに例の妙な視線も気になる。

佐天「あ…う、うん」

ネロ「今日は助かったぜ」

佐天「いいのいいの。あたしも暇だったし」

ネロ「じゃあな」

佐天「あ、うん。バイバイ」

簡単すぎる別れの挨拶をし、ネロはコートをなびかせてスタスタと離れていった。

佐天「(ちょ、ちょっと!あっさりしすぎじゃない?!)」

536: SSまとめマン 2010/04/05(月) 01:39:40.04 ID:lUsc6ko0
佐天「もう…」
うな垂れながらフロアを歩いていく。

とその時。

つま先に何か当たる感触。
足元を見ると。

10cm程の小さな鏡が落ちていた。

佐天「?」

その小さな鏡を手に取る。
装飾の無い金属の簡単な淵。
一見すると100円ショップにでも売ってそうな簡素な物だ。

佐天「(…落し物かな)」

佐天「(落し物は届けなくちゃね。あたしってばいい人~!)」


―――

537: SSまとめマン 2010/04/05(月) 01:43:49.01 ID:lUsc6ko0
―――

デパートの地下駐車場。

ここに数台の業務用のトラックが止められていた。
見た目は普通のトラックだ。

だが荷台の中は普通では無い。

大量の電子機器、並んでいるディスプレイ、棚にかけられている最新の銃器。
そして黒い戦闘服に身を包んだ男達。

「ターゲット確認。三人とも捕捉しました」
ディスプレイの前に座っていた一人の男が声をあげた。

「5分後に突入だ」
その後ろで腕組をしていたリーダー格の男が答える。

彼らのターゲット。

それは青いコートで銀髪の男、白い修道服の少女、ツンツン頭の少年。

538: SSまとめマン 2010/04/05(月) 01:45:18.00 ID:lUsc6ko0
この兵士達は学園都市暗部の部隊だ。
二ヶ月前の例の事件で動員され、恐ろしい化物達と戦わされた。
そして大勢が死んだ。

彼らは知りたかった。
一体何者と戦っているのかと。あの化物はなんなのかと。

だが当然の如く上層部は一切情報を公開しなかった。
そこで彼らは動いたのだ。

もうウンザリだったのだ。

その後二ヶ月間、水面下で情報を集めたものの何も手がかりは無かった。
だが三日前、第23学区で奇妙な事件が起こった。

再び化物が現れたという噂が暗部の間で広まった。

そこで彼らはその事件の中心地、第23学区を影から監視していた。
そして三日目の今日。

遂に何らかの手がかりとなる人物がその場に現れた。
あの三人である。

周囲は厳重に封鎖されているのだが、あの三人はオールパスで中に入っていった。
明らかに一般人や作業員ではない。

539: SSまとめマン 2010/04/05(月) 01:50:35.20 ID:lUsc6ko0
当然マークしこの三人の情報を集めたが、身元が判明したのはツンツン頭の少年だけだった。

高校生で無能力者、名は上条当麻。

他の二人はバンクに登録されていなかった。
そこで行き詰ったのである。

そして彼らは強攻策に出る事にした。

捕えるのだ。

そして情報を聞き出す。

どこまで知っているかは分からないが、彼らよりも情報を持っているのは確実だ。

この三人は恐らく暗部の者だから人質にはならない と彼らは予測した。
上層部は簡単に切り捨てるだろう。
そこで彼らはこのデパートの一般人も人質にすることにした。

そうなれば否が応にも上層部は彼らの方に振り向かざるを得ないだろう。

そして強攻策も取りづらくなる。

高位の能力者が送られてくる危険性もあったが、それは重々承知だ。

彼らは無能力者だが、対能力者戦術を熟知している。
武装も一級品だ。駆動鎧もある。

540: SSまとめマン 2010/04/05(月) 01:53:49.39 ID:lUsc6ko0
だがそれでも完全に押し切れるとは思っていない。

最終的には皆殺しにされる可能性が高い。

しかし皆ゴミクズのように扱われる人生にはウンザリしていた。
ここで負ければそれまでだったという事だ。

どうせ死ぬのなら真実を知って死にたい。

そして最後の死に場所くらい自らの意思で選びたい。
暗部に入り人権を失い自由を失ったが、『幕引き』の権利だけは渡したくなかった。

負け犬の最後の足掻きだ。

『配置につきました』
ディスプレイから電子的なノイズが混ざった声。

「白い修道服のガキを優先しろ。他の二人は可能ならばで良い」

あの少女を優先するのは、少し前の第23学区での三人の振る舞いからだ。

二人の男はこの少女を気遣うそぶりをしていた。
立ち位置もいつも中心だ。

一番重要な人物と判断したのだ。

「抵抗したら殺せ。一般人も同様だ」

『了解』


―――

541: SSまとめマン 2010/04/05(月) 01:56:48.54 ID:lUsc6ko0
―――

上条とインデックスはとあるデパートの東棟5階にいた。
ネロと黒髪の女の子を尾行していたのだが、ここに来てあっさりと見失ってしまった。

上条「くっそ…どこいった…」

禁書「いないんだよ…」

上条「帰るか…」

禁書「その前にちょっと…」
インデックスが何やら言いにくそうにモジモジする。

上条「…小便か?」

禁書「むきぃいいい!!!でりかしーが無いんだよ!!!」

上条「おおわ!!悪い!悪かったから早くすまして来い!!」

インデックスが怒りで肩を揺らしながら、トイレの方へ走っていった。

上条「ははは…さてと…今日の晩飯何にs」

その時だった。突如耳をつんざく炸裂音が響き、視界が真っ白になった。

上条「おおあ!!!!」
反射的に耳を塞ぎ、よろめく。
同時に強烈な衝撃が背後から襲って来て、そのままうつ伏せに倒れこんだ。

上条「ちょ…!な、!!!」

背中に重い何かが乗り、上条の手を掴み背に回して一気に組み伏せた。

542: SSまとめマン 2010/04/05(月) 02:00:31.13 ID:lUsc6ko0
「動くな」

上条「!!!」
くぐもった低い声と共に後頭部に冷たい金属の感触。

悲鳴が響く。フロアの奥からは銃声が聞こえる。
上条はなんとか顔をあげて前を見る。
するとガスマスクと奇妙なゴーグルを被った黒装束の武装集団が一般の客達に銃を向けていた。

上条「なっ!!??」

その時、一人の高校生くらいの少年が叫び、手を武装集団の一人に向けた。
そして炎が噴き出しその兵を包んだ。

レベル3くらいの発火能力者だろう。

だがその業火に包まれても兵は微動だにしていなかった。
彼らが着ているのは最新式のボディアーマーだ。

ちょっとやそこらの攻撃じゃ傷一つつかない。
そして次の瞬間、その兵は躊躇いも無くその少年に銃口を向け引き金を引いた。

血しぶきが上がり、少年が糸が切れた操り人形のように床に突っ伏した。

上条「クッソォオオォオオオアアアアアアアアア!!!!」
拘束を振りほどこうとするも全く動かない。

543: SSまとめマン 2010/04/05(月) 02:04:31.18 ID:lUsc6ko0
「黙れ」
次の瞬間後頭部に強い衝撃。

上条「…がっ…」

視界が点滅し意識が遠のく。
銃床で思いっきり殴られたのだ。

全身から力が抜ける。
おぼろげな意識の中で、背中に回された両手首に冷たい金属の感触を感じた。
手錠をはめられたのだ。

その時、前の突き当りから数人の黒装束の男が出てきた。

上条「…」
上条は思い出す。
あの先はトイレだ。

上条「(ま…さか…)」
その予感は的中した。

一人の兵が白い修道服の少女を担いでいた。
薄れ掛けていた意識が一瞬で覚醒する。
全身の毛穴が開くような、熱いざわつきが体中を一気に這い回る。

胸の奥からどす黒い何かがこみ上げてくる。

上条「インデックス!!!!!!ああああああああああ!!!!!インデックス!!!!!!」
咆哮を上げ、頭に銃が突きつけられているのも忘れなんとか拘束を振りほどこうとする。

544: SSまとめマン 2010/04/05(月) 02:08:09.73 ID:lUsc6ko0
インデックスは無反応だった。力なくその小さな手が垂れている。

上条「おぁああああああああああ!!!!!」

「動くなと言ってるんだ」
苛立ちが篭った声が背後から聞こえる。

続けて再び後頭部に強い衝撃。
だが上条は怯まずに無駄な抵抗を続ける。

インデックスがどこかに運ばれていった。

上条「くそぉおおおおおああああああ!!!!離せ!!!!ああああああああああ!!!!!」

その時背後の男がどこかと通信しているのかボソボソと呟いた。

「どうしますか?とても移送できる状態ではありませんが」

『第一目標は確保した。そいつは殺しても構わん』

「了解」

545: SSまとめマン 2010/04/05(月) 02:13:23.25 ID:lUsc6ko0
上条「あああああああ!!!!!クソ野郎!!!!!殺してやる!!!!」
心の底からの叫びをぶちまける。今まで味わったことの無い底無しの怒りが上条を覆い尽くす。
上条の理性を『悪魔的』な闇が塗りつぶしていく。

「残念だったな坊主」

上条「おぁああああああああ!!!!!てめえら殺してやる!!!!!ぜってぇ殺してやる!!!!」

「そうかい」

次の瞬間強烈な衝撃が頭を揺さぶり、聴覚が消える。
そして右目の視野が黒くなった。

何も考えられなくなった。

銃弾が上条の後頭部から右目へと貫通したのだ。

全身の力が抜ける。

上条「―――」
残った左目が離れていく兵の後姿を10数秒間捉えていた。
その血走った瞳は最期まで怒りの色が篭っていた。

上条「―――(イン…デッ……クス……)」

そして全てが消え、意識が途絶えた。
全てが漆黒の闇に覆いつくされた。


『殺す―――インデックスに手を出す奴は殺してやる』


『―――全員殺してやる』


―――

557: SSまとめマン 2010/04/06(火) 00:12:10.77 ID:qcDr.Z60
―――

東棟。二階。

御坂「…な!」

御坂美琴は商品棚の影でその一部始終を見ていた。

ゲコ太の限定枕カバーを買いに来たのだが、今はそれどころでは無い。

突如炸裂音が響き、黒ずくめの武装集団がなだれ込んできた。
客達はなすすべなく取り押さえられ手錠をかけられていた。

御坂「(と、とにかく助けなきゃ!!!)」
レーダーに集中し、兵の一人に正確に狙いをつける。

そして髪から電撃を飛ばす。
その青い閃光は見事に標的の兵に命中し、おおきく吹っ飛ばされた。

御坂「―――よし!!」
そして更に続けて放とうとした時―――

―――彼女のレーダーが反応する。

周囲にいる兵達が一斉に彼女が潜んでいた店へ銃口を向けたのだ。

御坂「ヤバ―――!」
咄嗟に力を集中させ、周囲に頑丈な電気のシールドを張る。
同時に大量の銃声が鳴り響いた。

棚にのっている商品が砕け散り、色とりどりの破片が霧状になって周囲を覆う。

御坂「―――(間に合った…)」
だが御坂は無傷だった。銃弾は全てシールドに遮られていた。

559: SSまとめマン 2010/04/06(火) 00:18:31.14 ID:qcDr.Z60
彼らの持っている銃器は強化プラスチックか何かでできているらしい。
能力で奪うことができない。

そして兵達は粉塵で覆われた御坂へ正確に銃弾を放ってきてる。
恐らく赤外線ゴーグルでも使っているのだろう。

御坂からは相手を目視できない。だがレーダーがある。

御坂「(いける!!)」
銃弾程度ならこのシールドで充分遮れる。なんてことはない。
兵達に正確に狙いをつけていく。

御坂「(一気にやっちゃうわよ!!!)」
そして一斉に電撃を放とうとした時。

小さな何かが転がるような軽い金属音が響いた。

御坂「…へ?」
一つだけでは無い。御坂の周囲からいくつも聞こえてくる。
続けてスプレーが噴射されるような音。


御坂「―――うぐっ!!!」
突如、目、口、鼻に耐えがたい激痛と痺れが押し寄せてきた。

横隔膜が痙攣し呼吸ができない。

咄嗟に腕で口と鼻を塞ぎ目を瞑る。

560: SSまとめマン 2010/04/06(火) 00:23:40.95 ID:qcDr.Z60
御坂「(何よこれ!!?ガス弾か何か!!!?)」
ふと思い出した。

兵達は皆ガスマスクを装着していた。

銃弾や爆風を簡単に退ける能力者でも人間であり普通に呼吸している。
当然、鼻と口で周囲の空気を吸っている。
その空気が汚染されればどうなるか。

答えは明白だ。

御坂の能力では周囲の大気から毒素だけを取り除く事は不可能だ。

そして同時に御坂のレーダーが異常な反応をし始めた。
周囲の状況が全くわからなくなる。

御坂「(これ…ジャミング!!!?)」

御坂のレーダーは通常の物と同じく電磁波を使っている。
つまり通常のジャミング機器も効果があるのだ。
御坂の能力の『目』は奪われた。

思いっきり放電し全方位に電撃を放てばこの場を乗り切れるだろう。
だが周囲には取り押さえられていた民間人もいた。

そんな事をすれば確実に巻き添えになる。

御坂「(マズイ!!!何か…何か方法は…!!!)」

相手は対能力者との戦い方を熟知している。
脳が酸素不足を訴え始める。

時間の猶予は無い。

―――

561: SSまとめマン 2010/04/06(火) 00:29:22.99 ID:qcDr.Z60
―――

さかのぼる事数分前。西棟。四階。

ネロ「…」
フロアの隅の壁に寄りかかり、腕を組んで立っていた。
相変わらず視線を感じる。
それも複数。

ネロ「…へぇ」
ほとんどの視線は人間の物だ。
どっかの身の程知らずのバカ共が無謀にもネロに敵意を向けている。

だがそれとは別にもう一つ。

悪魔的な視線を感じる。

ネロにとって人間の視線は別にどうだっていい。
だがこの悪魔の視線は放っては置けない。

先ほど佐天と別れた後、トリッシュから連絡があった。
「ゲヘナの鏡」、シェオルという悪魔が学園都市に潜り込んでいると。

学園都市は広い。
気配を消されれば探すのはほぼ困難だろう。

ネロ「…向こうからきやがったか」
だがどうやら探す手間は省けたようだ。

この悪魔の視線はおそらくそのシェオルの物だろう。
建物内にいる可能性が高い。

562: SSまとめマン 2010/04/06(火) 00:35:55.02 ID:qcDr.Z60
ネロ「…」
その時。悪魔の鋭い感覚で感じ取った。
武装した人間が近付いてきている。

ネロ「…(ウゼェな)」

次の瞬間、凄まじい炸裂音と共に周囲を光が包んだ。

ネロ「(閃光弾ってやつか)」
だがネロは当然怯まなかった。

そして軽く裏拳を真後ろに振るう。
ネロにとってはの『軽く』だったが。

その強烈な裏拳が、ネロを取り押さえようとしていた兵の顔面に直撃する。
ゴーグルが砕け、ガスマスクが大きくひしゃげ、その体がスピンしながら後方へ大きくぶっ飛ばされた。

ネロ「何の用だ?」

前に複数の兵が現れ、ネロに銃口を向ける。

「恐らく能力者です」

『修道服のガキは確保した。そいつは殺していい』

ネロ「…」
人間なら普通は聞こえないその小さな声の会話をネロは聞き逃さなかった。

ネロ「待てや、その話詳しく聞かせろ」
しかしネロのその問いに帰ってきたのは複数の銃声だった。

563: SSまとめマン 2010/04/06(火) 00:41:35.96 ID:qcDr.Z60
銃弾の嵐で床が割れ破片が飛び散り、背後の壁に穴があいていく。
そして血しぶきがその壁を真っ赤に染め上げた。

だがネロは先と変わらず立っていた。

ネロ「…やる気かよてめぇら?」

兵達が明らかに動揺する。
銃弾を弾く能力ならまだわかる。

だが体を蜂の巣にされても生きているとは。

兵達は思い出す。
二ヶ月前の悪夢を。あの撃っても撃っても怯まない怪物達。

皮肉な事にこの目の前の男もそれと同種だった。
いやそれ以上の怪物だ。

ネロ「上等だぜコラ」
ネロが床を蹴った。その瞬間兵達の目から彼の姿が消える。

「がぁ!!!!」

一人の兵が何かによって大きく弾かれ、店の中にぶち込まれた。
砕けたアーマーの破片が飛び散る。

「クソ!!散会しr」
指示を出そうとした兵もその言葉の途中で大きく横に弾かれ、
壁に叩きつけられてめり込む。

『青い光』が残像を引きながら兵達を次々と吹っ飛ばしていった。

564: SSまとめマン 2010/04/06(火) 00:45:06.87 ID:qcDr.Z60
「クソガァァアア!!!」
最後の一人がパニックに陥り、闇雲に撃ちまくる。

だが当然無意味だった。

次の瞬間、斜め上へアーマーの破片を巻き散らせながら吹っ飛ばされた。
天井にぶち当たり、それでも勢いがおさまらずまるでピンボールのように跳ね返って今度は床に叩きつけられた。


ネロ「(クソ…全員ぶっ飛ばしちまった…)」
話を聞こうとしていたのだが、つい勢いで全員を倒してしまった。

殺してはいない。骨はかなり折れているだろうが。

ネロは人間を殺すのは極力避けている。例えそれが人殺しの悪人でもだ。
ダンテも同じだ。ただ、ダンテの場合は『人殺し』には容赦しない事があるが。

ネロ「おい」
のびている一人の兵の胸ぐらを掴み軽くビンタをする。
だが無反応だ。

ネロ「…?」
ふとその兵の鎖骨辺りについている黒い小さな機械に目が止まった。
そこからコードが頭に延び、マイクのような物に繋がっていた。

通信機だ。

ネロ「…お仲間に聞くとすっか」

使い方はさっぱり分からないが、適当に弄っていればどこかに繋がるだろう。


―――

566: SSまとめマン 2010/04/06(火) 00:50:41.82 ID:qcDr.Z60
―――

とあるマンション。「グループ」のアジトの一室。

一方通行はソファーに寝そべりながら携帯で土御門と通話していた。
昨晩、かなり酒を飲んだせいで少し気だるい。

というかそもそも酒などほとんど飲まない。
昨日はダンテの雰囲気に飲まれてしまったのだ。ふと気付いた時には既にビールを何本も開けていた。

一方「チッ…またか。つーかよ、サポートしろッてどゥいう事だ?」

土御門『ネロが現場いる』

一方「ネロッて…あの銀髪の一人か。じゃァ俺なんぞいらねェじゃねェか」

土御門『そうかもな。だが万が一という事もあるぜよ。何しろネロ達には敵が多いしな』

一方「…人外のか」

土御門『ああ。いつ襲撃されるか予測がつかない』

土御門『万が一「何か」があった場合、テロリストの件はお前が飛び入りで処理しろ』

一方「…わァッたよ」

土御門『じゃあ頼ん………ちょっと待て』

一方「あァ?」

携帯の向こうで土御門が何らや誰かと話している。

567: SSまとめマン 2010/04/06(火) 00:55:13.52 ID:qcDr.Z60
土御門『悪い。予定変更だ』

一方「なンだ?」

土御門『即刻現場に突入し、「上条当麻」を保護しろ』

一方「…………はァ?」

土御門『時間が無い。とにかく早くだ』

一方「どゥいゥ事だ?」

土御門『ダンテとネロのどちらかが上条当麻と会う前に だ。』

一方「おィ。なンだッつーンだよ」

土御門『上条当麻はあの二人のどちらかに「殺される」可能性がある』

一方「はァ!!??」

土御門『当然あの二人との交戦は絶対に避けろ。敵対の姿勢も見せるな。見られる前に済ませろ』

一方「お、おィ!!!」

土御門『急げ』
そこで一方的に通話は切られた。

一方「……クソッ…」

状況が分からないが、
とにかく上条当麻を早く保護しなければならないらしい。

一方通行は杖を手に取り、チョーカーを点検し足早に部屋を出た。


―――

568: SSまとめマン 2010/04/06(火) 01:00:12.38 ID:qcDr.Z60
―――

漆黒の空。
延々と続く浅い血の海。

上条はそこに立っていた。
足首から下がその浅い血の海に浸かっている。

上条「……」
そう、この場所。

起きていた時は思い出せなかった。
だが今ははっきり思い出せる。

夢で見た場所だ。

そして目の前、5m程の所に例の影が立っていた。

今の上条は分かっていた。あの影は「自分自身」だという事に。

もう迷いは無い。


『やろうぜ』
影が喋る。


上条「ああ」

569: SSまとめマン 2010/04/06(火) 01:03:51.60 ID:qcDr.Z60
どす黒い怒りが心を塗り潰す。

上条はその負の感情を全て受け止め身を委ねた。
頭の中が真っ黒になっていく。

あの少女を守れない自分なんかもうウンザリだ。

力を拒む理由など。

もう無い。


『「アイツ」を殺そうとする「世界」なんざ―――』


上条「そんな「幻想」なんざ―――」


『全部―――ぶっ壊す』


上条「片っ端から―――」




上条『―――ぶっ殺す』


―――

570: SSまとめマン 2010/04/06(火) 01:09:19.84 ID:qcDr.Z60
―――

東棟。五階。

「…」
兵達は妙な悪寒を感じて辺りを見回した。
人質の移送は完了した。この階には彼ら以外生きている者はいないはずだ。

この悪寒。

覚えがある。
あの二ヶ月前の悪夢の時と同じ感覚。

「散開しろ」
チームの指揮官が小さく呟き、
ハンドシグナルで周囲の隊員に詳細な指示を出す。

それぞれが広がり銃を構え警戒する。

「なんだってんだ…」

異様な緊張感。皆ジンワリと嫌な汗をかいていた。

その時、衣服が擦れる様な音が聞こえた。

皆が一斉にそちらの方へ向き、銃口を向ける。
その先の床には、ついさっき頭を撃ち抜いて射殺した少年の体が転がっていた。

「…本当に死んでるのか?」
一人が銃を構えながら声をあげる。
その問いはおかしいだろう。見てわかる。少年の死体の頭に大穴があいているのだ。

生きているはずも無い。

そのはずだったのだが―――。

572: SSまとめマン 2010/04/06(火) 01:12:15.47 ID:qcDr.Z60
「……ッ!!!!」

信じられない光景だった。
その少年がゆっくりと手を床についたのだ。

そしてぎこちなく、まるで油の切れた機械のように軋みながら立ち上がる。

右目の穴があっという間に塞がり、頭部が元通りになる。
全身が淡く白く輝き始める。

鋭く冷たい、かつ感情の光が見えない目で周囲兵達をゆっくりと見回した。

その瞳は赤く輝いていた。

「う、撃て!!!撃て!!!!」
号令と共に一斉に皆が発砲する。

銃弾の嵐が床・天井・壁・商品棚等あらゆるものを砕いていく。

だが少年は微動だにしていなかった。
無数の弾が皮膚を貫いているのに。

少年が不気味な笑みを浮かべた。
強烈な悪意と殺意が篭った笑み。

兵達がその姿を見て硬直する。
「死んだほうがマシ」というレベルの凄まじい恐怖が皆の魂を鷲掴みにした。

人間の理性を完全に失った、『上条当麻』だった『悪魔』の『宴』が始まる。

575: SSまとめマン 2010/04/06(火) 01:20:03.64 ID:qcDr.Z60
上条が床を蹴り、一番近くの兵に猛烈な速度で飛び掛った。
普通の人間には捕捉できない速さで。

そして左手を叩き込んだ。

次の瞬間、その兵の体が凄まじい衝撃を受けて爆散した。

炸裂の瞬間、白い光少年の左手からが溢れる。
『心臓』の『本体』の力と同じように。

ぼろきれのような肉片と赤い飛沫が一帯に飛び散る。

そしてすかさずその隣の兵に飛び、頭を掴んで床に叩き付けた。

床が捲りあがり、赤い『何か』と破片が周囲に飛び散る。
叩きつけられた兵は原型を止めてはいなかった。

その大きな窪みの中で、返り血で真っ赤になった上条がゆっくりと周囲の兵達を見た。

577: SSまとめマン 2010/04/06(火) 01:22:22.92 ID:qcDr.Z60
『kahaa…インデックス…gkahaaドコ…ダ?』

その口からエコーがかかりノイズの混ざった不気味な声。

聞いた者の理性を奪いさってしまう程の恐怖の塊の音。


『殺ス』


「ああああああああああ!!!!」
兵達は叫び、無我夢中で発砲した。
彼らは皆優秀な兵である。死を前にしても怯まない。

だがこの圧倒的な恐怖を目にし、彼らの精神は完全に崩壊した。
もう何も考えられなかった。

ただ早くこの悪夢から解き放たれたかった。

その願いは叶う。

最悪の形で。

それは正に虐殺だった。皆、次々と壁や床の『赤い染み』となっていく。

ある者は泣き叫び、ある者は銃を捨てて命乞いをした。
だがその声は上条の心に届くはずも無かった。


届け先の心はもう無いのだから。


―――

579: SSまとめマン 2010/04/06(火) 01:30:02.09 ID:qcDr.Z60
―――


地下駐車場のトラックの中で、指揮所の者達は無線から発せられてくる悲鳴を聞いていた。

それも二箇所。

最初は西棟の四階。銀髪の男を確保しに向かったチームだ。
怒号と銃声が響いたかと思うと突然プッツリと通信が切れた。

そして次は東棟の五階。銃声と共に身の毛がよだつ程の叫び声がいくつも聞こえてきた。
この指揮所にいる者達はその死のオーケストラを固まって聞いていた。

『やめてくれ…頼む…頼む…』
スピーカーの向こうから兵が命乞いをする声が聞こえてきた。
そして次の瞬間凄まじい轟音が響き静かになる。

無線は途絶えてはいない。東棟の五階が静寂に包まれたのだ。

「こ、こちらブラスターマイク。ブラスター5応答しろ」
ディスプレイに向かっていた一人の兵が通信を試みる。
だが何も返って来ない。



だが確かに相手が向こうにいた。


580: SSまとめマン 2010/04/06(火) 01:31:32.08 ID:qcDr.Z60
スピーカーから気配が伝わってくる。

そして声が聞こえた。


『……………インデックスhagie…?テメェラklaaoqqダ…』

濁った、妙なエコーがかかった奇妙な声が聞こえてきた。
呻いているのか笑っているのかわからない不気味な声。


指揮所の者達が皆戦慄する。

「だ、誰だ…?」


『………ハハァァ゛ァ゛ァ゛ァ゛……ggahio……』



『……殺ス…殺シテヤル…』


次の瞬間潰れた大きな音が聞こえ通信が途絶えた。

582: SSまとめマン 2010/04/06(火) 01:35:32.09 ID:qcDr.Z60
「…作戦を変更する」
腕組をしていたリーダー各の男が口を開いた。

「人質はここに集めろ」

「この地下駐車場の入り口全てを封鎖させろ」

「東棟には駆動鎧をまわせ」

「西棟の奴は後にする。東棟の制圧を優先しろ」
聞こえてきたから音声から考えて東棟の方が危険だ。

それに東棟二階にも高位の『電気使い』が現れた。

事態は予想以上に悪い状態になりつつあった。

「…」

ふと彼の脳裏をよぎった。

やはり踏み込んではいけない領域だったのではないかと。

だがもう後戻りはできない。

先ほど『制圧』と言ったが、彼は薄々それは不可能だと言う事に気付いていた。

そして感じ取っていた。

『死ぬ時間』がもう目の前に来ている事に。

―――

583: SSまとめマン 2010/04/06(火) 01:36:52.09 ID:qcDr.Z60
今日はここまでです
再開は多分今日と同じ時間から

588: SSまとめマン 2010/04/06(火) 01:53:03.24 ID:qcDr.Z60
>>586
神裂派です。
でもここは王道に沿って上条さんはインデックスルートに。

599: SSまとめマン 2010/04/06(火) 23:38:17.60 ID:qcDr.Z60
>>591 把握

600: SSまとめマン 2010/04/06(火) 23:39:00.17 ID:qcDr.Z60
―――

結局ネロは無線を使えなかった。

しばらく弄っていたが、徐々に頭にきて最後は握り潰してしまった。

そこでとりあえず下の階に降り、そこにいた部隊をぶっ飛ばした。
だが今度は全員ではない。

ちゃんと一人残した。

ネロ「よう」
その兵の胸ぐらを掴み顔を覗き込む。

ネロ「聞きてえ事がある。白い修道服のガキの事でな」

「死んでも喋らねぇ…さっさと殺せ…」

ネロ「…へっ良い覚悟だな」
どうやら普通に聞き出すのは難しいらしい。

ならば悪魔の手段を使うまでだ。

601: SSまとめマン 2010/04/06(火) 23:43:30.32 ID:qcDr.Z60
ネロの目が赤く光る。
そして絶対的な殺意を兵へ向ける。

ネロ「言えやコラ」

「…ッ…あぁ…」

その圧倒的な恐怖を受けて兵の魂が揺さぶられる。
この手法はトリッシュから教わった。

そこらの一般人なんざ悪魔の目でガン飛ばせば一発よ とトリッシュは言っていた。

体に傷つけることなく情報を引き出せる。
精神が完全にぶっ壊れて廃人になる可能性があるが。


ネロ「殺したのか?」

「ち、ちがう…」

ネロ「じゃあどこだ?」

「ち、地下駐車場に…いる…」

603: SSまとめマン 2010/04/06(火) 23:47:48.56 ID:qcDr.Z60
ネロ「そうか。あと通信機よこせ。てめぇらの親玉に繋げた状態でな」

兵がぎこちなく通信機を外し、設定してネロに手渡した。

ネロ「OK、お疲れさん」
ネロは目の光を収まらせ、胸ぐらを掴んでいた手を離した。

兵は力なく崩れ落ち、虚ろな目で呆然としていた。

ネロ「(少しやりすぎたか…)」

ネロ「悪ぃな。あばよ」

そう言葉を飛ばし、ネロは階段の方へ進んでいった。
床をぶち抜いて直行することもできるが、やりすぎてビルが崩れてしまえば大災害だ。
地下駐車場も潰される。

ネロ「?」

その時ふと足元を見た。
小さな花の飾りがついたヘアピンが転がっていた。

ネロ「…あのガキもか…」

604: SSまとめマン 2010/04/06(火) 23:50:17.84 ID:qcDr.Z60
ネロ「…あ?」

その時。
悪魔の反応を感じた。

すぐ近くだ。
その方角を見る。

ネロ「…」
壁の向こう側だ。
恐らく隣の東棟だろうか。

例の視線を送ってきていた悪魔とはまた別のものだ。

ネロ「(…何だよクソ…どうなってやがる)」

ネロは迷った。
この悪魔の方へ行くか、それともインデックスと恐らく佐天もいる地下駐車場に向かうか。

ネロ「(…先に…下行くか)」

友人達の命を優先する事にした。
それにこの状況だ。東棟も階上には一般人はいないだろう。

ネロ「(待ってろよ。後でブチ殺してやっからよ)」

ネロは階段へ向かった。


―――

607: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:11:27.00 ID:eOiceRY0
―――

東棟二階。

御坂「(ヤバイ!!!!どうすれば…!!!!)」
立ち込めるガスで空気を視界を奪われ、ジャミングでレーダーも潰れている。
周囲に人質がいる可能性もあるので全方位に放電はできない。

実はこのフロアの人質は全てもう移送されていたのだが、
周囲の状況をつかめない御坂は知る由も無い。

シールドに銃弾が当たる音が響く。

このままでは呼吸は続かない。
そしてもし相手が攻撃の仕方を変えてきたら。

例えば爆発物を使用してきたら。

御坂のシールドは金属の銃弾は遮られるものの、爆風等には弱い。


御坂「(考えろ考えろ………あ)」
ふと閃いた。

608: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:14:20.58 ID:eOiceRY0
目を瞑ったまま、体の上方へ力を集中させる。
余計な破壊を防ぐために力をセーブし、慎重に調整する。

天井をブチ破るのだ。

上の階もここと構造は同じだ。

真上はここと同じく何かの店舗。
誰かがいる可能性は低い。

御坂「ハァ!!!!」

そして真上へ電撃を放った。
天井に直径1m程の穴が穿たれた。

すかさず目を開け見上げる。

御坂「(よし!!)」

そして能力を使い瞬時に跳び、上の三階に飛び上がる。
穴から飛び出し、少し乱暴に屈むように三階の床に着地する。

御坂「ぷはぁぁぁぁぁ!!!!」
床に四つんばいになって胸いっぱいに汚染されていない空気を吸い込んだ。

609: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:16:40.90 ID:eOiceRY0
御坂「はぁっ!!ふぁあッ!!」
深く息を吸い、酸欠に陥っていた脳に酸素を送り込む。

御坂「…ったく!!……やりやがったわね!!…上等じゃないの!!!」

その時。前方から何やら重い金属音が響いてきた。
床が振動する。

御坂「へ?」

前を見ると。
フロアの先15m程の所に2m程の黒い金属の巨人が三体ほど立っていた。
手には巨大な銃。

銃と言うよりは大砲と言った方がいいか。

駆動鎧だ。

御坂「(何よあれ…)」

静かな駆動音を発し、その巨人が拳が入るほどの大きさの銃口を御坂に向けた。

御坂「(来る―――)」

能力を使い横に高速で飛ぶ。
その瞬間凄まじい砲音が響き、さっきまで御坂がいた場所の床が大きく捲れあがった。

610: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:20:11.18 ID:eOiceRY0
御坂「(まんま大砲じゃないのあれ!)」

御坂「(―――でも…)」

御坂はレベル5第三位。

御坂「(別にどうってことはないわね)」
そしてこの二ヶ月間で何度もとんでもない規格外の相手と戦い、生き延びてきた。

それに比べれば目の前の『コレ』など『オモチャ』に等しい。

この状況など『お遊び』に等しい。

二ヶ月前の御坂なら慌てふためいたかもしれない。
だが現在の御坂の鍛えられた精神はこの程度じゃ揺らがない。

御坂「(じゃあ今度はこっちの番よ)」

御坂「らぁ!!!!」
床に着地したと同時に巨大な電撃の槍を三体へ同時に放つ。

鼓膜が裂けるような雷鳴が轟き、三体の駆動鎧は弾き飛ばされ壁に叩きつけられた。
壁の欠片と黒い金属の破片が飛び散る。

そしてそのまま動かなくなった。

御坂「(なんだ、弱いじゃん)」

611: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:23:27.84 ID:eOiceRY0
続けて更に数体フロアに入ってきた。

御坂「無駄。やめといたほうがいいわよ」

だが駆動鎧達はその御坂の声を無視して巨大な銃口を御坂に向けた。

御坂「ったく…」

その時。

御坂「…?」

突如天井が大きくひび割れ歪み始めた。
そして。

御坂「!!!」

危険を感じ咄嗟に後ろに跳ねた。
次の瞬間、天井が爆発するように崩壊し大量の瓦礫が滝のように落ち、粉塵が周囲を覆った。

御坂「(何よ…!!)」
不気味な悪寒が背中を這い上がる。

この感覚は何度も経験した。
悪魔達のもの。

御坂「(…まさか…!!)」

上の階から光り輝く『何か』が降りてきた。

612: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:25:30.98 ID:eOiceRY0
粉塵の中で何かが輝いている。

御坂「(……また…?!)」
また悪魔か。

その予想は的中する。

だがその悪魔の正体は全く予想できなかった人物だった。

粉塵が晴れ、見慣れた後姿が現れる。

御坂「―――え?」

そこに立っていたのは―――

―――上条当麻。

御坂「―――は?えっちょっと待って…?」
突然の事で理解ができない。


なんで上条当麻が。

なんであの想い人が。

全身から淡い光を放ち。

悪魔の気配を溢れさせて立っているのか。

613: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:28:33.50 ID:eOiceRY0
上条の全身が赤く染まっている。

御坂「ちょ、ちょっと何でこんな所に…って怪我してるのアンタ!!!??」
御坂が駆け寄ろうとする。

その時。

上条がゆっくりと振り返った。

御坂「―――!!」

赤く輝く二つの瞳が御坂を真っ直ぐ見た。
その瞬間彼女の全身がざわついた。

彼女はその威圧感で上条から5m程の所で立ち止まってしまった。

御坂「…な、何が…ど、どうしちゃったの…?」
声が震える。

何がこの少年にあったのか。

知りたいけども知りたくも無かった。

上条は御坂の問いに聞こえてないのかのように反応しない。
その凍て付くような悪魔の瞳でただ黙って御坂を見据えていた。

御坂「(…イヤ………そんな目で…)」
全身が震え始める。

614: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:31:27.09 ID:eOiceRY0
その時、上条の背後の瓦礫が盛り上がり下から傷だらけになっている駆動鎧が現れた。
その巨大な銃口が上条の背に真っ直ぐ向けられていた。

御坂「―――!!」

その巨大な銃が大きな砲炎を吐き、轟音が轟く。

御坂「当麻―――!!!!!」

だが。
その『砲弾』は炸裂しなかった。

御坂「……?」

上条はその一瞬の間に駆動鎧の方へ向いていた。
その左手には。

煙を上げている金色の『弾頭』。

上条は放たれた『砲弾』を左手で掴んだのだ。

御坂「―――なッ」

そして上条はその『砲弾』を駆動鎧へ凄まじい速さで投げ返した。


次の瞬間、駆動鎧は爆散し粉々に吹っ飛んだ。

615: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:33:03.03 ID:eOiceRY0
御坂はもう何が何だかわからなかった。

考えたくも無かった。

上条がゆっくりと振り返り、再び御坂を見据えた。

あの目は何度も見た事がある。

悪魔達の瞳。
底なしの殺意が篭った絶対的な恐怖の光。

御坂「……なんで…」

上条がゆっくりと御坂の方へ歩いてくる。

御坂「………なんで……どうしちゃったの……?」

姿形は上条当麻だ。
だがその瞳から溢れてくる『中身』は以前とは似ても似つかない。

上条が御坂の目の前まで近付き、止まった。

手を伸ばせば簡単に届く距離だ。

だが。

どんなに手を伸ばしても。

絶対に『上条当麻』には届かないように感じた。

616: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:36:07.74 ID:eOiceRY0
御坂の瞳から雫が落ち、頬を伝う。

恐怖からでは無かった。

敵意を向けられているからでも無かった。

この目の前の少年の変わり様からだ。
ここ二ヶ月間、いつもいつも四六時中心配していた。

その心が。

今、最悪の形で成就した。

御坂「…うぅ……ひぐっ………何で…」

戦うという選択肢はあるはずが無かった。

この少年の右手の力が無かったとしても御坂は手を出そうとはしなかっただろう。

できるはずが無かった。

617: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:38:20.68 ID:eOiceRY0
御坂「……えぐっ……何で…」


『…ド……コダ?kjgtallpインデックス……ハ?』


上条が口を開いた。
その声は妙なエコーがかかり、ノイズが混じり濁っていた。


御坂「…………当麻ぁ…」


その彼女の声が『上条当麻』に届いていれば。

だが『上条当麻』の耳には届かなかった。

彼を覆い尽くす分厚い闇に完全に遮られた。


『殺ス』


次の瞬間、上条の左手が御坂へ向け振るわれた。
爆発したかのように床が吹き飛び、巻き上がった粉塵が周囲を包み込んだ。

―――

618: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:41:45.68 ID:eOiceRY0
―――

銃を向けられ、佐天はなすすべなく兵達に地下駐車場に連れて行かれた。

地下駐車場には40人程の市民が集められていた。
この十倍を越える客がいた筈だが、それがどうなったかなど考えたくもない。

佐天「(…ど、どうなっちゃうんだろ…死んじゃうのかな…)」
体が小刻みに震える。
胸がざわつき、呼吸が荒い。

目隠しをされる前、
何かが引きずられたような赤い筋が床に付いているのを何度も見た。

『何』が引きずられたのか。想像するのは難しくない。

佐天「(うぅ……)」

皆目隠しをされ後ろ手で縛られ、人質として一箇所に寄せ集められているらしい。
背中や腕に小刻みに震えている隣の人の肌が当たっている。

その時。

佐天「ひゃぁああ!!!」

いきなり視界が元に戻った。
目隠しが外されたのだ。

目の前には二人の兵。

619: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:43:25.14 ID:eOiceRY0
周囲はやはり人質達が集められていた。

そしてその周りや、離れたところを巡回している兵達。
合計で15人くらいはいるだろうか。

「立て」
目の前の兵のガスマスク越しからくぐもった声。

佐天「ひぁ!!!」

「来い」
服の背中を掴まれ、引きずられるように乱暴に立たされた。

佐天「こ、殺さないで!!!ごめんなさいごめんなさい!!!!!」

「黙れ」

銃で背中を押され誘導されて近くに止めてあったトラックの傍まで連れて行かれた。

620: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:45:16.76 ID:eOiceRY0
佐天「(やだよ…こ、殺されちゃうのかな…)」
嫌な汗が全身から噴き出してくる。
両足が振るえ、今にも倒れてしまいそうだ。

トラックの後部の扉が開き、一人の男が降りてきた。
他の物と同じく戦闘服を着ているが、ガスマスクは被っていない。

その男が佐天の前に立つ。

佐天「…ひっ…」

「連れて来い」
男が横を向き、一人の兵に指示を出した。

するとトラックの陰から、白い修道服の少女が腕を掴まれて連れて来られた。
佐天と同じく後ろ手で縛られている。

だがその表情は佐天とは正反対だった。

毅然とした表情でそのリーダー格の男を睨んでいた。

621: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:46:42.78 ID:eOiceRY0
禁書「とうまは!!!?とうまはどこにいるの!!!!?何かしたら許さないんだよ!!!絶対に!!!!」

「おい」
男がその少女を無視して佐天に声を飛ばした。

佐天「は、はい!!!」

「こいつ知ってるか?」
男が顎で修道服の少女を指しながら問う。

佐天「…い、いえ…」

「そうか。あの銀髪の男とはどういう関係だ?」

佐天「…!」
銀髪の男。ついさっきまで一緒にいた。

背後の兵が 早く答えろ とでも言うかのように背中に銃口を押し付けてくる。

佐天「な、何も!!!今日知り合ったばっかりで…!!!」

「本当か?庇うのは止めといた方がいいぞ」

佐天「ほ、本当です!!!本当ですってばぁああああ!!!」

622: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:48:22.56 ID:eOiceRY0
「そうか。じゃあ用無しだ」
男は手を挙げて合図をした。

すると今度は後頭部に冷たい金属の感触。

佐天「イヤァアアアアアアア!!!違います!!!!ごめんなさい!!!!違うんです!!!!」

「何だ?」
男が手を挙げて兵を制止する。


佐天「あ…お…ぉ…」


佐天「こ、恋人です!!!」


何も考えないで喋った。
生きたいが為に咄嗟についた嘘だ。


そしてその嘘は幸運にも彼女の命を繋ぎとめる事になった。

「そうか。おい、このガキ二人をそっちに置いとけ」

禁書「(う、う、浮気!!!?ネロが本当に浮気してたんだよ!!!!)」

623: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:50:47.10 ID:eOiceRY0
二人は止められているトラックとトラックの間に並んで座らされた。

佐天「…うぅ…もうやだよ…」

禁書「……あなた…名前はなんていうのかな?」

佐天「…佐天…涙子」

その名はインデックスの脳内にしっかりと記録された。

『ネロの浮気相手』として。

禁書「私はインデックス。よろしくなんだよ」

佐天「…」
隣の少女はなぜこんなに落ち着いているのか不思議だった。
どう考えても絶望的な状況だ。
こんな時に新しい友達を作る気など到底なれない。


禁書「大丈夫なんだよ」

佐天「ど、どこが…」

624: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:51:46.31 ID:eOiceRY0
禁書「ネロの恋人さんなんでしょ?じゃあ大丈夫」

佐天「そ、それは…」

禁書「きっと助けに来てくれるんだよ」

佐天「…?」
ネロの事を思い出す。
学園都市外部の人間だ。何か能力を持っているとは思えない。
本人も言っていた。

そして能力無しでは、軍隊でもつれてこないと到底この状況は打開できないだろう。

禁書「もしかして知らないのかな?」

佐天「…へ?」
『何』に対して知らないと聞いているのだろうか。

625: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:53:05.73 ID:eOiceRY0
禁書「そうなんだ。ネロから聞いてないんだね」

佐天「…な、何を?」

禁書「私からは言えないんだよ。でももうすぐ直接見れると思うんだよ」

禁書「私達皆を助けてくれる。皆生きて帰れるんだよ」

禁書「絶対に。皆」

佐天「…」
その揺ぎ無い確信の中に、
わずかに『願い』のようなニュアンスが篭められていた。


禁書「人質の皆も、あなたとネロと私も―――」


禁書「―――とうまもきっと」


―――

626: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:54:34.55 ID:eOiceRY0
―――


東棟三階。

粉塵が舞う。
瓦礫が落ちる。

その光景を御坂は少し離れたところから見ていた。

御坂「―――へ?」

何が起きたかわからなかった。
自分は今あそこにいたはずだ。

「……どォなッてやがる…」

少し離れた横から声が聞こえて来た。

御坂「…」
ぼんやりとそちらの方を向く。

そこには。

白髪で赤い瞳の色白の少年が。

一方通行が立っていた。

627: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:56:02.70 ID:eOiceRY0
一方「おィ!!!!テメェ何してやがんだァ!!!!??」

一方通行が怒りの篭った声で、粉塵の向こうにいるであろう上条に声を飛ばした。

今、あの少年は確実に御坂を殺そうとした。

一方通行がベクトル操作で御坂を移動させていなかったら
今頃彼女は無残な肉塊になっていただろう。


一方「聞こえてンだろ!!!」


粉塵が晴れ、中から赤く輝く瞳の上条が現れた。


一方「…ッ!……おィ…何だよ『ソレ』はよォ…?」
その上条の姿を見て一方通行も戦慄する。

あの瞳。

悪魔そのものだ。

上条が一方通行の姿を見て不気味な笑みを浮かべた。

一方「……!!」

628: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:57:58.56 ID:eOiceRY0
その赤く輝く瞳は凄まじい殺意が篭められていた。
それも無差別の。

目に映る者全てを殺す気だ。

一方「なンで…なンでテメェが『そッち側』にいやがる!!!?」

上条が闇の世界、それも底無しの闇の中にいるなど。
この一方通行よりも遥かに深い闇に身を置いているなど。


一方「そッちはテメェのいる『所』じゃねェ!!!」


上条はその正反対の場所にいるべき『人間』のはずだ。
光の当たる位置に。


一方「おィ!!!!聞こえてンだろ!!!ざけンなクソがァ!!!」

あの日、闇に身を置いていた一方通行の手から御坂と妹達を救い出したヒーロー。

そのヒーローであるべき男が。

自らの手で救った者を殺めようとするなど。

あれ程の無差別な殺意を纏っているなど。

許されるはずが無い。

629: SSまとめマン 2010/04/07(水) 00:59:41.98 ID:eOiceRY0
上条『……………インデックスhagie…?ドコ…ダ?』
上条が一方通行に向けて口を開いた。

インデックス。
一方通行も知っている少女だ。

一方「……なにを言ッてやが…る…?」
インデックスはどこだ?という意味なのはわかる。

その上条の姿を見て一方通行はふと感じた。

まるで自分の姿を見ているようだった。

何かが違えば。
別の未来ではあの『位置』にああして立っていたのは自分かもしれないと。


一方「(なンでだよ―――)」


一方「(テメェが『ここ』に立ッてるはずだろ)」


一方「(なンでンな所に立ッてやがる)」


一方「(コレじゃァまるッきり―――)」



一方「(―――逆じゃねェか)」

630: SSまとめマン 2010/04/07(水) 01:01:12.61 ID:eOiceRY0
上条『……殺ス』

上条が呟いた。赤い瞳で真っ直ぐ一方通行を見ながら。

一方「……ふざけンじゃねェ」

上条があんな位置にいるなど絶対に許せない。

あの立ち位置は自分の物だ。

闇に溺れて無残に死ぬのは自分だけでいい。

一方通行は上条のように『何かを救う』星の下で生まれてはいない。

上条の真似をして成功する可能性もかなり低いのは知っている。


それでも。



それでも一方通行には退く気は微塵も無かった。

631: SSまとめマン 2010/04/07(水) 01:02:40.79 ID:eOiceRY0
一方「上等だ。テメェが自分で這ィ出てこねェッてンなら―――」


自分のこのゴミみたいな命は尽きてもいい。


一方「俺がその闇を―――」


だから―――

―――この少年だけは。



一方「―――ぶッ壊してやる」



二人は再び激突する。

あの時とは正反対の立ち位置から。



―――

632: SSまとめマン 2010/04/07(水) 01:03:38.14 ID:eOiceRY0
今日はここまで
再開は今日と同じ12時前後からです

641: SSまとめマン 2010/04/07(水) 23:37:51.66 ID:eOiceRY0
―――


地下駐車場。トラックの荷台の中。

「どうなってる?現状は?」
リーダー格の男が苛立ちながら声をあげる。

「わ、わかりません」

東棟と西棟のチーム全てから交信が途絶えた。

「(…クソ…)」

その時スピーカーから男の声が聞こえてきた。

『お、繋がったな』

西棟の三階の部隊の通信機からだ。
だがその声の主は明らかに隊員ではない。

『誰かいるか?』

「…誰だ?」
リーダー格の男が答える。

『よう。話がしてえ』


「…話す気はない」

642: SSまとめマン 2010/04/07(水) 23:40:07.74 ID:eOiceRY0
『…そうか…まあ…一応言っておく。手を退いた方がいいぜ』

『今なら見逃してやる』

「その気は無い」

『だろうな』

「…」

『OK。全員ぶっ飛ばしてやる。今の内にお祈りでもしとくんだな』

「…やってみろ」


『ああ―――』


『―――「今」からやってやるぜ』


「……あぁ?」

次の瞬間、トラックが『浮いた』。


―――

643: SSまとめマン 2010/04/07(水) 23:45:05.90 ID:eOiceRY0
―――


さかのぼること数十秒前。

地下駐車場。
佐天とインデックスはトラックとトラックの間に縮こまって座っていた。

佐天「…?」
何かがパラパラと落ちる音が聞こえた。

ふと顔をあげると、天井から砂粒程の小さなコンクリート片が降って来ていた。

インデックスもそれに気付き、にっこり笑った。


禁書「来たんだよ」


次の瞬間。
突如轟音が響き佐天達の前に止めてあったトラックの運転席の上へ、
青い『何か』が天井を突き破って落下してきた。

その反動でトラックの荷台がシーソーのように大きく浮かび上がった。

645: SSまとめマン 2010/04/07(水) 23:49:29.65 ID:eOiceRY0
その時間は一秒も無かったであろう。
だがこういう時、人間の脳はまるでスローモーションでも見ているかのように錯覚する。

佐天もそう見えた。
まるで数分もの間、トラックの荷台が浮いているような気がした。

そしてその錯覚は突然切れる。
トラックの荷台が重力に従い、地面に叩きつけられて大きくひしゃげた。

佐天「わっ!!!わああああああ!!!」

聞き覚えのある声が耳に入ってきた。


「ワリィな!!遅れたぜ!!!」


佐天「―――?」

その声の方を向く。
そして彼女は目にした。


トラックの潰れた運転席の上から。

青いコートに銀髪の男がニヤけながら彼女達を見下ろしていた。

禁書「ネロ!!!」

646: SSまとめマン 2010/04/07(水) 23:52:09.49 ID:eOiceRY0
佐天「…へ?な、何…?何ッ…!?」

禁書「遅いんだよ!!!」


ネロ「はは!!そこから動くなよ!!」


「て、敵襲!!!!」
兵達が叫び、トラックの上のネロへ一斉に銃口を向ける。

だが次の瞬間、トラックが大きくひしゃげネロの姿が消える。

そして青い光の帯が凄まじい速度で駆け抜けた。

佐天「ひゃあああああ!!!!」

爆風が吹き荒れ兵達が瞬く間に吹っ飛ばされて、
割れた銃やアーマーの破片を飛び散らせながら床や天井、壁に叩きつけられていく。

「クソ…!!!」

兵の一人が人質を盾にしようと、床に座っている一人の若い女性の腕を掴もうとする。
だがその手が届く前に。


ネロ「おっと!!お触りのサービスタイムは終了したぜ!!」
兵の体が青い光の帯に弾かれて宙を舞った。


そして全員があっという間に地に力なく伏せた。

ネロは10秒も経たずにこの地下駐車場を制圧してしまった。

647: SSまとめマン 2010/04/07(水) 23:56:10.21 ID:eOiceRY0
地響きの嵐がやみ、静寂が戻る。

佐天は恐る恐る目を開けた。

佐天「……!!!」

すると兵達は皆地面に人形のようにピクリとも動かずに転がっていた。

そして地下駐車場の中央に立つネロ。

佐天「な、…あ…、?」
言葉が出ない。
何を喋れば言いのかわからなかった。

目隠しをされていて状況が全く掴めずに縮こまっている人質達の方へネロが歩いていく。
そして一人の女性の手の拘束を解き、目隠しを取る。

ネロ「終わったぜ」

女性は周囲の光景を見て目を丸くして呆然としていた。

ネロ「おぃ、他の奴のも解いてくれ」

648: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:00:15.01 ID:f3Vqx320
女性が他の者の拘束を解き、その拘束を解かれた者達も更に他の者の拘束を解いていく。

ネロ「OK、じゃあアンタ等はさっさとここの外に出てくれ」
解放された人質達へそう言い放つと踵を返し、インデックス達の方へ向かった。
そして二人の拘束を解いた。

ネロ「何かされなかったか?怪我はねぇか?」

禁書「ありがとうなんだよ!!私は大丈夫なんだよ!」

ネロ「アンタは?」

佐天「あ…あ、だ、大丈夫…」

ネロ「そうか」

禁書「…?(……なんだかよそよそしいんだよ…本当に恋人さんなのかな)」

ネロは潰れたトラックの方へ向かった。

そしてまるで新聞紙でも裂いているかのように、
簡単にトラックの荷台の壁を引き千切り中に入っていった。

649: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:08:08.26 ID:f3Vqx320
佐天「ふぁぁぁぁ……た、助かったみたい…」
死の危険から解放され、安堵の声を上げて佐天は地面に座り込んだ。

そしてそのままボーっとネロの入っていったトラックを眺めた。

佐天「……」
思考が元に戻るにつれ、色々と浮かび上がってきた。

佐天「(……ネロさんって…)」
聞きたいこと山ほどある。

禁書「……一ついいかな?」

佐天「……へ?」

禁書「本当に恋人さんなの?」

佐天「…うッ!………う、嘘です」

禁書「……むー…嘘はついちゃいけないんだよ」

佐天「ほ、ほら、あそこでああ言っとかないとさ…あたし殺されそうだったし…」

禁書「……」
それはそうだが、『ネロの恋人』と言うのは色んな意味で危険すぎる。
ともかく、ネロ自身に聞く事が無くてよかった。

禁書「……まあ言いんだよ。この事は黙っておいてあげる」
誰にも言えるはずが無い。もし万が一トリッシュやダンテの耳に入ったりでもしたら。

あの二人はでまかせと知っていながらもネロを弄くるだろう。
そしてキリエに知れたら。

禁書「……」
この人はとんでもない爆弾を作りかけたのを自覚しているのだろうか、 
とインデックスは佐天を眺めながら思った。
当然自覚するはずも無いが。

650: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:11:29.98 ID:f3Vqx320
ネロ「……」

ネロは潰れたトラックの中で横たわっている兵を見てまわっていた。

トラックが浮き上がり思いっきり揺さぶられたせいで中は滅茶苦茶になっていた。
中の者達は壁や床に何度も叩きつけられただろう。

ネロ「…アンタだな」

一人の兵の前に屈む。

「……直に…会えたな…」
額から血を流し、壁に寄りかかって座っているリーダー格の男が苦しそうに答えた。

ネロ「目的は?親玉は?」

「…知りたかったからだ…ボスはいない…俺達が単独でやった…反乱さ…」

ネロ「何を知りたかった?」

「二ヶ月前の事件についてだ…あの怪物共は何なんだ?…お前達は知っているだろ…?」

「死ぬのは別にいい…だが何の為に、何と戦っているかぐらいは知りたい…」

ネロ「つー事はアンタ等は学園都市の連中か」

「ああ…捨て駒さ…ただの道具だ……」

ネロ「…そぉかい」

651: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:13:43.60 ID:f3Vqx320
「あれは…一体何なんだ…? 能力を持った生物兵器か何かか?」

ネロ「…悪いが教えられねぇ。『こっち』には入って来ない方がいい」

「だろうな…まさかお前らの内二人もあれと同じような怪物だったとはな…」

ネロ「―――二人?」

「とぼけるな…あの…ツンツン頭のガキもお前と同種だろ…名は上条当麻だったか…」

ネロ「―――ああ?」

「東棟の部隊は全滅した……ハッ、『無能力者』か……能力以前に人間じゃねえだろ…」

東棟。
今もネロの右手はその東棟の悪魔の力を感じている。

これが―――

―――あの少年だと?

ネロ「……そうか」
ネロは立ち上がる。

ネロ「さっさと消えろ」

「……殺さないのか?」

ネロ「ああ」

652: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:16:57.62 ID:f3Vqx320
「……」
次の瞬間リーダー格の男が腰から拳銃を引き抜き、ネロに向けた。

ネロ「……俺にやらすんじゃねえ。幕を引きたきゃ自分でやれ」

ネロ「アンタの命はアンタのもんだ」

「……はははは…」
男は笑った。
まさかこんな形で己の死ぬ権利を手にすることができるとは。


「……お前…良い奴だな…」

ネロ「アンタもな。そういう覚悟は嫌いじゃねえぜ」


「……はは…」

男は銃口を自分の顎の下に当てた。

「最期の相手がお前みたいな奴で良かったぜ」


ネロ「……寝るなら早く寝ろ。見届けてやっからよ」


「スマン。じゃあな」


そして引き金を引いた。
一発の銃声が響き、男の手がダラリと下がった。


ネロ「……ゆっくり休みな」

653: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:19:15.99 ID:f3Vqx320
ネロ「…」
ネロはその男の死体の前に立ちながら考えていた。

あの悪魔の反応はどうやら上条らしい。

ネロ「…あ~…」
とりあえず見に行くのは決まってる。
問題はその後だ。

『処理』する必要があるかどうか。

ネロ「(ま、見てみねえ事にはな)」

ネロ「(…禁書目録には何て言えばいいんだクソ)」

その時だった。
トラックの外から少女の悲鳴が聞こえた。

ネロ「…お次は何だよ」

ネロは荷台の壁をぶち破り、外に飛び出した。

すると目に入った。

二人の兵が佐天とインデックスを盾にし、銃を突きつけて何やら叫んでいた。

ネロ「…(やっぱ『戦士』もいれば『ゴミクズ』もいるな)」

654: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:22:22.50 ID:f3Vqx320
「動くんじゃねえ!!!!ぶち殺すぞ!!!」
二人の兵が喚き散らしている。

地下駐車場内の兵は全員ぶっ飛ばした。
とすると、この二人は別の所にいた生き残りだろう。


ネロ「おい。やめとけ」

ネロが動じずに歩いていく。

「く、来るんじゃねえ!!!!」
インデックスと佐天をネロの方へ押し出し盾にする。

佐天「ひあああああああ!!!!!」

インデックス「…やめといた方がいいんだよ」

「うるせぇ!!!」

655: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:25:15.53 ID:f3Vqx320
ネロ「…あ~」
ネロと兵の距離は15m程。

兵の震えている指が引き金に触れている。
いつ銃弾が放たれてもおかしくない。

だがネロにとってはどうってことは無い。

兵達の指が引き金を引く前に、
ブルーローズを腰から引き抜き二人の兵の額を正確に撃ち抜くのは容易い。

当然二人の兵は死ぬが。

悪魔の目で殺意を向けるという方法もあったが、それだとあの二人の少女も巻き添えだ。
インデックスは耐性が備わっているだろうが、佐天はあの兵達以上に弱いだろう。

ネロ「…チッ」
できれば殺したくは無いがやむを得ない。

ネロが腰のブルーローズへ手を伸ば―――

―――そうとした瞬間。


ネロ「―――」

佐天「…へ?」

佐天の後ろにいた兵が突如『消えた』。

657: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:27:52.86 ID:f3Vqx320
普通の人間ならまるで映像がいきなり途絶えたように見えただろう。
だがネロの悪魔の目はその瞬間をしっかりと目撃した。

佐天の後ろにいた兵の『像』が残像を引くように伸び、佐天の腰のポケットのあたりへと吸い込まれたのだ。
その瞬間、ネロの右手が強力な反応を検知した。

ネロ「(―――『アレ』は)」

このデパートに来た時から感じていた僅かな悪魔の視線。
それの根源だ。

恐らくシェオル。

佐天「…はれ?」

禁書「…!!」

「お、おい!!!てめえ何しやがった?!!!!」
インデックスを盾にしていた男が佐天に銃を向ける。

佐天「ひゃぁ!!!あ、あたしは何も…!!!!?」

次の瞬間、もう一人の兵も消えた。

659: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:33:45.05 ID:f3Vqx320
ネロ「ハッ!!そういう事か!!」

ネロ「OKOK!!!」

ネロが佐天を見ながらまるで獲物を見つけた狼のように心底嬉しそうに笑う。

禁書「…あなた…!!!」

佐天「ちょ、ちょっと待って!!!あたしは何も!!!!」

ネロはブルーローズを引き抜いた。
そして佐天へ銃口を向ける。

ネロ「動くんじゃねえ」

佐天「ひぁああ!!!違う!!!!違うんです!!!あたしじゃぁあああああ!!!!!!」
佐天が大きく手を振りジタバタする。


ネロ「うるせぇ。動くなっつってんだろ」


ネロは躊躇い無く。

―――引き金を引いた。

凄まじい炸裂音が響き、巨大な砲炎が噴き出す。

660: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:36:46.13 ID:f3Vqx320
その銃弾が。
佐天の体へは直接当たらずに、かするよう腰のポケットを引き裂いた。

佐天「へ…?」

小さな10cm程の鏡が宙を舞った。
光が反射しキラキラと輝く。

ネロ「野郎見つけたぜ!!!」


ネロ「女の尻に隠れるとは品の無ぇ野郎だぜ!!!」


すかさずブルーローズの引き金を何度も引く。

爆音が連続し、大量の銃弾がその小さな鏡、シェオルへ向かう。

佐天のすぐ脇をとてつもない威力の破壊の槍が通過していく。

佐天「きゃああああああ!!!!!」
佐天は咄嗟耳を塞ぎその場にうずくまった。

661: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:39:54.51 ID:f3Vqx320
銃弾は直撃した。だが炸裂はしなかった。

ネロ「…へぇ」

そのまま溶けるように鏡へ吸い込まれていった。

鏡は地に落ちずに1m程の高さの宙に浮いていた。


ネロ「…面白え。その『先』が『鏡の世界』ってやつか?」


シェオル『…スパーダの一族…逆賊共が…』

低く、かつ尖っている不気味な声が鏡から発せられた。


ネロ「ハッ。相変わらず俺達は人気者か」


シェオル『スパーダの孫、ネロ。我が腹の中へ入るが良い』


ネロ「悪いな。赤ちゃんゴッコする趣味は無ぇんだ」

662: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:42:27.44 ID:f3Vqx320
禁書「あ、あれは…!!!」

ネロ「おい。離れてろ。俺の『仕事』だぜ」

禁書「う、うん!!」

インデックスがうずくまってる佐天に駆け寄り、
何とか立ち上がらせてその場から遠ざかろうと―――

―――した時だった。

ネロには見えた。

ネロ「―――あ?」

二人の少女の『像』がシェオルの方へ残像を引く様に伸びたのだ。

ネロ「―――そっちかよ!!!!」
ネロはデビルブリンガーを一気に伸ばし、二人を掴んだ。

だが。

そのデビルブリンガーごと像が伸び、シェオルの方へ向かう。

ネロ「―――マジかよ―――」


シェオル『間抜けだな。こうもあっさり掴まってくれるとは』

663: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:45:26.69 ID:f3Vqx320
禁書「ネロ―――!!!!」

デビルブリンガーの拳ごとシェオルの中へ二人が吸い込まれていった。

ネロ「クソ野郎が!!!!」
そしてデビルブリンガーが凄まじい力で引っ張られる。

ネロの体も残像を引き始める。
だがこのまま成す術なく吸い込まれる訳ではない。

ネロ「ハァ!!!!!」
ネロの目が赤く輝く。

その瞬間、引き込まれていたデビルブリンガーが制止する。

シェオル『―――ッ』

ネロ『ハッ舐めんなコラ!!力比べじゃ負けたことねえんだよ!!!』
じわじわとデビルブリンガーを引きずり戻す。

シェオル『―――なッ』

そして。

ネロ『ハァアアアアアアアア!!!!!』
デビルブリンガーがシェオルの鏡から勢い良く引き抜かれた。

だが。

ネロ『―――あ?』

その拳には二人の少女の姿が無かった。

空っぽだった。

664: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:47:15.43 ID:f3Vqx320
ネロ『―――あぁ?』

シェオル『禁書目録。「アレ」、かなり大事な物なのだろう?人間達にとって』

ネロ『―――』

シェオル『見物だな。禁書目録を失った人間の世界がどうなるか』


禁書目録は魔術サイドにおいて中核をなす重要な存在だ。
アレが無くなれば。

パワーバランスが完全に崩れるだろう。

最悪、全世界を巻き込む大混乱が起こるかもしれない。
そんな事態を引き起こす訳には行かない。

ネロ『……あ~、クソ』

シェオル『我を殺したければ殺すが良い。貴様なら一瞬だろう』

シェオル『「鏡の世界」は唯一の入り口を失い完全に外界と隔絶されるだろうがな』

ネロもそれは知っている。


ネロ『しょうがねぇ…』

665: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:49:28.65 ID:f3Vqx320
ネロ『(俺も―――入るしかねぇか)』

一度シェオルを『通り』向こう側に行きあの二人を保護する。

シェオルは牢獄としても使われていた。

あの中には血に飢えた、気が狂った危険な悪魔が大勢いるだろう。

そんな中に二人の人間の少女が放り込まれた。

外から救う手段を探している暇は無い。

今、ネロが中に入るしかない。

二人を守り戦いながら抜け出す手段を探す。

禁書目録を失うわけには行かない。

そして。

ネロは友人を見捨てられるような男でもない。


ネロ『上等だガラクタ野郎』

666: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:52:06.63 ID:f3Vqx320
ネロはブルーローズを高く掲げ、銃口を真上に向けた。
力を集中させる。

そして引き金を引いた。

凄まじい衝撃波と共に青い光の槍が天井・そして上の階を次々と貫通し、ビルごとぶち抜いて空に放たれた。

この学園都市のどこかにダンテがいるはずだ。
あの光の矢は必ずダンテの目に留まるだろう。

あの男が来ないはずが無い。
きっとすぐに飛んでくる。

だがダンテにこのシェオルを『あげる』つもりはない。
ダンテにはせいぜい足止めして貰うつもりだ。

中にネロがいるとなるとシェオルを殺そうとはしないだろう。


つまりこのクソッタレを―――

ネロ『(マジで頭に来たぜ)』


シェオルを叩き割るのは―――


ネロ『(―――俺の獲物だ)』

667: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:55:27.88 ID:f3Vqx320
ネロ『入ってやろうじゃねえか』

シェオル『来い』

ネロ『腹壊しても知らねえぜ』

ネロはシェオルへ突進する。
体から残像が伸びる。

ネロ『ハッ!!』

左腕、右足、胴体の順番でシェオルに引き込まれていく。

ネロ『ガラクタ野郎―――』

シェオル『何だ?』

頭部が引き込まれ始める。
その顔は挑発的に笑っていた。


ネロ『―――後でたっぷり遊んでやる』


そして最後に中指を立てた右手が引きずり込まれた。

ネロは鏡の世界へ。
その先にいる弱き二人の少女の下へ。

その先で始まるであろう無数の罪人との『闘技場』へ。


―――

668: SSまとめマン 2010/04/08(木) 00:56:39.34 ID:f3Vqx320
今日はここまでです
明日もまた夜12時前後から

675: SSまとめマン 2010/04/08(木) 23:32:58.07 ID:f3Vqx320
―――

東棟三階。 

一方通行と赤い瞳の上条が20m程の距離を隔てて向かい合っていた。

その少し離れた所の壁際で御坂が屈みなが、涙を浮かべた瞳でら二人を見ていた。


一方「…行くぜ」

一方通行が軽く地面を足で叩いた。
一方通行は上条を殺すのではなく、彼の周囲を瓦礫で固めて動きを止めるつもりだ。
次の瞬間、崩れた天井の瓦礫が宙に浮き、凄まじい速度で上条へ放たれた。

あの右手は一方通行のベクトル操作すら簡単に無効化してしまう。
だが以前戦った記憶によると。
飛ばした物体は止められない。

能力から生まれた慣性は消されるかもしれないが、
数百キロある瓦礫はただ重力にしたがって落ちるだけでかなりの破壊力になるだろう。

だが。

上条はまるで飛ぶ蚊を軽く叩くかのように左手を振るった。
瓦礫が手に当たる瞬間白い光が放出され、瓦礫の砲弾がスナック菓子のようにあっけなく砕かれ四散する。

一方「―――あァ?」

どう見ても右手の力ではない。
見覚えがある。

二人でバージルからインデックス奪還しようとした時。
あの時使っていた力と似ている。

いや、おそらく同じ物だろう。
そしてあの時よりも遥かに強力だ。

678: SSまとめマン 2010/04/08(木) 23:38:07.77 ID:f3Vqx320
一方「―――チッ」

今度は上条の下の床へベクトルを収束させる。
床が盛り上がり、爆発するように破片が飛ぶ。

上条はその攻撃を逆に利用する。

上条は身を捻り、その周囲を舞う破片を一方通行へ向け『蹴り』飛ばした。
その場でさらに何度も体を回し、まるでダンスでもしているかのように華麗に次々を蹴り飛ばす。

音速を超えた破片の雨が一方通行へ向かう。

一方「ハッわかッてンだろ!!!無駄だぜ!!!」

当然一方通行には傷一つつかなかった。
全て上条へ反射され、散弾の雨が彼を包んだ。

一方「…ッて…テメェも無傷かよ」

だが、粉塵の中上条は何事も無かったように立っていた。
上条が自分の右手を眺める。

そして一方通行の方へ向き、

不気味な笑みを浮かべた。


一方「―――準備運動は終わりッてか」


そして上条は床を蹴り、一方通行に真っ直ぐ突進する。

679: SSまとめマン 2010/04/08(木) 23:41:47.69 ID:f3Vqx320
上条が蹴った床が爆散する。

予想以上の凄まじい速度だった。
爆風が吹き荒れたと思った次の瞬間、上条が目の前に現れた。

一方「―――ッ!!」

上条は右手を一方通行の顔面に伸ばす。

その右手が触れる寸前。

一方「オァ!!!!!」
収束した大気を上条の腹部へ叩き込む。

衝撃で周囲の床が大きく抉れる。

だが至近距離でそれ程の衝撃を与えても上条を弾き飛ばすことはできなかった。
僅かに速度を削っただけだった。

しかしそれで充分だった。

今度は自分の体を後方へ瞬時に移動させる。
鼻から僅か数センチのところを上条の右手が通過する。

一方「―――ファッ!!!」
反射的に安堵の感情の篭った息が一方通行の口から漏れた。

そしてそのまま後方へと飛ぼうとした時。

上条が目の前で駒のように一回転し、強烈な回し蹴りを一方通行へ放った。

680: SSまとめマン 2010/04/08(木) 23:46:21.98 ID:f3Vqx320
巨大な鉄塊がぶつかり合うような轟音が響く。
発生した爆風が天井と床を大きく砕き、吹き抜けを作る。


凄まじい衝撃を受け、一方通行は15m程後方にずり下がった。
能力でブレーキをかけなければこのまま壁を貫いてビルの外へ叩き出されていただろう。

一方「…ぐぉ………」

体の内部が軋み、痛みが走る。

一方通行は15m先の上条を睨んだ。

蹴りの『物理的』な衝撃波は全て難なく反射した。
だがそれ以外の『何か』が。

あのバージルと戦った時も経験した。
反射どころか感知すらできない『何か』が、体をすり抜けてスタミナそのものを削り取った。

明らかに自分の生命力が減ったのがわかる。

悪魔特有の攻撃だ。
直接の破壊と同時に相手の魂へもダメージを与える。

一撃で体を簡単に大きく引き裂くバージルの攻撃と比べればかなり可愛いものだが、
それでも何発も喰らって耐えられる代物では無い。

そして上条の蹴りを放った足は、その莫大なエネルギーを反射されたにも関らず無傷だった。


一方「……マジかよ…クソがッ…!!!」

681: SSまとめマン 2010/04/08(木) 23:48:49.68 ID:f3Vqx320
更にあの右手に当たっている間は能力を行使できない。
もし掴まれたりすれば。

能力の鎧を失った一方通行は簡単に叩き潰されるだろう。

凄まじい身体能力を誇る悪魔の体と能力を無効化する幻想殺し。

一方「(―――そりゃァ反則過ぎじゃねェか?…三下ァ……)」

完璧すぎる。

正に今の上条は『能力者キラー』だ。

あの右手も左手や他の部分と同様凄まじい力を持っているのかどうか。
その疑問も浮かんだが、今は問題ではない。

怪力があろうが無かろうが右手に掴まった時点で一方通行は『終わる』。


一方「(―――無傷は―――ムリだ)」

傷つけないように保護するのはどう考えても不可能だ。

殺す気で全力で向かわねば到底押さえ込めない。
今ここで一方通行が死ぬと後は誰がいる。

すぐ近くにネロがいるらしいが、土御門の話によると上条を殺そうとするかもしれない。

今、この少年を確実に生かしたまま確保できるのは一方通行しかいないのだ。

682: SSまとめマン 2010/04/08(木) 23:52:58.39 ID:f3Vqx320
一方「(―――手加減はナシだ)」

こうなったら手足をもぎ取ってでも押さえるしかない。


一方「オァアアアアアアアア!!!!!!」

能力を最大限引き出し、周囲のベクトル全てを掌握する。

このフロア内の壁際にいる御坂の前に、彼女をこの激突から守る為に一部の力を割いて壁を作る。
そして残りの莫大なエネルギーで二つの瓦礫を上条の下半身へ飛ばす。

両足を吹き飛ばすために。

音速の数倍にまで一気に加速された瓦礫が大気との摩擦熱で輝き、まるで光線のようになる。

二本のオレンジの光の線が上条へ突き進む。
床がその凄まじい熱と衝撃波を受け砕け散る。

だが上条には当たらなかった。
上条は上へ跳ねてそれをかわした。

一方「チッ―――!!!」

二つのオレンジの槍が床を貫き、そのまま斜め下へビルを貫通していった。

上条そのまま空中で体を縦に180度回転させ、天井へ『着地』する。
そして天井を蹴り一方通行へ一直線に向かった。

683: SSまとめマン 2010/04/08(木) 23:55:17.12 ID:f3Vqx320
一方「ハァアアアアアアアア!!!!!!」
一方通行は向かってくる上条へ向けて更に二発放つ。

同時に上条がそれを避けるべく体を捻る。
二発は難なくかわされた。

だが。

三発目が向かう。

一方通行は上条が回避するのを見越して時間差で三発目を放ったのだ。

その三発目のオレンジ色に輝く瓦礫の砲弾が。

上条の左腕に直撃する。



次の瞬間、上条の左肩から先が吹き飛んだ。

赤い肉片が飛び散る。

684: SSまとめマン 2010/04/08(木) 23:59:26.75 ID:f3Vqx320
一方「(―――クソ…!)」

いつもなら敵の体を引き裂けば最高の快感が込み上げて来る。
だが今のこの少年相手ではそんな感情はとても起こらなかった。

一方「(―――あァ?)」
更にもう一発放って右足を吹っ飛ばそうとした瞬間。

その向かってくる上条の姿を見て一瞬思考が停止する。

一方「(―――)」

左腕が無くなったのに苦痛の色どころか表情が一切変わらない上条。

一方「(―――ッ!!!)」
数百分の一秒の僅かな反応の遅れが追い討ちのタイミングを逃し、更に隙を生んだ。

上条が再び右手を一方通行の顔面へ向けて放つ。

一方「オァッ!!!!」

咄嗟に身を屈め、交わす。
頭のすぐ真上を上条の右手が通過する。

一瞬でも当たってしまったらそこで終了だ。

一方「ラァアアアア!!!!!」
腰を落とし、右手にベクトルを収束させる。
大気が一瞬で圧縮されプラズマ化する。

その輝く右手を上条の腹部へ放つ。
だが有り得ない速度で反応した上条が左足の蹴りを一方通行の拳へ重ねた。

白く光る拳と足が正面から激突する。

685: SSまとめマン 2010/04/09(金) 00:02:48.32 ID:Sr.H6fA0
一瞬音が消える。

そして次の瞬間ビル全体が大きく振動し、天井が上の階ごと吹き飛んだ。
破壊の嵐は七階まで達した。


一方「(―――イケるぜ!!このまま―――!!)」

上条の左足が大きくひしゃげていた。

残るは右足。

これさえ奪えばあとはどうとでもなる。

残る右足を吹き飛ばそうとベクトルを収束―――

―――させようとしたが。


一方「―――!!!!」


能力が発動しなかった。
同時に体が急に重くなる。体を支えていた能力も切れたのだ。

『ア゛ァ゛ァ゛ァ゛』
その時、不気味な笑い声が上条の口から発せられた。
上条の顔に邪悪にせせら笑うかのような笑みが浮かんでいた。

そして左腕の感触に気付く。

一方「―――しまッ―――」

上条の右手が彼の左腕を掴んでいた。

686: SSまとめマン 2010/04/09(金) 00:07:19.45 ID:Sr.H6fA0
どうやらこの右手にはあの凄まじい怪力は無いようだが、
今はもうそんな事は問題ではなかった。

驚愕し目を丸くしている一方通行に上条が不気味な笑みを向ける。


上条の左足が元の形に戻っていく。
左腕が瞬く間に再生していく。

一方「―――!?」

わずか一秒で上条の体は傷一つ無い完全体に戻った。


そして左手を握り、大きく後ろへ引いた。
一方通行を叩き潰し肉塊へと変えるパンチを放つべく。


一方「―――クソガァアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


その時。

突如雷鳴が響いた。

そして上条の側頭部を巨大な電撃の槍が直撃した。

687: SSまとめマン 2010/04/09(金) 00:11:07.56 ID:Sr.H6fA0
上条の上半身が横に大きく曲がり押しのけられる。

その拍子で一方通行を掴んでいた右手が離される。

一方「アアア!!!!!」
拘束から解き放たれた一方通行はすぐに能力を復旧させる。

その時、電撃が放たれた方向から御坂の声が聞こえた。

御坂「当麻を―――!!!!」
電撃を放ったのは彼女だ。
一方通行と上条の戦いを目の当たりにし、自分の電撃では上条には到底効果が無いのを知った。

だがそれが逆に彼女が電撃を上条に直撃させる勇気を与えた。


一方「あァ―――」

地球の自転ベクトルを捕え、右手に集める。

一方「任せろ―――」


一方「俺が―――起こしてやンぜ―――」


そして上条の顔面へ―――。


あの日、上条が一方通行の目を覚まさせた時のように―――。


今度は一方通行が右の拳を叩き込む―――。


―――

688: SSまとめマン 2010/04/09(金) 00:14:48.67 ID:Sr.H6fA0
―――


佐天「……は?」

禁書「……」

二人はさっきと同じ地下駐車場に立っていた。
ひしゃげたトラック、大きく崩壊し穴が開いている天井。

だが人間は誰一人いなかった。

周囲には二人以外誰もいない。
人の気配が全く無い。

佐天「…皆…は?…あれれ?」
佐天が状況を掴めずにキョロキョロする。

禁書「…これは…」
インデックスが何かに気付いたように声をあげた。

佐天「な、何…?」

禁書「…よくまわりを見てみるんだよ」

佐天「?」
インデックスに促され周囲を改めて見回す。

689: SSまとめマン 2010/04/09(金) 00:18:50.63 ID:Sr.H6fA0
佐天「…別に何も…あれ………えぇ!!!」
佐天もその異常に気がついた。

全てが『左右反対』だったのだ。

トラックの配置、出入り口の位置、柱の並び、そして柱に刻印されている階数を表す数字。

佐天「な、何これ!!!」

インデックスが屈み、足元の小さな瓦礫を手に取る。
するとその数秒後にその瓦礫が消え、同時に元にあった場所に『現れた』。

元の位置に戻ったのである。

禁書「…鏡の世界……『ゲヘナの鏡』……」

ここは鏡の世界。表の世界のコピー。

瓦礫が元の位置に戻ったのもそのせいだ。
表の世界の位置にあわせて修正されたのだ。

禁書「……まずいんだよ…」

ゲヘナの鏡だとすると。
ここは『牢獄』。

つまり―――。


その時、どこからかまるで地の底から響くような何かの咆哮が聞こえた。

690: SSまとめマン 2010/04/09(金) 00:22:15.00 ID:Sr.H6fA0
佐天「ひゃッ……な、何よぅ今の…!!!」

禁書「……あぅ…」

続けて何かを引きずるような音と、重い何者かの足音が聞こえてきた。
徐々に近付いてくる。

佐天「な、何…!!!何よ…!!!」

禁書「静かにするんだよ……こっちに…」
インデックスが佐天の手を掴み、小走りで潰れたトラックの陰に連れて行った。

禁書「隠れるの…静かに…」

佐天「へ……う、うん…」
足音と何かを引きずる音が更に近付いてくる。もうこの地下駐車場内にその何かがいる。

二人はトラックの影に屈み、息を殺して身を潜める。

佐天「…ふ、ふぇぇぇぇ…」
極度の緊張で佐天の気分が悪くなってきた。

禁書「シーッ……」

あの音の主は確実に悪魔だ。
それも魔界において『罪人』の烙印を押された悪魔。

あまりにも危険すぎる。

禁書「(…ど、どうすれば…)」

このままではいずれ見つかる。


691: SSまとめマン 2010/04/09(金) 00:24:48.19 ID:Sr.H6fA0
音の主が更に近付いてくる。

このまま進んできたらトラックの影に隠れている二人から見える位置を通りそうだ。

禁書「目を覆って。見ちゃダメなんだよ」

佐天「…へぁ?」

禁書「早く」

佐天「う、うん」
佐天は理由を聞かず言われるがままに目を両手で覆った。

その数秒後。

禁書「…!!」

二人の位置からその音の主が見えた。

体高は2m程。黒い肌に山羊の頭に巨大な角。
ゴートリングだ。

だがその背は老人のように曲がり、口からはだらしなく舌が出ていた。
体が傾いており、まるで片足を引きずっているかのように歩いている。
体表の所々が焼け爛れているかのようにグロテクスなっていた。

禁書「…ッ!!!」

通常のゴートリングの禍々しくも神々しい威厳溢れる佇まいは欠片も無かった。

693: SSまとめマン 2010/04/09(金) 00:28:06.14 ID:Sr.H6fA0
人間と違い、悪魔の外見はその者の精神的な面や魂の性質に大きく影響され変化する事がある。

この罪人のゴートリングも、元は神々しく威厳が溢れていただろう。
だがこの牢獄に長きに渡って閉じ込められ、その精神は完全に破壊されてしまったのだ。

高等悪魔のゴートリングの知性や精神レベルは人間のそれよりもかなり高い。
だがあのゴートリングにはその欠片すら見えない。

今は殺戮と破壊を貪るタダの『獣』だ。

禁書「…」
ジリッと肌が焼け付くような悪寒。

あの姿になっても未だに圧倒的な力は健在のようだ。
むしろそれだけしかないと言っても良いだろう。

その悪魔が歩き進み、全身が見える。
そして右手で引きずっていた物も。

禁書「…ッ!!!」

それは戦闘服を履いた人間の下半身だった。
インデックス達の少し前に鏡の世界に吸い込まれた兵の成れの果てだ。

佐天「……な、何……??」

禁書「だめ…絶対に見ないで…」
佐天のような一般人には見せてはいけない。
悪魔に何度も触れているインデックスとは違う。

しかも相手は高等悪魔のゴートリングだ。
初めて目にすれば精神が不安定になりパニックになりかねない。

695: SSまとめマン 2010/04/09(金) 00:30:33.89 ID:Sr.H6fA0
ゴートリングが床に屈み四つんばいになった。
なにやら床に鼻先を近づけている。匂いを嗅いでいる様な動作だ。

そこは先ほどインデックスと佐天が立っていた場所。

禁書「(…まずいんだよ…!!!!)」

ゴートリングが顔を上げた。

その目が。

真っ直ぐとインデックス達の方へ向いていた。

禁書「(―――!!!)」

次の瞬間醜いゴートリングが凄まじい咆哮を挙げた。
建物全体が振動する。

佐天「ひぁ―――」
その拍子で顔を覆っていた手を外してしまった。

禁書「だ、だめ―――!!」

そして佐天は見てしまった。


佐天「―――」


その悪魔の姿を。

彼女も遂にその『世界』を見知ってしまった。

698: SSまとめマン 2010/04/09(金) 00:40:24.91 ID:Sr.H6fA0
佐天「あぁああああ―――」
頭の中が真っ白になる。何も考えられなくなる。

残る感情はただ一つ、本能的な恐怖。
だがその恐怖に埋もれそうになったところを小さな温もりが引き止めた。

禁書「大丈夫!!私がここにいるから!!」
インデックスが佐天の手を固く握っていた。

佐天「ああ……ああああ…」
佐天がその手を握り返す。

禁書「行くよ!!!」
もうあのゴートリングは二人の位置を把握した。逃げるしかない。

どこまでこの命を永らえさせることができるか。
恐らくもって数十秒だろう。
だがそれでもインデックスには諦める気が無かった。

禁書「(とうまなら―――)」
上条なら絶対に諦めない。
こんなところで彼女が諦めてしまったらどうする。

佐天の手を強く引っ張り一気に駆け出す。

そしてゴートリングの反対側へ走り、トラックの間から抜け出す。
次の瞬間轟音を響かせて背後のトラックが何かによって叩き潰された。

その衝撃で二人が転ぶ。

禁書「うぅ!!!」

佐天「あぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

無残な姿になったトラックの上にゴートリングが二人を見下ろしながら立っていた。

だらしなく半開きになっている口から、涎のような黒い液体が糸を引いて落ちる。

699: SSまとめマン 2010/04/09(金) 00:45:05.90 ID:Sr.H6fA0
禁書「うううう!!!!」
インデックスが佐天を庇うかのように覆いかぶさる。
無駄だとはわかっている。

だがそれでも体が佐天を守ろうと動いた。

まるで上条のように。

無駄とでも言いたそうにゴートリングが不気味な笑い声をあげた。

そして二人に飛び掛った。

二人の少女は目を瞑った。

次の瞬間、凄まじい衝突音が響く。

だが二人の上に『死』は来なかった。
インデックスが恐る恐る目を開ける。

禁書「―――」

すると目の前には。

巨大な金属のケースを背負った、青いコートに銀髪の男の後姿。
その少し前の床にペシャンコになったゴートリングがめり込んでいた。

ネロ「いつもギリギリでワリィな」
その背中から救いの声。

禁書「ど、どうしてあなたもここに!!!??何で!!!」

700: SSまとめマン 2010/04/09(金) 00:47:11.88 ID:Sr.H6fA0
禁書「な、何で!!!?」
助けてくれたのは嬉しい。

だが何でこの鏡の世界に。
ネロなら鏡の世界に囚われるどころか易々とシェオルを打ち破れるはずだ。

ネロが振り向く。
ネロ「アンタ等が入っちまったからじゃねえか」

佐天「へぁ……ネロ…さん…?」

禁書「私達の為に…!!!?」

ネロ「うるせぇ黙れ」

禁書「……うぅ…た、確かに私が重要なのは知ってるけど…」

禁書「……で、でもそれよりもあなたの方が…!!」
スパーダの一族の一人と魔剣『スパーダ』が無くなるなど人間界を越えた問題になる。

ネロ「ハッ」
ネロは軽く鼻で笑った。


ネロ「生憎―――オンナを捨てれる程の『度胸』は無ぇんだ」


周囲に大量の黒い円が浮かび上がる。


ネロ「それに―――」

ネロが心底楽しそうな笑みを浮かべた。


ネロ「―――こんな楽しそうな『パーティ』を欠席する気もねえよ」


―――

701: SSまとめマン 2010/04/09(金) 00:49:11.91 ID:Sr.H6fA0
今日はここまで
明日も今日と同じ時間辺りからの予定ですが、遅くなるかもしれません。

713: SSまとめマン 2010/04/09(金) 23:40:14.80 ID:Sr.H6fA0
>>708
朝は強い方ですので大丈夫です。

>>709
すいません。どうみても完全に紺です。ごめんなさい。

>>711
4においてネロは、ダンテから見れば「どことなくバージルと重なる」という位置ですので、
自分としては兄貴と少し被っても良いかなと思っています。

ただ兄貴が凍るような青に対して、
ネロは黒っぽく、かつ僅かに赤みがかかった深い紺色というのが自分の中でのイメージです。

714: SSまとめマン 2010/04/09(金) 23:41:57.44 ID:Sr.H6fA0
―――

黒子と初春とある路上にいた。

テロリストが大きなデパートに立てこもるという大事件が発生し、
ありったけのアンチスキルとジャッジメントが現場にまわされた。

当然黒子と初春も向かった。

付近一帯を封鎖し上からの指示待ちで待機していたが、突如デパートの西棟続けてすぐに東棟が大きく揺れ、
窓が割れ爆発したかのように粉塵が噴き出した。

周りは大騒ぎとなった。
爆発物が大量にある可能性が高いと判断し、アンチスキルとジャッジメントは半径1kmの民間人全員を避難させた。


ジャッジメントはその外円部の封鎖を任されていた。


黒子「…初春。何か情報は?」

初春「…い、いえまだ何も…」

この位置からでも遠くに現場のデパートが見える。
そしてこの距離からでも地響きが伝わってくる。
先ほどよりも更に激しくなっている。

まるで爆弾が連続して炸裂しているかのように外壁が飛び散り、そのたびに巨大な粉煙が噴き出している。

715: SSまとめマン 2010/04/09(金) 23:46:11.54 ID:Sr.H6fA0
本部は内部で高位の能力者同士が戦っていると予想した。
まあ大体はあっているだろう。

『大体』はだ。

黒子の考えは少し違う。

西棟の屋根から飛び出し、天を貫いた青い光の柱。
能力でもああいう現象を起こすのはあるかもしれない。

だが黒子はあの光は能力によるものとは思えなかった。
何となく匂う。

二ヶ月前に知り、足を踏み入れたあの『世界』の力。

黒子「(…また…ですの…)」
黒子としては封鎖半径を3kmくらいにしたい気分だ。
いや、それだけでも足らないだろう。

三日前の事件でさえ、長さ数kmに渡る地下駐機場が全壊した。
二ヶ月前なんかは学園都市全体だ。

とにかく『外』の何も知らない人々をあの『世界』からできるだけ遠ざけたかった。

黒子「…チッ…」

封鎖バリケードギリギリまで近寄って集って来ている野次馬達を見て舌を鳴らす。

来ないでくださいまし!!!!さっさと消えますの!!!!と叫びたい気分だった。

716: SSまとめマン 2010/04/09(金) 23:48:17.47 ID:Sr.H6fA0
初春「きっと…人質の皆さんは助かります」
苛立つ黒子を見て初春が声をかけた。

黒子「…そう…ですの」
心ここにあらずといった感じで返事をする。

ここにいる野次馬達でさえ、黒子の経験上かなり危険だ。
次の瞬間死んでいてもおかしくないのだ。

あの現場にいる人質はどうなってしまうのだろうか。

黒子「………」
考えたくも無かった。
ぼんやりと煙の上がっている現場の二つのビルを眺める。

その時一際大きな地響き。
同時に西棟の五階から白い光が溢れ、そこから上階が全て吹き飛び爆散した。


黒子「―――!!!」

続けて西棟から300m程離れた場所に、巨大な粉塵が周囲のビルを巻き込んで噴きあがった。

初春「…ひゃぁ…!!!!」

黒子「伏せて!!!!!!」
黒子が腹に力をこめて思いっきり叫んだ。

その数秒後、鼓膜が破れそうな程の爆音と衝撃波が押し寄せてきた。

717: SSまとめマン 2010/04/09(金) 23:52:32.42 ID:Sr.H6fA0
距離があった為、人が薙ぎ倒される程の強さではなかったが、
それでも優しい物ではなかった。

黒子「初春!!!!」

初春「あぅぅぅぅ…」

黒子「大丈夫!!!?」

初春「は、はい…」

黒子は思った。

ほらですの と。
あの手の力のから逃れるには1km程度じゃ全然足らないと。

その時。

黒子「―――」
慌てふためく雑踏の中に黒子は見た。

銀髪に赤いコートの男が―――

ニヤけながら立っていた―――。


黒子「―――ッ」

だが次の瞬間その姿は消えていた。
見間違いだったのか。

それとも。

―――

718: SSまとめマン 2010/04/09(金) 23:56:55.38 ID:Sr.H6fA0
―――

東棟三階。

天井と階上が完全に消え、青空が広がっていた。

一方「……」
一方通行は険しい顔のまま、その廃墟と貸したビルの上から300m程離れた場所の街を眺めていた。
粉塵でその中心地が見えない。

あの右の拳はキレイに直撃した。
その余波でビルの上半分が完全に吹き飛び、弾き飛ばされた上条の体は300m離れた場所の街に叩き込まれた。

上条は死んではいない。

直撃の瞬間に感じた。
上条の体が更に輝き、例の悪魔的な力が増幅されたのを。

そしてあのパンチを食らっても体が吹き飛ぶどころか顎が砕けもしなかった。

まるで能力オフのまま殴ったような光景だった。
口の中が切れているだろう。だがおそらく傷はそれだけだ。

それに一方通行のこの拳に比べたらあの叩き込まれた街などクッションみたいな物だ。

ほぼ無傷だろう。


一方「……」
その恐ろしいまでの頑丈さを目の当たりにし、少しショックを受けたもののそれはバージルで経験済みだ。
それよりも上条の体が完全に破壊されなかった事に安堵していた。

だがその一方で。

果たしてその『程度』であの上条の目を覚まさせることができたのか。

719: SSまとめマン 2010/04/10(土) 00:02:42.82 ID:A4YykO.0
御坂「ねぇ…」
御坂がその一方通行の背中に声を飛ばした。

御坂の周りの床だけはキレイに円形に残っていた。
一方通行がベクトル操作で彼女を衝突の激流から守ったのだ。

一方「あァ…?」
一方通行は振り返らずに返事をする。

御坂「………」
御坂は言葉を続けなかった。


だが一方通行は彼女の考えてる事がわかっていた。
そして言葉を返す。

一方「……任せろ」


一方「ぜッてェ連れ戻す」


御坂「……うん」


そして一方通行は跳ね、
ベクトル操作で一気に加速させその上条の落下地点へ向かった。
御坂はその背中を静かに見送った。

御坂「…お願い…」

720: SSまとめマン 2010/04/10(土) 00:05:05.08 ID:A4YykO.0
一方通行が目的地に降り立つ。

一方「……」
ベクトル操作で辺りを包んでいる粉塵を払いのけた。

辺りの姿が露になった。
上条の落下によって生じた直径50m程のクレーター。
その周囲の崩れたビルと瓦礫の山。

そしてクレーターの中央に立っている上条。
その目は相変わらず赤く輝いていた。

一方「……チッ…やッぱりなァ…」

どうやらあの一撃でも『上条当麻』には届かなかったらしい。

一方「(……どォすンだ…どォすりゃァ…?)」

先ほど御坂に任せろと言ったが、
どうやって上条の目を覚まさせるのか方法は考えていなかった。
あの一方通行の攻撃で上条は更に力を強めたらしい。

今の状態では手足をもぎ取る戦法は厳しいだろう。

一方「(……クソ…)」

ならばどうする。
方法は何も思いつかなかった。

721: SSまとめマン 2010/04/10(土) 00:08:56.00 ID:A4YykO.0
一方「……あァ?」
一方通行はその上条の異変に気付いた。

上条の左手と両足が白く輝き始める。
そしてその光がまるで立体映像のように何かを浮かび上がらせた。

篭手と脛当て。

その半透明の光り輝く装具が少年の左手と両足に現れた。

それはその力の『母体』とそっくりだった。


ベオウルフ。


遂に上条はその『心臓』が持つ力の本来の領域に達した。

一方「…オィ……ンだそりゃァ…!!!」
上条から放たれる威圧感が更に強まった。

上条が調子を確かめるように足踏みをし、左手を握ったり開いたりする。
そのたびに篭手と脛当てが眩い白い光を放つ。

そして一方通行へ目を向けて不気味に笑った。

723: SSまとめマン 2010/04/10(土) 00:15:55.15 ID:A4YykO.0
上条は笑いながら左拳を握り天に掲げ、

一方「あァ…?」

そして瓦割りでもするかのように真下に拳を放った。

次の瞬間大地が揺れ、その上条の拳を中心として巨大な亀裂が四方に走った。
その亀裂の長さは300mにも達した。そして亀裂の間から一瞬だけ白い光が溢れ。

一帯の地面が爆発するように粉々になって真上に吹き飛んだ。

白い光が周囲を包む。


一方「―――!!!!!!」
咄嗟に後方に体を飛ばしその光の嵐から脱出する。

だが次の瞬間。

一方「―――なッ」

腰を低く落として身構えている上条が目の前に。


一方「オァァァァ―――!!!!!」

一方通行は瞬時に体を横に移動させる。
その瞬間、僅かに遅れてわき腹の30cm右側の空間を上条の左手が貫いた。

一方「ぐォ…!!!!」
かわしたはずなのにわき腹に激痛が押し寄せる。

724: SSまとめマン 2010/04/10(土) 00:18:37.71 ID:A4YykO.0
一方通行は瞬時に周囲の地面をベクトル操作で吹き飛ばして上条に牽制し、
その隙に自らの体も飛ばして50m程距離を開ける。

一方「クソ…!!!」
着地し、わき腹を見る。
うっすらと血が服に滲んでいた。

もし直撃したら。
物理的な部分は反射できるかもしれない。

しかし。

一方「(……ッ!!!)」

バージルに比べたら上条は遅いしその攻撃の破壊力も微々たるものだが、それでも今のはギリギリだった。

このままでは必ず負ける。

そして殺される。

だがここでただ死ぬ訳には行かないのだ。

725: SSまとめマン 2010/04/10(土) 00:19:55.25 ID:A4YykO.0
依然上条の目を覚まさせる方法は思いつかない。
だがここで戦うのを辞めたら。
ここで一方通行が死んでしまったら。

もう後が無い。

上条の無差別の殺意が学園都市へ解き放たれる。

そしてダンテ達に気付かれたら。
いや、もう気付かれているかもしれない。

今すぐにでも乱入してきて上条を殺してしまうかもしれない。

一方通行が今戦うしかないのだ。

学園都市を。

あの小さな少女の生きる世界を守る為に。

上条を救うために。

今、一方通行が上条の全て受け止めるしかないのだ。



もっと力が必要だ。

一方「(―――こォなったら―――アレを)」

726: SSまとめマン 2010/04/10(土) 00:24:04.87 ID:A4YykO.0
上条がゆらりと一方通行の方へ向く。

一方通行は深呼吸して精神を落ち着かせ、集中する。

そして二ヶ月前の感覚を思い出す。
あの黒い翼を自在に操った時の感覚。

あの時と同じ黒曜石のような洗練された翼程の物は使えないのは知っている。

だが今なら。
あの時の感覚を思い出せば。

あの時の物に近い、
二ヶ月前までの雑な黒いざわついた翼以上の物を出せるはずだ。

一方「……」

感情を暴走させずに。
己の意思で。

平常の意識下で冷静に使えるはずだ。

上条が一方通行の方へ一歩、また一歩と揺れながら近付いてくる。

728: SSまとめマン 2010/04/10(土) 00:28:42.30 ID:A4YykO.0
一方「(……そォだ…)」
背中の辺りがざわついてくる。

力を感じる。
冷静なまま更に引き出す。

上条がゆっくりと腰を落とした。
一気に距離を詰める気だ。

一方「(……落ち着けェ…)」
自分に言い聞かせ、更に集中する。

上条が地面を蹴る。
その衝撃で砲弾が炸裂したかのように地面が抉れる。

一方「―――」

凄まじい速度で上条が突き進んでくる。
一瞬で一方通行の目の前に。

そして体を横に倒して駒のように回転し。

白く輝く脛当てが装着されている左足を一方通行目がけて縦に振り下ろした。

次の瞬間、大気が激しく振動し白い光の衝撃波が周囲を薙ぎ払った。

730: SSまとめマン 2010/04/10(土) 00:32:44.08 ID:A4YykO.0
だが上条のその蹴りは止められていた。

一方『オァ―――』


黒い棒状の物に。


一方『アアアアアアアアアア!!!!!!!』


一方通行の背中から長さ10m程の黒い『杭』が何本も生えていた。

あの二ヶ月前の黒曜石のような翼の足元にも及ばないだろうが、
それ以前の物と比べれば差は歴然だ。

今までのは無駄に長く巨大で肥大化した翼だった。
それをコンパクトに、かつ力を凝縮させ安定させたのが今の杭だ。
一点の破壊力は今までの雑な翼の数倍だ。

一方『ガァァァァァァァ!!!』
杭を大きく振り上条の足を弾く。


上条は一方通行から20m程の場所に着地した。

一方通行は残りの杭を上条へ向けて音速の数十倍もの速度で突き出す。

731: SSまとめマン 2010/04/10(土) 00:35:47.14 ID:A4YykO.0
一方『オァアアアアア!!!!!!』

黒い杭を音速の数十倍もの速度で繰り出していく。
無数の黒い杭が周囲を行きかい、地面や瓦礫の山へ突き刺さり抉られていく。

だが上条はその乱撃の網をトリッキーな動きで軽々と交わす。
死角からの攻撃も全ていなされかわされ当たらない。

左手や足で強烈な攻撃を繰り出して杭を弾く。
そのたびに上条の手足から白い光が溢れ、その光の衝撃波が一方通行の黒い杭の衝撃波を合わさり渦となる。

そして右手で杭を掴み破壊する。
右手に触れられた黒い杭は僅かな時間を置いて砕け散る。

どうやらこの強大な力が篭められている杭を、
完全に処理しきるには少し時間がかかるらしかった。

だがそれは今は問題ではない。

問題は今の攻撃でさえあっさりとかわされているという事だ。

一方『(クソッ……!!!!!)』

完全に見切られている。


732: SSまとめマン 2010/04/10(土) 00:39:22.20 ID:A4YykO.0
一方『ァアアアアアアアア!!!!』
攻撃の手を休めずに更に激しく速く振るう。

一瞬負荷で頭が痛んだが、それでも更に強く速く。

もっと速く。

もっと強く。

そして一本の杭が。
上条の顔面へ直撃した。

顔の左側半分を抉った。

一方『―――!!』
一瞬やってしまった と思ったがその心配は無用だった。
残った右目が真っ直ぐと一方通行を見据えていた。

そして上条は左拳を握り杭の間を掻い潜って一気に踏み込み。

一方通行の顔面へお返しとばかりに振るった。

一方『ッアァ―――!!』
咄嗟に四本の杭を顔の前に交差させ盾を作る。

その盾に上条の左拳が叩き込まれた。

金属が激しく衝突するような轟音が響く。

734: SSまとめマン 2010/04/10(土) 00:45:18.58 ID:A4YykO.0
>>733 一時前後くらいに終わります。

一方『ぐッッッ―――!!!』

杭の盾が大きく歪む。
だがその拳はそこで止まった。

何とか防ぎきった。

すかさずその盾の杭を上条の左手へ巻きつける。

一方『オオオオオオ!!!!』
そして残りの杭をねじり合わせて大きな1本に集約し、上条目がけて突き出す。

上条も右足で大きく蹴り上げてくる。

莫大な力同士が衝突する。
白く光る足と漆黒の杭が正面から激突する。

その衝突点を中心として半径200mの物全てが粉砕され吹き飛んだ。

735: SSまとめマン 2010/04/10(土) 00:48:37.89 ID:A4YykO.0
お互いが弾かれ後方へ吹っ飛ばされる。

一方『―――ッ!!!』
能力を使いブレーキをかけて静止する。


上条も地面に左腕を付きたて、乱暴にブレーキをかける。
彼の腕が地面を抉り、長さ30m程の筋を刻んでようやく止まった。

一方『ハッ…ghaiik……とンでもねェ野郎だぜ…』
自分の背中から伸びている黒い杭を見る。
数本の杭が大きくひん曲がっていた。

一方『…』
そして100m程前方にいる上条を見る。

上条の右足の半透明の脛当てが大きく歪んでいた。

ちょうど互角といったところか。
いや、上条の方がやや強い。
そしてこれが果たして全力なのかどうかわからない。

一方「………強すぎンぞテメェ…」

曲がっていた杭を修復する。
それと同じように上条の右足の脛当ても元の形に戻っていく。

736: SSまとめマン 2010/04/10(土) 00:50:54.10 ID:A4YykO.0
一方『…チッ…』
一方通行は焦り始める。

いつまでも戦って入られない。
時間が経つにつれダンテ達が乱入してくる可能性も高くなる。

それにこの黒い杭も。

今でもしきりに頭の中が痛む。
明らかにかなりの負荷がかかっている。

気を緩めてしまうとこの杭が肥大化して以前の雑な翼に戻ってしまいそうだ。

それどころか消えてしまうかもしれない。

だがこの戦いを終わらす方法が見つからない。

一方『(……クソ…どォすりゃァ良いンだチクショウ…)』

737: SSまとめマン 2010/04/10(土) 00:52:00.20 ID:A4YykO.0
どうやって彼を救うのか。

どうやれば救えるのか。

一方『(おィ―――)』

もし逆の立場だったら。

一方『(―――教えてくれよ)』

上条はどうしたのだろうか。


一方『(―――テメェならどォすンだ?)』


終わりが一方通行には見えなかった。

『救える』結末など。

738: SSまとめマン 2010/04/10(土) 00:54:38.90 ID:A4YykO.0
上条が右手を虚ろな赤い目で見て、何やら頭を傾げている。

一方『(なンだッてンだ……?)』
嫌な予感がする。
まさかまだ『隠し玉』があるのか。


上条『ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!』
上条が右手を押さえながら突如咆哮を上げた。


一方『―――』

一方通行のその予感は的中した。


次の瞬間。


上条の右手に重なるように。


半透明の巨大な『竜の頭』が出現した。


―――『竜王の顎』が。

―――

739: SSまとめマン 2010/04/10(土) 00:56:01.01 ID:A4YykO.0
今日はここまで。
明日は夜八時くらいからです。
明日中に今回の話は終われるかも。

747: SSまとめマン 2010/04/10(土) 21:37:35.58 ID:A4YykO.0
―――

さかのぼる事数分前。


鏡の世界。

周囲に黒い円が浮かび上がる。


ネロ「おでましか」

ネロが背中の巨大な金属ケースを乱暴に足元の床に投げ落とした。
その拍子でケースが大きく開く。

すると同時に巨大な赤い大剣レッドクイーンが跳ねるように飛び出し、
まるで磁石に吸い寄せられたかのようにネロの手におさまった。

ネロ「動くなよ」
レッドクイーンのアクセルを吹かしながら背後のインデックスと佐天に声を飛ばす。
赤い大剣からエンジンの駆動音のような音と共に炎が噴き出す。

インデックス「う、うん!!!」
佐天に覆いかぶさるような姿勢のインデックスが返事をする。

その腕の中で佐天が縮こまっていた。

佐天「ひぁああ……うぅうう…」

749: SSまとめマン 2010/04/10(土) 21:42:55.86 ID:A4YykO.0
周囲の黒い円から悪魔達が飛び出して来た。
ゴートリング・フロスト・アサルト等の成れの果ての醜い怪物達。

いや、元を特定できるだけマシだ。
元が何だったのかわからないほどに姿が崩れている者が大半だ。
肉が腐ったような異臭が充満する。

ネロ「……ひっでぇ匂いだな。たまには風呂入れよ」
ネロが顔を歪め、手で匂いを掃う。

それぞれが生理的に悪寒が走る粘ついた液体を撒き散らしながらネロに一斉に飛び掛った。


ネロ「Get out―――」

腰を屈めレッドクイーンを大きく引き。


ネロ「―――Here!!!!! Fuckin' Scums!!!!!!」


前方を横一線になぎ払う。

レッドクイーンから生じた剣撃と爆炎が複数の悪魔達をなぎ払い灰に変える。

750: SSまとめマン 2010/04/10(土) 21:46:12.74 ID:A4YykO.0
そして今度は右を向き、レッドクイーンを返して斜めに振り下ろす。
同時にデビルブリンガーを巨大化させ、左の方へ裏拳を放つ。

ネロ「Blast!!!!!!!」

巨大な青い拳がインデックス達の真上を通過して行き、
そのまま左側から迫ってきていた複数の悪魔達をぶっ飛ばした。

同時に振り下ろされたレッドクイーンが右側の悪魔達をなぎ払う。

衝撃波で床が捲りあがり、地下駐車場の柱が寸断される。
悪魔達の体が引き裂かれ、黒い腐った体液が飛び散る。

その飛沫の数滴がネロのコートにつく。

ネロ「あ~…きったねぇなクソ…」
ネロは右手でコートを摘み上げながら悪態を付いた。

そして周囲の悪魔達を睨む。

続々と現れてきて、三人を囲む数がどんどん増えてきている。
長き間牢獄として使われていたのだ。こちら側にいる悪魔達の数は相当なものだろう。

ネロ「汚しやがったなクソ野郎…」
長期戦になるだろう。
ゆっくり脱出策を考えられるのはもうしばらく先のようだ。

ネロ「?」

ふとネロは今切断した柱を見た。

その逆再生でもするかのように欠片が戻り、柱が一瞬で元の姿に戻った。

751: SSまとめマン 2010/04/10(土) 21:49:38.92 ID:A4YykO.0
ネロ「へぇ…」

ここは鏡の世界。表の世界のコピーだ。
いくら破壊しても表の世界に合わせて元に戻る。

つまり。

ネロ「ハッ!!!こいつは良いぜ!!!」

暴れ放題だ。
力を使い放題だ。

いくらこっちで暴れても人間界自体には負荷がかからない。

ネロ「来い!!!場所を移すぜ!!!」
ネロがインデックス達の方へ振り向き、二人を軽々と担ぎ上げた。

そしてそのまま真上へ飛び上がり、天井貫通して1階に行く。

禁書「わ!!!わぁ!!!!」

佐天「にゃああああああ!!!!!」

ネロ「黙ってろ!!!舌噛むぜ!!!」

1階に降り立つと今度は壁へ突進する。
後方からネロ達を悪魔達が追いかけて天井を突き破ってくる音。

ネロはそのまま壁をぶっ壊し、ビルの外へ出た。
そしてそのまま人影の無い街を突き進む。

752: SSまとめマン 2010/04/10(土) 21:53:33.23 ID:A4YykO.0
ネロはビルから200m程離れた路上で止まり、二人を降ろした。

ネロ「ここらでいいか」
周囲のビルは低く、見通しが良い。

『フルパワー』で薙ぎ払うには最適だ。

ネロ「…?」
ふと先ほどまでいたデパートを眺めてその惨状に気付いた。
東棟の上半分が無くなっていたのだ。

爆発でもしたかのような酷い有様だ。

ネロ「(『アレ』か…)」
もう一体いた、上条らしい悪魔。

それしか原因が浮かばない。

どうやら表の世界でも派手にやっているらしかった。

ネロ「(ゆっくりしてらんねぇな)」

753: SSまとめマン 2010/04/10(土) 21:55:30.91 ID:A4YykO.0
ネロはインデックスの前の地面にレッドクイーンを勢い良く突き立てた。

禁書「わわ!!!!」

ネロ「コレを核にしてトリッシュが作った防護壁を張れ」

禁書「へぁ?」


ネロ「『スパーダ』を使う」


禁書「―――」
インデックスも理解した。

二ヶ月前に、魔帝との戦いからの余波を防ぐ為にトリッシュが作った術式。
レッドクイーンを動力にしてそれを起動させインデックスと佐天を守れという事だ。

それが無ければ、『スパーダ』の余波で二人は一瞬で塵になってしまう。

禁書「う、うん!!!!わかったんだよ!!!」


ネロ『急げ。来たぜ』
目を赤く光らせながらネロが急かした。


デパートの方から黒い波のような物が押し寄せてくる。
悪魔達の群れだ。
そして周囲にも大量の黒い円が浮かび上がった。

754: SSまとめマン 2010/04/10(土) 21:58:56.90 ID:A4YykO.0
ネロ『まだか?』
三人を囲む悪魔達の群れの輪が凄まじい勢いでどんどん狭まってくる。

禁書「待って!!!もう少し…!!!」
レッドクイーンに触れながら頭の中の術式を整える。

ネロ『早くしろ』
ネロの体から青い光が溢れ出てくる。

悪魔達がもう目の前に迫る。

ネロ『まだか?!!』

禁書「うぅ…!!!!」

悪魔達との距離が20mを切った。

その時、インデックスと佐天を囲むように直系3m程の青い魔法陣が浮かび上がった。

禁書「良いんだよ!!!!!」


ネロ『Ha!!!!!Do it!!!!!』


その瞬間、青い光が周囲を包んだ。
光の衝撃波が周囲のビルを砕き、迫ってきていた悪魔達の群れを吹き飛ばした。

そして光がやみ。


魔剣『スパーダ』を持った魔人化したネロが現れた。

755: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:04:18.99 ID:A4YykO.0
二ヶ月前の覚醒で手に入れたネロ・アンジェロと瓜二つの姿。
そして左手には赤く輝く魔剣『スパーダ』。

ネロは全てを解き放った。

ネロ『Huuh............』
深く息を吐く。

二ヶ月前に完全に覚醒して以来、全てを解き放って魔人化したのは二回目だ。
つまり前回の魔帝戦以降一度も完全な魔人化はしていなかった。
ネロやダンテ、バージルクラスとなるとそう易々と人間界で魔人化する訳には行かないのである。

ましてや魔剣『スパーダ』を持った状態での完全解放など。

だがこの壊れることの無い鏡の世界では使い放題だ。

この世界は魔帝でさえ抜け出せないと言われている。
脱出の事を考えると色々と面倒だが、力を行使するには好都合だ。


ネロ『Ha......Hahahahaha!!!!!! Yeah!!!』


気分が良い。

あの二ヶ月前もそうだったが、今までの人生で味わってきたどの快楽よりも甘美だ。

最高に気持ち良い。

756: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:06:32.48 ID:A4YykO.0
ネロ『気を抜くんじゃねえぜ!!!』

禁書「う、うん!!!」
まだ戦闘が始まっていない今の段階でさえ防護壁にかなりの力がぶつかってきている。


一瞬でもこの防護壁を破れば二人の少女は瞬時に命を落とすだろう。


周囲の崩れたビルが逆再生でもしているかのように元に戻っていく。
それと同時に再び無数の悪魔達が群がってくる。

見えるだけで千はいるだろうか。
それも極一部だろう。

だがネロは一切動じない。

ネロ『OK、じゃあ「試して」みるか』

ネロは今、とある戦法を試そうとしている。

757: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:08:44.52 ID:A4YykO.0
前々から興味があった。

基本的にダンテやネロは、
一対一等の少数での悪魔とのでは剣に力を凝縮させ、
全ての破壊力が刃面に集中するようにしている。

だが今の相手は悪魔達の無数の群れ。

その莫大な力を圧縮せずに外に解き放てば、雑魚悪魔の群れなら一掃できるのではないか?

魔界の戦争では、高位の大悪魔が一振りで千や二千の雑魚悪魔を薙ぎ払う。

その戦場は人間界で例えるとまるで特大の水爆が何発も連続して炸裂するような光景になるらしい。

当然ネロにもできるはずだ。

その『魔界の戦争』の攻撃方法を真似ようという事である。

ここはいくらやっても壊れない世界。
実験にはおあつらえ向きだ。


ネロ『ハッハァ!!!派手に行こうじゃねえか!!!』

758: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:14:19.16 ID:A4YykO.0
ネロが魔剣『スパーダ』を大きく引き。

ネロ『B――――laaaaaaaaaaaaast!!!!!!!!』

そして横一線に振るう。

目の前の悪魔の群れを

その瞬間スパーダからとてつもなく巨大な赤い刃が300m以上も伸び、そして斬撃となって飛び全てを薙ぎ払った。

斬撃と衝撃波によってネロから前方の半円状の一帯が数kmに渡って吹き飛ぶ。
鏡の世界の学園都市の街並みが一瞬で砕け散り、更地と化す。

禁書「―――!!!」
そのあまりの破壊力にインデックスは目を丸くし硬直する。

前々からスパーダの一族の力は『人間界』そのものを破壊できるレベルというのは知っていた。

「人間界を破壊する」、「ムンドゥスやスパーダ等の頂点の悪魔達は「世界」そのものを崩壊させる力を持っている」
そう言葉ではわかっていたが、実際にその破壊の片鱗を具体的に目の当たりにするとやはり驚愕する。


「頂点の大悪魔達は人間が掲げる天使や神々を遥かに超えた力を持っている」、
「この斬撃は・あの攻撃は人間界を破壊させる力を持っている」、と頭では知っていてもいまいちピンとこない。


「では、その凄まじい攻撃が実際に『人間界向け』に行使されたらどうなるか」、
その答えを今インデックスは具体的に目の当たりにしていた。


このスパーダの一族や上位の大悪魔達が一体どれ程の力を持ち、どれ程人間とかけ離れた存在なのか。
改めてインデックスは知った。


759: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:19:03.15 ID:A4YykO.0
ネロ『Ha-ha!!!!!!』

今の一振りで千体以上の悪魔を一瞬で処理できた。
実験は成功だ。

『魔界の戦争』方式はうまく機能した。


更地になった街がすぐに元に戻っていく。

ネロ『ハッハァ!!!便利だぜ!!!人間界もこうだといいぜ全く!!!!』


悪魔達がまだまだ押し寄せてくる。

ネロ『ハハハ!!!良い度胸だ!!!!』

この鏡の世界にいる無数の罪人達がまるで明りに群がる虫のように集ってきているのだろう。



ネロ『もういっちょ行くぜ!!!もっとでけえのをよ!!!!』


ネロが再びスパーダを振う。


ネロ『Yeaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaahhhhh!!!!!!!!!』


更に力を篭め、かつ一切圧縮せずに。

761: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:22:32.77 ID:A4YykO.0
その瞬間、学園都市全体がネロを中心として消し飛ぶ。
まるで大きな隕石が衝突したかのような破壊。

大悪魔ならこの拡散された攻撃を受けても傷一つつかないだろう。

だが雑魚悪魔や脆い人間は一瞬で消し飛ぶ。


大地が抉れ、地殻ごと歪む。
学園都市は跡形も無く消え、半径数十キロがまっ平らの更地になった。
そしてその物質的な破壊以上にとてつもない力の負荷。

その攻撃に篭められていた力の総量は魔帝と戦った時の斬撃と同等だ。
それが無圧縮で拡散されて放たれればこうなる。

ネロ『あぁ?』

突如地震が起きたかのように大地が揺れ始め、周囲の景色に『ヒビ』が入る。
『景色』がガラスのように砕け落ちていく。

禁書「……!!」
この鏡の世界の『人間界』がネロと魔剣スパーダの力に耐えられずに崩壊を始めた。

762: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:24:45.12 ID:A4YykO.0
ネロ『………やべぇ…やりすぎたか?』

そう思ったのも束の間、
その景色の破片が逆再生されているかのように元の位置に戻り始める。

ネロ『……ハッ!!驚かすんじゃねえよ!!!』
どうやら鏡の世界内では人間界その物すら修復可能らしい。

禁書「…」
だがインデックスにとってはその事は大した問題でもなかった。
問題は実際にネロの力によって人間界が本当に崩壊しうるという事だ。

完全に力を解放したネロ・覚醒したスパーダによる、今の数回の攻撃が人間界の『器』が耐えられる限界点だ。

その圧倒的な力を直に目の当たりにし鳥肌が立った。

あの二ヶ月前の異世界での魔帝戦。
もしその余波が漏れていたら。

太古の昔、魔帝達は多くの世界を滅ぼしたという。
人間がそう聞いても、脳内にその映像は浮かびにくいし、現実としては受け入れにくい。
神話的・抽象的なイメージしか浮かばない。

だが今、目の前で『世界が崩壊する』のを擬似的にだが具体的に目の当たりにした。

禁書「…」

佐天は地面に顔を伏せてうずくまっている。
インデックスがそうさせたのだ。

悪魔の力をできるだけ見せないほうが良い。
それが頂点のクラスだと尚更だ。

763: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:26:45.63 ID:A4YykO.0
無数の黒い円が浮かび、理性を失った罪人の悪魔達が更地に次から次へと現れる。
人間界自体の土台は修復されるものの、あまりの破壊にビル等などの物質的な構造物の修復が追いつかない。


ネロ『Hahahahahaha!!!!!!! So fuckin' sweet!!!!!!!!!!! Sweeeeeeeeeeeet!!!!!!!!!!!!!!!』


恐らくダンテですら味わったことの無い大規模な力の行使でネロは最高にハイになっていた。
まるで子供のようにはしゃぎ、歓喜の声を上げながら何度もスパーダを振るう。

力を一切圧縮せずに。
そのたびに無数の悪魔達が一瞬で消し飛び、平らになっている更地を数十kmに渡って更に削っていく。


ネロ『Hooooooooooooo!!!!!! Craaaaaaaaazy!!!!!! Huuuuuuuuuuuuuuuuuaaaaaaa!!!!!!!!』

もうしばらくしたら終わるだろう。
太古の昔から溜まり続けていた罪人達のストックもこのペースで行けば時期に切れるはずだ。

禁書「……うぅ」
今のネロにはとてもじゃないが声をかけづらい。

だんだんエスカレートしていき、更に破壊力が高まっていく。

もし二千年前にスパーダが人間側につかなかったら。
寝返ることなくスパーダが人間界を攻めていたら。
当然人間はあっさりと絶滅し、人間界は跡形も無く消滅だ。

その有り得たかもしれない『if』の未来を思い浮かべるとゾッとする。


ネロ『Yes!!!!! Yeeeeeeees!!!!!!!! Yeaaaaaaaaaaahhhhhahahahah!!!!!!!』



―――

766: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:37:24.39 ID:A4YykO.0
―――


ダンテは崩れかけているビルの上にいた。

ダンテ「へぇ…」
1km程先の瓦礫の山の間で戦う二人の少年。

凄まじい閃光とともに地響きが連続して聞こえてくる。

ダンテ「随分とはえぇじゃねえか…」

上条当麻。

インデックスと話し合ったさっきの今だ。

あの少年の悪魔化は予想以上のスピードだ。

いずれ何かの形で悪魔の力が発現すると予想はしていたが、それは10年20年のスケールだ。
まさかたった二ヶ月でここまでになるとは。

それも母体となったベオウルフの力を7割近くまで引き出すとは。

767: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:42:03.27 ID:A4YykO.0
ダンテ「…」

あのイマジンブレイカーという能力は前々から奇妙に感じていたが、今確信する。
あの少年は元から普通では無い。

ダンテ達と運命が交差する以前からあの体の中に異質な何かが宿っていたのだ。

恐らく二ヶ月前に一時的に悪魔に転生し、魔帝の力にあの右手で触れてしまい、
そして悪魔の心臓を手に入れたことで『何か』の歯車が動き始めたのだ。

すぐにあの場に行って直に見てみたいが、先客がいる。

あの白髪の少年の覚悟を決めた戦いに乱入するのも無粋だ。

人間が何かの為に命を賭して戦う姿は良いものだ。
見てて嬉しくなる。

乱入したいが、それ以上にあの覚悟に水を差すのは気が進まない。

ダンテ「ま、いいか…」
もう少し様子を見る事にした。

何かがあれば。

一方通行の手に負えない事態になったらダンテが行けばいい。

768: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:44:00.33 ID:A4YykO.0
今度はデパートの方へ目を向けた。

ダンテ「あっちは良いとしてよ……」

ダンテ「こっちのワルガキは何考えてやがんだ」

シェオルの件。

ネロがシェオルに取り込まれたのは知っている。
つまりシェオルを殺すわけには行かない。

ダンテ「ったくよ…」

先ほどダンテはトリッシュに連絡し、どうにかしてネロを救い出せる方法が無いか聞いた。
今はその答え待ちだ。

だがただ待っているのもヒマだ。

ダンテ「とりあえず…拝みにいくか」

シェオルを野放しにしとく訳にもいかない。



その時だった。

769: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:47:15.29 ID:A4YykO.0
ダンテ「―――」

妙な感覚。

まるで自分の『気配』が消されるような。

ダンテ「何だこりゃ―――」

自分の体から溢れていた悪魔の力が消えた。


ダンテ「―――」

目を赤く光らせ力を強めてみる。
いつもなら赤い光のもやが体を覆うはずだが。

今は何も出てこなかった。

体内の力には異常は無い。

だがその力が肌を越えて体外に出た途端に消えるのだ。

770: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:49:02.74 ID:A4YykO.0
ダンテ「―――へぇ」

更に力を強めると通常通り体から光が溢れた。

どうやら無条件で消えるわけではなく、消せる力の量の上限があるらしい。


ダンテ「こいつぁ―――」


この『消え方』に覚えがある。
彼が思い当たるのはタダ一つ。

ダンテは再び二人の少年の方へ目を向けた。
そして悪魔の目で見た。

上条の右手に重なるように竜の頭のような物が出現していた。


ダンテ「―――面白ぇ」

ダンテは不気味な笑みを浮かべた。


―――

771: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:50:54.03 ID:A4YykO.0
―――


『竜王の顎』が上条の右手に重なって出現する。
その瞬間、左手と両足の半透明のベオウルフの装具は消失した。

一方『―――』

そしてその装具と同じように。

一方通行の背中から伸びている黒い杭が風に吹かれたかのように消えた。

一方「―――なン―――」

体が急激に重くなる。

能力が発動しなくなったのだ。

そして。

何も考えられなくなった。

彼が失った脳の機能を補助していたミサカネットワークも消失したのだ。
この辺り一帯の能力が全て消された。

一方「あァ……がッ……」

一方通行は地面にうつ伏せに倒れこんだ。

773: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:53:17.09 ID:A4YykO.0
一方「おご…あァ……」
何も考えられない。

目が見えているのに。
音が聞こえているのに。

それを意識することができない。


一方「がッ………」

そして意識が遠のき始める。


だが。


一方通行の左手が腰の後ろの方へゆっくりと動いた。

意識したのではない。

自然に。

何かに突き動かされるように動いたのだ。

一方通行は腰から小さな拳銃を引き抜いた。

そして震えるその手で銃口を上条に向ける。

774: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:55:53.56 ID:A4YykO.0
もう何も考えていない。
生きているのか死んでいるのか。
これが現実なのか幻なのか。

「どっちなのか?」という疑問すら頭に浮かばない。

だが彼の体は動いた。

頭が機能停止していても。

魂は叫ぶ。

木原と戦った時と同じように。

魂に刻み込まれた闘争心が雄叫びをあげ体を突き動かす。

―――戦え と。

距離は100m。
いくら精度のいい学園都市の最新の拳銃でも、今の状態では当たらない可能性が高い。

だがそんなのを考える事すらできなかった。

一方「アアアアアア!!!!!!!」

咆哮をあげ。

無心で引き金を何度も引いた。

775: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:57:20.16 ID:A4YykO.0
乾いた銃声が連続して響く。

そして。

その内の一発が上条の腹部に命中した。


一方『―――』

一瞬だけ上条の体が僅かに跳ねるように揺れた。

上条がゆっくりと自らの腹に目を向けた。

シャツにどんぐり大の穴。

そしてそこがじんわりと赤く染まっていく。


一方『―――』

776: SSまとめマン 2010/04/10(土) 22:59:00.98 ID:A4YykO.0
上条が無表情のまま、自分の腹から流れ出る大量の血を眺めている。

次の瞬間。

上条がよろめき、そして膝をついた。

そして。

『竜王の顎』が風に吹かれたかのように消失した。



一方『―――オァアアアアアアアア!!!!!!』

同時にミサカネットワークが復旧し、一方通行の能力が再起動する。

意識が元の調子に戻る。

何本もの黒い杭が一気に背中から伸びる。

777: SSまとめマン 2010/04/10(土) 23:00:35.84 ID:A4YykO.0
一方『ファッ!!!!』
能力を使い一気に跳ね起きる。

そしてすかさず黒い杭を地面に膝を付いている上条へ突き出す。

一方『ラァアアアアアアアア!!!!!!!』

だが。

『竜王の顎』が消えたと同時に、再び上条の左手と両足に半透明の装具が出現した。

そして上条はその場で天を仰ぎ、

上条『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!』

咆哮をあげた。
その瞬間上条の体から光が溢れ、凄まじい爆発を起こした。

一方『―――ッ!!!!』

一方通行の黒い杭が弾かれ、大きくひん曲がる。

すぐに自分の前へ他の杭を集め盾を作り、その光の衝撃波を防いだ。

778: SSまとめマン 2010/04/10(土) 23:02:16.80 ID:A4YykO.0
光がやむ。

一方『―――』

100m前方の上条は何事も無く立っていた。
銃撃によって生じた腹の傷は跡形も無く消えていた。

一方『(―――何があッた)』

一方通行はついさっき見た記憶を思い起こす。
今はしっかりと分析ができる。

あの竜の頭らしきものが現れた瞬間、能力は全て消された。
一方で、上条の装具も消えた。

そしてその状態の時に撃ち込んだ銃弾は難なく上条の体を裂いた。

先程までの上条だったら傷一つつかないはずだ。
それどころか銃弾を易々を避けていたはずだ。

ではなぜ。

一方『(そォか―――)』

導き出される答えは一つ。


あの竜の頭が出ている時の上条の体は『人間レベル』だ。

779: SSまとめマン 2010/04/10(土) 23:04:19.27 ID:A4YykO.0
一方『ハハッ―――!!!!』

僅かに希望の光が差す。

一方『―――同時に使えねェッてのはありがてェぜ!!!!』

一方通行は笑った。勝算が見えたのだ。
どうにかして上条にあの竜の頭を使わしてその『人間』の状態のうちにぶっ飛ばして気絶させる。

あの竜の頭が出ている間は一方通行の体は鈍くなり、論理的思考もできない。

だが。

頭が止まってても体を突き動かす信念がある。

一方『行くぜェ!!!!!』

状況は悪化している。
だがその一方で微かな希望の道が見えた。



『能力者』である一方通行にとっての最大の脅威。


それが『人間』である一方通行
にとっての最大のチャンスとなる。


その小さな希望を掴み取るため。


一方通行は前へ進む。


―――

780: SSまとめマン 2010/04/10(土) 23:10:06.66 ID:A4YykO.0
―――



鏡の世界。
頭がイカれているさすがの罪人達もネロのあまりの力に恐怖して逃げてしまったのか、
ネロ達に群がってくる悪魔達はだいぶ減った。

鏡の世界の学園都市はゆっくりとその姿を修復している。

ネロ『もう終わりかよ。根性ねえな』
どれだけイカれていてもあんな物を見せられたら退くしかないだろう。

その時だった。

ネロ『…あ?』

周囲に立ち込めていた余波の力が消失した。

ネロ『なんだこれ…』
左手のスパーダを見る。

スパーダから伸びる赤い光の刃は未だに健在だが、ネロはかすかに感じた。
その光の刃が僅かづつ削り取られていくような感覚。

781: SSまとめマン 2010/04/10(土) 23:12:45.89 ID:A4YykO.0
その削り具合は気にしなくても良いレベルだが、それは問題ではない。

『スパーダ』の力を得体の知れない『何か』が削り取っているというのが問題なのだ。

莫大な力をぶつけて削るのならわかる。

だが、『これ』は違う。

まるで硫酸の霧の中に置いている様な感覚。

体内の力は全く異常ない。
だが肌や剣身から外に出た力が削られている。

ネロ『…』

禁書「ちょっ!!!ちょっとネロ!!!!!」

突如インデックスが慌てた声をあげた。

782: SSまとめマン 2010/04/10(土) 23:14:25.56 ID:A4YykO.0
ネロ『あぁ?』
ネロが振り向く。

すると。

インデックスと佐天を囲んでいる防護壁の魔法陣が、
まるでテレビの砂嵐のようなノイズでかき消されそうになっていた。

ネロ「―――ッ」
ネロがすぐに魔人化を解く。スパーダの光もおさまった。

その一瞬後に魔法陣が割れ、防護壁が消失した。

禁書「!!!!」

あと少しでもネロが魔人化を解くのが遅かったらインデックスと佐天はその圧力に潰されていただろう。

禁書「…これ…!!!」

なぜ魔法陣が壊れたのか。

ネロ「……」

二人ともこの現象に覚えがある。


『幻想殺し』だ。

783: SSまとめマン 2010/04/10(土) 23:17:13.55 ID:A4YykO.0
禁書「これ…とうまの…!!!!」

ネロ「……」

その時だった。

鏡の世界が大きく歪み始めた。
まるで蜃気楼のように景色がゆらめく。

禁書「…!!!」

佐天「へ……?」

ネロ「は…なるほどね」


なぜ幻想殺しの効果が全域に、そしてこの鏡の世界にまで到達しているかは分からないが、
どうやらあの力はこの世界にも効果があるらしい。


この鏡の世界が不安定になり始めた。

おそらくシェオル本体にも何らかの異常が起こったのだろう。

784: SSまとめマン 2010/04/10(土) 23:18:47.52 ID:A4YykO.0
ネロ「ここから出るしかねえ!」

禁書「!!!!」

ネロ「何かねえか!!」

禁書「え、えーっと!!!ちょ、ちょっと待って!!!」

ネロ「このまま『ここ』にいれば多分ヤバイぜ!」

このまま崩壊に巻き込まれれば。
一緒に消えてなくなるか、虚無の世界に放り出されて永遠に閉じ込められるのがオチだ。

ネロ「―――」
その時ネロは閃いた。

ここまで上条の力が到達していると言う事は。

向こうと繋がっている。

恐らくシェオルの入り口が開いている。

その穴を見つければ。

785: SSまとめマン 2010/04/10(土) 23:24:23.77 ID:A4YykO.0
ネロはスパーダを右手に収納し、地面に突き刺さっていたレッドクイーンを背中にかける。

そして二人を乱暴に担ぐ。

ネロ「来い!!!」

禁書「あぅ!!!」

佐天「ひゃああああ!!!!」

ネロは体から僅かに力を放出させる。
当然それは消された。

だがそのスピードに差があった。
消される速度が速い方向。

そっちからこの幻想殺しの力が流れてきているという事だ。

ネロ「行くぜ!!!掴まってな!!!!」

二人がネロのコートにしがみ付く。

ネロの発する力に二人の少女が晒されるが、今は辛抱してもらうしかない。

ネロが自らの感覚を頼りに突き進んでいく。

シェオルと繋がっている『入り口』へ。


―――

786: SSまとめマン 2010/04/10(土) 23:30:02.34 ID:A4YykO.0
―――


シェオルは地下駐車場にいた。
先ほどネロ達を吸い込んだ場所だ。

シェオルは移動できなかった。
いや、移動しようと思えばできるがそれどころじゃなかった。

己の鏡の入り口が『何か』によってかき回された。
今はその嵐は止んでいるものの、この短時間の間に大きく破壊された。

その奇妙な力が鏡の世界にも流れ込んでいったのだ。

シェオルは感じていた。
鏡の世界も不安定になり崩壊しかかっているのを。

シェオル『……!!!』

これは一体。

だが原因を探りに行く余裕すらなかった。

シェオル『ぐぉ…!!!』

力を安定させようとするので精一杯だ。

何とかして扉を閉じなければ。

あの男が出てきてしまう。

―――

787: SSまとめマン 2010/04/10(土) 23:34:06.94 ID:A4YykO.0
―――

ネロはインデックスと佐天を担ぎながら猛烈な速度で道路を走っていた。

あの幻想殺しの力はすぐに消えた。だが扉が閉じたわけではない。

ダンテや、その上条らしき悪魔の力を右手が感知している。
まだ繋がっている。

そしてそのおかげでより明確に入り口の位置がわかった。

その後ろを大量の悪魔達が追って来る。

どうやら彼等もこの世界が崩壊しつつあるのに気付いたのだ。

逃れようと出口に殺到してきているのだ。

悪魔の移動術の黒い円はこの世界が大きく歪み始めている為使えないのだろう。

皆猛烈な速度でがむしゃらに走ってくる。

788: SSまとめマン 2010/04/10(土) 23:36:07.02 ID:A4YykO.0
デパートの東棟の壁をブチ破り、屋内に侵入する。

すかさず今度は床を思いっきり踏みつける。
すると床が砕け、そのまま地下駐車場までぶち抜いた。

地下駐車場に降り立つ。

ネロ「OK!!!!」

そして見つけた。

黒い小さな楕円形の影が地下駐車場の中央に浮いていた。

ネロが突き進む。

後を追ってきていた悪魔達も同じように床に穴を開けて地下駐車場に侵入し、
その出口へ向けて突き進んだ。


ネロ「―――ちょっとやべぇな」

ネロは気付いた。

このままだとこの悪魔達も表の世界に飛び出す。
あのフォルトゥナで地獄門が開いた時のように大軍が学園都市に放出されてしまう。

789: SSまとめマン 2010/04/10(土) 23:42:19.16 ID:A4YykO.0
出た瞬間に入り口のシェオル自身を殺せばいいかもしれない。

だがやけくそになったシェオルがそのまま罪人達を解き放つかもしれない。
一瞬遅れればシェオルの周囲は大量の悪魔達で埋め尽くされる。
そうなれば最悪の事態だ。

ネロ「Shit―――!!!!!!!」

ネロは出口の目前で止まり二人を乱暴に降ろした。

禁書「わわ!!!」

佐天「うにゃあああ!!!!」

ネロ「行け!!!!」
ネロがレッドクイーンに手をかけ悪魔達の方へ向き仁王立ちする。

禁書「……!!!!」

ネロ「出たらすぐにここから離れろ!!!!」
ネロはギリギリまでこの悪魔達を抑え、そして崩壊の直前に脱出する気だ。

禁書「…で、でも!!!!」

悪魔達が飛び掛ってくる。


ネロ「Go Now!!!!!! Run!!!!」
ネロが叫びながらレッドクイーンで一気に薙ぎ払った。


禁書「―――う、うん!!!」
インデックスが佐天の手を取り出口に向かう。
その瞬間二人の体が残像を引き始める。

790: SSまとめマン 2010/04/10(土) 23:45:48.92 ID:A4YykO.0
ネロ「―――あぁそれと」
ネロが振り返る。


ネロ「上条はダンテに任せろ」


禁書「―――え?」
その言葉を聞いた瞬間インデックスの顔が固まった。

禁書「それってどういう―――」

だが聞き返す前にその姿は消えた。二人は表の世界に戻っていった。

ネロ「―――Ha」
そういえばまだインデックスには伝えてなかった。

ネロ「―――まぁなんとかなるか」
ネロが前を向く。
地下駐車場は大量の悪魔で覆い尽くされていた。

ネロ「OK―――」

挑発的な笑みを浮かべる。


ネロ「悪ぃな―――切符は残り一枚だ!!!」


ネロ「―――欲しけりゃ取りに来いや!!!」



ネロ「遊んでやるぜ!!!」

―――

791: SSまとめマン 2010/04/10(土) 23:54:19.29 ID:A4YykO.0
―――


禁書「あぅうう!!!!!」

佐天「うきゃああ!!!!」

二人は地面に叩きつけられた。

禁書「うぅ…」
地面に手を突き頭を上げる。
そこはさっきと同じ地下駐車場だった。

だが周囲には悪魔の姿は無い。

そして柱に刻印されている数字。
左右反転していなかった。

禁書「―――出たんだよ!!!!」

佐天「ふえ…ほぁ…?」
何がどうなっているのか理解していないであろう。

792: SSまとめマン 2010/04/10(土) 23:57:50.99 ID:A4YykO.0
その時インデックスは気配を感じた。

振り返り見上げると。

禁書「―――!!」

2mほどの場所に小さな鏡、シェオルが浮かんでいた。

インデックスは佐天の手を握り勢い良く立ち上がる。

禁書「行くんだよ!!!!!」
とにかく離れるのだ。

佐天「わぁ!!!!わああああ!!!!!」

幸いな事にシェオルは今それどころじゃないらしい。
二人を完全に無視していたようだ。

インデックスと佐天はとにかく走った。
地下駐車場の出口へ向かい、地上へ続いている傾斜路を走り抜ける。

793: SSまとめマン 2010/04/11(日) 00:01:40.12 ID:BPV9cRE0
外へ出てそのまま無我夢中でしばらく走り、二人は道路の真ん中で膝をついた。

禁書「……ふぁ…」

佐天「はぁはぁはぁ…」

心臓がマシンガンのように鼓動を打っている。
ここまで離れれば大丈夫だろう。

佐天「もう…終わった…の?」
佐天が安堵と不安が混ざった声でインデックスに聞いた。

禁書「……」
インデックスは答えなかった。

まだ終わってはいない。

ネロがまだ帰ってきていないしシェオルも生きている。
そしてネロが最後に放った言葉。

上条について。

794: SSまとめマン 2010/04/11(日) 00:04:03.26 ID:BPV9cRE0
その時、凄まじい轟音と地響きが起こった。

佐天「ひゃああああ……今度は何よ……」

インデックスはその轟音が来た方角を向いた。
300m程離れたところだろうか。

巨大な粉塵が上がっていた。

禁書「……とうま!!!!!」

インデックスが立ち上がり、その方角へ駆けて行く。

佐天「ちょ、ちょっと!!!!どこ行くの!!!!!」

禁書「あなたはここから離れるんだよ!!!!」
インデックスが走りながら佐天に叫んだ。

佐天「ま、待って!!!!!」

佐天「…ひ、一人にしないでよぉぉぉぉぉ!!!!!」

佐天も立ち上がり、インデックスの後を追って走っていった。



―――

795: SSまとめマン 2010/04/11(日) 00:08:16.39 ID:BPV9cRE0
―――


東棟三階。大きく崩れ、四階から上は消えていた。
天井は青空だ。

その崩れたビルの淵に御坂は立っていた。

そして死闘を繰り広げる二人の少年を涙が浮かんでいる瞳で見ていた。
両手を胸の前で固く握り締めている。

御坂「……ひぐっ……お願い…お願い…」

あの上条の姿から目を逸らしたかった。
だがそれでいて不安で不安で見ないではいられなかった。

御坂「……うぐ……えぐ…」

「あんま泣くと目が腫れるぜ?お嬢ちゃん」

その時だった。真横から聞き覚えのある声。

一度聞いたら絶対に忘れない声。

ダンテが彼女の横に立っていた。

796: SSまとめマン 2010/04/11(日) 00:12:28.08 ID:BPV9cRE0
御坂はダンテの方を向かないまま震える声を飛ばした。

御坂「…ど、どうなっちゃうの…ひぐッ…アイツ……」

ダンテ「心配すんな」
ダンテが特に緊張もしてない声を返した。

御坂「……アンタも…アンタも行ってよ!!!!」
御坂が今度はダンテの方を向き声を荒げる。

御坂「……アンタなら…アンタなら…!!!!」

ダンテ「そう焦んな。今はあのボーヤに任せようぜ」

御坂「……!!!!」


ダンテ「あいつならできる」
ダンテは断言した。

揺ぎ無い確信が篭っていた。

御坂「………?」

ダンテ「大丈夫だ」

798: SSまとめマン 2010/04/11(日) 00:16:32.39 ID:BPV9cRE0
ダンテが乱入しない理由は二つ。

一つ目はあの上条に余計な影響を与えないためだ。

今の上条が大悪魔クラスの力を持っている。
あれを抑えこむにはダンテもそれなりに力を解放しなければならない。

上条はダンテの莫大な力を浴びる事になる。

ここまで至った理由も考えると、必ず何らかの影響が上条に残る。

今は抑えこめても、後々に更に悪化するかもしれない。


そしてもう一つの理由。

それは一方通行の目。

覚悟を決めた、揺ぎ無い信念が篭った『人間』の瞳。

799: SSまとめマン 2010/04/11(日) 00:18:56.78 ID:BPV9cRE0
ダンテ「(良い目だ。痺れるぜ)」
ダンテは人間のそういう姿が大好きだ。

それでこそ人間だ。

『守り』甲斐がある。

どうしようもなくなった場合にダンテは行くつもりだ。
だがギリギリまで待つ。待っていたい。

『人間』と『悪魔』。

両者の間には到底越えられない壁が存在する。

だがその壁を越えて。

『悪魔』が『悪魔』を打ち倒すのではなく、


『人間の意思』が『悪魔』を打ち倒す。


それに意味があるのだ。


ダンテ「(―――やってみろ。ボーヤ)」


―――

801: SSまとめマン 2010/04/11(日) 00:22:35.96 ID:BPV9cRE0
―――

インデックスはその激しい爆音が響き続けている場所へ向かって走り続けていた。

禁書「はぁ―――はぁ―――」
心臓が今にも弾けそうだ。全身が脈打っているのがわかる。

頭が酸欠でざわつく。

だが彼女は速度を緩めることなく走り続ける。

途中で瓦礫に躓き激しく転ぶ。
膝がすりむけ、白い修道服に赤い染みが浮かび上がる。

それでもインデックスは止まらなかった。


立ち上る粉塵の中から見える白い光。


あの時の光と一緒だ。


二ヶ月前、ある少年がインデックスを救うために身に纏っていた光。

あの場所にいる。

インデックス「はぁっ―――はぁっ―――とうま―――」

―――

802: SSまとめマン 2010/04/11(日) 00:27:40.09 ID:BPV9cRE0
―――


一方『オァアアアアアアアア!!!!!!』
全力で黒い杭を上条に打ち込みながら突進する。

あの右手を恐れている『余裕』は無い。

とにかく猛攻撃を加え、能力を消さざるを得ない、
あの竜の頭を出さざるを得ない状況を作り出さなければ。

遠距離攻撃のみでは不可能だ。

右手をかわしつつ近距離戦で圧倒するしかない。

一方通行が凄まじい衝撃波を纏いながら突き進む。

そして両手に数本の杭を巻きつけ覆う。

近距離で叩き込むべく。


その時。

上条が軽く地面を蹴り、5m程真上に跳び足を畳んだ。

一方『―――!』

上条の体を光が覆う。

803: SSまとめマン 2010/04/11(日) 00:33:57.26 ID:BPV9cRE0
次の瞬間。

光の爆発と共に上条が一方通行へ『射出』された。

斜め上から。

光の筋を引きながら上条が飛び蹴りを放つ。

一方『ッ―――!!!』

瞬時に周囲に展開していた杭を全てからだの前に押し出して盾を作り、
さらにその後ろで黒い腕を交差して二重の防壁を作る。


その分厚い盾に。

上条の飛び蹴りが炸裂する。
金属音と爆音が混じり、光の洪水と共に一方通行の盾の黒い破片が散弾のように周囲に飛び散った。

一方『ッッッ!!!!』

一枚目の盾が砕かれる。
だが上条の蹴りは交差している一方通行の腕で止まった。

一方『ラァ!!!!』
手を一気に押し出してその足を弾く。

804: SSまとめマン 2010/04/11(日) 00:37:51.88 ID:BPV9cRE0
だが上条は後方には吹っ飛ばされなかった。

左腕を地面に突きたて、まるで崖にぶら下がっている姿勢を逆さまにしたような体勢で制止した。

そして足を返し、逆さまに『蹴り上げる』。
上条の光り輝く左足が一方通行の顔面へ向かう。

一方『―――』
体を捻り交わす。顔の真横を爆圧の塊が突き抜ける。頬に焼けるような痛みが走る。

だがその痛みを無視し、腰を落とし。

一方『オオオァ!!!!』

黒い杭が巻きついている左腕を逆さまに上条のがら空きの腹部に叩き込んだ。

だがそれは上条の右膝に止められた。

一方『チッ―――!!!』

上条が体を捻り、そして左腕で地面を『蹴り』、左足を振るう。

一方通行はそれを右手の肘で防ぐ。
長い針が突き刺さるような痛みが腕を走る。

805: SSまとめマン 2010/04/11(日) 00:41:37.68 ID:BPV9cRE0
その凄まじい衝撃で一方通行の体が10m程後方にずり下がった。

上条が右足を軸にして上下を元の姿勢に戻し、
一方通行の後を追うようにそのまま距離を詰める。

そして更に『蹴り』を放つ。
体を何度も回し、光り輝く足を一方通行へ向け放つ。


一方『オァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』


その凄まじい蹴りの嵐を捌きながら一方通行も杭と拳を繰り出す。

時たまのびてくる右手をスレスレでかわす。

二人の間を白い光と漆黒の筋が行きかい、火花のように光が飛び散る。
地響きが連続し、周囲の地面や瓦礫が粉となり散っていく。


806: SSまとめマン 2010/04/11(日) 00:42:37.51 ID:BPV9cRE0
一方『―――ッ!!!!』
一方通行の頭の中が痛む。

だがそれを無視する。

互角ではダメなのだ。
上条にあの竜の頭を使わせるには更なる猛攻を加えなければ。

持っている全ての力を注ぎ込む。

全ての力を、意識を、演算を黒い杭に集中させる。


一方『アアアアアアアアアアアア!!!!!!』


そして。

一方通行の左手が上条の胸に届く。

上条の光の衣を貫通し、肋骨を砕き肺へ黒い左拳が突き刺さる。


807: SSまとめマン 2010/04/11(日) 00:44:40.84 ID:BPV9cRE0
一方『ラァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』
続けて無数の杭を上条の体に打ち込んでいく。
右肩、左肩、両脇腹、下腹部、両太もも。

大量の黒い杭が上条の体を貫通し、彼の体の自由を奪う。


一方『―――使えやァ!!!!!』


さあ。

今こそ使う時だ。

使え。

あの竜の頭を使え。


その瞬間、一方通行の能力が『消えた』。

黒い杭が『ひび割れ』て崩れ落ちる。


808: SSまとめマン 2010/04/11(日) 00:49:58.87 ID:BPV9cRE0
一方『―――』

ひび割れて。

あの竜の頭の効果とは違う。


一方『クソッ―――』

一か八かの捨て身の賭け。
振られたサイコロは一方通行の負けを示していた。

上条の体を貫いていた左腕に。

幻想殺しの右手がかざされていた。

上条が笑みを浮かべた。

赤く輝く瞳が一方通行へ死の宣告を下した。


その時だった。


どこか離れたところから声が聞こえた。


「とうまああああああああああ!!!!!!!」


―――

809: SSまとめマン 2010/04/11(日) 00:53:33.40 ID:BPV9cRE0
―――


どれだけの時間が過ぎたのだろうか。

全てが闇だ。
音も風も感触も無い。

何も無い。

自分は何者かわからない。

「……いい…」

でも思い出そうとはしなかった。
理由は分からないが、なぜかどうでも良い。

大事な事も。

やらなければいけない事もたくさんあったような気がする。

でもどうでもいい。

「……」

810: SSまとめマン 2010/04/11(日) 00:55:48.03 ID:BPV9cRE0
これだけはわかる。

思い出せばきっと苦しむと。

その時だった。



この『無』の世界に明らかな『有』が。

それは声だった。



―――!!!

声が聞こえる。

「……」

誰の声か知っている。
この声を聞くと心が休まる。


「………ス」

811: SSまとめマン 2010/04/11(日) 00:58:25.64 ID:BPV9cRE0
「……インデックス?」

その瞬間、心が開いた。

そしてそれと同時に。

この数十分の間、彼がばら撒いた死の記憶も流れ込んできた。


「……え?」


白く輝く己の腕が黒ずくめの兵に伸び、引き裂く。

「……!!!!!」

頭を掴み叩き潰す。


「な、なんだよこれ!!!!」


壁に猛烈な力で打ち付けられ、跡形もなく弾け飛ぶ兵士。


「お、おい!!!!やめろ!!!!!!!」

812: SSまとめマン 2010/04/11(日) 01:02:56.59 ID:BPV9cRE0
『何ってお前が望んだもんだろ』

どこからか別の声が彼に答えた。

「俺が…?!!!」

銃を捨て、喚きながら逃げる兵の背中へ飛び掛る。
そして八つ裂きにする。
生暖かいすえた蒸気が鼻に入る。

「ウソだ!!!!!こんな……!!!!!ああああああ!!!!!」


『何寝ぼけてやがる。お前が望みお前がやった』


命乞いをする兵の頭を引きちぎる。


「やめてくれ!!!!!やめろおおおおお!!!!!」


次は良く知っている少女が現れた。

「!!!!」

御坂美琴。

813: SSまとめマン 2010/04/11(日) 01:05:45.02 ID:BPV9cRE0
『彼』を見て涙を流す少女。


「逃げろ!!!!おい逃げろよ!!!!!」

だがその声に御坂が反応するわけも無い。
この映像はもう起こった過去の記憶なのだから。

「頼む…!!!!やめてくれ……やめてくれよ……!!!!」


彼女の顔は恐怖ではなく悲しみで歪んでいた。


その頭へ。


「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


『上条』の左腕が振り下ろされた。


「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」



―――

814: SSまとめマン 2010/04/11(日) 01:07:22.65 ID:BPV9cRE0
―――

上条『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!』


禁書「とうまあああ!!!!!とうまああああああ!!!!」

突如上条が両手で頭を抱え凄まじい咆哮をあげた。
地響きのような凄まじい声。
全身から今まで以上の光が溢れる。

その右手は当然一方通行の腕から離れた。

一方通行の能力が復旧する。

一方『―――ッ』

なぜあの少女がこんなところにいるか。
そんなのを考えている暇は無い。

左腕を引き抜き、そしてすかさず杭を突き出した。

悶えてる上条は回避行動を一切取らなかった。

杭が直撃する。

だがその切っ先は上条の肌を貫かなかった。

一方『―――!』

杭の先端がひん曲がっていた。

上条の光が更に強まる。

815: SSまとめマン 2010/04/11(日) 01:09:58.54 ID:BPV9cRE0
一方『―――テメェはなンなンだよチクショウ!!!!』

明らかにヤバイ。

更に力が強まっている。
この黒い杭ですら傷がつかないレベルにまでに。

禁書「とうま!!!とうま!!!!」
インデックスが危険を省みずに今にも泣きそうな顔で真っ直ぐ上条に走ってくる。


一方『―――』

その姿にデジャヴを感じた。

二ヶ月前。

あの打ち止めが一方通行の元に駆け寄ってきた時と今の光景が重なる。

禁書「とうまああああ!!!!」
上条を呼びながらどんどん近付いてくる。

名前を呼ばれるたびに上条の光が揺らぎ、顔が歪む。
先ほどまでの人間性の全く無い表情とは正反対だった。

嫌になるほどの人間的な苦痛の顔。

817: SSまとめマン 2010/04/11(日) 01:13:25.11 ID:BPV9cRE0
一方『―――』
上条とインデックスを交互に見る。

一方『(―――考えろ!!!!)』

上条の力は更に強化され、武力で抑えこむのは絶望的だ。

だがきっと何か方法があるはずだ。

あの二人。

その関係は?
今の状況は?

一方通行は思考を巡らした。

以前の一方通行の陥った状況と良く似ている。

自分と置き換えてみる。

己が今の上条だったら。

どのような状況であの竜の頭を使う?

一方『―――』

そして一つの『悪』の方法が浮かんだ。

818: SSまとめマン 2010/04/11(日) 01:20:05.84 ID:BPV9cRE0
一方『ハハッ』
思いついた策。
それに対して一方通行は軽く笑った。

上条なら絶対に考えない方法だ。

闇を這う悪党の一方通行ならではの策だ。

自覚し受け入れていたが、改めてそんな自分が嫌になる。


それでいてこうも思った。

やッぱり俺はこォあるべきだ と。


一方通行は杭の一本を操作し、そして突き出した。

その行き先は上条ではなく。

走ってくるインデックスへ―――


―――少女の小さな顔へ伸びる。

819: SSまとめマン 2010/04/11(日) 01:22:01.65 ID:BPV9cRE0
上条『―――』
上条の表情が変わる。

一方『―――ハハァ!!!!』

インデックスへ伸びた杭は彼女へは達していなかった。

彼女の顔の僅か10cm前で寸止めされていた。
そしてすぐに引き戻した。

インデックスは軽く尻餅をついた。
そして不思議そうに周囲を見渡していた。

音速の数十倍もの速度で動く杭が彼女に見えるはずも無い。

それにベクトル操作で衝撃波もまとめているため、
ちょっと強めの風くらいしか当たっていないだろう。

上条が凄まじい形相で一方通行を睨んだ。

一方『ギャハハハハハ!!!いィぜェ!!!!そォだ!!!!!』

820: SSまとめマン 2010/04/11(日) 01:23:38.51 ID:BPV9cRE0
あの上条の反応、それだけで充分だ。

一方通行の予想は当たった。
その顔は上条とは正反対に歓喜の笑みが浮かんでいた。

一方『そォだ!!!!これだぜェ!!!!』

上条の真似をしてもやはり無理だ。

自分のやり方で。
悪党は悪党のやり方で。

それが合っている。

上条が地面を蹴り、今まで以上の速度で突進してきた。

それと同時に一方通行は全ての杭を放った。


一方『アアアアアアアアア!!!!!!!』


上条ではなく。

インデックスの方へ再び。

今度は無数の黒い帯がインデックスへ突き進む。

821: SSまとめマン 2010/04/11(日) 01:25:52.94 ID:BPV9cRE0
一方『ほォら―――使え』

上条の目の色が変わる。
そしてインデックスの方へ向いた。


一方通行はもちろんインデックスに当てる気は無い。
傷一つつける気は無い。

だが先の反応を見る限り、上条はこの安いこけおどしにあっさり乗ってくるはずだ。

まんまとハマるはずだ。


一方『―――使ェやァアアアア!!!!!』


その一方通行の叫びと同時に。

上条がインデックスを『守る為』に『竜王の顎』を出現させた。
そして左手と両足の装具が消える。


一方『目ェ覚まさせてやらァ三下ァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』


インデックスに向かっていた大量の黒い杭も消えた。

822: SSまとめマン 2010/04/11(日) 01:29:42.87 ID:BPV9cRE0
そしてミサカネットワークも消え、再び何も考えられなくなる。
平衡感覚が狂い、どっちが上か下かもわからなくなる。
だが一方通行は前へ強く地面を蹴った。

体の動くがままに。

無心で突進する。


上条はインデックスの方へ向いている。


その左側の頬に。

硬く握った右拳を。

『魂』が乗った拳を。


全てを終わらせるべく。


一方「がああああああああああああああああああああ!!!!!!」


―――上条を救うべく。


全体重を乗せて倒れこむように放った。


そしてその拳が遂に『上条』に届く―――。



―――

823: SSまとめマン 2010/04/11(日) 01:33:43.18 ID:BPV9cRE0
―――


ネロ『―――』
その瞬間、鏡の世界が今まで以上に強く揺らいだ。

肌の表面の力が削られるのを感じる。

またあの幻想殺しの力が流れ込んできている。


そしてこの二回目の幻想殺しの嵐がこの鏡の世界に決定打を与えた。

景色に黒いノイズが混ざり、徐々に消えていく。
足元の地面がうっすらと黒くなっていく。

ネロ「そろそろ時間か―――」

周囲の景色が見る見る消失していく。
そして悪魔達も消えていく。

ネロは真後ろの出口へ跳ぶ。

体が残像を引き始める。

そのネロを追うかのように悪魔達が押し寄せてくる。
ネロはブルーローズを向ける。


ネロ「失せな―――閉店だぜ!!!!!」


そして連射した。

その悪魔達の姿が見えなくなるまで引き金を引き続けた。

―――

824: SSまとめマン 2010/04/11(日) 01:36:57.18 ID:BPV9cRE0
―――

シェオル『ぐぉぉぉおお!!!!!!』
シェオルは感じていた。あのスパーダの孫の存在を。
この開け放たれている扉のすぐ向こうにいる。すぐ近くだ。

その時、声が聞こえた。


「鏡よ鏡―――」


シェオル『―――!』

その発信源は。
鏡のすぐ向こう側から。


「―――てめぇをぶっ殺すのは誰だ?」


そしてその声の主が突如目の前に現れた。
ネロが後ろ向きで、シェオルに銃口を向ける形で鏡の世界の崩壊と同時に飛び出して来た。
ネロの顔には挑発的な笑み。


シェオル『―――』


ネロ「―――俺だ」


次の瞬間、ブルーローズの銃口から巨大な砲炎が噴き出した。

826: SSまとめマン 2010/04/11(日) 01:42:39.32 ID:BPV9cRE0
放たれた銃弾がシェオルを貫き砕く。

鏡が砕け散る。

欠片がダイヤモンドダストのように煌きながら飛び散った。

ネロは床に着地し、そしてブルーローズを腰に納めた。


ネロ「次はトランプの兵隊でも用意しとくんだな」


その物言わぬただのガラス片になったシェオルに言葉を飛ばした。


ネロ「―――ってそれは違う話か…」


ネロ「鏡が出るのは……シンデレラだったか?」

一人どうでも良い事に悩み頭を掻く。


ネロ「あ~…クソ……しまらねぇな」



―――

828: SSまとめマン 2010/04/11(日) 01:47:01.80 ID:BPV9cRE0
―――

鈍い炸裂音が響く。

そして二人の少年は並ぶように地面に倒れた。


一方「あ……が……」
地面に体を打ちつけ、鈍痛が全身に走る。

無心で放った拳。

それが当たったのかどうか。
効いたのかどうかわからない。

だがその答えはすぐにわかった。


徐々に思考が元に戻り始める。

能力を感じる。

一方「―――ッつ…」

地面に手をつき起き上がる。
ベクトル操作によって補佐され、楽々立ち上がったが体が軋む。


一方「…」

そして。

すぐ隣の地面に仰向けに倒れている上条―――。

829: SSまとめマン 2010/04/11(日) 01:52:33.60 ID:BPV9cRE0
あの竜の頭も、全身を包んでいた光も消えている。
そし一方通行の拳が炸裂した左頬が赤くなっている。

さっきまでのような体の修復はしていないようだ。

一方「………」

その上条の顔はまるで寝ているかのように穏やかだった。

どうやら生きてはいるようだ。

胸がゆっくりと上下し、小さな呼吸音が聞こえている。


一方「はは…ははははははははは!!!!!」

一方通行はその場の地面に乱暴に座り込んだ。

そして天を仰ぎ大声で笑い始めた。


一方「ギャハハハハハハハハハハハ!!!!!ハハハハハ……ハハ……」

830: SSまとめマン 2010/04/11(日) 01:58:38.69 ID:BPV9cRE0
一方「はははは……はは……」

顔を下ろし、目の前に横たわっている上条を見る。
気を失っているようだ。


一方「おィ……三下ァ……」

上条には聞こえていないだろう。
だがそれでも一方通行は言葉を続けた。


一方「テメェはそッちに行くンじゃねェよ…」


一方「そこは俺の席だ……」

その声色は刺々しくも、まるで旧友に会っているかのような優しさも篭められていた。

一方「テメェは『こっち』の席だろ…」



一方「二度と……俺にテメェの真似事なンざさせるンじゃねェよ三下ァ」

831: SSまとめマン 2010/04/11(日) 02:02:12.23 ID:BPV9cRE0
その時、気配に気付いた。
一方通行はふと顔をあげた。

一方「……テメェか…」

上条を挟んだ向かいに赤いコートに銀髪の男が立っていた。


ダンテ「よう」


一方「……テメェ見てやがッたな……」


ダンテ「まぁな」


一方「……」


ダンテ「心配すんな。殺す気はねぇ」


一方「そォか…」

少女の声が聞こえる。
インデックスが叫びながら走ってきているのだ。

832: SSまとめマン 2010/04/11(日) 02:05:07.84 ID:BPV9cRE0
一方「……なァ…コイツどォなンだ…?」

ダンテ「さぁな」
ダンテが上条を眺めながらそっけなく言葉を返した。

ダンテ「しばらく様子見だ」

一方「……またこォなるかもしれねェのか?」

ダンテ「多分な。いずれ」

一方「―――!」

ダンテ「心配すんな。俺がいる」


ダンテ「それにココには―――」


ダンテが一方通行の顔を見た。


ダンテ「―――お前がいるじゃねぇか」

833: SSまとめマン 2010/04/11(日) 02:09:17.78 ID:BPV9cRE0
一方「―――」
その思わぬ返しに一瞬動揺する。


一方「ハッ…俺かよ…」

ダンテ「そうだ」

一方「……」

ダンテ「このボーヤとはもう戦いたくないか?」


一方「……るせェ」


禁書「とうま!!!!とうまああ!!!!」

インデックスが走りこんできて上条のすぐ傍に屈む。

ダンテ「大丈夫だ。気絶してるだけだぜ」


禁書「とうま…うぅ」
インデックスが上条の右手を握る。

ダンテは肩を竦め、踵を返して歩きその場から離れていった。

834: SSまとめマン 2010/04/11(日) 02:10:24.35 ID:BPV9cRE0
と、3歩程歩いたところで足を止めた。
そして振り返り一方通行を真っ直ぐ見た。

ダンテ「おぃ」

一方「……あァ?」


ダンテ「良いもん見せてもらったぜ―――」


一方「……」



ダンテ「上出来だ―――」



ダンテ「―――『アクセラレータ』」


それだけ言うと再び前を向き歩いていった。

一方「………」

一方通行は離れていくダンテの背中をずっと見ていた。


ずっと。


―――

867: SSまとめマン 2010/04/18(日) 14:07:16.46 ID:1qn0RGw0
事件の翌日。

とある病院の会議室。
ここにダンテ、トリッシュ、ステイル、ネロ、そしてカエル顔の医師がいた。

部屋の中央に大きな机があり、トリッシュがそれに寄りかかるような形で軽く腰をかけ、
そのすぐ横でダンテが椅子にだらしなく座り、足を机の上に組んで座っていた。

机を挟んで二人の向かいにステイルとカエル顔の医師が椅子に座っている。

そして壁に寄りかかって腕組をしているネロ。
五人の話の議題はもちろん『上条当麻』。

彼の意識はまだ戻っていないが特に外傷も無く、
カエル顔の医師によればそのうちすぐに意識が戻るから心配は無いとの事だった。
そのまま即日退院できるだろう。

だが全てが元通りというわけではない。

上条の体は少しずつ変化し始めていた。

868: SSまとめマン 2010/04/18(日) 14:13:06.35 ID:1qn0RGw0
事件後すぐに彼の体を検査した結果、
心臓の周辺の肋骨や肺の一部の組織が『悪魔』に変異していたのだ。
今現在も少しずつ侵食が進んでいる。

上条はゆっくりと、確実に『悪魔』になりつつあるのだ。


トリッシュ「さぁてどうしましょ」
トリッシュが首を傾げながら特に緊張感の無い、それでいて鋭く冷たい声色で皆に声を飛ばした。

カエル顔「このままのペースだと遅くてもあと二ヶ月で完全に人間では無くなるよ」

ステイル「……止める方法は無いのか?どうにかして悪魔の部分を取り除けないのか?」

トリッシュ「できるわよ」

ステイル「…!!!なら…!!」

トリッシュ「でも死ぬわよ」

ステイル「…ッ」

870: SSまとめマン 2010/04/18(日) 14:17:02.09 ID:1qn0RGw0
ステイル「……」
ステイルも悪魔に転生した。

だが彼の場合は、多くの保護術式を使って意識を保ちながらの比較的緩やかな転生の仕方だった。
そのおかげか、転生しても人間の精神は失わずに済んだ。

だが上条の場合は違う。
完全な暴走による強引な転生だ。

いや、『侵食』と言ったほうが正しいだろう。

二ヶ月前に神裂が陥った状況に似ている。
人間としての精神が潰され、悪魔の純粋な闘争欲に覆い尽くされ破壊と殺戮を吐き出すだけの怪物と化す。

あの時の神裂は、体内の悪魔の力が上条の右手で壊された為に彼女は助かった。
悪魔の『魂』では無く、『力』の部分だけ取り込んでいた為右手の効果があったのだ。

だが上条は場合は違う。

彼の心臓は『生きている悪魔』であり、幻想殺しでは消えない。
ドラッグ的な効果で悪魔の力を手にした神裂と違い、
上条の場合は彼の魂と悪魔の魂が複雑に絡み合っている。

彼の人間の魂を繋ぎとめている生命維持装置の役割をしているのだ。

その悪魔の部分を壊すと言う事は上条の死を意味する。

ステイル「……クソッ…」

871: SSまとめマン 2010/04/18(日) 14:23:20.86 ID:1qn0RGw0
トリッシュ「イギリスとしてはどう考えてるの?あの子、禁書目録の管理者なんでしょ?」

ステイル「……」

カエル顔「…僕は外すよ」
イギリスの根幹に関る話だ。
部外者が聞くわけには行かない。

カエル顔の医師は足早に部屋を出て行った。

ステイル「…まだ答えは出ていないよ」
イギリスの上層部では意見が二つに割れている。

一方は、今回の上条の暴走はインデックスを守ろうとしての行動というのを踏まえ、
上条はインデックスを守るに足る戦闘能力もあるということで、
このまま彼の元に置き続けようという案だ。

管理者と護衛の二役を任せられると考えたのだ。

それにインデックスによって、上条をイギリス清教側に繋ぎとめておくことができる。
『幻想殺しを持つ大悪魔』ともなれば魔術サイドにおいて究極の切り札となりうるのだ。

それに対立している一方は、さすがに危険すぎるのではと、
インデックスをイギリスに戻すことを提言している。

ステイル「…恐らく……僕が持って帰る報告で決まるだろうね」

今ここでのダンテ・トリッシュ・ネロの見解をイギリスは待っているのだ。

872: SSまとめマン 2010/04/18(日) 14:29:01.34 ID:1qn0RGw0
ステイル「………」

トリッシュ「じゃぁはっきり言っておくわね。このまま悪魔化させるか、それとも『最期だけでも人間に戻してあげる』かの二択」

最期だけ人間に戻す。せめて人間のまま死なせようという事だ。
それはつまり上条を殺すという事だ。

トリッシュ「まあ、どっちの方向にいっても最終的には手をうたなきゃね」
悪魔化した場合はそれこそ『敵』として狩られ処理されるだろう。

ステイル「………」

トリッシュ「―――と、まあここまでが『私』の意見」

ステイル「……?」

トリッシュ「決めるのは『ボス』だから」
トリッシュはそう言いながら、今まで黙っていたダンテの顔を見た。


ダンテ「却下」


ダンテは話を振られた瞬間即答した。


ステイル「……は?」

873: SSまとめマン 2010/04/18(日) 14:30:44.33 ID:1qn0RGw0
ステイル「……な、何が?」

ダンテは肩を竦めてニヤけた。
ダンテ「だからトリッシュの意見は却下だ」

ステイル「…それは…どういう意味だ?」


ダンテ「殺しはしない」


ダンテ「悪魔化も止める」


ダンテ「あの坊やはいずれ人間に戻す。OK?」


ステイル「…な!?で、できるのか?!方法は?!!」


ダンテ「さぁな」


ステイル「お、おい!!!!」

874: SSまとめマン 2010/04/18(日) 14:34:59.78 ID:1qn0RGw0
ダンテ「依頼されたんだ」

トリッシュ「また勝手に……こういう時ばっかり依頼引き受けるのね……」
トリッシュは呆れ顔で小さく息を吐いた。

ステイル「……はぁ?」

ダンテ「禁書目録のおチビちゃんにな」


ステイル「……」


ダンテ「大丈夫だ。出来ねえ依頼は引き受けねえ」


ダンテ「方法はこれから探す」


ダンテ「必ず戻す。死なせもしねえ」


ステイル「……」
これが他の者の言葉だったらステイルは絶対に納得しなかっただろう。
だがこの男は『ダンテ』。

この男が断言したら、過程はどうあれ最終的に必ずその通りになる。
少なくともステイルはそう思っている。

877: SSまとめマン 2010/04/18(日) 14:42:52.03 ID:1qn0RGw0
ステイル「……本当にできるのか?」

ダンテ「ああ」

トリッシュ「あなたは?」
トリッシュは壁に寄りかかって黙って聞いていたネロに顔を向けた。

ネロ「ダンテに賛成だ」
ネロは手を軽くあげ承諾の仕草をした。

トリッシュ「OK、そういう事で『こちら側』の意見は決まったわ」
トリッシュは再びステイルに目を戻す。

トリッシュ「イマジンブレイカーは処分せずに人間に戻す方向で」

ステイル「……わかった。報告しとくよ」

トリッシュ「最後に聞いておくけど、あなた自身の意見は?」

ステイル「…僕か…?」

インデックスが危険に晒されるのは絶対に許すことは出来ない。
だがそれでいて彼女が悲しむ結末だけは見たくない。
上条が消えればあの少女はどうなってしまうのだろうか。

あの笑顔はどうなってしまうのだろうか。

ステイル「彼を……」

だからステイルは願う。
ダンテにその望みを託す。


ステイル「彼を……戻してくれないと色々困る」


ステイル「彼は『インデックスの管理者』なんだからね」

878: SSまとめマン 2010/04/18(日) 14:47:56.71 ID:1qn0RGw0
トリッシュ「OK、とりあえずこの場は満場一致ね」

ダンテ「終わりか?腹減ったぜぇぇぁ」
ダンテが欠伸をしながら頭を掻き、大きく伸びをする。

トリッシュ「まだ。これからアレイスターの所に行くわよ」

ステイル「僕もか?」

ダンテ「……俺もか?」

トリッシュ「当然でしょ。ネロ!!あなたもよ!!!」
こそこそとさりげなく部屋を出ようとしていたネロの背中に声を飛ばす。

ネロ「あ~…」

ダンテ「何で行くんだ?」



トリッシュ「イマジンブレイカーを『引き取る』の」




ダンテ「………何?」

ネロ「………あ?」

ステイル「………は?」

―――

879: SSまとめマン 2010/04/18(日) 14:52:23.78 ID:1qn0RGw0
―――

とある病院の一室。

小さな病室の壁際には多くの電子機器が並んでいた。
そして部屋の中央に置かれていたベッドに一方通行は腰掛けていた。
そのベッドのすぐ脇の椅子に打ち止めが座り、近くの小さな机に載っているリンゴ見つめていた。

一方「……」

昨日の戦闘で脳にかなりの負荷がかかったらしいが検査によれば脳神経の損傷はほとんど無く、
外傷も擦り傷程度しかない。

それに打ち止めやミサカネットワークにも特に異常は見当たらなかったらしい。
今日このまま退院できるとの事だ。

一方「ハッ……」
少し新鮮だ。ここ最近、大きな戦いばかりしてそのたびに暫く入院していたのだ。

打ち止め「う~…」

一方「あァ?」
妙なうなり声をあげた打ち止めを見る。
すると少女の手に小さなリンゴがあり、もう片方の手に握る小さなナイフで皮を剥こうとしていた。
その手つきはかなり危なっかしく、今にも指を切りそうだ。

880: SSまとめマン 2010/04/18(日) 14:55:06.33 ID:1qn0RGw0
一方「……ラストオーダーァ…何してやがるンだァ?」

打ち止め「皮が上手く向けないの!!ってミサカはミサカはイライラしながら返事してみる!!」

一方「……いらねェ。危ねェからやめろ」

打ち止め「……」
打ち止めが何やら恥ずかしそうに一方通行の顔を見る。

一方「なンだよ?」

打ち止め「……あのね……その…ミサカが食べたいの……ってミサカはミサカは恥ずかしいけど頑張って伝えてみるの」

一方「……テメェ…チッ…貸せ」
一方通行は打ち止めからリンゴを奪い取り、チョーカーのスイッチを入れると、
まるで指で撫でるかのようにリンゴの皮をスルスルと剥いていった。

僅か数秒で皮は全てキレイに向け、真紅で煌びやかだったリンゴの姿は黄色の球体に変わった。

一方「おゥ」
一方通行はそのリンゴを打ち止めに乱暴に投げ渡し、チョーカーのスイッチを切った。

打ち止め「わーい!!!やっぱりあなたって優しい!!!……でも切ってくれればもっと嬉しかったかなってミサカはミサカは(ry」

一方「るせェ。そンぐれェ自分でやれや」

882: SSまとめマン 2010/04/18(日) 14:59:04.27 ID:1qn0RGw0
一方「行くぞ」
一方通行はベッドから立ち上がりドアに向かった。

打ち止め「ふが」
その後ろをリンゴに噛り付きながら打ち止めがひょこひょことついて行く。

病室を出て長い廊下を歩く。
所々に暗部の者であろう屈強な黒服の男が立っていた。

この棟は例の件の関係者以外立ち入り禁止になっているのだ。
上条と一方通行の戦いを目撃した者、デパート内でネロの立ち回りを目撃した一般人もここに押し込められて、
見聞きしたものを絶対に口外しないという誓約書にサインさせられているだろう。

一方「……」

静かな廊下を歩いていると、その先から常盤台の制服を着た少女が歩いてきた。
見慣れている姿だ。
一万人も殺したのだから忘れるわけが無い。
オリジナルか、それとも妹達のどれかか。

別にどうだって良い一方通行は特に気に留めることも無くその少女とすれ違おうとした。

だがその少女は一方通行の前で止まった。


御坂妹「いつも通りの物騒な目つき、陰険な雰囲気、元気そうでなによりです。とミサカはあなたの様子を見て少し安堵します」

一方「……喧嘩売ッてるよォにしか聞こえねェぞおィ」

883: SSまとめマン 2010/04/18(日) 15:03:26.95 ID:1qn0RGw0
御坂妹「ところでもう帰るのですか?とミサカはリンゴでべちゃべちゃになっている上位個体を見て見ぬ振りをしながら聞きます」

打ち止め「美味しいよ!食べたい?食べたい?あげないよーだ!!ってミサカはミサカは(ry」

一方「なンだ?文句でもあンのか?」

御坂妹「少しぐらいあの方の顔を見ていってもいいんじゃないでしょうか?とミサカは上位個体を無視しながら話を進めます」

一方「三下の顔なンざ見たくもねェよ」

御坂妹「まだ意識が戻っていません。心配は無いそうですが」

一方「……」

打ち止め「ねえねえ、見ていった方がいいよ。あなたの数少ないお友達なんだしってミサカはミサカは(ry」

一方「ハッ……あィつと友情を築いた覚ェはねェ」

打ち止め「むー、あなたって素直じゃないんだから!ってミサカはミサカは背中を押してみる!」
打ち止めが一方通行の腰の辺りをリンゴの汁がたっぷりついた小さな手で押す。

一方「オィガキッ!!その手で触ンじゃねェッ!!!」

御坂妹「行きましょう。とミサカは小汚い上位個体と今だけ共同戦線を張ります」
御坂妹が一方通行の手を取りひっぱる。

一方「オィ!!!!」

一方通行は二人の少女に押され引っ張られ、上条のいる病室へ連れて行かれた。


―――

884: SSまとめマン 2010/04/18(日) 15:08:13.25 ID:1qn0RGw0
―――


とある病院の一室。

佐天はベッドの上で、上半身を起こして窓の外を見ていた。
昨日のデパートはここから結構な距離があるが、それでも遠くに崩壊した建物が見える。

佐天「……はぁ…」

昨日は色々な事がありすぎた。

ネロがテロリスト達を一瞬でぶっ飛ばして解放されたと思ったのも束の間、
今度は左右逆の奇妙な世界に連れて行かれ、おぞましい化物に襲われた。
そして再びネロが現れ、その化物達を軽々と薙ぎ払った。

その後はインデックスの指示で顔を伏せていたが、まるで絨毯爆撃でもされているかのような地響きが連続した。
そして一瞬だけ目を開いて何が起きているかを見た。

甲冑を来た様な姿のネロが300mはあろう赤い光の大剣をぶん回し、街を吹き飛ばしていた。

良く分からないがその後はネロに担がれて奇妙な世界を脱出した。

そしてインデックスの後をついて行ったが、その先で待っていたものは白髪の少年とツンツン頭の少年の凄まじい戦いだった。
インデックスは迷うことなくその中心へ走っていたが、佐天は瓦礫の影で身を竦めていた。

885: SSまとめマン 2010/04/18(日) 15:09:45.35 ID:1qn0RGw0
暫くの後にその戦場も静かになった。
恐る恐る顔を瓦礫の影から出して見て見ると、ツンツン頭の少年は仰向けに地面に倒れ、
その傍に白髪の少年とインデックスが座っていた。

そしてその近くに立っている銀髪の赤いコートの男。

少し前に喫茶店にいた時に目撃した男だ。


赤いコートの男は何やら話した後、踵を返して離れていった。

そのしばらく後に今度は御坂が能力でも使っていたのか、雷鳴を響かせながら彼等の元に猛烈な速度で突っ込んで来て、
まるでスライディングするかのように、倒れているツンツン頭の少年に何やら喚きながら覆いかぶさった。

意外な知人の登場に佐天は驚いたものの、その時背後から声が聞こえた。
振り向くとそこにはネロが立っていた。

そして彼は言った。

終わったぜ と。

そこで佐天の記憶は途絶えた。
緊張から解放され、気が緩んだのだろうか。

佐天はそこで意識を失ったらしかった。

886: SSまとめマン 2010/04/18(日) 15:16:36.78 ID:1qn0RGw0
佐天「あは…ははは…」

昨日見た一連の出来事は到底信じられない。
理解したいとも思わない。

まるで夢を見ていたかのような感覚だ。
だが夢ではなかった。

この病室で目を覚ましてすぐに黒服の男達が数人現れ、
そして昨日の事を絶対に口外しないという誓約書を書かされた。
男達は言った。この誓約を破るつもりならいかなる手段を講じてでも妨害すると。

殺してでも という事は佐天にもわかった。

昨日の事が『何なのか』はわからないが、これだけはわかる。
あれは見てはいけない、踏み込んではいけない『世界』だったのだ。

今までも何度か御坂や黒子つながりでスキルアウトとの抗争に巻き込まれたりもしたが、
昨日のは次元が違った。

今後どうなるかは分からないが、少なくとも墓まで背負っていかなければならない闇を知ってしまったのだ。


佐天「あ~…あたしの平和な学生ライフが……」
窓の外を遠い目で眺めながら呟く。

とその時、病室のドアがノックされた。

佐天「……どうぞ~」
窓の外を眺めながら気の抜けた返事をする。

887: SSまとめマン 2010/04/18(日) 15:20:24.67 ID:1qn0RGw0
ドアが開き、小さな足音が近付いてくる。
そして聞きなれた声が耳に入ってきた。

「具合はどうですの?」


佐天「へ…?」

その意外な声に振り向く。

佐天「し、白井さん…?」

黒子「少しやつれてますわね」
黒子はベッドの脇の丸椅子に座った。

佐天「……な、なんでここに?」

黒子「何でってお見舞いですの」

佐天「ふ、ふああああああああああ!!!!」
馴染みの顔を見て佐天は泣き崩れてしまった。

目を覚ましてからというもの、彼女が会った人物は黒服の屈強な男達や
無愛想な看護士達や、まるでモルモットを見ているかのような目をした研究者みたいな者ばかりだった。

あんな誓約書を書かされたのだ。
もう元の生活には戻れないかもとも思い始めていたのだ。

888: SSまとめマン 2010/04/18(日) 15:24:26.74 ID:1qn0RGw0
黒子「あらあら……大変でしたのね」

黒子は佐天の手を取りなだめる。

佐天「うぅ゛…ごわがったぁあああ……」

黒子「……さあ、もう大丈夫ですの」
黒子はこの佐天の姿にいつかの自分の姿を重ねた。

あの路地裏で山羊の悪魔と対峙した時、
御坂はこの佐天のように泣く黒子をやさしくなだめてくれた。

黒子は思った。
やっぱりわたくしも普通の女の子でしたの 2ヶ月前までは と。

10分程だろうか、佐天はしばらく泣いたあと落ち着きを取り戻してきた。
そして段々と思考が冷静になっていく。


佐天「……そ、そういえば…というか…白井さんはなんでここに入れるんですか?」
佐天が目を拭いながら、震える声で黒子に聞いた。

この棟は部外者が入れないはずだ。
直接は聞いていないものの、あんな誓約書を書かされたり黒服の男達がうろうろしていれば佐天にもわかる。

黒子「……」

889: SSまとめマン 2010/04/18(日) 15:29:23.74 ID:1qn0RGw0
黒子「……まあ…一応関係者ですの」

佐天「……白井さんも…あのデパートにいたんですか!?」

黒子「昨日のとは無関係ですの」

佐天「ッ!!じゃあ…他に…もしかしてあの空港の事件とか??!」

黒子「……これ以上は喋れませんの」

佐天「……そう…」
佐天はその黒子の返答で感じ取った。
黒子は佐天よりも更に深く関っていると。

佐天「御坂さんは…?」

黒子「同じく喋れませんの」

佐天「初春は?」

黒子「『一般人』ですの」

佐天「……」

黒子「一つ申し上げておきますの。絶対に部外者には口外しないように。初春にも」

佐天「だ、だいじょうぶだって」

890: SSまとめマン 2010/04/18(日) 15:31:13.77 ID:1qn0RGw0
黒子「では…まあ喜ばしいことではありませんが…『ようこそ』」

黒子が手を差しだした。

佐天「…は、はい」
佐天がその小さな手を握り返した。


佐天「そ、そうだ…御坂さんもあたしみたいに入院してるんですか?」

黒子「お姉さまは…入院なさってはおりませんが…」

佐天「が…?」


黒子が呆れた顔をしながらため息をする。


黒子「とある殿方に付き添って泊り込んでおられますの」
そう腹立たしげに言い放ち、最後に小さく舌打ちをした。



―――

891: SSまとめマン 2010/04/18(日) 15:37:14.16 ID:1qn0RGw0
―――


窓の無いビル。


アレイスター「……」

今回のテロリスト達の動きは以前から知っていた。
当初は暗部を動かしてさっさと駆逐する予定だった。
そこに上条達が遭遇することも無かったはずだ。

だが実際に上条は巻き込まれた。
イレギュラー因子であるネロの存在によって。

アレイスター「……」
やはり悪魔サイドが関ってくると計算外の事態になってしまう。

最悪、プランの要である上条当麻を失うところだった。

だが得る物も多くあった。

さすがはどんな不足の事態でも利用するアレイスターといったところか。
別の見方をすればアリウスが言った通りギャンブルともとれるが。

892: SSまとめマン 2010/04/18(日) 15:41:44.32 ID:1qn0RGw0
まず上条当麻の『竜王の顎』。
詳細なデータを得ることが出来た。
そして『上条』単体で『竜王の顎』の力をあそこまで使用できたことも素晴らしい。

人間のままの『器』ではあそこまでは不可能だ。

あの瞬間半径1kmのAIM拡散力場が消失し、その範囲内の能力者は一時的に無能力者となった。
悪魔としての『器』が無ければその範囲は10m程度だっただろう。

これなら大幅なプラン短縮も可能だ。
悪魔化を危惧していたが、うまく操作すれば良い方向にも動きそうだ。

そして二つ目は一方通行。
彼もまた上条程では無いが大きく進化した。
さらに『足を踏み込んだ』。
上条と同じくプランの『要』に格上げしてもいい。

だが逆に言えば換えの聞かない重要な歯車になったという事だ。

しかしそれは第二候補であった未元物質をエサにしてまで一方通行を育てる事を決めた時に覚悟していた。

アレイスター「……」
悪魔サイドの関わりによって幸か不幸か、プランは不安定ながらも急速に進んでいっている。

ここで止めるつもりは無い。

利用できるならそのまま突き進めるだけだ。

893: SSまとめマン 2010/04/18(日) 15:45:14.65 ID:1qn0RGw0
その時、水槽の前5m程の床に大きな黒い円が浮かび上がり、四人の悪魔が現れた。
トリッシュとステイル、そして気だるそうなダンテとネロ。

アレイスター「そろそろ来ると思っていたよ」

トリッシュ「挨拶は無しでさっさと本題に入るわよ」

アレイスター「何だ?」


トリッシュ「イマジンブレイカー、借りてもいいかしら?連れて行きたいんだけど」


アレイスター「………何?」
余りにも意外な事で一瞬アレイスターは言葉を失った。

トリッシュ「人間に戻すためにね」

アレイスター「待て…つまり…君達の所に幻想殺しを?」


トリッシュ「そう。デビルメイクライか、それともフォルトゥナか」


ダンテとネロが驚いた顔でトリッシュを見た。


ダンテ「おいおいおい待て待て待て、ウチに連れてく気か?」

ネロ「うぉい!!俺んちも候補かよ!」

896: SSまとめマン 2010/04/18(日) 15:53:27.19 ID:1qn0RGw0
トリッシュ「何、あんた達治すとか言っておきながらこのまま置いておくつもりだったの?」

ダンテ「…だからって…なぁ」
ダンテがネロの顔を見る。

ネロ「……俺の仕事じゃねぇぜ。ダンテが引き受けたんだからな。俺は知らねぇ」

ダンテ「お前ッ…この野郎…」

ネロ「うるせぇ!俺はアンタと違って暇人じゃねえんだよ!他にも仕事が山積みなんだぜ!?」

ダンテ「……」
ダンテが顔をしかめ軽く頭を掻く。

トリッシュ「本当に何も考えてないのね…」

トリッシュ「色々調べたり、治すまで暴走しないように力の制御方法教えたりしなきゃダメでしょ」

ダンテ「……あ~」


ステイル「……(本当に大丈夫なのか…いや大丈夫だろうが…)」

アレイスター「………」

アレイスターは黙って聞いていた。
上条を人間に戻されるとかなり困る。

悪魔化した前提でプランを組みなおしたばかりだ。

だがその一方で、力の制御は良い。
また何度もあのように暴れられたらさすがに困る。

897: SSまとめマン 2010/04/18(日) 15:59:41.21 ID:1qn0RGw0
アレイスター「ふむ……」

トリッシュ「どう?」

アレイスター「いいだろう。だがいくつか条件がある」

トリッシュ「何?」

アレイスター「まず、『幻想殺し』の力の情報は一切公開しない。また『幻想殺し』について調べるのも禁止する」

トリッシュ「当面の目的は悪魔化の状態を調べるためだから良いわよ」

トリッシュ「だけど悪魔化と彼の『幻想殺し』が何らかの関係があった場合は…」

アレイスター「その時はまたこうして協議しよう」

アレイスター「二つ目、経過報告を毎日すること。専用の通信機器を渡そう」

トリッシュ「OK」

アレイスター「三つ目、私の許可なく彼の体に何らかの手を入れることは禁止する」

トリッシュ「まあとりあえず最初は調査だけだから」

アレイスター「…四つ目、監視として学園都市側の者を一人同行させる」

アレイスター「最後に、彼を人間に戻す際には私も立ち会う」

トリッシュ「……OK」

898: SSまとめマン 2010/04/18(日) 16:05:28.60 ID:1qn0RGw0
アレイスター「ならばとりあえず彼の学園都市外へ移送及び『悪魔』部分の調査は許可する」

アレイスター「それと悪魔の力の制御についてはこちらからもお願いしよう」

トリッシュ「ええ」

ダンテ「……」

ネロ「言っておくがよ、俺は結構家を空けるしそんな暇はねえぜ。キリエは日本語喋れねえし」

ダンテ「……俺も(ry」


トリッシュ「何?暇でしょ?こっちで引き取るわよ」


ダンテ「……めんどくせぇな」


ステイル「一ついいか?インデックスはその間どうするんだ?」

はいそうですかとそのままインデックスも連れて行かせるわけにはいかない。
ステイルは別にそれでも良いが、イギリスの上層部は許さないだろう。

899: SSまとめマン 2010/04/18(日) 16:11:03.98 ID:1qn0RGw0
アレイスター「イギリスの老人達が決めるまで預かってやっても良い」

ステイル「どうやって?」


アレイスター「第一位を護衛につかせよう」


ステイル「……」

アレイスター「戦力としては文句は無いだろう?彼等同士も顔見知りだしな。最大主教には私から伝えておく」

ステイル「……そうか」

トリッシュ「で、イマジンブレイカーの付き添いは?」

アレイスター「もう少し待ってくれ」

トリッシュ「そう、明日の午後にでも発つからそれまでにね」

アレイスター「わかった」

900: SSまとめマン 2010/04/18(日) 16:16:53.73 ID:1qn0RGw0
トリッシュ「じゃあ……」

ネロ「なあ、俺はもう行っていいか?用事があるんだが」

ダンテ「……飯食わせろ」

トリッシュ「いいわよ、とりあえず夕方まで自由行動で」

ネロ「なあ、出口はどこだ?」
ネロが辺りを見回しながら聞く。

アレイスターがそれに反応し、トリッシュを鋭い目で睨む。

トリッシュ「……あ~そうね…」
トリッシュがアレイスターから目を移し、後方の壁を見る。
そこの壁の部分だけ周囲よりも色が違って真新しかった。

以前ダンテがぶち抜いた場所だ。


トリッシュ「じゃあ皆で一旦出るわよ」
トリッシュを中心として大きな黒い円が床に浮き上がった。

ステイル「最後にいいか?」
ステイルがアレイスターを睨む。

ステイル「インデックスに妙な真似はするなよ」
敵意むき出しの顔をしたまま、ステイルは他の三人と共に黒い円に沈んでいった。

アレイスターは鼻で小さく笑った。

903: SSまとめマン 2010/04/18(日) 16:25:31.41 ID:1qn0RGw0
アレイスター「さて…」

誰を同行させるか。

まず万が一の事態に備えて高位の能力者である事が望ましい。
雑魚悪魔達を軽々と薙ぎ払えるレベルのだ。

そしてダンテ達と面識がある人物の方が良い。
更にできれば上条当麻とも。

アレイスター「…」

絹旗最愛が真っ先に浮かんだ。
高位の能力者であり、ダンテとも面識がある。
だが上条当麻とは面識が無い。

アレイスター「……」

妹達のどれかではどうか?ネットワークもありリアルタイムで情報が届く。
だが能力についてはやや不安が残る。

ではついこの間生産したばかりのレベル4相当の番外個体ではどうか?
だが性格に難がある。プログラムを書き換える時間も無い。

アレイスター「……やはり…」

もっと身近にその条件に当てはまる人物がいる。
だがレベル5で学園都市側の重要な戦力である。
できれば外に出したくは無い。

しかし上条の件が最優先だ。


アレイスター「仕方ない。『超電磁砲』か」


―――

904: SSまとめマン 2010/04/18(日) 16:30:36.93 ID:1qn0RGw0
休憩します
再開は今日の夜七時半辺りから

909: SSまとめマン 2010/04/18(日) 19:34:56.36 ID:1qn0RGw0
―――



一方通行は上条がいる病室のドアの前に立っていた。

一方「……チッ…」

御坂妹「ここまで来て何をおよび腰になっているのですか?とミサカは情けない一方通行の姿を見て内心ほくそ笑みます」

打ち止め「ねぇねぇ、いつまでそうしてるの?ってミサカはミサカは(ry」

一方「るせェ…テメェらが勝手に連れてきたンだろうが」

御坂妹「拒否できたのに流されてノコノコここまで連れて来られて何を言いますか。とミサカは(ry」

一方「アァウゼェ!!!行きゃァいいンだろ!!!」

一方通行が病室のドアを開け、中に入った。

一方「…」

そして上条の姿を見た。
部屋の中央のベッドに横たわっていた。

その両脇、左側には御坂が、右側にはインデックスがそれぞれ椅子に座って、ベッドに顔を突っ伏して寝ていた。
彼女達は上条のそれぞれの手を握っていた。

一方「……意識を失ッてても相変わらずだなァ三下ァ」

910: SSまとめマン 2010/04/18(日) 19:38:35.43 ID:1qn0RGw0
一方通行は上条のベッドへゆっくりと近付く。
三人の寝息が小さく聞こえてきた。
その内一人は寝ているのではなく気を失っているのだが。

一方通行はドアの方を振り返った。

一方「テメェらは入らねェのか?」

同じ顔をした二人の大小の少女がドアの影から顔を出して手を振っていた。
そしてゆっくりと閉めた。

一方「チッ……」

静寂が部屋を包む。小さな寝息だけが聞こえる。
ベッドの向かい端、上条の足の方へ進んでいく。

一方「随分とまァ気持ちよさそォな顔だな」
上条の安らかな寝顔を見て呟く。

数分間、黙って上条の顔を眺めていた。
こうしていると色々な事を思い出し考えてしまう。

一方「………なンでテメェの顔を見ながら感傷に浸らなきゃなンねェンですかァ」

一方通行は頭を不機嫌そうに振り、足早にドアへ向かった。
その時だった。

背後から声。

「…アクセラレータ」

911: SSまとめマン 2010/04/18(日) 19:42:32.24 ID:1qn0RGw0
一方「…起きやがッたか?」
一方通行は振り返らずに言葉を返した。

上条「……ああ」

一方「覚えてるか?」

上条「おう…全部な……」

一方「そォか」

上条「……お前の言葉も覚えてるぜ」
笑いを含んだ弱弱しい声。

一方「……るせェ」
そういえば、今思えばこっ恥ずかしい事も言ったような気がする。


上条「……ありがとよ」


一方「俺じゃなく脇に侍らせてるそィつらに言ェや」
この二人の少女がいなかったら一方通行は敗れ、最悪の結末となっていたかもしれない。

上条「ははは………」

912: SSまとめマン 2010/04/18(日) 19:46:39.65 ID:1qn0RGw0
背を向け、互いの顔を見ないまま会話が続く。

上条「なあ……」

一方「アァ?」

上条「俺……御坂を…殺そうとしたんだよな…」

一方「……『テメェ』じゃねえだろ。『テメェ』にンな度胸はねェ」

上条「……」

一方「ウジウジすンじゃねェよ情けねェ。生きてンならそれでいィじゃねェか」
先日ダンテに同じ事を言われた。それを自分が上条に言うとは。

上条「……一つ頼みがある」

一方「あァ?」



上条「―――御坂をよろしく頼む」



一方「……あァ?」
一瞬聞き間違えたような気がして、一方通行は振り返った。

914: SSまとめマン 2010/04/18(日) 19:49:41.92 ID:1qn0RGw0
上条はベッドに横たわりながら、顔だけを一方通行の方へ向けていた。
その瞳は僅かに赤みを帯びていた。

上条「今後なんかあった時、こいつを守ってくれないか?」

一方「……何をほざきやがッてんだァ…?」

上条「俺、誓ったんだ。こいつとこいつの世界を絶対に守るって」

一方「だッたらテメェで守れよ」

上条「悪い…でもな、このままだと守るどころか……壊しちまいそうなんだ」

一方「……」

上条「頼む」


一方「………つーかよ、テメェはどォいう気だ?それにそのガキは?」
一方通行が顎でインデックスを指す。

上条「…インデックスはステイルに任せる…俺は…」


上条「遠くへ行くよ。絶対に手の届かない場所に」


一方「……テメェ……まさかしn」


上条「いいか?御坂のこと」

915: SSまとめマン 2010/04/18(日) 19:55:00.63 ID:1qn0RGw0
一方「……ざけンなクソ野郎……チッ…一つ条件がある」

一方「戻ッて来い。逃げるんじゃねェ」


一方「それを誓うッつーンなら良い。しばらくは守ッてやる」

上条は答えなかった。ただ小さく穏やかな笑みを浮かべた。
一方通行は上条に背を向けドアの方へ向き、取っ手に手をかけた。

一方「許さねェからな」

背中越しに上条に言葉を飛ばす。



一方「死ンで逃げでもしたら―――」



一方「―――地獄まで追ッかけて八つ裂きにしてぶッ殺してやる」



一方通行は上条の答えを聞かぬままドアを開け病室を出て行った。

上条は、ベッドの両側に突っ伏して可愛らしい寝息を立てている二人の少女をぼんやりと眺めていた。

両手から伝わってくるかけがえの無い温もりを感じながら。

―――

916: SSまとめマン 2010/04/18(日) 20:02:10.70 ID:1qn0RGw0
―――

佐天と黒子は他愛も無い話をしていた。
佐天の緊張も解け、この場の空気はいつもの二人の物に戻っていた。

佐天「…ははは!でさぁ~!!」
佐天の笑顔もいつも通りだ。

黒子はそれを見ながら感じていた。
幸いな事に彼女も黒子と同様、あの世界を知った『ショック』に耐えられ、乗り越えられる人間だったようだ。

いや、むしろ黒子よりも開き直るのが早い。
黒子は二ヶ月前の件は一週間ほど引きずった。
御坂は翌日にはケロッとしていたが。

そんな御坂を見て、ある意味単純というか能天気というか、どこかネジが外れている方が良いのかも知れないと思っていた。
(黒子も色々なところでネジが外れているが彼女自身は自覚していない)

だがこの佐天もそうだったとは。
ごくごく普通の典型的な一般人だと思っていたが、彼女の精神は少なくとも黒子よりも頑丈らしい。

黒子「(むむ…)」
僅かだが敗北感があった。

その時、ドアがやや乱暴にノックされた。

佐天「はーいどうぞー!」

ドアが開き、紺色のコートを着た銀髪の男が姿を現した。


ネロ「よう」

917: SSまとめマン 2010/04/18(日) 20:06:52.08 ID:1qn0RGw0
佐天「ネ、ネロさん!!」
佐天の顔が一気に明るくなる。

大暴れする狂気に満ちたネロも目撃したが、頼もしく守ってくれたのだ。
恐怖よりも嬉しさの方が上回った。

ネロ「元気そうで何よりだぜ」
ネロがコートをなびかせながら部屋に入ってくる。

佐天「は、はい!…まぁ…はい!」
佐天の顔色が今度は少し恥ずかしそうになる。

黒子が軽く会釈し、ネロが手を軽く挙げて答える。

黒子「……」
黒子がそのままジトッとした流し目でネロを睨んだ。

ネロ「あ~悪ぃ。案内してくれるっていうからよ」
佐天が巻き込まれた原因はネロにもある。

黒子「はぁ……まぁおきてしまった事はどうしようもありませんの」

ネロ「無事ならいいじゃねえか」

黒子「あなた方はそれでいいかもしれませんが……もういいですの」
黒子は何かを諦めたかのようにため息をついた。

佐天「そ、そうですよ~結果的に守ってくれたんだしあたしはおっけー!」

918: SSまとめマン 2010/04/18(日) 20:10:50.40 ID:1qn0RGw0
佐天「あ、そういえば」

黒子「?」

佐天「ネロさん嘘ついてましたよね?」

ネロ「あ?」

佐天「無能力者だって」

ネロ「……あれはアンタらの言う『能力』じゃねえぜ。あれは…」
その時黒子の鋭い視線に気付き、言葉を止めた。

黒子「わたくし達の定義から言うと能力ではありませんの」

佐天「へ?それって…」

黒子「能力ではありませんの」
黒子は強い口調でもう一度佐天に言った。

佐天「……むむむ」
その黒子の態度でもわかる。これもまた極秘事項なのだ。


ネロ「あ~そうだ。ほら」

ネロが話を変え、コートのポケットからある物を取り出した。

919: SSまとめマン 2010/04/18(日) 20:14:07.53 ID:1qn0RGw0
佐天「…こ、これ…」
ネロの手には花の飾りがついた髪留めが乗っていた。
昨日、デパートにいた時にいつの間にか無くしていた物だ。

佐天がゆっくりそれを手に取る。

ネロ「忘れもんだ」

佐天「あ、ありがとう」

ネロ「じゃあな」
ネロは踵を返し、ドアへ足早に向かった。

佐天「あ、あのもう行っちゃうんですか!?」

ネロは振り返ることなく手をひらひらさせそのまま出て行った。

佐天「……行っちゃった…」

黒子「ほぉぉぉぉう」

佐天「…な、何ですか?」

920: SSまとめマン 2010/04/18(日) 20:17:35.63 ID:1qn0RGw0
黒子「まぁまぁまぁ。あらあらまぁまぁ。あらあらまぁ」
黒子がニヤリと笑った。

黒子「そうですか。そうでしょうね。そうですの」

佐天「な、何がですか?」

黒子「あれだけ端正な顔立ちで長身で鬼のように強くてクールでどことなくダークな空気があって」
黒子「それでいて子供っぽくもあるミステリアスな雰囲気で一見すると冷たくてでも根は優しい」
黒子「そんな殿方に守られ抱っこされたらウブでスイーツな佐天さんがときめくのも仕方ありませんの」

黒子が息つく間もなくぶっ続けで言葉を並べた。

佐天「ちょ、ちょっと!!!何を!?ってか抱っこって?!!」
確かに何度か担がれたが、あれはとてもじゃないが抱っことは呼べる代物ではない。
まるで米袋を肩に乗せているようなスタイルだった。

黒子「あら覚えてませんの?」

黒子「あなたをこの病院まで運んできたのはネロさんですの。お姫様抱っこで」

佐天「ふぎゃああああああ」

黒子「全く……」

佐天「違う!!違いますってば!!!」

黒子「あら、その割には随分と頬を赤らめておいでですが?」

佐天「た、確かに恋人とは言っ…いやいやいやそれは違くて!!!」

黒子「恋人?」

921: SSまとめマン 2010/04/18(日) 20:20:27.20 ID:1qn0RGw0
佐天は事の顛末を簡単に説明した。
デパートを見てまわったこと、人質になってしまったときに恋人と咄嗟にウソをついてしまった事。
そしてネロには本当の恋人がいると言う事。

黒子「……なるほど…」

佐天「う~……」

黒子「あんな高レベルの殿方は忘れてしまったほうがいいですの。理想が高すぎて今後の恋愛に支障をきたしますわ」

佐天「だ~から違うんですってばぁ~」

黒子「所詮叶わぬ恋心。恋人がいるどころか生きてる世界が違いますの」

佐天「むぅ……」
それは黒子には言われたくない。
黒子の場合は世界どころか性別が違う。

いや『同じ』なのだが『違う』。

黒子「ともかく、もう二度と会わないという心構えで吹っ切ってくださいまし」

佐天「……えっ…も、もう会えないんですか?」

黒子「……」

922: SSまとめマン 2010/04/18(日) 20:23:40.28 ID:1qn0RGw0
黒子「いや……確率はゼロとは言えませんが…」
黒子の経験上、また再び遭遇する可能性も結構ある気がする。

佐天「ほんと!?」


黒子「ですが関るとまた巻き込まれますの。いつ死んでもおかしくない事態に」


黒子が鋭い目つきと強い声色で断言した。
これも経験の上でだ。
何度死闘に巻き込まれて死を覚悟しただろうか。

そして話を聞く限り、佐天も今回死に掛けたらしい。

佐天「……うん」
佐天はその剣幕に押されうつむく。
手の中にある髪飾りが目に入った。

佐天「……でも…」
佐天はその手を握り顔をあげて笑顔を作った。

黒子「……」

佐天「それでもいいかな!もう今更だし!もう何見ても驚かないです!……多分」

黒子「……(こ、こいつ…!……本物のバカですの…!!!)」


―――

923: SSまとめマン 2010/04/18(日) 20:28:07.79 ID:1qn0RGw0
―――


一方通行は廊下を足早に歩いていた。
杖と靴底が床にぶつかる音が響く。
その後ろを打ち止めが小走りでついていく。

一方「……」
彼の顔は険しかった。

上条の言葉。

一方「……ざけンじゃねェ…クズ野郎が…」

打ち止め「……なにかあったの…?ってミサカはミサカは不機嫌なあなたを見て恐る恐る声をかけてみるの」

一方「あァ?……気にすンな。なンでもねェ。帰ンぞ」

打ち止め「…帰る?も、もしかしてあなたも一緒に!!?ってミサカはミサカは(ry」

一方「あァァうるせェ!!!そォだ!!!」

打ち止め「わーい!!!!いつまで一緒にいれるの!!!?ってミサカはミサカは胸を躍らせて聞いてみるの!!!」

一方「とりあえず明日までだ」

打ち止め「じゃあ今日は皆一緒に晩御飯食べれる!!!!ってミサカはミサカは全身で喜びを表してみる!!!」
打ち止めが跳ねるような動作をする。

一方「……」
その時、携帯が鳴った。

924: SSまとめマン 2010/04/18(日) 20:31:41.83 ID:1qn0RGw0
一方「あァ?」

乱暴に携帯を開き耳に当てる。

『今いいか?』
聞こえてきた声。

いつも上層部からの指令を伝えてくる男の声だ。


一方「………今は非番のはずなンだがよォ?アレイスターの許可もおりてンぜ?」

『これも理事長命令だ。だが急の用事では無いから心配しなくていい』

そして電話の男は用件を手短に伝えた。
それを聞くにつれ一方通行の顔がどんどん曇っていく。

傍らで打ち止めが心配そうに一方通行を見上げていた。

925: SSまとめマン 2010/04/18(日) 20:34:10.33 ID:1qn0RGw0
『……ということだ。場所はいとわない。幻想殺しが戻るまで常に監視し護衛しろ。明日の午後からな』

『この件を当面の間最優先とする。他の任務はできるだけまわさないようにする』

『子供の扱いは慣れているだろう?黄泉川宅で暮らすのも許可する』

一方「……俺は保育士じゃねェぞ」

『そう言うな。頼んだぞ。長期休暇だと思え』
そこで通話は切れた。


打ち止め「…何かあったの?ってミサカはミサカはもしかして一緒に晩御飯食べれないのかなと心配しながら聞いてみるの」

一方「そォじゃねェ。……子守だ」

打ち止め「?」
打ち止めが首を傾げる。


一方「三下ァ……」

どうやら御坂を守る必要は無さそうだが、
そのかわりインデックスの面倒を見なければならないらしい。


―――

926: SSまとめマン 2010/04/18(日) 20:42:21.93 ID:1qn0RGw0
―――

禁書「う…うん…」
インデックスは目を覚ました。
手からは温もりが伝わってくる。

昨日一晩中、上条が目を覚ますのを待っていたのだ。
御坂も同じく。
そしていつしか二人は疲労もあって寝てしまった。

禁書「ふぁ…」
寝ぼけ眼のまま顔をあげる。

すると上条と目があった。
彼の目が開いていた。


上条「おぉ、起きたか?」


禁書「とう…ま…?」


上条「よっ」


その上条の顔を見てインデックスの顔が見る見る歪んでいく。


禁書「とうまあああああああああ!!!!!ふああああああああああ!!!!!!」

927: SSまとめマン 2010/04/18(日) 20:49:06.16 ID:1qn0RGw0
泣きながらインデックスが上条に飛びついた。

上条「うぉおお!!!」

御坂「!!!!!!!」
御坂がそのインデックスの大声で跳ね起き、そして上条の顔を見る。

そしてインデックスと同じように顔を歪ませ。

御坂「あぁぁあああぁあああああああ!!!!!」

これまた同じく上条に飛びついた。

上条「うぐぅッ!!!」

二人の少女が上条に思いっきり抱きつく。
ぎりぎりと締め上げられていく。

だが上条は拒否することなく、その二つの背中に優しく手を置いた。


上条「……すまん…」


禁書「よがっだぁあああああよがっだんだよおおおお!!!!!」

御坂「ばがああああああああ!!!!!ばがばがばがあああああ!!!!!」

928: SSまとめマン 2010/04/18(日) 20:54:46.21 ID:1qn0RGw0
上条「ああ……」

上条は二人の背中を優しく撫で続けた。
そして思っていた。

やはり自分は消えるべきだと。

上条があんな事をしたにもかかわらず、この二人の少女は彼を想って泣いてくれている。

まるで太陽のように明るく、そしてダイヤモンドのように美しく思えた。

だからこそなのだ。
その輝きを、透き通る美しさを影で覆ってはいけない。
光を遮ってはいけないのだ。

だが今の上条は。

闇そのものだ。


上条「……本当にすまん…」

上条は呟いた。
泣き喚いている二人の少女に。

929: SSまとめマン 2010/04/18(日) 20:57:33.96 ID:1qn0RGw0
10時まで休憩します

932: SSまとめマン 2010/04/18(日) 22:05:14.20 ID:1qn0RGw0
サム…あああああああああああ

933: SSまとめマン 2010/04/18(日) 22:05:54.08 ID:1qn0RGw0
しばらくし、インデックスと御坂も落ち着いてきた。

禁書「そ、そうだ?!お腹へってない!!?いっぱいあるんだよ!!」
インデックスが机の上にあった果物が山積みになっているバスケットを持ち上げた。

御坂「ほ、ほら、喉も渇いてるでしょ!!?飲みなさい!!!!」
御坂が水の入ったペットボトルを上条に差し出す。

上条「お、おう」
上条がバナナを1本取り、ペットボトルを受け取る。

上条がぎこちない手つきでバナナの皮を剥こうとすると、
インデックスが手を差し伸べた。

禁書「私がむくんだよ!!!」

上条「おう、頼む」

今度はペットボトルの蓋を開けようとするも、力が入らない。

御坂「あ、あたしが開ける!!!」

上条「ああ、頼むぜ」

935: SSまとめマン 2010/04/18(日) 22:13:11.60 ID:1qn0RGw0
バナナを食べ、水を口に含む。

インデックスと御坂がその上条の姿をジッと見つめる。

上条「うん、すごく旨いぜ。ありがとな」

その言葉を聞いて二人の顔が一気に明るくなる。

上条は社交辞令で言ったのではない。

確かにバナナは少し傷み始め、水も温かったが本当に美味しかった。
五臓六腑に染み渡るとはこの事を言うのだろう。

バナナを一気に平らげ、水を飲み干した。

御坂「…ちょ、ちょっと待ってて!!!今持ってくるから!!!!」
御坂が立ち上がり、水を取りに病室を駆け足で出て行った。

禁書「もっと食べる!!!?」

上条「いや…とりあえずいいよ」

936: SSまとめマン 2010/04/18(日) 22:18:08.36 ID:1qn0RGw0
禁書「そ、そう!!!」

上条「なぁ……インデックス」
上条が神妙な面持ちでインデックスを見つめる。

禁書「……な、何かな?」

上条「俺……『堕ち』ちまったよな…」

禁書「ううん。いいの」

上条「……」

禁書「例え堕ちたとしても」


禁書「『とうま』は『とうま』だもん」


上条「……」


禁書「それにこうしてまた戻ってきてくれたんだよ」

937: SSまとめマン 2010/04/18(日) 22:23:22.26 ID:1qn0RGw0
禁書「人間でも悪魔でもどっちでもいいの」

上条「……『怪物』でもか?」


禁書「うん!!」
インデックスは素直な笑顔を崩さずに迷い無く即答した。


上条「そうか……」
そのインデックスの笑顔が眩しかった。

愛おしい。
心が安らぐ。

離れようと、そしてもう戻らないと決めた覚悟が揺らいでしまう。

離れたくない。

だがそれではダメなのだ。
このままだと絶対に。

禁書「……とうま?」
インデックスが上条の曇った表情に気付く。

938: SSまとめマン 2010/04/18(日) 22:28:11.86 ID:1qn0RGw0
上条「……すまん…インデックス」

禁書「……何…?」
インデックスが薄々気付く。
二人の間には深い絆がある。お互いの考え方は大体わかるのだ。

上条「……次は…『無い』…」

禁書「…な、何を言ってるの…?」
インデックスの瞳が潤んでいく。
その顔が上条の心に深く突き刺さる。だがその痛みを無視し、心を鬼にする。

上条「俺は行く」

今まで通りではダメなのだ。
感情で突っ走って乗り越えられるほど甘くは無い。

禁書「……き、聞きたくないよ…」

上条は覚悟を決め言葉を放つ。


上条「次は―――」


その時、ドアが勢い良く開いた。


「よう、今いいか?」


上条「―――戻……んん?」

939: SSまとめマン 2010/04/18(日) 22:34:36.73 ID:1qn0RGw0
突如割り込んだ声で上条の覚悟の一言は遮られた。

禁書「…ふあ?」
インデックスが泣きそうな顔のままドアの方を見た。

そこにはダンテが立っていた。その後ろには水の入った紙コップを持った御坂。
御坂の顔も今にも泣きそうだった。
ドアの前で上条とインデックスの会話を聞いていたのだ。


ダンテ「お取り込み中のとこ悪いが話がある」

ダンテがそんな空気などお構い無しにずかずかと病室の中へ入っていく。

上条「…少し待ってくれ」


ダンテ「…」
ダンテは上条を眺めながら、顎をさすり鼻を鳴らした。

この少年が思っている事がなんとなく予想がついた。

簡単に言えば『サヨナラ』をしたいのだろう。
自分が大事な者達への脅威となると考えて。

ならば尚更先に話を聞かせなければならない。

940: SSまとめマン 2010/04/18(日) 22:41:02.53 ID:1qn0RGw0
ダンテ「(なんともまあいいタイミングだぜ)」

ダンテ「俺の話を先に聞け。お嬢ちゃんも入れ」

ダンテが御坂へ手招きをする。

御坂がゆっくりと恐る恐る入ってきた。

上条「…なんだ?」

ダンテ「お前は俺が預かる事になった」

上条「………へ?」
上条は目を見開きダンテを見た。インデックスと御坂も目を丸くする。


上条「……な、何を…何で……?」


ダンテ「お前を治すんだよ」


上条「……ッ!!!!!!」
そのダンテの言葉を理解するまでに数秒かかった。


上条「……な、治す?」


ダンテ「ああ。元通りにな。全部」

943: SSまとめマン 2010/04/18(日) 22:48:14.09 ID:1qn0RGw0
上条「おぉ…うぁあッ!!!!!!!」

その言葉を聞いて彼の闇に覆い尽くされていた心に一筋の光が差し込んだ。
もう何もかも諦めていたのだ。
己の命を断つ覚悟をしていたのだ。

上条「ほ、本当にか……??!!!」

禁書「治す!!!?」

御坂「え、え?!!!」


ダンテ「ああ」

上条の先ほどの決心が崩れていく。

インデックスとまた暮らせる。
その希望が彼の心を照らした。

さっきの今で考えが一気に180度変わってしまったがそんな体裁にこだわるつもりは無い。


上条「…本当に…!!!!?」


ダンテ「そうだ」

944: SSまとめマン 2010/04/18(日) 22:53:32.19 ID:1qn0RGw0
ダンテ「後はお前次第だぜ」


ダンテ「答えは?」


上条「……お、おう―――」

当たり前だ。
拒否する理由は一つも無い。

禁書「と、とうま!!!」

御坂「と、当然よね!!!!」


上条「決まってんじゃねえか!!!行くぜ!!!!行く!!!!」


ダンテ「OK」


禁書「うん!!!」

御坂「よしよしよしいいいい!!!!!」

二人の少女が大はしゃぎする。

946: SSまとめマン 2010/04/18(日) 22:59:59.18 ID:1qn0RGw0
ダンテ「明日の昼ぐらいに出発する。準備しとけ」

上条「おう!!!インデックス!!!早く帰って荷造りだぜ!!!」

禁書「うん!!!」

御坂「あ、あたしも!!!!行きたい!!!」

ダンテ「あ~…それはお前さん達のボスに聞かなきゃな」

御坂「ボス…?」

ダンテ「理事長だったか?」

御坂「……つ、つれてって!!!!ほ、ほら、トリッシュさんでパッっと!!!」

ダンテ「許可無しじゃダメだ」
ダンテとしては別にいいが、トリッシュは絶対に許さないだろう。

御坂「ぐっ…」

ダンテ「それと禁書目録」

禁書「?」

ダンテ「お前は行けねえ事が決まってる」

禁書「…へ?」

948: SSまとめマン 2010/04/18(日) 23:09:33.81 ID:1qn0RGw0
ダンテは簡単な説明をした。
インデックスは学園都市に残り、一方通行が上条の代わりを務めると。

禁書「そ、そんなぁ……」

御坂「…アイツが…」

ダンテ「まあ後でイギリスが許可するかもわかんねえが今はいけねえ。我慢しろ」

上条「……そうか…」


上条「インデックス。おとなしく待ってるんだぞ。あいつに迷惑はかけるなよ?」
上条がベッド脇のインデックスをジッと見つめる。

一方通行なら大丈夫だ。
信頼できる。

禁書「う、うん…わかったんだよ。ちゃんと待ってる」

949: SSまとめマン 2010/04/18(日) 23:10:55.39 ID:1qn0RGw0
上条「御坂」
上条が御坂の方を向く。

御坂「うん…」

上条「絶対に戻ってくるからな」
言葉にはしなかったが、心の中で 誓いも絶対に守る と呟いた。

御坂「…うん。待ってる」


ダンテ「言っておくがよ、血ヘド吐くぜ」


上条「…おう。治るってんなら何だってやる」


ダンテ「トリッシュの事だ。モルモットみたいにあちこち弄られるぜ」


上条「う……覚悟してる」

ダンテ「OK、じゃあ明日の昼まで自由だ。好きにしな」

ダンテは手をひらひらさせ、病室を後にした。

上条「……おし…今日は皆で飯でも食おうぜ!」

禁書「うん!!!」

950: SSまとめマン 2010/04/18(日) 23:16:47.07 ID:1qn0RGw0
御坂「あ、あたしも…いいかな?」

上条「当然だろ!!!来ないと怒るぜ!!!」

御坂「う、うん!!!行く行く!!!」

その時、病室のドアが開いた。

三人が一斉に振り向く。


御坂「…あ、あんたは!!!!」

そこには長い赤毛を二つに結い、短いスカート、
胸をサラシのようなもので巻き方に制服のブレザーを引っ掛けている少女が立っていた。

上条「…知り合いか?」

禁書「…?」

御坂「何でここに!!!?」

結標「常盤台の超電磁砲。ちょっといい?」

951: SSまとめマン 2010/04/18(日) 23:23:09.82 ID:1qn0RGw0
御坂「な、何…?今ものすごっっっっく大事なところなんだけど!」
御坂が敵意むき出しの邪魔者を見るような目をむける。

結標「仕事。あなたを連れて来いって」

御坂「…へ?」

結標「理事長命令よ。出頭しろって」

御坂「…ど、どこに?」

結標「アレイ……いや、理事長の所に」

御坂「へ?ちょ、ちょっと…!」

結標「黙っててくれない?失敗してコンクリに埋め込まれても知らないわよ」

御坂「ちょ(ry」

何かを言いかけたところで二人の姿は消えた。
ポカーンと口を開けている上条とインデックスが残された。

―――

952: SSまとめマン 2010/04/18(日) 23:31:17.67 ID:1qn0RGw0
―――


窓の無いビル。

トリッシュ「決まった?」

アレイスター「ああ。超電磁砲を同行させる」

トリッシュ「ああ……あの電気使いの子ね」

トリッシュ「もう伝えたの?」

アレイスター「今使いを送った。もう来るだろう」
そのアレイスターの言葉と同時に、結標と御坂が現れた。

トリッシュ「噂をすれば」

御坂「な、な、な、何ここ!!?」
薄暗い屋内をキョロキョロと見渡す。

アレイスター「超電磁砲」

御坂がその声に反応し、水槽の中に逆さまになっているアレイスターに目を向けた。


御坂「……何アレ?」
御坂が小さな声でとなりにいる結標に聞く。

結標「理事長」

953: SSまとめマン 2010/04/18(日) 23:37:42.19 ID:1qn0RGw0
御坂「……!!!!!!アンタが!!!!」
御坂の目つきが変わる。

あの姿に驚いたがそれ以上に。

妹達の事件の元凶だ。
全ての黒幕。
いつかぶっ飛ばしてやろうと思っていた張本人だ。

御坂「このやろおおおおおおおおおおおおおあああああああ!!!!!!!!!」
御坂の全身から放電し始める。

結標「―――ちょ、ちょッ!!!や、やばッ!!!!」
結標が慌てて走って離れる。

トリッシュ「待ちなさい」
トリッシュが強い声の調子で御坂を制止した。

それと同時に御坂の体に金色の電気が巻きついた。

御坂「ぐ…!!!!」
体が動かない。
電気もうまく操作できない。

トリッシュの電気が御坂を縛ったのである。

アレイスター「……ここで悪魔の力を使われると困るんだがな。魔力が残留してしまう」

トリッシュ「あら、こうでもしないと話が出来ないでしょ」

954: SSまとめマン 2010/04/18(日) 23:45:02.96 ID:1qn0RGw0
御坂「お願いいいいい!!!あいつを一発だけでも!!!!」

トリッシュ「ダメ。いいから聞きなさい」

御坂「むぐぅううういぎぎぎぎぎ!!!!!!!」
御坂が身をよじり拘束を解こうとするもびくともしない。

トリッシュ「…ったく…いい?ダンテから聞いたでしょ?その件でね」


トリッシュ「あなたは同行しなさい」


御坂「………へ?」
まるで幻想殺しにでも触られたかのように御坂の電気が消えた。
トリッシュもそれを見て拘束を解く。


トリッシュ「あなたも行くの。イマジンブレイカーの坊やと一緒に」


御坂「…あ、あたしが…アイツと一緒に…」
御坂はヘナヘナと座り込んでしまった。


トリッシュ「いい?」


御坂は首振り人形のように何度も首を縦に振った。

955: SSまとめマン 2010/04/18(日) 23:49:33.89 ID:1qn0RGw0
アレイスター「これは理事長命令だ」

御坂「…あは…ははははは!」

御坂は強引にでもついていこうと思っていた。
だが学園都市側の許可がおりるどころかそれを命令されるとは。

御坂「じょ、上等よ!!!言われなくても行くもん!!!」

どこからともなく現れた黒服の男が御坂に辞書程もある分厚い冊子と小さな黒い金属のケースを渡した。

アレイスター「任務要項だ。目を通しておけ。全部頭に叩き込め」

御坂「ふ、ふん!!!」

トリッシュ「ところであなた英語喋れるの?」

御坂「……ま、まあ多少は…」
常盤台はお嬢様学校だ。当然外国語も実用的な物を教えている。
簡単な会話程度なら易々とできるレベルだ。

トリッシュ「まあ、何も無いよりはマシね。あなた頭良いんでしょ?」

御坂「…む…多分」
自分で言うのもあれだがレベル5だ。頭の出来はかなり良い方だ。

トリッシュ「なら色々使えそうね」

956: SSまとめマン 2010/04/18(日) 23:53:23.68 ID:1qn0RGw0
御坂「これは?」
御坂が小さな黒いケースを開け、中から耳掛け式のイヤホンのようなものを取り出した。

アレイスター「ミサカネットワークに接続できる。それで報告しろ」
相互通信する場合は脳波を変換する為にもっと大きな物が必要だが、
御坂と妹達の脳波は同じだ。

それならば少し補助をする機器だけで事足りる。
このイヤホンは元々は接続不良を起こした妹達の為に作られたものだ。

御坂「ふぅん…これで晴れてあたしもあの子達と繋がれる訳ね」

アレイスター「ネットワークのアーカイブの閲覧は出来ないが、妹達との会話はできる」

御坂「……」
あの妹達の事件の情報を更に知ることが出来ると思っていたが、それは無理なようだ。
情報を規制するのも当然だろう。


アレイスター「だが長時間の使用はやめといたほうが良い」

アレイスター「一万人の相互通信を一度に聞くと脳に負担がかかる」


妹達は専用のプログラミングを施されている。
いくら脳波が同じで、処理能力の高い御坂の脳でもいきなり長時間接続してしまうとかなり負荷がかかるだろう。

御坂「……わかった」

トリッシュ「明日の昼迎えに行くから。それまでに準備しときなさい」

御坂「うん。わかった」
御坂の顔がキッと引き締まる。

957: SSまとめマン 2010/04/18(日) 23:58:39.44 ID:1qn0RGw0
アレイスター「座標移動。送れ」

結標がゆっくりと御坂の方へ歩いていく。

アレイスター「頼んだぞ。超電磁砲」

御坂「ふん。言われなくても」

御坂「それと一つ」

アレイスター「何だ?」

御坂「許したわけじゃないから」
御坂の前髪に電気が走る。

結標「ねえ…電気出すのやめてくんない?演算狂っちゃいそうなんだけど……」


御坂「絶対にいつかツケを払ってもらうわよ。二万人分のね」

結標を無視して御坂は言葉を続けた。


アレイスターは小さく微笑んだ。

958: SSまとめマン 2010/04/19(月) 00:02:18.37 ID:.dTo5V60
御坂「ふん!!」
御坂は電気が迸る中指をアレイスターへむけて立てた。

そしてそのままの姿勢で結標と共に消えた。


トリッシュ「あなたって随分と『人望』が厚いのね」


アレイスター「長く生きていると色々あるのだよ」

トリッシュ「そう?私はあなたの10倍以上生きてるけどここまで人気者じゃないわよ」

アレイスター「近くに魔帝やダンテという避雷針がいつもあっただろう」


トリッシュ「そう……まあどうでもいいけれど」

アレイスター「……」


トリッシュ「どうでもいいけれど」


アレイスター「わかったから二度は言うな」


―――

959: SSまとめマン 2010/04/19(月) 00:03:33.17 ID:.dTo5V60
今日はここまで
再開は明日の夜11時頃からです

971: SSまとめマン 2010/04/19(月) 23:11:04.20 ID:.dTo5V60
―――

その日の夜。

上条は第七学区の夜道をインデックスとともに歩いて帰路に就いていた。
つい先ほど、焼肉屋でクラスメイトほぼ全員+小萌+インデックスで打ち上げをしてきたのだ。

当初は土御門や青ピ、吹寄や姫神等の特に近しい人物のみで晩御飯を食べるつもりだったが、
裏の繋がりで上条の事情を知っていた土御門は
「何言ってんのベオやん!!!重要な旅立ちなんだから皆呼ばなきゃダメだにゃー!!」と、クラス全員に召集をかけたのだ。
急の誘いにもかかわらず、ほぼ全員が集りそしてなぜか小萌も加わり焼肉屋へ行くこととなった。

上条は皆に「新しい能力開発プログラムを受ける生徒として選抜された。しばらくは会えない」と伝えた。

病院を出る頃にはもう既にそのダミー計画はしっかりと仕込が終わっていたらしく、
上条はそのダミーの書類を渡されたし小萌も上からの通達で知っていた。

唯一真実を知る土御門は小さく上条に呟いた。

「待ってるぜよ。『かみやん』」と。

ちなみに御坂は来れなかった。
病院を出る頃に電話があり、なんと御坂も同行する事になったのだ。
その準備で忙しくて来れないらしい。

というか、来ても上条のクラスメイトに混ざるのは少し居心地が悪かったかもしれない。

インデックスにもその事を伝えた。
彼女はいつもなら嫉妬するところを、この時はすんなりと快諾した。

972: SSまとめマン 2010/04/19(月) 23:16:18.85 ID:.dTo5V60
上条とインデックスは夜道を並んで歩く。
空は晴れており、大量の星が瞬いていた。

上条「腹いっぱい食ったか?」

禁書「うん!!我が人生悔い無しなんだよ!!」

上条「おいおいここで人生終わってもらっちゃ上条さんは困りますよ」

禁書「えへへへ……」

禁書「ねえとうま」

上条「うん?」

禁書「帰ってきたらね…その…私がご飯つくってあげるんだよ!!!」

上条「ぶふッ!!」

禁書「な、何で笑うのかな!!!ちゃんと練習するんだよ!!!」

上条「悪い悪い……おう。わかったぜ!」

上条がインデックスの頭を撫でる。
そして優しい笑みを向ける。

上条「楽しみにしてるぜ!」

禁書「うん!!!」
インデックスが上条の顔を笑顔で見上げた。

975: SSまとめマン 2010/04/19(月) 23:21:29.06 ID:.dTo5V60
禁書「……綺麗なんだよ」
インデックスがそのまま上条越しに夜空を見上げ、上条もつられて見上げる。

上条「おお…凄えな…ここでもこういう夜空見れたんだな…」

禁書「わぁ~……」
インデックスが空を見上げたままひょこひょこと歩く。

上条「お、おい、ちゃんと下も見ないと…」
転ぶ と続けようとしたが見事に間に合わなかった。

禁書「わひゃぁ!!」
インデックスが躓きよろめく。
その瞬間上条が右手で彼女の左手を掴み、体制を立て直した。

上条「あっぶねえな…!!!」

禁書「ご、ごめんなんだよ…」

上条「…んまぁいいぜ!怪我もねえしさ!」

インデックスが、彼女の左手を握る上条の右手に目を移す。

上条「……」

禁書「……」

お互いがその手と相手の顔を交互に見る。

976: SSまとめマン 2010/04/19(月) 23:23:28.50 ID:.dTo5V60
上条「す、すまん!!!」
少し動揺しながら上条がバッと手を離した。

禁書「あ……あの…その…」
インデックスが顔を赤らめながらもじもじし始める。

上条「わ、悪い…いきなり…」

禁書「ち、ちがうんだよ…そ、その…」

禁書「私は……さっきのままの方がいいかなって…」


上条「……へ?」
その言葉を理解するまで数秒かかった。


禁書「む…むぅ…だから……手を…」
インデックスが左手を差し出した。

上条「……な、な、な…?」
上条の思考がその手を見て凄まじい速度で回転する。

空回りだが。

977: SSまとめマン 2010/04/19(月) 23:26:26.74 ID:.dTo5V60
禁書「……手」
顔を真っ赤にしているインデックスが呟く。

上条「お、おう…」
言われるがままに右手を差し出す。そして握手をした。

禁書「むきぃいいいい!!!ち、違うんだよ!!!だ、だから……こう…」
インデックスがもう片方の手で上条の右手を動かし。

自分の左手と繋がせた。

禁書「こう!!!こうなん…だ……よ……よよよよよ…」
自分の行動に気付き更に顔を赤らめた。

上条「お……お…おう」
鈍感すぎる上条もようやく状況を理解し始め顔を赤らめる。

上条「……」

禁書「……」

上条「…じ、じゃあ……い、行こうぜ」

禁書「う、うん…」

二人はぎこちなくも手を繋ぎながら黙って家路に就く。
とても会話が出来る状態ではなかった。

―――

978: SSまとめマン 2010/04/19(月) 23:32:38.59 ID:.dTo5V60
―――

とある病院の待合室にダンテとトリッシュ、ネロがいた。

普段は患者専用の待合室なのだが、
この棟は閉鎖され一般人は締め出されている為、この部屋は三人が独占していた。

壁際に長椅子が並んでおり、その一つにダンテが寝そべっていた。
そして小さな机を挟んで向かいの長椅子にトリッシュが腰掛けていた。
そのトリッシュの隣にネロがだらしなく座っていた。

ネロはこの後、イギリスでの仕事があるのだがギリギリまでこの場にいるつもりだ。

彼等の間の机の上にはピザの箱と数本のワインボトルが並んでいた。

三人は一通り今後の事を確認していた。

トリッシュ「……ということでいい?」

ダンテ「……めんどくせえ」
ダンテが天井を仰ぎながら呟く。

最初の一週間はまず上条の悪魔化の状態をトリッシュが詳細に調べる。
それと平行して、ダンテが上条に悪魔の力の制御方法を教えるのだ。

教える、といっても教壇に立ち講義する訳ではない。
言葉ではなく体で覚えてもらう。

つまりダンテがとことん叩きのめして鍛え、ズタボロになるまで絞り上げるのだ。

979: SSまとめマン 2010/04/19(月) 23:40:27.68 ID:.dTo5V60
ダンテ「……」
ダンテは誰かをそういう風に教育したことは無い。
初めてだ。

ふと自分の幼い頃を思い出す。
バージルと共に父に徹底的にしごきあげられた時代。

それはそれはもう過酷な物だった。

『父と息子』ではなく、『捕食者とエサ』だ。
戦い方を覚えなければ殺されるという覚悟でその修練の日々を乗り越えた。

史上最強の魔剣士から直に教わるなど、多くの武闘派の悪魔達が羨むだろう。

だが当時はそんな有り難味を感じる余裕など無かったし、
それどころか、なぜそこまでして力をつけなければならなかったかのすら分からなかった。

今だからその意味はわかるが、当時はイヤでイヤで仕方が無かったし、別に力なんて欲しくは無かった。
その一方でバージルは弱音一つ吐かずに過酷な修練に励んでいた。

同じ時に生まれ同じように過ごしてきた双子なのに、
更に死んで復活するまでの10年程のブランクがあるにもかかわらず、
今でもバージルの方が僅かに強いのはその幼い頃の積み重ねの差だろう。

ダンテは過去を思い出して鼻で笑った。

トリッシュ「……何?」

ダンテ「いや……めんどくせえが、面白そうだなってよ」

982: SSまとめマン 2010/04/19(月) 23:47:44.69 ID:.dTo5V60
>>980 ダンテ自身が攻略本や小説で「全力でまともに正面からやりあったら勝てない」と。

ダンテは父がやったような正に『悪魔的』な過酷な教え方しか確か知らない。
だが上条は幼い頃の自分よりはマシだろう。

確固たる目的と決意があるのだ。
バージルのように懸命に励むだろう。

ダンテ「OK…しごきは任せろ。で、そっちの目安はついてんのか?」

トリッシュ「そうね…まず見てみないことにはね。あなたが彼の力を引き出してね」

ネロ「人間の意識を保ったまま転生させるのはどうだ?ステイルみてぇに保護術式組んで」

トリッシュ「難しいわね……魂が溶け合っちゃってるから」

ネロ「……魔剣とか…あいつの場合はベオウルフか、それを心臓にブッ刺して一発で覚醒は?」

トリッシュ「そのやり方で覚醒できるのはあんた達ぐらいよ」

スパーダ一族が行う特徴的なその『成人式』は、魂の殻を叩き壊し力を爆発させるような物だ。

そんなやり方をするのは大悪魔の中でもそうそういない。
そんな事をすれば一瞬で自我が砕け散って完全に消えてしまう可能性がある。

トリッシュ「まあそれも調べてみなきゃね。もしあの子が耐えられるってんならそれでもいいけど…」

トリッシュ「少し力が漏れただけでああ暴走しちゃうようじゃ、今の段階では無理ね」

983: SSまとめマン 2010/04/19(月) 23:52:37.81 ID:.dTo5V60
ダンテ「おい、忘れてねえか?最終的には人間に戻すのが目的だ」

トリッシュ「でも禁書目録はどっちでも良いって言ってるんでしょ?」

トリッシュ「人間の精神が残ってれば」

ダンテ「まあ…な。だがそれはあくまでも一時的にだ」

ダンテ「肉体が完全に悪魔のままじゃ永遠にあの姿だぜ?」

トリッシュ「へぇ……あなたもそういう事考えるのね…」

ネロとトリッシュが小さく笑う。

ダンテ「何が?」

トリッシュ「つまり禁書目録ばっかり年取って先に死んであの坊やが残るってのが可哀そうなんでしょ?」

ダンテ「かもな」
ダンテは動じずに答えた。

988: SSまとめマン 2010/04/20(火) 00:06:50.57 ID:pqf.Puk0
>>985 1のバージルは魔帝に強制的に使役され力が弱体化 と、このSSでは設定しております。
それと復活したバージルがなぜこんなに強いのかというと、それは>>1の都合です。
1の状態のバージルとダンテじゃ刃を交わらせたり、
共闘したりの二人が並んだ際の釣り合いが取れないと思い、ほぼ同等というレベルまで強化しました。
カッコいい最強の兄弟が書きたかったんです……すみません。



ネロ「俺達みてぇに半人半魔にすれば言いんじゃねえか?とりあえず年はとるぜ?」

トリッシュ「でも結局はあの子は永遠に生きちゃう可能性が高いけど」

ネロ「…」
ネロは自分にも当てはめた。
60年か70年程先の未来、キリエが人間としての寿命を全うしてそれを見送り永遠に残る自分。

ネロ「……あ~、そりゃ……キツイぜ」

トリッシュ「ま、結局はまず調べてみなきゃって事ね」

半人半魔についてはダンテ達以前の前例が無い為、確実な事は分からない。
だがかなり正確な予想はできている。

ダンテ・バージル・ネロは半人半魔であり、人間としての姿は普通の人間と同じ速度で老化していっている。
だが 人間と同じく寿命という命のタイムリミットがあるか?という点では否定せざるを得ない。

人間の部分は老化しているが、悪魔の部分は『通常通り』年月を追うごとに大きく成長していっている。
バージルの復活の例もあり、彼等の『生き方』は人間には当てはまらないだろう。

トリッシュの導き出した予想は、
人間の部分は最終的に朽ち果てて彼等の姿は悪魔そのもの、
つまり魔人化の姿が普通になり、その後は悪魔の法則通り永遠の寿命 という物だ。

ただダンテ達ならスパーダのように仮の人間の姿を持つこともやろうと思えばやれるので、
結果的には今とほとんど変わらないだろう。

990: SSまとめマン 2010/04/20(火) 00:13:28.69 ID:pqf.Puk0
というか、トリッシュからすればこの人間界の『寿命』という仕組み自体が珍しいのだ。
魔界や天界をはじめ、ほとんどの世界では寿命という概念が無い。

『生きる』のを辞めない限り『生き続ける』のだ。
死にたければ死ぬ。生きたければ生きる。

人間界のように生まれついた時からタイムリミットがあり、
強制的に命が絶えるというルールは独特だ。


ネロ「……じゃあ今話す事はもうねえな」

トリッシュ「ええ」

ネロ「トリッシュ。イギリスに送ってくれ」

トリッシュ「OK」

ネロとトリッシュが立ち上がる。

トリッシュ「そうそう、何か持って来て欲しいのある?事務所に寄って来るけど」

ダンテ「あ~…特にねえ」

トリッシュ「そう。少し遅くなるから」

ダンテ「仕事か?」

トリッシュ「ちょっとね。ネロ送って事務所に行った後、アレイスターの所に行くの」
トリッシュがニヤリと笑いながらネロと共に黒い円に沈んでいった。

ダンテ「……」


―――