305: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/18(火) 21:16:04.91 ID:dlzO1RSDO
詢子「え、えっと・・・ここまで来て、こんなこと言うのは、あれなんだけど」


いつものような気の強さは鳴りを潜めた彼女。
今、震えるその肩に触れたら、そこからサラサラと崩れてしまうのではないか。


知久「うん」


詢子「キス、だけじゃないと・・・、駄目になるから、その」


相手を失望させてしまうのではないかと、不安そうな彼女の唇を、彼はそっと人差し指で押さえた。


知久「いいよ」


詢子「へ?」


そっと、頬に手を添えられる、優しく引き寄せられる。
彼の唇が、近付いてくる。

知久「動かないで」


────そして


以上が、まどかの母親であり、知久の妻の鹿目詢子が今朝見た夢のハイライトである。


詢子「な、なんじゃこりゃああああ!!?」


さやか編 第二話「誰が迷うか」


朝食をとっている時、突然自分の母親が、頭を掻き乱して叫びだしたので、まどかは驚いてしまった。
しかも、この母親にしては珍しく顔を真っ赤にしており、なおのことなにがなんだか分からない。


詢子「あー!なんで初めてのホテルでキスだけだったんだ!そして、なんでそんな夢を今になって見なきゃいけないんだ!!」


更に、少し子供としては聞きたくないような事まで口走っている。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1345289024

引用元: ・クロ「魔法少女?」

307: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/18(火) 21:41:09.69 ID:dlzO1RSDO
まどか「パ、パパ!?」


助けを求めて父親を見るが彼はニコニコ笑って、弟であるタツヤの側で、彼の耳をそっとふさいでいた。


タツヤ「なーに?」


知久「アハハ、随分と懐かしい夢を詢子さんも見たね」


父親の行動の意味は分からないが、不快ではないらしくタツヤはされるがままになっている。


まどか「え?じゃあ本当にキスだけで・・・じゃなくて!」


両親の蜜月などあまり知りたくはなかったまどかは、顔を赤らめてブンブンと振った。


まどか「早くママをなんとかしてあげてよ!」


知久「詢子さんはかわいいなぁ」


ドS!?とまどかは驚愕の表情を自分の父親に向けた。
こんな一面があったなんてまったく知らなかったのだ。


しかし、そうこうしてる間にも、詢子は両手を地につけて、どんどん自己嫌悪から小さくなっていく。


まどか「パパ!もう見てられないよ!」


知久「うん、それじゃあ、まどかはタツヤの面倒を見てあげてね」


娘の必死の説得が通じたのか、彼は自らの妻の下へ歩み寄り、そっと腰を下ろして、詢子の耳に口を寄せて、何事かを呟いた。


どんな言葉をかけてあげているのかは、なんだか家族として恥ずかしくも気になるもので、まどかはその光景を食い入るように見つめていた。


そして


詢子「ぷしゅううううう」


頭から湯気をだして、母は倒れた。


まどか「トドメを刺した!?」

309: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/20(木) 13:24:10.25 ID:br626PzDO
一騒動の後は、母も落ち着きを取り戻し、少し顔を赤らめながら食事の席についた。
まどかも、いつも強気な母親の姿を見たのは初めてだ。
中々見ない母の新鮮な表情と、まだ見ぬ父の底知れなさを垣間見た気持ちになる。


知久「そういえば、クロ達は起きたのかい?」


皆が席についた食事の途中で、知久はまどかに聞いた。その言葉に、まだスクランブルエッグを口に含んでいた彼女は頷いて変事をして、少し急いで口の中のものを片付ける。


まどか「うん、私の部屋でまだ寝てるよ」


その言葉に反応したのか、口の周りに食べかすを付けたタツヤがニャンコ?とはしゃぐ。
そんな幼い彼をハイハイとまどかは宥めた。


詢子「クロって・・・、昨日来た新参だろ?」


まどか「うん」


詢子は、いやぁとしみじみと腕を組ながらひとりごちる。


詢子「アイツには助かってるよ。アイツが来てからチビ助どものイタズラがピタリと止まったから・・・」


そう、実はクロがこの家に来る前は、かぐらとほむらの二匹のイタズラ、というか、暴走が酷いものだった。
はしゃぐかぐらを抑えようと走り回るほむらによって、家具が倒れたり、夜になるとほむらが哀しそうな夜鳴きをしながら歩きまわるため、わざわざ知久がその度に起きて相手をしてやったりと、中々手強いものだったのだ。


詢子「今まで、なんどか猫達の世話はしてきたけど、あれは大変だと覚悟をしていたよ。でも、できた猫が来てくれたもんだね」


今まで何度か、という言葉が指すように、この鹿目家では、野良猫の世話をしている、らしい。
らしい、というのも、ここまで本格的な話になっていたということを、まどかは昨日までまったく知らなかったのだ。


父は、猫からマザーと奉られている。
母は、そんな父の行動を受け入れ、また手伝いもしている。

310: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/20(木) 13:53:22.36 ID:br626PzDO
まどか「うん、クロちゃん面倒見が良いから。昨日はごねる二匹をギュッて抱き締めて寝かしつけていたし、ご飯を食べたがらないかぐらちゃんに口移しで食べさせていたし・・・」


やけに、クロは子供の面倒を見るのが上手かった。
ぶっきらぼうで、めんどくさがりなのはそのままに、それでもしっかりと子猫達から目を離さずに世話をする。
今までに、見たことのない姿だった。


知久「たぶん、彼もどこかの群れに属していたんだろうね。仲間と一緒に」


まどか「クロちゃんの・・・仲間」


今度、本人に聞いてみようと、まどかが考えた頃には、朝食は食べ終えていた。


詢子「ごちそうさま」


まどか「ごちそうさま」


詢子もしっかりとご飯を食べ終え席を立とうとしたとき、まどかは慌てて母の頭を指差した。


まどか「ママ!頭、さっきのでボサボサになってるよ!」


詢子「うおっ!?」


頭を掻き乱した詢子の髪型はどこぞのパンクロッカーのようにぴんぴんに跳ね回っていた。


詢子は走って洗面所に駆け込み鏡を覗きこむ。
力一杯、感情的に髪を弄ったため、少しばかり時間はかかりそうだ。
洗面所の入り口にまどかは立って、そんな母の様子を見た。


まどか「ママ!私もう行くよ!?」


いつもは、玄関を出るのは二人一緒だったが、さすがにこうなってはそうもいかないだろうし、無理に母親を急がせる必要もない。


詢子「あぁ、行ってこい。クロックアップするから」


冗談めかした荒い言葉を受けて家を出ようとした時、ふと気になっていたことを聞いてみた。


まどか「そうえば、ママ」


詢子「あに?」


まどか「あんなにたくさんの猫。急に引き取って、大変じゃない?」


最初、父がこのようなボランティアをしていることを知った時、何故母は、こんなことを許したのだろうと思っていた。
自分は、例えば困っている猫がいたりすれば、それは助けてしまいたいと思う。しかし、この母はとても厳しい人で、何をするにも覚悟と責任を背負うことが大事だと説く人だ。


自分が、もし中途半端な優しさでそんなことをすれば、叱られるのは自分なのだ。
そんな母は、この行為についてどう思っているのだろう。


詢子「猫が一匹増えようが、子供が一人増えようが関係ない。この家にいる以上は、猫だって家族だ」


何でもないように、母は髪を弄りながら言った。


詢子「それに────、愛する夫のやることに一々ケチなんてつけないさ」


少し、照れたように微笑んで、そう言うのであった。

311: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/20(木) 20:08:47.96 ID:br626PzDO
────まどかの部屋


クロ「スゥ」


かぐら「クゥ」


ほむら「うーん」


まどかの部屋の真ん中に、固めるように敷かれた座布団とタオルの塊、その上に三匹の猫達が重なりあって眠っていた。
一番大きなクロが、かぐらとほむらを身体の上に寝かせ、更に片手で巻き付けるように抱き締めて寝ている。


しかし、かぐらはそれでグッスリと眠っていたが、もう一匹、ほむらはなにやら眉をひそめて寝心地が悪そうに唸っていた。
なんとか、身体を捻ってそこから抜け出そうとするも、強い力で抱き締められているためまったく上手くいかない。


ほむら「あつい……………。おい、あんた、起きろ」


クロ「う、うーん」


動かせる範囲で、クロの身体を揺すってみるも、軽い反応を示すだけで、起きるまではいかない。
イライラもたまってきて、ガリガリとクロの身体に歯をたてても、妙に硬くてこちらの歯がおかしくなりそうだった。


クロ「ん?んー、朝か」


と、その努力が実ったのかどうかは分からないが、クロが重たい瞼をこじ開け、早朝特有の荒い声を発した。
ほむらは一瞬だけ、怯むもすぐに持ちなおし、クロの胸の中からくってかかった。


ほむら「いい加減に離せ、この野郎!」


朝っぱらからの元気な声にあからさまにクロは顔をしかめた。

312: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/20(木) 20:34:44.54 ID:br626PzDO
クロ「離せって……、お前が昨日の晩に一人で眠れないっつったろーが」


ほむら「い、いってねーよバカァ。」


そう、確かにほむらは『クロには』言っていない。

彼がそう言ったのは


かぐら「ボクに言ったんだよね!」


ほむら「でぇーー!」


クロの腹の上で、ピョコンと耳を動かしながら顔を起こしたかぐらに、ほむらは驚きを隠せなかった。
朝から元気な二匹に、うんざりしながらもクロはしっかりとその手を離さない。


かぐら「前まではボクと一緒じゃないと寝れなかったんだよー」


ほむら「こらっ、余計なことを言うなよ」


まるで学校の先生に生徒が友達の悪行をわざとらしく言い付けるように、かぐらはニヤニヤしながらクロに言う、すると、ほむらは嫌そうな顔をして口止めにかかった。
しかし、未だにクロはその拘束を解かない。


それは、こんな風に、一ヶ所に固まって眠ることは何年ぶりかのことだったので懐かしくなってしまい、少しばかり手放し難いという理由からだった。


しかし、そうも言っておられず、そろそろ本格的にほむらが嫌そうにもがきだしたので、腕を離す。


ほむら「うわっ」


かぐら「おぉ」


クロがグッと身体を起こすとズルズルと滑るように二匹はクロの胸の上から落ちていった。

313: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/20(木) 21:34:40.90 ID:br626PzDO
クロ「ふわぁ、飯でも食うかね」


カーっと、大きな口を開けて欠伸をして、クロは二匹に向かって聞いたが、まどかは「ご飯?」と嬉しそうにピンっと尻尾を立てて喜びアピールをするが、ほむらは「ご飯?」と眉をひそめて機嫌悪いアピールをしている。


かぐら「お兄ちゃん、お兄ちゃん」


クロ「あん?」


かぐら「またチューしてご飯食べさせてくれるの?」


その言葉に、一番反応を示したのほむらであった。
彼は昨日、クロがかぐらに対して口移しでご飯を食べさせたところを目の当たりにしていた。
あの時は、唖然とするだけで終わってしまったが、今回は違う。


ほむら「ダメダメダメ!絶対ダメェ!」


かぐら「えー、何で?ギュッてされてチューってされるんだよ?」


ほむら「それが嫌だし、ダメ!」


頑なに、口移しでの食事を認めないほむらに、まどかは首をかしげ、クロは唇を歪ませる。
いいからかい相手を見付けたようだった。


クロ「んじゃ、お前がしてやりゃいいじゃねーか」


ほむら「オ、オレはいい!」


うん?といつもと違う連れの様子に不思議そうな顔をするかぐら、いやまったく彼女も随分と男泣かせなものである。



316: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/20(木) 22:18:40.39 ID:br626PzDO
クロ「まぁ、取り敢えずは飯だ飯」


かのままからかい続けても腹は膨れないのて、ほむらは納得はいってる訳ではないだろうが、クロは話を早々に切り上げて、まどかの部屋から出ようと立ち上がった。


そして、その背中をかぐらは嬉しそうに、ほむらは憎々しげに、トコトコとクロの後をついていった。


リビングに出ると、もうそこには誰もいない。
あちらこちらから差し込む朝日の中で動いている影は存在していなかった。


そういえば、知久は朝にはあの子供を幼稚園に連れていくと言っていた。
しかし、そこは主夫、キョロキョロと辺りを見渡してみれば、部屋の邪魔にならないような場所に三枚の餌が置かれている。


一枚は、猫まんまと言っても差し支えない食事の余り物を寄せ集めて作ったようなもの、後の二枚には、食パンを温いミルクで煮込んだ離乳食がよそわれていた。


クロ「かぐら、お前がごちゃごちゃ言うから、飯がキャットフードからバージョンアップしてんぞ」


かぐら「えーと、してやったり?」


違うだろ、とポフンと左手をかぐらの頭に乗せた。
実は昨晩は、かぐらがキャットフードの味を嫌がり、中々食べなかったので、クロは強硬手段に出たのだった。


クロ「慣れねーな、左手一本ってのも」


大分この生活も不便になってきた。
サイボーグであることを誤魔化すために、胸から切れた右腕までを包帯でグルグル巻きにしているのだが、まずはその圧迫感、そしてたまに、ついつい右手を使おうとした時の苛立ちはクロの心をささくれだたせる。


かぐら「いただきまーす」


ほむら「いただきます」


しかし、今まさに、こうして朝食にがっついている二匹を見ると、まぁなんとなくその心も落ち着くのも事実であり、機会があったら暴れればいいと余裕も出てくるのだ。


クロ「食い終わったら、出かけるぞ」


口元をミルクまみれにさして、二匹はクロの顔を見た。


かぐら「どこいくの?」


どんな楽しい場所に連れていってくれるのかと、期待をこめた瞳を輝かして、かぎらは尋ねる。


クロ「病院だ」


びょーいん?と頭にハテナマークを浮かべたかぐらとほむらをよそに、クロは自分の朝食に食らい付いた。

323: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/21(金) 22:50:11.76 ID:Hz03Z9xDO
────見滝原総合病院・裏口


かぐら「お兄ちゃん、これ大丈夫なの?」


クロ「知るか!てか、今話しかけんな!」


食事を終えたクロは、かぐら達を家においていく訳にはいかなかった。
子供を留守番させることのリスクの計り知れなさは、自らの幼児期の体験から理解しているつもりだからだ。


ほむら「落ち、落ちるぅ……」


だからこそ、クロは目的地にたどり着くまで、二匹を自分の身体にしがみつかせたまま、病院の壁をロッククライミングしていた。
一つ一つ、力強く左腕の爪を壁に食い込ませ、両足を駆使し、自分の重い身体と文字通り『猫二匹分』の重みを支え、必死で上へ上へと登っていく。


かぐら「すごい!すごい!ほむら、すごい眺めだよ!」


ほむら「今見たら、死ぬ」


ガタガタと震えるほむらね腕はしっかりとクロの首に巻き付いているため、非常に鬱陶しい。
しかも、クロは片手で登っているのだ彼も彼で、一つも気の抜けない状況にあった。


クロ「あっぐぅぅ!チクショー、お前らと関わるとなんからしくねーことばっかしてる気がするぜ!!」


ほむら「ふ、ふん!ならほおっておけばいいじゃないか!」



324: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/21(金) 23:07:34.64 ID:Hz03Z9xDO
クロ「あぁ?なら、今ここで……捨ててこうか!?」


クソ生意気な顔でのたまうほむらに、息も絶え絶えになりながら、クロがそう毒づくと、案の定ほむらはクロに弱々しく食って掛かる。


ほむら「い、今捨ててみろぉ!ば、化けて出てやっかんなぁ!?」


ガタガタ震えが更に強くなったのを、背中に感じながら力を込めた。


目的の窓までもう少し────そして


クロ「んじゃ、化けてでんのはもう少し待ってろ………よっと!」


そこに手がかかった。


────見滝原総合病院・マミ病室


今日も今日とて、彼女は暇であった。
することもなく、やることもなく。
人との関わりも訪ねてくる友人を抜かせば、病室に来る看護師と挨拶を交わすぐらいのもので、そして、相変わらず、学校のクラスメイトが来る事はなかった。


今、一体授業はどこまで進んだのだろうか?


今度のテストの範囲は、もう決まったのだろうか?


そんな簡単な事が分からない。
今まで、億劫がってしてこなかったこと、魔法少女としての自分のことばかりかまけて、避けて、考えないようにしてきたこと。


魔法少女だからなんなのか?


いざ、自分がこうなってしまえば、特別なこともなにもない、ただベッドに横たわるだけの少女だ。


彼女は、やっと理解した。


自分が、普通の少女だったのだと。

325: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/21(金) 23:22:14.86 ID:Hz03Z9xDO
少し暗い気持ちになったときだった。


マミ「?」


コンコンと、窓を叩く音が聞こえる。
一体どうしたのか、風が吹いているのかと思い、しばし静観していたが、やがてその音は、ゴンゴン!と窓ガラスを叩き割らんほどに激しくなっていく。


そこで、ようやく彼女は、ハッとした顔になり、窓を開けた。


マミ「いらっしゃい。クロ」


歓迎の意味を込めてニッコリとマミは微笑んだが、窓のさんを掴んでゆっくりと現れた彼はそれに笑顔を返す余裕などなかった。


クロ「ゼーハー、ゼーハー、てめー、早く、開け、ろや」


片手と頭を窓の枠部分に乗せて休みながら、身体中の二酸化炭素を絞りだすような荒い呼吸を繰り返すクロを、マミは目をパチクリとさせながら見た。
そんな彼女を尻目に、重い身体を引っ張りあげようにして、彼は病室に飛び込んだ。


しかし、着地は上手くいかず、勢いのままにベチャッと音を立てて彼は、病室の床に倒れこんだ。
背中に、二匹の子猫をのせたまま。



326: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/21(金) 23:36:17.26 ID:Hz03Z9xDO
マミ「だ、大丈夫かしら?クロ」


クロ「………大丈夫に見えるか?」


さすがというか、息はすでに落ち着いたようだった。しかし、憮然としたような口調がうつ伏せに倒れたままの彼から聞こえてくる。


ほむら「ここが、病院?」


かぐら「お姉さん、だぁれ?」


と、そこで彼女は気付いた。
今日の来客が一人だけではないことに。


マミ「ク、クロ……この子達は?」


クロ「連れ」


連れ、という言葉に色々問いただしたい気持ちはあるが、取り敢えず、おそるおそるながらマミは、まずはクロと同じ毛並みを持つかぐらに手を伸ばしてみた。


かぐら「?」


ペロッと、何も考えず、かぐらはマミの指先を舐めた。
猫特有のざらついた感触がマミの指をくすぐる。


端的に言おう、マミはそれにクラッときた。


マミ「可愛いーっ!」


ギュッと抱きしめられるかぐらと、何故だか巻き添えを食らったほむらが、マミの大きな胸の中で目を回している。


年頃の少年ならいざしらず、猫にとってはあれは拷問のようだろうと思ったものの、クロはまずは身体を休めることを先決とした。


クロ「なーむー」

327: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/21(金) 23:54:11.10 ID:Hz03Z9xDO
マミ「あー」


結果論から言うと、かぐらとほむらにマミは嫌われた。
力一杯、手加減なしで彼らを扱ってしまったのだ、あのかぐらでさえ、マミを警戒してクロの背中に隠れてしまっている。
そのため、クロはマミのベッドに腰掛けることができず、病室の床に二本足で立っている状態だ。


ほむらはグロッキーになって今は、誰からも距離をとったままである。


クロ「お前な……、せっかくオイラが気晴らしにと思って連れてきたのによ」


嫌われてどうすると、呆れたよう言葉を吐かれ、マミは返す言葉もなかった。


マミ「だって、子猫なんて見るのは久しぶりだったんだもの」


クロ「久しぶりぃ?どんな生活してりゃ………って、まぁ、そんな生活してりゃそうもなるか」


唇を尖らせるマミに、ダルそうに耳をかくクロ、しかし、病室に流れる空気はシンと静かになる。


クロ「で、どうだ身体は」


マミ「まぁまぁ、よ。もう少しで退院できるわ」


へぇ、と呟くクロだったが、最初一週間の入院と言われてから、もう一週間は経った。
これ以上期間が増える必要はないはずだ。


それでも、マミが退院するのはもう少し後になるかもしれない。
医者の許しがでても、彼女がどうにか頼みこんで延長させるかもしれない。


予想だったが、なんとなく自信はあった。

328: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/22(土) 00:12:35.57 ID:37000uvDO
───だから、自分はこう言ったのだろうか?


クロ「だったらよ……、お前、適当に寝てろよ」


マミ「え?」


クロ「オイラがやっとくぜ。魔法少女の仕事ってヤツなら」


マミはポカンと口を開けていた。
信じられない言葉を、信じられない人物から聞いたように。
そして、ポロポロと言葉が、マミの口から零れてきた。


マミ「私……恐いの」


涙のように、強い心の殻が破れるように


マミ「あの時だって、クロを助けたくて、なんとか頑張れたけど」


決壊した。


マミ「私……、もう無理だよぉっ!これ以上は、戦いたくないよぉ……」


いや、本当はとっくに限界だったのかもしれなかった。
命や、戦いを背負って生きるには、その背中は小さすぎる。


しかも、誰も、その苦しみを気付いてやれないなら、彼女の歩む日常は地獄でしかない日々だったろうに。


ギュッと毛布を握りしめる彼女の顔は前髪の覆われ、全てを見ることはできなかった。


でも、見ることができなくても


その気持ちの全てを知ることができなくても


クロ「お前みてーなガキは、ガキらしくしてろ」


不器用で、ぶっきらぼうな優しさが、確かにマミの隣にいた。


クロ「魔法少女の手伝いと言えば黒猫だろ?」

329: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/22(土) 00:14:12.71 ID:37000uvDO
すいません、今日は更新遅くなりました。


ということで次回は、日付が変わるまでに投稿したいと思います。
本日は、どうもありがとうございました。

331: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/22(土) 20:55:23.27 ID:37000uvDO
マミ「で、でもクロ……、本当にいいの?」


彼には魔女と戦う力はあるだろうが、魔女を探したり結界に侵入する力はない、ただの猫だ。


サイボーグであっても


高い戦闘力を誇っていても


それでも彼は別の世界から来た、魔女とは無関係のただ猫なのだ。


そんな彼を巻き込んで良いのだろうか?


クロ「んなもん今更だろーが」


そんなマミの心配事をクロはあっさりと一蹴する。


クロ「ちょうど暴れたりねーところだったし、飯の礼もしておきてーしな」


ニタリと笑うその様は軽薄でありながら凄味を含ませている。
しかしそれが、どれ程の安堵を彼女に与えたことだろうか。


マミから、力が抜けていく


ゆっくりとベッドに横たわり、彼女は顔を横にしたままクロにこう言った。


マミ「ありがとう」



332: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/22(土) 21:12:03.95 ID:37000uvDO
かぐら「あのお姉ちゃん、すごく疲れてたね」


クロの隣を歩くかぐらが、ポツリと言ったのは、病院が見えなくなるくらいに歩いた頃だった。


ほむら「いきなり身体を押しつぶしてくるような人間が疲れてるって?」


心配そうなかぐらに反して、ほむらのマミに対する評価は乱暴な人間のそれだった。
少しばかり、トラウマを作ってしまったようだ。


マミの二つの膨らみに挟み込まれ窒息しかけるという苦しみは、猫には暴力以外の何物でもなかった。


クロ「………」


そんな二匹を従える形で歩くクロは先ほどから黙りこくって歩いている。
それが多少の居心地の悪さを感じさせ、二匹は調子が狂う。
嫌になる前に、はっきりさせたいかぐらは、迷わず尋ねる。


かぐら「お兄ちゃん、さっきから黙ってばっかでつまんないー」


ほむら「何か考えているなら早く言えよ。恐いんだよ」


かぐらに追従する形で、ほむらもクロに少しキツイ口調で問いただすも、クロは仏頂面で歩いていた。


クロ「あー」


と、そこで急にクロが立ち止まり、かぐらとほむらは首も傾げて立ち止まる。


そして、彼は口を開いた。


クロ「なんか、らしくねーな」

333: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/22(土) 21:54:52.30 ID:37000uvDO
かぐら「らしくないって、あのお姉ちゃんのこと?」


かぐらの疑問に、クロは答えず。
さぁな、とはぐらかしてしまう。


気になる態度を取ったかと思えば、簡単に身を翻してしまう、いかにも猫らしい反応だったが、期待したような答えを得られず、かぐらはむくれる。


かぐら「お兄ちゃんのいけずぅ」


ブーブーとブーイングを飛ばす、かぐらを一瞥し、クロは堪忍したようにため息をついた。


クロ「らしくねーってのは、オイラの方だ」


かぐら「へ?」


その言葉の意味をかぐらが考えあぐねていた時


ほむら「!?」


隣にいたほむらが、目を剥いて背後を見やった。


「君らしさ、か。とても興味深いね。それは──」


声は突然聞こえたはずだった。
しかし、ほむらの感じた気配と、聞こえてきたその声にはタイムラグがあった。


────声を聞いて気配を感じた、というより、さっきまで感じていた気配が突然言葉を発したような。


ほむら「な、なんだよ!お前!?」


その希薄な存在から感じる、言い知れぬ不気味さに、ほむらは声を荒げる。



「ボク?ボクはキュウべえだよ」



334: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/23(日) 17:04:59.23 ID:JFfDPgdDO
QB「君たちとは初めましてになるね───そして」


ゆったりとした動きで、その視線はクロをとらえた。


QB「君とこうして話すのは初めてになるかな、クロ?」


一歩、クロは前に進んだ。
ほむらとかぐらを守るように自分の背中に回した彼は、退屈そうな口調とだれきった顔で、相対する。


クロ「よー、キュウべえだっけか。最近見なかったなー?魔女退治以来か?」


QB「そうなるかな」


クロ「あの時、お前途中でいなくなったよな。どこ行ってたんだよ」


QB「君の戦いに巻き込まれてね。隅っこで転がっていたんだよ」


クロ「そりゃ失敬」


何でもない言葉、ただの世間話をしているだけの彼らだったが、お互いがお互いに真意を悟らせないようにしていた。


ほむらもかぐらも、子供特有の敏感さで、その緊張感を感じとったのか、クロの背中で固まっている。


QB「別に構わないさ。君も僕もマミと一緒に暮らしていた者同士、仲良くしようよ」


可愛らしい顔を傾けて、おそらく笑顔とおぼしき顔を形作るそれに、クロはただ一言だけを返した。


クロ「やなこった」

335: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/23(日) 17:21:53.50 ID:JFfDPgdDO
その言葉に、キュウべえは顔を歪ますことなく、唖然とすることもなかった。
その顔はいつも通り変わらず、ただそこにあるだけだった。


「行くぞ」というクロの言葉でようやく後ろにいた二匹は身体の緊張が解けるのを感じた。


ほむらは自分の喉がからからになっており、息をするだけでも痛みが走る程で、隣のかぐらに至ってはどこか放心してしまっているようだ。


たかだか、10分にも満たないその時に張り詰めていた緊張感は、それ程常軌を逸していたのだ。


───そして、踵を反したクロがキュウべえに背中を向け、歩きだそうとした時だった。


QB「そういえば、マミに変わって魔女退治をしてくれるそうだね」


突然かけられた声に、クロは立ち止まった。


クロ「まぁな、退屈しのぎにゃちょうどいいからよ」


背中を向けたまま、クロはそれが何でもないことのように言葉を紡いだ。
今更、決意や覚悟を決める必要もなく、それが当然のことのように。


QB「退屈しのぎかい?退屈になるたびに君は腕や足をちぎられるのかい?」



336: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/23(日) 17:37:48.35 ID:JFfDPgdDO
周りくどい、その言い草が気に入らなかった。


クロ「言いてーことがあんなら、とっとと言えよ」


回り道を好まず、二の足を踏むことを選ばないクロのその言葉は、その空間に一時の沈黙を生んだ。


───そして


QB「単刀直入に言うよ。魔女退治は魔女少女がやるべき使命だ。君に手を出されても困るよ」


キュウべえの言葉が、まずは先手を切った。


クロ「別にいいじゃねーか。少しは絡ませろよ」


間髪を入れず、クロは答えた。
もはや揺るぎようのないその意志は、面倒くさそうな耳をほじる態度に隠されていたが。


クロ「第一、その魔法少女のマミがあんな状態だろーが」


QB「なら他の魔法少女にやってもらうだけだよ」


他という言葉を聞いたクロは、耳をかいていた腕をそっとおろした。


クロ「他ってのは、まどかか、さやかか?それ以外に誰かいるってのか?」


QB「それ以外?たくさんいるじゃないか、この街には願いを抱えた少女達が」


何を言っているんだとでも言うようなキュウべえの淡々とした言葉をクロは黙って聞いていた。


その表情は、キュウべえからは背中越しでは気付くことはできない。

337: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/23(日) 17:51:22.50 ID:JFfDPgdDO
クロ「変わりはいくらでもいるってか?あいつはな、お前のこと、気にしてたぜ?」


QB「マミの事かい?彼女がどうしてもというなら、少しくらいは無理してもら───」


彼は、自分の言葉を最後までクロに伝えることはできなかった。
なぜなら、猛然と振り返り突っ込んできたクロ本人に力一杯地面に押し倒されていたからだ。


クロ「いい加減にしろよ、オイ」


首を捕まれたまま持ち上げられ、ダンっと地面に叩きつけられたキュウべえは仰向けにされ、クロはその身体の上に乗っかり、首を左腕で押さえ付けた。


クロ「《お前ら》が何を考えてんのかはどーでもいい」


左腕に力を込め、顔をキュウべえに近付け、腹の底からドスの効かせた声を響かせ、クロは警告した。


クロ「あいつらに、余計な真似をしてみろ……、埃一つ残さず殺すぞ」

339: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/23(日) 19:57:49.72 ID:JFfDPgdDO
>>338


ではあえてミスではないことにしときます。


ともいかないので、報告ありがとうございました。

341: と思いましたが投稿 2012/09/23(日) 22:20:09.28 ID:JFfDPgdDO
QB「へぇ……、なんとなく分かったよ。《君らしさ》がね」


ギリギリと押しつぶさんばかりに喉を押さえ付けられていながら、キュウべえは何でもないように口を開いた。
痛みは感じていないらしい。


QB「どこまで知っているのかな?」


確認するようなキュウべえの言葉、そして、かつてマミの部屋で感じた観察するようなのっぺりとした視線を目の前から感じる。


クロ「臭いだよ。この街のそこらじゅうから感じるぜ?てめーのうさんくせぇ臭いがよぉ」


QB「なるほどね……、少し君を誤解していたよ。ただの人形じゃなさそうだ」


感心したような言葉を吐くが、まるで、そう、まるで感情が籠もっていない。
ただ単に、こういう場合は、どう言えばいいのか、マニュアルに書かれていることを声にだして読んでいるようなものだ。


QB「ただ、これ以上は君のためにはならない」


クロ「あぁ?」


キュウべえは顔をそらして、何かを待つように黙り込んだ。


「な、なにやってんだよ!!」


そして、彼女はやって来た。

342: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/23(日) 22:37:56.03 ID:JFfDPgdDO
真横から受けた衝撃でクロの身体がはね上がった。
キュウべえから引き剥がされゴム鞠のように転りながら、自分が先の声の主から蹴られたことに気付く。


かぐら「お兄ちゃん!?」


ほむら「おい!?あんた!!」


自分達の所まで転がってきたクロに二匹が駆け寄ってくる。
しかし、彼らを意に介すことはなく、クロは片手をついて立ち上がった。


こちらを睨んでいる───美樹さやかの顔をニタリと笑いながら睨み返しながら。


クロ「何してくれてんだよ、さやかぁ」


硬い鉄の塊のような身体を蹴り飛ばしたにも関わらず、彼女は痛がるそぶりも見せていない。
肩を大きく上下させて、鋭くこちらを睨んでいる様子から、痛み以上に興奮が先走っているらしい。


クロ「お前、学校はどーしたんだよ」


さやか「今日は学校の創立記念日で半ドンだったんだよ。そしたら、あんたが……!」


何て間が悪いのか、こんな時に限って、しかも創立記念日で半ドンという黄金パターンが異世界にも存在するとは思わなかった。

344: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/23(日) 23:18:24.27 ID:JFfDPgdDO
さやか「何が目的なのよ……!どうして、こんな酷いことを」


倒れたままのキュウべえを抱きかかえながら、さやかは怒りを露にする。


しかし、クロはクロでとんだ茶番に巻き込まれてしまったことに軽く後悔していたため、その態度が逆に、彼女の神経を逆撫でした。


さやか「説明しなよ!」


クロ「さぁてね。気に食わねーってのが、一番だな」


その言葉は、ある意味クロの本心であった。
正直の所、クロはキュウべえがくだらないことを始めようとしていることまでは分かっていたが、具体的に何をどうしようとしているのかまでは分からなかった。


つまり、これは近くにいる少女達に危害が及ぶ前になんとか蹴をつけようという、クロなりの宣戦布告だったのだが、多少失敗したようだった。


言葉も、その態度も、彼女には全てが、気に入らなかった。


さやか「気に入らない?ただそれだけで………、ふっざけんなよ!!」


怒れる彼女から向けられる敵意に意をかえさずクロは口笛を吹かんばかりにとぼけた顔をしていた。


そして、とうとうさやかがキレそうになった時


QB「別に構わないよ」


今まで黙っていたキュウべえが喋りだした。


さやか「キュウべえ!?」


心配そうに声をかけるその姿が、『いかにも』で反吐がでそうなクロであったが、取り敢えずその場は押さえることにした。


クロ「イヤぁな、臭いだなコイツぁ」


QB「魔女が来ている」



349: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/24(月) 20:22:13.46 ID:2SURhrUDO
その日、鹿目まどかは急ぎの用も学校に残る用もなく、いつも通りゆっくりと家路についていた。


しいて言えば、いつもよりも早い時間に授業が終わるという普段とは違う一日に、胸が踊ることは少なからずはあったが、それ以上のことはなく、いつもの日常が単純に午前中に繰りあがっただけのようにまどかには感じられた。


まどか「創立記念日なんてまったく意識してなかったよ」


しかし、彼女自身以外のいつもとの相違点は、そんな彼女の呟きに答える存在が、およそ二人ほどいないということだろうか。


一人目、美樹さやかは、学校を出るまでは一緒にいたのだが、そこから先はさやかに別の用事があるとのことで、彼女とは別行動を取っている。


まどか(また病院かな)


ほんの少し、人に変な目で見られない程度に微笑む。彼女はきっと、大好きなあの少年の所に行って献身的に見舞いをしているのだろう。


さやかに聞いたら、慌てふためいて否定するのかもしれない。
─────ただ遊びに行っているだけなのだと。


さやかは、優しい。


だからきっと、そのうち彼女は毛嫌いしているが、クロとも仲良くできるとまどかは信じていた。




そして、二人目、志筑仁美。


彼女は、朝から学校に来ていなかった。

350: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/24(月) 21:10:42.24 ID:2SURhrUDO
一体どうしたのだろうかと心配になる。
朝の先生の話では、理由はよく分からないらしいが、風邪なら風邪で彼女の家から連絡があるだろう。


教師も知らない事情で、しかも彼女は無断欠席なんてするような人ではない。
不安が、まどかの胸を徐々に覆っていく。


まどか(家に帰ったら、仁美ちゃんの家に電話をしてみよう)


心配するなら、少しは行動をとった方がいいだろう。
それが、クロとの出会い、彼の言動から学んだことだ。


そう心に決めれば、不思議と不安も多少は拭い去ることもできた。


考え事をしていたからなのか、歩みのスピードが落ちていたようだ。
少しだけ、ペースを早めて歩く。


不安と、期待がごちゃまぜになりながら、まどかの背中を押していた。


まどか「?」


と、足が止まった。


まどか「鼻歌……?」


どこかで聞いた事のある声色で、聞いた事のないメロディを奏でている。
しかし、それは、何故だか普段はそんなことを絶対にしそうにない人がやっているような、そんな違和感を覚えた。



351: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/24(月) 21:51:05.68 ID:2SURhrUDO
彼女は、曲がり角から、突然現れた。


どんなリズムをとっているのか分からない歩調で


どんなメロディに身を任せているのか分からないが、身体を揺らしながら


まどか「ひ、仁美、ちゃん?」


はたして、まどかは、今目の前にいる人物を、志筑仁美本人だと断定していいものか分からなかった。
普段の彼女の、物腰の柔らかい態度と、大人しい姿をまどかは知っている。


彼女がなんでこんな風になっているのか、まったく理解が出来なかった。


仁美「はぁい、まどかさん」


彼女が志筑仁美であることは、どうやら間違いないようだ。


しかし様子はおかしい。どこか間延びした、メロディに乗り切れないで歌われたような抑揚で名前を呼ばれる。


そして、仁美がまどかの方にダンスのステップを踏むように身体を向けた時に、まどかは思わず「ヒィっ」と小さな悲鳴を漏らした。

352: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/24(月) 22:04:38.43 ID:2SURhrUDO
その顔の形は、普段から見ている志筑仁美のもので間違いなかった。


しかし、その顔色は、血の気が通っていないように青白く。
半開きになっているその口は辛うじて笑みを形作っていると分かるくらいに歪んでいる。


気がちがっているんじゃないかと、まどかは思った。


まどか「ど、どうしたの仁美ちゃん。今日、学校……皆心配して、たよ?」


それでも、彼女は逃げようと震える足をなんとか押さえ込んで、仁美に声をかけた。
何かの冗談であればそれでいいと思いながら。


仁美「あらぁ、心配させてしまってごめんなさい。でも、私行かなきゃいけない場所があるの」


妙に舌足らずな、夢見心地のような喋り方で、まどかの質問に答えているものの、心を込めているとは思えない。


例えば、RPGのモブキャラクターのように何を聞いてもそう答えるようになっているのではないかと思う程、機械的な受け答えであった。


まどか「行かなきゃ、いけない場所?」


そして、震えながら聞いたまどかのその言葉は


仁美「えぇ、そうよ。そうだ!!」


なんらかのスイッチだったのだろうか。


仁美「あなたも行きましょうよ、まどかさん」

353: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/24(月) 22:31:33.81 ID:2SURhrUDO
え?と聞き返す間もなく、仁美に右手首を掴まれたまどかは、その手の冷たさにギョッとした。


まるで氷水に突っ込んだような冷気が腕を突き刺す。
しかし、そんなことも関係ないというように、仁美はまどかの腕を引っ張り始めた。


まどか「あっ!?」


いきなりの事で、踏ん張りも効かなかった。
ガクンっと身体が揺れて、その反動もあってか仁美にされるがままに引きづられていく。


仁美「さぁ、行きましょう。全ての苦しみを忘れに、全ての喜びを感じに!!」


まるで吟遊詩人のように歌いながらも、一体どこにそんな力を彼女は持っていたのかと思う程、凄まじい力でもってまどかは引っ張られていく。


まどか「いや、やめて!離してよ、仁美ちゃん!!」


彼女が、何をしたいのか、何をするつもりなのかは分からない。
でも、このまま彼女に連れていかれてしまえば、きっと良くないことが起きる。
そんな予感が、まどかにはあった。


────遠い昔のおとぎ話で、美しい少女に導かれるままに、森に迷いこんだ旅人の末路は……


まどか「い、いやだ!嫌だよぉ!!」


仁美「さぁ!さぁ!!さぁ!!!」


まどか「嫌ああああああああ!!」


必死の訴えも虚しくズルズルと、まどかは引きづられていった。

355: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/25(火) 14:13:20.65 ID:Rwkn3+0DO
臭いがある


存在するだけで悪意をふりまき


存在するだけで絶望を呼び寄せるような


あまりにも感覚的すぎるそんな臭いを感じる嗅覚を、クロは幼児期の極端な視力低下をカバーするために備えていた。


いや、嗅覚だけではなく、聴覚や、視覚以外の五感から直感的なものまでも彼は感じることができる。


クロは、今まさに、この街に漂っているその『臭い』のある場所に向かって走っていた。


本能が行き先を示し、意思によって歩みを進める。


道順までは分からないが、方角はなんとなく分かる。
クロは、ある時はブロック塀の上を走り、屋根の上を走り、道を走る。


そして、だんだんと目的の場所に近づいているのが分かる。


ここに来てから、嫌にはっきりと分かるようになった『魔女』という異形の臭い。
風に運ばれてくるようなものではない、ただ分かるのは『いる』ということだけだ。


街並みも変化していき、人気もなく、住宅地からも離れていく。


そして、目に入ったのは錆付いた大きな廃工場だった。

356: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/25(火) 14:33:21.52 ID:Rwkn3+0DO
さやか「あぁ、もう!何をアイツは急に走りだしたのよ!?」


苛立ちまぎれにそう吐き捨てたさやかは、キュウべえを抱いたままその場に立っていた。
つい先程までいたクロは、突然走りだしてしまったし、クロと一緒にいた二匹子猫も、後を追うように走っていってしまった。


結局、残されたのはさやかだけである。


QB「言ったろう?魔女の反応がある。おそらく彼はそれを感じ取ったんだよ」


さやか「じゃあ、アイツは……」


おそらく、目的は魔女退治だろう。
あの時も、確かにクロには助けられた。
しかし、それだけでは、どうにも信用が出来なかった。
何か別の目的があるのではと疑ってもいた。



戦いというのは、元来命をかけて戦うものではないだろうか。
例えば、マミのような、彼女のような戦い方こそ、正義の味方なのではないだろうか。


さやかは、クロのような軽薄な戦い方が気に入らなかった。


そう、ならば、自分だったら────、自分なら正義を為せるのではないか。
目指す正義を為す者がいないなら、自分でやればいい。


彼女の行動力と、意思の推進力は一つの答えを出そうとしていた。


しかし、結局のところ、彼女は何一つ分かっていなかった。

357: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/25(火) 17:00:31.51 ID:Rwkn3+0DO

QB「見に行くかい?」


さやか「え?」


腕の中からこちらを見上げるキュウべえが、淡々とした口調で提案する。


QB「さやかが魔法少女になりたいのであれば、彼が一体どういうモノなのかを知る価値はあるんじゃないかな」


さやか「アイツが……どういうものか?」


確かに、自分は、あの黒猫がどういったものかは、分からない。
比較的にあっさりと、まどかや、あのマミでさえ彼の事を信頼した。


もしかしたら、間違っているのは自分なのだろうか?


そして、彼女達が間違っていた場合、自分はどうするべきなのか。


脳裏に、一人の少年の姿が浮かんだ。


さやか(願い……)


意を決して、さやかはキュウべえを見た。


さやか「キュウべえ、魔女はどこにいるの?」



────廃工場内


抵抗虚しく、まどかが仁美に連れてこられた場所は廃工場だった。


何故彼女は、自分とは縁遠い場所に、迷うことなくたどり着くことができたのか。
ここに来るまでの彼女はまるで何かに呼び寄せられているかのようだった。

358: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/25(火) 17:30:46.07 ID:Rwkn3+0DO
しかも、そこにいたのは彼女達二人だけではなかった。


まどか「こ、これは……、何?」


そこには、十数人の老若男女が、今の仁美と同じような妙に力のこもっていない笑顔でめちゃくちゃな事を叫んでいる。


「天国へ行こう!」


「楽園に、楽園を目指す!」


まるで、出来の悪い演劇を見ている気分になったが、今目の前で起きていることは現実である。
よく見ると、いつぞやの挙動不審なサラリーマンもその集団の中にいた。


なんとかして、仁美の手を振り払って逃げ出したかったが、彼女の力の強さと、自らの身体の震えで上手くいかない。
魔女や使い魔という化け物に害を与えられ恐怖もした。
そして、今、目の前にいるのは人間である。


こんなにも、タガが外れた人間が怖いとは考えた事もなかった。
下手な化け物を見るより、自分と同じ形をしたモノの奇行が恐ろしくて仕方がない。


まどか「あ、あれって……」


そして、まどかは見た。
一際彼らが、集まっている場所の中央に置かれたバケツが二つ。
どこからか漂ってくる薬品の香り、そしてこの廃工場───、さっきから蒸し暑い、空気の出入りが少ないようだ。

359: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/25(火) 19:56:16.86 ID:Rwkn3+0DO
前に、テレビで見たことがあった。
洗剤を混ぜ合わせて毒性のガスをお越し自殺をする人々のニュース。


まどか「ま、まさか……」


天国とは文字どおりの意味なのではないか。
あんた大量の洗剤が混ざってしまえば、一体どれほどのガスが発生するのか、このままでは、ここにいる全員がただではすまない。


まどか「ダメーーっ!!」


仁美がよそ見をしている一瞬の隙をついて、まどかは握られていた手を振りほどき、走りだした。
何が起きているのかは分からない。


でも、そんな事はどうでもよかった。
ただ、ひたすらに、自分の目の前で命が尽きる瞬間なんて見たくなくて、目の前の人波を必死でかきわけながら進んだ。


そして、二つのバケツがある場所にたどり着いたまどかは、それらを両手に掴むと、今度は一目散に工場の出口に向かって走った。


とにかく、バケツの中身を早く処分する必要がある。
中身をこぼさないように、それでも慎重に進んでいたが、彼女の進路に影が立ちふさがった。


仁美「あら、まどかさん。どこに行くのかしら?」



362: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/25(火) 20:43:59.85 ID:Rwkn3+0DO
いや、ふさがれたのは退路も同じであった。
気付けば、その場にいた全員からまどかは囲まれてしまっていた。


仁美「まどかさん。それを返していただけないかしら?」


一歩、仁美が近づいてくる。
しかし、もしも引き下がれば今度は後ろにいる誰かが自分を取り押さえるのだろう。
まどかができる抵抗は、ただそこに立って、手に持つバケツを渡さないことだけ。
そんなまどかに、ツカツカと仁美は近づいてくる。


まどか「仁美ちゃん!お願い、正気に戻って!仁美ちゃ、アグッ!」


自分の鳩尾のあたりに、まどかは衝撃を感じた。
鈍い痛みがジンワリと広がり、口の中に不快な酸味が走る。
身体を九の字に曲げた時、自分の腹に仁美の拳が突き刺さっているのを確認した。


足に力が入らない。
膝から崩れ落ちたものの、両手に持ったバケツは奇跡的にこぼれはしなかった。


しかし、そんな付け焼き刃的な奇跡などなんの意味もなさない。
このままでは、彼らにバケツを奪われてしまう。


仁美「さぁ、まどかさんも行きましょう」


まどか「仁美ちゃ……ダメぇ」


立ち上がれず、抵抗もできないまどかのもとに、ゆっくりと、一歩、また一歩と、沢山の足音が近付いていく。


ギュッと目を閉じたまどかの耳に響いたのは、目的を果たした狂人達の歓声ではなく。


一つの爆発音だった。

363: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/25(火) 21:05:32.00 ID:Rwkn3+0DO
「辛気くせーわ、薬品くせーわ……換気がいるな」


さっきまで蒸し暑かったのに、何故か今は風を感じる。
そして、聞き覚えのある声に、まどかは目を開いた。

一ヶ所だけ土埃が起きている場所があった、よく見ると壁に大穴が空いている。
そして、小さな影が筒状の物をつけた左手をこちらに向けていた。


安堵と喜びの中で、まどかは叫んだ。


まどか「クロちゃん!!」


よぉ、と軽い返事をしながら、クロは空けた穴から工場内に入ってくる。


クロ「なんだこいつら、こんな場所に集まって暇人共か?」


まどか「クロちゃん、お願い助けて!この人達これで死のうとしてるの!!」


何故か膝をついたままのまどかが、『これ』と指したものは二つのバケツであった。
強い薬品臭がする、そしてまどかの言葉でクロは気付く。


クロ「けっ、本当に暇人じゃねーか」


侮蔑の目で、辺りを見渡した。
左手につけた銃口を周囲の人間達に向けた。



364: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/25(火) 21:27:16.97 ID:Rwkn3+0DO
自殺、という行為を、大抵の動物は行わない。
自分の身は自分で守ることが重要な世界では、生きる事が全てだ。
だから、クロは、自ら死を選ぶようなヤツは馬鹿なだけだと考えている。


ロボットだって死ぬために、戦ったのだ。
辛く、苦痛を伴う運命に立ち向かい、心をすり減らしながらも己の役目をまっとうしたヤツだっていたのだ。


そして、彼を殺したのは自分だ。


クロ「じゃあ、まかせろ。てめーら全員ぶっ殺してやるよ」


物騒な言葉を聞いたまどかは、慌てて声を上げる。 クロが何をしようとしているのかに気付いたからだった。


まどか「やめて、ちょっと待って!なんか変なの、この人達」


ガトリングに内蔵されている引き金を引こうとしていたクロは、その指を止めた。


クロ「んだよ」


まどか「この子、私の友達で、こんなこと絶対にするはずがないの!もしかしたら……」


この子と、言ってまどかが見つめる先にいたのは、淡い緑色の髪をした少女がいた。
なんの感情も持っていないかのような目でこちらを見ている。
よく見れば、そこにいる全員が同じような目でクロを見ていた。


確かに、これはおかしい。
ただ単純に、魔女の臭いがする場所に、都合よく馬鹿が集まっただけなのかと思ったが、どうやら違うらしい。


365: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/25(火) 21:48:20.75 ID:Rwkn3+0DO
まどかの様子に、乱暴されたのではと思いから、頭に血が登っていたこともあったかもしれない。


まどか「お願い、この人達を見捨てないで」


《見捨てちゃダメー!!》


懇願するような瞳で、こちらを見てくる姿に、どっかの電気スタンドが叫んだ、いつぞやの言葉を思い出した。


クロ「別に本当に殺しゃしねーぞ?」


こうなってしまったら、やるしかない。
左手を下に向け、力を抜くと、ガトリングが腕を離れた。


仁美「あら撃ってくれないの?残念だわ」


周りの人間達も、口々に残念だと喚きだした。
黙っていれば、その内クロが銃を放ち、自分達の命を刈り取ってくれるものと期待していたようだ。
もはや、猫が二本足で立っているとか、しゃべっているとかはどうでもいいらしい。


仁美「じゃあ、さっきの続きをっ!?」


喋っている途中だった仁美の額に、さっきまでクロが使っていたガトリングがぶち当たっていた。
ゴキンっという凄まじい音が近くにいたまどかの耳にも届いく。
クロを見ると、全力投球で振りかぶって投げた後のモーションをしていた。


仁美「はふ~」


目を回して、仁美は倒れこむ。
地面に身体を打ち付ける寸前で、まどかはその彼女を受け止めた。

366: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/25(火) 22:21:45.65 ID:Rwkn3+0DO
抱きとめて顔を覗き込むと、そこにあったのは穏やかな寝顔だった。
強制的にではあったがこれで良かったかもしれない。


と、首筋に何かシミのような物がついていることに気付いた。
それは、かつて見たものと形は違えど、それが指す意味は同じだと分かる。


まどか「魔女の口付け!クロちゃん!」


この事態をクロに伝えなければと、彼に目をやった時─────クロは飛び蹴りでサラリーマン風の男の顔面を吹っ飛ばしていた。


唖然とするまどかを尻目に、今度は左手で拳を作り、背後から襲い掛かってくる女性のわき腹に裏拳を叩き込んだ。


次々と襲い掛かる人間達を、クロはその小さな身体をふんだんに使い、打ち倒していく。
しかし、圧倒的な実力差にありながらも人々はクロに傾れ込むように向かってくる。


やはり、合法的に自殺させてくれそうだからなのか。


既に倒れている人間の両足を掴み、クロはジャイアントスイングをしながら、残りの人々にぶつけて薙ぎ倒していく。
よく見ると、彼が振り回しているのは、あのサラリーマンの男だった。


クロ「ほい、ラスト!」



367: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/25(火) 22:43:43.07 ID:Rwkn3+0DO
ポイっと投げられた男は、クロに向かい走ってきた男三人にブーメランのように直撃し、絡み合いながら地面に倒れた。


クロ「やっぱ片手じゃしんどいわ……」


左手で額の汗を拭う仕草をしながら、ダルそうな顔をしたクロは、そのまま、まどかの側にやってきた。


クロ「ケガは?」


ぶっきらぼうに、言いにくそうにクロは、まどかに尋ねた。
目をパチクリさせたものの、まどかは笑って大丈夫と答えた。
それが、クロの心からの優しさであることくらい、分かってきたからだ。


「お兄ちゃーん!」


クロ「あだっ!」


まどか「かぐらちゃん?」


クロの頭の上に、突然張りついたのは、小さな黒猫かぐらであった。


かぐら「もぅ、置いてくなんてヒドイよ!」


クロ「分かってやるから、とりあえず頭から降りろ」


頭の上にびったりと乗っかったかぐらはブーイングをあげ、クロは腕を組んでしかめっ面をする。
そこに「待てって!かぐら!」と虎猫のほむらも駆け込んできた。


クロ「お前らな、勝手についてきてんじゃねーよ」



368: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/25(火) 23:08:22.51 ID:Rwkn3+0DO
ほむら「お前になんかついてきてない!かぐらについてきたんだ!!」


似たようなもんだろ、とクロは突っ込みを入れる。
むー、と膨れっ面でクロを睨むほむらで、ようやくまどかは、ほわっとした気持ちになることができた。


さやか「これは、なんだ!?」


次に駆け込んできたのは、さやかであった。
走ってきたせいか、息が乱れており、その腕にはキュウべえを抱いている。


さやか「どうして人が倒れて……?」


キュウべえの導きで、魔女がいる場所まで来てみれば、そこにあったのは大勢の人間達が倒れている光景に、猫と


さやか「まどか?仁美!?」


友達の姿だった。


まどか「さやかちゃん!これはね、魔女がこの人達を操っていたの!それをクロちゃんが助けてくれて……」


まどかは、クロがさやかを嫌っていることを知っていたからこそ、まずは、いらぬ争いを避ける前に状況を説明することから考えた。


しかし、さやかだって馬鹿ではない。
そんな事いちいち説明される必要はなかった。
そんなに、挙げ足を取るように食ってかかるつもりなんてないのに、これでは……

369: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/25(火) 23:22:19.64 ID:Rwkn3+0DO
さやか「そんなに、私のこと信用できない?」


まどか「……え?」


さやか「そっちの黒猫の方が信頼できる?」


信じられない言葉を聞いて、まどかはさやかを見た。
さやかのその顔は、自嘲に満ちて、哀しげに揺れている。


まどか「そんな、何を言ってるの……さやかちゃん」


呆然としたまどかの言葉は、それゆえになんの意味もなさかった。
そしと、また別の言葉にかき消される。


QB「大変だ。そろそろ魔女がくる。まどか、その子はここから離した方がいいよ。巻き込みたくなければね」


え?と対応が遅れた。


さやか「もう、何やってるんだよ、まどか!ほら、さっさと運ぶよ?」


と、そこに先程の、暗さが嘘だったかのような明るさでさやかが近付いてきて、仁美を担いだ。


さやか「うわ!重いな~、なんて言ったら怒るかなぁ?」


ね?まどかと無邪気に聞いてくるさやかの顔を、漠然と見つめる。
何か、何か取り返しのつかない過ちを犯してしまった気がしてならない。


魔女の結界に、引き込まれる直前まで、まどかの頭はそのことで一杯だった。

372: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/26(水) 16:50:14.40 ID:KACDQaODO
まどかにとって、それは見慣れた光景になってきたが、同時に未だ慣れない感覚でもあった。
しかし、目の前で異世界が構築されていく様に自分に為す術はないことも知っている。


ただ立ち尽くすだけである。


クロ「ちっ、いちいちこんなめんどくせー手順踏む必要あんのか?」


毒づくクロの声が聞こえた。


目線を下げると、案外すぐ近くに彼はいて、その横顔は青い光に照らされている。
そこで、ようやくまどかは、周囲の光景に目が届く。


そこは、青い円柱状の空間だった。
まるで、水族館にあるような一室。
青い光が、水のように淡く揺れている様から、そんな連想をした。


今この場にいるさやか、キュウべえ、かぐら、ほむら、クロ。
この場所が、結界ではなかったら、この場にいる全員でここを楽しむことができただろうか、と馬鹿な考えが頭を過る。


この美しい空間は、『魔女』がいなければ成立しないことが、皮肉じみていた。


クロ「ボケッとすんな、まどか」


まどか「……うん」


クロ「きたぜ」


クロの言葉に、皆が首を上に上げた。


373: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/26(水) 17:32:28.93 ID:KACDQaODO
天井から、光が漏れてくる。
そして、その光の中心で黒い影がだんだん大きくなっていくのが見えた。
いや、影が大きくなっている訳ではなく、こちらに近付いてきて光を遮る範囲が広くなっているだけだ。


やがて、その影の全貌が明らかになっていく。


ボディはパソコンのディスプレイ部分の形をしており、そして、長い髪の毛が翼のように蠢いて羽の役割を担っていた。


その周りを、小さな人型の、翼が生えた人形が魔女を中心に円を描くようにして飛んでいるそれは、映画や、アニメでよく見る天使降臨の場面のようだった。


クロ「まどか、チビ共を頼むぜ」


思わず思考停止に陥っていたまどかだったが、クロの言葉で脳ミソを再起動させる。


まどか「分かった。……クロちゃん」


クロ「おう」


まどか「気をつけて」


クロは、今は左手一本しかない状態だ。
さっきは人間相手だったからこそ良かったものの、魔女相手にどこまでやれるのかは全くの未知数だった。


それでも、まどかは───


クロ「おう」


そう言ってニタリと口角を上げるクロを信じるしかなかった。

374: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/26(水) 18:25:21.39 ID:KACDQaODO
まどかが、さやか達の下へ走っていく。
わざわざ確認することはなかった。
腹から剣を引き抜いたクロは、上にいる魔女を睨み付ける。


まったく得体のしれないものに見下ろされていることが気に食わない。


───まずは、そこから引きずりおろす!


全身を思いっきりのばし、身体中に仕込んでいるミサイル発射口を開いた。


クロ「一気に片付けるぜぇ?」


軽い爆発音と共に、クロの身体が反動で後ろに飛ばされる。
そして、今度は激しい爆風でゴロゴロと地面を転がった。


空中に、黒い煙がたれ込めている。
どうやらミサイルは全て、魔女に直撃したようだった。


クロ「よーしよし、くたばってくれよ?」


口ではそう言いつつも左手の剣を油断なく構える。
無闇に動かない、ただ待った。
敵が、尻尾を出すその瞬間を、自らの爪で、それを仕留める瞬間を───。


空気が激しく動いた。
煙を引き裂くように、四角い影が突っ込んでくる。
クロはそれを身体を捻りながら躱しながら、壁の高い位置に向かって跳んだ。

375: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/26(水) 18:48:08.65 ID:KACDQaODO
壁に張りつき、そこに力一杯に剣を突き立て、クロはそこにぶら下がる。


クロ「こっちこいよ、化け物!」


果たして挑発が魔女に通用するのかは分からないが、それでも、魔女は攻撃を躱されたものの最小限の動きで旋回し、クロに踊りかかる。


そして───またも真っ正面からミサイルの直撃を受けた。


クロ「ざんねーん、大当たりだぜ」


剣の柄の所にぶら下がっているクロの尻尾から煙が登っていた。
彼には尻尾にもミサイルがあることを、どうして魔女が知りえようか。


ガコンと地に落ち、ブスブスと煙をあげている魔女は、時たまブルブルと震えている。
人間でいう気絶に近い状態だろうか。
壁にぶら下がっているままのクロはそれを見て、確信した。


クロ「こいつぁ、早めに済みそうだな」


それは、勝利の宣言だったはずだった。
戦いは、すぐに決着するはずだった。


この時、クロは決して油断した訳ではなかった。
戦いにおける優位性の中で、単純に思考の余裕が生まれたのだ。


それは、何も考えず、早めに戦闘を終わらそうとしていたが、どうやらそれも上手くいきそうだったから。


考える余裕、戦闘以外の事を考える、その余裕をクロは生み出してしまった。


その思考の隙間、感情の向こう、それを読み取る者がいることも知らずに。


376: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/26(水) 20:16:41.89 ID:KACDQaODO
剣から手を離したクロは地面に降り、そして、ホイッという掛け声で腕を伸ばし、壁に突き刺さった剣を抜いた。


後はトドメを刺すだけで、この戦いは終わる。
ポンポンと肩を剣で叩きながら近づいていく。


クロ「!?」


突然、魔女が動き出し、パソコンの画面のような身体をクロに向けた。


クロ「なんだ!?」


最初、真っ黒い画面に鏡のようにクロの姿が写っていただけだった。
次に、プツンとテレビの電源が入ったような音がして画面が切り替わる。







そこに写されていた映像に、クロの頭は真っ白になった。


クロ「あああああああああ!!!!」





まどか「クロちゃん?」


突然雄叫びをあげたクロに、まどかは驚いた。


戦いが始まった時、クロの邪魔にならないように、さやかは腕にキュウべえを、まどかはかぐらとほむらを抱いて、できるだけ離れた場所でクロの戦いを見ていた。


その戦いは一方的で、当初の心配を大きく裏切ってくれたが、後少しというところでクロの様子がおかしくなった。


377: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/26(水) 20:38:51.83 ID:KACDQaODO
トドメを刺さんと、魔女に近づいていたクロが突然目を見開いて、魔女に飛び掛かっていった。


しかし、それを待っていたかのように、魔女はクロに激しい体当たりを仕掛け、直撃した。


魔女の体当たりを受けたその身体は、衝撃のままに吹き飛び反対側の壁に激突する。


ズルズルと壁に寄り掛かるようにクロは崩れ落ちた。


まどか「クロちゃん!?」


どうしたのだろうか。
後もう少しで、クロは勝利を掴めるはずだったのに、何が起きたというのだろう。
腕に抱いたかぐらが、クロの危機に腕の中で暴れだした。


まどか「かぐらちゃん!?ダメ!!」


必死に押さえようとギュッと強く抱き締めた。
バリバリと藻掻くように腕を引っ掻かれる、それでも離すわけにはいかなかった。
それでも、一人では限界がある。


まどか「さやかちゃん!少し手伝って、お願い!!」


近くにいる友達に手伝いを頼もうと、さやかに向かって叫んだ。
しかし、まるで、まどかの言葉が聞こえないかのように彼女は、クロと魔女の戦いを睨むように見つめていた。


まどか「さやかちゃん!さやかちゃん!!」


何度呼んでも振り返らない。
今、目の前で起きている戦いを、彼女はその目に焼き付けようとしていた。

378: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/26(水) 20:56:46.59 ID:KACDQaODO
まどか(クロちゃんは!?)


かぐらの身体を押さえこんで、なんとか今の状況を確認しようと前を見ると、クロはゆっくりと立ち上がっていくところだった。
少し、ホッと安堵するまどか。


そして


クロ「あああああ!!」


またもや飛び掛かり、剣で斬り掛かるもクロは弾き飛ばされる。
すぐに立ち上がり、たま斬り掛かり、弾かれて、また斬り掛かる。


ずっとその繰り返しだった。


さっきまでの余裕はどこにいったのか、まるで考えなしの戦い方になってしまっている。
そして、不意に魔女が、身体をこちらに向けた。


パソコンの画面のような身体に、今は何か映像が写っていた。
誰かが撮影したカメラを再生しているように、その映像は次々と場面を写した。

379: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/26(水) 21:10:33.79 ID:KACDQaODO
一番最初に写ったのは、たくさんの猫達だった。


どこかの廃工場のような場所に彼らはいた。


そして、次の場面に切り替わった。





あちらこちらから、血が吹き出していく。
何かの視線を動き、人間二人がいた。


彼らは銃で、猫達を打ち殺していたのだ。


そして───、彼らもまた血を吹き出して倒れた。
銃を握り締める黒い猫の手が、画面の端に写っていた。



場面が切り替わり、今度はどこかの橋の下が写った。


そこには、たくさんの小さな土の山と、それに寄り添うように腰掛ける白い犬がいた。


見るからに、美しく、優しそうな犬


そして、場面が変わると、その犬は血塗れで倒れていた。


次に、小さな虎猫が写った。


画面の方を、この視界の持ち主を気がかりそうに見ては歩いている。


楽しそうにじゃれあいながら、ふざけあいながら

380: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/26(水) 21:21:14.22 ID:KACDQaODO
次の場面では、虎猫が必死の形相で、何かに馬乗りをしいるようだった。


そして、彼を振り払うように黒い腕が突き出された。
転がっていく虎猫、右目を押さえて、うずくまったまま動かない。


近くに、眼球が転がっていた。


最後に写ったのは、一番最初に写った猫達の─────変わり果てた姿だった。


赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤



血の池に、猫達の残骸が転がっていた。


そして、無音映画のような映像は、最後、こんな台詞で締め括られた。




《お前のせいだ》

381: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/26(水) 21:34:11.00 ID:KACDQaODO
まどか「な、に今の?」


吐き気が止まらない。
それと同時に、涙が止まらない。
大切なものが一つ一つ失われていく痛み、がヒシヒシと伝わってきた。


まどか「あれは……、クロちゃんなの?」


何故だか、そう思った。


クロ「ふざけんな……、よそ見、してんじゃ、ねえ!」


ダンっ!と足を鳴らして立ち上がるも、すでにクロはフラフラになっている。


そして、今度は逆に、クロを仕留めようと魔女はゆっくりと浮かび上がった。


まどか「クロちゃん、ダメ。ダメだよ……」


声が漏れる。多分、自分の。
なんとなく分かる。
あの状態のクロを行かせてはいけない。


クロが剣を構える。


そして、魔女が猛スピードでクロに突っ込んでいく。





まどかの腕を、何かが擦り抜ける感覚があった。

382: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/26(水) 22:22:55.62 ID:KACDQaODO
魔女とクロが正面からぶつかる事はなかった。
ぶつかる瞬間に、クロが真横からぶつかってきたものに押し倒されたからだ。


獲物を見失った魔女は勢いあまって壁にぶつかり、めりこんでしまった。


クロは仰向けになったまま動けない。
身体の上にのしかかってブルブルと震えているかぐらがいたからだ。


クロ「……どけ」


ボソリと、呟くようにクロはかぐらに言った。


かぐら「やだ」


そして、かぐらもか細い声で、しかし断固とした意志を伝えてくる。


クロ「もう大丈夫だ、だからどけ」


かぐら「大丈夫じゃないもん。絶対に痛いもん」


そういえば、かぐらは自分がサイボーグだという事を知らなかったか。
ならば、伝えた方がいいだろう、自分には痛みを感じることなど、ないのだと。


クロ「こんくらい、全然痛くねーよ。オイラはな」


サイボーグなんだと続くはずだったクロの言葉は


かぐら「お兄ちゃんが平気でも、そばにいるかぐらが痛かったんだもん!!」


かぐらの涙混じりの叫びにかき消された。
思わずクロは、目をパチクリとさせた。


かぐら「痛かったもん……、お兄ちゃんがボコボコにやれていたとき、痛かったもん」


その声は、自暴自棄になりかけた心を打ち抜いた。


かぐら「このま、ま。いなくなっちゃうんじゃないかって。いなく……、嫌だよぉ、いなくなっちゃ嫌だよぉ!」


その嗚咽は、ヤケクソに暴れていた思考を霧散させた。



383: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/26(水) 22:35:42.30 ID:KACDQaODO
まどか「かぐらちゃん……」


猫の言葉を知らないまどかには、その全てを理解することはできなかったが、かぐらがクロを救ってくれたことは分かった。


「あら、こんな事になるなんて、意外だわ」


まどか「暁美ちゃん?」


何故ここに暁美がいるのかと不思議に思ったが、そういえば、彼女も魔法少女だったかと思い出した。
そんなイメージが長らくなかったから、忘れていても仕方がないだろう。


暁美「心情ナレーション、あんた読者に突っ込まれ始めてることを知りなさいよ。そして、まどか、私のことほむらって呼ぶまで絶対助けないから」


妙なことを口走りながらも、その言葉を聞いてみれば、どうやら彼女は自分達を助けにきてくれたようだ。


まどか「来るの……遅くない」


ほむら「なんも聞こえないわ。……クロ!」


ほむらは、手に持っていた銃をクロに向かって投げた。

384: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/26(水) 22:54:26.28 ID:KACDQaODO
聞いた事がある声と共に、黒い何かがクロに向かって投げ込まれた。
左手を伸ばし、クロはそれを横になったまま掴みとる。


────それは、あの時使った改造銃と同じ形をしていた。


動きを止めていた魔女が、ゆっくりとクロの方に身体を向けた。
先ほどまでとは、形が違う。
箱の上に、何か女性のような異形が乗っかっている。


クロはそっと、かぐらを自分の背中に置いて立ち上がった。
もう、妙な考えに心を乱す必要はない。
引き金を引け、狙って撃て、生きたけりゃ、ただそれだけでいいのだ。


銃口を、魔女に向ける。


魔女の身体にまた、先ほどの映像が映った。


だが、もはや遅かった。


クロ「あばよ」


引き金が引かれ、クロの腕が衝撃で跳ね上がる。
そして、弾丸は、『女』の額に直撃した。




そして、『女』の頭は、爆散し、あたり一面に飛び散っては霧散し、最後には魔女は塵になりながら消えていった。

385: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/27(木) 00:42:52.37 ID:Utc8c4XDO
結界が崩れるのは突然のことで、いつの間にか、まどか達は、元の廃工場に立っていた。
奇行を行っていた人々は皆倒れたままになっていたが、原因とおぼしき魔女を倒したことで心なしか、穏やかな顔で眠っていた。


勿論、志筑仁美もそうだ。


まどか「はぁ、今回もギリギリだった……」


身体から力が抜ける。
結界に入ってからずっと抱き締めていたほむらが、やっと腕から解放され、地面で伸びをしていた。


まどか「もう、家に帰りたい。けど、こんなにたくさんの人をどうしよう」


暁美「それに関しては問題ないわ」


自信満々に暁美は胸を張る。
携帯電話を掲げて、まどかに見せた。


暁美「私が救急車を呼んでおいたわ。あと、数分もしないうちに来るでしょう」


クロ「やっと役に立ったなぁ、お前」


クロの言葉に、暁美は別になんてことないですよと言いたげに、澄ました顔をしていたが、頬を赤く染めている。



386: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/27(木) 00:54:47.15 ID:Utc8c4XDO
誰もが満足そうな顔をしていたが、一人だけ、さやかだけが、何か思い詰めた顔をしていた。
そして、あたかもタイミングを見計らっていたかのように彼が動き出した。


QB「流石だったよクロ。やっぱりボクもまだまだだね。君もしっかりと魔女を退治できるんだ」


元の世界に戻って来た時に、さやかの腕から離れたのだろう。
キュウべえが尻尾を揺らしながらクロに近づいてきた。


暁美「黙りなさい。今なら半殺しで許してあげるから」


ほむらの言葉を無視して、キュウべえはクロの目の前に立った。
そして、なんの感情の籠もらない瞳でクロの顔を覗きこんだ。


QB「ところで、あの時の魔女が見せてきた映像……あれは君の記憶だね」


相手が何を考えているのかは、分からないが、クロにとって、一々誤魔化すような事ではなかった。


クロ「あぁ」


QB「へぇ」


一瞬の溜め、そして
突き付けるように、彼は言った。


QB「君は人を殺したことがあるんだね」


さやかの肩がピクリと揺れた。


クロ「あぁ」



387: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/27(木) 01:12:41.64 ID:Utc8c4XDO
さやか「人…殺し?」


空気が一変した。
まどかも、暁美も反応することができないスピードで、場が凍り付く。
ユラユラと揺らぐような、足取りでさやかが、クロの前まで歩いてきた。


さやか「ねぇ……あんた」


クロ「なんだよ」


その顔には、脅えも怯みも浮かんでいない。
ただそこには、なんでもないような、あるがままのクロがいた。


その揺るぎなさに、さやかはカッと頭が熱くなった。


さやか「分かってんのかよ!人殺しだぞ!?許されることなんかじゃない」


クロ「オイラに、お前ら人間共の決まりごとは関係ねーよ」


さやか「なっ……!」


さやかの目をクロは真っ直ぐに、見つめていた。
ブレずに、恐れずに、果てには自分のしたことすら目を反らさない。


クロ「オイラは、やりたいよーに、やるだけだ」


その言葉は、決定的だった。
さやかの思いと、価値を真っ向から否定する言葉、その言葉は、さやかの心を激しく乱した。


さやか「あんたが……、魔女退治?正義の味方?」


ギュッと拳を握り締めるさやかを、まどかはただ唖然と見ているだけだった。


唇を噛みしめて肩を震わすさやかを、暁美はくだらなそうに見ているだけだった。


さやか「冗談じゃない!!」


遠くから、サイレンの音が聞こえてきた。


388: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/27(木) 01:24:47.90 ID:Utc8c4XDO
────一日後・病院の屋上



一人の少年が、高いフェンスの前で車椅子に座っていた。
空をおおいつくさんばかりの金属の網は、そこら中に広がり、そこから見える街を、さらには自分ですらも縛りつけているようだった。


自分の左手を見る、もうため息すらでない。


ここから、もうどこにも行けないのでは、と思ってしまう。
このフェンスをよじ登って、飛び立つことすら自分にはできないのだから。


「お前、死にてーのか?そんなに死にてーんだったら、好きに殴ってもいいよな」


ふと、そんな乱暴な言葉が自分に向けられた。
イライラしてるんだよ、とその後に続く。


誰だろうと思い、キョロキョロと首を動かすと、屋上の貯水槽の所で、右手がない黒猫がこちらを見ている。


「何見てんだよ」


「ね、猫がしゃべった?」


上条恭介は、こうして黒猫と出会った。


第二話 完

389: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/27(木) 01:26:25.76 ID:Utc8c4XDO
第二話、こんな感じです。


次は三話ですね。
話暗くなるかもしれません。
よろしくお願いします。



391: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/27(木) 17:13:26.89 ID:Utc8c4XDO
クロ「ヒーローになった覚えはねーさ」


さやか「なんで…皆、こんな奴なんかを」


マミ「私は……一人じゃないから」


恭介「君は、強いんだね」


さやか編第三話「それでも、僕は」


今夜投稿します。

392: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/27(木) 20:25:47.14 ID:Utc8c4XDO
恭介「え、えっと」


クロ「は?」


恭介「いや…、その」


クロ「言いてぇことあんならはっきり言えや!」


屋上の、貯水槽の所から猫に見下ろされる。
その突然の出会いは、恭介に驚愕と絶句をもたらした。
口についてくる語彙は接続詞ばかりで、その後に繋げるべき言葉は出てこない。


病院の屋上で黄昏ていたら、しゃべる黒猫に怒鳴られた。
自分でも何を言っているのか分からないが、しかし、事実だ。


クロ「おいおい、まさかびびってんのか?」


恭介「それは、まぁ」


しかも、口が悪い。
こういった相手がもしも人間だったら避けるなり、無視するなりできただろうが、向こうはこちらに話し掛けてくるし、もっと言えばこんなの無視できるわけがない。


恭介「あ、あの。猫、ですよね?」


クロ「猫だぞ」


恐る恐る訊ねると、彼はあっさりと答えてくれた。
わりと、律儀な方らしい。


恭介「なんで、しゃべってるんですか?」


クロ「クレイジーキャッツだからだ」


そして、割と冗談も言うタイプらしい。