123: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/02(日) 23:46:48.71 ID:MICl8cUDO
まどか「・・・。」シャバダバダッチヘンシン♪ シャバダバダッチヘンシン♪


まどか「・・・。」ヒィ!ヒィ!ヒィ!


まどか「信じてる!私は信じてるから!ウィザード!!」


第四話 『たとえそんな気持ちじゃなくても』


目が覚めたのに、闇の中にいたあの日の感覚を自分は生涯忘れることはないだろう。


その場から逃げることはできない。


目を閉じたら二度とこのまぶたが開く事もないことが分かる。


錆びた鉄の臭いと、油の臭いで脳が掻き回され、たった一つの事にしか思考が巡らなくなってしまう。


何となく、漠然としたイメージだったのに、お気に入りの漫画やアニメで見たようなモノは悲しかったけど、こうなるなんて誰も教えてくれなかった。


「パパ、・・・ママ。」


そんな状態にあった『彼女』が、自らの守護者たる両親を探したことは当然のことだった。
今すぐ抱き締めてほしかった。
そして、こう言ってほしかった。


「大丈夫だ。」と。


それは、当然の事であり。


「ひっ!」


とんでもない間違いでもあった。


「あ、ああああああ・・・!いやああああああ!!」


彼女が見たのは、かつては父であったものと、辛うじて張り付いた衣服で母だと知ることができる程に壊れた塊であった。


胃から何かが込み上げてくる。
熱い塊が食道を通って逆流した。


「いや、いやだ。」


荒い息をつきながら、そんな言葉を漏らした。


「死に、たくない。死にたくないよぉ。」


身体がどんどん冷たくなっていく、感覚がだんだんなくなっていく。
視界が黒ずんでいく。


「願いを叶えてあげようか?」


そこに、白い影が滑り込んできたところで、その夢から巴マミは目覚めた。

引用元: ・クロ「魔法少女?」

124: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/03(月) 00:07:55.57 ID:xJgeVSzDO
マミ「あああああああ!」


まるで、まったく別の物を振り払うように彼女は布団を跳ねとばした。
夢の続きのように荒い息をつく、渇いた喉がはりついているのか、ヒュウヒュウと細い風が通る音がする。


身体を起こして、そのままの体勢から動けない。
足が、腕が震えてしまい、立ち上がれない。
震えを抑えようと、自らで身体を掻き抱くが、どうしても先ほどの夢を思い出すとそうもいかなくなる。


いや、あれはただの夢ではない。


あれは追体験なのだ。


あの夢は、彼女の過去であり、原点であり、罪だ。
どんなに忘れようとしても、どんなに逃れようとしてもついて回る。


それは、彼女が彼女たる証明でもあるのだから。


マミ「やっぱり・・・、あの人があんなこと言うから。」


憎々しげに、彼女は少し前に家の前でほむらという少女と出会った日のことを思い出した。
自らの行為を、信念を否定し、踏み躙るあの言葉の数々をマミは受け入れはしなかった。


しかし、忘れることもできなかった。



125: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/03(月) 17:56:25.60 ID:xJgeVSzDO
まどかやさやかと出会ってからずっと考えていたこと。


そうなったらいいなと思っていた。


次第にそうしたいと願うようになったのだ。





─────マミは、まどかとさやかが魔法少女になることを望んでいた。


しかし、やはり彼女も馬鹿ではない。


分かるのだ。彼女達を戦いに引き込もうなど、自分がどれだけ身勝手なことを考えているかも。


『地獄の道連れ』をただ増やすことの愚かしさを、マミは十分知っていて、それでも苦悩をしているのだった。


マミ「ふぅ、とりあえず顔を洗おうかしら。」


目が覚めてしまったので、今は悩むよりも、生活習慣を優先させることを思い立った。
自分が今、どれだけ酷い顔をしているかを考えながら彼女は洗面所に向かう。


そして洗面所までたどり着いたその時、ふと目の端に何か黒い影が映った。
クロがいるのかと思いそちらに顔を向けると、洗濯籠の中から黒いしっぽがはみ出していた。


マミ「って大変じゃない!クロしっかりしなさい!」


まさか何かの間違いで、大量の洗濯物に押しつぶされているのかと、大慌てでしっぽを掴み引っ張りだすと、黒い猫の生皮がプラプラゆれていた。


マミ「きゃあああ!中身どこにいったよ!?」


慌てふためいてマミは、洗濯籠をひっくり返し、洗濯物をかきわけて、彼女のいう中身を探そうとしていた。


「おい!どーした!?」


聞き覚えのあるその言葉に振り替えると、そこにいたのは


マミ「クロ!・・・よね。」


そこには、メタリックなボディで猫の形を作り上げた姿があった。


クロ「おい、なんかあった・・・わけじゃなさそうだな。」



126: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/03(月) 18:12:12.81 ID:xJgeVSzDO
気が抜けたのか、壁に手をつけてもたれかけながらクロはマミをジトッと睨んでいた。


クロ「朝っぱらから騒がしい奴だな。」


マミ「ご、ごめんなさい。それより、これは?」


自分の手に握った黒猫の生皮をクロに見せる。
そもそも彼はそういうが、朝っぱらから、知り合いの猫の皮らしきものを発見して狼狽えない人間がいないはずはない。


クロ「よく見ろよ。ただのぬいぐるみだ、ぬいぐるみ。」


そう言われて、もう一度その手の中の感触を確かめると、確かに柔らかい布の感触があった。


クロ「そそっかしいな、お前は。ククッ。」


漏れる笑いを隠そうともしないクロに対し、マミは顔を真っ赤にして反論する。


マミ「だ、だってしょうがないじゃない!朝起きたばっかで、寝ぼけていて、だから」


言いおわる前に、目の前で爆笑が起きた。


「ギャーハッハッハ!!間違えねーよ普通はさ!!」


ケラケラと床に突っ伏して笑うクロに、マミは肩を震わせていた。
顔をうつむかせ、拳をギュッと握りしめ────そして




マミ「ハハハハっ!だ、だって仕方ないじゃない。焦っちゃったんだもの!」


彼女もまた、笑顔を弾けさせた。

130: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/03(月) 22:35:05.71 ID:xJgeVSzDO
クロ「それでも、お前!あんなに焦る奴がいるかよ、ヒヒヒ。」


勘違いの恥ずかしさと、目の前の猫の飾り気なしの大笑いにつられる形ではあったが、マミもまた笑った。先刻の夢が、少しだけ薄れるほどには、楽しいという感情が蘇ってきたのだ。


そこからしばらく、一人と一匹は洗面所で笑い合った。









クロ「ふぅー、朝っぱらから笑った笑った。」


マミ「そうね。こんなに笑ったのは久しぶりだったわ。」


その後、いつまでも洗面所にいるわけにはいかなかったので、マミは朝の準備をすませ、今はクロと一緒にトーストをかじっている。


マミ「だって驚いたんだもの。結構チープなドッキリに凄く反応する人の気持ちが分かったわ。」


もう落ち着いたのか、いつもの微笑を浮かべて、マミは紅茶をすすっていた。


クロ「ま、それくらいが調度いいんじゃねぇのか?お前最近かっこつけて、気持ちとかだしてなかったからな。」


マミのカップを傾ける手が止まった。
それを知ってか知らずか、クロはパンを咥えながらさらに続けた。


クロ「あいつらに良いとこ見せて、魔法少女になってほしいってか?意外とガキっぽいとこあんだな。」


クロにしてはなんでもない言葉だった。
彼は、マミがどんな理由で行動にでいるかはまったく知らないのだから。


しかし、それでいながら彼は、マミがどうしたいかだけを知って、世間話として彼女の心の一端に踏み込んでしまった。


それは責めている訳ではない。
しかし、マミにとっては、それを指摘されることは、今の彼女には断罪と同じ意味だった。


なぜなら、彼女自身が、『やましい事』として思い悩んでいるのだから。

132: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/03(月) 23:16:24.31 ID:xJgeVSzDO
マミ「・・・それは、あなたには関係ないことよ。」


ここに第三者がいれば、明らかに空気が変化したことに気付いたかもしれない。そうすれば、多少はクロをたしなめ、マミを諫めるきっかけを作ることができただろう。


しかし


クロ「そうか?もうだいぶ関わっちまったしなー。それに暇つぶしにゃ調度いいし。」


暇つぶしなんかじゃない。そんなんじゃない。


クロ「あの二人なんかいたって大して役にたたねーかもしんねーぞ。オイラが手伝ってやるよ。」


役に立つとかそんなんじゃない。
そんなつもりじゃない。


クロ「そもそも、願いを叶えるだのくだらねーこといってるアレのために、命までかける必要は・・・」


マミ「あなたに何が分かるのよ!!!」


突然の絶叫に、クロは前を見た。
軽く目を見開いてマミの顔を伺う。


そこにあったのは、目に涙をため込み、唇を噛み締めた少女だった。


マミ「誰にも、分からない。」


ダッと、駆け出した彼女は何も言わず乱暴に玄関のドアを開けた。


「いってきます」とは言わなかった。
「いってらっしゃい」とは言えなかった。


クロ「やっちまったか・・・。」


ため息をついてゴロリと横になった。
頭にかつて言われたことがよぎる。


『まったくほんっとにクロちゃんってば乙女心を分かってないんだから!』


『どうしてそうも一番言ってほしい言葉が言えなくて一番言ってほしくない言葉はポンポン出てくるのよ!』


とは、小一時間ナナとケンカした時に言われた言葉だ。

133: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/04(火) 00:02:11.63 ID:QA3r/TNDO
誰かの気持ちなんてものは、分かりようがないことだった。
殺されそうになるほど憎まれても、全てを失う直前になってようやく気付く。


そんなことくらい、とっくに知っているはずだった。


クロ「・・・うまくいかねーよな。」


と、そこで机の上に可愛らしい包みで包まれた弁当箱さしきものが置いてあることにクロは気付いた。


クロ「ったく。」


ふぅと息を漏らして、クロは弁当箱を掴んだ。


やるべき事はもう分かっていた。



─────通学路


まどか「絶対、絶対良くなるよ。フォーゼだってそうだったもん。オーズとかもすぐ慣れたし、三十話くらいまで見ないと評価は難しいよ。」


さやか「まどか?何言ってんの?」


仁美「何かお悩みでもあるのですか?」


世界のどこかから石ノ森電波を受信したまどかに対し、さやかともう一人、薄い緑かかった髪をウェーブさせた、物腰の柔らかそうな少女が心配そうな顔を見せている。


まどか「お願い、私はあんな響鬼の時の争いは見たくないよ。」


ブツブツと呪文のように言葉を続ける彼女に対し、他の二人の少女もどうしたものかと考えあぐねていた。


さやか「あぁ、もう!」


仁美「さやかさん、まどかさんはどうしてしまったのでしょう?」


さやか「よく分からないけどまた仮面ライダーでも見たんでしょ、月曜日は大体こんなものだよ。」


前はずっと泣きながらフィリップがーと言いながら登校していた事があった。
次の月曜日はもの凄く嬉しそうな顔をしていたが。


仁美「まどかさんがここまで心乱される仮面ライダー・・・、私、気になります!!」


さやか「やめなさい。」


まどかを真ん中に置いて、言葉だけでキャイキャイとじゃれ合う二人。
そんな風に彼女達の登校風景は流れていった。

134: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/04(火) 00:41:36.65 ID:QA3r/TNDO
しかし、その日常風景にまじる異端に最初に気付いたのは、仁美であった。


仁美「あら?」


と、首を傾げた後にフフフと微笑む。


さやか「どうしたの?仁美。」


仁美「あれをご覧になってください。」


そっと、彼女が指差す方を見る、そこにいたのは


仁美「お弁当箱を咥えて何処に行くのでしょうか?」


弁当箱を口に咥えてコンクリート塀の上を歩く黒猫であった。


さやか「あーーー!!」


まどか「へ?ってあれ!クロちゃん!?」


驚きの声を上げたさやかと、彼女によりこちら側に引き戻されたまどかが見た先にいたのは、しばらく会っていなかったクロだった。


仁美「お二人とも、お知り合いなのですか?」


仁美の疑問に、少し言葉に詰まるが、なにも全てを説明する必要はないので適当にお茶を濁す程度の説明をすればいいのだ。


さやか「さ、最近よく遊んでいる猫でさ!ね、まどか。」


まどか「うん、お世話になったモゴっ!?」


慌ててさやかはまどかの口を塞いだ。


仁美「お世話、ですか?猫ちゃんに。」


案の定引っ掛かってしまったのか、仁美は人差し指を口元にあて首を傾げている。
可愛らしいが、今はそんな場合ではなかった。


さやか(もう、まどか!どこの世界に猫の世話になる女子中学生がいるのさ!)

まどか(ご、ごめんなさい。)


小声で言い合う二人だが、それはさらに仁美の疑心を深めてしまったようで


仁美「うぅ、ずっとお友達でしたのに、今更隠し事なんて・・・、酷いですよー!」


あっ、と言う暇もなかった。
オヨヨと涙しながら仁美は走りだしてしまった。


137: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/04(火) 12:19:21.63 ID:QA3r/TNDO
クロ「なんだありゃ?」


自分を通り過ぎて走っていく少女を横目で見る、なにやら泣いているように見えたが、そこまで悲壮な雰囲気が出ていた訳ではなかった。
気に掛けるまでもないと判断し、歩みを進めようとした時だった。


まどか「クロちゃーん!」


聞き覚えのある声が近づいてきた。
振り返ってみると、ピンク色をした髪を元気よく揺らしながら少女がこちら走ってくる。


クロ「よぉ、まどかじゃねーか。元気か?」


まどか「うん、クロちゃんはどうだった?」


ボチボチだ、とノラリクラリと返事をするクロに対し柔らかい笑顔をまどかは見せていた。
つい最近まで、魔法少女体験コースについていきマミとはよく会っていたが、クロとはここ数日は出会っていなかった。


懐かしい、とはまた違うが、こんな場所で出会えるとは思わず、嬉しく思っているのだ。


まどか「そうだ、実はね。最近うちで猫を二匹預かってるんだ。会ってみない?」


目を輝かせながら、まどかはクロに尋ねるも、彼としてはそれほど興味はなく。


クロ「オイラが会ってどうなるんだよ。」


まどか「猫ちゃんが何を考えているか教えてほしい!」


とても夢見がちな、ファンシーな望みをぶつけられて、多少面食らいつつもクロはその提案に『ノー』を突き付けた。


クロ「やだよ、めんどくせーし。」


まどか「えー、じゃあ猫の気持ちが分かる道具とかないの?」


クロ「そういうのは青いのに頼れ。」


それかニャウリンガルを買え、とまどかをあしらう。しかし、まどかもまどかでそのようなぞんざいな扱いを受けつつも、クロとの会話を楽しんでいるようだった。

138: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/04(火) 12:55:31.19 ID:QA3r/TNDO
が、そんな様子を面白く思わない者が一人いた。


さやか「あんた、ここで何をしてるのよ。」


キツイ言葉に目をやると、その雰囲気にそぐわぬ厳しい顔を漂わせた少女がこちらを見ていた。


クロ「なにって言われてもなー、宅急便だよ。」


黒猫だけに、とからかうように笑い、傍らの弁当箱をアゴでしゃくった。
因みに、今のクロは多少は人通りを気にしてか四つ足で立っている。


まどか「それ・・・お弁当?」


やはり苦手なこの空気だが、冗談めかしたクロの態度に勇気づけられ、まどかはようやく口を開くことができた。


クロ「まーな。マミのヤツとケンカしたら、怒って学校いっちまったからな。」


その言葉に、軽い好奇心を抱いたのは、まどかであった。
マミというあの大人びた、自分にとっても先輩でもある彼女が『怒り』という感情を見せたということに、興味を覚えたのだ。


しかし、さやかが抱いたのは嫌悪だった。


さやか「ふん、どうせあんたが変なことしたんでしょ?」


クロ「正解。いい勘してるじゃねーか。」


まただ、またこの笑み、人を馬鹿にしているような笑みを顔全体に浮かべて、さやかに向けて右手で親指まで立てている。
腹立たしかった。


さやか「・・・まどか、私、もう行くから。」


顔をそらし、吐き捨てるように呟いて、さやかは学校へ向かう道を走っていった。

142: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/04(火) 20:05:08.90 ID:QA3r/TNDO
まどか「さ、さやかちゃん!」


足早に、まどか達から離れていくさやかに慌てて声をかけるが彼女に振り返る気配はなく、そのまま見えなくなってしまった。


まどか「・・・ごめんね、クロちゃん。」


クロ「なんで、お前が謝ってんだ。」


まどか「だって・・・。」


クロ「バーカ。」


俯いたまどかの肩は震えていた。
前髪が目を覆うようにパサリとかかっている。


クロ「慣れてんだよ。こーいうのは。」


見慣れたボンヤリとした、感慨の無さそうな顔をクロはまどかに見せていた。
しかし、彼女にはその顔がたまらなく辛い。
彼のそんな顔は見たこともないが、涙を流したり、そうでなくても憤慨を剥き出しにするべきじゃないのかとまどかは思っていた。


こんな顔を、彼にはしてほしくない。
まどかは、それを話題を変えることで誤魔化すしかなかった。


まどか「クロちゃんは、そのお弁当どうするの?」


突然変わった話題に、クロはまどかの下手くそな気遣いを感じ、とりあえずそれを頂くことにした。


クロ「ま、アイツの臭いでもって捜し出して渡しゃあいいだろ。」


取り敢えず学校まで案内してくれ、と頼まれたまどかもその提案を快諾し、まどか達は学校へと足を向けて歩きだした。


まどか「ところでクロちゃん。」


クロ「あ?」


まどか「マミさんの匂いってどんな匂いなの?」


その質問はあまりにも不躾過ぎた。
事実まどかは直ぐに失言をさとり顔を真っ赤にして、取り繕う。


まどか「ご、ご、ご、ごめん!なしにして!今のなし!」


そんな様子にニヤニヤしながらクロはまどかを見上げた。
顔はまさに喜悦そのもので。


クロ「そうか、じゃあその前にお前の匂いを教えてやろうか?」


まどか「や、やめてよ~。」


クロ「えーと、まずは」


彼らは、そんな感じで学校に向かって行った。

145: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/04(火) 20:51:48.72 ID:QA3r/TNDO
─────数時間後 見滝原中学


男子生徒A「いや、まじ読んでみろって、王ドロボウJing。」


男子生徒B「あの時代のボンボンってどんな客層狙ってたんだろうな。」


お弁当を家に忘れてきたことに気付いたのはお昼休みのチャイムと共にカバンを開いた時だった。
そういえば、あの時カッとなったままに家を出てきてしまったが、カバンの中に弁当箱を入れた覚えがない。


マミは唇を噛み締めて俯いた。
情けなくなくて仕方がない。


朝はあんなに楽しかったのに、勝手に見透かされたような気分になって逆上してしまった。
さぞや彼も、呆れ果てて、愛想を尽かしたことだろう。


いつだってそうなのだ。
求められたらかえせないくせに、自分はどこか期待している。


今だって、この喧騒の中、自分が俯いている様を見て、気になっているクラスメイトがいるのだ。


例えば、「お弁当忘れちゃった。」


とかなんとか、今まで誰かがしていた事ができれば彼女達だって助けてくれるかもしれない。


今なら間に合うだろうか────今さらだ。


今なら冗談っぽく笑って────今さらだ。


今さら、マミにはどうもできなかった。


そんな勇気は、もう彼女の中にはひとかけらもない。そして、マミはガタンと音をたてて立ち上がり、逃げるように教室から出ていった。


廊下を抜けて、階段を駈け降りて、時々人にぶつかりそうになりながらも、すりぬけていく。


自分は透明人間みたいだと、マミは思った。
誰にも気付かれず、悟られず、このまま消え去ってもなんの問題もない。


(嫌だ。)


誰も声をかけてくれない。


(嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。)


ひとりぼっちは────嫌だ。


「マミ!」


突然、後ろから呼び止められた。

147: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/04(火) 21:37:40.74 ID:QA3r/TNDO
慌てて振り向いた彼女の視線の先にいたのは、キュウべえだった。
白く小さい身体に、柔らかそうな尻尾をシュルンと揺らしながらマミの視界に、はっきりと写っていた。


マミ「キュウべえ・・・。」


襲いくる不安と恐怖から、なんとか逃げ出そうと走り回っていた彼女にとって、その姿はどんなに救いになっただろう。


『あの日』から、朝も夜もずっと一緒にだった。
戦いの時も、孤独の中にいても、その姿を見れば安心できた。
やっと捜し求めていた安息に出会うことができマミは崩れ落ちそうになるほどの安堵を覚えた。


QB「どうしたんだい?可哀相に、何か怖いことでもあったのかな。」


可愛らしい声でマミのことを案ずるキュウべえ。
彼が心配してくれている、ただそれだけでマミは満足だった。


マミ「うぅん、なんでもないわ。ありがとう、少し落ち着いたから。」


いつもの『自分』を、取り繕った彼女は一つ小さく深呼吸をして、仕切りなおすように言葉を続ける。


マミ「購買でパンでも買ってくるわ、キュウべえも食べましょう。そうね・・・、クロにも後で謝らなきゃ。」


QB「その、クロのことなんだけどね。」


マミ「クロがどうかしたの?」

148: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/04(火) 21:54:48.35 ID:QA3r/TNDO
何か、彼から感じる不穏な空気を感じて、マミは真剣な顔付きになる。


QB「あれから、ボクも考えてみたのだけど、彼の存在はおかしいと思うんだ。」


マミ「え?」


ポカンと、虚を突かれたように、唖然とした様子だったが、構わずキュウべえは疑問と、疑念をあげつらった。


QB「まず、彼は異世界から来たというけれど、そもそもその話が真実かはまだ定かではない。しかも、彼自身の目的だって、彼は話そうともしない。」


最初に、まどかやさやかと出会った時、彼は使い魔を退けるほどの戦闘力を発揮したという。
それほどの、存在がマミの魔女退治に参加することもなく、ふらついている。
キュウべえの指摘はこうだった。


そして、更に


QB「彼はサイボーグだと言うけどね、殆ど機械の身体のような彼が、例えどんなオーバーテクノロジーの力でも、あそこまで完全な心を宿すのだろうか?」


その言葉は、ゆっくりと、崩し落すようにマミの心を揺らしはじめた。


マミ「それ、ってどういう、こと?」


QB「彼は、自分が感情を持っているように偽って、ボク達に近付こうとしているのかもしれない。最近現れた暁美ほむらという魔法少女、彼女と何らかの関係がある可能性もあるよ。」


そのキュウべえの言葉の半分は、彼女の耳には届いても、頭には入ってこなかった。

150: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/04(火) 22:11:22.86 ID:QA3r/TNDO
(クロに・・・心がない?)


もし、そうなら。


あの日ゲームセンターに連れていってくれた事は?
あの日の証たるネックレスはまだ首にかかっている。


あれが、嘘?


一緒にご飯を食べたり、顎を撫でようとして怒鳴られたり、今朝にやっと二人して笑うことができたのに





あれも、嘘?


あの乱暴な口調も、たまに見せる不器用な優しさも、少しのお節介も、あれが全て、彼に組み込まれたプログラムだというのか。


────自分達を騙そうと、悪意をもって連れてこられた


QB「人形、なのかもしれない。」


マミ「にん、ぎょう?」


ボンヤリとした口調でマミは呟いた。
まるで、夢心地のようで、もし、そうならきっとそれは、悪夢だった。


QB「彼がこの町の平穏を乱す存在ならば、分かるよね?マミ。」


光のない瞳で、彼女はじっと自分の手のひらを見ていた。

159: クロ「レスの柄がどんどん悪くなってねーか?」 2012/09/05(水) 18:59:27.83 ID:DzkuXeuDO
朝の間は、まどかと正門で別れた後、学校の周りをふらついたり、木陰で眠りながら時間を潰した。


そうこうしているうちに昼のチャイムが鳴ったので、そろそろマミを探すために、クロはこっそりと学校の敷地内に侵入した。


が、そこは近未来都市の弊害──クロにとっては──というべきか、元の世界の学校とは違って整備が行き届きすぎている。
真っ正面から入っても、いざ姿を見られてしまえば追い掛け回されるのは眼に見えている。
学校に入り込んだ犬猫の末路なんてそんなものだ。


人通りの少ない場所を慎重に選んだ。
その辺のノウハウは幼少時代で学んだ人間から食料を拝借する方法を応用している。


勿論、マミを探すために校舎内に入り込むとなると他の手段を模索する必要がある。
人間の変装をするなんて児童書のような事はしないが。


クロ「お?」


風が吹いたその時、知った匂いを運んできた。
それは、まぎれもなく探し人の匂いそのものである。


クロ「外にいんのか。」


そいつは都合がいいとクロは、弁当箱をくわえながらタッと駆け出した。
こんなところで捕まるのも馬鹿らしいので、早目に仕事を済まそうと思ったのだ。


そして、校舎の裏に出たところで、その背中を見つけた。


人通りもないような、少し薄暗い場所に彼女は立っていた。


クロ(こんなとこで何してんだか。)


そして、弁当箱をそっと地面に置いた。


クロ「おい、マミ。忘れもんだぞ。」

160: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/05(水) 20:56:49.88 ID:DzkuXeuDO
クロ「喧嘩した後に忘れもんしてんじゃねーよ。ダセーぞ?」


マミ「・・・・・。」


クロ「・・・何黙ってんだよ?」


黙りこくったまま、振り返りもしない彼女に、多少苛立ちと、そして、焦りを覚える。
どうして彼女があれ程、怒りをあらわにしたのかは分からないが、これは相当怒っているようだと、クロは合点した。


─────が


マミ「あああああ!!」


事態は更に悪化していたのだと、マミから向けられた銃口を見て、クロ初めて気が付いた。


────見滝原中学 校舎内


まどか「ひゃっ?!」


さやか「なんだろうね、今の。すっごい大きな音がしたけど・・・。」


仁美「どこかで、工事でもしているのでしょうか?」


突然、どこかで大きな破裂音が聞えた。
一瞬だけ、クラスが騒めくも直ぐに元に戻る。


嫌な予感がして、まどかは窓の外を見た。


空は、全てが遠く感じるくらい青かった。


────校舎裏


一発目は、右目の上あたりに着弾した。
金属同士が激しくぶつかりあう音と共に、文字どおり目に火花が散る。


至近距離でまともに銃撃を食らったためか、身体が激しくのけぞる。
その際に、またもやマミが銃を構えている姿が目に入った。


敢えて衝撃に逆らうことはやめたクロはそのまま地面を転がりマミから離れる。しかし、二発、三発、とまだ弾丸は身体をかすっていった。



163: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/05(水) 21:15:38.39 ID:DzkuXeuDO
マミから目を離さずに、なんとか6メートル程、距離を保つ。


クロ「てめぇ、何考えてやがる。」


唸るようにマミを問い掛けるが、彼女は震わせてクロを睨んでいた。
クロはゆっくりと、胸の武器庫から剣を抜きさる。


クロ(!?)


嫌な気配を感じたのは、背後からであった。
慌てて振り返れば、そこにあったのは一丁のマスケット銃、そして同然それはクロに向けて火を吹いた。


クロ「くそっ!」


その場から、真横に飛ぶ。


躱せたかどうかは一切気にしない。


気にすることもできない。


次の瞬間には、マミが此方に銃口を向ける姿を確認できた。
二丁拳銃、躱せない、ならば、躱さない!


長い剣に、その身を隠すように構えると、凄まじい音が連続して響き、火花が飛び散る。


マミ「私は正義の味方じゃなきゃいけない、魔法少女じゃなきゃいけない、強くなきゃいけない、この町を守らなきゃいけない。」


ブツブツと自分に言い聞かせるような言葉がマミから漏れている。
それは、許容範囲を超えたコップから水が溢れだしてしまっているような、そんな様を連想させた。


クロ「はぁ?だからなんだってんだよ。」


マミ「そうじゃなきゃダメなのよ・・・、パパとママを死なせちゃったんだから・・・、私はそうじゃなきゃダメなんだ!!」


絶叫と共に、引き金は弾かれた。

165: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/05(水) 21:43:49.86 ID:DzkuXeuDO
クロ「るっせえんだよ!!!!」


その銃声をかき消すような一喝を放ちながら、クロは剣を振り回して弾丸を弾く。
そして、そのまま回し蹴りでマミの腕を全力で蹴り跳ばした。


銃は弾き跳ばされ、マミは丸腰になった。


クロ「チェックメイトだ。」


剣を、マミの首筋に当てがい、初めてクロは彼女の今の顔を見ることかできた。


彼女の両頬には、涙が溢れていた。


クロ「お前・・・。」


戸惑いは、躊躇にかわり、油断へと変わった。
突然放たれたリボンに、クロはグルグル巻きにされ地面に転がる。


マミ「私は、魔法少女。」


此方へと、マミは歩みを進める。


マミ「ためらうもんか。」


両手を前に構えると、彼女の腕は光に包まれ、次の瞬間には巨大なマスケット銃が顕在していた。


クロ「お前が『魔法少女だから』ねぇ、随分な理由で殺されるもんだな、オイラも。」


が、銃口を眼前に向けられたクロは、退屈そうな顔でマミに語り掛けた。


クロ「『随分とつまんねー理由で銃を構えるんだな、お前は。』」


どこかで聴いたような言葉に、マミは荒れる感情のままに引き金を引こうとした───その時だった。


チリンと音がして、マミの首からネックレスが落ちた。
戦いの途中で、金属が痛み千切れてしまったのだろう。


その音で、マミは俯く。


マミ「・・・嘘つき。」


マミ「本当は心なんてないんでしょ、私なんてどうでもいいのに、自分の目的を果たすために近付いてきたんでしょ。」


クロ「マミ、お前・・・。」


マミ「馬鹿よね・・・機械に心なんてあるわけないのに。」


『あるよ!!』

166: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/05(水) 21:57:25.79 ID:DzkuXeuDO
ぶつけられる言葉とマミから漏れる嗚咽だけの世界の中、何故か、その言葉を思い出した。


『前にも言ったでしょ!アタイ、クロちゃんが死にそうになった時、すんごく不安で心が痛くて死んじゃいそうだったもん。だからあるんだよ、アタイ達にも心が。』


それはいつだったか、聴いてみた事があった。
突然機械の身体になった自分がほんの少しだけ、気になって彼女に聴いた時、彼女は胸を張ってそう答えた。


だから


マミ「この胸の痛みなんて、分からないでしょ。」


クロ「お前の痛みなんて知るわけがねーだろ。」


彼もまた、真っ直ぐに答えられた。


クロ「でもオイラにも、オイラ達にだって痛みくらいあるぜ?」


その言葉に、マミは唇を噛んだ。
そして、銃は現れた時と同じく光に包まれて霧散した。
そして、彼女は踵を返して歩いていく。


マミ「この街からいなくなって。今度会ったら容赦はしないわ。」


クロ「おい、マミ!」


マミ「お願い・・・!」


必死で涙を堪えたような顔で振り向いたと思ったら、彼女は走りだしてしまった。


クロ「このリボン・・・、ほどいてけよ。」


残されたクロは、そう呟いた。

169: CM 2012/09/05(水) 22:59:02.46 ID:DzkuXeuDO
さやか「ほんと、あんたみたいな奴が主人公のアニメを見てみたいね。子供なんか見れたものじゃないでしょ。」


クロ「はっ、冗談言うなよ。お前みたいな奴が出てくるアニメなんざ劇場版とか夢のまた夢だろ。」


さやか「何言ってんの?女子中学生が出るのよ?時かけばりの爽やかな感動を与えるわよ。」


クロ「それを言ったらオイラなんか猫だぜ?そりゃあもう狼こどものあめとゆ○くらいのホットなストーリー展開だろ。」


まどか「寝言は寝て言えばいいんじゃないかなって・・・。」


魔法少女まどかマギカ!劇場版公開間近!!

172: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/06(木) 21:41:05.66 ID:fVSa5AKDO

さやか「初恋ロボはいやだぁ!!」


まどか「どうしたの、さやかちゃん!?」


時は流れ、今は放課後。


昼間には学校の近くで、何か騒ぎが起きたようだったが、生徒も先生もさして問題にするような事はなかった。
だから、というような理由ではないが、自分も気にすることはしなかったのだ。


さやか「いや、なんでもない・・・、なんか悪寒が走ってさ。」


まどか「気分悪いの?」


青ざめた顔をして震えているさやかに、心配してまどかは声をかける。


さやか「大丈夫、大丈夫。それに一応病院には行くからね。」


イタズラっぽい顔で笑う彼女の頬は隠しようがなく赤らんでおり、事情を知るまどかも思わず微笑ましくなった。


まどか「うん、じゃあ、今日は私一人でマミさんに着いていくよ。」


友の背中を押すことが、まどかは嬉しいと共に、なんだかこそばゆい気もする。


さやか「ごめん、勝手な事情で・・・。マミさんにはよろしく伝えといて。」


じゃっ、と軽く腕を挙げると元気よくさやかは走りだした。
すると、こちらを振り返り足踏みしながら彼女は大声でもう一度まどかに呼び掛けた。


さやか「変なドジしてマミさんに迷惑かけるんじゃないぞー!!」


まどか「もぅっ!そんなことしないもん!!」


憤慨してやり返すと、アハハと笑いながらさやかは、とうとう姿が見えなくなるまで走っていった。


それを見たまどかは、もう一度微笑むのだった。

173: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/06(木) 22:07:21.73 ID:fVSa5AKDO
クロ「あー!んだよこれ切れねー!!」


身体に巻き付いたリボンは、きつく自分を縛り上げておりちっとやそっとじゃ緩みそうもなかった。
もがいてもがいて、リボンを地面に擦らせてみたものの、その行為が報われる気はさらさらない。


しかし、それでも、諦めることはできなかった。


クロ「ああああああ!!」


苛立つ、ただ足掻く


クロ「くっそおおお!!」


そして───ついに


クロ「てか、こんだけ叫んでんだから誰か助けにこいよ!!」


他力本願に走った。


「無駄よ、それは特殊な力が込められているから、物理攻撃では切れ目をいれることさえできない。」


────と、どこか聞き覚えのあるような声が響いた。
冷たく、感情を殺しきった、全てを突き放すような、そんな声であった。


クロ「今度はなんだよ。」


慌てて、なんとか身体を起こすも、足まで縛られているため直ぐに倒れてしまう。
目視では、どこにいるかは皆目見当も付かない。


「私は巴マミとは同業者。」


同業、ということは魔法少女という事になる。
そんなのが、今ここに何の用かは知らないが都合はいい、なんとかこの窮地を脱したかった。


クロ「じゃあ、見りゃ分かるだろ?この様だ。早く縄をほどいてくれ。」


「何故?」


クロ「何故って・・・。」


巴マミに会うためだ、とそれだけの事しか考えていなかったため。
クロは答えに詰まった。


クロ「どうでもいいだろうが!お前には関係ねー。」


因みに、謝るという選択肢だけは端からないことをクロに変わって明記しておこう。


「・・・。」


声は沈黙したが、気配はまだすぐ近くに『彼女』がいることを告げていた。

174: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/06(木) 22:27:18.64 ID:fVSa5AKDO
「あなたは、魔法少女になるためには願いが必要なことを知っているかしら?」


クロ「あぁ?あのキュウ太郎だかキュウちゃんだかが言ってたことだろ。それがなんだよ。」


その話は一度聞いている、今はそれどこではない。
とにかくマミに会って、なんかしなければ気が済まないのだ。
こいつに構っている暇などない。


「彼女の願いは、『生きる』事だった。」


リボンを切ろうともがいていたクロの動きが止まった。


「彼女がまだ家族と一緒に暮らしていた時の話よ。父親と母親、そして巴マミの三人でドライブをした帰りのこと───」


彼らには、非など存在しなかった。
非があるとするならば、それは反対車線から飛び込んできたトラックの方であるべきだ。


しかし、非がどこにあるかという話にはなんの意味もなく、起きてしまった悲劇は、全ての人間に平等な理不尽を撒き散らした。


「巴マミの、父親と母親は───即死だったそうよ。」


クロはその話を聞いていた。


ただ、黙って聞いていた。


「その時に現れたのが、あいつ。」


───キュウべえ。


魔法少女になるのなら、願いを叶えよう。
彼は、恐らく、彼女にそう提案した。


父親の血と、母親の血、そして、自分の身体からの溢れている血にまみれ。


身体の痛みと、心の傷みと、恐らくはもう動かない両親への哀しみと、暗闇。


その時の彼女の、恐怖など誰が代弁できようか。


その時の彼女の、不安など誰が代弁できようか。






彼女はその時、ひとりぼっちになってしまったのだから。

175: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/06(木) 23:10:08.76 ID:fVSa5AKDO
「そして、彼女は願った。」

生きていたい、と。


父の骸と、母の骸、二つの死に挟まれた彼女は、自らの渇望のままに望んだ。
死にたくない、生きていたい、父と母の事など度外視した自分勝手で独りよがりな願い。


しかし、それを誰がせめようか。
生き死にが、常に自分の隣にあった世界で生きていたクロにとっては、その願いは当然のことに思えた。


そして────


『うるせぇ!この腰抜け野郎!!』


『この借りはいずれ返す。』


────転がる目


────辺り一面に広がる血の池




「そして彼女は、家族は見殺しにした自分を今日まで責め続けている。」


あれだけの事を引き起こしておきながらノウノウと生きている事をただただ苦悩するしかなかった自分と被ってしまった。





─────病院前 駐輪場


さやか「ふんふふーん。」


ご機嫌に鼻歌をふかしながらさやかは病院までたどり着いた。
目的もはっきりしているし、カバンの中には選りすぐったCDも忘れずにいれてある。
自分で言っていながら、まどかのような凡ミスを犯すような事はしない。


さやか「ふふふん、ってあれ?」



駐輪場に何気なく置かれた宝石。
それに気付いたのは奇跡的ではあった。


QB「まずいね。」


さやか「う、うわ!ってあんたねぇ!ビックリさせないでよ。」


突然現れたキュウべえに抗議するも、それを遮るような形で彼は言った。


QB「・・・『羽化』が近い。」

178: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/07(金) 11:57:37.08 ID:PQlt3vyDO
マミ「・・・。」


彼女は、ただ立ち尽くしていた。
感情の発露もなく、声を発することもなく。


涙を流すこともなく。


今、無理に笑えと言われれば、彼女はその通りにできる自信があった。
例えば、今ここにいる、このどうしようもない自分を笑さえすればそれで良かった。


でも、もう、涙を流すことに彼女は疲れていた。


マミ「?」


と、心の騒めきを打ち消すように屋上のドアが力一杯に開かれた。


まどか「マミさん!やっと見つけた!!」


マミ「まどか・・・さん?」


どうしたの?と聞く前に彼女はマミの肩にすがりついた。
突然の事態に対応が遅れ、狼狽えたマミだったが、そんな事にも気付かない程、まどかも焦燥している。


さやか「さっき、さやかちゃんから電話が来て!キュウべえと一緒にいるけど、大変な事になるって!!」


マミ「落ち着いて!」


まどかの両肩を、マミはおもいっきり両手で掴む。
はっ、とした顔で思い出したように大きく息をつく。


マミ「まどかさん、さやかさんとキュウべえに何があったの?」


まどかは唾を飲み込み、マミの目を見た。


まどか「病院に、もうすぐ魔女が誕生しそうだって、さやかちゃんが。」


その言葉を聞いたマミは静かに息を吸う。



────行くの?


行かなきゃ。


────できるの?


やらなきゃ。


そして、彼女は息を吐いた。


マミ「行きましょう。まどかさん。」



184: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/07(金) 19:00:50.74 ID:PQlt3vyDO
クロ「ちっくしょうが!」


必死になってリボンを振りほどこうとしているその様は、まるで苦しみにのた打ち回っているようにさえ見えた。


話を聞かせてから、彼は30分以上はそうしている。
見ていて胸が痛くなる程に、それは痛々しかった。


『彼女』はただその姿を目に焼き付ける。


「あなたが行ったところで、彼女は耳を貸すのかしら。」


その問いにクロは答えるつもりも暇もないと、歯を食い縛りもがく。


「喧嘩をして、あんな酷いことも言われて、それでも何故あなたは彼女を見捨てないの?」


もし、クロが落ち着いていたら、その時、『彼女』の口調に軽い憤慨が滲み出ていることに気付けたかもしれなかった。
しかし、相も変わらず、クロはそんなことに構ってはいられなかった。


それでも、その問いだけはきちんと聞こえていたようで


クロ「アイツが何を言ってほしいだとか、家族がどーだとかオイラには知ったことじゃねーよ。」


彼は、口を開く。


クロ「ただ、一宿一飯の恩義ってヤツか。」


クロが視線をそらした先には、マミに渡すはずだった弁当箱が空になって転がっている。


クロ「うまかったって、言いに行くだけだ。」


めんどくせーけどな、とふてぶてしい顔をするクロに、『彼女』は───


「変わらないわね。あなたは。」


呆れたような言葉をもらした。


クロ「は?お前、どーいうこと」


「説明している暇はないわ。」


クロの言葉を遮るように、『彼女』は言葉をつむいだ。


「このまま行けば────巴マミは、死ぬ。」


クロ「なんだと?」


「場所は、見滝原総合病院。彼女はそこで、魔女に襲われて死ぬ。」



185: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/07(金) 19:39:08.96 ID:PQlt3vyDO
一瞬の静寂と共に、クロの身体に巻きついついた戒めは解かれた。
誰が、は考えずとも分かったが、何で、かは考えても分かりそうになく。


また、考えるつもりなどなく、クロは走りだした。
が、すぐに彼の前に、影が立ちふさがる。


クロ「そこをどけ!!」


「襲われたならまだしも、魔法少女がいなくては結界に侵入することはできない。」


激情のままに戦闘態勢に入ろうとするクロに、『彼女』はそう告げた。


クロ「ならどーしろってんだ!?」


詰め寄るクロに、彼女は感情を込めず言った。


「私は、暁美ほむら。魔法少女よ。────力を貸すわ。」



────マミ・まどかside


そんなやり取りがあったとはつゆしらず、彼女達は既に魔女の結界の中に突入してしまっていた。
まどかは、よくさやかに着いて病院に行っていたし、この街の道もよく知っていた。
近道を通ることなんて、お茶のこさいさいだったのである。


マミ「もう結界まで・・・、まだ魔女は誕生していないにしても、急がないといけないわね。」


ほのかに暗い世界の中を、魔法少女に姿を変えたマミと、制服姿のまどかは二人で歩いていた。
しかし、先ほどから妙にマミが足早に歩いているので、まどかは彼女の後ろの方を歩いている。


気を抜けば、二人の距離はかなりあいてしまうような気がして、まどかは必死で、競歩をしているくらいの気持ちで歩く。


まどか「さやかちゃん、大丈夫ですよね?」


心配事が、あまりにも多すぎて、まどかはマミに話しかけた。
それは、この沈黙に対するやりきれなさも大いに含まれての事だったが。



186: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/07(金) 20:33:12.03 ID:PQlt3vyDO
マミ「大丈夫よ。私が必ず、やりとげるから。」


その言葉に、まどかは少しの安堵を覚える。
その背中からは、その表情をうかがい知ることはできないが、いつもと変わらぬその姿にまどかはホッと息をついた。





「あ?」


安心しすぎたのか、どうなのか、この緊張感にはまったくそぐわない空腹の象徴。
つまりお腹が鳴る、という失態を犯してしまったのだ。


まどか「や、や、や、違うんです!これはその、今日は急だったからご飯を食べてなくて!だから、その、なんというか。」


そんな弁明をまどかは慌てて繰り返していると、やがて、マミの背中が震えていることに気付いた。
笑っているのだ。


まどか「その・・・、面目ないです。」


顔を真っ赤にして、まどかは俯いた。


マミ「ううん、ありがとう。」


すると、マミの風を切るようなスピードの早足が少し緩やかになった。
もちろん、急いでいないことにはならないと思うが。


マミ「さやかさんからは、その後連絡はあったかしら?」


まどか「はい、まだ大丈夫らしいけど、急いでほしいそうです。」


窮地に、役に立つとも分からないキュウべえと二人きりで待たなければならないのは、大層神経をすり減らすことだろう。
有事の際には、彼女達には戦う術はない。


もし、何かできることが一つだけあるならば


────契約、という手段だけが残される。


もし、そんな事態になれば、さやかはどんな選択をするのだろうか。
彼女は、自分なんかよりも人一倍、マミに対する憧れを持ってる、更に、彼女には戦うに値する願いがあることもまどかは知っている。



187: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/07(金) 21:31:00.09 ID:PQlt3vyDO
ならば、今目の前にいる、マミ自身の願いとはなんだったのだろうかと、まどかは気になり、聞いてみたくもなった。
しかし、その『願い』というのは、その人のとても大切なものような気がして、直接聞くことはためらわれた。


でも


まどか「マミさん!」


これだけは聞きたかった。


まどか「マミさんは、どうして戦えるんですか?」


少し、踏み込みすぎたかもしれないが、まどかにとってはあくまでもギリギリのラインをついたつもりであった。


願いは一度叶ってしまったら、お終いだ。
重要なのは、そこから戦い続けられるかどうかなのではないかとまどかは思う。


まどか「ごめんなさい、急に変なこと聞いちゃって。」


だからこそ聞いてみたかった。
何故、マミがそこまで戦うことができるのかと。


まどか「私って、あんまり自分で誇れるようなことなんてなくて。だから、ただ漠然と人の役に立てたらいいなって思ってたんです。」


力もなく、特別な目的もない。
ただひたすらに、普通の日々を送ってきた自分に、突然、『何かできるかもしれない』という可能性が飛び込んできた。


しかし、それでも自分は答えを出すことに踏ん切りがつかなかった。
命を懸けた願いと、命を懸けて戦うこと、その意味の重さを自分は理解できていないと思ったからだ。


しかし


まどか「マミさんに守ってもらったりしながら、魔法少女体験だって経験するうちに、自分は何をやっているんだろうって思っちゃったんです。」


例えば、さやかは戦うということがどういうことなのかを考える際は、幾分か前向きな考えでもって悩んでいた。


しかし、自分はどうだったのだろうか?

188: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/07(金) 21:48:11.79 ID:PQlt3vyDO
戦っているマミと、悩むさやか


そんな二人をただ見ているだけの自分



まどか「それが、嫌になって父に相談してみたんです。」


ある、家に帰りついた日のこと。最近、飼い始めた二匹の猫を、父親は庭でじゃれ尽かせていた。
その時に、ただなんとなく、誤魔化しながら聴いてみたのだ。


今、自分の近くで頑張っている人がいること。


その人の側にいることしかできない自分が嫌になっていること。


まどか「そしたら、こう言ってました。」


『見ていることしかできないなら、見届けてあげなさい。』


最初、その言葉にはなんの意味も見出だせなかった。
解決策でも、なんでもない。いつもと、変わらないじゃないかと。


まどか「でも、そういうことじゃなくて。」


ただ、コツコツと踵を鳴らしていたマミが足を止めた。
まどかは少し、面食らうも、マミがこちらに耳を傾けていることが分かり、話を続ける。


まどか「魔法少女になるだとかの前に、私がマミさんのために何ができるんだろうって、そう考えれば、父の話が理解できたんです。」


見届ける、それは、側にいるということで


まどか「私は、魔法少女になろうとか、たとえそんな気持じゃなくても、マミさんの側にいたいんです。」


友達としての、意思表示であった。
そして、その言葉に、マミは目を見開いた。



189: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/07(金) 22:12:22.54 ID:PQlt3vyDO
彼女の日常は戦いと隣あわせであり、常に孤独の中にあった。


しかし、その時の彼女は、ある種それを罰だと考えていた。
父と母を見殺しにして、自分一人だけ助かった自分。


ならば、人を救おう。


死に瀕した他人を救い、魔女と戦い、孤独の中で死んでいこう。


そこまで、考えた。
しかし、彼女は未だ中学生である。
大人びた身体と、その態度に隠されてしまいがちだが、彼女は子供なのだ。


そんな異常な世界の中、耐えられずはずがなかった。


孤独と、生まれてしまった責任に。


故に、彼女は、共に戦う仲間を望んでしまった。
魔法少女体験も、もしかしたら、彼女達が自分と同じ道を辿ってくれるのではないかという打算によるもの。


それしか、ないと思っていたから。


自分が、誰かを引き寄せるなんてそれくらいでしか、できるはずがないと思っていたから。


しかし、今、自分の隣にいる少女は、自分のそんな考えをいともたやすく拭いさった。
こんな自分を、友達だと呼んだ。


まどか「マミさん?どうかしました?」


流石に、黙りすぎたか、まどかが心配そうに話かけてくる。
慌てて取り繕った。


マミ「ありがとう、早く片付けて、一緒にご飯を食べましょう。私も、お昼から何も食べてないもの。」


その言葉に、まどかは眉をひそめた。


まどか「あれ?クロちゃんがマミさんにお弁当を届けに行ったと思うんですけど、会いませんでしたか?」


その言葉に、マミはもう一度凍り付いた。



190: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/07(金) 22:34:28.05 ID:PQlt3vyDO
マミ「おべん、とう?」


まどか「はい、朝に、その、ケンカをした後に忘れていったから届けに来たって、クロちゃんが・・・。」


会うにはあったが、お弁当は受け取っていなかった。
キュウべえから、彼が『目的は分からないが』こちらに向かっていると聞いて、実際に会って話かけられていた時も、頭の中に飛来する思いで、あんまり彼が何を言っているのか分からなかったから。


マミ「クロが、じゃあ、私・・・、なんてことを。」


胸に走った痛みに、マミは下唇を強く噛んだ。


機械が、心がない存在が・・・、そんな優しさを見せてくれる訳がなかった。
自分は、とんでもない勘違いから、彼を傷付ける言葉をぶつけてしまったのだ。


まどか「マミさん・・・。」


全てを理解できた訳ではないが、なんとなく事情を察することはできた。


まどか「また、ケンカしちゃったんですか?」


力なく、マミは頷いた。


まどか「なら、ご飯は皆で食べましょう。その時に、ちゃんと謝ればいいじゃないですか。」


軽い調子で言う、しかし、まどかにはクロが許してくれるであろうことも分かっていた。それは、多少の嫌がらせは受けるかもしれないが。


だって


まどか「クロちゃんだって、マミさんの友達じゃないですか。」


────見滝原 路上


クロ「?」


ほむら「どうかしたかしら?」


クロ「いや、なんか誰かオイラに関して恥ずかしいことを言われた気がする。」


彼らは、バイクで移動していた。
法定速度など、最初から存在していないと言わんばかりの猛スピードで道を猛進している。


ほむら「このバイク、勝手に改造して良かったのかしら。」


クロ「いーだろ、違法駐車だから。次はどっちだ。」


右よ、と道案内をするほむら、病院まではもう少しだ。
また、スピードが上がる。

191: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/07(金) 23:01:20.24 ID:PQlt3vyDO
ほむら「さっきから飛ばしすぎじゃないかしら?」


クロ「は?聞こえねーぞ。」


このバイクは一応二人乗りに改造されているが、クロが乗りやすいようにサイズはいじっており、ほむらは少しバランスが取りづらいのだ。


ほむら「だから!ちょっと怖いから!スピードを緩めて、キャアっ!」


クロ「ファイヤー!!」


悲鳴を上げるほむらに、楽しそうなクロ。
そんな彼らではあったが、着実に目的地までたどり着きつつあった。



─────結界内


マミ「着いた、ここが結界の中心・・・。」


ひたすら歩いていく内に、広い空間に出た。
見上げたら、通常の体育館の天井よりも高い。
広さもそれなりにある。


そして、その部屋の中心に据えられている宝石は黒く淀み、激しい邪気を撒き散らしている。
見ているだけで、吐き気を催してしまいそうだ。


さやか「マミさん!まどか!良かった、来てくれて!」


どこに隠れていたのか、さやかが走ってくる、その顔は安堵の表情で塗り固められているが、多少、強ばりを見せている。
自分達が来るまでどれだけの恐怖に駆られていたのだろうかと、まどかは胸を痛めた。


マミ「もう大丈夫よ、さやかさん。」


さやか「いやぁ、本当に間に合って良かった。」


安堵のままに、さやかがそんな言葉を発した、その時、さやかの胸に抱かれたままのキュウべえが、口を開いた。


QB「いや、残念ながら間に合いはしなかったようだ。」


暗い闇が、弾けた。


慌てて、振り向いたそこには、すでに誕生していた。


そして、世界もまた編成された。
突如として、甘い香りに包まれる。

197: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/08(土) 16:01:31.93 ID:+Xfj+B4DO
今まで、まどかもさやかも魔女の作る結界の中を何度も見たことがある。
そして、そのいずれにも、彼女達の持ちうる『常識』と『理屈』では説明することができない摩訶不思議な世界が広がっていた。


ぎとついた色彩が闇を塗り固め


地球に存在する法則を無視しきった造形物が転がる。


そして、辺り一面から感じる怖気と、悪意で常に肌があわだっていた。


───そして、ここも例に漏れることもない。


辺り一面に広がるのは、大小含めたお菓子の山。


『大小』と言っても、やはり自分の持ちうる常識のものさしでははかりえなかった。


岩石ほどの大きさのキャンディから、教室のガラス戸並みのチョコレート板。
普段自分達が手にする物が、この世界においてはあまりの小さく思える。


まるで、絵本やアニメの世界を現実に再現したようで、それゆえに不気味だった。
メルヘンチックな光景と、今、自分達を包む緊張感のギャップが紛れもない異常を伝えてくる。


マミ「・・・いた。」


マミのその言葉に、まどかとさやかは、この空間の中心部。
山のように積み上げられたお菓子の玉座。


まるで、小動物のような動きでお菓子をあさり


マミ「二人とも、早く隠れて。」


鮮やかなピンク色をした、とても可愛らしい異形。


マミは、それを見つめてゆっくりと闘気を漲らせていく。


まどか「マミさん・・・。」


心配そうな顔をする『友達』を安心させようとマミは、振り返った。


マミ「大丈夫。」


その言葉と共に、魔女に向かって走り出した。

198: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/08(土) 19:21:38.65 ID:+Xfj+B4DO
あまり時間をかけるつもりはマミにはなかった。
相手の力は未知数ではあるが、身体の大きさは自分の膝くらいまでしかない。


マミ(何か妙な真似をされる前に、仕留めるっ!)


可愛らしい外見で、楽しそうにお菓子をあさっているが、それがなんだというのだろう。
あれは、魔女であることは間違いはなく、故に心乱すことなどあり得ない。


マミ「はあああぁっ!!」


顕在させた長めのマスケット銃を逆手に持ち、そのグリップを渾身の力を込めて背中を向けたままの魔女に叩きこんだ。


『──────!?』


突然の衝撃に、その小さな身体が吹っ飛んでいく。
慌てて空中でブレーキをかけて、魔女はマミの方に身体を向けた。


マミ「まだまだいくわよっ!」


間髪を入れずに追撃をいれる。
両手にマスケット銃を構えては、放ち、捨てる。
何度も、何度も、捨てては、銃を顕在させて弾を放つ。


しかし、その全てが魔女に命中したわけではなかった。
蛇行するように飛び回るため、多少は擦ったりはするが致命傷にはいたらない。


それでも、マミは攻撃の手を休めることはしない。
トンっ、と軽く地面を蹴ると、魔女に向かって風を切りながら突進する。
銃を一発撃ち込み、魔女の退路を限定させると、そこに向かって猛スピードでたどり着き。


マミ「やぁっ!!」


またしても、魔女を銃で殴打した。


さやか「すごいっ!やっぱりマミさんはすごいよ。」

199: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/08(土) 19:59:33.83 ID:+Xfj+B4DO
子供のようにはしゃぎながらマミを見上げるさやかの隣で、まどかはじっと彼女の舞を見ていた。


まどか「マミさん・・・。」


さやかは気が付いているだろうか、今のマミの戦い方は、かつて彼女が見せてきたような舞うような戦闘方法とは少し違う、力技を交えながら着実に敵にダメージを与えていく戦い。


マミの中で、どんな変化が起きたのかは分からない。
だが、まどかは、見届けると決めた。
そして、勝利を、漠然と想像した。


────ただ、漠然と。




マミ(いける。)


彼女は、ただ引き金を弾き、敵の掃討を目指し、魔女を追った。


マミ(私は、このまま戦える。)


心も決まった。


自分は一人ぼっちではないと知った。


後は、戦うだけだ。
自分が、戦う、そして守る。
守らなくてはいけない。

────だって、もう何も怖くないのだから。


空間に広がるお菓子の甘い匂いと、戦闘による高翌揚だろうか。
マミの思考はだんだんと直線的になっていった。
判断力に鈍りはないのだが、他の選択肢を選ぶ余裕が知らず知らずに無くなっていった。


ただ銃を構え、そして引き金を撃つ。
しかし、それだけでは仕留めきれなくなってしまった。


マミ(もっと近づかなきゃ。)


彼女は思い出すべきだった。
いくら魔法で顕在させていようと、マスケット銃というタイプは連射式ではなく一度撃てば弾込めまで時間がかかることを。


故に、一度使った銃は捨て、その後また新しい銃を使う。
そのスタイルを彼女は忘れてしまったのだ。


マミ「捕まえた。」


放たれたリボンが、魔女の身体を縛り上げる。


一発目、命中しなかった。


二発目、放てなかった。



200: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/08(土) 20:12:24.11 ID:+Xfj+B4DO
リボンで括り付けられた魔女が、その小さな顔にはりついた口をバカリと開いた。
信じられない程、大きく開かれたその口からは


マミ「え?」


もっと巨大な顔がズルリと這い出てきた。


真っ白な丸い巨大な顔に、大きな目と、大きな口がくっついている。
その口が、開かれると、そこにはキバがずらりと並んでいた。


マミは動けずに、その様を見る。


そして、理解する。


これは『死』を自分に与えるものだと。


マミ(終わった。)


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ


マミ(これでお仕舞い。やっとこれでパパとママの所に行ける。)


死にたくないっ、死にたくないよぉっ!


マミ(一人で家にいるのは、寂しいもの。友達だけじゃ、寂しいもの。)


マミ(まどかさん、さやかさんさようなら。ごめんなさい───。)


キバが、マミに近づいていく。
アドレナリンのせいか、ゆっくり進むその世界で、その場にいる誰もが絶望をただ見ていることしかできなかった。


「マミーーーーーー!!!!」


ただ一匹、彼を除いては。

201: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/08(土) 20:50:08.55 ID:+Xfj+B4DO
次の瞬間、マミが見たものは、その大口の中に広がる虚無の闇ではなく。


その巨大な顔面と、それに、めり込むように突き刺さったバイクだった。
その大きな目を丸くさせて、自らに迫っていた危機が離れていく。


その時になって、マミはようやく『それ』の全貌を知ることができた。


ヌラリとした蛇のような身体に、左右で青と赤の異なる色をした翼がついている。


─────あれに、自分は殺されるところだったのだ。


崩れ落ちるように、ペタリとお尻をつけて座り込む。そこから、動ける気がしなかった。
頭が真っ白になって、しっかりと生きているはずなのに、視界がぼやけてしまう。


ただ、傍らに、黒い影がいることだけが分かった。






クロ「おいマミ!大丈夫か!?マミ!」


もはや胸ぐらを掴むほどの勢いでマミを覗き込むが、反応が薄い。
目に力が入っておらず、口もポカンとあいている。
恐らくは、気を失った状態と同じだと思う。


クロ「間に合っただけでも、よしとするかね。」


と、視線を後ろにそらすと、そこにはいつもの二人が立ち尽くしていた。


クロ「おい、まどかぁ!!」


その大声に、まどかがピクリと反応するのを確認する。
クロは彼女にある頼みごとがあった。


クロ「マミと、そいつを頼むぜ。」



そいつ、で指差された方には、何故か、暁美ほむらが目を回して倒れている。
まどかの混乱が一層激しくなったようだった。


しかし、そんなものには、もう、クロは目もくれない。


クロ「よう、大口野郎。」


突然の攻撃に驚いて逃げた魔女が、もう一度獲物を狩ろうと戻って来ていた。
魔女と戦う魔法少女よりも、更に小さなその体躯で、クロは立ちふさがる。


その背を、少女達に見せながら。


クロ「腹が減ってんなら、オイラに任せろよ。鉛なら死ぬほど食わせてやるぜ?」

202: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/08(土) 22:03:32.60 ID:+Xfj+B4DO
まずは、躊躇う必要もなく、クロはガトリングを魔女に向けて放つ。
その巨体のどこに狙いを定めればいいのかは考えず、ただ全弾を使いきる勢いで撃ち続けた。


しかし、魔女もまた、黙って撃たれ続けるつもりはないのか、弾を避けながら高い天井に飛び上がっていく。
狙いを定めているつもりだったが、魔女には命中せずに壁に穴を開けるだけに終わってしまう。


クロ「くそっ!あんまり狙って撃たねーからな。数撃ちゃ当たる精神も考えもんだぜ。」


ぼやきながら少し後ろが気になり、振り向いてみると、まどかとさやかが、マミを安全圏にまで運ぼうと躍起になっている。


クロ「まだあんなとこにいんのか?!」


慌てて、彼女達の所まで全力疾走する。


クロ「何たらたらやってんだよ!」


さやか「うるさいわね!こっちはこっち手一杯なの!!」


威勢よく怒鳴り返してくる様子から、先ほどのショックからは脱したらしい。
しかし、マミの方はいまだに全身の筋肉を弛緩させており、まどかとさやかの二人では上手く運べないようだった。


取り敢えず、まずはこっちを手伝おうとクロが決断した、その瞬間────


まどか「クロちゃん!?後ろ!!」


青ざめた顔でまどかがクロの背後を指差す。
ただならぬその行動に後ろを振り返ると、僅か十数メートル前から、猛スピードでキバを剥き出して魔女が突っ込んでくる。


まどか「え?」


さやか「わっ!」


そのキバが自分たちを捕えようとした寸前に、まどかとさやかは突き飛ばされ、その場から弾き跳ばされるように投げ出された。


さやか「え?!」


まどか「クロちゃん!!」


クロは、寸での所で彼女達を救うことはできた。


しかし、魔女のそのキバは、クロの身体をしっかりと捕えてしまった。

203: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/08(土) 22:25:54.11 ID:+Xfj+B4DO
ギリギリと、金属が軋むような音がまどかの耳にも届いていた。
彼は、確かにサイボーグで、身体はただの生物よりは丈夫だろう。


クロ「が、あ、ああ。」


その苦しむようにもれる声がクロの窮地を端的に表していると思った。


そして、業を煮やしたのか、魔女はクロを咥えたまま翼を動かし宙に舞はじめた。


行き先は、壁。


魔女は、クロを咥えたまま壁に叩きつけ、そのまま、こすらせるように進み、彼をいたぶり始めた。


クロ「ああああああ!!」


火花を散らして、壁にめりこみながら引きづられるクロの、まるで激痛に耐えるような絶叫が、まどかとさやかの耳に届いた。


まどか「クロちゃん!!」


口を両手で押さえたまどかは、もはや泣きそうな顔をしており、さやかは痛みを堪えるように顔を歪ませている。


やがて、クロは高い天井から、地面まで投げ捨てられた。


クロ「がふっ!」


鈍い音を立てて叩きつけられたクロは右手をついて立ち上がろうとした


クロ「・・・くそったれ。」


しかし、本来右手があるべき場所には、ケーブルがぶら下がり、その先では火花がバチバチとなっているだけである。


先刻の攻撃で、千切れてしまったのだ。


自分だって馬鹿ではない。
この戦いは、圧倒的に不利だった。


─────それでも、この戦いから逃げることはできない。


初めて会った時のゲーセンでのマミの楽しそうな顔が頭をよぎった。


まどかやさやかと出会い、生き生きとしたマミの顔が頭をよぎった。


自分を敵と見なしてでも、『居場所』を守ろうとしたマミの顔が頭をよぎった。


───自分だって同じだったから───

204: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/08(土) 22:49:20.48 ID:+Xfj+B4DO
『おぉ、ようやく目を覚ましおった。』


『ヨーカンは嫌いかえ?』


呑気な老夫婦の、気が抜けるような声を思い出した。


しかし、『あの日』から、ただ死ぬことだけを考えていた自分に、守るモノを与えてくれたのはその声だ。


生き続ける覚悟を思い出させてくれた。


もう一度、親友に出会えるチャンスだってくれた。


『家族を見捨てた自分を、彼女が責め続けている』なら、それを理由に、彼女が諦めようとしているなら


そんなことは、させない。


クロは左手で、剣を抜いた。


クロ「マミぃ!きーてんだろうが!!」


鋭い視線を、魔女へ。


クロ「ぼっちのてめーが、やっと自分の居場所を見付けたんだろーが!!だったら最後まで」


ゆっくりと、旋回しながら黒い巨体はもう一度クロに踊りかかる。


クロ「すがりつけ!!」


一線、身体を横に逸らしながら突っ込んできた魔女の横っ腹を掻き斬った。


クロ「やったか!」


走りぬけながら剣をその身体から抜き取るも、その傷は切り裂いた直後から再生していく。


クロ「・・・言うんじゃなかった。」


どうやら相手は、再生能力を身体に宿しているらしい、ちっとやそっとの攻撃では倒せないようだ。


どうしたものかと悩む、クロだったが、ふと自分の真下に巨大な影が出来ていた。
もしや、と勘付くも、時既に遅く


クロ「だぁぁぁっ!!」


巨大なキャンディに押しつぶされてしまった。
魔女が、お菓子を自由に作り出す能力を、戦闘に応用したのだ。


クロ「ちっ!いちいち厄介なことしてきやがってこの!!」


剣が、衝撃で飛んでいってしまった。
今は、素手、身体の半分以上はキャンディに押しつぶされている。


そして、魔女はゆっくりと、面倒な黒猫を始末しようと迫ってくる。



205: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/08(土) 23:05:36.88 ID:+Xfj+B4DO
岩陰で、彼女が見ているだけでいられたのは、そこまでだった。


まどか「うわああああ!!」


恐怖をはねのけるように絶叫しながらまどかは駆け出した。


さやか「まどか!?」


向かう先は、クロではなく。
クロが落とした剣。
今まさに、魔女が迫ろうしている瞬間にである。


クロ「バカ!!足手まといだ。とっと逃げろ!!」


流石のクロも、怒鳴り散らしてまどかを追いやろうとするが、彼女は聞きもしないで剣を握る。


まどか「お、重いぃ・・・。」


必死になって持ち上げようとするが、浮かび上がることはない。


クロ「そんなもん、お前が持ったって使いよーがねえだろうが!」


まどか「私は・・・、使えないけど、できるんでしょ!クロちゃんなら!!」


苦悶の表情を浮かべながら、まどかは、はっきりと言い切った。


まどか「私は、力なんてないけど、見ていることしかできないけど・・・、それでも、友達を見捨てることだけは絶対にしない!するもんか!!」


その言葉に、混じり気のないその覚悟に、クロは今度こそ黙った。


まどか「うーん!!」


必死に、持ち上げようとするまどかの手に、もう一つ、手の平が添えられた。


まどか「さやか・・・ちゃん?」


さやか「お、重っ!」


いつの間にか、まどかの隣に来ていたさやかが、クロの剣を一緒になって持ち上げようとしていた。


あれだけ、クロを気に入っていなかったさやかが。


クロ「さやか、お前なにやってんだ。」


さやか「勘違いすんなっての!お腹が空いて、早いところこんな場所から、帰りたいだけ!!」


クロの言葉に、ヤケクソのようにさやかは返した。

206: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/08(土) 23:23:29.32 ID:+Xfj+B4DO
クロ「・・・だとよ。早いところ帰ろうぜ。」


クロは、魔女を見据えた。


正確には、魔女の動きを縛りつけている彼女を、であるが。


クロ「マミ。」


クロや、まどかにさやか、彼らに踊りかかろうとしている魔女を、マミは必死で押さえ付けていた。


マミ「前に言ってたわね。『もっと楽しんで銃を撃て』って。」


引きづられそうになる身体を必死で、地面に縫い止める。


マミ「多分ね。私はあれをしなきゃいけないとか、これをしなきゃいけないとかで、自分の戦いすらも制限しようとしていた。」


荒い息を飲み込んで、マミは笑った。


マミ「すぐに、楽しんで戦うなんて、できないかもしれないけど、もう私は譲らない。自分の定めた戦いを、最後まで戦いぬく。」


それでも、怖くて怖くて、仕方がない時もあるかもしれない。


────ならば、その時は


マミ「あなたを頼ってもいいかしら?クロ。」


まどか・さやか「いっけえええ!!」


二人の少女が投げた剣が、黒猫の伸ばした左手に届く。
それを確認したマミは、魔女を解き放つ。


キャンディが、真っ二つに割れ、黒い弾丸が魔女に飛び込んでいく。


少女に対する、答えを届けるために。


クロ「気が向いたらな。」





そして、魔女の顔面に縦一文字に剣が叩き込まれた。

207: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/08(土) 23:42:23.29 ID:+Xfj+B4DO
渾身の力で、振り下ろされた剣は、その勢いを[ピーーー]ことなく前進する。


そして、魔女の蛇の様な身体を縦に切断した。


さやか「また、再生する!?」


しかし、魔女の身体はまたもや、元通りにくっつこうとしており、ほっておけば今までの苦労は水泡に喫する。


クロ「くたばれ。」


マミ「ティロ・フィナーレ」


大量に浮かぶ銃は、魔女に銃口を向けていた。


クロの身体中に穴があき、そこからミサイルが覗いていた。


────爆風は、魔女を骨まで残さず焼き切った。






まどか「マミさん!?」


さやか「そんな!」


戦いの余韻も冷めやらぬ中、その声は響いた。


マミが、突然倒れたのだ。


その場にいた全員が、彼女のいる場所に走りだした。


クロ「マミ、マミ!しっかりしろ!!」


フラフラになりながらも、一番にマミの元に駆け寄ったのはクロであった。
うつ伏せになったマミを、仰向けにさせ、必死になって呼び掛ける。
どこかでケガをしたのか、頭から血を流していた。


クロ「しっかりしろぉ!死ぬな!」


マミの傍らで、彼は縋りつくように語りかけた。
叫ばなければ、もう届かないような気がしたからだ。
それでも、彼は信じたくなかった。


こんなことを、誰が認められるというのか。



208: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/08(土) 23:46:45.44 ID:+Xfj+B4DO
まどか「マミさん!」


さやか「・・・そんなぁ。」


どうしたって、二人はマミの姿を直視できなかった。青白い顔で、眠ったような彼女を見ると、視界がぼやけてしまう。


クロ「マミ?!」


最後の力を振り絞るように、マミは右手を上げて、クロの頬を撫でる。
手の平にも、血が張りついており、クロのぬいぐるみにマミの血がしみこんでいった。


マミ「クロ、ごめん、なさい。心、がないなんて、いって。ごめん、なさい。」


クロ「もう、しゃべるな!!殴るのは後にしてやるから!今はいい!!」


力が抜けたのか、自らの頬を滑り落ちていくマミの手を、クロは小さな手で握りしめた。


マミ「やっぱり、クロはいい子ね。」


小さく、マミは微笑んだ。


マミ「こんなにも、私、のために・・・泣いてくれるん、だもの。」


やがて、彼女の目はゆっくりと閉じられていく。
長い、長い孤独から、解放された少女は。


ゆっくりと、瞳を閉じた。


209: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/09(日) 00:06:11.48 ID:8ZNmRcNDO
─────三日後


クロ「・・・で?」


マミ「えーと、怒らないでちょうだいクロ。」


見滝原総合病院 305号室にマミとクロはいた。
マミは、ベッドの上にちょこんと座っており、クロは傍らの椅子にドッシリと苛立ちを隠そうともせず腰掛けていた。


マミ「あのね、疲労がたまってたらしいの。よく考えてたら最近は寝てなかったし、ケガもね頭をちょっと切っただけ大したことは」


クロ「紛らわしいわ!!」


マミに飛び付いたクロは、拳骨を彼女の頭にグリグリと押し付けた。
イタイイタイと、涙目になりながらも、マミはクロを無理にはねのけようとはしなかった。


その口元は、楽しそうにほころんでいる。


まどか「ただいま戻りました!お弁当買ってきました。」


さやか「あっ!このバカ猫、マミさんに何やってんだよ。」


両手に、コンビニで一杯買い占め、ぱんぱんになったビニール袋を持った騒がしい二人が入ってきた。


マミ「ごめんなさい。本当は約束通り私がご飯を作りたかったのだけど。」


申し訳なさそうなマミに対して、まどかとさやかは、にこやかに笑った。


まどか「いえいえ、今はゆっくり休んで、マミさんの手作り料理はまた今度で。」


さやか「そうですよ。だってそもそもコイツの助けが遅かったせいですから!」


クロ「おい。」


またもや、騒がしくなりそうだったが、流石に病院である。
マミは話題をそらした。


マミ「でも、そんなに期待されるほど、私は自信ないわよ。」


クロ「いや」


少し、困ったようなマミの言葉をクロは遮った。


クロ「あれは、うまかったぜ。」


あさっての方向を見ながら、クロは誰に聞かせるでもないといった態度で、そう呟いた。


マミ「ありがとう、クロ。」


しかし、マミの満面の笑みが照れを隠すクロを逃がしてはくれなかった。

210: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/09(日) 00:11:05.71 ID:8ZNmRcNDO
病室がよく見える木の枝に腰掛け。


暁美ほむらは、病室の中をよく見ていた。


巴マミがクロに抱きつき、黒猫は必死で抜け出そうと身体を動かしている。


ほむら「やっぱり、彼は。」


期待をこめて彼女は呟いた。



ほむら「いや、まだ分からない。」


そして、腰を上げると、音もなく空に飛び上がる。
その途中、もう一度、彼女は病室のまどかと、クロを見つめる。


寂しげな瞳をたたえたまま、彼女はいづこかに去った。


マミ編 完

211: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/09(日) 00:21:51.22 ID:8ZNmRcNDO
次回予告


まどか「これはグロンギ文字とゲマトリア解釈法を組み合わせているんだよ。」


マミ「気になる人?人に限らなければ一匹いるわね。」


さやか「私は、どうすれば。」





クロ「目ん玉潰されても会いに来るんだもんな。」

212: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/09(日) 00:27:04.77 ID:8ZNmRcNDO
第一部完です。


昼といいつつ、こうなりました。
申し訳ないです。


次回は明日、投下します。


さやか編、スタートです。