1: 名無しさん 2021/03/24(水) 20:16:48.028 ID:Lnk3Xwzm0
夫「行ってきまーす」

妻「行ってらっしゃい」

妻「あ、そうだ。夕飯はどういうのがいい?」

夫「んー、難しいものでいいよ」

妻「うん、分かった」

バタン…

妻(難しいもの、難しいもの……)

妻(そうだ、ステーキにしよう!)

引用元: ・夫「夕飯は難しいものでいいからね」妻「うん、分かった」

4: 名無しさん 2021/03/24(水) 20:20:09.452 ID:Lnk3Xwzm0
猛牛「ブモォォォォォ!!!」

ドドドドドド…

孫「お、おじいちゃん!」

長老「もうダメじゃ……この村はあの人刺し牛≪ブラッディ・バッファロー≫に滅ぼされるんじゃ……」

猛牛「ブモォォォォォォォォ!!!」ドドドドドッ

ガシィッ!

猛牛「!?」

7: 名無しさん 2021/03/24(水) 20:23:14.335 ID:Lnk3Xwzm0
妻「なかなかイキのいい牛ね」

猛牛「ブモッ……!」

孫「片手であの突進を……止めた」

長老「信じられん……!」

妻「むんっ! そうりゃあああああっ!!!」

ブオンッ!

猛牛「ブモォッ!?」

ドザァッ!

孫「投げ飛ばしたァ!」

10: 名無しさん 2021/03/24(水) 20:26:26.336 ID:Lnk3Xwzm0
猛牛「ブモォォォォ……」ヨロッ…

妻「さあ、来なさい。悔いが残らないよう……全力で」

猛牛「ブモォォォォォォォォォォォッ!!!」ドドドドドッ

妻「……」コォォ…

妻「覇ッ!!!」

ドゴォッ!

猛牛「ブモォッ……!」

ズズゥン…

長老「掌底であの巨体を吹き飛ばしおった……!」

12: 名無しさん 2021/03/24(水) 20:29:40.452 ID:Lnk3Xwzm0
妻「あ、お騒がせしました!」ペコッ

孫「え」

長老「いや、あの」

妻「それじゃ失礼します!」ガシッ

ズルズルズル…

孫「……」

孫「あの人……なんなの」

長老「ワシにも分からんよ……」

13: 名無しさん 2021/03/24(水) 20:32:10.950 ID:Lnk3Xwzm0
ジュワァァァァァ…

妻「はい、今夜はステーキよ」

夫「わぁ、おいしそうだ!」

夫「いただきまーす!」モグモグ

夫「うん、ジューシィでうまい! 相当いい牛肉だね、これ!」

妻「ふふっ、苦労したかいがあったわ」

14: 名無しさん 2021/03/24(水) 20:35:10.632 ID:Lnk3Xwzm0
……

夫「じゃ、行ってくるよ」

妻「行ってらっしゃい」

夫「夕飯は難しいものでいいからね」

妻「うん、そうする」

妻(難しいもの、難しいもの……)

妻(マグロのお刺身にでもしようかな)

15: 名無しさん 2021/03/24(水) 20:38:15.141 ID:Lnk3Xwzm0
漁師「なにィ、漁に参加したいだぁ?」

妻「はい、どうかお願いします!」

漁師「いっとくがな姉ちゃん、マグロ漁は女に務まるような甘い仕事じゃないんだぜ!」

妻「一生懸命やりますので……」

漁師「みんな最初はそういうんだよ! だが、すぐにバテて足手まといになりやがる!」

妻「足手まといになったら海に叩き落として下さってもかまいません!」

漁師「そこまでの覚悟があるのなら……いいだろう、船に乗せてやる」

妻「ありがとうございます!」

16: 名無しさん 2021/03/24(水) 20:41:28.969 ID:Lnk3Xwzm0
ザバァァァァァンッ!

漁師「ひでえ波だ!」

若手「うっ、うええっ……!」

漁師「おい、しっかりしろ! 海の男が船酔いなんてだらしねえぞ!」

若手「す、すんません……」

漁師「あの姉ちゃんは、全く平然としてるってのによう……」

妻「大将、また一匹マグロが獲れました!」ビチビチッ

18: 名無しさん 2021/03/24(水) 20:44:10.200 ID:Lnk3Xwzm0
ドン! ドン!

漁師「な、なんだ?」

若手「船になんかぶつかってます!」

ドゴォンッ! ドゴォンッ!

漁師「あ、あれは……」

巨大マグロ「……」ギョロッ

漁師「伝説の巨大マグロ! マジかよォ!」

ドゴォンッ!

漁師「まさか、体当たりして穴をあけて、この船を沈めるつもりか!?」

若手「ひいい、そんなぁぁぁ!」

20: 名無しさん 2021/03/24(水) 20:47:26.883 ID:Lnk3Xwzm0
妻「私に任せて下さい!」バッ

漁師「姉ちゃん!?」

バシャァァァァンッ

漁師「バカ野郎! 海に飛び込みやがった!」

若手「まさか、マグロと戦う気じゃ!?」

漁師「自殺行為だ!」

妻「……」ブクブクブク…

妻(水中戦はあまり得意じゃないけど……やるしかない!)

21: 名無しさん 2021/03/24(水) 20:50:10.257 ID:Lnk3Xwzm0
巨大マグロ「……」ゴォォッ

ドゴンッ!

妻(ぐうっ……! なんて体当たりなの……! ガードしたのに内臓に響く……!)

巨大マグロ「……」グパァァァァァッ

妻(私を食べる気!? だったら――)

妻(その虎口ならぬ“魚口”に飛び込んでやるッ!)バッ

巨大マグロ「……!」

23: 名無しさん 2021/03/24(水) 20:53:07.967 ID:Lnk3Xwzm0
妻(そして、体内から――)

ズドンッ!

巨大マグロ「ゴボアッ!」



ブクブクブクブクブク… ゴボゴボゴボゴボゴボ…

漁師「くそっ、何がどうなったか全然分からねえ!」

若手「あの姉さん、無事なんだろうか!?」

24: 名無しさん 2021/03/24(水) 20:56:18.730 ID:Lnk3Xwzm0
巨大マグロ「……」プカー…

漁師「あっ!」

若手「マグロが浮いた! 姉さんが勝ったんだ!」

妻「やったわァ!」

漁師「すげえ……すげえよ、あんた!」

妻「ところで、お願いなんですけど……」

漁師「なんだい?」

妻「このマグロ……もらっちゃってもいいですか?」

漁師「もちろんいいとも! そいつはあんたの戦利品だァ!」

27: 名無しさん 2021/03/24(水) 20:59:21.236 ID:Lnk3Xwzm0
妻「ジャジャーン!」

夫「おおっ、これは……マグロかい?」

妻「うん、大きいの手に入れたから捌いてお刺身にしてみたの!」

夫「どれどれ……」

夫「醤油をつけて……」チョイッ

パクッ

夫「うん、濃厚! 脂がよくのっててとてもおいしいよ!」

妻「海に飛び込んでよかった!」

29: 名無しさん 2021/03/24(水) 21:02:01.796 ID:Lnk3Xwzm0
……

夫「行ってきまーす」

妻「夕飯はどうする?」

夫「うーん……難しいものでいいよ」

妻「うん、分かった」

妻(今日は暑いし……ひんやりしたかき氷なんてどうだろう?)

30: 名無しさん 2021/03/24(水) 21:05:28.730 ID:Lnk3Xwzm0
ビュオォォォォォ……!

観測隊員A「Oh! ひどいブリザードだな」

観測隊員B「まったくだ……ペンギンさえ寒そうだよ」

観測隊員A「ん、なんだあれは?」

観測隊員B「どうした?」

観測隊員A「あそこに……エプロンをつけたレディがいる」

観測隊員B「ホントだ! ジーザス……俺たちは夢でも見ているのか……!?」

32: 名無しさん 2021/03/24(水) 21:08:35.150 ID:Lnk3Xwzm0
夫「今日は……かき氷か!」

妻「うん、食べてみて」

夫「シロップをかけて……いただきます!」

シャクシャクシャク…

夫「うまい! なんていうか……ペンギンたちの姿が思い浮かぶ味だね」

妻「ちょっとだけもらってきちゃったの」

夫「くぅ~、この頭痛もたまらない!」キーン

33: 名無しさん 2021/03/24(水) 21:10:59.845 ID:Lnk3Xwzm0
……

夫「行ってきまーす」

妻「夕ご飯はどうする?」

夫「家で食べるよ」

妻「どんなのがいい?」

夫「難しいものでいいよ」

妻「うん、分かった」

34: 名無しさん 2021/03/24(水) 21:13:36.097 ID:Lnk3Xwzm0
夫「お、変わった魚の活け造りだね」

妻「うん、深海魚!」

夫「どれぐらい潜ったの?」

妻「数えてないけど……多分8000mぐらいかな?」

夫「逆エベレストってわけか……いただきまーす」モグッ

夫「うん、水圧で身が引き締まってる!」

妻「喜んでもらえて、私の身も引き締まっちゃう!」

35: 名無しさん 2021/03/24(水) 21:17:08.648 ID:Lnk3Xwzm0
……

妻「夕飯どんなのがいい?」

夫「君も大変だろうし、難しいものでいいよ」

妻「うん、分かった」

妻(よし……たまには宇宙に飛んでみるか!)

妻(空中を脚力で駆け上がって……いざ宇宙へ!)

ダダダダダッ!

36: 名無しさん 2021/03/24(水) 21:19:50.267 ID:Lnk3Xwzm0
火星――

妻「すいませーん!」

火星人「な、なんだお前は!?」

妻「地球の者なんですけど……難しい料理を作りたくて来ちゃいました」

火星人「まさか我々を材料にするつもりか?」

妻「いえいえ、ちょっと火星の料理を教えて欲しくて……」

火星人「ふうむ……敵意はなさそうだ。いいだろう、とっておきの火星料理を教えてやろう」

38: 名無しさん 2021/03/24(水) 21:22:40.424 ID:Lnk3Xwzm0
妻「ジャン!」

夫「これは……餃子だね?」

妻「そう、≪火星風水餃子≫!」

夫「火星なのに水なんだね」

夫「いただきます!」モグッ

夫「うん……火星だけにマーズい――なんてことはなくとてもおいしいよ! 燃えるような味だ!」

妻「やったぁ! また一つレパートリーが増えちゃった!」

39: 名無しさん 2021/03/24(水) 21:26:23.063 ID:Lnk3Xwzm0
……

同僚「あー、やべえ! 金使いすぎた! 給料日までどうしよう……」

夫「だったらたまには家に来ないか?」

同僚「え、いいのか?」

夫「ああ、妻も俺以外の人間に腕を振るいたいだろうし」

同僚「ヤッホウ! ありがとな! 持つべき者は既婚の友人だよ!」

40: 名無しさん 2021/03/24(水) 21:29:18.673 ID:Lnk3Xwzm0
夫「というわけで、二人分頼むよ」

同僚「すいません、突然」

妻「いえいえ、すぐ取りかかります。どういうのがいい?」

夫「じゃあ、難しいもので……」

同僚「!」

同僚「ちょ、ちょっと待ってくれ」ボソッ

同僚「今日は俺いるんだし、簡単な料理でいいよ」

41: 名無しさん 2021/03/24(水) 21:32:19.212 ID:Lnk3Xwzm0
夫「だけど……」

同僚「ただでさえ突然客が来たのに、難しい料理を頼んだら奥さん可哀想だろ?」

夫「いや、でも……」

同僚「な、頼むよ。簡単なものって頼んであげてくれ」

夫「分かった……あまり気が進まないけど……」

夫「あのさ」

妻「決まった?」

42: 名無しさん 2021/03/24(水) 21:35:28.645 ID:Lnk3Xwzm0
夫「今日の夕飯は簡単なものでいいよ」

妻「!」

妻「簡単なもの……?」

同僚「ええ、簡単なもので……」

妻「……」

妻「カンタンナモノ……カンタンナモノ……」

妻「カンタンナモノッテ……ナニ?」

同僚「え?」

43: 名無しさん 2021/03/24(水) 21:38:33.047 ID:Lnk3Xwzm0
妻「冷凍食品? だけど冷凍食品の開発には多大な苦労とお金がかかってるし……」

妻「冷ややっこ? いえいえ、お豆腐を作るのはものすごく大変……」

妻「カップ麺? カップ麺が誕生するまでには数多くの試行錯誤が……」

妻「簡単な料理……一体どういうのにすれば……」

妻「あああああああああああああああああああああああああっ!!!」



夫「ほら、かえって考えすぎてこうなっちゃう」

同僚「難しいものっていってあげた方が簡単に済むってわけか……」







― 完 ―