1: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)21:45:58 ID:tFK


―――プロデューサー室


千夜「…………」

P「…………」


千夜「…………」

P「……え、それだけ?」

千夜「何か?」

P「いや、千夜から話振ったんだからもっとこう……雑談的なものが始まるのかと」

千夜「私は年末だなと思ったから年末ですねと言っただけです。お前と会話を望んでいたわけではありません」

P「じゃあ俺は独り言に返事したのか……」

千夜「ふ。滑稽でしたよ」

P「ちくしょう騙された」

引用元: ・千夜「年末ですね」モバP「そうだなぁ」

2: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)21:47:31 ID:tFK
P「あ、お茶ありがとうな。ちょうど一段落ついたところだったから嬉しい」

千夜「別にお前のために淹れたわけではありません」

P「ツンデレ?」

千夜「張り倒すぞ」

P「ごめんて。またちとせに嵌められたのか」

千夜「……ええ。お嬢さまの戯れにも困ったものです……『お茶が飲みたい』と言うのでお淹れしたら――」

P「『気分じゃなくなったから魔法使いさんに渡してきて~♪』」

千夜「今のはお嬢さまのマネですか訴えますよ極刑です」

P「許して! でもそうなんだろ、いつも?」

3: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)21:49:00 ID:tFK
千夜「はぁ……お嬢さまのご命令ですから最初から淹れないわけにもいかず。そのまま飲まれることもありますし……」

P「さっきドアがほんの少し開いて誰かが覗いてたから不思議だったけど、ちとせだったのかな。道理でタイミング良かったわけだ」

千夜「……お嬢さまがご自身で淹れれば良いものを。何故いつも私を介して……」

P「それこそちとせのお戯れってやつなんじゃないか?」

千夜「お前がお嬢さまの何を知っている」ジロッ

P「に、睨むなって……。まぁでも、気にしてくれてたなら後でちとせにもお礼言わないとな」

4: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)21:50:14 ID:tFK
千夜「そうですね。お嬢さまはお前がこのところ慌ただしくしていたのを気にかけていらっしゃいましたから」

P「そうだったのか……なら尚更感謝しなきゃ。年末年始はどうしても忙しくてなぁ、千夜も毎日お疲れさま」

千夜「いえ。アイドル業にはもう慣れましたし、年始番組の収録は既に済みましたから。……と、お前は把握してますね、当然」

P「ああ、もちろん。明日からオフだからな、千夜もちとせも」

千夜「はい、承知しています。……お前は?」

P「ん?」

千夜「お前はどうなんだ、と訊いている。休みはあるのですか」

5: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)21:51:36 ID:tFK
P「あーうん、一応。明日の夕方まで仕事だけど、その後実家に帰る予定だよ。と言っても年明けたらすぐとんぼ返りになるけどさ」

千夜「……実家、ですか。それは良いことですね」

P「……千夜は? ちとせとゆっくり過ごすのかな」

千夜「年末はそうなります。が、年始は……色々とお誘いを受けているので、お嬢さまとは別行動になりそうですが」

P「お、そうなのか! お誘いってアイドルのみんなと?」

千夜「ええ、ありがたいことに。お嬢さまも同様に誘われているようでした」

6: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)21:52:43 ID:tFK
P「そうか……そっかぁ」

千夜「意外に思いますか、お前も」

P「そういうわけじゃないけど……意外と言うよりは嬉しいかな。千夜がみんなと仲良くしてくれて」

千夜「私が一番驚いています。……こんな私を友人だと言ってくれる。私の世界を……否応なしに広げていく存在です」

P「イヤな時もある?」

千夜「……どうでしょう。これまでもこれからも、ちとせお嬢さまと私……2人だけで生きていくのだと思っていたのは確かですが」

7: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)21:53:53 ID:tFK
P「そうだな……それがいつの間にか2人の周りに大勢の仲間が出来た」

千夜「すべてお前のせいだということを忘れるな。お前が悪い」

P「へっへっへ、悪い魔法使いだぞ~!」

千夜「……ばーか。精々寝首をかかれないように震えていろ」

P「えっそこまで恨まれてる?」

千夜「お嬢さまからあろうことかペアグラスを受け取ったこと、私はお前を憎んで憎んで憎み続けますよ……」

P「ばれてる?!」

8: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)21:54:57 ID:tFK
千夜「お前……夜な夜なお嬢さまと通話していたでしょう。窓際で真新しいグラスを傾けながら独りで何を話していらっしゃるのかと思ったら……!」

P「つ、月見に誘われただけだよ! 俺も急でびっくりしたんだ!」

千夜「お嬢さまは『同じ月を見上げながら同じグラスで乾杯なんてロマンチック♪』とおっしゃっていましたが?」

P「千夜の物真似かわいいよな」

千夜「極刑をお望みですか分かりました」グッ

P「待て、待って! その拳を下ろして!」

9: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)21:56:07 ID:tFK
千夜「くっ……お前、お前……!」

P「そ、そんな遅くまで話さなかったから……! というか千夜、あの時いたなら混ざってくればよかったのに」

千夜「……お嬢さまが嬉しそうにお前と会話しているのを、邪魔するわけにはいかないでしょう……。すぐに席を外しました」

P「じ、邪魔なんてことはないだろ……?」

千夜「………………、いいですか。お前は……お嬢さまを変えたのです。具体的に何を、とは私も上手く言えませんが、確かにお前は魔法をかけた」

P「あ、あぁ……。ちとせは俺を魔法使いだと……そう言ってくれるけど」

10: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)21:57:18 ID:tFK
千夜「ずっと……ずっと共に居た私が言うのですから。お前はそのことを、お嬢さまを変えてしまったことを胸に刻め」

P「わ……分かった。いや、分かってる……ちとせと千夜をアイドルの道に誘った時から」

千夜「ならば、いいです。……待て、何故そこに私まで入っている?」

P「え? いや、千夜も随分変わったなぁと思ってるから……多田さんとか速水さんとかと談笑してる姿見てるとそう思うよ」

千夜「お前、いつそういうところを見て……!」

P「そりゃ俺のアイドルだし。いつもちゃんと見てるよ、千夜のこと。これからもずっとずっと、俺の担当アイドルでいてほしい」

千夜「――――!!」

11: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)21:58:08 ID:tFK
P「俺、千夜とちとせのプロデューサーで良かったーって思ってるからな!」

千夜「…………」

P「……千夜?」

千夜「……………………」

P「ちーよー?」

千夜「………………………………、はぁ……」

P「え。ため息?」

千夜「……さて、長居しました。お前、飲み終わった湯呑みは自分で片付けてください」

P「ちょ、なんだったんだ今の長い間は?」

千夜「うるさい。お前が知る必要はありません。ちゃんと見ていると宣うのならそれくらい見透かしてみせろ、ばーか」

P「めちゃくちゃ難題なんだけど!」

12: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)21:58:58 ID:tFK

がちゃっ


ちとせ「――失礼しまーすっ。千夜ちゃん、お迎えに来たよ♪ まだお話し中かな?」


千夜「お嬢さま。いえ、たった今終わりました。もうこいつと話すことなど金輪際ありません」

P「言い方に棘が!」

ちとせ「あは、バッドコミュニケーション? 魔法使いさん、ざーんねん♪」

P「どうしたらグッド取れるか教えてくれちとせ~……!」

千夜「…………」

ちとせ「……ふふ。ううん、貴方は十分頑張ってると思うよ、私っ」

13: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)21:59:50 ID:tFK
P「そ、そうかな……?」

ちとせ「大丈夫、魔法使いさんなら千夜ちゃんを攻略できる!」

P「いやしないけどな?」

千夜「いえされませんが?」

ちとせ「あ、息ピッタリ♪」

千夜「っ」

P「いま舌打ちした!? なぁ千夜!?」

千夜「……お嬢さま、帰りましょう。もう今年はこいつの顔も見たくありません」

P「!?」

14: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)22:00:53 ID:tFK
ちとせ「あはは♪ うん、行こっか。それじゃあ魔法使いさん、良いお年を……それと、行ってらっしゃい。気をつけて帰省してね?」

P「あ、あぁ……2人も良いお年を……行ってきます……」ズーン…

千夜「失礼します」

ちとせ「ばいばい♪」


ぱたん―――









てくてく……ぴたっ


ちとせ「……ちーよちゃん?」

千夜「………………やはり言いすぎたでしょうか」

ちとせ「しょんぼりしてたね♪ 戻る?」

千夜「……、…………」

15: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)22:01:47 ID:tFK
ちとせ「なんて言おうか迷っちゃう? さっきも魔法使いさんに嬉しいこと言われちゃって言葉に詰まっちゃったもんね」

千夜「……タイミングがいいと思いました。お聞きでしたか」

ちとせ「うん、ごめんね。彼と楽しそうに会話してたから、私も嬉しくて」

千夜「いえ……助かりました」

ちとせ「それで、難しそう? なるべく今年中にお話した方がいいと思うな」

千夜「ええ、それは……そうなのですが……。…………」

ちとせ「ん~……じゃあサービスしちゃう。ちょっとだけ時間あげる、今夜までの宿題♪」

16: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)22:02:41 ID:tFK
千夜「宿題……今夜までですか?」

ちとせ「そう♪ そこで千夜ちゃんに問題ですっ」

千夜「え……?」

ちとせ「私はさっき、魔法使いさんとの別れ際になんて言ったでしょう♪」

千夜「……? …………ああ、行ってらっしゃいと。……そうです、何故お嬢さまはあいつが帰省することを知って……?」

ちとせ「あは、正解♪ この間のことだよ、千夜ちゃん。彼とお月見通話してた時……さっきの千夜ちゃんみたく、今後のことを話したの」

17: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)22:04:06 ID:tFK
千夜「そう……でしたか。…………私も、あの時のお嬢さまのような顔をしてたのかな……」

ちとせ「それはいくら吸血姫な私でも透視は出来ないから分かんないなぁ♪」

千夜「ふふ、きっとあいつしか知りませんね。……でも、そうか。そうですね。あいつに告げるべき言葉、分かりました」

ちとせ「うん、さすが優秀な私の僕ちゃん♪ じゃあ戻る?」

千夜「い、今ですか。今は……その」

ちとせ「ダメか~♪ それじゃ、今夜ね。私が雰囲気作ってバトンタッチするから、頑張って。千夜ちゃん♪」

千夜「……うん。ありがとう……ちとせお嬢さま」


―――

――



18: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)22:04:53 ID:tFK



「あ、魔法使いさん? うん、こんばんは♪ ちょっとお話があってね」

「え、ああ! ううん、お茶を淹れてくれたのは千夜ちゃんでしょう? お礼だなんて、こちらこそわざわざありがとう♪」

「うん、それでね。かわいいかわいい僕ちゃんからお言葉があります♪」


(ふ、雰囲気を作るのではなかったのですか……!)

19: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)22:05:47 ID:tFK


「――もしもし。お電話代わりました。白雪です」

「……いえ、怒ってなど。……はい、こちらこそ」

「それで、ですね。言い忘れたことが。お前、実家に帰ると言っていましたね」

「…………そう、私もお嬢さまも、挨拶をするのです。……いいから黙って聞け」

「挨拶です。分かりますか。出かける時。帰ってきた時。必ず言う挨拶」

「お前は独り身だから言わないか……ああ失礼、言いますか。……お前、ニヤニヤしてませんか。本当か?」

「……だから、その」


(千夜ちゃん、がんばれっ)

20: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)22:07:00 ID:tFK

「、…………ふう」




「――行ってらっしゃい、気をつけて。また来年、お前の担当アイドルにその顔を見せてください」

「……うるさい、ばーか。良いお年を」






















「お嬢さま」

「なぁに、千夜ちゃん?」

「来年、一緒に言いましょう。『おかえりなさい』と」

「……うんっ。私も未来(らいねん)が楽しみ♪」



おわり

21: ◆5F5enKB7wjS6 20/12/29(火)22:08:14 ID:tFK
というお話だったのさ
お嬢さまと2人きりの時は幾分か素直だったらいい