1: 名無しさん 2011/09/29(木) 20:26:24.22 ID:zWLLXH3v0
──歩

「雪歩、本当にいいのか」
お父さんの声が、アスファルトと睨めっこをしている私の頭の上で聞こえました。
ちょっとだけ勇気を出して、唇をキュッと結んで言います。

「うん、もう決めたことだから……」
ふくらはぎがパンパンに張ちゃうくらい急な坂道を登って、平坦な道路を歩いて……。
私は一人、小さなビルを見上げます。
う、うん!わたし、これから変わるんだ!

階段を一段登るたびにドキドキが大きくなっていきました。
扉を開けて、その瞬間叫びました。

「あ、ああの!今日から、この事務所にお世話になります萩原雪歩って言いますぅ!16歳です!よろしくお願いします!」

引用元: ・雪歩「765プロが倒産してもう二年半ですぅ……」

9: 名無しさん 2011/09/29(木) 20:35:11.17 ID:zWLLXH3v0
「わ、私ダメダメな自分を変えたくてここまで来ました!トップアイドル目指して、頑張ります!」
周りが全然見えなくて、勢いに任せて一息に言い切りました。

返答はしばらく待っても返ってきません。
私は、段々と不安になって、思わず目が潤んできてしまいます。

「……えっと」
女の子の声が聞こえました。
恐る恐る見上げると、赤いリボンを髪につけた子がソファに座って、ティーン雑誌を広げていました。

「あはは……今、社長も事務員の人も留守なんです」
「そ、そうなんですか」
うぅ……どうしよ……。

女の子が、座っているソファをポンポンと叩きました。ほこりがちょっと、巻き上がります。
「とりあえず、ここで座って待ってなよ」
「は、はい」
言われるままに、小さく縮こまってそこ子の隣に座りました。

「はじめまして。私、天海春香です。トップアイドル目指してます!これから、よろしくね」
それが、私と春香ちゃんの出会いでした。

23: 名無しさん 2011/09/29(木) 20:45:27.59 ID:zWLLXH3v0
「うぅ……また失敗しちゃった……」
広い広いレッスンルームの部屋の隅が、私の特等席です。
体育座りをして、すっぽりと収まるようにして座ると、すごく落ちついてきます……。

アイドルになって変わろうって思ったけれど、ドジしてばっかりで……。
やっぱり私には、無理だったりするかも、ですか……?

ふいに防音製の分厚いドアが、ゆっくりと開きました。

「……萩原さん」
「は、はい……!」
この声、私のちょっと、苦手な子だ……。
すごくストイックで厳しくて……

「あなたは、やる気があるんですか?毎回同じトコロで間違える。ステップは踏めない……」
「ご、ごめんなさいぃ……」

それから、10分間みっちりお説教をされてしまいました。
途中で、春香ちゃんがドーナッツを持って仲介にきたけれど

「天海さん、あなたもよ。音程が全くなってないわ。トブーじゃないわよ、トブーじゃ」
と一蹴されて、苦笑いを浮かべて頭をかいていました。

31: 名無しさん 2011/09/29(木) 20:56:45.62 ID:zWLLXH3v0
「とにかく、プロとしての自覚があるのならもっとしっかりやってください」
最後にそう言ってレッスンルームから出ていきました。

「うぅ……」
765プロダクションに入って数週間がたったけれど気づくのは、
私のダメなところばっかりで……。何も出来なくて泣いてばっかりで。
きっと、千早ちゃんみたいに熱意も実力もある人が、トップアイドルになれるんですね……。

事務所にキノコはやしちゃうくらいジメジメした気分でいると、
突然、天井にカエルが降ってきました。

「ひゃ、ひゃああああ!」
私は、思いっきり後ろにのけぞって、ソファから転げ落ちました。

身を起こすと、同じ顔の、ちっちゃな女の子が二人いました。手には、カエルの玩具を持っていました。
「んっふっふ→なにやらネガティブな方がおりすのう」
「だ、誰?」

ニカッと全く同時に白い歯を見せて、背中合わせになって言いました。
「双海真美」「双海亜美」

「よろしくぅ→」
どう見てもしょ、小学生だよね……?このくらいの年の子でアイドル目指してる子、いるんだ……。

40: 名無しさん 2011/09/29(木) 21:07:05.82 ID:zWLLXH3v0
765プロダクションに候補生として所属して、数週間がたちました。
そんな簡単に、デビューなんて出来るわけないと思っていたけれど
事務所で、ただお茶を飲んでる毎日を繰り返していると、ほんとにこれでいいのかな……なんて思っちゃいます。

「ごめんくださ~い」
のんびりした声が、入口から聞こえました。
私は辺りを見回しました。誰もいません。

壁に体をつけて、一歩一歩ドアの方に向かいます。
そっと頭を出して覗きこむと……キレイな黒髪のお姉さんが微笑みながら立っていました。
うわぁ、キレイな人ですぅ……。

「765プロダクションは、ここでいいのかしら~?」
「は、はい……」

私の声を聞くやいなや、ホッと肩を撫で下ろして相変わらずのんびりした声色でいいました。

「よかったわぁ~。道に迷ってしまって、こんな時間になってしまったわ~」
時計を見ると、すでに夜の8時を過ぎていました……。
「三浦あずさと申します~。アイドルの志望理由は、運命の人に会うためです。それにしても随分とお若い社長さんですね~」

55: 名無しさん 2011/09/29(木) 21:20:42.58 ID:zWLLXH3v0
暫く月日が過ぎて、また新しいアイドル候補生の子が来ました。
段々と、みんなとは仲良くなってこれたけど、人見知りの私はいつも受身の態度をとっちゃいます。
こ、今度は私から仲良くなろう……!
一人ガッツポーズをします。


「水瀬伊織ちゃんで~す♪スーパーアイドル目指して、がんばりま~す♪」
「おぉ、君のお父さんから話は聞いているよ。お兄さんと同じく、君にも期待しているよ」
「は、はい。よろしくお願いいたしますわ」

社長が、上機嫌で伊織ちゃんという子に話しかけていました。
な、なんだかとっても雰囲気の柔らかい子ですぅ……。
このとならすぐに仲良くなれるかも……。

「では、そこに座って待っていてくれたまえ」
そう言って、社長は待合室から離れました。

……今しかないかも、です!
「あ、あのあの。私、萩原雪歩っていいます。よろし……」
「まったく腹立つわね~~!お兄様とお父様は関係ないでしょ?!あり得ないわ!」
伊織ちゃんの雰囲気が一変しました。私は、思わず大股3歩後退します。

ひぃ~~ん!やっぱり、怖いですぅ~!

62: 名無しさん 2011/09/29(木) 21:28:47.07 ID:zWLLXH3v0
どうしよう……このままじゃ遅刻しちゃう……。

「ヴぁい!ヴぁい!」
「ひっ……!」

事務所に行く一本道の途中に、犬が電柱に繋がれていました。
私を足元から見上げて、思い切り吠えてきます。
犬はどうしてもダメぇ~~!

「君、もしかしてここ通れないの?」
「へっ?」
後ろから低い声がしました。
振り返ると、ショートカットの黒髪で、私と同じくらいの年の男の子がいました。

「犬……」
「犬って、あっはっは!これチワワじゃないか、可愛いなぁ~!」
男の人も苦手だけど、なんだかこの人だけは話していると心が不思議と落ち着いて、ドキドキしませんでした。

72: 名無しさん 2011/09/29(木) 21:34:48.41 ID:zWLLXH3v0
その男の子は、座り込んで、犬を撫でて言いました。
「ヴぁい!ヴぁい!」
「ボクが気を逸らしてる間に通りなよ」
「あ、ありがとうございます!」

よ、よかった。
あの人のおかげで、遅刻せずにすみました。
今日は、私と将来デュオを組む予定の子が来るみたいです。

絶対に遅れるわけにはいきませんでした。
それにしても、あの人、なんだかカッコ良かったなぁ……。


「うぅ……仲良くなれるかな……」
不安9割、期待1割で、ソファに座ってもじもじと体を擦り合わせます。

暫くすると、ドアが開いて社長の背中から、元気な声が事務所に響きました。
なんだかついさっき聞いたことあるような……。


「キクチマコトデース!ジャンジャンバリバリ頑張りますので、よっろしくお願いしまーす!」


83: 名無しさん 2011/09/29(木) 21:44:58.15 ID:zWLLXH3v0
「よ、よかった……今日は怒られずにすみましたぁ……」
レッスンが終わって、へとへとになった重たい体がソファに沈みます。

遠くでは、春香ちゃんがまた千早ちゃんに元気よく話しかけていました。
千早ちゃんは「今からヴォーカルのレッスンをするから」と、話を打ち切って部屋から出ていってしまいました。

……。

「うっうー……」

へっ?!どこからか不思議な呪文みたいなもの、が聞こえてきました。
驚いて周囲を確認すると、オレンジ色の髪と服を着た女の子がお腹を押さえていました。

「ど、どうしたの、迷子?お腹痛いの?」
私はその子に駆け寄って、声をかけます。

「大丈夫ですー!ちょっとお腹が減っちゃっただけで……」

92: 名無しさん 2011/09/29(木) 21:55:35.38 ID:zWLLXH3v0
「えっとえっと、あ、ここにある食べ物食べていいよ」
事務所のテーブルにあるお煎餅やガムを指さします。
勝手なことしちゃって後で怒られちゃうかも、です……。

「ほ、ほんとですかー?!」
その子は、さっきとは打って変わって目をキラメキラリと輝かせました。

「う、うん好きなもの食べて……」
「すいません!最近もやしとティッシュしか食べてなくてお腹ペコペコでしたー!」
ちっちゃな体を、腰で曲げて、ガルーンとお辞儀をしました。

「えっと、それじゃ……」
その子は、人差し指を口元にあてて、キョロキョロと見回しました。
何か、発見したみたいです。あ、あれ?そっちの方向はお菓子入れじゃないよ……?

事務の机のしきり板から、ひょこひょこと茶色く細長いものが空中に浮いていました。
「ま、待ってぇ!それは!」
「あの、エビフライをいただきまーす!」
私はその子を止めようとしましたが、間に合いませんでした。思い切り、エビフライ……?を鷲掴みにします。


……律子さんの怒気を抑えた声が私に届きました。
「……雪歩、紹介するわ。本日付けで765プロダクションに所属することになった。高槻やよいちゃんです」

104: 名無しさん 2011/09/29(木) 22:09:02.82 ID:zWLLXH3v0
それからあっという間に数カ月がたちました。
私たちはちょっとずつ打ち解けていって……。

「で、出来たぁ……」
「萩原さん、おめでとう」
いつもステップを間違えるところを、完璧にやりきれました。
千早ちゃんも、ちょっとずつ、ほんの少しだけ笑顔を見せてくれるようになっています。
たぶん、それも春香ちゃんのおかげ、かもです……。

「みんなーまた新しい子が来るわよ~。いっぱいのアイドル候補生の子に囲まれて将来安泰ね~」
音無さんのおっとりした声です。

亜美ちゃんが、律子さんに話しかけます。
「へー誰だろ?ワクワクすんね!」
「今度は、イタズラしちゃダメよ……」

ドアがゆっくりと開きました。
「あふぅ……」
か、開口一番にあくびが聞こえました。
そして、ハデハデな金髪の子が、眠たそうに姿を見せました。な、なんだか変わった子、かもです。

「えっと~ミキはね、ミキっていうの。の~んびりアイドル目指すから、みんなよろしくなの。」

110: 名無しさん 2011/09/29(木) 22:18:01.32 ID:zWLLXH3v0
さらに月日がたって……

「いくの!おにぎり波っ~!」
「磯くせぇーっ!」

美希ちゃんは事務所の子とすっかり仲良くなりました。
私がずっと座っていたソファはすっかり、美希ちゃんの昼寝専用スペースになってしまいました。

「はっはっは。いやぁ、みんな仲が良くていいことだね」
「えぇ、後はこの子たちをプロデュースしてくれる人がいてくれたらいいんですけれど……」
社長と音無さんが、窓にもたれかかって談笑しています。

また、ドアが軋みをたてて開きました。
今度は二人分の足音。みんなが一斉に振り返ると……。

「はいさい!自分、我那覇響!」
「四条貴音と申します。以後、お見知りおきを……」

見ただけで、一言声を聞いただけで、まるで正反対な二人組がそこにいました。
……765プロダクションのアイドルが全員集まった瞬間でした。

130: 名無しさん 2011/09/29(木) 22:29:08.77 ID:zWLLXH3v0
「みんな……待たせたわね……」
律子さんが不敵な笑みを浮かべています。

「今日!ついに、私たちのプロデューサーが到着します!」
え……。

「ホ、ホントですか!みんな、プロデューサーですよ!プロデューサー!」
春香ちゃんがお菓子を片手に持って、バンザイしました。
「よかった。丁度力を発揮できる状況が、欲しかったところです」
その隣で、千早ちゃんがポーカーフェイスで佇んでいました。

プロデューサー……。
わ、私たちを候補生じゃなく、ホントのアイドルにしてくれる。
お、男の人だと思うけど……私、頑張らないと!

階段を上る足音が聞こえてきました。
私たちの視線が、ドアに集中します。

きぃ……と鉄のドアが開いて……そこには……
この人が……私たちがこれから先ずぅっとお世話になる……

「は、はじめまして。今日からみんなのプロデューサーになりました、名前は……」


よ、よろしくおねがしますっ!

150: 名無しさん 2011/09/29(木) 22:39:25.76 ID:zWLLXH3v0
「それじゃ、皆~撮影するぞ~」

一からのスタートです。

まずは、765プロダクションのアイドルが全員揃ったのをきっかけに
ホームページに写真を掲載することになりました。

「ちょ、ちょとあんた押すんじゃないわよ」
伊織ちゃんが、春香ちゃんを肘でおしのけます。

「自分は、一番前で撮るぞ!ハム蔵も一緒だ!」
響ちゃんは、いつでも撮ってくれて構わないぞ!と言わんばかりの笑顔でした。

「ミキ、すっごくワクワクしてきたの~!」
「こ、こら!はしゃがないの!」
律子さんが美希ちゃんをハラハラした面持ちで制します。

せ、狭いですぅ~……。私は、とりあえず手前の、あまり目立たないポジションをキープします。
……なんだか、楽しくなってきました。みんなと一緒なら、ダメダメな私でも笑いながらアイドルやっていけるかも、です。

「それじゃ、撮りまーす!いーちーにーさーん」


それが、私たち765プロのアイドルへのSTART!!でした。

166: 名無しさん 2011/09/29(木) 22:47:13.54 ID:zWLLXH3v0
──あれ?

視界が突然真っ白になりました。
ここはどこだろう……?

あ、ホテルの一室だ。確か、ミキちゃんに会いにアメリカまで来たんだっけ。
それで、どうしたんだっけ。


──わぁぁあああああ!

悲鳴と、嗚咽と、喧騒がエコーがかかって耳で鳴り響いています。
景色がまるで、スローモーションでゆっくりゆっくりと流れます。

──救急車を呼んで!今すぐによ!
律子さんが、青ざめた顔で叫んでいます

──何故……何故なのですか……!
あれ?四条さんがすごく泣いてる。
さっきもビックリしたけど、今度は顔をくしゃくしゃにして、絞り出すように……。

なにがおこったんだろ

194: 名無しさん 2011/09/29(木) 22:57:34.07 ID:zWLLXH3v0
段々と意識が、戻ってきました。

──お、おまえら終わりだ!国が動くぞ。はは!
あ、961プロデューサーの声だ。

──うぅ、頭、痛いの……。痛い……。
美希ちゃんの足元に銃が落ちていて、頭を強く押さえています。

私の、正面に目を向けると……。
真っ白いドレスの腰に、小さな穴があいていて、そこから鮮血が流れ出ていました。
高そうな大理石の床に、血溜まりができて……。

そこに何か、赤に塗れて白いものが浮いていました。

あれは……耳の取れたぬいぐるみだ。
ところどころツギハギだらけの。

そうだ、纏わりついて離れない胸騒ぎの正体がわかりました。あの言葉を聞いてから、私、震えが止まらなくなったんだ。
──はぁ~……ようやく私たちが報われる、最期の週末が来るのね

い……



「伊織ちゃん!!!」
撃たれたのは、伊織ちゃんでした。

232: 名無しさん 2011/09/29(木) 23:10:16.91 ID:zWLLXH3v0
「うぅ……」
伊織ちゃんの額には、脂汗がびっしりと浮かびあがっていました。
短い呼吸を小刻みに繰り返しています。

「うわああああ!!!伊織!伊織!しっかりして!」
真ちゃんが、泣き叫んで肩を揺らしています。
「揺らさないで!早く!誰か呼んできて!」

「水瀬財閥の令嬢を殺してやった!俺もお前らももう終わりだな!」
961プロデューサーが高笑いをあげています。その目はどこか正気を失っていました。

……ウソだよ。こんなのウソだ。

「何故わたくしなどのために……伊織……!」
横たわる伊織ちゃんを四条さんが抱えていました。
真っ白いドレスに、伊織ちゃんの血がべっとりとついています。

「……あつい」
「え……」
伊織ちゃんがポツリと囁きました。

「……て」
四条さんの手は、伊織ちゃんの右手を強く強く掴んでいます。

246: 名無しさん 2011/09/29(木) 23:19:46.01 ID:zWLLXH3v0
「ごめんね……ごめんね……」
美希ちゃんが頭を押さえながら青ざめた顔で、呟いています。
「ダメなの……」
最後にハッキリと言いました。
「ミキ、ハ……ニー……のもとへ行くね」
えっ……?

今、美希ちゃんは確かに言いました……。
「ハニー」って。

その瞬間、美希ちゃんが踵を返して、走りだしました。
「ま、待って!美希ちゃん!!!」
私はそう叫びましたが、遅かったです。
美希ちゃんの走り去る音が、どんどんと小さくなっていきます

どうしよう……どうしよう……。
私は段々と頭の中がぐちゃぐちゃになって、また何も考えることが出来なくなってきました。

「……やるぞ」
響ちゃんの声でした。振り向くと……。
「おまえ、許さない。殺してやる……」
高笑いをしている961プロデューサーに向かって、響ちゃんが、光がすっぽり落ちた瞳で、言いました。

265: 名無しさん 2011/09/29(木) 23:31:32.01 ID:zWLLXH3v0
「もうすぐ人が来るわ!だから意識をしっかり持って!」
「う……」
律子さんが伊織ちゃんに必死に呼びかけています。

私は、足が地面にくっついちゃったかのように、身動きをとることができませんでした。


「殺してやる!」
信じられませんでした。
あの優しい響ちゃんの、口から「殺す」なんて言葉を聞くなんて……。

「終わりだ!終わりだよ!」
響ちゃんが、キッと正面を見据えました。
そして、前かがみになって、961プロデューサーに向かって、駆けだしました。

ひっ……!

「うぶっ……」
響ちゃんの握った拳が、961プロデューサーの顔面にめり込みました。
鼻血が噴水のように噴出します。そのまま、馬乗りになって、

「うわああ!あぁっ!お前がッ……!」
顔に向かって、何度も何度も拳を振りおろします。
「あぁッ!お前なんかがッ……!!!自分たちのッッ……!」
響ちゃんの指には、折れた歯が、痛そうに刺さっていました。

281: 名無しさん 2011/09/29(木) 23:40:15.61 ID:zWLLXH3v0
961プロデューサーの顔がどんどん腫れあがって、力が抜けていくのがわかりました。
それでも、響ちゃんはやめませんでした。
響ちゃんの握った拳も、赤く腫れ上がってきています。

「あぁぁ!!!」
響ちゃんの顔には、返り血がポツポツとついています。

「や、やめるんだ!響!」
真ちゃんが、叫びました。
響ちゃんの背中越しから、抱えるように両腕を抑えます。

「止めるなッ!真!こいつ殺してやる!」
響ちゃんがジタバタと身をよじります。
真ちゃんは、思い切り力を入れて、馬乗りになっている響ちゃんを引きはがしました。

「……う……うあ……」
響ちゃんの力が急に抜けました。
「……自分たち、一体なんのために……ここまで……」
響ちゃんは、消え入りそうな声でそう呟いて、尻もちをつきました。

304: 名無しさん 2011/09/29(木) 23:54:00.07 ID:zWLLXH3v0
「伊織ちゃん!」
「伊織!」
響ちゃん以外の全員が、四条さんに抱かれている伊織ちゃんを囲んでいました。

「……」
虚ろな、焦点を失った伊織ちゃんの目が皆を見ようと、くるりと円を描きます。
それから、力を振り絞るように体を強張らせて、伊織ちゃんは言葉を発します。
「……貴音……任せたわ……」
「な、何の事ですか、伊織?!」
四条さんの、握った手に力が篭りました。

その言葉が伊織ちゃんの耳に入ったかはわかりませんが、微かに微笑んで、伊織ちゃんは続きます。
「……ミキ……今回は特別に……許すから……」
伊織ちゃんは、ミキちゃんがいないことに気づいていないようです。
そして次の瞬間、伊織ちゃんは口から大量の血を吐きました。
「わかった!わかったから、もう、喋らないで!伊織!」
「……」
伊織ちゃんの口が微かに動いています。
「何、何て言ってるの、伊織ちゃん?!」
私は伊織ちゃんの口元に耳を近づけます。ハッキリとした口調で、確かに伊織ちゃんは言いました。

「お兄さま……やっぱり……私は……間違っていなかった……わ」
そう言って伊織ちゃんは意識を失いました。


それから間もなく、水瀬財閥の救助隊が到着しました。

323: 名無しさん 2011/09/30(金) 00:04:59.25 ID:5tjR1IHw0
──こんなの夢だよ。伊織ちゃん

また、少し意識が飛びました。

伊織ちゃんが、応急処置を受けています。
四条さんは、それでも伊織ちゃんから離れることはありませんでした。
じっと、伊織ちゃんの顔を見つめています。

「これで、全部終わりなのかな……」
多分、私が言った言葉です。
まるで他人が言ったように、耳に入りました。

「終わらせないわ……」
えっ……。

この声は……見上げると……。
「プランBよ……。私は伊織を信じてる。ここは貴音に任せてみんな、美希を追うわ」


律子さんでした。どこか、使命を帯びた瞳で、真っすぐと、そうハッキリと皆に伝えました。

335: 名無しさん 2011/09/30(金) 00:18:26.36 ID:5tjR1IHw0
律子さんは、ゆっくりと息を吐いて……大声をあげました。
「みんな!ここで泣いてても仕方ないでしょ!」
「……」
皆、言葉を失っていました。
救助隊の人たちは、英語で何か、無線機で連絡をしていました。

「アンタたち、これまであきらないで、奇跡を起こしてきたんでしょ!」
赤く滲んだ爪跡がある手を握って、壁を思い切り叩きました。
「だったら、これからあと一つや百個くらいの奇跡起こしてみせなさいよ!」

……。
その場の空気が代わったのを、肌で感じました。

ありがとうございます、律子さん。

「はい、伊織は、わたくしに任せてください」
四条さんの、芯を含んだ声が聞こえました。
「……」
響ちゃんが、ゆっくりと、起き上がりました。


私達、ほんとに、強くなったんだ。

351: 名無しさん 2011/09/30(金) 00:29:57.00 ID:5tjR1IHw0
気が遠くなるくらい長い長い通路を、走ります。

「ちょ、ちょっとみんなどったの?!」
「な、何があったの→?!」
「はわっ……」
亜美ちゃんと真美ちゃんとやよいちゃんが進行方向に見えました。

「話は後よ!いいから来なさい!」
「ちょ、ちょっと!真美たちまだ遊び足りない……!」
律子さんは、すれ違う瞬間に、腕を引っ張ります。

律子さんを先頭に、私たちが続きます。
更に進んでいくと、黒い服の、サングラスをかけた男の人が道を塞ぐように立っていました。
何か英語で叫んでいます。
たぶん「止まれ!」って言ってる。

「こっちは、一刻を争うのよ!真ッ!」
「ボクッ?!」
そう叫ぶと、黒い影、タキシードを着た真ちゃんが、つむじ風のように後ろから現れて、


「ご、ごめんなさい!」
真ちゃんは、飛び上がって、その人の喉元へと、つま先をめり込ませました。
そして一瞬で、その人を気絶させました。

361: 名無しさん 2011/09/30(金) 00:40:43.87 ID:5tjR1IHw0
「なんで!ボクばっかり!」
叫びながら、通路に立ちふさがる黒服の人を、真ちゃんを正拳突きでなぎ倒していきます。
「こんな役目なんだよッ!」
そう言って、回し蹴りを、お腹に食い込ませると、激しく悶絶して倒れました。
無線機で、何か報告しています。

「ご、ごめんなさいごめんなさい」
私たちは、その人の背中を踏みつけて進みます。
うぅ……映画みたいですぅ……。

「もうすぐ……ッ」
真ちゃんの息が切れてきました。
出口まで、あと1人……。

突然、その人が叫び声をあげて、胸元からなにか黒い塊を取り出しました。
真ちゃんに向けます。

……ピストルッ?!

「真ちゃんッ?!危ないッ?!」
「いい"ッ?!」
間一髪。真ちゃんは反射的に、つま先でそれを蹴りあげて、着地した瞬間に、前蹴りを繰り出しました。

370: 名無しさん 2011/09/30(金) 00:48:25.42 ID:5tjR1IHw0
「……マズイわね」
律子さんが小さく呟きました。
多分、隣にいた私にしか聞こえてなかったと思います。

「はぁ……はぁ……」


真ちゃんが、ドアを開けました。
月明かりに照らされて、広い広い庭が広がります。

美希ちゃん……やっぱりいない。

「あの車に乗るわ!」
律子さんが遠くの、黒い車を指さしました。
この騒ぎを窺っている人たちが、ドアを開けっぱなしで、野次馬に来ています。
だから、車を奪うことは、簡単なんですけど……。

それって、窃盗ですよね……。

380: 名無しさん 2011/09/30(金) 00:58:39.05 ID:5tjR1IHw0
「……」
律子さんは、無線での連絡を聞いてから、どこかすぐれない顔をしていました。


「ちょ、ちょっとりっちゃん免許あんの?!」
「あるわよ!今は持ってないけどね、今まで無事故よ!」
「そ、それ日本の免許なんじゃ……」
「同じようなものでしょ!」

私たちは、はるか遠くにある駐車場に向かって走り出そうとしました。
だけど……。

真ちゃんが、入口で私たちに背中を向けて立ち止まっています。
「ど、どうしたの、真ちゃん!」
真ちゃんの背中に向かって叫びます。

「……雪歩、約束だよ」
背中を向けて、真ちゃんはちょっと弾みをつけて、言います。

えっ……

「ボクは、ここに残るよ。早く車に乗って。」

394: 名無しさん 2011/09/30(金) 01:11:15.09 ID:5tjR1IHw0
「そ、そんなダメだよ。真ちゃん」
「大丈夫、ボクたちまた必ず会えるから」

ここで違和感を感じました。
私たち、何か大きな勘違いをしてるんじゃ……。

「律子、ボクなんとなくわかったよ、銃を出した時点で、おかしいと思った」
「ど、どういうこと?」

律子さんは、強く頷きました。
「まぁ、事情を説明してる暇は無かったからね」
律子さんは、続けます。
「多分、水瀬財閥側には、私たちも伊織を撃った犯人だと思われてるわ」

あ……。

399: 名無しさん 2011/09/30(金) 01:19:45.05 ID:5tjR1IHw0
超展開にしすぎた……書きなおそうかな……

417: 名無しさん 2011/09/30(金) 01:32:30.89 ID:5tjR1IHw0
「ここで、ボクがなんとかするから皆は行って」
「やだよ!」
私は、思い切り真ちゃんに向かって叫びます。
真ちゃんは、振り向きません。

不意に、私の腕が引っ張られました。
律子さんでした。

「行くわよ!大丈夫!大丈夫だから!」
どんどんと真ちゃんの背中が小さくなっていきます。
真ちゃん……。

「約束!」
ヤクソク……
─もしこれから先、ボクにまた何かあってしても、雪歩には辛くても前を見ていて欲しいんだ。

真ちゃんの病院での一言が思い出されました。
また、泣きそうになるのを、グッと堪えました。

「わかった……ラストでは、笑顔だよね。真ちゃん」

私も真ちゃんを信じてるから。
真ちゃんも、私を信じてくれているから。

私は、踵を返して、走りだしました。

421: 名無しさん 2011/09/30(金) 01:39:47.43 ID:5tjR1IHw0
真ちゃん……!真ちゃん……!
一緒にデュオを組んで、今までやってきたよね。
辛いときも一緒で。
楽しいときも一緒で。

「はぁ……はぁ……」
私たちは、全力で、必死に走りました。

あと、もうちょっとで駐車場につく。


「……い"……」
そのとき、後ろから、うめき声が聞こえました。
足をピタリと止めます。
「う……!」
響ちゃんが、目を苦しげに瞑って、倒れこみました。
他のみんなは、どんどん先へ……。

「響ちゃん!足……」
「もうちょっとイケるかと思ったけど、自分、ここまでだ」

429: 名無しさん 2011/09/30(金) 01:47:57.44 ID:5tjR1IHw0
「時間が無いんだ、行って。雪歩」
だ、だめだよ……置き去りにするなんて……。

「石地蔵のお雪!」
突然、そう叫ばれました。響ちゃんの、返り血を浴びた瞳が、優しく潤んでました。

「お願いさー……みんなには黙ってて……」

……!

「わ、わかった」

きっと、またすぐに会えるんだよね……。
だから、私立ち止まらないよ。

律子さんが、手を振る方へと向かって、足を一歩一歩、前へ出しました。

434: 名無しさん 2011/09/30(金) 01:55:34.52 ID:5tjR1IHw0
私たちは、車へと乗り込みました。

助手席に私
後部座席に、やよいちゃんと亜美ちゃんと真美ちゃん。

「みんな、行くわよ!」
律子さんが、鍵を回すと、煙をあげました。

美希ちゃん……待ってて……。

「あの、貴音さんはどこにいったんですか?伊織ちゃんは?」
やよいちゃんが、不思議そうに問いかけます。

律子さんが、諭すようにやよいちゃんに伝えます。
「説明はあと。今は、美希のことを……」
「あずささんはどこにいったんですか?」

えっ……。
そういえば、あずささんの姿が見えませんでした。
待合室で別れてから、それっきり……。

444: 名無しさん 2011/09/30(金) 02:03:50.49 ID:5tjR1IHw0
「……」

車内がしん……と静まりました。
そのとき、律子さんのポケットから何か音が、鳴っているのに気付きました。

『美希ちゃん~どこにいったの~?』
律子さんが、目を見開いてそれを取り出します。

黒い塊……。
GPSだ……。

私は、律子さんの手のひらに持っているGPSの液晶画面を覗きこみます。
丸くて白い、あずささんを示す点がはるか遠くの道で上下しています。

律子さんが血相を変えて、思い切り叫びます。
「あ、あずささん!戻ってください!そこは危険です!」
『あら、律子さん~私、また迷子になっちゃって~』

あずささん、まさかあの、ドレスのまま、深夜のアメリカの路地をうろついて……。

457: 名無しさん 2011/09/30(金) 02:15:07.43 ID:5tjR1IHw0
『戻ろうにも……う~ん……困ったわ~……』
あずささんの、場に不釣り合いなおっとりした声が静かな車内に聞こえてきます。

「そっちじゃないです!右へ曲がってください!」
それとは対照的に、律子さんは冷や汗をべっとりと額に張りつかせて、叫んでいました。

『え~っと……こっちかしら……キャッ!』
その短い悲鳴を最後に、通話が途切れました……。

……。

どうしよう……。

律子さんは、一度目を見開いて、それから眉をひそめて、それから絞り出すように言いました。
「仕方ないわ……!車で迎えに……!」
車のドアが開く音がしました。
そして……
「わたしが、あずささんを迎えにいきます。」
やよいちゃんが言いました。

「ま、待ちなさい……!」
「今度は、私が追いかける番ですね」
律子さんの言葉を遮って、やよいちゃんは、道路とは逆の、あずささんのいる方角へと、走り去っていきました。

466: 名無しさん 2011/09/30(金) 02:23:48.26 ID:5tjR1IHw0
律子さんは、車のアクセルを思いっきり踏んで、フルストロットルで飛ばしています。
赤信号を無視して、クラクションが鳴り響きます。

「……」
律子さんは一切言葉を発しませんでした。
ただ、唇が震えて、瞳が潤んで、眉が八の字になって……。
必死に何かに耐えていました。

亜美ちゃんと真美ちゃんが後ろで何か話しています。
だけど全く、耳に入って来ませんでした。

……そういえば。

「あの、律子さん美希ちゃんの居場所は、わかってるんですか?」
私は、おそるおそる怖い顔をしている律子さんに聞きます。
「……」

「分の悪い賭けよ」
律子さんが、震える声で言いました。
「美希の、私たちの思い出に、賭けるわ」
あ……。
もしかして律子さんが行っている場所って、プロデューサーが……雑誌でよく見てしきりに行きたいって言ってた。
あの、小さな空港……?

474: 名無しさん 2011/09/30(金) 02:31:41.81 ID:5tjR1IHw0
確かに、その空港はすぐ近くにありました。
すぐに到着できる場所に。

「だけど、もし違ってたら……」
「それしかないのよ。金髪だらけのこんな街で美希一人を見つけるなんて出来っこないわ」

……。

そのとき。
無線機から、何か聞こえてきました。

相変わらず英語なので、よくわかりません。
律子さんは、それを聞いて……
さらにきつく、歯を食いしばりました。目から、涙があふれ出そうになります。

「……水瀬財閥の無線よ」
「な、なんて言ってるんですか……?」

「私たちに発砲許可が出た。抵抗するようなら、射殺してよし……だそうよ」
えっ……

「向こうは、この事件を……強引に揉み消すつもりだわ……」

484: 名無しさん 2011/09/30(金) 02:41:37.99 ID:5tjR1IHw0
ウソだ……。

「ついたわ……」
律子さんが思い切りブレーキを踏みます。
ガクンと、体が前に倒れます。

ウソだよ……。じゃあ、もしかしたら真ちゃんは……

「伊織の意識が戻れば、なんとかなるかも知れない」

……みんなはどうなるの?

「雪歩……ついたわよ……」
「そんな……みんなは……」
「雪歩……」
「もう会えないかもしれない……」

やだやだやだ……。せっかく、二年半ぶりにみんなと会えたのに。
また、二度と会えなくなるかもしれないなんて……。

「雪歩!」

ピシャン、と音が鳴って、頬がヒリヒリと、焼けるように熱くなりました。

489: 名無しさん 2011/09/30(金) 02:51:39.25 ID:5tjR1IHw0
「伊織は助かる!貴音が提携先だった水瀬財閥を説得して騒ぎが収まる!真と響はなんとか逃げ切った!
 やよいがあずささんを何かが起こる前に連れ戻す!今からアンタか亜美か真美が美希を説得する!
 それで、全員で日本に帰って千早と一緒に春香を迎えに行くのよ!どう!これで文句無しの大団円でしょ!?」
「そ、そんなうまくいくわけ……」
「信じるしかないのよ」
「……!」

「あ、アレ……」
亜美ちゃんがフロントガラスの先を指さしました。
空港の入り口へと、美希ちゃんらしき金髪の人が入っていきます。

「……」
「ここまで来たら、行きなさい。私は、どこかに連絡をとれるか試してみる」
律子さんが、私の頭をポン、と手のひらを載せました。
くしゃくしゃと撫でまわします。


もう頭では、何も考えずに、車から降りて、空港へと足を踏み入れました。

497: 名無しさん 2011/09/30(金) 03:00:27.05 ID:5tjR1IHw0
……。

「ゆきぴょん、走って!」
「ミキミキ探すんしょ?!」

まだここには、追ってくる人たちが来てない。
どこに、どこに行ったんだろう。

中は、それほど広くない。
私は、お店を一件一件走って見渡します。

いない……いない……。

あと、探してないところといったら……
屋上だ……。
私は、屋上へと続く、重たい両開きの扉をあけます。
さらにその先には階段が続いていました。

その時、外から何台もの車が停車する音が、こちらへ聞こえました。
もうちょっと、もうちょっとだから、ま、間に合って……!

502: 名無しさん 2011/09/30(金) 03:06:28.78 ID:5tjR1IHw0
「……亜美!」
「うん」

二人の息のあった声が、聞こえました。
「せーの!」

亜美ちゃんと真美ちゃんが近くにあった置物を、扉の前へと倒しました。
「二人一緒だったら」
「いけんね!」
顔を見合わせて、同じ笑顔で、同じ声で、ううん真美ちゃんは亜美ちゃんよりちょっとだけ低い声で、言いました。

「ここは私たちに任せて先に行きなよ!」
「うわっ。それ、一度は言ってみたいセリフだよね」

そして、
二人同時に、親指をつきだして私に、言いました。
「ゆきぴょん!ぐっどらーっく!」

その声に促されるように、階段を駆け上ります。
……いよいよ、私一人に、なってしまいました。


504: 名無しさん 2011/09/30(金) 03:12:55.33 ID:5tjR1IHw0
照明の落ちた、薄暗い、真っ暗な階段をひたすら登ります。
なんだかそれが、延々と続くようで、段々と怖くなってきて……

──見殺しにしちゃいなよ
「えっ」
頭の中で、低く濁った声が響きました。
あぁ、これは昔の私だ……。765プロが倒産した直後の……。
──間に合わなかったって言えばいいよ。誰も責めないよ。
「違う……」
みんなを殺したんだよ?
──本当は美希ちゃんに嫉妬してた
「違う!」
──プロデューサーを、真ちゃんを一人占めする美希ちゃんに
「違う、違うよ」

あずささん、今こそあなたの言ったことが、ちょっとだけ、わかるような気がします。
まだ少し怖いけど、皆のことを信じてるから。

両手で、扉を押しあけました。
光が、ゆっくりと差し込んで、それに包まれます。

「──美希ちゃん」
「……」

509: 名無しさん 2011/09/30(金) 03:21:29.88 ID:5tjR1IHw0
美希ちゃんは、手すりにつかまって、地面を見下ろしています。

「迎えにきたよ」
一歩一歩、美希ちゃんへと進んでいきます。

「来ないで……頭痛いの……!」
金色の髪が、強風に棚引いて、揺れています。
「ミキ……もうやだ……大切な人の元へ行く……の……」

すぅっと、息を吸い込みます。冷気が、火照った体を覚ましてくれました。
大丈夫、怖くない。

「ねぇ美希ちゃんは全部忘れちゃったかも知れないけれど、私は覚えてるよ?
最初は歳も趣味もみんなバラバラだったから、私たち仲良くなるのにちょっと時間かかったよね」
「……うぅ……」
美希ちゃんが、苦しそうに呻きます。
「もしね、もし765プロがなかったら、私たちお互い知らないままだったんだよ……?!」

「痛い……痛いの……」

「それでね、またみんなバラバラになっちゃって、辛いこと、苦しいこと一杯あったけどみんながんばって。一緒になれたんだ……
これって運命だよね……?きっとそうだよ……」

516: 名無しさん 2011/09/30(金) 03:29:44.93 ID:5tjR1IHw0
「ねぇ、奇跡だよね。不思議だよね……?」

「ゆき……ほ……!」
……。
「思い出してくれた……?」

美希ちゃんの顔つきが、どんどんと穏やかになっていって……
「みんな……は……」

そうだ、こういう時こそ……。
私は、律子さんから手渡されたGPSを片手に持って、
人差し指で、通話から、全員分の位置が表示される設定に切り替えました。
あれ……?おかしいな。
一つしか、私の白のマークしか表示されない。もう一度、押します。

「……!」
そんな……
GPSの反応が、私以外、全て消えていました。

……。

私は声が震えないように、涙がこぼれないように
「だ、大丈夫、みんな無事だよ……」
そう、美希ちゃんに言いました。

526: 名無しさん 2011/09/30(金) 03:37:46.61 ID:5tjR1IHw0
「本当に……?」
「うん……」
美希ちゃんの表情が、段々と雪除けのように和らいでいきます。

どうしても聞きたいことがありました。
「美希ちゃん、今、大切な人はいますか?」
「いる……」

「いるよ!いる!!!」


「どうして、ミキ、どうして今まで忘れちゃってたんだろ。」


「大好きだよ、ハニー……みんな……」

よかった。私ダメダメだったけれど、最後に頑張れました。
プロデューサー、私ちょっとは強くなれましたか?

531: 名無しさん 2011/09/30(金) 03:41:37.92 ID:5tjR1IHw0
暗闇が、突如に晴れました。
私たちをヘリのライトが上空から照らし、ステンドグラスに反射して辺り一面が極彩色に輝きました。
美希ちゃんと私のきているドレスが吹きつける風で舞い上がって、それがまるで初めてステージに降り立った時のようで……。
映画のワンシーンのようで凄く綺麗だった……。

ねぇみんな。私たちって、一体何のためにここまで来たんだっけ。プロデューサーのため?自分のため?みんなのため?
それもなんだかもうよくわからなくって。けど、ただ目の前に広がる景色がとってもキレイで。
温かい涙が止まらなくて。

こんな結果になっちゃって、961さんの言うように私たちがやってきたことって、ぜんぶ無駄だったのかな。
……考えるのはやめよう。
だって、その答えは、遠い海の向こうにもう残してきたから。
心は、不思議と澄んでいました。

540: 名無しさん 2011/09/30(金) 03:48:13.69 ID:5tjR1IHw0
間もなく、扉が勢いよく開いて、銃を向けられて。
私は、泣きじゃくる美希ちゃんの頭をなでながら、そっと両手を上げました。涙はもう流しません。

何か大声で呼びかけられました。ゆっくりと何度か縦に頷くと、近づいてきて地面に押し倒されました。
それから無理やり手首を掴まれて。ちょっと痛かったです。……コレって意外と、重たいんですね。
無線機でなにか連絡をしています。

「ねぇ、雪歩、会いたいの。みんなに今すぐ会いたい……」
「……」

千早ちゃん、ごめんね。約束守れそうにないかも。

もしその時は、春香ちゃんをよろしくね。

大丈夫、私たちは大丈夫だよ。たぶん、今度こそプロデューサーによくやったなって、褒めてもらえるくらい、やりきれたと思うから。

……またね

美希・雪歩・律子パートおわり

549: 名無しさん 2011/09/30(金) 03:52:26.14 ID:5tjR1IHw0
次回の765プロが倒産してもう……は

天海春香です。
次回が最終回となりました。
……もう、奇跡もドラマも起こりません。
それでは、3年目でお会いしましょう。

閉店ですっ!



原作でも中華街でジャッキーしたりライブ会場行くために
戦闘機持ちだしたりしてるし多分これでおk