686: 名無しさん 2020/08/05(水) 00:25:05 ID:XrL0W91.
………………“文学の森の眠り姫” 編中 唯我家

水希 「どうしたの、お兄ちゃん。急にお料理だなんて……」

水希 「本試験だって間近なのに……」

成幸 「いやな、ほら、古橋が俺をかばったせいでけがをしただろ?」

水希 「? うん、それは知ってるけど……」

成幸 「それで、俺が今身の回りのお世話をしに行ってるだろ?」

水希 「………………」

水希 「……ウン、ソウダネ」

成幸 (……今の間はなんだ?)

成幸 「それで、料理を作ったりもするだんだけどさ、あんまりうまく作れなくて……」

成幸 「だから、水希に料理を習って美味しいものが作れるようになったら、古橋もよろこんでくれるかな……って」

水希 「………………」

成幸 「だ、大丈夫か、水希。なんかすごい顔してるけど……」

引用元: ・【ぼく勉】 文乃 「今週末、天体観測に行くんだよ」

687: 名無しさん 2020/08/05(水) 00:25:51 ID:XrL0W91.
水希 (ふ、古橋さんめ……) ゴゴゴゴゴゴ……!!!

水希 (お兄ちゃんに身の回りのお世話をしてもらっているにとどまらず、手料理まで作ってもらってるなんて……!!)

水希 (古橋さんめ……!!)

成幸 「水希……? ダメ、かな?」

水希 (……でも、古橋さんは、お兄ちゃんのことを助けてくれたんだよね)

水希 (もし古橋さんが助けてくれなかったら、お兄ちゃんが落ちて、大けがしてたかもしれないし……)

水希 (……何よりお兄ちゃんに上目遣いでお願いされたら断れるわけないでしょー!!)

水希 「……いいよ」 ハァ 「お料理、教えてあげる」

成幸 「!? 本当か!?」 パァァァアアアア!!! 「ありがとう、水希!!」

水希 (……本当に嬉しそうな顔。よっぽど古橋さんに美味しいものを食べさせてあげたいのかな)

ズキッ

水希 (……ふんだ。べつに、お兄ちゃんは古橋さんに恩返ししているだけだもんね)

水希 (だからべつに、特別なことなんてないんだから……!)

688: 名無しさん 2020/08/05(水) 00:27:16 ID:XrL0W91.
………………

成幸 「………………」

トン……トン……トン……

成幸 「……よし」

成幸 (自分で言うのもなんだが、食材はきれいに切れたぞ。最近古橋の家でごはんを作ってた成果だな)

水希 「………………」 ジーーーーーッ

水希 「……お兄ちゃん。ちゃんと切れてはいるけど、こうした方がもっといいかな」

スッ……トントントン……

水希 「お野菜とお肉に火を通す場合は、同じくらいの大きさにそろえた方がいいんだよ」

水希 「じゃないと、火の通り具合がまちまちになっちゃうでしょ?」

成幸 「ああ、なるほど。合理的だな……」

成幸 「食材を切るときは大きさをそろえる……と」 メモメモ

水希 (お兄ちゃんったら、メモまでとっちゃってマジメだなぁ)

水希 (……かっこいいなぁ) キュンキュン

成幸 「えーっと、たしか、煮込むまえに炒めるんだよな……」 スッ……

689: 名無しさん 2020/08/05(水) 00:28:02 ID:XrL0W91.
水希 「お兄ちゃん、炒める順番を考えてね」

成幸 「ああ、肉とか固い野菜からだろ」

成幸 「だから、肉とにんじんとじゃがいもを先に……」

水希 「だーめ。じゃがいもはたしかに固いけど、火が通るとすぐ崩れちゃうんだから」

水希 「じゃがいもは最後だよ、お兄ちゃん」

成幸 「あ、そうか。そういえば古橋とふたりでカレー作ったときもそうだったような……」

水希 「む……」 (また古橋さん……) モヤモヤ

水希 「あとは、たまねぎだけ先に炒めて飴色にする場合もあるけど、今日はいいかな」

成幸 「ああ、メイラード反応の代表例だな」

成幸 「ちなみにあまり知られていないけど肉を焼いたとき色が変わるのも実はメイラード反応なんだぞ」

水希 「お兄ちゃん、お料理は得意じゃないのにそういうことは詳しいんだよね……」

水希 (まぁ、そういうところがかっこいいんだけど……えへへ)

水希 「さ、じゃあ炒めて、お兄ちゃん」

成幸 「おう!」

690: 名無しさん 2020/08/05(水) 00:28:39 ID:XrL0W91.
成幸 「………………」

ジューーーー……

水希 「………………」 (……真剣な顔してお料理するお兄ちゃん、かっこいいなぁ)

成幸 「……のわっ! たまねぎがとんだ!」 アタフタアタフタ

水希 (慌てふためくお兄ちゃんもかっこいいし……)

成幸 「なぁ、水希、そろそろ水を入れたらいいかな?」

水希 (わたしに指示を求めるお兄ちゃんもかっこいい……)

水希 「うん。じゃあそろそろお水入れようか。こぼれないようにゆっくりね」

成幸 「ああ」

水希 「………………」

水希 (古橋さんは、毎日こんなお兄ちゃんを見てるんだよね)


―――― 『だから、水希に料理を習って美味しいものが作れるようになったら、古橋もよろこんでくれるかな……って』


水希 (……そしてきっと、たぶん)

水希 (これからもずっと、見ることになるんだろうな……)

691: 名無しさん 2020/08/05(水) 00:29:39 ID:XrL0W91.
………………

葉月&和樹 「「うまーーーーーーーー!!!!」」

ガツガツガツガツ

水希 「ほら、葉月も和樹も、そんなに急いで食べないの」

成幸 「うんうん……」 モグモグモグ

成幸 「我ながら美味しくできたな」

水希 「うん、とっても美味しいよ、お兄ちゃん。すごいよ」

成幸 「まぁ、カレーはまえに一度作ってるからな……」

成幸 (……というか、市販のカレールーを使って、レシピ通りに作って美味しくできない方がおかしいんだよな)

水希 「じゃあ次は、もう少し難しいお料理にチャレンジしてみようか」

成幸 「ああ! よろしくな、水希!」

692: 名無しさん 2020/08/05(水) 00:31:01 ID:XrL0W91.
………………数日後

成幸 「最近、古橋だけでなく親父さんも、俺の料理を美味しいって言いながら食べてくれるんだよ」

ニコニコニコ

水希 (お兄ちゃん、嬉しそうだなぁ……かわいいなぁ)

成幸 「この前作ったハムチーズサンドも古橋がすごく喜んでくれたんだ」

成幸 「あと特製スムージーも美味しいって……」

成幸 「ああ、あとな……」

ペラペラペラ……

水希 「………………」

水希 (……それはそれとして、最近古橋さんの話ばっかりだ)

成幸 「あ、そろそろ古橋の家に行く時間だ! じゃ、行ってきます!」

ビュン!!

水希 「あ、いってらっしゃい……って、もう行っちゃった」

水希 (学校お休みになったら、家にいる時間増えるかなって思ったけど)

水希 (……最近ずっと古橋さん家に行ってばっかり) ハァ 「……買い物でも行こ」

693: 名無しさん 2020/08/05(水) 00:31:41 ID:XrL0W91.
………………買い物帰り

水希 (お兄ちゃん、今日も夕食は古橋さん家で食べるんだろうな)

水希 (古橋さんは、毎日お兄ちゃんと一緒にご飯食べてるんだよね)

水希 「………………」

水希 「……いいなぁ」

ハッ

水希 「!?」 (い、いけない。古橋さんがけがをしたのは、お兄ちゃんをかばったからなのに……)

水希 (“いいなぁ” なんて、そんなこと思っちゃだめだよね……)

水希 「………………」

水希 「……わたし――」


  「――本当に歩いて大丈夫か、古橋。けがに響かないか?」

 「大丈夫だってば。少しは動かないと逆に体に悪いって言われてるし」


水希 「!?」 (この声って……) サササッ

694: 名無しさん 2020/08/05(水) 00:32:11 ID:XrL0W91.
成幸 「でも、まだあんまり歩きすぎない方が……」

文乃 「いやいや、近所のスーパー行くだけでしょ……」

文乃 「何度も言うけど、成幸くんは過保護すぎだよ」

成幸 「そうは言ってもな……」

水希 (やっぱりお兄ちゃんと古橋さんだー!!) コソッ

水希 (……って、何でわたし隠れてるんだろ)

成幸 「痛かったら言えよ? いつでもおぶるからな?」

文乃 「もーっ! だから大丈夫だって……とっ」

コケッ

成幸 「古橋!」

ギュッ……グイッ

文乃 「あっ……///」

成幸 「大丈夫か、古橋」

文乃 「ご、ごめん。ちょっと松葉杖引っかかっちゃって……」

文乃 「……ありがとう、成幸くん」

695: 名無しさん 2020/08/05(水) 00:32:59 ID:XrL0W91.
成幸 「歩けるか?」

文乃 「うん。大丈夫」

成幸 「気をつけろよ。早く治さなくちゃ本試験にも響くからな」

文乃 「そうだね。気をつけるよ」

水希 「………………」

水希 (……うん。そう。わかってるんだ、わたし)

水希 (あのふたりがとってもお似合いのカップルだって)

水希 (……わかってる。わかってるんだよ)

水希 (でも、だからこんなに、悔しいんだよ……)

水希 「……わたし」

水希 「わたしだって……!」

水希 (もしお兄ちゃんが階段から落ちそうになったとき、そばにいたのがわたしだったら)

水希 (わたしだって絶対、古橋さんと同じことをしたのに……)

水希 「………………」

水希 (ああ、最低だ、わたし……)

696: 名無しさん 2020/08/05(水) 00:33:45 ID:XrL0W91.
文乃 「今日の晩ご飯は何にするの?」

成幸 「何が食べたい? ……って聞いても、そんなにレパートリーはないけどな」

文乃 「ふふ。成幸くんが作ってくれるお料理、全部美味しいから悩んじゃうな」

成幸 「全部水希に教わった料理だけどな」

水希 (だめ、これ以上考えちゃ……)

水希 (だめなのに……)

水希 「………………」

水希 (もし、そのとき、お兄ちゃんのそばにいたのが、古橋さんじゃなくてわたしだったら)

水希 (……いま、お兄ちゃんの隣にいたのは、古橋さんじゃなくて、わたしだったのに)

水希 (わたしだったのに……!)

水希 「……る……い」


水希 「……ずるいよ、古橋さん」


水希 「………………」

水希 (……ああ) フルフル (本当に、わたし、最低だ)

697: 名無しさん 2020/08/05(水) 00:34:29 ID:XrL0W91.
水希 (古橋さんはお兄ちゃんを助けてくれたのに)

水希 (そんな古橋さんに、わたし、“ずるい” なんて思ってる……)

水希 (わたし、なんて嫌な子なんだろう……――)


  「――――そうだよ! 水希ちゃん、すっごく良い子なんだから!!」


水希 「へ……?」

成幸 「わ、わかってるよ。水希は俺にはもったいないくらい良い妹だよ」

文乃 「もーっ! だからそれを声に出してちゃんと伝えてるの? って言ってるの」

成幸 「それは……」

成幸 「……あんまり、してないかも」

文乃 「でしょ? だから言ってるの」

成幸 「……すまん」

文乃 「わたしに謝っても仕方ないでしょ。ちゃんと水希ちゃんに……」

文乃 「……って、君にいつもお世話してもらってるわたしが、あんまり偉そうに言えることじゃないね。いつもありがとね、成幸くん」

成幸 「いや、それは全然、そもそも俺のせいだし……」

698: 名無しさん 2020/08/05(水) 00:36:03 ID:XrL0W91.
文乃 「あっ、そうだ!」

文乃 「ねえ、わたしの足が治って、受験も終わったらさ、ふたりでお料理を作らない?」

成幸 「えっ……」 ドキッ 「ふ、ふたりで?」

文乃 「うん! それで、水希ちゃんに食べてもらうの」

文乃 「わたしは、成幸くん経由でいつも美味しいごはんをありがとう、って」

文乃 「成幸くんは、日頃の感謝を全部こめたらいいよ」

成幸 「ああ、それいいな」

成幸 「……夏にカレーを作ったときを思い出すな」

文乃 「そうだね。でも、今度は逆だよ、成幸くん」

文乃 「あのときはなんとかがんばって君にお料理を教えられたけど、」

文乃 「……今度は君が、わたしに教えてね、成幸くん」

成幸 「……ああ、任せとけ」

グッ

成幸 「なんてったって、俺は最高の妹から最高の料理を教えてもらってるからな」

文乃 「うん! ふたりで、水希ちゃんに美味しいお料理作ってあげようね!」

699: 名無しさん 2020/08/05(水) 00:36:39 ID:XrL0W91.
水希 「………………」

水希 「……そっか」

水希 (うん、そうだ。わたし、悔しいんだ)

水希 (古橋さんにお兄ちゃんを取られちゃったみたいで、悔しいんだ。でも、それと同じくらい、思ってる……)



水希 (……今、お兄ちゃんの隣にいるのが、古橋さんでよかった、って)



水希 (……美味しいお料理、か)

クスッ

水希 (上等ですよ、古橋さん。せいぜいがんばって作ってください)

水希 (中途半端なものだったら、お兄ちゃんは絶対に渡しませんからね!)

おわり

700: 名無しさん 2020/08/05(水) 00:37:28 ID:XrL0W91.
………………幕間1 眠り姫編エピローグ後『鏡に向かって』

水希 「………………」

ドキドキドキドキドキ…………

水希 (べ、べつに大した意味があることじゃないけど)

水希 (ただ、ちょっと試してみるってだけのことだけど……)

水希 「………………」

水希 「ふっ……文乃お姉ちゃん……///」

カァァァアアアアア………………

水希 「や、やっぱなし! こんな呼び方……///」 ハッ

文乃 「………………」

水希 「ふ、古橋さん!? いつから!?」

文乃 「……えっと、ごめん。水希ちゃんが鏡に向かって何かブツブツ言ってるから、心配になって……///」

文乃 「あー……」 オホン 「ふ、文乃お姉ちゃんだよー? なんちゃって……///」

水希 「あ゛ーーーーーーーー!!! 忘れて! 忘れてくださいー!!」

701: 名無しさん 2020/08/05(水) 00:38:10 ID:XrL0W91.
………………幕間2 『お姉ちゃん記念日』

文乃 「成幸くん成幸くん!!」

成幸 「な、なんだ、文乃。そんなに息を切らして……」

文乃 「今日をお姉ちゃん記念日にするよ!」

成幸 「……は?」

文乃 「だから、今日をお姉ちゃん記念日にするって言ってるの! お姉ちゃん記念日!」

成幸 「えっと……」

水希 「あ゛ーーーー!!! 何でお兄ちゃんに言うんですかー! もーーーっ!!」

成幸 「水希までどうした!?」

文乃 「えへへ……/// “文乃お姉ちゃん” かぁ……///」

水希 「もーっ!! だから忘れてくださいってば!!!」

成幸 (まぁ、よくわからんが……)

成幸 (こうしてみると、本当に仲良し姉妹みたいだな) クスッ

おわり

702: 名無しさん 2020/08/05(水) 00:38:48 ID:XrL0W91.
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございました。
また投下します。