13: 名無しさん 2009/02/27(金) 00:27:32.66 ID:Zk82arxU0
「あなたと同棲する」

まだ他の団員がいない、俺と長門だけの二人きりの部室。
珍しく自分から口を開いたと思えば、同棲だと?

「意味がわからん。どういうことだ?」

長門が顔を上げる。少しの沈黙の後、

「……あなたと同棲して、涼宮ハルヒの出方を見る」

長門はそれで終わりとばかりに、辞典よりも厚い本に視線を戻す。
やれやれ、相変わらずこのヒューマノイドは説明が足らなすぎる。

引用元: ・長門「……貴方と同棲して涼宮ハルヒの出方を見る。」

25: 名無しさん 2009/02/27(金) 00:38:30.87 ID:Zk82arxU0
長門と同棲するのはいいとして……いや、良くないか。
とにかくまずは理由が知りたい。
また何か特殊な事件でも起きているのか?
長門は首を少しだけ横にふった。

「起きていないことが逆に問題」

「どういうことだ?」

「涼宮ハルヒは半年以上も間、自分の能力を一切行使していない」

「良いことじゃないか」

「このままでは観察する意味がないと、情報統合思念体は判断している」

32: 名無しさん 2009/02/27(金) 00:46:30.67 ID:Zk82arxU0
「つまり……故意にあのバカに力を使わせようってことか?」

「そう」

小さく頷きを返す長門に、俺は映画を撮影したときを思い出していた。
現実を守ろうとする古泉と朝比奈さんに対して、
そういえば長門はこのままでも問題はないと主張していたんだっけな。
涼宮の力を観察するのが、この無口なヒューマノイドが与えられた役割なのだ。

「しかしな、どうしてそれが同棲に繋がる?」

「涼宮ハルヒがあなたに特別な感情を抱いてるのは明白」

33: 名無しさん 2009/02/27(金) 00:55:21.96 ID:Zk82arxU0
おまえは馬鹿か。
いきなり何を言い出すんだこいつは。
冗談にしてもタチが悪すぎる。

「あなたは涼宮ハルヒに選ばれた存在。
かつて二人だけが世界から消えていた事実が、それを証明している」

この野郎、思い出すだけで死にたくなる記憶を掘り起こさせやがって。
しかし俺の苦悩に構わず、長門は続ける

「きっかけを作ったのは朝比奈みくるとあなた」

34: 名無しさん 2009/02/27(金) 01:03:42.06 ID:Zk82arxU0
また随分と話が飛躍したもんだな。
俺と朝比奈さんが何をしたっていうんだ。

「朝比奈みくるとあなたの仲の良い様子を見た涼宮ハルヒの精神に影響が出て
 あの空間が発生したと思われる」

「それ、本気で言ってるのか?」

無言のまま頷く長門。
どうやらこいつなりの笑えないジョークではないようだ。
しかし待ってくれ。それじゃあ、まるで涼宮が嫉妬したから、
あの巨大な閉鎖空間を生み出したみたいな言い草じゃないか。

しかし真偽のほうはともかく、これでようやく繋がった。

36: 名無しさん 2009/02/27(金) 01:14:25.68 ID:Zk82arxU0
「要するに同棲でハルヒの精神を不安定にさせて、力を使うよう促すつもりなんだな?」

「そう」

「それでまた俺とハルヒがあそこに閉じ込められたらどうする?
あれはおまえだって望まない結果だったはずだ」

「朝比奈みくると同様の結果になるとは限らない。試す価値はある」

じっと俺の目を見つめる長門。
こいつには借りが沢山ある。
可能な限り返してやりたいとは思うが、しかしだ。
同棲とはな。
さて、俺はどうするべきか……。

39: 名無しさん 2009/02/27(金) 01:25:09.14 ID:Zk82arxU0
「入って」

結局、俺はマンションの708号室にやってきていた。

あれこれと考えている内に朝比奈さんがやってきて、次いで古泉、
最後に五月蝿いあのバカがきて、俺は長門に返事をする機会を失っていた。
恒例の何だかわからない時間もあっという間に過ぎて、やがて長門が本を閉じた。

いつもならすぐに帰る長門だったが、今日はそのまま残っていた。
涼宮は何か用でもあるのかと問い詰めたが、答える気配がないとわかり帰っていった。
また部室に二人きり。

「来て」

言うなり、俺の反応をうかがいもせずに唐突に歩き出すもんだから、
うっかり後を追ってしまったのだった。
実に間抜けな男だと思うだろ?
俺も思ったから、みんな遠慮なく笑ってくれ。

41: 名無しさん 2009/02/27(金) 01:37:21.79 ID:Zk82arxU0
「…………」

「…………」

部屋に通されて間もなく、室内は静寂で満たされた。
わかっていたことだが、どうやら長門から話題の提供はなさそうだ。
えーと、会話会話。

「俺の服はどうするんだ?」

「用意する」

「ハルヒには同棲のことをいつ伝える?」

「いずれ」

「それで本当にあいつは力を使うと思うか」

「恐らく」

「そういえば、マンションじゃ本は読んでないのか?」

「読まない」

「…………」

「…………」

会話終了。この何とも気まずい空気は、どうすればいいんだろうな。

46: 名無しさん 2009/02/27(金) 01:53:53.18 ID:Zk82arxU0
近隣の物音がはっきり聞こえるほどの静寂がしばらく続いて、
ふと俺は空腹を覚えた。

「なあ、そろそろ腹が減ってきたんだが、食事はどうしてるんだ」

「……待ってて」

そう言って台所に引っ込むと間もなく盆に乗せて食事を運んでくる。
ごはん、みそ汁、鮭の切り身と、夜だと言うのに朝メニューの定番が並べられていく。
それぞれから立ち上る湯気に食欲がそそられるが、気になることがある。
台所にいた時間は、たった数分だ。

「これ、おまえが作ったのか?」

「用意した」

なるほど、用意したときたか。
こんな暖かい食事を、一体どうやったら数分で用意できるんだろうな。

「食べれるのか?」

「摂取しても問題はない」

満足する答えではないが、害はないようで安心する。
だが同時に、少し残念でもあった。
俺は長門の手料理が食べれるんじゃないかと、ちょっとだけ期待していたんだけどな。

「いただきます」

こうして食事が始まった。

48: 名無しさん 2009/02/27(金) 02:14:57.29 ID:Zk82arxU0
最初は恐る恐る口へと運んだ俺だったが、長門が文字通り用意した食事は、
意外にもなかなか美味かった。いや、それともここは当然というべきなのだろうか。
とにかく美味なことには変わりなく、腹が減っていたせいもあって、
俺は飯を掻きこむように食らっていた。
向かいに座る長門はと言えば、食事を見つめて静かに淡々と食べている。

そんな長門が、不意に顔を上げて俺を見た。
俺も思わず箸を止める。
よく観察しないとわからない程の変化だが、何やら長門は迷っている様子だった。

「どうした?」

「…………」

自分の箸を掴む右手と茶碗を持った左手を順に見つめる長門。
何だ? 箸と茶碗がどうした。一体何がどうしたっていうんだ。

「…………」

少しだけ考えるような沈黙の後、長門は腰を浮かせた。
そのまま体をテーブルに傾かせて、長門の顔が俺に迫ってくる。
何だ?

「おい──」

「動かないで」

長門の顔の全てが視界に収まらないほどに接近して、そして

長門は俺のほっぺたを舐めた。

50: 名無しさん 2009/02/27(金) 02:28:34.19 ID:Zk82arxU0
ん? 今、こいつ何をした?
いや、何をしたかはわかっている。俺の頬を舐めたんだ。
それはわかっているんだが、どうして?
すでに長門は何事もなかったかのように食事を再開している。
しかし俺は混乱の中にいて、とても食事どころではないぞ。
ああ、やけに顔が熱いぞ。
原因? そんなもんわかりきってるだろ。

「な、なんで急に舐めたりしたんだ」

「あなたの頬にごはん粒がついていた。
 両手がふさがっていたので、この方法が最も効率が良いと判断した」

当然と言わんばかりの説明だが、そんな無茶な理屈があるかよ。

「言ってくれれば自分で取ったぞ」

「…………盲点」

勘弁してくれ。
いつも万能のおまえが、こんな時だけ盲点だなんて。
くそ、顔がますます熱くなってきた。

その後の食事は味なんて気にする余裕がなかったことは言うまでもない。

54: 名無しさん 2009/02/27(金) 02:45:24.44 ID:Zk82arxU0
食事を終えると部屋は再び静かになった。
長門はテーブルの向かい側に座ってぴくりとも動かない。
本を読まない長門は、部室にいるよりも置き物の人形さながらだった。

しかし俺はそんな人形を見ると、平静ではいられなかった。
油断すると、どうしても唇に視線が奪われてしまう。
薄い桃色の唇から小さな舌を出して、そしてそのまま……

ぐあ。
慌てて頭の中の映像を振り払う。
もしここが自分の部屋だったら、俺は恥ずかしさのあまり悶絶しながら
容赦なく部屋中をごろごろと転げまわっていたことだろう。

……もう考えるのはやめよう。
何か別のことでも考えて気を紛らわせるしかない。

そうだ。
食事も済んだとなれば、風呂だな。

58: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 02:53:54.96 ID:Zk82arxU0
何かの拍子に回線切れるかもしれないんで酉つけときます。
というか、そろそろ眠いんだけどどうしよう。

64: 名無しさん 2009/02/27(金) 03:03:29.11 ID:Zk82arxU0
「風呂に入らせてもらっていいか?」

「構わない」

その一言だけで、動く気配のない長門。
こいつのことだから、すでに浴槽に湯は「用意している」のだろう。
だが俺は学校から制服のままここに来ていて、それにさっき要望もしたはずだ。

「できれば着替えが欲しいんだけどな」

俺の言葉に、無言のまま立ち上がって隣の部屋に消えると、
すぐに着替えを持ってきた。ご丁寧なことに、どうやらパジャマのようだ。

「悪いな」

長門から着替えを受け取って、浴室に向かう。

「…………」

「…………」

おい。
どうしてお前がついてくるんだ。

69: 名無しさん 2009/02/27(金) 03:16:56.67 ID:Zk82arxU0
俺は足を止めて振り返ると、長門がごくわずかに首を傾げた。
何故俺が止まったか、本当にわかってないんだろうかこいつは。

「俺はこれから風呂に入るわけだが、おまえはどこに向かっている?」

「浴室」

嫌な予感はしていたが、予想通りの答えに俺は頭が痛くなる。
気を取り直して俺は長門を真剣な眼差しで見つめかえす。

「いいか、長門。俺は一人で入りたいんだ。だから来るな」

「…………」

「わかったか?」

「わかった」

コクリと頭を垂れると、長門は踵を返していった。
どうやら危険な事態は免れたみたいだな。
もちろん一緒に入りたくないといえば嘘になるが、さすがに色々とまずいだろう。

78: 名無しさん 2009/02/27(金) 03:39:22.45 ID:Zk82arxU0
「ふぅ~…」

湯船に浸かると、思わず気安いため息がこぼれた。
いつも以上の安堵の吐息だ。一人になって、やっと居心地がついたような気がする。
適温な湯に身を委ねながら、俺はようやく状況を整理しはじめた。
いや、整理するまでもない。

「どうしたって、おかしな状況だよな……」

そもそもハルヒの力を促進するために同棲するなんて、的外れもいいところじゃないか。
俺と朝比奈さんが仲良くしていたのが原因だと言っていたが、
それなら同棲などしなくても部室で事が足りるはずだ。

うん、今までこんなことに気づかなかった俺もどうかしていたな。
それだけ同棲という言葉の衝撃が大きかったんだろう。
しかしこれで腹は決まった。
風呂から上がったら、長門に断って家に帰ろう。

そう決心したとき、何故か浴室の戸が開いた。

「入る」

生まれたままの、まっさらな姿の長門が立っていた。

88: 名無しさん 2009/02/27(金) 04:01:34.81 ID:Zk82arxU0
長門はタオルさえ持っておらず、自然体のままで浴室に入ってきた。
どこも隠さない恥じらいのない動きに、俺のほうが慌てて顔を背ける。

「や、約束が違うぞ!」

「約束……」

「だから、一人で入るから来るなって言っただろ!」

「…………二人で使用したら無駄に湯を消費せずに効率的かつ経済的。
二人で入浴する事によって生じる懸案事項も無いと判断したため、破棄した」

経済的とか、そういう問題じゃないだろう。倫理はどうしたんだよ。
それに懸案事項がないだって? こっちは大いにあるね。

すでに俺の目にはほんの数秒見ただけの、長門の裸身がしっかりこびりついていた。

まさかまだ生えてないなんて。おかげでばっちりとその、アレが見えてしまった。
胸もボリュームこそ足らないが、実に柔らかそうだった。
まずい。
血流が一箇所に集中しようとしている。

落ち着け。ここでやらかしちまったらもう抑えが効かん。
一気に萎えるようなを想像しなくては。
裸の古泉……裸の谷口……裸の国木田……よし、この調子だ。

「では浴槽に入る」

裸の長門。

96: 名無しさん 2009/02/27(金) 04:16:01.05 ID:Zk82arxU0
俺の背中に長門の肩がしっかりと触れている。
急に湯が熱く感じられてきた。心臓の脈打つ音がうるさくてしょうがない。

「な、がと……その、肩があたってるんだが」

「狭い浴槽で肌が触れないようにするのは不可能」

「そ、それでも、どうにかならないか?」

このままでは俺はどうなってしまうかわからない。
頼むからこの状況をどうにかしてくれ長門。おまえなら出来るはずだ。

「……体勢を変えれば、あるいは」

「じゃあ、頼む」

長門が体勢を変えようと動きはじめる。
肌が触れては離れ、触れては離れ、これはこれで地獄だった。あるいは天国か?

100: 名無しさん 2009/02/27(金) 04:24:03.49 ID:Zk82arxU0
「完了」

呟きとともに、長門の感触がなくなった。
さすがだ。それでこそ我らがSOS団の万能少女というのものだ。
どうして最初からそうやって入ってくれなかったんだ。

「問題がある」

「どんな?」

「この体勢は非常に不安定。少しでもバランスが崩れると──」

再び人肌を感じた。
しかも、背中で潰れるこの小さな二つの膨らみは。
中心でわずかばかりの固さを主張して背中を押す、この膨らみの正体は。

「こうして胸が触れることになる」

「──ッ!」

限界。

「先に上がるぞ!」

「あ…」

長門のか細い呟きを無視して、俺は浴室を飛び出した。

102: 名無しさん 2009/02/27(金) 04:32:17.76 ID:Zk82arxU0
「はぁはぁはぁ!」

頭も体も熱い。
胸を押しつけるなんて、反則だろ。
体を拭くのも適当に、急いで衣服を身につけようとするが、動揺して上手くいかない。
ええいくそ、隆起したモノが邪魔だ。
とにかく長門が出てくるまえに脱衣所から去らなければ、また裸を見ることになる。

そしたら今度こそ俺は──過ちを犯してしまうだろう。

「……よ、よし、終わった!」

逃げ出すように脱衣所から離れる。

107: 名無しさん 2009/02/27(金) 04:40:31.61 ID:Zk82arxU0
居間に戻ってからも、心臓をばくばくさせながら、俺は今度こそ頭を働かせる。
同棲するということはどういうことだ? これから何がある?
そう、確実に寝る時間がやって来るだろう。

無理だ。

これ以上神経を磨り減らしたら、俺は死んでしまうかもしれない。
俺は浴室に目を向ける。
幸い長門はすぐに俺を追ってくることもなく、風呂を満喫しているようだ。
帰るなら今がチャンスだろう。
長門には明日にでも事情を説明すればいい。

早速、作戦実行だ。
俺は鞄を掴み、脱衣所にある脱いだ制服も引っ掴んで、そのまま玄関を出た。

110: 名無しさん 2009/02/27(金) 04:46:42.36 ID:Zk82arxU0
風呂上がりの体に夜風が冷たく染みる。
ちくしょう、なんだってこんな目に遭わなきゃいけないんだ。

こんな……

『入る』

こんな目に……

『では浴槽に』

こんな目に遭わなきゃ……

『胸が触れることになる』

……そんなに悪い体験でもなかったかな。
ああ、悲しい男の性がまたいたずらにズボンの中で暴れている。

すまん、長門。
こいつを俺一人で鎮めるために、今晩はごちそうになります。


 完

154: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 12:19:00.20 ID:e2xc0sif0
居間に戻ってからも、心臓の動機はおさまらなかった。
健全な男子なら当然だろう。同年代の女子の裸を見て胸まで押しつけられて、
平然としてるやつのほうがおかしいというものだ。

そしておさまらないのは心臓だけではない。
下腹部で轟然と主張するモノが、パンツの中でずっと苦しそうにしていた。
こいつをすぐに大人しくさせる手段は勿論知っている。

どうやら長門は俺が浴室から出たのも気に留めず、湯船に使っているようだ。
しかし、出来るわけがない。
こんなところで一時的に悟りを開いても、後の後悔が計り知れない。

長門があそこまで自分の容姿や裸に無頓着なのが今ほど肉らしいこともない。
無頓着といえばハルヒだって相当だが、長門は輪をかけて酷い。
情報統合思念体とやらは、人間の機微が理解できないのだろうか。

とにかく他のことを考えて気を紛らわそう。
それにしても、あの背中の感触は……。

……はあ。
言ってる先からこれだもんな。
おい、あんまり暴れないでくれ俺の分身よ。

157: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 12:26:55.44 ID:e2xc0sif0
俺が短絡的な賢者にはならずに人生について哲学して、
ようやく心も体の一部も平静を取り戻した頃、長門は居間に戻ってきた。
ずいぶんと長風呂だったな。
いや、それよりも。

「おまえ、パジャマなんて着るんだな」

「…………」

どう返答していいかわからない風情で、俺を見つめる長門。
白い肌に、蒸気した頬がやけに桃色に染まっている。
俺は一体どんな顔して長門のことを眺めているんだろうな。
この部屋に鏡がなくて良かった。

161: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 12:37:47.13 ID:e2xc0sif0
長門が定位置に座ってから、俺は風呂場で考えていた持論を展開した。
ハルヒのいる部室で俺と仲睦まじい様子を見せつけるだけで十分だろう。
あいつがこの部屋を覗くわけでもないのだから、同棲は無意味のはずだ。
要約するとこんなことを、俺は選挙演説の政治家よろしく熱弁をふるった。

「それは間違い」

だというのに、ばっさりと一言で切り捨てられた。
俺は食い下がる。それだけで納得すると思ったら、それこそ間違いだぞ。

「大事なのは同棲の事実」

「しかしだな、部室でも意味はそれほど変わらないだろう?」

「…………」

長門が俺を凝視したまま、無言で立ち上がる。
何をするのかと思えば俺の傍に寄ってきて、座りなおした。

「どうしたんだよ」

「…………」

問いかけには答えずに、長門は俺の肩にコツンともたれかかった。
石鹸の良い匂いが鼻腔をくすぐる。

171: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 12:52:24.84 ID:e2xc0sif0
俺が言葉に詰まっていると、長門はさらに俺の腕に自分の腕を絡ませてきて
完全に密着している状態になった。おいおい、これはどういうつもりだ。

「行動で示すのは容易。
しかし客観視した場合、これが友好的な雰囲気であるか疑問が残る」

こいつ、本気で言っているのか。
確かに長門が誰から見てるもわかる程の嬉しそうな表情をすることはない。
だが雰囲気も何も、この状況だけで十分だろう。

「そんなことはない」

言って、腕の力をわずかに強めてさらに密着させると、上目遣いに俺を見た。

「これでも不十分」

気絶してしまいそうだ。

173: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 12:59:25.54 ID:e2xc0sif0
このままでは意識が飛んでしまいそうな俺は、
ひとまず長門に離れてもらい同棲に改めて仮合意した。
……急場しのぎで後手後手に回っている感が否めない。

ハルヒが毎度勝手に事件を起こして俺を巻き込むことは頭が痛いが、
なかなかどうして今日の長門には困ったものだった。

ところで。
そろそろ睡魔の野郎の活動時間帯なんだが、どうしたものだろうね。

177: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 13:15:07.53 ID:e2xc0sif0
睡魔に抗いきれなくなった俺が就寝を申し出ると、長門は立ち上がって居間の襖を開けた。
以前に朝比奈さんと共に寝たことのある和室だ。
そこには前回同様、一組の布団が用意されていた。
……一組だと?

「ちょっと待て」

すでに和室に向かいかけていた長門が、正直にぴたりと静止して俺に顔を向ける。

「なぜ一組しか布団がないんだ」

「これしかない」

わかりやすい嘘をつくな。
俺と朝比奈さんが時間旅行をしたとき、確かに二組あったのを覚えている。
あの時にしても同じ部屋で寝るというだけで俺はかなり緊張したのだ。良い体験だったが。
しかし、一組と二組で緊張の度合いが全然違う。

「そんなはずないだろう、もう一組あるはずだ」

「…………」

俺の気のせいか、はたまた心の片隅にある拭いきれない期待のせいか。
沈黙のままの長門が、少し気を落としたような表情に見えた。

もっとじっくり観察しようとする前に、長門は顔を正面に戻した。
和室へと繋がる襖を閉めて、再び開けるとすでに二組の布団が用意されている。
まるで手品だな。こいつの場合、本当に種も仕掛けもないわけだが。

俺はため息を一つついて、長門の後を追って和室に向かった。

181: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 13:31:09.83 ID:e2xc0sif0
眠れるわけがなかった。

静かな空間に人心地がつくと、何の気なしに今日の一連の出来事の回想を始めた。
それが大変に精神衛生上よろしくなかった。
思い出すのは長門のことだけ。

ごはん粒を舐め取った長門。
全くの裸身をさらけ出して浴室に来た長門。胸を押し当てられた感触。
腕を絡めて、もたれかかってきた長門。その無垢な上目遣い。

悶々としたピンク色の意識に、睡魔もどうやら愛想を尽かしているようだ。

隣の長門はとっくに寝てしまったのかピクリとも動かない。
寝息の音さえ聞こえないので、まるで死体のようで少し怖い。
俺の葛藤にも気づかず寝こけやがって。

とにかく数字でも数えて睡魔の活動を促そう。
1…2…3…4…5…6…7…

やがてどこまで数えたかわからないほど意識が朦朧としてきた。
これはもう間違いなく夢の世界に落ちるだろう。

どこか遠くで聞こえるような、布団の衣擦れの音さえ心地良い。
この足音もまるで催眠術のメトロノームのように感じられ……

「……ん」

覚醒。
長門よ、どうして俺の布団に入ってくるんだ。

185: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 13:42:30.31 ID:e2xc0sif0
「寒い」

それだけを言うと長門は再び死体になった。
差別的な発言は極力避けたいところだが、
ヒューマノイドに寒いなんて感覚があるのか疑わしい。
人間と全く同じ造りだとしても、体温調節ぐらい自在ではないのだろうか。

文句を言ってやりたいが、長門はすでに起きる気配がない。
ここは黙して俺が長門の布団に移動するべきだろうな。

体をそっと起こしかけた時、寝返りをうった長門の腕が俺を捉えた。

「ちょ……」

正面から抱きしめられるかたちで拘束されて、身動きが取れない。
長門の胸と俺の胸に容赦なく押しつけられる。

さて、ここで俺は頭の中で時間を少し巻き戻してみようと思う。
浴室から出てきた、長門はどんなパジャマを着ていたんだっけか。
余計な装飾のないシンプルなデザインの水色のパジャマだったと記憶しているのだが、
それならこの胸にあたる固い二つの感触は一体なんだろう。

ボタン。いやいや、そんなものもついてなかったはずだ。
つまり結論は一つだな。


長門は下着をつけていなかった。

197: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 14:00:49.95 ID:e2xc0sif0
死体同然に寝ていた長門が寝返りをうつ。
果たして、そんなことが本当にあり得るのか?

疑問に唯一答えてくれそうな相手はもう眠っているし、
俺もその解答を探していられるような状態ではなかった。
心臓がフルマラソンを終えたばかりの選手よりも激しく鼓動して、
熱心に全身に血液を巡らせる。余分な血液が、下腹部に集中していく。

非常にまずい状況だった。
浴室と違って身動きが全く取れないので、逃げる術がない。

それに隣で眠っているときは気づかなかったが、こうして密着してわかったことがある。
長門はしっかりと寝息を立てていたのだ。
その証拠に、和紙もかろうじてそよぐような微風が、俺の首を緩やかに刺激している。
長門の吐息が首をくすぐる度に、背筋を言い知れぬ快感が這いまわる。

ああ、神様。どうか俺を助けてください。
その神が例え涼宮ハルヒで、後で無理難題をふっかけられるとしても
今の俺なら一向に構わない。

202: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 14:15:33.77 ID:e2xc0sif0
俺がもう何度目かわからないほど人生をテーマに哲学してると、ようやく朝が訪れた。
長門はあれから一度も寝返りを打つこともなく、眠り続けていた。
一方俺は、白状することもないのに唐突に始まった
この拷問の時間をひたすらに耐え抜いたのだった。

健全な一般男子の諸君は、俺のことを意気地なしと罵倒するかもしれない。
しかし相手は大切なSOS団の仲間だ。
これが仮に長門ではなく天が遣わした妖精こと朝比奈さんだったとしても、
俺は手を出さなかったと誓える。誓う相手は誰でもいい。

とにかく俺は不眠のまま、長い夜を越えたのだった。

232: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 15:49:46.33 ID:ki8XEJOO0
迂闊なことに、俺は自宅へ連絡をしていなかった。
しかしそのことに関しては長門は、

「情報操作は得意」

以前と全く変わらない口調で答えた。
正直いって今の長門には少し不安を覚えているのだが、
こいつのことだからそれほど悪い都合にはなっていないだろう。

長門が無造作にパジャマを脱ぎ始めたのに合わせて和室からダッシュで移動し、
やがて制服に着替えた長門と、昨日の夕食のような事態を回避するべく
慎重に食事を済ませてから、俺達はマンションを出た。

登校時間をずらすことも提案したが、無言のまま拒否された。
どうせ同じマンションから出るのだから一緒に登校するぐらいはいいだろう。

それぐらいならばな。

「なあ、腕は組まなきゃいけないのか?」

まったく、昨日からおまえは本当にどうかしちまってるんじゃないか。

235: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 16:08:01.57 ID:ki8XEJOO0
「これは必要な行為」

どうして必要なのかまで説明する気はないようで、あとは黙々と歩くだけ。
もちろん俺と長門の腕はしっかり絡んだままだ。
主導権を握っているのは間違いなく長門だが、俺だって抵抗ぐらいは試みる。

「昨日は端から見たら、こんなのは意味がないとか言ってなかったか?」

だからこそ、この無口無表情の文学少女は同棲を申し出たはずだ。

「充分ではないだけで、効果はある」

なるほどね。効果はある、か。
男女が腕を組んで寄り添って歩けば、それはそうだろうな。
しかし長門、それは俺の昨日の言い分だったはずなんだが、忘れてしまってるのか?

……学習能力のある俺は、これ以上突っ込むのはやめておく。
俺の脳裏には「不充分」と呟いて、
上目遣いで俺を見つめる長門がしっかりと浮かんでいたからな。

長門に気づかれないよう嘆息して、俺は空しい抵抗をやめた。
後から考えてみれば、この時の俺はすでに感覚が麻痺していたんだろう。

何せ裸を見せられたり、下着もつけずにパジャマ超しに密着されるよりは、
ずっとマシだとこの時の俺は思っていた。
詐欺師のごとき手口に見事に引っ掛かっていたというわけだ。

240: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 16:20:10.87 ID:ki8XEJOO0
途中、長門は何度か俺の様子を窺うような素振りを見せた。
もちろん位置的にどうしても上目遣いになってくるので、
その度に俺は心臓に悪い思いをしていた。

普段は正面から見られても何も感じることはなかったが、
角度が変わるとここまで危険になるとは予想外だった。


「キョン、どういうことだよ!」

アホで愚かな谷口、今日ばかりはそっとしておいてくれないか。
俺は食い下がる谷口を適当に追い払い、机に突っ伏した。

俺が長門と登校している光景は、当然だが多数の生徒の目に止まった。
ハルヒや朝比奈さんほどではないにせよ、SOS団の一員は生徒に注目される。
長門だけはなく、迷惑なことに俺だって「変わり者」のレッテルを貼られている。
そんな二人が肩を並べて登校すれば、話題になるのは想像に難くなかった。

目撃者にハルヒがいないのがせめての救いだが、
どうせこの調子ではすぐに知れることになるだろう。

そしてその時はたった数分後にやってきた。

246: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 16:36:14.52 ID:ki8XEJOO0
「ちょっとキョン!こっち来なさい!」

言うや否や、腕を引っ掴んでいずこへと俺と連れ出したのは我らが団長である。
到着したのは屋上手前のほこり臭い見慣れた場所。

特に冷めた表情をするのでもなく、また激昂するのでもなく、
ハルヒはニヤニヤ笑いを浮かべていた。確かに朝比奈さんの時とは違う反応だな。
……そういえば中河のラブレターを勘違いされたときも、こいつはこんな顔だったか?

「有希と登校するなんてあんた馬鹿なの!?しかも腕まで組むなんて!
 わたしが許すからさっさと屋上から飛び降りなさいよ!」

ガチャガチャと施錠のかかったドアを無理矢理開けようとする笑顔のハルヒ。
顔は笑っていても、こいつは冗談は言わない。いつだって本気なのだ。

屋上から突き落とされる前に、なんとか事情を説明する時間が欲しいところだが、
素直に説明したら話は余計にこじれることだろう。

しかも昨日の言葉に間違いがなければ、長門は同棲のことを今日ハルヒに告げるのだ。
今をしのぐために変に誤魔化すことも逆効果になりそうだ。

それともハルヒの力の行使を観測するのが目的だから、好都合なのか?

253: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 16:54:45.15 ID:ki8XEJOO0
偶然に居合わせたと説いても、放課後には同棲の事実が長門から漏れる。
泊まったことに関してはもう諦めて白状するしかなさそうだった。

「ふーん……つまりあれから有希は部室で倒れて、気絶しちゃったってわけ?」

「あいつ、昨日はすぐに帰らなかったろ? もう歩けないぐらい具合が悪かったのさ」

「どうしてそんな大事なことをあたしに連絡しないのよ!」

怒鳴るその目は好奇心ではなく、どうやら本当に怒っているようだった。
こいつはこんな性格のくせに、意外とSOS団に関しては律儀なんだよな。

「団長を煩わせるまでもないと思ったんだよ。マンションの場所は知っていたしな」

「でも目を覚まさなかったんなら、さすがに女の人手が必要でしょ!
 なんでそのまま面倒見るのよ!やっぱりあんた正気じゃないわね!」

頼むからドアに手を掛けないでくれ。
ちょっと正気じゃなかったのは不本意ながら認める。
焦って混乱していたから、連絡にまで頭が回らなかったんだ。

「あっ!まさかあんた!そんなこと言って、有希に変なことしたんじゃないでしょうね!」

渾身で否定する。
むしろされかけたのは俺のほうだと言ってやりたいね。

「あいつ、まだ今朝も調子が悪かったようだからな。
 倒れないように支えてたら、あんな感じになったってわけさ」

「……ふんっ!どうかしらね!」

258: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 17:03:48.97 ID:ki8XEJOO0
我ながら苦しい言い逃れに、ハルヒも完全に納得したわけではないようだが渋々折れた。
どうやら屋上からダイブすることは免れて一安心といったところだ。

教室に戻るとまた谷口と国木田のコンビが俺のところにやって来たが、
後ろで不機嫌オーラを発する存在に気づいてそそくさと逃げていった。

授業は滞りなく進んだが、その間俺はずっとハルヒの刺すような視線を感じていた。
そろそろ穴が空くんじゃないかと思う頃、四限の終わりの鐘が鳴る。
どこにいるのやら、休み時間は教室不在のハルヒなので、俺はほっと息を吐いた。

しかし、あんな不機嫌なハルヒも久しぶりに見る。
こうなると忙しくなる奴もいるだろうな。
購買部に向けて足を運ぶ途中、微笑みを浮かべた優男が俺を待っていた。

「少しお時間よろしいでしょうか? 話したいがあります」

だろうな。

260: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 17:18:37.72 ID:ki8XEJOO0
「朝からこの数時間で、何度も巨大な閉鎖空間が発生しています。
 これは一体どういうことなのか、ご説明願えませんか」

人気のない中庭に腰を落ち着けるなり、古泉は話を切り出した。
いつもの爽やかスマイルにもほんの少し翳りが見える。すまんな、古泉。

長門は部室で告白するのだから、同棲は遠からずこいつの耳にも入るだろう。
しかし今回は立場的を見れば長門とは完全に対立するポジションだ。
さて、どうしたものか。
……少しだけ迷った末、俺は正直に事実を述べた。

「なんとも無謀な作戦ですね」

長門の次に感情の読み取りづらい古泉だったが、今は困惑しているのがよくわかる。

「またあの時の悲劇を繰り返そうというわけですか?」

俺だって馬鹿じゃないから、長門に聞いたさ。
だが同じ結果になるとは限らないと言われたら、俺には何も言えないだろう。

「それでも、今ならあなたの判断も長門さんの判断も違っているのでは?
 巨大な閉鎖空間の発生が、何の前兆か忘れたわけではないでしょう」

その通りだった。
映画撮影の時のように、局地的に現実を捻じ曲げるのを長門は望んでいるのだ。
朝比奈さんと俺では大変な事態になったが、自分となら違う可能性もあると。
しかし実際はどうだろう。
またあの世界に閉じ込められそうな予感がする。

291: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 19:02:29.69 ID:vTo5sAa10
「ん?これは……?」

今後の方針を決めあぐねて頭を抱えていると、不意に古泉は遠くを見て呟いた。
俺が問いただす前に、古泉の携帯が鳴る。

「……はい。こちらでも確認できましたが一体……それは本当ですか?
 …はい、そうですね。そういうことであれば……ええ、わかりました」

通話を終えた古泉は、どことなく緩慢な仕草で携帯を懐にしまい込む。
俺を見るなり肩をすくめてみせた。

「続けて発生していた閉鎖空間が唐突に消えました」

「どういうことだ?」

「神人を倒すまでもなく、閉鎖空間は消滅しました。
 これはなかなか珍しいケースですよ」

そんな統計からくる感想はどうでもいいから、まず原因を説明しろ。

「はっきりしたことはまだ組織も掴んでいないようです。
 ですが僕は長門さんがこの事態に先手を打ったのだと考えています」

292: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 19:04:17.45 ID:vTo5sAa10
>>289
ソースヒレカツ丼とあさりのみそ汁を美味しくいただきました。

296: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 19:11:31.92 ID:vTo5sAa10
こんな厄介な事件を解決できそうなのは、たしかに長門ぐらいのものだろう。
何よりこの状況を生んだのはあいつだし、解決にあたるのは当然といえば当然だ。
しかし、一体どうやったんだろうな。

「方法までは推測できませんが、涼宮さんに接触し何かをしたのは間違いありません。
 そうでなければ、こんな急激な変化はありえない」

古泉の言葉に少し肝が冷えた。
長門が昼休みにわざわざハルヒに会い行き何かをしたというのなら、
俺が思いつくのはただ一つしかなかったからだ。

俺の懸念を察したのか、古泉は微笑みのまま首を振った。

「同棲の件を話したのならひたすらに悪化の一途でしょうから、それはないと思いますね」

授業中のハルヒの不機嫌オーラを思い出しながら頷く。
同棲を知って酷くなることはあっても、改善に向かうとは思えない。

じゃあどうやって?

301: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 19:27:52.69 ID:vTo5sAa10
いくら考えても答えの出ない問いを諦めて、
俺と古泉は疑問を残したまま別れて教室に戻ることにした。
とにかく放課後、長門に会えば全てわかると期待して。

しかし俺は昼休みが終わる直前に戻ってきたハルヒの行動に、
さらに疑問をつのらせることになる。

「キョン!あんたやるじゃないの!」

開口一発、肩を馬鹿力でバシンと叩かれた。
すぐさま文句を言おうと振り返ったが、俺は言葉が出なかった。
さっきまでとは別人のような喜色満面のハルヒである。

「バカキョンもようやくSOS団のなんたるかがわかったようね!
 あたしが苦労した甲斐もあったというものだわ!」

勝手に有頂天になっているハルヒに、俺は咄嗟に返すセリフが思いつかない。
どうもこいつは演技でも気が狂ったわけでもなく、本気で喜んでいるようだ。

「ご機嫌だな」

「そりゃそうでしょ!?ようやくあんたが──いや、何でもない!とにかく!
 これからもガンガン有希と一緒に行動してもいいわよ!」

聴力検査の結果は正常だったはずだが、耳を疑ったね。
今朝俺を屋上から突き落とそうとした人間が言うセリフとは思えない。

午後の授業は一転して、背後から明るい視線を感じた。
これはこれで気の落ち着かないものだった。
疑問と視線のせいで、放課後になるのがやけに長く感じられた。

306: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 19:44:41.39 ID:vTo5sAa10
「作戦を軌道修正」

放課後の部室、すでに置き物と化していた長門だったが、
こちらから説明を求めるまでもなく口を開いた。
まだ俺以外には誰も来ていないのが好都合と判断したのかもしれない。

さあ、聞かせてもらおうじゃないか。
あの身勝手で破天荒な女の感情をどうやってコントロールしたのかをな。

「あなたは涼宮ハルヒを喜ばせる方法を水面下で画策中。
 その実現は一人では困難なため、わたしの協力が不可欠と伝えた」

「なるほどな……」

聞けば何ともくだらないものだが、意外とすんなり納得できた。
つまり俺はハルヒのためにサプライズ企画を考案している設定なのか。
それは退屈な団長殿には最大の献上品になるだろうな。

309: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 19:54:15.98 ID:vTo5sAa10
とにかくこれでハルヒの気分は一気に回復し、閉鎖空間が消えた理由はわかった。
しかし新たな問題が生まれる。

「それで俺は、具体的に何をすればいいんだ?」

もしハルヒが喜ばないような事に仕出かせば、
期待していただけにその反動も大きいだろう。
多少の無茶は今までしてきた。少しくらいなら覚悟は決まってる。

だが返ってきた言葉は、予想に反してあっけなかった。

「何もしなくていい」

それじゃあいつかハルヒが痺れを切らして、不満を爆発させるだろうぜ。
そして迷惑なことにあいつの不満は世界に影響を及ぼすのだ。

「心配ない」

それだけ言うと長門はいつものように読書を始めてしまった。
どうやら会話はこれで終わりのようだが、肝心の説明が抜けてやしないか。
ハルヒが不満にならない根拠を知りたいんだがね。

言葉を続けようとする前に、朝比奈さんが入ってきて結局うやむやになってしまった。

316: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 20:09:09.01 ID:vTo5sAa10
メイド服に着替えた朝比奈さんは妙にそわそわしていた。
思い出したように俺と長門を見ては、可愛らしく唸っていらっしゃる。
一緒に登校したことに関して、どう接するべきか悩んでいるのだろう。
決定的な忠告がないところを見ると、今回の件は未来に影響はないのかもしれない。

古泉がやってきて、妙に上機嫌な団長もすぐにやってきた。
俺は古泉とオセロを始め、朝比奈さんはそれを眺め、長門は読書、
ハルヒというと、不気味過ぎるほど笑っている他はいつもと変わらない様子で、
団長の席に座ってパソコンを操作していた。

すっかりお馴染みになってしまった、放課後のお決まりの風景だ。

やがて長門が本を閉じた。

320: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 20:29:04.90 ID:vTo5sAa10
「よし、今日は解散!じゃあね、キョン!とにかく頑張りなさい!」

部室を震わせるような馬鹿でかい声を発して、台風のように去っていた。
意味不明な激励は、あいつなりの気付かないフリなんだろう。
着替えのある朝比奈さんを残して、俺と長門は先にSOS団の部室を出る。

周囲に誰もいなくなったことだし、説明してもらうぞ。

「…………」

だが問いかけを無視して腕を絡めてくる長門。
もう仲睦まじい同棲生活の設定は不要のはずでは?

「この行為もまた必要であると説明したので継続する」

よくそんな突拍子もない言い訳に納得してくれたものだ。
誰が見ても欣喜雀躍なハルヒだったが、見かけよりさらに浮かれてるのかもな。
俺と長門が腕を組んで、どうしたらハルヒの喜ぶことに繋がるというのか。
もはやあいつの思考能力が欠如してるとしか思えん。

というか、こいつはどう繋げるつもりなんだろう。
もし良ければわかりやすく解説してもらえないかね。

「すぐにわかる」

うーん、説明する気はなしのようだ。

323: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 20:44:20.81 ID:vTo5sAa10
慣れることのない密着感に俺は赤面しっぱなしで、
それだけならまだしもたまに長門が見上げるものだから、鼓動も早鐘を打つばかりだ。
自分がこんなにも上目遣いに弱いとは、思ってもみなかった。

嬉しいやら疲れるやらで、行ったり来たりを繰り返すうちにマンションに到着した。
長門はエレベーターの中でも俺に寄り添ったままで、
腕を離したのは708号室に入ってからのことだった。

「…………」

「…………」

そしてまた無言の時間がスタートしたわけだが、
俺は自分の心情が少し変化していることに気付きはじめた。

長門はやはり俺の向かいに座って何も喋らない。
いつもと何も変わらないはずだ。
それなのに。

何か物足りないと感じるのは、どうしてだろう。

327: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 20:55:56.15 ID:vTo5sAa10
帰路の最中ずっと隣にいたから、面と向かい合うことに対する違和感もある。
しかしそれだけはこの気持ちは説明がつかないような気がする。

「なあ、ちょっといいか?」

「…………」

テーブルの一点に視線を向けていた長門が、顔を上げて俺を見る。
なんだろう、この曰く言い難い感情は。
おかげさまで俺は何を言おうとしていたのかも忘れてしまったよ。

「いや、なんでもない。すまなかったな」

「そう」

長門の視線が下がる。

「…………」

「…………」

またいつもの沈黙。
昨日はあれだけ重く感じた空気だが、今日はそんなに悪くないようが気がした。

333: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 21:17:47.89 ID:vTo5sAa10
晩飯の時間となり、ごはん粒を警戒した俺だがそれは杞憂に終わる。
今日は食パンに目玉焼き、それにスープとサラダだった。
昨夜といい朝食らしいメニューなのは何か理由でもあるのだろうか?

すぐに「用意された」食事だったが、味はやはり美味しかった。
空腹に刺激され、それぞれを口に運んでいき滞りなく食事を済ませる。

食事が済むと長門は気を利かせてくれたのか、お茶を運んできた。
急須から注いでくれた茶をすすって、一服つける。
以前と変わらぬ素っ気ない味だが、なかなかどうして悪くない。

お茶を飲んで体は暖まっているが、一日の体の疲れは癒すのはまた別だ。
そろそろ風呂に入りたい。

すでに用意は出来てるとの答えだったが、俺はすぐに脱衣場には向かわなかった。
そのまえに長門に念を押しておかなければならない。

「今日は後を追ってくるなよ。途中から入ってくるのも駄目だ」

「なぜ」

「理由は言わん。説明すると長くなりそうだしな。
 とにかく絶対に昨日みたいなマネはしないでくれ。わかったか?」

「了解した」

長門の頷きを確認した俺は、脇に置いてあった着替えを手に取り脱衣場へ向かう。
ふと振り返ると、テーブルにぽつんと取り残された長門がいた。

やけに寂しそうな姿に見えたのは、俺の気のせいだろうか。

336: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 21:24:34.25 ID:vTo5sAa10
結論から言うと、気のせいだった。

脱衣場で服を脱ぎながら少しだけ長門に思いを巡らせていた。
ちょっと強く言いすぎたかもな……。
あんな命令口調でどやさなくても、あいつなら従ってくれただろう。

……風呂から出たら、一応謝っておくか。

全て脱ぎ終えて浴室へと続くドアを開ける。

「遅い」

すでに浴室には生まれたままの姿の長門がいた。

344: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 21:35:09.89 ID:vTo5sAa10
ありのままに起こった事を説明しようと思う。
居間に長門がいたと思ったら、いつの間にか浴室にいた。
しかも着ていたはずの衣服も一切身につけていない。
何を言っているのかわからないと皆さんもお思いのことだろうが、俺にもわからん。

俺は吸血鬼に立ち向かう髪を逆立てたフランス人の気分だった。
だがフランス人には言ってやりたい。
超スピードは全然チャチなものなんかじゃないと。
こいつなら時間も止められるだろうが、
そんな手間をかけずとも超速の動きだけで可能だろう。

しかし話が違うぜ長門。
俺は慌てて浴室のドアを閉じると、問い詰めることにした。

「あなたは先に入ってはいけないとは言わなかった」

なんとも腹の立つ小理屈を抜かしやがる。
おまえは橋の真ん中を渡る小坊主か。

348: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 21:47:26.00 ID:vTo5sAa10
目を開いたままなのに、長門の裸身が焼きついて離れない。
全く無頓着にもほどがあるってもんだ。
俺に裸なんか見られてもこいつは何とも思わないんだろうな。

「とにかく、おまえだけ先に入ってくれていいぞ。俺はその後で入る」

「効率的ではない」

「いいから!」

長門が何かを言うまえに、俺は衣服を引っ掴んで居間へと足を向けた。
憤然とした思いで、居間で衣服を身に着ける。
本当に何を考えてるんだあいつは。
いや、何も考えていないからあんなことができるのか。
統合情報思念体にも、もう少し人間の世界を勉強してもらいたいものだ。

文句を考えながらも、長門の裸はなかなか消えてくれない。
頭の上を漂っている巨大な妄想雲を掻き回す。

俺がそんな馬鹿をやっていると、脱衣場のドアが開いた。
もう上がったのかと視線を向けて、俺は固まってしまった。

裸身のままの長門が姿を見せていた。

351: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 21:59:10.81 ID:vTo5sAa10
手でどこを隠すわけでもなく、ただ突っ立っている長門。
さすがに意味がわからない。
浴室ならまだしもどうして居間にその格好でやって来る?

「いい加減にしろよ!おまえは何を考えてんだ!」

気がついたら目も背けずに怒鳴っていた。
長門はそんな俺に目もくれず無表情のままで、言葉を返す気配もない。

そんな様子に、さらに俺は苛立った。

357: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 22:09:09.35 ID:vTo5sAa10
「おまえ昨日からおかしいぞ!同棲なんて変なこと言い出しやがって!
 真似事だか何だか知らんが、やり過ぎなんだよ!普通じゃないだろこんなの!」

無言。

「一体俺のことを何だと思ってんだ!俺はおまえの遊び道具じゃないんだぞ!」

無言。

「ちゃんと聞いてるのかよ!何か言ったらどうなんだっ!」

とりあえず言いたいことは、全部怒鳴り散らしてやった。
それでも沈黙を貫こうとする姿勢にさらに言葉を重ねようとしたとき、
長門がそれまで伏せていた目を上げて、俺を見つめた。

「…………」

「何だよ……」

……ああ、俺は次の瞬間を一生忘れないことだろうね。
何か言いよどむような珍しい間を見せたあと、

長門は、

頬を赤く染めたんだ。


「好き」

俺は長門を抱きしめた。

371: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 22:27:39.73 ID:KhpznaxH0
裸の長門を抱きしめたまま、俺はその唇を奪った。

本当はわかっていた。
こうなることを俺は最初から望んでいたのだ。
状況に流されて同棲を受け入れた俺だが、すでに気持ちは固まっていた。

ただ気掛かりだったのはハルヒのことだった。
俺が長門とこんな関係になることで、世界がどうなってしまうのか。
それを想像すると長門を受け入れるのが怖くてしょうがなかった。
こいつの不器用なアプローチを受けるたびに、応えられない自分が不甲斐なかった。

だが長門は言った。俺に対して、好きと。
もう自分を偽るのはごめんだ。

唾液の糸を引きながら、唇が離れる。
ぼんやりとした表情で俺を見つめる長門は、ただただ可愛かった。

「こっち」

長門が和室に繋がる襖を開けた。

381: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 22:40:26.55 ID:KhpznaxH0
朝を迎えた。

昨夜と同じように一組の布団に俺達は入っている。
ただ違う点はあった。
もう俺は長門が傍にいることに複雑な気持ちを抱かずに済むし、
長門も無茶な寝返りをする必要がなくなった。

行為を終えたあと、ふと気になった俺は寝返りについて訊ねてみた。

「演技」

やっぱり芝居を打っていたというわけだ。あまりに不自然だったものな。

それにしても同棲まですることはなかったんじゃないだろうか。
結局ハルヒの力がどうこうという話は、無関係ってことだろう?
居間で向かい合って朝食を食べながら、
俺が微笑ましい気分で長門に笑いかけると、しかし静かに首を振った。

「あなたは少し誤解をしている」

ん?誤解だって?

384: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 22:47:06.84 ID:KhpznaxH0
まさか俺のことを本当に利用していたわけじゃないだろうな。
すぐに首を横に振る長門。

「この同棲により、あなたと結ばれる意図はあった。
 ただし涼宮ハルヒの出方を見るといのも本当」

心の奥底から安堵した。
それから俺は長門の黒い瞳を改めてじっと観察する。
……この後に及んで冗談を言っているわけではないようだな。
つまりこの同棲は長門にとって一挙両得の作戦だったのか。

そういえば、俺はハルヒのために裏で活動していることになっているんだった。
あれが方便だったとは言えハルヒは信じている。
いずれ待ち切れないハルヒが暴走するかもしれないと言うと、
昨日の長門は心配ないと答えた。
そしてもう一言。
すぐにわかる、とも。

やれやれ、どうやらまだこの件には続きがありそうだ。

386: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 22:56:18.60 ID:KhpznaxH0
さて、もうそろそろ俺にも納得のいく説明をしてもらおうか。
あぐらをかいて、どっしり腰を据えて聞く体勢に入る。

長門はコクリと頷いて立ち上がった。

「待ってて」

言うなり玄関に歩き出し、そのまま外へ行ってしまった。
説明を求めたはずなのにいなくなる。
これはひょっとして長門流のジョークだろうか。
もしかして後を追ったほうが良かったのだろうか?

どうしようかと悩んでいると、数分して長門が帰ってきた。
手には何やら新聞を持っている。
一階まで降りてこれを取りに行っていたようだ。
しかし長門、どうしてこんな時こそ超スピードを使わないんだ。

「見て」

想いが通じても、俺の些細な質問は無視か。
そんなところもおまえらしいけどな。
俺は隠しきれないニヤケ面で、長門から新聞を受け取る。

これで何がわかるっていうんだろうな。
まずは一面を見る。

「げっ……」

ニヤケ面なんかしてる場合じゃなかった。

390: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 23:10:16.48 ID:mf2/MbTL0
長門が俺に寄越したのはローカルの新聞だった。
その一面にはとんでもない写真が掲載され、太い文字で読者の関心を煽っている。

 北高の裏山にUFO出現!

その横には月明かりを遮るように写っているUFOと思しき写真。
いやいや、思しきなんて生易しいものじゃない。これはそのものだ。
まるで子供が絵に描いたような、アダムスキー型と呼ばれる円盤だった。

「これは……」

長門が俺にこれを見ろと言った以上、やはりハルヒの仕業なんだろうな。
だがどうして急にこんなふざけた現実を作り上げちまったんだ?

「これは涼宮ハルヒの願望」

それはわかっている。あいつが望んだことが現実になるなんてことは、
おまえら三人がSOS団に入団してきてすぐに納得させられたよ。

古泉曰くハルヒはあれでもまだ常識を捨てていない。
だからこそ世界は普通で、あいつは三人の正体も知らないままなのだ。
だがこれはどうやったところで、ハルヒの目に留まるだろう。

どうしてこんなことになった?

「これは涼宮ハルヒの、あなたにして欲しい願望として出現している」

391: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 23:16:18.43 ID:mf2/MbTL0
眩暈がした。
あの馬鹿は、水面下で動く俺がこんなものを用意すると思ってるのか。

「思ってる」

そうなって欲しいという願望が強すぎるあまり、現実に影響を及ぼし始めてしまったと?

「しまった」

オウム返しをする長門に反論する気力もなかった。
長門はハルヒが喜ぶことは何もしなくていいと俺に言った。
そりゃあ、そうだよな。
俺がしなくたって、あいつが勝手に作りだしちゃってるんだから。
ハルヒのことは今までもずっと馬鹿だと思っていたが、真性の馬鹿だ。

頭は痛いが、なるほど。これで事情は把握した。
それでどうやって収拾をつければいんだろう。

397: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 23:32:41.29 ID:mf2/MbTL0
ここまで協力してきた俺だが、へんてこな世界になるのは御免だ。
俺は何だかんだ言っても今の世界が好きだからな。

「一定数の情報フレアを計測した後、情報を操作する」

どうも気の遠くなりそうな話に聞こえるのは、俺の勘違いだろうか。
大体ハルヒは今日にでも裏山の探索を主張し、
有無を言わさず団員総動員で実物やら証拠やらを発見させようとするに決まってる。
そこであいつが生み出したUFOが見つかった時点でもうアウトだ。
後なんてない。

「涼宮ハルヒはあなたからの報告を望んでいる」

あいつの中でUFOのプレゼンターは俺だからな。

「あなたが発見しなければ、まだ時期ではないと判断するはず」

そこまであの馬鹿が俺の意志を汲んでくれるとは限らないぜ。

「あなたは涼宮ハルヒにとって特別な存在」

結局のところ、そこに回帰するわけか。

「…………」

「ん?どうした」

「あなたはわたしにとっても、特別な存在」

幸せって、こういうことを言うんだろうな。

403: ◆g2HLsGvlOA 2009/02/27(金) 23:50:45.25 ID:mf2/MbTL0
涼宮ハルヒは今後どう動くのか。
長門の予測通りに俺が報告するまで知らないフリを続けるのか、
それとも我慢の限界を迎えて世界をSFとファンタジー埋め尽くしてしまうのか。

俺には解答は出せない。

俺が世界のために出来ることは情報フレアの計測とやらが
速やかに終わることを願うことぐらいだが、それも本心から望むのは難しい。

計測が終了して世界が元に戻ることは、俺の水面下の計画の終了を意味する。
つまりハルヒの納得する長門と俺の同棲理由がなくなってしまう。
全く何とも因果なものだよな。

まあ、いつ終わるかわからない先のことを考えてもしょうがないか。

「そろそろ学校に行こうぜ」

俺は今では最愛となった女性に手を差し出すと、小さな手が俺の手を握り返してくる。
何とかなるだろう、こいつが俺の傍にいてくれれば。

「よし、それじゃ行くか」

「…………」

……ここで相変わらずの無言か。それでも、俺と手を繋いでる長門の表情が
嬉しそうに見えるのは、絶対に気のせいなんかじゃないぜ。

そうだろ?有希

   完