………
　……
　…


　

　

ノラ（……誰もいなくて虚しい）

ノラ（せめて誰か構って欲しい）


ノラ（つっても、どうせノブチナかパトリシアあたりのイタズラだろうしな）

ノラ（ちょっと前に俺をネコにした状態でのマタタビを使った反応を見てみたいとか言ってたし）

ノラ（黒木の一件を知ってる俺からすれば絶対勘弁願いたい）



ノラ（あれは……麻薬だ）


　

　

ノラ（ネコにとっての劇薬。脳を破壊する恐ろしい薬物）


ノラ（そんなものを摂取してしまったらきっと）


ノラ（明日原のネコ喫茶で酔っ払いの如く暴れ回った挙げ句）


ノラ（先輩ネコたちにボコボコにされて、追放処分）

ノラ（ネコの世界は厳しいんだよ）


ノラ（他にも我を失ってパトリシアに甘えようものなら、姉さんに串刺しにされそうだし）

ノラ（ユウラシアには焼きトリ……もとい、焼きネコにされちまいそうだ）

　

　

ノラ（恐ろしい）

ノラ（そんなことになるのはごめんだ）


ノラ（逃げよう。この世の果てまで）


ノラ（それがきっとみんなのためにもなる）


ノラ（ネコの足で世界へ）


ノラ（キャットザワールド）


ノラ（なんだそれ）

　

　

ノラ（まぁいいや。そうと決まれば早速旅支度を――……）









シャチ「すぅすぅ……」





ノラ「にゃ？」



　

　

ノラ（シャチが居眠りなんて珍しい）

ノラ（このぽむんぽむんの肉球で起こしてやるかな？）



ノラ（……いや、家事とか色々やってて疲れてるもんな）

ノラ（そっとしておこう）



ノラ（シャチ、すまない）

ノラ（俺は俺のことを……）


ノラ（そしてみんなを守るために世界へ行くことにしたよ）

ノラ（ネコの足で）

ノラ（キャットザワールド）

　

　

ノラ（家のことは任せたよ）


ノラ（帰ってきたらめざしを用意してくれると嬉しいな）

ノラ（いつになるか分からないけど）




ノラ（……それじゃあな、シャチ）



　

　


シャチ「んん……ノラさん……」





ノラ（シャチ？）










シャチ「――――行かないで……」



　

　


ノラ（あれ？　俺の声聞こえてる……？）





シャチ「すぅ……すぅ……」


ノラ（気のせい、だよな）



　

　

ノラ（……でも）


ノラ（よく考えたら、こいつを置いて旅に出るなんてできないよな）


ノラ（シャチは俺のたった一人の――――）



ノラ（家族だし）



ノラ（……）


　

　

ノラ（そっか）


ノラ（シャチの膝の上で寝てたらあいつらも手出しできないんじゃないか？）


ノラ（俺らにとってシャチは不可侵の存在だしな）


ノラ（なんだよ。世界渡り歩くよりよっぽど安全じゃん）

ノラ（むしろ世界なんて歩きたくねぇし。筋肉痛だよ）


ノラ（キャットザシャチ）


ノラ（なんだそれ）

　

　

ノラ（そうと分かれば失礼して――……）


ノラ（よっと）



シャチ「んっ……あ……」


ノラ（そんな煽情的な声出されても困る）

ノラ（サカリ状態になったりでもしたら大変だ）

ノラ（さすがにシャチは襲うわけには……（シャチの顔を見上げる））



シャチ「ノラ……さん……っ（吐息混じり）」


　

　

ノラ（ぅ……）



ノラ（やめよう。見るのはやめよう）


ノラ（そうだ。このまま寝てしまおう）

ノラ（何もかも忘れて夢の中へ……）


ノラ（……）



ノラ（zzz……）


　

　


　………
　……
　…


　

　

ノブチナ「ノラー！　どこだー！？　理科の時間だぞー！」

井田「人体実験ならぬ、動物実験だぜ！！」

田中ちゃん「や、やめましょう？　動物虐待でおまわりさんに捕まっちゃいますよ……」

パトリシア「大丈夫よ田中さん。ノラは私の眷属だから、これぐらいへっちゃら」

田中ちゃん「えぇぇぇ……？」

パトリシア「ノラ！　マタタビというものがネコの身体にどれほどの影響を及ぼすのか試させて！」

パトリシア「これも私にとって必要な勉強なのよ！」

ルーシア「そうだ。パトリシアの糧になるのだから光栄に思うがいい」

ルーシア「さっさと姿を見せぬのなら、このケルベロスの牙で串刺しだ……！」

ユウラシア「で、その串刺し状態のすけべネコを私の魔法でこんがり焼いちゃうって感じだねー」

田中ちゃん「ネコは食べられませんよぉ……」

　

　

明日原「なまじネコ喫茶で働いてるから、あんまノラパイがマタタビでにゃあにゃあ言ってる姿は見たくないんすよねぇ……」

黒木「ホントですよ！　あんなもの、麻薬となんら変わりありませんから」

明日原「経験者は語るってやつですね」

黒木「経験したくありませんでしたけど！　っていうか忘れてくださいー！！」

明日原「ノラパイが未知パイに襲いかかってるところみたーい！」

黒木「やめてください！　なんで私にマタタビを振り掛ける前提なんですか！　反田くん、出てこないでいいですからね！！」


ノブチナ「で、その肝心のノラはどこ行ったんだ！　いい加減でてこーい！！」






シャチ「……ぁ、みなさん……」


　

　

ユウラシア「あれー？　シャッチー、お昼寝ー？」

シャチ「ええ、ついうとうとしてしまい……寝てしまっていたようです」

明日原「シャチパイが居眠りなんてめずらしーっすね。大丈夫っすか？」

シャチ「平気ですよ。すみません、心配させてしまって」

田中ちゃん「いいえ。こちらこそ騒がしくしてすみません。シャチさんはゆっくり休んでいてください」

パトリシア「ところでシャチさん、ノラを見かけなかったかしら？」

シャチ「ノラさん、ですか？」


ノブチナ「ノラのやつを捕まえて、面白実験をするんだ！」

井田「ノラにはわりーが、これも人助けってやつだからな！」

　

　



シャチ「……いえ、私は見ていませんが」


シャチ「今日は朝早くにどこかへおでかけになってしまいましたので」


シャチ「少なくとも、この家の中にはいないかと」



ルーシア「ふむ……。シャチさんが言うならそうなのだろう」

ユウラシア「もー、すけべネコ一体どこいったのー！？」


　

　

シャチ「ノラさんのことですから、何かしらの危険を察知して遠くへ逃げて言ってしまったという可能性も」

シャチ「案外、世界旅行にでも行ってしまったのかもしれませんね」

黒木「シャチさん……？」

井田「マジかよ！　ハワイとかに行かれたら捕まえられねーぞ！」

ノブチナ「やつは空も飛べるのか！？」

パトリシア「眷属の魔力を使えば可能よ！」

明日原「可能なんだ！？」

田中ちゃん「ムササビみたいですね……」

　

　

ノブチナ「みなのもの、追え追えー！ ノラを逃がすなー！」

井田「っしゃあ！ ハワイでもベガスでもこの足で捕まえてやるぜ！！」

黒木「無理ですから！！ 少なくともその足じゃ絶対無理ですから！！」


明日原「井田やんワールド！！」

ノブチナ「ワールドオブ井田！！」


黒木「なんですかそれ」

　

　


パトリシア「……それじゃあシャチさん、失礼するわね」

シャチ「はい。頑張ってください」

パトリシア「ごゆっくり」





シャチ「……」


ノラ「zzz」



　

　


シャチ「……嘘をついてしまいました」



シャチ「実は初めてかもしれません」



シャチ「でも、たまには私も独り占めしたい時があるんですよ？」



シャチ「ノラさん……(頭を撫でる)」


ノラ「zzz…」


　

　

シャチ「ノラさんは誰とでも仲が良いですし……」


シャチ「それは男性に限らず、女性の方も……」


シャチ「いえ、むしろ女性の方が多いかもしれません」


シャチ「女性のお尻を追いかけてばかりかもしれません……」


シャチ「そんな八方美人なこの人のことを見守るのは、幸子さんから受け継いだ使命みたいなものですし」


シャチ「決して嫌では無いのですが」


シャチ「たまに」


シャチ「ほんの少しだけですが」

　

　



シャチ「嫉妬してしまいます」




　

　

シャチ「こんな私を、貴方はどう思うでしょう」


シャチ「変だと思うかもしれませんね」


シャチ「私とノラさんは、お互いにたった一人の家族ですし」



シャチ「でもだからこそ――」


シャチ「大切なあなただからこそ――」



シャチ「そんな感情を抱いてしまうのです」


　

　

シャチ「ノラさん……」



シャチ「たまには――――私が"キッカケ"を作っても、良いですよね？」

シャチ「ノラさんなら、きっと私の傍に来てくれると思いましたから」



ノラ「にゃぁ……」


シャチ「ふふ」


　

　

シャチ「……」



シャチ「でも、パトリシアさんには見透かされているようでしたし、ちょっと恥ずかしいですね」


シャチ「……いえ、勘のいい皆さんのことですから、もしかしたら全部お見通しなのかもしれません」



シャチ「でしたら、みなさんの優しさに甘えることにしましょう」



シャチ「ノラさん――……(抱きしめる)」


　

　

ノラ（……あったけぇ）


ノラ（なんだろ……母親に抱っこされてるような……）



ノラ（……）


ノラ（そっか、これは夢か……）


ノラ（ずっとこのまま……）


ノラ（このまま――――……）

　

　



シャチ「すぅすぅ……(ノラを抱きながら)」


ノラ(……く、くるしい……)



　

　


　＊＊＊


シャチ「ノラと皇女と野良猫ハート」


　＊＊＊



　

　

今回はシャチの誕生日で記念SS書かせていただきました
やっぱりシャチは甘々なシチュエーションがいいですね