224: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/09(日) 18:57:35.67 ID:8ZNmRcNDO
マミ「叩いて。」


クロ「被って。」


マミ・クロ「ジャンケンポン」


ポカリ


マミ「ふみゅっ!」


クロ「へっへーん。」


マミ「うぅ~。」


クロ「叩いて!」


マミ「か、被って!」


マミ・クロ「ジャンケンポン!」


ポカリっ


クロ「やーい、ノロマめ~。」


マミ「むぅ、も、もう一回!」


マミ「叩いて!」


クロ「被って」


マミ・クロ「ジャンケンポン!」


カコンっ!


マミ「あいた!?ずるいわよクロ!ヘルメットで叩くのはルール違反じゃない!」


クロ「ルール違反をしちゃいけないっていうルールはなかったぜ?」


マミ「いじわる!いじわるだわ!!」


看護婦「うるさいわよ、巴さん!!あなただけの病院じゃないんだから、もっと静かにして下さい!!」


マミ「ご、ごめんなさい・・・。」


クロ(人形のふり。)


引用元: ・クロ「魔法少女?」

227: そして、そっと。を外す 2012/09/09(日) 21:20:58.32 ID:8ZNmRcNDO



さやか編 第一話「うまくいった覚えがねーよ」


クロとマミの喧嘩に端を発した魔女退治騒動。
マミが危うく死にかけるという危機を乗り越えたが、度重なる疲労心労で、彼女はとうとう限界を迎えた。


彼女に言い渡された量刑は、一週間の検査入院である。


マミ「もうやめるわ」


クロ「なーんでだよ?盛り上がってきたじゃねーか」


見滝原総合病院の病室にて、どうにも暇になってしまった彼女はクロとミニゲームをして時間を潰そうとしたのだが・・・、どうにもマミは膨れっ面である。


マミ「だってクロったら、さっきからいじわるばっかりするんだもの」


初めはそれなりに、楽しんでいたクロではあったが、勝負事になるとどうにも本気になってしまう彼である。


前述の叩いて被ってジャンケンポンは例に漏れず。
オセロ、トランプでも度重なる妨害と嫌がらせを受けた。
その度に半泣きにさせられるのはマミである。


クロ「よし、じゃあ公平にしようぜ。お前にもオイラを攻撃するチャンスをやろう」


マミ「本当?」


クロ「あぁ、マジで。」


快諾、といった二文字が顔に浮かぶようなクロに、マミは思わず乗り気になってしうが、彼女は気付くべきであった。


クロの『公平に』という言葉に騙され、彼は決してもうズルはしないと言ってなどいないということを。


228: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/09(日) 22:03:13.50 ID:8ZNmRcNDO
クロ「軍艦、軍艦、チョーセンっていいながらジャンケンをするゲームだ。」


そのルールはこうである。


まず、グーは軍艦、パーはハワイ、チョキはチョーセンという呼称に変わる。


左手でお互いに握り合う。


軍艦、軍艦、チョーセンの呼び掛けで、ジャンケンをし、勝ったものは「一本とって」と言いながら、相手の手の甲を叩ける。


以下エンドレス。





そのルールを聞いても、マミはどこか釈然としない顔をしている。


それもそのはずで


マミ「それは、さっきの叩いて被ってジャンケンポンとまったく一緒じゃないかしら?」


クロ「バカ言え、さっきは攻撃方法は二つ、でも今度は一つだけしかないだろうが」


マミ「ヘルメットは攻撃方法には入らないわよ!」


反論と異論なら口に出なければおさまらなかったが、元来の流されやすい性格がこんなところでも彼女は出てしまい、言われるがままにクロのゲームに参加してしまったのが、運のつき。


クロ「さーて、泣かすぞ?」

229: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/09(日) 22:39:46.43 ID:8ZNmRcNDO
───鹿目まどかは中学生である───


いかにもな、紹介文ではあるが、それが事実だ。
彼女は中学生であり、義務教育の真っ只中で、思春期絶賛突入中の所謂、お年頃の少女。


学校に行けば勉強をし、友達と戯れ、家に帰ればテレビを見て、家族と過ごす。


そんな、絵に書く必要もないほどの普通の少女である彼女は、彼女自身が信じられないような不思議な日々を過ごした。


魔法少女として戦う、大人のような可憐さを持つ巴マミという少女との出会い。


口が悪くて乱暴だけど、本当はやさしいサイボーグのクロという猫との出会い。


その出会いは自分に色々なことを教えてくれた。
戦うことの辛さと、覚悟を決めることの重要性。


そして、死への恐怖。


あれから、マミは入院しているが、彼女の口からは魔法少女として復帰するのかどうかは語られていない。


言葉にはしていないが、彼女はもう戦うことはできないのではないかと、まどかは思った。
魔女との戦いで、クロを援護したマミではあったが、内心ではどれほどの苦しみを押しころして戦っていたのだろうか。


それを考えれば考えるほど、自分としても彼女はもう戦う必要はないのではないかと思ってしまうのだった。


だから、彼女は魔法少女の巴マミではなく、友達で先輩の巴マミをお見舞いするために見滝原総合病院にやってきたのだった。

230: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/09(日) 23:07:36.58 ID:8ZNmRcNDO
まどか「ここかな?マミさんの病室は」


受付で手続きをすましたあと、まどかはマミの病室の前に立つ。
お菓子も買ったし、ジュースも買った。
今日はどんな話をしようかと、ワクワクしながらドアノブを握ると、どうにも中が騒がしかった。


「泣くなっての!な?」


なんだかどこかで聞いたことがある声と、女の子がすすり泣く声が聞こえてくる。


大急ぎで、まどかはドアを開けた。


まっか左手を押さえながら、泣いているマミ


そして、その傍らで冷や汗を流してなんとかマミを宥めようとしているクロがいた。


まどか「な、なにをやってるの!クロちゃんは!!」

まどかの登場に面食うクロではあったが、今はそれよりも彼としてはマミをどうにかしたかった。


クロ「いやあのな、ゲームをしてたら、ちょっとやりすぎた、かな?」


気まずそうに顔を反らすクロだったが、まどかはずいと彼に近づいていき、顔を掴んで自分と目を合わさせた。


まどか「謝ったの?」


クロ「・・・いや。」


話を聞かずに謝れ、というのも行き過ぎた行為に思えるが、ことクロに関してはあながち間違いではない事だろう。


ゆえに、まどかは強気だった。


まどか「マミさんに謝って。」


言われてすぐに謝るのは何か釈然とせずウーとクロは唸るが、涙目のマミと、慣れないにらみを聞かせるまどかを見るとそうもいかなくなってしまう。


クロは意地をはるのをやめ、マミに顔を向けた。


クロ「悪かった。謝る。」


まるで小学生のいじめっ子が反省はしたが、不器用に謝っているみたいだった。

234: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/10(月) 12:42:37.85 ID:arWueCtDO
マミ「・・・いいわよ、許してあげる。」


泣いたカラスがもう笑う。
最近になってマミは、こういった表情をコロコロとかわるがわる見せるようになっていた。


ともすれば、情緒不安定ギリギリのラインであるが、今まで、ずっと押さえ込んできた感情と表情を、彼女はまるで、ひとつひとつ確かめるように見せていった。


それは、特にクロが一緒にいる時に顕著にあらわれる。


まどか「クロちゃん、マミさんは一応病人なんだからあんまりふざけちゃダメだよ。」


不器用に心をあらわにしていくマミに対し、戸惑いがないわけではないが、しかし、この変化をまどかは好ましく思っていた。


クロ「ふざけちゃいねーよ。いつだってオイラは真剣だぜ?」


まどか「女の子相手に本気で真剣勝負しちゃダメなの!」


腰に手をやって、メッと人差し指を立ててクロを怒るまどかである。
控えめな性格である彼女が、ここまで強気な態度にでることもなかなか珍しい。


クロ「あいあい、わかったよ。」


と、右手をダルそうプラプラとふる。


クロ「あ。」


まどか「え?」


マミ「あら。」


ベキンと音がして、なんとクロの右手が肩から落ちてしまった。
床に落ちた我が身の一部をベッドの上からクロは見下ろした。


クロ「やっぱり、出来合いの腕じゃこうなるよな。」


まどか「く、く、クロちゃん!どうしちゃったの!?」


クロ「どうしたも、こうしたも・・・、前の戦いでこうなっただろうが。」


あ、とまどかの脳内に、鋭いキバを持つ魔女の攻撃で右手をちぎられたクロの姿を思い出した。


まどか「でも、そういうのって大体次話で何事もなかったかのようにくっついてるものなのに。」


クロ「覚えているうちに伏線を回収したいんだろ。」


ヨッと声を出して床におり、腕を拾う。
前回の戦いでちぎれてしまった腕は見つからず仕方なく落ちている粗大ゴミでスペアの腕を作ったのだが、さっきのどつきあいで壊れてしまったようだ。



235: (たまに付く)「。」は気にするな! 2012/09/10(月) 13:05:08.16 ID:arWueCtDO
マミ「その・・・、ごめんなさい」


マミが申し訳なさそうな顔でこちらを見てくるので、ため息をついて呆れたような顔でクロはマミを見る。


クロ「オイラは好きにやっただけだ。暴れてーから暴れた。お前にゃ関係ねーよ」


ちぎれた右手を左肩にからいながらクロは言った。
その言葉にマミは、そうね、と目を伏せ


マミ「えぇ!私一切気にしないわ!クロが勝手にやったことだもの!」


と、なかなかにいい笑顔で言ったものだから、クロはマミの頭に持っていた腕を投げつけた。


クロ「調子にのるな。」


マミ「ご、ごめんなさい~。」


まどかは思った。


マミは、少し子供っぽくなっている。
幼稚なイタズラや、生意気な言動、まどかが彼女に見ていた大人らしさは見るかげもない。


しかし、まどかと二人っきりの間は、そんな様子を彼女は見せることはないのだ。
こんなマミを見れるのは、クロがいるときだけである。


まどか(普段は真面目だけど、親戚のお兄ちゃんが来たときは妙にはしゃいでいる長女みたいな感じかな。)


そんなまどかの推測はいざ知らず。
マミは、頭をさすりながらクロに腕を渡している。


クロは猫であり、猫の成長速度は人間とは違う。
もしかしたら、クロは自分たちよりもずっと年上の、大人な男の人なのかもしれない。


それなら、こんなじゃれつく年下を時に邪険にあつかいつつも、からかいながら相手してやる彼の態度にも納得がいく、とまどかは考える。

239: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/10(月) 21:59:16.36 ID:arWueCtDO
そんなやり取りの途中、マミは話題を変えた。


マミ「ところでまどかさん。先日の件は大丈夫そうかしら?」


まどか「はい!父と母には友達からペットを預かるって言ってあります」


実はここ数日間、クロはずっとマミの病室で過ごしていた。
運良く病室はマミ一人しか入っておらず、今日までは彼の好きに過ごせていたのだが、看護婦や先生も出入りがある。
さすがに、このまま一緒にいるわけには行かなくなった。


そこでマミの退院が済むまで、クロをまどかの家に預けることになったのだ。


クロ「世話んなるな」


まどか「ううん、構わないよ。一杯お話しよう?」


年頃の少女を納得させるような話術などクロは持ち合わせていない。
彼は適当に返事を合わせるにとどまった。


そこに、もう一人の来訪者が現れる。


「あれ?まどか・・・、とあんたもいるのね」


美樹さやかである。
まどかに対するフレンドリーさは、クロを見た時には180度真逆の態度に変わってしまう。


マミ「来てくれてありがとう。さやかさん」


さやか「何言ってるんですか、マミさん!変な気を使わないでくださいよ。」


恐縮したようにさやかは、頭を下げるマミにあたふたと両手をふった。


さやか「・・・そんなの、やめてくださいよ。」


一瞬だけ、まどかはさやかの言葉に違和感を感じた。


しかし、一体何を示している違和感なのかは分からず、結局、話の内容も変わってしまった。


さやか「でも、今日ちゃんと会える時間を作れて良かった。最近忙しくて。」


クロ「猫の手なら貸すぜ?ちょうど一本いらなくなったところだ。」


左手でもった腕をフラフラとふり、ホイッと投げてよこすクロに、さやかは腕を受け取りながら睨む。

240: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/10(月) 22:21:20.35 ID:arWueCtDO
さやか「猫の手になんの意味があるのよ。一番大切なのは人の手だよ。」


投げ返された腕を受け取りながら、なんとなく一理あることを言われたクロは、また帰ってきてしまった腕をうろんげに見つめる。


クロ「いらねーんだけどなぁ。邪魔な腕なんて・・・。」


さやか「そんなこと言うなよ!!」


クロがポツリと漏らした何でもないような呟きに、さやかは過敏に反応をしめした。
クロの言葉を否定するように、大きな声で彼の言葉を遮った。


驚いたのは、クロだけでなく、マミ、まどかもそうであった。
そして、さやか自身ですらも自らの行動にたじろいでいる。


まどか「さやか、ちゃん?」


さやか「いや、別に、あんたのこと心配してるわけじゃないけど・・・、もっと自分を大事にしなよ。自分の身体なんだからさ。」


クロ「・・・なんで、お前にいちいち言われなきゃならねーんだよ。」


一応、クロはさやかに口答えをしてみる。


しかし、明らかに図星をつかれたのも確かであった。


マミ「そうよ、クロ。あんまり無茶はしないでちょうだい。」


ね?と笑うマミには、お前に言われたくないと思うクロだが、さやかの豹変には正直驚いた。


少々、彼女に対する認識を改めるべきなのだろうか?


まどか「そ、そうだ、さやかちゃん。これから行くとこあるんでしょ?先にそっちの用事を済ましてきてよ。」


さやか「あ、うん。ありがと、まどか。」


何かを隠すような二人の態度にクロとマミは首をかしげる。
そんな二人を尻目に、さやかは足早に病室を後にしようとする。


さやか「あ、まどか、マミさん、お疲れ様でした。」


相も変わらず、クロには何もなく、さやかは頭を下げて、いずこかへ去った。

245: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/11(火) 23:15:51.14 ID:MpMpt9nDO
クロ「へんだな」


マミ「えぇ、いつもより歯切れが悪い、というか・・・」


まどか「いろいろあるんです。さやかちゃんにも」


歯切れが悪いのは、まどかも同じである。
さやかの事情というものを知っているとすれば、それは彼女なのだが、どうにもまどかに語るつもりはないようだ。


マミ「そう・・・、じゃあ今はあまり気にしないでおきましょう。それじゃ、まどかさん?」


まどか「はい?」


今はまだ何も聞けるような立場ではないことを悟ったのか、マミも話題を変えることにした。
まどかもさやかも、話したいときに話せばいいのだから。


それに、あまり長居をしてもらうのも、落ち着かない。


マミ「まどかさんにも色々あると思うし、今日はこれくらいにしておきましょうか」


遠慮しているわけではなかったが、いつまでもまどかの厚意に甘えるわけにいかない。
今のところ、マミにできることは、まどかが気に病まない程度に、彼女の時間を尊重することであった。


まどか「マミさん・・・。はい!じゃあクロちゃんは私が責任を持って預かります」


勿論、まどかだってそれは分かっているのだ。


クロ「じゃあな、マミ」


マミ「えぇ、クロもまどかさんに迷惑をかけちゃダメよ。それと・・・」


────キュウべえのこともよろしくね。


その言葉に、クロは黙って一言だけ「あぁ」と返事をした。
煮え切らない、こんな言い方をするのは今までなかったことである。
まどかもマミもひっかかった。


しかし


クロ「お前も、寝てばっか、食ってばっかだと、また太るぞ」


この一言により、全てがうやむやになった。


────見滝原総合病院・受付


看護婦「あら、銃声?」


看護婦B「たぶん巴さんの病室ね。よくあるのよ。また、注意しなきゃね。」

246: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/11(火) 23:41:32.47 ID:MpMpt9nDO
「また?!またってどういことよ!!あなたに私の何が分かるっていうのよ!?」というマミの絶叫と弾丸を背に、クロとまどかは病院の外まで走って逃げた。


とにかく離れないと狙撃される可能性も高かったため、しばし病院の門をくぐり道路に出たあとも走り続けた。


そして、病院が大分遠くまで離れた場所までやってきたとき、ようやく立ち止まることができた。


クロ「はぁっ、はぁ、し、死ぬかと思った。」


まどか「ギ、ギリギリだったね。」


互いに、両手両膝をつきながら、息も絶え絶えである。


まどか「もう、クロちゃん!!どうして女の子にあんなこと言うの!!」


ウガーと立ち上がり、クロにつめよるまどか。
そんな彼女に多少、押されてしまう。


クロ「冗談だって!」


本当本当と、誤魔化すようなクロに、ふんまんやるかたないといったまどかではあるが、取り敢えずは道の上で猫と揉めることは避けたかった。


まどか「女の子はねぇ。体重と放課後のお菓子には人生を賭けてるんだよ。」


なんだか相反するベクトルを二つ並べられるまどかである。


まどか「おいそれと軽い気持ちで踏み込んじゃダメ!男の子には不可侵の領域だよ!」


熱心な顔でつめよる彼女の必死さというか決死さに押される形で、クロは納得する。


乱れた息も整え、彼らはまた進みだした。
今度はゆっくりと。

247: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/11(火) 23:57:46.63 ID:MpMpt9nDO
まどか「本当に、クロちゃんは・・・」


クロ「悪かったよって、後で言う」


むすっとした顔で、しぶしぶと言うクロが、なんだかおかしくてまどかは微笑んだ。


まどか「マミさん・・・、変わったね」


クロ「そうかぁ?」


突然のまどかの言葉に、クロは訝しむような声で答える。


まどか「うん、前はあんな風に気持ちをだすことはしなかったから・・・」


クロ「オイラ達の前だからだろ」


そんな簡単に変われるわけではないし、変わったからといって全てがうまくいくわけではない。


クロ「あんまり急がなくていーだろ」


だから、クロはまどかにそう言った。
マミに対してではなく、マミの周囲にいる、友達としてのまどかに、言っておいた方が良いだろうから。


まどか「うん、分かった。」


それが分かったからこそ、まどかも頷いた。


まどか「もう、そろそろで着くよ。」


そうこうしていう間に、まどかの家にたどり着こうとしていたが、なんだか見覚えのある光景である。
迷子になったという理由で、そこまで気にもとめていなかったが、ここに来てみると思い出す。


クロ「ここは・・・」


まどか「あれ?来たことあるの?」


キョロキョロと辺りを見渡すクロに、まどかは首をかしげながらも、指を差した。


まどか「そしてあれが、私の家だよ」


クロ「・・・」


そこは、かつて最初の魔女を倒す前に迷い込んだ家であった。

248: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/12(水) 00:22:01.34 ID:ga0Ckc+DO
妙な巡り合わせもあるもので、クロは素直に驚くことにした。
そして、更に驚くべきことが、まどかが玄関の扉を開けた瞬間に起きた。


まどか「いらっしゃい。クロちゃん。」


おじゃましまーす、と軽い口調で玄関から家に入ろうとした時である。


「お兄ちゃん!?お兄ちゃんだ!!」


やかましい声が聞こえた瞬間。
クロの頭の上に、黒い影が飛び込んできたのだ。


「すごいすごい!どうしたの!?お兄ちゃんもここに住むの!?やったぁ!!」


最初は驚いたものの、めんどくさそうに息を吐くと、視線を上にあげて頭の上にいるであろうそれに語りかけた。


クロ「また会ったな。チビ助」


「チビ助じゃないよ?ボクね、かぐらっていうの!!」


元気な声で、そう自己紹介する黒猫は、かつて魔女の結界に取り込まれたとき、一緒に閉じ込められた子猫であった。


出会った時も元気一杯で感情豊かな猫であったが、今はそれが倍になっているようだ。


かぐら「ほむら!ほむらー!来て来て!!」


かぐらがまた、誰かを呼んだ。
さすがに、クロも次に来るのが誰かは分かる。


ほむら「何だよかぐら、あんまり大きな声を出すなよって、げっ!」


現れたのはあの時の「お目付け役」の虎猫である。
げっ!が非常に気になるところだが、今は気にしないでおくことにした。


かぐら「あの時のお兄ちゃんだよ!」


ほむら「こら、かぐら!離れるんだ!」


クロの頭にしがみついたかぐらを何とか引っ張ろうとするが、クロの身体には触らないようにしているために、うまくいかない。


ほむら「この街の猫にも縄張りがあるんだから!失礼のないようにしなきゃダメなんだよ!」


かぐら「やーっ!」


ほむら「やーっ、じゃない!」


自分の周りをクルクルと走りながら悪戦苦闘しているほむらに、クロはさすがに助け船を出した。


クロ「構わねーよ、よそ者はオイラも一緒だからな」

249: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/12(水) 00:33:50.95 ID:ga0Ckc+DO
ほむら「だ、騙されないぞ!そう言って油断させるのが都会の猫の手口だって父さんが言ってた!!」


なるほど、なかなかに良い教育を受けている。
お目付け役として、子供の世話を任される理由が分かった。


まどか「ねぇねぇ、クロちゃん」


そのひそめるような声に振り替えると、そこには瞳を煌めかしたまどかがいた。


まどか「この子達が何言ってるのか分かるの?」


クロ「あぁ、まーな」


きゃー!とまどかは頬を手で押さえて騒いでいる。
その様は、まさに夢見る少女だ。


かぐら「まどかちゃん、変な子だー」


ほむら「やっぱり、人間なんて近づかないほうがいいんじゃ・・・」


現実は、知らない方がよいが。





255: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/12(水) 18:28:24.06 ID:ga0Ckc+DO
猫が喋っていることが分かる、というものは人間にとってある種のロマンのようなものなのだろう。


ならば、このはしゃぎようにも少しくらいは理解を示してやるのが人情だ。
クロは、まどかを無視することにした。


かぐら「あー!?」


と、そこにまたしても、かぐらの大声が響いた。
頭の上から飛び降りて、かつては右腕があった場所に顔をよせる。


かぐら「お兄ちゃん、ケガしてるの!?大変、大変だ!!マザーに伝えなくちゃ!」


ジタバタと大騒ぎをして、辺りを走り回り始めたかぐらを見て、まどかはギョッとした顔になる。
かぐらの突然の行動に驚きを隠せないのだろう。


まどか「クロちゃん、この子どうしちゃったの!?」


かぐらのパニックは、更にまどかのパニックを呼び、お目付け役のはずのほむらにしても、アワアワと狼狽えるばかりである。
クロはため息をついて、狙いを定めて足を踏み出した。


かぐら「ふにゃっ!?」


見事に、クロの足はかぐらの尻尾を捕らえ、かぐらは引っ張られる形で身体をべちゃりと床に倒れこました。


クロ「落ち着けっつーの。これくらい大丈夫だ」


説明するのもかったるいといったような口調だったが、その目はしっかりとかぐらを見据えていた。
そして、パニック状態に陥っていたかぐらも落ち着きを取り戻した。


かぐら「本当にだいじょうぶ?痛くない?」


心配そうにこちらを見つめてくる子猫、もし嘘でも「痛い」などと言おうものなら、感じるはずのない痛みを感じてしまいかねない程の純心が垣間見えた。


クロ「あぁ、当然だ。オイラの強さを忘れたか?」


かぐらの脳裏に浮かぶのは、あの化け物を屈服させたあの姿。


だから、その言葉を子猫はあっさりと信じた。

256: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/12(水) 18:59:11.20 ID:ga0Ckc+DO
かぐら「忘れてないよ!お兄ちゃんすっごくかっこよかったもん!!」


今度は、身体を擦り付けながら、その感動を伝えようとしているのだろうか。
クロも、さすがに邪険に扱うことはしない。


彼自身は、そこまで意識していないことだが、クロは目下の者には優しい。
されるがままに、かぐらのやりたいようにさせている。


しかし、そんな様子を面白くなさそうに見ているのは、ほむらである。


クロ「そんな目で見なくてもいーじゃねえか。お前だって根性あるぜ?」


クロにしては珍しいフォローの言葉であり、また、嘘のない言葉でもあった。


こんな小さな子供達が群れから離れ、長距離の別行動をとる。
これは、ありえないことである。


それを、見事に目的地に到着させた。
称賛に値する行為である。


ほむら「ふ、ふんっ!当然だ!なんたってオレはかぐらの師匠なんだからな!」


虎猫が胸を張る。


かぐら「おー、ほむら偉そう!師匠みたいだ!」


みたいじゃなくてそうなんだよ!とほむらはかぐらに詰めよるが、笑いながら逃げられてしまう。


そのうちに、追い駆けっこが始まる。


『だったら箸くらい使えるようにならなきゃな!』


懐かしい光景を思い出した。
まだ、子供だった頃の、『彼』の兄貴ぶった得意気な顔と一緒に。


ちょうど、自分達もこれくらいだったろうか。



258: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/12(水) 22:13:23.67 ID:ga0Ckc+DO
どこか懐かしい影を持つ二匹に、懐かしい頃を重ねてしまった。


そんな事を考えた所で、仕方がない事くらい分かっている。
それでも、楽しそうに駆け回る彼らは、廃工場を生きていた自分たちにそっくりだった。


まどか「はわー」


そこに、気と間の抜けたような声が後ろから聞こえてきたので振り替えると。
そこには、かぐらとほむらのじゃれ合う姿に目を細め、恍惚の表情で微笑むまどかがいた。


クロ「・・・どうした。一瞬で頭でも打ったか?」


少し引きながらクロが尋ねると、まどかは夢見ごこちのまま答えた。


まどか「可愛いなぁ。癒されるなぁ。」


答えになっているのか、いないのかは微妙なところだったが、今の彼女とのコミュニケーションは困難だと判断する。


クロ「よし!チビ共そこに直れ!!」


ビシッとしたクロの言葉に、子供達の動きも止まる。一応彼らに確認しておきたいことがあったのだ。


クロ「お前らがここにいるってことは、『マザー』とやらもここにいるのか?」


ほむら「あ、あぁ、そうさ」


まどか「お兄ちゃんもマザーに会いにきたの?」


恐る恐るといったほむらに、首を傾げるかぐら、そんな彼らを見たまどかが、またもや「はうわっ!」とどこからか息を漏らす。
だが、今は、彼女に構う必要はない。


クロ「来たのは成り行きだ。でも、来た以上はそいつに挨拶する必要があんだろ」


分かっている範囲では、マザーは人間だ。
ならば、この鹿目まどかの肉親であることは間違いないだろう。
しばらく世話になるなら、必要なことはすますべきだ。


勝手きままな猫ライフを送りたいなら、最低限度のことはやらなければならないのだ。
その上で、殴るだとか、壊すだとかの決断を下す。


それが、クロのやり方だ。

260: 一つ前で、かぐらのセリフがまどかになってしまいました。 2012/09/12(水) 22:37:53.69 ID:ga0Ckc+DO
かぐら「マザーは優しいから、きっとお兄ちゃんの腕も治してくれるよ」


さっきまでの元気な声ではなく、優しく慈しむような声色でかぐらはクロの目を見つめる。


しかし、どんなに優しくても、あのハゲのような科学力を持っていなければ、この腕は直せない。


優しさや、薬では治らない。
自分は生きてはいるが、物であることも理解をしていた。


クロ「で、マザーはここにいるのか?」


かぐら「いるよ!さっきまでボク達と遊んでくれたの!」


そりゃ、都合がいい。


クロがそう言おうとした───その時だった。


誰かが、玄関に近づいてくる気配を感じて慌てて、普通の猫らしく四足歩行の体勢になり、いつ誰がきてもいいようにする。


そして


「おや?帰っていたのかい?まどか」


現れたのは、年若く穏やかな顔つきをした男性であった。
そして、その男性もクロは見たことがある。


クロ(こいつは・・・)


まどか「可愛いなって・・・ぱ、パパ!?」


慌てて正気を取り戻したまどかを微笑みながら見ていた男は、クロに視線を滑らせた。


「久しぶりだね、おチビさん。」


クロ(チビぃ?)


少し、カチンとくる言い草を食らったクロだったが、次の瞬間に事態は一変する。


それは、かぐらの一言により始まった。


かぐら「あー!マザーだ!」


ほむら「こら、かぐら!失礼だぞ!?」


耳を疑った。 今、なんと言った?


この男が?『マザー』?

いや、マザーというより、これは───────



クロ「ファザーじゃねーか!!」

269: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/13(木) 21:21:22.97 ID:Z3cmXEFDO
「ようこそ、鹿目家へ。僕は鹿目知久」


リビングに通されたクロは、普通に来客として椅子に座り、来客としてお茶をだされた。
隣には、まどかも座り彼女も落ち着かない表情を浮かべている
あまりの事態についていけない。


クロ「おい、お前の親父ってどうなってんだよ」


まどか「分かんない。私だっていつからパパは猫ちゃん達から神様のように慕われてるのか気になるよ」


ボショボショと顔をよせあって相談をするも、お互いに望んだ答えは返ってこない。


知久「マザーって呼び方かい?僕も戸惑っているのだけど、この子達がそう呼ぶのをやめてくれないんだよ」


それどころか、こちらの会話は筒抜けだったらしく、彼は参った参ったと笑ってしまう。
クロに、まどかは目を丸くして顔を見合わせた。


かぐら「だってマザーはマザーだもん、ねー?」


知久「ハハハ、だからやめてくれよ、かぐらちゃん」


しかも、まどかには分からないことだが、彼はかぐらやほむら達とコミュニケーションを取っている。
つまり、猫の言葉が分かるのだ。


クロ「あー、つまりなんだ?あんたが猫の間で神や仏のように奉られている訳だな」


知久「それも言い過ぎだよ。僕は別に慈善事業でやっていないからね、頼ってきた子達だけ面倒を見ているだけだから」


それがどれだけの事かを、理解しているのだろうか。
普段はあまり恩義などを感じないのが猫の社会だが、そこで噂話で神様扱いになる人間など聞いたことがない。


よほどの人格者か、馬鹿のどちらかだ。

270: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/13(木) 21:43:44.98 ID:Z3cmXEFDO
知久「だけど君だって噂に聞くよ?クロちゃん」


自分を図るように見ていたクロに、知久はいたずらっぽく笑いかけた。


知久「猫に襲いかかった人間を返り討ちにした黒い影の噂や」


クロ「はぁ?」


知久「工事で住み家を奪われ殺されそうになった一家を救い、工事を中断に追い込むまで暴れ回った黒猫がいるらしいとか」


何となく、クロが何をしてきたのか理解してきたまどかはクロの顔を覗きこむ。


見事に彼は、苦虫を噛んだような顔をしていた。


知久「ここ最近で有名になった黒い救世主伝説の本人に出会えるなんて光栄だよ」


見事なほどのニコニコ顔に、とうとうクロは顔をそらした。


まどか「クロちゃん・・・知らない間に色々してたんだ」


クロ「暇だったんだよ」


とうとう苦虫を百匹ほど噛み締めたような顔になってしまったクロを、まどかは微笑んで見つめた。


知久「つい、最近では見たこともない怪物をやっつけてしまったとか嘘みたいな話も聞いたね」


かぐら「ウソじゃないもん!本当だもん!!」


机の上にいたかぐらが、知久に訴えかける。
そうだね、と彼はそっと、かぐらの頭を撫でてやった。
えへへー、とかぐらも笑う。


まどか「クロちゃん、怪物って・・・」


クロ「成り行きだ、成り行き!」


煩わしそうに言葉を返すクロに、今度は知久も笑顔になる。


クロ「なんだその目は、そこの鹿目親子!」


うがーっと、クロは頭を掻き乱してしまいそうなほどの絶叫をあげた。

271: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/13(木) 22:07:03.16 ID:Z3cmXEFDO
知久「まどか、少しこの子達と遊んできてくれないかな?少しクロちゃんと話がしたいんだ。」


知久がそんな事を言いだしたのは、少しばかりクロの事情を話したり、かぐら達の話を聞いたり───もっともまどかは何を言っているのか分からず、残念そうにしていたが───しながら時間を潰していた時だった。


まどか「うん、分かった。さぁ!行こうかぐらちゃん!ほむらちゃん!!・・・ん?ほむらちゃんって」


そういえばそうだなぁと、一人納得するまどかについてかぐらとほむらは机からジャンプで降りてリビングから出ていった。


かぐら「まどかちゃん、やっぱり変だねー」


ほむら「待てよ!かぐらー!危ないぞ!?」


もうすでに舐められている。


あれは、間違いなく苦労する。


知久「改めて、ありがとう。あの子達を助けてくれて」


すると、突然前の席にいた知久に頭を下げられた。
クロは顔をしかめた。


クロ「やめろ、成り行きだって言っただろうが」


知久「それでもだよ」


ふぅ、と彼は息をついた。


知久「あの子達には、これ以上の苦しみはいらないんだ」


その言葉に、クロは思わず考えを巡らした。
おそらく、かぐらとほむら、彼らに関する考察にクロと知久にはズレはないだろう。


知久「あんな小さな子供達を群れから遠ざけるなんてどうかしてる。ありえないことだよ・・・よっぽどのことではない限りは」


つまり、それは、彼らの母親及び群れに、なんらかの危機が訪れた事を示していた。


間違いなく、どうにも出来ないレベルの・・・。
しかし、彼らの母親は、そんな事態に子供達を巻き込むことを避けようとしたのだろう。


────適当な嘘をついて、なんとか生きて、此処にたどり着くことを祈りながら


知久「だから、ありがとう」

彼は頭を上げなかった。
クロはそっと目を閉じ、あの子供達を思い浮かべた。


知久「これで、あの子達の家族の思いに応えることができる」


クロ「そうか」


そっと、クロは頷いた。

278: すみません、投稿は今日のお昼頃にします。 2012/09/15(土) 00:22:03.89 ID:x4TlW7RDO
知久「まぁ、ここまで言っておいてなんだけど、まだそうだって確認できた訳ではないよ」


まだ確認していない、という言葉から察するに恐らく彼は、かぐら達の住んでいた街にも足を運ぶつもりなのだろう。


これはもう、頭の良い人格者ではなく、頭の悪いお人好しなのではないか。
呆れ果ててグゥの音もでない。


クロ「たしかに、こりゃお節介な母ちゃんだ」


『マザー』という言葉に込められた意味が、なんとなく分かってきた気がする。


知久「お節介なら君だって似たようなものだよ。この街に来てから一体いくつの厄介ごとに首を突っ込んだんだい?」


彼には、自分が異世界から来たという事情を話している。
しかも、あっさりと信じられてしまい、ある程度の説得は必要だと身構えていたクロは肩透かしをくらってしまった。


そもそも、猫と会話できるような男である。
異世界だ、サイボーグだ、なんて彼にはファンタジーではなかったのかもしれない。


クロ「お前、いつから猫と話せるようになったんだ?」


その言葉に、知久は腕を組んで唸った。


知久「うーん、話せるようになったのは、ここ二・三年かな?それまでも、普通に通りすがった猫達の世話はしていたんだけどね。ある日、猫に突然話しかけられたんだ。びっくりしながら、答えてみたらコミュニケーションが成立してね」


いやぁ、あの時は本当に驚いたよ、と頭を掻きながら彼は笑う。


知久「最近じゃ自分が猫になっている夢を見るくらいだよ」


能天気な男だった。
温かく、緩い、全てを受け入れるような柔らかさがありながら、ここまで自分の明確な意志を伝えてくる。


よく、分からない人間だ。


クロ「・・・夢、ねぇ。そいつはどんな夢だ?」


知久「あぁ、それは──」


まどか「わきゃー!やめてかぐらちゃーん!!」


かぐら「待て待てー!悪い奴はやっつけちゃうぞー!」


知久の言葉を遮って、庭からまどかの悲鳴と、かぐらの楽しそうな声が聞こえてきた。


まどか「かぐらちゃん!ギブ!ギブ!!」


かぐら「お腹見せてないからダメー!」


不幸なことに、まどかの言葉はかぐらに通じるが、かぐらの言葉はまどかには通じないようで、もう、まどかには何が何やら分かっていないのだろう。


クロ「楽しそーだな」


知久「そうだね」


彼らは、座して動かなかった。

282: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/15(土) 13:21:22.05 ID:x4TlW7RDO



───例えば、と思う。


しかし、その『例えば』を考えれば考えるほど


叶わなかった現実を思い知る


何かをしようと決意したって


何もできない自分を鼻で笑う


そんな日常を変えたかった


ただ、それだけだったんだ


────見滝原総合病院・時間は少し巻き戻る


カーテンから漏れてきた日の光が、寝呆け眼に突き刺さる。
まだ重い身体が少しだけ浮かび上がるような感覚を感じた。


しかし、夢見心地の感覚でも自分の左半分だけは、どうにも重いままだ。
自分は一体、後何回目覚めるたびにこんな気持ちになればいいのだろうか。


少し、首を動かして時計を見た。
後、一時間程で午後のリハビリの時間だ。
今度こそ、今度こそ、と彼は自分に言い聞かせ、左腕を見た。


(まだ、動かさなくていい)


今、動かそうとして、失敗したら、今度こそ自分は立ち直れなくなる。


祈るように目を閉じる、そのまま数分動かなかった。


すると、ドアが開く音が聞こえた。


たぶん、彼女だ。


彼は、心を落ち着かせて、首を来客に向けた。


「やぁ、さやか。いらっしゃい」


さやか「うん、おはよう。恭介」



284: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/15(土) 16:18:56.66 ID:x4TlW7RDO
開口一番で朝のあいさつをされてしまった。
どうやら、さっき起きたことは、分かっているらしい。
付き合いが長い彼女だからこそ、なのだろうか。


恭介「おはよう、さやか。」


さやか「よろしい。」


そんな言葉のじゃれあいも、昔にくらべればかなりくだけたものになった。
こうなる前は、病室で二人きりになれば、お互いに何を言えばいいのか分からなくなってしまったものだ。


しかし今は、そうでもない。
ただ、それだけの関係性になるのにどれだけの時間が必要だったか。


恭介「いつも、ありがとう」


さやか「何を言ってるのさ。おじいちゃんになるよ」


そして、時間がかかっただけの価値がある。
そんな、仲の良い二人という関係は心地良かった。


恭介「最近、何か変わったことあった?」


さやか「変わった、こと?あー、えぇー」


何故か彼女は、歯に何かが詰まったような、煮え切らない態度をしている。
何をするにも一直線の彼女が、こんな顔を見せることも珍しい。
少し、面白いので様子を見ることにした。


さやか「い、いろいろ!」


恭介「いろいろ?」


追い込まれた彼女を見るのも、楽しい。


さやか「そう、いろいろ」


誤魔化せたと言わんばかりの顔を見るのも、楽しい。


恭介「良かったね。さやか」


本当に、友達と一緒にいることは楽しかった。

285: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/15(土) 16:55:03.72 ID:x4TlW7RDO
彼女をじっと見ているうちに、少し顔が赤くなっていることに気付いた。
急いで来たせいで暑いのだろうか?
そんなに、急ぐことはないのに。


さやかは優しい。


彼女の顔をマジマジと見ながらそう思った。


さやか「あ、あのね。恭介」


恭介「うん?」


さやか「そ、その」


彼女が何かを言おうとしたタイミングを見計らったように病室の外から、激しい破裂音と廊下を走る音が聞こえてきた。


『なんで最後にあんなこと言ったの!?』


『うるせー!とにかく今は逃げろ!!』


ギャーギャーと叫び声は近づいたかと思えば、凄まじい早さで遠ざかっていった。


恭介「なんだろう、今の?さやか・・・さやか?」


彼女もさぞ驚いただろうと思い、その顔を覗いてみると激しい苛立ちに耐えるような顔で、肩を震わせていた。


さやか「・・・あんにゃろ~。やってくれるじゃない、良い雰囲気だったのに」


そして、何かボソリとつぶやいているようだったが、今一聞き取れなかった。


『そ、外だ!』


『馬鹿、止まるな!あいつどっかで狙ってやがるぞ!』


ついさっきの声の主達は、もう病院の外に出たらしい。
反響する大声が、ここにも聞こえてきた。


恭介「・・・さやか」


さやか「へっ?どうかした?」


考え事をしていたさやかが顔を上げた。


恭介「身体を起こしてくれないかな?」



286: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/15(土) 16:58:04.62 ID:x4TlW7RDO
さやか「うん、良いけど・・・どうして?」


恭介「窓の外が、見たいんだ」


不思議そうな顔をしたものの嫌な顔を一つせずに、彼女は僕の身体を支えてくれた。
ゆっくりと、身体を窓に近付けた。


日の光が、目に突き刺さって痛いほどだった。






その時、見えたものは、桃色の髪をした少女と、黒猫が転げ回るように駆けていく光景。







それは、胸が痛いほど、羨ましくなる光景だった。


軽やかに走る少女と、自由に跳ねるように駆ける黒猫。


見てみたのはいいが、少し辛かった。


動かない左腕が、また少し痛んだ気がした。


290: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/15(土) 21:53:47.05 ID:x4TlW7RDO
────鹿目家近辺の路上


そして、クロと知久が話している時間まで、時を少し進ませよう。
その間、まどかは、かぐらとほむらの二匹を連れて散歩をしていた。


まどか「いい天気だなぁ」


空を見上げ、ほんわかとした笑顔を浮かべる。


まどか「そして、可愛いなぁ」


視線を下げ、ほっこりとした笑顔を浮かべる。
道の上では、ほむらが自分の尻尾をかぐらにくわえさせて歩いていた。
道に迷わないようにだろう。


そんな彼らを見ていると、幸せな気分になってしまうのは自然の・・・いや、女子中学生の摂理だ。


まどか「そういえばパパは、初めてこの子達が来た時名前を付けさせてくれなかったのは、この子達から名前を聞いていたからだったんだ」


恍惚の表情の中、どこか冷静な部分が何事かを呟いていた。


まどか「いいなぁ、私のパパみたいに猫ちゃんと話せるようになれたらなぁ。魔法少女になれば分かるかなぁ」


「そんなのにならなくても、ドリトル先生に弟子入りすればいいじゃない」


まどか「にゃー!?」


突然、凛とした声がまどかの真後ろから聞こえてきた。
まどかは飛び上がって振り向いた。


まどか「あ、暁美ちゃん!?」


ほむら「ん?」


驚きながら、ほむらの名字を呼ぶまどかに、若干ひっかかるほむら。


まどか「こ、こんなところで何をしているの?」


ほむら「別に、ただ通りすがっただけの謎の少女よ」

291: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/15(土) 22:16:47.90 ID:x4TlW7RDO
まどか「自分で言っちゃうんだ」


ほむら「言うだけじゃないわ。生徒手帳には書いてあるもの」


まどか「謎の少女なのに、生徒手帳はちゃんと持つんだね、暁美ちゃん」


あれ?と今度こそほむらは気付いた。
もはや、看過できるはずもない。


ほむら「・・・まどかさん、あなた前までは名前で呼んでいたじゃない」


まどか「え、だってあの子とかぶっちゃうよ?」


あの子と言ってまどかが指差した先には、黒猫に自分の尻尾をくわえさせて虎猫がキョトンとした顔でこちらを見ていた。


ほむら「いや、なんで人間の私が譲歩した形になってるのよ」


感情をあまりださない表情だったが、明らかな不服を彼女は訴える。


まどか「えー、それじゃあ分かり辛くなっちゃうよ!」


ほむら「分かりやすいとか分かり辛いで、人様の名前の扱いを適当にするんじゃないわよ」


ほむら「ニャア?」


まどか「ほら、今のはたぶん、暁美ちゃんが突然猫の鳴き真似をしたみたいに感じるんじゃないかな」


暁美「誰が暁美よ」


まどか「だって暁美ちゃんがマミさんの時に助けに来たけど車酔いで全然役にたってなかったのが悪いんだよ!!」


かぶりを振って嘆きだしたまどかに対し、こめかみがキレそうになったが、暁美は押さえた。


暁美「なるほどね、彼の影響がこんなところまで出るなんて」


深い陰が差した顔に、鋭い瞳が光った。
どうやらかなりからかい過ぎたようだ。
散々怖い思いをさせられた仕返しを敢行して、歩みよりを試みたのだが、成果はかんばしくないようだ。


暁美「本当、覚えてなさいよ。キッド」


キッド?とまどかが首を傾げている間に、暁美はいずこに去っていった。

296: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/17(月) 20:10:16.33 ID:4fvpPE0DO
最初は不思議な子だなぁ、というのが、まどかのほむらに対する印象だったが、ここ最近では変な子だなぁ、という印象に変わってきている。


そのお陰でと言えるのかどうかは分からないが、最初に出会った時から彼女にあった近寄りがたい雰囲気はどこか軟化している気がする。
しかし、それでもまだ彼女が隠し事をしていることは分かる。
自分を避けていることも分かる。


分からない、暁美ほむらという少女が掴めない。
分かりあおうにも、自分さえも避けられている状況において、まどかは無力だった。


やりきれない想いに、なんとなく視線を下げてみると、いっこうに進もうとしない散歩に飽きてしまったのか、かぐらとほむらがじゃれあっていた。


まどか「この子達は素直でいいな」


本当に、こんな風に遊べたらそれだけで人間幸せになれそうな気がしたまどかであった。


まどか「そう言えば、クロちゃんが子供の頃ってどんな感じだったんだろう?」


思いを巡らせば、無秩序に思考は飛ぶ。
色々考えた末にクロの過去まで気になってしまったまどかである。


例えば、どんな友達がいたのだろうか?


どんな飼い主に飼われていたのだろうか?


どんな生活をしていたのだろうか?


まどかは、自分は、あまりクロの事を知らないのだと気が付いた。

297: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/17(月) 20:37:17.83 ID:4fvpPE0DO
まどか「うーん、気になるけどなぁ」


考えても仕方がない。
家に帰ったら本人に聞けば良いのだと割り切った時だった。


───自分の横を何かが通り過ぎた。


感じた違和感に、慌てて振り返るとそこにいたのは、人だった。


世間的には中年と呼ばれるような顔立ちをしている男性が妙に弾むような足取りで歩いていた。
ヨレヨレのスーツに、汚れた靴を着こなしたサラリーマン、その背中からは鼻歌も聞こえてくる。


しかし、その跳ねるような足取りは軽いというより、朧気で、そのまま倒れてしまってもおかしくないくらい希薄だった。


おかしくて、不気味なその男性から目を逸らせず、角をフラリと消えるように曲がっていくまで、まどかは立ち尽くしていた。


まどか「なんだったんだろう・・・今の」


姿が見えなくなるまで、妙に息もできなかったまどかは、大きく息をはいた。
ただの変質者なのだろうか、ひたすらに不気味で、怖気が走る。
今になって鳥肌もたつ。


不安になって子猫達を見てみると、先ほどの人間に対する恐怖からか震えていた。


まどか「かぐらちゃん、ほむらちゃん・・・」


もう大丈夫だよ、そういって身体を抱き締めようと近づいた時だった。


ほむら「みぎゃー!!」


まどかは、ほむらの尻尾を踏んだ。
いけない!と思って慌てて足を離したが、ほむらは五メートルはまどかから離れて警戒するように見つめている。


かぐら「ふーっ!」


が、もっと怒っていたのはかぐらであった。
身体をぐっと低く構え、まどかを鋭く睨み付けている。


まどか「か、かぐらちゃん?」


次の瞬間、ニャーっ!とかぐらはまどかに飛び掛かり、まどかはダッシュで逃げていった。

298: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/17(月) 21:05:53.15 ID:4fvpPE0DO
まどか「ってことがあって・・・」


その話を聞いたクロと知久はため息をついた。


知久「それでほむらくんはあの調子だったのか」


シュンと頭を伏せているまどか、そのまどかを警戒してか必要以上に近づいてこず、リビングの入り口に姿を隠しているほむら。
そんな状況を理解した知久は、苦笑いをしている。


かぐら「そうだった!かぐらは怒っていたのです。まどかちゃん、よくもほむらに酷いことをしたな!」


クロ「最終的にお前も遊んでたんじゃねーか」


どうやらかぐらは、ほむらが理不尽な攻撃を受けたのだと勘違いして、まどかに攻撃をしかけたが、途中で楽しくなって遊びに走ってしまったようだ。


かぐら「ふみゅっ」


クロ「ったく」


テーブルの上で、まどかに飛び掛かろうとしたかぐらの尻尾をクロは掴む。
ジタバタとかぐらは暴れたが、やがて諦め、まどかに顔だけを向けた。


かぐら「こら、まどかちゃん!いけないことをしたら、ちゃんと謝らないといけないんだよ。お母さんが言ってたよ!」


自分に向かってニャゴニャゴと言うかぐらに、まどかは戸惑って、助け船を求めた。


知久「いやぁ、こういうのは本来父親である僕が言わなきゃいけなかったんだけどな」


クロ「お前な・・・」


あんまり、父親であろうと頼りにしちゃいけない時もあるのだとまどかは知ったが、それどころではなく、かぐらは毛を逆立てていく。
クロは、尻尾を離していない。


かぐら「ま~ど~か~ちゃ~ん。聞いてるの~?」


まどか「あう~」


怒っているのは分かるが、それだけではどうしようもなく、まどかの焦りは募る一方である。


──そして


知久「まどか」


やっと、知久は口を開いた。


知久「自分のしてしまったことを、もう一度思い出してごらん。そうすれば分かるよ、自分がどうするべきか」


口調は穏やかであったが、キッパリとした物言いであった。
その言葉に、まどかは落ち着きを取り戻し、入り口のほむらに身体を向けた。


まどか「ごめんなさい、ほむらくん」


299: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/17(月) 21:27:47.92 ID:4fvpPE0DO
その姿に、ほむらは目を丸くして、かぐらは満足気に微笑んだ。
知久は、嬉しそうにまどかを見つめ、クロは興味なさそうにかぐらの尻尾を離してやった。


ほむら「別に・・・いい」


ボソリと呟くような声がクロの耳に届いた。


まどか「えーと、どうなったのかな?」


クロ「許してやるとさ」


不安げにこちらを見てきたので、クロはほんの少し唇を歪ませて答えてやる。


クロ「まぁ、女の前で恥かかされて平気な雄はいねーよな」


ニヤリと笑って、クロはほむらを見た。


かぐらは女の子である。
少し小さな黒猫ではあるが、年の頃はほむらはの二つ下。


ほむら「なっ!?」


リビングに飛び込んできたほむらが、クロにくってかかった理由は、ただ一つである。


ほむら「お前いい加減なことを言うなよ!」


クロ「あー?まだ、なーんも言っちゃいねーぞ?」


ほむら「言ってるようなものだろ!いいか!違うぞ、全ッ然違うからな!!」


突然騒ぎだしたほむらに、まどかとかぐらは目を丸くさせている。


まどか「どうしたんだろう?」


かぐら「おー、ほむら元気一杯だ」


そんな彼らを見ながら、知久は楽しそうに笑っていた。


クロ「あぁ、でも恋愛相談はやめとけよ?そんなの上手くいった覚えがねーよ」


ほむら「今、恋愛って言ったー!!」


第一話 完

300: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/17(月) 21:32:07.88 ID:4fvpPE0DO
次回予告


暁美「私のこと、ほむらって呼ぶまで絶対に助けないから」


クロ「そんなに死にてーなら、好きに殴っても構わねーよな」


恭介「ね、猫が喋った?」




第二話「誰が迷うか」



次回は、明日中に投稿します!