1: 名無しさん 2012/06/21(木) 19:20:44.44 ID:onPxiyLK0
<格闘道場>

「先生さようなら~!」 「さよなら~!」 「じゃあね~!」

格闘家「気をつけてな!」

友人「……しっかし、未来ある若き格闘家が日々子守とは哀しいねぇ」

格闘家「アイツらも俺の立派な弟子だ。バカにすると怒るぞ」

友人「おっと、悪かったよ」

友人「でもさ、本当はお前だって刺激を求めてるんだろ?
   例えば……道場破りとかさ」

格闘家「バカいえ、平和が一番だ」

格闘家「かつて偉大な武道家はいっていた。
    敵を倒すのではなく、敵と仲良くなる技こそが最強だと──」

友人「あ~分かった分かった、悪かったよ!
   まあ今時道場破りをやってるヤツなんていやしないしな」

引用元: ・女武術家「たのもうっ!」格闘家「道場破りか!?」

2: 名無しさん 2012/06/21(木) 19:24:35.62 ID:onPxiyLK0
女武術家「たのもうっ!」

格闘家「道場破りか!?」ガバッ

友人(──っていたよオイ)

友人(しかもあの反応の速さ……やっぱり刺激を求めてるんじゃないか)

格闘家「────!」ギクッ

女武術家「ああ、道場破りさ。アンタと試合させてもらえる?」

格闘家「お、女……!?」

女武術家「ん、女だと問題あるの?」

友人(これは……マズイかもしれない……!)

4: 名無しさん 2012/06/21(木) 19:29:33.99 ID:onPxiyLK0
女武術家「じゃあアナタはいつものようにあっちで見てて」

女友人「はい」

女武術家「さ、始めよっか!」ザッ

格闘家「ちょ、ちょっと待ってくれ……。
    君のような女性がなんで道場破りなんてマネをするんだ?」

女武術家「ハァ? そんなの自分の腕試しのために決まってんじゃん」

女武術家「アタシはこれまで九つの道場で道場破りを成功させてきたよ。
     つまり、ここで十回目ってワケ」

女武術家「ま、安心しなよ。仮にアタシが勝っても、
     看板なんていらないし、勝利を吹聴する趣味もないからさ」

女武術家「アタシがやりたいのは……純粋なアンタとの強さ比べってワケ」ザッ

7: 名無しさん 2012/06/21(木) 19:34:25.60 ID:onPxiyLK0
格闘家「こ、この道場では他流試合は受けつけては──」

女武術家「へぇ?」

女武術家「さっきこの道場から出てきた子供たちに聞いたら、
     お姉ちゃんなんか先生にやっつけられちゃえ~っていわれたけど」

女武術家「てゆうか、来てるし。ホラ」

道場の外には、先ほどの子供たちが応援に来ていた。

「先生がんばって!」 「お姉ちゃんをやっつけろ!」 「ファイトー!」

格闘家(ア、アイツら……!)

女武術家「さすがにこの状況で、戦わないって選択はナシだろ?」

格闘家「いや、でも──!」

女武術家「問答無用!」ダッ

10: 名無しさん 2012/06/21(木) 19:40:36.70 ID:onPxiyLK0
ガッ! バシィッ! ドゴッ! ベチッ! ドッ!

女友人「ここ、よろしいですか?」

友人「あ、どうぞどうぞ」

女友人「失礼します」スッ

友人「君の友人、すごい苛烈な攻撃だねぇ。ところで君も武術をやってるの?」

女友人「……私はただの付き添いです。
    あの方の戦績の証人となるべく、ついてきているだけです」

ドゴッ! パシッ! シュッ! ドガッ! ガッ!

友人「ふうん。ずいぶん付き合いがいいんだなあ」

女友人「あなたはどうなのですか?」

友人「俺はケンカはからっきしさ。痛いのはゴメンなんでね。
   この道場を貸している縁で、ちょくちょくアイツを冷やかしてるだけさ」

女友人「お暇なのですね」

友人(大人しそうな顔で、けっこう毒吐くな。この人……)

ビシッ! ガッ! ベシィッ! ドゴッ! ゴッ!

11: 名無しさん 2012/06/21(木) 19:43:20.84 ID:onPxiyLK0
女武術家(コイツ……さっきから全然反撃してこないな。
     かといってアタシが有利ってワケでもない)

女武術家(これだけ攻めてるのに、有効打はほとんどない)

女武術家(いったいなにを考えてんだ? なにか企んでるのか?)

女武術家(なにか企みがあるんだったら──)

女武術家(それをさせる前にツブすっ!)

女武術家が凄まじいハイキックを繰り出す。

ブオンッ!

女武術家(……かわされた!)

女武術家(ヤバイ!)

女武術家(そうか……コイツ防御に徹して、アタシが勝負に出るよう誘ったんだ!
     ──やられるっ!)

女武術家の脇腹に、拳がヒットした。

13: 名無しさん 2012/06/21(木) 19:47:09.27 ID:onPxiyLK0
──ポスッ

女武術家「え?」
格闘家「…………」

女友人「あら?」
友人(やっぱりな……)

女武術家「…………!」ギリッ

女武術家「オイ」

格闘家「…………」

女武術家「どうして、打ち抜かなかった?」

女武術家「絶好のチャンスだった……。
     本気で突いてたら、アタシのアバラを何本かへし折れたハズだ」

女武術家「まさか、このアタシに情をかけたってのか?」

14: 名無しさん 2012/06/21(木) 19:49:33.81 ID:onPxiyLK0
女武術家「──ナメるなっ!」

女武術家「アタシだって道場破りなんて無礼なマネしてる以上、
     半殺し、いや殺される覚悟だってして来てるんだっ!」

格闘家「い、いや……情っていうか……」

女武術家「情じゃなかったら、なんなんだよ!」

友人「……許してやってくれ」

女武術家「え?」

友人「そいつ、ガキの頃からずっと格闘技ばっかやってたから、
   女ってのをほとんど知らないんだよ」

友人「ようするに──ウブなんだ」

女友人「どことなく童貞っぽいですものね」

15: 名無しさん 2012/06/21(木) 19:54:40.80 ID:onPxiyLK0
格闘家「いや女性くらい知ってるぞ、俺だって!
    ただちょっと普通の男より慣れてないだけであって……」アセアセ

友人(取り繕うなよ……余計ミジメになる)

女武術家「…………」

女武術家「……っはぁ~……しょうがないな」

女武術家「女殴れないヤツと戦っても、弱い者イジメになっちゃうね」

女武術家「──よし決めた!」

格闘家「な、なにをだ?」

女武術家「アタシ、この道場に入門してやるよ。
     アンタがアタシを殴れるようになったら、再戦しよう!」

格闘家「えぇっ!?」

女武術家「ワケあって週に一、二回くらいしか来れないだろうけどさ。
     ま、よろしく頼むよ!」

友人「なんだか面白いことになってきたな」
女友人「面白くありません」

18: 名無しさん 2012/06/21(木) 19:57:10.78 ID:onPxiyLK0
突然試合が終わったので、子供たちは事情をよく分かっていなかった。

少年「あ、あの……」

女武術家「ん?」

少年「先生……お姉ちゃんに負けちゃったの?」

女武術家「…………」

女武術家「ううん、今日のところはアタシの負けってとこかな。
     安心しな、アンタらの先生はものすごく強いから」

女武術家「アタシが保証するよ」ナデナデ

少年「うんっ!」

「そうだったんだ……」 「よかった……」 「先生が勝ったんだ!」

女武術家「これからはたまにアタシも稽古に参加させてもらうから、よろしく頼むね」

少年「よろしくね、お姉ちゃん!」

友人「へぇ……ガラは悪いけど、けっこう優しいところもあるんだな」

女友人「ガラが悪いとは失敬な!」

友人「えっ!? ──ご、ごめんなさい!」

20: 名無しさん 2012/06/21(木) 19:59:22.42 ID:onPxiyLK0
女武術家と女友人のコンビは帰っていった。

友人「変なヤツらだったな」

格闘家「ああ、だが実力はホンモノだった……」

格闘家「攻撃できなかったとはいえ、俺は本気でやってた」

友人「マジか」

格闘家「彼女の打撃を全て完璧にサバいて戦意喪失させようとしたが──
    できなかった」

格闘家「女性の身であれほどの体術……よほどの鍛錬をこなしてきたのだろう」

友人「ふうん……でもよかったじゃんか。
   ああいう子が入ってくれれば、けっこう張り合いが出るんじゃないか?」

格闘家「そうだな……」

21: 名無しさん 2012/06/21(木) 20:07:24.26 ID:onPxiyLK0
一週間後──
<格闘道場>

「えいっ!」 「やぁっ!」 「せやあっ!」

格闘家「よぉーし、休憩に入ろう!」

友人「おうおうやってるねえ」ザッ

少年「あ、また冷やかしに来たな! 町長さんにいいつけてやる!」

友人「オイオイこれでも町長の息子ってのは忙しいんだぜ?
   忙しい合間をぬって、冷やかしに来てやってんだよ」

友人「ところで、あれからあの女は来たか?」

格闘家「いや、一度も──」

ザンッ!

女武術家「たのもうっ!」
女友人「こんにちは」

友人「……来やがった」

23: 名無しさん 2012/06/21(木) 20:11:33.95 ID:onPxiyLK0
女武術家「さてと……さっそく組み手でもやらせてもらおうかな」

「あっ、こないだのお姉ちゃん!」 「ホントだ」 「また来てくれたんだ!」

女武術家「うわっと」

子供たちに囲まれる女武術家。

ワイワイ…… ガヤガヤ……

格闘家「オイ、この人は──」

女武術家「いいっていいって」

女武術家「よぉし、アンタらみんなまとめてかかってきな!」

ワーワー…… キャーキャー……

次々と飛びかかってくる子供たちを、女武術家が上手にいなす。

格闘家(こんなに楽しそうな子供たちを見るのは、初めてかもしれない……)

格闘家(俺は格闘技の楽しさを、これまで教えることができていただろうか……?)

24: 名無しさん 2012/06/21(木) 20:15:21.74 ID:onPxiyLK0
やがて稽古が終わり、子供たちは帰っていった。

格闘家「──今日は悪かった」

女武術家「え?」

格闘家「君と稽古をする約束をしていたのに、
    結局子供たちの相手ばかりさせてしまって……」

女武術家「なんだそんなことか。気にしなくていいって、
     アタシもけっこう楽しんでやってたしさ」

格闘家「それに──」

格闘家「今までは俺が指導して、
    みんなは黙々とそれに従うっていう稽古しかできてなかった」

格闘家「俺のやってることは、いわば俺のコピー作りにすぎなかった。
    もっと子供たちの独創性を生かす稽古も取り入れるべきだった」

26: 名無しさん 2012/06/21(木) 20:22:25.33 ID:onPxiyLK0
女武術家「ハハッ……マジメだね、アンタは」

女武術家「独創性とやらを重視して、事故が起こったってマズイしさ。
     こっちこそ、余計なマネしちゃったね。軽率だった」

格闘家「今度は……ちゃんと二人で稽古しよう」

女武術家「オッケー。じゃあアタシはそろそろ帰るよ」

格闘家「……ところで、君はどこに住んでるんだ?」

女武術家「う~ん、ナイショ。ま、そんな遠くじゃないよ」

一方、友人も女友人を口説いていた。

友人「ちなみに君はどこに住んでるワケ?」

女友人「お暇な方に教えるとろくなことになりそうもないので、黙秘します」

友人「つれないなぁ……」

29: 名無しさん 2012/06/21(木) 20:28:17.75 ID:onPxiyLK0
二人が帰った後──

友人「まったくワケが分からない二人組だったな。
   おまえと戦いに来たのに、結局戦わずに帰りやがった」

格闘家「……おまえもありがとうな」

友人「え?」

格闘家「おまえが町長さんに口添えしてくれなかったら
    この道場のスペースは借りられなかったし」

格闘家「俺と子供たちだけじゃ堅苦しい雰囲気になるってのが分かってるから、
    忙しい中、いつもああやって茶化しに来てくれてるんだろう?」

友人「よせやい、俺はただの暇人だっての」

友人「オヤジは町の活性化のためだとかいって、
   隣のでかい都市に色々働きかけてるが、どうもああいうのは性にあわねえ」

友人「この町にはこの町の良さってもんがあるんだからな」

格闘家「頑張れよ、未来の町長」

友人「おまえもな」

31: 名無しさん 2012/06/21(木) 20:35:26.99 ID:onPxiyLK0
女武術家たちは、五日後にやってきた。

女武術家「さてと、今日はアンタがアタシを殴れるように特訓だね」

格闘家「よ、よろしく頼む」

女武術家「っつっても、どうすりゃいいかはよく分からないから──」

女武術家「とりあえず、拳でアタシに触れる練習でもしてみるか」

格闘家「分かった……」

女友人「あら? あなた、稽古に参加しないくせに、また道場にいるのですか。
    本当にお暇なんですね」

友人「君こそ暇なんじゃないのか?(よしっ、うまく反撃できた)」

女友人「私はこれが仕事でもありますので暇ではありません。残念でしたね」

友人「くっ……(仕事……?)」

33: 名無しさん 2012/06/21(木) 20:39:33.29 ID:onPxiyLK0
女武術家「じゃあ、まずアタシの顔」

格闘家「こうか」ポスッ

女武術家「肩」

格闘家「こうだな」ポスッ

女武術家「胸」

格闘家「分かった……ってちょっと待ってくれ。胸はちょっと──」

女武術家「ん?」

女武術家「なに恥ずかしがってんだよ。
     本気の戦いになったら、打つ場所を選んでられないだろ」

格闘家「いや……そうかもしれないけど……」

女武術家「アンタの中に妙なスケベ心があるから、照れ臭いんだよ。
     これも修業のうちだと思ってやれば大丈夫だって」

女武術家「命がかかってたら、さすがに恥ずかしいとかいってらんないだろ?」

格闘家「た、たしかに……」

34: 名無しさん 2012/06/21(木) 20:44:53.04 ID:onPxiyLK0
女武術家「じゃあ早く」

格闘家「よ、よし……」ゴクッ

ソロ~……

格闘家の拳が、ゆっくりと女武術家の胸に近づく。

ポニュッ

女武術家「ふふん、できたじゃん」

格闘家「これで俺も、格闘家として一歩前進できたのかな……」

女武術家「多分ね」

友人「…………」

友人「ハタから見てるとイチャついてるようにしか見えねーな」
女友人「ですね」

友人(珍しく意見が合ったな……)

37: 名無しさん 2012/06/21(木) 20:49:27.96 ID:onPxiyLK0
そして──

友人「今日は大変だったな。うらやましくもあったけどさ」

格闘家「彼女の胸……とても柔らかかった」

友人「え?」

格闘家「あの弾力性と柔軟性、十分クッションにもなりえる。
    生半可な突きでは、衝撃を殺されてしまうかもしれない……」

格闘家「脅威だ……胸囲だけに」

友人(ここは笑うところなのか……?
   コイツ……ギャグでいってるのかマジなのか、分からないんだよな……)

格闘家「俺ももっと胸筋を鍛え上げないと……!」

友人(ただひとつ分かることは……コイツが根っからの格闘バカってことだけだ)

39: 名無しさん 2012/06/21(木) 20:53:21.50 ID:onPxiyLK0
それから女武術家と女友人は、週に一度か二度のペースで道場にやってきた。

格闘家の基本からみっちり叩き込む教え方と──

格闘家「みんな、今日は回し蹴りを教える。
    フォームが悪いと威力が落ちる上に、スキだらけになるからな!」

「はいっ!」 「はいっ!」 「はいっ!」

女武術家の子供にある程度自由にさせる教え方がうまく融合し──

女武術家「さっき格闘家に教わった技でアタシに向かってきてごらん。
     どういう場面で使うといいか、よく考えるんだよ」

「よぉーし!」 「考えてみよう……」 「う~ん……」

道場の評判は徐々にではあるが高まっていった。

40: 名無しさん 2012/06/21(木) 20:56:40.52 ID:onPxiyLK0
女武術家に触れるのがやっとだった格闘家も、ようやく組み手ができるまでになった。

バシィッ! ベシッ! ガガッ!

友人「5分経った、そこまで!」

格闘家「ありがとうございました」
女武術家「ありがとうございました」

女武術家「ふぅ~……タオルと水ちょうだい」

女友人「どうぞ」サッ

格闘家「あ、俺にもタオルくれ」

友人「ほらよっ」ヒュッ

42: 名無しさん 2012/06/21(木) 20:59:21.43 ID:onPxiyLK0
友人「いやぁ~二人ともすげぇな。やたら動きが速いし、
   あれだけ動いても息切れ一つしてないし」

女武術家「いっとくけど、お互い全然本気じゃないよ」

友人(マジかよ……)

格闘家「本気じゃないとはいえ、真剣ではあるんだけどな」

女武術家「ふふん、そろそろ本気でやってみる?」

格闘家「いや……もうちょっと先にしておこう」



──こんな日々が、およそ二ヶ月ほど続いた。

44: 名無しさん 2012/06/21(木) 21:07:11.29 ID:onPxiyLK0
<格闘道場>

「さようなら~!」 「先生、さようなら!」 「お姉ちゃんもさよなら~!」

格闘家「気をつけて帰るんだぞ」

女武術家「んじゃ、アタシらも帰るよ」
女友人「さようなら」

格闘家「ああ、今日も来てくれてありがとう。助かったよ」

格闘家「……あの」

女武術家「ん?」

格闘家「いや……なんでもない」

女武術家「?」
女友人「きっとなんでもあるにちがいありませんが、
    あえて聞かないでおきましょう」

45: 名無しさん 2012/06/21(木) 21:10:52.43 ID:onPxiyLK0
二人と入れ違いに、友人がやってきた。

友人「お、今日の稽古はもう終わったのか。
   例の二人組も来てたみたいだし、お疲れだったな」

格闘家「…………」

友人「どうした?」

格闘家「……俺はおかしいのかな」

友人「なにが?」

格闘家「女武術家はついさっき帰ったばかりなのに、
    もう来て欲しいと思ってしまっている」

友人「別に……おかしくはないんじゃないか?
   あの女武術家のおかげで、道場が賑わいだってのは事実だし、
   実力もあるからおまえにとってもいい練習相手だろ」

46: 名無しさん 2012/06/21(木) 21:18:21.36 ID:onPxiyLK0
格闘家「いや、そういうのとはちょっとちがうんだ」

友人「え?」

格闘家「なんていうのかな……道場とか稽古とかそういうのを抜きにして
    純粋に彼女に会いたいと感じてしまっている」

格闘家「邪念……だよな、どう考えても。
    こうやって道場を手伝ってもらってるだけでも感謝すべきなのに、
    さらに会いたいだなんてワガママすぎる……」

友人「……たしかにおまえはおかしいな」

格闘家「や、やっぱり!」

友人「いや、おかしいってのはな、そんなことでいちいち自分がワガママとか
   悩むことがおかしいって意味だよ」

格闘家「へ?」

友人「自分を手伝ってくれる女を好きになる、いいことじゃんか!
   おまえはどこもおかしくなんかないんだよ!」

格闘家「で、結局俺はおかしいのか? おかしくないのか?」

友人「え? え、えぇっと──」

48: 名無しさん 2012/06/21(木) 21:23:22.77 ID:onPxiyLK0
格闘家「俺はどうすればいいのかな……」

友人「やっぱり、さっさと気持ちを伝えるのがベストなんじゃないか?」

格闘家「でも……この邪念ヤロウ! とか思われたら……」

友人(なんだよ邪念ヤロウって……)
  「そりゃあ、向こうもおまえを好きとは限らんけど、
   あの子は下手な小細工より、ストレートなのを好むだろうしな」

格闘家「そうだな……」

格闘家「俺、今度女武術家が来たらやってみる! ストレートに!」

友人(おおっ……コイツ、もしかしてこれが初恋なんじゃないか?)

49: 名無しさん 2012/06/21(木) 21:28:19.24 ID:onPxiyLK0
次に二人が道場を訪れたのは、三日後だった。

「あ、お姉ちゃんたちだ!」 「こんにちは~!」 「いらっしゃい!」

女武術家「よ」
女友人「こんにちは」

格闘家「あ、ああ……よく来てくれたな」

女武術家「ん、どうした? 体調でも悪いの?」

格闘家「いや……緊張してるだけだ」

女武術家「緊張? 変なの」

友人(今から緊張してどうする……)

50: 名無しさん 2012/06/21(木) 21:34:20.68 ID:onPxiyLK0
やがて、いつものように稽古が終わり──

「先生さよなら~!」 「お姉ちゃんたちもさよなら~!」 「さようなら~!」

女武術家「んじゃ、アタシらも──」

格闘家「あ、ちょっと待ってくれ」

女武術家「どしたの?」

格闘家「ちょっと……道場の裏に来てくれないか」

女武術家「……なんでさ?」

格闘家「大事な用なんだ。君と二人だけで話をしたい」

女武術家「ふうん……ま、いいけど」

51: 名無しさん 2012/06/21(木) 21:37:55.60 ID:onPxiyLK0
<道場の裏>

女武術家「さてと……大事な用って?」

格闘家「じ、実は……」

二人を物陰から見つめる友人。

友人「頑張れ……」ボソッ

女友人「いったいなにが始まるのでしょうか?」

友人(うわっ、いつの間に後ろに!?)

52: 名無しさん 2012/06/21(木) 21:45:21.47 ID:onPxiyLK0
格闘家「ふぅ~……」

格闘家「はあっ!!!」

ビュボォッ!

女武術家「!」

──ピタッ

格闘家が全力の右ストレートを放った。──が、寸止めであった。

女武術家「すごい突きだね、止めるってのは分かってたけどさ。
     ──で、もしかしてこれはアタシへの挑戦状ってことかい?」

格闘家「いや……これが俺の本気のストレートなんだ。
    つまり、俺は……君が好きなんだ」

友人(い、意味が分からん……!)

友人(あのバカ……!)

友人(俺がいったストレートってのは、そういう意味じゃねえよ!
   いやある意味合ってるのか……?)

女友人「バカですね」

54: 名無しさん 2012/06/21(木) 21:50:22.87 ID:onPxiyLK0
女武術家「ふふ……」

女武術家「いいストレートだったよ……でぇやっ!!!」

シュバァッ!

格闘家「!」

──ピタッ

女武術家の右ハイキック。同じく寸止めだった。

格闘家「そういえば君は蹴りの方が得意だものな」

女武術家「これがアタシの答えさ……アタシもアンタが好きだよ」

格闘家「えっ……」

友人(両方とも、バカだった……!)

友人(いやしかし、めでたしめでたしでいいんだよな……?)

女友人(おめでとうございます……お嬢様)

56: 名無しさん 2012/06/21(木) 21:53:28.96 ID:onPxiyLK0
格闘家「ありがとう……俺の突きが通じたんだな」

女武術家「バカだね、別にアンタの突きだけに惚れたんじゃないって」

女武術家「アンタの格闘技に対する愚直なまでの真剣さや
     子供らにも手を抜かず接する心根に惚れたんだよ」

女武術家「それに、あんなこと初めてだったしね」

格闘家「あんなこと?」

女武術家「アタシは今までにも九つの道場で道場破りをしたっていったろ?
     どこの道場も、アタシに勝ったらアタシをどうにかしてやろうって
     ヤツらばっかだった。ま、もちろん覚悟の上だったけどさ」

女武術家「そんなところに、まさか女は殴れません、というか慣れてません
     なんてのが出てきたからなんか微笑ましくってね」

女武術家「思えば、あの時からアタシはアンタに惚れてたのかもしれない」

格闘家「い、いやぁ……どうも」

58: 名無しさん 2012/06/21(木) 21:56:20.83 ID:onPxiyLK0
友人「……結局お互いに好きだったってことか。あとはどうぞお幸せに、ってとこだな」

友人「──ところでさ、俺たちも付き合わない?」

女友人「ご友人のアタックが成功したとみるや、
    どさくさに紛れてこの私に求愛ですか」

女友人「格闘家さんとちがって、あなたは本当にいつもお暇そうで姑息な方ですね」

友人「ご、ごめんなさい……」

女友人「かまいませんけど」

友人「え?」

女友人「二度もいわせないで下さい。
    あなたとお付き合いするのはかまわない、といったのです」

友人「…………!」

60: 名無しさん 2012/06/21(木) 21:59:19.86 ID:onPxiyLK0
女武術家「──でも、アンタと恋仲になることはまだできないんだ」

女武術家「こっちにも事情があってね、ゴメン」

格闘家「いや、構わない。そちらの事情が解決するまでいくらでも待つよ」

女武術家「ああ、必ず解決するから」

格闘家(いったいどんな事情なんだろうか……?)



こうしてこの日、二組のカップルが誕生した。
とはいえ、大きく生活が変わることもなく、今まで通りの日々が続いた。

そんなある日のこと──

64: 名無しさん 2012/06/21(木) 22:07:54.15 ID:onPxiyLK0
<町>

友人「オイ格闘家、頼みがあるんだけど聞いてくれねえかな」

格闘家「珍しいな、どうした?」

友人「実はさ俺、今度見合いすることになったんだ」

格闘家「見合い!? おまえには女友人さんがいるだろうに……」

友人「もちろんイヤだっていったんだぜ!?
   でも、オヤジが俺にナイショで見合いをセッティングしやがってさ」

友人「相手は隣の都市の市長だかの娘だとか……」

格闘家「市長の娘か……スゴイ相手だな」

友人「会ってくれなきゃワシの顔がツブれるとかいって泣き出すしよぉ……。
   だから会うだけ会って嫌われようと思うんだ」

66: 名無しさん 2012/06/21(木) 22:13:23.17 ID:onPxiyLK0
格闘家「それで、俺に頼みってのは?」

友人「隣の都市は自治都市で、近年貧困層やはみ出し者への取り締まりを
   ぐっと強化して治安はよくなったんだが──」

友人「そのせいか、市長に恨みを持つヤツがけっこういるみたいなんだ」

友人「見合いの場に乗り込んでくるバカがいるかもしれないし、
   ボディガードを頼みたいんだ」

格闘家「そんなことなら、お安い御用だ」

友人「ありがとよ。持つべきものは強い親友だな」
  (本当はオヤジと二人で行くのがイヤだからなんだけどな。
   いちいち町のため町のためってうっとうしいから……)

69: 名無しさん 2012/06/21(木) 22:20:28.62 ID:onPxiyLK0
見合い当日──
<町長宅>

町長「おお、これはこれは格闘家君。
   ワシの息子のためにわざわざありがとう」

格闘家「いえ、いつも彼には助けてもらっていますから」

友人「はぁ~……めんどくせぇ」

町長「しっかりしろ、バカ息子!
   この縁談が成立すれば、この町はさらに発展するんだぞ!」

町長「仮に破談となっても、おまえが好青年ぶりをアピールすれば
   市長の目がこの町に向いてくれるハズだ!」

友人(もっとまともな方法考えろよな、バカオヤジ……。
   あ~あ、なんとか上手に嫌われるようにしないとな)

町長「さぁ、出発だ!」

70: 名無しさん 2012/06/21(木) 22:26:50.43 ID:onPxiyLK0
<都市>

友人「──いつ来てもここは立派だな。
   来るたびに建物はでかくなってるし、景色もキレイになってる」

格闘家「おまえはよく来るのか? 俺はほとんど来たことがないんだ」

友人「せいぜい買い物に来るぐらいだけどな。
   ただし市長とかに関してはほとんど知らない。興味もねぇし」

友人「ったく、顔も知らない女と見合いとかありえねえよ……」

町長「ええい、文句ばかりいうな! これも全てワシらの町のためなんだぞ!」

友人「はいはい」

格闘家(たしかに治安はいいが……あちらこちらに危険なニオイがする。
    市長が恨みを買ってしまってるってハナシもウソじゃなさそうだな)

72: 名無しさん 2012/06/21(木) 22:30:25.49 ID:onPxiyLK0
<路地裏>

ゴロツキ「──ウワサによれば、今日市長の娘と隣町の町長の息子が
     見合いをするらしい」

手下A「見合いですか」

ゴロツキ「こういう時を待ってたんだ」

ゴロツキ「あのクソ市長に、借りを返すチャンスだ!」

手下A「そうですね」
手下B「やってやりましょう!」

ゴロツキ「せっかく頼もしい用心棒も雇ったことだし、一泡吹かせてやる!」

75: 名無しさん 2012/06/21(木) 22:37:23.71 ID:onPxiyLK0
<市長の屋敷>

メイド「ようこそいらっしゃいました」

町長「おお、これはこれは……ありがとうございます」

友人(さすがは市長のお屋敷、メイドまでいるのかよ……。
   ハッキリいって、俺やオヤジが釣り合う相手じゃねえぞ……)

友人(……ところでこのメイドの声、どこかで聞いたような声だな)

格闘家(あのメイドさん……なにか見覚えがあるような……)

メイド「!」ハッ
格闘家「!」ハッ
友人「!」ハッ

78: 名無しさん 2012/06/21(木) 22:42:24.58 ID:onPxiyLK0
格闘家(このメイドさん……女友人さんじゃないか!?)

友人(このメイド、女友人だよな!?)

メイド(な、なんでこの二人がここに……!? 
    もしや今日お嬢様とお見合いをする隣町の有力者のご子息というのは──)

町長「どうしたんだね、君たち?」

格闘家「実は──モゴッ」

友人「いや、なんでもない、なんでもない。ねえ、メイドさん?」

メイド「ええ、なんでもありませんわ」

町長「そうか。頼むから見合い前に、メイドさんに惚れるなんてことはやめろよ。
   ハッハッハ……」

友人(すみません、惚れてます)

79: 名無しさん 2012/06/21(木) 22:47:22.73 ID:onPxiyLK0
メイド「これはどういうことです?
    あなたには私がいるのに見合いとは──」ボソッ

友人「いや、ちがうんだって!
   この都市と友好関係を築きたいオヤジにムリヤリ……」ボソッ

メイド「分かっております。私とてそこまで察しは悪くありません」ボソッ

友人「おどかすなよ」ボソッ

メイド「ところでこの私がここにいるということは、
    今日のあなたのお相手はもうお分かりですよね?」ボソッ

友人「ああ、すぐに分かったよ。
   まったくとんでもないことになっちまったな」ボソッ

格闘家(ここに女友人さんがいるということは……
    女武術家もこの都市のどこかに住んでいるということなのか?)

格闘家(もし時間ができたら探してみるか……)

80: 名無しさん 2012/06/21(木) 22:50:43.41 ID:onPxiyLK0
一方、市長とその娘はというと──

市長「おおっ、美しいぞ!」

令嬢「ありがとうございます、お父様」

市長「今日の相手は隣町の町長の息子で、なかなか優秀な人物だと聞く。
   しかし、実際に見てみなければなんともいえん」

市長「おまえに相応しい相手は、私が必ず選び出してやるからな!」

令嬢「えぇ……」

令嬢(アタシは格闘家が好きだってのに……とてもいえないよ、お父様には)

令嬢(絶対反対されるだろうしなぁ……)

令嬢(町長の息子か……どんなヤツなんだろ)

81: 名無しさん 2012/06/21(木) 22:54:09.87 ID:onPxiyLK0
格闘家たちは広い一室に案内された。

メイド「では主人たちを呼んで参りますので」

パタン

町長「すごいお屋敷だな……オイなんとしてもこの縁談、成功させろ!」

友人「まあ、こういうのは向こうの気持ちもあるからな。
   例えば向こうにすでに好きな人がいたら、もうどうしようもないだろ?」

町長「まあそれはそうだが……そんなことはありえんだろう。
   それだったら見合いなんかしないハズだからな」

友人(ありえるんだよ)

格闘家「じゃあ俺は外に行ってるよ」スッ

友人「オイ待てよ。いいじゃんか、おまえも見合いに参加しろよ。
   ボディガードなんだからさ」

格闘家「えっ!?」

友人(コイツ、まだ俺の相手がだれか察しがついてないっぽいからな……
   驚くところを拝ませてもらうぜ)

83: 名無しさん 2012/06/21(木) 22:56:18.70 ID:onPxiyLK0
まもなくメイドと──市長と令嬢が部屋に入ってきた。

市長「やあお待たせしてしまいました。おやこれは、利発そうなご子息ですな」

町長「おお、これは市長! 本日はこのような場を設けていただき、
   まことにありがとうございます」バッ

町長「しかし、この都市は来るたびに大きく、美麗になっておりますな」

市長「うむ、都市の一角に存在した貧民街への締め上げを強化し、
   治安もだいぶよくなった。
   彼らは都市の美観を損ねる存在でもあったからな」

町長「いやぁ、まったくもっておっしゃる通り! すばらしい!」

84: 名無しさん 2012/06/21(木) 22:59:19.18 ID:onPxiyLK0
令嬢「こんにち──」

令嬢「!」ドキッ
格闘家「!」ドキッ

令嬢(な、なんで格闘家と友人がここにいるの!?)
格闘家(着飾ってはいるが、あれはまちがいなく女武術家! な、なぜ!?)

友人「…………」プッ

友人(向こうもかなり驚いているみたいだ。さて対するこっちは──)チラッ

格闘家「…………」ウルッ

友人「え……?」

格闘家は涙をこぼしていた。

87: 名無しさん 2012/06/21(木) 23:06:35.81 ID:onPxiyLK0
友人(コイツまさか……俺や彼女が本気で見合いやるって
   思っちまったんじゃ……)

格闘家「友人……」

友人「な、なんだ?」

格闘家「彼女を……幸せにしてやってくれっ!」グスッ

友人「えぇっ!?」

町長「格闘家君、急にどうしたんだ?」
市長「な、なぜ泣いてるんだ?」

友人「いや、なんでもないんです! このボディガード、ジョークが好きなもんで!
   よく人にウケるために突然泣き出したりするんですよ~」

令嬢「お、お父様たち! 町長さんのご子息とはゆっくり話したいので、
   席を外していただけるかしら……?」

町長(おお、脈アリか!? これはイケる!)
市長「まあ、おまえがそういうのなら……」

市長と町長は半ば追い出されるように、部屋から出て行った。

89: 名無しさん 2012/06/21(木) 23:10:59.69 ID:onPxiyLK0
友人&令嬢「ふう……」

友人「格闘家、大丈夫か!?」
令嬢「まったくもう……」

メイド「どうぞ、ハンカチを」スッ

格闘家「あ、どうも」

格闘家「しかし……まさか友人の見合い相手が女武術家だとは思わなくて……」フキフキ

友人「いやそこは女友人がメイドだった時点で気づこうぜ」

格闘家「えぇと……全然状況が分かってないんだが、
    つまりどういうことなんだ?」

友人「分かった……一から説明してやる。ちゃんと聞けよ?」

90: 名無しさん 2012/06/21(木) 23:14:51.72 ID:onPxiyLK0
友人「俺とおまえは数ヶ月前、女武術家と女友人のコンビと知り合った。
   色々あって、俺たちはけっこう仲良くなった」

友人「その後、なんとしても町を盛り上げたいオヤジに
   市長の娘と見合いをさせられることになった俺は、
   おまえにもついてきてもらってこの都市にやってきた」

友人「──で、なんと女友人は市長宅に勤めるメイド、
   女武術家は市長の娘だった! ここまでは分かるよな?」

格闘家「ああ、なんとか……」

友人「しかし俺は女友人が好きだから、女武術家こと令嬢とくっつくつもりはない。
   女武術家だっておまえが好きなんだから同じハズだ」

友人「つまり、おまえが泣く理由はなにひとつない」

格闘家「なるほど……」

友人「しかし、この見合いは仮にも一つの町と市の思惑が絡んだ見合いだ。
   互いに“他に好きな人いるんで”で終わらせるワケにもいかない」

友人「だから穏便に破談にする必要があるワケだ、分かったか?」

格闘家「うん、分かった」

91: 名無しさん 2012/06/21(木) 23:18:32.67 ID:onPxiyLK0
令嬢「ナイショにするつもりはなかったんだけどさ。
   なんか、バラしたら敬遠されるかもって思っていえなかった……ゴメン」

格闘家「いや、そんなことはかまわない」

格闘家「しかし……市長さんは君が格闘技をやってることや、
    俺とのことは……?」

令嬢「知らないよ」

令嬢「アタシは強くなりたくてお父様にはナイショでトレーニングしててね。
   週に一、二度メイドと外出してるのも、お父様は花嫁修業かなんかだと
   思ってるハズさ」

友人(ある意味花嫁修業ともいえるかもしれないけどな)
格闘家(ちゃんとした道場に通わずあそこまで強くなるとは……スゴイな)

92: 名無しさん 2012/06/21(木) 23:23:04.96 ID:onPxiyLK0
令嬢「お父様はアタシの交際相手は自分で決めるって常にいってるからね。
   アタシが格闘家のことを好きってことをいえてないんだ」

令嬢「もしいったら、格闘技やってることも当然バレちゃうから……
   そうなったら外出禁止にされかねないしね」

格闘家「あの時いってた“事情”ってのはそういうことだったのか……」

令嬢「ホントゴメン……アタシは弱いね。
   アンタはアタシにストレートにぶつかってきてくれたのに、
   アタシは自分の父親にすら真実を話せないなんて……」

格闘家「そんなことはない! 君の強さは俺が保証する!
    あれほどの蹴りの使い手はざらにいるもんじゃない!」

友人(ここでいう強さは、格闘技の強さじゃないっての……)

95: 名無しさん 2012/06/21(木) 23:28:34.09 ID:onPxiyLK0
友人「まあ、せっかくいつもの四人が集まったのに、
   辛気臭いハナシってのもよくない」

友人「俺と女友人、おまえと女武術家で分かれてデートでもしようぜ」

格闘家「デートって……見合いはどうするんだよ」

友人「大丈夫大丈夫、どうせ今頃俺のオヤジが
   市長さんにウチの町を宣伝しまくってるだろうし」

友人「さあ行こうぜ!」

メイド「参りましょうか」
令嬢「い、いいのかな……」

96: 名無しさん 2012/06/21(木) 23:33:32.18 ID:onPxiyLK0
<屋敷の外>

手下A「ん、令嬢たちが出てきたぞ!」

手下B「四人か……どこかで令嬢と町長の息子が二人きりになるのを
    待つしかないか……」

すると──

友人「じゃあ二手に分かれて小一時間デートしようぜ。
   またここに集合な」

格闘家「おいおい……俺はおまえのボディガードとして来てるんだぞ?
    もしなにかあったら……」

友人「大丈夫だって、こんなデカイ都市でデートの一つもしないなんて損だぞ?
   それに、市長さんに恨みを持ってるヤツらが俺と女友人を狙うワケないだろ?」

格闘家「そりゃそうだが……」

友人「決まりだな。もし変なのが来たら、ちゃんと守ってやれよ」

98: 名無しさん 2012/06/21(木) 23:37:57.85 ID:onPxiyLK0
手下A「あの四人、二手に分かれちゃったぞ!?
    令嬢と強そうなヤツと、メイドと町長の息子っぽいヤツの二組だ」

手下B「なんで見合いをしてる二人が分かれるんだ?」

手下A「知るか!」

手下B「どうする? 親分には令嬢と町長の息子をさらってこい
    っていわれてるぜ?」

手下A「あの令嬢の隣にいるヤツに、おまえ勝てるか?」

手下B「いや……アレは強そうだ」

手下A「だろ? ってことで、あのメイドと町長の息子をさらおうぜ」

手下B「いいのかな、こんなんで……」

99: 名無しさん 2012/06/21(木) 23:42:35.32 ID:onPxiyLK0
手下AとBが友人たちの前に立ち塞がった。

友人「──なんだ、おまえら!?」

手下A「おまえたち、町長の息子と市長のメイドだろ?」
手下B「大人しくついてくれば、悪いようにはしねえよ」

友人(なんで俺らが狙われるんだ……クソッ)
  「ふざけんな! だれがついていくか!」

メイド「この二人はこの都市でも悪名高いゴロツキの一味ですわ。
    あなたが勝てる相手ではありません……大人しくついていきましょう」

メイド「きっとあの二人が助け出してくれましょう」

友人「イヤだね」

メイド「!」

100: 名無しさん 2012/06/21(木) 23:45:19.86 ID:onPxiyLK0
友人「俺はたしかにケンカは弱いけどよ、こんな時ぐらいはっ!」ダッ

バキッ!

友人は手下たちに殴りかかるが、あっけなく殴り倒されてしまう。

友人「うぐぅ……」ピクピク

手下A「ふん、弱っちいヤロウだ。よし、アジトに連れていこう」
手下B「おう」

友人「ご、ごめん……君を守れなくて……」

メイド(ごめんなさい……)

102: 名無しさん 2012/06/21(木) 23:50:18.54 ID:onPxiyLK0
<アジト>

ゴロツキ「ばっきゃろう!」

手下A&B「ひぃっ!?」

ゴロツキ「市長に一泡吹かせようってのに、
     メイドと町長の息子さらってきてどうすんだよ!」

手下A&B(そりゃそうだけど……)

ゴロツキ「──ちっ、まあいい。
     せっかくだ、コイツらを使って身代金でも巻き上げてやろう」

手下A「払いますかね……?」

ゴロツキ「てめぇんとこのメイドと、娘の見合い相手になにかあったらコトだ。
     払うに決まってる」

ゴロツキ「もし奪回に来ても、あの用心棒二人がいれば怖くねえ」

手下A「分かりました、すぐ手紙を送ってきます」

103: 名無しさん 2012/06/21(木) 23:53:26.64 ID:onPxiyLK0
<市長の屋敷>

ゴロツキ一味から脅迫状が届いた。
友人とメイドの身柄と引き換えに、身代金を要求するという内容だ。

市長「むむむ……なんということだ」

町長「な、なぜワシの息子がさらわれるんだ……!?
   なにをやっておったんだ、あのバカ息子は……!」

格闘家「いえ、全て俺が悪いんです。
    ボディガードとしてこの都市にやってきたというのに……」
令嬢「お父様……ごめんなさい」

市長「あのゴロツキどもめ……我が都市の品位を汚すことばかりしおって。
   どうせこの手紙もつまらん脅しだろう、まともに取り合う必要はない」クシャクシャ

市長「さらわれたのが娘でなく、メイドだったのが不幸中の幸いか……」

格闘家「…………」カチン

105: 名無しさん 2012/06/21(木) 23:56:32.38 ID:onPxiyLK0
格闘家「失礼ですが、市長」

格闘家「今のお言葉、あまりにも市長としての品位に欠けていると思いますが」

市長「なにっ!?」

格闘家「この家に仕えていたメイドさんがさらわれたというのに、
    彼女の心配をする前に、娘でなくてよかったとはあんまりでしょう!」

市長「う、うぐぅ……」
町長「おいおい、格闘家君……!」

格闘家「こういう事件が起きるのも、あなたに少しも原因がないといえますか!?」

市長「ぐぐ……!」
町長「あわわ……」

格闘家「グズグズしてはいられません。
    今すぐ俺はゴロツキたちのアジトに乗り込みます」

格闘家「では失礼します」ザッ

令嬢「…………」

市長「くぅぅ……」
町長「し、市長……」

106: 名無しさん 2012/06/21(木) 23:59:28.22 ID:onPxiyLK0
格闘家が屋敷の外に出ると──

女武術家「よ」

格闘家「!」

格闘家「いつの間に着替えたんだ!?」

女武術家「ふふん、水臭いじゃんか。一人で行くなんてさ。
     それにアンタ、アイツらのアジトの場所知らないでしょ?」

格闘家「あ、そういえば……(バカか、俺は……)」

格闘家「でもこんな時に市長さんの家からいなくなったら余計心配する。
    すぐ戻った方がいい」

女武術家「イヤだね」

格闘家「しかし……」

女武術家「アタシにとっても、あの二人は大切な友人だしね」

格闘家「……そうだな。分かった、二人で助けに行こう」

109: 名無しさん 2012/06/22(金) 00:08:35.15 ID:CjaFqXL80
女武術家「それと……さっきはかっこよかったよ」

格闘家「え?」

女武術家「近頃のお父様は都市開発に熱中するあまり、
     情ってものをどこかに置いてきぼりにしてた」

女武術家「こんな風に恨みを買ってるのも、多分そういうところにも
     原因があるんだと思う」

女武術家「かといって、あの人に意見をいえる人間なんてこの都市にはいないしさ」

女武術家「だからさっき、アンタがお父様にいった言葉……スカッとしたよ」

格闘家「いや……あれは失言だった。この都市の事情なんてなにも知らないのに……。
    そもそもあの二人がさらわれたのは俺のせいだし……。
    あとできちんと謝るよ」

格闘家「でも、今はとにかく急ごう、友人たちが心配だ」

女武術家「はいよ!」

111: 名無しさん 2012/06/22(金) 00:11:41.82 ID:CjaFqXL80
<アジト>

手下A「親分、アジトに変な二人組が近づいてきてます!」

ゴロツキ「変な二人組?」

手下A「男女のコンビです。男の方は市長の屋敷にいた護衛かなんかです。
    女の方は……どことなく市長の娘に似てるんですが」

ゴロツキ「バカヤロウ、市長の娘がなんでアジトに来るんだよ。他人の空似だ。   
     まあいい、丁重に歓迎してやりな」

手下A「えぇっ!? 強そうなんですけど……」

ゴロツキ「ここで俺に殴られるのとどっちがいい?」

手下A「わ、分かりました」

114: 名無しさん 2012/06/22(金) 00:16:42.46 ID:CjaFqXL80
アジトから十数人の手下が現れた。

手下A「何の用だ!?」

格闘家「俺の友人とメイドさんを返してもらおう」
女武術家「大人しく二人を返せば、痛い目見ないで済むよ」

手下A「ふざけんな!」

手下A「あのクソ市長は、都市の見栄えが悪くなるからと
    俺たちみたいな貧困層をどんどん日陰に追いやりやがって!」

手下A「こうやって嫌がらせの一つでもしねえと気が収まらねえんだよ!」

女武術家「…………!」

格闘家「だからといって、他人を誘拐していい理由にはまったくならないな。
    身勝手にも程があるぞ」

格闘家「返してもらえないのなら、力ずくで奪い返す!」

手下A「おもしれぇ……やっちまえ!」

115: 名無しさん 2012/06/22(金) 00:20:27.31 ID:CjaFqXL80
「うおりゃあっ!」 「どりゃあっ!」 「喰らえぇっ!」

バキィッ! ドガァッ! ドゴォッ!

「うぎゃあっ!」 「ほげぇっ!」 「ひぃぃっ!」

次々に蹴散らされていく手下たち。

手下A「くっそ、こうなりゃヤケだ!」
手下B「やってやるっ!」

バゴッ! ベキッ!

格闘家の右ストレートが手下Aを、女武術家の前蹴りが手下Bを吹っ飛ばした。

手下A「やっぱりつえぇ……」ドサッ
手下B「い、痛い……」ドサッ

格闘家「よし、アジトに乗り込むぞ!」

女武術家「うん!」

120: 名無しさん 2012/06/22(金) 00:26:19.20 ID:CjaFqXL80
<アジト>

ゴロツキ「もう全員やられやがった……最短記録更新だな。
     まぁいい人質はこっちにあるし、アンタらもいる」

ゴロツキ「頼んだぜ」

用心棒兄「ふん、任せておけ」
用心棒弟「兄さんとぼくのタッグは無敵さ」

友人(あの二人が負けるとは思えないが……コイツらも相当強そうだ……!)

メイド(さて、この兄弟に勝てるかどうか……観戦させてもらいましょうか)

122: 名無しさん 2012/06/22(金) 00:31:27.12 ID:CjaFqXL80
格闘家「手下は全滅したぞ! さあ、二人を返せ!」
女武術家「ゴロツキ、アンタに万に一つも勝ち目はないよ!」

ゴロツキ「ちっ、クソ市長の飼い犬どもが……さすがに腕が立つようだな」

ゴロツキ「だがよ、こっちにも強い用心棒がいるんだ!」

用心棒兄「どうやらキサマらも多少武術をかじっているようだ」
用心棒弟「どうだい、ぼくらとタッグマッチでも」

格闘家「タッグマッチ……二対二か。いいだろう」

女武術家「受けて立ってやるよ」

125: 名無しさん 2012/06/22(金) 00:36:46.08 ID:CjaFqXL80
格闘家と女武術家のコンビと、用心棒兄弟のタッグマッチが始まった。

格闘家「はああっ!」ダッ

格闘家が用心棒兄に突っかける。

ところが、用心棒弟が横から格闘家に足払いをかけ──

格闘家「うっ!?」ガクッ
用心棒兄「もらった!」

体勢が崩れた格闘家に、強烈なヒジ打ち。

バキィッ!

格闘家「ぐはっ!」ドサッ

女武術家「でやぁっ!」

女武術家が蹴りで用心棒兄を狙うが──

ベキッ!

用心棒兄の体を利用して死角に入り込んでいた用心棒弟から、
逆に蹴りをもらってしまう。

女武術家「──ぐっ!」

128: 名無しさん 2012/06/22(金) 00:40:28.47 ID:CjaFqXL80
バキッ! ドッ! ガガッ! バシィッ! ベキッ!

二対二の攻防は、用心棒兄弟のペースで進む。

ゴロツキ「がはははっ! いいぞいいぞ、やっちまえっ!」

友人「ちっくしょう、あの二人が全然歯が立たないなんて……!
   アイツら、とんでもない使い手だな!」

メイド「いえ」

メイド「お嬢様と格闘家さんの技量と、彼ら兄弟の技量にそう隔たりはありません。
    ですが──」

メイド「コンビネーションの差が出ています」

友人「コンビネーション?」

メイド「互いの死角を補い合い、絶妙な連係を行っている兄弟に対し、
    お嬢様と格闘家さんは個々に戦っているだけ……」

メイド「この差は大きいですわ」

友人「そういうことか……」

130: 名無しさん 2012/06/22(金) 00:44:06.45 ID:CjaFqXL80
友人「オイおまえら、コンビネーションだっ!」

格闘家(分かってる!)
女武術家(分かってるんだけど──)

ブオッ!

格闘家の拳が女武術家をかすめる。

シュバァッ!

女武術家の蹴りが格闘家に当たりそうになる。

格闘家(うまく──)
女武術家(連係できない!)

用心棒兄「無駄だ、付け焼刃のコンビネーションで破れるほど」
用心棒弟「ぼくら兄弟は甘くないよ」

131: 名無しさん 2012/06/22(金) 00:46:25.96 ID:CjaFqXL80
ガゴッ!

用心棒兄のアッパーで、格闘家が膝をつく。

格闘家「ぐぅぅ……っ!」ガクン

ビシッ!

用心棒弟のチョップで、女武術家がダウンする。

女武術家「うあっ……!」ドサッ

用心棒兄「まだ意識があるのか。かなり鍛え込んではいるようだ」

用心棒弟「でも、ぼくらの敵ではなかったということだね、兄さん」

用心棒兄「そういうことだ」

ゴロツキ「おおかた市長に雇われた格闘家コンビかなんかなんだろうが、
     用心棒兄弟の方が上だったな! ざまあみやがれ!」

ゴロツキ「市長が悔しがるツラが目に浮かぶぜ!」

メイド(ここまで、でしょうか……)
友人(くっそぉ~……!)

友人(俺はとてもじゃないが戦力になれない……せめて、なにかアドバイスを……!)

134: 名無しさん 2012/06/22(金) 00:49:34.41 ID:CjaFqXL80
友人は叫んだ。

友人「愛だ!!!」

用心棒兄「!」
用心棒弟「?」
ゴロツキ「!?」

メイド「…………?」

格闘家&女武術家(愛……!?)

友人「たしかにコンビネーションじゃ、おまえらはあの兄弟に敵わない……。
   だってそんな稽古してないもんな」

友人「だが、おまえたち二人にはそれを補って余りある愛がある!
   あの道場で培ってきた愛ってヤツが!」

用心棒兄弟(アイツ、なにいってんだ……?)

格闘家「そ、そうか……」ムクッ
女武術家「そうだったね……」ムクッ

138: 名無しさん 2012/06/22(金) 00:54:33.37 ID:CjaFqXL80
格闘家(無理に普段やらないことをするからボロが出るんだ……。
    普段の組み手のように自然体でやれば……)ザッ

女武術家(互いがどういう時にどう動くか、この体が覚えていてくれるハズ!)ザッ

用心棒兄「ふん……ワケが分からないことを。
     真のコンビネーションとは、練習量と経験によって作られる!」

用心棒兄「弟よ、一気に決めるぞ!」
用心棒弟「はい!」

140: 名無しさん 2012/06/22(金) 00:56:52.40 ID:CjaFqXL80
格闘家が用心棒兄に全力で殴りかかる。

格闘家「うおおおおっ!」
   (女武術家なら、きっと何とかしてくれるはず!)

用心棒兄(こんな大振りパンチが当たるか!)サッ

ブオンッ!

格闘家のパンチはかわされたが──

女武術家(格闘家のパンチを何度も見たアタシなら、相手がどうよけるか
     なんとなく分かるっ!)

──それを読んでいた女武術家の飛び蹴りが、用心棒兄に炸裂した。

ベキィッ!

用心棒兄「ぐわっ!」

用心棒弟「兄さん!」

142: 名無しさん 2012/06/22(金) 01:00:13.91 ID:CjaFqXL80
格闘家を踏み台にして、女武術家が用心棒弟に空中から強烈なカカト落とし。

ズガァッ!

用心棒弟「ぐおっ……!」

格闘家と女武術家が、徐々にペースを掴んでゆく。

メイド「あなたのアドバイスで二人の動きが見違えるように……お見事ですわ」

友人「適当なことをいっただけなのに、まさかなんとかなるとは……」

メイド「相手の兄弟のコンビネーションは機械のように正確ですが、
    一定以上の効果は出ません」

メイド「逆にあの二人の自然なコンビネーションは時にミスもあるでしょうが、
    その分ものすごい爆発力を生み出すでしょう」

友人「君、けっこう詳しいんだね」

146: 名無しさん 2012/06/22(金) 01:06:21.42 ID:CjaFqXL80
バキィッ!

女武術家のハイキックが、誤って格闘家の顔面に入ってしまった。

女武術家「あっ……ゴメン!」

格闘家「いや、いい蹴りだった。いつもの稽古の成果が出てるな」ニッ

女武術家「ありがとう……」ポッ

用心棒兄(くそう、なんなんだコイツらは!?)

用心棒兄(味方に蹴りを入れられたというのに男は笑ってるし、
     蹴りを入れた女はなぜか赤面している!)

用心棒弟(メチャクチャなのに……メチャクチャなのに強い!)

147: 名無しさん 2012/06/22(金) 01:12:55.93 ID:CjaFqXL80
格闘家「せいやぁっ!」

ドゴォッ!

用心棒兄「うごぉっ!」ドサッ

女武術家「でぇやあっ!」

ベキィッ!

用心棒弟「おぶっ……!」ガクッ

格闘家「おまえたちも強かったが、愛が足りなかったな!」
女武術家「そういうことだね。愛を知ってから出直してきな!」

友人(俺のせいとはいえ、なんという恥ずかしいセリフ……)

用心棒兄「くっそぉ~! なぜだ!?」ハァハァ
用心棒弟「愛なんかに、ぼくたち兄弟が負けるハズがない!」ゼェゼェ

格闘家「さぁ、決めるぞ!」
女武術家「はいよ!」

150: 名無しさん 2012/06/22(金) 01:16:28.18 ID:CjaFqXL80
バゴォッ!

用心棒兄「ぐはぁっ!」

格闘家に殴り飛ばされる用心棒兄。

バキィッ!

用心棒弟「うぐぁっ!」

女武術家に蹴り飛ばされる用心棒弟。

用心棒兄弟(ぶ、ぶつかるっ!)

吹き飛ばされた兄と弟の顔面、すなわち唇と唇がぶつかり合い──

ガツンッ!

用心棒兄(こ、これが……!)
用心棒弟(愛……!)

ドザァッ……!

用心棒兄弟は仲良く気絶した。

友人(男同士でキスしながら気絶とは……最悪のやられ方だな……。
   でも本人たちは幸せそうな顔してるから、まあいいか……)

151: 名無しさん 2012/06/22(金) 01:22:37.90 ID:CjaFqXL80
ゴロツキ(あの兄弟がやられるなんて……!)

ゴロツキ「ちっくしょう!」ガシッ
メイド「!」

ゴロツキがメイドを捕える。

友人「あっ!」

ゴロツキ「用心棒兄弟を倒すたぁ、大したもんだ。
     だがな、こっちには人質がいることを忘れてもらっちゃ困る!」

友人「往生際が悪いぞ、テメェ!」

格闘家「これ以上罪を重ねるな!」

ゴロツキ「う、うるせぇ!」

女武術家「…………」

155: 名無しさん 2012/06/22(金) 01:28:47.71 ID:CjaFqXL80
メイド「私を守ろうとして戦って下さった友人さん、
    あの手強い兄弟に打ち勝ったお嬢様と格闘家さん……」

メイド「私だけが戦わない、というわけにはまいりませんわね」

ゴロツキ「あぁ?」

ドズゥッ!

メイドのヒジが、ゴロツキの脇腹をえぐる。

ゴロツキ「ぐっ!?」

バギィッ!

さらに振り返りざまの後ろ回し蹴りが、一撃でゴロツキの意識を奪い取った。

ゴロツキ「ぐはぁ……」ドサッ

157: 名無しさん 2012/06/22(金) 01:32:26.11 ID:CjaFqXL80
格闘家「こ、これは……!?」
   (まさか、あの女友人さんまでここまで強いとは……!)

女武術家「ふふふ……」

格闘家「ん?」

女武術家「アタシがお父様にバレないようにしながらの修業で、
     ここまで強くなったのを不思議に思わなかった?」

格闘家「ああ、たしかに……。
    よほど腕のいい師匠がついてないと──まさか!?」ハッ

女武術家「そう……年は同じだけど、
     あの子はアタシの友人でありメイドであり師匠なんだよ」

女武術家「もちろんこれも、アタシと彼女だけの秘密だったけどね」

格闘家「そういうことだったのか……」

160: 名無しさん 2012/06/22(金) 01:37:42.33 ID:CjaFqXL80
メイド「申し訳ありません」

友人「…………」

メイド「私は幼少の頃より武術をたしなんでおりました。
    しかし、あまり戦うことが好きではなかったもので、
    道場から逃げ出し、あのお屋敷で雇っていただきました」

メイド「おてんばなお嬢様に、武術の手ほどきをしたのも私です」

メイド「本当はあのゴロツキの手下に囲まれた時……彼らを倒すのは簡単でした」

メイド「しかし……彼らはお嬢様のいい実戦相手になると思ったのです」

メイド「そしてなにより、あなたの前では戦えない女のままでいたかったのです」

メイド「私が戦っていれば、あなたをあんな目にあわせることは──」

友人「なにいってんだよ」

友人「俺、君に惚れ直した! 君は最高の女性だ!」

友人「君にはいつか……町長夫人になってもらう!」

メイド「まぁ……」ポッ

163: 名無しさん 2012/06/22(金) 01:40:22.30 ID:CjaFqXL80
格闘家「まったく、今日は色々な意味で忘れられない日になりそうだ」

女武術家「ねぇ……格闘家」

格闘家「なんだ?」

女武術家「アタシもお父様に全て話すよ」

格闘家「!」

女武術家「アタシも……もう堂々とアナタと付き合いたい」

格闘家「そうか……だったら俺も一緒に行って話すよ」

格闘家「たとえどんな困難が待ち受けていようと、俺たちならやれる!
    だってそれが格闘家なんだから!」

女武術家「そうだね!」

165: 名無しさん 2012/06/22(金) 01:44:26.84 ID:CjaFqXL80
<市長の屋敷>

市長「おお……みんなよく無事に戻ってきてくれた!」

町長「格闘家君、息子を助けてくれてありがとう!」

市長「しかし娘よ……その格好はなんだ?
   まるで格闘技かなにかをするような格好ではないか」

女武術家「うん、私はこれからは堂々と格闘技をやらせてもらうわ」

市長「なんだと!? それはどういう──」

格闘家「市長さん、実は彼女は時折俺の道場に来ていました。
    そしていつしか、俺たちは互いに愛し合うようになっていました」

格闘家「お願いです」

格闘家「どうか、俺と彼女の交際を認めて下さい!」

市長「…………!」

168: 名無しさん 2012/06/22(金) 01:51:19.66 ID:CjaFqXL80
市長「よかろう……ただし一つだけ条件がある」

格闘家「……条件?」

市長「うむ……」

格闘家「…………」ゴクリ

市長「私も君の道場に入門させてくれ!」

格闘家「え!?」

市長「君はメイドと町長のご子息を助けに行く前、私に一喝しただろう。
   あんなことは市長になって以来、初めてのことだった」

格闘家「あれは本当に申し訳なく……」

市長「いや謝ることなどない」

市長「私はね、感動したのだよ! 君という一人の男に対してね!
   私は……都市開発に熱中するあまり、大事なことを忘れていた……!」

市長「当然市長としての職務があるので、めったに行けないだろうが、
   私の名も道場の一員として加えて欲しい!」

格闘家「そ、それはかまいませんが……」
女武術家(これは予想外だったよ……)

町長(あれ? これもしかして、ワシの息子と市長の娘の見合いは破談?
   ま、息子は助かったわけだし、いいか……)

170: 名無しさん 2012/06/22(金) 01:56:47.37 ID:CjaFqXL80
そして──

格闘家「じゃあ俺は友人と町長さんと一緒に帰るよ」

女武術家「うん……」

格闘家「また道場に稽古に来てくれよ。俺も必ずこの都市にやってくるから」

女武術家「もちろん!」

格闘家「今日は色々あったが、結果としてはいい日だった。
    あんな強敵と戦うことができたし、君との交際を認められることもできた」

女武術家「いずれアタシらも決着をつけないとね」

格闘家「いずれ、な」

ガッ

二人は互いの拳をぶつけ合い、別れた。

172: 名無しさん 2012/06/22(金) 02:02:37.97 ID:CjaFqXL80
三ヶ月後──
<格闘道場>

「えいっ!」 「とぉっ!」 「えいやっ!」

格闘家「よぉし、そこまでっ!」

友人「よう、けっこう繁盛してるじゃないか。
   あの事件でけっこうおまえも有名になったからな」

格闘家「ありがとう。おまえこそかなり忙しいみたいだな」

友人「まあな」

友人「俺はオヤジとちがってデカイ街や都市におもねって
   町を発展させるより、自力で発展させるやり方が好きだからな」

友人「忙しいが、やりがいはあるよ」

173: 名無しさん 2012/06/22(金) 02:08:13.65 ID:CjaFqXL80
格闘家「今日はなにをやってるんだ?」

友人「町の北にある荒れ地の開墾をやってる。
   都市にいたゴロツキたちも雇ってるが、一生懸命働いてくれているよ」



ゴロツキ「おい、昼飯を食ったら今日はあそこまで耕すぞ!」

手下A&B「はいっ!」

用心棒兄「ほら弟よ、あ~んしろ」
用心棒弟「兄さんの作った卵焼きは美味しいや!」モグモグ



友人「最初は不安だったが、アイツらも元々マジメに暮らしたかったんだろうな。
   用心棒のヤツらは、ちょっと変な方向に目覚めちまったようだが……」

格闘家「そ、そうか……」
   (あの兄弟がおかしくなったのって、やっぱり俺たちのせいなのかな……。
    早く元に戻ってくれればいいが……)

174: 名無しさん 2012/06/22(金) 02:14:29.46 ID:CjaFqXL80
すると──

女武術家「たのもうっ!」
女友人「こんにちは」
市長「よろしく頼む!」

「こんにちは~!」 「お姉ちゃんいらっしゃい!」 「わ~い!」

市長「いやぁ、ここでたまに稽古するようになってから
   体と心の調子がすこぶるいいよ!」クネッ クネッ

格闘家「ど、どうも……」
   (なんだこの独特な腰の動きは……)

女友人「あら、また道場にいるのですか。本当にお暇なのですね」

友人「暇なんじゃなく、君を待ってたのさ」

女友人「もう、からかわないで!」バシッ!
友人「いでぇっ!」

女武術家「じゃ、今日も稽古を始めよっか!」

格闘家「ああ!」

176: 名無しさん 2012/06/22(金) 02:22:49.98 ID:CjaFqXL80
女武術家「……ところで、いつアタシと本気の勝負をしてくれるのさ」

女武術家「こうやって逃げ続けてれば、うやむやになるとか思ってない?」

格闘家「!」ギクッ

女武術家「ふふん、まあいいか」

女武術家「でも、いつか必ず勝負してもらうからね!」

格闘家「分かってるよ」

格闘家「どちらが勝っても負けても……俺たちはずっと一緒だ!」

女武術家「……もちろん!」



こうしてある小さな町と大きな都市は、不思議な絆で結ばれた。
この後、この町と都市はこれまでにない発展を遂げたという──

                                   ~おわり~