3: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:24:09.924 ID:2qX97t1L0
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北の大陸の果てに魔王城がありました。


城の周囲は常に薄暗く曇っていて、太陽の代わりに稲光が空を照らしていました。


そんな魔王城の玉座の間では、今日も今日とて勇敢な人間が魔王に挑みます。



━━━━━━━━━━━━━━ ━・  ━━・  ・・


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引用元: ・( ФωФ)魔王は隠居したいようです

5: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:25:36.766 ID:2qX97t1L0
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(#'A`)「魔王覚ご――」

(#ФωФ)「やかましいわ糞が!」

(#゚A゚)「おばべっ!?」



激しい音が一つして、魔王に飛び掛かった男は消し飛びました。

塵となり宙を漂うそれを見つめ、玉座に腰かける大男――魔王は深く溜息を吐きました。

そんな魔王を労うように、傍にいた小さな娘が彼の肩を叩くのです。



o川*゚ー゚)o「お疲れ様ですですぅ、魔王様!今日の勇者は如何でしたですぅ?」

(#ФωФ)「どうもこうもあるか、糞めが……一日と絶えることなく攻め入ってくるくせに、
        どの勇者も弱すぎる!」

o川*゚ー゚)o「えーと、先日は《殲滅の勇者》、その前は《暁の勇者》、
       その前が《黎明の勇者》に《轟雷の勇者》、それからそれからー」

(#ФωФ)「数が多いのが取り柄なのに、何故どいつもこいつも単騎でかかってくるのだ……
        雑魚ならば群れてこい、余計な手間も省けるというのに!」

o川*゚~゚)o「いやしかし勇者のバーゲンセールも酷いもんですぅ……」

8: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:27:07.244 ID:2qX97t1L0
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《魔王》――それは恐怖の象徴、悪の大権現。

世界には人と魔とがあり、魔王は魔族を総べる絶対者でした。


   _,
o川*゚~゚)o「本当、魔王様は憎まれまくってるですぅ」

(#ФωФ)「黙れキュート……側近如きが何を言うか」

o川*゚~゚)o「でも事実ですですぅ!勇者との決闘が日常化してから既に二百年……余程の恨みですぅ?」

(#ФωФ)-3「知るか糞が……」



魔王は背もたれに身を預け、困ったように唸ります。

しかし、少しもせずに彼は目を見開き、やおら立ち上がると側近キュートの肩に手を置きました。



( ФωФ)「よし、こうしよう、キュート」

o川*゚ー゚)o「ですぅ?」

(*ФωФ)「吾輩は本日から……隠居するぞ!」

o川*゚ー゚)o「……はい?」

9: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:28:28.861 ID:2qX97t1L0
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魔王城の空で雷が駆け、眩い閃光が玉座の間を照らしました。

魔王の言葉に首をかしげたキュートですが、魔王の顔に浮かぶ笑みを見ると、冗談ではないのだと分かります。



o川;*゚ー゚)o「いやいや、ちょ、魔王様?ロマネスク魔王陛下?何をおバカなことを仰ってるですぅ?」

( ФωФ)「おバカとはなんだ。お前が敬称で呼ぶ時は完全に呆れている時だぞ」

o川;*゚ー゚)o「いや呆れるですよ!?何を言ってるですぅ!?魔王陛下がこのシタラバ大陸を、
        魔族の住まう地を纏めずしてどうするですぅ!?」

(#ФωФ)「知るかそんなこと、吾輩は疲れたのだ!やれ政務だなんだ、やれ勇者が攻めてきただの!
       人間共からは非難の嵐だの、また魔族が悪さしただのと……何度繰り返せば気が済むのだ!」



魔王、名をロマネスク。

曰くは南の大陸シタラバで猛威を振るい、魔族の統一化を実現した覇者と謳われていました。

実力は正しく天下無敵、人類でも優れた力を持つ《勇者》を相手にしても傷一つ負いません。

ですが、そんな魔王陛下は疲れていたのです。

10: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:29:45.894 ID:2qX97t1L0
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(#ФωФ)「毎日毎日糞にも等しいことの繰り返しだ!もういい、もうたくさんだ!
        吾輩は魔王を辞めて隠居するのだ、キュート!」

o川;*゚ー゚)o「いや許しませんですよ、魔王様!?第一、そうなったら今後のことは誰が取り仕切れと――」

( ФωФ)「お前がやれキュート、一応は吾輩の側近だろうが」

o川;*゚ー゚)oそ「キュートがやるですですぅ!?嫌ですよ、絶対面倒じゃないですかー!!」

(#ФωФ)「お前今自分が言ったセリフをもう一度言ってから吾輩を非難しろよ!」

o川;*゚ー゚)o「キ、キュートは二番手がいいんですぅ!こんな見た目幼女が魔王だなんて威厳も糞もねーですよう!」

( ФωФ)「それで構わんだろうが、人魔間の軋轢が緩和するかもしれんぞ?」

o川;*゚ー゚)o「キュートの渾名を知っておいてそんなこと言うですぅ!?」



がなりたてるキュートですが、それを無視してロマネスクは窓辺に立ちました。

吹き抜ける風は鋭く、外套を翻しながら、ロマネスクは笑みを浮かべてキュートを見やるのです。



( ФωФ)「ふん、分かっているからこそのお前なのだ、キュート。
       兎にも角にも、あとのことは任せたぞ」

o川;*゚ー゚)o「あ、ちょっ、魔王様!マジで行く気ですぅ!?お願いですから面倒なことを押し付けないで――」

11: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:31:39.042 ID:2qX97t1L0
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言いかけたキュートでしたが、ロマネスクは言葉を待ちません。

大柄な身体で窓の外へと踏み出したロマネスク。

そんな彼の足場に長大な剣が飛来しました。

ロマネスクは巨剣に乗るともう一度振り返り、キュートにこう告げます。



( ФωФ)ノシ「それではな、キュート。あとは任せた」

o川;*゚ー゚)o「おっ、ちょっ、ちょぉおおおおおおお!?」



剣に乗って魔王ロマネスクは彼方へと飛び、そんな彼の背中にキュートは手を伸ばしました。

ですが、すぐに影すら見えなくなり、キュートはよどんだ空の割れ目を睨むと、涙目になって叫ぶのです。



o川;*>д<)o「この、馬鹿魔王ぉおおおおおお!」



その叫びはロマネスクの耳には届いていませんでしたが、

雲を割って駆け抜けるロマネスクは愉快そうに笑っていました。

12: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:32:42.541 ID:2qX97t1L0
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(*ФωФ)「ハーッハッハッハァ!いいぞ、これこそが自由というやつだ!
        この長かった二百年間、下らぬ闘争に下らぬ仕事ばかりだったが、それともおさらばよ!」




巨大な雷がロマネスクの傍を駆け抜けます。

 それに照らされるロマネスクの姿と言うのは、やはり恐ろしいものでした。

  暗黒の鎧を纏い、漆黒の外套をなびかせ、背の丈は八尺にも迫り、

   筋骨隆々とした見てくれで、側頭部からは二本の角が生えていました。

    どこからどうみても魔族なロマネスク。

     そんな彼はこれから先、どこを安住の地とするのか。




(*ФωФ)「さて、どうせ隠居するのなら人も魔もこないような辺鄙な場所がいいが……」


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13: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:34:16.633 ID:2qX97t1L0
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これは、強すぎるがあまりに敵をなくし、全てが嫌になったから投げ出したダメダメ魔王の物語。


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(*ФωФ)「そうだ、東の果て……人の領土だが、たしかそこらへんは糞のような
        田舎だと聞いた覚えがあるぞ。そっちに向かってみるか!」





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そんな元魔王が、隠居をするだけの、奇譚なのです。


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14: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:34:45.244 ID:2qX97t1L0
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 ( ФωФ)魔王は隠居したいようです




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15: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:36:28.140 ID:2qX97t1L0
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1:魔王、隠居するってよ




その森では大きな騒ぎとなりました。



イ从゚ ー゚ノi、「ねえねえ聞いた、あの魔王ロマネスクが魔王城から逃げ出したって!」

从´ヮ`从ト「聞いたよ聞いたよ、なんでも責務に飽きたんだって!」

リi、゚ー ゚イ`!「ううん、勇者達がしつこくって嫌になったんだって聞いたよ!」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「違うわ、両方よ!」

爪゚ー゚)「いいや、あの魔王のことだもの、きっと単なる気まぐれだよ!」



騒ぐ空気に森中が唸り、宙を舞う妖精たちはしきりに魔王ロマネスクの名を口にします。



瓜゚∀゚)「噂のその方だわね、恐ろしや魔王ロマネスク!いいや、元魔王が正しいのかな?」

爪゚A゚)「けれども次代の魔王は誰になるの?」

リ´-´ル「なんでも側近のキュートを据えたって!」

<(' _';<人ノ「あの《戦姫》を!?えええ、何を考えているんだい魔王は!」

| l|;゚ー゚ノl「そもそも、均衡を保てるのかなー?あの魔王ロマネスクだったからこそ、
       魔族を統率出来ていたようなものなのにねー」

16: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:38:09.560 ID:2qX97t1L0
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妖精――自然に宿る神秘、あるいは神格をもつ奇跡。

それらは世界と共にありましたが、人や魔に直接関与することはありませんでした。

しかし、彼等を生かすも殺すも人と魔の次第。

自然が絶えた先で彼等は存在できません。

だから魔王ロマネスクの退位には精霊たちも注目を集めるのです。



イ从;゚ ー゚ノi、「ねえねえ、これからは本格的な戦争が始まっちゃうのかな?」

从´ヮ`;从ト「魔王ロマネスクは完璧なシンボルだったからねぇ、
        勇者のみならず、こりゃいよいよって感じかなぁー」

爪;゚ー゚)「大変だよぉ、大変だよぉ、戦争が始まったらボクたちの行く場所がなくなっちゃう!」

リi、゚ー ゚;イ`!「誰も彼も平気で木を燃やして川を汚して大地を砕いていくからね!
       たまったもんじゃないよ!」

瓜゚∀゚)「でも幸いなのは未だ人魔間でこの話が知られてないことさー。そうなる前に……」



妖精たちは森の中心にある大きな湖へと集まると、皆で祈るように手を合わせました。



リ´-´;ル「ねえ、女神様!魔王ロマネスクを説得してよー!」

| l|;゚ー゚ノl「お願いだから魔王のままでいてって、ねえ、女神様!」

18: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:40:13.803 ID:2qX97t1L0
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彼等の祈りが通じたかのように、水面に一つ、雫が落ちました。

それを合図とするように湖の中央が渦を巻き、更には神々しい光が溢れてきます。



ξ;-⊿゚)ξ「うーん、お願いって言われてもね……」



光が次第に弱まると、その中から見目麗しい女性が姿をあらわしました。

金を溶かしたような髪に華奢な身体。

纏うのは純白の羽衣で、頭には茨の冠を頂きます。



リi、゚ー ゚*イ`「女神様ー!」

i!iiリ*゚ ヮ゚ノル「相変わらず綺麗ー!」

ξ;゚⊿゚)ξ「うん、いやありがとうって言いたいんだけど、
       うーん……あのロマネスクがねー……」



その美しい女性こそは女神様。

この世の管理を司り、妖精たちのような神秘や神格といった奇跡を束ねる長でした。

女神様は姿をあらわしたものの、何故か悩むような表情で、しかも歯切れまで悪いのでした。

19: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:41:45.698 ID:2qX97t1L0
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爪゚A゚)「何か悪いことでもあるの?」

ξ;-⊿-)ξ「ううん、そう言うんじゃないんだけどね、
        あのロマネスクが私の話を聞くかってなると……」



どうやら女神様と魔王ロマネスクは面識がある様子でした。

それを知る妖精たちまでもが、次第に顔を難しくしかめ、さらには腕まで組むのです。




| l|;゚ー゚ノl「あー……そうか、確かにねー」

从´ヮ`;从ト「魔王ってば女神様のことめちゃくちゃ嫌ってるもんねぇ」

爪;゚ー゚)「あ、バカ、はっきり言っちゃダメだって!」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「いやいやその通りよ。つーか私だってあんなバカは無理だから」



吐き捨てるような女神様ですが、再度困った表情をつくります。

20: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:42:49.027 ID:2qX97t1L0
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ξ;-⊿-)ξ-3「こうなったら毎度の神託かしらね。あーあー面倒だなあ、
         またあのバカったら怒鳴るにきまって……」

<(' _'<人ノ「あ、その必要はないよ、女神様!」



深い溜息を吐いた女神様でしたが、妖精たちが声を揃えて言います。



ξ゚⊿゚)ξ「え?その必要はないって……」

イ从゚ ー゚ノi、「だってね、だってね!」

リi、゚ー ゚イ`!「あの魔王ロマネスクってば可笑しいの!」

リ´-´ル「わざわざシタラバ大陸から逃げ出して、ここ、ゴチャン大陸の最東端にある森に……
     《ヴィップの森》に向かってるんだから!」

21: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:44:15.761 ID:2qX97t1L0
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━・  ━━・  ・・



世界には三つの大陸がありました。


西にアメゾウ大陸、東にゴチャン大陸、残る南にシタラバ大陸がありました。


うち、シタラバ大陸は魔族が住まう大陸であり、人々はアメゾウ大陸とゴチャン大陸とで暮らし、


人魔は互いの領分を保っていました。


ゴチャン大陸最東端には古来より人も魔も近寄らない不思議な森がありました。


通称は《ヴィップの森》――


広大な森林は豊かな自然や多くの動物たちで溢れ、まるで御伽噺の世界みたいでした。


そんな御伽噺のような森には、本当の本当に、御伽噺のような奇跡たちがたくさん存在したのです。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━・  ━━・  ・・




ξ;゚⊿゚)ξそ「え……えぇー!?この森にあのバカがぁ!?」



女神に管理される《ヴィップの森》に、今、噂の魔王ロマネスクが着々と向かっていました。

22: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:45:25.035 ID:2qX97t1L0
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 * * * * *





( ФωФ)「ふーむ、ここが目的の地か……?」



激しい風と共に空から舞い降りたのは魔王ロマネスク。

漠然とした目標だった、東の果てへと向かっていたロマネスクは、

予想にしていなかった場所に出て少々困った顔をします。



(;ФωФ)「何もない糞田舎、とは聞いていたが、よもや樹海だとは……
       そりゃ村も栄えんわ」



視界に広がるのは青々しい自然の世界。

木々には小鳥がとまり美しい歌声を奏でます。

遠くでは野生の動物の走る音がしたり、至る所に生っている果物が放つ、

甘ったるい匂いで森全体が満たされていました。

24: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:47:06.967 ID:2qX97t1L0
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   _,
( ФωФ)「まるで楽園のようだが、しかしこの空気……妖精が多いな」



感じ取れる神格からロマネスクは忌々しそうに吐き捨てました。

しかし割り切ったように頭を振ると、適当に森の中を歩き始めます。



( ФωФ)「流石は神秘や神格に溢れているだけはあるな。肥沃な大地だ……」



呟きつつ見て回るロマネスク。

彼の中に後悔はありませんでした。

急すぎる退位に未だ王室はてんやわんやとしているでしょうが、ロマネスクにとっては至極どうでもいいのです。

なので、今のロマネスクは新しい生活に期待を膨らませ、第二の生涯を堪能する気まんまんでした。



(*ФωФ)「ふふふ、これだけ木材があるのだ、少しばかり大きな家屋でも建ててみるか?
       畑も必要になるだろう、くくく……」



妄想にふけるロマネスクですが、そんな彼は水の音を聞き取りました。

25: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:49:38.005 ID:2qX97t1L0
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( ФωФ)「ぬ、そうだ、水源だ。これの確保が第一じゃないか」



獣道を掻き分け、ロマネスクは音のした方向へと向かいます。

間も無くすると広大な湖へと辿り着き、湖畔に立ったロマネスク。

彼は澄んだ水面に唇をつけ、喉を鳴らして水を飲むのです。



(*ФωФ)「うむ、十分飲める……どころか、めちゃくちゃ美味いではないか……!
        これは素晴らしい、ふふふ、吾輩の畑に実る野菜たちは健やかに美味に育つぞ!」



神秘や神格といったものは癪ですが、それ以外の全てがロマネスクの好みでした。

広大で誰も寄り付かない樹海。

自然は豊かで動物も多く繁殖し、土地は肥え、空気も安定していました。



(*ФωФ)「ハーッハッハッハァ!なんとよき日だ、最高だ!どれ、然らば鳥獣でも仕留めて晩飯にでもするか。
        大きくて肥えたのがいいな、ああ、探すのも楽しみ――」



ご機嫌に喋るロマネスク。湖に背を向けていた彼ですが、そんな湖の中心が泡立ちます。

段々と閃光が溢れ、やがては水柱となり、それはいよいよ人の形をつくるのです。

26: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:51:03.802 ID:2qX97t1L0
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ξ-⊿-)ξ「相変わらず能天気ね、このバカロマネスク。
       そんなんでよくもまあ恐怖の大魔王とかって名乗れるわね、あーアホらしい」


(*ФωФ)「あぁ……!?」



突然の声にロマネスクは振り返りました。

振り返ると同時に彼は湖の中心に姿を現した美女――女神様を理解すると、

仰天したように声を漏らし、さらには眉間に皺を寄せると人差し指を向けるのです。




(#ФωФ)9m「貴様、女神――ツン=デレ!何故こんな場所に!」

ξ#゚⊿゚)ξ「あんたねぇ、女神様を呼び捨てにすんじゃないわよ!
       まったく、あんただけよ、そんだけ生意気言うのも……」

(#ФωФ)「知るか糞が!何の用だボケ女めが、また毎度のように邪魔立てする気か!あぁん!?」



怒鳴り合うロマネスクと女神ツン=デレ。

二人の衝突を見守るのは付近に隠れている妖精たちで、彼等は怯えたように、

けれども笑いをこらえるように声をおさえ、顛末を見届けようとするのです。

27: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:52:44.087 ID:2qX97t1L0
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ξ#゚⊿゚)ξ「少しは言い方に気を付けなさいよ、マジであんた一度滅ぼしてやろうか!?」

(#ФωФ)「ああ上等だ、やれるもんならやってみるがいい!出来るものならな!」

ξ#゚⊿゚)ξ「ぬぐっ……調子に乗りやがってぇ……!」
   _,
(#ФωФ)「ふふん、どうしたどうしたぁ?何も出来ぬのかぁ?所詮は口だけだな、なっさけのない!」

ξ#゚⊿゚)ξ「なっ、にゃにをぉお!?看過できないわよその台詞!!訂正しなさいよ!!」

(#ФωФ)「いやなこっただ、バカめが!いつも吾輩を小馬鹿にしている貴様には当然の報いだ!」
   _,
ξ#゚皿゚)ξ「む、むっかつくぅー!!」
   _,
(#ФωФ)「それはこちとらの台詞だ!!」



たった少しの会話ですが、ロマネスクとツン=デレの関係性と言うのはある程度察しがつきます。

つまり、この魔王と女神様は、大層に仲が悪く、しかも浅からぬ関係でもあるということでした。

28: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:54:19.324 ID:2qX97t1L0
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ξ#゚⊿゚)ξ「つーかね、あんた何考えてんのよ!」

( ФωФ)「あ?何がだ?」

ξ#゚⊿゚)ξ「何がも糞もないでしょうが!何でいきなり魔王を辞めるとか言い出してんのよ!」
   _,
( ФωФ)ノシ「面倒になったからキュートに全てを任せて吾輩は隠居生活を満喫するのだ。何が悪い」

ξ#゚⊿゚)ξ「悪いに決まってんでしょうが!あんたねぇ、自分の影響力がどんなもんか分かってないの!?」

(ФωФ )「ふん、まるで興味がないな、下らぬ」プイッ

ξ#゚⊿゚)ξノ「その下らないことが世界の均衡を崩すって言ってんのよ、おバカ!」



そう言われたロマネスクは心底馬鹿馬鹿しそうに溜息を吐くのです。



( ФωФ)-3「その程度で崩れる世の安定など無価値に等しいわ。
          勝手に滅ぶといい。吾輩はここで穏やかに過ごす故なぁ」

ξ;゚⊿゚)ξ「このっ……って、え?あんた本気でここに住む気なの?」

( ФωФ)「あ?そりゃそうだろうが、その為にシタラバ大陸から飛び出してきたのだぞ」

ξ;゚⊿゚)ξ「いやいや、あんたね、ここは私の住まう土地なのよ?」
   _,
( ФωФ)「……あぁ?」

ξ;゚⊿゚)ξ「いやマジで」

29: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:57:00.354 ID:2qX97t1L0
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数瞬沈黙がおりますが、一つ唸ったロマネスクは手を打つと朗らかに笑んでこう言います。



( ФωФ)b「そうか。では出ていけ」

ξ#゚⊿゚)ξ「はあー!?何言ってんのこいつ!?」

( ФωФ)「何も可笑しくなかろうがよ。この吾輩が出ていけと言ったんだ、
        素直に従い失せろよボケ神」

ξ#゚⊿゚)ξ「相変わらず傍若無人の腐れ根性しやがってえ……!」

( ФωФ)「だってだぞ、吾輩はこの土地が気に入ったのだ。大地は栄養満点だし飯にも困らん。
        これだけの土台があって見す見す逃すバカがいるものか」

ξ#゚⊿゚)ξ「だっつーのに私に出てけってどういう了見よ!」
   _,
( ФωФ)-3「目障りだからな、仕方あるまいよ」

ξ#゚⊿゚)ξノ「お前が出てけバカ魔王!」



これでは話にならない、とツン=デレは悩む素振りをします。

30: 名無しさん 2020/09/24(木) 21:58:50.921 ID:2qX97t1L0
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ξ;-⊿-)ξ「第一、何で嫌になったのよ……魔王の座なんて願ってもやまないのが魔族でしょ……」

( ФωФ)「そりゃな、我等魔族は闘争こそが第一の目的だ。それなくして生きる意味などない」

ξ;゚⊿゚)ξ「だったらいいじゃないのよ、今の立場。仕事に忙殺されたり勇者と鎬を削ったり……」

( ФωФ)「あのな、ツン=デレ……第一にだぞ、吾輩は仕事など微塵とて興味がないのだ。
        民草がどうなろうがな」

ξ;-⊿゚)ξ「あんたって奴は……」

(#ФωФ)「それにだ、その件の勇者共ときたら、どいつもこいつも骨がなさすぎる。小突いただけで爆発四散するんだぞ?
        そんなのが毎日ひっきりなしにやってくるんだ、飽きるしうんざりもする」

ξ;-⊿-)ξ「いやそれはあんたが強すぎるだけで……」

(#ФωФ)「兎に角だ、吾輩はもう魔王と言う肩書などいらぬし、楽に過ごしたいのだ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「楽にとは言え、あんた、この《ヴィップの森》はこの女神ツン=デレが管理する神秘の大地よ?
       普通だったら魔族が踏み入ったらそれだけで脳味噌が蒸発するんだけど?」

( ФωФ)「ああ、ムズムズはするがそれくらいだな。別に苦ではない」

ξ;-⊿゚)ξ「まあ今更よね、ここに平気で立ってんだもん……
        でもね、そもそもライフラインもないし、他者の存在もないのよ?」

31: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:00:30.111 ID:2qX97t1L0
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(*ФωФ)「尚のこと好都合ではないか。吾輩は世間的には有名だしな、人間なんぞに見られたらたまったもんじゃない。
        生活の基盤だって武者修行時代のサバイバル技術でどうにでもなる」

ξ;-⊿-)ξ「あんたって本当に無駄にハイスペックよね……」

( ФωФ)「そりゃ魔王の座を頂いた覇者だからな」

ξ゚⊿゚)ξ「自分で言わないでくれる?」



心底呆れたように言うツン=デレですが、全てが事実なので否定のしようがありません。



(ФωФ#)「何にせよ、吾輩は絶対に戻らぬからな。何を貢がれても動かぬ」フンッ

ξ;゚⊿゚)ξ「どんだけ嫌気がさしてたのよ……」



最強として君臨してきた魔王ロマネスク。

自身の立場を簡単に捨てる程に辟易する毎日だったのです。

なんとなくのところで察したツン=デレですが、

かと言ってロマネスクの身勝手を黙認する訳にもいかないのです。

32: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:03:12.497 ID:2qX97t1L0
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   _,
ξ;-~-)ξ(妖精達の言う通り、ロマネスクあってこその魔族だしなぁ……
        けど今のロマネスクってば完全にノイローゼっぽいし、
         ここで無理矢理帰しても同じことを繰り返すんじゃ……)



ある意味は静養を目的とした逃避にも思えて、ツン=デレは少々沈黙しました。



( ФωФ)ノシ「まあなんだ、そういう訳だからさっさと出ていけ」シッシッ

ξ;゚⊿゚)ξ「まーだそんなこと言うわけ、この口は……」
   _,
( ФωФ)「当然だろうが。どうせ貴様のことだ、口喧しくどうのこうのと言ってくるに決まっている。
        そんなのと同じ空間に住まうとなると苦痛でしかなかろうがよ」

ξ#゚⊿゚)ξ「いやだから元々ここが私の領土なんだけど?あんた大概にしないと本気で怒るわよ?」



ロマネスクはとても嫌そうな顔をしましたが、これも仕方がないことだと諦めたようです。



( ФωФ)「ふん……ならばできる限り吾輩に関わるなよ、ボケ神。
        吾輩は穏やかに静かに緩やかに暮らしたいのだからな!」

ξ;-⊿-)ξ「あーはいはい、取り敢えずはそうすれば……」

33: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:05:49.282 ID:2qX97t1L0
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( ФωФ)「よし、そうと決まれば……やはり水源の近くに居を構えるのがベストだな。
        まずは周囲の邪魔な木々を全て薙ぎ倒して……」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「は?いやいや何言ってんの?この湖が私の寝床なんですけど?」

(#ФωФ)「はーあぁ?ふざけるなよボケ神、もっと他の場所に移れ!」

ξ#゚⊿゚)ξ「あんたが別のとこに住みなさいよ!おはようからおやすみまであんたの顔とか見たくないわよ!」

(#ФωФ)「こっちの台詞だ糞が!吾輩はこの湖畔が気に入ったのだ!別のとこになんぞ誰がいくか!」

ξ#゚⊿゚)ξ「あ、つーかあんたさっきこの湖に口付けたでしょ!あれやめなさいよ恥ずかしいから!」

(#ФωФ)「あ?何を言って……」

ξ#゚⊿゚)ξ「いやだから、この湖が私の媒体だから。つまりあんた、私に口付けたも同義――」

(iiiФωФ)「先に言わんか糞ボケェ!まさか、そんなバカなっ……おうぇえええええ!」

ξ#゚⊿゚)ξ「んなっ、失礼にも程があるわよこのバカ魔王!つーか普通なら感激に咽び泣くとこでしょうが!」

(iiiФωФ)「誰が貴様のようなボケ神に触れて感激するかよ!おうええぇぇっ……」

ξ#゚皿゚)ξ「マジでこいつムカつくぅー!」

34: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:08:36.096 ID:2qX97t1L0
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暮れなずむ《ヴィップの森》の中心部、そこで言い争うのは魔王と女神様。

様子を見守っていた妖精達は呆れて、これはもう、どうにもならないんじゃないかと口々にしました。



ξ#゚Д゚)ξ「帰れバカ魔王!隠居なんて生意気なのよ!」ムキー!

(#ФωФ)「喧しいわ腐れボケ神!いいから失せろ!」ムキャー!



隠居初日からロマネスクの苦難は始まります。

つまりは、彼の苦手とする女神ツン=デレと、同じ地に住まうということなのです。

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35: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:10:24.701 ID:2qX97t1L0
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 * * * * *



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とある田舎道に簡素な馬車の姿がありました。


暗雲が垂れ込める不穏な空の下、馬車はゆっくりと走り続けています。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━・  ━━・  ・・




(゚、゚トソン「姫様、如何しましたか?」



内部には女性が二人腰かけていました。

うち、侍女と思われる女性が不安そうに声を掛けます。

向かいの席に座るのはゴシック調のドレスを纏う絶世の美女でした。

憂うような瞳は車窓の外へと向けられ、曇る空を見ると溜息を吐きます。

まるで薄幸の人のようだと侍女は思いますが、しかしそれに間違いはなかったりもしました。

36: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:12:09.587 ID:2qX97t1L0
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ζ(゚- ゚*ζ「ううん、何もないよ、トソン……」

(゚、゚トソン「いいえ、姫殿下……デレ姫殿下。
      やはり、今からでもお戻りになられた方が……」

ζ(- -*ζ「無理よ、そんなこと。きっと誰も認めないし、私だってそうするつもりはないの」

(゚、゚;トソン「姫様……」




姫と呼ばれた女性、デレは目の縁に涙を浮かべ、

それを零さないようにとこらえます。

痛ましい姿に侍女トソンは拳を強く握りしめました。



ミセ*゚ー゚)リ「そうは言ってもさー、姫さまー。あたしも無理しなくていいと思うよー?」

(゚、゚#トソン「ちょっと、ミセリ!口に気を付けなさい!」

ミセ*゚ー゚)リ「そんなこと言われてもあたしは前からこうだしさー、
       こっちは手綱を握ってばかりでうんざりだしなー?」

37: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:14:21.615 ID:2qX97t1L0
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馬を操作するのはこれまた女性で、ミセリと呼ばれた運転手はイヤミったらしく言いました。

ですが、そんな彼女の言葉にデレは小さく笑い、トソンとミセリは言葉を止めます。



ζ(゚ー゚*ζ「ごめんね、ミセリ。そうだ、今度は私が馬を……」

(゚、゚;トソン「ダ、ダメですよ姫様!でしたら私がやります!」

ミセ*゚ー゚)リ「いやいや。トソンが出来ないからあたしがずっとやってんでしょ?」

(゚、゚;トソン「そ、そうだけど、だからって姫様にやらせるわけにはいかないじゃない!」

ミセ*゚ 3゚)リ「んじゃあたしはずっと働き通しー?
       もう疲れたよぉ、何せ七日七晩走りっぱなしなんだもん」



デレ姫一行はとある方角へと向かって馬車を走らせていました。

姫と呼ばれる程に高貴な身分の女性が、たった二人の近侍を連れ立って向かう先とはいずこなのか。



(゚、゚;トソン「仕方ないでしょう、あんたしか運転できないんだから……
      それにもう、誰も味方なんて……」

ミセ;*゚ー゚)リ「あ、バカ、姫さまの前でそれを言っちゃダメだって!」

(゚、゚;トソン「え、あっ……」



青褪めるトソンですが、デレは怒りもせず、けれども困ったように笑うのです。

38: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:15:26.860 ID:2qX97t1L0
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ζ(゚ー゚*ζ「ううん、事実だもの。それに、もともと味方なんてトソンとミセリだけだったでしょう。
       それこそ……生まれた時から」

(;、;トソン「姫様ー……」

ミセ*゚ー゚)リ「…暗いよ、姫さま。そうも気にしないの!
      もう誰にも何も言わせないし、傷つけさせないから!」



馬車は駆け抜けるのです。暗く、薄暗い道を縫うように。

ただ一つの方角を目指し、迷いもなく駆け抜けるのです。



ミセ*゚ー゚)リ「行こうよ、姫さま。あたしとトソンに任せて!」

(゚、゚トソン「ええ、そうね……きっとよくなりますよ、姫様!
      東の果てにあると言われる楽園……《ヴィップの森》へと向かえば、きっと……!」




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━・  ━━・  ・・


古来より人々は東の果てに何かを求めました。

それはこの一行も同じく、三人は東の楽園を目指していました。


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39: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:16:20.279 ID:2qX97t1L0
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 * * * * *



(*ФωФ)-3「よし、完成したぞ!」

ξ;-⊿゚)ξ「本当に建てちゃったよ、このバカ魔王……」



とんてんかんてんと連日にわたって賑やかな音が続いた《ヴィップの森》の湖畔。

魔王ロマネスクがやってきてから既に三日が経ちましたが、

そんな短時間のうちに一軒の新築が完成しました。



(*ФωФ)「ふふふ、どうだツン=デレ!
       この吾輩の手にかかれば家の一軒程度は簡単に出来てしまうのだ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「いやマジで凄いとは思うけど、あんた本気で住む気まんまんじゃん……」
   _,
( ФωФ)「だからそのつもりだと何度も言っただろうが、耳まで遠くなったのか」

ξ#゚⊿゚)ξ「一言多いのよ!」



満足気なロマネスクですがツン=デレは呆れるばかりです。

40: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:17:56.181 ID:2qX97t1L0
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i!iiリ;゚ ヮ゚ノル「ほ、本当の本当にここに住む気だよ、魔王のやつ!」

イ从;゚д゚ノi、「計画が台無しだー!女神様は何やってるのさー!」

从´ヮ`;从ト「そもそもなんで神格の影響受けないのー?おかしくない?」

li イ;゚ -゚ノl「あの魔王ロマネスクのことだよ、鈍いから影響されないんじゃないの?」



妖精たちもこの三日間、ロマネスクの様子を観察していましたが、

いよいよ笑えない事態だと焦り始めます。

森を出ていく素振りがまったくないどころか家まで建ててしまうのです。



( ФωФ)「しかし本当にうざったいな、妖精共。数が多すぎる。いっそ燃やすか」

ξ;゚⊿゚)ξ「妖精を羽虫のように扱うんじゃないわよバカ!
       言っとくけどあんたが無理矢理住み着こうとしてんだからね!?」
   _,
( ФωФ)ノシ「あーあー、もうそのやり取りは飽きたから黙れツン=デレ。
         四の五の言わずにまずは新築祝いでもよこさんか、まったく気の利かん奴め……」

ξ#゚⊿゚)ξ「何であんたが呆れてんのよ!!」



家屋のついでにベンチまでつくったロマネスクはそれに腰かけ、手ぬぐいで汗を拭います。

さんさんと降り注ぐ陽の光を受け、なんとも健康的じゃないかと、程よい疲労感と達成感とで頬が緩みました。

41: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:20:17.184 ID:2qX97t1L0
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ξ;-⊿-)ξ「これが元魔王だってんだから笑えないわ……」

( ФωФ)「肩書なんぞ捨ててしまえばそれで終わりだろう。さて、次は畑でもつくるかな」

ξ;゚⊿゚)ξ「マジでご隠居じゃんよー……それでいいの?悪の大権現とも謳われたあんたが……」



そう呼ばれ、ロマネスクは不機嫌そうに舌打ちをしました。


   _,
( ФωФ)「悪党だろうがなんだろうが、吾輩は吾輩のしたいことしかせん。それは昔からだ。
        魔王の座に就いたのだって結果的なものだった。それは貴様も分かっているだろう」

ξ;゚~゚)ξ「そうは言ってもあんた程のカリスマ性を持つ奴なんていないじゃない。
       そりゃキュートちゃんは滅茶苦茶強いけど、それとはまた別に、絶対的な存在感って言うかさぁ?」

( ФωФ)「それこそキュートがこれから築くものだ。それも自力でな。
        なに、吾輩の側近とは、つまりは魔王に次いでの実力者よ。即座に世界を絶望に陥れるだろうて」

ξ;゚⊿゚)ξ「いやだからそれじゃまずいんだってば、あんたくらいのグータラでテキトーで、
       そのくせ最強な感じなのがさぁー」

(ФωФ#)「貴様も貴様で大概失礼だよなぁ……」



穏やかな午後でした。

お互いはこう言った生活にも慣れたようで、三日間のうちに共存の道を選んだのです。

妖精たちもなんだかんだで状況に慣れてきましたが、しかし、傍から見れば実に意味不明な事態でした。

42: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:21:58.345 ID:2qX97t1L0
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( ФωФ)-3「さて、バカの相手をしている暇などない。畑でも耕すとするか」

ξ#゚⊿゚)ξ「誰がバカよ!ていうか、どこにつくる気?」

( ФωФ)「家屋の裏にだ。いつかは水田もつくりたいが、とりあえずは麦で十分だろう」

ξ;゚д゚)ξ「どんだけ自給自足するつもりなのよ……」
   _,
( ФωФ)「だからその為の隠居生活だと何度言わせるつもりだ」



言い合いつつ、ロマネスクは鍬を手に裏庭へと向かいます。

そんな彼を追いかけ、ツン=デレも後をついていくのです。



( ФωФ)「ついてくるのなら貴様も手伝え」

ξ;゚⊿゚)ξ「は?何で私が?」

( ФωФ)「当然だろうが。よもや労働を放棄するつもりか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「いや、だから何で私があんたの畑づくりを手伝わないといけないのよ?」
   _,
( ФωФ)「そんなもの決まっておるだろうが、貴様は小間使いと同義よ。
        故にとっとと手伝え」

ξ#-⊿-)ξ「あんたって本当に糞みたいな性格してるわよね……」

43: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:23:02.506 ID:2qX97t1L0
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しかしツン=デレ一人にやらせようと言うわけではなく、

言葉のままに手伝って欲しいのがロマネスクの本心でした。

少々モヤモヤする女神様ですが、鍬を渡されたツン=デレはロマネスクにならって土を耕すのです。



━━━━━━━━━━━━・  ━━・  ・・


しかし、そんな穏やかな空気の中、唐突に妖精たちが身を震わせました。


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瓜;゚∀゚)「わ、わわっ……なんだこの邪気!?」

爪;゚ー゚)「凄いおぞましい空気が近づいてきてるよ、女神様!」

ξ゚⊿゚)ξ「え?何よ何よ、一体どうしたのよみんな」



騒ぎ始める妖精達ですが、《ヴィップの森》全域にあやしい風が吹きました。

動物達はどこかへと逃げていき、ざわめく木々は泣き声のようにも聞こえます。

44: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:23:57.116 ID:2qX97t1L0
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ξ;゚⊿゚)ξそ「ヴィ、《ヴィップの森》がとんでもない拒絶反応を示してる!?
         ロマネスクがきた時ですら落ち着いていたのに!」

(#ФωФ)「おい、何をしているツン=デレ!サボるんじゃない!」

ξ;゚⊿゚)ξ「いやいやサボるとかそう言うんじゃなくてね!?
       このただならぬ様子を見てくれる!?
   _,
(#ФωФ)「あぁ?何を言っておるのだ貴様は……」



言いかけたロマネスクですが、彼は急に顔を跳ね上げ、

更には凄まじい形相で空の彼方を睨みつけます。



( ФωФ)「なんだ……?この感じは」

ξ;゚⊿゚)ξ「え、え、え?なに?どうしたってのよ!?」



理解が追い付かないツン=デレは混乱しますが、

彼女の反応もよそに、突然、西の方角から鳥たちが飛び立ちました。

そんな鳥の群れの中、飛行する物体があります。

それは超高速で空を飛び、弧を描いて森の上空を渡るのです。

45: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:24:38.830 ID:2qX97t1L0
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━━━━━━━━━━━━━━━━━・  ━━・  ・・

  ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

         ζ(:::Д:::*ζ 三三二=――

               ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

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ξ゚⊿゚)ξ「……え、と、ロマネスク?あれはなに?」

( ФωФ)「分からぬが……ここに落ちてくるぞ、あれ」

ξ゚⊿゚)ξ「えっ」



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46: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:27:20.140 ID:2qX97t1L0
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吹き飛んできた物体は速度を維持したままに、ロマネスクを目掛けて高度を落としはじめました。



ξ;゚Д゚)ξ「ななな、なによいきなり!?ロマネスク、あんたどうにかしなさいよ!!」
   _,
( ФωФ)-3「喧しい奴だなぁ、貴様は。元よりここは吾輩の土地だぞ。
         吾輩の領土を穿とうなど万死に値するわ」



ロマネスクは担いでいた鍬を地に突きさすと、ロマネスクに目がけて落下してくる物体を引っ掴みました。

流石は元魔王なだけはあって反射神経はずば抜けています。

しかし、彼が掴んだ物体は、殊更に混乱を招きました。



リ´-´;ル「え、えぇ……?あれ、人間じゃない……?」

从リ;゚д゚ノリ「本当だ、しかも女の子だよ……」

<(' _';<人ノ「そ、空を飛んできたの?人間が?」

マト;>Д<)メ「魔法を使ったわけでもないのに、一体どうやって?」

47: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:28:31.078 ID:2qX97t1L0
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ロマネスクが引っ掴んだ物体、それは人間の女の子でした。


長く緩やかな桃色の髮。閉じた瞼は長い睫毛が縁取り、その美貌は類を見ぬほどでした。




   +*。゚*+ ζ(- -*ζ +*。゚*+




ゴシック調のドレスを身に纏い、さながらに眠れる美女で、しかもここは森でしたから、


まるで《眠れる森の美女》のようでした。



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48: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:30:10.586 ID:2qX97t1L0
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が、しかし。



リハ;´∀`ノゝ「ううぅ、なんだろう、あの子を見ていると、すっごく気持ちが悪くなるぅ……!」

ノリ,#^ー^)li「ぼ、ぼくもだよぉ……気持ちが悪いっていうか、これはなんだろう?」

ヽiリ#゚д゚ノi「わ、わたし知ってる!この気持ち、確か殺意って言うんだよ!」



美貌に酔いしれるのも束の間、妖精達はそろいもそろって不快感を訴え、

誰もが女の子から距離を取ります。



( ФωФ)「……何をしているのだ、妖精共は。おいツン=デレ、
        貴様までも妙な反応を取ってくれるなよ。面倒だからな」



首をかしげるのはロマネスクで、彼にはさっぱり理解出来ないことでした。

彼は困ったように頭を掻き、振り向きつつツン=デレを窺います。



ξ;゚⊿゚)ξ「あー……いや大丈夫だけど、確かになんか変ね、その女の子……」

( ФωФ)「貴様も何かを感じ取ってるのか……頼むから気を違えるなよ?
        別に貴様程度、いつ殺したって構わぬが……まだ畑が出来上がっておらぬからな。
         人手が欲しい故、まだ死ぬな」

ξ#゚⊿゚)ξ「なんで死ぬ前提なのよバカ魔王!
        つーか神に労働を強いるとか本当に頭おかしいんじゃないの!?」

49: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:31:59.676 ID:2qX97t1L0
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妖精たちとまではいかずとも、少なからずツン=デレも違和感を覚えたようです。



ξ゚⊿゚)ξ「あんたは平気なの?」

( ФωФ)「ああ、なんともないぞ」
  _,
ξ゚~゚)ξ「えー、マジかぁ。となると何だろう……魔族じゃないのは確かなんだけど、
      なんだろう、この超濃度の魔性は……」



魔性とは聖の対となる概念を言いますが、通常、これを宿すのは魔族のみでした。

聖と対極である為、神格の体現である妖精達は魔性が苦手でした。

そんな魔性を、なんと人の女の子が放っているのです。



ξ゚~゚)ξ「ていうか……なんかこの子の顔、見覚えがあるような……この魔性も……」

( ФωФ)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「ん?急になんで黙ってんのよ?」

( ФωФ)「いや……それよりも起きそうだぞ、この小娘」



ツン=デレは何故か唸り、ロマネスクも何故か目を細めます。

そんなやり取りをしていると、女の子に変化が起きました。

50: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:33:49.165 ID:2qX97t1L0
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ζ(- -*ζ「ん、うーん……」



未だにロマネスクに引っ掴まれている女の子は、宙にぶらさがったまま唸り声を漏らしました。




ξ゚⊿゚)ξ「あ、本当に目覚めそうよ、この子」

( ФωФ)「……そうだな。ならばとっとと目を覚ましてもらおうか」

ξ゚⊿゚)ξ「え? あんた何をする気――」



言葉を遮り、ロマネスクは女の子を地面に落とします。



ζ(>Д<*ζ「あいたぁ!?」



尻から落ちた女の子は衝撃と激痛に声を上げ、とびはねる勢いで立ち上がりました。



ζ(゚ー゚*;ζ「な、なに、いきなり何が……!?」

51: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:34:52.381 ID:2qX97t1L0
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混乱しつつ、彼女は周囲を見渡します。

付近に広がるのは大自然で、甘ったるい香りこそは《ヴィップの森》特有のもの。

妖精達は陽気に歌ったり踊ったり、野生の動物達が自由気ままに生を謳歌する――

それが通常の《ヴィップの森》でした。

ですが、彼女の目に映る景色に、そんな美しい景色はありませんでした。



イ从;゚ ー゚ノi、「うわあ、こっち見た!」

从´ヮ`;从ト「あ、花が蕾に戻ったよ!」

li イ;゚ -゚ノl|「動物達が逃げてく!大型の獣ですら怯えたように唸ってるよ!」

リi、゚ー ゚;イ`!「ねえねえ、多くの妖精達が気持ち悪くなって寝込んだよー!」



華々しい大自然は凍てついたようで、甘い香りも鳴りを潜めます。

妖精達は怯え、動物達は逃げ出すように走り去るのです。

そんな光景を目の当たりにした女の子は、少々暗い顔になりました。



( ФωФ)「おい貴様、急に落ちてくるんじゃない」

ζ(゚ー゚*;ζ「ひゃぁっ!?」

52: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:35:57.197 ID:2qX97t1L0
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━・  ━━・  ・・


そんな彼女の肩を叩く大男がいました。身の丈は八尺に迫る程の巨体です。




               ( ФωФ)       ζ(゚ー゚*;ζ




彼女は迫った質量と、覆い被さる程の巨大な影に驚き、大男の手を払いのけました。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━・  ━━・  ・・



ζ(゚ー゚*;ζ(う、うわぁ、凄くデカイ人……ヒト……?よく見たら大きな角が……)



筋骨隆々としていて、側頭部から湾曲して伸びる角が特徴的でした。

御自慢の黒い鎧と外套は脱ぎ、纏うのは簡素な衣服です。

しかし、それ故に巨木のような腕が露出し、見る者を圧倒させます。



ζ(゚ー゚*;ζ「もしかして魔族……?でも、なんでゴチャン大陸の、しかも《ヴィップの森》に魔族が……!」



慌てふためく女の子。そんな彼女をロマネスクとツン=デレは真正面から見つめました。

53: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:37:09.443 ID:2qX97t1L0
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━・  ━━・  ・・



ξ*゚⊿゚)ξ「……驚いた。そうかぁ、だからかぁ……」

( ФωФ)「勝手に懐かしむなボケ神……うざったいぞ」

ξ*゚ー゚)ξ「いやそうは言っても……ふーん、そうなのねぇ」




何故か二人は女の子を優しい目で見つめるのです。


理由が分からない女の子は尚のこと混乱しましたが、


ロマネスクは気にもせず女の子へと迫りました。



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54: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:38:53.876 ID:2qX97t1L0
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( ФωФ)「おい、小娘」

ζ(゚ー゚*;ζ「ひゃいっ」

( ФωФ)「貴様は何者だ。何故にこの森へと踏み入った」

ζ(゚ー゚*;ζ「え、えと、その」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょちょちょ、ロマネスク?
       なんであんたがこの森の番人みたいに問いただしてるわけ?」
   _,
( ФωФ)「あん?そりゃこの森は吾輩の所有地だからだろうが」

ξ#゚⊿゚)ξ「いつからそんなことになったのよバカ魔王!
       第一ね、見なさいよ、完全に怯えてるじゃないのよ!」



言い合う二人ですが、女の子と言えば、今し方紡がれた単語――

《魔王》という言葉を聞いて顔を青ざめます。



ζ(゚ー゚*iiζ「ま、魔王って……まさか……」

(;ФωФ)「ぬ?いや違うぞ、吾輩は断じて魔王などではない。単なるしがないご隠居だ」

ξ#゚⊿゚)ξ「何がご隠居よ、第一誰もそんな身勝手を認めてないでしょうが!
        魔王なら魔王らしくしなさいよ!そもそも隠居って歳でもないでしょうに!」

ζ(゚ー゚*iiζ「そんな、本当に、あの恐怖の大権現……魔王、なのですか……?」

(;ФωФ)、「いやだから……」

55: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:41:11.360 ID:2qX97t1L0
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面倒なことになったぞ、と唸るロマネスク。

本人としては引退した身ですが、しかしそうは問屋が卸さないのが世界の判断でした。

否定らしき言葉も出ないとなると、いよいよ女の子は怯えきり、膝から崩れると大粒の涙を零すのです。



ζ(;- ;*iiζ「うう、そんな、まさか魔王までをも引き寄せるだなんて……
        なんで私はこんなにも呪われてるの……!」

(;ФωФ)「お、おい、泣くんじゃないぞ小娘。
        別に吾輩は貴様を襲うつもりもなければ食らうつもりもだな……」

ζ(;- ;*iiζ「折角ここまできたのに、ようやっと森の精霊たちや女神様に身を清めてもらえると思っていたのに……!」

ξ;゚⊿゚)ξ「身を清めるですってぇ……?」



泣き喚く彼女を前にロマネスクは慌てふためきますが、

言葉を聞いているツン=デレは腕を組み、不思議そうに首をかしげました。



ζ(;д;*iiζ「この身に宿る悪しき呪縛を解いてもらおうと思っていたのに、こんなことになるだなんてぇっ……うわーん! うえーん!」

( ФωФ)「呪縛、だと……?」
                   ・ ・ ・ ・
ξ;゚⊿゚)ξ「え…?なんであなたに呪縛が……?

56: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:41:51.758 ID:2qX97t1L0
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何のことだとロマネスクとツン=デレは首をかしげますが、

次に女の子が紡いだ台詞を聞くと―― 





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━・  ━━・  ・・



ζ(;д;*iiζ「《神殺しの呪い》から、ついに解放されると思ったのに……!」




(;ФωФ)そ「……あぁ!?」


ξ;゚Д゚)ξそ「なっ……えぇ!?」



――――――――――――――――――――

二人して顔を見合わせ、驚愕を露わにしました。

――――――――――――――――――――


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━・  ━━・  ・・

57: 名無しさん 2020/09/24(木) 22:42:23.599 ID:2qX97t1L0
続きはまた今度、おやすみなさい